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闇の救済者戦争⑭〜|永久《とこしえ》の愛を

#ダークセイヴァー #闇の救済者戦争 #不死の紋章

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#不死の紋章


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●闇の救済者戦争
「世界の形が色々見えてきて、上層に居たヤバイのも現れてるけど……いい報せがあるよ。禁獣『デスギガス』の欠落を丸裸に出来そう」
 リオネル・エコーズ(燦歌・f04185)は、いつものように微笑みながら告げた。
 欠落が何か判明すれば、それを破壊する事で禁獣の無敵能力を無効化出来る。あのデスギガスを撃破出来る可能性は、ダークセイヴァーを救う為にも見逃せない。
「ただ、第五貴族の中にたまーに『倒しても別の紋章、別の姿をもってまた現れる』タイプいたでしょ? それがデスギガスが改造したオブリビオンで、そのオブリビオンが『欠落』を守ってるらしいんだ」
 倒しても倒しても現れる。それは死ねない存在たる魂人と似ているが、魂人ではないオブリビオンは無限の苦痛により理性を失い、狂気に染まっている。
 その為に、改造時に植え付けられた命令――『デスギガスの欠落の番人』としての務めを果たそうと、自らが傷つくのも厭わず、ひたすら襲いかかってくるのだ。
「困った事に死んでもすぐ復活するオマケ付き。でもね、何度も何度も殺し続けていければ、不滅の源になっている『不死の紋章』が体表に露出する事が判ったんだ」
 その紋章を壊せば、敵は跡形もなく消滅する。
 デスギガスの欠落の判明、その達成が不可能でないのならば――「やる価値めちゃくちゃあるでしょ?」とリオネルは笑み、倒すべき番人の話に触れた。
「相手は花嫁さん……に、なりたくてなれなかった誰か。今は、元々の性質と欠落の番人が混ざって、誰と結婚したかったのかも忘れてる。どうか、眠らせてあげて」

 そう告げたリオネルが展開したグリモアが、向かうべき場所へと猟兵達を導く。
 そこは薄暗い屋敷だった。火の点いた燭台。腐敗した料理達。屋敷内の所々を飾る、枯れた花々。
 虚ろな幸せに満ちたここに、狂いきった心に幸福を塗りたくり、彷徨い続ける花嫁がいる。

●病める時も、健やかなる時も
 嬉しくって幸せで、この想いが花になって咲いてしまいそう。
 だってだって、小さな頃から思い描いていた夢がようやく叶うんだもの。
 この幸せが続きますように。そんな想いを込めたブーケは、甘く淡い桃色紫陽花に。私の次のお嫁さん――誰かと結ばれる誰かも、このブーケを気に入ってくれたら嬉しいわ。
 レースにも白紫陽花が咲く真っ白なウエディングドレスは、あの人にはまだ内緒の、私の花嫁衣装。この姿を見たら、あの人の唇は何て言ってくれるの? 瞳には、どんな彩が浮かぶの? 綺麗だねって……そう言ってくれる?
 ウエディングケーキは私のドレスとお揃いの、純白に紫陽花の花を沢山あしらったものにしたの。一度味見をしたけれど、とってもとっても、美味しかった!

 ああ、待ちきれない。
 今日は、私とあの人が結ばれる日。
 愛を誓い合う、大切な日。
 永久の印を、お互いの薬指に煌めかせるの。

 だから。

「何処に居るの、私のお婿さん? もうすぐ式が始まるわ。…………もしかして、」

 此処かしら?


東間
 闇の救済者戦争のお届けに来ました。|東間《あずま》です。

●受付期間
 12日(金)の8:31から。締め切り時刻は参加者数とプレイング内容を見つつ、決まり次第、当シナリオ上部と個人ページトップ、(https://twitter.com/azu_ma_tw)でお知らせ。オーバーロードは受付前送信OKです。
 導入場面はありません。

●プレイングボーナス:敵を何度も殺し続け、「不死の紋章」を破壊する
 西洋のお屋敷にて、逃げたり隠れたり見つかったりしつつ殺す!な戦争シナリオです。ホラーやゾンビゲームでよくある、逃走&隠れんぼターンをイメージして頂ければ。
 上記内容からお一人様での参加推奨です。

 隠れスポットは色々あります。物置になっている部屋、立派なベッドやソファの下、大きなクローゼットなど。寝室、厨房、書斎など。
 「こんな風に逃げて隠れまくる」をメインにしたり、「こんな風に行動して殺したから、今度はこう!」をメインにしたり、楽しんで頂ければ幸い。
 技能を沢山並べたりUC複数使用は採用率下がりますのでご注意を。

●花嫁が猟兵を見つけたら
 大喜び|追って《殺しに》きます。
 気配を感じると、そこに居るの?と、とっても嬉しそうです。

 以上です。
 皆様のご参加、お待ちしております。
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第1章 ボス戦 『純血の胡蝶』

POW   :    よひら
【棘を持つ結婚指輪だったもの】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    おたきさん
【同情】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【紫陽花】から、高命中力の【強酸性の液体】を飛ばす。
WIZ   :    うつりぎ
対象への質問と共に、【手にしたてまりてまりのブーケ】から【殺傷力を備えた花弁】を召喚する。満足な答えを得るまで、殺傷力を備えた花弁は対象を【風の渦に閉じ込め、無尽蔵に襲い来る花弁】で攻撃する。

イラスト:きゃら

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はメルヒェン・クンストです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シキ・ジルモント
解放するには何度も殺すしかない
思うところがあろうと一切を呑み込んで

物置のような物の多い部屋へ潜む
敵が近付いて来たら予め仕掛けておいたフック付きワイヤーを引っ張る
ワイヤーに引かれて離れた場所で物が落ちる、その物音で注意を引き隙を作りたい
使い古された手だが、瞬間的に気を引くには案外効果的だ

気が逸れた瞬間にユーべルコードで攻撃
急所を狙い、出来るだけ苦痛の少ないように

…分かっている、自己満足だ
敵が置かれた状況に同情は多少ある
強酸性の液体を飛ばされたら周囲の物を盾として使い回避を試みる

今度はワイヤーのフックを天井へ射出し引っ掛け、巻き取る勢いで頭上を飛び越え部屋の外へ
再び物の多い部屋へ潜み敵の接近を待つ



 入った時に確認出来た窓は一つだけ。閉じきれていないカーテン僅かな隙間から、一筋の光が弱々しく射し込んでいる。
 カーテンも、その先にある窓も、長く閉じられたままなのだろう。シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)がこの部屋のドアを開けた時から在った空気は新鮮さと程遠く、ひどく埃っぽい。
(「ここにあるのは家具や調度品といったところか」)
 角ばっている大小様々な物。なだらかな曲線を見せる立体物。白い布を被せられたそれらの中身は察せられたが、いつからここにあるかはわからない。わかりそうな人物は――過去に抱いたものに囚われたまま作り変えられ、狂気に染まっている。
(「解放するには何度も殺すしかない」)
 解っている。だからこそ一切を呑み込んで――


「此処かしら?」


(「来たか」)
 シキは呼吸をより一層静かなものにし、指先まで神経を研ぎ澄ます。とうに暗闇に慣れた目は花嫁が纏う祝福の白色をしっかりと捉えていた。衣装には傷も汚れも見当たらない。手にしたブーケも雪のように白い肌も綺麗なものだ。
(「一番目に見初められたのは、俺か」)
「式の前に隠れんぼ? もう、子供みたいなことして」
 でも、そんな所も好きよ。
 甘く優しい囁き声。少女のような無邪気さ。埃っぽいだけだった室内に漂い始めた花の香りは、花嫁の歩みに合わせその濃さを増していく。埃の匂いに花の香りがすっかり被さって、

ガタッ

「其処に居るの?」
 物音に花嫁が声をぱあっと華やがせる。ブーケは右手に、左手はドレスの裾を摘み、愛する人のもとへ飛び込むように部屋の奥へと靴音を鳴らして行く。白い布から覗いていた木の棒――恐らくは絵画を抱えたままのイーゼルが、足を掴まれ引っ張られての事など知らぬまま。
 その耳に、銃を構える音は届いただろうか。
 狙い定めるのに要した時間は僅か。弾は後頭部から額を貫通し、衝撃で花嫁の頭が勢いよく上を向く。花婿が居ると喜んだ体はそのまま前に倒れ、そこにあった物を下敷きに派手な音を響かせた。
 シキは素早く回収したフックを天井に放つと即座にワイヤーを巻き取り、死にたての体の上を勢いよく飛び越え部屋の外に出る。
 花嫁に使った銃弾は一発。出来るだけ苦しめずに殺せただろう。
(「……分かっている、自己満足だ」)
 花嫁が置かれた状況に同情は多少ある。花嫁が蘇り、それを感じ取る前に。シキは目星をつけた部屋へと駆け出して、

「行かないで、私を離さないで」

 遠くなった部屋の中から聞こえた声は、ひどく切なげで。
 だからだろう。眉間に、僅かに皺が寄る。

「安心しろ。もうしばらくは付き合ってやる」

 夢の終わりを迎える、その時まで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

藤・美雨
殺しの依頼ならまっかせて!
殺人鬼の美雨ちゃんが何度でも殺してみせましょう
同情するのも危険だし、そもそも彼女の為にならない
全力でやらせてもらうよ

ベッドの下とかクローゼットの中とか、そういう場所に身を潜める
相手が来るまでじーっと待つんだ
なかなか来ない時は物を落としたりして誘き寄せようかな
こうしてるとゲームっぽい!

相手が同じ部屋に入ってきたら【早業】でシュバっと出現
仕込み暗器をぶん投げて一撃致命傷狙い
駄目なら接近して首を切り落とそう
多少の攻撃は【激痛耐性】で誤魔化し殺害を優先だ
一度殺したらすぐ逃げてまた隠れるよ

私はお前のお婿さんにはなれないよ
帰る家があるからね
お婿さんはここじゃない場所で探すんだよ!



 殺してもすぐに復活するデスギガスの『欠落』の番人。死なずの花嫁。ただし、殺して殺して殺し続ければ、不死の紋章が露出する。それを壊す。番人である花嫁は消滅する。
(「殺人鬼の美雨ちゃんにぴったりなお仕事だよね」)
 この藤・美雨(健やか殭屍娘・f29345)にまっかせて! 何度でも殺してみせましょう――と胸をドンッと叩く事は、ベッド下に潜んでいる今は出来ないけれど。同情すれば危険を招く。そも、彼女の為にならない。ならば全力で殺らせてもらおう。
(「あ。銃声」)
 誰かが花嫁と会ったらしい。そのまま耳を澄ましていると、また銃声がした。音の聞こえ方からしてこことの距離は――そう遠くない。隠れる事を止めて移動するより、このまま待つ方が良さそうだ。
(「でもあまり待つのも……あ、そうだ!」)
 あそこに丁度いいものが、と美雨は片方の袖に手を入れゴソゴソゴソ。音もなく放った鋼糸で、衣装箪笥の上に置かれていた花瓶をくるんと捕まえる。ベッド下は埃っぽい絨毯が敷かれているが衣装箪笥の手前は――何もない。
 くん、と引っ張れば、狙い通りに花瓶は真っ逆さま。派手な最期を響かせ枯れた花と共に散った様に美雨は満足げに頷く。今の音は餌として申し分ない。
(「こうしてるとゲームっぽい!」)
 灰色の瞳がきらりと輝いた時、ドアを隔てた向こうから声がした。
「あなた。其処に居るの?」
 くすくす、くすくす。ドアがキィ、と鳴いて、室内に花の香がこぼれ落ちる。床に光と影を降らす白い花嫁衣装が、ふわりふわりと揺れている。
 此処かしら。ドレスの裾がクローゼットの手前で止まったのが見えた。
 此処じゃない。白紫陽花が再び揺れ始め――ぴたり。
「まあ、花瓶が。あなた、怪我はない?」
 しゃがみ込んだ花嫁の手が萎れた花を拾い上げる。ベッドで顔は見えないが、『|あなた《花婿》』を案じ寝室内をきょろきょろと見ているのが容易に想像出来た。
(「よっぽど好きなんだね」)

 じゃあ、殺してあげようっと

 花嫁がベッドの横を通過した瞬間、ベッド下から鮮やかに飛び出し放つは、花瓶を落としたものとは別の仕込み暗器だ。花嫁が持つ二つの紫陽花色と純白に、鮮やかな赤がびしゃりと散りばめられる。
 致命傷齎す一撃は、枯れた花と花瓶の破片散らばる床にも、真っ赤な水溜りを広げていく。ひと目見て大量出血とわかるそれに、美雨はよしっと拳を握ると軽やかに寝室から逃げ出した。衣擦れの音がしたのは、それから僅か数秒後。
 うわ、もう? 驚きながらも、美雨は振り返らずに言う。
「私はお前のお婿さんにはなれないよ、帰る家があるからね。それともう一つ!」

 お婿さんはここじゃない場所で探すんだよ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

バレーナ・クレールドリュンヌ


【終わりなき永訣を】
隠れるのは得意ではないけれど……|隠す《・・》のは苦手ではないわ……。さぁ、お行きなさい、永訣を刻む者……。

隠れる場所は、バスルーム。
バスタブのカーテンの裏に隠れて、歌を口ずさみ、花嫁さんを待ち構えましょう。
永訣を刻む者は排水溝から這い出し、急所を刺して花を一つ落として。

次は天蓋付きのベッド。
御簾の降りたベッドに誘惑の香りと部屋全体に金魚玉の水を滴らせ、水浸しに。
水たまりの一つに永訣を刻む者を忍ばせ、どろりとしたタールのような手が花を折り、永訣を刻みつける。

さようなら、花嫁さん……いつか本当の花婿さんに再会できる日を……。
静かに終わりを告げる度に、そう願いながら。



 薄暗い屋敷の中を、豊かに波打つ白銀色が游ぎゆく。朧気に揺れる蝋燭の火がじんわりと橙をさしたその色は、とある部屋へ静かに滑り込んだ。
 バレーナ・クレールドリュンヌ(甘い揺蕩い・f06626)は海の翠に染まった眼差しで辺りを窺い、ほっと息をつく。隠れる事は不得手だが、無事、目的地に辿り着けた。
「さぁ、お行きなさい、永訣を刻む者……」
 そうっと囁いて招いたものが、その姿を見る間に細く、小さく変えていく。その行き先を見送って――人魚は今宵の舞台にその身を収めた。


「まあ、綺麗な歌声。いったいどこから……?」
 花嫁は鮮やかな赤色が加わった花嫁衣装を翻し、歩き始める。ふいに届いた歌声は魅力的で、煌めく蜂蜜のようなその旋律に、どうしても心が躍った。
「これは……お祝いの歌? ……もしかして、あなたのサプライズなの?」
 こみ上げた幸せをぎゅっと抱き締めるように、花嫁はブーケを胸元へと寄せ、弾む足取りで廊下を駆けた。たん、たん、たん、と靴音を響かせ、歌声の在り処を求めて足を止め、階段を下り、徐々に明瞭になっていく歌声にくすくすと笑みをこぼす。そうして辿り着いた場所、ドア一枚を挟んで聞こえる歌声に花嫁は暫し耳を傾けて――、
「見つけたわ、あなた」
 そこは、他よりも空気がしとりと濡れた場所だった。
 褪せた金色の猫脚。ひび割れ、元々の色よりもずっとくすんだ乳白色のバスタブ。
 日々の汚れと疲れを落とす筈のバスルームは、空間そのものに長い月日を重ねて褪せている。そんな場所で、カーテンで仕切られた向こうから聞こえるまろやかな水の音と、なおも紡がれる歌だけが真新しい。
 花嫁はゆっくりとバスタブに近付き――自身の胸元からふいに生えた鋭いものを、呆けた様子で見下ろした。
「あな、た」
 心臓を貫いたものは花嫁が持つ花も一つ落とし、それが床へ触れる前にひゅんと引っ込んだ。花嫁の意識があるならば、排水口から這い出て伸びる|もの《何か》を見ただろう。そして、カーテンの向こうから現れた、麗しき人魚も。


 花嫁と人魚の物語は終わらない。
 綴られた二つ目の物語、その舞台は夢の世界へいざなうベッドの上。天蓋の下、降りた御簾が覆い隠すものは何かしら? 惹かれて止まない何かを感じ、幾つもの水溜りが出来ている事にも気付かぬまま近付いた花嫁は、背後でとぷりと起き上がった『手』にも気付きはしない。
 どろりとしたタールめいた手は一瞬で花を折り、決して消せぬ永訣を刻みつける。花嫁の死体は水溜りに倒れ、ぱしゃんと水音が跳ねた時、降りていた御簾が上がっていった。
「さようなら、花嫁さん……いつか本当の花婿さんに再会できる日を……」
 夢見た幸せが訪れたその時こそ――愛する二人は、永久に、共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

花厳・椿
椿、かくれんぼは得意よ
探してちょうだい
だけど、最後はみつけてね
じゃないと淋しい

だって
ずっと待ってるのはとても淋しい

通りゃんせ

崩れるように
花散るように
人の姿から本来の蝶の姿へと

おいで、おいで
手のなる方へ
捕まえた?
それも椿
でも、あっちにも椿はいるよ

ねぇ、早く捕まえて
探してちょうだい
うふふ、それは鬼ごっこね

ふわふわ揺れる真っ白なドレス
花嫁衣装
嗚呼、それはこの世で一番幸せな人が着る筈で
嗚呼、それなのにあの子はとても悲しげで
それがとてもとても美しかったの
恋をしたの

蝶の羽から雪のように舞う毒含む鱗粉
恋のように息が出来なくなるでしょう?胸を焦がすでしょう?

それでも立ち上がってね
椿を全て捕まえてくれるまで



 見ぃ付けた。

 無邪気で、どこか子供っぽい声。ふわりと香った花のそれ。
 花の下にある眼差しを向けられたばかりの花厳・椿(夢見鳥・f29557)は、見つかっちゃったと笑み、ふわりと身を躍らせた。
 つい先程まで居たそこに誓いの証が深々とめり込んでいる。椿は棘で彩られたそれから前方へと視線を移し、迫る気配にうすらと笑ってぱたぱた駆けた。
「椿、かくれんぼは得意よ。探してちょうだい」
 蝋燭の灯りが頼りなく照らす廊下を、階段を、ひらりふわりと雪色はゆく。今にも薄闇に溶けそうな姿に、花嫁の声は絶えず届けられた。
「きっとあなたを見付けるわ。そして、誓うの」

 何度も何度も何度も何度も――何度でも!
 あなたは私の未来、私の希望、私の夢。
 私の、幸せ。

 姿も名前もとうに忘れているのに、狂気に染まっても忘れられなかった誰かへの想いを繰り返し紡ぐ声は、壊れたレコードのようにぐるぐる巡る。
「嬉しい。だけど、最後はみつけてね。じゃないと淋しい」
 だって。ずっと待ってるのはとても淋しい。
 囁いた椿の姿が、ぼろりと崩れるように。はらりと花が散るように。少女の|姿《かたち》から|蝶の化生《本来の姿》へと変じた。
 薄闇に広がる白、はたはたと舞う無数の蝶は口々に唄う。

“おいで、おいで”
“手のなる方へ”

 花の下。そこにある瞳に無数の白色が闇色と共に焼き付く。花嫁の目は自身を囲む白蝶達へ、あちこちへと何度も移った後、露わになっている唇がくすりと笑った。
「まあ、悪戯っ子ね。…………捕まえた!」
 ぱしんっ。ブーケを小脇に抱え、さっと伸ばした両手が一羽を手の内に閉じ込める。あなた、と愛おしげに呼ぶ花嫁の周りで、椿もくすくす笑った。

“捕まえた? それも椿”
“でも、あっちにも椿はいるよ”

“ねぇ、早く捕まえて”
“探してちょうだい”
“うふふ、それは鬼ごっこね”

 おいで、おいで。童唄めいた声に花嫁が応え、真っ白なドレスがふわふわと柔らかに揺れる。それは一人の為に作られたもの。祝福の日を照らす、花嫁衣装。そしてそれは――嗚呼。
(「この世で一番幸せな人が着る筈で」)
 嗚呼、それなのにあの子はとても悲しげで。
(「それがとてもとても美しかったの」)
 祝福を贈られ、幸福を願われたあの子。
 ころりと落ちた、美しくも悲しげなかんばせ。
 椿はそんなあの子に恋をした。恋をして、そして――。
「――っ、あ、」
 花嫁が喉に触れ、胸元を押さえ、何かを求めて手を伸ばす。それを見下ろす蝶の羽から、雪めいたものが降っていたのはいつからか。白い蝶は苦しげに身を折る花嫁から、ひらひらと列を作って遠ざかり始めた。

“恋のように息が出来なくなるでしょう? 胸を焦がすでしょう?”
“それでも立ち上がってね。椿を全て捕まえてくれるまで”


だって
|見つけてくれる《幸せにする》って、約束したもの

大成功 🔵​🔵​🔵​

月白・雪音
…或いは、過去の残滓と変ずる以前は幸福の中に在るべき花嫁であったのでしょう。
されど今此処に残るは残滓と歪み禁獣の手を受けた世界の敵性。
故に為すはただこの手を以て殺めるのみ。

UC発動、落ち着き技能の限界突破、無想の至りを以て己の気配、音、存在そのものを全て遮断
家具の中、扉の陰、シャンデリアの上などに身を隠し
野生の勘、見切り、更に殺人鬼としての技巧で急所を正確に見極め、
怪力、グラップルによる無手格闘にて確実に殺す一撃を与え続ける
発見されれば攻撃を野生の勘、見切りで感知、残像にて回避し隙を見てカウンター

その魂を、在るべき過去へ。
…貴女に相手が居たのなら、それは此処ではなく骸の海にこそ居られましょう。


フリル・インレアン
ふぅ、あの人が探しているのが花婿さんでよかったです。
女の子の私には関係がありません。
ふえ?昨今では同性愛者もいるから、安心はできないって、
そんな趣味は私にはありません!
ふえ?私じゃなくてあの人がそうかもしれないって、確かに油断はできませんね。
その点、アヒルさんはアヒルでガジェットだから大丈夫って、それはズルいです。
もしかしたら、あの人は愛鳥家さんで愛玩主義者さんかもしれませんよ。
それは困るんでしたら、協力してください。
サイコキネシスで物を倒したりして注意を反らすので、アヒルさんはその隙に攻撃してください。



「あなたったら……まだまだ隠れんぼがしたいの? ……ふふ、いいわ。私もね、あなたと子供みたいに遊びたい気分なのよ」
 何だかくらくらするのは、今日という日が嬉しくて幸せ過ぎるせいね。
 無邪気に笑いながら歩く花嫁を、働き詰めでデロリと崩れかけた蝋燭の炎が照らす。
 暗がりに浮かび上がる姿は朧気だ。そんな幽霊じみた姿に愛と狂気が詰まっているとなれば、座る足元が見えない作りになっているテーブルの下、そこに隠れていたフリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)も本気の本気で息を殺すというもので。
 花嫁の声と足音が遠ざかる。キィ、とドアを開ける音がした後、花嫁の足音はコツコツとしたものに変わっていた。絨毯が敷かれたこの部屋から出ていったのだ。
 フリルはそろりそろりとテーブル下から出て、ふぅ、と安堵の息を吐く。
「あの人が探しているのが花婿さんでよかったです。女の子の私には関係がありません」
『グワワ、グワ』
「ふえ? 昨今では同性愛者もいるから、安心はできないって……私は同性愛者じゃないですよ、アヒルさん!」
 花嫁に聞かれないよう声量を押さえつつも、違うものは違うとハッキリ伝えたフリルはアヒルさんからの『そうじゃない』に目を丸くした。フリルじゃなくて花嫁がそうかもしれない――アヒルさんの指摘は、思いつきもしなかったものだ。
「……確かに油断はできませんね」
 そうでしょ? とアヒルさんは得意げに胸を張り、グワグワ続ける。
「その点、アヒルさんはアヒルでガジェットだから大丈夫――って、それはズルいです」
 それはつまり、毎度お馴染みの『自分だけが大変な目に遭う』パターンだ。
 命がけお化け屋敷状態のこの場所には一緒にやって来たのに。フリルは少しばかり頬を膨れさせるが、ぴこんと思いつく。
「アヒルさん。もしかしたら、あの人は愛鳥家さんで愛玩主義者さんかもしれませんよ」
『!? グワワッ!?』
「困るんでしたら、協力してください」
 えっ? どうやって?
 つぶらな目で見てくるアヒルさんに、フリルは足音を立てないよう、開いたままのドアへそっと近付いていく。慎重に廊下へと顔を覗かせると、花嫁が二つ先にあるドアを開け、その先に入っていくのが見えた。
 すぐにフリルは立派な本棚から一冊――いや、数冊の本を触れずに抜き取った。サイコキネシスだ。
「私がこれを使って注意を反らすので、アヒルさんはその隙に攻撃してください」
 禁獣デスギガス。欠落の番人である花嫁。想像もつかない手強さが立ちはだかろうとも、合わせれば一つずつ超えていける。今までがそうだった。だから今回も――きっと!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
誰かと結ばれることを願っていた花嫁
こんな形で彷徨うなど
誰か、もやり切れまい

灯環が隠れんぼと聞いて
任せろと自信満々だが
見つかったら駄目、なんだからね?

逃げ隠れ彼女たちの様子を見よう

移動は忍び足
気配六感も使い探り
隠れる際は入ってきた方が奥に入れば後ろを取りやすいよう
幾つか候補があれば、入り口に近いくろーぜっとや物陰に
また、刀で腕斬り血を流し
跡を別の隠れられそうな場にだけわざと残し誘導など

見つかる、若しくは相手の背後を取れる状況なら
音消し近付き
介刀で、なるべく…苦しまぬよう終わらせたい

無意識に、小指の銀環を撫で
僕が誓う唯一は、既に在るから
君達の隣には並べぬが
眠った先…
望んだ相手と再会できるよう祈って



 禁獣の欠落を守る番人は、誰かと結ばれる事を願っていた花嫁だという。
 その願いは、叶ったのだろうか。
 叶う前に、過去の残滓となってしまったのだろうか。
 冴島・類(公孫樹・f13398)は緩く首を振る。どちらであれ、このような形で花嫁が彷徨うなど、彼女と想いを交わした誰かもやり切れまい。
「……ん?」
 視界で素早く動いた柔らかな茶色。肩から指先へと駆けた灯環が、すくっと後ろ足で立ち上がり目を輝かせている。隠れんぼと聞いてからずっと灯環は「任せろ」と自信満々だ。
「見つかったら駄目、なんだからね?」
 すぐさまチチッと返った鳴き声はやっぱり自信満々である。
「ふふ。それじゃあ行こうか」
 しゃがんでいた類が立ち上がると、灯環もふわふわの尻尾をぴんとさせ、しゅたんと床に降りた。いっとき隠れるのに選んだ場所は大きなピアノが置かれた防音室だ。左右を素早く確認し、あっちに行こう、と自分を見上げた灯環と共に外に出れば、長く伸びる廊下には幾つかドアが嵌められていた。
 うすらと浮かび上がる様は、無言で佇むだけのようでいて、見えぬ先へと手招くようでもある。ノブが回されるのをじっと待っている風にも思えた。
 その一つ一つに。そして廊下の先と、自分達が顔を覗かす部屋よりも後ろ。そこに何も居ない事を確認してから、類は忍び足で廊下をゆく。その足元をぴょこぴょこと行く灯環は、類を先導しているつもりなのだろう。ついてきてる? と言いたげに見上げられる度、類は静かに頷いて――背の高い壺台座の陰へと灯環と共に身を隠した。
(「居る」)
 隠れてすぐ、長く続く廊下の先、ふわりと滲み出るように見えた美しい花嫁衣装。二色の、紫陽花色の髪。純白のドレスに血の赤を散らし、辿々しい鼻歌交じりに過ぎていく花嫁が見えた。どうやら此方には気付いていないらしい。
 ならば――追われる立場たる此方が、罠を仕掛けよう。


「……あら?」
 暗く埃っぽい廊下に点々と在る真新しい赤に花嫁は足を止めた。これは、と見つめ赤色を追い――それがとある部屋へ続いているのを見て、ぱっと表情を明るくする。顔の上半分は、相変わらず花に覆われているけれど。
「これじゃあ隠れんぼがすぐに終わってしまうわ」
 くすくすと楽しげな声に宿るは愛情と、意識出来ているかどうかも危うい殺意。花嫁はブーケを片手にドアの前に立ち、そうっとノブを回して開けていく。その先は真っ暗で血の赤はすぐに見えなくなっているが、花嫁は気にせず中へと入っていった。
「……わかるわ。此処に居るのね?」
 手にしたブーケから花弁をいくつもこぼし、暗闇の中に紡ぐ風の音。髪とドレスも仲良くそよいで音を立て――背後から喉元へ、一瞬で現れた血色の刃がそれら全てを断った。


「すまない。君の隣には、並べない」
 倒れた花嫁の傍らで類は呟く。小指の銀環を無意識に撫でるその心に浮かぶのは、柔く温かな、愛しい笑顔。己が誓う、唯一のひと。
「けれど君が眠った先で……君が望んだ相手と再会できますように」
 愛する人との|幸せ《未来》を願う。
 死の先で、奪われたままのそれが叶うくらいの奇跡は、この世界にも在っていい筈だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

青和・イチ
「不死の花嫁」、ね…
居場所の雰囲気としては、最高にいい感じだけど…
|あんな獣《デスギガス》に利用されてるって事自体、気の毒すぎ
もう、狂ってしまった夢は、終わりにしないと

何度も殺さなきゃいけないなら、
寧ろ、こっちから見つけ出したい所
くろ丸の嗅覚と、僕の暗視や第六感でも利くかな
白い花嫁なんて…闇の中では灯りみたいなものだよ

遭遇したら、迷わずUC【迷星】で攻撃
多少の反撃が来ても、火は消さないよ
相手が燃え尽きるまで耐える
くろ丸にも、加勢して貰おうかな

相手に見つけられた場合も、逃げずに戦うよ
ひたすらに殺し続ける
それが、僕の使命


―夢の続きは、眠ってから見なよね



 どろりと崩れかけている蝋燭。閉じたカーテンの隙間。それらによる光で様々な輪郭がぼんやり浮かび上がる様は、『いかにも』な雰囲気だ。
 曲がり角でくろ丸と一緒に足を止め先を窺った青和・イチ(藍色夜灯・f05526)は、長い廊下に点々と並ぶ燭台と花台を見て、人が並んでるみたいだとぼんやり考えた。
「『不死の花嫁』、ね……居場所の雰囲気としては、最高にいい感じだけど……」
 とん、と鼻で手を押してきたくろ丸に目をやれば、とびきり凛々しい顔が見上げている。
「そうだね。|あんな獣《デスギガス》に利用されてるって事自体、気の毒すぎ」
 くろ丸の頭を撫でて見下ろした先、埃に覆われた床に残る靴跡は一人分。その両サイドには何かが擦れたような跡。その二つは綺麗に並んだまま奥へと向かい、突き当りの階段を上っていた。
「行こう。もう、狂ってしまった夢は、終わりにしないと」
 その為に、此処へ来た。


 上の階も同じようなものだった。けれど蝋燭の火でも照らしきれない廊下の先、ぽかりと開いた闇色の口。ドアのない部屋という、下の階とは決定的に違うそこから楽しげな鼻歌が聞こえていた。少女のような、高い声だ。それから。
(「居た」)
 闇に染まった室内にふわりと浮かび上がるようにして見えた、花嫁衣装の白。
 ふいに見えた白を恐ろしいとは思わない。寧ろ助かった。此処と示してくれる灯りじみたその色へと、イチとくろ丸は足音を殺し近付いて――


「其処に居たのね?」


 突然だった。ドアのないそこに、横からぬうっと現れた花嫁の顔。生き物のように蠢いたブーケから巻き起こった花弁の嵐。けれどイチは青い双眸に花嫁の姿を淡々と映したまま、灼熱の青を放ち廊下を染め上げた。
 花弁の嵐と青い炎の奔流。双方がぶつかった瞬間、廊下の空気が大きくたわむように揺れ、それぞれの術者を痛みが苛む。
「っ……全部は燃やせなかったか。でも」
「ああ、どうして、あなた……!?」
 炎に襲われた花嫁の悲鳴と呼応するように、ぎゅうと握られたブーケがぞわわと動いた。イチはすぐさま炎の群れのいくつかを一纏めにし、花嫁とブーケ、それぞれを容赦なく焼きにかかる。
「くろ丸」
 短く呼べば、頼もしい相棒が炎食いつく花嵐の下を風のように駆けた。相棒に花弁一枚も向かわせない。イチはより厚くした炎を次々に叩きつけ、くろ丸が飛び退いてすぐに全ての炎を一つにする。
 とろりと透き通った灼熱の青は花嫁の悲鳴までも呑み込みながら、何度目かの死を刻みつける。白い肌は燃え尽きた灰に変わり、純白のドレスには燃える赤色の縁持つ黒が加わった。
 だが、イチはくろ丸と共にそこに留まる。不死の花嫁ならば――。

 ぱきっ

 固い何かが罅割れる音。身じろぎする焼死体。
 聞いた通りの即復活に、イチは感心するように目を丸くしただけだった。まあいっか、聞いていた通りだし。それに。
「何度でも、ひたすらに殺し続けるだけだよ。それが、使命だから。――けど、」

 夢の続きは、眠ってから見なよね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クロード・ロラン
何度でもやっつける、だけなら楽勝だと思ったんだけど、かくれんぼつきか
ま、こういうのも楽しいかな

素早さや身軽さには自信がある
隠れる時は死角になるところ……高いとこを選ぼうか
棚の上に身を潜めたり、照明にぶら下がったりもしてやろう

……いやでも暗闇の中でこの敵は、ちょっと恐いな!だいぶホラーだな!
やべー今見つかりそうだった!
冷や汗かきつつスリルを楽しむ気持ちも少しだけ

敵が近付いてきたら素早く降りて背後に回り込む
おう、花嫁さん
……俺はお前のお相手じゃねえよ、これでもくらえっ!
UCで攻撃を畳み掛けて、何度でも殺してやる

同情なんてねえよ
俺の故郷、この世界を解放するためオブリビオンの咎を全部ぶっ潰すんだ!



 デスギガスの欠落を守る番人は、不死身の花嫁。ただし殺し続ける事で不死性の破壊が可能になり――つまり、何度でもやっつければいいという事だ。わかりやすい。それだけなら楽勝とクロード・ロラン(黒狼の狩人・f00390)は思っていたのだが。
(「かくれんぼつきか。ま、こういうのも楽しいかな」)
 子供の遊び、その延長と捉えるにはなかなかスリリングな事になっているが、クロードは金色の目をニヤリと細め、狼尾を静かに揺らした。
 暗い視界に広がるのは整然と並ぶ本棚の群れ。書庫を満たす本棚の高さは、ここ数年でだいぶ背が伸びたクロードよりも遥かに高かったが、クロードはジャンプ一回で本棚のてっぺんに軽々と飛び乗り、現在は意気揚々と花嫁から隠れている。
 ちょっと移動するか。悪戯っぽく笑って隣の本棚に移った時だ。狼耳が足音を拾ってぴんっと立つ。キィ、イ。ゆっくり開かれていくドアが嫌な音を立てた。
「あなた。何処に居るの?」
 可愛らしい声と共に開かれたドアから入って来たのは噂の花嫁だった。あちこち焼け焦げ、出血の跡も残る純白のドレス。歩く度にぽろぽろ剥がれ、本来の白を覗かせていく灰色の欠片は――皮膚だ。どうやら他の“花婿”に容赦なく燃やされたらしい。
 これは。暗闇の中で見る花嫁は、ちょっと恐い。
(「あの状態でアレだろ、てことはそれ以前の状態でも……うん、だいぶホラーだな!」)
「あなた?」
(「うわやべー!」)
 振り向いた花嫁の両目を隠す花がさわさわ揺れる。が、慌てて引っ込んでいたクロードはそれを見逃していた。
(「今見つかりそうだった!」)
 髪も耳も服も黒くて助かった、なんて冗談を飲み込み――今度は慎重に様子を窺う。
「居るのね、あなた。此処なのね? もう待ちきれないわ」
 嬉しい。幸せ。愛してる。そんな想いがたっぷり込められた言葉を受け取るものは、どこにもいない。その姿を見つめる金の双眸はただただ静かで――音も立てず、本棚から花嫁の背後へと飛び降りた。
「おう、花嫁さん。……俺はお前のお相手じゃねえよ、これでもくらえっ!」
 振り向いた途端笑顔に染まった唇と声へ、クロードははっきりと告げながら手にした大鋏をぐるんと振り上げ刃を開く。違うと判らないほど狂気に染まった心ごと断つように、花も、ドレスも、復活して柔らかさを取り戻した皮膚も――花嫁の全てを殺しに行った。
「どうして、どうしてなの」
 出逢い、惹かれ合い、想いを伝えて、求婚されて。そうして結ばれる筈だった誰かが、この花嫁には居たのだろう。それは同情に値する過去ではあるが。
(「しねえよ、そんなの」)
 吸血鬼と異端の神々が蔓延る常闇の世界、自分の故郷であるダークセイヴァーをオブリビオンから解放する。その為ならば、どれほど強大な闇が現れようとも止まりはしない。現れる全ての咎を、この手で潰すだけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
そうね、楽しみね
その日が来るのも
これからの未来を想うのも…
素敵な衣装と可愛いブーケ
でも、ダメよお相手を間違えては
やんちゃする為にお洒落した訳じゃないでしょう?
花婿さんも心配してるよ

私は違うわ
花婿さんじゃなくて、花嫁さんになるの
今年のね実りの季節に
…きっとアナタと同じキモチ
だから、思い出してほしい
添い遂げたいと望んだコを

アナタが隠れん坊を楽しんでいる間に
一部屋か、室内を中心に見ているなら
バルコニーの隅に隠れ、UCを確り紡ぐ
浄化と、破魔の力を借りて縒った糸で
見つかった瞬間にぎゅっと捕縛
そのまま動けないよう怪力と不思議な薔薇の挿し木の茨も巻き付け
生命力吸収で力を奪い、その力も利用し
おやすみを届けるわ



 ボロボロになった花嫁が、ボリュームを減らしたブーケを両手でぎゅうっと抱き締めるようにして語る。ずっとずっと、この日を夢見ていたの。あなたと私が、恋人から夫婦に変わる日を。
「大好きよ、あなた。だから、出てきて頂戴」
 花婿様の姿を、どうか見せて。可愛らしいおねだりの声と共に何かがズドンと壁を撃った音に、城野・いばら(白夜の魔女・f20406)はそっと視線を伏せた。
(「そうね、楽しみね。その日が来るのも、これからの未来を想うのも……」)
 ダークセイヴァーという過酷な世界であっても、名も知らぬ娘は巡り逢った運命に心を煌めかせ、ささやかな幸せを夢見ていた筈。だからこそ、いばらは敢えて姿を見せた。
「素敵な衣装と可愛いブーケね。でも、ダメよお相手を間違えては。やんちゃする為にお洒落した訳じゃないでしょう?」
 花婿さんも心配してるよ。小さく浮かべた笑みに花嫁が焼け焦げたドレスの裾を摘み、その場でくるりとターンする。
「嬉しい……! 早くあなたに見せたかったの! ……あ。でも、このブーケは。そう。ふふ、次の花嫁さんに。ね、あなた。上手に投げられるよう、祈ってくれる?」
「私は違うわ。花婿さんじゃなくて、花嫁さんになるの。今年のね、実りの季節に」
 想いを交わして、重ねて、これからも先をと願われ、頷いた。
 いばらは誓いの証を指先で撫でる。煌めく輝石は自分と彼の色。胸の裡、自然と芽吹いて心を満たす温かさにふわりと咲い、首を傾げる花嫁を見た。
「……きっとアナタと同じキモチ。だから、思い出してほしい。添い遂げたいと望んだコを」

 何ていうお名前だった?
 お顔は? 声は?

 抱えていた筈のものを、何処に落としてしまったのだろう。
 ひらりと駆け出したいばらから遅れて、花嫁もドレスの裾を摘んで走り出した。
 待って、あなた。何処へ行くの。始めは必死だった求める声は、すぐに隠れんぼを楽しむ声に変わっていく。覚えていない事を忘れている。その様に切なくなりながらいばらは花嫁をぐんぐん引き離し、まずはここ、と感じた部屋にお邪魔した。わかるよう、ドアは敢えて開けたまま。
 天蓋付きのベッドに、猫脚の棚と化粧台。寝室だ。天井からすとんと落ちて閉ざしているカーテンの先には、がらんとしたバルコニーが広がっていた。ここなら、と思った時に耳を擽る花嫁の声。近付いてきている。
「お邪魔させてね」
 バルコニーの隅に隠れて紡ぐは、悪いものを遠ざけ祓う力を確り込めた魔法の糸。暗い世界でも輝くようなそれは、あなた、と呼ぶ声にぴんッと張った。
「見付けた。其処ね!」
 喜ぶ声と共に開かれたバルコニーへのドア。そこから現れた花嫁を魔法の糸と怪力でぎゅっと捕らえ、薔薇の挿し木の茨も、さあどうぞ。尽きぬ想いも過去から戻ったその生命力も、揃って吸い上げよう。
「アナタの結婚式には参加できないけれど……」
 描き続けた夢、愛しい誰かの元へ辿り着けるように。
 これまでに刻まれたものに並ぶ、おやすみを。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルファ・ルイエ
お婿さんがいたなら、きっと花嫁さんのこんな姿は見たくないでしょうし……。
花嫁さんだって、綺麗な姿を見て欲しかったはずですもの。
もうおやすみにしましょう。

家具の下なんかは翼があるせいで相性が悪いですし、隠れるならクローゼットの中……、は見つかった時に逃げ場がないですから、シャンデリアの上辺りでしょうか。
見つかっても飛んで逃げられますし、きらきらしていて眩しくて、見つかりにくい気がします。
あとは書斎の本棚の上なんかも。
相手には見つかり辛くて、こちらは相手の姿が見えるような場所を探しましょう。

迎え撃つなら、【白花の海】で。
花嫁さんにはお花ですから。
眠るのなら、せめて見たかった夢を見られますように。



 禁獣の戯れが加わった為に、愛する相手が誰なのかも忘れた花嫁は狂気の中。今も彷徨い続ける存在に、シャルファ・ルイエ(謳う小鳥・f04245)は悲しげに伏せていた顔を、そっと上げた。
(「お婿さんがいたなら、きっと花嫁さんのこんな姿は見たくないでしょうし……。花嫁さんだって、綺麗な姿を見て欲しかったはずですもの。もうおやすみにしましょう」)
 シャルファは空色の瞳に決意を浮かべ、ドアノブに手をかけた。出来るだけ音を立てないように開き、自分一人が通るのに十分な隙間が出来てすぐ、中に入る。
 まず目に入ったのは大きなテーブルと、テーブルを挟んで向かい合う椅子二脚。続いて壁にくっついている本棚が一つと、クローゼットが一つ。
(「ここで隠れるなら……」)
 枯れた花々が満たす花瓶と燭台が並ぶ台と、同じく燭台が置かれたテーブルは翼を持つ自分とは相性が悪い。真っ先に除外し、だったらクローゼットの中――と考え、首を振る。
(「見つかった時に逃げ場がないです。確実にやり過ごせる保証があれば違ったんですけど……」)
 それじゃあ、と視線を移していた時だ。あなた、あなたと呼ぶ声にシャルファは肩を跳ねさせた。近付いてきている。
 急いで室内を巡った視線は、天井から吊り下がるシャンデリアでぴたりと止まった。
 部屋に入ってまず見るのは前方か左右だろう。真っ先に上を見る事は少ない筈。それに見つかったとしても、翼持つ自分なら飛んで逃げられる。
 暗闇に星々を浮かべる小島めいたシャンデリアへと飛んだシャルファは、天井と繋ぐ頑丈なパーツを掴み、カーブを描いて伸びる枝めいたそこに足を乗せた。僅かに揺れたシャンデリアがしゃらりと綺麗な音を立てたが、ドアが上手く消してくれたらしい。キィイと引きつったような音を立てて開かれたドアからやって来た花嫁の目は、上ではなく前に向いていたからだ。
(「普通に開けてたらあんな音がしたんですね……」)
 少し前の自分に拍手を贈りながら、シャルファはゆっくり歩む花嫁を見下ろした。
 焼け焦げ、赤い染みが出来た純白のドレス。乱れた髪。夢見た日の為に着飾ったのだろう姿は何人もの花婿によって様変わりしている。それでも。
「此処に居るんでしょう?」
 覚えていない事すら忘れた花嫁の心と、欠落の番人という性質。二つが混ざって出来た狂気が求めるものを――自分なら、届けられる。
「歌……? まあ……!」
 頭上から降った優しい歌声が芽吹かせたものが、花嫁の視線をシャルファから周囲へと移させる。暗い室内を塗り替えていく柔らかな白。どこまでも広がる白い露草の花畑に、花嫁の心は喜びに染まっていた。
「ねえ見て、あなた! とても綺麗!」
「良かったです。花嫁さんには、お花ですから」
 無邪気に喜ぶ花嫁の胸元に浮かぶ紋章は終わりが近い印だ。ならばその瞬間に――眠りが訪れた時、せめて見たかった夢を見られますように。シャルファの願いは花にとけ、次の花婿へと繋がっていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

比良坂・彷
さァ騙り愛ましょう?

新郎タキシード
自分の花を消し赤紫の紫陽花飾り

常にUC虚実欺騙で語り仕込む
―でも今は貴女が報われればいいと願ってるよ、本当だよ?
俺は俺を騙しそんな『|僕《花婿》』を構築する

「遅れてごめんね、愛しい■」
名を答えられず斬られ
「僕は貴女のお気に召す儘―今は名もなき貴女の花婿」と騙り逃れる

羽ばたき上と見せ掛けテーブル下へ
血痕残し辿れるように

見つかり恐怖に震え
「どうして愛してるのに」
「止めて、死にたくないッ」
泣きじゃくり愛しているのにと嘆く
死のギリギリで一転高揚、抱きつき膝蹴り
「なら地獄で結ばれましょうよ。僕はひとりにしないで」
「ねぇ花婿は本当にこんな顔だった?こんな声だった?」
「――本当にこんな|『 』《ナニモナイ》男だったかい?」
混迷に導き〆に頭突き

あはっ!何もない方がいいよね?どうせあんただって俺なんて見てないんだから

口づけギリギリで煙草を咥えて火をつける
紫陽花を外し|彼岸花《想うは1人》咲かせ
紋章を握りつぶし生命力奪う
「ごめんね、怪我して帰ったらあの子に怒られちゃうから」



 愛する人を探している花嫁が居る。
 しかし、出遭う皆全て愛した相手と思い、骸の海へ連れゆこうとする。
 全ては愛の為。欠落を守る為。混ざりあった二つは一つになり、病める時も健やかなる時も一緒だという噺。何もわからない花嫁は永遠に独りぼっちという噺。

 どうすればいい?
 こうすればいい。


 ――さァ騙り愛ましょう?

 蝋燭の灯りでぼんやり照らされる闇の中、比良坂・彷(天上随花・f32708)は花嫁へ知らせるように靴音を鳴らし、堂々歩く。
 夢見た瞬間がこうなるとは思ってもいなかったろうに。無邪気な禁獣がいなければ、少しはマシだっただろうに。可哀想に。可哀想に。
(「――でも今は貴女が報われればいいと願ってるよ、本当だよ?」)
 そういう風にした。自分自身を騙せば、花嫁が求める『|僕《花婿》』の出来上がり。
 床をかつんと鳴らす靴は、丁寧に磨かれて埃知らず。身を包む花婿衣装は貴女の隣に相応しい白一色。花だってほら、この通り。白彼岸花? 違う違う。|花婿《僕》の花は、色鮮やかな赤紫の紫陽花だ。
 大切な日の為、貴女が夢見ていた瞬間の為。とびきりめかし込んだ姿で迎えに行く。
 可愛らしい声がした方へ迷わず向かえば、そこは宴の準備をとっくの昔に終えた部屋だった。
 長いテーブルが間を空けて並び、白い布がかけられたテーブル上には花瓶に生けられ萎れてくたびれた花々と、火を揺らす随分と、随分と背の低い蝋燭、それからどろりとした茶色だか白だか黒だか――そんな食事が並んでいる。
 それから、弾かれたように振り向いた花嫁が独り。
「遅れてごめんね、愛しい■」
「まあ! あなたったら、お寝坊さんなだけじゃなくて忘れん坊さんなの?」
 いつものように私を呼んで頂戴? はにかんだ花嫁から、名前を答えられなかった花婿へ。渦巻きながら広がった紫陽花の花弁が大きくうねり、花も蝋燭も食事も薙ぎ倒して花婿へ殺到する。ガシャン、びちゃりと音が響く中、彷はごめんねと繰り返し羽ばたいた。
「僕は貴女のお気に召す儘――今は名もなき貴女の花婿」
 旋回して――上へ? いやいや、テーブルの下へと素早く隠れん坊。嗚呼けれど、少しばかり肌を裂かれて、ぽたりぽたりと薔薇の花びらめいた痕が残ってしまった。拙い、これでは――。
「見付けたわ」
 見付かった。見付かってしまった。
 ころされる。
 目元を覆い隠す紫陽花がすぐそこでさわさわ揺れている。
 翼と紫陽花を生やした花婿は恐怖に震え始めた。
「どうして愛してるのに」
「ええ、私も愛してる。だから誓うの、永久にあなたと居たい」

 病める時も
 健やかなる時も

 死が、二人を分かつとも

「止めて、死にたくないッ」
 顔の紫陽花。ブーケの紫陽花。どちらも生き物じみて蠢くのは何故だ。
 こっちへ来ないでくれと腕を振り、泣きじゃくりながら「愛しているのに」と、恐怖と絶望のままに嘆く。愛したひとが恐ろしい。愛したひとに殺される。紫陽花のブーケが此方へ向けられている。花が、羽ばたいていく。嗚呼、なんて悲劇的――

 なァんて

 涙に濡れた緋色の目が一転高揚。拒絶していた花嫁に抱きつき膝蹴りを贈りつけた花婿は、テーブル下から転げ出た花嫁の可憐な唇からこぼれた悲鳴を聞いて、緩やかに目を細めながら細い肩を掴んだ。
「なら地獄で結ばれましょうよ。僕はひとりにしないで」
「ねぇ花婿は本当にこんな顔だった? こんな声だった?」
 花の下に隠れた花嫁の目が彷を見る。彷の声に、捕まっている。
 追いかけてきていた時とは大違いな様に彷はこてん、と首を傾げて告げた。


「ねぇ、君。――本当にこんな|『   』《ナニモナイ》男だったかい?」


「――あ、っ」
 紡がれかけた音が、笑い声にかき消される。
「何もない方がいいよね? どうせあんただって俺なんて見てないんだから」
 口吻の寸前で咥え、火がつけた煙草に点った赤がより強くして。花婿の紫陽花を外し咲かすは|彼岸花《想うは一人》。もう片方の手は花嫁へと伸び――細い腰を抱くのではなく、胸元に現れていた紋章を握り潰した。
 花嫁の口が、喉が、ひきつるような音を捻り出す。声にならなかった悲鳴に彷は申し訳無さそうに笑い、小首を傾げた。
「ごめんね、怪我して帰ったらあの子に怒られちゃうから」

 だから、此れにてお仕舞い。
 求めた永久の元へ、どうぞ、お還り。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月20日


挿絵イラスト