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壱〇八カプリッチオ

#サクラミラージュ #幻朧戦線 #グラッジ弾

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●刺激を求めて
 彼の瞳は真っ赤に血走り、目元には隈が色濃く浮かんでいた。
「刺激……刺激……刺激……」
 覚束ない足取りで人波をゆく彼は、ぶつぶつと口の中で唱える。
「……刺激が……足りない……圧倒的に、足りない……っ」
 すれ違い損ねて肩がぶつかった女学生の初々しい顔を見て、一瞬だけ目を輝かせた彼は、しかし彼女が詰襟姿の青年を伴っているたことに口惜し気に眉根を寄せ、足を急がせた。
「あぁ……平々凡々な恋愛も、悪くはない。でも、自転車でぶつかった誰かと恋に落ちるとか……そういう、刺激がっ……」
 人波を縫いながら、彼はぶつぶつと唱え続ける。
 買い物かごを下げた割烹着姿の主婦を目にしては「そこはフリルエプロンをっ」とか。
 塀の向こうに教壇に立つきちんとした身形の男を垣間見ては、「眼鏡が足りないっ。いっそ粗暴な教師でも新たな物語が生まれるだろうに」とか。
 彼は何もかもに焦れているようだった。変わらない現状に飽き、刺激を求めているのだ。
「圧倒的萌え不足! スリル不足! ドキドキ不足!! みんなもっと本能を炸裂させて煩悩のままに生きるべきなのにっ。この泰平が停滞を促しているっ。やはりこの大正の世を終わらせねば……終わらせねば、刺激は……!」
 そんな彼の手には、多くの人々の平穏な日常を壊し得る危険な銃弾が握り締められていた――。

●人の数だけ妄想はある
「拗らせ男子だね、主にサブカルチャー的方面で。せめて適度にガス抜き出来れば良かったんだろうけどね」
 それが出来なかったということは、拗らせが度を逸しているか、これまで同好の志に出逢えずにいたか。ともあれそんな考察はさておき、いつものあっけらかんとした笑顔で連・希夜(いつかみたゆめ・f10190)は本題に入る。
「彼が持ってた弾丸は、グラッジ弾っていう今は使用が禁止されてる非人道的な『影朧兵器』っていうやつでね。この弾丸を受けた人は強い恨みを浴びて周囲に影朧を呼び寄せてしまうんだって」
 どうして『彼』がグラッジ弾を入手するに至ったかまでは希夜には分からなかったが、少なくとも『彼』が帝都に出現することだけは確実だ。
「真っ赤な改造青年将校服を着た、だいたい二十歳くらいの青年(ひと)だよ。スケッチブックが山ほど入った手縫いのバッグを肩から下げてたと思う。あと、黒い鉄の首輪をつけてた」
 頗る人目を引きそうな格好ではある。だが思いのほか存在感を消すのに長けているらしく、多くの人で賑わう帝都では『彼』を発見するのは容易いことではない。
「でも、彼は刺激に飢えてる。つまり、彼の煩悩を刺激するような何かがあったら、きっと向こうから姿を現してくれると思うよ」
 皆迄言わすな☆ 後は察して☆
 いつも以上にキラキラしい笑顔を振りまき、希夜は猟兵たちに安定の無茶ぶりをしかけるのであった。


七凪臣
 薄い本が厚くなる季節デスネ、七凪です。
 今回は『皆さん』を登場人物とした萌え・刺激ある『創作物語』で『彼女』を誘き出し、対処するというお仕事をお届けに参上しました。

●シナリオ傾向
 発想次第。
 (『彼』は雑食なので、ジャンル不問)

●シナリオの流れ
 【第一章】日常。
 …PC設定は通常のまま、『希望ストーリー展開』をプレイングで受け付けます。
 【第二章】冒険。
 …いわゆる『パロディ』もの(例:学パロ)。『PCさんのIF設定』をプレイングで受け付け、そこから膨らませた物語をお届けします。
 【第三章】集団戦。
 …指定は『希望ストーリー展開』でも『PCさんのIF設定』いずれでも構いませんが、シチュエーションが≪戦闘≫に制限されます。

●プレイング内容
 1章は『希望ストーリー展開』を。
 2章は『PCさんのIF設定』を。
 3章は上記のどちらかをお送りください。
 口調を間違わない為、参考台詞も幾つかあると助かります。
 また『こういうのだけは止めて』ということがありましたら、忘れずご記入下さい。

●プレイング必須事項
 【1】どこまで『創作OK』なのか以下の記号で示してください。
 🍀…プレイング設定ならびにステシPC設定に忠実に。
 ♦…基軸はプレイング設定。多少のお遊びはOK。
 ♠…プレイング設定・ステシPC設定から膨らませるのも可。
 ♥…好きにやっていいのよ(何があっても怒らないよ)!
 ※♥は既に幾度か私の依頼に参加して下さった方向けです。

 【2】ソロ参加者の他者との絡み可・不可。
  ○…OK。
  ×…NG。
 (NGの場合、名無しのAさんが登場する可能性があります)

 【3】創作物を目にした時のPCさんの反応。
 …オチで使いますので、必ずご指定下さい。

●ジャンル等
 各種設定・希望ジャンル等に制限はありません。
 とはいえ舞台がサクラミラージュなので、サクラミラージュ文化で想定・想像(妄想)し得るシチュエーション優先で。
 カップリングもの(NL・GL・BL)も可能ですが、公序良俗に反するものは書きません(プレイングをお返しします)。
 雰囲気醸す程度やブロマンス・ロマンシスであれば歓迎(ただし私の嗜好から大きく外れていると採用を見送る可能性もあります)。

●NGネタ
 申し訳ありませんが、死にネタはNGです。

●プレイング受付期間
 各章、マスターページとTwitterにて受付期間をお知らせします。
 受付期間外に頂いたプレイングは一律お返しいたします。

●採用人数・その他
 書ける時に書けるお話を少しずつ、のスタンスになります。
 グループ参加は二人までとします。迷子防止のお名前記載をお忘れなきよう。
 どの章でも単発参加歓迎です。
 POW/SPD/WIZはお気になさらず。

 七凪に『うちの子で存分に遊んでいいよ!』という心の広い方々をお待ちしております。
 どうぞ宜しくお願い申し上げます(五体投地)。
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第1章 日常 『こ……これが噂の超弩級サアビスチケット!』

POW   :    情熱的に考えて自分の望みは…

SPD   :    効率的に考えて自分の望みは…

WIZ   :    理論的に考えて自分の望みは…

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●沼の入り口
 ――皆迄言わすな、後は察して。
 と、云われた処で。はたして煩悩を刺激するような≪何か≫とは何なのだ。
 頭を抱えた猟兵の手には、転送間際に渡された一枚のチケットが握られていた。
 そのチケットの名は『超弩級サアビスチケット』。帝都で活躍した証としてもらえることもあるらしいとかいうチケットで、超弩級のサアビスが受けられるらしい。
 果たしてこれをどう使えと?
 新たな悩みに天を仰ぎかけた猟兵の目に、風変わりな店の看板に書かれた売り文句が目に入った。

 ――あなたの物語、お紡ぎします。如何なる妄想も、思いの侭。

 ……よくわからないが、希望する物語を書き記してくれる店らしい。
 なるほど、この店ならば煩悩を刺激するような物語を書いてくれるかもしれない。
 若干、釈然としないものとかご都合主義すぎないかとか思わないでもなかったが、猟兵は店の扉を開ける。

「いらっしゃいませ。ご希望のお題は何でしょう? どんな物語でも喜んで。ああ、でも。三日三晩かけるわけにはいきませんので、くらいまっくすな場面でお届けすることになりますが」
 眼鏡をかけた、いかにもな中年の女が、原稿用紙を前に硝子ペンを手にして、にっこりと微笑んだ。
「お代はそちらのチケットで。どうぞあなたの思いつく限りのお望み展開を、語ってください。片鱗だけでも良いですよ」
黒門・玄冬
♥○

苦い笑いを胸中で噛みしめる
けれど餌というなら、喜んで身を投げ出そう

…僕の、物語
僕の望み

『こう』なる前は、
学者になって本に囲まれて暮らしたかった
憧れていた
けど
多分それだけじゃない

不通に勤め、生活をして
温かな日向で安寧な日々を送る
きっとそんな日々の中でも
衝突やトラブルはあるのだろう
時に悲しい別れもあって
でもそれによって、人と人との距離が近づくこともある
家族は大切だけれど…それ以上の人が現れ
愛するのか、恋なのかは解らないけれど
そういった人に出逢って
新しい家族をつくる
その温かさを感じながら懸命に生きる
物語の僕

静かに手に取り読み終えたら
ありがとうと御礼を云うよ
どこまでも淡く甘く眩むような
夢物語だ



●ありきたりの日々
 窓枠で切り取られた光が、箔押しされた銀色の文字を茜色に染めている。
 美しく心温まる光景だ。しかし本の傷みを避けるため、玄冬は分厚いカーテンを引く。
 す、と。静かに落ちた闇に、手を伸ばしても届かないぎりぎりの距離に立ち尽くしていた女が身を竦ませた。
「あっ、あの……」
 小刻みに震える女の肩を何故だか抱き寄せたくなった玄冬は、引き攣れた女の声に我に返る。
「本当にすみませんでしたっ。勝手に本を持ち出して……売ってしまって」
 元々俯いていた女が思い切り頭を垂れると、随分と小さく見えた。まるで子どもみたいだと、場に似つかわしくない感想が玄冬の脳裏を過る。
 彼女のしたことは、図書館長たる玄冬にとっては断じて許せることではない。
 失われた書物は貴重な歴史書だ。写しを手に入れる事も容易ではあるまい。だがかつて父が虜になった書を彼女が欲し、父との軋轢から反射的に本を処分してしまった気持ちは、理解できる気がしたのだ。
 しかも彼女は一度は手放した本を懸命に探し、もう手が届かないと悟ると、記憶をかき集めて書の再生を試み、そうして頭を垂れに来た。
 それが体裁を取り繕う為だけの行為でなかったのは、足しげく図書館へ通い類似の書を片っ端から読み耽った彼女を見て来た玄冬だから分かること。
「――」
 黒い布張りの表紙に銀糸でタイトルを縫い取られた本を手に、玄冬は言葉を探して惑う。
 ――相応の罰を科せば、彼女は救われるだろうか?
 ――許すと言えば、彼女は二度と図書館を訪れることはなくなるだろうか?
 物心ついた頃から本に埋もれて育ち、今もこうして本に携わる者として、適さぬ事を考えている気がする。あの書物には、玄冬もまだ読み解きたい事が山のようにあったのだ。
 だのに、何故。
「……あの……?」
 物言わぬ玄冬に、女がおそるおそる顔を上げる。そこに閉館まで本と額を突き合わせていた彼女の横顔を重ね、寡黙な男は本を握る手に力を篭めた。
 胸の内に育ちつつある感情に、名前はまだない。
 それがやがて花開くのか、萎れて枯れるだけなのかもわからない。
 それでも玄冬は古い本の香りに満たされた薄暗がりで、微笑んだ。

 綴られた平凡な日常の延長線上にある物語に、黒門・玄冬(冬鴉・f03332)は僅かに頬を弛める。
 果たしてこの『玄冬』の未来はどうなるのだろうか。もしかすると『彼女』と愛を育み、新たな命を迎えたりするのかもしれない。
 それはひどく淡く甘く眩むような物語。
「ありがとう」
 極上の、けれど決して現実になりえないだろう夢を見せてもらった心地に、玄冬は綴り手へと穏やかに礼を告げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリストフ・ポー
煩悩願望妄想?
何々面白そー☆
そうだなぁ

僕はついに宿敵のオブリビオンを追い詰めた
裏で糸を引いて僕の愛する人を奪った
超弩級に性根の腐り切った奴さ
姿は知らないけど…そうに決まってるよね
僕とそいつは崖の上で最期の決闘をする
仇をとっても愛した人は戻らない?
そんなのお互い承知じゃん
でも愛してるんだ
今だって、どうしようもなく
許せないなら
後は奪うか、奪われるかさ
そしてそんなハードでボイルドな舞台で
僕とアンジェリカは超絶クールに勝利して
落とし前をつけるのさ

獲ったどー!

【POW】
【1】♥【2】○
【3】むむむっ!
お嬢さん、一目見てやる感じだと思ったけど素晴らしいね!
スカッとしたっ!Merci beaucoup♪



●運命・邂逅
 谷底から吹き上がってくる風に癖の強い髪を遊ばせながら、クリストフは対岸の影をねめつけた。
 ずっと、ずっと。気が遠くなる程の時間、追い求め続けたシルエットだ。逆光に輪郭は溶けているが、見間違えるはずがない。
 逸る気持ちが、心臓を高く打つ。知らず上がりかけた息を、クリストフは深呼吸ひとつで気持ちごと入れ替えた。
「焦る必要はない――そうだよね」
 返る同意がないことは、クリストフ自身が誰より知っている。
 でも、必ず頷いてくれるはずだ。胸で揺れる銀のロケットに手をやり、クリストフはそこに収められた笑顔を思い出す。
 ――大丈夫。
 耳朶の奥に蘇る優しい囁きに、胸の奥が甘く温む。同時に、抑えきれない憎悪が沸き上がる。
(「そうだ、大丈夫」)
(「僕は必ず成し遂げる」)
 雲を掴むようだったのは、もう過去の話。追い続けた相手は、目の前に居る。
 血が、滾っている。視界が真っ赤に染まりそうだ。
「……いいや、染めてみせよう」
 こくり、と。クリストフは決意と緊張を飲み下す。
 始まりは、視界が真っ赤に染まったあの日。
 シャンデリアの灯を受けて煌びやかに輝いた血だまりに愛しき人が沈んだ、あの日。
 その首に、酷く悪趣味な所有の十字印が刻まれた、あの日。
 そしてついにクリストフは追い付いたのだ――仇敵に。
「死に急ぐとは、愚か――」
「征くよ、アンジェリカ!」
 聞えた嘲笑を引き金に、クリストフが十指を蠢かすと、純白の花嫁が空に踊る。
 途端、高を括っていた影がたじろいだ。
「そんなっ、お前にその人形が扱える筈が」
「いったい何時の話をしているんだい?」
 花嫁人形と共に空へと舞ったクリストフは、唇を舐め、鮮やかに微笑む。
 たったこれだけで、動揺する相手。
「――下らない」
 断崖を飛び越え、仇敵の際に着地したクリストフは、足元を攫う蹴りを繰り出しながら自嘲を笑む。
 あれほど怖れ、あれほど憎んだ相手なのに。探し求めた月日の間に、聳え立っていた山は、乗り越えられ得る壁となった。
 運命を翻弄された相手の運命は、最早クリストフの手の内だ。
「私を殺したとしても、時間は戻らぬぞ!」
「そんなこと、分かっているよ」
 バランスを崩して膝をついた仇が苦し紛れに吐いた台詞を、クリストフは遠くに響く鐘のように聞いた。
 そんなこと、言われなくたって分かっている。
 失われた命は戻らない。愛した人は記憶に残るのみ。二度とクリストフを抱きしめてはくれない。
 分かっている、分かっている。だが、それでも――。
「僕が君を許したくないだけよ」
 ――落とし前は、つけさせる。
 赤い瞳をぎらつかせ、クリストフはかつての恩師を睥睨した。

「この後は勿論、僕が超弩級のカッコよさとクールさで仇敵を斃すんだよね?」
 一目見て『出来る……!』と思った綴り手の仕事ぶりに、クリストフ・ポー(美食家・f02167)は白い頬を高揚に染める。
「悪くない、うん、悪くないよ! Merci beaucoup♪」

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
🐟櫻沫
❤〇

希望…
そうだな「痴話喧嘩と仲直り」かな
雨降って地が固まるように
物語のように仲直りできたらいいよ
そしたら絆はより深まるのだって
絵本に書いてあったもん

櫻宵!
この、サクヤの写し絵はなんなんだよ!
ヨルが持ってきたぞ!!
僕は全部捨ててっていったよな!?
何で如何にも大事そうに額に入れられてとってあるんだよ!!?

まさか…

今も好きとか
まだ未練が?!
こうしてやるっ!🔥🖼🔥

本当か?
ならもっと好きっていって!

仲直りのぱふぇは
密かに気になっていた最高級の苺とチョコがたくさんの大きいやつだ
甘くておいしい

そうだよ、
僕が櫻の一番なんだから!

(わかっているのに妬いてしまう
だって、独り占めしたいんだ)


こういう


誘名・櫻宵
🌸櫻沫
❤〇

え?!リルと喧嘩なんてあたししないけれど…噫、またなんか変な漫画読んだのね?
喧嘩後に仲直り、も美味しいかしら?

でもそうは言ってもいつだって仲良しで喧嘩の原因なんて――あーー!!!それ(元カノのサクヤの写し絵)、どこで?!
ヨルううぅ余計な事を!
リルは闘魚の男…縄張りを侵すものを許さないヤキモチ妬きの人魚

ご、誤解よ
捨てた捨てた!燃やした!
それはちょっと忘れてたというか
違うわよ
好きなのはリルだけよ!
過去よ!骸の海にポイするわ
ほんと!
誓って!
リルが好きよ!

ふぅ…
心配させてごめんね
仲直りパフェを頬張るリルを見つめ
笑顔に安堵の一息

(妬かれるのもまた可愛いくて嬉しいのよねぇ)

…みたいなやつかしら



●使い魔ペンギンのお節介?
「櫻宵!!!!」
 部屋に駆け込んでくるや否や放たれた鋭い声に、窓辺でうとうと舟を漕いでいた櫻宵は文字通り跳ね起きた。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと! この、サクヤの写し絵はなんなんだよ!!!!」
 リルは麗しく泳ぎ歌う人魚だ。ただしベタの――闘魚の。
 そして見た目はそんじょそこらの女子が裸足で逃げ出すくらいに綺麗で可愛らしいけれど、リルは男。つまりは、オス。
 闘魚のオスは縄張り意識を持つ。同じ水槽に二匹同時に投入しようものなら、威嚇ばちばちのフレアリング待ったなし。
 幸か不幸かリルにもこの性質はしっかりと受け継がれた――の、かもしれない。
「ちょっと、櫻宵聞いてるの!? 聞いてて無視してるの?! ねぇ、ねぇ、ねえええ!!!」
「っは!」
 尾鰭の一掻きでずずいっと至近距離に迫った烈火の如き怒り顔に、場違いながら『やっぱり綺麗だわぁ』なんて見惚れていた櫻宵は、びしぃっと鼻先に突き付けられた写し絵に我に返った。
 だらり、背筋を嫌な汗が伝う。
「……処分して、って言ったよね?」
 小鳥のように囀る唇が紡ぐ、冷え切ったトーンが恐ろしい。
「僕は全部捨ててっていったよな?」
 でも凄み増し増しのリルも――。
(「いやぁん、リルったら男前! 抱いて!!」)
「ってそうじゃなくてええええ」
 現実逃避か、はたまた実は虐げられたい派か(多分、前者だ)、内心と葛藤した櫻宵は我が身を抱きしめ悶絶し、セルフツッコミで我に返る。しかし、時既に遅し。
「そうじゃない? そうじゃないじゃないだろ! これはサクヤだろ!!!! 見え透いた言い訳はみっともないぞ」
 繋がらないはずの文脈を華麗に繋げ、火に油を注ぎまくったリルの怒りは、頂点を突き抜け、いっそ太陽さえ焼き尽くさん勢いだ。
 ――いけない。このままではリルが焼き人魚になってしまう。
 想定外の状況に思考をやや斜め上に飛ばしながら、櫻宵はひとまず落ち着こうと深呼吸をする。
 サクヤ、とは。言う迄もないが櫻宵の元カノだ。
 で、今カノ(今カレ? どっち?)は当然リル。
 そしてリルは、元カノの写し絵などの一切の処分を櫻宵に求めた。
 当然、現在進行形で『リル・ラブ!!』な櫻宵は元カノに纏わるものを廃棄した。
(「ん、もう。案外、ヤキモチ妬きさんなんだから♥」)
「ねぇ、何で如何にも大事そうに額に入れられてとってあるんだよ!!!?」
 またしても己の裡に没入しかけた櫻宵を、月光ヴェールの尾鰭がびたびたと叩いてくる。
 そうだ、今は幸せに浸っている時じゃない。
「誤解よ、リル。あたし、ちゃんと捨てたわ。燃やしたわ!!」
「嘘だ。残してた!!」
「偶然よ、偶然!!!」
「偶然? 偶然でヨルが見つけられる? 見つけてわざわざ僕の所に持ってくる!?」
「―――――――」
 ぎんっ。
 一瞬黙った櫻宵、入口の扉付近でぴょこぴょこしているペンギンを射殺さんばかりに睨みつけた。ヨルは櫻宵がリルのために喚んだペンギンを模した式神。つまり主は櫻宵といっても過言ではない。けれどもそのヨルは、今や『リルの一番近く』を争う、櫻宵最大のライバル。
(「ヨーーーーーールゥウウウウウウウ」)
 あいつ、ついに陥れに来たのか。末恐ろしい式神だ。
(「っていうか、本当にその写し絵どこから持って来たの!???」)
「……まさか」
 静かに繰り広げられる櫻宵とヨルの視線の鍔迫り合いには気付かず、リルはますます疑いをこんがらがせてゆく。
「今も、好きとか!? まだ、未練があるとか!???!!!?」
 この時、櫻宵は「きいいいいいい」というオノマトペをリルの背後に見た気がした。
「こうしてやる、こうしてやる、こうしてやる!!!!」
 ばりぃん。
 然して、派手な音を立てて額が砕け散る。そこへリルは容赦なく水を浴びせかけたかと思うと、やおら台所へ向かい、赤々と燃える炭をつきさした火かき棒を持ち出してきた。
「少し濡らしちゃったけど、写し絵くらい簡単に燃えるよね……いや、燃やす! 燃えろ、燃えろ、燃えてしまえ!!! 櫻宵は僕のものだ!」
 🔥🖼🔥(大・炎・上)
 普通だったら慌てるトコだ。けど、櫻宵は一味違う。
「――好き!!」
 我を忘れるくらいに怒り狂うのは、それだけリルが櫻宵のことを大好きな証。気迫に押されはしたが、ただの愛情表現だと思えば、櫻宵の中は幸福で一杯になる。
「いいわ、燃やしちゃって頂戴! それはちょっと忘れていただけよ。本当よ。あたしが好きなのはリルだけよ! 全ては過去よ、骸の海にポイするわ!!🔥🖼🔥 あたしも好きよ。リルが、好きよ!!!!!」
「……本当か?」
「本当よ!! 誓って!!!」
「なら、もっと好きっていって!!」
「ええ、何回でも何十回でも何百回でも何千回でも何万回でも言うわ!! あたしは、リルが好き。好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き大好き!」

 何故か局地的雷雨に見舞われた日の午後。
 雨上がりのカフェテラスで、ラブラブな恋人同士は大きなパフェを二人でつつき合う。
 最高級のチョコと苺があしらわれたそれは、蕩けるほど甘くて、とっても美味しい。
「櫻宵、はい。あーん」
「ありがと。じゃ、リルもあーん」
 絵に描いたようなバカップル――もとい、恋人たちを足元で見守りながら、ペンギンは羽を休める。
 これぞまさに雨降って地固まる。問題提起した自分にも、ご褒美で苺のひとつもお裾分けして欲しいものである。

「そうだよ、僕が櫻の一番なんだから!!!」
 読んだばかりの物語を手に、リルは拳を握り締めた。対して櫻宵は、若干引いた顔だ。
 だって自分がリルとこんながちんこバトルをするはずがない。
(「リルったら、また変な漫画を読んだのね」)
 ――喧嘩の後に仲直りって、美味しいシチュエーションかしら?
 疑問はつきないが、内容としては上々だ。少々お高いスウィーツだって食べたくなっちゃうくらいに。
「ね、リル。この後、パフェを食べに行きましょ」
「え、いいの? じゃあ、気になってたとこに行こう!」 

 ――わかっているのに妬いてしまう。だって独り占めしたいから。
 ――妬かれるのもまた可愛くて嬉しいのよねぇ。
 恋人たちの内側を写し取ったかのような物語は、二人の後ろをてとてと歩くペンギンがしっかり受け取っていきましたとさ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

グィー・フォーサイス
【四葉】
・ストーリー
僕は普段通りの郵便屋
ある日を境に、毎日手紙を受け取るようになった
よく喋る彼は楽しい雰囲気の人
毎日手紙に四葉のクローバーを入れてくれるんだ
幸運のクローバーをだよ!
僕の幸せを願ってくれているんだね
ああ、なんていい人なのだろう
花言葉を知らない僕は純粋に喜んでいた

【1】♥
【3】
んん?これ、どういう関係性?
君は解るのかい?
情熱的かは別として…そうだね、素直な言葉じゃないと僕には届かないかも
と言うか「え、どういうこと?」って思うんじゃないかな
でも、君や僕が文書になるだなんて!
すごいなぁ、嬉しいなぁ
ありがとう、おねえさん
受け取っておくれよ
(短い指に挟んだチケットをピッと差し出した)


エンティ・シェア
【四葉】

希望ストーリー展開
『猫の郵便屋の真似をしたくて毎日彼に手紙を送るお喋りな男』
「私のものになって」の意を込めた四つ葉のクローバーを添えて
毎日郵便屋に手紙を手渡して、ついでにお喋りをしてもらうんだ
君の真似事は楽しくて、お喋りも楽しくて
花言葉に気付いてほしいような、このまま気付かぬままでいてほしいような
複雑な気持ちが増すばかりだ

【1】♥
【3】
ふむふむ明確な名前のない関係性というのは実に興味深いね
解らないからこそ、良いものなんだよ
それはそれとして、君を振り向かせるためにはもっと素直で情熱的な言葉が必要なのかな
はは、愉快な創作だったからね。想像は膨らませてこそだよ
素敵な物語をありがとう、レディ



●四つ葉
「こうかい?」
「そう! ああでも口角はもうちょっと上げた方がいいかな」
 彼の朗らかな笑顔を真似たつもりの私に、彼は口の両端に指を当てて手本をみせてくれた。
 彼は郵便屋を商う――彼の場合は、『商う』というより『楽しみ務める』という感覚なのかもしれないが――ケットシーだ。
 出逢いは覚えていない。
 だがいつも気持ち良さげに――時には屋根を――駆け、気紛れに尻尾を揺らしながら、人々に『手紙』という幸せを届ける彼に、私は興味を持った。
「じゃあ、次は今にも泣きそうな人への手紙の渡し方のコツを教えるね」
「まだいいの? そろそろ配達に戻らないといけないんじゃないかい」
「もう少しだけ! 僕も君とのお喋りを楽しみにしてるんだから」
 ヒゲをピンと立てた彼に、私は彼が私との時間を心底楽しんでくれていることを知る。
「それじゃあ、あと少しだけ」
 申し訳なさそうに眉を寄せると、彼は「そこは君が気にするところじゃないのに」と何かに得心したように頷きを繰り返す。
 最初は、窓辺ごしに声をかけた。
 それから彼宛ての手紙を託すようになった。四つ葉のクローバーを添えて。
 四つ葉のクローバーは幸運のお守りでもある。だから彼は最初の一通からとても喜んでくれた。
 それから私は、毎日毎日、雨の日も晴れの日も寒い日も暑い日も四つ葉のクローバーを探し、彼への手紙を認め、彼の到来を待ち、手紙を彼へ手渡した。
 窓辺が玄関先になり、暫しの休憩と称した歓談時間になるまでさほど時間はかからなかった。
 私はとにかくよく喋った。
 退屈をさせない私を、彼はきっと快く思ってくれたのだろう。
 ――実は、君の真似をしたいと思っていたんだよ。
 そう打ち明けた日から、彼は猫の郵便屋の作法を教えてくれるようになった。
 仕草、表情、時にはお喋りの間の取り方まで。
 手紙が人に齎す効果を知る彼は、色々なことを私に語り、時には実践してみせてくれた。
 私はその度に食い入るように彼を見つめ、どんな小さな違いも見逃さないよう目を凝らした。
「それじゃあ、この辺で」
 名残惜しそうに、彼が席を立つ。ぴくぴくと小刻みに動く耳が、別れ際の躊躇いを現していている。だから私はにっこりと微笑んだ。
「これ、今日の分」
 差し出す手紙はいつも通りの四つ葉を添えて。
「いつもありがとう!」
 僕の幸せを願ってくれて――と口にはしないが、全身でそう告げている彼を私はいつも通りに送り出す。
 そうすれば、部屋にはまた私ひとり。
「……いったい君は何時、気付くかな?」
 しなやかに跳ねる背中を私は窓辺で見つめつつ、呟く。
 四つ葉は幸運の証。だが持つ花言葉は――『私のものになって』。
 果たしてただ喜んでいるばかりの彼は、私の想いをどう受け取るのだろう?
 いや、そもそも私は彼とどういう関係になりたいのだろうか?
 自分の中でも明瞭な形を持たぬ想いを胸に、私は小さく消えゆく間際に手を振ってくれた彼へ、手を振り返す。
 ――気付いて欲しい。
 ――気付かぬままでいて欲しい。
 複雑な気持ちは増すばかりだった。

「ねぇ、結局これはどういう関係性?」
 ことりと首を傾げ、いつもより瞳孔を広げたグィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)にエンティ・シェア(欠片・f00526)は「明確な名前のない関係性かな」と曖昧に笑う。
「なんだい、それ。君は解るのかい?」
 表情豊かなケットシーの、少し拗ねたような眉間を、エンティは軽く弾く。
「解らないからこそ、良いものなのだよ。けど、君を振り向かせるためにはもっと素直で情熱的な言葉が必要というのはよく解った」
「うーん、情熱的かは別として。少なくとも、素直な言葉じゃないと僕には届かないかもしれないね。こんな風じゃ『え、どういうこと?』としか思えないんじゃないかな」
 喧喧囂囂、仕上がった物語を前にエンティとグィーは意見交換に花を咲かす。
 結論としては、エンティ的には想像の翼を広げるには十分で、グィーには釈然としないものが残った感じ。
 でも、面白い経験だったか否かと問われれば、答は一択!
「君や僕が文書になるだなんて! すごいなぁ、嬉しかったよ」
 大きなものから小さなものまで、時には護衛も請け負う運び屋ながら、近ごろは専ら郵便業が多いグィーは、手紙のように綴られた自分たちの物語に心弾ませ、「受け取っておくれよ」と指に挟んだチケットを、すちゃっと格好よく綴り手へと差し出し。
「素敵な物語をありがとう、レディ」
 エンティも同じく指にチケットを挟んで渡し、感謝の意を表す。
 全く同じ仕草。それが遊び心か、それともグィーをエンティが真似たものだったかは、『私』だけが知る物語。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

呉羽・伊織
1♥2○
(煮るなり焼くなり爆発させるなり調味料に使うなりお好きに料理してやってクダサイ本望デス)

ワァ
一体ナニが超弩級なんだろネ
オレ純真だからワカンナイ
――でも刺激は大事、ってコトはワカルヨ
てコトで!

オレ普段努めて紳士的に行動(なんぱ)してるのに何故か女子にも動物にも塩100%で返されてツライから、こう、なんかカッコよくっ甘い感じのっ糖分と浪漫溢れるのをっ!クダサイ(切実)
パーラーメイドサンと楽しむ甘いおやつと甘い時間とか美味しいヨネきっと!
オレだってやれば出来るハズ
たぶん、きっと!

3――ナニコレ?ナニコレ!(2度見&2回)
いやコレもオシゴトの内だから仕方ナイネ(もうどーにでもなれ☆という笑顔)


重松・八雲
1♥️
2○
(全力でお任せします、珍味とか添物とか色んな意味でくらっしゃーが必要な状況があればご利用下さいの意♥️です!)

――あいわかった、好きにしとくれ!
いや儂個人としては波瀾万丈の日々を乗り越えた先にあるはーとふるもっふなけだま達とのほのぼの隠居物語とか最高じゃと思うんじゃが!刺激的すぎてもうもふ楽往生まったなしなんじゃが!
うっかり何か全然別の噺になってもどんとこいじゃぞ!

3
成程、これが超弩級さあびすか!
そして噂の最初からくらいまっくすというやつか!
(無邪気過ぎてよくわかっていない☆が、とりあえず無駄なちゃれんじ精神とさあびす精神に溢れているのでなんでもござれ☆)



●ご老体と犬と首輪と
 袴にフリルエプロンという組み合わせは、愛らしくありながらも芯の強さを覚えさせ、なんとも形容しがたい感じに男心を擽る。
「お待たせしました、珈琲ひとつお持ちしましたァ!」
 ほんのり甘く間延びした元気の良い声に、伊織は赤い瞳を細めて涼やかな笑みを返す。
「ありがとう――ああ、砂糖は要らない」
 珈琲はブラックで味わってこそ価を楽しめるというもの――と、言わんばかりの伊織に対応に、パーラーメイドを勤める女性の頬がポポポと桜色に染まった。
「すごいですぅ。苦くないんですかァ?」
 椅子に座った伊織と、そうでない女性と。異なる視線の高さは、角度によって他者へ与える印象を異にする。
 重要なのは、決して瞳を直接みないこと。そうでありながら、視線の余韻を感じさせることで、大人の余裕と色香が立ち昇らせるのだ。
 そしてそれを自然にやってのけるのが、イケメンというもの。
 瞳はやや伏せ気味に。睫毛の影を落とし、どことなく憂いを漂わせ。ただし口許は柔らかな曲線を描き。
「その苦みを楽しんでこそ、粋ってもんだぜ」
「――ッ!!!」
 フッ、と吐いた息の終いまで甘い。
 苦い珈琲を運んできたはずなのに、瓶いっぱいの角砂糖より甘い微笑みの直撃を受けた女性の足がよろめいた。
「あっ、あっ、あ、」
 どうして自分が目を回しているのかも分かっていないだろう女性は、呂律の怪しくなった口調で、それでも何かを懸命に言い募ろうとする。
 普通の男ならば、ここで喰いつくか、或いは更なる押しを仕掛けるところだ。
 だが伊織は違う。
 適切な客と店員の距離を保ち、「大丈夫か?」と至極冷静に尋ねる。手は差し伸べずに。
 ともすれば冷たくあしらわれたと捉えるだろう。されどようやく合った目と目が、完全に女性の心を射抜く。
「あっ、あっ、あのっ。よかったら、このあと、ご一緒して頂けませんか……っ?」
 ――勝った。
 絞り出すような小声を耳元に吹き込まれた瞬間、伊織は確かにそう思った。

「いや、なんか出来過ぎじゃね? って思わないこともなかったぜ?」
 もふもふもふもふ。
「普段のオレって、何故か百戦百敗だろ? 紳士らしく遍く女性へ愛を囁いても、尽く塩100%で返されるだろ? おまけに動物からもそんな扱いだろ?」
 もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ。
「どうして今日に限ってこんなに上手く行くんだって、不審には思ったんだ。思いはしたが、女性の誘いを断るとか言語道断だろ!?」
 もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ、も一つもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ、おまけでもっふん。
「なんじゃ、よく吼える犬っころじゃのう」
「――犬じゃ……わん」
「おうおう、素直素直。ほうれ、褒美じゃ」
 そうして口許まで運ばれて来た銀の匙へ、伊織は半ば自棄で噛みつく。途端、口いっぱいに広がったのは、バニラビーンズなるものの豊かな香りと、卵と牛乳、そして砂糖のまろやかな甘み。
 伊織は今、いかついご老体の膝の上に寝そべっていた。ちなみに頭には犬耳を模した髪飾りをつけ、全身もふもふ仕様の羽織だか袴だか何だかわからないものを身につけさせられて。
「やはりワンコは最高じゃの。癒されることこの上なし」
 がっはっはとご老体はさもご満悦そうに伊織をチワワかトイプードルか、マルチーズか豆しばかという体で扱う。
 その笑顔は、幸せそのものだ。
「長く生きているとのぅ、色々あるもんでのぅ。とどのつまりは、波乱万丈人生というやつじゃ。だから余生はこうやって、愛らしき毛玉に塗れて楽隠居したいと思ってたんじゃ」
 ほれ、次はカステラがいいか? それともライスカレーか? いや、流行りのチョコレイトでもいいかのぅ、とご老体は伊織の訴えには耳も貸さず――ひょっとすると聞こえていないのかもしれない。あと、カレーとかチョコレートとか犬には駄目、絶対――もふもふを愛でまくる。
 もふもふと暮らす老後に余程憧れていたのだろう。ご老体の手付きは諸々ツボを心得ていて、だんだん伊織も悪い気はしなくなっていた。
『あなたほどの目力があれば、ワンちゃんの愛くるしさだって表現できると思うんです!』
 そう言って伊織が女性に連れてこられた――置き去りにされたとも言う――のは、随所に意匠が凝らされた屋敷。そしてそこの主こそ、このご老体。
 もふもふもふもふ。
「お前の名前は何にするかのう? もふもふだから、モフ太郎にするか?」
 もふもふもふもふ。
「それともふかふかのフカ吉にするか?」
 もふもふもふもふ。
「そもそもお前は雄であっとるんかのう?」
「そこは疑うな! いや、雄で間違いない――というか、男だ! あと名前は伊織だ!」
 極上のマッサージを受けている心地になっていた伊織、よからぬ危機に我を取り戻して訴え、ご老体を振り仰ぎ、
「そうか、おのこか。伊織……良い名じゃ」
 ご老体の手に、首輪が握られていることに気付く。
「おい、ちょっと、それ――」
「威勢の良い犬っころには、躾も重要じゃからのう。安心せい、ちゃんと最期まで愛でぬくゆえ」

「――ナニコレナニコレナニコレドウイウコトナノ!?」
「ほほう、このご老体とやらがわしかの? ふふ、もふもふに塗れて幸せそのものじゃ」
「いや、違うだろ!? もふもふジャナイダロ? え、え、っていうか、ホントどういうこと!?」
 一頻り書き終えてにんまりと笑む綴り手を前に、呉羽・伊織(翳・f03578)は激しく狼狽し、重松・八雲(児爺・f14006)はがはははと磊落に笑う。
 おそらく、この時の対応としては伊織が正だ。いや、精神衛生上的観点からいくと細かいことは気にしない八雲の方が正かもしれないが。
「うう、オレ。物語の中くらいモテモテハッピーエンドが良かったっ!」
「何を言う。十分はっぴーえんどじゃろう?」
「何処が!? この何処が――……」
 己が不満を口にして、だがノリと勢いと無駄なチャレンジ精神で生きる68歳児の笑顔を目にした伊織は口を噤む。
 駄目だ、きっとこの薄い本の真意は伝わるまい。むしろ一生気付かないままでいた方がいいのかもしれない。
(「安易に何でもかんでも請け負ったら駄目だ……仕事は選ばないと」)
 ――良いようにネタにされ、そのことを確り学んだ伊織であった。まる。

「っていうかサ。これ、ギャグなの? ガチなの? どっちなのっ!????」
 ……どっちでしょうね?

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

照宮・梨花
【蝶番】茉莉(f22621)と
1・♠
2・×
3・恋愛もの大好きな腐女子傾向。「素敵(うっとり)。持ち帰ってパパとママに見せないとだわ!

私と茉莉は同じ砦から生まれたヤドリガミの姉妹
だけど同じ人を好きになって、嫉妬して口喧嘩したり落ち込んだり

好きな人と並び立とうと危険な任務に就いた茉莉を止めようとしたけれど、今の茉莉に私の心は届かない……
でも茉莉のことが心配で、こっそり跡を追いかけるのだわ

危ない茉莉!
咄嗟に白いロートアイアンの城門扉の盾を構え、茉莉を庇う私
盾は砕けても、茉莉が無事なら……
だって茉莉は私の大事な妹
世界で一番茉莉のことが好きよ

さあ、泣いてないで供に戦うのよ
不浄な敵をやっつけるのだわ


照宮・茉莉
【蝶番】梨花(f22629)と

1・♠
2・×
3・登場人物に没入してしまう夢女子傾向
「梨花…こんな事しないでね?梨花がいなくなっても、泣かないけど…」

梨花が姉、茉莉が妹の、ヤドリガミの姉妹
仲は悪くはなかったけど、同じ人を好きになってからは梨花が鬱陶しくて…

そんな時、好きな人の役に立てると思って飛び出したんだ
これであの人に近付けると思ったのに

何で、梨花が茉莉を守るの…?
梨花の盾が砕けて、梨花がいなくなっちゃったら
茉莉はあの人の事だけ、考えられるのに…すごく、悲しくて

いや、消えないで梨花!
茉莉だって、梨花が大好きなのに…梨花!!

…な、何!死んじゃったかと…心配させて!
こうなったら暴れてやるんだから!



●蝶番
 可憐な白い花が石畳に散らばっている。
 それがいつも姉の髪に飾られているものだと、茉莉は暫く気付けずにいた。
 少し、背伸びをしたかっただけだ。
 好きなあの人の役に立てる機会だと思ったから。少しでも近付けると思ったから。
 年頃の娘らしい、愛らしい衝動。咎めるのは、親か、姉妹くらい。
 ――そして。
『まだ茉莉には早いのだわ』
 咎めたのは姉の梨花だった。
『命を落とすことになってしまうかもしれない。だから行っては――』
『そんな事いって! 梨花は茉莉に先を越されたくないだけでしょ!』
 城門扉と、扉を城門に繋ぎ止めていた螺子のヤドリガミ。それが梨花と茉莉。元からふたつでひとつの役割を為し、ヤドリガミとして生を受けた姉妹。
 関係に変化が生じたのは、二人が同じ人に恋をした時だった。
『梨花は鬱陶しいのよ! 本当は茉莉のこと心配なんかしてないくせに!』
『そんなことないのだわ。あの人のこととこれは別の問題よ』
『そうやっていい子ちゃんぶるの、大嫌い!!』
『……茉莉』
 元は一対であったのだから、仲は悪くなかった筈だ。けれど『人』として得た心が、姉妹の内側を掻き乱した。
 扉と螺子であった頃には知る事のなかった感情に、身も心も苛まれた。
 どちらかがあの人といる姿を目にしただけで、胸を掻き毟りたくなった。半ば反射で、罵ってしまったりもした。
 ただの嫉妬だ。放つ言葉に理なぞなかった。
 だから落ち着けば反省したし、次は正しく在ろうと決意もした。
 しかし梨花も茉莉も齢は十四。感情を理性で制御しきれるほど大人ではない。同様に、知ってしまった恋心の甘やかさに酔わずにおれなかった。
 然して二人の少女は決別した。黄色い茉莉花を髪に飾る少女は、恋る人と並び立てるだけの自分に成る為に戦地へ飛び出し。白い梨の花を髪に飾る少女は、己の言葉は届かぬことを知るが故に、駆け出す妹の背をただ見送るしかなかった――はず、だった。

「ねぇ、なんで? なんで梨花がここにいるの?」
 無残に砕け散った白いロートアイアンの盾の傍らで全身を赤く染めて倒れ伏す姉の姿に、妹は呼吸の仕方さえ忘れる。
「ねぇ、何で? なんで梨花が茉莉を守るの……?」
 吸い寄せられるように膝をつき、茉莉は梨花の身体を揺さぶった。
「茉莉がいなくなったら、あの人は梨花のものになるじゃない!」
 言いながら、言葉とは真逆の内容が茉莉の脳裏を過る。
 ――梨花の盾が砕けて、梨花がいなくなったら。
 ――茉莉は、あの人の事だけ考えられる。
(「……それは、いや! いや、いや、いや!」)
 自覚した悲しみに、茉莉は頑是無い幼子の如く頭を振る。
 対峙した敵は茉莉の身の丈を遥かに上回る巨漢で、防戦を強いられた茉莉は鉄塊じみた剣に押し潰される寸前だった。そこへ風のように梨花が割って入ったのだ。
 ――危ない梨花!
 叫んだ姉は、躊躇わず身を呈した。
 その瞬間まで妹は姉の存在に気付かなかったのだから、こっそりと後をつけてきていたのだろう――茉莉の身を案じて。
「ねぇ、梨花、梨花、起きて梨花!」
 力任せに揺さぶられ、薄く梨花の緑の瞳が開く。
「梨花!」
「無事で……、良かった……の、だわ」
 聞いたこともない姉のか細い声に、妹は絶句した。
「私の大事な妹……私は世界で一番、茉莉のことが好き、よ」
 遺言のような梨花の言葉に、茉莉はしゃくり上げる。
「いや、消えないで梨花! 茉莉だって、梨花が大好きなのに……梨花ぁ!」
 梨花の全身が淡い光に包み込まれ、茉莉は半狂乱だった。消えてしまう、消えてしまう、消えてしまう、梨花が、永き時を共にした片割れが消えてしまう――そう、思ったのに。
「さあ、泣いていないで供に戦うのよ」
「――え?」
 一瞬前まで虫の息だった姉が、急に立ち上がったのに茉莉は紫の瞳を丸める。
「盾は砕けても、茉莉が無事ならまだまだ戦えるのだわ。さぁ、不浄の敵をやっつけるのだわ」
 梨花を包んだ光が、同じ任に就いた同胞が齎した癒しの力であることに茉莉が思い至るまでもう暫し。
「……もう、もう、もう! 死んじゃったかと……心配させて!! こうなったら暴れてやるんだから!!」

「素敵……」
 書き上げられた物語を読み終えた梨花は、うっとりと余韻に浸る。
 土壇場での大逆転は時に読者への冒涜だが、やはり結末はハッピーエンドに限る。
「早く持ち帰ってパパとママに見せないとだわ!」
 黄色くはしゃぐ梨花に対し、茉莉は何故だか白く沈んでいた。
「……梨花、こんな事しないでね?」
 潤んだ目は物語に引き摺られたまま。しかしそれでも茉莉は茉莉。
「も、もちろん。梨花がいなくなっても、泣かないけど……」
「茉莉。それは『ツンデレ』というのだわ」
「違うもん、梨花はツンデレじゃないもん!! 本当に梨花がいなくても平気……平気、なのっ」
 少女たちの声が、軽やかに鳴る。
 蝶番の姉妹たちの『今』そのものを奏でるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
有さん(f00133)と


題:日常の一片

幾度足を運んだところで
桜はやはりあの子の記憶を呼び起こす

相棒の黒獅子を枕に桜木の下でうたた寝
待ち合わせの相手を待っている間についうとうと
寒空の下でも黒帝に寄り添えばあたたかい
そして黒猫は夢を見る
桜が好きだと笑ったあの子の夢を

土踏む足音と身体揺らす手に
薄く開いた眸が捉えた姿はぼんやりと

まだ…おきたく、ない…

夢の続きをと微睡みの中
掴んだその手をぎゅっと握って
再び眸は閉じられる

…が、徐々に意識は覚醒するもので

─あっ…!

ばっと握った手離した顔は林檎の様に
目の前には有さんの姿
顔覆った手の隙間から謝罪の言葉が小さく紡がれた


…作り話なのに
凄い、恥ずかしいんですが…


芥辺・有
黒羽(f10471)と


題:日常の一片

どこも桜まみれで
待ち合わせ場所を覚えてる訳じゃなかったが
適当に見回し歩いて
見えた大きな影に歩み寄る

すやすや眠る姿を眺め
つんと肩をつついても起きない様子に
何とはなしに髪をいじったりして

ちょっかいにも覚めない眠りを邪魔すんのも悪いけど
このままでも仕方ない
……ほら、黒羽、起きな
軽く体を揺すって

ぎゅっと握られた手に目を丸くする

さてどうするかと悩む間に起きた黒羽を見て
途端真っ赤な顔に悪いと思いつつ小刻みに肩を震わせる
く、いや。……おはよう
良い夢見れたか、と聞くのは意地悪だろうね


目を通したそれを軽く伏せて眉を寄せ
どこかきまり悪げに
……自分の出てくる話とか、変な感じ



●日常の一片
 桜の花弁交じりの風が吹いている――いや、いっそ風交じりの花弁と言うべきか。
 とにもかくにも立っているだけで薄紅が纏わりついて来るから、払い除けるのも億劫になった有は、適当に煙草をふかしながら幻朧桜の街を往く。
 しつこい花弁が、髪に絡まって離れない。が、念入りに整えているわけでもなく。むしろ適当に結い上げているだけだから、目くじらをたてるようなものでもない。
 ――などと考えるのは、これから待ち合わせがある妙齢の女性としては些か問題かもしれないが、そもそも待ち合わせの場所を有は覚えていない。
 この適当加減は、おそらく相手も同じ。
 時間と場所をしっかり決めて落ち合うような仲でもないのだ。
 とはいえ、有を待ちぼうけさせるほど豪胆な性質も持ち合わせていないだろうから、今頃は桜の木の下で転寝でもしているかもしれない。
 きっと傍目に目立つ黒獅子も一緒だ。ならば必死に眼を凝らさずとも、自然と彼の――黒羽の姿は有の視界に入ってくるだろう。
 果たして想像は正しく。
 給仕が忙しなく動き回るカフェの前を横切って、磨き上げられた窓硝子が陽光を眩しく照り返すハイカラな店を過ぎ、犬が店番をしている煙草屋をひやかした先。
 橋のたもとにすっくと立った桜の下で、黒獅子を枕に黒羽は寝息をたてていた。
「……おーい」
 声をかけても顔を上げたのは黒獅子だけ。風景ばかりは年中春爛漫だが、季節は寒風吹きすさぶ冬。こんなところで寝ていては風邪をひきそうだが、黒獅子を枕にすればそうでもないらしい。
 頬は血色良く色付いているし、体を丸めた様は日向の猫を思わせる。時折瞼が動くのは、夢を見ているからだろう。
「……さて」
 観察は一分もあれば飽きが来た。仕方ない、と有は黒羽の正面にしゃがみこむと、つんっと軽く肩をつついてやる。
「……んー」
 しかし黒羽に起きる気配は無く。ますます手持無沙汰になった有は、煙草の火の始末をすると、空いた手で黒羽の髪の毛をいじりだす。
 ひっぱって、指に絡めて、縒って、弾いて。
 それでもやはり黒羽の目は閉じたまま。よほど深く寝入っているのだろう。それほど長く待たせたか? と思案に暮れつつ。ついでに、健やかな眠りを邪魔することに申し訳なさを覚えつつ。このままでは埒があかないと、有は黒羽の身体を軽くゆする。
「……ほら、黒羽。起きな」
 声をひそめた呼びかけに、うっすらと黒羽の眸が開き、もごりと口が動いた。
「まだ……おきたく、ない……」
 発せられた声は、起き出すのを渋る子どものそれ。されど続いた仕草には、さすがの有も面食らって目を丸くした。
 夢の続きを求めるように伸べられた手が、有のそれをぎゅっと掴んだのだ。
 まるっきり、子どもだ。
(「さて、どうするかね」)
 振りほどいては夢見も悪くなってしまうかもしれない。無碍にも出来ず有は思案する。その最中にも黒羽は再び眠りに引き摺られ――だが一度浮上しかけた意識は、近くに在る他人の気配を取りこぼさなかったのか。
 僅かに身動いだ黒羽の瞼が、さきほどよりしっかり押し上がり。幾度かぱちぱちと瞬いた後に――。
「――あっ……!」
 勢いよく離された手に、耳まで林檎のように染まる顔。
 典型的な反応に有は悪いと思い乍らも肩を小刻みに震わせる。
「……おはよう?」
 良い夢は見れたか、と問わぬ有へ、黒羽は顔を覆った指の隙間から謝罪の言葉を小さく紡いだ。

「――」
 一通り読み終えた物語に、芥辺・有(ストレイキャット・f00133)は目を伏せ眉を寄せ、形容しがたい貌になった。
 何というか、きまり悪い。
「……自分の出てくる話とか、変な感じだね」
 筆者を前に口にするべき感想ではないかもしれなかったが、据わりが悪いのは事実。そしてそれは華折・黒羽(掬折・f10471)も同じ。
「……作り話なのに。凄い、恥ずかしいんですが……」
 有と黒羽は顔を見合わせ、揃ってため息を吐くと、どちらともなしに破顔する。
「二度は、なくていいかもね?」
「そうです、ね」
 笑い出してしまえば、居心地悪さも何処かへ消えて。不思議な感慨だけが残った。
「ところで。作中の黒羽はどんな夢を見てたんだろうね」
 記されなかった部分は、想像の翼を好きなだけ羽搏かせられる物語の余白。
「どうでしょう……――きっと、特に意味のない夢ですよ」
 暫し思案した黒羽は、しかし透明な笑みで答えをはぐらかす。
 だって桜は、どうしたってあの子を思い出す。
 ――桜が好きだと笑った、あの子のことを。
 だから夢に見るなら、あの子のこと。
 そして物語と同じく黒羽がはぐらかしたことに気付いても、有は先を求めない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

六道・橘
♠気持ちは♥
アドリブ膨らまし歓迎

私が私の謎を解く為に綴って頂戴
此は私の前世かもしれぬ記憶の断片

>欠片
双子の兄弟…妹?愛のお話
私は下
そっくりだけど兄の方が遙かに優秀(チッ
あらごめんなさい。はしたない
兄にとって私は全てだった
私を苛むモノを遠ざけ常に矢面

―愛が重い

私は歌だけが取り柄
でも歌も兄が優秀と言われ歌えず
兄は哀しそう

双人はやがて、恐らく―

…物語、ですものね?
じゃあオチはこれでお願い

“私以外は不要との逸脱。それ故真実は心の脆い兄を、私はこの天音(刀)で護るのです、害するモノ全てを斬り伏せて”

兄にこの刀は抜かせないわ
だって自分を傷つけてしまうんですもの
困った兄さん

そうよ
…護られるより護りたかったの



●歪な欠片
 今日の視界も大半は兄の姿だったと、少女は鬱屈した溜め息を吐いた。
 同じ年と月と日に産声を上げた少女と兄。父も母も同じとあれば、血の繋がりの濃さは嫌というほどだ。
 だというのに、どこぞに居るといるかもしれない神様は、兄ばかりを祝福した。
 男と女で性別は違うのに、顔立ちはそっくり。しかし持って生まれた才能の差は歴然過ぎてお話にもならない。
 優秀、優秀、極めて優秀。
「――、まぁ。私ったら」
 知らず舌打ちしかけた少女は、誰の目もありはしないというのに取り繕った愛想笑いを浮かべて――再び重苦しい息を吐く。
 向かった机で広げられているのは日記帳だ。
 記されているのは、頁を捲れども捲れども捲れども両手を大の字に広げて放り投げたいことばかり。
「〇月×日。今日も兄は私一色でした」
「〇月□日。顔見知りに兄のことで論われた途端、当の本人が物凄い勢いですっ飛んできました」
「〇月△日。私が転がり落ちるはずだった階段から、兄が転げ落ちたのは何故かしら?」
「〇月○日――ああもうたくさん!」
 声を上げて読み返していた少女は、天井を仰ぐ。
 恵まれているくせに、兄は少女を全てとした。
 全てであるあまり、少女を苛む全てから少女を遠ざけんと、いつだって矢面に立つ。それがまた兄の評価を上げて、少女の評価を下げると気付きもせずに。
 そうしてまた、少女の不遇を嘆くのだ。
 少女のたったひとつの取り柄である歌唱も同じ。歌おうにも兄のほうが秀でていると評されるから、ついに少女は歌うことをやめた。そのことで兄はまた酷く哀しそうな顔をするのだ。
「……愛が、重いわ」
 歪な関係だと、少女には自覚があった。このままではいずれ――。
「!?」
 その時、少女は物音を聞く。慌てて今日の頁は白いままの日記帳を閉じて立ち上がる。
 嫌な予感がした。
 いや、望むべき時が来た。
 部屋の隅に置かれていた彼岸花の透かし彫りの入った日本刀を手に取り、少女は部屋を飛び出す。
「兄を護るのは、私」
 少女以外を不要とし、故に心の弱さを露呈した兄の命は今や風前の灯。いつ誰に弑されるかわからぬもの。
 だから少女は、兄を害するモノ全てを斬り伏せるのだ。
「兄さんに天音は抜かせられないわ――だって兄さんたら自分を傷つけてしまうんですもの」
 ――困った兄さん。
 全身が血に塗れ、おぞましき■害者になり果てながら、天音――彼岸花咲く刃を少女は振るう。

「そう、そう、これよ!」
 前世の記憶かもしれぬ断片から綴りあげられた物語を、六道・橘(■害者・f22796)は読み終え至極満足気に微笑んだ。
 これはいつか、橘が橘自身の謎を解くことに繋がるかもしれぬ物語。
 ただし結末だけは綴り手に任せたのではなく、橘の望んだもの。
「そうよ……私は護られるより護りたかったの」
 うっそりと笑みながら、橘は腰に佩いた彼岸花をそろりと撫でた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
セロ(f06061)と

♥〇
冬のさくらのようせいさんの力を借りて空をとぶよ
とぶにはようせいの粉をふりかけるのがおやくそく
最初はよたよた飛んでいたけど
助けてもらえば
ありがとうっ

セロ、あそこ
おまつりかなあ
チンドン屋さんを目にしてはしゃいだり
口笛で音楽をまねしちゃう
くちぶえっ
れんしゅうして、ふけるようになったんだ
得意げにもう一度思いつくまま吹いて
セロのうたっ

空を飛んだ理由は
ようせいさんのおてつだい
さくらの花びらをふらせるね

春がきますように
たくさん花がさきますように
願いを込めて

【3】
わあっと歓声
うんうん、すごいっ
セロだってあおいはねがあるし
このお話みたいにわたしをたすけてくれるよ、ゆうしゃだもの
笑み返し


セロ・アルコイリス
オズ(f01136)と
初参加の♠️(気持ちは❤️!)◯

きっとこの世界にゃ冬にも桜の妖精サンが居て
粉を借りたなら空を飛べるはず!

マフラーが翼みたいに動けば
オズが危ねーときも手を差し伸ばせる
互い「たのしい」はめいっぱい持ってる
視線が合えばへらり笑って

ほんとだ、賑やかですね!
オズから笛の音聴こえたら瞬いて
え? なんですかそれ、え、え、すごい、もっかいやってください
澄んだうたのタイトル聞けば、
へへ。うれしい、です

雪の代わりに桜の花弁を降らせて
どうかあったかい春が来ますよーに

【3】
目をきらきら
すげーですね!と純粋な賛辞を女性に
オズは勇者で魔法使いだから、実現できるかもしんねーですねって笑いかけて



●ココロ桜色、夢飛行
 ちらちらと煌めく気配に、二体の人形はパチパチと瞬いた。
「――セロ?」
 自分たちに起こった奇跡を把握しきれない金の髪の方が傍らを見ると、白に虹を帯びさせる髪の方は、もうぐるぐると肩を回している。
「すごいですよ、オズ。ほら、おれのマフラーまでこんなんです」
 『こんなんです』と評された白い方の青いマフラーは、まるで翼みたいに羽搏いていた。
 いや。まるで、ではない。
 ふわりと白い方の身体が宙へと浮き上がる。
「セロ!?」
「ほら、オズもいきましょう」
 白い方から伸べられた手を、金の方が咄嗟に掴む。すると二体の間で桜色の星が弾けた。
 ちらちら、ちらちら。
 二体を眠りから覚ましたのと同じ煌めきが、輝きを増して世界を華やかに染め上げる。まるで桜吹雪のトンネルに放り込まれたようだ。
「たいへんだ、右も左もわからないよ!」
「だいじょうぶですよ、おれは上も下もわかりません」
「えっ、そうなの?」
「はい」
 至極真面目ぶった白い方の助け舟に、堪らず金の方が吹き出す。なんだかよく分からないが、どんな不思議も――たのしい。
「うん、そうだ。これは『たのしい』だよ!」
 ようせいさんの魔法かな、と金の方の歓声と同時に、二体を包んでいた桜色が消し飛んだ。そして二体は、自分たちが夜の帝都の空を飛んでいることに気付く。
「すげぇですよ、すげぇですよ」
 常はやる気が遠い東雲色の瞳に高揚を萌し、白い方はマフラーを躍らせ高みへ舞い上がる。
 ガス灯のオレンジ色の光に街並が温かく照らされ、冷たい風に晒される幻朧桜も春のような柔らかさに色付いて見えた。
「セロ! あそこ、おまつりかも」
 屋根ギリギリを飛翔していた金の方が指差す先には、賑やかなチンドン屋。
 聞えた浮き立つ音色に惹かれて白い方も、すぅと降りてきて、
 ――ぴーひょろろ。
「え? なんですかそれ」
 金色の方の唇から聞こえた音色に、目を見張る。
「くちぶえっ。れんしゅうして、ふけるようになったんだ」
 ――ぴーひょろ、ぴっぴ、ぴーひゅるる。
 地上で奏でられている浮き立つリズムを真似て、金色の方が夜の隅々まで届きそうな旋律を吹き奏でた。
「え、え、すごい。もっかいやってください」
 白い方がせがむと、金色の方は笛になったみたいにもう一度。
 ――ぴーひょろ、ぴっぴ、ぴーひゅるる。
「それ、なんて歌ですか」
「……セロのうたっ!」
 ただの即興だ。けれどそう名付ければ、気ままな口笛はココロが籠った特別な一曲に早変わり。
「へへ。うれしい、です」
 ぽうっと胴の内側。ちょうど心臓の真上あたりに灯った熱は、きっとココロの温もり。奏でた方と、奏でられた方、おんなじだけの温かさに、二体の人形は顔を見合わせ、金色の方はニコリと、白い方はへらりと笑う。
「あれ、なんか呼ばれてますよ」
「ほんとうだ? なにかな」
 くすくす、ふふふ。くすぐったいような笑みを交わす二体が、チンドン屋から手招きされたのは、そんな時。
 二体揃って舞い降りると、桜の花弁がめいっぱい詰まった籠を渡された。
『冬の街に春を届けてくれるかい?』
 黄色と赤――明るい花みたいな衣装に身を包んだ太鼓叩きに求められ、二体は一も二もなく頷く。
「いきましょう、オズ。雪の代わりに桜の花弁を降らせるんです」
「うん! セロとわたしは、春のようせいさんだね」
 再び空へと舞い上がった二体は、ひらひらはらはらふわりと桜の花弁を冬の街へと降らせてゆく。
 たくさんの花が咲く温かな春が来ますように――と、祈りながら。

「「あれ?」」
 ちゅぴぴ、ちゅぴ。
 小鳥の囀りに揃って目覚めたセロとオズは、眠い目を擦りながら互いの顔を見合わせる。
 なんだかとっても『たのしい』で溢れた夢を見ていた気分。
 内容ははっきり覚えていないけれど、自分たちそっくりの人形がとびきりの夜を過ごしていたような――?
「おれたち、揃いの夢をみたんですかね?」
「そうかも!」
 窓の外は、キンと冷えた冬の朝。
 けれどこころなしか、幻朧桜はいつもより華やいでいるようだった。

 こういうの、夢オチっていうんですよね。おれ、しってます。
 そう頷いたセロ・アルコイリス(花盗人・f06061)は「でも、すげーですね!」と純粋な賛辞を綴り手へと送る。
「でも、オズは勇者で魔法使いだから、夢だって実現できるかもしんねーですね」
 傍らへ笑いかけると、すごいすごいと歓声を上げていたオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)がくふりと相好を崩す。
「セロだってあおいはねがあるし。このお話みたいにわたしをつれだしてたすけてくれるよ、ゆうしゃだもの」
 その時はぜひ、オズといつも一緒のシュネーも共に。
 二人のミレナリィドールは、いつまでも楽し気に夢を語り合う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

青霧・ノゾミ

ニノマエ(f17341)と

休日の依頼を請けてないニノマエのところへ。
(もちろん、サクラミラージュの世界観に
準じた設定に改変可能)
金魚を見に来たよ。
赤出目金と、蘭鋳と、青文魚が泳いでいる
不思議な金魚鉢をね。
ちゃんと餌はあげてる?
季節外れのラムネをお土産に持ってきたよ。

依頼を請けに行くなら、途中でカフェーに寄って行こう。
角に新しいお店ができたんだよ。
和風甘味らしいよ、きみの好きな南瓜を使ったメニューも
あるんじゃないかなあ。
あ、可愛いメイドさんがいるかもしれないよ。
そういう刺激があっても良いかも?

☆反応
……。さすがにそれは無いんじゃ!
(不審そうにニノマエの顔をじっと見る)
……もう一回言ってみて?


ニノマエ・アラタ

ノゾミ(f19439)と

…六畳一間のアパート二階。
それが、俺の居場所だけど何か。
(サクラミラージュにありそうな雰囲気でおまかせします)
…ああ、金魚な。
(金魚鉢は綺麗に磨かれて水草がそよぐ。
掃除の行き届いた部屋は、ある意味殺風景である。
目立つのはちゃぶ台と、畳の上に積み上げられた書物。
古書店で買ったものだろう、ひと昔前の流行小説から
よくわからない謎の図鑑や雑誌など。それぞれに関連性は無く)
…暇な時のだ。
あと散歩?
早い話が事件を解決してひと様の役に立て、と。

カフェー、か。
……おまえより可愛いメイドはいないだろう。
(ふっと微笑し、まだ眩しい陽のさす戸外へと)

☆反応
脚本通りだ何か文句あるか(棒読み)



●何でもない日
 こん、こん。
 聞えた礼儀正しいノックにニノマエはのっそりと立ち上がり、三歩の距離をことさらゆっくり歩く。
 擦りガラスに映ったシルエットの主が誰かは、錆びた階段がたてた軋音で分かっていたし。何だったら、ノックの前に出迎える事も出来たろう。
 だが今日は、何の依頼も請け負っていない休日。
 ニノマエには自分の城に籠って、悠々自適に過ごす権利がある。
 しかし無視するわけにもいかず、建付けが悪くなっている扉を開くと――案の定。
「……暇だな、お前」
 藪から棒にぶっきらぼうに言い放つと、ノゾミの眉宇がきゅうと寄った。
「金魚を見に来ただけだよ」
 立ち塞がるニノマエ越しに、ノゾミが見遣るのは典型的な六畳一間。
 ぱっと見は目つきの悪い無愛想な三白眼男の部屋にしては、掃除は綺麗に行き届いている。逆に行き届き過ぎて、殺風景に感じないこともない。
 生活感があるのは、部屋の中心におかれたちゃぶ台と、畳の上に適当に積み上げられた書物の山。
(「ひと昔前の流行小説に……え、何の図鑑? んん、雑誌は――」)
 ジャンルに定まりのない書物は、どれもこれも新品ではなさそうだから、古書店で買い求めたものだろう。
「……暇な時用だ。散歩用、とか。特に意味はない。」
 ノゾミの視線に気付いたニノマエは、不承不承に体で客人を室内へ招き入れる。するとこれまた律儀に「お邪魔します」とノゾミは頭を垂れた――が、ニノマエが「適当に座れ」という前に窓辺に置かれた金魚の水槽へ走り寄った。
「ちゃんと餌はあげてる?」
 ゆら、ゆら、と。優美に尾鰭を揺らし、赤出目金と蘭鋳、青文魚が泳ぐ不思議な金魚鉢。尋ねるまでもなく元気そうだったが、ニノマエから寄越された「当たり前だ」という応えに、ノゾミは胸をなでおろす。
 部屋と同じく、綺麗に磨き上げられた硝子の金魚鉢の中では、金魚たちだけではなく水草も心地よさげにそよいでいる。まるでここだけ永遠の夏のようだ。
「あ、そうだ。季節外れのラムネをお土産に持ってきたよ」
 夏の気配に思い出された手提げ袋から、ノゾミがノスタルジックな硝子瓶を二本取り出せば、玄関前に立っていたニノマエもちゃぶ台前に腰を落ち着けた。
 ビー玉をころんと突き落とし、透明な液体を口に含むと、ほんのり甘酸っぱい泡がしゅわりと弾ける。
 いつかも飲んだ、夏の味。でも今日は、ラムネ瓶が汗をかくことはない。
「……暇そうだね?」
「お前、金魚見に来たんじゃないのか」
 交わす会話は、ややノゾミの一方通行。
「そうだけど! こうもやることないと、依頼を請けに行かなきゃなって」
「早い話が事件を解決してひと様の役に立て、と?」
「そうじゃなくって! いや、そうだけど。途中でカフェーに寄るのもよくない? 角に新しいお店ができたんだよ」
「……カフェー、か」
 ようやく興味を惹かれたニノマエの態度に、善は急げとノゾミは金魚鉢へ背を向けた。
「和風甘味らしいよ、きみの好きな南瓜を使ったメニューもあるんじゃないかなあ。あ、可愛いメイドさんがいるかもしれないよ」
 ――そういう刺激があって良いかも、と続くはずだったノゾミのお喋りが、ぱたりと途絶える。
 だって――。
「……おまえより可愛いメイドはいないだろう」
 気負いない自然体から転がり出た科白には、大人の微笑が添えられていて。
「いま、なんて?」
「ほら、さっさと行くぞ」
 我が耳をノゾミが疑う間に、ニノマエはまだ眩しい陽のさす戸外へと歩み出していた。

「……。さすがに、さすがにそれは無いんじゃ!」
 綴り上げられた物語を手に、青霧・ノゾミ(氷嵐の王子・f19439)は傍らのニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)へ同意を求めて見上げた。
 けれど素知らぬフリをする男の口からは、至極平坦な声が寄越される。
「これも今風なんじゃないか? それに文句は物語の中の俺に言え」
 最早、棒読みに近い返事に、ノゾミはむむむと眉間に皺を寄せ、不審と期待が綯い交ぜになった目で今一度ニノマエを仰ぐ。
「……真似て、言ってみて?」

 要求が叶えれたか否かは、当人同士しか知らぬ物語。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ

師父(f00123)と

『迷子の男児を保護してしまう』

*どちらも異形
勢いよく泣く人間の子への対処なぞ知らず
歩幅も繋げる手の長さも合わず
身を縮めるにも限度がある
できそうなのは親探しの歩く展望台くらいか

叩かれても蹴られても
戦闘で耐えることだけは慣れている…筈
何かできる事は無いか
機嫌を良くしそうな菓子の店は
猫や人形はそこらに居まいか探す

ちらちらと師と子を見比べ
遠い記憶を揺り起こされる
…あれほどに泣いた覚えはない
今なお時折耳にする素朴な子守歌を思い出しながら
桜流れてきらめく川沿いを


*結んだ果を目にしたなら
『我が師は斯様なことを言わぬ』
従者たる者、易々と写しを認めてはならぬ
…しかし出来が良い
一つ求めよう


アルバ・アルフライラ

ジジ(f00995)と

『迷子の男児を保護してしまう』

空気も読まずに泣き喚く童
騒々しさに舌を打つも、適応にあしらう訳にもいかず
ええい男が斯様な事で泣くでない
心配せずとも親は我々が見つけてやる
膝を折り、視線を合わせて努めて優しい声色で
…ほれジジ、この童を肩へ
親も捜し易かろうし、何よりお前の肩から見る風景は格別だ

童の望みが叶えば小さく手を振り
…ふふん、まるで幼き日のお前だな
まあ彼処迄泣き虫ではなかったが
拙い歌声に苦笑を零し――さあ、往くか

其処で物語の結び
…時折、お前が私を神聖化でもしていないか不安で仕方ない
まあジジが童の好む品を探そうとする下りはちと疑問であったが
詮無き事か…私にも一部頂けますか?



●宝石と竜と迷子と
 影より染み出した宝石と竜は、出くわした人の子に面食らった。
「……師父」
「聞くなジジ」
 縋る竜の視線を宝石はすげなく躱し、ついでに人の子も無視しようと踵を返す――が。聞かなかったことにするには少々大きすぎる人の子の泣き声に、忌々し気に肩を落とす。
「ええい、男が斯様な事で泣くでない」
 時間帯は正午を回って少し。穏やかな午睡のひとつも愉しもうかという時分。しかも場所は閑静な住宅街の一角に居を構えた、小洒落たカフェの前。
 そこで人の子――おそらく近くの繁華街から迷い込んで来たのだろう――が、空気も読まずに泣き喚いていたのだ。
 ちらちらと寄越される視線は、行き交う人々から投げられたもの。
 あと一歩、早ければ。或いは、遅ければ。この人の子の対処は、別の誰かの役割になっただろう。
 とどのつまりが、巡り合わせの妙。ただ、それだけ。
 けれど廻った縁には、意味がある。魔術を嗜む者として、因果を捨て置けぬのも本当で、宝石は人の子に向き直る。
「心配せずとも親は我々が見つけてやる」
 依然泣き止まぬ人の子に宝石は努めて優しい声――内心では舌を打ちながら――で語りかけ、それからおもむろに竜を見遣った。
「?」
「鈍い! さっさとこの童の灯台に為れと言っているのだ」
 どちらかと言えば華奢で、背丈もそう高くない宝石と違い、竜は誰の目にも偉丈夫だ。そんな自分では膝を折ったところで人の子にとってはただの小山。手を繋ごうとしても距離感が大きく異なる。故に状況にただおろおろと――傍目には冷静に佇んでいた――していた竜は、宝石の叱咤にこの後の流れを察し、慌てて石畳に膝をついた。
「それ、落ちないようにしっかり捉まえておくのだぞ」
 人の子を宝石が抱え上げ、竜の肩を跨がせる。
「いいぞ、ジジ。振り落とさぬようにな」
「相分かった」
 そして竜が立ち上がると、高くなった視界に人の子の涙が止まった。
 見た事のない景色に大きな瞳が吸い寄せられる。泣き喚くだけだった口から歓声がまろび出た。

 一度笑った人の子が、笑い続けるとは限らない。むしろ幼ければ幼い程、気分は些細なことで上下する。
 最初は物珍しかった高さも、慣れてしまえば面白味に欠けたらしく。やれ走ってと、やれ跳んでと、やれあの枝の実が欲しいの、やれあの雲が欲しいと強請られて、竜はてんやわんやだ。
 機嫌を損ねると愚図り出してしまうので、その度に甘い菓子を商う店に駆け込み、猫がいそうな茂みへ走る。
 そんな人の子が一等気に入ったのは、宝石の髪。陽光を浴びてキラキラ輝くそれは、万華鏡のように人の子の目を楽しませたのだろう。
「なかなか見所がある童ではないか」
「師父、そう思うならもそっと近くに――」
「何を言う。私は童の親を探すのに忙しいのだ」
 褒められるのは良いが、べたべた触られるのは勘弁願いたいのだろう。建前を盾にする宝石に人の子の相手を丸投げされた竜は、文字通り踏んだり蹴ったりされながら、ずんずん先をゆく宝石を追いかける。

 迷子が迷子でなくなったのは、影が随分長くなる頃。
 父も懸命に探していたのだろう。宝石と竜に幾度も幾度も頭を下げると、我が子を宝のように腕に抱いて、母待つ家への帰路へとついた。
「……ふふん、まるで幼き日のお前だな」
 いつまでも手を振り続ける人の子へ、小さく手を振り返しながら宝石は笑う。
 けれど笑われた竜はといえば。ちらちらと師と子を見比べ、顔全体を不服そうに中心に寄せた。
 遠い記憶を辿ってみたが、果たして己はあの童であったろうか?
「……あれほど泣いた覚えは、ない」
 あまり不満を訴えれば、それこそ童と言われてしまいそうで。多くを飲み込んだ竜は、辿った記憶の中にあった旋律を、川の流れに合わせて口遊む。
 今なお、時折耳にするそれは、素朴な子守歌。
 歌ってくれたのは――。
「――さあ、往くか」
 人の子らの姿が視界から消えるまで見送った宝石は、拙い歌声に仄苦い笑みを浮かべながら、自分たちも塒に戻るために歩き出す。
(「まあ、確かに。彼処迄泣き虫ではなかったか」)
 それみたことかと竜が気を好くするだろう言の葉は、宝石の胸の裡のみに。
 収めきれなかった懐かしさの欠片のように、桜の花弁が茜色の川面に揺蕩っていた。

「我が師は斯様なことを言わぬ」
 従者たる者、易々と写しを認めてはならぬと、綴られた物語を読み終えるや否や息巻いたジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)を、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は若干天を仰ぐ心地で見た。
「のう、ジジや。私は時折、前が私を神聖化でもしていないか不安で仕方ないのだが」
「俺は事実を言ったに過ぎぬ」
 断固として譲らぬジャハルに、アルバは仕方ないと肩をすくめる。
「まあジジが童の好む品を探そうとする下りはちと疑問であったが――いや、何でもありません」
 綴り手の不安げな目に気付いたアルバは、いつもの余所行きの顔で微笑みを返し。なんだかんだと言いつつも「……しかし出来が良い。一つ求めよう」と真顔で代金かわりのチケットを差し出すジャハルにアルバも倣う。
「私にも一部頂けますか?」
 応えは無論、是。
 然して宝石と竜の師弟は――ほくほくと――物語を懐へとしまい込んだ。 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
♥○

生モノは危険。
――って、誰かが言ってました!

鉄首輪とは、また結構なご趣味…いえ何でも。
萌えとかよく分かりませんが(分かりませんが!)、スリルなら…?

意味深に、高い建物の上にでも立ってましょうかね。
コートを靡かせ(UCの風無駄遣い)
じっと地上を睥睨し(『彼』を探してるだけ)
もし彼を、或いは(それっぽい)誰かを、
見付けられたなら…
…目が、合ったなら。
小さく笑って、身を翻しましょう。
間際の、
『漸く、ですね』
なんて囁き…
この距離では届く筈も無いのに。
きっと、分かってしまうのでしょう?

これは未だ、始まりの前日譚。

バトル?ミステリー?ロマンスでも、それはそれ。
何であろうと飲み下す、がモットーですので☆



●始まりの前日譚
 街を一望できる時計塔の上に立ち、クロトはじっと目を凝らす。
 地を這う蟻さえも見通さんとする眸だ。行き交う人々の表情までもが、手に取るようにクロトには見えていた。
 いや、クロトにとって有象無象はどうでもいい。
 探し求めるのは、ただ一人。
 吹き上がる風にコートがたわみ、長い髪が帝都の空に遊ぶ桜の花弁と戯れる。
 存外に癖のつよい髪は、花弁にとっては格好の羽の休め場所なのだろう。幾片もが絡みついて、黒い男を華やげる――が、余計な混ぜ物でもされた心地で、クロトは穏やかな陽だまりの化身の如き花弁を、ぞんざいな仕草で払い落とした。
 花のような、甘やかな時間は自分――自分たちに必要ない。
(「そう思っているのは、僕だけかもしれませんけれど……?」)
 思いを形にした言葉は不安や疑問のような体を取ってはいるが、クロトの裡は軽やかに弾む。
 他人の思惑など、どうでもいい。
 世に混乱を来そうが、関係ない。
 自分が自分らしく、目的を達することができればそれでいい。
 手前勝手な言い分を、後付けの理論武装で整えることは朝飯前だ。本心を悟らせるような下手は打たぬし、見抜かれるような隙を与えるつもりはない。
 ――それでも。
(「……見つけました。いえ、見つかりました?」)
 不意にかち合った瞳に、クロトは口角を微かに上げた。
 やけに殺意を漲らせた視線の主は、地上に居る。けれど二対の眸は、互いを見据えていた。
 どくり。
 鼓動が跳ねる。
 込み上げる期待感に、全身の血が湧き立つようだった。
 だがクロトは地上の≪彼≫が走り出す前に、身を翻す。
『漸く、ですね』
 塔の上と地上。クロトが零した囁きは、≪彼≫の元へ届くはずがないのに。
(「あなたはきっと、聞くでしょう? 分かってしまうでしょう?」)

 ――それは未だ、始まりの前日譚。
 運命の歯車が回り出す前の、物語。

「なんですかこれ、煽れるだけ煽っているだけじゃないですかー!」
 綴り上げられた物語を手に、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は色めきたつ――というより、面白がる。
 果たしてこの物語は、戦闘ものになるのだろうか? それともミステリー? はたまたロマンス?
「何であろうと飲み下すのがモットーですので☆ このまま是非に続きを!」
 無理を承知の強請りは、ただのポーズ。
 己が物語の紡ぎ手は、己自身のみ。果てを知るのは、自分だけで良い。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『待ち人、まだ来ず』

POW   :    辛抱強く待つ

SPD   :    時計に視線が行ったりと時間が気になる

WIZ   :    本を読んだり、時間を潰して待つ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●沼の中
 多くの刺激的な物語の創造により、拗らせ男の気配は確かに近付きつつある。
 けれどよほど長い時間を孤独に過ごしたのか、男はなかなか猟兵たちの前に姿を現さない。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
 街角で、喫茶店で、人混みで。
 まんじりともしない時間が過ぎてゆく。
 そんな時だった、先ほどの店で出逢った綴り手が鼻歌交じりのご機嫌モードでやって来たのは。
「まぁ、まぁ、まだ物語をご所望ですか? え、今は物語のネタはない? 構いませんよ、あなたの『もしも』の姿さえ教えて下されば。あとは此方が勝手にねつ造致しましょう♪」
 ――……正直、この綴り手に全てを委ねるのは微妙な気がしないでなかったが。
 これも務めを果たす為だと自分に言い聞かせ、猟兵は『もしも』の可能性を、自身の裡に探すのだった。
リル・ルリ
🐟櫻沫
❤〇

僕は湖の人魚
故郷の海から攫われ悪徳座長に見世物劇団で歌わされてた
歌が得意な臆病人魚姫

逃げて湖に隠れ住んでた
釣り上げられて見知らぬ場所でまた怯えて暮らす事になる
皇子様に子守唄を歌いに行くよ
怖い
僕の尾鰭をつつくんだ
絶対食べよとしてる
寵愛なんて要らないのに

いつもそばで叱咤激励してくれる櫻姫が心の支え
姉様教えて
姉様と一緒が一番安心する
すてっぷは無理だよ、姉様

姉様は皇子と結婚するの?

どうしたら姉様を宿命から救える?
戀をして叶わなければ泡になるのに
姉様へのこの想いは…

僕の心は宿命と戀と禁断の狭間で揺れている

そんな設定の人魚姫だ


女子がいない気がする
僕だってやだ
物語の中でだって
君が僕以外となんて


誘名・櫻宵
🌸 櫻沫
❤〇

宮廷舞台の悪役令嬢と平民人魚姫の麗しく密かな戀愛物語よ!

皇帝の治める片吟帝国
私は由緒ある公爵家の出
帝国の桜と讃えられる傾国の美姫
皇子ヨルの未来の皇妃
政略結婚でも愛を持って時に厳しく接してる
皇子!魚ばかり食べてないで
お勉強の時間ですわよ

リルは皇子が湖で釣り上げ一目で気に入った人魚姫
怯える人魚に厳しく躾る
悪と言われようと魔宮でリルが生き残る為
ステップがなってないわ

姉様だなんて可愛い子
私を慕うなんてばかね
本当は皇子よりリルを
でも私は皇子と結婚が宿命
政略の歯車からは逃げ出せない
リルを皇子に渡すくらいならと密やかに覚悟を決めるの

そんな設定よ


問題ないわ
リルが他と結婚なんて
現実なら喰い殺してる



●悪役令嬢と人魚の戀
 広い世界の片隅に、≪片吟帝国≫なる国があった。
 国を統治する皇帝は絶大な権力をもち、愛らしいことこの上ない威信で以て国を保ち、治めていた。
 神代の御代から継承されたとされる皇族の血筋の力は、絶対にして不変。
 数多の貴族はその血の恩恵に与ろうと、権謀術数に余念がない。皇子の妃選びなど、その最たるものだ。見事婚約者の立場を射止めたならば、一族の繁栄が約束される。
 とはいえ、皇子の寵愛を失えば、その座が危うくなるのもまた事実。何故なら皇族が白といえば黒も白となるから。だがら≪婚約者≫は皇子の近くに別の誰かがはべるのを良しとせず、むしろ遠ざけようとするのが常なのだが――。

(「……また、泣いているわ」)
 星を散りばめたような豪奢なシャンデリアの下、大理石で設えられた噴水の縁に縋りついてさめざめと泣く人魚を見つめる櫻姫の胸裡は、複雑に揺れ動いていた。
 その人魚は、見世物劇団で歌わされていた哀れな人魚だという。なけなしの力を振り絞り、森の湖に逃げ込んだのが一月ほど前だったとか。
 奇しくもそこは皇子が趣味の釣りに興じる湖だった。
 ――ぺぺん、ぺんぺん!
 腹を空かせた人魚を釣り上げた皇子は、一目で人魚に恋に落ちた。清らかな歌声は勿論、一番のお気に入りは食べたら美味しそうなひらひらでぴちぴちの尾鰭。
 斯くして人魚は皇城へ招かれ、専用の部屋を与えられ、夜な夜な皇子へ子守唄を聞かせる役目を任じられた。
 当然、皇子の婚約者である櫻姫の心境は穏やかではなかった。どこの馬の骨とも知れぬ人魚が、皇子の傍にはべったのだ。しかも櫻姫は未だ許されぬ寝所の立ち入りまでを許されて。
 帝国の桜と讃えられる傾国の美姫として、由緒ある侯爵家の者として、人魚の存在は絶対に許せるものではなかった――はずなのに。
「背筋を伸ばしなさいな!」
 ノックしたことにも、返事も待たずに扉を開けたことにも気づかず、泣き伏せっていた人魚を櫻姫は一喝した。
「――姉様!」
 途端、顔を上げた人魚の貌が花咲くように綻ぶ。
(「……ばかな子」)
「姉様、今日も来てくれたんだね!」
「来てくれたんだね、じゃないわ。いらして下さったのですね、よ」
 どうして人魚が自分に懐いたのか、櫻姫には分からない。だって櫻姫は、面目を保つために任された≪人魚の教育係≫という立場を利用し、自分の立場を危うくする人魚に厳しく、冷たくあたったのだ。
 にも関わらず、自らの足で来訪してくれる櫻姫に、人魚は瞬く間に心を開いた。
 櫻姫の目にあったのは、好奇ではなく敵意。人魚を一人の人間として見るが故の、もの。それは長年、見世物にされていた人魚にとって、胸ときめかせるもの以外の何物でもなく。
(「いえ……先に絆されたのは、あたしの方かもしれないわ」)
 初めて耳にした人魚の歌声は、今も鮮明に櫻姫の記憶に焼き付いている。切なくて、苦しくて、必死に押し隠した本性までをも震わせるような歌声だった。同時に、全ての魂を慰め、労わり、慈しむような歌声でもあった。
 生き馬の目を抜くといわれる社交界を、幼いころから生きてきた櫻姫にとって、ただただた歌を歌う為だけに生まれてきたような人魚の存在は、奇跡にようだった。
 純粋にして、高潔。そして無垢。
 護らねば――と思うようになるまで時間はかからなかった。人魚が皇城という魔窟で生きていけるよう、あらゆる知識や所作を教える決意をした。体面を取り繕うのも忘れ、『人魚を苛める悪の令嬢』と噂されるのも気にせずに。
「今日はステップの練習よ」
「姉様、僕にステップは無理だ――じゃなくって、無理です」
「例え無理でもやるの。貴方の恥は皇子の恥になってしまうのだから」
 慌てて口調を整える様も、ぴしゃりと言われて唇を尖らせる様も、何もかもが愛おしくなっていたのは何時からだろう?
 相手は皇子の寵愛を奪っていった憎い相手だというのに!
「……そんな貌をしては、ダメよ」
 噴水の縁に腰掛けた人魚の傍らに膝をつき、櫻姫は人魚の白い頬へそっと触れた。
 泣いていた人魚の頬は、しっとりと濡れていた。けれど櫻姫が触れた個所から、柔らかく色付き、熱を灯してゆく。
「姉様、ドレスが汚れて――」
「……不出来な人魚を躾ける事の方が大事だわ」
 口付けしたい衝動を懸命に堪え、櫻姫は頬に触れていた手で、人魚の細い腕を強く掴み、無理やり立たせる。
 このまま人魚と共に皇城から逃げ出せたらどんなに良いだろう。しかし櫻姫の肩には、家族、領民の運命がかかっている。
「さ、ダンス用のドレスに着替えてらっしゃい。レッスンはそれからよ」
「……はぁい――ねぇ、姉様」
「このあたしに『ねぇ』なんて気安く話しかけるような人魚に返す言葉は、持ち合わせていなくてよ?」
 敢えて尊大に振る舞い、櫻姫は縋る人魚の眼差しを退けた。
 全ては人魚のため。そう己に言い聞かせ。だが、それが自分の余裕のなさが招いた悪手だったことを櫻姫は後に知る。
 攫われてきた人魚は、とある海の国の人魚姫。
 真の戀を叶えなければ、泡と消える運命のもとに生まれついていたのだ――。

 綴り上げられた物語を読み終えたリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)と誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は、うーんと唸って顔を突き合わせた。
「……ねぇ、女子が一人もいなくない?」
「そうね」
「あと片吟帝国って、ぺんぎんていこくって読むんでしょう? つまり皇子様はヨルだよね」
「――そうでしょうねっ💢」
 何だかとっても得意げな――しかもどこから取り出したか分からない蝶ネクタイを締めた――ヨルを、櫻宵はぎんっと睨みつけ、ふぅと長めの息を吐く。見れば、リルも同じような憂い顔。
 哀しい恋を予感させるプロローグ。結末がどうなるかは、分からない。
 でも、でも。
「僕は嫌だよ。物語の中でだって、君が僕以外と結ばれるなんて」
 拗ねて尖らされた唇は物語のままに。されど櫻宵は運命に唯々諾々と翻弄される櫻姫とは違う。
「問題ないわ。リルと他が結婚するようなことになるくらいなら、あたしがその相手を喰い殺すから」

 ――現実は小説より奇なり。
 リアルな恋は、物語のそれより……ガチだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

六道・橘
♥○
*希望
ギャグシリアスどちらでも
誰かに憧れて袖にされる当て馬等歓迎

※ガチプラトニック信者なので兄弟愛=恋愛じゃない方が業が深くて萌えます

*設定
私は帝都桜學府の女学生
内向的で人付き合いが苦手…なのは全部兄がアレコレ世話を焼くから
友達できない
憧れの人に話しかけようとしたら邪魔される

―そんな兄が姿を消してしまいました

影朧?
刀で脅して聞き込み開始

“…今度は兄の心を救えるかしら”

九死殺戮刃使用したらお前を救いたいのに一回斬られにくる兄
オチはお任せ、お任せします(覚悟完了示す為二度言う

【3】
創作物とわかった上で
ひとつ思い出したの
兄との恋愛はなかったわね
嫌いじゃなかったわ
「好き」と言おうとすると顔が強張る



●『ムェゲ憎愛』←
 あまりにもくだらない展開に、少女は肩口で切り揃えた髪を憂鬱そうに揺らした。
 帝都桜學府所属高等女学校に籍を置いたのは、学を修める為でもあったが、同年代の学生と交友を深める為でもあった。
 編入当初は上々だった。内気で人付き合いが苦手な少女なりに周囲と打ち解けようと努力し、昼食を共にする級友もできた――が、事態は同じ敷地内に居を構えた高等学校に『兄』が編入してきた日から激変した。
 あらゆる面で秀でた兄は、瞬く間に女学校でも人気者になった。と、なれば妹である少女もちやほやされそうなものだが。どうしたことか、少女は年頃の娘たちの大半に『敵』と認識されることになった。
 原因は兄だ。
 休み時間ごとに妹の教室を訪れ――それで教師に目をつけられないのだから、兄の立ち回りの上手さぶりには恐れ入る――甲斐甲斐しく世話を焼く。無論、登下校も一緒。
 付け入る隙がないどころか、妹以外眼中にない様を見せつけられた娘たちは、結果、少女の排斥に乗り出した。お前さえいなければ或いは、と。
 おかげで少女は綺麗さっぱり孤立無援。女の嫉妬、恐るべしである。
 とは言え、そんな扱いにも慣れた少女は、粛々と学を修めるのに専念した。恋の一つでもしてみたかったが、兄以外の男子学生と口をきこうものなら、女学生の陰口が飛んでくる。何だったら、淡い恋も逃げ出す勢いで兄自身がすっ飛んでくる。
 ――そんな折、兄が消息を絶ったのだ。
 疑ったのは影朧の仕業。
 かつて哀しい恋に破れた誰かの恨みつらみが、兄に目をつけたのではないかと考えたのだ。
 果たして推測は正しかった。
 柄に彼岸花咲く日本刀の鯉口を切りながら聞き込んでまわれば、影朧と結託した上級生の娘たちの存在にあっという間にたどり着いた。なお、道中何人泣かせたかは憶えていない。実際に刀を抜いたわけでもないのに、顔面蒼白にしてこれまでのあれこれを詫びつつ、尋ねていないことまで喋るくらいなら、姑息な真似などしなければ良いのだ、とは思いはしたが口にはしなかった。
 そうして辿り着いた、學府敷地外れの旧校舎。
 茜色に染まった黴臭い教室で、おかっぱ頭の女学生姿の影朧と対峙した少女は、今度こそ白刃を抜いた。
 “……今度は兄の心を救えるかしら”
 紫色の眸を妖しく輝かせ、少女は一息に影朧との間合いを詰めた。
 踏み込みからの一閃は、目にも留まらぬ速度。獲った、と思った――のに。

 心配かけて済まないお前の手を血に染めるわけにはいかないでも心配して貰えるのは嬉しいしどうせならお前に手ずから斬られてみるのも悪くないと思ったああ影朧なんて瞬殺だから気にする必要はないここを見事に探り当てたお前はやはり誰より以下延々。
 斬り捨てる気満々だった影朧の前に兄が飛び出して来て、背中に一太刀浴び、血をだらだら流しながらつらつら語った内容を少女は脳内でリフレインさせながら、夕焼けの風に髪を遊ばせる。
 兄がいったい何がしたかったのか少女には解らなかった――というより解りたくなかったが、それでもたったひとつ言えることがある。
 ――愛が、重い。極めて、重い。

 新たに綴り上げられた物語を読み終え、六道・橘(■害者・f22796)はくすくすと笑う。
 これは創作物だ。そう解った上で、ひとつ思い出したことがあった。
「兄と私の関係は、恋愛のそれではなかったわね」
 でも、決して嫌いではなかった。
 口元を弛め橘は記憶の底を攫い、しかし次の句を紡ぎかけた直後、顔を強張らせる。
 嫌いではない――は、言えたのに。
 どうしてだか『好き』とは、意味を象ることさえ出来なかった。

 ――なぜ?

大成功 🔵​🔵​🔵​

青霧・ノゾミ

ニノマエ(f17341)は同僚。
特務機関において心強い連携仲間。
何かあったらまずニノマエ。
設定捏造歓迎。

サクラミラージュIF
『要人護衛の特務機関に所属し、人知れず敵を倒す』

僕は情報集めたり、必要があれば変装したり
建物内で行動したり動き回るかなあ。
ニノマエにもガンガン指示だしちゃうよ。
何事も速さが命! なんてね。

誰も知らないところで平和を守る。
そんなロマンを求めて。

詳細設定は全ておまかせします。


ニノマエ・アラタ

ノゾミ(f19439)は同僚扱い。
……何かと絡んできてうるさいが、嫌いではない。
他、設定捏造も歓迎。

『真の姿』設定を参照していただきつつ。
サクラミラージュIF
『要人護衛の特務機関に所属し、人知れず敵を倒す』

要人が集まる秘密会合にて任務につく。
全てが滞りなく進み、終わり。
サクラミラージュの明日は紡がれる。

天知らず、人知らず闇で働く者がいる。
完全裏方にて。
快く思わぬ敵を迎え撃ったり、暗殺合戦を繰り広げたり
情報戦を繰り広げたり…諸々おまかせします。

どんな物語展開でも構いません。



●影
 上段の構えから、降り下ろすだけの単純な一閃。
 だが無銘の打刀は夥しい朱を飛沫かせ、容赦ない絶命をもたらした。
 月の光さえ届かない街の片隅。妖までも眠りに落ちる深い時分に斬り捨てた骸を数えて、ニノマエは血濡れた刃をそのまま納める。
「15秒オーバー」
 一仕事終えたばかりのニノマエの琴線に、聞き馴染んだ滑らかな声が爪をたてたのはその時。
「何事も速さが命と、いつも言っていますよね」
 これみよがしの凛然とした口調に、苛立ちが掻き立てられた。
 青霧・ノゾミ。ニノマエにとって上官であり、作戦指揮官である男。何かと絡んで来てはうるさいが、嫌いではない相手――だが。
「そもそも初弾が早過ぎました。あれであなたの動きが気取られたといっても過言ではありません」
 実践担当のニノマエと異なり、ノゾミは頭脳担当だ。稀に後方支援を行うことはあるが、直接的に戦闘に関わることはほぼない。故に彼の立案は、時に机上の空論。現場にそぐわぬこともある。
「……」
 疼く大人げない反発心を、ニノマエはノゾミが含んだ視線を向ける拳銃を懐に仕舞い直すのに合わせて鎮めた。
 分かっている。ノゾミの指摘は99%正しい。そこに異を唱えようとするのは、ただの児戯だ。
 要人警護を担う特務機関――という名の、表沙汰にできぬ汚れ仕事を担うのがノゾミとニノマエの今の居場所。
 必要あらば道理に叶わぬ『殺し』もするし、信じさせた者を手酷く裏切ることもある。
 そうやって、大勢の安寧を影の影から守っているのだ。その仕事を、誰に知られることも、認められることも、賞賛されることもなく。
(「――それは、別に構わない」)
 承認欲求を満たす為に踏み込んだ道ではない――選択の余地があったか否かは定かではないが――から、理不尽な任務を与えられる事にも否やはない。求められれば顔色一つ変えずに赤子の命だって奪ってみせる自負がニノマエにはある。
 されど、こんな夜は。
 多くを屠り、生温い血を浴びた夜は――。
「、ちょっと」
 反論どころか目線一つ寄越さないニノマエを不審に思ったのか、現場担当ではないくせに存外目が利くノゾミの転調に、ニノマエは内心で舌を打つ。
 打刀を握っていた手をポケットに突っ込もうとするが、間に合わない。
「怪我してるじゃない」
 先ほどまでの声音はどこへやら。すっかり気安さが前面に押し出された口調でノゾミは言い連ね、掴まえたニノマエの手首を微かな灯に晒して眉宇を寄せた。
「え、いつ? 結構な深手だよね。どうしてニノマエが――」
 数はいたが後れを取るような相手ではなかったはずだ。目まぐるしい勢いでノゾミは状況を整理し始める。
 何が起きた?
 自分の策が万全ではなかった?
 ニノマエが手傷を負うなんて、滅多にないことだ。それはつまり、ノゾミが敵の強度を計り違えたということ。もしくは突発事案が発生したか。
 重要案件だったから、今宵はノゾミも同行した。見守っていた限り、予定外の何かが起きた形跡はなかった。
「――あ、」
 いつもと何が違う? と考えていたノゾミの思考に、小さな閃きが生じる。
 ――今宵はノゾミも同行した。
 ――つまり、普段は同行しない。
 ――いつもと違うのは、これだけ。つまり……。
 ノゾミの貌が青褪めた。
「ニノマエ、もしかして――」
「お前、五月蠅い」
 不意に、ニノマエがノゾミの肩を掴む。そのまま引き寄せてくる力は、怪我をしているとは思えぬ強さで。
 何をする、とノゾミがニノマエを振り仰ぐ。逸らされる無防備な首筋。
「こっちは疲れてるんだ。だから、黙れ」
「――なっ」
 キスをする角度に顔を寄せ、しかし唇は躱してニノマエはノゾミの首筋に思い切り噛みついた。
 染み出した鉄さびの味に、血に乱された心が整う。同時にあれこれ留飲が下がる。
 そして何よりノゾミの追及が途絶えたのに、ニノマエは短く息を吐いた。

「……」
「……」
 綴り上げられた物語を一頻り読み終え、ニノマエ・アラタ(三白眼・f17341)と青霧・ノゾミ(氷嵐の王子・f19439)は完全に沈黙する。
 果たしてキャラ違いだったのか、それとも満足いく出来だったのか。
 ――結果は彼らの裡にのみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎本・英
♠○

もし、私が本当にただの人であったなら。
猟兵ではなく、一般人としてこのサクラミラージュで物書きをしていたなら。
皆の活躍など露知らず
煙を燻らせながら構想を練っていたのかもしれないね。

【3】
……いたって普通の物語だね。
これから殺人事件を起こそうとしている男とは思えないよ。
平凡でありふれた日常だ。



●とある文豪の午後
 文机に向き合っていた男は、ぐしゃりと癖の強い髪を掻き混ぜると、そのまま背中から畳へ倒れ込む。
 今日ばかりは、天井の染みも意味深に訴えかけてくる素振りもない。
 耳を澄ましても、長閑な昼下がりがあるばかりだ。
「…………」
 完全に行き詰った。
 ネタも出てこなければ、切り口さえ見えない。
 俗にいう、スランプ、というヤツだ。
 出逢いを探しに外出しようかと思ったが、その気力が今は湧いてこないし、何より朝から吹いている木枯らしが男のやる気を削ぐ。
 こういう時は風情ある温泉宿に籠るのが一番だ――しかし担当編集に相談しようにも、一足早い年末年始休暇に入った古狸には電話も通じないだろう。となれば自腹となるわけだが、急に放り込まれた原稿に身銭を切るのは業腹だ。
 吐きたくもたいため息を零し、男はのっそりと起き上がる。すると待ちかねたように、組んだ胡坐の上に猫が乗って来た。
 三毛のそれは、男の飼い猫ではない。たまに縁側に現れて寛いでいるので、味噌汁の出汁をとった煮干しをわけてやっていたら懐かれたのだ。
「……いや。君、いったい何処から入ってきたんだ?」
 戸締りはしてあったはずだ――隙間風はそこかしこから忍び入ってきているが。
 ――果たして猫はどこからやって来たのか?
「!」
 訊ねたところで、我が物顔で男の膝を独占した猫は顔を洗うばかり。しかし形にした些細な疑問に、男の中にトリックの可能性が産声を上げる。
「そうか、そうだ。うん、そうだとも」
 袖机の二段目から煙草を引っ張り出し、男は手慣れた仕草で火を灯す。先ほどまでは完全に閉ざされていた思考が、くゆらせた紫煙の形ひとつにも創造の断片を想像させる。
「よし、よし、よし――」
 頷きひとりごちながら、男は放り出していたペンを取った。
 プレッシャーしか感じなかった真っ白な原稿用紙も、今は未知の世界へ続く扉に見える。
 ――にゃー。
 全く相手にされない不満に鳴く三毛の喉を片手で宥めつつ、男は思い付いたアイディアの虜になった。

「……いたって普通の物語だね」
 読み終えたばかりの物語が綴られた用紙を、榎本・英(人である・f22898)は興味なげに折り畳む。
 何か事件が起きるでも、起承転結があるわけでもない――そもそも『物語』と評するに値するかも怪しい、ありきたりの文豪の、ありきたりの時間を、ありきたりに切り取っただけの文章の連なり。
 ごくごく平凡で、ありふれた日常を綴ったもの。
 ここに描かれた男は、ただの一般人。猟兵の存在は知っているかもしれないが、その活躍には無縁なところで生きる凡庸な男。
(「これから殺人事件を起こそうとしている男とは、到底思えないよ」)
 すぅと、英は赤い瞳を猫のように細める。
 平凡の影に非凡は潜むもの。
 描かれた安寧が、事実安寧とは限らない――。
 ありきたりだと思った瞬間、読者は作者に騙されているのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ

師父(f00123)と

『貴族の当主と怪盗の約束』

或いは戯れだったのやもしれぬ
幼き頃の指切り
貴方の婚礼前に、果たしに参ろう

『今宵、誓いの許に美しき星を頂戴する』
怪盗は悪しき竜
空から洋館の闇に乗じ星追うもお手の物

「――約束を、果たしに参りました」

「望むならば遙か異国、夜空の頂
何処へなりとお連れしましょう」

弓と銃を携えた警護の足音
「もしも貴方が此処での生を望むのなら
私はこのまま討たれ果てよう」
「今宵の為だけに生き存えてきたのです」


*その成果へ
……我が師は…俺は…斯様な…
…認める、わけには
…二冊譲ってくれ

なんだ師父、その目は
『保存用』と御身もよく言うだろう
別に俺は過激派ではない
創作には寛容でなければ


アルバ・アルフライラ

ジジ(f00995)と

『貴族の当主と怪盗の約束』

家の存続は貴族の使命
名家の御息女との婚姻を前夜に控え
脳裏を過るのは、幼き頃の他愛もない約束
…彼の幼子は息災であろうか
然し今日は随分と騒がしい
家宝が狙われているのだから致し方あるまいが

「申し訳ありません、少々風に当たって参ります」

「な、お前は…!?」

「約束――私を此処から連れ出してくれるのか?」
「…どうか、私を攫って欲しい」
「お前とならばきっと…何処へでも往ける」

「――何処までも、共に往こう」

*
ほーう
在り来りな展開だが
故に心揺さぶられるとも云えよう
…所でジジ、何故二冊?
解釈違いではなかったのか、おい?
意外と好みだったのか?

……私も研究の為に頂こう



●誓いの星夜
 いつまでたっても埋められない真っ白な頁を見飽きた私は、重い溜め息を吐きながら日記帳を閉じる。
 表紙にスターサファイアを一粒あしらったそれは、およそ日常使いに相応しいとは言い難い代物だが、国王直々に賜ったものだそうだから『さもありなん』だ。
 ――それだけの立場に、私は在る。正しくは、父が、だが。
 けれど明日からは父に代わり、私がこの家の当主となる――婚姻の儀を経て。
 差し迫る現実を思い出した私は、ついまた溜め息を吐いてしまう。
 家の存続は、貴族の使命だ。国の采配を振るう王を傍近くで支える栄誉を与えられた家なら、なおのこと。
 そのことは、幼い頃より理解していた。数多の勲章を胸に、王の後ろに控える父へ、純粋な憧れの眼差しを向けていたこともあった。
 魑魅魍魎の巣とも譬えられる社交界を渡っていけぬほど、愚かではない。むしろ策を練り、他者を出し抜くのは得手な方だという自負もある。
 妻となる女性は、名家の生まれに相応しい美と才を兼ね備えた人物で、共に居るのが苦痛になるタイプではなかった。
 にもかかわらず。私の心は、重く沈む。息苦しさのあまり、胸を掻き毟りたい衝動に駆られている。
 家を担う重圧に押し潰されそうになっているわけではない。
 運命を共にする相手が定まる事に、心が悲鳴を上げているのだ。
「……彼の幼子は、息災であろうか」
 気付くと、閉じた筈の日記帳を開き、頁を過去に遡っていた。
 一日の出来事を事務的に一、二行にまとめた文章が並ぶ中、頁の端に走り書きのように残されたそれは、指切りの記憶。
「夢物語だな――……、?」
 自嘲を愛しい記憶の上に零した刹那、私は余人の影が室内に落ちたのに気付く。
 従僕も侍女も下がらせた後だ。主の私室に勝手に踏み込む不躾な者が、この屋敷に居る筈がない。
 そも今宵は――そこで、私の意識が冴えた。
 ≪五日の晩の後、誓いの許に美しき星を頂戴する≫
 ちょうど五日前に投げ込まれた予告状は、今しきりに都を騒がせている怪盗が寄越したもの。
 美しき星に無数の心当たりのある我が家だ。警備を兼ねてそれらは明日の披露目の間に集められているはずだった。だがこの部屋にも世に二つとないスターサファイアがある。
「よもや、我が宝を盗みに来た――」
 咄嗟に家人を呼ぶ鈴を鳴らした私は、影の主を求めて視線を彷徨わせ、辿り着いた窓辺の光景に息を飲んだ。
 バルコニーに一人の男が立っていた。
 いや、男ではない。マントのように背に翻る黒は、竜の翼。
 ――ああ、ああ、ああ!
 いや、そんな、まさか。
 宥めようとしても心臓は勝手に早鐘を打ち出す。憶えのある翼は、かつて庭に迷い込んだ魔竜の幼生のもの。
 親からはぐれ、今にも息絶えそうだった幼竜へ、私は魔術で人の姿を与えた。
 そうして私は、しきりに礼をしたがる子どもと指切りを交わしたのだ。
 ――いつか私を連れ出しておくれ。
「約束を、果たしに参りました」
 幾重にも鍵がかけられた筈の窓を、音もなく開けた男が恭しく手を差し伸べてくる。
 お前はあの時の竜なのか、などと尋ねる必要はなかった。
「望むならば遙か異国、夜空の頂。何処へなりとお連れしましょう」
 責を負う苦など一切感じさせぬ笑顔の下で飼い殺せなかった自由への渇望。いや、それ以上に吸い込まれるような黒い瞳に、あの日私は心を奪われたのだ。
 この瞳に、自分だけを映したいという欲に駆られた。
 そして今。その瞳が私だけを映している。
 迂闊な私の報せに家人が駆け集まる足音が聞えた。手に手に得物を持つ足音だ。

 ――私を攫って欲しい。
 辛うじて聞こえた声に、竜の怪盗は心が震えるのを感じていた。
 魔法をかけて貰った日から、ずっとこの日が来るのを待っていた。
 ただし相手は侯爵家の嫡男。おいそれとは手が出せない。彼との約束を果たすには、力を手に入れる必要があった。
 その為だけに人の形を得た竜は怪盗になり、今宵この世で最も美しき星を手に入れる。
 華奢な白い手を掴み、怪盗は空高くへ舞い上がった。
「お前とならばきっと……何処へでも往ける」
 腕の中の微笑みに、竜は幸福に眩みそうになりながら、不器用な愛を囁く。
「何処までも、参りましょう。私は今宵の為だけに生き存えてきたのです」

「……我が師は……俺は……斯様な……いや、認める、わけ、に……はっ」
 頭を抱え、身を左右に捩じり。苦悩に悶絶していると思しきジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)を横目に、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は余裕のしたり顔で笑った。
「なるほど、在り来たりな展開だが。故に心揺さぶられるとも云えよ――」
「……二冊譲ってくれ」
 ――……アルバの弁が途絶えたのは、不肖の弟子がようやくの体で絞り出した声に、耳を疑ったからだ。
「……ジジ、何故二冊?」
「なんだ師父、その目は。『保存用』と御身もよく言うだろう」
「お前、何をいけしゃあしゃあと。解釈違いではなかったのか、おい?」
「別に俺は過激派ではない」
「つまり、あれか。意外に好みだったのか?」
「嗜好の問題ではない。創作には常に寛容であらねばならぬと思ったまでで」
「寛容なだけならば二冊も要らぬだろう!?」
「そこはそれ、これはこれ!」
「その理屈は何じゃ????」
 眼前で繰り広げられる師弟漫才を、綴り手が如何な心持ちで眺めていたかは、二人は与り知らぬこと。
 ともあれ綴り手はジャハルの注文に応えるべく、うきうきと写しを作る為にペンを走らせる。
 そんな綴り手の笑顔が今日一輝いたのは。
「……私も研究の為に頂こう」
 待ち時間ようにと綴り手から供された菓子をジャハルが物珍しそうに食む隙に、アルバがこっそり耳打ちしてきた瞬間だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
♥ ○

俺の「もしも」の姿か
……なんでも良いのか?

じゃあ、この躰が機械仕掛けではなく
ヒトと同じ姿だったら――という妄想で

そうだな、背は今の7割位がいい
肌は褐色で虹彩は金で、髪は……黒くて長いと良い
貌も――まあ、整っているに越した事は無いか
口元は黒マスクで隠したい、落ち着かないので

モード系の装いを着こなせて
銀のピアスや指輪も似合うような
そんな伊達男になりたい

仕事は正義の味方……ああ、要人警護とかいいな
世界征服を目論む悪の組織から要人を守り、世界を救うんだ
ハードボイルド活動映画の主人公みたいに
ロマンスより友情モノが良い

……我儘を言ったな、素晴らしい話を有難う
頭の中に確り記憶しよう
あと百回は反芻したい


ユルグ・オルド
♥◯

そうネ、そんじゃどこぞの王国は
王族付きの親衛騎士だったらって如何
俺みたいな根無し草でなく真っ当に家柄で選ばれたような

この身この剣は祖国とたった一人の主のため
揮う理由も一筋だって生まれた時から疑ったこともない
口の悪さだけはどうにもなんなかったんだケド
分ァってるって必要な時にはちゃんと改めるさ

敵は知ろうとしたコトもない外の国か
それとも腹の底の知れない身内か
それともヒトが気に喰わねェドラゴンか

うはは、しっかし真逆を探したが柄じゃねェわあ
右倣えで生きるような真似は出来ねェわな
にしてもくるくる紡ぐのは上手だこって
聞いてるのは楽しいね
まあ、何か一つに懸けるってのは
羨ましくはあるかなァ



●口の悪い近衛騎士と、モードで律儀なSPと
 銃弾の雨が降り注ぐ。
 まともに受けたらまさに蜂の巣だな――と思いながら、ジャックは電磁シールドごしに感じる衝撃を薄く笑う。
 この国の技術レベルを考えれば、ジャックの科学武装が凌がれることはあるまい。しかし物量に勝る相手に、無謀と油断は禁物。事実、防ぎそこねた初弾はジャックの腕から赤い血を流させ、足は先ほどから一歩も前に進めていない――それに。
「それならそうと、それらしい格好をしておいて欲しかったんですけどネ?」
 ジャックの背中には、黒に金糸があしらわれた騎士服を纏う青年がひとり。
 最上段まできっちり閉じられた詰襟にあしらわれている鷹の刺繍は、彼がこの国の近衛騎士である証。それにしては、随分と口は悪いのだが。
「ハイブランドのダブルスーツを着たSPが居るとは思わないでショ? しかも最新モデル!! ついでに同じブランドのピアスまでして決めてるのに。口元は黒マスク?? ただただ怪しいよネ? 不審者だって、誰だって思うって!」
 つらつらと近衛騎士の青年が並べる悪態に、ジャックは一先ず内心だけで同意を頷く。彼の言い分を認めるのは、吝かではない。が、だからといって改めるつもりはない。
 生まれ持った美貌は両親と神から与えられたギフト。褐色の肌に長い黒髪はエキゾチックだと女性陣から頗る受けが良い。つまり、敵を油断させるにはうってつけなのだ。
「――あまり五月蠅いと、盾を握る手が緩むが。構わないか?」
 若干の皮肉を真似て嘯いたのは、意趣返しも兼ねて。近衛騎士の命が失われていないのは、ジャックが咄嗟に電磁シールドを展開したおかげだからだ。
 だがジャックよりやや小柄ながら、覇気で裡を満たした青年は、ふんと鼻を鳴らす。
「やれるもんならドーゾ?」
 腰に佩いた剣の柄に常に指を添わせた青年が嘯く余裕にジャックは舌を巻く。彼は事態の打開に己の力が必要なことを分かっているし、任務遂行の為にジャックがそんなことを絶対にしないのを分かっている。
「こっちは、この身も、この剣も。祖国と唯一無二の王に捧げてあるんだ。死なんざ恐れやしねぇし、例え死んでも護るべきものは護ってみせる」
 振り返らずとも分かる青年のまっすぐな視線に、ジャックは憧憬にも似た感慨を覚えた。
 まっすぐな青年だ。ぞんざいな口振りに反して、立ち振る舞いは美しかった。きっと名家の生まれなのだろう。
 王国の中枢に連なる由緒正しき家に生まれ、多くのしきたりの中にあっても捻じ曲がらず、忠誠を捧げた相手の為ならば死をも厭わぬ高潔な騎士。
「そもそも、アンタがもっとSPですって分かる格好しててくれたら、こんな事にはならなかったと思わナイ?」
 おどけるように踊った語尾に、ジャックはマスクの下で口元を弛めた。
「――確かにな。だが装備を視れば誤認する筈もないだろう」
「その装備を! 土壇場まで隠してたのはアンタでしょ」
「ひけらかしていてはSPは務まるまい?」
「……っ、う……ま、まぁ、確かに、そうとも言うケド」
 海を挟んで二つの国があった。一つは古い歴史を持つ由緒正しき国。もう一つは、科学の力で近年成長が著しい新興国。
 二国が手を取り合うことに異を唱える者は、内外ともに少なくない。
 けれど生き残る為に、二国はついに明日条約を結ぶ。
 場所は二国の間に浮かぶ島。当然、反乱分子は条約締結を阻止せんと躍起になっている。それこそテロも辞さぬ構えで。
「――ところでアンタ。このまま俺を守って10メートル突進できる?」
 ここに至るまでの道のりを思い出していたジャックは、問いの形式をとりながら、果たす事を要求してきた青年を、一度だけ振り返る。
「打開策は?」
「ある」
 青年の頷きに迷いは無かった。そこにジャックは命を賭ける価値を視た。
 具体策は示されていない。けれどやると言ったからには彼はやり遂げるだろう。
「三十秒待ってくれ」
「――アンタ、俺を信じるの?」
「こちとら正義の味方だからな。目に嘘がないヒトの言葉は信じる事にしているんだ」
「うわァ、変な輩に騙されないこと祈っておくよ」
 たった数分。だが命がけの数分は、ジャックと青年の間に信頼を芽生えさせるに十分な時間になった。
 きっちり30カウント。電磁シールドの出力を最大にした――反動で、1分後にはシールドが消失するが――ジャックは銃弾の嵐の中を突き進む。
「無茶させて悪い。だが、後は任せてもらおう」
 思わぬ突進に敵が僅かに怯んだ瞬間、青年がジャックの背中から飛び出す。
「アンタ、名前は!」
「ユルグだ」
 薄い金色の髪を窓向こうから注ぐ日に透かして高く跳躍したユルグは、まさに鷹の翼の如く。
 射程に捕らえた異分子たちへ、その首を刎ねる刃を薙ぎ払った。

「うはは、しっかし真逆を探したが柄じゃねェわあ」
 綴り上げられた物語に、ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)はこそばゆそうに腹を抱える。
 自由に生きる己と正反対の、忠節ありきの生き方。右に倣えのそれは、さぞかし面倒が多いだろう。だが、まぁ。
「何か一つに懸けるってのは、羨ましくはあるかなァ――」
 そっちはどうだい? と、奇しくも同じ物語に紡がれたジャック・スペード(J♠️・f16475)を見遣れば、何やら甚く感じ入っている風情で、ユルグは空気を読んで口を紡ぐ。
 洒落た伊達男とは程遠い、無骨な鋼の男にとって、『もしも』の姿は遠い遠い夢物語。
「素晴らしい話を有難う」
 綴り手へ深々と頭を垂れたジャックは、消去不可のフラグをたててメモリーに刻んだ物語を、あと百回は反芻するのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
ティルさん/f07995
【1】♠️
【2】〇
題目:もしも、ガクセイになっていたら

“もしも”を辿る世界
ティルさんは幼馴染であり
妹のような愛らしい子
ナユはちょっぴりおねえさん

桜花咲くこの世界の女學生服
牡丹一花が咲く白地の着物に紅の袴姿
あかい花咲く鴇鼠の髪はゆるりと纏め

ティルさん、此方よ
遅れて入學したあなたへと声を掛け
愛らしい姿に微笑をひとつ

敷地内はとても広いわ
愛らしいあなたが迷ってしまわぬように
ちいさな手を引いて、校内を案内するわ
ちょっぴりセンパイらしいでしょう

【3】まあ、ステキな“もしも”ね
ガッコウ生活は、ちょっぴり憧れだったの
あなたと“もしも”の日常を送る世界
とても愉しい日々を送れるのでしょうね


ティル・レーヴェ
七結殿(f00421)と
【1】♠️
【2】〇
題目:もしも、学生になっていたら

もしもの世界
七結殿は憧れの
幼馴染みのお姉さん
漸く自分も女学校へ入れたら
其処に居る彼女と通える事が嬉しくて

纏う制服は若草色の矢絣着物に深緑の袴
髪は藤色と白のリボンでマガレイトに結わう

姉のように慕う彼女の前では
御転婆隠して少しばかり背伸びして
けれども初めて見る女学校と言う世界には
興味津々探検したいお年頃

繋がれた手を放さぬやうに
しっかと握って
七結ねぇ様……いや、七結先輩!
彼女の案内なら尚に一層景色も煌く

【3】
如何な創作混じれども
七結殿と一緒の世界なら
素敵な物語となるじゃろう
内容面映ければ照れもしようが
もしもの世界を楽しみ笑おう



●花の日々
 入学式を終えたばかりの女學校には、まだどこか足元定まらない気配が漂っている。
 良家の子女が多く通う――中には華族の方々もいるのだとか!――坂の上の女學校は、近隣に住む者だけではなく、遠く県を越えた先に住む年頃の娘たちにとって憧れの的。
 入學試験は当然難しい。求められるのは成績のみならず、淑女に相応しい所作まで試される。
 ――誇り高く、慎ましやかに。
 掲げられた校訓の元に、少女たちは集い切磋琢磨するのだ。
 けれど念願叶ったこの日ばかりは、新入生たちの気分が浮つくのも仕方ない。何せ見るもの全てが新しく、光り輝いているのだ。
 今しがた入学式を終えたばかりの講堂を、同級生らと共に辞したティルも、そういう少女のひとり。
 赤レンガ造りの校舎を見上げる紫眸は大きく開き、今にも零れてしまいそう。
「……ここが、ここが」
 高揚に小さな胸は、帝都に咲き乱れる桜と同じ色に染まって弾み、今すぐにでも校内探索に出たいとお転婆心に疼いている。
 ――しかし。
「ティルさん?」
 聞えた自分の名を呼ぶ声に、ティルは勢いよく振り返った。
「七結ねぇ様!」
 学校のシンボルでもある枝垂桜の下には、ティルがよく知る人物が淑やかに佇んでいた。それは幼馴染で憧れのお姉さん。ティルは彼女――七結のようになりたくて、この女學校を目指したのだ。
 新緑の袴の裾を跳ねさせて、慣れぬブーツでティルはまろび走った。
「まぁ、まぁ。やっぱりティルさんだったのね」
 春風のように駆けてきた小柄な少女を、七結は膝を折って待ち侘びる。
「七結ねぇ様――じゃなくって、七結先輩!」
 言い直す様がまた愛らしく。若草色の矢絣の肩についた悪戯な花弁をそっと払いながら、七結は陽だまりのように微笑んだ。
「ティルさんもこの學校を択んだのね」
 知らなかったわ、と目を細める七結に甲斐甲斐しく世話を焼かれたティルは、面映ゆいように、けれど誇らしげに背筋を伸ばす。
「ずっと内緒にしていたのです。驚いて?」
 姉のように慕う七結の前では、言葉遣いも仕草もちょっぴり背伸び。でも何れも七結を真似たもの。
 牡丹咲く白地の着物に、紅の袴。鮮やかな色彩は、着こなすのが難しいものだ。けれどゆるりと纏めた鴇鼠の髪にあかい花を咲かせた七結は、七結自身が大輪のあかい花の如く。そして七結の左肩で揺れる枝垂桜の紋が縫い取られた腕章は、七結がこの女學校を代表する証。
「えぇ、すっかり驚かされたわ。ティルさんも、すっかりお姉さんね」
 マガレイトに結った髪を留める藤色と白のリボンを指し示し、とても似合うわと生徒会長に褒められて、ティルの世界はまだ見ぬ彩と輝きに溢れる。
「この後、少し時間をいいかしら?」
 入学式の後は、帰宅するだけ。本格的な始まりは明日からだ。つまり今日の午後を持て余すティルは、七結の問い掛けに一も二もなく頷きかけて、慌てて楚々と「はい、七結先輩」と言い直す。
「なら、校内を少し案内しましょう。広いから、愛らしいあなたが迷子になってしまわないように」
 立ち上がりつつ、唇に指をたててほんのり悪戯めかして笑う七結に、ティルはお転婆な本心を見抜かれて頬を紅潮させるが、瞬く間に破顔する。
 これはとびきり素敵な女學校生活の幕開け。
「まずは礼拝堂かしら?」
「礼拝堂があるのですか!」
「ええ、勿論。その後、カフェーでお昼にしましょう」
「カフェーまであるのですねっ」
 知らず前のめりになるティルの一まわり小さな手を七結はしっかり握り。ほんの少しだけ自分より体温の低いそれを、ティルもきゅっと握り返した。

「まぁ、ステキな“もしも”ね」
 鈴を転がすように笑う七結に、ティルも年相応の稚さを滲ませ微笑みを蕩けさせる。
「如何な創作交じりと言えど、七結殿と一緒の物語ならば、それが素敵なものになるのは至極当然じゃろう」
 初々しい己の描写にティルの頬は仄かに色づくが、それでも七結との仮初めの一時は楽しいものだった。
「わたし、ガッコウ生活は、ちょっぴり憧れだったの」
 内緒話のような七結の言葉に、綴り手までもが目を細めた。
 実現し得ない“もしも”は、誰にとっても、ただただ愛おしく、美しく、そして胸に甘く優しいものであって良い。
「あなたと送るこの物語の日常は、とても愉しい毎日になるのでしょうね」
「ああ、間違いなくのぅ」
 夢見心地の七結とティル。可憐な花たちは今暫し、物語の余韻に酔う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

照宮・篝
【神竜】まる(f09171)と

【1】♠
【2】×
【3】この二人は結ばれないのだろうか…(続きが気になる)でも、何だか…このまるは可愛いな。ふふふっ

私が極道の箱入り娘、という設定だ
母様を早くに亡くしてから、一家の皆に愛されて
父様からはうんざりするほどの溺愛なのだ
まるは古い舎弟の一人で私もお気に入りで、よく連れ歩く
無表情の中の、不器用な優しさが好きで…
…この「好き」が、信頼なのか、恋慕なのか…考えたこともなくて
「あの時」までは

◆台詞例
まる!来てくれまるー!
今日のおやつだぞ!一緒に食べよう!
お前は私が嫌いか…?
私は大丈夫だけれど、まるが…!


マレーク・グランシャール
【神竜】篝(f20484)と
1♠

3無表情。内心ちょっと恥ずかしい。

お嬢と舎弟の極道純愛ストーリ希望

◆設定
俺は極道・照宮一家の舎弟
組長の愛娘であるお嬢に惚れている
たがお嬢に手を出す訳には行かない
お嬢に色目を使わない(無表情)という理由で組長に見込まれているからな
お嬢も俺のことを……と想うことはあるが…、俺は極道に生きる男
お嬢の側にいられるだけでいい

◆台詞例(お嬢には警護)
大切なお嬢に汚い手で触れるな
お嬢、ここは俺に任せて下がってください
俺のような男にはお嬢は眩しすぎるんですよ
お嬢の幸せが俺の幸せだ、その為なら命を賭けたって惜しくはない
いけない、俺なんかに触れたら手が汚れます



●ハナミズキ
 その日、極道一家である照宮家の屋敷は、朝から上を下への大騒ぎだった。
 対立関係にある組織からの討ち入りや、その筋からのガサ入れがあったわけではない。
「怪我をさせたら駄目だぞ」
「へい!」
「怖がらせても駄目だからな」
「お任せ下さい、お嬢!」
 事の発端は一月と少し前。早くに妻を亡くした組長が、忘れ形見でもある愛娘のために一匹の猫を連れ帰ったこと。普段は視線だけで人を射殺しそうな男が目尻を下げて、それこそ目に入れても痛くない娘へ与えたのは、サイベリアンの子猫だった。
 頗る似合いだと語った通り、仔猫のふかふかな茶白の毛並みは、娘の金色の髪と透き通るような白い肌とよく馴染み、一人と一匹がころころと戯れる光景は、荒々しい世界の住人らの心をこの上なく癒した。
 しかし子猫はやんちゃ盛り。そろそろ環境に馴染んだ頃合いのこの日、縄張りを拡充すべく娘の部屋を脱走したのだ。
 斯くして娘――篝号令の下、捕獲大作戦が執り行われることになったわけだが――。
「今だ!」
「っしゃあ!」
 つるつるに磨き上げられた廊下の行き止まり。退路を塞がれた子猫へ、いかつい若衆が飛び掛かる。が、仔猫は男の股下を潜って逃げ果せる。そこをまた別の若衆が待ち構えはしていたが、捕獲しようと伸ばされた手に子猫は一蹴り加えて、隣接した部屋へ飛び込んだ。
 部屋から部屋、廊下から廊下、そして戦線は縁側を経て、迂闊な誰かが閉め忘れた扉を越えて庭へと拡大。
 永遠に終わらぬように思えた大騒ぎ。しかし勢いで登ってしまったハナミズキから子猫が下りられなくなったのを機に、ようやくの収束の気配が漂い始める。
「ねこ、大丈夫だ」
 みゃうみゃうと不安げに啼く子猫を、両手を広げた篝が下から呼ぶ。
「安心して降りて来い」
 全てを包み込むような篝の声に、細い枝にしがみついた子猫の耳がぴくりと動いた――その時。
「お嬢!」
「――え?」
 たわんだ枝がみしりと鳴ったところまでは、篝の記憶にもある。けれどそこから先は一瞬過ぎて。気付いた時には篝はハナミズキの近くに座り込み、自分に覆いかぶさるように影を落とす男の顔を呆然と見上げていた。
「お怪我はないですか、お嬢」
 ――とくり。
 見馴染んでいるはずの男の顔に、知らず篝の鼓動がひとつ跳ねる。
「……ま、る?」
 篝の声に、『まる』と呼ばれた男の冷たい無表情が、僅かに緩んだ。
「よかった」
 ほろりと零れた安堵の息が、篝の頬に細く触れる。途端、篝の顔は微かな熱を帯びた。
 ――これは、誰だ?
 ――まる、だ。
 当然に過ぎる問答をしまった篝の思考が、白一色に塗りつぶされる。
 幼い頃から自分に付き従う、父の舎弟の一人。それがマレーク。マレークの無表情の中の不器用な優しさが、篝は好きだった。
 そう。これはマレーク。古くから知る、お気に入りのマレーク。時に三時の菓子を共にすることをせがみ、時に時間も場所も関係なく呼びつけたマレーク。
「……まる」
 酷く近い距離に胸が騒ぎ、何故だか篝はマレークの頬へ手を伸ばしていた。しかし触れる間際、冷たい美貌をなおいっそう凍らせた男は静かに身を引き、立ち上がってしまう。
 同時にいつもと同じ顔に戻った男は、「無茶は程々にして下さい」と小言を言いつつ篝をやんわりと抱え起こす。
「だってねこが――」
 反射で篝は唇を尖らせかけ、そこでようやく事態を悟る。
 子猫の重さに耐えかねたハナミズキの枝が折れ、子猫もろとも篝を直撃しそうになったのだ。そこへマレークが割って入り、篝を守ってくれたのだろう。
「もう逃がさないで下さいよ」
 言って左手で首根っこを掴まえていた子猫を、マレークが篝の腕へと戻す。その手の甲には、子猫に引っ掻かれたのか、それとも枝で傷つけたのか、赤い血の線が走っていた。
「まる、怪我をしているじゃないか」
 当然、篝はマレークの手を掴まえようとする。だが殊更表情を硬くした男が手を引く速度は、ドスを抜く時よりも早かった。
「いけない、俺なんかに触れたら手が汚れます」
 抑揚のないマレークの拒絶に、篝の胸の奥がつきりと痛む。それはまだ子猫に戯れで甘噛みされるよりも小さな痛みだけれど。
「大丈夫です、親父。誓ってお嬢に――」
「まる、何か言ったか?」
「――いいえ」
 僅かに聞こえたマレークの呟きの先に、篝は薄紅色の蕾がいつか花開くのを予感する。それはまた、新たな騒動の始まり。おそらく、今日以上の。
「さぁ、部屋へ戻りましょう。外は冷えます」
「待ってくれ。私とまるでは一歩に差があるのを忘れるな」
 ぴんと張り詰めた糸のような顔をしているマレークと、寒空に暫しいたには赤い頬をした篝と。交互に見上げた子猫は、訳知り顔で「にゃー」と鳴く。

「……」
「この二人は結ばれないのだろうか、それとも結ばれるのだろうか」
 そわそわと物語の続きを気にする照宮・篝(水鏡写しの泉照・f20484)に対し、マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)は終始無言。
「でも、何だか……このまるは可愛いな」
 ふふふっ、と笑った篝が見上げたマレークの顔は、全く以て常通りであったが、なぜだか耳だけ赤く染まっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
有さん(f00133)と


「もしも」と問われ思い浮かぶ道すがら
視界に映ったのは並ぶ洋服屋の

…軍服

呟いた言葉ははてさて
綴り手の女性の琴線に触れるだろうか

有さんは上官っぽいですよね

芥辺大佐?なんて零してみたり
感化されたか紡ぐ言葉は拙くもしもを考え始める─…


桜舞う大正街道
歩く彼女に付き従う少佐・華折の身を包むは洋の軍服
覗くキマイラの部位はそのままに
別名黒猫少佐、なんて街の声

白昼起こった乱闘騒ぎ
止めに入る大佐の姿は随分と気だるげ
逆上男が振り上げ襲う刀をなぎ払い庇えば
危うい上司を一瞥

…もう少しちゃんとして下さい、有さん

小言零すも
はぐらかす様褒められ撫でられれば
むすり黙る背で尾が嬉しげに揺れている事だろう


芥辺・有
黒羽(f10471)と


「もしも」の姿ね……
そんなこと、考えることもないし
いくら考えど思い浮かばない中
黒羽の呟いた「軍服」という言葉に耳を寄せて
……ああ、そういや見かけたな

上官のよう、という言葉にそうかい、と首を傾げて矯めながら
黒羽のこぼした言葉に耳を傾ける

桜だらけの道の中、軍服姿で黒羽を引き連れて……
黒猫少佐とは、随分可愛らしい呼ばれ方じゃないか

……いくらか流していた映画の中にもそういったものがあった気もするな、なんて考えつつ
軍人なら乱闘止めんのも仕事のうちか
仕事と言えど面倒なのは変わらないだろう
きっと大体部下任せ

黒羽がしっかりしてんなら問題ないだろ

そう言ってぽすんと手を置くことだろう



●大正700余年の桜
 700年を超えてなお続く大正の御代。不死とされる帝のお膝元な帝都は、いつも活気に満ち溢れる。それが年末も近いとなればなおのこと。活気は喧騒に変わり、些細な火種がぼうと火を噴く。
 喧嘩と火事はなんとやら、などと言われたのは遠い昔。しかし人の気質は早々変わるものでもない。
 然して街のそこらで小競り合いが巻き起こる。
 ただの憂さ晴らしのようなものだから、放っておいても大事に至りはしない。とはいえ、見掛けてしまったからには、止めに入らねばならないのが軍人の定め。
「ったく、何やってんだろうね」
 昆布や椎茸、大根などの乾物に塩蔵数の子などの縁起物を商う店の軒先で、大の男三人が繰り広げる乱痴気騒ぎに、有は肩章の金色のモール紐を揺らして肩を聳やかした。
 物憂げな金の瞳は、介入するのをあからさまに面倒臭がっている。だがこのまま見過ごしては、後日上官から叱責されるのは自明の理だ。
 ならば、どうする。
 答は一択。
「芥辺大佐、如何しましょう?」
 後ろに控えた青年将校から寄越された問いに、有は振り返る事もなくすっぱりと言い放つ。
「如何しましょう、じゃないだろう。華折少佐、速やかに鎮圧せよ」
 ――面倒は、部下に任せてしまうに限る。
 本音の所はさておいて、重く響いた有の号令に、一瞬だけ顔を強張らせた青年将校――黒羽は、すぐに「はっ!」と律儀な敬礼をして乱闘の真っ只中へ飛び込んでゆく。
 最初の狙いは、小太りの男。洋装の軍服の背中から伸びる烏の羽翼で視界を遮ると、怯んだところに足をかける。
 勢いあまって転がった小太り男は、店先の木箱に頭をぶつけたらしく、そこで沈黙。
 次は一対一でとっくみあっている男たち。いずれも何処から持ち出したのか、竹刀を手にしている。
 別に打たれたところで、軍の訓練を思えばさしたるものではない。しかし当たり所が悪ければ、軍人の面目が潰れないとも限らない。
 さてどうしたものかと黒羽は、男二人の動きを注視する。
 と、そこへ。
「おいおい、黒猫少佐頑張れよー」
「黒猫少佐! 尻尾で足でもひっかけてやれ!」
 飛んできたのは、キマイラである黒羽の容姿を模してつけられた別称――というより愛称――を含んだ野次の数々。
「――……」
 気の好い人らに悪意がないのをよく知る黒羽の全身から、がっくりと力が抜ける。ちらと視線を遣れば、人垣の隅で呑気に煙草をふかしている有も肩を細かく震わせているではないか。
 畏れられるばかりでなく、守るべき人々らから温かく迎え入れられている現状を、黒羽は悪いものだとは思っていない。だが、仕事は仕事、私情は私情。
「――ッ、有さん!」
「あ?」
 めくらめっぽうに互いに突進しあい、結果、人垣へ――しかも有のいる方――雪崩てゆく男たちを追いかけ、黒羽は地面を強く蹴って跳躍すると、寸でのところで壁となる。
 一人は痩身。一人は中肉中背。そんな成人男性ふたりをまとめて、まずは翼で一叩き。次いで素早く竹刀を奪うと、左右の手でそれぞれ男たちを捩じ上げると、黒羽は煙草の火を消す素振りもない上官を一瞥した。
「……もう少し、ちゃんと仕事をして下さい」
 言ったところで無駄な気はしないでなかったが。
「あ? 黒羽かしっかりしてんなら問題ないだろ」
 さも当然とばかりの有の応えに、黒羽は再び脱力する。
「まぁ……もう、慣れましたけどね」
 悟りを拓く心境で、黒羽は男三人を駆け付けてきた警邏へ引き渡す。周囲から上がる快哉には小さく頭を下げて、礼だといって店主から渡されそうになった籠いっぱいの南瓜は丁重に辞して。
 やがて何事もなかったようにその場を後にする、軍服姿の女と男。
 少しばかり拗ねた風の黒羽の髪には、季節構わず咲く桜の花弁が一片。
「今日もいい働きっぷりだったよ」
 気紛れな薄紅を払い除けがてら、上官は部下を労い、その頭をぽすんと撫でた。

 『もしも』を問われ、目についたのは洋服屋のショーウィンドウ。
「……軍服」
 そこから飛んだ華折・黒羽(掬折・f10471)の発想に、芥辺・有(ストレイキャット・f00133)は「いいね」と口の端を釣り上げ、そんな二人を見ていた綴り手は、あっというまに小話を書き上げた。
 三流映画ばりのそれを、有と黒羽がどう読んだかは、記した当人は知れぬこと。
 ただ、当たり前に街に溶け込む黒羽の姿を、有は頗る珍しいものとして受け止めたかもしれない。
 軍人、猟兵。何れも戦いを生業とする者ら。されど何れにも、それぞれの心温まる日常があってもいい――かもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『同人娘』

POW   :    ア゛ッ…顔良゛!ん゛っ…(嗚咽)
非戦闘行為に没頭している間、自身の【敵でもあり、公式でもある猟兵の顔 】が【良すぎて、嗚咽。立ち止まったり、倒れ伏し】、外部からの攻撃を遮断し、生命維持も不要になる。
SPD   :    ――散ッ!(公式である猟兵に察知されたので逃走)
肉体の一部もしくは全部を【同人エッセイ漫画とかでよくある小動物 】に変異させ、同人エッセイ漫画とかでよくある小動物 の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
WIZ   :    同人娘達…? ええ、あっちに駆けて行きましたよ。
【オタク趣味を微塵も感じさせない擬態】を披露した指定の全対象に【「こいつ逆に怪しいな…」という】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●沼の底
「とうとい……っ」
 洩れそうな嗚咽は手でふさいだものの、微かに毀れた嘆息が「うっ」と指の隙間からあふれ出た。
 同志に恵まれぬ虚しさから大正の御代を呪い、渇いた心を潤そうと刺激を求めて猛り狂った。
 だがこの世にも、己が知らなかっただけで無数の『萌え』が存在した。
 その『萌え』を生み出せる同志がたくさんいた。
 自分は決して孤独ではない。日々、新しいジャンルが生まれ、未知なる萌えが芽吹いている。
「私は……私は、私は何ということを仕出かそうとしていたのだ……っ」
 ヲタはヲタを嗅ぎ分ける能力があるという――そんな鋭い嗅覚で猟兵たちのあれこれを影から見守り続けた男は、己の意思を拘束するような首輪に指をかけた。
 ――とうとい。
 ――とうとい。
 ――大正という時代は、まだまだ捨てたものではない。
 なかなか引き千切れない首輪に業を煮やし、男は懐に仕舞っていた弾丸を取り出すと、銃に込め、苛立ち紛れに地面へ撃ち放つ。
 それは恩讐の塊。負が負を呼ぶ呪いの源――グラッジ弾。
 これで全ての計画はおじゃんになるはずだ、と男は思った。自分はただの萌えを愛するヲタに戻るのだと。
 しかしグラッジ弾が男の意思に構わず、影朧の群れを呼び寄せる。
『ど、どこかに尊い物語はないかし、らっ!』
『いっそ三次元でもいいのよ……っ!』
『っは、リア充の気配っ。ダメ、逃げなくちゃ』
『同人娘達…? ええ、あっちに駆けて行きましたよ』

 いったいこんな影朧をどうしろと言うのだ。
 群れで湧いた同人娘たち――きっと生前は良質な萌えに恵まれなかったのだろう。哀れだ。実に哀れ――を前に猟兵たちは頭を抱え……もとい、立ち竦む。
「お困りのようですね?」
 そこへ三度、萌えを書き散らかす女が現れる。
「さぁ、余さず心の願望をお話下さいませ。さすれば私があの影朧らを消し去りえる物語をしたためましょう。ただし展開は戦闘ものに限られますが。喧嘩、抗争、世を救う戦い、ああ喧嘩は喧嘩でも痴話喧嘩というのもありですね。手本にひとつ、必殺技のご指定をお忘れなく。うっかり実際に放っちゃうかもしれませんが、被害が他に及ぶことはありませんのでお気になさらず。戸惑う必要はありません。あなたの妄想がサクラミラージュを救うのです。さぁ、さぁ、さぁ!」
ウルスラ・クライスト
小町姐さま【f03026】と1♠️
どうぞ幾らでも、お好きに遊んでくださいな

IF
遊郭パロ。
傾城やら傾国やらと、噂に聞こえはよろしいものの
花魁と呼ばれるには危険すぎるその女、
客をひと噛みで虜にするそうな。

この街で此処より高いのは、お城くらい
街の果てまで続く雪洞灯りがステキでしょう?
小町姐さまの噂はお客さまからも伺っていたのよ、
蝶々に逢いに来て下さるなんて、光栄だこと。

まあまあ…天辺だなんて。
ご一緒してもいいのかしら。どこまで飛べるか楽しみね?

ころころ笑いながらついて走り、小町の死角に蝶を撒き。
ごめんなさい、行かせてね、と
囁くように噛む時すら、その牙を見せず。

3
あら、うふふ。クリエイティブなお方ね?


花川・小町
ウルスラ(f03499)ちゃんと1♠️
何でも大歓迎&怖いものなしです

IF
飲んだくれの道楽者
――は世を忍ぶ仮の姿
実は悪代官ならぬ悪忘八やら何やらを踏み……はっ倒し回っているつわもの、かもしれない

・高嶺の花なんて心踊るわね、必ず私が貰い受けるわ(即決)
・この景色も悪くはないけれど、ねぇ――二人で未だ見ぬ絶景や高見を探しにいかなぁい?
・貴女となら天辺まで行ける気がするわ
寧ろ突き抜けられると思うわ
という訳でさくっとエスケエプしましょ
・人の逃避行を邪魔する輩は――じゃじゃ馬が直々に蹴飛ばしてやるわ(容赦ないUC薙刀)
・蜂より見事に刺す蝶?悪の華?最高よね

3
――あら良い酒の肴を頂いちゃったわねぇ?
ふふふ



●壊国の恋
「あら、まぁ」
 千の花々を影であしらう障子戸を開けるや否や、蜂蜜色の瞳をまんまるにして固まった女の様子に、ウルスラは幾重にも重ねて纏う薄絹の袖を涼やかに歌わせ、ころりと笑った。
 髪に飾った大輪も霞むような美女だ。それでいて、偉丈夫と称するのも似合う。
「ようこそ、小町姐さま」
 名乗られずとも知れた名前を唇に乗せ、ウルスラは立ち尽くす相手を斜めに見上げる。
 ウルスラの計算されつくした角度の視線に、これ以上はないと思っていた金眸がさらに見開く。
 注がれる感嘆の視線に、ウルスラは内心でうっそりと微笑む。
 傾城だ、傾国だと、花街の外にまで名高い太夫――それがウルスラだ。所作のひとつでこれまでも多くの人間を虜にしてきた。別段、その数を誇るつもりもないが、噂に聞こえた小町が相手なら話は変わる。
 女だてらに金に糸目をつけない遊びっぷりは、実に爽快。国のお偉方なのではと実しやかに囁かれつつも、男を装うでなく、あくまで女として自らも飾り、酒と花を愛し、風流を良しとする為人に、廓の女達のみならずウルスラの馴染みにも信奉者が多い。
 そんな小町を一目で籠絡したのだ。美と雅を競う世界に生きるウルスラにとって、これほどの誉れはないだろう。
 ――いや。
「蝶々に逢いに来て下さるなんて、光栄だこと」
 すっと立ち上がり、出迎えの為に歩を進めながら、ウルスラは己が裡に灯った炎に首を傾げる。
 たかだか人を一人、落としたくらいで、自分はこんなに胸を躍らせるだろうか? 幾ら相手が、あの『小町』だったとしても、だ。
「ご覧になって? この街で此処より高いのはお城くらい。果てまで続く雪洞灯りがステキでしょう?」
 傍らに添い、白い手で小町の手を掬い上げ。極楽浄土もかくやという景色に目を促し――そこでウルスラは内心で息を詰めた。
 呆気にとられていた双眸が、ウルスラの瞳を覗き込んでいる。まるで赤い彩の奥の、ウルスラの本質までをも見透かすように。
「決めたわ!」
 果たして、それは確かに事実。
「高嶺の花? いいじゃない、心躍るわ。貴女のこと、私が貰い受けるわ」
 暗に含ませたウルスラの自負までをも飲み干す勢いで、磊落に笑った途端、小町はウルスラの手を握り返すと駆け始める。
「え、え?」
 突然の出来事に長い裾に躓きかけたウルスラの身体が宙へと浮き上がった。
「まぁ、軽い! 薙刀より軽いわ!」
 いくら何でもそれはあるまい。過った否定は、横抱きにされた驚愕に掻き消される。
「この景色も悪くはないけれど、ねぇ――二人で未だ見ぬ絶景や高見を探しにいかなぁい?」
 貴女となら天辺まで行ける気がするわ。
 楽し気でありながら、何故だか一軍の将にも通じる小町の覇気に、ウルスラは先ほど首を傾げた理由に得心する。
「っていうか、寧ろ突き抜けちゃいましょ?」
「ご一緒してもいいのかしら。どこまで飛べるか楽しみね?」
 左手にウルスラを抱いたまま、右手で薙刀を構えた小町を至近距離に見つめ、瞳と髪に炎の色を持つ女は爪を研ぐように口の端を釣り上げた。
 小町はただウルスラに見惚れたわけではなかったのだ。
 彼女の裡にある、太夫の器に収まりきらぬ≪欲≫を見抜いたのだ。
 ウルスラの本質は籠の鳥に非ず。好奇心のままにどこへでも赴き、愛でるように蹂躙する神殺し。
 行く手を阻む男衆を、小町は踊るように薙刀で薙ぎ払う。
 そしてウルスラも。後方から迫る追っ手へ、指を添わせた息をふぅと一吹き。見る間に蝶に変じたそれは、男たちの足を止める。
「ごめんなさい、行かせてね?」
 ウルスラの形ばかりの詫びを耳に、小町がにんまりと目を細めた。
「やっぱり貴女は蜂より見事に刺す蝶ね。それとも悪の華かしら?」
 誰にも見せぬウルスラの牙を見抜く小町に、ウルスラは嫣然と微笑む。
「そういう私だから、欲したのよね?」
「――最高!」

 手本に見せた薙刀の一閃で影朧たちを滅した花川・小町(花遊・f03026)は、興奮気味に書き上げられた物語をウルスラ・クライスト(バタフライエフェクト・f03499)と交互に読み終え、くつくつと喉を鳴らす。
「良い酒の肴を頂いちゃったわねぇ?」
 求められた同意に、ウルスラはあくまで上品な笑みを浮かべ返す。
「本当。クリエイティブなお方だこと」
 実際、よく出来た物語であったのだろう。いや、モデルが良かったと言うべきか。
 小町に祓われた影朧たちは、一体残らず、「とうとい……」と感涙に咽びながら昇天したのだから!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

重松・八雲
道明(f02883)と
1♥️~要統一なら♠️
ご自由に料理下さい!

設定
はいから?迷探偵
いなせな煙管パイプ――は実はチョコ入玩具
ちょっぴり甘味中毒気味なのはご愛嬌☆合法だから大丈夫!

――ほぼ野生の勘(と力業)だけで強引に解決(??)してるとか
実はうっかりお昼寝してる間に有能なわんこが涙ぐましい努力をしてるとか
そんな気がしなくもないけどきっと気のせい!

さてでは今日も元気におさんぽに行こうか!
む、事件の予感!致し方無い、成敗の時間じゃ!(鉄拳制裁)
よしよし一件落着だのう!褒美にじゃーきーをやろう!

3
おお奇遇だのう道明!
どうじゃ、この御仁はっぴーえんどを生む天才だとは思わぬか!(とっても無邪気な笑顔)


吉城・道明
八雲(f14006)と
1♠️(腹は括っております大丈夫です)

設定
怪奇人間助手
何らかの事件と悲劇(たぶんだいたい迷探偵のせい)によって狼人間に変貌してしまった模様
ほぼ毛玉姿なれど犬ではなく狼です怪奇人間です

忠犬等より一匹狼になりたいという儚い夢を懐きつつも
とりあえずこれ以上余計な事件や悲劇が起きないように奔走中

いや仕事しろ(散歩拒否)
それ(成敗)は最早探偵ではなく何か違う領分に突っ込――(ツッコミ終える前に勢い良く首突っ込みに行った爺に引き摺られ)
(犯人より寧ろこの混沌展開を叩き切りたいと思ってる顔で殺陣)
褒美よりも安寧をくれ

3
(そっ閉じ)
(あまりの出来事にうっかり何か悟りを拓きそうになった顔)



●忠犬道明(違う、犬じゃない。狼。狼なんです)
 実に良い天気だった。
 雲一つない空に浮かぶ太陽はご機嫌に地表を照らし、寒さにくたびれた河原の草をイイ感じに香らせている。
 ――ぱたし、ぱたし。
 心和む一時に、道明は温もりもふもふにもっふるした尻尾を左右に揺らし、平穏な一時を堪能していた。
 このままひと眠りするのもいいかもしれない。思い付いた妙案に、アンモニャイトよろしく道明は身体を丸め――嫌な予感にぴくんと耳を欹てる。
 いや、予感ではない。ほぼほぼ面倒事の確定だ。だって聴覚に触れた喧騒の中には、よく知るおっさん声が混じっていた。
(「……………」)
 無視だ。無視無視無視無視。
 意を決した道明は、鋭い藍色の眼光を瞼で覆い、鼻先をもふもふもっふるの己の毛並に埋め、再びの寝姿勢に入る。
 だが。
 しかし(二重否定)。
「おおお、そこにおるのはワンコではないか!」
「……うー(低い唸り声)」
「そうじゃった、そうじゃった。道明はワンコではなく狼じゃったのう」
 がはははは。
 磊落を通り越して不快一歩手前(何せ、安眠を邪魔されたのだから)な大音声に、道明は犬歯の隙間から憂い溜め息を吐く。
 どうして獣の唸りの意を正しく汲み取られたのかなどと道明は考えない。だって相手は八雲だ。逐一真剣に考えていたら道明の身がもたない。
(「――実際、碌な事になっていない」)
 右前足でかしかしと耳を掻き、道明は己が不幸を思い出す。今はすっかり狼としての姿に馴染んでしまっているが、元をただせば道明は立派な人間。それをあの自称名探偵(道明は迷探偵だと思っている)な八雲が持ち込んだあれこれのせいで、気が付けば怪奇人間と化し、人の形を取れることは滅多になくなってしまった。
『ほれほれ道明、散歩の時間じゃ』
『(散歩拒否の柴犬よろしく、誰が行くかの構え)』
『む。そういう非協力的態度をとっていると、今日のおやつは抜きじゃぞ』
『(ちらっと、目線だけ放る)』
『くくく、素直じゃないのう。聞いて驚くが良い。今日のおやつはわしお手製のびーふじゃーきーじゃ!』
『(普通のびーふじゃーきーにしてくれの顔)』
(「いや、いやいやいやいやいやいや??」)
 脳裏を過っていった不穏――という名の、どう見てもただのワンコな己の所業――の記憶を、まずは前足をぴーんと伸ばして尻尾を上げ、次いで後ろ足を伸ばして頭を上げ、身体に残る眠気ごと伸びで払拭する。
 されど起きてしまえば自然と目に入る八雲の現状。
 なんでそうなったのかは知らないが、いい年をした爺がガラの悪い若人数人に取り囲まれていた。しかも若人らの手には木刀やらドスやら、物騒な得物が握られているではないか。
「やー、悪さしてるのを見かけてのう。世のため人の為に説教してやろうと思ったんじゃが……はははははははははは!」
 ――笑って、誤魔化したな。
 何故、どうして、いつも、いつも、こうなのだ。
 始まった頭痛に道明は眉間に皺を寄せる。
 そもそもこんな窮地に陥りながらも、八雲はいなせな煙管パイプとみせかけたチョコを口にくわえている(ワンコにチョコは毒なのに。飼い主の自覚はあるのかと詰ってやりたい。いや、断じて飼い主などではないが、が、が!)(そもそも道明はワンコではなく狼だ。大事なことだから繰り返すし、タイトルにだってつける)。
「がう」
「仕方ないじゃろー。ちょっぴり甘味じゃんきー気味なんじゃもの☆」
「がうがうがう」
「えー、かわい子ぶるなじゃとー? 道明ひどーい、んじゃぞ!」
「――が」
 湯水のように湧いてくる不平不満を、道明はぐっと噛み殺す。そもそも説教といいつつ、向かってくる若人らとぐーぱんでやりあっている八雲の所業は、探偵の域を超えている。いや、まぁ、影に潜んで情報収集するなぞ八雲の性質に合うはずないと最初から分かっていたが。第一、八雲は力を加減しているのだろうか? 多勢に無勢を理由に全力でや(殺)ってる気がする。あれではどっちが正義で、どっちが悪だかわからなくなりそうだ。
「ぅー……(めっちゃ仕方ない、って顔)」
 茶色くなった草を掻き分け、道明は河原を疾走し、一足飛びに騒乱の輪の中心へ躍り出る。
 なお最初の一撃こと突進は対八雲。これ以上、事を複雑にされては叶わないから、昏倒してもらう。
 然して道明は悪たれ共と向い合う。
「なんだぁ、この犬っころ」
「構わねぇ、やっちまえ!」
「所詮、犬っころだ!」
「あぉおおおおおおおんん!!!(俺は狼だ!)」
 ……河原に静寂が戻る頃、八雲はまるでタイミングを計ったかのように目を覚まし。道明に体当たりされたことも忘れて、「さすがわし! 今日もぐっじょぶ」と失神した悪漢たちを眺めてひと笑いする。
 そんな呑気な声を耳に、道明は尻尾を寝せて項垂れるのだ。
 これでまた八雲の名声が上がってしまうだろうが、全ては裏で己が頑張っているからこそ。無論、それをひけらかす道明ではないが、世では八雲をよくよく助ける道明を『忠犬』として讃えるだろう。
(「どうせなら、一匹狼になりたい……」)
 道明の願いが叶えられる日が来るか否かは、謎である(人間に戻らなくていいの? というツッコミはしないでおく)。

 吉城・道明(堅狼・f02883)の一牙は一閃に。
 重松・八雲(児爺・f14006)の拳骨はそのまま拳骨で。
 参考までにと見せた立ち回りで影朧たちを華麗にのした男たちは、仕上げられた物語に二者二様の反応を見せていた。
「どうじゃ、道明! この御仁はっぴーえんどを生む天才だとは思わぬか!」
 きらきらしい無邪気な八雲の笑顔に、道明は藍色の眼差しを遠く馳せる。
 ――犬。っていうか、ワンコ。いや、狼。
『ア゛ッ…顔良゛! ん゛っ……(嗚咽)』
『憂い顔がまた……顔面凶器……っ、イケメンは罪っ』
 ――……。
 何かを悟りそうになっている道明の得も言われぬ表情に、また幾体かの影朧が昇天したのだった。めでたしめでたし。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・嵐吾
♥○

…わしの知らん世界が広がっとる
力を借りれるならお願いしよ!
わしではどうにもできんような気もするし

で、では綴り手さんにやんちゃをしている学生、というのをお願いしよ…かな?

学校など遅刻さぼり上等で遊ぶ毎日
河原で喧嘩したりこっそり、捨て猫の世話したり、友と楽しく過ごす日々
青春じゃな

そんな、ありふれたと言っていいのかどうかはわからんが
そういう時間があってもええんじゃないかと思う……こともあったからの
好きに、わしの知らん世界を想像して…してもろてええんじゃろか

ああ、そんな時間を――と共に過ごせておったら…
…まぁ、ええか
話はもしも、じゃしの
もしもじゃから、良いんじゃ
……影朧が満足したのなら、良しとしよ



●バンカラと子猫と日常と
 振り上げた高下駄の踵を、嵐吾は容赦なく対峙した青年の脳天へ叩き落す。
「ぐへぇ」
 直撃を食らった青年は頭を抱えて昏倒する――が、仲間が倒れた事に他の青年たちが色めき立ち、殺気を漲らせた。
「てめぇ、よくも唯彦をやってくれたな!」
「ただで済むと思うなよ!」
 ――小悪党の常套句じゃのう。
 思わず漏れかけた失笑を、嵐吾は緩い笑みに変えて満面に貼り付ける。
「言うて、仕掛けて来たのはそっちじゃろ」
「五月蠅ぇ、北高の独眼狐野郎が!!」
 学ランを脱ぎ捨てサラシ姿になった青年が、夕暮れの河原を疾駆する。手にした木刀で枯れ草を薙ぎ、そのままの勢いで嵐吾へ殴りかかった。
「やれやれ、わしの悪名は何処まで轟いてしまっとるんじゃろうのう?」
 さぞ扱い慣れているのだろう。高く風を鳴かせる一閃を、嵐吾は背後に半歩分だけ跳んで切っ先を躱すと、身を捻って半回転。冬毛で膨らんだ尾を青年の顔面に喰らわせる。
「特別大サービスというヤツじゃ」
 流石に叩きのめすまではいかない――のは計算の上。軽々に嘯く口振りとは裏腹な剣呑さを左目に宿し、嵐吾は鋭くバックステップを踏むと、豊かな毛の感触に顔を払う青年のみぞおちへ片肘を埋めた。
 げぶ、と競り上がった胃液を吐きながら痛撃を浴びた青年が身体を折って地面に沈む。
「さてと。次はどいつが寒空に転がされたいか?」
 ――頽れよ。
 獰猛に囁き、嵐吾は敵とみなした者を切り裂く花弁を宙へ浮かべた。

 尻尾を巻いて逃げ出した青年ら――おそらく近隣高等学校の生徒たちだ――の事なぞとうに忘れた風情で、嵐吾は一抱えサイズの木箱の中でにぃにぃと呼ぶ赤毛の子猫の鼻先へ、指をちょんっとつけて口元を和らげる。
 おそらくそうされることが子猫も嬉しいのだろう。精一杯背伸びして嵐吾の指に頬をすり寄せ、子猫はころろと喉を鳴らす。
「よりによってこんなとこで吹っ掛けてこんでもええじゃろうに」
 子猫と戯れるうち、少しばかりほつれた学ランの袖口が汚れているのが目に留まり、嵐吾は胡乱げに目を細める。
 日頃のやんちゃが少々過ぎたのかもしれない。校舎裏に呼び出されたり、古式ゆかしい果たし状が下駄箱に放り込まれるだけでは飽き足らず、ついには見たこともない連中にまで喧嘩をふっかけられるようになってしまった。
「……面倒くさいんじゃよー」
 飽いた溜め息を間延びさせ、嵐吾は子猫を箱から抱き上げると、そのままごろりと枯れ草の寝床に転がる。
 気持ち良く殴り合える相手ならまだいいが、雑魚相手は憂さ晴らしにもなりやしない。
「お前の飼い主も探してやらんとのう……」
 手の中からみゃうみゃうと語り掛けてくる子猫へ、嵐吾は視線を和らげ頬を弛めた。
 折しも黄昏時。行き交う人が影に馴染む頃。
 一頻り暴れて、憩いに戯れ。僅かに気の抜けていた嵐吾は、余人の接近に気付きそびれた。
「それ、あなたの猫?」
「っへ?」
 不意に頭上から聞こえた声に、慌てて起き上がった嵐吾が見たのは――。

『ここから恋が始まるのねっ』
『いえ、思わぬ再会かもしれないわっ』
『尊いわ、尊いわ。尊い予感がするわっ』
 口々に黄色い声を上げながら、花弁に巻かれた影朧たちが昇天してゆく。
 なんとも言えない光景を目の当たりにし、終夜・嵐吾(灰青・f05366)は半分渇いた笑いを口の端から漏らした。
 ――わしの知らん世界が広がっとる。
 駆け付けたオブリビオンとの戦場は、言い知れぬ(言い知れぬ!)気配に満ち満ち、迂闊に足を踏み入れてはいけない予感がひしひしだった。とはいえ、来てしまったからにはやらねばならぬ。そんなこんなで興味半分面白半分で綴り手にひとつ依頼したわけだが。
(「ああ、こんな時間を――と共に過ごせておったら……」)
 ちょっとやんちゃで、でもありふれた学生生活を送るような日常は、決して嵐吾は持ち得なかったもの。有り得ない仮定の物語に、嵐吾の心の深い部分が疼く。
「……まぁ、ええか」
 されどセンチメンタルな思考を、嵐吾は素早く断ち切る。
 物語は物語。
 『もしも』であることに意義があり、『もしも』であるから受け止められるのだ。
「ま、影朧が満足したなら、良しとしよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

クリストフ・ポー
❤○
玄冬・f03332と
僕はきのこ党

チョコレート菓子の命とは?
“チョコレート”菓子なんだから
チョコレートの美味しさに決まってるよ!

くっ…分らず屋め
誰の影響で強情な子に育ったんだろう

こっちのチョコレートは1.4倍
パリパリのクッキーで
手を汚さず食べられるアイデアも革新的だ
指を拭ってくれる従者が居なくても
好きな時に食べられるのは
旧式な身分制度をも破壊する革命に等しい
チョコレートの美味しさと革命スピリッツ
小さな一粒はその結晶なんだ

誰にでも好かれるのは
誰でもいいって事じゃないか
後発のたけのこに原野を切り拓く気概なんて感じないね

きのこは無滅だよ!

切り株?
王家の三番煎じは黙っていろよ


満足した?
僕は楽しめたよ


黒門・玄冬
1❤
2○
クリストフ母さん・f02167と
僕はたけのこ党

母さん、お言葉ですが…
正確には“チョコレートスナック”菓子です
気軽に楽しめるという良さも
無視はできない
たけのこの甘さと食感は、気分転換に最適です

影響かは解らないが
母さんが眠っていた間でなければ
貴女からでしょうね

たけのこのチョコレートはミルクとブラックの二層コーティング
食べた時に砕けたクッキーと引き立て合う
その美味しさについては
長年多くの支持を受けている事からも、疑う余地はない

途を切り拓く事は大切だが
土を耕し、種を撒いて根付かせる事にも意義がある
その点たけのこを僕は信頼しています

不屈のたけのこに、死角はありません

…切り株?
それも一つの途ですね



●無限闘争・ポーさんちの卓袱台返し事変
 その日、齢100を越えてなお外見(みてくれ)は十代少年(少年!)を保つ母(母!!!)と、裡に真っ白な男を住まわせる真っ黒な男な息子の間で、思わぬ親子喧嘩が勃発した。
「では玄冬、聞くけど。チョコレート菓子の命とは?」
 熟れた柘榴のような赤茶の眼差しを冷たく眇めた母は、至極平坦な声音で息子へ問う。
「そうだよ、チョコレート菓子。だから何にもまして重要なのは、チョコレート。つまり、チョコレートの美味しさこそ最も評価し尊重すべき点だとは思わないかい?」
 日頃のややテンション高めのくちぶりではなく、若干説教臭い聖人を模した語りくちは、母が真剣である証。
 されど対する息子とて、一歩も引かない。
「母さん、お言葉ですが――チョコレート菓子では不完全です。“チョコレートスナック菓子”が正しい品名。つまりスナックであれば、気軽に楽しめるという点も無視することはできません」
 理路整然とした、かつ抜身の白刃が如き息子の反論に、さしもの母も「むむ」と唸らざるを得ない。
「くっ……この分からず屋め。いったい誰の影響で、こんな強情な子に育ってしまったんだろう!」
「さて? 母さんが眠っていた間でなければ、貴女からでしょうね。生憎と、僕の性格が母さんの影響を受けたものであるか否かは分かりませんが」
 ――可愛くない。
 ――実に可愛くない息子である。
 まぁ、それを言えば母の方も大人げないと言えば大人げないわけだが(そもそも二十歳を過ぎた息子に可愛いも何もあったものではないやもしれぬ。でもでも一世紀を生きる母からすれば、四半世紀など赤子も同然であるからして以下略)。ともあれ母は相容れぬ息子を、いっそ殺意を滲ます瞳でねめつけ、息子の方も静かにぎらつく視線で応酬する始末。
「それに母さん、チョコレートが大事だと仰いましたが。ご存知ないのですか? カメの甲羅に用いられるチョコレートは何とホワイトとダークの二層構造になっているのですよ。甲羅の紋を二色のチョコレートで表現するという手の込み具合。そして食べれば砕けたクッキーと引き立て合う――この美味しさについては疑う余地はありません」
 だからこそ世間にはカメ派が多いのです。
 息子の弁に偽りはない。近年実施されたアンケート調査によると、確かにカメ派の勢いは軽視できないものがある。
 しかし。
「何を言う。チョコレートの量はカニの方が多いのを知らないのか? 限界を見極めたパリパリ極薄クッキーで蕩けるクッキーを包み込む。その技術は賞賛に値するし、何より異なる食感の調和は確信的にして斬新。手を汚さずして食べられるのも実に良い。分かるか? 指を拭ってくれる従者がおらずとも、心行くまでチョコレートを愉しむことができるのだ。つまり、旧態依然とした身分制度を破壊する革命に等しい」
 母の方だって攻める。めちゃくちゃ攻める。論点が頗る飛躍しているが、攻めに攻めて攻めまくる。
 卓袱台を挟んで真っ向勝負でにらみ合う母と息子は、まさに一触即発。どちらが先に卓袱台返しを仕掛けるかわかったものではない。
 けれど母も息子も決して卓袱台返しという蛮行に及ぶことはないだろう。
 何故なら、卓袱台の上には彼女と彼が愛してやまぬチョコレートスナック菓子の小箱が鎮座しているからだ。
 ひとつは『カニの浜』。カニを模したクッキーの中にとろーりチョコレートが充填された菓子である。
 もう一つは『カメの海』。カメの形をしたクッキーに、甲羅型のチョコレートが乗った菓子だ。
 同一メーカーより販売されたそれは、人々の好みを二分し、今や売上差が経済にも影響するとかしないとか。
 たかが菓子如きで、とかいうことなかれ。だって三時のおやつは大事な文化。淹れたてのコーヒーや紅茶、緑茶をお供にのんびりと過ごす一時は、家族にとってかけがえのない時間。
 話のスケールが大きくなり過ぎて、事態の把握が難しくなってきたが、とにもかくにも母と息子にとってカニかカメかは超絶大事な問題なのである(似たような話を他所で聞いたとしても、あくまで類似品であるからして、気にしちゃいけない。カニとカメだ。カニとカメ。日本の童話にも登場しがちな、カニとカメ)。
「第一、先に販売開始されたのはカニの方。つまりチョコレートスナック菓子という原野を切り拓いたパイオニアだ。のろまなカメに、それだけの気概を感じることは出来ないね」
 本気モードに入った母が、無数の薔薇の花弁を辺りに散らす。
 触れれば如何なるものも切り裂くというそれは、しかし大事なカニ匣を傷つけることなく艶やかに部屋に満ちていく。
「確かに開拓精神は大事です。けれど絶対ではないはずです。時に固い甲羅に身を隠したシークレットが存在するカメには、サプライズという今までにない魂が宿っています。つまりカメに死角はありません」
 はらはらと舞う花弁を、息子は全てを灰燼に帰すという拳で破砕する。
 この諍いがいつまで続くかは、誰も分からない。少なくとも、時計の針はとっくに三時を過ぎて、三時半になりかけている。いいのか、このままで? おやつの時間が終われば、次は夕飯だ。さすがにチョコレートスナックを夕飯にするわけにはいくまい。夕飯は、カレーかシチューか。さてどっち!

 しずしずと舞う花弁に影朧が霧散する気配を、黒門・玄冬(冬鴉・f03332)はどこか遠くに感じていた。
 果たしてこれは何なのか!?
 書き連ねられた親子喧嘩にオチらしいオチはなく、そもそも物語として成立しているかがビミョー。
 だというのに、影朧たちは『些細な事でもめる親子、萌え』『美食の追及は永遠のテーマよねっ』『美形親子……まさかの禁断……!?』とか更に謎の言葉を呟きながら消えて逝った。何故だ。わからない。わからない。が、まぁ、母たるクリストフ・ポー(美食家・f02167)の方は満更でもなさそうだ。
「これで満足できないとは。玄冬はまだまだ子供ということかな? ふふ、僕は充分楽しめたよ」
 カニかカメかの論争に終わりはない。
 同時に、母と息子の意見の食い違いにも終わりは無いのかもしれない。まる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エウトティア・ナトゥア(サポート)
※アドリブ・連携歓迎

負け描写、引き立て役OK

キャラを一言で言えば、なんちゃって部族じゃよ。
精霊と祖霊を信仰する部族の巫女をしておる。
自然が好きなお転婆娘じゃ。
あとお肉が大好きじゃよ

活発で単純な性格で事の善悪にはあまり興味はないのう。
自分とその周囲の安寧の為、オブリビオンが害になるから戦っておる。

専ら【巨狼マニトゥ】に騎乗していて、移動や回避・近接戦闘等は狼任せじゃよ。

集団戦闘時は、動物や精霊を召喚しての行動(実は未熟ゆえ精霊や動物たちにフォローされている)で、数で対抗する事が多いのう。
身体能力や技量は常人並みじゃから個人だと弱いがの。



●大団円
 果たして≪あれ≫は自分と、自分の周囲の人々や物へ害を為すものだろうか。
 助っ人としてサクラミラージュの地に立ったエウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)は、眼前で繰り広げられている光景に赤い瞳を幾度か瞬かせた。
 文明から距離を置き、精霊と祖霊を信仰する部族に、エウトティアは双子の巫女姫の姉として生を受けた。
 つまり、なんというか、サブカルチャーなあれそれとはちょっとばかし縁が薄い。エウトティアが気付いてないだけで、部族はしっかり科学文明に支えられた生活を送っているけど、それとこれは話が別だ。
『とうといわ!』
『とうといわ!!』
『萌え散らかして昇天しそうっ』
 故にエウトティアは、薄い書物を手にした少女姿の影朧たちが上げる黄色い歓声の意味が分からない。あと、猟兵たちをモデルに綴り上げられたのだろう物語が放つ香気にあてられたように影朧たちが消え逝く現象も(実際は、モデルとなった猟兵らが試演で放ったユーベルコードに打ち倒されているだけ)。
「えぇと……あれはオブリビオンで合っておるんじゃろうか?」
 常に自分に付き従う巨狼マニトゥの白い毛並を撫でさすり、エウトティアは暫し思案する。
 善悪には、殆ど興味はない。
 オブリビオンとは自分たちの生活を脅かすものだから討ち果たす。それがエウトティアの戦う理由。
 しかしサクラミラージュの影朧たちは存在が微妙すぎて、害の有無も曖昧だ。
(「こういう時、先代ならばどうするかの……」)
 よくよく立ち振る舞いを真似る祖母のことを、エウトティアは胸に思い描く。
 と、その時。頭上にぴんと立った猫耳に、『じゅう』と食欲をそそる音が飛び込んで来た。
「!」
 どこかでお肉が焼かれている。それも極上の。
 大好物の気配に、エウトティアの裡でお転婆娘の血が騒ぐ。
「あれはオブリビオンで間違いないのじゃ。つまりは、そういうことじゃ」
 深慮の果てに至った結論は極めてシンプル。棚上げにした感もないではないが、エウトティアは颯爽とマニトゥに跨ると一直線に駆け出す。
「奔れ! 風の精霊よ!」
 高い背中から突き上げた腕に、そよぐ風が纏わりついたのは刹那。瞬く間に暴風となったそれは、萌えに取り残された影朧たちをまとめて薙ぎ払い、エウトティアへ大好きなお肉へ続く道を開く。
『日焼けした肌の少女!』
『獣と一緒!!』
『王道、王道! とうとみの極致!』
『ありがとう……ありがとう……ご褒美を、ありがとう……(感涙に咽びつつ尽く昇天)』

 斯くして世にも稀かもしれない珍事は、一人の犠牲者も出さずして大団円を迎えたのだった。どっとはらい!

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年01月21日


挿絵イラスト