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忘れがたき死人の村

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●とある酒浸りの行商人の話
 なんだ、あんたも"あの村"の話が聞きたいのか?
 だったら今夜の酒代はお前の奢りだ。しこたま飲ませてもらうぜ。
 飲み過ぎてやしないかって? バカ言え。
 ――酔わずに語れるかよ、こんな話。

 行商の途中で立ち寄ったその村は、最初はどこにでもある普通の村だと思った。
 村の連中は気のいい奴が多くて、通りすがりのよそ者の俺にも良くしてくれた。
 良ければ何日か泊まっていかれませんか、なんてやけに引き止めたがるのは気になったが、別に嫌な感じはしなかったよ。

 けど――先を急ぐんでってそいつらの誘いを断って、村を去ろうとした時にだ。
 畑仕事から戻ってきた一人の女を見て、俺は目が釘付けになった。
 震えて声も出ねぇでいる俺に気付いたその女は、にっこり笑って近付いてきた。
 そして言ったんだ。

『あんた、またちょっと痩せたんじゃない? ちゃんと食べてるの?』

 俺は逃げた。馬が潰れるくれぇに鞭打って、その村から、とにかく全速力で。
 心底恐ろしかったよ――でも涙が止まらないワケは恐怖のせいじゃあ無かった。
 あの顔、あの表情。それに、いつも俺が行商から戻って来るたび言ってた、あの口癖。

 ――そいつは、死んだはずの俺の妻そのものだったんだ。


「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵たちの前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(人間の精霊術士・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「ダークセイヴァーのとある町で『死人の住まう村』の噂が広がっています」
 その噂によると、そこは一見するとどこにでもあるごく普通の村落だが、住人の中に死人が紛れているという。あからさまに死体が歩いているわけではなく――村を訪れた人間がよく知っている『死んだはずの人間』に出会うというのだ。
「実際に村に行ったという者の話では、その死者は友人、恋人、家族といった『死んだはずの大切な人』の姿をしているそうです。そのため噂を聞いた人々の中には、死別した大切な人にもう一度会うために、その村を探す者もいるようです」
 ここまでならまだ、ただの怪談じみた噂話と聞き流すこともできるかもしれない。だが、この話には噂では済まない続きがある。
「噂を信じて『死人の村』を探しに行った者の何人かは、そのまま行方知れずとなっています。この噂と人々の失踪にはオブリビオンが関わっていると、リムは予知しました」
 死人の村に辿り着いてしまった者は、そこで自分が想う大切な死者と再会し――その多くが二度と帰らぬ人となる。自らも死者として、村人の仲間入りをするのだ。

「これ以上の犠牲者が出る前に、噂の元凶である『死人の村』を発見し、そこに潜むオブリビオンを討伐しなければなりません」
 まずは噂の流れる町で情報収集を行い、死人の村の所在を突き止める必要がある。
 住民からの情報収集や、その手の噂に詳しい旅人や行商人との交渉。あるいは町の外に出て奇妙な気配のする場所を自力で探るなど、様々な手段が考えられるだろう。

「無事に死人の村に辿り着くことができれば、皆様はそこで自分にとっての『大切な死者』に出会うことになるでしょう。彼らは様々な言葉や態度で皆様を村に引き止めようとするはずです」
 だが、それこそがオブリビオンの罠。死者の言葉に耳を傾け、村に長く留まれば留まるほど、訪れた生者の命は蝕まれていく。この事件を解決するには強い意志で彼らの誘いを拒みながら村の調査を行い、元凶を炙り出さねばならない。
「誘いに乗ったフリをして死者から情報を引き出すのも一つの手段ですが……相応にリスクの伴う行為です。村人との接触時には気を強く保ってください」
 訪れる者が大切に想う死者が住まう村。そのカラクリは不明だが、確かなことは一つ。
「これ以上、オブリビオンに死者の尊厳を――そして生者の想いを弄ばせるわけにはいきません。どうか皆様の力で、この事件に終焉をもたらしてください」
 真剣な眼差しで猟兵たちをじっと見つめながら、リミティアは手のひらにグリモアを浮かべる。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回のシナリオはダークセイヴァーにて、死人の住まう村を調査し、そこに潜むオブリビオンを撃破する依頼となります。
 少々特殊なシチュエーションを挟みますので、以下もご一読いただければ幸いです。

 第一章では噂の流れる町を舞台に、死人の村に関する情報収集を行います。村の所在を突き止めることができれば成功です。

 第二章では訪れた死人の村で、猟兵が過去に死別したはずの友人、恋人、家族、恩人といった「大切な人」が村人として姿を表します。それがどういった人物か、プレイングに書いていただければ幸いです。
 ここに一緒に居ようという死者の誘いを拒み、村の調査を行うのが目的になります。
 調査が成功すれば、三章にてボスとの決戦となります。

 ここまでお読み下さりありがとうございます。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『死人の村の噂』

POW   :    実地調査。噂についての情報を足で稼ぐ。

SPD   :    旅人や商人。交渉により外に詳しい者から情報を得る。

WIZ   :    死人の村なら不思議な力を感じ取れるだろう。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

カノン・チェンバロ
成程ね、それだけだったら歌にするのに良い話だ。
けれど会いたい人に本当に逢えはしないのだから、おとぎ話に留めてしまうべきだろう。
記憶の無い私にも、誰か見えるかもしれないと言う興味もあるけれどね。

うん、取り敢えず──
私は、村の外の人に聞いてみようか。
歌の題材と、会いたい人が居るんだって持ち掛ける。嘘じゃない、本気だよ。
やあ、貴方はどちらから来たんだ?
噂を聞いた事は無いか、聞いていたらどんな場所で、どこに住む人に聞いたのか。
話を聞かない地域があったら、そこと照らし合わせみたい所だよ。
より多く噂を聞く場所があったら、死人の村に近いんじゃないかと思うんだ。

望まれるなら他の猟兵に情報の共有も行う心算だよ。


トリテレイア・ゼロナイン
「死んだはずの大切な人」……記憶データを失ってから、今までに恩を受けた方との死別は幸いにも経験していないこの身
『死者の村』に行っても誰とも出会えないかもしれません。それとも記憶に無い時代に死別した方と遭遇するのでしょうか?

※2章ではちゃんと面識のある死者と出会います

自分のことはともかく、その村が死者を疑似餌にして人々を集め喰らっていることは放置できません
噂が広まっているということは乗合馬車を使って相当数の死者との出会いを求めた人々がこの街に訪れたということ
馬車の御者から乗せた人間が「死者の村」について話していた情報を聞き出し、それを元に村へのおおよその方角を割り出してUCの妖精ロボで探索



「成程ね、それだけだったら歌にするのに良い話だ。けれど会いたい人に本当に逢えはしないのだから、おとぎ話に留めてしまうべきだろう」
 人々の間に広まる死人の村の噂にそんな感想を抱きながら、吟遊詩人のカノン・チェンバロ(ジェインドウ・f18356)はダークセイヴァーの町を訪れる。
「記憶の無い私にも、誰か見えるかもしれないと言う興味もあるけれどね」
 歌以外の過去を失い、自分と他人の痕跡を探して世界を渡り歩く彼女にとって、あるいは――という興味は消し難いものだった。

 同じく噂の調査のために訪れたのはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。カノンと同じく過去の記憶データを失っている彼は、それから今までに恩を受けた者との死別は幸いにも経験していなかった。
「私が『死者の村』に行っても誰とも出会えないかもしれません。それとも記憶に無い時代に死別した方と遭遇するのでしょうか?」
 歩きながら思案するも、彼はすぐに首を振って気を取り直す。
「自分のことはともかく、その村が死者を疑似餌にして人々を集め喰らっていることは放置できません」
 一刻も早くこの事件を解決するために、トリテレイアは行動を開始する。

 二人が情報収集の対象として選んだのは、定住者ではなく外部からやってくる旅人や行商人、そして旅行者だった。
「やあ、貴方はどちらから来たんだ?」
 自身と同じ、吟遊詩人の服を纏った旅人を見つけて声を掛けるカノン。まずは軽い挨拶と世間話を交え、相手の気を緩めてから本題を持ち掛ける。
「歌の題材と、会いたい人が居るんだ」
「ん……そいつは最近噂になってる『死人の村』の話かい?」
 首を傾げる旅人を、カノンは真剣な眼差しで見つめながら頷き。
「嘘じゃない、本気だよ」
 件の村に関する噂を聞いたことは無いか、聞いていたらどんな場所で、どこに住む人に聞いたのかを尋ねる。
 同じ頃、トリテレイアは集落と外とを行き来する乗合馬車の御者に話を聞いていた。
「貴方の乗客の中に、『死者の村』について話していた方はいませんでしたか?」
「ああ……そういやいたなぁ、死んだヤツに会いに来たとか言ってる客が」
 噂が広まっているということは、相当数の人間が死者との出会いを求めてこの地を訪れたということ。
 それならば、彼らが利用するであろう乗合馬車の御者なら何か情報を持っているだろうと考えたのだ。

 人々から返ってくる返答はどれも曖昧なもので、旅人仲間や隣人からの又聞きや、風の噂で聞いたというものばかり。しかしカノンとトリテレイアはそうした話を丹念に一人ひとりから聞き集め、情報を統合する。
 暫くそれを続けているうちに、二人は情報の流れに偏りがあることに気付く。
「東からやってきた旅人はみんな、死人の村の噂を知っていたね」
「此処と西方を行き来する乗合馬車の御者は、噂をほとんど聞かなかったそうです」
 二人は周辺の地図と情報の出所を照らし合わせ、より多くの噂が集まる方角を割り出していく。
「より多く噂を聞く場所があったら、死人の村に近いんじゃないかと思うんだ」
「私も同意見です。この方角に偵察を送ってみましょう」
 トリテレイアは肩のハードポイントに格納した自律式妖精型ロボを起動させ、怪しいと睨んだ場所の探索へ向かわせる。
 それならばとカノンはここで集めた情報と資料を纏め、同じく調査を行っている他の猟兵と情報を共有するために動きだすのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ボアネル・ゼブダイ
死者が蘇るか…それが残された者達への慰めであれば美談なのであろう
悲しみを踏みにじり、想いをエサにし、祈りすらも食い荒らすというのであればそれを放っておくわけにはいかんな

村の中で第六感を使い、不自然な魔力の波動が無いか確認しながら
旅の聖職者を装って村人達から情報収集をしよう
罪に対する懺悔や悩み相談などだな
村人達に威圧感を与えぬように口調も穏やかな物に変えるか

神は見ておられます、あなたが犯した罪を
そして、その犯した罪を悔い改めた姿も

あからさまに怪しく、口を割らない物がいたら私の赤光の邪眼の出番だな
無辜の民に使うのは忍びないが、情報を引き出させて貰う

他の猟兵とも協力して迅速に村のありかを突き止めよう



「死者が蘇るか……それが残された者達への慰めであれば美談なのであろう」
 聖職者の装束を身に纏い、集落の様子に目を光らせながら、ボアネル・ゼブダイ(Livin' On A Prayer・f07146)は、だが、と呟く。
「悲しみを踏みにじり、想いをエサにし、祈りすらも食い荒らすというのであればそれを放っておくわけにはいかんな」
 静かな憤りを胸に秘めながら、彼は調査を開始する。

 ボアネルが向かったのは礼拝堂。信心深い者や悩みを抱えた人々が集まる場所だ。
「神は見ておられます、あなたが犯した罪を。そして、その犯した罪を悔い改めた姿も」
 旅の聖職者を装う彼は、威圧感を与えぬように穏やかな口調で接し、人々の懺悔や悩みの相談を通じて情報を収集する。
 その立ち振る舞いに安堵感を抱いた人々は、日々の暮らしの中で犯してしまった小さな罪や苦労話などを彼に打ち明けていった。

 ――と、そこでふとボアネルは、人々の輪から外れてじっと何かを悩んでいる様子の青年を見つける。彼の第六感はその男から不自然な魔力の波動を感じ取っていた。
「あなたも何か悩みがあるのですか?」
「い、いや……俺は別に……」
 問いかけても口を割ろうとしないその青年に怪しさを感じたボアネルは、他の者には見えないよう【赤光の邪眼】を発動する。
(無辜の民に使うのは忍びないが、情報を引き出させて貰う)
 魅了の魔術を込めた視線に射抜かれ、催眠状態に陥った青年は、ぼうっとした表情で口を開きだした。
「お……俺、行ったんだ……今噂になってる『死人の村』に……」
「! ……詳しく聞かせてください」
「用事で別の村に行って帰る途中で、道に迷って、偶然……そこには、俺の妹がいた……流行り病にかかって死んだ時と、まったく同じ年頃の姿で……」
「場所は覚えていますか?」
「わ、わからねぇ……俺は怖くなってすぐそこを逃げ出して……その後、すぐに具合が悪くなって、何日も寝込んだ……だから本当はあれは、ただの悪夢だったんじゃないかと……」
 青年の話は細部は曖昧だったが、当事者からの貴重な情報だった。聞ける限りの話を尋ねた後、ボアネルは青年の肩をそっと叩いて力強く告げる。
「ありがとう、助かりました。……あなたの悪夢は、必ず晴れるでしょう」
 そして彼は礼拝堂を抜け出すと、手に入れた情報を他の猟兵と共有するために向かうのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴェルベット・ガーディアナ
死んだはずの大切な人に会える「死人の村」
そう聞いて思い出すのは自分を育ててくれた親代わりでもあった人形遣いの師匠。
共に巡業と修行の旅をしていてヴァンパイアに殺された…先日ついに仇を果たすことに成功し奪われた修行の相棒であったお人形も取り返した。
これでこの世界の全てが救われたわけではないから引き続き戦わなくてはと思いつつも何だか胸にぽっかりと穴が開いてしまったようで…村の噂に酷く心惹かれてしまった。

村の噂を集める為に【パフォーマンス】で人形遣いの技を披露しお客さんを集め。【礼儀作法】を使って礼儀正しく話を収集。

アドリブ連携歓迎です。


フレミア・レイブラッド
SPD

…死人の村、ねぇ…。聞いた話だと、記憶まで持ち合わせてるみたいだし…幻影の類かしらね。
…何にせよ、面白くないわ…。

酒場で聞き込み。
高いお酒を飲みながら、【誘惑】で周囲の人間を惹きつけ、【魅了の魔眼・快】【催眠術】魅了のフェロモン等で周囲の人間を片っ端から魅了して自身の虜にし、その手の情報を持ってる人間から村の場所やその村の状況、その村は過去にはどうだったのか等、情報を頂くわ。
勿論、有益な情報を持ってたヒトには多少の謝礼やお酒を奢ってあげたりとかある程度のご褒美もあげるわ♪
あ、その時持ってなくても、後から集めて来た情報でも有益なら勿論良いわよ♪

※アドリブ等歓迎



「……死人の村、ねぇ……。聞いた話だと、記憶まで持ち合わせてるみたいだし……幻影の類かしらね」
 町の酒場のテーブルで、店で一番高い酒のグラスを傾けながら、フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は物憂げな呟きを零す。
「……何にせよ、面白くないわ……」
「そう、だね」
 どこか心ここにあらずな態度で相槌を打ったのはヴェルベット・ガーディアナ(愛しい君と踊る・f02386)。彼女の心の中に浮かぶのは、自分を育ててくれた親代わりでもあった、人形遣いの師匠の顔だ。
 巡業と修行の旅の最中にヴァンパイアに殺された彼の人の仇を討ち果たしたのはつい先日のこと。それ以来彼女の胸には、ぽっかりと穴が空いてしまったような空虚感が、ずっと居座り続けていた。
 だからだろうか。今回の村の噂を聞いた時、酷く心惹かれてしまったのは。

 見目の好い女性二人がどこか物憂げに座っていれば、それは自然と酔客たちの注目を浴びる。
「なんだい姉ちゃんたち。寂しいならこっち来て俺らと一緒に飲もうぜ」
「あら、お生憎様。でも丁度良かったわ」
 話しかけてきた赤ら顔の男に向かって、フレミアは思わず見惚れるような笑みを浮かべると【魅了の魔眼・快】を発動する。快楽を伴う魅了の魔力とフェロモンが酒場に広がり、周囲にいた連中はたちまち彼女の虜となった。
「聞きたいことがあるのよ。最近噂になっている死人の村について」
 惹きつけられてきた酔客たちに、フレミアは村の場所やその状況、その村は過去にはどうだったのか等を尋ねる。
「勿論、有益な情報を持ってたヒトにはある程度のご褒美もあげるわ♪ あ、今持ってなくても、後から集めて来た情報でも有益なら勿論良いわよ♪」
 ご褒美と聞いて色めきたった酔客たちは、我も我もと情報を提供しようと口を開き、あるいは情報を集めるために外へ飛び出していった。
 ――ちなみにご褒美とはあくまで多少の謝礼やお酒の奢り等である。

 フレミアが酒場の客から情報を集めるのを見たヴェルベットは、それに協力しようと席を立つ。酒場の入り口に立った彼女が道行く人々に披露するのは、師匠と共に磨き鍛えた人形遣いの技だ。
「さぁ、どうかご覧あれ。お人形さんたちの素敵なダンスを」
 操り糸を繋いだ指先の動きに合わせて、白いドレスの少女人形と、黒いドレスの少女人形が踊る。白の人形の名はシャルローザ。黒の人形の名はクリムローズ。愛らしい姉妹の人形が仲良く舞う姿に、通行人たちは思わず足を止めて拍手を送る――だが、それを受けるヴェルベットの笑顔に、心からの喜びはない。
 黒の人形、クリムローズ。それはヴェルベットが仇から取り返した、かつての師匠の相棒だった。その長く美しい黒髪や、宝石のように赤い瞳を見るたびに、師匠が彼女を操っていた時の姿がはっきりと思い浮かぶ。
 湧き上がる郷愁は少女の心をより一層、死人の村の噂に惹きつけるのだった。

 それでも、ヴェルベットは今やるべきことを忘れてはいない。技を披露し終えた彼女は、集まった観客たちから礼儀正しい物腰で件の噂にまつわる話を収集していく。
「その話、興味深いですね。良ければ中でじっくりと話を聞かせてください」
 そう言って有望そうな客を酒場の中に案内すれば、待っていたフレミアにバトンタッチ。一瞬で魅了の魔眼の虜になった相手は、知っている限りの情報をぺらぺらと語ってくれる。
「ふぅん……この町から東北東に半日。その辺りであなたは村を見たっていうのね」
「ええ……前後の記憶が曖昧で、はっきりした場所は思い出せませんが……確かにその辺りの筈です」
「ありがとう、いい情報だったわ♪」
 微笑みながら謝礼のコインを情報提供者に握らせつつ、フレミアは考える。そろそろ噂の収集も充実してきた。町の外で調査を進める頃合いかもしれない、と。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニュイ・ルミエール
死人の村……先生…………

ふふ…まさか、ね、いるわけないの。


沢山のミニスラに体を分裂させタール海戦術っ

街中の噂を集める班は目立たないしてNINJAむーゔ(最近のエモなのっ
ロープワークで屋根裏や人に入れない路地を移動し聞き耳
ついでに何かトラブルとか起きてたら救命活動しとくのっ

外を彷徨く班は世界知識と呪詛破魔等に感応した地点を失せ物探し
ミニスラ探検隊を発足して手を繋ぐで協力し合うの!
高い所から見たら何か見つからないかな?

ある程度経過したら集結再統合
情報収集でポイントを絞るのっ

けれど
もしも見つけられなかったら最終手段
覚悟と祈りで信仰を磨き
神さまの瞳をこの目に一瞬だけ遷す

絶対に暴走する前にやめないと……



「情報を集めるにはタール海戦術なのっ」
 ぽよんぽよんと透き通るスライム状の体を沢山のミニスライムに分裂させ、町の内外へと散っていくのはニュイ・ルミエール(神さまの遊び場・f07518)。彼女は己の種族の特性と能力を活かし、数の力で調査を進めんとする。

 先ず、噂を集めるために散ったミニスラ班は、目立たないよう東洋のNUNJAを意識したムーヴで町中を動き回る。なぜNINJA? という問いには、彼女は「最近のエモなのっ」と答えるだろう。
 ロープのように体を伸ばして屋根裏に上ったり、人に入れない路地の隙間に忍び込んだりして各所を移動し、道行く人々の呟きに聞き耳を立てる。
「うぇぇぇん、いたいよぉぉ」
 ふと聞こえてきたのは小さな子供の泣き声。どうやら転んで足を擦りむいたらしいその子の元にニュイはこっそり近づくと、生まれながらの光を照射する。
「あれ? いたくない……」
(救命活動、完了なの)
 きょとんとする子供を見て、ミニスラはどこか満足げに去っていくのであった。

 そんな一幕を挟みつつも、同じく町内で活動していた猟兵たちとの情報共有もあって、噂の調査は順調に進む。その一方では別のミニスラ班が、町の外を彷徨って死人の村の探索を行っていた。
(ミニスラ探検隊、発足なのっ)
 ぽよよんと互いに繋がって協力し合うミニスラたちは、培った知識や呪詛・破魔の技能を活用し、妖しい気配はないか調べていく。
(高い所から見たら何か見つからないかな?)
 近くにあった木に登って、とんとんとん、とスライムタワーを建設。広く周囲を見渡すが、気に掛かるようなものはなかなか見つからない。

 そうしている内に町で調査していたミニスラ班も合流し、分裂していたニュイたちは集結再統合して互いの情報を共有する。それを元にしてある程度ポイントを絞ることはできたが、候補となる範囲はまだ広い。
 こうなったら最終手段だと、覚悟を決めたニュイは両手を組んで祈りを捧げ、ユーベルコード【Angélification】――神の瞳をその目に一瞬だけ遷す。
「絶対に暴走する前にやめないと……」
 現在過去未来、悪意嘘偽、正義真実、思想空想幻想――望む全てを映し出す神力は、その一瞬、彼女が探し求める場所を垣間見せる。
「……あっちなのっ」
 すぐさま神力を解除したニュイは、垣間見た光景を頼りに方角を割り出し、ぴょんと跳ねるように駆けていく。

 ――その道中、ふと彼女の脳裏によぎる「大切な人」の面影。
「死人の村……先生…………ふふ……まさか、ね、いるわけないの」
 言葉とは裏腹にその想像はこびりつくように、彼女の心からなかなか放れてはくれなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛菊・璃奈
WIZ

「くらい!」
「いんうつ!」
「みんな元気ない!」

あぁ、3人をこの世界に連れて来たのは初めてだっけ…。

ラン達、メイド人形3人を連れて調査…。
事前に周辺の地図や買い物ついでに噂話程度で大まかな話を町で仕入れた後、【呪詛、高速詠唱、全力魔法、見切り、第六感】で呪力を用いた探知の術式と「霊魔のレンズ」により異常な魔力や隠蔽された魔力等を視覚化して感知…。
実際に村の近辺まで近寄り、なるべく村人達と接触する前に村や村の周辺で異常な魔力の流れや異常なポイントが無いかメイド達と一緒に調査するよ…。

「死者?」
「おばけ?」
「ゾンビ?」

ゾンビでは無いみたいだね…。姿は生前と変わらないみたいだし…

※アドリブ等歓迎



「くらい!」
「いんうつ!」
「みんな元気ない!」
 闇に覆われたダークセイヴァーの風景を前にして、口々に辛辣な評価を下すラン、リン、レンの3人のメイド人形たち。その主である雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は「あぁ、3人をこの世界に連れて来たのは初めてだっけ……」とぽつりと呟いた。
 彼女たちの出身地であるアルダワの迷宮とはまた違った暗闇と陰鬱さに、この世界は支配されていた。

 それはそれとして、調査においては人数が重要。事前に周辺の地図や買い物ついでに噂話の情報を町で仕入れ、他の猟兵たちとの情報共有などを手分けして行った璃奈たち4人は、今は目的となる死人の村の探索を行っていた。
 魔剣の巫女という生業柄、呪力の扱いに長けた璃奈はそれを利用した探知の術式を展開し、瞳に装着した「霊魔のレンズ」と連動させることで、魔力の異常や隠蔽された痕跡等を視覚化する。
 町で得た情報を元におおよその当たりをつけながら移動している内に、大気に混ざる微かな魔力の残滓を彼女の術式は捉えた。
「こっちで間違いないみたい……」
「こっち?」
「あってる?」
「行こう!」
 賑やかなメイド人形たちを連れて、璃奈は残滓のより濃い方角へと足を進める。

 ――それから歩き続けること暫し。そろそろ日暮れに差し掛かろうかという頃、璃奈たちの前方に小さな村落が姿を表した。
「あれが死人の村……?」
 確証を得ようと実際に村の近辺まで近寄っていく璃奈。あれが予知通りオブリビオンの潜伏場所ならば単独先行は危険だが、僅かでも情報は欲しい。
 細心の注意と最大の警戒を払いながら村とその周辺を漂う魔力の流れを見ると、彼女の視界にははっきりと異常だと分かるほどの強い魔力が村を包んでいるのが映る。
「魔力が濃すぎて、中の様子がよく見えない……」
 レンズを外して肉眼で観測した限りでは、そこはごく普通の村のように見える。遠目であって細部までは分からないが、敷地内を動き回る村人の姿も確認できる。
「死者?」
「おばけ?」
「ゾンビ?」
「ゾンビでは無いみたいだね……。姿は生前と変わらないみたいだし……」
 少なくとも肉が腐っていたり骨がむき出しになっていたりはしない。だが、璃奈の第六感は彼らを見た瞬間からずっと、言いしれぬ嫌な予感を訴え続けていた。

 この距離から村内を調査するのはこれが限界だろう。璃奈はメイド人形たちと共に、村の周辺に異常なポイントがないかの調査に目的をシフトする。
「罠が仕掛けられている可能性もある……。十分注意してね……」
「「「わかったー!」」」
 他の猟兵が到着する前に可能な限り突入時の憂慮を払拭するために、少女たちは念入りに周辺を調べ回るのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

モリオン・ヴァレー
死者との逢瀬、か
確かにそれが叶うならその村を探す人が居るのも解らなくもないわ
ただ、なんの代償もなしに、とはやはりいかないみたいね

<WIZ>噂とかの情報収集は皆に任せてあたしは少し外をうろついて件の村を探るわ
<暗視><地形の利用><情報収集><見切り>
右目眼帯を取り、義眼による視界を確保。こっちの目玉は光ではなく、霊力を通じる事でいくら暗かろうとも世界を見る。光では文字通り見逃しやすい気配や、妙な力の動きや塊を探知できるあたしの隠し球。普段は敵の探知や狙撃に使うけれど、こういう使い方だって十分出来るわ

さて、あたしの右目はその村の気配を……闇の残滓を捕らえる事ができるかしら?



「死者との逢瀬、か。確かにそれが叶うならその村を探す人が居るのも解らなくもないわ」
 自らも宇宙海賊によって家族や友人を失った過去を持つモリオン・ヴァレー(死に縛られし毒針・f05537)は、噂に乗せられた人々への共感的な想いを呟きながら、死人の村の探索を行っていた。
「ただ、なんの代償もなしに、とはやはりいかないみたいね」
 猟兵として、暗殺者として、世界の闇を見つめ続けてきた彼女は理解している。失われた過去や命を無償で取り戻せるような、都合のいい奇跡は存在しないことを。

 町での噂などの情報収集を他の仲間に任せたモリオンは、夜が近付くにつれて昏さを増す郊外で、おもむろに右目を覆う眼帯を外す。
 その下から現れたのは、彼女の隠し玉である黒眼の義眼「マナ・オニキス」――光ではなく霊力を通じる事で視界を確保するこの眼ならば、いくら暗かろうとも世界を見る事ができる。それだけではなく、光では文字通り見逃しやすい気配や妙な力の動きや魂さえも、その眼は探知することができた。
「さて、あたしの右目はその村の気配を……闇の残滓を捕らえる事ができるかしら?」
 仲間からの情報を元に、件の村があると思しき方角へ向かって目を凝らす。すると彼方から微かに――しかし決して錯覚ではない不自然な霊力の流れを感じる。
 ともすれば消えてしまいそうな朧気な気配を見失わないよう、モリオンは右目に意識を集中させながら先へと進む。
(普段は敵の探知や狙撃に使うけれど、こういう使い方だって十分出来るわ)
 それはさながら獲物の匂いを嗅ぎつけた猟犬のように。暗殺者は徐々に強くなっていく闇の気配を感じながら、目的の場所へと着実に近付いていく。

 ――そして、ついに視界の前方に村らしき影を捉えた瞬間、思わずモリオンは目をぎゅっと瞑った。そこに渦巻いている、あまりにも膨大な闇と霊力のオーラが、ちょうど強すぎる光を直視したような刺激を彼女の右目に与えたからだ。
「っ……ここで間違いないみたいね」
 右目を再び眼帯で覆い、肉眼の左目のみで見る限りでは、それはどこにでもある長閑な村落のようだ。
 しかしモリオンには、もはやそれが「ただの村」などとは一片も思えなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
芦屋晴久と連携

…ん。切に想う死者が現れる村ね。
彼の過去は知っているけど…それでもやっぱり気になる。

不謹慎だけど彼の前に誰が現れるのか、少し興味がある…かな。
前まではこんな事、考えもしなかったのに…。

…ううん、何でも無い。往こうか晴久。

“精霊石の宝石飾り”に魔力を溜め、
精霊達の目立たない存在感を増幅して交信。
精霊使いの礼儀作法に則り生命力を捧げ(吸収)助力を乞う

…闇の精霊、死の精霊。私の声に応えて。
死の眠りを妨げられし者達の居場所を教えて…。

後は【断末魔の瞳】を開き、死霊の呪詛を追跡できないか試みるね
方角さえ分かれば、晴久を連れて飛行し村へ向かいましょう。

…ありがとう。おかげで普段よりやり易い。


芦屋・晴久
リーヴァルディと連携

死者の村……なんとも医師としては気になるような冒涜されている様な存在ですねぇ。
噂が流れているという事ならば町人から聞くのが早いのでしょうが……
ここはリーヴァに頑張ってもらいますか、【四神創奏】……この地に眠る精霊達に協力してもらい、リーヴァの力を増幅、捜索の精度を上げましょう。
この地の出身である彼女とは親和性も高い筈ですしね

リーヴァが準備をしている間、死者の村がこの町から離れていないと仮定して少々地の龍脈も読んでおきますか、幻覚か他の力が作用しているか分かりませんがそれ程の力、恐らく何らかの反応は残っている筈です。

さぁ往きましょうリーヴァ、支援はお任せを



「死者の村……なんとも医師としては気になるような冒涜されている様な存在ですねぇ」
 夜の闇に包まれていくダークセイヴァーの地で、芦屋・晴久(謎に包まれた怪しき医師・f00321)は煙草の煙をくゆらせながらそう呟いた。
 その傍らには、彼の恋人であるリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)が、虹色の光を放つ精霊石の宝石飾りを手に立っていた。
(……ん。切に想う死者が現れる村ね。彼の過去は知っているけど……それでもやっぱり気になる)
 霊符を手に術の準備を行う彼の横顔をちらりと見つめながら、彼女が考えるのは想い人の過去に眠る相手が誰なのか、という疑問。
(不謹慎だけど彼の前に誰が現れるのか、少し興味がある……かな。前まではこんな事、考えもしなかったのに……)
 物思いに耽るリーヴァルディの様子に気付いた晴久が、符を操る手を止めて彼女に問いかける。
「どうかしましたか、リーヴァ?」
「……ううん、何でも無い。往こうか晴久」
 詮索の前に、まずは為すべき事を。死人の村の所在を明らかにすべく、二人はそれぞれの術法を展開する。

「噂が流れているという事ならば町人から聞くのが早いのでしょうが……ここはリーヴァに頑張ってもらいますか」
 町内での調査は他の猟兵に任せ、晴久が発動するのは【三之式・四神創奏】。詠唱の言霊を介してこの地に眠る精霊たちを呼び醒まし、その協力を取り付ける。
「さぁ往きましょうリーヴァ、支援はお任せを」
「……ありがとう。おかげで普段よりやり易い」
 喚起された精霊たちの気配を肌で感じながら、リーヴァルディは魔力を溜めた精霊石の宝石飾りを介して、彼らとの交信を試みる。
「……闇の精霊、死の精霊。私の声に応えて。死の眠りを妨げられし者達の居場所を教えて……」
 精霊使いの礼儀作法に則り、自らの生命力を捧げ助力を乞う。貪欲な闇と死の精霊たちは生気に満ちた供物を喜んで受け取り、その見返りを彼女の耳に囁きかける。
 ヒトならざる精霊の言葉は抽象的でノイズがかっている例も多いが、晴久の術式によって力を増幅された今のリーヴァルディは、彼らの声をより鮮明に聞き取ることができた。彼女がこの世界の出身だったことも、霊との親和性を高めた要因だろう。

 リーヴァルディが交信を行っている間、手の空いた晴久はこの土地の龍脈を読む。
 死人の村がこの町からさほど離れていないという彼の仮定は、他の猟兵と共有した情報からの推測で裏付けが取れている。ならば大地を巡る龍脈を通じて、異常がこの地にまで現れている可能性は高い。まだ、それが常人の眼には映らないだけで。
「幻覚か他の力が作用しているか分かりませんがそれ程の力、恐らく何らかの反応は残っている筈です」
 陰陽師としての知識と経験を活かして龍脈の流れを読み取れば、やはりと言うべきか、自然ならざる澱んだ力が彼方より此方へと流れ込んでいるのが分かる。恐らく、この"澱み"をこの地まで導いたものとは――。
「噂、ですか」
 物語ること、それは最も古く強い呪術のひとつだ。死人の村の噂がこれほどの規模で拡散した裏には、獲物を誘き寄せるだけでなく影響力を拡げようという何者かの意図を感じる。
 思ったよりも事は急を要するのかもしれないと、晴久は気を引き締め直す。

「……終わったわ」
 そこに精霊との交信を終えたリーヴァルディが、軽く息を整えながら晴久の元にやって来る。
「大丈夫ですか? 少し顔色が優れませんが」
「……平気。少し生命力を持っていかれただけだから」
 この程度ならすぐに回復するからと言って、彼女は交霊によって得られた情報を共有する。精霊の告げた場所、それは晴久の読んだ龍脈の澱みが流れ込んでくる方角ともぴたりと一致した。
「これなら間違いは無さそうだけど、念の為……」
 リーヴァルディは死霊の怨念や呪詛を吸収する左眼の【断末魔の瞳】を開いて、その方角を確認する。
 ――ある。確かにその視界の彼方に、漆黒の靄のように渦巻く呪詛の気配が。
「往こう、晴久」
「ええ、リーヴァ」
 瞳に宿る聖痕を輝かせながらその背に血色の魔力の翼を広げるリーヴァルディ。差し伸べられた手を晴久がしっかりと握れば、二人の身体はふわりと空へ舞い上がり、死人の村へ向かって一直線に翔ぶ。


 ――時は移ろい、夜闇の帳が世界を覆いだす。
 各々の調査を完了させた猟兵たちは、この事件の元凶の地へと集っていく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 冒険 『不穏な気配の漂う村』

POW   :    力づくで情報を聞き出す/罠を強引に突破する

SPD   :    村人に自分の存在を気づかせずに情報収集する

WIZ   :    交渉できそうな村人を見つけ出し情報を得る/罠にかかったふりをする

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 それぞれの手段で調査を行っていた猟兵たちは、ついに噂の元凶である「死人の村」に辿り着く。
 そこは、一見すればごく普通の――この世界の基準で考えれば平和で長閑とさえ呼べるほどの、素朴で穏やかな村落のように見えた。
 村の周辺にも罠の類や異常なポイント等が無いことは、先行調査により明らかになっている。意を決して村に足を踏み入れた猟兵たちを出迎えたのは、村人たちの笑顔だった。

「おや、こんなに一度に大勢のお客とは珍しい。何もない村だが、どうぞゆっくりしていっとくれ」

 拍子抜けしそうになるほどに友好的な態度で、猟兵を迎え入れる村人たち。
 だが、気を緩めることはできない。常人ならばいざ知らず、猟兵たちの研ぎ澄まされた経験や感覚は、この地に渦巻く言いようのない不安を、あるいは澱んだ魔力や呪詛の気配をはっきりと感じ取っていた。

 ――そして、調査に移ろうとした猟兵たちは、各々がその眼に、ありえない筈の相手を見る。
 穏やかに暮らす村人たちの中に、見覚えのある――もう二度と会えないはずの、忘れがたき死者の姿を。


※第二章について
 この章では参加された猟兵が過去に死別したはずの友人、恋人、家族、恩人といった「大切な人」が村人として姿を表します。それがどういった人物か、プレイングに書いていただければ幸いです。
 死者の姿は猟兵の記憶している生前のままですが、猟兵に気付くと必ず「ここで一緒に居よう」と引き止めるような振る舞いを取ります。
 彼らとどのような交流を取るか(あるいは交流自体を避けるか)は各自の判断に委ねられます。誘いに飲まれずに調査を進めていけば、次章への道が繋がります。
フレミア・レイブラッド
かあ…さま…?
…そんなはずない…これがこの村の力…?ドッペルゲンガーの擬態…幻覚…?

母の姿に若干冷静さを欠いており、母に魔槍を突きつけ、【サイコキネシス】で周囲一帯に不穏な動きをしている者がいないか念で捜査。
母に窘められたら一度深呼吸で落ち着き、本人しか知らない質問で確かめる

一旦槍を収め、村内の母の家でいつからいるのか、何故いるのか等幾つか質問。
最後は引き留める母を【念動力】でやんわりと拘束し立ち去る。

あえて嬉しかったわ…例えそれが仮初でも…。


・死者:メイリー
母、人間。父(吸血鬼)がフレミアに発現した真祖の力を恐れて封印しようとした際に反抗した際、不慮の事故で死亡。非常におっとりとした性格。



 調査のために村に足を踏み入れたフレミアが目にしたのは、面影の中に今もはっきりと浮かぶ、大切な家族の姿だった。
「かあ……さま……?」
 信じられない、という思いで呟く。その村人――身なりは質素ながらも、どこかフレミアと似通った顔立ちと気品を持ったその女性は。
「大きくなったわね、フレミア」
 記憶の中と変わらない、温かな微笑みを浮かべたのだった。

「……そんなはずない……これがこの村の力……? ドッペルゲンガーの擬態……幻覚……?」
 眼の前の光景に理解が追いつかず、呆然と立ち尽くすフレミア。そんな彼女を心配するように、フレミアの母は首をかしげる。
「どうしたの? もしかしてお母さんのこと、忘れちゃったかしら……」
「っ、止まりなさい!」
 近付いてくる母に魔槍を突きつけ、周囲一帯にサイコキネシスを放つ。フレミアの念が触れた範囲では、特に不穏な動きをしている者はいない。突然武器を構えた彼女に驚く村人はいるが、自然な反応の範疇だ。
 そしてフレミアの母は、魔槍の穂先が自分に向いているのにも関わらず、あまり驚いた様子を見せない。
「あらあら。少し会わない間におてんばになったのね。でもダメよ、急に槍なんて振り回したら」
 危機感が薄く感じられるほど、非常におっとりとしたその態度。毒気を抜かれてしまったフレミアは、それで自分が若干冷静さを欠いていたことに気付く。
「ねえ、それよりも久しぶりに一緒にお茶をしましょう? あまり大したものは出せないけれど」
「……ええ、分かったわ、かあさま」
 一度深呼吸して落ち着きを取り戻した彼女は、母に導かれるまま、村内にある一軒の家に招かれていく。

 それからフレミアは、母の淹れてくれた茶に口をつけながら幾つかの質問をした。
 まずは名前。それから本人しか答えを知らないはずの問い。メイリーという己の名も、その他の問いにも、彼女は澱みなく答えてみせた。
「……自分の最期の記憶はあるかしら?」
「ええ。私が死んでから、あなたの中ではどれくらいの時間が過ぎたのかしら……」
 それも、彼女は覚えていた――フレミアの母、メイリーの死因。それはかつてフレミアが封印される際に起こった、不慮の事故によるものだった。
 娘に発現した吸血鬼の真祖の力。それを吸血鬼であるフレミアの父は恐れ、娘ごと封じ込めようとした。だが、人間であるメイリーはその決定に反抗した。
 いつもおっとりとしていた母が、その時ばかりはまるで別人のような剣幕で憤っていたのを、フレミアは今も覚えている。
「私はあなたを助けることのできなかった、不甲斐ない母だけど……あなたがこうして元気でいる姿を見られて、それが何より嬉しいの」
 吸血鬼の血と封印の影響によって心身の成長がやや遅いとはいえ、実年齢ではもう大人になった娘を、まるで幼子をあやすように撫でる母。
「もう、かあさまったら……」
 気恥ずかしい想いを抱きながらも、フレミアはそれを拒むことができなかった。その手から伝わるぬくもりも、柔らかさも、過ぎ去った日の思い出のままだったから。

「……質問を続けるわ。かあさまはいつからここにいるの?」
「えぇと……それは分からないわぁ」
「何故ここにいるの?」
「それも、分からないわぁ」
 村に関する質問になると、母の答えは途端に要領を得なくなる。しかし、その反応からでも推察できることはある。彼女は自分の生前と、自分が死者であることをはっきりと自覚していながら、自分がここに居ることに違和感を覚えていない。
 それ自体が大きな違和感――フレミアが推測した通り、何者かによる幻覚という疑いが強くなる。もしそうだとすれば、姿や声だけでなく触感まで、彼女の中に残る面影を精緻に再現する敵は、相当にこの技に長けているのだろう。

「答えてくれてありがとう……ご馳走様。そろそろ行くわ」
「あら、もう行ってしまうの? もう少しゆっくりしていったらどうかしら」
 質問を終え、カップを置いて立ち去ろうとする娘を、母は寂しげに見つめる。
「私も聞きたいことがたくさんあるのよ。私がいなくなってから、あなたが経験した話とか――」
 引き止めようと伸ばされた手が、その途中で止まる。傷つけてしまわぬよう念動力でやんわりと母の身体を拘束しながら、娘はくるりと踵を返した。
「あえて嬉しかったわ……例えそれが仮初でも……」
 涙は零さない。別れの日はとうに過ぎているのだから。今の自分は封印に囚われた籠の鳥ではなく、進むべき未来があるのだから。

「……私も。会えて嬉しかったわ、フレミア」
 立ち去る娘の背に、母からの言葉が届く。
「あなたと私の命の時間は違ったけれど――ずっとあなたの幸せを願っているわ」
 それを最後に、死者の姿はまるで最初からそこに無かったかのように、塵と霞となってかき消えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カノン・チェンバロ
こんなにも和やかなのに
死した人の村なんだと思うと悲しいね

そんな中、私の目は一人の男にくぎ付けになる
金の髪、身なりと育ちの良さが滲む青年
私は彼を覚えていないのに…
ずっと一緒にいられると言われて締め付けられる胸が
私の大切な誰かだったと知らしめて来て泣きそうだ

罠にかかったふり
会いたかった、生存を信じていたと主張する

住むのを決めた素振りで
他の村人はどうやってここに来たのか
ここはどんな土地で何があるのか、と
村人が共通に知る何かがないか
不自然な建物や人物が無いかの探りを入れる

こんなものがあるんだって、と
他の猟兵に勧める体で情報共有

村には残れないね
逝く迄に貴方の名を見つけるから
骸の海で待っていて、と独り言つ



「こんなにも和やかなのに、死した人の村なんだと思うと悲しいね」
 穏やかな営みを送る村の様子を見て回りながら、カノンの口からぽつりと小さな呟きが漏れる。この光景も、あるいは全てまやかしなのだろうか。だとすればそれはとても寂しいことだと彼女は思う。

 ――そんな中、調査を行うカノンの目は一人の男に釘付けになる。
 金の髪、身なりと育ちの良さが滲む青年。彼は自分に向けられる視線に気付くと、まず目を丸くし、それから破顔した。
「――!! 会いたかった!」
 彼は、自分のことをなんと呼んだだろう? よく、聞き取れなかった。ただ、それが紛れもない自分の呼び名だということだけは、はっきりと分かる。
 失われたはずのカノンの記憶の扉が、ノックの音を立てた。

「ずっと待っていたよ、また会える日を。元気だったかい?」
「……うん。私も会いたかったよ」
 喜びを前面に押し出してくる青年の言葉に、ぎこちなく頷きながら答えるカノン。
(私は彼を覚えていないのに……)
 青年は演技でなく純粋に本心から、カノンとの再会を喜んでいるように見える。それが逆に、今の彼女にとっては心苦しかった。
「ここで立ち話を続けるのも何だし、僕の家に行こう。……ああ、これで君とずっと一緒にいられる!」
 そう言われてぎゅっと締め付けられる胸が、彼が自分の大切な誰かだったと知らしめて来る。泣きそうな思いをぐっと心の奥に押し込めながら、カノンは罠にかかったふりをして彼の誘いに乗ることにする。

 案内された場所は、他の村の家屋となんら変わるところのない、質素な家だった。
「悪いね、こんなものしか出せなくて」
「ううん、ありがとう」
 もてなしにと供された食事も質素なもの。申し訳なさそうにする青年の厚意に今は甘えながら、カノンは気になることを質問する。
「貴方や他の村人は、どうやってここに来たんだ?」
「それは、よく覚えていないんだ。死んだ後、気が付いたらこの村にいた。もう何年もここに居るような気もするし、ついさっき来たばかりのようにも感じるんだ」
 どうやら彼は、己が死者であることを自覚している。だが、死者である己がここにいる事実には違和感を覚えていないようだ。
「他の村人も僕と同じで突然現れたり、君のように外からやって来て村の一員になった者もいるよ」
 君のように。彼はもう、カノンがここで暮らすものだと信じて疑っていない。そしてカノンもそれを否定せず、住むのを決めた素振りを見せながら質問を続ける。
「ここはどんな土地で、何があるのかな」
「特に見所のあるものはないよ。家と、川と、畑だけ。ああ、でも村外れの墓地には近寄らないほうがいい。よく遺体を狙って獣やカラスが寄ってくるからね」
 気遣うような青年の言葉に、わかったよ、と頷きながら。他にも村人が共通に知る何かがないか、不自然な建物や人物が無いかの探りを入れていく。
 青年の回答は時折曖昧で要領を得ないものになったが、それでもある程度の情報は得ることができた。

 ――と、話を続けているうちに、カノンは自らの身体の異変に気付く。
 感じるのは少しの息苦しさと、目のかすみ。そして話し相手に向かって魂を引っ張られるような奇妙な感覚。この村に留まり死者の言葉に耳を傾ければ命を蝕まれていくと、依頼の際に聞いた話を思い出す。どうやらこれがその兆候らしい。
「大丈夫かい? 顔色がすぐれないみたいだが」
「平気だよ……そうだ、一緒に来た皆にも、こんなものがあるんだって教えてあげないと。ちょっと行ってくるね」
「いや、待ってくれ」
 仲間との情報共有のために席を立とうとするカノンを、青年の言葉が引き止める。
「君は、僕の知っている昔の君と、少し変わったね」
「……そんなことはないよ」
 胸の痛みを感じながらなおも誤魔化そうとする少女をまっすぐに見つめながら、青年は決定的な問いを投げかけた。
「なぜ、僕の名前を呼んでくれないんだい?」
 ――その眼差しに籠められた感情は、不審や猜疑ではなく、あくまでカノンのことを心配している様子で。だからこそ、彼女はそれに耐え切れなかった。
「……ごめん」
 溢れかける涙を振り切るように駆けだす。それ以上、彼と目を合わせることができなくて。
 青年は追ってくることはなく――その家は最初から誰もいなかったかのように、もぬけの殻となっていた。

「村には残れないね」
 村の外れまで駆けてきたカノンは、誰もいないその場所で、囁くように独り言つ。
「逝く迄に貴方の名を見つけるから、骸の海で待っていて」
 まだ胸に残る鈍い痛みを、しっかりと心に刻みつける。この痛みはきっと、失くした過去への道標だから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ボアネル・ゼブダイ
私にはかつて尊敬すべき人達がいた
支配者たるヴァンパイアでありながら同族の蛮行に心を痛め、領民達との融和を目指していた父上
そして、聖者でありながらも父上を心から愛し、人々に神の愛を説き続けた母上
二人は私にとって何物にも代え難い、大切な家族だった

だが「家畜と子を成し血統を汚した反逆者」として同族に二人は殺され
私の故郷でもあった領地は火の海へと沈んでしまった
あの惨劇は今でも忘れられん
優しい二人のことだ
私を労り、ここに残るように言うだろう…

だが、私がすべきは過去の夢に耽る事ではない

人工血液セットから吸血
血呪解放にて状態異常力を高め幻惑を振り切り突破し調査を続ける

さらばだ、我が甘き夢よ
懐かしき想い出よ…



「壮健か、ボアネル」
 威厳と優しさを感じさせる、懐かしくも温かい声に背中を打たれ、村を歩いていたボアネルははっと振り返った。
「父上……母上……」
 そこに立っていたのは、彼にとって尊敬すべき人達であり、何物にも代え難い大切な家族。
「まあ、立派になって……」
 礼服を纏った父の傍らに寄り添うように立つ母は、慈愛に満ちた微笑みを浮かべ、息子を見つめる瞳から喜びの涙を溢れさせた。

 ボアネルの父と母は、どちらも同族の中では異質な存在だった。
 支配者たるヴァンパイアでありながら同族の蛮行に心を痛め、領民達との融和を目指していた父。そして人間の聖者でありながらも彼を心から愛し、人々に神の愛を説き続けた母。
 愛と理想によって結ばれた二人は、自身の領地に人々を匿い保護するなど、ヴァンパイアの圧政に密かな抵抗を行っていた。
 そんな彼らの間に生まれたダンピールのボアネルは、紛れもない愛の結晶であり――種族を超えた融和の証でもあった。

「すまなかったな、ボアネル。お前一人を置いて先に逝ってしまって」
「二人とも、最期の記憶が……」
「ええ、覚えています、何もかも」
 沈痛な面持ちとなる父と母。それを見たボアネルも"あの日"の悲劇を脳裏に思い返し、ぐっと歯を食いしばる。
 希望と祝福に満ちていたはずの一家の未来は、ヴァンパイアによって破壊された。
 ボアネルの父を「家畜と子を成し血統を汚した反逆者」と罵った彼らは、ゼブダイ家の全てを尽く奪い去った。両親は処刑という名の惨殺にあい、匿われていた人々も領地ごと全て灰になるまで燃やし尽くされ――たった一人、ボアネルだけが死の底から奇跡的に復活し、猟兵として覚醒した。
 その時に見た、火の海へと沈んでいく故郷の惨劇は、ボアネルの中で今でも忘れられない傷痕となっている。

「あれからも、辛いことが沢山あったのでしょう。よく、今日まで頑張りましたね」
 今やオブリビオンと戦う立派な戦士となった息子の姿に涙ぐみながら、母はそっとボアネルを抱きしめる。温かい。死者であるとは到底思えないその柔らかさも温もりも、記憶の中にある母との思い出と同じ。
 抱擁する母子を穏やかに見守っていたボアネルの父は、ややあってからおもむろに口を開いた。
「あの日死んだはずの我々が、なぜここに居るのかは分からない……だが、私はここからもう一度、かつての理想を目指したいと思っている。同族の蛮行を否定し、ヴァンパイアと領民の融和を――ゼブダイ家の再興を果たしたい」
 温和な人柄の中に確かな信念を持った彼は、ボアネルに向けて手を差し伸べる。
「お前にも、力を貸してほしい。三人でなら、きっと成し遂げられるはずだ」
 それは、どうかここに残ってほしいという、両親の切なる願いでもあった。

 ――だが、ボアネルはその呼びかけに静かに首を振ると、母の抱擁を優しく振り解く。
「申し訳ありません、父上、母上」
「ボアネル……?」
 見上げる母の目元から、涙をそっと拭って。懐から人工血液セットを取り出しながら、彼は言う。
「私がすべきは、過去の夢に耽る事ではないのです」
 あの惨劇の日に失われたものは、もう決して戻ってくることはない。眼の前に映るこれは、過去からの残響に過ぎない。
 セットの中に詰まった赤い液体を飲み干し【血呪解放】を発動――自らの状態異常への耐性を高める。これが幻術や暗示の類であるならば、父から受け継いだ吸血鬼の力で打ち破れる筈だ。

「――そうか。往くのだな、お前は」
 寂しげに、だがどこか誇らしげに呟いた父の姿が霞んでいく。そっとボアネルの傍から離れた母の姿も、共に。
「それなら、止めることはできません。あなたがなすべきことをなしなさい」
 母ももう泣いてはいない。優しくも力強い二対の眼差しが、愛おしい息子を見つめている。それ以上の言葉は、この親子の間には不要だった。ボアネルは消えゆく両親に背を向けて、調査を再開するために歩き出す。
「さらばだ、我が甘き夢よ。懐かしき想い出よ……」
 力強く握りしめた拳は、これまで以上に強い意志と覚悟に満ちていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
嗚呼、貴女だったのですね

宇治田 希
UDCアースの依頼で出会った少女
邪神の因子を持ち覚醒を防ぐため結界内に保護、否、生涯軟禁状態だった少女

邪教団からの護衛任務で騎士としてお守りしますと約束しましたね、軟禁に倦み疲れ果てた貴女の内心を察せずに

【Forget-me-not】

哀しき願いと終りを願い、自ら邪神となった貴女を殺したこと、忘れてはいませんよ

外で元気に生きるその姿は、彼女の望みか、それとも私か

宇治田様、また約束を破ってしまいますが、村について教えて頂けますか。
その結果、村が無くなるとしても

貴女の願いの為、再び貴女を殺します

貴女には大切な「哀しみ」を頂きました。だから私にとって「恩人」なのです



「嗚呼、貴女だったのですね」
 村の片隅で、他とは隔絶した雰囲気でじっと空を見つめている一人の少女と出逢い、トリテレイアはそう言葉を零した。
 美しい少女だった。ビロードの光沢を放つ艷やかな黒髪も、魅惑的に整ったかんばせも、すべて彼の記憶と寸分違わない。
「宇治田 希様」
 トリテレイアが名を呼ぶと、少女ははっと振り返り――そして儚げに微笑んだ。
「お久しぶりです、トリテレイアさん」
 それは、騎士がかつて守り抜くと誓い、そして果たせなかった相手だった。

「覚えていたのですね、私のことを」
「ええ、そして自分のことも……今の私が、たぶん本物の私じゃないんだろうな、ということも」
 生まれながらにして邪神の因子を宿し、UDC組織に保護という形で監禁されていた少女、宇治田・希。彼女は聡明な人物だった。
 一度も外の世界を見たことが無いかわりに、読書と音楽鑑賞を趣味とし。人との触れ合いがほとんど無かったにも関わらず、他人の心の機微に聡かった。
 この異常な現状に自力で気がつくことができたのも、それ故にだろう――その聡明さゆえに、生前の彼女は決して救われない自らの現実に絶望したのだから。
「邪教団からの護衛任務で騎士としてお守りしますと約束しましたね、軟禁に倦み疲れ果てた貴女の内心を察せずに」
「はい……それでも、嬉しかったです。まるで物語のワンシーンのようで」
 トリテレイアをはじめ、多くの猟兵が彼女の心を慰めようと努めた。それは彼女にとって希望の光だったからこそ、絶望という影をより深く染めたのだろう。
 結局、彼女が選んだのは、自らの意思でヒトであることを捨てる道だった。

「哀しき願いと終りを願い、自ら邪神となった貴女を殺したこと、忘れてはいませんよ」
「そう、ですか。ずっと覚えていてくれたんですね」
 トリテレイアの言葉に、希が仄かに口元を綻ばせる。それが、彼女の末期の望みだったゆえに。
 外の世界に出たい――ずっと焦がれ抱き続けてきた願いと、もう一つ。優しくしてくれた人の心に、自分の存在を刻みつけたいという願い。
 沢山の「助けられた誰か」の一人ではなく、誰かの特別になりたかった。だから彼女は自らの意思で化物に堕ち――猟兵たちに殺されることを望んだのだ。
「私の、最初で最後の我侭。叶えてくれて、ありがとうございます」
 立ち上がった少女は、好きだった音楽を口ずさみながら、死人の村でステップを踏む。肌を撫でる風が、踏みしめる土の感触が、そのすべてが愛おしそうに。
 外で元気に生きるその姿は、彼女の望みか、それとも自身が望んだことか。トリテレイアには分からなかった。
 確かなことは――この安らかな光景を、このままにしてはおけないという、冷たい事実だけだった。

「宇治田様、また約束を破ってしまいますが、村について教えて頂けますか。その結果、村が無くなるとしても」
「……もう少し、お話できませんか? 今日はもう"面会時間"なんてありませんし」
 引き止めるような希の問いかけに、トリテレイアは首を横に振る。たとえ騎士としての約束をまた破るとしても、彼には為すべき使命と、叶えるべき願いがある。
「貴女の願いの為、再び貴女を殺します」
 もう一度、彼女の存在を心に刻みつける。死ぬまで忘れることのないように、深く、深く。その決意を受け取った少女は、少し寂しげに――だが、それ以上に嬉しそうに微笑んだ。
「やっぱり、トリテレイアさんは優しいですね。優しくて、温かくて……強い人です」
「宇治田様……」
「そんな辛そうな顔しないでください。ここに居る私はきっと幻……誰かに作られた影なんです。この村にやって来た人の想いと命が、私たちを保っています」
 この村にいる住人の半分は、希のように誰かの想いから生まれた幻。そしてもう半分はこの村に囚われて精神と生命を奪い尽くされた来訪者の成れの果て。
 噂に誘われてここを訪れる人間が絶えない限り、村の住人は増え続けると、彼女は言った。

「最後に一つだけ、聞いてもいいですか?」
 分かる限りの情報をトリテレイアに伝えてから、少女は問う。
「どうして、私だったんですか?」
 それに対する、トリテレイアの答えは明確だった。
「貴女には大切な『哀しみ』を頂きました。だから私にとって『恩人』なのです」
「……そう、ですか……やっぱり私は悪い子です。トリテレイアさんを哀しませてしまったのに、嬉しい、って思ってしまうんですから」
 ありがとう、と。答えを得た少女は安らいだように目を細めた。

「……せっかく外に出られたのに、ここは空も太陽も見えないんですね」
 別れの際、暗雲に覆われたダークセイヴァーの昏い空を見上げながら、それだけが心残りのように少女は呟き。
「次なんて、もう無いでしょうけど。もし神様が気まぐれを起こしたら、青い空の下でまた会いたいです」
 儚い微笑みだけをその場に残して、霞のように消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
「ご主人と同じ!」
「巫女さん!」
「同じちから!」

姉さん…。…まさかとは思ったけど…世界すら違うのに生きてるはずがない…。何者…?

「おねえさん?」
「お世話する?」
「生き別れ?」

姉さんは死んだよ…わたしを逃がす為に戦って…。姉さんの姿を騙る偽者なら、わたしは貴女を許さない…。
正直に答えて…!

姉の姿をする相手に質問…。相手の正体やこの村の事を聞き出した後、【ソウル・リベリオン】で呪詛を喰らい、相手の魂を解放、または正体を暴くよ…。
敵であれば、斬る…。

※大切な人
雛菊・桜花。侵攻時に命を落とした璃奈の姉。璃奈と同じ魔剣の巫女で当時の璃奈より強かったが璃奈より適正は低い。穏やかで戦いに向かない優しい性格。



「璃奈。あなた、璃奈でしょう……?」
 メイド人形たちと共に村の調査を行う璃奈を呼び止めたのは、若い娘の声だった。
 振り返り、そこに立っていた女性の姿を認めた彼女は、思わず言葉を失い目を丸くする。代わりに口を開いたのはメイドたちだった。
「ご主人と同じ!」
「巫女さん!」
「同じちから!」
 彼女たちの言葉通り。そこにいたのは璃奈とよく似た巫女装束を纏い、腰に一振りの魔剣を帯びた妖狐の女性であった。

「姉さん……」
 璃奈は驚きから抜け出せないままぽつりと呟く。それを聞いた女性は表情を綻ばせ、嬉しそうな笑みを浮かべて。
「ああ、やっぱり璃奈だった。そう、私よ、桜花よ。立派になったわね……」
 雛菊・桜花。璃奈と同じ魔剣の巫女の家系の出にして、彼女の姉。その力量は当時の璃奈を凌いでいたが、同時に穏やかで戦いに向かない優しい性格の女性だった。
「……まさかとは思ったけど……世界すら違うのに生きてるはずがない……。何者……?」
「そう聞かれても、困るのだけれど……私は私。あなたのお姉ちゃん。それでは駄目かしら?」
 警戒する璃奈の問いかけに、桜花はやや困惑した様子で答える。その態度や雰囲気から、少なくとも敵意らしきものは感じられない。
「おねえさん?」
「お世話する?」
「生き別れ?」
 緊張する二人の間の空気を読まずに首をかしげるメイド人形。彼女たちの疑問に、璃奈はぎゅっと拳を握りながら絞り出すように答える。
「姉さんは死んだよ……わたしを逃がす為に戦って……」
 忘れもしない、あの日。故郷がオブリビオンの侵攻を受けた時、桜花は魔剣の巫女として守るべきものの為に戦い――そして命を落とした。
「姉さんの姿を騙る偽者なら、わたしは貴女を許さない……。正直に答えて……!」
 淡々とした語気を僅かに強めて、璃奈は魔剣【ソウル・リベリオン】を召喚。呪詛喰らいの刃を姉の姿をした何かへと向けて、冷たい眼差しで詰問する。

「璃奈……あなた、少し変わったわね。昔はもっと表情豊かで、感情を表に出す子だったのに」
 妹から刃を向けられて、寂しげに呟く桜花。対する璃奈は無言。あの日の侵攻を生き延びた彼女だったが、オブリビオンに奴隷として捕らわれ、その時の経験から上手く感情を表に出す事ができなくなったと……そんなことを語るつもりはなかった。
「私は桜花。あの日の戦いで死んで、気がつけばこの村にいた……それが私の認識しているすべて。だけど、この答えであなたが不満なら……こうしましょう」
 不意に桜花はきっと目つきを鋭くすると、腰の魔剣を抜いて斬り掛かる。その不意打ちに、即座に反応した璃奈は呪詛喰らいの魔剣を振るって迎え撃つ。
「敵であれば、斬る……」
 キンッ、と鋭い音を立てて二振りの魔剣が火花を散らす。突然始まった姉妹の戦いを、メイドたちはハラハラしながら見守るばかり。
 交わされる剣戟の中で、璃奈は感じる。この太刀筋、運足、身のこなし。それらはすべて、自身が記憶する姉の戦い方と同じ。あの当時は璃奈よりも桜花のほうが強かった。しかしあの日から幾度もの戦いを経て、璃奈の技量は格段に成長している。
 一合、二合と刃を交えるたびに、成長を続ける生者と成長の止まった死者の差は如実に現れだす。

「これで……!」
 追い詰めた相手にとどめの一撃を食らわせようと、璃奈が魔剣を振り下ろした時――桜花は自ら剣を手放すと、妹の斬撃を無防備にその身で受けた。
「……!」
「強く……なったわね……」
 驚く璃奈の元に、糸が切れた人形のように倒れ込んでくる桜花。その顔に浮かぶ笑みは、璃奈の思い出の中に残る、穏やかで優しい姉の表情だった。
「どうして……」
「今の私が"何"なのかを伝えるには……これが一番、確実だと思ったから……」
 ソウル・リベリオンに斬り伏せられた桜花の身体からは、血ではなくドロドロとした呪詛が溢れ出し、魔剣の刃に吸収されていく。
 この村に現れる「忘れがたき死者」とは、生者を惑わす幻であり、生者を蝕む呪詛。言葉を交わすたびに、本人さえ気付かないうちに生命力を奪い、死者の仲間入りをさせてしまう。
 そしてこの幻惑の呪詛は、村全体を覆う巨大な呪いの一部でもある。桜花はそれを璃奈に悟らせるため、あえて呪詛喰らいの魔剣に我が身を喰わせたのだ。

「元々、私よりもあなたのほうが、巫女としての適性は高かったものね……これだけ強くなったなら、もう心配する必要もないかしら……」
「姉さん……」
「私はあなたのお姉ちゃんじゃなかった……ただの、呪いよ。気にしないで、先に進みなさい……」
 細い指先でそっと璃奈の銀髪を撫でながら、桜花は霞のように解けて消えていく。
「この村のどこかに、中心が……死者と幻と呪いのすべてを繋ぐ一点が、あるはずだから……」
 最後まで、優しい微笑みを浮かべたまま。元気でね、と告げて彼女の幻は消えた。

「消えちゃった?」
「だいじょうぶ?」
「ケガしてない?」
「大丈夫……。行こう……」
 主人を心配するメイド人形たちに答えて、璃奈は魔剣を収める。その表情から、内に秘めた感情は杳として知れず。
 この呪いを終わらせるために、彼女は再び歩き始める。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴェルベット・ガーディアナ
あぁ、本当に…いるんだね。
ボクの…ううん、わたしの師匠。

こんにちは、師匠、わたしのことを覚えてくれてますか?はい、あなたの弟子のヴェルベットです。みてください、あのヴァンパイアから師匠の大事なクリムローズを取り戻しましたよ。

優しい眼差しは変わらない。クリムローズを撫でる優しい手つきも変わらない…。

ねぇ、師匠。この村のこと教えてくれませんか?ここを訪れて帰らない人がいるのです。

『ここに居よう』だなんて言葉…師匠は言わないんだ。だって、わたしも師匠も旅に出た時点で帰る場所などもうないと決めたのだから…。

だから、ここにはいられない。この依頼をこなす。そして前に進むんだ。



「あぁ、本当に……いるんだね」
 この村に足を踏み入れてから、すぐに気が付いた懐かしい気配。その主を見つけたヴェルベットは、想いが溢れるのを堪えきれなかった。
「ボクの……ううん、わたしの師匠」
 その人は、村の中央にある広場で、なにか手持ち無沙汰のように佇んでいた。

「こんにちは、師匠、わたしのことを覚えてくれてますか?」
 人形を連れてヴェルベットが呼びかければ、彼女の師は振り返ると、優しい目つきで少女を見た。
「忘れるものかい、ヴェル。あれから修行は怠っていなかっただろうね?」
 愛称で呼びかけられた少女は喜びを笑顔に変えて、黒髪の少女人形を師に見せる。
「はい、あなたの弟子のヴェルベットです。みてください、あのヴァンパイアから師匠の大事なクリムローズを取り戻しましたよ」
「ああ、クリムローズ……良かった、ずっと探していたんだ」
 弟子の手から相棒である人形を受け取った師匠は、愛おしそうに優しく人形を撫でる。その手つきも、優しい眼差しも、ヴェルベットの中にある思い出の姿と寸分違わない。
 こみ上げる想いが胸を詰まらせ、これ以上の言葉が出てこない。そんな立ち尽くすヴェルベットを見た師匠は、穏やかに微笑んで。
「久しぶりに、一緒にやろうか」
 そう言いながら掲げた指先には、人形の操り糸がキラリと光っていた。

 静かな村の広場で、白の人形と黒の人形が踊る。
 弟子が操る白いシャルローザは愛らしく。師匠が操る黒いクリムローズは美しく。まるで生きているかのように軽やかなその舞踊は、人形遣いの巧みな技の見せ所。
 仕事の最中だった村人も、自然と足を止めて見入ってしまう。決して数は多くはないが、心から夢中だと分かる人々の笑顔と拍手が二人に送られる。
(ああ、楽しいな)
 一人で演じるのではなく、師匠と二人で息を合わせて披露する舞台に、ヴェルベットの鼓動は高鳴る。シャルローザも、クリムローズも、いつもよりずっと活き活きと踊っている。
 目を合わせれば、その気持ちは師匠も同じだったようで。微笑みながら糸を手繰る人形遣いの技も、過去とまったく衰えてはいない。
 ヴェルベットは師匠に成長を示すように、自らもありったけの技でシャルローザを操るのだった。

 ――夢のような人形たちの舞台は、瞬く間に過ぎ去って。
「凄く、上達したね」
 師匠から送られた掛け値なしの賛辞は、ヴェルベットの胸を熱くさせる。もう少しだけ一緒に演じていたい――そんな想いを振り切るのに苦労するほどに。
「ねぇ、師匠。この村のこと教えてくれませんか? ここを訪れて帰らない人がいるのです」
 そう問いかけられた師匠は、笑顔から寂しげなものへと表情を変えて、視線を村人たちへと向ける。
「この村を訪れて、帰ることを望まなかった者は、村の一員になる。私のような死者となって」
 村に命を吸い尽くされ、魂を囚われ、生ける屍となって。幻ではない本物の死人として、村を彷徨い続ける。
「彼らを解き放つためには、この村を終わらせるしかない」
「そのためには、どうすれば……?」
「私には分からない。けれど感じるんだ。君と君の仲間がやって来てから、この村は揺らぎ始めている」
 恐らくは、猟兵たちがこの村で取った行動が、村に影響を与えている。それも、この村を支配する元凶にとっては好ましからざる方向に。

「何がこの村の呪縛を揺らがせたのか……君なら分かるだろう、ヴェル」
 優しさの奥に寂しさを宿した瞳。それを見つめたときヴェルベットは理解した。いいや、本当は最初から理解していたのだ。
「『ここに居よう』だなんて言葉……師匠は言いませんよね」
「ああ、言えない」
 なぜなら、ヴェルベットも師匠も旅に出た時点で、帰る場所などもうないと決めたのだから。
 だから、ここにはいられない。夢のようなこの再会に別れを告げて、先に進まなければならない。
 師匠も彼女を引き止められないと理解していたからこそ、せめて共に舞台を演じることで、少しでも時間を共有したかったのだろう。

「これからも修練を怠らないように。クリムローズのことを、よろしく頼むよ」
「――はい」
 大切な相棒を再び弟子の手に渡して消えていく師匠の姿を最後まで見届けてから、ヴェルベットは踵を返して歩きだす。
 胸に開いた穴はまだ埋まらない。でも今は、背中を押されているような気がした。
「この依頼をこなす。そして前に進むんだ」
 仇を果たしても、戦いはまだ終わらない。人形遣いの少女はあの日新たにした誓いを握りしめるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

モリオン・ヴァレー
さて、あたしの場合誰が来るかしら?

姉様……か
そう呼ばれるのも随分久しぶりだわ

振り返れば頭一つ分背の高い、今のあたしと同じ赤い瞳灰の髪
病院服を纏い、右手の歩行用杖で体を支える
無邪気な笑顔を浮かべる十代半ばの男性

タルク
あたしの弟がそこに
【WIZ】
本当久しぶりね。2年ぶりかしら
散歩?いいわよ、行きましょ?
肩貸す?タルクは昔から病弱だったからね

そうね
このままここでのんびり鍼灸師として働くのも

以前のあたしならそのまま頷いたでしょうね
<暗殺>隣を歩くタルクの首筋に針を突き刺し

あたしは、タルクの支えになれればと鍼灸師になった
だけどあの炎が全てを奪い、生き方を変えた

もう平和なあの頃には、あたしは戻れないわ……



「さて、あたしの場合誰が来るかしら?」
 村の霊力の流れを義眼によって調査していたモリオンは、村の片隅で静かに呟く。
 その時、彼女の背後からかつん、と、小さく杖を突く音が聞こえた。
「姉様……姉様だよね?」
 振り返ればそこに居たのはモリオンよりも頭一つ分背の高い、今の彼女と同じ赤い瞳と灰の髪。病院服を纏い、右手の歩行用杖で体を支えながら、無邪気な笑みを浮かべる十代半ばの男性。
「姉様……か。そう呼ばれるのも随分久しぶりだわ」
 タルク。故郷とともに喪われたはずの彼女の弟が、そこにいた。

「やっぱり姉様だ。久しぶり……!」
 喜びを満面の笑みで表し、杖を突きながら歩み寄ってくる少年。昔と変わらないその様子に、モリオンの目許が微かに和らぐ。
「本当久しぶりね。2年ぶりかしら」
 2年。モリオンが多くのものを喪った惨劇の日から、気がつけばもうそれだけの歳月が過ぎていた。髪の色を、笑顔を、右目を喪い変わってしまった自分とは対照的に、目の前の弟はあの頃と同じまま、変わらぬ笑みを向けてくる。
「ちょうど散歩の途中だったんだ。姉様も一緒に行こうよ。村の案内もするから」
「散歩? いいわよ、行きましょ?」
「やった! ……っとと」
 喜び過ぎるあまりにふらつくタルクの体を、モリオンは慣れたように受け止める。
「肩貸す? タルクは昔から病弱だったからね」
「平気だよ……って言いたいけど、じゃあ今日はお願いしようかな」
 せっかくまた会えたんだしね、と笑って、弟は甘えるように姉に寄り添う。自分よりも背は高いのにひどく軽い体を、モリオンはそっと支えながら歩きだした。

 それからしばらくの間、姉と弟は連れ立って村のあちこちを歩いて回った。
 タルクが案内してくれた場所を、モリオンはこっそりと右目の義眼で見て、怪しい霊力の動きがないか見極める。この村の中で最も霊力の異常が強い場所、そこに元凶がある可能性は高いと考えて。
「ねえ、姉様はあれからどうしてたの?」
 集中する彼女の意識を逸したのは、隣を歩く弟からの問いかけだった。
「……まあ、色々とね」
 曖昧に答えを濁すモリオンだったが、問いかけの瞬間に彼女の身体が強張ったのを感じたタルクは、心配そうに姉を見つめる。
「詳しい話は聞かないよ。でも、姉様さえ良かったら、ここで一緒に暮らさない? そうすればきっともう辛いことは無くなるし、僕も姉様がいてくれれば安心だから」
 姉を思いやるがゆえの、無邪気な提案。そこに一片の悪意も含まれていないことは、モリオンにも分かった。

「そうね。このままここでのんびり鍼灸師として働くのも――」
 穏やかな村の様子を眺めながらモリオンは呟く。まるで似ていない筈なのに、その光景はなぜか平和だった頃の故郷と重なって見えた。
 留まることを選んでくれたのだと思ったタルクが、姉様! と喜色を満面にする。そんな彼をよそに、モリオンは上着に隠したベルトから針を引き抜き。
「――以前のあたしならそのまま頷いたでしょうね」
 目にも留まらぬ暗殺の技が、タルクの首筋に針を突き刺した。

「え……ねえ、さま……?」
 からん、と歩行用杖が手から落ちる。何をされたのかも分からず倒れていくタルクの身体が、末端から薄れていく。それを見下ろすモリオンの冷たい表情は、かつての弟には一度も見せたことのない類のものだった。
「あたしは、タルクの支えになれればと鍼灸師になった。だけどあの炎が全てを奪い、生き方を変えた」
 かつては弟を癒やすために磨いた鍼灸師としての技術は、今は亡霊を穿つ殺しの技となり。優しい笑顔で人々を助ける鍼灸師は、笑顔を喪った黒き医師にして暗殺者となった。
 喪われただけではなく、積み重ねた2年の歳月は、彼女の多くを変えてしまった。
「もう平和なあの頃には、あたしは戻れないわ……」
 寂しげに呟きながら、モリオンは過去の亡霊に訣別と引導を渡す。消えていくタルクの幻は、最後の瞬間にもう一度姉を見つめ――。
「――それでも、姉様は、姉様だよ」
 ふっと優しい笑みを残して、塵と霞に還ったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニュイ・ルミエール
ニュイを鏡写しに成長した姿
金髪と碧眼持つある国のお姫様

にゅいが人間しかいない国に現れ殺されそうになった時助けてくれて
化け物に言葉と知識と世界を与え今の姿にしてくれた恩人
この胸のロザリオも先生のもの

赤く血に濡れていた先生のもの

いるはずがない
だって先生は……その亡骸は

にゅいが食べたのだもの

白亜の鳥籠の鳥だった先生に
そうお願いされてたから


──でもね
偽物だって構わないの

伝えたい事があったんだ

先生
にゅいね
あの後大変な事沢山しちゃったけど

それでもね?
あれから幸せになれたんだよ

にゅいをにゅいのまま見てくれる人達がいたんだ

生きてて良かったって思えるようになったの!

先生っ
ありがとう!

……それだけを言いたかったの



「あぁ……」
 村の外れで風に当たる"その人"を見つけたとき、ニュイの口から漏れた声は、歓喜とも、悲嘆とも――そのどちらとも感じられる、複雑な響きを宿していた。
 ニュイを鏡写しに成長させたような、金髪と碧眼持つその女性は、ニュイの姿を見つけるとたおやかな笑みを浮かべる。
「こうしてお話するのは、久しぶりですね」
「――先生」
 それは、ニュイにとって忘れがたい恩人であった。

「本当なら、もっとおもてなししたかったんですけど。今はこれくらいしかなくて」
 ニュイとそっくりな、けれど幾分か大人びた顔で微笑みながら、女性はニュイを自らの家に招き入れた。カップに注がれたのは淹れたての紅茶。嗅覚をくすぐる香気が、懐かしい記憶の扉をノックする。
「ニュイはホットチョコレートが好きでしたよね? 用意できなくてごめんなさい」
「お、おかまいなく……」
 ぎこちない所作でカップを手にとって、一口。ほのかに甘い味わいが口の中に広がる。緊張して口数の少なくなるニュイを、女性は温かな眼差しで見守っていた。
「こうしていると、あなたと会ったばかりの頃のことを思い出しますね……」
 彼女とニュイの出会いは、人間しかいないとある国。怪物だと恐れられ殺されそうになっていたニュイを、ある国の姫君だった彼女が助けたのが始まりだった。
 ニュイにとって彼女は、化け物だった自分を今の姿にしてくれた恩人。ほんとうに数えきれないほど沢山のものを、ニュイはこの人に与えられた。
 言葉も、知識も、世界も――身に着けた胸のロザリオも、元は"先生"のものだった。

 ぎゅっとロザリオを握りしめたとき、ニュイの脳裏に過去の光景が蘇る。
 赤く血に濡れていた"先生"の姿が。

「――いるはずがない」
「ニュイ?」
 ぽつりと呟きながらガタンと立ち上がったニュイを、心配そうに"先生"は見つめる。その視線から目をそらしたくなるのを堪えながら、ニュイは彼女に告げる。
「だって先生は……その亡骸は」


「にゅいが食べたのだもの」


 ――暫くの間、沈黙がその場を支配していた。
 数秒か、あるいは数分か。息が詰まるような静寂を破ったのは"先生"だった。
「ええ。あなたは受け容れてくれました。籠の鳥だった私のお願いを」
 彼女はずっと倦みに苛まれていた。姫としての生活も、誰もが仰ぎ見るお城も、彼女にとっては自分を囚える白亜の鳥籠だった。だから彼女は願ったのだ――籠の中からの解放を。死して後、ニュイに取り込まれその一部となることを。
「この魂は、この体は、とある人の陰。私の罪の証。私の存在理由。私のすべて」
 恩師を喰らい、人の姿を得たニュイは言う。"先生"が自分に与えてくれたものは、全てこの中にある。だから目の前にいるのが本物の"先生"であるはずがないのだと。

「……バレてしまいましたか。もう少し、お話できると思っていたのですが」
 冷めてしまった紅茶のカップを見つめながら、寂しそうに"先生"は――"先生"の幻は呟く。ニュイが彼女を看破したことで、その姿は足元から徐々に消え始めていた。
「──でもね。偽物だって構わないの」
「え……?」
 驚き顔を上げる女性に向かって、伝えたい事があったんだ、とニュイは語りだす。
「先生。にゅいね、あの後大変な事沢山しちゃったけど……それでもね? あれから幸せになれたんだよ」
 話したいことはいくらでもあった。猟兵として世界を渡り、積み重ねてきた幾つもの経験。誰かに感謝されたこと、友達ができたこと――そして"家族"と出会ったこと。
「にゅいをにゅいのまま見てくれる人達がいたんだ。生きてて良かったって思えるようになったの!」
 ありのままの自分を受け容れてもらえる喜びを、かつて化け物だった少女は知った。だからその瞳は、まるで星を宿したように輝いて。
「先生っ……ありがとう!」
 万感の想いを込めて放たれたのは、生き方を教えてくれた恩師への感謝だった。

「……それだけを言いたかったの」
 想いを伝えたニュイは、ぺこりと"先生"の幻に一礼してその場を後にしようとする――その時、すでに半分以上消えかかっていた幻が、静かに口を開いた。
「……とても美しい花畑。そこがあなたの"家族"が待つ居場所なのですね」
「え……どうして、それを……?」
 思わず振り返ったニュイの体を、幻の女性はそっと抱きしめた。
「ここにいる私は偽物。でも、本物の私はきっといつだって、あなたの中であなたと同じものを見ています」
 だから、私の方こそ「ありがとう」なのだと。そう言って彼女は微笑んだ。
「水のように、空のように、優しく皆を包んでくれるあなた。どうかその身が、たくさんの美しく尊いもので染められますように」
 そうありますように、と、祈りの言葉を残した幻は、少女の中に溶けるように消えていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
芦屋晴久と連携

…ん。やっぱり貴女達だよね。
桜髪の聖女ラグナ。黒髪の天使プレア。
…私を救い、私を導き、私を護って。
死後も異端の神の代行者となった二人。

…二人とも、私、大切な人が出来た。
芦屋晴久。うん、大切な恋人…。

…ん。貴女達から受け継いだ誓いを忘れた日は無い。
人類に今一度の繁栄を。そしてこの世界に救済を…。

…今までは重い枷のようだったのに。
…晴久が一緒に誓いを果たしてくれるなら、
どんな険しい道だって何とかなる気がする。

…だから、ここで止まる気は無いの。さよなら、二人とも。

魂を取り込みUCを発動。
死者の誘惑を呪詛耐性で弾き、
魂が視た景色を暗視して情報収集をする

…ところで。晴久の大切な人は何処に?


芦屋・晴久
リーヴァルディと連携

───居ませんか
滅びた故郷の者達が現れると思いましたが
偶然か、はたまたそもそも死者では無く……?
ともあれ今は目の前の依頼をこなすと致しましょう
リーヴァの前には現れた様ですね、聖女ラグナに天使プレア、彼女から話は聞いております
私が彼女達に出来る事は無い、死者であり残滓でしかないのだから、故に祈りましょう
彼女達がオブリビオンから解放され無事に天に還った事をね

彼女達の邂逅を見守った後はこの地の龍脈……大気の流れを読みましょう
呪詛や魔力があれば気の流れに反応がある筈、しかも恐らくは常時何処かに異変があると見ます、その中心点を探すのです

会わずに済んで安堵するとは……世話ないですね私も



「──居ませんか」
 恋人と手分けして村内の調査を行っていた晴久は、すれ違う村人の顔や格好を眺めながらぽつりと呟く。事前に聞いていた噂と予想に反して、彼の前に見覚えのある死者が姿を現すことはなかった。
「滅びた故郷の者達が現れると思いましたが。偶然か、はたまたそもそも死者では無く……?」
 何か、死者としてこの場に顕せられない理由があるのか。気になる事ではあったが、ともあれ今は目の前の依頼をこなすことに致しましょう、と意識を切り替える。
 ――その時、ふいに彼方から、楽しそうな女性たちの話し声が聞こえてくる。そちらは確か、彼の恋人が調べに向かった方角だ。
「リーヴァの前には現れた様ですね」
 信頼はすれど万一のこともあってはならないと、晴久は彼女の元へと駆けていく。


「また会えましたね、リーヴァ」
「お元気そうでなによりです」
 同刻、リーヴァルディの前に姿を現したのは、二人の娘だった。
 一人は花のように笑う桜色の髪の聖女。もう一人は淡く微笑む黒髪に白翼の天使。
「……ん。やっぱり貴女達だよね」
 その再会を予期していたリーヴァルディは、郷愁の籠もった眼差しでじっと彼女たちを見つめる。
 桜髪の聖女ラグナ。黒髪の天使プレア。故郷においてリーヴァルディと縁の深かった娘たちであり、彼女を救い、彼女を導き、彼女を護って――生贄となり、死後も異端の神の代行者として、呪わしき運命に囚われていた娘たちだ。

「"二度死んだ"記憶を持つというのは、不思議な感覚ですね」
「二度、どころでは無いのかもしれませんけどね」
「……二人とも、代行者だった時の記憶が?」
 リーヴァルディの問いに、ええ、と頷く娘たち。生前からの呪縛によってオブリビオンと化し、行き過ぎた繁栄や救済を人々にもたらす脅威となっていた彼女たちは、他ならぬリーヴァルディの手によって討伐されている。
 彼女たちを束縛する"代行者の羈束"はすでに破られた。その証拠のように、目の前に立つ二人からオブリビオンの気配は感じない。
「あなたが、私達を解き放ってくれた」
「感謝しています、心から。言葉ではとても表せないくらい」
 そう言ってリーヴァルディの手を取る二人の肌は、柔らかくて、暖かくて。その温もりは、かつての三人での日々をありありと彼女に思い起こさせる。

「ねえ、リーヴァ。あなたさえ良ければ、ここで三人一緒に暮らしませんか?」
「プレアと一緒に話していたんです。今は何もない村だけど、ここをもっと豊かな所にしたい、と」
 プレアとラグナは、微笑みながらリーヴァルディの手を引く。彼女たちが語る言葉は、生前の望みと誓いのまま。
「苦しんでいる人々を救けて、ここに人を集めて……」
「沢山の人々の笑顔に溢れた、繁栄の地を築きたいのです」
 人々に繁栄を、世界に救済をもたらしたいという、切なる願い――一度はオブリビオンと化して歪んでしまった想いも、今はただ純粋なままに。
「「かつての誓いを、もう一度、共に」」
 それが伝わってくるからこそ、リーヴァルディの胸は締め付けられる。ここに居る彼女たちは死者なのだと、分かっている筈なのに。

 ――それでも、この手は振り解かなければならない。そう強くリーヴァルディに決心させたのは、背後から近付いてくる聞き慣れた足音。
「……二人とも、私、大切な人が出来た」
 ぽつりと呟いた彼女に、二人は首を傾げる。それは誰? と。
「芦屋晴久。うん、大切な恋人……」
 すぐ後ろで、彼も話を聞いているのが分かる。少し恥ずかしい――でも一度口を開けば、言葉は自然に溢れてきた。
「その人は、私達よりも……私達との誓いよりも大切な方なのですか?」
「……ん。貴女達から受け継いだ誓いを忘れた日は無い。人類に今一度の繁栄を。そしてこの世界に救済を……」
 異端の神の代行者と成り果ててさえ、二人が叶えようとしていた願い。二人から託された誓いは、今もリーヴァルディの胸に宿っている。変わったのは、その誓いを背負う彼女自身の意志。
「……今までは重い枷のようだったのに。……晴久が一緒に誓いを果たしてくれるなら、どんな険しい道だって何とかなる気がする」
 自分はもう、一人ではない。孤独にすべての重荷を抱える必要はない。支えてくれるかけがえの無い人ができたから。
「……だから、ここで止まる気は無いの。さよなら、二人とも」
 静かな訣別の言葉と共に、リーヴァルディは死者たちの手を振り解いた。

「……死人が出過ぎたことを言いましたね、プレア」
「ええ、ラグナ。どうやら私達が出る幕はもうないようです」
 別れを告げられた娘たちは少し寂しそうに、だがそれ以上に安心したような表情を浮かべる。
「強くなりましたね、リーヴァ。力も、技も、心も」
「……ありがとう、プレア」
 かつて、この身に流れる吸血鬼の血の力の使い方と責任を教えてくれたのはプレアだった。師とも呼べる彼女からの賛辞に、リーヴァルディの胸は熱くなる。
「あなたが晴久さんですね。リーヴァのこと、よろしくお願いします」
 ラグナにそう告げられた晴久は、すっとリーヴァルディの隣まで進み出ると、帽子を胸に当て一礼する。
「聖女ラグナに天使プレア、彼女から話は聞いております」
 彼が彼女たちにできる事は無い、それは死者であり残滓でしかないのだから。故にこそ彼は祈る、彼女たちがオブリビオンから解放され無事に天に還った事を。
 その祈りを聞き届ける者が、天か神かは知らないが。少なくとも聖女と天使は、彼にも優しく微笑んだ。

「ここに居る私達は幻。ですがこの村には、幻に誘われ魂を囚われてしまった人達が大勢います」
「どうか解き放ってあげてください。猟兵である貴女達の力で」
「……ん。任せて」
 二人の願いにしっかりと頷いて、リーヴァルディは左眼の聖痕を輝かせる。【代行者の羈束・断末魔の瞳】――名も無き神より与えられし怨霊喰らいの力を介して、この地に囚われた魂を取り込み、幻惑の呪詛を打ち破る。
 断末魔の瞳に見つめられた聖女と天使の姿は風に溶けるように薄れて消えていく。その最後の瞬間、彼女たちは言った。
「忘れないで、リーヴァ。私達との誓いを」
「私達はいつだって、貴女を見守っていることを――」

「人類に今一度の繁栄を」
「この世界に救済を」
「「そして貴女に祝福を!」」

 ――消え去った二人のいた場所を、リーヴァルディは暫くの間、じっと見つめていた。やがて晴久が彼女の肩にそっと手を置くと、少女はゆっくりと首を振る。
「……大丈夫。進もう、晴久」
「ええ」
 断末魔の瞳が取り込んだ魂の視た記憶。その景色を視ることでリーヴァルディはこの村の情報を収集する。同時に晴久はこの地の龍脈……大気の流れを読む。
 これだけ強い呪詛や魔力に満ちた地なら、気の流れに反応がある筈。それも恐らくは常時何処かに異変があると見た晴久は、龍脈の流れに沿ってその異変の中心点を探り出す。
 ――二人の霊視の力は、村外れのある方角から、強い異変を感じ取っていた。

「……ところで。晴久の大切な人は何処に?」
 足早に異常を感じる方角へと向かう途中、ふと気になったリーヴァルディが問いかける。対する晴久は静かに首を横に振ることでその答えとする。
「会わずに済んで安堵するとは……世話ないですね私も」
 自嘲するような呟きを聞いたリーヴァルディは、隣を歩く彼の手をそっと握る。サングラスの下の目を丸くした晴久は、少し緊張、あるいは照れたような彼女の横顔を見て。
 ――想いは言葉にせずとも伝わった。吸血鬼狩りの少女と陰陽医師は、共に支え合いながらこの村の闇に迫っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『シラナイトモダチ』

POW   :    花冠
自身の装備武器を無数の【貴方を求める花(イオノプシス)】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    ゲイザーアイ
【貴方の知らない面影(視線)】を向けた対象に、【不可視の絞めつけ】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    メモリージャック
全身を【貴方の大切に思う面影(幻影)】で覆い、自身が敵から受けた【感情】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠弦月・宵です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――その時、村に起こった異変は、唐突であり、必然であった。
 村を訪れた者たちの思い出より生じた死者の幻は、次々と霞と塵となって消え去り。残された村人はその正体を――骨と皮ばかりの躯で彷徨う亡者の姿を曝け出す。
 村を包んでいた幻惑の呪詛が、剥がれかけている。偽りのヴェールを脱いだ村の本当の姿は、何ということはない、朽ちて果てた廃村の残骸でしかなかった。

 忘れがたき死人の噂と幻で生者を招き入れ、命と心を喰らう死人の村。その呪いのシステムを打ち破る手段は、明らかになってしまえば単純だった。
『強い意志と心で、幻の誘いを否定する』
 ――言葉にすればシンプルだがそれ故に困難な事を、猟兵たちは成し遂げた。その結果、完全だった筈の村のシステムには揺らぎが生じていた。

 その時、これまでは分からなかったオブリビオンの気配を感じ取り、猟兵たちは駆けつける。そこには調査の結果いち早くその場所に辿り着いた猟兵の姿もあった。
 重く陰鬱な空気の漂う、朽ち果てた墓標の立ち並ぶ墓地。そこに居たのは、桜色の髪と衣が特徴的な、一人の少女だった。

「――どうして、拒むの?」

 やって来た猟兵たちにその少女は問いかける。知らない筈なのに、なぜか心の奥底の郷愁に訴えかける、不思議な声で。

「ワタシはあなたのトモダチ。求めるならコイビトにもカゾクにもなれる。ココはワタシの作った楽園。ココでなら、みんな大切な人たちとずっと一緒にいられるのに」

 ――その対価が命と魂の尊厳でなければ、それは素敵な提案だったかもしれない。
 だが事実は一つ。このオブリビオンはこれまでにもずっとこうして、人々のかけがえの無い思い出を利用して、その生命を奪ってきた。
 ここで死人の村を終わらせる。決意と共に戦闘態勢を取る猟兵たちの前で、オブリビオンはゆっくりと幻影を纏い始めた。
カノン・チェンバロ
──拒んだからじゃない、受け入れているからだよ
大切な人の死した過去を、死した事を
死した事を否定するのは、死者を蔑ろにする行為だ
夢見た彼は現在の人じゃなく、あなたは彼じゃない
だから、あなたとはトモダチになれない
それが純粋たる善意だったとしても

私は武器を振るえないから他のみんなの癒しに尽力する
猟兵のみんなに光を届けよう
これらの想いを歌にして
どれほどだって癒しの力を傾けよう

花びらに憧憬を覚えても、心を締め付ける面影をそこに見ても
幻影が暴かれたこの景色のように、その中には何もない
オブリビオンへ語りかけよう
過去は過去に還すんだ、だからあなたも骸の海へお還り
私もいつか最期には、同じ場所へ辿り着くから──と


ボアネル・ゼブダイ
トモダチ…そのような甘言で生者の祈りを食い荒らし
あまつさえ己の欲のままにその生命すら弄ぶか

フランマ・スフリスで敵を攻撃
早業で避ける間もないほどに攻撃のラッシュを与える
敵の反撃は見切りでいなしてからカウンターで追撃

本来ならば、この村に彷徨う亡者達を神の元に送るのが私の役目でもあるが…
彼らのために祈りを捧げるのは、貴様を在るべき場所へ送り還してからだ

敵が花冠を発動したらこちらもUCを発動
花びらに蝙蝠達をぶつけてこちらへの被害を散らし
武器を身に纏ってない敵本体を狙って攻撃する

消え去れ、過去から来た異端の者よ
貴様の罪は何を持っても贖えるものではない
骸の海で、永劫に己の罪と眠るがいい

連携・アドリブOK



「トモダチ……そのような甘言で生者の祈りを食い荒らし、あまつさえ己の欲のままにその生命すら弄ぶか」
 多くの命が奪われた元凶と遂に対峙したボアネルの眼には、静かな怒りがあった。彼の手にした魔剣「フランマ・スフリス」はそんな使い手の内なる激情を体現するが如く、その刀身に炎を宿す。
「本来ならば、この村に彷徨う亡者達を神の元に送るのが私の役目でもあるが……彼らのために祈りを捧げるのは、貴様を在るべき場所へ送り還してからだ」
 人々を蹂躙し、神を冒涜する呪われし異端を葬るべく、朽ちた戦場を彼は駆ける。

「ボアネル……」
 怒れるダンピールと対峙する少女は、彼の思い出を読み取り、大切に思うヒトの幻影をその身に纏う。現れたのは蛇の意匠持つ黒剣を携えた吸血鬼。ボアネルの父の姿を借りたオブリビオンは、優しい声で彼に呼びかけながら刃を振り下ろす。
「貴様が私の父を愚弄するな」
 怒りの火に油を注がれながらも、思考は冷静に。幻影の太刀筋はかつて目にした父の剣技と同じ、ならばこそ見切ることは可能。
 偽りのグルーラングの刃をフランマ・スフリスでいなした直後、ボアネルは反撃へと転じる。戦場の薄闇に炎の軌跡を描き、息すら吐かせぬ斬撃と刺突の連撃を。
 避ける間もない猛ラッシュを浴びた幻影の父は切り裂かれ、再び正体を晒した少女の身体から血飛沫が舞う。

「――どうして、拒むの」
 遭遇時と同じ問いを繰り返しながら。傷を受けた少女は痛みよりも困惑を表情に浮かべながら、頭の花冠にそっと触れる。すると、ぱっと弾けた花冠は無数のイオノプシスの花弁に変わり、渦を巻いて吹きすさぶ。
 それは幻想的で美しいが、触れた者の命を吸い取る死の花吹雪だ。

 花弁の渦に囲まれたボアネルはさっと剣を掲げて詠唱を紡ぐ。
「古き血で繋がれた眷属達よ、混沌の扉を抜け、我の前に立つ愚かな敵を喰らい尽くせ!」
 召喚に応じた【闇夜の眷属】――鋭く大きな牙を持つ巨大蝙蝠の群れは花吹雪と激突し、その黒翼と牙で花弁を引き裂いていく。だが、それでも全ての花弁を迎撃することは叶わない。
 イオノプシスはまるで限界を知らぬように戦場に咲き乱れ、猟兵たちの命を削る。少女がこれまでに奪ってきた命や感情。それが彼女の力を増幅させているのだ。

「不味いな……」
 じわじわと花弁に蝕まれながらも、どうにか突破口を開かんとするボアネル。そんな彼の後方からふいに届いたのは、静やかで美しい癒やしの歌声だった。
『――拒んだからじゃない、受け入れているからだよ。大切な人の死した過去を、死した事を』
 想いを歌に変えて【シンフォニック・キュア】を奏でるのはカノン。武器を振るう術を持たない彼女の戦いは、他の仲間達の癒やしに尽力することだ。
『死した事を否定するのは、死者を蔑ろにする行為だ。夢見た彼は現在の人じゃなく、あなたは彼じゃない』
 戦場に響く癒やしの歌声。そこに込められた想いは、死者を弄んだオブリビオンへの決別と否定。優しく、哀しく、力強い響きをもった調べが、花弁に蝕まれた者の傷を癒やしていく。
『だから、あなたとはトモダチになれない。それが純粋たる善意だったとしても』
 カノンの旅はまだ終わらない。立ち止まる時は今ではない。彼女にはまだ、未来があるのだから。

「……一緒に来てくれないのかい」
 癒やしの調べを歌うカノンにも死の花吹雪を襲わせながら、オブリビオンは今度は金髪の青年の幻を纏う。幻影の言葉には生命力吸収能力があり、その声に心を乱した者から奪い取った感情と生命力に比例して、オブリビオンのは戦闘力は増強される。
 しかしカノンは舞い散る花弁に憧憬を覚えても、心を締め付ける面影をそこに見ても、歌を止めはしなかった。
 朽ち果てた村と墓地を見る。幻影が暴かれたこの景色のように、その中には何もないと分かっていたから。
『過去は過去に還すんだ、だからあなたも骸の海へお還り。私もいつか最期には、同じ場所へ辿り着くから──』
 命蝕む花弁と幻影の主に語りかけながら、カノンは猟兵の皆に癒やしと光を届けるために、たとえ自らが傷つこうとも癒やしの力を傾け続ける。

 死の花吹雪と癒やしの歌が拮抗する戦場――そこで一歩踏み込んだのはボアネル。
 敵の攻撃の目標が分散したことで自身への圧が弱まり、前に出る好機を見出した彼は、眷属に道を切り開かせながら一気に敵との距離を詰めた。
「消え去れ、過去から来た異端の者よ。貴様の罪は何を持っても贖えるものではない」
 花弁を展開している間、オブリビオンの本体は一切の武器を身に纏っていない無防備な状態だ。振り下ろされる剣を止める術は何もない。
「骸の海で、永劫に己の罪と眠るがいい」
 炎を纏った黄金の刃は、異端の血を啜るごとに輝きと切れ味を増し。初撃のラッシュを上回る鋭い斬撃が、オブリビオンを深々と斬り裂いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴェルベット・ガーディアナ
ボクに言えるのはその人が本物ではないから…
そして人は変わっていくものだから、かな?
変わらない思いが正しいこともあるかもしれないけれど変わっていく思いも間違いではないのだと…。

もう、こんな虚しいだけの事は終わりにしよう。誰かを亡くした別の誰かが訪れることが無いように…。

もう、師匠と踊ることは出来ないけれど。クリムローズ、ボクと一緒に踊って。
さぁ、姉妹人形の麗しきダンスをご覧あれ…!

【属性攻撃】炎と氷を人形それぞれが分担しながら攻撃。【おびき寄せ】て【二回攻撃】。

通常攻撃には【オーラ防御】をしつつ【見切り】
敵UCには【オペラツォン・マカブル】

アドリブ連携歓迎です。



「わからないわ、ワタシには」
 "死"も"生"も関係なく。ここに居れば大切な人との"永遠"が得られるのに、どうしてそれを拒むのか。己に刻まれた傷を理解できないといった表情で見下ろしながら、オブリビオンの少女は呟く。
「ボクに言えるのはその人が本物ではないから……そして人は変わっていくものだから、かな?」
 それに一つの答えを返したのは、ヴェルベット。師匠と死別したあの日からも、成長と言う名のたゆまぬ変化を続けてきた彼女だからこそ言える、その言葉。
「変わらない思いが正しいこともあるかもしれないけれど、変わっていく思いも間違いではないのだと……」
 確かなのは、そのどちらの思いも大切で、尊重されるべきものだということ。
 ならばやはり、一方的に不変の永遠のみを押し付けるこのオブリビオンは、討つべき存在でしかない。

「キライだわ、あなたたち。トモダチだけど、カゾクだけど、キライ」
 少女の目つきが不意に鋭くなる。郷愁をかきたてる穏やかな眼差しから、はっきりとした敵意を感じる視線へと。それに捉えられたヴェルベッドの身体を、不可視の締め付けが襲う。
「もう、こんな虚しいだけの事は終わりにしよう。誰かを亡くした別の誰かが訪れることが無いように……」
 強い決意をその眼に宿し、息苦しいほどの拘束をぐっとこらえながら、少女は人形の糸を手繰る。右手で操るのは白のシャルローザ。そして左手で操るのは――。
「もう、師匠と踊ることは出来ないけれど。クリムローズ、ボクと一緒に踊って」
 赤い瞳を持つ黒の人形。動かないはずのその表情が、ヴェルベットには一瞬、微笑んだように見えた。
 良い人形は遣い手に応える。糸から伝わる想いのままに人形たちは軽やかに踊る。
「さぁ、姉妹人形の麗しきダンスをご覧あれ……!」
 死人の村をステージに、オブリビオンと猟兵と人形のショータイムが始まった。

「行って、シャルローザ」
 先に接敵したのは白の人形。舞い踊るその腕や脚には氷の魔力が宿り、凍てつく冷気をオブリビオンの少女に浴びせる。花をしおらせ骨身に染みる寒気に嫌悪の情を示した少女は、さっと腕を振るって人形を叩き落とそうとするが、ヴェルベットは巧みな操作でシャルローザを後退させ、紙一重の見切りで攻撃を躱す。
「操り人形に用はないわ」
 苛立ちを隠そうともせずに追撃するオブリビオン。ひらりひらりと舞いながら、紙一重で攻撃を避け続けるシャルローザの動きが、誘いであるとも知らずに。
「今だよ、クリムローズ」
 格好の位置までおびき寄せられた少女の死角、朽ち果てた墓標の陰からさっと飛び出したのは黒の人形。妹とは対照的に炎を纏ったダンスを披露する彼女は、素早い手刀と蹴りの連撃を少女に叩き込む。
 桜色のドレスが焼け焦がされ、小さな悲鳴が上がる。思わぬ不意打ちを食らったオブリビオンは火傷をかばいながら敵意の視線を人形遣いに向けて。
「ダイキライ!」
 その瞬間、身体を捩じ切られそうなほどの強い締め付けがヴェルベットを襲う。人形の操作も続けられず、オーラによる防御で潰されないよう耐えるのが精一杯。
「はやく死んで、ワタシのトモダチになってよ!」
 息が苦しい。骨が軋む。肺と心臓が押し潰されそうだ。なおも強さを増す締め付けに、もうこれ以上は耐えられないと思った時――ヴェルベットはふっと体の力を抜いた。

 オペラツィオン・マカブル。完全な脱力状態で敵のユーベルコードを受けることで、その力を相手に返す、人形遣いのユーベルコード。
 敵の力が最大になるタイミングでそれを発動させたヴェルベットは、締め付けが無力化された瞬間に姉妹人形の糸を掴み直す。
 立ち上がった人形の、青と赤の瞳から。発せられた視線による締め付けは、今度はオブリビオンを襲う。
「これでフィナーレだよ」
 動きの止まった少女へと繰り出される、氷と炎のダンス――姉妹人形のダンスは華麗かつ確実に、オブリビオンの力を削いでいく。

成功 🔵​🔵​🔴​

モリオン・ヴァレー
死者との逢瀬が叶う村
夢見る程大切な存在だったのならそのままいればよかった、とでも?

何故拒むか?
『夢』だと気が付けたから。それだけだと不十分かしら?


<オーラ防御>締め付けには重力の護りで対抗を
【サイレント・ホーネット発動】
<暗視><情報収集<属性攻撃><マヒ攻撃><毒使い>
右眼からの情報を元に針を展開
そんな他者を蔑む視線、タルクは決して向けなかったわ……
<誘導弾><目潰し><スナイパー>狙うはその忌々しい目よ

<殺気>ふざけるのもいい加減にしなさい
タルクは辛い入院生活でも決して諦めなかった
とても優しい自慢の弟だった
何も知らないあなたが、あたしの弟を語らないで


本当……この世界は理不尽に満ちているわ



「死者との逢瀬が叶う村。夢見る程大切な存在だったのならそのままいればよかった、とでも?」
 わからない、なぜ、とばかり繰り返すオブリビオンの少女に、モリオンは冷たく問いを返す。
「そうよ。ワタシはみんなの夢を叶えているのに。あなたたちは何故――」
「何故拒むか? 『夢』だと気が付けたから。それだけだと不十分かしら?」
 眼帯を外し、黒眼の義眼で討つべき標的を視る。彼女には、夢に浸るよりも大事な誓いがある。他社を癒やす筈の医術の技と信念を捻じ曲げてでも、故郷と家族の復讐を果たすという誓いが。

「あなただって、今も夢を見てるじゃない。現実という、悪夢を」
 あくまで自身の見せる夢を拒絶する相手に、少女は冷たく蔑むような視線を向ける。拒絶の意思が物理的な力になったかのように、不可視の締め付けがモリオンを縛る。
 しかしモリオンは動じない。身に纏う黒衣「礼装ファントム」に自らの霊力を通すと、発生した重力波の鎧が不可視の力と拮抗し、肉体の自由を取り戻させる。
「そんな他者を蔑む視線、タルクは決して向けなかったわ……」
 眉をひそめながらも右眼の義眼を介し、周囲の霊力情報を解析。敵に向かう霊力の流れに沿って、隕鉄を加工した「鋼針ギべオン」を展開する。
 念力によって宙を舞い、四方八方から襲いかかる幾本もの針。その一本一本から驚異を感じた少女は、ドレスを振り乱し回避に徹する。
 だがモリオンは逃さない。綿密な情報解析から計算された針の展開は、標的から逃げ道を奪い――最後に放たれた一本の針が、少女の右眼を刺し貫く。
「―――ッ!!!?」
 声にならない悲鳴が上がるのと同時に、モリオンを締め潰さんとしていた不可視の力がふっと消えた。

「ッ、が……これは、毒……?」
 よろめきながら針を引き抜いた少女の眼窩からは、どろどろと濁った色の血涙が溢れる。その右目がもはや使い物にならないのは明らかだろう。
「あなたの、弟が……これを見たら、どう思うかしら。あなたのこと、キライになるかも」
 激痛に表情を歪めながら、血に染まった毒針を手に問いかける。かつては人を、弟を助けるために磨かれていたはずのそれを。
 モリオンは何も答えない。少女は残った左眼で嘲るようにじっと彼女を見つめながら、なおも言葉を紡ぐ。
「あなたが血塗られた道を歩む限り、あなたの弟はおいてけぼり……ほら、聞こえてこない? 辛い、苦しい、助けてって声が――」
「ふざけるのもいい加減にしなさい」
 その時モリオンから発せられた殺気は、数多の命と感情を弄んできたはずのオブリビオンさえ、心の底から震え上がらせるのに十分なものだった。
「タルクは辛い入院生活でも決して諦めなかった。とても優しい自慢の弟だった。何も知らないあなたが、あたしの弟を語らないで」
 逆鱗に触れたのだと理解した時にはもう遅く。いつの間にか再展開されていた毒針が、全方位から少女に襲いかかった。

「い、ぎ、あぁァァァァァ……ッ!?」
 針鼠のように穿たれながら絶叫する少女から、もはや見るに堪えないとばかりに背を向けて。
「本当……この世界は理不尽に満ちているわ」
 噛み締めるように、モリオンはそう呟くのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フレミア・レイブラッド
一つだけお礼を言っておくわ…。幻とはいえ、母様と会わせてくれた事には、感謝するわ…。
でも、過去との再会は終わりよ。
貴女が幾ら成り代わろうと、それは決して本物じゃない。
偽りの楽園を利用した企てはもう終わりなのよ。

【念動力】で動きを束縛し、敵の攻撃を【見切り】と【残像、ダッシュ】により回避し、【力溜め】で全魔力を集中した【神槍グングニル】で一気に仕留めさせて貰うわ…幻影とはいえ、母様の姿を使われたりしたら、流石に戦い難いものね…それでも刃を止める事はしないけど。

母様とはあの時、そして先程別れは済ませたのよ…3度目は無いわ。

消し飛ばした後は…まぁ、少し感傷に浸りたい気分ね…。


雛菊・璃奈
貴女は友達でも家族でも無い…。
貴女は単に幻影を見せて成り代わっただけ…。本物じゃない…。
そして…多くの人達の大切な人を利用した貴女を、わたしは許さない…。

「偽者!」
「おねえさんじゃない!」
「ご主人泣かすな!」

ラン達は【暗殺】による暗器での遠距離攻撃で支援をお願い…。


黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い】で花冠の花びらを吹き飛ばし、視線を受けない様、相手の動きを【見切り、第六感】で回避しつつ【ダッシュ】で接近…。
【呪詛、衝撃波】を纏った凶太刀、神太刀の【早業】高速斬撃で斬り裂くよ…。
最後は【呪詛】で極限まで強化した【unlimitedΩ】による一斉斉射でこの死者の村を…全てを終わらせるよ…!


トリテレイア・ゼロナイン
(宇治田 希の面影を少女に見出し)
…今度の約束は果たしてみせますよ

肩部の格納銃器を全展開、UCの焼夷弾を●スナイパー技能で花びらに当てるように連射し、燃やして迎撃

●怪力で振るう●武器受けと●盾受けで振り払いつつ、舞い散る花弁と燃え落ちる炎の華の中を突破し、剣で刺し貫きます

(普段不要として凍結していた●世界知識を解凍)
イオノプシス……花言葉は「美しい人」
確かに思い出の中の大切な人々はいつまでも美しいまま
亡くしてしまったその美しさを与えるのも優しさかもしれません

ですが、『喪失の哀しみ』も大切な人が与えてくれたもの
それを抱きしめて歩むこと、それが私の『生』です

離別の送り火の中で、再びの「さよなら」を


ニュイ・ルミエール
飛び立つ為の羽を捥いで
思い出で編まれた幻想の鳥籠の中
羽毛のベッドに包まれていたい

大切な人と死ぬまで一緒に

嘘だっていい騙されてたっていい
会いたい、話したい

その願いを
否定出来ないの

だってね、おねーちゃん

にゅいだってそう思ってるから


うん。でも、ね
ここには、ずっと居られないんだぁ
約束、しちゃったから

美味しいものを食べて
綺麗なものに感動して
もっと遠く、もっと多く
空と海を
世界さえ超えて
何処までも翔んでかないとならないの

だって
にゅいは先生の翼だから

一緒に羽ばたかないと
怒られちゃうのっ♪


おねーちゃんが先生と会わせてくれた事
にゅい、絶対に忘れないよっ?
本当にありがとう!


だから、ね………もう、行くの

──バイバイ。


芦屋・晴久
リーヴァルディと連携

大詰めです、行くと致しましょうリーヴァ

こちらを間接的に攻撃してくる物が多い……なれば初手はこれの妨害と行きますか
呪詛を込めた祈りにて相手の纏う幻影を祓い飛ばします

同時にリーヴァの属性攻撃を援護致します
四神創奏、今この地に漂っている村の残骸……偽りの世界を形成していた闇の力の残滓をこちらも利用させて頂きます

大事な者に会えた喜びは否定致しません、逢えない筈の者との邂逅で何かを得る物も有り得ましょう
然して死んだ者は戻ってきません、リーヴァが会った二人も幻影に過ぎない
魔術師としては認めても

芦屋晴久…医師を名乗る者として生命の流れを冒涜する者は許して置く訳には行かないのです
疾く消えよ


リーヴァルディ・カーライル
芦屋晴久と連携

…ん。彼女達にもう一度逢わせてくれた事は感謝する。
だけど、貴女をこのままにはしておけない…。
…これで最後よ。いこう、晴久。

敵の動きを見切り、攻撃を武器で受け流して
吸血鬼化して【血の教義】を二重発動(2回攻撃)
大鎌に“過去を世界の外側に排出する闇”の力を溜め、
傷口を抉るような闇の反動を激痛耐性で耐える

怪力の踏み込みからダッシュで敵に接近
二人の面影(残像)を暗視したら心中で祈りを捧げ、
敵の生命力吸収を呪詛耐性で弾きつつ大鎌を振るい、
“闇の奔流”による闇属性攻撃でなぎ払う

…ごめんね、晴久。少しだけ、胸を貸して。
ありがとう二人とも。忘れたりなんてしないわ。
どうか、彼方から見守っていて…。



「あぁァァァァァ……なん、で、どうし、て」
 毒針の雨が止んだ後、そこに立っていたのは満身創痍のオブリビオン。右目は針に穿たれ、全身には火傷と凍傷。腹に負った深手から血は止まらず、体内は闇を滅する猛毒に侵されている。
 なぜこうも追い詰められているのか、少女には理解できなかっただろう。自らが、決して穢してはいけない他者の領域を踏みにじったのだという実感など、彼女には露程もありはしない。
「なんで、なんで、なんで、なんでなんでなんでなんで……!」
 窮地に陥ったオブリビオンから発せられるのは、これまでを上回る強大な呪詛と魔力。それは死力を振り絞るというよりは、むしろ暴走に近い。
 少女の身体が再び幻影に覆われる。穏やかな母親。優しい姉。囚われの少女。籠の中の姫君。聖女と天使。これまでに猟兵の前に現れた死者たちの姿へと、次々に切り替わる。

「一つだけお礼を言っておくわ……。幻とはいえ、母様と会わせてくれた事には、感謝するわ……」
 目まぐるしく変わる幻影の中に再び母の面影を見たフレミアは、それだけは偽りのない思いを伝え、でも、と続ける。
「過去との再会は終わりよ。貴女が幾ら成り代わろうと、それは決して本物じゃない。偽りの楽園を利用した企てはもう終わりなのよ」
「終わ、り……?」
 面影纏うオブリビオンは、吸血姫の言葉に呆然と呟き――その直後。
「終わらない。ワタシの楽園は終わらない! ずっと、ずっと永遠に! ワタシはあなたたちのトモダチであり続けるんだから!」
 火がついたような感情の爆発と共に、弾け飛んだ花冠はイオノプシスの花弁の嵐となり、村全体を覆い尽くさんばかりに広がりながら、あらゆるものへ無差別に襲いかかった。

 大地を、墓標を、朽ちた家屋を抉り取りながら、呪詛を纏って吹き荒れる花弁。
 その流れを見切り、捕まらないように駆け回りながら、フレミアは念動力を飛ばして少女の束縛を試みる。だが彼女が捕らえるまでもなく、敵はその場から動こうとしない。花弁に集中しているのか、あるいはもう動き回るだけの余力がないのか。
 いずれにせよ、この花弁の嵐をどうにかしない限り、フレミアも攻撃に転じる暇がないのは確かだった。
「どうしたものかしらね……」
「なら、ここはお任せください」
 疾走するフレミアと花弁の嵐の間に割って入ったのはトリテレイア。視界を埋め尽くさんばかりのイオノプシスに対し、彼が展開したのは肩部の格納銃器。一斉射で放たれた【超高温化学燃焼弾頭】が、着弾と同時に花弁を焼き尽くす。
 それでも途切れることなく押し寄せる花弁は、ウォーマシンの怪力で振るう儀礼剣と大盾で振り払い、騎士は後方の安全を確保する。
「今のうちです」
「わかったわ」
 振り返る暇もない騎士に頷くと、フレミアは魔槍に自らの魔力を集中し始める。求めるは全てを滅ぼす最大全力の一撃。あのオブリビオンを確実に貫くための一投。

「死んで、早く早く早く死んで、ワタシのトモダチになってなってなって……!」
 幻影が切り替わるたびに、少女の声がブレる。紡がれる呪詛は花弁の勢いをさらに増幅し、迎撃するトリテレイアごと猟兵たちを飲み尽くさんとする。
 焼夷弾を連射しても迎撃が追いつかず、じり、と騎士が半歩後退しかけた時、前線に加わったのは呪槍を構えた璃奈。
「呪力解放……咲き乱れて、黒桜……!」
 振るった槍の穂先から放たれた黒い桜の花弁の様な呪力が、イオノプシスの花弁を吹き飛ばす。圧が弱まったタイミングを逃さず、トリテレイアは残された焼夷弾を一斉発射。
 払われた花弁の先に、オブリビオンへと続く道が出来る。ほんの数秒もあれば再び花弁で埋まってしまうであろう活路。このチャンスを猟兵たちは逃さない。

 璃奈は呪槍を置いて、凶太刀、神太刀の二振りの妖刀へと得物を持ち替えると、凶太刀の持つ加速の呪力を発動させる。
「来ないで……!」
 少女が向けるのは冷たい拒絶の視線。だが、凶太刀を握った璃奈のスピードは音速さえ超える、文字通り"目にも留まらぬ"領域。その眼差しに宿る不可視の力を既に知っている彼女は、巧みに視線を躱しながら敵に肉薄――そのまま駆け抜ける。
「――――!!」
 直後、咲き乱れたのはオブリビオンの身体から散る鮮血の華。一瞬の交錯の間に振るわれた二刀の高速斬撃は、斬られた本人さえ気付かせない。
 ふらり、とよろめいた少女が直後に視界に捉えたのは、剣と盾で舞い散る花弁と燃え落ちる炎の華を突破し、スラスターで急速接近するトリテレイアだった。
「……トリテレイアさん。私、は」
 オブリビオンの纏う面影が、一瞬だけ宇治田 希のものへと変わる。その表情は、泣いているようでもあり、笑っているようでもあり。
「……今度の約束は果たしてみせますよ」
 誓いと共に握りしめられた剣が、少女の胸を深々と刺し貫いた。

「――あ、あぁァァァァァ……ッ、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い……助け、て」
 希の幻影が消え、花弁の動きが止まる。よろよろと歩くオブリビオンは、今度は璃奈の姉、桜花の幻影を纏う。
「璃奈……お願い、助けて……私達、家族でしょう……?」
 思い出のままの微笑みを浮かべながら、血まみれの手を璃奈に伸ばす幻影――だがその時、横合いからカカカッと三本の暗器がオブリビオンに突き刺さる。
「偽者!」
「おねえさんじゃない!」
「ご主人泣かすな!」
 全身でぷんすかと怒りを表現する、ラン、リン、レン。メイド人形たちの援護を受けた璃奈はさっと姉の幻から距離を取りながら刀を鞘に納める。
「貴女は友達でも家族でも無い……。貴女は単に幻影を見せて成り代わっただけ……。本物じゃない……」
 そして幻ではない、本物の魔剣の巫女としての力を、解放。妖刀、呪槍、魔剣――全ての呪われし武器から呪力を引き出し高めながら。
「そして……多くの人達の大切な人を利用した貴女を、わたしは許さない……」
 求めるは無限の呪刃。この死者の村に終焉をもたらすための一斉射。

「う……うぅぅ、あぁ……!」
 高まっていく力の波動に、少女が浮かべた表情は、恐怖。数多の命を奪い続けてきたオブリビオンは、自らの目前に迫った"死"に対し、死に物狂いの抵抗を始める。
「ワタシは……あなたたちの大切なヒトとの……楽園を、作ってあげたのに……っ!!」
 再び目まぐるしく変わっていく幻影を纏い、これまでに奪った全ての命と感情を力に変換し、戦闘力を増強する。それは正真正銘、彼女の最後の抵抗だった。

「……ん。彼女達にもう一度逢わせてくれた事は感謝する。だけど、貴女をこのままにはしておけない……」
 死人の村の主に向けてそう語りかけたのは、リーヴァルディ。その手には、死者の想念を喰らう漆黒の大鎌「過去を刻むもの」が握られている。
「……これで最後よ。いこう、晴久」
「ええ。大詰めです、行くと致しましょうリーヴァ」
 リーヴァルディの戦いを、先んじて晴久が符を放ち援護する。三之式・四神創奏――今この地に漂っている死人の村の残骸、すなわち偽りの世界を形成していたオブリビオンの闇の力の残滓を陰陽の技にて制御し、逆に利用する。
「……限定解放。テンカウント。吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに……!」
 晴久が制御した闇の力も借りて吸血鬼化するリーヴァルディ。発動するのは【限定解放・血の教義】の二重発動。過去を世界の外へと排出する、自然の摂理としての"闇"の力を大鎌に宿す。
 ただでさえ制御の難しい技、それも二重発動。かかる反動は並大抵のものでは無いが、リーヴァルディは悲鳴一つ上げず、傷口を抉るような闇の反動に耐えてみせた。

「いや、いや、いや……その力はいや……!」
 オブリビオンとしての本能が、過去を排斥するその力を嫌うのか。恐怖に顔を歪めながら、少女は聖女や天使の幻影を纏ってリーヴァルディの動揺を誘おうとする。
 だが、その幻影はまるでピンボケの写真のように、淡く揺らいで像を成さない。四神創奏と同時、晴久の放っていた呪詛の祈りが、幻影に干渉しその力を弱めていたのだ。
「大事な者に会えた喜びは否定致しません、逢えない筈の者との邂逅で何かを得る物も有り得ましょう。然して死んだ者は戻ってきません、リーヴァが会った二人も幻影に過ぎない」
 ぼやけた幻を纏う少女に、淡々と語りかける晴久。その胸に宿るのは、決して譲れぬ一つの矜持。
「魔術師としては認めても、芦屋晴久……医師を名乗る者として生命の流れを冒涜する者は許して置く訳には行かないのです」
 疾く消えよ、と。彼の毅然とした宣告と、リーヴァルディが地を蹴ったのは同時だった。

「い、やだ。きえたくない……!」
 瞬く間に距離を詰めてくるリーヴァルディに対し、少女が向けるのは拒絶の凝視、ゲイザーアイ。捉えられればその身を締め付けられる不可視の力を、リーヴァルディは大鎌に宿した闇の力で遮る。
 視線を向けた者を対象とするユーベルコードならば、視線を通さなければいい。
 光を飲み込む闇の帳がオブリビオンの視界を遮る一方で、吸血鬼化したリーヴァルディの眼は闇を見通し標的を捉える。敵の纏うぼやけた幻影に、大切な二人の面影をかすかに視た彼女は、黙したまま心中で祈りを捧げ。
「くるな、くるな、くるなぁ……!」
 生命力を蝕む言霊を、呪詛への耐性で跳ね除けて。肉薄と同時に振り上げた大鎌の刃は、残された少女の左眼を縦一閃に斬り裂いた。
「あぁァァァァァ―――ッ!!!?」
 光を失ったオブリビオンの絶叫が、朽ちた廃村に響き渡る。
 花弁、幻影、視線――これで彼女は猟兵に抗う全ての力を失った。

「待たせたわね」
 まさにその時、魔槍へのチャージを行っていたフレミアの準備が完了する。吸血姫たる彼女の全魔力を集中した【神槍グングニル】――全てを滅ぼす神殺しの槍は、眩いほどの真紅の魔力光を放って、戦場を照らし出す。
「……幻影とはいえ、母様の姿を使われたりしたら、流石に戦い難いものね……」
 少女の纏うぼやけた幻は、もう誰のものかも分からない。もしかすればそれは母のものかもしれないが、それでも彼女に刃を止めるつもりはなかった。
「母様とはあの時、そして先程別れは済ませたのよ……3度目は無いわ」
「ひ……っ」
 怯えて後ずさろうとするオブリビオンを、もう一度しっかりと念動力で拘束し。鋭い眼差しで神槍の狙いをぴたりと定める。

「こっちも……」
 それと同時に璃奈が召喚を終えたのは、全てに終わりを齎す『終焉』属性の魔剣・妖刀の現身の数々。刃の一振り一振りまで呪詛の力で極限まで強化されたそれらは、全てオブリビオンにぴたりと切っ先を向けている。
「準備できた!」
「がんばれご主人!」
「ぶっとばせー!」
 メイド人形たちの声援にこくりと頷く魔剣の巫女は、静かな気魄を言葉に込める。
「これでこの死者の村を……全てを終わらせるよ……!」

「あ、あぁぁ、終わる、終わってしまう、ワタシの、永遠の楽園が――」
 慟哭するオブリビオンに向けて放たれる、三人の猟兵による幕引き。
「全てを滅ぼせ、神殺しの槍……。消し飛びなさい……! 神槍グングニル!!」
「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……立ち塞がる全ての敵に終焉を齎せ……! 『unlimited curse blades 』……!!」
「……カウントゼロ。過去を押し流す闇の奔流よ……全ての死者を鎮めよ……!!」
 投げ放たれた神殺しの神槍が、幻影の残滓ごとオブリビオンを深々と貫き。
 降り注ぐ終焉の魔剣が、村に残る全ての死者を、花弁を、オブリビオンを断ち。
 そして、大鎌より解き放たれた闇の奔流が薙ぎ払い――全てを骸の海へと帰していった。


 ――これで終わった。
 そう誰もが思った時、前触れもなく、まさしく忽然と"それ"は姿を表した。


「……! まだ生きているの……?」
 神槍グングニルの着弾により、大きく地形の変わったクレーターの中心。一度は消えたはずのオブリビオンの少女が、そこに立っていた。
 だが、様子がおかしい。これまでの戦いで受けた傷がすべて消えているばかりか、猟兵の姿を見ても何の敵意も示さない。ただそこにぼうっと立っているだけだ。
「……あれは幻影です」
 その正体に最初に気がついたのは晴久だった。恐らくは、この地に築かれていた呪詛――幻影を作り出すシステムが術者の死に際して誤作動を起こし、術者の影をこの地に"焼き付けて"しまったのではないかと。
 あくまで仮定に過ぎないが、少なくともこの少女が幻影である事は間違いないようだ。であれば術者本体が消滅した以上、いずれ消えゆく定めだろうが――。

 ――その時、クレーターの中に立つ少女に近寄ったのは、ニュイだった。
「飛び立つ為の羽を捥いで、思い出で編まれた幻想の鳥籠の中、羽毛のベッドに包まれていたい」
 心配する仲間に大丈夫、と手振りで伝え、彼女は滔々と目の前の幻に語りかける。
「大切な人と死ぬまで一緒に。嘘だっていい騙されてたっていい、会いたい、話したい――その願いを、否定できないの」
 それはオブリビオンが叶えようとした願い。そして、心弱き多くの人々が、その弱さ故に抱いてしまう切なる願い。ニュイにはその想いが痛いほど分かってしまう。切ないほどに、共感してしまう。
「だってね、おねーちゃん。にゅいだってそう思ってるから」
 たとえ猟兵でも、神に選ばれた聖者でも、安らぎを求める弱き心と無縁ではいられないのだから。

「……ワタシは、あなたのトモダチ。ここでずっと、いっしょにいよう? ワタシは、あなたのトモダチだから……」
 その時、ぼうっと立っているだけだった幻が不意に口を開く。壊れかけのオルゴールのように、同じことを何度も。それを聞いたニュイは寂しそうに微笑みを浮かべ。
「うん。でも、ね。ここには、ずっと居られないんだぁ。約束、しちゃったから」
「やく、そく?」
「うん」
 こくん、と頷く。それは、決して違えられない約束。鳥籠の中の安寧を望まなかった、先生との。
「美味しいものを食べて、綺麗なものに感動して、もっと遠く、もっと多く、空と海を、世界さえ超えて、何処までも翔んでかないとならないの――だって、にゅいは先生の翼だから」
 そう言って少女は翼を広げる。Et la lumiere fut――光あれ、と唱えながら、光と水でできた天使の翼を。
「一緒に羽ばたかないと、怒られちゃうのっ♪」
 それがニュイと先生の約束。この果てしない世界を、どこまでも自由に、共に羽ばたき続けること。それを忘れない限り――先生はきっといつまでも、ニュイの中に居るのだから。

「おねーちゃんが先生と会わせてくれた事、にゅい、絶対に忘れないよっ? 本当にありがとう!」
 心からの感謝と喜びを伝えながら、ニュイはそっと翼を羽ばたかせる。ふわり、と舞い散る煌めく羽根が、オブリビオンの幻を包みこみ、浄化していく。
「だから、ね………もう、行くの──バイバイ」
 消えゆく幻に別れの言葉を告げると、少女は最期に悟ったような笑みを浮かべて。

「あなたたちは、過去には留まらないのね――バイバイ」

 ――それが、この死人の村に囚われた死者たちの、最後の言葉となった。



 今度こそ、全てが終わり。オブリビオンの消し飛んだクレーター痕をしばし見つめていたフレミアは、ふと幻影の母がいた家へと足を運ぶ。
 幻が全て解除された今、そこに残っているのはただの廃墟だ。椅子があったはずの場所に適当な瓦礫を置いて腰掛けると、かつての母との思い出を振り返る。
 ――慰めはいらない。ただ、今は少し感傷に浸りたい気分だった。


 亡骸さえも無くなってしまった地で、トリテレイアは僅かに残った花弁の残滓を拾い集める。彼は普段は不要として凍結していた知識を解凍し、舞い散った花について調べていた。イオノプシス……その花言葉は『美しい人』。
「確かに思い出の中の大切な人々はいつまでも美しいまま。亡くしてしまったその美しさを与えるのも優しさかもしれません――ですが、『喪失の哀しみ』も大切な人が与えてくれたもの。それを抱きしめて歩むこと、それが私の『生』です」
 記憶の中に残る『美しい人』に、再びの「さよなら」を告げて。最後に残った一発の焼夷弾を、花弁に向けて放つ。
 離別の送り火から立ち上る煙は高く高く、昏い空の向こうに吸い込まれていった。


「これで、この依頼も終わりですね……大丈夫ですか、リーヴァ?」
 戦いを終えて、帰還までのしばしの時を待っていた晴久は、オブリビオンが消えてからずっと黙ったままの想い人を気遣う。
 最初は医師としての見地から、ユーベルコードの二重発動の反動が今にして襲ってきたのかと思った。けれど、そうでないことは彼女の顔を見ればすぐに分かった。
「……ごめんね、晴久。少しだけ、胸を貸して」
「……ええ、どうぞ」
 とさり、と。重心を預けてくる少女の身体を、そっと受け止める。少女の瞳からはらりはらりと零れる涙を見ているものは、誰もいない。

「ありがとう二人とも。忘れたりなんてしないわ。どうか、彼方から見守っていて……」
 今だけは使命も誓いも関係ない、年相応の少女として。リーヴァルディは今は亡き大切な人たちを偲ぶのだった。



 ――数多の思い出と生命を礎として栄えた死人の村は、こうして終焉を迎えた。
 猟兵たちは再び歩きだす。忘れがたき過去を背負い、それでも進むべき未来へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月07日


挿絵イラスト