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五体満足アイロニィ

#サクラミラージュ

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#サクラミラージュ


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●喪失ノ辛苦
「――わたくしはすべてを持って居たわ」
 暮れゆく空に桜降る、麗しの街。愛すべき故郷の風、人の波を、袴姿の娘は狂おしい微笑みを湛えて駆け抜ける。
 彼女の物語るすべてとは、年若き娘の心に色をさすあれやこれ。
 長く美しい黒い髪、陶器のような白い肌、娘達に人気の少女人形の如き、華奢な手足。
 鮮紅に染めた絹のりぼん。流行る傍から廃れていくから、二度は袖を通さない着物。
 それから、それから――ああ、無償の愛を注いで下さる御父さまに、御母さま。胸を張り街をゆく自分の姿に、愛らしい御嬢さんだと眦を緩める男子学生たち。鈴鳴らすように日々を笑い交わした、気高くも愛らしい女学校の友人たち。
 燦々たる日々の色めき、煌々たる命の輝きの中で、彼女は生きてきた。
「ええ、すべて持って居たわ。だから奪われたの。持たない者からは誰も、何も奪えないでしょう?」
 だから自分は、奪われるものを持たぬ者が憎い。――自分からそれらを奪った誰かよりも、もっと。

 誰に想像できただろう、それは遠き日の或る夕べの出来事。唐突に過ぎる爆発に巻き込まれた富豪の娘は、白い肌を鮮血に染め、宵に翳りゆく空を睨んで死んだのだ。
 奇妙に捩れた無念と憎悪は影朧と化して、今もまだ、憎むべきものの幻を探している。
 喪われたすべてを取り戻そうと、降りしきる桜の雨をしゃにむに掻いて――燃え上がる時を待つ、熾の火のような微笑みを浮かべたままで。

●その灰より花出づるよに
 ――彼女より貧しく、持たざるものなら、謂れない暴虐に命を傷つけられても、己の命運を恨まずに逝けただろうか。
 ジナ・ラクスパー(空色・f13458)は自ら発した問いかけに、ふるふると首を振った。
「そんなことはないと思います。でも、ほんの少し、彼女の気持ちも分かるような気がするのです」
 彼女はとても恵まれていて、傲慢で。けれど、その豊かさを軽く見做してはいなかった。五体も情も品物も、与えられるすべてを当然のように享受しながらも、そのすべてを価値あるものと貴び、慈しみ、大切に扱っていた。
 だからこそ、死に際して心は歪んだのかもしれない。『何故、他のものではいけなかったのか』『何故、こんなにもすべてを愛おしんだ自分なのか』――誰もが心の奥底に持ち得るかもしれない、そんな痛みに胸を焦がして。
 けれど、その全てはもう想像の中のこと。本当の思いは彼女にしか分かりませんと囁いて、ジナは顔を上げ、話を続ける。
 娘は討伐しなければならない。けれど、その魂の行く末に心を砕き、言の葉を惜しまない者が数多くあったなら――息絶えた娘の体は桜の花片と化し、桜の精の癒しを経て、輪廻へ還ることもできるのだと。
「これから皆様をお送りする街に、ひとりの女の子がいます。年は私より少し下くらいの、灰桜色の着物を着た女の子。今夜影朧の標的になるのは、その子だと分かったのです」
 家は豊かではない。というより、恐らくはっきりと貧しい。丁寧につぎの当てられた着古しの姿で、ショーウィンドウに飾られた、自分では手の届かない品々を焦がれるように見つめる姿が、影朧の心に障ったのだろう。――あれは、奪われるものを未だ持たぬもの。奪われた自分が憎むべきものなのだと。
「でも、どうか焦らないでくださいませ。この女の子が影朧に追いつかれないように、皆様にはまず、街でのひとときを楽しんでいただきたいのです」
 訝る猟兵たちに、ジナは事情を語る。
 動きの掴めぬ影朧や、心誘われるまま逍遙する少女を、街の人混みの中に捕捉し追跡するのは難しい。しかし、『持たざる者』が何かを手に入れる楽しみを満喫する様子をあちらこちらで見せられたなら、この影朧は気を散らさずにはいられないのだと。つまり、
「時間稼ぎや足止めになるのです。皆様が楽しまれた分だけ、女の子から影朧の注意を逸らすことができる筈です!」
 ショーウィンドウの連なる通りは、服飾店に宝飾店、靴屋に帽子屋と、帝都らしい華やかな装いを手にする術には事欠かない。
 楽しげな玩具店に、華やかなポスターを掲げた化粧品店。扇子や煙管、櫛や髪飾りといった小間物を扱う店や、舶来の筆記具を扱うお洒落な文具店もある。
 歩き回ってお腹が空いたなら、スプーンも弾かれそうな弾力の葡萄のゼリーと、フルーツたっぷりのプリンアラモードで名を売った洋菓子店で一休みもできる。胡椒とチーズを添えた甘くないパンケーキや、仄かにバターの香りを纏うオープンサンド、半熟卵を落としたドライカレーが軽食として人気を博している喫茶店なども。
 つまり、殊更に燥ごうとせずとも楽しめてしまう街なのだ。
 そうして充分に時を稼いだなら、向かうのは町外れの劇場跡地。移転によって建物自体も取り壊されたそこは、標的の少女にとっては家への通り道であり、そこで待ち構えていれば、影朧は必ず現れる。
 敵はただ一人ではない。邪魔者の存在を知った彼女には、先兵が――自身の妄念に惹かれて集った配下がいる。
 影朧となってしまった少女の生にも似た、煌びやかに彩られた世界をかつて目指し、手の届かぬままに果てたものたち。今は渇望と怨念だけを動力とするこの桜の精たちもまた、持たざるものであったのは皮肉なことだ。
「彼女たちすら失った影朧は、最初の目的さえ忘れて、怒り任せに皆様に挑みかかるはずです。最後の記憶、自分の命を奪った爆発の光景から作り出した力を振るって」
 その憤怒の炎をあるいは煽り、あるいは受け止め、燻る心の火も尽きてしまうほどに燃え盛らせて――灰となった魂がまた、新たな命の蕾に宿れるようにと送り出す。
「奇跡みたいなことですけれど、でも、皆様の思いが背中を押すことができたら……きっと叶えられると思うのです」
 そう小さく微笑んで、ジナはグリモアに帝都のすがたを映し出した。
 時は夕暮れと薄闇のあわい。四季の隔てを知らぬ桜に柔らかな雪が混ざる中、まだ少し冷たい風が笑う人々の声を運ぶ、賑わいの街並み。
 ――そこに潜む暗い熱など誰も知らない、幸いに華やぐ街を。


五月町
 五月町です。
 気高さ故に大きな捩じれを生んでしまった娘の運命を、サクラミラージュの穏やかな桜の巡りの中へ、そっと還してあげてください。
 お目に留まりましたらよろしくお願いします。

●シナリオについて
 1章は冒頭部を追加次第、プレイング受付を開始します。以降、最初にいただいたプレイングの失効前日の夜までのんびり受付予定です。
 2章以降の受付状況はマスターページで告知しますので、お手数ですがご確認の上ご参加ください。

●1章について
 夕暮れ時の帝都の街で、買い物や散策を楽しむことができます。
 オープニングと冒頭部をお読みいただき、描写されている以外にも、こんな場所を楽しみたいというものがあればある前提でプレイングをかけて頂いて構いません(明らかにこの街にないだろうと思われる指定をいただいた場合は、ふんわりマスタリングしますので大丈夫です)。雰囲気の範囲内でご自由にどうぞ。
 この章で影朧を描写することはありませんので、気楽に町遊びを楽しんでください。1章のみのご参加も歓迎します。
 二名様以上でご参加いただく場合は、お手数ですが合言葉かお名前・IDの記載をお願いします。
 また、プレイングの送信時間が朝8時半をまたいで分かれないよう、ご協力をお願いいたします。
 楽しむ方が多いほど影朧の目を眩ませることができますので、全採用できますよう頑張ります。

●2章以降について
 全採用は確約できませんが、出来る限り頑張る所存です。
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第1章 日常 『逢魔が時に街を歩く』

POW   :    片っ端から食べ歩き!

SPD   :    ウインドウショッピングと洒落こもう

WIZ   :    物思いにふけりながら適当にぶらつこう

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花舞う帝都
 薄紅と白と。
 ほの淡く降るふた色は、桜と風花だ。朗らかな真昼の日のひかり、春の気配を抱き始めた風の中では朧であったそれも、夕暮れから夜に連なる逢魔が時ともなれば、少しひやりと冷めた風の中に存在を取り戻す。
 けれど、そのつめたさなど、往来に溢れる人々には届かない。いや、届いてはいるのだが、誰もがそれ以上の温もりをその手や胸に抱えているのだ。

 街は、訪れるものを充たしていく。
 たとえば。心なく吹きつける外気を隔て、現代風の調度と華やかな洋燈に囲まれて、洒落た食事に目を細める。品良い翳りに包まれた店内で、底光りのするような鈍い輝きを持つ新しい筆記具を手に、その滑らかな滑りに惚れ惚れとする。
 間もなく冬も終わりですからと、幾許か値を下げられた質の良い冬物のコートと、早くも春の色を主張する新しい季節の羽織りとを、交互に見比べては悩む心を弾ませる。底の擦り切れかけた軍靴のみすぼらしい足音を、艶やかに磨かれた新しい革靴の軽やかさへ履き替える。
 物欲を満たさずとも満たされるものはあろう。燥ぐ女学生たちに気分だけを溶け込ませ、街に貼られたポスターを彩る、流行りの調合の爪紅を眺めることも、自分の懐具合ではとても手の届かない着物や帽子を、窓の外から割り切り眺めることも、それはそれで心を満たすもの。
 手にすることの幸いも、触れ試すだけの幸いも、触れず焦がれる幸いも、この街には溢れている。身に余し零れた分が熱気や笑顔を作り出すから、渡る凍て風までもがやわらかく暖まる。

 ――未だ標的を認められない妄念は、華やかな小町の姿で風を掻き、人波を泳ぎ、街に溶け込んでいることだろう。
 今はまだ燻るばかりの娘の気配を、炙り出すことはまだ叶わない。見つけてやりたいのなら、今はただ、楽しむことだ。
 何かを得ることの喜びを、得られず焦がれる溜息を。――拗れた心が燃え上がらずにはいられなくなるほどの、幸せのひとときを。
クラリス・ポー
【ポーさん家】
クリストフ義母様(f02167)
玄冬兄さん(f03332)

お金のことは解らないけど
必要以上を欲しいとは思いません
でも
義母様、兄さんとのお出掛けは嬉しいのです
花弁に酔ったのだろう兄さんに
はい、と手を伸ばして拾い上げて貰う

町並みの何処かに
娘さん達を想うと
髭が下を向いてしまいそうになるけれど
一緒なら大丈夫

帽子屋さん
文房具屋さん
靴屋さん
行き交う人々が移り込む窓を
キラキラの宝石箱みたいに覗き込めば
尻尾も揺れます

無いんですか?
と、玄冬兄さんに聞き返したけれど
義母様も気付かれていたみたいで
良かった…と思ったら、お腹がグゥ
うぅ、すみません

風に乗って漂った
甘く苦い
プリンアラモードの香りに魅せられて


クリストフ・ポー
【ポーさん家】
玄冬(f03332)、クラリス(f10090)とショッピング
安心し給え
傾いた家といっても
今は僕もそれなりに腕を奮っているんだからね!
偶には母子水入らずしたいじゃん

薄紅と白
花弁が舞い
燈に淡く照らされる
並ぶ洋品店に漂う東洋の香り
旧きも新しきも混ぜ、楽しもう

目に留めたのは
エレガントなハイヒールの牛津靴
フィッティングをしようと椅子に腰かけ
猫のように微笑んで
玄冬、履かせて

有難う
支払いをしてこのまま征こう
玄冬は何が欲しいのかな?
ふぅん…
でもさっき文具店で一瞬立ち止まったよね?
お見通しさ♪

はは、クラリスはまだ花より団子みたいだね☆
じゃあ墨を買って
プリンアラモードを食べに行こうかと小さな手を引く


黒門・玄冬
【ポーさん家】母さん(f02167)、クラリス(f10090)
そう、今は…
空白が風花の如くちらつく
伸ばされた手を壊さぬ様握り返し
義妹を肩に乗せた

断る理由も無い
娘さん
――貧と富、生と死によって分たれた二人が
今にも禍時へ落ちようとしている
させはしないと胸に決め
石畳を踏む

請われ履かせる
甘受する華奢な脚は
血の繋がりより
在り方の差異を感じさせる
だが遠の昔に受け入れてしまった

ありません
水を向けられ咄嗟に口を吐く
…みられていたらしい
内心のむず痒さを圧し込め
墨が切れたのを思い出しました、と頷く

小さな音も
耳の近くであれば聞き逃せない
お腹が空いたのかい?と撫で
固まった様子の義妹に尋ねた
違う僕等は、母の導きに倣う



●家族のひととき
「安心し給え。傾いた家といっても、今は僕もそれなりに腕を奮っているんだからね!」」
 毛皮のコートを纏い、美しい指先を置いた胸を張ってみせる義母、クリストフ・ポー(美食家・f02167)は、舞台の上の演者のようだ。
 ほう、と暖かく仄かな吐息を外気に溶かし、クラリス・ポー(ケットシーのクレリック・f10090)はそろりと辺りを見渡してみる。
 敬虔なシスター見習いの少女にとって、欲しいものはそう多くない。お金のことはよく分からないし、仮に分かったとしても、小さな手は今だって十分に足りている。大切な家族もそのひとつで、それ以上求めるものなど思いもつかない。けれど――いや、だからこそ。
「義母様、兄さんとのお出掛けは嬉しいのです」
 ふんわり笑う少女をいい子だねと抱き寄せて、義母は大きな笑みを浮かべた。
「偶には母子水入らずしたいじゃん。ねえ玄冬」
 問いかけに、黒門・玄冬(冬鴉・f03332)の感情が波立つことはない。けれどその静かさが、唱えるべき否などないことを告げている。
 クリストフはふふん、と満足げに喉を鳴らした。
 見上げれば色もあたたかな薄紅と、ひんやりとした白のふたいろ。この世界と季節とに彩られた花弁が、暮れゆく空と燈火にやわらかに照らされている。
 我ぞ流行との主張がガラス窓の中に込められた洋品店の並びに差し掛かれば、林檎色の瞳が満足げに緩んだ。旧きものも新しきものも隔てなく抱いては調和させる、オリエンタルの風。
「こんな沢山の品物、見たことありません」
「ああ、存分に楽しもう」
 並べられた宝石箱を覗き込むようにして、クラリスはふわあ、と小さな溜息をあちらこちらに零して回っている。欲のない娘も無邪気に楽しめているようだ、とゆらゆら揺れる尾に目を細めていたクリストフは、不意の変化におやと眉を上げた。
 唐突にしょんぼり下を向いた、こげ茶色のやわらかな尻尾。柔らかな少女の気持ちを、玄冬の掌が小さな体ごと肩の上に掬い上げる。
「今は……」
 続かない玄冬の空白を、ちらちらと白雪が埋める。同じ思いであるのだと、クラリスははい、と頷いた。満ち足りた今の気持ちがあるからこそ、思わずにいられない。
(「この街並みの何処かに、娘さん達が……」)
(「――貧と富、生と死によって分かたれた二人が、今にも」)
 かつて持っていた全てを失ってしまったという少女。きらびやかな品溢れる街に焦がれるばかりの少女。
 まだ気配を掴むことはできないふたりは、けれど確かにこの雑踏の中にいて、禍時へ落ちゆこうとしている。
 嬉しげに揺れていたクラリスの髭は、彼女たちを想うほどにほんの少しだけ、重力に負けそうになるけれど――つくん、と胸に響くちいさな痛みから、クラリスを掬い上げてくれる人たちがいる。
 自分が落ちないようにとそっと添えられた大きな手、確かな決意を胸に石畳を踏む兄も。そして、
「こらこら、辛気臭い顔は後だよ」
 殊更に明るい声で自分たちを包み込む義母も。
「ほら、一緒に見て欲しいなクラリス。――ああ、これなんて素敵じゃないか?」
 ガラスの向こうから差し伸べられるは、抗えない誘惑。お相手はヒールもエレガントな牛津靴だ。
「わあ……きれいな色。瀟洒、というのでしょうか……きっと義母様に似合うと思います」
 ショーウインドウの前へひらり、滑り降りたクラリスの大きな金の瞳は、宝物を見つけたように輝いている。揺れる尻尾まで嘘のない可愛い娘の手を取って、クリストフは満足そうに店の中へ。
 ワイン色の布が張られたスツールに並んで腰掛けると、履いていた靴もそのままに足先を差し出した。
「玄冬、履かせて」
 猫のような微笑みに、玄冬はひとかけらの躊躇いもなくその足元に跪いた。華奢な脚に新しい靴を添わせ、大きくも器用な指先で革紐を美しく結ぶ。
 時と老いを感じさせない肌は、親と子の血の繋がりよりも、在り方の差異を実感させるものだ。――けれどそれも、とうの昔に受け入れてしまった。
「ふふ、有難う。気に入ったよ、支払いをしてこのまま征こう」
 過った思いを知ってか知らずか、クリストフは軽やかにコートを翻し往来へ繰り出す。鼻先には歌さえ漂い出しそうだ。
 気の向くままの振る舞いと見せながら、その実、
「玄冬は何が欲しいのかな?」
 などと振り返ってみせたりするから侮れない。
「ありません」
 咄嗟に零れた言葉に、えっ、と遠慮がちな否の声。
「でも……兄さん、無いんですか? その……」
「ふぅん……でもさっき、文具店で一瞬立ち止まったよね?」
 ほんとうに? と妹はおずおずと、母はお見通しだとかろやかに。重なった問いに、玄冬は沈黙する。
 どうやらみられていたらしい。それ以上否定を重ねるのは無意味だろう、敵う筈もない。嘆息でむず痒さを押し込め、
「……墨が切れたのを思い出しました」
「ふふ、それじゃ引き返そう!」
「義母様が気付かれていたみたいで良かった……、……あっ」
 安堵を浮かべたクラリスを、玄冬が再び肩の上へ引き上げたその時。
 ――ぐう。
 小さく鳴いたおなかに、少女は髭の先まで震わせている。
「お腹が空いたのかい?」
「はは、クラリスはまだ花より団子みたいだね☆」
「うぅ、すみません……でも、さっきからとってもいい匂いがして」
 ひんやり濡れた鼻先が冷たい風の中に捉えたのは、お鍋の中で焦がされた、甘くてやわらかでほろ苦い匂い。それだけでかたちを思い浮かべられる、真っ赤なチェリーと雲のようなホイップを纏ったそれは――もちろん、
「勿論、ふたりの望みを叶えようとも。墨を買ったら、プリンアラモードを食べに行こうか」
 母の手はしばしば強引で――とても優しい。ふわふわの小さな手と骨ばった大きな手は、そっとその強さに先を委ねた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
高品質な商品として、どこぞの知らん男の元へ出荷される為の人生を、彼女は肯定していたんだな。
……嫌味のつもりは別になくって、
それができるのも、また気高さなんだと思うよ。

まあ、夏報さん、今日は単に買い物に来たんだ。
高い安いは割と見分けがつくし、年相応で馬鹿にされない服を選ぶことはできるんだけど。
本当にお洒落が好きな娘に、喜んでもらえる贈り物を選ぶとなると難しい。

……身に付けるものは止そうか。
青い漆に金の箔押し、矢羽根模様の可愛い栞をひとひら。

可愛い、って言葉にはきっといろんな意味がある。
侮りとか、牽制とか、値踏みとか。
でも、あの娘にワンピースを褒められた時だけは、なんだか素直に嬉しかったんだよね。


夷洞・みさき
PC:
意外に起こるべくして起こった爆発だったのかもしれないね。
得る者がいるなら喪う者だっているのだから。
とはいえ、真相は海の底かな。

今は、お仕事の前にこの世界を楽しもうか。

PL:
六の同胞を引き連れて街を散策。
体すら『持たない』【UC六の同胞】達のために、体の権限を交代で渡す。
傍目には独り言をしている風。見える者には違う光景になるかもしれない。
サァビスチケットフル活用。
【六の同胞】の趣味を満たすために姿は変わらず街中のあちらこちらに顔を出す。街角の力比べ、刃物市、甘味処、幼子向けの出し物。
容姿年齢に合わない所によってはミスマッチで目立つ。

アドアレ歓迎



同胞達、躰は僕だからってお酒も飲みたいのかい?


フィーア・ストリッツ
囮に異論はないのですが
少々まだるっこしいと感じてしまいますね
「影朧を捉える手段が無い以上仕様のない事ですか。さて、楽しむと言ってもどうすればいいでしょう」

フィーアとしてはまずお手軽に食欲を満たしたい所ですね
かつ、綺麗な景色を見ればなにか感じるものが有る……かもしれません
「と、なれば花見が出来る場所。川沿いの桜並木あたりをぶらつけば、買い食いできるものもなにかあるでしょう」

この世界の象徴とも言える幻朧桜が夕日に染まるのを見上げながら
道中で買った様々な――無駄に多い――食べ物を無言で消費していきます
(見慣れた景色、ではないのは確かですが。それ以上にこの幽世へ魂を誘うような空気は落ち着きませんね)



●砂食むこゝろ
「……囮に不満はないのですが」
 フィーア・ストリッツ(サキエルの眼差し・f05578)は、吐息とともに肩を竦めた。白く染まった外気がふわり、目の前へ漂ってきた幻朧桜の花弁を遠ざける。
 街に群れる人の中に、確かに捕捉すべき相手はいるというのに、それを探し出し、捕らえることができない。相手の気を惹く振舞いで気を惹け、という。それは、
「少々まだるっこしいと感じますね」
 溜息をもう一つ。溢れんばかりの人の出に加え、影朧の姿を捉える手段がない以上は仕様がない、と納得すべきだろうか。
「楽しむ……ですか。さて、どうすればいいでしょう」
 真っ先に頭を過ったのは、手軽に食欲を満たすこと。そして次には、綺麗な風景だ。
 これほどの花弁を降らせるのだから、幻朧桜もきっとどこかで見事に咲き誇っているのだろう。街中には見当たらないが――さて。
 風上を目指し歩くフィーアに、美味しそうな匂いがあちらこちらから誘惑の手を伸ばす。馥郁たるバターの香りを辿り、件の喫茶店で持ち帰れるメニューをすべて包んでもらうと、再び幻朧桜を探し歩き出した。
 川沿いの桜並木、という誰かの言葉が傍らをすり抜けていった。油紙に包まれたオープンサンドを黙々と食べながら、こちらだろうと思われる方を目指す。何気なく見上げた空は夕暮れと夜の狭間のグラデーションをなし、それは確かに美しいのだが――フィーアにはどことなく、うすら寒いものを感じさせる。
 やがて川縁の土手沿いに見えてくるのだろう桜も、この色と溶け合うのだろう。見慣れた景色とは言い難い、稀なる色を示して。
「この幽世へ魂を誘うような空気は、落ち着きませんね」
 想像の中でさえそうなのだから、目にすればそれはいっそう色濃く感じられることだろう。
 ぽつり零したフィーアは、いつしか大通りを抜けてしまっていたことに気づいた。せせらぎは近いが、賑わいは遠のいている。この人の疎らさでは、食べ歩きを楽しむ自分の気が影朧の意識に留まることはないだろう。
「……さて、どうしましょうか」
 誰に問うでもない呟きが、舞う桜に紛れてふわりと飛んでいく。

 意外にも起こるべくして起こった事件であったのかもしれない。不穏な思考を巡らせながら、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)は海ならぬ人の波の中を泳いでいく。
 娘の命を消し飛ばしたという爆発の委細を知るものはない。犯人は誰でも構わぬ愉快犯であったかもしれないし、明確な狙う理由が娘の方になかったとも限らない。――喪うものがいるというなら、それによって得るものがいるのも自明の理だ。
「いずれにしても、真相は海の底かな」
 こうして人の波に揉まれ、過去へとなり果てた。それ以上に心動かず事物もなく、みさきは白く醒めた頬に薄い微笑を湛え、人々の愉しげな眼差しの先にあるものをゆるり、辿りゆく。漂う仄かな潮の香りに、すれ違う人が不思議そうに振り返るのを、可笑しそうに笑いながら。
「今は、お仕事の前にこの世界を楽しもうか。何処へ行きたい?」
 ねえ、と語りかける相手は己の中だから、行きあう人々には独り言ちているようにしか映らなかったろう。
 海に散った六つの命、その求めに順に従い巡る店は、てんでばらばらだ。刃物を扱う店に甘味処。店先で幼子向けの催し物をしているのは、玩具屋だろうか。
 一通りの要望を叶えたみさきの足を、誰かの意識が止めた。視線を導かれた先は、洋酒を扱う店のようだ。幼い『彼ら』をくすり、笑みで窘める。
「同胞達、お酒を飲みたいのかい? 駄目だよ、躰は僕だからって――」
 身の内の不満の声を宥めすかすみさきに、ほろ酔いの男が怪訝な眼差しを投げて通り過ぎていった。

(「――ふうん」)
 煉瓦作りの壁に凭れかかり、昼と夜との境に溢れる人々を眺めながら、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は語られた影朧を思う。
 この人波の何処かにいるのだというその娘は、かつてすべてを持っていたと、そう自負していたらしい。並べ立てられた「すべて」を検めるに、溜息が零れた。
 裕福な娘であったのだろう。豊かな人生であったのだろう。けれど夏報には、その豊かさに別の色がちらついて見えた。
(「高品質な商品として、どこぞの知らん男の元へ出荷される為の人生を――彼女は肯定していたんだな」)
 敢えて声に結びはしなかったのだから、分かっている。口にすれば、眉を顰める人もあろうことは。
 けれど、夏報に嫌味のつもりはなかった。選んだ言葉は褒められたものではないかもしれないが、その在り方を評価してさえいた。
(「それができるのも、気高さなんだろうな」)
 それを娘に告げるかどうかは後の話だ。そも、今日は単に買い物に来ただけなのだから。
 ひんやりとした壁を背で押して、往来に彷徨い出る。ゆっくりと歩む傍ら、ガラスの向こうですましてみせるマネキンたちの装いは、すっかり春の色だ。
 ものの高い安いの見分けはつくし、年相応でありながら、心ないものに謂れない非難を受けることもないだろう服を選ぶことならできる。けれど、と首を傾げた。
「難しいな。本当にお洒落が好きな娘に、喜んでもらえる贈り物を選ぶとなると」
 考えあぐね、身につけるものは止そうと投げた視線は、文具屋の中にきらりと輝くものを捉えた。興味を覚え近づくと――それは青い漆塗りの栞だった。金の箔押しの矢羽根模様に、可愛い、と一言零してふと、
「可愛い、か。それにもいろんな意味があるな」
 侮り、牽制、値踏み。件の娘が擦れ違った男子学生らに貰った言葉はどれだったろう。過った思いをひらり、頭から追い払って、またひらり、栞を空に掲げた。
(「でも、あの娘にワンピースを褒められた時だけは、なんだか素直に嬉しかったんだよね」)
 そんな気持ちを、この栞は届けてくれるだろうか。奥へ掛けた声に、白髪の老店主が顔を上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふわぁ、素敵な帽子です。
あんな帽子を被ってお出かけしたりしたいですね。
ですが、私のお小遣いでは全然足りませんね。
あ、アヒルさんがなんだか貯金箱に見えてきました。
そ、そうです、きっと私が素敵な帽子に出会えた時の為にきっと貯金していたんですよ。
ふえぇ、アヒルさん、待ってください。
いまこそ、アヒルさん貯金を使う時なんですよ。


薬師神・悟郎
さて、たまにはウインドウショッピングと洒落込もう
春らしい様々な新作に目移りしてしまうな
俺にあまり物欲はなかったはずなんだが…それなりに稼げるようになってくるあれもこれもと欲が出てきて困る

おや、あの羽織なんて良さそうだ
若葉が芽吹いたような黄緑色…いや、隣の杏色の方が良いか?
然し普段から暗い色ばかり着てるからどちらも派手に感じるな…

あれも良いこれも良さそうだと店を巡り、一番印象に残ったのは藍色の中を舞う桜色の花びらが美しい羽織
残念だが俺には着こなせないだろうなと苦笑い

その後はカフェーで茶でも飲んで行くか
あちらにも春限定の旨いものがあると嬉しいな
表情や態度には出さないが、とても楽しみだ


城野・いばら
わぁ、…わぁ!アリスがいっぱい、イロがいっぱい…!
この世界ならではの習慣や光景は華やかにみえて
はじめてがたくさん溢れてて…なんてキラキラな国なのかしら!

あれはなに?ふしぎな動き!乗り物なの?って
物知りな鏡のマダム・リリーや、
店番のアリスへ質問がとまらないの
だって、知らないを知るのは楽しいもの!

特に惹かれるのはアリス達の装いで
和装、よね?いばらも、真似して着ているの
もっと詳しく知りたくて…目指すのは手芸屋さん
和服の縫い方の本、あるかしら?
ステキな和柄の生地、リボンや釦にもあえたらうれしいわ

お財布の中身が寂しくなっても、
イロイロで秘密の箱が充たされればうっとりしちゃう!
ふふふ、次は何を縫おうかな?



●春薫るひととき
「ふわぁ、素敵な帽子です」
 自分の頭の上には、大きなリボンと真珠で彩られた空色の帽子。もちろんそれだって、とてもお気に入りではあるのだけれど。
 ショーウィンドウの前に立ち尽くしたフリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は、相棒のアヒルさんガジェットをぎゅっと抱きしめた。
 苺色の瞳を釘付けにして離さない罪な一品は、淡いレモン色のフェルト地に黄色のプリムラ、大きな白いリボンを合わせた帽子。溜息を重ねる少女に、試して御覧になりますか、と女性店員がにこやかに声をかける。
「銀色の綺麗な髪に、きっとお似合いになりますよ」
 誘われるまま、フリルは勇気を奮い起こして店の中へ。向けられた鏡の中に映ったのは、被せてもらった真新しい春色の帽子の下、頬を上気させている見慣れた少女。――確かによく似合っているかもしれない。
「こんな帽子を被ってお出かけしたりしたいですが……」
 ちらと盗み見たお値段と、提げたポシェットの中のお財布と。確かめる前にしょんぼりしてしまう。
(「私のお小遣いでは全然足りませんね……」)
 俯いた眼差しが、掌の中の友とぱちりと合った。
「アヒルさん……アヒルさんがなんだか貯金箱に見えてきました」
『グワ?』
 アリスラビリンスで目覚めたときから、ずっと一緒にいる大事な相棒。――そうだ、きっと、アヒルさんなら。
「そ、そうです、きっと私が素敵な帽子に出会えた時の為に貯金していてくれたんですよ。そうですよね」
『グ、グワ!?』
「いまこそ、アヒルさん貯金を使う時なんですよ、アヒルさん……!」
 ただならぬ気配に、アヒルさんガジェットはグワー! とひと声残してフリルの腕から飛び降りた。
「あっ……!? ふえぇ、アヒルさん、待ってください」
 貯金箱よろしくがちゃん、とされてはたまらない。全力で逃げるアヒルさんも、なかなかのスピードだ。
「アヒルさぁん……私の素敵な帽子……」
 くすくす笑う店員の声が、ひとりと一羽を見送った。――季節が移るその前に、どうぞまたお越しくださいませ!
 往来を風のように駆け抜けていく少女に、城野・いばら(茨姫・f20406)は大きな瞳をぱちぱち、なにかしらと瞬いた。
 けれどその眼差しは、あっという間に辺りを行き来する年頃の娘たちに惹きつけられる。
「わぁ、……わぁ! アリスがいっぱい、イロもいっぱい……!」
 こんなに人の溢れる場所が、いばらの生まれた世界にあっただろうか。サクラミラージュの街の醸す空気は華やかで、通りは静まる暇もないほど賑やかで――、
「はじめてがたくさん溢れてて……なんてキラキラな国なのかしら! ねえマダム・リリー、あなたは知ってる? あれはなに? ふしぎな動き!」
 人波の中、よろよろしているふたつの輪を指させば、白百合の鏡の貴婦人はあれは自転車というものよ、ととりすまして答える。
『まあまあ、こんなところで上手に乗りこなせる訳がありませんわ、なんてこと! いばら? あなたちゃんと聞いていらっしゃる?』
「聞いてるわ、自転車ね! ねえねえあなた、教えてちょうだい! あちらのアリスが着ているのは和装、よね?」
 表を掃きに出てきたウェイトレスの腕をとらまえ、いばらの瞳はきらきら輝きを増すばかり。だって、『知らない』を『知る』はとびきり楽しいのだ!
「ええと、御嬢さんがお召しになってるような袴でしたら、呉服屋さんとか……。でもそうそう贅沢もできませんし、少し器用な御嬢さん方はご自分で生地を買ってお作りになるそうですよ」
「作る! それじゃ、手芸屋さんがあるのね!」
 人波をあっぷあっぷと泳ぎながら、教えてもらった店へ辿り着いてみると――そこは素敵な和柄の生地に、リボンや釦、作り方の本までも。
「これでもっと詳しく知ることができるわ! ふふふ、次は何を縫おうかな、この布で何を作ろうかしら……!」
 お財布の中身が淋しくなっても大丈夫。代わりにうっとりするほどの色たちが、いばらの秘密の裁縫箱も、止むことのない好奇心も、とりどり満たしてくれるのだから。
 楽しげに買い回る街の娘たちの仲間入りを果たしたいばらが、真新しい素材を抱えて機嫌よく往来を跳ねていく。軽やかな足取りが連れゆく風が、薬師神・悟郎(夜に囁く蝙蝠・f19225)の煙管の先、立ち上る煙をゆらりと揺らした。
(「俺にあまり物欲はなかった筈なんだが……それなりに稼げるようになってくると、あれもこれもと欲しくなって困るな」)
 ガラスの向こうは春色の氾濫。たまにはウィンドウショッピングでも――と訪れたものの、新作と見ればつい心が動いてしまうのは、人として自然な在りようだろう。
「……おや、あの羽織なんて良さそうだ」
 呉服屋だろうか、古い店に洋風の手入れをした入口の先、芽吹いたばかりの若葉を思わせる鮮やかな装いが目に留まる。
「……いや、隣の杏色の方が良いか?」
 少しずつガラスとの距離を詰める様子に、粋な着こなしの店子がくすりと笑いかける。
「どうぞ中でゆっくり御覧下さいな。出てないものもお見せいたしますよ」
 ――そんな気さくな誘いに惹かれ、いくつの店を巡っただろう。
 心擽られる春の彩りはどれも、暗色に偏りがちな普段の装いには派手にも感じられ、結局ウィンドウショッピングのままで終わってしまった。
 苦笑いしつつ立ち寄った喫茶店、香り高い珈琲にようやく人心地つき、メニューに名を連ねた桜パンケーキなる限定商品に目を奪われつつ、思い出すのは――、
「……あの羽織は美しかったな」
 その絢爛さは、今の自分が着こなせるものではなかったけれど。藍色にひらりひらりと舞いゆく一枚が、まだ瞼の奥に焼きついている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユルグ・オルド
f18759/ウィアドと

男二人のデートて寂しくねェ?
レドちゃんもうちょっとかわいくしてくれる
繋がねえ、巫山戯て返し、ッてレドが遠慮すんの

小突きつつ追い掛け通りを行けば
聞こえるメニューの甘いこと
食べ歩きってそれ全部食うのかよ
胸焼けしそうだから俺は珈琲でいいわあ
デザートだけってのも絶対ェ腹減るって
……甘くないパンケーキってなに
傾げ眇めて結局レドの口上に釣られたりして

いやいやいやもう見た目から甘いじゃん
差し出されたからにはと一口、
溶けそうに甘い
珈琲啜りつつ皿差し出して
まあ嬉しそうに食べんのね

そうそうちょっと覗きたいトコあったんだ
次は付き合ってもらうからと歩き出して
……まだいくワケ


ウィアド・レドニカ
ユル(f09129)とデートってね
え、違う?いや間違ってないでしょ
俺彼女役でいいからさ
可愛くって、…こう?なんて
手は?繋がない?
まぁうん言っといてなんだけど俺も遠慮するかな

いや、旨そうな匂いがそこかしこに
食べ歩きツアーしよう
プリンにパンケーキ、マフィンにアイス
なんでそんな嫌そうな顔してんの?
珈琲じゃお腹膨れないだろ
ふふ、はいはい
じゃあ甘くないのも食べようかね
パンケーキなら甘くないやつもあるってさ?

でも一口くらいは甘いのも
ご賞味あれ
眉間のシワに笑って
そりゃ甘いでしょ
俺のは甘いパンケーキなんだから
俺にもちょうだい?
うん、そっちもおいしいな

さて次は
腹が減るまで買い物でもする?
減ったらまた甘いものでも



●甘いデヱトは終わらない
「男二人のデートて寂しくねェ?」
「え、違う? いや間違ってないでしょ」
 俺彼女役でいいからさ、と風のように朗らかに笑ってみせるウィアド・レドニカ(クカラ・f18759)に、ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)はふうん、と乾いた相槌をひとつ、神妙な顔を向けた。
「レドちゃん、もうちょっと可愛くしてくれる」
「可愛くって、……こう?」
 それがウィアドの思う精一杯の可愛さであったのだろう――残念ながらユルグの鉄壁の笑みが崩れることはなかったが。肩落とすこともなくだめかーと呟いて、
「手は? 繋がない?」
「繋がねえ」
「まぁうん、言っといてなんだけど俺も遠慮するかな」
「ッてレドが遠慮すんの、ええ……」
 捉えにくる指先を跳ね返せば、悪ふざけに悪戯めいた笑みがどちらともなく零れた。小突き小突かれをひとしきり連ねたあとで、あ、と先に足を止めたのはウィアド。
「ユル、食べ歩きツアーしよう。旨そうな匂いがそこかしこに一杯だ」
 見てほらと示された店先、読み上げられるメニューの数々がユルグの顔から笑みを奪っていく。――プリンにパンケーキ、マフィンにアイス、エトセトラエトセトラ、
「なんでそんな嫌そうな顔してんの?」
「それ全部食うのかよ……胸焼けしそうだから俺は珈琲でいいわあ」
「珈琲じゃお腹膨れないだろ」
 お腹の前に頬を膨らませるウィアドに吹き出しそうになりつつも、いやいや、とひらり振る手で徹底抗戦のユルグ。
「デザートだけってのも絶対ェ腹減るって」
 ああ言えばこう言うだ、とウィアドが結んだ口もすぐ笑みに解けてしまった。はいはいと宥め宥め、
「じゃあ甘くないのも食べようかね、パンケーキならあるってさ?」
「……甘くないパンケーキってなに」
 ――あ、乗ってきた。訝しむ顔に内心でガッツポーズを決め、背を押して店の中へ。
 珈琲の美味しい、所謂硬派な喫茶店でもあるようで、店内は思ったよりも落ち着いた雰囲気だ。
 注文は二種類のパンケーキ、そして自慢の珈琲。ほどなくして届いたそれに、うわ、と堪えきれずに抗議の声が上がる。
「いやいやいやもう見た目から甘いじゃん」
「そりゃそうでしょ、俺のは甘いパンケーキなんだから。甘くないのはそっち」
「……ああ、……へえ、なるほど。こういう感じね」
 悪くない、と甘さを排した一品に舌鼓を打つ友を見れば、むくむくといたずら心が首を擡げて、
「……何そのフォーク」
「ほら、一口くらいは、さ? 甘いのもご賞味あれ」
 渋々口を開ける眉間の皺が、すでに可笑しい。口にすればいっそう深まる影に、堪えきれない笑いが零れた。
「溶けそうに甘い……。お前、まあ嬉しそうに食べんのね」
 俺にもちょうだい、と求めた一口に綻ぶ顔を眺めるうちに、呆れも感心に変わっていくのが不思議だ。舌に残る甘みが苦い珈琲で洗われた頃には、ユルグの眉もすっかり下がっていた。
「ご馳走さま! さて次は、腹が減るまで買い物でもする?」
「ああ。そうそう、ちょっと覗きたいトコあったんだ。一つ前の通りな」
「へえ、何の店?」
 またどうぞ、と追い掛けてくる店主の声に並べた笑みで応え、来た道を戻る道すがら。ふと、
「じゃあ、買い物して腹が減ったら――また甘いものでも」
「……まだいくワケ」
 眇めた目に映るのは、友の良い笑顔。
 ユルグは暮れゆく空を仰ぎ、肚を決めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御園・桜花
「…お可哀想に」
ウインドショッピングに興じていた筈なのに
ガラスに指をつけた瞬間言葉が零れた

明るい照明
流れる音楽
密やかに紡がれる紳士淑女の会話
供されるお洒落な食事
この空間をこそ愛していると言っても過言ではないのに
ホットサンドとカフェを口にしながら溜息を溢す
(…お可哀想に)

生まれつき裕福なことは本人のせいではなく
生まれつき貧しいのも本人のせいではない
裕福を理由に殺された時
持たずに殺されぬ者を羨んだのかもしれない
その執着が今現れているだけかもしれない
裕福を理由に殺した者を恨むより怒るより
そういうこともあろうと納得し
その上で納得しきれなかった結果かもしれない
全ては想像に過ぎないけれど

時至るのを只管待つ


リドリー・ジーン
煌びやかな場所だわ、道行く人は皆幸せそう

そうね、この機会に--話には聞いていた桜コスメが気になっていたの。香水とか良いのがあれば一つ頂きたいわ
うぅ...駄目ね、買う物を決めてきたのに店内を見ればお洋服もコスメも皆素敵で目が奪われてしまうわ..
お仕事が終わったらまた足を向けてみようかしら...自分のお財布と相談ね

買い物は小さな物だけにして、後はカフェでデザートと飲み物を頂きながらのんびりしましょう

標的になるであろう少女の近くには居たいわね、何かがあっても守れるように
良く外と周りが見れる位置の席を取りましょう

..理不尽な終わりを迎えた影朧...彼女の事は、同情するわ
でも人を傷つけてはいけないもの


雛瑠璃・優歌
家に居るとどうしてもお母さんの淋しそうな姿を見ちゃうから
お祖父様達がそれを見て言う何かまでもが怖くて
あたしはいつも自分の家に居着かない
才能の有無を無視して毎日稽古場で厳しいお師匠様達と缶詰めになりに行くのは
「逃げてる、のかな」
少しずつ、心の端っこが麻痺していくのを見ないふりして生きてる
「…あ、この帽子、こないだ見たスタァの人が被ってた」
「う~ん、五線のノートって足りてたっけ?」
どうでもよかったり答えはとっくに知ってたり
空虚な心とメッキに覆われた願いの為伸ばしてきた髪が風に撫でられる
ふと見えたのは父娘らしき2人の姿
「お父さん…」
依頼を思い出した
あたしは奪われた側なのかな
それとも持たざる者なのかな



●花硝子に憂ふ
 早々と新しい季節の彩りに染められた窓を眺めて、楽しんでいた筈だった。代わる代わる過ぎゆく色に、心は確かに浮き立っていたのに。
「……お可哀想に」
 なぜだろう。冷えたガラスに指先をつけた瞬間、その言葉は不意を突くように、桜花の唇から零れ出た。
 そのつめたさが移る前に離した指先を、着物の合わせにそっと添わせる。少し遅かったか、それとも心がそうさせるのか、その感覚はしばらく桜花の指に宿ることを決めたようだ。不意に慣れ親しんだ空気が恋しくなって、そっと華やかな窓に背を向けた。
 この世界のパーラーで働くメイドである桜花にとって、喫茶店はただ在るだけで心和む空間だ。片隅に席をとり、ほっと息を吐く。
 黄色がかった明るい照明、心地好く流れる音楽。そこに在る紳士淑女に紡がれる、秘めやかで楽しそうな会話、供されるお洒落な食事。
 店を違えても、この空気、この空間をこそ愛している。そう言っても過言ではないのに、届けられたホットサンドも珈琲も、今は常ほど心を躍らせてはくれない。ぱくりと一口、広がった温かな味わいが、胸に吹く風をいっそう冷たく感じさせた。
(「……お可哀想に」)
 二度目は心に落とした。
 生まれつき裕福なことも、生まれつき貧しいことも、本人のせいであろう筈がない。爆発、という凄惨な事件の中で命を落とした、それが裕福ゆえに要らぬ嫉妬を買ったためかは、今となっては知りようもなかった。影朧もきっと知りはしないだろう。
 それでも、彼女は裕福だったから。それゆえに失うもの多き身を嘆き、持つこともなく、殺されることもなかった者を羨んだのだろうか――その執着が今、この街のどこかで現れているのかもしれない。
 それとも、命奪われる一瞬の中に、すべて奪われる自身をさもあらんと気高くも納得して――それでもついてはいかない生への執着が、この悲しみを生んだのかもしれない。
 今はまだ想像に過ぎないけれど、事件が過去の霧の中に消え去っても、娘の心だけはまだ、影朧と化した娘と共にある。
 珈琲の湯気を吐息が揺らした。その時が来るのを、桜花はただ、静かに待っている。

 煌びやかな街を行く人々の表情はどれも楽しげで、幸せそうに見えた。そのあたたかさに頬を緩めたリドリー・ジーン(不変の影・f22332)は、動かす視線の先に目的のものを捉えてあ、と小さく声を上げる。
 行き交う娘たちが口々に噂していたものだ。――桜コスメ。淡い花色を写し取ったような頬紅や爪紅、幻朧桜に限らずさまざまな桜の名のついた口紅。桜模様が遊ぶ可愛らしいパレットやケースが並ぶ店内で、とりわけリドリーの興味を惹いたものは――薄桜色のガラス瓶に封ぜられた香水だった。
 お試しください、と勧められるままにそっと霧を纏えば、花の香り。桜のほのかな甘さに酔わされて、うぅ、とまた一つ溜息が零れた。
「……駄目ね、買う物を決めてきたのに。お洋服もコスメも皆素敵で、目が奪われてしまうわ……」
 仕事を済ませたら、また足を向けてみよう。この場を少し離れれば冷静になれるかもしれない。
 後ろ髪を引かれながらも、小さな香水瓶ひとつを受け取って店を出た。向かうのは、窓から往来を望める喫茶店だ。
 目的の席に辿り着くと、限定の謳い文句から定番まで、さまざまなメニューがリドリーを誘惑する。ひとしきり迷って桜のチーズケーキと珈琲を注文し、窓の外を眺めた。
(「標的の少女がこの辺りに居るといいのだけれど」)
 街中で事件は起こらないとは聞きながら、万一があれば飛び出して駆けつけられるようにと心は急く。何があっても、ささやかな憧れに胸をときめかせる罪なき少女を守りたい。
 同時に、この街のどこかで怒りを燻らせているという影朧にも心は動いた。同情はする。理不尽に迎えた終わりが気の毒でないなどとはとても言えない。
「でも、人を傷つけてはいけないもの」
 傷つけられたから傷つけるのでは、何も終わりはしない。
 忍び寄る憂いの気配にひとつ息を零すと、袖口にふわり、あの桜の香が蘇った。馨しい香りを漂わせた珈琲とケーキも運ばれてくる。
 リドリーは微笑みを取り戻した。――悲しみを遠ざける為にも、今はこの時を楽しむのだ。

「……あ、この帽子」
 仕事では娘たちに人気を博している、凛とした男装も今日は解いて、雛瑠璃・優歌(スタァの原石・f24149)はショーウィンドウの前に佇んでいた。
「こないだスタアの人が被ってたな……」
 鮮やかな緑のフェルト地に滑らかなサテンのリボン、白百合の花。常人には合わせることすら難しいそれを、気高く美しく身に添わせていたのを思い出す。
 小さな溜息が零れた。常を装っている訳ではないけれど、今日の優歌は偽らざる姿、偽らざるこころ。表情も、誰かを意識して輝かせなどしない。
 家にいれば、父の不在を寂しがる母の背中がいやでも目に入ってしまう。その姿にあれこれと祖父たちが突き刺す言葉も、耳に入ってしまう。
 それが嫌で家に居つかず、代わりに優歌が居る場所といえば稽古場だ。才能の有無はさておいて、厳しい師らとともに励んでいれば、そんな現実も忘れることができるから。けれど、
「それは……逃げてる、のかな」
 いかに背を向けても届くものに、少しずつ心の端が麻痺していく感覚を、気づかぬふりでやり過ごして生きている。零した溜息に曇ったガラスで、ようやく文具店の前にいることに気がついた。
「あ、そうだ……う〜ん、五線のノートって足りてたっけ?」
 とりとめがない。どうでもいい。答えはとうに知っている。素の自分でいるはずが、浮かんでくる言葉ときたら、そんなことばかりだ。
 風が舞い上げた髪を押さえる。随分長くなったなあ、と思った。――空虚な心と頑ななメッキで覆われた願いのために、伸ばしてきたもの。
 これほど溢れる人の中、父と娘のふたり連れが目についた自分にぎくりとした。願いを何かに見透かされているようだ。
「……お父さん」
 思い出すのは影朧のこと。すべてを持ち、すべてを奪われたという少女にとって、
(「あたしは奪われた側なのかな。……それとも、持たざる者なのかな」)
 返る答えはまだ、賑わいの中には見当たらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

海藻場・猶予
わだくん(f24410)と
さて、久方振りのささやかな逢引
わたくしは美味しいハンバアグでも頂きましょう

しかし随分と刺激をお求めになる
わだくん、舌は男の子なのでしたっけ?
……いえ、抉じ開けてじろじろと見る心算は毛頭ございませんが
識らない故に失する礼もあるでしょうから

高貴なる者の責務でしたか
正直申し上げて、孤島《アサイラム》育ちには今一つぴんと来ませんね
並べて人語を解する哺乳類で、殺せば等しく死にます
ええ、無論殺しませんよ
約束でしょうに
そもそも我が家は金があるばかりで、どちらかと云えば下賤の職でした

無駄話なら得意です
会計は揃ってサアビスチケットで
さ、大して欲しくもないものを可愛いと呼びに行きましょう


無間・わだち
モバコ(f24413)と

買いたい、欲しい物がある訳でもない
喫茶店で食事して、暇を潰します

屍人でも味を感じられやすいから
辛みのあるドライカレーを注文
卵を勿体ぶることなく潰して混ぜて口に運ぶ

舌?
ああ、多分そうじゃないですかね
『あの子』は甘いものすきだったし
俺も嫌いではないですよ

街の雰囲気を楽しんでるのか
よくわからないモバコを対面に
富豪の娘を想う

怒りは、わかりますよ
どうしたって腹が立つんだ
ノブレスオブリージュなんて、本当は

喪ったものがいくつも脳裏を過ぎ去っては
諦めきれずに結局許し続ける自分がいる

ま、適度な自己満足ですよ
あんなものは

お喋りは苦手だ
これを食べたら買い物に出よう
ひとつ位は、買ってやりますよ



●暇潰しの逢瀬
 買いたいものや欲しいものが頭に浮かぶ訳でもなし――となれば、残るは暇潰しだろう。幸いにも、それを成す店には事欠かない街だ。
 土気色の肌、色とかたちの異なる瞳を、ことさらに隠す意図がある訳でもなく俯きがちに伏せて、無間・わだち(泥犂・f24410)は往来を行き交う人の噂になっている喫茶店へ足を踏み入れた。
「さて、久方振りのささやかな逢引。わたくしは美味しいハンバアグでも頂きましょう」
 海藻場・猶予(衒学恋愛脳のグラン・ギニョル・f24413)の楽しげな、芝居がかった微笑みを一瞥し、わだちは辛みを増してもらったドライカレーを黙々と口に運ぶ。味覚の鈍い舌にも辛みはぴりぴりと届きやすく、味気なさに目を伏せることなくいられるのが有難い。
 ぷくりと盛り上がった卵を惜しむことなくスプーンで潰し、混ぜて、片付けるように平らげていくさまを、猶予は自分の食事をつつく手を止めて興味深そうに眺めた。
「しかし随分と刺激をお求めになる。わだくん、舌は男の子なのでしたっけ?」
 その口を抉じ開けて、じろじろと見る心算などはなかったけれど。わだちを構成するふたつの体、そのどちらであったかがふと気になって零した問いに、
「舌? ああ、多分そうじゃないですかね」
 上げたふたいろの瞳に猶予を捉え、何でもないことのようにわだちは答えた。
「『あの子』は甘いものすきだったし、俺も嫌いではないですよ」
「そうですか。それを識れて良かった」
 片道ばかりの恋の相手に、識らぬ故に礼を失することはしたくない。にこにこしながら再びフォークを動かし始める猶予を、今度はわだちが不思議そうに眺める番だ。
 見れば時折、窓の外を行き交う人波に目を細めたりするものだから、街の雰囲気を楽しんでいるようにも見えはするのだが、彼女はよくわからない。
 止むことない人の流れにふと、今もこの街のどこかにいるはずの娘のことを思い出し、影朧の娘のことですが、と水を向けてみる。
「彼女の怒りは、わかりますよ。どうしたって腹が立つんだ」
 豊かさゆえに失ったという娘の主張は、わだちの身に近しい感覚だった。ノブレスオブリージュ、高貴なるものの責務なんて、本当は――言いかけて、スプーンを握り込む手の中にぎゅっと留めたものを、そっと解く。
 幾度でも通り過ぎていく喪ったものたち。そして、諦めきれぬままにそれを許し続ける自分がいる。
「正直申し上げて、孤島《アサイラム》育ちには今一つぴんと来ませんね」
 はっと顔を上げれば、猶予の仮面のような微笑みに出会った。表情豊かな掌を見つめられていたと知る。
「高貴なものも貧しいものも、並べて人語を解する哺乳類で、殺せば等しく死にます。そもそも我が家は金があるばかりで、どちらかといえば下賤の職でしたから――高貴なるものの懊悩には、些か遠いやもしれませんが」
 心あるものの微笑みで、紡ぐ言葉の内実は淡々としたものだ。無論殺しませんよ、約束でしょうに、と小さく笑う相手に、わだちは冷静を引き戻す。
「遠くて不自由はしないでしょう。ま、適度な自己満足ですよ。あんなものは」
 お喋りは苦手だと背けた横顔を、笑みを絶やさない顔がくすりと笑った。無駄話なら得意です、と胸を張って席を立つ。
「良い逢瀬になりましたね。サアビスチケットで会計を済ませたら、さ、大して欲しくもないものを可愛いと呼びに行きましょう」
「ああ、買い物に出よう。……ひとつ位は、買ってやりますよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

不知火・琥珀
従者の藍(f06808)と
呼び方は「らん」

らん、らん、とてもにぎやだな、ここは!
見たことのない物がいっぱいあるし
人もいっぱいいるぞ!

興奮しながらも藍の手は離さずに

…ふむ、ぷりんあらもーど…とは…?
らん、知ってるか?
こはくはこれが気になる。食べてみたいぞ、らん!

運ばれてきた見た事のない不思議な食べ物にびっくりおどおど
藍が毒見をする様子をどきどきしながら見守って

どうだ?うまいか?うまいんだな?
らんの顔を見ればわかるぞ!
こはくも食べる、食べる!

あーんと大きく口を開けて待機
口に運ばれた優しい甘さに思わずうっとり

これが、幸せの、味なのだな…。
らん、らんももっと食べろ!

らんにも幸せを味わってほしいからな。


不知火・藍
主である琥珀様(f06806)と

賑やかな街ですね
あまり離れてはいけませんよ、と
主としっかり手を繋ぎ

さ、何か欲しいものや食べたいものはありますか?
…ぷりん…
私も初見ですね

店に入り注文し出てきた品を見れば物珍しさに固まり

…まずは主のお口に合うか私が試食を
視線が心に痛いがこれは従者の務め

匙で震える黄色を掬い
…おお
蕩ける食感と甘味に思わず感嘆

主と目が合えば我に返り
期待の視線に少し笑って

とても美味しいですよ
さぁ、どうぞ
掬った匙を小さな口元へ

如何ですか?
蕩ける表情に更に笑み深め

…ふふ、琥珀様はお優しいですね
はい、と応えながら

―この方にはこれからもっと
沢山のものを知って、手に入れて
幸せになって欲しいと願う



●穏やかで幸福な
「らん、らん! とてもにぎやかだな、ここは!」
 見開いた大きな赤い瞳は、これまでにまみえたことがないほどの人を映して輝いていた。
「見たこともない物がいっぱいあるし、人もいっぱいいるぞ!」
 今すぐにも駆け出していきそうな不知火・琥珀(妖狐の戦巫女・f06806)の手を、優しくも確と握って、守護者たる不知火・藍(藍澄鏡・f06808)は穏やかに諫めた。
「ええ、賑やかな街ですね。あまり離れてはいけませんよ」
「だいじょうぶだ、はなさない! らん、あの絵はなんだ? ……ふむ、ぷりんあらもーど……とは……?」
 喫茶店の店先へずいずい引っ張っていく力の強さ。好奇心とはこれほどの力を生むものか、と苦笑しつつ、藍もその文字をたどたどしく辿る。
「……ぷりん……私も初見ですね。琥珀様、食べたいですか? 入ってみましょうか」
「うん、食べてみたいぞ、らん!」
 夕暮れも届く明るいテーブルに向かい合って席をとり、待つこと暫く。お待たせいたしました、とことり置かれた品を、ふたりは映し鏡のように身を乗り出して見つめた。
「これが……ぷりん?」
「……そのようです」
 焦がしたような飴色の何かがとろりとかかった、優しいたまご色の洋菓子だ。ガラスの器に触れただけで、頂に飾られたふわふわの白いものとさくらんぼまでがふるり、揺れる。周囲をぐるりと埋め尽くす果物も色とりどり。
「……まずは主のお口に合うか、私が試食を」
 真っ先に口にしたいだろう思いを堪え、どきどきと見守る主の眼差しが痛いけれど――これも従者の務めと、震える身を匙で掬い取った。
 ――ぱくり。
「どうだ? うまいか?」
「……おお」
「! うまいんだな? らんの顔を見ればわかるぞ! こはくも食べる、食べる!」
 椅子から立ち上がらんばかりの勢いで、雛鳥のように口を開ける小さな主。味わいに綻んだ藍の唇がさらに笑いほどけた。
「ええ、とても美味しいですよ。さぁ、どうぞ」
「……、……!」
 大きな瞳が蕩けるさまを前にして、目を細めずにはいられなかった。琥珀には、こんな笑顔が零れずにいられないような沢山のものごとを知って、手に入れて、幸せになってほしい。
「やさしい、甘さだ……これが、幸せの、味なのだな…。らん、らんももっと食べろ!」
 ――藍にも幸せを味わってほしいのだと笑う、優しい心の持ち主であればこそ。
「はい、琥珀様」
「こはくが食べさせてやろうか?」
 父子のような、兄弟のような。穏やかで幸福なひとときが、このまま続いていけばいい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

薬袋・桜夜
まどか/f18469と

この世界が知りたい
そう言ったまどかに慣れないなりに案内

此処はとろとろした美味なるおむらいすとやらがあってな
人がよく列を為しておるのだ!

あっちはな、確か…そうだ!じぇらーとだったかの…
冷たい甘味が評判だぞ!我はまだ食べた事ないがまどかは好きか?

うむ、飲食に偏ったな…
好ましいのであれば良いが…
何せ此処に居っても我にとっては未だどれも珍しい
まどかはどんな物に興味があるのか教えてくれるか?
嗜好が解れば少しは希望通りに案内出来るやもしれぬ

うむ、心当たりがある…
おぬしがこの世界に習った装いが見たくなった
呉服屋なら静かだ、勿論綺麗な物もあろう
ホォー…良いのか?好きに着飾ってしまうぞ?


旭・まどか
さよ/f24338と

話に聞くだけで良くは知らないんだ
踏み入れた事があるのも、あの社祠だけだから

案内してくれる?
お前の好きな所へ連れて行って


右へ左へ
軽やかに跳ねる足は弾む心地を表す様
声高に案内する声に眇め

オムライスに、ジェラート
聞き覚えのある名に
嗚呼、僕も好ましく思っているよと

恐らくハンバーグやカレーといった類の物も好きそうだ
――稚児が好む、其だから

てっきりお前は深く理解しているものだとばかり
裡に浮かぶ“経緯”にそれもそうかと得心し

綺麗な物は好きだよ
あとは、静かな場所も

何処か心当たりでも?

道征く学徒やこの街を住人を見留め
確かにこの場にそぐわないやもしれないね
構わないよ。お前が、誂えてくれるならば



●君に伝う世界
「話に聞くだけで、良くは知らないんだ。この世界で踏み入れたことがあるのも、あの社祠だけだから」
 だから知りたいのだと、旭・まどか(MementoMori・f18469)は言った。案内してくれる、と乞う口調に現れがちないつもの棘はなく、熱さえ籠もる。
「お前の好きな所へ連れて行って」
 この世界を故郷とする桜の精、薬袋・桜夜(花明かり・f24338)は、まだ幼い桜の枝をふるり揺らしてうむ、と笑った。慣れない案内ではあるけれど、好きなものなら沢山ある。
「今日も賑わっておるな! 此処はとろとろした美味なるおむらいすとやらがあってな、人がよく列を為しておるのだ! それからあっちはな、確か……」
 溌溂と、さも好もしげに教え歩く桜夜につられたものか。まどかの足取りも心なしか軽やかに、右へ左へと誘われるまま。
「ええと……そうだ! じぇらーとだったかの…
…冷たい甘味が評判だぞ! 我はまだ食べたことないが、まどかは好きか?」
「嗚呼、僕も好ましく思っているよ。……思うに、さよは恐らく……ハンバーグやカレーといった類のものも好きじゃないかな」
「む……! な、なぜ分かったのだ? まどかは心が読めるのか?」
 目を丸くする桜夜とは逆に、まどかは柔らかく瞳を眇める。――先刻通った洋食屋の看板にメニューを見かけ、いとけない子が好みそうだと思ったのだ。
「……うむ、それにしても飲食に偏ったな……」
「別に、僕は構わないけれど。さよの好きなものなら」
「好ましいのであれば良いが……何せ此処に居っても、我にとっては未だどれも珍しい」
「そういうもの? てっきりお前は深く理解しているものだとばかり……ああ、でも、それもそうか」
 身の内に朧げに残る過去の名残を辿り、拾い歩く少女の日々を思えば、得心がいった。桜夜は深刻がるでもなくこくりと頷いて、
「そうだな、まどかはどんな物に興味があるのか教えてくれるか? 嗜好が分かれば、少しは希望通りに案内できるかもしれぬ!」
 今のままでも構わないのにと目を細めながら、まどかは自分の内に答えを探してみる。
「綺麗な物は好きだよ。あとは、静かな場所も」
「……うむ、うむ! それなら心当たりがある……」
 呉服屋はどうだ、と桜夜の瞳が輝いた。賑わう往来から隔てられた静かな店内、並ぶは見目美しい衣装の数々。
「おぬしがこの世界に倣った装いが見たくなった!」
「ああ……確かに、今の装いはこの場にそぐわないかもしれないね」
 他の世界の装いが、この世界に違和感を与えることはないけれど――学徒や住人たち、すれ違う人々の姿を見るに、それに溶け込むのも悪くはないと思えた。
「構わないよ、往こうか。お前が、誂えてくれるのなら」
「! ホォー……良いのか? 好きに着飾ってしまうぞ?」
 わくわくそわそわ、桜夜の弾む足に急かされて、ふたりは店を目指す。――目眩く着せ替えのひとときが始まろうとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
ヨーコ君(f12822)と帝都の散歩!
この世界の花はいつ見てもキレイだねえ
街も華やかだし、みんな楽しそうで良いことさ

私、アレ食べたいんだ
前にキミが言ってたアレ、何だっけ…
そう、鯛焼き
タイが焼いてあるんだろう。違ったっけ?魚じゃないんだ!
甘いものはスキだよ。というか美味しいものはなんでもスキさ

ウロウロするのは私の特技のひとつ
知らない場所を歩くのは楽しいなあ!
進み過ぎたらきっとヨーコ君が引き戻してくれるよね

へえ~、ここが鯛焼き屋かあ
甘くていいにおいがする!あの焼き型、魚のかたちをしているよ!
せっかくだから、いろんな味を食べたいな
二匹と言わず、いろいろ買おうよ
私、気持ち的には何匹でも食べられそうだよ


花剣・耀子
エドガーくん(f21503)とお散歩に。
街中が殊更ふわふわしているように見えるのは、春が近いからかしら。
そうね、賑やかしいのは好ましいわ。

アレ?
……ああ、鯛焼きかしら。
食べ損ねていたし、探してみましょうか。
鯛だけれど、おさかなではないのよ。
甘いものはお好き?

土地勘はないけれど、探すのだって楽しい時間。
迷子にはなりすぎないようにしましょう。

香ばしい香りをさせている一角でそわそわ。
焼かれていく様子を見るのも好きよ。
鯛のかたちだから鯛焼きなの。
餡子。クリーム。桜餡。白玉入り。
んん、ここは矢張り餡子、……変わり種……、二匹買っても良い?
そう? それなら、食べたいだけ買いましょう。
甘いものは別腹だもの。



●食べ歩きの妙
「この世界の花はいつ見てもキレイだねえ!」
 言葉にも表情にも賛辞を惜しまず、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は降る桜を見上げていた。
 何処かの劇場のスタアかしら、とすれ違う人が振り返る気高き美貌も、自覚はあるが今はお構いせずに。そんな人々へ向けられる眼差しは、慈愛と博愛に満ちている。
「街も華やかだし、皆楽しそうで良いことさ」
「そうね、賑やかしいのは好ましいわ」
 同じように辺りを映した花剣・耀子(Tempest・f12822)の瞳に浮かぶ感情は、青年のそれより僅かに凪いでいる。けれど、内心は随分と楽しんでいるのだ。街中が殊更にふわふわしているように見えるのは、春が近いからかしら――などと、人の有りように目を細めたりしながら。
「ところで、ヨーコ君! 私、アレ食べたいんだ。前にキミが言ってたアレ、何だっけ……」
 ――『アレ』?
 記憶を手繰ること暫し、この場で見つかりそうなものの中に心当たりは――、
「……ああ、鯛焼きかしら」
「そう、鯛焼き!」
 にっこり、嬉しそうな笑みが返る。
「タイが焼いてあるんだろう。違ったっけ?」
「鯛だけれど、おさかなではないのよ。甘いものはお好き?」
「魚じゃないんだ! うん、甘いものはスキだよ。というか美味しいものはなんでもスキさ」
「そう、それなら……そうね、実物を見た方が早いかしら。食べ損ねていたし、探してみましょうか」
「うん!」
 エドガーはまるで大きな子犬のようだ。楽しげにぐいぐい往来を進んでいくのを、迷子にならないようにね、と笑み含む溜息で引き止めながら、耀子の足もいつもより弾んでいる。
「ふふ、知らない場所を歩くのは楽しいなあ!」
「そうね。こんなお散歩もいいものだわ」
 土地勘のない場所を、足の向くまま気の向くままに探し歩くひととき。今日は二人連れだから、ことさらに楽しい。
「! ヨーコ君、もしかしてあれかい? 甘くていい匂いがする!」
「ああ、そうね、良かった。あったわ」
 通りの角、香ばしい香りをほんのり漂わせた一角に、焼きたてを求めるまばらな人だかり。早速いそいそその列に加わると、エドガーが歓声を上げた。
「あの焼き型、魚のかたちをしているよ!」
「鯛のかたちだから鯛焼きなの。……ほら、焼けてきた。焼かれていく様子を見るのも好きよ」
「面白いねえ、半身ずつ焼いて合わせるんだね!」
 列が進めば、そわそわも最高潮。手書きのメニューを前に、耀子はこの上なく真剣な面持ちだ。餡子は粒餡とこし餡の二種、クリーム、桜餡、抹茶餡、白玉入り……、
「眉間に皺が寄っているよ、ヨーコ君」
「んん、ここは矢張り餡子、……変わり種……、エドガーくん、二匹買っても良い?」
 不思議そうにしていた青年が、ぱっと眩しい笑みを浮かべる。
「二匹と言わず、いろいろ買おうよ。せっかくだから、私もいろんな味を食べたいな」
 気持ち的には何匹でも食べられそうだと意気軒昂。そう? とくすり笑って、耀子も心を定める。甘いものは別腹だもの。
「それなら、食べたいだけ買いましょう」
「うん! 全種類、二匹ずつください!」
 ――大きな紙袋が、少しかじかんだふたりの両手をほっこりと温めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

イア・エエングラ
シュエリエ/f18954と

こんなにたくさん人のいる街で
お買い物したこと、あるかしら
迷子になってしまわぬように
僕と手を繋いでいてくださる?
手差し出して握ったならば
ふたつ熱が馴染むまでゆうらり人波泳ぎましょ

目に映るものは楽し気で
並び指差し示しては
この子は、ほら、螺子まいたら動き出すの
耀くあなたの眸にもっと映してあげたくて
密かにゆきかい咲うなら

――あのね
シュエリエ、僕ねえ、硝子のペンが欲しいの
あなたの眸のように淡い雨上がりの空の色
やあ、そう、僕の色も添えてくれるなら
綴る度に、きっと、ずっと
ずっと憶えて、いられるよう

満ちる温度に、けれどまだ足りなくて
も一度繋ぎなおしたら
次はあなたを、追い掛けて


シュエリエ・カノ
イア(f01543)と

人の多さにくるりくうるり視線を動かし
こんなにも人に囲まれるのは記憶がない
差し出された手を握って安堵する
離さなければ波にさらわれないな
もしさらわれても2人でさらわれよう

見たこともないものばかりが溢れていて
……目が眩む
イア、これはなんだ?
訊ねては記憶するが
こんなにたくさんあるから覚えきれないな
あぁでももっと教えてくれないか
楽しい時間がもっともっと続くよう

イアの提案にじわり胸が温かく
そうだな、揃いを買おう
硝子が私の色ならば
インクはイアの色に
深い海の色が紙を染めるなら
今この時
手を繋いだ温かさを思い出せるから

揃いの包みを抱いて
今度は私がイアを引き
次はあちらへ
まだまだ泳ぎ足りないから



●硝子が走り、色染む度に
「おや。目をまわしてしまった、かしら」
 くるりくうるり、人の多さに動くまなざし。シュエリエ・カノ(空鯨ノ唄・f18954)の様子にくすり笑って、この人の波だものな、とイア・エエングラ(フラクチュア・f01543)は微笑んだ。
「こんなにたくさん人のいる街で、お買い物したこと、あるかしら」
「私は、ない。こんなにも人に囲まれるのは、記憶がない」
 表現する術を持たなかったけれど、本当は少し不安だったのかもしれない。それが色に表れる前に、イアの手がシュエリエのそれを掬い取った。
「迷子になってしまわぬように、僕と手を繋いでいてくださる?」
「うん、離さなければ波にさらわれないな」
 ――もしも攫われるなら、二人一緒に。握り返す手に心重ねて、人の波間に泳ぎ出す。
 掌の熱が馴染む頃には、ガラスの向こうに楽しげな玩具たちを見出していた。さも面白そうに輝く瞳に映るのは、背に螺子のリボンを飾り、ぎこちなく傾いだ小さな動物、小さなひと。
「イア、これはなんだ?」
「この子は、ほら、螺子まいたら動き出すの。一寸、見せてもらおうかしら」
 店主へ声掛け、店の中へ。雑踏の音が僅かに遠のいて、隔離されたちいさな世界を肩を並べて見下ろした。
 きりりと鳴いて巻かれた螺子が、戻り出す。かたかたと行進するひとつなぎの猫の一家、手を取り交わして踊る男女のオルゴール。ゆらゆらと体を揺らす少女人形。
「こんなにたくさんあるから、覚えきれないな。あぁでも――もっと教えてくれないか」
 こんな時間が続いて欲しいと密やかに咲き笑う瞳の燦めきを、もっとここへ呼びたくて――彼女の記憶に咲くものを増やしたくて。いざなう指先に次々と動き出す玩具たちもシュエリエもひと息つけば、今度はイアの強請る番。
「あのね――シュエリエ、僕ねえ、硝子のペンが欲しいの」
 淡い雨上がりの空の色、まるであなたの眸のような。
 囁き打ち明ける声に、開けた扉の向こう、往来を駆け抜ける風も染まるほど胸は温んで、そうだな、と応えるシュエリエの声も少し笑った。
「揃いを買おう。硝子が私の色ならば、インクはイアの色に」
 それは人ではなく水を湛えた、深い深い海のいろ。それが紙を染めるなら、
「やあ、そう、綴る度に、きっと、ずっと。ずっと憶えて、いられるよ」
 ひとつに馴染んだ掌の熱も、この胸の温もりもきっと。
 だからいこう、と手を引き合って、舶来の筆記具をも扱うというその店を目指し、泳ぎ出す。
 ――そうしてふたつ、揃いの包みが空いた手を埋めたなら。いや、埋めてもまだ、道行きは終わらない。終わらせたくない。
 あたたかく満ちる温度も、人波泳ぐみちゆきも、欲張りなふたりにはまだ足りていないから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
オズ(f01136)と

陽に色濃くする花弁を掬うように手伸ばして
はしゃぐオズの姿に眦を緩めた

目についたのは帽子屋
名呼び引き留め
ちょっとみていー?

前はふわふわ帽子被ったよな
実は帽子って殆ど持ってなくて

オズはよく被ってるでしょ
いつも似合ってるし俺のも選んでよ

渡されるまま被ってみる
途中オズに似合うそうなものを見つけたら
いつも被る帽子の上にひょいと乗せる悪戯
ふ、帽子が帽子被ってる

そ?じゃあこれにしようかな
――じゃあオズは色違いの、どー?
なんか白はあんまりみたことねーって思って
それ、かっこいーよ

オズはどっかみたい店あった?
ふ、慌てんでも服は逃げねぇって
店に入ったなら彼女に似合いの愛らしい服を一緒に探そう


オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と

わあ、おみせがいっぱいっ
わくわくショーウィンドウを覗き込み
呼ばれたらぱっと戻る
なにかみつけたっ?

わたしがえらんでいいのっ?
目を輝かせて
被ってみて欲しくて揃いのハットやカンカン帽を渡して
これとかこれとか
うんうん、と満足気に頷く
おそろいっ
楽しくて次から次へと帽子を手渡し

被せられたら
わっ
帽子の上の帽子が落ちないように顔を斜めに
にあう?

あっ、これは?
臙脂色の中折れハット
うんうん、とってもにあってるっ

おそろい?
するっ
かっこういい?
うれしくて笑って

わたし?
巡らせた先にある人形の服
あっ、シュネーの服あるかな?
アヤカ、いっしょにみてみてっ
ぴったりの服あるかなあと笑ってアヤカの手を引いて



●きみと分かつ彩
 霊妙な熱の色に、雪も桜も色濃く染まるひととき。
 ひらひらと不規則に訪れ来るそれへ手を伸ばし、そっと掴んだら、その向こうには気心知れた友のはしゃいだ笑顔。
「わあ、おみせがいっぱいっ」
 浮世・綾華(千日紅・f01194)はそれだけで満足そうに眦を緩めた。
 けれど、一目巡らせたなら百、千が飛び込もうかという賑わいの街だから。呼び止めればなあに、と、たちまち飛んでくるオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)の姿に小さく笑う。
「なにかみつけたっ?」
「ちょっとみていー? ココ」
「うんっ、もちろんっ。わあっ、ぼうしやさんだっ」
 迎える春の色は前面に、奥には続く季節の装いも。そしてもちろん、まだ居残っている冬の彩りも並んでいて、綾華は雪の国でふたり被ったふわふわの帽子を思い出す。――あれは悪くなかったけれど、
「実は帽子って殆ど持ってなくて。オズはよく被ってるでしょ。俺のも選んでよ」
 いつも似合ってるし、と託してみれば、きらきら輝く青い瞳は春の湖面のよう。
「わたしがえらんでいいのっ? じゃあ、じゃあねっ、まずはこれっ」
 それからあれとか、これとか――そわそわ、わくわく、目につくどれも試して貰いたい。
「ちょっとまって、ははっ、これは流石に」
「ふふっ、お花いっぱいっ。にあってるよ、アヤカっ」
「ふ、どこで被んの、これ。よし、オズにも被せてやろ」
 舞台衣装めく派手な帽子を押しつけ合って、ふざけて笑って。ハットにカンカン帽、ハンチング、次から次へとお揃い被って鏡に並べば、ささやかなファッションショーだ。
「あ、これオズに似合いそ。どー?」
「わ、ととっ。にあう?」
「ふ、帽子が帽子被ってる」
 重ねた帽子が落ちないように、神妙に頭を傾けるさまもおかしくて――笑みが止まる暇なんてない。
「……あっ、これは?」
 不意に高くなる声はお気に入りのしるし。持つ名の通り、常から華やかな赤がよく映える綾華に、臙脂色の中折れハットは誂えたようにぴったりで、
「うんうん、とってもにあってるっ」
「そ? じゃあこれにしようかな。オズは色違いの、どー? それ、かっこいーよ」
 いつもの帽子にはいたずらめいた一礼でご移動願い、代わりにオズの頭に乗せたのは、自分の頭上のそれと同じもの。白い帽子は、あまり見たことがないように思えたのだ。
「おそろい? するっ!」
 男前を上げて店を出れば、
「オズはどっか見たい店――」
「みて、アヤカっ、『ドオル』ってかいてある! シュネーの服、あるかな?」
 手を引いて指さした店は、それ自体が人形の家めいたつくり。どうやら人形専門店のようだ。
「はやくはやくっ、いっしょにみてみてっ」
「ふ、慌てんでも服は逃げねぇって」
 それでも、綾華は共に足を急がせる。残るひとときは、オズを見守る愛らしいシュネーのエスコートに。
 ふたりで分けた新しい彩りを、彼女にもお裾分けしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フェレス・エルラーブンダ
るい(f13398)と
おかねはいいものとこうかんできる
ふゆのひにすこしおぼえた

服飾店の粉っぽいにおいにむずかり乍ら
るいの背に隠れがちに店内を見回し

服を纏う意味
寒さから身を守るため
性差を感じさせないため

どれもいまは相応しくない気がして
口籠り、俯きかけてしまったけれど
しめされたいろ
萌ゆるみどりにぽかんと口開けて
店員に着付けてもらうその間
引っ掻かないようにいっぱいがまんした

へんじゃ、ないか?

空気を含んで翻る袴が落ち着かない
なのに妙に浮き立って
くるりと回って靴音鳴らし
はねてばかりの猫毛も、しんぞうと一緒に踊っているみたい
ふと、るいの微笑みを遮るように鳴った腹の虫に眉寄せて

さんどいち
具がたくさんのがいい


冴島・類
※フェレスちゃん(f00338)と

お金の使い方や洋服の選び方
知りたいと踏み出した君に
なら実際学びを兼ねてお買いものに行こう

纏う意味に正解なんてないさ
身を守る防具でもあるし
季節に合わせて心地よく過ごすため、も

難しく考えないで良いんだよ?と手招き

どうせ纏うなら
好きな色や気に入るのを選んでも楽しいかも
四葉の色が好きと聞いて
ブーツに合わせ動きやすい…と
空色と若葉色のモダン柄の着物に
下は濃い色の袴を選んで

動き辛くないかな
変なわけないさ
若葉みたいに伸びゆく君に良く似合ってるよ

仕草に和み
孫に色々買う人の気持ちって
こんなのだろうか…

腹の虫、につい噴き出す
時計が鳴ったみたいだね
さ、おーぷんさんどを食べに行こうか



●芽生え
 お金の使い方、服の選び方――『未知』を『知』へ変える思いへと踏み出した君へ、
「なら、実際学びを兼ねて、お買いものに行こう」
 温かく綻んだ冴島・類(公孫樹・f13398)の誘いに意を決し、フェレス・エルラーブンダ(夜目・f00338)は緊張の面持ちでこくりと頷いた。
 雪に湿った往来の空気が、急に乾く。手招かれた服屋の中は、粉っぽい匂いがした。にこやかな『いらっしゃいませ』を受け止める毎に類の背中に縮こまりながら、フェレスはきょろきょろと、並ぶ色かたちの氾濫に目を丸くした。
 こんなにもたくさん――それは、寒さから身を守るため? それとも性差を隠すため? どちらでもない、ような気がする。
「身を守る防具でもあるし、季節に合わせて心地よく過ごすため、も。難しく考えなくて良いんだよ? ほら、いらっしゃい」
 手招く掌を信じているから、影の中からそろり、出てみることにした。
「フェレスちゃんは四葉の色が好きだったかな。どうせ纏うなら、好きな色や気に入るのを頼んでも楽しいかも」
 生き抜くためでも実用のためでもなく、『好き』を理由に。生きることを礎に生を歩んできたフェレスには、それは未知なる感覚だ。
 動きやすそうだ、とブーツに合わせて類が選んでくれたのは、空色の地にモダンな若緑の木の葉模様を取り合わせた軽やかな着物、そしてしっとりと濃い紺色の袴。ぽかん、と口開ける間に呼ばれた店子は、にこやかに手際よくその装いをフェレスに着付けていく。
 なにしろ、人の手に着せ替えられる経験などなかったのだ。かちりとしゃちほこばった少女が、引っ掻いて逃れたいのを必死に我慢している――などと、店子は思いもしなかったろう。
「へんじゃ、ないか?」
 いつもより空気を含んで揺れる袖裾を、落ち着きなくそわそわ揺らす。
「変なわけないさ。若葉みたいに伸びゆく君に、良く似合ってるよ」
 店子のお仕着せの笑顔よりなによりも、信頼する類の笑顔が一番頼もしい。そうか、と高鳴る胸を少し張り、くるりと回ればブーツの靴音に目を見張り、裾も猫っ毛も躍らせて――ああ、ほんとうだ、とフェレスは思う。
(「おかねはいいものとこうかんできる。……ふゆのひにすこし、おぼえたとおりだった」)
 袴の裾を追い掛けるようにくるくる回るフェレスに、類はつい顔を綻ばせた。
(「ああ、孫にいろいろ買う人の気持ちって、こんなのだろうか……」)
 それもまた未知を知る心地。折角だからそのまま出ようか、とわらう声を、
 ――……くるるるる。
 小さなお腹の中の虫が遮って、類は思わず噴き出した。憤慨の眼差しを自分のお腹へ向けている虫の主様へ、手を差し伸べた。
「時計が鳴ったみたいだね。さ、おーぷんさんどを食べに行こうか」
「さんどいち。具がたくさんのがいい」
 ――ふたつ並んだ靴音が、軽やかに往来に溶けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アストリーゼ・レギンレイヴ
【リグレット(f02690)と】

特徴的……あら、そういうものなの?
以前こういうお店に来た時に妹が楽しそうだったから
ひとつふたつ選んでみようかと思ったのだけれど
……そう仰って戴けると嬉しいわ
それでは、今日はどうぞよしなに

貴女、そういう仕草が堂に入っているわよね
ええと、この、袴というのにブーツを
……本当、これなら歩きやすいわね
実は先日は、草履? というものを履いてみたら躓いて、

……忘れて頂戴

もう、いいから、貴女も何か合わせてもらったら?
付き合って戴くばかりでは申し訳ないもの

……それにしても、
春の色というのはいまいち、慣れないわね
どうにも、フワフワしてしまうというか
これ、本当に似合っているかしら?


リグレット・フェロウズ
アストリーゼ(f00658)と

着飾る練習に付き合うようなことは、言ったけれど
この世界の装いは少し特徴的というか、あまり応用が……まあ。何事も経験かしらね

服飾店で、季節らしく春物を
ぱん、と手を叩いて店員を呼べば、「彼女に合う物を2、3、見繕って貰える?」
……これは真似する必要はないかもね

へぇ、いいわね。動きやすそうで、よく合っている
……まあ、分かるわよ。履き物が変われば踏み込みも……いえ、物騒な話はやめましょう

あら、私も? そうね、それじゃあ――

……どうにも、この暖かい色は、私のような女には合っていないように思うのだけど
あら、貴女はいいでしょう? このケープなんて、良いアクセントになっていてよ



●淑女の嗜み、帝都編
「確かに、着飾る練習に付き合うようなことは、言ったけれど」
 まさかサクラミラージュとは思っていなかった。リグレット・フェロウズ(幕開けざる悪役令嬢・f02690)の小さな吐息に、アストリーゼ・レギンレイヴ(闇よりなお黒き夜・f00658)は不思議そうに首を傾げる。
「以前こういうお店に来た時に妹が楽しそうだったから、ひとつふたつ選んでみようかと思ったのだけれど……拙かったかしら」
「拙くはないわ。ただ、この世界の装いは少し特徴的というか、あまり応用が……」
 着こなしの難易度というものを考えるに、初心者向けではないだろう。そうなの、と首を傾げる友をいいわと宥め、それならそれと覚悟を決める。
「……まあ。何事も経験かしらね」
「そう仰って戴けると嬉しいわ。それでは、今日はどうぞよしなに」
 淑やかな一礼を止してと遮り、ぱん、と手を叩く。店子の反応は早く、如何致しましょう、と微笑む顔に、
「彼女に合うものを二、三、見繕って貰える? ……ああごめんなさいアストリーゼ、それは真似しなくてもいいわ」
 素直に手を叩こうとするアストリーゼを制止すれば、
「そう? 貴女、そういう仕草が堂に入っているわよね」
 これもまた素直な賞賛が、悪役令嬢たるリグレットにはそこはかとなくこそばゆい。
 さておいて――薄青く冴えた灰色に華やかな桜が咲き誇る一枚、煙るように落ち着いた真紅に手鞠の躍る一枚。勧められるまま着換える友に、感嘆は自然と口をついて出た。
「へぇ、いいわね。動きやすそうで、よく合っている」
「ありがとう。……本当、これなら歩きやすいわね」
 袴には洋靴も素敵ですよとブーツを見立てて貰ったアストリーゼは、足許の慣れた感覚にほっと胸を撫で下ろす。
「実は先日は、草履? というものを履いてみたら躓いて――あっ」
 ――つん。
 今日は草履ではなかったのだが。店子の支えで事無きを得た娘の大きな瞳が、ぎこちなく逸れる。
「……忘れて頂戴」
「……まあ、分かるわよ。履き物が変われば踏み込みも……」
 この御嬢様方は日頃どんな振る舞いを――と店子の眼差しが温くなる前に。リグレットはつい零れそうになる物騒な話を自制した。
「それよりも、貴女も何か合わせてもらったら? 付き合って戴くばかりでは申し訳ないもの」
「あら、私も? そうね、それじゃあ――」
 人気だという矢絣模様は敢えて矢羽根に二色を配した変わり種を。七宝と思い手に取れば、花や蝶に転じるこれも珍しい意匠。取り合わせた色の春めかしさに、娘たちは息を零した。
「……それにしても、春の色というのはいまいち、慣れないわね。フワフワしてしまうというか」
「分かる気もするわ。どうにも、この暖かい色は、私のような女には合っていないように思うのだけど」
 戦いへの向き合い方を示すような、強い色を纏いがちな二人だ。けれど、
「着慣れない色はお互い様だけど――でも、素敵よ、リグレット。……ねえ、これ、本当に似合っているかしら」
「あら、貴女はいいでしょう? このケープなんて、良いアクセントになっていてよ」
 ――今日ばかりは人並みに、春に染まる娘の顔で。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『夢散り・夢見草の娘』

POW   :    私達ハ幸せモ夢モ破れサッタ…!
【レベル×1の失意や無念の中、死した娘】の霊を召喚する。これは【己の運命を嘆き悲しむ叫び声】や【生前の覚えた呪詛属性の踊りや歌や特技等】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    私ハ憐れナンカジャナイ…!
【自身への哀れみ】を向けた対象に、【変色し散り尽くした呪詛を纏った桜の花びら】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    ミテ…私ノ踊りヲ…ミテ…!
【黒く尖った呪詛の足で繰り出す踊り】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●花舞う帝都――裏
 ――愛らしいと眇める誰かの眼差しに逢うどころか、強引に人を掻き分け駆け抜ける振る舞いに眉顰められることすらない。
 影朧と化した娘は、そういう存在になり果てていた。
 生きた頃のままではなくとも実体はあり、声もある。それでも人波を穿っていく娘の存在は、賑わいに酔う人々には不意に荒れ吹く風のようなもの。
 そしてそれは、妄念に駆られるままに人の命を奪い続ける娘にとって、都合が良いことでもあった。――本人がそうと認識していた訳ではなかったけれど。

「如何して」
 駆ける娘の微笑みが、狂おしさを増していく。
「ああ、わたくしは如何してしまったの? 何故、今日はこんなにも」
 気にかかる。癇に障る。駆ける足を止めてしまう。人波を彩り華やぐ声が。
 与えられて、手に入れて――奪われることのないこれからを生きられるものたちの、幸福の声が。

 きり、と娘は唇を噛んだ。先回りをする筈だったというのに、この調子では、あの持たざる少女は疾うに雑踏を抜けてしまっただろう。
 血の滲んだ唇を緩め笑った。先回りが後追いになっただけのこと。風のようなこの体で、無力なただびとに追いつけない筈もない。
 ――それなのに。

●散る夢を桜は踊る
 逢魔が時の虚ろな空ばかりが広がる、古き劇場の名残さえない空き地。
 障るものを振り切り辿り着いたその場所で、娘が燃える瞳に捉えたのは、みすぼらしい少女ではなく――猟兵たちだった。

「――どなた」
 微笑みは辛うじて崩れない。けれど、待ち受けていた猟兵たちへの誰何の眼差しは、静かな怒りを纏っていた。
「ああ、そう云うこと――あの街でわたくしの心を乱していたのは、あなたがたね」
 追いついたのではなく、待ち構えられていたのだと。知ってなお、娘は微笑を絶やさない。
 燻っていた桜の炎が、火の粉を散らし袴の裾に燃え上がる。揺らぎ、舞い降りる花片のひとひらひとひらが、夢から醒めるように人の形に変化した。
「こちらへ、気高く儚い夢見草たち。ねえ、この方たちに教えて差し上げて。わたくしたちが奪われたものを」
 ――そして知らしめたならば、同じだけ奪って然様ならを。
 凛と虚ろを打った影朧の言葉に呼応し、夢見草の娘たちはぞろりと殺気を纏う。
 声が湧き上がった。

「幸せモ夢モ破れ去ッタ」
「舞台ニ立てル筈だッタノニ、アノ子ガ」
「嗚呼アノひとガ私ヲ捨てナケレバ」
「憐れムノ、憐れンデ、イイエ憐れマナイデ」
「幸せダッタノ。私、幸せダッタノニ」
「変わラナイ明日ガ来ル筈ダッタノニ」
「奪わレタ奪わレタ奪わレタ」
「ミテ……私ノ踊りヲ……ミテ……!」
「如何シテ私ダケ……貴方カラモ奪っテアゲル――!」

 かつて華やかな世界を望んだ桜の精たちは、時に虚ろに、時に情熱的に舞い踊る。
 奪われた世界を持つものたちを羨んで、嫉んで、呪って――生の舞台にはもう立てぬ、針の如き脚を踊らせて。
フリル・インレアン
ふぇ、この方たちも奪われた方達なんですね。
この重く苦しい桜の花びらはあの方達の無念なんですね。
こんなときはガジェットショータイムです。
あの方達に最も有効なものはアレしかありません。
ということは、このガジェットさんはあの方達に向けて上空から浴びせる必要があります。
アヒルさん、このガジェットさんを持ってあの方達の上を飛んでください。
そうすれば、あの方達が望むものが完成するはずです。
あのガジェットさんはスポットライトで散った桜が舞い上がる舞台になるはずなんです。



●スポットライトをもう一度
「ふぇ……あの紅色の影朧さんだけじゃないんですか?」
 がらんとした劇場跡地に、溢れ返る思念。夢見草の娘たちが降らせる枯れ桜の刃の雨は、踊る娘たちの足取りに同じく軽やかなのに――なぜだか胸が詰まる心地がした。
 フリルはきゅっと唇を引き結び、大きな瞳を雫に揺らす。
「この方たちも、奪われた方たちなんですね。この重く苦しい桜の花びらは、あの方たちの無念なんですね……」
 終わらせることでしか、彼女たちの口惜しさには応えられない。それなら、と溢れ出しそうになるものをぎゅっと堪え、ひたむきに考える。
(「あの方たちに最も有効なもの。あの方たちが求めていたものは……そうです、アレしかありません」)
 両手を空に掲げ、召喚するのは不思議な形をしたガジェット。さかさまにしたコップのような、俯いた花のつぼみのような――それは首を傾げたくなるような形をしていたけれど、フリルにはその生かし方がちゃんと分かった。
「アヒルさん、このガジェットさんを持ってあの方たちの上を飛んでくださいっ」
「グワ!?」
 自分の体ほどもあるそれを、アヒルさんガジェットは機械の翼を精一杯羽搏かせ、夕暮れの空へ連れていく。丁度いい高さへ至ったそのとき、フリルはぱちん、と掌を打った。
「……はいっ、これがあなた方が望むものです!」
「クワー!
 ぱっ――ガジェットから放たれた白い光が、空き地に舞い踊る夢見草の娘たちを、共に踊る桜の花びらを照らす。
 ――それはまるで、かつて彼女たちが立った世界を映すスポットライト。絢爛なる花に溢れ、賞賛と拍手に溢れ、微笑んだのだろういつかの再現。
「わかってます、これだけじゃ足りないことは」
 その光を浴びてなお、怪異となり果てた夢見草の娘たちが正気に戻ることはない。人を傷つけ続ける花弁の刃を止める手段は、彼女たちを倒すこと、ただそれだけだ。けれど、
「あっ、あの方たち、なんだか……笑っているみたいです」
 そう見えたのは気の所為だったかもしれない。そう思いたかっただけかもしれない。
 それでも、狂い咲く魂に終わりが齎される前に、もう少しだけ。
 彼女たちを光の下で踊らせてあげたいと、フリルはそう願ったのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

夷洞・みさき
PC:
海に沈むか波打ち際に残れたか、きっと些細な差なんだろうね。
僕等は残ってしまった。なら、此方の者として、咎を為す君達を見逃すわけにはいかないんだよ。
この世で咎を犯して良いのは、この世の人だけなのだから。

【WIZ】
踊りからの攻撃は敢て受けとめる。【激痛耐性】【呪詛耐性】、
呪詛返しの八寸釘を足に打ち込み、敵の呪詛を抑制。
呪詛を封じ、ただの踊りに落とし込み、踊り終えたら介錯する。
同胞達も同様。

メタ:
平和な日常(咎人殺しとして)への郷愁を抱き、多少同情的。
とはいえ、咎人殺しとしての生き方は変わらないので咎の防疫に勤しむ。


折角、黄泉返ったんだ、今は心行くまで踊ると良いよ。
そして身軽に海に還ろうか。


フィーア・ストリッツ
光に惹かれ、光に焼かれて墜落死
かつては一時でも、華やかなりし夢と言う名の舞台で踊り果てた者達ですか

「光り輝く舞台の上で舞うなら、アナタ達の方が上でしょうね。ですが、この薄汚い闇の中で――戦場で舞うなら、フィーアについて来れると思わないことです」
私のUCも死ぬまで踊り果てる技
ただし、『敵が』死ぬまでですが
さあ、死の裁断機から逃れられますか?

一人ひとりの人生を丹念に追えば、哀れに思えるのでしょう
感情移入の一つも出来るかもしれません
「ですが、生者のフィーアは飽くまで生者の側にしか立てませんので。同情からお仲間になってあげるのは無理です」
――例え、多少思う所があったとしても



●生の舞台を踏めるのは
「光に惹かれ、光に焼かれて墜落死……ですか」
 かつては華やかな夢の舞台の花であったのだろう。けれど栄光は、彼女たちの身に長くは輝かなかった。
 銀の髪を揺らして胸に過る違和感を振り払い、フィーアは倒すべき一体を視界に捕捉する。夢見草の娘が招くくすんだ花の刃が届く前に、『11』の文字が刻まれた黒き槍斧が風を切る。
「光り輝く舞台の上で舞うなら、アナタ達の方が上でしょうね。ですが、この薄汚い闇の中で――戦場で舞うなら、フィーアについて来れると思わないことです」
 振り回す武器の重みに速度を借り、その身を旋回する刃と化す。触れるものすべてを切り裂く円舞は、『標的が』死ぬまで止まりはしない。迎え撃つ花弁がいかに体を切り刻もうとも、止める気もない。
「さあ、死の裁断機から逃れられますか?」
 苛烈な言葉を投げかけるフィーアをまた、花弁とともに何かが掠めていった。枯れかけの彩りが胸に呼ぶ思いを、何と呼ぶべきかは知らない。
(「……一人ひとりの人生を丹念に追えば、哀れに思えるのでしょう。感情移入の一つも出来るかもしれません」)
 たとえば目の前で憐れまないでと叫ぶ娘は、どんな命を生きたのだろう。華々しい光の下から転がり落ちて、唇を噛み、這いずりながら、それでもまた光を追う、生き永らえる――それさえ叶わないほどの終わりだったのだろうか。
 けれど、それは詮無いことなのだ。槍斧を握り直し、フィーアは思いを断ち斬るようにそれを踊らせる。斬撃の嵐に切り刻まれ、娘が叫ぶ。
「私、私ハ、憐れナンカジャ……ナイ……!」
「ええ、心の底から哀れんで差し上げたりはしませんよ。生者のフィーアは飽くまで生者の側にしか立てませんので」
 敵意ある花弁に切り刻まれながら手を伸べて、可哀想にと手を取ってやれるほど、お人好しではない。
 だからせめて、この胸に疼くものの分くらいは。
「この舞を餞にしましょう。もう暫くは付き合ってあげますから――お覚悟を」
 歪み果てた魂と共に、フィーアは踊る。乾いた花吹雪を砕きゆく槍斧が、戦場という舞台の幕を切り裂き止めるまで。
 その円舞の華やかさに中てられたのだろうか。
「……私ノ踊りヲ……ミテ」
 針か刃か。美しい弧を描いたひとりの娘の黒い脚が、呪詛に染まった風を解き放った。荒涼とした劇場跡地を駆け抜けたそれがみさきを斬り裂き、夢見草の娘はすかさず直接の一閃を連ねに来る。
 決して浅からぬ連撃を、みさきは避けなかった。無惨に剥がされた鱗の下に血が滲んでも、冷ややかな肌を呪詛が焼いても、全身で叫び出すかのような娘の攻撃を受け止める。
 だからといって、ただやられるままになっている訳ではない。呪詛返しの八寸釘――呪い返しの逸話を持つ呪具を次々と脚に打ち込んでは、夢見草の娘の中に燻る昏い熱を吸い取っていく。傷ついてなお踊り続ける脚を染める迷妄の黒が、僅かに淡く揺らいだ気がした。
「うん――そう。僕等が全て引き受けてあげるから、君は好きなだけ踊っておいで」
 動き続ける娘の脚は、次々に打ち込まれる釘に少しずつ攻撃性を削がれていく。それでも止まない斬撃に傷を増やしながら、みさきは微笑んでいた。
 運命の波に揉まれ遊ばれて、過去の海に沈んだか、それとも現の波打ち際に残れたか。それは、きっととても些細な、ささやかな違いだ。もしも今、自分が彼女と同じ身上に堕ちていたとしても決して可笑しくはないのだと、苛む痛みに穏やかに耐えながら思い、蒼褪めた唇で微笑む。
「でも、僕等は残ってしまった。なら、此方の者として、咎を為す君達を見逃す訳にはいかないんだよ」
 どんなに理不尽に死へと引きずり下ろされた、憐れむべき者であろうとも――生の舞台を踏めるのは生きている者だけだ。
「それでも折角、黄泉返ったんだ。今は心行くまで踊ると良いよ。僕等が見ていてあげるから」
 身の内でざわり、何かが波立った。みさきと共に生の舞台を踏むものたちがさざめき、溢れ出そうとしている。
「もう充分? そうだね、脚も随分と軽くなったようだし……それなら、身軽に海へ還ろうか」
 ――六人の同胞たちは、その言葉を待っていた。
 体を失いながら此岸へ留まったものたちの思念が、夢見草の娘に襲い掛かる。羨ましい、羨ましい、羨ましい――伸びる手が、四肢に染み出す呪詛のすべてを娘から奪い取る。終わりゆく夕暮れに、娘の輪郭が溶けていく。
 最後にゆっくりと消えていった細い脚に、あの忌まわしい色はもう残ってはいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

真宮・響
【真宮家】で参加。

出遅れたけど、気になる事柄だから来た。アタシは元々歴史ある名家の生まれだ。そりゃあ大事に育てられたさ。件の影朧になった娘のように。だから、周りの物が失われる喪失感は良く分る。

でもその気持ちを今生きている人達に向けるのは見逃せないんだ。悪いけど、止めさせて貰うよ。

その踊るような攻撃に正面から立ち向かう気はない。【目立たない】【忍び足】で敵の集団の背後に回り、【先制攻撃】【二回攻撃】【串刺し】【範囲攻撃】で飛竜閃を使うよ。敵からの攻撃は【オーラ防御】【見切り】【残像】で対応しようかね。


真宮・奏
【真宮家】で参加。

境遇は、大変お気の毒だと思います。でも奪われたからって、他の人を奪っていい理由はないはずです。少なくとも、他人の命を奪う事はあってはなりません。

終わらせましょう。彼女らの死の舞踏を。

私もダンスをしますので、舞うように動くのは厄介です。【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【盾受け】【拠点防御】で防御を固め、彼女らの攻撃を受け止めましょう。そして【二回攻撃】【範囲攻撃】で【ダンス】をして舞うような動きで煌く神炎を使用。この炎が、彼女らの悲しみを焼き尽くしてくれますように。


神城・瞬
【真宮家】で参加。

確かに、幸せな暮らしを突然奪われると理不尽を恨みもする。僕も突然の襲撃で生まれ故郷も両親も失いましたし。だからって奪っていいなんて思いません。そうしても何も残らないかと。

これ以上の不幸を減らす為に貴方達を倒させて頂きます。

【オーラ防御】を展開して【高速詠唱】【全力魔法】【高速詠唱】【二回攻撃】で月光の狩人を発動。鷲達の攻撃に併せて【援護射撃】として【誘導弾】【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【部位破壊】で攻撃します。もう彷徨う必要はないんですよ。お休みなさい。



●正しきに遠く
「出遅れたけど、どうにも気になる事柄でね」
 夢見草の娘たちの波の向こうに佇むもの。ちろちろと燃える紅の袴の影朧へ、真宮・響(赫灼の炎・f00434)はねえ、と呼び掛けた。
「あんただよ、聞こえてるかい? あたしもあんたとよく似た身の上だった」
 歴史ある名家に生まれ、蝶よ花よと大事に育てられてきた。所作と言葉、歪み果ててなお気高くある心に、あの影朧の娘もそんな生を辿ったのかもしれないと重ね見た。だから、
「周りの物が失われる喪失感は良く分かる。アタシも多くを持っていたからね」
「確かに、幸せな暮らしを突然奪われては、理不尽を恨みもするでしょう。僕にもそれは分かります」
 突然の襲撃に、生まれ故郷と両親を奪われた。この手に残ったのは自分の命ひとつだと、神城・瞬(清光の月・f06558)は淡々と語る。その様子を気遣わしげに見つめながらも、真宮・奏(絢爛の星・f03210)ははい、と言葉を連ねた。
「あなたの境遇も、大変お気の毒だと思いますが……」
 向ける眼差しに僅かな憐憫を覗かせはしたけれど。夕暮れのひとときを終えようとする戦場を、冴え冴えと燃え上がる霊気の炎で照らす奏に、目的を譲る気配は見えない。
「奪われたからって、他の人を奪っていい理由はないはずです。少なくとも、他人の命を奪う事は……」
「そうです。奪っていいなんて僕は思いません。そうしても何も残らないかと」
 今は遠い影朧の眼差しが冷ややかに突き刺さった。思わず口を噤んだ二人は思い知る。こう在るべきという正論を真正面から受け入れられる境地には、あの影朧はもうないのだと。
「……でしたら、終わらせましょう。それだけです」
 分かたれた七十もの炎が、踏み込む奏に付き従う。敵の踏む踊るような軌道が戦う相手としては厄介なことは、ダンスを嗜む身として知っていた。
 素早く踏み込んでくる優雅な蹴撃を精霊の剣と盾で凌ぎ、護り固める愛娘へ、響は見守るような一瞥を向けた。
「受け入れられなかろうと、間違ってはいないよ、奏。失った絶望を今生きている人達に向けるのは、見逃せないんだ」
 止めたい。だからこそ、この夢見草の娘たちを越えていく。
「憐れム――憐れ――憐れンデ――憐れマナイデ」
 もはやどれが本当の望みかも分からなくなっているかのように、娘は意味の取れない言葉を繰り返し、かさついた呪詛の花弁を響へ叩きつけてくる。
 ひらひらと捉えづらく揺れる舞踏に真正面から挑みはすまいと、響は足音と気配を忍ばせるけれど、影朧へと呼び掛けた声は、踊る娘たちの注意を惹き付けるに充分だった。
 舞い躍り阻みに来る桜の刃を纏うオーラで弾き飛ばし、響は小さく笑う。
「そう簡単に背中を取らせてはくれないか……いいさ、それなら」
 虚空へ跳び、掲げた剣に光が燃え上がる。飛竜の如く、高みから夢見草の娘へ咬みついた赤刃は、眼前の敵のみを狙い澄ました軽やかな太刀筋で、異形と化した娘の体躯をもう一突き、深々と貫いた。
「奏! 瞬!」
「「はい!」」
 重なる声。最初に駆け出したのは奏だった。
「この炎が、彼女らの悲しみを焼き尽くしてくれますように」
 真摯な祈りに呼応して、しらじらと連なる炎が夢見草の娘の周囲へ火花を咲かせていく。その速さに遅れは取るまいと、瞬は高速の詠唱で月光を編み上げる。
 ステップを踏むように娘たちの間を駆け抜け、清らかな光を広げていく義妹がこれ以上傷つけられないように。そして、
「これ以上の不幸を減らす為に、貴方達を倒させて頂きます」
 瞬が月色に輝く鷲の群れを遣わせば、軌道に舞う花の刃は重なる羽搏きに次々と叩き落とされていく。
「さあ、獲物はそこですよ! 容赦は不要です……!」
 群れはいつしか力を融け合わせ、一羽となっていた。奏の炎に苛まれてくらくら踊る娘のもとへ、一心に飛び込んでいく。
「ええ……もう彷徨う必要はないんですよ。お休みなさい」
 眩しいほどに膨れ上がった月の魔力が、娘の視界を奪う。
 強かな嘴の一撃に穿たれて、敵意がまた一つ崩れ去った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎本・英
君たちの夢や希望を奪い絶望へ陥れたのは私ではない。

しかし、そう。
私が見送った愛すべき隣人たち。
嗚呼。そうだ。そうだとも。
私が彼女たちの全てを奪った。
彼女たちの人生も、夢も、希望も全部、全部、私が奪った。

君たちも同じように誰かに奪われたのだろう。
恨めば良い。嘆き悲しめば良い。
嘆いて足掻いて底から這い上がる様は美しい。

嗚呼。ひかし、私はただの人。絶望を知る人。
愚かだと、哀らしいともう一度沈めよう。

とても哀らしい。
せめてもの優しさ。私からは部位破壊を。
この鋏で一人一人確実に断ち切る。

君たちからの攻撃は甘んじて受け入れよう。
その呪いも全て。
死にはしない身なのだから。

この鋏は断ち切る事しか出来ない。



●小説家と云ふもの
「君たちの夢や希望を奪い、絶望へ陥れたのは、私ではない」
 その言葉に快も不快も滲まず、ただ奇妙な熱の隠った瞳で、榎本・英(人である・f22898)はただ注視していた。
 執拗に狙い来る花弁、舞いと叫びによってそれを煽動する夢見草たち。燻る熱情が燃え盛る様を、英はただひたすらに見たいと望み、故に称した。自分もまた、君たちを死の影に追い遣ったものと同じだと。
「私が見送った愛すべき隣人たち――嗚呼。そうだ。そうだとも」
 敵意孕む花刃を気にもせず、青白い肌に血の花を咲かせながら娘へ手を伸ばす。上擦る声は現と幻想との境もないこわいろで、舞台役者の如くひといきに語った。
 私が彼女たちの全てを奪った。彼女たちの人生も、夢も、希望も全部、全部、私が奪った。君たちも同じように誰かに奪われたのだろう。
恨めば良い。嘆き悲しめば良い。嘆いて足掻いて底から這い上がる様は美しい。それを、私に見せてくれ。
 そうして死の波間から息を継ぎに出た首を、ちいさな鋏で押さえつけ、沈めるのだ。愚かだと、哀らしいと――それでこそ美しい散り際と微笑んで。
「もっと切り裂くといい。君たちは人で無しと罵る正気も持たぬのだから。果てには、嗚呼、これが私の贈り物。せめてもの優しさを受け取り給え」
 掌に隠るほどの小さな糸切り鋏が、溜息ほども重く娘を切り裂いていく。命を、心を、蟠りを、縁を、この世界に彼女たちを結びつけるものを悉く。
「嗚呼――哀らしい。この鋏は、断ち切ることしかできない」
 推理小説家は、そんなふうにひとを殺す。血のようなインクを溢して滑るペンの先に、隣家の娘を、通りすがっただけの只人を。
 ――そして勿論、迷妄の夢に彷徨う舞姫も。

大成功 🔵​🔵​🔵​

薬師神・悟郎
彼女達の声を聞くな
あの言葉は呪いだ
羨んで、嫉んで…だが、その先には何もない
哀れみなど感じるな
これは不幸な、よくある話だ

闇に紛れ俺自身の存在感を消した後、UC発動
目立たないよう複製した苦無で範囲攻撃+急所を狙った暗殺
初手で仕留め損なった敵は刀を使い一気に距離を詰め止めを

想い人からのマフラーに込められた祈りが俺を守ってくれると信じるままに、淡々と早業で確実に仕留めていく
もし技の発動を第六感、野生の勘で察すればそちらを優先し撃破
また近くに味方がいれば、彼らが戦いやすいよう援護しよう

彼女達の声に応えるな
俺のものを奪われるつもりはない
舞え、舞え、踊れ、情熱的に燃え尽きるまで
それでこの舞台は終わりにしよう


無間・わだち
桜の炎が視界にちらつく
舞い踊る呪詛が心を蝕む

ああ、許せなかったんですね
わかりますよ

喪ったものを奪い返したいのは当然だろう
それでも、あなた達にはその権利がない

哀れむな、という者を哀れんでやるほど
俺はやさしくない
けれど、一度止まったこころは
どうしてだか
【優しさ】

変色した花弁のど真ん中を駆ける
どうせ苦痛には慣れている
【限界突破】

それより、猟兵達から十分距離を取り
少女達の群れに限りなく接近

振り回した大剣が、彼女達をズタズタに切り裂くよう
何度でも、何度でも
一度で三回の攻撃を、ふたつ重ねて跡形もなく
【2回攻撃】

さっきまでハンバーグを食べて笑った娘はこの場に居ない
それを良しとしたのは
彼女だったか、俺だったか



●聞くも毒、聞かざるも毒
「全テ失くシテ、全テ奪わレテ、嗚呼、厭――憐れマナイデ……」
 その声を聞くまいとする者がいた。冷たい夜の色に身を染めて、襲い来る花の刃から身を隠し、耳を塞ぎこそしないけれど、飛び込んでくる怨嗟の声から心を背けて。
(「彼女達の声を聞くな。あの言葉は呪いだ」)
 羨望と嫉妬に呑まれたとて、先に得るものなど何もない。これは不幸なよくある話だと自身に幾度も言い聞かせながら、悟郎は戦場に折り重なる影の中を駆け、隙を突く一瞬を待っている。
 眼前に踊り狂う敵意は眩しくて、早く夜が来ればいいのにと沈めた悟郎の視線に、あたたかな色が触れた。
 それは、想い人がくれた大切なマフラー。凍てる風から守るぬくもりと、燃える敵意から守る祈りを織り込んだ、悟郎を生に繋ぎ止めるもの。
(「――ああ、そうだ。俺は応えない……彼女達の声に応えるな。俺のものを奪われるつもりはない」)
 一転、影から飛び出した鈍い光が、夢見草の娘の喉を射抜いた。呪詛や怨嗟を吐く声が、ひゅう、と止まる。その一撃に止める手はなく、娘が遣わす花弁の嵐を切り裂いては、投げ穿つ。与えた苦痛が娘の注意を散らす間に、また影に潜り込む。
 周囲を駆け巡る仲間たちを、力量に適うだけ増えた飛具を飛ばし躍らせ援護しながら、花を降らせる気配を悟ればそちらへと。切り裂かれた体に滲む血の匂いを嗅ぎつけた娘があれば、唇を割って呪いが流れ出す前に、喉笛を抉り貫く。
 命も、思いも、心も。憐れを誘う声が届いたとしても、譲り渡していいものなど悟郎は何も持っていない。どれも切り離せない、大切なものばかりだ。
 ――それはきっと彼女たちも同じだったのだろう。だが、今は考えまい。
(「舞え、舞え、踊れ――情熱的に、燃え尽きるまで」)
 影を辿り回り込んだ自分に娘が気づいたときにはもう、遅い。
 虚空に張り巡らされた苦無の檻が、ばらばらに動き出す。四肢を縫い留め、急所を穿ち、骨の狭間を掻い潜り――終わったはずの鼓動を止める。
 灰になるまで付き合って、それでこの舞台は終わり。心を揺さぶる深い嘆きも、風にはらりと踊って消えた。
 そうして呪わしい声がひとつ、ひとつと潰えていく戦場に、
「幸せダッタノニ。奪わレタ。許さナイ……奪っタアノ子モ、貴方タチモ、許さナイ――!」
 その声を聞こうとする者もまた、いた。ひらひらと舞い踊る桜の炎、美しく憐れな娘たちの吐く呪いに身も心も蝕まれ、それでも聞く耳を閉ざすことなど思いも拠らない。
「ああ、許せなかったんですね。――わかりますよ」
 異形と化した娘たちの表層に浮かび上がった感情は、わだちにも厭というほど覚えのあるものだったから。だからといって、繰り返す言葉が真でも虚ろでも、憐みを拒むものを哀れんでやるほど自分は優しくないけれど。
(「優しくは……ない筈なのに」)
 どうかしていると首を振り、わだちは乾いた花弁の嵐の中を駆け抜ける。容赦なく肌を裂きに来る刃の苦痛など構わない、どうせ慣れたものだ。
 ――だというのに何故、ひとたび止まった筈の心が動いてしまうのだろう。
 他の猟兵たちの手の及ばぬ場所、自分の手も仲間へ届かぬ場所。そこでわだちを待ち受けたひとりの夢見草の娘へ、重く無骨な動力兵器を幾度も幾度も、かたちなど残らないほどに叩きつけ、切り裂く。
 その間も、飽かず踊り狂う花弁がくれた傷よりも、胸の疼きの方がずっと心に掛かった。
「喪ったものを奪い返したいのは当然だろう。……それでも、あなた達にはその権利がない」
 六度連ねて叩きつけた縦横無尽の剣戟は、娘を厭わしい在り方から解き放ち、過去へ還しはしたけれど。放った言葉は翻り、深々とわだちにも突き刺さった。
 降りてしまえば戻れない舞台から、落とされたのだ。形は違えど、彼女たちもわだちも、それは変わらない。
 溜息が地に落ちた。ハンバーグを食べて目の前で笑っていた娘は今、この場にいない。それを良しとしたのは彼女自身だったけれど、
(「……見られなくて良かった」)
 それは自分の望みでもあったのだろうか。浴びた血を袖で乱雑に拭った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
オズ(f01136)と

まずはこの子らってか
いーよ、やるしかねーもんな

多分この子らに、言葉は届かないんだろう
でもきっと、優しいお前は――
言葉に軽く微笑んで、ああ、だよなぁと
それなら、俺もすることは決まってる

なぁに、踊りが好きだったの
いーよ、一緒に踊ってやる
こう見えて、得意なんだ
ふふ、オズも踊る?

愛らしい客には微笑み
相手の動きを観察しながら舞う
幾度もこうして踊ってきた

オズに攻撃が向かうようなら
UCの花弁を向かわせ視界を奪いながら動きを鈍らせ
――綺麗だろ?
あんたらに似合いの演出だ

やっぱうまいな…でも足癖が悪いのはいただけねーや
足技は扇で受け流し炎で引き剥がす

観客の拍手には一礼を
最後は彼の優しさに託し


オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と

たくさんかなしかったんだね
ううん、哀れまないよ
きみがそうやって、歌やダンスをおぼえた人生は
かわいそうなんかじゃない
そうだよね

わあ、アヤカじょうずっ
わたしもシュネーとおどってたから
いっしょにおどれるよっ

招かれたら嬉しそうに飛び出す

うん、ここできみが踊るのをみてる
だからもっと踊って

踊りも
アヤカへの攻撃も
よく見ていざという時庇えるように

楽しく手拍子をしながら
ガジェットショータイム
舞台にはおきゃくさんがいなくっちゃ
現れたぬいぐるみたちが拍手をくれる
眠りを誘う粉を撒きながら
粉は花びらにまぎれて彼女たちのもとへ

どうかいい夢を見てね

アヤカの声に頷いて
最後はアヤカがくれた鍵でさよならを



●やすらいの幕を君に
「まずはこの子らってか。……いーよ、やるしかねーもんな」
 呟きの一瞬の間に滲んだ自分の優しさは自覚せず、綾華はちらと傍らの横顔に目を向けた。
 恐らくこの娘たちに、言葉は届かない。手を伸べるように暖かな言葉を紡いだところで、風を斬り裂く爪先に引き裂かれてしまうだけだろう。
 それでも、綾華は知っている。受け止めては貰えない、ただそのくらいでは、友の――オズの溢れ出す心を押し留める堰にはならないことを。
「たくさんかなしかったんだね」
「貴方モ憐れムノ。憐れム憐れム憐れム憐れマナイデ――」
「ううん、哀れまないよ」
 心を拒む桜の花嵐にも、しなやかな心は怯まない。変わらない微笑みを浮かべて、ともだちにするように語り掛ける。
「きみがそうやって、歌やダンスをおぼえた人生は、かわいそうなんかじゃない。そうだよね」
(「ああ、そうだ。優しいお前は――」)
 そう言うだろうと思っていた。そのこころが傍らにあるのなら、綾華のすることはただ一つ。
 オズへ肯定の笑みをひとつ、娘の黒い脚が鋭く切り取った風を躱し、間合いにするりと滑り込む。
「なぁに、踊りが好きだったの。いーよ、一緒に踊ってやる。ほら、お手をどーぞ?」
 誘う手を求め伸ばされた指先は鋭い爪で呪詛を刻み、ステップに添おうとする脚は裏腹に綾華を傷つけにかかる。間合いは上手く、所作は美しく、舞姫に相応しい立ち回りに苦笑した。――足癖が悪いのだけはいただけねーや。
「ふうん、そんな風に踊ったの。なあ、どんな踊りが好きだった? ……もう答えられないなら、それでもいーよ」
 勝手に教えてもらうからと微笑んで、踏む音律、躱す間合いにそれを訊く。観衆の歓喜もパートナーの眼差しも遠い夢に抱くだけの、花の君ひとりを今は見つめて。
「私ヲ、見テ……」
「ああ、見てる。だからもっと踊ってみせて」
 躍り込む脚を扇のひとさしで弾き、湧き上がる鬼火で間隙を保ち、舞踊のかたちをとる戦いの駆け引きを、
「わあ、アヤカじょうずっ」
「こう見えて、得意なんだ。ふふ、オズも踊る?」
「うんっ、わたしもシュネーとおどってたから、いっしょにおどれるよっ」
 飛び込んでくるオズのステップは弾むように軽く、綾華のそれとは違う色で戦場を染め上げた。乾いた花の斬撃をくるり躍るターンで躱し、呪詛を塗り替えるような朗らかな手拍子を響かせて。
「そうだっ、舞台にはおきゃくさんがいなくっちゃ」
 夕空に振る魔鍵が誘い出したガジェットは、機械仕掛けのぬいぐるみたち。オズと揃いの帽子を被り、ぱちぱちと連ねる拍手は輝く星を生み、戦いの舞台を彩りながらきらきら砕けて風に漂う。――包まれたものを安らいにいざなう、眠りの粉だ。
「っと、だめでしょ。役者がよそに目移りしてちゃ」
 そっと目を塞ぐ掌のように。綾華が遣わした白妙の菊花の雨が、オズへ向かおうとする娘の視界を明るく鎖す。
 そのあかるさにまた拍手が溢れたら、一礼を。舞台はそろそろお終いだ。
 なあ、オズ、と凪いだ声が呼ぶ。
「最後はお前の優しさで送ってやって」
(「――ね、そういうアヤカもやさしいよ」)
 うん、と微笑んで、オズは大切な鍵をきゅっと握り締めた。
 うららかな春の名をもらった鍵の先が、微睡む娘の胸元にそっと差し込まれる。かちり声を上げ、痛みのないままかなしい記憶に錠をさす。
「どうかいい夢を見てね」
 きらきら降り注ぐ白花と光の粒が、娘の舞台に幕を下ろす。
 このあたたかな終演に、カーテンコールはなくていい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
準備はいいかい?ヨーコ君(f12822)
ああ、私たちが進む道はひとつ
振り返る必要もない

ふうん、なるほどねえ
キミらもそれなりに大変だったというワケだ
でも、

……そう、ヨーコ君の言う通り
(私が言おうとおもったことを全部言われた……)
ここは人の世。キミらの過去は知らないけど
今のキミらの居場所じゃあない

ヨーコ君とタイミングを合わせ、
かれらを斬ったりしつつ道を拓いてゆこう
ここは人の通る道さ

多少の傷には気づきもしないよ、《激痛耐性》があるから
変な色の花びらからは、マントや剣劇でなるべく《かばう》
ついでにヨーコ君もかばってあげよう

あれほど執着するような過去があること
私には想像できない
あんまり覚えてないからなあ


花剣・耀子
エドガーくん(f21503)、ゆきましょう。
道を開けるわ。
ええ。真っ直ぐに進みましょう。

……嘆くのも怨むのも、おまえたちの勝手よ。
只、それがヒトに害を為すなら捨て置けない。
それだけよ。

(なにか言いたそうな顔をされているわ……)
同情も救いもしないから、好きなだけ叫びなさい。
踏み込んで、行く手を阻むものをすべて斬りましょう。
おまえたちの咲ける場所は、もうないのよ。
散りなさい。

エドガーくんの方にも気をつけて。
攻撃の手が足りなければ補うわ。
敵も花片も、届く前に斬り果たす。


……志半ばで散ったとして。
その時にどう想うかなんて、考えたって仕方が無いけれど。
生憎あたしは、生きているいまだけで手一杯なのよ。



●人の往く道
「私ノ舞台だッタノニ、アノ子ガ」
「幸せモ夢モ破れ去ッタ……スベテ、スベテ奪わレタ」
「許せナイ許せナイ許せナイ許さナイ……!」
 手を伸ばし訴えるものたちをひらひらと往なしながら、エドガーはなるほどねえ、と頷いた。
 声に実感は薄く、どこか他人事のような響きを帯びる。けれど、目の前の娘たちを支配している感情に、何も思わぬ訳でもない。
「キミらもそれなりに大変だったというワケだ。でも」
「……嘆くのも怨むのも、おまえたちの勝手よ。それまで禁じる権利は、あたしたちにはないわ」
 先刻までは夕暮れの街の中、食べ歩く甘味に穏やかに緩んでいた耀子の眼差しは、かなしいものたちを映してただ静かに澄み渡っていた。思わず口を噤んだエドガーに代わり、耀子は揺らがず告げる。
「只、それがヒトに害を為すなら捨て置けない。それだけよ。……、……」
 しんと澄んだ空気に何か、じとっと湿ったものが混ざって、耀子は少しだけ居心地悪く視線を逸らした。
(「なにか言いたそうな顔をされているわ……」)
(「私が言おうとおもったことを全部言われた……)
 壁際から口惜しげに見つめる子どものようなエドガーの眼差しが、背けた耀子の頬をちくちくしていた。――この空地に壁はないのだが。
 それはともかく、
「こほん。……ここは人の世、キミらの過去は知らないけれど――今のキミらの居場所じゃない。さて、準備はいいかい? ヨーコ君」
 気を取り直してのいざないに、迷いなく声は応えた。
「ええ。――エドガーくん、ゆきましょう」
 道を開ける。燃え立つように鮮やかな耀子の意志に、エドガーは目を細めた。自分たちの進む道はただひとつ、振り返る必要もない。
「うん、ここは人の通る道さ!」
 踏み込みも声音も眼差しも、彩異なる二人の何もかもが、決して退きはしないと告げていた。エドガーの銀剣が立ち塞がるものたちを一閃すれば、娘は呪詛の花弁を以て引き留めにかかる。切り裂かれた純白のマントに鮮やかな青の裏地が閃いた瞬間、エドガーは纏いつく呪詛の重みごとそれを脱ぎ捨てた。
「――さあ、ご照覧あれ!」
 繊細なレイピアは残像を描きながら、より速く軽やかに、その道を駆け抜ける者たちへ降りかかる褪せた花弁を切り刻んでいく。刻まれる傷を案じて翻った耀子の視線には、心配いらないとにこり笑った。
「ふふ、気づきもしなかったとも! ついでにヨーコ君もかばってあげよう」
「……ほら。そんなことを言っている間に」
 吐息が微かに笑った。刹那、機械剣の核たるオロチの眼がぎょろり、踏み込んできた敵へと翻った。分かっているわと翻した鋸刃が、敵を牽制する。
「同情シナイ、デ……!」
「ええ、同情も救いもしないから、好きなだけ叫びなさい。おまえたちの咲ける場所は、もうないの。――散りなさい」
 昂る夢見草の声が、数多の霊を誘い出す。悲憤を叫び、花弁と共に舞うことごとくを、天災の如き白刃が迫るそばから散らし、平らげていく。頑なに動こうとしない耀子の表情の下に、泉のように静かに湧き立つ思いがあった。
 志半ばで散ったという娘たち。絶望の果てに自ら命を絶ったものか、理不尽に死の罠に陥れられたものか――多色多様なのだろう生のすべてに思い致すことは、現実的ではない。見つめ過ぎては動けない。
 けれど、全てを奪われたと思ったその時、心は何を想っただろう。考えても仕方のない疑問は、ただ静かに表層へ浮かび上がる。浮かび上がるだけだけれど。
「――生憎あたしは、生きている今だけで手一杯なのよ」
「ヨーコ君らしい。私には、あれほど執着するような過去があること、想像できない。――あんまり覚えてないからなあ」
 エドガーは柔らかな微笑みさえ浮かべていた。それを不幸だとは思わない。耀子たちと遊び笑う日々は過去などなくとも楽しい。
 それでも、焦がれ執着する日々のためにああして異形となり果てることは――なんだかとても人らしく、眩く、悲しくて。
 不意に胸を衝いた思いに首を傾げた。
 並べた剣戟に散らされたものたちが、逢魔が時の色に溶け消える。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アストリーゼ・レギンレイヴ
【リグレット(f02690)と】

いつもあの世界では、人は奪われる側で
当然のように明日が来るとも思わず
自身の命がこの先も続くとも知れず

…………それでも確かに在った幸福を憶えているから、
奪われることの苦しみも、知っている

だからこそ、誰にもそんな思いはさせたくないの
その苦痛を他者へと向ける矛と為すと云うなら
それを退けることこそ、あたしの使命

《漆黒の夜》を纏いて前へ
リグレットを庇い、敵の攻撃を退けることに専念
失意も無念も、好きなだけ叫べばいい
思うさまぶつけていいわ、その全てを受け止めてあげる

気が済むまで踊ったのならば往きなさい
もう囚われることのないように
その嘆きは
あたしが憶えて、共に連れてゆくから


リグレット・フェロウズ
アストリーゼ(f00658)と

「…………哀れね。それに、見苦しい」

気持ちは分かる、などと、生者に言われても、腹が立つだけでしょうけれど。
全てを持っていた、全てを失った。まるで歪んだ鏡を見ているよう。

けれど、一番哀れなのはそこじゃない。

自分が哀れでないと、そう言うのなら……最期まで、胸を張りなさい。
貴女の誇りを貶めているのは、貴女自身よ。

姿勢を正す気があるのなら――踊りの相手くらいは、務めてあげましょう

「任せるわ」
一瞥もくれず、アストリーゼに守りを任せ
蹴り潰して、焼き払いましょう

……見せてみなさい。貴女が生きて、積み重ねたものを
見るに耐える姿であれば、覚えていてあげる。



●伸ばす背の語るもの
「…………哀れね。それに、見苦しい」
 そう断じるリグレットの乾いた眼差しの奥、宿った静かな熱を、アストリーゼは知っていた。
 気の知れた沈黙に、令嬢は言葉を重ねていく。気持ちは分かるなどと今を生きるものに――自分が既に失ってしまったものを持つものに言われても、腹が立つだけだろうけれど、
「全てを持っていた、全てを失った。――まるで歪んだ鏡を見ているようだわ」
 油断なく娘たちへ注意を振り向けながら、アストリーゼは自分はどうだろうか、と自問する。
 ダークセイヴァー――『人』がただ奪われる側にある世界。
 当たり前の幸福などそこにはなかった。明日が来る奇跡、命がある奇跡、そんなものの連なりで生きる命は、誰もがそうと評する幸福ではなかったかもしれない。
(「…………それでも確かに在った幸福を憶えているから、奪われることの苦しみも、知っている」)
 いずれ夜を迎える世界に、名残惜しく残る陽光の熱。それを遮るように漆黒の闘気を編み上げ、その身に纏って前へ駆ける。
「だからこそ、誰にもそんな思いはさせたくないの」
 一番掬いたかった思いは、目の前で歪み果て、苦しかった生の終わりの余韻に動かされているだけだ。それが矛となり、他者の命を刈り取ろうというのなら、それを退けることこそが自分の使命だと。
 自在に広がり漂う夜闇のヴェールで連なる気配を匿す。――そう、
「任せるわ」
 ただ一言、一瞥もくれずに守りを任せたリグレットを、居並ぶ娘たちに悟らせぬために。
「哀れでないと、そう言うのなら……最期まで、胸を張りなさい」
 ぐらりと燃え立つ黒炎が、自身を守る闇を貫き、美しい円弧の軌道に宙を切り取った。
 烈火の蹴撃と揺らぎのない叱咤の響きが夢見草の娘たちを打つ。憐れまないでと訴えるばかりのその心こそ、貴女たちの背を丸めて見せるものなのだと。
「貴女の誇りを貶めているのは、貴女自身よ。……見せてみなさい。貴女が生きて、積み重ねたものを」
 そうあるように生きてきたから、そう云える。毅然と放たれる挑発に、ひとたび炎にくずおれた娘がゆらりと立ち上がる。そう、と眼差しだけで微かに微笑んで、
「姿勢を正す気はあるようね。それなら――踊りの相手くらいは、務めてあげましょう。……普段は相手を選ぶのだけれど」
 叫びに励起された霊たちが、一斉にリグレットに襲い掛かる。
 暗くも烈しい生の炎、生き方と在り方を映すようなそれは彼女たちには眩しくて――負けまいと憤る心がそこにあったかは知りようもないけれど、壮麗な舞の中に纏う呪詛を与えにくる娘の手足は、先刻よりも冴えを増したように思われた。
「させない」
 右に月の黄金、左に血の深紅。アストリーゼのふたいろの瞳が、刃のように娘を射る。跳ね上げる外套の起こした風に、漆黒の気はかたちを変えて再びリグレットを覆い隠した。
「失意も無念も、好きなだけ叫べばいい。思うさまぶつけていいわ、その全てを受け止めてあげる」
 ――本当は、どろりとした迷妄に堕ちる前のそれを受け止めてやりたかった。告げても叶いも救いもしない言の葉は、闇の中にそっと溶かして密度を増す。
 耳を、心を劈く悲鳴の毒は受けるままに、四方より迫る霊たちの踊りのいざないは、血潮めいた赤が刻まれた黒剣で撥ね退ける。
 触れるものみな爛れさせんと吐く呪詛は、娘たちの嘆き。それは、
「あたしが憶えて、共に連れてゆくから。――気が済むまで踊ったのならば、往きなさい」
 もう囚われることのないように。囁く声を微かに緩めた優しさが、『月闇』に手心を許さない。
 漆黒の護りを突き抜けて、業火が来る。しなやかに躍る脚の一閃で宙を焦がし、全てを焼き払う意志を見せ付けて。
「――及第点はあげられないけれど、見るに耐えるものではあったわ。……いいでしょう、覚えていてあげる」
 捻じれた怨嗟に繋がるほどの生き様を。懸命に駆け抜けたのだろういつかの生を。闇のかいなに抱き取り、盛る炎に映し取って。
 求めるようにも遮るようにも伸ばされた娘の手を取って、リグレットの踊る脚がふわりと虚空を巡った。振り下ろし蹴り砕いた喉に、死出を彩る炎が咲く。
 夢見の桜がまた一輪、夕暮れに溶け落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

不知火・藍
琥珀様(f06806)と
彼を庇うように位置取り

すまなかったな
見せつけるような真似をして

―嗚呼、随分と、拗れて
恨むも妬むも苦しいだろうに

責めるでも憐れむでもなく
感情達を受け止め
私は、鏡だからな

ただ、な
他者の不幸で慰められはしても
癒される事はきっとないのだ


戦闘
後方支援を主に行い
踊りの動きを流れから予測し『見切り』ダメージ軽減
主への攻撃は優先でかばう

『カウンター』など敵の動きの隙を狙い
『高速詠唱』で護符を放つ
鎮めよ――七星七縛符

真似た主に微笑み返し
琥珀様ならすぐに強くなれますよ
その意志の強さ、優しさがあるならば必ず

そう
もう二度と奪わせる訳にはいかない
貴方と、誰かと
そして彼女がこれ以上、悲しまぬように


不知火・琥珀
従者の藍(f06808)と
呼び方は「らん」

大事なものをうばわれる、悲しい気持ち、こはくも知ってるぞ
つらいよな、苦しいよな、くやしいよな
でも、その気持ちがずっとつづくのは、もっと悲しいんだ
今のままだと、ずっとずっと、苦しいままだろう?
だから、こはくは終わりにしたいと思う

戦闘は後方支援を中心に
自分を庇うように戦う従者の姿を倣って護符を放つ

「えっと……し、しずめよ、し、七星七縛符!」
「なるほど、こ、こうか?らん、どうだ!こんな感じでいいのか?」

戦いはまだ不慣れだけれど
大事な従者を守るためにも戦う意志は固く
自分を守る従者の姿に憧れも抱きながら

「らん、らんはすごいな!こはくもらんのようになりたいぞ!」



●ふたいろの符に想ふ
「――すまなかったな。見せつけるような真似をして」
 ぽつり。今はまだ夢見草たちの向こうにいる影朧の娘へ、藍は聞かせるともつかぬ呟きを零した。
 賑わいの街で主とともに過ごしたひとときは、確かに影朧の心をぴりぴりと刺したのだろう。けれど、そうしなければひとつの命が失われていた。
 大事なものを奪われる悲しさ。その気持ちを、琥珀も知っていた。きつく握り込んだ小さな掌は、影朧たちへの共感のしるし。
「つらいよな、苦しいよな、くやしいよな。でも、その気持ちがずっとつづくのは、もっと悲しいんだ」
「! ――琥珀様、どうか私から離れずに」
 不意に迫った敵意に、主を後方へ庇う。間一髪、虚空から振り下ろされた黒刃はふたりから逸れ、立っていた大地を穿った。呪詛に冒され、黒く染まった夢見草の娘に、思わず瞳を眇めずにはいられない。
(「嗚呼、随分と、拗れて……恨むも妬むも苦しいだろうに」)
 藍の本性は鏡、ありのままを映し出すもの。憐れみも責める気持ちも起こらなかった。ただ、捩れてしまった自分の思いに縛られ、戒められ、藻掻く心が視得ただけ。
 襲い掛かる刃が袖を裂く。舞めく所作でくるり半身を返せば、行き場を失った娘の体が微かによろける。その一瞬を藍は捉えた、
「琥珀様、今です。共に参りましょう――鎮めよ、七星七縛符」
「えっと……し、しずめよ、し、七星七縛符!」
 冴えた蒼色、温かな蜜色。ふたいろの輝きを帯びた符は、交差するように空を舞い、娘のもとへ降り注いだ。ちぎれながら纏いつき、動きを戒めるそれは、まるで光の蝶のよう。
「こ、こうか? らん、どうだ! こんな感じでいいのか?」
「ええ、素晴らしい出来栄えです。ですが、まだ油断は禁物ですよ」
 ふたりの反撃に、さらなる反撃が翻る。触れずとも風を斬っては傷つける黒刃の舞に耐え、主を守りながら、藍は只管に好機を探す。油断のない眼差しに、琥珀はほう、と小さな溜息を零した。
「やっぱり、らんはすごいな。こはくもらんのようになりたいぞ!」
「琥珀様ならすぐに強くなれますよ。その意志の強さ、優しさがあるなら必ず」
「……うん! こはくは主だからな、従者を守るのも主のつとめだ!」
 今はまだ守られるばかりの自分だけれど、いつかは必ず。決意と憧憬を胸に輝かせ、琥珀は従者の背に学ぶ。その間にも、敵は迫る。
「私ダケナンテ、如何シテ……狡イ……貴方カラモ奪ウ、奪っテアゲル……!」
「――ただ、な。他者の不幸で慰められはしても」
 突き込んでくる刃の軌道を読み、急所を捉えられるのを回避する。掠った傷に眉を顰めるも、それは一瞬のこと。扇のように掌中に咲いた護符を翻し、娘の懐に突き込めば、籠めた魔力を帯びたそれらは再び煌めきの中に娘を封じ込める。
「癒されることは、きっとないのだ。――琥珀様」
「うん! おまえたち、今のままだと、ずっとずっと、苦しいままだろう? だから」
 終わりにしたいと思う。いとけなく優しい心根で連ねる術のひかりに微笑みを向け、藍はその思いに寄り添った。
 救いなき慰めは与えまい。もう二度と奪わせる訳にはいかない。符に注ぎ込むふたりの命を止めさせぬものは、決意だ。
(「貴方と、誰かと……そして彼女がこれ以上、悲しまぬように」)
 涙も血も、奪われる苦しみに零されることがないように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユルグ・オルド
f18759/ウィアドはよくあんだけ食うもんだわ

昨日と同じ明日がくるなんて
そりゃア保証はないからね
せめて心行くまで踊ろうか
はいよ、レド
退屈させねェようにね

応じて背にして立ったなら
呼ぶのは錬成カミヤドリ
欲しがりの嬢ちゃん達にくれてやろう
躍るように踏み込んで
ターンとともに躱したら
空いた宙にシャシュカを舞わせて
そうネ、誰も悪くないなんて
自分だけ運が悪かったって?
ンなの納得いかねェよねえ
同じ巡り合わせもごめんなんだよ、と振り抜いて
花弁散らして、哀しい連鎖は仕舞にしよう

――まだ食うわけ!?
思わず振り返りいやいやお前、
言わずとも視線が合うなら仕方がないと
……春の限定メニューがあるってよ


ウィアド・レドニカ
ユル(f09129)と食べた後の運動…ってね

聞こえる言葉たちは死してなお残る強い思い、か
断ち切ることしかできないけど
いこうかユル
お嬢さんが待ってるしね
ナイフ構えて背中を預けて
シーブズ・ギャンビットで駆け抜けて

できる範囲で精一杯生きてもやりたいことは山積みで
突然全て失われたら
何かを怨みたくもなる
でも知らない誰かを狙うのはお門違いだ
誰かを妬んでも羨んでも心は救われないよ
さぁ思い切り吐き散らせ
キミたちの愚痴くらいは付き合ってあげるから

ああしたかったと嘆くくらいなら
今を全力で生きないとな
…だから
終わったらまた甘いもの食べに行こう!
ツッコミが飛んできたからあっちもまだ平気そうだ
春メニューのため、いくよ



●奇跡のような明日のために
 ――変わらない明日が来る筈だった。
 娘の叫びに呼応して溢れ出す枯れ花に、ウィアドは微笑む。
「死してなお残る強い思い、か。断ち切ることしかできないけど」
 緩く頷いたユルグは、僅かに眉を動かしただけだった。
「昨日と同じ明日が来るなんて、そりゃア保証はないからね」
 幸福の頂にあるものも、不幸の底に転げたものにもそれは等しく、嘆きは娘たちだけのものではない。そう仄めかした言葉は微笑みの中に仕舞えば、勢いを増す花嵐におっとと口噤む。
「お怒りだ。――それじゃアせめて、心行くまで踊ろうか」
「うん、いこうかユル。お嬢さんが待ってるしね」
「はいよ、レド。退屈させねェようにね」
 背合わせ並び立った一瞬、鞘から抜き放たれたシャシュカが空に銀の柔い弧を描く。躍るような踏み込みを溢れる花のかいなが抱き取ろうとする、それを翻す半身で躱して、柄握る指先は空に向かった。
 柄が浮く。サーベルが宙を舞う。閃く一振りは見る間に光を増して、花の嵐を突き破る剣の雨を形成する。
 その雨こそ、ウィアドの背を守るユルグの映し身。決して自分を貫きはしないと信預け、若草の髪を揺らして青年は低く、疾く駆ける。繰るダガーは風に歌い、その音が耳奥を揺らした刹那には、感じたその身を貫いている。
 零れる血の、命の匂いに一瞬、瞼を閉じた。
 ひとの手の届く距離は狭く、光り輝く世界は広く。精一杯に日々を生き、指先を伸ばしても、山積みのやりたいことは減る暇もない。だからこそ生を輝かせるそのどれもが、ある日、突然失われたら――自分だって何かを恨みたくもなるだろう。
「でも、知らない誰かを狙うのはお門違いだ。誰かを妬んでも羨んでも、心は救われないよ。だから」
 ――さあ、思い切り吐き散らせ!
 瞳を開き、死角から喰らいつく刃で娘を急き立てる。奔る叫びの帯びる悲哀はひときわ深く、けれど同情に顔を歪めはしない。琥珀の瞳はいつだって、陽光のように笑っている。
「いくらでもどうぞ。キミたちの愚痴くらいは付き合ってあげるから」
 お前らしいわと肩を揺らして、ユルグは円舞の軌道に一刀を掴み取った。舞い散る桜ごと娘を貫く刃の雨に、己の手で一閃を連ね、
「そうネ、誰も悪くないなんて。自分だけ運が悪かったって? 分かるよ、ンなの納得いかねェよねえ」
 だから自分も、と口の端で笑う。
「同じ巡り合わせもごめんなんだよ。――悲しい連鎖はここで仕舞い」
「うん。ああしたかったと終わって嘆くくらいなら、今を全力で生きないとな」
 ――そう生きたからこその嘆きだったかもしれないけれど。少しだけ夕暮れの寂寥を帯びたウィアドの瞳は、戦いの果てに溶け消える娘を見送り、いつもの色を取り戻す。
「……だから、終わったらまた甘いもの食べに行こう!」
「――まだ食うわけ!?」
 驚きのあまり虚空に揺れる刃の群れが消えた。いやいやお前、と呆れ果てた溜息に笑う。
 互いに無傷とはいかないけれど、この反応なら大丈夫だ。
「よくもまあ食うもんだわ。ああ、けど、そういや……春の限定メニューがあるってよ」
「なんだ、気づいてたんだ? ユルも実は興味――」
「お前がいなきゃ気にしてねえわ」
 小突きにくる拳に笑って、拳で押し返す。
 先に待つ楽しいひとときを、目の前の誰にも譲りはしない。嘆きに変えはしない。
 続く明日は、かち合ったふたつの手で繋ぎ止めるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雛瑠璃・優歌
思わず唇を噛んだ
出来る事なら、そんな目で見るなと、それ以上言わないでくれと言いたい
揺れた心が鎮まらぬ中で聞くにはあまりに悲痛で
だけど不思議と同情や憐憫は無かった
いつも通り髪を手櫛だけで上げ整えて結び、蝶の髪飾りを添えてUC発動
「すまない…私には、嫉妬が分からないんだ」
役の選考に落ちれば通った人間を見て何が求められていたかを探った上で称賛するだけ
「私には、笑顔にしたい人が居る。歌も、お芝居も、それが出来る場所や地位も…全てはその為」
そしてその為に命を燃やして輝くことしか選べないのが私なんだ
今更退けるものか
「失っても、奪われても。何度持たざる者になっても…!」
傷つけられようとも構わない、押し通す!



●星を見るもの
(「そんな目で見るな。――それ以上言わないでくれ」)
 叶うなら、そう叫び出してしまいたかった。
 賑わいの街の中に揺れた優歌の思いを、この劇場跡地に現れた影朧の在りよう、夢見草の娘たちの思念がさらに揺さぶった。平時ならいざ知らず、そうして波立つ心が鎮まらぬうちに耳にするには、あまりにも胸に痛く、哀切で。
(「でも……それでも、同情や憐憫は」)
 自分の中に感じ取ることはできなかった。耳を塞ぎかけた手は長い髪を掬い、いつも通りに結い上げる。麗しき夢見の鳥、青い蝶の髪飾りをそこに添えたなら、誰の目にも遠い休日の姿はお終い。――観客の前、光を浴びて微笑む『歌い鳥』の装いが、優歌を戦いの舞台のさなかへ押し出した。
 その華やかさに、かつて同じ視界を持っていたのだろう娘たちが反応する。未だ光を失わない夢を呪詛の毒で冒し、引き裂き、自分と同じところへ堕としにかかる枯れ花の嵐を、優歌は鈴蘭水仙の花宿す細剣で薙ぎ払った。
「すまない……私には、嫉妬が分からないんだ」
 選ばれなかった自分の手に、顔を伏せたりはしない。選ばれた手を見つめ、自分のそれとの差異を、求められ足りなかったものを探し、それを持つものを賞賛し――次への糧とするだけだ。
「誰の為に踊っていた? 私には、笑顔にしたい人が居る。歌も、お芝居も、それが出来る場所や地位も……全てはその為」
 自分の為ではない。誰かの為に、命を燃やして輝くことしか選べない――それが雛瑠璃・優歌という人間だと知っている。
「……貴方モ、奪わレレバイイ……奪っテアゲル!」
 乾いた花が肌を切り裂いていく。構わない、これは舞台だ。眼前に立ち塞がるものを振り払い、乗り越えて、一番星を目指す娘の物語。
「何度でも奪いに来ればいい。今更退けるものか――失っても、奪われても。何度持たざる者になっても……!」
 決意を映した一閃が風を切る。青白い残像を娘の胸に咲かせれば、揺らいだ輪郭の向こうに夕陽が透けた。
「……あたしが代わりに連れていくよ。あなたの願い」
 ぽつり零した言葉を、暖かな色に染まる風が攫っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

薬袋・桜夜
まどか/f18469と

うむ、満足だ!
嗚呼、男前になったな。似合っておるぞ!

ホォー…
中々に弄んでくれるではないか……悪い奴め
でも、我は褒められ機嫌が良いから許す

っはは、見事に煽りよるのう…
まどからしいが、な

だが、――その言葉に違いはない

同情心を煽るには心に響かん
ただの言葉の羅列よ

おぬしが奪った者も同じ事を思うだろうよ

景気付けに花吹雪を見舞うとしようか
そのまま巻き上げ渦を成し、天高く舞い上げ地に落とす

乾く身を水塊で覆い、手に握るは花弁の刀
身を浮かせ春風と共に詰め寄り懐に突き立てる

足掻く努力は良し!
されど、その足掻き泣き喚く赤子と同じぞ
歳を考えい…何とも見苦しい、見てられん

……もう良い――楽になれ


旭・まどか
さよ/f24338と

好きに誂えてどんな気分?
似合っているのは当然でしょう
男前…は、僕に似合う形容かどうかわからないけれど

お前は…普段とあまり変わらないね?
…冗談だ。良く似合っているよ
許して貰えるなら、世辞を述べた甲斐があるよ


羨ましい?
それとも、恨めしい?

今世を謳歌する僕たちが

奪ったとて、何に成る
お前の手元に戻るでもあるまいし

減らず口が僕の専売特許でね
さよも同じ事を思っていたんじゃあないか

邪魔者にはご退場願おう


差し向けるは夜の住人たち
僕の穢血を求める其らに、施しを授けよう

けたたましい叫び声はいっそ不愉快で
狂い、踊る様も目に余る

僕には醜怪にしか映らないよ
――当然、此れらにも

目障りだ
はやく消し去って



●現に凝る醜悪
「――好きに誂えて、どんな気分?」
「うむ、満足だ!」
 戦場へと駆ける足に翻る裾、握り込んだ拳の際に揺れる袖。傍らを息も切らさず追走しながら、桜夜は至極満ち足りた顔をまどかに向けた。
「嗚呼、男前になったな。似合っておるぞ!」
 人形の如く立つばかりでは、華の装いも浮かばれぬもの。馳せる姿に己の見立ての正しさを知り、桜夜は満ち足りていた。
「似合っているのは当然でしょう。男前……は、……その形容は僕に見合っているの」
 まどかは傾げた首で、傍らの小さな桜の精を掠め見た。
「お前は……普段とあまり変わらないね?」
「ホォー……よくぞ言った」
 眇める瞳に噴き出して、冗談だと並べる。
「良く似合っているよ」
「ふん、中々に弄んでくれるではないか……悪い奴め。でも、我は褒められ機嫌が良いから許す」
「それはどうも、世辞を述べた甲斐があるよ」
 ただ褒めるばかりでは済まさないまどからしさを、素直ではないなと愉快げに小突く桜夜。――あの街の続きのような胸に灯燈る遣り取りに、
「――来たね。羨ましい? それとも、恨めしい? 今世を謳歌する僕たちが」
 挑発されたものか、それともただ焦がれたものか。叫ぶ怨嗟に蒼白い映し身を呼び、奪わんと伸ばされる夢見草たちの手を、まどかの影の中から立ち上がった夜の住人たちが素気無く振り払う。
「奪ったとて、何に成る。お前の手元に戻るでもあるまいし」
「っはは、見事に煽りよるのう……それもまどからしいが、な」
 桜角をふるり揺らせば、巻き起こる花色の嵐。景気付けだと放つ花吹雪は、巻き上がり渦をなし、青白い頬の娘を虚空へ吹き飛ばす。
「その言葉に違いはない。同情心を煽るには心に響かん、ただの言葉の羅列よ」
「……なんだ。さよも同じ事を思っていたんじゃないか」
 減らず口は専売特許だと思っていたのに、と冷ややかに囃すまどか。にこりと笑みを浮かべ、桜夜は夜の魚の影泳ぐ亡霊ラムプをゆらりと揺らし、水の彩を喚ぶ。
 嘗て水に近くあったこの身の名残り。戦場に満ちる薄暗い怒りの熱と夕暮れが、この身を乾かせてしまったから――指先から爪先までを淡い雫で覆いゆけば、掌中には花弁の刃。水を纏ったからだとは思えぬ軽さで春風に乗り、地上へ落ち来る娘の懐に刃を突き立てる。
「足掻く努力は良し! されどその様は何とする。悪戯に泣き喚くは赤子と同じぞ、歳を考えい」
 一閃は容赦なく娘を穿つも、桜夜の声は責めるよりも叱るよう。視線をふいと逸らしたまどかは、けたたましく上がる悲鳴に不快を隠さない。叫び声も狂い踊るさまも目に余る。
「僕には醜怪にしか映らないよ。――当然、此れらにも」
 そうだろう、と訊かずとも答えは知れていた。
 夜に棲まうものたちが、境目の世界に顕現する。黒き脚に切り裂かれた傷から零れ落ち、影の色を濃くするまどかの血は、彼らには何よりの施しだ。
 夕暮れに闇の輪郭をくっきりと浮き上がらせて、ヴァンパイアたちは躍りかかる。不愉快な響きを齎すもの、彼らの食事を邪魔するものに。
「目障りだ。……これが欲しいならあげるから、はやく消し去って」
 闇に塗り潰されていくからだから、最後の声が零れ落ちた。――……私ハ、憐れナンカジャナイ。
 もう良い、と桜夜は花刃に力を籠め、目を伏せた。娘たちの告げるは言葉ばかり、生前の行いも励みも桜夜たちには知る由もない。
 邁進すれど輝きには届かず、伸ばした手の行く先に迷い、それでも生きる者がいる。そのさやけき光こそ、桜夜の尊しとするものではあるけれど。
「……もう苦しまずとも良い。――楽になれ」
 枯れ花の嵐で闇をこじ開けようとするものの胸へ、生きたる花の刃を突き立てた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リドリー・ジーン
悲痛な声が聞こえてくるわ
出来る事ならば、貴方達も転生させてあげたかったけれど
…そう、無理なのね

指定UCで足元、地の下、木の根を這わせる【目立たない】ように攻撃の準備
後はブローチを使って【歌唱】して注意を惹きつける
少し挑発するように立ち振る舞って、こちらに目線をくれたなら私の合図でUCの【攻撃回数】で地の下から次々根を突き上げて攻撃するわ
纏めて皆木々に絡まりなさい【時間稼ぎ】になるならそれでいいわ
皆さんの攻撃の援助になるよう立ち回る

悲しい過去が貴方達にはあったのね…貴方達が舞台の上に立つ姿を見てみたかったわ。きっと素敵だったのでしょうね。
大丈夫、もう嘆く事もないわ、骸の海でせめてどうか安らかに


御園・桜花
「最後の一瞬だけを切り取られて固定される。そこに至るまでにはうれしい記憶も楽しい記憶もあったでしょうに」

積極的に前に出て敵の攻撃を第六感や見切りで読んで効果的に盾受け
相手の行動が止まる一瞬に合わせUC「エントの召喚」使用
地中からエントの根で一気に刺し貫いていく
戦闘終了まで同様の方法で戦い前線維持

「苦しい夢はこれでお仕舞いです。どうか楽しい夢を…そして新たな転生を」
優しい子守唄に破魔の調べを乗せて歌い夢散りの娘達を見送る
「転生を為すには転生したいと言う影朧自身の想いが必要ですから。ただ想いを消してしまうだけでは何も残らない。夢見の娘達が少しでも転生に向き合えれば…彼女も、きっと」
行った先を見る



●可能性の萌芽
 雪と花の混じる風に、絶えず聞こえてくるのは悲痛な声。リドリーは耳を塞ぐことなく、狂おしく踊る娘たちを見つめていた。
 外套から零れ落ちた小さな種が、長い影さす足元にたちまち芽吹く。静かに、静かにと囁くさやかな歌声に宥められ、リドリーの影に潜り込むように地中に根差し、ゆびさきを広げていく。――その先は。
「さあ、どうぞ。踊りには自信があるようだけど、その手足を囚われてもまだ踊れるかしら」
 心にもない言葉を注意を集めるすべとして、夢見草の娘の眼差しひとつを得たリドリーは、胸を彩る真紅のブローチに触れた。祖母から受け継いだ指輪とともに身を彩るそれは、歌声を世界に響かせるための蒸気機関拡声器。
 紡ぐ声は伸びやかに風に拡がった。素直な響きを糧として、根を下ろしたばかりの植物が地を揺らし、穿ち、敵意を見せた夢見草の娘のもとへと版図を広げていく。
「――……嗚呼、私達ハ……私達ノ夢ハ、希望ハ……!」
 対抗するように張り上げた娘の叫びが青白く染まり、娘のかたちをなしてリドリーを取り囲んだ。全方向から放たれる呪詛の声に、全身が拒否を叫ぶ。
(「……なんて、悲しい声」)
 胸が潰れてしまいそうで、浅くなる呼吸をブローチを握って堪える。冷ややかな風を大きく吸い込んで、空を仰いだ。
 ……――♪
 纏わりつく呪詛はそのままに、天へ響かせた歌声が萎縮した体を開放する。途端、制御を失って地中に留まっていた根の子たちが一斉に地上へ噴き出し、娘もろとも空へ突き上がった。
 歌に促され次々と伸びる蔓が、娘の霊体も本体も、すべてを絡め取る。そうよ、と息を継ぎ、しなやかな木々に命じた。
「纏めて皆、絡まりなさい――少し時を稼いでくれるならそれでいいわ」
 頼もしい仲間が終わりを突き付ける、その助けとなればいい。
 生長を続ける蔓に押し潰され、青白い霊たちが消えていく。怨嗟の声がひとつ、またひとつと減って、心が平穏を取り戻していく。左手のベニトアイト、『影の者』、そして歌。祖母から受け継いだリドリーの日々。
「戦場ではなくて……舞台の上に立つ貴方達を見てみたかったわ」
 ひとを害するものと化してなお、品よく美しい所作がそう思わせた。ここに心が伴ったなら、きっとさぞ美しかったのだろうと。
「大丈夫、もう嘆くこともないわ。木々よ、私の声に応えたまえ――せめて、どうか安らかに」
 出来る事ならば、かの影朧ばかりではなくこの娘たちも転生させてやりたかった。思わず零れてしまった願いを、
「諦めるのはまだ早いですよ、お嬢さん」
 聞き留めたものがある。振り向けば、華やかに波打つ桜色の髪、同じ名の花の角。青い瞳をふわりと笑わせて、桜花は告げた。
「帝都に現れるオブリビオンはすべて影朧。――その全てが転生の望みを持つとは限りませんが……」
 今はまだ悲しみの中にある彼女たちを、鎮めることができたなら。桜の精である桜花には、転生へ向かう癒しを届けることができる。
「その時は私も頑張ります。お力を貸していただけますか?」
「――、ええ、勿論!」
 目の前に不意に開けた光に、リドリーは歓喜の歌で応えた。主の歌声を追い風に、盛んに茂りゆく蔓が娘を覆い尽くしていく。
 嫌がり暴れる脚が戒めを切り裂いていく。しなやかで丈夫な蔓さえ断ち切る刃の前へ、桜花は迷わず飛び出した。
 あの華やかな街の喫茶店から抜け出たよう。着物に白いフリルのエプロン、そして退魔の力を帯びた銀盆は、ハイカラなメイドの代名詞。仲間の戒めが鈍らせた娘の動きを読み、鋭い脚から放たれる斬撃を銀盆に受け流し、宣告する。
「おいでませ我らが同胞。その偉大なる武と威をもちいて、我らが敵を――いいえ、巡りへ還るべきものを、呪いから解き放たん!」
 滅ぼすのではなく、魂の癒えるひとときを。木の肌を持つ素朴な牧人の霊が、その願いを受け止めた。
 足踏みに合わせて芽吹き貫く根は、遠い日の悲嘆を。遠き秋の熱に染まった枯れ葉の吹雪は、いま猛る憤怒を。体ごと貫いて、切り裂いて、桜花は語り掛ける。
「最後の一瞬だけを切り取られて、固定される。そこに至るまでには、うれしい記憶も楽しい記憶もあったでしょうに」
 人の生は最期の一瞬ばかりではない。命が終わるまで懸命に育てた咲かずの蕾を、桜花は尊いと思うから。――次の巡りにはどうか、美しい花を咲かせて欲しいと思うから。
「苦しい夢はこれでお仕舞いです。どうか楽しい夢を……そして新たな転生を」
 消えゆく足から呪わしい黒の彩が消えていくのを見送りながら、祈った。破魔の祈りを乗せた子守歌が滔々と流れゆけば、いつの間にか傍らに並んでいたリドリーが、美しく重なる調べを歌い添える。
「……無事に還れたかしら」
「どうでしょうか。……でも、たとえば誰もが還ることができなくても」
 もしもひとりでも、少しでも、次の生に希望を抱けた者があったなら。
「……彼女も、きっと」
 夕暮れに染まる空き地。視線を投げれば、影朧の影が長く伸びていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クリストフ・ポー
【ポーさん家】
正当化はしない
これは紛れもなく、狩りだ
口の端のクリームを舐めとり口火を切ろう
ダッシュし、見切りと第六感で攻撃を潜り抜け
誘き寄せる

悲劇か、喜劇か
奪われたから、奪う側に回る
怒り、哀しみ、拭いされぬ後悔
復讐にかられる気持ちは解からなくもないさ
僕も…その点は、同じだからね

君等の不幸は
ちょっとした間の悪さと
然るべき標的を得なかったことさ
やり場のない殺意が渦巻いて、蟲毒のようだと
感情の儘
慈しみを含んだ瞳で見つめ

可哀想にね

せめてもの餞に
白き手と手をつなぐ
クラリスと玄冬に追いやられた娘達へ、牙をむくよ

アンジェリカ、僕の花嫁
この狂い咲きの桜の園で
君の大輪の薔薇を魅せておやり

白は、深紅へ
赫う嵐が来る


黒門・玄冬
【ポーさん家】母さん(f02167)、クラリス(f10090)
クラリスの口許を拭ったハンカチを懐へ戻しながら
目線を交わし、石畳を蹴った
僕等が群れであるのなら
狩りの手筈は承知している

彼女達が
己を不幸だと
不当だと
嘆き怒るのであれば
誰がそれを批判出来るだろうか

僕には
受け止めることしか出来ない
そしてこの手で終わらせる為に力を尽くし
一緒にはいけないと詫びることしか

【プログラムド・ジェノサイド】
攻撃をオーラ防御と耐性で凌ぎながら
逃げ足、フェイント、吹き飛ばし、
時にワイヤーと壁を使った空中戦と地形の利用で
義妹と手分け、母さんの前へと追い込む

祈りは烏滸がましいのかもしれない
けれどいつか
苦痛から解放される日を


クラリス・ポー
【ポーさん家】
クリストフ義母様(f02167)
玄冬兄さん(f03332)

プリンアラモードの名残を拭ってくれた兄さんに
座った肩から有難う御座いますと告げ
意を決して、召喚したライオンさんの背へ飛び乗ります

彼女達の悲痛な叫びが耳に届く度
胸がえぐられるようで、泣きそうになってしまう
襲う悲しみを抱えきれず
孤独の中で暗闇に落ちてしまった
私も孤独だったなら
同じように、誰かを怨み妬ましいと思ったかもしれない
だから止めなくちゃ
これ以上、彼女達の手を悲劇で染めない為に

玄冬兄さんと二手に分かれ、
クリストフ義母さまの方へ
オーラ防御と武器受けと学習力で攻撃を躱し
夢見草の娘さん達を誘導します

ライオンさん、止まらないで!



●慈しみ深く
 頬にひとかけ残された、甘くやわらかな『お土産』をハンカチで拭ってくれた兄の手は、とても優しかった。
 熱の有無に関わらず、大きな手はクラリスにはとてもあたたかで――だからこそ、自身と力を分かつ獅子の背で今、クラリスは泣きそうになってしまう。
「――如何シテ、私ダケ」
「憐れナンカジャナイ――筈ナノニ――如何シテ」
 娘たちの声が届くたび、ヴェールに仕舞った耳が震えてしまう。怖いからではなく、胸が詰まって、抉られるようでかなしいのだ。
 襲う悲しみをひとりでは抱えきれず、孤独の中でくらやみに落ちてしまった夢見草の娘たち。もしも――とクラリスは思う。
 プリンアラモードに夢中な自分を、まるで自分のことのように満足げに見つめるクリストフや、少しだけ和いだ瞳で見守りながら、自分のフルーツを分けてくれる玄冬。そのまなざしや手がもしも、自分に遠いものだったなら、
(「彼女達と同じように、私も誰かを怨み、妬ましいと思ったかもしれない」)
 でも――だからこそ。止めなくちゃ、と少女は思う。これ以上その悲しみに、寂しさに、悲劇を刻ませてはいけないのだと。
 大きなアーモンドのような澄んだ瞳に決意を悟り、見交わした玄冬は素早く地を蹴った。
 気心も手筈も知れた家族ならば、ひとつの群れにほかならない。――狩りの手筈は熟知している。
 そうだねとクリストフは笑った。
「正当化はしない。生きる者等を守る為に、君等の命を奪う――これは紛れもなく、狩りだ」
 眼前の光景のからさに、舐めとった口の端のクリームの甘さがやけに際立った。黒々と呪詛に染まる脚がここへ至る前に、敵前へ躍り出る。
 子供たちは黙っていてもついてくるだろう。その信頼あればこそ、視線さえも投げずにいられる。
「悲劇か、喜劇か……どちらにも描けそうだ。復讐にかられる気持ちは解らなくもないさ」
 奪われたから奪う側に回ったのに、それでも癒えぬ怒りと哀しみ、拭えぬ後悔。くるくると入れ替わる悲喜に狂って、ここまで来たのだろうか。――まるで蟲毒だ。
「僕も……復讐に駆り立てられるという一点は、同じだからね」
 踏み込んだ懐で笑み零し、蹴撃に跳ね飛ばされる前に赤薔薇を散らす。呪詛の闇を削いでいく花の刃に、
「ライオンさん、止まらないで!」
 左からは玄冬が、右からは獅子とクラリスが攻め重ねる。
 脳に叩き込んである『狩り』の手順を、玄冬の体は機械的に、正確になぞり上げていた。接近を拒むように放たれる枯れ花の雨を、体表にふわりと滲む気で和らげる。がらんとした空き地に残された杭のいくつかを目端に留め、放つワイヤーで素早く離脱しては、また己が体を引き戻し、敵を追い込む。獅子の背に乗り駆ける妹に狙いが向かぬよう、吶喊する母に苛烈な一撃が降らぬよう、きめ細かな意識で微細な修正を繰り返す――。
 その一方で、
「……僕は、貴女方を批判できない」
 心は、ひたりと敵を見つめている。向き合う肌を打つかのような怒り、悲しみ。娘たちが己を不幸だと、その不幸が不当だと嘆くのならば、その故も知らぬものが責めていい理屈はない。
「僕には――受け止めることしかできない。終わらせるためにこの手を尽くし、一緒には行けないと詫びることしか」
 それしかできないとは、それができるということだ。だからただ只管に、直向きに、憤怒の花を受け取っては病葉の得物を叩き込む。その終わりが早く、与う苦痛が少なければいいと願いながら。
「優しいね、お前は」
 笑う言の葉で頭を撫ぜ、クリストフはさらに踏み込んだ。躱しきれずに身を裂いた刃の脚に、お見事と笑いさえする。広げたかいなに白き人形を招き、あまくその名を紡ぐ。
「アンジェリカ、僕の花嫁――この狂い咲きの桜の園で、君の大輪の薔薇を魅せておやり」
 繋ぐ手の導きに、白薔薇の花嫁は咲き誇る薔薇へと姿を変えた。先刻よりも麗しく馨しく、散り際にはただ鋭く、夢見草の娘たちを刈り取っていく。
 玄冬とクラリスに逃げ道を塞がれた娘へ、ねえ、とクリストフは首を傾げた。
「君等の不幸は、ちょっとした間の悪さと然るべき標的を得なかったことさ」
 少なくとも機をはかる理知があり、ただひとり憎むべきものが定まっていたのなら、これほどに狂い果てることはなかっただろう。小さな身ひとつに渦巻く毒のような感情を、眼差しに慈しみ、抱いた。――可哀想にね。
 白薔薇の刃の嵐が真紅に染まっていく。やがてその色に塗り潰され、ぐらりと倒れ込んだ夢見草の娘を、気づけば子らの眼差しが労るように見下ろしていた。
「祈りは……烏滸がましいのだろうか」
 玄冬の唇から零れた言葉は、揺らいで消えたものへの餞。祈ったとして、桜精のように癒しを与えられるでもない。娘たちの憤怒がなかったことになるわけでもない。それでも、
(「――いつか、解放される日を」)
 その想いはきっと、この世界の桜精たちの癒しへと繋がるだろう。痛みも苦しみもすべて忘れて、巡りの中へ送り出すだろう。
 それを信じるしか――いや、信じることができる。
 掌を握り締めた玄冬にそっと、ふたつの温もりが触れた。
 大きな手に触れる、妹の小さな手。大きな背中に凭れる、母の小さな背中。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フェレス・エルラーブンダ
るい(f13398)と
同情はない
共感をもたないから
けれど、

もたざるものはゆめをみない
だからなにも惜しくない
失うことのほうが
きっとたくさんいたくて、くやしいんだろうな

るい、あいつらは
『かなしい』?それとも『さみしい』?
なら、……つたえなきゃ

折角のおめかしを、と言外に告げられたなら
前へ駆け出そうとする足を止め

片時も手放さない投擲用の棘を一斉発射
春の嵐にも似た鮮烈さを
花吹雪の如く降り注がせ、るいの援護を

翻る裾は落ち着かない
でも、体は軽い

そうだ
『たのしい』も『うれしい』も
からっぽからでも手に入る
……いたくてくるしいのより
こうしているほうがずっといいぞ

跳ねる靴音響かせ
踊り続けよう
泣き声が止むまで、ずっと


冴島・類
※フェレスちゃん(f00338)と

口惜しさは、聞こうとも

穴を埋められないことが…
悲しいのかも

フェレスちゃん
僕は前で話を聞いてみようと思うんだが
後ろからでも一緒に踊ってあげれるかい?
背を任せる、と

広がる裾と跳ねる機敏さ
囀る彼女達と舞うこともできようが
折角の服、裂かれぬように前へ

抜く刃に火を纏わせ踏み込む
ナイフと針の脚での飛び交う音楽を耳に
脚をぎりぎり見切り、切り結び

ああ、見ているとも
無念なら、見せ場を無くして嘆くより
もっと激しく魅せて
どれだけ鮮やかに
明日に夢を、抱いていたか

縫って飛んでくる支援の刃を感じて
声を

踊るのなら
再び巡る日に向けての一歩は如何?
奪われたから、奪って良いなど
言わないでおくれよ



●踊るのならば強かに
「るい、あいつらは、『かなしい』?それとも『さみしい』?」
 問うフェレスの声には同情はなかった。
 奪われて苦しいものを持たざるものは、その痛みを知らない。だから実感は迫らず、残るのは疑問だけだ。
「如何だろうね。穴を埋められないことが……悲しいのかも」
 過度の情は傾けず、さりとて何も思わぬではない。いつもの穏やかな眼差しで娘を見据えた類は、そう答える。そうか、と頷いて、フェレスも視線を並べた。
(「――でも、きっと」)
 かつて持っていたものたちの『持つもの』とは、かたちあるもの、いかにも眩しく輝くものだけではなかったろう。信頼や楽しみ、得難かったいくつかを少しずつ知り始めたフェレスには、少しだけ想像することができた。
(「たくさんいたくて、くやしいんだろうな」)
「なら、……つたえなきゃ」
「うん。僕は前で話を聞いてみようと思うんだが……フェレスちゃん、後ろからでも一緒に踊ってあげられるかい?」
 駆け出そうとする体の前に、控えめに割り込む優しい手。折角手に入れたばかりの『おめかし』を案じる眼差しに足を止め、フェレスはいつもより少し華やいだ衣の袖から、鋭き棘を誘い出した。
 向かいくる刃の吹雪には、死の季節を吹き払っていく強かな春の嵐を、その峻烈さに似る刃の舞を。後方から一斉に解き放たれた棘が、夢見草の娘を追い詰める。
「――るい」
「ああ、背は任せた」
 だから、自分は守ろう。風に広がり躍る袖、楽しいひとときに彼女が得たばかりのものを。
 一足早く駆け抜けた短剣の嵐と、自分を一心に目指す黒針の足が競い奏でる。戦いの音が心地よく耳を打つ間に、類は娘のもとへ踏み込んだ。すかさず翻る黒刃を際に受け止める。
「私ヲ、見テ――」
「ああ、見ているとも。無念なら、見せ場を無くして嘆くより……もっと激しく魅せて」
 刃に流れる炎は、汲み上げきれない澱までも燃やしていく。負の思いを喰い、浄めゆく冴えた熱。
「――どれだけ鮮やかに、明日に夢を、抱いていたか」
「……アァ、あ、ア――! 私ハ……モット、踊リタカッタノニ……!」
 その無念が、苦痛が、悔恨が、憎悪が。燃える刃に流れ込み、吸われ、しらじらと灼かれていく。どす黒い情念を手放すまいと踊り続ける脚と拮抗すれば、駆けてきた棘が娘のからだを縫い留め、軋ませる。
 一手編むたびにはらはら躍る袖、翻る色はどうにも落ち着かない。けれど、体は軽い。
「……そうだ。『たのしい』も『うれしい』も、からっぽからでも手に入る」
 失ったことを嘆くあまりにその歓びを見失い、痛い苦しいとただそればかりに泣くよりも、
「こうしているほうが、ずっといいぞ」
 いつもより高らかな靴音を響かせ、舞い戻った短剣を蹴っては送り出す。そうしてもう一言、言葉を交わすだけの時を稼いでくれた少女にありがとうと声を緩め、類は夢見草に向き直った。
「戦うのなら、君を此処へ縛り付けるものと。踊るのなら、再び巡る日へ向けての一歩は如何?」
 痛みを伴えど自分の生、手放すのは身を切られるようだろう。けれど巡ったその先に、新たな生の舞台は待っている。
「――奪われたから、奪って良いなど言わないでおくれよ」
 まだまっさらな、何に毒されることもない新たな生は、奪わずともその手に巡るから。――この思いできっと、そうさせてみせるから。
 貫く刃が、染み付いた呪詛を剥いでいく。
 踊り果てて灰になったら――桜混じる風に掬われ、巡るだけ。

 最後の舞姫が還りゆき、がらんとした空地に風が吹く。名残の雪と花弁を連れ、まだ寒々と。
 夕闇へ染まりゆく空の下、影を伸ばし、娘は凛と立っていた。
 風にはためく赤い袴と赤いりぼんを、ゆらゆらと燃やしながら。
 白い頬に浮かべた微笑みに、娘たちの終わりを見てなお揺るがず滾る、昏い熱情をあかあかと燈しながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『桜火ノ少女』

POW   :    ファイヤー・オン・クイーン
自身の身体部位ひとつを【、又は対象の身体部位ひとつを強力な爆弾】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。
SPD   :    花散る爆弾
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【含む、生物・非生物を生きた爆弾】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ   :    バレッテーゼボム
【指定座標に見えない爆弾を設置、起爆する事】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●廻想
 自分ほど欲が深く、傲慢なものはいない。娘はずっとそう思って生きてきた。
 あれもこれもと全力で欲しがり、そのどれもを心から愛した。それが誰の思惑や欲望に拠って与えられたものだろうと関係ない。すべて自分が望んだものだ。何一つ疎かにする気はない。
 物も、言葉も。人も、縁も、愛も、どれも愛おしく、世界は美しく思えた。望めば与えられることは当たり前ではあったけれど、その幸福はちゃんと知っていた。
 ――だからあの日、理由さえ分からない爆発に巻き込まれて死んだとき、娘の心は『何故』で埋め尽くされたのだ。
 軽々しく棄てゆけるものに囲まれ、漫然と日々を消費していくだけの下らないいのちなど、この世には溢れているのに。
 如何して、何故――、

●五体満足アイロニィ
「ねえ、教えて頂戴。如何してあなたがた、わたくしの前にその五体満足な躰を晒して居られるのかしら」
 降る桜は、もう娘の容を成しはしなかった。雪と花の降り続く劇場跡地で、影朧は猟兵たちへ微笑みかける。
「御覧になれて? その瞳、ちゃんと映っているかしら。わたくしはこんな姿になってしまったの」
 吹き飛んだ右の半身は、かつてあった容を取り戻していたけれど――それが見た目ばかりを繕ったものなのだと、猟兵たちは思い知った。
 ふわりと持ち上げた裾が、手足が、桜の花片と化し零れてゆく。実体を、得ている実感を持たない幻影は、めらめらと燃えて掻き消え、娘の躰に戻った。
「酷いものでしょう? あの爆発は、わたくしからすべてを奪ったわ。わたくしには何一つ、奪われていいものなど無かったのに」
 仮面のような微笑を浮かべ、静かに語っていた娘の語気は、やわやわと烈しくなっていく。
「教えて頂戴。あなたがた、わたくしより欲深かしら。わたくしより多くを手にして居るかしら。わたくしよりすべてを愛して居るかしら。わたくしよりその手足を必要として居るかしら。――そんな筈は無いわ」
 逢魔が時に、狂気が募る。燃えるような夕陽に照らされた躰のあちらこちらを爆ぜさせて、娘は叫ぶ。
 燦々たる日々の価値も、その身その命に得ることの幸いと責を知りもせず。持たざるものの身で、五体の満足を浪費しているのだろう。それなら、
「それなら、生きるのはわたくしでよかった筈。如何して、何故、わたくしだったの……わたくしが死ななければならなかったの――!」
 絶叫が空間を吹き飛ばす。爆炎が猟兵たちを包み込む。
 奪ったところで自分の物にはならないと、誰かが訴える。知っているわと炎の中で娘が微笑む。薄暗い憤怒と狂気と――仄かな寂寥を帯びたまなざしで。
「それでも、憎いの。奪われる物も持たず、のうのうと生きて居る者が憎い。そういうものに成って仕舞ったのよ、わたくしは――」

 止められるものなら止めて御覧なさいな。そう言って娘は笑った。不条理な運命に傷つけられた躰を、燃え爆ぜる憎悪の炎に包み込んで。
 娘はすべてを奪いに来るだろう。けれど、狂い咲く心の底に残っているかもしれない、本当の思いや気高さを呼び戻すことができたなら――そのときは。
 降り続く幻朧桜に頷いて、猟兵たちはすべてを行使する。
 自分ほど必要としていないと影朧が言った五体を、影朧を倒すために――或いは巡りへ還すために、使い抜いてみせると。
真宮・響
【真宮家】

アンタの言う通り、アンタは持ったもの全てを愛し、満足していた。それ故に失われた痛みは良く分る。でも人の在り方は人それぞれだ。アンタが思うより、人は精一杯生きている。・・・深く愛せる心を持つアンタをこのままにはしておけない。もう一度生き直して感じて見なよ。人の心というものを。

爆弾の攻撃は【見切り】【オーラ防御】【残像】で凌ぐ。爆風の中を【ダッシュ】で突っ切って、【早業】【二回攻撃】で素早く炎の拳を連打。これが人の心の熱さだ。アンタにもあったはずだ、愛するという心の情熱が。もう一度、思い起こしてくれ!!


真宮・奏
【真宮家】

貴方も得られたものを精一杯愛し、ご自分も、人も深く愛された。この愛の深さ、感銘を受けます。それが失われた喪失感は察するに余りあります。でも、人はそれぞれ精一杯生きています。貴女が思うより、ずっと。貴女なら転生して生き直して視点を変えればわかるはず。この世が全て愛しいもので溢れているということを。

【オーラ防御】【盾受け】【武器受け】【盾受け】【拠点防御】で防御を固め、爆風の中を突っ切ります。そして【二回攻撃】【怪力】で眩耀の一撃を思いっきり振り抜きます。その心の闇、照らしてみせます!!


神城・瞬
【真宮家】

貴方は持たざるものは簡単に捨てていける、といいますが、そういう方こそ持つものを大事にします。持つものと持たざるものに区別はありません。必死に生きています。ただ、貴方は周りのものを深く愛せる心をお持ちの方です。転生して、あらたな道を歩めば、きっと視点を変えて生きれるはず。

倒れなければ爆弾にか変えられないはず。【オーラ防御】で攻撃に耐えながら、裂帛の束縛で動きを封じます。更に【誘導弾】【鎧無視攻撃】【マヒ攻撃】【目潰し】【武器落とし】も追撃で使用。動き回れて厄介なら、【吹き飛ばし】【衝撃波】で体勢崩しを狙います。貴女にはもっと多くのものを愛して欲しい。だからこそ。


フリル・インレアン
ふぇ?持っているとか持っていないとか関係ないと思います。
だって、まだ持っていないだけかもしれないじゃないですか。
あなただってそうだったんじゃないですか?
あなたも苦労してようやく手に入れたものだったのではないのですか?

私の体を強力な爆弾に変異させたのですか。
強力な爆弾ということは強化効果になりますね。
では、お洗濯の魔法で落としてしまいますね。

失ったから奪っていいという訳ではないと思いますし、もうやめにしませんか?



●――わたくしの生は、終わってしまったのに
 強い敵意から自分を守るように、空色の帽子をぎゅっと被り直し、フリルは泣きそうな声を零した。
「ふぇ……持っているとかいないとか、関係ないと思います」
 持たざる者は、何も大切にしていない? そんな訳がない、とフリルは思う。だって、誰でも最初は持たざるものなのだ。憧れて手に入れて、欲しがって手に入れて――もちろん、望むことなく手に入れる人もあるかもしれないけれど。
「あなたが狙ってきた人たちだって、まだ持っていないだけかもしれないじゃないですか。あなただって、生きているときはそうだったんじゃないですか?」
 赤い袴の影朧が多少恵まれた立場にあったことは、幼いフリルにも理解できた。生まれながら持っていたものもあっただろう。何もせずに与えられたものもあっただろう。けれど、すべてがそうである筈がない。苦労して努力して、ようやく掴んだ大切なものだって、いくつかはあっただろう。
「持ちものが少ないから死んでいいなんて、おかしいです。それに、失ったから奪っていいという訳では――」
 ――そこまで口にして、怒っているような泣いているような影朧の微笑みに、フリルは気づく。
「ええ、貴女はきっと正しいのでしょうね、真直ぐな御嬢さん。分からず屋はわたくしの方……それで一向に構わないわ?」
 夕暮れの熱に染まった空に、翼のように広がった黒髪が赤く燃え上がる。ひとたび軽く地を蹴るだけで距離を詰め、影朧はさも優しげに腕を伸ばした。
「体を爆弾に……? いえ、させません。強化効果なら、お洗濯の魔法で落としてしまいます……はいっ、ぽんぽんぽんっと」
 三度振り下ろした光の剣から、シャボンの泡が溢れ出す。しつこい汚れも誰かを苦しめる強化の力も、きれいに叩き落としてくれる泡の連撃。――けれど、
「好い香り。でも御免なさい。わたくしの心、余程頑なに汚れているのね」
「ふぇ……!」
 清らかな泡の向こうで、笑いかけた影朧が炎に化生する。泡に威力は僅かに弱められながらも、弾けた炎はフリルを抱き込みにかかった。それを、
「……ふぇ? 熱くない……」
「大丈夫ですね? 母さん、奏、彼女を」
「はい!」
「ああ、任せなよ」
 身に帯びたオーラで庇った少女を続く家族に託し、瞬は六花の杖を振り上げた。
「――貴女は、持たざるものは簡単に捨てていけると言いますが……そういう方こそ持つものを大事にするものです。持つものと持たざるものに区別はありません、誰しも必死に生きています」
 風を裂きしなやかに伸びるヤドリギと藤の蔓が、影朧の動きを一時食い止める。仲間も自身も倒れさせさえしなければ、影朧の力たる爆弾と化され、操られることもない――そう思っていたのだが、
「兄さんっ!」
 唐突に死角から襲い掛かった人型の爆弾の直撃を躱せたのは、奏の声あってのこと。焼きつけられた瞬の片腕を庇い立ちながら、奏は心配に揺れるまなざしを隙あらば瞬へ向けようとする。
「僕は大丈夫だ。……そうか、倒れたものと言うならあの夢見草の娘たちも」
「そうです! 数は多くはありませんが、おそらくこの場にあるすべてを、彼女は……」
 灼熱の爆風を盾や武器で凌ぎながら、奏は影朧の懐に飛び込んだ。
 己の手を爆炎と化し、目の前でにっこりと弧を描く娘の唇こそが正解の印。消え去ること叶わず残された幾人かの夢見草の亡骸に、この時分はまだ冷たい風を厭いもせずに芽吹いた名もなき草、転がる石くれ――この劇場跡地にあるものは、すべて影朧の爆弾となり得るものなのだ。
「……貴女も、得られたものを精一杯愛し、ご自身のことも人のことも深く愛されていた。その愛の深さ、感銘を受けます」
 澄んだ心を炎剣に映し、奏は眩く耀めく一閃で見えざる邪心のみを斬り払う。
 それほどに愛したものを奪われて、どれほどの喪失感に襲われたことだろう。何もかもを燃やし尽くすことで埋め合わせようとする『影朧』たる表層を削ぎ取れば、そこに自分の認めた彼女の愛がきっと見える。――奏はそう信じ、だからこそ語り重ねる。
「でも、人はそれぞれ精一杯生きています。貴女が思うより、ずっと。……わかりませんか? 貴女ならわかるはず」
「今のわたくしがそんな澄んだものに見えて?」
 無垢な心をお持ちなのねと嫋やかに笑い、奏の重なる斬撃を受け止めた腕が爆ぜた。炎を振り払うように叫ぶ。
「転生して生き直して、視点を変えれば分かります! この世が全て愛しいもので溢れているということが……!」
「生まれ直さなくとも知っているわ。でも、もうすべて失ってしまったもの。わたくしにはもう、憎しみの他には何も無いの」
 心の闇を照らしたいのに、届かない。隔てる業炎に唇を噛んだ奏の前に、響は躊躇なく飛び込んだ。
「母さん……!」
「アンタが言うのは、アンタが大切にしてきたもののことだろう? あたしたちはアンタに、人の心を感じてみてほしいんだ」
 繰り出す早業の拳の連撃が風を焦がす。これが人を思う人の心の熱さだと、歪んでしまった心まで届くように。
「これまでに手に入れたものを深く愛せるアンタなら、できるはずだよ。もう一度生き直して……」
「御免なさい。御断りするわ」
 舞う袖が炎に膨れ上がり、響の拳を絡め捉えたまま爆発する。拒絶の炎を、響は続く拳で打ち貫いた。開けた風穴の向こうに、影朧が笑みを消した一瞬を捉える。
(「……ほら。なんて顔をしているんだい、あんた。深く愛せる心を持っていたくせに――」)
 向ける先を失ってしまった。憎まずにいられないものになってしまった。異形の体で突き込む爆炎を見切り、残像を打たせながら、響は歯噛みする。このままにはしておけない。
「助勢します、母さん」
「ああ、瞬!」
 躍りかかる影朧を、茂りゆくアイヴィーの蔓が包み込んだ。その隙に、響は赤熱する拳を緑の上に叩きつける。
 戒めはそう長くは保たない。操る蔓先に怒りに笑う影朧の視界を覆いゆかせながら、瞬は呼びかける。
「どうか考え直してください。転生して新たな道を歩めば、きっと視点を変えて生きられるはず……貴女には、もっと多くのものを愛して欲しい」
「新しい道? それはもう、わたくしの道ではないわ」
 穿たれたばかりの傷が、燃える桜の幻で塞がれていく。影朧は皮肉に微笑んだ。
「如何すればもっと愛せると云うの? ……わたくしの生は終わってしまったのに」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

高階・茉莉(サポート)
『貴方も読書、いかがですか?』
 スペースノイドのウィザード×フォースナイト、26歳の女です。
 普段の口調は「司書さん(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」、時々「眠い(私、キミ、ですぅ、ますぅ、でしょ~、でしょお?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

読書と掃除が趣味で、おっとりとした性格の女性です。
戦闘では主に魔導書やロッドなど、魔法を使って戦う事が多いです。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



「全てを爆弾に変える能力……厄介ですね」
 劇場跡地を、己のテリトリーとする影朧の少女。その能力が、極めて厄介なものであることを高階・茉莉は理解していた。

 目につくものの何を、いつ爆発させるかも少女の自由。
 そのダメージは、着実に猟兵達を蝕んでいくのだ。
 特に厄介なのは、既に仕掛けられている爆弾だ。
 そうでないものとの区別がつかず、意識し過ぎて足を止めれば少女の思うつぼ。
「と、なれば、何らかの対策が必要ですね」
『秘密図書館』の司書として、数多の本に触れて来た彼女は、かつて読んだことがある小説の一幕を思い出す。
 爆発物処理の方法として、定番とされるのは解体だ。
 だが、この場合、その方法は相応しくない。
 となれば、別の方法だ。
 茉莉の眼鏡が煌めいた。
「爆弾を、全て処理してしまいましょう。皆さん、離れてください!」
 宇宙魔術古代書を開いた茉莉の言葉に、少女と交戦していた猟兵達がその場を慌てて飛び退く。
「何をする気!?」
「今あるものを、焼き払います──!!」
 慌てたように茉莉を見る少女。
 だが、少女が妨害するよりも早く、宇宙魔術古代書から、炎について記された文章が飛び出してくる。
「我が呼び起こすは炎の記憶。さぁ、燃え尽きなさい!!」
 現れた炎は、まさに燎原の火の如くに燃え広がった。
 舐めるように劇場跡地を焼きながら炎が走ると、少女によって爆弾化されていた物が次々に爆発していく。
 茉莉を狙おうとする少女だが、炎の文章は少女をも狙い、それを許さない。
 やがて、茉莉が炎を止めた時、仕掛けられていた爆弾は、全て処理されていた。

成功 🔵​🔵​🔴​


※トミーウォーカーからのお知らせ
 ここからはトミーウォーカーの「真壁真人」が代筆します。完成までハイペースで執筆しますので、どうぞご参加をお願いします!
不死兵弐壱型・真夜(サポート)
◆サポート参加◆

享年(外見年齢)15歳のデッドマンの少女。武器を大量に持ち歩いている。
 普段の口調は「むむー、これは大変ですよっ」「私に任せてくださいっ」
という具合に「っ」を多用。
物事に真剣に取り組む良い子。

死を覚悟した時は「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



 猟兵たちのユーベルコードに、その存在を揺るがされながらも、影朧の少女は憎悪の念を募らせていく。その言動に、不死兵弐壱型・真夜は思わず眉根を寄せた。
「むむー、だいぶ、意固地になってしまっていますねっ」
 不条理な運命、理不尽な死を与えられた少女。その生に執着する気持ちは、オブリビオンと化したことで一層強くなっているのだろう。
「わたくしは、全てを与えられていた──だから、取り返すの!」
 今を生きる者達を憎悪し、踏み躙っても。
 瞋恚の炎を瞳に燃やす少女が飛ばして来る爆弾を、真夜の放つ銃弾が貫く。
 生じる爆発に衣服を激しく揺らしながら、彼女は少女の間近へと飛び込んだ。
「あなたは命を失い、その代わりに得たではありませんかっ」
「何を、得たというの?」
「死の安息と、転生の機会を」
 真夜の言葉に、少女は虚を突かれたような表情を浮かべた。
「そのようなもの、わたくしの望みではない!」
「死は、誰でも持っているものですよっ? 私は、それも得られませんでしたがっ」

 銃撃と爆撃が、二人の間で炸裂する。
 サクラミラージュで育った少女にとり、死は縁遠いものだったのだろうと真夜は思う。
 誰にでも訪れるはずの死の安息すら許されず、墓を暴かれ、肢体を不死兵研究のために弄ばれ、死者の尊厳を奪われた。
 ふとした拍子に表に浮かび上がって来る、辛い気持ちと記憶を忘れることは永劫にないのかも知れない。
「とはいえ、不幸自慢をしても仕方ありませんね」
 ただ憎悪だけで動いている今の少女が、他人への共感を得ることも無いだろう。
「止めてあげる──」
「やれるものなら!!」
 真夜へと突き出された少女の手が、内側から赤熱する。
 強烈な爆発が生じ、真夜のいた場所に大穴が開く。
「アハハハハハハ! 跡形もなく……」
 哄笑をあげようとした少女に、薄紅色の花びらが空から落ちる。
 見上げ、そこに桜吹雪のオーラで身を包んだ真夜の姿を認めて、少女は凍り付いた。
 真夜は、ヴォルテックエンジンがもたらす速度によって、爆発の寸前、真夜はその場から空へと退避していた。
 爆風に身を揺らしながらも、真夜の銃口は確実に少女を狙っている。
「さようなら」
 別離の言葉と共に、引き金を引く。
 薄紅色のオーラに包まれた銃弾が少女の頭部へと命中すると同時、激しい爆発が劇場跡地を震わせた。
 その爆風が消えた時、少女の姿は既に無い。

 風に乗り、幻朧桜の花びらが舞う。
 幻朧桜のもたらす転生が、少女の憎悪を浄化してくれることを、真夜たち猟兵は願うのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年10月09日


挿絵イラスト