比良坂・彷の日記帳
比良坂・彷
2022年2月3日
布団で寝てたら桜の花びらと唐辛子がどっさりつもってた
唐辛子? 鍋にでもすりゃいいか
羽根と指が生えてた、猟兵すげェわ
比良坂・彷
2022年2月3日
みんなにはとても世話になった
何度か目の縁も初めましての縁も、どれもこれも身に染みて有り難い
死にたいって日々思いながら、生きてンのも嫌いじゃない
誰かあそこまで深く入れたのは流石に初めてだったなぁ
でもアレが何を望んでたかは表層上の“かたすとろふ”とやらしかわかんなくてちょい悔しい
比良坂・彷
2022年2月3日
(牛鍋をたらふく食べて帰って行った人物の顔を浮かべる)
明らかに顔出してくんの増えたね
あれだ、双子の影朧お嬢さん方の事件からだ
俺とは逆方向に腹を固めたんじゃァなかろうなぁ
たーぶん、向こうのが意地っ張り
宿世から性格が変わってないのならだけど
比良坂・彷
2022年2月4日
寝て起きたら無事に2つの羽根が揃っていた
でも、片羽根のが飛びやすかった記憶がぼんやり残ってんだよなァ。バランス悪いだろうに
まァだからってわざわざ毟ったりはしないけどさ
……てか、毟っても生えるよね?
多分この話も出すと拙い類いの奴なんだろうなァ
比良坂・彷
2022年2月8日
(まァあんだけ他の猟兵がいるなら、大丈夫でしょ)
比良坂・彷
2022年2月11日
(なんで寛いでお喋りするなんて仕事にあんな悩んでるんだ、あの子……)
比良坂・彷
2022年2月11日
恋バナは多分できるけど、いきなりの婦女子の集団に飛び込むのはさすがにハードルたけぇ
あと数時間悩んだら決めないとね
比良坂・彷
2022年2月11日
そそ、たまたまたまたま
比良坂・彷
2022年2月14日
長兄から手紙が来た
猟兵としての活躍が誇らしいとか赤ん坊でもわかるお為ごかし
手駒の「教祖様」はちゃんと育てて与えてやったろうに
三人の教祖様の代理戦争、父と次兄とアンタで好きにやってくれ
比良坂・彷
2022年2月14日
まぁそれが本音とはいえ
以前ならなんも考えずに適当な甘い餌を食わせてつなぎ止めたんだが……さて、どうしたもんか
三人の教祖様は、それぞれ腹違いの弟
向いてる奴らに手管を教えて宛がった
まぁ長兄次兄も胎は違うしな
比良坂・彷
2022年2月14日
ホント、俺を除いたトコでやってくれよ
元々俺はあんたらの誰にも支配されてやるつもりはねぇんだよ
俺を支配して欲しいのは『 』ただひとり
比良坂・彷
2022年2月14日
玄関先にぼたもちがおいてあった
「牛鍋のお礼です 六道」
……あ、ずんだもあるや
ささくれだった気持ちが浄化されたわ
比良坂・彷
2022年2月16日
願いは叶わなかった
戸籍上は俺を殺したことにしたって、それはただの欺瞞だ
賭博で人様に言えぬ真似を重ねる度に、俺ではなくて弟の『天』の名が汚れていくだけ
――随分年取って叱られるまで、そんなことにすら気づけなかった
比良坂・彷
2022年2月16日
混在している
宿世の俺と現世の俺が
詳細な記憶はない
でも「人が過去を詳しく憶えてられない」って言い訳が通じる程度の欠片はある
それは経験として染みついてるんだ
比良坂・彷
2022年2月16日
1俺は18になるまで隠れ里に軟禁状態で教祖様をやらされてた
ご神託を聞きに来る華族やそのご子息ご令嬢は向こうからやってきた
話ができるように帝都のことは知識として知ってはいたし
教育もそれなりにつけられてはいた
でも
学校なんて行ったことはなかったし
ひとりで街歩きなんてもっての他だ
比良坂・彷
2022年2月16日
けどさ
18で編入した學府の高等部じゃァ、なんの苦労もなく馴染めた
学校に張り巡らされてるルールとやらもすぐに理解して当たり前にその範疇で振る舞えた
“まるで子供の頃から学校に通ってきたように”
一人で街を歩くのに特段の感慨もなく外に出た時から俺は俺だった
人様にゃあ言えねェが、ヤニを肺腑に落としたら“何で今まで吸ってなかったんだろう”って気分だった
比良坂・彷
2022年2月16日
挙げ句、賭博は誰からも習ってねェのに学校より水があった
“此処なら俺を見てくれる”
“相手は生き残る為に俺を出し抜こうとするから”
別に賭け事に強いわけじゃァない
人を己に流し込めるから相手を読むのがちょっと得意って程度だ
それとて相手が真剣に“俺”を見ようとしたら、とたんに視えなくなる
――それが、なにより、愉しいったら!
わからないんだ
自分はそうだけど
他人がわからないのはすっごく愉しい!
“賭場は俺の生き死にの場所だ、確実に”
比良坂・彷
2022年2月16日
昼は學徒兵、夜は博徒
まァいずれは死ぬだろって過ごしてた
なにしろ俺なんぞが見通すことのできねェ猟兵じゃなくて俺はただの一般人
猟兵を生かすために最初に薙ぎ払われる役どころも悪かねェと思ってた
思ってたんだけどねェ
(――あァこれもどっかで辿ったな)
比良坂・彷
2022年2月21日
(破られた日記の頁)
比良坂・彷
2022年2月21日
(予知で〆の言葉って、大抵自分のこと言ってる気がする)
比良坂・彷
2022年2月24日
…………俺は、うそつきだなぁ
比良坂・彷
2022年3月2日
(白い彼岸花に連れ添うように椿のリボンが揺れる)
(部屋の中、明りもつけずにぼんやりと、もうずっとこうしている――祭りから帰ってきて目が冴えて眠れない)
比良坂・彷
2022年3月2日
なァんで結ばせちまったかなァ
巫女童の依頼で「離れよう」って気持ちを固めたばっかだってのに
……ホント、俺は呆れる程の嘘つきだわ
だったらあの子が仕事で街を歩いてんのをつけまわすなっての
比良坂・彷
2022年3月2日
俺はほぼほぼ童とおんなじ状況で生きてきた
人の欲を常に浴びせられて、願われて、請われた
信者も、それを連れてくる父に兄達も
みんなみんな、己のがよりよく生きる欲を剥き出しに、方法を教えてくれって俺に縋った
比良坂・彷
2022年3月2日
普通はああなるんだよな、やっぱし
耐えきれずに心が壊れる
己の心の居場所を見失って、自分はどうなんだって顧みて欲しいと切望する
欲しいのは信仰や崇拝じゃない、ただ一個人の自分を認めて欲しい
はは
俺、やっぱそんなこと思ったことねぇや
壊れなかった
壊れなかったんだ
壊れる中身がなんもない虚っぽの匣
比良坂・彷
2022年3月2日
――ちゃんと壊れることが出来たなら
――ひととして、まっとうならば
――俺は
(リボンに指をふれる。か細くて感触は殆ど感じられないそれ。だけど確実にある)
比良坂・彷
2022年3月2日
これは ずっとずっと ほしかったものだ
比良坂・彷
2022年3月2日
(崩れるように布団に伏せる)
(見たくもない本音を見つけてしまった)
(どうしようどうしよう。他の欲望じゃあ、もう代わりにならないんじゃなかろうか)
(賭場なら、死にたくないって蠢くあいつらだったら、大丈夫だろうか)
比良坂・彷
2022年3月2日
これ、どうしようかなぁ…………
(視線の先、暗がりにぼんやりと浮かぶのは、こっそりと買った椿のリボン。あの子と別れた後、とって返し燃やすつもりだった、でも燃やせなかった。あの子の桜に結わえたら、どんな顔をしたんだろう……)
来年、燃やそう
きっと、その頃には、死んでいられる
じゃあ誰がこのリボンを燃やすんだろうか
比良坂・彷
2022年3月21日
――夢を、見ている
あの子を初めてみた日のこと――
比良坂・彷
2022年3月21日
つい半年前に初対面のフリして知り合ったけど
本当は数年前から一方的に知っていた
比良坂・彷
2022年3月21日
幼い頃から人の欲望を己の精神に引き入れて叶える手伝いをしてきた
そうすれば、生まれもてなかった精神の虚ろが人様の欲で埋まり、同期して、幸せを感じて人の振りができた
斯様に、俺は常に誰かの“お気に召すまま”の存在
比良坂・彷
2022年3月21日
肉体が弱かったりそもそも内臓が欠損した人が長くは生きられぬように
精神が欠損している俺もまた、遠からず死ぬ筈で
その運命に逆らう事なく己が死んだ後の手はずを常に整えて生きてきた
比良坂・彷
2022年3月21日
けれど
學徒兵として訪れた彼女の嘔に囚われた
影朧に謳われたもののお零れにも関わらず、だ
『人任せの“死”より、己で死に場所を選ばないか』と囁かれて――
隠れ里は俺のような欠損者を補うにはとても都合のいい場所だ
むしろ、十数年掛けて己の都合のいいように構築した
そんな安穏とした“籠”を出ていくなんて、考えたこともなかった
比良坂・彷
2022年3月21日
あの子は籠の外にいる
もう逢えなくても構わない
でも彼女を識りたい、どんな人なのかどうやって生きているのか
赦されるなら影ながら力になりたい
――籠の中じゃなくて、同じ空の下に、いたい
比良坂・彷
2022年3月21日
*
*
(浅い眠りから空腹で目が覚めた)
(頬を撫でるリボンが解けてなくてため息が漏れた。違うこれは、ため息のフリした笑いだ)
外すなんてできないや
…………籠の外に、でてこれた
その人がくれたんだから
比良坂・彷
2022年3月21日
かつて、あの子と双子でいた頃は、虚ろから逃れるために、あの子と……弟と何もかもを同じにと、それだけを望んで生きていた
感情も、感覚も、味覚だって、左利きもそうだ
比良坂・彷
2022年3月21日
顔も咲く花も違う
性別も姿も種族すら変わり
生まれ落ちた場所も全く違う
もう他人だ
……どうしたって一緒にはなれない
かつては「なにもかも同じ」になれたら虚っぽから逃げられると弟に縋った
不気味がられる程になにもかもを真似た
そう、猫の子の兄弟が一斉に同じ動き同じ顔でじゃらしを追うのといっしょ
比良坂・彷
2022年3月21日
もうそれは叶わない
でも
叶わない方がいい
他人という線引きがあるから、彼女へ過剰に同期を望まずに済むんだ
彼女はかつての弟と変わらず、酸っぱいものが好きで
俺は当時は酸っぱいものを食べて一緒に美味しいって喜んでたけど
――弟が死んでから、生き続けた中で、本当は酸味は苦手でベタ甘の果物が好きだって気づいた
比良坂・彷
2022年3月21日
今の俺?
酸っぱいみかんは敵
比良坂・彷
2022年3月21日
みかんの話してたら腹減ってきたわ
どっか喰いに出るか……
比良坂・彷
2022年4月28日
サクラミラージュでは年がら年中桜が咲いてる
けど
どうにも『嘗て』を思い出してからは、春以外に咲いてんのが違和感しかなくて困る
あの子は……弟は18の年の桜は見ることができなかった
18歳の3月に、あの子は、俺の『希望』は、38階から堕ちていってしまった
比良坂・彷
2022年4月28日
俺は、寝起きする度に『前世』の記憶を取り戻してく
『昨日の経験』が、二つある
俺と、弟を死に追い込んだ『嘗ての俺』の分
中身のない俺の中には、二つの記憶が上手に収まってくる
混乱はしない
どっちがどっちかはわかる上、なんというか混ざってもなんの不都合もないぐらい
それほどに『俺』は『嘗ての俺』なんだ
まったく同じ
俺は、俺にしかなれなかった
狂っていて弟を死に追いやった俺にしか、なれない
比良坂・彷
2022年4月28日
もうすぐ22歳かぁ
きっちゃん、7日だよね。うんそうだよねぇ
俺は戸籍上の登録が10月だけど、ホントは5月8日生まれだし
――前も、双子で日付変更線またいだんだよね
生きてた母親から取りあげられた天と、息絶えた母から取り出された俺と
「後で生まれた方が兄姉」っていう病院だったから、俺が兄になった
弟だったら、殺さず済んだのかなァ……
比良坂・彷
2022年5月3日
あの子、キセル持ってたよねぇ。吸うのかなぁ……
俺は煙草好きだけど、あの子には吸って欲しくねぇなぁ
なぁに贈るのがいいだろ
喰ったら消えるものが後腐れなくていいかねぇ?
比良坂・彷
2022年5月6日
きっちゃん、學徒兵じゃないんだー
卒業したからか
でもあんま殺人鬼な感じしないんだよねぇ
殺人鬼無理すんなって感じ?
俺は大人になったらヤクザウォーリアーになるルートが見えるけど
學徒兵って身分が色々便利だから24歳ぐらいまではそれでいようとおもいまーす
ほら、大正ならそういうのあるある
高等遊民のゴロツキ學生ってやつー
比良坂・彷
2022年5月6日
発狂なんて赦されるわけねぇでしょ?
そういうのはぜーんぶ俺がもってったんだから
比良坂・彷
2022年5月9日
(黒漆の箱の中には、椿のリボンと手紙が仕舞われている)
比良坂・彷
2022年5月9日
(手紙を読み返しぽつり)
ぜーんぶ当り
形がないからどうしようもない
でも「大切」の形を語るものを集めたら……か
(丁寧に畳み手紙を再び収めた。カフェの名入りの宣伝マッチの箱も一緒に放り込む。普段なら捨ててしまうもの、でも、店が潰れりデザインが変ったら手に入らなくなる。そう思ったら急に惜しくなった)
そっかぁ、誕生日がこっちが遅いのもわかってんのかぁ
比良坂・彷
2022年5月20日
(むくりと布団から起き上がって、コップに満たした水を煽る)
毎朝起きる度に『宿世の俺』の記憶が増えている
嘗ての俺の『昨日』に当たる記憶が当たり前のように
比良坂彷として「昨日、あれやったこれやった」と平行で存在してる
比良坂・彷
2022年5月20日
これがはじまりだしたのは随分前――去年の9月の終わり
双子の嬢ちゃんの影朧の事件から
あそこで毒を盛られて、モヤモヤしてたモンがかんっぜんに形を成した
比良坂・彷
2022年5月20日
……正直、結構きつい
比良坂・彷
2022年5月20日
俺は
18歳が終わりに近づいた2月か3月、弟を追い込んで自殺させてる
そこからの人生は人様に到底話せたもんじゃァないが
同時に「俺ならそうする」って行動の連続でもある
でも
それら行動をあの子に知られたら、縁を切られてもしょうがない程の、外道
比良坂・彷
2022年5月20日
なにしろ俺は
“――兄である自分が弟に突き落とされて死んだ”
ことにして
“――弟の戸籍を乗っ取って、弟の名前で生きた”
んだから
比良坂・彷
2022年5月20日
少年院にも行った
だけど祖父に「いい弁護士」をつけられて
錯乱がどうとか、本当は突き飛ばしていないのだ――みたいになって、1年で矯正期間は終わりを告げた
その実「祖父任せにした」んじゃなくて、祖父を上手く使ったんだよなァ、俺が
父は死んだ『兄』がお気に入りの糞食らえだったから、なんとしてでも『兄を殺した弟』を消したかったようだ
いや、そもそも
この『父』が、ちゃんと弟を『天』を愛してくれていたならば、歪みはなかった筈なんだ
比良坂・彷
2022年5月20日
そしたら俺は
……兄である『冥』は
母のような精神崩壊を起こして死ねたんだよ……それが既定路線に他ならなかったんだ
そうしたら、弟が生きたのに――…………
比良坂・彷
2022年5月20日
俺がどんなに弟の名前を名乗り成り代わったところで
同じ遺伝子のこの身体には弟の魂が蘇って宿りはしないんだ
――それでも、そうしていなければ、それだけが弟を取り戻せると妄信してなきゃ、俺は…………
比良坂・彷
2022年5月20日
………………
こないだの8日で実質22歳になった俺は
そんなキチガイ沙汰の行動の記憶を1日1日増やしてる
ぐっちゃぐちゃの日々だ
今の俺の方がまだ清らかなぐらいには――
でもかなり似てる
大学生で
賭場に出入りしてヤクザもののコネを持っている
比良坂・彷
2022年5月20日
なにがきついって
「俺ならそうするなァ」って奴
これを「気が狂ってる、同じ轍は踏まない」と反面教師にできるなら、それぐらい『違っていたら』まだ未来を夢見れるんだけどなァ
比良坂・彷
2022年5月22日
なんで俺は俺なんだろう
俺ではない者になってりゃ、まだその手を取れたのに
もしかしたら恋に落ちることだって出来たかも知れない……
(書いてからこみ上げるような嫌悪が腹から迫りあがる。トイレに駆け込み胃液と昨夜の酒を吐き出した)
比良坂・彷
2022年5月22日
(水で口を何度もゆすぎ、なくなった中身を足すようにごくごくと勢いよく煽る)
……ッ、ぷはっ……ッ、はぁ
あー……まァここは拒絶反応でんはいいかァ
昔もそうだったけども、彼女(かれ)に愛する人が出来てそちらへ幾分にゃァいいんだよ
そりゃあ身の上は調べるけどさ。詐欺や騙しに不誠実な奴ァにはやれねェからな
………………
でもそうやって引き裂くなんて、俺は何様なんだよ
比良坂・彷
2022年5月24日
(でも、俺が俺じゃなかったら、あの子が再び生を得たことをこんなにも喜びはしなかっただろう)
(そもそも全くの赤の他人としてすれ違ってお仕舞い、二度とは会わない)
比良坂・彷
2022年5月24日
それはあまりに寂しいな
比良坂・彷
2022年6月2日
(明け方に散々酒と煙草の匂いをさせて帰宅する)
ちゃぶ台の上の日記には、酔っ払ったくせにいつもと変らぬ端正な文字でこう書かれている
“兄と、呼んでもらえた”
“どうしよう、嬉しい”
“どうしよう、離れられない”
比良坂・彷
2022年6月2日
(目が覚めたら既にお天道様は頭の上。二日酔いで頭がズキズキとするが、それすら楽しめる)
『匣』には昨日のあの子の呼び声を入れることはできねェもんなァ
俺は、いつだって『弟』に救われる
だから、この身全てを賭して尽くしたい
俺は、いつか『弟』を死に追いやってしまう
だから、こんどこそは『弟』より……きっちゃんより、先に死にたい
いいや、この世の春の今、この時、この瞬間
死んでしまいたい
比良坂・彷
2022年6月2日
(背中の傷を愛おしむ。嘗て斬り落した翼とは反対の右側の背中に入った一太刀。あれから何度も一振り目は必ず自分に入れてくれた)
(生きる為に利用してくれたことが、なによりも、嬉しくて――)
比良坂・彷
2022年6月14日
**
(何の気なしに、いいや嘘だ、気になってしまい彼女の家のそばを通りかかった)
(啜り泣く声と共に「わたしはあなたが嫌い」と聞こえた)
比良坂・彷
2022年6月14日
(やっぱり死んでしまえばいいのだ自分なんて)
(偶数で即離れる/奇数は少し留まる)
比良坂・彷
2022年6月14日
(花びらを落さぬよう抑え、羽音を殺して浮き上がりその場を去った)
比良坂・彷
2022年6月15日
(屋根の上に座って煙草を吹かす。彼女の家は視界内だ)
あー、こういうことすっから気持ち悪い嫌いって言われんだろうなァ
(見ていたら、彼女が包みを持って家から出て来た。行き先は――俺の家)
え、何しに来たの、あの子
(包みを持ったまますぐに出て来て自宅へ戻る。しばらくしてからまた俺の家に行き、今度は包みを置いて帰っていった)
六道・橘
2022年6月15日
【手紙】
この本はこの世に1つしかない大切なものです
押しつけておいて勝手ですが
酒煙草からは遠ざけて丁重に扱ってくださいませ
内容は、あなたと出会う前からわたしが見ていた妄想を、とても腕の良い作家様に紡いでいただいたものです
前に読ませなかったのは恥ずかしかったから
けれど、わたしの妄想にあなたを完全に巻き込んでしまったから、お見せすべきだと思って
斯様にわたしの妄想は非道く逸脱したものです
あなたが意趣卓逸の名優でわたしにあわせてからかってらっしゃるのでしたら、後戻りなさるのは今の内です
そもそも斬られて喜ぶな、怒れ!
(女性のまろやかな文字で綴られているが、最後の一行だけは大ぶりの荒い筆跡だ)
比良坂・彷
2022年6月15日
………………
(手紙の最後の行をなぞった。
煙草を咥えマッチに手を伸ばしてから、弾かれるように引く)
…………そっか、そっちにも、いるんだ
比良坂・彷
2022年6月15日
(咥えた煙草を外し、手を洗ってきちりと拭いてから本をひらく)
(読む)
(更に読む)
(読む)
感想はひとつ
やばい、俺が居る
比良坂・彷
2022年6月15日
(読み終えた)
(念のため、ちゃぶ台の端に遠ざけて背を向けてから煙草を一服……しようとしたら、畳まれた桜色のメモ用紙が落ちているのに気づく。どうやら本の最終ページ辺りに挟んであったよう)
(中身には文字がびっしり)
六道・橘
2022年6月15日
【メモ】
人の情を知らぬ女が無意識に作った妄想
そう思われるなら、どうか本を元通りに包んでわたしのポストに入れておいてくださいませ
わたしはこのように色々な面で重たく逸脱した『兄』が想い人として理想像だとは思っておりません
だから、まかり間違って、万が一、あり得ない思い上がりとは思いますが…………わたしの気を惹きたくての話をあわせた振る舞いでしたら、お応えすることはできません
それ以外で、今後もおつきあいをしていただける物好きな方なのでしたら、下記の古書店にてお待ちしておりますので、直接返しに来てください
六道橘
比良坂・彷
2022年6月16日
押しつよ……
でもどっちも同時選択出来るよね
(この季節、コートも上着も不要。ただ昨日帰宅してそのまま寝てしまったから、シャツは変える)
(彼女宅のポストに戻した後、古書店へと向かった)
比良坂・彷
2022年6月16日
(『大切』をしまう匣の中には、彼女と『 』手描きの手紙と、彼女手描きのメモが新たに増えた)
比良坂・彷
2022年7月12日
俺が九龍城で飲みたかった
溢れ出す言葉は果たして今世か前世かどちらのものなのか
……はは、大差ない
比良坂・彷
2022年7月12日
(包みにはあの子が読んで感想を聞かせてくれと言った本)
(同じものを摂取して共有できるのが、とてもとても、嬉しい)
比良坂・彷
2022年7月12日
離れらんねェや
そして、つながっていたら、他がなァんもいらなくなる
頓服でつきあってる女とそろそろ切れ時だけど……もう、いらねェかもな……
比良坂・彷
2022年7月12日
(日々があの子で染められていく)
(とてもとても、幸せ)
比良坂・彷
2022年7月12日
(でも)
(そしたら、出来ないことも増えていく――)
(あの子が詰まっているからか、他の人を流し込んでの同期が難しくなっている……)
(……今は、本を読んで丸暗記も、信者へ正しく突き刺さる助言も、できる自信がない)
比良坂・彷
2022年7月13日
…………あの子に上手に“使って”もらえたら、そういうことはまた出来るようになる気はする
でも
“使う”のは怖ろしく手間が掛かるし負担も強いてしまう
――嘗ての世では、そういう組み合わせが“比良坂の双子”だったけれども
俺と弟は混血だったからお役目は継がなかった
……混血で均等に“比良坂”の能力が薄まれば良かったのに、俺はそのままであの子は父に似てまっとうだった
比良坂・彷
2022年7月13日
まっとうだったから弟は自ら命を絶ってしまった
やはり、背負わすわけには、いかないんだ
比良坂・彷
2022年7月15日
本でも読むか
ささやかな事であれあの子が俺に求めてくれたんだ、それに応えたい
比良坂・彷
2022年7月20日
|先生にとってはどちらも大切な生徒ですよね。僕から2人にはお話しておきます《淫行がバレて辞めさせられるまで弟のために利用させてもらいますね》
比良坂・彷
2022年8月9日
(こっそりと1つだけ隠し持ち帰った赤い石をテーブルに置いた)
「聡明」「永遠の夢」「セルフコントロール」「勇気」
石言葉、4つともバラバラじゃねぇか
でも全部俺に必要なもんだなァ
「永遠の夢」だけがはぐれもんで、俺はそこにいたい――
比良坂・彷
2022年8月9日
(手首をとったのは二度目)
(おちていく、落ちていく、堕ちて逝く……)
(巻き戻りゃしないのに、けれどもう二度と俺より先に逝って欲しくはないから…………)
比良坂・彷
2022年9月21日
責任は取らないと、ね(掌で転がした赤と青の十面体をぱらりと落す)
比良坂・彷
2022年9月21日
7 事後処理を手伝わされる/2 2日
……あ、無難に根回ししてことを収める俺が出たわ
藍夜と暁くんはどーなんだろーなァ
比良坂・彷
2022年10月13日
実際につかってみる
比良坂・彷
2022年10月19日
上に兄が2人。正妻の息子はこの2人だけで、家督はこいつらだけのもの
俺を含めた後は『先見教』に集めた妾の子供達
『先見教』には、家柄こそはいいが正式な結婚には出せない女が集められている
――駆け落ちから連れ戻した娘
――性格や嫁ぎ先との折り合いが悪く離縁された女
――不義を為し愛想を尽かされた女
その他、家に置いておくに体裁の悪い女が補充される
今は父と兄2人が、立ち寄っては適当に遊んでいく
見目を清く正しくした体の良い専用の娼館だ
年を食った女は……どっかへ消える。あー俺の母親はまだ残ってたっけなァ?
腹違いの弟妹はそれこそ腐る程いるし、|母親《胎》が一緒のも何人かいる
……でもそれがなんだって言うんだろうな
弟妹は頭良く従順なにばたまに母親の実家へ引き取られる
引き取られた恩義をおしつけりゃ、将来は政略結婚のコマにできる
それが俺の|生きた場所《実家の隠れ里》
比良坂・彷
2022年10月21日
朝なのにとても眠い。
比良坂・彷
2022年10月21日
あと、模擬戦したいなーって思ったらユベコ増量したくなる。しかし俺のユベコはインチキ四字熟語+ギャンブルふりがなの縛りがあるからネタがない
比良坂・彷
2022年10月24日
上の同背後ロールはちょっと未来の時系列
だから俺がお返しするロールは、これの前のスタンスのつもりだよ
緋かーさんはその内くるかもしんない
比良坂・彷
2022年11月24日
(だがいつも連れてる白い花を千切り手渡そうとしたのは自分だ)
……咲くまでどんぐらいかかるかなぁ
(白い花があの子の手に収まった刹那、己の“有り様”が変った)
(|學徒兵《身分》が剥げ落ちて、|常に誰かを求めるロクでもない本質《寵姫》が露わになってしまった)
比良坂・彷
2022年11月27日
(『寵姫』になってから数日経った。まずい、まずい、まずい。とても人恋しい。手当たり次第の誰かに好きなようにされたい。つまりは女に遊ばれたい――)
(けれど、自分で千切り渡した白い花がそれを留める。まだ花は咲いては居ない。けれど昨日からの蕾が開きはじめている)
(この花が咲いたら、|あの花《手渡したもの》はなかったことにはできないだろうか)
比良坂・彷
2022年11月27日
今更気づくのはどうなんだよ
“なんてものを手渡してしまったんだ”って
何故、負担にしかならない己の気持ちなんて晒したんだ
――13のあの子が余りに憐れで、あの姿を『真の姿』とする程に疵ならばって言うけど、それは今まで通りの支え方で出来る筈なんだ
比良坂・彷
2022年11月27日
ああだけど、俺の本体は所詮はカネとコネだ
それが最大の武器で、あの子の後ろ盾として重要なんだ……けど
(立場を保持する為にはなにか手を打たないと)
(けれど『寵姫』が暴走している今向かったら、高確率で実家に囚われてそれを良しとしてしまいそうな自分も見出している――)
比良坂・彷
2022年12月3日
【花を毟られてから1週間】
(屋敷に帰宅)
…………珍しく素直になって話をしようとしたら、何故いないのか
手紙……手紙は、ないな
流石になァ、女性の部屋に勝手に入るのは憚られるしなぁ
そういうことしたら話し合いのはじめから躓くの見え見えだろ
あー……どーこ行ったかなぁ
一日待つか。|ここ《屋敷》で
……あぁくっそ、治ったんじゃなかったのかよ、刀傷がいてえ