バトルオブフラワーズ⑩〜鉄壁乙女の心を奪い
●鉄壁乙女
「まじびびった! だってモンキーやられてっし!」
システム・フラワーズを守る第二の番人。
女性らしい身体を包む扇情的な装いに不釣り合いな、大きな大砲、大きな仮面。
カワイイ怪人『ラビットバニー』は、その動揺を隠せない様子であった。
だって、あいつあーしらの中で最強っていうか、誰も勝てる訳ねーって思ってたんですけど!
「でもまあ、あーしが全員始末すりゃいいか!」
とはいえ、動揺するのもそこそこに、すぐにあっけらかんとした口調で言い放つ彼女。
エイプモンキーが最強ならば、自分は無敵。
どんな攻撃も、あーしには全部無効なんだから。それで負けるわけなくない?
「まあ、エモいもの見ちゃったら、心が乱れてバリアも解けるけど……」
ついでに、彼女のエモ基準かなりガバいけど。
「まーなんとかなるっしょ! アゲてくぞー!」
●どいつもこいつも
「桁外れの能力をお持ちで嫌になりますね。とはいえ、だから帰るという訳にも参りませんので」
「皆様、お集りいただきありがとうございます。世界コードネーム:キマイラフューチャーにて、オブリビオンの出現が確認されました」
シスター服に身を包んだグリモア猟兵が、自分の呼びかけに応じてグリモアベースに集った猟兵達へ語りだす。
「はい、今しがたお聞きいただいたとおり、エイプモンキーに続く二人目の幹部、ラビットバニーが今回の相手となります」
他の怪人に比べれば、幾分か普通の人間に近い姿である彼女。
それでも、その正体は強力なオブリビオン。それに相応しい、強大なユーベルコードを手に現れたのだった。
「彼女の力は『絶対無敵バリア』。その名の通り、あらゆる攻撃を通さない無敵のバリアが、隙間無く彼女の身体を守っています」
子供のような名称だが、その力は本物だ。
物理、精神、概念その他、ありとあらゆる攻撃は、彼女のバリアの前に無効化されてしまう。
とはいえ、理不尽な力に立ち向かうなど、猟兵ならば日常茶飯事。
動揺すること無く話を聞く猟兵達が、グリモア猟兵に続きを促す。
「ええ、当然なんの策も無しに皆様を向かわせたりしませんとも。彼女のバリア、攻略する鍵は既に予知に出ています!」
くわっとした顔付きで、彼女は言葉を続ける。
「彼女のバリアは精神力で維持されています……というわけで! 皆様のエモさで彼女の心をかき乱してください!!」
そう、カワイイ怪人ラビットバニーを倒す唯一の方法。
それは、猟兵達のエモさ満点の行動で彼女の心を乱し、そのバリアを一時的にかき消すことであるっ!
「……あまり、『何言ってんだ?』みたいな反応がありませんね。皆様もキマイラフューチャーに慣れてきたご様子で」
感慨深い……なる程これがエモさ。
うんうんと頷くグリモア猟兵をよそに、猟兵達は頭をひねり始める。
エモさとはなんだろうか。
大切な者との感動的な話、美しい映像、突然のパンチラ……。
「あ、エモさに関しては彼女、大体何でもエモく感じるそうですよ? むしろ、バリア抜きでも結構な実力者だそうですので、そちらを気を付けた方がいいかもですね」
……先に言え!
そう叫んだ誰かの言葉をかき消すように転移が始まり、猟兵達は、再び花が咲き乱れるシステム・フラワーズへと降り立つのだった。
北辰
OPの閲覧ありがとうございます。
猿の次は兎ですよ、北辰です。
今回の敵は絶対無敵。
怪人軍団、どいつもこいつもチートばかりですね。
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ラビットバニーは必ず、猟兵に先制して『絶対無敵バリアを展開するユーベルコード(POW、SPD、WIZ)』を使ってきます。
絶対無敵バリアは本当に絶対無敵で、あらゆる攻撃を無効化しますが、「ラビットバニーがエモい物を目撃する」と、精神集中が乱れてバリアが消滅します。
ラビットバニーのエモい基準はかなりユルいので、バリアの解除は比較的容易と思われますが、バリアなしでも彼女は相当の実力者です。
====================
はい、今回の鍵はエモさとなります。
とはいえ、OPでも書いたようにエモエモ沸点の低い兎さん、割と何でもバリアが解除できちゃいます。
ただ、『バリア解除だけでなく、このままエモさで倒してやるぜ!』といったノリでガチエモプレイングをかけていただくのも勿論歓迎いたします。エモさに応じたプレイングボーナスもちゃんとあるよ!
また、今回のラビットバニーは単純に戦闘に長けた実力者でもあります。
エモさ全振りでいった場合、バリア無しの兎さんに普通に負けるというパターンもあり得ますのでご了承くださいませ。
エモさと強さのバランスを取ったプレイングか、リスク覚悟で全力エモーショナルをぶつけるか。
貴方が思う、エモいプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『カワイイ怪人『ラビットバニー』』
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POW : 赤べこキャノン
【絶対無敵バリア展開後、赤べこキャノン】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : うさちゃんカンフー
【絶対無敵バリア展開後、兎面の目が光る】事で【うさちゃんカンフーモード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : おはなハッキング
【絶対無敵バリア展開後、両手の指先】から【システム・フラワーズ制御ビーム】を放ち、【花の足場を自在に操作する事】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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朽縄・悠
アドリブ・連携歓迎
エモさ、ね。
最近の流行りらしいけれど私にはいまいちピンとこないわ。
だから、ちょっとした曲芸をみせてあげる。
UC、水星形態を発動。
周囲の花々から生命力を吸い取り、花々を枯らしていく。
さあ、影喰。その封印を解きなさい。
どう?この光景は貴女の琴線に触れる?
液体は、私の血でいいわ。
両手を浅く切りつけ血を流し、その血を鋭利な槍上に束ね敵に放ちましょう。
敵の赤べこキャノンを躱しながら距離を詰めつつ、周囲から【生命力吸収】をして身体を癒しておく。
可能な限り近づいたら【捨て身の一撃】よ。
もっとスマートに決めた方がエモいのかもしれないけれどごめんなさい。
けれど、血腥い女はどうかしら?
●花は枯れ落ち、剣士が奔る
「エモさ、ね。最近の流行りらしいけれど、私にはいまいちピンとこないわ」
揺れる黒髪の美貌は、人ならざる血が流れる証。
妖刀を手にした冷たい眼差しの女性、朽縄・悠(妖刀影喰の適合者 識別名称 吸血姫・f18081)は、決して無感動な人間ではない。
それでも、伝え聞いたラビットバニーの言動を考えるに、自分と彼女で心動かされる情景というものが共有できるのかも、はなはだ疑問だ。
そんな彼女の言葉を聞いて、迎え撃つラビットバニーもあきれた様子で口を開く。
「うわっ、いきなり暗ーいのが来たよ……そんなんで大丈夫? どうせモンキーの時みたく、あーしのバリアについても調べてきてんでしょ?」
「ええ、勿論、だからね?」
――ちょっとした曲芸をみせてあげる。
言うや否や、悠の足元の花々に変化が生じる。
鮮やかな色を失い、萎れ、枯れ落ちていく花畑。
ラビットバニーは、それほど知識量に優れたオブリビオンではない。それでも、今起きている事態、その原因は分かる。敵が手に持つ赤鞘の刀、あの刀が、花々から『何か』を奪い、別のものへと変質していく。
なるほど、鮮やかな花畑が急速に死んでいくこの光景、この儚さには、エモさを感じる者もいるかもしれない。
とはいえ。
「あーしのバリアを解くには、ちょーっと足りない、かなァ!?」
叫びと共に、赤べこキャノンから放たれる砲弾が悠へと襲い来る。
それを視認した彼女は、花の命を啜りその姿を変えた相棒、【影喰 水星形態(カゲハミ・コードマーキュリー)】を自身の手に滑らせる。当然、刀が走った彼女の肌には赤い線が現れ、そこから鉄の匂いの液体が染み出す。
次の瞬間には、勢いよく噴き出す鮮血が宙へと浮かんでいき、キャノンを迎撃する鋭利な槍へと変じ、彼女に代わってラビットバニーの攻撃を受け止めていく。
当然ながら、守るだけでは勝てはしない。
槍で砲撃を逸らしながら、更に花畑から吸い上げた生命で手の傷を癒した悠が、ラビットバニー目掛け戦場を走り出す。
存外速い、少女然とした悠の接近するスピードは、ラビットバニーの予想を超える。
それでも、問題はない。
自分のバリアはいまだ健在、彼女が刀を振るったところで、待っているのはへし折れるか、弾かれるかの未来。
どちらにしても攻撃を防がれた相手は体勢を崩す、その時に、キャノンを撃ち込んでやればいい。
そう考えたラビットバニーが悠を迎え撃ち、カウンターのを狙う体勢に入り、気づく。
その気づきは、彼女自身が、圧倒的な強者であるゆえに。
翻るスカート、居合の形に構えなおした妖刀、ただ前進だけを求める足さばき、その眼に、自己の保身は欠片も存在しないまま。
距離が零になり、交差する両者。
直後には、お互いの肩口から、赤い血が噴き出す。
「もっと、スマートに決めた方がエモいのかもしれないけれど、ごめんなさい」
オブリビオンの反撃が貫いた肩から血を流し、それでも表情を崩さぬ悠が言葉を紡ぐ。
失血は影喰が塞いでくれる、痛みは無視すればいい、未だ立つ、目の前の敵に集中しろ。
「けれど、血腥い女はどうかしら?」
その答えは既に示された。
己の相棒が切り裂いたオブリビオンの傷を見据えながら、それでも彼女は問いかける。
「――その捨て身、ちょーっとだけエモいね。刀だけじゃ届かなかった、ちょっとだけ」
ニィ、と。
仮面に隠されているはずのオブリビオンが、笑ったような気がした。
成功
🔵🔵🔴
真守・有栖
なーるほど?
あにまるのてっぺんを目指すにはえもみが必要、と。そーゆーことね!
お任せあれ!情狼たる私がえもえものえもでとっっってもえっっっもいのを魅せてあげる!たぶんっ
そのうさちゃん仮面の化けのぴょんぴょんを剥がしてあげるわ!
いざ、勝負……!
うさぎさんうさぎさんっ
にーらめっこしーましょっ
笑うとがぶり!よっ
わっふっふ……!
渾身の変狼!かーらーのー?
ほっぺにちゅー!無理なら投げ接吻(きっす)よっ
……決まったわ。
かの魔竜をも困惑させた愛と愉悦のえもえも
(???)な連携技よ!
えもみとぽかーんの合わせ技で隙だらけなはず!一気に決めるわ!
刃に込めるは“断”の決意。
唸り迸る裂光にて、砲撃ごとずばっと成敗よ!
●ぽんこつ程可愛いもの
オブリビオンと相対する真守・有栖(月喰の巫女・f15177)は、ある目的を抱いてこの花の戦場に立っていた。
一つは、当然ながら、行く手を塞ぐラビットバニーの撃破。ひいては、ドン・フリーダムを打倒し、このキマイラフューチャーの危機を救う事。
そして、もう一つ。
才色兼狼と己を称する彼女は、この戦争で成さねばならないもう一つの目的がある。
「なーるほど? あにまるのてっぺんを目指すにはえもみが必要、と。そーゆーことね!」
「んん?」
あにまるのてっぺん。
急に飛び出した謎ワードに首を傾げるラビットバニーを置き去りに、有栖は1人ウンウンと頷いている。
つよくてかわいいあにまるとか、つよくてくーるなあにまるとか。
ステージにて獣と戦い、このシステム・フラワーズの内部においても、猿だの兎だのに対面する彼女には、ある確信があった。
――この戦いは、キマイラフューチャーというお山の大将あにまるを決める戦いでもある、と。
なればこそ、有栖が立たねばならぬ。
私こそうるふ代表、ちょっと前までふぉっくす代表と勘違いしていたが、今はうるふ代表。
有栖は、全うるふの名誉を(勝手に)背負ってこの戦場に立っているっ!
「ええ、お任せあれ! 情狼たる私がえもえものえもでとっっってもえっっっもいのを魅せてあげる! たぶんっ」
「あ、そこは多分なんだ……」
なんだコレ、一周回ってちょっと可愛いぞこの生物。
困惑し続けるラビットバニーを見据え、彼女曰く『とってもエモいもの』を見せるべく有栖が構えを取る。
両の頬に手を当てて、既に準備は完了。少し力を込めれば、特大級のエモエモがラビットバニーを貫く……!
「にーらめっこしーましょっ、笑うとがぶり! よっ、わっふっふ……!」
にらめっこであった。
両手で顔を押しつぶすように力を込めれば、有栖の形のいい唇は、前へ突き出すように歪に変形する。
どうだ、この攻撃は。あまりのエモさに声も出ないようね!
黙って棒立ちになったラビットバニーを見て、有栖は自身のにらめっこ力の高さに戦慄する。
一方で、ラビットバニーはバリアを張ったまま、それをポカンと見つめていた。
にらめっこと言っても、自分が被っている仮面が見えていないのだろうか、この子。
これ、あれか。ポンのコツとやらか、この子。
疑問符と、オブリビオンらしかぬ母性愛の芽生えで脳が占領されたラビットバニーが、ただただ有栖を見つめる。
このままキャノンを打ち込んでもいいのだが……なんか気分が乗らない。
そんな事まで考えだしたオブリビオンの心情など知らない有栖は、更なる追撃を与えるべく、とてとてと近づいてくる。
当然ごちんと、バリアにぶつかる。
涙目で赤くなった額をさする姿がエモい、やべぇバリア解けそう。
どうにかそれを耐えたラビットバニーの目に映るのは、涙目のまま宙がえりをし、狼の姿へと転じるアリスの姿。
そして。
「投げ……キッス
……!?」
狼の姿のまま、ちゅっと投げキッスをしてみせるその姿。
SNSなら間違いなくバズる。ほら、肉球とかぷにっぷにじゃないか……!
知性ある人狼だからこそなし得るエモシチュエーションに、ついにラビットバニーのバリアが解ける。
「……決まったわ!」
かの魔竜をも困惑させた愛と愉悦のえもえも連携技。
その成功を確信した有栖が、瞬時に人の姿に戻り、駆けだす。
その刃に込めるは“断”の決意。
眩く光を放つ刀を抜く人狼が、紫の瞳をわずかに細め、先ほどまでとは全く異なる、剣豪としての眼差しで刃を振るう。
しまった。
謎のにらめっこからの投げキッス、完全なる緩急に毒気を抜かれた体勢では、幹部格のオブリビオンといえども、防御は間に合わない。
それ以上に、先ほどまで子供のようにはしゃいでいた猟兵の、その美しくも力強い剣士としての眼差し。
この緩急、このギャップ。
「――エモすぎるんですけど!!」
それは、反撃すら間に合わずに切り裂かれたオブリビオンの、偽りない賛辞であった。
大成功
🔵🔵🔵
アリス・レヴェリー
えも……なんとなくわかった気がするわ!【パフォーマンス】すればいいんでしょ!
花の足場を取り上げて意地悪するならわたしも考えがあるわ。自分から飛び降りちゃう!
落ちながら【真鍮の軌跡】で軌跡を残しながら、少し落ちた所で風の結晶、【世界の雫】を叩き割って、反動で上空に吹き上がるわ。
そこから軌跡を足がかりに、防御や足場に【刻命の懐中時計】の結界も時に交えて立体的に軌跡を描いて魅せてあげる!
暫く逃げて距離を詰められたら焦って足を踏み外しながら闇雲に箒を振る【フェイント】を仕掛けつつ落ちるわ。
ちなみに、そこの軌跡一帯には結晶がいっぱい【隠し】てあるから。
大誘爆が始まるわ!わたしは落ちた先で見上げてるわね!
●いじわる
ちょっと拙いぞコレ。
立て続けに攻撃を受け、割と派手に出血したりしてるラビットバニーが、血が足りなくなってきた気もする頭で考える。
エモいものは見たい。
見たいが、その為に様子見に回りすぎていた。結果がこの負傷だ。
まだまだエモいものは見たいが、この場の番人としての役割もしっかりと果たさねばならない。
故に。
「先手必勝、おはなハッキング! てか、最初からこうすべきって話じゃん!」
「うひゃあぁ!?」
さっさと猟兵の足場を奪い、ご退場いただこう。
そう結論を出したラビットバニーのユーベルコードにより、蠢き、変形し始める花の足場。
その花や蔓の間を跳び回っているのは、箒を抱えた小さなミレナリィドール、アリス・レヴェリー(真鍮の詩・f02153)だ。
『えも』とは恐らくパフォーマンス、そこまでは分かったのだが、こうも足場を乱されてはかなわない。
それだけではない、時間をかければ、焦れたオブリビオンが蔓を攻撃などにも使うかもしれない。
このような不安定な足場で小柄なアリスがその攻撃を受ければ、耐えたとしても、足場の外へと叩き落されかねないのだ。
そうなれば、此方に勝ち目はありはしない。そして、彼女は。
「ああっ、ああぁぁぁぁぁぁぁ……」
「……よーし、ようやく1人。モンキーの事言えないなぁ、このペース」
落ちる。
その姿を見たラビットバニーが、ようやく1人始末したことに安堵のため息をつき――空中に残る、輝く何かに気づく。
なんだアレ、念のためキャノンで撃ち抜いておこうか。
そんな事を思うラビットバニーの耳に、再び聞こえる少女の声。
「……ぁぁぁぁぁああああ!! 風量が強すぎたわ!?」
「ええっ!?」
突然の突風、下から吹き上げるように発生したそれに乗って現れたのは、勿論アリスだ。
小柄な彼女が、くるりくるりと吹き飛ばされて戻ってくる。
自然現象を結晶化させる魔法、その力の一端である風の結晶によって戻ってきた彼女が、そのまま宙に残った箒の軌跡、【真鍮の軌跡(オリカルクム・ロクス)】へと着地した。
金色の輝きの上に降り立つ、童話の中から出てきたような少女の姿は、それだけでもエモさを感じるに十分な光景だ。ラビットバニーの身体を包む絶対無敵の防御が、その力を失うのを感じる。
とはいえ、それだけ。
何故、風を敵に撃たないのか。何故、ユーベルコードを攻撃に使わないのか。
答えは、意味が無いから。
あのおちびの身体を吹き飛ばせる風も、ラビットバニーの脅威にはなりえない。
箒が残す足場とて、植物を操るラビットバニーからしたら、少しだけ仕留めるのが面倒になるだけのもの。
相手には、此方への有効打が無いのだ。
そう思考したラビットバニーが、仮面の下で顔を歪める。
つまり、ここからは引き続き、ただの狩りを楽しめばいい。
「ほらほらほらぁ! 逃げてるだけじゃ、あーしは倒せないよ、このおちび!」
「言ったわね!? 人が気にしているところに触れたわね!!」
状況は、一方的だった。
逃げて、避けて、防いで、逃げて。
空中を駆けるアリスを、オブリビオンの意に従う植物が追い回す。
ちらりと目を落とす時計の文字盤、そこにはめ込まれた結晶は、その3分の2が輝きを失ってしまっていた。
宙を逃げるアリスは、幹部相手によく粘る。
それでも、じわじわと手札は削れていき、敵から逃れる手段は底が見え始めた。
「……もうっ粘るなぁ! いいよ、あーし直々に捕まえたげる!」
先にしびれを切らしたのは、ラビットバニー。
接近してくるオブリビオンに気づいたアリスが、けん制にとその手の箒を振るう。
けれど、それで敵の歩みが緩む事は無く。
それどころか、足場から気を逸らしたアリスは足を踏み外し、ぐらりと身体を傾け、落ちていく。
そこで、油断などしたりしない。
もう一度風で戻ってきてもいいように、ラビットバニーが追撃を加えようと、花々の下に消えゆくアリスを追い。
なにやら、硬いものを踏んだ。
あの娘が使っていた風を生む結晶と、もう一つの、赤い結晶。
「――足場を取り上げた意地悪は許してあげる。私も、嘘つくみたいな事しちゃったもの」
落ちながら発せられた少女の声。
それが、爆風に包まれるオブリビオンに届く事は無かった。
大成功
🔵🔵🔵
篁・綾
月代さん(f10620)と連携
…頭かくしてなんとやらみたいな。
ちょっとアレ外してみたいけど、外れるのかしら。気になるわ…
指定UCを使用、桜吹雪を生み出す。
彼に合わせ二刀を持ち、桜吹雪の中【誘惑】を駆使しつつ【パフォーマンス】で踊る。
さぁ、御覧じよ。
敵の反応があったら、桜吹雪で【目潰し】しながら【範囲攻撃、呪詛、マヒ攻撃、鎧無視攻撃、2回攻撃】を駆使し、生み出した桜吹雪で攻撃。
近い間合いにいる場合は、それとは別に武器による【なぎ払い、衝撃波】も撃ち込む。
敵からの攻撃は【第六感、フェイント、空中戦】を駆使しながら【見切り】、【残像】で回避。
無理なら【武器受け、激痛耐性、オーラ防御】で受け。
月代・十六夜
篁・綾(f02755)と連携。
【照猫画虎】を使用し、相方と鏡写しになるように【変装】。
二本の模造刀を構えて舞い散る桜吹雪の中で二人で剣舞による【ダンス】【パフォーマンス】。
高速移動も卓越した【視力】【聞き耳】【野生の勘】による【見切り】で踊りながら回避。ダンスの精度を上げながらバリアの解除を図る。
桜吹雪で視界が悪い中を相方と位置交換によるアタッカーの誤認【フェイント】を織り交ぜながら、相方のユーベルコードが効果を発揮するまでの【時間稼ぎ】を行う。
あ、しゃべると速攻バレるんで無言を貫こう。流石に声帯模写まではできんしね。
●二重桜
「けほっこほっ……あのおちび、今度会ったらただじゃおかないし……!」
爆風により荒れ果てた花畑が、ラビットバニーの力によって元の姿を取り戻していく。
そこに立つオブリビオンの姿は、煤にまみれた悲惨な物。
ドン・フリーダム率いる怪人軍団幹部、その紅一点としてはあってはならぬ姿となり、ラビットバニーは復讐心を燃やしていた。
次の猟兵は必ず仕留めてやる。
そう、グリモアの転移の光に包まれ、新たに現れた猟兵を睨みつける彼女の眼に映ったのは。
「……双子?」
2人の、女猟兵の姿だった。
「……頭かくしてなんとやらみたいな」
外れるのだろうか、あの被り物。
首を境に露出度が違いすぎるオブリビオンを前に、篁・綾(幽世の門に咲く桜・f02755)はコテンと首を傾げて呟いてみる。
返答は、期待していない。
目の前のオブリビオンは敵であるし、隣に立つ味方――自分と全く同じ姿の、もう一人の綾は、声を出せぬ事情がある。
もう一人の綾。その正体は、ユーベルコードの領域に達した【照猫画虎(モノマネ)】によって姿を偽るキマイラ、月代・十六夜(韋駄天足・f10620)であった。
これが男であれば多少声色を変えることはできるのだが、少女とすら呼べる年頃である綾の声まで真似するのは、流石に難しい。
よって、だんまりを決め込まざるを得なくなっているのが、彼の現状である。
そう、すべてはエモい戦いの為に!
「まあ、双子でも三つ子でも関係ねーし! あーしのうさちゃんカンフーで、まとめてボコってやるから!」
そんな事情を知るわけもなく、警戒もそこそこにラビットバニーが猛攻を開始する。
元々、ユーベルコードの打ち合いならば、一方的に先制攻撃をすることすら可能な彼女だ。
目から放つ赤い光の軌跡を宙に残しながら、まさしく獣じみたスピードでラビットバニーが猟兵達へと迫る。
寿命が削れる? それを気にするのは生きる者の特権、とっくに過去の存在と化したオブリビオンにとっては、ちょっとした無茶ですむ。
しなやかな脚は鞭のように振るわれ、2人の綾の内、より前に出ていた十六夜へと迫る。
まともに食らえば一撃で意識を刈り取られる暴力が向けられた彼は。
やはり声を出さずに、静かに安堵した。
月代十六夜はキマイラである。
しかし、その容姿は――今は綾の姿を借りているが――獣の特徴など何一つ持たない人間そのもの。
それでも彼が、複数の動物を掛け合わせた存在であるキマイラと呼ばれる所以は、その内側に。
その遥か彼方を見通す琥珀色の目が、僅かな空気の流れをも察知する肌が、自身の意のままに身体を動かす神経が。
何よりも、それらが捉える情報を適切に処理し、為すべきを見誤らない脳機能は、人域のそれを確かに逸脱したキマイラのそれである。
「うっわ、ちょこまか動いて当たる気しねーわコレ!?」
それらの能力を全てつぎ込めば、いかな高速攻撃であっても、回避する程度の事は可能だ。
改めて、狙われたのが自分で良かったと安堵する。
綾とて、むざむざと倒される実力ではないが、彼女が回避に専念しなければならない状態になれば、半ば詰みだった。
これでいい、敵の攻撃が此方に向けられ、彼女の側に余裕ができたのならば。
「止めよ、止めよ 空疾走る闇を」
詠うように発せられる妖狐の声が、オブリビオンが統べる花園を超える為の嵐を呼んでくれる。
「心惑わす煌めきの花で 艶やかに染め、睡りへと誘え」
詠唱と共に宙へと差し出された綾の掌から、無数の花弁、桃色の桜吹雪が舞い踊る。
オブリビオンの視界を遮るその吹雪が強く吹き付け、次にラビットバニーが猟兵達の姿を捉えた時には、二刀の刀を持った、2人の綾が静かに舞踊の構えを取っていた。
「――さぁ、御覧じよ」
ユーベルコード、【幻桜煌鎖】の吹雪の中で。
狐耳の剣豪が、その鋭い眼差しでオブリビオンを射貫き、宣言した。
その数十秒後、ラビットバニーは感嘆していた。
美しい桜吹雪はもちろんエモい。
だがそれ以上に目を奪うのは、2人の剣士による鮮やかな舞踏だ。
華が舞い、刃が煌めく。
数合撃ち込まれただけで、ラビットバニーの強者としての見識が告げる。
片方は、警戒するに値しない。
持っている刀は、見てくれだけのハリボテであり、攻撃的なユーベルコードを使ってくるそぶりも無い。
自分の身体に纏わりつく鬱陶しい花弁も、衝撃波を伴う剣技も、操る主はもう片方。
そちらを仕留めてしまえば、有効打の無いもう片方は、どうにでも始末できるだろう。
「――だっていうのに! どっちがどっちだか分からないんですけどー!?」
花弁が舞い、ラビットバニーの視界から2人が消える一瞬。
その一瞬を的確に見抜く十六夜が行う綾とのスイッチが、これ以上ないフェイントとして機能する。
十六夜は警戒するに値しない。
それは間違いないのだが、その十六夜がどちらなのか、2人がドンドン入れ替わるせいで一向に絞れない!
苛立つ思考の片隅で、2人の猟兵のコンビネーションにエモさを感じてしまう自分が居る。
まずいぞ、このままではバリアが……ああ、手遅れだ。
2人の綾が、カンフーを躱すそのやり方がわずかに異なっているのも効いていた。
卓越した感覚でまったく触れる事無く躱す十六夜に対して、綾はオーラを纏わせた刀剣を用いた受け流しを併用する。
防御を叩き潰そうと蹴りを打ち込めば躱され、躱す隙を埋めようと拳の連撃を繰り出せば、あっさりと受け流される。
「ああああ、もう!! さっきからなんでこうも外れるの!」
怒りに任せて振るわれるラビットバニーの拳を、やはり十六夜があっさりと躱してみせる。
2人の特性の違いを活かした時間稼ぎを演出するのは、時に攻撃を見切り、時に自らの勘に従い位置を変えていく彼だ。
戦いを完全にコントロールする彼に、まんまと翻弄される形であるラビットバニーに纏わりつく花弁は、時間と共にどんどん増えていき。
「――あ、やべ……ちょっとたんま!」
「待つわけないでしょう?」
「だよね!」
ぐらり、と傾く身体に気づいた時にはもう手遅れ。
十六夜が掌握しきっていた戦場の、要となっていた綾の花弁から力を奪われ、体勢を崩したラビットバニーの身体。
それを、剣豪の振るう古刀が深々と切り裂いていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
短夜・いろは
なんだと! 絶対無敵バリア!? そんなもんどーしよーもべーじゃねーか!
くそッ! だが私のやることは変わらん! アートだ! 気合いで突破する!!
頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるってやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めるな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張るキマイラフューチャーだって頑張ってんだから!!
テメーの舞散らす花びらを【赤】に染めた! 自由律動する赤い花弁は炎だ!!
わかるか? お前昔を思い出せよ!!
ウインドゼファーと語らい、エイプモンキーと競い合ったあの日々を!!
あの頃のテメーはもっと輝いていたぞ!!
もっと熱くなれよ!!!
●情熱の赤
「なんだと! 絶対無敵バリア!? そんなもんどーしよーもべーじゃねーか!」
「べー」
斬られ燃やされ、いい加減戦うのも嫌になってきたラビットバニー。
だけど猟兵は待ってくれない、そんな彼女に迫る次なる刺客。
衣服はおろか、白い髪までカラフルに染めるペンキの汚れ、カラーボールが詰め込まれたグレネードランチャーを抱えたその姿は、自分こそがエモさの化身と主張するかのよう。
その化身、短夜・いろは(やさぐれスプラトゥーン・f15837)は、のっけからハイテンションであった。
理不尽な絶対無敵バリアを前に、その脅威にふるふると拳を震わせ、オブリビオンを睨みつける。
「くそッ! だが私のやることは変わらん! アートだ! 気合いで突破する!!」
「あ、はい、じゃあとりあえず復帰頑張ってー」
叫んでいる間に、当然ラビットバニーは先制攻撃を行う。
バリアをさっさと貼り直し、おはなハッキングビームをびー。
ラビットバニーの意のままに従う花の足場はぱっくりと開き、凛々しい顔立ちのいろははそのまま真っ逆さまに。
特に飛行手段も持っていないようだったし、これでいいだろう。
ここまで散々な目にあってきたのだ、これくらい楽な相手が来てもいいよね、うん。
そう考えた、ラビットバニーのその考えがいけなかったのか。
「……れ…………ん……れ
…………!」
「あん?」
なんか聞こえる。
凄く嫌な予感がするのを抑え、いろはが消えた花園の裂け目を覗き込めば。
「頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるってやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ! そこで諦めるな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張るキマイラフューチャーだって頑張ってんだから!!」
「うわぁ……」
いろはは正直者であった。
奈落の底に落とされんとした彼女、とっさに掴むは花の蔓。
とっかかりができたのであれば、後は有言実行、そう――。
気合で登るのみである!!
やたら暑苦しい鼓舞の言葉を吐きながら、ガシガシとフラワークライミングを開始するいろは。
ふっつーに傷だらけである彼女は、しかし止まらない。
迫る花、打ち据える蔓に皮膚は裂け、それでも赤に染まる彼女は止まらない。
そうして、いろはが戦場に戻る頃には、多くの花弁が赤く染まる。
宙を舞うその赤は、さながら火の粉のような幻想的な光景を作り出す。
その燃える花園の中で、ラビットバニーが口を開く。
「……ひとつ良い?」
「どうぞ」
きちんといろはから許可を取り、オブリビオンがすうと深呼吸をしてから。
「――パクリじゃねーか!? あーし見たよそれ、骸の海で見たことあるよその暑苦しさ!!」
「馬鹿野郎! あの人が骸の海にいるわけねーだろ、今でもあの情熱は消えてねぇ!」
「オリジナルの存在認めてんじゃねぇ!!」
突如始まる口喧嘩。
あ、ラビットバニーさんのバリアは消えています。
エモい情熱だからこそ、パクリを許さない感じの方なんですね。
「大体そんなの気にする時点でお前の火は消えてんだ! わかるか? お前昔を思い出せよ!!」
「うるせーよ! そのフレーズも聞いたことあるよ思いっきり!」
エモい空間の中、なんかエモくない言い争いが続く。
そんなやり取りの中、ラビットバニーの中に芽生える熱い想い。
モンキーもゼファーも、こんな熱い言い争いができる相手では無かった。
初めて出会った、同じ話題を語れる強敵。
熱い、熱いこの感情、これは、まさに。
「「もっと! 熱くなれよ
!!!」」
ちゅどーんと、大きな爆発音。
その中心、いろはのユーベルコード、【High Precious】でエモさの爆発を受けたラビットバニーが煙を吹き出している。
「……ひとつ良い?」
「どうぞ」
「やっぱ、あーし、お前ら嫌いだわ……!」
どうにかそれだけ絞り出したラビットバニーが倒れ伏す。
それを見届けるいろはの表情は。
ちょっと腹立つレベルで達成感を滲ませていたという。
大成功
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