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混乱渦中の同人祭

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #グラッジ弾



 喧騒と活力に満ちる街、帝都。サクラミラージュの熱気が集中する大都市だが、今日、一際熱量が高い場は、そんな帝都から離れた位置にあった。
 郊外。帝都中心から数キロは離れた建物に、大勢の人達が集まっているのだ。
「――――」
 展示場の名を冠し、土地を広く活用した建物の中では、数万平方メートル以上の空間が広がっている。
 そんな空間を埋め尽くすように、あちこちでは長机が整然と並べられ、数千を超す人間が自分に割り当てられたスペースに、“展示”していく。それは一体何か。
「新刊はこっちで、既刊はこれだけっと……。ん〜、オッケオッケ、準備できたー!」
 パイプ椅子に座った少女が伸びをしながら相方に言葉を送る。その視線の先にあるのは積み重なった冊子だ。
 彼女達が作り、自費出版した本だった。
「ああ。――来るぞ」
 相方の大男が短く言えば、次の瞬間には、わっ、と湧いた声と共に、人が雪崩込むように会場へやって来る。
 大波のようにやってくる彼らの目当ては、各ブースに並んだ自費出版の本、否、置かれているのは本だけではない。
 陶器や金細工で出来た立体物や、レコードなどの記録媒体。そんな一つ一つの創作物やそれを作った者との交流を目的として、来るのだ。
 来た。
 だが、そこで少女は気付いた。
「……? ねぇ、あの人達、何かしら? コスプレ?」
「? どれだ」
「ほら、あの黒いチョーカーつけたの」
「……鉄で出来てるように見える。チョーカー、というよりは首輪だな」
「何でもいいじゃない。あの人達、服装で共通するの首輪だけなの。……どの作品の“コス”かしら」
 首を傾げ、自分の思い当たる作品を脳内に浮かべていた少女が、その眉を歪めた。
「むっ……。マナー悪いわね……。他の人押し退けて行ったわ、あの人達」
「良くないな……。が、皆無な光景でもない」
 この人数だ。あそこまで乱暴な進みはそう見られないが、参加者同士の接触は珍しくない。
「……まぁ、問題あったらつまみ出されるか……。――あ、ハイ。新刊がこっちで、既刊がこっちです。どうぞ」
 趣味人の祭りが、にわかに活気づき始めていった。


「皆様、事件ですわ!」
 猟兵達の拠点であるグリモアベースに、フォルティナ・シエロの声が響き渡る。
「現場はサクラミラージュ。その帝都郊外にある巨大展示場ですわ」
 現場の説明をしますわと、フォルティナは資料を出す。
「当日の展示場は、個人出版の本を即売する……いわゆる“同人誌即売会”を開催している日ですの」
「しかしその規模は大きく、参加者数は数万……いや、数十万は届くかという程ですの」
 曰く、界隈にとっては冬の大一番の日であると。
「そんな場所で、何者かが“グラッジ弾”と呼ばれる兵器を使用し、工作活動をしようとしている……。私が予知した内容はそんな内容でしたわ」
 いわゆるテロ行為ですわね、と続けながら、
「帝都が世界を統一するまでに、サクラミラージュにも幾度かの大きな戦いがあり、現在は禁止されている非人道的な『影朧兵器』の数々が投入されていたといいますの。
 この“グラッジ弾”というのもその一つで、人間の“恨み”を凝縮し、弾丸としたものですわ。
 この銃弾を浴びた被害者は、通常の負傷だけではなく、強い“恨み”を浴びて、周囲に影朧を呼び寄せる存在となってしまいますの。敵側の医療施設を破壊する目的で作られた、非人道的な影朧兵器だったと、資料にはありますの」
 数十万人が集まる場所でそれを放てば、どうなるか。
「言うまでもありませんわね……。皆様にはこれを阻止してもらいたいんですの」
 フォルティナは指を立てる。
「まずは会場に潜入し、即売会を楽しんでいる一般人のフリをして、工作員の連中を見つけて下さいまし」
「連中は皆、『黒い鉄の首輪』をつけているようなので、それを手がかりにしてくださいまし」
 まとめますわ、とフォルティナは空間に文字を起こす。砂状のグリモアだ。

 ・帝都で同人誌の即売会。
 ・そこで何者かがテロを計画。
 ・即売会に紛れて調査してきてくださいですの。

「工作員達を特定した後は、彼らが逃亡しますので、追って、確保して下さいまし」
 転移の準備を進めながら、フォルティナはふと思い出したかのように顔を上げ、言う。
「……普通に自分の趣味の本を探すのも構いませんが、皆様が探せば、皆様自身を題材にした同人誌が見つかるかも知れませんわね」
 超弩級戦力として期待されている猟兵達だ。その活躍は秋からめざましく、帝都の人達の注目にもなっている。
「まぁ、もしかしたら、ですけれどね。皆様が求めて探さない限りは、出てこないと思いますの」
 ともあれ、と。
「テロ阻止のための作戦、お願いしますわ!」


シミレ
 シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
 今OPで22作目です。サクラミラージュは初めてです。
 不慣れなところもあると思いますがよろしくお願いいたします。
 今回は、先日の生放送で上村社長も触れられた、「幻朧戦線」に関するシナリオです。

 ●目的
 ・大規模同人誌即売会でのテロ阻止。

 ●説明
 ・サクラミラージュの帝都で、何者かが“グラッジ弾”という、この世界の大戦時代の兵器を用いたテロを狙っています。
 ・一章は日常フラグメントです。同人誌即売会に潜入して、楽しんでるふりをしながら工作員達を見つけてもらいます。日常フラグメントは必要成功数が少ないので、ご注意下さい。
  また、皆様がプレイングに書いて下されば、「本人を題材にした同人グッズ」がリプレイ中に出てきます。内容はイラスト集だったり、漫画だったり、イメージミュージックが録音されたレコードだったり、立体物だったり、はたまたその猟兵のコスプレ衣装だったり……。まぁ様々だと思います。
  ※プレイングに書いてない場合は、勿論出しません。
  ※本人様以外の同人グッズは出しません(例:「友達の●●の同人誌がここにある気がする!」←ダメです)。
  ※上記の事柄を守って下さっても、内容如何によってはプレイングをお流しするかと思います。
 ・二章は冒険フラグメントです。逃げる工作員を追いながら、彼らを捕まえてもらいます。
 ・三章は集団戦フラグメントです。現れた影朧(オブリビオン)を倒すか、または『転生』出来るようにして下さい。
  ※影朧の『転生』に関しては、世界設定のサクラミラージュについてのページをご参照下さい。

 ●他
 皆さんの活発な相談や、自由なプレイングを待ってます!!(←毎回これを言ってますが、私からは相談は見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください。勿論相談しなくても構いません!)
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第1章 日常 『同人が個人紙を持ち寄って即売する会』

POW   :    衝動の赴くままブースを回り、衝動の赴くままに買う

SPD   :    走って……は駄目なので、速歩きで買う

WIZ   :    回るルートや効率などを熟考してから買う

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 猟兵達が転移した先は展示場ではあるが、その具体的な位置は各自、様々だった。
 一人は、即売会のメインとなるブースエリアの隅に。
 また一人は、展示場に併設された、コスプレエリアである庭園や駐車場に。
 中には、知り合いのブースの中や、待機列の最後尾に転移した者もいた。
 様々だ。しかし、皆の意識は一つだ。
「工作員の発見……」
 造形の細かい小物に視線をやりながら、猟兵の一人が呟く。
「特徴は確か、『黒い鉄の首輪』、だったな……」
 ブースの配置を記したカタログ誌を片手に、目当ての品物を探すようにして、辺りを見回していく。
「……!」
 雑然とした雰囲気は全体的で、呑み込まれそうな程だ。
「しかし、随分人が多いな……!」
 その数、数十万人。この中に、工作員達が潜んでいるのだ。
 それらを見つけ出すため、猟兵達は行動を開始した。
フィーナ・シェフィールド
連携OKです
【WIZ】

これが同人誌即売会ですか…実際に来るのは初めてです♪
スタアだと分かると騒ぎになるかもしれませんので、黒ぶち眼鏡と帽子で変装していきますね。

かたろぐ、ですか?
何でも、何処でどんなジャンルの物を売っているか記した書物があるとか。
今後の追跡も考慮して、まずは会場のレイアウトを確認してみますね。

あ、これはわたしが出演した舞台の二次創作漫画ですね。
手に取って見てもよろしいですか?
(片隅にR18と書いてあるのに気づかず)
…これ、わたしの演じた役…?
ぼふん、と真っ赤になって、その場で硬直します。
ちょっと眼鏡と帽子がずれてるかも?

はっ、と我に返ったら、漫画を置いてそそくさと立ち去ります!




 会場の中心、そこにフィーナはいた。
 首というよりは、顎を少し振る程度の所作で周囲を窺う。
 これが、同人誌即売会ですか……。
 彼女がいるのは会場の中央ではなく、中心。つまりはこの即売会にて、最も人が集まる場所だ。
 各サークルが居を構える、ブーススペースだ。
「……実際に来るのは初めてです♪」
 小さく呟いた言葉は周囲の喧騒に飲み込まれ、誰にも聞こえていない。が、それはフィーナも当然だと思ってもいるし、その方が都合が良いとも思っている。
 潜入任務ということもありますが……。
 この世界での自分の立場もあるのだ。各地を巡るシンガーとして活躍するフィーナは、サクラミラージュにおいて、有名人どころか国民的スタアとして認知されている。
 騒ぎになるかもしれませんものね……。
 変装代わりとして身につけた、黒ぶち眼鏡と帽子の具合を手で確かめながら、活動を開始する。
「……と、その前に」
 通行の邪魔にならないように通路の脇に寄って、片手に持っていた冊子を開いた。
「かたろぐ、と言いましたか」
 西洋の語だが、つまりはどこにブースが配置され、何を出展しているかの目録だ。
 工作員達を見つけても、その後の追跡の可能性を考えると、会場の経路を把握しておかないと不利だ。
 そう思い、地図も兼ねたブースを配置図を見ていたのだが、その時、フィーナは一つのサークルに目が止まった。
「これ……、私が出た舞台の……」
 そのサークルが提示したサークルカットには、フィーナが過去に出演した舞台の名が記されていたのだ。
 場所は、
「えっと、今いるところが……ここ? ですから……、ちょっと遠いですね……。だけど……」
 気になる。フィーナの心中がその感情で満たされていく。
「一体、どんな本が……」
 いわゆる二次創作、というジャンルなのだろう。その作品のifも含めて、見た者が想像した、創造物。
「…………」
 心の中の好奇心が大きくなったフィーナは、カタログを閉じると、足をそのサークルへと進め始めた。


「すみません、この……新刊? 手に取って見てもよろしいですか?」
 フィーナはブースの前に立ち、そこの主へと声をかけた。
「……えっ!? ――アッ、はい、もちろん!」
 フィーナがブースの前に立ち止まったことに、最初、気づかなかったサークル主は遅れと慌てた反応を見せながらも、サンプルを手で指し示す。
「ありがとうございます」
 礼と共に手に取れば、フィーナの目へ最初に入るのは表紙だ。そこに描かれていたのは、
 ……これ、私の演じた役……?
 舞台で着た覚えのある衣装を、身に纏ったキャラクターだった。
「…………」
 自分が出演した舞台だけでなく、演じた役。観客側が創作の発露として選んだのがそれということに、フィーナの好奇心は俄然、刺激された。
 好奇心に押されるように、ページを開いていく。
 これは……恋愛物語ですか……?
 読み進めていく内にその思いが確信する。この同人誌の舞台は、劇中では省略された日時にスポットライトを当てたもののようだ、と。
 劇中の描写を繰り返すことで簡易的なあらすじとし、それ以降がこの本にとって本題だ。
 フィーナが演じた役が一人のキャラクターと出会い、紆余曲折を経ながらも、やがて二人が心の距離を縮めていき、互いの想いに気がつくと、
 二人は、初めての夜を……。
 良い、とフィーナは純粋に思った。二人の出会いを丁寧に描いているし、原作となる舞台劇の設定を細かく拾い、描写に矛盾が無い。
 そして、
 サンプルの最終ページ……。
 全三ページのサンプルは、二人が出会い、仲を深める様子に作中のコマをザッピングして二ページ。残りの一ページは、
 すなわち起承転結の“転”部分ですね……。
 二人の話はどう転ぶのかと、そう思って、目を通した瞬間だった。
「――ひゃぁっ!?」
 フィーナは思わず身体を跳ね上げ、叫び声を挙げてしまった。シンガーとしての彼女の驚愕の声は喧騒の中でもよく通り、一瞬、周囲の注目を集めてしまう。
「……!!」
 慌てて声を殺すが、口は開いたままだ。
 それは何故か。
 わ、私が、私の演じた役が、は、裸に……!!
 二人にとっての初めての夜の様子を、赤裸々に描写していたのだ。
 互いが衣服を脱ぎ、愛の言葉を囁きながら、求め合う様子を。
「――!? ――!?」
 サンプルをそれ以上直視することがフィーナには出来ず、慌てて三ページの冊子を閉じると、目の前のテーブルに押し付けるようにして返す。
 机の上に寝た冊子の表紙の隅には、“R18”という年齢制限を示すマークがあることにもついぞ気づかぬまま、フィーナは驚いた拍子でズレた眼鏡や帽子をそのままに、サークル主へ、
「――し、失礼します……!」
 俯き姿勢のままの言葉は礼を失すると、彼女自身もそう思うが、何より羞恥が強い。
 み、見られてます……!
 職業柄、フィーナは人の視線には敏感だ。俯いた状態でも、サークル主がフィーナを見ていることは解る。しかしそれは、慌てふためく彼女を訝しむ視線ではなく、驚いた拍子でズレた眼鏡や帽子から覗く青い瞳や紫の髪に対しての視線だったが、
「し、失礼します……っ!」
 そのことにもついぞ気づかぬまま、フィーナは同じ言葉をもう一度繰り返すと、そそくさと去っていった。


 その後、フィーナは無我夢中で会場を歩き回った。いくらか治まったと言えど、混乱と羞恥の心情のまま、初見の空間を地図片手に歩いていけば、
「……あっ! す、すみません……!」
 他の参加者とぶつかってしまいそうになってしまう。
 寸前のところで足を止め、相手に謝ろうと、顔を上げた瞬間、
「――――」
 気付いた。
「――チッ……! 邪魔だ……!」
 自分よりも頭一つ大きい、男の首。そこにあったものにだ。
 『黒い鉄の首輪』……!?
 すれ違い、もはや背後へと歩き去っていく男へ振り返り、
「…………」
 フィーナは気持ちを新たにすると、発見した工作員への追跡を開始した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

播州・クロリア
活気に満ち溢れてリアですね
賑やかな場所は好きです
(参加者に声をかけられ)
え、コスプレ?あぁこの触覚と羽ですか?
ふふっ良くできているでしょう?
触ってみても...あ、強く引っ張らないで...
す、すみません、ちょっと人を探しているで...
(その場から離れ『第六感』に従って群衆の中をするすると移動する)
(燃えるような赤色、決意と覚悟と不屈のリズム、これは目当ての同人を手に入れようとする人達ですね)
(嵐のような鉄紺色、驚愕と嘆きのリズム、これは手に入らなかった人達ですね)
(タールのような黒、殺意のリズム、これですね。確保に向かいましょう)




 転移を完了させた直後、クロリアに襲いかかったものがある。
「――!!」
 それは様々だった。
 これは……。
 思う。まず最初に、己の感覚気管を刺激したのは、音だと。
 それは人の肉声や息遣い、館内放送の音声だったり、足音や何かパイプ椅子や机といった物が床と擦れ合う音、小銭が重なり合う音も僅かに聞こえてくる。
 そしてそれら音の波に乗り、次いでやって来るのは温度だ。刺すような寒さもあるが、波を持った温かみのある熱もある。
 熱は風を生み、刺してくる冷気とは対象的に、四方から全身を撫でてきた。
 波を持っているが、熱波というよりは、熱気だ。
 人々が生み出す熱量は周囲にばら撒かれるが、こと自分の今立ってる場所においては、その後に一定の方向へ突き抜けていく。
「――――」
 天上。
 冬の空へ向かって、上昇していくのだ。
 上昇する気流と、その先にある空を見上げながら、この翅でも“乗れそう”だなと、そんな風にも一瞬考えた後、顔を降ろし、
「ここは……、展示場の庭園。コスプレスペースですね」
 辺りを見回してそう結論付けた。革靴が踏みしめる露天の大地から、草と土の感触が返ってくる。
 二メートル近い身長があれば、視界から得られることは多い。寒空の下と言えどコスプレスペースは盛況で、大勢の人がいる。かと思えば、やはり寒いのか屋根と壁のあるところで暖を取り、
「――!」
 またスペースに出る者もいる。
 随分と皆さん元気ですね……。
 活気に満ち溢れている。そんな様子を自分はどう形容するか。
「――リアですね」
 目を細め、上機嫌にそう呟いたときだった。
「――あ、あの……!」
 自分の前方から、声を掛けられた。


 クロリアの胸部より下、その位置からの声は少女のものだった。
 年頃にして十代半ば。この即売会の熱気に合わせて興奮しているのか、少し互いの距離が近い。
 ……というか、“色”と“リズム”が凄いですね、この人……。
 耳で声を聞いたときからそうだったが、視認もすれば、 その二つが自分の感覚に、“来る”。
 発色の良い赤色に、跳躍と萎縮のリズムが断続している。緊張だ。
 それも跳躍の度合いが強いから、リアな緊張ですね……。
 勇気を振り絞った、という感のリズムは、失敗前提のリズムとは波長が違う。前者はリアで、後者はダラキュだ。
 そんなリアな緊張を抱いた、接近気味の少女の視線は、自然と見上げるようでいて、振り向いたこちらと視線がかち合うと、見下す形になってしまう。
 あっ……、これ、萎縮させてしまいますね……。
 近しい間柄ならともかく、接近した状態で見下ろすという行為は、容易に圧迫感を与えることになってしまい、それは自分の望むところでもない。実際ちょっと相手はダラキュなリズムが増えた。
 なので、
「――どうかされましたか?」
 僅かに身を引き、視線を合わせるようにして屈んだ。
 それだけで相手はこちらの意図に気づき、慌てた会釈をもって返礼としてきた。
「は、はい。えっと……その、お姉さんの格好、素敵な“コス”だなって思って、お声を掛けさせていただいたんですけど……。ご、ご迷惑でしたか?」
 そう言われて自分は一瞬、少女の言葉を上手く理解できなかった。
 “コス”……というのはコスプレのことですね……。
 曰く、自分が様々な感情を抱いた存在の、容姿を真似る行為だ。
 抱く感情は多種多様であり、一概には言えないらしいが、そのどれもに共通するのは、
 その存在に、なりたい……。
 自分にとっての、目標の姿。そう理解し、今の己の姿を思い返す。
 黒いスーツに革靴、白いシャツ、緑の瞳に、金と黒が混じった髪、そして少女も言及した翅と触覚。
 こういった容姿をしている者になりたいかと、そう言われれば、
「そう、ですね……」
 肯定だ。それもリアな。
 しかし、クローンという出自の自分にとって、容姿やその他が似通うのは当然であり、そういう意味ではコスプレという表現も適切じゃないのかもしれないが、
 ……そういうのは、また後で考えましょう!
 今ここで考えても解らないし、無理に考えてもダラキュな答えに至りそうだ。
 そして何より、今、大事なのは、目の前の少女が勇気を出してリアに尋ねてきてくれたことだ。
 尋ねた内容は、
「この触覚も翅もコスプレなのか……ですよね?」
 それに対して自分の答えは決まっている。
「――ええ。そうです。良く出来ているでしょう? 私もこういうリアな……、良い人になりたいのですから」
「おぉ……! やっぱりそんな大事な相手なんですね……! 凄く本物っぽいので、それだけ思い入れがあるんだろうと思ってましたが……!」
「ええ。……ええ、そうですね。思い入れは勿論あります。……そうだ、どうですか? コレ、触ってみますか?」
 触覚と翅を微かに揺らし、少女に促す。
「い、いいんですか!?」
「ええ、大丈夫で――、あっ、つ、強く引っ張らないで……」


「す、すみません、ちょっと人を探しているので…」
 そう言って、“コスプレ”部分を堪能していた少女と、クロリアは別れ、展示場内へと歩みを移していた。
「…………」
 密集する人の間を、まるでルートを把握してるように軽快に足を進めながら、その実、意識は歩行ではなく、周囲の“色”と “リズム”に向けられていた。
 赤色……。
 先ほどの少女と同じ“色”だ。しかし色味が違う。先ほどの少女は色調もしっかりした発色の良い色味だったが、ここは燃えるような赤色が集まっていた。
 “リズム”は決意と覚悟と不屈のリズム……、これは目当ての同人を手に入れようとする人達ですね……。
 目当ての場所へ向かう人や、ブース前に列を作る人が主にこれだ。
 それ以外の“色”を探せば、ブースの前から引き返す人に、特徴的な“色”と“リズム”がある。
 嵐のような鉄紺色、驚愕と嘆きのリズム。これは手に入らなかった人達ですね……。
 目当てのものが手に入らず、意気消沈している者達だ。
 そんな二色のグラデーションがメインの中、それ以外の色は一際目立つ。
 タールのような黒……。
 高揚も消沈も抱かず、ただただ目的地へと歩く者達。その心の内にあるのは、
 殺意のリズム……。
 どす黒いその波長は自分の近くにも存在する。そこへ視線へ向ければ、目に入るのは、首にはめられた、『黒い鉄の首輪』だ。
 ……これですね。確保に向かいましょう……!
 人混みを縫うようにして、工作員達の元へ向かっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

南青台・紙代
アドリブ連携OK
【WIZ】
グラッジ弾……なんとおぞましい兵器であるか。
しかも、ここで使おうと言うのか?
このギュウギュウに人の詰まった、時に歩くのにすら難儀するこの場所で?
幻朧戦線、許すまじ!関係者が如何程苦労してこの催しを維持していると思っているのであるか!?
キー!……こほん、我輩も同種の催しに参加する身。少々熱くなりすぎたのである。
とにかく、会場を回らねば。我輩は……うむ、文芸ブウスを見て回ろうか。
気になる新刊はここにこっちに……
と、あちこちのブウスを回る我輩は周りに紛れて『目立たない』ので、猟兵とは気付かれまい。
後は"同類"ならざる気配を持つ者を探すのみ。手掛かりは鉄の首輪であったな。




 紙代は展示場内、サークルブースで緊迫の念を抱いていた。
 グラッジ弾……。なんとおぞましい兵器であるか……!
 旧戦争時代の兵器、グラッジ弾。その効果は、グリモア猟兵から説明を受けた通りだ。
 しかも、
「――ここで使おうと言うのか?」
 首を、否、身体全体を回し、周囲を確認する。そんな動きでも、全てを把握することなど出来ない広さだが、紙代はそうした。
 すると、どうなるか。
「――――」
 すぐに周囲の人々と接触しかけるのだ。
 このギュウギュウに人の詰まった、時に歩くのにすら難儀するこの場所で……!?
 過密空間。展示場内部を形容するならそれがこれ以上なく適切だろう。
 “幻朧戦線”、許すまじ……!
 そう“幻朧戦線”だ。グリモア猟兵からの説明は無かったが、紙代は工作員達の正体を知っている。
 曰く、自分達を“幻朧戦線”と名乗り、テロ活動を続けている集団がいるのだ。
「…………」
 眉を立てた表情で、もう一度を周囲を見る。今度は首を振るだけの動きだ。
 この中に……。
 周囲、数十万人を収める展示場内は、荷物を持った人々が行き来し、常に忙しない。
 そんな空間にあるのは、勿論、過密による嫌気といった念もあるだろうが、それ以上に、今日この日を迎えられた喜びや、自分が欲する物を得るための挑戦や歓喜の感情だ。
 関係者が如何程苦労してこの催しを維持していると、思っているのであるか……!?
 紙代も文豪だ。このような同人によるイベントには近しく、参加もする。つまり内情を大なり小なり知っているのだ。
 作った同人誌を頒布する者や、それを欲する者達だけではない……。
 会場の運営を担うスタッフや、ブースを構える各種企業に、印刷所や各交通機関等々、この日を迎えるために多大な動きが生じているのだ。
「そ、それをあの連中め……! キーー!! ――あっ。……こ、こほん。失敬……」
 考えてるうちに感情が高ぶり、言葉として発露してしまったが、今日に限っては周囲も慣れているのか、頷きなどが返ってくるだけだ。
 ……ありがたいことであるな。
 恐らく周囲は今の紙代を、“目当ての品物を手に入れられなかった女(25歳)”とでも考え、憐れみや同情をジェスチャーとして送ったのだろうが、これが日常の場合だったらこうはいかない。
 街中で突如、“キーー!!”とか奇声発したら返ってくるのは念仏か十字か、最悪、官憲が来る。
 今日は大らかな日であるなあ、と紙代はそう思った。
「――だからと言って、テロルまでは許されんがな……!」
 そう呟きながら手に持っていたカタログを開き、紙代が探すのは自分が行くべき場所だ。
 とにかく、会場を回らねば……。
 敵の居場所が分からないのだ。それを探るために、会場を歩く必要があるが、
「闇雲に歩くのは非効率であろう……。ならば吾輩は――、と、見つけた……。ここか」
 紙代が紙面で目を留めた場所、そこは、
「――文芸ブウス。吾輩はここを見て回ろうか」


 紙代が小さく呟いたそこを選んだ理由は、二つある。
 一つは、紙代が文豪で、こういったイベントに参加する際にもその界隈に親しく、何よりそれ故、界隈の“情勢”に詳しいのだ。
 ……“情勢”とは、何だか正しく、テロルが多い紛争地域のような評価であるな。
 だが、どのサークルが人気で、各サークルの出し物を大まかと言えど把握しておけば、分かる事がある。
 その界隈の雰囲気、であるな……。
 ジャンル毎に固まるブースエリアの中は、大別して二種の人種に分かれる。それは単純に、“同類”か、“それ以外”かだ。
 “同類”は、ブースエリアの移動や所作といった挙動に慣れがある。目当てのサークルを効率的に回り、展示されている本の内容や、価格の相場も分かっているので、金のやり取りもスムーズだ。つまり殆ど動きに無駄がない。
 反面、“それ以外”の者はそうではない。エリアを間違えて迷い込んだか、はたまた単純にイベントに慣れてないかはともかく、“同類”のような動きが出来ないのだ。
 後は“同類”ならざる気配を持つ者の中から、持つ者を探すのみ……。
 エリアの中で“それ以外”の者も決して少ないわけではないが、“影朧戦線”の者達には大きな特徴がある。
 『黒い鉄の首輪』、であったな……。
 どこに連中がいるか分からない。声には出さず、敵の特徴を今一度心の中に思い浮かべた。
 そして、文芸ブウスを選んだ二つ目の理由は、
「えっと……気になる新刊はここに、こっちに……む!! ここも……!」
 真剣な表情でカタログを睨み、持っていたペンで何かを書き込み終えると、紙代は軽い足取りでその場を後にした。


 結論から言うと、“影朧戦線”の工作員は見つかった。
 それは紙代が、あちこちの文芸ブースを巡り、幾冊目かの同人誌を手に入れた時だった。
「――――」
 違和を感じた。“同類”に混じって同人誌を探していれば、“同類”以外はよく目立つものなのだ。
 それが、『黒い鉄の首輪』をしていたらなおさらだ……!
 紙代の左前方六メートル程、その位置に、“影朧戦線”の工作員はいた。
 小柄な、利発そうな少年だった。
 どこかに向かおうとしているのは身体の動きで分かるが、
「くっ……!?」
 “同類”達の動きを読めず、四苦八苦している。明らかにイベントに対して不慣れな動きだ。
 おやおや……、これは尾行も容易そうだね……。
 “同類”の中に紛れ、同人誌を物色しながら、紙代は少年工作員を横目で確認しながら、その後ろをつけていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『帝都で暮らす人々』

POW   :    体力と時間のある限りに走り回り大勢の人々の声を聞く

SPD   :    特定の人々にだけ範囲を絞り込んで聞き込むをする

WIZ   :    人々の話だけでなく建物や本などの情報も集める

👑11
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「――そろそろ目的の場所へ……」
 展示場の中、取り出した懐中時計を見て頷く者達がいる。彼らは皆、首に『黒い鉄の首輪』を嵌めていた。
 テロ工作員達だ。
「――――」
 時計を懐へ仕舞い、代わりに何かを取り出そうとした。その時だった。
「――そこまでだ!」
 鋭く、刺すような声が展示場を走った。
 工作員の後をつけていた、猟兵達だった。


「何をしようとしているかは解っている。両手を見える位置に――」
「――猟兵か」
 猟兵の静止の声を遮って、気にもせず、工作員達は言葉を続ける。
「我ら“影朧戦線”、大義を持ってここに至れり」
 片手を懐に入れたまま、振り向いた工作員、“影朧戦線”のメンバーの表情は険しいようにも、全くの平坦のようにも見える。
 一触即発といった空気が周囲に満ちていく。
「? ……なんだ、あれ?」
 周囲の人々も、怪訝な顔で猟兵と“影朧戦線”の二種を見ている。
 すると、付近のブースの中から、人が出てきた。数は二人。
 少女と大男だ。
 片眉を上げながら、少女が言う。
「ちょっと、その……寸劇? そういうのは所定の場所で――」
 ここは通行する人も多いですし、という言葉は続かなかった。
「――え?」
 “影朧戦線”が少女を掴み、猟兵の方へ放るように、投げ飛ばしたのだ。
「大義の邪魔はさせぬ……! さらばだ猟兵! ――邪魔だ……!」
「……っ、貴様!」
 詰め寄って来た大男へ、“影朧戦線”は明らかに“場馴れ”した打撃を見舞い、その場を後にしていく。


 段々と混乱が満ちていく展示場の中、猟兵達は行動をしなければならない。
 “影朧戦線”を再度、追跡しなければならないのだ。
 連中はもはや周囲に潜むことなく、堂々と行動していっている。
 会場の中を走り、ブースの中を突っ切り、果ては、
「――失敬!」
 展示物が乗った長机を倒し、周囲の人々を背後へと押し退けていくのだ。
 展示場内部に存在する数十万人の参加者とその創作物。その全てを猟兵達に対して障害物として、肉の壁として、逃走していく。
「――!?」
 展示場内はとうとう大規模な混乱に満ちた。
 何が起こったのか右往左往する者、知己は無事かと走り回る者、それらを統制しようと、しかししきれないスタッフ。
 そんな混乱渦中に、猟兵達はいた。
フィーナ・シェフィールド
アドリブ絡み歓迎です
【WIZ】

この大勢の人の中を、ただ無闇に追いかけるのは難しいですね…。
まずは一度、混乱を少しでも収めたいですね。

「聞いてください、黄金の旋律を…」
純金のピアノを召喚、【未完成協奏曲】を奏でて、演奏による感動によって、音が届く範囲の皆さんの動きを一時的に止めて混乱を収めますね。

混乱を一時リセットしたところで、参加者の方には避難してもらいつつ、改めて周囲の方にお話しを聞くことにします。

工作員の狙いはいったい、どこに…?
グラッジ弾を最大限に効率的に使える場所があるのかもしれません。
先ほど手に入れた「かたろぐ」に記された地図を見ながら、近くのスタッフさんに聞き込みを行いましょう。


播州・クロリア
逃がしはしません
人々の交流の場を汚した責任、取っていただきます
(群衆に巻き込まれないよう、UC【蠱の腕】で{錆色の腕}を鍵縄に変化させ、『念動力』で壁や柱などにひっかけて空中移動しながら追いかける)
人を隠すのは人の中
ですが殺意のリズムは隠しきれてませんね
黒い塊が良く映えます
(他の参加者たちが巻き込まれないよう、工作員の周りに『念動力』で空気の層を作り群衆の中に空きを作る)
貴方たちの大義とやらはここで終わりです
(『衝撃波』で工作員たちに一気に接近し『怪力』でねじ伏せる)
無関係の人たちを巻き込む大義など所詮、自分勝手でダラキュな思想にすぎません


南青台・紙代
連携・アドリブOK
こ、このっ、工作員共っ、如何な大義があるのか知らぬが、
ここに品々が並ぶまで、どれだけの手間と情熱が
かかってると思っているのだ……!
……こほん、また熱が入りすぎたのである。
(今回は反省して声は出ないよう抑えたが咳き込んでごまかす)
兎も角、奴らを追わねば。
(手持ちの風呂敷に戦利品を包み、自分の名前を書いたメモを括り付ける)
UC【怪奇ヘビ人間】を発動。全身をヘビに変え、人々の隙間を縫って
工作員共を追跡するのである。
全身に『蛇怪之気』をまとわせ、落ちたり倒れたりしてくるもの等から
《オーラ防御》で身を守るとしよう。余裕があれば《念動力》で
それらの品が床に落ちるのを防ぎたいところである。


秋津・惣次郎
アドリブ連携等歓迎

動きあり。先発の者達が上手くやってくれたか。
これより会場内に突入、帝都を擾乱せんとする不逞の輩を捕縛する!

作戦にあたってはUC発動、憲兵を率いて会場へ突入する。
会場は混乱の渦中にあるか…この有様なら実行犯共も易々と身動きはとれまい。ならば兵を分散してネズミ狩りだ。

手を分けて追い立てろ!手向かうならば容赦は要らん!
こちらは憲兵隊である、民間人は避難せよ!

敵の行く先退く先に兵を配すればやがては追い詰められるだろう。
実行犯共を追い詰めたなら各個に包囲し投降を勧告するぞ。
あくまで抵抗するのであれば実力を以て制圧するまで!

奴らにグラッジ弾を使わせるな!取り押さえろ!


エドゥアルト・ルーデル
「この混乱を収める」「犯人を捕まえる」「同人誌も買う」
「全部」やらなっくちゃあならないってのが「猟兵」の辛い所でござるな
準備はいいか?拙者はできてる

会場は突如現れた目出し帽を被った謎の【俺達】が物量を活かしながら収めてくれますぞ
スタッフめいた【言いくるめ】により冬のナマズのように大人しくして誘導するでござるよ
そして一部の俺にはどさくさに紛れて良さげなウ=ス異本を買わせる
パーフェクトだ…!

工作員は【UAV】を使って追跡ですぞ!
即売会を邪魔するなど万死に値する!人並みに紛れても無駄ですぞ、上空から犯人追跡するこのUAVにて便所に隠れていても息の根を止めてやる
何息の根は止めるな?しょうがねぇな




 現場は混乱の様相を呈していた。
 猟兵達の視線の先、“幻朧戦線”が逃走を開始したのだ。それも最悪な方法をもって。
 こ……、このっ、工作員共っ……!?
 猟兵の一人、紙代が追っていた“幻朧戦線”は少年だったが、その小柄な体躯を抜きにしても、逃走後すぐにその姿を見失った。
「――!」
 錯綜した参加者達が、紙代の視線を切っていくからだ。
 もはや少年は見えない。が、彼が何をしているかは音で分かる。
「――きゃぁ!」
「机が……!」
 会場を目茶苦茶にしながら逃走しているのだ。
 い、如何な大義があるのか知らぬが、ここに品々が並ぶまで、どれだけの手間と情熱がかかってると思っているのだ……!
「……!!」
 またもや激情が発露しそうになるが、
「…………こほん、また熱が入りすぎたのである」
 何とかセーブする。というか、
「――兎も角、奴らを追わねば!」
 そう言って、紙代は手に持っていた“戦利品”を、用意していた風呂敷へ急ぎの動きで包み込み、己の名前を書いたメモ用紙を括りつける。
 最後に背に背負えば、準備は完了だ。
「――――」
 次の瞬間には、紙代の身体が変異していた。
 細く、長い姿は手足が存在せず、全身を硬質な鱗で覆われている。
 蛇だ。
 “怪奇ヘビ人間”。紙代の持つユーベルコードが発動し、その姿を変化させたのだ。身体にキツく縛っておいた風呂敷は、蛇の身体になっても背負われたままだ。
 当然、手足が存在しないので身体は展示場の床を這う姿勢になり、
「……!」
 周囲の参加者達が床上の紙代に気付かず、足が振り下ろされてくるが、
「急ごうではないか……!」
 紙代は構わず行った。前進だ。
 床を這い進み、振り下ろされる足を潜り抜けていくのだ。だが、周囲だけで数百人を越す空間だ。
 全ての振り下ろしを回避する事は困難であり、実際、紙代の身体は踏まれる。だが、
「――!」
 紙代の蛇行に乱れは無い。
 念動力として操作できるほどの域に至った怪気を身に纏い、周囲からの衝撃を無効化していくからだ。
 それだけではない……!
 紙代はその怪気、“蛇怪之気”を自身だけでなく、周囲へも向けていく。怪気の行き先は複数だが、どれにも共通している要素がある。
 スペースを構えた、サークルの処だ。
「……っ!」
 息を呑みこむような悲鳴が聞こえた。
 混乱でスペースの長机が倒れ、その上にあった展示物が落下していくからだ。
 それは同人誌かもしれないし、レコードや、細工を凝らせた立体物かもしれない。
 執念や意欲、意地に根気に、金銭と時間。それらが注ぎ込まれた結晶であり、つまりは、
「地に着けさせるものか……!」
 怪気が空間を走り、地に落ち行く全ての創作物をすんでの所で支えた。
「え、えぇ……!? 私の本が、ちゅ、宙に……!?」
 並行して立て直した長机へ、怪気で掴んだ一切合切を安置していけば、全ては元通りだ。
 しかし、
「このまま混乱していては、繰り返しであるな……!」
 何も、会場は狂乱という程の域に達している訳ではないが、“幻朧戦線”がこのまま破壊的な逃走を続けて行けば、直にそうも言っていられなくなるだろう。
「その前に奴らを捕まえるべきなのだが……」
 蛇の身と言えど、怪気も合わせて進む紙代の速度は並ではない。だが、間に合うかと、そういう思いも紙代には同時にある。
 今は、互いで助け合う者もいる……。
 怪気で助けたスペースが、他の人達の強力で持ち直しているのを横目で見ながら、
「どうにか皆、落ち着いて欲しいものであるな……」
 拡声器越しのスタッフの声と、同じ言葉を呟いた。
 その時だった。紙代は音を聞いた。
「……?」
 足音や“幻朧戦線”の逃走音。そういった、今、展示場内に響いている騒々しい音が、さらに騒々しくなったのだ。
「……!!」
 音の圧が増す。そのような雰囲気は会場の外からやって来るものだった。
 まさか……!?
 すわ敵の増援かと思い、蛇首をもたげてそちらを窺おうとしたが、その必要は無かった。
 喧騒を制するような、明朗で活力ある大声が飛び込んできたからだ。
「――こちらは帝都陸軍憲兵隊である!! 民間人は避難せよ!」
 本当に官憲来たであるな……。


 展示場の外に待機していた惣次郎は、今こそ猟兵としての、また帝都陸軍憲兵隊中尉としての自分を発揮する時だと、そう結論づけた。
 内部に動きがあったのだ。“幻朧戦線”達が逃走し、この会場を破壊している。
 つまり己がやるべきことは、
「――これより、帝都を擾乱せんとする不逞の輩を捕縛する!」
 そう言った次の瞬間には惣次郎の背後に、新たな人影が出現した。
「――――」
 その数、五十人。
 多数の人影は一斉という勢いで現れ、現れた瞬間から惣次郎の後ろで、整然と列を成している。
 惣次郎のユーベルコード、“召集令”で召喚された帝都兵達だ。
「――突入!」
 彼らを部下として引き連れて、惣次郎は会場へと踏み込んでいく。そこでもう一度、参加者達を落ちつかせるために、突入前に告げた文言を繰り返す。
「――こちらは帝都陸軍憲兵隊である!! 民間人は避難せよ!」
 慌てふためく参加者達を部下達に誘導させながら、惣次郎は会場内を睥睨する。
 やはり会場は混乱の渦中にあるか……。
 無理も無いと、惣次郎はそう思う。自分達が楽しんでいた催しが、テロリストに無茶苦茶にされているのだ。
 だがそれは、同時に別の事を意味する。
「この有様なら実行犯共も易々と身動きはとれまい……。ならば兵を分散してネズミ狩りだ」
 雑踏の中を大きな歩幅で堂々と歩き、惣次郎は右腕を振りかぶり、号令を出す。
「手を分けて追い立てろ! 手向かうならば容赦は要らん!」
「――了解!!」
 避難誘導のための人数を残し、帝都兵達が雑踏の奥深くへと踏み込んでいく。“幻朧戦線”を追跡するための部隊だ。
 部隊は幾つにも分散し、浸透するように人込みの中に潜んでいく。
 憲兵隊にとって、雑踏は得手である……。
 相手も地下組織として慣れているだろうが、そういった連中を相手するのが憲兵隊だ。
「犯罪者共の考えることなど、見通しているとも……!」
 惣次郎は思う。
 ……逃げる相手を追う時の定石は、やはり道を塞ぐことだ。
「――一班、そのまま背後を離れるな! 二班、逃げ道へ先回りしろ!」
 作戦前に、会場の見取り図を頭に叩き込んでいる惣次郎は、部下達へ適切に指示を出し、指示を受けた部下達はその通りに動いていく。
 各エリアやブースの配置や、形状を理解しているのだ。
 動きに迷い無く、“幻朧戦線”達が逃げる道を制限し続ける。
「――追え! 追え! 逃がすな! そっちに行ったぞ、展開!」
「くっ……!」
 本来とは違うルートでの逃走を余儀なくされた“幻朧戦線”は、憲兵達の狙いに気付き、
「……!」
「! 三班、子供が逃げたぞ!」
 その内の一人、少年の“幻朧戦線”がその小柄な体躯を活かし、人ごみの中に飛び込み、新たな逃走ルートを生み出そうとしたのだ。
 が、
「――逃がしはしないのであるよ、少年!!」
「なっ……! へ、蛇――!?」
「……!?」
 最初に響いた声が何処からか、惣次郎には最初分からず、次に聞こえた少年工作員の怪訝な叫びも要領を得なかった。
 しかし、次の瞬間には、
「クソォ……!」
 見えない手で掴まれたように、両手を上げた万歳姿勢で、少年が宙に浮かんでいた。
 ……先発の猟兵か!
 そして両手を封じたと言う事は、グラッジ弾を使えないということだ。瞬時にその事を理解すると、
「――少年は確保した! 総員、残る工作員共を追え!」
 惣次郎は作戦の継続を指示する。
 少年を追跡していた班が他の班に合流し、それはやがて、
「――追い詰めたぞ!」
「おのれ……!」
 “幻朧戦線”達の包囲を完了させていった。
「――勧告する!!」
 最初に突入して以降、変わらない堂々とした足取りで部下達の間から現れると、惣次郎が“幻朧戦線”に対して叫んだ。
「お前達は完全に包囲されている。抵抗を止め、両手を見える位置へ! ――投降せよ!」
「ほざけ! 我ら、大正の世を終わらせし者……!」
 だが追いこまれた工作員達は、惣次郎の気迫に物怖じとせず、懐へと手を伸ばした。しかし、
「確保!!」
「……!」
 惣次郎達、憲兵隊の方の動きの方が速い。
「くそっ……!」
 全方位から飛び込み、“幻朧戦線”の身体を拘束していく。
「奴らにグラッジ弾を使わせるな! 取り押さえろ!」
 地面に組み伏せるようにして、“幻朧戦線”が無力化されていった。
 それを見届けながら、しかし、と惣次郎は思う。
 参加者達の避難が、予想より早かったな……。
 惣次郎が出せる帝都兵は五十人が現状最大だ。それを工作員追跡用に人員を分ければ、実際の数はさらに少なくなる。
 反面、参加者は数十万人を越し、帝都兵が配置しきれていない場所の方が多い。現に、こうして工作員達を追い詰めた場所も、会場に踏み込んだ最初の位置から随分と離れた場所だ。
 しかし、追跡に滞りが無かった。
 いくら憲兵隊が雑踏に慣れてると言えど、物理的な問題としてもう少し干渉が有る筈だが、それが無かったのだ。
 一体何故……。
 と、そう思った時、気付いた。
「あれは……?」
 参加者達に対して、避難誘導している者がいるのだ。
 それを見た時、最初、現地スタッフかと思ったが、その思いはすぐに打ち消した
「――――」
 連中が、目出し帽を被った覆面集団だったからだ。
 

「ふぅむ……」
 エドゥアルトは肩を回しながら、現場を見ていた。
 場所は屋外。展示場を代表する特徴的な建造物の前だ。
 立地的に敷地の中央に位置するここからだと、全体の様子が良く見える。
 現状、動きがあるのは文芸ブースの方だ。そちらから避難してくる参加者達が多く、彼らの会話を聞くと、様子が窺い知れる。
 落下した筈の作品が宙に浮き、憲兵隊が突入ねぇ……。
 前者は、多数の創作物や設備を同時操作する様子は圧巻であったと、そう漏れ聞こえてきた。
 そして後者は、恐らく本物の憲兵隊なのだろうが、五十人ほどの帝都兵が突如として出現したと。
 サクラミラージュなので、現地のユーベルコヲド使いという可能性もあるが、
 能力の規模的にそれよりも強力な存在。そう考えた方が納得がいくでござるな……。
 複数人のユーベルコヲド使いだったとしても、突発的な事態に対して解決が速すぎる。
 つまりは十中八九、猟兵。それが介入し、最早文芸ブースは鎮圧化されているだろう。
「避難誘導の手伝いならともかく、拙者が向かうべきは別の場所にござるな」
 文芸ブースがある西の展示棟へ足を向けるが、エドゥアルトが目指すのはその先、西棟を突っ切って行く、南棟だった。。
「“この混乱を収める”。“犯人を捕まえる”。“同人誌も買う”。
 “全部”やらなっくちゃあならないってのが“猟兵”の辛い所でござるな。
 準備はいいか? ――拙者はできてる」
 西棟の入り口、エドゥアルトはそこでユーベルコードを発動した。


「くそっ、想像以上に混んでるでござるな……!」
 避難誘導が順調に住んでいる文芸ブースは西棟四階だ。そちらは直接外に繋がる階段もあり、参加者達は外に流れて行っているようだが、エドゥアルトの今いる西棟一階は違う。
 まだ避難誘導が、不十分なのでござるな……。
「直に上の憲兵隊達が来るでござろうが、それまでの間がケイオスでござるよ……!」
 人の波に揉まれながら、エドゥアルトは呻く。
「つまりこっちにも人手が必要って事でござるな……!」
 そう言った瞬間だった。
「――――」
 エドゥアルトの背後から複数の男達が現れ、混乱する会場へ突入していく。
「…………」
 男達は目出し帽を被った覆面姿で、僅かに見える目からは、およそ感情を読み取れなかった。
「ひっ……! だ、誰!? ――え……? こっちの方が空いてる……? あ、ありがとうございます……!」
「うわぁ!? な、何ですか!? ――え……? 向こう側は通行止め始まってる? あ、ありがとうございます……!」
 覆面の男達は、混乱する参加者達に声をかけ、適切に避難誘導していく。
 ユーベルコード、“俺は俺だぞ俺”でござるよ……。
 効果は、戦闘力の無い“俺”を召喚するのだが、
「人手の欲しい時に、このユーベルコードはうってつけでござ――、わぷっ」
 南棟へ進んでいたエドゥアルトも、未だ多く残る人の波に押されてしまう。
「――――」
 すると目の前にもう一人増えた。
「――こ、怖い!」
 そう言っている最中にも男達はどんどん増える。
「怖いよォ! 誰!? 誰なの!?」
 エドゥアルトの周囲を埋めていく。
 ユーベルコードが今も発動していっているのだ。
 も、もしや、拙者、今、コレ苦戦判定貰ってるんでござるか……?
 自身が活躍か苦戦する度に、“俺”が召喚され続けるユーベルコードだが、エドゥアルト自身、人ごみに揉まれている現状を活躍しているとは思わない。
「こ、コレ、早く抜けないと、知らない“俺”に埋め尽くされるでござるよ……!? ――避難誘導! 何人かは残って、この西棟で避難誘導するでござるよ、お前達!」
 そう言って何人かの“俺”を残し、かき分けるようにして人ごみを進んでいく。
 すると、
「――ちゅ、中尉! 中尉! な、何か解りやすい不審者達が、すでに避難誘導をしています!」
 四階から降りてきた憲兵隊が戸惑ったような声を背後で挙げているけど、拙者知らないでござるよー?


 南棟はもっと混沌としていた。
「活動写真ブースがあるから、人の数が段違いでござるな……!」
 西棟一階と同じ要領で、“俺”達と突撃し、参加者達の避難誘導をしながら、時折“俺”が増え、
「――手が空いた奴らは、状況を見て、良さげな“ウ=ス異本”を買うんでござるよ……!」
 “俺”達が無言で頷く。この指示は西棟に残った連中にも言い含めてある。
 猟兵としての拙者……、そしてオタクとしての拙者でござるよ……!
 見れば、“俺”の一人が活動写真ブースのスペースから、一冊の同人誌を買っている。
 む……!! アレは学園飛行船に所属する女子高生達が、学園存続のために各校へ複葉機の対外試合を仕掛けていく“ギヤルズ・アンド・ツェッペリン”の同人誌にござるな……!
 略して“ギャルペン”。最終回で、主人公が複葉機から複葉機へ八艘跳びするシーンを思い返しながら、エドゥアルトは周囲の状況を確認する。
「最初に比べたら随分落ち着いてきたでござるな……」
 そう言って、エドゥアルトは猟兵としての己の仕事を、もう一段階進ませた。
「――よいしょっと」
 ずっと頭上に掲げていた物を、避難によって生じた空白に置いたのだ。
「――――」
 硬質な素材で出来た、一メートル前後の大きさの機械は、エドゥアルトが手に持つ操作装置からの命令を無線で受け取ると、
「――!」
 即座という反応で、上昇して行った。
「即売会を邪魔するなど万死に値する……! 人波に紛れても無駄ですぞ! このUAVにて便所に隠れていても息の根を止めてやる……!
 ――何? 息の根は止めるな?しょうがねぇな……」
 信じられないものを見る目で見ていた“俺”の一人に、そう返事をしながら、
「――お、発見」
 コントローラーに付属する画面に、逃走する“幻朧戦線”の姿が見えた。
「狙って狙って~……」
 “幻朧戦線”もUAVに気付いたようだが、逃げる先、隠れるための人波は“俺”達による誘導で、その層を薄くしていく。
 そうして、工作員の周囲に参加者達がいなくなったところを、
「――ホイ、テーザー」
 非殺傷の電磁武器によって鎮圧。
 それで終了だ。
「とりあえずここら辺は、これで終わりでござるかな?」
 と、そう思った時。
「……?」
 エドゥアルトの耳に音が飛び込んできた。
 未だ避難が続き、喧騒に満ちた展示場内部。そこへ、打って変わって、落ち着いた雰囲気を感じさせる音が、聞こえてきたのだ。
「――コントローラーからでござるか?」
 UAVが音を拾っているのだ。
 手に持ったコントローラーに耳を近づける。
「――――」
 スピーカーから聞こえてきたのは、音階と旋律を持った音だった。
 そんな音を音色と言う。
 そして、音色というものは何かによって奏でられて、初めて外に出るものだ。
「――ピアノか!」
 エドゥアルトはすぐに合点がいった。
 いるのでござるな……! 南棟にも……!
 それもUAVは上から音を拾っている。
 四階。そこにエドゥアルト以外の猟兵が存在しているのだ。


 長身の“幻朧戦線”が逃走した際に、フィーナがまず選択した行動は追跡ではなかった。
 この大勢の人の中を、ただ無闇に追いかけるのは難しいですね……。
 周囲は騒ぎによって混乱しているのだ。
 ……まずは一度、混乱を少しでも収めなければ。
 そのためにフィーナが選んだのは、
「――聞いてください、黄金の旋律を……」
 ユーベルコードの発動だった。
「――――」
 フィーナが腕を振った先、混乱によって空いたスペースに突如として出現するものがある。
 巨大で、蓋が半ばまで開いた様な天面を有し、黒白合わせて八十八の鍵盤を並べた楽器。
 ピアノだ。それもグランドピアノと、そう形容できる立派なそれは、純金で出来ており、
「……!?」
 その輝きは、駆ける参加者達の足を止める。
「なんだ――」
 あれは、と言葉を続けようとした参加者達は、次の瞬間に響いた音で言葉を失う。
「――――」
 フィーナが音を送ったからだ。
 姿勢を伸ばして座ったピアノチェア。そこから緩やかに伸びた腕が、指で鍵盤を正確に打った。
 C3からC4を中心とした低音寄りの中音域。そこを中心として、十指が踊っていく。
 立てた指で荒々しく打撃するのではなく、腕と同じく、緩やかに伸びた指先が必要最小限の力で打っていく、
 悠然。鍵盤の上を流れるような指捌きを表すのは、その一語だった。
「――――」
 音は波だ。喧騒という泡沫を包むように、押し流していくように、演奏が優しく、しかし波濤のように展示場内に響いて、行く。
 行った。
 すると、
「…………」
 純金のピアノの側に立っていた者達だけではない。遠く、離れた位置にいる者達すら、その音色に心奪われ、急ぐ足を止めていた。
 上手くいってるみたいですね……。
 周囲の様子を感じ取ったフィーナは、演奏を最後の段階へと移していった。
「――!」
 高音域へも指先を運んだのだ。
 打鍵する度に掠れるような音が響いていく。
 それが今までの中低音域の演奏に合わされば、掠れる音がせがむような音になる。
 メインとなる中低音へ、擦りつくように高音がせがむ。
「終わらないでくれ……」
 参加者の誰かが、そう小さく言った。
 せがむような音は、次第に縋るような音へと変わっていった。
 メインとの距離が密接となり、縋る音も次第に頻繁になっていく。
 高音が、泣いているのだ。
 泣く。泣く声は、しかし止まず。だからこそ続いていく。
 そして、
「――――」
 縋っていた泣き声が、いつしか音色を先行し、メインをリードしていた。
「――――」
 終わりが近いのだ。
 泣き声が、何度も響かせたフレーズを、最後にもう一度響かせると、
「――――」
 一際高く、そして長く泣いた。
「…………」
 ピアノが音を出さなくなっても、フィーナは鍵盤から指を離さず、最早聞こえるのは、遠く、遠く離れた所からの喧騒だけだった。
 それだけだった。


「皆さん……! ここは危険です! 急いで避難を……!」
 フィーナは黄金のグランドピアノから立ち上がり、周囲へ言葉を送る。
 演奏によって静寂を得た空間と言えど、彼女の声はよく通った。
「そうだ、避難しなきゃな……!」
 そんな声を聞いた参加者達は、フィーナの演奏によって流れた涙を拭い、急ぎの動きで避難の準備を進めていく。
「あんなに離れた位置の人達まで……」
 フィーナのいる場所から離れた位置にいる者達も、同じく涙を拭っている姿が見える。
 しかし、
 あの覆面姿の人達、最初からいましたっけ……?
 人波の中で、同じく涙ぐむ覆面姿がそれなりの数でいる。最初はいなかった気もするが、
 でも、まだ大事な事が残っています……!
 頭を振って思考を切り替えた。
 懸念は、まだあるのだ。
「――あのっ、そこのスタッフさん! すみません、ちょっとお聞きしたい事が……」
 近くにいたイベントスタッフに、カタログを片手に声をかける。
「テロリストが、この会場をテロの標的にしました。彼らが狙う場所にお心当たりは御座いませんか?」
「……!? 本当ですか! だとしたら……」
 声をかけられた女性スタッフはフィーナのカタログを受け取ると、そこにペンで書き込んでいく。
「恐らく、この通りかと」
 カタログを受け取り、そこに書かれている内容を確認したフィーナは、思わず言葉を漏らした。
「標的が複数……!?」
 はい。と、スタッフは言葉を続ける。
「成功率も被害も、そして目撃者も多くなりますから」
 こうして説明してる時間も惜しいかのように、彼女は早口で言葉を続けていく。
「自分達の正当性を主張し、活動を喧伝するためにも、場所は複数なのは間違いありません。
 現在逃走していたとしても、それは追手を撒き、先ほどまで自分達がいた場所に戻るためでしょう」
 それはどこか。
「一つ目は、文芸ブース。帝都は文豪の多い都市です。プロアマ問わず彼らが一堂に会する機会を打撃すれば、その影響力は測り知れません」
 二つ目は、
「この下の、活動写真ブース。活動写真は大衆に愛される娯楽であり、その分、創作者も大勢います。標的として充分候補に至るでしょう」
 三つ目。
「コスプレエリア。派手で解りやすく、活気づいている場所というのもありますが、その真意はカメラの存在でしょう。自分達の活動を記録させるために、その場所を選ぶかと」
 そして、最後の四つ目は。
「舞台劇や歌手といったスタアを取り扱う、ここ芸能ブース。文芸ブースとは違い、スタア本人が集まるわけではありませんが、彼ら彼女らのファンが多数存在するのです。――この展示場の中で、最大と言っていいほどに」
「……! ありがとうございます……!」
 その説明を聞いた瞬間、フィーナは走り出していた。
 戻らないと……!
 ユーベルコードの効果で、往来は以前よりずっと行いやすくなっている。
 そうして、来た道を戻っていく。行き先は決まっている。
 私の本があった場所……!
 あそこから離れ、“幻朧戦線”と出会ったのだ。
 距離としてはそう離れていない。急いで戻れば間に合う。
 その意識で駆けていけば、
「――あっ!」
 同じように駆けて来る人と、ぶつかりそうになった。
「――――」
 また人とぶつかりそうになった、という思いや、謝らなければ、という思いは、一瞬思考を掠めたが、すぐに無くなった。
 相手の腕が、およそ普通ではなかったからだ。
「……!」
 目の前にいる、片腕が鉤縄状になった相手は、身長二メートル近くで、触角の生えた邪気の感じさせない顔立ちは、今は焦りと怒り、そしてこちらを気遣う慈愛と、様々な感情を内包していた。
「――コスプレエリアが狙われています!」
 猟兵だ。直感がそう告げ、次の瞬間には言葉を送っていた。
 すると、
「――解りました。向かいます」
 相手もそうとだけ答えて、それだけだ。
「――!」
 二人は背を向け、お互いが行くべき場所へ向かって行く。


 フィーナは、自分が追っていた長身の工作員をすぐに見つけた。そして、
「……逃げないんですね」
 確保も、滞りなく終わった。
 フィーナの言葉の先、そこにいるのは、涙を流し、呆然としている工作員だ。
 私の“未完成協奏曲”を聞いていたのですね……。
 演奏を終えたフィーナが告げたのは、参加者への避難の勧告だ。
「だから参加者ではない貴方は、未だここに……」
「…………」
 涙を流した工作員はフィーナの言葉に答えず、膝をつき、そのまま、ただ頭を垂れるだけだ。
「…………」
 いつの間にか近くにいた、覆面を被った男達に工作員の両腕を抑えてもらい、その懐から一丁の拳銃と、布で包まれた弾丸を抜き取る。
「これは預からせてもらいます」
 中程で折れ曲がり、そこに装填する構造の拳銃は、フィーナにとって、舞台劇の小道具として見たことがある信号銃を思い出させた。
「ともあれ、まだ標的は残って……」
 と、カタログを見た時だった。
「――――」
 覆面の男達が言葉を送って来た。
「……え? 自分達は猟兵と一緒に西棟からやってきた? 文芸ブースと、この下の活動写真ブースはもう大丈夫?」
 何だか凄い話が早いです……。と思うが、突如として現れた彼らの姿は、フィーナの記憶に新しい。
 なので、彼らの言う事を信じ、だとすると、とカタログを見直す。
「私がいるこの芸能ブースもオーケー。なら、残りは……」
 カタログを見て、フィーナは息を飲んだ。
「コスプレエリア……。先ほどの彼女は上手くやっているでしょうか……」


 フィーナと別れた後、クロリアは全速力で駆けていた。
 ……逃がしはしません。
 追う相手は“幻朧戦線”。しかしクロリアが向かう先は通路でもなく、下に降りる階段でもなかった。
 壁だ。そこへ目がけて、一直線に駆けていくと、
「――!」
 鉤縄状態に変化させた己の錆色の腕を、叩きつけるようにして壁へ振るった。
「……!」
 壁の素材に鉤が食いこむ硬質な音が響く。位置は床から数メートル上。突き刺さりの具合を確かめるように、クロリアは一度、二度、強く腕を引っ張った後、
「――――」
 その身体が、浮いた。
 突き刺さった箇所を支点に、地面を蹴って跳んだクロリアが、身体を引き寄せたのだ。
 跳躍した身体を引き上げるようにして、壁に張り付くと、
「……!」
 そこを蹴って、さらに上の壁や柱へと鉤爪を突き刺し、自身を引き上げ、
「――!」
 飛ばしていく。
 壁から壁へと飛んでいくそんな動きは、やがてさらに高度を上げていき、
「天井がフレーム構造で、鉤をかけやすいですね」
 天井を渡る梁から梁へと変わっていった。
「……!」
 一本の梁に突き刺していれば、そこを支点として、クロリアの身体はぶら下がり、下に落ちていく筈の軌道は、途中で円弧を描いていく。
「……!」
 落下の重力加速のまま振り回していく円弧運動は、参加者達の頭上で、空中ブランコのようにクロリアの身体を運んでいく。
 行き先は現在いるホールの出口だ。そこを“振り子”の勢いのままで通過すると、目の前にあった壁を蹴って通路を進み、屋外へと通じるドアを身体で押し込むようにして開き、外へと飛び出して行く。
 行った。
「先ほど会ったあの人は、コスプレエリアが狙われていると言っていました……」
 この即売会で一番賑わうコスプレエリアと言えば、クロリア自身が最初にいた、屋上エリアだろう。
 そしてそれは、今、クロリアが立っている場所がそうでもあった。
 辿りついたのだ。
「人を隠すのは人の中……。ですが殺意のリズムは隠しきれてませんね」
 展示場内部程ではないが、今、何が起こっているのかをよく解っていない、混乱している者達の間をクロリアは抜けていく。
 二メートル近い長身が堂々と大股で歩けば、いくら混乱した人々と言えど、おのずから道を開けていく。
 クロリアの歩みに、迷いは無い。
「――黒い塊が良く映えます」
 鉤縄状態から戻した腕を振えば、クロリアが向かう先の空間で、まるで見えない壁が出来たかのように、人々の間に空白が出来る。
 否、正確には空白ではない。そこに、何人かの人間が取り残されていたからだ。
「!? くそっ……!」
 『黒い鉄の首輪』を身に付けた、“幻朧戦線”の者達だ。
「人々の交流の場を汚した責任、取っていただきます」
 自分達がクロリアに補足されている事に気付いた工作員達は、急ぎ、離れようとするが、
「遅いです」
 衝撃波で身体を加速させたクロリアが、一気に接近し、
「貴方たちの大義とやらはここで終わりです」
 両の腕で工作員達を掴むと、その怪力で地に組み伏せていった。
「おのれ……! 貴様ら猟兵は、我らの大義を――」
「結構です」
 組み伏せた“幻朧戦線”の言葉にクロリアは耳を貸さず、ここへやって来たときと同様、堂々とした様子で、言葉を告げる。
「無関係の人たちを巻き込む大義など所詮、自分勝手でダラキュな思想にすぎません」
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『同人娘』

POW   :    ア゛ッ…顔良゛!ん゛っ…(嗚咽)
非戦闘行為に没頭している間、自身の【敵でもあり、公式でもある猟兵の顔 】が【良すぎて、嗚咽。立ち止まったり、倒れ伏し】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
SPD   :    ――散ッ!(公式である猟兵に察知されたので逃走)
肉体の一部もしくは全部を【同人エッセイ漫画とかでよくある小動物 】に変異させ、同人エッセイ漫画とかでよくある小動物 の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
WIZ   :    同人娘達…? ええ、あっちに駆けて行きましたよ。
【オタク趣味を微塵も感じさせない擬態】を披露した指定の全対象に【「こいつ逆に怪しいな…」という】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
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 事態は一定の落ち着きを取り戻して行った。
 文芸ブース、活動写真ブース、コスプレエリア、芸能ブース。その全てで猟兵達が避難誘導と、“幻朧戦線”の確保を実行したからだ。
「これで一安心か……」
 と、猟兵の一人が言った。
 その時だった。
「――!!」
 展示場内に、破裂音が響いた。


 空気を裂く、落雷にも似た音は、火薬の炸裂音だ。
 撃った……!?
 その思いと、何故、という思いが、猟兵達の脳裏を駆け巡る間に、捕えられた“幻朧戦線”達の叫びが続く。
「我ら、大正の世を終わらせる者なり……!」
「戦乱こそが人を進化させる……!」
 捕えた際に暴発したのか、隠し持っていたのか、それは最早誰にも解らない。が、
「――!」
 放たれたグラッジ弾は、展示場内を走り、壁や天井を穿った。
 すると、
「――――」
 それら弾痕から黒い影が滲み出たかと思うと、影は形を成していく。
 人だ。数は複数。大雑把なシルエットからディティールを詰めていくように、影はその形を詳細にしていく。
 そうして出来あがっていくのは、和装洋装様々な女達だった。
「…………」
 数度、瞬きをした女達は互いに顔を見合わせ、
「――あー! 久しぶりー!」
 と、挨拶を交わす。
 そんな彼女達に向けて、“幻朧戦線”の声が突き抜けていく。
「――猟兵がいるぞ!!」
 直後、
「――――」
 召喚された女達は、素早い首振りで周囲確認。そうして、猟兵の姿を確認すると、
「んんっ……!」
 変な呻き声を挙げた。


 “幻朧戦線”は成功を確信した。
 今、召喚されたのは影朧の一種、“同人娘”達だ。
 異性愛も同性愛も、何でもござれな雑食創作集団は、その雑食すぎる嗜好と弩級の行動力故に傷つき、虐げられた娘達の過去。それが今、展示場に召喚された。
 そんな彼女達は、影朧になってからは少し変わった。
 どう変わったか。
「に……逃げなきゃ……!!」
 創作の発露先を、猟兵にしたのだ。
 猟兵達で勝手に創作して、勝手に“尊い……”とか言って勝手にダメージ受けたりする彼女達だ。
 なので、繰り返す。
「――猟兵がいるぞ!!」
 するとどうなるか。
「――!」
 わき目も振らず、“同人娘”達が逃げ出した。避難する参加者の群れに紛れ込むように。
「そうだ……そのまま外へ行け……!」
 ここを逃げ延び、その先で彼女達は“活動”するだろう。
 サクラミラージュを助ける猟兵達を題材に、荒唐無稽な作品を世に出していくのだ。
 その荒唐無稽さで、生前は良くも悪くも名を馳せた彼女達が戻って来たとなれば、界隈は大きな騒ぎとなる。
 騒ぎは次第に“炎上”となり、“炎上”は界隈を超えるものだ。
「貴様達の無垢な活動が、猟兵の首を絞める事だろうよ……!」
 最早、声も届かぬ位置にまで逃げた“同人娘”に向かって、“幻朧戦線”が突き離すように言葉を送った。
南青台・紙代
アドリブ・連携歓迎

うぅむ、参加者たちには物理的被害が及ばなさそうな影朧で、
ひとまずは安心……か? 否、我輩たちへの被害が酷い。
既に様々な記憶が甦って心が痛い。
俺のとこに、関係者(あっち)がきた、
信じられない、すぐに消えたかった、とか
……引き続きUCでヘビになったまま逃げる影朧を《追跡》
逃げるという非戦闘行動に没頭している彼女らは
我輩の姿を見れば勝手に行動不能になってくれるのではないか?
と推測。開けた所でヘビから人の姿に戻ってみるのである。
上手く行ったら《念動力》で拘束・隔離を試みよう。
……このまま、躯の海に返すには忍びない。
転生、できるといいのであるがなぁ。創作に取りつかれし我が"同類"よ。




 紙代は、自分から逃げていく“同人娘”達を見るため、蛇の首をもたげた。
 ……うぅむ、参加者達には物理的被害が及ばなさそうな影朧で、ひとまずは安心……か?
 と、そこまで思ってから、首を振る。
 い、否、我輩たちへの被害がもう既に酷い……!
 “同人娘”達側からしたら、いわゆる“公式が来た”案件なのだろう。
 “公式が来た”。創作の中でも二次創作を行っている者たちからしたら、とんでもない事である。
 さ、様々な記憶が甦って、心が痛い……!
 紙代は蛇体を身悶えさせながら、思う。過去の事をだ。
 お、思い出す……! お、俺のとこに……、関係者(あっち)が来たときのことを……!
「……! ……!」
 腕と手があったら頭を抱えていただろう。あの時の“信じられない”や“すぐに消えたかった”とか、そんな気持ちがリフレインしてきているからだ。
「うぅ……うぅ……」
 何とか気持ちに一時的な決着をつけ、紙代は行動を再開する。
 と、とりあえず追わねば……!
 先ほどと同様、蛇の姿のまま地表を進み、彼女達の逃げていった方向へ向かうが、
 この群衆に紛れこまれてしまえば、見当が付かんであるな……。
 敵はその名の通り、この“戦場”に特化した姿だ。そして、その上彼女達は戦闘を望まず逃げの一手。
「この中からどう探せば……」
 他のオブリビオンや影朧のように、立ち止まってこちらと戦闘してくれるならば、見つけるのは容易なのだが、とそこまで思った時だった。
 正面切っての相対……?
 それが、実現した時がある。“幻朧戦線”が“同人娘”達を召喚したときだ。
 最初、彼女達は吾輩を見て……。
 どうなったか。
「変な声挙げて、固まったのである……」
 否と、今言ったことを打ち消す思いが、自分の中にあることを紙代は自覚している。
 紙代もどちらかと言えば、“同人娘”と共通する部分がある側だ。彼女達がこちらを見て出したのが変な声だが、意味のある声だという事は解っている。
 彼女らにとって“公式”である猟兵がいたのだ。
「それも目の前に……。それは変な声、出るであるよなぁ」
 口に出したらまた自分の昔の記憶がリフレインしたので、小声でウァーー……と言う程度で“受け流す”。
「……しかしまぁ……、吾輩の姿を見て固まったという事は……」
 策は有る。
「――――」
 その思いを胸に、紙代は追跡の道筋を横へと逸れて行った。


 “同人娘”達は雑踏に紛れ、急ぎ、展示場から離れようとしていた。
「まさか猟兵がいるなんて……」
「もう少し見とけばよかったね……?」
「いや、見てたら興奮とか色々で絶対拙いことになるし……」
 ひそひそと囁き合いながら、避難誘導の指示に従っていく。
 このまま周囲の流れに乗ったら、自分達が出現した文芸ブースがある西棟から出て、展示場のシンボルである特徴的な建物前まで繋がっていく。
「娑婆の空気ってやつだね……! それでさぁ――」
 ここ出た後、どうしよっか。と、前を進む仲間に声をかけようとしたが、気付く。
「あっ、蛇」
 それが、展示場のタイル上を滑るように移動しているのだ。位置的には前方、自分達の前を横切っていくルートだった。
 風呂敷を背負ってるところから、普通の蛇ではないことがすぐに解る。
 珍しいな……。
 そう思って、皆で目で追っていると、蛇が止まり、
「――――」
 避難列のこちらを、確かに“見た”。その直後だった。
「ふぅ……」
 蛇が、その姿を人間に変えた。
 風呂敷を背負い、頭を軽く振って、一つに結った藍色の長髪を流し、閉じていた瞼を開き、こちらを見た。
 赤の双眸は、自分達にとってよく知る人物だった。
 南青台・紙代だ。


 我輩の姿を見れば、勝手に行動不能になってくれるのではないかと……。そう思い、先回りしたのであるが……。
 前方、そこに伸びる避難列で、紙代は作戦の結果を見ていた。
「んんンっ……!」
 妙な声と共に、列が“滞った”のだ。
 あそこであるな……。
 “滞り”は列の各所で生じており、つまり結論から言うと連中は予想より多そうであるな……?
「あぁー……。貴殿ら、そう、さっき召喚された影朧の。列の動きの邪魔になってるから列から外れて……って、動けそうにないであるなあ」
 列にいる他の参加者達からの視線を感じながら、声をかけて見るが、“顔が良すぎる……”とか、“生変身とか想定してない……”とか妙な呻きしか返ってこないので、
「そこ、ちょっと空間、空けてもらえるか? そう、そこに……、あぁ、そこにも……」
 自分の怪気を伸ばし、念動力で彼女らを列から除外していく。
「~~~~!?」
 怪奇で“掴んだ”際、“同人娘”達は何か声にならない声を挙げていたが気にせず、列から外れた場所まで隔離していく。
 結果、集まった数は、
「十人以上……」
 それだけの“同人娘”達の周囲を念動力で防ぎ、包囲を完成させる。
「ふぅ……」
 ……何故、吾輩の溜息だけで、そう、静かに盛り上がるのであるか……?
 否、やはり“そういうもの”か、と頭を振り、紙代は“同人娘”達に必要な事を告げていく。
「……吾輩とて、このまま、貴殿らを躯の海に返すには忍びない」
 召喚され、とりあえずは現状無害な影朧達だ。誰も傷つけておらず、明確な害意も有していない。
 このまま放っておくと、何するか解らんのは確かであるが……。
 ただ、だからこそ。
「転生、できるといいのであるがなぁ。――創作に取りつかれし我が"同類"よ」
 だから、何故そんなに盛り上がるのであるか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィーナ・シェフィールド
アドリブ絡み歓迎です
【WIZ】

とりあえず、逃げられないよう足止めしましょう。
かつて演じた舞台のエンディングテーマでもある、この曲で!

わたし達から離れようとしている人に対して、【この広い世界で、出逢えた理由を】を発動。
曲を演奏しながら、歌声を響かせます。
オタク趣味の方々にも評価いただいたこの曲なら、きっと同人娘さんの心に届くはず!

「なぜ、君と出逢えたの――♪」

演奏している間に様子をうかがって、怪しい人に目星をつけておきます。
できれば、他の猟兵の方が対象を捕まえていただければ良いのですけど。

無事にテロを阻止できたら、もう少し会場を回って同人誌を見ていきますね。
…先ほど見かけた本も気になりますし。


播州・クロリア
どこまでも往生際の悪い...
早急に捕まえないと
(幻朧戦線を桜學府に引き渡し、同人娘を追跡する)
結構距離が離されましたが、リズムが独特なので追跡は楽ですね
しかし、恐怖より羞恥心のリズムが強いのはどういうことでしょう?
(『衝撃波』を推進力にして同人娘に接近し、UCで{錆色の腕}を鎖に変えて『念動力』で同人娘を鎖で捕獲する)
よし、ひとまずはこれで...
と、なぜ急に泣き出すんですか?
捕まえる際にどこか傷がつきましたか?
(急に同人娘が泣き出して慌てる)
とりあえず、説得するにも落ち着けさせないと...
({白銀の旋律}の『ダンス』を見せながら落ち着かせようと試みる)
どうです?落ち着きましたか?


エドゥアルト・ルーデル
ジャンルは違えどもこの世界の同志
丁重に転生させないとね!

猟兵、オブリビオンとしてではなくオタクとしての【第六感】で感知し声をかけますぞ!
デュフフ…お嬢さん良いものあったかい?
貴様ら今更【擬態】しても無駄だ、大人しく正体を見せろ
さもなければ…【UAV】やらなんやらで猟兵をと…ゲフンゲフン撮影したブロマイドをプレゼント予定だったのにあげないでござるよ!

よし全員素直に正体を出したな?でぇじょぶだ写真は【段ボール】いっぱいになるまで揃えてある!速いもの勝ちじゃないから安心して欲しい参加者全員配布ですぞ!
その後は満足行くまで全年齢のウ=ス異本の見せ合いっこしたり早口で語り合ったりでござる
いいよね
いい…




 長身の“幻朧戦線”を確保したフィーナは、自分の視界の中、参加者達の間に隠れるようにして、“同人娘”達が逃げて行くのが見えた。
 “幻朧戦線”達が会場を荒らしたのも、これが狙いですか……。
 混乱を起こし、そこへ召喚した影朧達を紛れ込ませるためだったのだ。そして、召喚された影朧はこの芸能ブースの中だけでも数十人を越す。
 ……とりあえず、逃げられないように足止めをしましょう。
 一人ずつ追うのは無理、それを瞬時に判断すると、フィーナは空いているスペースを再度見つけ、そこに向かい、自分が持つオリジナルデバイスを構えた。
「――――」
 インストルメント。キーボードとギターが一体化した、様々な音色を奏でることが可能な楽器だ。
 そして、紫と純白のデザインのマイク、イーリスを顔の高さに設置。そして己の背後に浮かべるのは二対のスピーカードローン、ツウィリングス・モーントだ。
 準備は万全。それを確認した後、インストルメントの上で指を運ぶ。
 彼女達の足を止めるだけでなく、可能であればこちらまで来て貰う必要があります……。
 会場は広く、影朧は大勢。ここから数多くの出口に向かって離れられてしまえば、確保が困難だ。
 彼女達の方からこちらに来てもらう。そのための一曲をフィーナは持っている。
 指運が奏でていくのは、フィーナが出演した舞台のエンディングテーマだ。
「……!」
 避難が始まって雑然とする会場の中を、音律が走っていく。
 フィーナがこの曲を選んだのには、理由がある。
 だってこの曲は、オタク趣味の方々にも評価をいただいた曲です……!
 曲が評価されていることに加えて、今日、この場に来てフィーナは新たに知ったこともある。
 自分の舞台の同人誌が、作られていた事を、だ。
 それはフィーナにとって驚きでもあり、羞恥にも似た感情もあったが、何より、
 きっと、“同人娘”さん達にも届くはず……!
 彼女達の中で、自分の舞台を好んでくれる者がいる。舞台を知らなくとも、この曲に惹かれてくれる。
 だがこれは現状、確定ではない。
 彼女達が猟兵全てを“推し”ていたとしても、“そうかもしれない”や、“そのはず”という言葉が最後に付く様な考えだ。そしてそんな思考は、傲慢や驕りといった感情が自分の中にあるのだろうかと、フィーナはそう思いもするが、
 ……そうではありませんね。
 “国民的スタア”とそう呼ばれ、数多くのファンも得ているが、シンガーとして活動する時に、聞いてる誰しもが既に自分のファンな訳ではないことを、フィーナは知っている。
 まだファンではない者達がいることを承知で、フィーナは歌っているのだ。
 届いてと、そう思いながら……。
 そして、それは今も同じだ。
 こちらから逃げる彼女達に向け、自分の思いを送る。
「……!」
 その一念で、フィーナは鍵盤を押し、
「なぜ、君と出逢えたの――♪」
 曲に声を合わせた。
 曲と歌声。あふれる思いを、奏であわせていくのだ。


 南棟四階。そこから逃走しようとしてた“同人娘”達は、各地で音を聞いた。
「――――」
 多くは避難列の中で、人ごみに紛れながらだ。音は後方、自分達が背を向けた位置から、走ってくるのと、
「上から……」
 展示場天井。フレーム構造状に梁が巡らされたそこに、音が反射し、全域に降ってくるのだ。
 そして、走り、振ってくるのは音だけではない。
「なぜ、君と出逢えたの――♪」
 声だ。曲に乗った歌声が、合わせて来る。
「――んんっ……!! ん……っ!!」
 そして、曲を聞いた瞬間、解る。猟兵だ。猟兵が演奏し、歌っている。
「フィ、フィーナさんだ……!」
 歌声を聞いただけで立ち止まる者だったらまだいい方だ、中には泣き崩れる者や意識をどこかにトバしてる者もいる。
 な、生演奏に生歌とか……!
 目の前で喰らってもヤバいが、逃げてる最中に不意打ち気味に食らったのもヤバい。
 しかも歌詞が、
「なぜ、君と出逢えたの……」
 逃げるこちらに問うようだと、そう思うのは勘違いだろうか。
「か、勘違い上等……! コレ、絶対あれだって、私との出会いを歌ったアレだって! イメソンだって……!! ――アイタ……!」
「目をさましなさい、夢見がちなアホの子! ――フィーナさんは、どう考えても私のために歌ってるわ! ――アイタ……!」
 あまりのショックに混乱する同志達の頭を、互いにチョップすることで意識をリフレッシュさせていく。
「よし……! ――フィーナさんところに戻ろう……!」
「も、戻っちゃ駄目でしょ!? 捕まるでしょ!!」
「で、でも近くで聞きたいし……」
 それに、ほら、と一人が指を立てる。
「“変装”、すればさ……」
「――それだ!」
 皆で急ぎ、列を抜けて行った。


 フィーナは、演奏しながら、周囲に人が集まって来たのを感じた。
 来ましたね……。
 フィーナの演奏、ユーベルコードである“この広い世界で、出逢えた理由を”の効果によって、近くで演奏を聞き続けたいと思った人々が、自然と円を描くように集まって生きているのだ。
 人々の中には、フィーナのファンであったり、正しく心奪われた、普通の参加者が混じっているのだろう。
 だが、
 いますね……。
 演奏する手指と足、そして歌う喉を止めず、周囲を観察する。
 いるのだ。この人々の中に、“同人娘”が。
 ……というか、その……凄く解りやすいです……。
 人々を視線で確認しながら、フィーナは疑問する。
 な、何故……“同人娘”さん達は、振袖姿なのでしょう……?


 南棟一階。活動写真ブースでエドゥアルトはそれを見ていた。
 あれは……!
 外に流れる避難列の中から、何故か飛び出してきた者達がいるのだ。
 振袖姿の女子衆は、周囲を見渡しながら、足早に四階に続くルートを昇っていく。
 あまりに奇異な光景だった。
 しかし、拙者には解るでござるよ……!
 展開していたUAVを操作し、女子衆の後を先行して尾行させ、自分も人波をかき分け、四階へと昇っていく。
 そのままUAVを展開し続けていて、よかったでござるな……。
 “同人娘”達が逃走した時、エドゥアルトはUAVを操作し、避難列の近くに滞空させたのだ。
「音声から何か手掛かりを得られぬものかと、そう思ったで御座るが……」
 そんな作戦は成功だった。
 四階から再びピアノの音が聞こえたかと思えば、UAVが、列から声を拾ったのだ。
『――変身よ……!』
 息を呑むような、僅かな間。
 それだけだったが、その直後、避難列から振袖姿の女子衆が飛び出して来た。
 そして、UAVは今も尚、音を拾い続ける。
『――う、うわー! なにここ、人多すぎでしょ!』
『絶対ここ会場じゃないって!』
『人並んでるから、ここだって言ったの誰よ!?』
『ありえないんですけどー!』
 それを聞いて、エドゥアルトは思考する。
 間違い無いでござるよ……。あの女子衆、“同人娘”にござる……!。
 エドゥアルトのオブリビオンを見つけ出す猟兵としての直感ではなく、オタクとしての第六感でそれを感知していた。
 何故、振袖姿か……。
 それも解っている。
 なので、UAVから音声を送った。
『デュフフ……。お嬢さん方良いものあったかい?』
『……!?』
 カメラの先、連中が明らかに動揺したのが解る。
『貴様ら、今更“擬態”しても無駄だ、大人しく正体を見せろ……。
 ――そう、その“私達、成人式の会場を間違えた新成人なんですけど!”っていう変装は無意味だと言ってるんで御座るよ……! 場違い過ぎて一周回って怪しすぎる!』
『……!? ……!?』
 同様の気配が強まったので、畳みかける。
『さもなければ……、このUAVやらなんやらで猟兵をと……ゲフンゲフン、撮影したブロマイドをプレゼント予定だったのにあげないでござるよ!』
 さあ、と。
『解ったら、さっさとこっちに来るんでござるよ……!』


 エドゥアルトは四階展示場の隅、人目の付かない場所まで“同人娘”達を呼び集めていた。
「よし、全員素直に正体を出したな?」
 自分の周囲にいる、元の服装に戻った“同人娘”達を見回しながら、言葉を続ける。
「でぇじょぶだ……。写真はこの段ボールいっぱいになるまで揃えてある! 速いもの勝ちじゃないから安心して欲しい。参加者全員配布ですぞ!」
 傍らに積んだ段ボールを手で叩きながら、そう言うと、箱を閉じていたテープを開き、中の物を取り出して行く。
「……!!」
「ほら……! じゃんじゃん見るでござるよ……!」
 中から取り出したブロマイド集を手渡しながら、内容の説明をしていく。
「それは、丁度一年前の今の時期の写真にござるな……。スペースシップワールドでの戦争で……。あぁ、そっちはキマイラフューチャーの時ので御座るな……後は、アックス&ウィザーズにて群竜大陸に辿りついた写真や、UDCアースにて邪神を討伐したものに……」
「あっあっ、ヤバいヤバい……過剰摂取ヤバい……」
「あー私、それ欲しい! ――あ、そっちのも気になる……!」
「ちょっと待って。これさ、こうやって懐中時計とかにさ……こうやるとさ……ほら!」
「は……? アンタまさか……」
「“あ~……流石にもう隠しきれないかぁ……。……うん、そうだよ私、猟兵と付き合ってる”……って出来るやつじゃんそれ!」
「パカッって開いた時に、親衛隊にバレるやつじゃんそれ!」
「一枚目はカモフラで猟兵じゃなくて、良平の写真にしよう! 二重底でさ!」
 誰でござるか良平って。と、そう思いながら説明を続け、右に左に渡して行く。
「そして極めつけは、こちら! 猟兵達をモデルにした全年齢本……! 見たいでござるか?」
「み……、見たい! 見たい見たい!」
 食い気味に来るでござるな……。
「それじゃあ見せてあげるでござるよ……。どうでござる? いいよね……?」
「いい……」
 食い入るように本を見ている“同人娘”達を見ながら、エドゥアルトは思う。
 これで、心が鎮まってくれればいいんでござるが……。
「あぁー、あとは、ヒーローズアースにて始まったプロジェクト、“イェーガーtheMOVIE!”っていう、この世界の活動写真の発展版……みたいな技術で作られた映像とかも最近撮影始めたばっかりでござってなあ。これがまた……」
 付近に控えていた“桜學府”の桜の精を手招きで呼び寄せながら、エドゥアルトは“同人娘”達と語り続けていった。


「どこまでも往生際の悪い……」
 西棟と南棟の間にある屋上コスプレエリアで、クロリアは捕えていた“幻朧戦線”を、駆けつけた“桜學府”に引き渡すと、顰めていた眉をいくらか緩め、周囲に目を向ける。
「……早急に捕まえないと」
 グラッジ弾によって現れた影朧、“同人娘”達がこの会場から逃走しようとしているのだ。
 引き渡してる間に、結構距離が離されましたね……。
 相手はこちらの顔を見るなり、急いで逃げ出し、もはやコスプレ集団の海の中だ。
「リズムが独特なので、追跡は楽ですね」
 クロリアが知覚する“リズム”の中、大半は驚愕や混乱、そして中には恐怖というリズムだ。
 それは、“幻朧戦線”を捕獲するために立ち回ったクロリアへ向けられていたり、そんな現場から離れようという動きを持っている。
 こちらから離れていくリズム。そんな中に奇怪な物が存在しているのだ。
「……しかし、恐怖より羞恥心のリズムが強いのはどういうことでしょう?」
 疑問を呟きながら、
「――――」
 触角を風に揺らし、座標を特定すると、
「――行きます」
 念動力で己の背後に衝撃波を置き、押されるようにして身を飛ばして行った。
「――!」
 一瞬の浮遊感と、流れていく景色を視線で切り、一つの場所へ滑り込むように着地した。
 ピアノの音が聞こえる、南棟四階に通じるドアの前だった。
 逃げようとする“同人娘”達の前方へ立ち塞がる。
「――そこまでです」
 目の前で挙動不審な動きをする“同人娘”達に対し、クロリアは堂々と立って、告げる。
「後ろの貴方達もですよ。気付いてます」
 クロリアは自分の背後、南棟へと続く扉を既に通過していた“同人娘”達へ、振り向かず、
「――――」
 鎖化した己の腕を伸ばし、捕縛する。
 すると、それを見ていた目の前の“同人娘”達が声を挙げる。
「“錆色の腕”……!」
「? 何故、知っているんですか?」
 彼女達にこの“腕”を見せるのは初めてで、名称を知っているのも奇妙だ。なのでクロリア的には、思わず反射的に尋ねた、単純な問いだったのだが、
「――え? ……えっ!……、えっ、えっと……!? …………えっ、エっ、えっえッえっ……!」
 どうやら“同人娘”達にとってはクリティカルだったようで、え、という音を連続して嗚咽し始めた。
 ……一体何がどういう事ですか。
 目の前でさらに挙動不審になった同人娘達に戸惑いながら、また何かの弾みで逃げられても困るので、
「と、とりあえず、貴女達も捕縛させてもらいます」
 告げた瞬間。逃げ出す、そう思っていたが、
「……!?」
 何故かその場にいた“同人娘”全員がすぐに逃げ出さず、こちらの捕縛という言葉に一瞬硬直し、
「に、逃げ――アッアッっ……」
 その後、逃げ出そうとしたので、すぐさま捕縛。
 また短音で嗚咽し始めるが、
「!? な、何故、急に泣き出すのですか!?」
 不意に、嗚咽に涙が混じり始めた。
「つ、捕まえる際にどこか傷つきましたか……?」
 何故泣き出したのか、皆目見当がつかないクロリアは慌てて彼女らを窺うが、
「ぁっアッアッっ……。や、優し……ぁっアッアッっ……」
 およそ満足にコミニュケーションが取れない。
 ……い、一体どういう事ですか
 “リズム”や“色”で状態を押し図ろうとしても、
 ……ぐ、グチャグチャすぎます……!?
 赤や濃紺といった色や、興奮や嘆きといったリズムなど、何もかもがない交ぜになっているのだ。
「…………い、痛みは無いんですよね……? じゃ、じゃあとりあえずこっちに……」
「ぁっアッアッっ……!」
 クロリアは混乱したまま、捕縛した彼女達を空いたスペースに引き寄せていく。
「えっと、あの……。……駄目ですね、説得しようにも何が何やら……」
 一纏めに捕縛し直し、転生のために彼女らを説得をしようにも、聞いてるのか聞いてないのかクロリアにはさっぱり解らない。
「どうすれば……」
 と、そう思った時だった。
 気付く。
「――ピアノの音?」
 南棟に続く扉から、先ほどから聞こえて来ていた音だ。
 恐らく他の猟兵の、それも先ほど会った……。
 彼女が演奏する曲だ。恐らくこの事態を収拾するための一手で、
「ぁっアッ……」
 実際、“同人娘”達も反応していた。
 そして反応するという事は、やはり猟兵由来の曲であり、だからこそ、全員がこの扉の方に集まったのだろうと、クロリアはそう思いながら、
「――――」
 肩の力を抜いた。
「私が緊張していたら、皆さんも緊張が続きますからね」
 そう言って、身体から力を抜き、自分自身の“リズム”を整えると、
「これで落ち着いて下さるといいのですが……」
 一歩をステップした。
「――――」
 そして、そのままステップを止めることなく、足から足へと動きを紡いでいく。
「アッ……! は、“白銀の……っ!」
 思わずといった様子で言葉を発した後、慌てて口を噤む“同人娘”に微笑み、クロリアは己の中に持つ、静寂と純真の“リズム”に従い、身体を動かし続けていく。
 ステップを紡ぎ、その動作に上半身も連れ動き、腕も振うことになるが、
「――――」
 “錆色の腕”で捕えられた“同人娘”達が、クロリアの身動きに僅かも影響される事は無く、
「…………」
 只々、その静寂の舞踏を目の前で眺め続けていた。


 ……こんなものでしょうか?
 クロリアは踊りながら、“同人娘”達の様子が落ち着いたと判断し、やがてその踊りを収束させていった。
「ふぅ……。では、皆さん――」
 私の話を聞いてくれますかと、クロリアはそう言いたかった。
「ありがとうございます……ありがとうございます……」
「生ダンスが見れるなんて……ありがとうございます……」
 “同人娘”達が、頭を垂れたり、目を背けたり、天を仰いでいるのだ。
「……い、いや、そんなお礼の言葉を連呼されても……」
「ファンサありがとうございます……。でも軽率すぎます……死んでしまいます……軽率なファンサ嬉しいです……」
 ファンサって何でしょう、って思ってたらどんどん意味不明な日本語になっていきました……。
 ともかく、
「あ、あの……とりあえず、その、――転生してくれますか……?」
 先ほどよりかは幾分、コミニュケーションが取れるようになったので、最早、説得を直球で投げてみる。
「はい、はい……転生します……。百回くらい転生します……」
「そんなにしなくていいです……!!」
 慌てて訂正しながら、クロリアは“桜學府”の桜の精に空いた腕を振った。


 フィーナは気付いた。
 観客の中にいた“同人娘”達が、その数をどんどんと減らしていっているのだ。
 一階、そこから上がって来た振袖姿達は、背後で飛行している機械に指示されるように、他の振袖姿達を呼び集め、どこかへ離れて行った。
 そして、屋上のコスプレエリアに繋がる扉からも、こちらは平服姿の幾人かが訪れたが、
「――――」
 扉の向こうから伸びた鎖の様なものに捕まり、やはりどこかに引き寄せられていく。
 良かった……。他の猟兵の方達が捕えてくれてるんですね……。
 “幻朧戦線”を追っていた時の猟兵達と同じだろう。
 フィーナが演奏をし、自分のところまで引き寄せたところを、他の猟兵達が捕獲していっているのだ。
 これでとりあえずは一安心ですね……。
 最早、“同人娘”がいなくなっただろう。フィーナは終盤に差し掛かっていた指運をそのまま進め、
「――――」
 最後の歌詞を、歌い終えた。
「――お付き合いいただき、ありがとうございました!」
 演奏を終え、作戦も無事成功だ。
「さぁ、皆さんも誘導に従い、避難を……!」
 腕に持っていたインストルメントとイ―リスを揺れないよう抑えながら、もう一度礼をして、フィーナはその場を後にする。
 ……もう少し、会場を見て回りましょう。
 初めての同人誌即売会だ。どんな同人誌があるのか、あまりじっくり見れていない。この騒ぎの後だとあまり見れないだろうが、何より、
「……先ほど見かけた本も気になりますし、ね」
 そう言って、辿りついたのは芸能ブースの一角。フィーナが最初に訪れたスペースだった。
「…………」
 どうやら、未だサークル主は残って、作業を続けているようだった。
 まだ残っていて良かったという思いや、まだあの本が残っているという羞恥の思いなどが、複雑に生じ、
「……っ」
 しばし、どうしたものかと、スペースを見ていたら。
「…………? ――、って、うわぁ!? あっ、ぁ、あアッアッ……!」
 気付かれた。
 しまった、という思いと、“同人娘”さん達と似た反応ですね……。という思いが新たに心の中に追加される。
「あ、あの……」
「ふぃ、フィ、フィフィ……」
 気付かれてしまったからにはと、フィーナの方から声をかけたが、相手はフィーナのの顔を見ながら、空気が漏れ吹くような音を続かせるだけだ。
「えっと……その、先ほど見せていただいた同人誌の事なんですけど……、――あっ、ど、どうして早々に撤収準備を……!?」
 今日は人にぶつかるか、逃げられる日ですね……!? とフィーナは思いながら、サークル主を足早に追いかけて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年01月14日


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#サクラミラージュ
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#グラッジ弾


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
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 苦戦🔵🔴🔴
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 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


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 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

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挿絵イラスト