《062》枯れ山 ⇒ 雪原
ユーヴァ・イラスキ 2019年8月12日
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斜度20%近い九十九折りを背に刻んだ光差さぬ枯れ山を、
人工的で強烈なヘッドライトが横に切り裂いた。
砂埃を荒立てるスリップによって、車体が弧を描く軌道で半回転したからだ。
閑静とした生命を感じさせない山林に、絹を裂くようなブレーキ音が響き渡る。
時刻は――特に意味は無い。どうせ“夜”に変わりは無いのだから。
山道は道路とも呼べない悪路だった。車など本来通れない。
そもそもこの世界に“車道”という概念は無い。
車――どころか人ですら――本来目にかかれない世界。
それが今、“彼女”が旅する場所だから。
そして今、斜面から跳ね上がって地面に叩きつけられている車は、
見る人が見ればその扱い方に卒倒するような高級車だった。
名前は『セルヴェノム』
ある先進国で数十年前に覇権を競った装甲車――
――それを、中心で両断して延長した、要人送迎用の高級車《リムジン》だ。
黒塗りで細長く、窓から強い光を発する姿はまるで深海魚の様にも見えた。
今は、深海から陸に引き上げられて舟板の上で踊る、憐れな魚のようだった。
その中で、走行、というよりもはや滑落に近い運転を慣行する運転手がいた。
端正な顔立ちに糊を効かせたスーツを纏い、
腰には装飾の類を一切取り払った、一振りの刀を佩いているが、
運転中の今は助手席にベルトで括り付けられている。
髪は臙脂色に金が混ざると言った、独特な色合いだが、
彼女の生まれた国では国民の九割九分は同じ髪色だった。
とある事情で“長い旅”に出ることになった彼女は、
今は特に目的も無く車を前へと走らせている。
強いて言うならば、“旅の終わり”という目的の為の旅だ。
何が終わりと言えるのかも分からないまま、彼女は今日も旅を続けている。
彼女は無表情のままハンドルを独楽のように高速回転させ――
側面から巨岩にぶつかった。三回目だった。
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