美濃国、関ヶ原。かつて大きな戦があった地である。
夜、鳥の声だろうか? 奇妙な鳴き声が、近くの村に響き渡っっていた。
「おい、やっぱり何か聞こえないか?」
「お父ちゃん……。怖い……。幽霊かな?」
「そうかもしれん……」
一つの長屋に住む村民が、怯えて、成仏を祈っている。
「お父ちゃん……。何か、しゃべってないかな?」
「……そうか?」
父親は娘の言葉を聞いて、二人で耳を澄ます。
『イツマデモ……』
「!?」
その声は、そう聞こえた。思わず親子は身を寄せ合い、また成仏を祈ったのだった。
所変わって、グリモアベース。
「ちょっと、手伝ってくれへんか?」
如月・鬼怒(羅刹のバーバリアン・f04871)が唐突に話を切り出した。
「実はや、サムライエンパイアの関が原って所でな、なにやら不思議な鳥の声が聞こえるという情報が入ったんや」
鬼怒は腰に紐でつるしている、どぶろくの入った瓢箪を持ち上げて、机に置く。
「その鳥は、どうやら夜に鳴いているらしいんやけど、よく聞いてみると『イツマデモ……』っちゅう声やったらしいわ」
その事を聞き、想像力の逞しい猟兵の一人が、ひぇっ! と声をあげる。
「ま、ちょっとした怪奇現象やけど、その鳥が何を意味してるもんかを調べたんやけど、どうやらオブリビオンが絡んでいる可能性が高いことがわかってな。そこで、皆に調査を行って貰いたいわけや」
その奇妙な鳥は、オブリビオンでは無いらしいが、何かしら関係性のある事であれば、猟兵の仕事である。
「まず皆には、関が原の近くにある村に行ってもらって、調査をしてもらう。直接その鳥を捕まえる事に動いてもええし、怪しい噂なんかを調査してもらってもええ。最終の目的は、関係している可能性のあるオブリビオンを倒し、事件を解決する事や」
その言葉に頷く猟兵達。鳥が運んでくる事とは、何であろうか。しかし、確かに聞いただけでは、それ以上の事は解決しなさそうだ。
「何か動けば、情報は手に入ると思うから、後は皆の力で頼むで。終わったら酒でも一杯やろう」
鬼怒の言葉に、猟兵達は現場へと跳んでいったのだった。
沙羅衝
皆さん。如何お過ごしでしょうか。沙羅衝です。
今回の事件は美濃国、関が原の戦場跡近くの村で起こった事件です。
詳細や雰囲気などは、オープニングを参考にしてくださいね。
鬼怒ちゃんの話の通り、まずは情報収集から行っていただきます。
第1章は、その鳥が何の情報を持ってきているのかという謎を解くという事が目的になります。
出ているPOW/SPD/WIZはほんの一例になります。基本的にどんな事をしていただいても結構です。
それ以降の話は今のところ伏せておきますが、少しシリアスより、とだけ紹介しておきますね。。。
それでは、プレイングをお願いします。
第1章 冒険
『イツマデモ…』
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POW : 力技でその鳥を捕まえて調査
SPD : 罠などを仕掛け鳥の捕獲を試みる
WIZ : 周辺の村人に聞いて新たな情報を得る
👑11
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紫洲川・珠璃
「イツマデモ、ねぇ。確かそんな鳴き声する怪鳥がいたような気がするけど」
とはいえ変な先入観をもって事に当たると足元を掬われかねないので固執はしないでおきましょう
とりあえず件の村で聞き込みかしらね
いつから聞こえるのか、その時期近辺でなにか変わったことがなかったかとか
どちらの方角から聞こえてくるのか?
鳴き声は複数のときがあるのかを聞いてみましょう
それとは別に、オブリビオンが出てきそうなら戦う場所になりそうなところの状況も見ておきたいわね。
それによって戦い方も変わるでしょうし
葛乃葉・やすな
イツマデモ……か。
その怪鳥が出るとなるとあまり良い事態では無さそうじゃがな…。
わしは【情報収集】と行こうかのう。
怪鳥が鳴いているとされる付近で聞き込みと周囲の見回りをする。
聞き込む内容は最近、例の怪鳥以外で妙なことが起きているか、例えば「最近何かしらの理由で死者が増えたか」とか「誰か姿を見せなくなった者はいないか」など。
聞き込みで得られた情報を元に周囲のを見回りを行う。
何か違和感に気付けると良いがのう。
※アドリブや絡み歓迎じゃ
●関が原とその村と
「ここが戦場跡なのね……」
紫洲川・珠璃(夜を追う者・f00262)はかつて戦場であった場所を見ていた。今はかなり片付けられているが、祟りや霊を恐れてか、その場所に踏み入る人間は少ない。
(「イツマデモ、ねぇ。確かそんな鳴き声する怪鳥がいたような気がするけど」)
珠璃はそう思いながら、ゆっくりと辺りを見渡す。
一帯は不気味なほど静かで、心なしか少しの寒気を覚えた。
「戦いになるとすれば、ここの場所……になるのかも知れないわね」
そう思って振り返ると、葛乃葉・やすな(子供好きの妖狐・f14023)の姿が見えた。
「この辺りの村に、その鳥の鳴き声を聞いたという情報があったのじゃ」
やすなは珠璃にそう告げる。すると、珠璃は行きましょう、と行って二人は共に歩いていった。
二人が辿りついた村は、ひっそりとしていた。栄えているわけでもなく、人々がひっそりと暮らす村。先程の戦場よりは幾分活気はあったが、それまでだった。
「すまんが、誰か姿を見せなくなった者とかおらんかったかのう……」
やすなは通りがかった村人に、そう尋ねて回っていた。だが、帰って来る答えは無言で首を横に振る姿だけだった。
「変わったことも、聞けないみたいね……」
そこで珠璃は思い切って、鳥の事を通りがかった農民の少年に尋ねてみた。
「ねえ、変な鳥の鳴き声とか聞いたことないかな?」
するとその少年は、少し吃驚したような顔をして、彼女達を見つめる。どうやら、少し疑っているようだ。
「少年、何か知っておるんじゃな?」
その様子に気が付いたやすなが、この少年は何か情報を持っていると気付く。
「大丈夫。お姉さんたち、ちょっと調べているだけだから」
珠璃もそう言って、少年の警戒心を解こうと声をかけた。
「……みんな、幽霊だって言ってる」
「幽霊じゃと?」
ポツリと呟く少年に、やすなが頷きながら、もう少し踏み込んで話を聞こうとする。
「でもみんな、祟りが怖いから、これ以上話とかしないんだ……」
「大丈夫じゃ。悪いようにはせん。のう?」
「ええ。……そうだ、その鳥って、どっちの方角から声が聞こえたりするか知ってる?」
やすなの言葉の誘いに頷きながら、珠璃はそう問いかけた。
「あっちの山のほう……」
少年はそう言って、少し小高い山を指した。山と言うよりも森であろうか。
「その辺りに住んでいる人とかは居るのかのう?」
やすなはその周辺を見回るべきと考え、周囲の屋敷などを尋ねたのだ。
「あそこには、山から流れてくる川があって、お姉さんが一人で住んでる家が近くにある。ちょうど、お姉さんくらいの歳だよ」
少年は珠璃を指差した。珠璃はまだ20歳である。そんな女性が一人で住んでいるとは、不思議だった。
二人はお互いに同じ事を思って頷くと、少年に礼を言った後に、その家へと向かったのだった。
成功
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桐生・明澄
すぐ近くに関が原があるのね。
わたしもあんな戦場に立ってみたいわ。
まずは鳥の調査だったね。
そうね、わたしは鳥を捕まえるわ。
【忍び足】で音を立てずに背後から近づいてわたしの間合いに入ったらUC【剣技之一・稲妻】で一瞬で近寄り、抜刀せずに鞘を鳥にあて地面に押し付ける。
成功したらこの鳥に詳しい人に渡して調査してもらう。
わたしには何をしたら良いか分からないしね。
相手が鳥だから捕まえるのは難しいかもしれないけどこれも修行の一環よ。
アドリブや絡み歓迎です
勘解由小路・津雲
アドリブ等歓迎
さて、まだ事件の全容が見えぬ。まずは情報を集めねば。
■行動 ユーベルコード【式神召喚】を使用。相手が鳥ということであれば、こちらも「式神」を鳥の形で打つとしよう。
「いつまでも」という鳴き声(?)が聞こえたらそちらを「追跡」する。ただ、その鳥は夜出ると聞く。こちらは夜目がきくわけでもないから、どこまで追いかけられるか? 場合によってはどの方向に移動したかを確認し、翌日改めて調査する必要もあるだろうな。
また、鳥の出現まで時間があるなら、無理のない範囲で村人から話でも聞いておくか。「いつまでも」という言葉に心当たりはあるか? ニュアンスによって、恨み言にも、誓にも聞こえる言葉だが……。
黒城・魅夜
オブリビオンではないというのでしたら、その鳥、無理に討滅せずともよさそうです。
しかし何らかの怪異の手がかりになるというのであれば、放置もまたできませんね。
鮮血の胡蝶を周囲一帯に飛ばし、広範囲を監視します。
鳥が見つかれば急行し、私の鎖を舞わせて、その鳥を捕獲できないか、試してみるとしましょう。暗夜の中でも、見逃しはしません(早業・先制攻撃・範囲攻撃・ロープワーク・暗視・第六感)。
もしとらえきれずに逃がしたとしても、私の胡蝶たちはその鳥を追跡し、行方を突き止めることでしょう。
――しかし、「イツマデモ」ですか……。
なにか、私の胸の奥にも刺さりそうな言葉です。
私も、いつまでも「あの方」を……。
「あの山のほうなのですね……」
黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)はそう言って、珠璃とやすなの情報にあった山の入り口で、意識を集中する。
『無慈悲なる鮮血よ漆黒の胎に恍惚の翅を解き放て』
彼女はそう言うと、少し跪き、暗闇に染まりつつある夕日を背に、血の様な紅の蝶を呼び出した。
その蝶は暗闇に紛れ、空へと舞い上がっていった。
「さて、さて、まだ事件の全容が見えぬ。ではその鳥を追跡するほうが良さそうだ」
勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)は、魅夜の隣で印を切った。
『隠密追跡、急急如律令!』
彼は鳥の式神を呼び出した。
(「恨み言か……、それとも誓か?」)
津雲はそう思いながら、式神を飛ばした。津雲は珠璃とやすなや、村人から話を聞いていた。
ここ関が原は、対戦があった場所である。聞いたような怪奇現象は、村人は基本的に霊の仕業だと、事を荒立てないようにしているらしい。
そんな話を聞いていると、彼女達の情報が飛び込んできたのである。
彼らはそう準備をしながら、夜を待った。
日はすぐに落ちていった。辺りの家からは、簡単な夕げを済まし、すぐに火を消して眠りに付く家がほとんどだった。
「すぐ近くに関が原があるのね。わたしもあんな戦場に立ってみたいわ」
桐生・明澄(宿無しの羅刹・f17012)は、腰に携えた妖刀の鞘を握り、そう呟いていた。
空を見ると月が出ていた。
星が煌き、天から何かを見つめられているような感覚も覚える。
「!?」
するとその時、明澄の耳に何かが聞えたような気がした。甲高く、不明瞭な声。これは、鳥の……鳴き声だ。
明澄はその方角に躊躇うことなく走ると、目の前に魅夜と津雲の姿が見えた。
「明澄さん。あそこですわかりますか?」
魅夜は蝶に意識を集中させながら、指先で一つの木の天辺を指した。
『イツマデモ……。イツマデモ……』
そう、その鳥こそが求めていた鳥であったのだ。
「俺たちの式神で、驚かす。そこを頼めるか?」
津雲はそう言うと、明澄が頷いた事を確認し、右手のひさし指と中指を結び、十字に切った。すると、その鳥目掛けて、式神が後ろから襲い掛かった。そして続けてその上下左右を覆うように、魅夜の蝶がひらひらと取り囲む。
「ギェー!」
すると鳥は驚き、羽ばたいた。しかし、彼らの僕たちが取り囲んでいる為、飛べる方向は前しかない。
『一瞬だよ。』
明澄が木の反動を利用し、空高く跳躍すると、一瞬にして近づき鞘をその鳥に当てたのだった。
「……これが、原因の鳥?」
明澄が捕まえた鳥は、美しい緑色をしていた。今は気を失って、両足を明澄に逆さにつかまれている。
「お見事です。……さて、どうしたものか」
津雲が明澄にねぎらいを言うと、これからどうするかを考えた。
「ただの鳥のようにも、見えますね」
魅夜はそう言って、念のために『呪いと絆』という鎖を巻きつけていた。
「詳しい人に渡して、調査してもらうというのは? わたしには、これから何をしたら良いか分からないしね」
「そうだな……。一旦村に帰るとしよう。今日はもう遅い。翌日改めて調査をしてもいいだろう」
津雲の声に、二人は頷き、そして村へと向かって行ったのだった。
成功
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クリュウ・リヴィエ
捕まえた鳥は、少なくともオブリビオンではないんだよね?
それが人の言葉で鳴くとすると、オウムみたいに誰かの言葉を覚えて鳴いているのかな?
鳥の鳴く方に住んでるっていう女の人が、『いつまでも』って言ってるんだろうか?
その、一人で住んでるっていう女の人について、もう少し村の中で聞き込んでみよう。
いつから住んでるのか、ずっと一人で住んでいるのか、どうやって生計を立てているのか、とか。
あとは、捕まえた鳥を借りられれば、追跡できるように足に紐を結んで放して、どこに戻るか試してみたい。
鳥を知ってる人か、近くに住んでる人が見つかれば、飼い主なら捕まえたことを詫びて、「いつまでも」に心当たりないか聞いてみよう。
「この鳥……オウム、だよね」
クリュウ・リヴィエ(よろず呑み・f03518)は、鳥を捕まえた猟兵達を見てそう呟いた。鳥籠に入れられている鳥は、知識がある物は分かるだろう。立派な『冠羽』が頭にあり、確かにその鳥はオウムだった。ただ、緑色のオウムなど聞いた事がない。
「それが人の言葉で鳴くとすると、誰かの言葉を覚えて鳴いているのかな?」
クリュウの言葉を聞いた猟兵達は頷き、情報のあった『鳥の鳴く方に住んでる女の人』に会う必要が在ると考えた。
夜が明け、猟兵達はその家へと歩いていく。大きな畑の傍に茅葺屋根の家が見えてきた。すると、ちょうど家の玄関の戸がガラガラと開き、女性が現れた。色があせた服のその若い女性の姿は、ひょっとするとみすぼらしく映るかもしれない。
だが、その立ち振る舞いは美しく、凛としていた。
「すみません……、結城さん、ですよね」
クリュウは優しい声で、いつもより丁寧に話しかけた。実は此処に来る直前に、この家の主について、他の村人に話を聞いてきていたのだ。
その女性は、結城・咲(ゆうき・さき)と言った。どうやら、先の戦で主人を亡くし、未亡人との事だった。生計は、かつて主人の残した幾ばくかの貯えがあるだろうとの事と、あとは自給自足じゃないかなとの事だった。また、主人が死んだとは言え、他に嫁に行くことも鳴く、一人で住んでいるとの事も分かっていた。
「はい、そうですが……」
咲はそういうや否や、クリュウが手に提げた鳥籠をみて、はっとした表情を見せた。
「心当たりが、あるんだね」
クリュウはその鳥籠を目の高さまで上げ、良く見せた。
「左目の下の、黒くて丸い模様と、右脚の爪だけ白くて、何処から飛んできたかも分からない、緑色のオウム。……間違いありません。その子は、家で以前飼っていた数珠丸(じゅずまる)です」
「成る程ね……」
とすれば、その鳴き声の事も知っている可能性が高かった。
「このオウムなんだけど、『イツマデモ』って鳴くんだね。心当たりある?」
すると咲は、困ったような、恥ずかしいような表情をして、こくりと頷いた。
「ええ……。それ、私の言葉なんです……」
「あなたの?」
「少し恥ずかしいんですが、実は……少し前の戦で、私主人を亡くしまして、その時はまだ幼かったものですから、『いつまでもお待ちしております』と、そう言いながら主人の帰りを待っていたのです。そのうちに、この子が覚えてしまいまして……。しかし、この子は何処に居たのですか?」
そう疑問に思う咲に、猟兵達は捕まえた経緯を話した。話を聞きながら咲は何度も頷き、最後に、そうですか、それは村の方にご迷惑をかけてしまいましたね。と俯きながら呟いた。少し髪が顔にかかり、その隙間から見える表情は、少し哀しげだった。
「差支えがなければでいいんだけど、このオウムは、ずっと飼っていた訳ではないんだね? その辺り、もう少し詳しく聞かせてくれないかな?」
クリュウがそう言うと、少し空の青と雲の白を見て、咲は話し始めた。
「実は、この子と、もう一人、犬の忠保(ただやす)がいたんです。うちは子供に恵まれませんでした。少し落ち込んでいたとき、主人が捨てられていた忠保と数珠丸を連れて帰って来てくれたんです。可愛らしい子でね……人懐っこくて……」
そこまで言うと、咲は、ふうっと息を吐き、また、思い出すようにゆっくりと猟兵にその時の事を伝える。
「私達は、本当の親子のように、ずっと仲良く暮らしていました。ただ、主人は武士でしたから、少しの戦に呼ばれる事になりました。私達は、三人で帰りを待ちました、しかし……」
咲の頬を涙が伝う。ただ、言葉を紡ぐ事は止めなかった。
「しかし、主人は帰ってきませんでした。待ち続け、待ち続けて……。その間、忠保は余り食事を取りませんでした。その間に、主人が戦死したという知らせは受けて、その事は忠保にも伝えたのですが、食事は相変わらず取らず、その縁側で座りながら、そのまま衰弱して死んでしまったのです。
私は、主人が連れて行ったと思い、忠保を弔いました。その忠保を弔っている時に、この子、数珠丸は何処かへと飛んでいってしまったのです。それきりでした……」
何人かの猟兵達は、少しいたたまれなくなったのか、後ろを向く。どうしようもない過去の話だ。
「そう、そんな過去が……。有難う。もう、これ以上はいいよ」
クリュウは優しくそう言うと、咲は聞いてくださって有難う御座いました、と答えた。
少しの時間が流れる。今は平和である。春の訪れを告げる、他の鳥の声や、蝶などがひらひらと飛んでいる。
しかし、そこで過去という言葉が引っかかる……。猟兵、過去、そしてオブリビオン。鬼怒はオブリビオンが絡んでいるといった。
(「まさか……」)
クリュウは目を見開き、一つの結論に辿り着いたのだった。この事件に関係しているのは、その『骸の海に捨てられた筈の過去』なのでは無いだろうか? と。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『珍味を求めて』
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POW : 釣り竿で釣って捕まえる
SPD : 素潜りで飛びかかり捕まえる
WIZ : 網や罠を設置して捕まえる
👑11
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●川と過去と
猟兵達は、少なくとも一つの結論に達していた。
この事件は、オブリビオンが絡んでいる。そして、そのオウム『数珠丸』はオブリビオンではない。とすると、考えられる事は……。
とすると、そのオブリビオンをおびき寄せる必要がある。
猟兵達は咲に尋ね、特に楽しかった思い出を尋ねた。
すると咲は『よく四人で、近くの川で魚を釣って楽しんでいました』と、答えた。その川にはアマゴが生息しており、ちょうど雪が溶けたこの時期に、この時期に採れるはずのない、大きなアマゴがたまにかかっては、美味しく食していたという。
猟兵達は、一路その川に向かい、まずはその魚を楽しく捕らえる事にしたのである。きっと、此方が楽しくすればする程、『骸の海に捨てられた筈の過去』は反応するはずであると考えたからだ。
ポイントは、『心の底からの楽しむ』ことである。ただしかし、その情報を鑑みると、出来るだろうか、とも少し不安に思ったのだった。
勘解由小路・津雲
※アドリブ・連携歓迎
この後に待っている戦いを思うと、心から楽しめとは、なかなか酷なことを言うねぇ……。ところで「この時期に採れるはずのない大きな」というのが少し引っかかったが、何か意味があるのだろうか。まあ、なんにせよ試してみないとな。
■行動(WIZ) 実はおれは魚を釣ったことがない。ここは罠でも仕掛けるか(「罠使い」)。とはいえ魚の生態を知らないと、罠の仕掛けようもないか。誰か詳しい猟兵か、村人にでも聞いてみるかね。……それにしても、川も、そこに泳ぐ魚たちも実に美しいものだな。猟兵として戦いに明け暮れていると、こうじっくりと眺める余裕がなくてな。おれが心から楽しめるのは、この景色かな。
猟兵達は、それぞれ複雑な表情でありがならも、少し開けた川辺を本部とし、行動に移していった。
(「この後に待っている戦いを思うと、心から楽しめとは、なかなか酷なことを言うねぇ……」)
津雲はそう思い、心を冷静に保つ為に、ふと息を吐いた。
目の前には目的の川。春の川は水量が豊富であり、キラキラとした日の光を反射している。木々は、そろそろ新緑の時期といった所だろう。若い葉が顔を出し、鮮やかな緑を表現する。場所は、山の山頂りをやや下りた辺りだった。源流に近いのだろう。川幅は狭くなっており、澄んだ水が心地よい音と共に流れている。
「サツキマス……と、言っていたねぇ」
津雲はそう呟いて、村人から借りてきた罠をそっと仕掛けて行った。筒型の罠で、竹を編んだ物だった。
彼はこの川に訪れる前、村の猟師を尋ねた。
釣りなどと言うものは、とんとしたことがない。そこで、ここの川の魚について聞いて回っていたのだ。
すると、様々な情報を聞けたのである。
まず、一つ気になっていた『この時期に採れるはずのない大きな魚』というのが気になった。仕掛けを準備してくれている猟師に、ついでという事で聞いてみたのだ。
『ああ、兄ちゃん。そりゃあサツキマスってやつだ』
猟師はぴんと来たらしく、詳しく教えてくれた。サツキマスとは、簡単に言うと一度海に出るアマゴということだった。川にそのまま留まりつける種と、海に出て、産卵をするために生まれた川に帰って来る種だ。遡上する魚は存在する事は知っていたが、何故そうしているのかは、検討もつかなかった。
ただはっきりしているのは、遡上してくる魚は、まず大きくなるという事。
そして、サツキマスの名の由来は、5月ごろに遡上を始めるするという事から。しかし、この場所に辿り着く事は困難であり、漸く辿り着けたとしても、夏が過ぎた後。そういう事から猟師は、
『魚にも気の早いヤツも居れば、もう一度海に出たくなくて、留まり続けて冬を越してしまうヤツ。そんな事もあるのかもしれねえが、詳しくは分からねえ。ただ、ワシらは、ご相伴に預かるだけ、そういうこった。味は、間違いねえ。ほらよっ、これで大丈夫だ……』
と、教えてくれた。
津雲にそう言った知識を教えた猟師の言葉を思い出しながら、彼は川を眺めた。
良くみると小型の魚がすいっと泳いでいる姿が見えた。実に美しい。津雲はそう感じ、暫し魅入った。
猟兵とは、戦いの日々である。こういった自然をゆっくりと眺める事など、そう出来る事ではない。その景色を『楽しむ』。すると、少しだけかもしれないが、心が穏やかになったような気がした。
少しの時間が流れ、津雲は罠を引き上げた。
「おや? 何か入ってるねぇ……」
その筒の罠がゴトッゴトッと動いていた。
「この魚は、ひょっとして……」
津雲が筒の入り口から中を覗くと、銀色の魚が見える。サツキマスは、アマゴ特有の模様は無くなり、銀白色をしていると聞いた。彼ははやる気持ちを抑えながら、ゆっくりと川辺の細かい岩で出来ている場所まで歩き、その筒をひっくり返した。
どっ……。バタバタッ!
「……存外、うまく行く物だねえ」
40センチ程の魚体1匹が姿を現したのである。サツキマスだ。津雲は暴れるサツキマスを、丁寧に捕まえながら、本部と決めた場所まで運んだのだった。
大成功
🔵🔵🔵
黒城・魅夜
か、川で、遊ぶ……のですか。
少し顔が引きつっているかもしれません。
私はダンピール。流れる水は苦手です。溺れてしまうのですもの。
しかし、何とかしなければなりませんね。
釣りを試してみましょうか。
とはいっても、釣りをしたことはないのですが。
でも鎖の使い方なら多少は心得があります。
【ロープワーク】も使えますし、糸を使うのも似たようなものでしょう。
魚が掛かったら【早業】で引き揚げればいいのですよね。
……釣れません。そんなに甘くはありませんでしたか。
ですが……
光が跳ねる川面の輝きを眺め、そしてせせらぎの音を聞いていると、何か落ち着きます。
これまで流れる水を苦にしていましたが……美しいものなのですね。
「そっ……それっ!」
魅夜はそう掛け声をかけて先端に鈎の付いた鎖を、川面に投げる。しかし、その鎖はそのまま真直ぐに水底を捉えただけで、力なく流される。
彼女の顔は明らかに引きつっていた。実を言うと、彼女は溺れてしまうという理由で、流れる水を苦手としていたのだ。
水の勢いに流されている鎖を、素早く引き上げ、次の狙いを決める。
(「……しかし、何とかしなければなりませんね」)
そう思うと魅夜は、再び鎖を構え、えいっと投げる。しかしやはり、腰は引けているようだ。
彼女は懸命に見える魚影に向かい、何度も何度もチャレンジを繰り返していた。ひょっとすると、『イツマデモ』と無くオウム『数珠丸』や、その主人である咲に、感化された所はあるのかもしれなかった。
経験の無い釣りという魚を捕らえる作業が、きっと次に繋がる、その必要があるのだと感じた。それ以上に理由は必要なかった。自分の感覚と言う物が、導かれた様な糸になる事もある。だから、それだけを信じているのだ。
「……釣れません。そんなに甘くはありませんでしたか」
だがやはり、最後まで魚を捕まえる事は叶わなかった。魅夜はそう言って、川面を眺めた。
川は岩や水中の様々な障害物で流れを作り、そしてその流れが川面を造形し、音を作り出し、光を反射する。
その自然の美を、惹き付けられるかのように眺めた。
「ですが……」
魅夜はその輝きとせせらぎを体で感じ、一時ではあるだろうが、空気に溶け込んだ様な感覚を覚えた。
「これまで流れる水を苦にしていましたが……美しいものなのですね」
そう言って、また、ふわりとその空気に身を任せたのだった。
成功
🔵🔵🔴
クリュウ・リヴィエ
…こりゃ釣りだね、釣り。
難しいことは考えず、ただ無心に釣り糸を垂れてみよう。
釣ろうなんて欲さえ持たなければ、この時間自体が贅沢なもんだよ。
一応、川に入る人たちもいるかもしれない。
釣りの環境じゃないだろうし、逆に釣り針で怪我をさせてもいけない。
そこからは、ちょっと距離を開けるとしよう。
あとは、釣り糸を垂れて、たまに餌を変える以外はじっとしていよう。
景色も環境も申し分ない。
釣れなくても構わないさ。
そりゃ釣れれば、美味しく頂きたいけどね。
「やっぱり、潜る人もいるみたいだね……」
クリュウは少し遠くに見える人影が、川の中に入って行く様子を見て、少し大きい岩に腰を下ろした。右手には、釣竿を持ち、左手は細い道糸に結び付けられた針を持っている。
彼はゆっくりと釣りをすると決めた。とは言えクリュウは、そこまで魚を釣ってやろうという欲は無かった。
他のメンバーと距離を空けたのは、自らの針が誰かに怪我をさせてしまうかもしれないと思ったからだ。
浅瀬で小さな石をひっくり返して、その場に生息している虫を採取する。
幾らかを確保すると、釣り針に刺し、投げる。
ただ無心に、川の流れと、緑の景色、空気。
それと、自分。俯瞰的に全体を眺めて、じっと動かずに溶け込む。
ただ、無心に。それは、贅沢な時間である。
狙いは良く分からないが、そうしているだけで、申し分はないのだ。
だがその時、自分の竿が大きくしなった。
「……元気が良いね」
クリュウは手元に伝わる力を感じとり、竿を立て、少し後ろに力を入れる。
立てた竿は胴の部分から弧を描き、竿先に取り付けられた道糸から、ダイレクトにチラリと見える魚影に繋がっていることが分かる。
少しのやり取りを楽しみ、顔を出したのは25センチ程のアマゴだった。
「安心して。責任を持って美味しく頂くから」
川に繋がらないように、少しの生簀を作り、釣ったアマゴを泳がせる。そして再び、同じ様に釣り糸を垂れ、その贅沢な時間を満喫する。
結局彼は、10匹程のアマゴを釣り上げたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
葛乃葉・やすな
魚釣りとな?魚釣りは得意分野では無いのう。
わしがいつもやっているやり方でもよいじゃろうか。
少々荒っぽい方法になるがのう。
周りの者に川の中に入らぬように注意してから、水面に向けて弱めの【衝撃波】【範囲攻撃】【気絶攻撃】を放つ。
ほれほれ、気絶した魚が一つ二つと浮かんで来よるぞ。
何、心配いらぬ。一時的に気絶してるだけじゃ。すぐに動き出す。
さて、気絶から覚める前に目ぼしい魚を取ろうではないか。
このやり方は邪道かのう?
わしは楽しんでおるし、まぁ大丈夫じゃろう。
※アドリブや絡み歓迎じゃ
桐生・明澄
うーん。
魚釣りや罠を仕掛けるといっても経験がないかな。
力技になっちゃうかもだけど素潜りで捕まえてみよう。
川の中に入り魚を【見切り】【早業】で捕まえていく。
出来れば「大きなアマゴ」を狙ってみたいところだけどこの辺りにいるのかな?
里を追い出されてからというもの、剣の腕を磨くために闘いばかりしてたから、たまにはこういうのも悪くないな。やっぱり気分転換は必要だね。
それにしても、…春の川、…雪解けの水、さすがにまだ冷たい。
※アドリブ・連携歓迎
(「あー、結構いるみたいだねえ……」)
明澄は川に潜り、水中で様子を確認していた。
魚釣りや、罠を仕掛けるといった経験と知識が無かった彼女は、潜って捕まえてみようと思ったのだ。
(「出来れば『大きなアマゴ』を狙ってみたいところだけど、この辺りにいるのかな?」)
そう考えながら、水の流れに逆らって泳いだり、今度は流されてみたりと、試してみた。
思えば、里を追い出されて、ずっと闘いの日々だった。剣の腕を磨く為、剣豪として、名を轟かす為に。
彼女は少しそんな日々を思い出した。
(「たまには、こういうのも悪くないな。やっぱり気分転換は必要だね」)
そう考えると、少し嬉しくなった。
何が嬉しいのかは分からないが、間違いないのは日々とは異なる嬉しさであるという事だ。
(「それにしても、……春の川、……雪解けの水、さすがにまだ冷たい」)
明澄がそんな事を感じ取っていると、視界に大きな銀白色の魚影が見えた。
(「見つけたかな?」)
彼女はそう思いながら、その魚影の方向に向かって泳ぎ始めたのだった。
「魚釣りとな? 魚釣りは得意分野では無いのう」
そう切り出したのはやすなだ。
「じゃが、要は魚を捕らえられたら良いのであろう? わしがいつもやっているやり方でもよいじゃろうか……」
やすなはそう言って、一歩川へと足を踏み入れた。
「少々荒っぽい方法になるがのう。みなの者、川の中に入らぬように……」
やすなが右手を水面にそえ、その時を待つ。
良くみると、何匹かの魚影が見える。狙いは、大きな集団か、あるいは大きな獲物。
すると、一匹の大きな銀白色の魚影が見えた。
「そこじゃな!」
彼女はそう言うや否や、その魚影に向かって弱めの衝撃波を繰り出した。
ドッ! ……バァン!!!
2メートル程の水柱が、空に向かって伸び、そしてバラバラと川にまた戻って行く。
「ほれほれ、気絶した魚が一つ二つと浮かんで来よるぞ。何、心配いらぬ。一時的に気絶してるだけじゃ。すぐに動き出す」
やすなの言う通り、アマゴが数匹浮かび上がってくる。
「さて、気絶から覚める前に目ぼしい魚を取ろうではないか」
やすなはそう言って、ざばざばと、川に入り、魚を集めた。すると、先ほどの銀白色の魚もぷかりと浮かび上がった。
「おお、これは大物じゃな!」
そう、それはサツキマスだった。
しかし、意に反して、さらに大きなものが、ぷかりと浮かび上がる。
「こ……これは!?」
そう、それは明澄という猟兵だったのだ。
幸い明澄は、やすなの言う通り、一時的に気絶しただけであった。もっともその後、ひたすら詫びるやすなの姿があった。
猟兵達はこうして、捕らえた魚を、そのまま捌き、焼いて食べた。
自然の恵みは、こうも嬉しく、美味である物であるという事を、実感する。
楽しかった。
オブリビオンとの戦いの日々から開け放たれれば、それは唯の一個人に過ぎない。
それを忘れることが出来た。
一瞬でも。
だが、また、その戦いへと足を踏み入れる時だ。
その者の声を聞いた時、猟兵達は、果たしてどう思ったのであろうか。
来て欲しかった相手。
だが、検討違いであって欲しかった相手。
「わん!」
無常にも、その声は猟兵達の前に現れたのだった。
大成功
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第3章 ボス戦
『くろまろわんこ』
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POW : あそんであそんで
【投げて遊んでもらうための枝】が命中した対象に対し、高威力高命中の【あそんでくれるひとみつけたアタック】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : もふもふぱわーあっぷ
全身を【もふもふの毛並】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
WIZ : どうしてあそんでくれないの?
【遊んでほしいというせつない鳴き声】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
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●主人を待ち続けた犬の、なれのはて
猟兵達の前に現れたのは、一匹の黒い犬だった。
その姿は、可愛らしく、そして人懐っこい声で鳴くのだ。
ただ、明らかにただの犬とは違う、オブリビオンの気配が犬から発せられているのだ。
「わん!」
その犬は、遊んで欲しそうに、猟兵達に鳴く。
オブリビオンであれば、対処しなければならない。猟兵達は、それぞれの思いと共に、その犬と対峙したのだった。
勘解由小路・津雲
※アドリブ・連携歓迎
これは、どうすればいいのだろうか……、ううむ。オブリビオンは存在するだけでこの世にあだなす。倒さねばならぬことに、代りはないが……。
■戦闘 【符術・結界陣】を使用。幸い、この技で浄化・封印してしまえば、無駄に傷付けずに済むだろう。もっともある程度体力を減らさなければ、封印することは出来ないだろうが……。
それにしても、性質は人懐こい忠保のままなのだろうか、それともオブリビオンとなって凶暴化でもしているのだろうか? 元のままならおだやかに、凶暴化しているなら命がけで、ひとつ遊んでやろうじゃないか。せめてもの手向けにな。遊び疲れたらもう休め、主人があちらで待っているぞ……。
(「これは、どうすればいいのだろうか……、ううむ」)
津雲は迷っていた。目の前に存在するのは、オブリビオンである。それは猟兵であるが故に分かる。
「わん!」
「!?」
だが、その愛くるしい表情と、鳴き声。
(「オブリビオンは存在するだけでこの世にあだなす。倒さねばならぬことに、代りはないが……」)
津雲はヤドリガミである。こういう時に、どう行動すべきかの基準を求め、己の中に存在する遺志に尋ねた。冷静に現在の状態を分析して、行動とする。彼は、その犬は良く観察した。
「まず……凶暴化は、しておらぬようだな」
津雲が考えた事は、仮にこの犬が咲の話にあった『忠保』であるかどうか。そして、オブリビオンとなった時に凶暴な犬になってしまったのかという事だった。
少し腰をかがめて半身になり、じりっと近づいて相手の出方を見る。
「ハッハッハッ……」
その犬は、柔らかい表情を作りながら舌を出し、今にも此方に飛びかからんばかりだ。その表情やしぐさなどからは『凶暴』という二文字は感じられない。
分かったのは、兎も角遊んで欲しそうではあるという事くらいだ。では、この犬が『忠保』であるかどうか。それには、まず本人に尋ねればいい。
「忠保?」
津雲はそう、呼びかけた。
「わん!」
するとその犬は、すぐに返事を返し、ぶんぶんと尻尾を振るのだ。
「そうか、忠保か……」
津雲はそう結論付けた。そして、ならばと懐からゆっくりと御札を取り出し、両手に広げて構えた。
『如何なる厄災もここより立ち入りを禁ず、急急如律令!』
津雲のは詞と同時に念力で、その霊符を宙に浮かべ、十数枚の札として複製していった。
その力を封じ、浄化する。無駄に傷つける事は忍びなかった。元の忠保のまま、穏やかに。そう祈りながら念を籠めた。
札の1枚が、犬にふわりと踊り出て、命を持っているかのように回り始めた。すると、その犬はその札が遊んでくれていると思っているのだろうか、札を追いかけ始めた。だが、その札はそう簡単には捕まらない。それどころか、次々と札が津雲の念によって追随する。
そしてとうとうその御札は、その犬の周りを取り囲むように速度を上げて、最後に犬に張り付いた。
「わうっ!」
犬の動きを阻害するように張り付いた札は、オブリビオンの力を浄化するように、一つ一つが繋がりを見せ、強化されて行く。
だがその時、犬の毛が突如としてもふもふと増えた。
「なに!?」
驚いた津雲が見たものは、自ら放った札が、そのもふもふの毛に吸収される様子であった。
「わん!」
そして、楽しかったと言わんばかりに、此方を向いて鳴いた。
「……やはり、ある程度体力を奪わないと駄目なようだな」
津雲の与えた力は、確りとしたダメージを与える事に成功した。だが、まだまだ元気いっぱいに、『遊んで』やらなければならないな。
彼はそう思い、また構えを取ったのだった。
成功
🔵🔵🔴
黒城・魅夜
ただ一人の方を「いつまでも」慕い続ける、
その気持ちは私にもわかります。
……なぜなら、私自身がそうなのですから。
あなたは……違う可能性の世界の私自身の姿、なのかもしれませんね……。
私が成れ果てた可能性の……。
しかし、あなたの想いはもう終わっていること。
未来へは繋がりません。
可憐にして純粋な世界の敵よ。今はただ、眠ってください。
静かに、そして安らかに。
オブリビオンである以上、倒すことを迷いも躊躇いもしません。
ですが、かといって長く痛みや苦しみを与えるのも忍びませんね。
第六感・見切り・残像・早業を使って間合いを詰め、
時を止めた一撃で、あなたの仮初めの命を刈り取りましょう。
「いつまでも……。そう、あなたも慕い続け、そして待ち焦がれていたのですよね……」
魅夜はそう言葉に出し、少し微笑みながらその犬、『忠保』のなれのはてに近づいた。
「その気持ちは私にもわかります。……なぜなら、私自身がそうなのですから」
主人を待っている時間、場所、関係性。それらは、魅夜とは異なるだろう。ただ、共通する所はある。
雨の日も、風の日も、お日様が暖かい時も、忠保は待ち続けたと聞いた。どんなに待ち遠しかっただろうか。
「あなたは……違う可能性の世界の私自身の姿、なのかもしれませんね……。
私が成れ果てた可能性の……」
すると魅夜は自らの周囲に、力を纏い始めた。
「ただもう……あなたはオブリビオンであるのです。時を止めた一撃で、あなたの仮初めの命を刈り取りましょう」
先端に鈎がついた鎖を取り出し、キンという音と共に彼女は動き始めた。
『時よ脈打つ血を流せ、汝は無敵無傷にあらぬもの』
オブリビオンである以上、倒すことに迷いは無い。だがせめて、長く痛みや苦しみを与えたくは無かった。
「しかし、あなたの想いはもう終わっていること。未来へは繋がりません」
そして、残像を残して、その鉤を忠保に打ち込んだ。
「わうっ!」
だが、その傷ももふもふの毛がすぐに覆い、癒していく。ただ、彼女の攻撃はそれでは終わらない。
正確に、命を刈り取る為だけに振るうのだ。
魅夜の攻撃のスピードは、時を操るように加速を続け、忠保の回復のスピードを凌駕した。
「可憐にして純粋な世界の敵よ。今はただ、眠ってください。静かに、そして安らかに」
最後に彼女の放った一撃は、忠保のオブリビオンとして生かす事を許さない。ある種の慈悲なのであろう。そしてそれは、彼女の想いでもあるかも知れなった。
魅夜の攻撃は、忠保にかなりのダメージを負わせたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
桐生・明澄
【葛乃葉やすな(f14023)】と連携。
何が相手かと思えば犬畜生か。
うーん。死合の相手にはちょっとなぁ。
乗り気になれなから、ここは手短に済ませちゃおう。
犬畜生相手だけど一応〈礼儀作法〉で丁寧にお辞儀をする。
「さぁ、死合ましょう」
さっきのお詫びで、やすなさんが相手の動きを止めてくれるのでそれを見計らってわたしはUC〈剣技之一・稲妻〉を使用首を飛ばすように居合切りをするよ。
更に〈2回攻撃〉で相手を〈串刺し〉にするよ。
わたし達と遊びたいのであればそれなりの覚悟をしてもらはないといけないよ。
※アドリブ・連携歓迎
葛乃葉・やすな
【桐生明澄(f17012)】と連携。
明澄、本当にすまんのう。
とりあえず、わしがオブリビオンの動きを止めることで許してもらうとしよう。
UC【秘技・鬼門封じ】であの犬の動きを止める。
ついでに【2回攻撃】で【生命力吸収】をしておこう。
可愛らしい犬コロじゃが明澄との仲直りの為じゃ、悪いがわしのために死んでくれ。
わしを恨んでくれても良いがオブリビオンとなった自分のせいでもあるのじゃぞ。オブリビオンになった時点でお主の命運は尽きたのじゃ。
いやしかし、怒った明澄も可愛いからこれはこれで良いものじゃなあ。
※アドリブや絡み歓迎じゃ
「なかなかの相手と見た。明澄、そうは思わんか?」
「……うーん。犬畜生じゃない。死合の相手にはちょっとなぁ」
やすなと明澄は、そういって前に出た。
「あまり乗り気では無いようじゃの? ひょっとして……ちょっとまだ怒っておるのか? さっきのは、本当にすまんかったのう」
やすなが謝っているのは、先程の川に放った衝撃波のことだった。明澄はその事件となってしまった川を一瞥する。川は同じように水を湛え、川下へと流れている。そして、忠保を見た。一見その見ている景色と忠保は、何の違和感もないように存在している。ただ、自然の摂理とはあだなす存在。それが、オブリビオンである。
やすなは、そうじゃな、と一言呟きすっと前にでた。
「わしがオブリビオンの動きを止める。それで、許してくれんかの……」
彼女は、右手から妖力を出現させ、ゆらゆらと周囲に拡散させ始めた。
「わぅぅん……」
だが、その力が広がりきる前に、忠保はか細く、切ない声で鳴き始めた。その鳴き声は、辺り一体の周囲全てに伝播し、全員の心を蝕んで行く。
何人かの猟兵達は、その鳴き声にうずくまり、耳を塞ぐ。
「これは……、まさしくオブリビオンの力じゃな……」
やすなは、その力が自らの脳髄に響き渡り、精神力を奪って行く事が分かる。その想いの過去が骸の海に飛び出し、再びこの地に現れたのだろう。だが、それは既に失われた過去の想い。過去を断ち切り、今を生きる為、猟兵達はそれを証明しなければならない。
彼女は、一歩前に。そして明澄もまた、やすなと共に一歩出る。
二人はそのまま並び、切ない声で鳴き続ける忠保の声と視線を真正面から受け止める。
「さぁ、死合ましょう」
明澄は礼を尽くす。どんな相手でも、死合うからには礼を。それが彼女の流儀だ。明澄は肩から紐で支えられている『妖刀』を構える。左脚を前に摺るように運び、左手で鞘を腰の位置で止める。そして柄を握り、体制を屈め、集中を開始した。
『わしの奥の手!秘技・鬼門封じ!!』
そして、やすなの妖力が、拡散して忠保に襲い掛かった。その力は、周囲全般に響き渡っている鳴き声をかき消し、封じ込める。実はこの業は、彼女の寿命を力が発揮されている時間だけ削る業である。
「わしを恨んでくれても良いが、オブリビオンとなった自分のせいでもあるのじゃぞ。オブリビオンになった時点で、お主の命運は尽きたのじゃ……」
やすなは平気な顔で、そう諭す様に言う。だが実際は命の削り合い。やすなは自らの命を相手に使った。それは、彼女なりの覚悟なのだろう。
「わぅ……」
ついにその妖力が忠保まで到達した時、完全に鳴き声は聞えなくなった。
『一瞬だよ。』
その時を待ち構えた明澄が、一瞬にして抜刀して駆け抜けた。
「わうっ!」
悲鳴を上げる忠保。明澄の業が、確実に忠保の首を切り裂いたのだ。だが、明澄の攻撃はそれだけでは終わらなかった。駆け抜けた後にすぐに後方に飛び、上空から刀を忠保の体目掛けて突き刺したのである。
「わたし達と遊びたいのであれば、それなりの覚悟をしてもらはないといけないよ」
明澄もまた覚悟をしている。手に持った『妖刀』も、命をかけているものだ。
「わうっ……!」
だが忠保は、最期の力を振り絞って、もふもふの毛をその傷に出現させていく。その毛は全ての傷を覆いつくし、切られた首を繋いで行くのだ。
既に、忠保の体力は限界近いはずだ。それは、猟兵達には良く分かる。だが、分からないのは、それ程までに執着する何か。
まだ、その本懐を遂げていない。その想いが、そうまでさせるのかもしれなかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
木元・祭莉
咲おばちゃんに、忠保はどんな遊びが好きだったか聞いとこ。
んっとね。
咲おばちゃんが、いつまでもって言ってたのはね、ずっと『忘れない』っていう意味なんだよー。
だからね。
忠保がおじさんのことを覚えてるなら、それは『いつまでも』ってことなんだよ!
戻ってきたら、一緒に遊ぼうって言ってもらってたの?
どんな遊び?
おじさん、戻ってこれなくなっちゃったみたいだから。
おいらが代わりに遊んであげるよ!
咲おばちゃんに教わった遊び。
『あそんであそんで』してもらおうー♪
覚悟を決めて、野生の勘でダメージ抑え、激痛こらえてカウンター。
『あははは、忠保はいいこだなぁ♪』
灰燼拳で捨て身の一撃。
今度こそ、おじさんに会えるといいね!
「わうぅぅ……」
忠保は、そう鳴きながら立った。このまま止めを刺すべきだ。その健気な姿に、心を打たれてしまった猟兵達は、よりそう思った。
苦しむ事無く、一瞬で葬る事が、せめてもの情けだと。
だが、一人の猟兵が、忠保の目の前に躍り出た。木元・祭莉(花咲か遮那王・f16554)だ。
「忠保!」
人狼であるこの少年は、立ち続ける忠保に、そう声をかけた。
「わうっ……」
忠保は祭莉の声に反応し、か細いが、確りとした声で応えたのだ。
「うん。おいらね、咲おばちゃんに忠保がどんなこだったのか、聞いてきたんだ。とっても人懐っこくて、元気で、楽しかったんだよね!」
祭莉の言葉に、居た堪れなくなった他の猟兵は、もう……と、止めようと動く。
「駄目だよ! ちゃんと、このこに教えてあげる。それが、良いと思うんだ!」
祭莉はそう言って、膝をつき、忠保と視線を合わせる。
「んっとね。咲おばちゃんが、いつまでもって言ってたのはね、ずっと『忘れない』っていう意味なんだよー。
だからね。忠保がおじさんのことを覚えてるなら、それは『いつまでも』ってことなんだよ!」
「わうっ……」
心が通じ合うのかどうかは分からない。だが、祭莉は正直に、紳士に向き合う。
「でも、それじゃあ忠保は楽しくないのもわかる。だから、おいらが代わりに遊んであげるよ!」
「わうっ!」
祭莉はすっと立ち上がり、一つの枝を拾う。
「よし忠保、遊ぼう!」
ぶんっと投げた枝は、少し遠くのほうへと放物線を描くように飛んでいく。
「わん!」
忠保は応え、駆け出した。
それは遠き日の記憶なのであろうか。傷だらけであることなど一切構わずに、体を伸ばし、縮め、ジャンプした。
ガッ!
すると、その枝が地に落ちる前に、忠保は見事に口でキャッチしたのだ。
「凄いぞ忠保! さあ、今度はおいらのばんだ!」
その声を聞いた忠保は、器用に首を曲げて反動をつけて、その枝を祭莉に放った。先程と同じような曲線。それを祭莉は確りと手で掴む。
「わん!」
よほど嬉しいのか、忠保は嬉しそうに咆える。そして祭莉に向かって突進を敢行する。
「よし、来い忠保!」
ただの犬の行動ならば、特に問題は無いだろうが、この突進はオブリビオンとなり、ユーベルコードと化した突進だった。
「危ない!」
猟兵の誰かが叫んだ。しかし、祭莉は両脚を踏ん張り、腰を屈めて忠保の動きを見る。そして……、
ドゴッ!!
鈍い音が辺りに響き渡った。突進した忠保と祭莉が真正面からぶつかりあったのだ。
祭莉が、自分自身の筋肉が弾け、骨がきしみ、激痛が走る。
ギリッ……。
歯を食いしばった口の端から、血が流れ落ちる。
だが、その突進は1メートル程で止まっていた。祭莉は忠保の動きを見切り、己の急所を外すことに成功していたのだ。
『あははは、忠保はいいこだなぁ♪』
祭莉はそう言って笑う。
「わうっ!」
忠保も嬉しそうに応えた。ただ、祭莉の拳は忠保を貫いていた。忠保の体は、徐々に自然の空気へと溶け込むように消えて行こうとした。
「今度こそ、おじさんに会えるといいね!」
最期に祭莉はそう声をかけると、
「わうっ!」
忠保は元気良く応えてくれたのだった。
●終章
猟兵達は、忠保の最期を見取ったあと、また次の現場へとバラバラに散って行った。
それぞれが、この事件で感じた事は、様々であっただろう。
何が正解だったのか。
そう思う猟兵もいたが、答えなど出るはずも無い。
最良の結果を残した筈の事件ではあったが、何処かやりきれない所もあったかもしれない。
ただ、オブリビオンとは過去の産物である。
その意味は、これから戦い続ける猟兵達に、少し重くのしかかった。
どう向き合って行くのかは、これから出さなければいけない答えであり、逃げる事は時を止める事。
いつかは来るその答えを求めて行く為に、猟兵達はまた、戦いの地に赴いて行くのだった。
ただ一つ、事件を解決する前とは、少し違いが産まれていた。
関が原の空に、『イツマデモ……』と鳴き続ける一羽の鳥の姿だ。
その隣には、何時までも美しく、凛とした婦人が空を見上げている。
彼女は密かに、ふと帰ってきた鳥がきっかけとなり、未来へと歩んで行くことを決意していた。
可愛らしい人狼の少年との話も、その背中を後押ししていた。
想いが消える事は無いが、思い出とする事はできるのだから。
大成功
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