お忘れですよ、スーサイダー
●進む未来に愛はなく
現実逃避をしていただけで、頭のどこかでは分かっていたのだと思います。
みんなの言うような幸せな故郷なんて、私にはないってこと。
「ああ、その通り。進む先でお前を待つのは、絶望だけだ」
醜い傷跡、ただれた肌に、ゆがんだ骨。
この世界に来たその時から私にあったコレが、私を待っているすべてなのでしょう。
「帰るのならば、お前はそこに一人きり。共に歩んだ友も、もういない」
そうなのです。
ここまで私の手を引いてくれた彼らは。
勇敢な子も、優しかった子も。みんなみんな、私を置いて逝ってしまった。
目の前で、綺麗なあの人が笑う。
進む先に、私を愛してくれた人なんて居なかった。
それを思い出してしまったのならば、差し出されたこの手を取って、より暗い場所へ落ちていく方が楽になれる。
……だから私は。
──だけど私は。
●独りと独り
「誰かー! 手伝ってちょうだい、アリスラビリンスで大変なのよー!」
一方、グリモアベースにて。
きゃあきゃあと騒ぐ人狼のグリモア猟兵の呼びかけを聞いた猟兵達が、今日も今日とてグリモアの光に集まります。
この騒ぎが示すのは、すなわちオブリビオンが踏みにじろうとする誰かの未来。
それを阻止せんと集まった彼らを見た人狼が、叫びを止めて自分に向けられた視線へと向き直ります。
「よく集まってくれたわね! アリスラビリンスで、アリスさんがオウガに狙われちゃってるの!」
語られるのは、人食いの鬼と哀れな迷い子の邂逅。
ですが、常の事件と、これから始まる物語には、ちょっぴり異変があったのでした。
過酷な冒険を乗り越え、数多の別れを経て自分の故郷につながる『扉』へとたどり着いたアリス。
ですが、そこで彼女が思い出したのは、自分を待つ優しい故郷ではなく、正反対の悲惨な日々でした。
「……このアリスさん、私と同じか、ちょっと年下くらいかしら。ご両親もお友達も、あまり良い人じゃあないみたいなの」
暗い表情で語る人狼の前に投影される、予知の映像。
UDCアース、そこにおける学生服に身を包んだアリスの身体には、無数の古傷が見て取れるでしょう。
それまでの冒険で、友誼を結んだ仲間たちを失った彼女にとって、その記憶はどれほど残酷に心を穿ったことでしょうか。
扉の先に、夢見た幸福で平和な世界は待っていない。
それを知ってしまったアリスに忍び寄るのは、美しい女王の姿をした、オウガでした。
「彼女は、アリスさんとお友達になれると思っているの。前へ進めなくなったアリスさんの居る不思議の国を絶望の国に変えてしまって、自分と同じオウガにしてしまえばって」
オウガは、不思議の国を、アリスの心を映した鏡にしてしまったのです。
綺麗な宝石、楽しいおもちゃ。
愉快で楽しいものにだけ包まれて、未来へも過去にも、どこにも行かず、ただ立ち止まっているための場所。
それが、今の彼女達がいる、絶望の国なのです。
「現地に行ったらまず、オウガを倒してもらわなきゃだけど……それだけじゃ、アリスさんはあそこで蹲ったままだわ」
故郷への扉を開くのか、閉ざしたままにしてしまうのか。
どちらを選ぶにしても、今のアリスの折れた心では、その選択の先へ進むことはできないのでしょう。
命と、心。
二つを救うため、猟兵達はグリモアの光の中を進み始めるのでした。
北辰
オープニングの閲覧ありがとうございます。
愛されぬ生は不幸でしょうか。愛せぬ生が不幸でしょうか。北辰です。
アリスラビリンスにおける絶望の国。
オウガに魅入られたアリスを救うため、猟兵様の力をお貸しください。
●1章
オウガ『雪の女王』との対決です。
独りきりのアリスに共感を示した彼女は友を守ろうと猟兵の排除を試みる為、これを倒してください。
また、彼女はこの不思議の国を絶望に染め上げた張本人であり、この国の性質に最も精通しております。
素直に答えてもらうには工夫が必要でしょうが、次章以降に役立つ情報を聞き出す試みも無駄ではないかもしれません。
アリスは、戦闘域外で座り込んでいます。
基本的に安全であり、話しかければ簡単な問いかけには答えるでしょう。
ただし、戦闘中にアリスに関わろうとする、言い換えれば危険に巻き込みかねない行為は、オウガの激しい怒りを買う恐れもあります。
●2章以降
『あるもの』を材料にして生み出されたおもちゃが散らばる世界にて、アリスをどうにか勇気づけてあげてください。
アリスの周りには宝石や可愛らしい人形などの楽しいおもちゃが散らばっておりますが、アリスから離れた個所には、血に濡れた刃物や遺書、過剰な量の睡眠薬など、不穏な気配漂う物品もあるようです。
●アリス
UDCアースで失踪が確認されている、複数の古傷を持った女子中学生です。
容姿と出身世界が判明しているので、UDコープの調査が完了しています。
家庭環境は良くなく、両親から日常的に虐待を受けていたこと、内向的な性格が災いし、学校でも浮いてしまい軽度ないじめを受けていたことが判明しています。
皆様は、ベースを立つ際にこれらの情報を得ていたことにされてもかまいません。
ここまでの閲覧、ありがとうございました。
それでは、お忘れ物のなきよう確認の上、プレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『雪の女王』
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POW : 【戦場変更(雪原)】ホワイトワールド
【戦場を雪原(敵対者に状態異常付与:攻撃力】【、防御力の大幅低下、持続ダメージ効果)】【変更する。又、対象の生命力を徐々に奪う事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 【戦場変更(雪原)】クライオニクスブリザード
【戦場を雪原に変更する。又、指先】を向けた対象に、【UCを無力化し、生命力を急速に奪う吹雪】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ : 【戦場変更(雪原)】春の訪れない世界
【戦場を雪原に変更する、又、目を閉じる事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【除き、視認外の全対象を完全凍結させる冷気】で攻撃する。
👑11
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●凍てつくような孤独の中に
一人はさみしい。
一人はさむい。
私がそうであるのは、自業自得と呼ぶべきなのだけど。
何故、あの子は一人で震えていたのだろうと、不思議だった。
私のように、愛した誰かを凍らせてしまったのかと問えば、否と答えた。
私のように、躯の海の怪異となって人を食ったかと問えば、否と答えた。
聞くほどに、何も悪いことをしていない筈の少女が蹲っているのが、とても不思議だった。
私には彼女は救えないし、扉の先にも、彼女の救いは無いのだろう。
だから、私と同じになればいいと思った。
私と同じ怪物になってしまえば、人の身を捨て永きを揺蕩う怪物になれば、いつかは彼女を救う何かに巡り逢えるかも知れないのだから。
未来にそんなものがあるかどうかも、私には分からないけれど。
これくらいしか、できることは無いのだから。
お前達が邪魔だ、イェーガー。
アリソン・リンドベルイ
【WIZ 庭園迷宮・四季彩の匣】
貴方が望む停滞を否定はしないけれど…。ええ、残念ですが、時は先に進み、生命は老いて朽ちるのです。美しい純白の雪原も、春になれば泥濘に汚れて消えるもの。そうね、時計の針を進める為になら、悪者にだってなるのよ。
【範囲攻撃、地形の利用、破魔】 さあ、雪の女王。永遠の冬が支配するか、季節が巡って次が来るのか。この花々で占うといたしましょう…!
緑指の杖を握りしめ、冬の寒さと相対します。…明るく咲く向日葵。深く澄んだ竜胆、荒野に咲くエリカの花。季節が移ろえば次の花が、いつだって何度だって咲くのですから…!
…アリスが望むなら、不要だと言うなら、花を消します。たとえ負けても。
●冬春夏秋
足を止めてしまったアリス。
その停滞を肯定し、傍に寄り添おうというその行いは、優しさではあるのでしょう。
だけど、どれだけ願おうとも時は前へと進み、生命は老いて朽ちていき。
オウガの作り出す美しい雪原が目の前に広がろうと、それらもまた、いずれは融け落ち、泥と共に消えていくものでしかないのです。
その時、そこに佇み続けるアリスを救うものは残っていないのだから。
アリスに寄り添い、それでも救えぬオウガは、誰かが止めなければいけない。
時計の針は、誰かが進めなければならないと、『彼女』は知っているのです。
「……そうね、その為なら、悪者にだってなるのよ」
ともすれば、蹲ったアリスよりも小さな少女。
アリソン・リンドベルイ(貪婪なる植物相・f21599)は、その若草の瞳に決意を宿し、オウガと己に宣するのです。
「悪、か。オウガを殺せれば、それでいいのか?」
「いいえ、知っているだけ。優しさだけでは救えぬものもあるのだと!」
短い言葉のやり取りの後、女王が片目を閉ざせば戦いは始まります。
離れた地点にいるアリスを見つめる眼差しはそのままに、それ以外のすべてを凍てつかせんとする冷気が世界を覆うとも、アリソンはそれに臆したりはしません。
女王が支配するのが永久に凍てつく冬の世界ならば、林檎の杖を握る少女が呼ぶのはまさしく対極の力。
【庭園迷宮・四季彩の匣(メイズガーデン・フラワーボックス)】、そう名付けられた廃墟を彩るのは、移りゆく季節を象徴するような花の数々です。
雪を受け止める向日葵が凍てつき割れたのなら、その破片を竜胆が優しく受け止めて。
力強く咲くエリカに続くように次々に咲く花は、女王がもたらす過酷な冬にも決して負けません。
何度でも、何度でも。
アリソンは女王の冷気に怯むことなく立ち向かいながらも、視線をちらとアリスへと向けるのです。
アリソンが、凍てつく雪の世界に膝を屈することがあるとするならば。
それは、他ならぬアリスがそれを拒絶した時なのですから。
「無駄だよ、出会ったばかりの私やお前が何をしようと、彼女は気にも留めないだろう」
ぽつりと、アリソンの思考に答えるのは、相対する女王でした。
「──親切ね?」
「あの子に妙な干渉をされたくないだけだ」
吹き付ける吹雪はより強く。
冷酷で、苛烈で、どこかそうではない物を持ったオウガを前に、アリソンも目を細めます。
彼女が何を思おうと、アリスを救うにはこのオウガを打ち倒さねばならないのですから。
だからこそ、彼女はもう一度杖を握りしめて叫ぶのです。
「さあ、雪の女王。永遠の冬が支配するか、季節が巡って次が来るのか。この花々で占うといたしましょう……!」
成功
🔵🔵🔴
御園・ゆず
絶望の涯に咲く花は
その花の咲く景色は
きっと、とても美しい
雪の王女
貴女はきっと、優しいヒトだ
アリスを友とし、守ろうとするその気持ちはとても尊いモノ
でも、でもね
アリスはいつか向き合わなければいけない時が来る
優しく寄り添うだけじゃ、ぐずぐずになっちゃうの
だから教えて、この場所の事
アリスを助ける方法、貴女なら知っているでしょう?
雪の後に花は咲く
その水を糧にして
花と共に生きるの
ぎゅうっと、無様にも、縋り付いて
あたたかな体が、この心が
貴女の氷を溶かしますように
動けなくなったら道化芝居を演じるあたしに任せよう
彼女はきっと、見事な体捌きでオウガを攻撃するんだろうな
銃で、鋼糸で、プッシュダガーで
●その雪を融かすのは
長い冬を越えて、雪解けの水を浴びて。
永久に続くような絶望の涯に咲く花は。
その花の、咲く景色は。
きっと、とても美しいのでしょう。
「雪の女王。貴女はきっと、優しいヒトだ」
敵であるオウガへそう言い放つ御園・ゆず(群像劇・f19168)のそばかすが浮いた顔を、女王はわずかに丸くした目で見つめ返します。
「優しい……? これは、優しいという事なのか?」
女王に、ゆずの言葉の意味は分かりません。
彼女には、優しくしてくれる人も、優しくする人も、今までいなかったのですから。
「うん。アリスを友とし、守ろうとするその気持ちはとても尊いモノ」
それを重ねて肯定するゆずの声は、大きくはないけれど迷いなく。
ですが。
「でもね」
ずうっと、そうしていることはできないのです。
永久に凍てつく雪原の中でなお、アリスには絶望に向き合わねばならない日が来るのです。
「優しく寄り添うだけじゃ、ぐずぐずになっちゃうの」
「……泣いて蹲るあの子を、ただ傷つける世界へ帰せと言うのか」
ざわりと、女王の気配が変われば、彼女の周囲に氷柱が浮かび上がります。
怒らせてしまったのでしょうか、鋭い切っ先をこちらに向ける女王へ、しかしゆずは歩き出します。
ただ優しいだけでは駄目だと、彼女は知っているのですから。
アリスにとっても、オウガにとっても。
打ち出される氷の刃が、ゆずの身体を引き裂きます。
ただでさえ、立っているだけでも凍ってしまいそうな雪原の中、ゆずの身体からはどんどん熱が消えていき。
だけど、雪の後に咲く花は、その水と共に生きていくのだと知っているのだから。
「……捕まえた」
「っ、何を
……!?」
ボロボロな、無様な姿になろうとも、彼女は女王へと縋りつくのです。
優しい彼女を閉じ込める氷が、融けますようにと。
「教えて、この場所の事。アリスを助ける方法、貴女なら知っているでしょう?」
「……知らん、離せ!」
女王がゆずを突き飛ばせば、ボロボロになった彼女がひらりと着地します。
傷ついた身体の少女は、しかしアリスを救うことを諦めたりはしません。
それがたとえ【道化芝居(ファルス)】であろうとも。
「知らないのなら何度でも聞くよ! このあたしがね!」
豹変するゆずが笑うのとは対照的に、彼女に抱き着かれた胴を庇うような女王はしかめ面で相対します。
そこは、じくじくと熱を持ったように疼くのですから、何度もこれをされるなんて溜まりません。
「私は、知らない。この国を作っただけだ」
「ん?」
「アリスの心を映した。嬉しいもの。そうでないもの。悲しいもの。そうでないもの」
女王が語る言葉を受けた《あたし》がアリスを見やります。
煌びやかな宝石、愛らしい人形。
それらに囲まれ蹲る彼女の、しかし離れた場所にあるナイフや手紙は、アリスラビリンスのものと言うより……。
「んー、察するものはあるけど、それじゃあどうにも……」
「『アリス』の心を映した。彼女のものと──そうでないもの」
ぽりぽりと頬をかいて言葉を返そうとしたその目が見開かれます。
それを受けた女王は、語るべきは終わったと言わんばかりに冷気を放ち。
「……『それ』が、あの子を救うとは思わない。確実に傷つける」
「──それだけじゃないかもと、思い始めたんじゃないの?」
ナイフを構えた少女は、どこか悲し気に語る女王へ笑います。
やはり彼女は、優しいのだろうと。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
(真空での活動すら可能とする●環境耐性はあれどUC相手、時間は掛けられませんが…)
境遇に同情し寄り添おうとした善意は認めます
ですが騎士として、オウガ…怪物への変性を許すわけにはいかないのです
それに、少女とこれまで歩みを共にしていたアリス達
その死にオウガが関わっていないと言い切れますか
この世界で別離と孤独を齎した存在に変異させ、他者に同じ苦しみを与える…それを彼女が望みましたか!?
お答えください、雪の女王
その運命と対価に貴女は、この世界は少女に何を齎すのかを
(センサーで瞳孔や声音等●情報収集、虚実をある程度●見切り)
UC大盾殴打で戦場破壊
雪の目潰しに紛れワイヤーアンカーで捕縛
剣で刺し貫き
●孤独でなかったアリスの国
星を失った、暗くて寒い黒い海。
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が生まれたのは、そんな世界でした。
そんな彼であっても、オウガである女王がもたらす雪原の極寒は堪えるものです。
「……境遇に同情し、寄り添おうとした善意は認めます」
時間は、かけられません。
トリテレイアの中で、オウガに対する微かな理解と、アリスを救うための使命感は衝突し。
「ですが騎士として、オウガ……怪物への変性を許すわけにはいかないのです」
それは、騎士の矜持となって、機械の声として発せられるのです。
「騎士、か。今更だな」
トリテレイアの掲げる大楯へ、女王の放つ氷の刃が突き刺さります。
共に向けられる声には、一切の熱は無く。
それは、オブリビオンが猟兵へと向ける当たり前の敵意のようで。
何故、アリスがあれほどに傷つくまで来てくれなかったのだと、責めるようにも聞こえるのです。
それを受け止める白い騎士。
その中に芽生えるのは、アリスへの憐憫と、オウガへの義憤です。
「──少女とこれまで歩みを共にしていたアリス達!」
「…………!」
「その死に、オウガが関わっていないと言い切れますか!」
トリテレイアが叫ぶのは、この世界ではありふれた悲劇。
蹲る少女に寄り添っていたはずの仲間達。
彼女からそれを奪ったのは、目の前の女王と同じ存在ではないかと考えるのは、ごく当たり前の考えでした。
「この世界で別離と孤独を齎した存在に変異させ、他者に同じ苦しみを与える……それを彼女が望みましたか!?」
オウガになるとは、人を喰う鬼となることです。
ただ不幸であっただけの少女が、それを望んでいるのか。
トリテレイアは、それを女王へと問わずにはいられなかったのです。
「──望んでいないよ」
だからこそ、騎士には。
「是とも否とも、絶望に疲れ切った彼女には選べない……なら、私が選ぶほかなかろう」
女王の瞳を揺らしたそれが何であるのか。
口にすることは、できませんでした。
「……ッ!」
剣を抜いたトリテレイアが、盾に身を隠しながらも距離を詰めていきます。
彼に人と同じ口があったのなら、歯を食いしばっていたのかもしれません。
大きく振りかざした盾が雪原を打ち砕けば、そのまま女王へと迫る彼の剣は、勢いよく突き出されます。
「ちっ……ぐぅ!」
それを避けようとした女王の足を引くのは、鉄の縄。
肩を貫いた剣で女王を止めたトリテレイアは、あえてそのまま肉薄していきます。
彼女には、聞かねばならないことがあるのですから。
「……お答えください、雪の女王」
「その運命と対価に貴女は、この世界は少女に何を齎すのかを」
あくまで、その問いはアリスを救うために。
それに対して、女王は痛みとは別の苦痛で顔をゆがめて答えるのです。
「何も与えられないさ……私は」
瞬間、女王と騎士の間には氷の槌が作られて。
それがオウガの身体を打ち、彼女はトリテレイアの剣から強引に逃れてみせます。
「そもそも私はミスをした。この国は、アリスの、あの子のものだけで満たされるはずだったんだ」
この傷といい、慣れぬことはするものじゃない、と。
肩を抑えながらも、笑う女王へ対してトリテレイアは疑念を深めます。
この絶望の国は、アリスの心を映したものである……グリモアベースで受けた説明で、語られていたはずです。
そんな彼の混乱に、女王は意趣返しのように追い打ちをかけるのでした。
「お前が言っただろう……? 『アリス』は、唯一ではなかったと」
成功
🔵🔵🔴
霧島・ニュイ
アリス放置
優しいね、君は
あの子と友達になろうとしてるんだ?
でも、さ
あの子から仲間を奪ったのは、君と同じオウガじゃないのかな?
一緒にしたいんだろうけど、それじゃあの子は報われないよ
きっと楽なんだろうけど、それじゃ進めない
何も悪い事をしていない子だからこそ、そのままで居させてあげたい
一緒に堕とさせやしないから
ごめんね
君も救えれば良かった
彼女を救う方法は考えるよ
UC
保護者と慕う人から教えて貰った通りに
指先や狙いを読んで、攻撃を見切り躱す
隙を縫って近づく
フェイントを織り交ぜてだまし討ち
タイミングをずらしたり、相手の注意が行っていない時を狙う
スナイパーで命中率を上げて、2回攻撃で回数を増やし銃を一斉発射
●一緒には行けないから
「優しいね、君は。あの子と友達になろうとしてるんだ?」
雪の女王と相対し。
霧島・ニュイ(霧雲・f12029)は、素直な思いを口にします。
独りぼっちになってしまったアリスに寄り添おうという女王の意志は、確かに優しさと呼べるのかもしれません。
けれども、彼女がオウガであるのなら。
「あの子から仲間を奪ったのは、君と同じオウガじゃないのかな?」
ニュイは、その優しさを否定しなければいけないのです。
「──そうだ、だからこそ、あの子には私と同じになってもらわなければならない」
ニュイの言葉に答える女王の眼差しは冷たく、彼女が作る雪原と合わせて、すべてを凍らせてしまうかのような冷気を作ります。
伸ばされる指先が呼ぶのは、奇跡すらも凍り付く激しい吹雪。
走ってそれから逃れながらも、ニュイは言葉を続けます。
「それじゃ、あの子は報われないよ。きっと楽なんだろうけど、それじゃ進めない」
オウガである女王が共にいるには、アリスをオウガに変えてしまわねばならないのは、その通りなのでしょう。
怪物となって、同胞に寄り添われながらこの世界をさまようのは、きっと今よりも楽になれるのでしょう。
けれど、人食いの鬼となることは。
何も悪い事をしていないアリスを救われぬ怪物に堕としてしまうということは、ニュイにとって認めてはならないことなのです。
吹雪は、ますます勢いを増してニュイへと向かいます。
その風は激しく冷たく、躱して女王へと迫るのは不可能にも思えるほどです。
しかし、ニュイは知っています。
吹雪がどれほど早くても、操る女王はそうではないことを。
そして、その隙を突くための方法を。
「っ、捉えたか!」
女王の吹雪が、逃げ続けたニュイをついに捉えます。
当然、吹雪の向こうの影が止まったのなら、女王は確実にそれを仕留めようと、ますます激しい吹雪を向けるのです。
だからこそ、そこに残されたのが彼の上着だけだと気づかぬまま。
パーカー姿になったニュイが走ります。
吹雪によって視界と聴覚が制限された女王が気付くころには、ニュイとの距離は幾ばくもなく。
咄嗟に吹雪を生む指を迫る猟兵へと向ける女王ではありますが、ニュイが勢いよく跳躍するのはそれよりも早く。
女王を飛び越えるように跳ぶニュイが両手に構えるのは、どこか冷たさを感じさせる大小の銃。
ニュイと女王、見下ろす者と見下ろされる者の視線が、一瞬ぶつかります。
引き金を引く前に、ニュイが何か言葉を紡ごうと口を開きます。
彼が語った女王の優しさ。
それに対する敬意に、嘘偽りなど無いのですから。
出来ることなら、女王もアリスも、すべて救うことができたなら。
「ごめんね──彼女を救う方法は考えるよ」
だから、せめてこれだけは。
目の前のオウガが最も望むだろう誓いを口にしたニュイは、その引き金を静かに引くのでした。
成功
🔵🔵🔴
御園・桜花
「ありがとうございます。貴女はアリスに優しく寄り添った。オウガにも優しさはあるのだと証明して下さった。それでも貴女の行動が、絶望を深めることにしか繋がらないから…ごめんなさい、私達は優しい貴女を滅ぼします」
高速・多重詠唱で銃弾に破魔と炎の属性攻撃乗せ制圧射撃
女王の足が止まったらUC「エントの召喚」
一気に地下から刺し貫く
女王の攻撃は第六感や見切りで躱す
冷気は氷結耐性と環境耐性で凌ぐ
女王が消え行く時は敬意を込めて破魔と慰め乗せた子守唄を歌い送る
「ありがとう…ごめんなさい。それでも貴女の行動は、アリスの糧になったと思います。何時かまた見える時があったなら、今度は共に生きられる貴女でありますように」
●何時かまた見える時があったなら
さて。
『雪の女王』と呼ばれる目の前の女は、オブリビオンであり、オウガです。
世界を停止に導く過去の残滓、アリスの恐怖と命を啜る人食いの鬼。
根本的に、存在そのものが生者とは相いれない、そのような存在が、彼女でした。
それは、よく承知の上で。
「……ありがとうございます」
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は笑顔を作り、女王へと語りかけるのでした。
「……言葉と行動が、いかにも矛盾しているように見えるが?」
「そんなことはありませんよ……残念ではありますが」
言葉と共に向けられるのは、機関銃が吐き出す銃弾の嵐。
桜花によって魔を打ち砕く熱を与えられたそれは、オウガである女王にも確かな傷を刻むことでしょう。
雪原の上を滑るように回避する女王はチラと桜花の様子を見やりますが、極寒の中に立つ彼女の顔色は、不自然なほど血色良く映るのです。
「(凍え死ぬのを待つのは、現実的ではない、か……)」
かといって、視線外に桜花を置き、不可避の冷気で一気に仕留めるのも難しいのです。
両眼を閉じてしまえば、目の前の猟兵が何をしようと、女王の冷気が牙を剥くことでしょう。
ですが、この国にはアリスがいるのです。
彼女を巻き込まぬよう、女王は片目を開けたままそちらを見つめなくてはいけませんし、それを理解した桜花は、素早く女王の視界へと飛び込んでいきます。
女王にとって、この状況は決してよくはありません。
それでも彼女は、アリスを危険にさらさないことこそを一番に考えていたのでした。
「やはり、そうなのですね」
「む?」
そして、それこそ。
それこそが、桜花が女王へと抱く感情の根源でもありました。
「貴女はアリスに優しく寄り添った。オウガにも優しさはあるのだと証明して下さった」
オブリビオンは世界を停止に導き、オウガは人を食らう。
そのルールが変わらぬ以上、桜花は彼女と戦わねばいけません。
ですが、これはただの鬼退治ではないのです。
オウガがアリスへと向けた優しさは、きっと少女の糧となる。
そう信じるからこそ、桜花は女王へ、感謝と慈悲をもって向き合うのです。
「それが、何に……ぐっ!?」
弾丸の嵐に耐えかねて、氷の壁を作りその陰に隠れようとした女王の胸を、地中から伸びた杭が貫きます。
【エントの召喚】、桜花の同胞が繰り出す一撃は、それまでに猟兵達が女王へ刻んだ傷と合わせて、戦いの決着を決めるものでもありました。
女王の身体から、急速に何かが抜けていきます。
過去の存在である彼女がこの現世に留まるために失くしてはならない何かが、失われていくのです。
そんな喪失感の中、女王の胸中に去来するのは恐怖ではなく、無念でした。
「……結局、あの子には何もしてやれずじまいか」
ただ、アリスの傍にいて、救うことも終わらせることもしてあげられなかったわが身。
自分と彼女の出会いには何の意味もなかったと、そう思考する女王の耳に、静かな音が届きます。
どうにか、そちらへ目を向ける女王が見るのは、穏やかな顔で子守唄を歌う桜花の姿。
何故だか、その歌は女王の無念をそっと解きほぐし、彼女の表情を安らいだものに変えていきます。
そうして、女王の姿がすべて消えてしまったのなら、桜花もまた歌を止め。
「──それでも貴女の行動は、アリスの糧になったと思います」
沢山のおもちゃに囲まれたアリス。
もし、それらの物品が彼女を救う足掛かりになるのなら、それはまさしく女王が残した物なのですから。
いつか、あの女王がその優しさと共に生きられれば。
過去が生まれ変わる世界から来た桜花はそんなことも考えながら、アリスの下へと歩き出したのでした。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『おもちゃの国が終わらない』
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POW : 泣かれても暴れられても、アリスをおもちゃから引きはがします
SPD : アリスが遊ぶ前におもちゃで遊ぶことで、アリスが遊び続けるのを阻止します
WIZ : 遊びも楽しいけど、勉強も楽しいよと、お勉強に興味をもたせて遊びを終わらせます。
👑11
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●忘れ形見は気づかない
あの人が居なくなるのを、私はぼうっと見つめます。
仲間達を食べてしまったオウガと同じ存在が消えたのだと、喜べばいいのでしょうか。
蹲る私に手を差し伸べてくれた人が消えてしまったのだと、悲しめばいいのでしょうか。
その、どれもを感じることもできない私は、目の前のおもちゃをただ見つめます。
扉の向こうにある故郷がどんな場所だろうと、食べられてしまう恐怖に怯えてこの世界を彷徨うよりは、まだ立ち向ける絶望なのかもしれません。
死んでいった仲間達、一番年下で、弱い私をそれでも気にかけてくれた彼らが居たら、きっと勇気を出せと、背中を押してくれたのでしょう。
もしかすると、あの女王さんも、私がそれを望んだのなら──。
だけど、思考はそこで止まって。
もう、疲れてしまいました。
●忘れ形見に気づいたら
この絶望の国は、アリスの心を映したのだと女王は語りました。
国中に散らばる品々は、アリスの心、意思や思い出それそのものだと。
アリスの周りには楽しいおもちゃを集めて、そうでない恐ろしいもの、故郷を思い出させるような物は遠くへと。
はて。
誰かが教科書を拾いました。
教えを与える側になるための、ちょっと難しい本。
誰かがボールを拾いました。
いつかそれで世界へ羽ばたくことを夢見た誰かの、傷だらけのボール。
誰かが手紙を拾いました。
死にゆく誰かが、それでも生きて欲しい誰かへとあてた。
『アリス』だけの心を映そうとして、少しだけ失敗した女王様。
それは果たして、本当に過ちであったのか。
猟兵達はそれを決めるために、アリスの下へと歩みだしました。
トリテレイア・ゼロナイン
女王が国を作る際の材料のアリスの記憶
その中で交流した『アリス達』の情報が人生で強く印象に残ったとしたら…
落ちている物とUDコープの調査で得られた情報を照らし合わせ●情報収集
『アリス』のものでない物拾い集め
(UCの補助併用)
扉の前で動くことが出来ない…
貴女の現状を助ける為、私達は訪れました
先ずは自己紹介を
教えてくださいますか、これまでの貴女の事を
…お辛かったことでしょう
ですが、ご友人と過ごした時間は楽しかったのですね
お互いの支えや夢、希望を語った一時もあったのでは?
私が触れることが出来る程に
涙を流しても構いません
思い出してください
あなた達が何を標に歩んできたのか
貴女の標…夢は見つかりそうですか?
アリソン・リンドベルイ
【WIZ 庭園守護する蜂軍団】
ーーー私は、冬の女王のようには優しくありませんので。ええ、ええ。貴女が立ち上がるまで、ただ待つだけです。
ユーベルコードで呼び出した蜂たちに、『アリス』のUDCアースにおける記憶の欠片を集めて貰うのよ。それも、他の猟兵さんがアリスを勇気づけるのに使えないような、辛い思い出、痛い記憶、苦しい過去…そういった過去の断片を。蜂たちは悪意、害意に敏感だから、その残り香を辿って【失せ物探し】で集めて回るのよ。
血濡れた刃物、怪しい薬…それらの意味は、私には解りません。ですけれど、ねぇ、『アリス』 この欠片は貴女に必要かしら? 望むのなら渡し、否定と拒絶があるならば死蔵しましょう
●禍福交えた思い出を
蹲るアリスが、自分を覆う大きな影に気づき、顔を上げます。
それは、大して意味のある行動ではありません。視界の変化に反応しただけに過ぎない彼女の瞳は、どこかよどんだ、光を宿さぬものでした。
「初めまして、アリス様。私はトリテレイア、貴女を助けに来た、猟兵の一人です」
自分の身体がとても大きいことを知っているトリテレイアは、小柄なアリスを怖がらせまいと膝をつき、できるだけ近い目線で名を名乗ります。
けれども、それに対するアリスの反応は曖昧なものでした。
オウガが居なくなったとしても、彼女の中にはもはや、生きていくための、前に進むための気力が残っていないのでしょう。
それを強く認識したトリテレイアは、一度、自分の背後に立っている、もう一人の猟兵へと視線を向けるのです。
──私は、冬の女王のようには優しくありませんので。
そう語り、アリスが立ち上がるまで待つのだと語ったアリソンの腕には、赤く汚れた刃物や、不穏な空気を纏うロープの輪、瓶に入った何かの薬品……彼女の呼んだ蜂の集めた、良からぬものがこびり付いた物品が抱えられています。
アリスを待つと語ったアリソンの行動は、トリテレイアにとってもありがたいものです。
身体が、何よりも心が弱り切ってしまった小さなアリス。
彼女にこんな物を近づけたら、余計に負担をかけてしまうのではないかと考える彼の思考は、当然の推測でしょう。
それでも、恐ろしい物品を集めるアリソンを止めなかったのは。
きっと、アリスを傷つけてしまうソレも大事なものだと、どこかで分かっていたからなのでしょうか。
「アリス様。無理に立ってくれなど、私も彼女も言いません。まずは、教えていただけないでしょうか……これまでの貴女の事を」
ならば、それまでの最初の道筋を作るのは自分の役目。
トリテレイアの電子回路は努めて優しい声を作り、アリスへと問いかけます。
自らの全機能をかけてアリスを労わろうとする彼の顔をじいっと見つめるアリスは、やがてぽつりぽつり、このアリスラビリンスに来てからのことを話し始めました。
記憶を無くしてこの世界に降り立ち、恐怖と混乱のまま世界を彷徨い始めた事。
何故ついているかも分からない傷は彼女の身体を蝕み続け、オウガから逃げることすらままならなかった事。
訳も分からず死ぬのだと思っていたら、自分と同じ立場のアリス達が手を引いて、助けてくれた事。
……助け合いながら、時には取りこぼしながらも自分の扉がある世界までたどり着き。
仲間と語った幸せな故郷など、自分には無かったのだと知った事。
「……お辛かったことでしょう」
どうにか語り終えたアリスに対するトリテレイアの言葉は、ただそれだけ。
トリテレイアはウォーマシン、戦うために生み出された強い機械です。
ただ動くことすらままならず、トリテレイアなら一蹴するだろう小さなオウガにも怯えながらここまでたどり着いた彼女。
その苦難、その恐怖に真に寄り添うことができない彼は、ただ、その痛みを認めることで彼女へと向き合うのです。
「…………」
アリソンもまた、アリスの回顧を静かに聞いていました。
アリスの歩みは、彼女自身のものです。
この国に散らばる物品がそれを象徴するのだとしても、アリソンがそれを理解してやることはできません。
「ですが、ご友人と過ごした時間は楽しかったのですね」
もし、アリスを理解し、寄り添えるものがあるのなら。
蹲ってしまった彼女の背を、押してやれるものがあるのなら。
「お互いの支えや夢、希望を語った一時もあったのでは? ──私が触れることが出来る程に」
女王が遺した、アリスの得ていた絆なのでしょう。
「っ! ……それ、は、なんで……?」
トリテレイアが取り出したそれを見たアリスの変化は劇的でした。
力なく虚空を見つめるだけだった眼は見開かれ、声にも少しだけ活力が戻ります。
彼は、UDコープからアリスの情報を得ていました。
だからこそ、女王が語った『アリスのもの』ではあり得ないもの……目の前の彼女のものではないものを、トリテレイアは集めておりました。
……実のところ、アリスが『ソレ』を見るのは初めてでした。
学校の先生になりたいのだと語った、姉のようだったアリスが故郷に残したその本を、アリスは見たことがありません。
スポーツが好きで堪らないのだと言っていた背の高いアリスが故郷に残したそのボールを、アリスは見たことがありません。
「どうぞ……持っている資格があるとすれば、それは貴女でしょう」
「ぁ……」
ありがとう。そう、目の前の騎士に言いたかったのに、アリスの喉は震え、言うことを聞きません。
非力な彼女は、倒れた仲間達を連れていくことはできませんでした。
手から零れ落ちた、二度と還らないはずの絆を腕に抱いた彼女の頭の中はぐちゃぐちゃで、涙が溢れて止まらないのです。
トリテレイアは、それを決して止めようとはしません。
アリスが確かに持っていた繋がりを思い出してもらう、その役目は確かに果たしたのですから。
「アリス。泣いている時に申し訳ないけれど、私はあなたに尋ねなければいけないの」
座り込んだままのアリス。
それでも、その足に僅かな力が戻った事を悟ったアリソンが、トリテレイアと入れ替わるようにアリスへと話しかけます。
彼女自身の標を、見つけてもらわなければいけないのですから。
「ねぇ、『アリス』──この欠片はあなたに必要かしら?」
手に持っているのは、アリスに与えられた絆とは正反対の存在にも思える、不吉な物品達。
アリスラビリンスに招かれる『アリス』。
その多くは、故郷で幸せに生きていたとはとても言えないような者達も多くいるのです。
辛い思い出、痛い記憶、苦しい過去……きっと、目の前のアリス以外の仲間達も、その心の奥底にこれを抱えていたのでしょう。
「うあ、あぁ……」
その過去を見たアリスは、それまでの様子とは一転して、怯えたように声を上げるのです。
ですからアリソンは、一度持ち上げたものを下ろして、言葉を続けます。
「恐ろしいのなら、隠してあげる。あなたが触れない、見えないところへね」
決めるのは、アリスです。
アリソンにもトリテレイアにも、この『過去』の意味は分からないのですから。
「ぁ、駄目っ!」
だからこそ、アリスが一番の大きな声で答えた時。
辛くても苦しくても、確かに『彼ら』であったそれを置き去りにはしたくないと、自覚しきれぬ感情に戸惑う彼女を見た時。
二人の猟兵は、絶望に染まり切っていた少女の眼が変わり始めたのだと、確かに理解したのでした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御園・桜花
遠くの物を確認
特に文書類は全て手早く中を確認
アリスの状態を観察しながら手を取り嫌がられないようなら優しく手の甲を撫でながら話す
「今まで良く頑張りましたね」
「貴女はもう、声のあげ方を知った筈です」
「貴方が困ったと意思表示をしたから愉快な仲間が貴女の手助けをした。貴女が止まる意思を見せたからオウガは貴女を仲間にしようとした。声をあげること意思を見せることで世界は変えられます。このまま此処で貴女を助けた愉快な仲間達を食い殺す存在にならないよう、貴女の元居た世界を貴女の意思で変えるよう…帰りませんか」
「そして…今の貴女のような子供達を、今度は貴女が、仲間達のように手を差しのべられる大人になるために」
霧島・ニュイ
ありがとう、女王様
どうか向こうでは一人ではありませんように
やあ、僕はニュイ
君は?
国を見て
遠くを見て
……ああ、君はこんなに辛い思いをしたんだね
辛かったね……頑張ってくれてありがとう
これまでの頑張り、無駄にしちゃだめだよ
傍には心慰めてくれるものもあるよ
手紙を見せて
これは…?覚えてる?
君宛の想いを綴ったお手紙じゃないかな?
君には誰か大切な人がいて、その誰かは君へ生きてほしいと望んでる
その人の事を思い出してみて
それは大事な事じゃないのかな?
僕と友達になろう?
向こうに戻っても僕とは会えるよ
時間かける準備は出来ているよ
さあ、なんでも話してみて
疲れたなら、頭を撫でて慰めて
先に進みたいならどんと背中を押すから
●この言葉を、あなたへ
「やはり、あのアリスさんから極端に離れた場所には、何もないようでした」
「とはいえ、そこそこ量があったね……遠くを担当してくれて助かったよ」
少し離れた個所からアリスが居る方へと走り寄る桜花を、ニュイが出迎えます。
二人がそれぞれ手に持っていたのは、何の変哲もない封筒に入っていた手紙。
手分けして集められたその手紙がきっとアリスを助けてくれるのではないかと信じる二人がそれを開けば、その内容を見た表情はわずかに強張ります。
「これは、遺書……いえ、断末魔とでも呼ぶべきなのでしょうか」
桜花が口にする通り、その手紙に綴られているのは、死にゆく誰かの、今わの際の意志に他なりません。
苦痛、恐怖、絶望。理不尽に生命を奪われる彼らが、その刹那に思い返した、故郷での苦難。
悲嘆と苦悩に満ちたその生々しい文章は、読むだけでもその瞬間をありありと想起させるのです。
手紙の『前半』は、どれもそのような内容でした。
「だけど皆、最後は仲間を案じる言葉で終わっている……相手は、どんどん減ってしまっているけれど」
どうか逃げてくれてるといい。どうか帰れるといい。
どうか、生きていて欲しい。
恐怖と絶望に塗れたその言葉は、しかし最後は共に同じ道を歩いた仲間への言葉で終わります。
言葉を投げかける相手は、次第に減っていて。
最後の手紙では、小さな少女を置き去りにすることを悔やみ、それでも前へ進んで欲しいと、誰かの言葉がそこにはあります。
ちらと、桜花は他の猟兵と語り合い、わずかに気力を取り戻しているように見える少女に目をやり。
「──行きましょう。これは彼女を傷つけるかもしれませんが……それでも、彼女の為の言葉です」
ニュイも、その言葉にまっすぐな眼差しと共に頷きます。
歩き出した桜花に遅れぬよう後に続くニュイは、しかし自分達が少し前まで戦っていた場所を、一度だけ振り返って。
「ありがとう、女王様……どうか向こうでは、一人ではありませんように」
その意思は、もう聞けないけれど。
アリスへ、仲間の言葉を残してくれたあの女王へ、ぽつりと感謝を述べるのでした。
「さて……初めまして、私は桜花と申します」
「僕はニュイ、君は?」
アリスの手を取りながら笑いかける桜花と、座り込むアリスと目線を合わせるようにしゃがみ込むニュイに対して、アリスは目を丸くしながら、あぐあぐと言葉にならぬ声を上げます。
それに、笑いながら手を振って無理をしないようにと伝えるのはニュイ。この国を見れば、アリスが頑張ってきたことや、今まさしく混乱の中にあるだろうことはよく分かります。
辛い思いをしてきた彼女に、決して負担をかけたくはない。
それは、ニュイと桜花の両方に共通する思いでした。
「まず……僕たちは、これを渡しに来たんだ」
そうして、ニュイが差し出す手紙を受け取り、その文面に目を落としたアリスの目が見開かれます。
その顔は、可哀そうなほどに悲しみに歪んで……けれども、揺れる彼女の瞳から滴が落ちたのは、一通目を最後まで読んでからでした。
アリスは、あふれる涙を拭う暇すら惜しいというように、渡された手紙を次々に読み始めます。
桜花は、ただ静かにそれを見守り、ニュイもまた、何も語ることはありません。
──君には誰か大切な人がいて、その誰かは君へ生きてほしいと望んでる。
伝えなくてはいけないその事実を、もはや口にする必要は無いのだという確信がありました。
「こっちは……あのクローゼットの人だ。大きなクローゼットが喋りだしたから、びっくりして動けなくなっちゃったんですけど……オウガが来たとき、私の手を引っ張って、自分の中に隠してくれたの」
アリスに向けられた手紙の中には、彼女と故郷を異にする、この地の仲間も含まれておりました。
されど、そこに込められた彼女の背中を押す言葉は変わらず。
どうして皆、ここまで自分のことを気遣ってくれるのだろう?
そう言うようなアリスへと、桜花が答えます。
「貴方が困ったと意思表示をしたから、愉快な仲間が貴女の手助けをした」
「貴女が止まる意思を見せたから、オウガは貴女を仲間にしようとした」
この世界で逃げ惑うアリスは、ただ世界に翻弄されるだけの存在……アリス達は、自分のことをそう定義するでしょう。
けれど、それだけではないのだと、この桜の精は知っているのです。
「声をあげること、意思を見せることで世界は変えられます。このまま此処で貴女を助けた仲間達を食い殺す存在にならないよう、貴女の元居た世界を貴女の意思で変えるよう……帰りませんか」
とうとう、明確に示された帰還の選択肢。
今のアリスならば、故郷に臆することもなく、選ぶべき道を選ぶことができるはずだと、桜花は信じます。
「だ、だけど……あっちに帰っても、私は……」
最後にアリスの足を引くのは、味方などいなかった故郷での日々。
絶望の中、それでも自分に生きて欲しいと願った仲間の意志に応えたい気持ちはあります。
けれども、ただ蹲る事しかできなかった故郷で、仲間に恥じない生き方が自分にできるのでしょうか?
「──僕と友達になろう?」
だからこそ、ニュイは彼女の帰るその場所にも、彼女の味方になる者はいるのだと教えてやるのです。
「……迷うなら、目指してみませんか? 今の貴女のような子供達を、今度は貴女が、仲間達のように手を差しのべられる大人になるんです」
だからこそ、桜花は彼女の帰るその場所でも、道を歩むための行き先を示してやるのです。
「わ、私は……」
二人とも、それっきり。
アリスの背中を押しても、決してそれを押し付けるようなことはしません。
立てるまで、いくらでも待とう。
そうアリスに伝える彼らの眼差しは、肌に触れる手は、ただ暖かく。
それは、アリスに宿った勇気の炎を、もう少しだけ大きくしてくれたのですから。
「か、帰りたい……私、元の世界に帰りたいです!」
アリスは、自分の声で、意思で。
その言葉を猟兵達へと伝えるのでした。
大成功
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第3章 集団戦
『ミミクリープラント』
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POW : 噛み付く
【球根部分に存在する大きな顎】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【習性と味】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
SPD : 突撃捕食
【根を高速で動かして、突進攻撃を放つ。それ】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき攻撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ : 振り回す
【根や舌を伸ばして振り回しての攻撃】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
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●沢山の温もりと、一つの冷たさを連れて
ミミクリープラントは、あまり賢いオウガではありません。
愉快な仲間のような花に化け、扉に近づくアリスを一気に襲い食べてしまう彼らは、さして複雑な思考など必要ないのです。
されども、今、彼らに生じた思いは、明確な戸惑いでした。
猟兵と共に現れた、ちょっと大きなリュックを背負ったアリス。
彼女の目に宿るその意思の強さは、残酷なこの世界に疲れ切り、故郷への扉に力なく縋るような、常の獲物のそれではありません。
何かがおかしい。
そう感じるミミクリープラントは、しかし次の瞬間大慌てで地面から飛び出すのです。
植物である彼らが、大の苦手とする冷たい空気。
それが、周りに急に満ちたのですから。
「あ、あれ……なんで!?」
動揺するのは、アリスの側も同じでした。
仲間たちが残したものを持って帰りたい、そんな自分の我がままを聞いてくれた猟兵の盾になればと、この世界に来た時から使えるようになっていた不思議な力を使った彼女。
けれども、現れたのは彼女の知るガラスではなく、冷たい雪でできた迷宮だったのです!
どうして、いつの間に?
予想もしなかった出来事に彼女は混乱するけれど、その顔に浮かぶ焦りは、不思議と小さいもの。
なんとなく、分かるのですから。
この雪は決して、自分の敵ではないということが。
●
※アリスは、『戦場全体に、【透明な雪】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。』という効果のユーベルコードで猟兵を援護します。
雪は猟兵の視界を制限はしませんし、アリスは猟兵の指示に従い迷宮の形状を変えられるので、物質的に邪魔になることもないでしょう。
硬い壁を盾として使用できるほか、植物であるミミクリープラントは冷気によって弱体化いたします。
御園・桜花
「この迷路は、雪の女王と貴女の交流の証です。声をあげること、その意思をきちんと見せることで、オウガである彼女すら貴女に向き合って手助けしようと考えた。貴女の積んだ経験が、貴女自身を彩った…とても素敵なUCです」
アリスの手を軽く握り勇気づけるよう撫でる
「彼女は彼女の世界に帰ります…邪魔はさせません」
UC「桜吹雪」に高速・多重詠唱で破魔と氷結の属性上乗せし敵本体・根・舌全てを切り刻む
敵の攻撃は第六感や見切りで躱す
アリスに当たりそうな攻撃は全て盾受け
「学校の養護教諭、病院のお医者さん、児童相談所の職員さん。貴女が声をあげて踏み出せば、きっと世界も変わっていきます。貴女の世界で、またお会いしましょう」
トリテレイア・ゼロナイン
(雪の女王、貴女の温情はアリスに届いていたようです。それを知る術がもう無いのはオウガの罪…では無く我が身の能力不足と考えたいですね)
少々、ご協力いただけますか?
透明だろうと実体あればセンサーの●情報収集で迷路構造を●見切るは容易
迷路を移動し戦いつつ敵を誘き寄せ、一か所に集め
今です、通路を塞いでください
逃げ場を失った集団に全格納銃器から放つUCで焼却
これから待ち受ける問題には別の対処法が必要です
ですが、この世界を訪れる前とは違い貴女は多くを得ました
その全てが、貴女を護ることでしょう
(今更、と詰る女王は正鵠を得ていましたね。
これからの貴女の人生に騎士など出る幕の無いことを願います)
どうか、お元気で
アリソン・リンドベルイ
【WIZ 愛し﨟たし毒の華】
そうね。なら、最後に一つだけ。貴女の人生は、貴女のモノ。だから、貴女は自分が生きることにもっと我侭で良いのよ。助けを求めても良いのだし、逃げても良いの。―――だから、どうかお元気で。
【愛し﨟たし毒の華、範囲攻撃、毒使い】 ……花は疑似餌なのでしょうか。花に顔があるのがこの世界らしいと思うけれど…そうね、私はもう少し穏やかに咲く花が好きよ? 舞い散らせるのは無数の花弁、エンゼルトランペット、マウンテンローレル、ウォーターヘムロック―――全て有毒です。 【空中浮遊、オーラ防御】でミミクリープラントの攻撃を躱すことを試みつつ、花の嵐で相手を包みます、ね。
霧島・ニュイ
女王様…
ありがとう、この子に連れ添ってくれて
必ず帰すから、幸せへ導くからずっと見守っていてね
で、なんだかグロテスクな植物だねー?
いきなり化けの皮見せてくれて助かったけどさー
出来るだけ距離を取り続ける
迷宮の壁を盾にし、また動きや根を見て動きを見切り躱す
最初の一撃から避ける
アリスの方に行きそうなら制圧射撃で阻害
スピード勝負だよ
二丁の銃で攻撃
スナイパーで命中率を上げ、2回攻撃で手数を増やす
クイックドロウで更に速さを上げて
狙うべきはまず根
動きを阻害し、鈍くした後は大きな的へ一斉射撃
撃って撃って
動かなくなるまで弾丸を放てば良いよね
各個撃破を目指す
弱った対象にはすかさずトドメを
アリスにエールを送り見送る
●雪解け
ぎぃぎぃと醜悪な牙を剥きだしにして吠えるオウガ達が、迷宮の壁を激しく攻撃します。
雪の壁が纏う冷気は確かに彼らの動きを鈍くするけれど、アリスには、それを攻撃に応用する力はなく。
彼女を守る壁とて、鉄壁であれど無敵には程遠いもの……いずれは砕け散り、少女を守る役目を果たせなくなるでしょう。
「──とても素敵なユーベルコードです」
けれど、その護りは。
戦いに緊張するアリスの手をそっと握る桜花が、微笑と共にその言葉を伝える時間を与えてくれるのです。
「この迷路は、雪の女王と貴女の交流の証です。貴女が声を上げたから、オウガである彼女すらも貴女に手を差し伸べた……貴女の経験に彩られる、貴女の奇跡です」
「私と……あの人の……?」
きょとんと桜花の顔を見返すアリスは、その視線を、オウガ達による殴打音が響く壁へと向けるのです。
両手に銃を構えたニュイがその視線に気づき振り返れば、そこには最初から柔らかい微笑が。
それは、アリスと、彼女が呼んだ雪へと向けられるもの。
一方で、そちらより手前、アリソンから香るのは、ほのかな花の香。
彼女は、アリスの視線に言葉なく振り返り、安心させるように口元を弓なりに引き上げます。
そして、もっとも壁に近い場所に立つ、もっとも大きな猟兵。
トリテレイアは、オウガの遺志に対する一つの答えを、女王自身が知ることは無いという現実に少しだけ想いを馳せてから。
「……少々、ご協力いただけますか?」
大楯を構えながら、守られるだけだった少女へ、助けを求めるのです。
「一体、大物がいますね……私が抑えますので、残りを」
「うん、任せて」
雪で作られた純白の迷宮を、二人の猟兵が駆けていきます。
アリスの作った穴から飛び込んだトリテレイアが盾を構えてオウガの集団に突進すれば、壁の上に陣取るニュイは、銃を乱射し浮足立ったオウガを追い立てます。
二丁の拳銃を構えたニュイの射撃はまさしく正確無比。
前へと駆けていくトリテレイアの背後から放たれる銃弾は、彼に掠る事もなく、オウガへと突き刺さっていくのです。
そして、トリテレイアの大きな身体が頑丈な盾と共に突っ込んでくるのですから、オウガはたまらず迷宮の中を敗走していきます。
「……うん、いい調子。次の角はルートを絞って、トリテレイアが離脱したら、オウガは隔離しちゃいましょう」
「は、はい……!」
それを、若干離れたところから見つめるのは、桜花とアリソンに付き添われたアリスです。
桜花に守られながら迷宮を変化させていくアリスは、アリソンの指示に従いながら、迷宮の壁を変化させて、猟兵たちをサポートします。
そうした後に、やがてオウガはひと所へと集められ。
トリテレイアが距離を取ったその道は雪の壁がすぐに塞いでしまい、壁の上を行くニュイにも、オウガの根は届くはずもありません。
「では……仕上げですね」
「ええ、あの花はこの世界らしいけど……そろそろ、穏やかに咲く花も恋しいもの」
桜と毒花の花吹雪が、絶え間ない銃弾の嵐が、雪すら焦がす炎が。
逃げ場を失ったオウガたちを一気に飲み込んでいきます。
猟兵たちのユーベルコードによる激しい一斉攻撃は、激しい熱風を生み、壁の上に座っていたアリスも、たまらず眼を閉じて腕で顔を庇います。
そして、彼女が再び目を開いたのなら。
溶け落ちた迷宮の中には、オウガの影はまるでなく。
それは、彼女が帰る上での最後の障害が払われたことの、何よりの証明でした。
「あ、あの……ありがとうございました! 本当に……あの……」
元の世界へつながる扉の前。
緊張した面持ちのアリスは、猟兵たちへと向き直り言葉を選びながら声を上げます。
オロオロと視線を宙に泳がすアリスは、一度その視線をニュイへと向けた後、縋るように残りの三人へと向けるのです。
ニュイが約束してくれたように、また会えるのかと問いたい気持ちと、その答えを知るのが怖い気持ち。
その二つに揺れ、口を開くことのできないアリスに笑いかけ、最初にエールを送るのは、やはりニュイです。
「大丈夫……味方だよ、みんな」
「ええ、此処にいる我々だけではありません……学校の養護教諭、病院のお医者さん、児童相談所の職員さん。貴女が声をあげて踏み出せば、きっと世界も変わっていきます。貴女の世界で、またお会いしましょう」
優しい声色でそう言い聞かせるニュイに続くように、桜花もアリスへと笑顔を向けて彼女の背中を押してやります。
味方は居ると、また会おうと語る桜花へ、アリスが向けるのはどこかホッとしたような笑顔。
「……貴女はこの世界のゲームに勝ちました。ですが、これから待ち受ける問題には、別の対処法が必要です」
一方で、どこか固い口調で語りだすのはトリテレイア。
彼は騎士です。アリスの生きていたUDCアースにはいないような、人を救うための騎士。
彼女のこれからに、自分の出る幕など無いほうがいい。彼は、心からそう考えているのです。
「──この世界を訪れる前とは違い貴女は多くを得ました。その全てが、貴女を護ることでしょう」
「っ! ……はい!」
そして、きっとそうであってくれるだろうと。
アリスには、もうおとぎ話の騎士は必要ないと、機械の声はハッキリと伝えます。
そして、アリスが最後に目線を合わせるのはアリソン。
小さなアリスに最も近しい見目をした彼女は、おずおずと見つめてくる少女に、苦笑しながらため息をつきます。
何かを言ってやらねば、彼女は扉をくぐりそうにありません。
「そうね。なら、最後に一つだけ──貴女の人生は、貴女のモノ」
「だから、貴女は自分が生きることにもっと我侭で良いのよ。助けを求めても良いのだし、逃げても良いの」
―――だから、どうかお元気で。
その言葉に、目を潤ませながら頭を下げるアリスは、しかしもう泣くことはありません。
もう一度、ニュイを、桜花を、トリテレイアを、アリソンを見つめ、目に焼き付けて。
仲間たちの思い出が詰まったおもちゃを背負ったアリスは、扉に手を添えて。
そっと、それを押し開きました。
●忘れません
──お元気でしょうか。
突然、手紙をお送りして、ビックリさせてしまったらごめんなさい。
アンダーグラウンド・ディフェンス・コープの人は、グリモアベースの猟兵さんを通して届くよう計らってくれると仰ってくださいましたので、こうして筆を執っています。
あれから、お会いできていない人もいるけれど、色んなことが起こりました。
扉をくぐった先で、オウガを知っている大人の人たちに迎えられ(UDCと言われて、最初は何のことか分からなくて混乱しちゃいました)。
皆さんに教えてもらった通りに助けてほしいと言ったら、本当に手を差し伸べてくれる人たちがいました。
今はコープの施設にお世話になっていて、あの世界に行く前が嘘みたいに穏やかに暮らせています。
嘘みたい、と言ったら。
女王様が作ったおもちゃは、暫くしたら消えてしまいました。
コープの人たちが調べてくれたから、仲間たちのお墓は作ってもらえるけれど、中は空っぽ。
あの迷宮も出せなくなってしまって、あの恐ろしい世界での日々は、終わってしまえば何も残りません。
……ですから、ちょっと我儘を聞いてもらって、今は勉強の毎日です。
本当はコープの人たちには、私の記憶を消したいと言われています。
オウガに追い回された記憶は、この世界で生きていく上で辛いだけだからと。
でも、私があの世界のことを忘れてしまったら。
仲間が助けてくれたこと、女王様が寄り添ってくれたこと。
私には、そういう人達が居てくれたことを、貴方達が教えてくれたこと。
私に唯一残された記憶を忘れてしまったら、それが無かったことになってしまう気がするのです。
だから、ちゃんと勉強をして、ちゃんと知識と力を身に着けて。
そうして、コープに入るのだと言って、記憶の消去は先延ばしにしてもらいました。
世界を守って、私のような人を助ける組織だから、きっと簡単ではありませんが。
助けてくれて、ありがとうございました。
皆さんが手を差し伸べてくれたことを──私は、絶対に忘れません。
大成功
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