●わんわんわん
何もせずとも汗ばむ季節。叶うものなら動かずに涼しいところに居たいものだが、そうはいかん。働かにゃおまんまが食えなくなっちまう。
ふうっと息を吐いて足を止め、首から下げた手ぬぐいで汗を拭う。ついでに腰に下げた竹筒から水を飲むと、思っていたよりも喉が乾いていたのか、とても美味く感じられた。
前の宿場を朝に出て、ひたすら街道を進んできた。旦那からは出来るだけ早めにとのお達しだったから、俺はなるべく休まずに、急いでこの街道を進んできていたのだ。大店の旦那からのご依頼だ。気前のいい旦那の払いは期待ができる。たんまりと銭を弾んでくれることだろう。
腰に手を当てながら空を見上げれば、お天道様はまだ高い。この調子なら、予定よりも早く町につけそうだ。
わんっ!
甲高い、獣の声が響く。
野犬だろうか。野犬に襲われて、賽の河原へ行く者も多い。
命が助かっても、荷物を噛まれて穴を開けられる……なんてことになっちまったら、俺の苦労も水の泡だ。
俺は背負った葛籠の紐を握りしめて身構え、片足を半歩退かせた。
わんわんっ!
鳴き声とともに、街道脇の竹林から黒い影が現れる。
それはとても可愛いまろ眉の子犬だった。
野犬では無いことに安堵した俺は、長く息を吐いて力を抜く。気を張って損した気分だが、安全なことに越したこたあねぇ。
丸い目で俺を見上げた子犬が、俺の足元まで来て鳴く。どうやら遊んで欲しいようだ。用事がなければ構ってやりてぇところだが、俺は先を急いでいた。
「すまねぇな。他を当たってくれや」
足元をぐるぐる回って遊んでと言う子犬に声を掛け、俺はその場を去ろうとした。
子犬に背を向ける。――と、何かが一瞬背に乗り、そして次の瞬間、俺は地面に倒れていた。転んだのだと頭が理解するよりも先に、転んだ拍子に蓋が開いた葛籠から荷物がまろびでていることに気が付く。
子犬がその包みを咥え、ちらりとこちらを見てくる。その目には変わらず『遊んで』と言う気配。
身を起こしながら、手を伸ばす。
その手が届くよりも早く、子犬が走り出す。鬼ごっこをしようと誘うように。
「待ってくれ! それは大事な荷物なんだ!」
●尾鰭のいざない
「浴衣って、知っている?」
人形に抱えられた人魚の少年――雅楽代・真珠(水中花・f12752)が、自身の爪を見ながら口にした。桜貝のような爪に透明なコーティング剤が塗られた自身の爪を光で翳してから、チラと視線を投げてきた。
「サムライエンパイアで夏に着る着物なのだけれど」
知らなくてもいいや。袖で口元を隠し、仕事の話だよと静かに告げる。
「とある呉服屋の荷物が、オブリビオンに盗まれてしまうんだ。その荷物がね、大切で……お前たちに取り戻して欲しい」
サムライエンパイアのとある町にある呉服屋『濱口屋』。そこに、数えて五歳になる娘『おかよ』がいる。盗まれた荷物というのは、おかよがデザインした浴衣なのだそうだ。「五歳になるのだし、世界に一つしかない浴衣が欲しい」と両親にねだり、自分で絵柄を描き、職人に作ってもらった浴衣である。
愛娘の喜ぶ顔が見たい両親は、完成の報せを聞くとなるべく早く届けて欲しいと願った。夏は長いようで短く、浴衣を着る時期もあっという間に過ぎてしまうからだ。
しかし、オブリビオンに襲われ、浴衣は盗まれてしまう。
「……襲われたと言うか、遊んで欲しいみたいなんだよね」
荷物を持ち去ったオブリビオンは黒い犬の姿をしている。
特徴は、まろ眉のような柄が顔にあること。そしてとても元気だ。
遊んでほしくてほしくて溜まらないらしく、満足すれば骸の海へと帰っていく。
「遊ぶだけのお仕事だよ。簡単でしょう? 無事に呉服屋へと届けるまでがお仕事。その後は、折角だから呉服屋で浴衣でも見ておいでよ」
ひらりと人魚が袖を振る。
浴衣だけではなく、小物も色々と揃っている。簪や帯飾りを見るのも楽しいだろうし、友人とお揃いの浴衣を購入してみるのも良いかもしれない。柄や色に悩んだら、店主へ相談すれば似合いのものを選んでくれることだろう。
「そうそう、犬の前に道を塞いでいる鳥もどけておいてね。鳥を退かさないと町にいけないからね」
荷物が増える前に片付けておいた方がいいだろうから、先にそちらへ送るね。
人魚の掌の上に蓮がふわりと浮かび上がり、蓮の上に金魚が泳げば、侍世界への”門”が開かれる。
じゃぁね。花のように幾重にも重ねられた袖が、ひらり、振られた。
壱花
●マスコメ
お目に留めてくださってありがとうございます、壱花と申します。
「7月に浴衣選びをするぞ!」と6月にフラグメントを作成いたしました。
満を持しての浴衣です、浴衣! やる気に満ちあふれております。
第1章:集団戦『ぶんちょうさま』
第2章:ボス戦『くろまろわんこ』
第3章:日常『呉服屋で着物選び』
1章2章はさくっといきます。難易度超簡単、倒さないでOK系です。
3章のみのご参加、とっても歓迎です。浴衣に悩む皆様が見たいです。
●第3章
呉服屋『濱口屋』での一幕となります。
店内の大きさの都合から、1グループ4名様まででお願い致します。
PSWの内容は無視していただいて大丈夫です。
何を選ぶのかお教え願えますと幸いです。無ければ無いで、ふわわっとします。
こちらにはグリモア猟兵も居ますので、御用がございましたらお声掛けください。
3章のみプレイング受付開始時間のお知らせを致します。
お友達と浴衣選びなどは如何でしょうか?
受付日連絡はMSページorツイッターへ致しますので、そちらを参照ください。
・浴衣を選んでもらう場合
好みや避けたい物がありましたら教えて下さい。
絵姿があればそれが無くとも合いそうなものを選びますが、絵姿がない場合は必須でお願いします。
基本的には店主が対応いたしますが、真珠へ尋ねてくださる事も可能です。……が、よく知らない相手ですと真珠も最適なものを選べませんので、その点ご理解頂けますと幸いです。何でも許せる人向けです。
●迷子防止とお一人様希望の方
同行者が居る場合はプレイングの最初に、魔法の言葉【団体名】or【名前(ID)】の記載をお願いします。指定が一方通行の場合、判断に迷って描写できない可能性があります。またその際、失効日が同じになるよう調整お願いします。
確実にお一人での描写が良いと希望される場合は【同行NG】等の記載をお願いします。
また、文字数軽減用のマークをMSページに用意してありますので、そちらを参照ください。
それでは、皆様のすてきなプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『ぶんちょうさま』
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POW : 文鳥三種目白押し
【白文鳥】【桜文鳥】【シナモン文鳥】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD : 文鳥の海
【沢山の文鳥】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 魅惑の視線
【つぶらな瞳】を向けた対象に、【嘴】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:橡こりす
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●ひよー
グリモア猟兵に転送された先、そこは町からほど近い竹林の間を抜ける街道だった。町からの距離は、後方を振り返れば町の入り口が見える程度の距離だ。
その街道に、みっちりと溢れる白い羽毛。と、人々の姿。
もっちりもちもち、まぁるいフォルムの鳥さんオブリビオン 『ぶんちょうさま』だ。
道行く人々はぶんちょうさまに進路を塞がれ、下手に手を出すわけにも行かず立ち往生してしまっていた。
竹林の中にもぶんちょうさまたちの姿が見える。どうやら竹林で食事をし、街道で休憩したり遊んだりしているようだ。竹林の中のぶんちょうさまは近付かれると食事を取られると思い攻撃をしてくるため、竹林の中を迂回していくのも難しい。
街道でのんびりしているぶんちょうさまを退けた方が簡単だろう。
さて、どうしようか。君たちは考える。
食後の運動に遊んであげてもいいし、竹林でお昼寝出来るスペースを用意してもいいし、誘導できる手段を考えて退いてもらってもいい。
満腹状態のぶんちょうさまは機嫌が良いため、苛められなければ攻撃もしてこないだろう。
香神乃・饗
鳴北・誉人f02030と
誉人いっぱいっす!街頭にてんこもりっす!(目キラキラ
そうっす、怒らせないように遊んでやるっす!
「ホントっす、逃げないっす!
覗き込み軽くつんつん突く
「こっちもめっちゃんこ人なつっこいっす!
ぽいっぽいっ次々誉人にけしかける
「へへへ、羽毛攻撃っす!
山をどっさーっとかける
「あっ、誉人の頭に棲んでるっす!巣作られてないっすか?
懐かれてるっす、良いっすね
誉人の掌の1羽を撫でてやる
(誉人、良い顔してるっす!出会った時にはこんな間近で見られる日が来るとは思わなかったっす)懐かしむ笑顔
「はい、誉人チーズっす!
スマホで1枚
「俺も一緒にいいっすか?
ぶんちょうさまにまみれる2人の笑顔を自撮り
鳴北・誉人
饗(f00169)と
街道塞いでるのを退かすだけかァ
昼寝にゃァまだ早えだろ、遊ぼうぜ!
「なあ!見て!コイツ大人しい…!かァいい…!
「うわっ、きょっ!?(ぶんちょうさまをけしかけられて
「もう、饗ッ、ぐぅっ!
それでも、もっこもこのぶんちょうにまみれてご満悦
「ん、頭?
そっと頭に手をやってぶんちょうを下ろす
嬉しいけど巣を作られンのは勘弁だからァ…
饗がスマホで写真撮ろうとしてもそのまま笑ったままで抵抗しない
(饗に写真撮られるのも慣れちゃったなァ…)
ぶんちょう一羽手にのせてツーショット
「お、いいな、一緒に撮ろうぜ
背後のぶんちょうたちが映るように、饗と笑顔で一枚
満足してどっかいくまで、ぶんちょうと遊んでやる
白い羽毛が街道にてんこもり。
もふもふでふかふかがぎゅうぎゅうしているのはとても可愛くて、香神乃・饗(東風・f00169)は目をキラキラと輝かせた。
「誉人、いっぱいっす!」
たくさん居る様は、隣に居る鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)も見れば解るのだが、感動を口にせずにはいられない質なのだろう。キラキラな瞳を誉人へ向けながら指差す姿を見て、誉人は思わず吹き出してしまう。素直な相棒のこういうところが、いつもとても微笑ましい。
早速「遊んでやる!」と駆け寄っていく相棒に続いて、誉人もまた「遊ぼうぜ!」と笑いかけながら近寄った。
「なあ! 見て! コイツ大人しい……! かァいい……!」
「ホントっす、逃げないっす!」
ぶんちょうさまたちに誉人が手を伸ばしても、ぶんちょうさまたちは大人しく撫でられる。それを見た長身の饗が近付こうとも、怯えることなくジッとしている。
しかし、つんつんと突かれれば、少し嫌がる素振りを見せるぶんちょうさまたち。けれど人の手のひらへ甘えるのは好きなようで、突かずにいればすりすりと寄ってくる。
「こっちもめっちゃんこ人なつっこいっす!」
手でぶんちょうさまを掬い、少し考えて。
ぽいっと誉人へとけしかけてみる。
「うわっ、きょっ!?」
手で掬ってはぽいっ、掬ってはぽいっ。
「へへへ、羽毛攻撃っす! ……あいたっ」
両手で掬って誉人にかけようとしたら、嫌がったぶんちょうさまに噛まれてしまった。のんびりしていたところを突然ぽいぽいされたぶんちょうさまからしたら嫌がらせされたも同然だ。
山のようにかけようとした饗だったが、その半数程は嫌がって飛び立っていった。
「もう、饗ッ」
ひよひよひよ。ころころころ。
誉人へとかけられたぶんちょうさまたちが、ころころ転がっていく。
「あっ、誉人の頭に棲んでるっす! 巣作られてないっすか?」
「ん、頭?」
全部ころんころんと転がったのではないのかと、自身の頭へと手を伸ばせば、ふかりとした感触。怖がらせないように優しく撫でてから掴んで降ろしてやる。もふもふまみれも頭の上に乗られるのも嬉しいけれど、巣を作られるのは勘弁だ。
優しく扱われたぶんちょうさまが、誉人の手にすり寄れば、誉人も嬉しそうに笑う。
その顔を見る饗の表情は、とても優しいものだった。出会った時はこんな間近で見られる日が来るとは思わなかった。胸に懐かしさを覚えながら、誉人の手に乗ったぶんちょうさまを撫でた。
「はい、誉人チーズっす!」
カシャッ。スマートフォンが小さなシャッター音を鳴らす。
彼にこうして撮られるのも、すっかり慣れてしまった。声をかけられる前に彼がスマートフォンを撮りだすのにも気付いていたが、誉人は笑顔のまま写真に収まる。彼に撮られるのは、嫌なことではないから。
「俺も一緒にいいっすか?」
「お、いいな、一緒に撮ろうぜ」
誉人が笑顔を向ければ、饗はいそいそと誉人の隣に並んで肩を触れさせ合うとぶんちょうさまたちも映るようにスマートフォンを持った手を掲げ、カシャッとシャッタを切った。
腕を下ろして映り具合を確認する。
満面の笑顔の二人が切り取られていて、思わず二人は顔を見合わせて笑いあう。写真の中の二人に負けないくらい、いい笑顔で。
遊んでやると言いながら自分たちが遊んでいただけだった饗。けれど誉人が撫でに撫でた為、ぶんちょうさまたちも満足顔。
「饗も遊んでやれよな」
ぶんちょうさまたちが満足して去るまで、二人は優しく相手をし続けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
百々海・パンドラ
♢♡
自分でデザインした浴衣ってとても素敵だわ
きっと、おかよにとって、大切な物になるでしょうね
(大事そうに抱えたお気に入りの羊のぬいぐるみに話しかけ)
えぇ、彼女の手元に無事に届けてあげましょう
ぶんちょうさまの姿を見ると困ったように顔をしかめる
私、可愛いものは傷つけたくないんだけど…
あぁ!でも、この子の觜とっても痛いわ!
沢山の文鳥達が現れると、ちょっと涙目
どんなに可愛くてもこんなに沢山いると怖いじゃないの!
夢見る羊を使って羊の群れを呼び出す
「あなた達、この子達と遊んであげて」
ぶんちょうさまが羊達に気をとられてる間に先に進ませてもらうわ!
くろまろわんこ…待ってなさい!
思いっきり遊んであげるんだから!
冴島・類
♢♡
浴衣か…良いですねえ!
元々、ひとに見立てるのが好きなので
皆がそわそわ装いを選び
飾り、きっと誰かに見せて…
共に、笑顔になる様を思い浮かべれば
そいつは嬉しいものだ
おかよちゃんの夏が、良いものになるように
それが戯れで果たされるなら
全力で
街道につけば、ぶんちょうさん達の気をひく為に
普段使っている操り糸の先に
いくつか鈴を結わいつけ
りんりんと鳴らし、こっちにおいでと言うように
彼らの前で、笑み誘う為に声を
それなら、存分につついて良いよ?
さあ、お腹が満ちた子から
こちらへおいで
遊ぼうじゃないか
ごはんを取る気なんかない
道をあけてほしいだけなんだ
誘導しながらも飽きぬよう
不規則に動き
ふふ、可愛い子らもいたものだね
自分でデザインした浴衣ってとても素敵。
道を埋め尽くす白いふわもこを前に、そう口にするのは、空色の着物に身を包んだ少女――百々海・パンドラ(箱の底の希望・f12938)。
「きっと、おかよにとって、大切な物になるでしょうね」
ぶんちょうさまたちの前に一人で佇むパンドラだが、これは独り言ではない。
大切に抱えた羊のぬいぐるみ『Rachele』が彼女の話し相手。お揃いのリボンを寄せ合って、蜂蜜色の目を見つめて微笑を花唇に。
「えぇ、彼女の手元に無事に届けてあげましょう」
そのためには、その前にやることがある。
羊のぬいぐるみから視線を外し、前方を見れば溢れかえる白もふたち。
できれば可愛いもふもふは傷付けたくない。だから友好的にいきましょう。
そっと一歩近寄れば、ギュンッと一斉に視線を向けられて。
(――うっ)
思わず前に出した足を戻してしまった。
(どんなに可愛くてもこんなに沢山いると怖いじゃないの!)
胸に手を当て、深呼吸。波立つ心を抑えて、抑えて。
「えぇ、そう。そうよね。私にはあなたが居るもの」
腕に抱いた羊のぬいぐるみを両手で掲げて《夢見る羊》を発動させれば、ぽふんっぽふんっと可愛い羊のぬいぐるみたちが複製されていく。
「あなた達、この子達と遊んであげて」
ぶんちょうさまたちがぬいぐるみに気を取られている内に――!
進もうとした、けれど。
「ええっ、まだこんなにいるの!?」
白もふの波はまだまだたくさん。進んだ足元を埋め尽くされ、パンドラは身動きが取れなくなってしまう。
――りぃん、りぃん。
そこへ響く、鈴の音。
普段使っている操り糸の先に鈴付けて、誘うようにりぃんと鳴らすは冴島・類(公孫樹・f13398)。
ぶんちょうさまたちが視線を鈴へと向け、鈴の音に合わせてひよひよ鳴いた。
りんりんと鳴らし、こっちにおいでと鈴が誘う。パンドラの足元を埋め尽くしていたぶんちょうさまたちがご機嫌に鳴きながら鈴へと向かって行く。
「やあ、すてきな着物のお嬢さん。よければ君もご一緒に」
思わず目が行くのは、彼女の装い。ひとに見立てるのが好きな類は、ひとがそわそわと装いを選び飾るのも、そうして誰かに見せた時に見せる笑顔を思い浮かべるのも好きだ。目の前の少女がどんな想いで今日の装いなのかも気になるけれど、此処に居ると言うことは同士なのだろう。ぶんちょうさまたちと共に遊びませんかと微笑みかけた。
まずは足元の可愛い子らを退けてしまいましょうか。
舞うように、鈴鳴らし。
鈴ならつついてもいいけれど、そちらのお嬢さんは駄目だよ。
ちょんちょんと近寄ったぶんちょうさまが鈴をつつこうとすれば目前で鈴が逃げ、ぶんちょうさまが追いかける。逃げて、追わせ、突かせて。その度りぃんと鈴が鳴る。
空色の着物の少女の足元からぶんちょうさまたちが退いたのを確認すると、竹林に居るぶんちょうさまたちへもご飯を取る気はないよと声を掛ける。
「さあ、お腹が満ちた子からこちらへおいで」
器用に糸を操り、不規則に鈴を鳴らし、誘って。
そこにほわんっほわんっと羊のぬいぐるみも混ざって、ぶんちょうさまたちの興味を引いていく。
「ぬいぐるみはお好き?」
鈴がスッと退けば、羊のぬいぐるみがバァと顔を出す。
鈴糸操る青年とぬいぐるみを操る少女は目を合わせ、微笑を交わして。
ぶんちょうさまたちが飽きないように、時には意表を突くように。
りぃんりぃんと鳴る鈴の音と羊のぬいぐるみへ二人は気持ちを託し、暫しぶんちょうさまたちと戯れる。
自分だけの浴衣をと願った少女の――おかよちゃんの夏が、良いものになるように。
それが戯れで果たされるなら、全力で。
さあ、もっと遊ぼうか――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
華折・黒羽
【軒玉】
…オブリビオンも暑いって感覚あるんですかね?
竹林の開けた所に涼しい昼寝場所があれば
そこに移動してくれたりとか…しないかな
物は試し
自身の両翼で空へ
手を振り返しながら
上から竹林眺め開けた場所があれば皆に教えよう
上手くいけば今食事中の文鳥達も
街道に行かず此方へ向かってくれるかもしれない
ヴァーリャさん
昼寝場所作るの、手伝ってもらっていいですか?
俺は上から氷の結晶降らせます
攻撃対象未指定ならそのまま誰も傷付けず溶けていくだろうし
文鳥達の誘導は綾華さんとオズさんが
上手いことやってくれるだろうと
この暑さに負けない
とっておきの昼寝場所を用意してやろう
落ち着いたら俺も少し休みたい
…暑い
素直に扇がれ涼む
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
【軒玉】
ぬぬ…文鳥の気持ちはわかる
こうも暑いと動きたくなくなるのだ…
もち?ほんとだ、もちもちだ!
って、俺は何でもかんでも食うわけじゃないぞ!
飛んで確認しに行った黒羽に手を振り
オズの呼びかけに頷いて
うむっ、では作戦開始だな!
もちろんだ!
まずは氷のブロックを作り
それを文鳥が寝転がれるくらいの広さまで積み上げ
柔らかい草や葉っぱを敷き詰め
じゃーん!氷のベッドだ!
黒羽、中々いいだろう!
黒羽の天然のクーラーもあるし、寝心地はかなりいい筈だ!
綾華とオズが文鳥たちを誘導するにはびっくり
…俺も暑さにしんどくなってきたので
文鳥たちと一緒にごろん、ふにゃあ
みんなも寝転がってくれ!
ひんやりしてとっても気持ちいいぞ!
オズ・ケストナー
【軒玉】
しろいのがたくさん
そっとなでてみる
もちもちだっ
クロバが飛び上がったのをみて
わあ、すごいっ
みえるー?
両手をぶんぶん振って
あっち?おっけーっ
腕で大きく〇を
ヴァーリャよろしくねっ
アヤカ、いこう
一羽担ぎ上げて頭にのせて
もってはこぶのはむずかしいかな?
あっ、おもしろそうなものがあったらついてきてくれるかな
視線に気づいて
どうしたの?
と首を傾げればずり落ちそうになる文鳥
ガジェットショータイム
現れたリアカー
後ろや周りに鈴や花を垂らして咲かせて
ほら、つつくとおとがなるんだよ
いっしょにいこ
うごかなそうな子はのせてつれてくね
アヤカの扇から生まれるそよ風がやさしくて涼しい
ふふっ
わあ、すごいっ
わたしもやすむーっ
浮世・綾華
【軒玉】
オズの様子をみて
鳥なのに、もちもちなの?
…わ、マジだ
餅――ヴァーリャちゃん、食っちゃダメだぞ
黒羽とヴァーリャちゃんによろしくと手を振って
はいはいとオズに着いていく
(何で頭に乗せたんだ)
と思ったが、面白いから何も言わなかった
面白いもん――面白いもの?
(オズだろ。――いやそうじゃない)
オズみたいに楽しいもんは出来ないが
早く移動させるには――そうだな
夏ハ夜(扇)を絡繰ル指で複製し
自分はちょちょいと指先を動かしてついていくだけだ
ぱたぱた吹く緩やかな風が花びらを舞わせ鈴を揺らし
更にちょっとした追い風になればと
なんかすげー場所、できてる
ん、折角だし涼も。と座る
おつ。黒羽をぱたぱた仰いで笑う
♢4人
竹林の間を駆け抜ける風が、さやさやと葉を鳴らす。
涼やかな音と共に吹く風は心地よく、気持ちの良いものだ。
しかし、この時期は何処に居ても暑く、ただ立っているだけでもじわりと汗が滲むよう。竹林で日差しが遮られたこの場所に、涼を求めるぶんちょうさまたちの気持ちも解る。暑さに弱いヴァーリャ・スネシュコヴァ(ひんやりビタミンガール・f01757)は、滲み出した額の汗を拭った。
「わあ、しろいのがたくさんっ」
さわっていいかな? さわるね?
もっちりぎっしりぎゅうぎゅうに詰まっているぶんちょうさまたちへ、トテテと近寄るのはオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)。怯えさせないようにゆっくりと手を伸ばしても大人しい姿に笑顔を見せ、そっと触れてみる。
魅惑の羽毛にふわっと手が触れたと思った瞬間、もちぃっと確かな肉厚を手に感じた。思わずにぎにぎと確かめて。
「もちもちだっ」
「もち?」
「鳥なのに、もちもちなの?」
興味を惹かれたヴァーリャがオズの傍へ駆け寄り、その後ろ続くように浮世・綾華(千日紅・f01194)がのんびりと歩を進めた。
綾華がたどり着くよりも少し先にヴァーリャがぶんちょうさまに触れ、続いて綾華も触れてみる。
ふわぁ……もちぃ……。
「ほんとだ、もちもちだ!」
「……わ、マジだ」
「でしょう?」
二人の反応に、一番最初にもちもちに気付いたオズはググッと口の端を上げて得意顔。
もちもちをもみもみして堪能するヴァーリャ。そしてその横顔を柔らかな視線で見つめていた綾華がハッと短く息を飲む。
「餅――」
「どうした?」
「……ヴァーリャちゃん、食っちゃダメだぞ」
「って、俺は何でもかんでも食うわけじゃないぞ!」
あははとオズが笑って、ヴァーリャも笑う。ごめんごめんジョーダンだってと綾華も笑えば――そしてもうひとつ、くすくすと控えめな笑みが混ざる。
三人の行動を見ていた半獣の身に烏羽生やす青年――華折・黒羽(掬折・f10471)は、静かな眼差しで三人とぶんちょうさま。それから竹林へと視線を向ける。
ぶんちょうさまは、ここが涼しい事を知っていて集っているのだろう。ならば、別に涼しい場所を見つけてあげればどうだろうか。そして、この辺りで一番涼しい場所に居るのに、わざわざ移動するぶんちょうさまは居ないだろう。けれど誘導して連れていけば、確実に数は減らせる。街道にぎっちりむちむちもっちりでは無くなるはずだ。
まずは最適な場所探し。黒羽が大きく両翼を動かせば、あっという間に空の上。
「おお!」
「わあ、すごいっ」
ヴァーリャとオズが歓声を上げ、空の黒羽へと大きく手を振る。黒羽がそれに応えて振り返せば、綾華もひらりと振り返し。
空から辺り一帯をぐるりと見下ろし、地形を確認すると音もなく降り立つ黒羽。
「あちらに開けた場所があるようです」
そして、そこにぶんちょうさまたちの涼しい昼寝場所を作るのはどうでしょうか。
「あっち? おっけーっ」
オズはうんうんと頷きながら、腕を頭上に上げて大きくまぁる。ヴァーリャも綾華も笑顔で黒羽の案に賛同した。
「ヴァーリャさん、昼寝場所作るの、手伝ってもらっていいですか?」
「もちろんだ!」
氷魔法の使えるヴァーリャに黒羽が声を掛け、昼寝場所作成班とぶんちょうさま誘導班に分かれて行動することとなる。作成班はヴァーリャと黒羽。誘導班はオズと綾華だ。
「二人ともよろしくな」
「うむっ、では作戦開始だな!」
がんばろー。えいえいおー。
二人に手を振って見送ったら、オズと綾華も行動開始。「いこう」と先導するオズに「はいはい」と綾華が付き従った。
「もってはこぶのはむずかしいかな?」
ぶんちょうさまを一羽頭に乗せたオズが、他のぶんちょうさまたちをじぃっと見る。
何で頭に乗せたんだと思いつつも、面白いから綾華は何も言わない。
「アヤカ、どうしたの?」
視線に気付いたオズが首を傾げると、綾華は何でもないと口にしながら手を伸ばす。オズの頭上のぶんちょうさまがずるりと落ちそうになったからだ。オズはひとつ瞬いて、「ありがとう」と笑った。
どうしようかと考えること暫し。
「あっ、おもしろそうなものがあったらついてきてくれるかな」
「面白いもん――面白いもの?」
オズだろ。そう思ったけれど、そうではないと即座に否定して、また口にはしない。
「うん、おもしろいもの。おもしろいもの、でておいで」
ぶんちょうさまがよろこびそうなものがいいな。
んむむっと想像力を働かせて、《ガジェットショータイム》。花を咲かせ、鈴を垂らしたリアカーを喚び出して、垂れた鈴をりぃんと鳴らしてみる。
「ほら、つつくとおとがなるんだよ」
いっしょにこっと近くのぶんちょうさまたちに声を掛けて。
きみもおいでと動かないぶんちょうさまを乗せれば、綾華もそれを手伝った。
たくさん連れて、リアカーをころころころり。
そこに、背中を押すような優しい風が吹く。穏やかな風が鈴を鳴らし、花を浚って。舞う花に、ぶんちょうさまたちが楽しげにチチッと鳴く。
オズが振り向けば、ふたつの扇を操る綾華の姿。涼しくて優しい風が頬を撫でれば、鈴と共に笑みを。
オズと綾華と別れた作成班は、竹林内のぶんちょうさまたちを迂回して先程黒羽が見付けた場所へと向かい、行動を開始していた。
「まずは……っと」
ヴァーリャは氷の魔法で氷のブロックを作り、そしてそれをある程度の広さまで形を整えながら並べていく。ヴァーリャが氷作りをしている間に、柔らかい葉や草を集めてくるのが黒羽の役目。翼の機動力を活かして竹林内の至るところから集め、氷の土台の上に敷いていった。
「じゃーん! 氷のベッドだ!」
敷き草が均等になるように均し終えたヴァーリャが完成の声をあげる。想像通りの出来になったのか、満足そうに何度も頷いて「中々いいだろう!」と黒羽へ同意を求めれば穏やかな笑みと頷きが返ってきた。
烏羽を動かして、黒羽が飛ぶ。ヴァーリャが目で追う中、手を振るえば。キラキラと雪の結晶が氷のベッドの上に舞い落ちて。
「天然のクーラーだな!」
歓声を上げ、雪の結晶へと手を伸ばし――そこへ、がさりと下生えを踏む音が竹林から聞こえ、二人は視線を向ければ。
「わあ、すごいっ」
「なんかすげー場所、できてる」
ぶんちょうさまたちを誘導してきた二人の姿が。
鈴を鳴らしながらリアカーを氷のベッドの近くに寄せれば、ぶんちょうさまたちは冷気に惹きつけられるようにベッドの上にころころとダイブして。ひんやりとヴェールのように舞い降りる氷の結晶に満足顔。
ひよひよすやぁ。
心地よさそうにお昼寝を始めたぶんちょうさまたちに、四人とも笑顔を見せて。
「俺もう限界……ふにゃあ」
「……暑い」
ごろんとヴァーリャが寝転がり、クーラー役を終えた黒羽もベッドの上へ。
「わたしもやすむーっ」
オズもえーいっと飛び跳ねて、ごろん。ぴよっと頭から転がるぶんちょうさま。
未だ乗っていたのかと笑いながら、綾華も腰を下ろして。
「おつ」
綾華が仰ぐ扇の風が、そよりとそよりと吹き抜けて。
さやさやと幽し笹の葉鳴く声に、暫しの涼を楽しんだ。
大成功
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真宮・響
【真宮家】で参加。
少し前までアタシ達家族は災魔は全部厄災として滅ぼしてきた。でも、人懐っこい奴や、同情が出来る理由で禍を起さざるを得ない災魔がいることを知った。
それに、ふわもこ大好きな奏の事を考えると乱暴な手段はやめた方がいいだろうね。おいで。(ぶんちょうさまを優しく手招き)
アタシはいい天気だから、ぶんちょうさまとゆっくりお昼寝。赫灼のグロリアで一緒に歌うのもいいね。ゆっくり過ごした後はお別れする。楽しかったねえ。またこうして穏やかに済ませればいいのだけど。
真宮・奏
【真宮家】で参加。
つい先日まで全て災魔は滅ぼす方針でやってきましたが・・・悪意を持って人を襲う災魔が全てではないと気付きましたので・・・害のないふわもこなら尚更です。
私はぶんちょうさまの群れに飛び込んで、ご挨拶してから絢爛のクレドでくるくるとターンしてぶんちょうさまと遊びます。一杯遊んだらバイバイします。楽しかった!!
神城・瞬
【真宮家】で参加。
つい先日までは災魔は全て倒すべき敵でしたが、人懐っこい災魔ややむを得ない理由で禍を起さざるを得なかった存在と会い、考えが変わりつつあります。
それに奏が大好きなふわもこ且つ道を通せんぼしてるだけなら荒っぽい手段はいりませんよね。(ぶんちょうさまを手招き)
僕は精霊さんから貰った銀のフルートを奏でて清光のベネディクトゥスでぶんちょうさまと遊びます。一杯満足して貰ったらお別れ。奏の笑顔を見て、これで良かったんだと満足します。
間宮家の三人は、つい先日までオブリビオンは全て災厄として滅ぼしてきていた。しかし、人懐っこいオブリビオンややむを得ない理由から禍を起さざるを得なかった存在と会い、その考えに変化が現れてきていた。
悪意を持って人を襲うオブリビオンが全てではない。オブリビオンとして生きてしまっている以上絶たねばいけない時の方が多いだろう。けれど、そうしなくともいい時ならば……。
「わあ、可愛いです」
街道を埋め尽くす白い羽毛に、真宮・奏(絢爛の星・f03210)は年相応の歓声をあげた。日常的に戦いの中に身を置いてはいるが、奏も年頃の女の子だ。「見てください!」と明るい声でぶんちょうさまを指差す姿に母と義兄――真宮・響(赫灼の炎・f00434)と神城・瞬(清光の月・f06558)も笑みを浮かべる。年相応にはしゃぐ奏の姿はとても微笑ましかった。
「こら、奏」
ぶんちょうさまたちの群れの中に飛び込んでいく奏に、瞬は少し慌ててしまう。一見無害そうに見えても、その実恐ろしいオブリビオンなどたくさん居る。全て滅ぼすという考えから変わって来ているとは言え、無防備に突っ込むんでいいものではない。
けれど、奏はその静止も気にせずに、ぶんちょうさまたちの前まで行って、ぺこりとご挨拶。それから優しく声を掛ける。
「こんにちは、私も一緒に遊んでいいですか?」
チッチッチッと鳴くぶんちょうさまたちが何と言っているかはわからない。けれど挨拶を返してくれたような気がして、一緒に遊んでもいいよと言われた気がして、奏は《絢爛のクレド》を使用して踊りだす。
楽しげに、くるくるくる。
ぶんちょうさまとも一緒にターン。
注意を促そうとしていた瞬だったが、そんな奏の姿を見れば彼女に倣う他ない。響も同じ思いを抱き、今この時は乱暴なことはせず奏の笑顔のために過ごそうと決めた。
「おいで」
ぶんちょうさまを優しく手招く、母の手。
ひょこひょこと近寄ったぶんちょうさまを抱き寄せて、響は街道の隅で転がり昼寝を決め込む姿勢。瞬へとひらりと手を振って、奏を見守る役を任せ、そっと目を閉じる。腕の中のふわふわが心地好い。
後を任された瞬は《清光のベネディクトゥス》を使用して銀のフルートを奏で出す。心地の好い音楽に、ぶんちょうさまたちはうっとり聞き入ったり、眠ったり。
聞こえてきたフルートの音に合わせ、奏が踊る。一緒にぶんちょうさまたちも踊る。
そうして、どれだけ過ぎただろうか。昼寝を始めた響が起き出して、《赫灼のグロリア》を使用してフルートの音に合わせて歌い出す。
三人にとっても、ぶんちょうさまたちにとっても、とっても和やかで穏やかな時間。
ぶんちょうさまたちが満足するまで、奏で、踊り、歌い、楽しいひと時を過ごした。
「楽しかったかい、奏」
「はい、とっても」
心からの笑みを浮かべる奏の姿に、二人はこれで良かったのだと思うのだった。
またこうして穏やかに済ませられますように。
小さな願いを、胸に抱いて。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
■櫻宵/f02768
♢
ふふ、ゆかた
どんなのにしようかな、ヨルのゆかた!
え!櫻の?……君、10着くらい持ってなかった?
あ!!!もふもふだ!
櫻、櫻、この道をいこう
もふもふ可愛いのがたくさんいるよ
ふふ……ふかふかで可愛いな……なでなでしてもふもふする
寄ってきてくれるかな
ちょっと暑いけどしあわせだ
あ、おせんべ
皆お腹一杯だけどおやつも食べないかな
ヨ、ヨル!!それは、文鳥の!
……何やってるの櫻
……ほらほら、あっちで遊ぼう
ヨルも遊んで欲しいって
おせんべを追いかけて遊んでみよう
怖がらせないように優しく追いかけて抱っこして遊ぶんだ
その後お昼寝をする
僕、子守唄を歌うよ
皆でくっついていればふわふわ夢心地
ふぁ、眠く…
誘名・櫻宵
🌸リル/f10762
♢
リルのとっておきの浴衣も仕立ててもらわないとね!
え…ヨルの浴衣なの?!あたしのじゃなくて?!
あら
リルの好きそうなもふもふが溢れかえっているわ!
……下手に踏み込んだら踏んじゃいそうで怖いわね
一気になぎ払ったら気持ちよさそうだけれど、リルが悲しむから我慢よ
あ!!あたしの人魚が鳥まみれに!
ちょっとリルからはなれて…
お、お煎餅食べるかしら?
これを竹林のほうに投げたら追いかけていったりしない?お煎餅フリスビーよ(投げる
ヨルはよく食いついたわ
あっちで一緒に遊びましょ!なんて誘惑して投げキッス(効果不明
移動してくればすかさず場所を用意してお昼寝準備
あら、リルも寝ちゃったの?
可愛いわね
どんな浴衣にしようかな。
楽しげに浴衣へと思いを馳せながらリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)と誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)はゲートをくぐる。
傍らの愛しい人魚に何がいいだろう。生地の色は、帯の色は、それから髪を結って夏らしい簪を挿してみたり。どんな姿を想像しても可愛くて、とても悩ましい。
恋人との初めての夏。そして浴衣。浮かれない男がいるだろうか。いや、いない。
傍らの人魚だって……
「どんなのにしようかな、ヨルのゆかた!」
「え……ヨルの浴衣なの?! あたしのじゃなくて?!」
「え! 櫻の?」
……恋人の浴衣の事は全く考えていなかった。だって彼、着物いっぱい持っているし。それよりもペンギン式神のヨルの浴衣の方が大切だ。ヨルにとっても初めての夏なのだから!
思いを馳せている内に転送は終えていて。街道に目を向ければ、真っ白羽毛がぎっしりもふもふのもちもち。ぶんちょうさまたちが居た。
「あ!!!」
「あら」
「もふもふだ!」
リルの大好きなもふもふが、たくさん居る。「櫻、櫻」と袖を引いて進んでいこうとする人魚だが、足のある櫻宵からすると下手に踏み込んだら踏んでしまいそうで少し怖い。
けれどリルはご機嫌ご満悦。近寄って手を差し出されたら擦り寄られ、もふもふでもこもこになって、なでなでしてもふもふする。ちょっと暑いけれど、しあわせ。しあわせは、あたたかなものなのだから。
「ちょっとリルからはなれて……」
鳥まみれになった愛しの人魚の姿に、櫻宵の声のトーンがひとつ落ちる。
そのおネエ――お兄さん、怖いよ? 一気になぎ払ったら気持ちよさそうだななんて、思ってなんていませんよ?
流石にそんな事をしては、リルが悲しむのは解っている。策を……何か策を講じねば……。
「お、お煎餅食べるかしら?」
「あ、おせんべ」
スッと懐から取り出されたるは、一枚の煎餅。リルもヨルもぶんちょうさまも、一斉に煎餅へと視線が吸い込まれる。お腹がいっぱいでもおやつは別腹かもしれない。櫻宵は賢いなと櫻宵の動機を知らないリルは思った。
――何故懐から? オンナは色々と隠し持っているものなのよ。
竹林のほうに投げたら追いかけていったりしない?
えーいっとフリスビーのように煎餅を放り投げる櫻宵。
しかし。
ピョーン! ――シュタッ!
ぶんちょうさまたちが動くよりも先に、ペンギン式神が華麗なジャンプをして煎餅をキャッチ! ポーズも決まって10点満点。
「ヨ、ヨル!! それは、文鳥の!」
「……くっ」
慌てるリルに、悔しそうな櫻宵。
この策は失敗した。してしまった。ならば次は――誘惑よ!!!
「あっちで一緒に遊びましょ!」
色気たっぷりの花魁からの投げキッス。
並のオトコだったらイチコロだっただろう。
しかし、相手はぶんちょうさまだ。
「……何やってるの櫻」
思わず半眼になるリル。
「……ほらほら、あっちで遊ぼう」
呆れた様子で促すけれど、ぶんちょうさまたちに効かなくて良かったとひそりと思う。君に見惚れるのは僕だけでいいのだから。
煎餅を咥えたヨルがテテテーっと走れば、煎餅に興味のあるぶんちょうさまたちが群れからちょこちょこと飛び出して追いかけだす。優しく追いかけようと思っていたリルだが、思ったより早いぶんちょうさまたちを追いかけるのに大変だった。
やっとの思いで追いついて。抱っこして、戯れる。
櫻宵はそんなリルを見つめながら、お昼寝場所を準備した。きっと人魚が歌って、ぶんちょうさまたちをお昼寝にいざなうから。
たくさん追いかけっこをして戯れたならば、お昼寝をしようとリルは櫻宵が準備した場所にころりと転がって。ぶんちょうさまたちまみれになりながら、子守唄を紡ぐ。
優しくて柔らかい歌声で心もいっぱい満たされたぶんちょうさまたちの目蓋が落ちて。
ふぁ、とリルの口からも欠伸が溢れれば、ゆるゆる目蓋が降りてくる。
「あら、リルも寝ちゃったの?」
――おやすみなさい。愛しい子。
可愛い寝顔に微笑んで、優しく髪を梳く。
優しくて穏やかなひと時が、ゆっくりと過ぎていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
赫・絲
薺サン(f00735)と!
かっ……かわいー!
薺サン見てほらこれかわいーよ!
手近なもちもち一匹を大喜びで捕獲
ね、ほんとにふにふにもちもちって、焼かないであげてー!
わーい、写真撮る撮る!
ぶんちょうさまを持ったまますすいっと薺サンの横に並んで
はい、インスタ映えー!
うーんほんとに可愛くて強敵だけど遊びつつ退いてくれないかなー
鈴入りの小さなボールをぶんちょうさまの目の前に
ボールを竹林の方に向けて転がしたら追いかけてくれないかなーなんて
うーんどっちがボールかわかんなくなるまん丸さ!
薺サンもぶんちょうさまと遊ぶ?まだボールあるよー!
どうしても退いてくれない時は、鋼糸でまとめて竹林にぽいってしちゃうよー!
勾坂・薺
赫さん(f00433)と
わ、本当だ。可愛いなぁ。うーん、焼き鳥…じゃなかった。
触るとふにふにもちもちしてて可愛いよね。お餅みたい。
せっかくだしちょっと写真とっていかない?
ほら、赫さんこっち寄って寄って。
最近の若い子はなんていうんだっけ、はいインスタ映え?
一枚ぱしゃりと
あ、遊ぶのわたしも賛成。
さすがに無理やりどけるのはちょっと可哀相な気もするしなぁ。
赫さんにボールちょうだい、と貰ったら
食後の運動は軽いやつがいいよね、と真似るように転がす
どいてくれなかったら、うーん。
【Hello, world!】でしゃぼん玉ふわふわ飛ばして拘束して
ちょっとどいてもらおっか。
街道を埋め尽くす、白い羽毛。
ひよひよ、すぴすぴ、ぎゅうぎゅう。
「かっ……かわいー!」
転送されて街道を見た赫・絲(赤い糸・f00433)は、両頬に手を添えて思わずきゃー! と声を上げた。もふもふがたくさんでめちゃくちゃ可愛い!
その声に反応したのか、ぶんちょうさまたちはもぞもぞと動く。もぞもぞもちもち動いて、おしくらまんじゅうに負けたように、ころん。ぶんちょうさまの一体が、ころりと転がり出てしまった。
すぐさましゃがんだ絲は、足元にころりと転がってきたぶんちょうさまをむんずと掴んで捕獲。
「薺サン見てほらこれかわいーよ!」
ほらー、見て見てー!
ぶんちょうさまを掴んだ腕を持ち上げれば、傍らの女性――勾坂・薺(Unbreakable・f00735)もそっと窺うように覗き込み。
「わ、本当だ。可愛いなぁ。うーん、焼き鳥……じゃなかった」
「ね、ほんとにふにふにもちもちって、焼かないであげてー!」
焼いたら美味しそうね。なんて、冗談冗談。
パチンとお茶目なウインクひとつ落として、絲の手の内のぶんちょうさまを指先でつんつん。ふにふにもちもち。お餅みたい。
「せっかくだしちょっと写真とっていかない?」
「わーい、写真撮る撮る!」
こっちに寄ってと言われた絲は、ぶんちょうさまを手にしたまま薺と肩をくっつけて。
「最近の若い子はなんていうんだっけ、はいインスタ映え?」
「はい、インスタ映えー!」
カシャリ。薺のスマートフォンがシャッターを切った。
笑顔の薺と絲と、もっふりなぶんちょうさま。
切り取られた写真をチェックし、「うん、いい出来」と薺は頷く。後から赫さんのスマホに送っておくね。
写真を撮っている間にもぶんちょうさまたちは足元に増えていく。竹林で食事を終えたぶんちょうさまが休憩しにきているのだ。
今日のぶんちょうさまはただ寛ぎたいだけで、こうして猟兵の足元に居ても嘴で攻撃することもない。ただ、ふかふかもちもちが街道にぎっしり詰まっているだけだ。
そして、可愛いは強い。歴戦の猟兵でも戦いたくないなぁと思ってしまう。
「遊びつつ退いてくれないかなー」
「あ、遊ぶのわたしも賛成」
竹林から吹き抜けてくる心地好い風にうっとりと目を細めるぶんちょうさまを見れば、無理やりどけるのも気が引ける。
何か方法はないかなと薺が絲を見れば、スッと取り出されたのは鈴入りの小さなボール。猫たちを夢中にさせる魔性のアイテムだ。白猫のエレメンタルロッド用なのだろうか。備えあれば憂いなし。
顔の横でちりぃんと鳴らせば、ぶんちょうさまの何羽かが興味を惹かれて絲を見る。
「えーい」
ぽいっと竹林の方へ転がせば、ころころ転がるように駆けていくぶんちょうさま。ふっくらまんまるな姿がぽてぽてと駆けていくものだから、どっちがボールか解らないねと絲が笑う。傍らの薺も微笑ましげに目を細めてその姿を目で追いかけた。
「薺サンもぶんちょうさまと遊ぶ? まだボールあるよー!」
「うん、それじゃぁ」
食後の運動は軽いやつがいいよね。
薺もまた、ボールを転がした。
りんりんと鳴りながら転がるボールにぽてぽて追いかける後ろ姿。
惜しむらくは竹林に入ると下生えですぐにボールが止まって、ぶんちょうさまたちも追いかけるのを止めてしまうことだろう。
それに気付いた二人は顔を見合わせてから同時に小さく吹き出して、止まったボールを更に転がすべくぶんちょうさまたちの後を追いかけるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴォルフガング・ディーツェ
遊ぶだけ、か
…そうだね、たまにはそんな、優しい時間があっても良いよね
さあて、先ずはわんこを追い掛ける前に鳥さんをどうにかしないとね?
とは言え、傷付かなくて済むならそれが良いだろう
UCを使ってぶんちょうさんと空中散歩と洒落込もうか
彼らに合わせて精霊の力で軽やかに跳ね回り、空を駆け回ろう!
いやあ、しかしキミ達、本当に愛らしいふくふくボディだね…触ったら怒るかなー。駄目かなー。
ほら、代わりに尻尾で遊んであげるから、ちょっとで良いから触らせて?ね?ね??(じーー)
疲れたら休めるよう、柔らかな枯れ草を集めた寝床も作ろうか
キミ達の抜けた羽根があったらそれも使って……あ、凄く安眠できそう…寝ちゃおっかな…!
――遊ぶだけ、か。
案内したグリモア猟兵に告げられた言葉を反芻して、目を閉じる。
どんなに愛らしくても、彼等はオブリビオンだ。けれど。
(……そうだね、たまにはそんな、優しい時間があっても良いよね)
目を開けたヴォルフガング・ディーツェ(花葬ラメント・f09192)の鋭いと言われる瞳は、とても優しい色を湛えていた。
浴衣を盗んだわんこオブリビオンを追いかける前に、まずは目の前に居る鳥さん――ぶんちょうさまをどうにかすることからだ。
街道にみっちりむっちりと詰まったふかふかなぶんちょうさまとヴォルフガングの目が合った。ぱちぱちとまぁるい瞳を瞬く様は愛らしく、とても危害を加えてきそうには見えない。近くで困ったなぁと足を止めている人々にも進んで危害を加えようとしない様を見て、穏便に退いてもらうのが良いだろうと判断した。傷付かなくて済むならそれが良いだろう、と。
(――さあて、空中散歩と洒落込もうか)
精霊の力を借りて、ポンと軽やかに跳ね上がる。
興味を惹かれたぶんちょうさまが跳ねるヴォルフガングを見上げ、真似して羽ばたいて飛んでみる。するとヴォルフガングが、またポン、ポンと宙を蹴って空を駆ければ、それを真似するぶんちょうさま。
最初はほんの、一羽か二羽。けれど幾度か続ければ、一緒に空中散歩を楽しむぶんちょうさまたちが増えていく。
気付けばヴォルフガングの周りにはたくさんのぶんちょうさま。時折ぽふんと顔や体にぶつかってくるため、ヴォルフガングの欲求も高まるというもの。
「いやあ、しかしキミ達、本当に愛らしいふくふくボディだね……」
触ったら怒るかなー。駄目かなー。
そろりと手を伸ばしてみる。
「ほら、代わりに尻尾で遊んであげるから、ちょっとで良いから触らせて? ね? ね??」
尾を振りながらそっとそっと手を伸ばせば、ちょんっとその手のひらの上に飛び込んでくるぶんちょうさま。その感触は、見た目から想像していた以上に、ふわふわでもふもふのむにむだ。
もふっふかっとした感触に、思わずヴォルフガングの口から「おお」と声が漏れた。
そうして暫く彼等のふわふわを堪能させてもらい、尾で遊ばせ、空を駆け。遊び疲れた彼等が地面で休み始めるのを見れば、枯れ草や抜け落ちた羽根で寝床を作成してあげる。
腕で押して出来具合を確認するととてもふかふかで、これは安眠できるやつ! と確信めいた気持ちが湧いた。
(寝ちゃおっかな……!)
ごろんと転がればぶんちょうさまたちに寄り添われ、抗えないふかふかともふもふから暫く抜け出せなくなることを、この時のヴォルフガングは未だ知らなかった――。
大成功
🔵🔵🔵
蘭・七結
ルーシーさん/f11656
まあ、大変な出来事だこと
遊んでほしいのかしら、ね
ルーシーさんは、浴衣ははじめてかしら
ナユは数回だけ。とてもよいものよ
あなたには淡い色も、深い色もお似合いね
とびきりステキな思い出を作りましょう
あら、まあ。真白い小鳥さんだわ
ふくふく、もちもちで愛らしいこと
傷つけるのは、気が引けてしまうわ
安全な場所へと案内しましょう
愛らしいあなたの手を引いて
手伝って、くださるかしら
こちらへおいで。小鳥さん
安全で、涼やかな場所へと導くわ
催眠を齎す気化毒を、振りまいて
〝明けぬ黎明〟
おびき寄せ、とは異なるけれど
真白のひとつ、ひとつを誘って
ぎゅーとしても、構わないのよ
ナユもひと撫ぜしてみようかしら
ルーシー・ブルーベル
七結さん(f00421)と
たったひとつの浴衣なんてステキ
ルーシー、浴衣は着た事ないの
七結さんはある?
七結さんには赤はもちろん、他の色もきっと似合うと思う
花の咲くようにキレイね
楽しみだわ
わあ、わああ
ぶんちょうさま達とってもかわいい
もちもちフォルムをぎゅーってしたいけれど
ここはガマン
……ガマン、できる、わ?
ええ、もちろん
その手をとって
ぶんちょうさまの引っ越し大作戦、開始ね
日向ぼっこも良いけれど
今の時期、涼しい所はきっと喜ぶわ
近くに水場とかあったかしら
ぶんちょうさん達に話しかけながら
誘う香りの後押しを
「ウサギのぬいぐるみ」
動くのが億劫なコはこっちへいらっしゃい
ルーシー達が運んであげる
それなら…ぎゅー
たったひとつの浴衣。
何とときめく言葉だろう。自分のためだけの、世界でたったひとつ。それはとてもステキなものだ。
「ルーシーさんは、浴衣ははじめてかしら」
グリモア猟兵から話を聞いて「大変な出来事だこと」と感想を漏らしていた蘭・七結(戀一華・f00421)は隣に佇む幼い少女――ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)へと問いかければ、ふるりと静かな否定が返ってくる。
「七結さんはある?」
「ナユは数回だけ。とてもよいものよ」
ルーシーに合うのはどんな色だろうか。淡い色も深い色もきっと似合う。告げながら白いワンピースに赤い着物を羽織った七結は、ひらりと袖を振って見せ。
赤い着物をいつも羽織っている彼女だけれど、きっと他の色も似合うのだろう。ルーシーは涼し気なアイスブルーの片目をぱちりと瞬かせた。
「とびきりステキな思い出を作りましょう」
「楽しみだわ」
それぞれの思う浴衣の為。そして少女の、特別なたったひとつの浴衣の為。まずは目の前の困り事から片付けましょう。
人々が立ち往生する街道に、白くて丸くてもちもちがもっさり。他の猟兵たちの働きでいくらか減っているものの、まだまだたくさんのぶんちょうさまたちの姿にルーシーは目を輝かせる。
「わあ、わああ」
「あら、まあ。真白い小鳥さんだわ」
ふくふくでもちもちの可愛いフォルムは、乙女の心をときめかせる。
ぶんちょうさまを抱きしめたら、どんな感触なのだろう。羽毛でふかふか? もちもちした感じ? それともルーシーのぬいぐるみたちと似ているのかな。ぶんちょうさまたちに瞳を輝かせたルーシーは、今すぐにでもぎゅーっと抱きしめたい気持ちだが……今はまだ我慢の時。眉に力を入れてもあまり変わらぬ表情だが――それでもルーシーはきゅっと眉に力を入れる。大丈夫、ガマン、できる。
傍らの少女のその姿に、七結は袖の下で淡く微笑んで。
「傷つけるのは、気が引けてしまうわ。安全な場所へと案内しましょう」
提案とともに手を差し出して。
「手伝って、くださるかしら」
「ええ、もちろん」
その手に小さな手を乗せて微笑むルーシー。
七結の空いている片手には、香水瓶。片手でポンと栓を抜き、ぶんちょうさまたちの頭上で振りまくように大きく左右に手を振れば、不思議そうに見上げたぶんちょうさまたちが一呼吸分動きを止める。七結ユーベルコード《明けぬ黎明》は、催眠と忘却を齎す気化毒である。何をしていたのか忘れてきょとんとするぶんちょうさまへ「こちらへおいで。小鳥さん」と微笑みかければ、ふらりふらりとぶんちょうさまたちが誘われていく。
誘われず、ぼんやりと止まったままのぶんちょうさまは、ルーシーが喚んだ《ウサギのぬいぐるみ》が抱えあげて運んでいく。
先頭に、手を繋いだ七結とルーシー。その後ろにはぶんちょうさまを抱えた大きなウサギのぬいぐるみと、ぶんちょうさまを抱えた白いふわふわのぶんちょうさまがとてとて歩いて着いてくる。
(……かわいい)
後ろを見れば、可愛い子たちがついてきていて、まるで絵本の中にいるみたい。
視線を感じて見上げれば、笑顔の七結と目が合って。その顔がとても微笑ましげで――少しだけ恥ずかしくて、目を逸らした。
二人が向かう先は涼しそうな場所。風が運ぶ涼し気な気配に、水場が近くにあることを知った二人はそちらへ爪先を向けた。
暫く歩けば、耳に届くせせらぎ。
川にたどり着き、ぶんちょうさまたちを自由にすれば、引っ越し大作戦は終了する。
(ガマン、もうしなくて大丈夫かしら)
思い思いに寛ぎ出したぶんちょうさまたちをちらりと見れば、七結が気付いて小さく笑う。
「ぎゅーとしても、構わないのよ」
アイスブルーをパチリと瞬かせ。
近くのぶんちょうさまたちへ手を伸ばし。
ぎゅー。
抱きしめたぶんちょうさまは、やっぱりもちもちしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
白波・柾
ぶんちょうさまか……
こう見えて愛らしい見た目だがオブリビオンだしな、油断しないようにせね……ば……
(固まって愛らしく鳴くぶんちょうさまを見る)
……こうしてみるとオブリビオンとは思えないな
穏便に退去願うとするか
街の人々にお願いできるならば竹林の竹や廃材をいくつか分けてもらって
あるいは街で使わないものなどあればなおいいが
大きめの桶ができたならば、そこに川の水を入れてぶんちょうさまが浮かべられるようにしたい
水が苦手でなければいいが
もしだめなら、その桶で水まきなどして涼んでもらってもいいかもしれない
大きめの霧吹きがあるならば、少しずつだろうが涼むこともできるだろう
……できれば危害は加えたくはないからな
文鳥型オブリビオン、『ぶんちょうさま』。もっちりまんまるなボディは大変愛らしく、白いふわふわな羽毛で今日だけでもどれだけの猟兵たちを陥落してきたことか。
しかし、見た目は愛らしくともオブリビオン。嘴に突かれれば痛いし、蹴られれば趾の爪で裂傷は免れない。決して油断をしていい相手ではない。
(油断しないようにせね……ば……)
街道を埋め尽くす、白いもふもふ。
みっちり詰まって、愛らしくひよひよ鳴いているぶんちょうさま。
くるっとしたまんまるな瞳で見上げられると、無害なただの文鳥にしか見えない。
油断さえしなければいいのだ。油断さえしなければ。
白波・柾(スターブレイカー・f05809)は気を強く持とうと自身の頬を両手でぺちっと叩き、油断はせず、そして穏便に退去させようと決めた。
(どう退去させようか――)
暫し考えた柾の視界に、切られている竹が映った。竹林の竹を減らすのが目的か、何か他の理由があって切られているようだ。ならば、もしかしたら。
柾は集っている人々に不要な竹は無いか尋ねてみる。すると、竹林の中の小屋に集められている竹ならば好きにして良いと言われる。小屋は川近くにある為、せせらぎを頼りに歩けばすぐに見つかるだろうと教わり、感謝を告げて一旦その場を離れることにした。
小屋に着けば早速作業に取り掛かり、大きめな桶を作成した。ぶんちょうさまがたくさん入れるようにと幅広にしたそれは、桶と呼ぶよりは盥が近いかもしれない。
そしてその桶に、小屋近くの川で水を汲み、元の街道へと運んでいく。
少量の水を零しながら地面へ降ろすと、涼し気な気配に惹かれたのだろう。ぶんちょうさまが何羽か近付いてきた。
「どうぞ」
入っていいと示せば、ぶんちょうさまは僅かに羽ばたいて、ぽちゃんと水に浸かる。気持ちが良いのだろう、ぴぃぴぃひよひよ鳴いて仲間を呼び、柾が用意した桶はぶんちょうさまたちの水浴び場となる。
すぐに芋洗い状態となってしまったぶんちょうさまたちに時折水をすくって掛けてやり、柾もささやかな涼を楽しむのだった。
大成功
🔵🔵🔵
境・花世
綾(f01786)と
小さなおかよさんとわたし、
どうしたって似ているはずがないのに
きみの慈しみ深い笑顔に少し照れる
……あれ、もしかしてかみさまにとっては、
五歳も二十五歳も同じ枠……?
首を捻りながら鳥たちに向き合えば、
眩い羽毛は見るからに柔らかそうで
綾がやさしく眠りに誘う間、
わたしは“偽葬”でこの身を強化しよう
これは竹林に運ぶための深遠なさくせん
決して下心じゃないん、 モフゥ!
抱え上げようと羽毛にふれた瞬間、
あっさり陥落して顔を埋める
綾、ゆるす、これはゆるされていい
柔いぬくいものに包まれたなら、
隣の美しいひとは常になくゆるんだ顔で
きっと今おんなじこと想ってる
もう少し、こうして――きみと
都槻・綾
f11024/かよさん
ふわふわ羽毛な鳥達が
ぎゅうぎゅうに詰まった目白押しの様子にふんわり和み
ついつい目元を和らげるけれど
依頼の目的を忘れはしない
おかよさんの為にも
大切な浴衣を
きっと取り戻してみせましょうねぇ
あなたのように可愛らしい子に違いありませんよ、と
同じ名前のかよさんへ
柔らかな笑みを向け
取り出したのは香り豊かな帛紗
広い範囲に届くよう朗らかに
されど優しく穏やかに
子守歌みたいに詠いあげる馨遙で
ぶんちょうさま達を
ころんころんと眠りへ誘う
すやすやひよひよ寝ている姿は大層愛らしく
…少しくらい抱き締めても許されるでしょうか?
なんて
白い羽毛の山に
ふっかり埋もれてみたり
かよさんも嬉しそうだから
私も笑み綻ぶ
訪れた街道にはふわふわ羽毛のぶんちょうさまたちがぎゅうぎゅうに詰まっていた。踏まないようにここを歩いて抜けるのは、至難の業だろう。
人々は困っているようだが、ふわふわのぶんちょうさまたちが目白押しの様子はとても愛らしくて、都槻・綾(夜宵の森・f01786)はつい目元を和らげてしまう。傍らの境・花世(*葬・f11024)もまた、同様の表情をしていた。花唇が「ふわふわ……」と音無く動いたけれど、前方を向いていた綾には気付かれずに済んだ。
どんなに和む風景であろうと、綾は仕事を忘れはしない。
浴衣を待ち望んでいる小さな娘。その子の為にも盗まれた浴衣は取り戻さなくては。
そして、その子はちょうど、隣に佇む彼女と同じ名前。
「あなたのように可愛らしい子に違いありませんよ」
頑張りましょうねと、美しいひとから向けられる慈しみ深い笑みと言葉。
名前が同じだとしても、花世と小さなおかよではどうしたって似ているはずもないのに。それなのに彼の笑みは、心からそう思っていると告げてきていて、少し、照れる。
けれど。
(……あれ、もしかしてかみさまにとっては、五歳も二十五歳も同じ枠……?)
彼は、百年大切にされて魂を得たヤドリガミ。百歳オーバーの男に取っては五歳も二十五歳も変わらず童なのだろうか。
照れたはずの心が簡単にどこかへ吹き飛び、首を捻りながらも花世がぶんちょうさまたちへ向き合えば、その傍らで綾が懐から帛紗を取り出す。四季謳う吉兆紋の刺繍入りのそれから、ふわりと香るは花の香。
「神の世、現し臣、涯てなる海も、夢路に遥か花薫れ、」
ぶんちょうさまたちへと眠りにいざなう香りが届くようにと《馨遙》を優しく穏やかに謳い上げれば、ころんころんと転がる真白の羽毛。優しく柔らかな夢に包まれているのだろう。幸せそうに目蓋を落としていた。
その間に花世は《偽葬》で身体を強化しようと思ったが、《偽葬》を使うには不利な行動を取る必要がある。この場面で不利な行動が思い浮かばなかった花世は、力に頼らずそのままぶんちょうさまたちを抱えることにした。
――ふわふわなぶんちょうさまを抱けて役得だなんて思いはしない。
――もふもふなぶんちょうさまに顔を埋めたいだなんて思っていない。
「……少しくらい抱き締めても許されるでしょうか?」
綾の言葉を耳にしながら、起こさないようにそっとそっとぶんちょうさまを持ち上げ、
(これは竹林に運ぶための深遠な作戦。決して下心じゃないん、)
モフゥ!
抱え上げようと羽毛に触れた瞬間、あっさり陥落。気付けば花世は羽毛に顔を埋めていた。歴戦の猟兵をも秒殺する魅惑の羽毛、恐るべし。
「……綾、ゆるす、これはゆるされていい」
もふもふの中から、もごもご口にする花世。その姿に綾は柔らかな笑みを浮かべ、眠っているぶんちょうさまを腕いっぱいに抱きしめた。
ふかり。
柔らかな羽毛を、腕に、胸に、感じる。頬を近づければ、もふんと包まれて。
(ああ。これはかよさんも――)
羽毛から顔を上げた先には、幸せそうな彼女の姿。その姿を見れば、自然と頬は綻んで。ふわり、浮かぶは花咲く笑顔。
花世も柔らかな温もりから顔を上げ、そうして結んだ視線の先。隣の美しいひとのゆるんだ顔を見つけた。きっとわたしもおんなじ顔。そして、きっと今、おんなじことを思ってる。
(もう少し、こうして――きみと)
二人は暫くもふもふを楽しんでから、ぶんちょうさまたちを竹林へと移動させるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マルガリタ・トンプソン
鸙野(f15821)と
浴衣選びの前にまずはお仕事だね
……君、動物の扱いとかわかる?普通に撃ったり斬ったりするより難しい気がするんだけど
まあ、これも経験だ。やるだけやってみよう
食後の運動がてら仲良くなって、穏便に道をあけてもらおうか
挨拶代わりに頭でも撫でたらいいかな?
あ、すごい。羽毛すっごい。撃っても弾が埋もれて届かないんじゃない、これ
よぅし、もっと撫でてやるからついておいで。追いかけっこだ!
あっちは……助け舟を出してもいいけど
鳥に遊ばれてる君は見てて面白いし、
……“刀”の君じゃあ出来ない経験だもんなぁ
ごめんごめん、助けるって
彼にじゃれてる子を後ろから擽って驚かせてやろう
ほら、俺とも遊んでよ
鸙野・灰二
マルガリタ(f06257)と
動物の扱いは正直わからん。
これまで関わッたのは馬くらいで、鳥とはまた勝手が違うだろう。
そうだな、まア、やれるだけやるとも。
ひとまず見よう見まねで触れてみるとしよう。
道を埋めている群れの前に屈み込んで、鳥の頭や体を撫でてやる。攻撃と見なされない程度の強さ、力加減が難しい。
……温い。柔らかい。突かれるが痛くない。
しかしこの後はどうすれば良いのやら
いつの間にか髪も羽織も鳥に啄まれて身動きがとれん。
鳥に遊ばれつつ顔を動かして、マルガリタに視線を送る。
彼奴は上手く遊んでいるようだな
…………助けて呉れ。
もっさりふんわり、白い波。蠢くそれらは、ひとつひとつがオブリビオン『ぶんちょうさま』だ。
浴衣選びの前の仕事をしに来た二人の猟兵は、その白い波を見つめて言葉を交わす。
「……君、動物の扱いとかわかる?」
如何にも愛らしい生き物とは無縁ですと言わんばかりの風体の男――鸙野・灰二(宿り我身・f15821)へとマルガリタ・トンプソン(イン・ユア・ハンド・f06257)は問いかけた。刀を本体とする男が動物を愛でる姿など想像もつかないと言う声で、普通に撃ったり斬ったりするより難しいと思うよ、と。
「動物の扱いは正直わからん」
関わった事があるのは馬くらいだ。鳥となると大きさも種族も異なり勝手が違うことだろう。
「まあ、これも経験だ。やるだけやってみよう」
「そうだな、まア、やれるだけやるとも」
明るい口調のマルガリタに灰二は目を伏せて頷きを返した。
まずはどうしようか。腕を組んで少し考えたマルガリタは、ぶんちょうさまたちと仲良くなることに決めた。食後の運動がてら仲良くなって、穏便に道をあけてもらおうか。
マルガリタが近寄って手を伸ばしても、のんびり寛ぎモードのぶんちょうさまたちは逃げず、その手に大人しく撫でられる。ふかふかと柔らかく手の沈む感触。感じる温かなぶんちょうさまの体温。そしてもちもちボディ。
撃っても弾が埋もれて届かないのではないかと思いながら撫でていれば、ぶんちょうさまの顔付きが『撫でさせてあげている』から『もっと撫でて』な顔に変化していた。うっとりと目を細めたその顔に小さく笑みを零して手を離せば、続きを催促するように目を開けるぶんちょうさま。
「よぅし、もっと撫でてやるからついておいで。追いかけっこだ!」
駆け出したマルガリタの後を、ぽてぽてとぶんちょうさまたちが着いていった。
そんなマルガリタを見て、己も触れてみようと灰ニは手を伸ばす。群れの前に屈み込み、出来るだけ優しく触れて、撫でる。攻撃と見なされない程度の強さを意識するが、斬り結ぶことこそが本性の男には力加減が難しい。
「……温い」
柔らかな羽毛と体はさわり心地が良く、絹の上を滑るようにするりと手が流れる。こっちもと催促してくる嘴が指に触れるが、攻撃のためではないため痛みはない。
けれどその後は、どうすれば良いのか。屈み込んだまま撫で続ける男は気付けばぶんちょうさまたちに囲まれ、肩や頭にも白い羽毛がもっふりと乗っかってしまっている。髪や羽織も齧られている気がする。否、齧られている。
動物の扱いが解らぬ男は、視線を動かして駆けているはずのマルガリタを探す――と、いつの間にか駆けっこを止めて立ち止まっているマルガリタと目が合った。きっと、随分と前から見られていたのだ。物珍しくて、面白くて。
(……“刀”の君じゃあ出来ない経験だもんなぁ)
戦場こそが遊び場の男には。
「…………助けて呉れ」
「ごめんごめん、助けるって」
明るく笑って、駆け寄って。
俺とも遊ぼうとぶんちょうさまたちを擽って。
そうして少し開放された男が小さく息を吐いて安堵したのを見れば、「鳥が髪を噛むのは愛情表現や仲間意識らしいよ」なんて爆弾を落として誂って。
二人の猟兵は“非日常”を楽しんだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『くろまろわんこ』
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POW : あそんであそんで
【投げて遊んでもらうための枝】が命中した対象に対し、高威力高命中の【あそんでくれるひとみつけたアタック】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : もふもふぱわーあっぷ
全身を【もふもふの毛並】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ : どうしてあそんでくれないの?
【遊んでほしいというせつない鳴き声】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
イラスト:Miyu
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠蓮賀・蓮也」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●街道開通
街道に詰まったたくさんの真っ白――ぶんちょうさまたちは猟兵たちにたくさん遊んでもらい、満足した顔で何処かへと去っていった。竹林にまだ残っていたり街道の隅で寝ていたりする個体も居るが、街道を歩く分には問題ない。
街道を利用する人々から感謝され、猟兵たちも街道を進むことにした。
●わんわん
街道を暫く進むと、何かが此方へ走ってくる。
黒くて丸めのフォルム。顔にはまろ眉のような柄の黒いわんこ。
わんこオブリビオン――『くろまろわんこ』だ。
荷物の配達をしていて男の元から、ちょうど駆けてきたところなのだろう。口に風呂敷包みを引っさげて、猟兵たちと対面すると足を止める。
じいっと、まっすぐに見つめる瞳。その目の中にあるのは、期待の色。
『誰か』と遊びたくて、ずっとずっと待っていた。けれどそれは果たされず、こうしてオブリビオンになってもまだ望んでしまっている。
風呂敷包みを奪おうとしない方がいいだろう。自分の玩具を取られると思えば必死になってそれを守り、中の浴衣もただでは済まない。手放させても手は出さず、くろまろわんこから見える位置にそっとしておくのが賢明だ。
くろまろわんこから荷物を取り返すには、ただ遊んであげればいい。何を好みそうかを考えて構えば、きっとその思いは通じるはずだ。
たくさん遊んで満たされれば彼は骸の海へと帰っていく。『誰か』と会える日を願い、『誰か』と遊ぶ時を望み、『誰か』を待つために。
『わんっ!』
くろまろわんこが遊んで! と鳴く。
くるんと巻いた尾は、ブンブンと大きく振られていた。
真宮・響
【真宮家】で参加。
おやおや、一杯遊んで貰いたいのかい。瞬を拾った身としては、こういう構って欲しい子には弱くてねえ。家族3人で遊んでやろうかね。
まず奏が体当たりを喰らって倒れてるのを救出。わんこを抱き上げて高い高いしてから、家族で食べるつもりだったサンドイッチを差し出す。わんこを膝にのせて撫でて、最後は鬼ごっこ。本気で追いかけるよ。ああ、楽しいねえ。わんこも楽しんでくれればいいけど。
真宮・奏
【真宮家】で参加。
遊んで貰いたくて、いつまでも彷徨ってるのはお可哀想です。悔いが出来ないように、一杯遊んであげたいです。(わんこの視線にコロリといっている)
まず投げられた枝もその後にくる体当たりも【オーラ防御】でど~んと受け止めます。多分転倒するでしょうが、幸せです~。後に響母さんの膝に乗ったわんこに焼いたソーセージを差し出します。わんこと家族3人でお弁当タイムの後、食後の運動の鬼ごっこです!!本気で行きますよ~。
神城・瞬
【真宮家】で参加。
やっぱり遊んで貰えないと寂しいですよね・・・故郷を壊滅して1人になった僕には寂しい気持ちは良く分ります。と、いうか、とことん構って上げたい気持ち。
奏が転倒している間に氷の精霊術で星や丸や月の氷を作り、わんこに差し出して遊び道具にしてもらいます。そして響母さんの膝に乗ったわんこにチーズを差し出して。仲良くお弁当タイム。最後は鬼ごっこ。様々な形の氷をわんこに投げてあげながら、楽しい日々を過ごします。
『わんっ』
荷物を足元に置いて高い声で鳴くくろまろわんこを見て、奏の胸は可哀想と思う気持ちでいっぱいになった。こんなにも可愛くて、遊んで貰いたくて、いつまでも彷徨っているくろまろわんこ。
(……悔いが出来ないように、一杯遊んであげたいです)
奏に出来ることは、めいっぱい遊んであげること。
瞬を拾って育てた響も、故郷を壊滅して一人になってしまった瞬にも、くろまろわんこの寂しい気持ちは伝わっている。人の暖かさと優しさ、そして誰かに構ってもらえた時の嬉しさを、二人ともよく解っていたのだ。そのため、無防備にくろまろわんこの前へ歩み出た奏の行動を諌めることもなく、ただ温かな眼差しで見守っていた。
奏が地面に膝を付いて両手を広げれば、くろまろわんこはまんまるな瞳でじぃっと見上げてくる。『飛び込んでもいいの? 遊んでくれるの?』と窺うように見つめ、奏が笑顔で頷けばパァッと嬉しげに目を輝かせ、タッと地を蹴った。
どーん! もふっ!
勢いよく飛び込んでくるくろまろわんこの勢いをオーラ防御で軽減させながら受け止めるも、奏はお尻と背を地面につけてしまう。遊んでもらえる喜びの勢いは消しきれるものではなかった。けれど、腕の中に飛び込んできたもっふりとした毛を撫で、奏は笑顔を見せる。抱きしめた腕よりも下方で大きく振られる尾がとても可愛くて、愛おしい。たくさんたくさんくろまろわんこが楽しんでくれるように、構ってあげたいと言う気持ちが増していく。
「うふふ、幸せです~」
「おやおや、やんちゃだねぇ」
押し倒された形でにこにことくろまろわんこの背を撫でいた奏だったが、その重みがスッと遠のいた。
『わんっわんっ』
響に抱かれたくろまろわんこが嬉しげに鳴き、その姿に目を細めた響は「ほら、高い高~い」と持ち上げてみる。いつもより高い視線にわんこは目をきらきらと輝かせ、また楽しげに声をあげた。
その隙に、瞬は奏が起き上がる手伝いをする。手を貸して起き上がらせ、服の汚れを叩いて落とせば、奏がありがとうと微笑んで、瞬もまた笑みを返す。奏がくろまろわんこを受け止める間に作っていた氷の玩具を噛んでいいよとわんこへと差し出せば、響の腕の中でぱくりと咥えて。
かじかじと氷の玩具に噛み付くくろまろわんこを抱えた響きは腰を降ろし、膝にくろまろわんこを乗せ直してその背を撫で。
「家族で食べるつもりだったんだけど……食べるかい?」
ぽろりと氷を口から落とし、差し出されたサンドイッチをすんすん。
『わんっ!』
匂いを嗅いで食べ物と判断したくろまろわんこが、ぱくりとサンドイッチを頬張れば、
「このウインナーもおいしいですよ」
横から奏がウインナーを差し出し、その隣から瞬も無言でチーズを差し出した。
どっちから食べようか迷うように首を左右に振ってからくろまろわんこは順番に食べ、三人と一匹は美味しくて幸せなお弁当の時間を楽しむ。
「食事で小腹を満たしたので、軽く運動をしましょうか」
そう言って瞬が氷の玩具を投げれば、瞬間的に反応して駆け出すくろまろわんこ。
「本気で行きますよ~」
「アタシも混ぜておくれね」
駆けるくろまろわんこの後を奏が追いかけ出すと、振り返ったくろまろわんこが更に駆ける。響が混ざっても、追いつかれないように駆けて、駆けて。
二人と距離が開きすぎれば、氷の玩具が飛んできて方向を変えさせる。
追いかける二人が疲れ切って足を止めるまで、楽しい鬼ごっこは続いたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
都槻・綾
f11024/かよさん
誰かと遊びたい心を募らせた孤独な日々は
さぞや寂しかっただろう、と――想いに沈みかけたところで
傍らより響く明朗な声
放物線を描く枝が陽射しに眩い
飛びついたもふに顔を埋めた彼女の様子が
可愛く可笑しく
自らも飾りたて無い笑い声をあげて
抱えられたわんこと目線を合わせ
穏やかに笑み
柔らかく毛並みを撫でる
ふかりと沈む指先に感じるあたたかさ
円らな眼差しもいたいけで
取り出した手巾をひらひら
蝶の如くわんこの頭上に舞わせて
追って飛んでの元気いっぱいな姿が
大層愛らしい
沢山遊んで疲れて眠る褥は
きっと
あたたかな凪の海
いのちあるものは皆――私もいつか
航っていくさだめだから
其処でもまた一緒に
遊びましょうねぇ
境・花世
綾(f01786)と
ちいさなこ、“さみしい”の?
きみの言葉はわたしにはわからないけれど
望みを叶えることは出来るから
さあ、とっておいで!
拾った枝を空高く放り投れば
きっと咥えてわたしのとこまで
ほらきた、両手広げて待ち構え――
もふぅ!?
顔へと飛びつかれて呼吸困難
危うくもふ死にするところだった……
だけど綾、わたしは諦めないよ
今度は早業でその背に忍び寄り
えいやと胸に抱き上げて綾のもとへ
ほら、きれいなひとが撫でてくれるって
良かったねえ、楽しいねえ
わんこと一緒にきみを見上げれば、
やさしい眸にほんのり胸があたたかくなる
ふたりと一匹、遊んで、笑って
揺れる尻尾の往く海の波音が
どうか、やさしい子守歌であるように
♢
とん、とん、とん。
黒い鞠みたいにくろまろわんこが跳ねるように地を蹴って。
他の猟兵と遊ぶ度に地においた風呂敷包みからは離れるものの、少し立てばまた戻ってくる。明るく楽しげな、その姿。けれど、時折遠くを見ては『誰か』を探していた。
「ちいさなこ、“さみしい”の?」
『くぅん』
揺れる瞳に、花世が問う。くろまろわんこが寂しげに鳴いて、ぱちりと目を瞬かせて花世を見、また瞳を揺らした。
(――誰かと遊びたい心を募らせた孤独な日々はさぞや寂しかっただろう)
切ない瞳に、心が痛む。主を喪った後の孤独な日々を知る綾は、想いに沈みそうになる。
けれど。
「さあ、とっておいで!」
傍らから明朗な声が響き、何かが放物線を描いて飛んでいく。その声に意識をすくい上げられ、明るい日差しの下を飛ぶ何か――枝がやけに眩く思え、目を細めた。
花世には、くろまろわんこの言葉は解らない。けれど望みを叶えることなら出来るから。拾った枝を投げて、それを追いかけるくろまろわんこを見つめた。
大抵の遊んで欲しい犬は、何かを投げれば取ってこい遊びする。くろまろわんこもそれは変わらぬようで、走り、枝が地面に落ちる前にジャンプしてキャッチし、取ったよーっと戻ってくる。全て花世の思惑通りだ。
――ほら、きた。
地面に膝を突き、両手を広げて待ち構える。取ってきた枝を受け取って、偉いねって褒める。――次の行動を予想しての脳内シミュレーションはバッチリ。
駆け寄ってきたくろまろわんこが、地を蹴って――
「もふぅ!?」
ふかり。顔面が暖かで柔らかな毛に包まれる。なにこれ幸せ。
しかし、その幸せは呼吸と引き換えだ。
楽園への扉が開きそう(物理)になった花世は、慌ててくろまろわんこの両前足の付け根に手を滑り込ませ、顔面から引き剥がす。危ない危ない、享年25歳、死因:もふ死になるところだった。
先程から聞こえてきていた飾り立てない笑い声。屈託のない笑みを向ける綾へ、花世は顔を向けて。
「綾、わたしは諦めないよ」
妙にキリッとした顔で告げるものだから、綾の目尻に涙まで浮かんだ。
顔は駄目だよと抱えたままだったくろまろわんこにメッとしてから下ろすと花世は立ち上がる。
――さあ、次は何して遊ぶの?
つぶらな瞳に期待を浮かべ、見上げられた花世は唇の端に笑みを浮かべ――。
『わふっ!?』
驚いた声をあげるのは、今度はくろまろわんこの番。
早業で背後に回り込んで素早く抱き上げた花世を驚いた顔で見上げてくるくろまろわんこに、花世はしてやったりと笑みを浮かべる。どちらも楽しそうだと綾が眺めていると、くろまろわんこを抱いた花世が少し寄り、促してくる。
「ほら、きれいなひとが撫でてくれるって」
何も言っていないのに、なんて。笑って。
くろまろわんこと目を合わせ、穏やかに微笑みながら柔らかな毛並みに手を埋めた。
「柔らかですね」
「でしょう?」
やさしい眸にほんのり胸を温めながら我が事のように返す言葉に、また笑い合う。
懐から手巾を取り出して、くろまろわんこの頭上にひらりひらりと舞わせれば、捕まえようと前足が躍り出る。ひらりひらりと逃れれば花世の腕から飛び出して、くろまろわんこは手巾の蝶を追いかけた。
寂しん坊の甘えん坊。そして、遊びたがり。
元気に追って、跳んで、ころり転がって。また元気に飛び起きて。
沢山遊んだ先に、疲れて眠る褥はきっとあたたかな凪の海。
(いのちあるものは皆――私もいつか航っていくさだめだから)
きっと同じ海にはいけない。こんなに愛らしくとも、オブリビオンなのだから。
それでも二人は、優しい海に抱かれ、海の波音が優しい子守唄であれば良いと、願わずには居られない。
どうかどうか、この子が『誰か』に出逢い、安らぎを得られますように。
そうして、今はただ、この子を満たそうと――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
百々海・パンドラ
♢♡
…この子、なんか親近感湧くのよね
わんこのまゆをじっと見つめる
気に入ったわ!そのまゆにめんじて私が遊んであげる!
夢見る羊を使って羊達を呼び出し
追いかけっこよ
より多くの羊を集めた方が勝ちだからね?
わかった?とわんこをみつめる
じゃあ!スタート!
私のぬいぐるみ達だけどこれは勝負ですもの
羊達には真剣に逃げてもらうわ
…でもあなた達!少しは加減しなさい!
自由気ままに逃げ回る羊達
もう!わんこ、あなた手を貸しなさい!
一緒に追いかけ回したり、挟み撃ちにしたり
羊を全部捕まえたら楽しい追いかけっこもおしまい
ねぇ、あなたは満足したら帰っちゃうの?
…もし、また遊びたくなったら私が遊んであげてもいいわよ?
だから、またね
深い海の底のような瞳と黒いつぶらな瞳が見つめ合っていた。
点と点が繋がって線になりそうなくらい、じぃっと静かに絡み合うのはくろまろわんことパンドラだ。
(……何かしら、この気持ち)
――否、見つめ合ってはいなかった。お互いに、お互いの眉を見つめ合っている。
胸に浮かぶこの感覚は、親近感で間違いないだろう。
あなた、素敵な眉をお持ちね。なんて声をかければ、通じているのかは解らないが『わんっ』と元気な声が返ってくる。
「気に入ったわ! そのまゆにめんじて私が遊んであげる!」
ぽぽぽぽぽんっ!
言うが早いか、23体もの羊のぬいぐるみを喚び出して。
「追いかけっこよ。より多くの羊を集めた方が勝ちだからね?」
わかった? くろまろわんこを見つめて首を傾げれば、くろまろわんこは同じ方向へ首を傾げた。……解っていないかもしれない。
「……んん、ちょっと怪しいかもしれないけど、まぁいいわ」
こほんと咳払いをひとつして気を取り直して。
――追いかけっこ、スタート!
ぴゅんぴゅんと逃げ回る羊のぬいぐるみたちをパンドラが追いかけだせば、くろまろわんこも遊びを理解したのか近くのぬいぐるみを追いかけだす。
本来なら羊のぬいぐるみたちはパンドラの思い通りに動くものだが、パンドラが動かしていては勝負にならない。そのため、公平を期して、パンドラでも動き方が読めないように動かしている。イメージはぐるぐるの毛糸玉。どの子がどう動くかだなんて、パンドラにも解らない。
しかし、加減無しにイメージしてしまったのがいけなかったのだろう。全く捕まえられない。
「もう! わんこ、あなた手を貸しなさい!」
『わんっ!』
きっと、言葉は通じていない。
けれど。
何かが伝わった気がした。
くろまろわんこが追いかけているぬいぐるみの反対に回り、挟み撃ち。パンドラの意向を理解したのだろう、次はパンドラが追いかけているぬいぐるみをくろまろわんこが挟み込んで捕まえた。
成功する度、一緒に喜び合う穏やかな時間。
「さあ、わんこ。まだまだたくさんいるわよ」
全てのぬいぐるみを捕まえるまで楽しい追いかけっこは続くのだった。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
■櫻宵/f02768
♢
わんわん、わん!わーん!(鳴き真似)
無意識にはたはた尾鰭が揺れる
だってかわいいもふもふワンちゃんだ
犬語?で遊ぼうと話しかけるんだ
ちょっと!なんで笑ってるんだ櫻!
僕は本気だぞっ
優しく撫でてもふもふ
うん。いっぱい遊ぼう
ヨル用のぼーる、があるから投げて取ってきてもらうのはどうかな
ふりすびー、もいい
おせんべじゃないやつね
お昼寝したから元気、たくさん泳いで遊ぼべるよ
上手く取ってきてくれたらたくさん褒める
ほら、こっちにおいで!
君の風呂敷には触らないからね
あと、ヨルは食べちゃダメだよ
ほら、櫻宵も一緒に!
……君、犬がすきだったんだ
ふぅん…嬉しそうだね
初めての知った。なんて少しだけやきもち
誘名・櫻宵
🌸リル/f10762
◇
う、ふふふふ!あらあら可愛い人魚のわんちゃんね、リィ
ああ、可愛くて癒されるわ!
ごめんなさい
あなたの気持ちはよくわかる
きっと伝わってるわよ、リィの犬語
そうね
たくさん遊びましょ
満足して帰ってもらいたいもの
犬は何かを投げて追いかけてはとってくる遊びも好きと聞くわ
ボールと…あたしの簪をかしてあげるからフリスビーにしてはどうかしら
よく寝てたおかげでリィも元気いっぱいね
たくさん泳ぎまわって犬と戯れる姿はとても癒される
あたしも?
壊さないよう優しく撫でて駆けたり
ボールを投げてみたり
あたし犬好きなの
昔から飼いたいと思ってたけど許されなくてね
舐めてくれるなんて嬉しいわ!
夢が叶ったようだわ!
遊んで走って、ころりとまろび出たくろまろわんこと、リルの目が合った。
じぃっと見つめ合い――
『わんわんっ』
「わんわん、わん! わーん!」
くろまろわんこにわんわんと鳴かれれば、リルも真剣な表情でわんわんと鳴き真似て返す。何て言われたかは解らないけれど、通じ合えるかもしれないのだ。可能性があるならば、試さない手はない。無意識の内に尾鰭をはたはたと揺らし、遊ぼうと犬語で話しかけている。――つもりだ。
「う、ふふふふ! あらあら可愛い人魚のわんちゃんね、リィ」
そんな真剣な人魚を見て、恋人の櫻宵がくすくすと楽しげに微笑う。可愛いものと可愛いもの。微笑ましくて愛おしくて、とても愛らしい。
「ちょっと! なんで笑ってるんだ櫻!」
僕は本気だぞっ。笑われたと思ったリルはムッとした顔で櫻宵を見る。本気なのに笑われれば、誰だって怒るだろう。その気は無かったにせよ、櫻宵はごめんなさいとすぐに謝って、リルの背を押せるようにと微笑む。
「きっと伝わってるわよ、リィの犬語」
ほら。嫋やかな指が指し示す。
リルの尾鰭の直ぐ側までくろまろわんこが近寄って、何だこれと言いたげにふんふんと尾鰭の匂いを嗅いでいた。
「ひゃ」
思わず漏れた声に、チャキリと響く金属音。
血の気の多い恋人が動く前に、リルは宙で屈んでくろまろわんこへと手を伸ばした。
もふもふ。ふわふわ。想像通りの柔らかな毛並みに笑みが浮かぶ。
可愛いリルの笑顔プライスレス。命拾いしたわね、わんこ。なんて、思ってなんかない。はず。
けれどリルが望むのなら、櫻宵は最大限に叶える手伝いをする。
「たくさん遊びましょ、満足して帰ってもらいたいもの」
「うん。いっぱい遊ぼう」
しかし、リルは犬が望む遊び方は知らない。何がいいかなと隣を仰ぎ見れば。
「取ってこい遊びはどうかしら」
「取ってこい遊び?」
何かを投げては取ってこさせる遊びだと説明すれば、それにしようと頷くリル。
「ヨル用のぼーる、がある」
「ボールと……フリスビーはどうかしら」
「ふりすびー、もいい。おせんべじゃないやつね」
煎餅は放り投げた途端ヨルがキャッチしてしまいそうだから。ヨル用のボールを取り出しながら何でフリスビーをするのかと目で問えば、櫻宵はにこやかに笑みを浮かべたまま髪から一本挿しを抜き取った。因みに、フリスビーとは円盤を投げることを指す。
「かんざし、投げるのは良くないと思う」
簡単に壊れてしまいそうだ。
手にしたヨル用のボールをポーンっと放物線を描くように投げる。
『わんっ!』
くろまろわんこが追いかけて、空中でキャッチ!
「すごい! ほら、こっちにおいで!」
ボールを咥えて戻ってくるくろまろわんこを両手を広げて出迎えて、戻ってきたらぎゅうっと抱き締めて「上手だね」とわしゃわしゃ撫でながらたくさん褒めた。
「もう一度いくよ!」
ボールがポーンっと飛ぶ。犬が走る。人魚がはしゃぐ。お昼寝の甲斐もあってか、元気にくろまろわんこと戯れるリルを見守る櫻宵の目はとても優しい。
「リィ、投げるの上手ね」
「ほら、櫻宵も一緒に!」
「あたしも? ……じゃぁ、いくわね。そぉれ」
くろまろわんこの目を見てからボールを投げて、戻ってきたら優しく抱き締めて、撫でて。胸の中に、何か柔らかなものが満ちる感覚がした。
思い出すのは昔。今からは遠い、過去のこと。犬を飼いたいと思っていた。しかし厳しい家ではそれは許されない。もしも許されて飼っていたとしても、その犬の行き着く先は飢えさせ首を斬り『犬神』の術となっていたかもしれない。それを思えば飼わなかったことは良いことなのかもしれない。
けれど、幼い頃の憧れは、胸の中でいつまでも燻っていて。
「あたし、犬好きなの」
「……君、犬がすきだったんだ」
傍らの人魚が、一呼吸置いた。
わしゃわしゃとくろまろわんこ撫でて、可愛いと微笑みかける櫻宵はそれに気付かない。
顔を近付けて体をマッサージするように撫でていれば、嬉しそうにくろまろわんこが顔を寄せ、ぺろり。櫻宵の頬を舐める。
「舐めてくれるなんて嬉しいわ!」
「ふぅん……嬉しそうだね」
夢が叶ったようだわとはしゃぐ櫻宵に対して、リルの視線は少し冷ややかだ。
もやり。リルの胸で、感情が泡立つ。
「どうしたの、リル?」
「ううん、何でもない」
小さなやきもちを隠して、僕も撫でるとリルは近寄るのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
冴島・類
♢♡
おや、随分元気いっぱいだね?
揺れる尾が、声が遊んで!と告げている
可愛い子、君が海に還った時
寂しくないように、目一杯遊ぼうか
何が好きかな?
やっぱり動くものを追ったりだろうか
道端を探し、木の棒など
投げて遊べる何かがあれば
それを投げ、取っておいでと声をかけ
最初彼だけにしていたものを
途中から、瓜江起こしてどっちが早く取って来れるか競争しようか?と笑い
誰かを待っていた、君は
きっと、複数でわいわい遊ぶのも
賑やかで楽しいと知らぬかもしれぬし
まあ…これだけ沢山の猟兵さん達と遊んだら
疲れちゃうぐらいかも?
満足して、消えそうなら…
君を、撫でて
おやすみ、名を知りたかった
もしあるなら、教えておくれ
包みは大事に返す
ブンブンと、大きく尾が振られる。ふわふわの毛が、その度に風に揺れて愛らしい。
『わんっ!』
まんまるな瞳で見上げて、ひと鳴き。声と目が、全身が。遊んで! と告げている。
応じるように笑みを浮かべ、ひと撫で。ふかふかの毛に、ふわりと優しく手が沈んで、考える。犬と遊ぶには、何をしたらいいだろう。何をするのが好きかな?
狩猟の習性から、動くものを追ったりするのが好きとも耳にする。長く生きてきても、知らないものの方がまだたくさんだ。小さく笑みを浮かべ、本人(犬)に尋ねてみることにした。
「何が好きかな?」
屈んで目が合いやすくして、問いかける。
すると、足元に落ちていた木の棒を、鼻先でずいっと押すくろまろわんこ。
「これで遊んで欲しいのかい? いいよ」
『わん、わん!』
はしゃぐように鳴いて尻尾をブンブン振り、ぐるぐると回る。構ってもらえると解っただけで、とても楽しそうだ。
「取っておいで」
握りやすい太さの木の棒を、ブンと投げる。
くるくる回って飛んでいくそれを、くろまろわんこは難なく口でキャッチして。
すぐさま尾を振って類の元へと戻り、木の棒を類の手へ落とすと同時に撫でられて、風が類に届くくらい尾が振られた。
「可愛い、いい子」
幾度かそれを繰り返す。投げては取って、取っては渡し、撫で、また投げた。
そうしてひとつ思いついた類は背負う箱から絡繰人形『瓜江』を起こす。
「どっちが早く取って来れるか競争しようか?」
もっと楽しいことを思いついたよと告げるように、茶目っ気を含んだ笑みでそう告げて。棒を投げては糸手繰り、瓜江とも遊ばせた。
瓜江に負けじと走って跳ねて。たくさん褒めてと駆け寄って。たくさんの猟兵たちと遊んでもらっているというのに、ずっと遊んで貰いたかったくろまろわんこは元気いっぱい。
「楽しいかい?」
『わんっ』
尾を振って、君が笑うように鳴くから。
可愛い子、君が海に還った時に寂しくないように、目一杯遊ぼうか。
大成功
🔵🔵🔵
マルガリタ・トンプソン
鸙野(f15821)と
ふふ、良いものが見れたなぁ。君が鳥に苦戦するだなんて
けど俺も要領は掴んだし、今度はばっちりやれるでしょ
俺、何故か犬みたいだって言われがちなんだけど。君もそう思う?
眉……うぅん、言われてみれば……。
とはいえ犬の気持ちは想像つかないなぁ
キャッチボールしてるのなら見たことあるし、試してみようか
鸙野と一緒に手近にある枝とか、玩具になりそうなものを投げて、と
手加減なしでいくからね
あ、待てよ。競争相手がいる方が張り合いがあるんじゃない?
ってことで俺もキャッチする側に回るから、頑張ってね鸙野
こういうとこが犬っぽいのかな、もしかして
鸙野・灰二
マルガリタ(f06257)と
ああ、全く随分な強敵だッた。鳥の次は犬か。
群れていないだけ鳥相手より気が楽だ。
そうだな、お前を犬のようだと思ッたことはないが、あの犬はお前に似ていると思う。
特に眉の辺りと……毛の色がよく似ているな。
犬の相手をする要領は恐らく鳥と同じだろう
マルガリタの動きを真似て、共に枝や玩具になりそうなものを放る。
拾ッてきたらまた放ッて、繰り返し
犬はこういう遊びを好むと聞いた。
犬の側に回る姿に、何故と思わなくもないが
俺より動物の扱いが上手い奴のやる事ならそうなんだろう。
集めた枝や玩具、一人と一匹に向かッて次々放ッてやる
……成程、犬のようだと云ッた奴の気持ちが分かッた気がするな。
「ふふ」
ご機嫌にマルガリタが笑う。
「良いものが見れたなぁ。君が鳥に苦戦するだなんて」
「ああ、全く随分な強敵だッた」
二人の視線の先には一匹のわんこ。犬型オブリビオン『くろまろわんこ』が他の猟兵たちと遊んでもらって楽しげにわんわんと駆け回っていった。
次の相手は犬。たくさんの鳥には苦戦を強いられた灰ニであったが、それよりも姿が大きく且つ単体の犬ならばと考えれば些か気が楽だ。小さいものがたくさんなど、切り合う事にしか能が無い男には力加減が難しく困り果ててしまった。しかし犬ならば多少は頑丈であるし、単体だ。どうとでもなる。
「俺、何故か犬みたいだって言われがちなんだけど。君もそう思う?」
「お前を犬のようだと思ッたことはないが……そうだな」
くろまろわんこへ向けて灰ニが指をさす。あの犬はお前に似ていると思う、と。
まぁるい麻呂眉に黒い毛皮。元気に尾を振って駆け回る姿。
対するマルガリタは麻呂眉ではないものの、太めのしっかりとした元気な眉。そして黒い髪だ。
「うぅん、言われてみれば……」
似ているような気がしてるように思えてきた。
けれどマルガリタは犬ではない。犬みたいだと言われることはあっても人間だから、犬の気持ち等は解らない。想像つかないなぁとぼやきながらも地面に落ちている木枝に手を伸ばす。キャッチボールをする姿を公園や動画で見たことはあったから、試してみようとして。
「あっ、ほら、来たよ」
マルガリタが動いたからだろう。次は君たちが遊んでくれるの? と、元気にくろまろわんこが駆けてきた。
「ほぉら、取っておいで!」
まずはお試し。軽くえいっと枝を投げれば、空中キャッチをしてマルガリタの元へ駆け戻ってくる。
「おお、えらいえらい。君もやってみなよ」
「ああ。……取ッてこい」
戻ってきたくろまろわんこをわしゃわしゃと撫でるマルガリタに言われ、自身も足元の枝を拾って投げてみる灰ニ。
枝が放たれれば、すぐさまマルガリタの手を抜け出して駆けていくくろまろわんこ。
マルガリタを真似たつもりだったが、少し投げすぎたかとも灰ニ思ったが、なんのその。素早く駆けてパクリと咥え、くろまろわんこはまた戻ってくる。空中キャッチする余裕すらあった。
「よぉし、手加減なしでいくからね」
二人で交互に投げ合って、遊ぶ。
楽しげに、くろまろわんこが尾を振る。
そして、暫くの後。マルガリタがくろまろわんこ側に加わった。
「俺もキャッチする側に回るから、頑張ってね鸙野」
競争相手がいる方が張り合いがあるのではとマルガリタは思ったのだが、灰ニの頭には何故と疑問が浮かぶ。けれど、マルガリタは灰ニよりも動物に慣れていて扱いも上手い。その彼女がそうすると言うことは、そういうものなのだろう。
一人と一匹へ枝を投げれば、枝を取り合うマルガリタとくろまろわんこ。
犬と同じ土俵で張り合うマルガリタ。
無いはずの尾が、彼女にもありそうなくらい元気いっぱいに楽しそうで。
(……成程、犬のようだと云ッた奴の気持ちが分かッた気がするな)
次々と枝を投げれば一人と一匹が取り合って。
次は負けないよとはしゃぎ合う。
(――あれ)
こういうとこが犬っぽいのかな、もしかして。
マルガリタも少し気が付いた。
けれど、今は。
楽しいのだから、まあ、いいよね。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蘭・七結
ルーシーさん/f11656
まあるくて、愛らしいこと
イタズラはいけないことだけれど
あなたは、遊んでほしいだけのね
ね、ルーシーさん
果たされなかった願いを、叶えてあげましょう
追いかけっこに、ボール遊び
大勢で遊べば、きっと楽しいわ
ナユの大切な子たちも、遊ぶことが好きなのよ
喚び起こすのは『カイン』と『アベル』
両の目を分かつ、双生の人形
ふたりとも、遊んでいらっしゃい
くろいぬさんとライオンさんと、仲良くね
十指に糸をからめて、手繰り寄せて
〝みんな〟で遊べるように、ふたりに命を吹き込む
ふたりとライオンさん、くろいぬさん
なんて愛らしい光景なのでしょう
嗚呼、あなたたちの気持ちが伝わってくるわ
ナユも、とてもたのしいわ
ルーシー・ブルーベル
七結さん(f00421)と
わあわあ、
今度もとってもかわいいワンコさんね
ええ、そうね。七結さん
誰とも遊べないのは、さみしい事だもの
たくさんお相手してあげましょう
やっぱりワンコさんなら体を動かしたいかしら
『大きなお友だち』でライオンさんを喚ぶわ
七結さんや、
ふたりのお人形といっしょに
遊ぶなら皆の方が良いもの
ボール遊びなら
ワンコさんに取られちゃうギリギリで
カインさんやアベルさんにパスしてみたり
ライオンさんに乗って追いかけっこしてみたり
がおー、ライオンさんよ
つかまえちゃうわよ…?
あなたのしっぽがブンブンしていると
ルーシーもうれしいわ
七結さんも楽しい?なら、もっとうれしい
またどこかで
いっしょに遊びましょう
まぁるい黒犬がころりとまろび出れば、わあとルーシーの口が開いた。ぶんちょうさまたちも可愛かったけれど、今度もとっても可愛いワンコさんだ。
傍らの七結も愛らしいことと微笑んでその姿を瞳に収め。
(イタズラはいけないことだけれど……あなたは、遊んでほしいだけなのね)
まんまるな瞳の奥に揺れる寂しさ。人を求めて尾を振って、構って欲しいから悪戯をする。『誰か』に会えるのを望んで、探して、待ち続けているくろまろわんこ。尾を振る内側の気持ちを汲み取って、七結は穏やかに目を細めた。
「ね、ルーシーさん。果たされなかった願いを、叶えてあげましょう」
「ええ、そうね。七結さん。誰とも遊べないのは、さみしい事だもの」
けれど、ワンコさんとは何をして遊べばいいのかしら。
やっぱりワンコさんなら、体を動かした遊び?
追いかけっこに、ボール遊び。……けれど、ボールはあったかな?
「……ボール」
きょろりとルーシーが辺りを見渡すが、ただの街道には当然ボールは転がっていない。
「ボール……ではないけれど、これでもいいかしら?」
七結が取り出したのは、小さな手鞠。美しい糸で幾何学模様が描かれた、丸い球。
一度軽く投げてみれば、くろまろわんこは走って取りに行き、すぐに咥えて持って返ってきた。大きさ的にも問題なさそうだと二人は微笑み合う。
たくさん動いて、皆で遊べたほうがきっと楽しいはずだから。
七結が十指に糸を絡めて手繰り寄せ、呼び起こすは両の目を分かつ、双生の人形。七結の絡繰人形、少年人形の『カイン』と少女人形の『アベル』だ。
七結の人形たちを見て、ルーシーも《大きなお友だち》の大きなライオンのぬいぐるみを喚ぶ。
「七結さんのお人形さんとも遊べてうれしいわ」
「ナユも、ルーシーさんのライオンさんと遊べて嬉しいわ」
顔を見合わせて心を伝え合い、くろまろわんこへと向き直る。
「さあ、ふたりとも。くろいぬさんとライオンさんと、仲良くね」
みんなで楽しく、遊んでいらっしゃい。
魔法と糸とを操って、カインとアベルとライオンさんも遊びに加わる。
手鞠を投げて取ってこい遊びもいいけれど、大勢居るのだから違う遊びもしましょうか。くろまろわんこに取られないギリギリでお人形たちへパスをすれば、皆の間をくろまろわんこがぐるぐる駆け回る。投げ合う手鞠だろうと、くろまろわんこは果敢に狙っていく。素早く動き回り、華麗にジャンプ。何度目かの人形たちのパスをカットすれば、褒めて褒めてと尾を振った。
手鞠を投げて遊ぶのに飽きたら、追いかけっこ。
ルーシーはライオンさんの背に乗って、七結は糸を操って人形たちを走らせて。
駆けて、跳ねて、ぐるりと回って、また駆けて。
二体の人形とライオンさんの背に乗るルーシー、それからくろまろわんこ。みんなを目で追う七結の目はとても優しい。みんなが愛らしくて、とても素敵な楽しいひと時。
「がおー、ライオンさんよ。つかまえちゃうわよ……?」
元気に尾を振りながら、くろまろわんこが先頭を駆けていく。
振られる尾が嬉しくて、みんなと遊ぶのが楽しくて。
「七結さんも楽しい? ルーシーはうれしくてたのしい」
「ナユも、とてもたのしいわ」
「なら、もっとうれしい」
七結とルーシーとくろまろわんこたちの楽しい追いかけっこは暫く続くのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
【軒玉】
くろまろだ
今日はおもいっきりあそんでいいんだね
うれしい
もふもふ撫でて
ほら、あそぼうっ
うんうん、今日はアヤカもっ
つなひき?
わあ、わたしもするっ
えーいっ
ぐいぐい引っ張りながら笑顔を向けて
くろまろもてつだってっ
ずるずる引っ張られるのがたのしい
ふふ、あははっ
くろまろ、つよいねえ
わたしもまけないよ
せーのっ
振られるしっぽがうれしくて
首に抱き着くように頬寄せて
クロバにもなでてほしいって
視線を向けられているクロバを手招き
アヤカもだよっ
なでるヴァーリャに目を細め
(いつか会えるようにって願うことしかできないけど)
わたし、すっごくたのしいよ
だから、くろまろもたのしかったらうれしい
たのしいから、最後まで笑顔で
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
【軒玉】
うわはあ…!かわいい!
綾華は会ったことあるんだな?いいなあ…
よーし、それじゃあ俺たちが君の為に、人肌脱ぐぞ!
遊べば寂しくないからな!
二手に分かれて、まずはくろまろが興味を持ってもらえるよう
俺たちで綱引き合戦だ
前哨戦だからって手は抜かないぞ!
くろまろも遊んでくれることになったら
みんなでくろまろと綱引き対決だ
強さがわからないので、最初は手探りで
相当に力が強いとわかれば、本気を出して
力いっぱいに綱を引っ張る
張り合いがなきゃ、きっとくろまろも楽しくないからな!
終わったらわしゃわしゃと撫でてやって
好き?えへへ、俺たちもう友達だな!
俺たち、コイツの悲しみを和らげることができたかな
そうだったらいいな
華折・黒羽
【軒玉】
※初戦綱引き組分はお任せ
本気には本気で応えるのが礼儀
俺も負けるつもりはありませんよ
と力一杯綱を引く
動物と話す技能で皆の言葉をくろまろに伝えて
遊びだからって手は抜かない
本気で遊んでやる
おいで、くろまろ
表情変わらずも声は優しく
誘いに応じたなら続き本気の力比べ
しかし本気でかかるも一向に綱は引けず足は前へ進むばかり
…っ、綾華さんが手抜いてるんじゃないんですか!?
思わず声量も上がる
ヴァーリャさんが戯れる様子見ながら
上がった息を落ち着かせ
呼ばれれば傍らへ
鼻の上をそっと撫でた
オズさんの言葉に耳傾けながら
─もし、くろまろが何か言ったなら
それを皆に伝える事も出来るだろうか
綾華さんの声に、ゆっくりと頷いて
浮世・綾華
【軒玉】
違う奴だがくろまろとの対峙は二度目
あんときゃ見守るだけだったが
折角だし今日は俺も遊ぶよ
え、本気でやんの?
くろまろ来てからで良くねえ?――って、うわ
…あはは。ほら、くろまろ、楽しいぞー
手を振りおいでと
あ、きたきた
くろまろ。お前も一緒に遊ぼ
だな、こいつと思いっきり遊んでやれんのは俺ら猟兵くらいだろーし
よし、と綱に力を入れようとするが
(あ、こいつ結構力つよ――)
お、おい、せーの!で綱引くぞ、持ってかれるっ
黒羽、やる気あんのかー!
うっせー、俺、そんな怪力じゃねーもん
はは。ヴァーリャちゃんのことも、オズのことも好きみたいだ
尻尾振ってるから、楽しかったんだろ
どう?黒羽
満足。してくれてそうか?
骸の海に返ったオブリビオンは、それ以前のことを記憶しているのだろうか。強敵と云われ、即座に還ってくるオブリビオンは記憶しているだろう。けれど、それ以外は? きっと殆どのケースで、答えは否、だろう。
「うわはあ……! かわいい!」
「今日はおもいっきりあそんでいいんだね」
以前、オズと綾華はくろまろわんこに会った事がある。決意を篭めてフリスビーと薙刀を振るった感覚は、まだ手に残っている。
足元で尾を振るくろまろわんこは、あの日の彼より明るく楽しげで。二人のことも知らない様子。そこに少しだけ安堵を覚えて、綾華も頷いた。
「折角だし今日は俺も遊ぶよ」
「うんうん、今日はアヤカもっ」
あの時は見守るだけだったけれど、今日は全員で遊ぼう。
以前にも会ったことがある様子の二人に、ヴァーリャはいいなあと羨ましげな視線を送り、黒羽は同意を示して頷く。けれど、以前は以前。今日は今日。今日こうして出会えて、皆で遊べるのだから問題ない。
「よーし、それじゃあ俺たちが君の為に、ひと肌脱ぐぞ!」
「何をして遊びましょうか」
「たのしいことがいいよね」
「綱引きなんてどうだ?」
「え、綱引き……?」
ヴァーリャの提案は、こうだ。まずはくろまろわんこに興味を持ってもらえるように、二手に分かれて自分たちだけで綱引きをする。動きを見れば、くろまろわんこもどういた遊びなのか理解するだろう。その後はくろまろわんこを交えて本番をするのだ。
「まずは俺たちで綱引き合戦だ」
「わあ、わたしもするっ」
グーとパーを出してチーム分け。
前哨戦は、黒羽&綾華チーム対ヴァーリャ&オズチームで行うこととなった。
「前哨戦だからって手は抜かないぞ!」
「本気には本気で応えるのが礼儀です」
「え、本気でやんの?」
「えーい」
「くろまろ来てからで良くねえ? ――って、うわ」
笑顔のオズが力いっぱい引っ張って、一気に綱が引かれてしまう。体勢を崩した綾華は慌てた声を上げた自分に苦笑して、それからチラリとくろまろわんこの様子を伺った。
す っ ご い 見 て る 。
え、めっちゃ見てる。目をキラキラさせて、楽しそう! って顔してる。
「ほら、くろまろ、楽しいぞー」
綾華がおいでと手を振る。
尾が、振られた。
「くろまろもてつだってっ」
オズが容赦なくぐいぐい引っ張りながら笑顔を向ける。
尾がパッタパッタ振られて砂埃が舞った。
「どうだ、くろまろ。楽しいぞ!」
ヴァーリャもオズとともに引っ張りながら笑顔を向ける。
尾からブォンっと風を切る音が聞こえた気がした。
「綾華さん、両手で引いてください。前哨戦でも俺は負けるつもりはありませんから」
黒羽が力いっぱい引っ張るが、綾華がくろまろわんこに手を振っている隙に決着がついてしまった。
綾華へと物言いたげな視線を向けてから、黒羽はくろまろわんこへと向き直る。皆の言葉はきっと、なんとなく理解している。その様子を見て、伝える。遊びだからと手は抜かないこと。本気で遊んであげること。皆もくろまろわんこと遊びたがっていること。優しい声で、ひとつひとつ区切ってゆっくりと伝え――そして手を向ける。
「おいで、くろまろ」
『わんっ!!』
駆け寄ってくるくろまろわんこをひとつ撫で、くろまろわんこが咥えやすいように綱の端に輪っかを作ってやる。それを咥えさせたら準備は万全だ。
四人の猟兵対くろまろわんこ。
普通の犬であったなら、最初から勝負は見えていただろう。けれど、くろまろわんこはオブリビオン。むんっと気合い充分な顔をして、ぐいっと力強く綱を引っ張った。
「わっ」
「おお!」
「え、つよ」
「くっ」
四人の足が、ずるずる引きずられていく。
最初は力加減が解らないから手探りで行こうと思っていた。けれど、想像以上にくろまろわんこは力強く引いてくる。遊びへの欲求が強いせいなのだろう。
「ふふ、あははっ! くろまろ、つよいねえ」
「うむ、すごいな、くろまろっ」
「わたしもまけないよ」
「俺たちも負けてられないな!」
しかし、どんなの本気で掛かろうとも、拮抗するだけで……否、少しずつずりずりと引きずられていっている気がする。
「くっ……!」
「お、おい、せーの! で綱引くぞ、持ってかれるっ――黒羽、やる気あんのかー!」
「……っ、綾華さんが手抜いてるんじゃないんですか!?」
「うっせー、俺、そんな怪力じゃねーもん」
思わず声量を上げ罵り合う二人。常の落ち着いた態度を取る余裕がないのだから仕方がない。
「せーのでひくんだね?」
「うん、じゃあ……」
「「「「 せーのっ! 」」」」
ぜえぜえ、はあはあ。響くのは、荒い息遣い。
綾華と黒羽の二人は、肩で息をしながら地面に座り込んで整える。力を篭めている時に、あれだけ声を上げれば当然だ。しかし力は全て出し切ったせいだろうか。体は疲弊していても、爽やかな気持ちで黒羽はくろまろわんこと戯れるヴァーリャを眺めた。
「すごかったなー、くろまろー」
わしゃわしゃ。ふわふわな毛並みを撫でる彼女は満面の笑みを浮かべて。
へっへっと口で息を吐きながら、くろまろわんこは撫でられご満悦。
パタパタ振られる尾が嬉しくて、えいっとオズが首に抱き着くように頬を寄せれば、頬をぺろりと舐められる。
「ふふ、くすぐったい」
パタパタ、パタパタ。尾が振られる。
「はは。ヴァーリャちゃんのことも、オズのことも好きみたいだ」
「えへへ、俺たちもう友達だな!」
「クロバにもなでてほしいって」
此方を眺めている黒羽を手招けば、腰を上げた黒羽も傍らへ。
鼻の上へそっと手を掲げれば、くろまろわんこは自ら顔を擦り寄せてくる。
「アヤカもだよっ」
離れたままの綾華も呼んで労いを篭めて撫でると、くろまろわんこは穏やかに目を細めてその手に身を委ねた。
全力で遊んだあとの、穏やかなひと時。
お互いの健闘を称え合って、楽しかったねと笑い合う。
「わたし、すっごくたのしいよ。だから、くろまろもたのしかったらうれしい」
『わんっ、わんわんっ!』
「どう? 黒羽。満足、してくれてそうか?」
くろまろわんこの鳴き声に僅かに目を和らげた黒羽へ問えば、ゆっくりと頷きを返して。
「ええ。『とても楽しい』。そう言っています」
「そっかー!」
よかったなとオズとヴァーリャが笑顔を見合わせて。
「ふふ。じゃあ、もういっかい、する?」
『わんっ』
くろまろわんこが尾を振って鳴く。
黒羽に聞かなくとも、全員にくろまろわんこの意思は伝わって。
楽しい綱引きをもう一度。
君が満足するまで、何度でも。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
赫・絲
薺サン(f00735)と!
薺さん、今度はわんこだよ!
薺さんが犬派になりたくなる気持ちもわかるよー
さっきのぶんちょうさまと言い、思わず攫いたくなっちゃう可愛さじゃん?
さめざめ泣き真似をして
ねえ連れて帰っちゃダメ?ダメ?
うっ、確かに……
がっくりしつつも両手にはちゃっかり骨の玩具
うう、遊ぶ準備万端だよ、そーれ取っておいでー!
おーっほんとだ早!
おっけー任せて、今度はこっちだよー!
意外って言われるコトもあるけど、動物好きなんだー
ヒトはさ、めんどくさいトコもあるから……なーんて!
写真って聞くとつい秒でポーズを決めちゃうJK
もーう冗談か!
うん、名残惜しいね
いつか普通のわんこになったキミと
また会えたらいいな
勾坂・薺
赫さん(f00433)と
なんかこうズルいよね。うーん。わんこ。
わたしは猫派なんだけど犬派になろうかなぁ。
って、よしよし、泣かない泣かない。
連れてってもいいけどオブリビオンだからなぁ。
こう、未練がないように遊んであげたらいいんじゃないかな。
赫さんが投げて遊んであげるならわたしは持って逃げようかな。
追いつけるかな、わたしに。
このボールが欲しかったらこっちにおいで――
ってうわ早。やばいやばい。赫さんパス!
意外というか似合うというか。
絵になるよね、赫さんと可愛い動物。
写真とっていい?……冗談冗談。
ま、動物は素直だしねえ。邪念も感じないし。
ちょっと分かっちゃうかも。
だからちょっと、別れは名残惜しいかな。
くるんと丸まる尻尾。つやつやな毛並みに、つぶらな瞳。
「薺サン、今度はわんこだよ!」
出会い頭に思わずスマートフォンからカメラを起動してパシャっと一撮りしながら、絲は傍らの薺へとパタパタと手を振った。見て、わんこ。すっごく可愛く撮れた!
「わたしは猫派なんだけど犬派になろうかなぁ」
なんかこう、ズルいよねぇって思っちゃう。全身から可愛いオーラが出てるように見える気もしてズルい。
「薺サンが犬派になりたくなる気持ちもわかるよー」
でもきっと彼女、猫を前にしたらやっぱし猫派とか言いそうな気もする。
けれど気持ちはとってもわかっちゃう。だって可愛いんだもの。
「さっきのぶんちょうさまと言い、思わず攫いたくなっちゃう可愛さじゃん?」
口に出して気付く。そっか、攫って連れて帰ればいいんじゃん?
駄々をこねる時はどうすればいいか。相場は決まっている。嘘泣きだ。
「ねえ連れて帰っちゃダメ? ダメ?」
両手で顔を覆い、涙声。
さめざめと泣き真似をする絲の頭を抱き寄せて、薺は「よしよし、泣かない泣かない」と宥めるお姉さん役をした。
「ねえ、ダメ? どうしてもダメ?」
「連れてってもいいけどオブリビオンだからなぁ」
「うっ、確かに……」
正論である。
がっくりと肩を落とす絲だが、切り替えも早く、既にその手には骨の玩具が握られていた。うう、と未だ連れ帰りを諦めきれない呻きを漏らしながら姿勢を正して。
「仕方ない。たくさん遊ぼ。そーれ取っておいでー!」
ブンっと勢いよく投げたが、くろまろわんこは華麗にジャンプして。
ぱくり。口で空中キャッチ!
「すごっ! 薺サン見てた!?」
「見てた見てた」
尻尾をブンブン振りながら戻ってきたくろまろわんこをわしゃわしゃ撫でて、受け取った骨の玩具をまたぶん投げた。
その応酬が幾度か続いた頃、眺めるに徹していた薺がついに動いた。
ボールを取り出してくろまろわんこへと見せると「欲しい?」なんて髪を揺らして問いかけてみる。
『わんっ』
「そ。じゃあ、わたしを捕まえてごらん」
追いつけるかな、わたしに。
不敵に笑んで走り出し、
「このボールが欲しかったらこっちにおいで――」
振り返る。すると既にくろまろわんこが迫っていた。と言うか、肉迫している。
「ってうわ早」
「おーっほんとだ早!」
なんかこう、可愛いわんことキャッキャウフフと走る感じをイメージしていたのに、お互い本気走りである。
「やばいやばい。赫さんパス!」
「おっけー任せて、今度はこっちだよー!」
くろまろわんこがジャンプして薺へ飛びかかる。その寸前にボールは薺の手を離れて、絲の手へと託された。
薺へ伸し掛かったくろまろわんこは頭上を飛んでいったボールを追いかけてまた駆け出し、薺はやれやれと身を起こしてしゃがんだままくろまろわんこと戯れる絲を眺める。何だか急激に煙草を吸いたくなった。
ボールを持った絲が駆けて、追いついたくろまろわんこがジャンプする。
それをくるりと回って躱せば薺と目が合い、笑みを返して。
「意外って言われるコトもあるけど、動物好きなんだー」
ヒトはさ、めんどくさいトコもあるから……なーんて!
軽く笑って返す彼女を見て、薺も小さく頷きを返す。動物は素直だし、邪念も感じない。本能で生きて、悪戯をして……それを隠そうとすることはしても嘘がつけない。薺も絲のその感覚はわかる。
「意外というか似合うというか。絵になるよね、赫さんと可愛い動物」
まー、花の現役女子高生ですからね。なんて笑っていれば、その隙にくろまろわんこにボールを取られてしまう。
待て待て返せと追いかけて、捕まえてお腹をわしゃわしゃ。
楽しそうな絲とくろまろわんこ。
「写真とっていい?」
何だかその姿を、残しておきたいと思ったから。
「……冗談冗談」
「もーう冗談か!」
写真って言葉だけで秒でポーズを決めたけれど、冗談と笑みを向けられて。
ボールを咥えて走り出したくろまろわんこを追いかけて、絲が走り出す。
薺はその後姿に指フレームを当て、心の中でシャッターを切るのだった。
●わんっ!!
猟兵たちに遊んでもらう度、くろまろわんこは風呂敷包みの元へと戻っていっていた。どの猟兵も包みへは手を出さず、奪われないとくろまろわんこも勘付いていたかもしれない。
けれど、この包みからは『たいせつなもの』の香りがして、これがあると皆が構ってくれるから。包みの傍で鳴けば、皆がこちらを見てくれる。遊んでくれるから。
大勢の猟兵たちに遊んでもらい、くろまろわんこははち切れんばかりに尾を振って。
楽しくて、楽しくて。
遊んでもらうひと時は、寂しくなくて。嬉しくて。
ぐるぐる回って、きゃんきゃんと甲高い声で鳴いた。
「……もし、また遊びたくなったら」
「またどこかでいっしょに遊びましょう」
「また一緒に遊びましょうねぇ」
尾や足の先がキラキラと光の粒になって溶けていっていることに猟兵たちは気付いていた。
パンドラは羊のぬいぐるみを抱き締めて、ルーシーは七結と手を繋いで、綾は花世の傍らで、口々にくろまろわんこへと声を掛ける。
(――いつか会えるようにって願うことしかできないけど)
お見送りは笑顔でと決めていたオズとヴァーリャは始終笑顔で、黒羽と綾華は二人を見守る。ヴァーリャの目の端が少し光ったような気はしたけれど、そっと見ないふりを決め込んで。
間宮家の三人は奏を囲んで、瞬と響の二人で彼女の肩を抱いて別れを惜しんだ。
ウロウロぐるぐる、くろまろわんこが猟兵たちの足元を廻っていく。遊んでくれてありがとう、それからさようなら。お別れを言うように。
灰ニの袴の裾を軽く引っ張るくろまろわんこに、マルガリタが笑う。少し困る灰ニの姿が面白い。
リルはヨルといっしょに手を振って、小さく子守唄を口ずさむ。その歌に、花世はこういう歌を波まで聞ければ良いと思い、櫻宵は人魚の優しさに愛おしげに微笑んだ。
類が伸ばした手に撫でられて、満足そうにくろまろわんこが目を閉じる。
「おやすみ」
名があるのならば知りたかったと彼は願うが、くろまろわんこが名を呼ばれたいのはきっと『誰か』だけ。
猟兵たちが見守る中、遊ぶのが大好きなくろまろわんこは光の粒となって消えていった。
「ちょっと名残惜しい、かな」
「うん、名残惜しいね」
最後の光の一粒まで見送って、絲と薺がぽつりと零す。
また会えたらいい。そう、思う。
できれば只犬となり、輪廻の巡った、その先で。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『呉服屋で着物選び』
|
POW : 一目惚れした物にする
SPD : ひとつひとつ丁寧に見てから決める
WIZ : 店主におすすめを聞いて選ぶ
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●はなごろも
「皆様、よくぞ荷を取り戻してくださいました」
荷物を回収し、荷運びの男が来るのを暫し待ってから共に町へ向かった猟兵たちは、呉服屋『濱口屋』の店主――濱口・香衣之輔(はまぐち・かいのすけ)から厚い歓待を受けた。
店主と共に首を長くして荷物を待っていたのだろう。娘のおかえも香衣之輔の背後からひょこりと顔を覗かせていた。まだまだ人見知りもするお年頃ゆえ父の着物を掴んで、けれど待ちきれない表情を浮かべている。
おかえへと風呂敷包みが渡されれば、パッと花咲く笑顔を浮かべ、
「ありがとう、ございます」
舌っ足らずな、けれどちゃんと丁寧にお辞儀をして猟兵たちへと礼を述べる。早く包みを開けたくてたまらず、どこかそわそわとしているおかえの頭を撫でた香衣之輔がひとつ頷けば、おかえはぺこりと猟兵たちへと頭を下げ店奥へと駆けていく。
母親に早速着付けてもらうのかもしれない。その足取りは弾むように軽かった。
「お話は伺っております。どうぞ、心ゆくまで楽しんでいってください」
香衣之輔が半身を引いて、手で示す。
そこには、様々な柄の浴衣たちが所狭しと彩っている。
既に仕立てられたもの、まだ反物のもの。
半幅帯に角帯に、兵児帯。
帯揚げに帯飾りに、根付に印籠。
浴衣に似合いそうな簪や小物の類まで、店内にはずらりと用意されていた。
気に入ったものがあれば購入しても良いし、試着するだけでも充分楽しめることだろう。着方が解らずとも店主へ尋ねれば教えてくれるし、試着も望むのならば同性の店員が着付けてくれる。
友人に内緒で選び、お披露目しあっても楽しめそうだ。
楽しみ方は、たくさん。夏の思い出の一頁に、どうぞ浴衣という彩りを。
香神乃・饗
鳴北・誉人f02030と試着のみ購入しない
布一つでも色んなのがあるっす
やっぱり麻がいいっすか
綿でもよさそうっすね探してくるっす
まずは赤はどうっすか!
やっぱり落ち着かないっすね
次は殿様みたいな金ぴかっす!
オ・レ!どうっすか(着て踊る
誉人!お花畑が落ちてたっす!(派手な花柄男浴衣
ダメっすかたまには柄ものを…
誉人!!可愛いのあったっす!(ぶんちょうさま風鳥柄男浴衣を
悪くないっすよ(笑顔
へへへ、こういう機会じゃないと着られないっす!
わ、なんで緑なんっすか
赤の反対色?誉人物知りっす!(きらきら
白布を鼠色で染めた板染め絞りはどうっすか
涼しげで良いっすね
着てみても涼しいっす
他には…
試着させてくれて有難うっす
鳴北・誉人
饗(f00169)と
浴衣の試着のみで買わない
いろんな浴衣に目移り
麻はいってる方が涼しいだろ、綿はやらけえのが好き
ん?赤…饗みたいじゃね?(着る
金色な!饗が着てよ、ンで一人で踊っててェ(にこにこ
なん?花畑!?着ンの?ヤだよォめっちゃ派手…
聞こえてるって(苦笑)はァ!?ぶんちょう!?(ソワっとして受取
羽織るだけ、羽織るだけだからな!
なんでこんなイロモノばっか…(でも楽しい
じゃあ、饗にはコレかな(若竹色の衣渡して
そんな色、饗が着てるとこ見ねえからさ
あとはコレは?ぎらぎらしてる般若ー!こえェ…
板染め絞り…?へえキレイ
絞り染めは面白いよな、饗も着てみれば?
ん、なかなかいいな
いろいろ参考ンなった
ありがとォ
●
浴衣と一括に扱えど、多種多様。素材も様々ならば、色も柄も山と在る。
夏の着物と言えば、麻が王道だろうか。風通しが良く、肌触りがひんやりとして、吸湿発乾性も良い。しかし素材的に透けやすく、シワになりやすい。対して綿はと言うと、麻よりも肌触りが柔らかく、吸水性はあるが麻よりも若干暑く感じやすい。双方の糸で織った綿麻というものもある。
「麻はいってる方が涼しいだろ、綿はやらけえのが好き」
綿と麻、何方が良いだろうかと悩む饗の眼前で、誉人の指がついと伸びたのは綿麻。
「コイツは両方はいってるヤツ」
「そういうのもあるんすね」
誉人物知りっす。饗が微笑った。
何色がいいだろうか。饗は赤い浴衣へと手を伸ばし、手渡された誉人が服の上から羽織ってみる。
「……饗みたいじゃね?」
「うーん、やっぱり落ち着かないっすね」
じゃあ次はと饗が手にしたのは金色の浴衣。更に落ち着かない色ではあるが、折角だから色々と楽しんでみたいのだろう。
「殿様みたいな金ぴかっす!」
「饗が着てよ、ンで一人で踊っててェ」
「いいっすよ、しっかり見ているっすよ」
――オ・レ!
どこかのお殿様のような金色の浴衣を纏い、店に迷惑にならない程度に踊る饗。掛け声と共にピシッとポーズも決めれば、くすくすと笑っていた誉人も破顔して。笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を指で払った。
次に饗が目をつけたのは、派手な花柄。列記とした男浴衣ではあるが、花畑もかくやと大輪の花々が咲き乱れている。
「なん? 花畑!? 着ンの?」
ヤだよォめっちゃ派手……。
その花柄は嫌。両手をクロスして断固拒否。
ダメっすかぁと肩を落とした饗だったが、すぐさま次の浴衣を探しに行く。お祭り男は祭りの下駄の音のようにコロコロと切り替えが早い。
そして、面白い物を見付けるのもとても早かった。
「誉人!! 可愛いのあったっす!」
「はァ!?」
誉人がのんびりと浴衣へと視線を落としていたら、新たな一枚を手に戻ってくる。
満面の笑顔で、ジャジャーンっと効果音が鳴りそうな姿で饗が見せたのは――
「ぶんちょう!?」
可愛らしい文鳥が、みっちり。正面を向いている文鳥、クローバーを咥えて小首を傾げている文鳥、おしりを向けている文鳥……沢山の文鳥たちが並ぶ絵柄の浴衣を差し出され、羽織るだけだからなと言いながらもいそいそと身に着ける誉人。店員たちが何だかとても微笑ましい視線を送ってきている気がした。
「悪くないっすよ」
きらきらしい笑顔と共に告げられて。
けれど矢張り気恥ずかしい。
「なんでこんなイロモノばっか……」
「へへへ、こういう機会じゃないと着られないっす!」
薦められるのはイロモノばかり。けれど饗の笑顔を見ればそれも悪くないと思えるし、正直楽しい。文鳥浴衣を脱ぎながら、向けられた笑みに笑みを返した。
イロモノばかりではあったが、選んでもらったし。と、誉人はぐるりと店内を見渡して。
「じゃあ、饗にはコレかな」
饗はいつも紅半纏を纏っているからと、誉人が選んだのは若竹色の浴衣。
なんで緑なのかと問えば、赤の反対色なのだと返って。反対色と言うものがある事を初めて知ったのか、「やっぱり誉人は物知りっす」と饗はきらきらと尊敬の眼差しを誉人へと送る。
その顔へぎらぎらしている般若の面を被せてみせ、こえェ……と笑いながらすぐに退けた。
そうしていくつか浴衣を試して二人で笑い合い、最後に饗が手を伸ばしたのは、白布を鼠色で染めた板染め絞り。まずは誉人へと当てて見て。
「うん、涼しげで良いっすね」
「へえキレイ。絞り染めは面白いよな、饗も着てみれば?」
色違いの板染め絞りを二人で着、帯は店員に薦められた金糸で梅が描かれた揃いの黒い角帯。
「ん、なかなかいいな」
目の前の饗の姿も、姿見に映る自分の姿も。二人揃いでひと揃えに映えるところも、なかなか良いように思えた。
沢山試着して、浴衣に触れて楽しんで。最後は綺麗に試着した浴衣たちを整えたならば、
「試着させてくれて有難うっす」
「いろいろ参考ンなった。ありがとォ」
またのご来店をと頭を下げる店主に笑顔で挨拶をし、二人は店を後にするのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鸙野・灰二
マルガリタ(f06257)と
そう云えば人に似合う着物を見繕うのは初めてだ。
鳥や犬より強敵じゃないかとさえ思う
……簪を帯飾りに?
そうだな。髪もいいが、帯に飾るのも美しかろうよ。
では着物選びだ
まず選ぶべきは色、あまりに鮮やかなのは好みが分かれると聞く。
極端なものは避けて考えよう
――黒い髪なら屹度白地が良い。複雑な色味の目にも合うように思う。
着物を着ていても子犬のように跳ね回る姿が目に浮かぶ
下駄は飾りより履き心地を見た方が良いな。
柄と、帯や小物に関しては女の店員に尋ねつつ見繕う
――これは決して口に出さんが
自分を武器だというお前が人のように着飾るのを、俺は喜ばしく思う
実に楽しい一日だッた。礼を云うぞ。
マルガリタ・トンプソン
鸙野(f15821)と
一度着てみたかったんだ。君が着てる着物ってやつ
あはは、まさかここにきて一番の強敵とはね
君の好みで選んだっていいのに。俺はそれが楽しみで来たんだから
あ、君が誕生日にくれた簪があったろ
これって帯飾りの代わりに使える?
さて、俺も君に似合う浴衣を選んであげよう
って言っても難しいな、人に服を選ぶって。店の人に手伝ってもらおうか
うーん、いつもと雰囲気変えて、淡い色なんか涼しげでいいかな
君は派手好みじゃなさそうだし……ああでも、色を添えるなら緑がいいね
君の、瞳の色。俺は好きなんだ
……意思を持った武器なんて、憐れだと思ったのにね
君が楽しいと思ってここにいてくれたらいいな、とも思うんだ
●
「一度着てみたかったんだ。君が着てる着物ってやつ」
浴衣の海を、マルガリタの指先が彷徨う。どれも違う色で、違う柄で。どうやら素材も違うようだ。けれどマルガリタには違うということしかよく解らない。
だから、ねえ。選んでよ。
傍らの男――灰ニを見上げれば、彼の眉間が僅かに寄った。
「――鳥や犬より強敵じゃないか……?」
「あはは、まさかここにきて一番の強敵とはね」
人に似合う着物を見繕ったことが無い男の口から思わず溢れた言葉に、マルガリタが明るく笑う。戰いに身を置き、触れれば斬れる男に、こんなにも強敵があったとは。それが知れただけでも、マルガリタには収穫であった。
真剣に浴衣を眺める灰ニの後ろを、ブラブラと歩き、時折肩越しに浴衣を覗き込む。
「君の好みで選んだっていいのに」
「そういう訳にもゆかぬだろう」
それが楽しみで来たのだと言っても、灰ニは真面目に答えて視線は浴衣を追った。淡い色から濃い色まで、様々な彩りを見せる浴衣たちを眺める。
(――あまりに鮮やかなのは好みが分かれると聞く)
極端なものは避け、彼女に似合う色合いを。
(――黒い髪なら屹度白地が良い)
黒髪に、白い浴衣は映える。出かける先が夜祭ならば彼女の髪では闇に紛れやすいが、その分一層浴衣が引き立つことだろう。明るい色の服は顔も明るく見せるし、マルガリタの複雑な色味の目にも合うように思えた。
白地に、柄はどうしようか。ふと視線を向けた先に見つけたのは、柴犬柄。思わずフッと笑みを浮かべた男の傍らで、なぁにとマルガリタが見上げるも、ふるり。かぶりを振られて。
素直に店員に尋ねてみよう。軽く手を挙げれば、目が合った着物姿の女性店員が寄ってくる。
「すまない。彼女に似合う浴衣を探しているのだが」
生地は白がいい。しかし柄や小物に悩んでいる旨を伝える。着物を着ても夜祭りで子犬のようにはしゃぐ姿が目に浮かび、下駄は飾りのあるものより履き心地が良さそうなものをと付け足して。
「それでしたら、こちらはいかがでしょう?」
白地に薄らと浮かぶ、波と流水紋。マルガリタの髪と瞳の色の金魚が優雅に泳ぐ浴衣だ。帯は「快活なご印象ですので」と赤い兵児帯。下駄も鼻緒が可愛らしい物をいくつか並べ、マルガリタに履き心地を確かめさせた。
「簪って、帯飾りの代わりに使える?」
「……簪を帯飾りに? そうだな。髪もいいが、帯に飾るのも美しかろうよ」
ほら、君が誕生日にくれたやつ。
マルガリタの言葉に、女性店員がパッと笑顔を浮かべた。
「ええ、ええ。とても素敵だと思います。でしたら飾りは其れで良さそうですね」
マルガリタの浴衣がひと揃え、決まった。
それなら次は、君の番。けれど他人の服を選ぶのは、慣れていないと難しかったりする。況してや今日は、普段マルガリタが着ない着物なのだ。
「お姉さん、彼の浴衣選びも手伝ってくれる?」
了承の頷きを笑顔で受け止めて、灰ニ似合いそうな浴衣を探す。
「うーん、いつもと雰囲気変えて、淡い色なんか涼しげでいいかな」
「良いですね、今日もお召し物は濃い色のようですし」
店員と二人で悩みながら浴衣に触れて、合いそうなものを見つけては灰ニに当ててみる。派手なものも何となく当ててみたけれど、微妙に合わない気がしたからすぐに降ろした。
楽しげに選ぶ女性二人。灰ニは口を挟まずにその姿を見守る。
「色を添えるなら緑がいいかな」
彼の、瞳の色。マルガリタはその色を結構気に入っていた。
それでしたらと店員が薦めたのは、鉄色の浴衣。青みが暗い、鈍い青緑。黒金の色。僅かに淡い緑で縦縞が入っているそれを、灰ニに羽織ってもらう。
「うん、いいんじゃない?」
これにしよう。店員の女性にお姉さんありがとうと感謝を述べた。
――かろん。
軽やかに鳴る足元を見る。指に引っさげた鼻緒に木板。
(……意思を持った武器なんて、憐れだと思ったのにね)
けれど今、楽しいと思ってここに居てくれたらいいな。
「実に楽しい一日だッた。礼を云うぞ」
マルガリタの気持ちが読まれたように告げられた言葉に、思わず彼を見上げてしまう。
自分を武器だと言う少女が普段と違う装いで見上げてくる姿を真っ直ぐに見下ろして、男は小さく頷きを返す。
お前のこういッた姿も悪くない。屹度俺もお前も、”ヒトらしく”あることだろう。
――嗚呼、悪くない一日だッた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
■櫻宵/f02768
◇真珠にいさんに声をかける
わ、いろんな生地がある
どれにするか悩むね
浴衣を着る時は櫻に髪を結ってもらう
簪も、浴衣に合うのがあったらほしいな
櫻宵が次々に持ってくる浴衣は皆女性ものなのが気になるけど
そういうものなのか
どれも綺麗だから悩んで、迷ってしまった
真珠にいさんは僕、どれが似合うかな?
ふふ、真珠にいさんと櫻に選んでもらえたら、最高の浴衣になるね
浴衣は初めてで……あ、でもヨルとお揃いにするのは賛成だ
真珠にいさんは浴衣選ばないの?
櫻宵のもまた新しいの仕立てるんだ
うん……とっても綺麗
似合うよ、浴衣
お祭り!いきたいな
きっと
幸せな日々は月日がたっても続く
浴衣を見る度にしあわせを思い出す
誘名・櫻宵
🌸リル/f10762
◇真珠を呼ぶ
さ!リィの浴衣選びよ!
リルは白いから、淡い色合いのも似合うと思うのよね
浴衣を次々とリルに試着してもらう
桜色の金魚のようにひらひらした和洋折衷の浴衣(女物)とか、髪先に合わせて瑠璃に鈴蘭もいいわね!
朝顔のもいいし、風鈴柄も涼しげでリルの好きな桜柄も綺麗
尾鰭がドレスの裾のよう
迷っちゃうわね
真珠はどういうのがリルに似合うと思うかしら?
あなたの見立てなら間違いないわ
ヨルはリルとお揃いは?
あたしのはこれよ!
え?また?って乙女はどれだけ着物を持っててもいいの
水に白いベタの泳ぐ浴衣、リルの尾鰭みたいなフリル付き
月夜桜の帯はどうかしら
うふふ
浴衣着て一緒にお祭り、行きましょうね
●
老舗の呉服店『濱口屋』の店内は、サムライエンパイアに馴染みのない者は『昔ながらの』という印象を覚えただろう。茶屋や小物屋とは違い、濱口屋の店内は全て土間叩きではない。入り口から半分ほどは土間、その奥は店奥へと続く通路で二分されたように上がり框と畳で構成されている。
そんな店内の、上がり框で揺れる、人魚の尾が二尾。人魚の二人――リルと真珠は、店内を動き回る櫻宵を目で追いかけていた。
「お前の櫻はいつも”ああ”なの?」
「……大抵、そうだよ」
仲良く手を繋いで店内に入ってきた櫻宵とリルは、上がり框に腰掛けて冷茶をすすっている真珠を見付けると真っ直ぐに向かい、リルは真珠の隣に腰掛けて櫻宵に髪を結ってもらった。簪を挿して完成するまでは、櫻宵も大人しかった。リルの背後の畳に座り、可愛く出来たわと笑顔を見せていたのだ。
しかし。
「さ! リィの浴衣選びよ!」
そう言って立ち上がった途端、すごい機動力を見せたのだ。
店内を縦横無尽に駆け回り、気になった浴衣を見つけては手に抱えて戻ってくる。勿論、店員や他の客に迷惑にならないような立ち回りはしている。している、が。居合わせた者たちはきっと、全員今心がひとつになっている。「すごいな」と。
リルの側に、どんどん浴衣が集まってきた。
「わ、いろんな生地がある」
「ふう。とりあえずはこれくらいでいいかしら。さあ、リィ。立って。試着しましょ?」
「これ全部?」
「やぁね、まだほんの一握りよ」
せっせと広げて、羽織らせて。あれもこれもと試していく。
淡い色合いの浴衣を中心に見繕ってきたのは、きっとリルに似合うだろうと思ったから。桜色の金魚のように揺らめく洋風を取り入れた浴衣も、リルの髪先に合わせた瑠璃に鈴蘭の浴衣も、明るい日差しに咲く朝顔の浴衣も、微風を感じる風鈴柄の浴衣も――どれもあたしの人魚に似合いすぎて困ってしまうわ。
リルの好きな桜柄も綺麗だわとほうっと悩ましげなため息をつく櫻宵と、大人しく着せ替え人形になっているリル。櫻宵が持ってきた浴衣は全て女性ものなのが気になるけれど、着物のことはよく解らない。真珠も特に指摘してこないからそういうものなのかと思いながら、新しく差し出された浴衣に袖を通した。
「どれも素敵で迷っちゃうわね。リルは好きなの見つかった?」
「どれも綺麗だから悩んでしまうよ……真珠にいさんは僕、どれが似合うかな?」
「そうね、あなたの見立てなら間違いないわ。真珠はどういうのがリルに似合うと思うかしら?」
よっつの瞳が向けられた真珠は、茶器を横に置いてから櫻宵が選んだ浴衣を見て、それから店内へと視線を送る。
「あれ」
袖を揺らして示したのは、薄紅と薄紫のグラデーションに白い桜が舞う浴衣。
「理由も知りたい?」
二人が揃って頷くのを、喉奥で小さく笑って。袖を振り振り、店員に浴衣を持ってきてもらう。
「リルが、櫻宵が好きだからだよ」
宵の時刻は季節によって違う。桜が咲く頃――春の宵とは真っ暗闇ではなく、詩にも唄われる程のそれは美しい時間帯なのだ。天気の良い日にはこんな色合いになるよと、浴衣を撫でてからリルへと手渡した。
「……増々悩んでしまう……」
「そうね……あっ、ヨルはリルとお揃いにしては?」
「うん、ヨルとはお揃いにする」
でもヨルサイズはあるのかな。きょろりと店内へ視線を巡らせるが、店内にある浴衣はどれも人間サイズ。小さな浴衣も見えるが、ケットシー用ではなく子ども用だろう。
「店員に浴衣と同じ反物があるか聞いて、仕立てるといいよ」
まずはどの柄にするかを決めた方がいいと真珠が口にした。
「さっきからリルのばかりだけれど、櫻宵のは?」
「あたしのはこれよ!」
淡い水色の生地で表された水辺を白いベタが優雅に泳ぎ、愛しい人魚の尾鰭にも似た白いフリルが着いた女物の浴衣。そこに、月夜桜の帯を添えて見せる。
「また新しいのを買うんだ」
「え? また?」
きょとん。上背のある女装花魁が可愛らしく瞬いて。
「乙女はどれだけ着物を持っててもいいの。――そうよね?」
「うん、沢山持っていたとしても困るのは仕舞う場所くらいだしね」
話を振られ、袖で口元を隠した真珠が瞳を伏せて頷く。昔も今も、サムライエンパイアでの着物は裕福さの示唆となろう。着る物に困らぬ裕福な家で育った二人にとって、着物は沢山あって当然のものだ。思わぬ伏兵に、リルは「ええっ」と声を零した。
「真珠にいさんは浴衣、選ばないの?」
帯飾りは何にしようかしら。持っているものにしようかしら。それとも新しく購入しちゃおうかしら。あっ、リルに合う簪も選ばなくちゃ! ルンルンと楽しげに小物も合わせてみる櫻宵を眺めながらリルが真珠に問えば。
「僕は、あれ」
いくつか積まれた反物へとひらり揺らめく袖を向ける。反物を買い、家の者が仕立てるのだ。
「……真珠にいさんも沢山買うんだね」
「リルも櫻宵に沢山買ってもらうといいよ」
悩むくらいなら、全部買って貰えばいい。
思わず真顔になりかけたリルを、小さな年長者が耳を貸してご覧と袖を振り。
「沢山買ったなら、男物の浴衣を紛れこませても気付かれはしないよ?」
見たいでしょう? 格好良い櫻も。
耳に落とされた言葉に思わず目を見開いて。顔を合わせて微笑い合う。
「なぁに、内緒話?」
「な、なんでもないよっ」
「お祭りに行っておいでと薦めただけだよ」
「いいわね、いきましょ!」
「お祭り! いきたいな」
「あら? お祭りのお話をしていたんじゃなかったの?」
「してたよっ! 櫻宵といっしょにいきたいなって言ったの!」
「うふふ。浴衣着て一緒にお祭り、行きましょうね」
幸せな日々は、月日がたっても続く。
幸せな日々の思い出は、月日がたっても色褪せない。
今日の幸せはきっと、浴衣を見る度に思い出すだろう。
浴衣のように色鮮やかな、沢山の思い出を作ろう。浴衣を見る度に、幸せを思い出すように。
――男物の浴衣を買えたかどうかは、リルだけが知っている。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
赫・絲
♢
薺サン(f00735)と!
わっ、すっごーい!目移りしちゃう!
わーい薺サンコーディネートだー!
どれも素敵だけど、矢羽根柄って大人っぽく見えていいかも!
でも桜色も綺麗だし……そうだ、藍の矢羽根の浴衣に桜色の帯なんてどうかな?似合う?
薺サン何でも着こなしちゃいそう!
そうだなー、白地に大きなお花とかー、綺麗な瞳の色に合わせて黄色の帯とかー
スタイリスト交代!と店主さんのアドバイスも聞きつつあれこれオススメ
気になるのあったかなー?
私も浴衣で一緒に写真撮りたかったんだ
うん、バッチリ!
わあっ、キレーな簪!
実はねー私も……薺サンに似合いそうだなって
つまみ細工の菊の髪飾りを手に
ねね、これつけてもっかい写真撮ろ!
勾坂・薺
♢
赫さん(f00433)と
うーん、でもこんなにあると迷っちゃうよね
どれがいいかな
店主さんのお勧めとか聞いてみたいかも
赫さん、かわいいから色々似合いそうだけど――
髪色に合わせてみるとか?
藍色の浴衣とかね。花柄なんかもいいけど
矢羽根柄も好きだなあ
あとは桜色とかもいいなあ。気に入ったのある?なんて
色々ぐいぐいと赫さんに押し当ててみて
わたしは店主さんのおすすめにしようかな。
赫さんからお勧めある?なんて
それもいいなぁ
二人で着たらせっかくだしここでも記念写真
あとは終わりに、――気に入るかわかんないけど
赫さんに似合いそうだなあ、なんて藤の簪をプレゼント
え、わたしにもくれる?うれしいなぁ
つけたら二人でパシャリ
●
色鮮やかな浴衣たちは彩りの海。
沢山の華やかの着物は乙女たちの心を騒がせるものだ。
「わっ、すっごーい! 目移りしちゃう!」
色や柄、ひとつとして同じものはないのではないかと思わせそうな程に、店内は彩りに溢れていて。
「うーん、でもこんなにあると迷っちゃうよね」
どこから見ようかと、絲と薺は店内のあちこちへと視線を送った。
すると、穏やかな顔の店主と目が合って。
「お困りですか?」
「たくさんあって迷っちゃって」
「店主さん、アドバイスもらってもいいかなー?」
「ええ、でしたら。喜んで」
店主さんといっしょに浴衣選びなんて、心強いねと笑い合った。
まずは絲の浴衣から選びたいと薺が告げれば、店主は二人を若い女性向けの浴衣が置かれた場所へと案内する。明るい花柄や魚や鳥などが描かれた可愛い浴衣や、浴衣に合いそうな小物の前に二人を連れて行くと「どうぞ手にとってご覧ください」と微笑んで。
「赫さん、かわいいから色々似合いそうだけど――」
髪色に合わせるならば、藍色の。けれど花柄も可愛らしいし、矢羽根柄も可愛い。薺はあれやこれやと浴衣を手に取り、絲へと当ててみた。
「わーい薺サンコーディネートだー!」
「うーん、赫さんは何でも似合っちゃうけれど、わたしは矢羽根柄も好きだなあ」
「矢羽根柄って大人っぽく見えていいかも!」
「矢羽根柄でしたら、嫁入り前のお嬢さんにはピッタリな柄ですよ。弓で射た矢は戻らないことから、真っ直ぐに突き進める縁起柄です」
「真っ直ぐ前にって、赫さんピッタリじゃない」
藍色の矢羽根柄を手に取って。けれど、桜色の矢羽根柄も可愛い。
「髪に合わせるなら藍色なんだろうけれど、桜色とかもいいなあ。赫さんは気に入ったのある?」
「桜色も綺麗だし……そうだ、藍の矢羽根の浴衣に桜色の帯なんてどうかな?」
店主へと顔を向ければ、穏やかな顔で頷きが返ってくる。
「でしたら、明るめの桜色を合わせましょうか。こちらの帯など、若い女性らしいお色ですし、乙張りが出て遠くから見ても美しいですよ」
店主に薦められた明るい桜色の帯と藍色の矢羽根柄の浴衣を当ててみる。明るい桜色の帯には、巻いた時に正面に来る位置に僅かに濃い糸で桜の刺繍が施されていた。
「薺サン、どう? 似合う?」
「うんうん、似合う似合う。可愛いよ」
可愛くてお姉さん恋しちゃいそう。なんて薺が微笑えば、してして~っと絲が笑って。
「じゃあ、次は薺サンの選ぼ!」
「わたしは店主さんのおすすめにしようかな」
冒険しなくても、無難なのでもいいかなあ。
「あっ、そうだ。赫さんからおすすめある?」
「薺サン何でも着こなしちゃいそうだけど……そうだなー」
顎に人指し指を当てて、うーんっと悩みながら店内へと視線をぐるり。小さくアッと声を上げたならば、ちょっと待っていてと小走りに駆けていき、浴衣と帯をひと揃え抱えて戻ってきた。
「こういうのどうかなー」
白地に大輪の花が描かれた浴衣に、満月のような琥珀色の帯。描かれる花は、可愛らしくも大人っぽい。
「あら、可愛い。それもいいなぁ」
「店主さん、どう? いい感じかな?」
「とてもお似合いかと思います。後は、そうですね……」
スタイリスト交代! と店主へアドバイスを求めれば、店主は何かを探しに一度離れて、翡翠色の大きな石が嵌った帯留めと帯締めを手に戻ってくる。浴衣で帯締めが必要な帯結びをすことは無く、帯締めを固定する為の実用品である帯留めも必要はないのだが、アクセサリーとして身につけることも多い。
「こちらの帯留め等いかがでしょう?」
「あっ、素敵! 薺サンに合うー!」
「赫さんの浴衣にも合う帯留め探そっか」
ではこちらにと案内されたスペースで、絲はひと目で恋に落ちた。帯留めに。
「しば! いぬ! 私、これにするー!」
「さっきのわんこみたいね」
「でしょでしょー」
浴衣も帯も帯留めも決まった二人は、女性店員に着付けをお願いして。
次に顔を合わせた時は、双方見事な艶姿。
似合ってるねと微笑いあえば、何方からともなくスマートフォンを取り出して――パシャリ。写真慣れした二人の写真映えは言わずもがな、バッチリだ。
「赫さん、これ――気に入るかわかんないけど」
「わあっ、キレーな簪!」
着付けている時に、こっそりと選んだ藤の簪を薺が差し出せば。
「実はねー私も……薺サンに似合いそうだなって」
「え、わたしにもくれる? うれしいなぁ」
一緒のこと考えていたねと微笑いながら絲が差し出したのは、つまみ細工の菊の髪飾り。顔を合わせてくすくすと笑い合い、お互いの髪にお互いが選んだ髪飾りを飾り合う。
シャッター音が再度響くまで、――あと5秒。
二人ははなを咲かせる。明るい明るい、楽しいはな。
装いに華を、写真に笑顔の花を。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ルーシー・ブルーベル
七結さん(f00421)と
浴衣がもどってよかった
これからママに着せてもらうのね
…いいな
・浴衣
ルーシーのすきな色や柄…そうね
ふと目にとまった水色の向日葵柄の浴衣にするわ
せっかくだもの
夏のお花がいい
浴衣の次は……帯はどうしよう
黄色、ピンク……ううん
…七結さん、どっちがいいと思う?
着付けは店員さんへお願いするわ
決めたのはピンク色の兵児帯
いっしょに選んだ色…えへへ
あのね、おねえさんといっしょに服をえらぶの
あこがれだったのよ
着替えた七結さんが現れたら沢山たくさんキレイって言うわ!
すごく、とっても、にあってる!
ね、良ければ一緒に
周りを少し歩いたり、できるかしら
慣れない下駄のカラコロも
気持ちがワクワクするわ
蘭・七結
ルーシーさん/f11656
あの子のココロは、満たされたかしら
願いに寄り添えたのなら、さいわい
微笑ましい光景ね
大切なものが戻ってよかったわ
ね、と微笑みをひとつ
愛らしいもの、美しいもの
目移りしてしまいそう
無意識に手に取った浴衣
黒地に咲いた、しろとあかの牡丹一花
ひとめぼれ、というものかしら
ナユは、こちらがいいと思うわ
ピンクの帯を示してみせ
愛らしい色合いになりそうね
あなたにきっと似合うもの
ありがとう、ルーシーさん
あなたもとても似合っているわ
共に過ごす皆さんに、見せてあげたいくらい
ふふ。ナユだけでひとりじめ、ね
もちろん。少し歩いてみましょう
高鳴る下駄に耳をすませて
あなたの手を引いて、和国の情景を楽しむわ
●
包みを抱えた少女が軽やかに店奥へと消えて行く。その背を見守る猟兵たちの瞳は優しく、そして暖かなものだった。
浴衣が戻って良かったと見守るルーシーも、そのひとり。これからママにきせてもらうのだろうか。なんだかとても……そう、うらやましい。
「……いいな」
「大切なものが戻ってよかったわ」
心の中だけで留め置くはずの声が出てしまったことに、傍らの七結の声で気付いて。ハッと見上げれば「ね」と微笑まれ、僅かに恥ずかしいような……一緒に居てくれるのが嬉しいような、沢山のふわふわとしたものが混ざった気持ちでルーシーは頷きを返した。
喜ぶ少女の光景も、眼前で見上げるてくるルーシーの姿も微笑ましくて、七結は笑みを深くする。
「さあ、ルーシーさん。浴衣を選びましょう」
「ええ、すてきな浴衣を選ぶわ」
愛らしいもの、美しいもの。たくさんの彩りに目移りしてしまいそうになりながらも、七結が手にしたのは黒地に咲いた牡丹一華。しろとあかの風の花――アネモネ。普段から頭上に冠しているからだろうか。つい目が惹かれてしまう。
「七結さん、決まった?」
「ええ、ひとめぼれをしたの。ルーシーさんは?」
「ルーシーは、これ。夏のお花にするわ」
せっかくだもの。
水色の地に向日葵がたくさん咲く浴衣を身体に当てて見せれば、可愛らしいわと声が返って。
「……帯はどうしよう」
黄色も可愛いし、ピンクも可愛い。
何方にしようかと小さな指が彷徨い、そっと傍らを伺い見る。
「……七結さん、どっちがいいと思う?」
「ナユは、こちらがいいと思うわ」
七結の指が示したのは、ピンクの兵児帯。結べはふわふわと花のように揺れる姿を想像すれば、とても愛らしくて。そしてその可愛らしい色合いは、きっとルーシーに似合うから。
うん、じゃあ。そうしてルーシーはピンクの兵児帯を手に取って。
(いっしょに選んだ色……えへへ)
思わずぎゅっと抱き締めて顔を埋めたくなる。胸にたくさんの嬉しい気持ちが溢れて、世界がまたひとつ煌めいて見えた。店奥へと駆けていった少女よりも少しだけお姉さんなルーシーは、顔を埋めるのはぐっと我慢をして浴衣と一緒に兵児帯を抱きしめると、傍らの彼女の袖へとそっと手を伸ばし。
「七結さん」
耳を、貸して。
「あのね、おねえさんといっしょに服をえらぶの、あこがれだったのよ」
僅かに屈んだ七結の耳に落とされる、可愛らしい言葉。瞬いて思わずルーシーを見つめれば、小さくはにかんだ笑みがひとつ。
そっと袖引きお返しに。
「実は、ナユもなの」
あなたといっしょに選んでみたかったのよ。
乙女の内緒話を交わし合い、くすくすと微笑い合ってから着付けに向かった。
着付け慣れした女性店員の手を借りたルーシーは先に着付けを終え、七結の着付けが終わるのを待つ。変じゃないかしらなんて気になって、何度も姿見を確認して。
「ルーシーさん、ごめんなさい。おまたせしてしまったかしら」
「わあ、七結さん! キレイ! とってもキレイだわ!」
着付けを終えた七結が姿を現せば、ルーシーは瞳をきらきらと輝かせる。キレイ以外の言葉が出てこないくらい七結がキレイで、沢山たくさんキレイと口にする。
だって憧れのお姉さんが本当にキレイなのだもの。仕方がないわ。
「すごく、とっても、にあってる!」
「ありがとう、ルーシーさん。あなたもとても似合っているわ」
共に過ごす皆さんに、見せてあげたいくらい。そう、思う。
けれど、けれどね。今日はナユだけでひとりじめ。
「ね、良ければ一緒に周りを少し歩いたり、できるかしら」
「もちろん。少し歩いてみましょう」
可愛らしいことを口にする彼女の手を取って、店主たちへ「ありがとう」と口にして呉服屋の敷居を跨ぎ出れば、そこは和の国サムライエンパイア。町並みに合った装いを今一度見下ろして、七結を見上げ直すルーシーの顔はとても満足気。七結も愛おしげに見つめ返して、いきましょうと手を引いた。
からりころりと、下駄が鳴る。
からりころりに、耳澄まし。
浴衣に身を包んで二人で歩むひと時は、からりころりと心まで響くのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
冴島・類
ふふ、笑顔が咲いた
少女の足取り見送ったなら
並ぶ反物、帯に帯留め…
目移りしてしまいそうだなぁ!
選び合う周りの様子にふくふくし
折角だし僕も何か
悩んでみるけど
どれもこれも…自身に合わせるとなると
全く浮かんでこないのは
鏡故の性質かな
真珠さん見つけたら
わあいと手を振り
彼のならすぐに浮かぶのに
ご機嫌よう、真珠さん
これとか貴方に似合いそうだなあ、とか
水面のように移り行く
濃すぎず淡い青の絹地に白の絞りで染められた兵児帯を手にし
結び方で咲かせれば花となるし
なんて言ってたら
お前は?とつっこまれそうで目が泳ぐ
とんと浮かばなくて…良ければ
角帯一つ選ぶ力お貸しいただけませんか
切っ掛けあれば
浴衣は、合わせて選べる気がして
●
――笑顔が咲いた。
店奥へと駆けていく少女の軽い足取りを見送ってから、類は店内へと視線を滑らせた。沢山並ぶ反物に帯、帯留めに帯締め、色鮮やかな小物たち。自分がつけずともつい手に取りたくなってしまうそれらと、賑やかに選び合う猟兵たちに心がふくふくとなる。
(折角だし、僕も何か)
色とりどりな浴衣を目で追って、暫く悩んでみる。けれど、いつの間にか気付けば意識は根付けや唐打ち紐へと向かっていて、自身に合わせるとなると全くイメージが浮かんでこないことを知る。
(――鏡故の性質かな)
鏡は人を映すもの。着飾る人を映すもの。人の身を得てからいくつも歳月を重ねども、自身が着飾ることよりも誰かを見立てる事の方が良しと思えるのはそのせいか。
顎に指掛け、思案を少々。
そしてその先に、見知った姿を見つけた。
「真珠さん」
上がり框に腰掛けているその人の名を呼び手を振れば、揺れる袖に気付いた様子で真っ直ぐに視線を寄越し。ひらり、真似たように袖が振られる。
(――彼のならすぐに浮かぶのに)
似合う浴衣を思い浮かべながら、軽い足取りで近寄った。
「ご機嫌よう、真珠さん」
「ごきげんよう、類」
慣れた調子で挨拶を交わす。
「お目に叶うものはありましたか」
「それなりに」
ちらと後方の畳へと視線を送れば、いくつか積まれた反物たち。家の者に仕立てさせるのだと事も無げに人魚が口にした。
「これとか貴方に似合いそうだなあ」
濃すぎず淡い青が水面のように移り行く、絞りの兵児帯。兵児帯だけで結んでもひらりと愛らしく、結び方によっては花となる。普通に帯を結んだ上に結んでも愛らしくなるだろう。
真珠が選んだ反物にも合いそうだと類が兵児帯を示せば、執事人形の如月が受け取った。どうやら買い上げるらしい。
類は目元を綻ばせて他には……と言葉を紡ごうとするが、その顔を穴が空きそうな程に見つめられている事に気付いて口を閉ざして目を泳がせる。
「類」
ほら、声が掛かった。
「お前、自分の分は何か選んだの?」
何かを手にしている訳でもなく、店員に預けた様子もない。人のを見立てる前に自分のを考えては? 僅かに平になった珊瑚色が、類へと突き刺さる。
それが、その。切り出す口は、彷徨って。
「とんと浮かばなくて……良ければ、角帯一つ選ぶ力お貸しいただけませんか」
「いいけど、角帯ひとつでいいの?」
口元を袖で隠してころころと鈴鳴らし、そうだねと示したのは黒を基調とした帯だ。漆黒に、黒橡。銀鼠、檳榔子染を横並びにし、差し色に金茶が混ざる幅違いの縞の帯。
「お前は普段あまり柄物を身に着けてはいないからね。瓜江用に色違いもどう?」
「いいですね。これを切っ掛けに浴衣も選べそうだ」
「仕方ないから手伝ってあげる」
だからうんと素敵な浴衣を瓜江にも着せておあげ。
目を瞬いて。それから微笑んで。
浮かぶ笑顔は爽やかな夏の風の色をしていた。
色彩の海を漂う指先たちが見つけた君色は、何色となったのだろうか。
大成功
🔵🔵🔵
境・花世
綾(f01786)と
吟味を重ねて選ぶ綾の装いは、
臙脂の濃淡が艶やかな角帯
深い烏羽色の浴衣と合わせれば
気品と洒落っ気の絶妙なバランス
完璧だと意気揚々振り向けば、
肩にかかる浴衣に思わず綻ぶ
こんなに沢山くすぐったいよ、
ええ? まだあるの?
重なる彩に目をぱちくり瞬いて
楽しげなきみにされるがまま
綾の隣で映える色柄がいいな、と
ちいさく主張してみるけれど
いっそう重ねられて埋もれそう!
堪えきれずに笑い出せば
はらり肩から滑り落ちてゆく
色とりどりの夏の彩、衣の花
きみの手で選ばれた牡丹は
うれしくて爛漫に咲いてしまうよ
鮮やかな浴衣をひらり纏って、
あどけなく見上げてささやく
――きみの夏を彩る花に、なれたなら
都槻・綾
f11024/かよさん
鮮やかな彩りが咲き誇る店内は
実に絢爛
やぁ
艶やかですねぇ
うつくしい衣の数々へ
眩げに双眸を細める
傍らの麗しき花のひとには
どんな着物も似合いそう
黒地に瞳の彩と同じ桃色の花柄
清楚な白の地色も良い
此れは如何
彼方は如何
あれやこれやと楽し気に
どんどんと彼女の身に肩に
被せて掛けて
気が付けば十二単の如き様相に
済みません、と
笑って衣の中から救出すれば
ふわりと甘く牡丹の香りが咲くから
ほら
数多の花中にあっても
あなたという花が最もうつくしい
微笑んで手にした一枚は
鉄紺、深緋、黒に白の、幅違いの縦縞を地模様にして
八重咲牡丹が描かれた浴衣
陽射しにも負けぬ
宵にも沈まぬ鮮明さで
あなたの夏がより輝きますように
●
百花の王たる花世と共に鮮やかな彩りが咲き誇る店内へとぐるりと視線を巡らせた。実に絢爛。そう思えども、最たる華が傍らに居ることを綾は知っている。
「やぁ、艶やかですねぇ」
傍らの麗しき花の人にはどんな着物も似合いそうだと、美しい衣の数々へ眩げに双眸を細める綾ではあったが、その傍らの花――花世は一足先に真剣な面持ちで綾の浴衣を選び始めていた。
常ならば、明け方の蒼が似合いの美しい人。けれどせっかくの浴衣。常とは違う色がいいかもしれない。吟味に吟味を重ね、真剣に選ぶ綾の装いは、深い烏羽色の浴衣に臙脂の濃淡が艶やかな角帯。ふたつを手に取り重ねてみれば、気品と洒落っ気の絶妙なバランスに、思わず花世は大きく頷いて。
(――完璧だ)
深い烏羽色の浴衣であっても、きっと彼の髪は映えるだろう。そして臙脂の帯。瞳の緑と反対色のその色は、一層美しい瞳を際立たせてくれるはず。
意気揚々に、綾へと浴衣を見せるべく振り返る。反応は、想像に容易い。きっと彼は、花世が選んだ浴衣に目を細め「ああ、いい浴衣ですねぇ」と微笑うのだ。――しかし。
振り返った花世の細い肩に、浴衣が掛かる。黒い地に花世の瞳の彩と同じ桃色の花柄に、真白の地に清楚な小花柄。大輪の花に蝶が止まるもの、涼し気な水流紋に清水を泳ぐ魚のもの。
此れは如何? 彼方は如何? と花世の肩へと浴衣が幾重にも。掛けて被せて、重ねて掛けて。気が付けば十二単もかくやの有様で。
最初は擽ったそうに笑っていた花世も、次第に重く感じる様になる双肩に驚いて。
「ええ? まだあるの?」
瞳をぱちくりと瞬くけれど、楽しげな綾を諌めるでもなくされるがまま。自分のためにと選んでもらえるのは嬉しくて、心が少し擽ったい。
「綾の隣で映える色柄がいいな」
小さな主張は、聞こえているのか、聞こえていないのか。
楽しげな笑みとともに、矢張り次々と浴衣が掛けられていく。それにしても、多すぎやしない? なんて思った頃には、本当にもう、たくさんで。
「待って、待って。綾っ」
これ以上は埋もれてしまう!
慌てた声を出せば、くすくすと笑みが返って。
さてはきみ、わかっていてやっているな?
「済みません」
「……もう」
瞳を合わせ、どちらからともなくくすくすと微笑いあう。
衣の花の中から、たった一輪を救い出そうか。はらり、はらりと花弁のようにひとつずつ浴衣が肩から滑り落ち、丁寧に元の場所へと片付けられていく。
色とりどり夏の彩の中でも、ふわりと甘く牡丹の香りが咲くから。
「ほら。数多の花中にあっても、あなたという花が最もうつくしい」
なんという殺し文句なのだろう。きみの手で選ばれた牡丹は、うれしくて爛漫に咲いてしまうよ。あえかに色づく花で、きみを満たしてしまおうか。
落とされる言葉に微笑む綾が手にした一枚は、八重咲き牡丹が描かれた浴衣。鉄紺、深緋、黒に白。幅違いの縦縞を地模様に、艶やかに咲く大輪の――あなたのような八重咲き牡丹。幸福を意味する柄である。
鮮やかな浴衣を細い肩へと纏わせれば、ひらりと遊ばせた花世があどけなく綾を見上げ。
「――きみの夏を彩る花に、なれたなら」
きみの耳朶にだけ届くようにと、小さく願いを囁やいた。
なれるよとも綾が返さぬのは、既にそう、だからなのだろうか。
綾はひとつ笑みを深めると、同じように願いを囁いて返す。
「あなたの夏がより輝きますように」
陽射しにも負けぬ、宵にも沈まぬ鮮明さで。きらきらと。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
浮世・綾華
【軒玉】
二人のペースに巻き込まれる黒羽にはくすり
夜桜。いいねえ、風情がある
照れんな、似合うぞと笑って
はしゃぐ姿を横目に淡々と浴衣を眺めたり手に取ったり
女性物の浴衣の柄の意味なんてのは聞いたことがなかったから店主に尋ねてみたりして
ヴァーリャちゃん、朝顔は愛情とかって意味があるらしいぞ
確かに迷うな。だって絶対どれも似合う
ふふ。じゃあ簪も選ぼ
朝顔で揃えた方がいーかな?
白い花の簪を髪に当て
これ、かわいーよ
おー、こうゆうの好き
オズ、よく分かってんじゃん
青海波?そんじゃこれにしよ
色――あ、真珠さん
黒と灰、どっちが色男に見えると思いマス?
折角だし、シュネーのも選ぼーぜ
向日葵。夏の思い出にはぴったりだな
オズ・ケストナー
【軒玉】
物珍しさにきょろきょろ
クロバ、さくらがあるよっ
落ち着いた色味で裾が満開の浴衣を示して
白よりはこっちだよねと見比べるようにクロバに当て
どうどう?
何色がいいと思う?
2人を振り返り
きれいなガラス
おびどめ?
ヴァーリャが食べてたりんごあめみたい
あ、りんご
ヴァーリャみてみて
おいしそうっ
同じ色といわれたら笑い
花みたいな形
かわいいね
臙脂の帯
黒い鼻緒の朱塗り下駄
アヤカ
これこれ、きれいだよ
にあうと思うなっ
アヤカは黒かな灰色かな
手にした浴衣の裾を眺め
扇、じゃなくて波?
ひまわりっ
わたしね、ひまわり育ててたんだよ
大事に握って
クロバ、えらんでくれてありがとうっ
シュネーの浴衣が揃っていくのを見て
うれしいね
顔見合わせ
華折・黒羽
【軒玉】
不意に掛かる声と宛がわれた浴衣
瞬き数度で動きは止まりされるがまま
あの、えっと…と歯切れ悪く
似合う、との言葉にうっと声詰まらせ
…ありがとう、ございます
俯き小さく零す声
そっと白桜をひと撫でしてから購入の意を伝え店主へと預けた
手持ち無沙汰で店内をうろうろ
あ、オズさん、これ…
呼びながら指差したのは帯に結ぶ向日葵の飾り紐
控えめな作りで男物にも合いそうだ
初めましての挨拶の代わり
シュネー用に小さい飾り紐も作れないか聞いてみよう
悩む綾華さんヴァーリャさんの二人を見て
時間が掛かりそうだな、と思うも
そのひと時も嫌では無い自分がいて
手にした波千鳥柄の扇子と雪うさぎの遊ぶ巾着は
決まった頃合いにでも見せてみよう
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
【軒玉】
わあ…これが浴衣!
いろんな色や柄があって、ひとつの美術品みたいだ
黒羽、とっても似合う!
黒や藍色の生地が白いサクラに合ってて、すごく映えるな
なんだか夜のサクラを見に来たみたいだ
花柄も色々あって、見てて飽きないな
む、これは知らない花だな?
アサガオというのか!
なるほど愛情…アサガオの浴衣は愛情の表れなのだな!
むむ、綾華にそう言われると余計に迷うな…
悩みに悩んだ末に
愛情の意味のアサガオを選んで
カンザシ?初めて着ける…
白い花の簪を当てられ
ちょっとドキドキ
ほんとだ、美味しそうで可愛くて綺麗で…
これも一目で気に入った!
オズのも選ぶぞ
これとかオズの服と同じ色で綺麗
ミズヒキ?これも縁起がいいものなんだな
●
「わあ……これが浴衣!」
夏の彩りが溢れんばかりの店内に、明るい声。ヴァーリャは瞳を輝かせ、あちらこちらへと視線を向けるのに忙しい。綾華がいつも羽織っているものとも違う、浴衣。ひとつとして同じ色や柄が無いのではないかと思えそうなくらい色や柄があり、ひとつひとつが美術品のようだと一層瞳を輝かせる。
瞳を輝かせて店内を見ているのは、ヴァーリャだけではない。オズもまた、光を当てたガラス玉のように瞳をキラキラと輝かせ、物珍しげにきょろきょろと頭を動かしてしまっていた。
「あ」
見つけた柄に思わず声を上げ、駆け寄る。
「クロバ、さくらがあるよっ」
落ち着いた色味の地の裾に満開の桜を咲かせた浴衣を指差し、クロバクロバと手招いて。白地の桜もあるけれど、黒羽なら黒や藍色の生地だろうか。明るい色と暗い色、ふたつの浴衣を手にとって、黒羽へ当てて見比べてみる。
宛てがわれた黒羽はと言うと、瞬き数度で動きは止まりされるがまま。
「どうどう?」
「あの、えっと……」
何と答えたものか。歯切れも悪く、狼狽えて。
「黒羽、とっても似合う!」
うっ。ヴァーリャの飾らぬ言葉に、黒羽は声を詰まらせる。
「何色がいいと思う?」
「いえ、俺は……」
「夜の色の方がいいんじゃないか?」
夜のサクラを見に来たみたいにキレイだからとヴァーリャが笑えば、オズもやっぱりそうだよねと笑って。
完全に二人のペース。二人の間で黒羽は、何度か口を開いて閉じて。
そんな三人を眺める綾華は、余裕たっぷりにくすりと笑う。
「夜桜。いいねえ、風情がある」
「うむ、とてもキレイだぞ」
「うんうん、クロバ、きれいだよ」
「照れんな、似合うぞ」
「……ありがとう、ございます」
俯いた黒羽が小さく零す声。それは決して悪いものではなく、面映ゆく擽ったい。それでいて、薄らと隠しきれない喜びが滲む声。仲間たちにも正しくその気持は伝わり、一層笑顔が深くなる。黒羽は選んでもらった浴衣を大切そうに腕に抱き、そっと白桜をひと撫でしてから購入の意を店主へと伝えて預けた。
「花柄も色々あって、見てて飽きないな」
綾華とヴァーリャは、並んで浴衣を見て回る。女性物の浴衣が並ぶそのスペースに一番多く見えるのは、矢張り花柄だろうか。しかし、花は花でもどれも違う。小花を散りばめたようなものもあれば、大輪の花が鮮やかにひとつだけ咲くものも、花畑を浴衣の形にしたようなものまで様々だ。
楽しげにあちらこちらへ視線を向けるヴァーリャを横目に、綾華も浴衣を眺めたり手に取ってみたりする。これなんて彼女に似合いそうではないかと見比べて、戻して、また手に取って。
「む、これは知らない花だな?」
彼女の手元を覗き込めば、白地に咲く朝顔たち。
花の種類は解るけれど、女性物の浴衣の柄の意味は綾華にも解らない。軽く手を挙げて近くを通りかかった店主に声を掛け、尋ねてみることにした。朝顔の柄にはいくつか意味があることを聞き、店主へ礼を告げてからヴァーリャへと向き直る。
「ヴァーリャちゃん、朝顔は愛情とかって意味があるらしいぞ」
「この花はアサガオというのか! なるほど愛情……アサガオの浴衣は愛情の表れなのだな!」
他にも店主が教えてくれた『明日もさわやかに』など、明るく元気な彼女にぴったりだ。
「うーむ、迷う。どの浴衣がいいのだろう」
「確かに迷うな。だって絶対どれも似合う」
「むむ」
綾華にはっきりと言い切られては、更に迷ってしまう。どうせなら、綾華が一番好きな柄を選んでくれてもいいのにと思わないでもない。彼が気に入る浴衣で彩りたいと思うのもまた、乙女心だ。
悩みに悩んだ末、ヴァーリャが手にしたのは先程の朝顔の浴衣。
綾華は彼女がしっかりと浴衣を抱くのを見て、
「ふふ。じゃあ簪も選ぼ」
白い手を引き、髪飾りが並ぶスペースへと誘った。
一本差しからつまみ細工が揺れるものまで。浴衣とは違う彩りに溢れたスペースに、ヴァーリャはまた瞳を輝かせ、綾華が手にしたひとつを興味深げに見つめた。
「これなんて、どう?」
「これがカンザシ? 初めて着ける……」
浴衣も簪も初めてで、胸はドキドキしっぱなし。
朝顔で揃えた方が良いかと悩みながらも、綾華は白い花の簪をヴァーリャへ当ててみる。ヴァーリャの胸がまたひとつ高鳴って、間近にある顔をそろりと伺い見た。
「これ、かわいーよ」
白い髪にも埋もれずに、キラリと光りを反射する白い花がとても似合っている。飾らぬ笑顔を向けられれば、これにするといちにもなくヴァーリャは頷きを返していた。
そんな二人を眺め、時間が掛かりそうだな、なんて思うのは黒羽だ。そのひと時も決して嫌ではない自分が居て、一人では知れぬことが皆と居ると知ることが出来、その都度自分に少し驚いて。けれど矢張りそれも嫌な驚きではなく、のんびりとした気持ちで店内を巡る。
悩む暇もなくすぐに浴衣が決まってしまった黒羽は、少しだけ手持ち無沙汰だ。気になる小物は無いかと見て回り、帯締めが色鮮やかに揺れる一角でそれを見つけた。
「あ、オズさん、これ……」
「なぁにー?」
呼びながら指差したのは、向日葵の飾り紐。飾り紐は帯締めよりも細く短いが、小さな石がついていたりと可愛らしい。黒羽が見つけた向日葵の飾り紐は控えめな作りで、男物にも合いそうなデザインだった。
「ひまわりっ! わたしね、ひまわり育ててたんだよ」
「そうでしたか。向日葵、お好きですか?」
「うん、すきっ」
向けられた笑顔に、黒羽の尾が緩やかに揺れる。見つけられて良かったと心から思う。
「シュネー用に小さい飾り紐も作れないか聞いてみましょう」
「わあ、シュネーの分も?」
頷きを返して店主を探すと、店主は上がり框に腰掛けた人魚と言葉を交わしている様子。少し待とうと思った所、珊瑚色の瞳と目が合って、構わないと言うように花のような袖が振られた。
そうして店主へと問えば、「可能ですよ」と微笑まれて。シュネーのサイズを告げたなら、「少しお時間を頂きますので、引き続き店内でお楽しみください」と店主が店奥へと下がっていく。皆が浴衣を選び終える頃にはシュネー用の飾り紐も出来ているようだ。
「シュネーともお揃いになれますね」
「クロバ、えらんでくれてありがとうっ」
喜んでくれて良かったと首を振る黒羽。後はこっそりと、ヴァーリャと綾華の分も何か探してみよう。また後でと手を挙げて、小物探しへ旅立った。
ひとまずは自分の分だけ。オズは黒羽が選んでくれた飾り紐を大事に握って店内を見て回る。
「きれいなガラス」
「そちらは帯留めになります」
「おびどめ?」
装飾品が並ぶスペースで足を止め首を傾げたオズに、側に居た店員が簡単に説明をしてくれた。女性の帯に帯締めをして付けるアクセサリーなのだと教われば、なるほどと大きく頷いて。じいっと丸い目で、綺麗な帯留めたちを眺めた。
きれいなガラスはヴァーリャが以前食べていたりんご飴みたい。
そう思ったから、ヴァーリャを呼んでみる。
「ヴァーリャみてみて」
こっちこっちと手招けば、綾華を伴ってヴァーリャがすぐにやってくる。
「みて、りんご。おいしそうっ」
「ほんとだ、りんご!」
美味しそうで可愛くて綺麗で、これもひと目で気に入ってしまう。けれど簪は白い花。合うかな? と綾華を伺い見れば、「リンゴの花は白いしいいんじゃね?」と首を傾げられ、パッと笑顔を咲かせた。
オズのも! とヴァーリャが真剣な顔で選んだのは、水引飾り。
「これとかオズの服と同じ色で綺麗」
「ほんとだっ」
赤と青が鮮やかな、まぁるくころんとした梅結び。
「かわいいね」
「水引だな」
楽しそうに笑顔を見せる二人を後ろから覗き込み、縁起の良いものだと綾華が告げて。
「ミズヒキ? これも縁起がいいものなんだな」
いろんな識らないものがたくさんあるねと、また微笑い合う。
「アヤカにもあいそうなの、さっきみつけたよ」
「おー、どれどれ」
「こっちこっち」
手招いて連れて行くのは男物の小物が並ぶスペース。臙脂の帯と黒い鼻緒の朱塗り下駄を指差して。
「これこれ、きれいだよ」
「おー、こうゆうの好き」
オズ、よく分かってんじゃん。
友人に褒められて、オズは嬉しくてえへへと笑う。
「あとね、ユカタ。これ、にあうと思うなっ」
「青海波? いいじゃん。そんじゃこれにしよ」
「せいがいは?」
「その波の文様のこと」
「扇、じゃなくて波?」
手にした浴衣のを裾を見て首を傾げれば繰り返す波なのだと言葉が返り、波だと思いながらジッと見ていると、確かに波に見えてきた。アヤカはものしりだねと笑って、もう一色の浴衣を手にして並べて見せる。
「アヤカは黒かな灰色かな」
色、か――。
上がり框で暇そうに揺れる、白い尾鰭に目が行って。
「――あ、真珠さん」
名を口にすれば、チラリと視線が投げてよこされた。
「黒と灰、どっちが色男に見えると思いマス?」
「――灰」
応えは短く。けれど花のように揺れる袖で、少し離れて綾華に合いそうな小物を探しているヴァーリャを示す。
「二人で出掛けるなら灰。一人で出掛けるなら黒」
「……灰にしマス」
「それがいいよ」
微笑ましげな小さな笑みが返されて。短く感謝を告げれば、またひらりと袖が振られた。
二人のやり取りを見て、またオズがふふっと楽しげに笑う。
「折角だし、シュネーのも選ぼーぜ」
「あっ、クロバがね、ひまわりのひもをえらんでくれたの」
「向日葵。夏の思い出にはぴったりだな」
じゃあ、浴衣も向日葵にするか。
オズの瞳にも似た夏の空色に向日葵柄。飾りの紐は黒羽が選んでくれたもの。シュネーの浴衣が揃っていくのを見て、「うれしいね」とオズも向日葵のように咲った。
「決まりましたか?」
「シュネーの浴衣も決まったんだな!」
オズと綾華の元に、二人が戻ってくる。
黒羽の手には、波千鳥柄の扇子と雪うさぎの遊ぶ巾着。綾華とヴァーリャへと手渡せば、綾華は僅かに瞠目しヴァーリャはパッと明るく笑顔を咲かせ。
「選んでくれたんだな! ありがとう、黒羽!」
「なかなかいいじゃん。……さんきゅ」
二人が同時に告げて、四人で顔を合わせて微笑いあう。
たくさんの彩りから選んだ、四人だけの彩り。
これを着て出掛ける日が、今からとても楽しみで。
その時もまた、こうして微笑い合うのだろう。
大成功
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真宮・響
【真宮家】で参加。
(駆けこんでいく娘さんに微笑み)奏もそうだったが、小さい子の笑顔は何よりも元気をくれるねえ。さあ、浴衣選びだ。(財布を確認して)予算は大丈夫。
奏は白が似合うと思うね。藍染の百合の模様に青の兵児帯。ああ、もちろん簪も買ってあげるよ。星の意匠の簪がいい?主人あるかい?
瞬がアタシの浴衣を選んでくれたんだね。(紫地に紅い椿の模様に紅い兵児帯を渡されて)へえ、紫は余り着た事ないが・・・挑戦してみようかね。
(そわそわしながら瞬の浴衣を選んでいる奏を見守り)さあ、三人で着て見ようか。ふむ、気に入った。主人、着ているものを貰えるかい?夏の大切な思い出に大盤振る舞いだ。
真宮・奏
【真宮家】で参加。
うん、何とかなって、良かったです。さあ、お待ちかねの浴衣選びです!!
(響に選んで貰った浴衣を見て)白に青!!流石母さん、私の好みわかってますね!!簪ですか?折角ので星の意匠の簪をおねだりしちゃいます!!
え、瞬兄さん、浴衣を選んで欲しいと?は、はい!!(どきどき)黒地に麻の葉模様の浴衣でどうでしょう!!あ、髪は後ろで一つに結んだ方がいいと思います!!(いつもと違う瞬の髪型と浴衣姿にますますどきどき)
え、瞬兄さんが髪結って簪刺してくれるんですか。~ほわぁ~(顔真っ赤)ああ、夏の思い出としては最高過ぎます~。(三人で浴衣で並んで最高の笑顔)
神城・瞬
【真宮家】で参加。
(駆けこんでいく女の子を見て微笑み)確か僕と奏が初めてあった時も奏は5歳でしたね。かつての奏を見ているようで。
さて、僕は響母さんの浴衣を選びましょうか。母さんの瞳の色が紫なので、紫も着こなせるかと。母さんなら鮮やかな椿にも負けないはずです。きっと似合うはずですよ。
奏、浴衣を選んでくれてありがとうございます。簪があるようですので、僕が奏の髪を結って簪を飾りましょう。(顔真っ赤な奏の頭に手をポン、と置く)
三人で浴衣を試着して並んで笑顔。ああ、皆良く似合います。全部買うんですか?・・・そうですね、それがいいかもです。
●
店奥へと駆け込んでいく幼い娘の背を見守れば、既に大きくなった傍らの娘の幼い頃を思い出す。
(――奏もそうだった)
悲しくてわんわん泣いていたと思ったら、嬉しさを全力で表して。響にとって幼い子どもの笑顔は何よりも元気をくれるものだった。
「僕と初めてあった時、奏はあれくらいの歳でしたね」
「私、あんなに小さかったですか?」
「ええ、僕は覚えていますよ」
瞬がかつての奏を見ているようだと目を細めれば、幼い自分を覚えてくれている事が嬉しいような恥ずかしいような複雑な気持ちで奏は頬を赤らめた。あの歳の頃の奏はこんなことをしていたんだよと二人が昔話に華を咲かせている間に、二人の母である響は財布の中身を確認。うん、予算は大丈夫。
「さあ、二人とも。浴衣選びだ」
「ふふ、おまちかね、ですね」
まずは二人の宝、奏の浴衣選びから。
「奏は白が似合うと思うね」
たくさんの浴衣たちに目を輝かせる奏に、響は白い浴衣を当ててみる。柄は藍染の百合模様。そこに青の兵児帯を当ててみれば、傍らの瞬も満足そうに頷いた。
「白に青!! 流石母さん、私の好みわかってますね!!」
「そうだろう。簪も買ってあげるよ、どんなのがいいんだい?」
「簪ですか? 星の意匠の簪があったら嬉しいです」
簪の並ぶスペースへと目を向ける。ちょうど通りかかった店主へと「主人、星の意匠の簪はあるかい?」と尋ねれば、店主は「少々お待ち下さい」と告げてから簪を手に近付いてくる。
「こちらはいかがでしょうか」
差し出されたのは、星型の蒼石の一本挿し。小さな石の垂れ飾りもついており、ほうき星のようにも見えるもの。
「わあ、可愛いです!」
「ありがとね、主人。これにするよ」
可愛い簪に出会えたとにこにこ微笑む奏を見守る二人の視線は柔らかい。
「さて、響母さんの浴衣は僕が選びましょうか」
「瞬がアタシの浴衣を選んでくれるのかい?」
息子が服を見立ててくれるだなんて、そんな嬉しいこと早々ないよ。
嬉しそうに微笑む響の顔を見て、瞬が手を伸ばしたのは紫色の浴衣。響の瞳と同じ生地の色に、鮮やかな紅い椿が咲いていた。
「母さんなら鮮やかな椿にも負けないはずです」
「へえ、紫は余り着た事ないが……挑戦してみようかね」
きっと似合いますよと浴衣とともに紅い兵児帯を添えて、瞬は一式を響へと手渡した。
「あとは、僕の浴衣ですが……」
男物の浴衣が置いてあるスペースへと足を向けながら、瞬はちらりと奏へと視線を向ける。幼い頃とは違い、成長した妹。せっかくだから、彼女に選んでもらいたい。
「奏、僕の浴衣を選んでくれませんか?」
「え、瞬兄さん、浴衣を?」
「いけませんか?」
「は、はい!! 頑張ります!」
男の人の、浴衣。それも大好きな兄のもの。
どきどきと胸を跳ねさせながら、奏は真剣な顔で浴衣を吟味する。
「黒地に麻の葉模様の浴衣でどうでしょう!!」
瞬は奏が選んでくれた浴衣を羽織って、
「似合いますか?」
「あ、髪は後ろで一つに結んだ方がいいと思います!!」
言われたとおりにひとつに括ってみせる。「どうでしょう」と瞬が尋ねるが、いつもと違う姿、そしていつもと違う髪型の瞬に奏は胸を高鳴らせ、両手を組んで見つめていて。
「奏、浴衣を選んでくれてありがとうございます。お礼に僕が奏の髪を結って簪を飾りましょう」
「え、瞬兄さんが!?」
簪を瞬へと手渡せば、瞬は元々ひとつに結んであった奏の髪をくるくると巻いて簪で綺麗にまとめ上げる。奏はそれだけで夢見心地で、頬を真っ赤にした。
(ああ、夏の思い出としては最高過ぎます~)
嬉しくて幸せで、まとめ終えたのも気付かない奏の頭へと瞬はポンと手を置いた。
そうして全員の浴衣が決まり、「さあ、三人で着てみようか」との響のひと声で三人は揃って浴衣姿に。
「ああ、皆良く似合います」
「瞬兄さんも母さんもとってもすてきです~!」
「ふむ、気に入った。主人、着ているものを貰えるかい?」
「え、全部買うんですか?」
「夏の大切な思い出に大盤振る舞いだ」
「そうですね、それがいいかもです」
瞬と響の間で、奏が最高の笑顔を見せているから。たまの大盤振る舞いも良いだろう。
「それじゃあこのまま、出掛けようか」
「はい!」
「いいですね」
からんと下駄を鳴らし、浴衣に包まれた家族三人は仲良く店を後にするのだった。
●華衣
真新しい花咲く衣に袖を通し、ひらひらの兵児帯できゅっと結ぶ。おかえの為に仕立てられた浴衣は、おかえが大きくなっても着られるようにと大きめに仕立てられ、肩上げと腰上げがされている。大切な大切な、おかえだけの浴衣なのだ。おかえにとっても、長く着られるのはとてもうれしいことだ。
「おかえ、おかえ、――華衣」
嬉しくて、楽しくて。浴衣を着たそばからぴょんぴょんと跳ねて全身で喜びを露わにする。そんなおかえを、父――香衣之輔が呼ぶ。
「ととさま」
呉服屋『濱口屋』の一人娘・おかえ――濱口・華衣(はまぐち・かえ)は、ぴょんっとひとつ跳んで父へと抱きついた。
「ととさまにもよぉく見せておくれ」
「うんっ」
サムライエンパイアに住まう人々は、全員正月に歳をとり、全員いっしょにお祝いをする。華衣は数えで五つの娘。けれど江戸幕府のお墨付きの旅人たちは、満年齢というもので数えているのだと言う。教えてもらったのは、去年の夏を終えた頃のこと。華衣は、華衣だけの、特別な日があることを知ったのだった。
そうして華衣は、特別な日に、特別な浴衣が欲しいと両親にねだった。元より、数えて三歳・五歳・七歳になる年は、成長を祝って何かをしようと思っていた両親。それに普段は我侭を言わない娘が、少女らしく着物をねだったのならば叶えない理由もなかった。
葉月の終わり頃におぎゃあと生を受けた華衣は、もうすぐ特別な日を迎える。
指折り数えた華衣の特別な日は、猟兵たちのお陰で笑顔いっぱいな日になることだろう。
華衣は両親の前で特別な浴衣を披露して。
ひらり、花の衣を翻した。
大成功
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