正しき標識は愛しいアリスの為に嘘を吐く
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縦横無尽に道路が線路が、轍がなんでもあるが、どこもかしこも標識だらけ。
森や家の中、湖の中から不思議な力で空の上にまで、道が存在する。
道を外れることを許さず、標識の指示を必ず遵守する事が大原則の不思議の国。
ここは『フィデリティサインズ』……だった。
この世界にある日召喚された『アリス』が迷い込み、召喚をしたオウガが好き勝手に世界を作り変えていく。そんな日々が始まったのだ。
オウガは規則に縛られ続ける国を否定して、幻想を想像し、強固なイメージを元に構築した魔術で本である自身のページ内に描かれたモノを大量に現実に具現化し、簡単に国を制圧してみせた。
幸福な者から光り物を、そして命を啄む『つばくらさま』の飛行部隊。
そして道を埋め尽くす『うさうさトランプ兵』の陸上部隊。
「楽しい国を造りましょう? アタシが新しいルールになってあげるわ」
『アリス』狩りの為に、派手な制圧ゲームが始まる。
規則に縛られない楽しいゲームを、楽しみましょうと各部隊に伝令すると、迷子のアリスの怯える表情を夢見て呟く。
「嫌なら逃げてもいいのだわ。追い詰めて、美味しく頂く方が」
――アタシ、楽しいもの。
●
「よォ。不思議の国は、好きか? ちと俺様的には他人事じャねェ予知があるんだが……」
フィッダ・ヨクセム(停スル夢・f18408)は本体越しに、猟兵たちへ語りかける。
オウガのせいで不思議の国のルールが歪み、国名すら歪み、在り方が変容した。
改名された国の名前は、……「ユースレスサインズ」。
「召喚された『アリス』は少年。まァ俺様くらいの背丈で、……記憶がねェ」
不思議と摩訶不思議な迷宮を作り出すユーベルコードを扱えるが、戦闘に長けてるということはない。集団戦では頭数に数えられるかも知れないが、勿論戦線に加えるかは合流した猟兵次第のところがある。
「……で、だ。元はルール『遵守』を敷いた国だが、今は真逆な国になってる」
正しき標識は存在せず、ミラーは愉快な仲間たち以外を映さない。
標識は常に、真逆を指し示す。「一方通行限定」「飛行禁止」
信号は不規則に灯り、止まれなんてものはない。
……在るのは「進め!」「この先右折禁止」「Uターン禁止」
「ちなみに、完全に真逆かと問われれば……これが結構な捻くれ具合らしい」
先程の例なら『対面通行可能』『飛行のみ可能』
『止まれ』『右折以外禁止』『Uターン以外禁止』だ。
禁止で取り締まれるものが無いように変えられた。
「オウガのせいで標識の指示を絶対守らない事が国の『ルール』。標識はよく見ると良いぜ?ルール破りは、俺様たちに許された、ルールでもあるんだ」
素直な愉快な仲間たちは新しいルールと信じて疑わないので、車や軽トラック等の邪魔になりながら、コンクリートで舗装された道の上に居たりする。
声をかければ、きっと返る声もあるだろう。愉快な仲間たちは他の国とそう大差ない。
国に敷かれたルールを逆手に取れば、誰でも書き換え可能のトラップだ。
手作りだろうが、『道標』を作り出す事も、解決の糸口となり得るだろう。
「嘘だらけに塗り替えられた不思議の国のアリスを、どうか、オウガのゲームメイクから解き放ッてやッて欲しいんだよ。記憶はねェが、逃避行から脱出出来ればいずれ帰れる道も見つかるッてもんさ」
標識なんて駄目、という国名すら否定する。
まともに相手する事を求められていない国だ。
「バス停が言うのも何だがよ、標識は『常に正しい情報』を示すべきだよなァ」
俺様には関係ねェが、とフィッダは溜息を深く付いて、猟兵たちを見送るのだった。
タテガミ
こんにちは、タテガミです。
初めてのアリスラビリンスは、排気ガス問題が大変なことになっていそうです。
コンクリートミキサー車とか、T字路とか、標識が好きです。
イチオシは、鹿の動物注意。
この依頼は、ほっとくと弄ばれて食べられちゃう迷子のアリスを国から連れ出す戦闘しかない感じの依頼です。今回のアリスは男、中・高校生くらい。
具体的には依頼を紹介するグリモア猟兵、フィッダぐらいの背丈の少年と想像をどうぞ。根暗系なので、お喋りはあまり得意じゃないようですが話しかけ続ければ思い出すものもあるかも知れません。
★【一章】【二章】は戦闘前に、その場に見える嘘つき標識が提示されます。
断章にて挟むので、後から情報が出ることはありません。
ボスはルール厳守を嫌がる幻想方面のお方。
アリスで遊んで、もぐぅして、『私は正しい』を主張することでしょう。
必要とあれば言葉を語り、貴方を幻想と無秩序に誘います。
第1章 集団戦
『つばくらさま』
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POW : するどいつばさ
【翼】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : スワローテイル
【尾羽】が命中した対象を切断する。
WIZ : きりっ
【きりりとした瞳】を向けた対象に、【翼】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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「『アリス』、こっちよ。その道を……そう。【まっすぐすすんで】」
少年はとても、心細かった。
風景に見覚えがなく、思い出そうにも自分が誰かもわからない。
だから、誰の声か分からなくても、ただ素直に進むことしか出来なかった。
「この道を、真っ直ぐ……」
道路がどういう原理か地面を離れて空に道を編み、空中に道を作り出している。
道は縦横無尽に無差別な方向へ道を紡いでおり、どこへ進めばいいか兎に角迷子に優しくない。選べば何処にでも行けるせいで、地図も無ければ迷うばかりなのだ。
所々に突き出した標識や、道路に【直進】の矢印が規則正しく同じ方向を向いているのに『アリス』は気づいた。時折【飛行禁止】の看板も見えるが、『アリス』に翼はなく、看板の意図は分からず仕舞い。
「そうよ『アリス』。空の道はただひたすら、【まっすぐ】よ」
――バサバサバサ、と音がする。『つばくらさま』の大軍がやってきたのだ。
「チチチ。ルールを護る、生き物は」
「幸福な者に違いないでチチ!」
「チチチチ! さぁさぁ『アリス』、恵まれない誰かの為に差し出すでチチ!」
決して空から舞い降りない『つばくらさま』たちは囀る。
『アリス』は特に何か特殊な物を持ってはいなかった。
だから、【まっすぐ】走って、逃げるのだ。
立ち止まったら非情に怖い目に遭う、――そんな気がしたから。
フィーア・ストリッツ
標識類を守ると不利益になる国ですか
反抗期の男子中学生みたいな国ですね
いえ、私記憶喪失なので男子中学生とか知りませんが
自前のナイチンゲール(改造宇宙バイク)で駆けつけましょう
飛行というほど高度が上がるわけではありませんが、とりあえず地面から浮きます
「端的に言って、アナタを助けに来ました。敵が来ているのでさっさと乗ってしっかりしがみついて下さい」
アリスを確保したら、ジグザグ走行で敵の追撃をかわしつつ道を突き進みます
進路上の敵を排除しなければ行けない場合は
【氷雪竜砲】の吹雪でなぎ払いましょう
「竜の吐息の射線上にわざわざ並ぶとは見上げた心がけです。丸ごと消し飛ばしましょう」
【アドリブOK】
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
滅茶苦茶な交通ルールねぇ、ぞっとしねぇな。
だがよ、そういう時こそ【正しい】ルールの覚え時かね!
ともあれここは一刻を争う。
予知が本当だったなら、このままアリスは破滅へ一直線さ。
だから……アタシ達【悲劇覆す札】の出番だろ?
やおらアリスの傍らに現れて、
ニッコリ一つ笑ったら有無を言わさずカブの後ろへ『騎乗』させ。
ジグザグ【ターンを繰り返し】、
空へ向かって『ジャンプ』する!
バイクが空を飛べるのかって?
おあいにく様、コイツは飛び切り変な相棒さ。
【飛行】しながらの『空中戦』もお手の物なんでね!
群がるツバメへ、『衝撃波』の『範囲攻撃』を飛ばして
進む道を切り拓くよ!
ナギツ・イツマイ
「規制を守らない先は当然ながら事故だね」
ー以下は交通事故加担者鏡天秤構造物カシオペイアによる記述であるー
彼に逆らう事が出来なかったんです。いくら危険だって言っても聞いてくれなくて…
「重力航行って調整難しいんだよね」
そう言いながら掟破りの地元走り、って言うんですか?とにかくぐねぐね法定速度を守らず飛んでアリスの所へショートカットしようとするんです。
「これから起きる事は交通事故だからね?しっかりと暴走させよう」
なんて言い出して彼は起動した【活性化1】を全力で暴走させました、なんでも烈風の気泡だとか。要するに障壁です。強靭な。
そして私たちはそれに全力を注ぎながら衝突の衝撃に備えました…
●Corner in the sky
逃げる『アリス』はすぐさま猟兵たちの目にも確認できた。
何しろ、ひたすら【まっすぐ】に道路を己の足で、走っていたからだ。
ホバリングし蛇行運転で道を進むおかしな車が多い中で、ひたすら標識通りの正直さで【真っ直ぐ】道路を走る後ろ姿がひとつだけある。
「標識類を守ると不利になる国ですか。反抗期の男子中学生みたいな国ですね」
自前の改造宇宙バイク、ナイチンゲールを駆るフィーア・ストリッツ(サキエルの眼差し・f05578)。
「……いえ、私記憶喪失なので、男子中学生とか知りませんが」
無表情で、自分の発言を修正する。
言ってみたが、何故そんな単語が出てきたものか疑問に思うがよく分からない。
今気にすることでもないだろう、とナイチンゲールの速度を上げた。
飛行というほど高度が在るわけではないが、ホバー機構搭載のため少しばかり地面から浮いて進んでいる。つばくらさま達の前に回り込むようにジグザクとハンドルを切って『アリス』の前に躍り出た。
「唐突に失礼。端的に言って、アナタを助けに来ました。敵が来ているのでさっさと乗ってしっかりしがみついて下さい」
フィーアの言葉は本当に端的であったが、不思議と怖い人ではないと少年は思う。
「あの、名前とか……わからないんですけど、あの……」
なんと言ったら良いか、と言葉を選んでいるうちにやや遠くからつばくらさまが喧しく囀り始めた。
「チチチ!『アリス』は素直で正直者!」
「ルールを守る素直な子でチチチ!」
「騙されちゃだめでチ!」
我々の言葉を素直に聞いたほうがイイヨ、というニュアンスで、『アリス』の少年は困り果てる。答えを出せずにいると、何かがドゴッ、とぶつかる音がした。
どことなく、すぐ近くで。事故が起きたような音だった。
「規制を守らない先は当然ながら事故だね」
事実、ぺたりと倒れ込んだナギツ・イツマイ(天秤と物の怪・f19292)の言い方では本当に事故が起きたようである。
目を回して倒れ込んだナギツに何が在ったかは、分からない。フィーアは猟兵の犠牲を無駄にしないよう、『アリス』を強引に乗せて、走り出した――。
――ホンの少し前の話――。
ナギツの事を後に報告したのは、交通事故加担者鏡天秤構造物カシオペイアによるものだ。『彼に逆らうことが出来なかったんです』、と。鏡天秤を内包する蒼鯨に乗って、ナギツは事故現場、もとい『アリス』の元へ急いでいた。
「重力航行って調整難しいんだよね」
ふわりふわりやや上空から下り坂を降りてくるように、
戦場の不均衡さに影響を受けて鯨は空を泳ぎながら降りてきていたのだが。
やや高度は高いものの、不思議と看板は直ぐ側にいくつもあった。
【飛行不可】【直進】。道路沿いにそればかりあるのだから、求められている違反は、ナギツにとっても一つである。
速度に制限がないのなら、徐々に加速していく。それに限る。
「いい走りでチチ!」
「しかし! その速さでは次の蛇行でのクラッシュは間違いないでチチ!」
『アリス』を狙う者、といち早く察知したつばくらさま。
丸っこいフォルムからは想像できない速度を持って全力でナギツと鯨を追いかけ羽ばたく。コロコロ転がる方が早そうな、気もするのだが。
「ぐねぐね法定速度は守らなくていいよね?」
『危険ですよ! 絶対、危ないですって!?』
「大丈夫大丈夫、掟破りのZIMOTO走りなら許されるからね」
もし、カシオペイアが車であったなら。あえて更なる加速……アクセルを踏み、スリップ事故すら恐れぬギリギリでドリフト走行を見せつけて。
道路と道路を飛び越えて、『アリス』を目指す。
そんなドラマが在ったことだろう。
「コーナーで差をつけ……はっ!? 空のコーナーってどこでチチ!?」
「チッチッチ! ないなら作り出せばいいでチチ!」
つばくらさま達は気がつく。道自体は真っ直ぐで、差をつける場所などない。
つぶらな瞳を輝かせて、大きく息を吸い込んで自慢の翼で空気抵抗を切り裂き、猟兵を追い抜く最大加速を試みる。
「自爆覚悟の体当たりでチチ! 空中に最速のラインを、描くでチ!」
「空は! 風の読み方は! 自分達が一番良く知ってるでチチ!」
鳥の弾丸が幾つもナギツの背後に迫った時。
「これから起きることは交通事故だからね? しっかりと暴走させよう」
譲れない競争のような心を持って挑んでいたのはつばくらさまだけだった。ナギツはマイペースに、これから起こる事を予想し、数秒後の未来をイメージする。
「調和は天秤の上に」
鯨の中で内包していた天秤に烈風と気泡が灯るように、乗る。
ゆらゆらと揺れていたところでピタリと止まり、調和は視覚的に混ぜられた。
全力で暴走を御すると言った言葉の意味通り、鯨は吐き出すように目的地にそれを配置したのだ。暴走した烈風の気泡は、強靭な障壁となり、展開される。
……そう、つまりは。
その後の展開は、数秒後に衝突した鯨とナギツ、異常な速度で飛んでいたつばくらさま達が衝突した――。
――そして今に戻る。
「真面目な仲間が幾匹かやられたでチチ!」
「回り込むでチ、チチチ!」
フィーアのナイチンゲールを追撃するようなジグザグ走行で。
風に乗って滑るように、飛びながらつばくらさま達は急ぐ。
「『アリス』は逃さないでチチ!」
どんどんの加速して、30センチ圏内に二人を捕らえた。
翼か嘴、どれかを伸ばせば届くかも知れない距離。
「少し、身を屈めてしっかりと掴んでいてください。最悪、凍えます」
――あと一人。誰か、助けがあればそんな事にならないんですが。
先程倒れた猟兵以外、今の所味方は……。
「……あ、え?」
何を言われて居るか分からない『アリス』の少年は、言われた通りにフィーアに縋ろうとした、が。
「アタシを呼んだかい? 呼んでなくても文字通りに駆け付けた!」
難しい走行をしているのにも関わらず、誰かの声がすぐ傍から聞こえた。
宇宙カブJD-1725と共に、フィーアと同じく即座にジグザグ走行で波打つ走りを見せつける数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)。
「無茶苦茶な交通ルールねぇ、ぞっとしねぇな。だがよ、こういう時こそ【正しい】ルールの覚え時かね!」
多喜は『アリス』に視線を合わせて、ニッと笑う。
「ここは一刻を争う。アタシ達の出番だ、さぁさぁ多少止まってもこのスピードなら追いつけまい、カブの後ろに乗りな!」
道路と接していたらキィイイと甲高い音が迸っただろうが、鳴った音は一つであった。勿論、多喜の相棒が鳴らしたものだ。【一時停止】も【停車禁止】も看板がない以上、止まることはルール外のものである。
「遠慮はいらない。ね、早く!」
多喜はフィーアの困った気配を気前よく引き受けて、『アリス』をカブの後ろに受け持ち走り出すように持ちかけた。
『アリス』はやり取りに戸惑いこそしたが、縋るように多喜に掴まる。ぎゅっ、と。
「さぁさぁ、派手にやっちまいな! なぁに邪魔な走りはしないよ、あたしはね!」
「感謝します」
丁度良かった、と軽く頭を下げたフィーア。遠ざかる音に追いつくのは簡単だ。
では、追撃者の数を大きく減らすのが一番である。
「竜の吐息の射線上にわざわざ並ぶとは見上げた心がけです。まるごと消し飛ばしましょう」
スゥウウと、静かに、そして兎に角深く息を吸い込んで。少し、貯める。
合金にまで固めた翼が、全てをズタズタにしそうなタイミングで翼を狙って。
――吐き出す。
突然冬がやってきたように、気温が一気に下リ始めると、鉛の礫と同じような高度で飛翔する翼が鈍る。
「ち、チチ!?」
大威力で叩き込もうとしていた翼だけが凍りつき、ボトボトとつばくらさまが落下していく――。
「スワローテイルは、捨て身中の捨て身でチチ!」
「翼が駄目になっても! 攻撃手段はいくらでもあるでチチ!」
「チチチ! 幸福な者は不幸な誰かに、物を譲るべきでチチ!」
……ブロロロロ、と軽快な音を上げながら多喜は既にやや遠くを走っていたが。
ターンを繰り返しジグザグ走行している揺れが徐々に大きくなっている事に『アリス』は気がついていた。
この走りは、遠くに行くための走り方ではない、と。
「あの、このバイクは……」
「空へ向かって『ジャンプ』する!」
ガッ、と現在の車道を飛び出して、少し離れた空中の車道へ前輪を持ち上げたウィリーで着地を決めながら答える。
「バイクは空を飛べるのか、って顔をしてるね」
見透かしたように『アリス』に声をかけると、……大きく頷いていた。
飛び跳ねるような運転は飛んでいない。
「おあいにく様、コイツは飛び切り変な相棒なのさ」
回り込む運転の終着点を見つけたのか、一気にエンジンを蒸す。
「飛行しながらの、『空中戦』もお手の物なんでね! さぁ、あの子を助けにかっ飛ばすよ!」
フィーアの居た地域まで飛行空路をかっ飛ばし、カブは……多喜の相棒は、大きな声で吼え叫んだ。
「ツバメがヒトにそんなに群がってていいのかい? 衝撃派の範囲攻撃からもう逃げられないよ!」
エンジン音の蒸しとスピードから生み出された衝撃波は、油断していたつばくらさまたちをズタズタに斬り裂く。
少し可哀相な気もしたが、死ぬまで働くツバメであるというのなら。
消え去るまで追撃をやめたりしないだろう。
「幸福な誰かのために、自分が不幸になるのは違うんじゃないかい?」
「全く同感です。ツバメというのは、……」
フィーアは言うのをやめた。暖かい地方の鳥であるものが、最も苦手な吹雪を浴びて不幸じゃないわけがないのでは、と。
「まぁ良くは知りませんが」
「自分のことすら想えなくなったら、あなた生前の物語が泣きそうなモンだ」
二人の猟兵は衝撃派に沈み、凍えた翼でばたばたと空を求める姿に背中を向けて。
『アリス』と逃亡を再開したのだった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
スペードスリー・クイーンズナイト
少年に声をかけ励まそう
大丈夫か、少年!おのれ、嘘の標識で人を惑わせた上に命まで奪おうとするとは……許せん!
【白馬の王子様】を使って少年の所へ向かう
これまで一人で頑張っていた
攻めるよりも少年を守る立ち回りをするぞ
直進は避けてジグザグの動きで白馬を動かす
尾羽攻撃はランスではじいて防御する
無論、ただ守っているだけではない
敵が接近してくるようなら白馬の勢いを利用したランスチャージで攻撃していくぞ
【アドリブ歓迎】
ステラ・アルゲン
カガリ(f04556)と
(アドリブOK)
ルールは守らねばならないと思うが、嘘だらけのルールでは守ったとしても意味がない
さてアリスの少年を守りつつ行かねばならないのでしたか
【追憶の星】を発動し、過去の記憶にある嘗て主が倒した赤い竜の姿へ
ドラゴン注意の看板を見ていませんでしたか?
カガリがアリスを拾ってくれるはずなのでそれまで敵の相手をしよう
それからはカガリと少年を乗せて、標識を無視して蛇行飛行をしつつ進みましょうか
2人を振り落とさないようにしますが……カガリ、敵を任せたからな!
こちらも一応風の【属性攻撃】で突風を作り出し敵を蹴散らしましょうか
出水宮・カガリ
ステラ(f04503)と
※アドリブ可
ルールを破るのが、ルール…?
ええと、つまり、この標識の場合は…
ドラゴン化したステラに騎乗してありすを探す
ドラゴン注意、の標識か
禁止もされていないし、オウガもびっくりするだろうな
(鉄門扉の塗装用ペンキ(【七つ道具】)で、いくらかの「直進」標識を「この先ドラゴン」でざっくり上書きしていく)
ステラが燕の相手をする間、ありすの周りの燕を【籠絡の鉄柵】で追い払い、それに乗るようありすに告げる
落としたりしないから安心しろ
カガリの前に乗せたら、カガリごとステラに【籠絡の鉄柵】で縛る
ちょっと激しく飛ぶからな、乗り物酔いには注意、だ!
燕が回り込んでくるなら【駕砲城壁】で対応を
●Justice
つばくらさまは、『アリス』を追ってひたすら羽ばたく。
「先を行く『アリス』は本当にこっちでいいでチチ!?」
「空の道路、空路はどこへ行くにも辿り着く先は一つきりでチチ!」
「チチチ! つまり、頭数を揃えて飛べば必ず追い着くでチ!」
南の国を目指して住処を変え続けるツバメにとって、長い道路、ジグザク飛行、どちらも苦にはならない。長距離移動は呼吸するように慣れ親しむものであるからだ。
「……『アリス』ってぼくのこと、だよね」
つばくらさまたちも、猟兵も、どちらもが少年を『アリス』と呼称していた。
自分自身も名乗るべき名前を思い出せない以上、それで呼ばれる事に違和感はないのだが……。
「……ぼくは、だれで、なんでこんなことに……?」
立ち止まっても立ち止まらなくても、酷い目に遭うことは確実だ。『アリス』に出来ることは、この世界からの脱出を目指し続けることだけなのだろう。
「……って、立ち止まってちゃ、駄目だよ急がなきゃ……!」
走り疲れてきた足が、悲鳴を上げはじめ、足が縺れて転ぶ。……どしゃ、と盛大に。顔面を打ち付けるレベルの、絶対痛い転び方を『アリス』は披露した。
その時、キラキラと光を振りまいて、光り輝く白馬と共にスペードスリー・クイーンズナイト(女王の騎士・f20236)は現れる。
先に共に『アリス』と逃避行していた他の猟兵の元にふわりと現れたのだ。
「大丈夫か、少年!」
――おっと。テレポートのタイミングを誤ったか……誤魔化しつつ、励まそうか。
命を狙われていてピンチだろう、という意味と。
転ぶというピンチには間に合わなかった、無念の意味を込めて。
スペードスリーが手を差し出すと、『アリス』は躊躇せず握った。膝小僧を少し派手めに擦りむいたがこんなの痛くなんてないし、涙を溜めてなんかいないのだ。
「おのれ、嘘の標識で人を惑わせた上に命まで奪おうとするとは……許せん」
女王の騎士としての、スペードスリーの騎士道精神が、疼く。
肝心の仕えるべき女王には実はあったことがないのだが。
……心の声がそう訴えるのだから。
「目の前の、困った人を助ける事が私の使命であるのだから!」
怪我をした『アリス』の少年を煌めく白馬に乗せたところで、黒い弾丸が遠くに見える。もうすぐにでも追いつきそうなつばくらさまたちが、視界の隅に踊り込んできているのだ。
「……時に少年。走る馬ではなく、跳ね回る馬に乗った経験は?」
「え、と……分からないよ」
「そうか。では痛みを超え、涙の分だけ強くなれるチャンスだな」
スペードスリーの言葉の意味を考える『アリス』だったが、つばくらさまたちが上空に集まり始めている。
ぐるりぐるぐる旋回し、攻撃する方法やスペードスリーから強奪出来そうな物を考えているようだ。
「チ、チチ? 愉快な仲間は金品に数えられるでチ?」
「死にものぐるいで奪って、授けた相手が考えればいいことでチチ」
「チチチ!」
やや長い尾羽根を最大限広げ、滑空するスピードに切れ味を乗せて。
つばくらさまはスペードスリーに一斉に攻撃を仕掛ける。
「攻めるにはやや分が悪い……だが!」
守る為の立ち回りであるならば、それは防衛戦。
数を大きく減らすことばかりが戦いではない。
「直進を避けた白馬の動きに付いてこられるだろうか」
白馬の手綱を軽く引いて、暴れ馬のように乱暴な跳ね回りを演じさせてつばくらさまの強襲を避ける。体への攻撃は、白銀のアリスランスで軽く弾く。
尾羽根ではなく、つばくらさまの体を打つようにして、反らした。
ロデオのような無茶苦茶な動きに『アリス』もつばくらさまも驚いたが、スペードスリーは何処吹く風。
「ただ護っているだけに見えるのならば、それは誤りだ!」
白馬の腹を軽く蹴って合図を送ると、答えるように嘶いた。ジグザグ走りに自身と白馬、そして『アリス』の重量を乗せた槍の冴えは騎士道の様に堅く。重量と速度を穂先の一点に集中させて、突進。やや小柄で丸っこいフォルムを的確に貫いた。
「何度も来るなら、それこそ何度でも返り討ちにしよう!」
――私は、使命を果たす。
スペードスリーは誇りと信念を重く乗せたアリスランスに力を込めて。
つばくらさまと相対するのだった――。
●Dragon attention
色んな背丈の【まっすぐ】進め。
【飛行禁止】の看板に多少の苦言を零す影がある。
「ルールを守らねばならないと思うが、嘘だらけのルールでは守ったとしても意味がない」
そうでしょう、と同意を求めたステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)は、少し待っても返らぬ返事に思わず苦笑を零した。
チラリと視線を送った先の彼が、困ったように出水宮・カガリ(荒城の城門・f04556)は首を傾げて悩み事を口にしていたからだ。
「ルールを破るのが、ルール……? えぇと、つまり、この標識の場合は……」
「カガリ、悩むならいっその事書き換えてしまうといいですよ。そう。例えば」
――この身に纏うは幻影の記憶。過ぎ去りし者の、遠き姿を此処に。
過去の記憶にある赤き、真紅の竜へと変じたステラが、体の大きさを確かめるようにやや大きな体躯の翼を大きく広げた。
之なるは嘗て主が倒した者、しかし、思い馳せる姿は強大で。
姿こそ変わったが、ステラの澄んだ青き水晶の瞳が、一層、際立って見える。
「……成程。【ドラゴン注意】、だな?」
「そうです。ドラゴン注意の看板を周囲で見ていませんでしたか?」
以心伝心と伝わった言葉に嬉しさを感じつつ、ステラはドラゴンの身をやや屈めて、カガリに騎乗を促しながら問う。もしも存在していればルール遵守のルールに組み込まれ、目的が狂ってしまう。
「見たとしても、……そうだ。これでサラサラっと書き換えよう」
騎乗する前に、カガリは身近な看板に近寄り鉄門扉の塗装用ペンキで大胆に、ざっくりと文字を書き記す。
最新ルールが常に一番上に在るものを適応しているとしたら。
……嘘に嘘を塗り重ねた時点で、それがこの国の【現在のルール(嘘)】となる。
「そこにはなんと?」
「【直進】の標識に、【この先ドラゴン】と上書きを。こうすれば、ドラゴンが飛んでいても何もおかしいことはない」
幾つかの標識を書き換えた所で、カガリは満足げに書き換えた文字を眺めた。
――二つしかない様子の標識に、禁止されてないモノで上書きされていたら、オウガも驚くことだろう。
「考えましたね。……さてアリスの少年を守りつつ行かねばならないのでしたか」
「そうだ、ありす。ありすは翼のない少年、と聞いている。すぐ見つかるのでは」
カガリは颯爽と、ドラゴン化したステラに騎乗し、大空を往く。
空の空路に妨害するものは無くやや上空から道路を見下ろせば、まるで蛇大群のように幾つもの、沢山の道がある。
――これらのうちの一つ、というのは……。
ステラが焦るような雰囲気で飛翔を続けていると、カガリは鳥らしきものが人影を追い回す姿を見つけた。
「ステラ。恐らく、あそこだ」
指差し、教えられた事でステラも気づく。
「行きましょうか。頼みましたよ、カガリ」
飛翔する高度を下げ、つばくらさまたちに気付かれるより早く二人は『アリス』の傍に降り立つ。
「うわぁあ大きくて、大きい生き物チチ!」
「【この先ドラゴン】と標識を変えたのはお前たちでチチ!??」
「キラキラ! 私の好きだった王子様の瞳によく似てるチ!」
「『アリス』も重要だけど、この二人からは幸福を得られる気がするチチ!」
気づいたつばくらさまたちは、目ざとく猟兵の身なりを喧しく語り、囀る。
「採れるものなら、採ると良い。敵の相手は私がしよう」
『アリス』に背を向けて鋭い爪でつばくらさまに応戦するステラ。
つばくらさまたちはステラを強固で大きな生き物と信じ、大ダメージを与えんと翼を鋼のように鋭利に固めて斬り付けるが……。ドラゴンと体躯とつばくらさまの鳥としての大きさの差もあって、三十センチ以内の圏内に飛び込めないのだ。
懐に、体に傷を付けんとしても、燕返し……素早く身を反転させることで鋭利な爪や腕の攻撃から逃げている。
「ありす、此処から逃げよう」
『アリス』を直接啄もうとするつばくらさまを、隠形していた籠絡の鉄柵で脅かし、退けながらカガリは声を掛けてみる。助けだぞ、怖くはないぞ、と。
宙を泳ぐ頭の無い黒い魚骨の姿に驚き、『アリス』の助けと気づいて二重に啼く。
「『アリス』、『アリス』! 帰り道を教えてあげるチチ!」
「どうかついてくるでチチ!」
「さぁ手を。それに乗るだけだ、行こう」
え、え? と困る『アリス』は喋る燕と人影とを見比べて、カガリの言葉に従った。手を取って、カガリの前に座らせてステラに騎乗し、合図の言葉を告げる。
「落としたりしないから安心しろ」
「落とし……え!?」
カガリごとステラに籠絡の鉄柵で縛り、やや過激な安全運転の開幕は秒読みとなった。それを事前に知っていたのは猟兵二人だけであったのだが……。
ステラは大きく翼を広げて、翼の羽ばたきで周囲のつばくらさまを思い切り吹き飛ばす。ひゃああ、と情けない声とともに抵抗出来ずにつばくらさまたちは四方八方に吹き飛んでいく。そうしてドラゴンは空へ舞い戻るのだ。
凄いスピードで垂直に急上昇して。
「標識は全て無視です。蛇行飛行で行きますから、酔いにだけ注意して下さい」
【真っ直ぐ】に、空の道路の終わりを目指して飛翔を開始する。
「ありすは乗り物酔いするタイプか?」
「え、うぅん……大丈夫、かな。バイクとかにも乗ったから」
「そうかそうか。これからもっと激しめに飛ぶからな、意志を強く、持つんだ」
『アリス』の少年、本日何度目かの驚きを余所に、最終追撃と風圧に吹き飛ばされたつばくら部隊が舞い戻ってきていた。
蛇行しつつ飛ぶドラゴン目掛けて、小柄なもふもふで最小で最大のダメージを狙っているようだ。
「あとは、そう。耳だ」
――これなるは我が砲門。我が外に敵がある限り、砲弾が尽きることはなし。
「一応塞いで置いたほうが良いでしょうね。もっと身を屈めて置くと尚良いと思います」
身を捩り、小鳥の弾丸を幾つも避けるステラ。
身軽に飛ぶドラゴンに、翼による攻撃がひとつとして命中しないことを悔しがる姿は多数ある。最大の攻撃を最大勢力で穿ってくるのも秒読みか。
――反撃せよ。砲を撃て。
「ずっと邪魔をされては堪らない。……我が外の脅威を、駆逐せよ」
ドラゴンに騎乗する人影が何かを詠唱した、というのはつばくらさまも分かっていたが。攻撃として何も起こらない事を好機と踏んだのか、囀りは増す。
風向きはつばくらさまからステラ側へと、味方していたのだ。
今度こそ、最大にして、渾身の一撃を。
「邪魔をしてるのはどちらでチ!」
四方八方から翼の硬度を上げて決死の覚悟で飛び込んでいく。
「これで! おしまいにするでチチ!」
広げた翼は何物も切り裂き、全てを不幸の物に届ける供物とするために。
「チチチ。首元を掻き切り
……!??」
翼で討つ攻撃が、カガリに一つとして決定的な傷を負わせる事は……なかった。
ようやく敵に翼を当てた燕は、自身の渾身の一撃に等しい光弾としてその身に返されたのだ。まるでガラス窓に減速なしで突っ込んだ小鳥に等しい。
衝撃は飛翔し続けよう、という気力も削いだ。自慢の翼も、片翼が物理的に折れ、砕けて、飛び続ける事など不可能となる。
「玉砕覚悟、というのは戦術としてはありですが」
大きく、強く羽撃いて突風を逆凪いで、風向きを大きく変えて。乗るべき風の不可視の道から転がり落ちた鳥は、道路へとボトボトと墜落していく。
「叶えるべき願いに捧げる自己犠牲は、叶える願いの順番が……違いますね」
献身的自己犠牲は、叶える側が不幸になり続ける。
そんなモノの幸福になり得る唯一の可能性は、――誰かのために飛ぶ翼を折る事。
「もう休んでいいんだ」
ステラとカガリの言葉を聞きながら墜落するつばくら飛行部隊は、役目を終えていく。いつか過去のどこかで誰かのための願いを叶え続け、凍死するように死した自身の最期を。今回もまた、繰り返すように。
「そう、でチか。チチチ、王子様、貴方の願いを、果たせ……」
静かに、徐々に個体数を減らして。
抵抗する気力も取り零し、眠るようにつばくらさまは消え去っていった――。
「ありす、もういいぞ」
「あとは暫くの空の旅をしていてもいいでしょう。良い大空ですよ!」
猟兵二人の言葉に、『アリス』は不思議と答えない。
どことなく顔色が良くないような。
「……えぇと、えと……」
「もう少し、安全運転で、のんびりといきましょうか……?」
勇ましい二人の奮闘に助けられた逃避行であったが。何も覚えていない迷子の『アリス』の性別以外の情報を持ち合わせていなかったが……。この『アリス』の三半規管は、そこまで強くないということを一つ知った猟兵たちであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『うさうさトランプ兵』
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POW : 落雷II
無敵の【空飛ぶイボイノシシ型の対地攻撃機】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD : そう、我々はやればできる!
自身の【ゴーグル】が輝く間、【軽量自動小銃】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ : バーガータイム
【ハンバーガーとフライドチキン】を給仕している間、戦場にいるハンバーガーとフライドチキンを楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
👑11
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●
「迷子の『アリス』は何処へいくの? こちらよ、こちら【徐行】して進むのだわ」
またしても、誰かの声だ。
少年にとっては、猟兵と同じ様に助け船を出す不可視の誰かだと思ってしまう。
姿の見えない誰かの声に、『正しい道』を教えて貰って、進むのだ。
空に編まれた道を抜けると、道路は突如、断崖絶壁のように、殆ど垂直に崩れ道が途切れている。空路の終わりの看板は【この先真っ直ぐ】と示す標識が無数に立ち塞がっていた。つまり……。
「……ここを、降りるの?」
どれほど高所からの降り続ければいいのか分からない『アリス』は唖然とした。
道路は摩訶不思議に、崖と並ぶ様に、緩やかに下降する道を編んでいる。
道に支え等はなく、浮いている雲に乗っているような重力認識が狂うような感覚。
「……先は、長そうだなぁ。でも」
――ぼくは、みちがとてもすきだったようなきがする。
思い出した事は、朧げで理由等はイマイチ掴みきれないが『アリス』は疲れた足を休める様に、坂道のような道路を、ゆっくり降りていく。視界に【隕石の恐れアリ(落石注意)】や、誰かの声が言っていた【徐行】との標識が見える。
疲れたように、崖に溶け込むように古ぼけて崩れかけてた看板だが、それが指し示す物は、『アリス』には分からない。素直で疑わない事は、狂気とも言える。
「『アリス』があの道を下ってくるわ。もうすぐ会えるわね、『アリス』」
――ザッザッ、と規則正しい音がする。
『うさうさトランプ兵』の陸上部隊が、ぞろぞろと集まりだしているのだ。
「思い出すなんて、勿体ないわ。規律なんて、全て嘘に染まってしまうといいのよ」
不思議の国を制圧する兵隊は、唯一の伝令を遂行するために動く。
「愉快な空飛ぶトランクから降下し、攻めていけ!」
「USA!」
「足りなければ陸路を迅速に往くだけだ! ボスの指示遂行を胸に! 以上だ」
「USA! USA!」
ピンクのうさ耳らしいモノを揺らしながら、部隊は一気に制圧を開始する。
愉快な空飛ぶトランクから伸ばしたロープで崖を蹴り、『アリス』を追う――。
スペードスリー・クイーンズナイト
また少年がピンチだ!すぐに追いかけなくては!徐行ということは「全開で」ということだな!貴様らを倒す為に我が全身全霊を注ぐぞ!
陸路を往く敵と戦う
敵を減らすことで少年を守るとしよう
落ちる勢いで崖の上からランスで敵に奇襲を仕掛ける!
落石注意の標識が嘘だと知っている者よ、私がお前への落石だ!
敵をクッションにして勢いの衝撃を和らげる
その後は徐行とは真逆に全開で攻撃を仕掛け続けるぞ!
給仕されるハンバーガーとフライドチキンは私の【もっと愉快な仲間達】に手伝ってもらい食べる量を減らして対処する(口はないが食べ物が消えるように食べられていく)
ハンバーガーおいしかったぞ、礼に我がランスを食らわせてやろう!
フィーア・ストリッツ
規律を軽視する軍隊とか割と悪夢ランキング上位の存在ですね
よく考えると今のこの世界は悪夢の世界でしたから、お似合いといえばそうかも知れません
「どちらにせよフィーアとしてはお断りなので殲滅しますね。はじめまして、さようなら」
【スピンスラッシュストーム】で敵をひき肉に変えていきましょう
はぁ、銃撃で弾幕ですか
ハルバードの刃を盾にすればとりあえず近づけますね
近距離まで踏み込めば銃の間合いは終わりです
「仲間を攻撃しないと反動を食らうのでしょう?引き金を引いてみては?フレンドリーファイアの回数が一回で済むといいですね」
所で、先に行かせたアリスは大丈夫でしょうか
誰かガードしている猟兵が居るといいのですが
アド可
●Free fall
崖の上から見える光景は、下りのサーキットと言えば聞こえは良いが、最下層は漆黒に霞んで何も見えない。猟兵達はどう降りるかを考えつつ、現状を確認し合う。
「規律を軽視する軍隊とは割と悪夢ランキング上位の存在ですよね」
フィーア・ストリッツはゲーム主催者のオウガが作り出した軍隊に毒を吐く。
「よく考えると、今のこの世界は悪夢の世界でしたから、お似合いといえばそうかも知れません」
正しい形でない以上、軍隊が色々緩く、殺しだけを目的にしているのも仕方がない事か。今見ている物は紛うことなき、デスゲームの悪夢、そのものだ。
そんな彼らは現在、USAUSA、と掛け声を全体の統率の為に発し、見るからに体育会系の集団なのだが。うさうさトランプ兵たちが、順番にロープを伝って降りていく。大人数の声が反響していて非情に耳障りだ。
長い長いロープで、垂直の崖を蹴り。
迅速に懸垂下降を行う姿は間違いなく軍隊。
愉快な空飛ぶトランクに収容されたロープの長さも、積載重量の限界も何もかも不明だが、彼らは淡々と『アリス』を追いかけるのだ。
「つまり、また少年がピンチだ!」
スペードスリー・クイーンズナイトは言い切ると、即座に崖から自由落下に身を任せる。アリスランスを構え、何も迷わずに。
彼に続き、フィーアも飛んだ。
先程、崖の道を一歩試しに踏心地を確認した猟兵たちは浮遊の間に思考する。
「崖の道には【徐行】との標識があるな、ということは……『全開で』ということだな?」
「その認識でいいと思います」
――それにしても。道とは思えない浮遊感を思わせるぷるぷる感、でしたね。
道なのにまるで弾力のあるプリンのような感触。
踏み続ければ体が沈まない砂と同じ原理だろうか。
「この道では、急ぎ走れば何も感じないものでしょう、きっと」
降りるだけなら、それでも不思議なだけで問題はないが『アリス』を殺しの部隊が追いかけている。立ち止まってはきっと、足が道に埋もれてしまう。
だからこその【徐行】標識なのだ。
「私はこのまま陸路を往く敵と戦う!」
ランスチャージの体制のまま加速し、『アリス』の傍まで迫るトランプ兵を穿つスペードスリー 落下速度は全て、穿たれたトランプ兵に譲渡され衝撃はあまり響かなかった。衝撃が手にきただけで、無傷の着地だ。
「少年! 疲れているかも知れないが、私達を信じ、先を急ぐんだ」
さっきの人達だ、と『アリス』は思ったようで頷いて早足に道を進んでいく。
「落石注意の標識が嘘だと知っている者よ、私達がお前への隕石だ!」
落下してきた猟兵に押しつぶされ、突き刺され、陸路を小走りで進んでいたうさうさ部隊は立ち止まる。
「陸路を進む隕石に、押し潰されるのはさぁ誰からだろうな。貴様らを倒す為に我が全身全霊を注ぐぞ」
「UuSAaa!」
唐突な敵襲を行ったスペードスリーの挑発に即座に乗り、小銃を素早く構えたが。
うさうさ部隊の上空は非常に隙だらけであった。
「……まぁ、どちらにせよフィーアとしては色々お断りなので、問答無用に殲滅しますね」
うさうさトランプ兵の一部隊の頭上をやや遅れてフィーアも落下速度を加え攻撃に転じる。手を返す様に鴉の図案と数字が刻まれた黒いハルバードを振り回し、自身が弾丸と変じるように薙ぎ払いながら着弾した。
「次々の敵襲だ!! 一同、散れ! 撃て!」
「USA! USA!」
うさうさトランプ兵は仲間を潰されても任務遂行のための反撃を開始する。
ゴーグルを軽く光らせて、軽量自動小銃が一斉に火を吹いたのだ。
「ちなみに、ポールウェポンの真髄は、回転させることで運動エネルギーを維持したまま攻撃を続けることです」
――でも、これは聞いてないやつですね。残念です。
ハルバードの刃で弾丸の雨を弾きながら、フィーアは徐々に部隊に近づいていく。
銃というのは近づけば撃てない。その心理を利用し、言葉を投げかける。
「仲間を攻撃しないと反撃を食らうのでしょう? 引き金をどうぞ引いてみて下さい」
自分の撃ち放った弾丸の数を覚えていれば躊躇なんてなかっただろう。
「フレンドリーファイアの回数が一回で済むといいですね」
この軍隊には、そんな知恵を持つものは誰も居なかったようで一斉に引き金を引く指が止まる。死することを恐れない部隊が、同じ部隊の仲間を討つことを躊躇していているのだ。
「ハイスピードで決断出来ないのは、部隊としては致命的だな」
攻撃の手を止めないスペードスリーの攻撃を止める事もできず、誰も撃たず。
加速するフィーアのハルバードを防ぐ手立てもなく。彼らは『アリス』から徐々に離されていく。彼らにとっても最優先事項の『アリス』。
「えぇい躊躇するな! 気になるなら俺を撃て!」
号令を下す兵隊がそう言えば、幾名が躊躇しながら引き金を引き……勇気ある兵隊は数発に穿たれ戦死した。ばたりと倒れ、大量の血を流す。
「あっけないですよね。でも、これが現実です」
仲間を撃った兵隊は小銃を取り落し、動揺する。
「USA! まだだ、これを食べれば! まだ勝機も、追跡も可能だ!」
唐突に挟まるバーガータイム。ハンバーガーとフライドチキンを給餌する兵隊がぞろぞろと物資を支給し始める。
「致命傷ではない! まだ行けるぞ、USA!」
食べた所で傷が癒えたりしないが、あえてそれに誰も言及せず。
猟兵へも例外はなく、淡々と配りはじめ、食べ始めた。
「あ、……意外に出来たて。美味しい」
「そんなに物資があるのかい? それは大変だ」
スペードスリーがハンドスナップを一つ響かせると、陽気な小人たちがわらわらと現れる。彼らは全て、空腹で。率先して物資を受け取り、平らげる。兵隊の分も食べ尽くすように何度も、何度も。何度も。
ちなみにスペードスリーに口はないが、食べ物が消えるようにその場から消失するので、消費されているようだ。
一種の愉快な光景だろう。何もおかしいことはない。
「USA! 物資がもう持ちません!」
「な、何!?」
楽しいバーガータイムの突然の終焉報告。
「ハンバーガー、美味しかったぞ。例に我がランスを食わせてやろう」
フィーアとスペードスリーの連携で完全に崩壊した部隊の残党にハルバードとランスをたっぷり味わって貰い、活気とやかましさが一気に減退した。
「先を行った『アリス』は大丈夫でしょうか……誰か、ガードしている猟兵がいるといいのですが」
口元のケチャップを拭いながら、『アリス』の無事を想う。
「大丈夫でしょう、自由落下していたのは我々だけではありませんでしたから」
部隊の追撃は続いているはずだが、追いかけた者達がある。
USAの声は、遠くまだ聞こえているが、大丈夫だろう――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
やれやれ、今度は心もとない下り坂かい。
そりゃあゆっくり下りたくなるのも分かるねぇ。
でもこういう時のお約束って段々後ろから足場が崩れたりして……
……やべぇさっき【徐行】の標識があったって事は、
それがビンゴじゃなくても【急いで駆け抜けろ!】って事じゃねぇか!
ちょっとの間喋るなよ、舌噛むぜ!
もう一度アリスを後ろに乗せて、
【ゴッドスピードライド】を発動させて
最高速で駆け抜ける!
降ってくるのが岩じゃなく軍隊だってんなら。
空挺降下も弾幕も、アタシの後ろへ置いて行く。
ついでに排ガスの濃い奴でも途中で吐き出して、
連中への『目潰し』にして同士討ちでもさせるかねぇ?
月・影勝
おっとアリスよ、そんなに急いで何処へゆく?
急ぎの用であればこの時計ウサギが先導致そう!
…うむ、普通なら「変な顔ぶれが全力疾走してきた」と言いたげな顔をするものじゃが
お主はそういう性格ではないようじゃな。不思議の国に向いておるよ
しかし、先に進むにはまだまだ邪魔が多いようじゃな
仰々しい飛行機なぞ持ち出しおって、爆弾や誘導弾でこちらを纏めて吹き飛ばす積もりじゃろうか?
…ならば、UCで攻撃機が放った爆弾も誘導弾も片っ端から掴み、兵士へと投げ返してくれようぞ!
何せ戦闘機は無敵でも兵士共は無敵ではないのじゃからのう
己が撒いた火種、しかと受け取るがよいぞ!
●AVENGER
「やれやれ、今度は下り坂かい」
――そりゃあゆっくり下りたくなるのも分かるねぇ。
数宮・多喜は視界の遠くで歩いていた『アリス』を眺めて、少し目を細める。
慌ただしく逃げ続けるのは、疲れる。わけも分からず逃避行する『アリス』には酷だろう。しかし、既に次の刺客が大勢で追いかけ始めているのだ、早く指摘しなければならない。
「でも、こういうときのお約束って、だんだん後ろから足場が崩れたりして……」
この国は道路だらけだ、突如崩壊し、道が砕ける事もあるだろう、と想像する。
……有り得そうだ、と頷き、一人で納得しかけた時に視界に入る標識【徐行】。
「いや待てよ?……やべぇ【徐行】ってことは【急いで駆け抜けろ!】って事じゃねぇか!」
宇宙カブJD-1725のエンジン回転数を一気に上げる。
うぉんうぉんと相棒が吼え始めた。
ガッとスタートダッシュの勢いに乗り、多喜は慌てて崖沿いの道を急ぐ。降りる順序を守る兵たちを周回遅れにした、ひたすら風を切って最高速度に近いスピードで。
多喜がフルスピードで後方から追い上げている間に、『アリス』は他の猟兵の言葉を受けて、うっかり転げ落ちないよう、気をつけながらなるべく急いで走っていた。
「後ろから、なんだか凄い銃撃の音がするんだけど……大丈夫かな」
「大丈夫だとも。おっとアリスよ、そんなに急いで何処へゆく?」
思わず驚いて仰け反りそうになったところをギリギリ耐えた『アリス』に話しかけたのは、月・影勝(かちかち山の玉兎・f19391)。いつの間にか和装の少年がゆるやかに並走しており、けらけらと笑いながら行き先を問いかける。
返答に困り、『アリス』は困った顔をした。
走っている理由も、逃げる理由も分からない。何処へ行くかも自分ではよく分からず、この先に何があるかもよくわかっては居ないのだ。
「あー……よいよい。答えなどなくとも急ぎの用であればこの時計ウサギが先導致そう!」
「……ほんとう?」
「心細いアリスの先を行ってこその、時計ウサギ、とな」
白い髪を靡かせて、疲れなどない軽やかな走りを見せれば不思議と『アリス』はその姿に笑った。影勝の飄々とした姿が、怖い場所に迷い込んだ事を少しでも夢のように思わせたのだ。
「……うむ。普通な「変な顔ぶれが全力疾走してきた」と言いたげな顔をするものじゃが……」
この『アリス』は猟兵たちの救いの手を借りて、此処まできた。
ピンチをチャンスに変えているのは猟兵だが、しかし……。
「……ん?」
「いいや、お主はそういう性格ではないようじゃな。不思議の国に向いておるよ」
出会ってほんの数分だが、影勝はそう思った。
多少、言葉数が少なくとも。多少の不思議を普通に受け入れられるなら、楽しく過ごせるだろうに、と。
「まぁ観光をしてる時間もないのが惜しいところじゃな」
スーーーっと、空飛ぶトランクから伸びたロープを伝って最短距離で下方に降り立つ幾人のうさうさトランプ兵。まるでヘリコプターから救助に降りてくるように降りてくるので、摩訶不思議な現象だ。数で攻める気なのか、そのまま捨て身でジャンプする者もある。――そして彼らは、無敵を祈るのである。
「UuuSAaaaaa!」
『アリス』最優先の彼らは、想像で羽ばたける鋼鉄の航空機を作り出し、空中で素早く飛び乗った。コクピットは自動操縦となっており、備え付けられた徹甲弾を基本使用するガトリング砲を撃つ事だけ人力としている。
人力操舵をしない代わりに、最高戦力で攻める滑空の布陣だ。
「仰々しい飛行機なぞ持ち出しおって、爆弾や誘導弾でこちらを纏めて吹き飛ばす積もりじゃろうか?」
崖に沢山の戦闘機。煩い上に、数が多い。
全てが爆撃を行い直撃したら、全てが吹き飛ぶ事請負だ。
「USA! パーフェクトに、決めろ!」
「YES! U-Saaaaa!」
ゴーグルを輝かせ、航空機のトリガーを一斉に引くトランプ兵たち。
雨のように降り注ぐ破壊の弾丸の合間を縫って、ブォオオオンと音を響かせて、多喜は最前線にたどり着いた。
「あたしが来たよ! ほら、ちょっとの間喋るなよ、舌噛むぜ!」
アリスを攫うような強引な手段で、流れるように多喜はカブの後ろに乗せて、何よりも早い姿へと変形させる。エンジン音を盛大に響かせていた宇宙バイクは、鋼鉄の翼を獲得し、洗礼されたスピードで加速してその場を去っていく。
勿論、行く手を遮ろうとするトランプ兵だが、濃度の高い排ガスを大いに浴びせ掛けられ盛大に咽る。排ガスは徐々に上方へ、風にのって流れていき、直接被った集団以上の被害が広がっていくのだ。
多喜の操縦テクニックで、更に敵の間を縫うように下へ、下へ、進んでいく。
「全く、アリスのウサギは一体何人おるのだろうの?」
笑って、先行を見送った影勝は、打ち放たれた徹甲弾を掴んでは投げ返し、コクピットや航空機を狙う。
「お主の一手、しかと受け止めたが……無敵なのは、戦闘機だけであろう?」
無敵の航空機に入り込んでいく排ガス。最強最高の機体を想像したのにも関わらず、密閉を想像しきれなかった事に動揺が走った。
撃ちまくっていた付けと同時に、ある苦しみも一気に、彼らを襲う。
「戦闘機のガトリングというのは、連射であろう? おぬしらの敗因は空気の侵食と……」
ちらりと、古びた懐中時計を見て、目を背ける。
空飛ぶイボイノシシ型の対地攻撃機は一気に、落下していく。影勝の投げ返した弾丸にやられた機体を除いても敵対していたほぼ全てが、落ちていく。
それも、その筈だ。
詳細は大幅に省くが、ガトリング砲による連射攻撃だったのである。最高速度に持ち込めば、毎秒65発は固い。それで味方を撃たず、数分となれば……。
「……最速で、深刻な時間切れじゃよ。攻め急ぎよな」
彼らが撒いた火種は、しっかりトランプ兵を滅ぼし尽くしたのだった。
「ひゅぅ! 最高速度はどうだい!」
「目、目が……うぅん……」
最高速のハイスピード運転に、具合を悪くするどころか目を回していた『アリス』に気付かない多喜。
「目? あぁ目まぐるしい高速の世界さ!」
急いで駆け抜け続けた多喜は頭上の変化にも気づいていなかったのだ。
「あ!?」
どちらかが驚いた声をあげた時、消滅しないまま墜落してきたトランプ兵とぶつかって大きくクラッシュ。カブの本体が横滑りし、転んだ程度で済んだが、控えめに言っても最高速での走行だった。
エンジン音が止まり、USAの声以外が一気に静かになった。
暫くしてゆったり速度で小走りしてきた、影勝が言うところでは。
――二人は、すっかり目を回して気絶していたらしい。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ナギツ・イツマイ
「JAF! JAF!」保険は加入しておこうね。
−タッチダウン!降下開始
この試合、1プレー目で指揮官たるQBを潰さないと勝ち目は無い、そんな強迫観念が頭の中で響くんだ。勝てば偉い人がバーガーとピッツァをご馳走してくれる気もするから気合を入れて不意打ちタックルを決めよう。
車は持ってかれたけどこちとらHALO降下さ、懸垂降下には負けてられないね。
−KAMIKZE
我高空ノ事故ヨリ冷風ヲ纏イテ帰還セリ、イザ神風ト成リテ敵陣ヲ蹂躙セン。
それは高空の冷気と暖かい空気が混ざり合い構成された積乱雲、中では雹が渦巻き石臼の如き破壊力を秘めている。
氷の粒を大きくしたミニ積乱雲を纏いバンザイアタック。
●touchdow,n?
「USA! USA!」
蹴散らされ、命を落とし、数が減りゆく一方のうさうさトランプ兵。
「USA! 軍として見れば、損害は甚大だ!」
「USA! しかし、一人でも生き残り『アリス』の手を掴みさえすれば!」
仲間への祈りを時折口にしながら、あるものはロープを握り跳ねるように崖を蹴り降下していく。またあるものは、仲間たちの屍を乗り越えて、早足に『アリス』を追跡する。かっ飛ばされた速度は、彼らの強靭な足を持ってしても、即座に到達する事は叶わず。息切れを無視し、頭上のピンクのスカーフを揺らして、標的を目指す。
……が、一気乱れぬ声に紛れ、何かおかしい音が、聞こえるような。
「USA、下方だけでなく、上方にも異常が?」
「USA、見る限りは、空飛ぶトランクたちが笑ってるだけだが!」
ぴょこぴょこ飛び跳ねる部隊からは、どうしても見て取れない死角。
ロープを使って降りていたあるトランプ兵が後続隊への連絡を試みる動きを見せると、周囲の兵はその行動を無言で支援し、見守った。
……うさうさトランプ兵たちの通信手段、攻撃に用いることは出来ない無線機を取る。幻想とイメージで繋いだ念波は、受け手が居れば、受け取ることが可能だのだ。
「(ガッ――)こちらうさうさタイプD小分隊-N、N以降の小分隊! 何かおかしな音が聞こえないか! オーバー!」
「(ガッ――)おかしいどころじゃない!(ザザ、ザザザ……)うわぁあああああ
!!!(……ブツリ)」
やや乱れた音が返事として返って来た。
距離からして、二つ以上後続の部隊だろう。
「USA! 油断するな、敵対者は下方だけではないはずだ!」
「U-SA!」
「……JAF! ……JAF!」
幻聴ではない声、確かにそれはUSAに紛れて上方から自由落下していた。
――タッチダウン! 降下は順調。開始初速も、好調。
ナギツ・イツマイは、既に幾つかの小分隊を越えてやってきた。
「この試合、1プレー目で指揮官たるクォーターバックを潰し続けないと勝ち目はないんだ」
――そんな強迫観念が頭の中で響くんだ。
彼の試合ならぬ、降下するフィールドは眼前に伸びている。……何処までも、広く遠くに。敵の配置はどこもかしこも似たようなものだ。編成された小部隊の中に、大きめのスカーフを巻いたトランプ兵がいる。
身分等に格差はないにせよ、部隊を任されてる司令官のようなものだ。
「USA! 上空、既に近く! 確かに……なにかが来ます!」
「USA! おいおいおい仲間が先に落下してくるぞ! 受け止めて、安否を確認し手当を優先しろ!」
「「U-SA!」」
ナギツに撥ねられ飛ばされ落ちていったトランプ兵は数人が受け止められ、息があることが確認された。トランプ兵は素早く各々が持っていたハンバーガーをほら、食べろ! と強引な給仕が開始。
息はあっても意識が無い者の姿もあるようで、その給仕は上手く行えず、ぽろりぽろぽろと食されなかったフライドチキンが無残にも落下していく。
「この試合に勝てば、勝てば偉い人がバーガーとピッツァをご馳走してくれる気もする」
少し先の光景を見つめて、ナギツは後の未来の皮算用を考える。
「車はもってかれたけど、こちとらHALO降下さ、懸垂降下には負けてられないね」
高高度降下低高度開傘と書くと大変物々しいが、先程空路で大幅に事故った彼が、これを潜入作戦の名称で言うのだから、これは立派な作戦なのだ。
そうこうしているうちに、次なる標的が既に近く。
やや射程圏内。防衛の壁は薄め、敵の抵抗は虚しいだろう。
色々見える情報だが、どれも軍としては頼りなく、主張の強いチキンとバーガーの匂いにすら霞んでしまうほど。
美味しそうな匂いが、風に乗ってナギツの方にも上がってきていた。
「我高空ノ事故ヨリ冷風ヲ纏イテ帰還セリ、イザ神風ト成リテ敵陣ヲ蹂躙セン」
電報のような言い回しが、ようやくトランプ兵たちの耳に届いた頃にはもう遅い。
ナギツは高空の冷気と、暖かい空気を引き連れて落下していた。調和を保ち、それでいて二律背反のように、嘘のように拮抗したまま。冷気と暖気はナギツの言葉をきっかけに混ざり合い、夏の積乱雲のように急激に質量を増していく。
属性をかけ合わせた自然現象は、やがて小さな雷まで響かせる。
軽く雨粒を発生させたかと思えば、それらは急激に冷やされて雹と代わり、内部で渦を巻く。石臼の如き破壊力を秘めた積乱雲を、シャーマンズゴーストの小さめの体格に身に纏って、特攻の一点を決めに行く。
「USA! 玉か? 瓦礫か? 隕石か? いや違う!」
「USA! 加速の力をもがれた鳥か!?」
氷の粒を大きくしたミニ積乱雲と化したナギツはバンザイ状態で衝突し、満足気にする。やや大きめなスカーフをしたトランプ兵にその一撃は完璧に入った。主に、脳天から体全体に直撃のタックルだ。
助けた仲間、彼が握ったロープの先に居た空飛ぶトランクから伸びた別ロープを握った数のトランプ兵にも大きな衝撃が加わる。
起点に加えた威力の分だけ、トランクは大きく揺れ動いた為、崖から離れ宙に浮かび、衝撃に耐えられなかった兵が無重力に身を投げた。
空路で交通事故を起こしたナギツが、今度は人身事故を起こしたようなものだ。
――KAMIKZE。
ナギツは満足気にそう思った。
空中キャッチに成功した幾つかのバーガーを戦利品に、彼の落下は続く――。
成功
🔵🔵🔴
出水宮・カガリ
ステラと(f04503)と
引き続いて、ドラゴン化したステラに乗っていくぞ
【錬成カミヤドリ】で【鉄門扉の盾】を複製、ありすの近くに盾を飛ばして回収する
ありすを回収する盾の周囲は別の盾で護衛、自分達の周囲も残りの盾で防御
これなら竜の背よりは揺れないかな…?
無敵の攻撃機、との事だが
無敵とは、敵無し、と書く
ところで、戦場でする事は敵への攻撃だが
「敵が無い」はずの「無敵」が、攻撃すべき「敵」は、ここに「無い」はずでは?
「敵が無い」のに敵意を向けるのは、「敵がある」ということになるが
それは…「敵無し」ではない、「無敵」ではないな?
ということをUSA部隊に訊ねてみる
まあどう見ても屁理屈なのだがな、はっはっは
ステラ・アルゲン
カガリ(f04556)と
(アドリブOK)
次の標識は【徐行】と【隕石の恐れアリ(落石注意
)】……?
確かに隕石ならここにいますよ? まぁ今はドラゴンですが
【追憶の星】で赤き竜のまま
少年は三半規管が弱いようですが申し訳ありません
できるだけ揺らさないようにはしますよ
【徐行】はしませんが
カガリ、アリスをまた任せたからな?
敵より高度を高く保つ
対地攻撃ですから対空じゃないですね?
しかもイノシシが空の王とも呼べるドラゴンに勝てると思いますか?
そうやって敵の能力に疑念を抱かせつつ火の【属性攻撃】を魔法で作り出し口から炎を吐きましょうか
アリスは道が好きですか
その道の先が明るいものであるといいですね
●Iron wall『DRAGON DAIVU』
垂直な崖へ身を踊り込ませるように、飛行速度をあまり落とさず下を目指す赤き竜のままのステラ・アルゲン。
羽ばたく翼は強靭なモノ、前を見据えて飛ぶ以外にも余裕が生まれていた。
「ところでカガリ、今の……この道の始まりあたりの看板が、見えましたか?」
「少し、霞んでいたな。沢山あった」
そんなステラに騎乗したままの出水宮・カガリに問えば、薄い応答。
少し空を散歩するように自由に飛翔し過ぎていたようだ、と思うがカガリの反応は想定の範囲内。
「次の標識は【徐行】と【隕石の恐れアリ(落石注意)】とありましたよ」
「嘘という事は、落下の恐れはないということか? でも……」
「確かに隕石ならここにいますよ?」
――まぁ、今はドラゴンですが。
猟兵が巻き上げた目に見えて淀んだ空気の排ガスを、身を僅かに捩り躱す。
自由落下する弾丸のような猟兵の脇をすり抜けて、二人は迅速に『アリス』を再発見する。
そんなアリスは、ホンの少し前に起き上がって下を目指していた。
「バイクって、……あんなに疾いんだね」
怖かった、というよりは、速さに魅了されたように、楽しい、という顔をしている。
スピード狂に目覚める瞬間というのは、いともたやすく訪れるのだ。
ステラがばさり、と大げさな羽音をあげながら、USAの声が後ろに飛んでいくのを聞きながら。
「少年の三半規管が弱いようですが、申し訳ありません。できるだけ揺らさないようにはしますよ」
「ありすは、……とても、稀な体験を、しているな?」
ステラの声掛けに続いてカガリが鉄門扉の盾を複製し、『アリス』の近くに盾を飛ばし、器用に囲んで回収を試みる。
若干遠目に話しかけられた声色が、先程空中ドライブした猟兵でなかったら。
流石の『アリス』も奇妙な体験をしたと驚いたかも知れない。
回収する用に飛ばした盾の周囲をさらに別の複製盾で護衛し、ステラとカガリ、自分達の周囲にも残りの盾を展開する。
防御と共に、護衛も同時に行う護りの布陣。
「これなら、竜の背よりは揺れないかな……?」
「【徐行】はしませんが」
どちらにせよ揺れるだろう、という念を推すと『アリス』の少年は答える。
「……え、と、多分、大丈夫!」
その声色が、先程よりは元気そうだったことで二人は一様に安心する。
少し前まで『アリス』が気絶していた事を二人は知らないが、……それは、それだ。
「そう、ですか。わかりました。カガリ、アリスをまた任せたからな?」
「任された」
大きめな標的と搭乗者が『アリス』を攫う様子を各方面から、双眼鏡を使って見ていたトランプ兵たちは一気に活動を開始。
双眼鏡は投げ捨てた。彼らの最終戦が、ココに始まるのだ。
「USA!(ガッ――)分隊長に通達! 標的は翼持つモノ! 迎撃し、撃ち落せ!」
「U-SA! 今度こそは逃さない! オーバー!」
ロープで慎重に降りていた部隊が自由落下に作戦を切り替え、上空に人の姿が落石のように数え切れないほど落ちてくる。
それを目にした瞬間『アリス』を追いかけていた歩兵隊も道から外れ、わざと飛び降りて無敵の鋼鉄のイボイノシシ型の伝説を想像し、空を飛ぶ。
創造主たちは素早く落雷Ⅱに体を滑り込ませて、機体の大きさを更に空想の翼とともに広げる。
空飛ぶ鉄はエンジン音を響かせながら、大きくなる光を浴びたように急激に機体の面積を膨れ上がらせていく。
ドラゴンとなったステラと同等、それよりも大きいか。鉄である以上、身軽な動きは出来ないが、強い想像と自動操縦がそれをこなす。
無敵と言われた航空機が、一斉に上昇し、落下してくる仲間を機体の上に、翼に拾い上げて猟兵たちに銃を向けた。
「私の上を取りますか。そうはいきません!」
強靭な翼を大きく広げ、下方へ進んでいたステラが進行方向を大きく変えて大空へ向かって飛んでいく。
「高度は高く保つに限ります」
――対地攻撃ですから対空じゃないとは思いますが、うん。飛んでますね。
ステラは羽ばたく、空も標的として入るなら。
銃弾が飛び穿つに難がある上に上に、行くことに意味がある。
下では失速した弾丸ですら、保護対象、危険が及ぶことがありえるからだ。
――カガリの護りがあれば、杞憂なような気もしますけどね。
「無敵の攻撃機、との事だが」
駆け上がるように飛ぶドラゴンの上から、カガリは落雷IIの上の兵たちに話しかける。
「USA! 我々の最終究極攻撃機を褒め称えるか!」
「USA! 泣き叫べ! 今なら感謝の数だけ銃弾を送ろう!」
褒め言葉が来る、と思ったかトランプ兵たちは勝手にボルテージを上げていく。
「無敵とは、敵無し、と書くという。ところで、戦場ですることは敵への攻撃だが……」
指を軽く宙で遊ばせるように、謎掛けを子どもに教えるようにカガリは言う。
数字の8を描くように、特に理由のない指の動きを、攻撃の合図かも知れないと兵たちは一様に警戒する。
「『敵が無い』ハズの『無敵』が、攻撃すべき『敵』は、ここに『無い』ハズとなるのでは?」
そのうちステラがと高い高度を奪取に成功し、バサリバサリと音を立ててその場に対空すると下方に見える落雷IIの上は無言となった。
次第に、ざわざわと、確証のないことで場が騒がしくなっていく。
「『敵が無い』のに敵意を向けるのは、『敵がある』ということになるな?」
「USA! 屁理屈だ!」
「でもカガリ達は、『敵』だろう?『敵は確かに此処に在る』。それは……『敵無し』ではない、ではお前たちは『無敵』と成り得ない。違うか?」
――そうともそうとも。これはどう見ても屁理屈だ。しかし……。
「『無敵』とは『敵』が居ない時に……」
「USA……『敵は、眼前にあり』……」
意志を乱された幻想の無敵は壊れ、一部の落雷IIは飛翔以外の機能を停止した。
備え付けられたガトリングガンが音を立てて落下していく。
「それらはイノシシとも呼ばれるそうですね」
追い打ちを掛けるように、ステラも口を挟む。
「USA! イボイノシシの異名を取る我々の最強兵器だ、何か問題でも? 乗員が在る限りはまだ、『無敵』だぞ!」
「そうですか。空の王とも呼べるドラゴンにも勝てると思いますか?」
ドラゴンの大きな口が、ニィ、と口角を持ち上げる。
……笑った、そうUSA部隊が認識した途端、鋼鉄の翼の上の誰もが一瞬想ってしまった。
『無敵であるはずがない』、と。
「無敵の鉄は、さぞや防火対策も万全なのでしょうね」
疑念を確信へと変えるように、ステラは良いながら魔法を行使する。
口に発生する炎を少し溜めて、一気に吐き出すと、鉄の翼が一気に高温に居たり立っていられない程の熱量をうみだしたが、兵たちに逃げる場所がない。
「USA! 落雷Ⅱはその名の通り、落する雷!」
「USA! まだだ、俺達は! 痛手を負わせてやるんだ!」
「UuSaxaaaaaaaaA!!」
無敵の航空機を、まるで階段のように走りながら駆け上がり、ゴーグルを輝かせて軽量自動小銃のトリガーを引く。
何度も、何度も。――何度も。
「痛手とは、護りのないものが負う。しかし」
手を向ければソレに合わせた動きが念動力で盾が銃弾を弾き、ソレ以上の進行を許さない。通さない。
「壁を越えない銃弾は、決して。閉ざした先へは通さない」
何度も撃たれた弾丸を、カガリは宣言通り不可侵として守り抜いた。
銃弾の音が唐突ぬピタリと止む。落雷Ⅱも、いつのまにか溶けて消えて、ステラ以外の大きな物は居なくなっている。
落雷Ⅱを想像していたのだろう兵のウサギが、力なく落下していく光景があった。
鋼鉄の熱に、意識を飛ばしてしまったのだろう。撃つ為に跳んだウサギはもう帰らないが。
落下するウサギはどうだろう、無事の着地が出来るだろうか。
「休み無く撃ち続けることが、彼らに何を齎したのか……」
「傷を追うこと無く、命の時間を使っただけだ。多分」
『アリス』の少年の目に、そんな光景が入らないように盾の影に隠しながらUSAの声が聞こえなくなった崖を、ドラゴンは飛んでいく。
【標識】と手先として行く手を阻むものは、――もうなにもない。
和やかな飛行の途中で、会話がある。
「……おや、『アリス』は道が、好きですか」
「うん。……これだけずっと変な道を見ていたらね。不思議とそんな気がするんだ」
逃避行で怖いを思いをし続けていても、どうやら先程よりも前を向いているようである少年。
「その道の先が明るいものであるといいですね」
ステラのその言葉に、彼が何を見るか。
カガリはぼんやり考えて。何かが浮かぶわけではなかったが。
――そうだったらいいな、うん。
穏やかな風を全身に受けながら、満足気に頷くのであった。
大成功
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第3章 ボス戦
『『幻創魔書』飛び出す絵本』
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POW : 『赤ずきん』の物語
【レベル体の漁師】と【レベル体の人食い狼】の霊を召喚する。これは【猟銃】や【驚異的なスピードの噛み付き】で攻撃する能力を持つ。
SPD : 『アラジンとまほうのランプ』の物語
無敵の【飛び出す絵本の願いを叶えるランプの魔人】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
WIZ : 『ハーメルンの笛吹き男』の物語
【幻惑に陥れる濃霧】【幻惑に陥れる笛の音色】【レベル×5体の組み付く子どもたち】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
👑11
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●
「あらあら、随分とお客さんが沢山ね。『アリス』」
崖の底は暗く、声だけが聞こえる。
「……ねぇ、君は誰?」
素朴な疑問。
優しく声をかけて、ここへ誘ったのは何故。
「そんな事を気にしてしまうの?『アリス』は理由が欲しいのね」
パサァ、と本が開くような音がすると、周囲はランプの明かり並のぼんやりとした明かりに照らされた。
「この国は本来真面目の国よ、お客さんはご存知だろうけれど」
フフフと、笑う物は、本。
路上に置かれた長机の向こう側でふわりと浮かび、開いたり閉じたりを繰り返す。
「でも、本当にそれは正しい姿かしら。正しい情報しかない世界より、書いてる情報との齟齬が在る、天の邪鬼な世界のほうが楽しくなくて?」
ぺらり、と捲られたページには沢山の『つばくらさま』の絵が。
大分後のページには、『うさうさトランプ兵』が勇ましく戦う姿が。
「真面目すぎると疲れてしまうわ。アタシはこの通り、規則違反で出来てるの」
想像力を膨らませて、空間にその場に存在しないものを、ページから具現化して浮かべる。色とりどりの花に、玩具のラッパ。
「此処には取り締まる者はいないの。アタシがルールだもの。でも幻想過多じゃあ飽きちゃうわ!」
『アリス』を迷い込ませたのは、ただの気まぐれ。
少年に、ルール遵守の色濃い気配を感じたからだ。
「貴方にとって、此処がゴールでバッドエンド、終わりなの。アタシの向こうに続く道は袋小路。逃げ道はないわ、美味しいパーティを開きましょう?」
奥に道はないという言葉が真実とは限らないが。
ひたすら横に広い空間で待ち構える幻想から、『アリス』は逃げ切れるだろうか。
ナギツ・イツマイ
うう…ここはどこ?私はだあれ?この湿気ったバーガーは一体?そしてあの儚げな少年は何者?よく覚えていないけど敵はわかる。
●ナギツPの物語プロデュース
まあ、物語は脈絡なく突然始まるものさ。不思議な魔法使いと出会ってね。
さあ【鏡天秤】を掲げ始まりの物語を紡ごう。
舞台を照すは《北風と太陽》
少年に立ち向かう為の標を示そう、熱き風は彼と共に。
砂漠を統べる《灼熱の砂嵐》よ、果てなき荒野を進む受難の少年を導き給え。
少年よ、前に進みたくば闘うのだ、その導は君の心の願うままに。
立ち込める霧を払い笛の音をかき消せ!熱く強き意志で道を切り開け!!
さあ、風は君の後ろから強く吹いている、旅立ちは今!!!
●Face to the front!
ぺらりぺらりと捲られる本の音に、意識が覚醒した者がいる。
「うう……ここはどこ? 私はだあれ?」
見渡せばランプの明かり。視界の明かりは少し心もとないが、目覚めたナギツ・イツマイは通常時と変わらない。ここまでの破天荒な行動の数々は、『アリス』の逃亡を邪魔する尖兵を薙ぎ払い続けてきた。『アリス』の少年の目に、それらの武勇と勇姿がちゃんと目撃されていたかは一切が謎であるが。
「それに、この湿気ったバーガーは一体?」
落下中に拾った戦利品は、多めの湿度でやや湿気っていたが、食する分には問題なかったりする。 後で食べるかはさておき、スッ、と懐にしまった。手荷物は歓迎、でも今はいけない。食べる時はまだ先だ。
怪我は無いようだと土埃を払ってゆらりと起き上がり、『アリス』の少年を見て。
「そしてあの儚げな少年は何者?」
おかしなことに、その問いには、誰からも返答はない。
しかし、ナギツにも猟兵と、一般人の関係だというのは明白だった。
――よく覚えていないけど敵はわかる。
ふんわりふわふわ、幻想的に浮かんだ本から、可愛らしいイラストが実体を持って飛び出してきている。野うさぎのイラストが、ぴょんと無造作に跳ねて、消えた。
それは攻撃手段であり、あの本の思い描く世界の姿でもある可能性があるのだ。
幻想として、本が紡いだ、虚構の物語。それが今のこの世界の在り方。
「まぁ、物語は脈絡なく突然始まるものさ」
ぽん、と軽く手拍子を一つ。ナギツは突然語りだす。
「不思議な魔法使いと出会うこと。それは物語のプロローグ」
「アタシを相手に、物語を紡いで下さるのね? いいわ、いいわ! でもアタシはそれを『許さない』けれど!」
パラララララ、と勢いよく本のページが捲られると、もくもくと怪しい霧が吹き出してくる。ランプの明かりを埋め尽くす質量を持った、濃霧。
魔本から溢れる視界を遮る霧から漏れ出る幻想的な笛の音。
ひた、ひた……と複数の何者かが歩いてくるような、足音。
異常現象は物語として、紡がれ、現れ始めた。
「おやおや物語の急展開。さぁ【鏡天秤】を掲げて正しい始まりを紡ごう」
掲げた鏡天秤が、左右に揺れる。風も無いのに、ゆらゆらと。
ナギツが描き出し望む舞台は、北風と太陽。
「少年に立ち向かう為の標を示そう、熱き風は彼と共に」
預言者のような物言いで、ナギツは『アリス』の行く先を、照らさんと熱量を膨れ上がらせていく。
「砂漠を統べる《灼熱の砂嵐》よ、果てなき荒野を進む受難の少年を導き給え」
膨らみ続けた熱量と共に砂塵を巻き起こし、濃霧に襲い掛かった。
ただ空間を埋め尽くし、体積を増して増え続けていた濃霧は、熱波に圧されて徐々に消えていく。熱い砂が舞い踊り、蒸し暑いほどだ。
「霧だけだと思っているの? アタシの描く物語の邪魔は、させないわよ」
消えかけた霧から断続的に聞こえる笛の音と裸足の、虚ろの目の、幻想の子どもたちがナギツの視界に現れる。熱さを感じないのか徐々に近づき、何もしなければ触れられてしまうだろう。だが、『敵は飛び出す絵本だけ』であり、敵対するのは魔本に乞い願い生み出された実体を持つ幻想の写しに過ぎない。
そう、これはあくまで本が描くオウガと猟兵の紡ぐ、『戦いの物語』だ。
「少年よ、前に進みたくば闘うのだ、その導は君の心の願うままに」
「……言葉が難しいけど、……うん。なんとなく、わかるよ」
『アリス』は自身の服の胸元をぎゅ、と握った。
沸き立つ感情は、言い表せないが。
表情は不安から、わくわく、という明るいものに変わっていた。
「立ち込める霧を払い笛の音をかき消せ! 熱く強き意志で道を切り開け!!」
ゴォウ、灼熱の熱量とは真逆の皿に、大嵐の風が巻き起こる。
暴れる風は、敵を許さず。傷つける対象を選び、吹き荒んだ。
「さあ、風は君の後ろから強く吹いている、旅立ちは今!!!」
ナギツは鏡天秤を自分の前に指し示す。
『アリス』の歩みを後押しする風を吹かせ、帰りの道を示すように。
強風で音と霧は吹き飛ばされ、霧の中でしか存在を許されなかった子どもたちは存在ごとなかったことになった。
「エピローグは既に定められたようなもの、少年の歩む道は、少年が選び掴み取るのさ」
幻惑の霧と音は逆巻いて、消え去り、描かれた本の物語のページに戻っていく。
少年に希望の風を吹かせて、背中を押した。
物理的な風で、多少強引であったかも知れないが。
――それは確かに、少年にとっては。
『自分が主人公の物語は、自分が進んで紡ぐものだ』と思えたものだった――。
成功
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フィーア・ストリッツ
取り締まるものが居ないなら、そもそも規則違反等という概念が生まれません
そして、この国でルールを課し、住人を取り締まる存在は居ます――つまり、この本自身
「この国は『あべこべの行動をしなければならない』というルールが有るのですよ、ルールブック。規則違反を好むアナタが規則になると言う矛盾、それがこの国の正体」
まぁ正体が何であれ、私がオブリビオンを破壊するのは変わらないのですが
【氷雪竜砲】をたっぷりチャージして叩き込んで差し上げます
「ルールが嫌いだそうですね、ならお互い仲良くできそうにはないです」
「私は、お前に終焉という絶対のルールを課しに来たので」
【アドリブ歓迎】
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
おかしなことを言う本だねぇ。
規則違反が大好き、って事はさ。
それだけ「正しい事」を知ってないとできないのさ。
そしてアンタが天邪鬼な事ばかり言うなら、
却ってそれが新しい「正しい情報」になってるよ?
つまりはここが終わりじゃない。
元の世界への道、拓かせてもらうよ!
意気揚々とカブに『騎乗』し、『操縦』テクを駆使して
全速力で走り回る。
その上でテレパスの『属性攻撃』を乗せた
サイキックエナジーの『衝撃波』を、
周囲に『範囲攻撃』のように放って。
銃弾と噛み付きを近付けさせない!
そうして探査が終わったら、
最終コーナーからの立ち上がりさ。
【サイキック・ブレイカー】で、
正しき道をこじ開ける!
スペードスリー・クイーンズナイト
ここのルールだと言い張る者が通行止めというのか。ならば、ここのルールに則り天邪鬼に通行止めの先に行こうではないか、少年!
我が【ナイツ・ラウンド・シールド】を使って攻撃を防ぐぞ
そもそも規則違反を標榜する癖に自分のルールを他人に押し付けている時点で、お前の言っていることは矛盾している
そのような貫くべき信念すらないような者に我が盾が負けるはずもない!
ましてやそのような者から召喚された者にもな!
盾で攻撃を防いだらランスで攻撃するぞ
全力で勢いをつけて突撃だ!
●Perverse person
風に煽られて、本の意志とは関係なく無造作にページが捲れてパララと音がする。
「ここのルールだと言い張る者が通行止めだというのか」
ふむ、と甲冑に覆われた手で真ん中のスペードを撫でるようにするスペードスリー・クイーンズナイト。人であれば、顎に手を当てているような動作だろう。
悩むように、体を揺らし、そして一つの答えにたどり着く。
「ならば、ここのルールに則り天邪鬼に通行止めの先に行こうではないか、少年!」
規則としてそう提示するのなら、騎士道を持って信用し、抵抗するなら障害として排除もやむを得ない。スペードスリーの言葉に、少年『アリス』は頷いた。
こんなに頼もしい人達が居て、きっと抜けられない障害はないのだと、信じてやまないほどに。
「……取り締まる物が居ないなら、そもそも規則違反という概念が生まれません」
フィーア・ストリッツは幻創魔書、その在り方を否定した。
「概念ならあるわ、私が『在る』と思っているから!」
「えぇそうでしょうね。ですが、この国でルールを課し、住人を取り締まる存在は居ます」
自信満々な幻想の返答に、フィーアは同意を示した。
だが、本を指差して、すぐに首を振って否定の言葉を返す。
「――貴方自身が、そう。この国は『あべこべの行動をしなければならない』というルールが有るのですよ、ルールブック」
魔本を規則書と断じ、幻想を作り続けることではなく、規則で誰かを縛る事に目的が移り変わっている事を指摘した。
「だってアタシがこのゲームの主催者だもの。規則違反が好きなアタシの作る物語が、そうならないはずがないじゃない!」
猟兵の言葉に、いらつくようにしながら魔本は律儀に言葉を返す。
今欲しいものは『アリス』。
護る者が居る以上、不用意に魔力反応を増大する事を躊躇っているのだ。
「……おかしいことを言う本だねぇ」
数宮・多喜は本の動揺を、言葉の端々から掬い上げて否定する。
「規則が大好き、って事はさ。それだけ『正しい事』を知ってないと出来ないのさ」
「そうよ。『アリス』を此処に招待したのはアタシ。ゲームメイクは完璧だったはずだわっ」
天邪鬼の気質を持つ本は、絶対正しい事を指摘されるのを嫌っている。
全てにとって正しい事は、魔法の本にとって、全く正しいと思えなかった。
なんて、完璧過ぎて歪な国だろうとオウガは思い、こうして行動を起こしたのだ。
「完璧ねぇ……。アンタが天邪鬼な事ばかり言うなら、却ってそれが新しい『正しい情報』になってるよ?」
「情報は常に更新されるべきだわっ、ルールの裏を突かれるたらおしまいなのよ!」
矛盾で作られたルールは規則となり、国中を支配せんと暗躍する。その一環として『アリス』を食し、停滞気味のルールに斬新なアイディアを求めていた魔本。
「規則違反を好むアナタが規則になると言う矛盾、それがこの国の正体です」
「つまり、だ。……後ろの道は終わりなんかじゃないんだろう?」
ぷるぷる震え始めた本は一気に幻想を、ページ上から吐き出した。
もう耐えられない、『正しい言葉』の連発に、嫌気が爆発したようにも見える。
「間違いを正しに来たお客さんにも、もう帰る道は無いことを教えてあげるわ!」
絵本から飛び出した幻想は、猟銃を構えた霊と涎をだらだらと垂れ流す、狼を喚び出した。一体ではなく、当たれば避けられない程の多数の頭数。
霊と言っても実体はあり、牙も爪も、そこに在るモノだ。
攻撃の気配をいち早く感じ取り、意気揚々とカブに騎乗し、宇宙バイクの相棒と共に多喜は全速力でその場を走り回る。
場の統率を乱すエンジン音は、谷底とも言える空間でよく響く。
「体を持って現れたことを後悔するんだねぇ!」
――霊体だろうが、関係ないっちゃあないんだが。
魔法の本の指示より早く、多喜はサイキックエナジーの衝撃波にテレパスの属性を付与して、――放つ。
見えない波動は範囲に拡散し溶け込むように浸透していき、人食い狼たちが戦意を失っていく。
「(あんたたちの腹は空いてないだろ? じゃあ大人しく突っ立ってな!)」
人食い狼たちは自身の空腹感を疑った。
『お腹が空いてないかも知れない』『では、襲っても食べられない』
『……じゃあ、殺さなくていいか』と言った具合に。
猟師たちは好敵手の戦意喪失に驚いたが、敵対者に構える銃を降ろさない。
「我がナイツ・ラウンド・シールドをも貫けるか、誇り高き者達よ」
無敵の大型円盤盾を想像したスペードスリーは、アリスの前に立つ。
その背に隠し、攻撃を防ごうというのだ。
「いいわ。ボルトアクションライフル、構えて……放て!」
一斉の射撃で銃弾が飛ぶ。発砲音と共に、やや鼻を付く火薬の匂いが空間に溢れた。それらの的となったスペードスリーは、受けながら強い意志で攻撃を防ぐ。
「そもそも、だ。規則違反を標榜する癖に自分のルールを他人に押し付けている時点で、お前の言っていることは矛盾している」
何度銃弾を受けようとも、盾は全く砕ける素振りを見せず、背後に攻撃を通さない。鉄壁の防壁は、傷一つ付かずにそこ存在した。
「そのような貫くべき信念すらないような者に我が盾が負けるはずもない!」
――ましてや、そのような者から召喚された者にもな!
一発撃ち、火薬を詰めて再補填、という方式の猟銃は射撃速度に難があった。
「まぁ……正体が何であれ、私がオブリビオンを破壊するのは変わらないのですが」
素知らぬ顔でスペードスリーの盾の影に隠れていたフィーアの凍てつくエネルギーは、既に口腔に冷たく精度を上げていた。叩き込むだけの距離も、そう遠くない。チャージの時間は、勝手に相手が稼いでくれたのだ。
「ルールがお嫌いだそうですね? なら、互い仲良くできそうにはないです」
吐き出す勢いを更に空気を吸って、吹雪を敵に陣営に一気に吹き付けた。
ぱきぱきと足元に霜が走り、人食い狼たちの足も、猟師の足も霜から立ち昇る冷気とで一斉に凍りついて縫い付けられる。
「私は、お前に終焉という絶対のルールを課しに来たので」
「私もそうだ、攻撃は既に破られた!」
スペードスリーがアリスランスを構えると、魔本は流石に慌てたのか、召喚した猟師と狼の影に隠れこんだ。
「隠れた事が裏目に出たな。私のランスは、斬り裂くことより突撃することに向いている」
勢いをつけて、ランスチャージで突撃すると、全てを貫いて魔本へ達することに成功する。本は回避に失敗し、ページを一部破られた。
「ひどい、ひどいわ! こんなに楽しい世界だって言うのに……!」
横回転にくるくる廻って、本は思考する。
「どうしたらわかってくれるのよ!」
魔本がいう道の終わり、袋小路付近に多喜はいた。
吐いた言葉が、やはり嘘であるのなら。そこに道があると、思ったのだ。
「触れようにも手触りにおかしなところは……」
なかった。本から飛び出し実体化したランプは袋小路にも設置されており、手元は薄ぼんやりだが見えている。壁のようなものがあり、カブに乗り、何処にも抜ける道がないかも確かめたが、確かに、行き止まりであった。
フェンスのように露骨な遮りではなく、殴れば痛そうな壁、という手触り。
――足元にずっと、道路はあるんだが。
「……ん? 道路は、『在る』?」
多喜は違和感に気がついた。道路は寸断されているでも、破壊されているでもない。黒い壁のようなものが邪魔をして、道がないように閉ざされているのだと。
「ほほう、やはりそう来たか。うんうんビンゴだね」
手で壁の位置をもう一度確認し、カブに乗り、一定の距離を置く。
「最終コーナーの、ルートは見えたも同然だ!」
ニィと笑って、探査の結果を軽く喜ぶ。本気で喜ぶのは、達成後でも問題ない。
回折するように働きかけるサイキックエナジーを放出し、壁に当てて破壊する標的として捉え、宇宙バイクに乗って突撃攻撃を行う。
既にこの国に来てクラッシュしているのだ、何も恐れるものはない。
「喰らいなっ、サイキックーゥ……ブレイカー!」
ドゴォオオ! と派手な音を立て、多喜は壁をぶち抜いた。
道路は正しく続いており、遠く遠く、道は途絶えず続いていた。
――本はやはり嘘を示していたのだ。
「相互理解は難しいだろう」
「えぇ、ココからの挽回は不可能かと」
何しろ、既に会話は破綻を示しているのだから。
猟兵達は否定を言葉にして伝えている。これ以上、立場が修復されることもない。
「そう、だね……。天邪鬼をやめるか、指摘を受け入れなくちゃ」
少年にも我儘な天邪鬼の説得は難しいように思われていた。
「……あ」
遠くで、小さな光が。
スペードスリーとフィーアの視界に微かに飛び込んだ。
あれはまさしく外の光。――果なく続く道の、光。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
月・影勝
あの光の先に有るのは次なる夢の世界か、それとも在るべき現実か―
アリスよ、おぬしはどちらを望む?
……まあ儂はどちらでも構わんけど。
おぬしらに好奇心と前に進む意思がある限り、現れるのが時計ウサギいうものじゃからな!
さて、では…明るい未来へ進むために、ブックなのに予定調和に飽き飽きという変わり者を成敗いたそうか!
ランプの魔人が相手とは、まともに当たれば勝てる者のほうが少なそうな強敵に違いないのじゃが
奴には一つ、大きな弱点があってな。
それは「願い事を願わなければ叶えてくれない」ということじゃ!
手を貸すのじゃオオカミよ!息もつかせぬ程の連携攻撃で、願っている時間すら与えんぞ!
●Mysterious
「あの光の先に有るのは次なる夢の世界か、それとも在るべき現実か――」
少年『アリス』の背後から、肩を組むように飛びつく月・影勝は謎かける様に問いかける。突破口の希望は見えた、であれば。彼は選ぶことができるから。
「――アリスよ、おぬしはどちらを望む?」
問われた事に答えようとした少年に、今度は影勝の人差し指を添えて言葉を閉ざす悪戯を。にっこり笑って、ゆるりと頭を横に振りながら。
「まぁまぁ、答えは急がん。そして、わしはどちらでも構わん」
不意にぴょん、とアリスから離れて。
「おぬしらに絶えぬ好奇心と、前に進む意思がある限り。唐突に現れるのが時計ウサギというものじゃからな!」
「君が居るだけで、とっても安心……するよ」
障害の手助けもまた、時計ウサギの興味に至るもの。
『アリス』は影勝の朗らかな様子に、笑って返した。
「おうとも。不思議はおぬしの味方をするじゃろうとも。さて……」
否定に否定を重ねられ、楽しい様子でない魔本はというと。
生き物や形あるものではなく、炎や氷を吹き出して怒りを物理的に表していた。
「アタシのルールはアタシだけじゃあもう、崩されていく一方だわ! ひどい、ひどいわ! でも、アタシには奥の手が在るの!」
ぱらりぱらぱらと勝手に捲られていくページ、あるページで急激に止まった。
「お客さんたちとの疎通は敵わないかも知れないけれど、アタシは『想像』し『創造』する本だもの!」
ランプが一つ、本からぽん、と飛び出した。
誰も擦ってなど居ないのに、ふわぁと怪しい煙が立ち上り、魔人が現れる。
『さぁ願いを叶えましょう。お気に召すままに、ご主人様』
頭を下げて指示を待つ魔人との関係は、やはり主従。
無敵の想像力から生み出された魔人に、魔本が願う事は……。
「まずはお客さまの相手をなさい? アタシは貴方の強さを想像するの。貴方は誰にも負けない。ね、そうでしょう?」
『かしこまりました、ご主人様。それではお相手致しましょう』
くるぅりと影勝に向き直り、手刀を構える。
魔人の顔には殺気などはなく、影勝の出方を伺うようにしていた。
「迷い込んだアリスの明るい未来の為には、ブックなのに予定調和に飽き飽きという変わり者を成敗いたそうか!」
敵対、という意味で、物干し竿よりも長い無骨な櫂を構えてみるが……少ししっくり来ない影勝。
「ランプの魔人が相手とは、……まともに当たれば勝てる者のほうが少なそうな強敵に違いないのじゃが」
そのうちに、何かがおかしく思えてきて喉の奥でくつくつ笑い出した。
魔本は、その姿を最悪の想像をして怯え狂いだしたのでは、と勘違いを起こす。
「そうでしょう? 今のアタシは無敵も同然よっ!」
「どうじゃろうなぁ。そ奴には一つ、大きな弱点があってな」
バックステップで少し距離を取り、魔人と魔本から離れる。
『アリス』と肩を並べるように立ち、影勝はびしっと言い放つ。
「それは『願い事を願わなければ叶えてくれない』ということじゃ」
ぽかん、と少年は呆気に取られた。本は願いを告げていた。
それでも、影勝は堂々と言い放ったのは、何故か。
「今しがたした願いは、願いにしては魔人の望む『願い事』には当てはまらぬようにみえるのう!」
描かれた絵等を想像し現実に創造を行う。
それらを具現化する本が、具現化した者に対して強いことを、想像し続ける無敵。
「それはな、『本末転倒』と言うんじゃよ。それならおぬしが戦っても同じじゃろうに」
「なっ
……!?」
魔人は困ったように視線で同意していた。それは願いではなく『祈り』であり、『驕り』。自分で出来ることであり、叶えるに値しないこと。
つまり、主人たる彼女の願いを、『彼は叶えていない』のだ。少しでも意志が乱れた事を確信し、うさ耳を風に靡かせて櫂を振るい上げながら声を上げる。
「手を貸すのじゃオオカミよ!」
まるで影に潜んでいたかのように、影勝の悪友のオオカミが追従しながら攻撃に追撃を加えた。
「ざまぁねぇなぁ、兎。ひとりで仕留められんとは……まぁ、いいさ!」
櫂と爪は、魔人を懲らしめるように何度も攻め立てる。
機敏な動作で尾を揺らし、耳を揺らすその様は、どちらもが狩人の様相で。
「いまじゃ!」
「くらいやがれ!」
全てを潰えた印と、二人がクロスして斜め十字を叩き込むと、魔人は当然とばかりの表情で消え去り――ランプの魔人が描かれていたページが、現実と同じ様に無残にも千切れ破れて、消え去った。
成功
🔵🔵🔴
出水宮・カガリ
ステラ(f04503)と
真面目過ぎるのはよくない、確かにそうかもな
しかし、常に真面目でないと困るものも、この世にはある
それがるーる、というやつだ
お前がここではるーる、ということは
「常に規則違反をする事がるーる」、というるーるを布いている事になる
例えば、そう
「此処がゴールでバッドエンド」というるーるに、従ってはいけないな?
召喚される猟師や狼を、本体の本ごと【泉門変生】で囲って、封印して圧し潰してしまおう
生身の肉体でないなら、潰れてもありすに見せられないような光景にはなるまい
ありすと音色の方は、ステラに任せよう
アリスラビリンスの、絶対のるーるはひとつ
出口を見つけられるのは、ありすだけ、ということだ
ステラ・アルゲン
カガリ(f04556)と
(アドリブOK)
ルールというものは正しいものだからこそ、世界の秩序が保たれる
必要とされているから定めるのであって、正しくない世界は混沌とした世界にしかならない
お前自身がルールの世界など斬り捨ててしまおうか!
霊のほうはカガリに任せよう
私は少年を守りつつ【全力魔法】と【高速詠唱】で剣に魔力を【力溜め】し【流星雨】を放とうか!
遮る濃霧を流星で払い、惑わす音色を雨の音でかき消し、邪魔立てする子供達を倒そう
さぁ行きましょう、あなたが在るべき世界はこんなあべこべの世界じゃありませんよ
アリスの少年が行くべき道を斬り開き、この星が道を照らそう
●Your wish?
「そちらのお客さんも……何か言いたげね?」
今しがた失ったページの分だけ、自己消失の痛みを感じながらも。
本はデスゲームを続ける。
『アリス』を手に入れる事ができたなら、それだけで一人勝ち出来るからだ。
「真面目すぎるのはよくない。確かにそうかもな」
話を聞いた上で、出水宮・カガリは一先ずの同意を示しながらゆるりと首を振る。
「しかし、常に真面目でないと困るものも、この世にはある。それが『るーる』というやつだ」
「そう。ルールというもは正しいものだからこそ、世界の秩序が保たれる」
この国以外にも、アリスラビリンスには真面目で明確なルールが無い場所もありはするが【オウガがアリスを追いかけて喰らう】という根底のルールを覆すことはない。嘘標識に記載すれば、この国でそれは嘘にもなり得ていたかもしれないし、デスゲームですら平和な勧誘となり得ただろう。
「必要とされているから定めるのであって、正しくない世界は混沌とした世界にしかならない」
この国の今の在り方がそう、とステラ・アルゲンは靴音を鳴らしてカガリに続き言葉を告げる。
「お前自身がルールの世界など斬り捨ててしまおうか!」
勇ましい声色と共に、流星剣の剣先を向ければ、本はバッサリと切り裂かれるような気配を感じたのか、ふわり、と向けられた剣先の方向から逃げた。
全てを切り裂けるであろう、正義の欠片を感じ取ったのか。
「ところで、だ。お前がここではるーる、ということは」
今すぐ戦うぞ、という気配をお互いが出し合っている中で、カガリが思考途中の言葉を漏らす。
「『常に規則違反する事がるーる』、というるーるを布いてる事になるな?」
「えぇ。今この場にも、良からぬ規則を布いていることでしょうね」
何気ない相槌。視線こそ向き合わせていないが、お互いを理解し合っている信頼。
「例えば、そう」
これに魔本はとても、嫌な予感がした。
慌てて、自分を守る軍勢を想像しはじめる。消えたくない。終わらせたくない。
――この場所から紡いでいく、これからの物語を!!
溢れ出す想いに赤ずきんの物語を開き、吐き出すように猟師と狼を侍らせるイメージを。猟兵との壁のように、数限りなく、埋め尽くすように可能な限り、沢山。
そのために、具現と成る起点となるページが異常な混雑を見せ、猟師と狼がバタつきながら飛び出そうとする。
抜けない肢体と体は、天敵同士の諍いさえ見せそうな、雰囲気を出していた。
「『此処がゴールでバッドエンド』というるーるに、従ってはいけないな?」
にやり、と口元で笑って目を閉じる。そして、静かに、包囲を閉鎖を告げるのだ。
「いずみやいづる黄泉戸の塞。我は世を隔つ磐戸なり……」
カガリが魔本ごと現世と黄泉を隔てるある真性の力を一時的に降ろし、再度開いた瞳は柘榴の色を讃えていた。
黄金の城壁は噛み付くように魔本と飛び出さんとした赤ずきんの物語を内側に閉じた。……いや、ギリギリ全てを閉ざされてはいない。
ギャゥウウウウと獣の悲鳴と、銃を撃ち続け突破口を開こうとする腕以外が潰れきった猟師の抵抗だ。
狼も抵抗するが、自慢の機敏さを活かせない以上、徐々に潰され具現化が解けていき、圧死の印字で更新された血塗れの赤ずきんの物語に還されていく。
――生身の肉体でないなら、潰れてもありすに見せられないような光景になるまい。
噛み砕かれるように圧した重みに潰されるのは半分実体化していた猟師と狼。
魔本は意思こそあれど、閉じたり圧迫されたとしても本は本。
失われる物はなかったのだ。
「バッドエンドなのは変わらないわ! アタシが閉じない限り、『アリス』は追いかけ続けられるのだから!」
タコが墨を吹き付けるように。ページの隙間から濃い霧を吹き出す。封じられた動きを無視し、想像力で具現化能力補い、ハーメルンの笛吹き男の物語を此処に濃霧に紛れて生み出し侵食する。
「抵抗する本だ。ステラ、そちらは任せた」
「流石ですね、カガリ」
攻撃を全て飲むように封じたカガリに赤ずきんの物語を任せたが、ステラとて何もしないわけではない。
「さて。少年はそれ以上、前に出ませんように」
手で合図を送ると『アリス』の少年は頷いて応えた。
「霧から漂う異様な気配、に紛れた幻惑の音色。駆け寄るような多数の足音……」
流星剣に魔力を溜め込むように、スッ、と軽く柄から届く部分までの刀身を指で撫でる。煌々と輝く天体のように淡く光りを放ち、キラキラと流れる軌道は魔法陣を紡ぐ。向ける剣先に一切の迷いはなく、流星剣と同じく散りばめた星のように輝く色で染まった瞳は全てを見据えた。
「遮る濃霧を流星で払い、惑わす音色を雨の音でかき消し……」
敵を討ち滅ぼす星の矢は、天よりも近い場所にあって、遥か遠くより飛来する。
地に立つ彼女の一振りの息吹に導かれて、濃霧を穿ち抜く雨となりただの矢より早く、的確に霧の幻惑を払う。
濃霧に紛れた笛の音は、飛来する流星に打ち砕かれて音を視覚に届ける手立てを失った。笛吹き男の笛の音は霧が無ければ成り立たず、注がれた流星に打ち勝つすべを持たない。
チャキッ、と澄んだ音をあげて、剣を構え直し、告げる。
「邪魔立てする子供達を倒そう」
強引にから出てこようとする者を、出てくる前に素早く。払い斬り捨てる。
霧と共に消えるように、霧の中に押し返すような斬り方であり、子供達は致命傷ではないだろう。
「ほら、どうします?」
流星の余波で撃ち抜かれたページは、燃えるように焼け落ちた。
「そうやって、形が消え去るまで圧して逝きますか?」
冗談を言うような口調ではあったが、騎士はそのような意味で言ってはいない。
「これじゃあ手も足もでないわ。目指す物語を、描く本にはなれないのね……いいわ、一思いにやりなさいよ」
満身創痍で動けない絵本は、諦めるように言い捨てた。
手も足もないのに、……そう表現するのは、ヤドリガミの二人を相手にした在る種の皮肉か。
「……だ、そうですよ? カガリ」
「がしゃん、だな」
黄金城壁は内側の対象を、完全に封じて閉ざされた。
断末魔もなくあっけなく訪れた、デスゲームの終焉である。
●
ゲームの主催者の生存があやふやになったことで、国は正しい姿へ修正されていく。薄暗い空間は卵が割れるように、ひび割れて綻びのない道路が永遠続いていた。
必ず厳守するべき標識が、キラキラと新たに生み出され猟兵達の傍に新設される。
【この先関係者以外立入禁止】
他の猟兵が見つけた光の先も、やはり道路であった。
「ありす。カガリたちはこの先に進むことが許されないらしい」
書いてある内容は、カガリにはよく分からなかったが猟兵はついていけないのだ、という事は確かである。
少年は此処まで助けてくれた猟兵たちを見て、寂しそうにした。
どことなく、心細いのだろう。
「ひとつ教えよう。アリスラビリンスの絶対のるーるはひとつ」
人差し指を『アリス』に見せるように伝える。
ひとつしかない。ひとつだけを、信じたらいい。
「出口を見つけられるのは、『ありすだけ』、ということだ」
猟兵が一様に少年を『アリス』と呼んでいた事で、彼は自分しか見つけられないのだ、と悟る。寂しがっていても解決しない事であると、理解する。
「さぁ行きましょう? あなたが在るべき世界は、こんなあべこべの世界じゃありませんよね」
うん、とアリスは応じた。
「アリスの少年が行くべき道を斬り開き続ける星は、必ず道を照らしますから」
応援。それは、記憶のない彼のぼやけた記憶を揺さぶる。
淡く、それでも、帰り道の手向けの糸口となる。
「ぼくはね、……警察の、一日体験に出かけてここに来てしまった事を思い出したよ!」
真面目な『アリス』が名前を思い出す事は敵わなかったが、デスゲームは閉幕した。
ひとまず安全な場所に抜けた、この道の先に、帰りの扉が必ず存在する事だろう。
彼は何度も振り返る。
猟兵達は彼の姿が見えなくなるまでその姿を見守った。
『あぶないところを助けてくれて……本当に、ありがとう……!』
そう心に矛盾を抱えた屈託のない笑顔で言われたからには。帰りの途を共に探せなくとも、彼が迷うことがないように、見守るくらいは許されるだろう。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年08月09日
宿敵
『『幻創魔書』飛び出す絵本』
を撃破!
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