闇の救済者戦争⑭~幸せは匣の中なりや?
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タロットって便利だよねぇ!
え? カード? 違うよ。ぼくが言ってるタロットっていうのは、今きみに与えてあげたチカラの事!
凄いでしょ? すっごく強くなった気がするでしょ? 気だけじゃないんだよ、きみはすっごく強くなったんだ!
叩かれても死なないし、斬られてもきっと死なないよ! やったね、すごい!
其れはね、タロットのお陰なんだ。きみは元々強かったけど、もっと強いものをぴこっと付けたらきっともっと強くなるかも~って思ったんだよね!
……あれ?
ねえねえ、ぼくの声、聴こえてる?
……。
あーあ、またかぁ。タロットに呑み込まれて、なーんにも判んなくなっちゃったね。
じゃあこの子は、ボクの欠落を護る番人に回そう! 何人いたっていいんだ、だって大事なものだからね! 護る人は何人いても困らないんだ! ね、アガメムノンくん!
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「デスギガスはこの戦争の前から色々と手を回していたみたいでな」
ヴィズ・フレアイデア(ニガヨモギ・f28146)はタロットカードを持っている。
一枚、場に出す。其れは悪魔。
「タロット、という機構がある。恐らくこれまでにお前達も見た事があるはずだ。22種類に分かたれた、謎の戦闘存在でな。まあ、デスギガスのような訳の分からんものが使役しているものだから、訳の分からんのはある意味理屈が通っているとも言えるが……まあ兎も角、其のタロットを植え付けられたオブリビオンたちが、今回の戦場では番人として存在している。ただし、彼らに意識はない」
タロットに逆に呑み込まれてしまったのさ。
二枚目、場に出すのは塔。
「彼らはただ、近付く者に自動的に、無差別に攻撃するだけの防衛装置になってしまった。デスギガスは其れを逆に利用して、己の欠落の隠し場所を防衛させている。改造の時に一応……“欠落を護れ”とでも命令されたのだろう。その命令を忠実に守り続けているという訳だ」
三枚目を場に出す。戦車。
「今回相手にするのは青い箱。……いや、本当にただの青い箱なんだけどね。幸福を絶望に変えちまうとんでもない箱さ。魂人たちの幸福な記憶をこれまでたらふく食ってきた、恐ろしい|匣《ミミック》だよ。奴は恐らく、お前達の幸せな記憶をいじって再現してくるはずだ。最悪の形でね」
四枚目を場に出す。節制。
そうしてカードの山をそのわきに置き、最後の一枚を指で振る。其れは愚者のカードだ。
「……愚者の解釈って2通りあるの知ってる? “無謀”と“開拓”の二通りあるんだ。あたしは差し詰め後ろで吼える犬。危険だと、けれど行けと、吼え立てる。お前達はどうだ? その一歩を踏み出せるかい?」
そうして、ぱら、と場に愚者のカードを落とすように置くと、後ろを振り返る。
既に白磁の門は其処に在った。扉が開く。荒野が―― 一面の荒野が、広がっていた。
key
こんにちは、keyです。
しあわせのあおいはこ、けっしてのぞいちゃいけないよ。
●目的
「『禁獣デスギガスの欠落』の番人を撃破せよ」
●場所
一面の荒野です。
其処にふわふわ浮かんでいる青空のように青い箱は、いっそ不気味に見えるでしょう。
彼は其の姿だけで、番人の役目をはたしているという訳です。
しかし此処を切り抜けなければ、デスギガスの欠落には辿り着けません。切り抜けてしまえばデスギガスの欠落が判明し、破壊すれば『無敵能力』を無効化する事ができます。
●プレイングボーナス!
「敵の無差別先制攻撃に対処する」
とても強い戦闘存在である“タロット”を植え付けられ、逆に呑み込まれてしまったオブリビオンは、“近付く者を無差別に先制攻撃する”防衛装置と化しました。
彼は先制攻撃として「幸せが壊される架空の記憶」を猟兵たちに向かって展開し、其の心を壊しに来ます。
何とかして其れを切り抜け、番人を撃破しましょう。
●プレイング受付
受付、〆切はタグ・マスターページにて適宜お知らせ致します。
●注意事項(宜しければマスターページも併せてご覧下さい)
迷子防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは合言葉を添えて下さい。
また、アドリブが多くなる傾向になります。
今回は心情系なので、一名様ごとに描写いたします(グループ様はグループ様ずつです)
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此処まで読んで下さりありがとうございました。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『『しあわせのあおいはこ』』
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POW : パンドラの匣が空く
着弾点からレベルm半径内を爆破する【幸せの青い星】を放つ。着弾後、範囲内に【幸福を破壊する幻覚】が現れ継続ダメージを与える。
SPD : 内側を覗いたものは
自身の【内側に溜め込んだ幸福な記憶】を代償に、1〜12体の【絶望の獣】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
WIZ : 匣の中へおいで
戦闘中に食べた【魂人の幸福な記憶】の量と質に応じて【自身の内側から狂気が溢れ出し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
イラスト:すずや
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠疾風・テディ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シキ・ジルモント
思い浮かぶのは拳銃シロガネの前の持ち主
仲間に裏切られて一人で放浪していた子供の自分を拾ってくれた師と呼べる人の記憶
ダークセイヴァーで暮らした頃の数少ない幸せな記憶が書き換わる
恩人である彼を…この手で殺す、そんな記憶へ
この銃も、殺して奪って
そうして手に入れたのではと、罪の意識が押し寄せる
…本当に、そうだとしても
敵を前に立ち尽くす事こそ愚か者のする事だ
殺して奪って生き延びたのなら、それを無駄にして何になる
師に教わったように銃を構えて青い箱へと銃口を向ける
浅くなる呼吸は、射撃の瞬間に止めて抑えて
記憶の正誤は、この場を生き延びた後で冷静に見極める
『慌てず、落ち着いて』
そう教えてくれた師の声を思い出して
●君はとても愛されていた筈だ
シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の愛銃“シロガネ”は、本来ならば彼のものではない。
一緒につるんでいた子どもに裏切られた、そんなダークセイヴァーでは|ありふれた《・・・・・》日常の犠牲になって放浪していた子どものころのシキを拾ってくれた人。
そんな、“師”と呼べる人のものだ。
ダークセイヴァーでは悲劇が満ち溢れている。
だからだろうか。シキと師の数少ない幸せな記憶は、シキの心の中できらりきらりと光り輝いていた。
そう、光り輝いていたのだ。
青い箱が明滅する。
其の点滅に幸せな記憶を引きずり出されて、書き変えられる。
恩人はどうして何処にもいないのか。
答えなんて簡単だ、死んだのだ。
どうして死んだのか。
――|己が殺した《・・・・・》のではなかったか。
記憶が書き換わって行く。
この銃も、隙をついて師を殺め、奪ったものなのではないかと。罪の意識が、ざあざあと降りしきる雨のように押し寄せて来る。ああ、そういえばあの日も雨だったかもしれない。血塗れの手が、雨を受けてあっという間に綺麗になっていく様に無常を感じたような、気が、
「――いや」
シキは、だが、静かにシロガネを構えた。
本当に己が師を殺したのだとしても。
この得物が殺して奪ったものなのだとしても。
敵を前の立ち尽くす事こそ、愚か者のする事だ。
殺して奪って生き延びたのなら、其れを無駄にして何になる? 俺は此処で死ぬために生きてきた訳じゃない。
――慌てず、落ち着いて。
――そう。そうして、腕に余計な力を入れないで。
師の声が耳奥で反響する。
匣は長い番人生活で魂人の幸福をだいぶん消化してしまっていたのだろう。獣を生み出す事が出来ず、ぐるぐると意味不明な動きを繰り返している。
腕には余計な力は入れない。
教わった通りに銃を構える。銃口の先には眩しい程青い箱。
浅くなる呼吸は、打つ瞬間だけ止めて、抑える。
――この記憶が間違っているかどうかなど、此処を切り抜けた後で考えれば良い。
――今はただ、俺は、こいつを殺すための猟兵だ。
シキの放った銃弾は、青い箱を的確に撃ち抜いた。
悲鳴はないが、ばたん、ばたん、と苦悶するように青い箱が暴れ回る。青黒い塵が散っていくのを、シキは静かに見ていた。
大成功
🔵🔵🔵
国栖ヶ谷・鈴鹿
◎
【対精神防御】
精神防御なら、白鈴晶燈と|守護稲荷《きこやん》の結界術!
対精神防御の障壁を作って護りに徹しよう!
ぼくの幸せな記憶は簡単に壊せないからね。
それにきこやん達が守ってくれている、ぼくの心はちょっとやそっとじゃ壊せない。
(思い出が確かにある事を確かめて、反撃開始!)
ユーベルコヲド、新世界ユウトピア!
絶望の獣も改変して、元の幸せな記憶に戻そう。
あの青い箱を具象化、実弾の通りをよくする改変で、あとは支援火力をフロヲトバイ紅路夢に出してもらって、貫通性の弾幕、改変で具象化して、収奪攻撃や奪った記憶を部位破壊や武器落としで全射撃スキルで撃ち落としていこう。
ぼくの心は脆くはないんだ、悪いね。
●幸せはね、奪うんじゃなくて作るんだ
国栖ヶ谷・鈴鹿(命短し恋せよ|乙女《ハイカラさん》・f23254)は白磁の門をくぐると、素早くランプを一つ取り出した。スズランのような形をして優しく白く仄光る其の明かりは、呼び出した|守護稲荷《きこやん》と共に結界術を施す。
其れは対精神防御の結界だ。幸せな記憶は山ほどあるけど、一つたりとも、お生憎様! いじらせるつもりはないんだ。
「ぼくは譲るつもりはない。其れに、きこやん達が守ってくれている。ぼくの心は――」
鈴鹿は確かめる。
幸せな記憶が、大事な記憶が確かに心の裡にある事を。
「――、ちょっとやそっとじゃ、壊させやしないよ!」
青い箱がごとごと、と動いて、ぱかりと開く。まるで深淵のように真っ黒な中身から滲むように現れたのは、二頭の大きな獣だった。狼に似た形状をしているが、まるで影絵のように、何処に目があるのかすら判らない程黒い。
あれが、絶望の獣。
魂人の幸福と引き換えに作られた悲しみ。
鈴鹿は全てを書き換えてやろう、と後光を輝かせる。其れは遙かなる理想郷への門。鈴鹿が世界を作り、鈴鹿の世界を作る。鈴鹿が思うように世界は改変されていく。そう、例えば――青い箱くん。キミが例えば銃弾に強くても、ぼくの手にかかれば実弾の通りをよくするくらい簡単なんだ。
「紅路夢!」
傍を浮遊していたフロヲトバイに鈴鹿は支援火力を要請する。フロヲトバイに備えつけられた銃器がうなり、青い箱へと弾丸をばらまく。
――!
漆黒の獣が駆ける。彼らは支援射撃を潜り抜け、鈴鹿へと肉薄する――
「生憎、ぼくは絶望に負けるほど心は脆くないんだ。悪いね!」
ナアサテイヤ。ダスラ。
二丁の機関銃がうなりを上げて、傍に駆け寄ってきた絶望の獣に弾丸をぶち込む。ナアサテイヤの弾丸を貫通性の弾丸に切り替えて、一気に二頭とも貫いて。
彼らが青黒い塵になっていくのを視認すると、直ぐに鈴鹿も青い箱へと弾丸を撃ち放った。
大成功
🔵🔵🔵
栗花落・澪
幸せな記憶
恋人と、友人達と過ごす何の変哲もない日常
海に行って花火をしたり
カフェでお喋りと美味しいものを楽しんだり
色んなことがあった
数え切れないくらい沢山の事を知った
檻の中に居たあの頃は考えられなかったような、沢山の事
だからもしそれを壊されるなら
悲しいもそうだけど、それ以上に…腹立つと思う
僕達の思い出を、培って来た絆を馬鹿にされてるみたいで
僕の信じる気持ちを、嘲笑われてるみたいで
だから、歪んだ記憶に向かって【高速詠唱】で紡いだ【破魔】を乗せた光魔法の【属性攻撃】で【浄化】、祓い
まぁでも…忘れるよりマシかな
【紅色鎌鼬】発動
無数に増殖させた鎌を遠隔操作し
【なぎ払い】の【範囲攻撃】で一掃狙い
●改竄されていく
幸せな記憶。栗花落・澪(泡沫の花・f03165)、君は何を見ているんだい。
恋人と語らう記憶かい。
其れとも、友人たちとふざけながら過ごす、猟兵としてではなく一人の「栗花落・澪」という人間としての記憶かい。
例えば海に行って花火を見たね。
ああ、でも其の花火は|直ぐに消えてしまったね《・・・・・・・・・・・》。そうして高波にさらわれて、君は溺れかけてしまったね。
例えばカフェでお喋りをしながら、美味しいお菓子を食べたね。
でも其のお菓子は|毒入り《・・・》で、君は悶え苦しみながら椅子から転げ落ちてしまったね。
色んな事があった。
数えきれないくらい沢山の事を知ったね。
檻の中にいたあの頃は、考えられなかったような――|檻の中にいた頃がマシだった《・・・・・・・・・・・・・》と思えるような、
「違う!!!」
澪は思わず叫んでいた。
書き換えられていく。幸せな記憶が、弾けたシャボン玉みたいに、書き換えられていく!
悲しい。そうかもしれない。でも澪の心に灯った炎は、確かに怒りの色をしていた。
「僕たちの思い出を、培ってきた絆を――馬鹿にしないで!!」
――僕の皆を信じる気持ちを、嗤わないで!
破魔の光が輝く。其れは青い箱が舞わせた青い紙のような|精神汚染《もの》をことごとく散らして、其の場を清浄にする。
青い箱が苦悶するように動く。
――忘れるよりはマシだけど、
――やっぱり人の記憶に勝手に手を食われられるのは、腹が立つ、かな!
紅色の鎌が青い箱を取り囲む。
其れは澪が持っている鎌を振るうと同時に、まるでマジックの一場面か何かのように青い箱を寸断せしめた。
だが残念、マジックと違うのは――中には誰もいなかった、という事くらいか。
大成功
🔵🔵🔵
比良坂・彷
数ある幸せの中で「2年かけて隠れ里を出奔し、學府の図書室で|あの子《橘》を遠目に見た」が壊される
ただ嘔ってくれた橘をひとめ見たいと
でも橘は戦場で死んだ
俺は間に合わなかった
*
そもそも「幸せな記憶」がなければ壊されない
俺は透明な『匣』
つまり同類
相手の感情喰って片時自分がいるよう錯覚させて命つないだ教祖様…なんて真実を嘘のように語り
『匣』に幸せな記憶なんざねえよって嘘を真実のように騙る
橘に逢って『自我』を得たのも嘘
俺は未だ隠れ里で|憐れな女達《信者》に寄り添い食いものにしあってる
橘は死んでないよ
そもそも俺に出逢ってない―
青い箱を壊しても
欠落が遺ってしまった
自分を騙しすぎてワカラナイ
助けて、ねえ『■』
●うそうそまこと、全部埋めた
比良坂・彷(天上随花・f32708)は、幸せだった。
ただ、捜している人がいた。
ずっとずっと捜している、魂の片割れ。己を教祖と崇め奉る隠れ里を出奔し、各段に|恵まれて《ゆがんで》いた環境を投げ捨ててまで、捜している人がいたのだ。
――其の人を、俺は確かに見た筈だった。
――學府の図書室で。
――|いいや《・・・》、違う。
――記憶が、壊されていく。
――俺の捜した人は。たった一人の橘は。そうだ、見付けた時にはもう、|戦場で事切れていたんだ《・・・・・・・・・・・》。
……。
同じだな、って、彷は青い箱を見て自嘲気味に笑う。
「俺も匣。透明な、何でもはいっちゃう匣。相手の感情を詰め込んで“俺も同じだよ”って錯覚させて、祀り上げられた教祖様なんだよ」
「だから、『匣』に幸せな記憶なんてあるわけがないだろ」
――ああ、これは本当か、嘘か?
語っている彷ですら判らなくなる。青い紙がふわり、と宙に舞う。其れは鋭く彷を切り裂くように青い箱から放たれて。思わず頭を両腕でガードしながら、彷は矢張り、嘘か真か判らぬ言葉を放つのだ。
「橘に逢って“自我”を得た? そんなのも嘘。俺はまだ隠れ里で哀れな|信者《おんな》たちに寄り添い、互いに食い物にしあってるんだ。そうして俺の人生は、静かに終わっていくんだ」
ねえ、騙すなら自分からっていうけれど。
其れを本当だと彷自身が錯覚してしまったら、一体誰が其れを是正してくれるのだろう。
「……え? 橘は死んだ? 違うよ。そもそも俺に|出会ってない《・・・・・・》んだ」
どれが嘘で、どれが本当?
どうするのが愛で、どうするのが戦術?
結局刀を叩き付けて彷は箱を壊してしまったけれど、……ねえ、彷。君は自分が土深くうずめてしまった本当を見付ける事が出来るのかい?
「……」
何かが欠けたような感覚ばかりが残っている。
ちりちりと切り裂かれた傷が痛む。誰かが、そうだ、俺を叱ってくれる誰かがいた筈なのに、思い出せない。
「■」
名を、呼びたいのに。
助けてと言いたいのに、君の名前が思い出せない。
大成功
🔵🔵🔵
叶・灯環
【月環】
笑う声にノイズが走る
あの子はどんな顔だった
血濡れのアイツ
金糸の髪はべっとりとした|血色《あか》で染まり
緋色の瞳は固く閉じられ
手元の刀は赤く染まり足元を汚してく
俺が殺し
俺が壊した
そう、か
俺はあの時間が幸せだと思ってたのか
持ってきた菓子を美味そうに頬張って
無駄に力が強いもんだから喧嘩も絶えない
だが話せば楽しくて
口遊む歌詞のないメロディは好ましく
名を付けろとせがまれ与えた名を喜ぶ顔は――
今更気付いても遅いけどな
道は既に別たれあの場所にはもういない
次に対峙するときは、葬る対象だ
だが今じゃないよな
偽物の記憶で死ぬヤツじゃない
殺したはずの手に重みを感じねぇ
何も背負わずなんてあってたまるか
はは、予行練習にもならねぇ記憶をありがとよ
おかげで自分の甘さにも気付けた
いまの俺はこんぐらいで揺らぐ
アイツに逢うことはまだできねぇ
まずはテメェで練習だ
刀を握る
身体と刀に魔力が廻り踏み出し一閃
…練習台にもならないけどな
瞼を開けばユアの姿に笑い
おはようございます
問題ありませんよ
ええ、思う存分見せてやりましょうか!
月守・ユア
【月環】
幸せが黒く染まる
そんな音が聴こえた
僕の幸せは
|愛し子《妹》がずっと傍で
その唄声を紡いで
ただ…ただ
幸せに笑っていてくれたらそれだけでいい
絶望を知りすぎた僕らは
いま、互いに…笑い合える居場所を見つけ
幸福の温みを憶えたんだ
なのに
唄が途絶える
柔らかな月の調べが
僕を導く最愛の聲が
赫月が宵を染め
足許は夥しい血に塗れ
愛し子が冷たく斃れてる
歌声が途絶える
昏く冷え切った刃によって
その刃を誰が振るったかは
見たくない
生々しい
起こりえるかもしれない
然し其れは架空の記憶
…くっ…ふははっ
ただの匣ごときが
…あの子の姿を穢してんじゃねぇよ
”殺月歌”
呪詛――それは有象無象を呪い死に還す術
僕の身は呪いに満ちている
故に僕を浸蝕する力に死の力を浸蝕させて相殺せんと試みる
――絶望は見飽きたんだよ
長い間ずっと…ずっと…
いつか遠い過去に僕は喪っている
その魂の痛みに比べればさ
生温ぃんだよ…。架空の絶望なんざ
我に返りかけてる灯環さんの肩を叩く
…やあ。目ぇ覚めてる?
ふふっ、ならよし♪
――お遊びは此処までだ
今度は僕らが幸せの匣壊す番
●たとえ血だまりの未来でも
ノイズ。
ノイズ。
ノイズ。
其の後に叶・灯環(あまつかぜ・f38935)が見たものは、血塗れの“アイツ”だった。
金糸はべっとりとした|血《あか》に染まり、緋色の瞳はまるで赫に負けたかのように固く閉じられて。
灯環が持つ刀は赤く染まり、つう、と美しい刃の曲線を赤が走ると、じわりと雫になって、ぽたん。落ちた。
――そうだ。
――俺が殺した。
――俺が、壊した。
俺は、……そうか。
あの時間を“幸せ”だと思っていたんだ。
持ってきた菓子を美味そうに頬張って、其の癖膂力が強いものだから喧嘩も絶えなかった。
だけれど話すと楽しくて、口遊む歌詞のない旋律はいつだって好ましく。
そう。
名をつけろといつだったか、せがまれた事があった。
そうして戯れに付けた名に喜ぶ顔は――
今更気付いても遅いのだ。道は既に別たれた。次に対峙する時は、葬る対象だ。だけどな。
|今じゃない《・・・・・》んだ。
偽物の記憶で死ぬようなヤツじゃない。
殺したはずの手にも、罪の重さを感じない。俺が殺したとしても、真実だったとしても、こんな軽くてたまるものか。背負えない程の軽さだなんて、あってたまるか。
全く、俺はこの程度で揺らいで。
まだアイツに逢うには、まだ早いんだろうな――
「まずはテメェで練習だ」
たん、と軽い調子で床を足先で叩いて。
己を囲う紛い物の記憶を振り払うかのように、灯環は身体と刀に魔力を回すと一閃を奔らせた。
紫苑の闘気がみなぎって、すらりと一文字を空間に描けば、ぴしりと光景にひびが入る。
――軽すぎる。練習台にもならねえな。
月守・ユア(月影ノ彼岸花・f19326)の幸せは。
|愛し子《いもうと》がずっと傍で、歌声を紡いで、ただ、ただ。幸せに笑っていてくれていたら、其れで良かった。
ほんの少し笑い返せたなら、其れで幸せ。そんな小さな、でもユアにとってはとてもとても大きな幸せ。
ユアたちは絶望を知り過ぎた。
だからこそ、今から幸せを知っていきたかった。やっと互いに笑い合える居場所を見付けて、幸福の温みに触れる事にも慣れてきたのだから。
――なのに。
いつも聴こえる唄が、聴こえない。
柔らかな月の調べが、ユアを導く最愛の聲が、聴こえない。
「――?」
名を呼ぶ。
嫌な予感がしていた。血の香りがしていた。
そうして、途切れた聲は、其処にいた。
照らすのは真っ赫な満月。足元はおびただしい血に塗れ、愛し子が倒れている。ただただ、暖かいのは血潮だけ。もう彼女が冷たくなっているのは一目瞭然だった。
こんなこと絶対起こらない、なんてユアには言えない。
起こりうるかもしれない未来。
だけれど、……違うだろ? これは思い出じゃねぇ。未来の再現なら、其れこそ匣として本末転倒だろ。
「ふははっ……! ただの匣ごときが」
――あの子の姿を穢してんじゃねぇよ。
呪う。呪う。呪う。
見境なく呪う。未来ごと呪う。まやかしの記憶は念入りに呪う。
ユアの身体に満ちた呪いが、月呪刀に伝わって呪詛を周囲に広げていく。
そうしてようやっとユアは、隣に立っていた灯環に気付けたのだ。
肩をポン、と叩く様は軽やかで。
「やあ。目ぇ醒めてる?」
「ええ。おはようございます」
「おはよ。調子は?」
「問題ありません」
「ふふっ、ならよし」
――絶望は|見飽きた《まだ早い》。
そんな二人は二振りの刀を構え、青い箱へと対峙する。
「お遊びは此処までだ。今度は僕らが、幸せな匣を壊す番だ」
「思う存分、見せてやりましょう!」
二振りは疾駆する。
紫苑の闘気が、月色の呪詛が、重なり合い離れながら変幻自在の軌道を描いて青い箱を切り刻む。
其処に絶望の獣がいようが、魂人の幸せがあろうが関係ない。
こいつをこのまま、野放しになどしておくものか!
……。
…………。
猟兵は幻を打ち砕き進む。
青い箱は青空の色をして、……けれど其れは希望の色なんかじゃなかった。
青空に焦がれる人々を引き寄せるための、疑似餌だったのだろう。
まあ、もう青黒い塵になってしまったので――惹かれる者はいないだろうが。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵