8
バトルオブフラワーズ⑪〜ゼファー・フルスロットル

#キマイラフューチャー #戦争 #バトルオブフラワーズ #ウインドゼファー


 がやがやと、グリモアベースは喧騒に包まれていた。
 互いの戦闘結果を報告し合う者、未だ戻らぬ知人を心配そうに待つ者、これから戦闘に臨むべく準備している者、戦況や戦術を語り合う者、様々だ。
 現在、キマイラフューチャーは大戦争『バトルオブフラワーズ』の只中にあった。グリモアベースの至るところで小グループが形成され、各々の戦場へと転移されていく。
 彼らもまた、その一つ。

「皆様のお力のおかげで、ついに第三関門へ進撃が可能となりました。第三の関門は、スピード怪人『ウインドゼファー』が守っています」
 ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)が説明をしている。

「僕が転移させるのは花溢れる戦場、その第三関門。作戦はウインドゼファー撃破を目的とします」

「第三関門、敵幹部ウインドゼファーを倒さねば、猟兵勢力は先に進むことができません。敵――彼女は、同時に一体しか存在しません。何度でも骸の海から蘇ります。が、短期間に許容値を超える回数倒されれば、復活は不可能になります。これもまた、前回までの敵幹部と同様でございます」
 いつも通りに、と語り、ルベルは説明を進める。

「彼女は『風を操る能力者』。他の幹部と異なり、ただそれだけでございます。純粋なる戦闘でございますナ。皆様の得意分野でございましょう」
 笑う瞳には信頼が滲む。

「彼女は、現地に出現する皆様を待ち伏せしています。転移即開戦、先制は敵が取ります。一つのユーベルコードに一つの先制撃。敵の先制への対策は必須でございます。対策なく参戦すれば苦戦は免れぬことでしょう」
 ルベルは丁寧に説明を重ねた。
「敵は、皆様のユーベルコードと同じ属性で先制を仕掛けてきます。POWならばPOW、SPDならばSPD。先制を防ぎ、防いだ後に全力を持って攻撃をお願いいたします。機敏な敵にいかに攻撃を当てるかの策があれば、攻撃効果も高まることでしょう」

 グリモア猟兵が予知を語る。
「POW。フルスロットル・ゼファー。彼女は暴風を纏い、飛翔能力を得て超高速の飛翔撃を見舞うことでしょう。超機動力の空飛ぶ敵と戦うことになりますナ」

「SPD。レボリューション・ストーム。暴風が皆様の足場をバラバラに切崩します。もちろん、その風の刃は同時に皆様の肉体をも狙ってくることでしょう」

「WIZ。ソード・オブ・ダイアモード。皆様の攻撃を軽減する全タイヤ高速回転モードに変身し、嗤う竜巻を放つ2本の車輪剣で攻撃をしてきます。回転速度は素早いですが移動速度は常速でございます」

 一通り説明を終えると、ルベルは静かに頭を下げた。
「ギミック能力ではなく純粋に戦闘能力の高い敵というのは、ある意味で最も侮ってはいけない類の敵といえましょう。敵は強敵でございます。どうぞ、お気をつけて」


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
 このシナリオの難易度は『難しい』です。

 敵は必ず先制攻撃します。敵は、猟兵が使用するユーベルコードと同じ能力値(POW、SPD、WIZ)のユーベルコードを、猟兵より先に使用してきます。
 この先制攻撃に対抗する方法をプレイングに書かず、自分の攻撃だけを行おうとした場合は、必ず先制攻撃で撃破され、ダメージを与えることもできません。

 それでは、どうぞよろしくお願いいたします。
315




第1章 ボス戦 『スピード怪人『ウインドゼファー』』

POW   :    フルスロットル・ゼファー
全身を【荒れ狂う暴風】で覆い、自身の【誰よりも速くなりたいという欲望】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    レボリューション・ストーム
【花の足場をバラバラにする暴風】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    ソード・オブ・ダイアモード
対象の攻撃を軽減する【全タイヤ高速回転モード】に変身しつつ、【「嗤う竜巻」を放つ2本の車輪剣】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​
シズホ・トヒソズマ
※アドリブ・連携OK

【SPD】

事前にUCでラビットバニーの『おはなハッキング』を試験
システムフラワーズ制御ビームを【メカニック・情報収集】で解析し
ユングフラウに増設したPCから発信できるように【武器改造】しておく

UCによる暴風が来たらリキッドメタルで壁を形成し【盾受け】
その間にユングフラウからフラワーズへ少しでも使えるよう制御【ハッキング】を掛けます
壁が限界を迎え、足元の花場ごと吹っ飛び転落、という所でハッキングによる足場を形成
追撃は足場を短時間使うよう、【ジャンプ・空中戦】で回避

一旦凌いだならUCでバニーの『おはなハッキング』使用
逆に敵の足場を崩し、シュヴァルツの三呪剣で【呪詛・2回攻撃】



●人形が吸いし過去の影
 戦場に飛び込んだのはシズホ・トヒソズマ(因果応報マスクドM・f04564)。飛んだ瞬間に先制が来る。ユーベルコードは間に合わない。彼女はそれを事前に知っている。ゆえに、対策を練っていた。
 シズホは敵を目視するより先に防御に動いていた。1秒もかからずに己を守る壁を形成。リキッドメタルで形成された壁に襲い掛かるのは暴風だ。
 暴風が襲い掛かる刹那、猟兵がリキッドメタルの壁を形成したのを見たウインドゼファーは瞠目する。それは完全に準備された対策、それも恐るべき速さであった。
 その間も壁の外で地面がメリメリと音を立て、盛り上がる。花弁が荒々しく視界を舞う。大地が崩されていく。土煙が視界を奪う。だが、壁はしっかりとその身を守っていた。
(ですが、防戦だけでは私には勝てませんよ)
 ウインドゼファーが壁を破壊していく暴風を見つめる。壁は長くはもたない。敵はそう踏んでいた。
 ゴウ、と唸るような風音が耳朶を打つ。壁が破られつつある。
(もう少し、もう少し時間があれば)
「人形が吸いし過去の影、」
 シズホがユングフラウを通してそれに働きかける。

「我が身に宿り力となれ」
 シズホは破砕されていく壁の内でユーベルコードの完成を急いでいた。
 守りだけではない。黄金のアイアンメイデン、戦闘人形のユングフラウは暴風に紛れハッキングを仕掛けているのだ。
「――ほら、終わりですよ」
 風の名を持つ敵が静かな声をあげる。
 見つめる先で壁が限界を迎えていた。壁を突破した暴風が足元の花場を切り崩していく。猟兵シズホはその瞬間跳んだ。
「応報を持って因果を制す!」
 声が暴風に負けじと張り上げられ、戦場に反響する。
 ゼファーは目を瞬かせる。絶体絶命の危機にしては様子がおかしい、と。
 そして、マスク下のゼファーの眼が驚愕に見開かれる。
 土煙の幕の中跳びあがった無傷の猟兵。
 無傷の猟兵の逃げる先に『形成される足場がある』。薄桃色の淡い花弁がシズホの逃げる道となるために集まり。崩れる足場が再形成されていく。

「……何故?」

 跳躍する体のすぐ後ろを暴風が通り過ぎていった。一瞬遅れていれば跳んだ体ごとその勢いに持っていかれていたことだろう。
(でも、間に合った)
 シズホは次々と足場を進行方向に作りながらジャンプして跳び移る。振り向かぬ耳に轟音が届く。暴風に壁が破砕された音だろうか。命中していれば全身が切り刻まれていたことだろう。シズホはそっと息を吐く。ぎりぎりであった。
 視界は鮮明だ。
「――名を」
 名乗っていなかった。ウインドゼファーがそう言って名乗る。
「私は、このシステム・フラワーズの門番。ウインドゼファーです」
 声には称賛が滲む。
 そして、真っ直ぐな敵意。殺意。
 花の道がかの敵へ猟兵を導く。猟兵・シズホは転移する前のことを思い出す。

 『おはなハッキング』。
 それは、直前に倒した敵幹部・ラビットバニーの技だった。シズホは事前にその技を試験してきたのだ。技を解析し、ユングフラウに増設したPCから発信できるようにと改造してきた。『幻影装身』のアレンジ技は彼女の入念な事前準備と熟達の技能があって始めて可能となる。彼女だからこそ、成し得た技。
 最初の防御が間に合えばあとは反撃をするだけだった。シズホはスピードに定評のある猟兵。彼女のスピードをもってすれば開幕にあわせた防御が間に合わぬはずもない。
 ――そう、勝負は、転移される前に決まっていたのだ。

「シズホ・トヒソズマ、です」
 名乗る猟兵の姿がその間にもぐんと接近している。青の瞳に移る己の姿が大きくなる。ゼファーは迎え撃つべく車輪のついた剣を構え踏み込もうとし――、バランスを大きく崩した。
「なっ!?」
 まさにその瞬間、ゼファーの足場が予告なく崩れたのだ。

 シズホの騎士人形がバランスを崩したゼファーへと放たれる。騎士人形『シュヴァルツヴィアイス』は過去を弱める偽の三呪剣を携えし三本腕。スペースシップワールドの戦時、黒騎士アンヘルと戦ったシズホがその経験を活かして完成させ、戦闘に連れてきた人形。
 この猟兵は過去を活かし己の力と変える者なのだ。
 ぞくり、とゼファーが戦慄を覚える。敵は勿論、アンヘルを知らない。だがその剣が特別な剣なのだと本能が警鐘を発し続けていた。
「……!」
 一瞬。ほんの一瞬だった。
 足場が崩れたこと。バランスが崩れたこと。それによる動揺。

 その3点により生じた隙は強者同士の戦いでは――余りに大きい!

 体勢を持ち直すこともできぬまま、その一瞬でゼファーが切り刻まれる。
 白の呪剣が横一閃に、黒の呪剣が縦に、灰の呪剣がもう一度横に。
「~~~!!」
 車輪のついた剣が地に重い音を響かせ、落ちた。パキリ、何かが割れる音。カツンと落ちたのは、顔覆いしマスクの赤い――破片。

成功 🔵​🔵​🔴​

芦屋・晴久
アドリブ連携歓迎

やれやれ、小細工には小細工と思っておりましたがそう上手い事はいきませんか

相手は風を操る…そうですねぇ、なれば私は土で対抗すると致しましょう
五行相生、属性は「土」、現象は「地割れ」
純粋な力の勝負だからこそ、その力が振るえないのは痛手でしょう
初手の一撃である相手の風で敢えて吹き飛びその足元に術式を固定させます
その足元から地面を割り優位である筈の速さというアドバンテージを半減させます
同時に起こるであろう地の流動により足を絡めとり上方より「割れた地の破片」をぶつけて攻撃します
辺りの花々にて生命力が強いこの地、活性化した魔力を含む一撃は決して侮ってはいけない筈でしょう



●止風の地術、成りて
 猟兵が戦場に出現した。そう知覚した瞬間に敵幹部は全車輪を高速で回転させていた。
 芦屋・晴久(謎に包まれた怪しき医師・f00321)が転移した瞬間に唸る風音が鼓膜を震わせる。まだ遠い敵が竜巻放つ車輪剣を手に地を蹴っている。
「やれやれ、小細工には小細工と思っておりましたがそう上手い事はいきませんか」
 その男は医師であった。
 常は猟兵を治す医師として、彼らを生かすためにその力を揮っている。

「猟兵よ、私達は全てを手に入れる。誰にも、邪魔は、させないッ!」
 ウインドゼファーが間合いを詰める。猟兵に先手を取らせてはいけない。確信に近い思いが門番を動かしていた。何もさせずに地を舐めさせる――、地を爆ぜさせるほど激しく蹴り、竜巻を押し付けるような一撃が猟兵へと放たれる。
 初撃を敢えて受ける戦術を練っていた晴久は威力を殺すように後ろへと跳びながら受けた。コートに忍び込ませた隠し杖を密やかに車輪の命中部分となるよう調整しながら。
 攻撃が命中する。
「……ッ」
 衝撃が全身を襲う。一瞬緋色に染まる視界。真っ赤な飛沫が飛び散る。
 殺しきれない勢いに吹き飛ばされた晴久は地表をすさまじい勢いで転がっていく。
(さすが幹部といったところか)
 全身を襲う衝撃と痛みに脳が沸騰しそうだ。晴久は何転かしながら衝撃と痛みの中で必死に術を練る。
(猟兵はこの程度では死ぬまい)
 ウインドゼファーは敵に追撃を叩きこむべく追おうとし、ふと足元の違和感に気付く。何か、仕掛けられている。
 術式だ。
「こ、れは」
(もう、遅い)
 ようやく勢いの止まった体のダメージ具合を自己分析しながら晴久が起き上がる。口元が苦痛に歪む。足元を流れ落ちる血が濡らす。先制のダメージは大きい。心臓が早鐘のように鳴っていた。呼吸が荒い。
 だが、戦闘不能ではない。ならば、
(計算の上だ)
 サングラスの奥で瞳が冷静な色を宿していた。サングラスは呪われた仮面だった。模倣されているだけのその形は、歪み無く傷一つ無い。無視できないほどの負傷を追いながら、けれど心は落ち着いていた。視界はクリアだ。
 敢えて受けた一撃だった。それも影響している。戦術として想定外であれば精神的な動揺も喰らうが、想定通りであれば動揺することもない。覚悟の上での負傷だ。晴久は口の端を吊り上げた。

 ――ああ、傷が頻りに痛む。

 バキリ、
「ッ、――!?」
 ウインドゼファーが息を呑む。
 ぐらり、
「――アぁッ?」
 足元が崩れる。
 バキリ、バキリ、戦場それ自体が悲鳴をあげるかのような音と共に大地が割れていく。大地が口をパクリと開け、ギザギザに割れた口は乱暴に上に居た者を落とし、飲み込み、咥え込み。

 敵の動揺が空気を伝播する。
「やれやれ、作戦通りにいってよかったです」
 晴久は煙草を口に咥える。申し訳程度に逆手に鉄扇をぶらさげて。
「其は五行を重ねて理を創生する軌跡也」
 ぶらさげた鉄扇につと血が伝う。
 鉄を伝う朱の液体がぬるりと光り、それもまた敵を討つ力と為る。
 漆黒の瞳は静謐に敵を捉える。策はもう、成ったのだとその目が語る。
 ユーベルコード『五行相生』がウインドゼファーへと牙を剥いていた。

「貴女は風を操るのだと聞いてきたんですよ。なので、私は土で対抗することにしたわけでしてねぇ」
 地に呑み込まれるゼファーへと男が薄皮一枚の奥に真意を隠したようにしながらゆるりと声をかける。くい、と顎をあげ。暗色のサングラスの奥の瞳が見下ろすように。
「純粋な力の勝負だからこそ、その力が振るえないのは痛手でしょう?」

 大地の流動がゼファーの足を絡め取り、動きを封じる。逃れようと身を捩る敵は上方より飛来する殺意にゾッと背筋を凍らせた。
 敵が見上げるより速く。
 敵が車輪剣を振りかざすより疾く。
 晴久が操る割れた地の破片が滂沱とその身に襲い掛かる。活性魔力を帯びし破片は術者の破魔の腕により過去を穿つ兵器となった。掠るだけで灼けるような熱を伝えるそれは、陰陽師が闇を祓う時に放つ霊力に似て。
 過去を灼く。

「あああああああああっ!!」
 悲鳴をBGMに猟兵医師は紫煙をくゆらせている。ぽたり、ぽたりと足元に血が落ちて「ああ、止血をしなければ」と苦笑しながら。

 ――私は既に物語としては終わった人間であります。

 猟兵仲間に語った言葉をふと思い出し、晴久はそっと敵に背を向ける。猟兵仲間達は別の戦場で戦っていることだろう。彼らもまた傷を負って帰ってくるだろうから。

 治療のために待機しなければ。

 医師はそう思い、足早に戦場を離れる。

成功 🔵​🔵​🔴​

ビッグ・サン
「ふむふむ、わかりましたよ。任せてくださいなルベル君」

少女がドンと胸をたたき、自信満々に答えるた。
そして転移が始まる。
 
ルベルの言う通り、体中のタイヤを回して、2本の車輪剣で切りかかってきた。

グリモアの予知というやつは便利なものだと思うビッグ。

刃が少女の体を切り裂いていく。

持っていた風船が飛び、ぬいぐるみが落ちる

少女が倒れ、血が地面に広がっていく

一見ビッグが倒されたように見えるが、倒れた少女はビッグの人形である。
本体はぬいぐるみの中に隠れていたのだ

相手がこちらを倒したと思って油断したならば、死霊術の秘儀

即死魔法を使い、死の波動で敵を倒します

ちなみに人形は中に入れた再生蟲でほおっておくと回復する



●その研究者は俯瞰する
「ふむふむ、わかりましたよ。任せてくださいなルベル君」
 ツインテールの愛らしい少女がドンと胸をたたき、自信満々に答えた。そして、転移が始まる。転移、即先制が飛んでくる。
(事前に聞いていた通りですね)
 少女の明るい色の瞳が瞬きひとつせず世界を視ている。瞳には迫る2本の車輪剣が映っていた。高速で接近した刃がギラリと光り、次の瞬間にはバッサリと呆気なく少女の身体を切り裂いてしまう。
 少女が手に持っていた風船がその手を離れてふわりと飛ぶ。抱いていたぬいぐるみがころり、軽い音を立てて地に転がった。
 抵抗一つする暇なく、少女は斬り伏せられ地に倒れる。斬撃の勢いに押され後ろへと倒れ、瞳が仰向けに天を観る。じわり、少女の負った傷から血が流れ出て地面を広がっていく。傷の深さを物語るように。紅い水溜りが出来ていく。悲鳴ひとつあがらなかった。

(グリモアの予知というやつは便利なものだ)
 ビッグ・サン(永遠を求める研究者・f06449)が戦場を俯瞰する。
 足元の花が濡れていく。
 濡らしているのは、少女の血だ。

「猟兵の気配が、消えませんね」
 ふと敵が呟くのが聞こえる。
 訝しむような気配。マスクの下、視線は地に伏せたままの少女に向けられているだろう。
 敵、ウインドゼファーは実力者だと言う。その勘だろうか。ビッグはふむふむと敵を分析する。感心する。
(慎重で大変結構、門番とはそうでなくてはね)
 『彼』もまた組織に身を置く研究者であった。研究者は、ゼファーの行動を興味深く観察する。
 ビッグが見守る中、ゼファーは念を押すように数度斬撃を少女に加えた。戦場に肉を断つ音と血の飛沫く音が響く。濃厚な血臭が辺りに満ちる。
 ビッグは血宴を愉しむように観察していた。
 慎重な敵は猟兵の気配を気にしながら少女へと攻撃を続け、やがて手を止めた。

「っ、は……」
 敵が息をつく。
 冷静さを取り戻すかのように頭を振り、敵は少女をじっと見つめた。少女は、死んでいる。間違いなかった。
(なのに、何故か悪い予感がする)

 ビッグはじっと待った。

 敵は己の違和感を飼いならし飲み込むように少女を見つめ、やがて頷いた。少女は死んでいる。それは、間違いないのだ。
 そして、背を向けて門の方へ歩き出す。
 猟兵たちは次々と飛んでくる。倒されて復活しても倒されず撃退しても、猟兵たちはゼファーがいる限りその存在を許さずに次の猟兵を送ってくるのだ。

「……!」
 ぞわり。

 激しい悪寒が全身を駆け抜けた。
「猟兵ッ!?」
 ウインドゼファーが猛烈な勢いで振り返り、剣を構える。少女は倒れたままだ。だが、悍ましい気配が渦巻いている。少女の周囲に気流が蜷局を巻くようにうなり。背筋を凍らせる。脳が警鐘を鳴らす。
 悪意。殺意。憎悪。嘲笑。

「な、な、」
 ユーベルコードが発動する。
 少女の傍らでころんと転がっていたぬいぐるみがゆっくりと起き上がった。

「お、おまえ、は」
 白い羽の生えたぬいぐるみだ。蜜柑のような長い耳の。キウイのように愛らしい脚だ。綿雲のように真白の襟飾りに紅いリボンを飾り、チョコレートのような眼がまるまるとして愛らしく。

 ひどく愛らしいぬいぐるみが、
 得体の知れない恐ろしさを感じさせる。

 その手が。死霊術士ビッグの手が敵を向く。
 その瞬間、敵は蛇に睨まれた蛙の如く恐怖を覚えた。

「あ――、」
 舌が渇く。呼吸が機能しない。
 防ぐすべが、ない。
 本能がそれを識る。放たれてはいけない技が放たれてしまったのだ、と。
 『即死魔法』。それは、死霊術の秘儀。死の波動が一瞬でぬいぐるみからゼファーへと走り、
「――、」
 無音のままにその芸術が完成する。研究者はそっと嗤う。

 うぞうぞ。
 おぞおぞ。
 静寂の底を掻き分けるように再生蟲が仕事をしている。
 ぬいぐるみが俯瞰する。

 少女の傷が塞がっていく。
 少女は、ビッグの操る人形なのだ。それは、魂の死んでしまったフェアリーの身体であった。人形を操るビッグ本人は普段からぬいぐるみに化けて少女の腕の中にある。

 ――他人の肉体を操ることで永遠を得られるのではないか。

 そんな思いつきで始めた実験。
 それが、敵を欺き決定打たる秘儀を完成させる何よりの札となったのだ。

「それにしても、猟兵の気配というのは存外敵に敏感に悟られるものなんですね」
 実に興味深い。
 ビッグはそう呟き、楽しそうに嗤う。次は、気配をもっと隠蔽してみようか。そんな遊びを楽しむ少年めいた呟きをさらに零し。
 小さな手がぬいぐるみの身体を拾い上げる。ぽん、ぽん、と埃を払うような手つきを心地よく受け止めながらぬいぐるみは再び愛らしい少女の腕の中に納まるのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

霑国・永一
レディファーストを強行とは穏やかじゃないねぇ。
それじゃ、今回は強敵だ。任せるよ、《俺》
『ハハハッ!俺様の暴虐で暴風をぶち壊す!そういうの待ってたんだよッ!』

狂気の戦鬼を発動
先制攻撃に対し、切り崩される足場から高速移動で距離を取り、衝撃波を暴風の一点に叩き込み続けて威力の減衰、または相殺を狙う【ダッシュ・逃げ足】
攻撃の隙が出来たら、高速移動で接近しつつ敵の攻撃に当たらない様死角に移動、衝撃波を叩き込んで攻め込む。【見切り・早業・鎧無視攻撃】
余裕あれば車輪剣も盗んで破壊か遠くへ投げ捨てる【盗み・盗み攻撃】
「俺様自身が暴風みたいなもんだ!互いに速度と暴力で愉しもうじゃねぇか!!」



●その狂宴
 霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)は多重人格者だ。荒事は多くの場合別人格に任せていた。今回も同様に。
「レディファーストを強行とは穏やかじゃないねぇ。それじゃ、今回は強敵だ。任せるよ、《俺》」
 永一は息を吸うように人格の交代を為す。敵の目の前に飛んでから人格を交代する必要があるだろうか。否。彼はあらかじめ人格を交代した上で転移した。
『ハハハッ!俺様の暴虐で暴風をぶち壊す!そういうの待ってたんだよッ!』

 転移直後、先制は足場を切り崩す。敵は疾い。だが、永一も速度においては遅れを取らないほどの実力者だ。戦闘狂の人格は愉しむように華麗に崩れ落ちる足場を蹴る。そして、肌で感じるのだ――、
「俺様と貴様は相性が『絶望的に』良いようだ、な!」
「!!」
 ウインドゼファーがじわりと全身から汗を滲ませる。ゼファーもまた実力者故にユーベルコードの相性をよく識っている。出現した猟兵との相性の悪さを感じ取り、ゼファーはふるりと全身を震わせ――車輪剣を持つ手に力を籠める。
 跳躍してストームを逃れた永一は一瞬前まで己の身体があった場所を蹂躙する暴風をチラリと睨む。轟音が鳴っていた。風は暴力的に花を巻き上げ、大地を切り崩している。一瞬速かった。遅れていれば、全身が血に染まり、下手すればそこでGAMEは終了を迎えたかもしれない。
 風が追ってくる。
 殺意を勢いにそのまま変換させたように囂々と追ってくる。
「ハハハハ!」
 そのスリルに戦鬼が口の端を吊り上げた。昂る戦意。狂気が全身を駆り立てる。衝動が全身に力を与える。昂りをそのまま乗せて永一は衝撃波を荒々しく打ち放った。
「そらよ!」
 空気がギュンと鳴る。風と風がぶつかる。連続して幾度も衝撃波を放ってやれば、威力の減衰していき、やがて相殺されていく。
 ふ、と息をつく。

「猟兵は手練れ揃いと聞いていましたが、なるほど」
 ゼファーがその身に迫っていた。
 ゴウ、と風を唸らせ手に携えた二振りの車輪剣が凶悪に振るわれる。
「さあ、ヤりあおうぜぇ!」
 好戦的な笑みを浮かべて『猟兵』が弾丸めいて接近してくる。ゼファーは足元を強く踏み右の車輪剣を打ちおろした。真っ直ぐの軌道は幹部の名に恥じぬ鋭さ。永一は歓喜しながら敵の懐に潜り込むように廻転しながら軌道を掻い潜る。ヒュッと空気が鳴る。視界の外側から聞こえた風切音に膝を畳めば頭蓋の上を左の車輪剣が通過していった。
 また、一瞬速かった。戦鬼がカウントする。
「ニィ、」
 敵が膝を畳んだ永一へと蹴撃を放つ。横に転がり、回避しながら角度を変え。
「サン」
 前転するようにしながら勢いのまま起き上がる。一瞬の早業。視界に視える敵の背。背後を取った。愉悦交じりの衝撃波を放つ。敵は衝撃波を放つ一瞬で反応した。

 ――いいじゃねぇか!!

 衝撃波を避けて車輪剣を一瞬クロスさせ再び右撃を放つ敵へと、だが永一は瞬間冷凍されたような侮蔑の眼を向ける。その動きは見切った。つまらない。右を避け、左が来る前に永一は隠し持っていた刃で絡めるように右の車輪剣を掬い上げる。同時にピンポイントで衝撃波を繰り出せば、いかな幹部といえどその能力を無視して剣を手放させることに成功してしまうのだ。手品の如く一瞬で掠め盗るように車輪剣を手にした永一は剣を遠くに投げ捨ててしまった。
「なんという――」
 何か言おうとしている。
 聞いてやる義理はない。

「俺様自身が暴風みたいなもんだ!互いに速度と暴力で愉しもうじゃねぇか!!」
 廻し蹴りを痛烈に振舞いながら、驚愕抜けきらない敵を窘めるように永一は嗤う。瞼の裏が熱い。刃を持つ手が熱い。耳朶を鼓動の音がドクドクと脈打っている。

「門番なんだろォ! ちゃんと守れよぉ!!」
 焚きつけるように煽るように衝撃波を放つ。敵は残る車輪剣を水平に振るい衝撃を薙ぎ払った。
 それでいい。
 それがいい!

 永一は即座に身を沈め低く地を滑るような蹴りを放つ。敵の軸足へと放たれた一撃は迎撃の隙を突き視界の外から放たれた。だが、敵は反応してみせる。無理のある体勢から横へと転がり。
「ハハハ!!」
 いいぞ。永一は遊び相手へと躍りかかる。刃を手に。ザクリと差し。敵は逃れた。
 地に刺さった刃を抜く手間すら惜しみ、永一は衝撃波を放とうとして咄嗟に身を捻る。敵が捨て身で体当たりをしてきたのだ。避け切れなかった勢いが身を倒す。即座に起き上がる。
 敵もまた倒れていた。肩で息をしながら戦意を漲らせている敵は残った唯一の車輪剣を固く握りしめ、起き上がりざまに斬り上げる。永一は難撃を避けずに身を喰わせた。喰わせながら敵を押し倒した。刃が肉に滑り込み、血が噴出する。痛みが脳を震わせ、吐く息が熱い。ぼたぼたと血を敵に落としながら、衝撃波を放つ。何度も。何度も。
 びくり、びくりと跳ねる敵の身体を抑えながら狂宴はしばらく続いたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィルジール・エグマリヌ
名前とは裏腹に、君は随分じゃじゃ馬のようだね
――次は私と踊っておくれ

花の足場をバラバラにされるのは困るな
とはいえ風は剣で受けることも出来ないし
空中戦の心得を活かして対処しようか
切り裂かれた足場から、無事な足場へと跳躍して距離を取る
其れが無理ならゼファーに接近、敵を盾として風を凌ごう

此方は眠れぬ夜の揺籃歌を使用、鋸を纏めて嗾けよう
得物に紛れて私も前へ出ようかな
暗殺の技能を活かし忍び寄り、ゼファーの傷口抉るように剣を振う
接近戦は2回攻撃活かして手数の多さで攻めたいな
――風の神たる君の首、敬意を込めて獲らせて貰おう

損傷は激痛耐性で凌ぎ、体力危うい時は生命力吸収を
物理的な攻撃は剣で武器受けして防ぐよ



●This gamble
「名前とは裏腹に、君は随分じゃじゃ馬のようだね――次は私と踊っておくれ」
 ヴィルジール・エグマリヌ(アルデバランの死神・f13490)が闇夜の如きマントを翻し、転移直後の足場を蹴り高く舞い上がる。跳んだ足先を掠めるように風が暴れている。足先が切り裂かれ、血花を咲かせている。
「くっ……、」
 激痛に声を零しながらヴィルジールは優れた体幹で体勢を持ち直し、離れた足場へと着地する。じくじくと痛みが熱を持つ。だが、たいした傷ではない。初撃への対応は成功だ。息を一つ吐き、ヴィルジールは昂然と顔を上げて尚も迫る暴風に視線を向ける。若干、敵に対してのやりにくさを感じないでもない。相性のようなもの、だろうか。

 ――嗚呼、格好悪いなあ、私は。
 あの時、彼はそう思ったのだった。

 だが、手は震えていない。危機にありながらその瞳が和らぐ。
(分の悪い賭けも悪くないものだ)
 対策が万全であれば成功は揺るがない。現状、戦闘展開は順調と言える。
 カジノ艦の長でもある彼はそう己を奮起させ、コンソールを周囲に展開する。彼には知識がある。時間稼ぎの腕がある。痛みに対する耐性がある。
 流れる星空のように髪を靡かせ、アルデバランの死神と呼ばれる男がユーベルコードを綴る。私の為に歌っておくれ、と囁くような念を籠めれば愛用の処刑道具であるアンティークの鋸達が幾つも死神を守るように周囲に浮かび上がる。

 一方ウインドゼファーは出現した猟兵への攻勢を決断していた。敵に反撃の隙を与えずに傷を深めようと走るゼファー。
 鋸が正面からその身に迫る。
「!!」
 鈍い色が次々と閃く。刃を順に車輪剣で打ち払いながらゼファーは速度を緩めず駆ける。勢いを削がんと鋸が驟雨の如く降り注ぐ。ゼファーは前転して雨を避け。
「くぅっ!?」
 打ち落とした鋸が再び持ちあがり背後から襲来する。いつしか囲まれている。鋸は落としても落としても延々と蜂の巣を突いたように猛威を振るう。
「お、おのれ猟兵……!!」

 風を避けて足場を転々としていたヴィルジールは緩く笑む。賭けには自分が勝ったのだ、と。視れば、暴風もようやく消えようとしている。

「私を呼んだかい」
 夜会で淑女に対するかのように優雅に微笑み、処刑用の剣をスラリと揮う。鋒の潰れた剣は柄頭に凛と座したる水宝玉を頂く。吉兆の星図が赫々と煌めいて麗しい。
 鋸に防戦一方となっていたゼファーにとって、その一撃は死神の札にも似た衝撃があった。視野の外から突如挟まれた剣はゼファーの傷口を狙いすました一撃だった。抉られ苦痛の声をあげながらゼファーは車輪剣で追撃の鋸を弾き落とす。動きは、鈍っていた。
「あぐッ」
 背を鋸が裂く。打ち落としたばかりの鋸だ。

(速さが、どんどん増して……)
 否。ゼファーが遅くなっているのだ。彼女は疲労を自覚する。手に持つ武器がこんなにも――重い。

「私は、私は、」
 ヴィルジールが優雅とすら言える剣撃の弧を描き、体重を乗せて地に向けて右の車輪剣を押し込む。その隙に右の脇が鋸に切り裂かれ、ゼファーは裂かれた勢いのままに右に体を廻す。目は戦意を湛えたまま、猟兵への戦意漲らせ、鋸に身が刻まれるのも構わず勢いを活かして廻し蹴りを放てば、ヴィルジールに迫る脚を鋸が刃の盾となりて防ぎ。防ぐばかりに留まらず肉を断つ。同時に四方八方からの鋸が全身に牙を剥く。刃を突き立て、削り、切り裂き、断つ。
「ぅああああっ」
 嵐の如き刃の中、ヴィルジールが鋸を引き立て役として華麗にダンスを踊っていた。足運びも優雅に、なめらかに。戯れのようにゼファーを切り裂き、その都度やんわりと生命力を吸収し。いつしか初撃の傷も癒えている。

「――風の神たる君の首、敬意を込めて獲らせて貰おう」
 その声はあまりに静謐で淡白。
 静かな瞳には、ひたひたと心を染むような殺意がある。

「私は、負けるわけにはいきませんっ!」
 血を吐くような叫びと共に敵が狂ったように『死神』に突進する。突進する体を鋸の雨に切り裂かれ血の花で宙を彩りながら。

「門番、だったね」
 ふとヴィルジールは敵の地位を思い出す。
「仕事熱心で素晴らしい。私もカジノ艦の長なのだが、やはり大切な金庫番をさせるような部下には君のような者が好ましいと思うね」
 生命を賭した凄烈な車輪剣の猛撃を『死神』は剣で受け止めた。
「うう……っ!!」
 至近にある敵の眼が必死さを伝えてくる。瀬戸際なのだ。気迫が尋常ではない。門番を任された者としての矜持。死に追い詰められた生物の本能。
 ヴィルジールはやはりこの瞬間、『やりにくさ』を感じる。だが、策は成った。戦術はハマり、圧倒的な優位はもはや揺らがぬ。
 押し返すように、跳ねのけるように気迫を籠めて剣を押す。ぎりぎり、と金属の削り合うような音がする。真剣な命のやりとり。鋸を静止し、男の意地をかけてヴィルジールは純粋に勝負に勝つ。互いの脚が深く大地を踏みしめ、土が沈むほどに力を漲らせ。
 ぐ、と。
 押し込み、少しずつ。
「う、う……っ」
 奥歯を噛みしめ、押していく。生命力を吸っていく。
 敵の負傷と疲労。奪った生命力。背に待機させた鋸。

「賭けはこちらの勝ちだ」
 静かに言い捨て、力を一層強めれば敵が一歩足を後退させ。それは、紛れもない敗北の一歩。拮抗は崩れた。
 押し、押し、最後は突き飛ばすように。
 敵は胸に血線を走らせながら倒れ込むように地に尻をつく。
 ならば、もういい。
 待機させていた鋸を一斉に放ち、ヴィルジールは幕を引く。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
貴女が目的の為、仲間の為、門番として立ち塞がるならば、私はキマイラFの人々の為、騎士として戦いましょう。
参ります

飛翔したゼファーの攻撃に対し頭部と腕部の格納銃器による迎撃射撃で飛行コースを制限させることで攻撃の軌道を●見切ります
暴風の防御に任せて最短ルートを突き進むならば好都合、●防具改造で仕込んだ投光器の光をその位置に置き●目潰しし、攻撃の正確性を削ぎます
そうして初撃の命中率を下げ、スラスターを吹かしての●スライディングで回避

ゼファーの攻撃を回避したら間髪を入れずUCの隠し腕で捕まえて引き止め、ワイヤーアンカーで繋いだ大盾を鉄球代わりに●怪力と●ロープワークで操り打ち込みます



●或いはそんなacceleration
「貴女が目的の為、仲間の為、門番として立ち塞がるならば、私はキマイラフューチャーの人々の為、騎士として戦いましょう。参ります」
 戦場に足を踏み入れたトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が口上をあげる。その視線の先には、フルスロットルのゼファーがいる。
 その身を荒れ狂う暴風で覆い、唸る風音は激しい感情を伝播する。誰よりも速くなりたい。その欲望がゼファーの力となり、暴風のゼファーが飛翔する。
 カチャリ、カチャリ。
 淡々とした無機質な音が戦場に響く。
 何の音だろう、理解しないままゼファーは風となり降下する。重力を味方につけ、超高速で落下よりも疾く。
 そして、気付く。気付くと同時に爆音が轟く。
 ダダダダダッ!
「!!」
 猟兵の頭部と腕部から火砲が放たれていた。
 空気震わせる銃撃音。射撃の反動を物ともせず猟兵が頭部をしっかりと立て、腕を上げてピタリと静止している。
(ウォーマシンめ!!)
 ゼファーは咄嗟に軌道を変える。彼女もまた敵幹部、銃撃の一つや二つであれば気にするものではない。だが、無数の砲火の中に跳び込むほどの余裕までは持てない。彼女が幹部であるように相手もまた精鋭なのだ。
 軌道は迎撃射撃により誘導されているのだが、ゼファーはこの一瞬にその考えに至る事が出来なかった。単に猟兵が己を撃ち落そうとしたのだと解釈したのだ。

(飛行コースは想定通り)
 地表のトリテレイアは電子頭脳ならではの瞬時の演算で戦術の有効性を確かめつつ予想通りに被弾コースから体を右へ逃がす。0.5秒のタイムラグで左をゼファーが通過していく。
「おっと」
 トリテレイアはシールドを咄嗟に構える。回避した通過の衝撃が装甲を削り大地を抉るほどに大きい。まともに喰らっていれば只では済まなかっただろう。シールドの表面を叩く大地の破片が鈍重な音を立てている。分析しながらセンサーは頭上を旋回する敵を捉える。

(そうか、あの猟兵は降下コースを絞ったのですね)
 上空のゼファーは臍を噛む。先制で仕留められなかったのは余りに手痛い。地表の猟兵は再び銃撃の弾幕を作っている。
 ゼファーは弾幕を暴風の防御に任せて突っ切った。裂帛の叫びと共に暴風が雷の如く下り、猟兵に迫る。

(同じ手は二度は通用しないと思いましたよ)
 それも想定通りなのだとトリテレイアは冷静に投光器の光を敵の進む最短ルートに放つ。目潰しに。
「策は何通りも用意しておくものです」
 回避する場合、回避しない場合。どちらでも問題なかったのだと無機のセンサーが伝える。声は事実を只突き立てるように。

「――ッ」
 動揺が空気を介して伝わる。
 勢いを弱めることはなかったが、敵は目を晦ましたようだった。だが、猟兵の気配が彼女にはわかる。無機質で冷たいそれを目指し、生命を刈り取るべくゼファーは超速で迫り、車輪剣を奔らせる。瞬間、トリテレイアは脚部スラスターを噴かせていた。敵の想定外の速度で地を滑るようにして行われた回避動作。計算に基づいた挙動は成功し、敵の剣刃は虚空を通り過ぎる。
(外したッ!?)
 驚愕するゼファーに何かが衝突した。
「ッ!?」
 擦過音と共に全身が意に反して猛烈に引っ張られる。トリテレイアが装甲に格納されたワイヤー制御隠し腕を放ったのだ。
「く、……!!」
 それが何なのかを理解せぬまま、ゼファーは己を掴んでいる何かへ逆らうように身を捩り、全力で逃れるべく暴れて左右の剣を突き立てる。
「く……」
 地表のトリテレイアもその瞬間に全力を尽くしていた。剣を突き立てられ隠し腕を破損させながら、怪力がギリギリと敵を封じる。
 一瞬の攻防。
 その一瞬、間違いなく超高速移動は停止された。
(このタイミングしか、ない)
 その隙に滑り込ませるようにトリテレイアがシールドを振るいあげる。シールドは、ワイヤーアンカーで繋いであった。
「アアッ!?」
 敵が悲鳴をあげる。
 大気を唸らせてガンとマスクを打つ衝撃。
 視界が一瞬ぶれる。脳が揺さぶられる。悲鳴をあげたかどうかもわからないまま、ゼファーは地に落ちる。

 ドサリ、と。
 地に落ちたゼファーに寄る影がある。
 猟兵だ。

 回復した視力が在りのままの世界を捉える。
 身を覆う暴風が消え、マスクを砕かれ、ゼファーは花咲く地に俯せに倒れ込んでいた。沈む意識。目が見て、理解する。
 猟兵は、そのウォーマシンは、ワイヤーアンカーで繋いだシールドを己にぶつけてきたのだ。
「騎士の戦法ではありませんが……」
 何故か猟兵は悔しさの滲む声でそんなことを言っていた。

 もちろん、敵にはその言葉の意味がわかるはずもない。だが、この猟兵は真剣に思っているのだった。御伽噺に出て来る騎士なら、銃や隠し腕ではなく剣と盾と溢れる勇気で子供たちが興奮して眠れなくなるような夢溢れる奇跡のような戦いをするのだろう、と。

成功 🔵​🔵​🔴​

日和見・カナタ
ウィンドゼファー…他の幹部と違ってUCの出鱈目さこそありませんが、そのぶん戦闘に慣れていそうですね。
紛れもなく難敵ですが、この世界の方々のためにも押し通らせてもらいます!

まずは【レボリューション・ストーム】に対処しつつ接近します!
【機械蜂】を散布することで暴風の密度が薄い部分を観測し、その情報を【サイバーゴーグル】で受け取って適切なルートを可視化しますね!
無くなった足場はルートを先行させた2機の【ガジェットドローン】で補って、相手までの最短距離を跳んで【ヒートインパクト】を叩き込んでやります!
念のため、ドローンからの【援護射撃】で相手の回避も阻害しておきましょう!

【アドリブ歓迎】



●赤熱する銅貨
 戦場に出現した日和見・カナタ(冒険少女・f01083)は機械蜂を散布する。敵の暴風は既に放たれていた。敵を目視するよりも先に暴風の刃が迫っている。少女のサイバーゴーグルが情報を即時に処理しルートを可視化する。風の密度の薄い部分。逃れ得る道。足場の代わりに2機のガジェットドローンを先行させれば、ドローンは風の中今にも破砕されてしまいそうだ。
「風を抜けられれば!」
 カナタは決死の覚悟でドローンへ跳ぶ。針の孔を通すようなたったひとつの道。風が肌を裂いていく。だが、カナタは逃げない。耐久限界を迎えそうなドローンへと着地し、渾身で踏み抜いた。踏み抜いた瞬間足元で機械の限界を迎えた音が聞こえる。音を後ろへ流し、少女は次のドローンへと特大の跳躍。
「あ……」
 抜けた。
 そう思った。
 風の渦が眼下に視える。大地を切り崩し、暴れている。機械蜂とドローンを飲み込み、花を巻き上げて。
 そして、視線をずらせば敵がいた。
 
「ウィンドゼファー……」
 赤いマスクの下、視えないはずの視線が確かに絡み合った。カナタはそう感じた。
(他の幹部と違ってユーベルコードの出鱈目さこそありませんが、そのぶん戦闘に慣れていそうですね。紛れもなく難敵ですが、この世界の方々のためにも押し通らせてもらいます!)
 風を抜けた先、2機目のドローンを足場に再び跳びながらカナタがサイバーゴーグルに映し出された彼我の正確な距離を測定する。空中で義足に正対エネルギーを供給する。義手を赤熱させる。蒸気充填。聞きなれたスチーム音が背に過ぎ去りし風音を消していく。存在がなかったかのように。もう気にならない。
 距離が詰まる。
 間合いを詰めるビジョンは鮮明に。
 敵を侮れば痛い眼に遭う。それは確信だった。それはしてはいけない。カナタは決して敵を侮らない。そして、臆さない。
「私の全力を!」

 銅貨が突っ込んでくる。
 ウインドゼファーは何故かそう思った。少女は、華奢だ。小柄な少女は、自然のもとではない四肢を動かしてゼファーに迫る。ちっぽけな銅貨のような少女だ。それが、恐ろしく明るい眼をしている。懸命な色を浮かべている。あれは、人が見せる人にしか浮かべられない類の情動。生命の躍動。ゼファーはそう思った。

「かつて、ドン・フリーダムは『無限大の欲望(リビドー)』を解放し、人類は怪人となりました。次々に」
 ゼファーが右手に持つ車輪剣を上段から凄烈に振る。

「かつて、偉大な冒険者が私に教えてくれました」
 カナタが子ウサギのように軽やかにステップを踏む。耳を掠めて敵の刃が通り過ぎる。シュバッと耳から血が噴き出したのがわかる。だが、たいした傷ではない。カナタはグンと膝を曲げ前傾し、懐へと迫る。掌を繰り出すべく。

「『私達』は、オブリビオンとして蘇ったのです」
 ゼファーが腹元へ掌撃を狙う猟兵の動きを察知し、素早く膝を繰り出す。腰が右に廻る。

「人は、死んだら蘇りません」
 カナタは肌で危機を感じ取りその一瞬無意識に跳ねる。地を爆ぜんばかりに右足で地を蹴り跳びあがり、敵の空ぶった獲物の柄に左足を着きバネのように跳び。

「オブリビオンとなった私達なら、無限大の欲望も喰らい尽くせるはずなのです!!」
 ゼファーは咄嗟に右の獲物を手放して右へ廻る。左の獲物を突き上げながら。

 ダダダダッ!

 その瞬間、潰えていなかった2機目のドローンが援護射撃を放つ。否、後方からはボロボロになったもう1機のドローンも抜けて援護をしている。壊れかけの機械が射撃の反動でパラパラと自壊しそうになりながら。撃てなくなるその瞬間まで射撃を止める気配がない。聴覚を塗りつぶす射撃音。空気を震わせるドローンの援護を全身に感じながら、カナタは攻める。

 少女・カナタは宙でくるりと廻りゼファーのマスクに手をついた。体重と回転の勢いを乗せてぐ、と押せば援護射撃も手伝って完全に敵がバランスを崩して踏鞴を踏む。

 凛と響く声がその戦場に響き渡る。
 銅貨の少女が黄金よりも煌いて太陽よりも鮮烈に声を放つ。胸の内で燃え猛っていたものが、言葉に乗り、掌を灼熱させる。

「『私達』は――私は、誰かの遺した意思が続く誰かの支えになって、そうして心から心へと紡がれ生き続けていくことを知っています。それを、教えて貰ったんです」
 カナタが赤熱の掌底を全力でゼファーに撃ち込む。
「――!!」
 衝撃が爆ぜる。

 ごぼり、と液体の零れる音がした。よろよろと後退しながら赤いマスクから液体が漏れる。血だ。
「まだ、です」
 ゼファーが不屈の意思を感じさせる声を放つ。

 敵の背後、遠くで限界を迎えたドローンの1機が地に落ちるのが視える。

「私は門番。ウインドゼファー。私はオブリビオン。まだ、」
 蘇ってみせる。
 その意思を感じながら、カナタは敵に強い瞳を向ける。

「私達の攻勢も、まだまだこれからです。何度蘇っても、仲間が貴女を。もはや蘇ることができなくなるまで、何度でも、何度でも」

「倒します」
 それは、定められし未来を突きつけるように。
 もう一度、掌が敵を撃つ。

成功 🔵​🔵​🔴​

仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
先制攻撃に対して【学習力】で対策を検討し、【軍隊蟻】を何匹も抱き合わせ多重の層を作り防御する
相手は暴風だが、蟻をクッションとすることである程度ダメージは減らせるだろう

…ここまでは全部布石
防御しきれずに倒れたと見せかけ、地中の物を無差別に捕食させつつ蟻を地中から進軍させる
油断して地面についた足の裏なら嵐も纏えまい
そして、飛ばされた蟻達も捕食を始めているだろう

狙うのは飛行後だ
飛んだなら後方に風を送らない限り上手く飛べないだろう
「誰よりも速くは貴女だけのものじゃない」
その隙を狙い【携帯食料】と自分の血を蟻達に与え飛翔
嵐の無い部分に対して【鎧無視攻撃】を行い、そのまま蟻を展開する



●蟻は進軍する
 転移した。仁科・恭介(観察する人・f14065)が知覚する。その耳には暴風音が届いている。ここは、風が支配する戦場。風の女王が。飛翔する。
(私の策は通じるか)
 恭介は過去から学習していた。難敵とは何度も戦っている。対策はある。
 その身には無数の軍隊蟻を纏っている。多重の層を作り防御する――ラビットバニーはこれで落とした。
 ふ、と口から息が漏れる。
「今回は泣かないが」
 冗談めかして目を細める。その瞳は暴風纏いし敵の軌道を読むことはできない。恐るべき速度の敵はさながら雷霆の如く。落ちてくる。
「ッ……!!」
 一瞬だった。痛みに焼ける意識。肺から空気を引きずり出され、声にならない声が漏れる。だが、音は世界にゴム壁を隔てるかの如く遠い。
 体が風に『跳ねられた』。
 通りすがりざまに『斬り捨てられた』。
 きっと、そうなのだろう。だが宙を舞い跳ぶ体が感じた衝撃はあまりに大きかった。黒い蟻達が霧のように宙を跳び、落ちていく。蟻のクッションがなければ一撃で戦闘不能に陥っていたことだろう。恭介がゾッとした。
 こめかみからつつと汗が伝うのを感じながら地に倒れる。全身に衝撃の残滓を感じる。蟻の防御のおかげで継戦能力に問題はない。体は動く。だが、敵にはそれを悟らせまいと恭介は倒れ伏したまま荒く息をする。

(まともに命中したはず。もう動けないと思いますが)
 ウインドゼファーが慎重に判断する。

 じわりと地中に蟻が侵食している。恭介の軍隊蟻達が恭介の身の下、じわりじわり、地中に潜り込み。

 餌は、豊富だった。
 花の根、小さな虫、蟻達は静かに静かに捕食する。無差別に全てを貪り食う。ゼファーには、それが判らぬ。

「……最期に、言い残すことはありますか」
 ゼファーは起き上がる気配のない猟兵へと声を手向ける。
 手には車輪剣がある。彼女は幾人もの敵をこの獲物で沈めてきた門番だ。

 風が、降りて来る。

 恭介は増大する己の気配をひた隠しに抑え、瀕死を装う。ユーベルコード『知恵の実(パラダイス・ロスト)』。彼が地中に進軍させた軍隊蟻は今、地中で大量に捕食している。また、敵の初撃に吹き飛ばされた蟻達も戦場の至る処で花を食んでいた。蟻達の捕食は彼の力を刻一刻と増強させていた。

 トン、

 ひどく軽い音が戦場に反響する。
 ゼファーの靴音だ。
「……ふ、」
 笑みが零れる。

「? どうしたのです」
 ゼファーは訝しむ。そして車輪剣を揮おうと一歩踏み出した。その足裏に地中から姿を現した蟻達が到達する。うぞり、と黒き靄のように登っていく。
 蟻は、只の蟻ではない。操手の能力をそのまま有する蟻達は敵の靴を突破し、顎が血肉を求めて開かれ、噛みつく。
「アッ!?」
 ゼファーがビクリと身を震わせ、足を振る。無数の蟻が彼女の足を喰らおうと噛みつき、足だけでは収まらず上を目指して黒波が登ってくる。何かから逃れるように身を捩りながら、宙へと飛翔する。
「どうした?」
 意趣返しのように言いながら恭介は観る。

 敵が蟻を振り払おうと不格好なダンスを踊っているようだ。恭介は冷静な目を向けながら言葉を放つ。
「誰よりも速くは貴女だけのものじゃない」
 言葉を聞く余裕があるだろうか。そう思いながら携帯していたジャーキーと自身の血液を蟻達へ振り撒いてやれば、蟻達は歓び、悦び、更なる力を恭介に齎した。飛翔の力が得られた恭介は軽く地を蹴り、浮かび上がる。速度は少しずつ増し、やがて超高速となる。

 敵は猟兵の接近を知る。その策を悟る。
「クッ、こ、こんなッ! 策が……アアッ」
 言葉を放つ間もその身は蟻に苛まれていた。白布が血に染まり、血を貪るように黒蟻が集り、さらなる血を噴出させ。
 全身に纏う暴風に空隙を見つけ、恭介は牙咬を滑り込ませた。

 一際高い悲鳴が響く。
 肉を断つ感触を感じながらダメ押しとばかりに恭介は更なる蟻達を展開する。敵が意味を為さない悲鳴を漏らしながら暴れ、宙を躍る。時折黒い蟻達が振り落とされ、だが多数は其の身を喰らい続けて離さない。黒蟻と敵の赤血がしばし振り撒かれる。無軌道な暴風を恭介は追い立てるようにしながら見守り、時折追撃を重ねてやった。

 フルスロットル・ゼファーはしぶとかった。徐々に弱まりながら足掻き続けるその姿は、まるで――、

 ドサリ。
 敵が物言わぬ塊となる。

「私の勝ちだ」
 蟻達を再び身に纏い、恭介は静かに勝利を宣言した。
 誰の眼にも疑いようのない、勝利。
 彼はそれを掴み取ったのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

葛乃葉・やすな
早い相手じゃな。
わしでは追いつけそうにない。
まぁ、追いかけるつもりもないがのう。

相手がどんなに早かろうと竜巻で攻撃をするのなら竜巻から逃げればよいのじゃろう。
竜巻の移動方向を【見切り】、直角の方向に【ダッシュ】【逃げ足】で離れるとしよう。

逃げている最中にUC【フォックスファイア】を周囲に放ち着弾した箇所を延焼させる。
敵の行動範囲を狭めるのも狙いの一つじゃが、この場に火災旋風を起こすのが狙いじゃ。ここは竜巻のせいで風が吹いているからのう起きやすいはずじゃ。
火災旋風とはいえわしのUC操作も出来よう。
放射熱による【範囲攻撃】を行いながら敵を追い詰めるぞ。わし自身は【火炎耐性】で何とか凌ぐかのう。



●朱き戦場の妖狐
(早い相手じゃな。わしでは追いつけそうにない。まぁ、追いかけるつもりもないがのう)
 葛乃葉・やすな(子供好きの妖狐・f14023)が竜巻の軌道を読みながら素早く戦場を駆ける。彼女はこんな状況での逃げ足に自信があった。直角の方向にダッシュして距離を稼ぎ、狐火を周囲に燈していく。
 妖狐であるやすなにとって、狐火を灯すのは息を吸うが如く。火がゆらゆらと延焼していく戦場。

(っと、やっぱり速いのう!?)
 ゼファーが背後に迫っていた。
「くぅっ!?」
 尾の先を敵刃が掠める。衝撃に吹き飛ばされるようにやすなの小さな体が宙を舞う。咄嗟に狐火が壁となる。ゴウ、と竜巻が火を巻き込み、狐火は風に消されることはなく風と共に踊る。
 炎の壁を断ち切り割り込むようにしてゼファーが姿を現す。追ってくる。
「戦う気がないのですか? 何のために来たのです、」
 挑発するようにしながらゼファーは大地を砕く猛撃を放つ。
「猟兵! 遊びに来たのではありますまい!?」
「ま、まだだめみたいじゃなー!?」
 やすなが跳ねるように逃げ足を披露する。ゼファーは一風変わったこの猟兵に腑に落ちない感情を抱きながら追いかけた。向かってくる気配がない。火を撒き散らしながら只逃げているだけ。逃げ足はたいしたものだが、この妖狐は逃げているだけではないか。ゼファーは、そう思ったのだ。

 やすなは荒っぽいことが苦手な猟兵だった。常は情報収集や同僚のサポートで活躍することが多いのが、この猟兵。身を削りサポートし、疲労で壁に靠れかかって仲間の応援をする事も多いこの猟兵が敵幹部の撃破作戦に参加したのは、やはりキマイラフューチャーのため、この世界を生きる子供達のためだ。
 こすぷれをしたこともあった。そして、こすぷれをしたこともあった。いや、こすぷれだけでは、ない。確かにこすぷれは2度した。だが、他のこともした。たとえばげーむとか、マイホゥを誘惑したりとか。やすなの脳裏にマイホゥの顔が思い浮かぶ。親の顔よりは観ていないはずだ、多分。
「あれ!? これ走馬灯かのう!?」
 やすなはハッとした。そして、気を取り直した。最期に思い浮かべるのがマイホゥだなんて嫌すぎる。そう、
「怪人幹部、ゼファーよ!」
 もう戦場には、火が溢れているのだから。

 急停止したやすなは熱気溢れる戦場で敵と対峙する。
 ゼファーは「やっと猟兵が戦う気になった!?」と脚を止めて様子を見ている。

「猟兵よ、私はウインドゼファー。これより先には、通しはしません」
 ゼファーは生真面目に名乗り上げる。そして、車輪剣を掲げた。その全身取り巻く車輪は高速回転している。熱い。ゼファーはそう思った。身を焦がす情念がこんなにも身を熱して――否、
「……!?」
 ゼファーは異常に気付いた。
 只ならぬ熱がその身をいつの間にか取り巻いている。
 
 ――えーん、 こわいよーーー!

 やすなの脳裏に今度はマイホゥではなく子供の声が蘇る。
 鍵を浮かべ、怪人に怯えていたあの子。
「子供が、怯えておった。だから、わしは平穏を取り戻すのじゃ」
 そのために来たのだと猟兵・やすなは凛として声を張る。

 彼女らの周囲は一面の火の海だ。竜巻さえも燃えている。火柱が――敵に迫る。
「竜巻が!? 何故ッ」
 火に呑み込まれ熱風に全身を蹂躙されながら敵が悲鳴をあげる。

「わしの狐火が只の火遊びに視えたかの?」
 額に汗をかきながら『妖狐』は泰然とした眼を向けている。やすなの体は火炎に耐性があった。敵には、それがない。
 身を灼く熱と切り刻む風に翻弄され、敵が滅んでいく。

 熱でじっとりとした狐の尾を揺らし、やすなは木苺めいた目を瞬かせた。
「キマイラフューチャーには世話になっているんじゃ」
 敵に捧げるというよりは、それは世界に捧げるかのように。優しい声だ。

「こすぷれじゃの、ぎゃるげーじゃの、妹なりきりじゃの」
 指を折るようにして語る声は楽し気だ。
「そんな中を子供達が元気に遊んでいるんじゃよ」

 だから、猟兵であるやすなはこの作戦に身を投じたのだ。
「わしは遊びでもなんでも、手は抜かぬ。子供達が泣いているならば、手を差し伸べる。遊びに来たわけでは、もちろんない」

 敵を侮った。
 ゼファーは限界まで目を見開く。後悔の波が全身を打ち、彼女の心を海へと攫って行こうとする。

「ま、ま……だ……」
 ゼファーは炎の中、切り刻まれ焼け焦げた腕を猟兵に向けて伸ばす。
「ほう、」
(まだ、蘇るのじゃな)
 やすなは目を眇める。

「わしも、何度でも相手をしてやろうのう?」

 炎が世界を包み込み、赤に染める。

「わしも、わしの仲間達も」

 頼もしい猟兵仲間達。
 やすなには仲間がいる。いつも、どの戦場でも。

 だから、やすなは泰然とした微笑みを浮かべ、言った。

「負けはせぬよ」
 声は、あたたかに。
 炎の中に染みて、消えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

月鴉・湊
トドメ希望

鴉が風に乗って参上、なんてね。
相手がUCを使用したら暴風を舞う花の動きで見切りを行い回避を行う。そして足場が崩れたところでUCで透明化を行う。

さあ、風を読むのは得意そうだが消えた者の動きを読むのは得意か?
無差別に足場を破壊すればするほどお前の逃げ場が失われ自分の首を絞める一方だ。

自分はその隙にやつのすぐ近くで隙を伺う。
己もろとも攻撃しなければ攻撃出来ないような場所でな。

そして、奴が焦り、隙を見せた瞬間、己の暗殺技で首を狙う。
その自分で締めた首は俺が貰う。

欲望なんてな、所詮自分じゃあ制御出来ないもんなんだよ。
欲望に溺れた分、あの世で悔やみな。



●終焉の紅
「さぁて」

 柔和な声が空間を渡る。
 戦いに幕を引くため、男が世界を渡る。

 ――その戦場へと。

 戦場に無彩色が燈る。灰色。パッと視、そんな印象が濃い男だった。
 だが、鮮明に赤が靡く。印象的に紅が瞬く。
 男は無彩色の中で紅色を靡かせ、吐息に乗せて言葉を吐く。

「鴉が風に乗って参上、なんてね」

 既に暴風は放たれていた。男は舞う花の動きから気流を読む。
 薄紅の花弁が引きちぎられ、きりきり舞いをしている。宙で細切れにされていく。其の動きを十分に距離のある中で注視し、ほんのひと呼吸で彼は『見切る』。
 無駄のない動きで灰色が風から退避する。
 舞い上がる土煙はその姿を一瞬、隠した。

(避けましたか……)
 ゼファーは敵を警戒する。出現した猟兵は、手練れだ。
 既に幾度となく撃破されて蘇っているゼファーを海へと撃ち鎮めんと猟兵が送られてきている。
(退くわけには、いきません。この先には、行かせませんよ)
 戦意を高まらせ、ゼファーは土煙の先の猟兵を睨む。

 土煙の中、男は姿を消そうとしていた。

 影が陽光に照らされて潜むが如き素早き動きは熟達の技の成せる業。立つ者無き足場を切り崩す豪風を眼に男は軽く笑む余裕すら見せ、背景に溶けるように姿を掻き消す。
 ユーベルコードを発動させたのだ。
 裏家業に身を置く彼が過去幾つもの仕事を単身成し遂げてきた理由の一つがこの技にある。透明化で姿のみならず音までも完全に消した彼は、月鴉・湊(染物屋の「カラス」・f03686)。
 常は柔和で知られる彼は紛れもない実力者であった。

 ――汚れ仕事は慣れてる。
 湊はそっと敵を確認する。
 見定めるような視線は、けれど敵に気付かれることはない。
 例え敵幹部相手といえ、この暗殺者が己の視線を気取られるはずがなかった。

「消えた……ッ!?」
 ウインドゼファーが瞠目する。確かに出現したはずの猟兵が忽然と姿を消したのだ。ひと目でわかる異常事態。脳が警鐘を鳴らす。敵が何かを企んでいる、と。

 月鴉・湊。
 彼は、小さな染物屋を営む。自身をおじさんと呼び、面倒見がよく柔和に笑う彼は、猟兵としては『妖剣士』であると名乗っていた。

(さあ、風を読むのは得意そうだが消えた者の動きを読むのは得意か?)
 湊が見守る中、ゼファーは油断なく身構え、周囲を探っている。放つ暴風は猟兵を探して足場を破壊していく。透明な暗殺者は風撃に巻き込まれぬよう位置を変え、徐々に敵との距離を縮めていく。元より修練を重ねた身、ユーべルコードの恩恵をあわせれば例え敵幹部とて彼の隠密を早々破れるものではない。
 静寂なる影が敵へ忍び込む。
「まだ戦場にいるはず――!!」
 生きた敵が戦場にいる。その気配がゼファーには判るのだ。戦場の足場がどんどんと切崩されていく。無音の内に湊はゼファーの傍へ寄り、隙を伺う。

 『妖剣士』を名乗る咎人殺しが微笑む。
 透明な今、誰の眼にも映ることのないその笑みは彼の素性を雄弁に語る。

「どこです、猟兵! お、おのれ……」
 足場はどんどんと破壊されていく。ゼファー自身の逃げ場すら奪うほどに。
 ゼファーは視線を周囲に彷徨わせる。敵は見つからない。炙りだせない。
 己が攻撃の手を止めた戦場には鼓動の音だけが大きく鳴り響く。
 神経を研ぎ澄ませればチリチリと悪寒が肌を刺激する。いる。間違いない。だが、見つけ出せない。心臓が胸を突き破って出てしまいそうなほど激しく暴れる。
 出現した猟兵の姿はほんの一瞬しか見ていなかった。男だった。種族は、なんだろう。和装をしていた気がする。灰色の中に紅色が印象的な、男だった。

 敵近く潜む暗殺者は静かな瞳を敵に向ける。影楔は彼に恨みを滾々と訴える。眼前のゼファーを恨む魂が居るのだ。
 彼は、過去を背負う。
(ああ、)
 応えるように体は動く。敵には隙がある。
(お前は俺が殺る)
 音もなく。
 音もなく、紅色が走る。
 ゼファーの首に不可視の糸が巻き付く。隙を突き、0.5秒にも満たぬ早業で。咎人達の血でできた糸が感知されるよりも疾く首を断つ。瞳孔が狭窄する暇もなく断末魔すら不要だと突き放すような瞬撃が生命の灯を一瞬で吹き消す。静謐なる暗殺の絶技が『いつものように』仕事をこなす。
 ずるり。
 首が胴体から綺麗な断面を見せてズレていく。スローモーションのように遅れて鮮血が噴出し、温度のある朱の液体が視界を舞う。戦場を濃厚な臭いが支配する。
 嗅ぎなれた血臭を鼻腔に感じながら月鴉・湊は落ちる敵幹部の首を無造作にキャッチした。鷲掴む首が夥しい血を垂らし、血を濡らす。

 敵の手に崩された戦場は花咲く佳景の見る影もない。静寂が詰まる戦場の空気は冷えていた。静寂の中、血の滴る音が艶めかしい。

 纏う羽織も着流しも咎人の血の糸で編まれている。
 靡くマフラーは咎人の血で編まれている。
 
 恨みを抱えた者の過去を背負い、恨みを晴らして標的を討つ。
 討った標的が彼を怨む。彼を恨む。
 幾多の怨嗟を抱き留め、咎人の血に身を包む彼は、染物屋の「カラス」。

 澱む昏闇の夜。
 天鵞絨広がる星月夜。
 あるいは、晴天の下、街の喧騒の中。
 迷宮。戦場。何処でも。
 その鴉が飛び立てば、

 ――鴉が定めし獲物に逃げ場は無い。

 未だ血を滴らせる敵の首級を手に男が幕を引く。

「依頼、完了」
 聞く者のいない戦場に声は閑かに染み、溶けるように消えて。

 男の立ち去りし後には、只静寂が遺る。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月19日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#キマイラフューチャー
🔒
#戦争
🔒
#バトルオブフラワーズ
🔒
#ウインドゼファー


30




種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト