邪教VS邪教!? 永遠なれ毛の女神!
●それは欲望の雄叫びだった。
「ぎぃやあ~はははははは!
毛、毛、……毛……ケケケッ、ケケーッ!
毛だ、毛をよこせーっ!!」
「うわぁ、なんだこいつうっ!?」
「キンもー☆」
「猟犬、いや猟兵を呼べぇ!」
わーわー。
きゃーきゃー。
映写機から映し出される映像。その地獄絵図を前にタケミ・トードー(鉄拳粉砕レッドハンド・f18484)は難しい顔をして俯き、眉間を揉む。
男のような厳つい体躯が面も難しくしかめていたら、それだけで難事件のように思えるが。
えーと、何ですかこれ。
「よう、来たな。これは私の予知したビジョンを知り合いに映像化してもらったものだ。
頭の中じゃよくわからなくてな。まあ、これでわかったろ」
いや、だから何ですかこれ。
明らかに説明するのを拒否しようとする気配を出すタケミだったが、再度の質問は無視できなかったようで嫌そうに映像を指差した。
そこには、ハゲ散らかしたUDCと思わしき男が鋏を持ち、血走った目で一般市民たるコーンヘッドらを追いかけ回し……あれ?
「色々と言いたい事はあるだろうが、説明を始めるぞ」
やる気なさそうに耳をかきかき。
タケミさんの説明によるとUDCアースのとある村の外れにある羊毛を刈る牧場のハゲ散らかした主がもろこし頭のUDC集団に襲われたというのだ。
逆じゃね?
「この牧場では毛の女神とやらを信仰していてな。
牧場主の刷毛山(はけやま)さんは自らの頭皮を憂いて黒い羊を信仰によって誕生させ、その羊毛を頭皮に移植させようって考えだ」
ははーん、なるほど?
「しかし待てど暮らせど祈るだけじゃ羊は黒くなりゃしない。
そこに現れたのがこのとうもろこし頭のUDC、六四二『デビルズナンバーとうもろこし』だ。
何でももろこしの髭が頭髪にちょうどよい色と太さと形らしくてな。焦れに焦らされた牧場主の刷毛山さんは我慢できずに飛び付いたってワケだ」
ほーん。
じっとりとした同僚の視線を受けて、そっぽを向くタケミさん。
「予知したものはしょうがねえだろ。実際、今はおっさんの迫力にUDCも押されちゃいるが、その気になれば一般市民なんぞ一捻りだ。
それに、どうせ奴らは私らが滅ぼすべき者だ。だったら四の五の言わずに叩き潰せばそれで終いさ」
面倒事を押し付ける気マンマンのむさい女の言葉だが、事実その通りだ。
ならばこの鬱憤をとうもろこしにぶつけてしまうのがベストだろう。食べ物は粗末にしちゃダメだよ!
「そうそう、牧場主のハゲオヤジだが、この状態じゃこちらの指示を聞かずにUDCへ突撃する恐れがある。
人命優先、構うことはねえ、簀巻きにするなり殴って気絶させるなり、無力化して牧場の隅っこにでも投げ込んでおけ」
酷い扱いである。人命優先だししゃーないね。
しかし、と。やる気のなかった筋肉女の顔にも陰りが見えた。
そもそもこの牧場、刈るトの総本山などと地元で有名な場所だ。そんな場所に、わざわざ村の中心を避けてUDCが現れた目的とは何なのか。
「ハゲとのやりとりを見る限り、こいつらには知性がある。一人でも残してその目的を吐かせてやるのも良いだろう」
その後の処理は分かるな?
目を光らせるメスゴリラ。相手は中年男性に気圧されているとは言えUDC。生かしておく訳にはいかない。
タケミは強く握り固めた右手を猟兵の胸に当て、立ち塞がる者は叩いて潰せと締め括った。
(……今回は多分、ロクな事にならんな……)
確信めいた予兆を厚い胸に秘め、彼女は彼らを転送させるべく準備を始めた。
頭ちきん
頭ちきんです。よろしくお願いします。
今回もネタ扱いのシナリオとなるため、毛を崇め奉る刷毛山牧場の手先となって哀れな生け贄、もろこしさんたちのお髭を収穫しましょう。
情報を引き出せるプレイングを行わなくても、場合によっては勝手に情報が転がり込んでくるかも知れません。
しかし、刷毛山さんを放置すると殺害されかねないので注意しましょう。
2章では彼らを刷毛山牧場に送った者との戦いとなります。
まともな動機ではないかも知れませんが、世界の時を守るため、しっかり相手をしてあげましょう。
3章では邪教のお祭りが始まります。結果によっては刷毛山さんがふさ山さんに変わるかも?
興味をお持ちいただけましたら是非とも参加をお願いします。
リプレイ制作、誠心誠意をこめて頑張ります。
第1章 集団戦
『六四二『デビルズナンバーとうもろこし』』
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POW : 悪魔の焼入(デビルグリル)
【焼きとうもろこし】に変形し、自身の【寿命】を代償に、自身の【身体能力と美味しさ】を強化する。
SPD : 悪魔の玉蜀黍(デビルコーン)
【とうもろこし】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : 悪魔の薫香(デビルスメル)
【とうもろこし】から【とても美味しそうないい匂い】を放ち、【空腹】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:安子
👑11
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●早く来てくれ、猟兵ーっ!
「けけっ、けっ、毛だぁあ! 毛をっ、よぅこせええ!」
相変わらずエキサイトしてらっしゃる刷毛山さん。
タケミの予知通りではあるが、UDCを一般市民が追いかけ回すというのは非常に珍しい光景であった。
「おのれそこな人間風情がっ。いい加減にせんとその余命幾ばくもない哀れな命を根元から引き抜くぞ!」
「おお、さすがは指揮官A!」
「やったれ~!」
見た目は他のもろこし頭となんら遜色はないが、態度も勇ましきAという名の指揮官は、その役職に相応しく肝が座っているようだ。
危ないぞおっさん。
「うはぁははは! 観念して、こ、ここの私に毛をよこす……覚悟は出来たかね……?
うぅんむはぁお!」
Aの言葉に聞く耳持たず。
しかし、ここで刷毛山さん、口調に変化が生じると、直後には奇声とともにサイドチェストを決め(ユーベルコードじゃないよ!)、膨れ上がった各種筋肉が、おっさんのオーバーオールを引き裂いた。
変身、としか呼べないような劇的変化マッチョメンとなった刷毛山さんは、歯茎から血が出そうな勢いのスマイルを見せる。
UDCは回れ右して生け贄役の一般人を出して下さい。
「ててて、てっかてかだーっ!」
「きもっ、キンもーっ☆☆」
「ま、まずいぞA! 奴は全裸だ!」
「なんという油ぎっしゅ……あれでは……頭髪を掴めん!?」
浮き足立つもろこしどもに刷毛山さんはゆっくりとポーズを解く……いやポーズ変えただけだわコレ。
安心なさいとばかりに開いた体にはビビッドピンクのTバック一枚。それがどうした。
しかし衝撃を受けて後退るコーン一同。お前らどうした。
「君たちは……何か勘違いをしているようだね……?」
ゆっくりと回れ右をするおっさん。良いぞ、帰れ。
しかし天の声の地の文がおっさんに届く事はない。湖面に舞う白鳥の如く優雅に腕を開き、おっさんは眩しい空を見上げて目を細める。
「見たまえ、このどこまでも吸い込まれそうな青く澄み渡る空を、白く輝くあの太陽を。
我々、地に足をつける者にとってあれは大きく尊く、その前では人かUDCかなんて、些末な事だと思わんかね?」
思わないです。
しかしそんな常識を持ち合わせていないUDCは、はっとして息を飲む。君たち詐欺には気を付けなよ?
「そう、出で立ちや過程などどうでも良いのだ。生き樣でもない、結果に全てを示す。
そう、私は……あの空に爪痕を残す……真っ黒な黒雲となりたい……!」
強引にレールをねじ曲げて話を戻そうとしていますね。
刷毛山さんは、背中の筋肉を、ごりりぃ、と音が鳴りそうな勢いで締め上げ、膨張させる。
バックダブルバイセップス。
「あの若々しくも雄々しい真っ黒な黒雲のように、ふっさふさにならんが為に。
さあ、……始めようかぁ……!」
「うおーっ、やったれ~っ!」
強敵感をこれでもかとかます刷毛山さんに対し、三下感をこれでもかとかもすUDC集団。
今にも戦いが始まってしまいそうだ! 早く来てくれ猟兵!
火倉・かまど
……。
また髪の話してる……(様式美的なテンプレ)
…下手に足掻くよりさっさとハゲデビューした方がせくしーだと思うけどね。
■対ハゲ散らかした人
……一応説得しながら情報収集。
毛の女神ってそもそも何よ誰よ。
……いや、そもそも。もろこしの髭は割と簡単に腐るわよ。
トウモロコシの匂いが凝縮された部分なんだから、腐敗臭も……えらい事に。
まぁ、説得は無理よね。さっくり諦めましょう。
ゴッド腹パン+捕縄術でハゲオヤジを拘束出来るか試しましょう。
■対コーン
ハゲの護衛しながらこちらも。
袖口から鉈と草刈り鎌を抜いてゴッドローキックから鉈をブチ当て、髭を刈り取る。
そりゃもう、ハゲが見たら腹の奥がきゅっとなる感じの刈り方で。
●来てたわ、猟兵。
「……。
また髪の話してる……」
じっとりとした目で盛り上がっている彼らを見ながら、火倉・かまど(火の竈・f17204)は足下で怯え縮こまる羊を優しく撫でた。
ふわふわの羊毛が掌をもこもこと押し返す手触りがなんとも言えない。
震える羊の愛らしさに、テッカテカのハゲ散らかしたおっさんや、やたらとチョロいコーンヘッズなど放置しても問題ないかという考えがかまどの中に浮かぶ。
彼女は神。矮小な人間の中でもかなり特殊な部類のアレな思考など、あまり興味がないのだ。
「……下手に足掻くより、さっさとハゲデビューした方がせくしーだと思うけどね」
ねー、と羊に微笑みかければ、ようやく安心したのか羊の震えも止まる。
可愛らしく神の庇護の下につき、安寧を手にした羊さん。
でもここってば邪教の本拠地なんだよね。
「聞き捨てなりませんなぁ……リトルガール……?」
そぉい! とひとっ跳びでかまどの元へ飛び込んだ刷毛山さんは、胸筋をぴくぴくとアピールする。
そんな人間離れした動きを見てパニックに陥った羊さんが逃げて行く。哀れ羊。
消えた癒しの代わりに現れた嫌らし。かまどさんの目に怒りの炎が灯る。
しかしそんな見てくれでも彼は牧場を営む一般村民であり、農業や家畜等を守る守護神でもあるかまどにとっては、彼もまた守るべき存在だった。
よっこいせと立ち上がる彼女は満面の笑みを見せるキンもいおっさんを下から見下しつつ、荒ぶる心を鎮めにかかる。
ちなみにコーンヘッズは場面の移り変わりについていけず、おろおろしている。可愛いぞこいつら。
「そうね、今のは謝るわ。でも、毛の女神ってそもそも何よ、誰よ。
私の知り合いにそんな神(ひと)いないわよ」
「ほぉう、我が教義を、否、我が女神を! ……知りたいのかね……?」
ダブルバイセップス。ポーズを取らなきゃ呼吸ができんのかねこのおっさん型UDC。
かまどは関わりたくないオーラを思わず発してしまうが、事件解決の為に情報は必要だ。
「……知リタイデスー。教エテ教エテ」
全く感情のこもってない言葉に、しかし刷毛山さんはしたり顔で説明を始めた。
曰く、毛の女神とは全ての恵みを表す母神。
大地の豊穣を司り天空に影響を及ぼし星の回転すら支配する、正に全ての上に立つ、否、支える神。
「故に毛の女神は毛を豊かにするため、あるいはそよ風あるいは旋風、日照りに雨に我ら人の動向全てを見守り、時に試練を与え時には支え、そして髪を豊かにしてくれる神なのだよ。
ゴォッド! イィズ! ヘアーッ!!」
「ゴッドー!」
「イズゥー!」
「ヘェー!」
「アーッ!」
…………。え、終わり?
様々なポーズを決めながら、奇声とスマイルを繰り返したてっかてか山さんに目を丸くしていると、いつの間にか横に並んでいたコーンヘッズが、おっさんの勢いに乗って彼の言葉を復唱している。
あれあれ? こいつら仲いいぞ?
つまりは何の中身もない神頼み。かまどは痛む頭を押さえつつ、そもそもがと、盛り上がるコーンヘッズの一人にヘッドロックをかましておっさんの前に、ずずい、と引き寄せる。
「うぐぐ、何をするそこな幼女!」
「……黙って。
刷毛山、もろこしの髭は割と簡単に……腐るわよ。
トウモロコシの匂いが凝縮された部分なんだから、腐敗臭も……えらい事に」
ほう。
絶妙な角度の空気椅子でいわゆる考える人の態勢を取る刷毛山さんは、不適に笑う。いやこの人ずっと笑ってたわ。
「それはつまり……フェロモンがえらいことになって……私のモテ期も……えらいことに?」
「 ゴ ッ ド 腹 パ ン ! ! 」
勘違いも甚だしいハゲ。さすがに神の許容量を超えたおこがましくも驕り高ぶった人間に、神の鉄槌という名のボディーブローが突き刺さる。
もちろんユーベルコードではない。
呻き声すら漏らせずに、びったんと牧場に転がったハゲおやじを、そこらにあったロープで手際よく縛り付けてやった。
●何を勘違いしている? ゴッドの制裁は始まったばかりだぜ!
「な、なんと、こんな幼女が! よーし、チャンスを活かすのが邪教徒のポリシー。お前たち、やっておしまい!」
「あらほらさっさ~!」
Aの指令を受けて牧場に散るUDC集団。
黒い羊はどこだとコミカルな動きで羊を追い回したり、牧草を固めた物や山となった場所を探している。
「やあ、君、助かったよ。あの油ぎっしゅ変態には困っていてね──って近い近い!」
黙って歩み寄るかまどに異様な圧を感じて慌てふためくA。
あの刷毛山さんを一撃でのしたのだから、当然と言えるかも知れない。そしてその結末を間近で見ていたAは思わず腹をガードし。
ゴ ッ ド ロ ー キ ッ ク ! !
「痛ァい!」
当然の如く炸裂したのはローキック。しなやかな鞭のように放たれた流麗な動作にも関わらず、その小柄な体の重さと筋力を一点に集中させたその威力。
具体的に言うと無防備な左の足首を粉砕骨折する程の威力だった。エグいね、ゴッド。
もちろんユーベルコードではない。
「はわわわわ、な、何を
…………、はっ!?」
堪らず崩れ落ちたもろこし頭のその髪、もとい髭を掴み上を向かせる。
頭上で鈍く光る鉈と逆光。思わず恐怖するUDC。
もはや彼に抵抗などできはすまい。蛇に睨まれた蛙、まな板の上の鯉、缶詰めの中のコーンだ。無感動に鉈を振り上げた幼神へ、コーン野郎は、ひい、と悲鳴を上げた。
「や、止めろぉ! こんなネタシナリオでサスペンス展開をするんじゃない!」
「……なに言ってるの、このとうもろこしは」
そうだぞ、なにゆってんだ穀物野郎。
振り下ろされた鉈は弧を描き、綺麗に根元からとうもろこしの髭を刈り取った。
「ごふぇっ!」
「Aーっ!」
支えを失い地に落ちたA。様子に気付き駆け戻ったコーンヘッズ。
しかし司令官を失っても、鉈を片手にゆるりと立ち上がり、その手に握る髭を風に撒くゴッドの出で立ち、その威光を前に立ち竦む。
「ここは俺に任してもらおうか」
「チャラいB! 死ぬ気か?」
そんな緊張感をはね除けて進み出たBを制止する面々。しかしBは妙に自信たっぷりな様子で、振り返りもせずに片手を挙げる。
茶菓子でも用意してな。まあ、皿に広げる前にメインイベントは終わるがな。
そう嘯くBは両の手をポケットに収めて、かまどの前に立つ。
なんという不遜、なんという厚顔無恥。
「…………、いい風だな、お嬢さん?」
「吹いてないけど」
「ふっ。君は確かに強いようだが、ユーモアが足りてない」
コートの内ポケットから櫛を取り出し、自らの髭をブラッシング。頭を軽く振ってサラサラおけけをたなびかせると、Bはかまどの顎へ人差し指を当て、くいと上向かせる。
「笑顔でいなきゃ、その素敵なお顔が台無しだぞ☆」
「 ゴ ッ ド ロ ー キ ッ ク ! ! 」
「痛ァい!」
さっきから星を飛ばしていたのはてめえかとばかりのゴッドの一撃が、鬱陶しいもろこしの左足首を粉砕する。
彼が地面に叩きつけられる前に、自由落下するその頭から髭を鉈で切り飛ばし、かまどは残るもろこし頭二人を睨み付ける。
実力者二人を失い、もはや抵抗する意思などないと思われたデビルズナンバー。しかしここに勇気を燃やす者が一人。
名前は気にする必要はないだろう、どうせCだ。
「なぜこんな事をする! 俺たちがなにをしたって言うんだ!」
牧場荒らしてるだろ。
しかしかまどさん、UDCの必死、否、決死の問いかけに遠い目をして空を見上げる。
「……わたしは、髪が憎い」
神は死んだ。お前もかかまど。
唐突なカミングアウトにもろこしどもと地の文も戸惑う中、もはやぴくりともしない倒れ伏す屍を見渡す。
髪がなければ、このような不毛な争いは起こらなかった。
髪があれば幸せもあっただろう。しかし現実として髪はない。ならば髪がなければ、みなが平等に笑顔溢れる素敵な世界になったのではないか?
髪とは神である。人は弱き故に神を求め、髪に飢える。しかし神がなくとも人は生きていける。そう、髪がなくとも、人は生きていけるのだ。
「……だからわたしは髪を許さない。争いを生む……神は要らない」
「いやそれなら自分の髪をまず」
「 ゴ ッ ド ロ ー キ ッ ク ! ! 」
「痛ァい!」
無駄口を叩くコーンの左足首を蹴り砕く。穀物如きがゴッドに意見しようとは百万年早いのだ。
いや、穀物を模したUDCだからこそ、かまどは怒るのかも知れない。
倒れそうになったコーンの髭を掴んで支え、苦しそうに踠くそいつの目の前に鉈を振り下ろす。
「ひいっ!」
悲鳴を無視し、次に取り出したのは鎌。
「ひとーつ剃っては父のため……ふたーつ剃っては母のため……」
「ああっ、止めてェーッ!」
そりそり、そりそり。
優しく丁寧にお髭を剃られて地に倒れる。
これで残るデビルズナンバーも、はや一人。さぞかし怯えている事だろうと思いきや、最後の一人は闘志を滾らせ怒りに震えていた。
●そして終わりはやってくる。
「き、貴様……逆ギレなんて……人としてどうなんだ!? ええっ?」
UDCが人を語るな。
かまどがどうでも良さそうに見ていると、一人で勝手に盛り上がる穀物は、まるで正義は我にありとばかりに高ぶる。
「燃え上がれ、俺の闘志! 正義を愛する心、勇なき者に鉄槌を! はあっ!」
たちどころに漂う香ばしい匂い。
はっとするかまどに対し、コーンヘッドは不適な笑みを──顔ないわこいつ。
ともかくも、ユーベルコード悪魔の薫香(デビルスメル)でかまどさんの注意を奪ったデビルズナンバーは、更なるユーベルコードを発動させた。
ユーベルコード悪魔の焼入(デビルグリル)。自分の寿命を代償とし、焼きとうもろこしへと変ずる事で戦闘能力と美味しさを強化する。
それ即ち、香りも強化されるという事。広大な牧場を瞬く間に覆う焼きとうもろこしの香りがかまどの胃袋に直撃する。
(……お腹空いた)
「いい焼き加減じゃないか、D」
「えっ、指揮官A?」
かまどは虫がしつこく存在感を示す腹を撫でる。
空腹とは不幸だ。それは時代が証明している。ならば満たさねばなるまい。
(どこかに食べ物……お弁当とかないかな?)
「今のお前はサイッコーに輝いてるぜ☆」
「チャラいB!」
腹が減っては戦は出来ぬ。
きょろきょろと周囲を見回す幼神は、匂いに誘われて戻ってきた羊たちと目を合わせる。
「どこかにご飯はないかな……みんな」
「メエエ~ッ」
「俺がいることも……忘れるなよ……」
「名前も呼んでないC! み、みんな生きていてくれたのかっ!」
可愛らしくお尻をふりふり、ついてきて下さいとばかりのもこもこ羊の姿に、かまども頬を緩めてそちらに付いていく。
勝手に盛り上がる連中は暑っ苦しくてしようがないが、ふと気づいて振り返る。
「仲間の信頼、友情を今ひとつに! これが究極の必殺技、俺たちのユーベルコード!
その名もっ、悪魔の玉蜀黍(デビルコーン)!!」
「……あのさ」
「えっ、なに?」
全く気にしていなかったが、攻撃に移ろうとしていたラスト・コーンに言葉をかける。
あまりに普通に話しかけられて、びくりと肩を震わせた穀物人間に、かまどは頬を掻く。
「わたし、ご飯食べに行くから」
「えっ、うん……えっ……?」
「羊を虐めないでね」
「あっ、はい。いやいや、えっ、行くの? まじで?」
それじゃ、と手を振るゴッドに手を振り返し、さっさと羊の後を追って退場する小さな後ろ姿に動揺する。
呆然としている彼、まあDだろうね。彼の前には左足首を砕かれた三名が居心地悪そうに肩を組み合ってやってきた。
「その、なんだ。とりあえず変身解除しようか。死んじゃうし」
「……うん……」
「大丈夫、お前は悪くなんかないぜ☆」
「……なんなんだよう、あいつ……」
「わかってるから、みんなお前の味方だから」
「…………、ありがとう」
寿命を削る荒業も全く意味を成さず、相手の気持ちなど屁とも気にしないまどかの行動に、思わずぐずり始めたDを全力で宥めるA、B、C。
ゴッドとは非情なのだ。
彼らが立ち直るまではまだ時間がかかりそうだ。
忘れてたけど刷毛山さんはまだマッチョモードで気絶してるよ。せっかくだからそのままにしとこうね。
大成功
🔵🔵🔵
●みーてぃんぐ。
「UDCどもを殺さなかっただと?」
不機嫌そうに眉を潜めたタケミに、猟兵はおっきな白米のおにぎりをもぐもぐしつつ頷く。
その様子に彼女は、ふむ、と声を漏らして腕を組んだ。声音はともかく、彼女とて別に怒っている訳ではないようだ。
「つまり、話をまとめるとハゲの宗教はただの思い込みだが、何故か邪教徒のUDCは奴と同じく黒い羊を求めているんだな。
確かに、アンタの選択は正しいよ。敵の正体がわからん以上、泳がせるのは手だ」
別に刷毛山へ殺意を持っている訳でもない。その目的が黒い羊とやらだと分かれば、彼らを泳がさせるのは有効な手段だ。
猟兵の選択はここまで考えての事かは分からないが、効果として期待するに十分だろう。
効果が無かった所でまとめて叩き潰せばいいもんね。
非情なタケミの考えにおにぎりをもぐもぐしながら頷く神、もとい猟兵。
彼女らの歩む未来にデビルズナンバーの生存する姿はなかった。
片瀬・栞
割と切実な問題って聞くけど
ともあれ情報収集ね。おっけー!
>行動
【POW】アレンジ歓迎
ツッコミ対応用にハリセン装備
>刷毛山
わ。縛られてるじゃない
酷いことするわねデビルズナンバー(冤罪
起きてー?起きろー!(びんたびびび)
黒い羊について情報収集してみよう
黒い羊って何?というか髪だけ黒くて艶々してても違和感ない?
ハリセン片手にやめるよう説得。いらっと来たら腹パン
【ロープワーク】で吊るしとこう
>コーン
護衛は忘れず(大事)
何故か戦意が低いのに首を傾げつつ黒い羊について聞く
焼けたら食べたくなるけど胴体から切り離さないとなー
チェーンソー取り出して轟音を立て【恐怖をあたえる】
向かってくるのを優先で斬り飛ばす
●そのままにしとこうって言ったろぉ!?
「わ。縛られてるじゃない。酷いことするわねデビルズナンバー」
「なにぃ?」
見ようによっては、まあ、被害者に見えない事もない事象を引き起こせるであろう姿勢の刷毛山さんに、すてててててて、と走り寄った少女の名は片瀬・栞(アラクニド・f17024)。
グリモア猟兵、タケミ・トードーの放つ次なる刺客である。
少女の事実と則さない言動にコーンヘッドは腹を立てた様だが、すぐに他のヘッズに止められた。
「よせって。もう人間には関わるな、録な目にあわんぞ」
「ああ、そうだな」
「フウ☆ 俺のテーピングはどうだい指揮官?」
「いい感じだ。粉砕骨折にテーピングが効くかはわからんけど」
穀物の分際で人間様の無視を決め込んだ模様。身の程を知れ。
しかし栞は意に介さず、リボンで結んだ一房の黒髪を背へ弾きつつ、刷毛山さんに馬乗りになる。
黒い羊についての情報を集めようと牧場主を起こそうという様子だ。さては前の猟兵の活躍劇、地の文の最後を読んでないなおめー。
「起きてー? 起きろー!」
屈強なる油っぽい肉体をものともせず、滑る肉体を猟兵たる悪魔的握力でしっかりと肉を握りしめて栞はびんたをお見舞いする。
刷毛山さんが起きるまで、びんた、びびんたに次ぐびびびんたとびびびびび――。
「止めろぉ! 何してんだよもぉう!」
「うわ! 何こいつキモ!」
流石に無視ができずに体を滑り込ませて来たもろこしDに、栞は身を引いて苦い顔をする。
Dは年頃の女の子にされたくない顔をされてショックを受けるも、すぐに気を取り直して暴力なんて良くないと力説した。何を説教してんだもろこし野郎。
「暴力じゃなくて起こそうとしただけだよ。それより何、デビルズナンバー。やる気?」
「なんでそんなに殺意高いのここの人間!? もう少し何かあるだろ、ほら、言葉を話せるんなら心だって通じあうはずさ!」
「…………、一理、ある?」
ないよ。
首を傾げて殺意を収めた栞にDは思わず溜め息を漏らす。今更だけどお前らどっから声出してんの?
ともかくも情報収集だ。少女は何の為に黒い羊を探しているのか問う。
「え、何のため? みんな知ってる?」
「知らない」
「これから俺たちと勉強しないかいお嬢さん☆」
「目的内容の説明は受けてないな」
無能しかいねえ。
黒い羊さんを拐え、という指令しか知らないある意味では有能なトップの采配である。
「…………」
「ちょちょちょ、ちょっとちょっと、何それ! 物騒な物をしまって!」
無言でスマートホン型の携帯戦術補助端末【JB】からチェーンソー【Full Blast】を取り出す栞に、コーンヘッズは慌てて宥めすかす。
栞はその辺の石ころでも見つめるような目であったが、その内に仕方ないとばかりに武器をしまう。
胸を撫で下ろす一同の前で、せっせと取り出したのはハリセン。
「それでコーンのつもりなのかなーっ!?」
「ワケのわからないツッコミ来たーっ!?」
羊さんたちがメェメェしている長閑な牧場に、雷の如き裂帛の音が響き渡った。
●筋肉は何度でも蘇る。つまり何度も葬られてる。
「…………、え?」
「ふ、ふむうっ、……ぐ……」
頭を抱えたDの上で、その身を盾とした刷毛山さんの背中に真っ赤なハリセンの跡が浮く。何やってんのお前。
栞すらも驚く後ろでは、羊さんたちが解いた縄をメェメェしていた。しょうがないなぁ、羊さんってば。
「どうして……人間っ……! どうして敵である俺を庇った!」
「ふっ、何を……君が……言ったじゃないか……!
私たちは言葉を交わせる、ならば……くっ……心も通じ合うはず、だとっ……!」
「人間!」
崩れ落ちた刷毛山。彼は言う。許す事――、それこそが心を交わす術なのだと。
「ちっきしょう、許さんぞ猟兵! よくも人間を!」
「待てD! 忘れたのか人間の言葉を!」
「指揮官A! しかしっ」
お前ら人間はホモ・サピエンス・サピエンスの事であって刷毛山さんはそれに含まれないぞ。
人間という言葉をゲシュタルト崩壊させ、刷毛山さんを人間として扱わせようという高度な騙し討ちを行う腹積もりのコーンヘッズ。
色々と揉めている様だが、結局は牧場主の言葉に従うべく栞の行動を許す事に決めたみたいで、少女へ視線を向ける。
「せいっ。せいっ」
「ふんむっ。うぐふぅっ」
視線の先では刷毛山さんに馬乗りとなった栞先輩が、ハゲの腹部に鉄拳を何度も振り下ろしている所であった。
「だから止めろぉ! 何してんだよもぉう! 本当にもぉう!」
「うわ! 何こいつキモ!」
「何でこんな事するんだよう!」
「えっと、ムカついたから、つい」
「最近の人間はムカついたらダウン追撃に腹パン連打すんの? コワイ!」
何故か怒った様子で人間としてどうだとか、猟兵ならばもっとするべき事があるはずだとか、もろこし頭から良い香りを漏らすD。
心なしか段々と焼けてきている様子だ。
(焼けたら食べたくなるけど、胴体から切り離さないとなー)
ならやるべき事はひとつしかないね。
よっこいせ、と再びぎざぎざした何かを取り出す栞に、Dは目を瞬かせる。いや、こいつら目なかったわ。
スターターロープを引き上げ、エンジンを掛ける。悪意をそのまま音にしたかの如き重低音に、Dは戦意を喪失して後退った。
少女の目に浮かぶ三大欲求の内のひとつがDの恐怖を煽る様だ。
「待て」
にじり寄る栞の前に立ち塞がるのはA。
髭のない頭部、というかとうもろこしを振り、Aは少女へ右手を差し出した。
俺は全てを許そう。そう、Aの態度が物語っている。
そこには刷毛山さんの語る、人かUDCなんて些末な事だとした遺志を引き継ぐデビルズナンバーの姿があった。
「さあ、手を繋ごう。我らUDCと人は、分かり合えるんだ」
低く唸る鋼の猛獣を従えた乙女に対し、脅えも怯みも無い。
栞は指揮官と呼ぶに相応しい決断力のAの行動に答えた。
「せいっ」
「ぎぃやあああああっ!」
「Aーっ!!」
Aの右手を斬り飛ばした栞は、危ない危ないと一息入れる。
有史以来、手と手を交わす握手は友好を示す手段であるとされているが、少女は知っている。
ある世界では相手に呪いをかける手段でもあると。
「猟兵として、世界に平和をもたらす義務がある。だから、キミの宣戦布告は受け取らないよ!」
「なんだそのどこぞの公共放送のアニメーションの様な設定は!
この行為はもはや容認出来ん! 貴様の存在そのものが侵略行為だ!」
元気じゃんA。
指揮官Aに引き連れられて、B、C、Dが戦列に加わる。
向かってくるコーンヘッズに、栞は何も言わずぎざぎざの回転数を上げた。
●戦闘だって? 戦闘になると思うのかい?
Aの統率により恐怖を抑えて立ち向かうコーンヘッズ。良く訓練された姿勢、指揮官への信頼が見てとれる。
「そいっ」
「あぶねっ!」
唐突の凪ぎ払いに飛び退くA。栞はその隙に踵を返すと、意識を失う刷毛山さんの足を捕らえ、牧場の端に建てられた小屋へ向かって全力疾走。
「えっ、また逃げるのか猟兵!」
「いや人間を拐ってったぞ!」
「あの運び方、頭がヤバいね☆」
「これ以上その人間をどうするつもりだ猟兵ーっ!!」
すっかりハゲに入れ込んでしまったコーンどもの言葉に聞く耳貸さず、栞は小屋の中に入るとひとまず振り返る。
先の戦闘で左足首を砕かれたコーンヘッズが追い付くには時間がかかる。とは言え、足を怪我していないD一人では危険。
四人揃っての戦闘を考えるあたり、敵も馬鹿ではない。栞は手早く刷毛山さんを小屋の中央、大黒柱に吊り上げた。別に彼に何かしらの恨みがある訳ではない。デビルズナンバーとの戦いに巻き込まない為だ。
「ふう、良し!」
「追い付いたぞ、少女! む、あの人間はどこに」
「あ、あれはっ」
周囲に視線を散らした四本。そこに逆さ吊りされた刷毛山さんを認めて悲鳴を上げた。
重ねて言うが、栞は別に刷毛山さんに恨みがある訳ではない。ただ急いだあまり間違えて逆さ吊りにしてしまっただけだ。他意など全くないのだ。
「おのれ猟兵、どこまでも嫌らしい奴!」
「お前なんて兵士の風上にも置けない、ただの犬だ!」
「見せてやるぜお嬢さん☆ 俺たちの輝きを!」
「こぉれでぇ、決まりだぁ!」
口々に吠えるデビルズナンバー。辺りに漂う美味しそうな香り、焼きとうもろこしへと変貌する四本は、正に今、決着をと考えているのだろう。
そんな彼らに対し、多勢に無勢と見える少女は小さく笑う。
「それじゃあたしが悪役みたいじゃないかーっ!」
「どこが違――ずべら!」
超高速の一閃。
いつの間にか取り出していたハリセンの一撃を受けて、香ばしい粒が乱れ飛ぶ。
根元からへし折れた様に首を嫌な方向へ曲げて、壁にまで吹っ飛ばされたA。
一瞬で消えた指揮官に反応させる事すらさせず、唸りを上げた鉄の牙がBの首を齧り取った。
一瞬の出来事である。
目にも留まらぬ早業に、しかしCとDは闘志を失わず、両手を振るった事で動きを止めた栞を中心に円の動きで囲い回る。
Cは足に傷がありながらも寿命を削る荒業でそのハンデを打ち消しているのだ。
「食らえ猟兵! 俺とお前の!」
「友情のツープラトン!」
「むむっ!」
二人がかりの悪魔の玉蜀黍(デビルコーン)。乱れ飛ぶ弾丸を、栞はハリセンとぎざぎざの二刀流で迎え撃つ。
しかし大量に飛び交う嵐撃に及ばず、一息でUDC二本を仕留めた栞の速さでも対処に追いつけず。
遂には動きを止め、片膝をついた栞に、二本は勝利を確信する。
だが。
「…………、必殺!
……ぎざぎざハリセン……! サイクロン!」
チェーンソウを順手、ハリセンを逆手に持ち替えた少女がその場で回転を始める。
「なにぃ!?」
「猟兵が大回転? まさか!」
超高速回転により発生した竜巻がデビルズナンバーの発射した種粒を巻き上げ天井へと叩きつける。
風の壁を発生させた栞に、もはや攻撃は届かない。
ちなみにだがユーベルコードではない。
「フェイタル・エンド!」
『どわ~っ!!』
爆裂する風が小屋をばらばらにし、コーンヘッズを吹き飛ばした。
重ねて告げるがユーベルコードでは断じてない。
爆裂する風の中でも大黒柱は倒れず、刷毛山さんはもちろん無事だ。だがその頭は禿げ散らかしたから殆ど禿げ上がったに変わっている。
「俺とお前の友情のツープラトン、敗れたり!」
「……これが猟兵か……、ん?」
驚愕するDの近くに、香ばしい香りに誘われた子羊ちゃんが現れる。もそもそとDの頭を噛るその毛並みは確かに、黒かった。
「行くんだ、C、D! その羊を連れていけぇ! 流星の如く!」
栞の小柄な体を変質者よろしく、後ろから押さえつけたのは、頭を斬り飛ばされたはずのBであった。
驚く栞にBは「ちちち」と舌を鳴らす。
「猟兵とは言え所詮は人間。我らデビルズナンバー、とうもろこしを斬り落とされた所でやられはしない」
むしろどうやったら死ぬんだお前ら。
栞は変態の如きBを一本背負いの要領で叩きつける。あたりを見渡せばすでにCとDはおろか、Aの姿もない。
「ぐ。ふっふ、黒い羊は貰った……まあ俺たちも変身とかしたから逃げられはしないが……俺たちの勝ちは決まったな☆」
「自信満々に勝利宣言前の敗北宣言をするんじゃない!」
「あふうっ☆」
ハリセンですっぱんと一撃。
悶えるBを冷めた目で見下ろして、栞はぎざぎざの回転数を上げる。
首を切り落として駄目なら、縦に真っ二つというのならばどうだろうか。
迫る轟音に、今度こそBは星を飛ばせぬ体となって消えた。
栞は額の汗を拭い、周囲を見回す。
A、C、Dはこの牧場のどこかに隠れているだろう。ばらばらになった小屋の跡か、牧草置き場か果ては羊の群れか。
「さーて、……どこに隠れているのかな……?」
栞は目を光らせてぎざぎざのスターターロープを引いた。
大成功
🔵🔵🔵
月守・咲凛
索敵対象オブリビオン、レーダーアクティベート。
ロングレンジレーダーで索敵します。そこですね。
空中から誘導ミサイルで燻り出し……焼き出しましょう。
……あ、羊。まあいいですね。その辺の羊さん達も安息の時は終わりという事で。
コーンさん達をうまく燻り出せたら羊さん達にこれ以上の被害を出す訳にはいきません!誤射に気を付けながら腕部兵装のガトリングで撃ち抜いていきましょう。
オブリビオンは殲滅対象なのですけど、攻撃されるような子供も居ませんし守る対象は羊さんくらいなのであんまり戦意が維持できません。
もういいですよね?と一言断ってから【コード・アクセラレーター】でコーンさんを全員どっかんしてさっさと帰るです。
●そして平和は訪れた――と思っていたのか?
もしゃもしゃ、もしゃもしゃ。
メーメー、メーメー。
もしゃもしゃ、もしゃもしゃ。
そこは長閑な牧場だった。何故かやたらと美味しそうなもろこしの匂いに誘われて姿を見せた羊さんたちは、平和を謳歌しているようだ。
なんの心配も不安もなく、美味しそ~な匂いの染み着いた牧草を食む。食む食む食む。
敷地内ではばらばらに吹き飛ばされた家屋や、逆さ吊りにされた牧場主、真っ二つにされた人形のなにかなど、これでもかとばかりの異様であるが、今の羊さんたちにはどうでもいいのだ。
ついでに言えば子羊が一匹連れ去られているが、事態を知らないのでそれもどうでもいいのだ。
ああ、平和だなぁ。
羊さんたちは皆で、先程までの破壊の嵐を忘れるべく牧草を啄んでいるようにも見える。可愛くて可哀想。
微睡むようにもしゃもしゃしていたメェメェさんの頭上に影が落ちる。警戒心が打ち壊されたベルリンの壁と同レベルで崩壊していた羊さんはもしゃもしゃしながら空を見上げる。
逆光に浮かぶ黒い影。
羊さんは眩しさに目を細めながら、白かと感想を抱く。大人の黒派な羊さんに揺れる心はないのだ。
あえて何がと記すのはよそう。
「ひ、羊さん、それは私のお髭だ!」
牧草の山をもっしゃもっしゃしていると、そんな声が聞こえて羊さんは視線を向ける。
もしゃもしゃしているのは草に非ず、とうもろこし野郎のお髭だった。
もしゃもしゃ。
空を見上げる。
「索敵対象オブリビオン、レーダーアクティベート」
天から降るその声は、月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)。まごうことなき猟兵である。
この瞬間、羊さんに電流走る。
あれあれ? これってヤベェー状況なんじゃないのか? と。
「サーチング・エネミー、ロングレンジ。そこですね」
それでもまだもしゃもしゃやってる羊さん目掛けて、否、オブリビオン目掛けてミサイルが発射された。
虚空へ打ち出され、次々と点火し空を舞う誘導弾。
炸裂する音と光り。
吹き飛ぶ芝生。
悲鳴をあげるコーンヘッズ。
舞い飛ぶ羊。
全ては、一瞬の事であった。
「んメェエ~っ!」
爆風に軽々と飛んだ羊さんたち。あわや大惨事、スプラッター映像の濃描写かと思いきや、その体毛でぽいんと跳ねて衝撃を吸収する。
さすが刷毛山牧場産メェメェさんだ、何ともないぜ。
しかし唐突な逆バンジーに腰を抜かした羊さんは体を震わせている。可哀想に。
あ、コーンどもは地面に叩きつけられて足やら腕やら損害が酷いが誰もそんな描写は期待してないだろう? カットだ。
「ふう、目標確認。オブリビオン三体。刷毛山さんを含まない人的被害ゼロ、物的被害は……あ、羊」
咲凜は小首を傾げ、うんうんとしばし唸るが、数秒と経たずに上げた顔には特に苦悩の色は無かった。
「まあいいですね。その辺の羊さんたちも安息の時は終わりという事で」
羊さんたちの僅かな安息の時は、今、終わったのである。
誰だこんな鬼畜に武器を与えた奴。
●猟兵とはなんぞや。
「ちょっと待てぇえいっ!」
「!」
黒煙棚引く大地から、怒りのもろこしが登場だ。
咲凜をびしりと指差し、怒りのオーラを発するのはAだった。首をぽっきりと明後日の方向へと折り曲げて、しかしAはなんの問題もなくそこに立ち、堂々と咲凜を糾弾する。
穀物が何様のつもりだ。
「なんなんだ貴様らは! 被害を省みず、いやっ、被害を増やし! その結果を見ざる! 聞かざる!
あまつさえ何の関係もない現地生物にまで危害を加え――」
「サーチアンドデストロイ!」
「ぎやあああっ!?」
宙空から降り注ぐ鉛弾に全身を貫かれて悲鳴をあげるコーンヘッド。
生温い事をほざいているが、これは未来を、世界を救う戦いなのである。オブリビオンなとうもろこしには欠伸の出る寝言をほざかないで頂きたい。
咲凜は構えていた煙の息吹く腕部兵装ユニット【トマラナイアシオト】を下ろす。開いた装甲から現れた銃身を収めつつ、少女は心持ち寂しそうな表情を浮かべた。
「ぶっちゃけた話、オブリビオンに攻撃されるような子供も居ませんし、守る対象は羊さんくらいなのであんまり戦意が維持できません」
「とんでもない事をぶっちゃけたぞこの少女!?」
「なんで猟兵には頭ちきんな戦闘馬鹿しかいないんだっ!」
頭もろこしが何をぬけぬけと。
先程の攻撃でしっかり焼き出されていたCとDが並んで叫ぶが、咲凜の冷たい目に感情の揺らぎはない。
両腕の装甲を開いて再び銃身を露出させた少女の姿に、穀物二本がびくりと震える。
「ま、待て! こっちにはこの可愛い羊さんがいるんだぞ!」
「そうだ、今なら許してやるから攻撃をしないで下さい!」
尖った頭の先端を地面に突き刺さんがばかりの勢いで腰を下げるデビルズナンバー。
なんて凶悪な奴らだ、子羊ちゃんを盾にするなんて!
震える黒色の羊を掲げるDは煤に汚れながら必死で訴える。君たち猟兵を甘く見てない?
「サーチアンドデストロイ! サーチアンドデストロイ!」
情け容赦一切なく、両腕のガトリング砲とキャノン砲を連射する咲凜。
哀れ、子羊は世界を救う礎に――、とはいかなかった。
「……う……ぐう……!」
「…………! A!」
自らの体を盾に、AはDを振り返る。
逃げろ。
その言葉だけを残して、最後の力も尽き大地へと還る彼の姿に、残された者は何を思うか。
あ、Cは守れなかったからとっくに消し炭になったぞ。やったぜイェーガー!
「お、おのれ、おのれ猟兵! 見ていろこの次こそ!」
「もういいですよね?」
「えっ、何がっ?」
Dへの興味関心、一切なし。
明らかに相手の言葉を受け付けるつもりのない姿勢で言葉だけは一言、ことわりを入れつつ咲凜。
【WARNING! WARNING!】
【DANGER! DANGER!】
「えっ? えっ? 何々!?」
その小さな体から響き渡る警告音にわたわたするもろこしヘッド。
ユーベルコード【コード・アクセラレーター】。各種武装ユニットを全て解放して行う総攻撃、一斉発射。
「武装ユニット全解放、撃ちます!」
「待ッ――……!」
悪いなデビルズナンバー、この攻撃途中で止められないんだ。
オーバーキルも甚だしく、咲凜の砲撃が最後のデビルズナンバーとうもろこしを粉々に粉砕した。
●そして戦いは終わっ――てない?
すう、と牧場に降り立つ少女。もはや牧場かすらも分からぬ戦場跡地で、てててっ、と遠くへ逃げていく子羊ちゃんを見送る。
これだけの総攻撃でもしっかりと攻撃対象でない者を判別していた少女は怪我のない様子の黒い子羊に笑みを浮かべた。
黒い羊、何の事はない、戦いの中で暖炉の灰でも被ったか、煤まみれで黒く染まったただの羊がその正体であった。
「オブリビオン、オールデリート。黒い羊もいませんし、こんなところでしょうか」
やるべき事は終わった。さっさと帰ろうと飛び立つ少女。空に白い軌跡を残し、高速で飛び去るその姿は機械的でありながら、妖精的な美しさを空に映していた。
その美しき光景に、憎悪を滾らせる者が一人。
「――、許さん。許さんぞうっ、イェエェガァアァアァッ!」
轟く咆哮を放つハゲ、もとい刷毛山さんは全身を真っ赤に染め上げて、オーバーヒートした体からは白い湯気を立ち上らせていた。
大成功
🔵🔵🔵
●みーてぃんぐ。
「ボーナスミッションだ」
はあ。
耳をかきかき、やる気のないタケミの発言に怪訝な様子の猟兵たち。
ボーナスミッションとは即ち、猟兵に強い敵意を抱く一般人、刷毛山さんの無力化である。
牧場を破壊され、羊を失い、心を通わせたUDCを失い、そしてあまつさえ髪の毛を失ってしまった刷毛山さんは遂に、猟兵こそ排除すべき対象として怒り狂っていたのだ。
猟兵らの行動を並べ立てれば当然な気はするが、この結果を招いた自分の行いを省みないのはどうよ?
「目的はわからんが邪教徒の殲滅には成功だ。ならば教主が現れてもおかしくはないが、ここでこのハゲ散らかした、もといハゲたおっさんが敵につかれても厄介だ。
とっととぶちのめして、敵の親玉に備えるぞ」
相変わらず容赦のないメスゴリラの発言。やはりこの人の人選に原因があるのではないだろうか?
タケミは説明少なに猟兵の出撃準備を始めているが、皆さん知っての通り、ハゲ山さんは変身型一般人だ。
ユーベルコードを使用せず鎮圧することを強く希望しよう。
・デビルズナンバー殲滅の一部となります。扱いとしてはただの目的達成のための障害排除に過ぎないと断言します。
・攻撃対象は刷毛山さんのみ、プレイングは全てそのように扱います。
・刷毛山さんは羊を装備しており耐衝撃能力に秀でています。
千崎・環
はぁ…あ、あぶなっ…巻き込まれるかと思った…。
とうもろこしを刈り取ろうとやってきたらモ◯ルスーツみたいな女の子の一斉掃射を喰らう所だった半泣き婦警。
パトカーの陰に隠れやり過ごした所…。
「ボーナスミッション?」
刷毛山さんの無力化とは…。
ともあれ先ずは交渉!
その為の警察、その為のUDC!
しかし凄い威圧感…。
こんにちは!大変でしたね。
え…猟兵?何のことでしょう?
待って、話せばわかります!
決裂となれば言葉もUCも不要!
大盾で刷毛山アタックを防ぎます!
しかし隙を見て一番痛い所にキック!
更には警棒で殴打殴打、更に殴打!
最後はUCに頼らずとも逮捕術を仕掛けて手錠を引っ掛けます!
確保ーッ!
アレンジ大歓迎!
●見せてやろう、UDCアースの国家権力の力を!
「はぁ……あ、あぶなっ……巻き込まれるかと思った……」
砂埃の舞う刷毛山牧場跡地で、パトカーの影からひょっこりと顔を出す女性。
UDCアースの日本における一般的な制服をまとう彼女の名は千崎・環(SAN値の危うい婦警さん・f20067)、歴とした警察官だ。
普通の人間ではまず経験することがないであろう破壊の限りを味わった彼女は、安堵からか半泣きのまま地べたにへたりこむ。
しかし、いつまでもそうしてられないのが警察官だ。
「人々の生活と安全を守るのが、警察の使命だからね!」
職務に燃える正義の味方。砂埃にまみれてガッツポーズを取る後ろ姿がいまいち頼りないのは、現代兵器の雨あられをやり過ごした中でか細く震える足に原因があるだろうか。そこまで頑張らなくてもいいんだよ。
そんな彼女の乗り込むパトカーに通信が入る。
「ボーナスミッション?」
それはグリモアワールドからの通信か、あるいは彼女の奥底を這う某かの存在によるものか。
とかく、パトカーから来るような内容とは思えない通信に、護衛対象であったはずの刷毛山さんの無力化が伝達された。
(……うーん……ともあれまずは交渉ね。その為の警察、その為のUDC!)
警察官として、そんな命令を受け入れるわけにはいけないと環は癖のついた髪を撫で付けて、身なりを整える。
守るべき人々の中に刷毛山さんを入れる必要はないんだよ?
手帳とペンを用意しつつ、刷毛山牧場跡地の真ん中でサイドチェストをしている明らかな不審者に職務質問、もとい被害状況を確認する。
「こんにちは、この度は大変でしたね!」
相手を警戒させないためのスマイルは警察官の必須能力だ。しかし不審者にとって警察官とは敵、ポージングを止めた刷毛山は鋭い視線を向ける。
「ぬふゥん。感じるぞ、悪の波動を。……貴様……イェーガーだな!?」
「なんかもう顔からしてすごい威圧感。圧が凄くて暑苦し、こほん。
あー、えっと、……猟兵……イェーガーですか? 何のことでしょう。って待って待って、話せばわかります!」
聞く耳持たぬとばかりの刷毛山に、環は慌ててパトカーまで後退、乗せていたライオットシールドを構える。
そのまま轢いてもいいんだよ。
「刷毛山ァーッ! ファイッ、トォオオ!」
「うひゃあ!」
謎の掛け声とともに放たれたアッパーを抑え込むように盾で受け止めて、その衝撃に悲鳴をあげる。
「交渉決裂、ならば言葉も不要!」
「私を戦いに引き込んだのはイェーガーだ! そんなことを言えるのか!?」
「よくわかんないけど制圧ーッ」
よくわかんないなら仕方ないな。
構えた盾でそのまま殴りつける環だったが、ぽよん、という謎の柔らかな反発を受けて盾が弾かれる。
驚きに目を見開けば、得意満面の笑みでダブルバイセップスのポーズを取る刷毛山の厚い胸板には恐怖に震える羊さんの姿があった。
「我が刷毛山牧場産純度百パーセントの羊さんだ。そんなもの、効きはしないのだよ」
顔がうぜえ。車使おうぜ。
地の文のアドバイスは例の如く猟兵には届かないが、しかし環ちゃんはそんなもの使わなくてもとばかりにアーマー無視の一撃を放つ。
「たあっ!」
「んほおっ!」
余裕を見せた刷毛山さんの股間を思い切り蹴り上げると、鼻から勢い良く蒸気を噴き出して倒れこむ。羊さんが巻き込まれるがさすがは刷毛山牧場跡地産、なんともないぜ!
元気にじたばたしている羊さんはともかく、環は打つ伏せに転がる刷毛山さんの尻に目掛けて特殊警棒を構えた。
「制圧制圧制圧制圧~ッ!」
「あひいっ、ふぐん、あへぇっ、も、もうらめぇ!」
容赦なくケツも割けよと連打され、さすがの変身タイプの刷毛山さんも為す術なく助けを求めた。
環はその言葉を受けて額の汗を拭い。
「更に制圧制圧制圧制圧制圧制圧制圧制圧!!」
「ひぎぃいいいっ! 許してぇーっ!!」
ただ一息入れただけだったわ。
それからたっぷり陽が暮れるまで、刷毛山さんのお尻を制圧した環は張った腕を解していた。
彼の胸板と地面に挟まれてめっちゃダルそうな羊さんを解放し、環は手錠を取り出す。
「えっと、ふたひとまるまる、羊質を解放し被疑者確保!」
UDCアースの逮捕術。実に三時間もの間、被疑者のケツを制圧する見事な逮捕劇とその精巧なる技術により戦意や敵意を失ったハゲは逮捕された。
警察官によれば不審者の逮捕など造作もないのだ。
「さて、特対に報告に戻らなきゃ」
さきほどの通信を環の所属する特対――【警視庁特殊事象対策科】のものであると判断した彼女はハゲをドナドナするつもりのようだ。
環はぴくりともしない刷毛山の両足を掴むと、うんうん唸りながらパトカーまで引きずって行く。
まるで死体を引きずる光景たが、環ちゃんは正義の味方の警察官なのでそんなことはあり得ないのだ。
もはや存在そのものが猥褻物ともいえる油でぬめるハゲ。彼をパトカーに押し込んで一仕事終えたと笑みを浮かべる。
彼の証言を立証もろこしどもがいない今、しょっぴかれれば早々と戻ってくることはないだろう。
これにより、一般市民の命は救われ、猥褻物陳列罪を防ぎ、更なる混乱を未然に防いだのだ。
完璧なる幕引きである。
サイレンを鳴らして夕焼けに向かうパトカーが変態ハゲ野郎をドナドナする中、その後ろ姿を見つめる女性が一人。
「……黒い羊を発見したという報告の後、急に連絡が途絶えたけど……これはチャンスね!」
今ならばめぇめぇさんしかいない。更には目立たぬ夕暮れ時。
不審者であるにも関わらず、牧場主が不審者過ぎたために相対的に一般人に見える女性は気弱な笑みを浮かべた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『あきらさん』
|
POW : 今週のがっつりうっかりメカ
自身の身長の2倍の【急拵えの新作ロボット】を召喚する。それは自身の動きをトレースし、自身の装備武器の巨大版で戦う。
SPD : 申し訳ばかりの邪神要素(制御不能)
【そっち系】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【たまに自分にも襲いかかる触手のかたまり】から、高命中力の【身体が熱くてぼーっとする粘液】を飛ばす。
WIZ : たぶんこれが私の秘密兵器
いま戦っている対象に有効な【自分でも覚えてない発明品】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
イラスト:すねいる
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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千崎・環
【POW】
I'm back!
現場検証…というか、コーンヘッズの痕跡を探さなければ!
ん?…あの人は?怪しすぎる…。
例によって警戒させない様に声を掛けてみます!
こんにちは!こちらで何を?
不信感を抱いたならば臨戦態勢!
いつでも叩きのめしてやります、が…。
へ?…ロボット?ちょ、待って、聞いてない!
いきなりロボットなど召喚されてはたまりません!
盾を構えて逃げに徹しつつ「敵を盾にする」であきらさんを盾にしてロボットと対します!
ちょっと、あのロボット何とかしてよ!
ロボットに隙が生まれればよし!
間隙を突いてUC発動!
裂帛の気合いと共にロボットの関節を殴打殴打!
桜の代紋を舐めるなぁー!
●現場検証を開始するッ! 邪魔者は排除ッ!!
オーバーオールの直穿きに白衣といった目のやり場に困る体型の女性が刷毛山牧場跡地をうきうきと探索し始めてしばし。
「 I ' m b a c k ! 」
意気揚々と戻ってきたのは千崎・環(SAN値の危うい婦警さん・f20067)だ。サイレンを鳴らさぬパトカーから降り立つと、現場検証の為の道具としてチョークなどの準備をしていると、暗がりを動く影に気づく。
めぇめぇさんか? 否、あの格好は間違いなく、恥女!
「あ、……怪しすぎる……」
六四二『デビルズナンバーとうもろこし』の痕跡を確認しに来た環は、露骨に怪しく行ったり来たりのポニーテールを見つめる。
(犯人は現場に戻ると言うけど。警戒させない様に、明るく笑顔で元気良く、声を掛けてみるか!)
環は、よし、と一人ガッツポーズを取ると腰に提げた警棒を確認しつつ不審な対応あらば即座に実力行使だと息を巻く。
「こんばんは! こちらでな――」
「ひいぃええええっ!」
「わわわっ?」
声をかけただけで取り乱す女。それだけでも十分に怪しいが、近づくなとばかりに振り回す手に包丁など握られているのだから十二分だ。
「お、落ち着いて! 私は警察よ!」
「け、けけ警察? 警察がなにを……わ、私っ、なにもしていませんよ……!」
現在進行形でやっとるやろがい。
などと、包丁を突きつける女に野暮な突っ込みはせず、間合いを計りながらも両手を上げて敵意がないことをアピールする。
なにもしていないなら包丁を捨てることだと環が説得を試みると、女は包丁など持ってはいないと声を張り上げた。
「待って待って、落ち着いて! じゃあ、あなたの手に持っているソレはなに?」
「ほほほ包丁に決まってるわ!」
「持ってんじゃない、捨てなさいよ! 警察なめると痛い目見るわよ!」
凄む環に女は渋々と包丁を手放す。
環に思い切りぶん投げる形で。
「うおおおい!」
完全なる敵対行為。
咄嗟に体を後ろに引いてそれをかわすと、環に向かってあっかんべえをしつつ空へ手を上げた。
「あきらさんの、【今週のがっつりうっかりメカ】!」
女、あきらさんの動きに合わせて空から甲高い音を鳴らし、巨大な鉄の塊が降ってくる。
激しく舞い上がる砂埃に思わず顔を保護する環。果たしてそれが終わった後に目に映るのは、ドラム缶のような腹にチューブ状の腕と鉄球の手を持つロボットだった。
その高さ、三メートルは余るといったところか。非常に不細工な出来である。
「へ?
…………、ロボット? ちょ、待って、聞いてない!」
「え? わ、わわ私なにか言いましたっけ?」
慌てふためく環の言葉に至極真っ当な言葉を返しながら、アンテナのついた安全ヘルメットと、これまたアンテナのついたグローブをはめる。
くっそダサいぞ!
「さあ、いくよ、我が従順なる僕【暁の栄光号】!
ロボ・ストレート・パァアンチ!」
『ロボーッ!』
名前はともかくやはりダサい声を上げたロボットはあきらさんの腕の動きに合わせて体当たりを繰り出した。
初手命令違反でどこが従順なる僕だと言うのかね。
「そんな、フェイント、汚いわ!」
ライオットシールドを構えつつも、当たればただではすむまいと攻撃をかわす。そんな環へ執拗に、えいえいと腕を前後させてパンチを叫ぶあきらさん。
しかしロボはなにが不満なのか頭突きや蹴りなどことごとく拳を出そうとしてくれない。
「えーい、大車輪ロボットパーンチ!」
『ローボーッ!』
(! ここだっ!)
その巨体で見事なローリングソバット。
しかし隙を見出だした環はその足下を掻い潜り、目を閉じて拳を前後させるかわいいあきらさんへ体当たりをかます。
止めたげてよ!
「確保ーっ!」
「痛ァい!」
どこかで聞いたような叫びを上げて倒れたあきらさん。
環は盾を投げ捨てると彼女に覆い被さった。おっと、このシチュエーションは嫌いじゃないぜ?
めくるめく桃色の光景が描写されるかと思いきや、正義の警察官・環はあきらさんを引き立たせて迫る暁の栄光号に突き付ける。
「ちょっと、あのロボットなんとかしてよ!
ほらーっ、ロボットも大人しくしないと、この女の人が私と一緒にぶっ飛ぶよ! それでもいいの!?」
「さささ最低ですー! 肉の盾なんて最低ですー!」
悲鳴をあげるあきらさん。さすがに女の人が痛い目に合うのはのはNG。警察官としてもNG。
盾にされた開発者にさすがの命令違反ロボットも動きを止める。
「チャンスっ!」
その隙を突いてユーベルコード【警棒操法その1】を発動。
あきらさんを離してその脇を抜け、動きを止めたロボットの膝へ側面から警棒を叩きつけた。
「チィイエストー!!」
ただの殴打ではない、異能の力を借りた強力な一撃だ。
環の攻撃を受けて体勢を崩したロボットが仰向けに転がると、完全に立てなくなるように環さんは殴る。殴る殴る殴る。
「うおおおおぅおお殴打殴打殴打殴打殴打ぁあ!!」
『ロ、ロ~ボ~!』
裂帛の気合いと共にロボットの関節を同情したくなるほどぐっちゃぐちゃにした環さんは、良い汗をかいたと爽やかな笑みを見せた。
警察官を名乗る女の垣間見せた狂気に圧倒されていたあきらさんだったが、我に返ると顔を振り、環を睨み付ける。
「あ、ああ、あなた、猟兵ね!」
「猟兵? 違うわよ、私は――」
懐から取り出した警察手帳を掲げて、きりりと真面目な顔をする。
「UDCアースの警察官、警視庁特殊事象対策科所属の千崎・環よ!
そういうあなたこそUDCね。大人しく投稿すれば私は酷いことしないわ」
「守る気ゼロ!?」
明らかに言いくるめる気のない環に抵抗の意思を示すあきらさん。
仕方ない、と悲しげに溜め息を吐いた環は警棒を構えた。
「桜の代紋を舐めるなぁー! UDC!」
「こここ、この人怖い!」
さあ、騒動の黒幕あきらさんとの本格的な対決が今、始まる!
…………というか、この人なにしにここにきたの? という素朴な疑問は、桜の代紋の前に消え去るのみであった。
大成功
🔵🔵🔵
月守・咲凛
SPDで戦闘。
あれ?人がいるのです。
帰るついでにコンビニで駄菓子を補充して戻って来たら、なんか女の人が居たので降りてきました。
けーさつの人に捕まりそうになってたという事は悪い人なのですね?
自白すると罪が軽くなると聞いたことがあるので、素直に企んでいた事を話してくれたらビームライフルとガトリング砲好きな方を選ばせてあげるのです、と交渉してみます。
交渉が成立したらそっちで、成立しなければ二刀流チェーンソーで、攻撃開始します。
敵のユーベルコードは、そっち系の感情は特にありませんので本人が自爆する様子を首を傾げながら眺める感じになりそうです。
可哀想な感じになってきたら触手と本人まとめてドッカンです
●爆撃、再び。
「待ちなさーい!」
「ひゃーっ!」
警棒を振り回す女性警察官とたわわに実った胸の、見るからに怪しい女の追い駆けっこを上空から見かけたのは月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)だった。
(あれ? 人がいるのです)
コンビニ袋を片手に下げて、もう片方にはお菓子の包み。こら、食べ飛行はお行儀が悪いって言ったでしょ。
一先ず包みをコンビニ袋に戻しつつ、急降下した少女は警棒を振り回す警察官こと千崎・環に並走する。
いやまあ、飛んでるけど。
「なにしてるんです?」
「はあはあ、なにって、はあっ、悪そうな人をはあ、おっかけっ、はあっ!?」
隣に浮かぶ空戦型カラーひよこの存在に目を見開くSAN値の危うい婦警さん。
小首を傾げる咲凛に対して顔色を恐怖に染める。問答無用の爆撃に巻き込まれそうになった経験者がその元凶と顔を合わせた時、こうなるのだ。
「出~た~!」
幽霊にでも出くわしたような反応で警棒を投げ捨て逃げ出す環。ここが戦場なら敵前逃亡は銃殺刑だぞ! 目の前の女の子が戦場にしちゃってたけど!
少女はその反応になにが出たのかと周りを確認などしている。あざと可愛い。
とりあえず咲凛は必死に逃げるアンテナヘルメットを呼び止めると、後ろを確認して敵は無しと考えたのかあきらさんは素直に足を止めた。
「はあはあ。な、なんとか諦めてくれたみたいですね!」
「お姉さん、けーさつの人に捕まりそうになってたということは悪い人なのですね?」
ただただ事実をありのままに見て導きだした答えを、なんの屈託もなく訊ねる。
あきらさんはその言葉に咳き込んだ後にそっぽを向いて口笛を吹く。聞こえないふりにしてももう少しなにかないかね?
「自白すると罪が軽くなると聞いたことがあるので、素直に企んでいたことを話してくれたらビームライフルとガトリング砲好きな方を選ばせてあげるのです」
「…………。え、え? そそそれ、私に得あるんですかぁ!?」
「選ぶケンリです!」
えへん、と威張る可愛らしい姿にあきらさんはほんわかしているが、この辺を焼き払ったのこの娘だからね。一人竜巻を起こして小屋ぶっ壊したのもいたけど。
それにしてもどうしてこの事件に絡む猟兵は尽くネゴシエイト力が皆無なのだろうか。否、オブリビオンとは交渉しないという強い意識の表れかも知れない。
とまあ、そんなどうでもいいことはさておき、あきらさんは顔を赤らめてもじもじし始めた。あらあらまあまあ。
もしかしてですけどかーわいひおにゃのこにあらぬ気持ちを抱いてしまったのではないでしょうか。いやはやイケマセンなそんなこと、しかしよくってよお姉様、めくるめく官能の世界に百合の花びらを散らそうじゃあーりませんか。盛大にな。
「わ、わわわ、私の……その……目的は……」
『なにー? 聞こえないわよー!』
ごにょごにょやり始めるあきらさん。なんだ、レズじゃねーんか。
恥ずかしそうにもじもじし始めるあきらさんに対し、遠くから拡声器の野次が入る。パトカーの後ろに身を隠す環さんだ。
「うううぅ!」
顔を耳まで真っ赤にしてあきらさん。意を決して声を張り上げた。
「わわわっ、わ、私っ! 下の、毛が、ないんです~!」
『……えっ……』
叫ぶあきらさんの言葉に、今度は環が顔を赤くした。
やっぱろくでもない願いを持っていそうだぞ!
「チャンスッ、いくのです、邪神!」
あきらさんの申し訳ばかりの邪神要素である魔方陣が大地に描かれ、燦然と輝く光の中から見るからに形容しがたい怪しげな触手が召喚される。
「さあ、いくのです!
…………、て、きゃあぁあ!?」
触手は当然のように暴走しあきらさんを襲う。なにしてんの。
見るからに怪しげなだけあり、非常に如何わしい動きであきらさんとくんずほぐれつしているが、そこは詳しい描写を避けるのが青少年に対して変な属性に目覚めさせない配慮というものだろう。
目の前で繰り広げられる光景にしかし、咲凛は理解出来なかったようだ。あきらさんの言葉の意味もよく理解できていなかったため、触手に襲われて見せてはいけない顔でぼんやりしている彼女に向けて構える。
【WARNING! WARNING!】
【DANGER! DANGER!】
その小さな体から響き渡る警告音。
ユーベルコード【コード・アクセラレーター】。各種武装ユニットを全て解放して行う総攻撃、一斉発射。
「武装ユニット全解放、撃ちます!」
本日ニ度目のそれが、あきらさんと触手の群れを貫き、凄まじい爆発を起こしたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
虚偽・うつろぎ
アドリブ連携等ご自由にどぞー
登場即自爆
開始即自爆
とにかく速攻で自爆
1行目から自爆で登場なくらいのつもりで即自爆
一言も発せず何か自爆(爆発)の描写だけな感じでも厭わないくらいに自爆
敵がジバクモードの範囲内に入った時点で速攻で自爆するので
下手したら敵がこちらを視認する前に自爆してるかもです
エンカウントしていきなり先制攻撃で自爆する質の悪いモンスター
みたいなものと思ってください
技能:捨て身の一撃を用いてのジバクモードによる自爆
対象は範囲内の敵のみ
自爆は1回のみ
1回に全力を注ぐ
自爆後はボロボロになってどこかにその辺に放置しておいてください
●皆さん、UMAをご存知ですか?
物語の途中ですが、もしよろしければ、私から説明させていただきます。もちろん、あなた方に拒否権はありません。
UMAとはユーマと読み、一九七六年、当時の雑誌で日本人が造り出した言葉であり、かのUFOを参考に造られたとか。
『Unidentified Mysterious Animal』を略してUMAと呼ばれるようになったわけです。
日本に存在するUMAと言えば有名どころはヤマピカリャー、チュパカブラ、クァチル・ウタウスなどが挙げられますね。
しかしこれらはあくまで『未確認』であり、腐女子こと学術名『腐女子貴腐人汚蝶腐人』が実はごく最近までUMAだと扱われていたのは記憶に新しいでしょう。
そんなロマンス溢れるUMAは人々の興味と関心を引き立て、一昔前には句読点を用いた探険隊がよく報道されていましたね。
ふふふ、もちろん私も好きですよ。
しかし、ここは皆さんの知る日本のようでありながら違う世界、UDCアース。
ここではUMAではなく、UDC、『undefined creature』と呼ばれる者たちが存在します。そして、これより皆さまにご紹介するのはその内の一体、虚偽・うつろぎ(名状しやすきもの・f01139)と呼ばれる者です。
かの者が一体、どういった存在なのか、物語を追いながら説明しましょう。
それではァ、UDCアース、邪教教祖との三回戦目に、レディイ、ゴーゥ!!
●まあ、説明のしようがないんだけどね。
もくもくと沸き立つ黒煙。
惨劇の中心で美味しそうに焼けてしまった触手に巻かれて、同じくこんがり小麦色の健康的な肌へとイメチェンしたあきらさんは、咳き込みながら立ち上がった。
つくづく人間じゃないな。
「くっ、イェーガーめ……なんていや、いやらしい……わ私の邪魔を……しないで、くださいっ……!」
涙目で訴えるあきらさん。でもいやらしいのはあきらさんであって猟兵さんたちは一切そんなことしてないと思います。
大人の女性、特に日本人であればあきらさんの気持ち、願いの意味を理解できただろう。救う手立てを考えたかも知れない。
しかし、彼女はUDC、オブリビオンなのだ。未来へ生きる者として、決して交わらぬ存在なのである。
とかそんな感じで真面目にしめようとしたら彼女の後ろになんかいた。
なんか知らんがなにかはわかる、とても名状しやすきもの。だって自己主張の激しい平仮名があるんですもの。
「うつろぎ?」
「うつろぎ、よね」
いつの間にか隣に並んでいた千崎・環と月守・咲凛が思わず読んでしまうその言葉。それはすらりと美しい川の流れの如き筆記体、名のある法師が筆でさらさらと描いたようなその言葉、否、名前。
それがうつろぎであった。
地の底から救いを求めるように沸き立つ腕、中央に佇むうつろぎの文字。普通にこえーよ。
そんなうつろぎは慌ててサイン色紙を取り出すと、「しーっ」とサインペンで書いて二人へ見せた。自分の存在をばらすな、ということだろう。
どうでもいいが、彼……彼女……? いや、うつろぎでいいか。うつろぎ氏の体の文字でコミュニケーションを取ることは出来ないのだろうか。
ともかく、うつろぎの奮闘も虚しく、明らかなる異物を見ればそれを気にしてしまうのが人情だ。うつろぎ氏の登場で一瞬にして存在感が無となったあきらさんは、小首を傾げながらも二人の視線を追って振り返った。
そこに浮かぶ文字。目はないはずなのに目が合ったような、居心地の悪い空気。
とりあえずうつろぎ氏はほんのちょっぴり進むと、自爆範囲に捉えたあきらさんを巻き込むべく爆発した。
──それは、週末を思わせる爆発だった。
(あー、これ週末にやるテレビ映画で観たことあるー)
環が懐かしさを感じるその前方で、うつろぎを中心に発生した稲妻が周囲に炸裂し、その体から浮かび上がった火球がさらに帯電する。
続いて起きた大爆発。全て一瞬の出来事だ。
極小半径内に留められた爆発はキノコ雲を発生し、咲凛のタブレット端末にも影響を与える電磁波を生み出したが、咲凛はお菓子を食べていたので特に気がつかなかった。
「確かこの後、主人公はヘリに助けられるのよね~」
「なんの話ですか?」
こっちの話だと環は笑って咲凛のお菓子を覗く。取られると思ったのか、一瞬隠すも考え直して差し出す咲凛が予想外に可愛らしくて、環はその頭をめちゃくちゃ撫でた。
「……あ、あううう……」
爆心地ではもはや抵抗もままならなさそうな状態のあきらさんと、ぼろ雑巾のようになってしまわれたうつろぎ氏が痙攣している。
あの爆発で生きているのも凄いよ君たち。
おほん。さあ、かのオブリビオンはもう殆ど力を残していないだろう。猟兵たちよ、しっかり退治して世界の時を守るのだ!
大成功
🔵🔵🔵
千崎・環
【WIZ】アドリブ連携歓迎!
さあ、観念してお縄につきなさい!
これ以上やっても誰も得しないから!
それはもう目の前で拡声器を使って勧告します!
まだやるっての!?
なら徹底的にやるまで…あれ、警棒どこいった?
仕方ない…。
フリーズ、動くなぁ!
いや動かないでって!ほんとに撃つよ!?
拳銃をむけます!手を上げろ!
さあさあ、ゆっくり下がって!
大人しくドナドナされるならよし!
意気込んでパトカーの位置まで追い詰めますが、足元には自爆する四文字のひらがながあったような…?
何かあれば全力で退避します!
どうにでもなれ!
●終局には微笑みを。
夜空を輝き抜ける白い光。
駄菓子をくれた月守・咲凛に手をふって、千崎・環は手元のそれをさくりとやる。
辛めの味付けにうむむと唸り、環は懐かしさを覚えながら最後の一欠けを飲み下す。
「さーて、帰るかぁ~っ」
背伸びをしつつ。
一仕事の後のまったりを満喫したのだ、あとは帰るのみ。当然だろう、彼女はUDCであるハゲ山を無事に収監し、この世界のオブリビオンに対する革新の一歩、そのきっかけを――、おハゲの人はただの地球人だって?
地球人はいきなりマッチョになりません。
ともかくもとパトカーへ向かおうとした環だったが、ゆらりと立ち上がった人影にぎくりとする。
「ま、まだ………まだ、です……!」
こんがり健康的な小麦肌からガングロ肌へランクダウンしたあきらさんは、生まれたてのめぇめぇさんの如く足をがくがくと震わせる。
それでも立つ姿は健気と言うべきか、絶望的と言うべきか、そういう趣味の人は大歓喜と言うべきか。それはいいや別に。
ハリウッドの英雄ですら血相を変えて逃げ出すだろう大爆発で、まさか立ち上がると思わなかった環。
さきほどは、もう立ち上がれまいと帰る所であったが、予想が裏切られたとなれば話は別だ。
「まさか、あれで生き残るなんてね。
さあ、観念してお縄につきなさい! これ以上やっても誰も得しないから!」
そうだぞ! 女の子同士できゃっきゃうふふしないなんて、誰も得しないぞ!
むしろきゃっきゃうふふしろ!
そんな地の文の願いは虚しく、全くそんな空気を纏うことなく環はご活躍の著しい拡声器を構えて勧告する。死に体の女性にそんな嫌がらせは止めたまえ。
大音量にふらつくものの倒れることなく、あきらさんは抵抗の意思を見せた。
まだやるというのか。
徹底的に反抗しようというあきらさんの様子に、環もまた徹底的に戦おうと腰の警棒に手を伸ばす。
しかし、そこにあるべき相棒はなく、環は慌てたようだった。おめーの相棒ねーから。
ちなみに奴さんはこの世界の物理事象を受け入れて消し炭になったよ。あの爆発に巻き込まれたならこれが普通だから。
「……仕方ない……」
理由はともかく、相棒の不在にも冷静になった彼女はホルスターから拳銃を引き抜いた。
「フリーズ、動くなぁ!」
「あうう」
銃口を向けられて慌てふためく消し炭は、くるりと背中を向けて駆け出した。
ごっつい元気である。
「いや動かないでって! むしろそれでなんで動けるの? ほんとに撃つよ!?」
慌ててあきらさんを追いかける環さん。ここに生死を賭けた女と女のデスゲームが始まった!
「きゃんっ!」
走り出して早々にあきらさんは転んでしまった! おめでとう、君の死は決まったっ!
デスゲームは一瞬で終わってしまったが、環は油断なく、いつでも発砲できる準備をしながら注意深く近寄っていく。
「さあ、もう抵抗は止めて、立ち上がりなさい。ゆっくりとね。
そのまま大人しくドナドナされるなら良し!」
「わ、わわ私を、殺さないんですかぁ?」
「当たり前じゃない、殺さないわよ。私はね」
「やっぱり守る気ゼロ!」
どこまでも素直なネゴシエイト力ぶん投げ系警察官の環さん。しかし、あきらさんは生き残る一縷の望みをそこに託したようで、痛む体を引きずり立ち上がる。
「よーしよし、そのままパトカーまで行くわよ!」
(UDCの確保! ……これはボーナスものね……!)
世界の平和はお財布にも嬉しい。
めくるめく山吹色の未来を想像しながらほくほく顔の環さん。
しかし油断せず、隙なく構えを崩さずパトカーまであきらさんを誘導し、彼女の体をパトカーに押し付け、後ろ手に手錠をかける。
あまり関係ありませんが、女性が女性を拘束する光景にもの凄くエグいほどに興奮してしまいます。
こう、壁などにおしつけられて苦しげな顔の女性をですね? 挑発的な笑みあるいは冷たい目で見つめながらその身を縛っていく女性――環さんほくほく顔やめてくれないかなぁ。
「さ、ドアを開けるわよ」
妄想と少々違う光景に若干テンションが下がりつつ、そんなことは前述通り全く関係がないのでパトカーのドアを開ける環。
「むぎゅっ!」
「むぎゅ?」
足下から聞こえた声に小首を傾げると、彼女の足下にはぴくぴくと痙攣する四文字の平仮名があった。
名状しやすきもの、うつろぎの体現者、超高時空うつろぎからの来訪者、自爆系うつろぎ。
どうしたってうつろぎという言葉としか結び付かないUDC、もとい猟兵、虚偽・うつろぎ氏であった。頑張ってそこまで移動してたのね。
「出~た~!」
空戦カラーのピヨコさんが出たときと同じ反応で、あきらさんを突き飛ばし全力で退避する、即時判断即時行動の現場人間の鑑。
間に合うか間に合わざるか、もうどうにでもなれとヘッドスライディングをかまし頭を両腕でがっちりと固定し体を丸める。
しかし、待てども爆発は起きず。
「…………?」
立ち上がった環は意を決してうつろぎ氏を爪先でつつくが、痙攣したままだ。
数値化すればヒットポイントが【2】まで回復し、帰ろうとしたところで環に踏まれ、再び【1】になったというところか。
「ふう、大丈夫なようね。……とはいえこのUDCは確保するにも危険だし……見なかったことにしよっと」
即時判断即時行動の現場人間の鑑。
無視を決め込んだ環は、確保したあきらさんを連れ帰るべく振り返ると、おきらさんの体は薄く透け始めたところだった。
「えーっ!? な、なに、なんで!? 私がさっき突き飛ばしたせい?」
「うっ、い、いいんです。野望が叶わないなら、……私なんて……」
「死んでないんかい! いや今からっぽいけど!」
悲壮感を漂わせるシースルーあきらさんに、力一杯突っ込んだ環は空気を読んでシースルーさんを優しく抱き起こす。
「あなたの野望、同じ女として分からないではないわ。あなたはやり方を間違っていたのよ」
「……猟兵さん……私を……私がしてしまったことを……許してくれるんですか
………?」
「もちろんよ」
ただの不法侵入でしょ、と環は笑う。あかん、そういやこの人あきらさんがもろこしヘッズの親玉とか知らなかったわ。
優しい微笑みを浮かべる環に、あきらさんは人の温もりに触れて熱い涙を流した。
もしも、出会いさえ違っていたのなら。もしかしたら友達になれたのかも知れない。
語るあきらさんに環は頷き――彼女の環に対する行動を思い出して酷く濁った目を見せた。が、野暮な突っ込みはしないのだ。
「最期に、名前を……き、……聞いても……いいですか……?」
「環よ。千崎・環」
「た、環さん……最期のわ、ワガママです……私……最期に……一瞬でもいいから……あなたの下の毛を……私に……!」
「死に際になんつーこと言ってんのよあんたは!?」
「へぐうっ!」
さすがに顔を赤くして渾身の突っ込みを入れた環に、とうとう生命力が消え去ったあきらさんはするりと消えていった。
環の臨時ボーナスという結果とともに。
しかし彼女は警察官。未来を淀ませ、過去を溢れさせんとするオブリビオンの退治に成功し、平和を掴み取ったことを後悔するはずもない。
「……生まれ変わることがあるのなら、あきらさん……下の毛がしっかり生え揃うことを祈っているわ」
夜空に満天と輝く星の海。
環はその中に気弱なあきらさんの笑みを見て、静かに手を合わせた。
これにより、刷毛山牧場で巻き起こった邪教同士の抗争は沈静化した。
牧場は消え、邪教徒は滅び、邪教の祖たちは檻の中あるいは骸の海へ還り、そしてめぇめぇさんは草を食む。
今度こそ、終わったのだ。
「よーし、今日はカツ丼だー!」
残業も終えてパトカーに乗り込み、しっかりシートベルトを締めて刷毛山牧場跡地から帰路につく環。
しかし彼女はわかっていなかった。最後の、邪教の祭りが残っているということを。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『毛刈りの時間だー!』
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POW : 怯えるヒツジや毛刈り用のバリカンを運ぶ
SPD : 丁寧かつ素早く毛刈りに挑戦
WIZ : 魔法の力で毛を狩られ吃驚した様子の羊さんとお話
|
●羊さんたちに危機一髪!?
あの戦いから一夜明け。
平和の訪れた刷毛山牧場跡地では平和ボケをかますめぇめぇさんたちが美味しそうに牧草をはもはもしている。
戦いが終わり、狂気の主人は消えて、戦慄すべき猟兵の姿もなく、羊さんたちの和な時間が訪れたのだ。
眩しく輝く太陽を見上げて、平和の夏空に羊さんたちは思う。
あッつくね?
じりじり、じりじり。
顔を焼く紫外線の光にめぇめぇさんたちは驚愕する。
いつも出されるビニールプールがない! 扇風機がない! 冷やし中華がない!
これでは熱にやられてしまう!
羊さんたちの悪夢はまだ続くようだ……。
月守・咲凛
あーるー晴れた〜、ドーナードーナ、こーうーしーをー、……子牛?
ひーつーじーを〜まっぷたつ〜。
原型をとどめていない鼻歌を歌いながら(基本的に音痴です)チェーンソーをブイーーンと起動、逃げ惑う羊さんの身体には傷ひとつ付けずに毛だけを綺麗に刈り取っていきます。
逃がしません!とアジサイユニットで退路を塞いで、逃げようとする羊さんを牧羊犬のように追い込んでいきましょう。
毛刈りが終わった羊さんは、はい、完了です。お疲れ様でした〜、とニッコリ微笑みかけながら優しく頭を撫でて解放してから、
さー、次ですよー!と次の羊さんを毛刈りしに行きます。
……逃げようとしてもレーダーがあるので逃がさないのです。
●一刈り行こうぜ!
本来ならば、刷毛山さんによる冒涜的な毛刈りの儀式が行われ、羊さんたちはその恐怖によるストレスを代償に涼しい体となり熱中症対策が行われるはずであった。
が、今やハゲは牢屋にぶちこまれ(違うっけ?)、家も吹き飛ばされてしまったその場所では、もはや夏の対策などできようはずもない。
哀れ、めぇめぇさんたちはこのまま一夏の思い出というリア充イベントのようにインスタントミイラとなってしまうのか。
いや、まだ羊さんたちには希望が残されていた。
「あーるー晴れた〜、ドーナードーナ、こーうーしーをー、……子牛?
ひーつーじーを〜まっぷたつ〜」
あ、これ希望じゃなくて絶望だ。
原型を留めてていない鼻歌を歌いながら、可愛らしく音程のとち狂わせているのは月守・咲凛(空戦型カラーひよこ・f06652)。
羊さんたちの間では言わずと知れた、安息の終焉者である。
いや、そんな馬鹿な。不審者はいないのだから、自分たちに用があろうはずもない。
空を行く少女にぷるぷる震えながら羊さんたちは身を寄せ合う。すでにその体に熱など感じておらず、あるのはただひたすらの恐怖による寒さだ。
そのまま過ぎ去るはず、そうに違いない。
そう願う羊さんたちの想いは虚しく、咲凛はゆっくりと羊さんたちの前へと舞い降りる。
おいおい君たち、念仏を唱える時間はあったのに、なにをぼさっとしているんだね?
「ドナー、ドーナード~」
気分よく歌いながら、必死に足を突っ張って体を後ろへ傾ける羊集団の前に、見せつけるようにチェーンソーを抜く。
起動すると甲高い音を上げて鋸刃が回転。これもうスプラッターですわ。
近接攻撃用ビーム兵装ユニット【ムラサメ】は、さすがに目玉足る内蔵式ビームダガーを起動させてはいないようだ。でも怖いよね?
己の最期を予期しためぇめぇさんは慌てふためきばらばらに逃げ出した。
念仏を唱えないから覚悟が決まらないんだぞ、情けない。
咲凛は散り散りとなっためぇめぇさんたちに、むむっ、と眉根を寄せ。
「逃がしません!」
おう、羊ども、おめえら逃げられないから。
宣言ひとつ、円盤状の遠隔操作武装群、ブレードガーディアンユニット【アジサイ】を起動する。名前からしてもう怖い。
逃げる羊さんの前に浮遊するそれがやってきて、ケルベロスの如く威嚇する。
退路を絶たれた哀れな羊さんは恐怖の余りにすくんでしまうが、タイム・イズ・マネー、そんな君たちの事情など知ったことではない。アジサイがビームブレードを発生し回転すると恐怖にかられて再び逃げ出す。
そうして誘導された先にいるのは、チェーンソーを構えた破壊の少女。
にぱっ、とあらあら可愛い笑顔を見せて二本の火花散る刃を交差させる。今夜は羊鍋かな? 怖いんですけど。
「対地毛刈りスクランブル、行きますよー」
ふわっ、とした口調で咲凛が告げると、地上を滑走する小柄な体が羊さんへ迫る。
「たあああっ!」
「んメェエエ~!」
裂帛の気合に走る十字の銀光。めぇめぇさんの、それこそ絹を裂く女の如き悲鳴が響き、その体からは一瞬にして毛が脱げ落ちた。
余りにも見事な毛刈り技術に、羊さんが脱衣したようにしか見えない程だ。その身には一分の傷すらない。
「はい、完了です。お疲れ様でした~」
にっこりと微笑みながら、状況を理解できずに怯える羊さんの頭を撫でる。そこでようやく安心したのか、羊さんはおずおずと咲凛の手を舐めることで答えて、軽やかな足取りでその場を去った。
「さー、次ですよー!
…………、隠れたところで、どこへ逃げようともレーダーがあるので逃がさないのです」
ぎらりと光る眼は、どうみてもハンターのそれであった。
大成功
🔵🔵🔵
虚偽・うつろぎ
SPD
アドリブ連携等ご自由にどぞー
よろしい、羊どもに我が至高のテクニックを味あわせてやろうではないかー
ナカーマモードでミジンコ召喚!
(ミジンコはミジンコ、小さくて見えないぞ!)
ミジンコ達の応援やドーピングで素早さとやる気が上昇!
(ミジンコは小さいから応援が聞こえない!)
ミジンコから助言をしてもらうぞ!
(やはり聞こえない!)
7本の腕を駆使して複数のバリカンを用い刈るべし
バリカンを持っていない手は、羊へのマッサージを欠かさない
至福に飲まれて刈られるが良いー
●UDC、再び?
月守・咲凛が羊たちの毛皮をすっぽんすっぽん脱がす中、怯えながらも廃墟に身を隠す羊の姿があった。
だがレーダー搭載型の毛刈り仕様ひよこには無意味だ。
それはひとまず置いておき、ともかく暗がりで怯えて震える羊さんたちの沈黙してる羊さんを、更に遠くから眺める者。
己の自爆から回復したミスター神風、永遠の単独テロ、虚偽・うつろぎ(名状しやすきもの・f01139)氏である。
自爆から時間も経ち、すっかり元気になったようで、彼は自らの体で作った立派なソファーにガウンを着込んで座り、棒のような足を組んで仰々しく頬杖ついている。……ここ頬でいいのかな……?
しかしそこはUDC、油断も隙もなく、現にめぇめぇさんは気づかずぷるぷるしている。
彼らの視線を釘付けにする、咲凛の火花を咲かせてチェーンソーを振り回す姿が凄いだけの気もしないではない。
(ふむ)
氏がここで思うのはもちろん、毛刈りのことだ。羊さんたちの危機を救うためにも迅速な毛刈りが必要とされる。
「やはり、七本の腕を駆使しての毛刈りであろうか。しかしそれだけでは、羊さんにストレスを与えてしまう恐れもある。
空いた手によるマッサージを並行することも必要か」
氏の呟き。なかなか渋いねあんた。
しかしいくらUDC、もとい猟兵とは言え、毛刈りの知識は少ない。本当にこれで正しいのか――、迷ううつろぎ氏はここでユーベルコードを始動する。
【ウツロギ(ナカーマモード)】。先の自爆とはモードが異なり、愉快な仲間、ミジンコをぽぽぽぽーん、と召喚するのだ!
なんでそれを選択した。そんな極小節足動物になにができると言うのかね。
召喚されたミジンコたちはうつろぎ氏のブラックでタールな体の中を元気に泳ぐ。
『お呼びとあらば即参上!』
『我らミジンコ四大賢者!』
『御身のためと言うなら!』
『命果てても役立つ所存!』
ぴょこぴょこ泳ぎながらなにを言っとるんだ。ビジュアルを考えてキャラ作れ。
うつろぎ氏は彼らの忠誠に、うんうんと頷く。
「実は僕、羊の毛刈りやることになったんだけど初めてでさー、力を貸して欲しいんだよね」
氏の口調をミジンコのビジュアルに寄せてどうする。
ミジンコたちはミジンコたちで、元気に泳ぐのを止めるとお互いに顔を見合わせる。
ヒツジってなんじゃい、と彼らの顔は語っていた。おいやっぱりダメだこいつら! チェンジチェンジ!
そんなことは気にせず、というより気づきせずにうつろぎ氏は自らの作戦を説明し、アドバイスを求めた。
しかしここでミジンコ四大賢者、命を懸けたというだけあって自らがされればどうなるのか、という考えに置き換えて対抗策を練る。
おや? もしかしてこのミジンコって有能?
『分かりましたぞうつろぎ様!』
『まっこと失礼ござりますが!』
『うつろぎ様の作戦は失敗と!』
『まずは警戒心を解くのです!』
『餌を使い捕らえマッサージ!』
『警戒心と緊張を解きほぐし!』
『しかる後にこそ毛を刈れば!』
『ヒツジ、もはやまな板の鯉!』
どや顔の前に言葉でマラソンすんのやめーや。
しかし彼らの言葉は最もだ。ここではうつろぎ氏の姿ですら違和感を覚えないとはいえ、羊さんたちにとって不審者であることに変わりはない。
無理に捕らえてマッサージをしても効果は薄い。そこで餌付けを行い、効果を最大限に出そうというのだ。
こいつらくっそ有能なんですけど?
ミジンコ四大賢者の言葉を受けて、氏は大きく頷く。
「なるほど、みんなも僕の案に乗ってくれるんだね! さくっと捕まえて毛を刈るよ!」
『えっ』
えっ。
うつろぎ氏は鼻歌をしつつ腕の一本を投げ縄へと変じ、頭上? でくるくると回し始める。
ミジンコさんたちの声、一切受けてないじゃんね。
「それ~っ」
「んメッ? メェエェエ!」
投げ縄を受けて慌ててもがくめぇめぇさんだが、抵抗虚しくうつろぎ氏の元へ引きずり込まれていく。
謎の黒塊に物陰へと引き込まれる動物の姿。ホラーじゃないか。
『…………』
ミジンコ四大賢者は声も届かないしうつろぎ氏の体から脱出も出来ないので、無言で元気にしゃかしゃかぴょんぴょんしている。
おのれ、ミジンコ界の最高頭脳を無駄撃ちで終わらせた氏には訴訟も辞さない。
「さぁあ来い、ここがお前の刈り場所だ!」
不穏なオーラを纏い、ずるずると羊さんを引きずり寄せるうつろぎ氏と、咲凛の目が合った
。…………、うん、視線に直しておこうか。
咲凛はガウンを纏ううつろぎ氏の姿にぽかんとしていたが、羊さんを縛り付けてから挑発的に笑う氏の動作に些か苛立ったようで、アジサイの動きを早めた。
ここに猟兵同士の早毛刈り対決が始まったのである。
「ふっ。青いね。よろしい、羊どもに我が至高のテクニックを味あわせてやろうではないかー」
腕をわきわきさせながら羊さんに近づくうつろぎ氏。
あえなく拘束羊のじたばたキックにより弾き飛ばされるうつろぎ氏。
んん?
「ふっふっふっ。ユー、なかなか活きが良いではないか。我がマッサージ術で至福の中、毛を刈りおぐうっ!」
羊キック!
うつろぎ氏の鳩尾に蹄が直撃し、堪らず崩れ落ちる。……鳩尾かな……?
「おのれ、我を本気にさせたな! ならば我がドーピング術、ミジンコらの応援でパワーアップするスピードに恐れ戦くがいい!」
『…………?』
ブラックタールの中をしゃかしゃか泳いでいたミジンコは、呼ばれた気がしてきょときょとと辺りを見回したが、よくわからなかったので、しゃかしゃかぴょんぴょんを再開する。
「感じる……皆の熱い声援を……! パワー、アーップ!」
喋ってねんだって。
もはや空気に呑まれて速度を上げたうつろぎ氏の腕が長く伸び、羊さんを捕らえた。
スピード関係なく最初からそうしてれば蹴られなかったんじゃないだろうか。
●騒動の終わり。
あらかた羊の毛刈りが終えたのは正午頃。眩しい陽の光に煌めく汗を払い、咲凛は笑顔で最後の羊さんの頭を撫でた。
終わる頃には咲凛に慣れて、少女の傍で焦げた牧草を食べるほどだった。
「ふっ。どうやら、僕の負けのようだね」
暗がりから歩いてやってきたうつろぎ氏はガウンを纏っておらず、その足元ではこれでもかと羊さんが羊キックを放っている。
抵抗が激しく、氏が刈れたのはこの一匹だけだ。勝負になっとらんではないか。
「この地ですべきことは終わった。元の時へ帰るよ」
「そうですね」
うつろぎ氏の言葉に咲凛も答えるが、名残惜しそうに羊さんの背を撫でている。
しかしやがて気も済んだのか、少女は顔を上げて羊さんから離れた。
別れを告げて手を振って、空へと消えていく咲凛を見送り、うつろぎ氏も消えた後。一台のパトカーが牧場跡地に一人の禿を下ろした。
それはすっかり体も小さくなった刷毛山さんであった。UDCではないと判断されての釈放である。そんな馬鹿な。
すっかり毒気の失せた刷毛山さんは、破壊し尽くされた自らの牧場と、毛を刈られ平和に過ごす羊さんたちの姿を見て思わず笑う。
猟兵も、粋なことをしてくれるじゃないか。そう言うのだろう。
「ダディ、やけに楽しそうだね?」
馬鹿笑いする刷毛山にきづいためぇめぇさんが一頭、立ち上がってすたこらやってきた。おい。
「ナンバーハチサンマルニか」
「番号で呼ぶんじゃない。……その……驚かないのか?」
「ふふふ、羊三分会わざれば刮目して見よ、恐怖は羊を強くするとは良く言ったものだ。なにも驚くことなどない」
適当言ってんじゃねーぞハゲ。
あれだけ猟兵の脅威を間近で嫌が応にも魅せられ続けた羊さんは、ハイパー羊さんへ進化したようだ。
ハイパー羊さんと刷毛山さんは会話をし、お互いを知り合うことで改めて結束を強めていった。
「これからどうするんだい、ダディ?」
「さて、どうするかな。牧場も消え、私の髪も消えた。もう神はいないと思ったが……それでもまだ……お前たちがいてくれる!」
「……ダディ……!」
刷毛山さんの言葉に、羊さんは頷いた。
生きてさえいれば、何でもできるのだと、そう強く語る刷毛山さんの胸にはもろこしヘッズの姿があった。
こうして、邪教と邪教の争いに発展した刷毛山牧場の騒動は終わりを告げる。
これでもかと言うぐらいにこてんぱんに叩きのめされた刷毛山さんであったが、再起を願う強い人の心は失われていなかった。彼にはもう、邪教や髪も必要なく、この世界を生きていけるだろう。
大成功
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