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冬花の祈り

#UDCアース

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#UDCアース


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 どうか、我が子の動かぬ足を。
 どうか、老母の治らぬ病を。
 どうか、明日の食べ物を。
 金を、嫁を、きょうだいを、親を、家を、天気を、戦を。

 どうか、どうにかお頼みします――巫女様。

 最初は、ちいさな土地神を祀る社の幼き男巫女への、ちょっとした愚痴のようなものだった。
 誰にともなく零していた溜息を、悩みを、その日はその童へ漏らしただけのこと。
 けれど、その子は祈った。
 村人の何気ない言葉を拾い、彼らの望みが叶うようにと、唯々神へ舞を奉じた。
 それは非力な童の唯の祈祷で、故に動かぬ足が、不治と言われた病が治ったのも、唯の偶然に過ぎなかった。
 他ならぬ童自身が、それを一番良く知っていた。

 だが、人々はそうではなかった。
 唯の偶然を奇跡と呼び、童の祈りを神力と讃え、我も我もと童に縋った。
 目を血走らせ、欲の侭に伸ばした手を組み、まるで清浄な想いであるかのように祈りを紡ぐ。どうか、どうにか――と。

 噂を聞きつけた名のある大社が童を召し上げると、人々の声は更に高まった。
 際限を知らぬ祈りという名の欲が、絶え間なく御簾越しに押し寄せる。
 最早誰のものかもわからぬ祈りを無心で受け止め、童は来る日も来る日も神楽を舞った。皆が幸福でありますように。皆の願いが叶いますように。

 ――そうして、童は終ぞ壊れた。

 叶えても叶えても、絶えることのない祈り。
 欲に塗れた人々への鬱積が、清流のように澄んだ心を濁らせた。
 己が皆の願いを叶えるならば、この心の裡にある願いは誰が叶えてくれるというのか。
 それこそ、他ならぬ自分自身意外に居はしまい。
 社の奥に封じられていた刀を手にした童は、まずは手近な宮司を切った。人の縁を断つと謂われる妖刀・孤鷹は瞬く間に血に染まり、天に掲げれば忽ち金色の落雷を喚んだ。
 人々が欲を捨てきれぬなら、この手ですべて断ち切ってやろう。
 それでも尚も縋るというなら、これまで己がしてきたように、代わりに何かを捧げてみせよ。
 そう言って狂い嗤う童は、もう一筋の光も映さぬ眸で見下ろした。

「すべて失くした終いに、君は何を捧げてくれる?」

●冬花の都
「……京都に、UDC怪物が現れた」
 まだ予知には不慣れな楊・暁(うたかたの花・f36185)は、何から話そうかと逡巡した後、まずはそう口火を切った。視えたものを思い返すかのように、辿々しくも言葉を継ぐ。
「場所は、嵯峨野のもっと奥のほう……梅ケ畑って場所にある、平岡八幡宮の境内。そこに、2種類のUDCがいる」
 まず集団で襲い来るのは、嗚咽への『影』。
 人の負の感情から生まれた『影』で、他者の心に『どうしようもない』負の感情を与えて仲間へと誘う。彼らとて、とうにその嗚咽の所以は忘れてしまっているというのに。
「でも、多分……原因を作ったのは、その奥にいる奴」
 見目は、巫女服に身を包んだ少年。『断ち切り椿』と呼ばれる彼は、孤鷹という妖刀で斬撃と雷を生み、巫蠱と毒をも操るという。
「昔は、そいつも純粋だった。けど、みんなの祈りを叶えようと頑張りすぎて、壊れちまった」
 叶えても叶えても止まぬ欲。
 それに絶えきれなくなった少年は狂い、それを絶やしたいという己の祈りを叶えた。
 人々の”すべて”を断ち、そうしてひとつの里を滅ぼした。先の『影』は、恐らくその里の住人たちなのだろう。
「気持ちは……わからなくもない。俺だって、そんなん辛ぇと思う。――けど、いつか、誰かが止めなきゃなんねぇ」
 俺たちの力は、そのためのもんなんだろ? そう、伺うように暁が視線を向ける。

「終わったら……折角だし、花見も良いと思う」
 冬の京都は昨夜の雪で一面白銀に染まっているだろうが、その中でも椿や梅は手折れることなく咲いているだろう。
 丁度、花も見頃。
 現地の平岡八幡宮――山城国最古の八幡宮には多種多様な椿が咲いているが、中でも有名なのは『白玉椿』だろう。樹齢数百年を超えるそれは、願いごとをすると白椿が一夜で花開き成就したという伝説を持つ花で、雪のように白く丸みを帯びた形が愛らしい。
 もうひとつ有名な『花の天井』は生憎公開時期ではないが、椿に彩られた静かな境内を巡るひとときは屹度、戦いの疲れを癒やしてくれるだろう。
 また、京都の南にある城南宮では、梅と椿の祭りが行われている。花の賑わいを愉しむのも良し、茶席で花を愛でながら白椿をモチーフにした椿餅をいただくのも良いだろう。
 ほかにも、中心街などに出て和小物を買ったり、抹茶や甘味に舌鼓を打つのも一興だ。
「縁ってさ、切れてもまた紡げるもんだろ」
 だから、いっぱい紡いでこいよ。
 そう言うと暁は、微かに、けれど確かに口許を緩めた。


西宮チヒロ
こんにちは、西宮です。

切れぬ絆を信じますか? それともまた、繋ぎ直しますか?

●補足
・2月末~3月頭完結の、のんびり運営予定です。
・いずれの章も時刻は早朝。田舎町でもあるので、人払い対策は1行程度で十分です。その分、心情や戦闘に文字数をお使いください。

<1章:集団戦『嗚咽への『影』』>
境内入った場所での戦闘。
相手にやりきれない負の感情を与えてきますので、特にSPDやWIZの場合はプレイングに心情も盛り込んでいただければ幸いです。
なお、会話はできません(敵は独り言のように呟く程度です)。

<2章:ボス戦『断ち切り椿』>
境内奥での純戦。相手は絆や縁を忌み嫌う少年巫女です。

<3章:日常『和の彩』>
京都市内での観光。
OPにある場所以外でも、市内であればお好きな所をお楽しみください。
当章に限り、お声かけいただき、プレイングに問題がなければ当方グリモア猟兵もご一緒します。

●プレイング
・同伴者はご自身含め2名まで。プレイング冒頭に【IDとお名前】もしくは【グループ名】をご明記下さい。
・公序良俗に反する行為、未成年の飲酒喫煙、その他問題行為は描写しません。

●プレイング受付&採用
⚠各章、送信可能になったタイミングから受付開始。最短で完結予定です。
⚠プレイングに問題がない場合でも流れてしまう可能性がありますが、お気持ちお変わりなく、受付フォームが開いていれば、ご再送いただけると嬉しいです(こちらから再送のお願いはお送りいたしません)。
・各章のみの参加、途中参加も歓迎です。
・オーバーロード使用の方は、プレイングに問題がない限り全て採用します。

皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 集団戦 『嗚咽への『影』』

POW   :    嗚咽への『器』
戦闘力が増加する【巨大化】、飛翔力が増加する【渦巻化】、驚かせ力が増加する【膨張化】のいずれかに変身する。
SPD   :    嗚咽への『拳』
攻撃が命中した対象に【負の感情】を付与し、レベルm半径内に対象がいる間、【トラウマ】による追加攻撃を与え続ける。
WIZ   :    嗚咽への『負』
【負】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【涙】から、高命中力の【精神をこわす毒】を飛ばす。

イラスト:透人

👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

月隠・三日月
境内に着くまでに人と会ったら、危ないから帰るように伝えよう。

あれらと対峙していると、特に理由もないのに気分が悪くなってくるな……。しかし具体的な何かが思い起こされるわけではない辺り、あれらにももう自分の嗚咽の理由はわからないのだろうね。
まあ、今更同情しても仕方ない。同調して取り込まれるのはごめんだしね。

近くにいる敵を【紅椿一輪】で斬りつけよう。これは妖刀の刀身に触れたものを斬る【呪詛】、たとえ刀身の長さを超えて敵が巨大化しようと、きれいに断ち切ってみせるよ。
とはいえ、飛翔力を増加されると厄介だな。飛ばれるとそもそも攻撃が届かないから……。その時はあきらめて別の敵を狙うか、降りてくるのを待とう。



●白雪と黒涙
 京の街というのは、広いように見えて存外狭い。北は北山、東は白河、南は伏見、西は桂。概ねそこから先は、途端に田舎の景色に変わる。
 梅ケ畑という地もそうだった。市内右京区にあるとはいえ、福王子神社で折れてから先の周山街道は、整備はされているものの街の賑わいからは遠ざかり、家々さえも疎らになる。
 山沿いではあったが、幸いにも前日の雪は道行きを阻むほどではなかった。早々に到着した月隠・三日月(黄昏の猟兵・f01960)は、暁光に燦めく雪に細めた双眸を、神社へと続く道へと移した。丁度その道を行こうとする老婦人を見かけ、足早に駆け寄る。
「おや、あんたはんもお参りに来はったん?」
「ええ。でも、もう少し後にしようかと思って。まだ雪もあんなに積もってて危ないし」
「……あらまぁ、せやなぁ。ほな、うちも後にしましょか」
 ちらりと道の先を見た老女は、見慣れた砂利道を覆うほどに積もった雪を見て納得すると、ゆっくりと踵を返した。遅くはあるが、確りとした足取りを見送った三日月は、改めて道奥の鳥居を見据える。
 影が見える。
 否、見られているのだろうか。三日月を認識したのか、それは一気に膨れ上がった。離れていても聞こえる耳障りな嗚咽に、三日月は微かに柳眉を顰める。
(あれらと対峙していると、特に理由もないのに気分が悪くなってくるな……)
 だからこそ男は、雪上に足跡を残さぬほどの俊敏さで、一足飛びに間合いを詰めた。鍔も鳴らさず抜刀した紅染の妖刀を、そのまま影の群れ目がけ大きく横へと薙ぐ。
 すぐさま霧散するも、新たにどこぞから湧いてきた複数の影が、またしても一気に膨張した。併せて増えたむせび泣く声が、不協和音のように当たりに響く。
(飛ばれると厄介だな)
 ならばと、即座に後ろへと跳び距離を取った三日月は、間髪入れずに積雪を蹴った。無数の白を散らしながら、高く跳躍する。
 数が増えようが肥大化しようが、この妖刀の前にはなんら意味を成さない。刀身に触れれば、忽ち呪詛がすべてを喰らう。影も、嘆きも、何もかもを。
 上段に構えた刃を、影の頭上めがけて振り下ろす。そのまま体重を乗せ下降すると、紅椿の刃が縦一閃の軌跡を描いた。空間ごと割くように地上へと着地すると、瞬く間に前景を埋め尽くしていた影が払われ、雪の白が顕になる。
 どこかから生まれた新たな嗚咽に、三日月はすかさず意識を向けた。
(具体的な何かが思い起こされるわけではない辺り、あれらにももう自分の嗚咽の理由はわからないのだろうね)
 とはいえ、今更同情しても仕方のないこと。同調して取り込まれるのは御免だ。
 男は僅かに唇を引くと、妖刀を構え直すや否や再び跳んだ。雪景色に黒髪を靡かせながら、有象無象の巨影を、終わらぬ涙を、淀みのない太刀筋で打ち払ってゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
…どこも似たようなものだね。
不思議な力の有無は関係ない、人は縋れそうなものを求めているんだから。
…ただ相手が見失ってるだけの、本当の願いを見抜くだけの人形を聖女なんかに祭り上げてしまう。
そしてその後は…止めようか。
境遇は可哀想でも止めなきゃね。

適度に距離を取り攻撃を見切って極力喰らわないように。
速度で攪乱しつつカウンターで槍に破魔の力を宿してUC発動、一気に刻んでやろう。
殴られたら殴ってきた影を優先で潰す。
…まったく嫌な事を思い出させてくれる。
あの時最期まで共に居られなかったこと、守られてしまった事。
毎朝鏡を見る度に思い知らされてるんだよ。
これ以上気が沈む前に、消えて?

※アドリブ絡み等お任せ



 幾つもの分厚く昏い層を、雪光を纏った銀槍が一気に貫いた。
 とは言え、肉や骨を断ったときのような手応えはない。それが尚更、相手がただ刻に取り残されただけの影でしかないことを思い知らせる。
(……どこも似たようなものだね)
 実際に特別な力を宿しているか否かは関係ない。人はいつだって、縋れそうなものを求めている。
 だから、相手が見失っているだけの本願を見抜けるだけの人形を、特別な存在だと声高に祭り上げてしまうのだ。そうして、その後は――。
 迫り来る影の拳を躱しながら、クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)はそこで思考を止めた。これ以上は無用だ。どれほど彼らを哀れんだとしても、止めねばならないことには変わりない。
 雪を抉らん勢いで繰り出された重い一撃。軽やかに宙へと身を翻してそれを避けると、一拍遅れて先程までクーナが居た場所に雪飛沫が舞った。
 白が視界を遮ったのは、ほんの一瞬。けれど、男装の騎士猫はその機を見過ごしはしなかった。
 ――半歩。詰める距離はそれで十分。彼女の身丈ほどの銀槍が白越しに影を穿つと、宿した破魔の力に飲まれた影の、絶叫のような嗚咽があたりに響いた。
(……ああ、もう)
 耳にこびりつくような残響に、思わず顔を顰めた。本当に、どうしようもなく似ている。救って欲しいと身勝手に縋る、あの人々の声に。
「……ッ!」
 頬を掠めた拳に、クーナは僅かに蹌踉めきながらも踏み留まった。ぐらりと揺れてた視界が、そのまま暗転する。

 ああ、声がする。
 私を呼ぶ、あの娘の声が。
 あの日、火刑台へと至るあの場所で、酷く残酷な願いを紡いだ声が、鮮やかに耳許で囁きかける。
 犠牲になることはなかったのに。誰もあの娘の変わりになぞ、なれやしないのに。
 それでも自分の代わりにと託していった彼女の顔とともに、あのときの苦い想いが裡に込み上げた。

 同時に、胸に衝撃が走った。
 小柄な身体を押しつぶすかのような拳を食らったクーナは、そのまま雪上に跡をつけながら後方へと吹き飛ばされた。せり上がる不快感のままに咳き込み息を吐き出すと、即座に立ち上がり敵を見据える。
(……まったく。嫌なことを思い出させてくれる)
 あのとき、最期まで共に居られなかったこと、守られてしまったこと――毎朝、鏡を見るたびに思い知らされているというのに。
 クーナは捉えた視線はそのままに短く息を吸うと、次の瞬間には対峙する影へと肉薄した。己の顔めがけ突き出された拳を紙一重で横に避けると、反射的に左の拳を振りかぶる。
「これ以上気が沈む前に、消えて?」
 すかさず繰り出した強烈な一打が、一際濃い影の顔面を捉えた。絶え間なく響いていた嗚咽が、立ち所に止む。そのまま勢いを乗せて拳を振り切ると、あれほどに居た影も、嘆きも、一気に霧散し消えていった。
 気づけば、もうあの娘の声も聞こえなくなっていた。
 朝露に燦めく雪景色を一瞥しながら、羽根付き帽子を片手で整える。
 すぐさま新たな敵の気配に気づいた騎士猫は、白雪と白百合の銀槍を携え、次なる戦場へと駆けて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

比良坂・彷
立ち入り禁止の札かけ

負の感情ってなんだ
喜楽しかねェってよく言われンだけど
死に瀕してても『正』ばっか
それとも『匣(ぜんせ)』まで引きずり出してくんのか

童の境遇が俺とそっくりでつい来ちまったわ
逢ってみたい
まずはお前ら相手な
吸ってる煙草を放り投げ赤の彼岸花に変えて攻撃
麻雀セットで殴る蹴る
流血歓迎

*負
今世では兄弟有象無象だがあいつらはどうでもいい
俺は前の世を引きずる亡霊で
想うのは宿世の弟だけ
想いがすぎて殺しちまったんだ
「俺の魂が死ねばこの遺伝子まで同じ躰に宿ってくれますか」
「だから、死にたい死にたい」

なぁ一緒に地獄に堕ちてくれよと死人花を蒔く
もう同じ事ァ繰り返したくねぇんだ
でもあの子のそばにいたいんだ



 ――逢ってみたい。
 男を突き動かした衝動は、唯それだけだった。
 まるで己を見ているかのような童の境遇。それを知ったら、向かわずにはいられなかった。鳥居の手前に立ち入り禁止の札を掛けると、振り向いた先の影を静かに見据える。
「まずは、お前ら相手な」
 そう口端を上げると、比良坂・彷(冥酊・f32708)は燻らせていた煙草を放った。忽ち彼岸花へと形を変えたそれは、緋を散らしながら、幻惑めいた幽世蝶とともに影を喰らう。
 瞬間、影たちの嗚咽が一際大きく響き渡った。
 最早嘆く理由さえも失くしたはずの影が、畏怖と狂乱に塗れて蠢き始める。ある者は巨大化し、ある者は飛翔し、己が対峙している相手が誰やもわからぬまま、時に自身にすら攻撃を振るう。
 その阿鼻叫喚とも言える戦場を、男は外套を靡かせながら疾駆した。こうしてしまえば、あとは至ってシンプルだ。懐に、死角に潜り込み、止めを刺す。死にたいんだろう? ならば死なせてやるよ――そう、言わんばかりに。
 ――負の感情って、なんだ。
 奴らの攻撃を受ければ忽ち与えられるというそれを、けれど彷は知らなかった。普段から喜楽しかないと言われてばかりの男は、死に瀕していても『正』ばかりだ。
(それとも)
 右からの拳を雀牌セットの入った革鞄で受け止めながら、背後から襲い来る一体を重い回し蹴りで沈めた彷は、新たに生まれた有象無象へと再び緋花と蝶を放った。
(――『匣(ぜんせ)』まで引きずり出してくんのか)
 その心の揺らぎが僅かな隙を生んだ。忽ち昏く淀んだ涙が裡を侵食し、心を毒で染め始める。

 今世の兄弟なぞ塵屑だが、前世を引きずる俺は亡霊だ。
 心が呼んで止まないのは、唯一人。
 想いが過ぎて殺してしまった、宿世の弟だけ。
 ――俺が死ねば、俺のこの魂が潰えれば。遺伝子までも同じこの躰に、再び宿ってくれますか。
 幾ら問うても、返らぬ答え。
 それでも男は問い続け、希う。だから、死にたい。死にたい。死なせてくれ――。

 ざらりとした鉄の味に気づくと、彷は静かに瞬いた。背中と後頭部に触れる冷たさに、仰向けに倒れたのだと気づく。右腕、肋、そして左脚。知らぬまに増えていた傷と痛みに、思わずちいさな笑みが込み上げた。
 雪の上に散らばる血の花と牌へ一瞥をくれると、男は陽炎のようにゆらりと身体を起こした。喉にこびりつく蘞味を洗い流さんと無意識に次いだ煙を吐き出し、未だ裡に燻る負の感情のままに笑う。
「なぁ、一緒に地獄に堕ちてくれよ」
 指先で弾いた途端、再び死人花が視界を染め上げ、無数の蝶が幽愁を呼んだ。
 ――もう、同じ事ァ繰り返したくねぇんだ。
 ――でも、あの子のそばにいたいんだ。
 その想いを音にしたかどうかは、当の男ですら分からない。
 唯々、唯々。止むことなく雪に舞い続ける血花と蝶が、一層混濁し何とも知れぬものとなった影と涙を、貪るように喰らい尽くしてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
類殿(f13398)と

どうかどうかと
願い縋る声を知っている
それを一身に受ける感覚も

心壊れてしまった彼に
その手で屠られた民に
傾ける心、過る己の嘗てをも
ふるり振るう頭で一度追いやって
共にゆく友と速やかに人払い

影の溢し続ける嗚咽も涙も
胸をきうとするけれど
掛かる声に見上げた先
友の瞳を見たならば
頼るよな言葉にさえ
彼の気遣いが見えるから
笑みに「大丈夫」を乗せて

呑まれては何も為せぬもの
今は亡き命となりても
嗚咽の続く
壊す毒を散らす
そんな哀しき呪縛こそ断てるよに
閃く切先たる其方を守り支えるは任せて

浄化の炎纏わす友の背を押すように
負をも祓わんと加護の歌に乗せ
破魔宿す花弁も
涙を嗚咽を
壊す“毒”を
断つ力とならんことを


冴島・類
※ティルさん(f07995)と

さぞ…
幼いこころ
人の身では重かったでしょうね
肥大した願いは
どうにも…間に合わなかった事が
遣る瀬無く溢れてしまうが

人払い後
目の前で嗚咽を漏らし続ける彼らと対峙

ティルさん
もう何も、分からなくなってしまっているみたいです
引きずられないよう
終わらせましょう
人の悲しみに寄り添いそうな友に
涙が届かぬよう
守りを預けれますか?と
笑みの奥何か機微を感じつつも

己は鯉口を切り
刀に焚上の火を纏わせ、影へ駆ける
纏わりつく呟きは重く泥濘のよう
その童も、同じひとと見失ってしまった
欲の深さ
嗚呼ひどく覚えがある…が

だから、醜い
殺されるべきとは思わない
歌に力をもらい
涙は炎で喰い
断ち切る為にと薙ぎ払う



「――ティルさん」
 冴島・類(公孫樹・f13398)から背中越しに名を呼ばれ、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)は静かに瞼を上げた。伺うような双眸に笑みを作って返すと、もう一度辺りを見渡す。どうやら、暫く人は来なさそうだ。
 意識を現へと向けても尚、伝え聞いたばかりの話が脳裏を過ぎる。
 どうか、どうか。
そう願い縋る声は、ティルも良く知っていた。そしてまた、この身がそれを受ける器となる感覚も。
だから、どうしても想いを馳せてしまう。幼き手で屠られた民に、心壊れてしまった彼に――嘗ての己を、重ねてしまう。
 それでも一度ふるりと頭を振ると、ティルは眼差しに力を込めた。類殿、といつもの笑みを見せれば、男も柔らに微笑した。
 陽に燦めく雪景色と静寂。その中に佇む石鳥居の奥から、じわりと影が滲み出た。気づけば四方から木霊するかのように、幾つもの嗚咽が耳に響く。ほろほろと止め処なく零れる涙は昏い染みとなって、白雪に幾つもの斑を描いていった。
 口のような場所から漏れる声は、最早言の葉ですらなかった。それでも己へと伸ばされる手に、ティルの胸が痛いほどに軋む。
「ティルさん。……もう何も、分からなくなってしまっているみたいです」
 頭上からの凛とした声へと仰げば、変わらぬ友の眸に覚悟を見つけ、娘もまた頷いた。
「そう、じゃな」
「引きずられないよう、終わらせましょう」
 それはまた、己に向けたものでもあった。こうした結末しか迎えられなかったことが、間に合わなかったことが、やるせなく溢れてしまう。
 さぞ、膨れ上がった願いは重かったことだろう。――その幼き心、人の身には。
 それでも今案じるべきは、彼らではない。傍らの、人の悲しみに寄り添いそうな優しき友に、決してあの涙が届いてはならない。
「守りを預けれますか?」
 頼るような言葉に隠れた気遣いに、ティルはふわりと笑って応えた。大丈夫。そう込めた心に気づき、類も力強く首肯する。
 その絆を羨んだのか、ふたりを取り囲んでいた影が一斉に蠢いた。
 反射的に鯉口を切った類は、娘を庇うように前へ出ながら駆け出した。奔りながら抜いた刀へ焔を纏わせると、一度返した刃で眼前の影を横に薙ぎ、そのまま身を翻して次を上段から一刀に伏す。即座に屈み頭上からの一打を避けながら、振り向きざまに別の影を逆袈裟に斬り上げ、また次へと接敵する。
 忽ち、彼方此方で影たちが赫に飲まれた。
 焚上と名づけたそれは、浄化の炎。負の感情を喰らい、己の命と力に変える。
 爛れるような皮膚もありはしないのに、間断なく響いていた嗚咽を絶叫が掻き消した。
それでも揺らがず立ち回る類の前に、一際大きな影が立ち塞がった。間髪入れず身体を広げ、男の視界を覆い尽くす。
 魂にまで纏わりつく、涙混じりの呟き。重く泥濘のようなそれは、心清らかな童さえも同じひとと見失ってしまうほどの、欲深さだ。
 ――嗚呼。
(ひどく、覚えがある)
 途端、ティルの澄んだ歌声が戦場を包み込んだ。ふわりと舞う清浄なる花弁が、あたりの影を見る間に払ってゆく。
 頼られずとも――否、頼られたからこそ。刃ひとつで戦場を駆る其方の守り役は、任せて欲しい。
 呑まれては何も為せやしない。今は想いの残滓だとしても、嗚咽も止まず、他を害する毒を散らすような哀しき呪縛こそ断ち切らんと、ティルは音と言葉を柔らかに紡ぐ。
 それは、ひとりの娘の加護の歌。涙を、嗚咽を、壊す”毒”を、断つ力。
 春を歓ぶ雛鳥の旋律は、叫号さえも霞ませ、瞬く間に淀みかけた男の思考をも晴らしていった。
 その欲深さを、知っている。
 だが、だから醜いと、殺されるべきだとは思わない。
 類は刀を握り直すと、今にも己を喰らわんとしている巨影を見据えた。友が背を押してくれたように、その心には一寸の淀みもない。
 湧き上がる力のままに軽く地を蹴った類は、眼前から迫り来る巨大な影の固まりを、縦一文字に構えた刃で真っ向から受け止めた。
 雨のように毀れ落ちる無数の涙を、次々と浄炎が喰らう。あたりに散る雪煙と火花に塗れながら、躊躇うことなく一歩、深く肉薄し――渾身の一打を繰り出した。
 終わらせるために。
 断ち切るために。
 類が大きく薙いだ瞬間、あれほどに視界を埋め尽くしていた巨影が弾けるように消滅した。気づけば他の影も皆、消えてなくなっている。ふたりはどちらからともなく見合うと、ちいさな笑みと吐息を零した。
 あたりに再び白が戻る。
 もう、嗚咽は聞こえない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リュカ・ラス
優しい方、だったのですね
たくさんの声を聞いて、たくさん祈っていたのですね
それでご自身が壊れてしまうほどに

立入禁止の看板を見やすい位置に出しておきます(人に会うと子供なので逆に話しかけられる事もあるので出来れば誰にも会わずに行きたい)

UCはルゼを呼びます
ルゼ、その力で私に防御の加護をください
そして出来る事なら、その光が影を断ち切れますように

誰も悪くないのに起きてしまった事件はとても悲しいです
だからせめてこれ以上悲しみが増えない様に、私はここに来ました
貴方達も、こんな事になると思ってなかったでしょう、だからせめて終わらせます
強過ぎる想いは、行き過ぎると不幸になる。
私が猟兵になって知った事の1つです



 鳥居までの参道を、マントをはためかせながら一気に駆け抜けたリュカ・ラス(ドラゴニアンの剣豪・f04228)は、一度脇の茂みに身を隠した。葉陰の隙間から通りを見遣ると、丁度こちらへと向かっていた夫婦が、脚を止めて踵を返していく。どうやら、立ち入り禁止の看板は功を奏したようだ。
 念のためにと、周囲を見渡す。この子供の見目では、誰かに会ってしまったら逆に話しかけられてしまうやもしれない。そう案じてここまで来たが、もう大丈夫だろう。
 リュカはそろりと愛剣を抜きながら姿を現すと、少し登り坂になっている鳥居の奥を見つめた。白銀に染まった道の両脇にあるのは、桜の樹だろうか。屹度、春は見事な景色となるはずだ。
「……貴方たちも、見られると良かったのですが」
 雪と静寂を穢しながら現れた幾つもの影。それらに真っ向から対峙した少年は、凛とした声で一族の血脈と結ばれた竜を喚ぶ。
「――我が呼び声に応えよ、光の竜【ルゼ】』
 忽ち、神々しくも柔らかな白銀の光を纏った小竜が宙に現れた。己へと視線を向ける友へ、リュカもちいさく頷く。
「ルゼ、その力で私に防御の加護をください」
 そして、できることならその光が影を断ち切れますように。
 願うと同時、勇竜の高らかな咆哮とともにリュカの身体が光に包まれた。その輝きに戦くかのように、影たちが一歩後ずさる。
 その瞬間を、ちいさな竜の戦士は見逃さなかった。父から貰い受けた大剣を軽々と振るいながら、寸秒で敵の懐に飛び込む。身の丈を覆うほどの影に臆することなく、体重を乗せて獲物を一気に叩き込むと、まるで空気を裂いたかのような感触のまま、影は瞬く間に消し飛んでいった。
 倒してもまたすぐに湧いて出てくる様に、けれどリュカの気が滅入ることはなかった。元より実直な少年は、太刀筋を一切乱すことなく影を屠りながら、やり場のない想いを音にする。
「誰も悪くないのに起きてしまった事件は、とても悲しいです」
 彼らは、唯の人だっただけだ。願わずには、祈らずにはいられない。唯々、人間らしく在っただけ。
 そして童も、優しい人だったのだろう。たくさんの声を聞き、それが叶えば良いと願いの数だけ祈った。自身の心が、壊れてしまうほどに。
「だから、せめてこれ以上悲しみが増えない様に、私はここに来ました」
 強過ぎる想いは、行き過ぎると不幸になる。
 それは、リュカが猟兵になって知ったことのひとつだった。だから、止めねばならない。彼らの、そして童の不幸を、ここで断ち切らねばならない。
 俊敏な動きで攻撃を躱すリュカに対し、残った影たちは辺りに沈鬱な嗚咽を撒き散らしながら、一際大きな渦を巻き始めた。だが、それが飛翔力増長の前触れと少年が気づくほうが早かった。ならばと強く地を蹴ったリュカは、暗澹たる渦の真上へと跳び出しながら、愛剣を頭上高くに振りかぶる。
「貴方たちも、こんなことになると思ってなかったでしょう」
 願うことすら許されないとは思わない。
 寧ろ、辛ければ辛いほど、誰かに、何かに、願わずにはいられない。そうでなければ心を保てないだろうことは、年端のゆかぬリュカでさえも知っている。
 ――だからこそ、
「せめて、終わらせます」
 もう、自らその嗚咽を止めることができないのなら。
 何を願っているのかも、忘れてしまったのなら。
 光を纏った少年が、宙から一気に降下しながら大剣を振り下ろす。その一閃は光の帯となって影を諸共喰らい、雪の燦めきとともに――爆ぜた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月守・ユエ
アドリブ◎

願い願われ、乞い焦がれ…
願いの果てとは
やはり人を濁らせてしまうのだろうか

嘗て、わたしもそうだった
男巫女と同じように人々の言葉を拾い
願いの全て叶えたいと祈り、己が唄を神へ奉じた

皆の願いが叶う事で幸福がおとずれますように…と

目前の影達を見据えて物思う
――己がやりきれない思いとは何か?
…祈っても唄っても
あらゆる者が何も報われなかった
この身の無力さ

幸せを求めるが為に、人は負の感情をとぐろ巻く
人々は満たされぬのに
わたしは何が為に祈り続けていたのでしょうか
…なんて、考えるだけ不毛なのも…わかってる

でも…不毛だからといって
目の前のあなた達を放っておく事も
わたしはできない…
ならば、浄めましょう。流しましょう
其を浄める事で、どうかただいっときでも
迷える誰かの心が報われますように…なんて…

Lunaryのスピーカーを通し
浄化の歌唱響かせる
歌は彼の者達を浄め慰めるように

UC:範囲攻撃
ただ静かに流れてゆけ。迷える魂達よ

男巫女が全てを絶つというなら
いまはただ…わたしは、この想い達を在るべき処へ還しましょう



 突如、胸に湧き上がった感情。
 懐かしくも痛みを伴うそれを、月守・ユエ(皓月・f05601)は良く知っていた。
 言うならば、それは無力さだ。己の裡に未だ在る、やりきれぬ想いだ。

 男巫女は、嘗ての己の姿だった。
 人々の言葉を拾い、願いのすべてを叶えたいと祈り、己が唄を神へと奉じた。
 皆の願いが叶うことで、幸福がおとずれますように。
 幾度となく繰り返したその想いは、祈り唄っても何も変わりはしなかった。あらゆる者が報われなかった。
 その無力さが今、この身を、心を蝕んでいる。
 幸せを求める人々の想いは、いずれ負の感情となって蜷局を巻く。そうした人々は終ぞ満たされなかったというのに、わたしは何が為に祈り続けていたのだろう。
(……なんて、考えるだけ不毛なのも……わかってる)
 だが、不毛だからと眼前の影を放っておけるユエではなかった。たとえそれが月神の寵愛を受けた歌巫女の性なのだとしても、それが己の想いであることには変わりはない。
 結局、自ずと出てくる答えは同じなのだ。
 迷える誰かの心が報われるように。そう、祈らずにはいられない。
「……ならば、浄めましょう。流しましょう」
 現へと意識を呼び戻したユエは、四肢に走る痛みに一瞬、柳眉を寄せた。はらりと頬に落ちた髪を、手の甲で払う。
 いつの間にか喰われていた。
 どれだけ無防備だったのだろう。どうにか立ってはいるが、身体のあちらこちらが軋んで悲鳴を上げている。
 それでも、ユエの心は揺らがなかった。怯みはしない。骨肉が断たれようが、血がどんなにこの雪を染めようが、歌うことを止めはしない。
 言うことを聞かぬ身体を無理矢理動かし、再び繰り出された影の拳を避けたユエは、即座にスタンドマイクから切り離して増殖させたスピーカーを周囲へと展開した。忽ち囲まれた影たちが、狼狽したかのようにぎこちなく動く。
 この浄化が、唯いっときのものだとしても。――それでも。
 鈴の音のような澄んだ高音が、あたり一面に響き渡った。清らかで、けれど確かな力強さもある美しい旋律が戦場を満たしてゆく。
「ただ静かに流れてゆけ。迷える魂たちよ」
 願い願われ、乞い焦がれたその果てにあるのが、例え人の心の淀みであったとしても。
 ――わたしは、歌う。
 幾つもが重なり、耳障りな不協和音となっていた嗚咽が、浄め慰めんとする歌声に包まれいつしか薄らいでいた。
 まだ。まだ、聞こえている。
 なにかを願う声が。むせび泣く声が。
 消えてはまた湧いて出る影たちへと、ユエは絶えることなく歌を紡いだ。
 聲が潰れたとて、この命が尽きたとて、構いやしない。男巫女が全てを絶つというなら、今は唯、この想いたちを在るべき処へ還すだけだ。
 満月のひかりを宿す双眸に、力が宿る。
 途端、一際高らかな音が凍てつく空気を震わせた。夜を思わせる漆黒の髪を靡かせながら、想いを言の葉へ、言の葉を音へと変え、柔らかな調べがすべてを包み込んでいく。

 最後の一音が、そっと冬空に溶ける。
 そこにはもう、嘆き悲しむ者は誰もいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『断ち切り椿』

POW   :    どうせだったら面白い遊戯が見たいな
【妖刀<孤鷹>よる斬撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    不成の巫女が今祈る。さぁ、遊ぼうよ
自身が装備する【妖刀<孤鷹>】から【降り注ぐ金色の雷】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【感電】の状態異常を与える。
WIZ   :    全てを断てば、ねぇ、何を見せてくれるの?
【巫蠱と毒と妖刀<孤鷹>】を解放し、戦場の敵全員の【縁】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。

イラスト:のはずく

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ルカ・アンビエントです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

月隠・三日月
他人の願いを叶えようと頑張りすぎたヒトの行く末か。
期待されすぎるのも、それに応えようとしすぎるのも、不幸なことなのかもしれないね。

敵は斬撃を放ってくる……そういえば、斬撃を斬ることができるか試したことはなかったな。敵が攻撃してきたら、【紅椿一輪】で斬撃を斬って防げないかやってみよう。これは全てを断つ【呪詛】、相手の妖刀にどこまで通じるか、楽しみだね。
これが上手くいったら、一気呵成に敵に斬りかかろうか。

敵の境遇に思うところはあるけれど、私に彼の心境は理解できない。
結局、私は強い相手と戦いたくてここにいるだけだしね。
私にできるのは敵を斬ることだけ。奇しくも私の技の名も『椿』、これで全て断ち切ろう。



●断つ縁、断つ心
 淀んだ嗚咽も、その源となっていた影をも消えた途端、その場の空気が揺らいだ。
 緑深き参道の奥、俄に沸き立った花の香りとともに現れたのは、白い水干に緋袴姿の童だった。
 紫影を帯びた白髪の下から覗く昏い双眸で、さして興味もなさそうに一瞥する。
「――どうやら、僕へ祈りに来たわけではないようだね」
「強い相手と戦いたくて、来た」
「へぇ!」
 月隠・三日月(黄昏の猟兵・f01960)の偽りなき本心に、男巫女は感嘆の声をあげた。先程とは打って変わり、その眸に興味を滲ませる。
「でもまぁ、それも願いと言えば願いになるのかな。戦う相手は、僕なのだろうから」
 雅やかに微笑する少年に、けれど三日月は表情を変えなかった。見目が幼かろうが、華奢だろうが、眼前にいるものは紛うことなくオブリビオンであり、ならば油断はならぬ相手に他ならない。
「いいよ。相手をしてあげる」
 一層笑みを深めながら、童は鞘から刀を抜いた。身の丈からは些か長いそれを手慣れた様子で一振りすると、愛おしそうな眸で刃を眺める。
「折角、久しぶりにこの『孤鷹』に血を吸わせてやれるんだ。――精々、愉しませて貰おうかな」
 瞬間、一足飛びで詰められた間合いを、三日月もまた同時に後ろへと跳んで距離を取った。が、思ったほど離れられてはいない。浮遊している分、どうやら跳躍力も高いらしい。
 すぐさま予測を改めると、今度は三日月が打って出た。構えた妖刀に勢いと体重を乗せ、幾度か重い一刀を放つ。だが、それを受ける童の刃も押し負けることはなかった。同等、寧ろそれ以上の力で跳ね除けてくる。
(力もか、なるほどね)
「いい加減、単調な鍔迫り合いも飽きてきたなぁ。……そっちから来ないなら、こっちから行くよ!」
 一際大きな金属音を響かせながら刃を弾くと、童はその反動を利用して大きく振り被った。後方へと飛翔しながら、狂気めいた笑みを浮かべる。
「なぁんか、君みたいなの見てると苛立つんだよね。一直線でさ……その心ごと、断ち切ってやりたくなるよ……!」
 それまでの愛らしい鈴の鳴るような声に、怒気が孕む。
「生き甲斐も、目的も、ほんの僅かな希望でさえも! なにもかもを奪ったら、どうなるかなぁ? 抜け殻みたいになってくれるかなぁ!?」
(これが、他人の願いを叶えようと頑張りすぎたヒトの行く末か)
 敵の異変を察した三日月は、改めて妖刀を眼前に構えた。
 過剰な期待も、それに応えようとし過ぎるのも、不幸なことなのかもしれない。そんな境遇に思うところもあるが、それでも童の心は理解しえなかった。
 眼前の敵を討つ。己にできることは、唯それだけだ。
「――どうせなら、面白い遊戯を見せてよ!!」
 思い切り振り降ろされた刃から放たれた斬撃が、雪上に一線を描き、雪煙を巻き上げながら戦場を一気に迸った。それに真向対峙した三日月は、紅椿を纏った愛刀の柄に今一度、力を籠める。
 あらゆるものを断つ呪詛の剣。ならば、斬撃はどうだろうか。
 上手くいく確証も手応えもない。けれど妖刀同士、どこまで通じるのか、寧ろ愉しみですらある。
 風圧に靡く髪が、一層激しさを増した。躱すにはもう遅い。だが、元より三日月にあるのは、斬ることのみ。
「ッ、……何ッ……!?」
 一際大きな衝撃とともに男を喰らったはずの斬撃は、一瞬にして霧散した。その爆風に混じり懐へと飛び込んだ男の妖刀が、童の脇腹を深く抉る。
「奇しくも、私の技の名も『椿』。――これで、全て断ち切ろう」
 そのまま降りぬいた刃が、雪景色に鮮やかな紅染の一閃が奔る。
 劈くような童の悲鳴が、あたり一帯に木霊した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
…ああ、やっぱりダメだこの子。
願い方も分からずこじらせ手段を誤った。
…結論だけは同意するけども、私が止めよう。
キミに願う者も捧げられるものはもうないから。

軽く挑発し此方に目を向けさせる。
子供だね、放っとけば勝手に破滅したんだろうから逃げればよかったのに。
私にはキミこそ欲塗れに見えるけどにゃー。
目が合ったらUC発動。
落雷位置を先読みし回避、念の為オーラを纏い余波の電流も地面に流すね。
行動先読みし距離を詰め妖刀の間合いの更に内に飛び込み突撃槍で串刺しにしてやろう。

…彼の想いに見向きもしなかった村人に、直に手を下したい気持ちもあったのかもしれないね。
それもまた欲なんだけれども。

※アドリブ絡み等お任せ



『ッ……ク……、痛いなぁもう……! 全然面白くないじゃないか』
「やれやれ……全くもって、子供だね」
 忌々しげに顔を顰める童へ、クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)はせせら笑うような声音で言った。その明らかな挑発に、童は苛立ちを孕んだ視線を向ける。
『……そこのお前、今なんて言った?』
「子供だ、って言ったんだよ。そもそも、願う方だって放っとけば勝手に破滅したんだろうから、キミも何処かへ逃げればよかったのに」
『ッ!』
 それは、少し考えれば容易く導き出せるであろう、ひとつの手段。
 けれど、童はそれを選ばなかった。選べなかった。願いを叶えたいという純粋な心が、それを赦さなかった。
 そこまでを見抜いたうえで、クーナは更に童を追い立てんと言葉を紡ぐ。無意味に闘いを長引かせるつもりはない。大技を引き出した後の、その僅かな隙を狙うのだ。
「それとも、キミの想いに見向きもしなかった村人に、直に手を下したかった?」
 私には、キミこそ欲塗れに見えるけどにゃー。
 その一言に、童はその愛らしい顔を露骨に歪めた。
『生意気な……! 今すぐ、その口潰してあげるよ!!』
 怒りを顕にするということは、それ自体が明確な答えであった。クーナは満足げに口端を上げると、感情のままに振り払われた童の刃を軽やかな蜻蛉返りで躱し、そのまま誘うように後退する。
『逃げてないでさぁ……! ほら、遊ぼうよ!!』
 それはほんの一瞬。
 激高する無色の双眸と視線を交わらせたクーナは、僅かに浮かんだ感情を掻き消した。
 忽ち黒雲に埋め尽くされた冬空から無数の雷が降り注ぐも、未来を見透かした騎士猫は、淀みのない足取りでそれを躱していく。空気を伝って肌を走る電流さえも、纏ったオーラに弾かれ、なんら彼女に痛みを与えはしなかった。
『避けた……!?』
 ――一拍。
 狙った通りに生まれた隙に、クーナは小柄な身体もろとも飛び出した。雪を蹴り上げながら肉薄すると、勢いに乗せた銀槍を一気に童へと突き出した。
 頭上から漏れる苦しそうな呻き声に、先程視えた心が過ぎる。
 人々の願いを叶えたいと想う心も、そんな彼らを疎んだ心も、どちらも偽らざる彼の願いだった。
 だが、彼は気づかなかった。そのどちらもまた、『願い』だということに。故に糸は拗れ、導く未来を誤った。
 分かってはいた。けれど、もうすべてが遅いのだと改めて気づかされる。だからこそ、クーナは動かねばならかなった。
 結論のみならば、同意もするけれど。
(私が止めよう。――キミに願う者も、捧げられるものも、もうないから)
 行き場のない想いも、失くしてしまった願いも。
 すべてを断たんと、クーナは渾身の力を込めて童の身体を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュカ・ラス
(同じ歳くらいの男子と戦うのが初めてです)

私は貴方が優しい方だと思っています
だって、最後まで人の為に祈って、想って、壊れてしまった
それって自分勝手な人なら出来ない事です

でも、きっと絶対こうなる前に何か他の方法があったのでは、とも思います
その時に何も出来なくてごめんなさい
だから今は、貴方を止めます

相手は刀使いです
だから私も剣で戦います

絆や縁が嫌い、ごめんなさい、私にはよくわかりません
私は家族も友達も仲間も竜達もいます、いてくれます
ひとりぼっちは、さみしくはないのですか
全部壊してしまって、その後に何が残るのですか

出来るだけ剣で戦いますが、相手がUCを使ってきたら私もUCを使います
「アストリア!」



 互いに同時に、地を蹴った。
 瞬時に肉薄した相手へと、刀を振るう。身の丈も、年頃も、獲物も。どれもが似たようなリュカ・ラス(ドラゴニアンの剣豪・f04228)と童が、刃の交わる金属音を響かせながら攻撃の応酬を繰り広げる。
 これまでにない、相手。同じような年端の少年。
 ふと、どのくらいの加減で戦えば良いのかとも一瞬思ったが、そんな考えは不要だとすぐさま思い至った。どのような相手であっても、竜の戦士の家に生まれた身ならば、手加減をするなぞ有り得はしない。
「私は、貴方が優しい方だと思っています」
『……ハッ。何? 急に』
 妖刀・孤鷹の一撃を大剣で受け流したリュカの言葉に、童は怪訝そうな眸を向けた。逆に上段から振り下ろされた一太刀を舞のように身を翻して躱すと、そのまま半回転させ次の一打へと繋げる。
「だって、貴方は最後まで人の為に祈って、想って、壊れてしまった。それって、自分勝手な人なら出来ない事です」
 続くリュカの言葉に、返る声はなかった。
 代わりに繰り出されたのは、それまで以上に重い一撃。咄嗟に刃で受け止めたものの、リュカはそのまま後方へと吹き飛ばされた。途中、宙で身体を回転させて着地するも、そのまま砂利道を削りながら暫く行ったところで停止する。
 どうにか致命傷は防げたが、剣を持つ両手の痺れがまだ残っている。風圧で切れたのだろうか、気づけば頬にできた一筋の傷から、薄く生暖かい血が流れて落ちた。リュカはそれを大雑把に拭うと、言葉を継ぐ。
「でも、きっと絶対……こうなる前に何か他の方法があったのでは、とも思います」
 逃げてもいい。立ち向かってもいい。
 無限に注がれ続ける欲が溢れ、心という器が壊れてしまう前に――その可能性を、リュカは信じたかった。
『……今更だね』
「その時に、何も出来なくてごめんなさい」
『キミのせいじゃない。キミには、関係ない』
 嘆息しながら零した童の声に、リュカは静かに首を振った。昏い中にも驚きを滲ませた双眸を、リュカの揺るぎない眼差しが真っ直ぐに捉える。
 例え過去の残滓とはいえ、こうして出逢ったのだ。
 他ならぬリュカだからこそ、関係ないと見過ごせはしない。
「――だから今は、貴方を止めます」
 身丈に迫るほどの大剣を軽く一振りして構え直すと、一瞬にして間合いを詰める。その瞬発力に思わず童が身を引くも、リュカは更に一歩踏み出し距離を縮めた。
『全てを断ってあげる! だからねぇ、キミがその先に何を捧げるのか、僕に見せてよ……!』
 巫蠱を取り出さんと懐へ手を入れた童と同時に、高らかに叫ぶ。
「アストリア!」
 瞬間、応えるかのように力強く啼きながら現れた地竜が、リュカの前に一際大きな水晶鏡を生み出した。解き放たれた巫蠱も、毒も、孤鷹の妖力も、何もかもが鏡に触れた途端に相殺されてゆく。
『なんで……!? なんでだよ……! 絆なんて、縁なんて残ってたって、誰も何も幸せにならないじゃないか!!』
「ひとりぼっちは、さみしくはないのですか」
 再び柄を握る手に力を込めると、リュカは童の左側から薙ぐように一撃を繰り出した。それを辛うじて妖刀で止められたのを見遣ると、弾かれた勢いのままに、今度は上段から刃を振り下ろす。
「絆や縁が嫌い……。ごめんなさい、私にはよくわかりません」
 私は家族も友達も仲間も竜達もいます、いてくれます。そう続けるリュカを睨めつけながら、童は口端から笑いを吐き捨てた。
『ハッ……!』
「全部壊してしまって、その後に何が残るのですか」
『煩い、煩い煩い煩い煩いウルサイ!! 要らないんだよ何もかも!! 残らなくて良いんだよ! 誰も彼も鬱陶しいんだからさぁ……!!』
 孤鷹で大剣を押し返そうとするも、今度はそれが敵わなかった。拮抗していたはずの力が、今は明らかにリュカが勝っている。揺らぎの生まれた心では、迷いのない力に敵うはずがない。
 瞬間、リュカは敢えて力を抜き、刃を引いた。力のやり場を急に失いふらついた童へと、すかさず翻した刃で強烈な一打を叩き込む。
『グアアアアアッ!』
 大きく肩から割かれた童は、そのまま雪の上をもんどり打って倒れた。煌めく雪上を踏み荒らしながらどうにか立ち上がると、リュカを憎々しげに睨めつける。
 無論、それに怯むようなリュカではなかった。地竜とともに並び立つと、大剣の切っ先を真っ直ぐに童へと向けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

比良坂・彷
負傷歓迎
防御せずカタる

俺もお前と同じ
祭り上げられ神託を請われ
上手く生きる助言をしてやった

俺は満足だったよ

万能感?いいや
虚っぽだから相手を全て流し込んで躓き見つけて
己を幸せにすんのは己だけって教えただけ
まァ同期するから相手が幸せなら俺も幸せだったけど

お前は違ったんだ
なんで?
人なんて欲塗れ
色鮮やかな欲は…生々しくて美しい
俺にゃないもの

お前の欲もくれよ
俺に入ってこいよ
俺の死をお望みかい?それでお前が救われるなら

死んでやるよ

―ッ
此だけは渡すもんか
現世のくだんねぇ親兄弟に信者との縁は幾らでもくれてやる
でも
宿世の弟だけは…

そうか
もうお前と同じになって救えないんだな
虚の匣だった昔なら出来たのに

ごめんと命奪う



『……いい加減にしろ……!』
 童は昏い眸に更に影を落とすと、そう言って地を蹴った。舞を奉じるように軽やかに宙に浮いたその周囲に、禍々しい霧のような、煙のような何かが蜷局を巻き始める。
『もう沢山なんだよ! 話を聞くのも、何かを思うのも!! だから断ってやるんだ……そうすれば願うなんて愚かなこと、思いも――』
「その想い、俺にくれよ」
『なッ……!?』
 戦場に飄々と響いた声に、童は反射的に振り向いた。比良坂・彷(冥酊・f32708)はゆったりと紫煙を燻らせながら、薄い笑みを浮かべる。
 その立ち姿はまるで無防備だった。いつもは武器として使う麻雀牌入りの革鞄も、今は少し離れた雪の上に放ったままだ。
「俺もお前と同じ。祭り上げられ神託を請われ、上手く生きる助言をしてやってた」
 自身の生き様を語り始める男に構わず、童は一斉に霧を嗾けた。巫蠱と毒と、そして孤鷹までもが綯い交ぜになったそれが、生きているかのように脈打ちながら襲い来る様に、けれど彷は避けも逃げもしなかった。微笑を浮かべたまま、視線だけで童を拘束する。
「俺は満足だったよ。万能感? ――いいや」
 ひとつ、またひとつと増える傷と血溜まりに構わず一服すると、男はゆるりと首を振った。
「虚っぽだから相手を全て流し込んで躓き見つけて、己を幸せにすんのは己だけ、って教えただけ。……まァ、同期するから、相手が幸せなら俺も幸せだったけど」
 口から紡がれる中身の虚実は、最早男にすらわからなかった。唯々、浮かぶ言葉をまるで独り言のように垂れ流しながら、唐突に問いかける。
「でも、お前は違ったんだ。……なんで?」
『何ッ……!?』
 咄嗟に反応してしまったことこそ、童が彷の語りを聞いていた何よりの証であった。畳みかけるように、男は続ける。
「人なんて欲塗れ。色鮮やかな欲は……生々しくて美しい。だって、俺にゃないもの」
 そうだろ? 言外にそう問われた気がして、童は明らかに狼狽した。
 なによりおかしいのは、この現状だ。これだけの攻撃をし続けているのに、何故この男は未だ立っているのか。
「お前の欲もくれよ。俺に入ってこいよ」
『何、を……』
「俺の死をお望みかい? それでお前が救われるなら――」

 死んでやるよ。

 途端に増幅した畏怖を抑えきれず、忽ち童の霧が膨張した。
『なんだよ、キミは……! なんで……なんでそんなこと……なんで死なないんだよ!!! 死ねよ!!!』
 童の叫びに呼応するかのように、霧が戦場の至る処で爆ぜた。彷もまた、巫蠱により肌が爛れ、紫煙とともに飲み込んだ毒素によって身体を内から焼かれてゆく。
 それでも、男の膝は決して折れることはなかった。
 何故なら、それが男の超常能力の効果だからだ。先程からの戯れ言も、問いかけも、敢えて見に受けたすべての傷も。
 そして、それらによって童に与えた苦悩や混迷や負の感情が、すべて彷の力となって返ってくる。
「――ッ」
 目に見えずとも、感覚でわかる。霧に塗れるままに、縁が奪われていく。その最後の一筋だけは渡すまいと、彷は裡に力を籠めた。
(此だけは渡すもんか)
 現世のくだんねぇ親兄弟に信者との縁は幾らでもくれてやる。
 でも、宿世の弟だけは――。
 己の生命力が奪われ続けていることに気づかぬまま、ゆっくりと一歩ずつ近づいてくる男の姿に、童の柳眉が激しく歪んだ。
『来るな……! 来るなよ……!!』
「そうか。もう、お前と同じになって救えないんだな」
 虚の匣だった昔なら出来たのに。そう言って笑った彷の唇には、煙草がなかった。代わりにいつの間にか手にしていた革鞄が、急に童の視界を覆う。
 瞬間、童の頭部に衝撃が走った。激痛を感じる間もなく、離れた石階段の上へと叩きつけられる。
『なん、で……』
 相応の縁を奪ったはずなのに。それだけ、自身は幸運を得たはずなのに。
 そうして漸く、童は気づいた。
 この男にとって、己は喰われる側なのだと。

「――ごめん」

 再び継いだ煙とともに短く洩らすと、彷はその双眸に童を映した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティル・レーヴェ
類殿(f13398)と

この形でしか
内の其れを
今は外に出せぬのじゃろう

溢れる声に柔く頷き
うん、妾にも
そして其方にもきっと
心あらば、誰もが

絶えず重なる願いは欲は
辛かった?重かった?
心壊れ止まれぬ程に

身にかかる其れらを知れど
妾は順が逆だった
来世願う声を叶えるが役目と信じてた
己は特別だと盲目に

信じたものが覆り
齎したのが唯の死だと知った時
嘗ての己は
忘却と云う断ち方をしたけれど
死に塗れた過去は消えぬ

そんな妾が
捧げ願うは烏滸がましいが
蝕むものを祓い
埋もれる前をと
心呑まれることなく過ごせた筈の時間を
せめて夢でも贈れたら

そして友も今も護りたい

今生きる妾の意思で
願い咲かせる白花の園が
背を支え安らぎを齎すものたれと


冴島・類
ティルさん(f07995)と

次は、彼
嘗て彼を追い詰めた人達はもういないのに
止まれないんだね

心が黒いものに囚われると
自分ではどうにもできないこと、ありますよね
貴女にもそんなことがあるのだろうかとぽつり
返る頷き、滲む彼女の来し方を思いつつ
そうですね…きっと、誰もが

雷は間合いが詰めにくいが
放った直後なら、狙いやすいか
多少でも威力軽減狙い
己と花園を呼ぼうとする彼女の周囲へ
結界敷きつつ動きを注視
痺れても、癒しに感謝を告げ
機を逃さない
隙に踏み込み距離詰め
喚んだ花を彼へ向け

望んだ終わりは
この形だったかい?

捧げるとしたら
君がこれ以上苦しまずに、人に戻り
止まれるようにと言う祈りだけ
せめて
あの白花に抱かれてお眠り



 断ち切れば良いと思っていた。
 断ち切るしかないのだと思っていた。
 捨てようにも捨てきれなかった人々の欲を、託された願いを、自らと切り離してしまうほかなかった。
 故に、童は裡で何度も唱え続けた。
 捨てたのではない。断たれてしまったのだ。
 捨てたのではない――最初から、受け取ってはいなかったのだと。

 童の心は壊れ始めていた。いや、とうの昔から壊れていたのが、目に見えて明らかになったと言うべきか。
 荒れ狂う無数の落雷は、最早避けようにもなかった。四肢を襲う痺れに耐えながら、冴島・類(公孫樹・f13398)は今もなお叫声を上げ続ける童を見つめる。
「嘗て彼を追い詰めた人達は、もういないのに……止まれないんだね」
「……この形でしか、内の其れを今は外に出せぬのじゃろう」
 そう返しながら、ティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)もまた視線を向ける。
 絶えることのなかった願いは、欲は、辛かっただろうか。重かっただろうか。それこそ、心が壊れ、自身でさえもその衝動を止められぬほどに。
 ティルさん、と類が名を呼ぶ。
「心が黒いものに囚われると、自分ではどうにもできないこと、ありますよね」
 貴女にもそんなことがあるのだろうか、と。微かに零れた声を受け止めたティルは、柔らかく首肯した。
「うん、妾にも。そして其方にもきっと。――心あらば、誰もが」
「そうですね……きっと、誰もが」
 言葉の奥に見え隠れする、娘のこれまでを思う。そうして男は、唇をきつく結んだ。
 いつまでもこうして甘んじているわけにもいかない。痺れる身体を無理矢理に動かしながら視線を交すと、類が展開した結界の中心で、ティルが柔く指を組みそっと祈りを籠める。
 瞬間、視界一帯に白い彼岸花が現れた。光を纏った羽根や花弁はどこまでも優しく、此処が戦場であることを忘れさせる。
 それは、童もまた同じだった。狂い笑う声が途切れ、雷が止む。急に襲い来る眠気に大きく崩れそうになるも、どうにか孤鷹にしがみついて堪えていた。その様子に嘗ての自分を重ね、娘はより強く想いを紡ぐ。
 せめて、夢でも贈れたなら。
 童と同じく、身を潰すほどの願いの、その辛さも重さも知ってはいるが、娘は順が逆だった。来世を願う声を叶えるのが役目だと、己は特別なのだと信じていた――盲目なほどに。
 それが覆り、齎していたものが唯の死だと知った娘は、それを忘れることによって断ち切った。そうするほか、己を護る術はなかった。
 だが、幾ら忘却に身を委ねたとて、死に塗れた過去は決して消えやしない。誰に言われずとも、それはティル自身が一等良くわかっていた。そんな身でありながら願い祈るのは、烏滸がましいことだろう。それもまた、痛いほどに知っている。
 それでも、願わずにはいられない。
 童を蝕むものすべてを祓い、願いに埋もれてしまう前のころへ。本当であれば、純粋な心が呑まれることなく過ごせたはずの、あたたかな時間へ。
 そんな、せめてもの夢を。
 そして、友には護りの力を。
『妙、な……真似を……!』
 欲深い人々への尽きぬ怨嗟は、今の童を形作る唯一だった。なのに、それすらも手放したいと、このまま花園に身も心も預けてしまいたいと渇望する心が湧き始めていることに、誰よりも童が戦いた。
 委ねてはいけない。それを赦してしまったらもう、何のために居るのかすらわからなくなってしまう。
 ――まだ、僕の願いは叶っていないのに。
『遊戯は……終わってないよ……!!』
 狙い定めていたその一瞬を、類は逃しはしなかった。
 間合いの詰めにくい雷であっても、放った直後ならば僅かに動きが止まる。その唯一の勝機に賭けて結界から飛び出した男は、そのまま一直線に疾駆した。四肢を巡る痺れは、目映い花と羽根のお陰でもう大分和らいだ。心中で友へと感謝しながら、一気に距離を詰める。
「望んだ終わりは、この形だったかい?」
 己の眸から喚んだ花を童へと向け、問いかける。途端、茎の先から伸びた根が忽ち童を絡め取った。
『何、を……』
 掠れ声を漏らす童を、類は唯見守った。根は見る間に養分――童の邪心を喰らい、心の奥底を語らせる情念の花が綻び始める。
 その花こそ、類の選んだ答えだった。
 彼へと捧げるとしたら、祈りだけ。君がこれ以上苦しまずに、人に戻り、止まれるように。
『……わから、ない……。逃げ……叶……僕、は……』
 偽りなき心が漏れる。もう、童自身も見失っていたのだろう。すべてを断ち切って逃げたかったのか、それともすべての願いを叶えてやりたかったのか。もっと違う、何かを求めていたのかさえも。
 昏い双眸に混乱の色を見て取った類は、静かに瞼を伏せた。例え彼がどの答えを選んだとしても、想うことは変わらぬだろう。
「――せめて、あの白花に抱かれてお眠り」
 ひとたびその力を増した類の花に呼応するかのように、ティルの花畑もまた、一層光を増した。
 どうか、どうか。そのちいさな背を支え、安らぎを齎すものでありますように。
 誰のものでもない、ティル自身の意志であり願いは、白む光となって戦場ごと眩く柔らかに包み込んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月守・ユエ
絶望は希望より1つ多く用意されてる
願いの果ては虚だけと世を恨み
わたしも男巫女みたく全て壊したかった

皆が幸せであるよう
来る日も祈り、心も神にくべたのに

わたしも
尽きぬ欲に絶望してた
祈れど何者も報われはしないと

でも
その絶望が大切な人を邪神に変えたよ
人の命を願いを祈りを殺す神に

或る日
故郷ごと全て彼は壊した
この終焉ノ月律で
男巫女に命の全てを奪い尽くす死の呪い刀を見せる
この心が濁り唄えなくなる前に全ては終わった
わたしの愚かな後悔と共に

悲しかった止まらぬ願いが
あなたもきっとそう
絶望と虚無が襲ってきて心が痛かったよね…

あなたをそんな笑顔にする願い
叶える必要も奪う必要もない
己が声も届かぬ世は斬る価値もない

わたしはあなたを救う
在るべき処へ還す
…少し遊ぼっか
願と縁が交じる戦場で
淋しい想も狂える心もわたしが受け止める

刀で攻撃を受け流し彼と距離を詰め
UC:浄化と祈りを織り
…唄よ、導いて
この子を安らかな眠りへ

その想いわたしが引き受けます
一人で抱えるには淋しいもの、ね
巫女の手を繋ぐ

もう、おしまい
彼を慈しむように微笑む



 雪と、花と、光が混ざり合って白む景色に、月守・ユエ(皓月・f05601)は眸を細めた。

 ――あなたは、わたしだね。

 わたしも、尽きぬ欲に絶望していた。
 皆が幸せであるよう、昼夜祈り心も神にくべたというのに、それでも何者も報われはしないと知った。
 尽きぬ願いの果てにあるものは、虚だけ。だからこそ、そんな世を恨み、あなたのように全てを壊してくてたまらなかった。
 けれどその絶望が、誰よりも大切な人を邪神に変えてしまった。
 人の命を、願いを、祈りを――殺す神へと。

 戦場に満ちる白が薄らぎ、その中に陽炎のように揺らぐ童の影を見留めたユエは、音もなく地を蹴った。視線で影を捉えたままに肉薄し、そうして気づく。
 童は、泣いていた。
 身体の痛みか、裡の痛みか。苦渋に顔を歪ませながら、止め処なく頬を濡らしながら、それでも童は歪んだ笑みを浮かべていた。己の感情も、望みさえもわからぬまま、壊れてしまっていた。そう確信し、女の顔もまた歪む。
 これは、わたしの姿だったかもしれない。
 彼があの日、わたしの代わりに故郷諸共すべてを壊さなかったら。
 けれど、彼はそうしなかった。邪神となってまで、わたしの心を、唄を、救ってくれた。
 代わりにわたしを襲ったのは、途方もない後悔の念。果てのない絶望から逃れるために大切な人を闇へと墜としてしまった、その己の愚かさを呪わずにはいられなかった。
 わたしさえ絶望を抱かなければ。わたしさえ破壊を望まなければ。わたしさえ――堕ちてしまえば。
 ユエは過ぎる想いを振り払うように、童の眼前へと妖刀を突きつけた。その月光の刃は、忌みの力を宿すもの。あの日彼が、命のすべてを喰らったもの。
 わたしを救うために破壊を選んだ彼。ならば、わたしは。
 一瞬怯んだ童に、ユエは澄んだ声で言い切った。
「わたしは、あなたを救う。――在るべき処へ、還す」
『……ッ、戯、言を……!』
 童は緩んでいた掌に力を込め直すと、拒絶するかのように孤鷹を横薙ぎに払った。それを見切ったユエは一旦後方へと距離を取ると、今一度童へと向かって駆け出した。
「……少し遊ぼっか」
 遊ぼう、と誘ってきた童。それが彼にとって戯れなのか本心なのかはわからない。今の彼が、一体なにに喜びを感じるのか。ユエも、誰も、童でさえもわからない。
 それでも、ユエは受け止めたかった。
 淋しい想いも、狂える心も。願と縁が交じる戦場で、すべて。
 空へと翳した孤鷹が、再び無数の落雷を喚んだ。その光の帯を躱し、刃で受け流しながら、一足飛びに間合いへと飛び込んだ。童の昏い双眸に、ユエの満月の煌めきを帯びたそれが映る。
「絶望と虚無が襲ってきて、心が痛かったよね……」
『……終わら、ない……でも、叶え、たかった……』
 湧き止まぬことを知らなかった、願いという名の欲望。それを他でもない己の心で知るユエだからこそ、童の想いもまた容易に察せられた。空いた手で、歪んだその笑みへと柔く触れる。
「あなたをそんな笑顔にする願いなんて、叶える必要も奪う必要もない。あなたの声も届かない世なんて、斬る価値もない」
『……え……?』
 そう力強く言い切ると、ユエは柔らかく微笑んだ。動揺を顕にした童へと、言葉を継ぐ。

「だから――その想い、わたしが引き受けます」

 新たな涙とともに漏れた嗚咽。それに紛れて童の手からすり落ちた孤鷹が、短い金属音を立てた。行き場のない心に寄り添うように、空になった童のちいさな両手を、ユエがそっと包み込む。
『……うう……っ、あぁ……!』
「一人で抱えるには淋しいもの、ね」
 零れた囁きに、涙の染む童の双眸が大きく見開かれた。昏いばかりだったそこに、僅かな光が点る。漸くひとつ、見つけたのだろう。綯い交ぜになって自分でもわからなくなっていた感情の、そのひとつを。
 繋いだ手の甲のうえに、一粒、また一粒と毀れる涙。ユエは唇を解き、ゆっくりと紡ぎ始めた言の葉と音をそれに重ねる。
 それは冥福を祈る弔鐘ではなく、良き道行きを示す福音として。最初はそっと、生まれたての柔らかな花弁のように。次第に、空へと伸びる枝葉のように力強く。浄化と祈りを織り交ぜた旋律が、戦場すべてを満たしていく。
(……唄よ、導いて。この子を安らかな眠りへ)
 音に触れた空気が、共鳴するかのようにあたりにふわりと風を起こした。雪も、花も、光も、すべてが白く煌めきながら舞うなかで、ユエはその歌声に更なる祈りを籠める。
 あなた本当に笑えるようになるのなら、たとえこの命が短くなろうとも構いやしない。
 絶望は希望より、いつだってひとつ多く在る。――それでも屹度、わたしはこうして祈り、唄うのだろう。
 触れていた掌が、童の身体が、白とともに舞い上がりながら音もなく消えてゆく。それを見送りながら、ユエは慈しむように柔く微笑み、そっと囁いた。
「もう、おしまい」
 叶えられぬと絶望し、それでも叶えたいと切望する。
 そのどちらも、もう繰り返さなくていい。
 涙の跡を残したまま、最期に淡く、けれど確かな笑顔を浮かべながら、そうして童はちいさな光となって、冬空に溶けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『和の彩』

POW   :    古風な物を選ぶ

SPD   :    華美な物を選ぶ

WIZ   :    個性的な物を選ぶ

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

冴島・類
※ティルさん(f07995)と

彼を終わりへと還せたようだ
冬空に溶けた気配を見送り

境内の中は椿が見頃とのこと
散歩楽しんで行きましょうか

伝説がある可愛らしい白玉以外にも赤や桃
花弁の咲き方も色んなのがありますよ
個人的には艶のある葉の緑も好きですが
やはり、花は色合いが華やかだ

白玉椿の前に立つと伝説が過り
この樹も沢山願いを聞いてきたのですかね
戦いの最中
隣の友の嘗てを僅かに感じたのを思い出し
今ここで笑って花を眺めれるのは
縁と選択の連続なんだろうな、なんて

そうですねぇ
無理や歪みない関係で在れたら

曇りなく白い椿に願いかけるより
今咲く花の美しさを、綺麗ですねと
あ…写真撮って行きますか?
土産と共に語る先も楽しみに


ティル・レーヴェ
類殿(f13398)と

あゝ最期は
心安らかと在れたろうか
消えゆく前の童の顔を
見上げる空に描く後
隣へ視線移し

うむ!
ゆるり眺る椿の景も楽しみじゃ

物語持つ子も
唯今を咲き彩る子も
花開く姿は等しく愛らしい
類殿の仰る艶とした緑葉も
冷えた白銀の中浮き上がるよで
生を感じる、と指先添わせ

白玉椿を前にほつりと零れる友の声
その姿を瞳映しては過る彼の本体
嘗て祀られた鏡たる彼もきっと、と
それは言葉にはしないけれど
あゝきっと沢山をこの樹も花も

願う側も受ける側も
抱く想いや心はあろうから
寄り添いあって報われ合う
何にも歪められたりしない
そんな間柄ばかりなら良いのにね

うん!
想い出の写真をスマホに残し
土産も見に行こう
甘い椿をみっつ!



●花の道行
「……彼を終わりへと還せたようだ」
 最後の光の散る様を見届けた冴島・類(公孫樹・f13398)が、静かに零した。ふと辺りへと視線を移せば、あれほど戦場を満たしていた白はいつの間にか消え、世界に万色が戻っている。
(あゝ、最期は心安らかと在れたろうか)
 それには声ではなく倣って空を仰ぐことで返したティル・レーヴェ(福音の蕾・f07995)もまた、消える前の童の顔をその薄く透いた青ような青に描きながら裡で問う。
 徐に日常へと立ち返った景色にひとつ安堵の息を零すと、類はいつもの笑みをティルへと向けた。
「さて。境内の中は椿が見頃とのこと。散歩、楽しんで行きましょうか」
「うむ! ゆるり眺る椿の景も楽しみじゃ」
 聞き慣れた柔らかな口調に改めて闘いの終わりを実感すると、ティルもふわりと眦を緩めた。肩を並べながらふたり、白雪に足跡をつけながら参道の先へと歩き出す。
 ほんのすこし行った道端に、早速赤椿が咲いていた。美しく重なった大ぶりの花弁に、雪解けの朝露が燦めいている。陽も高くなり始めたからか、時折吹く風もほどよいあたたかさを孕んでいて心地良い。
 毎年10月にある例祭『三役相撲』の行われる広場の角にある手水舎に立ち寄ってから脇の石段を登ると、小振りながらも厳かな空気を纏った拝殿があった。奥に佇む本殿も含め、あたりを深々とした落葉樹が囲んでいる。屹度、秋にはさぞ艶やかな紅葉を見せてくれるのだろう。
 こぢんまりとした境内だが、それが却って花見には打ってつけだった。すこし歩くだけで、様々な椿が出迎えてくれる。葉の形が金魚に似た金魚葉椿や、境内最古の椿である三角花弁の平岡八幡やぶ椿。赤と白の花弁が重なる月光の華やかさに見入り、香椿のほんのりと染む香りに心を預ける。
「赤や桃……色の種類以外にも、花弁の咲き方も色んなのがありますね」
「本当じゃのぅ。物語を持つ子も、唯今を咲き彩る子も、花開く姿は等しく愛らしいのじゃよ」
 言いながら、ティルは眼差しの先にある一輪にそっと触れた。天鵞絨のような滑らかな花弁に、自然と口許も綻ぶ。
「個人的には艶のある葉の緑も好きですが、やはり、花は色合いが華やかだ」
「艶とした緑葉も、冷えた白銀の中浮き上がるよで。――生を感じる」
 花から移した指先で、白く陽を弾く葉を撫でる。厳しい冬を越えて咲く花だからだろうか。皺もなくぴんと張った葉は、どこか凜とした佇まいを纏っていた。

 目当ての花――伝説を抱く白玉椿は、社務所の庭先で見頃を迎えていた。花ひとつずつは白くころんとした顔が愛らしくも、樹齢200年と言われるその姿は思いのほか高く大きく、泰然としている。
「……この樹も、沢山願いを聞いてきたのですかね」
「類殿……」
 ほろりと毀れた声に、ティルは傍らを見上げて思い出す。そう、彼もまた、嘗て社に祀られていた鏡の宿神だった。
「あゝ。……きっと、沢山を。この樹も、花も」
 言葉の奥に察した心には触れずに、唯それだけを返すティル。その彼女とて、幼きころは来世を願う声を叶える聖女であったことを、類もまた知っていた。
 戦の最中、僅かながらその姿の向こうに想い描いた娘の過去。そして己の過去。例えそれらがどのようなものであったとしても、今ここでこうして笑って花を眺められているのは、そこから幾つもの縁と選択を経てきたからに他ならない。
「寄り添いあって報われ合う……何にも歪められたりしない、そんな間柄ばかりなら良いのにね」
 願う側も、それを受け取る側も、抱く想いや心はあるものだから。そう添えるティルに、「そうですねぇ」と類も頷いた。無理や歪みない関係で在れたら。同じ想いを、男もそっと胸に抱く。
「綺麗ですね。あ……写真、撮って行きますか?」
「うん! そうじゃ。後で土産も見に行こう。甘い椿をみっつ!」
 声を弾ませるティルの様子につられて笑いながら、類はスマートフォンの画面越しに花を見た。
 曇りなく白に染まる椿を前に、願うのではなく、唯々その妙なる美しさを想い出に残す。
 そうしてそれを、のちに土産とともに語るのが、今から愉しみでならないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月隠・三日月
せっかくだし、UDCアースの京の観光をしてから帰ろう。
今回は椿と縁があったし、平岡八幡宮の白玉椿を見に行こうかな。

託した願いが叶ったという伝説があるのだから、この椿に願いをかけるヒトもたくさんいるのだろうね。今までも、これからも。
……願いは樹木に託すくらいがちょうどいいのかもしれないな。

それにしても見事な椿だ。皆にも見せたいな。
絵でも描いて……いや、確か「スマホ」で「写真」を撮れるんだったな。
近頃は電話やメールは何となくわかってきたし、試しに写真を撮ってみようか。異世界の絡繰(スマホ)は不可解だけれど、本当に便利だね。
……どうしても上手く撮れなかったら、近くの人にスマホの使い方を訊いてみようか



 ――願い事を託せば、一夜で白椿が花咲き、それが成就した。
 今もなお語り継がれる伝説を抱く、樹齢200年を誇る枝垂れ白玉椿――別名、一水椿を前に、月隠・三日月(黄昏の猟兵・f01960)は凜とした面持ちでそれを見上げた。
 折角UDCアースの京を訪れたのだからと、観光がてら椿との縁を辿って境内を見てまわってみたが、なるほど当の古木は他とは違う気を孕んでいた。雪の名残となった雫を燦めかせながらふんわりと綻ぶ白は、華やかというよりもどこか神秘的でさえある。
(託した願いが叶ったという伝説があるのだから、この椿に願いをかけるヒトもたくさんいるのだろうね)
 今までも、そうしてこれからも。あの童が生きていたころと今と、人の有様はあまり代わりがないのかもしれない。――それでも、
(……願いは、樹木に託すくらいがちょうどいいのかもしれないな)
 受け止める側にも心があるからこそ、願った相手も期待を募らせ、それが更に受け手の心を疲弊させる。だからといって、願いそのものを失くすことも容易くはない。ならば、感情も言葉も持たぬ花に囁く程度が、願いというものの程よい重さなのだろう。
「それにしても見事な椿だ」
 皆にも見せたいな、とふと三日月の裡に想いが過ぎる。
「絵でも描いて……いや、確か『スマホ』で『写真』を撮れるんだったな」
 言いながら、懐からスマートフォンを取り出した。サムライエンパイアを故郷とする三日月にとって、猟兵になってから初めて手にしたそれはまだ扱い慣れているとは言いがたいが、最近は『電話』や『メール』はなんとなく分かってきている。試しに『写真』とやらを撮ってみるのも良いかもしれない。
「それにしても、これで見たものが記録できるとは……異世界の絡繰は不可解だけれど、本当に便利だね」
 繁々と眺めたスマートフォンには、まだ初期設定のアイコンが幾つか並んでいる程度だった。その中の『カメラ』――これもまた、三日月にとっては不思議な絡繰のひとつであったが――の絵をそっとタップしてみると、パッと画面が切り替わった。今自分が見ている風景と似たような景色が画面に現れ、端末を動かすと画面の景色も同時に動く。
「あとは、撮りたいものを画面の中に映して、このボタンを……わっ!」
 パシャシャシャシャシャシャシャシャシャ。
 連続して響いた音に、思わずスマートフォンを落としそうになった三日月は、どうにかそれを掴み取った。今のは何だったのだろうか。それに、この機会音とやらは未だに耳慣れない。
「あれまぁ、お兄さんとはご縁があるようやねぇ」
「ああ、朝の……」
 声の方へと振り向けば、闘いの前に出逢った老女が朗らかな笑顔を向けていた。恐らく、出直して参拝を終えたところなのだろう。こんにちは、と互いに軽く会釈をすると、老女は眦の皺を一層深める。
「写真、撮ってはったん? 今は丁度見頃やしねぇ」
「……それが、まだ……。こういうのは慣れていなくて……」
 三日月の言葉にすこし瞠目すると、老女は懐から自身のスマートフォンを取り出した。端についた椿型の根付けが揺れ、鈴の音がちいさく響く。
「『スマホ』言うんやったら、ここをこうして……はい」
 パシャッ。
 皺の刻まれた可愛らしい指先で操作すると、老女はあっさりと椿の写真を収めた。
「お兄さんのも、似たもんやと思いますよ」
 うちも孫に教えてもろたんやけどねぇ、と添えられた柔らかな声と笑みに、三日月の口許も自然と綻んだ。
 礼を返し、朝と同じようにその帰路を見送ってから、改めてスマートフォンを手に取った。カメラを起動し、陽を纏って優しい輪郭を描く白椿を、画面に収める。老女の手順を思い返しながら慎重にボタンを押し――一度だけ、また機械音が響いた。
「……できた」
 どうにか辿り着いた画像フォルダを見れば、確かに撮ったばかりのまあるい椿の画像があった。
 それは、彼女の孫が彼女へ、彼女から自分へと至った縁の賜物。
 そうしてその花もまた、あの童との、集った仲間との、まだ見ぬ未来との縁を紡いでゆくのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
楊(f36185)さんと一緒に。

さて、オブリビオンも倒せた事だし京都観光を楽しむとするかな。
この世界の他の場所は来た事あるけどここはまた特別?とも聞くからね。
楽しい観光になるといいにゃー。

平岡八幡宮にいってこの景色の花を楽しむね。
可能なら楊さんに声かけて一緒に歩いてみたい。
ほらファンタジーな世界出身だからあんまり詳しくなくて。
UDCアースじゃないけど銀の雨の世界の人なら観光の視点とか割と通じるものあるんじゃないかなってね。
何か奢るにゃー、とか。

この京都って街自体なんとなく独特な雰囲気を感じるけど…花もなんか気品あるように感じるような?
城南宮で椿餅と抹茶を楽しみつつ愛らしい白椿を眺めて。
へー今もすごいのにもっと綺麗な時期あるんだ。
花の天井…その時にも来てみたいなあ。
…自分でどうにかしなきゃ、その結論は正しいと思っちゃったんだよね。
縁というのは力にもなれば呪いにもなる。
過剰な依存はどちらも不幸にする…難しいね。
悪縁にしないよう自分で頑張る意志は必要なんだろうね、きっと。

※アドリブ絡み等お任せ



「……あ、あの」
「ん?」
 おずおずと傍らから声をかけられたクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)は、くりっとした双眸に楊・暁(うたかたの花・f36185)の姿を映した。
「一緒に行くの……俺で、良かったのか?」
「勿論にゃー」
 そう言ってみせても、まだ得心していないのか、暁は不安の色を残したままだった。それを見取ったクーナが、言葉を継ぐ。
「この世界の他の場所は来た事あるけど、ここはまた特別? とも聞くからね」
「そ、それはそうだけど……俺もあんまり、土地勘ない……」
「ファンタジーな世界出身の私より?」
「うっ……」
「UDCアースじゃないけど、銀の雨の世界の人なら、観光の視点とか割と通じるものあるんじゃないかなって思ったんだけど」
「それは……そう、だけど……」
 誰かと一緒に出かけること自体あまり経験のない暁は、クーナが重ねる言葉に次第に俯いていった。それが落ち込みではなく、照れて染まる頬を隠すためのものだと気づいて、クーナはくすりと眸を細める。
「楊さんと一緒に歩いてみたかったんだ。きっと愉しい観光になるにゃー」
「……それ、なら……」
 こくりと頷いた暁は、漸くいつもの歩調で歩き始める。

「さて。折角だし、ここで花を愉しもうかな」
「椿もだけど、あっちに梅も咲いてた」
「じゃあ、そっちから行ってみようか」
 参道の左手にある横道、『椿の小径』へと行くと、道の両側に様々な椿が咲き綻んでいた。紅、白、赤紫。一重八重に、一色、斑。名は分からずとも、眺めているだけで自然と笑みも毀れる。
「この京都って街自体、なんとなく独特な雰囲気を感じるけど……花もなんか気品あるように感じるような?」
「うん。特に椿は、冬に咲くから……凜としてる感じがする。もう少しすると、もっと花の種類も増えるって」
「へー。今もすごいのにもっと綺麗な時期あるんだ」
 『花の天井』が見られる時期にも来てみたいなあ。そう続けたクーナに、暁も短く同意する。
 境内に戻ると、残雪の乗った枝先に幾つもの梅の花があった。ほんのりと白に色づいた花弁が風に揺れ、冬の空へと舞ってゆく。
 それに誘われるようにして訪れた先には、静謐な空気を纏った白玉椿が佇んでいた。一夜にして咲き、願いを叶えたといわれる白花。その見事な大輪の向こうに、消えた童の面影が浮かぶ。
「……自分でどうにかしなきゃ、その結論は正しいと思っちゃったんだよね」
「俺……あいつの気持ち、なんとなくだけど……分かるような気がする」
 追い詰められた心を和らげ、正す。そんな場所も人も、童には居やしなかったのだろう。そうして逃げ場を失った子供が行き着く先など、限られている。
「縁というのは、力にもなれば呪いにもなる。過剰な依存はどちらも不幸にする……難しいね」
「そう……だな」
 頷きながら、ふと思う。自身もまた、日本から大陸へと連れ去られたからこそ、敵という立場であれど能力者たちと出逢い、こうして猟兵として今此処にいる。それは呪いではなく力だと思えるけれど、だからといって周囲の優しさに寄りかかってばかりでもいけない。――だからこそ、
「悪縁にしないよう、自分で頑張る意志は必要なんだろうね、きっと」
 自分で導き出した答えとクーナの声が重なって、暁は静かに瞠目した。巡る縁を善とするか悪とするかは、己次第。そう改めて心に留め置くと、静かに、けれど力強く首肯する。
「まだ、見てまわる?」
 踵を返しながら問いかけると、すこし思案したクーナが顔を上げた。
「なら、次は城南宮で椿餅と抹茶を楽しもうかな」
 何か奢るにゃー。そう言って笑う騎士猫に、妖狐の少年もまた、ふわりと花のように綻んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュカ・ラス
暁殿、良かったらご一緒して頂けませんか
あの、同じ位の歳の男の友達、私ほとんどいなくて…
お話出来たら嬉しい、です
(年齢の辺りにリアクションがあれば)
ごめんなさい!人を見た目で判断してはいけないと家族の皆にも言われていたのに…

(服の裾を掴みながら)
…すみません、実は、1人だと色々考えてしましそうで…
誰かと、一緒に、いて、欲しいです…


折角教えて頂いたので、花を見に行きましょう
綺麗な花、見てみたいです
暁殿は、京都はお詳しいのですか?

こんなに近くで花は毎年咲くのに、あの方は誰かと花を見たりする事も花が綺麗だと思う事も無かったのでしょうか…
綺麗なものを一緒に見たいと思う事も縁なのではないかと、思いました



 春の訪れを知らせる、ほんのりとぬくもりを帯びた風が頬に触れて、漸くリュカ・ラス(ドラゴニアンの剣豪・f04228)は頭を上げた。
 敵の気配が消えると同時に、張り詰めていた気はじわりと緩んだ。そのまま愛用の大剣を再び握り、背負った鞘へと収めたものの、心は未だ鉛を抱いているかのようだった。安堵はしているものの、どうにも気が晴れない。
 理由は明確だった。
 年頃の近しい相手との、初めての闘い。恐ろしい怪物や醜い化け物であったなら、ここまで沈んだりはしなかっただろう。此処に来るまでの間にイメージはしていたが、似通った背格好の敵の討伐は、思いのほかリュカの心に影を落としていた。
 猟兵とオブリビオン。その対峙すべき間柄であれば尚のこと、此度の闘いも決して避けては通れないものだった。そう頭では理解しているが、心がまだ追いつかない。
 リュカはふるりと頭を振ると、無理矢理にでも気持ちを切り替えようと立ち上がった。ふと移した視線の先で見つけた背へ、声をかける。
「……暁殿」
「あ……えっと、リュカ、だよな。お疲れ様。……どうした?」
「あの、このあと良かったらご一緒して頂けませんか」
 リュカの真っ直ぐな眼差しと申し出に、暁は夜明け色の双眸をひとつ瞬くと、一拍遅れて照れながら視線を逸らした。誰かを誘うことも、誰かから声をかけられることも、未だ不慣れのようだ。
「俺と居ても、別に……」
「私、同じくらいの歳の男の友達、ほとんどいなくて……お話出来たら嬉しい、です」
 そう言って暁を見れば、なんとも言えぬ微妙な表情で固まっていた。嬉しいような、申し訳ないような、そんなぎこちない顔にも関わらず百面相を静かに繰り広げた後、ぽつりと零す。
「……ごめん。俺、その……運命の糸症候群で……」
「――はっ! ごめんなさい! 人を見た目で判断してはいけないと家族の皆にも言われていたのに……」
 最後まで言わずともすべてを察したリュカは、慌ててぺこりと頭を下げた。件の症候群に罹ったのなら、恐らく既に成人はしているはずだ。とはいえ、姿はどう見ても少年なのだから、こればかりは仕方がないというものだ。
 似たようなやり取りを幾度か経験したのだろう。暁もまた慌てた様子で「気にしないで」と返すと、ふたりの間に沈黙が流れた。
 どうやって話を変えるかと、豊富とは言えない交流知識を暁が脳内で必死に繰り広げていると、くいっと服の裾が引かれた。見れば、リュカのちいさな指が、どこか心細そうに掴んでいる。
「……すみません、実は、1人だと色々考えてしましそうで……」
「……」
「誰かと、一緒に、いて、欲しいです……」
 絞り出すかのような声で言うと、数秒間を置いて、服を掴む指にそっとぬくもりが触れた。すぐに離れたそれの代わりに、暁の声が静かに響く。
「――俺で、良ければ」

 何処に行きたいかと尋ねれば、花を見に行きましょう、とリュカは言った。
「折角教えて頂いたので、綺麗な花、見てみたいです」
「なら、此処からスタートして……街中にも行ってみるか?」
「良いですね。暁殿は、京都はお詳しいのですか?」
「この八幡宮は初めてだけど、昔京都に来たとき、神社はあちこち行ったな」
 確か、梅が綺麗な神社があったはず。そう言ってふたりで向かった北野天満宮では、雪化粧をした紅白の梅が冬空を彩っていた。新たに作られた梅苑『花の庭』は花と香が溢れるばかりで、その美しさに圧倒される。
 次いで東の妙蓮寺では、秋から冬にかけて咲く『不断桜』を並んで仰ぐ。
「あ。暁殿! なにか書いてありますよ。えーっと……『この桜の花弁を持ち帰ると、恋が成就するという言い伝えがあります』……」
「……恋……」
 掲示文を読み上げたリュカに続き、暁はぽつりとそれだけを零した。この歳になってもまだ恋を知らない、などということは、恐らく黙っていた方が良いのだろう。
 京都御苑で桃の、渉成園で馬酔木の、それぞれ咲き始めを愉しんだあと、最後に城南宮の至る処を彩る椿をゆっくりと愛でる。
「――こんなに近くで花は毎年咲くのに」
 ぽつりと毀れた声に気づくと、暁は傍らの名を呼んだ。
「リュカ……?」
「……あの方は、誰かと花を見たりする事も、花が綺麗だと思う事も無かったのでしょうか……」
 すべての願いを受け入れ、すべての縁を断たんと願った童巫女。その隣に、こうして共に見上げる誰かがいたらまた、何かが変わったのかもしれない。
「綺麗なものを一緒に見たいと思う事も……縁なのではないかと、思いました」
「……ああ。俺も、」
 そう思う、と。
 微かに漏れた声を聞きながら、リュカは花映る双眸をそっと細めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月守・ユエ
アドリブ◎

雪の中の椿って本当に綺麗ね
赤い椿が雪化粧している姿が好き
でも、今日はね?白玉椿を見に行こうかな

お気に入りの冬夜空のストールを肩にかけて
ゆるりと白玉椿が望む場所を歩もう
…願いごとをすると白椿が一夜で咲く…か
まるで…先に見送った巫女を連想させるよう
花咲かせるように人の願いを大切にしていた少年の姿を…

両の手を結びそっと白玉椿に祈りを捧げる
もしも願いが叶うのならば
…今日出会い、さようならをした君(巫女)が
次生まれてくる時は、いっぱい幸せだって思える世界に巡り会えますように

そして、願わくば
次生まれ変わった時、わたし達…お友達になれたらいいよね
その時はね?あなたにたくさんの歌を唄って
笑顔をたくさん咲かせてあげたい

縁は、切れてもまた紡げるものってここに送り届けてくれた暁さんが言ってたの
本当にそう思う
だからいつかの未来で、また紡ごうね
わたし達がここで出会った縁の続きを…

「いまはただ、おやすみなさい…」
優しく子守唄のように聲は紡ぐ
ただ君だけのために

悲しみに希望を燈そう
わたしは唄う
君に届くように



 戦のけわいの残る微かにそぞろな両肩に、月守・ユエ(皓月・f05601)は緩くストールをかけた。冬夜空にも似た気に入りのそれに身を包むと、不思議と心も凪いでゆく。
 さくさくと白雪に跡を残しながら、参道の、境内の、あちらこちらにある花を巡り愛でる。
 雪の中に佇む椿は、ほんとうに綺麗だ。特に、紅の花弁が雪化粧をしている様は、一等美しい。
 けれど、今日ばかりは違った。華やかな赤に別れを告げ、伝説を残す白椿の許へと向かう。社務所の脇にあるこぢんまりとした庭の奥に佇むそれは、薄くぼんやりとした空気を纏った冬日向のなかでも、確かな輪郭を描いて花開いていた。
(……願いごとをすると、白椿が一夜で咲く……か)
 見送ったばかりの童巫女の姿が、胸を過ぎる。
 彼とて、血の花ではなく、ほんとうならば喜びの花を咲かせたかったのだろう。この白椿のように、優しく汚れのない無垢な心で、人の願いを大切にしていた彼ならば。
 あの子の笑顔を、見てみたかった。いつの間にか失くしてしまった、幸せに染まるその顔はどんなに愛らしかっただろう。だからこそ人々は彼に惹かれ、その袂に想いを零していったのではないだろうか。

 ――もしも、願いが叶うのならば。この花が叶えてくれるというのならば。
 溢れる想いのまま眸を閉じ、ユエはそっと両の指を結んだ。既に亡き姿へと、言葉を紡ぐ。
 ……今日出会い、さようならをした君が、次生まれてくる時は、いっぱい幸せだって思える世界に巡り会えますように。
 そして、願わくば。次生まれ変わった時、わたし達……お友達になれたらいいよね。
 そのときは、あなたにたくさんの歌を唄ってあげたい。あなたの笑顔を、たくさん咲かせてあげたい。本来受け取れるはずだったすべての倖を、どうか――あなたへ。
 この身を童の許へと送り届けた暁も言っていた。縁は、切れてもまた紡げるものだと。そうしてユエもまた、心からそう思う。
 だからいつかの未来で、再び紡ぎたい。自分たちが此処で出逢った、その縁の続きを。そのときは花のように笑いながら、人々の、そして自分たちの幸せを願っていよう。

 寄り添うようにそっと風が舞った。光を纏いながらさらわれた粉雪が、耳許でちりちりと鳴る。白花は、それでも凜然とそこにあった。
「いまはただ、おやすみなさい……」
 静かに毀れたユエの、その続きに音が宿った。誰にも聞こえぬ、ただ童だけのために紡がれた聲が、優しい子守歌となって刻とともにゆっくりと流れてゆく。
 それは柔く、そして深い歌だった。陽だまりのようなぬくもりと、夜のような慈愛に満ちた音の連なりが、もう童すらも顧みることのなかった彼の過去までをも鮮やかに彩るようだった。

 わたしは唄う。
 君に届くように。
 悲しみに、仄かでも確かな希望を燈すために。

 透いた水底のような空の下。
 白む冬花が、密やかに耳を澄ましている。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2022年03月23日


挿絵イラスト