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極月のアンティクウス

#UDCアース #感染型UDC


「あ、あのさあ……やっぱ俺、降りるよ。ていうか、やめないかこんなこと? 絶対にやばいって」
 フルフェイスのヘルメットで顔を隠した青年――倭の制止に対して、他の仲間たちの反応はすげないものだった。
「嫌なら帰っていいぜ。その代わり、分け前もなしだ」
「そんなもんいらないよ! でも――」
「うるさいよ。どけ!」
「あッ……」
 倭を突き飛ばした男たちは次々と車を降り、店先に降りたシャッターをこじ開ける。夜の街はひっそりと静まり返っていた。
 場所は裏路地にある鄙びた骨董屋だ。
 窃盗――それが彼らの目的だった。人々の寝静まった夜に侵入し、金目の物を盗んで逃げる。
「やっぱり、俺にはできないよ――」
 倭はヘルメットを脱ぎ、所在なく歩道に腰を下ろした。灰青に染めた髪を中指に指輪を嵌めた右手でかきむしる。
 店の中から悲鳴が聞こえたのはまさにその時だった。
「え?」
 思わず、仲間たちの様子を店の中まで見に行った。
 そこにあったのは――。
「あらまあ、人のものを盗ってはいけませんよ」
 棚に陳列された骨董品が月明りに茫洋と浮かぶ薄闇の中、口元に手を当ててくすくすと含み嗤う絶世の美女……否、それは人ではなかった。盗んではいけないと諫めたばかりにも関わらず、当の彼女は恐れ戦く男の首元に手を伸ばすと、そこに下がっていた銀製のアクセサリーをぷつりと千切って笑いながら口の中に放り込んだのである。
「た……食べた?」
 愕然と震える倭の目の前で、彼女は蕩けるような微笑を浮かべた。心臓の鼓動が早まり、脳裏をがんがんと叩かれているかのように血管が激しく脈打つ。
 けぶるような長い金の髪と宝石のように煌めく翠色の瞳。うっとりと微笑む人形のように整った顔立ち。清楚な白いローブ……宗教的なモチーフを纏う少女は、けれど、倭に聖なる癒しではなくて暗い絶望の淵に突き落とすかのごとき恐怖を与えた。
「あ、ああ……」
 なぜならこれは、人ではない。
 では、なんだ。
 いったいなんだというのだ――?

「なんだと問われましたら、それは『感染型UDC』であるとお答えいたしますわ」
 黒弗・シューニャ(零・f23640)は一礼して猟兵たちを出迎えると、事の次第を順番に語り始めた。
 まず、目撃者である倭という青年。
 彼は事件の起こった骨董品屋と同じ町内にある土木会社に勤める18歳の男性で、同僚の男たちに半ば脅される形で窃盗の片棒を担がされるところだったという。
「しかし、盗みに入った店内で彼らは運悪く感染型UDCと遭遇してしまいます。幸い、誰も怪我をすることなく逃げることができたのですが……そうやって彼らを逃がして噂を広めることこそが、感染型UDCの狙いだったのですわ」

 感染型UDC――それは、人間の「噂」で増殖する新種のUDC。
 実際にその目で見た人間のみならず、噂話やSNSで広めた人間、さらにその広まった噂を知った人間全ての「精神エネルギー」を餌として、大量の配下を生み出す恐るべき性質を持っている。

「既に、その精神エネルギーに誘き寄せられたUDCが倭青年の周囲に迫っています。場所は隣町の工事現場。河川の整備中で、事件当夜一緒にいた同僚の男性方もその場にいるようです。他にも、仕事中の作業員の方が十数人ほど」
 彼らは重機を用い、流れをせき止めた川底をコンクリートで補強する作業を行っている。
「目撃者の精神エネルギーによって現場に大量発生したUDCは付近の住宅の屋根や電線の上に潜んでいます。そこから投擲物の雨を降らせ、彼らを一網打尽にするつもりなのですわ」
 シューニャは自分の指先を鋭いクナイの形に変えてみせた。UDCはそれで人々を傷つけ、動けなくしたところへ襲いかかり、抜き身の忍者刀で息の根を止める。

 もしもこれらの現象を放っておけば、現場にいる人々が命を落とすだけでは済まないだろう。噂から噂へと乗り移るようにして感染拡大してゆくのがこのUDCの特徴だ。連鎖的にパンデミックが発生してゆく前に事件を収束できなければ、とんでもないことになる。
「準備ができましたら、急いで皆さまを現場へお送りいたします。どうか巻き込まれた人々を救い、感染型UDCの居場所を突き止めてくださいませ……!」


ツヅキ
●プレイング受付期間:【12/10 8:31】~【12/11 8:30】
 プレイングを届いた順に個別で判定・執筆いたします。
 共同プレイングをかけられる場合は相手のお名前とIDもしくは団体名を冒頭にご記載ください。
 第2章以降の受付期間は雑記をご確認頂けますと幸いです。

●第1章
 感染型UDCと遭遇してしまった倭青年の周囲にオブリビオンの群れが現れますので、これを撃退してください。

●第2章
 倭青年から得られた情報を元に感染型UDCの現在の居所を捜索する冒険パートです。

●第3章
 諸悪の根源である感染型UDCとのボス戦となります。
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第1章 集団戦 『風魔衆・下忍』

POW   :    クナイスコール
【ホーミングクナイ】が命中した対象に対し、高威力高命中の【クナイ手裏剣の連射】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    サイバーアイ演算術
【バイザーで読み取った行動予測演算によって】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    居合抜き
【忍者刀】が命中した対象を切断する。
👑11
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霑国・永一
いやぁ窃盗なんてするから因果応報だよ…なんてねぇ。誰が何をしようが運と実力がなければ同じ運命さぁ
では不幸中にも運はあった青年、俺は周囲の排除するから大人しくしてるんだねぇ

狂気の分身を発動
分身を適当に50体ほど出して数体は青年の護衛、残りは下忍の討伐に向かわせる
一人に対して数人がかりで挑み、遠距離から銃撃させたり自爆特攻や近接攻撃させたりと行動予測演算を追いつかせないほどの数の猛攻で攻めさせる
数が足りないとか自爆や敗死で分身が減れば随時分身を追加する
本体の自身は分身に紛れて遠くから銃撃
『イヤっほぉぉう!一緒に死のうぜクソ忍者!』『やっべ、俺様死ぬわ!てめぇも死ね!』
「あのバイザー、盗みたいなぁ」



●第1章 『罪の代価』
 金属の雨音が、不規則に――あるいは傍若無人に――突如として日常を狂騒へと引きずり込んだ悪夢の証左として霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)の耳を打つ。
「あ……ああッ……」
 きわどいところで数体の分身に守らせた倭に背を向けたまま、永一は嘯く声色で囁いた。ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、傲然とこちらを見下ろす敵の群れをフードの陰から見据えて。
「いやぁ、危ないところだったねぇ。あと少し遅かったらぐっさぐさの惨殺死体になってたところだよ……ちなみに君、因果応報って知ってる?」
 そこかしこで、駆け付けた猟兵たちの奏でる戦闘音が重層的な旋律を組み上げる。オーヴァチュア。序曲。戦いの幕開けは、まず、降り注ぐ凶器から一般人たちを守ることから始まった。
「い、因果……応報――?」
 まさか、と倭は喉を鳴らした。
「あの時の――盗みに入った先で見たアレと関係があるのか――!? うわぁッ!!」
 眼前で、永一の別人格である分身の肩が刃に抉られ、肉片を迸らせながら吹っ飛んだ。永一はおやおやと他人事のように眉をひそめる。
「う、腕が……ッ!」
「大丈夫、こいつらは使い捨てさ。では不幸中にも運はあった青年、俺は周囲の排除するから大人しくしてるんだねぇ」
 飄々と言い残し、永一は他の分身たちに紛れる形で戦場から離脱した。周囲では分身たちが大暴れして手当たり次第に下忍たちへとしがみつき、自爆するさまや銃火器で蜂の巣にしてゆくさまが映画のように繰り広げられていた。
「演算エラー。予測不能……!!」
 なぜ、と下忍たちの間に当惑と悲鳴が迸る。
「相性値はこちらが有利のはず――なのになぜ、計算結果が覆されるのだ!? 離せ、はな……あぁッ!!」
『イヤっほぉぉう! 一緒に死のうぜクソ忍者!』
 分身たちは哄笑と共に相手を抱きすくめ、爆発――排除完了。
『やっべ、俺様死ぬわ! てめぇも死ね!』
 半ば切断され、ぱっくりと骨まで見えている首から垂れさがった顔で笑いながら紐で括り付けた刃物を振りかざし、顔を覆うバイザーごと頭に突き刺す――排除完了。
「あのバイザー、盗みたいなぁ」
 敵を撃ち抜いたばかりの銃口から硝煙をくゆらせつつ、永一は物欲しげにつぶやいた。疼く指先で、盗人は気ままに引き金を引き絞る。
「はい、排除完了」

成功 🔵​🔵​🔴​

木常野・都月
感染型…

進化するのは今を生きる生物の特権かと思っていたけど、過去も進化するって事か。

話を聞く限り、あまりのんびりとしてたら、後々すごく面倒な事になりそうだし。
感染が広がる前に止めないと。

青年を守りつつ、下忍オブリビオンを討伐したい、

青年を[かばう]事ができる距離で応戦、彼を守りたい。

[野生の感、第六感、オーラ防御]を使用、守るにあたって、不測の事態に備えたい。

UC【狐火】を使用、火力強め、確実に倒すようにしたい。

敵の攻撃は[属性攻撃、範囲攻撃]を[カウンター]で相殺したい。

万が一相殺しきれないなら、ダガーに持ち替えて応戦したい。



「ッ……――」
 頬を、紙一重で掠めていった白刃――。
(「さすが忍者、速いな……」)
 身を屈め、コンクリートを敷き詰められた川底に手をついて敵の斬撃を躱した木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)の尾が膨れ上がり、臨戦態勢を示している。
「あ、あの……これってやっぱ、俺たちのせいだよな? あの夜、骨董品屋で見たんだ。銀を食らうきれいな女を――ひッ……!」
 倭を狙って翻る忍者刀の気配を察知した都月は、とっさに張り巡らせた気膜でその矛先をずらし、彼の身を凶刃から庇い抜こうと務めた。
「ちッ――」
 攻めあぐねた下忍の唇からいらだたしげな舌打ちが漏れる。
「くそ、なぜ当たらない? もう一度――!」
「――今だ……ッ!」
 都月の勘が告げた、絶好のタイミング。
 攻める時にはどうしても隙が生じるものだ。今日は第六感が際立って冴え渡る。立ち上がる都月の外套が翻り、魔法陣を纏った杖の周囲に幾つもの狐火が生じた。
「な……ッ」
「あんまり、のんびりしている時間はないようだから。お前達の暗躍はここで終わりにしてもらうし、感染を広げさせるつもりもない」
 行動を読まれたことに対する敵の驚愕を、都月は業火の洗礼でもって無へと塗り替えた。
「ほざけ!」
「あ、危ない――!」
 倭が叫ぶより早く、破れかぶれの突撃を読んでいた都月の手にダガーが閃いた。全身を焼かれながら振りかざした下忍の刃が、甲高い金属音と共に火の粉舞う宙を飛ぶ。
「か、確率論を越えている……!?」
「過去も進化するとなれば、急がないと。進化っていうのは今を生きる生物の特権だけではみたいだね」
 得物を失った体は消炭となって風化してゆくも、既に都月の瞳は次の敵を捉え、新たな狐火を解き放っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

阿久間・仁
へっ、盗っ人野郎共を助けなきゃならねぇとは、猟兵の仕事はお人好しじゃなきゃ務まらねぇな!ケケケ!

守りながら闘うのは柄じゃねぇ。
死にたくなけりゃ邪魔な奴らは引っ込んでろ!
【大声・恫喝・恐怖を与える】

クナイでも刀でもなんでも持ってきな。
全身炎になった俺には通用しねぇだろうがな!ヒャハハ!
あとは近づいてぶん殴るだけだ。取り付いて燃やしてやるのもいいな。



「オラオラァ! 巻き込まれておっ死にたくなかったらさっさと逃げやがれ、蜘蛛の子みてぇになぁ!!」
 金属バットをぶん回す阿久間・仁(獄炎魔人・f24120)から逃げ惑うように、戦場となった工事現場にいた男たちが喚き声を上げながら建物の陰へと逃げ出していく。
「あッ――」
 逃げる途中で転んだ男の腕を拾った仁は、にやりと人相の悪い唇の端を吊り上げた。怯える男の顔を覗き込み、赤い舌をちらつかせる。
「お前、もしかして盗っ人の一味か? へっ、こんな薄汚い野郎共を助けなきゃならねぇとは、猟兵の仕事はお人好しじゃなきゃ務まらねぇな! ケケケ!」
「う、わああッ!」
 恫喝に震えあがった男は、腕を振り払って死に物狂いで逃げた――刹那。
 さっきまで彼がいた場所へと、敵のクナイが撃ち込まれる。間一髪で獲物を逃した下忍は口惜しげに舌を打ち、仁の前に立ちはだかった。
「邪魔をするな!!」
「はっ――無駄なんだよぉ!!」
 暴れるのは気持ちいい。
 焔と化した体をクナイがすり抜ける快感、驚愕に慄く敵を容赦なくぶん殴る愉悦。戦いは仁にとって息をするのも同然だった。
「こ、こいつ……正気じゃない!」
「残念だが、俺は素面だ。喧嘩を売った相手が悪かったな!!」
 そのまま突進して腕を相手の首に絡め、――燃やし尽くす。火だるまになった体を投げ捨て、後ろから襲いかかる敵を振り回したバットで薙ぎ倒し、思うさま殴り尽くした。

成功 🔵​🔵​🔴​

灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員として連携

UDCがエンデミックですか…
隔離の段階は過ぎましたし。ここからは滅菌の時間ですね

言いつつUC:ウロボロスアーセナルでフレア投射機を搭載した
大型無人攻撃機(UAV)を召喚。工事現場上空に低空突入させ
フレアを間髪入れずに敵の潜伏エリアに全力投射(先制攻撃)
敵に牽制の圧力を掛け出鼻を挫き
仲間が一般人の防護を固めるのを支援

同時にUAVの地上監視カメラと
指定UCによる監視で敵の数と動向を
監視し把握(情報収集・戦闘知識)

随時仲間と無線で情報共有すると同時に
狙撃(スナイパー)で仲間の死角を突いてくる敵や
連携の為に指示を出す個体を優先排除し味方の攻撃を
支援しつつ敵数を確実に削っていく


木鳩・基
【SIRD】
噂かぁ…
ちょっと前だったら喜んで飛びついてて、知らんうちに手助けしてたかも
今は勿論、根から断つ方だけど!

UC発動、一般人や味方を守れるような形に組み換えて【拠点防御】
雨を降らせるとのことだから屋根を築こうか
避難が完了するまでの【時間稼ぎ】も兼ね、塔状に構築した地形に登って【挑発】
投擲には【地形の利用】と【逃げ足】を活用して避けて
近接は【フェイント】も掛けながらシンプルにぶん殴る
適宜味方と連絡・連携しつつ地形を途中で変えたりしながら戦うよ

避難完了して敵に隙が見えたら、組んだ地形を殴ってどんどん分解する
崩落の混乱に乗じて連撃を叩き込んでいく

いかにも速そうな見た目だけどさ
これ、避けれる?


ネリッサ・ハーディ
SIRDのメンバーと共に行動

さて、まずは倭青年を始めとする一般人の安全確保が先決です。
情報によると敵は忍者と思しき様子。身軽な動きがアドヴァンテージになると思われます。それらを付近にある遮蔽物を利用しつつハンドガン(G19C)で牽制、一般人が避難を終えるまで続けます。この段階では、相手が一般人に危害を加えない様にすればよいのですから、無理に倒す必要はありません。牽制で十分です。
一般人の安全圏に避難できた事を確認できたら、UCを発動して応戦。複数の敵を相手にするには、こちらも複数の火力で対応するのがセオリーですね。噂でとはいえ、感染する様な輩はやはり炎で焼き尽くすのが最善でしょう。

※アドリブ歓迎


エメラ・アーヴェスピア
【SIRD】
話を聞くに都市伝説のような相手ね、感染型UDC…
まぁ、何とかやってみましょうか

役割として私は民間人の護衛に入るわ
『出撃の時だ我が精兵達よ』
仲間の先制攻撃に合わせて今回の重要人物達や作業員達の護衛として一人に数機つける感じで呼び出すわ
装備は大盾、攻撃に対して【盾受け】で【かばう】させるわね
仲間の作った【地形の利用】をして護衛させつつ避難させるとしましょう…避難が無理でも【拠点防衛】ができるように
それと同時に上げておいたドローンや仲間からの情報等で敵位置を【情報収集】(と【失せ物探し】)、奇襲を防ぐわよ
仲間との情報共有を確実にしつつ、確実に私の役割を果たしましょう

※アドリブ・絡み歓迎



「こちらエメラ。いつでもいけるわ」
「同じく、私も準備OKだよ。タイミングはそっちに任せた!」
 【SIRD】が共有する回線を通して、エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)と木鳩・基(完成途上・f01075)から畳みかけるように“GO”のサインが出る。
「さて、では参りましょうか。情報によると敵は忍者と思しき様子。身軽な動きがアドヴァンテージになると思われます」
「了解。それにしても、UDCがエンデミックですか……隔離の段階は過ぎましたし。ここからは滅菌の時間ですね」
「ええ。手早く片付けましょう」
 回線が切られるのと同時に、ネリッサ・ハーディ(クローク・アンド・ダガー・f03206)と灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)が行動を開始する。
「――始まったわ!」
 エメラの頭上に影を落とす巨大な兵器こそ、灯璃の統率する大型無人攻撃機――通称UAV。
「……敵の潜伏エリアの特定完了。フレア投射機展開、即時全力投射――!」
 灯璃の指示通り、一瞬にして迸ったフレアが周囲に潜んでいた敵をあぶり出すかのように猛威を奮った。ネリッサは器用にその余波から身を逸らすと、遮蔽物の影へと転がり込んでハンドガンのトリガーを引く。
 激しい射撃音が土手の内部に響き渡り、標的となった下忍たちが次々と頽れていった。
「な、なんだ? これは……!?」
 突如として戦いに巻き込まれた作業員たちは、自分たちを庇うように屋根を広げたアスファルトとコンクリートのパッチワークに我が目を疑った。
 基はといえば、それらの脇にそびえ立つコンクリート片を積み上げた塔の天辺に跨り、口の横に手を当てて大きな声を張り上げる。
「こいつが邪魔なら、先に私を倒さないと駄目だぞ!」
 不敵にも挑発すれば、瞬く間に数多のクナイが基目がけて放たれた。
「よっと!」
 だが、軽々と塔の裏側に身を隠し、狙った刃は空を切ってコンクリートに突き刺さる。
「今のうちに、早く」
「あ、ああ……恩に着る!」
 我に返って避難し始める男たちを見送り、基は軽く嘆息した。
 少し前までなら、この事態を引き起こした元凶である“噂”の真実も知らずに飛びつき、その感染の手助けをしていたかもしれない。
「ま、今は勿論、根から断つ方だけどな!」
「なにッ――!?」
 反対側に回り込んだ下忍の刃から逃れ、そのまま退避すると見せかけてその横っ面を思いっきり殴り飛ばした。
「そっちはどう?」
「順調よ。敵が地上に移動し始めてるから、気を付けて」
 エメラの打ち上げたドローンのカメラは、UAVのフレアから逃れるために屋根から降りて工事現場へ向かう敵の姿をはっきりと捉えていた。
「させるかあ!」
 基の号令によって屋根となっていた地形が大きく傾き、地面に突き刺さる形で今度は壁に変形。行き場を塞がれた下忍たちが右往左往する足元へネリッサが銃撃を見舞った。
「うわあッ!!」
「大丈夫よ」
 エメラは彼らを安心させるように微笑み、忠実なる魔導蒸気兵を従えて告げる。
「この子たちが盾になってくれるから。後ろは振り返らずにお逃げなさい」
 激しい地揺れのなか、数体の魔導蒸気兵に守られた作業員たちがひとり、またひとりと工事現場から逃れていった。
「ひッ――」
 頭上から落ちかかったアスファルトを、魔導蒸気兵が手にした盾で受け止める。
「ほ、本当に守ってくれるんだな。有難い」
 だが、全ての避難が終わる前にエメラのドローンが警告を発した。
「! 逃走路に敵が近づいてるわ」
「こちらでも観測済みです。数は4、11時の方向より接近中。中心となっているのはあの個体であるようですね」
 無線に応えながら、灯璃はセミ・オートライフルのスコープを覗き込む。
 トリガーを引いた直後、1体の下忍が倒れて敵の統率が乱れた。その隙をネリッサは見逃さない。倒すことよりも動きを止めることを優先し、関節を狙って弾を撃ち込む。
「お見事です」
 灯璃が呟くのと、最後の作業員が工事現場を離れるのとが同時だった。
「では、作戦を次の段階へ移行しましょうか。1人とて逃がすつもりはありませんよ」
 表情一つ変えず、ネリッサはハンドガンをホルダーに仕舞うと微かに唇を動かした。詠唱によって召喚された数十にも及ぶ炎の精が陽炎のように彼女の周囲を彩り、そのひとつひとつが爆弾相当の力を内包して迸る。
「がッ――」
「噂でとはいえ、感染する様な輩はやはり炎で焼き尽くすのが最善でしょう」
 1体、また1体と立て続けに燃え尽きてゆくのを、ネリッサは透徹した眼差しで見送った。一方の基はこれで暴れられるとばかりに拳を自らが乗っていた塔に撃ち込み、残る敵の群れへと豪快にそれを崩落させる。
「に、逃げろッ――」
「残念でした、逃げ場なんかないぜ!」
 慌てふためく敵の鳩尾に拳を叩き込み、してやったりと笑む。その間にも、敵は悲鳴を上げて逃げ惑うばかりだ。
 烏合の衆。
 そんな言葉がライフルを構えた灯璃の脳裏を過る。居合わせた他の猟兵たちの作戦行動も同時に成功しており、既に敵の布陣は瓦解。まばらに動く残党を掃討する段階に入っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

アンテロ・ヴィルスカ
フィッダ君(f18408)と

人の物を盗もうとするからこういう目に合うんだよ…
悪事に関わる時のメリット、デメリットくらいちゃんと自分で計らなくては、ねぇ?

投擲物は不香の花で一つ残さず雪に…
万が一ヒトに当たっても大した事にはならないだろう
確かあの飛び道具には穴があったかな?
UCを解除して、地に落ちた投擲物の穴を【念動力】を通した『銀鎖』で一繋ぎ
鞭のようにしならせ全て投げ返すよ

剣には剣を、と言いたいところだが何せ数が多い
俺の間合いに入るつもりなら、忍者刀も雪に変えさせてもらう

炎だけでなく氷まで?器用だねフィッダ君
aaveの魔力で助力を、氷の竜巻なら少しくらい言う事を聞くだろう

アドリブ等ご自由に


フィッダ・ヨクセム
アンテロ(f03396)と

言ッてやるなよ、選んだ結果がコレだろ
…なら、気まぐれに救うカミもあり、だ
生憎、神は神でもヤドリガミだけどな

雪に変えちまえば仮に当たッても痛かねェだろうけど…!
そうか、下手くそ魔術の披露時と見た
どうせ暴発するなら、派手にやろう

普段、バス停(本体)に纏って使う魔術は炎だが…
今日扱う属性は【氷】
……あまりの不慣れさにぱちぱち炎のように爆ぜるだろうが、知るか
杖宜しく振ッて起こす事象は、竜巻だ
俺様には生憎、制御できないんで?運悪く巻き込まれて逝けよ

近距離にはバス停で応戦するが、流石に魔術の見様見真似は良くねェな
…あァ、これアンタの真似だよ
アンテロの助力があれば被害は減るだろうな



(「助けて――……」)
 不穏な気配に曇った空を見上げた倭青年がまず求めたのは、この異常で不吉で終わりを予感させる“雨”から救ってくれる超越的な存在だった。
 この世のものとは思えない、禍々しい姿の少女――UDC――の指から投擲される刃物が一斉に降り注ぐ。
「――た、助けて……神さま――ッ……!!」
 叫んだ刹那、青年の頬を雪の礫が濡らしていった。
「え……?」
 夢。
 あるいは、幻。
 青年が幻惑されるのも無理はなかった。
 ――雪だ。
 命を狩る刃の雨がおだやかな雪となって、残酷に凍てついた極月のうすら寒い工事現場に舞い落ちてくる。信じられない思いで空を仰いでいると、小生意気そうに響かせる少年の声が間近で上がった。
「うわッ、マジでやりやがった! そりゃ雪に変えちまえば仮に当たッても痛かねェだろうけど……! ほんとアンタは食えない勝負師だな、アンテロ?」
「誉め言葉だと思って受け取っておくよ、フィッダ君。ああ、紹介が遅れてすまない。君の悪事の尻ぬぐいをしに来た者だ」
 後半は青年に向けて言うと、黒い眼帯の男は嘯くように中見の無い微笑を浮かべる。
「人の物を盗もうとするからこういう目に合うんだよ……悪事に関わる時のメリット、デメリットくらいちゃんと自分で計らなくては、ねぇ?」
 すると、隣のマスクをした不健康そうな痩身の少年が呆れたように肩を竦めた。
「言ッてやるなよ、選んだ結果がコレだろ。……なら、気まぐれに救うカミもあり、だ」
「え? 神?」
 間抜けにも繰り返す青年に、少年――フィッダ・ヨクセム(停スル夢・f18408)が嘆息してみせる。
「生憎、神は神でもヤドリガミだけどな」
「同じく」
 閉眼して頷いた男――アンテロ・ヴィルスカ(白に鎮める・f03396)の手元で銀色が弾けると同時に、地面を濡らす雪の結晶が元のクナイへと姿を戻した。微かな金属の囀りを奏で、嫋やかなる銀鎖が柄に空いた穴に通されてゆく。アンテロはそれを鞭のようにしならせ、ヒュッと投げ返した。
 幾つものクナイが見事に敵を貫いてゆくのは、まるで曲芸のようでもある。
「なァるほど」
 ぴんと来たフィッダは、両手で掴んだバス停を杖のように振りかざした。
 いつもと違い、彼の周囲に集う精霊は血気盛んな炎のそれではなく、冴えた微笑を湛える氷雪のそれ。
「おや、珍しいこともあるものだね。今日は氷かい? 器用だねフィッダ君」
 意外そうに片方の眉を上げてみせるアンテロに、フィッダは舌を出して言った。
「……そ、アンタの真似さ。ただし、不慣れで暴発すっかもしんねェからあんまし近づくなよ……って、ソレ持ってるアンタにゃ不要な心配か」
 軽く鼻を鳴らし、忍者刀を手に屋根から飛び降りてくる敵の群れ目がけて両手に掲げたバス停を杖よろしくぶん回す――!! 
「くッ……! そら、運悪く巻き込まれて逝きやがれッ――」
 本人にも制御しきれない、暴れ狂う氷嵐が見る間に敵を呑み込み、吹き飛ばして近くの壁へと叩き付ける。コンクリートに咲いた血の花すらも、滑らかに凍りついてゆくほどの絶対零下。
「ぎぎゃッ!?」
「ふぐッ……!」
 仲間が無残にも倒れゆくなか、幸運にも難を逃れた者の手元では先程と同じ、武器が雪に変わってしまうという現象が起こっていた。
「剣には剣を、と言いたいところだが何せ数が多いからね。先手を打たせてもらったよ」
 吹雪の中、悠々とたたずむアンテロの手にある片手剣が僅かに発光して見える。まるで暴れ馬をいなす鞭のようにそれが輝く度、土手を越えて住宅街までをも侵しかける氷嵐の矛先がただしく敵へと向き直るのだった。
「やるじゃん」
 口笛を吹き、フィッダは氷嵐をかいくぐってきたぼろぼろの敵をバス停で殴り倒す。
「それほどでも」
 武器を失った烏合の衆を斬り伏せるアンテロは彼に背を預け、大気に散る雪と氷の結晶に息を白くしながら戯れのように囁くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
へっへ、これで悪目立ちァしねェだろ
後ァ着いてのお楽しみってね

飛んだ先の物珍しさに気を持ってかれそうにもなるが、堪える
川があンな…俺でもわかるモンがあって善かったぜ
とくらぁ、先ずァ目先に集中
この巾着に筆が幾らでも入るからよ、持てるだけ持ってきたんでェ
右手三つ左手三つ、さぁさ千鳥の群れが行くゼ

地を這うように、天より注ぐように
前に後ろに右左、誘導弾の範囲攻撃
群れを斬れば衝撃波での吹き飛ばしと麻痺攻撃のオマケ付き
そら、斬った端っから新しい群れを描いちやる

立ち筋が見切れるように、そうならざるを得ねェように千鳥を操る
二手三手、先を見越した先制攻撃の末
吉祥文で底上げした、とっときの一撃を死角から当てちやる



「へっへ、これで悪目立ちァしねェだろ」
 極彩色のジャンバーを引っ掛けた小粋な格好は、冬空に凍えるコンクリートのジャングルに一点の鮮やかな精彩を与える。
 菱川・彌三八(彌栄・f12195)は新調した衣装の出来栄えに満足するかのように笑み、足取り軽く現地へと降り立った。
「へぇ……」
 帽子のつばを押し上げ、物珍しい景色に引き込まれそうになるのを堪えて駆ける。
「川があンな……俺でもわかるモンがあって善かったぜ」
 垣根代わりと思しき白鋼の囲いを飛び越え、戦禍に陥る工事現場へと飛び降りながら探る巾着の中より取りい出したるは六本の和筆。
 右手に三つ、左手に三つ。
 指の間に挟み込んだそれらは、絵具を含ませるまでもなく瑞々しき色を大気に乗せて数多の千鳥を空に放った。
「す、っげぇ……!!」
 他の猟兵たちに誘導されて避難するさなか、地を這うように、天より注ぐように四方八方を飛翔する鳥群に圧倒された作業員の口から感嘆の声が漏れ聞こえる。
「ちぃッ、邪魔だ!!」
 地団太を踏んだ下忍のうち数人が刀を抜いて屋根から飛び降り、直接千鳥の群れを捌こうとするのを彌三八はしてやったりと見届けた。
「さぁさ、こっからが見物だゼ。そいつァいわば花火の種みたいなもンよ。うっかり触れば大火傷をしちまう仕掛でさァ」
 彌三八が述べる口上の通り、敵が千鳥の群れを斬った途端に衝撃波が迸る。
「なに――」
 戦場のそこかしこで、同じ目に遭った下忍たちの悲鳴が続いた。
「う、動けん……!? あぁッ!!」
 麻痺して立往生する彼女らの元へと、彌三八は流れる所作で新たな千鳥を描き送る。
「斬らば幾らでも描いちやる。そら、天高く羽ばたけよ、存分に囀ちやれや」
「くッ、このッ……――!!」
 敵もどうにかして群れを越えようと足掻くが、まるで動きを読んだかの如く先回りされては行く手を阻まれ、膠着状態に陥った。
 ゆらり、と彌三八の筆先がひと際大きな千鳥を紡ぎ、勝負を決めにかかる。絵師の魂を込めた吉祥文の一筆。
 逃れる術など、あるはずもなく――。
「後ろの正面、だァれってな」
「な――」
 振り向いた時には遅過ぎる。
 つがいで描かれた千鳥は死角から敵を屠り、堰き止められた川の代わりに雅なる奔流となって戦場を翔け抜けていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

夕闇霧・空音
久しぶりの風魔衆…
あと、盗みに入った人の処遇は猟兵の領分ではないわね。
おとなしく警察に自首すると約束してもらうわよ…

【アドリブOK】
こっちの行動を予測するのがそのバイザーの能力ね
ならコッチがフリーズゼロ…を発動させるフリして
氷壁を展開するわ。
これでコッチの攻撃が予想と外れてしまうかもしれないわね。
そうなれば後はコッチが仕掛けに行くわよ



 この気配――因縁を持つ敵との久しぶりの邂逅に夕闇霧・空音(凶風・f00424)は身の裡より沸き立つ武者震いのようなものを感じていた。
「それじゃあ、いくぜ!」
 打ち合わせた両手の砲口を差し向ければ、それにつられた下忍たちは光線による直線攻撃が来るものと左右に散った。
 だが、それこそフェイク。
「そのバイザーが攻撃予測を行うことは分かってるんだよ。自分たちの分析能力に溺れたのが運の尽きだな」
「!?」
 当然、空音の砲口に意識が集中していた彼女たちに足元からせり上がったコキュートスウォール――堆く聳え立つ氷壁への対処などできるはずもない。
「かかったな!」
 空音は今度こそ両手を掲げ、絶対零度の光線でここまで生き残っていた敵の全てを一瞬にして冷たい氷塊へと変えてしまった。
「た、助かった……のか……?」
 既に非難を終え、地面にへたりこんでいた倭の前に仁王立ちになった空音は腰に手を当てて彼を見下ろした。
「さて、ここから先は猟兵の領分ではないわね。私の言いたいこと、わかるかしら?」
「あ、ああ……」
 彼は観念したようにうなだれ、約束する。
「警察に行って、俺達のやったこと……やろうとしたことを全部白状するよ。でも、その前に、あんたたちに伝えなきゃならないことがある。盗みに入った骨董品屋で見た、あの綺麗で怖い女のことだ――……」

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『狂気の芸術』

POW   :    美術館などをとにかく巡り絵画展を特定する等

SPD   :    聞き込みや美術商の調査で絵画展を特定する等

WIZ   :    絵画の魔力を辿ったり美術知識で絵画展を特定する等

👑11
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●第2章 『君の行方』
「あそこにあった絵画のことかい? 残念だけど、行き違いで売れてしまったんだよ」
 数日前、不法侵入の被害に遭っていた骨董品屋の店主は白髪交じりの頭をかきながら今は空いている壁の一角を指さした。
『俺、見たんだ……先輩のアクセサリーを美味しそうに食べてた女の後ろに、彼女を描いた絵があったんだ。相当古いものらしくて、色も掠れてたけど、確かに同じ女だった』
 当時の恐怖が甦ったのか、呻くようにつぶやいた倭の告白によって件の骨董品屋を訪れた猟兵たちは、その絵を購入した客について尋ねた。
 だが、店主の答えは要領を得ない。
 早く見つけなければいつ次の被害が生まれるとも限らないというのに、買われていった先がどこであるのかはまるで分からないというのだ。
「いや、通販とかなら名前や住所の控えがあるけどね。普通に店頭で売ったから、客がどこの誰なのかまでは聞かなかったんだよ。特徴? うーん、外国人っぽい若い画商だったけど。茶色い髭を生やした若い男。ああ、そうそう。明日から開催する絵画展に飾る絵が足りないとか言って、慌てて買っていったんだ。どこかの駅前のビルのフロアを借り切って、その場で売買もできる即売会にするんだとかなんとか。テーマは『宝石』だったかな? あの絵に描かれていた女は、それは見事な紫の宝石の首飾りをしていたからねえ。君たちの事情はよくわからないが、もしあの絵が必要なら早く見つけた方がいいんじゃないかい? 明日になって絵画展が始まれば、また別の誰かが買ってしまうかもしれないからね――……」
アンテロ・ヴィルスカ
フィッダ君(f18408)と

急ぎで買いに来れるならそう遠くはない……明日開催ともなると場所も絞り込みやすいね
近場の大きな駅を幾つかスマートフォンでピックアウトするよ。

古い絵なら油彩辺りか、絵具の匂いは辿れるかい?
君の鼻に任せる……というか乗せてくれ、陰に紛れる君の方が他の移動手段より効率的だ。
【騎乗】には自信有り、なんて『銀鎖』は手綱代わりに…

会場と画商を見つければ【礼儀作法】と演技を用いて交渉を
俺の身分は絵画コレクター、かつて祖父が所蔵していた絵をずっと探していた…なんて筋書きはどうかな。

言値で引き取るし展示もして構わない、明日が来る前に骸の海に返してしまえばいいのだから。


フィッダ・ヨクセム
【SPD】アンテロ(f03396)と

知識とか交渉に関する事はアンテロに任せる
適材適所な、俺様は労働方面だ

折角、骨董店にまで来たんだ
"あそこ"とやらの匂いを探ッて覚えよう
……鼻面だけ獣化して嗅覚上げれば、目標に刺さりもするだろうし
数日前まであッたなら、完全に消えてもいないだろ
俺様が大嫌いな、油性の匂いを嗅ぎ分けてやる
野生の勘を、舐めるなよ

人混みは匂いが紛れるから
追跡は全部変異して陰に紛れる方が効率が…
乗り手も同様に陰に紛れさせる妖怪だ、勿論出来るとも

……え、俺様に乗るんデス?
移動の効率優先なら仕方がないか
…アンタの騎馬より乱暴だぞ俺様は
怪力の限りを尽くしてな、ヒト一人くらいなんとかしてやるさァ!



 寂れた住宅街を抜け、駅前の大通りに駆け出た途端に街は聖夜までのカウントダウンに浮足立つ華やかな空気を醸し出す。
 だが、陰はそんな一見して栄えている街にも必ず存在するのだ。
 ズァ……と、隙間を通れるとは思えないほどの狭所を颶風の如く駆け抜ける妖怪の名を“鬣犬”といった。変化しているのはフィッダ・ヨクセム(停スル夢・f18408)。彼は背に乗せたアンテロ・ヴィルスカ(白に鎮める・f03396)を振り仰ぎ、「近い」とでも言うかのように鼻をひくつかせる。

 ――数時間前、骨董品屋にて。
 店主からの聞き取りをアンテロに任せたフィッダは、こっそりとマスクの下の鼻先を獣化してそこにあったはずの絵画の匂い――大嫌いな油性のそれ――を嗅ぎ分けていた。

「こちらの推測通りだな。急ぎで買いに来れるならそう遠くはない……それに、明日開催ともなると場所も絞り込みやすくて助かる」
 アンテロの黒手袋をした手のひらには、近場の大きな駅をピックアップしたスマートフォンの画面があった。ふたりが居るのはそのうちのひとつに当たる、大きな駅ビルが併設された乗換駅前の交差路である。点滅する横断歩道を急ぎ足で渡る人々の陰を飛び石のように駆け抜けながら、フィッダは手綱代わりに噛んだ銀鎖を乱暴に引いた。
「おっと」
 急な方向転換にも動じず、アンテロは鐙もないのに上手く重心をとって振り落とされるのをふせいだ。
「……ッたく、嫌味なくらい器用な乗り手だなアンタは。言っとくが、移動の効率優先のために仕方なく俺様に乗せてやってるんだからな……味をしめるなよ?」
 釘を刺す間にも、フィッダの耳はぴくぴくと周囲を気にして激しく蠢いていた。野生の勘が告げている。目的地まで、もうそれほどの距離はないはずだ。ぐっと四肢に力を入れて身を低め、持ち得る怪力の限りを尽くし、決して軽くはない相手を乗せたまま絵画展の準備を進める駅ビルのホールへと滑り込んだ。
「……はいよ、ご到着ゥ!」
「お疲れ様、フィッダ君。そこの柱の陰で休んでいてくれ」
 乱れた髪を梳いて身だしなみを整えつつ、アンテロは洗練された演技で例の画商を見つけ出すとさっそく交渉を始めた。
「え? 骨董品屋で購入した絵画を譲って欲しい……ということですか?」
「はい。もしかしたら、かつて祖父が所蔵していた絵なのではないかと思いまして。ずっと探していたんですよ。勿論、無理なお願いであることは承知しております。そちらの言値で引き取りますし、展示も予定通りにしてもらって構いませんので」
「それは破格のご条件ですね。そのお申し出、是非ともお受けさせて下さい」
 画商は喜んで手を揉みながら絵画コレクターを装っているアンテロを件の絵画が飾られている場所まで案内しようとして――目を剥いた。
 展示場の白いホールの中央に、ひとりの女がいる。白いベール。絹のように滑らかな金の髪と、透き通る翠色の瞳。
 そして、胸元には紫の宝石をあしらった美しい首飾りが輝いていた。
「え? あれッ? コスプレ……!?」
 画商が面食らったのも無理はない。
 絵画から抜け出してきたかのような格好の女が、可憐にも小首を傾げ、やさしく微笑みながらこちらを眺めていたからだ。
 ぐるるぅ……――。
 警戒を露わにしたフィッダが牙を剥いて喉を鳴らす。
「あら? あなた……美味しそうなロザリオを隠しているのね?」
 女はアンテロのベストを纏う胸元に視線を注ぎ、首から下がる銀鎖の先にあるそれを見透かしたかのように微笑んだ。
「ふふ。白銀製の、小さな八端十字架ね。それ、私に下さらない……?」
「ひ、ひえッ――」
 怯えきった画商は思わずアンテロの脚に抱き着いた。
 怪奇現象――UDCの引き起こす認知のゆがみによって、展示場はいまや色彩の坩堝と化していた。辺りにあった絵画は宙に浮きあがり、不気味に踊る。
「ここにあるのは絵ばかりで、随分とお腹を空かせておりましたのよ。本当は、もっと華美な方が好みなのだけれど……そのロザリオにはなぜか心惹かれますわ。ね、どうか私に頂戴な――」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エメラ・アーヴェスピア
【SIRD】
とりあえず最初の情報は手に入ったわね
ここからは情報収集の時間…つまり、私の時間よ

早速私はネットから【情報収集】(&【失せ物探し】)…足で稼ぐのはお仲間さんに任せるわ
検索対象は
・今回の目標らしきUDCの噂
・描かれた絵
・明日から開催する絵画展
・お仲間さんから要請のあった事柄
UCも使用して検索よ
それと付近にありそうな監視カメラから画商の外見だけでも確定して画像を用意したいわ、これだけでも探すのは大分違うと思うから
…検索したUDC及び絵の情報は収集後、ネットから【ハッキング】でピンポイントに削除よ
広まると拙いなら今の時点で拡散を防ぎましょう…今後有利になるかもしれないし

※アドリブ・絡み歓迎


木鳩・基
【SIRD】
金属食いの女の絵、噂として流れるなら物好きは食いつくかもね
…面倒くさいことにはなったけど
邪教とかそういう方面に繋がらなかっただけマシか

この絵画展、興味ある人には知られてたりしないかな?
この辺りの人に【コミュ力】でそれっぽいイベントがないかどんどん聞いてみよう
ついでに、この辺に芸術家やコレクターが住んでないかも聞く
一つ目がスカっても、その人たちを掴めればほぼ確実でしょ
絵を仕事にしてんだし、絵画展くらい押さえてるはず
お仕事モードで尋ねて手帳にメモを取りながら、調査を進める
勿論、随時の情報共有も忘れずに!

地味だけど、馬鹿にできないんだよ
コレが情報屋のやり方…!
なんて…ま、やるだけやろーか


ネリッサ・ハーディ
SIRDのメンバーと共に行動。

どうやら、目的となる絵画は既に売却済み、という事ですが・・・その絵画の足取りを追ってみましょうか。

まず会場は駅前のビル、という事ですが、絵画展ともなるとそれなりのスペースが必要な筈。そこから貸スペースや催事会場となりそうな箇所を洗い出してピックアップ。更にそこから売買が可能な即売会、宝石をテーマにしている等、【情報収集】で虱潰しに当たっていきます。あとは念の為、その買い取った外国人のプロフィール等も調べておきます。まぁ聞いている限り、その外国人が買っていったのは偶然の可能性もありますが・・・こういう情報収集は、念には念を入れて置いて損はないでしょう。

※アドリブ歓迎


灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員として緊密に情報共有し連携

事前に地元UDC組織に協力して貰い
公安機関の身分証を用意する

jawohl.次の一騒動を起こされる前に確実に捕捉を…

仲間の捜索に連携し骨董品屋近くの
主要道路沿いの近隣住民や監視カメラを
捜査官を装い調査・聞き込み(情報収集・変装)
慌てて土地勘の薄い地域で絵画集める為に見て回ったのなら
自由度の効くタクシーを使う可能性も高いかなと

売れた日の目撃談があったら
近場で客待ちをしてるタクシーをつかまえ
カラーや車種等から心当たりの会社が無いか
聞き込み特定を試みヒットしたら会社を訪問
若い画商の行先を追う

特定後は近場の高所から指定UCで
周囲情報と行動確認を実施

※アドリブ歓迎



「さて、と……とりあえず最初の情報を元に更に詳しい情報を検索してみるわ。ここからは情報収集の時間……つまり、私の時間よ」
 人形のように華奢な指先が目にも止まらぬ速さで端末を操作し、ネットワークに点在する情報を次々と洗い出していく。
 ひとつめは、今回の目標らしきUDCの噂について。こちらについてはまだ発生したばかりのようで、幸いなことに情報の拡散は倭の周辺に限られているようだ。
 ふたつめは、描かれた絵について。端末は該当情報無しという奇妙な結果を返してくる。これは裏を返すと、件の絵画が“普通の流通上に存在しない”ということになる。
「つまり、存在そのものがUDCに関わる代物というわけね……おそらく、どこかの段階であの骨董品屋に紛れ込んだんだわ。そしてみっつめ、明日から開催する絵画展については……うん、ネットに上がってる分については全部拾えたわ。一覧にして皆に一斉送信、と」
 瞬く間に必要な情報がエメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)の元に集ってゆくのは魔法か錬金術のようでもあった。そこへ、端末の画面端に灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)からのメッセージがポップアップ。
『こちら灯璃です。地元UDC組織の協力を得て、件の画商と思われる人物が映っている監視カメラの特定ができました』
 エメラはすぐさま、返事を打ち込んだ。
「さすが、仕事が早いわね。こっちに情報を回してくれる? ……OK。ハッキングで入手した画像を木鳩さんに送っておくわ」

「お、来た来た……!」
 帽子を被り直し、木鳩・基(完成途上・f01075)はエメラから送られてきた画像とリストを端末上に表示した。
「条件に該当する絵画展は全部で四つか。地道に足で稼ぎましょうかね。おーい、そこのナイスな格好したおにーさーん!」
「え? 俺?」
「芸術家っぽい見た目にビビッと来ちゃいまして。こういう絵画展について知りたいコトがあるんですけど、詳しそうな人に心当たりありません?」
「あー、ならそこの公園前に似顔絵や直筆の葉書を売ってる人たちがいるからそっち行ってみたらどうだろうか」
「そうしてみます!」
 基はのんびりと絵を描いている人たちに時に自分の似顔絵を描いてもらいながら、時に葉書を所望しながらメモ帳にペンを走らせる。アナログな聞き込みだが、コレが意外と馬鹿にできないのだ。
「こういう地味な調査こそ、情報屋の腕の見せドコロだぜ……! ふむふむ。彼らの話によると、駅から会場が遠いこれとこれは除外してよさそうだな……そうすると、候補は2つに絞られるか。あ、ネリッサ? そっちはどうだった?」
『ええ。会場は駅前のビルという事ですので、こちらはまず不動産から当たってみました』
 ネリッサ・ハーディ(クローク・アンド・ダガー・f03206)は木陰のベンチ脇に佇み、収集した情報を表示している端末に目を通した。
「お姉さん、ひとりならお茶でも一緒しない?」
「残念ながら、そのような暇などありません」
 途中でナンパ目的らしき男が声をかけてきたものの、ネリッサは軽くあしらって目の前の仕事を続ける。膨大な量の情報を、いともたやすく分析して必要なものだけを選り分けていく。
「絵画展ともなればそれなりのスペースが必要な筈なので、貸スペースや催事会場となりそうな箇所を虱潰しに洗い出してみました。更にそこから売買が可能な即売会かつ、宝石をテーマにしているという条件に合致するのは――」
『――隣町にある乗換駅の駅ビルホールで開催される“至宝の絵画展”!』
 基は同じくたどり着いた絵画展の名前にペン先で二重丸を付けた。
 ネリッサも頷き、同意する。
「他は全ていずれかの条件に合致しませんので、まず間違いないかと思います。ちょうど灯璃さんからも同様の連絡が入りました。どうやら、画商を乗せたタクシーが見つかったようですね」
 
「では、ご協力感謝いたします」
 踵を当て、一部の隙も無い敬礼でタクシー運転手を見送った灯璃はヘッドホンマイクに向かって先程得たばかりの情報を【SIRD】のメンバーに伝えた。
「画商が絵画を購入した際に使ったタクシー会社が特定できました。これから会社を訪問し、若い画商の行方を追いかけます」
 向かった先の事務所では、公安機関に扮した灯璃の質問に担当者は何か悪いことをしてしまったのだろうかとしどろもどろになりながら同じ説明を繰り返した。
「はい、その、先ほど申し上げた通り、その男性を乗せて数件の美術品店を回ったと運転手は言っております。それで、どうにも気に入るものがないということで骨董品を扱う店や質屋なども探しましてですね、はい。確かに仰るような店で絵を買うのを見たと言っています」
「それで、どちらへ送り届けたのですか?」
「ええと……ここです。この辺りでは一番大きい駅ビルの前」
 担当者は棚から地図を取り、眼鏡をかけながら一点を指で示した。
『こちらで見つけた絵画展の開催場所と一致しますね』
 話を聞いていたネリッサは、絵画展の主催者欄にあった画商の名前を元に調べたデータを読み上げる。
『姓はアシャール、名はサイモン。来日中のフランス人で、経歴に不審な点は見当たりません。彼があの絵を購入したのは偶然であり、何か裏があるわけではないと考えてまず問題ないかと』
「jawohl.次の一騒動を起こされる前に確実に捕捉を……」
 わかった、と基が言った。
『こっちも急いで向かうよ。面倒くさいことにはなったけど、邪教とかそういう方面に繋がらなかっただけマシか』
『そうね。念のため、今回のUDCと絵の情報はネットからハッキングで削除しておいたわ。なにしろ、情報が広まると拙い敵のようだから……今の時点で拡散を防ぎましょう』
 エメラからの通話が切れると同時に、灯璃は該当する駅ビルの正面にある建物の屋上で羽を休めていたカラスの視界をジャック。
「あれは……怪奇現象が始まっている?」
 こめかみに手を当て、より詳細な情報を得ようと目をすがめる。窓越しに見えたのは白いローブを着た若い女と、恐れ戦いて隣の男にしがみつく画商の姿。フロアは不気味に変容し、現実への侵食が見られる。
「――敵性UDCの具現化を確認。可及的速やかに現場へ急行します」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

霑国・永一
さぁて、俺が探偵まがいの事をやる羽目になるとはねぇ。
外見くらいの情報じゃあその辺で闇雲に聞き込みしても見つからないだろう。人なんてすれ違う人をいちいち記憶に留めるようないきものじゃないしねぇ。
そうなれば矢張り美術商の会社調べに行くかなぁ。まずは明日始まる絵画展に参加するであろう会社や美術商を洗うかぁ
ある程度リストアップ出来たら片っ端から電話してくしかないねぇ
「もしもし、私はコレクターの霑国と申しますが、此方で紫の宝石の首飾りをした女性の描かれた絵画があると聞きまして、もし探し求めているものであれば高額で買い取りたいと思っているのですが」
当たれば出向いて交渉だねぇ。場合によっては忍び込んで盗むか



 窃盗という行為における対象物は何も“物”に限った話ではない。
 薄曇りの冬空の下、ぬるいコンビニコーヒーのカップを片手に霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は普段とは打って変わった詐欺紛いの声色で立て続けに電話をかけている。
「――ああ、そうですか。お手数をおかけしました。ええ、それでは失礼いたします」
 指先で通話ボタンを切ってから、再び次の番号を入力する。
 くしゃくしゃになったノートの切れ端のメモには、目星をつけた絵画展関係の運営会社や美術商の連絡先が黒いボールペンの文字で書き殴られていた。
「まさか、俺が探偵まがいの事をやる羽目になるとはねぇ」
 永一は苦笑して紙カップの縁を噛む。
 正直なところ、外見程度の情報を元にその辺で闇雲に聞き込んだところで目当ての人間を引き当てるのは難しい。万全を期すのであれば、人よりも組織に目を向けるべきであろうというのが永一の考えであった。
(「人なんてすれ違う人をいちいち記憶に留めるようないきものじゃないしねぇ」)
 このUDCアースで霑国永一という男がつぶやくからこそ、その言葉には不思議な含蓄があるように聞こえる。
『はい、こちら宇能美術商事です。どちらさまでしょうか?』
 数度のコールが鼓膜を刺激した後、デジタルを通して少し掠れた事務員の声が誰何する。
「もしもし、私はコレクターの霑国と申しますが、此方で紫の宝石の首飾りをした女性の描かれた絵画があると聞きまして、もし探し求めているものであれば高額で買い取りたいと思っているのですが」
『ああ、アシャールさんが見つけられた絵画でございますね? 実は、こちらは明日から始まる『至宝の絵画展』に出展される予定でして、既に出荷済みなのです』
 ――来た。
 永一は指先で腰かけていた柵の表面をなぞりつつ、欲しい“情報”を盗み出す。
「なるほど。それでは、絵画展が終わった後でしたら交渉の余地がある――?」
『いえ、絵画展が即売会を兼ねておりますので、そちらで売れてしまうと難しいですね。ああ、そうだ。ご都合がよろしければ直接会場の方でお申込み頂けるかと思います。場所と日時は……」
 切れ端の余白にメモした住所へ赴いた永一は上着のポケットに両手を突っ込み、「さぁて」と会場である駅ビルを見上げた。
「正面から出向いて交渉か、あるいは忍び込んで盗むか……」
 ふと、別ルートでたどり着いたらしき他の猟兵が例の画商と商談している姿が目に飛び込んでくる。お誂え向きの状況に、永一はにやりと笑んだ。
 影のように一切の気配を消し、音も立てずに自動ドアをくぐり抜けてホールの奥へと滑り込む。
 そして見た。
 展示場の白いホールの中央に、ひとりの女がいる。白いベール。絹のように滑らかな金の髪と、透き通る翠色の瞳。
「あら? あなた……美味しそうなロザリオを隠しているのね?」
 女は別の猟兵に気を取られているらしく、展示板の陰から様子を窺う永一の存在には気づいていない。いつしか展示場はUDCの影響に支配され、歪んだ色彩の坩堝という名の戦場へと移り変わっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
絵が動いてンのか、絵を真似た何かがとりついてやがるか
何れにしても早う見つけにゃなるめぇ、が
この国にゃ建物も人も多すぎやしねェか!
俺ァ目が回っちまいそうだヨ

だが、「宝石の絵」に限って売り買いするなァ、流石に数が絞られやしめェか
この国でそれが当たり前なら話ァ別だが
念の為その絵のあった場所や店、もうちっと調べさしつくんねェ

半信半疑だったが、少しばかり気配がするな
絵の先が分からねェなら、こいつを追ってみるのも手かね

あとは客として来た者にも話を聞いてみようか
時に店主よう、絵をよく買う客がいたら、その場所に心当たりねェか当たっちゃくれねェか
あー…俺も絵描きの端くれだから、気になンのよ
って事にしといてくれよ



「絵が動いてンのか、絵を真似た何かがとりついてやがるか。何れにしても早う見つけにゃなるめぇ、が……――」
 菱川・彌三八(彌栄・f12195)は工事の続きを再開する河岸の土手から街を一望し、大仰な溜息とともに指先で顎を擦った。
「この国にゃ建物も人も多すぎやしねェか! 俺ァ目が回っちまいそうだヨ」
 当たり前のように道路を走る車も、見上げるほどに高いビルもマンションも。彌三八にとっては何もかもが斬新で圧倒されるばかりである。
 なにしろ、流れる時間が早い。
 たまに歩いている人間を見かけても大抵は脇目もふらずに通り過ぎてしまうし、河岸の整備など何やら無骨な絡繰のおかげであっという間に進んでいく。
 彌三八はしばらくの間、そんな光景を眺めながら考えに耽っていた。やがて何かを思い立ったのか、元いた骨董品屋までの道を戻り始める。
 生まれ育った国とは似ているようで違う国。だが、おそらくはこの国でも『宝石の絵』に限って売り買いするなどという機会はそう頻繁にあるまい。
「あァ……少しばかり気配がするな」
 店主に断りを入れ、件の絵画が飾られていた壁の跡を指先でなぞる。微かな釘の跡。そして、ぞくりと背筋が粟立つような――狂気? か――絵の先が分からないのであれば、この気配を追ってみるのも手だろう。
「時に店主よう、絵をよく買う客がいたら、その場所に心当たりねェか当たっちゃくれねェか」
「場所っていうと、画商が言っていた絵画展のかい? でも、うちはそんなに絵の取り扱いは多くないからねえ……」
 店主は棚のほこりを払いながら、思い出したように叫んだ。
「あぁッ!」
「うおっと。突然どうしたィ?」
「あの絵を買っていった外人の画商が来た時に、ちょうど居合わせた常連さんがその絵画展のチラシをもらっていたんだよ。ちょっと待って、すぐに聞いてみるから」
 店主がちっこい板のような通信装置で瞬く間に常連の男とやり取りを終えるのを、彌三八は狐につままれたような顔で見守っていた。
「わかったよ、これだ」
「もうかい?」
 覗き込むと、客の男が送ってくれたチラシの画像が鮮明に表示されている。
 ――『至宝の絵画展』。
 開催される場所の文字列を頭に叩き込んでいると、店主が不思議そうな顔で尋ねた。
「そういえば、どうしてそこまであの絵にこだわっているんだね? 確かに綺麗な絵だったが、誰が描いたのかもわからない代物だよ」
「あー……」
 指先で帽子を押し上げ、額を撫で擦る。
 本当のことを言うわけにもいかないが、咄嗟の嘘も出てこない。彌三八は悪戯の言い訳をする子どものようにちょっと眉を寄せ、密やかに告げた。
「俺も絵描きの端くれだから、気になンのよ」
「へえ、どういうのを描くの?」
「浮世絵ヨ」
 いなせに言い置き、店主の反応を待たずに店を飛び出す。
 一路、会場へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

阿久間・仁
ケッ。ツイてねぇな。どいつもこいつも余計な手間かけさせやがる。

ま、場所自体はすぐわかんだろ。
『宝石』がテーマの『絵画展』でしかも明日から開催だったら、ネットで調べりゃすぐ分かりそうなもんだぜ。
今のご時世ネットで宣伝してねぇなんてありえねぇからな。即売会もやるならなおさらだ。

ま、問題は絵を見つけてからだな。
……ここだけの話その画商脅してどーにかしてやってもいいが、倭たちに偉そうに説教垂れた手前、そうもいかねぇだろ。
それは最終手段として……やっぱ買うしかねぇんじゃねぇか?
もちろんUDC(人類防衛組織)の金でな。ケケケ。
人目に触れさせたくねぇし、できれば絵画展の開催前に画商と連絡とって交渉してぇな。



「へぇ、小綺麗なとこじゃねーか」
 スマートフォン片手に阿久間・仁(獄炎魔人・f24120)がたどり着いたのは、大きなホールを擁する駅ビルの入口だった。
 指先で画面を弄ると、保存しておいた宣伝サイトが表示される。
「『至宝の絵画展』ねぇ……随分と気取った名前をつけてやがるぜ。ま、今のご時世ネットで宣伝してねぇなんてありえねぇからな。即売会もやるならなおさら事前の告知が必要だろうさ」
 タップしてサイトを閉じたスマートフォンを手のひらで弄ぶ。『宝石』、『絵画展』、『開催日』。これだけのキーワードが揃っていればすぐに見つかって然るべきである。つまり、問題はここからだ。どうやって問題の絵画を手に入れるか? 仁には幾つかの選択肢があった。
「まずは――その画商を脅す!」
 ぐっ、と拳を握り締め、気合を込める仁の横顔は堂に入っている。
 なにしろ得意な手段だ。
 目的を果たしたらすぐに逃げてしまえば後腐れもあるまい。だが、仁はすぐに拳を解いて頭をかきながら肩を竦めた。
「……と言いてぇところだが、倭たちに偉そうに説教垂れた手前、そうもいかねぇ」
 腕を組み、しばしの間考えた後でどこかに電話をかけ始める。
「――あァ、俺だ。ちょっくら金を用意して欲しいんだけどよ。ちょっぱやでな。場所は――」
 UDCに連絡を入れると、彼らはすぐに現金の入ったアタッシュケースを届けてくれた。仁はそれを持って展示ホールに足を踏み入れる。
 だが、何かがおかしい。
「……ンだぁ? おいおい、もうおっぱじめちまってるのかよ。気の短い女だぜ」
 目の前には薄っすらと微笑む金髪の美女と、怯えて縋る画商の男。それに猟兵が1人――いや、物陰にもう1人いるようだ。
「た、助け……助けてくれ!」
 涙目で喚く画商へと、仁は持っていたアタッシュケースを投げ渡した。
「こ、これは?」
「金だ。俺らしくはねぇ手だが、今回は正攻法でいかなけりゃ示しがつかねぇんでな。ケケケ。あの絵を俺たちに売るって約束したら助けてやるよ。どうだい? 悪い取引じゃねぇはずだ」
「―― Oui, avec plaisir(はい、喜んで)!!」
 電光石化の交渉成立。
 両手を祈るように組み合わせて頷く画商を庇うように前へ進み出た仁は、「来いよ」と挑発するように指を鳴らす。
「これ以上余計な手間をかけさせんじゃねぇよ。てめぇはここで俺たちが倒す。異論はいらねぇ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
紫の宝石の首飾りをした女の絵…か。

何かしらあるだろうけれど手がかりが少ない。

とりあえず、行き違い程度なら、残り香や魔力の痕跡が残っているかも。

風の精霊様にお願いして、絵があった周辺の匂いを僅かでもいい、拾って貰いたい。

あとは、俺の狐としての嗅覚で購入した人の匂いや、オブリビオン、何かの気配が拾えないか?
[野生の勘、第六感]を最大限にして残り香を探したい。

あとは魔力の痕跡がないか。
絵があった周辺にいる精霊様や、魔力的な痕跡がないか、先程の匂いと共に、入念に[情報収集]を行いたい。

何かしら痕跡を見つけたら、追跡を行いたい。



「あの、少しお店の中を拝見させてもらっても構いませんか?」
 木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)の申し出を店主は快く承諾する。紫の宝石の首飾りをした女の絵――その数少ない手がかりがまだこの店内に残っているのではないかと、都月は慎重に歩いて見て回った。
「よかったら他の商品も見て行ってよ。探し物を売ってしまって悪いことをしたから、お詫びにサービスさせてもらうよ。もうすぐクリスマスだろう? どうだい、そこの指輪かブローチでも。彼女への贈り物におすすめだよ」
「か……っ、彼女なんていません」
 うっかり頬を赤くした都月は店主に背を向け、軽く顔をはたいて深呼吸。
 それからこっそりと杖を振り、小声で囁いた。
「……風の精霊様、お願いです。あの絵の手がかりを教えてください」
 ふわりと柔らかな風が鼻先を掠め、そのなかに異様な“匂い”を都月は感じ取る。
(「狂気……?」)
 それは少し鄙びていて、けれどどこかスパイシーで刺激的な匂い。思わず怖気が走り、くゆらせた尾の毛が膨らむ。
 都月は再び息をつき、他の匂いが残っていないかと辺りを歩き回った。
「これだ!」
 それは、先ほど店主が勧めたブローチの脇にあった金古美のネクタイピン。
「微かにさっきの異様な匂いと、それに薔薇のポプリの匂いがする。店主のおじさん、この売り物はどうしたんですか?」
「ああ、それね。例の絵を買っていった画商から買い取ったものだよ。手持ちが足りないと言うんでね」
「これ、ちょっと貸してください……!」
「そりゃ構わないが……」
 首を傾げる店主の前で、都月はふんふんと鼻を近づけて匂いを嗅いだ。かなり長い間身に着けていたものらしく、画商の匂いが染みついている。これがあれば十分に後を追えそうだ。
「あとは、魔力の痕跡がないかどうか……この地に眠る精霊様よ、少しだけ力をお貸し頂けますか?」
 さすが古い骨董品を集めた場所だけあって、呼びかけに応えた精霊は片手に余る。都月は彼らから十分な情報を得ることができた。
 曰く、画商はタクシーを使って来店したこと。会社には立ち寄らず、そのまま展示場に直行したこと。また、絵から抜け出した女は貴金属や宝石を好んで食すということも。
「宝石を?」
 狂気と薔薇の匂いが絡みつく痕跡を追って店を飛び出した都月は思わず自分の杖に嵌め込まれた石を見上げる。
 匂いの痕跡は徐々に強まっている。終着地点である駅ビルのホールへと足を踏み入れた途端、それは残り香どころではない強烈な匂いとなって都月を迎え入れたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『宝食む魔女・リルヤ』

POW   :    輝く慈雨は平等に
【視線 】を向けた対象に、【頭上から降るナイフのように鋭く尖った宝石】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    地の底に咲く花
【戸惑い 】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【自身の意思で動くアメシストの結晶体原石】から、高命中力の【触れたものを結晶化し捕縛する破片】を飛ばす。
WIZ   :    眩ゆい大河
自身からレベルm半径内の無機物を【硬軟、造形ともに自由自在に扱える金 】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●第3章 『金と刃と紫水晶と』
「あの絵は皆さんにお売りいたします……! だからどうかお助けくださいませぇ――……!!」
 身も世もなく腰を抜かして命乞いをする画商の向こうで、女がおかしげに笑いをこらえているのがわかる。心配せずともお前は殺さないとでも言いたげに美しい瞳が細まった。
「だって、生かしておいたほうがより多くの混乱と恐怖を招くことができるでしょう? リルヤが欲しいのは美しい宝石だけ。人などいりませんのよ」
 宝食む魔女――リルヤ。
 その本性は感染型UDC――彼女をここで倒せなければ、その姿を見た人間たちの噂を介して無限にUDCの被害が拡大し続ける。
「せっかく追いかけて来てくださったのに申し訳ないけれど、あなた方……お邪魔ですわ」
 リルヤが指先を上げると、展示場に飾られていた絵画が金のメダイとなって猟兵たちに襲いかかった。とっさに躱すも、流れ弾を受けた花瓶が割れて破片と水が飛び散る。
 異形化したフロアであっても、元あったものが消えてなくなるわけではないらしい。ホールには他にも幾つかの花瓶や祝いの花輪。それに何よりも、この企画のために集められた二十枚を超える絵画があった。
「あらまあ。せっかくの飾り付けが台無しですわね」
 くすくすと笑みを零し、リルヤはこちらの罪悪感を煽るように唇を動かした。
「よろしいの? あまり派手に戦われると、怪奇現象化を解いた時に無残なことになるけれど」
 それは戸惑いを誘う魔女の囁き。
 リルヤの周囲に呼び出された紫水晶が輪を描いて浮遊する。旧約聖書にて高僧が胸に飾ったと伝えられる十二の宝石のひとつ。
 ギリシア語で“酔わせない”という意味を持つ宝石の輝きが、猟兵たちに対する宣戦布告のように美しく、残酷に煌めいていた。
ネリッサ・ハーディ
SIRDのメンバーと共に行動

彼女が件の感染型UDCですか。いずれにせよ、危険な存在ですね。排除させて頂きます。

相手をハンドガン(G19C)で射撃を加えて攪乱及びSIRDメンバーを援護。その間、遮蔽物に身を隠しつつ、可能な限り移動して位置を特定されない様心掛ける。どうしても躱し切れない攻撃があった場合は、(可能だったら)【クイックドロウ】で弾き飛ばす。相手は強力なUDCとはいえ単体。SIRDメンバーとの連携を取りつつ、こちらは頭数で勝負していきましょう。
チャンスがあったら、UC発動して攻撃。
・・・あなたは宝石が余程好きなようですね。この結晶石は、お気に召すでしょうか?

※アドリブ・他者との絡み歓迎


エメラ・アーヴェスピア
【SIRD】
さて、今回の目標が出てきた訳だけど…
拙いわね…兵器を召喚して戦う私とは相性が悪すぎる
仕方ないわ、出来る事をやるとしましょうか

さて、召喚したままだと相手に使われてしまうのよね
だから私は相手の攻撃に合わせて『我を護るは不壊の城壁』を発動、防御壁を呼び出し防御、反撃
その後に即座に兵器庫に戻して相手に使われないようにするわ
守る対象は私やお仲間さん、後は周囲の被害を減らす感じで
まぁ、防御役ね…連携を取りつつ、確実に戦闘を勧めましょう
…と、言っても…反撃の威力を侮ると、風穴が開くわよ?

※アドリブ・絡み歓迎


灯璃・ファルシュピーゲル
【SIRD】一員として連携

煽りには無言をもって返答を
人命に代える程の物でも無い上に
別に任務にも含まれてません

まずは無機物操作対策に
UC:ウロボロスアーセナルで木製コンポジットボウと
プラスチック弾頭に有機物系爆薬(TNTにピクリン酸点火薬等)を
詰めた榴弾矢を作成

仲間と連携し遮蔽物を移動し続け一人に
狙いを絞らせない様にしつつ
防御と攪乱は信頼できる上司と仲間にお願いして
操作してる貴金属ごと足・頭部を狙撃(スナイパー)
視覚と貴金属の動きを鈍らせつつ

動き回りながら遮蔽物の影に指定UCで狼達を召喚し潜ませ
こちらの動きに気を取られたところを死角を突いて狼に襲わせる
確実なダメージを狙います

※アドリブ・絡み歓迎


木鳩・基
【SIRD】
物が宝石に…なかなかヤバイじゃん?
…とにかく、やるしかないか!

虚勢だけど味方を【鼓舞】しつつ
防御と後衛が固いから【勇気】出してカッター片手に【挑発】を交え接近
振るう腕や脚を鎖に変え、鞭の要領でリーチを保って攻撃
姿勢を崩さぬよう鎖は適宜戻そう

防御は最大限仲間に頼る
逆に困ってたらバッジの力で宝石を分解できないか試してみる
破壊箇所も同じく、再構築できないかやってみよう

チャンスが来たら、落ちてる宝石や残骸を鎖で巻き取って投げつつ、別の一本を敵後方の掴まれる場所に絡ます
んで、鎖側から身体を引っ張って敵に突進
隙が作れれば、あとは…!

いってぇ…だいぶ華ないな、これ
でも、これで止まるなら安…いたい



「彼女が件の感染型UDCですか」
 ヒールのある靴だというのに一切の音を立てることなく戦場へと駆け付けたネリッサ・ハーディ(クローク・アンド・ダガー・f03206)の手元でセーフティを外す微かな金属音がした。
「うん。物が宝石に……なかなかヤバイじゃん?」
 木鳩・基(完成途上・f01075)は帽子を深く被り直して気丈に笑う。例え虚勢であろうと、その健気な励ましは狂気に歪む戦場に一種の清涼効果をもたらした。
「……とにかく、やるしかないか! ここまで追いつめたんだ、皆がんばろう!」
「そうしたいところね……」
 エメラ・アーヴェスピア(歩く魔導蒸気兵器庫・f03904)は小さな息をつく。あの、無機物を己の武器と変える技――おそらくは周囲に利用できる物が多ければ多いほど威力を発揮するに違いない。
(「拙いわね……ようやく今回の目標が出てきたわけだけど、兵器を召喚して戦う私とは相性が悪すぎる」)
 なら、どうするか?
「答えは決まってるわ。出来る事をやる……すなわち、こうよ!」
 慈悲あふれる微笑を湛えたまま、周囲に浮かせた金のメダイを弾丸のように打ち込んでくるリルヤの攻撃を受け止めたのは、蒸気に燻る魔導の防壁。
「くらいなさい、……撃てッ」
 命令を待っていたかのように、聳え立つ防壁から突き出した蒸気砲から夥しい数の砲弾が放たれた。
「ふふッ――」
 ローブを穿たれながらも、リルヤの指先がゆっくりとそれを示す。
 だが、エメラは読んでいた。
 故に――命じる。
「戻って!」
 瞬く間に防御壁は武器庫へと仕舞われ、金へと変えようとしたリルヤの指先が一瞬だけ空を切った。その隙をネリッサは見逃さない。
「後ろががら空きですよ」
 磨かれた床を蹴り、遮蔽物の陰に転がり込みながらハンドガン――グリップストレートタイプの無骨な愛銃を連続で撃ち放った。
「――離脱します」
 背後で鋭く尖った宝石が床に突き刺さってゆく音を聞きながら、足を止めずに今度は柱の後ろに身を隠す。
「こっちにもいるのを忘れないでくれよなッ!」
 ブォンッ――人間の腕がカッターを振るうには不可思議な音に顔を上げたリルヤの目に映ったのは、鞭のようにしなりながら襲い来る複数の鎖だった。
「四肢を?」
「――そうだ!」
 驚いたように目を瞠るリルヤへと、基は叫ぶ。
(「さあ、私に注目しろ!」)
 当然、攻撃も集中する。
 その間にネリッサは敵の視界をはずれ、位置を特定されないように移動し続ける。
「させるものですか……ッ」
 そしてエメラは、先ほどしまったばかりの防御壁を再び展開。雨のように降り注ぐ宝刃の全てをその壁面でもって受け止めた。
 そして、砲門が猛火を吐く――!
「……よろしいの? あまり暴れられるとこの絵画たちにも優しくないのではないかしら」
 直撃を受け、燃えゆく右手をおっとりと眺めながら尋ねるリルヤに灯璃・ファルシュピーゲル(Jagd hund der bund・f02585)は無言を貫いた。
「――ウロボロスアーセナル発動。木製コンポジットボウ作出、TNT火薬及びピクリン酸点火薬等――有機物系爆薬をプラスチック弾頭に装填――セット完了」
 最優先すべきは作戦の成功。
 人命に代える程の物でもなく、任務の条件に含まれてもいない項目を盾に脅されたところで引き絞られた榴弾矢の狙いは揺らがない。
 自らを脅かす兵器の存在に気づいたのか、リルヤの注意が駆ける灯璃へと向かいかける。
 それを、ネリッサの銃弾が強引に逸らした。
「邪魔ですわ」
「――それはこちらの台詞です」
 戦場に響く、軽い金属音。
 それは一瞬の出来事だった。
 降り注ぐ宝刃を指先で回した銃底ではじき返し、そのまま引き金を引いて残りを撃ち落としたのである。
「相手は強力なUDCとはいえ単体。こちらは頭数で勝負していきましょう」
「ああ、【SIRD】のチームワークを見せてやる!」
「え――?」
 鎖と化した両腕で基が敵の攻撃を薙ぎ払った途端、一瞬にしてピースへと分解された宝石が空中で停止した後でばらばらになって床の上に落ちていった。
「私の宝石が? まさか……」
「よそ見してる場合じゃないよ!」
「――ッ!」
 刹那、鎖が閃いて床に落ちていた宝石がリルヤの顔目がけて飛ぶ。
 だが、それはフェイクだ。
「本命は――こっち……!」
 彼女がとっさに両腕で顔を庇う背後へともう一本の鎖が伸びている。それは窓際の手すりに絡みつき、基の身体を引っ張り寄せるための起点となった。
「きゃ……ッ――」
 予測不能の突撃を受けて倒れ込んだリルヤは、ふらふらと頭を抑えながら上半身を揺り起こす。
「――Feuer.」
 灯璃の号令に応え、コンポジットボウから放たれた榴弾矢がリルヤの周囲を浮遊するメダイを砕き、そのまま左目と右膝を撃ち抜いた。
「あ……」
 血しぶきが周囲の床と壁を汚し、紅玉よりも深い赤の花が咲く。
 残る左目が自らを傷つけた灯璃の存在に気づいた瞬間、傍にあったスポンサー看板を巨大な金の十字架に変換。矢のように迸ったそれが灯璃に到達する寸前、リルヤの足元でネリッサの結界石が跳ねた。
「……あなたは宝石が余程好きなようですね。この結晶石は、お気に召すでしょうか?」
 ネリッサの怜悧な唇が語りかければ、リルヤの慈愛に満ちた瞳がうっとりと細まる。その四肢を時空から出でた猟犬が貪るのと、既に放たれていた十字架をエメラの防御壁が受け止めたのとが同時だった。
「……防御役だと思って舐めないで欲しいわね。反撃の威力を侮ると、風穴が開くわよ?」
 爆音を上げて砲撃が轟き、エメラの長い金髪を激しくなびかせる。その両脇を光すらも食らい尽くさんとするほどの闇が駆け抜けた。
「いきなさい、Kamerad!」
 動き回っている間に灯璃が配置しておいた狼たちが、四方から同時にリルヤへと襲いかかる。獰猛な息遣いと咆哮が戦場に満ち、まるで生贄を喰らう獣神のようにその体を思うさまに屠っていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

阿久間・仁
何寝ぼけた事言ってやがんだ?これから無残なことになるのはてめーの方だぜ!ヒャハハハ!

ユーベルコードでイフリートを呼び出す。
この女、俺たちより自分の方が上だと思ってやがるぜ。絶対にな。
そういうムカつく奴をぶっ潰すのは俺もイフリートも大好きだぜ。ケケケ。

金だろうが宝石だろうが燃やして溶かしちまえばいいんだよ。
イフリートの炎は俺のよりつえぇから、そのくらい余裕だろ。

あとは女を燃やして苦しめるか、殴って黙らせるか……いや、両方だな!ヒャハハ!



「へッ――」
 こちらを脅すかのような敵の言い草に、阿久間・仁(獄炎魔人・f24120)は思わず喉を鳴らして笑ってしまった。
「?」
 口元を袖で抑え、おっとりと小首を傾げるリルヤに仁は腹の底から笑い声を上げる。
「何寝ぼけた事言ってやがんだ? これから無残なことになるのはてめーの方だぜ! ヒャハハハ! ――来いよ、イフリート!」
『……やれやれ。我に命令するなと何度言ったらわかるのだ、小僧!?』
 それは、獄炎を操りし悪魔イフリート。
 召喚者の背後にゆらめく煉獄の化身は、ただ言うことを聞いてくれたりはしない。命令に従わせるには強さに応じた交渉が必要である。
 反抗的な彼に向け、仁はきょとんとこちらの様子を眺めているリルヤを顎で示した。
「まあ、そう言わねえであいつを見ろよ。あの女、俺たちより自分の方が上だと思ってやがるぜ。絶対にな」
『ふむ?』
 イフリートは指で顎を擦り、真偽の程を探ろうとする。
 一方のリルヤは待つのに飽いたのか、周囲の絵を次々と金に変え、巨大な鎌を作り上げた。
「お話は終わりました? ほら、あなた方の首を狩るのにお誂え向きだと思いません? ふふ……その金属の棒と私の鎌、どちらが強いかしら」
「ケケケ、試してみるか!?」
 鎌の一閃に向かって、仁は金属バットを振るった――渾身の力をもって。真正面からぶち当たった鎌の刃とバットが激しい鍔迫り合いを演じる。
「く……ッ!」
 次第に、仁の方が押し負け始めた。
「ふふ、鋼よりも金の方が強いと証明されましたわね? このまま――」
 だが、リルヤの笑みがそこで霧散した。
 仁の背後から伸びた炎の腕が鎌の刃を直接握り、そこからゆっくりと融解させていったのである。
『小僧よ、確かにこの女は気に入らん。我は命令されるのは嫌いだが、それ以上にこういう輩に好き放題される方が不愉快よ――!!』
 イフリートの叫びと共に、激しく燃え上がった獄炎が鎌ごとリルヤの全身を呑み込んだ。
「私の金が、宝石がッ……!!」
「ヒャハハ! だから言っただろ? 無残になるのはてめーの方だってなあ!」
 燃え盛りながら愕然と膝をつくリルヤを黙って見ているような仁ではない。
 イフリートの炎へと分け入り、ひたすらに金属バットを叩き込んだ。何も言えないように、惑わせる言葉を紡ぐ余裕すら与えずに。

成功 🔵​🔵​🔴​

霑国・永一
いやぁ、面白い事を言うなぁ
俺は芸術なんてものの価値は分からないのさぁ。同じ紙に描かれたものなら札束の方が分かりやすい価値だよ。現金こそ全て
ま、ここの人たちは運がなかった。そして――
『UDCの女、テメェもな!ハハハハッ!』

肉体主導権全て戦闘狂人格に譲渡した真の姿の上で狂気の戦鬼を発動
もはや戸惑うどころか殺すこと以外考えず、常に高速移動で死角に移動しながら遠慮なく衝撃波を叩き込み続ける
破片が飛ばされた場合は高速移動回避や衝撃波ぶつけて吹き飛ばすなどをする
展示品に関しては当たったらドンマイで
「ごちゃごちゃうるせぇよ! 後の事なんざテメーが死んだ後考えりゃいいんだよ! 俺様と戦う事だけ集中しやがれ!」



「よろしいの? あまり派手に戦われると、怪奇現象化を解いた時に無残なことになるけれど」
 霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)の長い指先が呆れたように眼鏡を押し上げたのは、リルヤがそう尋ねた直後のことだった。
 思わず拍手をしながら物陰より歩み出ると、彼の存在に初めて気づいたリルヤがはっとして振り返る。
「いやぁ、面白い事を言うなぁ。俺は芸術なんてものの価値は分からないのさぁ。同じ紙に描かれたものなら札束の方が分かりやすい価値だよ」
「まあ、即物的な方ですのね。金貨ならともかく、お札もただの紙に過ぎませんわ。私にとっては」
「価値観の違いってやつだねぇ。ま、ここの人たちは運がなかったってことさ。そして――」
 髪をかき上げた途端、永一の表情が変わる。
 温和から凶暴へ。
 狂おしい程に戦いを渇望するもう一つの人格が哄笑し、身の裡に潜ませていた真の姿をその場にいる者たちの前に曝け出した。
「UDCの女、テメェもな! ハハハハッ!」
「――ッ!?」
 ドンッ――と、爆発したかのような衝撃が2人の間で迸る。
 一瞬、何が起こったのかもわからないほどの高速で突っ込んだ永一の握る拳から放たれた漆黒の――狂気の淵を覗き込んだかと思しき程に深い闇色の衝撃波が迸り、敵を吹き飛ばしたのだ。
「な……ッ」
 対処しきれないリルヤの悲鳴に、永一はにやりと笑って跳躍。
 両手で床を突き放し、靴裏がすり減るほどのスライディングで柱に到達。指先を引っ掛けて曲がり切りながら次の衝撃波を発射――!!
「どこから?」
 咄嗟にリルヤは浮かべていた紫水晶を放つも、全てが柱や衝撃波に阻まれて永一の身までは届かない。砕かれた破片が飛散し、近くにあった絵の表面を傷つけた。
「ほら、あなたのせいですよ? 少しは自重なさったら?」
 リルヤは焦りの色を浮かべながらも、しつこくこちらの戸惑いを誘う。
「ごちゃごちゃうるせぇよ!」
 永一は面倒くさいと言わんばかりに舌を打ち、彼女の死角へと滑り込んだ。相手が振り返るよりも早く、その両手に衝撃波を纏わせ――全身全霊を込めた一撃を叩き込む。
 回避は間に合わない。
 息を呑むリルヤに容赦のない攻撃を浴びせながら、永一は魂のままに叫んだ。
「後の事なんざテメーが死んだ後考えりゃいいんだよ! 俺様と戦う事だけ集中しやがれ!」
 そう、彼の目には“今”しか映っていない。
 後先などどうだっていい。今この瞬間に漲る狂気に身を委ね、快楽のままに敵を屠り、その穢れた命を盗むことさえできれば他には何も――!!
 後ろ回し蹴りの要領で、リルヤをホールの壁に叩き付けた。
「こんなんじゃ全然足りねえ……さっさと立てよ! 俺様が満足するまでとことん付き合ってもらうぜッッッ!!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
おいおいおい、何でェこりゃ
此れがあいつの力だってんなら、好いシュミしてやがる
見てな、噂噺ごと今から全部塗り替えだ

そこな画商にゃこの場の値打ちモンが絵だけか問う
ならば上々、それ以外は別段、どうなろうが構やしねェだろ
程度の話サ
絵だけは死守する
此処にゃ石の類は見当たらねぇが、成程、狙いがあるなら他ァ雑に扱われそうだ
絵が小判みてェになりゃ無事だってんなら、それが善いがよ

続き率いる千鳥で、絵が放られりゃあふわりとおびき寄せて受け止める
同時にいけんなァ六まで
したが、気取られぬようするしかあるめぇよ
守りは羽根の柔
攻めは硬
石でも食ってな、ってネ
それぞれの属性で立ち回り、目や手を破壊前提で動きを封じるように狙う



「……なんて、野蛮な方たち……ッ――」
 痛みを堪え、血を流す傷口を抑えながら立ち上がるリルヤの口元が怒りに歪む。般若のような形相が顔に覆いかぶさった髪の合間から垣間見えた。
「無作法もそこまでに――」
 最後まで言い終えるよりも先に、リルヤ目がけて突撃を果たしたものがある。
「鳥……!?」
「鍔迫りの打ちいづる戦場の千鳥ってナ、此れのことヨ」
 指に六本の筆を構えた菱川・彌三八(彌栄・f12195)は歌舞伎の見得を切るように告げた。筆先より描かれる千鳥の群れは一様に翼を折りたたみ、硬く石のように尖った嘴をリルヤに向かって突き込んだのだった。
「あ、ぐ……ッ」
 血を吐き、よろめいた隙に腰を抜かして震えている画商に尋ねる。
「ひとつ答えちくれっと助かるんだが。この場の値打ちモンは絵だけかい?」
「え? あ、ああ……もちろんだ! 飾りつけや他の置物なんぞはどうだっていい!!」
「ならば上々」
 彌三八は深く肯んじ、硬く折りたたんで飛翔する千鳥を牡丹の花が綻ぶように“柔”へと変えた。
「そんなもので……ッ!」
 リルヤの殺意が籠った金の矢車が次々と襲いかかる。
(「五か――同時にいけんなァ六まで。したが、気取られぬようするしかあるめぇよ」)
 そうだ。
 敵すらも欺き、その場の空気ごと呑み込んでしまえ――。
「なァ、絵つうもんにはそういう力があるだろう?」
 飛べ。
 その柔らかい羽を広げて矢車を誘き寄せ、包み込み、優しく地へと落とせ。
「あ、あわわわわッ――」
 床に落ちて金から元の絵画に戻ったそれを、画商は慌てて拾い回る。彌三八は絵画以外を全て捨て、狙いを絞って千鳥を奔らせた。
 カーテンは乱れ、床には割れた花瓶が散乱するも、一枚また一枚と絵画は取り戻せていく。まったくもって雑な扱いだが、リルヤは己が美味しいと感じるもの以外にはまるで興味がないようだった。
「此れがあいつの力だってんなら、好いシュミしてやがる」
 怪奇化が進み、いまやどこからどこまでが元の場所だか分からないほどに歪んだ空間を見渡すと、最後の一仕事だとばかりに大きく筆を走らせた。
「見てな、噂噺ごと全部塗り替えだ」
 穢れを拭い去るが如く、千鳥は清冽に舞う。
「来ないでッ……――!」
 リルヤの突き出した手のひらを聖痕のように穿ち、その美しい翠色の目を突き。溢れた血の涙すら羽根に乗せて一枚の絵を完成させた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木常野・都月
薔薇と狂気の香りか…

まだヒトの感情に疎い俺でも、あまりよろしくない類の匂いというのは理解出来る。
尻尾が元に戻らないし。

とはいえ、俺は猟兵。
倒さなきゃならない。

この女性が何故宝石食べるのか、理由は分からないけど…この際、分からなくてもいい。

倒したい。早く。
俺の鼻と尻尾のために。

UC【精霊召喚】を使用、UDCに纏わり付いて攻撃、もしくは妨害して欲しい。

敵の攻撃は、[属性攻撃]を[カウンター]で対処したい。

防ぎきれないなら[逃げ足]で避けるか、[オーラ防御]を使用したい。

[野生の勘、第六感]を使用、敵の挙動や周囲の不測の事態に備えたい。



「今だ……!」
 猟兵の攻撃によってリルヤの動きが封じられたその機会を、木常野・都月(妖狐の精霊術士・f21384)は見逃さなかった。
「お願いです、精霊様――!!」
 杖の周囲に円を描くように召喚された精霊たちが一斉にリルヤを取り囲むようにして纏わりついた。
(「倒したい、早く」)
 黒狐の尾はまだ警戒に膨らんでいる。
(「俺は猟兵だから。倒さなきゃならない、絶対に」)
 鼻をつく薔薇と狂気の香りは血のそれと混ざり合い、眩暈すら覚える。
 まだヒトという存在が持ち得る感情に疎い都月でも、それがあまりよろしくない類のものだということは容易く理解できた。
 野生の本能、猟兵としての勘。
 その全てがこいつを倒せ――と叫んでいる。
「よくも、この私を跪かせましたわね……!!」
 怒りに満ちたリルヤの瞳からは血の涙が滴り落ちていた。その憤怒を形にしたかのように鋭い多角形で構成された紫水晶が都月の足元に咲くも、竜巻のように吹き荒れる風魔法によって呆気なく破砕した。
「なぜ?」
 驚愕に打ち震えるリルヤの次撃を、後ろへと飛びずさって躱す。
「どうして当たらないの……!?」
 彼女からすれば分からないのも同然だろう。
 だが、考えてみれば分かる事なのだ。
 敵の“戸惑い”を引き出すのが地の底に花を咲かせるための条件だとすれば、いまの都月につけ入る隙など皆無。
(「この女性が何故宝石食べるのか、理由は分からないけど……この際、分からなくてもいい」)
 ただ、倒したい。
 それだけの気持ちで、杖を額に抱き、祈りを捧げる。
 周囲に精霊の力が満ちる間にも、全身の神経を張り詰めて敵の一挙手一投足をも見逃さず。リルヤが次の攻撃を放つほんの僅かな動きに合わせ――否、それよりも一瞬早く解き放った精霊の生み出す波動が彼女を包み込み、苛烈な渦のただ中へと突き落としたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アンテロ・ヴィルスカ
フィッダ君(f18408)と

どうぞ、取りにおいでリルヤ
外したロザリオは足元で怯える画商君の首へ
自身に重なる影がある…友人となら危ない橋も悪くはないな

飛んでくるナイフはaaveと黒剣の二刀の攻守で対応、自身と画商の両方を追わせ隙を突く
彼が捕まっても問題はない【おびき寄せ】には充分な頑張りだ
ご苦労様、そのロザリオは彼女に渡して構わない

本体が食われそうになればliljaを発動、さて食われるのは何方だろう?

……同じ名前だなんて奇遇だが、しかし俺は君など知らない

だから、さようなら。
消える彼女と刻印に、肩を竦めて

いつも通り、任務完了だね?
後片付けはUDC職員に丸投げ
さぁ、散策でもしながら帰ろうかフィッダ君


フィッダ・ヨクセム
アンテロ(f03396)と

少し休んでる間に賑やかな事で
柱の陰から、アンテロの影に隠れ潜もう

その間に俺様自身に本物の鬣犬を憑依召喚する
完全獣化状態で凶暴性を増すだけだ、何も変わッては居ねェ
話の邪魔はしないが
狙うは一撃、不意打ちだ
…その喉笛、噛み千切ッてやろうか
本体が何かを知る友人想いの妖怪に気付かない方が、悪い

存在がバレた後は半獣状態で共闘するさ
七つ道具のカードに解除の呪文を唱えよう、―起動せよ、と

俺様の本体バス停を手にして、爪と牙、アクロバットに何でも利用する
…周囲の破壊行為は趣味じャない…
多少乱暴しても壊したりはしねェよ


なに、アンタの飼い犬と散歩?…冗談だよ、アンテロ
何時間でも、付き合うさ



「どうぞ、取りにおいでリルヤ」
 アンテロ・ヴィルスカ(白に鎮める・f03396)の指先が胸元の銀鎖を探り、引き出したロザリオを足元で怯える画商の首へとかけた。
「へ? な、なぜ私に……」
 呆然とした問いにアンテロは人の悪そうな笑みひとつを唇に刻むと、どこからか取り出したマントを翻す。その僅か一瞬の間に彼は漆黒の甲冑を纏っていた。
「…………」
 リルヤはアンテロの真意を探るかのように目を細め、彼と画商の胸元で揺れるロザリオを交互に見た。当然、その視線はひとつに定まらない。
「ひゃッ――」
 頭上から降り注ぐ宝刃の雨に驚愕して蹲る画商を、アンテロの黒剣が守りに入った。
「邪魔をなさらないで」
 今度は同じものがアンテロへと差し向う。
 彼は逆の手に持つ幻の剣でそれらを薙ぎ払い、微かな笑い声を零した。
「欲しいものを手に入れるなら、多少は苦労した方が喜びも一入だろう?」
 堅牢な兜に隠されてその表情はまるでわからないというのに、揶揄うような声色からアンテロがどんな顔をしているのか想像できてしまう。
「あ、あの、もしかしなくてもこれ囮って言いません?」
「かもねぇ」
「ええーッ!?」
 しれっと答えるアンテロに画商の男は情けない顔で悲鳴を上げると、自分を狙ってくるリルヤから這いずるように逃げ回った。
「ッ――」
 一方、焦らされたリルヤは僅かに頬を上気させ、意地になったかのように慈愛の雨を降らせ続ける。
(「そろそろ俺様の出番だぜ」)
 彼らが話している間、ずっと柱の陰に潜んでいたフィッダ・ヨクセム(停スル夢・f18408)は好機を見逃すことなく、今度はアンテロの影へと乗り移った。
 姿は先ほどと変わらないように見える――が、明らかに雰囲気が異なる。白い犬歯を剥き出した上唇は笑うように捲り上がり、双眸は爛々と輝いている。
「――!?」
 突如として影から出現した妖怪に驚いたリルヤが大きく目を瞠るのを無視して、フィッダは代償として流血した赤を足跡へと変えながら跳躍。
 その白い喉元へと力の限りに食らいつく。
「が、ふッ……」
 喉笛を食い千切ったフィッダが着地するのと同時にリルヤの喉から血潮が吹いた。
「……――!!」
 声も出せずに睨みつけるリルヤの壮絶な眼差しをフィッダは戸惑うことなく受け流し、二本足で立ち上がる。彼女の欲したロザリオの正体を知る、友人想いの妖怪に気付かない方が――悪い。
 祈るように件のロザリオを握り締めてぶつぶつと何事かを呟いている画商にちらっと視線をやったフィッダは、見る間に半獣化の形態をとりながら隣のアンテロを見た。
「アンタってほんと悪趣味な男。普通、あんなおっさんに渡すか自分の本体を?」
 しっ、とアンテロは口元に指を立てた。
「大丈夫。狙い通りさ」
「はァ?」
 フィッダは半目になってそれを眺めていたが、やがて「――起動せよ」と指先に挟んだカードを翻して出てきたバス停を両手で掴み、リルヤに向かって躍りかかる。
「とにかく、あのロザリオは絶対に渡さねェ!」
「あらあら、怖い。私、凶暴な方は好みでなくてよ……!」
「てめェの好みなんざ知ったことかよ!!」
 言い返した途端、用を成すことなく弾けた紫水晶の破片が彩る戦場をフィッダは激しく動き回りながらリルヤの肩を、脚を鋭く伸びた爪先で裂いていく。
「そらよッ!」
「くッ……」
 床に立てたバス停を掴み、遠心力を利用した回し蹴りを食らわせる。フィッダの気迫に押されたリルヤが負け惜しみのように呟いた。
「そこまでもったいぶられると、どうあっても食べてみたくなりますわね……!」
「なに――!?」
 バス停を大きく振りかざしたフィッダはぴたりと動きを止めた。彼が周囲をできるだけ破壊しないように動いていることに気づいたリルヤが大理石の彫像を背にして立ちはだかったのだ。
「あっぶね……!」
 すんでのところでバス停を止めたフィッダの脇をすり抜け、リルヤの指先が画商の首に下がったロザリオへと伸びる。
「しまった――!!」
 フィッダの悲痛な叫びを背に、アンテロは腰を抜かして動けないでいる画商に全くもって落ち着いた声色で告げた。
「ご苦労様、そのロザリオは彼女に渡して構わない」
「は、はいッ――」
 がばっと首から抜き取ったロザリオが遂にリルヤの掌中に渡る。ようやく手に入れた白銀の輝きに彼女はうっとりと目を潤ませ、仰向いて開いた唇の狭間に落とし込もうとした。
 刹那。
「な――」
 ロザリオを取り戻そうと必死で手を伸ばしていたフィッダは、目の前で起こったことが信じられずに愕然と目を見開いた。
(「百合の花、だと?」)
 さっきまで白銀のロザリオだったはずのそれが、いまや食虫花の如き捕食形態と化してリルヤの頭上に花咲いているではないか。

 ――【自身の血液】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【百合の様な見た目の捕食態】に変化させ、殺傷力を増す――そのユーべルコードの名を『lilja』といった。

「……同じ名前だなんて奇遇だが、しかし俺は君など知らない」
「あ……」
 終わりを悟った女の唇から掠れた悲鳴が零れた。
「だから、さようなら」
 肩を竦め、銀鎖を操り。消える彼女の手から血濡れたロザリオをその手に取り戻すと、アンテロは甲冑を解いて一仕事終えた後の疲労感をほぐすように首の付け根を手で揉んだ。

「そんなに拗ねないでよ、フィッダ君」
 UDC職員に通話を繋いで後始末を丸投げしたアンテロは、こちらに背を向けて肩をそびやかしている可愛い友人に微笑みかけた。
「君が必死に守ってくれたから、相手も騙されたんだ。敢闘賞だよ」
「――……っとに、アンタって奴は! ああもうッ! 畜生、俺は本気で肝が冷えたんだからなッ!?」
 マスクをずらし、真っ赤になりながらがなってやったというのに、アンテロは動揺の欠片も見せずに感謝の言葉を述べたのだった。
「ありがとう、フィッダ君。本当に」
「……ッ~~!!」 
 フィッダはがしがしと頭をかきむしる。
 もしかしなくても、俺様はこの男に弱いのか? 
 行き場のない感情を込めて歩道に溜まっていた落ち葉を蹴っていると、アンテロがもう一度、フィッダを呼んだ。
「さぁ、散策でもしながら帰ろうかフィッダ君」
「なに、アンタの飼い犬と散歩?」
「これは参ったな。機嫌を直してはくれないかい?」
「……冗談だよ、アンテロ」
 ふと眩しい冬日に目を灼かれたフィッダは、腕でひさしを作りながら空を仰いだ。厚い雲間から一筋の光が差し込み、くすんだ色彩の街並みに黄金の帯が現われる。
「何時間でも、付き合うさ」
 彼らは並んで歩きだした。
 今年もあと数日で終わりを告げる、冬も極まったある日の出来事だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年12月23日
宿敵 『宝食む魔女・リルヤ』 を撃破!


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアンテロ・ヴィルスカです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト