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天使に捧ぐマルシュ・フュネーブル

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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 白い羽根を、毟る。
 抜けかけた羽根を摘まみ上げると、『何をするのよ』と彼女は言った。だから彼は、こう答える。『だってこの羽根を全部毟ってしまわなければ、君はいなくなってしまうだろう』と。
 白い羽根を、散らす。
 『馬鹿ね』、と彼女は笑った。そして穏やかに男の手を撫でる。『そんなことをしなくたって、あたしはどこへも行かないわ』と。
 そう、確かに言ったのに。
 ああ、それがいつの、誰の記憶だったのかも、もう定かでない。

 絹を裂くような悲鳴に、男ははっと我に帰る。
「どうしたんだい、セシリア」
 開いた掌から落ちるのは、毟り取られた白い羽根。鎖につながれた有翼の娘は、違うと叫んで唇を噛んだ。
「私はそんな名前じゃない! 私は、」
「聞き分けのない子だな、何度言えば分かるんだ。君はセシリア、私の妻――」
 ――だったものだ。
 にたりと嗤って付け加えた男の青白い顔を、無数の羽根と花が飾っていた。そして暗く湿気った古城の壁に、今宵もまた、女の悲鳴が響き渡る。

●CECILIA
「……すごく、嫌な予知だった」
 そう言って深い溜息とともに、ブルーベル・ザビラヴド(誰かが愛した紛い物・f17594)は青い睫毛を伏せた。ヒトならぬ者の白い膚がいっそう蒼褪めて見えるのは、単に冴えた光のためであるかもしれないが――気を取り直すようにふるりと頭を振って、少年は重たげに口を開いた。
「場所はダークセイヴァーの小さな村。正確には、白花の村っていうんだけど……」
 太陽の照らさない世界の片隅に、ひっそりと息づくオラトリオ達の集落。人目を忍ぶようにひっそりと森の奥で暮らす彼らは、オブリビオンの目を逃れ、決して豊かではないものの静かな生活を送っていた。しかし――。
「森の奥にある古城に、ヴァンパイアが棲みついた。それから彼らの運命は、狂ってしまったんだ」
 どこからかやってきて、打ち捨てられた城に棲みついてしまったヴァンパイア。それ自体は、ダークセイヴァーにあっては残念ながら珍しいことではない。村に暮らすオラトリオ達にとってとりわけ不幸であったのは、そのヴァンパイアがオラトリオの女性に対して異常なまでに執着していたことである。
「ヴァンパイアの詳細は、よく分かっていない。はっきりしているのは彼が、時々村にやってきては若い娘を攫っていくこと。攫われた娘達が帰ってはこないこと。それから、そのヴァンパイアが――大量の羽根と花で、その身を着飾っていること」
「……羽根と、花って」
 それは、と誰かが語尾を濁した。恐らくは誰もが、似たようなことを想起しただろう。多分ね、と応じて多くは語らず、ブルーベルは続けた。
「ヴァンパイアの棲む廃城は、村からさらに森の奥へ進んだ所にある。ボロだけど城壁に囲まれた堅牢な城で、中には手下のレッサーヴァンパイア達がうようよしてるみたい。城の北側は塔になっていて、螺旋階段を登った先にヴァンパイアの居室がある」
 予知で見た光景を頼りに広げた紙へペンを走らせながら、大体こんな感じ、と少年は言った。
「侵入経路は、大きく分けて三通り」
 まず、城の正面玄関だ。警備に当たる敵の数は最も多いと予想されるが、うまくこれを撃破できれば北側の塔まで最短距離で進むことができる。
 次に城の裏口。正面玄関から見て西の城壁に位置する通用口から城の内部へ続く通路は狭く、大人数での行軍には向かないが、敵の目を盗んで動ける可能性は高い。
 そして最後に、城の西側の城壁だ。城壁を乗り越えればヴァンパイアのいる塔はすぐそこだが、誰にも気づかれずに侵入できるとは考えにくい。城壁から侵入する場合、主目的は正面玄関の敵に対する陽動となるだろうが、敵が他の場所に集中すれば或いは、中へ滑り込むことも不可能ではないかもしれない。
「城の中には多分まだ、囚われている人達がいる。生きているか――そうでないかは、分からないけど」
 救える命があるのなら、救いたいと思うのは自然なことだろう。しかし、焦りは禁物だ――まずは着実に、城に巣食うヴァンパイアの元へ辿りつき、確実にその牙を折らねばならない。それから、と口にしてしばし逡巡し、少年は躊躇うように言った。
「そのヴァンパイアはもしかしたら――誰かを探しているのかもしれない」
 断片的な予知の光景の中で、男の声が繰り返し読んだ名は――『セシリア』。
 過去より来たりて未来を呪う骸の海の亡霊、オブリビオンであるヴァンパイアに、どんな事情があるのかは分からない。
 だが過去より生まれたオブリビオンであればこそ、彼は『誰かの記憶』を引きずっているのかもしれない。
「……どんな理由があれ、彼がしていることは許されるものじゃない。同情なんてするつもりはこれっぽっちもない……けど」
 何が、彼を突き動かすのか。
 罪もないオラトリオ達が、なぜ、犠牲にならねばならなかったのか。
 ただヴァンパイアを討伐しただけでは、疑問が残ることだろう。そうなれば残された人々は、過去に捉われ続けることになる。
「真実を知ることは、前へ進むための第一歩だと……僕は思う。だからもし、叶うのなら――」
 否、それ以上は語るまい。
 声にしかけた言葉を飲み込んで、色硝子の少年は掌のグリモアを輝かせる。
 闇に閉ざされた森の古城に、今ひと筋の光が射し込もうとしていた。


月夜野サクラ
 お世話になっております、月夜野です。
 ダークセイヴァーでのシナリオをお届けに上がりました。
 『全編シリアス、心情重視』です。
 ご縁がございましたらよろしくお願いいたします。

●第一章:集団戦
 複数ある経路のいずれかで領主館に潜入し、館を守るレッサーヴァンパイア達を撃破して、領主の部屋を目指して頂きます。被害者の捜索・救出については本章では扱いません。
 オープニング中に提示した『正面玄関』、『裏口』、『城壁』の三つのルート以外でもご自身で考えられたルートで挑戦したり、まったく独自の行動を取って頂いても構いません(ただし採用をお約束するものではありません)。

●第二章:ボス戦
 領主の間での戦闘を扱います。
 第一章の戦果を踏まえて、より速く、効率的に城内を進むことができた方から順に、ボスの居場所へ到達できたとして扱います。到着順は、一章のプレイングとサイコロによって判定し、詳細は二章開始時にご案内します。

●第三章:日常
 現時点では詳細不明です。
 ブルーベルはお誘いがあった場合に限り、三章にのみお邪魔します。

●プレイングの受付期間について
 新章の開始ごとにマスターページにてご連絡いたしますので、お手数ですがご確認下さい。
 フライングや締切後に送信頂いたプレイングは、申し訳ありませんがお返しさせて頂きます。

●諸注意
 ・グループでご参加の場合は団体名を明記の上、なるべくプレイング送付のタイミングを合わせて頂けますと助かります。人数は~4名様までを推奨です。
 ・万一、想定より多くのプレイングを頂いてしまった場合、内容に問題がない場合でもプレイングをお返しさせて頂く場合がございます。
 ・シナリオの雰囲気にそぐわない行為、合意のない確定プレイングやその他の迷惑行為、未成年の飲酒喫煙など公序良俗に反する行動、R-18に抵触する行動は描写できません。

 以上、あらかじめご了承頂けますと幸いです。
 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております!
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第1章 集団戦 『レッサーヴァンパイア』

POW   :    血統暴走
【血に飢えて狂乱した姿】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    ブラッドサッカー
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【レッサーヴァンパイア】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ   :    サモンブラッドバッド
レベル×5体の、小型の戦闘用【吸血蝙蝠】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヴァルダ・イシルドゥア
人々にとって、生きる希望を満たすもの
けれど……、……時には、ひとを狂わせるもの

歪んでしまったのだとしても
彼の『あい』は、きっと
……尊く、そして……だからこそ、悲しいものなのでしょう

過去を、過去へ
彼を、人々の記憶、その深海で眠る、彼女のもとへ
静かに……安らかに、送り届けることこそが
それこそが、私のほんとうのおつとめ

囚われた人々を救う為
そして……彼にも
一刻も早く、救いを齎さなくては

……アイナノア、太陽の君
今こそ来れ
我ら、闇を裂くひかりとならん!

飛竜翔を用い、空中から城に突入
城内を混乱させる為
そして、猟兵たちの道を作る為
流星槍を主軸に敵と対峙する
残体力の低い個体を狙い、確実に各個撃破を目指しましょう



 遠く、雷の唸る声が聞こえていた。
 ダークセイヴァー、白花の村。森の入り口の集落を超え、密集した針葉樹の陰鬱な森をしばらく行った先に、その古城は存在する。城の全貌を見渡せる小高い丘の上、曲がりくねった枯れ木を足場に立って、ヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)は稲光の走る空を仰いだ。向かい風に流れる金色の髪は、色のない世界の中でただひとつの彩であった。
(「……『あい』とは」)
 人々にとっての、生きる希望。愛ゆえに人は人であり、愛なくしては人たり得ぬ。けれど――愛は、時に人を狂わせる。
(「歪んでしまったのだとしても、彼の『あい』は、きっと――尊く、だからこそ悲しいものなのでしょう」)
 愛が深ければ深いほど、その喪失がもたらす絶望もまた深くなる。
 『彼』を凶行に駆り立てるものが正しく愛であるのならば、多分、力任せにねじ伏せるだけでは何も解決しないのだろう。
 城の北端、雲を突き刺す尖塔の頂点を夕焼け色の瞳に映して、娘は確かめる。
 過去を、過去へ還すこと。
 記憶の海の底で眠る『彼女』のもとへ、『彼』を送り届けること。
 それこそが真の救いであり、自らに課せられた真の役割であるのだと。
「――行きましょう」
 我が身の務めを、今日ここへ来た理由を。目に映るものに背を向けることなく、ただ、救いをもたらすために。
 肩に留まった仔竜の喉をひと撫ですれば、それはひと振りの槍に姿を変えた。すう、と大きく息を吸って竜槍を取り、ヴァルダはその穂先を高々と天へ突き上げる。
「アイナノア、太陽の君。今こそ来れ! 我ら、闇を裂くひかりとならん!」
 迸る白い光が、低く垂れこめた雲を貫いた。中空より出でた竜は蒼い焔を纏って空を駆け、雷霆の如きスピードで主たる娘を掬い上げる。
 目指すのは灰色の古城、その只中。壊れた愛に終止符を打つために、猟兵達が動き出す。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンナ・フランツウェイ
ヴァンパイアの所業に吐き気がする。被害者と同じオラトリオとしてそんな感想を持った。
でも何故かな、誰かを探しているという事に私の内の怨念が親近感を感じてしまったのは。…行くよ。この悲劇に幕を引き、オラトリオ達と…哀れな罪人の魂を救う為に。

侵入経路は『正面玄関』。大群を倒し、ヴァンパイアの元へ乗り込む!

【断罪式・白詰花】で周囲のオラトリオ達の呪詛を纏い、血の刃を放射しながらレッサーヴァンパイアへ高速移動で接近。

【処刑斧・ロストクロニクル】を振るい【範囲攻撃】&【なぎ払い】。命中したら【生命力吸収】【傷口をえぐる】でトドメを刺していく。
道を阻むと言うなら何人でもなぎ倒すだけだ!そこをどけ!


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
やれ、斯様な不条理がこの世では当たり前だが
到底慣れるものではないな
打ち壊せば――ふふん
ならば、我々以上の適任は居るまいよ

ジジと共に、正面から堂々と足を踏み入れる
斯様に辺鄙な館を態々訪れてやったのだ
盛大に持て成してもらわねば不敬に当たろう
ジジの小言に渋々後ろに下がり
襲い来る眷属共に、魔方陣より行使するは【死への憧憬】
首なし騎士にはジジの支援を
屍竜には私の盾となり周囲の敵への蹂躙を許す
特に蝙蝠の群れを残しておれば後々厄介故な
召喚され次第範囲攻撃で一撃を加え、消滅を図る

理性を失った個体には貴様の出番ぞ、騎士よ
速く動く物に目がないならば
首なし騎士に駆けさせ、注意を逸らしてみせよう


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
真に当たり前となるのは
それを認めてしまった時だろう
…故に、ここで壊す

何とも師父らしい、が
先頭を行くのはやめてくれ

代わり、師の壁となるべく前へ
喚び出すは【餓竜顕現】
師の騎士と合わせ手数を、拾える範囲を増やし
群がるレッサーヴァンパイアも
黒剣にて広範囲を薙ぎ払い、道を拓く

蝙蝠どもはあえて集まってくるまで狙わぬことで
師の魔術の時まで誘き寄せてから討ち漏らしを潰す
降る術は師の指先のようなもの
頼むぞ、師父

敵が暴走を始めたら騎士の援護を受け
気を取られた隙に餓竜で払う
集団、物量で掛かってきたなら
怪力を以て剣の腹で打ち払い、他の個体をも巻き込み吹き飛ばす

許可なく通れると思うなよ


アルファルド・リヤ
この世界ではごく当たり前の事かもしれません。
ですが、この世界の住人であっても可笑しい事には気付く筈です。

うつくしい方々ですね。
しかし貴女方も……いいえ、考えるのは止めましょう。
無機物である自分には関係のない事ですから。

機械の腕で一体ずつ確実に仕留めます。
素早くはありませんが、二回攻撃を使い
そして味方と協力し弱った敵から薙ぎ払います。

遠くの敵へは呪詛を。
確実に仕留めると言ったでしょう。
敵の攻撃は機械の腕で防御します。
痛みなど感じませんから。時には味方の盾になることも厭いません。



「――見えましたね」
 深い森の奥深く、青黒い木々の葉の向こうに忘れられた城が覗く。不穏な風に揺れる前髪を軽く押えて、アルファルド・リヤ(氷の心臓・f12668)は呟くように言った。曇天に突き立つ塔は高く威圧的で、鈍色の城は全体が重く剣呑な気配に包まれている。
「やれ、斯様な不条理がこの世では当たり前だが……到底、慣れるものではないな」
 ほう、と小さく嘆息し、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)もまた城の方角へ目を移す。木々をざわめかせるものは、季節を知らぬこの地の冷たい風だけではない――未だ見ぬオブリビオンの怨念じみた妄執は、湿った空気を伝って足元の土壌を侵食してゆくかのようだ。
 辟易したような師の呟きを受けて、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)が言った。
「真に当たり前となるのは、それを認めてしまった時だろう」
 日々を慎ましく生きる無辜の人々が、強大な力を持った誰かの気まぐれに脅かされる世界。しかし例えそれが事実でも、『そういうものだ』と受け入れるかどうかは考え方の問題だ。
「ゆえに――ここで壊す」
「…………」
 不意を打たれたように、アルバはぱちりと瞬いた。何か、と問う従者にいいやと軽く首を振り、術士は不敵な笑みを浮かべた。
「なに、殊勝なことを言うものだと思ってな。……で、あるならば」
 我々以上の適任は居るまいよ。
 低く零した瞳の中で、希望の星がきらりと光る。そう――この世の理不尽を当然のものにしないためにこそ、彼等はここへやって来たのだ。
「…………」
 処刑人の斧を握り締め、アンナ・フランツウェイ(断罪の御手・f03717)は奥歯を噛んだ。術士服の背に伸びる白と黒の一対の翼は、彼女もまた、ヴァンパイアの欲望の犠牲となった娘達と同じオラトリオであることを示している。未だ飲み下せぬ思いを抱えたまま、娘は厳かに口を開いた。
「……行くよ!」
 この悲劇に幕を引き、オラトリオ達を救うために。
 視線で素早く頷き合って、猟兵達は動き出した。獣さえも近づかない城へと続く道なき道を、土を蹴り、藪を分けて駆け抜ける。そして朽ちた城門へ肉薄したその時、『それ』は群れを成してやってきた。
「よいぞ! 斯様に辺鄙な館を態々訪れてやったからには、盛大に持て成してもらわねば不敬というもの――」
「師父。もう少し下がってくれ」
 仁王立ちのアルバにさくりと釘を刺して、ジャハルはすかさずその前に回り込んだ。続く道の先を見据える黒い瞳に映るのは、白い――空恐ろしいほどに白い、娘達。
「うつくしい方々ですね。しかし……」
 貴女方も、と口にしかけて、青年は唇を結んだ。彼女達が何者であったかなど、考えたとて詮ないことだ。この身は温度を持たない無機物なれば、ただ、目の前の敵を処理することだけ考えていればよい――ただ悪戯に奪われること、それを『おかしい』と言える世界のために。
「確実に仕留めます」
 広げた右腕がみしみしと軋んで、その形を変えた。細身の身体に似つかわしくない巨大な腕には素早さこそないものの、重い一撃は着実に敵を圧し潰していく。
「まったく過保護が過ぎるのも考え物よな」
 口上を遮られたアルバは不服げに唇を尖らせつつ、右手のタクトで魔法陣を描き出す。宙に浮いた光環をひと突きすれば、溢れ出した光の中から現れたるはそれぞれ一体のデュラハンと屍竜。主を守るように陣取った使い魔達の背中で、術士は石畳にブーツの踵を踏み鳴らした。
「さあ――蹂躙せよ!」
 血を求めて群がる蝙蝠達を、屍竜の尾が薙ぎ払う。師を背中に猛る亡霊達と並んだまま、ジャハルは短く、しかし鋭く念じた。
「映せ」
 敵が数で攻めて来るなら、此方も手数を増やすまで。死霊を喚び出す師の術をベースに編み出した業で、呼び覚ますのは鋼の竜人――誰かに似て非なる巨人の落ち窪んだ眼窩には光こそないが、餓えた竜の底知れない獰猛さが宿っている。それは術者の動きをなぞるように身構えると、巨大な黒剣の刃を返した。
 気合の代わりにふ、と短く息を吐く。剣の重みを利用して薙ぎ払えば、白い娘達が羽根のように宙を舞った。
(「――何故だろう」)
 戦場の只中に斧を握って、アンナは自問する。
 罪なきオラトリオを攫い暴虐の限りを尽くすなど、考えただけで吐き気を催す鬼畜の所業だ。同じ有翼の民として、到底許容できるものではない。なのに何故だろう――たったひとりの誰かを求めて止まないその狂気に、身体の中に住まう何かがざわめくのは。
 何かを振り払うように首を振って、娘は斧を握る手に力を込めた。
「断罪の時は、来たれり」
 咎人を哀れむならば、死を与うより他に道はないのだろう。生きようともがき、しかし叶わずに死んでいった者達の怨讐を身に纏い、白黒の翼は風よりも疾く宙を切る。
「そこをどけ!」
 道を阻む者は薙ぎ倒すのみ。振り抜いた斧はヴァンパイアの白い胸元を切り裂いて、そこに残った生命の残滓を吸い上げていく。しかし――斧を振るうその背中に、迫る影がひとつ、ふたつ。
「っ!」
 うら若き娘のものとは思えない咆哮が、石造りの城門に響いた。牙を剥き、大きな目を血走らせて、白いヴァンパイア達が少女の背中に襲い掛かる。しかしその手の爪は娘の膚を裂く前に、硬く冷たい機械の腕に阻まれた。
「確実に仕留めると、言ったでしょう」
 腕の持ち主――アルファルドは吸血鬼の爪をその腕に捕まえたまま、顔色ひとつ変えることなく告げる。ぐいと引き寄せた白い身体を、渾身の一撃が砕いた。
 白い砂と化した娘が風に舞い上がり消えてゆくのを見送りながら、アルバは戦場を一望した。迎撃に駆けつけたヴァンパイア達は数こそ多いが一体一体の力は然程でもなく、城門を前にして衝突した戦線は既に城壁の内部に場所を移し、猟兵達が押す形で徐々に城の前庭を進みつつある。一方で戦場のあちこちで、暴走したヴァンパイア達による被害も出始めていた。
「これは貴様の出番ぞ、騎士よ」
 自身を守るように立ちはだかる首なし騎士に、駆けよ、と短くアルバは命じた。すると狙いどおり、暴走したヴァンパイア達は群れを成してその後を追い始める。一方で理性を残す敵の一部は、盾を手放したアルバの元へ殺到するのだが――。
「浅慮よな」
 唇の端を上げた術士に、焦りの色はない。首筋へ伸びた魔性の腕はその身体ごと、剣の腹に打たれて宙を舞う。風に吹かれて霧散するその残滓を無造作に払いながら、ジャハルが師の前に進み出た。
「許可なく通れると思うなよ」
 暗雲立ち込める森の古城を背景に、怒号と剣戟が響き渡る。猟兵達の戦いは、まだ始まったばかりである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ブラッド・ブラック
同行:サン(f01974)『城壁』
※通常甲冑姿
※タール化描写(部分的/全身)ご自由にお任せ

――オラトリオは
天使の翼を持ち、髪に花を咲かせた美しい者達だ
その羽根と、花だろう

(悪い予感は告げず、サンの想いに同意する)

暗い世界だ
黒い俺の方が目立たないだろう
白いサンを包むように抱え
敵の目を盗み【UC】で一気に城壁を上がる

城壁の上等に敵がいる
もしくは他の猟兵が苦戦しているようなら囮として動く

サンを抱えたまま【UC】で移動し
貪婪の腕で纏めて敵を【薙ぎ払う】
傷を負えば【吸血】【生命力吸収】
俺とサンなら敵を翻弄し跳び回る事等容易い筈だ
派手に暴れて敵を引き付けよう

途中敵が撤退するようなら隠し通路等無いか注視する


サン・ダイヤモンド
ブラッド(f01805)と一緒に城壁

(初ダークセイヴァー、オラトリオも会ったことが無い)
「どうして、羽根と花?」

「……とったの?」
僕に翼は無いけれど
森の動物達に羽根のような髪をふざけて引っ張られると、痛い
無理矢理とられたなら、きっと痛い

「大丈夫かな
早く助けに行かないと」

ブラッドにつかまって城壁を昇る
彼が囮として動くと言うなら元気良く同意する
「――うん!皆を信じてる!」

僕の足では速く走れないから、やっぱりブラッドにつかまって
追ってくる敵周辺の無機物を闇を払う光に変える

囲まれたら僕ら周辺以外の空気を
太陽のような眩く熱い光に変えて
爆発を起こすように
共に戦う猟兵へ願いを託し

『――どうか、無事でいて!』


境・花世
綾(f01786)と城壁へ

仕事柄、隠密が基本だけど
本当は派手にやる方が得意なんだ

綾は、こういうの、すき?

悪戯に笑って駆け出しながら、
交わす眼差しで伝わる合図
同時に巻き上がる二つの花吹雪を、
遠目にも鮮やかな狼煙にしよう

花の蜜に集る虫のように
誘き寄せた敵の群れ
花弁で切裂く合間に燔祭を投擲し
その身を苗床に咲かせ
城壁を一層絢爛に飾り立てる

敵が増えれば増えるほど
きっと誰かが早く塔へ辿り着く
傷は怖くない、死ぬのは怖くない、
だからもっと――此処においで

敵の眼前に擲つ躰は、けれど
きみが守ってくれるから
きみが、死なせてはくれないから
血塗れの手を止めず咲かせ続ける

この花が、震える誰かの春に、なるように


都槻・綾
f11024/かよさん

城壁にて陽動
正面突破班、裏口侵入班の援護を行う

かよさんからの問いに
同じく悪戯な微笑のみで応えて

身に纏う春陽の如きオーラは
背を預ける彼女と私自身を護るもの
そして
敵を敢えて招くもの

――さぁ、いらっしゃい

破魔の祈りを籠め、誘うように朗々と響き渡らせた笛の音
やがて
奏でる篠笛がふわりと解けて無数の花弁となる

春霞の如き白花の檻は
集う敵を一掃する範囲攻撃――花筐

高速詠唱、先制攻撃、二回攻撃で畳み掛け
出来る限り多くの眷属達を祓い、骸海へと還そう

昏き世界に眩い花々の咲く様が
何処かで泣いているだろう囚われた人の目にも
希望のひかりとして映ると良い

毅然と立ち向かうかよさんもまた、穢れ無き花のよう



「どうして、羽根と花?」
 サン・ダイヤモンド(甘い夢・f01974)は聳え立つ城壁の下で首を傾げていた。旅立ちの前、グリモア猟兵の少年から聞いた説明の一部が、未だ消化しきれていなかった。
 木洩れ日の注ぐ森に暮らすキマイラの少年にとって、暗雲垂れ込めるダークセイヴァーの重苦しい空と空気は馴染みの深いものではない。そしてそれは、オラトリオという有翼の種族もまた同じであった。すらりとして涼しげな外見に似合わない幼げな物言いに、黒い鎧に自らを満たすブラックタール――ブラッド・ブラック(VULTURE・f01805)は努めて淡々と応じる。
「オラトリオは天使の翼を持ち、髪に花を咲かせた美しい者達だ。その羽根と、花のことだろう」
「…………とったの?」
 その名を体現したかのような金光の瞳が、俄かに曇る。限りなく肯定に近い沈黙に表情を翳らせ、サンはぽつりと、呟くように言った。
「……無理矢理とられたなら、きっと痛い」
 翼によく似た羽織を掻き合わせ、少年は長い睫毛を伏せる。森の動物達にふざけて髪を引っ張られた時でさえ痛いと思ったのだから、羽根を毟られたオラトリオ達の苦痛はいかばかりであったろう。
「早く、助けにいかないと……?」
 気遣わしげな少年に寄り添って立ち、ブラッドは白い身体を抱え上げる。その意図が分からないのか首を捻るのを見下ろして、黒い幽鬼は言った。
「暗い世界だ。黒い俺の方が目立たないだろう」
 冷たい鎧から染み出した黒が、ぺたぺたと城壁を登っていく。不定形の身体を自在に伸縮させられるのは、ブラックタールである彼だからこそだ。今はまだ城壁の上に敵らしい気配はないが、彼らが壁を登り切れば必ず敵は此方に注意を向けるだろう。
「俺達は囮だ。敵の戦力を引きつける」
「うん!」
 分かった、と同意して、少年は間近に迫った空を仰ぐ。視線の先にはひと足早く城壁の上へ辿り着いた二人の猟兵の姿があった。
「仕事柄、隠密が基本だけど。本当は派手にやる方が得意なんだ」
 境・花世(*葬・f11024)の右目で、風に吹かれた牡丹が揺れる。眼下に広がる城の前庭には、夥しい数のヴァンパイア達が群れていた。どうやら一体一体の強さはそれほどでもないらしいが、あれだけの数を相手にするのは手練れの猟兵達と言えど骨が折れるだろう。それに何より、時間が掛かり過ぎる。
「綾は、こういうの、すき?」
 吹く風に瞳を閉じれば、隣に立つ娘の表情を窺うことはできない。けれど閉じた瞼の裏、悪戯な笑顔が確かに見えたような気がして、都槻・綾(夜宵の森・f01786)もまた微笑みを浮かべた。薄らと横に流した視線がぶつかれば、言葉は要らない――それが二人の合図になる。この地にあっては異質な春の陽射しにも似た燐光の中、陰陽師はそっと捧げた篠笛に唇を押し当てた。
 響かせるのは、祈りを込めた破魔の音色。眼下の敵がどよめく気配を見てとり、花世もまた、春色の扇を取り出した。
「さぁ――いらっしゃい」
 風に揺れる片袖を抑え、綾は白い指先を空に延べる。二人同時に手放した笛と扇は吹く風に溶けるように、白と淡紅の花弁に姿を変えて鈍色の空へ舞い上がる。巻き起こる鮮やかな旋風は、さながら亡者を誘う花の狼煙だ。
 白い娘達が、金切り声を上げた。深紅の蝙蝠の群が空に渦を巻きながら、城壁の猟兵達を目掛けて殺到する。しかし哀れなるかな――花の蜜に吸い寄せられた虫の如き一群は、舞い散る花弁に切り裂かれて一匹、また一匹と落ちていく。
 蝙蝠達では役不足と判じたのか、尖兵の後を追うようにヴァンパイア達が地を蹴った。城壁の際へと迫る純白を見据えて、花世は薄紅の巾着袋の紐を解く。
 撒き散らすのは血を吸い、狂気を吸って芽吹く花の種だ。咲く花は娘たちの白い肢体を食い破り、無骨な城壁を艶やかに飾り立てる。
「いいよ――もっと、此処においで」
 こちらの敵が増えれば増えただけ早く、誰かが塔に辿り着く。攫われた罪なき娘達のそれに比べれば、傷も、死さえも怖くない――けれど。
 花世自身がどんなに厭うまいと、無防備に飛び出した身体を包む柔らかい光はいつも彼女を守ってくれる。
(「きみが、死なせてはくれないから――」)
 だから、この手で花を咲かせる。
 凛として勇ましく立ち向かう娘の後ろ姿はそれそのものが花のようで、綾は瞳を細めた。この城の何処かで泣いているのだろう誰かの目にこの花が――昏き世界に咲き誇る希望の花々が、届けばいいと願いながら。
 陽動の猟兵達に気づいた敵の一部は、続々と西の城壁へ集まりつつあった。腕の中にサンを抱えたまま、ブラッドは城壁を疾駆する。一体でも多くの敵を引きつけて、階下の味方から引き離すのが彼らの役目だ。
「ごめんね、僕の脚、速く走れないから」
「そんなことより、来るぞ」
 城壁の上は細いが通路になっており、城の側面に続いていた。群がる敵の白い腕を鎧から伸びる貪婪の腕で薙ぎ払い、幽鬼はその場で反転する。蝙蝠の群れと白い娘達――四方に迫る敵を視界に捉えて、サンは目を閉じる。
「お願い、聞いて――」
 どうか、どうか無事でいて。
 囚われのオラトリオ達に、共に戦う猟兵達に想い託せば、足元の石飛礫が太陽の如く輝き出す。闇を払う祈りの光は、絶望の底にいる彼女達にも届くだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィオナ・グファジェン
「誰かと一緒にいたいというのは、悪いことじゃないと思うんですけどね」

でも、今回の彼は寄り添う気持ちはないみたいで。
その境遇も、行いも。唯々、寂しいです。

……私は裏口のほうからお邪魔しましょうか。
戦闘は可能な限り行わずに、極力その場で物陰に隠れるなどしてやり過ごします。
戦闘が避けられないならユーベルコード使用後通ってきた通用口を逆走して、時折振り向き追ってくる攻撃、そしてまた逆走。
道が狭いなら、敵もほぼ一列になって一度に複数来れないでしょうし!
敵を撃破し終えたらまた内部へ進み始めます。
ブラッドサッカーで操られたら困りますし、倒れてる敵の両手両脚を潰しながら行きましょうか。


シエン・イロハ
シノ(f04537)と行動
SPD選択
索敵は任せ遭遇した敵の排除を担当

よかったな、此処で病んでて特攻かけるようならまた殴るとこだったわ
(悪態吐きつつ、少しは前を向けたらしい悪友の姿に少しホッとしながら

あぁ、こういう片付けなら任せとけよ

戦闘は極力音を出さない、出させないよう速度重視
此方の存在に気付かれる前に『先制攻撃』
『投擲』『2回攻撃』『範囲攻撃』で【シーブズ・ギャンビット】
喉を狙い声を出す間を与えぬように『暗殺』
初撃で仕留められなかった時に備え『毒使い』『マヒ攻撃』も駆使
死亡した対象は操作妨害に関節を動かせぬよう対処を

地図や鍵等持つ敵がいれば『盗み攻撃』
道中は入れない部屋があれば『鍵開け』


シノ・グラジオラス
シエン(f04536)に背中を任せて、俺はルート確保
セシリアね…(同じ名の亡き恩人を思い出し、冗談っぽく笑って)
俺、病んでなくて本当によかったわ

『目立たない』ように『忍び足』で城の裏口から侵入
『聞き耳』『暗視』『視力』で警戒し、『野生の勘』『追跡』で見張りや敵の跡を追い、目を掻い潜る
雑兵と鉢合わせそうになったら、シエン頼んだ

レッサーヴァンパイア接敵時のみ『先制攻撃』で戦闘に参加
見た目的に遣りづらいが…やり辛いだけだな
SPD選択
『2回攻撃』『カウンター』で弱った個体は優先的に
複数体は【襲咲き】を使って手数を増やして『範囲攻撃』で削り
ダメージは『見切り』『武器受け』で『生命力吸収』でリカバリーする



 一方その頃、城内――。
「セシリア、ね……」
 暗く冷え切った石壁の廊下を進みながら、シノ・グラジオラス(火燼・f04537)は言った。ここへ来る前、案内人の少年から聞かされたその名前は、今は亡き大切な人の姿を否応なく思い起こさせる。
 口を噤んだ親友を横目にちらりと見て、シエン・イロハ(迅疾の魔公子・f04536)は眉をひそめた。しかし気遣わしげな友の気配を察したのか、シノは冗談めかして続けた。
「俺、病んでなくて本当によかったわ」
 愛や執着と言ったものは、時に人を狂わせる。それこそこの塔の主のように――誰かを傷つけてでも何かを求めるようになったら終わりだ。それは罪であるのみならず、真に愛するものへの冒涜に他ならない。
「……よかったな」
 努めて明るく振る舞う青年の笑顔の裏にはまだ、割りきれないものがあるのを知っている。しかしそれには気づかぬ振りで、シエンは言った。
「此処で病んでて特攻かけるようならまた殴るとこだった」
 悪態混じりの軽口とは裏腹に、真紅の瞳には安堵の色が滲む。長らく隣で見守ってきた横顔は、徐々にではあるが前を向けつつあるらしい。
 西の城壁、その北端に口を開いた通用口は、城の内部につながっていた。扉を壊す時に多少の物音は立てざるを得なかったものの、城門と城壁に予想外の戦力が集まったためか通用口の内部は驚くほどに閑散としている。一方で湿気った空気の淀む通路は複雑に枝分かれしており、裏口から城内への侵入を果たした猟兵達は上階へ続く道の探索を余儀なくされていた。
「誰かと一緒にいたいというのは、悪いことじゃないと思うんですけどね」
 そんな二人の会話を聞いてか聞かずか、少し離れて後ろを歩くフィオナ・グファジェン(Brigadoon・f17254)がぽつりと零した。恐らく『彼』のセシリアもまた、既に帰らぬ人なのだろう。戻らぬ者を想うこと、それ自体を罪だとは思いたくないが――むっと唇を引き結んで、銀狼の娘は続ける。
「本当に寄り添う気持ちがあったら、こんなことできませんよ」
 もし、『彼』が『彼』のセシリアをいつか愛していたというのなら、その事実がこんな形で残るのは余りにも空しい。やりきれない思いで進める足は、いつもよりも重く感じられた。
「……待った」
 細長い通路の曲がり角、その手前までやって来て、シノがぴたりと歩みを止めた。わずかに片目だけを覗かせた通路の先からは、何かがひたひたと近付いてくる気配がする。親友の肩越しに通路の先を覗き見て、シエンが言葉少なに問う。
「敵か」
「じゃあ、迂回しましょう。確か、途中に横へ入る道が――」
 あったはず。しかし言葉を終えるよりも早く、フィオナの耳がぴくりと動いた。塔の上で待ち構えるヴァンパイアとの戦いに備えて、戦闘は可能な限り回避したい所だ。物陰に隠れて済めばそれに越したことはないし、現に彼らはここに至るまで、そうやって敵をやり過ごして来た――けれど。
「……これは、挟まれましたね」
 ひたひた、ひたひた。
 素足で石の床を踏む微かな足音が、通路の両側から近づいてくる。黒剣の柄を握り締めて、シノは低く友の名を呼んだ。
「シエン」
「ああ、任しとけ」
 出くわしてしまったものは、排除するより他にない。
 狙うは先手必勝――蝙蝠羽をはばたかせ素早く通路に躍り出たキマイラは、闇に沈んだ通路の先を目掛けてダガーを投げつけた。う、と微かな呻きに続き、重たいものが倒れる音がする。けれど、それで終わりではなかった。倒れた仲間を踏み越えて、白い娘がひとり、ふたり、暗がりの中に浮かび上がる。
「ち、やりづらいな」
 傍目にはか弱く美しいばかりのヴァンパイア達だが、とはいえ気に病んではいられない。左手の指を滑らせれば滲んだ血を吸い上げて、黒い刃が形を変えた。象るのは黒曜の如き弓――慣れた仕種で番えた矢を引き絞り、人狼は吸血鬼達を射抜いていく。
「仮初を謳え、その名は」
 太陽、そして月。詠唱を終えたフィオナの傍らに、白と黒、二頭の狼がその姿を現した。行って、とひと振りした腕に応えるように、狼達は疾駆する。そして来た道の先で、ヴァンパイアの喉に食らいついた。争うような物音が数秒、十数秒と続き、そして通路は再びの静寂に包まれる。
「……お疲れ様」
 戻って来たのは、狼達であった。二頭の頭をわしゃりと撫でて、フィオナはほっと胸を撫で下ろす。こんな所で足止めを食っている場合ではないのだ。倒れた娘達が砂となって崩れてゆくのを確かめてから、シエンは漸く槍の穂先を下ろした。
「急ぐぞ。こいつらが来た方向を辿れば、上へ出られるかもしれない」
 囚われの娘達のことを思えばもはや、一刻の猶予もありはしない。言葉少なに頷き合って、猟兵達は暗がりの中へと駆けていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冴島・類
過去の影が、何を探して彷徨うか
解くのも、探すのも
今を生きる方達の為ならば

まずは、囚われた方を解放しなければ

裏口からの侵入選択

敵との遭遇は最低限にし
遭遇しても素早く撃破し進行を狙い
侵入後忍び足活用

道の先などに敵がいて交戦止むなしの際は
UCで写し身を呼び
鏡に映し敵の数把握
それを宙に舞わせ操り、気を引き
目線逸らした隙狙い駆け強襲
破魔の力込めた薙ぎ払いで攻撃

相手の攻撃手段を注視
暴走し、早く動くものを狙っている場合は写し身を己や味方速く動かし狙い散らし

蝙蝠の数が多ければ
相棒の瓜江手繰り
残像交えたフェイントで引きつけ
自身は避けれるよう

同じ道行く他の方とは可能な限り協力
邪魔はせず、逆に戦闘時庇うなど補えれば


ノワール・コルネイユ
ただ其処に在るだけで世界を蝕み、破壊する
吸血鬼なんて皆そんなものだ

そして皆一様に過去の過ちを繰り返す
それも、何度も何度も…な

…不毛なものだ

裏口から忍び込んで塔を目指すとしよう
【目立たない】様に行動するのは得意だ
極力物音を立てない様に歩き、暗がりは【暗視】で確認して進む

敵を視認時、静かに片付けられるのであれば
素早く近付き【暗殺】を狙う

戦闘が避けられければUCを攻撃力重視で発動
直撃を捉えられれば【2回攻撃】を刺し込み、より確実に仕留める
…あまり無駄に時間は掛けられないんでな
悪く思うなよ

吸血鬼の抱く妄執、その正体
秘された過去と、犯した罪
その悉くを暴いてやる

そして必ず…全ての報いを受けさせてやる


クーナ・セラフィン
…悪趣味だね。
どんな因果でこんな事をしてるか、事情もありそうだけどそれは出会ってからかな。
まずは潜入頑張るかにゃー。

裏口より潜入。
生存者がいるかの確認とすぐに害されなさそうかの確認も出来たらやりたい。
小柄な体活かして物陰伝いに移動、できるだけ気付かれぬように。
高所、梁の上とか気付かれず行けそうならUC利用し地面蹴る回数減らしつつ移動。
目標は上階側、余裕ありそうなら地下行ってから上へ。
出来るだけ戦闘避けて向かうけど回避できそうにないなら、少数の所を突破。
応援呼ばれる前に奇襲仕掛けUCで空中跳ねて惑わせつつ突撃槍で串刺しに。
操られる可能性はあるから倒した後の遺体等にも注意。

※アドリブ絡み等お任せ



 猟兵達の探索は、続く。
 入り組んだ城内のかわり映えのしない風景に大きく伸びをして、クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)が言った。
「それにしても、悪趣味だね」
 一体なんの因果でこんなことをしているのか、『彼』を狂気に駆り立てるのは境遇かそれとも、持って生まれた性質か――はたまた。帽子の羽根を弄りながら、灰色のケットシーは言った。
「まあでも、会ってみないことにはなんとも言えないな。何か事情もありそうだけど……」
「さあ、どうだかな」
 それまで黙して語らなかったノワール・コルネイユ(Le Chasseur・f11323)が口を開いた。その口調は、あくまでも懐疑的である。
「吸血鬼なんて皆そんなものだ」
「そうなのかにゃ?」
「そうだ」
 足元で首を捻るクーナを一瞥して、ダンピールの少女は冷ややかに言い放つ。しかしその鋭さの根底にある静かな怒りは、勿論、仲間に向けられたものではない――それは吸血鬼狩りとして彼女が対峙してきた多くのヴァンパイア達、そして彼女の生まれ持った業に対するやり場のない怒りであった。
「ただ其処に在るだけで世界を蝕み、破壊する。そして皆一様に過去の過ちを繰り返す。何度も、何度も……吸血鬼というのは、そういうものなんだ」
 淀んだ空気の滞留する通路は、重苦しい気配に包まれていた。答えの見えない疑問を抱えたまま、一行は城の奥を目指す。暗い通路に窓はなく外の様子を伺うことはできないが、こうも敵の気配が薄いのは偏に外の仲間達が敵の大半を引きつけているからだろう。となれば、その戦いに報いるためにも、彼らは速やかに塔へと辿り着かねばならない。
「過去の影が、何を探して彷徨うか……」
 詠うように紡いで、冴島・類(公孫樹・f13398)が加わった。進むことも戻ることもできず、ただそこに在るだけの『過去』――生者達を救うには、今という時間に貼りついた過去を引き剥がさねばならない。一方で、生存者の救出と安全の確保も、猟兵達の気がかりのひとつであった。
「まずは、囚われた方を解放しなければ……」
「そうだね、それは私も気になってた」
 壁に、床に、絶えず巡らせる類の視線を追って、クーナもまた猫の目を光らせる。この城のどこかに囚われのオラトリオが――願わくは、生存者が――いるのだとしたら、何をおいても優先的に救出したい所であるが。
「……!」
 思考は、中断を余儀なくされた。虫の群が蠢くような風のさざめきが突如として耳につく。黒鴉の髪を持つ絡繰り人形を手元に手繰り寄せ、これは、と類は身構える。冷たい風を巻き起こして通路の先から迫りくるのは、赤い翼をはためかせる蝙蝠の群であった。
「此処に、現れ給へ」
 広げた類の手指の先に一枚の鏡が浮かび上がり、押し寄せる蝙蝠の群を映し出す。しかしそこに、蝙蝠達を操っているはずのヴァンパイアの姿はない。
「本体は――」
 真紅の糸を操りながら、類は素早く周囲に視線を走らせる。動いたのは、ノワールだった。
「――そこだ」
 暗闇に慣らした紅い瞳は、通路の先に潜んだそれを難なく見つけ出した。その数は二体――銀の剣を抜き放ち、長い黒髪をなびかせて、吸血鬼狩りは瞬時に通路を駆け抜ける。そして風の如くに距離を詰めると、敵の一体に組みついた。
「あまり無駄に時間は掛けられないんでな。……悪く思うなよ」
 闇の中で、銀色が閃く。抵抗する暇さえも与えられず、喉を裂かれたヴァンパイアは灰となって消えていく。残るは一体――類の操る絡繰り人形を無心に追い続ける吸血鬼の頭上に、刹那、小さな影が落ちる。
「させないにゃ!」
 空を蹴って駆け上がった猫の手で、銀の槍が輝く。身体は小さくともその力は、人間や他の種族に勝るとも劣らない。白百合の穂先は大きく弧を描いたかと思うと、疾風の如きスピードで吸血鬼の胸を貫いた。
「……この程度か」
 刃についた敵の残滓を払い、ノワールは吸血鬼だったものを見下ろした。灰と化した娘達が何かを語ることはもはやない――が。
「何もかも暴いてやる。そして必ず……すべての報いを受けさせる」
 この城に巣食う吸血鬼の妄執とその正体、過去も、犯した罪も――すべてを償わせよう。
 行きましょうと呼び掛ける類の言葉に頷いて、猟兵達は再び、薄暗い通路の先へと踏み出した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラティファ・サイード
グレ(f13457)と

どこにも行かないと告げた側が離れ
言われた側こそどこにも行けずに待ち続ける
…どこにでもある話ですわ
睫毛伏せ、反芻するように囁く

…なんて
吐息交じりに苦笑
無駄口は後ですわ
『城壁』に相棒と向かいます
よろしくて、グレ?

わたくしとグレなれば派手に立ち回りを展開し
陽動と成すことが叶いましょう

この城壁を越えたら主様の塔まであと少し
お会いしてみとうございますわと
レッサーヴァンパイア相手に余裕の微笑みを向けて挑発
グレに背を預け死角を減らし
少ない立ち回りで敵を殲滅します

火力全開のかぐろいで広範囲の敵を巻き込み近接を許さず
尚も突出する輩がいれば
大振りのかぎろいで舞うように息の根を止めて差し上げる


グレ・オルジャン
思案げなラティファ(f12037)の様子にはおやと瞬くも
美人がそんな憂い顔を浮かべてると、訊いちまうよと軽口に笑う
よくある話だろうが痛いもんは痛い
面影追うのも人らしい心情だ
…ただ、最後までそのまんまじゃ
一方的に思われる側はたまったもんじゃないけどね

そうだね、あたしらは得物で語るが得手だ
相棒と共に城壁へ
厄介な侵入者のお出ましだ
気を入れて守りなよ、お嬢さん方
賑やかに地を砕くグラウンドクラッシャーで注意惹く
相棒に背預け死角埋め
地砕く一撃を越える者あれば藍銀の風
背に躍る華麗な熱に低く笑って
喉笛貫く牙と号火の一衝き重ねる
遅れは取らないさ

陽動に留める気もなく塔へ詰める
さて、その眼はどれほど曇ってるものやら


連・希夜
骸の海から蘇っても誰かの記憶を引き摺ってるの?
それは――(可哀想に、と言いかけて口を噤み)、面倒くさいことこの上ないね
過去は過去、亡霊は亡霊
さっさと元いた場所にお還り頂こう

狙うは城壁、ただし目的は突破ではなく陽動
助けを求める人の元へ誰かがいち早く辿り着ければいい
それが自分である必要はない

ガジェットショータイムで掘削機のようなガジェット召喚
城壁に風穴あけるフリでレッサーヴァンパイアを集め、攻撃
電脳ゴーグルで戦況の情報収集は常に
最適解で時間稼ぎ
気絶させられそうな仲間がいたら回復を
ただし城壁からの隠密侵入を試みる誰かがいたら支援優先

過去を引き継ぐなんて、オレはまっぴらごめん
オレは、オレ
『君』じゃない


シノア・プサルトゥイーリ
不幸なことだと、ただ言うにはあまりなことね
せめて、生きているお嬢さんたちを救えるように

城の西側の城壁から向かいましょうか。
陽動は得意よ、派手な狩も。
血統覚醒を使用
友人を失った誰かを装い、復讐を紡ぐように行きましょう
ダンピールとて、この地では珍しくはないでしょう?
返してもらいに来たのよ

レッサーヴァンパイア達に下手な演技が必要がどうかは分からないけれど
刀を使い、近接で仕留めてゆきましょう
こちらの傷は気にしないわ
血統を扱うのはこちらも同じこと、傷は気にせず確実に貴方を灰へと返しましょう

セシリア、ね……
名を呼ぶ先があるのであれば、なおのこと
執着に身を狂わせるのは終わりにしましょう

アドリブ歓迎



「さあさあ、早く来ないと壊しちゃうよ?」
 悪童のような口ぶりで、連・希夜(いつかみたゆめ・f10190)は呼び掛ける。
 右手の指をぱちりと鳴らせば、ショータイムの始まり――混迷の前庭に、巨大なガジェットが姿を現した。掘削機を模したそれが城壁へ迫るのを見れば、白い娘達は否が応でもこれに対応せざるを得ない。
 戦いは佳境を迎えていた。城の正面と側面に集まった猟兵の数は見事に同数であり、両地点の戦力は完全に拮抗していた。しかし数も多く、一人当たりの戦力でも敵を大きく上回る猟兵達は終始優勢を保っており、彼らの侵入を水際で食い止めようとしていたヴァンパイア達は徐々に後退し始めている。
「――おや」
 戦場を見下ろす女の物言いたげな眼差しに気づき、グレ・オルジャン(赤金の獣・f13457)は瞳を瞬かせた。平素は背中に負った杖を肩に立て掛け見詰めていると、隣に立つラティファ・サイード(まほろば・f12037)の金色の視線がじろりと泳ぐ。
「何か?」
「いいや。だけど美人がそんな憂い顔してちゃあね――訊きたくもなるよ」
 そう言ってじっと覗き込めば、しようのない人とラティファは微笑む。けれどそれはほんの一瞬のことで――黒衣のドラゴニアンは長い睫毛を伏せ、続けた。
「どこにも行かないと告げた側が離れ、言われた側こそどこにも行けずに待ち続ける。……どこにでもある話ですわ」
 語り草にもなりはしない、ありふれた物語。能ある劇作家ならば、月並みと一蹴するだろう。
 ああと短く頷いて、しかし、グレは一抹の共感を滲ませた。
「よくある話だろうが、痛いもんは痛い。面影追うのも人らしい心情だ」
 ただ、と曇らせた黒曜の瞳が映す塔の頂点に、君臨するのはもはや人ですらない。どこで何を違えたのか、物語の結末は余りにも陰惨なものに成り果てた。それは観衆のひとりとして、凡そ許容できるものではないだろう。
「最後までそのまんまじゃ、思われる側はたまったもんじゃないけどね」
 ぶっきらぼうに言い放つ相棒の変わらぬ物言いに、ラティファはわずかに眉を下げて笑う。そして静かに艶やかに、眼下の戦場へと向き直った。
「無駄口は後ですわね」
「だね、あたしらは得物で語るが得手だ」
 こつ、こつと右肩の上で鳴らした杖に左手を添え、グレは一息に抜き放つ。杖と思われた鞘の中から姿を現したのは、ひと振りの刃――そして女は、不敵に笑った。
「さ、厄介な侵入者のお出ましだ。気を入れて守りなよ、お嬢さん方」
 躊躇いなく城壁の石を蹴ったその脚で、グレは押し寄せる白波へ飛び込んだ。銀に閃く刃が地面へ突き刺さると同時に、砕けた石畳が舞い上がり、娘達のか細い身体が弾かれる。素早くその背後に身を寄せると、ラティファは挑発的に赤い唇の端を上げた。
「主様の塔まであと少し――お会いしてみとうございますわ」
 二人を取り囲む吸血鬼達が、慌ただしく動き出す。白い胸を震わせて吸い込んだ空気は、ラティファの中で燃え盛る漆黒の炎に姿を変えた。やるね、と低く喉を鳴らして、グレは銀狼の群れを率い、敵の喉笛に食らいついていく。
 けれど、つかず離れず。静と動の入り混じる眼にも鮮やかな立ち回りは自然と敵の注意を引き、城門に集まっていたヴァンパイア達の一部がさらに城壁へと移動し始める。その側面から近づく影が、またひとつ――。
「お嬢さん」
 よろしいかしらと親しげに話しかける声に、白い娘が振り向いた。刹那。
 閃く刃が宙に白銀の糸を引いた。一刀両断――切り捨てられた仲間の身体が白い灰となり霧散すると、娘達の間に動揺が走る。
「何を驚いているの――私は、返してもらいに来ただけよ」
 桜色の前髪の下、眼帯の奥に封じた紅の瞳がぎらりと光る。右手に長い太刀を提げ、吸血種のそれと同じ牙を淡い唇に覗かせて、シノア・プサルトゥイーリ(ミルワの詩篇・f10214)は美しく――ただ美しく、微笑んだ。
「派手な狩は、得意なの」
 不幸なことであったと、他人事のように言って済ませるには余りにも酷な話だ。玩弄され、無残に羽根を散らされた娘達の屈辱と絶望を思えば少なからず、身体の内側を行き場のない感情が迫り上がる。喪われたものはもう戻らないけれど、せめて今ある命だけでも救えたら――そのためになら。半人半魔のダンピール、その身の宿業さえ乗りこなそう。
 曇天にくすむ花色の髪が、一陣の風となって戦場を吹き抜ける。友を失った者、あるいは家族を失った者、誰かの叫びを刃に載せて、吸血鬼達を斬り払いっていく。そして戦場にぽっかりと口を開いた空白の中で、シノアは遥かな塔の高みを仰いだ。
「……『セシリア』、あなたは」
 やり場のない執着に身を焦がし、その手を天使の血に染めた『彼』。その姿を見たならば、彼女は何と言うのだろう――。
「!!」
 思考は、耳を裂くような金切り声で途絶えた。衝動のまま振りかぶった吸血鬼の爪を敢えてその左肩に受け、返す太刀でその首と胴を切り離す。灰と消えゆく娘の無表情は心なしか哀しげにも見えて、シノアは傷ついた肩口に手を添えた。肌に食い込んだ白い爪は、風に吹かれて音もなく散っていった。
 城門と城壁、二つの経路で前庭に押し入った猟兵達の距離は、次第に近づきつつあった。白いレッサーヴァンパイア達は着実にその数を減らしており、増援は決して間に合っていない。
「ふふ、ごめんあそばせ」
 道の側面から掴みかからんとする腕をラティファの竜爪が撥ね飛ばした。その向こうにちらりと見えたのは、塔の入り口を守る鉄の扉だ。行きましょうかと微笑むシノアに応えて、グレは道の先を睨み据える。
「さて、ご対面と行こうじゃないか?」
 曇ったその眼がいかほどのものか、それを確かめるために。
 敵は、塔の上にあり。進路を見出した猟兵達は敵の戦列を割り、一丸となって駆けていく。
「……行けた、みたいだね」
 塔に向かう仲間達の背に紫紺の花の鎖を贈り、希夜は城壁の上に片膝をついた。他者を癒すこの力は、彼自身の体力を消耗する。
(「でも、これでいいんだ」)
 助けを求める人の元へ、誰かが辿り着ければそれでいい。辿りつくのが自分である必要はどこにもないのだ。
 慣れた仕種でゴーグルを下ろし、レンズに映る戦況を確かめる。塔の上に住まう『彼』はこの騒乱を見下ろして、いったい何を思うのだろう。
(「骸の海から蘇っても、誰かの記憶を引き摺ってるの?」)
 可哀想に、と口にしかけて、唇を結んだ。淡い笑みを浮かべ、けれど決して笑ってはいない瞳の奥に何かを押し込めて、人ならざる青年は紡ぐ。その根底には、いつか自分を望んだ『誰か』と、その誰かなくしては存在し得なかった自分の複雑な関係があった。
「過去を引き継ぐなんて、オレはまっぴらごめんだね」
 過去は過去だ。立ち止まり、顧みることはあったとしても、何かを生み出すことは叶わない。今と未来に仇成すだけの亡霊は尚更のこと――在るべき場所へ、還すのみ。
 自分の中に微かに残る『誰か』に語り掛けるように、希夜は言った。
「オレは、オレ。『君』じゃない」
 電子の海から生まれた自身の、奥底に残る確かな想い。訣別の言葉とともに再び動き始めたガジェットは、駆け抜ける仲間達の背を守り続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。囚われている人達の事も気になるけど…。
今は吸血鬼を討ち滅ぼす事が先決…ね。

…レッサーヴァンパイア。かつて人だった娘達。
そして羽と花で着飾る吸血鬼…。
嫌な予想が外れていれば良いのだけど…。

事前に存在感を消す“忍び足の呪詛”を付与して防具を改造
小石のように目立たない存在になって気配を遮断し、
【正面玄関】から敵の群れに突撃して乱戦に持ち込もう。

第六感と【吸血鬼狩りの業】を頼りに敵の動きを見切り、
魔力を溜めた怪力の踏み込みから【乱舞の型】を発動。
生命力を吸収する双剣の2回攻撃で敵陣をなぎ払い、
敵の殺気を捉えたら双剣のカウンターで迎撃する。

…後は翼の跡が残っていないか、確認しておきましょう。


フランチェスカ・ヴィオラーノ
ユエちゃん/f05601と

母様と敵を重ねてしまう
愛情さえあれば、何したって良いって言うの…?
そんなの許せないよ
俯き歯噛みして

ユエちゃんと連携して正面突破を目指す
数、多いね…
でも一人じゃないもの、負けないよ

アルダワ魔法学園で習った魔法を高速詠唱
範囲攻撃で纏めて倒しちゃうよ
サモンブラッドバッドには【ウィザード・ミサイル】で対抗
ユエちゃんが歌っている間は出来る限り此方へ注意を引き付けたい
彼女の歌で、私の士気も高まるの!
人格交代には驚きつつ

敵を蹴散らしたら、囚われている人達のために一刻も早く領主の間へ向かう
お願い、無事でいて
『彼ら』と同じ忌まわしき血を引いた私でも、救いたい気持ちは本物だから


月守・ユエ
フランチェスカちゃん/f18165と!
アドリブ大歓迎

歪んだ愛情を持ったヴァンパイア、だね…
彼女達の大切な翼を傷つけるなんて赦すわけにはいかないよね
全力でぶっ潰しにかかろう!

フランチェスカちゃんと正面突破に臨む
【狩猟女神ノ戦歌】を歌い、仲間を鼓舞
フランチェスカちゃんの範囲攻撃を高めていくよ!
「どんどん撃ち込んでいこう♪」

敵に隙を見つけたら
すかさず【オルタナティブダブル】で月影に人格交代
【死刻曲】を範囲攻撃で歌い放つ
「邪魔だよ~?キミ達。ボク達の行く道を阻むなら容赦しないから」
にんまりと猟奇的な眼差しを敵に向けて
歌って放たれる音響刃で敵を切り刻む

敵を片付けたら、領主の間へ


終夜・凛是
いろいろ、考えるのめんどい
『正面玄関』からいく

危なそうな相手いたら……助ける
自分が危なければ、逃げる
足引っ張ったり迷惑になりたく、ない

戦闘は、一対多数にならない様に気を付けつつ
急所狙って攻撃
俺が振るう事ができるのは、拳だけだから

ヴァンパイアが何を求めてるか、知らないし
俺はそれをわかろうと、思わない――けど
誰かを探し求めるのは、悪いことじゃない
悪いことじゃないけど、そのために誰かの命を、奪ったりは……駄目
それは間違ってる
それを正せる相手じゃないのは、わかってる
わかってる、けど

そんなことしたら、会った時に……
俺なら、きっと相手を、まっすぐ……見れない
にぃちゃんに会いたいから、俺はまっすぐで、いたい



 ――同刻、城門。
「数、多いね……」
 魔法の杖を胸に抱き、フランチェスカ・ヴィオラーノ(月灯りのヴィオラ・f18165)は微かに疲弊を滲ませる。否、疲弊というより畏怖と言うべきだろうか? 一体どこに潜んでいるのやら、白い娘達は倒せど倒せど、どこからかふらふらとやってくる。
 しかし歯牙にもかけない様子で、月守・ユエ(月ノ歌葬曲・f05601)は言った。
「手応えがあっていいじゃない。どんどん撃ち込んでいこう♪」
「もう、ユエちゃんったら」
 あっけらかんとした彼女の振る舞いを、楽観が過ぎるという者もあるだろう。けれど陰惨な事件の渦中にあって、今は、その明るさに救われる。困ったように眉を下げて笑うと、フランチェスカは杖を握り直した。
「そうだね。でも一人じゃないもの、負けないよ!」
「そうこなくちゃ!」
 ヴァンパイア達の只中で背に背を合わせて並び立ち、ユエが歌い、フランチェスカが火を灯す。月と狩猟の女神の凱歌は聞く者を鼓舞し、その身に秘めた力を増幅するものだ。歌声に背中を押されて掲げれば、杖の先に猛々しく燃え上がった焔が幾筋もの火炎の矢に分かれ、夥しい数の蝙蝠達を灼き尽くしていく。
 その炎を飛び越えて、黒い影が躍んだ。じゃらりと鳴らした花色の連珠を左手に預け、終夜・凛是(無二・f10319)は縹の袖を振り被る。
「――、」
 寡黙な狐は語らない。けれどいつだって、思うことはある。この城に棲むヴァンパイアが何を求めているのかは知る由もなく、知った所でそれを理解しようとは思わないけれど――。
(「誰かを探し求めるのは、べつに、悪いことじゃない」)
 家族、恋人、友人。失われたその笑顔を求めて、立ち止まる瞬間は誰にでも訪れるものだろう。過去を想い、振り返り、捉われることもそれ自体は何ら罪ではない。しかし――そのために誰かを傷つけるのは。
(「そんなことして、見つけたって――」)
 無辜の命を踏み躙り、辿りついた道の先でもし、求める人に出逢えたとしても。その時自分は、血塗れの右手を延ばすことができるだろうか?
 道の先に立つ人の、大好きな笑顔が歪んだ気がした。一瞬、ぞくりと身震いして、少年は悍ましい『もしも』の想像を振り払う。
(「にぃちゃん」)
 不安定に移ろって頼りのない世界の中で唯一、確かなもの。本当はそんなことを、考えたくもないけれど――否、あくまで仮定の話だ。いつかもし彼を失う日が来たとしても、自分は、彼に恥じない自分であり続けたい。どんなに心を砕いた所で、この城の主の行いを正すことは叶わないのだろうけれど。
(「俺は、まっすぐでいたい」)
 どんな季節にも、どんな道の果てにも。大好きな人の元へ、胸を張って会いに行けるように。
 吸血鬼の一体を巻き込んで、破戒の拳が地を砕いた。正せぬ相手であるならば、この拳で止めるだけだ。ぞろぞろと迫りくる吸血鬼達をかわして、紅い狐が跳躍する。その行方を追って惑う娘達の、背後に迫る黒い影は――。
「退きなさい」
 漆黒のフードから零れた銀髪が、冷ややかな風に吹かれて宙を泳ぐ。一体どこから現れたのかと、吸血鬼達は惑うだろう。けれど実の所、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は最初からそこに存在していた。道端に転がる小石のように気配を遮断し、敵の背後に回り込んで仕留める――それが、吸血鬼狩りを生業とする彼女のやり方だ。牙を剥き、爪を振りかざして襲い来る娘達に冷めた眼差しを向けて、娘は冷ややかに言い放つ。
「無駄よ」
 私には、当たらない。
 その言葉通り――吸血鬼とその眷属の攻撃は、彼女には決して届かない。まるで心を読むかのように動きを読み、攻撃をかわしたその足で敵の背中に回り込む。左右にひと振りずつの双剣を慣れた手つきで突き立てれば、切っ先が吸血鬼達の命を吸い上げていく――その戦いぶりは正に、吸血鬼狩りと呼ぶに相応しい。
 敵戦力の疲弊は、今や明白であった。ただでさえ数を減らしたヴァンパイア達は城門と城壁の猟兵達に分断され、その背中には聳え立つ塔の入り口が姿を覗かせる。今が正念場――汗に滑る杖を取り落とさぬようしっかりと握り締めて、フランチェスカは塔の高みを睨みつける。
(「愛情さえあれば、何したっていいっていうの?」)
 身勝手なその愛情は否応なく、彼女の母を思わせる。父を籠絡し、幽閉し、傀儡のように侍らせる母の、根底にあるものは確かに愛であるのかもしれない。しかし最愛の父から心を奪ったその行いを、愛とは認めたくなかった――自らの心を満たすためだけに何の罪もないオラトリオ達を傷つける、この城の主の行為も然りだ。
 沸々と込み上げる怒りに歯噛みしていると、不意に――隣に立つ気配が変わったような気がした。
「本当、歪んだ愛情っていうのは困りものだね。羽根を毟って着飾るなんて、悪趣味にもほどがあるよ」
 許すわけにはいかないよねと、ユエは笑う。否――もしかしたらそこに居たのは、もう既にユエではなかったのかもしれない。
「全力でぶっ潰しにかかろう!」
 スイッチのオンオフを切り替える、ただそれだけのことのように簡単に。グラデーションの掛かった声色で告げたのは、『月影』――ユエの中に眠る、もうひとつの人格だ。驚いた様子のフランチェスカには目もくれず、月影は上機嫌に手中のマイクを持ち替える。
「ボク達の行く道を阻むなら、容赦しないから」
 優しい月色の瞳が今は、ぎらつく狂瀾の光を放つ。邪魔なんだよ、と猟奇的な笑みを敵に向け、ユエであったモノは大きく息を吸い込んだ。紡ぐ歌は黒き音の刃となり、白い娘達を切り刻んでいく。そして。
「……今!」
 居並ぶ敵の間に開いた細い道。その先の扉を指さして、フランチェスカが叫んだ。一斉に動き出した仲間達の後について走りながら、少女はブラウスの胸を掻く。
(「お願い――無事でいて!」)
 たとえその身は塔の上の『彼』と同じ、忌まわしき血を引くダンピールであっても。救いたい、と願う想いに嘘はない。
 行く手を阻む敵の一体を斬り倒し、ふと、リーヴァルディは足を止めた。足元に倒れてもがく白い娘を見下ろして、そして少女は眉をひそめる。
 人から鬼に成り果てたレッサーヴァンパイア達。
 オラトリオから毟り取った羽と花で着飾る、吸血鬼。
 そして倒れた娘の抜けるように白い背の、中ほどに奔る二筋の傷痕は――。
「…………やっぱり、『そう』なのね」
 一連の話を聞いた時からずっと、嫌な予感はしていたのだ。しかしいざ現実を目の前にすると、憤怒とも憐憫ともつかぬ昏い感情が身体の奥底から込み上げてくる。無言で突き立てた剣が最後に残った命の残滓を吸い上げると、白い娘は塵となり、灰色の空に溶けて行った。
 おやすみなさい、と囁いた微かな声は、せめてもの慰めになったろうか?
 死んでいった者達のためにも、生きようともがく者達のためにも、この城の悪鬼を捨て置くことはできない。倒すべき敵はもう、手の届く所にまで迫っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『くたかけ公』

POW   :    容易く逃げられるとは思わないことだな
【数多のオラトリオの翼を吊り続けたこと】から【墜落の呪詛を帯びるに至った鉤付きの鎖】を放ち、【攻撃する。飛行する対象を追尾可能で、呪詛】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    選りすぐりを蒐めた至高の一品、称美するがよい
【オラトリオの羽根外套で空気の動きを読んで】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    我が血で育てた天使たちの花だ
自身の装備武器を無数の【自身の頭に移植し瘴気を孕ませたオラトリオ】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はレナータ・バルダーヌです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 それは、いつかこの世界に存在したのだろう誰かの記憶。
 彼の妻はオラトリオだった。眩しいほどに白い翼を広げて微笑む彼女は、薄暗いこの世界で一際強く輝いて見えた。彼女さえ共にいてくれたらそれでいいと、確かにそう思っていた。
 なのに、どうしてだろう。
 理由は、未だに分かっていない。彼女は突然、彼の前から姿を消した。それから世界は一変してしまった。愛する彼女を求めるばかりに、彼の心は少しずつ壊れ、狂気の沼に解けていった。
 そうして残ったのは、白い翼のオラトリオへの執着だけ。もはや彼女の顔も思い出せないのに、傍に置かずにはいられない。帰りたいと娘が泣けば、白い羽根を毟ってやった。どこへも帰れないように、やめてと叫ぶ声には耳を貸さず、ただ無心に羽根を毟り、それでも聞かぬ娘の翼は捥いでやった。何しろそれは、もはや彼の愛する妻ではないのだから。
「――騒がしいな」
 男の手から、白い羽根が零れた。オラトリオの娘が男の手から抜け出し、ボロボロになった翼を庇うように壁際へと這って逃げる。しかしその挙動には目もくれずに、男は窓辺へと歩み寄った。
「彼らは……」
 城守のヴァンパイア達を分け、真っ直ぐに向かってくる小さな異物の群れ。その姿形はさまざまながら、吸血鬼である男は自然と肌に感じ取る――彼らは、敵だ。
「……用事ができた。すぐに戻るから、待っていなさい」
 それから二人で話をしよう。
 空恐ろしいほどに優しい微笑みで、男は部屋を後にした。
====================
お世話になっております。第一章へのご参加誠にありがとうございました。
以下の通り、二章の補足をさせていただきます。

●前提
一章の状況を踏まえて、ヴァンパイアの元へ辿り着いた順番は『裏口侵入組→城門・城壁組』となります。
なお、二章からの途中参加はして頂いても構いませんが、採用数の関係などからどなたかのプレイングを流さなければならない状況になった場合は、継続参加の方を優先させて頂きます(※採用確約ではありません)。

●行動について
本章では、大別して以下の行動を取ることが可能です。
(1)、(2)はある程度採用数を絞る可能性があります。
ヴァンパイアの居室の階下にあるダンスホールが主戦場です。

(1)対ボス、速攻
先陣を切ってヴァンパイアに攻撃を仕掛けます。が、此方の人数は多くはないので普通に戦うと苦戦します。切り込み、回復、逃走阻止など、後続の猟兵が到着するまでのつなぎが主目的です。
一章で裏口から侵入した方々は、優先的に採用いたします。それ以外の方でも工夫次第で第一陣に追いつけます。

(2)対ボス、詰め
(1)の猟兵達の後を引き継ぐ形でボスに攻撃を仕掛けます。ボスにトドメを刺すのはこのグループですが、実際にトドメを刺せるかどうかはプレイング次第ですのでご注意ください。(1)の参加者が少ない、または不在の場合は、(2)からスタートするかもしれません。

(3)配下の掃討・被害者の保護
城内を徘徊する配下のヴァンパイア達の掃討または、被害者の保護に当たります。行動に当たって特別な技能は必要ありませんので、どこをどう探し、どんな風に振る舞うのかを記述下さい。
なお、被害者のうち生存者は一名のみで、主戦場の上階にあるヴァンパイアの居室に取り残されています。そのほかの被害者は残念ながら既に死亡していますが、遺品などを持ち帰ることはできるかもしれません。

●プレイング期間について
上記(1)~(3)のどの行動を取るかによって、受付期間が変動します。

(1)2019年6月2日(日)8:30~翌日8:30
(2)2019年6月3日(月)8:30~翌日8:30
(3)2019年6月4日(火)8:30~できる限り

現状の受付日は以上ですが、急なトラブルなどでスケジュールが変更になる場合もございます。その際はマスターページで都度ご案内しますので、プレイングをお送り頂く前には必ずマスターページをご確認下さい。

それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております!
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シエン・イロハ
シノ(f04537)と(1)
SPD選択

ちったぁ楽しめそうで何よりだ
さて…てめぇの都合なんか知ったこっちゃねぇが、気に食わねぇんで邪魔させてもらおうか

どっちが悪役だぁ?
ハッ、どっちも悪役で問題ないだろ。少なくとも俺はな

『先制攻撃』『2回攻撃』『盗み攻撃』使って槍攻撃メイン
直接的に敵へダメージを与える事よりも『挑発』と『時間稼ぎ』を優先
盗む対象は羽根や花、退く冷静さを奪えるように

ハッ、そんなに羽根が好きなら羽毛枕にでも縋ってろよ

回避は『見切り』を基本
ダメージが嵩むようなら『生命力吸収』『投擲』乗せた【シーブズ・ギャンビット】

ギャーギャーうるせぇんだよ
奪う者が奪われる者になったくらいでそう喚くなよ


シノ・グラジオラス
シエン(f04536)と(1)
POW選択の盾役

これじゃどっちが悪役か分かんねぇな
(飾る花や羽を見て)お前は…お前のセシリアの事を忘れたんだな
可哀想に。浮気の証拠で着飾る旦那とか願い下げだろ?と
『挑発』して後続への『時間稼ぎ』

空は相棒の領分でな、俺は地面専門だ。お前も地面に伏せさせてやるよ
敵からの攻撃は『生命力吸収』『激痛耐性』『呪詛耐性』でフォローして、
『気絶攻撃』『2回攻撃』中心に『カウンター』ととにかく手数を増やす
隙を見て回数重視の【紅喰い】で、とにかく逃走阻止の為に手足と羽根外套に
ダメージを累積させる

シエンへの攻撃は『かばう』のと、先行して俺が動いてシエンの攻撃を敵に読ませ難くする


連・希夜
配下追撃を振り切った時点で【夜の福音】発動、高速移動開始
電脳ゴーグルで電脳世界にアクセス、城内構造や熱源等を情報収集しヴァンパイアの居場所に当りをつけて一直線
辿り着くのは最初でなくていい、けど
逃げられるとはあったら業腹じゃない?
己に嘯く建前
本音はヴァンパイアへの興味
見てみたい。オレが切り捨てたいと思うものにすすんで囚われて、トチ狂った男の顔を

到着次第、仲間の強化
必要あれば回復を
自分の負担はスルー
命を狩るってそういうこと
(キレイごとの裏、自分の命の実感に繋がっている事には本人気付かず)

『退路を塞ぐ為に』と敵を注視
姿を目に焼き付ける
……バカなヤツ
あ、バカはこっちかな?
ボコられても限界までは踏ん張る


冴島・類
現れた彼の纏う花と羽
ブルーベル君から聞いてはいたが
実際に見ると…蛮行にも程がある

誰を、お探しで?
どれだけ探しても、今の曇った目では
見つからないですよ

正面や壁から入った方々が着くまでの間
引きつけ、乱し、持たせる為
先陣切るつもりで駆け

彼の攻撃手段や動きを注視

瓜江と自身で、残像用いたフェイント交えた動きで近づき
空気の流れを乱しつつ薙ぎ払い
味方が攻撃しやすいように
陽動と引きつけを狙う

相手の攻撃には
UCの舞で威力軽減し
近くの味方へ花が降るならば、それを庇う

この花全て
鮮やかに少女達の側で咲いていたろうに…よくも奪ったな
彼方で想い人に会えたとしても
その身では
浮気者にしかみえませんよ
剥がして、差し上げましょう


ノワール・コルネイユ
(1)

随分と大仰な衣装を身に着けているのだな
貴様の品性が滲み出ていると見える

この場で仕留め切りたいところだが…
存外に手緩い相手ではないらしい

なら、自分の仕事に徹するまでだ

激しく斬り込んで身体を張っての足止め、時間稼ぎ
逃げ去ろうとするなら追い縋り、追撃
相対時は【見切り】で目を馴らし
【第六感】での危機察知と併せ決定打を受けない様に立ち回る

適度に切り結んだら
UCを発動し身体力を引き上げて更に喰らい付き
一時でも長く時間を稼ごう

…貴様の事情は知らん
だが、その外套、手折られた羽根が貴様の罪の証だと云うのなら

…はっきりと言えるさ。
貴様は、歪んでいる


ああ…序でに一つ言っておこう
その外套、全く似合っちゃいないぞ



 戦いは、風雲急を告げていた。
 雷鳴轟く曇天の下、連・希夜は仲間達の背を追って城の前庭を駆け抜ける。灰色の空に尾を引く長い髪を掴もうと白い娘達が手を伸ばすが、こんな所で捕まってはいられない。
「さーて、ちょっと急ごうか」
 黒手袋の指先が眼鏡型のゴーグルをついと押し上げると、レンズの表面に淡いブルーライトの影が差した。そして均整の取れた背中に吸血鬼の爪が食い込もうとした刹那、青年の姿はノイズに包まれ、現実世界から消失する。
 一面の青い光に包まれた電子の海の中、描き出される城の構造を青年は暫し食い入るように見詰めていたが、やがてはっと桔梗の瞳を見開いた。
「……そこだ!」
 聳え立つ塔の頂上から少し下った広い空間に、熱源を表す赤い点がちかちかと明滅していた。ひとたび座標を定めればギュウンと吸い寄せられるように、希夜の身体は加速する。
(「辿り着くのは最初でなくていい、けど。逃げられるとはあったら業腹じゃない?」)
 詰めを誤れば悪鬼は猟兵達の手を逃れ、この城を捨てて、またどこかで別の誰かを食い物にするだろう。万に一つも取り逃すわけには行かない。しかし包み隠さずに言うならば、建前の陰に隠した本音のもう半分は別にあった。
(「だって、見てみたいじゃないか」)
 だから道を急ぐのだ。
 自ら望んで過去に囚われ、そして狂ったかの男が、一体どんな顔をしているのか――それを確かめるために。

 複数の足音が重なり合い響き合って、石の螺旋を駆け上がる。くそ、と周囲を憚らず悪態をつき、シエン・イロハは吐き捨てるように言った。
「ったく、長ぇ階段だな」
「ああ。だけど、もうすぐ終わりだ」
 友のぼやきに短く応じて、シノ・グラジオラスは行く手に続く石段を仰ぐ。上方を薄ぼんやりと照らし出す朧げな外光は、螺旋階段の終わりが近いことを告げていた。一息に残りのステップを駆け上がってその先に口を開いた扉の先へ、猟兵達はなだれ込む。
 そこは、踊り手の潰えて久しいダンスフロアだった。豪奢なシャンデリアは床に落ちて砕け散り、窓が割れて雨風に吹き晒された床は湿って苔むしていたが、広い壁のあちこちに施された彫刻や壁画は廃城の在りし日の栄華を偲ばせる。広大な室内に素早く視線を巡らせて、さらに上階へと続く階段を認め、ノワール・コルネイユは紅い瞳を吊り上げた。
「そこにいるのは分かっている」
 第六感がざわついていた。姿を現せ、と言い放つ声が高い天井に反響するとともに、『それ』は足音もなくやってくる。
「ようこそ、我が城へ」
 招かれざる客、諸君。
 いつの間に回り込んだのか、身構えた猟兵達の真後ろで聞き覚えのない声がする。咄嗟に振り返った目に飛び込んできたのは、話に聞いて思い描いていたよりもなお美しく醜悪な吸血鬼の姿であった。
 ふん、と蔑むように鼻を鳴らして、ノワールが言った。
「随分と大仰な衣装だな。貴様の品性が滲み出ていると見える」
 鉄の鉤爪をつけた鎖を片手に下げ、悠然と立つ男の背には白い羽根飾り――翼に似て非なるそれが所々黒ずんで見えるのは、本来の持ち主達の流した血によるものだろう。胸まで届く灰色の髪を飾る色褪せた花の出自を思い、冴島・類は前髪に隠れた眉を寄せる。
「話に聞いてはいたが――実際に見ると、これは」
 すいと、橄欖石の瞳が宙を泳いだ。暗紅色に汚れた羽根と花が思わせる男の蛮行は察するに余りあり、思わず胸が悪くなる。
「何用なるかな。返答次第では、ただではおかぬ」
 複数の猟兵達を前にしても、吸血鬼に焦りは見られなかった。不遜なその態度に口角を上げ、シエンは挑むように言った。
「ちったぁ楽しめそうで何よりだ。てめぇの都合なんか知ったこっちゃねぇが、気に食わねぇんで邪魔させてもらおうか?」
「はあ、これじゃどっちが悪役か分かんねぇな」
 心なしか呆れたようなシノの呟きに、うるせえと悪童じみた笑みを返してキマイラは続ける。
「どっちも悪役で問題ないだろ。少なくとも俺ぁ問題ねえ」
 始めようかと低い唸りを上げて、シエンは黒塗りの槍を手に構えた。羽ばたきひとつ天井近くへと舞い上がり、風を切る勢いに体重を載せて突き入れる。すかさず吸血鬼が身をかわすと、わずかに逸れた矛先は白い羽根飾りを貫いた――そしてそれこそが、狙いであった。
「…………!」
 はらはらと宙を舞う白羽に、息を詰める気配がした。一瞬惑ったその隙を見逃すことなく、類は緋色の絡繰り糸を手繰り寄せる。
「誰を、お探しで?」
 大きく後方へと跳び退った悪鬼の懐へ、鴉面の人形が斬り込んだ。薙ぎ払う腕は男の腹をちりりと裂き、人形遣いは冷めた眼差しを向ける。
「どれだけ探しても、今の曇った目では見つからないですよ」
「――貴様に何が分かる」
 憎々しげに唇を歪めて、吸血鬼は言った。
「我が妻の羽根に、触れるな……!」
 巨大な鉤爪が類の側面を捕らえた。咄嗟に引き上げた絡繰り人形ごと、その身体は壁面へと叩きつけられる。さらに追撃せんとする吸血鬼の進路に飛び込んで、ノワールは顔をしかめた。
(「この場で仕留め切りたいところだが――」)
 存外、手緩い相手ではないらしい。相対する男の全身から滲み出る禍々しい呪詛が生半可なものでないことは、吸血鬼狩りとしての彼女の勘が教えてくれる。
(「……なら、自分の仕事に徹するまで」)
 後続の猟兵達が到着するまで、敵を引きつけ、時間を稼ぐ。それが、真っ先にこの塔へ登り詰めた自分達の役割であるならば。すう、と大きく息を吸い込んで、黒の娘は剣を振り上げる。その目には、吸血鬼の血を引く彼女が忌避してやまない衝動がありありと浮かんでいた。
「貴様の事情は知らんが、ついでにひとつ言っておこう」
 ひとつ、ふたつ、みっつ――目にも留まらぬスピードで繰り出す斬撃が、鉄の鉤爪にぶつかって激しい火花を散らす。距離を詰めれば否応なく目に入る羽根飾りに露骨な不快感を示して、ノワールは言った。
「その外套、全く似合っちゃいないぞ」
 翼の外套、手折られた羽根は、男が犯した罪の証だ。いかにも不愉快そうに表情を歪めて、余計なお世話だと吸血鬼は嗤う。ギィン、と重たい剣戟とともに両者が部屋の両端へと弾き飛ばされると、今度はシノが二人の間に割って入った。
「お前は、お前の『セシリア』のことを忘れたんだな」
 可哀想に――ぽつりと零したその声音は軽蔑を孕みながら、それでいてどこか寂しげに響く。
「なんだと――」
「だってそうだろ? 浮気の証拠で着飾る旦那を見て、喜ぶ女がどこにいるよ」
 古来より、人狼は吸血鬼の天敵と伝えられる。みしみしとその骨を軋ませて、シノは四足の狼に姿を変えた。後ろ足で石の床を蹴り、吸血鬼の腕を目掛けて飛び掛かる。猛る牙に引き裂かれた羽根飾りが宙を舞うと、吸血鬼は整った顔立ちに隠し切れぬ怒りを滲ませた。
「その羽根に触れるなと言っている!」
「ハッ、ギャーギャーうるせぇんだよ!」
 そんなに羽根が好きなら、羽毛枕にでも縋ってろ――死角から飛び込んだシエンのダガーによる一撃を鎖の穴で受け止めて、吸血鬼は唇を噛む。そして、髪に飾った花を手に取った。
「! 皆、気をつけて――」
 呼び掛ける類の声は、わずかに遅く。男の掌を離れた花弁は無数にその数を増やしながら、鋭い刃となって猟兵達に降り注ぐ。頬を、腕を、脚を裂いて吹き荒ぶ紅の花弁を睨み据え、人形師は声を震わせた。
「………よくも奪ったな」
 舞い散る花はそのひとつひとつが、彼の手で命を奪われた少女達のものだ。何事もなければ今もその傍らに咲き続けていたであろう花を、奪うばかりか人を傷つける刃に変えるなど――凡そ受容しがたい行為だった。緋色の糸をひと振りして頬に散った血を拭い、類は石床を踏み締める。
「風集い、舞え」
 短く告げたその声を鍵として、ヤドリガミの青年はその身に秘めた霊力を解放する。そして舞い風に捉われた花の刃が勢いを失して地に落ちると同時に、猟兵達の身体を淡い菫色の電子が包み込んだ。はっとして振り返ってみれば誰もいないはずの部屋の隅で、総髪の青年――希夜が片目を瞑って見せる。
「やあ、お待たせ」
 紫の花を連ねた鎖が猟兵達を取り巻いて、傷ついた身体を癒していく。何かが削れていくような感覚とともに手足を襲う疲労でぐらつきそうになりながらも、希夜はその場に踏みとどまる。オブリビオン相手とはいえ、ひとつの命を狩ろうというのだ――狩る者は大なり小なり、その代償を負わねばなるまい。そしてその事実は皮肉にも、人ならぬ青年の内に宿る『生命』を際立たせる。
 仲間達の背中越しに吸血鬼へ目を向けて、希夜は無意識に呟いた。
「……本当に、バカなヤツ」
 過去に捉われ世界を呪い、絶望を振り撒いたその先で、彼は何を得るのだろう。
 遠く階下からは、弾丸の如く登り詰める猟兵達の足音が聞こえ始めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィオナ・グファジェン
「私の言葉なんて、貴方には届かないのでしょう」

誰の言葉も聞けずにいたから、貴方は着飾ることしかできなかったのでしょう。
どれだけ肌身離さずにいたって。傍には誰にもいないのに。

「だから私は、貴方の言葉が聞きたい」

なぜ、そう至ってしまったのか。
命を奪われた理由さえ知られることが無いなんて。
奪った側も奪われた側も、あんまり悲しいと思いますから。
そのためにはまず、勝ちましょうか。

ユーベルコードを使用し後方へ下がり、日輪月輪共に消滅したなら人形で攻撃を。
【生命力吸収】を仕掛け、家具などの物陰に隠れ【地形を利用】、【フェイント】を交えながらヒット&アウェイで闘います。
他の方が攻撃するなら補助を優先します。


グレ・オルジャン
美丈夫のお出ましか
愛情も度が過ぎれば執着、妄念だけど
ああ、あんたは随分と人らしかったんだねえ
人の在り方としちゃ嫌いになれなくて困っちまう
ラティファ(f12037)はどんな顔して見てるだろうか

隙見せ誘いつつ、号火の柄で虚を突き翻す刃で切り裂く
その情愛、少しばかり戦いに割いておくれ
あたしが戒められようが、狼たちは止まらない
影のような相棒の踏み込む死角を増やす
語っておいでよラティファ、その唇でも爪ででもさ
さもなきゃさっさと終わらせちまおうと笑う

ただ一人を愛したことが
美談にならずに惜しいとは、あたしは言わない
愛しい女のいる海へ還りな
容れるも拒むも、あんたのそれに応えられるのは
世界にただ一人だけだよ


ラティファ・サイード
グレ(f13457)と

…少なくとも
実際の犠牲者やその関係者以外の誰かが
どうして彼を断罪することが出来ましょう
それは義憤ではありませんわ
驕りというものです

だからこうして立ち塞がるのも
わたくしの我儘
共感でも同情でもなく
孤独を終わらせたいわたくしの我儘です

睫毛伏せ淡く微笑み刷きグレに目配せ
頼りになる相棒で困ってしまいます
一気に距離を詰め肉薄し
かぎろいの鉤爪で深く抉ります
多少の傷は顧みず攻撃に専念
鎖は砕きましょう
呪詛は払いましょう
目を逸らさず只管

どうぞ余所見はなさらないで
だって彼女を諦めないことは
あなたにしか出来ないのですもの

最後はかぐろいで
羽根ごとすべて焼き尽くしましょう
どうぞ
会いに行って差し上げて



 階上の広間に近付くにつれ、禍々しい気配が濃くなっていく。連なる螺旋の終わりを一段飛びに駆け上がり、フィオナ・グファジェンは舞踏の間へと飛び込んだ。
「助太刀しますっ!」
「…………」
 新手か、と冷めた目付きで口にして、吸血鬼は現れた猟兵達との間に距離を取る。身構える少女の肩越しに広間の中を覗き込み、グレ・オルジャンはほお、と感心したような声をあげた。
「大した美丈夫のお出ましじゃないか。なあ」
 半分は皮肉、半分は素直な感想を投げて、半歩後ろに立つ相棒に目を向ける。しかし、ラティファ・サイードは吸血鬼の外見といったものにはそれほど興味がないらしい。一歩前へと進み出ればすらりと長い脚に連れられて、黒のドレスが滑らかな波を打った。
「……実際の犠牲者やその関係者以外の誰かが
どうして彼を断罪することが出来ましょう」
 義憤に駆られ剣を取る、といえば聞こえは良いだろう。だがラティファに言わせれば、それは驕りというものだ。犠牲になった娘達のためにと叫ぶのは容易いけれど、過去を変えることはできず、目の前の男を殺したところで遺族の悲しみが癒えるわけでもない。
 故に彼女は誰のためでもなく、自らの意思で此処に立っている。
「こうして立ち塞がるのも、わたくしの我儘。共感でも同情でもなく……あの方の孤独を終わらせたい、わたくしの我儘です」
 紅い唇が我儘と呼ぶものの向こう側に、何があるのかは杳として知れない。けれど――らしいな、とグレは笑った。そして抜身の仕込み刀をひと振り穢れを払うと、一分の隙もなく身構える。
「愛情も度が過ぎれば執着、妄念だけど、あんたは随分と人らしかったんだねえ」
 ヴァンパイアというオブリビオンがどこから来て、どこへ行こうとしているのか、そんなことは分からないし興味もない。けれど目の前の人ならぬ男は、歪んだ愛情というただその一点において人間よりも人間らしい――と、グレは思う。
「人の在り方としちゃ嫌いになれなくて困っちまう」
 だから少しでいい。今はその情愛を、この戦いに振り向けて。
 言葉を終えるか終えぬかの刹那、ブーツの爪先が床を蹴った。無防備に飛び込んだように見せかけて一転、鋭く翻した刃は飛び退った男の胸に真一文字の朱を刻む。嗜めるように名を呼ぶ声に不敵な笑みを浮かべ、グレは相棒を振り返る。
「語っておいでよラティファ――その唇でも爪ででもさ」
 さもなきゃさっさと終わらせちまおうと、焔の如き女は笑う。その豪放さにつられて、ラティファもまた目元に淡い笑みを刷いた。
「仕方ないわね」
 頼りになる相棒だことと嘯いて、淑やかげなその外見からは想像も及ばぬスピードで大広間を飛び越える。振り下ろした竜の爪は吸血鬼の持つ鉄の鍵とかち合って、ガァンと激しい音を立てた。
「どうぞ余所見はなさらないで――彼女を諦めないことは、あなたにしか出来ないのですもの」
 為すべきことをなさいとでも説くように、口調はあくまでも穏やかに。交差した鉤越しに男の瞳を覗き込んで、黒衣の女は言った。弾かれたその腹を鉄の鉤爪が切り裂いても、ラティファは目を逸らさない。翼を縛る鎖は砕き、この地に満ちた呪詛は払おう――他の何のためでもなく、ただ目の前の男の物語を終わらせるそのために。
「ただ一人を愛したことが美談にならずに惜しいなんて、あたしは言わないよ」
 体勢を立て直さんと飛び退いたその隙間に、グレが仕掛けた。風のように広間を回り込んだ銀狼達が、吸血鬼の背後から飛びかかる。
「愛しい女のいる海へ、還りな」
 受け入れるにせよ拒むにせよ、彼の想いに応えられるのは世界にひとりだけ――この世界の外に眠った、『セシリア』ただひとりだけだ。
 狼達を振り払い、吸血鬼は再び猟兵達から距離を取った。その居所を見定めて、フィオナは広げた両手の先に光の双輪を紡ぎ出す。
「私の言葉なんて、貴方には届かないのでしょう。誰の言葉も聞けずにいたから、着飾ることしかできなかった」
 そんなことをしたところで、傍には誰にもいないのに。
 放つ光輪を避けて、吸血鬼が跳躍する。しかしめげることなく操り人形の狼を駆り、少女は悪鬼の懐へと飛び込んでいく。ぎらりと光る獣の牙を鉄の鍵で打ちはらう、その姿を真っ直ぐに見詰めてフィオナは言った。
「私は、貴方の言葉が聞きたい」
 何故、彼女が彼の元を去ったのか。それは彼にも分からないのだろう。ならばせめて、彼が何故こんな行為を続けるのか――理由が知りたい。そして、そのためには。
「まずは、勝ちましょうか」
 逃がすつもりも、負けるつもりも毛頭ない。挑むような娘の視線に吸血鬼が不快げに眉をひそめるのを、ラティファの金色の瞳が見詰めていた。
「どうぞ、会いに行って差し上げて 」
 手向けた慈悲はあえやかな吐息とともに、黒い焔を連れてくる。渦を巻く竜の息吹は忽ちに男の身体を飲み込んで、その姿が消失した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

終夜・凛是
お前が、何を思ってそんな事してるのか
俺は知ろうと、わかろうと思わないけど……
でも、見てていいものじゃないよ、それ

協力できるなら、しつつ
俺は距離詰めて戦う事しかできないから、傷負うのを覚悟の上で接近
致命傷にならなきゃ、気にしない。真っすぐ向かう
けど……避けれるものは、避ける

拳に全部のせて
俺はあんたを、否定する
俺はあんたみたいにならないから

その羽根でその身飾っても、きっとあんたの会いたい人はいないだろ
それに、その羽根を持っていた人達にも
いるんだ――会いたい、大切な人、一緒に居たい人
お前はそういう、縁、全部奪ってる
これからも奪い続けさせない為に、ここで果てろ

…俺は縁を、奪われるの嫌だし
奪いたく、ない


シノア・プサルトゥイーリ
彼女はもういないのだと告げるのは簡単なことなのでしょうね
セシリアは貴方の届くところにはもういないのだと
いいえ、告げたところで納得など…

そう思ってしまうのは、もう手の届かないものを知っているからか
私は、忘れることも誰かを受け入れることもできないまま
ーそう、忘れることはできない

…貴方は、貴方の愛したセシリアの為
立ち止まるべきよ
此処で終わりにしましょう

黒礼二式を発動
傷が無ければ刀に手を這わせ炎と共に斬り結ぶ
他の猟兵と協力して、攻撃の為の隙をつくりましょう

鎖とは厄介ね
軌道をよく見て、避けきれなければ刀で受け
捕まるようであれば鎖を怪力で引き寄せ刃を向ける
この血は炎を呼ぶ。貴方たちを燃やし尽くす狩人の血よ


アンナ・フランツウェイ
去っていった愛する人への執着、私…いや、私の内の怨念が痛いほど分かると語りかけてくる。でもその果てにあるのは誰も救われない結末と、満たされない渇きだけ。
だからあなたを止める。オラトリオとして、あなたが愛した者の為に。

ヴァンパイアのUCが発動したら、私も【限定解放式・月下香】を発動させ変化した花びらへ突撃。【激痛耐性】で耐えつつ、戦闘力増強させながらヴァンパイアへ接近。

接近出来たら断罪剣で胸元目がけ刺突、【傷口をえぐる】と強化された【生命力吸収】で追撃。

彼の今際の時に立ち会えるなら…私の白い羽を一つ抜き、羽を渡してあなたの罪を赦すと告げるよ。そして彼に【祈り】を捧げ、愛した人に会える事を祈ろう。



「やった……っ!?」
 拍子抜けしたように瞬きした次の瞬間、アンナ・フランツウェイの背中を悍ましい悪意のようなものが駆け上がった。思わずひとつ身震いして、アンナは咄嗟にその場から飛び退る。居並ぶ猟兵達を憎々しげに睨めつけて、薄れゆく炎の中心から翼の男が躍び上がった。
「……そう簡単には行かないか」
 どんなに焦がれても、二度とは戻らない日々。還らぬ人をそれでも想い続ける甘さと痛みを、彼女の中に生き続ける『誰か』の意識が知っている。けれどアンナ自身もまた、知っているのだ――妄執のその果てにあるのは、満たされることのない渇きだけであることを。
(「だからあなたを、止める……!」)
 名も知らぬ同胞が、なぜ『彼』を愛したのかは知る由もない。けれどそれが事実であるのなら、やはり止めねばならないだろう。同じ有翼の民として、今は亡い『彼女』が愛した男の手をこれ以上血に汚させるのは忍びなかった。
 男の手から舞い上がる色褪せた花弁が刃となり、猟兵達に降り注ぐ。白い肌を裂いて往き過ぎる無数の花弁を受けて立ち、アンナは言った。
「私の中の怨念よ――力を貸せ!」
 少女の内側より洩れ出る闇のオーラが、白い片翼を染めていく。頬に散った赤をぐいと拭って、アンナは断罪の剣を振り被った。その切っ先は鉄の鉤爪にぶつかって、高い天井に鈍い金属音を響かせる。互いに一歩も引かない鍔迫り合い――力で勝る吸血鬼がわずかに押すかというところ、その背後で終夜・凛是の夕焼け色の眼が光る。
「!」
 不意打ちだった。はっと目を見開いたヴァンパイアは咄嗟に身体を反転し、薄氷に似た花弁を放つ。しかし吹き荒ぶ花の嵐に、少年は怯まなかった。肉を切らせて骨を断つ――頼れるものは拳ひとつの彼にとって、多少の傷は問題ではないのだ。そうすることで、倒すべき敵の懐に飛び込めるのならば。
「貴様、どこから……ぐっ!」
 男の唇から、くぐもった呻きが洩れた。凛是の拳が敵の身体を真っ直ぐに捉え、渾身の力で以て石壁へと叩きつける。剥がれたタイルに埋もれる悪鬼を見下ろして、妖狐の少年は淡々と言った。
「お前が、何を思ってそんなことしてるのか、分かろうと思わないけど――見てていいものじゃないよ」
 それ、と示した指の先で、白い羽根飾りが揺れる。一枚一枚、少しずつその色合いを変える羽根の持ち主が一体どれほど犠牲となったのか――想い馳せれば無意識に歪む口元を隠すように、凛是は襟巻を引き上げる。
「その羽根を持っていた人達にも、きっと、いるんだ」
 会いたい人。大切な人。
 もっと一緒にいたかった人がいて、生きてさえいれば、辿り着けたかもしれない場所があった。なのに彼女達は――理不尽にも、奪われた。
「あんたはそういう、縁、全部奪ってる」
 もう一度振り被った拳を振り下ろさんとする刹那、吸血鬼はにたりと笑んだ。
「あり得ないな」
 身体を起こし、そのまま天井近くまで跳躍すれば、薄暗いダンスホールに千切れた羽根がふわりと舞う。眉をひそめた少年を高みから見下ろして、男は悪びれた風もなく言った。
「彼女が願い、望み、愛する者は私だけだ。故に私は、彼女を愛する」
 紅い瞳に宿るのは、純粋な狂気であった。
 骸の海から蘇った彼はもう、きっと、純粋なヴァンパイアですらないのだろう。少なくとも、ヒトならざる身でありながら一人の女性に愛を傾けた彼ではない。今の彼は『混じり物』だ。愛する者を喪った心の空白に、この世界に漂う怨嗟を取り込んだ――名前のない怪物。それが彼だった。
 いっそ清々しいほどの独善に花色の眉を寄せて、シノア・プサルトゥイーリは言った。
「……貴方は、貴方の愛したセシリアのために立ち止まるべきよ」
 彼女はもういない。『セシリア』は彼の届く場所にはもういないのだと、告げるのはいとも容易いことだ。しかし、どんなに言葉を尽くしたところで彼は信じるまい。無駄だと確信しているのはシノア自身が、もう手の届かないものを知っているからだろう。『それ』は喪われたのだと他人の口から説かれたところで、忘れることはできないし、他の誰かを受け入れることもない。そう――忘れることなど、できはしないのだ。
「此処で終わりにしましょう」
 忘れられないのならその記憶ごと、焼き尽くそう。抜き放つ太刀の刀身に白い手を這わせれば、皮膚が裂け、零れた血潮が火を噴いた。真紅の焔を身に纏い、シノアは躍んだ。巨大な鉤爪に連れられて一直線に空を切る鎖を刀の背で受け流し、そのままひとつ、ふたつと切り結ぶ。花の刃がコートの腕を切り裂いても、ミルワの詩篇は止まらない――その身体が血を流せば流すほど、紅焔は烈しく燃え上がり、悪鬼の身体に纏わりつく。
「この血は炎を呼ぶ。貴方たちを燃やし尽くす狩人の血よ」
 逸れた鎖を力任せに引き寄せて、シノアはあくまでも甘く囁いた。舌打ちひとつ悪鬼は焔を振り払ったが、そのわずかな挙動が隙となる。足元に落ちた影に気づいて振り返れば、色褪せ朽ちかけた天井画を背にした凛是が目に入った。
「俺はあんたを、否定する」
 誰かの縁を奪うのも、奪われるのも御免だ。人を踏み越えて辿り着いた道の先に、逢いたい人がいるはずもない。
 だから焦がれる胸がどれほど痛んでも、逢いたいと叫ぶ喉が血を吐いても――絶対に。
「俺はあんたみたいにならないから」
 ここで、果てろ。
 握り締めた拳に自重を載せて、叩きつける拳は疾く。身をかわす暇も与えることなく、吸血鬼の横顔を殴り飛ばす。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァルダ・イシルドゥア
伸びた鎖に引き摺り降ろされる
咄嗟に飛竜が私を守ってくれたことを知り、傷を癒そうとするけれど
立ち向かえ、と
ふたりの竜の声に槍を構え

我が名はヴァルダ
月に従いしもの
そして――……あなたを、眠りへと誘うものです

哀れだとは思わなかった
ただ、悲しくて、胸が、痛くて

どうか、教えてください
あなたの
そして……あなたを、あいしたひとのことを

臥籠守で動きを阻害し、流星槍で穿つ
少しでもほんとうの彼女を思い出せるように声を掛け続け

いきましょう、あなたの『あい』を届けるために
セシリアさまは……きっと、あなたを待っています

今際の際、生まれながらの光で照らし乍ら手を差し伸べる
このひかりが、彼女のもとへ導いてくれることを信じて


都槻・綾
f11024/かよさん

辿り着いた海ですら妻へ逢えず仕舞いだった男
気が狂う程に求めれど得られぬ、その――喪失感

私には分からぬ想い
且つ
数多の命を奪った者故に同情はしない
ただ
純粋に問うてみたい
記憶の中の妻の面影、過ごした日々のこと

ホールに舞い散る羽根は
死の舞踏会を彩る演出のようだけれど

――共に踊るなら
かよさんが良いですねぇ、

目線を交わし微笑んで
優雅に差し出す掌

勿論
円舞曲に誘う意ではなく
彼女の跳躍を助ける、踏み台となる手

腕より解き放った翼無き鳥の後を
高速詠唱で追い掛け
馨遙で援護、連携

眠りに誘って一瞬でも隙を生ませられたら
かよさんや皆がきっと
男を海へと還してくれるに違いない

咲き誇る彼女の姿への、確かな信


境・花世
綾(f01786)と

初めからなんにも持たなければ、愛さなければ、
そんな風に狂わずにすんだのに
かわいそうにね、と呟いて

きしりと自身の傷口に爪を立てれば、
零れた血を啜って咲いてゆく百花王
羽の代わりに紅の濃淡を纏い、
差し伸べられた腕にうすく笑って

――なら、極上のダンスを見せてあげる

助走もなしに弾丸のように跳ね、
きみの手の上でさらに高く飛び、
不意をついて接敵しよう
花散らす腕で敵に傷をつけたなら、
あとは一瞬の隙があれば十分

綾のくれたチャンスに燔祭の種蒔けば
攻撃を防いでも、もう遅い
その血肉を喰らって花は咲くだろう
その狂気を春の底に埋めるだろう

わたしは知りもしないその感情
――ひとりでいられないほど、愛したの



 走る稲光に照らされて、散る羽根のひとひらだけが白かった。
「これはさながら死の舞踏会、かな」
 かつてこの城の主が健在であった時代には,絢爛な舞踏会が催されたこともあったのだろう塔の上のダンスフロア。けれど今ここに踊るのは、悪鬼と狩人達ばかりだ。輝きを失して久しい灰色の広間に栄枯盛衰の極みを見る思いで、都槻・綾は呟いた。
「ともに踊るなら、私はかよさんが良いですねぇ」
「あら、嬉しいことを言ってくれるのね」
 くすりと小さく笑み零せば、隣り合う娘の目元で淡紅の花が揺れる。視線を交え、けれど言葉は要らない――乱戦の中に薄らと開いた胸元の傷に爪を立て、境・花世はどこか挑むような口ぶりで言った。
「なら、極上のダンスを見せてあげる」
 差し伸べる手は、平時であれば優美なる円舞曲へと誘うだろう。けれど、今は違う。走り込むわけでもなく軽やかに床を踏み、隣り合う男の手のひらを足場にして、翼のない鳥が飛翔した。そしてその胸に、その脚に。傷口に滲む血を吸い上げた百花の王が、十重に二十重に咲き誇る。
(「初めからなんにも持たなければよかったのね」)
 光の差さないこの世界に君臨した傲慢不遜な吸血鬼は、幸か不幸か愛を知った。愛はひと時の幸福をもたらし、そして最後に、喪失の痛みを教えて消えていった。吸血鬼の生き様を肯定する気は更々ないが、それでももし、愛さなければ。
(「こんな風に狂うこともなかったのに」)
 かわいそうにと呟いた、濃い花色の左目に映り込むのは花と翼の吸血鬼。切れた唇に血を滲ませ、かぶりを振って立ち上がったその頭上に、真新しい花弁が降り注ぐ。
「くっ!」
 上だ、と気づいた時には、遅かった。深紅の髪を靡かせて真っ直ぐに『落ちて』きた娘の爪が、一閃、悪鬼の胸に傷を穿つ。敵はすかさず鉄の鉤爪を振り翳したが、その先端が届くよりも早く、花世は身のこなしも軽やかに後方へと距離を取る。
(「種は、撒いた」)
 植えつけられたものの正体に、今更気づいたところでもう遅い。傷口から入り込んだ種子は悪鬼の肉を喰らい、膚を破って咲くだろう。
 消えた想い人を探し求め、辿り着いた海でどれほど漂ったのか。想い、焦がれ、気が狂うほどに欲して、けれど決して得られぬその絶望は一体いかほどであったのか?
 美しい貌を苦痛に歪めた男の、それでいてなお鋭い眼光を受け止めて、綾は、花世は想い馳せる。
(「私には、分からぬ想い」)
(「わたしは知りもしない、その感情」)

 ――ひとりでいられないほど、愛したの?

 独り言のような娘の問いに、答える声はない。
 袖口を押さえ伸ばした手の先から治癒の香を昇らせて、綾は立ち尽くす男の姿に目を配る。
 人ならざる身には、元より理解を超えた熱情だ。綾には想像することしかできないし、罪なき数多の命を奪った者に情けを掛けるつもりもない。ただ、彼をそれほどまでに狂わせたひとりの女性について、純粋に興味を惹かれぬと言えば嘘になるけれど。
(「いったい、どんな人だったのだろうね?」)
 彼の愛した、『セシリア』は。
 ささやかな疑問は、声になる前に立ち消えた。絹を裂くような悲鳴が上がり、足元に走る震動とともに何か重たいものが叩きつけられるような音がする。顔を上げれば一頭の飛竜が吸血鬼の鎖に絡め取られ、石床の上に蹲っているのが見えた。
「アイナノア!」
 鉄の鎖は、破れた窓から飛び込んだ竜の翼を力任せに引きずり下ろした。飛竜の陰から這い出して、エルフの娘――ヴァルダ・イシルドゥアは唇を噛む。騎竜に守られたことを知り、傷を癒そうと屈み込んで、そこで娘は息を詰めた。
「……アナリオン」
 肩に留まった仔竜が吼える。立ち向かえ、槍を取れと、優しき主の背中を押す。二匹の竜に促され、エルフの娘は立ち上がった。
「――邪魔をするか、女」
「いいえ」
 問う声にふるりと首を振って、ヴァルダは吸血鬼に対峙する。傷ついた腕に花を咲かせながら、それでいてなお、男の纏う憎悪と狂気は衰えていない。気圧されそうになるのを堪えてその場に踏みとどまり、娘は毅然として言った。
「我が名はヴァルダ、月に従いしもの。そして――あなたを、眠りへと誘うものです」
 合せた両手に収まった仔竜が、ひと振りの槍に姿を変える。恐れはない。哀れだとも思わない。しかし目の前の男が抱く余りにも人間らしい狂気は、ひとつ間違えば誰の胸にも芽生えかねぬものだ。
 そう思うと、ただ胸が痛かった。
「教えて下さい。あなたを、あいしたひとのことを」
 言葉で語れぬのならば、その翼で、その花で。何を求めて奪ったのか――断片でいい。『彼』と『彼女』の真実が知りたかった。
「いきましょう。あなたの『あい』を届けるために」
 広大な骸の海のどこかで、静かに眠る彼女の元へ。けれどこの世を去ろうという時に、何も思い出せないままでは辛過ぎるから。せめてもの助けになればと、少女はその名を口にする。
「セシリアさまは、きっと、あなたを待っています」
 立ち尽くす男の足元にはいつの間にか、緑の芽吹きが忍び寄っていた。絡みつく蔦を振り解こうとするその一瞬の空白を狙って、ヴァルダは蒼焔纏う竜槍を振るう。そして――光り輝く矛先が一息に、悪鬼の肩を貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と

代わりなどいないと気付いた故に壊れたのか
認めることが出来なかった故か
知る由もない――知る気もないが
奴の虚が満たされる事は無いだろうよ

【封牙】用いてヴァンパイアへと駆け
届かぬなら飛行も厭わない
飛来する鉤を叩き落とし、呪詛耐性で抵抗
分不相応な翼など削ぎ落としてくれよう
貴様には似合わぬ

刃が此方に向けられようと怯まず
なにせ我が背で、より強烈なものが牙を剥くだろう故
攻撃から逃れるようとするなら挑発も辞さず
その身勝手さ故に愛想を尽かされたのではないか

師へと向かう花弁は身を以て庇う
残り滓は残り滓らしく沈んでいろ

…もう会えぬものを探す必要はない
懐かしい夢でも見ているといい


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
実に愚かな男よな
…否、聡かったが故か
この侭悟らねば幸せでいられたろうに
どうせ知れど、もう手遅れ
彼奴は、纏う妄執ごと海に沈めてくれよう

召喚するは【雷神の瞋恚】
追い縋る従者へ当てる程、私は阿呆ではない
身に走る罅すら気に留めず、渾身の魔術で麻痺を齎そう
然すればジジへの負担も減るだろう
白き羽根を焼き、天へと還す事も忘れず
っは、彼奴の顔が歪まぬか見物よな
それとも奪われる苦痛すら感じる余裕はないか?

花弁侵す瘴気は毒又は呪詛耐性で凌ぐ
雷を障壁とすれば多少ジジ含め皆への脅威も削げようか
全く…美しい花を血で穢しおって
これはジジの言葉も強ち嘘ではないやも知れぬぞ?

――虚構の夢は終りだ、吸血鬼


アルファルド・リヤ
行きましょう。
今はこの方を何とかするのが先なのです。
自分はただ、言われるままに戦うのみ…。

トドメは任せましょう。
この身が誰かの役に立つのならば喜んで差し出すまでです。
この手で生み出した氷の蔦……茨で敵の攻撃を封じます。

命が削れようとも機械には関係ありません。
修理してしまえばまた元に戻るのですから。

貴方は自己満足の塊だ。
哀しみに酔い影を追いかけても何も意味はない。
忘れてしまっているのならそのまま忘れて別の影を追いかければ良かったものを……。

実に憐れだ。


リーヴァルディ・カーライル
…ん。奪われた生命、穢された魂は元に戻らないけれど。
それでも、せめて花と翼は取り戻してあげる。
それが、私が貴女達にできるせめてもの弔いよ。

“葬送の耳飾り”に聞き耳を立て、目立たない魂の存在感を捉え、
第六感を頼りに犠牲者の霊魂を追跡してみる
魔力を溜めた両目で暗視した彼らの残像と手を繋ぎ、
礼儀作法に則り祈りを捧げながら【血の葬刃】を発動

【吸血鬼狩りの業】で敵の殺気を見切り攻撃を回避し、
怪力の踏み込みから空中戦を行う“血の翼”の加速力を加え、
大鎌をなぎ払った後、地を滑りダッシュの制動を行いつつ、
死者の呪詛を爆発させる属性攻撃で傷口を抉る2回攻撃を行う

…この一撃を手向けとする。眠りなさい、安らかに…。



「く……」
 石壁にめり込んだ身体をよろりと起こし、吸血鬼が立ち上がる。その砕けた左肩にぶら下がった腕は単にまだ千切れていないだけで、もう使い物にはならないだろう。けれど悪鬼は、立っていた――薄い笑みを浮かべたまま、すらりと長いその脚で、冷たい床を踏み締めて。
「実に憐れ、ですね」
 傷ついて尚も立ち続ける吸血鬼へ、アルファルド・リヤは軽蔑と憐憫の入り混じった眼差しを向けた。
「貴方は自己満足の塊だ――愛した人の顔も思い出せないのに、哀しみに酔って、ありもしない影だけを追い続けている」
 くつり、と笑う声がした。低く噛み殺したような笑いが次第に大きくなり、やがて広間全体に聞こえるほどの哄笑となる。おかしなことでも、と眉根を寄せた青年を暗紅色の瞳で一瞥し、美しい吸血鬼は言った。
「私は妻を探しているだけだよ」
 忘れたからこそ探すのだと。違っていたから殺したのだと。朗々と語る男の表情に躊躇いや罪の意識はない。無駄よと緩く首を振って、リーヴァルディ・カーライルは前線へ進み出る。抜けるように白いその手の中で、漆黒の大鎌がゆらりと揺れた。
「奪われた命も、穢された魂も、元には戻らないけれど――」
 ひと呼吸、言葉を切って手中の鎌をくるりと回し、黒い刃を上向ける。吸血鬼の髪を飾る色褪せた花と、その背を覆う偽りの翼をじっと見詰めてリーヴァルディは言った。
「それでも、せめて花と翼だけは取り戻してあげる」
 菫色の瞳は目の前の男を突き抜けて、違う誰かを見詰めていた。黒いフードを落とし、零れた銀髪の下にきらりと光る耳飾りへ手を添えて、彷徨える御魂の声を聞く。魔力を湛えた双眸の見詰める先、暗い天井へと差し伸べた手は、細く儚い、誰かの指に触れた気がした。
「限定解放――」
 リミテッド・ブラッドレイ。
 鈴のような声を合図に、大鎌を握る右腕がその色形を変えていく。それは紛うことなき、真祖の腕――その身体に秘められた、吸血鬼の血の発現であった。身体中を満たした魔力は緋色の翼となって少女の背中に顕現し、その身体を中空へと舞い上げる。
「眠りなさい、吸血鬼」
 この一撃を、せめてもの手向けとしよう。一閃、黒い風と化した大鎌が吸血鬼を絡め取る。身体に纏わせた鎖がなかったならば、今頃その胴体は二つに割れて転がっていたことだろう。そしてその刃は、彼の命にこそ及ばずとも――。
「…………!」
 切り落とされた偽りの翼が、高い天井に舞い上がった。宙を泳ぐ無数の白羽を呆然と仰いだ吸血鬼の身体が、次第にわなわなと震えだす。
「貴様ァ……!」
 片腕を砕かれたその身体の、どこにそんな力が残っているのか。獣じみた咆哮が、石壁のホールに響き渡る。怒りに任せて振るう鎖が滞空するリーヴァルディの身体を絡め取り、床へと引き摺り下ろそうとする。しかし振り下ろされた鉄の鉤爪が、少女に届くことはなかった。
 ぎしり、と無機物の軋む音がする。胸に食い込んだ鉄の爪に細かな火花を散らしながら、アルファルドは淡い笑みを浮かべた。
「掛かりましたね?」
 仮初の命を宿す機械の身体には、痛みもなければ終わりもない。壊れたならば直せばいい――だからアルファルドの動きには、ためらいというものがない。
「この身が誰かの役に立つのならば、喜んで差し出すまでです」
 あなたには、分からないのでしょうけれど。
 微笑む青年の傷口から、氷の蔦が伸びた。ピキピキと音を立てて鉤爪を這った蔦はやがて悪鬼の腕へと到達する。頼みましたよと告げる声に応えて、アルバ・アルフライラは愛弟子の名を呼んだ。
「ジジ!」
 言われずともというように、ジャハル・アルムリフは突風の如く悪鬼の元へ翔けつける。吸血鬼の表情に焦りが滲んだ。鉄の鉤爪を急ぎ手元に引き戻せば、膝をついたアルファルドの頭上を飛び越えて、竜が告げる。
「貴様には分不相応な翼だ」
 削ぎ落としてくれる。唇の裏で言い捨てて、飛来する鉤爪を叩き落とした勢いのまま吸血鬼の皮膚を抉り取る。
 代わりなどいないと、気づいた故に壊れたのか。或いはその事実を、認めることができなくて歪んだのか。結果は同じであるならば、そんなことはどちらでもいい。しかしどちらであれ、彼の中の虚ろが満たされることはないのだろう。
 ならば――ここで終わらせる。
 向けられる爪の先に怯むことなく、影の剣で切り結ぶ。瀕死の傷を負って尚、否、追い詰められたが故の抵抗は烈しく、振るう剣は敵の膚には届かないが、それでいいのだとジャハルは知っていた。なぜならば。
「よいぞ、そのまま抑えておれ」
 背にしたアルバの腕の先、掲げる杖の先端に魔力が収束していく。気を抜けば暴発しかねない紫電を圧縮し、練り上げて、術師は額に珠のような汗を浮かべる。けれどその唇は、不遜な弧を描いていた。
「その妄執ごと、海に沈めてくれよう」
 ピシ、と弾けるような音を立て、薔薇の輝石の指先に罅が走る。けれど握ったタクトを取り落すことなくアルバは告げた。
「ゆくぞ!」
 限界まで引き絞った弓から矢を放つように、凝縮された雷が飛翔する。それは射線上のジャハルを避けて大きく弧を描き、そして吸血鬼の目と鼻の先で炸裂した。逃れる術も、時間もありはしなかった。
「あ――」
 弾ける白紫の閃光に包まれて、男は幻視する。
 風の中に微笑む面影を、柔らかな羽根の白さを、この名を呼んだ唇を。けれどそれらが鮮明な像を結ぶ前に、紫電の奔流が男の全身を貫いた。天雷とも呼ぶべきエネルギーの塊は吸血鬼の隅々にまで行き渡り、その手足の自由を奪うとともに、背に残る羽根を灼き尽くす。
 色のないダンスフロアに響く断末魔を聞きながら、アルバはゆっくりと掲げた杖を下ろした。
「実に愚かな男よな」
 否、愚かというよりは寧ろ、聡明であったというべきなのかもしれない。
 愛も別れも、いっそ何も覚らなければ、それなりに吸血鬼らしくいられたのだろうに――尤もそれが幸福と呼べるかは、甚だ怪しい所だが。
「虚構の夢は終りだ、吸血鬼」
 努めて穏やかな声で告げ、術師は踵を返した。刹那、色褪せたひとひらの花弁が無防備な項へと迫る。けれど、儚いかな――たった一枚の薄刃は黒い剣に弾かれて、からりと床に転がった。
「残り滓は残り滓らしく沈んでいろ」
 顧みた師父の背を守るように進み出て、ジャハルは言った。冷ややかに見下ろすその瞳の中で、焼け焦げた悪鬼の手から数枚の花弁が散り、白い腕がさらさらと崩れていく。それが本当に、最後だった。
「全く――美しい花を血で穢しおって」
 やれやれと肩を竦め、蒼紅に移ろう髪を揺らして術師は言った。その背を数歩ばかり追いかけて、黒曜の竜は足を止める。そして後は振り返ることなく、呟くように口にした。
「もう会えぬものを探す必要はない。……懐かしい夢でも、見ているといい」
 雷鳴はいつの間にか止んでいた。この城へ辿り着いてもうどれほど経ったのか、朽ちた悪鬼の成れの果てを猟兵達が見守る中、雲を通して差し込む光は微かに赤らんで見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ブラッド・ブラック
同行:サン(f01974)

搭へ向かった猟兵達の勝利を信じ
「まだ配下も残っている。助けは早い方が良いだろう」
被害者を幽閉可能な牢や個室等、配下を掃討しつつ生存者を探す

常にサンの様子に気を配り
敵を薙ぎ払い、急ぎ進む
サンに危険があれば武器受けで庇う

鍵がかかっている部屋はぶち破り、牢なら液状化し進入
亡骸があれば様子を確認する

短縮可能な道はサンを抱き抱え
【UC】で体をバネ化させ一気に跳躍、移動


被害者の惨状はサンの白い背に残る傷痕を想起させる
翼を奪って何になる
翼があろうがなかろうが去る者は去り
変わらず傍に在る者は――

泣くサンの頭を引き寄せて
「…何であれ、帰りを待っている人はいるだろう」
せめて遺品を持ち帰る


サン・ダイヤモンド
ブラッド(f01805)と被害者の救出

急いで急いで囚われている人を探す
石畳で猛禽類の爪が割れても血が滲んでも気にせずに
邪魔するヴァンパイアは全力魔法の衝撃波で吹き飛ばす
「どいて!」

被害者の人影を見付ければ
「助けにきたよ!」

……でも様子がおかしくて
体がどんどん冷たくなって、血の気が引いて
次も、次も、次も、
誰も、生きていない……?
どうして……?どうして……!

辿り着いた搭の居室
生きてる

「待ってて、今傷を治すから…!」
傷付いた猟兵と翼の女性へ
悲哀と優しさを含んだ静かな癒しの歌(UC)を贈る

生きてる……良かった……
そう思うと同時に体が、声が震えて
他の被害者を思い出して

生きてて良かった、でも
涙が止まらない


フランチェスカ・ヴィオラーノ
ユエちゃん/f05601と

被害者の保護に向かう
こういう場合って、大体奥の部屋にいたりするんだよね
ただの勘だけど、手前は他の猟兵に任せあえて奥から探す
暗くて前に進めない場合は魔法で蝋燭に火を灯す

敵には高速詠唱で水の属性攻撃魔法で範囲攻撃
対応しきれない場合はウィザード・ミサイル使用
但し館が燃えそうならば魔法で消火

被害者の手当てはユエちゃんに任せ
敵の排除に努める
全力で、守るから……!

遺品は被害者の保護が完了または確認次第、可能な限り持ち帰る
ごめんね、ごめんね
もっと早くに救ってあげたかった
ヴァンパイアは悪い奴
――でも、母様のことは憎み切れない
許せないけれど、私が目覚めても(覚醒しても)殺さなかったから


月守・ユエ
フランチェスカちゃん/f18165と

被害者の保護に向かうよ!
フランチェスカちゃんと一緒に奥の部屋から順に探していく
早く見つけてあげないと、ね?

敵が現れたら
シンフォニックデバイスのLunaryを構えて
【狩猟女神ノ戦歌】を歌う
フランチェスカちゃんや皆をサポートする
「嘆きの大地に、戦場に降り立つ我らに、勝利の光を」
仲間を鼓舞する

・回復が必要な時
【月灯ノ抱擁】を歌う
僕がいる限り、皆の傷は癒してみせる
オーラ防御も用いて守り手に徹する

被害者を見つければ
優しく声をかけ救助活動
素早く傷の手当をする
「もう大丈夫。一緒に帰ろう、ね?」

道中、他の被害者の遺品も見つければ
できる限り持ち帰る
…誰一人置いて行ったりしない


クーナ・セラフィン
親玉には興味あるけれどもなんか気になるんだよね。
城内を探し配下の掃討しつつ探ってみるかな。

騒がしいダンスホールを避けて下から上へと順々に進み探索していく。
地形や城内の構造をよく観察し情報収集、違和感のある所を注意深く調べる。
歩いた感覚で不自然な空間がある所とか像とかの配置がおかしい所とか。
オブリビオンはここに後から棲みついた、作り主でないなら気付いてない隠し部屋とかあったり?
あと遺品等があるなら可能な限り持ち帰る。
…知らずに希望を抱き続けるのと、知らされるのと。どっちがいい方に転ぶんだろうかね。

残敵にはUCで幻惑し隙を作り一気に槍で貫く。
暴れる時間を与えず合流させぬよう。

※アドリブ絡み等お任せ



 ――時を遡ること、十数分前。
「親玉には興味あるけれども、なんか気になるんだよね……」
 誰もいない廊下の曲がり角に、三角形の大きな耳が覗いていた。ひょこりと壁の向こう側から顔を出して、クーナ・セラフィンは周囲の様子に目を配る。
 今頃この塔の上層では、先に進んだ仲間達とヴァンパイアとが交戦している頃だろう。配下のレッサーヴァンパイア達は前哨戦でかなり消耗しているはずだが、どこに隠れていないとも限らない以上、用心するに越したことはない。そろりと通路へ滑り出して、灰色の猫はとことこと駆けていく。
(「オブリビオンは、後からここに棲みついた。施主が別なら、彼も気づいてない部屋があったりするかも……!」)
 消息を絶った娘達の手掛かりにつながるものがあればよいのだがと、藍色の猫目を光らせる。そしてクーナは気づいた――通路の先に、白い人影が揺れていることに。
「あれは――」
 場所が場所だけに、さては幽霊と身構えて、けれどすぐに違うと悟る。ひらひらと揺れるワンピースの裾は、前庭で対峙したレッサーヴァンパイアのそれだ。気づかれぬように近づいてその背に槍を突き立てると、白い娘は反撃の間もなく灰となった。溜息ひとつ、ずれた帽子を目深にかぶり直して、猫ははたと瞬きした――白い娘が向かおうとしていたその先に、何かがある。
「……これは?」
 きょとんとして小首を傾げ、クーナは薄暗い通路の先へと踏み出した。

「どいて、どいて!」
 かしゅかしゅと耳につく音は、石床に猛禽の脚が擦れる音だ。鋭い爪が割れてしまうのも気に留めず、サン・ダイヤモンドは狭い通路を駆け抜ける。間近に迫るヴァンパイア達を全身から迸る魔力の放出で吹き飛ばし、廊下の突き当たりの扉を目指してひた走る。
(「だって、確かに見えたんだ」)
 城内に入り込む前、このフロアのこの辺りで。誰かが窓辺に座っているのを、確かに見たのだ。もしそれが被害者であるならば、助けられるならばと思うと、キマイラの胸は鼓動した。そしてなりふり構わず部屋の扉を開け放ち、サンは半ば叫ぶように言った。
「助けにきたよ!」
 呼び掛ける声が喜色ばむのは、助けられると思ったから。
 助けたいと願ったのは、引き裂かれた絆をもう一度ひとつにしてあげたかったから。
 けれど。
「…………」
 返事はない。冷たい沈黙に背筋が冷えていくのをありありと感じた。一歩、部屋の中に踏み込むと、窓辺の椅子に誰かが座っているのが分かった。
「……どうして」
 眠る娘は、まるで人形のように見えた。恐らくはもう随分と長い間眠りに就いているのだろうに、特に腐臭も感じない。けれど――それは確かに、ヒトだった。羽根を毟られ、翼を捥がれて息絶えた、哀れなオラトリオの抜け殻だった。
「どうして……!」
 身体の震えが止まらなくなり、サンは両手を握り締める。膝をつきそうになったその時、細い肩に大きな手が触れた。少年の身を案じて後を追ってきた、ブラッド・ブラックの黒い手であった。
「――先走るなと言ったのに」
「…………」
 ごめんなさいと俯いた、白い肩が震える。髑髏面の下の二つの光でじろりと亡骸の背をなぞり、幽鬼は微かに低い唸りを洩らした。
(「翼を奪って何になる」)
 まるで人形のような亡骸。剥き出しのその背中に残る傷痕は否応なく、サンの背に残るそれと重なる。
 翼があろうがなかろうが、去る者は去る。変わらず傍に在る者を『彼』が真に理解しようとしていたのなら、或いはこんな結末ももう少しましなものになっただろうか。
 ――今となっては、全てが空想に過ぎないけれど。
「……どんな形であれ、帰りを待っている人はいるだろう」
 すすり泣く少年の頭を引き寄せて、黒き異形は言った。今はただ名も知らぬ彼女の帰郷が、誰かの心を救うのだと信じるより他にない。
 一方、同時刻。
「ごめんね……ごめんね」
 冷たい床に座り込み、フランチェスカ・ヴィオラーノは温度のない手を握る。燈した蝋燭の小さな火を頼りに入り込んだ牢獄には、やはり数名のオラトリオが眠っていた。遺体の数は思ったほど多くないものの、だから気が滅入らないというはずもない。
「もっと早くに救ってあげたかった……」
 絞り出すように言ったフランチェスカの肩を、月守・ユエが慰めるように叩いた。
「できるだけのことはしたよ。このまま誰にも気づかれないより、きっと、ずっといい」
 そうでも思わなければ余りにもやりきれないと、ユエは長い睫毛を伏せる。ひたひたと、近づいてくる足音が聞こえ始めたのはその時だった。
「……フランチェスカちゃん」
 震える肩を揺すって、ユエはシンフォニックデバイスを構えた。こくりと頷いて立ち上がり、フランチェスカもまた魔法の杖を握り締める。せーの、と息を合わせて部屋の外に躍り出るなり、若き猟兵達は動いた。
「嘆きの大地に、戦場に降り立つ我らに、勝利の光を」
 友の背を押してユエが歌い上げるのは、月の女神の戦歌。暗い屋内に差し込んだ月の幻に抱かれて、フランチェスカの魔力が大きく脈を打つ。扉の外、通路の向こうに現れた敵は二体――大きく深呼吸をして、少女は杖を掲げた。その先端から迸る水の礫が瞬時に硬化し、白い娘達を貫いていく。しかし、次の瞬間。
「…………!?」
 吸血鬼は、あまりにもあっさりと瓦解した。糸が解けていくように、傷口からするすると白い砂に変わっていく。ひょっとして、と呟いて、フランチェスカは杖を下ろした。
「他の皆が……」
「みんなー!」
 続く言葉を遮って、部屋の外から声がする。呼ぶ声に応じて通路へと顔を出すと、通路の交叉点でクーナが跳ねているのが見えた。
「何かあったのかな」
 行ってみようというユエに頷いて、フランチェスカは歩き出す。そうして集った仲間達にクーナが告げたのは――。

 冷たい石床に複数の足音が重なり合う。
 ブラックタールの黒い腕に揺られながら、サンは小さく首を捻った。
「これって、どういうこと?」
「二重螺旋だにゃー」
 てくてくと四人の猟兵達を先導しながら、クーナが言った。塔の上層へ続く螺旋階段は、ひとつではなかったのだ。ぐるぐると渦を巻く階段は実は二重の螺旋が組み合わさってできており、違う入り口から入った者同士はゴールに辿り着くまで出会うことがない。
「つまり、この先に――」
 足の裏に伝わる石の感触が変わった。最上階の床はその他のフロアとは異なり、研き上げられた鏡のように滑らかで、艶めいていた。階段を登りきれば隣にはもうひとつの階段が口を開け、そして眼前には、天井まで届くような背の高い扉が聳えている。
「……開けるぞ」
 ブラッドの言葉に誰もが頷いた。鍵は、掛かっていなかった。
 注意深く部屋の中に踏み込んで、猟兵達は周囲に目を配る。そして――窓に掛かる長いカーテンが、不自然に膨らんでいることに気づいた。
 もしかして、と口にして、ユエは一目散に駆け出した。重たい天鵞絨のカーテンを開け放つと、ひっ、と怯えた声がする。見れば――ぼろぼろの翼を背に庇って、オラトリオの娘が一人、その場に蹲っていた。
「よかった……もう大丈夫だよ」
 一緒に帰ろうと微笑んで、ユエはその場に膝をつく。ブラッドの腕から飛び降りて、サンもその場に駆け寄った。
「生きてる……!」
 深い安堵と同時に、地下で見つけた犠牲者の姿が目の前の少女に重なって、身体は俄かに震え出す。しかし膝を折り、娘の頬に手を触れて、気丈にも少年は言った。
「待っててね、いま治してあげるから……!」
 重なる癒しの歌声が、千切れかけた羽根を癒していく。言葉を発することはできず、ただぽろぽろと涙を零す被害者の背に手を添えて、フランチェスカは複雑そうに眉根を寄せた。
(「ヴァンパイアは、悪い奴」)
 こんな時に思い出すのは、いつだって母のことばかりだ。父を玩弄し、一方で自身を見逃した――許しがたく、けれど憎みきれない彼女の母は、捨て置けばいつかこんな風に誰かを傷つけてしまうのだろうか。それとも。
 自問すれど、答えが見つかるわけではない。
「これも遺品……かにゃ」
 部屋の片隅に据えられた木製のワードローブを開き、中にしまわれた衣服やアクセサリーを改めて、クーナは嘆息する。
 残酷な真実を知らされるのと、或いは知らずに希望を抱き続けるのと。どちらがマシかは、当事者でない彼女には判断つきかねることだけれど。
 今はただ真実こそが、明日へと向かう扉を開いてくれるのだと信じたい。
 重苦しい空気の中、しかし一筋の光条を胸に抱いて、猟兵達は悪虐の城を後にする――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『キャンドルナイトで慰労会』

POW   :    会場の設営などの力仕事、周辺の不安要素の排除、大規模なパフォーマンスなど。

SPD   :    食事の用意、会場の飾りつけ、人々が集まれるよう呼びかけるなど、場を和ませる工夫を。

WIZ   :    悩み相談を受けたり、安心できる言葉をかけたり、唄や踊りの披露をしたり。

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 廃城に巣食う吸血鬼が猟兵達によって討ち果たされた、という情報は、すぐさま森の村を駆け巡った。
 助け出された娘の帰郷を喜んだ人々がいる一方で、攫われた娘達のもはや還らぬことを知った多くの人々は大いに嘆き、悲しんだ。亡骸を探しに城へ向かう父があれば、猟兵達の持ち帰った遺品を抱いて泣き崩れる母も在った。けれど――過ぎ去りし時は取り戻せないということを、猟兵達は身に沁みて知っている。
 悲嘆にくれる人々をただ見詰めることしかできない彼らに、老いたオラトリオの長は篤く礼を述べ、こう言った。
「この村に古くより伝わる、『花の葬り灯』という儀式があります」
 はなのおくりび。それは村の墓守が護る種火を蝋燭に移し、死者が残した花弁を燃やして、亡き人を偲ぶとともにその魂の安寧を祈る弔いの儀式だ。
 本来は,死んだオラトリオの髪の花を故人の生前に託された家族や友人が一枚一枚燃すならわしだが、遺花の所在すら分からぬ者を弔う時、彼らは故人の花の代わりとして、村に咲く白い花を燃やす。森の入り口を埋め尽くして咲く日陰の花は、形は待宵草に似て、炎にくべると仄かに甘い煙を昇らせる。中にはその白煙に、親しき人の姿を見る者もあるという――。
「もし宜しければ、あなたがたも弔っては下さらぬか。恩人のあなたがたに見守られていれば、死んだ娘達も安心して天へ昇ってゆけるでしょう」
 喪われたものはもう、戻らない。
 けれど――暗夜に灯した小さな火に、想いを載せた花をくべ。亡き人を想う静寂の夜は、残された人々の心を少しは慰めてくれるだろう。

====================
お世話になっております。第二章ボス戦、お疲れ様でした。
ご参加を頂きありがとうございました。
以下の通り、三章の補足をさせていただきます。

●『花の葬り灯』
犠牲者の魂を悼む鎮魂の儀式です。
慰労会、とありますがお祭ではないため、静かな過ごし方が推奨されます(飲んだり騒いだりは非推奨です)。
キャンドルの灯を見詰めながら大切な人を想ったり、犠牲者の魂に祈りを捧げたり、犠牲者の遺族を慰めたりと、幕間の雰囲気に沿った範囲であれば何をして頂いても構いません。

●プレイング受付期間および諸注意
オープニングに併記のマスターからのコメントに記載しておりますので、お手数でも再度ご確認下さい。
また本章は、基本的に個人または同行者を個別に描写するスタイルとなります。個人参加で絡みOKと書かれている方が複数名いらっしゃる場合はその限りではありません。

それではご参加を心よりお待ちしております!
====================
冴島・類
亡骸を…探しに城に向かった
遺族の方がいるとのことなので
その共を

過去の影を骸の海に還しても
別のものに目を付けられぬよう
注意の為にも

探すのを手伝う中で
探している方の特徴や話を聞き

あのヴァンパイアが
一途に愛したものを探して
探し続けた者だったのだとして

狂ってしまった目で沢山の花を手折って
慈しんで来た家族や
愛したものを奪われた
この方達の、喪失を、穴も
埋めるものなんてないのに

痛みを、知った面で
寄り添う真似をした言葉は
かけれない

ただ、側で
ご家族が納得いくまで共に探し
憤りと悲しみには
手を繋ぎ、話を聞き

可能なら共に
弔いの花を焚べ

おくりましょう
会いたいと
愛しているを
煙に乗せて届くように
あなたが、涙で溺れないように



「――どうぞ、手を」
 轟く雷鳴は、いつの間にか聞こえなくなっていた。石段の半ばに足を止め、冴島・類は翼どころか足元さえも覚束ない村の老人に手を述べる。驚くほど軽いその身体を石段の上に引っ張り上げてやり、見上げる先には夕暮れに影と化した城が聳えていた。
 過去より来たる亡霊は、遥か骸の海の中。主たる吸血鬼とその眷属を失って、廃城は戦いの喧騒が嘘のように静まり返っていた。村へ戻り、それから再びここへ取って返したのは、娘や孫を迎えにいくという村人達を放ってはおけなかったからだ。
 行方不明の娘達はきっとどこかで生きていると、そう信じていた人々にとって、猟兵達がもたらした報せは絶望的なものであったと言わざるを得ない。勿論、悪鬼を討った猟兵達には何の非もないけれど――吸血鬼は死んだが生存者はただひとりだけ、それが変えることのできない事実であり、避けて通ることのできない真実だ。さりとてその身に残るたとえようもない胸苦しさを、類自身、どうすることもできずにいた。
(「あのヴァンパイアが――」)
 一途に愛したものを探して、探し続けた者だったのだとして。それがなんだと言うのだと、絡繰師は眉間に深い溝を穿つ。
 多くの花を無為に手折った吸血鬼は、確かに死んだ。けれどその死を以てしても、慈しみ育ててきた家族、誰よりも愛した人を奪われた村人達の心の穴を埋めることなどできはしない。憎むべき仇の死ですら購えないものを、どうして自分が埋められよう?
 そう思っては何も言えず、喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。彼らの痛みは彼らのものだ。知った風に寄り添う真似をした所で、その傷を癒すには能わない。
 だから代わりに、類は尋ねる。
「どんな方を、お探しですか」
 今の自分にできるのは、彼らとともに亡き人を探し、その憤りに耳を傾け、哀しみには手を伸べること。
 後で村へと戻ったならばその時は、彼らとともに花を焚べよう。逢いたいと、愛していると叫ぶ声が、愛しい人に届くよう――今は喪失に立ち竦む人々が、涙で溺れてしまわぬように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。私は私なりに彼女達を弔おう。
元々は彼女達も、哀れな犠牲者に過ぎないのだから。

“葬送の耳飾り”に聞き耳を立てて声を追跡しつつ、
指先から血の雫を垂らして城内を巡り、
吸血鬼にされた娘達の魂を誘惑して【断末魔の瞳】を発動

魔力を溜めた左眼に取り込んだ娘達の残像を暗視し、
彼女達の怨嗟を呪詛耐性と気合いで耐え、
心中で祈りを捧げながら【血の教義】を発動

…闇の娘が光の精霊に請い願う。
闇に穢された憐れな魂に、どうか救済の光を…。

光の力を使う反動に気合いで耐え、
吸血鬼化の呪詛を浄化する“光の風”を呼び、魂を浄化できないか試みる

…私にできるのは、こんな事ぐらいだけ。
せめて迷うことなく眠りなさい、安らかに…。



 消えた娘を捜しにやってきた、村人達の足音も聞こえぬ城の奥。
 風すら鳴かぬ無音を割って、リーヴァルディ・カーライルは黙々と石床を歩んでいた。その想いは、この城の吸血鬼に囚われ、翼を捥がれて自らもまた吸血鬼に身を窶した、哀れな少女達とともにある。
(「私は私なりに彼女達を弔おう」)
 哀れなる白い娘達。夥しいまでの数のすべてがあの村の者とは考え難いが、どこから連れて来られたにせよ、元を辿れば彼女達も犠牲者に過ぎないのだ。
 黒いフードの下に隠した耳飾りに手を触れて、少女は廃城に残された名も知らぬ魂達に対峙する。もはや集合意識に近い『それら』の怨嗟は吸血鬼が潰えてなお城の中に淀んでいるように思われて、娘は傷ついた指先を左眼に添えた。
「闇に穢された憐れな魂に、どうか、救済の光を――」
 光の精霊に請い願い、呼び覚ますその明かりは闇の娘には些か眩しけれど。反動に耐えて呼び寄せる光の風は、古城の底を掃き浄めていく。
「……私にできるのは、こんなことぐらいだけど」
 せめて迷うことなく眠りなさい。
 澄んだ声音は、誰もいない城の高みに物哀しく反響した。
 そして落ちる日を追い掛けるように――白花の村に、夜が来る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

終夜・凛是
弔い……
俺は、亡くなった人たちのこと、知らないけど……
できることがあるなら、する

亡くなった人を想って偲ぶことは……できない
俺が、するべきじゃない
でも、安らかにって
静かに眠ることを祈るのは……きっと、良いはず

村の人達がしているのをそっと真似る
会った事とか、ないけど…もう誰も、傷つかない
ゆっくり、眠って……

弔いの気持ちと共に蝋燭の火に、白い花を
ふわ、と昇る煙――そこに、誰も映らない、いない

よかった、とほっとする
生きている、って背中を押してもらうみたいな、気持ち
俺は絶対、にぃちゃんに会いに行くんだ
絶対に、会うんだ……

それまで、まっすぐに生きていたい
にぃちゃんに誇れるように



 夜にまだ少し早い宵の空へ、オラトリオ達の祈りが昇ってゆく。
 ある者は樹の根元に座り込み、またある者は青い森の中に立ち尽くして、小さな炎にひとひら、ひとひら、白い花を焼べていく。
 言葉はなく黙々と鎮魂の儀に臨む村人達を見詰め、終夜・凛是は袖の先に視線を落とした。深めの受け皿がついた手燭には細く青白い蝋燭が据えられて、儚い炎を揺らしている。
(「これは、弔いの火」)
 蝋燭に火を分けてくれた墓守のオラトリオが言っていた。この炎が亡き人への想いを花煙に載せて、彼岸へと運んでくれるのだと。
 犠牲になった娘達のひとりひとりを知っているわけでない凛是には、彼女達それぞれに心を寄せることはできない。寧ろ、すべきではないと少年は思う。死者を悼み想うのはあくまで遺された家族や友人の役割であって、そこに部外者の出る幕はない。けれど。
(「……でも、」)
 安らぎに満ちた静かな眠ることを祈ることだけならば、何も知らない自分にもできる。
 おずおずと摘まんだ純白のペタルは、炎に近づけるとほのかに緋く色づき、そして音もなく燃え上がった。
「会った事とか、ないけど……もう誰も、傷つかない」
 古城の悪鬼は、もういない。
 手甲の指先が一枚、また一枚と白い花弁を落としていく。そして最後のひとひらを揺れる炎の尾に寄せた、その時だった。
「安心して、ゆっくり……眠って……」
 宙に昇る白い煙が、ふわりと宙で渦を巻いた。瞬間、どきりと心臓が跳ね、背筋に冷たい緊張が走る。白花の煙は逢いたくて、けれどもう二度とは逢えない人の姿を見せてくれると言われているが――。
「…………」
 白い煙は、何も映すことなく消えていった。その花が本当に何かを見せるのか、それとも何かが見えるというのは受け手の願望に過ぎないのか、それは、凛是には分からないけれど。
(「……誰も、いない」)
 よかった、と、唇の裏で呟けば、わずかに頬に朱が昇る。逢いたい人は今もどこかで生きていると、背中を押してもらったような気分だった。
(「俺は絶対、にぃちゃんに会いにいくんだ。……絶対に、会うんだ……」)
 だからその日の訪れまで、決して折れも、曲がりもしない。
 君に誇れる自分でいられるように、真っ直ぐに生きていたいと想うのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シノア・プサルトゥイーリ
その魂の安寧を祈る術があるというのならば。
参加しましょう

せめて、この世の先にて良い眠りへとつけるように

花をくべるその前に、せめてもの祈りを込めて
そう、と火へ捧ぐ
鎮魂の言葉は…吸血鬼に奪われた彼らの前、ダンピールの身には、紡げまい

甘い煙に視線をひらけば、見知った後ろ姿
私を置いていった人に一瞬、見えて

でも、そう、私は…
貴方の姿が見えても、もう驚くこともできないのね

貴方のいない明日が、あんなに怖かったのに
認められずにいるのに、此処で貴方を見ても驚けない

さよならを、ねぇ、告げるべきなのかしら?

言葉は口に出ないまま、犠牲者たちへ祈りを捧ぐ
貴方達はどうか、火の向こう、より良き明日へ



 深い森の入口の側近く、ひっそりと佇むオラトリオ達の村。その集落を一望する高台にひとり、シノア・プサルトゥイーリは立っていた。左手に質素な手燭を持ち、淡い花色の睫毛を伏せて、娘は無言の祈りを空へ捧ぐ。
(「その魂の安寧を祈る術があるというのならば――」)
 こうすることで、旅立つ魂がよき眠りに就けるというのなら。
 長い長い沈黙の後にようやくその片眼を開き、シノアは手燭の受け皿から白い花弁を摘み上げる。近づければ蝋燭の上の小さな火は、俄かに揺らめき、やがて暖かな橙色を指先の花に灯していく。
 鎮魂の言葉は――否。
「…………いえ」
 吸血鬼によって愛する者を奪われた彼らの手前、ダンピールの身には紡げるまい。燃え尽きる寸前で花弁を手放して、は、と、シノアは息を飲んだ。
 ゆらりと宙に波紋を描いた白い煙。ほのかに甘く立ち昇った香りに、惑わされたのか――大きく見開いた瞳の中に、誰かの背中が浮かんで消えた。
「……今のは、」
 幻か、それとは違う何かなのかは分からない。
 白煙に連れられるように消えた後ろ姿は、いつか彼女を置き去りにした誰かのそれに重なって。けれど思わず喉へ迫り上がった名は、声になる前に唇の裏で解けていく。
(「でも……そう。……私は…」)
 吐息にくすりと、笑みが混じる。困ったように眉を下げ、娘は微笑った――そうすることしか、できなかった。
(「貴方の姿が見えても、もう驚くこともできないのね」)
 喪ったばかりの頃。あの人のいない明日が来るのが、堪らなく怖かった。目が覚めて、あの人が消えた世界に昇る朝陽を見るたびに、失くしたのだと思い知らされた。
 本音を言えば今だって、認めることなどできないのに、そのくせ驚くこともできないのだ――死を映す白い花煙に、懐かしい背中を見てさえも。
(「さよならを、ねぇ――告げるべきなのかしら?」)
 今は誰もいない花の跡を見詰め、シノアは首を傾けた。そのまま再び目を閉じて、オブリビオンの犠牲となった天使達に想い馳せる。
(「貴方達はどうか、火の向こう、」)
 旅路の果てで、より良き明日に出逢えますように。
 再び炎に焼べた花は、もう何も映しはしなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ノワール・コルネイユ
還らぬ者を悼み、ヒトは涙を流す
ある者は悲嘆に暮れて、ある者は絶望の淵にも落ちて…
どれだけ傷付いて、明日が視えなかったとしても

それでも尚、残された者達は生きて行かねばならないんだ
…こんな風景を見るのも、もう何度目になるだろうか

周りとは少し離れて
祈りを捧げる人々と、白煙が空へ登って行くのを見届ける

人々がずっと、こんな痛みを得るならば
いっそ、この世界は滅んでしまっていれば良かったのではないか
そう思うこともある

だが、それでは散って行った者達があまりにも報われない
そんな虚しいこと、哀しいことを、私は受け入れられない
だから、私は私の想うままに戦う

それが結果的に死者への手向けになるのなら、それも悪くは無いさ



 昼の残滓が西の彼方へ飛び去って、暗夜を迎えた森の村は厳かな空気に包まれる。
 民家の石壁に手をついて立ち、ノワール・コルネイユは寄り添い、支え合う村人達の姿を遠巻きに見詰めていた。
(「また、か」)
 ある者は悲嘆に暮れ、またある者は絶望の淵に落ちて、人々は咽ぶ。もはやこの手には還らぬ者を惜しみ、悼み、涙を流して慟哭する。討つべき者を求め、厚い雲の垂れ込めたこの大地を渡り歩く間に、一体何度、こんな景色を目にしただろう。
 何度繰り返しても真に慣れることはないその光景に、娘は深紅の瞳を曇らせた。残された人々を待ち受ける苛酷な現実を、彼女は幾度となくその目に焼きつけてきた。いかに奪われ、傷ついて明日が見えなくとも、残された者達は生きていかねばならないのだ。
 小さな灯火に花弁を焼べ、人々は静かな祈りを捧げる。甘やかに香る白煙の行く手に広がるのは、月の光も通さないダークセイヴァーの黒い空だ。
(「こんなことが、永遠に繰り返されるくらいなら」)
 人々がずっと、こんな痛みを抱えて生きていかねばならないというのなら。いっそ、この世界は滅んでしまった方がよかったのではないか――そう思うこともある。
 けれどそんな考えが頭を過るたび、ノワールは緩やかにそれを振り払う。今まで訪れたどの場所でもそうだ。光の射さないこの世界で、人々は確かに生き、足跡を刻んできた。それは、オブリビオンの犠牲となって潰えた命とて例外でない。世界が滅びるということは、彼らが生きて重ねた時間と場所のすべてが、灰燼に帰すということ。それではこの世界で生きようと足掻いた者達が、あまりにも報われないではないか?
 ゆえに、彼女は拒絶する。誰かが必死に生きようとしたこの世界を、虚しく悲しいだけのもので終わらせたくはないから――その心の想うままに、戦い続ける。
「……それもまあ、悪くはないさ」
 戦場へと続く道にたとえ終わりは見えなくとも、それが死者への手向けになるのなら。
 風に舞う黒髪の向こうで呟いて、娘は静かに目を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィオナ・グファジェン
「いつ、お別れしなければいけないかなんて。分かりませんし、分かりたくもありませんもんね」

流れる涙の数だけ、残した悔いがあったのでしょう。
湧き上がる怒りの激しさだけ、残した思い出があったのでしょう。
それでも。残してしまった人を思うからこそ、残された人は手を合わせられるのでしょうか。
残された人が祈るからこそ、残してしまった人は安らかに眠れるのでしょうか。

……私は、どっち側なのかな、なんて。
二度と戻れない自分の故郷を思い出して、答えの無いことを考えて。
祈る人々の姿があんまり胸に突き刺さるから、目を瞑って、せめてもの安寧を祈って。
せめて。この村の人達が悲しみと出会うのは、今日で最後でありますようにと。



 鎮魂の灯が蛍のように、青い闇を飛んでいた。
 針葉樹の袂に腰を下ろし、フィオナ・グファジェンは村を一望する。肩を寄せ、静かに涙を流す人々の姿を見ていると、これ以上どうすることもできないとは分かっていてもなんとも胸苦しい気持ちになる。
(「いつ、お別れしなければいけないかなんて。分かりませんし、分かりたくもありませんもんね」)
 泣き濡れる彼らにはきっと、涙の数だけ残した悔いがあったのだろう。湧き上がる怒りの激しさ、沈む嘆きの深さだけ、残した思い出があったのだろう。
 妻かもしれないし、恋人かもしれない。子供かもしれないし、孫かもしれない。
 失くしたものは人それぞれであろうけれど、その場の誰もに共通して言えることがひとつあるとすれば、誰ひとりとしてこんなことになるなんて思ってはいなかった、ということか。
 またねと笑った顔にもう二度と逢えなくなるなんて、これっぽっちも思わずに。彼らは『いつも』と同じように、愛しい人の手を放したのだ。
 あの時、もし、ああしていたら。
 そんな虚しい空想が、彼らの胸から完全に消えてなくなることはないだろう。それでも――想い、惜しむことによって、散り急いだ花の色を憶えておけることもある。
(「……私は、どっち側なのかな」)
 残す者と、残される者。
 答えのあるはずもない問いを胸に二度とは戻れぬ故郷の風景を脳裏に描き、フィオナは抱えた膝に鼻先を埋める。癖のない銀色の髪がさらりと揺れて、足元の青草へと零れ落ちた。
 真っ直ぐに目を逸らさず見詰めるには、祈る人々の姿はあまりにも胸に刺さるから。
(「どうか、みんなの心が穏やかでありますように」)
 この村の人々が悲しみに出逢う日が、今日で最後でありますように。
 目を閉じ祈りを捧げながら、娘は銀狼の耳を伏せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アンナ・フランツウェイ
確かにヴァンパイアは倒された。でも多くのオラトリオ達と救う事、彼の罪を赦す事を私は出来なかった。…結局私は何も変わっていない。オラトリオでも処刑人でもない、ただの天使のなり損ないだ…。

でも犠牲者達が救われるなら、こんな私で良ければ花の葬り灯に参加しよう。白い花を受け取ったらそれを燃やすよ。

村に灯った弔いの灯を見ながら、私に出来る事として【祈り】を捧げよう。
犠牲になったオラトリオ達の冥福と、ヴァンパイアの魂が愛する者と再会出来る事を…。



 木々の間を縫う夜風に、宵にくすんだエメラルドの髪が泳ぐ。
 ふとその場に立ち止まって、アンナ・フランツウェイは森の小道を振り返った。暗闇に沈んだ道の先は、あの廃城に続いている。
(「確かにヴァンパイアは倒された」)
 けれど、果たして自分に何ができただろうと少女は思う。
 囚われたオラトリオ達を救うこともできなければ、『彼』に赦しを与うこともできなかった。オラトリオとして犠牲者に寄り添えたわけでなく、処刑人としての務めを全うしたとも――個人的には――言いがたい。これで本物の天使になどなれるわけもないと、アンナは深い溜息をついた。そこに、手燭を持った村人のオラトリオがやってくる。
「さあお嬢さん、あなたも」
 どうぞと寂しげな微笑みで、手渡されたのは白のペタル。ありがとうと礼を述べて村人の去っていくのを見届け、アンナは指先に一枚の花弁を取り上げる。試しに一枚を炎に近づけてみると、その花弁よりも微かに灰色がかった煙が立ち昇った。
(「どうすればよかったのか、私にはまだ分からないけど」)
 夜の村を厳かに飾る弔いの灯に、今はただ祈りを捧げよう。
 犠牲になったオラトリオ達の眠りが安らかなものであることを、そして、名も知らぬ哀しき吸血鬼の魂が、海の底で再び愛する者と巡り会わんことを。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クーナ・セラフィン
なんだかんだ生きていくしかない。
悲しくても折り合いつけてどうにかするしかないから区切りは大切。
――私にはまあ、話を聞く位しかできないけど、それでもちょっと位はにゃー。

燃える白い花と甘い香りの中で祈りを捧げたり。
もし遺族の人が何か言いたそうなら話を聞こう。吐き出せば楽になることもあるし。
…ずっと彼らの傍に居られるわけじゃない、だから下手な希望に満ちた助言はしない。
だって自分の状況も考えず誰彼構わず寄り添おうとした末路は…口にするのも恐い話、私にゃ無理だにゃー。
…だけれど。
それでも今この瞬間の出会いに真摯に向き合い、足掻こうとできる姿は、ちょっと眩しいかな(他の猟兵を見つつ)

※アドリブ絡み等お任せ



 葬る、という行為は、死者のための行いではく生者のための行いであるというものがある。人も獣も命が尽きればそこで終わり、死者がその先で何かを見たり、感じたりすることはないのだと。けれど――残された者が悲しみに向き合い、折り合いをつけて生きて行くためにそれが必要な儀式であるならば、決して無意味ではないとクーナ・セラフィンは考える。
(「なんだかんだ生きていくしかないんだから、区切りは大切だよね」)
 可愛らしい見た目に似合わずドライなケットシーは、だからといって冷たい心の持ち主ではない。羽根つき帽子の鍔を目深に押し下げて、まあ、と猫はひとりごちる。
「私には話を聞く位しかできないけど……それでも、ちょっと位はにゃ」
 疎らな石畳の石から石へ、灰色の尾がぴょん、ぴょんと跳ねていく。燃える花弁の香らせる甘い匂いの漂う中で、クーナは村人達の顔を覗き込んだ。
 ずっと彼らの側についていられるわけでないことは分かっているし、誰彼構わず寄り添っていては猟兵の身とて潰れてしまう。だから無責任なことは言えないけれど、何もこちらは多くを語らずともよいのだ。
 彼女がどんな人だったのか。
 どんな性格で、どんな服を着て、どんなことをするのが好きだったのか。
 故人を語れば当然悲しみはぶり返すけれど、想い出を分かち合うことでしか下ろせない荷もあろう。もっとも――今この瞬間の出会いに真摯に向き合おうとする猟兵達の姿は、それはそれで目映くもあるのだけれど。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フランチェスカ・ヴィオラーノ
ユエちゃん/f05601と

渡された白い花を炎にくべて
遺族の方々の話を聞き、同調する
…自らの翼は隠して
ああ、あの人は泣いている
亡くなった誰かの姿が見えたのかな
ハンカチを貸すくらいはしてあげよう

罪無き貴方達のご冥福を
ユエちゃんの歌声と共に祈りを捧げて

終えたらユエちゃんと合流
「うん。天国とか来世とか…
とにかくこれから先の未来で、みんな幸せになれるといいな。
…あ。フランでいいよ」
今更だけど、と笑って
いつもは自己紹介の時に愛称も伝えるのに、なんで忘れてたんだろう?
やっぱり、憧れの歌い手さんだったから、どこかで緊張してたのかな
なんて自問自答しつつ
痛ましい事件だったけど、育まれた絆には少し癒された


月守・ユエ
フランチェスカちゃん/f18165と

戦いを終えて無事に帰ってくることができた
喜ぶ人もいれば、悲しむ人もいる…そんな人々の様子を見て安心と切なさが心を過る
自分にできる事はあるだろうか?
やれるとしたら一つだろう…

――喪われた命が、安らかに天に昇れるように
死を悼むように、祈りを込めて鎮魂歌を唄う
この聲で、亡き人の死を安らかに送り出せますように

ひとしきり歌った後
フランチェスカちゃんと合流
「お待たせ、フランチェスカちゃん。
…お花、もうあげてきた?
――うん
きっと…幸せになれるといいね
…おや?いいの?…じゃあ、フランちゃんって呼ぶ!」
今更だけど、なんだか友達として距離が縮まったみたい
なんて、嬉しそうに笑った



「そう、だったの……」
 老いたオラトリオの話に耳を傾けて、フランチェスカ・ヴィオラーノは痛ましげに視線を下げた。老女の頬を滑った雫は蝋燭の火に照らされて、一瞬きらりと輝いては足元を浸す闇の中に消えていく。
 村人達の様子を見て回り、足を止めた軒下で。聞けば彼女の孫娘は、まだほんの十六歳だったという。奇しくも自身と同い歳の娘の身に起こった惨たらしい出来事を思うと、少女の胸は締めつけられるように痛んだ。
(「ああ――あの人も。……あの人も、泣いてる」)
 燃える白花の煙越しに周囲を見渡せば、目の前に立つ彼女だけではない。灯火を手にしたオラトリオ達は、村のそこかしこに立ち竦み、蹲って、白い羽を震わせていた。きっとこの先、その翼を見るたびに、彼らは思い出さずにいられないのだろう――その翼さえなかったら、或いは愛しい人はまだ、隣で笑っていたのだろうかと。
(「……誰かの姿が見えたのかな」)
 泣き濡れる老女にハンカチを差し出して、無理もないことだとフランチェスカは嘆息した。自身には何の罪もなく、ただ理不尽に奪われた彼らの悲しみと憤りを慰め得る言葉があるのなら、教えて欲しいと願った――その時だった。
「……ユエちゃん」
 少し離れた木立の袂、聞き憶えのある声が歌っていた。切り株に腰掛け、黒いブーツの脚を組んで、月守・ユエは切々と歌を紡ぐ。
 ある吸血鬼の死を携えて戻った村で。猟兵達を迎えた村人達の多くは吸血鬼の脅威が去ったことを喜ぶよりも、二度とは戻らぬ同胞の死を悼み、悲しんだ。そんな彼らを前にして、歌い手である彼女にできることはひとつしかない。
 喪われた命が、安らかに天に昇れるように。
 亡き人の死を、安らかに送り出せるように。
 想いを込めた鎮魂歌は風に乗って村の隅々へと行き渡り、言葉よりも雄弁に、ひとりの少女の祈りを夜のしじまに響かせる。
 眼前の老女に一礼して踵を返すと、フランチェスカはユエの元へ駆け寄った。
「ユエちゃん」
「おかえり、フランチェスカちゃん。……お花、もうあげてきた?」
 小さく頭を傾けると、ユエの漆黒の髪がさらりと揺れる。うん、と小さく頷いて、フランチェスカは応えた。
「天国とか、来世とか……本当にあるのかは、分からないけど。これから先の未来で、みんなが幸せになれるといいな」
「そうだね。フランチェスカちゃんは、優しいなあ」
「…………」
 ころころと笑う友の言葉に頬を赤らめ、フランチェスカは口ごもる。どうしたのと問われて、そして初めてこう切り出した。 
「あの……えっと。フラン、でいいよ。……今更だけど」
「おや? いいの?」
「うん」
 普段ならば初めて顔を合わせた時に伝えているはずなのに、こんなに間が空いてしまったのは彼女が憧れの存在であったが故か。けれどそんなフランチェスカのささやかな緊張などは知る由もなく、ユエは無邪気に笑って見せた。
「じゃあ、フランちゃんって呼ぶ!」
 猟兵達の戦いと勝利は、忌まわしき事件に終止符を打った。失われたものは決して戻りはしないけれど、この戦いと勝利によって新たにもたらされるものもあるのだと信じたい――それは二人の若い娘達の間に育った、小さくも確かな絆のように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルファルド・リヤ
あなた方は……それでも幸せだったのでしょうか。
偽りの愛に少しでも幸福を感じたのでしょうか。

今となっては誰も答えてはくれませんが。
自分には理解できない出来事なのです。
双方の気持ちが理解できない。
それでも、もうこの世にいないという事実は無くなりません。
少しでも幸福を感じていたのなら
それは……そう、幸せだったのでしょうね。

悲しむ遺族にかける言葉は機械的なありがちな物しか出てこない
機会ですから仕方ないのですが。
この祈りも形だけのものになってしまわぬように
せめて、あなたたちの顔を想像しましょう。

幸せそうに笑うあなたたちの顔を。



 飾り気のない手燭の上、蝋燭から伸びた炎の先端が白い花片を焦がしていく。やがてそのひとひらが燃え尽きるのを待ってから、アルファルド・リヤは腰を折った。
「どうか、お気を落とされませんように」
 ありがとうと濡れた目元を拭って、有翼の老婆がひとり、遠ざかっていく。頼りなげに彷徨う後ろ姿を見送って、機械仕掛けの青年は灰色の瞳を細めた。
 悲しむ遺族に掛ける言葉は、穏やかだがありふれた機械的なルーティンだ。否、事実彼は機械であるのだから仕方のない側面もあろう。けれど――。
 孫娘のために一枚、花を燃してはくれないかと頼んだ彼女は。
 失くしたものを認めることができずに、紛い物を仕立てても側に置きたがった彼は。
 一体どんな気持ちで、今日までの日々を過ごしたのだろう?
(「――彼は、それでも幸せだったのでしょうか」)
 ただ白い翼の一点にのみ固執し、似ていると言って側に置いては、違うと言って殺した偽りの愛。その無為な繰り返しの中でほんのわずかでも、彼は幸福を感じたのだろうか。
 答えるものは疾うになく、今となっては誰にも分からないことだけれど。
(「自分には、理解できない」)
 彼の想いが。それ故に起こった事件それ自体が、アルファルドには理解の及ばぬ出来事だった。人の心を持たない彼にも明確に分かることがひとつあるとすれば、それは、『彼』がもはやこの世にはいないという事実のみだ。彼がもし、偽りの愛を偽りと知らず狂ったままであったなら。
(「それは――そう、」)
 幸せだったのでしょうね、と、青年は呟く。見上げれば夜の天蓋に、語ることなく死んでいった吸血鬼の横顔が浮かび、そして消えた。
(「この祈りも、形だけのものになってしまわぬように」)
 せめて想像しよう、とアルファルドは目を閉じる。顔のない天使の愛しげに誰かを呼ぶ声を――呼びかけに応じて振り返った、哀れなる吸血鬼の微笑みを。
 緩やかに波打つ雪のように白い前髪の一房を揺らして、涼やかな夜風が往き過ぎる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シノ・グラジオラス
シエン(f04536)と

他の人に倣って、花を火に焼べる
軽く目を伏せ、花に送られる、花を送る人達の安寧を願いながら、
思い出すのは俺達が追い詰める事しか出来なかった男

あんな狂い方出来るなんて、余程惚れこんでたんだろうな
俺もあんな風にセスを想って、彼女の為に狂えたのなら
死に損ないにならずに楽になれたのか、とは思うが口にはできずに、
絲が刻まれた右肩を抑えて、首を振ってその思考を払う

狂っても楽なワケ、ないよな。悩みが変わるだけで、苦しいのはあの男のように変わらない
…なら、真っ当に生きるしかないか

なあ、シエン。よく三人で飲んだ酒でも買って帰ろうか
俺達のセシリアにも献杯と行こうや


シエン・イロハ
シノ(f04537)と

恩人ね…そんな大層なもんじゃねぇだろうに
少なくとも自分は単に、今は亡き友人と同じ名を呼び、とち狂った行動に出た男が気に食わなかっただけ
…だからこそ、遺される者の為の儀式くらいは参加してやるべきか
送ってやれずに、繰り返す奴が出たら意味がないしな

思考した事は口には出さず、花を火にくべる
せめてとそれだけやれば、手伝いはしないが邪魔もせぬよう人の輪から外れ

…楽なもんを求めてるわけじゃない奴がよく言うわ
大体てめぇがとち狂ったら俺が止めなきゃならんだろ
面倒だからまともでいろ

…あぁ、そうだな
あの酒もしばらく飲んでねぇし
セシリアの事だ、湿っぽいまま終わられんのもごめんだろ



「恩人、ねえ」
 別に、不快というわけではない。けれどどこか居心地が悪いようなそんな気分で、シエン・イロハは眉尻を上げた。その手には、今しがた村の墓守から受け取った質素な手燭が握られている。
「そんな大層なもんじゃねぇだろうによ。俺はただ、野郎が気に喰わなかっただけだってえの」
「…………」
 今は亡き友人と同じ名を呼びながら、蛮行に走った男。
 彼らがただ、追い詰めることしかできなかった、彼の男。
 村人達の手元を真似て蝋燭の先に花を焼べ、シノ・グラジオラスは空を仰いだ。夜空に白い弧を描いた花の煙は何を映すこともなく、まさかと自嘲気味な笑みを浮かべて、青年は手元の焔に目を戻す。伏しがちにした睫毛の下、蒼い瞳を煌々と染める灯火に人々の安寧を願いながら、脳裏に過るのはなぜか、討ち果たした吸血鬼の顔ばかりだ。
(「あんな狂い方ができるなんて」)
 余程、惚れ込んでいたのだろう。あんな風に誰かを想い、その為だけに狂うことを決して肯定するのではないが、心のどこかでその生きざまを己に重ねてしまう自分がいる。もし彼女を、『セス』を失ったあと。彼女を想って狂えたのなら、或いはこんな風に死に損なって、無為に生き永らえることもなかったのではないか――そんな風に思ってしまう。
 右肩を押さえて緩く首を振り、シノは不毛な思考を振り払う。がさがさと草を分ける音に顔を上げると、シエンが無造作に草叢に入っていくのが見えた。
「もう終わったのか?」
「まあな」
 どこに行くんだと問う声には別にとだけ応じて、蝙蝠羽のキマイラは小さく鼻を鳴らした。手渡された白い花弁は、既に煙となって空の彼方に溶けた後。恩人だなどと言われる筋合いはないが、それもここに訪れた縁であるならば、しきたりには従うまでのことだ。
 マイペースな親友に苦笑して、シノはゆっくりとその後を追った。切り株にどかりと腰を下ろしたシエンの隣で樹木の幹に背を預け、人狼はぽつりと、呟くように言った。
「狂っても楽なワケ、ないよな」
 悩みの種が変わるだけで、苦しいことには変わらない。
 愛そうと努めては、違うと気づくたびに絶望したのだろう――あの男のように。
「……なら、真っ当に生きるしかないか」
「楽なもんを求めてるわけじゃない奴がよく言うわ。大体てめぇがとち狂ったら、俺が止めなきゃならんだろ」
 面倒だからまともでいろ。そう言い捨てるシエンに、シノは短く、ああと応じた。内に秘めた感謝の気持ちはわざわざ声に出さなくても、きっと彼には伝わっている。
「なあ、シエン」
「あ? なんだよ」
 煩わしげに振り返った男に口角を上げ、シノはその隣に座り込む。そして視線は合わせぬままで、こう言った。
「よく三人で飲んだ酒でも買って帰ろうか。俺達のセシリアにも献杯と行こうや」
「…………おう」
 毒気を抜かれたように友の顔を見やり、シエンは紅い瞳を瞬かせる。けれどすぐに夜空へと視線を戻し、独り言のように続けた。
「あの酒もしばらく飲んでねぇし。……あいつのことだ、湿っぽいまま終わられんのもごめんだろ」
 この村の人々が花を送り、花を送られて旅立つように、彼らにも彼らなりの弔い方がある。そうだなと笑い返す声は、心なしか晴れやかであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴァルダ・イシルドゥア
微かに響く遺族の嗚咽
己が無力に、唇を噛んだ

全てを救うなど
おこがましいと、わかっているのです
それでも――……それでも
『諦める』ことを、私は、したくないのです
だから、

不意に
頬に寄せられる優しい感触に
そっと仔竜の喉を撫でた

アナリオン……
ええ、……ええ
泣いている場合ではありませんね

人々へ花を託す
淡いひかりを抱いた花を
母さまの故郷で守られていた、導きのともしびを

ひかりなきこの世界で
この輝きが、みなの慰めになりますようにと

過去の澱みが生み出した、哀しき『あい』の終幕に
どうか……どうか、等しく安らぎがあらんことを

花弁に燈をうつす
あまくくゆる微かな白煙に、唄を乗せて
旅立つすべての魂へ
捧げましょう
この、葬送歌を



 目を閉じれば夜風のさざめきに混じり、残された人々の嗚咽が耳に届く。
 無意識にぎゅっと眉を寄せ、ヴァルダ・イシルドゥアは唇を噛んだ。オブリビオンという絶対悪――それに立ち向かうだけの力を、猟兵達は有している。しかし喪失に沈む罪なき人々を前にしては、彼女達は余りにも無力だった。
(「すべてを救うなど、おこがましいと」)
 分かっているのです、と、誰にともなく弁明する。グリモアが示す未来は千差万別で、いつも誰もを救えるとは限らない。それは重々承知の上で、彼女は今日この村を訪れた。
 すべてを救うことなどできず、喪われたものは戻らないと分かっていても――それでも。今日から始まるこの村の未来を、諦めたくはなかったのだ。
「キィ……」
 掠れた声で、仔竜が鳴いた。柔らかな頬に小さな頭を擦りつけて、仔竜は主人の涙を拭う。アナリオン、とその名を呼んで、ヴァルダは微かに口元を緩めた。
「ええ、……ええ、分かっています」
 泣いている場合ではありませんねと笑顔を作れば、そうだというように仔竜が鳴いた。村の墓守より受け取った白い花弁を掌に載せ、ヴァルダはその手に魔力を集める。指先に宿った聖なる光は花弁を淡く包み込み、導きの灯火に変わって、月のない夜空に舞い上がった。
(「ひかりなきこの世界で、この輝きが、みなの慰めになりますように」)
 降り積もった過去の底で、澱んだ想念が生み出した『あい』の終わり。其れがために狂い、其れがために奪われた魂のすべてに、今は等しく安らぎがあらんことを。
 やがて燃え上がる花弁から立ち昇る白煙の微かな甘さに乗せて、ヴァルダは葬送の唄を口遊む。旅立つ魂の道行きを、紡ぐ調べが温かく照らしてくれるように――そんな、ささやかな願いを掛けながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

境・花世
綾(f01786)と

揺れる灯火に白花を近付けたなら、
人々の嘆きを覆うかのように煙は昇る

綾は大切なものを見送ったこと、ある?

わたしよりもずっと長い歳月、
此岸に在ったうつくしい神さま
穏やかに凪ぐばかりの声をして
きみは今、どんな顔をしてるんだろう
煙に霞んで見ることも叶わないけれど

こんなに傍にいるはずなのに
きみの呟きが孕んだ静けさの意味を知らない
この胸でひび割れてく感情の名を、知らない

やがて燃え尽きた花の灰が落ち、
ようやく見つめるきみの面差し
――逢いたかったよ、とかすかに笑って
遠すぎる天をふたりで見上げ

もしもきみがいなくなったそのときには
わたしも嘆きを知るだろうか
言葉にはならないまま、ただ、傍にいる


都槻・綾
f11024/かよさん

地に灯る健気な花々
燻る香気は誰への慰めなのだろう
踏み躙られた死者か
遺された生者か

届く声は霞みの向こう
互いの面影を曖昧にする烟

…沢山ありますとも
ひとの命は遍く尊い

在り来たりな綺麗ごとを嘯く表情を
今は煙が隠してくれる

香炉たる己の終焉は
割れて仕舞いの感慨なきものなのに生き永らえて
限りある歳月を懸命に歩む人々は
理不尽に生を摘まれる

遣りきれないですねぇ、

微かな呟きは
命の儚さへの追悼
そして
ひとの悲しみを救うことも
掬うことも出来ぬ
欠けた器の己への虚しさ

やがて灰が静まる頃
かよさんの言に幽かに笑んで
空を見上げる

願いを叶える流れ星代わり
どうか、花よ
何者にも鎖されぬ天へ
人々の祈りを届けておくれ



 地に灯る白い明かりのような花々の、健気に咲いて匂い立つ香気は誰がための慰めなのだろう。
 踏み躙られた死者のためかそれとも、遺された生者のためなのか。墓守より受け取った花弁を手燭の炎に近づけると、人々の嘆きを覆うかのように白い煙が立ち昇る。
「綾は大切なものを見送ったこと、ある?」
 夜風に左目の牡丹をさやさやと揺らしながら、境・花世は尋ねる。すいと上げた視線の先には、都槻・綾の艶やかな横顔があった。
「沢山ありますとも。ひとの命は遍く尊い」
「…………」
 在り来たりな綺麗ごとを嘯く表情が、立ち昇る白の向こう側に霞む。今は煙に隠れたその瞳は、隣に立つ娘の一生より遥かに長い歳月を重ねた神の瞳だ。穏やかに凪ぐばかりの声からは彼が今、どんな表情をしているのかを窺い知ることはできないけれど。
 口を噤んだ娘のどこかそわそわとした気配を感じ取り、綾は瞳を細めた。風に長い袖を翻して見渡す白花の村落は、無数の灯火に包まれて暖かく燃えている。揺らめく灯の海を見詰めて、綾は物憂げに睫毛を伏せた。
「なんとも、遣りきれないですねぇ」
 割れて終わりのはずだった香炉は、何の因果か生き永らえてここにこうして立っているというのに。限りある歳月を懸命に歩む人々がこうして理不尽にその生を摘まれるのは、なんとも度し難い。
 呟く声には散り急いだ儚い命への追悼とそして、ヒトの悲しみを救うことも、掬うことも出来ない、欠けた器たる己への虚しい想いが込められている。
 どこか虚ろな呟きを耳に、花世は少しだけ、恨めしそうに視線を下げた。
(「こんなに傍にいるはずなのに――」)
 その声が孕んだ、静けさの意味を知らない。
 この胸でひび割れていく、感情の名を知らない。
 やがて燃え尽きた花の灰が落ち、白煙が空に融けて消えるのを待って、灯火に照らされて漸う浮かび上がった面差しへ娘は微かに笑い掛ける。
「逢いたかったよ」
 紡ぐ言葉に、碧い香炉のヤドリガミは幽かに笑むばかりだった。遠過ぎる曇天をふたり並んで見上げても、願いを叶える流れ星が降ってくることはないけれど。
「どうか、花よ」
 何者にも鎖されぬ天へ、人々の祈りを届けておくれ――。
 囁くほどに微かな祈りを聞き留めて、その胸に過ぎる問いを言葉にはできぬまま。花世は、ただその場に立ち尽くす。
 隣に立つこの背中がもしも消える日が来たら、その時は己も、嘆きの意味を知るのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ラティファ・サイード
グレ(f13457)と

葬り灯、ね
懐かしゅうございます
わたくしの故郷にも似た風習がありましたのよ
炎を眺めながら相棒にだけ届く声量で囁く

こういった習わしは
亡き人のためではないのだと申しますわね
勿論追悼の意もございますけれど
遺された側の人間が名残を惜しみ
胸裏の整理をするためにあるものだと

甘い煙を吸い肺を満たす
さすればかの人が居た時と
同じように呼吸が出来る
そう、思えるのかもしれません

追憶の面影はいつだってひどく優しい
ただ手放せないだけのこと、それだけのこと

…ふふ、戯言ですわ
どうぞ聞き流してくださいませ
淡く微笑みを刷いて睫毛を伏せる
それでもこんな夜も悪いものではありませんわ
傍らの焔がとてもあたたかいから


グレ・オルジャン
ラティファ(f12037)と

独白のように語り聞かすように
穏やかに笑う唇には甘からぬもの
あたしの故郷じゃ墓の概念はなかったけど
やっぱり煙で弔った
不思議なもんだねと花燃やして

そうだね、世界は生きてる奴のもんだから
傷やら熱やら残していった誰かの記憶も
いずれは生きてる奴の命の一片に成り代わる

煙草みたいな苦く甘い気を吸い
遷り往く灰の香を纏えば
自分に染み付いたような気になって少しは生き易くなるのかもなあ
人間は馬鹿で愛しいもんだね

それで日を浴びて生きられるなら
優しいもんを手放す必要もない
自分が煙に送られる日まで、後生大事に持ってりゃいいのさ、ここに
指先で胸を衝き笑う

あたしらも煙に当てられたかな、柄でもないね



 人々の手に点々と灯る小さな火は、時が経つにつれて数を増し、森の入り口の小さな村はやがて温かな光に包まれる。揺れる蝋燭の火に白く滑らかな頬を染め、ラティファ・サイードはぽつりと呟いた。
「葬り灯、ね……」
 死者の魂を送る炎。残される者から旅立つ者へ、想いを込めて捧げる別れの火。憂いを帯びた金の瞳は揺れる火影に照らされて、爛々と輝いている。焔に赤らんだ横髪をそっと尖った耳に掛け、ラティファは続けた。
「懐かしゅうございます。わたくしの故郷にも似た風習がありましたのよ」
「へえ、そいつは奇遇だ」
 語り聞かせるような相棒の微笑みに、少しだけ驚いた様子で瞳を瞬かせ、グレ・オルジャンは応じた。
「あたしの故郷じゃ墓の概念はなかったけど、やっぱり煙で弔った。……不思議なもんだね」
 花を焼べる指の先で、白い煙がするりと昇った。虚空に尾を引いた煙の跡を視線で辿り、グレは穏やかに笑みを浮かべる。星の見えない空を見上げて弧を描いた唇には、ただ甘いだけではない、旧い記憶が滲んでいる。
 その姿を横目に窺いながら、ラティファは言った。
「こういった習わしは、亡き人のためではないのだと申しますわね。勿論、追悼の意もございますけれど」
 死者が何かを見ることも、聞くこともないのだとしたら、葬るという行為は正しく生者のための儀式だ。それを通じて旅立つ人を惜しみ、生前の記憶を手繰ることでこそ、此岸の人々は今そこにある別れに向き合い、受け止めることができる。とどのつまり葬送とは、大切な物を失くして、それでもまだこの世を生きてゆかねばならない人々が前を向くためのプロセスなのだろう。
 そうだね、と同意を示して、グレは言った。
「世界は生きてる奴のもんだからね」
 煙草のように苦く、ほのかに甘い匂いを胸に吸い込んで、眩げに細めた瞳はここではないどこか遠くを見詰めている。
 人が炎に想いを託すのは、塵と遷ろう灰の香を纏うことで、往く人の欠片を少しでもその身に留めておきたいから――そうして明日を少しでも心穏やかに生きたいが故の、浅はかで憎みがたい試みであるのかもしれない。
「人間は馬鹿で、愛しいもんだね」
「まあ、またそんなことを」
 グレの言葉は奔放なようでいていつでも、彼女自身を包含して嫌味というものがない。ころりと笑って肩を竦めながら、ラティファもまた、辺りに満ちる花の香をゆっくりと胸に吸い込んだ。
 花でも、言葉でも、なんだって構わないのだ。ただここにあるものに故人を重ね、意味を持たせることで、人は息をしていられる。手を伸ばせば愛しい温もりがそこにあった、昨日のように近くて遠い『あの日』と同じように。
 長い指の先に白花のペタルを弄びながら、艶やかなるドラゴニアンは独り言のように口にした。
「追憶の面影は、いつだってひどく――優しい」
 共に過ごした時間には色々なことがあったはずなのに、思い出すのは嬉しかったことや、楽しかったことばかり。だから一層、手放せなくなる――忘れられないというのは、ただ、それだけのことだ。
「ふふ、戯言ですわ」
 どうぞ聞き流してくださいませと、女は微笑み瞼を伏せる。なに、と笑ってグレは応えた。
「それで日を浴びて生きられるんなら、優しいもんを手放す必要もない。自分が煙に送られる日まで、後生大事に持ってりゃいいのさ――ここに、ね」
 とん、と胸を突いた指は、甘く微かな痛みを呼び覚ます。空へと昇って消えた煙は、結局誰の面影をも見せてはくれなかったけれど。
「あたしらも煙に当てられたかな、」
 柄でもないねと苦笑して、金赤色の女は言った。けれど、こんな夜もたまには悪くはないだろう?
 気の置けない友と肩を並べて、いつかそこにあった温もりを振り返る――そんな夜も。
 再び手燭の炎に視線を落とし、ラティファは目元に淡い笑みを刷いた。
(「だって、ねえ」)
 吹けば容易く掻き消えてしまいそうな小さな灯が、今宵は、こんなにも温かい。
 森の村を照らす鎮魂の明かりは、その夜、明け方まで途絶えることはなかったという。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月12日
宿敵 『くたかけ公』 を撃破!


挿絵イラスト