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ニャンコで救え小悪党! 牙ある旅籠と牡丹灯籠!

#サクラミラージュ #不退転浅鬼


●帝都の闇に牙は潜む。
 盃に注がれた酒を、一息で飲む青い肌。
 月明かりが照らす部屋は、すっかりと闇に溶け込んで、盃を持つ黒服の男など殆ど姿は見えなかった。
 青い肌を除いて。
「終わりました、牡丹灯籠様」
 月光に映える白服の男たち。中性的な顔立ちが淡い光に浮かぶのを見て、青い肌の鬼は懐から銀細工の時計を取り出す。
 蓋を開いて時間を確認。また懐へと戻して立ち上がる。
「行かれるのですか?」
「ご約束通り、あやつめの処遇は我らに任せて下さいますね?」
 男たちの冷たい目が集うのは、もはや息も絶え絶えの四肢を斬り落とされた男の姿。
「構わん。だが、時に限りは有る。有効に使え」
「承知致しました」
 闇を抜ければ青ざめた夜に浮かぶ月の下。
 血に固まった白髪を解し、鬼は帽子を被るとつばを跳ねる角も煩わしそうに頭髪のない頂をこする。
「我ら真なる帝都軍突撃隊が旭日組、ご用とあればすぐに駆けつけ致します」
「何処へなりとも連れて行って下さい」
 彼らの言葉に、ようやく帽子を被り直した鬼は振り向いた。
 何を馬鹿な事を、当然の事をとばかりに。
「鬼が先導すれば着くは地獄に他ならん。所詮は地獄行きの貴様らに、用意される場などあるものか」
 見上げれば月を支える幻朧桜。舞う花弁を鞘入りの刀で打ち払う。
 鬼の纏う影の如き外套に刺繍された、裂かれた日の丸の舞う桜の花弁がやけに色濃く男たちの目に残っていた。

●お前ら、にゃんこアレルギーとかないよな?
「よーしよしよしよし、へへへ。人懐っこいな、こいつ!」
 グリモアベースにて、だらしない顔でニャンコと戯れるのはゴリラのような体躯のタケミ・トードー(鉄拳粉砕レッドハンド・f18484)だ。
 深刻な事件だと呼び出しをしておいて、何をしているのだとばかりの冷たい視線にも悪びれる様子はない。
「まあまあ、そうカリカリすんなよ。お、そういやカリカリまだあったかな?」
 いい加減にしてくれません?
 さすがに怒りを見せた猟兵らに、降参だとばかりに猫を抱き上げその影に隠れる。ニャンコを降ろせこの人でなし!
「ふー。満足したしまあいいか。つっても、このにゃんこにも意味があるんだよ」
 ブーツの爪先に乗せてニャンコを遊ばせつつ、タケミは顔を引き締めた。
 現在、サクラミラージュで平和募金を横領する事件が頻発しているのだと。
「横領された金は石嶋(イシジマ)という男が抜き出し、桜學府への賄賂とされている。
 募金を募ってるのも発起人はこの男で、別の人間を表に立てて複数の団体から金を集めているようだ。募金詐欺だな」
 今回は、この男を守って貰いたい。
 彼女の言葉に猟兵らは顔を見合わせた。男の撒いた種により、影朧が現れるとなれば気力も湧かない案件となるが。
 タケミはそれを否定しなかったが、とはいえ男が消されるのは、と言うよりこの募金詐欺が潰される事に否定的な様子だ。
「石嶋の賄賂は桜學府の腐った役人、ゴウツク・バリーニが懐に納めてはいるが、一部だ。
 石嶋の目的はサクラミラージュの自衛力強化なんだよ」
 靴先に遊ぶニャンコの首の皮を捕まえて、ひょいと持ち上げる。余裕な雰囲気で顔を洗う。可愛い。
 このニャンコもまた、石嶋による賄賂の賜物だという。
「帝都近辺で溢れた野良猫どもを訓練し、危険察知能力を高めた特務猫だ。
 他にも色々なことをやっちゃいるが、まあ、要は化け物と同じユーベルコヲド使い頼らない力を鍛え上げたいのさ」
 その根底にあるのは、影朧災害による被害者たちの憎悪。この男は私情に囚われ、復讐心に駆られ、多くの人の善意を踏みにじり自らの目的の為に動いている。
 しかし。
 タケミはこの石嶋の行動を否定する気などさらさら無かった。
「やり方はともかく、着実に結果を出している。オブリビオン相手に通じるかの話は別として、私はこの男を支持するよ。
 目的はあくまで、この男を狙って現れる影朧の排除だ。ヘンな正義感を出すんじゃねえぜ?」
 じっとりとした視線を向けるタケミ。面白くはない話であるが、人を見殺しにする理由とはならない。
 最も、正義感を収める理由にもならないが。
 彼女はそれからと、近くの猟兵にニャンコを投げる。ふざけんなメスゴリラ。
「この石嶋、どうやらゴウツク・バリーニに裏切られたみたいだ。とある旅籠での戦いになる。
 今回の影朧は罠の用意が上手い奴だ、桜學府からこのにゃんこちゃんたちを借りて来るといい」
 にゃー。
 猟兵の腕の中で、任せろとばかりに鳴くニャンコ。駄目だよ、そんな危険な目に遭わせられないよ!
「あのな、これはこいつらにとって大事な実戦でもあるんだ。無理矢理にでも引っ付けて行くからな」
 鬼! 悪魔! 腐れ外道! 人間のクズ! トンマ! マヌケ! 死ね!
 ごうごうと並ぶ非難の言葉にさすがのタケミもたじろぐが、いいから行けと一喝する。
 こうして、猟兵とニャンコパーティーの結成を余儀なくされた訳であるが。
「そうそう、今回の影朧だが。妙な奴らに慕われてるな。
 こいつらから話を聞けば、奴に癒しを与える条件が分かるかも知れないぜ」
 もっとも、その必要があるかは甚だ疑問だが。
 タケミはそう締め括ると、猟兵らの出撃を見送った。


頭ちきん
 頭ちきんです。
 サクラミラージュの小悪党をニャンコと共に助け、影朧を退治して下さい。
 小悪党の生死はシナリオの成否に関係なく、またグリモア猟兵の意思を無視して告発することも可能です。
 ニャンコは無料でついてきます。プレイヤー、もしくはグループにつき一匹です。特に指定がなければ性格や見た目はこちらで決定致します。
 それでは本シナリオの説明に入ります。

 一章では被害者及び影朧の巣食う旅籠にてニャンコとの絆を深めたり情報を集めたりします。
 二章では地形、罠を利用する影朧との集団戦闘です。ニャンコがいると罠の回避・利用が可能です。またUC成功度によってニャンコの態度が変わりますが、フレーバーテキストなのでシナリオの成否とは無関係です。
 石嶋は狙われ易いので優先的に守って下さい。
 三章はボス影朧との決戦となります。対ニャンコ用の罠も仕掛けてくる上、不意討ちが得意な強敵です。
 旅籠全体での戦闘となります。ニャンコがいれば逆に先手を取ることが可能ですが、確実にニャンコが死亡するので止めたげてくださいお願いします。
 また、二章で情報を得ていれば、あるいは当てずっぽうでも敵の精神へ口撃が可能です。
 不退転浅鬼は戦うことを止めませんが、精神をへし折って転生させましょう。

 注意事項。
 アドリブアレンジを多用、ストーリーを統合しようとするため共闘扱いとなる場合があります。
 その場合、プレイング期間の差により、別の方のプレイングにて活躍する場合があったりと変則的になってしまいます。
 ネタ的なシナリオの場合はキャラクターのアレンジが顕著になる場合があります。
 これらが嫌な場合は明記をお願いします。
 グリモア猟兵や参加猟兵の間で絡みが発生した場合、シナリオに反映させていきたいと思います。
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第1章 日常 『旅篭の夜』

POW   :    布団の眠気に抗い、夜の一幕に浸る

SPD   :    そよぐ風に舞う夜闇の桜花弁を眺める

WIZ   :    いいや、枕投げだ!!

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●お主もワルよのぅ。
「いやしかし、よくまたこれだけの金を集めたものだ」
「口の上手い人を見つけるのが得意でね」
 袴姿の男、石嶋はぼさついた髪を掻き、この時代にヤシの木のような金色の茶筅髷をこさえた男を見つめる。
 その懐に金の包みが入ったのを見届ければ、良い商談だったと注がれた酒を石嶋は丁寧に断った。
「ふむ。まあよい。どれ、厠にでも行くとするか。戻れば次の話を決めるとしよう」
 青い瞳で笑うゴウツク・バリーニ。
 障子を開き、音をたてぬように静かに閉めた彼の行き先を月明かりに透かしつつ、石嶋は小さく笑う。
「ここは、あんたの用意した部屋だろう。厠の方向は別だぜぇ」
 畳に素起きしていた帽子を被り、気付けとばかりにゴウツクの飲んでいた盃に残る滴を口に含む。
 抜いた刀に飛沫をかけて沈黙。精神を集中して時を待つ。
 危ない綱渡りを続けたがる人間などそうはいない。いつでも切り捨てられるものと警戒してきたのだ。
(今宵が俺の最期か、それとも)
 石嶋は現れるであろう人斬りを先見し、障子へ向かって刀を上段に構えた。

・敵襲前に石嶋の部屋へ入ると問答無用で斬られるので、中には入らないよう注意してください。
・石嶋の部屋は他の部屋より離れた場所にありますが、敵襲に気づけばすぐに駆けつけられる距離なので、気にせずニャンコと遊んでも何の問題もありません。
インディゴ・クロワッサン
(アース系列世界用の私服でごろごろ)
「今回は宜しくね、頼りにしてるよー」◆動物と話す
ぶっちゃけ、僕は護衛対象が善意を踏みにじろーが興味ないからなぁ…
「あ、そーだ。UDCアースのだけど…ち〇ーるいる?」
UC:無限収納 から〇ゅーると小皿取り出して、鋭気を養って貰おうか(笑)
「はいはい、他の皆の分も用意するから押さない…爪痛いってばー!」
無限収納にしまってあったちゅー〇を全部あげ終わったら、僕もゆっくり自前のワインで月見&花見酒と洒落込みますかー!
「ん~…お仕事とは言え、お月見も花見もしながらお酒飲めるのって良いねぇ…」
おつまみとして生ハムでクリームチーズ挟んだやつを食べながらまったりしよーっと♪


クレア・フォースフェンサー
募金詐欺とな
人の善意を何だと思っておるのじゃろうな

と言いたいところじゃが、金の流れを大っぴらにできぬという点では、わしのところ(UDC)も大差ないかもしれぬな
そも、詐欺に関しては、この世界の者ではないわしらが口出しすべきことでもないしのう

さて、特務猫の性能チェックもして、影朧から子悪党も守る――じゃったか
シンプルな任務ではないが、この世界の未来に繋がるとあらば、やり遂げねばな

猫に実戦経験はあまりないようじゃ
旅籠内を歩きつつ光珠を操り、猫の知覚や運動能力を確かめておこう
果たして件の部屋の前ではどう反応するのか、楽しみじゃな

併せて、旅籠内には明かりに紛らせ光珠を配置していき、警戒しておくとしようぞ


御園・桜花
「私は此の世の平穏が守れるなら、不死帝が骸の海から来た方でも協力するつもりでおりますもの。ひとの善意の通りをよくするための方策に、異を唱えはいたしません」

三毛猫抱え石嶋の部屋の前まで
UC「魂の歌劇」で山寺の和尚さんの替歌歌う
障子の向こうからの攻撃はは第六感や見切りで躱す


募金屋の
石嶋さん
金と力がなかりけり
木っ端に賄賂を押し込んで
グッと飲んで
ペッと吐く
ペッがペッと吐く
ヨーイヨイ


「石嶋さん?末期の酒を覚悟するなら、お庭で月見酒の方がよくありませんか?お酌くらいいたしますよ?尤も貴方にお亡くなりいただく予定はありませんが」
「UC使いの御園桜花と申します。UCを実際に見る方が、貴方のお役に立つのでは」


木霊・ウタ
心情
高尚な目的でも詐欺は悪い事だ
そしてそれは見捨てる理由にはならない
石嶋を守るぜ
むしろ悪っぽいゴウクツを何とかしたいよな

まあ今はにゃんことの交流を目一杯楽しむぜ(ぐっ

手段
じゃれ合うぜ
危険察知能力を高めた特務猫かー
忍猫みたいなカンジ?(笑
ホント人懐っこくて可愛いよな
ほれほれ
お前の名前はなんて言うんだ?

一しきり遊んだら猫散歩といくか
情報収集と猫との絆づくりを兼ねて
旅籠の中や庭をぶらぶら(石嶋の部屋には入りません
猫について来させたり
猫について行ったり

罠の用意が上手い奴って話だから
もしそれっぽいのがあったら
炎で燃やしたり溶かして無効化

にしても月と桜、綺麗だよな
お前もそう思うだろ?

静かな曲を爪弾く


ティファーナ・テイル
『ゴッド・クリエイション』で百目巨神アルゴスを創造して周囲と影や気配を警戒しながら石嶋の部屋には警戒しながら注意して警戒します。
時々『エデンズ・アップル』でニボシを創造して周りのニャンコさんたちに差し上げます。
警戒は続けながら敵の気配を感じたら『スカイステッパー』で気配に近付き『神代世界の天空神』で空間飛翔して確認と警戒・防御を取ります。
敵を見付けたら『天空神ノ威光・黄昏』で敵のUCを封印/弱体化させて、『セクシィアップ・ガディスプリンセス』で♥ビーム攻撃を仕掛けます!

他の猟兵とも連携をしながら敵と接敵したら『ガディスプリンセス・グラップルストライカー』で蛇尾脚と髪の毛で格闘攻撃を仕掛けます!


アリス・ラーヴァ
アドリブ・アドリブ・連携歓迎

良く分からないけど今回はあの人を守ったらいーのねー?
それじゃー、石嶋さんの護衛の為に天井裏や床下に妹達(幼虫)を沢山潜ませておくのー
【目立たない】よーに【迷彩】で【偵察】するのよー
【暗視】や【聞き耳】で旅籠の中の状況や人の気配をさぐりましょー
ゴウツク・バリーニさんも妹たちに【追跡】して貰って調査するのよー
アリスはニャンコを頭の上に乗せて石嶋さんのお部屋の真上の屋根で待機しておくねー
折角サクラミラージュに来たのだし、そよぐ風に舞う夜闇の桜吹雪を肴に瓦をポリポリ齧りながらお花見を楽しみましょー
綺麗な桜吹雪の中で食べるおやつはおいしー!
ニャンコさんも一枚食べるー?



●青い夜の訪問者たち。
 切り裂いても一滴の血すら垂れなさそうな、青ざめた夜。
 香り立つ畳の上にごろりと寝転がるのはインディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)。
 左右非対称の継ぎ接ぎされたような服装は、見る人によってはヴィジュアル系と評されそうだ。
 そんな服装が畳の上でごろごろしているのだから、内心はいざ知らず相当に気が緩んでいると見られるだろう。
「今回は宜しくね、頼りにしてるよー」
 そんなインディゴの鼻先で、くあと欠伸するのは桜學府の特務猫、ヘンリィくんだ。
 白がベースのシャム猫で、丸くなって座ると腹のふたつの黒ブチがハートのような形になる。
 こちらもこちらで全く警戒心がなさそうであるが、インディゴの言葉を受けて、任せろとばかりに鼻を鳴らすのは大物の風格である。
(……ぶっちゃけ、僕は護衛対象の石嶋とかいう人が善意を踏みにじろーが、興味ないからなぁ……)
 グリモア猟兵の言葉を思い出しながら目の前の肉球をくすぐると、ぴょこんと足を開いてかわす特務猫。動いてないのにいい身のこなしだな毛玉畜生。
「あ、そーだ。……確かこのヘンに……別世界のだけど、ち〇ーるいる?」
 始動したユーベルコードは【無限収納(インベントリ)】。茨を纏いて現れた小さな扉に驚き吹っ飛ぶヘンリィくん。
 逆立てた毛から風船のように膨らんだ毛玉に思わず苦笑して、扉の中から〇ゅーると小皿取り出す。
「さーて、英気と鋭気を養って貰おうか」
 警戒する毛玉の前で、うりうりとちゅ〇るを振りつつ小皿へ導く。
 ヘンリィくんは頭を下げると低い姿勢で皿の上の物の匂いを嗅ぎつつ、警戒の色を薄めずに鼻先を押し付けたり離したりしている。
「大丈夫だって、ほら」
 僅かにちぎり自ら食べてやれば、ようやくと安心したのか噛りつく。
 その後はインディゴをちらちらと見つめつつも、食事へ意識を集中していく。スマートな見た目の割りにだらしねぇ胃袋だぜ。
 インディゴは扉の先に在庫を確認、更に旅籠からではなく自前のワインを取り出す。
「……ん~……お仕事とは言え、お月見も花見もしながらお酒飲めるのって良いねぇ……」
 一部の障子を開けてインディゴ。
 彼が不幸に見舞われるのは少し後となる。

 インディゴの隣の部屋にも猟兵、木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)が宿泊する。
「ん?」
 隣から聞こえた賑やかな音に眉を潜めつつも上着を脱ぎ、部屋の壁に掛けた少年。
 難しい顔で天井の隅を睨み上げて腕を組む。
(……ゴウクツ……リバーニ……だっけ。悪っぽいあいつを何とかしたいよな)
 ゴウツク・バリーニさんです。
 詐欺で集めた金と知りながら利用し、価値がなくなれば人命をも軽視する男の様子を見れば頷ける話だ。
 とは言え。
(まあ今は、にゃんことの交流を目一杯楽しむぜ!)
 その意気や良し。
 ぐっ、と拳を握る視線の先には座布団の上で中年親父のようにだらんと伸びる黒猫。
 ぐたっとした様子のニャンコの額を擽ると、やっとこちらに気づいたのか、びくりと震えると身を起こす。
「危険察知能力を高めた特務猫かー。忍猫みたいなカンジ?
 全然見えないけど」
 掠れた声で鳴いていた猫は、やがて完全に覚醒したようでウタの指を舐めると自分の顎を擦り寄せる。
「ホント人懐っこくて可愛いよなー、ほれほれ。
 ん、お前の名前はなんて言うんだ?」
 首輪に括られたプレート。そこにはゴンザエモンという名前が記されていた。
 ハイカラさんか練り歩く街並みと反して随分と古風な名前だと小さく笑い、縮めてゴンザと呼べば嬉しそうに声を上げて擦りつく。随分と甘え上手なようだ。
「さて、と」
 一頻り撫で回した後、ウタは立ち上がり上着を手にする。ゴンザエモンもすぐに彼の足下にやって来ると、ちょこんと座ってこちらを見上げる。
「散歩に行くか、ゴンザ」
 障子を開いて夜の空に空気を吸う。
 ゴンザエモンは廊下の臭いを嗅いで警戒している様子だったが、ウタが歩けばすぐについていった。
(情報収集と、ついでにゴンザとも信頼関係を強くしないとな)
「はいはい、他の皆の分も用意するから押さない、て爪痛いってばー!」
 隣からの悲鳴に肩を竦めると、障子の隙間から侵入して行く複数の猫の姿。毛並みは悪くはないが、恐らくは旅館の客やスタッフなどが餌付けした半野良だろうとウタは結論付ける。
 どうやらゴンザエモンが警戒していたのはこの臭いだったらしい。部屋に入り切れなかった幼い子猫はウタを見かけると、ぎこちない走り方で近寄る。
 どうやら餌を分けて欲しい様子。しかし、せっせか走る子猫にゴンザエモンのネコパンチが炸裂、慌てて逃げ帰る姿には同情を禁じ得ない。
(やっぱり、きちんと訓練されてるんだな。
 …………、高尚な目的でも詐欺は悪い事だ。けどそれは見捨てる理由にはならない。
 石嶋、あんたを守るぜ)
 自分たちの部屋からは離れた場所にある件の石嶋の部屋を見据える。
「罠の用意が上手い奴って話だから、もしそれっぽいのがあったら俺が炎で燃やしたり溶かして無効化するぜ」
 頼りにしてる、とゴンザエモンの頭を撫でるウタ。彼は目を細めながらも力一杯の鳴き声で答えた。
 気合は十分、ウタは頷き明るい空を見上げる。視線の先では、青い夜にぽっかり空いた穴のような白い月。
「にしても月と桜、綺麗だよな。お前もそう思うだろ?」
 足下にちょこんと座るゴンザエモンへ贈るように、ウタの物静かなギターの音色が風に乗った。

 風に乗る音色に、ふと月を見上げたのはクレア・フォースフェンサー(UDC執行人・f09175)。
 旅籠内を行く彼女は索敵や結界の発生、更には移動などにも使用する【光珠】を浮かべる。
 自分だけでなく、他にも猟兵が潜入しているようだとクレアは微笑み、影の中を着いてくる猫へ目を向けた。
 一般的なサクラミラージュの猫らしい三毛猫は、自分の鼻を舐めながら音もなく忍び歩き、鋭い視線を左右に走らせている。
 忙しなく動く髭に何か物音がすれば即座に動きを止めて辺りを伺うなど、かなり用心深い性格のようだ。ここが危険な場所と察しているのかも知れない。
 特務猫の性能確認もして、影朧から小悪党も守る。
 内容としては単純ではないとはクレアの評であるが、それに対してやる気がない訳ではない。
(この世界の未来に繋がるとあらば、やり遂げねばな)
 特務猫の様子を見れば、彼らが桜學府へ貢献しうる事は一目瞭然だ。後は、それがどの程度なのか確認する。
 廊下に並ぶ灯りに紛らせて光珠を配置していく。視線の高さが違うため、気づいていない三毛猫に向けて、死角から珠を近づける。
 光の移動を即座に感じ取り、即座に振り返る三毛猫であったが、想定外の物を見てびくりと震えた体が硬直してしまう。
 そのまま珠を近付けさせれば、後退りして廊下の壁にぶつかってしまった。
「こら、ミケランジェロ。怖がるだけじゃ駄目じゃぞ」
 そのまま空へと舞い上がり、灯りのひとつに並ぶ光珠を見送って、三毛猫のミケランジェロは顔を洗う。用心深いのは確かだが、どちらかと言えば臆病な性格のようだ。
 しかし、反応の早さを見るに知覚能力という点では十分に合格だろう。
(猫に実戦経験はあまりないようじゃ。募金詐欺と、人の善意を何だと思っておるのじゃろうなと言いたいところじゃが)
 私的な理由があったにせよ、未来へ希望を繋げようとする石嶋の全てを否定する気にはならないようだ。
(金の流れを大っぴらにできぬという点では、わしのところも大差ないかもしれぬな。
 そも、詐欺に関しては、この世界の者ではないわしらが口出しすべきことでもないしのう)
 その世界の問題はその世界の者たちが片付けるべき。実にUDCらしいとも言える思考だ。過去より来るオブリビオンは例外としても、自分たちがその世界にとっての不純物であると考えているのだろう。
 所在なさげに座り込みながら頭を下げるミケランジェロへ、クレアはくすりと笑う。
「よいよい。今から経験していくことじゃ。どれミケランジェロ、本命の場所へ向かうとするぞ」
 果たして件の部屋の前ではどう反応するのか。
 楽しみじゃなとクレアはミケランジェロを引き連れて、石嶋の部屋へと向かう。

「【ゴッド・クリエイション】──、百目巨神アルゴス!」
 少女特有の高い声に喚び出された巨神は、旅籠の庭から産まれ出る。
 石嶋の部屋付近で創造された彼の役目は、眠らずの能力を使った周囲の警戒だ。特に罠や不意討ちを仕掛けてくる敵に対応できるよう、影や気配に十分注意させている。
 自信満々の笑みで自らの創作物の出来に見惚れるのはティファーナ・テイル(ケトゥアルコワトゥル神のスカイダンサー・f24123)と、その大蛇の如き脚に先程までじゃれていたシャム猫のシールズくん。
 ヘンリィくんとは違いブルーポイントの彼は、見惚れていると言うよりは恐怖しているようだ。テイルの容姿にも驚かなかったが、全身で瞬きする巨人には流石に意識を改めたようで、身を屈めて耳まで倒している。
 先程までの威勢はどこへ行ったのかとばかりにテイルは笑い【豪華絢爛な鞄】から取り出したのは、なんとニボシである。
「アルゴス、キミが餌をあげるんだよ」
 それらを警戒中のアルゴスに手渡せば、彼は戸惑った様子を見せたが創造主の言葉に従い、窮屈に身を屈める。
 アルゴスにおっかなびっくり近寄るシールズは、迷った挙げ句にアルゴスの大きな手に飛び乗って、ニボシをぺろりと平らげた。
 アルゴスは潰さないよう、そっとシールズの頭を撫でる。めたくそ迷惑そうな顔をしながらも逃げることはせず、アルゴスの手を受け入れた特務猫にテイルは笑顔で頷いた。
(あのー)
「ん?」
 唐突に聞こえた声に辺りを見回す。
 聞こえた、と言うのは間違いかも知れない。それは脳内に直接響く声だったからだ。
 見回して姿が見えずに首を傾げていると、こっちだと足下を見るように声がする。
「わっ?」
(こんばんは~)
 少女の足下にのたうつ芋虫の如き何か。その内の一体が体を起こして頭を下げる。お辞儀ができるのか。
 物珍しげに見つめていると、自分より小さな生き物には強気なシールズくんが走り寄る。
(きゃーっ!)
「こらっ、暴れないの!」
 あわや挽かれるといった所でテイルの尾先が壁となり、シールズを止める。そのまま首根っこを掴んで持ち上げ、胸元に抱き止めた。
(ありがとー)
「礼儀正しいんだね。キミたちは誰?」
(アリスはアリスだよ。アリスたちはお姉ちゃんのお手伝いしてるのー)
 複数形に、同じ名前なのかと首を傾げるテイル。
 それもそのはず、彼女たちは群体であるアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)の幼い妹たち。芋虫のような体ながらも先端部に開く大きな口と並ぶ歯が恐ろしい、もとい可愛らしい。
「へー、偉いんだねぇ」
 幼体アリスの頭を指先で撫でると、嬉しそうな様子を見せる。テイルは自らに同じ名をくれた姉同然の妖精の姿を思い浮かべていた。
 所で、と幼体アリスはテイルへゴウツク・バリーニを見なかったかと問う。どうやら彼女たちの仕事はゴウツクの追跡にあるようだ。
 テイルはグリモア猟兵の予知を思い出しながら、方向で言えばあそこではないかと石嶋の部屋から離れた本館へ指を向ける。
(そだよねー、やっぱりね~)
「?」
(アリスたちもそこを探したんだけど、見つからなくて~)
 一体、何処へ隠れたのか。あるいは既に、この旅籠から脱出したのか。悩む様子の幼体アリスらであったが、やることが変わる訳でもない。
 ひとまず別の場所も探してみるとそれぞれ散っていく彼女たちへ、彼女でいいのか。ともかく彼女らへ猫に食べられないように気をつけてと声をかけるテイル。
「やっぱり、色々とあるみたいだね。シールズも離れたら駄目だよ!」
 背中を撫でてやりながら地面に下ろす。
「おや、先客かの」
「こんざんは! 猟兵さんですね?」
 姿を見せたクレア。彼女の後ろにつくミケランジェロはアルゴスの姿に硬直しているが、すかさずテイルはアルゴスの巨大な手にニボシを乗せて彼らの親密度を上げる様子だ。
 仲間同士である以上、お互いに警戒しあってはパフォーマンスが下がるだけだ。
 それはクレアとテイルにも言える。二人は軽く自己紹介と握手で互いの安全を確認しつつ、引き連れた猫に目を向けた。
(三毛猫のミケランジェロ。可愛い!)
(シャム猫、シールズくんか。人懐っこい子じゃのう)
 うりうり、と互いに担当の特務猫を撫でながら、クレアは離れの部屋に目を向ける。
「そこが例の?」
「はい。危険な状態なので、ネゴシエーターが到着予定です!」
 交渉人。テイルの言葉にクレアは、はて、と小首を傾げた。

 様々な猟兵が旅籠内にて行動を始める中、石嶋部屋の屋根で寛ぐ大きな影がひとつ。
 屋根の瓦を剥がし剥がし、無邪気な顔を見せるアリス・ラーヴァ。止めなさい雨漏りするでしょ。
 全高が二メートルに達する彼女は一見蜘蛛のようでもあるが、見れば見るほど違いがある。
 そんな彼女もテイルと同じく、人で言えば幼女と言える年齢だ。最近の子ってとんでもない成長速度ね。
(やっぱり、ゴウツクって人が見当たらないよー。他の人も知らないみたい)
(ありがとー。でも、まだ動きがないから出来るだけ探っておいてね~?)
(はーい!)
 ぎちぎちと鋏角を軋ませて、幼い妹たちとのテレパシーでやりとりする。アリスは頭の上で寛ぐアメリカン・ショートヘアのニャンコに意識を向けた。
 そよぐ風に舞う夜闇の桜吹雪。アリスはそれを肴に剥がした瓦をポリポリ齧る。雨漏りしちゃうから止めなさい。
 お花見を楽しみつつ、おやつ代わりの瓦、否、おやつの瓦を頭上のニャンコにもお裾分け。
「ギィイイ!」
(綺麗な桜吹雪の中で食べるおやつはおいしー! ニャンコさんも一枚食べるー?)
 雑食にも限度があるから。
 スルガと名付けられたニャンコは、アリスが彼でも食べられるよう一口サイズに割った欠片に興味を示す。
 ふんふんと匂いを嗅ぐが、まさか食用に渡されたとは思うまい。ぷいと顔を背けるスルガに、アリスは美味しいよと更に勧めるが顔を背けたままだ。
「……ギギギギギギ……」
(なるほどー、これがツンデレなのね~)
 食文化の違いである。頷くアリスの頭から落ちそうになったスルガが踏ん張る中、今度は別の妹グループからテレパシーが飛ぶ。
(ねーねー、屋根裏におっきな蛇がいるよー)
(へび?)
 妹からの報告に単語を反芻する。目立たないよう、迷彩状態てで偵察を行う彼女たちは石嶋の部屋はもちろん、旅籠内の各所に配置されている。
 そんな彼女らから唯一上がった発見報告が屋根裏の大きな蛇なら、敵と判断しても妥当である。しかし。
「ギチッ、ギチギチギチ」
(良く分からないけど、今回はあの石嶋って人を守ったらいーのよねー。ここで動くと巻き添え出ちゃうかもだから、もう少し待たなきゃ)
 そろそろ、例の交渉人が現れるとアリス。
 彼女のぬばたまの瞳は、注ぐ桜の道を夜露に濡れて歩く女性の姿を捉えていた。
 三毛猫を抱える和装メイド衣装の御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は、静かに石嶋の部屋の前へ立つ。
 すう、と息を吸い込んで、障子を隔てた先から感じる殺気に身構えつつ、ユーベルコードを始動する。
 【魂の歌劇】。聞き手を自らの歌の虜とするユーベルコードだ。
「募金屋の、石嶋さん、金と力がなかりけり。
 木っ端に賄賂を押し込んで。
 グッと飲んで、ペッと吐く。
 ペッがペッと吐く。ヨーイヨイ」
 今の石嶋の現状を嘲笑うかのような、短いながらも腹に溜まる歌詞。
 ご清聴、ありがとうございました。
 頭を下げる桜花。同時に膨れ上がる殺気は、彼女のユーベルコードからの解放を意味する。
 閃く刃の軌跡を脳内に刻んで、半歩身を反らすだけで石嶋の一太刀をかわすと、裂いた障子を蹴破る石嶋を臆せず見つめる。
 きちんと直せよ石嶋。
「てめえ、ユーベルコヲド使いだな」
「はい。ユーベルコヲド使いの御園桜花と申します。
「ゴウツクの寄越した暗殺者が、これか」
 石嶋の目には動揺があったが、暗殺者という言葉は覚悟を決める自分へ向けたものなのだろう、刀を構え直す。
 桜花は目を伏せて首を横に振る。暗殺者などではないと答えるが、信用出来ないと断じるのは石嶋だ。
「ユーベルコヲド使いなど、所詮は常人の身からすれば影朧と同じく化物よ。
 人の心なんぞに頼って手綱を握った気でいる桜學府とは考えが合わん。一歩でも近付いてみろ、たたっ斬る」
 まるで信用していない。
 桜花は月光の注ぐ庭を指して、そんな場所で最期を迎える気なのかと問う。
「末期の酒を覚悟するなら、お庭で月見酒の方がよくありませんか? お酌くらいいたしますよ。
 もっとも貴方にお亡くなりいただく予定はありませんが」
 石嶋の構える刀の切っ先に迷いが生じたのを感じ取り、桜花は畳み掛けるように胸元の特務猫、シャーリーを向ける。
「そいつは?」
「シャーリーくんです。貴方の集めたお金で立派に訓練された、特務猫です」
 批判しに来た訳だ。ひねくれた言葉に怒るでもなく、桜花は淡々と、事実としての功績を語る。
 そもそもが彼女にとって、己の立ち位置を定めた猟兵である彼女にとって、石嶋の葛藤に感化などされないのだ。
「私は此の世の平穏が守れるなら、不死帝が骸の海から来た方でも協力するつもりでおりますもの。人の善意の通りをよくするための方策に、異を唱えはいたしません」
「……不敬を言う……だが、まあ面白い言い分だ」
 石嶋は刀を収めると部屋から外へと踏み出す。
 清濁合わせ飲む。自らの行いがそこにあるなら、ユーベルコヲド使いを許容することも出来るだろう。
「ギィイイ、ギヂッギヂッ」
(さすが交渉人さん! よーしみんな、蛇退治だ~)
(はーい!)
 石嶋が部屋から出たのを確認して、妹たちに号令をかけるアリス。
 石嶋部屋には取り囲むように移動する猟兵らの姿もあり、僅かな時間の後に混乱が起こることは目に見えていた。
 その一方で。
「…………、本当に綺麗だなぁ」
 星を見上げて桜を見上げて、生ハムでクリームチーズを挟み、それを口に運びつつワインを嗜む。
 お上品を地で行くようなを食べ方でまったりするインディゴの頬にはネコパンチの痕跡が残っている。
 部屋のほとんどは大量の半野良が占拠しており、インディゴと共に夜景を見上げるヘンリィくんはどこか悔しそうであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト
復讐心か
嫌いじゃねえんだがな。戦いの意味なんてのは、それぞれでいい

……お前、帰りてえなら帰ってもいいぞ
貸出猫には対人として語り掛ける。ヘルでは喋る動物も多いんだが
元野良だったか。こいつもこいつで第二の生を謳歌中ってなら、オレも共に戦場に立つものとして猫を学ぶだけだ

…………
コネ、コネ、カワイイ……?
先に言っとくがあまり寄るのはやめとけ。特にやり合ってる間だ、黒焦げになりたくなけりゃ
お前からのNGはなんだ? 香箱座りの間に指を入れるな? ちょいと何言ってるか分かんねえな
だとか(一方的に)対話。そういや何か食わすべきか
思うに、この旅籠にはペットフード売り場がある
影朧の手下ってのもいるかもな

※諸々歓迎


雨野・雲珠
【ねこだいすき】

ヨシュカくんと探検しながら、
【学習力】で間取りをなるべく記憶します。
旅籠内ということは、屋内戦に終始するということでしょうか。
無関係なお客様はもちろん、
お宿の被害も抑えたいで…あっ本当だ。見に行きましょう!


わあ…はじめまして。
俺たちが必ずお守りしますから、
どうかお力をお貸しください。
…こちらは塩抜き煮干しと、鰹節でございます。(スッ)(賄賂)

【六之宮】でちいさな猫じゃらしを作りましょう。二人と一匹で遊びます。
動物とお話が!?
あの、もしよければ、俺の撫で具合はどうか伺ってみてくださいませんか。
…生ぬるい。
お顔周りはもっと強めで大丈夫?
こ、こうでしょうか…!(わしゃわしゃする)


ケイティ・ネクスト
「ハイ集合ー」
 まー、猫は猫なのでにゃんこパーティとか良く組むし。
「で、最近どうよ。んにゃぁ? 発情期に寝取られちゃった? にゃははは、あるあるー。オスなら誰でも良くなるんだよにゃー。にゃははは、まー確かに猫はいつでも発情期だしオスなら誰でもいいって言うか、メスでもイけるし」
 そのまま世間話に入るにゃ。
「仕事はぼちぼちー、あー猫カフェヤってるにゃ? アレはいいよにゃー。特になんもしなくても人間は色々落とすからにゃー」
 雑談しかしてない猫! いやまあ、猫は暗殺者として罠解除は元から出来る方だからにゃ。
「うん、じゃあかかろうか」
 当然、雑談相手もただの猫では無いにゃ。


ヨシュカ・グナイゼナウ
【ねこだいすき】

戦の前に偵察は大切という事で、旅籠を【情報収集】も兼ねて探検に
雨野さま、あちらにお土産屋さんが!

お部屋に戻ると猫さんが畳にちょこんと
あなたが我々の、成る程
共に戦うには親睦を深める事が重要
つまり
遊びましょう!
あ!賄賂!(楽しそうに)

猫と一緒に畳で転がってみたり、雨野さまも如何ですか?
箱宮から出て来た猫じゃらしにびっくりしたり!
このタタミは気持ち良いですよねえ、と【動物と話す】よう話しかけ
【コミュ力】を駆使して石嶋氏のお話を聞いたりと【情報収集】

ふふふ、この猫さんのお腹のやわやわ感はえもいえない触り心地です
猫さん雨野さまの撫で方はいかが?…成る程
あっ!今の感じががベストですって!



●心の為に出来ること。
(復讐心、か)
 グリモア猟兵から明かされた石嶋の動機を思い返す。
 そのような私的な理由を、レイ・オブライト(steel・f25854)は嫌っている訳ではない。戦いの意味は個々人が決めるべき事だと考えているからだ。
 同時にそれは、戦いを強制する事を嫌う考えにも繋がっている。
「…………。お前、帰りてえなら帰ってもいいぞ」
 ぷるぷる。
 旅籠の中で、貸し出された特務猫さ毛繕い後に大きく身震いする。レイを見上げ、か細く掠れた声で鳴くのは間違いなく子猫の特徴を有したスノーシュー。
 よたよたと跳ねるように走るこの特務猫の名はテンサイ。さすがに何も出来ない子猫を実戦に出すはずもないだろうから、名前からして他の特務猫より早熟だと理解できるが。
 だからと言って、触っただけで潰してしまいそうな子猫を貸し出されても扱いに困る。
 足下に擦り付くテンサイに、それが答えかと慎重に持ち上げる。アポカリプスヘルでは喋る動物も多い故に普通に語りかけたようだ。
「元野良、だったか。お前もお前で第二の生を謳歌中ってなら、オレも共に戦場に立つものとして、猫を学ぶだけだ」
 生真面目が過ぎるぞ。レイの姿勢を感じ取ったのか、同じ目線にまで上げられたテンサイはその鼻先を舐める。
 相棒として認められた気がして、小さく笑うレイは、はたと気づいたように眉を潜めた。
「…………。
 ……コネ、コネ、カワイイ……?」
 おっとそれ以上は止めて頂こう。
 別世界での戦いあるいは正に世界線の異なる存在の示唆に成りかねないワードはひとまず横に起き、ついでにテンサイも畳に置いて、レイは腰を落とす。
「先に言っとくがあまり寄るのはやめとけ。特にやり合ってる間だ、黒焦げになりたくなけりゃ」
 天へと掲げた拳に生じる電光。弾ける音に驚いたテンサイが尻尾を丸めると、驚かせて悪かったと優しく抱き寄せる。
 だが、自らの危険性を端的に示すには有効だ。
 子猫の体から震えが抜けるのを待ち、それからと再び話しかける。
「お前からのNGはなんだ?」
 お兄さんその猫はお喋りNGっす。
 震えは止まったものの、未だに鳴けずいるテンサイを相手に、ふむふむと頷く。
「香箱座りの間に指を入れるな? ちょいと何言ってるか分かんねえな。他は──、髭と尻尾を触るな?
 分かった、注意するぜ」
 などと囁きつつ一方的な対話を披露。肉球こりこり。尻尾もにぎにぎ。お髭もさわさわ。
 一方的に取り付けた約束とはいえ、一方的に破り過ぎじゃないですか。
 香箱座りの間に指を入れた時の反応は個体差があるので、猫の迷惑を考慮しながら楽しんでね!
(そういや、腹が減ってるかもわからんな。何か食わすべきか)
 思うに、この旅籠にはペットフード売り場がある。
 今回もまた、一方的な憶測──ではない。考えれば当然であるが、特務猫を持ち運べるならペット可の旅館だ。ならばペットフード売り場もあるだろう、と。
「影朧の手下ってのもいるかもな」
 障子を開けて畳から抜けると、レイはそう嘯き悪戯っぽく笑った。
 歩くことしばし。旅籠の出入口に近い場所にある大型売店コーナー。レイの予想通り、ペットフードも扱っている。
「とりあえず、……これとこれと……? なんだ、自分で選びたいのか」
 レイの腕から踠き出たテンサイは、ぎこちない、跳ねるような足取りで店の奥へと消えていく。
 仕方ないと苦笑して追いかけるレイと入れ替わり、更に二人の客が売店コーナーへ現れた。
 ヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)と雨野・雲珠(慚愧・f22865)。戦前の基本、情報収集の為に宿屋内を探索していた二人はこの売店を見つけて足を運んだのだ。
(旅籠内の戦いなら、屋内戦がほとんどでしょうか。無関係なお客様はもちろん、お宿の被害も抑えたいで──)
「雨野さま、あちらにお土産屋さんが!」
「あっ、本当だ! 見に行きましょう」
 戦の準備も大事だが。
 楽しめる所は楽しんで、二人は旅籠内を粗方探索し、自らの部屋へと戻る。
 そこには桜學府より遣わされた特務猫が、畳の上にででん、と横になっていた。
 首だけ起こして二人を見る目は細められ、ふさふさの尻尾は先端だけ畳を叩くように動いている。長毛種、ラガマフィンのようで大型だ。
「……わあ……初めまして」
「あなたが我々の、なるほど」
 尊大な態度と見える彼の首輪には、名が体を表すとばかりオヤマノタカと刻まれていた。
「……オ……ヤマノ……タカ……タカさんですね。
 俺たちが必ずお守りしますから、どうかお力をお貸しください」
 こちらは塩抜き煮干しと、鰹節でございます。
 正座して、す、と先程の売店コーナーで入手した物を悪い笑みでオヤマノタカへ渡す雲珠。
「あ、賄賂!」
 楽しそうに笑うヨシュカの前では、ほほう、苦しゅうない。と思ったのかは不明だがオヤマノタカ、一声鳴くと大きな体を起こして煮干しをくわえ、鰹節の上に座る。
 貫禄はあるが親父くせえぞこいつ。でも煮干しをあぐあぐ食べる姿はかんわぃいから卑怯。
「なるほど、共に戦うには親睦を深める事が重要。つまり。
 遊びましょう!」
 鰹節の上に座る猫の側で、同じような体勢で畳に転がり、雲珠も一緒にと呼ぶ。
「タタミ、気持ち良いですよ」
「そうですね、それでは」
 オヤマノタカを間に挟んで横になる二人の少年。ぱたぱた揺れる尻尾を雲珠が触れば、ヨシュカはふわふわもこもこの腹を撫でる。
「さて、そろそろ定番の」
「おお!?」
 ユーベルコード【六之宮】。雲珠の始動したそれは小さな猫じゃらしを作り出し、驚くヨシュカと共にオヤマノタカの前にふりふりと見せつける。
 最初は興味無さそうにしていた猫親父も、尻尾の動きが段々と早くなり、終いにはネコパンチを連打していた。やはり猫じゃらしには勝てなかったな!
 遊んでしばし。疲れたのか鰹節で爪を研ぐと、畳の上に横になる猫親父。
「疲れさせ過ぎちゃいましたかね」
「いえ。このタタミは気持ち良いですよねえ」
 一緒に横になるヨシュカに、にゃんと短く答えるオヤマノタカ。
 動物と話せるのか。驚く雲珠に頷けば、そわそわしだした少年は仰向けになり腹を見せた猫親父を撫でる。
「あの、もしよければ、俺の撫で具合はどうか伺ってみてくださいませんか」
「えーと、生ぬるいそうです。あ、お顔周りはもっと強めで大丈夫だそうです」
 どんだけだよオヤマノタカ。
 ヨシュカの助言を受けて、むしろ大型犬にするようにわしゃわしゃする雲珠。
「タカさん、雨野さまの撫で方はいかが?
 あっ! 今の感じ、そうです、それがベストですって!」
 嬉しそうに喉を鳴らすあたり、タカさんご満悦である。
 ヨシュカはオヤマノタカが満足したところで、石嶋についての情報を請う。
 残念ながら特務猫と石嶋は直接会ったことはなく、彼らには人となりすら分からないようだった。
 ただ、厳しい訓練の後もしっかりとしたケアや食事、各猫の性格をきちんと把握しマニュアル化された対応など、単に猫を道具ではなく、きちんとした戦力・相棒として扱われていることが分かった。
 そこには石嶋の本来の性格が反映されているのかも知れない。
「そっか。感謝してるんですね、タカさんは」
 野良猫であった自分を立派に育ててくれた人々。そして、それを働きかけた石嶋。
 特務猫の中に石嶋という人間の存在はなかった。しかし、オヤマノタカはヨシュカの話から石嶋の存在を知り、そして感謝の心を向けたのだ。
 お前たちの力になろう。
 オヤマノタカの強い眼差しに、雲珠とヨシュカは頷いた。

「ハイ集合ー」
 声をかけられたのは猟兵たち、ではなく。
 インディゴ・クロワッサンの部屋から出てきた半野良の大群だ。話しかけたのはケイティ・ネクスト(蠱惑の仔猫・f26817)。
 ケットシーらしく他の猫と変わらない体躯の彼女は蠱惑的な笑みを浮かべている。
 妙な色香の漂う仔猫に見えるが、果たして人に近しい姿の彼女の魅力に気づく猫はいるのか。
 そんな無駄な心配を他所に、ケイティの周りに殺到する半野良たち。あ、こいつらまだ餌が貰えるのかと思ってやがる。
 色気より食い気の半野良ニャンコファミリーににやりと笑う。
(まー、猫は猫なのでにゃんこパーティとか良く組むし)
 ふふん、と笑う。可愛いぞこいつ。
 で、最近どうよと近況の確認を行うケイティ。
 ここいらに住み着く半野良だ、持つ情報量は多いだろう。事と次第によっては旅籠に潜む影朧らの裏をかくことも可能のはずだ。
「んにゃぁ? 発情期に寝取られちゃった? にゃははは、あるあるー。オスなら誰でも良くなるんだよにゃー。にゃははは、まー確かに猫はいつでも発情期だしオスなら誰でもいいって言うか、メスでもイけるし」
 そういう話は聞きたくなかったんですけど?
 愛らしい猫たちの生々しく赤裸々な性事情が人間語となり公共に乗せられる。最早テロである。
 半野良だからしゃーないね。
 餌くれモードから猫会議モードになった猫の集団は月空の下、短く刈られた芝生の上で寝転がる。
「仕事はぼちぼちー、あー猫カフェヤってるにゃ? アレはいいよにゃー。特になんもしなくても人間は色々落とすからにゃー」
 半野良を使用するなカフェスタッフ。さすがにお店に出す前はシャンプーぐらいしているだろうが。
「んにゃ? 港前の鮮魚店は河豚とかくれるのにゃ? それ大丈夫かにゃ」
 にゃごにゃご。
 おい、雑談しかしてねーぞこの猫、もとい猟兵。
(まあ、猫は暗殺者として罠解除は元から出来る方だからにゃ~)
 そもそも特務猫の協力の意味合いは薄い、といった所だろうか。しかし目はあればあるほど、手があればあるほど有利なのは確かだ。
 ケイティの隣にやって来たベンガル猫。右目の上に傷があり、そのせいで右の瞼がやや下がっている。
 彼の登場に気づいた半野良たちは、座り直して姿勢を正す。走る緊張感に彼がボス猫なのは間違いないが、軍隊式のように統率された群れが気にかかる。
 ケイティが目を向ければ首元に光る首輪のプレート。アレックスと記名されており、彼もまた特務猫と知れるだろう。
「うん、じゃあかかろうか」
 ケイティの言葉。
 細い目を僅かに太くし、月光に長く、細く流したアレックスの鳴き声は夜の闇に消え。
 同じく鳴き声を上げた半野良たちも、煌めく瞳を携え闇の中に消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薄荷・千夜子
【翠】
SPD

まさか猫を戦力にとは…動物使いとしてはなんと言えばいいのやら
アヤネさんの言葉に頷いて、猫さん一緒に頑張りましょうねと前足で握手しながら
とはいえ、まずは猫さんと仲良くならないとですね
『藤巡華簪』を鞭のようにして猫じゃらし代わりに【動物使い】【早業】【コミュ力】で遊びと稽古も兼ねながら
ふふ、本当に賢い猫さんですね!私がスカウトしたいぐらいです

猫さんと遊ぶのも楽しいですが、旅館の間取りや罠の仕掛けられそうな場所を探っておきたいですね
【罠使い】の知識や【野生の勘】も駆使しながら【情報収集】をしましょう
アヤネさんの方はどうですか?
事前に確認できそうなところは気をつけ見て行きましょう


アヤネ・ラグランジェ
【翠】
正義感というのは僕には無いネ
目的のために利用できる物は利用する
その目的が人助けだっていうならそいつは良い奴なんじゃないかな

特務ネコ
おまえの飼い主は僕が守ってやるよ
言ってる意味がわかるのかい?
よしよし賢い奴は好きだよ

宿泊客を装ってチヨコと一緒に旅籠に入る
旅行の荷物が重くて困るネ
大型ライフルのケースは楽器だと誤魔化す

敵の用意した旅籠となれば
建物自体に仕掛けがあると見て良さそうだネ
忍ばせた電脳ゴーグルに視覚デバイスから情報を送って見える範囲の捜索と測量を行おう
隠し部屋とか見つかるかもしれない

あとは真なる帝都軍とやらが気になるネ
この旅籠にいるのかな
話せそうな人物がいれば言いくるめて情報を引き出す



●最後の宿泊者。
「お部屋はこちらになります」
 仲居さんに案内される二人の女性。薄荷・千夜子(羽花灯翠・f17474)とアヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)。
「旅行の荷物が重くて困るネ」
「私もお持ちしますよ」
「いやいや、若い内は苦労しなきゃネ」
 苦労は金を出しても旅行客を装う二人の猟兵は、人の良さそうな仲居さんに対しても愛想笑いの裏で疑念を残す。
 敵である影朧に与する人間の用意した旅籠だ、警戒しないはずもない。
 アヤネが手荷物として運び入れたのは楽器ケースに見立てているものの、十キログラムを超える大型対UDCライフル【Silver Bullet】を格納している。疑わしい人物に触らせはしないだろう。
 ただの親切な仲居さんだったらごめんね!
 ごゆっくり、と案内された部屋を覗けば、先客たる者が退屈そうに顔を洗う。
 まさか猫を戦力にとは。
 千夜子の視線の先には座布団の上にちょこんと座るヒマラヤン。特徴的なポイントカラーは笑顔にも見える。
 首輪にはグッドマンと記名されており、ふわりとした長毛に千夜子はぬいぐるみのようだと評した。
「お前の飼い主は僕が守ってやるよ」
 石嶋は正確には飼い主ではなく、支援者にあたる。グッドマンとも直接の面識がある訳ではないものの、アヤネの浮かべる優しい笑みと猟兵らしく強い眼差しに信頼したのだろうか、頷くように一声鳴く。
 もっとも、それだけでアヤネという人物を評価するのは難しいが。
「言ってる意味がわかるのかい? よしよし、賢い奴は好きだよ」
 座布団から降りて頭を寄せるグッドマンに、遠慮なく撫でるアヤネ。
「動物使いとしてはなんとやら、と思いましたけど。グッドマンさん、一緒に頑張りましょうね」
 生けるモップの前足をにぎにぎ。グッドマンは千夜子の手を舐めてそれに答える。格好いい名前に対して可愛いぞこいつ。
 さてさてと千夜子が取り出したのは【藤巡華簪】。藤花が美しい簪は手に持つ彼女が魔力を込めるとどこまでも藤の枝花が伸びていく性質がある。
 これを猫じゃらし代わりにグッドマンと仲良くなろうという訳だ。ぴょんこと伸びる枝花に耳を立てて注視する生きモップ。
「そーれ、こっちだぞ~」
 こしょこしょと目の前で振れば炸裂するネコパンチ、ふわりと空を舞えば大跳躍、くるりと回せば華麗なターンと見事にグッドマンを操る千夜子。
「ふむ」
 ここでアヤネは部屋に置かれた瓶からおやつのピーナッツを取り出すと、軽く弾いて指弾とする。
 髭を立てて反応したグッドマン。藤巡華簪を追いつつも空で身を反転、後ろ足から必殺のネコキックで見事にピーナッツを撃墜、拾い咥えながら更に藤巡華簪を追う。
「ふふ、本当に賢い猫さんですね! 私がスカウトしたいぐらいです」
「なんか、食い意地が張ってるだけの気もしてきたよ」
 そのまま食わせるには具合が悪いと、抵抗するグッドマンの口から抜いたピーナッツを一噛り。
「ふう。堪能しました」
 グッドマンに藤巡華簪の先端を噛らせてやりながら、アヤネへと振り返る。
 ここに来たのはあくまで仕事。旅館の間取りや罠の仕掛けられそうな場所を探るべきとするのはアヤネも同意だろう。
「二手に別れようか。グッドマンは千夜子に譲るよ」
「いいんですか?」
「ああ。やっぱりそういうのは適材適所、動物を扱えるチヨコに任せるよ」
 こちょこちょとグッドマンの額を撫でて、アヤネは【電脳ゴーグル】を装着した。

 部屋から外へ出たアヤネは視覚デバイスより送られる情報を元に各点捜索と空間測量を行う。廊下内には灯りがあるが、所々に不明な光量が存在する。
 同じ猟兵のクレアが設置したものであるが、アヤネは害意が感じられなければ良いと廊下から外へ。
「うーん」
 外から見た本館は二階が一部大きく作られており、仲居に案内された際に見当たらなかったスペースだと腕を組んだ。
 それだけで危険と判断は出来ないが、考慮に入れてもいいだろう。
(あとは真なる帝都軍とやらが気になるネ。この旅籠にいるのかな)
「このー、しんなるてーとぐんのわたしがあいてよ~!」
「グワーッ! ヤラレターッ!」
「…………」
 早速情報源のエントリーだ。
 ご都合主義な展開にアヤネはかえって怪しむが、ご安心下さい。この世界は幻朧桜の優しさにより構成されております。
 アヤネが顔を覗かせると、庭でごっこ遊び中の子供がきょとんとした顔を向ける。
「駄目じゃないか、夜だって言うのに子供だけで」
「ご、ごめんなさいっ」
「見知らぬ人が話しかけるのも問題では?」
 素直に謝る少女に対し、拳で返してやりたくなるような少年。そこはさらりと流すアヤネは、少女の叫んだ『しんなるてーとぐん』について聞き込みを行う。
「えっとね、おひるにね、しろいふくのひとたちが言ってたんだよ!
 これはふくしゅーなんだって。じぶんたちをかくしたわるいひとに、ふくしゅーするっていってたよ」
「復讐?」
「知らないのですか!
 復習とはッ。示された道をッ! 確固たる道とする事ッ!! 予習と一緒に行えば尚ヨシッ。
 週末のテストも満点を約束するよママー!」
 やかましいわ。合ってる癖に全力で間違ってるんじゃねえぞクソジャリ。
 とりあえずとばかり、まるこめくんには冷たい視線を送り、素直に答えた少女へ部屋にあったピーナッツを渡す。
 嬉しそうに手を振って部屋に戻る少女と、しょんぼりした様子で部屋に戻る少年を見送り、アヤネは鋭い目を周囲へ向ける。
(なるほどネ。一般客は石嶋とは反対側、ボクたち猟兵は入りきらなくて近くに配置されたって所か。
 とすれば、旅籠自体は罠じゃないけど協力者、おまけで罠が仕掛けられたって感じかな)
 少女の言葉を思い出す。真の帝都軍である自分たちを隠した、つまり存在を消そうとした石嶋への復讐。
(ユーベルコヲド使いを嫌い、その帝都軍人の存在まで消そうとして恨みを買った?
 募金の横領といい随分な強硬派だネ)
 グリモア猟兵のが制したような、正義感というものは少女に無い。
 むしろ、目的のために手段を選ばず利用する者の、その目的が人助けならば、やはりそれは良心を持つ者だと思いすらする。
「さて、チヨコの方はどうかな?」
 残した武器と相棒を思い、アヤネは部屋へと向かった。


●君たちに先手はやらんのだ!
 グッドマンを両手に抱えて旅籠を探索する千夜子。
 彼女も罠に対する知識を持ち、ここいらならば効果的という場面でグッドマンに確認させれば、目を丸くする彼が肯定するように細い鳴き声を上げる。
 その場所にはそれぞれ狩人道具一式を収めた【狐花密香】より、目印となる色料を使用し目立たせている。旅籠の人には後で謝らないとね!
 まんまるお目々を大きく開いて危険箇所を注視するグッドマンは仕事モードに切り替えたのか、甘えることは一切なくひたすらに罠を探している。
 むしろ、罠が多く配置されている事に危機感を覚えているのか、怯えてすらいるように感じられる。千夜子は彼を落ち着かせるように優しく撫でてやりながらも、仕掛けられた罠を考察する。
(重さで反応するでもないし、とは言って最新技術が埋め込まれたようなものでもない。原始的な仕掛けに見えるけど、何かしらのストッパーが入っていて、戦闘と同時に機能する形になっているのね)
 でなければ、仲居さんや他の客が罠にかかる恐れもあるし、目標である石嶋逃走の恐れもある。
 一度、作動しない罠に床板を剥がして内容を調べた所、何かの動物の骨を使用して制作されていた。トラバサミや剣山のような相手を拘束する物が多いようだ。
「……アヤネさんの方はどうですかね……? !」
「うわっと! すまない、大丈夫か?」
 曲がり角で出会い頭にぶつかりそうになったのは、ゴンザエモンを引き連れたウタだった。
 同じ猟兵と特務猫の登場に、自分と同じく罠を探しているのかと聞けばその通りだと笑う。
「見つけたのは俺のユーベルコヲド、【ブレイズフレイム】で片っ端から焼いてるぜ」
 彼の言葉にひょこんと後ろを覗けば、旅籠に残る数々の焼け跡。修理費に頭を抱えそうな光景だが、悪い奴と組んでしまった旅館が悪い。
 千夜子は苦笑いしたものの、見つけた罠を焼き潰す選択は間違いではない。
(発動される前に焼いて貰った方がお得かも知れないですね)
 千夜子はひとつ頷き、ウタに自らの記した罠の場所を示すと、ゴンザエモンと共ににやりと笑い右手に炎を灯した。

「…………」
 白い月夜に白い肌を照らされて、レイは売店コーナーで入手した猫の餌を指で茂みに弾く。
 てってかと走りそれを拾い、レイの足下で食べるテンサイ。すぐに食い終わればもっともっととせがむように、舌舐めずりしてこちらを見上げる。
「…………」
 続いて別の茂みに餌を弾けば、嬉しそうにてってかと走り。
 途中で止まる。
 もの悲しげな鳴き声を残して、未練がましく餌の残る茂みを見つめながらも、とぼとぼとレイの足下に戻る子猫の姿に、なるほどと笑う。
「わざわざそんな所に罠を配置することもねえ。分かり易いな、これは」
 テンサイへは自らより離れた場所に餌を弾いておく──、と、それは見事な跳躍を見せたシャム猫に盗られてしまった。
 テイルとパートナーを組むシールズだ。横取りされておたつく子猫の姿に、後からついてきたテイルは返してあげなさいと声を低く叱る。
「こんばんは! 猟兵さんですね」
「ああ。あんたも見回りか?」
「はい!」
 新しい餌を弾きながらのレイの言葉に、元気良く頷くテイル。ならば丁度良いとばかり、彼がテンサイと組んで見つけた幾つかの茂みを指す。
「俺たちが見つけた敵の場所だ。炙り出すから、援護してくれないか」
「分かりました、任せて下さい!」
 大きく胸を張るとテイルは蛇腹をくねらせ、全身をバネに跳躍。更に虚空を蛇脚で踏みつけて蹴り上がり、更に上空へと翼を広げて舞い上がる。
 ユーベルコード【スカイステッパー】。有翼たる彼女であるが、地上より急浮上するにはこちらが便利だ。全ての茂みを視界に収めて、テイルは良しと小さく拳を握る。
「いつでもどうぞ!」
「心強い言葉だ」
 翼を広げた少女から目の前の茂みへ視線を移し、レイは指の骨を鳴らした。

 にわかに騒がしくなり始めた雰囲気に、何かを感じ取ったらしい石嶋が落ち着きを無くして周囲を見やる。
 その手の下にはわしゃわしゃされるシャーリーの姿。桜花に抱かれてた時からだけど、この猫は寝てるのではないか?
 気配を察する石嶋に、やはりそれなりに腕のある男なのだろうとしながら桜花は、酌に注いだ物を【銀盆】から手渡す。
「大丈夫ですよ。私が──、私たちがお守りします」
 緊張する男へ微笑みを向ける。
「安心して待ってて下さい。それに、ユーベルコヲドは実際に見るほうが、貴方の役に立つと思いますよ」
 視線の先には石嶋の部屋。正面に立つのはクレア。傍らに控えるミケランジェロは体を低くし、今にも飛びかかりそうな唸り声を上げている。
 これは部屋に潜む者への威嚇。更にこの前にはしきりに入口の障子を支える枠に嫌な鳴き声と爪研ぎで印をつけており、この出入り口にもなんらかの罠があると知れる。
「つまりは石嶋殿のおらぬ部屋、わざわざ入るなど愚の骨頂。後はただ待てばよいのじゃ。炙り出されるのを」
 不適に笑い勇むミケランジェロを諌めれば。
 石嶋の部屋、天井から凄まじい音が鳴り響き、屋根板を突き破って黒々とした異形が姿を見せた。
 落ちると同時に埃を舞い上げたそれらは、自らの鱗の下を這う存在に恐れ戦く。
「ギイィイ!」
(よーし、やっちゃおー!)
 暴れ出る大蛇たちを瓦屋根の上から見下ろして、アリスは頭から落ちそうになるスルガを口で咥えた。

『──はっ』
 屋根板を突き破り落下する者たちの音を聞いて、オヤマノタカと至福の一時を過ごしていたヨシュカと雲珠は慌てて身を起こす。
 早速の出番だ。その毛をいじられ腹を撫でられだらしない表情だったタカさんもきりりと顔を引き締める。
 隣の部屋では漸くと動いた事態に、同じく夜桜を見て愉しんでいたインディゴも、半野良にやられたせいで闘争心漲るヘンリィを引き連れる。
 そんな彼が心をへし折られるのは、ケイティの引き連れた半野良集団を見るまでの僅な間であろうか。
 鋭い眼で戦場を見つめるアレックスと共に、仔猫は淫靡に微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『旧帝都軍突撃隊・旭日組隊員』

POW   :    怪奇「豹人間」の力
【怪奇「豹人間」の力】に覚醒して【豹の如き外見と俊敏性を持った姿】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    怪奇「猛毒人間」三重奏
【怪奇「ヘドロ人間」の力】【怪奇「疫病人間」の力】【怪奇「硫酸人間」の力】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    怪奇「砂塵人間」の力
対象の攻撃を軽減する【砂状の肉体】に変身しつつ、【猛烈な砂嵐を伴う衝撃波】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
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●奇襲実らせず。
「おのれ猟兵。だが、正義は我らにこそあれば、負けなどするものか!」
 猟兵らの活躍により、潜んでいた場所や罠を尽く看破され、逆に奇襲を受けた影朧・旭日組隊員たち。
 中性的な美しい姿を獰猛な獣やおぞましき物怪へと変じた彼らはそれでも、戦いへの意志を薄れはしない。
 なぜそこまでして戦うのか。猟兵の一人が彼らの持つ憎しみ、復讐心を問う。
「……我らこそは真の帝都軍人……! 己の命をも捨て、この帝都に尽くしたのだ。その我らを歴史の闇に沈めようと無駄なこと。過去なくば未来は作れない。
 陽は必ず昇るもの。そう、帝都の為に忠する我らを辱しめた者に正義など無い! 我らが旭日は貴様らを灼き滅ぼす!」
 天誅である。
 叫ぶ男に対し、石嶋は苦々しく顔を歪めて刀を抜く。
「何が真の帝都軍人だ、反吐が出る。とどのつまりは人の身を捨てた奴らだ。その非道な実験を後世に残す訳にゃいかねえのよ。
 亡霊として大人しくくたばってりゃ良いものを、あんたらの痕跡など、俺が全部消してやるぜぇ」
「戯れるな、俗物! 我らの誇りを、命をも賭けた心を、貴様などに汚されて堪るものかッ!」
 怒りの形相が石嶋へ向けられる。
 啖呵を切ったものの、脂汗を全身に流す彼に言葉ほどの余裕はない。怒りに飲まれたオブリビオンは石嶋を狙うだろう。
 しかし、先の猟兵による奇襲で彼らの動きも鈍く、先手を取ることが可能だ。
 善悪を決めるのは猟兵たちでも、ましてや石嶋や影朧でもない。ただここで、必勝に王手をかけたのは猟兵であることを、影朧たちへ思い知らせるのだ。

・前章から、影朧へ先制攻撃を行いやすくなります。
・猟兵の活躍により罠が無効化されていますが、逆に猟兵がプレイングにより指定、利用可能です。
・備え付けの罠はトラバサミや矢などの原始的な物のみ。爆発物などは無いので使用する場合は新たに仕掛けましょう。
・旭日組隊員からボス影朧の情報を入手する事が可能です。

●前章参加の皆様へ
 名前のあるプレイング得点からひとつ選択してボーナス可能です。
:インディゴ・クロワッサン、ケイティ・ネクスト
 半野良集団による陽動・攻撃が可能です。
:クレア・フォースフェンサー、御園・桜花、ティファーナ・テイル、アリス・ラーヴァ、レイ・オブライト
 完全に無防備な状態の影朧へ先制攻撃を仕掛けることが可能です。
:木霊・ウタ、雨野・雲珠、ヨシュカ・グナイゼナウ、薄荷・千夜子、アヤネ・ラグランジェ、クレア・フォースフェンサー、アリス・ラーヴァ
 屋内戦の際、地形利用の効果が大きく上がります。プレイングにより地形を指定可能です。
※プレイングは前章リプレイに合わせた内容でなくても構いませんので、自由なプレイングをお願いします。
御園・桜花
石嶋の袖を引く
「本当に苦しんだ方、もう待てないと思った方に、正道は毒にしかならないと…貴方はご存知でしょう?あの方々が苦しんだ時、真摯に護国に想いを馳せた時には、もう道が残されていなかったのです。善くしようとするほどに転がり落ちるしかないあの方々は、葬らねばなりませんけれど。せめて哀れと想って下さいませんか」
「シャーリーさん、石嶋さんがお怪我しないようお手伝いして下さいね」

石嶋と敵の間に立ち石嶋庇う
敵の攻撃は第六感や見切りで察知し全て盾受け
石嶋や仲間の受傷はUCで高速治癒

戦闘中ずっと破魔と慰め乗せた子守唄口遊む
「貴方達の護国の想いは疑いません…その遺志を果たすよう、どうか転生を望んで下さい」


木霊・ウタ
心情
忘れられた過去の亡霊、か
此奴らも転生させてやりたいけど…

ゴンザ
いよいよ実戦だ
頼りにしてるぜ、相棒(ぐっ

地形利用
狭い廊下へ誘い込む・追い込む
一直線にしか動けないなら
その速さも宝の持ち腐れだぜ

戦闘
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払い砕く
避けられるの上等で
豹が動ける範囲全体に剣風を炎の嵐に変えて放つ
返り血の獄炎も纏わりつかせてやる

あ、旅館に延焼しないように気を付けるぜ(←学習した

石嶋を庇う

旭日組
忘れられちまうとは悲しいよな
そして確かなのは
今は過去の積み重ねだから
今の繁栄した帝都は
皆の笑顔は
アンタらが護りもたらしたって事
その笑顔を消す行為
過去の自分に顔向けできる?
もう此処までしとけって

ボスも転生させてやろうぜ


クレア・フォースフェンサー
言われてみれば、タケミ殿の予知に“真なる帝都軍”なる言葉が出ておったな
ミケ達に気を取られ、すっかり忘れておったわ

英霊殿
己が命を賭けた平和の世を乱されたとあって現れたというのであれば、理解はできる
しかし、700年もの時を経た世において自分達が忘れられるのが許せぬ、というのは我が強すぎぬかのう

さて
姿も若干似ておるが、過去の存在と言う意味でもわしはおぬしらと似たようなものじゃ
過去の者が過去の者を倒す――それも一つの道理じゃな

敵UCを破壊する空間を周囲に展開
敵の動きを見切り、光剣で四肢を斬り落とす

分からぬのは、軍人のおぬしらが仕えるのが鬼だということじゃな
いや、この世界で敵は他国
鬼も仲間ということかの


ティファーナ・テイル
SPDで判定を
※アドリブ歓迎

豹人間と砂塵人間は警戒しながら猛毒人間を見た瞬間に「何かばっちい⁉」とつい口にしてしまいます。
他の猟兵と協力して『スカイステッパー』で距離を詰めたり開けたりしながら『セクシィアップ・ガディスプリンセス』で♥ビーム攻撃をしながら『神代世界の天空神』で空間飛翔して避けたり詰めたりしながら敵のUCを『天空神ノ威光・黄昏』で封印/弱体化させて、距離が縮まれば『ガディスプリンセス・グラップルストライカー』を仕掛けながら🔴が付いたら『超必殺究極奥義』+『ヴァイストン・ヴァビロン』で苛烈な猛攻を仕掛けます!

無防備な状態の影朧へ音を立てずに髪の毛で攻撃対象を指して確認しあいます!


アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

あの兄さん達が悪者なのねー?アリスがやっつけちゃうんだからー
まずは石嶋さんを守らないとねー
石嶋さんにはスルガさんを抱っこしてアリスに【騎乗】して貰って敵から守りましょー
さっき天井裏や床下に伏せた子達の一部も一緒に石嶋さんを囲むように配置して得意の【集団戦術】で護衛するのよー
「豹人間」の力を使って俊敏性を活かして攻めてくる敵には、屋内と言う閉所の【地形の利用】してアリスの糸で作った蜘蛛の巣を張り巡らせて対応するのー

残りの子達は味方の猟兵さんのお手伝いをお願いねー
猟兵さん達と脳内会話で意思疎通して、猟兵さんの合図で床下や天井裏から奇襲したり既存の罠を作動させて援護するのよー


ケイティ・ネクスト
「ドーモ、ケイティです。こっちはアレックス。これからお前達をボコるにゃ」
 7割猫モード、外見的には歩く猫状態。
「ま、今回猫は手を出すつもりはないけどにゃ。手を出す必要が無いからにゃ……狩りの時間だ」
 半野良集団の狩猟本能を呼び覚まして、後はお任せするにゃん。
「小さくてすばしっこくて、鋭い。これほど暗殺向けの生き物はそういないよ。まあ、こんなに堂々と殴り込んで暗殺も何もないけどさ……にゃはぁ、正面戦闘で勝てる雑魚ならこっそりする必要は無いにゃぁ」
 ま、猫を直接狙ってくるなら相手してやってもいいけど。猫を狙うなら通る位置に猫のお友達を用意しておくかにゃ。
「罠ってのは、こう使う」


インディゴ・クロワッサン
「うーんどうでもいい!」
って言うか、ヘンリィ君は大丈夫?心折れてない?(笑)
【POW】
半野良かぁ… そうだねぇ…
「キミ達は、僕のちゅー●を食べたよね?
んじゃ…無理しない程度に好きに暴れちゃって良いよ!」
UC:藍薔薇の加護 を使って、ち●ーるを食べた猫を強化しちゃおう!
僕自身は私服のまま(笑)鎖付きの短剣:Piscesで、半野良の邪魔をしないように【投擲/串刺し/スナイパー/暗視/見切り/部位破壊】辺りで攻撃しつつ敵の動きを邪魔しようっと!
勿論、隙が出来たら【怪力/ロープワーク/地形の利用】とかで動きを阻害して…
「豹人間…うーん、やっぱり首かなー」
がぶっと【吸血/生命力吸収】もしちゃうよー☆



●ハンティング・タイム。
 石嶋と影朧が正面から火花を散らす中、ただの人である石嶋を先に諌めたのは御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)だ。
 男の袖を引いて顔を横に振る。
「本当に苦しんだ方、もう待てないと思った方に、正道は毒にしかならないと。貴方はご存知でしょう?」
「…………」
「あの方々が苦しんだ時、真摯に護国に想いを馳せた時には、もう道が残されていなかったのです」
 この国を、世界を。善くしようとするほどに転がり落ちるしかなかった人々。それ程までに追い詰められていた彼らの正義。
 石嶋の言葉の通り、彼らは葬らなければならない存在だ。しかし。
「せめて哀れと想って下さいませんか」
 それこそ、邪道に正義を見出だした、あるいは悪に活路を見出だした石嶋の如く。
「…………、俺が奴らに抱く感傷なんてのは、何の意味もねぇのさ」
 想う事とやるべき事は違う。桜花の言葉を分かっているのだ。
 彼の言葉をそのまま答えとして受け取り、抱き締める三毛猫を地面に下ろす。眠たげに欠伸をして後ろ足で耳を掻くシャーリーに、桜花はその眉間をちょちょいと突く。 
「シャーリーさん、石嶋さんがお怪我しないようお手伝いして下さいね」
 特務猫はきらきらと輝く金の瞳で桜花を見上げると、ゆったりした足取りで石嶋へと向かう。
 喉を鳴らしながら足元に擦り付くシャーリーに困惑する石嶋はさておいて、退魔刀と同じ素材で制作された銀盆を構える。
 石嶋と影朧の間に立ち、その意思を明確に示す。
「邪魔立てするか、猟兵!」
 唸る旭日組隊員を悲しげに見つめて、構えた銀盆を強く握る。
「言われてみれば、タケミ殿の予知に『真なる帝都軍』などという言葉が出ておったな。
 ミケ達に気を取られ、すっかり忘れておったわ」
 ニャンコ可愛いしメスゴリラの言葉が頭に入らなくてもしゃーないね。
 桜花と並び立つようにクレア・フォースフェンサー(UDC執行人・f09175)。傍らには身を低くして唸るミケランジェロ。
 気負い過ぎるなと首筋を撫でれば跳ねるように驚く辺り、虚勢を張っている様子だ。
 怯えて動きの悪いままに前に出られては、味方までも危うくなる。ミケランジェロをそれとなく足先であやすように後ろへ隠してクレアは旭日組隊員へ目を向けた。
「英霊殿。己が命を賭けた平和の世を乱されたとあって現れたというのであれば、理解はできる」
 しかし、今は太平の世。まだまだ騒がしくあろうとも帝都の名の下、七百年もの時をこの世界は数えたのだ。
「自分たちが忘れられるのが許せぬ、というのは我が強すぎぬかのう」
「何を馬鹿な、忘れられるのと消されるのとでは意味が違う!」
「我らの足跡を、無念へと変える者。許せるはずあろうか!」
 同じだ。
 小さく息を吐くクレア。もはや未来へと進めぬ者には分からないのだろう。自らが自らを貶めている事を。
 しかし、忘れられてしまう悲しさに同意を示す者もいる。
 木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)。そういった過去へと押し込められた者たちは、捨てられた過去の復讐者となり果てた者たちは滅してこそ安らげるのだと考える彼は、それこそが猟兵の使命だと。
(忘れられた過去の亡霊、か。此奴らも転生させてやりたい……けど……)
 過去を見つめるだけが猟兵ではない。ウタと共に目を細めて旭日組隊員を見つめるゴンザエモン。彼らのように未来を託された存在がある以上、猟兵のすべき事は時を未来へと進める事なのだ。
 その邪魔をする者は。
「ゴンザ、いよいよ実戦だ。頼りにしてるぜ、相棒」
 ぐっ、と握った拳から親指を上げてサムズアップ。
 ゴンザエモンは力強く鳴くと腰を上げ、目標を睨み付ける。気合いは十分だろう。
「イエネコ程度を揃えた所で──、むっ」
 気配を察して振り返る影朧。
 挟み込む形で立つ異形と男、アリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)とインディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)だ。
「ギィィ、ギッ、ギィイィイィッ」
(あの兄さんたちが悪者なのねー? アリスがやっつけちゃうんだからー)
 その特異な風貌とは異なり、正義の怒りらしき感情を言葉として他者へと伝播するアリス。頭上のスルガは慣れた様子でバランスを取りながら、彼女の意思を感知し敵である影朧を睨み付けた。
 次から次へと邪魔者が現れる。獲物を前にしてその事実が影朧たちを燻らせているようだ。
「貴様らは、正義もなく! 我らを反吐が出ると罵った男と共に、行動を起こすのか。
 我らが正義を汚し、辱しめたこの男を!」
「……うーん……」
 一理ある。
 叫ぶ旭日組隊員の言葉に思わず唸るインディゴ。石嶋の行動は暗い過去を利用させない意味もあり、外法を封じるのは一概に悪いとは言えない。
 しかし、当時の犠牲者たちを考えれば彼一人の一存で決めるべき事ではないだろう。強引に物事を推し進める石嶋を独善的とし、非難されるも仕方ないことではないか。
「………、どうでもいい!」
 そんな彼らのしがらみをばっさりと切り捨てて笑顔を見せるインディゴ。彼の態度は影朧の怒りの炎に油を注ぐ行為であり。
「……貴様……っ!」
 だが。
「そう吠えても、すぐには動けないだろ?」
 その言葉は、傷ついた影朧たちへ呪縛のように纏わりついた。

「ドーモ、ケイティです。こっちはアレックス」
 これからお前達をボコるにゃ、と不適な笑みを見せたケイティ・ネクスト(蠱惑の仔猫・f26817)は、先程とよりも猫らしい姿となっており、さながら二足歩行で歩く猫そのものである。
 後ろに控える左右不揃いな眼を持つベンガルは半野良の集団を引き連れて、彼女の号令を待つ。
 見た目で言えばそんな猫らよりも巨大に見えるティファーナ・テイル(ケトゥアルコワトゥル神のスカイダンサー・f24123)。
 腕を組んで睨み付ける先には傷ついた旭日組隊員たち。
 ケイティを前に体勢を崩した影朧たちを死角から見つめている。初めての敵に興味津々といった様子のシールズを尾の先で制しつつ、地面を揺らす百目巨神アルゴスの合流を待つ。
「猫、猫、猫、か。そんなもので我らを止められるなどと、思っているのか」
 額に浮いた汗の玉を払い落とし、旭日組隊員は己の体を緊張させる。
 力を漲らせた体は大きく震え、苦痛を伴う唸り声を残しその体を変質させていく。
 中性的な美しい顔立ちは皮膚の下からめくれ、膨らむ生皮を自ら裂けば、血に濡れた体毛が青い夜空に現れた。
 湯気立つ体はすぐに乾き、逆立つ体毛のお陰で元の姿の何倍も大きくなったように感じられる。
 他の者はその身を急速に乾燥させて、ぼろぼろと朽ちると同時に舞い上がり砂塵のような存在へと変質。
 極め付きはだらだらと流れる脂汗が更に増え、黒色を生じると同時にどろりと溶けて流体の如くなる姿。
「何かばっちい!?」
『!』
 思わず叫んでしまい、驚いた旭日組隊員たちが振り返る。こうなってしまえばアルゴスを待つ必要はない、先手必勝だ。
 蛇脚をバネの如く跳ねさせて、敵に捕捉される前に空へと跳ぶテイル。
 ぽつんと取り残されたシールズに視線が集い、所在無さげな彼は一声鳴いた。
「いいタイミングだにゃ。こっちもそろそろ行くかにゃ。ま、今回猫は手を出すつもりはないけどにゃ」
 何故ならば、手を出す必要がないからだ。
 夜気に煌めく瞳を受けて、アレックスは後方に控える半野良集団に合図を送る。
 さあ、狩りの時間だと、誰かが呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヨシュカ・グナイゼナウ
【ニンジャ隊】

雨野さまにタカさんをお任せして、わたしは暫しのお別れです
縁の下から床下を通って【忍び足】で件のお部屋を目指しましょう
探検した甲斐がありました

【四の宮】が発動すると同時に根っこに紛れて床下から、相手の位置を【見切り】
【地形の利用】をした、背後と床下からの二重の奇襲。ニンジャっぽい!
組んでいただいた枝葉の足場に【ジャンプ】して立体的に襲撃を
七方向から暗器を放ち、毒液は茂る葉っぱでやり過ごし
枝葉に絡められたお相手を【早業】でもって【部位破壊】

歴史の闇に葬られようとも、あなた方の事、わたしは覚えておきましょう
少し我等とお話し致しませんか。次の生を歩むなら未練は少ない方が良い


雨野・雲珠
【ニンジャ隊】

危なければ箱宮に匿おうと思った石嶋さまには、
すでに複数のお味方が接触済。
相手の狙いは彼。
間取りは頭に入っていますから…

俺たちは自由に動ける隊として、
浮いた駒を落としていきましょう。
罠が無効化されているならタカさんは安全なところに…
あっやる気ですね。では、俺の側に。

待ち伏せて、一度やり過ごして背後から。
狭い屋内です。
【四之宮】の根を即席の壁として使い、敵を分断させます。
さらに【枝絡み】でヨシュカくんを支援。
しなる枝を結んで空中に足場を、
毒液には葉を茂らせて一時の盾を。

難しいのは承知の上で、
転生は呼びかけます。
そのお覚悟と誇りを胸に、
新しい生へと挑む気はございませんか。


レイ・オブライト
猫は言いつけ通り下がってるんで
属性攻撃(電気)乗せた衝撃波で先制範囲攻撃。敵を炙り出す
牽制も込みだ。そうそう豹化で走られると手間なんでな。麻痺って出が遅れたところを【一撃必殺】潰していく

ただテンサイだったか、猫も働いて認めさせねえとだろう。敵の注意がオレに向いてる間に、小柄さ活かして
仕掛け弓の張り糸を銜えて走り敵に引っ掛けさせ矢発射、程度はできるか? 致命打にならずとも、敵の足なんかに刺さりゃ上出来だ。追撃として此方で片付ける
猫への攻撃は鎖で弾く

てめえが死んだとて大義は死なぬと宣うだろうがな
お前が此処で死ぬと、オレは頭を殺すぜ
そんな程度でいいのか?
何に、何を賭けたのか。全て見せていけよ



●攻勢へ向けて。
 一触即発の状況の真っ只中、件の石嶋を守ろうと考えていた雨野・雲珠(慚愧・f22865)は、すでに複数の猟兵が守りについている様子を確認して安堵する。
 戦闘体制に入ったとは言え、あれだけの数の猟兵は早々と突破出来まい。
「敵影朧の狙いは、やはり石嶋さんで間違いないようですね」
 ユーベルコードの使用も考えていた雲珠であるが、別の視点が必要かとヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)へ顔を向ける。
「俺たちは自由に動ける隊として、浮いた駒を落としていきましょう」
 この旅籠の間取りは頭に入っている。ヨシュカも探検した甲斐があったと小さく笑う。
「あの石嶋さんのいた部屋を狙いましょう」
「分かりました。屋内の罠は無効化されているので、タカさんは安全な所に」
 言いかけて、雲珠は言葉を止める。
 雲珠の爪先に前足を乗せて、こちらを見上げるオヤマノタカ。一声鳴く姿に、彼はやる気だなと苦笑する。
「ではタカさんは俺の側に」
「それじゃあ、わたしは暫しのお別れですね」
 オヤマノタカの尻尾をにぎにぎしてやる気を溜めた後、ヨシュカは準備万端とばかりに縁の下へ潜り込む。このまま目標の部屋に向かうつもりだ。
 雲珠もまた部屋へ向かうと、足下から物悲しげな声が響く。どうしたのよタカさん。
(こんばんはーっ)
「えっ」
 見下ろし先のラガマフィンの額の上で、丁寧に頭を下げる芋虫のような生命体の姿。
 頭に直接響く声に、雲珠は目をみはった。

 右腕を駆け巡る電光。
 レイ・オブライト(steel・f25854)が叩きつけた拳は大地を揺らし、生まれた衝撃波は電流を伴って茂みに隠れた旭日組隊員たちに絡みつく。
 先手必勝の【一撃必殺】。
 撃ち込まれた拳が男の胸を抉り、心臓をも貫く。
「そうそう豹化で走り回られると、手間なんでな」
「……う……ぐ……っ」
 血に汚れた腕を引き抜くと、影朧はレイに掴みかかるが力無く。レイは表情を変えず、その体を押して地に倒す。
 滑る腕を気にしつつ、肩越しに振り返れば彼の言い付け通りに離れた場所でこちらの様子を伺う子猫の姿。
(テンサイだったか、猫も働いて認めさせねえと、だな)
 先の攻撃により敵意が集まるのを肌で感じる中、レイはテンサイを手招きする。
 怖がっているのだろう、尻尾を立てながらもてってことレイに駆け寄る姿は、幼いながらも勇気を持つ戦士であることを証明している。
「言葉が通じるかどうかだな。ここいらに罠があるはずなんだ。仕掛け弓の張り糸を銜えて走ったりして、敵に引っ掛けさせ矢発射、程度はできるか?」
 致命打にならずとも、敵の足に刺されば上出来だ。レイの追撃で敵を倒すことも容易となる。
 首を傾げる子猫に、まあそうなるかと頬を掻くレイ。
(通訳ならアリスに任せてー)
 そんな一人と一匹の間に緊張感もない声で現れた芋虫のような生命体。
 頭に直接響く声に目を丸くするレイへ、手を振るように尾先を振っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薄荷・千夜子
【翠】
もう人の姿も保てていないのですね
過去も未来への大事な道標ですが、もはや呪いとなってしまっておりますね
せめてその妄執を塗り替えられますよう

アヤネさんと連携して先制攻撃を仕掛けましょう
彼らの死角から【早業】で『藤巡華簪』から藤の花を伸ばし【捕縛】しながらUC発動
アヤネさんの動きをサポートするように絡め取っていきましょう
相手に隙を与えると厄介ですからね
できるだけ異能の力を使われる前に仕留めていけるように
そう簡単に石嶋さんの元へは行かせませんよ!
絡め取った藤の花を媒介に【破魔】と炎の【属性攻撃】で藤の花弁を浄化の炎の花弁へと
清き焔で弔いと致しましょう


アヤネ・ラグランジェ
【翠】
罠は解除した上で設置し直し
グッドマン合図したら発動だ
よろしくやっちゃって!

異形に変わった人でなしになんの正義があるのやら
挑発してこちらにも付き合ってもらおうか

石嶋の守りはチヨコに任せた
僕は敵の数を減らす

チヨコと連携して速い攻撃を開始する
体内から袖を通してずるりと巨大な鎌を取り出す
UC発動
敵を拘束しては斬り
触手で鎌を持って振り回し
変則的な攻撃で敵を惑わす
僕のやり方が人間離れしてるって?
そんなの知ってる

あら敵さん止まれ
ほらそこに
罠発動
ナイスタイミンググッドマン

ゴウツクのどこがいいのか聞いてみたいなあ
頼りがいがあるのかしら?
帽子を被っている理由ってひょっとして?
弱点を聞き出せないか試してみるネ



●激突する戦意。
 歩く度に、ぼろりと崩れるその体。
 土塊となって砕けた体は風に乗り、砂塵となって渦を巻く。
「もう、人の姿も保てていないのですね」
 近付くそれに、哀れみの視線を向けるのは薄荷・千夜子(羽花灯翠・f17474)。
 続く者共もその体を夜気に溶かし、次々と異形へ成り果てて行く。その姿に彼らの言う誇りは微塵も感じられない。
「過去も未来への大事な道標ですが、もはや呪いとなってしまっておりますね。
 せめて、その妄執を塗り替えられますよう」
 前に立つ桜花、クレアの両名を壁に死角から藤巡華簪の藤の花を伸ばす。その花は先の猟兵らの奇襲により傷つき、変身に戸惑う旭日組隊員を絡め取った。
「なんだ、この草花は!」
「──五芒の藤が巡るは呪いの楔……操花術式、【藤巡呪楔(トウジュンジュセツ)】!」
 男を高速した藤の花は更に地に根を下ろし、楔となって生成された五芒陣は呪詛を纏った花枝を放つ。
「グッドマン、よろしくやっちゃって!」
 唐突に響く凛とした声。
 アヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)の言葉に応じたグッドマンが、そのモップのような体からは予想できぬ機敏な動きで異形共の足下を駆け抜ける。
 その口に咥えたのは罠を発動させる為の紐。
「ぐああああああっ!?」
 各所、地面から噴き上げたのは高温の油。
 解除された罠を利用して、アヤネが再設置していたものだ。異形へ変ずる前の男たちへ被害を与え、更に砂塵と化した旭日組隊員を濡れ固める。
 同時に呪詛を纏う花枝がその身を崩すことなく縛り上げた。
「そう簡単に石嶋さんの元へは行かせませんよ!」
 空いた手で素早く印を結び、藤巡華簪を地に立てる。
「破!」
 その枝花を媒介に伝達された破魔の力を宿した浄めの炎が地を滑り、異形を縛る浄火となる。
 柔らかな光は夜気に花の如く開く。その身を焼かれながらも顔から邪気が抜けていく同胞に恐怖を感じたのか、散開する旭日組隊員。
 それを契機に猟兵らも顔を合わせて動きを見せる。
「清き焔で弔いと致しましょう」
「ぬうう!」
 千夜子の言葉に従い炎の根を伸ばすそれに、その身から大量の砂塵を飛ばし打ち払う。
「こんな異形に変わった人でなしに、何の正義があるのやら」
「不躾な!」
 鼻で笑うアヤネへ向けた殺人的威力を伴う砂塵。
 それを避けるでなく、逆に一歩踏み出して振るうのは【Scythe of Ouroboros】──ウロボロスの大鎌。通常は体内に収められたそれも、展開すれば二メートルに達する長さだ。
 袖を通して現したそれを展開と同時、迫る砂塵を切り裂く。
 吹き抜けた風と粒は後方で銀盆を構える桜花と、刀身にその名を冠する【焔摩天】の梵字。
 振り抜く刃はその軌跡に炎を築き、熱風が砂塵を巻き上げた。乱れ飛ぶ砂を受け止めて、桜花は風に乱れた髪を整える。
「ご無事ですか?」
「……あ、ああ……」
 凄まじい光景に圧倒される石嶋。
 クレアは彼にミケランジェロを預け、パニックに陥ったように落ち着きのない小さな頭をそっと手に挟み瞳を覗く。
「ミケよ、落ち着けい。前線に出る必要はないからの。臆病には臆病なりの戦い方がある。危うい気を感じたら、石嶋殿を頼むぞ」
 小さく鳴く。
 未だ恐怖は拭えてないのだろうが、落ち着きを取り戻したミケランジェロの頭を撫でたクレア。そのまま石嶋へ更に下がるように命じ、敵へと振り返る。
「さて。姿も若干似ておるが、過去の存在と言う意味でもわしはおぬしらと似たようなものじゃ。
 過去の者が過去の者を倒す――、それも一つの道理じゃな」
「しゃらくさいことを!」
 その喉を食い破る。
 迫る豹人間に対して微動だにしないクレア。防御すらしないのかと思われた矢先、彼女に近づいた旭日組隊員の姿が豹から人へと戻る。
 飛び掛かる姿勢のまま、空で自らの体を見下ろし驚愕する男。
 刹那、その手に光を集束し【光剣】と成した刃が男の四肢を斬り落とした。
 彼女に内包されるユーベルコードは機能として、敵のユーベルコードを破壊・無効化する。これにより体を変質させる怪奇人間の因子を持つ旭日組隊員のユーベルコードを破壊したのだ。
 無様に地面に落下した男へ振り返るクレア。
「分からぬのは、軍人のおぬしらが仕えるのが鬼だということじゃな。いや、この世界で敵は他国、鬼も仲間ということかの」
 顎先に指を添えて小首を傾げる。
「……ぐ……っ、く、ははは……、分かるまい……貴様ら、猟兵に、は……わ、我らの想いを……生きる為の道、を……否定、される、者の気持ち、などっ……!」 
 四肢を失い、力を失い、血の海に落ちてなお、石嶋へと這い進むその執念。
 一体、何が彼らをここまで突き動かすのか。
「ゴウツクについたみたいだけど、どこが良かったの? 頼りがいがあるのかなぁ、帽子を被ってるようだけど……ひょっとして……?」
「……帽子……?」
 ああ、そうか。
 アヤネの言葉に男は笑う。
 あんな男に何の価値があるものか、石嶋を呼び出した以上は既に用済みだ、と。
「あの、方は……ゴウツク……などという、下衆に変じておられたの、では、ない。
 闇、に、潜み影、に生き──、我、らへの生きる……道を、示して……く、くれた──、そう、あの方こそ、こ、の……混沌とした帝都に……っ、我ら影朧を、誠に想ってくださるお方だ!」
 血反吐を撒いて、その目に光が宿る。
 意志の力を取り戻していく男の姿にアヤネが千夜子へ目配せすると、彼女は苦々しく顔を歪めて炎の根を伸ばす。
 浄化して燃え逝く体に、男は安らかな笑みを浮かべた。
「…………、後はお任せ致します、牡丹灯籠様」
 灰に消えたその体を見送って、アヤネは小さく息吹く。
 じりじりと間合いを詰める敵の姿を瞳に収め、影からずるりと生み出された触手に鎌を渡す。
「あら、敵さん止ーまれ、ほらそこに」
「ぬっ?」
 アヤネの指し示した先に、反射的に身をかわす豹姿の旭日組隊員。その足下を駆け抜ける毛玉畜生。
 アヤネによりグッドマンの誘導した罠が即座に発動、トラバサミが男の足に食い付き拘束する。
「ナーイスタイミング、グッドマン」
 風を裂いて唸りを上げた太い触手、その先の大鎌が音をたてて逞しい体を真っ二つに引き裂いた。
「おのれっ」
「ネコだ、あの畜生どもを先に食い殺せ! ──うお!?」
 標的にグッドマンを加えた矢先、その足下を大量の半野良軍団が駆け抜けて彼らの目を惑わした。
「キミたちは、僕のちゅー○を食べたからね。無理しない程度に、好きに暴れちゃっていいよ!」
 始動するユーベルコードは【藍薔薇の加護(インディゴ・グナーデ)】。
 最高のタイミングで横合いから殴り付けてやったと満足そうに笑うのはインディゴだ。
 彼の力によりその体毛に保護の効果や牙爪に鋭さを加えられた半野良たちが、砂塵とも猛毒とも関わらず飛び掛かる。
「邪魔だ畜生どもがああっ!」
「どの口で言うんだか」
「全くですね」
 猫の争乱の間に足下から忍び寄る千夜子の枝花に囚われた旭日組隊員を、アヤネが斬り伏せる。
 戦況は猟兵に対して圧倒的有利、だが。
「こいつらの執念は相当だ。チヨコ、石嶋は任せるよ。僕は敵の数を減らす」
「わかりました、任せて下さい!」
(あ。危ないよーっ)
 アヤネの死角から迫るのは、濃硫酸となった男の体。
 しかしアヤネの体は何の脈絡もなく後方へ活動する。否、影から伸びる触手にその身を移動させたのだ。
「う、むっ!?」
 必殺の一撃をかわされ、追い縋る男の体よりも触手に乗り空高く見下ろすアヤネ。
「UDC形式名称【ウロボロス】術式起動。彼の者の自由を奪え」
 【二重螺旋のウロボロス】。
 更に現れた触手が次々と異形を捉えていく。例えその体が流体であろうと構わず拘束していく、これこそがユーベルコードだ。
「き、貴様、本当に人間かっ?」
「僕のやり方が人間離れしてるってこと?
 そんなの知ってる」
 その言葉に動かされる感情などなく。
 拘束する触手の上を滑動する大鎌が、断頭の刃が旭日組隊員たちの命を刈り取る。
 それを見届けて、はてと首を傾げる。
「さっきの声、頭に直接響いたけど?」
 そんな彼らの姿を見て恐怖を覚えたのは石嶋である。
 彼は、異形を圧倒するユーベルコード使いの姿に影朧以上の危険を感じていた。
 過ぎたる力は、持たぬ者にとって畏怖の対象となる。そこから恐怖に転じるのもまた正しい反応だ。
 だが、そんなことに全く気遣うつもりのない者が、彼の足下から顔を出した。
「ギイィィイ!」
(やっほーっ)
「うおおおおおおっ!?」
 地面を潜行したアリスの間接肢がそのまま石嶋を頭に乗せてしまう。
 穴から遅れて顔を出したスルガは、面倒そうにアリスの脚を伝いその背に上がる。
 現れたアリスに呆気に取られていた三毛猫シャーリー、スルガの後を追ってアリスの背に駆け上がる。
「ギチギチギチッ。キギギィ」
(石嶋さんはいつでも逃げられるようにしておくね~)
 鋏角を打ち鳴らすアリスに、ありがたいとウタ。
「敵は猫も狙ってる。ゴンザ、旅籠の中に奴らを誘ってくれ。分断するんだ」
(──、って言ってるよ~)
 いつの間にか頭の上に乗っていたアリスの幼い妹こと幼体に少々不満げであったが、ゴンザエモンは分かったといった様子でそっぽを向きながら小さく鳴く。
「猫さんたちも納得されたみたいですね」
 それでは、行動を起こそう。
 銀盆を構えてユーベルコードの始動を行う桜花。
 彼らより一歩離れた所でインディゴは、足下で丸まっているヘンリィ君に目を向ける。
「どうしたの、キミもちゅーる○食べてるから強くなってる……はずなんだけど……。
 って言うか、ヘンリィ君、大丈夫? 何か心折れてない?」
 苦笑するインディゴに対し、ヘンリィ君は顔も上げずに鼻を鳴らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『不退転浅鬼・牡丹灯籠』

POW   :    立場を知れ。
【傾国の怨念の宿る罠】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【のレベルm半径内に怨念を撒き】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    追い込まれたのは貴様だ。
【刀の鞘、又はコートに仕込んだ散弾銃、拳銃】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    強制改心刀・悪
【斬った者の悪を増大し支配する傾国の怨念】を籠めた【無形の刀】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【良心】のみを攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

※申し訳ありません、リプレイが間に合わなかった為、二章の決着を三章にて投稿致します。
 本日(6/6)正午頃の予定となりますので、三章プレイングはその後から受け取る形となります。
 ご迷惑おかけ致します。
※全く間に合わず申し訳ありません。


●我執の念。
「なん、だっ、これは!?」
「さ~て、にゃんだろにゃー?」
 にやにや。
 ケイティの始動したユーベルコード、【猫の怨返し】によりアレックスの引き連れた無数の半野良集団が凶暴化、狩猟本能に加え鋭い爪と牙による戦闘能力と飛翔能力を与えられたのだ。
 更に的確に彼らの死角を着くように回り込んでいるのは、虚空を跳ねるテイルによる、髪の毛による指示が効いている。
 縦横無尽に飛び回るテイルは声も出さずに指示を出し、その一点をアレックスによる指揮で飛び交う猫の集団は、さながら誘導弾か。
 これはすでに軍隊だ。
「猫を舐めると痛い目じゃ済まさないにゃー」
 ふふん、と鼻で晒うケイティ。
 テイルはすっかり猫軍に囲まれた旭日組隊員たちに安堵しつつ、地上へ舞い戻る。
「ふーっ」
「お疲れ様だにゃー。後は猫たちにお任せするにゃん」
 汗をかいて暑そうに手で扇ぐテイルにすり寄るケイティ。猫の姿そのままだとテイルは彼女の顎を撫でるとごろごろと鳴らす。
 しかし、油断は大敵だ。
「何があるかわからないから、ボクも準備しておくよ!」
「にゃあん。
 うにゃにゃ、小さくてすばしっこくて、鋭い。これほど暗殺向けの生き物はそういないよ」
 ストレッチを始めたテイルに名残惜しそうな様子で離れるケイティ。猫ってのは自分が欲しいときにだけひっつくんだから。
「まあ、こんなに堂々と殴り込んで暗殺も何もないけどさ、らにゃはぁ、正面戦闘で勝てる雑魚ならこっそりする必要は無いにゃぁ」
 あっけらかんと笑うケイティ、直後に半野良たちから悲鳴があがる。
 すい、と目を細めた視線の先で雄叫びを上げたのは猛毒人間へと変じた旭日組隊員たち。
 ヘドロ、疫病、硫酸。どのような環境でも戦えるように強化されたとは言え、無敵の力を得ている訳ではないのだ。
 半野良の包囲を破ったと見るや、即座に撤退の号令をかけるアレックス。
 被害を広めない為の正しい判断だ。反撃の体勢を整えた敵に対し、テイルはむしろ笑みを見せた。
「【セクシィアップ・ガディスプリンセス】!」
 胸元でハートのマークを両手で象れば、溢れた黄金の光がその身を包む。
 瞬時にして豪華絢爛、かつ扇情的で魅惑的な容貌、まさにゴージャスな装飾を身につけたその姿。
 神の国の寵児とでも言うかのようなその姿。舞い散る金銀財宝は神の無慈悲な愛の如く降り注ぐ。
 邪魔立てする者がいなくなり、進み出た砂塵がその身を風砂として放射する。
「【プリンセス・ガディスハート】!」
 放たれた砂の削撃を真っ向から撃ち破ったのは、テイルのハートを象った手より放たれた波動である。
 何の波動かって? 謎の波動だよ!
 先のユーベルコードにより強化されたそれは空間を揺らし周囲を破壊しながら砂塵人間や猛毒人間を吹き飛ばす。
 が、もとより細かな身に効果は薄い。
「ならばっ!」
 翼を開く。
 舞い散る財宝とともに、その背に負う黄金の輝きが強さを増していく。
 ユーベルコード、天空神ノ威光・【黄昏】。
「天空神の庇護と、加護と、……祝福の……! 威光に黄昏る光を見よ!」
 輝く光は思わず平伏したくなるような威光と、見た者を涙させる後光、そして愛すべき者を庇護する天空神の護光。
 身を崩していた彼らに抵抗する術はなく、全ての光を受けてユーベルコードが封印されてしまう。
「……う、ぐ……なんだと!?」
「馬鹿な!」
 しかし、まだ終わりではない。
 かつて彼女の住まう失われた都市に繋がる【ヴァイストン・ヴァビロン(ゴッドゲート)】。彼女から放たれた財宝を代償とし、その身には真なる神の加護が宿る。
 燦然と輝く光の中で、自信に満ち溢れたその面。
 ──【超必殺究極奥義】。
「ぜったい、ぶっとばすっ!!」
 光となって迫るテイルに防御のする旭日組隊員。
 だが、彼らは見ていただろう。その輝きの中に、溢れる希望の顔に、自らがその胸に燃やした日輪を。
「プロレスの神様! 格闘技の神様! 闘争の神様! 皆、知ってるからボクだって強いんだぁぁ!」
 その身を翻し閃く蛇尾脚が彼らを薙ぎ払う。
 光を消したテイルが大きく息を吐いていると、その視界に動くものを認めて拳を構えた。
「…………、あ、シールズ!」
 その激しい戦闘をものともせず、臆病者のシールズは勇気を出して傷ついた半野良たちを避難させていたのだ。
 思わず笑みを見せたテイルの後方を、高速で駆け抜ける影。
「! しまった!」
 一路、ケイティを目指すのは豹人間だ。テイルの光を受けずに身を潜めていた影朧たちは、倒し易いと踏んだ相手を狙ったのだ。
「んにゃ? っ!?」
 無防備に顔を洗っていたケイティは為す術もその場に伏せて。
 だが獰猛な獣たちの歯牙は彼女へと届かなかった。やれやれとばかり、背伸びをして立ち上がる。
「ま、こえやって猫を直接狙ってくるなら相手してやってもいいけどにゃ~」
 必要があればの話だ。
 激痛にその身を震わせて、前に出ぬ体に血走った目を後方へ向ける。その体にまとわりつく半野良の鋭い爪と牙が、豹人間の体に深々と突き刺さり、肉を裂く。
 おどろおどろしい唸り声と荒い呼気、血走った目。猛獣はどちらなのか。
 敵の襲撃を予想し進行路に予め配置していた半野良たち。アレックスは、勝敗は決したとばかりに彼らから離れてケイティの隣に座る。
「罠ってのは、こう使う」
 指を鳴らすケイティ。
 仲間を傷つけられた怨みを持つ猫たちが、一斉に豹人間へ襲いかかる。
「さて、ここはもうこんなものだにゃ~」
 くあ、と欠伸するケイティは立ち上がり、アレックスを引き連れてその場を離れる。
 テイルは悲鳴を上げる旭日組隊員をちらりと横目で見た後に、シールズを抱き上げてケイティへと着いていった。

「ぎあッ」
 放たれた矢を足に受けて、もんどりうって倒れる男。豹の姿へと変身する隙を狙われたようだ。
 とってとってと紐を咥えて近くの茂みに身を隠したテンサイの後ろ姿を見送って、上出来だと独りごちるレイ。
(良かったねー、上出来だって~)
 響く声はテンサイの首輪に噛りつく謎の生命体ことアリスの幼体だ。頭に直接流れ込む言葉にくすぐったそうにしながらも、彼女のお陰でテンサイとの連携も完璧だ。
「じゃ、悪いな」
 倒れた影朧のうなじへ強烈な一撃を叩き込んで絶命させる。
(はーい、次は一時の方向~)
「一時か、了解」
 敵の思考をも察してアリス幼体が大体の位置を告げると、レイはそこへ赴きテンサイは近くの罠を作動させる。
 茂みから飛び出す小さなお尻を見送るレイ。その顔に険しさが混じる。
 膨れ上がった殺気に地に転がっていた石を蹴り飛ばし、テンサイの前方を削る。
(きゃ~っ)
 転がるようにして身を反転させるテンサイにアリス幼体も落ちないようにするのがやっとだ。
 レイが睨む先で姿を表したのは、他の者より一回りは体躯が良いであろう豹人間。こちらはすでに変身を完了している。
「……少しはまともなのが出てきたか……テンサイを近づけるなよ」
(はーい)
 その目に宿る意思の光を見つけて、レイは拳を固めて豹人間へと歩む。
 敵もまた、言葉を溢さずにレイへと歩み、互いに並ぶ。
 正面から睨み合う両者を茂みから見つめていたテンサイは小さなくしゃみを放ち、アリス幼体が驚いたようで悲鳴をあげた。
 が、両者にはもはやその雑音は届かない。
「てめえらの言い分は幾らか聞こえた。てめえが死んだとて大義は死なぬと宣うだろうがな、お前が此処で死ぬと、オレは頭を殺すぜ。
 そんな程度でいいのか?」
「…………」
 安い挑発だ。だが、言葉を実行する実力がある。
 その自負から滲み出る気迫を受けても動じないのは、大義に殉じた者ならではの胆力だ。
「言葉は無粋だ、猟兵」
「…………。そうか。なら、何に、何を賭けたのか。全て見せていけよ」
 小さく笑うその顔へ、一拍と置かずに剛毛に包まれた鉄拳が叩き込まれる。
 地を転がることもなく真っ直ぐに塀へ叩きつけられた体、脆く崩れたそこへ獣の咆哮を轟かせる豹人間。
 否、それはもはや豹だろう。四足で躍動する巨駆が止めを刺さんと迫る。猛々しき野性の前に、横から飛び出したのは小さな小さな、テンサイだった。
 彼が飛び出した所でどうなるものでもない。ましてや、庇おうにも間に合う速度ではない。しかし、僅かにそれた注意、流れた視線、その死角。
 瓦礫の中から突き上げた拳の一撃が影朧の胸骨を砕き肋をねじ曲げ臓腑を抜き、その心臓を粉砕する。
 豹は、踠くように唸り声を発するも数秒ともたずに、物言わぬ体へと変じた。
 ただの重りとなったそれを投げ捨てて、レイの探す視線の先では驚いて縮こまる子猫の姿があった。
「近づけるなと言ったはずだ」
(むーりー)
 それもそうか。子猫ですら彼女より遥かに巨大なのだ。
 上着と帽子を取り、全身に浴びた血を拭うレイ。先の一撃はわざと受けたもので、決着の形すら予想通りだ。一言の言葉すら惜しいとする敵方の、その想いを汲んだに過ぎない。
 折られた鼻から溢れる血を噴き出しつつ形を整えて、レイはテンサイを見下ろす。
「…………、ありがとよ。助かったぜ」
 血で汚れていない方の手でテンサイの頭を撫でる。子猫はそれを誇らしげに受け取っていた。
(えーとねー、つまりねー、今のはぶっちゃけ意味なかったけどテンサイくんの士気を上げるためにレイさんが)
「お前ちょっと黙れ」
(きゃーっ)
 ぺらぺらと伝えなくて良いことを伝えようとするアリス幼体をつまみ上げ、自らの頭に乗せて帽子で蓋をする。
 彼女が暑さに音を上げるまではそのままにしていたようだ。

 そこは石嶋のいた離れの部屋。
 中を歩く旭日組隊員は闇夜も透かすような獣の瞳で、明かりがなくとも問題ないようだ。
 戦場を彷徨き邪魔をする特務猫を狙っているであろう彼らもまた、獣の嗅覚で獲物を追っている。
「…………。近いな」
「いるのは分かっている。時間の無駄だぞ、出てこい」
「獣畜生に言葉が通じるはずもなかろう」
 足音が遠ざかる瞬間。
 物陰から現れた雲珠がユーベルコードを始動、狭い室内に雲珠の背負う箱宮から現れた桜の根が壁となり、影朧を分断する。
「……ユーベルコヲド……! 猟兵か!」
「動かないで下さい!」
 【四之宮】。攻撃として有効ではないが、その特性から様々な面に応用出来る。孤立された男は雲珠へ敵意を向けたが、彼は敵意を返すつもりはなかった。
「貴方がたのお話は聞いています。ですから、そのお覚悟と誇りを胸に、新しい生へと挑む気はございませんか」
 桜の精は幻朧桜とも深く繋がる存在だ。
 影朧に癒しを与え、転生を促すことができる。このサクラミラージュではそのようにされた者も多い。
 難しい選択であることは承知の上での雲珠の言葉に、しかし影朧が見せたのは怒気であった。
「……転生だと……ほざけ小僧! 我らの怒り、その根源がそこにあるのだ。サクラミラージュとは、我らを拒絶する世界なのだ!」
「そんなはずはありませんよ! なぜ、そのようなことを言われるのですか?」
 その身を砂塵へと変じ始めた影朧に、雲珠は言葉を続けた。
 一方、雲珠のユーベルコードに別れて根の壁の向こう側。
 溢れる桜の根とともに床下から現れたヨシュカの奇襲が、壁の出現に思わず振り返った男の脹ら脛を引き裂いた。
(おお、ニンジャっぽい!)
「ちいっ!」
 敵の足を切り裂いた一尺程の短刀、【開闢】をしまい、同時に雲珠の組んだ桜の枝葉による足場を跳ねて敵を撹乱する。
「すばしっこいのが得意なようだが、意味はない。毒沼に沈め小僧ッ」
 右腕を猛毒へと変じる。例え直撃でなくともこのように狭い場での発動は致命的だ。
 しかし、跳躍の軌道を見切り放たれたそれも、雲珠の茂らせた枝葉に受け止められ、揮発するガスすら緑に吸収されていく。
 意味が無いのはどちらだったか。
「痛くても、我慢してくださいね」
 【七哲】。
 次々と放たれる鎖分銅など暗器の群れに残る腕も、足すらも無惨に破壊されてようやく悟る。誘われたのだと。
 動くに必要と思われる部位を慈悲なく潰したミレナリィドールの少年は、透き通る眼で男を見下ろす。
 大した抵抗も出来ず終いだ。思わず自嘲するその傍らにちょこんと座り、ヨシュカは口を開いた。
「歴史の闇に葬られようとも、貴方がたの事、わたしは覚えておきましょう。少し、我らとお話し致しませんか。
 次の生を歩むなら未練は少ない方が良い」
「…………、……次の生……次の生だと……!」
 男の体から噴き上がる怒気は、しばしの間であった。その目に晒されて怒りを萎ませる。そもそも、もはや手も足も出ないのだ。
「……何なのだ……お前らは……何なのだ……」
 長いため息。そして、ゆっくりと目を閉じる。
「我ら影朧は、所詮は蛾よ。幻朧桜に誘き寄せられた蛾に過ぎぬのだ」
 そう、蛾だ。
 壁の裏で二人のやり取りは知らずとも、同調するように怒りを燃やす旭日組隊員。
「悲しみを、傷を持ち、この世界に喚び戻され、そしてどうなる? 新しい生だと。
 捨てろというのか、己を、己そのものすらも!」
「その我執を越えた先に、癒しがあるのです! 怒りに飲み込まれないで下さい!」
「黙れ、この怒りは俺そのものだ。この苦しみすらも愛しい!
 貴様らユーベルコヲド使いはそんな我らを殺すというのだ。想いすらも塵にしようと!」
 そんな筈はない。
 癒しが無ければ影朧の転生は成されない。そして、癒しを求める者が幻朧桜に喚ばれるのだ。
 だがその想いは鬼となった彼らには届かない。
「何が桜學府よ、帝都、堕ちるべし! 我らの記憶に蓋をして、あまつさえ我らの、影朧の存在すら消さんと──、我らが業はそんなに深いのか?
 何を為せばここまでされねばならんのだ! 影朧となって、新たに受けた生すら否定されなければならんのだ!」
 怒り。
 それは、自らを変えさせようとする世界への怒り。
 それは、失意の中とて終えた筈の人生を否定する。
 それは、彼らが築く全てを粉砕してしまったのだ。
 両腕を砂塵の嵐と変えて暴れ狂う男に対して攻撃の意思を見せない雲珠。遂には迫る魔の手にオヤマノタカが雲珠を守ろうと男へ飛びかかった瞬間。
 男の心臓を裏から貫いて、ヨシュカが顔を見せた。
「良かった、間に合った」
「…………、ありがとうございます」
「いいよ、後ろの部屋でもいっぱい助けてもらったから」
 飛び出したはずのオヤマノタカが逆に抱き止められる格好で雲珠の腕に収まり、憮然とした顔をしている。
 雲珠は、怒りのままに倒れた影朧へ、失意のままに手を合わせた。


●想いは届くか。
 駿足を見せるゴンザエモン。
 だが夜の中に溶けるような黒猫も、追う影朧は見逃しはしない。
「ちっ、面倒な!」
 追い付けぬ足腰に叱咤して、自らも速力に見合う姿へと変質する。
 豹人間。
 黒猫を追い、駆け抜けて、旅籠の中を走り回りようやくとその歯牙が届く目前で、不意に体の動きが止まる。
(つっかまえたー)
(つかまえた~)
 いえい、と喜んでいるのはアリスの幼体。彼女たちの生成した糸の張り巡らされた廊下へ、まんまと誘き寄せられたのだ。
「ええい、忌々しい!」
「これしきのもので!」
 暴れる身に益々と糸を絡ませる豹人間たち。
 そんなもので破れるものかと自信満々のアリス幼体たちであったが、自らの肉を裂いても動くとあらば話は別だ。
 血油で汚れた糸に粘着力はなく、強靭な繊維も肉を削ぎ落としながら進まれては意味がない。
(うっそーっ)
(いたいいたいーいっ)
 血みどろになってアリスの糸の檻を抜け出した豹人間に、慌てふためく幼体たちをゴンザエモンが素早く回収、後退する。
 そのまま追いすがろうとして、再び動きを止める。今度廊下の奥に立つ者の気配によって。
「忘れられちまうとは、悲しいよな」
 ぽつりと呟いたのはウタだ。
 抜き身の剣を持ち、満身創痍でありながらも前進を止めない悲壮な覚悟の影朧を哀れむ。
「……貴様ら……」
「確かなのは、今は過去の積み重ねだから。
 今の繁栄した帝都は、皆の笑顔は、アンタらが護りもたらしたってことだ」
 その目を止めろ。
 低く唸る影朧、否、旭日組隊員に、止められるものかとウタは毒づく。
「哀れ過ぎるさ。酷い話だ。その笑顔を消す行為、過去の自分に顔向けできるのか?
 ……もう……、此処までしとけって」
「止めろと言っているのだ、童ァ!」
 飛びかかる獣を、人であった者を獄炎纏う焔摩天で一歩、退がりながら横に薙ぐ。
 その顎を捕らえ旅籠の壁に叩きつけて頭骨を砕く。
「来い。お前らの怒り、俺が全部、消してやる!」
 咆哮。
 同時に走り空と地から迫る影に、ウタは不敵に唇を歪めて、大きく身を引いた。
 縦の連携に対し更に横薙ぎの構え。
「──いぃっけえぇえぇえぇえっ!!」
 剣風、嵐となりて。
 刀身に乗せた炎が嵐となって巻き上がる。その獄炎は獣どもの目を煮沸し、一瞬にして臓物すらも焼き。
 だが、苦しめるつもりもなく。
 巨大な刃で二頭の首をはねて、自分の巻き起こした炎の中に立つ。
 返り血すらも焼き焦げて、ウタは腕の一振りで地獄の如き烈火の炎をかき消した。
「一直線にしか動けないなら、その速さも宝の持ち腐れだぜ。タイミングを合わせるだけだ。
 あんたらも、もう別の道を行けばいいじゃないか。頭にも俺から伝えといてやるよ」
 思わず溢して、小さく溜め息をつく。
(終わったー?)
(大丈夫ー?)
 頭の上のアリスが増えたが慣れたのか、案外とけろりとした様子のゴンザエモン。
 熱気の残る廊下だ、特務猫とは言え辛いだろうに様子が気になったのだろう。ウタは笑みを見せてゴンザエモンを抱き上げて、他の猟兵の元へ向かう。
 あ、気になって一度引き返したけど、特に延焼した部分はなかったようだ。仲居さんもにっこり。

 庭での戦いも終わりに近づいていた。
 インディゴは少し動けばすぐにでも裸になってしまいそうな服装のままだというのに、自在に伸縮する鎖に繋がれた一対の短剣【Pisces】で、半野良集団の邪魔にならないように立ち回っている。
 地を駆ける彼らを踏みつけないよう、遠間から確実に旭日組隊員たちを投擲による狙撃をしているのだ。
 敵からしたら凄い邪魔。
 とは言え彼に向かおうとすれば足下の野良猫集団が、野良猫集団を狙えばインディゴが、というようにその動きを尽くとどめている。
 完璧な連携である。ヘンリィくんの姿が見えないけどいじけちゃったかな?
 視界の外で半野良に負けるかと暴れるヘンリィくんだが、哀れインディゴには見えていない。
 それはさておき、常に優位に立ち回れる訳でもない。強化されたとは言え敵は影朧。変身能力を持つ彼らの攻撃を受けて大きな傷を受ける者もいる。
「桜よ吹雪け。命よ、巡り巡りて人々を癒す慈雨となれ」
 その度に吹雪くは桜の花弁。
 桜花の放つユーベルコード、【癒しの桜吹雪】は行使者の体力を代償に傷を治癒するもの。
 彼女のお陰で戦い続けられるものの、その負担は大きい。
「ぐお、く、この、いい加減にぃ!」
 猫にまとわりつかれて動きを止めた旭日組隊員、或いはインディゴの短剣によって拘束した者は、音なく近づく彼の餌食となる。
「……豹人間……、うーん。やっぱり首かなー」
 豹人間の硬いうなじの肉もしっかり食い破り、生き血を啜って生命力を吸収する。
 おぞましけも見られる光景だが、血に汚れた口許を、それよりも更に赤い舌が舐め取るのはどこか淫靡な雰囲気すら醸し出していた。
 しかし。
 彼らの動きが鈍くなっているのは、インディゴや半野良の血からだけではない。
「……貴方達の護国の想いは疑いません……その遺志を果たすよう、どうか転生を望んで下さい」
 戦闘の間、語りかけ続けている桜花の存在だ。その言葉は歌となり、破魔と慰め乗せ、抵抗する旭日組隊員たちの心を締め付けているのだ。
「だ、黙れ黙れ、耳障りな、その言葉を止めよ!
「ギイィィィ! ギチギチギチ~!」
(みんな~助けて~)
 桜花への攻撃の意思を感じとると同時に、アリスの叫びが妹たちを戦場へ招き寄せる。
 周囲の罠を作動させ、猫を巻き込まないように、あるいは猫を離すように誘導し、被害を食い止めるのだ。
「何故だ。何故、あの女は敵の為に歌う?」
「彼らが、余りにも哀れだからです」
 石嶋の呟きに、千夜子は答える。全てを捨ててまで捧げた護国への想い。それが全て、無に帰する。否、終わった筈の想いを引き摺り出され、あまつさえそれを否定されたのだ。
 そんなつもり、桜學府にはあるまい。石嶋とてそこまで考えた訳ではないだろう。
 だが現に彼らはそう感じ、そして怒ったのだ。自分たちの想いすら塗り潰す程の怒りに燃えてしまったのだ。
 それは、桜花に語られたように、石嶋にも通ずる所があるだろう。
 見下ろせば腕の中、こちらを見上げるシャーリーとスルガ。石嶋はその温もりを一度、抱き締めるとアリスの上に残して地上へ降り立つ。
 敵を想い、ぼろぼろになった体で歌い続けた桜花のふらつく体を抱き止めて、石嶋は言葉を飲む。
 すでにそこに敵は無く、桜の花弁が彼らを運び去っていた。
 だが、まだ終わりではない。
 散った猟兵たちが合流する中、月下に赤くてらつけ唇を拭い、インディゴは禍々しい気配を放つ旅籠へ目を向けた。


●不退転浅鬼・牡丹灯籠。
 怪しい気配に旅籠へと戻る猟兵たち。彼らがその元を辿ると、二階の階段を降りる気配があった。
 ぴちゃり、ぴちゃり。垂れる雫の音。
 ぎしり、ぎしり。軋む階段の鳴き声。
 いつの間にか灯りの落とされた旅籠の中で、闇そのものを纏ったかのような黒い外套。
 青い月から流れ出た血のように青醒めた肌。帽子のつばを退けて伸びる角。
 闇の中から白い怪光を放つ眼で、牡丹灯籠は階下に集う猟兵らを見つめていた。
 その手に持つのは、石嶋の見馴れた茶筅髷。無造作に投げ捨てられたそれが階段を転がり、恐怖に濁り刻まれた顔を見て、石嶋は目を瞑る。
 元を正せばこの男の欲を増長させてしまったのは、自分だと。
 心の中で手を合わせて、再び瞼を開く。血に汚れた白髪を指先で解す鬼は、懐から時計を取り出した。
「時は有限だ。走るのを止める事はない。その思惑から外れた者さえいなければな」
 時計を仕舞い、階段を降りる。ゆっくりと。
 猟兵たちの前にやって来た鬼の背は高く、威圧的な風貌に対して静かだった。何も感じさせない程に。
「その男を渡せ、猟兵。貴様らに用はない」
 言葉を返さぬ一同に拒絶の意思を汲み取って、そうか、と一言呟く。
 目を閉じた鬼。理性的な姿だからだろう、石嶋は刀を抜かずに口を開いた。
「青鬼よ、あんたの気が済むってんなら、俺は首をはねられても構やしないぜぇ。
 あんたらの事を軽視した、あんたらの生き様に泥を擦り付けちまった。それなのにあんたらに消えろという、俺たちが許せねえんだろ?」
 青鬼は目を開く。白く濁った目を。
「勘違いするな。奴らは己と行く方向が一緒だっただけだ。根元は同じだ、だが行く先が違う。
 この世界は病んでいる。己はその病床を、幻朧桜を破壊する」
 唐突な言葉に目を見開く石嶋。口を開閉していたが、やがて、そうかと力無く晒う。
「怨んで、怨んで怨んで怨み過ぎて、元の元にまで怨みを乗せるか?」
「そうだ」
「憎くて憎くて、堪らないのか、自分を喚ぶ世界が」
「そうだ」
「ならば、何故、人を殺す!? お前の怨みとやらはその先にあるんだろう!」
「目的と手段の話だ。時間は進む、止まれない。無駄にするべきではない。だから、有効に使う」
 青鬼の指差す先に転がるのは男の頭。
 彼の口調は変わらない。だが、外套で見えぬもその面、愉悦に歪んでいる事を感じ取れる。
 石嶋の慟哭を受けて笑っているのだ。
「外道め!」
「正道を行く己を、幻朧桜が喚んだのだ。そう、世界の病だ。不安定な影朧は人に影響を与える。それは喚ばれた者に非があるのだろうか。違うだろう」
 するりと、闇に消える。
『己は世界を蝕む病を、幻朧桜を破壊する。だがこの世界は己の敵しかばかりだ。己を喚びながら、己を憎悪する害意しかない。
 時間は有限だ、決して止まらない。人の概念ではな。だから、己が喚んでやろう、ここに。どうせ己と同じ道を行く。そして病を治してやろう、この己が』
 四方八方から響く声。
 闇に溶け込んだ、感情が失われたかのように聞こえる声。その並べる言葉から立ち上る底無しの悪意に、特務猫たちも浮き足立つ。
『本気で来るのだ、猟兵ども。時間は有限だ。有効に使え。己は在る時間の中を狩るだけだ。
 彼岸の果てまで狩り立ててくれよう』
 生温い風が、旅籠の中で渦を巻いた。


・ボス戦となります。冷静沈着な狩人ですが、適切な挑発、罵り、説得など口撃にて精神にダメージを与えることができます。
・牡丹灯籠は世界の全てに憎悪しています。幻朧桜は救いの為に影朧を喚ぶと考えておらず、世界の病と捉えているようです。
・ボスに余裕がある場合、闇討ちによる先制攻撃を行います。特務猫がいると逆に先制攻撃を放てますがニャンコ死んじゃうので止めたげて下さいお願いします。
・敵の闇討ちは技能により回避、反撃可能です。
・旅籠内に罠が再設置されており、猟兵の罠は全て撤去されています。特務猫用の罠もあります。
・罠は原始的ですが怨念を撒きボスを強化させます。地形ごと破壊するか破魔の力で祓いましょう。旅籠そのものを破壊するのもありです。
・不退転浅鬼は説得に成功しても戦いは止めません。転生の如何に関わらず倒して下さい。
・特務猫と石嶋の生死、及び牡丹灯籠の説得の成否はシナリオの成否と関係ありません。
木霊・ウタ
心情
ゴウクツ…!
因果応報とは言え哀れだぜ

過去に縋って喚く駄々っ子だな
転生させてやりたいぜ

ゴンザ
此処からは猟兵の役割だ
隠れてるんだ
それがお前の役目だ

石嶋
庇う

闇討ち
姿隠し声で惑わせても
居るんだろ?
なら簡単だ

剣を回転
同心円状に広がる炎を放つ
炎が鬼を捉え闇を払う
影も丸見えだ

戦闘
獄炎纏う焔摩天で薙ぎ払い砕く
オマケに返り血の獄炎も

罠や地形の怨念は
破魔込めた獄炎で灰に

説得
世界から疎まれるって感じるのは
癒しを求める自分の心に向き合ってないからだ
己から目を逸らし他者に責を押し付け孤高を気取る
カッコ悪いぜ

…もう未来へ
別の道へ進んでいいんだ
あんたはもう赦されてるんだから

事後
鬼や旭日組へ鎮魂曲

ゴンザお疲れさん(ぐっ


御園・桜花
「…浅はかな方」

UCで猫も仲間も石嶋も誰一人致命傷や死亡にさせない
戦闘後昏倒可
UC外は高速・多重詠唱で銃弾に破魔の属性与え制圧射撃
呪詛罠破壊と敵の行動阻害
敵の攻撃は第六感や見切りで予測し盾受け

「貴方の未練が何方か存じませんが。肯んじないなら、何度でも此方彼方を往き来すれば如何でしょう」
「骸の海に残った世界はたったの36。ここは停滞と人に戻り力を捨てる影朧の善意で守られた世界。この世に生まれどんな業を背負うとも此の世を守ると誓った我等こそが不退転戦鬼!お前だけの想いで他の方の想いを測るな!」

「最後に世界を救うのは、他の法かもしれません。石嶋さんは…願いに邁進され、足るを知るまで年経られますよう」


アリス・ラーヴァ
アドリブ・連携歓迎

何か難しい話をしているけど、アリスよく分かんなーい!
でも、あのお兄さんは悪い人だからやっつけたらいーのねー?

まずはニャンコさん達や石嶋さんを【運搬】して避難させるのよー
それにしても周囲の雰囲気が変わったわねー
【暗視】を活かして周囲の罠の位置を把握するのよー
罠を見つけたらみんなで齧って【捕食】しましょー
『牡丹灯籠』さんは、妹達(幼虫)に『旭日組隊員』さんの身体を操ってもらって探すのー
敵からの闇討ちも隊員さんの身体を盾にできるから安心ねー
ついでにこれを活かして味方の猟兵さんも【かばっちゃおー】!
攻撃を受け止めたら幼虫は身体から顔を出してアリスの糸で【捕縛】するのよー


ティファーナ・テイル
SODで判定を
*アドリブ歓迎

『スカイステッパー』で縦横無尽に飛翔しながら「こうかな?」と敵の攻撃を咄嗟に『神代世界の天空神』で空間飛翔しながら機会を見て『天空神ノ威光・黄昏』で敵のUCを封印/弱体化させます。
『セクシィアップ・ガディスプリンセス』で♥ビーム攻撃を仕掛けて、接敵したら『ガディスプリンセス・グラップルストライカー』で髪の毛と蛇尾脚で立体攻撃を仕掛けます!

🔴が付いたら『超必殺究極奥義』+『ヴァイストン・ヴァビロン』で苛烈な猛攻を仕掛けます!
「キミの敵意を真正面から向かって、闘争に応えて『闘争心を挫く!』これこそ真のプロレスラーの在り方なのさ!」
『ゴッド・クリエイション』で鉄巨神召喚



●一合。
「……ゴウクツ……! 因果応報とは言え、哀れだぜ」
 ゴウツクさんです。
 転がる生首の悲惨な最期に、思わず顔を歪めるのは木霊・ウタ(地獄が歌うは希望・f03893)。
 彼の足下では周囲を警戒し、落ち着きなく辺りを見回すゴンザエモン。その姿は神経質というよりも、怯えが混じっているのが見て取れた。
 敵。その明らかな害意を感知したのだろうか。
 ウタは相棒の様子に笑みを見せて、その頭を撫でる。
「ゴンザ、ここからは猟兵の役目だ、お前は隠れてろ。
 それがお前の役目だ」
 ウタの優しげながらも強い言葉は、初めて自信の無さそうな様子を見せたゴンザエモンに響いたようだった。
 言葉そのものの意味は分からずとも、思いは伝わったのだろう。頭を下げてウタの靴先に鼻を寄せ、小さく鳴いて後方へ下がる。
 ゴンザエモンを見送ると顔を引き締め、は焔摩天を両手に握り真っ直ぐ正面に構え。
 長く息を吐く。全神経を集中させ体を緊張、張り詰めた空気がウタを中心に広がっていく。
「ギィイイィイッ!」
(何か難しい話をしているけど、アリスよく分かんなーい!)
 そんな空気など知ったことかとばかりに肢を上げたのはアリス・ラーヴァ(狂科学者の愛娘『貪食群体』・f24787)だ。
 しかし、先のお兄さんが悪い人だときちんと考えたようで、声こそいつも通りだが、動きの所作に怒りが見える。
「ギギギ、ギチギチギチ」
(とりあえず、ニャンコさん達や石嶋さんを避難させるのよー)
「おう、頼んだぜ!」
「ま、またか?」
 アリスに難なく持ち上げられてその背に移る石嶋とゴンザエモン。
 避難だ避難だとウタから離れるように動く彼女の背中で、先住民のスルガが声を上げる。
「ギヂギヂギヂ」
(罠ー? それにしても周囲の雰囲気が変わったわねー)
 少し怯えたようなスルガの声に、ぬばたまの眼は周囲の僅かな光を集めて暗視に長けた視界を作り上げた。
「ギッ!」
(! 痛ーい!)
 罠はどこだと探すアリスの視界に動く影がひとつ。
 咄嗟に間接肢で背中の石嶋を守れば、重い衝撃と痛みが走る。
「世界を巡りし神々、神代の天空宮殿へと誘っちゃって♪」
 ユーベルコード、【神代世界の天空神(エデンズ・ラビュリストン)】。
 アリスの悲鳴を聞き付けて歌声を放ち、ティファーナ・テイル(ケトゥアルコワトゥル神のスカイダンサー・f24123)は空間を飛翔し彼女の元へとテレポートした。
「えいっ!」
 スカイステッパーにより空中を跳ねつつ髪の毛と蛇尾脚で周囲を薙ぎ払うが、手応えが無い。
「そっちを狙いやがったか! テイル、アリス、ちょっとしゃがんでろよ!」
 叫ぶと同時に剣を回転。纏う炎は円となって闇に輝き、ウタは天井に広げるように炎を放つ。
 闇を照らす赤い光は、テイルらから離れて立つ青鬼を映し出した。
「姿を隠し声で惑わせても、居るんだろ? なら簡単だ」
「ぬうっ」
 闇を払えばいい。ウタの言葉に後退する牡丹灯籠に、アリスを守るように立つテイルが手でハートを象る。
「逃がさないよ! プリンセス・ガディスハート!」
 しかし、追撃の波動は鬼の持つ鞘に打ち砕かれてしまう。
 炎を放つウタから大きく離れた敵に、気配を感じなくなってか安心したようにテイルの尻尾に抱きついていたシールズが顔を出した。
「……浅はかな方……」
 御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は小さく呟く。
 その言葉には僅かに怒りが滲む。先の牡丹灯籠と石嶋の会話にあったその残虐性と、弱者を狙いこちらの激情を煽ろうとした敵の行動が許せないのだろう。
 彼女を中心に現れた桜の花弁は風に舞い、肢を痛めたアリスを優しく包みこむ。
「ギイィ、ギチッ、ギチッ」
(桜花さん、ありがとー)
 治癒していく肢に、アリスはすっかり治ったとその肢を振れば、桜花も笑顔で手を振り答える。
 そんな彼女らへ、いつもの笑顔を曇らせたテイル。
「ごめんなさい、逃がしちゃいました」
「気にすることはありません、きっと、すぐに戻ってきますよ」
「だろうな」
 焔摩天を肩に乗せて、桜花に同意する。
 石嶋の殺害は目的の一つとは言え、敵の行動はこちらを掻き乱す為に、そして自らの愉悦の為に動いている節があるのだ。
 猟兵に多少なりとも動揺を与えるのは守護対象である石嶋へ攻撃すること。それを利用している以上、敵は逃げる事はない。
(例え、他に目的があるにしても。
 ──特務猫の皆も、仲間も、石嶋も、誰一人殺させない)
 先の戦闘に残る体の疲弊。
 桜花はそれにも構わず、その身の犠牲をも厭わぬ覚悟を笑顔の下に決めたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クレア・フォースフェンサー
ある日、世界に歪みをもたらす者として生み出され、幻朧桜に惹かれて来てみれば、今の自分を捨て去り、記憶も自我も失って転生しろと迫られる――

おぬしの憎しみはもっともじゃ
猟兵となり幾つかの世界を歩いたが、この世界の在り様は最も歪んでおる

だが残酷な話じゃが、おぬしの境遇もこの世界の在り様も、今を生きる者達には何ら関係がない
おぬしの行動、理解はできるが見過ごすことはできぬな

空間の揺らぎを見切り、構えた光剣と体術で闇討ちに対処
撒かれた怨念を剣術で切り裂きつつ踏み込み、その核を貫く

オブリビオン・フォーミュラというものを知っておるか?
いずれそやつを倒し、おぬしのような者が生まれぬ世界とすることを約束しようぞ


ヨシュカ・グナイゼナウ
雨野さまと(f22865)

我らへの闇討ちはこの【視力】【暗視】で【見切り】【武器落とし】

あなたは弱いから負けたんだ
弱いあなたに壊される程世界は優しくなんかない
何が正道だ笑わせる。あなたの時計はもう止まっている
【覚悟】を込めて挑発めいた声を張り
囮になるよう【存在感】で【おびき寄せ】

祓いと背中は雨野さまに預けて
彼なら勝負に勝つと振り返らず、あなただけを全力で相手取り
仕込み武器も【早業】で【見切り】弾いて
闇を破り、穿つは【霹靂】
あなたがわたしに注意を向けてるならば
その内きっと隙も出来るでしょう
味方がそれを逃す筈はない

何度でも巡り巡って
いつかあなたが雨野さまを伐りに来ても
何度だってブチのめしてやります


雨野・雲珠
ヨシュカくんと/f10678

不退転浅鬼 牡丹燈籠さま…
以前、呪寿丸さまと相見えたことがあります。
若輩者の俺は、彼の怒りや怨みを癒やす言葉を持ちません。
なればこそ、完膚なきまでに負かさなくては

あの子が後ろを気にせず動けるように、俺は俺の仕事を。
まずタカさん。
おててを【ポータブル福来神社】の神紋にくっつけます。
【一之宮】に隔離。
猫達も石嶋さまも手負いのお味方も、
これ以上はと思ったらどんどん逃します。

あなたさまの怨念と、
神鹿の御加護のもと 俺に宿る破魔の力。
勝負……【三之宮】
何度でも祓ってご覧に入れましょう。

牡丹燈籠さま
怨みはもはや貴方そのものだと仰るなら、
新しい生を得て、俺を伐り倒しにきませんか。


インディゴ・クロワッサン
「はーい、ヘンリィ君お疲れー」
顎を撫でたら離れてて貰おーっと!
【SPD】
闇討ちは基本的に【第六感/見切り/残像】で回避して…っとと!
うーん…罠が邪魔だなぁ…
「ま、様は無視出来れば良いって事で」
指定UCを発動しつつ【破魔】も纏わせたら、後は罠を踏み潰したりしたいんだけど…破魔の力が僕の体内まで巡り始めたからなのか、ちょっとクラクラしてて…あ。
「ごめーん、後は宜しく~」
プツリと糸が切れる様に僕は意識を失うけど、薔薇竜は自律行動出来るから、他の皆と合わせてブレスや噛みつきとかで攻撃したり、罠破壊とかしちゃうよー!
僕の意識が戻った頃には戦闘が終わって
たりしてるかもねー?(笑)
使用技能:お任せ



●狩人が皮を剥がれ。
 暗闇に警戒するシャム猫ヘンリィ。
「はーい、ヘンリィ君お疲れー」
 その顎を背後から撫でるのは、パートナーとなったインディゴ・クロワッサン(藍染め三日月・f07157)だ。
 半野良集団に負けじと励んだ彼の頑張りを労い、離れるように命じる。意気揚々と後退する辺り、きちんと仕事を果たしたという自負があるのだろうか。
「後退するなら、こちらへどうぞ」
 ヘンリィに声をかけたのは雨野・雲珠(慚愧・f22865)。彼の背負う【ポータブル福来神社】、箱宮に始動したのはユーベルコード【一之宮】。
 その中は在りし日の隠れ里を模したものとなっている。少し怪しむヘンリィだったが、箱宮に刻まれた小さな神紋に鼻先を触れるとその体は光に包まれ吸い込まれるように消えて行く。
「さ、タカさんも」
 目の前で仲間が消えたことに尻尾を膨らませたオヤマノタカ。
 共に戦った仲間である雲珠を敵と考えた訳はないが、状況が読み込めていないようだ。どうしたタカさん、臆病風に吹かれるなんて君らしくないぞ。
 行動を共にするヨシュカ・グナイゼナウ(明星・f10678)に話して貰えば簡単に解決するのだが、敵の奇襲に対策する彼の手を煩わす事なく、その背を守る為に自らのすべき事を優先する。
「心配しなくても大丈夫ですよ、タカさん。それに、ここからは猟兵の役目です。タカさんはここで休んでいて下さい、すぐに呼びますから」
 優しく頭を撫でられたオタカノヤマは、信頼する者の言葉におずおずながらもその体を光と化す。
 信頼した結果、上機嫌なヘンリィくんにやたらめったらうざ絡みされる訳だが、ようやく活躍できて喜ぶ彼とそれでも外に出なかったタカさんのグッジョブは褒められるべきだろう。
(よし。他の猫さんも石嶋さんも、危険になればどんどん匿わないと)
 自分に出来る事を。
 正面に立つヨシュカの背中を見つめる雲珠。
「信頼ってのはいいなぁ……っとと……!」
 闇よりの一撃に気配を察したインディゴは、僅かに身を反らしてその一撃をかわす。
「案外とすばしこい」
「そっちが遅いだけだったりして」
 言葉を残して闇に溶け込む青鬼へ追撃の手を伸ばし、止める。
(……うーん、罠が邪魔だなあ……)
 わざとらしい撤退に、こちらを誘い出す為と看破したインディゴ。ならば誘う先にあるのは罠だろう。
「ま、様は無視出来れば良いって事で」
 場にそぐわぬ明るい笑みを見せるとユーベルコードを発動させる。
 【侵食変化・藍侵す薔薇の竜(ドラッヘローゼ・イローション)】。その身に蔦が絡み、棘で身を覆う。
 現れたそれは薔薇の花弁を撒きながら変質し、それはまるで薔薇が花開くように。
 藍色の竜へと変じたインディゴはその身に破魔の力を纏う。
 薔薇による肉体保護と魔を破壊する力を従えて、これならば罠も効かぬと意気込む。
『この方向にある罠は僕が無力化するよ』
「わかったのじゃ」
 藍色の花弁を身に飾る竜の言葉にクレア・フォースフェンサー(UDC執行人・f09175)が答える。その足下では見慣れぬ生物の出現と、廊下を揺らす足音にすっかり戦意を無くしたミケランジェロが、尻尾を股の間に入れて耳も伏せている。
(怯えるな、と叱り励ますべき所ではないのう)
 生来の臆病な性格ながら、ここまでやっとの思い出ついてきたミケランジェロ。それでも逃走せず、踏ん張る勇気は持ち合わせている。
 ならば後は、その勇気をじっくりと育てるべきで、無理に戦いに駆り立て無謀とすべきではないのだ。
「今まで良く頑張っておったな、ミケ。今は少し、休むのじゃ。雲珠殿」
「はい!」
 クレアの言葉を察した雲珠は、ミケランジェロの前に背負う箱宮を床に起き。
 そのミケランジェロを狙う虚空からの鞘による打ち下ろしを、ヨシュカの放った【鋼糸】がすんでの所で食い止める。
 身を固めたミケランジェロを慌てて箱に触れさせて、雲珠が離れる。その間にはすでに敵の攻撃すら消えているが、協力者とは言え非戦闘員を狙う姿勢にクレアは顔を険しくした。
「ある日、世界に歪みをもたらす者として生み出され、幻朧桜に惹かれて来てみれば、今の自分を捨て去り、記憶も自我も失って転生しろと迫られる」
 おぬしの憎しみはもっともじゃ。
 闇に語りかけるクレアの言葉。実際に彼女は猟兵として幾つもの世界を渡り歩いており、その中でこのサクラミラージュの在り様は最も歪んでいると彼女は考えている。
 それが善であれ悪であれ、オブリビオンに必要とされ、共生するこの世界は、確かに歪と言えるだろう。
 だが。
「残酷な話じゃが、おぬしの境遇もこの世界の在り様も、今を生きる者達には何ら関係がない。
 おぬしの行動、理解はできるが見過ごすことはできぬな」
 その手に溢れる光は剣を象り、彼女の意思を示すように真っ直ぐに伸びる。
 ヨシュカは背後を預かる雲珠と、狙われたミケランジェロの無事にそっと安堵の溜め息を吐く。
 同時に闇を透かす視界で周囲を見回す。
「あなたは弱いから負けたんだ。弱いあなたに壊される程世界は優しくなんかない。
 ──何が正道だ、笑わせる。あなたの時計はもう止まっている」
 視線に込められた鋭さは言葉にも表れて、非難する挑発は自らを囮とする覚悟の表れ。
 闇の中、彼の言葉に答える者はいなかった。しかし、ざわりと蠢く気配は、夜の空気を異質なものへと変えていく。
 青肌の狩人が纏う雰囲気が変わったのを、ヨシュカは感じ取っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイ・オブライト
この世の仕組みは詳しかねえ
互いの道が交わる必要もない、シンプルな話に思える
だが

敵先攻の予兆あれば怪力+格闘で床板や壁を崩し防御に利用。第一、多少の傷で譲る覚悟ではいねえ
以降も覇気+格闘ベース、鎖を併用。猫用含め罠残りは交戦ついで衝撃波で散らす
敵UCへ【Haze】
腕を弾き
追撃が本命だ。懐へ属性攻撃(電気)を叩き込む。旧い時計なら壊れるだろうが
必要ねえだろう
時間と同じだ。濁り目の『過去』が語れる程時代の進みは遅かない、怨むも憎むも――まずは舞台に上がるこった

テンサイは危険予知して下がれる
それでいい
賢く生きろよ。疎まれる世を嘆くでもない、迎えられる世へ変えていける力はこんなちっぽけな命にもあるってな


薄荷・千夜子
【翠】
怨みを抱えたままではなく少しでも軽くさせられればとは思いますが…
今は我らにできることを
加減などしている余裕はないでしょうから、とアヤネさんに頷き

幻朧桜は救いにもなるもの、破壊などさせません
『花奏絵巻』を【早業】で開き【高速詠唱】で百花繚乱の【破魔】の力を宿した花嵐で姿を隠すように花の【迷彩】で先制対策を
周りの罠は私が、牡丹灯籠はアヤネさんお願いします!
夜闇を照らし輝く標となりますよう
UCを使用して金糸梅の花嵐に【破魔】の力を纏わせ罠を祓っていきます
金糸梅の花言葉は悲しみを止める
その憎悪が少しでも穏やかなものとなりますよう【祈り】を込めて


アヤネ・ラグランジェ
【翠】
説得する気はさらさらないけど
これだけの猟兵に一人でやり合おうとは
不合理
逃げて体勢を立て直すのが良策だろう
そうしない理由は
時間かな

チヨコはどうしたい?
シンプルに倒しちゃっていいかな
OK
では手分けしてやろう

SilverBulletのケースを開き数秒で組み立てる
装填数五発
確実に当てたい
近距離戦向きの武器じゃないけど
僕なら扱える
UC発動
ライフルを触手で持ち上げ固定
敵の動きが止まるまでは鈍器のように扱う
こう動かれては狙えないからネ

敵の攻撃はうっかり受ける
しまった
と思ったけど何かしたかい?

敵の動きが鈍ったところで照準を定める
当たれば昇天する

君の時間はここで終わりだ
もう時計を見なくて済むネ
アーメン



●意志、新になりて。
 肌を騒がす空気の変化。レイ・オブライト(steel・f25854)は獲物を狩る愉悦にも似た敵の意識が、敵を倒す戦士へと変化したのを理解した。
 じっとりと重く纏わりつく湿度は粘性すら帯びているように思えて、静かに息を吐く。
 ちらと肩越しに振り向けば、レイの危険度を察してもたもたと後退るテンサイの姿。
 それでいい。思わず笑う。
(賢く生きろよ。疎まれる世を嘆くでもない、迎えられる世へ変えていける力は、こんなちっぽけな命にもあるってな)
 レイと目を合わせたテンサイは、ぱっと振り返り闇夜に紛れる。向かう先は他の特務猫を匿う雲珠の元だろう。
 子猫の行く先を見据えて、不動の姿勢のネコモップ。
 薄荷・千夜子(羽花灯翠・f17474)とアヤネ・ラグランジェ(十二の結び目を解き放つ者・f00432)は互いに顔を見合わせる。
 笑っているような模様が特徴のグッドマンだが、短い付き合いながらこの猫が兵士として高い練度を持っていることを二人は理解していた。
 それだけにテンサイを見送ったのも、自分が逃げたい気持ちを圧し殺しているのではなく、異変はないか見送っていたに過ぎない。
 仲間の姿が見えなくなって、安堵したように顔を洗うグッドマンに、千夜子は苦笑した。
「ここは大丈夫ですから、グッドマンさんも離れていて下さい」
 彼女の言葉にもつん、とした態度で顔を背ける。にやけ面にしか見えんぞグッドマン。
「なんだ、賢い奴が好きって言ったろ?」
 首の皮を摘まんで持ち上げて目を合わせても、悪びれる様子すらなく舌で自分の鼻を舐める。
 死を理解出来ない程の馬鹿ではない。それ程まで戦いたいならアヤネとしては拒む理由もないが。再び顔を向ければ、首を横に振る千夜子の姿。
「だってさ。君だって本当は、この先の戦いについてこれないって分かってるんだろ?」
 グッドマンを下ろして足先でぐりぐり顎を撫でると、抵抗も出来ずに後退る。体格の差、力の差。こればかりは覆らない。そして戦闘において足手纏いは味方の負担となる。
 それは死へと繋がる愚かしい行為だ。それを分かっているからこそ、グッドマンは黙って見送ったのだ。
「私たちは十分、助けてもらいました。だから今度は別の人を助けられるように、すべきことをして下さい」
 顔を暖かな手に挟まれ、しかし有無を言わさぬ千夜子の言葉。駄々っ子をあやすような言葉に小さく掠れた声で鳴く。
 最後は千夜子に言い聞かされて項垂れた様子で闇夜に消えるグッドマン。もしかすればそれこそ、ただそばにいたかっただけかもしれない。
 ならばこそ、突き放そうと言うものだ。
「さて、心配事も無くなった所で」
 アヤネは敵意がより一層と濃くなっていく旅籠で背伸びをする。
 矛盾するが、標的が完全に猟兵へと固定されたが故に訪れた余裕だ。
 説得する気はさらさらないけれど。
 アヤネの瞳はレイへ、それから千夜子へ向けられる。
「これだけの猟兵に一人でやり合おうとは不合理。普通に考えれば、逃げて体勢を立て直すのが良策だろう。
 ……そうしない理由は……時間かな」
 くどい程に時を気にする影朧。そこに固執する何かがあるのは明白だ。
「チヨコはどうしたい? シンプルに倒しちゃっていいかな」
 アヤネの問いに躊躇いを見せた後、頷く。
「怨みを抱えたままではなく……少しでも、軽くさせられればとは思いますが……今は我らにできることをするしかありません」
 加減などしている余裕はないだろう。敵の実力を推し量りアヤネへ頷く。
 そちらはどう考えるのか。
 面白がるようなアヤネの問いに、レイは顔を向けるでもなければ警戒を解くことも無く。
「この世の仕組みは詳しかねえ。まあ、互いの道が交わる必要もない、シンプルな話に思える。
 ──だが……」
 固形化し牙の如く押し寄せる殺気の波に合わせ、レイは床板を踏み砕く。
 弾ける木材は木っ端となって、蠢く闇に形を作る。
「いいね、OK! 手分けしてやろう!」
 闇に乗じた動きを見破られ、アヤネの振るう腕に合わせてもその影から伸びるのは二重螺旋のウロボロス。
「ぬうっ」
 絡み付く太き触腕に締め付けられ、苦し気に呻く。
「動きを封じられるのがてめえだけだと思ったか?」
 腕に戒められた【枷】を解き放つレイ。開いた腕が風を呼び、廊下と壁と天井と、出鱈目に跳ねて火花を散らす鎖鞭。
 迫る穿撃に牡丹灯籠は全身を弛緩させることで僅かに出来た隙間から自らの姿勢を崩し、追従する触手の動きを利用して後ろに倒れこむように回転、それを支えに振り上げたブーツの先端が鎖を弾く。
 蹴りを更なる動力に回転を上げ、触手から逃れた影朧に思わず感嘆の声を漏らすアヤネ。
 余裕ある態度も当然だ。捕縛など囮に過ぎない。
「幻朧桜は救いにもなるもの、破壊などさせません!」
 開くは千夜子の【花奏絵巻】。
 巻物に描かれた花々が魔力により具現化する。闇夜に渦を巻いて現れるは百花繚乱、金糸梅の花嵐。
 廊下を埋め尽くす花弁は小さな刃となり仕掛けられた罠と、それに宿る怨念とを祓う。
「……虹の花、咲き誇れば天上楽土──!
 操花術式、【七彩天趣(ナナイロテンシュ)】!」
 その罠に込められた傾国の怨念をも花に埋め。
「周りの罠は私が、牡丹灯籠はアヤネさんお願いします!」
 そう、夜闇を照らし輝く標となりますよう。
 祈りの言葉に対し、耳まで裂けた真っ赤な口を見せて叫ぶ鬼。
「小癪の一言!」
 強く薙いだ鞘の一撃が颶風を呼び、千夜子の花嵐とぶつかり合う。花弁に隠れて位置を掴めなければ、その身を隠したとて先手を討てない。
 彼女の生み落とした花弁にその身を隠したのは牡丹灯籠のペースを崩すには十分だった。
 その隙をアヤネは見逃さない。
「……場所が悪かった……、なんて言わないよね? 選んだのは君だよ」
 嘲る彼女の手の中には組み立てられた『Silver Bullet』。
 背後には開け放たれた障子と開かれ倒れた楽器ケース。アヤネらが泊まる部屋だ。
 装填はもう済んでいる。
 対UDCの名に恥じぬ巨大な砲頭は、鉄の裂ける悲鳴のような叫びを上げて弾丸を発射した。
 牡丹灯籠の手により裂かれた花嵐。視界を確保したそれはアヤネにとっても同じく、細胞炸裂弾は見事、影朧の脇腹に着弾した。
 内部から破壊されて、黒の外套から花吹雪よりも赤い血を散らす。
(入りが浅い、よく咄嗟にかわしたね!)
 本来ならば心臓への直撃コース。舌打ちして次弾の装填、弾倉に残るは四発だ。
 確実に当てる為にも、待つだけでは駄目だ。
 ライフルを触手で持ち上げ固定、背後に従え接近したアヤネは鈍器のように振るう。
「こう動かれちゃ狙えないからネ」
 その身で隠した軌道からのアッパースイング。頭部に直撃してたたらを踏んだ鬼の背後へ高速で迫る者。
 セクシィアップ・ガディスプリンセスでその身を美しく、そして逞しく強化したテイルだ。
「今度は逃がさない!」
 空で身を翻し、蛇尾脚の突端を剣先のように鋭く構えて乱れ突く。
「小癪と言った!」
 軌道を見切り、痛む体を引きずりながらも返す一撃でその蛇脚を打つ青鬼。
 しかし、その傷は急速に癒えていく。後方に構える桜花の力だ。テイルはそれを織り込んでいるのは勿論だが、癒える前にはすでにその体を牡丹灯籠へと巻き付けていた。
「こればボク達の『超神武闘必殺技』!」
 勇気と正義と神業で窮地を好機に──、ユーベルコード【ガディスプリンセス・グラップルストライカー】。
 その身を牡丹灯籠へ巻きつけたまま、更に髪を四方へ伸ばして捻りを加える。
「うぐううう!」
 拘束の好きな奴らよ。
 その身を絞られながら寸前で手にしたお手製の罠を発動させる。
 触れた面へ突起物を放つ簡単な代物だが、傾国の怨念により呪詛にまみれたそれは神の国より来訪したテイルへの効果は高く。
「あっ!?」
 鋭い痛みと同時に痺れが体を襲い、緩んだ拘束に対し怨念を糧として力を得た牡丹灯籠が自らの戒めを解きテイルの体を壁へ投げつける。
 すんでの所で間に入ったレイがテイルを守り事なきを得たが、その脚に食い込む物に目を疑った。
 人の歯だ。
 傾国の怨念を宿す為に、牡丹灯籠は人骨を利用して罠を作成していたのだ。
「悪趣味な奴だ」
 深々と食い込んだ歯を一思いに引き抜くと、テイルは小さく声を上げたが、苦痛に顔を歪めながらもレイへお礼を言う。穿たれた穴も直ぐに新たな肉が盛り上がり治癒していく中で、影朧を睨むテイル。
「例えどれだけ強くても。キミの敵意に真正面から向かって、闘争に応えて『闘争心を挫く』!
 これこそ真のプロレスラーの在り方なのさ!」
「…………!」
 テイルの言葉に目元を僅かにひきつらせた牡丹灯籠。
「ゴッド・クリエイション!」
 構うことなく発動させたテイルのユーベルコードは鉄巨神を召喚、廊下を窮屈そうにする創造物が道を塞いだ。
 何の時間稼ぎだと嘲笑う牡丹灯籠の背後で、床が大きく軋む。
『いけないな。破魔の力が僕の体内まで巡り始めたからなのかなぁ、ちょっとクラクラしてきた』
 無理するなってナイトウォーカー。
「き、気をつけて、気を、気をつけて」
「むむむ無理理、むーりー、無理、しちゃあ、だだだめ」
 喋る茨の竜が引き連れるのは、ぼろぼろの口で装置を、恐らくは牡丹灯籠が仕掛けたであろう罠を噛み砕く旭日組隊員。
 旭日組隊員、というのは誤解があろうか。確かに彼らだがすでにその身に命はない。今の彼らはアリスの妹たち、その幼体に寄生され操られているのだ。
「…………。鬼に率いられて御霊は地の底、体は魔の窖か。悪くないな」
 自らを肯定し、賛同した者たちの変わり果てた姿を鼻で晒う。だがその目はどこか優しげで。
「だが所詮は肉人形。己の前に立つならば早々と朽ちるまで」
 鞘に収められた刀を振り上げ一撃。その頭をあっさりと砕いた牡丹灯籠へ、傷口から入れ替わるように顔を見せた複数のアリス幼体が糸を吹き掛ける。
「ぐ、化生どもめが!」
(化粧してないよー)
(ねー?)
 庇った腕を絡め取る糸の強靭さに、牙を苛立たしく打ち鳴らした牡丹灯籠の頭を薔薇の竜が捕らえた。
『あのヘンの罠なら、僕とアリスでみんな潰しちゃったよ』
 影朧の意識がインディゴの言葉により固定された瞬間。
『ま゛っ』
 背後から鳩尾へ容赦なく突きたつ鋼の巨拳は牡丹灯籠の体を撃ち抜き、インディゴはその衝撃と勢いに合わせてもその体を投げる。
 廊下をぶち抜いて夜空に投げ出された体へ、開いた口を合わせる。
 帯電。瞬く間もない時間の中で四方八方へ稲妻を発した茨竜の口腔から解き放たれた怪光は、月を貫くようにして牡丹灯籠を貫いた。


●不退転の鬼たち。
『あぁ、もう駄目だ』
 まるで微睡みに引きずりこまれるような、抗いがたい感覚は。
『ごめーん、後は宜しく~』
(えー?)
(限界なのー?)
 旭日組隊員の体から顔を出すアリス幼体たちは動きを止めた茨竜に首を傾げるが、返事はない。
 そこへ上空からきりもみ状に、受け身も取らずに墜落した影朧に視線を向ける。
(とりあえず止めだー)
(やったれーっ!)
『ま゛っ』
 ぎくしゃくとした動きの旭日組隊員に続いて外に出た鉄巨人は、広々としたスペースになれば揚々とアリスらを置いて倒れた牡丹灯籠へ接敵する。
 腕をぶん回し、躊躇なくその頭部へ撃ち下ろす。
 が、その拳が撃ち抜いたのは何もない地面のみ。大きく陥没させた地に、当然の如く立つは牡丹灯籠。
「……やってくれたな……随分と……!」
 ぼろぼろに引き裂かれた外套に、帽子は吹き飛ばされ露となった顔には左頬の古傷に血が滲む。
 毛髪のない頭頂から滴る血は少なくとも深手に見えるが。
『ま゛っ』
 振り払う腕を易々とかわし、牡丹灯籠は抜刀。
 鞘擦りの火花と同時に鯉口から溢れた濃霧は濡れた音をたてて鉄巨人を斬り裂いた。
 否、斬り裂いたように見えた。
 ──その身、無形にして有刃。傾国の怨念を持ちて悪意を増大し、斬った者を傀儡と化す魔性の刀。
『ま゛っ』
 拳を下ろし、牡丹灯籠の側へと立つ鉄巨神。
(あれっ、どうしたのー?)
 遅れて追い付いた旭日組隊員たち。
 その肉体を拳のひとつでばらばらに吹き飛ばす。
(きゃーっ!)
 その肢体がクッションとなって中の妹たちは無事であったが。
 吹き飛んだそれらを嘲笑し、旅籠から外へ足を向けた猟兵たちに白く濁った瞳を向ける。
 その瞳も中央から縦に裂け、左右に開く。血の滴るような赤い瞳孔が灯火の如く闇に揺れ動いた。
「追い込んだつもりだったか、猟兵ども。追い詰められたのは貴様らのほうだ」
 余裕。
 満身創痍に見えた牡丹灯籠から放たれた言葉。しかしそれを受けて桜花は怯みも見せずに銃を放つ。
 連射された弾丸からその身を守るため、鉄巨神の巨大な手を壁とする牡丹灯籠。
「騙されないで下さい、皆さん。あの方は確実に追い詰められています。口車に乗ってはいけません!」
「さて、それはどうかな」
 面白がる牡丹灯籠。しかし、咆哮を上げた茨の竜に顔を歪める。
 インディゴの意識を取り戻したのではなく、自律稼働するそれに影朧は鉄巨神をぶつける。
 両腕をぐるりと回して放たれたチョップを肩に受けながらもその手を掴み、力と力の押し合い、膠着状態になったそれらに戦力を失った牡丹灯籠は思わず舌を打つ。
 その様子にウタは溜め息を吐いた。
「まるで過去に縋って喚く駄々っ子だな。転生させてやりたいぜ」
「赤子がいれば手ならず首を捻るのが、貴様ら猟兵の手腕か?」
 呆れ混じりに返す皮肉。その回答にウタはニヤリと意地の悪い笑みを見せる。
 随分と饒舌ではないか、と。
「世界から疎まれるって感じるのは、癒しを求める自分の心に向き合ってないからだ。
 己から目を逸らし他者に責を押し付け孤高を気取る、カッコ悪いぜ」
 言い終わるが早いか、迫り走る牡丹灯籠へ大上段の振り下ろしを放つウタ。
 正面からこれを鞘で受けるのは、かわす体力もないからか。
「その身に溜まった悪意を吐き出せ、牡丹灯籠!」
 焔摩天から獄炎を噴き上げて、更にその右半身より溢れた炎が影朧の体を舐める。
「うぐおッ!」
「ぐう!」
 焼ける体に声を上げ、退がりながらも打ち出された蹴撃に弾かれたウタ。
 雲珠は苦しみ悶える影朧の姿を哀れに見つめた。
「……不退転浅鬼、牡丹燈籠様……。
 以前、呪寿丸さまと相見えたことがあります」
「……うぅ……ぐっ、……ぐぐ、ぐ……じ、呪寿丸、だと?」
 獄炎に身を焼かれながらも、雲珠の出した名前に反応する。
「そうです。若輩者の俺は、彼の怒りや怨みを癒やす言葉を持ちませんでした。……その結果は……。
 なればこそ、完膚なきまでに負かさなくては」
 貴方様の怨念を。
 強い意思を宿した桃色の瞳に透かされて、焼け爛れた顔を向けた牡丹灯籠は醜く笑う。
「愚かなるは悪鬼羅刹に歩まされた男よ。呪寿丸など箱に過ぎぬ。地の底で蠢く悪鬼どもの、浅ましき感情に支配されるが故に。
 だからこそ我ら不退転、貴様の如き非力なる者に、負かされる念などあろうものかよ」
 踏み込む一歩が疾風の如く。
 逆手に握る鞘を引き上げるように雲珠の顔を狙う軌道。念の絡みしそれは重く、禍々しい存在感を放つ。
(神鹿の御加護の下、俺に宿る破魔の力よ)
 勝負。
 避けることなく正面から受け止めて、発動するのは【三之宮】。
 直撃したにも関わらず、その手応えは霞の如し。同時に雲珠の箱宮から放たれた桜吹雪が夜に舞う。
『ま゛っ』
 それは乱れ淀んだ気の流れを清浄する力。牡丹灯籠の支配より抜け出た鉄巨神がそのままインディゴに殴り飛ばされる。愛の鉄拳だ、大人しく受けとれ。
 このユーベルコードは己の肉体に完全な脱力をもたらし、敵の攻撃を受け流すことで発動する。死を前に一歩も退かぬ覚悟が為せる業なのだ。
「……貴様……」
「牡丹燈籠様、怨みはもはや貴方そのものだと仰るなら、新しい生を得て、俺を伐り倒しにきませんか。
 それが幾重になろうと、世界を違えようと、何度でも祓ってご覧に入れましょう」
「ならば今ここで、斬る!」
 無形の刀を振り上げて、しかし雲珠と入れ替わるようにヨシュカが横合いから斬りつける。
 しかし、その開闢の一撃を素手で掴み取り、真っ赤な口を開く影朧。
 袖から抜いた銃の筒口をヨシュカへ突きつけた。
「舐めるなよ、童!」
「──なら……」
 手元で剣を返す僅かな動作で手を払い。
 もっと、速く。刃を引いて。
 もっと、鋭く。刃を振るえ。
 闇を破り、穿つはユーベルコード【霹靂】。超加速した連続攻撃は軌跡を銀の糸と夜空に残し、青鬼の肌をこ削ぎ斬る。
 苦鳴を上げる舌にすらも刃を差し込む残虐にして苛烈、そして華麗な剣閃。
「何度でも巡り巡って、いつかあなたが雨野さまを伐りに来ても。何度だってブチのめしてやります」
 その刃は人を守る為に、そして仲間を守る為に。
「立場を知れ、童!」
「あなたから見れば童でも、おれたちは猟兵なんだ」
 その手に見せた罠を、先のテイル相手に見せたように直撃を狙う。
 だがその隙を仲間が、猟兵が見逃すこともない。
 罠を握るその手を、光の剣が貫く。
「…………!?」
 怨念の核を、傾国の想いそのものを核とするそれを貫いて、撒かれるはずの怨みの感情を破壊する。
 涼やかな視線を向けるクレアは、光剣を引き抜き血を払う。
「この世界は歪、それは確かじゃ。だがな、いや、だからこそ」
 オブリビオン・フォーミュラ。オブリビオンを世界に染み出させる存在。あるいは、彼を呼んだのも。
「いずれそやつを倒し、おぬしのような者が生まれぬ世界とすることを約束しようぞ」
「それに何の意味がある。貴様の口約束など、この己には何の意味もない」
「意味ならあるさ」
 牡丹灯籠の腹を薙ぐのはウタの剣。
 反応する暇もなく裂かれたのは彼の迷いのない真っ直ぐな太刀筋に合わせ、その体が限界へと近づいていたこと、そして、猟兵たちの心をその身と魂にぶつけられていた事にあるだろう。
「……もう未来へ、別の道へ進んでいいんだ……あんたはもう赦されてるんだから」
「……赦す、だと……? 己は、赦さざる、者……赦される……必要など……!」
 哀れむ心を拒絶する、牡丹灯籠。その身に、血潮に力を滾らせて、創傷から鮮血を漏らし、青い肌を赤く染め上げる。
「吐き出せ、その身に宿す邪心を!」
 霞の如く拡がる無形の刃に、振り下ろされる前にと割り込んだレイがその腕を弾く。
 ただの防御ではない、【Haze(シルバー・ライニング)】は敵の攻撃を弾きいなすことで必中の技を放つ。
 追撃が本命だ。ウタに裂かれた懐へ固く、鉄のように固く握られた拳が打ち込まれる。
 放たれるのは強大な雷撃。落雷が落ちたにも等しい発光が生じ、牡丹灯籠の両眼が破裂する。
 口からも焦げ臭い煙を漏らす姿に、レイは半歩下がるとゆっくり拳を引く。
 音をたてて落下したのは、焼けた懐中時計。
「……旧い時計なら壊れるだろうが……必要ねえだろう。
 時間と同じだ。濁り目の『過去』が語れる程、時代の進みは遅かない」
 怨むも憎むも、まずは舞台に上がる事だと。現在を生きる人々の舞台に。
 呟くレイの言葉が風に乗り。
「いいや、今を生きる者こそ停滞した時の中にいるのだ」
「!」
 鋭い爪が、腸へ抉り込む。
 腕を引き抜くと同時にレイを蹴り倒し、牡丹灯籠は雄叫びを上げる。
「積み重ねられた過去を認めぬ者、今の為に他者の未来を閉ざす者、人など、今を生きる者などその程度。所詮は今にしか興味を持たぬ堕落者よ。
 停滞する存在こそが悪、時を生きるならば時を運ばねばならない。……こびりつく汚泥……、そう、泥土よ。
 蔓延る泥土よ、紅と散華せよ!」
 吼える悪鬼。
 間違いなく、この者は限界を迎えている。だがそれを越えて吼えるその精神は。
 叩き折らねばならない奥底の悪意、怨念は強固な信念とも成り得る。しかし傷つけられながらも急速に回復していく体に、レイは後方に構える桜花へ言葉を投げた。
「止せ、俺は大丈夫だ! それ以上、力を使うな!」
「ギィィィ、ギチギチ」
(そうだよー、無理しないでー)
「いえ、駄目です。理屈じゃありません、これは心を折る戦いなのです」
 既に一人で立つ力もなく、アリスや石嶋に支えられる桜花。癒しの桜吹雪を使用し続けることで急激に衰弱する彼女を心配そうに寄り添うシャーリー。
 しかし桜花の目は牡丹灯籠のみに向けられている。
「貴方の未練が何方か存じませんが。肯んじないなら、何度でも此方彼方を往き来すれば如何でしょう」
「未練など掃いて捨てる程もある。己の見るべきはこの世に蔓延る泥土のみ」
 泥土、泥土と囀ずるな。人を何だと思っているのだ。
 ぎりと歯を食い縛る桜花。
「骸の海に残った世界はたったの36。ここは停滞と、人に戻り力を捨てる影朧の善意で守られた世界。
 この世に生まれどんな業を背負うとも、此の世を守ると誓った我らこそが不退転戦鬼!
 お前だけの想いで他の方の想いを測るな!」
 叫びは裂帛の気合となって。
 ひらりと舞う金糸梅の花弁が、牡丹灯籠の額に止まる。
 目の見えぬ彼にも何かを感じたのだろうか。その憎悪が、少しでも穏やかなものへと祈りを込められた金糸梅の花言葉。
「…………、己の、想い、は」
 動きを止めた牡丹灯籠。その胸板を、心臓を、今度こそ狙い違わず銃弾が捕らえた。
「それを考えるのは骸の海でゆっくりするといいよ。君の時間はここで終わりだ、もう時計を見なくて済むネ」
 アーメン。
 崩れ落ちる体が、ゆっくりと桜の花弁に溶け行くのを見送って、アヤネはようやく構えたライフルを下ろした。


●時は変わらず流れ行き。
 溶けて蓋の開かぬ懐中時計を手に、石嶋は猫の声が響く訓練場を見つめる。
 先の事件から数日。桜學府の役人が惨殺された事件は巷を騒がせたが、それも華々しく輝くこのサクラミラージュでは、すぐに消えてしまう話題だろう。
 あの夜、全てが終わったその後に、猟兵らは自分たちの生活へと帰っていった。
 生死を賭けた戦いを共にした特務猫たちは彼らから離れるのをごねたが、猟兵の一人が鬼と、そして朝日組への鎮魂曲を弾けば不思議と落ち着き、別れを受け入れた。
 訓練施設では真面目に臭いの選別や追跡、危険回避といった様々な訓練を行う猫たちの姿が見れる。
 石嶋は、あの夜を経て特に変わった所はない。今でも前大戦の記録の一部を消すために動いているし、横領を止めてなければゴウツクに次ぐ金で動く人間の選別も続けている。
 しかし。
 ──最後に世界を救うのは、他の法かもしれません。……石嶋さんは……願いに邁進され、足るを知るまで年経られますよう。
 そう、別れの際に言葉をくれた猟兵がいる。
「俺はユーベルコヲド使いを信じちゃあいないがよ。あの夜、俺や、この先で犠牲になるかも知れない人らの為に命を賭けた、あんたらのことは信じているぜぇ」
 暑く眩しい陽射しに目を細めて、石嶋は懐中時計に耳を当てる。
 そこには、確かに時を刻む音が流れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年06月12日


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🔒
#サクラミラージュ
#不退転浅鬼


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ブライアン・ボーンハートです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト