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こん☆かつ

#UDCアース #マイ宿敵

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#UDCアース
#マイ宿敵


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●数日前
 繁華街からはやや外れた場所にある外資系大手カフェ店は、誰もが入りやすいハードルの低さの割に他に邪魔されぬプライベート空間の確保も容易だ。
「まぁ、流石です。また今日も随分と美しくしていらっしゃる」
 赤眼を眇めるスーツの女は、清潔感という単語を己で示す出で立ちである。
 相対する女は、そんな清潔感たっぷりの女……“コンダクター”へ紹介してくれた個人営業のエステティシャンの腕のお陰だと頭を下げる。
「あなたが私との契約に沿った行動をなさっているからですよ。私の契約書は手にした人次第でただの紙切れと化すのです」
 さすがです、ともう一度“コンダクター”は対面に腰掛ける女の心を擽る。すると女は誇らしげに口元を歪めた、全ては“コンダクター”の手のひらの上。
「次回は、あなたの“とっておきの方”も『婚活パーティ』にご参加いただく予定です。お逢いになるのは何年ぶりになりますか? ……楽しみですね」
「ええ、とても」
 目の前の女はそう答えるとギリリと下唇を噛みしめる。
 ――あの男は裏切り者、私を捨てたのだ、赦されるわけがない。
「あなたが幸せになる過程を、今回のパーティでも見守らせていただきますね」
 そう、全ては“コンダクター”の手のひらの上だ。

●グリモアベースにて
「うーんどうなんだろー、所謂無駄な投資って奴かもしんない。俺だったら、コンビニで煙草のカートンに金つっこむ方がいいやぁ」
 グリモアベースで身も蓋もないことを言ってるのは、この度の仕事を見いだしてしまった九泉・伽(Pray to my God・f11786)である。
 手近な椅子によいしょなんて年寄り臭い所作で腰掛けると、隠した口元でライターを翻す。一拍おいて立ち上る細い紫煙に虚ろな紅がやや傾く。
「女性が結婚相手に求めんのはー、家事ができる、ギャンブルやんなーい、金が掛かる趣味はやんなーい、煙草吸わなーい、子育てに協力的ー、奥さんをママと思わなーい、靴下脱ぎっぱなしとかもっての外……ま、あとは世知辛いけど、経済力」
 お金isパワー! アルファベットとカタカナ混ぜるなとか言わない。
「今回は、そんな厳しい目線のお嬢様方が集う『婚活パーティ』に潜入してさー、口説いてきてよ」
 掲げて見せる通信端末には『豪華客船にて婚活パーティ』の文字が躍る。
 富裕層向けの船内は、名だたるブランドショップと星つきレストランやカフェがひしめき合っている。
 会場でマッチングした後は、お気に入りを連れ出して船内でデート。勿論、店舗での買い物は全て自腹。
「どれっぐらい必要経費で落ちるかは……まぁ、俺も頑張ってみるけど……」
 グリモア猟兵、煙を吐いて目を逸らす。組織がケチなんじゃない、それだけ店が高いのだ。
 今回のミッションを改めて解説すると、だ――。
 起業狙いの大学生が株で当てて瞳キラキラ将来性とかー、バツイチベンチャー企業の社長で今度こそ女性を大事にしますぞとかー……その他、金の亡……厳しい愛で見定める女性のお眼鏡に叶うような婚活男子の素振りで、彼女らを引っ掛けて欲しい。
「この『婚活パーティ』さ、邪教集団の窓口らしいのよ。女性陣の何人かは教団の仕込み。カップルになれた人やその家族は、日を改めて『二次会』にお誘いを受けるんだって」
 既に過去のパーティで抱き込まれた金持ち連中もいて、教団の資金は日に日に潤沢になっているのだという。
 さて、
 今回は女性や成年前の猟兵の出番はないのだろうか?
「いーえ」
 いい加減真っ白になりすぎた顔面を人差し指で払い、にんまり。
「子供であれば『パパ(またはママ)が婚活パーティに参加していて、未来のお母さんを見極めに来ました』って感じで入れるよ」
 父親役はUDC職員が適当にあわせてくれる。もちろん猟兵同士のコンビ打ちもOK。
「女性はー……ひとり、気になる男性参加者がいてさ。大して金持ちでもなけりゃ、UDCが手を回して入れてるわけでもない。三十代の普通の人が何故か参加できてんのよ」
 あからさまに主催側が特別に入れている、彼は教団側の人間かそうじゃないとしたら……?
「生け贄候補かもしんない。何にしてもできるならフォローしておきたい所。
 教団に金は貯まってきてるし、次の行動を起こすとしたらそろそろだと睨んでる。だからさぁ、みんな、頑張って散財してきてよ」
 みんなの財布のリカバリーは極力がんばるよと、請け負った自分の財布は痛まない男はへらりと気楽に笑ってみせた。


一縷野望
※受付開始と締め切りはタグと雑記で改めてお知らせします。募集以前にいただいたプレイングは採用せず一律お返しします

【1章目の目的】
 ターゲット4名の内、1名を選んで口説き落としてカップルになってください
 プレイングの最初に、下記リストの名前の頭にある記号(▲■●◎)を書いてください
 彼女たちの持つ虚栄心に訴えるも、心を開かせて信頼を得るもご自由にどうぞ
 質問したり口説いたり、相手の出方を想像して自分がどうするかも含めてご記載いただけると嬉しいです
(質問のみの羅列は、採用しづらいです)

※フラグメントには「女性は男装必須」とありますが女性のままでの参加OKです
 男装して女性を口説くのもありです
※未成年が親のオマケで参加する場合、自動的にUDC職員が親役で辻褄をあわせてくれます(プレイング記載不要)
 UDC職員はモブですのでシナリオには一切登場しません

※1章目が終了時点で【1組もカップルが出来なかった】場合は、2章目で一般人救出その他の難易度が爆上げされます


【ターゲットについて】
 以下はデータ上分かっているターゲットの性格などです
 もしかしたら裏の顔があるかもしれません

>女性ターゲット
▲一ノ瀬リン(31)
 バリキャリの肉食系。最近、他の会社にヘッドハンティングされるぐらいには優秀
 仕事ができるからかそれを理由にフラれることが多く、自分に合うのはハイレベルにしてハイソサエティな男しかいないとの考えで参加
 ブランド大好き。露出の高い服装を好むナイスバディ、元から明るい毛にニュアンスで緑をさした落ち着いた茶髪

■二宮ハル(24)
 真っ直ぐな黒髪に白いゆるふわファッションの女性、正しい意味での清楚
 某一流企業の社長秘書。25歳になったら実家で見合いをセッティングされるので、その前にブルジョアと恋人関係に持ち込み結婚したい。自分で選ぶのが大事。ゆくゆくは夫を支えたい
 
●カガリ(17)
 知る人ぞ知る有名ロリ系コスプレイヤー。最近動画の配信もはじめた
 染めた銀髪ツインテールに黒を基調にしたヲタ男子が好みそうなファッション……ではあるが、一般層への媚び方も心得ている
 舌っ足らずな喋りと、周囲の男が甘やかさずにいられない振る舞いが秀逸。いわゆる男にモテて女に嫌われるタイプ
 貢がせるのを楽しんでいるきらいがある

>男性参加者
◎三月四朗(三十代半ばか)
 精一杯こぎれいな格好をしているが、お財布事情はごく一般的なサラリーマン
 正体不明、目的不明

【採用人数】
 4~6名の予定
 再送なしで書けそうなら若干名プラスするかもしれません
 2章目以降からの新規参加は枠の空きがない限りは難しいです
 受付開始日の午後から執筆に入ります

 以上、プレイングをお待ちしています
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第1章 冒険 『潜入!婚活パーティー!』

POW   :    肉食系女性にアタックして調査(女性は男装必須)

SPD   :    清楚系女性にアタックして調査(女性は男装必須)

WIZ   :    妹系女性にアタックして調査(女性は男装必須)

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



『チケットをお願いします』
 豪華客船と地上をつなぐデッキ脇に佇む船員が丁重に頭を下げ請う。
 それぞれ演じる役柄にあわせて着飾った猟兵達は、ある者は紙製のチケットある者はスマートフォンのコードを見せた。
『……様、ですね。ありがとうございます。どうぞお進み下さい』
 促され船内へ。
 くるり、らせん階段をおりる度に目が合う船員は深々と会釈し歓待を現わす。
 ロビーの前は立食パーティの準備が整っており、既に飲み物を手にくつろいでいる者もいる。参加者の数は猟兵を含め二十名強。ターゲットである教団員女性3名と素性不明の男性も含まれている。
 船内はこのイベントの為にぬかりなく改修済みだ。
 客室は個室店舗にお色直し。煌びやかな店構えは急場ごしらえと思わせぬ豪華さであり、中で邪魔をされずに話をするのに好都合。
 元は売店とゲームコーナーであった広い場所にはブランドショップが円陣を囲むように配されている。個室店舗に行くにはここを通らねばならない。誰の目にもつく配置はさぞかし誇示するに向くであろう。

 何から何まで虚ろな装飾――わかった上で踊るのもまた一興。
 
金白・燕

アドリブ、マスタリングは大歓迎です
予め隈を隠し身なりを整えます
また身につける物には金と手間を掛けましょう


失礼、楽しまれていますか?
にこりと笑いかけ
グラスが空なら好みを聞いて
近くの者へ依頼
飲み物が届けば乾杯を

申し遅れましたと名刺を差し出して
観光・イベントの企画や運営に携わっておりまして
こう言ったイベントで皆様が楽しまれているのを見ると参考になりますね

ああ仕事の話ばかりすみません
こういう話ばかりしてしまうので、ご縁と巡り会えず…難しいものです
もし宜しければ今考えていらっしゃる事も伺っても宜しいですか?
貴女は仕事に誇りをもっておいでだ
お仕事の話も、貴女自身のお話しも、深く深くお聞きしたい



●一ノ瀬リン その1
 仕事、仕事、仕事。
 身に纏う黒色へは贅沢な金の彩り。ウサギの赤目の下に張り付く隈は、馴染みよいファンデーションで丁寧に隠した。
 常より勤労に勤しむ金白・燕(時間ユーフォリア・f19377)が目をつけたのは、やはり仕事に人生を浸している一ノ瀬リンという女だ。
 はやくも男達と話を弾ませる彼女のグラスが空いたタイミングで燕は輪に加わる。
「失礼、楽しまれていますか?」
 穏和な笑みとグラスに向いた流し目に、リンは「シャンパンをお願い」と一言。
「少々お待ちくださいね。ああ……私も同じものを」
 ボーイより受け取ると騒ぎの輪から外れて乾杯。
「乾杯」
 上から下までをきちりとブランド品で身を包んだ女は、下品にならぬ範囲で燕を品定めする。
 年齢不詳、穏やかで社交的。人の世話をするのに馴れているが、媚びへつらいは感じさせない――そんなそろばん弾きは燕の想定通りだ。
 一口喉を潤し、懐からレザーの名刺入れを取り出す。
「申し遅れました。私は観光・イベントの企画や運営に携わっております、金白燕と申します」
「ご丁寧にありがとうございます、あたしは一ノ瀬リンといいます」
 彼女からの名刺には、最近名を聞くことが増えたベンチャー広告代理店が記されている。結構な役職を如才なく褒めるとますますリンは機嫌を良くした。
「こう言ったイベントで皆様が楽しまれているのを見ると参考になりますね」
「ふふ、もしかしてイベントの偵察にいらっしゃったのかしら? こう言ってはなんですけども、大きなお金が動きそうなパーティですものね」
 燕の名刺になぞらえて口元を吊り上げるのには、一本とられたとの素振りで頭を掻く。
「ああ仕事の話ばかりすみません。今回はゲストの身なのについつい他の方の笑顔に惹きつけられてしまう性分でして……」
「素敵なお仕事ね」
「ありがとうございます。ただこういう話ばかりしてしまうので、ご縁と巡り会えず……難しいものです」
「確かに、女性は難しい話は苦手な人が多いですものね」
 得意げに膨らむ鼻の穴が「自分は違う」と口にせずとも物語る。燕は流れに逆らわずにリンをたてた。
「ああ、この会場ではじめてお話する方が一ノ瀬さんのような方で良かったです」
「あら、お世辞?」
「いいえ。貴女は仕事に誇りをもっておいでだ。だから仕事仕事と考えてばかりの私も、私のままでリラックスしていられるんです」
 通りすがりのボーイからキャビアがふんだんにのったクラッカーを受け取り、彼女へ勧める。
「もし宜しければ今考えていらっしゃる事も伺っても宜しいですか?」
「それもあなたのお仕事の参考に、かしら?」
 口元で弾けるクラッカーの欠片を零さぬように支え、試すような口ぶり。
「私は貴女の笑顔がもっと見たい……お仕事の話も、貴女自身のお話しも、深く深くお聞きしたいです」
「へぇ、女性はこの場に沢山いらっしゃるのに……こんなに早くに決めてしまっていいの?」
 真っ赤なルージュをぺろりと舐めて、大きめな瞳は爛々と燕を捕らえてくる。
「私を理解してくださる方は理知的な貴女以外はいないでしょうから」
 呑み返すまでいかぬ加減で、燕も一歩踏み込み見つめ返す。
「うっふっふ、逃げ腰な人はつまらないからあなたぐらいがいいわ。仕事をするならね?」
「……これは手厳しい。反面、とても充実したお話が聞けそうだと心を弾ませる自分もいるのですよ」
 これを皮切りに、リンは自身の仕事の業績を滑らかに喋り出す。燕は穏やかな表情にギャップをつけるように前へと身を乗り出す。
 熱ある話が途絶えた所で、燕は心底不思議だと眉を下げ眇めた瞳を見開いた。
「どうしてリンさんのように魅力的な才媛にお相手がいらっしゃらないのでしょう……ああ、失礼でしたら申し訳ないです。本当に不思議で……」
 ぽやんと口元を緩めて首を左に傾けて、無礼さを緩和する。
「あんな風に若くて従順な子が好まれるから」
 と、指さす先にはもうひとりのターゲット二宮ハルの姿がある。しかし、燕は目移りなどとんでもないと、ひたすらにリンを見つめた。
「私は、お互いに高め合える女性こそが素晴らしと思います」

 ――燕が得た現時点の印象は、グリモアベースで予め仕入れた事前情報とそう差異がないようだ。

 グラスを煽って熱を冷ますと、リンは名刺とは別の紙片を取り出して燕へ渡す。
「目移りしがちなあたしでよければ、こちらで勝ち取ってくださらない?」
 紙片には、未来の日時と別の場所が記されている。
 教団へ誘い込み金銭的協力ないしは儀式へ利用する男へ渡しているのだろう――つまり、燕の“お仕事”第一段階はクリアである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

司・千尋

アドリブ、他者との絡み可

何処まで出来るかわからないが
やるだけやってみるか


大学生の金持ちの坊っちゃんを装い参加
相手の話を否定しない
話すより聞く方を重視
礼儀正しく笑顔で対応

当たり障りのない会話を楽しみつつ
自分も同じような境遇であると伝えてみる

その気持ち、良く分かります
従っていれば間違いはないんだろうけど
やはり自分で決めたいですよね
実は俺も大学卒業したら見合いして結婚しろ、と言われていて…
結婚相手くらいは自分で選びたいじゃないですか?


見込みがありそうならショッピングとか提案
お近づきの印に何かプレゼントしたいのですが
悲しいかな、こういう事に慣れてなくて…
よろしければこれからご一緒にどうですか?


神子沢・耶白


女の子を口説ける依頼なんて、ラッキー!

普段は嘘つかずに『お話し』するんだけど、今回は特別
年齢はリアル、有名大学の三年生、すでに某一流企業の内定が内密に決まってるって設定で
清潔感あるオシャレで無難なスーツ姿
ブランドもの腕時計で学生だけど育ちよさそう感を出すよ

会場入りしたらさっそく行動!

初めまして、お時間よろしいですか?
すみませんこんな急に。とても素敵な方がいらっしゃると思って……他の人につかまる前にと、焦っちゃいました

天気の話、休日の過ごし方、趣味、なんて無難な会話から盛り上げて

親から一人立ちして、自分の力を試したい
そこにパートナーがいればなって
そんな気持ちで参加したんです
笑顔で誘ってみるよ



●二宮ハル その1
 ――とらえどころがない、まるで“自分”のようだ。
 同じ感想を抱いた司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)と神子沢・耶白(多重人格者の死霊術士・f14893)だが、中身は違っている。

「初めまして、お時間よろしいですか?」
 ほぼ同時に彼女の前に辿り着いたが先んじたのは耶白だ。
 いつもなら飄々と検にまわる千尋だが今回は大学生の坊ちゃんである、礼儀正しき柔和さは崩さぬも、残念さは滲ませる。
「俺は神子沢耶白といいます。●×大学の3年生です」
 有名大学をそらんじる耶白にあわせて千尋も口を差し挟む。
「ああ、同じです。俺も同じ大学の1年の司千尋です」
「まぁ偶然なんですね。はじめまして、私は二宮ハルと言います。大学時代は既に過去の24歳です」
 ハルは深々とお辞儀をすると、2人を見比べる。
 上等で清潔感あるスーツを着こなす耶白の腕には、名工の名高いあるブランドの時計がちらりと見える。聞けば既に一流企業へ進むことが内密に決まっているのだという。
 一方の千尋は、若さ故かスーツに着られる感じではあるが、出過ぎず控えめに佇む所に品の良さがある。
「結構お若い男性も多くて驚いています。お二人と同じく大学生のお嬢さんもいらしてそうですよね」
 ふうわりと空気をつれるような所作で周りを見回すのに、耶白は慌てて言葉を継いだ。
「俺のお目当てはあなたなんです。すみませんこんな急に。とても素敵な方がいらっしゃると思って……他の人につかまる前にと、焦っちゃいました」
 流れるような賞賛に千尋は俯き「そうですね」とだけ零す。元より聞き役に回るつもりだったから、耶白にしばし主導権を渡すのは問題ない。
「もう既に司くんがきてるから、危なかったですよ」
「まぁ、ふふふ……」
「よければそちらに座りませんか」
 ソファに腰掛けたハルの前、テーブルにはグラスと三人分の軽食が並ぶ。飲み物は学生だからとノンアルコールの葡萄ジュース、ハルもそれに倣った。
 乾杯……と、グラスをあわせ一時、飲み干した後で口火を切ったのはやはり耶白だ。
「星が綺麗な夜ですね。海に出たからなおさらです……こんな時、あなたのように煌めいています、とでも言えばいいんでしょうか?」
「仰りたいお言葉でしたら何でも喜んで聞きますよ」
 無難な応対だと、思う。
 実際に、当たり障りない話題をふる耶白に対して余り中身を入れずに返してくるのは、自然ではある。
 あるが、
 こちらを探りに来ない物足りなさも耶白は抱く。
 相手を否定しないように心にとめいた千尋もまた、彼女がそもそも否定も肯定もできるような中身を話してこないことに違和を感じる。ただ事前情報を得ている二人だから引っ掛かるとも言える。
(「余程うまく擬態をしているのか、はたまた大した役目を背負っていないのか……」)
 にこにこと柔和な微笑みは、仕事で馴らしたものであろう。しかし二人から離れようとはしない辺り、ターゲットとして見定めてはいる模様。
「……飲み物をとってきます。ハルさんはなにがよろしいですか?」
 千尋はしばし席を外して耶白と二人きりにすることにした。
「俺たちに遠慮せずにアルコールも楽しんで下さいね」
「ありがとうございます。紅茶をお願いできますか? 冷えてしまって」
 背後の窓に軽く頭をあてて、ハルは千尋を見送った。
「ハルさん……」
 即座に真正面にしゃがんで視線を合わせてくる耶白へ、ハルは今まで通り「はい」と受け答え。
「先程、就職が決まっていると言いましたけど……実は親の手を離れたものなんです。その……自慢のように聞こえると嫌だったので伏せたのですが、父の会社に入るように言われてはいました」
「…………まぁ、親御さんの意図に逆らわれたのですか」
 耶白はその時初めてハルという女の深層にふれた気が、した。
「それは、これから苦労をなさるかもしれませんね」
「覚悟の上です。自分の力を試したいんです」
「今は希望に満ちてらっしゃるのですね」
 怜悧にして計算高い物言いは気づかぬフリ。
「隣にパートナーがいればなって……」
 笑みがはにかみ色に染まるのにあわせて、ハルは一瞬だけ見せた“ビジネスライク”さをおっとりとした雰囲気をかぶせて隠した。
 その“ビジネスライク”さは、事前に聞いていたハルのパーソナリティと噛み合わない。まるで別の人格のようだ――耶白も体の持ち主とは違う“俺”が今口を利いている、そんな自分に一部分ではあるが似ている。
「……ふふふ、そのようなお話を私にしていただけるなんて、光栄です」
 ぱちりとハンドバックを馴らして取り出した紙切れには、先程リンが猟兵に手渡したように日時と場所が記されている。
「私も気が早いかもしれません。これは特別な方にしかお渡ししてはいけないものですから」
 そこまででで千尋が戻ってきた為、話は打ちきりとなる。
 また再びの谷間、無難な世間話をひとしきり続けた所で、耶白は言いづらそうに周囲に視線を向けて離席を切り出す。
「……すみません、他の方とも会うように父から言われておりまして」
「いろいろな方と出逢った方がいいと思います。お気持ちを楽になさってくださいね」
「では、俺たちも場所を変えましょうか。その……落ち着ける場所があるそうですし」
「ええ、いいですよ」
 ブランド品が並ぶホールを抜ける際も、彼女は欲しがる態度は見せない。けれど、恐らく千尋が買い与えようとしたならば、相応のものをねだっただろう。そんな気がした。
 個室のカフェに入り、手短にシェフオススメをオーダーする。
「すみません、連れ回してしまって。賑やかなところは苦手でして……あの…………」
 そこで想いを籍切らすように千尋は切り出すことにした。
「苦手、なんですけど……俺、このままだと親が決めたレールを歩かされてしまうんです。大学を卒業したら見合いをすることになっていて…………」
 さぁどうだ?
 耶白に心を移していたとしても彼が敢えて別にも行くと言ってくれたお陰で千尋にもチャンスはある形にしてある。
 随分と打ち解けた上での同じ境遇の話へ、ハルはどう反応するのか。
 一拍。
 ティカップから指を離すと、ハルは小さく首肯した。
「私ととても似た境遇です。結婚相手を決められていて……」
 ……想定した返事だ。ここから話を広げればいい。
 けれど、なんだろう……人となりて人を学び真似はじめた頃の自分にも似た違和感は。とらえどころがなくて、敢えて言うなら芝居くさい。
「…………結婚相手くらいは自分で選びたいじゃないですか?」
「司さんはご自身で選びたいのですね。」
 とってつけたように「私もそうですよ」と言う女に、千尋は咎めず同意を返すに留める。
 そう、
 彼らが猟兵でなければ、もっと言うとハルが教団員だという情報を持っていなければ、ハルの言動になんらおかしいことは、ない。
 ――この女は、ナニモノだ?
 その後、しばし話を弾ませた後に、千尋もまた例の紙切れをハルから無事手渡される。故に、この疑問は後へ持ち越しとなる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

刃・夜黎

いーちゃん(f27079)と囲んじゃえ♪
「あれー、もしかしてレイヤーのカガリちゃん?
動画観たよー、実物のが可愛いね」

サブカル系の黒服に厚底靴
明るめのマッシュヘアウィッグ
メンズメイクもそれなりして、所謂『中性的な甘い男性歌い手』のような風貌で接触

「オレ自身も活動しつつ配信者の事務所経営しててさ。カガリちゃんスカウトしたいと思ってたんだよね。歌方面興味ない?」
「機材とか有名MIX師とか全部用意したげるよ。息抜き必要っしょ?(小声)」
他、配信に関する要望あればなんでも聞いちゃう!

チヤホヤされたい女心は熟知してるつもり
さ、カガリちゃん
あたいといーちゃん、どっちのこと気に入ってくれる?

アドリブ歓迎


婁・以温
●レン(f27080)と

顔の片側は髪で隠したまま、黒いマスクとスーツで男装

「……もしかして、カガリさん?まさか推しに会えるなんてね
推しの投稿はチェックしてるからさ、すぐ分かった。……ちょっと恥ずかしいな
折角だしさ、隣いって良い?」
もともとの低い声に柔和な話し方で近づくよ
少し目つきも柔らかくして、警戒されないようにしとく
女受けは、相方の影響で理解はしてるつもり

要するに、きゅんとさせればいいんだろ

自分はホストってコトにして、SNSで下調べした情報を基に話す
「コスプレとか俺もするけどさ、カガリさんのは"映え"がプロ並みだから参考になるよ
ねぇ、もっと顔を近くで見せてよ
……この後、どう?」

アドリブ歓迎



●カガリ その1
 婚活パーティというだけあって、参加しているのは落ち着いた20代半ばからの女性ばかりだ。その中で黒いゴシックドレスを纏った少女は、明らかに異質。
 カガリは中央の椅子に背筋を伸ばし腰掛けたまま一歩も男へ近づかない。だからかパーティが始まった当初は華やかさを演出する人形のように見えた。
 しかし、一通りの女に話しかけた男が物珍しさから近づくと存外長話となっている。しばらくしたら二人して姿を消して、戻ってくる頃にはショッパーやアクセサリーが増える。
 彼女が相手を惹きつける理由、それは自分が醸し出す“モノ”と近しいのだろうと、刃・夜黎(よあけ・f27080)は一目で見抜いた。
 傍らの婁・以温(ぬくもり・f27079)もそれを受け、喫驚で瞳を見開き夜黎の肩を叩くなんて小芝居から接触を開始する。
 ――遠くのさざめきは賞賛。
 舞台の幕をあけるようにカガリが瞳をあいたなら、そこには黒スーツの男が二人。片方は華やかで自分と似た臭いがして、片方は落ち着きの中にも気を赦せぬ危うさがある。
 なんにしても、婚活会場へのそぐわなさは自分とどっこいだとカガリは値踏みした。
「あれー、もしかしてレイヤーのカガリちゃん?」
「まさか推しに会えるなんてね」
 興奮に充ち満ちた顔つきに、カガリはにっこり笑って黒レースの手をふりふりいつものファンサ。
「はぁい、カガリですよぉ」
「おお、動画のまんまの声だ……すごい、昨日見た動画の挨拶と同じだ」
「実物のが可愛さマシマシじゃない?」
「……そうだな。ああ、ちょっと恥ずかしいな」
「いーちゃん、いつもとキャラ違うー」
 ふぅ。大きめの吐息で整え仕切り直すと、以温は身を乗り出した。
「折角だしさ、隣いって良い?」
「はい、どうぞ。動画見て下さってありがとうございます。二人ともすっごいイケメン。お仕事はなになさってるんですかぁ?」
 鼻に掛かった甘ったるいヴォイス、膨らみ僅かな胸元で手をあわせて二人を見比べる仕草はまるでアニメから出てきたよう。
「なにやってると思う?」
「いーちゃんはヤバい奴だよ。オレにしといた方がいいって」
「余計なこというなよ……まぁここは一旦譲るか」
「え、なになに? カガリにはやく教えてよぉ」
 軽妙な二人のやりとりは資産家や坊ちゃんの口説き文句より余程面白く映ったようだ。
「実は……」
 夜黎は銀細工の小箱から『KG_V』との透かしが入る名刺をつまみあげる。
「オレ自身も活動しつつ配信者の事務所経営しててさ……歌い手のふぉんしゃって、知らない?」
 ふぉんしゃは“ツテ”を辿って「名前を借りる」と話を通したチャイニーズ系歌い手の名だ。
「! 知ってる、母国語が違うから音階の取り方が独特で綺麗な歌い手さんー」
「オレ、本名は刃夜黎って言うの」
 名刺を弾き片目を閉じる。
「マジで?! マジでふぉんしゃなの?!」
 凄い食いつきだ。
『コスプレイヤー暦3年。個人参加している内にネットで写真が広がってブレイクした』つまり、彼女自身がコスプレやヲタク文化にガチなのは、以温の下調べ通りだ。
「カガリさん、少し前に『うたったった』動画をあげてたから好きだとは思ったけど……そいつがモテるとちょっと悔しいね」
 軽く膨れて見せる以温の手をぎゅうと掴むのも忘れない。だってこの人もファンだしお金持ってそうだし……そんな下心。
「わぁ、ありがとうございます。でもふぉんしゃさんにあの動画見られたの恥ずかしい……」
「あれレンタルスタジオで撮ったの?」
 こくんと頷き赤面する。正直カガリの歌動画はつたなくて、本人もわかっているのかアップされたのは1回きりだった。
「良かった! 『うたったったは興味ない』って言われたらどうしようかと思ってた」
 大げさに胸を撫で下ろした夜黎も隣に腰掛ける。
「ようやく本題。カガリちゃんスカウトしたくってさ……機材とか有名MIX師とか全部用意したげるよ」
「マジで? ボイトレとかやってみたいなぁ」
「うんうん、他には? 配信に関する要望あればなんでも聞いちゃう!」
「えー……そうだなぁ、エステは良いところ行ってるからー、あ、お金だけ出してよ……」
 本気で考えている。
 今まで散々にファンの男を養分にはしたのだろうが今回は違う。同じチヤホヤでも継続的で本心に刺さるものは、少女の心を捉えて離さないのだ。
「こいつ、まだ事務所を立ち上げたばかりでさ。向こうじゃ金持ちボンボンで親がホテル持ってんだけど……」
「あー、個人情報漏洩禁止ー! それ言ったらさ、いーちゃんだって時雨里さんがパトロンの歌舞伎町のトップランカーじゃない」
 名のある女優の名前と水商売を匂わせる話がばらまかれた。更には“ヤバい奴”という情報から、以温がべらぼうに稼ぐホストだとカガリが辿りつくのはわけない話。
 カガリは、体の位置を夜黎に寄せたぞ!
「ほら、警戒される。ショックだ……俺はさ、純粋にカガリさん推しなんだよ。動画やる前から同じレイヤーとして憧れてたんだ」
 片側だけの瞳を切なげに眇めて、頬に触れぬところギリギリまで指を伸ばす。
「カガリさんのは“映え”がプロ並みだから参考になるよ」
 囁き耳元まで唇を寄せる。
「ねぇ、もっと顔を近くで見せてよ」
「…………遊ばれるの、怖い」
 お、と意外な反応に二人は顔を見合わせる。

 ――17歳の彼女は、安全な動画の中やコスプレ会場という人目のある場所で媚びる。そうやって自分の身を守り貢がせていたのだろう。
 実は身持ちが堅い少女が、では何故に邪教の教団員をやっているのか……?

 肩を抱こうとした手を止めて以温は小さく吹き出した。
「遊びじゃないよ。俺がお金に換える女は、ほら……」
 金持ち男達を物色するカガリ以外の女達が会場を浮遊する。それらを手のひらの上とでも言いたげな翳し方の手を振った。
「ああいう現実の夫婦生活が退屈になって不満をためた奴ら。彼女らの未来はそんなもんさ。カガリさんは、俺と同じ“楽しませる側”の人間……そうだろ?」
 きゅ。
 その他大勢を握りつぶす拳を解いて、もう一度、今度は直接カガリの頬にふれる。
「怖いなら無理はさせないよ。いつかお姫様が階段をのぼる時に俺にエスコートさせてよ」
「あ……」
 瞳を熱く潤ませるカガリを前に、夜黎はぽふりと手をあわせてご機嫌な声を響かせた。
「当事務所が把握できる範囲でなら恋愛OK。ちゃあんと隠すよ……だって、息抜き必要っしょ?」
 内心はいーちゃんの方が気に入ったか――なぁんて思いつつ、スマホを出して連絡先交換を誘う。
「なら、これ受け取って」
 ポーチから取り出した2枚の紙片の内、1枚をペンで書替える。
「二人とは一緒に逢いたいなぁ」
 それぞれに手渡された紙にはカガリの名と連絡先、そして他の猟兵ももらったのと同じ日取りと場所が記されている。ただし1枚は待ち合わせ時間に線が引かれて、もう1枚と同じ時刻に書替えられていた。
(「なるほどー、誘った男がダブルブッキングしないように時間がずらしてあるんだ」)
(「おひとり様2時間、その間に何をするのやら」)
 今回のスカウト話に本当にノリ気だとしたら、この誘いが即生け贄などの命がとられるものではなさそうだが……?
 猟兵としての思索は一瞬、二人はそれぞれの破顔で嬉しそうにチケットを受け取るのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ


事業家で飲食店経営、ってトコ?
髪色以外は派手さを抑えクール系な身形で
丁寧な口調と一人称私を徹底

あからさまな視線向ける女性へは興味がないといった余裕の振る舞い
仕事に邁進する女性に惹かれるから、当然相手の仕事は尊重すると話す一方
余裕を持って仕事を楽しんでほしいのだと
生活基盤の高さも会話に乗せアピール

言い寄る男性が後を絶たないでしょう、とベタな会話から過去話に
仕事の優秀さに対し男性を見極めるのは少々不得手のようですね、と穏やかに
例えば……誇示などしなくてもその素晴らしさに気付く
そんな人間を見抜かなくては

失礼、少し肌寒くはないですか
と自分の上着を露出した肩に掛け
宜しければ何か寒さを凌ぐものを、と誘い



●一ノ瀬リン その2
 さざめきの中でたまにあがる歓声は、上物の男を見いだした女のサイン。
 名のある飲食店経営に携わっているとの触れ込の名士はこの会場に散見されるが、コノハ・ライゼ(空々・f03130)には人を寄せ付ける美しさと若さがあった。
 なんとか気に入られんとす媚びの視線は一度だけのお愛想でさようなら。そんな彼が自ら声をかけたのは、別の男に背を向けられたばかりのリンへだ。
「はじめまして、少々お時間よろしいですか?」
「はじめまして。ええ、退屈させないでくれるならば喜んで」
 この応答と去り際男の辟易顔、更には船内ブランドショップのショッパーを預けずに見せびらかす……リンの性格はもう丸裸同然だ。
 名乗りあいながら、まずは相手の仕事での地位の高さを褒め称えた。小難しい話題も知識のなさで失望させぬよう応じる。
「……成程、言い寄る男性が後を絶たないわけですね」
「数だけ来ても仕方がないわ。あなたもそうでしょう?」
 先程コノハが言い寄る女性陣を袖にしていたのも確りチェック済み。それだけこちらを相手として意識していたという証明。
 でも――。
(「随分と稼いでる筈なのに、お金、お金。でも本気で未来の旦那を探ししてる風でもないわネ」)
 婚活の場に来ているというのに「男に支配されたくない」という意固地なまでの敵愾心も感じられる。教団の仕込みであればそれも然もありなん……ではあるが。
 気づかぬ素振りで、コノハは更に女の歓心を買えそうな言葉を続けた。
「全く仰る通りです。私は仕事に邁進する女性に惹かれるのですよ。正直、このパーティであればそのような女性に巡り会えると期待したのですが……」
「家庭を築く、というのが全面に出過ぎてうんざりされてるのかしら?」
「伴侶となる方には、余裕を持って仕事を楽しんでほしいのです。そのような家庭像は難しいのでしょうか」
「そうね、あなた程に裕福な方だとセレブ妻に収まれるって狙うでしょうね」
 仕事を辞めて、適切な辺りで子供を産んで……しかしせいぜいが大卒すぐの見た目であるコノハには遠い話なのだろうと滲ませて。
「セレブ妻ですか……」
 軽薄な単語に肩を竦め、
「私は相手を付属品にしたいわけではないです。仕事が生き甲斐で輝く姿をずっと見ていたいのです」
 おかしいですか? と薄氷を瞬かせれば、目の前で毒々しい紅の唇が釣り上がる。
「あたしはそういう方が好ましいわ。結婚するから変われなんて求められるのはうんざり」
 物言いに滲む本音をかぎ取って、コノハは「あぁ」と敢えて続けていた下手の好青年モードを崩す。
「求められて厭気が刺された過去がおありのよう……仕事の優秀さに対し男性を見極めるのは少々不得手のようですね」
「……な」
 ひくりと引きつる頬は興奮で赤を連れる。
「失礼だわ、莫迦にしないで……もう既に数名の方とお約束してるの。私は選ばれる立場なんだからっ」
 釣り上がった眉に怒りを灯しまくし立てる声には存外余裕の欠片もない。だが、続けて吐かれるどこの誰それという資産家男の羅列の中に猟兵仲間の名も聞くに到り、彼女が嘘をついていなさそうだ。
 激しくなる口撃の最中、コノハは教団員としての彼女の“役目”を推理する。

 ――男心をそそる派手な露出のドレス、仕事で馴らした人脈構築に長けた話術……リンは資産家の男を教団に誘う役回りと見て間違いないだろう。

「……すみません、若輩故に生意気なことを言ってしまって。お恥ずかしい……嫉妬ですね、これは……」
 口元を覆い身を竦めた後で、改めての謝罪で頭を下げる。
「いいえ。あなたの仰ることも過去にありましたから……多忙で連絡出来なくて、仕事をセーブするように言ってきた男はひとりやふたりではなかったわ」
「……誇示などしなくてもあなたの素晴らしさに気付く、私もそのひとりと見ていただけますか?」
 潮の香りが連れてくる冷たい空気に肩が震えたのを見逃さず、失礼と大胆に露出した肩口を上着で包む。
 扇情的な格好で誘惑せずとも充分に魅力的だとの暗示を悟り、リンは今度は殊勝に頬を赤らめる。
「宜しければ何か寒さを凌ぐものを、あちらで」
 そう個室店へと水を向ければリンは胸元に腕をかぶせて頷く。
 ……歓談とあたたかな食事で身も心も暖めた後、リンは件の日時を記した紙片をコノハへと差し出してきた。受け取りを断る理由なぞ何処にもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロキ・バロックヒート


初めましてリンちゃん
俺様はロキだよ
お見合いって初めてなんだ
ご趣味は?とか
え?聞き飽きた質問だって?ごめんごめん
始終人懐こい笑顔は絶やさず

ねぇそのバッグってブランドものだよね
どのブランドが好き?
お近付きのしるしになにか買ってあげようか
君ってすごい子なんでしょう
こうやっていっぱい褒めてご褒美をあげるべきだと思うんだ

君が仕事を頑張るのも応援するし
実力を妬んだりしないよ
むしろ君みたいな子を求めていたんだ
―ふふ、俺様の事を知りたい?ないしょ
石油王とでも思わせといたら良いかな?

ブランドものは帰りにでも買ってあげる
経費じゃなくて自腹でポンと
お金は有り余ってるし
かれらのターゲットにぴったりじゃない?なんてね



●一ノ瀬リン その3
 一ノ瀬リンという女の仮面は概ねはぎ取られた。
 だがそれに如何ほどの問題があるというのだ。人はみな大なり小なり芝居じみた行いを重ねるのを“人生”と称しているではないか。
 真実を生きている素振りで自分を騙し幸せになろうとする“人”を、ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)という“神”は心より愛でる。
 ただしこれは愛ではない。漢字にすれば同じだが、明らかに違う類いのものだ。
「初めまして」
 1人になった瞬間の出会い頭、人懐っこい猫めいた所作できゅうっと目を閉じ笑いかける。
「……あ、はじめまして」
 肩にかけている男物の上着を仕舞う間がなかったせいで、焦りが露わなのが面白い。慌てて取ろうとしてるのを遮った。
「いいよいいよ。寒いでしょ? 俺様が新しいの買ってあげるまで着てなよ」
 蕩ける瞳と同じ甘ったるい蜜で強引にペースに巻き込む。
「俺様はロキだよ。お嬢さん名前は? ご趣味は? ……え? 聞き飽きた質問だって? ごめんごめん」
 戯けで解ける空気に女も肩の力を抜いた。
「……ふふ、私は一ノ瀬リンです。ロキさんと仰るの」
 探るような視線が心地よい。身分を語るより先にロキはスーツの内側で持つハンドバックに視線を向ける。
「リンちゃん、そのバッグってブランドものだよね」
 興味津々の猫の目が丸くなるのと全く一緒。人の世で憶えた、ファッション性だけではない云々なるブランドの逸話をそらんじる。そうしたら彼女は鼻高々と言わんばかりに胸を反らした。本当に扱いやすい女だ。
「お近付きのしるしにそのブランドのなにか買ってあげようか。バッグだけじゃなくてお洋服もね」
「あらあら、名前だけしか知らないのに、たいしたがっつきぶりね」
 気を大きくした無礼な物言いも、ただただ愉快と笑って流す。
「だって、君ってすごい子なんでしょう? ステイタスアイテムに振り回されずに支配してるもの。君のすごいをもっともっと聞かせてよ、いっぱい褒めたいから」
 背中に手をあてブランド街へと誘う。そうして、リンの視線が止まるそばから店へと導き、歓心を向けたものを片端から買い与えた。
「……いいの?」
 ほんの10分で高級車が買える金額が費やされたのには、流石のリンも息を呑み目を白黒させた。神の財布は無尽蔵、幾ら支払おうが痛くもかゆくもない。
「すごい子にはご褒美をあげるべきだと思ってるから。うん、やっぱり赤と金が似合うね、この色」
 つん、と自分の瞳を指で示しにぃと口元を弓に変える。
「あなた一体……」
「君が仕事を頑張るのも応援するし、実力を妬んだりしないよ」
 くるり。
 リンを支点に傍らから前に回り込み、恭しく気障な所作。そちらが騙しに来るのなら、思うさま芝居がかってやろうではないか。
「むしろ君みたいな子を求めていたんだ」
 この言葉に嘘がないのがまた厭らしい。彼女は愛でるに値するし、今までが不当な扱いだったのならば目一杯甘やかしてやりたい。
「――ふふ、俺様の事を知りたい?」
 ロキが翳す手のひらの向こう、絶え間なく札束が溢れかえる幻想が見える。リンはごくりと生唾を飲み込むと人形めいた動きでコトリと頷いた。
「ないしょ」
「タダ者じゃないでしょう? まさかヤ……」
「そんな輩はここに入れないでしょ」
 反社会組織と言われるのはさすがにお腹がよじれる程におかしくて、くくっと喉を鳴らしてしまう。
「安心して? ずっと枯れない泉を持ってるだけだから」
「……石油王なの」
 とがらした唇で笛を吹いた。それを正解ととり、リンはますます目の色を変える。そうしてロキの腕をとると指でなぞりあげしなだれかかってきた。
「なに? もっと欲しいものがあるの? 何でも買ってあげる」
「今日だけにしたくないの、わかるでしょう?」
 リンが差し出す紙切れが小刻みに震えている。予想を超えた大物を引っ掛けた緊張からだ。そう“かれら”のターゲットには最適が過ぎる。
「初めてのお見合いで成功ってことかな?」
 ――蜜を口に絶え間なく注ぎ、窒息させてあげる。甘さが当たり前になったら、現実に帰れなくなるかもしれないけどね?

大成功 🔵​🔵​🔵​

グィー・フォーサイス

ケットシーでも参加出来るかい?
僕も適年齢
家庭を持つということに普通に憧れるよ
UDCアースではモテモテだからね
自慢の毛並みで魅了しよう

肩書は社長
ケットシーと動物使いの視点から
動物医療に関わる仕事を幅広く行ってる
料理は出来ないけど煙草は喫わない

あれ、君ってもしかして…
動画、見た事があるよ
服も編集も、本格的ですごいよね
僕も一緒に出てみたいなぁ

君の毛並み(髪)とても素敵だね
星海に流れる川かと思ったよ
動画よりも実際の君の方が可愛くて
ドキドキしてしまうよ

君さえ良ければ
抱っこ…してくれないかな
だめ?

普段甘えているって事は
逆に誰かから甘えられる事って少ないんじゃないかな
母性とか可愛いと思う気持ちにアタックだ



●カガリ その2
 飾りだらけの宴を囲い、匣は夜の海を割り進む――。
「あれ、君ってもしかして……動画、見た事があるよ。服も編集も、本格的ですごいよね。はじめまして、僕はこういう者です」
 大きな三角おみみ、ふっかり豊かな尻尾を前に、カガリは瞳をまんまるに見開いた。
 グィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)にとってお届けお手のもの。
 相手が受け取りやすい位置に差し出された名刺には、動物医療に関する会社の名前、肩書きは社長。
「……ッ、すごい! これどうなってんの?! 動物医療の社長さんだからそういうコス……?!」
 名刺ともふもふ姿を見比べる彼女は、男に媚びるとかそういうのをすっ飛ばしてこれまた素がダダ漏れ。
「君の毛並み(髪)とても素敵だね。星海に流れる川かと思ったよ」
 背後でたゆたうのは海だけど、窓をこつりと叩く。
「動画よりも実際の君の方が可愛くてドキドキしてしまうよ」
「あ、ありがとう……」
 今更「はぁい、カガリですよぉ」なんてファンサはできない。すっかりグィーにペースを握られてしまった。
「料理は出来ないけど煙草は喫わないよ。結婚を前提に、なんて言ったら驚かせてしまうかい?」
 なんて、本気とも冗談ともつかぬ求愛にはさすがにぷはっと吹き出してしまう。
「……っ、あははははっ、ごめんごめん。あたしと結婚とか言い出す人は今までいなくって」
「ふむ、それは見る目がないね」
「…………え、マジ?」

 ガラステーブルには、キラキラで栄養のないドルチェばっかが並んでいる。
 器用にフォークをつまみチーズケーキへとぷすり。仕草からして、じゃらしボールを猫パンチする様が重なる。
「僕も適齢期だからね、家庭を持つということに普通に憧れるよ」
 しかし語られることは到ってリアル。いや、グィーとしてはこれから「一緒に動画に出てみたいなぁ」なんて軽い話題につなぐつもりだったのだが。
「そう、なんだ。お父さんがいてーお母さんがいてー子供がいてーみたいなの?」
 マカロンをつまみあげて、青ざめた色のリップが縁取る唇の奥に投げ込んだ。栄養はないけど、ママと二人きりの時のいい加減なご飯よりはよっぽどマシだろうな、なんて。
 家族の話なんか出てきたら、そんなことを考えてしまう。
「どうしたの? 難しい顔してるよ?」
 ついっと眉毛の端っこを指で吊り上げてみせるグィーに、カガリはいーっとふざける。
「あたしは、そういうのやだ」
「そうなんだ。ずっと動画撮ったり自分だけの楽しいことをしてたいのかな?」
「…………」
 それがいい! と返ると思いきや、カガリはむぃっと頬を膨らませると2個目のマカロンを乱暴にかじる。
「そういう勝手な大人はもっとやだ」
 神妙な空気を壊すように、カガリはピースを瞳の横にぴしっと決めて、
「カガリは、ずっとずーーーっと17歳だけどネ♪」
 甘えて媚びて、でも自分よりふかっと可愛いにゃんこを前にすると、いつもの調子がでない。そのくせ、結婚とか真面目に言われると戸惑う。
 ふっと、カガリはこの喧噪の中で自分がなにをしてるんだろう、と疑問を抱いてしまった。大人達が互いに品定め、天秤にのせているのは金金金、時々外見。
「…………」
 グィーは複雑に揺らめく少女の表情を観察している。
(「あの話の流れで勝手な大人が嫌いってことは、家族間でなにかあったのかなぁ?」)
 問いかけを作りあぐねているとカガリの瞳が尖り憎悪帯びた。
 背中越しへみみをきゅいっと向けたなら、少女の声が入ってくる。仲間の猟兵っぽい? だとしたら三月四朗も一緒かもしれない。
「……ちょっと外の空気に当たってくる」
「ねえ」
 ドルチェを殆ど残して席を立つ袖を、グィーはくいっとひっぱった。
「君さえ良ければ、抱っこ……してくれないかな」
 突然のお誘いに、またまたカガリの瞳がまあるくなった。
「だめ?」
 こてん。
 首を傾けてしっぽをぴんと伸ばしてもう一度。
 これはカガリを口説き落とす為の切り札カード、そのつもりだった。でも、今はなんだか苦しそうな彼女を慰めたいという気持ちが強い。
 ふっかり。
 グィーの頬に頭を寄せて、カガリは優しく猫の体をハグする。
「……あったかい。ちっちゃいのハグすると、ほっとするんだね」
“なのにあたしは――”
 そんな寂しい呟きは途中で途切れてしまう。
 ……その後は、動画の話に終始した。カガリの隠し事は聞けずじまいだけど、最初に渡した名刺は次へとつながるチケットになって返ってきた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リインルイン・ミュール

姿形は一応人型に寄せます


適当な頃合いで挨拶から入りまショウ
外国育ちの箱入り娘と自己紹介。アナタは? 職業などお伺いしても?
正直な回答なら驚きつつも面白いと思った風に、嘘吐いたなら何となく察した風な演技を

同時に様子を伺いマス。相手の求めるものを読み取り会話したい所
目的は不明ですが、真っ当な婚活に来たのではないなら、他に注意を向けるかもですね
その時は、「既に気になる方でもいらっしゃる?」

何れにせよ。この場にそぐわぬ雰囲気こそ、アナタを見出した理由
周囲には居なかった、大金を持たないヒトとのお付き合い。一度してみたかったのデス
何か目的があるなら、利用して頂いて良いとも伝え
あとは、アナタさえ宜しければ


鈍・小太刀

どこかの社長令嬢として潜入
バレない様に堂々と
17歳の銀髪ツインテール…被ってる?まあいいか

三月四朗サンね
視線を辿り誰の関係者か目星を付ける
抱く感情の好悪も
その人を助けたそうなら
共同戦線を持ちかけつつ
話を聞くよ

オジサン、あの人がお目当て?
でも婚活って感じには見えないかな
どちらかというと邪魔したい、とか?
なら私も手伝ってあげよっか?(笑顔

知ってる?ここの主催がヤバい宗教なの
この婚活パーティーも勧誘の窓口になってる
(邪神に)私も色々恨みがあってね
こんな会ぶっ潰してやるんだから!

四朗サンも助けたい人がいるならさ
私達と共同戦線と行かない?
仲間は他にもいるよ
どうせ引き返せない道なら
一人より安心、でしょ?



●三月四朗
 場は既に随分と暖まり、男達は二人目のめぼしい女性へ手を伸ばす頃合い。だが誰に話しかけることも出来ず、ボーイにすら恐縮する人物がひとりだけいる。
「はじめまして。お時間よろしいでしょうか?」
「……わぁ! すみませんすみません」
 恐縮する三月四朗の前には、漆黒の肌に知性的な灰の瞳を宿す異国の女性。リインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)はゆったりと微笑み名乗った。
「アナタは? 職業などお伺いしても?」
「私は三月と申します。運送業です。お荷物お届けー……はは、結構安定してるんですよ」
 接触するまで観察したところ、彼は誰かを探しているようだったが見つけられていない模様。
「……珍しいデス」
「や、えー……ははは、すみません」
 困ったように眉を下げるのをいえいえと手をふりアルカイックスマイルで潰す。
「周囲には居なかった、大金を持たないヒトとのお付き合い。一度してみたかったのデス。しかもアナタは真っ当な婚活に来たのではなさそうデス」
「……! そそそそ、そんなことは……」
 可哀想なぐらい焦っている。リインルインは人差し指をたてて「しーっ」と子供に言い聞かすような所作をする。
「ワタシ、秘密は守りマス」
 袖を引き人目につかぬ隅っこへ。途中ボーイから軽食と飲み物をもらって四朗に持たせるのも忘れない。
「婚活ではない別の目的があるなら、利用して頂いて良いデス」
「利用って……」
「例えば、お探しなのが男性でしたら、ワタシがその方とお話しマス。女性なら目立つアナタより自然に観察できるでしょう」
 提案を咀嚼するように考え込む男だが、不意にワッと表情が変じた。目と口を開きリインルインの背後を凝視しだすではないか。
「?」
 くるり。
 リインルインが振り返ったならば、銀髪ツインテールの17歳乙女とバッチリ目が合った。
「こんばんは」
 堂々たる態度で胸を反らすのは鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)である。偽りの身分である社長令嬢と名を名乗ろうとしたが、それは成し遂げることは叶わなかった。
「アカリ? もしかしてアカリなのか?!」
 きわまる感情を必死に堪えた囁き声と広げられた腕。
「え……ぁ」
 なんと答えるかの惑いは一瞬、小太刀は試すように顎を持ち上げてこう返す。
「そうだ……」
“……て言ったら?”という続きは口元で丸めた。
「大きくなったな」
 四朗は進み出ると更に腕を伸ばしてくる。これは抱擁の予感。
(「つまり、銀髪ツインテール17歳を抱きしめる為にここにきた??」)
(「そういう特徴の人物はこの会場にもう一人いますネ」)
 カガリちゃんって動画配信者がそんな年格好だったね。
 かしゃこん☆
 小太刀とリインルインの中、一瞬で色々なものがつながった。
 でもって、このまま冴えないオジサンが女子高生ハグはとおってもマズイ状況に陥りそうだ。
「三月サン、ワタシが先約ですよ?」
 爽やかなアルカイックスマイルでスーツの後ろをぐいっと掴む。つんのめる三月を前に、小太刀は腰に手をあててふくれっ面。
「タッチの差でしょ? いいわ、ご馳走してあげる。パパのカードを借りてきたんだから!」
 カードはUDC職員の誰かさん提供。
「抜け駆けは感心しませんネ。ワタシの馴染みの店がありました。そちらでご馳走しマス」
 リインルインはぬるりと小太刀側に回り込むと、三月の腕を引いて歩き出す。勿論小太刀が一緒に来るのを織り込み済みだ。

 一番端っこのカフェに入り、左右からオジサンを囲む。シェフオススメのデザートプレートは苺づくしで1枚1万円のぼったくり価格である。
「三人でキッチリ話したいの。外してくれる?」
「かしこまりました」
 的確な濃さのダージリンファーストフラッシュのティポットにふっかりと豪奢な布をかぶせると店員は姿を消した。
「……銀髪ツインテールの女の子を探してるってわけね」
 改めて小太刀を見れば人違いは一目瞭然、三月はガックリ露わに肩を落した。
「いや、銀髪ではなかったよ。お嬢さんと同じぐらいの年格好になって筈だけど、人違いだった、すまない」
 だから帰してくれるかなーとの目の訴えを無視して、リインルインは「なるほど」と紅茶を啜る。
「カガリさんがお探しのお相手ですか。恋人……というには随分と若いお相手ですガ、娘さんと言うには大きいですね」
「18歳でパパなら……」
 わざとらしく二人して首をひねった後で、くるりと三月を凝視する。
「再会に利用してくださって構いません。むしろ本望デス」
「彼女の婚活を邪魔したい……までもいってない感じよね。逢いたいってとこか。協力するよ」
 茶化さず真剣に言い募ったならば、男は大きなため息をついて机につっぷした。

「…………………………はたちです、アカリの父親になったのは」

 後は、立て板に水の如くの身の上話。
 三月四朗、37歳。20歳の時にできちゃった結婚。女の子を授かった。四朗は懸命に働き慎ましやかながらも小さな家庭を作った。
 が、
 たったの4年で家庭は、壊れた。
「ある日、家に帰ってきたら妻と子供が居なくなっていたんですよ……」
 苺を口元にリインルインが「浚われたのですか?」と促した。そんなに昔から邪教がらみだったのだとしたら、カガリの関わりはかなりに根が深いことになる。
「いいえ、計画的な別居でした。弁護士をつけられて、私は妻と娘へDVを働いていたと。もちろん手をあげたことはありません! 妻も子供も愛していました。でも私も仕事仕事で余裕がなくて、色々と妻の気持ちをわかってやれなかったと思ってます……」
 非常にありがちな夫婦の破綻話だ。
 当時は弁護士に太刀打ちできず、妻子への接近禁止と娘の養育費支払いを命じられた。娘名義の通帳に毎月振り込む養育費、それだけが親子のつながり。
「風の噂で割とすぐに妻が再婚したとも聞きました。だからもう一生逢えないのだと……」
「そうしたら、この婚活パーティへの招待状が届いた、か」
 ツインテールの右側をつんっと引っ張る小太刀へ、頷き項垂れる三月。
「はい。娘に逢いたければ来いとありました。送り主は不明です」
 リインルインはスマートフォンにカガリの動画を呼び出すと、男の前に置いた。
「こちらが娘さんでお間違えないですか?」
 極力素に雑談動画へ目をこらし見つめることしばし。
「ああっ、アカリだ…………!」
 ガタリ、立ち上がった後でスマホを掲げてほんにゃりと相好を崩す。
「この角度が当時の妻によく似てます。大きくなったんだなぁ……」

 カガリ=三月四朗の娘。ただし13年逢っていない。

 小太刀はフォークを置くと神妙な面持ちで切り出す。
「そう、娘さんなんだ。オジサン、真面目に聞いて。ここの主催がヤバい宗教なの。この婚活パーティーも勧誘の窓口になってる」
「な……なん、だって?」
「私も色々恨みがあってね、こんな会ぶっ潰してやるんだから! ……って乗り込んできたの」
 いーい? と視線を流してくる小太刀へ、リインルインは肩を竦める。
「はい、お仲間デス。けれどアナタに興味を持ったのは本当ですよ。先程の話に嘘はありません」
 あまり、ありません。
 突然の申し出に首をひねる三月へ、小太刀は畳みかける。
「こんな所に呼び出された、娘さんもいる……明らかに罠よ。オジサンと娘さんが危険よ」
「同時にこれは好機でもありますヨ。これに乗じて娘さんと再会されればいいのデス」
 ごくりと唾を飲み下す三月四朗は改めて二人を見た後で、覚悟を決めた瞳で頷いた――。

 三月が店を出て立食パーティ会場に戻ったならば、二宮ハルに声をかけられた。
“誰か女性が話しかけてきたら、娘さんの話は絶対にしないで”
“いいですか? 極力自然に、結婚したいとギラギラしてくださイ”
 二人の指示を思い起こしながら無口に頷くのがやっとだった。
 何を言われたか殆ど憶えていないが、三月もまた猟兵の男性陣が手にしているチケットを渡された。
 待ち合わせの場所と日付は同じ、時間は一番はやい時間帯――これが、三月と連絡先を交換したリインルインと小太刀が船を下りた後に入手できた情報である。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜

少し心苦しいですが
これも仕事ですからね
……、それにしたって値段が刺激的過ぎますが

医者、という設定で
身なりは整え
ある程度店の下調べをしておいて
お食事に誘いましょうか

落ち着いて食事なんて久々ですね
どれを食べましょう
二宮さんはどれがいいですか?
ああ、ではこちらのワインが合いそうですね
一緒にいかがです?

なんて
彼女の意志を確認しながらの行動を心掛けます
お酒も上手く滑らせ口を軽く出来ればいいですね

二宮さんはこういう集まりは初めてなのでしょうか
あっいえ変な意味ではなくて
その 恥ずかしながら
私はこういった集まりは初めてでして
もし不手際とかあったらすみません

とまぁ
軽く過去の交際や動向を探れれば良いでしょうか



●二宮ハル その2
 暖簾に腕押し糠に釘――そこに違和感を抱いたと、仲間から共有されている。
 騙すのを心苦しく思っていた冴木・蜜(天賦の薬・f15222)だが、二宮ハルがあからさまなサクラのようだと聞いてやや気持ちが楽になる。
 しかしよくもまぁここまで刺激的な値段の店を並べたものだ。誘い込む店のチェックにはため息しか出ない。

「まぁ、お医者様ですの? すごいですね」
「まだ駆け出しの勤務医ですけども。忙しいばかりですよ」
 柔和な微笑みで何処に勤めているのかなどを結構細かく聞いてくる。なので組織が手を回した大病院の内科医であると返した。
 社長秘書と返す彼女を褒める社交辞令を交わしつつフレンチへと誘い出す。
「落ち着いて食事なんて久々です、どれを食べましょうか。二宮さんはどれがいいですか?」
「お任せします」
 ありがちな反応ではある。
「本当に女性は一歩引いて夫の影を踏まずという感じの方ですね、今時珍しい」
 それでも相手を促す態度は崩れない。話が進まないので蜜が先に料理を決めた。
「私も同じもので」
「……でしたらこちらのワインが合いそうですね。一緒にいかがです?」
 あくまで同じと合わせるならば、アルコールの誘いも断りづらい筈だ。ほろ酔いでお口が軽くなれば良いのだが。
「はい、いただきます」
 ……。
 かちん。
 あわさるグラスが蝋燭の焔を受けてテーブルクロスに紅の影を刻む。
「二宮さんはこういう集まりは初めてなのでしょうか……あっいえ、変な意味ではなくて」
 初めてだから不手際あればと謝罪を予め。彼女は首を傾けしばし。
「…………はい、何度か」
 明らかに嘘を吐くか否かの間があった。
「はしたないと思われそうで恥ずかしいです。中々良い方との出逢いがなくて……」
 ハルは身分そのものが嘘だ。そこはリンやカガリとは違う。
 確かにハルの応対でも一般人ならば「従順なお嬢様」として充分に騙せる。
(「ハルさんは自己意思を抑圧されて育った。だから本音を引き出すことを心がけて先のお二人は接した」)
 ハルを口説き落すならそうやって寄り添うのが大正解。事実蜜もその腹づもりだった。
 上品にフィレ肉のステーキを口に運ぶ彼女と目が合ったなら、照れたように口元を崩して「美味しいですね」と場をつなぐ。
 ……出来れば、彼女が教団員としてどういった立ち位置なのかを見極めたい。
 邪な宗教団体といえば、人の弱みにつけ込んで洗脳し金を吸い上げたり手駒に変えるのが常套手段だ。
「二宮さん」
 蜜はフォークとナイフの手を止めると思い詰めたように机の一点を見つめた。
「はい」
「二宮さんはお話がしやすくて、あの……」
 ふ。
 顔を持ち上げて明らかに無理した笑いを貼り付ける。
「やっぱりいいです。すみません、初対面なのに……」
「………………」
 わざとらしすぎただろうか。
 沈黙するハルを前にやはり口を閉ざして精彩を欠いた面差しで下を向く。
「冴木先生」
 テーブルクロスが翳る。
 女のつけた淡いコロンが甘く嗅覚を染める。
「何か悩みがおありなんですか? 私とあなたは初対面でこれっきりかもしれません。だからこそお話できることってあると思うんです」
 間近で蠢く紅桜の唇、音がのるギリギリに抑えられた囁き声――ワインと同じ色した瞳が蜜を絡め取りに、クる。
 ――!
 背筋が液状に還り崩れそうになった。口中に溢れかえる黒を見せぬよう、けほりと咳き込み呑むのが精一杯だ。
 これは、なんだ。
 これは、怖気だ。
「…………ッ、失礼」
 二宮ハルである受動的な演技からの豹変、今の彼女がなんと生き生きしていることか!
“悩みを聞き出して”“人の弱みにつけ込む”のが、この女のサガだ。
「大丈夫ですか、先生。お顔の色が悪いですよ?」
「すみません……ずっと、悩んでいて」
 喘ぐように胸を押さえ咄嗟に吐いた。けれど語る中身を『嘘』にしたら容易に見抜かれてしまいそうだ。
「私は人を救いたいのです。でも、私にはそのような権利がないのかもしれないと常に……」
 だから真実を嘯く。
 ぬぐえぬ罪悪感が心を炙り続ける。それでも救いたい想いは手放せやしない。
「先生は、一人で立って歩いて、幸せになることが出来そうにないと苦悩されてるんですね」
 女は身を引くとワイングラスを手に取った。しかし口をつけずに誘うように首を傾けた。
「誰かから“権利”を与えて欲しいですか? ……幸せに、なりたいですか?」
 ――その台詞は、親身なようで非常にビジネスライク。
「…………」
 なんと答えたかは憶えていない。
 ただ、食べかけにした皿は、彼女が呼びつけたウェイターにより全て持ち去られてた。やがて白だけになったテーブルの上へ1枚の紙片が置かれた。他の猟兵達も手にした例のアレだ。
「冴木先生、またお逢いいたしましょう?」
 疑問系だが返事はYESそれ以外は認めない。その圧、望む所。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『邪神召喚儀式阻止』

POW   :    正面突破による邪教徒の撃滅

SPD   :    さらわれた人間が儀式によって殺される前に救出する

WIZ   :    秘密裏に召喚用の魔方陣に手を加える。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●旧姓三月アカリの事情
 あたしには、三度の地獄があった。

 ひとつ目は、4歳の時。
 突然新しいパパの元に連れて行かれた。そしてママは何度も繰り返した。
「お父さんはママとアカリがいらなくなったの」
「お父さんは、ママとアカリが大っ嫌いなの、顔も見たくないって」
 あたしが違うって言っても、聞き入れてもらえなかったし、新しいパパはお金持ちで何でも買ってくれるから、その内、古いお父さんのことは言わない方がいいんだってなった。
 でも、すぐにふたつ目の地獄が訪れた。

 ふたつ目の地獄、パパがお仕事でいない間にママがあたしを殴るようになった。
「アカリばっかり可愛がられてずるい。ママからパパをとらないで!」
「アカリがおなかにできたから、ママは学校も止めさせられて、やりたいことを全部諦めたのに!」
「本当はアカリなんていなければいい、でもパパはアカリがいないと再婚しないって言うんだもの!」
 パパの前ではママはニコニコしている。
 パパに言おうとしたらトイレに連れ出されて首を絞められた。目がチカチカからふうっと全ての電気が消えるようになくなりそうになった……今でも思う、生きてるのが不思議なぐらいだって。

 みっつ目の地獄は、2年前。
 パパがあたしの寝てる部屋に入ってきていきなり覆い被さってきた。
「ママはもうオバサン、アカリは違って可愛いねえ」
 必死に股間を蹴り上げて鞄をひっつかんで窓から飛び出した。
 パパの様子に気付いていたしママは相変わらず、だから家出の準備はいつもしていた。卒業式が終わったらのつもりだったから少し早まっただけだ。

 地獄を忘れる他人ごっこのコスプレ。それで憶えた化粧で大人のふりをしてネカフェで寝泊まりを続けた。お金は自分名義の通帳。25日になると毎月5万円増える、それが命綱。
 補導されそうになった時、保護者と名乗り出てきた見知らぬ女性が“叶さん”だ。
 彼女はDVに晒されている女性の駆け込み寺を運営している告げ、衣食住を整えてくれた。苦しみを何度も聞いてくれた、コスプレ関連のやりたいこともバックアップしてくれた。
 初めての信頼できる大人のひと。彼女はあたしが放り込まれた地獄の話も一杯聞いてくれた。

“成程、地獄の源は、あなたを捨てたお父様ですね”
“お父様があなたを捨てなければ、お母様はあなたを責めなかった”
“欲望塗れの性欲に醜悪な男が新しいパパにもならなかった”

 繰り返し聞かされたのも、ママみたいな全否定じゃなくてむしろあたしのことを考えてくれるなら、スッと水が染みこむように受け入れることができる。
 叶さんは示す――赦しがたきあの男への復讐こそがあたしの幸せへの道だ、と。


●教団「女性の庇護と解放の会」にて
 カガリは一ノ瀬リンへ憧憬の感情を抱いている。
 前に「母親と違って自立した女性はすごい」と真っ直ぐに言われた時は、リンも悪い気はしなかった。
 詳しい事情は知らないが、叶はカガリも遠い意味でのDVの被害者だと言っていたし、それには同情する。
 叶とは友人に付き添って「駆け込み寺」に赴いた際に出逢った。彼女はビジネスマンとしての人心把握が巧みで、人脈関係と男を手玉にとるのが楽しくて、ついつい会に深入りしてしまった。
 このまま続けてくれるのなら都合がいいと考えていたが、どうも今度は話が前に進むらしい。カガリより「ようやく儀式の準備が整った」と聞いたからだ。
 ……このまま続けてくれるのなら、よかったのだけども。
(「まぁ儀式だなんて胡散臭いもの失敗するでしょうし。そしたらまた資金集めに戻るでしょ」)
 そんな考えが甘いのだと、リンは数分後には知る。
 今度の儀式の際に、生け贄として監禁済みの男達の管理を任された。これは叶から投げられた試金石――もう後戻りが出来ぬ所まで組み込まれてしまっていたようだ。


●猟兵達の調査
 先日婚活パーティを催した教団の名は「女性の庇護と解放の会」
 会員は女性のみで団員数は十数名と実はさほど大集団ではない。教祖は影に人前に出ず、幹部の叶という女が取り仕切っている。
 女性団員を増やす表の顔は、配偶者や恋人からのDVの駆け込み寺だ。疲弊した心に寄り添い、DV男から手を切れるよう書く公共機関へ橋渡しをしたり……と、ここまでは至極全うな活動だ。だが若く見目良い女は教団へと勧誘し手駒を増やしている。
 婚活パーティで釣った男性会員は謂わば金づるだ。
 つなぎ止めるために女性会員(時に叶自ら)とつきあわせたり、人脈構築などで美味しい思いをさせて絡め取る。相応の資金を男から引き出しつつ、徐々に儀式の準備を進めてきた。
 教団は地方温泉街の経営不振の旅館みっつをクズ値で買い取った。猟兵たちのチケットにも何れかの旅館が指定されている。
 邪神召喚の準備は婚活パーティ以前より着々と進められており、とうとうチケットにある日に儀式が執り行われる。
 儀式発動の為に殺されるのは、場違いなパーティに呼び出されていた“三月四朗”とみて間違いない。
 彼を血縁者に殺させることで邪神はこの世に顕現する。そして、教団員であるカガリは三月の娘だとも判明している。
 邪神は、何処かに監禁されている生け贄の男性達を喰らいその力をますます増幅するだろう。そうすれば、世にもたらされる被害は計り知れない。
 ――それだけはなんとしても食い止めねばならない!
【マスターより】
 1章で出た情報は全て猟兵間で共有されています。
 また、断章の情報は調査結果として把握済みです。

>共通ルール
・チケットを持っている猟兵はそれぞれ対応する教団員の女性に無条件で逢えます
(逢う順番はプレイングをみてこちらで調整します。順不同で猟兵側が不利になることはありません)

・三月は当日現地に来ます。1章目で面識のある猟兵が申し出れば共に行動します
 三月四朗の娘への気持ちは1章目に語った通りです。嘘偽りありません
(儀式に欠かせぬ存在なので、現地に行くことを阻害しても教団が浚って連れてきます。そうすると猟兵が接触できないのでオススメしません)

・旅館に忍び込んで、「調査する/チケットを持たない女性の元に現れる」は誰でも可能です

・猟兵が1人もついていない女性団員は自由に行動します。それにより不測の事態が発生し、猟兵側が不利に陥る危険性があります


>2章でできること
・一ノ瀬リンと接触し懐柔する
 猟兵としての身分を明かすも、あくまで1人の男としてくどき落すも、その他やり方はお任せします

・カガリと接触し儀式を行わないように説得する
 チケットがない人は忍び込んで現れることが可能です

・ハルと接触しひきつける、時間を稼ぐ
 叶本人の可能性が高いです
 彼女が好みそうな話題は1章目にヒントを出しているのでそちらをどうぞ

・旅館の調査
 必須ではありません
 儀式の場所を特定したり生け贄の避難場所を確保したり、その他、やりたいことを挙げていただければ、余程無茶でなければリプレイに反映します


>達成できなかった場合のデメリット
・一ノ瀬リン
 死亡率かなり上昇
 生け贄が増える為、3章目の敵能力上昇

・カガリ
 死亡率かなり上昇
 儀式成功によりラスボスが非常に強くなります

以上です、プレイングお待ちしております
●午前3時、旅館地下倉庫
 猟兵達が辿りつく数時間前、深夜。
 金づるにならぬと見限った男らへ同数の女はスタンガンを押しあてた。焦げ臭い中、看護師でもある団員が睡眠薬を注射し、他は手枷足枷を確実に嵌める。
「叶様の言う通りに出来たね」
「これで、天女様が来て下さるわ」
「私達の地獄が完全に終わる」
「カガリちゃんが羨ましい。儀式の担い手だなんて……今も叶様と一緒なんでしょ」
 悦びも期待も嫉妬も全てが全て陶酔色。染まりあがるは、男に搾取され苦しめられた女達。その地獄から抜け出す為に、叶の指示で男と寝て犯罪行為にまで手を染める。
 躊躇いと共に倫理観を完全に捨て去った女達へ向けて、平静を装うのが一ノ瀬リンの精一杯であった。
 彼女らが信仰するのは“叶”という女であり、それは概して狂っている。狂信者がまっとうな説得に耳を貸すはずも無い。

“邪神召喚の儀式開始は午後4時44分。
 魔方陣はこの男達の血液でもって記せねばならぬ為、カッキリ3時間前より血抜きせよ”

 殺害につながる指示であろうが叶からの言葉なら、彼女らは嬉々として受け入れる。
金白・燕
アドリブ・マスタリングは大歓迎です

一ノ瀬様、先日はありがとうございました
貴方を勝ち取りに、来させて頂きました
と冗談めかして暫し雰囲気を楽しみましょう

貴女は大きな勝負事を仕掛けた際、
代償が求められればどうしますか?
負けられない勝負の途中でもっと大きな代償を求められたら?
…この勝負、あの男だけで代償が足りなかったら?

私はここで貴女を失うのが惜しい
貴方が求めるものはなんですか?
実績?賞賛?金品?それとも…愛ですか?

ええ、私は猟兵です
ただ俺は今、貴女を救いたいと思っている
貴女が求めるもの、全てを差し出して、導きましょう
ね、俺と一緒に逃げて下さい
俺の命をかけて、貴方を導きましょう
今は貴女が、俺のアリスだ


ロキ・バロックヒート
・リンちゃんと接触

やぁリンちゃん
俺様を呼んでくれて光栄だよ
ひと時も君を忘れたことはなかったんだ
その証拠にと小粒の宝石たちを広げて
この中から好きなのを選んでよ
なにって?結婚指輪につける宝石にするの

―なーんて
本当にそうしても良いんだけど
ねぇ、そろそろ夢から醒める頃じゃないかな
このままだと君は
誰もが憧れる女王様から
稀代の悪女に様変わり
賢い君のことだから解っているんでしょう
夢は楽しくなくちゃね

だいじょうぶ
君が厭なことはしなくて良いし
なんとかしてあげる
心配要らないよ
欲しいなら宝石もあげるけど
君が気に入ったという宝石をひとつ摘まんで
指の中で弾けた破壊の光が砕いたなら
それが夢の終わり
どう?良い夢はみれたかな



●一ノ瀬リン の間
 天女と呼ばれる神は、世界を変貌させて女の苦しみを救うという、しかし中身は神話のツギハギだ。
 なにより、
 本日招いた男達はいつも通りに抱き込めとのこと。つまり儀式はゴールではない、叶にあるのは更なる搾取だ。それはそれとして、ここで罪を犯した女達は……あたしも含めて、叶はどうするつもりだろう。
 果たして、自分は重宝されていたのかそれともただの捨て駒か。

 絨毯を敷いてソファとテーブルを設置しようが、所詮は崩れかけの和風旅館、チグハグなことこの上ない。ましてや足の裏の下にある地下室では、睡眠薬を投与された男が4名転がされているのだ。
「……」
 からから、からり。からん、から、から……かんッ!
「!」
 一睡も出来なかったせいで、思考のろれつが回らないリンは、硬質なる物体が跳ねる音にて呼び覚まされた。
「やぁリンちゃん」
 真正面で肘をつき、色とりどりな綺羅の石を並べ誘う金色の眼差し。ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)は金瞳を猫めいた動作で引き絞り、姫君の目覚めへ寿いだ。
「俺様を呼んでくれて光栄だよ、ひと時も君を忘れたことはなかったんだ」
「ふふ、嬉しいわ」
 ロキはリンに似合うルビーをつまみ上げると薬指へと添える。
「やっぱり選んでもらった方がいいな」
 ついっと薬指をさすり、くつくつ笑い。
「結婚指輪につける宝石」
 かんっ、と滑りおちた紅石を前にリンは唾を飲みこんだ。これだけの宝石を粗末に出来る資産家ならば叶に消されないだろう。
 彼を虜に出来たなら死なずに済む……か。末端の団員と何が違うと言うのだ、否、狂ってないだけ浅ましい。
「これがいいわ」
 ぐちゃりとつかみ取ったのはダイヤ数個に琥珀色の石。
「欲張りな子は好きだよ」
 すたん、と、チケットが宝石とリンの視界を分断する。
「抜け駆けは感心しませんね」
 余裕を満たした瞳はルビーと同じ、金白・燕(時間ユーフォリア・f19377)の睥睨もロキは面白そうに身を反り流す。
「一ノ瀬様、先日はありがとうございました」
 胸元に手のひらを宛がい会釈する様は、さながら古風な列車の車掌か長く仕える老執事か。
「貴方を勝ち取りに、来させて頂きました」
「流石、リンちゃん。女王様のお相手が一人だけだなんてわけないね」
 どうぞと、一旦は譲るようにロキは手のひらを上にした。進み出た燕は、ふっと口元を柔らに崩す。
「ふふ、あたしは簡単じゃないのよ。でも暴力で争うのは好まないから心に留めておいて頂戴」
 なんとかペースを握ろうとしつつも、一体己はどうしたいのかと自問自答。
「一ノ瀬様、貴女は大きな勝負事を仕掛けた際、代償が求められればどうしますか?」
「……ッ、な、なんのことかしら」
 燕はリンの焦燥なんぞお見通しだ。
「負けられない勝負の途中でもっと大きな代償を求められたら?」
「争いは嫌よってさっき言ったばかりよ」
 瞳が襖へと向く。連絡役の末端に気取られると不味い。
「そうか、リンちゃんは……」
 ロキは満足げに片眉を持ち上げた。それはさながら、幼い生徒が自分で答えに辿りついたのを褒め慈しむ教師のよう。
「もう、夢から醒めてるんだね。このままだと、誰もが憧れる女王様から稀代の悪女に様変わり……哀れな末路しかないってことに」
 男の波を泳ぎ賞賛に溺れることだけ望む程、この“人”は愚かではない。然れど、芝居を止めて観客へ助けを求める勇気もない。
「……この勝負、あの男だけで代償が足りなかったら?」
 ならば緞帳は此方でおろして差し上げましょうと、燕。不毛で無残な舞台から降りても良い、そう言外に告げる。
(「この場所で行われる犯罪を全て知っているのね……警察? 2人ともそうなの?」)
 燕の意図を読み取ろうとすればする程、頬が引きつり平静を保てない。
 助けを求めていいの? でも、ここで全てを吐き出したなら、あたしは破滅する。生命活動の停止と社会的な死を天秤にのせて苦悩する姫へ、ロキと燕は軽快に吹き出した。
「だいじょうぶ」
 宝石を掬い上げたロキは片目をおろす。
「君が厭なことはしなくて良いし、なんとかしてあげる」
 いつもなら具体性を求めて問い詰めるのに、今は戯けた空気が安心させてくれる。
「心配要らないよ」
 膝から崩れるリンを燕は丁重な所作で支え手を取った。
「私は猟兵です……と、もしその意味がわからないのなら、貴女の足はまだまだ浅瀬です。ご安心ください」
 ――つまり、肝心なことはなにも教えられていない、自分は捨て駒の方なのだと理解が落ちてきた。
「助けて……」
「ええ、俺は今、貴女を救いたいと思っている。ね、俺と一緒に逃げて下さい。俺の命をかけて、貴方を導きましょう」
 恐る恐る触れてきた指を包み込むと燕は傍らに立たせた。
「――ばぁん!」
 戯けたロキの指遊び。指の銃口より弾けた架空の弾は、リンの指を巧みに避け虚ろな石らを砕いた。
「きゃっ!」
「どう? 良い夢はみれたかな……あれ?」
 破砕を免れた唯一は琥珀石。
「……これは持っていていいかしら。厭なことはしなくて良いって言ってくれたあなたの石」
「証拠ってこと? いいよいいよ。嬉しいな」
「浮気性なアリス。いいでしょう、貴女が求めるもの、全てを差し出して、導きましょう」
 ウサギは誘う、救いの元へ。
 神はもたらす、彼女の未来を。
「……もしかして、全部お見通しかもしれないけれど」
 そう前置いて、リンは斯様なことを告白する。
 ――この旅館の地下に、4名の男が捕らえられている。数時間後には血液が抜かれ彼らは殺される。
「神様を呼ぶだなんて眉唾だけど」
 地下へと続く鍵を差し出して、リンは旅館の玄関を見据えた。
「6人の末端団員がいるわ。表に2人、各宿の受付で2人ずつ。幹部の叶はハルって名乗ってる。あと、カガリは助けてあげて。あの子はまだ子供なの。このままだと父親を手にかけてしまう……」
 2人で出来るかと視線で問えば、彼らは鷹揚な所作でお辞儀をすると、こう応じた。
「それが“貴女/リンちゃん”の望みなら」
 ――如何様にも。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

司・千尋
アドリブ、他者との絡み可

女性団員は他の猟兵に任せて
旅館の調査をしておこうか


引き続き大学生の金持ちの坊っちゃん設定
他の猟兵の邪魔をしないようにする


・儀式の場所の特定
・生け贄の避難場所の確保
・生け贄監禁場所から避難場所へのルート
上記3点をメインに調査
他にも何か役に立ちそうな事があれば調べる
見取り図があればスマホで撮っておく

旅館といっても儀式に使えそうな広い場所は限られてるはず…
監禁場所は目立つ所にはないだろう
生け贄は何人いるのか避難場所もそれなりの広さが必要か等
ある程度目星をつけ行動
怪しまれないように気を付ける


女性団員に見咎められたら
方向音痴で迷子になったフリをして誤魔化す


ヒトって怖いけど面白いな



●温泉街にて
 弾けたバブル、強者どもの夢の後。
 駅から更に車で数十分の世間から忘れられた干上がり温泉街。お出迎えは、下側が錆びたシャッターのおりた土産物屋。後継者のいない旅館は朽ちるに任せ、客はおろか住民も殆どみられない。みな何処かへ引き払ってしまったのだろう。
 司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)の下調べに寄ると、同じ源泉を利用する街でもっと交通の便が良い所に完全に客を取られたらしい。
「いかがわしい儀式をするにうってつけだな」
 順番までは散策の素振りでこの街にいる人々の気配を測る。自宅に引きこもる老人ががいるかもしれぬが、戸を叩いて呼ぶのはやぶ蛇だ。
 つらつら歩けば、土産屋から宿に移り変わる中間地点にさしかかった。ここは広場になっており、朽ちたベンチと街の看板地図がある。千尋は撮影し自身の脳にもインプットする。
 広場から短い階段をのぼればゆるい坂道が奥まで伸びている。
 教団管理の3軒は突き当たりの高台に座す。大人の足で入り口から10分ぐらいだ。
 邪神降臨の前に避難させておきたい、が、教団員の説得は至難の技。気絶させて広場まで連れてくるしかなさそうだ。

 3軒旅館の手前で、2人の団員が見張っている。あからさまな監視の態度は、素人だと如実に物語る。
 そろそろ三月達ものぼってくるだろう。であればと、千尋は先んじて団員達へ話しかけた。
「あの、すみません。助けてください!」
 怪訝な顔で近づいてくる2人の袖をむんずとつかみ必死の形相で畳みかける。
「チケットを忘れてしまったんです! 俺、二宮さんにフラれてしまうんでしょうか?」
 口ごもった後、がばーっと腕を広げてヘルプミー。
「逢えないなんて嫌です!!」
 喫驚する女性団員へも千尋の焦りが伝染する。
『ちょ、待って』
 ひそひそひそ。
『追い返すと不味いよね。事前に渡されてた写真と同じ顔してるもの』
『でも、偽物だったら叶様に叱られるわよ』
『身分証明書! それ見せてもらお』
 ……とかなんとかしてる間に、三月ご一行は無事にカガリの館へ入っていった。さて、仕事はお終い。千尋は折りたたんだチケットをポケットからつまみだした。
「ああ、ありました! 恥ずかしい……頭を冷やしてきます。二宮さんには言わないで下さい」
『あっ、ちょっと?! もうあなたの時間よ』
『……いやぁ、さっきのお医者さんが本命っぽいし、彼はいらないかも』
『あぁ、地下に行きそうな感じだもんねぇ……』
 なぁんて、意味がわかれば恐ろしい話を背に千尋は、くるり、優雅に半回転。
 とすり、
 左の手刀と、
 と、
 右の肘で、
 女達のみぞおちを打ち、音もなく気を絶った。
「……っと、手荒にしてすまない」
 崩れる1人は抱え込み、1人は組紐を擲ち絡め地面に叩きつけられぬようにする。

“見張り無力化。避難場所確保”
 そう報告をまわし教団員をロープで縛る。お守り代わりと宵と暁を傍へ置けば、一ノ瀬チームから返信がくる。
“生け贄男性4人を確認。自力歩行は不可。館内の教団員2人はこちらで対処する”
「6人を運び出すのは骨だろうな……手伝いに行く、と」
 返事をしつつ坂道昇る。歩く度、彼の脇できらりきらりと瞬き輝くのは、宵と暁へつなげた絡繰糸である。

大成功 🔵​🔵​🔵​

婁・以温
男装のままカガリへ接触
復讐とか目の当たりにしてきたケド、それで報われたヤツとか見たことないんだよな
けど、まぁ…そうだね

「言ったよね、いつかお姫様が階段をのぼる時にはエスコートをさせてって。
俺はアンタみたいな“楽しませる側”の人間に手を汚してほしくない。だから、」

やるなら、アタシが殺す。

一言くれれば、即座に床のシミにしてやれるから
一言くれなくても、アンタが動く前にアタシが動く
口での説得は苦手だから、そっちはレンに任せる

「復讐すんなら、俺が徹底的に床のシミにしてやるよ。
それが嫌なら――真正面から会って、話しておいでよ。家族なんだろ」


鈍・小太刀
四朗に同行
事前に情報を共有しておく
儀式について
アカリの現状
猟兵の事
UDC怪物と組織の存在も

怖い?でもそれだけアカリも貴方も危険な状況にあるって事よ
確り覚悟を持ちなさい
そしてアカリを助けに行くの
今彼女に必要なのは
愛されて生まれ愛されて生きているという事実
貴方ならきっと彼女の事を本当の意味で救えるから

四朗と共にアカリの所へ
危険有ればUCで察知しオーラ防御も使い庇う
絶対誰も死なせない

■アカリ説得
濡れ衣のDV訴訟に接近禁止令
会いたくても会えないけど
振り込む5万円の先には確かに我が子が生きている
このオジサンね
貴女が自分を殺そうとしてる事も全部承知の上でここに来たんだよ
その意味、今の貴女なら分かるでしょ?


刃・夜黎
いーちゃん(f27079)と一緒にカガリちゃんを止めるよ
あんま怖がらせないでね?(ケラケラ)

ふぉんしゃのウィッグを外し
ふわっと髪をかきあげて
ゴメンね、これがあたいなの

『女』じゃなきゃ話せないコトがあってね
カガリちゃん…ううん、アカリちゃん
「男が悪い」とか「あの男のせいで」とか思うのは勝手
でも卑怯な搾取や殺害で復讐しようなんて
やってることネットの自称フェミニストよりタチ悪いよ

…なんでこう言うかって
アカリちゃんには幸せになって欲しいから
歌ったったの援助も本当だし
何ならメイクやエステの相談もしたげる
あたいは整形外科医
「女の子の味方」なの
人殺しなんて、可愛くないじゃん?
可愛く生きなよ、女の子でしょ?


グィー・フォーサイス

君にまた会えて嬉しいな

カガリ、どうしたの?
元気がない?
いつもの配信の時…
もしかして無理して笑ってたりする?
大丈夫?抱っこする?

良かったら僕に話してみない?
僕たちはまだお互いをあまり知らないから
知らないからこそ話せるって事もあるだろうし
僕は君のこと、もっと知りたいな

僕はさ、君よりも結構年上なんだ
こんな見た目だけどね
君を守ってくれる大人は沢山居るよ
頼ってほしい
君が助けを求めたら
僕たちは出来る限りの事をするから

君には沢山のファンが居る
君の姿に癒やされて
明日も頑張ろうって思う人たち
皆、君に会いに配信を見てる

だからカガリ
君の心を曇らせる事はしないで
彼等に胸を張れる君でいて

『勝手な大人』にならないように


リインルイン・ミュール
三月さんと共に旅館内へ
UCで装備分解、光の屈折を意のままに行う物質に変換……つまり光学迷彩を創り身に纏い闊歩

儀式の条件上、危害は加えられないと思いますが念の為、「一番早い時間帯」の待ち合わせも傍で見守り
会話から儀式場所など判れば、避難場所や経路になり得る部屋・通路の扉の鍵穴に身体を流し込み開けておきます

説得する方達次第ですが、カガリさんと直接会わせてお話しする場合も庇う準備はしておきます。彼女が衝動的に動かないとも限りまセン
ワタシから言えるのは、妻子を捨てるようなヒトは、そもそも養育費など送らないって事です
一度ゆっくり話してみた方が良いですヨ? どうするか決めるのはその後でも遅くないのですから



●最寄り駅にて
 ――時間が大幅に前後してしまうが、皆が温泉街に赴く為に最寄り駅に辿りついた時点に話を戻す。

 閑散とした最寄り駅にて車を探す三月四朗を見つけ、鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)は大きく手を振った。
 要請に応じて協力する組織UDCの端末のタクシーが傍らで停車している。
「ワタシもご一緒してよろしいですカ?」
「ええ、乗って」
 先に後部座席に乗った小太刀は、三月に続けてリインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)も車内に招く。
「どうやら教団のお出迎えはないようですネ。ここから車で数十分と随分不便なのに不親切なものデス」
「余り大きな教団じゃないし人手が足りないのかもね」
 金づるはいるのだろうけど、それで人間を雇ってとなると田舎町は大騒ぎになる。それを嫌ったようだ。
 森林を壁に一車線の国道を滑り出す車内で、小太刀はUDC邪神と邪神教団の目的、その討伐を担う猟兵が自分たちだという所までを話す。
「アナタへの危害は加えられないと思いますよ。大切な役目がありますからね」
 リインルインの言葉へ四朗は瞳をしばたかせる。
「大切な役目?」
「生け贄よ」
「それって殺されちゃうじゃないですかー!」
「怖い? でもそれ以上にアカリは危険な状況にあるって事よ」
「殺される以上って……」
「アカリさんは、アナタを殺して儀式を完成させる役目を与えられていマス。儀式の遂行者はまず無事ではいられませんネ」
「アカリが、私を殺すつもり……なんですか……」
 ぐっと膝の上で握った拳は震えるも「帰りたい」などという泣き言は一切なし。
「アカリを人殺しになんてさせたくない……それは絶対に嫌だ」
「そう、覚悟は決まってるようね」
 その意気や良しと満足げに頷く小太刀。
「ワタシは傍で護衛しますのでご安心を」
 リインルインも脇から請け負った。
「私はハルさんに招待されてます、アカリに逢いたいのですが……」
「ハルには逢わないで。あの人が恐らく黒幕よ」
 ハルを惹きつける仲間はついた頃だろう。アカリことカガリとリンの元へも既に数名が向かっている手筈だ。その上で、タクシーはわざと道を間違えて左の山道へ、時間稼ぎだ。
「アカリを助けに行くの。今彼女に必要なのは、愛されて生まれ愛されて生きているという事実」
「カガリさん……アカリさんは、アナタに捨てられたと思い違いをしているようです。アナタと離れた後は随分と辛い生活をしていたようデス」
 聞きますカ? との問いには無言の首肯が返る。
「わかったわ」
 猟兵二人は交互に語る。
 アカリは母からの凄絶な虐待を受けていたということ。
 新しい父も金銭面以外の人間性はロクでもない奴で、中学卒業を前にして家出という形で必死に逃げ延びたということ。
「身元もあやふやで住む場所も覚束ないところを、邪神を掲げる宗教団体に目をつけられましたタ」
「あいつらが喚びだそうとしている邪神は、肉親に生け贄を殺させるのがトリガーなのよ」
「……」
 四朗は顔を覆い低い唸りとも啜り泣きともつかぬ声を漏らした、娘の凄絶な半生へなにも出来なかった無念であろうか。
 重苦しい話が終わったタイミングで、タクシーは寂れた温泉の入り口へと滑り込む。

●カガリ の間
 タクシーが脇道に入った時刻――数台の車が入り口につけた。前記のロキや燕、千尋を含め、皆がうまくばらけ招待された旅館へと向かう。

 カガリの元へ指定より早く顔を出したのは、グィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)だ。
「あれ、猫さん、すっごくはやーい」
 元は和室の襖を外し広々とした空間に敷き詰められたピンクのラグマット。ガラステーブルとソファ代わりの大きなビーズクッションがみっつ。
 そんなテレビのセットめいた女子部屋にてカガリが屈託なくWelcome! 今日は戦隊ヒーローの女幹部コスチューム姿がよく似合っている。
「こんにちは。おはようかな。君にまた会えて嬉しいな」
 グィーにはすぐにわかった。崩れそうな気持ちをギュウギュウに詰め込んでの無理した笑い方だと。婚活パーティの後の配信でも日を追う毎に表情に曇りが増えていた。
「カガリも来てくれて超々嬉しいでーす」
 大げさな身振りでクッションを示しながらも頭の中は上の空。

 父親を殺す、それが幸せになる為のルート――わかってる。あの男はあたしを捨てた地獄の源。
 でも、父親を殺した後、動画配信者やコスプレイヤーとしての生活を続けられる、の?

「カガリ、どうしたの? 元気がない?」
 とすん。
 座ったのはすぐ隣。
 演出で置いたわざとらしいウサギのぬいぐるみよりずっとふかふかで暖かいグィーの毛皮がカガリの肩口に触れる。
「もしかして無理して笑ってたりする?」
「……そんなことないよぉ?」
「大丈夫? 抱っこする?」
「………………」
 もすり。
 カガリは口を噤んだままでグィーを両腕一杯でハグ。『これは男の人を陥落して協力させる為なんだから』なんてのは言い訳。実際は幼子がお気に入りの毛布にしがみついて不安を消そうとする表情だ。
 何も言わずにいるカガリをてちてち、にくきゅうで撫でる。
「良かったら僕に話してみない? 僕たちはまだお互いをあまり知らないから、知らないからこそ話せるって事もあるだろうし」
 知らないから、知りたい。
 知ったら、助けられる。
「僕はさ、君よりも結構年上なんだ、こんな見た目だけどね」
「……大人なの?」
「うん」
「そっかぁ、社長さんだもんね」
 嘘は笑って流す。その代わり、ここからは全部“本当”だ。
「君を守ってくれる大人は沢山居るよ、頼ってほしい」
「沢山? グィーさん以外に??」
「うん。君が助けを求めたら、僕たちは出来る限りの事をするから」
「誰が、どうしてそこまで……」
 ゆらゆら。
 瞳の揺らぎは迷いの現れ。
 でも、この人に“父親を殺したい”なんて打ち明けるのは躊躇われて、下唇を舐めて堪えてしまう。
 かたり。
 廊下と隔てる障子が一声鳴いた音にお互い黙りこくった。立て付けの悪い襖はガタガタと耳障りな音で新たな来訪者を迎え入れる。
「あ、抜け駆け? ねこくんも隅に置けないな」
 あの夜の儘の姿で、刃・夜黎(よあけ・f27080)は招かれる前に部屋に入りこんだ。
「お邪魔するよ」
 後ろ手に軽く障子を閉めたのは婁・以温(ぬくもり・f27079)だ。
「いらっしゃいませー。ごめーんね、チケット持ってる人は通してって言ってあるから」
 玄関では、教団員の女性がチケットの確認し、通した者を叶に報告していた。
 ぱぱっとグィーから離れると、カガリはどうぞと目の前のビーズクッションを勧める。しかし以温は構わずにカガリの至近へ詰めた。
「あ、えっと……」
 気まずげにグィーを見るも、彼は少し下がりつつもにぱっとにゃんこ笑いで見守り待機。
 跪き髪を一房梳り口づけるなんて王子様の素振りに、俯くカガリを夜黎は夜黎で面白そうに眺めている。
「復讐とか目の当たりにしてきたケド、それで報われたヤツとか見たことないんだよな……」
 王子様は、容赦なく姫君の秘密をぶちまける。
「……ッ、なんで、それを」
 狼狽露わに身を引くカガリを逃がさぬと躙り寄り、
「言ったよね、いつかお姫様が階段をのぼる時にはエスコートをさせてって」
 確かにあの夜の口説き文句と同じだ。だが、熱気は拭われたように去っている。
「俺はアンタみたいな“楽しませる側”の人間に手を汚してほしくない。だから……」
 はらり。
 毛先を解放した指で戦慄く頬をなぞりおろす。

「やるなら、アタシが殺す」

 一言くれればと、片目を覆う髪に手を触れた。そのとたん、以温という女の足元に薄暗い赤の染みが咲いた……ように、見えた。
 一言くれなくても、と見えている瞳は弓に曲がった。人の命を絶つ恐ろしい女の目つきで――怖くて、だけど。
「いーちゃん、やりすぎ」
 でも、と、いつの間にやら反対側に立っていた夜黎は、にぃっと口元を吊り上げてカガリを覗き込む。
「“怖い”だけじゃあないなんて、カガリちゃん……ううん、アカリちゃんは見る目あるね」
 以温の優しさも察知しているのだ、この子は。
「……! どうして、あたしの本名を知ってるの?!」
 答える代わりに、ふぉんしゃを名乗る男性歌い手は、自分の頭上に手をあてて指でなぞる。
 はらり、はら。
 ゆるくウェーブの掛かった髪は、ビビットピンクが透けるチーク色の肌に馴染む。
「ゴメンね、これがあたいなの。『女』じゃなきゃ話せないコトがあってね」
 夜黎は膝をつくと、ゆっくりと話の封を切る。
「『男が悪い』とか『あの男のせいで』とか思うのは勝手。でも卑怯な搾取や殺害で復讐しようなんて……」
 代わりに手を下すなんて言い出す相方へ視線を向ければ、マスクに手をあて頷く。吐いた言葉は嘘じゃない、それがまたいーちゃんらしいね、なんて。
「やってることネットで『女性は弱いんだ』ってお題目掲げて人を叩く輩よかタチ悪いよ」
 だから夜黎は彼女のやり方で言葉を尽くすのだ。
「ネットに嫌なこと書き込む人、たち……?」
 SNSに散らかる悪口を思い起こしアカリの厭気を浮かべた。頷く夜黎は震える手の甲にそっと手をかぶせる。
「……なんでこう言うかって、アカリちゃんにはそんなのに染まらず幸せになって欲しいから」
「幸せ……幸せ、は……」

 ――あなたを捨てた赦しがたき男をあなたの人生から消去してしまうことですよ。

「叶さんが言ってた。幸せになる方法は……」
 ――でもそれ本当?
 燻っていた疑惑を炙り出され狼狽するが、
「だけど赦せない……」
 久々に目に映った男の姿を思いだし、アカリは再び心を怒りで塗りつぶそうと足掻く。
「あの男はこないだのパーティでも女の子を連れ歩いてたっ! きっと昔もああやってママとあたしを捨てたんだよ!」
「あちゃー見事に勘違いしてるね」
 ぺちりと額に手をあて頭痛のポーズの夜黎だが、襖が動いたのに緊張を深める。
 以温は素早く襖の元へ。教団員なら気絶、叶なら自分が時間を稼ぐのも辞さない。
「こっちきて」
 グィーは頷くと別の出口側へアカリを誘導し自分は盾となる。
 さて、
 ぎぎっと重たく開いた襖の先、
「それは誤解よ!」
 果たして現れたのは四朗連れた小太刀であった。
「…………」
 所在なげな四朗の腕を引く小太刀の後ろ、自動的に襖が閉じたではないか! それは光学迷彩でかくれんぼのリインルインの仕業だ。
 しばし四朗は小太刀に任せ、先んじて旅館内を堂々と闊歩。全ての鍵は己を“黒”へと戻し解錠済みである。故に、音もなく見張りにも気取られずここまでこれたのだ。儀式場はこの旅館ではないまでは突き止めている。
「私は……」
 猟兵だって話はどこまで話してるんだろうかと言い淀む小太刀をグィーが継ぐ。
「カガリ、ううんアカリ。この女の子は僕が言ってた君を守りたい人の1人だよ。大人じゃないけど、僕たちの仲間」
「…………え」
「ここにいる人はみんな仲間なんだよ」
 すっと立ち上がる以温は、手刀を四朗に向けて翳す。
「アカリ。復讐すんなら、俺が徹底的に床のシミにしてやるよ」
 害意がないとわかっているので猟兵達は誰ひとり止めずに見守るのだ。
「! …………ッ、や」
 父親を殺して欲しくないのか以温に手を汚して欲しくないのか、まだまだゴチャゴチャ――でも、嫌だ。
「……それが嫌なら――真正面から話しておいでよ。家族なんだろ」
 ふっと口元を解くと、以温は四朗の背中を押した。
「アカリ、このオジサンね、貴女が自分を殺そうとしてる事も全部承知の上でここに来たんだよ」
 よろけ出る父親から娘へと視線をうつし小太刀はキッカリと言い切る。
「その意味、今の貴女なら分かるでしょ?」
 アカリが衝動的に四朗を害する可能性はゼロだと見切ったリインルインもさりげなく姿を戻して挨拶の会釈から入る。
「ワタシから言えるのは、妻子を捨てるようなヒトは、そもそも養育費など送らないって事です」
「振り込む5万円の先には確かに我が子が生きているって」
 立ち上がった四朗は小太刀とリインルインの言葉に大きく頷いた。
「じゃあどうして逢いに来てくれなかったの……?」
「それは……」
「濡れ衣のDV訴訟に接近禁止令」
 肩を竦める小太刀の脇で、四朗は深く頭を垂れる。
「…………すまない。お父さんがバカで弱かったからなんだ。アカリはお母さんと新しいお父さんの元で幸せに暮らしてるって言い聞かせて、お前とお母さんから逃げてたんだ……」
 母からの話は大嘘、そんな降ってわいた可能性は少女にとっては幸いだ。フラフラとした足取りでそばにくる娘を、四朗も歩を詰め抱きしめた。
「辛い目に遭っていたって……お父さんなのに守ってやれずごめんな」
「…………ママ、怖い。新しいパパも、嫌い……」
 喉を震わせるアカリの声は無感情に近く却って痛ましい。それでも父のぬくもりを感じて、抑え続けた哀しみと恐怖が一筋の涙となって伝い落ちた。
「でも、通帳にお金があったから逃げ出せたんだよ。お父さんだったんだね、毎月送ってくれてたの……」
 ありがとぅ、それが合図だ。後は止めどなく溢れる涙の儘に。
「アカリ、お父さんと暮らそう。逢いたくないならお母さんは絶対近づけない。あと、ネットの動画も見たよ、楽しそうだったなぁ。あれも続けられるように……うん、お父さん仕事増やす」
 お金どれぐらい掛かるかとか何もわかんない素人お父さんですからね!
 ぱんぱんぱん。
 軽く手拍子、はいはいと分け入るのは夜黎だ。
「アカリちゃんのそっち方面のバックアップならあたいに任せて。お父さん、安心してね、頼ってよ」
 ぱちりとウインク。整形外科医のおねーさんはいつだって「女の子の味方」なのです。
 子供のように泣きじゃくるアカリの頬をちょんとつつき呼びかける。
「アカリちゃん。歌ったったの援助も本当だし、何ならメイクやエステの相談もしたげる」
「……あの話はちゃんと本当なんだ」
「モチロン。だから人殺しなんて可愛くないことはなし。女の子でしょ? 可愛く生きなよ」
 そうそう、とグィーもにくきゅうおててを掲げる。
「君には沢山のファンが居る、君の姿に癒やされて明日も頑張ろうって思う人たち皆、君に会いに配信を見てるんだよ。だからこれからも配信を続けてよ」
 涙と実父の愛情が心の曇りをぬぐい去った。それがわかったグィーは、にゅいっと目をつむって吊り目の笑顔。
「うん! あたしはカガリを続けるよ。うんと可愛くしてよ、夜黎さん」
「OK、任せて」
「やっぱり楽しませる側の方が似合ってるよ。ちゃんと話せてよかったな」
「うん! 以温さんも、いっぱいいっぱいありがとうね! 一緒にコスしようよ!」
 胸を張って破顔一笑。
「お父さん、撮影とか編集とか憶えて手伝ってね! カガリ、もっともっと画面の向こうのみんなとお喋りしたいんだから!」
 顔をあげたネット配信者“カガリ”からは長年に渡った憂いが綺麗に霧散していた。

 その後、一ノ瀬リンのチームと同じ手筈で、彼らは教団員達を旅館から避難場所まで連れ出した。
 気絶した男性が4名の女性が6名。男性からは戒めが外されている。リンと四朗とカガリの父子の3人へ、ここに留まるよう伝え、猟兵達はハルこと叶の待つ旅館へと向かう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴木・蜜
医師の皮はそのまま
二宮さんに話の続きを申し出ます

有事の際一般人を巻き込まぬよう
話しづらいことだからと
人気の少ない場所でお話しましょう

彼女を惹くためには嘘ではいけない
ならば
正真正銘の私で駆け引きを
全て話すのではなく
敢えて穴抜きにし彼女の興味を惹く

私が意識するべきは
彼女に取り込まれないこと

迷惑か、とも思ったのですが
貴女に言われて少し考えたのです

繰り返しになってしまいますが
私は人を救いたい
もうそんな権利は無いのかもしれない
それでも
どうしてもその想いを手放せなくて

救えなかった友人がいた
私のせい、なんです
あの時のような想いはしたくない
だから、

……、
嘗ての罪を思い出す
本物の傷を抉れば演技なんて、



●二宮ハル の間
 叶という女にとっては邪神召喚は陰謀の足がかりでしかない。それこそが、彼女の心の隙である。
 今後の“ビジネス”につながる冴木・蜜(天賦の薬・f15222)の「人気の少ない場所で」との申し出を叶はあっさり受諾する。
 彼女からしても、蜜に儀式の痕跡を見せるのは好ましくない。だから最奥の座敷へと迎え入れ教団員2名は遠ざけた。

 注がれた茶には口をつけずに沈思黙考の蜜。この期に及んで言葉を探す様子すら、叶えとしては愉悦のタネだ。
「……失礼しました」
 淡い藤花が、毒々しい赤色に染められては、ならない。
 だが相手が超えられぬ心の壁を作るのは愚の骨頂。叶に話を切り上げられるのが一番の悪手。
 覚悟は、決まった。
 すぅ、と緑茶の匂う空間を吸い込んで、蜜は切り出す。
「迷惑か、とも思ったのですが。貴女に言われて少し考えたのです」
「光栄です。切欠になれるだなんて」
 目の前に居るのは、徹頭徹尾はじめから“叶”である。
 人の弱みをかぎ取って、治らず疼く疵を慰めるように手を翳す。
 疵自体、取り返しなんてつかないのだ――例えば、自身の短い余命であったり、無残に倒れた誰かの死であったりと。
「繰り返しになってしまいますが、私は人を救いたい」
 眼鏡を押し上げて頭は垂れた。
「……先生は、かつて救うことが出来なかったのですか」
 散らかしたパズルのピースには、彼女にとって大層刺激敵な図案が記されている。早速つまんで見せつけられて、蜜は哀悼の息を吐いた。
「お優しい冴木先生。前にも仰っていましたね“権利が無いかもしれない”と」
 わざとたっぷりとした間を置いてお茶飲み下す。しかし女の紅眼は昏い視線で品定め。
「はい。常に内よりの渇望がせせり出そうとします」
「折れてしまえば楽なのですよ。人は常に妥協して生きるモノなのですから」
 わざとだ。
 いやだ、ちがう、やりたくない……逆らったら最後、逃げ場がゴトリと削れてしまう、それが狙いだ。そこまで見え透いてなお、弄ばれるのが此度の役目。
「…………救えなかった友人がいた」
 湯飲みを口元に近づける。とたんに墨を流し込んだ漆黒に果てる液体を、蜜は喉を鳴らして自身に戻した。
 自分でなら平気で呑み戻せるのに、大切にしたい誰かにとってはもれなく死毒。
「私のせい、なんです」
「その方は、あなたに嫉妬したのでしょうか」
 叶は、蜜が演じる医者の皮にありがちな恵まれたアレコレを例示する。対する蜜は、決して首を縦には振らない。生半可な嘘は、舞台の幕を早めてしまう。
 それは、それだけは、駄目だ。
「まぁ。でしたら、あなたが力及ばずに病で亡くなられた、とか……」
 医者としてならとても良くある話。しかし生憎と蜜は“死毒”である。だからやはり首が揺れることはない。
 その頑固さがますますそそるのか、彼女は身を乗り出してあれやこれやと揺さぶりをかけてくる。しかしそのどれもが蜜の実像を捉えること叶わなかった。
「でしたら――……」
 定時連絡がこないことも忘れる程に、女は制限時間無限のパズルゲームに耽溺していた。
「……あの時のような想いはしたくない」
 騙ってはならぬ
 心が漆黒の血を滂沱の如く流そうが真実のみを、語れ。
「救いたいのです。例えどんなに重ねてもあの日の友人に届かないとわかっていても、それでも私は人を救いたい」
「………………」
 ふぅ、と。
 疲労を投げ出すため息が漏れた。
「冴木先生は、過去に囚われて苦しんでいらっしゃるけれど、誰の手にも過去を触れさせたくないみたい。お辛い路とわかってらっしゃるのでしたら、それで」
 つ け こ め な い。
 急速に興味が色あせていく。そうしたら今日のメインイベントが鮮やかに女の心で咲き始めた。時刻は、男らの血抜きも半ばにさしかかる午後3時過ぎ。
 ――潮時だ。
 蜜を帰す為、叶は端末に指を滑らせ小間使いの端末団員を呼ぶ。すっかりこんな時間だ儀式の進捗を確認せねば……。
「……ッ、連絡が何もない? どうして誰もこないの……いや、来た……」
 足音が、多い。
「…………時間稼ぎだったの。そう、残念ですね」
「嘘は、つきませんでしたよ」
 目の前の蜜から医者の皮が失われていく。変わって明確になるのは狩る者だけが此方へ及ぼせる大いなる畏怖。
 畏怖は1人からではない、増える、増える、増える。襖を開けた先に並ぶ猟兵の顔ぶれに、叶は舌打ちをした。

 悔しい――何から何まで、猟兵達の手のひらの上だったなんて。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『コンダクター『叶』』

POW   :    「あなたが幸せになれる『唯一』の道はこちらです」
【無数の『唯一の幸せライフプランの契約書』】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    「私にはあなたの心は手に取るようにわかりますよ」
【まるで相手の心をトレースしたように】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    「大丈夫、あなたの幸せな人生はまだまだ続きます」
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【『私は幸せです』と連呼する人格崩壊した屍】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠九泉・伽です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 女の躰から夥しい枚数の書類が溢れ出す。1枚1枚殺傷力を有するそれらに掛かれば廃屋に同然の旅館なぞひとたまりもない。
 硝子窓は砕け、柱のみを残し土に還る壁。ささくれだった畳部屋は庭園と地続きとなり、瓦の落ちるけたたましい音を代償に得た空は腹立たしい程の晴天である。
「全て避難済み、というわけですか。手際の良いこと」
 周囲に目をやった叶は忌々しげに唇を歪めた。
「いいでしょう。あなた達を手駒に変えてカガリら生け贄を確保しましょう。邪神の力なぞなくとも、それぐらいのプランの修正は可能です」
 ――女の口から吐かれた台詞を強がりに変えるのは、猟兵達の手に掛かっている! 健闘を祈る!

*******
>マスターより
 最終戦闘です
 2章目までの猟兵達の活躍により、一般人が戦いに巻き込まれることはありません
 邪神召喚が達成されていないので戦闘力の上昇も阻止できています

 後日談の描写も少し行う予定です
 リンとアカリ達父子に働きかけたいことがあれば添えて頂ければ可能な範囲で反映します
(戦闘のみのプレイングの方より、戦う描写は控えめとなります)

 以上です
 プレイングを心よりお待ちしております

 
 
冴木・蜜
私は他の猟兵の皆様のサポートを
皆さまの盾となり
戦線を支えます

体内毒を濃縮
身体を液状化し
目立たなさを活かして物陰に潜伏

回避が難しい、或いは致命的な攻撃を
身体を捻じ込んで庇います
範囲が広ければ身体を広げて対応
触れた契約書を融かしつつ
出来るだけ多くを引き受けます

物理攻撃であるのなら
身体を液状化すれば問題ない
……、痛みはありますが

攻撃を受けたら
飛び散った血肉を利用し
攻撃力重視の『毒血』
私に触れたもの全てを融かし落としましょう

ひとつ申し開きをしておきますと
私、本当に嘘は言っていないのです
だから許せとは言いませんが

私はただ、救いたい
たとえこの身を供しても

どうか
貴女の終わりも安らかでありますよう


鈍・小太刀
剣刃一閃

唯一の幸せライフプラン?
そんなの誰が決めたのよ
幸せの形は一つじゃない
貴女だってそう願ってたんじゃないの?
自分の歩む道は自分自身で選びたいって

ハルという虚像の中で
それだけは本当な気がする

肉親殺しの儀式
アカリに重ねたのは貴女自身?
でも殺してしまったら
本当に欲しかったものは永遠に手に入らない
父の呪縛に囚われてるのは寧ろ貴女の方かもね

アカリは幸せになるよ
彼女自身の手で
四朗と一緒にね

思うんだ
アカリも叶もいい名前
少なくとも小太刀よりマシ
女の子に小太りって

込められた誰かの願いは
愛されて生まれた印

叶わなかった貴女の願いも
叶えられたらいいのにね
いつの日か

桜花鋭刃

戦後
アカリの名の由来も聞いとこ

アドリブ歓迎


司・千尋
連携、アドリブ可

病院の時といい今回といい
ヒトの弱味につけこむのが好きなんだな

まぁ自分が幸せじゃないと
他人を幸せになんて出来ないから
楽しめてるなら良いんじゃない?


攻防は基本的に『子虚烏有』を使う
範囲内に敵が入ったら即発動
範囲外なら位置調整
近接や投擲等の武器も使い
範囲攻撃や2回攻撃など手数で補う

相手の動きを見極め
カウンターを狙ったり
確実に当てられるように工夫

二宮さん…いや叶さん?
機嫌悪そうだねぇ
本命にフラれちゃったの?等からかってみようか


敵の攻撃は細かく分割した鳥威を複数展開し防ぐ
割れてもすぐ次を展開
オーラ防御も鳥威に重ねて使用し耐久力を強化
回避や防御、迎撃する時間を稼ぐ
間に合わない時は双睛を使用


グィー・フォーサイス
わ、旅館が崩れてしまった
咄嗟に風魔法で書類を防いで後方へ跳ねる

ジェイド!
風を起こせ
書類をこちらに届けさせないで

猟兵の仲間たちがたくさん居る
ジェイドだって居る
僕は皆の後方から狙撃だ
息を止めて銃を構え『星撃ノ獣』
作戦とか、細かいことは考えない
ただ、「当てる」
考えるのはそれだけだ
この弾は必ず中るのだから

残念だけど
プランの修正はもう効かないよ
僕たちのプランニングの勝利だ

カガリ…ううん、アカリ
これ、僕の本当の名刺
もしどうしようもならないとか
愚痴が聞いてほしいとかあった時は連絡してよ
勿論誰かの体温が欲しいって時でもいいよ
ぬいぐるみ代わりになってあげる
それじゃあ、またね
お幸せに


婁・以温
レン(f27080)と一緒に

カラーギャングVIOLETA、参上っつーことで、
こっから、アンタの目論みごと塗り潰してやる

カガリのこともあるけど……回りくどい手口で人を不幸にして、
なんつーかさぁ、ムカつくんだよ
アンタの言う幸せなんて、なんの価値もない

レン、援護よろしく
アタシの幸せは暗闇だけでいい
ダルマで思いっきり叩ッ潰す

後日談では男装を解いてカガリに会うよ
びっくりするかな?まぁ、あまり変わり映えしないと思うけど

アタシらはギャングだから、表舞台で支えてやることはできないけど、
カガリはちゃんと強い子だから、大丈夫だろ
それでももし、どうしてもダメって時はーー

ビビットピンクの血を辿り、アタシらの名を呼びな


刃・夜黎
はいはーい!VIOLETA参上っ♪
あたい、女の子の味方ではあるけれど…弱み握って掌の上で転がすなんて
オバサン、悪趣味なのよ
やっちゃお、いーちゃん

戦闘では大名鼎鼎でいーちゃんの援護
ビビッドピンクはあたい達の縄張り
誰にも手出しさせないよ

後日談ではいつものナースコスプレでいーちゃんと一緒にカガリちゃんと落ち合いたいな
いーちゃんは男装でも普段でもカッコいーから無問題♪

カガリちゃんには改めて『本当の名刺』をあげちゃう
整形外科医の刃・夜黎―これ、けっこうレアだかんね?
もし何かあれば、あたい達を頼ってね
ビビッドピンクの血は色褪せないから、キミの目にもきっと視える筈


神子沢・耶白
アドリブ・連携歓迎

あーあ、楽しくお喋りした相手が事件のボスとか、興醒めだよねー
(チケットひらひら)
まあそれはそっちも同じか、つけ入る隙がない人間でごめんね?
君らみたいなの相手してると、嫌でも図太くなっちゃうんだな

UC発動、霊を操り攻撃
敵が先手ならば俺自身を囮に、極力回避で攻撃を引き付ける間に霊を仕掛ける

押し付けの幸せなんて偽物だ
叶ちゃん、そこがわからなければ君は蘇ってもまた失敗するだろうね
人はそんなに、弱くないよ
はは、もっとうまいこと心に入り込む術を覚えておいで

救助したみんなの今後が真に幸せでありますように
カガリちゃんには動画見て投げ銭がっつりしたいねえ
そこんとこも経費で落としてくんないかなあ


ロキ・バロックヒート
手駒に変える、かぁ
面白いことをしてくれるなら乗ってあげても良いけど
おまえのプランって詰まんなさそう
リンちゃんの方がずっと可愛くて面白かったよ
これからはあの子が楽しいことはしないんでしょう
幸せって、たぶん楽しいことだもの
じゃあ、もう壊していいよね
光を喚んでUCを相殺する

そうだ
リンちゃんに後でプレゼントを送ろうかな
あの琥珀をあしらったブローチ
楽しかったよって一言も
琥珀を贈れば「幸せを贈る」ってことになるんだって
ふふ

親子にはどうしようかなぁ
よくわかんないけど先立つものは要るのかなって
この依頼の報酬でも渡そうかな
神様より、なんて
冗談でない冗談も添えて

終われば婚活って面白いんだねって上機嫌
あぁ楽しかった


コノハ・ライゼ
修正、ねぇ
ソレが効くのは元よりちゃんとした計画ダケでしょうに

ナンにせよ見晴らし良くて助かるわぁ
攻撃は見切り躱しつ、避けきれない分はオーラ防御纏い威力削るねぇ
範囲攻撃で書類も敵も全て照らすよう【彩月】広げ
玻璃を刺し墜とし、或いはその生命力を吸い上げましょ
まあオレならアレ、生け贄には母親を使うよう仕向け……っと言っちゃいけないヤツだ
2回攻撃で傷口抉って口封じしときましょーか
こう見えてオレ子供は大事にするヒトでネェ
……ドウ?傷に、つけこまれる気分ってのは


一ノ瀬リンへは素の態度で一言謝罪しとくわ
酷い言い草、演技でしか謝ってないもの
素敵だと言ったのも嘘じゃなくてよ
ケド今のアナタの方が、人らしくてイイわ


リインルイン・ミュール
苦しんだヒトを一応救ってはいますし、きっとアナタの身の上話も、全くの嘘ではなかったんでしょう
全く、何故邪神なんて召喚しようと思ったんですかネ


さて、ちょっとした会話と他の方の攻撃の合間にエナジーを拡げて準備しまショウ
心を読まれるのだとしても、読んだ上で避けられない速度の攻撃(雷)を当てるか、回避出来ないよう雷の軌道を捻じ曲げれば良いのです
これなら仲間にも当たりませんしね

一応、気絶はしないように立ち回る必要があるでしょう
心を読まれるのが回避だけでなく攻撃に転用されても良いように、此方は避けるよりは武器受け・受け流しで対応
UCの準備が出来てないうちは、そういった攻撃直後の隙も狙って剣や拳で反撃




 リインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)は蒼天を仰ぐ。
 建造物を破壊した紙切れたち、その全てに異なった文字列が並ぶ。計画書の枚数だけ人を導き幸せにしてきた――だとしたら、彼女は苦しんだヒトを一応救ってはいる。
「きっとアナタの身の上話も、全くの嘘ではなかったんでしょう」
 DVに晒されていた女性の弱みにつけ込んだ卑怯なやり口。だが、加害者から引き離し過ごせる場所を提供し心の支えとなっていたのもまた事実。
「全く、何故邪神なんて召喚しようと思ったんですかネ」
 だからこそ、邪神召喚という愚への惜しさと哀れみを感じずにはいられない。
「力が伴わぬ理想は無力ですから」
 心まで覗きこまんとす紅へはフラットな眼差しを絡みつけ、リインルインは地面へて腕を下げた。指先よりしたたる黒が地面を焦がす。
「二宮さん……いや叶さん?」
 仕込みに気付き司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)は、叶の気を逸らすのを狙って飄々と話しかけた。
「司さんは逢いに来て下さらなかったですね」
「ご冗談を。本命は他にいるんでしょ? でも、機嫌悪そうだねぇ」
 木材の臭いを濃密に漂わせる瓦礫に腰掛けて、わざとだらしなく足を揺らし不興を買う。
「もしかして本命にフラれちゃったの?」
「……ッ」
 あからさまな嫌悪で鼻の上に皺が寄る。大人しくて清楚な令嬢を示すのは、今や化粧とベビーピンクのワンピースのみだ。
「そうですね、いつの間にか逃げられてしまいました」
 戦場に医者の姿を探すも見当たらない。それがますます彼女を苛つかせて、完全にリインルインへ払う意識は完全にかき消えた。
「口が悪い男は恨みを買いますよ? 司さん」
 かぎ爪のように曲げた指が千尋の口を塞ぎ潰さんと伸びた! 意識を奪えば意のままに操れる――そんな狙いなんぞ、お見通し。
「いらっしゃい」
 端正なる幾何学の軌跡は光の羅列。それらは束となり、叶を丹念にくりぬきにかかる。
「ぎゃあっ」
 濁った悲鳴で引っ込められた指は三本に減っていた。千尋が虚空に手のひらを翳すと、光はまた背景に融けこみ視認不可となる。
「唯一の幸せライフプラン? そんなの誰が決めたのよ」
 視界を遮るように踏み込み鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)は刃を翻す。
 ざくりと軽い斬りごたえ、集積した書類で受け止めて後ずさるのに、小太刀はまずは言葉での追撃を喰らわした。
「幸せの形は一つじゃない、貴女だってそう願ってたんじゃないの?」
 親の言う通りの人生ルートを歩め、それがハルという虚像が語る苦しみ。
「自分の歩む道は自分自身で選びたいって」
 追いすがり突いた刀は空を食み女の黒髪を斬るに留まった。
「……自分で選びとれる程、人は孤独に強くはないのです」
 だが、小太刀の言の葉は確実に女の本心を捉えた。それ故、死闘の最中だというのに、語るは身の上。
「誰かに認めて欲しい欲求から逃れることはできない」
 幸せを教えて欲しいとの願いに応えて書いた“計画書”が女を中心に渦を巻いた。
「――だから、人は依存せずにはいられないの」
 これは、自分を見て欲しかった願いの群れ。
 親、恋人、配偶者、
 友達、先生、
 ネットのつながり、
 世間。
 誰か、誰か、誰か、私を認めて――渇望より、指揮者(コンダクター)が切実なる“音”を引き出した。
「貫きなさい、ここにいる猟兵達の躰を。そうしたらあなた達は痕を刻める」
 叶の腕がタクトの如く、空から地面へと振りおろされた。
(「……死体、ではないにしても、意識不明に追い込んで操り人形にする気ですネ」)
 力場の形成をしていたリインルインは、迫り来る契約書の群れを受け流すべく、力の方向を変える準備をする。
「さぁ、おいきなさい」
 浮遊する無数の真白は、刹那指向性と嗜虐性を有した凶器に変じた。
 だが真白はより多くの黒に包まれて害意を奪われる。
(「なんて、沢山の願い……」)
 冴木・蜜(天賦の薬・f15222)を苛む痛みは肉体的なものだけではない。叶えられない願いが己の毒で消えていく様はしこたまに精神をいたぶる。
 ばらけた躰の分だけ触れた渇望。だがもう彼らは終焉っているから決して報いてやれないのだ。
 ばらけた痛みごと黒の欠片をかき集めて人の姿を再構築した、嘔吐きながらも立ち上がった蜜に疵はない。
 虚空には毒だけが未だ残り、小雨のように叶へと降り注いだ。
「……つくづく騙し討ちがお好きなんですね、冴木先生」
 火傷めいた疵を撫であげて叶は嘆息と共に瞼をおろす。


 誰かの願いを糧に綴られた計画書が、殺傷力を帯びて飛来する。
「ジェイド! 風を起こせ」
 グィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)が万年筆をかたどった杖を掲げれば、頭上で翡翠の羽ばたきが弧を描いた。翼は次々に紙を切り裂き無へ帰していく。
「書類をこちらに届けさせないで」
 そう命じると自身は後方へと跳躍する。入れ替わりに前に出たのは、神子沢・耶白(多重人格者の死霊術士・f14893)だ。
「あーあ、楽しくお喋りした相手が事件のボスとか、興醒めだよねー」
 余裕綽々。わざとらしく目の前でひらめくチケットへ、叶は愛想良く口元を傾がせた。
「今からでも神子沢さんの計画書をお作り致しますよ?」
「つけ入る隙があるとでも? 俺のこと、わかっちゃったのー?」
 くつくつと喉を鳴らしたならば、差し向けられた書類が一瞬で焼け落ちた。無動作で招聘した亡霊の仕業だ。
「そんなの飛び越して殺して手駒にしたかった? ごめんね。そうはいかないよ、君らみたいなの相手してると、嫌でも図太くなっちゃうんだな」
 舞い上がる書類達を縫い到達した矢は打って変わっての氷。凍傷で変じる肩を押さえ思わず漏れる呻き声。
「修正、ねぇ、ソレが効くのは元よりちゃんとした計画ダケでしょうに。手当たり次第で場当たり的、ビジネスウーマンとしてもセンスなさ過ぎ」
 すっかり崩れた縁側の向こう側、枯渇した池の畔にてコノハ・ライゼ(空々・f03130)は呆れと蔑みを隠しもしない。
「お手厳しいことですね」
 苦く笑う女が翳す腕は片羽根めいたシルエット。瞬く間に積み上がる計画書を今度はコノハに向けて射出する。
 唯一無二の願いも叶の手に掛かれば雑な道具でしかない。ならば感傷に囚われる必要もないと、コノハは気を籠めた柘榴で切り払う。月を招く必要もありやしないなんて失望もいいところ。
 頭上では軽妙な軌跡にてジェイドが紙を散らしていく。
「ほら、見晴らし良くして不利になってるじゃないの」
「余計なお世話です」
 縁側に下がった叶は、振り向き様に視界に入る琥珀の双眸に息を呑む。背後を撮られた、全く気付かぬ内に。
「手駒に変える、かぁ」
 ロキ・バロックヒート(深淵を覗く・f25190)とは、好奇心に溢れた神である。だが叶に注がれる視線には歓心が欠片もない。
「面白いことをしてくれるなら乗ってあげても良いけど、おまえのプランって詰まんなさそう」
 結局は殺して利用する。
 その先には欲望すらあるのか定かではない。この女は一体何がしたいのだ?
「リンちゃんの方がずっと可愛くて面白かったよ」
「一ノ瀬さんはああ見えて随分と愚かですよ。本来なら私の会なんて必要がない充実した生活をしてらっしゃる筈なのに」
 挑発も、己の慈愛揺るがぬ神に対しては何の意味も為さない。
「やっぱりダメね。結局は『一ノ瀬リンのことは何一つわからなかった』って、言ったの自覚してる?」
 うんざりと言った風情で肩を竦めるコノハ。
「無理でしょ」
 亡霊に歩をつめさせて、耶白はぶんぶんとオーバーアクションで手を振った。
「叶ちゃんは、幸せを押しつけることしかできないんだから。カガリちゃんは幸せが偽物だって気付いちゃったんだけど」
 その間も、焔と氷の二重奏にて追い詰める。
 一方、あれほど憎まれ口を利いていたコノハだが、派手な明滅が生み出す影に身を沈め姿をくらます。
(「……ふぅ」)
 緊迫感のない仲間の会話だが彼らが一部の油断もしていないと、ぼうぼう草の中で息を殺すグィーはちゃんとわかっている。
 だから安心してじっくりと狙いを定めていられる。
 ピンクのにくきゅうで支えた銃身を向け、音もなく息を吸う。これより先、機が熟するまで呼吸はしばしお預け。
「うん、やっぱりおまえはいらないね」
 人は短い命を煌めかせながらもロキを楽しませてくれる。
 此度のリンは足掻きすら眩しくて、慈愛を更に傾けてやりたいとロキに思わせた。そのリンを目の前の女は死なせるとほざいた。
 死は停止、以後は決して幸せは生じない。つまり――。
「おまえは、これからあの子が楽しいことはしないんでしょう」
 もう議論は不要。
 与える価値なぞない女に対して、それでもロキは最期の救いだけはもたらして、やる。
 即ち、ひかり、アレ。
 叶を中心に彩度が佚した。それほどに強烈なる輝きは、女の魂を直接的に減じにかかる。咄嗟に盾に出来る駒はこの場に一体もいない。猟兵達が全て遠ざけたからだ!
「やめて、いやぁ……ッ」
 為す術もなく子供のように頭を抱えて蹲る叶の耳元、突如姿を現わしたコノハが唇を寄せた。
「まあオレならアレ、生け贄には母親を使うよう仕向け……っと言っちゃいけないヤツだ」
「……ッ!」
 口封じの文字通り、コノハの指が叶の口元を掴む。逃れる為に叶は書類を招聘――勿論、そこまで織り込み済み。
「こう見えてオレ子供は大事にするヒトでネェ」
 計画書1枚残らず玻璃が縫い刺した、その先につながる叶の命を喰らう為。
「かッ……はぁ……」
 方々の出血から一番深い疵を見定め一往復、命を奪うより痛みを強く感じさせるよう汚らしく疵を広げていく。
「……ドウ? 傷に、つけこまれる気分ってのは」
 唇と眉根を振るわせる様は、ひどく惨めだ。
「叶ちゃん、人はそんなに、弱くないよ」
 不意に、耶白は焔と氷での追撃を続けていた亡霊を下がらせる。正体不明の二宮ハルではなくて苦悶する叶をこの目に納めておきたいなんて、酷い余裕だ。
「そこがわからなければ君は蘇ってもまた失敗するだろうね」
「……たしは、失敗なんて、してない…………」
「そう? ま、じゃあお手をどうぞ」
 耶白はしれっと腕を取ると腰を支え労った。突如なる丁重な扱いに叶は混迷し判断能力が著しく低下した。
「……はは」
 なんて軽い嘲笑いだ。
「お手本を見せてあげるから、次はもっとうまいこと心に入り込む術を覚えておいで」
 耶白の手で的は固定されている、今だ! グィーは爪を引っ掛けていた引き金を弾くように引いた。
 がしゅっ!
 先程ロキが魂を減じた入り口でありコノハが抉った胸の傷を、グィーの弾丸が精密に容赦なく貫いた。
 叶の躰を抜けて肉を引き連れた弾丸が硝子戸の残骸を完膚なきまでに砕くのと同時に、グィーは止めていた呼吸を解放する。
「残念だけど、プランの修正はもう効かないよ」
 熱を帯びた銃口に翡翠の鳥が舞い降りた。
「僕たちのプランニングの勝利だ」


 戦場には、白が降り積もる。
 それを黒が包み消し、翡翠が切り裂いた。
 だが、白は尽きることがない――叶という女が諦めない限りは。
 そんな、白と彩度の低い古びた木造の瓦礫しかない地面に、ぴしゃりとあでやかなビビットピンクの飛沫が奔る。
「はいはーい! VIOLETA参上っ♪」
 天に翳した手首に爪を立てて引く。自傷という昏い行為にも関わらず、刃・夜黎(よあけ・f27080)の表情は底抜けに明るくてアンバランス。
 いや、明るいが大正解。
 大名鼎鼎、さぁ聞け、そして知れ。
 華々しき活劇の幕開け、絶対的な味方である女の子を救う為、VIOLETAは征く。
「カラーギャングVIOLETA、参上っつーことで」
 自分たちだけの彩を前にしたならば、婁・以温(ぬくもり・f27079)の心も高揚するというもの。
 いつの間にやら右手には、一抱えはある真っ赤なダルマが軽々と掴まれている。ちょっと遠近感覚が狂う絵面だが無問題。
 でもって、夜黎のビビットピンクで達磨さんの黒い頬にもチークが入り、準備完了。
「弱み握って掌の上で転がすなんて、オバサン、悪趣味なのよ」
「カガリのこともあるけど……回りくどい手口で人を不幸にして、なんつーかさぁ、ムカつくんだよ」
「…………」
「「なんとか言ったら?」」
 カラーギャングの領域に塗り替えられて気圧されたか、叶は口元を覆って懸命に言葉を探す。
「やっちゃお、いーちゃん」
「レン、援護よろしく」
 アタシの幸せは暗闇だけでいい。
 蛍光色が映える、そこが二人の領域だから。
「はーい、お化粧しましょ♪」
 走り出た夜黎は、叶の真ん前であっかんべー。傷跡より掬い上げた鮮烈なる薄紅にて、女の頬から胸にかけてVの字を描き出す。
「…………? 痛くない」
 殺傷力0に浮かんだ安堵の表情が、影の中に落ちる。
 ……風圧。
「え」
 達磨さんがー、転ばない。
 両手で抱えた赤の達磨を高々と抱えた以温は、全身全霊渾身の力でもって叶へ向けて叩きおろす。
 ぐしゃ、ごき、ぐちゃ、ぷち。
 粘液質な破砕音が以温が達磨を押しつける度にする。下敷きにされた女が這い出そうとしたら、すかさずそちらにずらしてまた力押し。
 黙るまで、続く。
 相変わらずえげつなくて素敵なんて思いつつ、夜黎は口に咥えた包帯で器用に手首を止血するのであった。


「……ッ、くは」
 空に向けそそり立つ柱に、ててんと血の跡が刻まれる。ふらつく上体を支える為、叶がついた指の痕だ。
「? 右、から、ですね」
 霞がかった視界を手の甲で拭い、女はリインルインが僅かに瞳を動かしたことから導きだし左へとステップを踏む。
「さすがですね」
 しかし、さ、の瞬間に、雷は既に左へと捻られている。
「けれど、逃げ場はないのですよ、残念ですが」
 女が逃れた先の地面にて、鮮明な雷がジグザグに女の躰を駆け上っていった。痙攣した女は一度だけバウンドし地面へと投げ出される。
 息をつく間もなく、千尋の投擲した無数の刃物が、目視できる範囲に刺さり逃走を封じた。
「病院の時といい今回といい、ヒトの弱味につけこむのが好きなようだけど、つけこまれた時のことは考えてないようだな」
 千尋の記憶の中にいるのは、不治の病の少女達を道具に仕立て上げた冷酷無比な女。
 同じであり別の存在。
 あの日の女は最期まで薄く笑っていた。
 だが、今の女は違う。心の防壁も剥がされてある意味人間らしい。
「……あんた、幸せじゃなさそうだな」
「…………そう、ですね。私自身の幸せ、ですか……」
 考えた事もありませんでした、と、漸く笑った。
「……」
 他人の弱みをエサに魔法のランプのような破滅と紙一重の幸せを与える女はそろそろ末路へと到る。
 それでも、猟兵側がひとりでも倒れてしまったら女の逆転もあり得ると、蜜は虚空に躰を黒く融かし夥しい紙への対処を怠らない。
 ざすりと、天に掲げた腕を叩き伏せたのは小太刀の桜刃。力なく落ちたが肉体的な疵はなく、ただ心から邪が減ぜられた。
「……肉親殺しの儀式、アカリに重ねたのは貴女自身?」
「どうして、そう思いましたか? あなた、私を知っているの?」
 答えているも同然だ。ピースをツギハギすれば見えてくる“彼女は父に見て欲しかった”のだと。
「でも殺してしまったら、本当に欲しかったものは永遠に手に入らない」
「父を殺したのは私じゃないです」
 聞いて欲しそうに見えたのは、小太刀が彼女を知りたいからかもしれない。
「……誰が殺したの?」
「ふふ」
 答える代わりに伸ばされた腕に籠もる邪心を桜花の刃で掬い払う。後ろによろけた女へ、小太刀はアカリの名が視された計画書を握り潰し、告げた。
「アカリは幸せになるよ。彼女自身の手で、四朗と一緒にね――アカリっていい名前。叶もいい名前。少なくとも小太刀よりマシ、女の子に小太りって」
「“望”みを“叶”える」
 聞き取ろうと近づいてきた小太刀へ、叶は唇を動かし続ける。
「兄はその名の通りに“望”んだのです。浅はかで弱くてだから軽はずみに、父から遠ざかりたいと」
「お兄さんがいたのね」
「男というだけで父に望まれていたのに、期待に応える能力に欠けていた。私を選べば全てうまくいったのに――」
 己を語り、善良を騙る。
 叶の腕に懐くように螺旋を描く計画書を前に小太刀は小さく息を吐いた。斬り伏せるまでもない。だって、叶の背後には、漆黒の彼が集積し現れている。
「……うぅ、離し……ッ」
 叶の口元を黒い手のひらで覆う蜜は表情は冴えない。
 せめて、苦しまずに、眠る様に逝けたなら――唯一願える想いを込めて、自らを液体へと変えた。
「ひとつ申し開きをしておきますと。私、本当に嘘は言っていないのです」
 彼女が果てる前にどうしても口にせずにはいられなかった、苦悩は全て真実だと。
「……けほっ」
 吐血し痙攣する彼女はぎこちなく振り返った。
「だから許せとは言いま……」
「せん、せ」
 ここで、女は最大限の生存の賭けに出る――。
「冴木せんせ……私を、助けて」
 蜜の切実にしてレーゾンデートルに到る願いを利用せんと、幼気ない微笑みで訴えかけた。
「……――」
 戸惑いで瞼がおりて、蜜の双眸に映る景色が翳った。
 私はただ、救いたい。
 たとえこの身を供しても。
 けれど、アカリ、四朗、リン、教団員の女性と生け贄の男性……と、叶を救った先には確実に数多の死が待ち受ける。
 数じゃあない、数じゃあない、けれども……。
「……ごめんなさい」
 蜜は欺瞞色の毒を彼女に流し込む……女は、賭けに負けたのだ。
「ふふ、後悔……なさってるのね」
 悪あがきでばらまかれた紙束を、蜜は仲間を庇うを口実にその身に受け入れた。
「本当に、捻くれた楽しみ方をするんだな」
 仰向けに倒れる蜜をすかさず千尋が抱き留める。
「……大丈夫、です」
 自力で立ち上がる蜜から腕を解くと憤懣やるかたない面持ちで、千尋は叶へと歩を進めた。
「幸せじゃないあんたは他人を幸せになんて出来ない……」
 手術前の医者の如く掲げた両手には、尽きることを知らぬ投擲武器が手品のように現れる。
「自分でわかってたってわけだ」
 ヒトの闇をまたひとつ垣間見てヤドリガミはため息をつく。その間もせわしなく投げられた武器が彼女の逃げ道を防いだ。
「幸せへの計画書、精度は充分です」
 追い返すように放たれた書類は双睛の名の通り鏡映しで力なく落される。一方、千尋の描いた子虚烏有の射程に入った上半身は、容赦なく女の血肉を消していく。
 その脇をリインルインが物音ひとつさせずに駆け抜けた。
「邪神を召喚してまで、アナタはなにを為したかったのですか?」
 柱に凭れ立ち上がるのを待ってからそう問うた。だが、返ってきたのは暴力。
「答えてくださらないのですか」
 殴りかかる女の腕は撓る黒で引っ掛けて捻り飛ばした。
 残念です、と言葉を重ねる代わりに、リインルインは雷撃を見舞った。
 言葉よりも消滅の暴力を。これでお相子、だけど此の世界から消え失せるのはアナタだけ。


 避難場所に詰めていた面々は、猟兵達が戻ったのに顔色を明るくする。
「なんとかなったのね……良かった」
 緊張の糸が切れて崩れ落ちるリンの腕をロキがとり支えた。
「ありがとう、みんなをここに抑えておいてくれて」
 すっかりおとなしくなった教団員を前に、コノハはリンが洗脳を緩めてくれたのだと悟った。
「そして、ごめんなさいね」
 船上とはがらりと変わったコノハの雰囲気に、リンは喫驚でぱちりと瞼の音をたてる。
「あの時の酷い言い草、ちゃんとアタシとして謝りたくてね」
「……ああ、あれね。あたしこそ大人げなかった。あなたもこっち側の人なのね」
「騙してごめんなさい。でも、素敵だと言ったのも嘘じゃなくてよ」
 扇情的なドレスに身を包み男を手玉に取る態度露わだったリン。けれどそれは彼女の一面でしかない。
「ケド今のアナタの方が、人らしくてイイわ」
 この場で皆を守ろうとしてくれたのは、公私ともの責任感の表れだ。更に、あの立場から猟兵に助けを求めるのは勇気がいっただろう。
 真っ直ぐの賞賛に鼻白んだ後、リンはからりとした笑顔になる。
「ありがとう。命拾いしたんだもの、これからもやれるだけやるわ。あー仕事止めなくてよかった! ……いいのよね?」
「ふふ、そうね、そこはちゃぁんとお願いしておくわ」
 抜け目なさに吹き出してしまったけれど、変に消沈されるより余程いい。
「もう大丈夫」
 身をこわばらせる教団員達へ耶白は穏やかに笑みかけて戒めを解いていく。
「いやーな夢は終わり。でも戻りたくない日常なんだったら、ちゃんとした所に頼らないとだね」
 彼女らはそもそもDVでひどい目に遭い叶の手に堕ちたのだ。不幸の根元を絶ち真に幸せになって欲しい。
 気絶する生け贄男性を保護に来たUDC職員へ、コノハと耶白は彼女たちの立場の保障を改めて依頼する。事件をもみ消したい彼らは二つ返事で請け負った。
「ねえねえ、いつ逢える?」
 頭をぺこぺこと下げる四朗の隣では、アカリが以温と夜黎といつ逢うかの約束取り付け中。
「へ? あかりの名前の由来ですか? あかるく沢山の誰かの光になって欲しいって……」
 小太刀の問いに答える四朗にグィーは大きくうんうんと頷いた。
「ぴったりな良い名前だと思うよ。アカリって」
 苦しさに挫けず自分を含めた周囲を照らし幸せをぎゅうとつかみ取る、本当にぴったりだ。
「カガリ……ううん、アカリ」
「あ、グィーさん。これは?」
「僕の本当の名刺」
 気取った嘘の社長サンじゃなくて、グィーとしての本当の名刺を差し出した。受け取ったアカリはあたたかみのある手触りと文字に、自然と口元が綻ぶ。
「もしどうしようもならないとか、愚痴が聞いてほしいとかあった時は連絡してよ」
「ありがとう。えっと、あたしの名刺……ないや」
 しょんぼりしてるアカリへ、グィーは髭をぴこり。もっふり口角が持ち上がる。
「お手紙してよ、待ってる。連絡ね、誰かの体温が欲しいって時でもいいよ。ぬいぐるみ代わりになってあげる」
「……!」
 それじゃあ、またね――と、離れる前に、伸ばされた華奢な腕がグィーの毛皮に沈みこんだ。
「今、抱っこ。ふかふかぁ……グィーさん、みんなも、ありがとう」
「お幸せに。今の笑顔が続きますように」
 心から、祈ってる。


 更に数日後――。
『はい! カガリですっ! 今日はガチで怖いと話題のホラーゲーム『ヘグリ首』をプレイしていきまーす』
 画面の中、片目を髪で隠し幽霊めいた姿のアカリは、ひたすらに明るくコントロ―ラーを掲げている。
『……ん? そそ。今日のコスはモブの幽霊子ちゃんです。これこれ、このパッケージの隅っこの子!』
「カガリちゃん、元気そうでよかったや」
 まったりと視聴者に反応しつつの生放送に耶白は相好を崩した。
 教団員らは事情聴取後にそれぞれの状況にあわせた保護を受けている、そんな嬉しい報告メールから画面を動画に切り替えて、投げ銭ぽちり。
『! わぁ、投げ銭ありがとうございます! なんかめっちゃきてる~――ぎゃあああ死ぬ死ぬーー!』
 耶白のハンドルネームの後半は楽しげに悲鳴に消えた。
 ちなみに。
 投げ銭は計画的に、ともメールにはあった。意訳:経費は無理です。

 その数時間後、コーヒーチェーンの貸し会議室にて――。
「以温さん……イケ、女?」
 滑らかな腰のラインは女性特有のものだ、超びっくり!
「そう。あまり変わり映えしないと思うけど」
「いーちゃんは男装でも普段でもカッコいーから無問題♪」
 ガタッと立ち上がりマジマジと見るカガリ。
「すごい。以温さん、男女どっちもコス決まるよ! あー2人とも最初は男の人だと思ったのにーー!」
 だーまーさーれーたー、と机をバンバン叩くカガリへにんまり、すっかり友達の空気だ。
 表舞台では支えてやれない、だって2人は“カラーギャングVIOLETA”
 だけどこうしてアレコレとアドバイスしたりなんてのは華やかの裏側、これからだってきっと逢える。
「はぁい。カガリちゃんには改めて『本当の名刺』をあげちゃう」
 神妙に受け取りカガリは読み上げる。
「整形外科医の刃夜黎、さん――すーごい、お医者さんなんだぁ!」
「これ、けっこうレアだかんね?」
「うん! 大事にする」
 きゅぅと胸に押し当てた後、丁寧な手つきで名刺入れに仕舞い込む。
「お父さんの家はワンルームの狭いアパートで壁もうっすいの、撮影は無理ゲーだから元のあたしの部屋に通って撮ってるよー」
 改めて作った名刺を手渡してカガリは楽しげに現在を語る。
「いずれはお父さんの職場の近くに部屋を借りるんだー、3部屋は欲しいなあ」
 その夢は現実的で充分手が届きそうだ。
「そうか。父親と暮らせてるんだな」
「うん。親権? は弁護士さんにもぎ取ってもらう! リンさんが紹介してくれたの」
 一ノ瀬リンは、三月父子以外へも尽力しているとのことだ。
「カガリはちゃんと強い子だから、大丈夫だろ。けど……」
「もし何かあれば、あたい達を頼ってね」
 黄昏の橙を背にした2人の顔は塗りつぶされる。
 でも、
「ビビットピンクの血を辿り、アタシらの名を呼びな」
「ビビッドピンクの血は色褪せないから、キミの目にもきっと視える筈」
 彼女たちの言葉のままに、カガリのハートにビビットピンクのリボンが縦と横に、しゅるりとかけられた。
「ありがとう。ピンク色の中で一番好きな色になったよ。忘れないんだから」

 ちなみに、四朗アカリ父子の弁護士費用や引っ越し費用は、帰宅後すぐに解決するのである。
“神様より”
 なんて1枚のカードと共に贈られた多額のプレゼントによって。
 同じ日、一ノ瀬リンの元にも彼女が握って離さなかった琥珀をあしらった、流麗な細工のブローチが届いていた。
“楽しかったよ”
 琥珀には“幸せを贈る”との謂われが籠められている。神様ロキは何処までも上機嫌に、慈愛を注ぎ込む。
 ……。
「もう。最後まで格好いいんだから」
 天井のライトに透かし淡く光る黄金色にほぅっとため息。
 もう逢えないのだろうなとセンチメンタルに浸りつつ、リンは便せんに万年筆を滑らせる――。

『人の心を弄んじゃダメって身に染みたわ
 でも婚活パーティであなたに逢えたから悪くはなかった、なんて懲りてないように見えるかしら
 現実を見ない振りするほどの恐怖から救い出してくれてありがとう
 琥珀に恥ずかしくないように生きていく。出来るなら、また逢いましょう』

 ――UDC職員に託されたこの手紙がロキの元に届くかは、それこそ神のみぞ知る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2021年03月15日


挿絵イラスト