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過去と未来の幻想曲

#ダークセイヴァー



「――っ!」
 グリモアベースの片隅で。
 鋭い頭痛に顔を顰めた北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)がその瞳を蒼穹に彩らせながら、重苦しい溜息を一つつく。
「此処まで皆は力を急速に伸ばしてきたんだ……。『あいつら』も進化を……更なる戦いを望むのも、当然か……」
 誰に共無く呟く優希斗の周囲に、何時の間にか集まっていた猟兵達。
 猟兵達の姿を確認しながら、皆、と静かに優希斗が集まってきた猟兵達に呼びかける。
「ダークセイヴァーの世界の片隅にあるトレランス、と言う名の村に向かって、あるオブリビオン達が侵攻してきている。それも……」
 ――かなり、強大な。
 そこまで告げたところで軽く額を押さえ、溜息をつく優希斗。
「しかも、彼等は俺達によってこの事件が襲撃される可能性を、予測している節が見受けられるんだ」
 つまり、今回の事件の根底にある彼等の思いは、ただ一つ。

 ――猟兵達との、殺し合い。

「でも、相手の手の内が読めているからと言って、トレランスと言う村が襲撃される可能性を、俺達が見過ごすわけにもいかないだろう」
 ……闇の救済者達による希望の灯がつき、オブリビオンに抗うことを望む人々も徐々に増えつつあるこの世界であればこそ、尚更。
 内心でそう呟き、優希斗が重苦しい息を一つ吐く。
「しかも俺の予知が正しければ、皆が彼等に接触することが出来るのは、このトレランスの村が襲われる直前……それも、『戦場』と呼んでも差し支えない場所、になるんだ」
 つまり……この戦いでオブリビオン達が求めているものは、猟兵達との『闘争』
 その闘争を猟兵達が拒めば村が一つ滅ぼせる、と猟兵達にオブリビオンが脅しをかけてきている、とも言える。
「更に言ってしまえば、俺が視る事が出来たと言う事は……」
 これ程の強敵でも、『今』の猟兵達であれば、十分対処することが出来る、と言う事だろう。
 となれば……。
「見逃す方が正しいのかも知れないけれど……それでもこのトレランスという村が、オブリビオンに滅ぼされるのを看過出来ない。だから、皆……」
 ――厳しい戦いになるのは、承知の上だけれども。
「どうかこのトレランスを救うために、その力を貸して欲しい。……重々、気をつけて」
 優希斗から発せられた、蒼穹と、白銀と、漆黒の光にその身を包み込まれ。

 ――猟兵達は、静かにグリモアベースを後にした。


長野聖夜
 ――狂騒と、過去と未来の狭間に背を押され。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 と言う訳で、ダークセイヴァー世界よりシナリオを一本お送り致します。
 純戦依頼となります。
 尚、第1章の状況は下記の通りです。
=====================
 戦場は、遮蔽物などを活用することの出来る広場の様な場所、となります。
 1.辺り一面が闇に覆われておりますが、【暗視】などの技能が無くともその暗闇を見通すことが出来る力を持つことが可能です。
 2.トレランスの村の人々は、シナリオ上登場致しません。そのため、村に危険を伝える、村人を庇うなどの行動は不要です。
 3.第2章以降については、幕間で状況を説明していきます。
=====================
 第1章執筆期間は下記の予定です。
 4月4日(土)深夜~4月6日(月)一杯。
 プレイングは、この3日間が期間内に入る様にお送り頂けますと幸甚です。

 ――それでは、良き戦いの幻想曲を。
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第1章 ボス戦 『十字皇シュラウディス』

POW   :    我を暴くことかなわず
全身を【漆黒の霧】で覆い、自身が敵から受けた【攻撃の威力】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD   :    堕天十字翔
【天空から双剣による衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    我を欺くこと能わず
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【無数の光の鎖】が出現してそれを180秒封じる。
👑11
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天星・暁音
まあ、いいんじゃない?
俺としては変な事されたりそこらの村人巻き込まれるよりは全然マシだね
とはいえ、最初から強力な相手だ俺は皆の援護だね
全力で癒すけど、皆気を付けて、危ないと思ったら一度退いてよね
まだまだ前哨戦の内らしいんだから、態勢立て直す時間くらい他の仲間が稼いでくれるよ
一人じゃないんだからね
仲間を信じて任せるのもチームワークの内って奴だね
俺の疲労も激しくはなるだろうけど、気にする必要はないよ
合間に回復する術くらいは心得てるからどんどん頼る事


二丁銃や合体変形させたライフル、銀糸等で援護しながら回復に全力です
もしどうしても危ない仲間がいるなら庇います

スキルUCアイテムご自由にアドリブ共闘可


ウィリアム・バークリー
いつか見た顔ですね。これだからオブリビオンというのは面倒だ。ただ殺しただけじゃ、平然と蘇ってくる。
いいでしょう。ぼくらにちょっかいをかけたこと、後悔させてあげます。

「高速詠唱」でActive Ice Wall展開。シュラウディスの攻撃を「盾受け」して、仲間全員を守り切ります。
攻撃をやり過ごせたらこちらの番。
「全力魔法」氷の「属性攻撃」「範囲攻撃」のPermafrostで、シュラウディスの行動に制限を加えます。もちろんぼくは、「氷結耐性」で悪影響を受けません。

Icicle Edgeを放って、そのあとを追うように突撃。ルーンスラッシュでオブリビオンを断ち切ります。

他にも敵がいるはずです。どこだ?


朱雀門・瑠香
・・・戦いをお望みなら、相手をするまでです。
霧で全身を覆い隠そうと武器で攻撃すること自体は変わらないですよね?
ならば双剣の軌道を見切って躱し、ダッシュで接近するとしましょう。
自身の間合いに入ったら破魔の力を込めた一撃を喰らわせてあげます!
貴方がどこの誰かは知りませんけど・・・・・会ったことあります?


キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

フン、正面切っての殺し合いを希望か
下手な小細工を弄する奴らよりかはいくらか好感が持てるな

装備銃器で攻撃
遮蔽物から遮蔽物へと身を隠しつつ、敵に銃弾を浴びせる
さらにデゼス・ポアを放ち、敵の死角に入り込むように操作する
とっておきの一撃はまだとっておこう

なるほど…確かにこれを喰らえばただでは済まんな
では、お前も喰らってみるがいい

敵がUCを使用したら全身を脱力させてUCを発動
武器を取り落とすほどにリラックスした状態で衝撃波を受ける
そのままカウンターで死角に潜むデゼス・ポアから受けたUCを排出
その後は銃弾で敵に追撃を行う

わざわざ御指名を頂いたんだ、全力でお相手しよう
先に何が控えていようとな


火神・臨音
【比翼連理】

敵の姿を見た瞬間襲ったのは喉を灼く様な
激しい『怒』の感情
アイナに滂沱の涙を流させたこいつには
落とし前、つけさせてやらないと

今度は俺がいるから心配するな、と彼女の手を握って

破魔の力乗せた大太刀と素手格闘で応戦
大太刀での2回攻撃を組合せた斬撃となぎ払いと鎧無視攻撃
火の属性を乗せた蹴りと拳撃でヒットアンドアウェイ基本に動く
声を掛け合い、不測の事態となる予兆が見えたらすぐ知らせる


相手の攻撃は見切りでかわし、負傷のレベル高い相手は可能な限り庇う
回避不能時はオーラ防御、激痛耐性、呪詛耐性で凌ぐ


弱点を看破対策としてUCコード使用は
ここぞの時の一回のみ
詠唱時は怒の感情全て込めて叫ぶ様に



アドリブ可


美星・アイナ
【比翼連理】
グリモアベースでの優希斗君の姿に
一年前の慟哭の記憶が過ぎる

でも今は隣に大事な人がいるから
もう誰も泣かせたりしない

大丈夫よ、と臨音の手を握って応え

人格変更はしない
彼女達の想いは皆、私と一緒だ

槍形態に黒剣を変形させ
破魔の祈りを乗せた2回攻撃のなぎ払い、串刺し、鎧無視攻撃で迎撃
空中からの攻撃には鋼糸をロープワークの要領で木の枝に絡ませ飛び上がり
パルクール系のパフォーマンス折り込んだ蹴り技で迎撃

ダメージは見切り、カウンターで回避
間に合わない際は激痛耐性と呪詛耐性で凌ぐ
UC使用時の歌声は高らかに力強く

家屋の屋根、木などのオブジェを有効活用
大きく動きながら仲間達と声をかけあい攻撃

アドリブ歓迎


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

闘争を求めているなら乗ってやる
トレランスに指一本触れさせる気はない!

【魂魄解放】発動
おそらく…彼女たちにも思うところはあるかもしれない
だから今回も魂と激しく同調するだろうが、構わないさ

「地形の利用、闇に紛れる」で遮蔽物に身を隠しつつ接近
上手く背後を取れたら「早業、2回攻撃、怪力、鎧砕き、部位破壊」で腕を叩き斬る!
小細工が通じず背後を取れなければ「挑発、殺気」で敵の気を引きつつ真っ向勝負だ
何度でも倒してやるよ!

堕天十字翔が来たら皆に遮蔽物に隠れろと叫んだ上で
「咄嗟の一撃、衝撃波」で迎撃して全体の被害軽減
迎撃し損ねたら「武器受け、オーラ防御、激痛耐性」で痛みを抑え込もう


パラス・アテナ
連携アドリブ歓迎

さて
アンタかい
大物が自ら村を滅ぼしてまで猟兵をおびき寄せたいって酔狂な奴は
お望み通り死合ってやろうじゃないか
村をくれてやるわけにはいかないんでね

2回攻撃、一斉発射、援護射撃で敵を味方の攻撃範囲へ誘導
マヒ攻撃で敵の足止
味方の攻撃に態勢を崩したらすかさずUC+継続ダメージ
大ダメージを狙っていくよ

敵の攻撃は第六感と武器受け、地形の利用で遮蔽物を使って回避
食らったら激痛耐性と継戦能力で戦闘続行
敵UCは第六感で敵の居場所を察知
継続ダメージで生命力吸収分は補おうか

アンタみたいのが何で村を襲撃したのか
聞いてみたいところだね
理由もなくただ滅ぼすのは獣のやることだ
アンタはそうじゃない。だろう?


シン・コーエン
戦いは、想定し、準備し、決断し、実行する。
それの繰り返し。
想定外の事態では瞬時に決断し、実行に移す。
その訓練が出来ているのが軍人であり戦人だ。

敵に見えれば「では、やろう。」と不敵に笑って戦闘突入。
敵の【漆黒の霧】は灼星剣と村正による【2回攻撃・衝撃波・念動力・風の属性攻撃】による剣風で吹き飛ばして無効化。
敵の【堕天十字翔】は【第六感と見切り】で攻撃ポイントを予測して躱しつつ【残像】を斬らせて躱す。

その上でUC発動。
360個以上の光輪を放って敵に対応させ、光輪を隠れ蓑に【ダッシュ・空中浮遊・自身への念動力・空中戦】で一気に迫り、灼星剣と村正の【早業の2回攻撃・衝撃波・炎の属性攻撃】で十字に斬る!




――1年前、テンバランスと呼ばれるその村で。

「悲しくて……!」

 ――身も、魂も、尊厳も、蹂躙された人々の事を想い。

「悔しいから……!」

 ――そんな人々の未来を食い潰した悪意達に憤り。
 そう叫んで慟哭と共に、美星・アイナは嗚咽を漏らした。
 今回の敵を予知したグリモア猟兵……北条・優希斗にそっと背を押され。
(「あの時は……」)
 救えなかった人々の事を、心底悔やんでいた。
 でも、今は……。
「……もう、誰も泣かせたりはしない」
 あの時とは違って、今はもう、アイナには大切な人が、傍に居るから。
 不安か、それともあの頃の自分の心を落ち着かせるその為か。
 ちらりとアイナが隣を見やれば、そこには菫の髪と緋の瞳を持つ青年……火神・臨音が佇んでいる。
 アイナに向けて、臨音が大丈夫、と小さく頷きかけた、その時。

 ――コツリ、コツリ、コツリ。

 辺り一帯に響き渡る足音と共に。
 深紅の双剣を構えし青き肌の男が、姿を現す。
 その全身から溢れ出すのは、漆黒の瘴気。
「いつか見た顔だ、とは思いましたが……瘴気の濃度すら、あの時と同じですか」
「……そうか、汝等か。イマジナリィにテンバランス……あの辺境の地を守った猟兵は。……これは重畳」
 ウィリアム・バークリーの呟きに、姿を現した十字皇が、その端正だが青ざめた顔に鮫の様な笑みを浮かべ、戦いへの甘い調べの様にそう呟く。
「……敬輔。アンタはあいつと戦った事があるんだったかい?」
 IGSーP221A5『アイギス』と、EK-I357N6『ニケ』を構え、すっ、と鋭く目を細めるパラス・アテナに、黒剣を正面に構えながら、館野・敬輔がああ、と小さく頷く。
 黒剣の中の、『彼女』達が激しくざわついているのを、感じ取りながら。
「……知っている。この瘴気、この気配……お前は……」
「我を破りし、汝等だ。別に不思議なことでは無かろう」
 敬輔が、そして構え黒剣が、目前の存在……十字皇に唾を飲み込み、問いかけると、十字皇はそれに小さく頷きを一つ。
「って事は、アンタがアイナを……!」
 ――轟。
 その瞳に灼熱の様な、苛烈な『怒』の感情を宿しながら。
 臨音がそう問いかけたのに、さてな、と十字皇が小さく返した。
(「戦いは、想定し、準備し、決断し、実行するもの」)
 グリモア猟兵として度々付き合いのある敬輔の反応を確認し、深紅に煌めく灼星剣を右手に、嘗て対峙した誇り高き将に敬意を表して、その鍔を形見分けに貰い、打ち直した波打つ様に美しい波紋を持つ村正を左手に携えながら。
 静かに敵を観察するは、シン・コーエン。
「……フン、正面切っての殺し合いを希望、か」
 そう軽く鼻を鳴らしながら呟きつつ、周囲の遮蔽物へと何時でも身を隠せる様に軽く身を低くするのは、キリカ・リクサール。
 その周囲に浮いている、愛くるしいが、底の見えない闇のような眼孔が穿かれた不気味なオペラマスクで、棘の様に全身に刃を纏ったお人形……デゼス・ポアがキャハハハハハッ! と嘲笑する様な笑い声をあげていた。
「……まあ、いいんじゃない? 俺は変なことされたり、そこらの村人巻き込まれるよりは全然マシだな、と思うね」
 星杖シュテルシアを両手で携え、その懐に隠した銀糸を確認しながら。
 くい、と軽く小首を傾げる天星・暁音に、そうだな、と軽くキリカが同意。
「下手な小細工を弄する奴よりかは、幾らか好感が持てるのは同感だ」
「そう言うことだね」
 キリカの頷きに、暁音が頷き返してそっと胸を押さえた。
 眼前に迫る瘴気が原因か、それともかの存在が過去の亡霊であり、この場に在り続けてはいけない存在で在る事の証明故か。
 自らの身に刻み込まれている共苦の苦しみが、心に鈍痛を与えて来ていた。
 暁音達の様子を、ちらりと見やって状況を確認し。
 二刀を交差する様に構えたシンが、その口元に不敵な笑みを刻み込む。
「では、やろうか」
「そうだな。これ以上の言葉は、不要であろう」
 だらりと脱力した様に、深紅の双剣の切っ先を大地へと向けていた十字皇がそう呟き、ゆっくりと双剣の切っ先をシン達へと向ける。
 同時に全身を漆黒の霧で覆い、そのまま、たん、と大地を蹴って、走り始めた。


「……戦いをお望みでしたら、相手をする事に変わりはありません」
 漆黒の霧を全身に纏い、そのまま黒き獣の様に縦横無尽に駆け回る十字皇の姿を認めながら。
 そう小さく呟き、眼光を細めて物干竿・村正を上段に構えて突きの態勢をとる、朱雀門・瑠香。
(「出会ったことは、無い筈なのですがね……」)
 何故だろうか。
 ざわつく様な、奇妙な胸騒ぎが止まらない。
「アンタ達、前衛は任せたよ」
 ――ガチャリ。
 パラスが背を押す様に告げながら、IGSーP221A5『アイギス』の引金を引く。
 その銃口から撃ち出されるのは、電磁波を帯びた銃弾。
 銃声と共に、走り出した瑠香に続く様に、全身に白い靄を帯びた敬輔と、切っ先を重ね合わせる様に構えていた村正と灼星剣をヒュン、と振り抜くシンの間隙を縫って迫るパラスの銃弾。
 その間にウィリアムが、天と地を両指で指し魔法陣を描き出す様に空中で一回転。
 魔法陣に収束していく氷の精霊達が、大気中の水分と結合するのに頷き、叫んだ。
「皆さん、上手く使って下さいね、Active Ice Wall!」
 宣言と同時に、魔法陣から放出される無数の氷塊の群れ。
 氷嵐の如き礫と化して大小様々な氷塊達が風の精霊と自らの念動力で空中を時に浮遊し、時に飛翔し、時に大地を覆い尽くしていく。
「はあっ!」
 十字皇が一喝と共に双剣を振り抜いた。
 振るわれた刃から真紅の光が無数の衝撃波が放たれ、辺り一帯を黒い霧で覆い尽くさんと猛威を振るう。
「そう簡単に、やれると思うな!」
 シンの叫びに呼応する様に、灼星剣と、村正の刀身が緑の光に包み込まれていく。
 それを認めたシンが、ウィリアムの呼び出した氷塊に宿る風の精霊達の自らの意志と同調させて、同時に双刀を、横一文字に振り抜いた。
 ――轟っ!
 振り抜かれた刃が大気を切り裂く剣風と化して十字皇が放った漆黒の霧と真正面からぶつかり合い、凄まじい音と共に、爆ぜて互いの力を掻き消していく。
 そこにパラスの撃ち出した電磁弾が十字皇を覆い尽くす様に網状に広がって十字皇の動きを一瞬止め、更にウィリアムの氷塊の間をすり抜けた紫色の影……キリカが、強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"の引金を引いている。
 銃身を彩る滑らかな黄金のラインが輝いた。
 ――ドルルルルルッ! ドルルルルルッ……!
 輝きを伴ってフルオートモードで十字皇に向かって吐き出されたのは、竜の鱗をも容易く貫くとされる、無数の白銀の輝きを伴った弾丸。
 十字皇が、パラスの撃ち出した電磁ネット化し、自らの体に纏わり付いたそれによる拘束を力任せに解くや否や、放たれた銃弾の威力に気がつき、咄嗟に左手の剣を横薙ぎに振るい、それらの弾丸を切り落とした、丁度その時。
「行くぞ、アイナ」
「うん! 皆……行くよ!」
 手を繋ぎ、互いに互いの温もりを確認したアイナが、KillingWireで周囲の木々を絡め取り、ウィリアムの呼び出した氷塊を足場に瞬く間に天へと駆けるその間に。
 臨音が真正面から火神ノ社ノ御神刀……即ち、臨音の本体を大上段から振り下ろして正面から十字皇を袈裟に切り払おうとする。
「そう、好きにはさせぬよ」
 刃による一撃を右の剣で容易く受け止め、そのままの勢いで力任せに膝蹴りを叩き付けようとした、十字皇の上空から……。
「イヤァァァァァァッ!」
 黒剣、DeathBladeZweiを赤き情熱の祈りを籠めた、破魔の槍へと変形させて、裂帛の気合いと共に、十字皇へと突き出すアイナ。
 赤水晶に彩られ、眩い真紅の光彩を放つDeathBladeZweiによる一撃が、蹴りによってよろめかせ、そのまま右手の長剣を撥ね上げ、臨音に追撃を掛けようとした十字皇の右肩を強かに貫いていた。
「くっ……!」
 微かに苛立たしげに舌打ちを一つする十字皇の背後を取った敬輔が白き靄を纏った黒剣を振り下ろす。
「……!」
 直感的に、だろう。
 咄嗟に前に飛び出し、臨音の刃を真正面から受け止めた十字皇の背を、敬輔の唐竹割りに振り下ろされた黒剣が掠めていた。
「……ええいっ!」
 稚気を感じさせる声音で気合いを入れ、黒剣を撥ね上げる様に振り上げる敬輔。
 そこに……。
「……捕らえた、覚悟!」
 空を切る神速と共に解き放った瑠香の物干し竿・村正による鋭い一撃が襲い掛かろうとした、が。
「……その動きは読めている!」
 叫びと共にシンに吹き飛ばされた黒霧を前面に集中させて広げる十字皇。
 呼び出された漆黒の結界に、物干し竿・村正が飲み込まれ……。
 ――刀身が鉄塊色色に錆び付き、ポキリ、と折れた。
「なっ……外れたっ?!」
 驚愕に目を見開く瑠香に対して、グルン、と体を旋回させ、左の剣を袈裟に振るう十字皇。
 刀身の真ん中から切っ先を失った物干し竿・村正でその攻撃を受けきること叶わず、十字皇の一閃を真正面から受ける瑠香。
 強烈な斬撃が、瑠香の右肩から左脇腹を易々と斬り裂き、そこから、血飛沫がパッ、と宙を舞う。
「くうっ……!」
「終わらせるぞっ……!」
「! Guard! Active Ice Wall!」
続けざまに斬り上げる様に振るわれた十字皇の右の剣から瑠香を守るべく、ウィリアムが素早く氷塊達に指示を出し、瑠香の周りに氷盾として展開。
 無数の氷の盾の一枚、一枚を十字皇の剣が破壊していくが、確実に勢いが削がれ、その間に……。
「させないよ」
 暁音が懐に忍ばせていた銀糸を展開、ウィリアムの氷塊の盾で勢いを削がれた右の剣を絡め捕り、そこに臨音が、炎を纏った左拳を十字皇の目へと叩きつける。
 目潰しの様に放たれたその攻撃を十分に引き付けたうえで、パッ、と軽くバックステップを踏んで躱そうとした十字皇にシンが裂帛の気合と共に、双刀を振りぬいた。
「隙ありだ!」
 シンの一閃が、十字皇の胸甲を横一文字に斬り裂き、漆黒の血が周囲へと飛散し、僅かに体勢を崩す。
 その崩れた態勢を、パラスとキリカは見逃さなかった。
『こいつの前に出たのが、運の尽きだよ』
 呟きながら、パラスがEK-I357N6『ニケ』のシリンダーに装填していた弾丸を素早く銀製の弾丸に切り替えてその引金を引けば。
「行け、デゼス・ポア」
「キャハハハハハハハッ!」
 キリカが凍り付く様な声音でデゼス・ポアをけしかけ、それに応じた愛らしくも不気味な人形が甲高い笑い声を上げながら、その全身に取り付けられた白刃で滅多切りにせんと十字皇に襲い掛かる。
 ――ワンショット・ワンキル。
 パラスの極限にまで命中率と威力を高めた特別な一発が十字皇の胸に吸い込まれる様に入っていって、その心臓部を大きく穿ち、その胸に風穴を開け、更にその傷口を抉る様に、デゼス・ポアが全身の白刃で深傷を負った十字皇の体を切り刻む。
 デゼス・ポアによる刃を双剣でいなす十字皇だったが、パラスに撃ち抜かれたその胸の傷は深く、明らかに先ほどよりも動きが緩慢になっていた。
 ――が。
(「どれだけ傷を与えても、敵が倒れるその時まで、決して気を緩めるな、か」)
 そのための訓練が為されており、そしてその都度、その都度に応じて最善の行動を起こすことが出来る事こそ、軍人であり、戦人であるシンの在り方であり、また、心の持ちようだった。
 だからこそ、深傷を負った様に見えて、精々動きが少し鈍ったにしか過ぎない彼の次の行動も、その空気を肌で感じ取って『読む』ことが出来る。
「我が刃、汝等に受け止めきれるか?」
(「負け惜しみ? いや、違う、これはっ……!」)
 ――そうだね、お兄ちゃん。
 ――きっと、次は……。
 少女達の声を聞き取り敬輔が息を呑み、更に右の剣を絡め取った銀糸がぐいっ、と引き摺られる様にして刈り取られた事に気がついた暁音が、状況を察して警戒の声を発した。
「皆、気をつけて。……来るよ」
 呟きながら、祈りと共に、星杖シュテルシアの先端から、星々の煌めきの如き光を放出し、瑠香と臨音の傷を、見る見るうちに癒す暁音。
 愛刀が折れた瑠香は、やむを得ぬと言わんばかりに、パチン、と指を鳴らした。
 ――キュルキュルキュルキュル……。
 辺りに轟くは、鈍いキャタピラ音。
 何処からともなく現れた20式戦車に瑠香が乗り込むその間に、十字皇は上空へとマントを靡かせて飛翔している。
「……っ! あれは……っ!」
「お姉ちゃん達! 遮蔽物の影に急いで!」
 アイナが上空を舞う十字皇の様子に息を呑むその間に、敬輔が咄嗟に後退の合図を出す。
「来るぞっ……気をつけろ!」
 シンもそれに気がつき、鋭く警戒の声を察したのと、十字皇が双剣を弧を描く様に空中で振るったのは、ほぼ同時だった。
「受けよ……堕天十字翔」
 交差する双剣を振り抜くと同時に、空中から降り注ぐは、真紅の巨大な三日月を思わせる斬撃の衝撃波。
 それは神話にある、審判の時に、天空より降り注ぐとされる裁きの雷を彷彿とさせる、大地を穿ち、破壊する一閃。
「Active Ice Wall、Fusion、Permafrost!」
 強大なその一撃に、ウィリアムが思わず目を見開きながら、腰に帯びたルーンソード『スプラッシュ』を抜剣、横薙ぎに振るって、氷の精霊達に一斉に命令を下す。
 命令を受けた氷の精霊達が、ずらりとウィリアムの前に並んで視界を覆わんばかりの猛吹雪を一斉に吐き出して、氷塊の盾の力と重ね合わせて、更にその力を強化、全てを破壊する緋色の閃光を受け止め、パリィン! と硝子の様な甲高い音を立てて次々に砕け散っていく。
「ちっ……!」
(「流石にウィリアムさんの魔法だけじゃ抑えきれないか……!」)
 内心で敬輔が舌打ちしながら、白き靄達を自らの黒剣に纏わせて、そのまま横薙ぎに振るい、ウィリアムの氷塊を突き抜けて、降り注いでくるその光刃に衝撃波と化させてぶつけ、更にその威力を減じさせ。
「……敬輔、援護する!」
 着弾点を予測したシンが、最初の黒霧の一部を振り払った時と同じ要領で、二刀による剣閃を放って、その衝撃波を更に弱める。
 ただ……それでも、完全には防ぎきれなかった。
 深紅の光刃がそのまま大地に着弾し、周囲の遮蔽物諸共、容赦なく辺り一帯の大地を穿ったのだ。
「なるほど……確かにこれは、真正面から喰らえばただでは済まんな」
 穿たれた大地と粉々に砕かれた遮蔽物の状況を観察しながら、キリカが呟く。
 ケタケタと愉快そうに笑い声を上げるデゼス・ポアの頭をポン、と撫でる様に軽く叩くキリカの口元には、何処か、愉快そうな笑みが刻み込まれていた。


「前哨戦にも関わらずこれ程の強敵とはね。一対一で戦っていたら、其々やられていたかも知れないな」
 ウィリアムが展開していた氷塊の影に隠れていたが、それが粉々に砕けたことで飛び散った礫が掠り、浅く頬が切れた状態にも関わらず、幼くも落ちつきを宿した声音で暁音が呟き、再び星杖シュテルシアを両手で掲げて、祈りの言の葉を手向ける。
『祈りを此処に、妙なる光よ。命の神星を持ちて、立ち向かう者達に闇祓う祝福の抱擁を……傷ついた翼に再び力を!』
 清浄なる世界に輝く星々の隙間より差し込む月光の如き光の癒しが、先程の衝撃波で負傷した敬輔とシンの傷と、術の力の消耗で軽く息をついているウィリアムの精神を癒している。
 ズシリ、と暁音の肩に重圧が掛かった。
 それが、共苦の痛みと合わせて自らの疲労と痛みを現わすものであることを理解しながらも、暁音は傷を癒され、思わず暁音の方を振り向いたシンへと微笑んでいる。
「まだ、これから先があるんだ。其々が出来ることをやり続ければ、きっと大丈夫。そうして仲間を信じるのも、チームワークってやつだから」
「ああ、その通りだな。その想い、有難く受け取っておく」
 暁音の言葉にシンが頷くその脇を、パラスがIGSーP221A5『アイギス』を拳銃に持ち替えて、EK-I357N6『ニケ』と共に、引金を引いて乱射。
 乱れ打ちの如く放たれた銃弾の援護射撃を受けたキリカが、遮蔽物から姿を現し、転がる様に大地に身を晒し、強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"の引金を引いた。
「ってぇー!!!!」
 キリカとパラスのフルオートモードによる無限にさえ思える銃弾の嵐を見切り、次の一手で決着を付けるべく双剣でそれらの銃弾を叩き落としている十字皇に向けて、瑠香が叫び声を上げる。
 叫びと共に20式戦車の主砲が火を噴き、十字皇の周囲の大地を抉り取った。
 凄まじい土砂が十字皇の周囲を覆い、その間に、暁音によって魔力を供給されたウィリアムが、『スプラッシュ』の先端で青と桜色の混ざり合った魔法陣を描き出している。
「行きます! Icicle Edge!」
 叫びと共に連射されたのは、300を越える氷柱の槍。
 まるで飛び立った鳥の様に放出されたそれが、キリカ達の弾幕と共に、十字皇を貫いた。
「行くよ!」
「そこだ!」
 怒濤の様に放たれるウィリアムの氷柱の槍と、パラス達の弾幕に動きを鈍らせた十字皇に向かって、アイナがギリギリ足場に出来る氷塊の屑を足場にして空中へと飛び、そこから体を捻る様に側転を決め、黒き閃光の如き軌跡を描いたShadow Dancerによる踵落としを放つ。
 瑠香の砲撃による土砂を目眩ましに、パラスとキリカが打ち据える無数の弾幕を、双剣で捌く事にのみ気を取られていた十字皇の側頭部をアイナのそれは容赦なく打ち据え、十字皇が思わぬそれに、その場で思わず蹈鞴を踏んだ。
「ぐっ……!」
「今だっ!」
 それに臨音が即応し、火神ノ社ノ御神刀を大地で擦過して加熱させ、焔を帯びた斬撃と化し、そのまま十字皇の右脇腹から左肩に掛けてを斬りあげていく。
「行くぞ、敬輔!」
「今度こそ、叩き斬ってやる!」
 臨音の大太刀による一撃を受けた十字皇に、シンが残像を生み出してその動きを攪乱、接近しながら、白熱した灼星剣で十字皇を逆袈裟に斬り裂き、それに呼応する様に、側面から敬輔が白き靄を纏った黒剣を振るって、その腕を刈り取ろうとする。
「まだだ……、まだ我は敗れん!」
 敬輔の一太刀に腕を刈り取られそうになった十字皇が、咄嗟に腕を黒霧化した。
 生命吸収能力を持つその黒霧で敬輔の生命力を奪う様にしながら、もう一度天空へと飛翔。
「! またあれをやるつもりなの?!」
「ならば……それは私に任せて貰おう」
 アイナが思わず息を飲んだその時に、酷く落ち着いた声音でキリカが告げる。
 その時のキリカは、まるで、教師への新しい悪戯を思いついた子供の様な笑みを浮かべていた。
 気のせいだろうか。
 全身から、酷く弛緩した空気が発されている。
  ――お兄ちゃん。
(「! ああ……!」)
 少女達の声に気がついた敬輔が微かに頷き、素早くシンと臨音に目配せ。
 目配せの意味を正確に理解した、シンと臨音が互いに頷き、更に臨音がKillingWireを木の枝に絡めて滞空しているアイナを一瞬、見つめた。
 その表情と発された空気に、アイナがこれから何が起きるのかを悟り、KillingWireを巻き取ってそのまま勢いに任せて自然落下してくるのを、臨音がお姫様抱っこで受け止め後退する。
 無防備で、何処か寛いだ表情さえ見せながら、ガシャリ、と強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"を地面に取り落としたキリカに向けて。
「終わらせる……堕天十字翔!」
 傷だらけになりながらも、天空へと上り詰めた十字皇が、十字に交差させた双剣を一気呵成に振り抜いた。
 けれども、今度は敬輔も、シンも、ウィリアムも動かない。
 暁音は祈りを捧げ続け、月光の如き輝きと共に癒しの光を放ち、傷ついた臨音達を癒し続けていたけれども。
(「馬鹿な……何を考えている……?!」)
 流石の十字皇も、キリカのそれが何を意味するのか、その時は判然としなかった。
 だから、気がつかなかったのだ。
『……デゼス・ポア』
 キリカのその、たった一言に応じる様に。
「キィャハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!!」
 キンキンと戦場全体を包み込む程の、少女とも、老婆とも付かぬ不気味な嘲笑を上げるデゼス・ポアが、ウィリアムの生み出した氷塊の破片の影に隠れていたことに。
 更に……。
『狂い震え、そして、貴様が喰らう幻覚を吐き出せ』
 寛いだキリカの呼びかけに応じたデゼス・ポアが、深紅の一閃を、その金切り声の様な嘲笑と共に、十字皇にそっくりお返しし……十字皇の全身を、ズタズタに斬り裂いた、その事実に。
「がっ……ガァァァァァァッ?!」
 デゼス・ポアの反射の成功に……十字皇は、大きく傾いだ。


「お前達……終わらせるぞ」
 自らの攻撃に、苦しみ足掻く十字皇の様に、微かに愉悦を感じながら。
 キリカが地面に取り落とした強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"を空中へと蹴り上げている。
 クルクルクル……と小気味よく規則正しく回転するそれのグリップを掴み取り、すかさず銃口を十字皇に向けて、引金を引くキリカ。
 朧気に金色の輝きを放つ弾丸が、十字皇に向けて飛んだ。
 その銃弾が十字皇の眉間を撃ち抜き、大きく仰け反ったその瞬間を狙って。
 アイナと臨音が不死鳥の如き、赤き光を伴った両翼の翼となって戦場を駆ける。
 同時に、アイナが美しく高らかな……それは、人々に希望と勇気を与える、アイドルの歌……を歌い上げ、戦場全体を、歌で覆い尽くしていく。
 周囲の木々が、風のざわめきが、氷塊による音の反響が。
 それ以外の様々なものが、アイナの歌声をより鋭く、それこそその胸に突き立つ、刃となりて、かの十字皇を貫いていた。
 ――其は、揺るがぬ信念秘めし、歌声の刃。
 その刃に全身を切り刻まれる十字皇に向けて、全身に纏われた焔の気と共に、臨音が叫ぶ。
『アンタは……アンタだけは! 火神の名を持つ者として此処に命ずる! 一族を守護せし焔の獣達よ、我が意に応え此処に集い悪意全てを喰らい尽くせ……炎獣、招来!』
 臨音の身より、迸るは無限の怒り。
 自らの力では決して抑えきれぬ程の怒りを全開にした臨音の呼び出した45体の狼型の炎獣達は、その意を受けて、次々に十字皇に食らい付いた。
「がっ、ガハッ……。その怒りが、お前の真の力の根源か……なればその怒りの源足るものを断ち切れば……!」
「何のために今までずっと隠してきたと思っているんだ、アンタはぁぁぁぁ!」
 臨音が絶叫と共に、その場でグルリと体を旋回させながら、気を纏い、焔そのものと化した足で回し蹴りを叩き付ける。
 氷柱の槍に貫かれ、自らの放った刃で自らの体をズタズタに切り裂かれていた十字皇に、その攻撃を避けるゆとりは無い。
「撃て! 撃てー!」
 そこにすかさず瑠香が叫び声を上げながら、20式戦車の砲塔を真っ直ぐに十字皇へと向けて、弾丸を発射。
 巨大な砲弾が炸裂し、十字皇を徹底的に撃ち抜いていく。
「アンタが現れる限り、何度でも、そう、何度でもぶった切ってやるよ、十字皇! わたし達をこんな体にした……あなたを!」
 最早その憎しみが、自分のものなのか、それとも少女達のものなのか分からなくなった敬輔が、大地を切り開く様に黒剣を地面へと突き立てた。
 突き立てられた黒剣の剣先から夥しい白い靄の群れが大地を駆け抜け、十字皇の体を貫かんことを欲して襲いかかった。
 そのまま左腕を白い靄達の刺突の衝撃波により貫かれ、左手の深紅の剣を空中へと弾き飛ばされる十字皇。
 残された右腕には、弾幕の様に張ったIcicle Edgeの向こうから姿を現わしたウィリアムが、『スプラッシュ』に氷の精霊達を纏わせて袈裟に振り下ろしている。
「断ち切れ……『スプラッシュ』!」
 周囲の氷の精霊達の力を吸収した『スプラッシュ』の剣先が、全てを凍てつかせる氷の剣へと変貌し、目前の十字皇を袈裟に斬り裂こうとするが、その攻撃を、残された右手で握りしめていた深紅の剣で受け止める十字皇。
 ――だが……。
「……ガラ空きだね」
 その右腕の付け根の辺りに、『拳銃』の銃口を定めていたパラスが、もう一発用意しておいた、とっておきの弾丸を装填して、それを撃ち出す。
 極限までカスタマイズされた特製の弾丸がその右腕の付根を撃ち抜き、十字皇のそれを、使い物に出来無くさせた。
「後は、俺達だけだね、シン」
 呟きながら、暁音がエトワール&ノワールを繋ぎ合わせて一丁のライフルにして、引金を引く。
 闇色の光を帯びた星屑を思わせる弾丸が、十字皇の目を撃ち抜き、その動きを鈍らせると、ほぼ同時に。
「……終わらせるぞ!」
 遮蔽物から躍り出る様に姿を現わしたシンが、350を越える光輪を放った。
 高速回転しながら、緑と白に光り輝くその光輪が十字皇を襲い、それを目眩ましに、風の精霊と自身のサイキックによる念動力を自らに掛けたシンが一気に肉薄。
「焼き尽くし……滅せよ!」
 シンの呼びかけに応じた灼星剣がスーパーノヴァの如き眩き爆発を、村正が全てを灰燼に帰す焔をその刃に纏って。
 音速にも等しい目にも止まらぬ速さで振り抜かれた二刀が、十字皇を、その名に相応しい十文字に斬り裂いていた。
「がっ……ガガァ……っ!」
 全身を凄まじいまでの炎に焼き尽くされながらも、尚、意志の力だけで立ち続けようとする十字皇。
 その十字皇を問い質す様に、パラスが銃口の照準を外さぬままに問いかける。
「……それ程の力、それ程の意地。それだけのものを持っているアンタみたいな奴が、なんで村を襲撃しようとしたんだい? 理由も無く、ただ滅ぼす……アンタは、そんな奴じゃ無い。そうだろう?」
 パラスの問いかけに、全身を焼き尽くされ、戦う力を奪われながら、そうだな、と十字皇が小さく唸った。
「我が求めしは……汝等との闘争……そして……嘗て相見えた猟兵達への復讐……。村を襲おうとしたのは……手段であり……我が求める目的、ではない……」
「復讐……だと?!」
 その言葉に敬輔がかっ、と目を見開き。
「あなたに復讐される謂れなんて、無い……! あの時、沢山の生命を奪い、そして蹂躙したあなたに……!」
 アイナの悲痛な叫びに、だが、十字皇は灰となる直前迄、薄らと笑っていた。
「そうだな……汝等からすれば、それが当然の見方かも知れん……。だが……汝等の中には、あの子を……我が……」
 それ以上、何かを言うでも無く。
 十字皇が肉片一片も残らぬ程に焼き尽くされながら……最期に、ポツリと呟いた。
「……後は……任せるぞ……リア」
 その言の葉を、最期に。
 十字皇シュラウディスは焔に焼き尽くされ、その地を去った。


「ご指名を頂いたから、全力でお相手をしてやったわけだが……さて……」
 ――この次の相手は、誰だ?
 内心で考えあぐねる様に、静かに息を詰め、顎に手を当て鋭く目を細めるキリカ。
「……これが戦いの始まり、なんだよね」
 暁音も、何処かむっつりとした表情になって呟いている。
 ――共苦の痛みが、刺す様な痛みを暁音に与えてくる。
 その痛みにまた体が蝕まれていくのを感じながら、目を細めて息を吐いた。
(「後は任せるぞ……リア、ですか」)
「……嫌な感じ、だな」
 十字皇の最期の言葉に、彼と共に今回の作戦を仕掛けた張本人についてを推測し、難しい表情になるウィリアムに、敬輔もまた、同感だ、とばかりに頭を振った。
 ゾクリ、と背筋が震える様な……そんな感覚があった。
(「……優希斗君は、この敵の協力者が誰なのか……気がついていた?」)
 その可能性に思い至り、アイナが微かに表情を強張らせる。
 そんなアイナを支える様に、臨音が愛する彼女のその手を握りしめ、大丈夫、と安心させる様にアイナの肩を抱き、自らの傍へと引き寄せる様にする。
 瑠香が小さく息を一つ吐いた。
(「出来ることであれば、彼が私の事を知っているかどうか、聞きたかったものですが……」)
 ――だが、それは叶わなかった。
 物干竿・村正が、此方の意に反して漆黒の霧に覆われてその刀身を折られ……使えなくなってしまったから。
 ――これもまた、『神』の意志、なのでしょうか?
 無意識に『神』と呼ばれる存在について思考を巡らせながら、戦車から降りた瑠香が予備の刀を確認する。
 どうやら、まだ戦う気概は残っている様だ。
「……さて。次の敵は……何処から来る?」
 自らのフォースを練り上げた灼星剣を携え、村正を腰に束ねながら。
 用心深くシンが、目を凝らして辺りに意識を移した、その時。

 ――ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ……!

 激しい振動と共に、大地が凄まじい勢いで隆起を始めていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『ハーツ・アーム』

POW   :    号令「集えよ眷属、永遠の闇となれ」
【ハーツ・アームが4体合体してハンマー形態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    号令「我が眷属よ、来たれ」
【ハーツ・アームが2体合体する】事で【球形態】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    冷酷なる咆哮
【手のひらのコアから一文字に薙ぎ払うビーム】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

*業務連絡:次回プレイング受付期間、及びリプレイ執筆期間は下記の予定です。
プレイング受付期間:4月9日(木)8時31分~4月11日(土)13時頃迄。
リプレイ執筆予定:4月11日(土)15時頃~4月12日(日)一杯。
プレイングは、上記リプレイ執筆期間に合わせてお送り頂けますと幸甚です。
何卒、宜しくお願い申し上げます*

 ――ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ……!
 大地が揺れる。
 激しい地響きと共に姿を現したのは、無数の『手』
 その手の中央にある瞳が不気味に輝き、猟兵達を見下す様に見つめている。
「やはり現れたか、猟兵達。妾の想定通りじゃのう……」
 クツクツクツ……と、何処か嘲弄を含んだ歪んだ笑い声を上げるその無数の手の姿に、猟兵達は、本能的な恐怖を覚えた。
 ――これは……コイツらは……!
「どうした? 妾は待っている。お主等猟兵が、妾の分体である妾達を、その手で倒し、妾と戦う、その時をな」
 最も……と、何処か値踏みする様に、ギョロリと動く、かの手達。
「あまり妾達を倒すのが遅れれば、あの村は恐らく、只ではすまぬじゃろう。さて……お主等に、妾達を乗り越えることが出来るか? 猟兵達よ」
 地面から生えだして、じわじわと寄ってくる、無数の手達の姿を認めながら。
 束の間の休息を得る暇も無く、猟兵達は、次なる戦いへと、その身を投じた。

 *第2章ルールは下記です。
 1、第1章の判定の結果、周囲の遮蔽物などがかなり破壊されています。身を守るための最低限の遮蔽くらいは出来そうですが、ハーツ・アーム達の猛攻を抑えることが出来るほどではありませんので、地形を利用する場合、如何に上手く利用するかどうかを考える必要が出てきています。
 2、数については不明ですが、今回は、速攻でどれ位大量の敵を倒すことが出来るかどうか、が重要なポイントになります。複数の手を纏めて如何に効率よく倒すかを考えると、より判定の成功度が上がります。

 ――それでは、良き戦いを。
火神・臨音
【比翼連理】

想定通り・・・って、どういう事だ!
何処までも俺達を馬鹿にしやがって

上等だ
後で後悔しても知らないからな

基本戦術は破魔の力乗せた大太刀と
火属性纏わせた素手格闘と霊符の投擲

大太刀での返す刃での2回攻撃組み込んだ
なぎ払いに加えて眼球への突き刺し
火属性の霊符投擲で攻撃
拳撃と蹴撃で傷を広げて

アイナとタイミングを合わせて
UCで錬成した紅玉の欠片と霊符を織り交ぜ
乱れ撃ち、一斉発射で傷口にめり込ませる
残った敵は大太刀に紅玉の炎纏わせて斬撃


回避不能ダメージはオーラ防御、激痛耐性、呪詛耐性で凌ぐ


さて、アンタの分け身はご覧の有様だ
そろそろ幕引きのお時間だぜ


・・・さっさと顔を見せな(冷徹に)


アドリブ可


美星・アイナ
【比翼連理】

な、なんなのよ!この無数の手は(身を震わせ)
って、此処で時間を食う訳には行かないわね
裏で糸引く奴を引き摺り出す為にも
速攻でケリをつけるわ

人格は第一章と変わらず

黒剣を槍形態から大鎌形態に変形
火属性と破魔の力乗せた2回攻撃のなぎ払い
傷口にを火属性の拳撃と蹴撃、
大鎌の切っ先で抉るように切り広げる

弱体化した相手を複数確認時
鋼糸を射出して可能な限り絡め捕縛し
纏めて攻撃

UCで錬成した赤水晶の欠片を傷口に
刺さるように一斉発射
残りは欠片を合一させて作った槍で
串刺しに

攻撃は見切りとカウンターで凌ぎ
回避不能の場合激痛耐性と呪詛耐性で堪える

さあ、隠れてないで出てきなさい
次はあんたが震える番よ!


アドリブ可


真宮・響
【真宮家】で参加。

戦力が必要そうなので、加勢に来た。何か待ち受けてる奴がいるようで。このうざったい手の化け物の群れをぶちのめすば会えるんだね。厄介な群れだが倒せるさ。

何か球が高速で転がって来るんだが。隠密はする余裕ないか。物凄く攻撃当て辛いが【オーラ防御】【見切り】【残像】で攻撃を凌ぎながら、瞬の援護を受けながら【戦闘知識】で敵の動きを見極め、【二回攻撃】【範囲攻撃】で飛竜閃を使う。飛竜閃もかわすようなら【衝撃波】で吹き飛ばす。転がっているところを【衝撃波】で捉えるよ!!さあ、前座は退場しな!1


真宮・奏
【真宮家】で参加。

遅くなりました。加勢します。後ろに黒幕がいるようですね。覚えのある方もいるようで。先に進む為に、お手伝いしましょう。時間を掛けられないようですので手早くいきますか。

【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【拠点防御】で防御を固めてから煌く神炎を【範囲攻撃】で撃ち、素早く敵を焼き払うことを狙います。敵が周りに群がってきたら【衝撃波】で纏めて吹き飛ばします。さあ、道を開けて下さい!!


神城・瞬
【真宮家】で参加。

遅くなりました。(戦場を見て)確認しました。この動く手の群れを倒せばいいんですね?速攻でいかねばいけないようですので、最初から全力でいきます。

【高速詠唱】【全力魔法】【魔力溜め】【多重詠唱】で氷晶の矢を【範囲攻撃】で撃ちます。【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】も乗せますね。飛んでくるビームは【オーラ防御】【第六感】で対処を。待っていてください、すぐ黒幕の貴方の元へ行きますよ!!


朱雀門・瑠香
数が多いのは面倒ですが、やりようはあります。
早く動く物を対象とするのなら、ダッシュで動き回って相手を引き寄せましょう。敵の攻撃は挙動から見切って躱しまたはオーラ防御、激痛耐性で耐え一か所に集まるように誘導していきます。
集まったらこちらの物、そのまま破魔の力を込めて纏めて切り払います。
耐久力があろうがそれは無敵ではありません。
力尽きるまで切り続けましょう!


ウィリアム・バークリー
うっ、これだけの数の手が生えてくると、気持ち悪い……。
ちょっと時間がかかりますが、一気になぎ払おうと思います。少しの間、ぼくを守ってもらえますか?

「高速詠唱」のSpell Boost開始。スチームエンジン、影朧エンジン、全力稼働。トリニティ・エンハンス発動。
全ての力を「全力魔法」で束ねて、氷の「属性攻撃」「範囲攻撃」として一気に解き放ちます。
――Disaster!!

地の底より冥府の冷気を呼び覚まし、効果範囲内にいるものを足下から凍らせます。
これで地面から生えた手は一掃出来ましたか?

ええ、まだ戦えますよ。次にはヴァンパイアがまた出てくるのは分かってますから、ここで力尽きるほど馬鹿じゃありません。


リーヴァルディ・カーライル
…ん。猟兵との闘争が望みと聞いていたけど、
別に真っ向勝負にこだわりがある訳じゃないのね
伏兵で消耗した所を狙うとは、また随分と姑息な手を使う…

…少しばかり出遅れたけど、今回はそれが丁度良い。
伏兵には伏兵で。最初から全力で蹴散らすまで…!

空中戦を行う“血の翼”に魔力を溜め残像が生じる早業で敵陣に切り込み、
吸血鬼化した自身の生命力を吸収してUCを二重発動(2回攻撃)

…来たれ。世界を廻る大いなる力よ…!

闇属性の“過去を世界の外側に排出する力”を溜め、
闇属性攻撃のオーラで防御を無視して敵群をなぎ払う“闇の嵐”を放つ

…この術はお前達のような存在だけを狙い討つ。
消えなさいオブリビオン、この世界から永遠に…。


キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

フン…主催者は今だパーティーに現れず、か

装備銃器で攻撃
敵の攻撃を避けつつ銃弾を浴びせ、遮蔽物に身を隠す
敵が遮蔽物を破壊する直前にデゼス・ポアを取り出しUCを発動
遮蔽物をハンマーが破壊する直前で離脱し、カウンターで周囲の敵を全て串刺しにする

ハッ!随分とまぁ手厚い歓迎だな
では、こちらも相応の礼を尽くさせてもらおうか

そのままUCを展開し、周囲の敵に銃撃
銃弾に反応して向かってきた多数の敵を刃で無差別に切り刻んでいく
超耐久力があろうと、次元ごと切り裂く刃に不用意に突っ込めば無事では済むまい

まぁそんなに焦るな、せっかくのパーティーのお誘いだ
存分に踊ってやるさ…お前達を滅ぼし尽くすまで、な


天星・暁音
全力で癒やすから突っ込んでも構わないよ
まだ本番が控えてる以上、此処はまだ無理のしどころではないけれど、逃がして村に被害が出たら本末転倒ってものだし、余り時間を取られる訳にもいかない。皆の無理も無茶も俺が支えるから後ろは任せて行って!



自身の消耗を抑えられるように余り動かずに、身体の小ささを利用して身を隠しつつ仲間たちを銀糸や援護射撃で援護し癒し続けます
同時に万一敵が抜けて来るようなら目の前に立ち塞がる事も視野にいれて杖で叩き落とすなり銀糸で捕まえて切り裂きます
今回は消耗を抑える意味もあり動きはなるべく最小限にします

アドリブ共闘化、アイテムUCご自由に


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

十字皇が求めたのはあの狼少年の復讐?
そして手を組んだのは…おそらくイマジナリィで対峙した奴か?

確かめるためにも、速攻で殲滅しないと
多少の無茶はやむを得ないな

【魂魄解放】発動継続
彼女たちとの同調はより深く激しく

「地形の利用、ダッシュ」+高速移動でハーツ・アーム達の外側を円を描くように駆け回り
円の外から「衝撃波、吹き飛ばし」でハーツ・アームを円の内側に押し込んでいこう
ハーツ・アーム達が1か所に纏まったら全員で一気に殲滅だ

僕が狙われるようなら「挑発、殺気」で気を引きながら
ハーツ・アームの群れの中に飛び込み囮に
皆には僕ごと攻撃してもらい
攻撃は「オーラ防御、激痛耐性」で耐える


シン・コーエン
エンドブレイカーの息子としては、十字卿シュラウドとか戦神アポリアとかは知らんが、放ってけない相手である事は判る。
速やかに殲滅しよう。

ハンマー形態ってスピードの速い球形態を無差別に遅いそうだな。
UC:灼星乱舞に【風の属性攻撃・衝撃波】を重ね、灼星剣を【2回攻撃・なぎ払い・範囲攻撃】で右から左、左から右へと2回なぎ払って、ハーツ・アーム達を叩き斬る。
勿論、仲間を巻き込まない様、気を付ける。
素早く避けた球形態は、生き残ったハンマー形態に襲わせる。

ビームは発射前に【念動力】で手の向きを逆に変えさせて、自分を打つように仕向ける。
物理攻撃は【第六感と見切り】で避け、又は【武器受けとオーラ防御】で防ぐ。


パラス・アテナ
連携・アドリブ歓迎

次はアンタ達かい
速攻で倒さなきゃならないってのなら、さっさとご退場願おうかね
悪趣味な手遊びをしている暇はないんだ
骸の海へお還り

クイックドロウ、先制攻撃、援護射撃、2回攻撃で牽制
出鼻を挫いて味方への攻撃に繋げるよ
敵UCには、その場に留まって2回攻撃と一斉発射、制圧射撃で攻撃を誘導
マヒ攻撃で足止めておびき寄せで一箇所に集める
集まった所へ【弾幕】
2回攻撃と鎧無視攻撃を併用して一気に叩くよ

敵の攻撃は見切りと第六感で回避
食らったら激痛耐性と継戦能力で戦闘続行
味方も含めて極力次の戦いに備えて体力を温存

ここまでお膳立てをしたんだ
黒幕はさっさと出ておいで
骸の海へ叩き帰してやろうじゃないか




「な、なんなのよ! この無数の手は!?」
 地面から蠢く様にして現れた無数の手。
 無数の掌の中央で不気味に輝く瞳にギロリと睨み付けられ、びくり、と思わず身を震わせながら、悲鳴の様にも取れる声を上げたのは、美星・アイナ。
「うっ」
 ウィリアム・バークリーもまた、現れたそれらの姿を見て、込み上げてくる物を堪える様に口元を手で覆いながら、アイナに同意の頷きを一つ。
(「流石にこれだけの数の手が生えてくると、気持ち悪いな……」)
 ウィリアムやアイナの様子を青目でちらりと見やりつつ、その片側の赤い瞳で現れた手の姿を認めながら、館野・敬輔が内心でポツリと呟く。
「十字皇が求めたのは……」
 ――あの狼少年の、復讐?
 そうだとして、骸の海へと還った後、復讐の為に手を組んだのが……。
 ぐっ、と無意識に黒剣の柄を強く握りしめる敬輔。
 少女達と一体化している白い靄達が、そんな敬輔の意志に関わらず、ざわざわと音を立てる様に姿を現し、敬輔の全身を覆っていった。
 そんな敬輔の様子に、微かに目を細める、シン・コーエン。
「終焉に終焉を齎すもの、の息子だから、俺は目前のこの手を操る者達については知らないが……」
「……十字卿シュラウド。戦神アポリア……」
 シンの呟きの意味を何となく汲み取った、のだろうか。
 何時の間にか、腰に新しい物干竿・村正を携え、その濃口を切りながら呟いたのは、朱雀門・瑠香。
 そうしながら反射的に自らが口にした名前の意味が分からず、思わず瑠香は目を瞬かせる。
(「私とも縁のある者、と言う事なのでしょうかね……?」)
 時折垣間見せるそれに、自分でも腑に落ちないものを感じている瑠香の言の葉に、シンが関心を抱いたか、瑠香の方をちらりと見やった。
「瑠香は何か知っているのか?」
「……いえ。ただ、名前が何となく口をついて出ただけです。いずれにせよ……」
 誤魔化す様に答える瑠香に、そうだな、とシンが頷き返す。
「放っておけない相手なのは間違いない。それはよく分かる」
 シンと瑠香の会話を小耳に挟みながら、愛用の、EK-I357N6『ニケ』と、IGSーP221A5『アイギス』を交差させて構えるパラス・アテナは、特にそれに関心を見せた様子も無く、ただ、真っ直ぐにいつ戦闘に入ってもおかしくない、無数の手に鋭い一瞥をくれていた。
「……次はアンタ達、かい」
「その様だな」
 パラスのやれやれ、と言った様子の呟きに同意しながら腰まで届く程の紫の長髪を軽く梳く、キリカ・リクサール。
 風に靡く様に髪を梳いた左手には、いつの間にか愛銃強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"が握られ、右手には、VDz-C24神聖式自動小銃”シルコン・シジョン”を腰だめに構えていた。
「フン……未だ現れず、か。どうやらこのパーティーの主催者は、搦め手がお好きな様だな」
「ちっ……何処までも俺達を馬鹿にしやがって! 何なんだ、こいつは!」
 憤懣やるかたない、と言った様子で鼻息も荒く叫ぶのは火神・臨音。
 隣に立つアイナを守る様に、火神ノ社ノ御神刀を構えて息巻く臨音に、落ち着け、とキリカが口元に何処か嗜虐的な笑みを浮かべながら軽く宥める。
「折角ご招待されたパーティーだ。存分に踊ってやれば、さぞ主催者も満足するだろうさ」
「そうだね。まあ、まだ本番が控えている以上、此処はまだ無理のしどころでも無いけれど……でも、この手達を早々に倒す必要はあるよね」
 キリカに同意する様に頷いたのは、天星・暁音。
 星杖シュテルシアを強く両手で握りしめ、祈る様に大地に突き刺すと同時に、周囲にルーン文字の様な光輪が現れ、明けない夜に包まれたこの世界に、星空の如き煌めきを与えている。
 共苦の苦しみが、鈍痛を与えてきた。
 目前の存在が、この世界にとって忌むべき相手であり、世界を傷つける存在で在る事を、一心不乱に囁く様に。
 それと同時に、暁音はある気配を感じ取っていた。
(「……うん。この数なら、やれるね」)
 それはまるで、嵐の前の様な、そんな静謐。
 同時にそれは、闇の中で、ひっそりと息を殺す宵闇の狩人の気配でもあった。
「うん、そうだね。こんな所で私達は時間を食ってなんかいられない! だから!」
「上等だぜ! 一気にケリを付けてやる!」
 アイナが自らを鼓舞する様にそれに頷き、火神ノ社ノ御神刀を構えた臨音がそれを後押しした。
「行くよ、アンタ達」
「ああ……終わらせる!」
 パラスのさりげない呼びかけに、鋭く敬輔が頷きを返し。
「すみません、皆さん。一気に吹き飛ばしますので、少しお時間を下さい!」
 呟きと同時に、バッ、と左手を挙げ、右手でルーンソード『スプラッシュ』を抜剣し、詠唱に入るウィリアムの行動に合わせて。
 手が、猟兵達に襲いかかった。


「お主達に、妾達を本当に倒せるのかのう?」
 相変わらずの、嘲弄と共に。
 無数の手の内4体が螺旋状に絡み合い、全てを打ち砕く鎚へと変貌。
「悪趣味な手遊びをしている暇は無いんだ。骸の海へお還り」
 パラスが何気なく呟きながら、IGSーP221A5『アイギス』の引金を引く。
 その銃口から撃ち出されたのは、電磁弾。
 加速された銃弾が融合し、巨大な鎚と化そうとしていたそれを撃ち抜き、そこから電磁波がまるで蜘蛛の巣の様に広がり、鎚の一部を内側から絡め取る。
 更にパラスは、EK-I357N6『ニケ』の引金を引いた。
 その銃口から無数の弾丸が解き放たれ、ハンマーと化したそれらの手達を、確実に撃ち抜いていく。
 そこに……。
「遅いな」
 腰だめに構えたVDz-C24神聖式自動小銃”シルコン・シジョン”の銃身を彩る黄金のラインの朧気な輝きと共に、撃ち出されるキリカの銃弾。
 銃弾がハンマー化しようとしていた1体を撃ち抜いたその瞬間に、強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"から銃弾を吐き出した。
 バラバラバラバラバラバラバラ……!
「キャハハハッ! キャハハハハハッ!」
 子供とも、老婆ともつかぬデゼス・ポアの甲高い笑い声に後押しされる様に、強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"から大地と水平に撃ち出された無数の弾丸が容赦なく手を撃ち抜いていき、そこに……。
「早く動く物を対象とするのなら……!」
 瑠香が自らの考えを呟き、タン、と大地を蹴り、物干竿・村正を抜き放つ。
 本能的に、であろうか。
 まるでその瞬間を狙っていたかの様に別の巨大な鎚が、瑠香に振り下ろされようとした、正にその刹那。
 ――バサリ。
 不意に、深紅の線を曳いた、銀の残像が大地に向かって飛翔した。
 牙の様に鋭く研ぎ澄まされた巨大な黒い大鎌が横薙ぎに振るわれ、瑠香を潰さんと襲いかかってきていたそのハンマーを切り刻む。
 更に……。
「この炎が、未来を照らす灯となる様に」
 言葉と共に周囲を浮遊する、神秘的で、神々しさを思わせる霊気を纏った白熱した75の煌めく炎が姿を現し、瑠香に迫ってきていた全ての敵を全方位から焼き尽くさんと襲いかかり。
「さて、これを見切れますか?」
 続けざまに、375本の研ぎ澄まされた水晶の矢が、血色の光の更に高見に描き出された水晶色の魔法陣から、五月雨の如く降り注いだ。
 白熱した光の焔にその身を纏めて焼き払われ、降り注いだ矢が次々に敵を射貫いていく。
「これは……?!」
「援軍が、来たね」
 瑠香が目を見開き、パラスが双銃を構えたままに鋭く目を細めるその間に。
 ――バサ、バサ、バサ。
 血色の魔力によって固められた双翼を風に靡かせ軽く羽ばたかせ。
 ……ん。と、軽く小首を傾げる様にして、人差し指を唇に当てながら。
 目を見張る程、鮮やかで豊かな銀髪を風にくゆらせ、その肩に血の様に赤い螺旋状の光を纏った黒き大鎌を担いだ少女……リーヴァルディ・カーライルが、爪先立ちで瑠香の隣に立っていた。
「猟兵との闘争が望みと聞いていたけれど、別に真っ向勝負に拘りがあるわけじゃ無いのね」
「間断なく戦力を投入し、猟兵達の疲弊を誘って戦力を削ぎ取る」
 リーヴァルディの呟きに、軽く息をつきながら。
 リーヴァルディが作ってくれた隙に軽く敬礼してその傍を横切り、まだ辛うじて残っている遮蔽物に飛び込む様にしながらキリカが答える。
「闘争……戦略としては別に間違ってはいない。だが、折角の手厚い歓迎だ。踊ってやらなきゃ興ざめというものだろう?」
「……まあ、そうね。随分姑息な手を使う……とは、思うけれど」
 キリカが放り投げる様にして残した言葉に軽く息をつき、銀髪を掻き上げるリーヴァルディ。
「奇襲には、奇襲。そう言うことじゃないかな」
 星杖シュテルシアから、宵闇に輝く星屑を思わせる神聖なる光の粒子を放ち、手達の攻撃の余波で負傷した瑠香を癒しながら。
 そう呟く暁音の両隣に姿を現したのは、茶髪の少女と、金髪の青年。
 茶髪の少女は、その高潔な魂を現わすかの様に、全身を緑色の光に覆われ。
 金髪の少年は、右手に構えた氷の結晶の様に透き通った杖を地面に突き立て、左に構えた三日月の様な輝きを伴った杖を、天空に向けて高々と掲げている。
「遅くなってしまいました、すみません」
 小さく謝罪の言葉を告げながら、白熱した煌めきを抱く焔を自在に操り、かの手達を焼き払いながら暁音に告げたのは、少女……真宮・奏。
「よく来てくれたね。助かるよ、奏さん、瞬さん。……響さんは?」
「今頃、敬輔さん達と合流しているのでは無いでしょうか?」
 暁音の問いかけにそう答えるのは、神城・瞬。
 その様子を、横目の端で捕らえながら。
 天空に掲げた左手で、非常に複雑で煩雑な魔法陣を描き、抜剣した『スプラッシュ』の鍔に取り付けられた『スチームエンジン』と、『スプラッシュ』に刻み込まれた影朧エンジンを全力稼働させ、自らの周囲に無数の精霊達を召喚しながら、詠唱を続けるウィリアム。
「Elemental Power……」
(「これだけの援軍です。これなら……何とかなりそうですね」)
 現れた仲間達の姿に心温まるものを感じながら、ウィリアムが前方を見やる。
 彼等の戦いは、まだ、始まったばかりだった。


「うおおおおっ!」
 ――気合い一閃。
 怒号と共に、自らの本体でもある大太刀、火神ノ社ノ御神刀に魔を破り、焼き尽くす焔を乗せて、大上段から袈裟に振り下ろす臨音。
 大上段から振り下ろされた一撃を、手の群れの一部が真っ向から受けると、横合いから、巨大な球体へと姿を変えた手達が、臨音に向かってゴロゴロと大地の上を滑る様に転がり、挽き潰さんと襲いかかってくる。
「っ! やらせないっ!」
 アイナが叫びながら、DeathBladeZweiを構え直した。
 その鍔に取り付けられた赤珠が深紅の輝きを発し、それに応じる様に、先程の槍形態から、大鎌形態へとその姿を見る見るうちに変貌させていく。
「そこだねっ!」
 そのままDeathBladeZweiを横薙ぎに一閃するアイナ。
 緋色の線を曳いたDeathBladeZweiの刃が赤熱を発しながら、臨音に体当たりを繰り出した球体達を切り裂き、更に漆黒の残像を曳いた敬輔が、自らの周囲を飛び回る白い靄達を黒剣の刀身へと収束させて、下段から撥ね上げる。
「お前は……お前達だけはっ!!!」
 酷く上擦った声音で叫ぶ敬輔から放たれた白き斬撃の衝撃波が、球体状の手を殲滅するべく襲いかかった。
 激しい命脈と振動と共に、一気阿世に臨音達に襲いかかろうとしていた球体の手達の一部を吹き飛ばすが、それは囮。
 ――ボコボコボコボコボコボコ……!
 蠢く様な不気味な音と共に、大地から新たな手が隆起してきて、掌の中央の瞳が怪しく光る。
 敬輔の更に外周から不意打ちの様に姿を現した手達の姿を見て、目を鋭く細めたシンが両手使いに灼星剣を構え直し、鋭く自らと、敵の目を合わせた。
 ――自らの体に漲るフォースを、全てを操る念動力へと変換させて。
 正面から合間見てぶつかり合った視線。
 火花が散るその視線からの光に、手の平の瞳から放たれた大地一面を焼き払うビームの軌道が、僅かに逸れる。
 着弾したビームが臨音の傍の大地を抉り取り、激しい土埃を起こした。
 目に塵が入るのを、無自覚に滲んだ涙で洗い流しながら、臨音が霊符をばらまき、破邪の光で手を一掃しようとした、その時だ。
「裏の裏……さてはて、それに対する応えはなんじゃ?」
 小さく問う様に呟きながら、球体化した手の群れが、雪崩の様に上空から臨音とアイナに向けて落下しようとしてきたのは。
「! この……!」
 アイナが、咄嗟にKillingWireを周囲に展開、その球体の群れを絡め取ろうとするが、僅かに遅い。
「くっ……!」
 念動力で光線による直撃を逸らしたシンも素早く灼星剣に風の精霊達の力を籠めて横一閃にしようとするが、コンマ数秒の差で間に合わない。
 やむなく臨音が燃える炎を思わせる炎の結界で身を守ろうとした、その時だ。
「確実に当てて見せるよ!」
 上空から降り注いだ375本の水晶の矢の内の何十本かが、超高速で動き回る球体を空中で縫い止める様に貫いたその瞬間を見据えたかの様に、とんっ、と大地を蹴る音と共に、一人の女が、上空から、岩石の様に落ちてくる手達に立ち向かい、青白く燃える焔の様な光を纏った槍を鋭く横薙ぎに一閃したのは。
 その一撃が、球体達に強かな斬撃を加えたその隙を、シンは見逃さなかった。
『我が剣よ、我が生命の力を得て更なる進化を遂げ、この地に集いし敵を一掃せよ!』
 それは、シンの生命を現わすかの様な深紅の煌めき。
 煌々と日輪の如き輝きを伴って、シンの周囲に展開されていた、灼熱したフォースオーラを灼星剣が吸収。
 瞬く間に彼の背丈の倍は超えるであろう程に巨大化した灼星剣に、周囲を舞う風の精霊の力を纏い、黄色く光り輝く閃光と化した大気を切り裂く衝撃波を解き放つ。
 右から左に半円状に描き出された剣閃が、青白い焔を纏った槍の一閃を受けた球体達を横一文字に斬り裂く。
 ――一閃。 
 たったの一撃で細切れの肉塊と化して地面に落ちていくそれらの中央に、槍を構えた女がトン、と華麗に着地しながら、自らの愛槍……ブレイズブルーの刃を大地で擦過させ、周囲の肉塊に衝撃波を叩き付けて完全に消失させた。
 その一連の動きを目で捕らえた敬輔が、未だ周囲を取り囲む様に現れ続ける手達の姿に微かに肩で息を切らせながら、その背に向けて呼びかける。
「あなた……響さん?」
 敬輔に問われた彼女……真宮・響が、そうだよ、と軽く頷き返した。
「戦力が必要そうって話を暁音から聞いたんでね。加勢に来た。アタシ達は、三位一体の家族だ。瞬と奏も、直ぐに合流するさ」
「無駄話をしている余裕があるのかのう?」
 前方にたむろする手達からのビーム。
 シンが念動力で軌道を変えるその間に、ハンマー携帯と化して潰さんと襲いかかってきた手に向けて、炎を纏った裏拳を叩き込んで牽制しながら、臨音が叫ぶ。
「助かったぜ、響! これなら……!」
「うん! これだけの戦力なら……十分、押し返せる!」
 アイナも踊る様にクルクルと空中を3回転しながら飛び、Shadow Dancerで黒き軌跡を描きながら、回し蹴りを叩き込んだ。
 黒き軌跡を描いた蹴りによって生まれた打撲傷に向けて、敬輔が白き刺突の衝撃波を解き放ってその手を穿つ。
「喰らいやがれ!」
 絶妙なタイミングを見計らった臨音がその傷へと、火神ノ社ノ御神刀を突き出して、その傷を抉り、止めを刺す。
 そこに……。
「二閃一対……行くぞ」
 シンが巨大化した灼星剣を、返す刃で左から右に振るう。
 味方からの攻撃を食らっても構わないと身構えていた敬輔や、臨音、アイナの立ち位置を正確に掴み取りながら放たれたそれが、アイナのDeathBladeZweiによる連撃と、敬輔の続けざまに撃ち出された斬撃の衝撃波で切り刻まれ、虫の息となっていた、球体化した手を一掃する。
(「これで、目前の手は一掃されたか。後は……」)
 状況を見て取り、シンがクルリと後ろを振り返ったその時。
 ――ズキューン!
 後方からの残された手達に向けられた銃弾の音が、辺り一帯に響き渡った。
 数百本の水晶の矢も、自分達の少し後ろの手の群れを抑えるべく雨あられと降り注ぎ、更に白熱した煌めきを帯びた炎が踊りながら手達を焼き払っている。
 それらの攻撃を確認した敬輔が、そうか、と小さく呟いた。
「皆は、あれをやるつもりなんだ……」
「あれ? あれって……なんだい?」
 敬輔の呟きに、響がさりげなく問いかけるが、アイナは何となく状況を察したか、そうね、と小さく頷いた。
「ウィリアム君も準備があるって言ってたし。私達も!」
「……よし、急ぐぜ!」
 臨音がそれに小さく頷き、銃声の鳴った方角……自分達の後方に居る手の群れに向かって駆け出していく。
 それは、確実に手の群れを一掃するために用意された、シン達全員が共有する、一つの作戦への階だった。


「予定通りに行けそうだね」
 IGSーP221A5『アイギス』、そしてEK-I357N6『ニケ』の銃口が吹いている煙を見つめながら。
 リーヴァルディ達の介入により、態勢を立て直したパラスの呟きに、『スプラッシュ』の先端で複雑な魔法陣を描き出しながら、天へと掲げて精霊達をその手に収束させていたウィリアムが左手を大地に着け、そうですね、と頷きを一つ。
 それは、大地を走る竜脈に、氷の精霊達を集結させ、地の底に注ぎ込む術式。
「Critical……」
 最善の一手を狙うウィリアムを薙ぎ払わんと、手から放たれる無数の光線。
 だがそれらの光線は、暁音の意向を受けた奏が、ウィリアムの前で、風の精霊達を纏ったエレメンタル・シールドを堂々と掲げ、それらの攻撃を余すこと無く受けきる事で、耐え凌いでいた。
 敬輔達が最前線で戦っているその間に、パラス達を襲ってきた手達の動きを見て取ったキリカが、辛うじて残る遮蔽物の影に身を潜めて息を殺している。
その間にも瑠香が上空を血の双翼で舞い、派手に暴れ回って自ら囮となったリーヴァルディの下を疾走、瞬の水晶による矢の援護を受けながら、物干竿・村正を横一文字に振り抜いている。
 空を切った物干竿・村正が、大気を振るわせる真空の刃を生み出し、次々に襲いかかるハンマーや球体の手達を切り裂き。
 そこに降り注いだ水晶の矢と、白熱した光の炎によって、ジリジリと、ある一点へと誘導されている。
 敬輔達も向かうその場所では、キリカが今にも笑い出しそうな、デゼス・ポアを窘めていた。
「もう少しだ、もう少し待て、デゼス・ポア。後少しで、お前の望みが叶う」
「キャハハハハハハッ!」
 小声で嗤うデゼス・ポアのその声を聞けば、常人であれば、あまりの不気味さに恐らく身を竦めてしまうであろう。
 だが、キリカにとっては重要な力だ。
 異形……オブリビオン達への深い憎悪という名の狂気を、デゼス・ポアもまた、その身に宿しているのだから。
「皆、もう少しだ。……妙なる光よ。命の新星を持ちて、立ち向かう者達に闇祓う祝福の抱擁を……傷ついた翼に、再び力を!」
 絶え間ない手達の攻撃に、リーヴァルディや瑠香が傷を負う度に。
 暁音が祈りと共に、星杖シュテルシアを振り翳し、神聖なる星々の光を解き放ち、リーヴァルディ達の傷を癒していく。
 共苦の苦しみが、絶えず鋭い痛みを訴え続け、それによって同時に魔力をごっそりと削り取られる様な疲労感が暁音を包み込むが、暁音は祈りを絶やすこと無く、アイナ達の傷を癒すのを止めない。
「暁音さん。大丈夫ですか!?」
 ウィリアムを守りながら、気遣いの言葉を投げかける奏。
 暁音の顔色が、少しずつ悪くなっていっている事に気がついているのだろう。
 けれども暁音は大丈夫、と言う様に微笑を口元に綻ばせて小さく首肯した。
「皆の無理や無茶を支えるのが、俺の戦いだから、俺のことは、心配しないで!」
「……分かりました。ならば、私達は少しでも速くあの手達を殲滅する必要がありますね」
 暁音の揺るぎなき決意の籠められた返答に瞬が諦めた様に軽く息を吐いて了承し、虹光の杖と、水晶の杖を重ね合わせた。
 すると天空に描き出されていた瞬の魔法陣が激しい明滅を起こし、更に尽きぬ無数の水晶の矢を上空から降り注がせ、敬輔達と共に前門の虎を殲滅し、後顧の憂いを断った義母、響がシン達と共にとって返して来るのを援護。
 その様子を見ながら、ウィリアムが更に大地に走る竜脈の流れを探り、自らと契約している氷の精霊達との同調を深め、遂に、それを捕らえた。
(「よし……此処ですね……!」)
 内心でガッツポーズし、更に深い、深い集中状態へと入っていくウィリアム。
「……Liberate……」
「遅いよっ!」
 ウィリアムの詠唱を聞きながら、リーヴァルディによって過去を刈り取られた手達の生き残りを撃ち漏らすのを逃すべく、アイナがDeathBladeZweiの柄でその身を殴りつけ、そのままグン、と大鎌を縦一文字に振り下ろして手の一部を切り裂き。
「此処から先には、絶対に行かせないからな!」
 それでも尚撃ち漏らした手には、臨音が火神ノ社ノ御神刀と霊符を叩き込み、それ以上の進軍を阻んだ。
 当然アイナや臨音もまた傷を負うが、その度に暁音が生み出す星々に祈りを籠めた光がその傷を癒している。
 ――程なくして、やって来る。
 そう……その時が。
「潮時だよ、アンタ達」
 そこに手達が集った時。
 そう呟いたのは、パラス。
 その言葉に、合わせる様に。
「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 白い靄を纏った敬輔が、シンの灼星剣から放たれた風圧に押され、更なる高速を持ってそこへと飛び込み。
「いぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 雄叫びと共に瑠香が、前進を低くたわめて大地を蹴って敬輔と同じ場所へ駆ける。
 敬輔と瑠香が向かったその場所は、たった一つの崩れかけた遮蔽物。
 その上をすり抜ける様に敬輔と瑠香が通った時。
「オオオオオオオオオッ!」
 衝動のままに鎚化した手達が真っ向からその遮蔽物に向かって自らを振り下ろし。
 更に、転がりながら肉薄してきた手達もまた逃げる様に駆け抜け、擦れ違った敬輔と瑠香を曳き潰さんと襲いかかった。
 その時……キリカが、口元に嗜虐性の高い、鱶の笑みを浮かべ。
 上空のリーヴァルディと、地面に立ち続けるパラスが、鋭く目を細め。
 ――そして。
 振り下ろされたハンマーによって、遮蔽物が崩れる直前。
 キリカが左から転がる様にその場を飛び出し、そして、共に出たデゼス・ポアの背を後押しする。
『今だ。踊り狂い嗤え、デゼス・ポア――』
「キィャハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!」
 老婆とも、幼い少女ともつかない、今までに無いほどの嘲笑を帯びた笑い声。
 愛らしいのに、不気味なオペラマスクを顔にした、全身に刃物を取り付けているという、狂気を感じさせる少女の人形が、爆発的な嘲笑を上げながら、全身に取り付けられた刃物を解放する。
 それは……。
「――貴様に出会った、不運な者達を」
 ――スパパパパパパパパパパパンッ!
 まるで、お飯事で扱われる野菜の玩具を切り刻む料理人の様に。
 次元をも斬り裂く錆び付いた無限の刃が、あどけない幼女の様にも、しゃがれた老婆の様にも聞こえる嗤い声を放つデゼス・ポアから放出され……瞬く間に切り刻んでいく。
 ――鎚と化した、手達を。
 ――球と化した、手達を。
 ――そして、自らの核からの光線で、全てを薙ぎ払うことを欲した愚者達を。
「キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
 音の外れた甲高い嘲笑をあげ続けるデゼス・ポア。
 その刃が無差別に敵を切り刻むその間に。
 ――ゾクリ。
「……っ?! な……何ですか!?」
 自らの体に流れる吸血鬼の血が、まるで何かに殴りつけられるかの様な、そんな衝撃を受ける程の、強大な気配。
 その強大な気配に驚き、上空を見上げた瑠香が見たもの。
 それは……。
『……来たれ。世界を廻る、大いなる力よ……!』
 ――限定的に自らを吸血鬼と化した、リーヴァルディの吸血鬼の気配。
 それは……生命と同じ様に。
 極自然に、外へと排出されゆく“過去”を押し出す力。
(「私の吸血鬼のオドと精霊のマナ。そして、世界の理よ……」)
『……今、一つに……!』
 その叫びに応じる様に。
 自らの背に輝く血色の翼の力をも『過去を刻むもの』が喰らい、巨大な漆黒のオーラを纏うリーヴァルディ。
 それは……全てを滅する『闇』の力。
 過去を切り裂き、未来を閉ざすその大鎌に籠められた自らの吸血鬼としての生命力と、血の翼に蓄え続けていた吸血鬼の魔力は、この世界の理……『過去を世界の外側へと排出する』、その速さを、ほんの少し後押しする、“闇の嵐”。
「……この術は、お前達の様な存在だけを狙い討つ」
 ひゅん、と『過去を刻むもの』を、空中で振るうリーヴァルディ。
 全てを飲み込まんことを欲するその漆黒の嵐は、デゼス・ポアにズタズタに切り裂かれ、尚、息のある手達を次々に押し潰す様に荒れ狂い、そうして、世界の『外』……骸の海へと手達を押し流していく。
 吸血鬼の力を解除し、慣性の儘に地上へと落ちていくリーヴァルディ。
 だが、その表情は何処までも冷淡で、淡々としていた。
「消えなさい、オブリビオン。この世界から、永遠に……」
「ああ……そうだね。もう骸の海へと還る時間だよ……アンタ達」
 どうにか着地を成功させたリーヴァルディの“闇の嵐”に戦力を更に減らされた手達に向けて。
 パラスが、二丁の愛銃……EK-I357N6『ニケ』と、IGSーP221A5『アイギス』をフルオートモードに切り替えて引金を引く。
 ――ドルルルルルルルルルッ……!
 それと同時に解き放たれたのは、無限にも等しい銃弾の嵐。
 次元を斬り裂く刃嵐と、過去を飲み込む闇嵐、そして全てを撃ち抜く弾嵐。
 3つの『嵐』が重なり合い、全ての手達が、その狂騒の中に飲み込まれた。


「アンタ達……今だよ」
 絶やすこと無く弾幕を張り続けるパラスの言葉に呼応したのは……。
「アイナ!」
「うん……行くよ、臨音!」
 その周囲に紅玉欠片型の炎を生み出した臨音と、赤水晶の欠片型の炎を呼び出したアイナ。
 更に……。
「敬輔!」
「うん……行くよ、お兄ちゃん!」
 シンの呼びかけに敬輔がまるで少女の様な声音で頷き、黒剣を下段から上段へと一気に撥ね上げる。
 収束した白い靄の生み出した、大気を斬り裂く斬撃の刃が、一斉に四方向に向かって放射され、それがまだ辛うじて生き延びていた手達を切り裂き。
「行くぞ、灼星剣!」
 衝撃波の援護を受けたシンが生き残り達の中央へと突っ込み、三嵐の中央に居ながらも、無傷だった瑠香と合流し、背中合わせになって囁きかける。
「瑠香!」
「ええ、背中はお任せ下さい」
 瑠香の言葉にシンが頷き、巨大化した灼星剣を、瑠香が物干竿・村正を、横一文字に一気に振るう。
 振るわれた自らのサイキックによる愛刀と、妖刀が畳みかける様に、生き残りの手達を切り払い、そこに……。
『地に落ちた血涙達、姿を変えて此処に集え……行き場のない哀しみと怒り、水晶の炎に変えてここに放たん! さあ、骸も遺さず焼き尽くせ!』
 アイナが高らかに歌い上げる、撃ち出した50の赤水晶の欠片の焔と。
『紅玉の輝きが変じし不変不滅の炎の舞だっ! ぼやぼやしてたら、只じゃすまねぇぞ?』
 パチンッ! と言う音と共に、解放された臨音の47の紅玉の欠片が、傷だらけの手達に吸い寄せられる様に飛び込んでいく。
『……忠告は、したからなぁっ!』
 臨音の叫びに応じる様に動き出した紅玉の欠片達。
 赤水晶と紅玉の、二つの破邪の炎の欠片による攻撃は、まるで死した過去の存在達との惜別と離別の籠められた、葬送の火の様だ。
 そこに……。
「奏、瞬! アタシ達も……!」
 シンに続いて戦場に飛び込む響と。
「俺も援護するから、後は任せたよ」
『はい、母さん、暁音さん!』
 懐から銀の糸を取り出しそれらを生き残りを絡め取る様に投げ放ち、既に瓦礫と化している遮蔽物や大地へと仕掛ける暁音に頷く奏と瞬。
 暁音がそれに頷き返しながら、グイッ、と手の中にある銀糸を引くと同時に、銀線がキラリと流星の如き輝きを伴って一条の光を放ち、再び自らを再生しようとしている手達を絡め取っている。
 そこに瞬が水晶の矢を、奏が燦然と輝く白熱した煌めきを帯びた焔を浴びせかけ、尚も生き、あがき苦しむ手達を射貫き、或いは焼き尽くす。
「さぁ、前座は退場しな!!」
 叫びながら、ブレイズブルーを横薙ぎに振るい、撃ち出した衝撃波で確実に止めを刺していく響。
 そうして、ほぼ全ての地上に出ていた敵が殲滅された、正にその時。
 ――ゴボ……ゴボゴボゴボ……!
 尚も、新たな手達が姿を現そうとしたが……。
 シンシンシンシンシン……。
 不意に、周囲が絶対零度の冷たい空気となり、大気中の水分を凍てつかせた。
 それは、大地から這い出して来た手達の全身を霜で覆い、手達がそれに慄き、激しくその身を震わせている。
 その様子に一つ頷きながら、『スプラッシュ』の先端で、描き出された巨大で複雑な魔法陣を展開したまま、地面に付けていた左手を、グイ、と地に向けて押し出し、ウィリアムが叫んだ。
「――Disaster!」
 その呼びかけに、氷の精霊達と同調した竜脈が応えて鳴動。
 それは、大地から最期の抵抗とばかりに生まれ落ちた手達を、正面の霜の群れと、地の底より呼び覚まされた冥府の冷気によって、見る見るうち凍てつかせていく。
 手達は竜脈から生み出された冥府の冷気の脈動に抗うことも出来ず、目を見開いたまま硬直していく。
 全力全開の、即興での儀式魔法の起動。
 故に体にのし掛かる様な疲労を感じ脂汗を全身から流しつつウィリアムが叫ぶ。
「皆さん……後は……!」
「ハッ! そうだな! それでは、相応の礼を尽くさせて貰うとしようか!」
「キャハハハハハハハハハハハハッ!」
 キリカがVDz-C24神聖式自動小銃”シルコン・シジョン”と強化型魔導機関拳銃"シガールQ1210"を交差させて構え直して周囲に乱れ撃ち、デゼス・ポアが笑い声を上げながら、凍てついた手達を葬り去っていく。
「まだ抵抗するのでしたら……その命尽きるまで、刈り尽くします!」
「もう、お前達はこれで終わりだ……死んじゃえ~!!」
 瑠香が物干竿・村正から、敬輔が赤黒く光り輝く黒剣から、全てを打ち砕く斬撃の衝撃波を解放し。
「終わりだよ、アンタ達」
 パラスがEK-I357N6『ニケ』とIGSーP221A5『アイギス』から持ち替えた拳銃で弾幕を張り。
「……ん。終わり、ね」
 リーヴァルディが大鎌を振るって、過去の未来を奪い去り。
「待っていて下さい、直ぐ黒幕の貴方の元へ行きますよ!」
「さあ、道を開けて下さい!」
「これで……終わりだよ!」
 奏が炎で凍てついた敵を焼き尽くすのに合わせて瞬が水晶の矢で焼け落ちたその肉体を撃ち抜き、響が辛うじて原形を留めている凍てついた手達を薙ぎ払う。
「此処までの様だな」
 シンが巨大化した灼星剣を二閃して、鎌鼬を作り出して残された氷を砕き。
「これで……終わりよ!」
「……消えろ!」
 アイナが赤水晶の欠片達を一本の槍へと変化させて串刺しに、臨音が火神ノ社ノ御神刀に紅玉の炎を纏わせて凍てついた最後の手を焼き尽くす。
 ――かくして。
 この地に現れた手達は、一匹残らず刈り尽くされた。


「一先ず、片付いたか」
 巨大化した灼星剣を元の大きさに戻して、軽く息をつきながら。
 警戒態勢を緩めぬままに、シンがそっと頭を振る。
「……ん。そう、ね」
 シンの言葉にリーヴァルディが微かに首肯し、大鎌を一振りして、纏われた闇と、限定解放していた吸血鬼の力を解除。
「さて……此処までお膳立てしてやったんだ」
 パラスが銃弾の残弾数を確認しながら、ある一箇所を見つめ、呟けば。
「ああそうだ。アンタの分け身は、御覧の有様だぜ?」
 臨音がそれに同意する様に頷き、キリカが口元に鱶の笑みを浮かべたまま、軽く紫の長髪を掻き上げる。
「余興は此処までだ。そろそろパーティーもクライマックスだろう?」
「さあ、隠れてないで出てきなさい……! 次は、あんたが震える番よ……!」
 アイナがビシッ、と指先をある一点へと突きつけ、啖呵を切った。


「ウィリアムさん……大丈夫かい?」
 疲労から、だろうか。
 額から零れ落ちたウィリアムの脂汗に気がついた暁音が、星々の癒しを与える神聖なる光に魔力を乗せ、ウィリアムにその魔力を分け与える。
『スプラッシュ』の鍔に取り付けられた『スチームエンジン』がオーバーヒートして、蒸気を噴き出すその様子に苦笑を零しながら、ええ、とウィリアムが頷いた。
「まだ、戦えますよ。次にはヴァンパイアがまた出てくるのはわかっていますからね。此処で力尽きる程……馬鹿じゃありません」
「それなら良いけれど。でも、恐らく次の敵は……」
 ――お兄ちゃん。
 ――わたし達は、絶対にあの人は許せない。
 ――だって、わたし達は……。
 力を一時的に解除しても、尚黒剣の中から囁きかけてくる『少女』達に敬輔が頷き、その瞳を鋭く細める。
 そこに昏い影が濃厚に漂うのを感じ取り、奏が小さく呻き声を上げた。
「……今回の敵に、覚えのある方もいる様ですね」
「アタシ達は詳しく知らないが……」
 奏の呟きに響が小声で囁きかけるのに、敬輔が軽く頭を振り、ウィリアムも微かに表情を曇らせた。
「ええ……敵はテンバランスの事も、イマジナリィの事も、知っていましたから……」
 ウィリアムの表情に、まあ、と暁音が軽く息を一つ吐いた。
「今、特に考えることじゃ、ないね。必要になったら、確認すれば良いだけだ」
「トレランスと呼ばれる村が危険、それが一番重要、だからですね」
「……分かりました」
 暁音に同意する様に瞬が頷くのに、微かに躊躇を見せながらも同意する瑠香。
 色々と知りたいこと、聞きたいことはあるのだけれども。
 今は、そう言う場合じゃない。
 それも、確かなことだろう。
「……もう、良いだろう」
 瑠香の呟きと表情に一つ、頷きを返しながら。
 パラスが、アイナ達と共に、ある一点を定めて、もう一度呼びかける。
「とっとと出てくるんだよ。……アンタも、骸の海に叩き還してやるからね」
「さあ、そろそろ幕引きのお時間だぜ。……さっさと、顔を見せな」
 パラスの再度の呼びかけと、臨音の挑発に。
『……そうじゃのう。そろそろ、妾もお主等の前に、姿を現すとするか』
 ……応じたそれが、アイナ達が見据えていた方角から、ゆっくりとその姿を戦場に現し、周囲が、黒雲に覆われた様な暗闇に包み込まれた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『オメガハーツ・アポリア』

POW   :    刮目して視よ!我こそ、オブリビオン『戦神』なり!
単純で重い【自身の髪で作った巨大な拳】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    耐えて見せよ、必滅の一撃
【視認している対象を自身に引き寄せること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【氷属性のレーザー】で攻撃する。
WIZ   :    応えよ終焉!万象粉砕、其の力を
【いくつもの氷属性の巨大氷塊】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
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*業務連絡:次回プレイング受付期間及び、リプレイ執筆期間は下記の予定です。プレイングは此方の期間にお送り頂けますと幸甚です。
 プレイング受付期間:4月16日(木)8時31分~4月18日(土)13時頃。
 リプレイ執筆期間:4月18日(土)15時頃~4月19日(日)一杯迄。
 何卒、宜しくお願い申し上げます*

 ――ポツリ、ポツリ。
 雨音が、聞こえた。
 滅亡と、破壊と、闘争の三拍子に彩られた……禍ツ神の足音と共に。
「やはり妾の所まで来たのう、お主達……。それでこそ、妾の目的を果たすに相応しい、というもの」
 異形の姿をしたその女は、あの先程現れた無数の手をその背に従えて、ゆっくりとその姿を現してくる。
「主等の何人かは、妾の姿と記憶に違和感と、心当たりを覚えているようじゃのう。であれば、妾が再びお主等と相見える機会を得たのも、何かの因果の糸かも知れぬ」
 淡々と、けれども、何処までも傲慢で、身勝手に。
 そう呟く彼女が放つ禍々しい気配に、猟兵達が反射的に嫌悪を抱き、悟る。
 ――これは、権化だ。
 そう……破壊と、闘争と、戦いの……権化。
「妾は禍ツ神なる者。嘗ては戦神と呼ばれし者の成れの果て。刮目してその目に刻め! 妾こそ、闘争にして破壊の権化足る神、禍ツ神、禍王アポレイアの真なる存在よ! さぁ、妾が覇道を止めし猟兵達よ! 妾との血湧き肉躍る真なる闘争を! そしてその生命を妾に捧げよ!」
 艶やかで、邪に満ち満ちた声を上げながら。
 戦神を名乗りし者が、全身から芯まで凍らんばかりの気配を漂わせて襲いかかる。

 ――さあ、猟兵達よ。
 今こそ、試練の時。
 原初の恐怖を呼び起こすその気配を断ち切り、かの者を撃破して見せよ。

 ――検討を、祈る。

*第3章のルールは下記です。
 1.戦場には雨が降り始めています。この雨はアポリアの気配に感応し、地形を凍てつかせ、猟兵側に不利益を齎します。そのため、何らかの対策が必須となります。
 2.アポリアは、トリプルユーベルコードを使用してきます。そのため、使用した属性のユーベルコードの対策の他に、それ以外の属性のユーベルコードへの対策もプレイングに盛り込むと、ボーナスとして判定されます。
 3.このシナリオのアポリアには、先制攻撃ルールが適用されます。
 そのため、猟兵達が攻撃するよりも先に必ず一度ユーベルコードを使用します。尚、このユーベルコードは、一律『応えよ終焉!万象粉砕、其の力を』になります。また、この先制攻撃は、他ユーベルコードにある『一度見たユーベルコード』や『反射』の対象に出来ませんので注意して下さい。

 ――それでは、良き闘争を。
 
ウィリアム・バークリー
これは、以前相対したアポリアの、強化版?
氷の精霊が反応してる。どうやらぼくと同じく氷の能力が得意なようですね。
なら、氷の魔法騎士として負けるわけにはいきません。

先制攻撃に対しては、飛んできた氷塊を「念動力」で捕らえ「衝撃波」で破砕します。

多彩な攻撃手段を使うということは、ぼくも全部の属性を使っていいってことですね。
基本はActive Ice Wallで「盾受け」に徹し、隙を見てトリニティ・エンハンスで自己強化。「全力魔法」のIcicle Edgeを降らせます。
雨も氷属性? 上等です。ぼくは「氷結耐性」がありますからね。地表を永久凍土に変える術は、今回は見送りかな。むしろアポリアに有利そうだし。


朱雀門・瑠香
真の姿で応戦。意識はあってないようなもの。
凍てつく地面には鎖をアンカー代わりに突き刺して姿勢制御することで対応。
敵の攻撃は拳は軌道を見切って躱し破壊の際に飛び散る破片は激痛耐性とオーラ防御で耐え、レーザーに対しては相手の視界に入らないように
ダッシュで背後に回り込むように接近し、巨大氷塊は範囲攻撃である以上
隙間は必ず生じるのでその隙間を見切りかいくぐるようにして回避。
間合いに入ったら、破魔の力を込めた一撃で蹂躙する。
全て滅する


火神・臨音
【比翼連理】
漸くお出ましか
悪ぃがアンタに差し出す命は無いぜ

アイナにキスを一つして真の姿の大太刀へ
俺の力を使え、お前なら十分使える

先制攻撃の氷塊は火属性と破魔、祈りを載せた斬撃による
気合を込めたなぎ払い、鎧無視攻撃、2回攻撃に合わせて
砕けた氷塊には火属性の霊符を一斉発射と乱れ撃ちのコンビネーションを

以後は火属性+破魔の力乗せたなぎ払い、鎧無視攻撃、2回攻撃、乱れ撃ちで攻撃
声を掛け合い効率的に
異変察知時すぐ知らせる

攻撃は野生の勘巡らせ
見切り、オーラ防御で回避
回避不可時は激痛耐性と氷結耐性で耐える

UCは敵のトリプルUC対策に使用
見切り防止の為連続使用は避ける
弱体化後詠唱は気合い、覚悟を込め

アドリブ可


美星・アイナ
【比翼連理】

遂に黒幕がお出ましか
それなら此方も全力全開で!

ペンダント握り締め真の姿開放
同時に破邪顕正の御使いへ人格変更し
翼で上空へ

先制攻撃は火属性、破魔、祈りの力を乗せた
剣形態の黒剣と真の姿解放した臨音が変じた
大太刀の二刀流で氷塊を2回攻撃、なぎ払い、鎧砕き、鎧無視攻撃で破砕
小さな塊は力を溜めた蹴撃で

以降は黒剣を槍形態に戻し槍投げ、串刺しも織り交ぜ攻撃
異変察知時はすぐ声上げ知らせる


攻撃は見切り、カウンター、空中戦でかわし
回避不能時は激痛耐性、呪詛耐性、氷結耐性で堪える

UC使用時に歌う即興曲は凍てつく地に
再びの恵を齎さんと剣取った英雄の歌

お前に捧げる命は無い
骸の海、その深淵に還れぇっ!



アドリブ可


天星・暁音
ふう…流石にちょっと…いや、大丈夫、まだまだいける
戦闘後にぶっ倒れるくらいは覚悟しとこう
皆がいるから安心だしね

戦闘中は防具の力で空中移動で行動しますこの戦闘中降りません
基本回復全振り

POW
地形破壊が他の人の戦闘に影響を及ぼさないなら躱します
自身は空中歩行で地形破壊されても問題なく行動できます
他の人の邪魔になるなら受けて回復します

SPD
引き寄せられそうになったらコンツェルトの力で舞台用の大道具、山の絵を描いた板等で身を隠し視認を遮り盾にします

WIZ&先制
近くの人に寄り自分たちに当たりそうな氷塊に絞り二丁銃の合体の変形でガトリングで協力して打ち砕き細かい破片は銀糸で払います

アドリブ歓迎
スキル自由に


キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

フン、果てなき闘争を望むか…
なら望み通り暴れ尽くしてやろう…貴様の魂さえ残さぬほどにな

まずは凍った大地を滑るようにダッシュ
同時にデゼス・ポアを展開し、巨大な氷塊を刃で防ぐ
全てを落とそうと思わずに、私がUCを展開する僅かな時間を稼ごう

『刃金軋めど、折れもせず、毀れもせず…』
不滅の名を冠したこの技を、その身でじっくりと味合うがいい

ヴェートマ・ノクテルトのリミッターを解除しUCを発動
高速移動とナガクニを組み合わせた斬撃を行い、同時に強力な念動力でレーザーを捻じ曲げ、降りかかる氷塊を掴み敵に高速で投げつける

降りやまない雨が無いように、全てに終わりは来る
さぁ、闘争の時間もこれで終わりだ


真宮・響
【真宮家】で参加。(他猟兵との連携可)

大口叩くだけの力はありそうだね。全力で乗り越えさせてもらうさ。

まず先制攻撃に対しては【オーラ防御】【見切り】【残像】で凌ぐ。

先制攻撃を凌いだら真紅の竜に【騎乗】して足場の問題をクリア。

POWはまず上空にいる事で直撃を避ける。

SPDは【衝撃波】で手を振り払うようにするが、引き寄せられてしまったら、被害前提で【カウンター】で【衝撃波】を放つ。

WIZはとにかく【衝撃波】や【槍投げ】【怪力】【グラップル】を使って邪魔な氷塊をぶっ壊す。

行動をする時は常に【オーラ防御】【見切り】【残像】で防御行動が出来るように備え、【戦闘知識】で戦況を見極める。


真宮・奏
【真宮家】で参加。(他猟兵との連携可)



先制攻撃に対しては【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】で凌ぐ。

先制攻撃を凌いだら蒼の戦乙女を発動して足場の問題をクリア。

POWは直撃しないように上空から【衝撃波】で攻撃。

SPDは引き寄せられないように【衝撃波】で手を吹き飛ばしますが、引き寄せられてしまったら、【怪力】【グラップル】で全力で殴る。

WISに対しては【衝撃波】を【範囲攻撃】にして巨大氷塊を壊して回る。いざという時は【怪力】【グラップル】を使用。

敵の攻撃で危ない方がいたら、即【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【盾受け】【拠点防御】に【氷結耐性】を併せて【かばう】。


神城・瞬
【真宮家】で参加。(他猟兵との連携可)

先制攻撃に対しては【オーラ防御】【第六感】で凌ぐ。

先制攻撃を凌いだら月読の騎士を発動して足場の問題をクリア。

POWはまず攻撃範囲外から【誘導弾】【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】で攻撃。

SPDは【誘導弾】で引き寄せられないように手を迎撃するが、引き寄せられてしまったら、UCで強化されている杖二本と白檀の杖で【マヒ攻撃】【二回攻撃】を併せた3連撃を喰らわせます。

WIZは【衝撃波】【誘導弾】【範囲攻撃】【二回攻撃】を総動員して巨大氷塊を破壊する。もし氷塊の攻撃が1人の方に集中するなら【吹き飛ばし】も使用。

行動の際には常に【オーラ防御】【第六感】で被害を軽減。


リーヴァルディ・カーライル
敵の氷属性攻撃や氷雨を“呼符”の氷結耐性や環境耐性のオーラで防御
負傷は吸血鬼化した自身の生命力を吸収して治癒し気合いで耐える

…っ、成る程、神を僭称するだけはある

だけど、お前がどんな存在で、どんな過去があろうと関係ない
お前を討ち果たし、全てを終わらせるだけよ

戦闘知識や第六感を頼りに敵の殺気を暗視して視線を見切り、
“写し身の呪詛”の存在感のある残像を囮に攻撃を避け、
自身は闇に紛れてる早業で敵に切り込みUCを発動

…生憎、神との因縁なら間に合っているわ

限界突破した魔力を溜めた大鎌を怪力任せになぎ払い、
武器改造した双剣で敵を乱れ撃ち傷口を抉る2回攻撃を行う

吸血鬼狩りの…いいえ。神殺しの業を知るが良い


シン・コーエン
★先制攻撃・POW・WIZ・地面凍結対策
【第六感と見切り】で攻撃を予測し、【ジャンプ・空中浮遊・自身への念動力・空中戦】で空中を舞って躱す。

先制攻撃後にUC:サイコキネシス使用。

★SPD対策
氷塊をUCで動かして視線を遮って引き寄せを無効化し、上記と同様の回避を行う。仲間への視線も防ぐように動かす。

その上でUC&【念動力】で氷塊やPOWで吹き飛んだ岩石を掴み、アポリアに高速でぶつける。
ダメージを与えるよりも、仲間の盾や攻撃時の隠れ蓑となる援護として使う。

機を見つけて、氷塊の陰から【残像】による分身を作りつつ接近。
灼星剣と村正による【2回攻撃・炎の属性攻撃・衝撃波】で十字に斬る。
「仲良く散れ!」


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携大歓迎

アポレイア!
お前だけは、お前だけはこの剣で叩き斬る!
それが僕と…この剣に宿る少女たちの意志だ!!

原初の恐怖を「気合い、殺気」で相殺しながら真の姿解放
先制攻撃の氷塊は可能な限り「武器受け、怪力、吹き飛ばし」で打ち返す

【魂魄解放】発動継続
魂との同調は最早一体化に近く

…魂たちの怒りで剣と鎧が熱を帯びている?
これなら、凍てつく地形も走り抜けられるか?

巨大な拳は「視力、見切り、残像」で拳の軌道を見切り
氷塊は先制攻撃と同様の対応で打ち返し

必滅の一撃は引き寄せられながら「早業、捨て身の一撃、串刺し」でレーザーより先に剣を突き出す!
レーザーは魂の熱が宿った「属性攻撃」で真っ二つだ!




「さぁ、始めるとしようかのう……闘争の宴をのぅ!」
 艶やかで邪に満ち満ちたその声で叫び、アポリアが高らかに自らの両手を天へと掲げた、その瞬間だった。
 天より降り注ぐ雨粒が、アポリアの手から発された光によって、生きとし生ける者全てを凍てつかせ、打ち砕く巨大な氷塊となって降り注いだのは。
「! いきなりか! 大口叩くだけの力はありそうだね……!」
 怒濤の如く降り注ぐ巨大な氷塊を見て、咄嗟に、赤銅色の結界を張り巡らしながら叫ぶのは真宮・響。
「奏! 瞬!」
『はい、母さん!』
 響の叫びに合わせる様に。
 真宮・奏がエレメンタル・シールドを掲げ、風の精霊纏う翡翠色の、神城・瞬が、六花の杖と、月虹の杖を一本の杖に繋ぎ合わせる様に構えて、クルクルと回転させて青白い光の色成す結界を形成。
「……っ、成程、神を僭称するだけはある……」
 瞬く間に放たれた巨大な氷塊のあまりの強大さに、鋭く目を細めながら、響達に合わせて自らの呼符に白い息を吹きかけて、雪色の結界を生み出して備えたのは、リーヴァルディ・カーライル。
 けれども、リーヴァルディ達の結界だけでは、この氷塊の雨を止めることは、とてもでは無いけれど、出来そうに無くて。
 ――そこで。
(「これは……以前相対したアポレイアの、強化版?」)
 自らの周囲で粟立つ様な氷の精霊達のざわめきに、耳を貸しながら。
 ウィリアム・バークリーが心を鎮める様に深呼吸を一つして、それから空中より飛来する氷塊達の方へと手を伸ばし、左の人差し指で、空中に複雑な氷の精霊達を操る術式を描き始める。
 その魔法陣から現れたのは、手。
 その手が今にも自分達を押し潰さんと降り注いできていた氷塊達の一部を掴み取っていた。
「Slash!」
 その様を確認しながら、右の人差し指を突きつけ、空中で横一文字に線を描くウィリアム。
 大気を切り裂く刃と化した衝撃波が、氷塊の一部を砕くが、氷塊の勢いは留まることが無い。
 ――と、そこに。
「アポレイア……ッ! お前はっ……お前だけはっ!!」
 深き呪詛の籠められた呻き声と共に。
 館野・敬輔が、その全身から暴力的な殺気と気迫を出鱈目に放射しながら、漆黒の全身鎧でその身を覆い、その両の目を紅く染め上げ、赤黒く光り輝く黒剣の刀身を振るって漆黒の衝撃波を生み出し、氷塊を破壊しようとするウィリアムの術式を援護するが、尚、氷塊の勢いは止まらない。
 ――だから、こそ。
「……漸くお出ましか」
 火神・臨音が低く呻く様に呟きながら、隣に立ち、ぎゅっ、と自らの胸元にあるペンダントを握りしめた、美星・アイナにキスを一つ、落としたのは。
「アイナ。お前になら……」
「ありがとう、臨音。そうね。私達なら……きっと勝てるわ」
 ――バサリ。
 そこに現れたのは、その背に白き二対の翼を背負い、全身に純白のローブと聖鎧を纏った、刀身を赤きルーン文字で彩られた漆黒の長剣、DeathBladeZweiを握りしめた、破邪顕正の御使いたる天使の少女。 
 真の姿と化したアイナのその左手に収まる様に、臨音が忽ちその姿を巨大な大太刀……真の、火神ノ社ノ御神刀へと変化させ。
 右手には漆黒の、左手には白銀の刀身を握りしめたアイナが翼を羽ばたかせて宙を舞い、ウィリアムと敬輔の連携によって力を削がれた氷塊に向けてそれを振るった。
 紅蓮の焔を纏った二刀が全てを焼き付くさんと氷塊を砕き、溶かしてその威力を減じさせるがそれでも大地に落下し続ける氷塊が複数ある。
 更に、砕けて破片と化した無数の氷塊達は、空中を舞うアイナ達にまるで、意思持を持っているかの様に、襲い掛かった。
 ――と、その時だ。
「……フゥ……」
 軽く白い吐息を漏らしながら。
 神気を纏った自らのローブの力で、アイナに寄り添う様に隣接し、エトワール&ノワール……星色と、闇色に染め上げられた星空の双銃の引金を引いて、その氷塊の欠片達を、天星・暁音が撃ち落としたのは。
 目の下にクマを作りながらも尚、銃口を無数の氷塊達へと向けている暁音の様子に、気遣う表情を見せるアイナだったが。
「……大丈夫。まだまだ、いける」
 そう告げて、微笑みすら浮かべる暁音に、分かったわ、と静かにアイナは首肯せざるを得ない。
「お主等の力は、その程度かのぅ?」
 天から降り注ぐ氷塊達を敬輔達が砕き、それらの侵攻を食い止める様子を見ながら、愉快そうな笑い声を上げるアポリア。
 そのアポリアの哄笑に、キリカ・リクサールが、皮肉げな、けれども何処か愉快そうな鱶の笑みを口元に浮かべ、フン、と軽く鼻息をついている。
「果て無き闘争を望むか。ならば、望み通りにしてやろう……そうだろう? デゼス・ポア」
「キャハハハハハハハハハハハハッ!」
 凍った大地を、滑る様に。
 目にも留らぬ速さで走り出したキリカの呼びかけに応じたデゼス・ポアが、リーヴァルディ達が空中に張り巡らした結界の外に飛び出しながら幼女とも、老婆とも付かぬ笑い声をあげ、愛くるしい金髪を風に靡かせながら、グルグルと回転する。
 ――シャキン、シャキン、シャキン、シャキンッ!
 デゼス・ポアの回転に応じる様に。
 全身に纏った白きドレスから、飛び出した鈍色の輝きを発した無数の錆び付いた刃が、アイナと敬輔、ウィリアムによって細かく砕かれた氷塊達を、ただの氷粒へと変えていく。
 砕かれた氷の礫達は、響達が作り出した結界によって押し返され、そのまま空中で雲散霧消。
 故に、着弾する氷塊は、僅か。
 ――だから。
「共に行こう、皆」
 シン・コーエンが空中へと飛び出し、その場でトンボ返りを撃ちながら、真紅の線を曳いた灼星剣と、村正で残された氷塊達を切り払った。
 ———と、その時。
(「……これは……」)
 雪色の結界で迎撃しきることの出来なかった、押し潰さんと落ちてくる氷塊達を受け止め、その衝撃に微かに眉を顰めながら。
 自らの吸血鬼の血の奇妙なざわつきに気が付いたリーヴァルディが反射的に、そのざわつきの元となっている方向へと視線を向ける。
 リーヴァルディの視線の先に、いた者、それは。
「……」
 ――しなやかな裸体を、漆黒の鎖で縛り上げる様で覆い。
 ――深紅の瞳から、血の涙を流し。
 ――1枚の漆黒の布を、マント代わりに羽織った少女。
 彼女は、結界を潜り抜け、シンの二閃で斬り裂かれた氷塊の合間を縫って、一気にアポリアに向かっていく。
 その者の名は……朱雀門・瑠香。
「瑠香。その姿は……?」
「……」
 思わぬ姿と化した瑠香から発せられているその気配に息を呑み、シンが思わず問いかけるが、瑠香はそれには、まるで人形の様に首を縦に振るだけだった。
「……全て、滅する」
 そこに瑠香の意識が介在するのかさえ、シンには分からないのだけれども。
「そうか……分かった」
 それでも、瑠香がこの敵を倒す覚悟を持って戦っている事……それだけは、はっきりと分かっている。
 そう悟ったシンは、ただ静かに瑠香に対して頷きを一つ返し、アポリアの機先を制した氷塊による攻撃を潜り抜け、村正を握りしめた左手から、砕けた氷塊にサイキックエナジーを解放した。


「PhaseⅡ、Migration。Start up……」
 シンには程遠いのだけれども、多少なりとも捕らえた氷塊達の一部にそう呟きながら、左指で描き出した魔法陣の中に書き込んだ紋様に、幾つかの新しい文字を加えて、その性質を強引に『書き換えて』いくウィリアム。
「Acitve Ice Wall! Priorityの一部をシンさんへ!」
 ―—ひゅっ。
 そう告げ、呼気を飲み込む様な鋭い音と共に、ウィリアムが、左手を地面に向けて振り抜いた。
 同時に、散らばっていた一部の氷の礫が結合して新たな氷塊と化し、更にウィリアム自身が描き出した魔法陣そのものから、新たな無数の氷塊が生み出されている。
「ほぅ。どうやら、妾の技を知っておるようじゃのぅ」
 くつくつくつ、と愉快そうに笑いながら。
 自らの長く、禍々しい、その中央に巨大な紅の瞳が出来た自らの無限ともいうべき豊かな髪を束ねた巨大な拳を、まるで砲弾の様に発射するアポリア。
 シンが、ウィリアムからプライオリティを受け取り、更に自らのサイキックエナジーで操った最初の巨大氷塊達を利用して、アポリア本体の視線を遮り、そこに自分達の意志とは無関係に引き寄せられるのを避けていたが、ビリリッ! 
 と鋭く首元に鋭く突き刺す様な痛みを覚えた。
 それは、危機をシンに伝えていた。
 氷塊を隠れ蓑にして凄まじい速度で巨大な拳が、間近に迫ってきている、危機を。
「! ぐっ……!」
 思わぬ攻撃に念力で操っていた氷塊を操りその直撃を避けるが、氷塊を軽く破壊した拳から放たれた凄まじい余波が、暴風となってシンや暁音、アイナ達、空中戦を主体とした者達を打ちのめし、続けざまに大地へと叩きつけようとする。
『ぐっ……! 祈りを此処に、妙なる光よ。命の新星を持ちて、立ち向かう者達に闇祓う祝福の抱擁を……傷ついた翼に、再び力を……っ!』
(「氷塊を大地に見立て、その余波で攻撃、か。なんて滅茶苦茶な……!」)
 自らの纏う神気を体内で操作し、強引に体勢を立て直しながら、星杖シュテルシアを掲げて祈りの言の葉を紡ぐ暁音。
 星杖の先端から発された宵闇を切り裂く星光を思わせる無数の癒しの光が粒と化して、アイナと臨音、シンの体に注ぎ込まれ、その傷を癒していく。
「……っ!」
 衝撃の余波を、咄嗟に深紅の結界を張って最小限の被害に留め、杭の様に地面に突き立てていた鎖を手繰り寄せる様にしながら、ぶぉん、とその自らの体を、まるで弾丸の如く振るう瑠香。
 ウィリアムが支配し、シンが操る氷塊の群れを利用して、アポリアからの直視を避ける様にして滑る様に大地を走り、大立ち回りでアポリアへと肉薄する。
「瑠香……お姉ちゃん!」
 瑠香が右から半円を描く様に肉薄していくのとは正反対……即ち、左から漆黒の全身鎧の白き靄を全身に纏った敬輔が、回り込む様に疾風の如く駆けだしていく。
 ――ドクン。
 体が……否、魂の底にあるであろう『それ』が、酷く熱を持ち、熱い。
「ヒヒヒヒヒッ……」
「……よくやった、デゼス・ポア。後は私達に、任せて貰おうか」
 先程の衝撃波で、デゼス・ポアが微かに弱っている様子を確認し、それに一つ頷きながら。
 敬輔と瑠香が大地を駆け抜けてアポリアに向かうその直前に、キリカが、自らの戦闘用スーツ、ヴェートマ・ノクテルトに取り付けられていたそれに向けて、呟く。
「épique:La Chanson de Roland」
 それは、中世ヨーロッパにて語り継がれた、英雄達の叙事詩の一つ。
 ――そして。
「起動しろ! 『デュランダル』!」
 ――叙事詩の物語の主人公……『ローラン』の扱いし、不滅なる刃の名を冠した、圧倒的なまでの力。
 ――リィィィィィィィッ!
 全身を焼き尽くさんばかりの熱量と苦痛と共に、ヴェートマ・ノクテルトが甲高い機械音を上げる。
 圧倒的なその速度で、キリカがそれまで走り続けていた瑠香に瞬く間に並走し……程なくして、彼女の脇を過ぎ去り……左半円を描く敬輔と並走しながら、巨大な包囲円を描き出し始めていた。
「ほほうっ。少しは楽しめそうじゃのぅ……!」
 興味が沸いたか、自らの髪を編み上げた巨大な拳をキリカと敬輔の両者に向けて振り下ろすアポリア。
 無限とも呼べる髪で編まれた巨大な拳が、視線を躱す様に戦場を駆け抜けていたキリカに迫るが……。
「あなたの好きには……させませんよっ! 『さあ、希望を持ち、未来を切り開きましょう!』」
 ———フワリ。 
 自らの背に戦乙女の如き、水色の一対の翼を、その身に、水の精霊の如き豪華絢爛なドレスを纏った奏が、キリカに迫りくる巨大な拳の目前に立ち、エレメンタル・シールドに、周囲の氷の精霊達の力を搔き集めて青色の結界を張り、キリカを吹き飛ばすであろう一撃を、懸命に抑え込む。
 そして……。
「奏! 続けていくよ! 飛竜、気張りな!」
 上空を、巨大な影が過った。
 その影は、気高き巨大な深紅の竜の姿を取っている。
 即ち……。
「そんな髪の毛……貫いてやる!」
 響だ。
 真紅の竜に跨った響が、赤熱したブレイズランスを、髪を編みこむことによって生み出された、奏が抑えていた腕の一本を貫き、ボトリ、と地面に叩き落としている。
「行ってください、キリカさん、瑠香さん」
 月読の紋が入った、銀の鎧を着た騎士の姿と化し、水晶色に輝く六花の杖と、虹色に輝く月虹の杖から、虹色の巨大な弾丸と、薄水色の巨大な弾丸を同時に撃ち出し、即座に再生した拳に追撃を掛けてその動きを食い止めながら。
 その背の純白の翼を羽ばたかせてホバリングを繰り返しながら静かに告げる瞬に、キリカが小さく首肯し、それに追随する様に瑠香がアポリアの本体に向かって駆けていく。
 一方、同じ様にその巨大な拳に狙われていた敬輔は……。
「させないわっ!」
 暁音の祈りによって吹き飛びかけていた意識を繋いだアイナが上空からその柄に赤水晶の珠が嵌め込まれたDeathBladeZweiを槍形態へと変形させて投擲しその腕を縫い止め、更に……。
「臨音!」
『ああ……見せてやるぜ!』
 人形態をやめ、火神ノ社ノ御神刀と化した臨音がアイナのそれに応じ、思念で頷き、火神ノ社ノ御神刀の剣先から、瑠璃石の楔を射出。
 ――瑠璃……そが与えし象徴は……『穹』
「お主等の好きにはさせぬぞ」
 ギョロリ。
 自らの方へと引き寄せ至近距離からの光線を叩き込もうと、その額の第3の瞳を怪しく輝かせるアポリアだったが……。
「お前の自由にはさせんぞ……戦神アポリア」
 氷塊をすかさずサイキックエナジーで捕らえ、アイナ達への視線を遮る盾として利用しながら空中をジグザグに動き回るシン。
 そのシンの援護をする様に、投げつけたDeathBladeZweiにKillingWireを絡みつかせてそれで手元にそれを巻き取った、アイナが、返す刃で臨音を振るう。
『この世界に生きる者達全ての想いと……』
 振るわれた臨音の刀身から放たれたのは、琥珀の楔。
 そは……大地に根付く人々の思いを代弁する。
 その楔が、アポリアの目に吸い寄せられる様に向かうのに気がつき、アポリアが煩わしげにその楔を右手で打ち払った。
 その間にシンが氷塊の影から飛び出し、自らの残像を残しながら、更に至近へと接近。
 自らのサイキックを象徴する深紅の焔に包み込まれた灼星剣が、スーパーノヴァの如き輝きを放ち、更に村正の鍔が、きらり、と白き流星の如き輝きを発している。
 ――そして……。
「……可能性の、力を!」
 臨音の叫びが朗々と辺り一帯に響き渡ると同時に3本目……、人の心を現す水晶の楔……が解き放たれた。
 解き放たれたそれが、アポリアの左腕に突き刺さる。
「ユーベルコードは封じきれねぇが、これで、あんたの攻撃力は……!」
「……ふむ。中々愉快なやり方をするのぅ、お主達」
 臨音の呟きに、ペロリ、と舌舐めずりを一つしながら、アポリアが頷き。
 自らの髪の一部を束ね直して巨大な腕へと変貌させて、アイナ達を狙おうとする。
 だが……先程よりその動きは、僅かに鈍い。
「此処か……!」
 その隙を見逃さず、シンがウィリアムの呼び出した氷塊の一部の使用権を利用して、氷塊を礫の様に加速させて上空から叩き付けた。
 怒濤の如く降り注ぐ氷の礫をアポリアが呻きながら左手でそれを受け止める間に。
 シンが上空から肉薄し、大上段に灼星剣を、中段に村正を構えて、至近に接近。
「焼き尽くせ、灼星剣!」
 叫びと共に、振り下ろされる灼星剣。
 それに合わせる様に横一文字に薙ぎ払われる村正。
 ――大気が震えて風を呼び起こし、焔が空中を踊る。
 二つの斬撃が、遂に十文字にアポリアの体を捕らえ、この戦いで初めての斬撃を、アポリアに加えるのだった。


「敬輔さん! 行って!」
「……ああ!」
 シンの一撃から状況の変化を見て取ったアイナの呼び掛けに敬輔が頷き、そのまま全速力でアポリアへと急速接近。
 反対側には、ぴったりと敬輔の速度に合わせる様に走り続けるキリカと、その後ろから彼女に追随する様に走り続ける瑠香の姿。
 リミッターを切られ、アシストプロテクターが森羅万象に存在する生物達を越える程の超高速移動を行う強靭な人工筋肉に、自らの動きを補助する受動的な機能を持つ各部センサーが小脳を刺激し、脳に過負荷が掛かる程の念動力を使用するための増幅器、と言う能動的なバトルスーツに変貌したヴェートマ・ノクテルトによって、全身が想像を絶する程の苦痛に絶え間なく襲われるキリカだったが、寧ろそれすらも今の彼女にとっては痛快極まりない。
 一方で、敬輔もまた、今までに無いほどの魂の高揚を感じ取っていた。
(「何だ……この感じ……!」)
 一歩、また一歩と、前進する度に。
 少女達の魂と自らの思いが絡み合い、渾然一体化した結果生まれ落ちた熱が、凍てついた大地を熔解させていっている。
 それともこの溶解は、滑る様に移動しているが故に発生する摩擦熱が、自らの全身鎧と赤黒く光り輝く黒剣の魂達によって増幅し、暴走しているが故に起きているのであろうか。
 ――なんでも、良いよ。
 ――あいつを……わたし達を、こんなにした奴を、殺すことが、出来るならば。
「うおおおおおおおおっ!」
 臨音の楔と、シンの十文字斬りによって初めて生まれた、アポリアの僅かな綻び。
 その綻びを見逃すこと無く、敬輔とキリカが両翼から突進し、其々の愛武器を構えて打ちかかる。
 シンからの追撃を受けぬ為に、その鋭い眼光で光線を撃ち出してシンを牽制したアポリアが、その瞳に異様な輝きを煌めかせ、視認した敬輔とキリカと瑠香を、薙ぎ払うべく絶対零度の光線を撃ち出した。
「耐えて見せよ! 妾が裁きに!」
 撃ち出された光線が、周囲に浮かぶ無数の氷塊の氷面を鏡面にして乱反射し、無条の光線となって全てを撃ち抜くべく戦場全体を駆け巡っていく。
 全てを撃ち抜き凍てつかせる筈の絶対零度の光線を、けれども、敬輔は灼熱の輝きを発した黒剣から迸る焔で焼き払いながら、大地を擦過させたそれを地面から撥ね上げ紅を帯びた斬撃波を撃ち出し、アポリアの左脇腹から右胸に掛けてを斬り裂いた。
「キリカ……お姉ちゃん……!」
「さぁ……ダンス・マカブルだ」
 敬輔の呼びかけにキリカが鮫の笑みを浮かべながら、物理法則を無視して、全てを押し潰し、引き裂かんばかりの圧倒的な馬力を誇る念動力で、強引に光線の軌道を捻じ曲げて、敬輔のつけた傷跡にその光線を注ぎ込みながら、念動力を乗せたナガクニを、傷ついたその胸に突き立てようとする。
 アポリアの髪によって生み出された腕が主の危機に気がつき、直ぐさまそこに割り込む様に入るが、キリカの念動力によって無理矢理胎内に捻じ込まれた光線が、アポリアの体を内側から圧壊させんと猛威を振るった。
「クハハハハハハハハッ!」
 ――パシャリッ。
 黒き血の飛沫が宙を舞う。
「愉快、愉快じゃのぅ! それでこそ、十字皇や妾の髪との戦いを切り抜けてきた猟兵達よ!」
 その血飛沫も意に介さず、キリカがアポリアに突き立てたナガクニを見て、紛れもない賞賛の笑い声を上げながら、アポリアは肺を空気で膨らませて強引に突き立てられたナガクニを吹き飛ばし、髪で編んだ巨大な拳を、辺り一帯を薙ぎ払う様に振るいながら、自らの額の瞳を天空へと向けた。
 アポリアの瞳から放たれた光を受けた雨粒達が、新たな氷塊となって、怒濤の如く大地に降り注ぎ、振るわれた巨大な拳による空圧が、ガシャン、と甲高い音を立てて凍てついた大地を割り、鋭い破片となって、敬輔達に襲いかかってくる。
「……ちっ!」
「そう簡単に倒れてはくれないか……だが……!」
 舌打ちを一つしながら、響達が加勢して迎撃してくれている氷塊と、大地から隆起した氷柱の様な氷の欠片に貫かれるのを避け、反射的に敬輔とキリカが飛びずさる。
 ――そして、それが合図だった。
 それまで、影の様に敬輔の後ろに付き従っていたリーヴァルディと、キリカの後を追いすがっていた瑠香が、敬輔達と交代して、前に出たのだ。
「! リーヴァルディさん!」
 アイナが敬輔と入れ替わったリーヴァルディが無惨に氷の欠片に貫かれ、上空から降り注ぐ氷塊に押し潰される姿を見て、悲鳴を上げた時。
 ――まるで陽炎の様に、リーヴァルディの姿が掻き消えた。
「……そうだね。それが最善か」
 エトワール&ノワールを結合して、マシンガンモードに切り替えてその引金を引き、瑠香と、彼女を庇う様に前に飛び出した奏に向かって落ちてきていた氷塊を撃ち抜きつつ、氷の欠片が突き刺さり負傷した敬輔と全身を絶え間なく襲う苦痛に口から血を零しながらも愉悦の笑みを浮かべるキリカの傷を、星杖シュテルシアから放つ星の光で癒しながら。
 暁音が、そっと静かに呟いた。
「暁音さん、何を……?」
 白銀の翼を羽ばたかせ、上空から誘導弾を放ち、臨音によって威力の削がれた氷塊を撃ち落としていた瞬の呟きは……。
「――たとえ、お前がどんな存在で、どんな過去があろうとも」
 歌う様に紡がれる、先程氷塊に押し潰された筈のリーヴァルディの低い、奇妙な声の反射によって、掻き消される。
(「ありがとう……“写し身の呪詛”」)
 それは……囮だった。
 リーヴァルディの体から正に今、無秩序に発せられている、濃厚な吸血鬼の気配を、瑠香が放出しているそれと重ね合わせて景色に紛れ込ませ、そして、アポリアの懐に飛び込むために、必須の『囮』。
「私がすべき事は、ただ一つ」
(「後60秒を切った、か」)
 これだけの猟兵達の連携を得ても尚、この一打を浴びせかけるのに、よもやこれ程の時間が掛かるとは。
 つくづく、流石に神を名乗るだけの存在なのね、と、思いながら。
 ―—その背に血色の魔力の双翼を羽ばたかせ。
 ―—口元の犬歯を鋭く伸ばし。
 ……ヒュン。
 そんな吸血鬼と化したリーヴァルディが、その過去を切り刻み、未来を奪う大鎌の一撃を、吸血鬼特有の膂力を存分に生かして、振るう。
「お前を討ち果たし、全てを終わらせること。ただ……それだけよ」
 そう、目的を告げながら振るわれた大鎌に気がついた髪で出来た腕の一本が、リーヴァルディに向かって振り下ろされるが……。
 ――パチンッ!
 不意に、指を鳴らす鋭い音が、辺り一帯に響き渡った。
「隙ありですね……Icicle Edge!」
 何時の間にか抜剣していたルーンソード『スプラッシュ』を天へと突き出し、前面に展開していたActive Ice Wallを自在に操る魔法陣を、正面から天空へと掲げるウィリアム。
 先の戦いで暁音から借り受けた魔力を使い、氷と風の精霊達への協力を呼びかけたウィリアムが作り出した魔法陣が、大気中の水分を結合させて、300を越える氷柱の槍を作り出し、そのままリーヴァルディを狙った手に向かって降り注いだ。
 上空から降り注ぐ氷柱の槍に、アポリアが咄嗟に気がつき、鋭い一瞥を再び天へとくれて、破壊のために撒散らした氷塊を盾と為させて防御しようとするが、それは続けざまのリーヴァルディと、瑠香の追撃の隙を作るのには、十分過ぎる程の時間。
「……生憎、神との因縁なら、間に合っているわ」
 告げながら、『過去を刻むもの』……グリムリーパーを双剣形態……『未来を閉ざすもの』へと変形させたリーヴァルディが双剣で絶え間なき連続突きをアポリアに放つ。
「ほぅ……お主……!」
 ウィリアムからの妨害が無ければ、恐らく『事の始まり』をアポリアが見逃すことは無かっただろう。
 だが……死者の霊魂を焼却して自らの力と化す、自らに現時点で残された全魔力を注ぎ込んだ『未来を閉ざすもの』による無数の突きの『事の始まり』を読み切れなかったアポリアは、無数の突きによる攻撃を受け、全身に幾重もの傷を負っていく。
 そこに……。
「滅せよ、下郎」
 リーヴァルディの全てを圧死させかねないほどの吸血鬼としての殺気をも乗り越えて、鎖を帯びた瑠香が、裸体を絡め取る鎖が絡みつき、禍々しき黒き血色を放つ物干竿・村正を構えて懐に踏み込み、横一文字にそれを薙ぎ払う。
 そこに籠められるは、魔を破壊する、強大なる黒き『魔』の力。
 闇に生き、闇に沈めるその一撃は、アポリアの体の一部を容赦なく刈り取り、アポリアの片目を切り裂き、潰していた。
「クククククッ……! 妾の片目を潰すか、『魔』を帯びた娘よ! じゃが……お主の力では、妾には遠く及ばぬ!」
 片目を斬り裂かれながらも、それでも尚、止まることの無い拳を大上段から振り下ろすアポリア。
 瑠香とリーヴァルディが反射的にそれを避けるが、瑠香がいた大地は砕かれて鋭い氷の破片となりて、彼女達を貫かんと迫り来る。
「何度でも、止めてみせる……!」
 誓いと共にシンがサイキックエナジーでそれらの破片を掴み取り、逆にアポリアに向けて叩き付けるように解き放てば。
「その手は既に読めているぞ」
 喀血しながらもキリカが不敵な笑みを浮かべて、残された破片を念動力で絡め取り、アポリアの左目を貫いた。
「ぐっ……!」
 左目を貫かれ、脳神経まで達しようというその砕かれた氷塊の破片に、流石のアポリアも呻き声を上げるが、尚、額に開いている第3の瞳の眼光は鈍らず、猟兵達を睥睨していた。
(「後一息……かな」)
 魔力が空になりそうな程に星々の光を思わせる癒しの光を星杖シュテルシアから放出し、天空から降り注いだ2度目の氷塊の塊から大地で戦う敬輔達を守り抜いた、響や奏、アイナや臨音の傷を癒しながら、暁音が思う。

 ――何時終わるとも知れぬ闘争のダンスは、愈々、終曲に向かって走り始めた。


(「ハァ……ハァ……」)
 敬輔の全身を、激しい疲労と苦痛が襲う。
 口元からは血が滴り落ち、体から意識が抜け落ちてしまいそうな……そんな感覚があるにも関わらず、意識野は何処までも澄み渡っていて、面白い様にアポリアの次の動きが読めてしまう。
 何よりも……全身が熱い。
 熱くて、熱くて……もう、どうしようもない、と言う程に。
「そろそろ、終わりにしたいところだ」
 そんな敬輔を横目に捉えながら、全身を苛む激しい痛みをものともせず、口元に笑窪を刻んだキリカが、ナガクニを逆手に持ち替えれば。
「後少し……か。次の一撃で、終わらせるぞ」
 疲労から、肩で息をつきながらもその目に宿る光は決して衰えない、シンが灼星剣と村正を自然体に持ち直して軽く頷く。
「皆、後一息だ。最後まで、気張っていくよ!」
 シンの頷きに呼応する様に、真紅の竜が一つ嘶き、軽くその喉を撫でてやりながら、巨大な氷塊に赤熱したブレイズランスを投擲して叩き落した響が、青白き焔を纏う、ブレイズブルーを構えれば。
「ええ、そうですね。後少し、です」
 誰かに危機がある度に、仲間を守り続けた奏が小さく頷き、氷塊や、光線を受けて傷だらけになっているエレメンタル・シールドを正面に構え、ブレイズセイバーの平をアポリアに見せつけ、より仲間を庇いやすい自然な体勢へと移行させ、全身を青い光で覆って守りを固め。
「そろそろ、決着を付けましょう」
 瞬が、自らの背の純白の翼を力強く広げ、六花の杖と、月虹の杖の先端に魔力を集中させていく。
「……ん。そう、ね」
(「後、30秒だし……ね」)
 自らの体を蝕んでくる吸血鬼の力に耐えきれる限界を頭の中で数えながら、リーヴァルディが『過去を刻むもの』を背中に担げば。
「……滅する」
 瑠香が、鎖の巻き付いた物干竿・村正を周囲の漆黒の鎖と共に正面に構える。
「あと一息、だな」
 火神ノ社ノ御神刀と化している臨音がそれに同意して。
「氷の魔法騎士として、最後まで力をお貸ししますよ、皆さん」
 ウィリアムが、『スプラッシュ』で最後の詠唱とも言うべき魔法陣を描き出すと同時に。
「~♪ ~♪」
 ――歌が、響いた。
 かの即興曲は、凍てつく地に再びの恵みを齎さんと剣取りし英雄達を称える歌。
 高らかに歌われたそれが、アイナの周囲に無数の巨大な氷塊を展開させている。
「It’s Show Time!」
 サウンドウエポンを通して、アイナがそう叫びをあげるとほぼ同時に。
 彼女の周囲を漂っていた巨大な氷塊が、嵐の如く、アポリアへと降り注いだ。


「妾と同じ技を使うか……小娘!」
 2度目の氷塊の雨を防ぎきり、その力を学んだアイナの歌声によって、天空から降り注ぐ雨が結合した巨大な氷塊の猛攻を受けながら。
 咆哮と共に、アポリアがそれらの氷塊を破壊せんと全く同じ質量の巨大な氷塊を作り上げようとする。
 そこで動いたのは……。
「もう一撃……もう一撃です! Icicle Edge!」
 天空に掲げていた『スプラッシュ』を振り下ろした、ウィリアム。
 叫びと共に再び解き放たれた300を越える氷柱の槍が、怒濤の如くアポリアを襲撃するべく、アイナの呼び出した氷塊と混ざり合って氷の竜巻と化して襲い掛かった。
「流石にこれは……厳しいのぅ! じゃが……ここからが本当に楽しい闘争の始まりよ!」
 疲れることを知らぬアポリアが呵々大笑しながら、無数の氷塊と氷柱の槍によって生み出された氷嵐を見切るべく全身の感覚を研ぎ澄まして、その攻撃を躱そうとするが……如何せん、第3の目と、手達の仮の『目』だけでは限界があった。
 ――グシャリ、グシャ、ドスッ……!
 氷塊同士がぶつかる鈍い音の間隙を潜り抜けた氷柱の槍が、アポリアの片足を貫き、その場に縫い止めている。
「お前は、骸の海、その深淵に……還れぇっ!」
 バサリ、と二対の御使いの翼を羽ばたかせ。
 アイナが槍形態のDeathBladeZweiを投擲し、もう片足を縫い留めた。
「だああああっ!」
 火神ノ社ノ御神刀の姿のままに、その剣先から、無数の霊符を撃ち出す臨音。
 破魔の炎を纏った霊符が、両足を貫かれついに動きを止めたアポリアの傷だらけの体に張り付き、その体を焼き尽くさんと一陣の炎となって栄える。
「ぐっ……ぐぅぅぅぅぅぅっ!」
 破魔の炎にその体を焼かれながらも、尚、額の第3の目をアイナ達に向け、光線を撃ち出すアポリア。
 だが、その時にはシンが空中を浮遊しながら半回転しつつ、サイキックエナジーを駆使して砕け散った氷塊を支配してその視線を遮る氷の盾にして、空中に浮かぶウィリアムが最初に呼び出した氷塊の影から飛び出し、もう一撃、と言わんばかりに襲撃を掛けている。
 そのタイミングは……。
「一気に行くよ!」
『援護します!』
 蒼白い炎を纏ったブレイズブルーを構えた響、そして、奏と瞬……真宮家の者達と、ほぼ同時だった。
「これで燃え尽きな……オブリビオン!」
 響が叫びながら真紅の竜にバレルロールをさせ、ブレイズブルーをアポリアの頭頂部に向かって突き出している。
「ほぅ!? 何とまぁ……!」
 まるでサーカスの曲芸の様な響と真紅の竜の体捌きに感嘆の声を上げながら、アポリアが第3の目で響を見た瞬間。
「はぁぁぁぁぁ!」
 奏がまるで三角跳びをする様に自由に空中を飛翔しながら、青いドレスを翻して目くらましにして、ひゅん、とエレメンタル・シールドでシールド・バッシュ。
 盾による強打が、アポリアに蹈鞴を踏ませ、その隙を見逃さず、返す刃でブレイズセイバーを振るい、アポリアの体を逆袈裟に切り裂く奏。
「続けて行きます……!」
 すかさず瞬が月読の紋の入った虹色の弾丸を六花の杖から、蒼白い光を放つ弾丸を月虹の杖から撃ちだしている。
 強烈な眩い輝きを伴った二つの弾丸が、奏と敬輔によって刻み込まれたX字型の切傷を捕らえて爆ぜ、グラリ、とアポリアを大きく傾がせ、がら空きになった胸元に、響のブレイズブルーがズブリ、と深々と突き刺さった。
 ――まるで墓標に突き立った、杭の様に。
「がぼぉ……っ!」
 喀血するアポリアの黒い血飛沫を氷塊の盾で防ぎながら、残像を曳いたシンが、灼星剣を横薙ぎに振るってアポリアの体を切り裂き、更に上段から村正を振り下ろす。
 超新星爆発の如き力を伴った灼星剣の一閃が、アポリアの体を横一文字に深々と切り裂き、村正の鍔が美しく、何処か妖艶な輝きを発しながら、アポリアの顔から腰にかけてを切り裂こうと、震えていた。
「がぁっ……!」
 シンの唐竹割を、強大な手が辛うじて防御するが、今度はその防御を貫いて、一陣の風と共に、鋭く鈍い銀色の刃の切っ先がアポリアへと疾る。
 それは……。
「降りやまない雨が無い様に……」
 そう朗々と、歌い上げる様に呟きながら。
 体中から破滅の音が聞こえてきそうな、そんな状態においても尚、闘争への愉悦を隠し切れなかったか、笑みを浮かべたままのキリカが突き出した、ナガクニの銀刃。
「……全てに、終わりは来るものだ」
 滔々と告げながらキリカによって撥ね上げられた凶刃から主を守らんと、束ねられた髪による腕がシンの一撃を受け止めた腕と重なり合って防御しようとする。
 だが、その腕の望みは、叶わない。
 何故なら、一筋の銀光が、その手に絡みつく様に纏わりついてその腕を縛り上げ……更に瞬によって撃ち込まれた虹色の弾丸が麻痺毒となって、アポリアの全身を這い回り、その体を、侵食していたから。
 ナガクニによる斬撃に本体の右腕を斬り飛ばされたアポリアが驚愕の表情を浮かべ、同時に悟る。
(「今の妾の体は、もう、妾の自由には……」)
 ――動かない……否。
「動け、ないよね。ここまで、くれば……」
 神気を練り込んだ聖なる銀糸でその腕を絡め捕った張本人……限界に達したか、共苦の痛みが伝えてくる世界の痛み……いつもであれば、十分耐えきれるだけの苦痛……と極度の疲労に表情を険しくしながらも、荒い息をつきつつじっ、とアポリアを見つめて断言する暁音。
(「流石にそろそろ……限界、かな」)
 ――でも……構わない。
 倒れるのがこの後であるのならば、何も問題はない。
(「だって、此処には……」)
「……終わりだ」
 呟きながら、楔の様に大地に撃ち込んでいた黒い鎖を引き抜き、自らの裸体を覆うそれを、鎖分銅の様に振るいながら、物干竿・村正に魔を断ち切る『魔』を乗せて、アポリアの左腕を断ち切る瑠香や。
「吸血鬼狩りの……いいえ。神殺しの業を、知るが良い」
 既に傷だらけになり、ボロボロになっているアポリアの体を更に抉り、その存在事抹消せんと、全ての魔力を叩きこんだ、人には決して真似出来ぬアクロバティックな動きで過去を刻むものを再び変形させた双剣……未来を閉ざすもので、アポリアの全身を切り刻むリーヴァルディや。
「今度こそ……お前は、終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 絶叫と、共に。
 大上段から白い靄と共に、赤黒く光り輝く剣を唐竹割に振り下ろす敬輔の様な……。
(「皆が……仲間がいるから……ね」)
 ――プツン。
 不意に、暁音の視界が真っ暗闇に閉ざされる。
 暁音がそのまま地面に向かって慣性の儘に落下していくのと、敬輔が少女達の魂の炎を乗せた、赤黒く光り輝く黒剣を最後まで振り切り、アポリアを真っ二つに切り裂き……仕上げ、とばかりに未来を閉ざすものを、二つに分かたれた第3の目にリーヴァルディが突き立てたのは……ほぼ同時に起きた、この戦いの、終焉だった。


「! 暁音!」
 極限の疲労に遂に限界がきて地面へと落下していく暁音を、傍にいた響が咄嗟に抱き止め、真紅の竜を駆って大地に下ろす。
 ――お兄ちゃん。
 ――わたし達も、そろそろ……。
「うん……限界、だね……」
 少女達の言の葉に敬輔が小さく頷き、そのまま音を立てて鎧が外れていくのを耳にしながら、リーヴァルディと共に、折り重なる様にして倒れかける。
「! 敬輔!」
「リーヴァルディさん!」
 傍にいたシンがそれに気が付いて倒れかける敬輔に肩を掴ませてやり、奏が意識を飛ばしかけたリーヴァルディが大地に接吻するよりも前に、彼女の前に飛来、そのまま彼女の体を抱き止め、彼女の事を抱き抱えていた。
「……闘争の時間は、これで終わりだ。アポリア……」
 ヴェートマ・ノクテルトのリミッターを掛け、脳への過負荷から全身から流れ出していた血を止血したキリカが、灰と化して消えたアポリアを見送る様に呟きながら、軽い脳震盪を覚えて思わずその場で軽く蹈鞴を踏む。
 目の前で閃光弾を受けた様なチカチカとした光が、瞼の前でちらつき、その場に立っているのがやっと、と言った様子のキリカに瞬が労りの念を持って尋ねている。「大丈夫ですか?」
「気にするな。……偶にはこういうのも、悪くはない」
 足元をふらつかせながらも口元に笑みを浮かべたまま答えるキリカに、瞬が微苦笑を零し、諦めた様に軽く頭を横に振った。
「やっと……やっと終わったんですね……手強かった」
 ペタン、とお行儀悪く尻もちを地面について重く疲労の息を吐くウィリアム。
 その吐息はもう白くなく……透明になっている。
 アイナの手元から離れて人間形態に戻った臨音がウィリアムの吐く息に気が付き、空を見上げた。
「あの雨……、あいつの仕業だったのかよ……」
 ――そう。
 雨雲は晴れ、ダークセイヴァーの『夜』が、空から顔を覗かせていた。
 結果として先程よりも遥かに弛緩した空気を、感じ取ったのであろうか。
 瑠香に巻き付いていた漆黒の鎖がなりを潜め、普段の衣装姿に戻り、どっ、と肩に重圧と疲労を感じた瑠香が、物干竿・村正を地面に突き立て、荒い息をついている。
「ハァ、ハァ……私は、今、何を……? どの様に……?」
 自分がどうなっていたのかをまるで理解できていない瑠香の呟きに、気絶した敬輔に肩を貸して帰る支度を整えていたシンが呼び掛けた。
「大丈夫だ。アポリアは……お前の知っていたあの敵は、終わった。倒すことが、出来たんだ」
「……そう、ですか」
 シンの呟きに、荒く息をつきながら、肩の力を抜いて頷く瑠香。
 自分の事についてはよく分からないけれども、此度の戦いは、ついに終わりを迎えた、と言う訳だ。
 それはきっと、喜ぶべき事なのだろう。
 瑠香の何処か安堵の籠められた呟きにアイナがそっと微笑を浮かべ、静かにその一言を口にする。
「……さぁ、皆」

 ――帰ろう。私達の、日常へ。
 
 アイナのその言葉にシン達が頷くと、まるで、それを合図にしたかの様に蒼と銀の光が、優しくアイナ達を包み込む。

 ———気が付けば猟兵達は、陽炎の様に、その場から姿を消していた。

 戦いの成果を、その身で確かに実感しながら。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年04月19日


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#ダークセイヴァー


30




種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠白石・明日香です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はフレイ・ブラッドセイバーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト