●relaxation salon
疲れたあなたに
不眠にお悩みのあなたに
快適な眠りを求めるあなたに
幸せな夢と、幸せな眠りをお届けします。
relaxation salon ゆめのひつぎ
そんなチラシを、駅前で受け取ったのは先日のこと。
そのチラシを見て、俺はピンときた。
最近SNSで噂になっている店じゃないか、って。
SNSの噂では、チラシの内容に偽ることなく、幸せな夢を見せてくれるらしい。そしてそれは、ただの幸せな夢じゃない。会いたい人に会える夢だ。
場所は、どこかの駅前ってことしか解っていない。皆、そんないい店のことはあまり知られて欲しくないみたいで、店名も場所も伏せられている。そりゃあそうだよな。混みすぎて自分がリピート出来なくなったら嫌だしな。
ただ、駅前でチラシをたまに配られていて、そのチラシは、必要な人にしか配られない……らしい。
俺は必要としていた。
この店を必要として、探していた。
俺には夢の中ででも……いや、夢の中でしか会えない人がいるのだ。
チラシを受け取った数日後、俺はその店の前に来ていた。
夢を見るのだ。見ていられる時間が長い方が良いと考えて、すぐにでもと逸る気持ちを抑え休日を待った。
駅から細い道を二本くらい入ったところにその店はあった。たくさんの雑居ビルたちの中のひとつ。道路際にポツンと小さなシンプルな看板だけが出ていて、こんなところに店があるなんて気付きもしなさそうなところ。
入り口は半地下なのか、薄暗い階段の先。鳥籠の入り口の様な戸を抜けて、俺は迷うことなく歩を進めた。
店内は静かで、厳かって言うの? なんか、そんな感じ。
受付を済ませた俺が店員に案内されて通されたのは、広い部屋。暗くてよく解らないが、教会っぽい感じ、なのかな。受付からずっと、そんな感じがする。
そこにズラリと箱らしきものが並んでいる。人が余裕で入れそうな箱。箱、箱、箱。一体いくつの箱があるのだろう。
俺が箱を数えようとしたら、案内してくれた店員が指し示す。さっきから一箇所だけライトで照らされている場所。そこに行けと言っているようだ。
ライトと言っても極力灯りを絞ったもの。他の灯りは壁に取り付けられた蝋燭しか無かった。
俺は吸い込まれるようにそこへ向かう。
俺は、やっと、彼女に会える。先月、事故で亡くなってしまった、俺の――。
箱の前に立つ。箱には、俺の名前が彫られていた。受付で名前を書いたけれど、そんなに早く用意できるのかと疑問が浮かぶが、そんなことはどうでもいいことだ。だって、やっと彼女に会えるのだ。彼女に会いたい。彼女にまた笑って欲しい。彼女とずっと一緒に居たい。彼女はまだ居なくなってなんかいない。彼女は、彼女は、彼女は――ずっとここに居た。なあ、そうだろ、佐奈。
逸る気持ちで箱の蓋を持ち上げると、そこには白いピローに花と羽根が敷き詰められていた。
何かが頭を過る。
けど俺は、そんなのどうでもいい。
花が溢れるのも構わずに、俺は箱へ横になる。
――ああ、これって。
箱の蓋が、自働で閉じる。
同時に俺の瞼も自然と降りた。
世界が闇に閉ざされる。
――棺桶みたいだな。
●猫の語り
「君たちには夢の中で会いたい人っている?」
少し遠くを見ながらそう口にしたグィー・フォーサイス(風のあしおと・f00789)が、僕は居るよと告げながら柔らかな表情で猟兵たちを見る。
夢の中ででも会いたいのか。
夢の中でしか会えないのか。
思う人によってそれぞれだろう。
予知で見た彼は、後者だった。会いたくて足を運んで夢に囚われて、二度と目を覚ますことはない。
帰ってくる人は居ないのに噂が流れるのは、邪神本人が一度流した話が都市伝説のように電子の海に流れ続けているのだろう。
「夢で、会いたい人に会えるんだって。会いたい人が居る人は、飛びつきたい噂だよね」
しかしそれは、本人ではない。
あなたの心が作った偶像を、邪神の配下たるドッペルゲンガーが演じているのだ。
偶像を打ち破るのは簡単だ。これは夢だと否定すればいい。
けれど偶像でもまやかしでも構わないと求めて訪れた人たちには、それは難しい。
そして、偶像を打ち破ったとしても邪神はまた甘い夢を見せ、手放しはしないだろう。
「もしかしたら、君たちにとってもつらいことかもしれない。……けれど、行って欲しいんだ。これ以上被害を出さないためにも」
少しだけ髭を下げた郵便屋の猫が、お願いするよと頭を下げて。
そして手紙の形をしたグリモアが、UDCアースへの道を開いた。
壱花
お目に留めてくださってありがとうございます、壱花と申します。
皆様の物語を彩れるよう頑張らせて頂きます。
マスターページに受付や締切、お知らせ等が書かれている事があります。章が変わるごとに参照頂けますと、幸いです。
第1章:集団戦『『都市伝説』ドッペルゲンガー』
夢の中で目覚めたところから始まります。
あなたは『あなたの思うままの姿』をしています。夢の中なので、幼少期の姿等でも自由に。
あなたは『あなたが会いたいと思う人』に会うことができます。当然のことですが、他PCさんの指定はできません。
その人は『あなたが望むとおりの行動』をしてくれます。
ですがそれは、『本物』では決してないのです。
甘い夢に心を囚われても良いです。
甘い夢に抗っても良いです。
攻撃をする必要はありません。(勿論、攻撃してもいいです)
否定をすれば、『その人』は消えることでしょう。
【第1章のプレイング受付は、5/5(日)朝8:31~でお願いします】
第2章:ボス戦『金糸雀』
このサロンは邪神・金糸雀の鳥籠の中。
鳥籠の中で見る甘い夢にあなたたちは囚われています。
金糸雀は戯れにふわりと現れ様子を見、去っていきます。
夢から覚めるには、金糸雀を倒さないといけません。
※自身の姿や気持ちから戦闘力が下がっている場合、【1~3】をプレイング頭に記載お願いします。MSの振るダイスが減ります。
3:通常通り 2:ちょっと弱い 1:かなり弱ってる
第3章:日常『たまには寄り道を』
金糸雀が倒され、夢から覚めることがあなたには解ります。解ってしまいます。
夢から覚めるまで、あと僅か。けれど今すぐではないので寄り道をしましょう。
『あなたが会いたいと思う人』と過ごす事ができます。
その人は金糸雀が操っている存在ではありません。あなたの心に住んでいる人です。
夢から覚めるまでの僅かの間、思い思いのひとときをお過ごしください。
(POW/SPD/WIZは一例ですので、気にせずご自由に)
●その他
このシナリオは『おひとり』での描写となります。誰かと連携はしません。
参加した最初の章では『姿』の記載をお願いします。姿記載があれば以降そのように進めていきますので、続投される際は無くて大丈夫です。
どの章からでも、気軽にご参加いただけるとうれしいです。
それでは、皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『『都市伝説』ドッペルゲンガー』
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POW : 自己像幻視
【自身の外見】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【全身を、対象と同じ装備、能力、UC、外見】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD : シェイプシフター
対象の攻撃を軽減する【対象と同じ外見】に変身しつつ、【対象と同じ装備、能力、UC】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 影患い
全身を【対象と同じ外見(装備、能力、UCも同じ)】で覆い、自身が敵から受けた【ダメージ】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
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●しあわせなゆめ
――ちりん。
ベルが鳴って、俺は視線を音のする方へ向ける。
ああ、そうだ。俺は佐奈といつもの喫茶店で待ち合わせをしていたんだった。
「ごめんね、ちょっと待たせちゃったかな」
「全然待っていないよ、佐奈。それより今日はどうする?」
確か見たい映画があるって言ってたよなと告げれば、覚えてくれたのねと嬉しそうに佐奈が笑う。
そうだ。俺は佐奈のことなら何でも知っている。
佐奈の好きなもの、佐奈のしたいこと。佐奈は気軽にいつも話してくれるから。
俺の言葉に見せる笑顔も、何度だって頭で再生した通り。
ああ、佐奈だ。佐奈が居る。
佐奈が居るのは当たり前のことなのに、俺は何故だかとても泣きたくなった。
糸縒・ふうた
◇
目を、あける
眼前の視点がいつもより低い気がして
――…?
けれどその違和感はすぐに消え、思い直す
高く見える天井
大きく感じるテーブル、椅子
間違いない
これが、“いつも”の、光景だ
父さんと共に向かった森の中
今日の獲物は鹿
罠を張って息を殺して
掛かったら疾風と共に駆け出す
手負いの獣は逃げ切れない
初めてひとりで狩れた獲物
初めてひとりで成功した狩り
よくやった!って褒めてくれる父さんの大きな手
すごいわね!って褒めてくれる母さんの明るい笑顔
ああ、なんてしあわせなんだろう
あったかいおうちにあったかいごはん
隣には父さんと母さん
おれのこと褒めてくれる
自慢だ誇りだって
何気ないいつもの日常が、こんなにもしあわせで、うれしい
◆眠り人【糸縒・ふうた(風謳エスペーロ・f09635)】
ぱちり。ひとつ瞬いて、目を開ける。
何だか視点がいつもより低い気がして、おれは違和感を覚えた。
高く見える天井に、大きく感じるテーブルや椅子。ひとつひとつの家具たちが大きく見えるのは……そうだ、おれがまだ小さな子どもだからだ。
そう。おれはまだ子どもなのだから、周りが大きく見えても当然だ。
これがおれの”いつも”の風景。
家具たちと一緒に視界に入った、父さんよりも小さな手。まだ小さいけど、すぐに父さんみたいに大きくなるって母さんも言っていた手。掌をギュッと握りしめた時には、違和感を覚えたことなんて忘れてしまっていた。
「ふうた」
父さんに呼ばれて、森に向かう。
今日は、おれひとりで狩りをするんだ。
ちょっとドキドキするけれど、いつも父さんに教わっているから、大丈夫。
罠を張って息を殺して、鹿が罠に掛かるのを待った。教わった手順を丁寧に辿っているけれど、獣の動きはいつだって違う。慎重に、慎重に。
鹿が、罠に掛かる。
疾風と共に駆け出たおれの姿を見て、鹿が逃げる。けれど、手負いの獣は逃げ切れない。
苦しまないように手早く仕留め、命の恵みに感謝した。
初めてひとりで狩れた獲物。初めてひとりで成功した狩り。
ふつふつと湧き上がる高揚と、命の重みを抱えて、父さんへ報告した。
「よくやった、ふうた! さあ、母さんにも見せてあげよう」
父さんの大きな手が、おれの髪をくしゃくしゃにする。
嬉しくて誇らしくて、足取りも軽く母さんの待つ家に帰った。ドアを開けるのももどかしくて、家が見えた途端に駆けてしまったおれの背を、父さんは優しく見守ってくれている。
「すごいわね、ふうた! 今日はご馳走にしましょうね」
両手を合わせ、母さんが自分のことのように嬉しそうに、明るい笑顔を浮かべる。母さんが笑うとおれも嬉しくて、負けないくらいの笑顔を浮かべてしまう。
父さんと母さんと、おれ。
三人揃った、あったかいおうち。
三人で囲む、あったかいごはん。
ああ、なんてしあわせなんだろう。
「あなたは私の自慢の息子よ、ふうた」
「お前は俺の誇りだよ、ふうた」
隣には父さんと母さんが居てくれて、おれの事を褒めてくれる。
何気ないいつもの日常が、こんなにもしあわせで、うれしい。
「おれも、父さんと母さんの子で、うれしくてしあわせ」
素直にそう告げたら、父さんも母さんも嬉しいって言ってくれた。
ああ、ずっとこうしていたいな。
ううん、ずっとこうしていられるよ。
だって、“いつも”こうだったじゃないか。
これからもずっと、三人で――。
成功
🔵🔵🔴
ジェイド・カレットジャンブル
ここは……。あの頃僕たちが過ごした草原そのものですね。ならば夢に出てくる『会いたい人』というのは当然――
「ようジェイド、ぼうっと突っ立ってどうしたんだ?」
「ジェイドもこっちへ来てください。風が気持ちいいですよ」
――やはりネフライトとヒスイですか。夢に入ってから僕の中に二人の気配が無い事には気付いていましたが……。僕が会いたかったのはあの日に命を落とさなかった二人、ということですね。
確かにこれは僕の望んだ空間なのでしょう。ですが僕は忘れてはいけない、このペンダント……あの日の約束を。無かったことにしてはいけない。
さようなら、ネフライト、ヒスイ。優しくて残酷なこの夢が覚めたら、また会おう。
◆眠り人【ジェイド・カレットジャンブル(混ざり合う欠片・f09633)】
「ここは……」
僕は、気付いたら見覚えのある草原に立っていました。周りを詳しく調べなくとも解ります。ここは、あの頃の僕たちが過ごした草原そのもの。
ならば、夢に出てくる『会いたい人』というのは当然――。
――ざあ。
草原に強く風が吹き、巻き上げられた草を追うように顔動かせば、そこに――。
「ようジェイド、ぼうっと突っ立ってどうしたんだ?」
「ジェイドもこっちへ来てください。風が気持ちいいですよ」
懐かしい二人が、居ました。
快活そうな男性は、剣術の師であった『ネフライト』。
金髪を靡かせる美しい女性は、魔術の師であった『ヒスイ』。
やはりと、僕はひとつ息を吐きます。
夢に入ってから二人の気配が僕の中に無い事には気付いていましたので、驚きはしませんでした。予想は出来ていましたので。
僕が会いたいと願っていたのは、あの日に命を落とさなかった二人、ということですね。自分の心のことなのに今の今まであまり実感がなかったけれど、二人が出てきたということはそういうことなのでしょう。
二人を見たまま動かない僕に、二人は不思議そうな顔を向けてきます。
「どうした、ジェイド」
「どうしたのですか、ジェイド」
気を使うように声を掛けてくる二人。
僕は、翡翠石のペンダントへと無意識に手を伸ばしてしまう。これは、三人の意志の結晶。忘れてはいけない約束の、証。
これは確かに僕が望んだ空間で、夢なのでしょう。
ですが僕は忘れてはいけない。あの日の約束を、無かったことにしてはいけない。
目を閉じれば鮮明に、あの日のことを思い出せるのです。
だからこそ、この二人は、優しくて残酷なまやかし。
――さようなら、ネフライト、ヒスイ。
優しくて残酷なこの夢が覚めたら、また会おう。
またすぐに会えるから。
僕は二人に、さようならを告げました――。
大成功
🔵🔵🔵
萬場・了
朧になっていく「兄」の姿をもう一度…
偽りだから。必ず「否定」することを覚悟して。
〈首元のUDC〉と〈カメラ〉が消えている。
焦るな、笑え。…兄のように。
『兄ちゃん』
そう俺を呼ぶのは黒髪の少年。
兄と一緒に消えた「弟としての自分」
『おれ知りたいんだ。どんな兄ちゃんでも、受け入れるよ?』
俺は「兄」でいられてるかな
『そのままでいいよ。おれの兄ちゃんは1人だけ。もう何処にも行かないでいいよ。戦わなくていいよ』
俺は…兄ちゃんは…どんな顔してる?
「兄を否定しなかった自分」は過去にすら存在しない。
偽物は「今の俺」が欲しい言葉を囁く。
俺はもう一度。いつものように。
ここにいる兄…「自分」を否定する。
…会いてえんだ。
◆眠り人【萬場・了(トラッカーズハイ・f00664)】
「兄ちゃん」
幼い声が、俺を呼ぶ。
眼の前には黒髪の少年。Tシャツから伸びた手足は日焼けして、元気そうな幼い日の『俺』。『兄』と一緒に消えた、『弟としての俺』。
その『俺』が兄と呼ぶ俺の姿は――。
ああ、そうか。朧になっていく記憶の中の『兄』の姿を忘れないためにも、俺はその姿を取ったのか。
首元がやけにすうすうするし、手にはいつもの重みが無い。それに気付いた俺に焦りが生じかけ、俺は唇の端を歪める。
焦るな、笑え。……兄のように。
兄はもっと上手く笑っていた、はずだ。朧となる前に俺は必死に手を伸ばし、記憶の輪郭を掴もうと足掻く。消えてほしくない、掴んでいたい。世界に忘れられてしまっても、両親にさえ忘れられてしまっていても、俺だけは。
「おれ知りたいんだ。どんな兄ちゃんでも、受け入れるよ?」
偽物の『俺』が真っ直ぐに俺を見る。
俺が本物の『兄』でなくとも、受け入れてくれる偽物の『弟』。
そんな、過去にすら存在しなかった『弟としての俺』に自嘲しそうになる。
けれど兄ちゃんは『俺』にそんな顔はしないだろ?
俺はぐっと堪えて、『俺』に問いかける。
俺は『兄』でいられているのかな。
「そのままでいいよ。おれの兄ちゃんは1人だけ。もう何処にも行かないでいいよ。戦わなくていいよ」
優しい偽物の『俺』。
今の俺を、優しく否定する『俺』。
兄の姿に近づけるように掛けた黒縁眼鏡の向こう側、偽物の『俺』が笑いかけてくる。大好きな兄へ向ける、幼い笑顔。
俺は……兄ちゃんは……今、どんな顔してる?
俺はもう一度。いつものように。
ここにいる兄……自分を否定する。
俺は、兄ちゃんじゃない。
兄ちゃんじゃないからこそ、探している。
……会いてえんだ、本物の兄ちゃんに。
――みぃん。
どこかでセミが鳴いた。
まだ夏には遠いのに。そう、考えて。
俺は気付く。
ここの風景は、あの夏休み前なのだと。
眼の前の『俺』は、いつの間にか消えていた――。
大成功
🔵🔵🔵
シン・バントライン
17歳頃
美しい人…否、ヴァンパイアだった。
幼馴染として小さい頃からずっと一緒にいた。
気が強くて悪戯好きで我儘な幼馴染はやがて傾国の美女と称されるようになった。
ずっと側に居た自分は周りから随分反感を買ったりもした。
でも強く美しい彼女のことがやはり自分は大好きだった。
「傷ついて笑うその癖は本当に愚かで醜い」と怒られた事がある。
いつも笑っている彼女があんなに怒るのを初めて見た。
それからは悲しい時に笑うのをやめた。
一度だけ訊いてみたい。
「俺のこと少しでも好きだった?」
でも本当はもう何も言って欲しくないのかもしれない。
そして最近好きな人が出来た事を幼馴染として聞いてほしい。
他に誰に話せるというのだろう。
◆眠り人【シン・バントライン(逆光の愛・f04752)】
幼馴染の彼女は美しい人……否、ヴァンパイアだった。
幼き日からずっと一緒に過ごした彼女は、気が強くて悪戯好きで我侭で。彼女の悪戯に巻き込まれて、二人揃ってよく怒られたものだ。彼女の我侭に振り回され、ヘトヘトになることも少なくはなかった。けれど俺はそんな彼女と過ごす日々が、幼馴染の彼女が、大好きだった。
そんな彼女も、やがては傾国の美女と称される程の美女へと育ち、ずっと傍らに居た俺は周りから随分と反感を買ったりもしたものだった。
一人前の女性へと育った彼女だが、相変わらず我侭で悪戯好きで、そして変わらず気が強くて。強く美しい彼女のことが、やはり俺は変わらず大好きだった。
彼女は俺の世界の中心だった。
笑顔が絶えない彼女が怒る姿を初めて見たのは、俺へ向けた怒りだった。
『傷ついて笑うその癖は、本当に愚かで醜い』
彼女はそう言って怒った。鮮烈に、真っ直ぐに。俺のために怒ってくれていた。
悲しみを笑顔で隠していた俺は、それからは悲しい時に無理して笑うのを止めた。
そんな彼女が、また目の前にいる。
俺の視界も少し低く、彼女と過ごしたあの頃の姿なのだろうと予想がついた。
一度だけ訊いてみたいと思っていた事。一度も訊けずにいた事。会えたのだからと口を開く。
「俺のこと、少しでも好きだった?」
彼女が俺の事をどう思っていたのか、俺はずっと知りたかった。
ただの幼馴染としてしか見ていないのか。幼馴染としても見ていないのか。それとも、少しでも――。
彼女が、口を開く。きっと、耳当たりの良い言葉を口にするのだろう。
ざあっと風が吹き、その言葉を浚ってしまい、俺の耳には届かない。
本当はもう何も言って欲しくないのかもしれない。その願いを夢が叶えたのだろう。
「聞いて欲しい話があるんだ」
それは最近好きな人が出来た事。幼馴染として聞いてほしいと口にした。
ずっと一緒に居た彼女以外、他に誰に話せるというのだろう。
もう少しだけ、彼女とこうしていたいと願った――。
成功
🔵🔵🔴
シュテルン・ガーランド
やぁ、僕だよ。ラートだよ
君に年老いた姿も、歯車になった姿も見られたくなかったけれど
不思議なものだね、あの頃…学生時代の君と過ごした姿のままだ
束の間の夢だと分かっていても…伝えたい事ばかりだよ
僕は医者になったよ
一番に救いたかった君を失ってから
救う為の知識を手に入れるなんてね
幼い頃から病弱で、儚くて、消えてしまいそうな君を繋ぎ止める為に学んでいたのに
君の為に、なんて烏滸がましいかな?僕の様な人を増やさない為かも
君と過ごす時間を少しでも長く
永遠と思っていたかった
ドーリス、君を、抱き締めてもいいかい
夢を叶えるまで待ってくれなんて、言わなければ良かった
君の温もりに触れることが、僕の一番の願いだったんだね
◆眠り人【シュテルン・ガーランド(歯車の冠・f17840)】
夢の中で目を開けたら、あの頃の……学生時代の君と過ごした姿に戻っていた。
君に年老いた姿も、歯車になった姿も見られたくなかったから、ちょうどいい。夢と言うのは不思議なものだね。思うものが形になる。
ああ、ドーリス。束の間の夢だと分かっていても……伝えたい事ばかりだよ。
「やぁ、僕だよ。ラートだよ」
目の前にいる君――ドーリスへと、僕は声を掛ける。
ドーリスは僕を見て、ただ微笑む。ただそれだけなのに、僕はとても嬉しいんだ。
目の前に君がいる。
幼い頃から病弱な君を助けたくて。
儚くて、消えてしまいそうな君を繋ぎ止めたくて。
その為に学んでいたのに、君は僕の両手から零れ落ちて。
僕が医者になれたのは、一番に救いたかった君を失ってからだった。
「僕は医者になったよ、ドーリス」
「流石ラートだわ。みんなをたくさん助けているのね、立派ね」
僕の報告を、ドーリスが嬉しそうに聞いてくれる。
君を救えなかった僕を、君はただ受け入れて。たくさんの人々を救うことは素晴らしいことだと微笑んだ。優しい、ドーリス。
違うんだよ、ドーリス。あの時の僕は、ただ君を救いたかったんだ。立派な、大層な志からじゃなく、ただ君だけを――。
君の為に、なんて。烏滸がましいかもしれない。
もしくは、ただ僕の様な人を増やさない為なのかも。
君と過ごす時間を少しでも長く、永遠と思っていたかった。
君を失ってから随分と経ったけれど、今でもその思いは消えていない。
「ドーリス。君を、抱き締めてもいいかい」
君が頬を染め、浅く頷いた。
あの日、夢を叶えるまで待ってくれなんて、言わなければ良かった。
少しでも君と長く時間を過ごす為に、こうしていれば良かった。
僕はいくつもの後悔を胸に思い浮かべ、細い君の体を抱きしめる。
腕に君の温もりを感じる。ああ、なんて愛おしい。
――君の温もりに触れることが、僕の一番の願いだったんだね。
今暫くこのまま、君と。
成功
🔵🔵🔴
ニコライ・ヤマモト
[姿]中肉中背30代の平凡な日本人男性。目つきの悪さと仏頂面は現実そのまま。
いつもの銃やナイフに加え、動きやすい服装にジャケットの懐には『山本』の名刺。
足元に無数の猫を引き連れる。猟兵としての力、俺へ混じってしまった未練たち。
(山本さん。名字しか知らない、『俺の』会いたい人がせめてどんな顔か分かれば)
けれどこれは『猫たちの』甘い夢のようだ。足元の猫を抱えあげて彼らの主人へ返す。
猫たちを抱き上げて返す、返す、帰す。俺ではない誰かの恩や愛情を帰し終えて、
未だ残るのは沢山の人々と、それへ恨みや怒りを向ける猫の群れ。
彼らの怨念も全部帰し終えてしまえば、『俺の』主人に会えるのだろうか。
……銃を、人間へ
♢
◆眠り人【ニコライ・ヤマモト(郷愁・f11619)】
にゃあ。にゃぁん。
足元に連れた無数の猫たちが、俺を見上げて鳴いている。俺の足元に身を擦りつけ、するりと傍らを離れ、そしてまた違う猫空いた場所を埋めるようにすり寄って。
鳴いている声に釣られて視線を落とすと、俺の姿が視界に入った。
ヒトの、人間の、手。
常ならば黒い獣の手の俺は、それが自身の手なのか確かめるように開閉してみた。……意思通りに動く。どうやら今の俺は『人間』らしい。手の肌具合から、そこそこいい歳のようだ。
装備を確認する。いつもの銃やナイフに加え、動きやすい服装。ジャケットの懐には『山本』の名札。知っている、名だ。
――山本さん。
名字しか知らない、『俺の』会いたい人。
せめてどんな顔が分かればと思っていたせいで、この姿になってしまったのだろうか。
いいや、違う。
これは『猫たちの』甘い夢のようだ。
猫――猟兵としての力、俺へ混じってしまった未練たち。
足元の猫たちが、にゃぁんと甘えるような声で鳴く。
主人の元へ、帰りたいのだろう。
抱き上げて、俺は彼らの主人へ彼らを返す。
猫たちを抱き上げて返す、返す、帰す。
猫は、受けた恩を返すものだから。返して、帰す。
にゃあ。にゃあ。
俺ではない誰かの恩や愛情を、次々に彼らの主人へと手渡して帰し終えて、未だ残るのは沢山の人々と、それへ恨みや怒りを向ける猫の群れ。
ふううぅぅぅ。
怒りの籠もった声で、猫が唸る。空気を震わす、恨みの声。
彼らの怨念も全部帰し終えてしまえば、『俺の』主人に会えるのだろうか。
過去の猫たちの情念を力とする存在の俺は、全ての猫が居なくなった時、そうあれるのだろうか。
怨念も、返そう。
そう、猫たちが望むのなら。
俺は、手に馴染んだリボルバー銃を人間へと向ける。
怨念を、帰そう。
猫たちの情念が晴れるように。
にゃぁ。
夢の中、傍らの猫が鳴いた――。
大成功
🔵🔵🔵
古高・花鳥
(アドリブ歓迎です)
『今のこの姿』のまま『6年前に亡くなったお父さん』に会う夢
わたしは、またお父さんに会いたいです
これでもう、気持ちに納得が付くように
......わたしが、ちゃんと現実を受け入れられるように
もう二度と、昔のことにしがみついて悲しむことがないように
お父さん久しぶり
弟の咲也も妹の京華も、大きくなったんだよ。それにとっても良い子で
お母さんの病気はずっと重いままだけど、前より笑ってお話ししてくれるようになったの
大丈夫だよ、ちゃんと生活できてるよ。バイトもいっぱいしたんだ
お父さんのこと、忘れられないんだ、ずっと
だから
......“あなた”とは、さようなら
前に、進む為に
◆眠り人【古高・花鳥(月下の夢見草・f01330)】
わたしは、またお父さんに会いたいです。
そう願って、目を閉じました。
目を開けば、お父さんの姿が、そこに。6年前亡くなった時の、わたしの記憶のままの姿。
わたしの、お父さん。大好きな、お父さん。
わたしがちゃんと現実を受け入れられるように。
もう二度と、昔のことにしがみついて悲しむことがないように。
あなたに会いたいと願いました。
お父さん、久しぶり。
そう声を掛けたら、お父さんは少し驚いた顔をして。
「花鳥、大きくなったね」
優しく、笑いました。
ああ、お父さんだ。お父さんの、笑顔だ。
あのね、お父さん。大きくなったの、わたしだけじゃないんだよ。弟の咲也も妹の京華も、大きくなったんだよ。それにとっても良い子で、いつもわたしを助けてくれるんだ。
お母さんの病気はずっと重いままだけど、前より笑ってお話ししてくれるようになったの。お母さんが笑って話してくれると、それだけで家族が明るくなったみたいになるの。
お父さんが居なくなってからの家族の話を、わたしはたくさんしました。きっとお父さんは案じているはずだから、大丈夫だよって伝えたくて。
「花鳥、お前は無理をしていないか? 苦しかったらずっとここに居てもいいんだよ」
お父さんが、わたしを心配してくれます。優しく声をかけてくれるのです。
大丈夫だよと、わたしはお父さんに伝えます。
ちゃんと生活できていること、バイトだってたくさん頑張っていること。
その度にお父さんはうんうん頷いて、褒めてくれました。
――お父さんのこと、忘れられないんだ、ずっと。
そう告げると、お父さんは少しだけ申し訳無さそうな顔をしました。
これは、わたしを捕らえるための都合のいい夢。
だから、わたしは。
『お父さん』が口を開く前に。
わたしが、前に進むために。
『あなた』にさようならを告げました。
わたしの、お父さん。
6年前に亡くなったお父さん。
さようなら。
わたしは大丈夫だから、心配しないでね。
大成功
🔵🔵🔵
星群・ヒカル
『選抜艦』の校舎か
あの後1年経ってないとは思えないぜ
おれの姿も変わんないしな
舎弟の誰か出てくるかと思ったんだが
……おめーか、蜂女俠子
おれに勝ち『選抜艦』のテッペンになり、銀河帝国に洗脳された女
ああ、『オシャレ番長』って呼んだ方がいいか?
おれはこの通り元気だ、『爆走番長』だった頃と同じだ
またステゴロで喧嘩しようぜ
おれは一度も勝てなかったがな!
そうだ、一個聞きたい
おめーとおれの立場が逆だったら、おれみたいに猟兵になってた?
『なれなかったかしら』か
そんなもんか
逆ならおれは帝国と一緒に星の海の藻屑だったんだがな
今のおめーみたいにな
UCを使用し一気に喧嘩を終わらせよう
おれはおめーの分も前へ進むぞ、蜂女
♢
◆眠り人【星群・ヒカル(超宇宙番長・f01648)】
おれは、『選抜艦』の校舎に居た。
銀河を飛び出してから、まだ一年も経っていない。けれど今はUDCアースの高校に居るせいか、少しだけ懐かしいような気がした。
場所が『選抜艦』ってことは、舎弟の誰かが出てくるのだろうか。
会いたいとおれが願う舎弟なんていたっけな。
ジャラリ。耳に馴染んだ鎖の音。音の先には見知った女の姿。
……おめーか、蜂女俠子。
おれに勝ち『選抜艦』のテッペンになり、銀河帝国に洗脳された女。
ああ、『オシャレ番長』って呼んだ方がいいか?
いくつもの鎖で飾った姿。オシャレ番長の名は伊達ではない。
「お久しぶりね。元気?」
鎖を揺らし、蜂女がおれに微笑みかける。
「おれはこの通り元気だ、『爆走番長』だった頃と同じだ」
自分の拳を打ち付けて、あの頃と変わらない姿を示して。
おれが蜂女に会いたいと願ったのなら、やっぱしそれは――。
「なあ、蜂女。またステゴロで喧嘩しようぜ」
おれは一度も勝てなかった。だから戦いたくて願ったのかも知れない。
蜂女はおれの言葉に応じて、武器を手放した。
喧嘩に開始の合図は、いらない。お互いに踏み込んで、拳と拳を打ち付け合う。
「そうだ、一個聞きたい」
睫毛が見えるくらい近付いた距離で、おれは蜂女に問いかける。
「おめーとおれの立場が逆だったら、おれみたいに猟兵になってた?」
「なれなかったかしら」
ならなかった、ではなく、なれなかった、なのか。
そんなもんかとおれは思う。
立場が逆なら、おれは帝国と一緒に星の海の藻屑だったんだがな。
――今のおめーみたいにな。
拳を数度、打ち付け合う。
ああ、なんだ。おれとおめーを分けたのはほんの少しの違いで、その違いがなければ、星の海の藻屑になっていたのはおれだったのか。
「終わりにしよう、蜂女。――『ガントバス』!」
『超宇宙望遠鏡ガントバス』が足元に戦士の影を召喚する。
蜂女は、僅かに目を見開いた。
ステゴロじゃないのかと言いたげだ。
「パワーアップはノーカンだ!」
おれはおめーの分も前へ進むぞ、蜂女。
おれは蜂女に、今のおれが出せる最大級の攻撃を叩き込んだ――。
大成功
🔵🔵🔵
葉月・零
10歳くらいの容姿で。
視線を動かせば……そこに彼がいる。
どうしようもない環境から救ってくれた、恩人であり憧れ人。同時に兄のような……そんな人。
一冊の絵本。読んでもらいながら、次第にうとうと、と眠たくなると、
ぽふ、と大きな手で
頭を撫でられる、その時間が好きだったんだろうなぁと、ぼんやりとした意識の中で考える。
そうだ。俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ。恩を返さなきゃ……。
都合の良い記憶だけじゃない。
この先を、俺は知ってるから。
だからこの夢には浸っていられない。
美桜が、1人になっちゃうし、早く戻ってあげなくちゃ。
良い夢だとは思うんだけど、長くみていると、ダメになりそうだなぁ。
◆眠り人【葉月・零(Rien・f01192)】
肩に熱を感じて、隣を見る。
俺の隣には、彼の姿。
どうしようもない環境から救ってくれた、恩人であり憧れ人。そして、同時に兄のような……そんな人。
俺の姿は今、10歳くらい、だろうか。並んで座ったふかふかのソファ。隣に座った彼を見上げていた。憧れの人が隣に座って穏やかな表情を向けてくれている。それだけで俺は嬉しくて、いつまでも見上げていたくなる。
ああ、そうだ。本を読んでくれるって、彼が言ったんだった。
俺の手よりも大きな手が、絵本をゆっくりと捲る。
優しい声が、柔らかく文章を読み上げる。
暖かくて、愛しい時間。
せっかく読んでもらっているのに、俺は次第にうとうとと眠たくなってきてしまった。続きを聞きたい気持ちと、そのまま気持ち良い眠りに身を委ねたい気持ちが、幼い俺の頭の中でぐるぐる混ざる。コーヒーにたっぷりミルクを入れたみたいに、ぐるぐるぐるぐる。
ぽふ、と大きな手で頭を撫でられて、眠たくなってしまった頭をいつの間にか彼に預けてしまっていたことに気付く。けれど俺はもう眠たくて、頭を預けたままその手に甘えて。
ぽふぽふと、大きな手に頭を撫でられる。その時間が、とても好きだった。
耳朶に優しい声が届く。
頭に撫でる、優しい感触。
肩に触れる、暖かな熱。
心が溶けていくような優しさのなか、それに抗うように俺の意識が浮上する。
――俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ。恩を返さなきゃ……。
都合の良い記憶だけじゃない。
この先を、俺は知っているから。
だからこの夢には浸っていられない。
夢は甘くて優しくて、ずっと浸っていたくなってしまう。
けれど。
――美桜が、1人になっちゃうし、早く戻ってあげなくちゃ。
これは、ただの夢、だから。
大成功
🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
🌸◇
幼少時の姿
満開の桜の下でふと目覚め
目の前には母上と父上の姿
陰陽術の勉強中に私
眠って?
いけない!
青ざめはね起きて謝る
…折檻をされる
平手打ちですまされればまだいいのだけど
でも
母上は微笑んで私を優しく撫でてくれた
「いいのよ、櫻宵。おやつを用意しているの。あなたの好きなわらび餅」
父上が私を抱えあげる
「お前は誘七家の…いや、私の誇りだよ、櫻宵」
よく頑張ったな
褒めて撫でる大きな手に笑顔
目を丸くする
馬鹿な
私を否定し拒絶し追い出したのに
有り得ない2人の笑顔
愚かなあたしの抱く
焦がれていた普通の幸せな家族の形
両親に求めていた愛
馬鹿ね
否定するのは簡単なのに
出来なくて
もう少しだけ
憧憬の中にいさせてと願ってしまう
◆眠り人【誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)】
さらりと。撫でられるような感覚で、私は目を覚ます。
最初に瞳に映り混んできたのは、満開の桜の花。
そうだ、ここは誘七家の庭だ。由緒正しい陰陽師の名家に生まれた私は、父上と母上の下で日々陰陽術の勉強に励んでいた。両親の指導はとても厳しく、二人の思い通りに育たない不出来な私が折檻される日も少なくはなかった。居眠りだなんて、もってのほか。目に見える成果が上げられるようになるまで、二人の冷たい監視の下で努力を重ねなくてはいけない。
眠っていた事実をやっと頭が認識して。私は青褪め、慌てて跳ね起きる。
咄嗟に喉から溢れるのは謝罪の言葉。
折檻への保身から身に染みてしまった言葉。
平手打ちで済めばまだ良いと、心は震えて縮こまる。
けれど。
「いいのよ、櫻宵。あなたは真面目だもの。疲れてしまっていたのね」
平手は飛んで来ることはなく、母上が嫋やかな手で私を撫でる。
目覚める前に感じた感覚に似ていて、寝ている間も撫でてくれていたことを知った私は目を見開いた。
けれども母上はそんな私を詰る事もなく、柔らかな声を紡ぎ続ける。
「おやつを用意しているの。あなたの好きなわらび餅」
「お前は誘七家の……いや、私の誇りだよ、櫻宵」
優しく微笑む母上を息を飲んで見上げていたら、傍らから伸びてきた逞しい腕が私を抱え上げる。
「お前は毎日勉学にも励み、本当に自慢の息子だ」
よく頑張ったな。
私を抱き上げた父上が、大きな手で撫でながら褒めてくれる。
懐かしい場所に、二人の優しい笑顔。
焦がれていた、普通の幸せな家族の形。
両親に求めていた愛。
――私を否定せず、受け入れてくれる二人。
(なんて、馬鹿な)
私――あたしは、そっと息を吐く。
これは夢で、有り得ないことだって解ってしまう。
馬鹿なあたしの、愚かな夢。
――そう、否定するのは簡単なのに、
母上が、わらび餅を口まで運んでくれる。
――出来なくて。
父上が、美味いか? と聞いてくれる。
――この夢が優しすぎて、二人に身を委ねてしまう。
普通の子どものように、両親が愛してくれる。
あたしが欲して、終ぞ手に入れられなかった、モノ。
――もう少しだけ、この憧憬の中にいさせて。
甘い甘い夢の中、あたしはそう願ってしまう。
願ってしまわずには、いられなかったの。
成功
🔵🔵🔴
オズ・ケストナー
あいたいひとにあえる
でも、それはわたしが考えるおとうさんで
ほんとうのおとうさんじゃない
わかってる
わかってるのに
わたしはまた、まぼろしを見るの?
わたしはわたしのままの姿
だって変わってしまったら
おとうさんにわかってもらえない
おどろくかな
わたしが、うごいて話したら
「おとうさんだいすきっ」て笑ったら
よろこんでくれるかな
だって、おとうさんはわたしが動く姿を見たことがないんだもの
人形だったわたしを大事にしてくれた
わたしだけじゃない
シュネーもみんなも
栗色の目を細めて
おどろいた
って
すごいね、いつのまに話せるようになったの?
って
夢に首振り
ちがう
わたしがいちばん伝えたいのは
(助けられなくて)
ごめんなさい、なのに
♢
◆眠り人【オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)】
これは、あいたいひとにあえるゆめ。
ほんとうのおとうさんじゃないって、わかってる。
わかってるのに、わたしはまた、まぼろしを見るの?
わたしは目を閉じて、わたしのこころに問いかける。
それでもわたしは願ってしまう。
――おとうさんに、あいたい。
おとうさんにわかってもらえるように、わたしはわたしの姿のままでおとうさんにあう。それはわたしが考えるおとうさんで、ほんとうのおとうさんじゃないけれど。
ちゃんとわかってもらえるかな。わかってもらえないのはさびしいもの。
おどろくかな。わたしがうごいて話したら。
よろこんでくれるかな。おとうさんだいすきって笑ったら。
うん。きっと、ぜんぶそうなるよ。
だって、おとうさんはわたしが動く姿を見たことがないんだもの。
人形だったわたしを大事にしてくれた、おとうさん。
シュネーもみんなも大事にしてくれた、おとうさん。
きっとおどろいて、よろこんでくれる。
わたしは、目を開ける。
おとうさんが、目の前にいる。
おとうさん。
わたしは小さく呼びかけた。声にこもるのは、おとうさんへのすきってきもちだけ。
「おどろいた」
おとうさんの優しい栗色の目が一度見開かれて、やわらかく細められて。
「すごいね、オズ。いつのまに話せるようになったの?」
おとうさんが、えがおになった。
おとうさんが、動くわたしを見てよろこんでくれた。
おとうさんがうれしいと、わたしもうれしい。
おとうさんに、伝えよう。伝えたいこと、伝えなくちゃ。
おとうさんに伝えたいことがあるんだよって手を引いて。
おとうさん、だいすきっ
おとうさんがほほえむ。
わたしも笑う。
あたたかい、じかん。
ううん、ちがう。これは、ゆめ。
わたしがいちばん伝えたいのは、
ごめんなさい、なのに。
わたしは、ゆめのなかでも言えないの?
――たすけられなくて、ごめんなさい。
ほんとうのおとうさんに、あいたいよ。
大成功
🔵🔵🔵
榛名・深冬
♢
自身の姿:今のまま
会う相手:父親
幼い頃の記憶
朧げすぎて、親の顔なんてぼやけて思い出せなくて
昔母からよく聞いていた父は
艦で宇宙を駆け巡り
勇敢に戦って活躍していたらしい
でも家に帰ってこなかったから
父の記憶なんて聞いた情報しかなくて
ただただ顔のぼやけた大きな存在
優しくわたしの頭を撫でる手は違和感ばかり
おかしい
有り得ない
だって貴方は家族より
顔の知らない不特定多数を選んだのだから
これはわたしの願望?
違う
認めない
こんなの
家族を捨てたひとの愛なんて
わたしは望んでない――!
力いっぱい手を振り払う
わたしには燈がいればいい
最近は怖くても他人とちょっとずつ喋れてる
だからもう親なんていらない
なんて馬鹿馬鹿しい夢
◆眠り人【榛名・深冬(冬眠る隠者・f14238)】
幼い日のわたしの世界に、父は居なかった。
艦で宇宙を駆け巡り、勇敢に戦って活躍している。と、母はよく話してくれたけれど、家には帰ってこなかったから父の記憶なんて聞いた情報しかなかった。
もしかしたら、家に写真が飾ってあったかもしれない。あったとしても、そんな父が映っている写真なんてわたしがわざわざ見るはずもなくて。
わたしは、父親の顔なんて思い出せはしなかった。
思い出せないのは、顔だけじゃない。姿形だって、ちゃんとした記憶にない。
それなのに、ただただ顔のぼやけた大きな存在が、優しくわたしの頭を撫でる。
わたしには、違和感しか覚えない。
おかしい、有り得ないって、心が叫ぶ。
だってそうでしょう? 貴方は家族より、顔も知らない不特定多数を選んだのだから。
撫でられた記憶なんて、ない。優しくされた記憶なんて、ない。今更帰ってきて、こんな、こんな……。
ああ、違う。違った。帰ってきてなんていない。これは夢だもの。
じゃあ、どうしてこんな……こんな夢を。
これはわたしの願望?
心の奥底で、わたしがこんなことを望んでいたとでも言うの?
ううん、違う。
認めない。
わたしの会いたい人が、家族を捨てた父だなんて。
こんなの、わたしは認めない。
家族を捨てたひとの愛なんて、わたしは望んでない――!
頭を優しく撫でる大きな手を、わたしは力いっぱい振り払った。
父は驚いたかもしれない。悲しんだかもしれない。顔が見えなくて解らない現状が、わたしにも都合がよいもののように思えた。
けど、そんなのわたしには関係ない。
わたしには燈がいればいい。穏やかで優しい、大切なわたしの灯火。
最近は怖くても他人とちょっとずつ喋れてる。
だからもう、親なんていらない。
否定しただけで、父の姿が消える。最初っからそこに居なかったみたいに。
「なんて馬鹿馬鹿しい夢」
口にした言葉は、少しだけ、苦かった――。
大成功
🔵🔵🔵
皆城・白露
(アドリブ歓迎です)
※夢の中では幾分か幼く、実験体としての簡素な衣服を着用
かつての実験体仲間の人狼(黒髪の青年・灰色髪の少年)が現れ
「研究の成果が出て、博士が人狼病を治療してくれる
後はここで眠りながら待てばよい」と声をかけ誘ってくる
…あそこで行われていた研究は、そんなものじゃなかった
「オレ達」をこんな風にしたあれは、治療なんかじゃなかった
あいつは、オレ達を救ってくれる気なんて、なかったんだ
【群狼の記録】を使用し攻撃。狼の幻影は白露自身をも傷つける
…胸焼けするほどの、甘い夢、だな
オレは、お前らの命を喰ってここにいるのに、許されるとは思ってないはずなのに
…それでも、どこかで願ってるのか
◆眠り人【皆城・白露(モノクローム・f00355)】
白い壁、白い床。身に纏う、簡素な検診衣。
視界に入ったそれらに、思わず鼻の上に皺が寄った。
ここは、かつてオレが居た実験施設。虫唾が走るような実験をする施設に居たオレは、ひとつの実験体に過ぎなかった。ヒトじゃなくてモノの、実験体のひとつ。それが、オレだった。
視線が少し低いのは、オレの姿もここで生活していた時の姿なのだろう。不健康そうな手足が伸びていた。
人が来る気配に、振り返る。ふたりの人狼がオレに近寄ってくる。彼らは、かつての実験体仲間。
日々の実験を、オレ達の境遇を、二人は忘れてしまったのだろうか。二人の表情は明るく、尾までも振られていた。
「研究の成果が出て、博士が人狼病を治療してくれるんだって」
灰色髪の少年が、嬉しそうにオレに告げる。
「後はここで眠りながら待てばよいそうだ」
黒髪の青年も、嬉しげにそう口にした。
だから一緒に眠って待とう?
灰色髪の少年がニコニコ笑いながら、オレの手を取ろうと手を伸ばしてくる。
……人狼病を治療する、だって?
オレはこの研究施設で行われていた研究が、そんなものじゃなかったことを知っている。オレ達をこんな風にしたあれは、治療なんかじゃなかった。
博士は……あいつは、オレ達を救ってくれる気なんて、なかったんだ。
伸ばされた腕を、振り払う。
灰色髪の少年が、驚いた顔でオレを見る。振り払われるなんて、思いもしていなかった無邪気な顔。
「――許せとは言わない」
オレ自身をも苛む《群狼の記録》を発動させ、『LEFT /for lament』を振り下ろす。悲しみへと、オレが喰らった二人へと――鋭い爪を振り下ろした。
それでも二人は笑顔の浮かべ、ただオレの攻撃を受け入れて。
二人の姿が、呆気なくかき消える。
胸焼けするほどの、甘い夢だ。
オレは、お前らの命を喰ってここにいるのに、許されるとは思ってないはずなのに……それでも、どこかで願っているのか。
心は未だ、血を流している――。
大成功
🔵🔵🔵
ロス・ウェイスト
♢姿:3年前
「せん、せ?」
おれを拾って、仲間をくれて、文字とか色々教えてくれた先生
アジトにあった、煙草の匂いの染みた先生の部屋
「せ、先生。おれ、言いつけ守れんかった、ボスの事、ま、守れんかった」
ごめん、ごめんなさい。あいつのこと一人にしてもうた
先生は甘いくせに酷いから。いいよともあかんとも言わへん
煙草吸いながら「お疲れさま、ようやったね」て、おれの事子供扱いする
なんで死んでもうたん、先生
「僕はどこにもいかへんよ?みんなもずっと一緒やで」
みんなでずっと一緒。あいつも、さみしくない?
ほんまはもうみんなおらんくて、おれとあいつだけな事。忘れそうになる
「寝ててええよ」
な、先生、話してや
声聞いてたいねん
◆眠り人【ロス・ウェイスト(BLADE CHORD・f17575)】
重い瞼を押し上げて、目を開ける。
見たことのある天井に、煙草の匂いの染み付いた部屋。ああ、ここは……アジトにあった、先生の部屋だ。
おれを拾って、仲間をくれて、文字とか色々教えてくれた先生。本当はもう居ない、先生。
その先生の部屋で、おれは横になっていた。怪我をしているのだろうか、何だか体がとても重い。
「せん、せ?」
部屋に満ちる煙草の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、おれは頭を起こして先生の姿を探そうとする。それを傍らから、やんわりと手が抑えてきた。
袖口から香る、煙草の香り。ああ、先生だ。
「せ、先生。おれ、言いつけ守れんかった、ボスの事、ま、守れんかった」
ごめん、ごめんなさい。あいつのこと一人にしてもうた。
堪えなければ、何かが関を切ってしまいそうで。おれは嗚咽混じりに言葉を紡ぐ。
胸が痛くて苦しくて、悔しい。
「お疲れさま、ようやったね」
先生が煙草を吸いながら、おれの事子供扱いしてそう言う。甘いくせに酷くて、いいよともあかんとも言わへんくせに。
――なんで死んでもうたん、先生。
離れんといてよ、先生。
「僕はどこにもいかへんよ? みんなもずっと一緒やで」
優しい嘘は、煙草といっしょ。過ぎれば毒になるんやで、先生。
みんなでずっと一緒なら、あいつも、さみしくない?
ほんまはもうみんなおらんくて、おれとあいつだけな事。忘れそうになる。
優しい優しい嘘を、煙と共に吐く先生。
「寝てていいよ」
先生の声が、聞こえる。子供扱いしてる声。
おれ、もうそんなに子供やないんよ?
でも、瞼が重たいからさ。
な、先生、話してや。
もう少し声、聞いてたいねん。
成功
🔵🔵🔴
クレア・ワイズスノー
「しばらくぶりだな、クレア。」
聞きなれた声が聞こえる。そこには私のマスターがいて、でも、
「うん、…ただいま。」
突然の再開で戸惑って、でも、今が夢であることも忘れて…。
変わらぬ時間がしばらく続いて、でも、何かがおかしい。きっと私は違和感の原因を探してしまい【情報収集】、そして…。
(どうして今日のマスターは「ねっとすらんぐ」という難解な言葉を発さないのかな。)
きっと、それは夢の終わりの合図で、ここが真っ当な設備であれば…。
…あぁ、これは夢なんだ。私の目の前にいるのは悪意を持って真似た偽物なんだ。【覚悟】
…だから、偽物のマスターさん、私はあなたを「否定」します!
『真っ二つになれ
…!!』【先制攻撃】
◆眠り人【クレア・ワイズスノー(いつかの憧憬を探すもの・f17758)】
後方から、懐かしい声が耳に届く。
「しばらくぶりだな、クレア」
ううん、聞き慣れた声が聞こえた。
姿を確認しなくても解る、私のマスターの声。
振り向けばそこにはやっぱり……ほら、私のマスターが居た。
「うん、……ただいま」
突然の再会で、私は今が夢なのか現実なのか解らない。
マスターのところへ私は帰ってこれたんだって、人形の私の胸にも温かさが満ちる。
マスターは私を優しく扱ってくれて、一緒にたくさんお話をしてくれた。
ゆっくりと温かい、マスターとの幸せな時間。
でも、何だろう。何かがおかしい。
気付いたらいけないような気がする。
この時間が、崩れてしまうような気がする。
それなのに私は、違和感の原因を探してしまう……。
(――どうして今日のマスターは「ねっとすらんぐ」という難解な言葉を発さないのかな)
私の中で、決定的な何かが、音を立てたような気がした。
……あぁ、これは夢なんだ。
私は、夢だと気付いてしまう。
――私の目の前にいるのは、悪意を持って真似た偽物なんだ。
本物のマスターじゃない、偽りの、偽物の、マスター。
「……だから、偽物のマスターさん、私はあなたを”否定”します!」
淡い青の宝石が嵌ったブローチへ指先を触れさせて。
それは、光の剣へと形成す。
「真っ二つになれ
……!!」
真っ直ぐに、偽物のマスターへと振り下ろせば、私の魔法剣が眩く光を放って、そして――。
――さようなら、偽物のマスターさん。
大成功
🔵🔵🔵
影杜・梢
気付けば、夜光虫で輝く浜辺に立っていて。
髪も長いし、背も小さい…気がする。
だから、ずっと昔のことだろうね。
まだ、入院していた頃の話だ。
いつの間にか、父さんと母さんが傍にいて。
三人でよく海に行ったっけ。
でも、二人は交通事故で。
それで。
ボクの望み?
……なら『二人に傍に居て欲しい』とか。
どうだろう。
三人でまた普通の日常を送るんだよ。
……ま、ボクの望みを“わざわざ”叶えようとする時点でニセモノだろうけれど。
死霊術【故蝶】で、適当に攻撃しておくよ。
ニセモノたちには退場願いたい。
だって、二人はボクが望む前から、色々としでかすような、お節介な二人だから。
そうだろう?
喚びだした二匹の蝶に、そうそっと微笑むよ。
◆眠り人【影杜・梢(影翅・f13905)】
気付けば、夜光虫で輝く浜辺に立っていた。
海を幻想的に照らすプランクトンの群れ。宵闇に落ちた真っ暗なはずの海を、スカイブルーに染め上げて。
ボクの側には、父さんと母さんの姿。
どうやら、ボクがまだ入院していた頃なのだろう。ボクの髪は長くて、背も小さい。父さんと母さんの姿がとても大きく見えたから。
あの頃、三人でよく海に行ったっけ。気晴らしにって、連れ出してくれたんだ。
父さんと母さんとボクの三人で海を見つめて、きれいだねって微笑み合う。いつまでもそうしていたかった、優しい時間。
でも、二人は交通事故で――もう、居ない。
そう、これは夢。
ボクが『二人に傍に居て欲しい』と願った、夢。
三人でまた普通の日常を送るんだ。父さんと母さんとボクの三人で、入院生活じゃない普通の日常を。あんなに体が弱かったボクが、今では普通に生活しているって知ったら、二人は喜んでくれるかな。
どうだろうと二人に問いかければ、笑顔が返ってくる。
「ここに居ればずっと一緒にいれるよ」
「ここでずっと一緒に過ごしましょう」
二人が、ボクの望みを叶えようとする。
けれど、二人はニセモノだ。
「――おいで、」
ボクの声に応じて、二匹の蝶が現れる。
ひらり、ひらりと優美に飛んで。ニセモノの二人の顔へと張り付いて――そして、ニセモノの二人が、最初っから居なかったかのように消えた。
夜光虫で輝く海辺に残ったのは、ボク一人。
いや。まだ、”二人”居る。
ひらり、ひらり。二匹の蝶がボクの元へと戻ってくる。
二人はボクが望む前から、色々としでかすような、お節介な二人だから。
「そうだろう?」
戯れるようにボクの周りを飛ぶ二匹の蝶に、そっと微笑んだ――。
大成功
🔵🔵🔵
レーヴ・プリエール
姿:今と変わらぬ姿。白いドレスと青薔薇の冠
会いたい人:目覚める前の夢で見ていた、天使の羽を持つ「あの人」
レーヴには記憶がないから。
だから、きっと何も変わらないんだね。 牢獄で目覚めるまえ、レーヴはとても幸せな夢をみていたの。
あなたはだあれ?夢の人?
おはなし、したいと思っていたの。
アナタの事、レーヴはずっと知りたかったんだよ。
どんな声でおはなしするの?―囀る小鳥の様に綺麗な声なら良いな
お名前は?―ヒミツ?
いろんなおはなしをしようよ。
……でもね、レーヴは知ってるよ。
アナタは本物じゃない。あの人の声も話し方も、レーヴは知らない。
答えてくれる訳がないの。
だから、ほら。アナタはレーヴと同じだね。
◆眠り人【レーヴ・プリエール(物語る亡霊・f11944)】
牢獄で目覚めるまえ、レーヴはとても幸せな夢をみていたの。
きれいな天使の羽根を持つ『あの人』の夢。レーヴには記憶がないから、本当の幸せは体験したことがないの。でも、幸せって何か考えると、目覚める前の夢のことを思いうかべるから。だからきっと、あの人のいるあの夢は、レーヴにとって幸せな夢。
きっと、あの人の夢を見る。
小さな確信を胸に目を開けば――ほら。誰かいる。
白のドレスを揺らして、一歩、レーヴは近付いてみるの。
「アナタはだあれ? 夢の人?」
本当は振り向いてくれるのを待つつもりだったの。でも気持ちがはやって、気付いたらつい、そうたずねてしまっていたの。
おはなし、したいと思っていたの。アナタの事、ずっと知りたくて。
その人が、振りかえる。逆光が眩しくて、お顔がよく見えない。
レーヴが夢の人なんて聞いたから、きっととまどっているのね。不思議そうにゆるく、首を傾げる気配がして。
ねえ、アナタはどんな声でおはなしするの?
――囀る小鳥の様に綺麗な声だと良いな。天使の羽根の人だもの、きっととても綺麗ってずっと思っていたんだよ。
声を聞かせてほしくて、レーヴったらアナタにかける言葉をさがしてしまうの。
「お名前は? ――ヒミツ? レーヴはね、レーヴって言うの」
いろんなおはなしをしようよ。
形の良いくちびるが、小さく動くのをレーヴは確かに見たの。けれどレーヴの耳は、音を拾わない。拾ってくれないの。ざあって音を立てて風が吹いて、アナタの声を聞かせてくれないの。青薔薇の冠から花びらがこぼれても、アナタは何も反応してくれない。
……だってね、知っているから。
レーヴ、本当は知ってるよ。アナタは本物じゃないってこと。
あの人の声も、話し方も、レーヴは知らない。だから、答えてくれる訳がないの。聞こえてくる訳がないの。
だから、ほら。
アナタはレーヴと同じだね。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
◇
稚魚の頃
見世物劇場の奴隷
水槽を叩く音
水槽の底でぐったりしていた僕は目を覚ます
覗くのは僕より少し歳上の黒猫の君
同じ奴隷仲間
唯一僕を気遣ってくれた人
懐かしい
―大丈夫か?
こんなになるまでお仕置きするなんて酷いな
ぼくがうまく歌えなかったのがわるい
座長がいってた
歌えない僕に価値はない
出来なければお仕置きされるのは当たり前
君だって鞭で打たれただろう
―リル
いつか一緒に逃げよう
俺が水槽から出してやる
できる訳ない
笑う君から顔を逸らす
―黒薔薇
リルには花がよく似合うぜ
差し出される花
なぜぼくに構う
座長に見つかれば折檻されるのに
君が笑う
僕は顔を背ける
後悔が押寄せて胸が痛い
君がいなくなる前に言った言葉を
思い出せないんだ
◆眠り人【リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)】
ぺちぺちと、何かが水槽を叩く音がする。
水槽の底でぐったりとしていた僕は、その音で意識が浮上しかけた。沈殿した澱のように、意識が重い。見世物劇場の奴隷の僕は、今日も座長からお仕置きを受けていて満身創痍。もっと休んでいたかったけれど、水槽を叩いているのが座長だったら? 頭を過った考えに、僕の意識は急速に浮上した。
僕の水槽を覗いていたのは、奴隷仲間の黒猫の君。唯一僕を気遣ってくれた、僕よりも少し年上の彼。目覚めた僕と目が合うとぴょんと耳と尾を立て――そして、力なく落とした。
「大丈夫か? こんなになるまでお仕置きするなんて酷いな」
へたりと耳を伏せた君が、悲しそうな顔をして。気遣う声を掛けてくれる。
けれど僕は、首を振る。
「ぼくがうまく歌えなかったのがわるい」
座長がそう、言っていたから。
見世物の僕は、歌う為にここに居る。歌えない僕に価値はない。出来なければお仕置きされるのは当たり前。すぐに廃棄しないだけ、座長は優しいんだ。
君だって鞭で打たれたはずなのに――君は首を振って、笑う。
「リル、いつか一緒に逃げよう。俺が水槽から出してやる」
そんなこと、できる訳がない。叶いもしない希望を抱きたくなくて、笑う君から顔を逸らす。どうして君は、そんな風に笑えるの? 彼との違いに、心がくしゃりと音を立てた。
顔を逸していたら何かが視界に入って、僕はついそれに視線を向けてしまう。黒猫の彼とは違う黒。黒い薔薇を、彼は僕に差し出そうとしていた。
「リルには花がよく似合うぜ」
僕を元気づけようとしてくれているのだろう。
けれど僕には解らない。
「なぜぼくに構う」
座長に見つかれば折檻されるのに。
僕はおかしなことは言っていないのに、これが答えと言わんばかりに君が笑う。
僕とは違う、君。
君が眩しくて、僕は顔を背けた。
こぽり、こぽり。
水槽の中、気泡が上っていく。
押し寄せる後悔で胸が痛くて。痛くて、痛くて、水槽の底で丸くなる。
君がいなくなる前に言った言葉を、僕は思い出せないんだ。
聞き返したくても、叶わない
君はもう、僕の側に居ないから。
――ねえ。あの時、なんて言っていたの?
成功
🔵🔵🔴
杜鬼・クロウ
♢捏造歓迎
本体は神器の鏡
…なンだこの光景
コイツら誰だ?
イヤ、「俺」は知っているのか?
会う人:杜の社で自分を守護してた主ではなく鏡を産み出した主。外見お任せ
場所:天上の世界、高天原
草木や鳥の囀り、睡蓮が咲き匂う豊かな所
・自分の姿(真の姿
金の長髪
白の漢服
顔ピアス無
神々しさと厳かさ増し
『人の姿を得たか
儂が魂を授けた代とよもや言葉を交わす日が来るとはの(微笑』
「余(おれ)も同じ気持ちよ
汝(うぬ)の創造主にして根源
嗚呼、再び逢い見えようとは」
『そなたに託した未来は、今はどうなのだ』
「少からず汝が思う最悪ではない
器の玄が現世の憂いを凌いでおる」
『あまり坊に無茶をさせないでおくれ』
篠笛の音
夢だと悟るのは早い
◆眠り人【杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)】
――シャラン。
金属にしては硬質さもなく、衣擦れにしては硬すぎる。ヴェール越しに聞いているようにも聞こえるのに、しかし澄んでいると感じられる音。それが頭に直接響いて、俺は目を開けた。
そこは、俺の知らない場所だった。さわさわと柔らかな木々たちの話す声。高く、そして耳当たりの良い鳥たちの囀り。足場は水場なのだろうか、睡蓮が敷き詰められるように咲き、いくつもの花の香が混ざったような香りの中に甘さのある睡蓮の独特な香りがその場を満たしていた。時折、キラキラと何かが反射するように光るが、不思議と眩しいとは思わない。
その場に、二人の男が立っている。一人は、陽の煌きの如き金の長髪に白い漢服の男。もう一人は、対になるような銀の長髪に白い漢服の男。双方とも威厳に溢れ、堂々たる風情があるように俺には感じられる。その二人は連ねた玉飾りを揺らし、悠然と相対していた。
(……なンだこの光景。コイツら誰だ? イヤ、『俺』は知っているのか?)
俺は、金色の男――の中で一歩引いて見ている。何と形容すれば良いのか悩むが、半幽体離脱に近い状況なのだろうか。体は金色の男、しかし思考は別のようだ。男の体の中で、俺はぷかりと浮くように別に存在しているみてェ。
『人の姿を得たか。儂が魂を授けた代とよもや言葉を交わす日が来るとはの』
銀色の男が口を開き、俺――金色の男へと微笑を向ける。
「余(おれ)も同じ気持ちよ。汝(うぬ)の創造主にして根源……嗚呼、再び逢い見えようとは」
俺の意識とは関係なく、金色の男が唇を動かしそれに応じた。
『そなたに託した未来は、今はどうなのだ』
「少からず汝が思う最悪ではない。器の玄が現世の憂いを凌いでおる」
『あまり坊に無茶をさせないでおくれ』
双子か兄弟なのだろうか。姿かたちがよく似ている二人が、笑み混じりに言葉を交わし合う。
……つーか、正直コイツら何言ってんのかよくわかんねェな。時代錯誤っつーか、なんてーの? 過去でも覗いてんのかって感じだ。
どこからか、篠笛の音が聞こえてくる。遠く高く伸びる、澄んだ音。
二人の会話は暫く続くようだった。
キラキラと、何かが反射するように光る。
頭の遠くで感じる、既視感。
――それは、俺に反射する光に似ているようにも思えた。
キラキラ反射する光に、睡蓮の園。
夢だと悟るには、未だ遠く――。
成功
🔵🔵🔴
落浜・語
あぁ、寄席の楽屋だ。主様がまだ元気で楽屋の定位置に座ってる。あの人はいないらしい。
俺は主様とあの人にだけ姿が見える、4,5歳位の子供の幽霊みたいな存在で。俺の今の話し方は、主様たちの真似。
僕は、主様の側にいられれば、それで満足なんです。だから…だから、ずっとそばにいさせてください。僕の使い手は主様だけなんです。
膝の上…良いんですか?
座らせてもらって、抱きかかえられる。相変わらず軽いな、って僕は物ですから。主様は温くて、大好きです。なんで、涙が出るんだろう。
ああ、そうだ…この温度がもうないことは、わかってる。でも、もう少し。
もう少しだけ、このままでいさせてください
◆眠り人【落浜・語(ヤドリガミのアマチュア噺家・f03558)】
あぁ、寄席の楽屋だ。
気がつけばそこは、懐かしい場所。今でも偶に世話になる場所ではあるけれど、決定的な違いは俺の主様が居る……ってところだろうか。
まだ主様が元気な頃なのだろう。主様はいつもの定位置に座っていて、今日の寄席でやる演目をなぞっているのか、本へと視線を落としている。――どうやら、あの人は居ないらしい。
あの頃、まだ俺はヤドリガミとしてヒトの身は得ておらず、けれど不思議な事に主様とあの人にだけ俺の姿は見えていた。5歳に満たない子供の、幽霊みたいな存在。それが俺だった。
「どうした? 何かほしいものでもあったか?」
ジッと見つめ過ぎてしまっていたせいだろう。主様が本から顔を上げ、俺へと視線を向けてくる。
優しい声で、菓子でも欲しいのかと主様が問う。幼い姿だからとは言え、主様はすぐに俺を子供扱いしていた。じわりと胸に何かが滲む。
「僕は、主様の側にいられれば、それで満足なんです。だから……だから、ずっとそばにいさせてください。僕の使い手は主様だけなんです」
僕の言葉に、主様は眉を下げて小さく笑い、そっと帯に差した俺の本体を撫でて。
「おいで」
トン、と。自身の膝の上を軽く叩いて俺を呼んだ。
「膝の上……良いんですか?」
「いいよ、おいで」
俺はお邪魔しますと頭を下げて、主様の膝の上に収まる。主様の膝に座らせてもらうと後ろから手を回されて抱きかかえられ、それがとても心地よい。主様の膝にこうして座らせてもらうのが、俺は大好きだった。
「相変わらず軽いな」
「……僕は物ですから」
俺は物だけれど、ちゃんと主様の温もりを感じる。
「主様は温くて、大好きです」
主様を見上げて、素直に告げる。俺の顔を覗き込む主様が笑う。
ああ、なんで、涙が出るんだろう。
こんなにも幸せで、こんなにも愛しい時間なのに。
……ああ、そうだ。俺は知っている。この温度がもう失われてしまったことは、解っている。
でも、もう少し。
もう少しだけ、このままでいさせてください。主様。
成功
🔵🔵🔴
メルノ・ネッケル
【SPD】
そう、これは一時の幻影。
分かっとる……分かっとるから。
顔も姿も、声さえもわからへん。けど、必ずいたはずなんや……うちの、おとんとおかんは。シルエットにしか見えへんやろうけど、な。
……うちな、二人がおらんでも立派にやってきたよ。町の人らは親切にしてくれたし、今は世界守って戦っとるんやで。
名前もつけて貰えへんかったけど、それは自分で考えた。よその言葉やけど、変わってて格好良えやろ?
……こんな事言われたら、戻れなくなるかもしれへんけど。
……なぁ、おとん、おかん。
「よう頑張ったな」「えらいな」って……いっぱい、褒めてぇな。
ほんまは、ほんまは……。
ずっと……ずっと、寂しかったんや……!
◆眠り人【メルノ・ネッケル(火器狐・f09332)】
和風の、古い町並み。どこか懐かしいと思ってからうちは気付く。ああ、ここは、サムライエンパイアのあの町だ。うちが育った、町。
うちの目の前には、ぼんやりとしたシルエット。顔も姿も声さえも解らないのに、うちにはそれがおとんとおかんって解る。なんでやろ? 不思議。名前も付けてくれんかった両親だけれど、必ず二人はいたはずだからやろうか。
おとん、おかんって思わず口から言葉が溢れたら、二人が反応するように揺らめいた。何か言ったのかもしれんけど、うちは声を聞いた記憶もないからわからんのや。
「……うちな、二人がおらんでも立派にやってきたよ。町の人らは親切にしてくれたし、今は世界守って戦っとるんやで」
うちは二人に話しかける。またぼんやりとシルエットが揺らめいて、うちにはそれが褒めてくれているように思えて、言葉を続ける。
「あんな、名前もつけて貰えへんかったけど、それは自分で考えた。うちな、今はメルノ・ネッケルって名乗っとるんよ。よその言葉やけど、変わってて格好良えやろ?」
うちに似合いの名前やろ?
「……なぁ、おとん、おかん。『よう頑張ったな』『えらいな』って……いっぱい、褒めてぇな。うち、たくさんがんばったんよ。一人でも、たくさん……」
町の人らは、身寄りのないうちに親切にしてくれた。友達だってたくさん居た。
けれど。けれど、うちの心にはぽっかり穴が空いていて。
ふとした瞬間に寂しさが溢れ出てきてたんや。友達が家族の待つ家に帰る時。町の人らが子供を迎える時。そういう場面を見にしては溢れ出て……けれどうちはそれを見て見ぬ振りをしてた。
「ほんまは、ほんまは……。ずっと……ずっと、寂しかったんや……!」
うちは、ずっとずっと、胸の内に秘めていた思いをおとんとおかんにぶつける。おとんとおかんの声は、それでもうちには届かない。けれど。
二人のぼんやりとした姿が動いて、おかんがうちを抱きしめる。おとんがおかんごとうちを抱きしめて、うちの頭を大きな手で優しく撫でる。まるでずっとここに居てもいいと言うように……。
これは、一時の幻影。
分かっとる……分かっとるから。
けど……もう少しだけ、一緒に居ても良えやろ?
成功
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詩朔・いちこ
姿:今のまま
【SPD】
……ワタシには、ただお一方しか考えがつきマセん。
例え、夢の中であっても……もし、もし。もう一度、お会い出来るのなら。
……ああ、ああ。
よれた白衣、傷だらけの眼鏡。そこから覗く、優しい瞳。
見紛うはずがございマセん。
……お会いしとうございマシた、創造主様……!
ワタシを造って、使命だけ押し付けて、貴方はすぐに居なくなってしまった!
……もっと、もっと、お話がしたかった!褒めて欲しかった!誇りに思って欲しかった……!!
ワタシは、"試作一号"は、ちゃんと務めを果たしてきマシた!ヒトの営みの為、頑張りマシた!
だから、我儘の一つも言わせて下さい!
……もう、何処にも行かないで下さい……。
◆眠り人【詩朔・いちこ(試作一号・f17699)】
大切な人……ワタシには、ただお一方しか考えがつきマセん。
例え、夢の中であっても……もし、もし。もう一度、お会い出来るのなら。
そうしてワタシはスリープモードに入り、夢へと誘われマシた。
気付くとワタシは、箱の中ではなく、何処かの研究施設のような場所にいマシた。薬品の並ぶ棚や、何かの設計図が視界に入り――そして。
……ああ、ああ。
視界に入ったお姿に、ワタシは言葉を溢れさせてしまいマス。思わず口に手を添えマシたが、それは何の機能も果たしてはくれマセん。
よれた白衣、傷だらけの眼鏡。そこから覗く、優しい瞳。見紛うはずがございマセん。
「……お会いしとうございマシた、創造主様……!」
ワタシの大切な、創造主様。
ワタシは思わず創造主様の元へと駆け寄って、その優しい瞳に映ることを望んでしまうのデス。傷だらけの眼鏡の向こうの瞳が、ワタシの姿を映す。それだけでワタシの胸が喜びで震えることを、創造主様はきっとご存知ではないのでしょう。
ワタシを造って、使命だけ押し付けて、貴方はすぐに居なくなってしまったのだから。
「ワタシは、"試作一号"は、ちゃんと務めを果たしてきマシた! ヒトの営みの為、頑張りマシた!」
貴方に誇りに思って欲しくて。
貴方の役にたちたくて。
貴方といつか、もっとお話がしたくて。
ワタシ、"試作一号"は創造主様のために頑張ってきたのデス。
「だから、」
小さな惑いに一度口を閉ざし。
けれど、ワタシは口にしマス。
「だから、我儘の一つでも言わせて下さい!」
貴方がすぐに消えてしまわないように、貴方の白衣を掴んで。
とびきりの我儘を口にしマス。
「……もう、何処にも行かないで下さい……」
例え叶えて貰えないとしても、ワタシは貴方の側にと望んでしまうのデス。
ああ、このまま夢が醒めなければいいのに――。
成功
🔵🔵🔴
ミルラ・フラン
あたしそっくりの顔、真っ赤な目のパツキンチャンネー……
アンタ、顔だけは良い神父を拐って火遊びして、私を産み落として捨てたお母様(クソババア)だね?
……まずいな、姿が生後3ヶ月かそこらだ。意識があるからシュールだけど
私を抱いたまま、虚ろな目でこっちを見るばかりで攻撃してこないのは……やっぱり、あたしの記憶の奥底から呼ばれた存在だからだろうね
ああ、クソ。母親ってものに縁がないからか、胸に抱かれる温かさに抗えねえ。
文字通り手も足も出ない姿だが……
そうか、意識があるなら、意志の力で抗えばいいのか!
思い切り、泣いてやろう!
火がついたように、泣き声がこの空間を埋め尽くすように!!
◆眠り人【ミルラ・フラン(蘇芳色・f01082)】
あたしが夢の中で目を開けると、あたしの体は思う通りに動かなかった。その理由は、すぐに知れた。
あたしは誰かの腕に抱かれた赤ん坊の姿で、あたしを抱いている誰かを見上げていた。あたしの姿は生後3ヶ月かそこらだろうか。ふくふくとした頬と手の赤子そのものだけれど、あたしの意識はそのままあって、ひどくシュールだ。
あたしを抱いている人間をよく見てみる。赤ん坊の視界はぼんやりとしか見えないって聞くけれど、夢の中だからかあたしには相手の顔がしっかりと見えていた。あたしそっくりの顔、真っ赤な目のパツキンチャンネー……アンタ、顔だけは良い神父を拐って火遊びして、私を産み落として捨てたお母様(クソババア)だね?
声を上げたつもりだったけれど、口から溢れたのは「ほやぁああ」って感じの泣き声だった。母親はあたしを虚ろな目で見つめるばかりで何もしてこない。……やっぱり、あたしの記憶の奥底から呼ばれた存在だからだろうね。それとも赤子の扱いが解らないのか。それはあたしにも判断がつかない。
次第にあたしはゆるやかな眠気に包まれだしてしまう。――ああ、クソ。母親ってものに縁がないからか、胸に抱かれる温かさに抗えねえ。あたしの意思に反してこの体は、こんな母親に対しても安らぎを覚えてしまっているのか。悔しくて唇を噛もうにも、歯もまだ生えておらず「えうー」っと声が出るのみだった。
このままだと抗うすべもなく夢に囚われてしまう! 文字通り手も足も出ない姿のあたしは、思考を巡らせる。
……そうか、意識があるなら、意志の力で抗えばいいのか!
思い切り、泣いてやろう!
火がついたように、泣き声がこの空間を埋め尽くすように!!
きっと母親は困るだろう。けど、構いやしない。どうせあたしをこれから捨てる女だ。今ぐらいはあたしに困らされればいいさ!
空気を胸いっぱい吸い込んだあたしは、大音量で泣き始める。
母親はオロオロとうろたえて、あたしをあやそうと必死になっていた。
――あの人も、こうしてあたしの為に必死になったのだろうか。
その答えは、今となっては生涯知りえないことなのだろう。
母親が消えるまで、あたしは声の限りに泣き続けたのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
漆島・昂一
♢
眼を開ければ、自分の部屋にラフな服装。
傭兵をやる以前の普通の生活してた風景。
父さん、母さん、妹―家族全員ぽわっとした性格してて、だから暖かかった。でも俺が面倒なヤツにキレる度に迷惑かけっぱなしだった。
だから唯一、謝れなかったことを言わなくちゃ―
「―俺が死んだなんて、聞かせることになって、ゴメン。」
死亡扱いにされた俺のこと、きっと知らされただろう。家族とはもう会うことは出来ない。
だから言いたかった。それを聞いてほしかった。
反応はきっと、泣いて怒ってせわしない。
いつも通りだ―だから最後に、
「いつもみたいに、また頑張ってこいって、言ってほしい―。」
俺の背中を押してほしい。押して―くれるんだよな?
◆眠り人【漆島・昂一(/邪神結合外殻システム『ABYSS』・f12856)】
眼を開ければ、俺は自分の部屋にいた。正確には、かつての、俺の部屋。
俺の家は父さんと母さんと妹の四人家族で、傭兵をやる以前――俺が家を出る以前は家族四人でこの家で暮らしていた。
俺の姿はその時のものなのだろう。傭兵用の装備は身につけておらず、部屋で寛ぐのに適したラフな格好。俺はその姿のまま部屋を後にして、居間へと向かう。父さんも母さんも妹も、きっとそこに居るはずだから――。
家族は皆ぽわっとした性格で、優しくてすごく暖かかった。俺が面倒なヤツにキレる度に家族には迷惑を掛けてしまっていた。
それなのに俺は……家族に何も告げずに家を出ることになった。
だから唯一、謝れなかったことを言わなくちゃ――。
「――俺が死んだなんて、聞かせることになって、ゴメン」
居間で対面した家族を真っ直ぐに見て、告げる。
UDC生物の襲撃に巻き込まれ、体を改造してサイボーグとなった俺は家に帰ることは出来ず、死亡扱いとなった。その報せは家族へと伝えられ、死んだこととなった俺はもう家族に会うことは出来ない。
だから言いたかった。それを聞いてほしかった。俺の口から、直接。
なんでって、どうしてって、母さんと妹が泣く。
理不尽だと父さんが怒る。俺を奪われたって怒ってくれる。
いつも通りだ。
いつも通りの、俺の暖かい家族。
――だから最後に、お願いだ。
「いつもみたいに、また頑張ってこいって、言ってほしい――」
俺の背中を押してほしい。
家族に応援してもらえたら、俺、もっと頑張れるからさ。
皆、もしかしたら別の事を言うかもしれない。思うかもしれない。今回ばかりはこれ以上頑張らなくてもいいって。
けれど、俺の願いは叶えられる。
この夢の家族は『ニセモノ』だから。
望む通りになるのだから。
それでもいい。なあ、押して――くれるんだよな?
三人が口々に、頑張ってと俺に言う。
母さんと妹は泣いたまま。
父さんは、何かを堪えるように――。
成功
🔵🔵🔴
瑞枝・咲耶
アドリブ歓迎
好きに描写してください
私の逢いたい人は夢でしか逢えない人
社で古びて放置されていた私を拾い上げ再び音を与えてくれた優しい錫色着流しの年若い青年
私が人の姿を得る前に流行病で亡くなってしまった元持ち主
「桜が咲いたんだ」
手をひかれ連れられたのは村外れの満開の江戸彼岸
どうして
私の本体の神楽笛は切り倒されたこの木から作られたはず
神楽笛になってから長い時を経て彼が生まれた
彼がこの木を知るはずがないのに
「何を言ってるんだ、咲耶は人間だろう?僕の恋人だ」
私は人…なのですか?
暖かな腕に包まれる
愛してると囁かれれば、素直に私もと返せる
嗚呼
これが夢でも構わない
彼と同じ時を歩めると云うのなら
甘い夢に、溺れる
◆眠り人【瑞枝・咲耶(名残の桜・f02335)】
「おいで、桜が咲いたんだ」
逢いたいと願っていた人が目の前に居ます。夢でしか逢えない彼が、私に微笑みをくれ、手を差し出してくれているのです。あなたの姿を見るだけで私の胸には春が訪れ、見詰め返すだけで精一杯になってしまうと云うのに。
社で古びて放置されていた私を拾い上げ再び音を与えてくれた、優しいあなた。
私が人の身を得る前に若い身でありがながら流行病で儚く逝ってしまった、愛しいあなた。
あなたは私のかつての持ち主。あなたは私の愛しい方。
あなたが奏でてくれる度、胸が喜びで震えておりました。あなたの側にいられるだけで、私は幸せに溢れておりました。私の気持ちを伝える事は終ぞ叶わず、こうして幾度も夢であなたの背を追ってしまうのです。
錫色の袖を揺らすあなたに手をひかれ、連れられたのは村外れ。満開の江戸彼岸に、私は思わず言葉を零してしてしまいます。
「どうして、私が作られた木が……」
私の本体の神楽笛は切り倒されたこの木から作られ、私がこうして存在する以上この木は既に無い筈で。そして彼が生まれたのは、私が笛となってから長い時を経た後。
あなたがこの木を知るはずがないのに……。
「何を言ってるんだ、咲耶は人間だろう? 僕の恋人だ」
――私は人……なのですか?
彼と同じ時を生き、彼の隣で共に微笑み合いたいと望んでいた夢。それが叶ったと云うのでしょうか……。
満開の江戸彼岸の下、ゆっくりと二人、寄り添って。
気付けば私は、あなたの腕の中。
抱き締められた腕の中、あなたの声と温もりで満たされて。
幸せで、愛おしくて。瞳を閉じてあなたの胸に頬を預ける私の耳に、あなたの囁きが――落ちて。
「咲耶、愛している」
「――私も、お慕いいたしております」
遠い昔からあなたに恋に落ちていた私は、伝えられなかった気持ちを素直に告げました。あなたの微笑む気配がして、それがどうしようもなく愛しくて胸を締め付けます。
愛しいあなたと、幾度も思い描いた幸せなひと時。
――嗚呼、これが夢でも構わない。
あなたと同じ時を歩めると云うのなら、まやかしでもこのひと時に身を任せます。
あなたと二人、甘い夢に溺れましょう――。
成功
🔵🔵🔴
神原・響
♢WIZ判定
目が覚めた時は、8歳くらいの姿になっている。場面は家族が殺されたあの日、10歳の姉が囮になり、自分を逃がそうとしている。
あの時私は何もできなかった、……只々怯えて泣くことしかできなかった。
しかし、今の私は違う。これが夢だとしても、私の後悔の念が見せる幻だとしても……この行いには意味がある!
気が付けば元の姿に戻り、手には使い慣れた二丁拳銃がある。目の前に迫る黒い影に向かい銃を構え撃ち抜く。
夢は何時か覚めるものです。……それに、何時までも止まっていたら姉さんに怒られてしまいますしね。
◆眠り人【神原・響(黒の女王の契約者・f06317)】
濃い、血の臭いがする。焦げた臭いに饐えた臭い。ここは戦場か――いや違う、ここは――。
「響、お姉ちゃんが囮になるから。その間にあなたは逃げて。出来るよね? 響きはもうやっつなんだから」
ふたつ上の姉が、そう言って私の頭を撫でる。ただ泣いて、いやだと駄々をこねるばかりの私に、何度も大丈夫だと告げて無理やりに作った姉の笑顔。くしゃりと歪んで涙が溢れる前に姉が背を向けて駆け出した。行かないでと手を伸ばしても、姉は私を守るために行ってしまう。
そうだ、ここは――かつての私の家だ。そして、叔父に家族を殺された、あの日。
私は家族を守ることも姉を守ることも出来ず、只々怯えて震えて泣くことしか出来なかった。あの時私は何も出来なかった……しかし、今の私は違う。これが夢だとしても、私の後悔の念が見せる幻だとしても……この行いには意味がある!
気が付けば、手には使い慣れた二丁拳銃。子供の身には大きいけれど、ここは夢の世界。充分扱える。
直ぐ様銃を構え、姉が去った方へと弾丸を撃ち込んだ――。
獣のような、何かの断末魔が響き渡り、撃ち抜かれた者はじゅわっと霧散するように消え、後には何も残らない。
(夢は何時か覚めるものです。……それに、何時までも止まっていたら姉さんに怒られてしまいますしね)
あんなにも恐ろしいと思っていたのに、今ではこうして倒せる心の強さも得ている。
――姉さん。私はもう大丈夫です。心配しないでくださいね。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『金糸雀』
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POW : かんたいのはなかご
全身を【背にある金糸雀の翼】で覆い、自身が敵から受けた【敵意】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD : よろこびのとりかご
【鳥籠から影の鳥や蝶】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : まどろみのゆりかご
小さな【鳥が運ぶ、悲しい幻影を見せる鳥籠】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【優しい夢を見せる空間】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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●ひつぎ
――俺は、佐奈のことなら何でも知っている。
本当は、彼女が死んでしまったことも。
本当は、佐奈がもういないんだってことも。
――ここでしか、会えないことも。
喫茶店が、揺らぐ。
突然佐奈の姿が消えて、俺は驚いて席を立つ。
「佐奈!?」
どこからか霧のようなものが出て、視界が悪くなった。
佐奈の名前を呼び続けるも、返事は返ってこない。
鳥籠を手にした長い茶色の髪の少女が、俺の横を通り過ぎようとする。こんな子、さっきまで店にいただろうか。
整った容姿は目を引いて、きっと一度見たら忘れられない。そんな少女。
その少女が、通り過ぎざまに何か呟いた。
『いっしょに眠りましょう』
喫茶店が、俺の夢が、揺らぐ。
*
*
⚠ MSより ⚠
第1章の夢から、邪神・金糸雀の術中です。
第2章が終えるまで、夢に入った時の姿から変更できません。わざわざ金糸雀が自分が不利になるような行為を許すはずがないからです。(ですのでマスコメ※印が関わってきます)
ですが戦う意思さえあれば、戦う力となることでしょう。
また、記載が無かった方は『現在の姿』もしくは『夢の時間軸の姿』だと思って描写しております。その解釈で間違いなければ、新たに記載されなくとも大丈夫です。文字数大事に使ってくださればと思います。
榛名・深冬
♢【2】苛立ち等で勢い余り攻撃の正確性に欠ける
あなたが元凶ですね
とても不愉快な夢
こんな夢、見ていたって仕方が無いのに
こんなものを見せて一体何がしたいのですか?
わたしには必要ないし、
必要としてるひとがいたとしても
囚われたままになんて、させられないから
お節介な事は承知でこんな夢、壊させてもらいます
夢では傍にいなかった筈の燈は槍の状態でいつの間にか手の中に
苛立ちのままに槍を振るうと羽に弾かれる
まるでわたしの怒りに、敵意に反応しているかのように
更に苛立つわたしを落ち着かせる様に燈に熱が篭った気がした
ごめん、ありがとう
燈がいるからもう大丈夫
心を少し落ち着かせユーベルコード使用
今度こそ、串刺しにしてみせる
●
顔のぼやけた大きな存在――深冬の父親が消えて、深冬は夢の中で一人になった。
一人でぼんやりと佇み続ける訳にもいかず、深冬は一人で出口を探そうと歩き始める。どれくらい歩いたのだろう。気付けば、同じ場所に戻ってきていて、また誰かが居る気配。また父親が現れたのか――そう身構えたが、ぼやけた存在ではなく夢の中でも確かな形持った存在――邪神・金糸雀の姿があった。
「あなたが元凶ですね」
深冬の声に、金糸雀が視線を向けて淡く笑む。
「とても不愉快な夢……こんな夢、見ていたって仕方が無いのに」
「けれど、あなたが望んだ夢でしょう?」
「違う!」
「いいえ、違わない」
「違う、違う!」
こんな夢を見せて一体何がしたかったのかと、問うつもりだった。
静かに否定して、こんな夢は壊すと宣言するつもりだった。
けれど静かな金糸雀の声に応じたのは、苛立った声。
わたしは望んでないと心からの叫び声。
認めないと幻は振り払ったのに、静かな声が鋭く刺さる。
「あなたが望んだことよ」
「違うって――言ってるでしょ!」
地を蹴って、深冬は金糸雀との距離を詰める。いつの間にか手には槍――深冬の大切な灯火が握られていて。
苛立ちのままに振るった槍は、軌道が読みやすい。勢いと敵意しか乗っていないならば、尚の事。翼で防ぐまでもないのか、金糸雀は僅かに横にずれるのみで深冬の攻撃を躱す。直ぐ様穿つように差し出される槍も容易に避け、お返しとばかりに深冬は蝶に襲われる。
蝶たちを振り払うように槍を出まかせに振って、何歩も飛び退って後退をする。――と、槍に熱が籠もったような気がした。思わず、手元の槍――燈を見る。
(燈――わたしを落ち着かせようとしてくれているの?)
まるで怒りや敵意に反応しているかのように感じるその熱に、深冬は短く息を吸い込んで。
(――ごめん、ありがとう。燈がいるからもう大丈夫)
血を流す腕で、燈を一度抱きしめて。
大きく深呼吸をして、心を沈め。
そして、再度槍を構えて金糸雀へと向き直る。
「今度こそ、串刺しにしてみせる」
相棒の熱を近くに感じながら、深冬は力強く地を蹴った。
苦戦
🔵🔴🔴
糸縒・ふうた
◇1
今日は何をしよう?
お日様と共に目覚めた朝
大きく伸びをして、顔を洗って、朝ごはんを食べる
お洗濯したいから手伝って
母さんのお願いに応じて重い洋服や桶はおれが運ぶ係
ごしごしふたりで洗って他愛のない話をして
洗濯物を干していたら、村では見慣れぬ女の子
この場所には不釣り合いな格好
なんだか強く感じる違和感
ズキズキと痛む気がする頭に手をやって
足元をみれば揺れる世界と歪む身体
傍らのかぞくが心配そうに見上げていて
頭を撫でようと伸ばした左手に光る、もの
――これは?
そうだ、これはおれがみつけた灯
ふたりで交わした、約束と、誓いの証
この歳のおれには、無かった物
……あれ、おかしいな
おれは今、一体幾つだっけ?
●ふうた
太陽の光が窓から差し込んで、ふうたは大きく伸びをして寝床から起き上がる。母に顔を洗って来なさいと言われるまでもなく顔を洗って、三人揃った食卓でおいしい朝ごはん。
今日も”いつも”の朝が始まった。さあ、今日は何をしようか?
「お洗濯したいから手伝って」
重い洋服や桶を運んで、ふうたもお手伝い。「泡がついているわ」と頬を優しく拭ってもらったりなんかして、笑い合いながらごしごしふたりでお洗濯。
ひらりと蝶が飛んで、目で追った先。そこには村では見慣れぬ女の子が居た。ふわふわの茶色の髪を踊らせて歩く、鳥籠を持った黒いドレスの女の子。緑深いこの場所には不釣合いで、突然の違和感が胸に飛来してふうたはぎゅっと胸を抑えた。
ズキズキと、頭が痛む。
「どうしたの?」
尋ねる声は、傍らに。ふうたが「あそこに……」と女の子へ指をさしても、ふうたの母親には見えていないのか、首を傾げるばかり。
決定的に、何かがおかしい。
(ああ、頭痛が……)
酷く頭が痛い。痛む頭に手をやって、足元へと視線を落とす。ぐらりと世界が揺れて、視界に映る足が歪んで。世界から排除されるような、”いつも”の世界に認めてもらえないような、そんな感覚が襲ってくる。
(――父さん、母さん)
心配そうに見てくる傍らの家族が、頭を撫でようとふうたに手を伸ばす。その左手に、ふうたは光るものを見つけて瞠目した。
――これは?
(そうだ、これはおれがみつけた灯。ふたりで交わした、約束と、誓いの証)
息が、上がる。
気付きたくない。”いつも”じゃないなんて、”いつも”がもう失われたなんて――気付きたくない。
気付きたくない、ずっとここに居たい。父さんと母さんとずっと三人でここで――!
そう、思っているのに。一度過った違和感が拭えなくて。
――この歳のおれには、無かった物。
気付いてしまう。
(……あれ、おかしいな。『この歳のおれ』ってなんだろ? おれは今、一体幾つだっけ?)
ぐらり、ゆらり、世界が歪む。
父さんと母さんが、消える。
「いいのよ、ここに居ても。さあ、鳥籠に入りましょう? また見せてあげるから」
知らない女の子の、声がした――。
成功
🔵🔵🔴
瑞枝・咲耶
◇2
私は彼のことを知っているようで知らない
彼は人で、私は笛で
言葉を交わすこともなければ
心を通じ合わせることもない
私を手に取る前のことも
子どもの頃も、何も知らない
だって、私は道具でしかなかったから
寂しい
ええ
夢から醒めてしまえばもう貴方とは別離なのですから
咲耶はきっと寂しいのです
私は笛で、彼は人
夢の彼は私が知る彼でしかなく
私の想いから生まれたに過ぎない彼を彼と呼ぶのも烏滸がましい
だからこそ、私は戦います
彼が与えてくれたこの笛の音で邪を祓いましょう
ありがとうございます、金糸雀様
甘くて、素敵で、優しい夢でした
そして、さようなら
恋い慕う貴方様
咲耶は、これからもあなたの音を決して忘れません
未来まで、ずっと
●
江戸彼岸の下、夢が叶って。最愛の彼の腕の中が愛しくて、思いが通じ合っていることが嬉しくて、こうして腕の中に閉じ込めてくれる貴方のことが恋しくて。永遠にこうしていたいと願った。例えまやかしと言え、甘い夢に溺れて居たいと、そう願った。
(――けれど)
咲耶は目の前の青年の事を、知っているようで知らない。咲耶が手に取る前、彼がどのように過ごしていたかも、子供の頃の姿も、何も知らない。咲耶は道具でしか無かったから、何も知らない。教えてと彼に願うことすら出来ていなかったのだから。
咲耶は笛で彼は人だから、言葉を交わすことも無ければ、心を通じ合わせることもない。本物の青年は、咲耶と想いが通じあう姿など考えたこともなかったことだろう。
胸に過る思いに、青年の腕の中で咲耶は体を震わせる。
「どうしたんだ、咲耶。寂しいのか?」
「寂しい? ……ええ。咲耶はきっと寂しいのです」
どうしようもない事実を知っているからこそ寂しくて、胸が震える。夢から醒めれば二度と青年とは逢えない。永遠の別離が、そして二度目の別離が訪れる。
けれど所詮目の前の彼は、咲耶が知る彼でしかなくて――。
(私の想いから生まれたに過ぎない彼を彼と呼ぶのも烏滸がましい)
そう、思うのに。何故この胸はこうまで震えてしまうのだろう。
寂しくて、悲しくて――愛おしくて、涙が溢れてしまいそうになる。
ひらり、ひらり。影の蝶が舞う。
すぐ傍らで見詰める、少女の姿を目に留めて。
「ありがとうございます、金糸雀様。甘くて、素敵で、優しい夢でした」
咲耶は指先で目に溜まった涙を払い、懐から笛を取り出して金糸雀へと微笑んだ。
「そして、さようなら。恋い慕う貴方様。咲耶は、これからもあなたの音を決して忘れません。――未来まで、ずっと」
青年の胸を軽く押し、咲耶はそっと青年から離れる。
愛しくて、苦しくて。
恋しくて、寂しくて。
青年が消える姿だけは見ていたくなくて、そっと瞼を閉ざしてその姿を隠し。
神楽笛を横に構えると、咲耶は真っ直ぐに金糸雀へと向き直る。
彼が与えてくれたこの笛の音で邪を祓いましょう。
貴方の居ない現実に、醒めるために――。
大成功
🔵🔵🔵
メルノ・ネッケル
【2】
影のはずのおとんとおかんの温もりは、確かにそこにあって。
「ずっとここに居てもいい」そう言ってくれているようで。
……でもな。やっぱりうち、行かないかん。
うちの街を、世界を守りたくて、うちは戦ってきたんや……だから。
夢の味を知ってしまったら、直ぐには割り切れない。
手が震えて、引き金なんてとても引けない。
けれど、うちには妖狐の炎が……二人から受け継いだ、血の力が。
震える手を握りしめ、放つのは『フォックスファイア』
うちな、二人がおらんでも立派にやってきたよ。
だから、だから!
これからも、立派にやっていくから!
ずっと、ずっとうちを、見守っていてくれ……!
邪神・金糸雀!甘い夢は、もう終わりや!
●
ぼんやりとしたシルエットだが、両親の温もりは確かにそこにあった。
これは一時の幻影で、メルノは両親の本当の温もりも知らない。けれど、それでもその温もりが『ずっとここに居てもいい』と言ってくれているように思えて……甘えてしまいたくなる。両親の温もりに守られる、小さな子狐に戻りたくなる。こうして二人に甘えて、ずっと守ってもらえていたら、どんなに幸せだろう。
(……でもな。やっぱりうち、行かないかん。うちの街を、世界を守りたくて、うちは戦ってきたんや……だから)
ひらりと視界に蝶が舞う。ふわりひらりとどこからか飛んできて、メルノの視界を横切ろうとしていた。
抱きしめてくれている父親の腕に手をかけて、――離す。
(おとん、ごめん)
抱きしめてくれている母親の腕に手をかけて、――離す。
(おかん、ごめん)
夢の味を知ってしまったから、直ぐには割り切れなくて。手が震えて引き金なんてとても引けないし、こうして二人の腕を離すのだって決意に震えて、悲しみに震えて――堪らない。この腕を放してしまったら、二度と逢えないかもしれない。
けれど。
(うちは、猟兵で――)
ぽっ、と空気が燃える音がして、メルノの周囲に浮かび上がる。
両親から受け継いだ力、妖狐の炎。
ぽ、ぽぽぽぽぽぽぽ。
数多の炎が浮かび上がり、空気を食らってゆらゆらと揺れる。その揺らめきは、メルノの心を表すように、ゆらゆらゆらゆら揺れて。
(二人がおらんでも立派にやってきた姿、見せんとな……!)
ひらりふわりと飛ぶ蝶の先、そこにいつの間に現れたのか茶色の髪の少女の姿。少女――金糸雀は手にしていた鳥籠を影の鳥に運ばせてメルノに新たな幻影を見せようとするが、心を奮い立たせたメルノにそれは通用しない。
メルノに振り払われた鳥籠がカランと音を立てて転がり、金糸雀は不思議そうに首を傾げた。
「邪神・金糸雀! 甘い夢は、もう終わりや!」
メルノは震えていた拳を強く握り締め、周りに浮かんだ沢山の炎を金糸雀へと飛ばした――。
――おとん、おかん。これからも、立派にやっていくから!
――ずっと、ずっとうちを、見守っていてくれ……!
大成功
🔵🔵🔵
皆城・白露
(アドリブ歓迎です)
【3】(前章での【群狼の記録】使用の代償で、負傷はしている)
…見物に来た、ってところか?丁度いい
逃げられると思うな。オレは今、機嫌が悪い
【群狼の記録】を使用、【2回攻撃】【カウンター】を駆使し
影の鳥や蝶を振り払い、左右の黒剣で苛立ちに任せ攻撃を叩き込む
(身に宿す幻影は、先程の実験体仲間達の成れの果て
彼らがオレを蝕みながら力を貸すのは、一人生き延びたオレへの罰と、彼らがもう他のどこにもいないという証明
そんな事はわかってる…だから、あんな夢も、オレに現実を突きつけるだけだ
甘い夢なら溺れるだろうって、その考えが胸糞悪い
だったら何故ここに来たのかって?…決まってる、叩き潰すためだ)
●
二人の姿が掻き消えた実験室の中、白露は一人で立っていた。心は血を流し、自身の体もユーベルコードを使用した影響で流血してしまっている。
二人へと振り下ろした爪が、只々虚しく疼いた。
そこへ、長い茶色の髪の少女が視界に入る。少女は実験室の外、廊下を歩き去ろうとしている。可愛らしい黒のドレスを着て鳥籠を揺らしながら歩く少女の姿は、この醜悪な実験と秘匿の白に染まる場には不釣り合いだった為、とても目を引いた。
(………見物に来た、ってところか?)
少女――邪神・金糸雀は確かにチラリと実験室内を一瞥して、そして何事も無かったかのように歩を進める。鳥籠をゆうらり揺らし、次の夢にでも行くのだろう。
直ぐ様白露は実験室を飛び出して、歩み去る少女の小さな背へと差し迫る。
「――オレは今、機嫌が悪い」
爪状の剣を、金糸雀の背に振り下ろす。
――ガキィン。
いつの間に振り返ったのだろう。金糸雀の鳥籠が鈍い音を立てて爪状の剣を受け止め――払う。鳥籠の中の影鳥が甲高く鳴き、バサバサと羽撃いた。
「あなた、しあわせな夢はきらいなの?」
「ああ、嫌いだ、こんな夢。反吐が出そうだ」
そうだ、あんな夢はオレに現実を突きつけるだけ。
白露は再度《群狼の記録》を使用する。身に宿す幻影は、灰狼と黒狼――さっき会った実験体仲間たちの成れの果て。白露の体を蝕みながらも力を貸してくれる。
元より体は血を流しているが、そこに新たな鮮血が加わった。
この痛みは、一人生き延びた白露への罰。
この痛みは、彼らがもうほかのどこにもいないという証明。
世界中を探してももう存在しない彼らの嘆きと悲しみと憎しみを背負って生きると決めたのに、許されると思っていないはずなのに、甘い夢を見てしまった己への罰。
いつの間にか開いた鳥籠からひらりと飛来する蝶を右の爪状黒剣で斬り、影鳥を左の黒剣で斬り伏せて。
「どうして? 甘い夢はあなたを救うはず」
「は。その考えが胸糞悪い」
血が、ぼたりと落ちる。
影の鳥が鋭い嘴で頬肉を抉るのを防ぐように右手を動かして――陽動を入れ、それに構わずに左右の剣を叩き込む。
幾度も、幾度も。明確な殺意を篭めた爪が、金糸雀に届くまで。
「だったら、何故」
苛立ち任せな攻撃に、困惑したように金糸雀の花唇が震える。
「……決まってる、叩き潰すためだ」
大成功
🔵🔵🔵
ニコライ・ヤマモト
♢【2】
うつらうつら。俺が猫になっていて、誰かが頭を撫でる夢。
それでも俺の主人は分からない。『俺たち』ではなく『俺だけ』の記憶は酷く曖昧で。
恩も恨みも帰し終えて独りになったのに、永遠にどこにも帰れないまま彷徨えと…。
夢とはいえ人を害した俺への罰なのだろうか。
銃の狙いは定まらない、まだ猫の鳴き声が聞こえる気がする。
…転寝している場合ではないぞ、ここへは邪神を倒しに着たはずだ!
人を守るために生きる正しい猟兵の俺はこんな惨めじゃないはずだ!
【怪異為す魔除け厄喚び幸運の獣】に託す。コイツはお前に返そう、受け取ってくれ。
8対の眼8本の尾、裂けた口から無数の銃を覗かせた異形。
寂しい、愛しい、永遠に縋る――
●
夢と夢との狭間で、夢を見た。
俺が猫になっていて、誰かが頭を撫でる夢。
近くに主人が居てくれるのに、それでも俺の主人は分からない。『俺だけ』の記憶は酷く曖昧で、俺が帰る場所は分からない。
永遠にどこにも帰れないまま彷徨えと……夢とはいえ人を害した俺への罰なのだろうか。
●
目を開けば、ニコライはまだ人の身。胸元には『山本』の名。
――にゃぁん。
恩も恨みも帰し終えて独りになった筈なのに。まだ猫の鳴き声が聞こえる気がして見渡した先、そこに踊るように揺れる茶色の髪。黒衣のドレスを纏った少女がニコライを見ていた。
「ねえ、あなた。お家に帰りたい? わたしが帰してあげましょうか?」
甘い声が、誘うように響く。帰れる夢を見させてあげると。
けれどそれは夢で、ニコライが本当にあの人の元へ帰れる訳ではない。
「俺はここへお前を倒しに来たんだ。帰る為に来たわけじゃない」
銃口を金糸雀に向けるが、金糸雀は怯まない。
「そう、残念。鳥籠で猫を飼うのも楽しそうだったのに」
銃口を、敵意を向ける。けれど、金糸雀は定まらない銃口をチラと見るだけで、すぐさま自身に害を及ばさなければ相手をするつもりがないのだろう。また、ニコライの《怪異為す魔除け厄喚び幸運の獣》はニコライ自身が瀕死にならねば発動できない。使用するならば、相手に瀕死にさせられるか自身で瀕死になるような手段を考えておくべきであった。
金糸雀は来た時もそうしていたのだろう。ふわりと墨が水に溶けるように、夢の中の景色に溶けるように消えた。
完全に金糸雀の気配が消えてから、ニコライは銃を下ろす。
それでもまだ、猫の鳴き声が聞こえる気がした。
――寂しい、愛しい。そう想って。
永遠に縋ろうとするのは、誰――?
苦戦
🔵🔴🔴
詩朔・いちこ
【3】
なんて、甘美な夢。
まやかしだと分かっていても、ずっと縋っていたくなる。
……離れたくない。
覚めたくない、覚めたくなんてないのに。
戦う為に造られたこの躰は、貴女の存在を許さない。
貴女がヒトに仇成す邪神であるならば、倒さなければならない。
……それが、あの方に与えられた、ワタシの使命だから……!
自分で言った我儘を、自分で破ろうとするなんて……ワタシは何処まで我儘なのデショうか。
……けれど、それが"試作一号"たるワタシ。
あの方の言い付けを守るため、ワタシはこの夢を否定しマス!
『魔導術式・雷迅砲』、【全力魔法】と【属性攻撃】にて全開放射!
ワタシの全てをかけて、この夢を、貴女を倒しマス……!
●
――創造主様のお側に居たい。
いちこは心からそう願っていた。
(まやかしだと分かっていても、ずっと縋っていたくなる。……離れたくない)
手の届く距離にずっと居てほしくて、この夢が現実だったらと何度も願う。覚めたくない、覚めたくなんてない。なのに。
――ああ。
邪神は――美しい少女の姿で微笑むのだ。
いちこは創造主とずっと一緒に居たかった。けれど、それもおしまい。邪神の姿がその瞳に映ってしまったのなら、いちこは役目を果たさなくてはならない。戦う為に造られたいちこの躰は、邪神の存在を許さない。彼女がヒトに仇成す邪神であるならば、倒さなければならない。
「……それが、あの方に与えられた、ワタシの使命だから……!」
自分で言った、とびきりの我儘。
願わずにいられなかった、とびきりの我儘。
(その我儘を自分で破ろうとするなんて……ワタシは何処まで我儘なのデショうか)
けれどいちこはこれが夢だと知っていて。
目の前に倒さなければいけない邪神が居て。
それを倒さないのは”ワタシ”じゃない。"試作一号"たるいちこじゃない。
「あの方の言い付けを守るため、ワタシはこの夢を否定しマス!」
「ここに居れば、あなたはしあわせなのに?」
「ワタシの幸せよりも、ワタシには大切なものがありマス!」
「そう、残念」
邪神・金糸雀が手にしていた鳥籠の戸が開き、ひらりばさりと蝶と鳥が飛び立つ。
いちこは金糸雀と影の蝶と鳥たちを真っ直ぐに見つめ、《魔導術式・雷迅砲》を発動させた。蒼いレーザーは鳥を穿ち、蝶を焼き。金糸雀の髪をジリと焼いて焦げ臭い匂いを辺りに満ちさせて。
「ワタシの全てをかけて、この夢を、貴女を倒しマス……!」
"試作一号"として、いちこは奮闘するのだった。
創造主が与えてくれた、使命のために。
大成功
🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
🌸◇
3
これが両親からの愛
父上、母上
あなた達があたしを認めていたらこうだったんでしょうね
誘七家の跡取りとして
何不自由なく愛に囲まれて
良家のお姫様を妻にしたりして
屠桜を手に取ることもなく
生命を屠る悦楽に溺れることも
苦悩することも
愛に飢える事無く育っていたでしょう
ずっと見ていたくなる甘い夢
でもここにいたら
あたしの可愛い人魚に出会えないわ
どんなに甘くてもそんなのいらない
夢は夢よ
偽りの愛など屑も同じ
生憎様
あたし乳離れ出来てない餓鬼じゃないの
攻撃は見切り躱し
衝撃波を乗せ壊華を放ちなぎ払い
金糸雀を斬るわ
あたしを囚えられる鳥籠はあの子だけ
何度でも孤独と絶望に染まる血色の道を選ぶわ
その先であの子と出逢えるから
●
両親が愛してくれていて、櫻宵を認めてくれていたら、きっと櫻宵の日常はこうだったのだろう。
誘七家の跡取りとして何不自由なく愛に囲まれて、良家のお姫様を妻に娶ったりして。良家の子息として幸せに暮らしていたのだろう。
屠桜を手に取ることもなく、生命を屠る悦楽に溺れることも、苦悩することも、愛に飢える事無く育っていたことだろう。
けれどその生き方をしていたら、櫻宵は愛しい人魚に出会うことは出来なかった。ここで甘い夢に浸っていても、可愛い人魚に会えはしない。
そう、これは偽りの愛。真実の愛は、既に知っている。揺らいで、見栄を張って、情けない時もあるけれど、傍らの人魚がいつも愛を歌ってくれているではないか。
いつの間にかふわりと現れた少女――金糸雀の姿を見つけて、鋭く睨む。
甘い夢は、もうおしまいだ。
「お生憎様。あたし、乳離れ出来てない餓鬼じゃないの」
櫻宵は刀を振るい、《壊華》を放つ。しかし、衝撃波が届くよりも先に金糸雀は自身の翼で体を覆い、櫻宵の敵意と力を吸収して。
ふわり。舞うように翼を広げれば、強化された蝶と鳥が櫻宵を襲う。
「――ッあ!」
飛んできた蝶を避けようと半歩横にずれた先、鋭い嘴が目を狙う。鳥は柔らかなもの――目や内臓を好む。影の鳥は花霞の瞳を美味しそうに啄み、ゴクリと飲み込んで甲高く鳴いた。同時に、先の猟兵との戦いで負っていた金糸雀の小さな傷が癒える。
愛しい人魚が己の目を見て表す言葉が頭を過る。それが失われたら、人魚はどんな顔をするだろう。
――けれど、これは夢。
夢は夢だと何度も念じた。夢から覚めて元の姿で、必ず愛しい人魚のもとに帰るのだと。
「そんなに会いたいなら、会わせてあげるわ」
だからいっしょに眠りましょう。わたしの鳥籠の中で、しあわせをあげる。
鳥籠を揺らして、金糸雀が微笑む。声は甘く、魅惑的だ。
けれど櫻宵は、もっと甘く魅惑的なものを知っている。愛しい人魚が歌う歌。
「……あたしを囚えられる鳥籠はあの子だけ」
血を流し、開かぬ目はそのままに、櫻宵は刀を構える。
(何度でも孤独と絶望に染まる血色の道を選ぶわ。その先であの子と出逢えるから――)
「……ふぅん、つまんない」
影の鳥を撫でた金糸雀が呟く。
バサリと羽根を広げた鳥に、《壊華》を放つ。しかし相性が悪いのか、櫻宵の攻撃はなかなか当りはしなかった。
鳥を倒し終えた時、金糸雀の姿は――夢を渡ったのだろう。幻だったかのように、茶髪の少女は忽然と消えていた。
苦戦
🔵🔴🔴
落浜・語
♢、2
僕の姿は袖に、意識は高座の主様の手元に。僕だけに許される、特等席。今日のネタは、死神。仕草オチのこの噺、主様が倒れて、終わる。起き上がってお辞儀をすれば拍手とともに、幕が下りる。
他人の目があるからと、いつものように視線だけ向けて楽屋に戻っていく主様を、僕はただ見送った。
…最期の噺は、主様が最期に高座にかけたネタは、死神だった。それを最後に、ここへは戻らなかった。
だから、これは夢だ。依頼の最中で、今、主様の背を追ってはいけない。
カラスの鳴き声に、楽屋に背を向け高座へ。
お前も小さめなのは俺のせいか。やるぞ、カラス。この夢から早いところ起きないとな。
カラスと連携しながら、追い込み戦う。
●
「それがお前ぇだよ」
寄席の高座から、語の主が声を響かせる。
ごくりと唾を飲み込む音が聞こえてきそうな程、しぃんと静まり返った客席。
舞台袖に姿を残して意識だけを高座の主の手の内に残した語は、語だけに許された特等席から主の寄席を聞いていた。
語の本体を蝋燭に見立てた主の手が、ゆうらり揺れる。
「もうすぐ消えるよ、ヒヒヒ、消えるよ、消える、消えるよ、ヒヒヒヒ……」
今日のネタは、死神だ。語の主の演じ分けは上手い。観客達が食い入るように高座を見つめ、まるで死神に魂を奪われる人間のように魅入られてしまっている。
落語・死神。それは、語の主が最期にかけたネタでもあった。それが、最後。主は寄席へ戻ることは無かった。
高座で語る主の断末魔の声。ぱたりと倒れる、主。
「――――――ほら、消えた」
痛いほどに満ちる静けさの中に響く、落ち着いた死神の声。
語の主が起き上がりお辞儀をすれば、割れんばかりの拍手と共に幕が降りる。座布団から静かに立ち上がり、視線だけを舞台袖の語に寄越して楽屋へと下がっていく姿を語は見送る。
(これは夢だ。依頼の最中で、今、主様の背を追ってはいけない)
楽屋へと戻る主に背を向け、高座へと向き直るとそこに――。
いつの間に現れたのだろう、邪神・金糸雀が不思議そうに客席と高座を眺めていた。
語の傍らに、首回りが白いカラスが舞い降りる。心強い相棒が夢の中でも駆けつけてくれたことに安堵の吐息を零した。
普通サイズのカラスは、幼い姿からするととても大きく見える。《烏の背中》を使用することで一回り大きくなったが、普段の大きさからすると小さい。けれど、頼りになる相棒だ。
「やるぞ、カラス。この夢から早いところ起きないとな」
金糸雀の鳥籠からふわりと飛ぶ鳥と、語を乗せたカラスが交差する。
ひらりと視界を覆う蝶に、カラスと鳥たちの甲高い鳴き声。
カラスの背から飛び降りた語は立ち去ろうとする金糸雀へと『奏剣』を振り下ろし……僅かな手応えを残して金糸雀はその場から消えたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
クレア・ワイズスノー
(3:通常通り)
心に穴が空いたような…。
どうして、大切な人を真似るのか。
どうして、夢の世界で心を溺れさせるのか。
「どうして…。」
小さく呟いた。
初めから答えは聞いていなかった。
きっと、知りたくもないことだから。
…こんな悪夢、絶対に終わらせないと。
…だから、
私の思いに応えるかのように、「鍵」が現れた。
全てを拒むような魔力が、私だけを受け入れてくれた。
初めて、少女の方を見る。
「さようなら。」
それだけを伝えるために。
私は鍵を手にとって、
意識が、鍵に吸い込まれるように、
消えた。
残された人形が動き出す。目の色や、魔法剣が淡紅色に変わる。
先程の少女とは違い、機械的に目の前の「敵」を見る。
完全に、壊すために。
●
「どうして……」
心にぽっかり穴が空いたような悲しい気持ちで、クレアは唇を震わせる。
どうして、大切な人を真似るのか。
どうして、夢の世界で心を溺れさせるのか。
クレアには解らない。知りたくも、ない。
クレアのマスターが居たら、答えを教えてくれるかもしれない。けれど偽物のマスターは、ついさっき光の剣で切り裂いて消えた。クレアの手で、クレアの意思で。
(……こんな悪夢、絶対に終わらせないと。だから……)
ぷかり、と。”ソレ”は突然現れた。
ソレは、『鍵』。クレアの思いに応えるように現れた、鍵だ。
異常と言っていいほどの、全てを拒むような魔力が、鍵から溢れる。可視出来ていたならば、怨嗟のように絡めて畝って、それでいて何者も寄せ付けようとしない、力が見えていただろう。
いつの間にか現れた茶色の髪の少女――邪神・金糸雀は、クレアを見てゆるく首を傾げる。何故この子はこんなにも悲しげなのだろう。そう思っているのかもしれない。優しい鳥籠の中で眠らせてあげなくては。
そうして鳥籠を揺らす少女へと視線を向けたクレアは――
「さようなら」
小さな別れをひとつ告げ、鍵へと手を伸ばす。
その鍵がクレアだけを受け入れてくれることを、心のどこかで理解して。
指先に鍵が触れた瞬間、クレアの意識は鍵に吸い込まれるように、閉ざし――消えた。
残された人形の体が動き出す。先程まで心を揺らしていた少女はどこにも居ない。。『クレア』は、もう居ない。
『クレア』とは違う、感情のない淡紅色の目が金糸雀へ向けられる。そこに映るのは完全に『敵』という認識。ただ、それだけ。
淡紅色の魔力に染まった機械人形は、動き出す。
眼前の敵を完全に壊す、ただそれだけのために。
大成功
🔵🔵🔵
漆島・昂一
【3】♢
〈それで、おままごとはお終い?〉
…口の減らない相棒の声が聞こえた、気がした。
独りよがりな俺の夢には結局俺一人きりのまま、お目当ての邪神が現れた。
ニミュエはいねえ、ABYSSは使えねえ。さてどうするか―
―なんて考えもする間もなく、【いつもの最悪の癖】で、敵に【グラップル】で殴りかかる。
どれだけ翼に覆われ力が増そうが、俺の怒りも力もとめどなく溢れる。
削り合いだ。心も体も尽き果てるまで。
―夢に耽ってみたところで、失くしたことの輪郭が強まるばかりだった。
こんな思い何人がした?何回繰り返した?
誰かを救っている気でいる姿の前で、そんなことを思うだけで―
「俺は―頭がおかしくなりそうなんだよ!!」
●
昂一が望んだ通り、家族は応援してくれた。
全て昂一が望んだ通り。それで、それで。
『それで、おままごとはお終い?』
……口の減らない相棒の声が聞こえた、気がした。
独りよがりの昂一の夢。そう自分で思った時には家族の姿はいつの間にか消えていて、代わりに一人の少女の姿が廊下への戸の近くに現れていた。
(こいつが……お目当ての邪神か)
今の昂一には支援AIである『ニミュエ』も邪神結合外殻システム『ABYSS』もない。
さて、どうするか――なんて考える間も無く、
(――『面倒』だ)
ひと度そう認識したならば、ふつふつと怒りが湧いてくる。
昂一の、《いつもの最悪の癖》だ。家族に”それ”で幾度も迷惑を掛けたのに、昂一の癖はそう簡単には治らない。
目の前の少女を力の限りに殴りつけたが、人を殴った感触は無く、ふわりと何か柔らかいものに触れる。間近にあるのは、金糸雀の羽根。翼で身を覆って金糸雀は身を護り、同時に戦闘力を向上させた。
(――夢に耽ってみたところで、失くしたことの輪郭が強まるばかりだった)
昂一の怒りがとめどなく溢れ、力が増す。けれどその分だけ、また金糸雀の力も増して。
「こんな思い何人がした?」
昂一が殴る。
「何回繰り返した?」
殴る、殴る。
(誰かを救っている気でいる姿の前で、そんなことを思うだけで――)
「俺は―頭がおかしくなりそうなんだよ!!」
昂一の怒りが、敵意が強いほど、金糸雀の攻撃力も防御力も増す。けれど反撃の機会を与えずに殴り、そして組み技を入れれば金糸雀は防戦一方となる。戦闘力向上に力を回しさえしなければ、羽根が傷ついても昂一から生命力を吸収して即座に回復し……いつまで経っても平行線だ。否、最終的に生命力を吸収され尽くして倒れるのは昂一だろう。
しかしそれは、長丁場となる。
付き合うだけ無駄だと判断した金糸雀が姿を消すまで、昂一は一方的に怒りをぶつけるのだった。
成功
🔵🔵🔴
神原・響
2: ♢
影は消え去り、霧が辺りを包み私の視界を覆う。
「さて、これで何かしら変化が起こるといいのですが」
辺りを見渡し、何か変化がないか調べるため霧の中を歩きだす。
子供の体では歩幅も、視界も何時もより制限されてしまう。
しかし善悪の意識は兎も角として、この夢は悪趣味だろう。会えない人に会え、助けられなかった人を助けられる。優しい夢だ、優しくて酷い夢だ。時計の針は進む、否応無しに。私達は進んでいく、過去を悔やむよりも未来を幸せにするために。それが残された者のやるべき事だ。
だから……
「だから、これが私の答えです……金糸雀」
私はそう言って、いつの間にか隣で話しを聞いていた金糸雀を銃で撃ち抜いた。
●
小さな両手で握った銃を下ろす。
幻は消え去り、8歳の響が暮らす家の中だと言うのに霧のような靄が辺りを包み始める。みるみる広がって視界を覆い、家具も何も――血溜まりも見えなくなった。焦げた臭いも饐えた臭いも薄れて消えて、無臭となった。
「さて、これで何かしら変化が起こるといいのですが」
辺りを見渡すが霧で真白に染まった空間は見通しが悪く、何かしらの変化を調べるために響は霧の中を一人で歩き出す。幼い体では歩幅も視界も、何時もより制限されているため、普段よりも慎重に歩を進めていった。
(しかし善悪の意識は兎も角として、この夢は悪趣味だろう)
深い霧の中を歩みながら、響は思考する。
会えない人に会え、助けられなかった人を助けられる。けれどそれは夢で、現実で目覚めればなにひとつ変わることはない。会えない人は会えないまま。助けられなかった人は助けられなかったまま。
夢は優しく、けれど優しくて残酷な夢。心底それを望んでいた者は、夢に囚われると知らされていたとしても、そう望んでしまう。夢が醒めなければよいのにと。夢から醒めなければ心を蕩かし、夢から醒めれば現実を突きつける。
「――時計の針は進む、否応無しに。私達は進んでいく、過去を悔やむよりも未来を幸せにするために。それが残された者のやるべき事だ」
――だから。
ふわり、影の羽根が舞い落ちる。
「だから、これが私の答えです……金糸雀」
言葉と同時に響は銃口を隣へ向ける。いつしか言葉となって零れ落ちていた話を、いつの間にか隣で聞いていた金糸雀へと。
そのまま引き金を引き、金糸雀を撃ち抜――――けなかった。
鳥の鳴き声が、間近で聞こえた気がした。
霧だと思っていたそれが、形を変える。白から黒に、霧から鳥に。
たくさんの。たくさんの鳥たちに、響は囲まれていた。
鳥の鳴き声が、間近で聞こえる。
喉を、腹を、目玉を狙う、鳥たちの鳴き声が。
視界は黒に、塗りつぶされた――。
苦戦
🔵🔴🔴
リル・ルリ
◇2
-リル!今日は元気そうだな
黒猫の君は
座長の目を盗んで毎日僕に会いに来て
取り留めのない話をする
いつしか楽しくなって
-外には黒以外の花もあるんだってさ
見に行こう
2人で密かに編む脱走計画は小さな希望
欠片みたいな幸せの一時
でも
長くは続かない
打ちつけられる鞭
飛び散る鮮血
悲鳴に怒声
怖くて動けない
君が動かなくなるのを
水槽の中から見る事しかできない
最期
君の唇が紡ぐ言葉が幻に掻き消える
思い出した
僕は籠からでる
自由にならなきゃ
君が望んだ事
叶える
聲を張り上げ歌う「泡沫の歌」
夢を蕩かす氷の海と嵐
全て吹き飛ばす
もう僕は無力じゃない
君に報告がある
黒以外の花をみせる
淡い薄紅、綺麗な僕の希望を
だから
寝てる場合じゃないんだ
●
リルの水槽前に、黒い三角耳がぴょこりと踊った。
ワッと驚かすようにわざわざ横から顔を出して、黒猫の彼が明るく話しかけてくる。
「リル! 今日は元気そうだな」
座長の目を盗んで、彼は毎日リルに会いに来てくれる。見つかれば彼は折檻されるだろうに、「だからって会いに来なかったらリルが寂しくなるだろ」と明るく笑って。
毎日、取り留めのない話をする。顔を逸していたリルもいつしか楽しくなって、彼が顔を見せに来てくれる時間が堪らなく待ち遠しかった。
「外には黒以外の花もあるんだってさ。見に行こうぜ、リル」
「僕も、いけるの?」
「ああ、いけるさ。いつか一緒に逃げようって、ここから出してやるって言ったろ?」
水槽の中と外、硝子に額を押し付け合って何度も話した。ふたりで密かに編むのは脱走計画。リルと彼の、小さな希望。
幸せなんて手のひらから溢れていくだけだと思っていたのに、指の隙間に引っかかって残った欠片みたいな幸せのひと時。彼がリルにくれた、小さな幸せ。
けれど、それは長くは続かない。
打ち付けられる鞭。飛び散る鮮血。座長の怒声、彼の悲鳴。
彼から命の赤が失われていくのに。
彼が段々動かなくなるのに。
リルは怖くて動けない。硝子の檻から、ただ見ることしか出来ない。
彼は最期、リルの方を見て――、
「――――――――――――、」
唇が紡ぐ言葉が、幻に掻き消える。
(――思い出した)
どうして忘れていたのだろう。
どうしてこんな硝子の檻に留まっていたのだろう。
(僕は籠から出る。自由にならなきゃ)
彼の望みを、叶えるために。
彼の望みを叶えられるのは、リルしかいないのだから。
――ゆらり ゆれて 夢の中。
――全て、すべてを泡沫に――、
小さな人魚は聲を張り上げて。歌うは泡沫、ゆめまぼろし。
夢を形成する鳥籠ごと壊す勢いで、氷の海と嵐を呼んで。
リルはもう無力じゃない。
水槽の底で身を縮こませて震えるだけの稚魚ではない。
(君に報告があるんだ。黒以外の花をみせる淡い薄紅、綺麗な僕の希望を――)
自然に思い描いてしまった姿に、笑みが溢れる。早く目覚めて、君に触れたいな。
渦巻く嵐の向こうに、鳥の羽根。ぐるぐる回って――唐突に泡沫のように掻き消えた。
リルの夢はぐにゃりと揺らぐ。
けれど、目覚めることを決意した人魚の歌は、暫く続く。
ごうごうと氷の海の嵐が声をあげる。透明な人魚の声が、響き続ける。
これは、とある人魚の目覚めの歌。
大成功
🔵🔵🔵
シュテルン・ガーランド
◇
ああ、僕がこの姿で力を奮うことになるなんて!
人の姿の頃から、魔術については紙の知識しかないくせに。今は口先だけで師匠なんてしているんだもの
ここで頑張らなかったらシュテルンに怒られてしまうかな?
やっぱりあんたは口だけだ!って
トリニティ・エンハンスを使って、風の魔力と共に攻撃力を上げていこう
無事に戦えるよう祈りを込めて
僕はね、もう戻れないことを知っているんだ
前を向かなくてはいけないことを、知っているんだ
伊達に歳を重ねていないよ
渦巻く風に隠れた細剣で貫くよ
君の見せた幻想ごと
悲しく優しい少女よ、束の間の夢をありがとう
けれどその歪んだ夢に、僕は溺れない
●
ラートは、ドーリスを腕の中に閉じ込めて夢のようなひと時を過ごした。――実際に夢だということは、ラート自身が一番良く知っている。現実の彼は人の姿を失ってから久しく、孤児の『シュテルン』が盗み出したモノクルの姿――ヒーローマスクなのだから。
だからこそ、彼は知っている。
元には戻れないことを。
前を見なくてはいけないことを。
だから、最後に強くドーリスの体を抱きしめてから、ラートは彼女と距離を置いた。ただそれだけでも、矢張り名残惜しくて。困ったような笑みを浮かべて、寂しさに耐えて。
飲み物にミルクを垂らした時のようにとろりと空間が歪んで、茶色の髪の少女――邪神・金糸雀が現れる。ゆるく波打つウェーブがかった髪や、黒い可愛らしいドレスは何故だか濡れて、足元にポタポタと水たまりを作っている。
人の姿の頃から魔術については紙の知識しかない。この姿で力を奮った事はないが、普段は口先だけで師匠なんてしている身。けれど、ここではそれさえあれば充分だろう。
(ここで頑張らなかったらシュテルンに怒られてしまうかな? やっぱりあんたは口だけだ!って)
いつも傍らに居る廿日鼠の少女の姿を思い浮かべて、小さく笑みを零し。
「ドーリス、下がっておいで」
まやかしと言えど、ドーリスの姿を貫くことは出来なくて。巻き込んでしまわぬようにそう声を掛け、無事に戦えるように祈りを篭めながら風の加護を纏った。
風の魔力に反応したのか、金糸雀は翼を広げる。風が水気を浚い、乾いていくのが見えた。
「悲しく優しい少女よ、束の間の夢をありがとう」
――けれどその歪んだ夢に、僕は溺れない。
渦巻く風を纏い、ラートは地を蹴って。
金糸雀は翼で自身を覆って攻撃を防ぐ。
生命が吸われる感覚に、くらりとラートは感じて――小さく笑みが浮かぶ。この感覚も、人の身があるせいなのかも知れなくて。
身を引くこと無くラートは、渦巻く風に隠れた細剣を翼の隙間から突き刺した――。
成功
🔵🔵🔴
ロス・ウェイスト
♢3
先生の声が聞こえんくなって、目を開ける
「誰や、お前」
知らない女
アジトに知らない奴がいたら、それはお客さんか、侵入者。敵
お客さんは殺したらあかんけど、そうやったら誰かが教えてくれる
先生、先生、おるの、おらんの?
これは殺してもええ奴?あかん奴?なあ、教えて
なんも、いわへんのやったら
「お前、敵やんな。や、やって、だ、だ、誰も、お前殺したらあかんて言わへん。やからお前、殺してええねんな?」
武器はいつも通り/あの頃のまんま、ここにある
UC使って、ダガーでまず狙うのは喉、あかんかったら目
楽しいな、もっと遊んでや
色んなこと知らんくて、先生に教えてもらったけど
「殺すのは、おれの、一番、得意なことやねんで」
●
どれくらい目を閉じていただろう。
(先生の声、聞こえんくなってもうた)
目を閉じて先生の声を聞いていたはずなのに、いつの間にか聞こえなくなっていることに気付いたロスは目を開ける。
「せん、せ?」
寝起きの幼子のような舌足らずな声で、傍らに居るはずの先生へと声を掛ける。
だが、ロスの先生の姿は無く――
「誰や、お前」
そこに居た見知らぬ少女に気付き、真綿に包まれたような気分から一転。低い声とともに飛び起きて、武器が隠してある場所へと跳ねた。隠し場所は、あの頃のまんま。いつも通りの場所にあったダガーを抜き取り、ロスは少女――邪神・金糸雀へ刃を向けて水平に構えた。
ロスたちのヴィラン組織のアジトに知らない奴が居るとしたら、それは客か、侵入者だ。
お客さんだったら丁重にもてなして、失礼の無いように。
侵入者だったら丁重にもてなして、生きては返さない。
ロスには客と侵入者の具体的な違いは解らないけれど、客だったら誰かが教えてくれるはずだ。
「先生、先生、おるの、おらんの?」
金糸雀へとダガーを構えたまま意識は逸らさず、眼球の可動範囲だけで先生の姿を探す。けれどさっきまで居たはずの、先生はどこにも居なくて。
――これは殺してもええ奴? あかん奴? なあ、教えて。
いつも先生や誰かが教えてくれるはずなのに、だぁれも返事をしてくれない。しんと静まり返った室内には、新しい煙も漂っては来なくて。
「お前、敵やんな。や、やって、だ、だ、誰も、お前殺したらあかんて言わへん。やからお前、殺してええねんな?」
金糸雀が、ゆっくりと瞬きをして。
子供に相対するお姉さんの様な顔をして、鳥籠を振るとひらりと蝶が飛んだ。
ロスへと飛ぶ蝶を、ダガーで切り裂いて。ロスの顔に、にやり、笑みが浮かぶ。
こいつは、敵だ。敵だから、遊んでいい。
ぱちんと指を鳴らし、笑みを浮かべたまま金糸雀を斬りに行く。
まずは、喉。
あかんかったら、目。
蝶と鳥が邪魔をして、ロスの狙い通りにはいかなかったけれど。瞼近くを切られた金糸雀はポタポタと血を流す。
ああ、楽しいな。楽しい。――もっと遊んでや。
斬り込んでは跳んで距離を開け、また跳んで距離を詰めては斬り込んで。
「殺すのは、おれの、一番、得意なことやねんで」
ユーベルコードが寿命を削ろうが、気にしない。このひと時の遊戯に身を任せ、ロスはダガーを幾度も振るい金糸雀を襲い続ける。
ロスの楽しい時間は、金糸雀が逃げるまで続くのだった――。
大成功
🔵🔵🔵
ジェイド・カレットジャンブル
【状態:2】
夢から出られない以上、僕一人の力で戦うしかありませんね。ずいぶんと久しい感覚です。
この空間を支配している邪神相手であれば、下手な小細工は意味を成さないかもしれません。隙を見逃さずに攻撃を決めることに集中しましょう。
邪神の出現を【見切り】、【早業】で距離を詰め【先制攻撃】で『翡翠爪閃』を放ちます。相手がひるめば【2回攻撃】で追撃を、即座に反撃してくるようなら距離をとりつつ慎重に対応しましょう。
この邪神の創り出す夢によって救われる人もいるのかもしれません。でもそれは幻……僕たちは前に進まなくてはなりません。あの日の約束を違えないためにも、夢はここで終わりにしましょう。
●
懐かしい二人にジェイドが別れを告げると、二人の姿はふわりと霧散して。
ジェイドは一人、草原に立ち尽くして分析していた。
(――夢から出られない以上、僕一人の力で戦うしかありませんね)
二人を喪ってからもすぐ近くに常に二人の気配を感じてきていたジェイドにとって、『一人きり』というのはずいぶんと久しい感覚だった。
金糸雀という邪神の創り出す夢によって救われる人もいるのかもしれない。しかしそれは幻だ。先刻別れを告げたばかりの二人の姿が頭を過り、ジェイドは詰めていた息を小さく吐いた。いつものように二人が傍に居ないことが、こんなにも足りない気持ちになるだなんて。
闇雲に邪神を探して草原内を歩き回るよりは、こうして待っていた方が良いと判断し、ジェイドは邪神の出現を待っていた。また、この空間を支配している相手でもあるため、下手な小細工は意味を成さないものとして、警戒をしていた。その判断は、とても正しかったと言える。
その甲斐あって、ジェイドは邪神・金糸雀の訪れにいち早く気付くことが出来た。
空間が、歪む。
ひらりと蝶が飛ぶ。
(……僕たちは前に進まなくてはなりません。あの日の約束を違えないためにも、夢はここで終わりにしましょう)
影の鳥の羽根がふわりと舞う場所へと、ジェイドは即座に距離を詰めた。
しかし。
金糸雀は、敏感な鳥である。邪神・金糸雀もまた同じ。向けられる敵意には酷く敏感だ。
既に幾人もの猟兵に出会ってきたせいか、金糸雀の姿にはあちこちに怪我が見られ、それを回復すべく、金糸雀は自身を翼で覆って敵意を餌とした。
斬撃を与えているはずなのに、ジェイドの息だけが上がり金糸雀は回復する。それに気付いたジェイドは金糸雀と距離を置くことにした。
(――これは、長引きそうですね)
攻撃を止めれば、影の鳥たちがつついてくる。いくつもの嘴を掠めながら、ジェイドは長期戦を覚悟した。
苦戦
🔵🔴🔴
葉月・零
【3】♢
確かにずっと浸ってたい、そんな優しくて、素敵な光景なんだけど、それは夢だとわかっているから
まあ、昔だったらこうもうまく切り替えるなんて難しかったかもだけど、いまなら大丈夫。
ほら、もうみんな起きる時間だから……
早くここから、でないと、ね。
どこか見覚えのある頼もしい騎士を呼び出して
幼くなった姿で改めてみると、懐かしく感じられるけど、まずはここをなんとかしなきゃねー。
夢に頼らなくても、俺は大丈夫……共に歩んでいけるから。
その金糸雀の羽諸共、燃やさせてもらうよ。
呼び出された影の鳥や蝶をまとめて燃やして数を減らしていくよ。
そのついでに金糸雀の羽も燃やせればなお良しかなぁ。
●
恩人のあの人が消えてしまった此処は、どこか切なくて、寂しい。
(確かにずっと浸ってたい、そんな優しくて、素敵な光景だったけれど――)
それは夢だと解っているから。
美桜のためにも戻るって決めたから。
ほら、もうみんな起きる時間だから……早くここから、でないと、ね。
空間が揺らいで、影の蝶と鳥とともに茶色の髪の少女が現れる。ふわりと髪を踊らせて、黒いドレスを揺らして、散歩をしているかのような軽い足取りで数歩歩いて立ち止まると零を見た。
「しあわせな夢を見せてあげるのに」
眠らないの? 波打つ髪を揺らして、少女――金糸雀が問いかける。
(……俺に力を貸して)
零は金糸雀の問いには答えず、《Lueur d’espoir》を発動させて騎士を喚び出す。どこか見覚えのある、頼もしい騎士。かつて憧れた騎士は、幼くなった姿で見上げても懐かしく、そして幼い姿からだからこそとても立派に思えた。まるで夢の続きをまだ見ているような、そんな気持ちにさせられる。
(けど、まずはここをなんとかしなきゃねー)
金糸雀の鳥籠から影の鳥が羽撃いて、零に鳥籠に触れようとさせる。が、騎士は大剣を振るって鳥を退け、返す刃でひらりと舞う蝶も斬り伏せて。
「眠らないよ。夢に頼らなくても、俺は大丈夫……共に歩んでいけるから」
「そう。……それが、邪魔なのね」
夥しい量の蝶が鳥籠から溢れるように出て、零へ――ではなく、騎士へと襲いかかる。零が眠ろうとしないのは騎士が傍らに居るからだと判じたのだろう。
騎士を埋め尽くさんばかりに、蝶が舞う。
――が。
「ああっ」
蝶は騎士によって燃やされ、金糸雀の羽根にも飛び火する。その火はすぐに消されてしまうが、金糸雀は感情の籠もった目を零へと向ける。
しかしそこへ、金糸雀の視線から零を隠すように二人の間に騎士が割り入り、大剣を構える。
その姿は、まさに騎士。――零を守る、騎士だった。
大成功
🔵🔵🔵
星群・ヒカル
良かれと思ってやったのか、これ?
まぁ、確かに懐かしい顔には出会えたし、彼女の最期に後悔がないわけじゃない
だがこの『選抜艦』は帝国の箱庭で、それを知った今はあの時に戻りたいとは思わないし……
第一おれは悪い子だから、大人しく閉じ込められてるのが嫌いなんだよなぁ!(不敵な笑み)
『逃げ足・視力・第六感』で敵の攻撃を回避するぞ
蝶や鳥が束になって来るなら『ロープワーク・地形の利用』で、ワイヤーを使用し周囲にある物体を群れへと投げ込んで乱そう
『早業』で素早く接敵し敵と『手をつなぐ』
そして『超宇宙・真眼光波動』でとどめをさすぞ!
残念ながら、この超宇宙番長にそんなお節介はご無用ッ
出してもらうぜ、この鳥籠から!
◊
●
ヒカルが撃ち込んだ拳によって、蜂女は消えた。
そして、いつの間にか目の前には茶色の髪の少女――邪神・金糸雀が姿を現していた。ところどころ焦げた姿で鳥籠に手をかけ、揺らす。
「良かれと思ってやったのか、これ?」
「いいえ? あなたが望んだものよ」
ヒカルがそう願わなければ、こうして夢は見ていない。ヒカルは潜在意識に気付いていないからそう問うのだろうか。茶色の髪を揺らして、金糸雀が首を傾げる。
鳥籠に入ったのだって、自らの意思だ。獲物が入ったら、閉じ込めはするけれど。
「おれは悪い子だから、大人しく閉じ込められてるのが嫌いなんだよなぁ!」
「そう」
何処か噛み合わぬものを感じながら、金糸雀は手にした鳥籠の戸を開く。一見そこには影の鳥が一羽だけに見えていたが、無数の鳥や蝶たちが溢れ出てくる。影は黒い塊のように一度萎んで、それから膨らんで。ザアアと音を立てて羽撃いた。
ヒカルが勘や視力を駆使してそれを避けるも、鳥や蝶たちは様々な方向から襲いかかってくる。群れを成している場所へと障害物を投げつけても、一度散ってまた戻ってきて一時的な対処にしかならない。
しかし、ヒカルには一時的で良かった。ヒカルの作戦は、それで足りる。
「残念ながら、この超宇宙番長にそんなお節介はご無用ッ」
出してもらうぜ、この鳥籠から!
素早く金糸雀へと接近しその手を取って――至近距離からの魔力光波動を魔眼から放つのだった。
大成功
🔵🔵🔵
杜鬼・クロウ
♢捏造歓迎
3
意識も真の姿に強制覚醒
この記憶は普段の自分には一切残らず
真の姿の時の服装、口調は一章と同様
暫く甘いお伽噺の様な会話を楽しむ(内心下らぬ飯事と一蹴しているが心がざわつく
偽りの境地
享楽に耽る様は滑稽(愉悦
解っていて尚、金糸雀の夢に付き合う
囀りが耳触り
(何故、…
その顔で、その声で、語るな下賎)
『まだ聞きたい事や積もる話は山程あるのだが』
もう十二分であろう(笑みが消え失せ
世迷言は其れまでにしておけ
汝らに乗じた余に感謝せよ俗物めが
主を象りあまつさえ妄言を吐くとは烏滸がましい(玄夜叉で敵を真っ正面から斬り、血飛沫が舞う
此れを望んでいたのは、
…断じてあってはならぬ
理に反する
情?とうに捨てておるわ
●
気付けばいつの間にか、クロウは自身の姿に浮かんでいた感覚は消え、完全に金色の男と同化しているような感覚になっていた。
目覚めても覚えている夢など、実際はほんの一握り。覚めた直後は覚えていてもすぐに忘れてしまったり、幸せな夢を見た等のふんわりとした覚えも多い。きっとこれは、そう言った夢なのだろう。
金と銀、二人の男たちは暫くそのまま和やかに会話を続ける。しかしそれは、上辺だけを取り繕ったような、中身の無いもの。
偽りの境地にて、享楽に耽る様は滑稽で――愉悦。解っていて尚、金糸雀の夢に付き合う自身こそが一等滑稽ではなかろうか。
銀の男――主が、薄ら笑みを浮かべながらクロウへと話しかけてくる。気配も姿も声も、全て主の其れ。なれど、次第にその声が耳障りに思えて――。
(何故、……その顔で、その声で、語るな下賎)
会話が続けば続くほど、不快感が増していく。
『まだ聞きたい事や積もる話は山程あるのだが』
「もう十二分であろう」
笑みを消し、クロウは告げる。
「世迷言は其れまでにしておけ。傀儡を踊らせるのにも飽いたわ。汝らに乗じた余に感謝せよ」
俗物めが。と吐き捨てるような冷たい言葉に、瞳が笑わぬままの冷たい笑みを浮かべて。
そのまま自身の身長よりも巨大な黒魔剣『玄夜叉』で斬りつける。
「主を象りあまつさえ妄言を吐くとは烏滸がましい」
濡れた音と共に赤い花が咲き、主の姿を模した影は倒れ――消えた。
その傍らに、いつの間にか現れていた黒いドレスの少女が口を開く。
「あなたが望んだことなのに」
「此れを望んでいたのは、……断じてあってはならぬ」
理に反すると重々しく告げればよく解らないと言いたげに金糸雀は首を傾げ、興味を失ったのだろうか。その場に溶け込むように、そのまま消えた。
成功
🔵🔵🔴
萬場・了
【2】
記憶の世界は現実に似ていて
夢であることを忘れてしまいそうになる
兄の姿を見なくなったあの頃
自分の周りに、兄の物さえひとつも無いことに気が付いた
忘れたのではなく…はじめからいなかった?
嘘吐きは、おれ?
誰も信じられない、俺を信じられない
兄はどうして消えた?
知らない。兄ちゃんのこと、全然知らないんだ
恐怖を前に悍ましく笑うあの姿以外は。
記憶にない少女「金糸雀」
逃がすもんか
早く醒めなくちゃいけない
外が恐怖で満ちていても。
日常のような平和なこの夢を、俺の手で悪夢に変える
カメラもUDCも、武器はいまは何も無い
「金糸雀」の首へ手をのばす
これは夢だ、ゆめだゆめだゆめだ
なあ、夢なんだよなあ!?
俺は兄じゃない。
●
夢であることを忘れてしまいそうになるくらい、記憶の世界は現実に似ていた。
――どこからが夢で、どこまでが現実なのだろう。
兄の姿を見なくなった、夏休み前のあの頃のようだと思った。了の周りから、兄の所有物はひとつ残らず無くなっていた。兄の居た痕跡をひとつ残らず払拭されたように、何にも無いことに気がついた。確かにここにあったはずだと何度も考えた。周りの大人たちにも、兄を知っている人たちにも兄のことを尋ねた。けれど皆は首を傾げるばかり。両親でさえその調子で、忘れるなんて酷いと了は憤った。
けれど。
(皆が忘れたのではなく……はじめからいなかった?)
兄が本当は存在していなかったら? だとしたら嘘つきは、おれ?
誰も信じられなかった。自分自身でさえ信じられなかった。
兄が消えた理由も、兄自身のことも、全然知らないことに気がついた。
記憶に残っているのは、恐怖を前にしても勇ましく笑うあの姿だけ。
その姿さえも、幻なのだろうか。
――違う、そんなことはない。
日常のような平和な夢を、了は自身の手で悪夢に変える。
武器も何もないけれど、掴むための手はそこにあるから。
了はいつの間にか目の前に居た黒いドレスの少女――金糸雀の細い首へ指を絡めた。
「これは夢だ、ゆめだゆめだゆめだ。なあ、夢なんだよなあ!?」
「……ええ、そうよ」
感情に塗りつぶされた了の声に、静かな声が返る。
金糸雀の手にした鳥籠が、了の手に触れていた。それに気付いた途端、目の前の金糸雀は消えていて……。
どこからが夢で、どこまでが現実?
目覚めるのが、怖い。けれど、早く醒めなくちゃいけない。
例え外が恐怖で満ちていても。
俺は兄じゃない、から。
成功
🔵🔵🔴
レーヴ・プリエール
【2】
気が付くと「あの人」がいなくなって、代わりにいるのはだあれ?
知らない子。でも、わかるよ。この子が邪神。
本当はすぐに戦うのが一番、なんだよね。
物語で言えばあの子は悪い魔女みたいなものだもの。
レーヴはあまり戦う事に向いてないんだ。
聖者の力もミレナリィドールの力もだれかを助けるものだと思うから。
……でも、今はレーヴだけ。
よく分からないから、使った事がなかったけれど……使うしかないよね。
こわいまほう。悪い魔法。――めざめて、おいで。
あなたが邪神で無かったら良かったのにって、レーヴは思うの。
貴女に救われた人だってきっといると思うから。
でも、夢はさめなきゃ駄目なんだよ。どんなに素敵な夢だとしても。
●
ざあっと音を立てて風が強く吹いて、レーヴは思わず目を瞑る。風が収まるのを待って目を開けると、そこには『あの人』の姿はなく――鳥の翼を生やした少女の姿の邪神・金糸雀が居た。
レーヴの知らない子。けれど、レーヴにはすぐにこの少女が邪神だと解る。
本当はすぐに戦いのが一番だってことは、レーヴも知っている。物語で言えば、彼女は悪い魔女みたいなものだから。茨を切り裂く銀の剣や、聖なる加護を得た王子様や、勇気のあるお姫様や、奇跡の力を得た聖女が倒す、悪い魔女。
けれどレーヴはあまり戦いには向いていない。レーヴは聖者であって、物語に出てくるような勇敢な聖女ではない。
(――聖者の力もミレナリィドールの力もだれかを助けるものだと思うから)
小さく息を吐き、金糸雀を見る。
「あなたが邪神で無かったら良かったのにって、レーヴは思うの」
「どうして?」
金糸雀が、波打つ茶色の髪を揺らしてレーヴを見る。手には鳥籠。レーヴを夢へと誘おうと、ゆっくりと一歩、前に出る。
「貴女に救われた人だってきっといると思うから」
「ええ。みんな望んでここへきたの」
だから、あなたもいっしょに眠りましょう?
金糸雀が優しく微笑み、鳥籠をレーヴへと差し向けて。
影の鳥が鳥籠を咥えて飛び立つのを見つめ、ふるりとレーヴは首を振る。
「でも、夢はさめなきゃ駄目なんだよ。どんなに素敵な夢だとしても」
レーヴには目覚めの接吻をくれる王子様は居ない。
だから自分で目覚めなくちゃ。
(よく分からないから、使った事がなかったけれど――)
こわいまほう。悪い、魔法。
眠っている間に身についた、それこそ物語の魔女が使いそうな、魔法。
(――めざめて、おいで)
力を貸してと願えば、物語に出てきそうな蛇竜と騎士が現れて――間近に迫る鳥籠を打ち払ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
【3】
だいじょうぶ
わかってる
さいしょから、夢だって
斧を握りしめ
いつもどおり、ちゃんとたおせるよ
おとうさんはたすけられなかった、けど
わたしが助けられるひとはみんな助ける
それがわたしのやりたいことだから
そのために、ここから出なきゃ
【ガジェットショータイム】
武器を振り下ろし
わたしはこうして戦えるもの
他のひとの分まできみに抵抗するよ
攻撃は【武器受け】
そのとりかごはゆりかごだったね
ありがとう
もう、ゆられる時間はおしまい
めざめたくないひともいるかもしれないけど
夢の中ではいきられないから
いきてほしい
いきられるだけ、いきて
そうしたら、また笑顔になれるかもしれないもの
わたしのわがままだとしても
みんな長生き、して
●
おとうさんが居て、おとうさんが微笑んでくれる、優しい夢。
けれど、オズにはちゃんと解っていた。これが夢だって。最初から、ちゃんと解っていた。おとうさんは助けられなかったのだから。
ふんわりと、オズのおとうさんは優しい笑顔を残したまま消える。思わず手を伸ばしてしまいそうになったけど、ギュッと斧を握り締めて、耐える。
(いつもどおり、ちゃんとたおせるよ)
オズのおとうさんの代わりに、波打ち茶髪を揺らした少女――金糸雀が現れた。
「やさしいお人形さん、もう眠らないの?」
手元の鳥籠を揺らし、金糸雀が声を首を傾げる。
「そのとりかごはゆりかごだったね」
「ええ、そうよ。あなたももっと眠っていていいのに」
「……ありがとう。でももう、ゆられる時間はおしまい」
目覚めたくない人もいるかもしれない。けれど、夢の中では生きられない。じっくりと夢の中で、幸せなままで死んでしまうことだろう。
だからオズは、その人たちの分まで金糸雀に抵抗すると決めた。
戦える手足は揃ってる。 ――おとうさんがよういしてくれたから。
皆を助ける意思もある。 ――おとうさんがあいしてくれたから。
(わたしがたすけられるひとは、みんなたすける)
おとうさんが見ていてくれたら、そんなオズを褒めてくれるだろう。
そうだったら、どんなにいいか。
けれどおとうさんはもう居ないから、オズはオズだけの意思で皆を守ろう。そう思った。
決定的に解り合えないと知った金糸雀は手にした鳥籠の戸に手をかけて、影の蝶と鳥たちをオズへと向かわせる。蝶と鳥の攻撃を斧で受け止め、払い、《ガジェット・ショータイム》を発動させてガジェットを喚び出す。
召喚されたガジェットは片手で持てる、銃の形。片手で掴んで引き金を引けば、ぱすんと乾いた音がして網が射出され――影の鳥と蝶を纏めて絡めた。
(――いきてほしい。いきられるだけ、いきて)
そうしたら、また笑顔になれるかもしれないもの。ううん、きっといつか、そうなる。オズがそうであるように。
銃を捨て、斧を両手に抱え直してオズは駆ける。
(――みんな長生き、して)
たとえ、オズの我侭に過ぎないとしても、そう願うから。
斧を振り上げ、そして――。
大成功
🔵🔵🔵
古高・花鳥
【2】
金糸雀さん、あなたが夢を見せることで、それが救いになった人もいるのでしょうね
たとえあなたの掌の上だとしても、その光景はただの夢にすぎなくても、皆さんの心に芽生えた幸せな思いは本物だったのでしょう
......だから、わたしはあなたに敵意は持ちません
大切な人を失っても、どんなに辛くても
......逃げてはいけないというわたしの思いを
幸せになるために生き続けなければならないというわたしのワガママをもって、あなたを斬ります
お父さんに会わせてくれてありがとう、さようなら
(アドリブ歓迎です)
●
さようならと花鳥が告げた途端、花鳥の父の姿はふわりと景色に溶け込むように消えた。
前へ進むと決めた思いを胸に、花鳥は暫く目を閉じて祈るように胸の前で手を組んでいた。今抱いている気持ちをしっかりと胸に刻もうと。
感覚としてはさほど経過していないような気がする。鳥の羽ばたきのような音がして、傍らに金糸雀が姿を見せていた。片翼に焦げ跡のある金糸雀は静かに花鳥を見て、翼を広げる。大人しく眠るならば、鳥籠を。敵意を見せるならば、生命を吸収して回復しようとして。
「金糸雀さん」
花鳥が金糸雀に向き直る。
「あなたが夢を見せることで、それが救いになった人もいるのでしょうね」
幸せな夢に救われた人は、確かに居る。皆、それを求めてここに来たのだから、心に芽生えた幸せな思いは本物だったはずだ。
たとえそれが、金糸雀の掌の上だとしても。
邪神である金糸雀に他に思惑があったとしても。
――その光景が、ただの夢に過ぎなくても。
「みんなが望んでいたことよ」
「ええ。……だから、わたしはあなたに敵意は持ちません。大切な人を失っても、どんなに辛くても……逃げてはいけないというわたしの思いを、幸せになるために生き続けなければならないというわたしのワガママをもって、あなたを斬ります」
翼を広げた金糸雀は、戸惑うように花鳥を見て。
花鳥は静かに刀に手を掛ける。そこには花鳥の言葉通り敵意は微塵もなく。
「お父さんに会わせてくれてありがとう、さようなら」
ただ、感謝の気持ちだけがあった。
音も無く刀は鞘から抜かれ、真っ直ぐに――花鳥の心を表すようにただ真っ直ぐに、金糸雀へと刃が向かう。
敵意のない攻撃に為す術もなく、他の夢に逃げようと背を向けたところを金糸雀斬られた。いくつもの羽根に焦げ跡の残る片翼は切り落とされ、細い悲鳴を残してその姿は消えた。
大成功
🔵🔵🔵
シン・バントライン
3
突然揺らいだ空間に眩暈がする。
視界から消えた彼女はきっと今も笑っている。
まだ彼女に言いたいことがあるのに。
金糸雀が顔を出したら訊いてみたい。
「貴方にとって夢とは何か?」
自分にとって夢とは未来のことだ。
当たり前のように明日があることこそがまるで夢のようなのだから。
明日の為に眠り、
そして目を覚ましたら大好きな人に会いに行きたい。
きっと自分はその為だけに戦うのだろう。
距離をとりUC発動。
高速詠唱でなるべく先手を。
UCが消されたら剣を抜いて戦う。
幼い頃、彼女に騙されて悪魔のように苦いコーヒーを飲まされた。
あれから自分はコーヒーが飲めない。
金糸雀が消えると同時にコーヒーカップが割れたような気がした。
●
シンが幼馴染の彼女と話をしていた空間が、突如歪む。
出来損ないの絵画のようにぐにゃりと歪んだ景色に目眩がして、思わず目元を覆った手をどけると、幼馴染の姿はそこにはなかった。けれど、視界から消えた彼女はきっと今も笑っている。シンにはそう思えていた。
(――まだ彼女に言いたいことがあったのに)
いくら言葉を尽くしても、きっと言いたいことや話したいことは心の底から湧き水のように溢れてくるのだろう。小さな落胆を感じながら、シンはいつの間にか現れていた茶色の髪の少女へと視線を向ける。
既に少女――金糸雀は傷をいくつも負っており、片翼は失われていた。血で汚れたりしていないのは、夢で補強しているのだろう。けれどそれはまやかしだ。
疲れたようなため息を吐く金糸雀を見て、シンは訊いてみたいと思っていた事を尋ねてみる。
「――貴方にとって夢とは何か?」
「わたしにとって夢はうつくしいもの」
あなたは? と問い返しながら、金糸雀は腕を持ち上げて鳥籠をシンへと向ける。
鳥籠からふわりと影の鳥が羽ばたく。それに合わせてシンは金糸雀と距離を取って詠唱をし、《リザレクト・オブリビオン》を発動させ騎士と蛇竜を喚び寄せた。
「自分にとって夢とは未来のことだ」
当たり前のように明日があることこそ夢のようなもの。絶対や当たり前なんて無いと知っているからこそ、未来があることは夢のようで、素晴らしい。
(明日の為に眠り、そして目を覚ましたら大好きな人に会いに行きたい。きっと自分はその為だけに戦うのだろう――)
シンの言葉と同時に、騎士が鳥籠を咥えようとする鳥へと剣を降り下ろし、蛇竜は金糸雀を締め上げんと地を這った。
数多の鳥と蝶がシンへと襲い掛かろうとするが、それは死霊騎士が許さない。
――そして、鳥と蛇は古代から対立関係にあり、空を飛べなくなった鳥は蛇の格好の餌だ。
羽ばたきとも翼は一対揃っておらず、金糸雀は蛇竜に巻き付き締め上げられ、喉へ牙を立てられ――小さな鳥の悲鳴を残して光の砂へと転じていく。
小さな悲鳴が、カップが割れる音のようにも聞こえて、シンはふと思い出す。幼い頃、幼馴染に騙されて悪魔のように苦いコーヒーを飲まされたこと。あれからシンはコーヒーが飲めないことを。
金糸雀が、消える。
どこかでコーヒーカップが割れる――音がした。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『たまには寄り道を』
|
POW : 体力が続く限り目いっぱい楽しむ
SPD : とにかく沢山の観光名所を訪れる
WIZ : あらかじめ計画立ててから観光を楽しむ
|
●ゆめのおわり
「佐奈」
名前を呼ぶ。
「なぁに?」
佐奈が俺を見て微笑む。何故だか少し、悲しげだ。
ああ、ああ。佐奈だ。佐奈はここに居る。
――ここにしか、居ない。
もう、現実のどこにも居ない。ここにしか、佐奈は居ない。
「佐奈」
名を呼んで、手を伸ばす。なのに、手が届かない。
「佐奈」
「なぁに、何度も呼んで。……気にしているの?」
困ったような、悲しいような、そんな笑みを佐奈がする。
困らせたい訳じゃないのに。ずっと笑っていて欲しいのに。
あの日、喫茶店の前で別れて。佐奈はいつも通り交差点を渡った。
あの時、俺は思いついた事があって振り返ったのに、明日も会えるからいいかって声を掛けるのをやめた。
俺が呼んで引き止めて居たら、佐奈は死ななかったのに。
佐奈は目の前で死んだ。俺が殺した。
違う、殺していない。
いいや、殺した。俺が殺した。俺が殺したんだ。
けれど、誰も俺を責めてはくれない。アイツの両親だって、俺を責めない。
「純一、あなたのせいじゃないの」
なんでお前まで責めないんだ、佐奈。俺はお前に責めて欲しくて、
「わたしのこと、こんなに思ってくれてありがとう」
違う、俺は、お前に――
違わない。俺と過ごした佐奈は、俺を責めたりなんてしないだろう。
「純一」
佐奈が、笑う。いつも通り、嬉しそうに。
「たくさん愛してくれて、ありがとう」
夢が、覚める。
世界に白が満ちて、佐奈が白さに飲み込まれて――。
薄暗い箱の中、俺は涙の冷たさで目を覚ました。他の箱で寝ていた人も目覚めたのだろう。すすり泣くような声が聞こえる。
何かとても幸せな夢を見ていた気がする。よく思い出せない、けど。
でも俺は幸せな夢を見ていた。それだけは確かだ。
本当に噂通りだったんだな。
ここの店長が誰だか知らないけど、俺は感謝している。
――夢を見させてくれて、ありがとう。
メルノ・ネッケル
【POW】
きっと、おとんとおかんは影のまま。
けど、目の前の二人は、邪神の見せた影じゃなくて……きっと、本物の。
……なあ、おとん、おかん。
一つだけ、聞いてもええかな。
二人は、うちが産まれて嬉しかった?
うちは、二人にとって大事な存在だったんかな?
……そっか。良かった。
ずっと、怖かったんや……うちって存在は、望まれて産まれてきたのかなって。
……何でやろな?
最後くらい、笑ってさよならしたかったのに。
涙が溢れて、止まらへん。
……ありがとう、おとん。ありがとう、おかん。
うち、二人の子供で良かった。
……夢が、終わってしまう。
最後に、もう一度だけ。
二人の、そのあったかい手で、うちを抱きしめて……
◇夢去り人【メルノ・ネッケル】
狐火を放ち、金糸雀が消えて。どれだけ経っただろう。ゆらりとおとんとおかんも揺れて消えて――そしてまた、いつの間にか戻ってきていた。
おかんとおとんは変わらず、ぼんやりとしたシルエットのような影のまま。けど、今目の前に居る二人は、ニセモンなんかじゃなくて……きっと、本物の……あかん。視界が歪みそうになる。
「……なあ、おとん、おかん。一つだけ、聞いてもええかな」
おとんが「何でも言ってみろ」と言うように大きく頷いて、おかんが「なぁに」と言うように緩く首を傾げてうちの言葉をゆっくり待ってくれている。
うちは口を開く。けれど、告げて答えを聞くのが怖くて一度口を閉ざしてしまう。もし否定されたら? そう思うと怖くて。何度も口を開いて、閉ざして。けれど二人は、そんなうちを静かに見守ってくれていた。
「……二人は、うちが産まれて嬉しかった? うちは、二人にとって大事な存在だったんかな?」
ああ、やっと言えた。……言ってしまった。
答えが欲しい。けれど、怖くて答えが欲しくない。
両掌をギュッと握り締めて、一度目を閉ざして。
けれども答えが欲しくて、二人を見た。
二人は――
頷いてくれていた。
何度も、何度も、頷いてくれていた。
ぐにゃりと、視界が歪む。
視界を覆う水の枠が溢れて、頬を伝った。熱い涙雨が、うちの頬を濡らしている。
……何でやろな? 最後くらい、笑ってさよならしたかったのに。
あかん。涙が溢れて、止まらへん。
二人に立派な姿見せて、笑顔で別れよ。そう思ってたのに。
ああ、でも。これだけは言っとかんと。
「うち、二人の子供で良かった」
涙は止まらず零れ落ちているのに、その言葉を口にしようとしたら自然と笑顔になった。泣き笑いの顔。ちょっとしまらんなぁって思ったけど、ええやろ。
おかんが手を伸ばして、指でうちの涙をすくう。覗き込む顔はぼやけて見えないけど、きっととても優しい顔でうちのこと見てくれとる。うち、昔は泣き虫だったのかもしれないな。そんでおかんはよくこうしてくれてたのかも。
おとんがまたおかんごとうちのことを抱きしめてくれる。うちが泣き止まない時はこうしてくれてたのかな。
――夢の終わる気配がする。
けれど二人があったかくて、愛おしくて。
夢が覚めるまでうちは二人とずっと一緒に居た。
ありがとう、おとん。
ありがとう、おかん。
大成功
🔵🔵🔵
詩朔・いちこ
【POW】
もう、夢はおしまい。
自分で選んだはずなのに、どうしようもなく悲しくて。
それでもワタシは……自分自身を、曲げられませんデシた。
きっとあの方も、そうしろと仰るはず……後悔は、していマセん。
……あの方はまた、遠くへ行ってしまう。
だから、伝えたい。
創造主様。
ワタシを造って下さって、ありがとうございました。
体を、手を、機関を、心を。
貴方は、ワタシにワタシの全てを下さいマシた。
ワタシはこれまでも、これからも。
貴方の最後の願いを、ワタシの使命を守り続けマス。
……だから、これは本当に最後の我儘。
勇気を出して、伝えマス。
ずっと、ワタシを見守っていて下さいね……"お父様"。
……ふふ。やっと、言えマシた。
◇夢去り人【詩朔・いちこ】
もう、夢はおしまい。
ワタシは幸せな夢に浸ることよりも、あの方に与えられた使命を選びマシた。そう、自分で選んだはずなのに、どうしようもなく悲しいと思ってしまうのはおかしなことデショうか。……創造主様、貴方の意見をお聞きしたくとも、それは叶いマセん。
ワタシは悲しくとも……自分自身を、曲げられませんデシた。きっと創造主様も、そうしろと仰るはず……後悔は、していマセん。悲しい……そう、ただ悲しいだけなのデス。
こうしている間にも、夢の終わりが近付いてくるのが解りマス。創造主様とワタシの、お別れの時間。また、手を伸ばしても届かないくらい遠くへ行ってしまう、時間。
だからワタシは、伝えたい。
「創造主様。ワタシを造って下さって、ありがとうございました」
貴方はワタシに、体を、手を、機関を、心を。ワタシの全てを下さいマシた。
それはワタシにとって誇りで、とてもうれしいことなのデス。感謝してもしきれず、こうして夢で貴方に告げずにはいられない程、ワタシにとって幸せなことなのデス。
その誇りと幸せを胸に、ワタシはこれまでも、これからも。貴方の最後の願いを、ワタシの使命を守り続けマス。
……だから、これは本当に最後の我儘。『今日の"試作一号"は随分と我儘だ』と思われるかもしれマセん。けれど今日だけは許してください。
本当は我儘を口にするのは勇気がいるのデス。それでもワタシは勇気を出して伝えるのデスから。
「ずっと、ワタシを見守っていて下さいね……"お父様"」
ずっと貴方をそう呼びたかったのデス。
「……ふふ。やっと、言えマシた」
胸が暖かなもので満ち満ちて、ワタシは自然と笑みが浮かんでしまいマス。
ああ、お父様。ワタシを造って下さって、本当にありがとうございます。
夢が覚めるまで、もう少し。
もう少しだけ、傍に置いて下さいね、お父様。
大成功
🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
◇
ゆめのなかでも言えないんじゃない
言わないんだってわかっちゃった
だって、わたしはゆるしてほしいわけじゃなくて
ただあやまりたくて
でも、これはわたしの夢だから
ぷかり
こころの中にうかぶことばを
行き場のないことばを
またのみこんで微笑む
やさしいゆめ
おとうさんの笑顔を
声を
忘れないようにもう一度
それはゆるされるかな
「わらって、おとうさん」
だいすき
話せないみんなの分も、わたしがつたえるよ
ありがとう
あたらしいおようふくを作って、着せながら直す手
髪を梳く手
まほうみたいだった
みんなうれしそうだったよ
おとうさんにはつたわってた?
笑顔でいてほしいから
たのしい話だけしたい
うん。おねぼうはできないから
おわかれだね
…ばいばい
◇夢去り人【オズ・ケストナー】
カチカチ、カチカチ。
どこかで時計の針のおとがする。
ああ。あれは、おとうさんの懐中時計のおと。
あのおとは、ゆめのおわりを告げるおと。
めざめるじかんをおしえてくれるおと。
わたしがおねぼうしないように。
さっき消えてしまったはずのおとうさんが、また目の前にいる。
わたしはゆるしてほしいわけじゃなくて、ただあやまりたかったんだ。ゆめのなかでも言えないんじゃなくて、言わないんだ。おとうさんの時計がカチンと鳴ったとたん、胸にすとんと落ちてきたみたいに、わかっちゃった。
ぷかり、ぷかり。こころのなかにことばがうかぶ。けれどわたしは、行き場のないことばをまたのみこんで。
「おとうさん」
おとうさんを呼んで、ほほえむんだ。
わらってほしくて。
こえをかけてほしくて。
ふれてほしくて。
おしゃべりしたくて。
目覚めるまであと少しのやさしいゆめのなか、おとうさんの笑顔を声を、忘れないようにもう一度とねがってしまう。
ゆるされるかな。
胸に問いがうかぶけれど、わたしは知っている。
ゆるされるよ、これはわたしの夢だから。
おとうさんはとてもやさしくて、みんなだいすきだもの。
(――わらって、おとうさん)
声に出さなくても、おとうさんがわらってくれる。わたしがほほえんでいるから、おとうさんもうれしいんだ。
「あのね、おとうさん。だいすき」
話せないみんなの分も、わたしがつたえる。おとうさんは笑みを深くしてわたしをなでてくれた。
「いつも、ありがとう」
あたらしいおようふくを作って、着せながら直す手。
髪をやさしく梳いて整えてくれる手。
おとうさんの手はおおきくて、たのもしくて、なんでもできる。わたしにはそれがまほうみたいで、おとうさんの手はまほうの手だと思っていたよ。
おとうさんが何かしてくれるたびに、わたしはとてもうれしかった。みんなもうれしそうだったよ。おとうさんにはつたわっていたかな?
ねえ、おとうさん。
たくさん、たくさん、たのしいおはなしをする。
おとうさんもわたしも、ずっとえがお。
けれど、カチンとまた大きく時計が鳴って、おとうさんが懐中時計を見た。
「もう、時間かい?」
おとうさんがわたしの頭をなでてくれる。
「うん。おねぼうはできないから」
えらいねって、またなでてくれる。
あっというまに、おわかれのじかん。
だいすきな、おとうさん。
わたしのきおくに残る、やさしい笑顔。
だからわたしも、わらって手をふるんだ。
……ばいばい、おとうさん。ずっとだいすきだよ。
ずーっと、ずっと。
大成功
🔵🔵🔵
影杜・梢
◇アドリブ歓迎
……夜明けが近いのかな
地平線が、橙色に染まって
気付いたら、目線はいつもの高さに戻っていて
いつの間にか、
目の前にまた、
父さんと、母さんが、
また?
……いや、違う。今度は
……良かった
父さん、母さん、聞いてよ
話したいことがたくさんあるんだ
無事に退院できて、高校にも進学出来たよ
今年は受験生でさ
母さんのせいで、娘まで読書好きになったよ
将来は翻訳家になりたいんだ
だから、頑張っていくよ
父さんが作った庭園も、毎年綺麗な花が咲いて…
この前は、満開の木香薔薇が本当に綺麗だった
二人が贈ってくれたノイバラの髪飾りも、毎日大切に使ってるよ
……だから
だからさ
父さん、母さん
今までありがとう
……またね
◇夢去り人【影杜・梢】
(……夜明けが近いのかな)
さっきまであんなにも夜光虫で輝いていたのに、海は静かになっていた。地平線が橙色に染まって、海を赤に燃やして太陽が上ってくる。
強い海風に髪を踊らせて海を見ていたボクの目線は、太陽と共に上がって。気付けばいつもの高さになっていた。
名前を呼ばれた気がして振り返れば、そこにはまた、父さんと母さんが――。
また? ……いや、違う。今度は、今度は本物の。
「……良かった。父さん、母さん、聞いてよ」
話したいことがたくさんあるんだ。
ボクは風に煽られ続ける髪を抑えて、二人に近付きながら話しかける。父さんと母さんは笑顔でボクを見守ってくれている。
「無事に退院できて、高校にも進学出来たよ」
母さんが、泣きそうなくらい嬉しそうに微笑んで。
「今年は受験生でさ、すごく大変」
「父さんもそうだったよ。目標は決まっているのか?」
「……うん」
父さんの顔を見て、頷く。
本好きだった母さん。その影響か、娘であるボクまで読書好きになったんだ。
「将来は翻訳家になりたいんだ。だから、頑張っていくよ」
ボクの言葉に、父さんと母さんは顔を見合わせて喜んで、頑張れって応援してくれた。ボクは二人に大きく頷いて返して。
「そうそう、父さんが作った庭園も、毎年綺麗な花が咲いているんだよ」
最近は満開の木香薔薇が咲いて本当に綺麗だったよと告げれば、父さんがとてもうれしそうだった。
父さんと母さんと話す話題は尽きなくて、ボクは二人とたくさん話した。その都度二人は頷いて聞いてくれて――別れが寂しくなる。
この時間がもうすぐ終わることを、ボクは知っている。
髪を抑える手を、横にずらして。ノイバラの髪飾りに触れる。
二人が贈ってくれた、大切な髪飾り。毎日大切に使っているんだよ。
……だから。
だからさ。
「父さん、母さん。今までありがとう」
伝えたいことは、まだまだたくさんある。
全部を言い切るなんて時間がいくらあっても足りない。
けれど、夢の終わりは必ず訪れるんだ。
……またね。父さん、母さん。
大成功
🔵🔵🔵
ニコライ・ヤマモト
♢姿:現実の姿へ
さっきまでの自分とまるきり同じ姿をした男が居る。UDC職員の身分証。
ずっとここに居たのか。俺のあの姿は、俺の心の中に居た貴方だったのか。
一矢報いることもできん不甲斐ない俺でも、こんな優しい夢を見て良いのだろうか。
何年前のことか。何回目の生のこと、だろうか。
貴方の手の温かさを、声の優しさを、思い出した。
貴方の帰りを待つ昼を、膝の上で丸くなる夜を、愛されていた日々を。
人に大事にされたただの猫として、こうしてヒトの言葉で貴方に感謝を伝えたい。
…そのために猟兵になったと言ったら笑うだろうか。
貴方の顔も帰り道も分からないまま。
だが、俺の帰るべき場所が『過去』でないことだけは確かなようだ。
◇夢去り人【ニコライ・ヤマモト】
気が付けば、視線が低くなっている。手を見下ろせば、黒い被毛に黒い肉球が覗く猫――ケット・シーの手。ああ、俺は”いつも”の姿に戻ったのか。
手を見るために下ろした視界に、誰かの靴が入っている事に気付き、顔を上げる。その人は、ついさっきまでの俺とまるきり同じ姿をしていた。UDC職員の身分証が胸に揺れている。名前は――確認しなくても解る。さっきまであの姿をしていたのは俺なのだから。
(――ずっとここに居たのか。俺のあの姿は、俺の心の中に居た貴方だったのか)
……『山本』さん。ずっと会いたかった人が、目の前に居た。顔は、解らない。覗き込めば解りそうな気がするのに、見ようと思ってもぼんやりと暗くて。きっと、俺が貴方の顔を覚えていないせいだ。
けれど、貴方が目の前に居る。
一矢報いることもできん不甲斐ない俺でも、こんな優しい夢を見て良いのだろうか。
何年前のことか。何回目の生のこと、だろうか。はっきりとした確かな事は言えないが、貴方の手の温かさを、声の優しさを、思い出した。
貴方の帰りを待つ昼を、膝の上で丸くなる夜を、愛されていた日々を。骨ばった大きな手が、俺を優しく撫でる感触を。貴方さえ居れば、ごうごうと唸るような嵐の夜が来ても怖くはなかった。
俺は貴方に大事にされ、愛されていた。人に愛された、ただの猫だった。
貴方に感謝を告げたくても、鳴き声にしか聞こえない俺の言葉は貴方には伝わらなくて。
貴方に伝わるように、こうしてヒトの言葉で伝えられるように、……そのために猟兵になったと言ったら笑うだろうか。
なあ、山本さん。
「俺を愛してくれてありがとう、山本さん」
大きな手が、俺の頭の上に伸びて。
帽子を凹ませ、ワシャワシャと撫でてくる。あの頃と同じ、撫で方だ。
……俺はイイ歳した大人の男なのだが、貴方からしたらいつまで経っても小さな黒猫のままなんだろうな。
貴方の顔も帰り道も分からない。
だが、俺の帰るべき場所が『過去』でないことだけは確かなようだ。
俺はまたひとつ、前を見て歩いていけるような気がした。
大成功
🔵🔵🔵
古高・花鳥
これで今回の依頼は解決しました。
だから、帰ります。
帰らないといけないんです、ここから。
わたし、もう引きずったりしないよ。
引きずらないけど、忘れない。
立派なお姉ちゃんになるって決めたから。
お父さんは安心してて
......なんて言って、安心できてないのはずっとわたしの方で。
ふふっ、でも、もう大丈夫。
さようなら、本当にさようなら、お父さん。
もうここからは一人で帰れるよ。
この夢から出るまで、もう振り返らないから
......これで本当に最後のお別れ。
さようなら、大好きなお父さん
(アドリブ描写、アドリブ解釈歓迎です)
◇夢去り人【古高・花鳥】
片翼を切り落とした金糸雀は、悲鳴を残して消えました。後は他の猟兵さんたちが何とかしてくれるでしょう。
それから待つこと暫く、夢の世界が揺らいだ気がして、わたしは討伐を知りました。これで今回の依頼は解決しました。だから、帰ります。帰らないといけないんです、ここから。
お父さんがすぐ傍にいる気配。きっと、すぐ後ろにいるのでしょう。けれどわたしは振り返らずに前へ進みます。さようならは、さっき告げたから。
見送ってくれるのか、お父さんの気配が後をついてきました。
「わたし、もう引きずったりしないよ。引きずらないけど、忘れない」
独り言のように、小さく零します。口にしなくても良かったけれど、お父さんにやっぱし聞いてもらいたくて。安心してもらいたくて、わたしは口にしました。
本当は……安心できていないのはずっとわたしの方だったけれど。ふふっ、もう、大丈夫。わたしは立派なお姉ちゃんになるって決めたから。
だからお父さん、心配しないで。
「もうここからは一人で帰れるよ」
わたしが向かっている先が、真っ白になってきています。きっとあそこが夢の終着点。わたしの夢の終わる場所なのでしょう。
「さようなら、本当にさようなら、お父さん」
最後に一度だけ振り返って、もう一度お別れを告げました。これで本当に最後のお別れ。お父さんは優しい笑顔を浮かべて、手を振ってくれました。
お父さんに別れを告げて、わたしは再び歩き出します。後ろに、お父さんがついてくる気配はありません。
あと少し。あと少しで、夢の終わり。
――その時。
「元気でな」
背後から、そう、声が聞こえて。
わたしは息を飲んで、立ち止まった。
けれど、もう振り返らないって決めたから。
わたしはまた歩き出す。夢の終わりへと――。
――さようなら、大好きなお父さん。
大成功
🔵🔵🔵
クレア・ワイズスノー
意識が戻る。体が軋み、痛い。
あの少女はもういない。
力無く、倒れるように眠る。夢が終わるまで…。
…
…
…?
既に痛みが消えていた。
「あっ、もう動いていいぞ?」
お前の知らないことは言えないけど、今度は本物だからな?
とわざとらしく忠告された。
嬉しくて、懐かしくて、でも悲しくて、申し訳なくて。
何かが堪えきれなくなって…。
気持ちが落ち着いてきて、今日の出来事を話す。
ある時、
「そういや、なんで猟兵に?」
と突然聞かれた。
「分からない…。勝手に…」
猟兵、埒外の力、選ばれる…
もし彼が既に選ばれているのなら…
「わたしたち、また…!」
周りが、白くなっていく。
お互い手を振って、さよならは言わなかった。
きっと会えるから。
◇夢去り人【クレア・ワイズスノー】
金糸雀が姿を消した暫く後、淡紅色の魔力に染まった機械人形は動きを止めた。
熱に浮かされているようにぼんやりと、私の意識が戻る。
体は軋み、どこもかしこも痛くて、膝をついて座り込んだ。立っているのが辛くて、今にも倒れてしまいそう。茶色の髪の少女が居ないことだけ確認して、私はそのまま崩折れるように横になる。
夢が終わるまで、眠るために。
(――
…………?)
そう、眠るために。
(……あれ?)
目を閉じて幾らも経たない内に、私はあることに気付く。
既に体の痛みが消えていたのだ。四肢に重く伸し掛かる疲労感も、全て。負荷が何一つ無いと言っても良い。
そう、それはまるで、メンテナンスしたてのように。
「あっ、もう動いていいぞ?」
唐突に聞こえた声に、私は驚いて目を開けた。大きく目を見開いて見すぎてしまったのかもしれない。わざとらしく「お前の知らないことは言えないけど、今度は本物だからな?」と忠告された。
マスターだ。マスターが居る。
嬉しくて、懐かしくて、でも悲しくて、申し訳なくて。何かが堪えきれなくなって……。私の胸の内がぐるぐると感情が渦巻いていた。
気持ちが落ち着くのを待ってから、マスターと私、二人で話をする。今日の出来事、それから私が一人で居た間の事。私には話したいことが沢山あって、今日はマスターが聞き役。連絡は普段から出来ているけれど、こうして顔を見て話すのはとても久しぶりだから。
「そういや、なんで猟兵に?」
私が猟兵として今日の体験をしている事を知ったマスターは疑問に思ったのだろう。そう聞いてきた。
けれど、私にはその理由なんて解らない。
「分からない……。勝手に……」
埒外の力に選ばれて、そうなった。もし彼が既に選ばれているのなら……。
「わたしたち、また……!」
夢の終わりが迫ってきている。
周りが白に塗りつぶされていっている事に気付いて、私は慌てて声を上げた。
けれどマスターは落ち着いていて「またな」と言うように手を振ってくる。だから私も手を振り返す。さよならは言わない。きっとまた、会えるから。
視界が、白に飲まれた――。
大成功
🔵🔵🔵
葉月・零
♢
戦いは終わったみたい?
懐かしい想いに、記憶に浸っていたいなっていう気持ちはわからなくはないから
ね、朔さん……俺の進んで来た道はこの道で正しかったのかな
はは、確かにそうだ。こんなとこで立ち止まってたら朔さんに怒られちゃうね。
迷うことは良いことだけど、諦めて立ち止まったらいけないよ、って教えてくれたのは朔さんだっけ。
もう守られるだけだった昔の俺じゃないから。
少しずつ誰かの役に立つことができてると思うんだ……だから、心配しないで。
兎にも角にも、素敵な夢を見られてよかった……。
まだまだ、貴方には及ばないけれど
……どうか、これからも見守っていてもらえたら嬉しいな。
じゃあね……俺の記憶の中の大好きな人
◇夢去り人【葉月・零】
騎士の背に守られて、羽根を焦がした金糸雀が去って。それから暫くしたら、空間がまた揺らいで。……気付いたら、あの人――朔さんが傍に戻っていた。
(戦いは終わったみたい?)
静かで、危険は無さそう。けれど目覚めの時が近いのかなって俺には何となく解った。夢の終わりが近くて、傍らには朔さんが居る。懐かしい想いに、記憶に浸っていたいなっていう気持ちはわからなくはないから俺は朔さんに尋ねてみることにした。
「ね、朔さん……俺の進んで来た道はこの道で正しかったのかな」
突然俺がそう尋ねたからか、朔さんは少しだけ驚いた顔をして、そして微笑んだ。
「正しくないと思った道を、零は進まないだろう?」
朔さんの、優しい声。
恩人であり憧れであり、兄のような朔さん。
朔さんが残した美桜のためにも、俺は真っ直ぐに進んできたはずだ。「ゼロくん」と呼ぶ桜色の幼子が頭を過り、唇の端が自然と上がった。
「はは、確かにそうだ。こんなとこで立ち止まっていたら朔さんに怒られちゃうね」
「俺が教えたこと、零は覚えている?」
俺は頷く。迷うことは良いことだけど、諦めて立ち止まったらいけないよ、って教えてくれたのは朔さんだ。
もう俺は守られるだけじゃなくて、守らないといけない相手も居る。
「ちゃんと進めているよ。少しずつ誰かの役に立つことができていると思うんだ……だから、心配しないで」
まだまだ貴方には及ばないけれど、これらからも見守っていてもらえたら嬉しいな。
そう言うと、朔さんは心底嬉しそうに微笑んでくれた。ぽんっと俺の頭に朔さんの手が乗る。くすぐったくて、俺も笑顔を浮かべてしまう。ああ、兎にも角にも、素敵な夢だ。夢の中ででも、貴方に逢えて良かった。
――じゃあね。俺の記憶の中の、大好きな人。
大成功
🔵🔵🔵
シン・バントライン
好きだったかという問いに対して、風に遮られた彼女の言葉は何となく想像がつく。
「ゲームに勝ったら教えてあげる」
楽しいことが好きで「ゲームをしましょう?」が口癖だった。
いろんなゲームをやった。
誰でも知っているようなカードゲームから、誰も知らないような独自ルールの終わりのないゲームもあった。
どちらが勝ったのか、勝敗なんて最初から無いようなものもたくさんあった。
彼女から誘われる数多の遊びには意味など無く、ゲームをすること自体が何かの言い訳だった気がする。
最後のゲームだけはこちらから誘おう。
「ゲームをしようか?」
デスゲームを。いつか必ず。
お互いこうなる事は分かっていた。
彼女はいつも通り笑うだろう。
◇夢去り人【シン・バントライン】
カップの割れる音を聞いた後、気配に気付いて振り向けば、そこにまた彼女が居た。髪を抑える、俺の美しい幼馴染。ヴァンパイアの、君。
風に遮られて聞こえなかった彼女の言葉。偽りの彼女の言葉は解らない。けれど、本物の彼女だったらきっと『ゲームに勝ったら教えてあげる』と言っただろう。何となくの想像だけど、いつも彼女はそうだったから。
彼女は楽しいことが好きで、「ゲームをしましょう?」が口癖だった。俺と彼女は色んなゲームをやった。誰でも知っているようなカードゲームから、誰も知らないような……それこそ、彼女が独自ルールを作り出した終わりのないようなゲームも。独自ルールのものは大変だ。どちらが勝ったのか、勝敗なんて最初からわからないものまであった。けれど彼女はいつだって自由で、負けず嫌いで、「私の勝ち」と言って譲らない。
『でもそうね、どうしてもって言うならもう一戦して白黒つけてあげてもいいわ』
そう彼女がいつも言うから、何度だって俺たちはゲームをした。
彼女から誘われる数多の遊びには意味など無く、ゲームをすること自体が何かの言い訳だった気がする。それを確認する術は今はないのだけれど。彼女に聞いてみたいな。そう、思った。
彼女と最後にゲームをしたのはいつだったか。
思い出せない。けれど、次に彼女と会えた時。それが俺と彼女の最後のゲーム。
「ゲームをしようか?」
最後のゲームだけは俺から誘おうと決めている。
俺からの誘いに、彼女はいつもどおり楽しげに笑った。
ああ、夢が醒める。世界が真白に染まり、彼女の姿を飲み込んで――。
いつか必ず、デスゲームを。
――お互いにこうなる事は分かっていたんだ。
大成功
🔵🔵🔵
ロス・ウェイスト
♢「お疲れさん」て、先生
けど、またいなくなってまうんやろ
まだ、ずっと、おってや
おれもここに、まだ先生と一緒にいたい
「あかんよ、あの子がまた一人になってまうもん」
誰も守れんかったおれが
戻ってもやれんかったから
ずっと一人にしてもうた、生き延びてくれた仲間
「シャオロンは寂しがり屋さんやから、ちゃんと見といたってよ」
やっぱり先生はずるい。甘くて、酷い
そんなん言われたら、いたいって言えんやん
「よう頑張ったね、ロス」
そうやってまた子供扱いする
先生
おれに居場所と仲間をくれたひと
教えてほしいことまだたくさんあるのに、もう聞けへん
いなくなるまでずっと話して
先生の声忘れんように聞かせてや
今度はちゃんと起きとるから
◇夢去り人【ロス・ウェイスト】
「お疲れさま、ようやったね」
先生の声に、俺は弾かれるように振り返った。
変な女が居なくなったら先生が戻ってきてくれた。やっぱし敵やったんや。よかった。先生が労いの言葉をくれる。それが『正解』。体が遊び疲れてた気がしてたけど、そんなん先生の顔見た吹っ飛んだ。
「『お疲れさん』て、先生。けど、またいなくなってまうんやろ」
先生のもとに駆け寄って、おれは拗ねた顔をする。だって、先生はすぐどっかいってまう。先生のすぐ傍で空気を吸い込むと、煙草の香りが肺いっぱいに満ちて少し心が落ち着く。
けれど。
まだ、ずっと、おってや。いなくならないで、先生。
「おれもここに、まだ先生と一緒にいたい」
「あかんよ、あの子がまた一人になってまうもん」
誰も守れんかったおれは、戻ってもやれんかった。ずっと一人にしてもうた、生き延びてくれた仲間。再び会えた、あいつ。
「シャオロンは寂しがり屋さんやから、ちゃんと見といたってよ」
やっぱり先生はずるい。甘くて、酷い。タバコの臭いと優しい声。
さっきみたいに「みんなもずっと一緒やで」って言うてよ。そんなん言われたら、ずっとここにいたいって言えんやん。
先生が、おれへ手を伸ばす。ぽすんと一度頭に降りて、ぽすぽすと優しく手を弾ませる先生。
「よう頑張ったね、ロス」
ほら、またそうやって子供扱いする。
おれ、もうそんなに子供やないって、何度言うたらわかってくれるんやろ。
ほんとはおれ、全部知っとんねん。もうすぐ夢が終わって、先生がいなくなるってこと。
甘くて酷い、先生。おれに居場所と仲間をくれて、色々教えてくれて……そして、おれを置いて死んでしまったひと。教えてほしいことまだたくさんあるのに、もう聞けへん。
終わりが近付いてくるのがわかるから、いなくなるまでずっと声を聞いていたくて、おれは話をせがむ。「まだまだ子供やな」って先生が笑う。子供でもええ。先生が話聞かせてくれるなら。
先生の声忘れんように聞かせてや。
今度はちゃんと起きとるから。
な、先生?
大成功
🔵🔵🔵
神原・響
♢
目が覚める、金糸雀も黒い鳥もすでに此処には居ない。他の猟兵が止めを刺したのだろうと納得する。
ふと自分が誰かに膝枕されているのだと気が付く。
「ん……響、起きたの?」
見上げれば姉が此方を見て微笑んだ。久しく忘れていた姉の笑顔だ。
起き上がろうとする自分を、姉が軽く押し止め、
「もう少しこうしてなさい、お姉ちゃん命令よ」
そう言って笑う姉に、私は……私達は、自然と話し始めた。他愛もない話をたくさん、たくさん話した。
もう間もなく夢が終わる。立ち上がる私を見て姉は
「身長抜かれちゃったね……うん、多くは言わない。行ってこい弟、負けるなよ!」
「行ってきます、姉さん」
もう振り返らない、想いはちゃんと此処にある。
◇夢去り人【神原・響】
夢の中で、目が覚める。夢の中だとすぐに気付けたのは、私の姿がまだ幼い……あの頃の姿だったから。
金糸雀の気配も黒い鳥たちの気配は、近くに居ない。と言うよりも、夢全体からそういった気配が既に無く、他の猟兵たちが止めを刺したのだろうと納得した。
それよりも、気になるもの。
横向きに寝転がっていた私の視界に、誰かの膝が映り込んでいる。背中には誰かの気配、そして二の腕の上には誰かの手が優しく置かれ、温かい。どうやら私は、誰かに膝枕をされているようだ。
「ん……響、起きたの?」
身じろいで仰向けになれば、姉が此方を見て微笑んだ。久しく忘れていた姉の顔。ああ、そういえばこんな優しい顔をしていた。優しく弟の私を見詰める目は、気にかけてくれているのだと解る。
私が起き上がろうとすると姉は私の頭に手を置いて押し留め、そのままくしゃくしゃと頭を撫でた。
「もう少しこうしてなさい、お姉ちゃん命令よ」
私は姉の笑顔を見上げたまま姉が満足するまで撫でられ、そしてそのまま、私達は自然と話し始めた。子供の頃の話、それから今の生活の話。他愛も無い話をたくさん、たくさんして。けれど話題は全然尽きることはなく、永遠に話し続けられる気さえした。
けれど。
もう間もなく夢が終わる。
こうして姉と過ごす時間も、終わる。
私は立ち上がる。今度は引き止められなかった。
「身長抜かれちゃったね……うん、多くは言わない。行ってこい弟、負けるなよ!」
「行ってきます、姉さん」
そうして私は歩き出す。夢の世界の終わりへと向かって。
このまま時間まで姉と過ごす事も出来た。けれど私は、自らの意思で前に向かうために、そうした。
背中に手を振る姉の気配を感じる。
もう振り返らない。想いはちゃんと此処にあるから。
大成功
🔵🔵🔵
落浜・語
目の前には座った主様
『かたり、そこ座りなさい』
ああ、怒ってる。
主様が敬語になるのは怒ってる時。逆らっちゃいけない。大人しく向かいに座ると、ぱちんと額を俺じゃない扇子で叩かれる。
そう、主様が持つのは俺じゃない。なんで、俺じゃ…不満が顔にでたらしいも一つ叩かれた。
『お前さん、俺との約束勘違いしてますよ』
すみません…でも、何を勘違いしてるか、わかりません。
『まったく…いいよ、そのうち思いだすだろ。でも無理はするな』
カラカラと笑う主様に頭を下げて、思いつく。ダメもとで頼んでみようか……
主様、お願いがあります。一席、稽古を。できるなら「たちぎれ」を。
『仕方ねぇな。いっぺんだけな』
…線香が、たちぎれました
◇夢去り人【落浜・語】
金糸雀が姿を消してから暫くして、ゆらりと視界が揺れて切り替わった。
俺は寄席の楽屋に立って居て、目の間にはいつもの定位置に座った主様。主様は静かな眼差しで俺を見つめていた。
「かたり、そこ座りなさい」
ああ、怒っている。声も姿もとても静かで解りづらいけれど、主様が敬語になるのは怒っている時。逆らっちゃいけない。大人しく向かいに座ると、ぱちんと額を俺じゃない扇子で叩かれた。
主様の手には俺じゃない扇子。
(なんで、俺じゃ……)
主様の手に収まっているのが不満で、顔に出てしまったのだろう。もひとつ、ぱちんと叩かれてしまった。主様が怒っているのに、不満を漏らした俺が悪い。額に手を添え、主様の持つ扇子を見ないように視線を少し落とした。
「お前さん、俺との約束勘違いしてますよ」
頭上から主様の声が掛かり、視線を持ち上げる。
約束を、勘違い?
どういう事なのか解らなくて、俺は主様に聞きかえす。
「すみません……でも、何を勘違いしてるか、わかりません」
「まったく……いいよ、そのうち思いだすだろ。でも無理はするな」
「はい……」
許してくれていること、案じてくださっていること。そのふたつが解って、カラカラと笑う主様に頭を下げる。
(――ダメもとで頼んでみようか……)
何故だか今なら頼みを聞いてくれそうに思えて、俺は主様へと向き直る。
「主様、お願いがあります」
「なんでぇ。言ってみろ」
「一席、稽古を。できるなら『たちぎれ』を」
「仕方ねぇな。いっぺんだけな」
俺だけのために主様が『たちぎれ』を演じてくれる。
古典落語、たちぎれ。置屋の娘に惚れ込んだ若旦那と娘の話。静かな、けれど伸びやかな主様の声が楽屋に満ちた。
扇子を煙草に見立て、主様が見えない煙を美味そうに吸い、ゆっくりと吐いて。見えない灰吹きへカツンと灰を落とす。娘に惚れ込んだ若旦那が店の金に手を出し、それに応じる番頭の名シーンだ。
店の金にまで手を出した若旦那は蔵へと100日閉じ込められ、幾度も置屋から届く文(ふみ)を読めはしない。蔵から出た若旦那は番頭に嘘を吐いてすぐに置屋へと向かうが、娘は死んだと聞かされる。若旦那が仏壇に手を合わせると、若旦那が贈った三味線が鳴り出して……。
抑揚を付け、主様が見事に演じ分ける。
そして――。
……線香が、たちぎれました。
――原話は『反魂香』。死んだ娘は返ってこない。
この夢は、線香と同じ。
夢という線香が立切れれば、主様の姿は、もう――。
大成功
🔵🔵🔵
リル・ルリ
♢
目覚めはきっとすぐだ
その前に君に
逢いに行く
目の前には割れた水槽
客席に腰掛ける黒猫の君…ネロに声をかける
僕と同じ位に成長した有り得ない姿の君
ネロごめんね
あの時
助けられなくて
君は僕に最期まで望んでくれたのに
ネロはあの頃みたいに笑って僕を撫でる
君が『自由に幸せになれ。ちゃんと笑えるようになれよ』って最期に望んでくれた事を思い出す
ネロ
僕は水槽の外に出て自由になった
戀…愛を教えてくれた人に出逢えて
同じ人魚の友達もできて
いつも僕は笑っていられる
僕は幸せ
君の眠る場所に桜を植えた
だから次は僕が黒以外のお花を君にみせるね
ネロ
ありがとう
おやすみなさい
泪と共に微笑んで目覚めれば
いつか君がくれた黒の薔薇の香りがした
◇夢去り人【リル・ルリ】
歌を最後の一節まで歌いきったら、僕は稚魚じゃなくなっていて、目覚めはきっとすぐだって解ってしまう。目覚める前に、君に逢いに行こう。
成長した尾鰭は、空を游ぐのも得意になった。外の世界を知れたから。
今の僕を君に見て貰いたくて、急いで泳いだ。
「……ネロ!」
「やあ、リル」
照明の落ちた舞台に割れた水槽。そして客席に君の姿を見つけ、声を掛ければ君は僕を見て明るく笑った。
僕と同じくらいに成長した、本当は有り得ない姿の君。こうなるだろうなって、僕が想像した姿だけれど、少し大人びて、精悍で、君らしい。
「あのね、ネロ。……ごめんね、あの時助けられなくて」
君は僕に最期まで望んでくれたのに。
君のすぐ傍で項垂れた僕の頭に、ネロの手が乗って。
「顔を上げろよ、リル。それとも、俺の言葉、忘れちゃったのか?」
「! ううん、忘れてな……えっと、さっき思い出したばかりだけど……忘れてない」
撫でられながら掛けられた言葉に、僕は勢いよく顔を上げた。
『自由に幸せになれ。ちゃんと笑えるようになれよ』
君が最期に望んでくれたこと。何で忘れるなんてことが出来たんだろう。ばかだな、僕。
もごもごと言葉を濁す僕を見て、ネロが声を上げて楽しそうに笑う。……そんなに笑わなくてもいいと思う。ああ、でも。ネロの笑顔を見ると、僕は懐かしくて。胸がいっぱいになる。
「君に伝えたいことがたくさんあるんだ」
君は静かに頷いて、僕を促す。
ネロ、僕は水槽の外に出て自由になったんだよ。水槽の外をたくさん泳いで、泳いで……それから、戀、をした。愛を教えてくれた人に出会ったんだ。あの人を想う心の上に言葉が生まれて、言葉が糸と糸とで結ばれて戀をして。心と心も結ばれて……愛しい気持ちを知ったんだ。それから、同じ人魚の友達もできたんだ。たくさんの大切な人たちと、僕はいつも笑っていられる。僕は、幸せ。
君の眠る場所には桜を植えたんだ。君に黒以外のお花を僕が見せてあげようと思って。特等席は君のもの。君だけのための、お花だよ。
それからね、ネロ。
ああ、時間が、足りない。君に伝えたいことがたくさんあるのに、もうすぐ夢が醒めてしまう。
ネロ、ネロ。ありがとう。
「おやすみなさい、ネロ」
じわりと視界が泪で歪む。けれど僕は微笑み、君も微笑む。
世界が白に飲まれ、そして――。
「もっと欲張って幸せになれよ、リル」
最後に、君の言葉が聞こえたんだ。
目が醒めれば、僕は一人で昏い棺の中。
白い花と羽根が敷き詰められたそこで、ふわり、香るのは。
(――ああ、君がくれた黒の薔薇の香りがする)
大成功
🔵🔵🔵
榛名・深冬
♢
手を払いのけたのに
また目の前に現れて
貴方は一体何を言いたいの?
わたしには言いたいこといっぱいある
何故少しでも後ろを振り向いて、家族を見てくれなかったのか
何故母にすら会いに来てくれなかったのか
何が貴方を戦いに駆り立てたのか
貴方のせいで母は苦労した
ついでにわたしも苦労してる
わたしが人間不信になった理由の半分は貴方のせいだどうしてくれるの
ついでに一発思い切りぶん殴りたいけれど
どれもこれも貴方は答えてくれないでしょう?
答えてくれたとして
それはわたしに都合のいい答えだ
そんな答え要らない
真実が知りたい
でも
言葉は要らないからどうか
一歩前に進めるように
背中を押してくれないか
それだけ少し前に進める気がするんだ
◇夢去り人【榛名・深冬】
手を払い除けて消えた父親が、再度わたしの前に現れる。
(――また目の前に現れて、貴方は一体何を言いたいの?)
違う。本当は解っている。これはわたしの夢だから、父が何かを言いたいから現れるんじゃない。わたしが父に言いたいことがいっぱいあるから、姿を現すんだ。
何故少しでも後ろを振り向いて、家族を見てくれなかったのか。わたしたちは大事じゃなかったのか。母にすら会いにきてくれなかったのか。何が貴方を戦いに駆り立てたのか。
何故、何故、何故。わたしの疑問は尽きることがない。
言いたいことを言いたいだけ、ぶつける。けれど答えは返ってこない。父の顔すらまともに覚えていないわたしの生み出した、ただの幻影。父がどう答えるかなんて、わたしには解らない。わたしにとって都合のいい返事を求めている訳でもない。
真実が知りたい。ただそれだけなのに。わたしの思い描く父の幻影から真実を得ることは出来ない。
貴方のせいで母もわたしも苦労した。だからせめて、これだけは言いたい。
「わたしが人間不信になった理由の半分は貴方のせいだ。どうしてくれるの」
どうしてくれると言っても、貴方は何も出来ないのでしょう?
一発思い切りぶん殴ったらこの気持ちは晴れる? ……叱ったり、反応は見せてくれる?
けれどきっと、どれも答えはNOだ。わたしに都合のいい答えなんていらない。
だったら、せめて。
背中を押して欲しい。
それだけ少し前に進める気がするんだ。
……そう口にするのも、勇気がいる。
苛立ち任せに言えることではなくて、わたしは何度も口を開いて、閉じる。
わたしを勇気づけるように、腕に抱いた燈の温度が上がった。
「……お父、さん」
一歩前に進めるように、どうか。
背中を押して。
大成功
🔵🔵🔵
皆城・白露
(アドリブ・言い回し変更等歓迎です)
再び現れた二人の実験体仲間に、「まだ何か胸糞悪い事を言う気か」と嫌悪を露わにする
それでも、立ち去るでもなくただそばに佇む二人を暫くは疑いの目で見るが
『お前が自分を許せるかどうかに、自分達が何を言っても仕方ない。お前は頑固だからなあ』と言われ態度を和らげる
その後は廃墟となった実験施設を歩きながらぽつぽつと会話
夢が壊れて薄れていく最後の最後に、灰色髪の少年に
『納得いくことに命を使えよ。お前が決めた事なら、付き合うから』と言われ
涙を流しながら目を覚ます
(あいつらは、どこにもいないが、そばにいる)
◇夢去り人【皆城・白露】
邪神が姿を消して、どれくらいたったのだろう。気付けばオレの怪我は癒えて、傷跡すら残っていなかった。どうやら他の猟兵が無事に邪神を葬ったようだ。
そう多くの時間を経ずに、この夢は終わるのだろう。
だが、先刻倒したはずの二人が、再びオレの目の前に現れた。
「まだ何か胸糞悪い事を言う気か」
反射的に眉間に皺を寄せ、腹の底から威嚇するような声が出た。再び二人を爪にかけたくはない。叶うならば、耳障りな言葉は言わず、そのまま立ち去ってほしかった。しかし、二人は立ち去ることなく傍に佇み続け、オレはそんな二人を怪訝な目で見る。
どれだけそうしていたのだろう。長かったかも知れない。短かったかも知れない。沈黙を破ったのは黒髪の青年だった。耐えられないと言うようにフハッと一度噴き出して、苦笑いを浮かべてオレを見てくる。
「お前が自分を許せるかどうかに、自分達が何を言っても仕方ない。お前は頑固だからなあ」
隣の灰色髪の少年も全くだと同調するように何度も大きく頷いてきやがる。
(なんだ。さっきのとは違うのか。それならこの二人は――)
「少し、歩こう」
黒髪の青年が親指で指して歩き始め、小走りに追いかける灰色髪の少年の後からオレも続いて歩き出す。いくつか話をしながら、廃墟となった実験施設を三人で歩いた。
廃墟となった施設は、当然のことだが人が居ない。あの頃はオレたちのような実験体も科学者もたくさん居たから、なんだかとても不思議な……知らない場所のようにさえ思えた。
ぽつぽつと続く、会話。元々時間は然程無いのは解っていたけれど、その時は思っていたよりもあっさりとやってきた。世界の隅が白く染まりだして、じわりとインクが滲むように白が世界を侵食していく。
ああ、こいつらともここでお別れか。
オレの意識も段々と白くなり、消える間際――。
「納得いくことに命を使えよ。お前が決めた事なら、付き合うから」
灰色髪の少年の声が、聞こえた。
頬を伝う冷たい感触で目を覚ます。
いつから零れていたのか、頬に触れてみたがそれは既に熱を持っていなかった。
(あいつらは、どこにもいないが、そばにいる)
狭くて昏い棺の中、確かにオレは二人の気配を傍に感じていた。
大成功
🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
🌸◇
夕暮れ時
見知った懐かしい屋敷の廊下を歩く
縁側に座る父の背中
否定しても
拒んでも
家族の愛を望む自分がいることは確か
家族に愛されるというのはあんな感じなのね
反吐が出るくらい
いい夢が見られたわ
父上達があたしを勘当して追い出したのも、あたしにも原因があるしわかってるの
昔は荒れていたから
過ぎた話しよ
こうなったのも全て、お互いが歩み寄らなかったから
父上達が追い出してくれたお陰で、唯一に出逢えたわ
あたしにとって大切なのはいつだって
あの子と過ごす今だから
これで家族の愛をしらぬあの子に少しはそれを教えられるかしら
ただ背中に言葉を投げかけるだけ
桜が髪を撫でて
目覚める時は一人
今度久しぶりに
実家に帰ってみましょう
◇夢去り人【誘名・櫻宵】
西日が廊下を橙に染めて、長くは待たずに地平線に飲み込まれる夕暮れ時。あたしは一人、見知った懐かしい屋敷の廊下を歩く。
塒へと帰る鳥の声を聞きながら暫く歩くと、縁側に父の背中が見え、あたしは足を止めた。幼い頃は只々大きくて、立ち塞がる壁にしか思えなくて恐ろしかった厳格な父上の背中。あの背中の向こうで父上が何を考えているのか。知らなかったし、知ろうともしなかった。
否定しても拒んでも、家族の愛を望む自分が居ることは確かで。あたしは真実を突きつけられた気分。夢の中とは言え家族に愛される夢。反吐が出るくらいいい夢ね。……でもこれで、家族の愛を知らぬあの子に、少しはそれを教えられるのかしら。そう思えば、悪い夢でもなかったのかもしれないわ。
縁側へ座る父上の背中へ、少しだけ距離を詰める。
「――父上」
声を掛ける。けれど父上は振り返らない。あたしはただ声を投げかけたいだけで、振り向いて家族ごっこの続きをしたい訳じゃないから。
父上達があたしを勘当して追い出したのも、あたしにも原因があるし……わかっているの。あたし、昔は荒れていたから。当時のあたしの事を知ったら、あの子は目をまんまるにしそうね。
それも、過ぎた話よ。今なら、お互いが歩み寄らなかった所為って解るけれど、あの頃はどうしようもなかったもの。父上達も、あたしも。
けれど結果的には、追い出されて良かったと思っているわ。そう思えるようになったのは、あの子のお陰。あの子に出逢えて、今のあたしがある。ふふ。あの子の事を少し考えるだけで、笑みが浮かんでしまうのよ。
「父上達が追い出してくれたお陰で、唯一に出逢えたわ」
あたしにとって大切なのはいつだってあの子と過ごす今だから。
今ならあたしは、あの子に出逢わせてくれた全ての事象に感謝できるわ。
あの時にこうして話しかけていたら振り返ってくれていたのかしら。なんて。それこそ過ぎた話ね。
さあ、そろそろ時間かしら。なんて思ったら、強い風が吹いて。暗色に染まった桜を連れた風が髪を撫でる。
――その瞬間。
父上が振り返って、口を開け――。
ハッと目を開けると、そこは棺の中。勢い余って飛び起きなくて良かったわ。赤い額を隠しながらあの子に会うのは恥ずかしいもの。
あの子の姿を思い浮かべ、くすりと笑って。
それからふと過るのは、夢の終わり。
――今度、久しぶりに実家に帰ってみましょうか。
今のあたしなら、違う関係が結べるかもしれないわ。
大成功
🔵🔵🔵
漆島・昂一
♢
邪神が倒されたことでニミュエも夢の中に入ることが出来た
といっても俺の夢の景色に口はさむ程度だ。
夢の中の家族は…俺も気に留めず3人で生活している。
こうしてるとホントに幽霊になった気分だな。
でもこれでいい。もう会えはしなくても、この光景は現実に今ある。
失ってもいない俺が、夢に甘えるわけにはいかない。
はっきりとわかるぐらい近く、彼方まで遠くにあるこの夢みたいな現実を守るために、
俺は戦い抜いてみせる。
今はもう少し、夢の景色を眺めてよう。
後で眠っている人らも助けに行かないとな。
〈腕。見事にボロボロね。〉
「言ってろ。起きれば直ってんだろ。」
「今度は予め装甲着とくか?…悪夢見たって怖がられそうだな…。」
◇夢去り人【漆島・昂一】
邪神が立ち去ってから暫く経ち、俺も落ち着きを取り戻す。そして、他の猟兵たちが邪神を倒したのだろう。夢の中に介入することが叶った支援AI、ニミュエが俺の名を呼んだ。
『昂一』
どうやら、俺の夢に言いたいことでもあるのだろう。というのも、俺が目の前の光景に介入することなく、ただ見ているだけだからだ。
目の前では、俺の家族達が三人で生活している。俺のことを気にも留めず、三人の日常を送っていた。
妹が楽しそうに何かを告げると、父さんと母さんが笑顔を浮かべる。俺が話しかければ、皆振り向くかも知れない。けれど俺はそうはせず、ただ黙って見ている。誰にも気付かれない、幽霊にでもなったかのように。
でも、これでいい。ニミュエは不満のようだが、俺はこれでいいと思っている。
この光景自体は俺の想像に過ぎないものだけれど、今も現実にある光景だろう。今日じゃなくても明日。明日じゃなくても明後日。――何れかの日々に、この光景はきっとある。俺の居ない、家族達の日常だ。
俺の死亡宣告を聞いた妹がこうして笑えるようになるまで、どれだけ掛かったのだろう。悲しんで崩れ落ちる母さんを、同じ悲しみを抱えながら父さんはどう支え、悲しみを乗り越えてきたのだろう。
だから、これでいい。俺の優しくてすごく暖かかった家族達が再び笑い合えているのなら。失ってもいない俺が、夢に甘えるわけにはいかない。
もう会えなくても、この夢みたいな現実を守るために、俺は戦い抜いてみせる。
『あなたがいいなら、それでいいけれど』
ニミュエの声を聞きながら、俺は家族達から視線を外さない。
『それにしても、腕。見事にボロボロね』
「言ってろ。起きれば直ってんだろ」
夢から醒めるまで、もうそんなに長くはないだろう。
家族の日常だけではなく、眠っている人たちも助けなくては。
けれど、今はもう少し。
この夢の景色を眺めていようと思った。
大成功
🔵🔵🔵
瑞枝・咲耶
◇
溢れんばかりに咲いていた江戸彼岸はなく見慣れた和室の彼の部屋
少年の彼は古びた神楽笛を一生懸命に掃除している
手を伸ばしてもすり抜けてすぐに理解する
これは過去の記憶
幼少から身体が弱かった彼に与えられた楽師の職
態々薄汚れた神楽笛を選んだ彼は笛を磨きながら嬉しそうに私に語りかける
君は今日から僕の笛だ
名前をつけなくてはね…そうだ『咲耶』は如何だろう?
桜の美しい神様の名前
きっと君の音は美しいに違いないから
初めて鳴らした音はそれは酷いものでしたね
けれど直に私で綺麗な音を響かせてくれた
それだけ私を愛し向き合ってくれた貴方様
私の声は届きませんが問いかけます
心を得た私がはじめて抱いた感情の名をご存じでしょうか?
◇夢去り人【瑞枝・咲耶】
邪を祓う笛を響かせてから、どれだけ経ったことでしょう。
気付けば溢れんばかりに咲いていた江戸彼岸はなく、見慣れた和室――彼の部屋に居ました。先程までの姿と変わり、彼は私と出会ったばかりの頃の幼い姿。彼は私へと視線を向けること無く、手にした古びた神楽笛を懸命に掃除していました。
真っ直ぐに笛へと向けられる視線。記憶にあるその姿。過去の記憶と確信しながらも手を伸ばせば、質感を伴わずするりとすり抜けて。
ヒトの身を得た私は、触れたいと願ってしまう。貴方様の手の内で『私』が触れてもらえているのに、自ら触れられないことに寂しさを覚えてしまうのです。せめてお側にと、寄り添わせて頂きましょう。触れられぬ身では、お邪魔にさえなりませんから。
「君は今日から僕の笛だ」
私を磨きながら、優しい声で嬉しそうに話し掛けてくださる貴方様。
幼少の砌より身体が弱かった貴方様に与えられた、楽師の職。他にも美しい楽器はあったのに、貴方様は態々薄汚れた神楽笛を――私を選んでくださいました。
「名前をつけなくてはね……そうだ『咲耶』は如何だろう?」
私はただの笛なのに。物言わぬ笛なのに。貴方様は名を授けてくださいましたね。
私は幾度もこの時を思い出し、今もこうして夢に見ております。
「桜の美しい神様の名前だよ」
名の由来を聞かされた私が、どんなにうれしかったことか。
「きっと君の音は美しいに違いないから」
こうして私を綺麗にしてくださっている貴方様はまだ知る由もないことですが、初めて鳴らした音はそれは酷いものでしたね。けれど直に私で綺麗な音を響かせてくださいました。私が美しい音を奏でられるように手入れをし、愛し向き合ってくださいました。
――貴方様。
「心を得た私がはじめて抱いた感情の名をご存じでしょうか?」
私の声は届かないと知りつつも、私は問いかけてしまいます。
当然のことながら、答えは返ってはきません。けれど、それで良いのです。
貴方様は只管真摯な姿勢で神楽笛の手入れを続け、私はそのお姿を見つめていました。夢から醒めるまで、ずっと――。
大成功
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星群・ヒカル
♢POW
よう、また会ったな
なぁ
自由になっても、銀河帝国が滅びても
おめーを助けられなかったことは、ずっと後悔してるんだ
おれが後悔することなんて滅多にないんだぜ
そのクスクス笑い、いつもムカついてたけど
……もうなにもいわねぇよ
あーもう、少しはセンチメンタルに浸らせろッ
(目を伏せ表情を読まれないように)
これは?大きな銀の鍵だな
おれが持っておくべきもの?
『やっと渡せる』?
『第六感』で感じ取るこの感じ
さっきと違ってまるで本当に魂が入ったみたいだ
ちょっと待ってくれよ、おれはまだ!
(……優しく、鍵を渡される)
一瞬でも、もっと夢が続くようにと願った?このおれが?
けど、この縋るような感情は、きっと真実なんだろうな
◇夢去り人【星群・ヒカル】
「よう、また会ったな」
茶色のふわふわとした女が居なくなった後、早く夢から醒めねぇかなっと選抜艦の校舎で待っていたおれの前に、再度蜂女俠子が現れた。
片手を上げて声を掛けると、蜂女はジャラリと鎖を鳴らしながらゆるく首を傾げた。微かに笑ったようだ。
「なぁ、蜂女」
「……なんだい?」
おれが名を呼べば、おめーは静かに応えて。
だからだろうか。おれは素直に言葉を紡げた。
「自由になっても、銀河帝国が滅びても、おめーを助けられなかったことは、ずっと後悔してるんだ」
おれが後悔することなんて滅多にないんだぜ。本心からそう思っている。
なのによ。蜂女は「そう」って言って、クスクス笑いやがるんだ。そのクスクス笑い、いつもムカついてたけど。でももうおめーはどこにも居ないからだろうか。何故だがすごく懐かしく感じる。
「……もうなにもいわねぇよ」
「なぁに。もっと聞かせてよ」
「あーもう、少しはセンチメンタルに浸らせろッ」
なんでおめーはそう楽しそうなんだよ。おれは帽子のツバを摘んでグイッと目深に被り、蜂女から表情を隠した。
蜂女はそんなおれの様子に気にした素振りは見せず――その方がおれも助かるが――銀色の大きな鍵を取り出し、俺へと差し出してくる。どうやら手に取れと言っているようだが……。
「これは? 大きな銀の鍵だな」
「それはアンタが持っておくべきものだよ。……やっと渡せるわ」
「やっと……? どういうことだ?」
蜂女がさっきまでとは違う。そうおれの第六感が告げている。さっき会った蜂女とは違い、まるで魂が入ったみたいだった。
なかなか鍵へと手を伸ばさずに居ると、蜂女に手を取られ、その手に優しく鍵を握らされた。
「それじゃぁね」
蜂女が用は済んだと言わんばかりにおれに背を向ける。
おれは咄嗟――。
「ちょっと待ってくれよ、おれはまだ!」
縋るように手を伸ばし、そう叫んでいた。
一瞬でも、もっと夢が続くようにと願った? このおれが?
(――けど、この縋るような感情は、きっと真実なんだろうな)
夢の終わりまで一緒に居てはくれないんだな。おめーってやつは。
蜂女の姿を見送り、おれは一人選抜艦で手に残された鍵を見つめて夢の終わりを待った。
夢から醒めれば消えるであろうその鍵を、覚えておけるように。
大成功
🔵🔵🔵
レーヴ・プリエール
……あれ?
ここはレーヴが知っている所。高い塔の真っ白な牢獄。
レーヴがおきた場所。
……格子のむこう側にいるのは、「あの人」?
……どうして、レーヴは今、どきってしたんだろう?
見覚え?知っている感じ?……よく、分からない……。
ううん。ちがう。きっとこれは懐かしいって気持ちなのかな。
貴女の事がしりたいから、格子越しに手を伸ばす。
でも、まるでレーヴは幽霊になったみたいに触れられない。
名前はなあに?
どうしてレーヴの夢にいるの?
やっと、真っ白な羽に指先が届いて…ーー。
……あれ?
夢をみてたのに、泡みたいに消えて……。
何を見ていたんだっけ?
レーヴ、ないてる?
どうして、なんで……。
こんなに胸がいたいんだろう?
◇夢去り人【レーヴ・プリエール】
気付けばレーヴは違う場所にいたの。牢のような格子に、高い窓。窓のすぐ近くを鳥が飛んで、高いところにいるってわかった。
(……あれ?)
既視感を覚えて、レーヴは瞬くの。けれど、すぐに疑問は解けるわ。
ここはレーヴが知っている所。高い塔の真っ白な牢獄。レーヴがおきた場所。
さっきの夢とは違う夢?
ぐるりと周囲を見渡せば、格子の向こうに人の姿。
(……もしかして、『あの人』?)
――とくん。
レーヴの鼓動がひとつ、大きく跳ねた。
少し驚いて、レーヴは胸の前で手を握るの。けれど鼓動は一度跳ねたきり。兎のように何度も跳ねたりはしなかった。
(……どうして、レーヴは今、どきってしたんだろう?)
見覚え? 知っている感じ? ……よく、分からない……。
それが悪いものなのか、良いものなのかも、分からない。けれど。
(ううん、ちがう。きっとこれは、懐かしいって気持ちなのかな)
だってなんだか少し、暖かい気がするもの。
「ねえ、あなた」
あなたの事がしりたくて、声を掛ける。
けれどあなたは振り返らなくて、レーヴは格子越しに手を伸ばす。
でも、レーヴはまるで幽霊になったみたいに触れられない。
「名前はなあに?」
何度も声を掛けて。
関節を目一杯伸ばして。
「どうしてレーヴの夢にいるの?」
――答えて。
その人にはレーヴの声が聞こえていないみたいで振り向いてはくれない。やっぱしレーヴ、幽霊になっちゃったのかな。
けれど。やっと、真っ白な羽根に指先が届いて……――。
ぱちりと目を開けたら昏い場所。
(……あれ? レーヴ、今……)
夢を、見ていたの。確かにレーヴは夢を見ていた。それは解るのに、ぱちんぱちんと泡みたいに弾けて消えて……何を見ていたんだっけ? 見ていたはずなのに、思い出せない。
何故だか胸がとても苦しくなって、レーヴは頬に手を伸ばしてやっと気付くの。
(――レーヴ、泣いてる?)
いつから頬を濡らしていたのか、触れるまでレーヴは気付かなかったの。どうして泣いているのかも、なんで泣いているのかも、レーヴにはわからない。
それなのに。
どうしてこんなに胸がいたいんだろう?
胸の前で握り締めた指先に、柔らかなものに触れた感触が残っている気がするのは、何故――。
大成功
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萬場・了
変わらない穏やかな日常の中、歩いていた
どうやら俺が出口を探さなくても夢は覚めるらしい
ならこうして、膝を抱えて覚めるのを待っててもいいだろ
掌の内側にまだ先程の感覚が残っている気がする
目覚めたら、忘れてるんだろうか…
夢の中で目を閉じる
遠くから祭囃子が聞こえた
『つまんないね』
背中側からこどもの声
「俺」の声かもしれない
『ねえ』
ほっといてくれ
俺は兄じゃないんだから
兄ちゃんじゃない
『だから、ここにいるよ』
肩を叩かれた
どういうことだろうと顔を上げる
不貞腐れたような不愛想な顔の「俺」が手を差し出していた
自分よりも少し小さな手を握り返す
笑顔が下手くそだった
掌の上のカメラが、少し軽くなったような気がする。
◇夢去り人【萬場・了】
人々が行き交う雑踏を歩く。特に何かあるって訳じゃない、俺の日常とその他大勢の日常。話し声を聞くともなしに聞きながら、予定もなくただ歩いていた。
そのまま歩けばいつかは夢の出口でもあるのかと思ったが、どうやらそういう訳でもないらしい。目覚めの予感はいつだって近くにあって、徐々にそれが近付いてきているように感じた。
俺は狭い路地に入り、壁に肩を預けてしゃがみ込む。出口を探さなくていいのなら、こうして膝を抱えて目覚めを待ってもいいだろ。余計に疲れないし、建設的だ。
膝に額をつけ、足を抱き寄せる。掌の内側にまだ先程の感覚が残っている気がして、気分が悪い。首を、締める、感覚。夢なのに妙に生々しくて、ともすれば指先が震えそうになる。
(――目覚めたら、忘れてるんだろうか……)
足を抱く手にぎゅっと力を篭め、目を閉じた。
人の流れから外れても、ざわざわと営みの音を耳が拾う。そして遠くに音楽が聞こえる気がして耳をすませば、それが祭囃子だという事に気がついた。どこか懐かしさを感じる祭囃子。いつしかそれに意識を集中していた俺は、突如掛けられた声に大きく肩を跳ねさせる。
「つまんないね」
いつの間に傍に居たのだろう。背後、すぐ近くから子供の声。どこかで聞いた声のような気がする。
「ねえ」
顔を上げて振り向かない俺に、子供が声を掛けてくる。聞いた声、じゃない。『俺』の声。『俺』だ。
ほっといてくれ。俺は兄じゃないんだから。俺は……兄ちゃんじゃない。
「だから、ここにいるよ」
子供が正面に回り込んだ気配がして、子供の小さな手が、俺の肩を叩いて可笑しな事を言う。
ここにいる? どういうことだ?
不思議に思って顔を上げると、そこには小さな子供の手があって。手から先を辿るようにゆっくりと視線を滑らすと、不貞腐れたような無愛想な『俺』の顔。差し出された手が握られるのを待っているのだろう。静かな目が俺を見ていた。
自分よりも少し小さな手を握り返す。
『俺』が少しだけ目を見開いて、笑う。
我ながら、下手くそな笑顔だった。
だから、俺もつい、笑ってしまった。
棺の中、目を覚ます。
そこには『俺』は居なくて。
けれど。
掌の上のカメラが、少し軽くなったような気がした。
◆ おやすみなさい、良い夢を
◇ ――おはよう、気分はどう?
●夢の棺
最後の客が店を後にする。
鳥籠のような戸も、看板すら無くなっていることにも気付かずに。
ただ満ち足りたような、軽くなった気持ちだけを胸に雑踏へと消えた。
その後、SNS上でその店の噂が流れることは、二度となかった――。
大成功
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