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消えかかる最後の灯火

#ダークセイヴァー


 ざっくりと露出のある服を身に着けた、ろうたけた雰囲気のエルフの女性が、裾をつまんで軽く会釈をした。
「わたくしがエルフのUDCメカニックにして、グリモア猟兵。マーラーですわ。マーラー・ジュウナナサイ」
 絶対17歳の見た目じゃないマーラーは、にこりと微笑んで自己紹介をする。
「さて。本日皆さんに集まっていただいたのは、ダークセイヴァーで、ある町を救っていただくためですの」
 ダークセイヴァー。甦ったヴァンパイアに征服された絶望の世界――今回はそんな世界に、ひとつの救いをもたらす依頼だ。
「今から皆さんを送り届ける町では、残念なことですけれど、殺人事件が立て続けに起きていますの。どうやら、人間への擬態能力を持ったオブリビオンが暗躍しているようですわ。オブリビオンは人を殺すごとに姿を変えていて、その町ではどこで誰に殺されるのか、まったく分からない状況ですの」
 マーラーの、濃い目の薔薇色の唇からため息が漏れる。
 そんな状況でもダークセイヴァーの町民は、領主に、ひいては領主を脅しているオブリビオンに、税を納めるために黙々と働いている。町民は同じ町民が殺される現場を見ても、何も思わない。絶望に染まりきった心は、もはや生きる事すらも諦めているのだ。
 とはいえ、その潜伏したオブリビオンを探すのは困難を極める。オブリビオンから見れば猟兵はすぐに猟兵と分かるが、猟兵からはオブリビオンがオブリビオンである事は分からない。ただ単に町へ行っても、潜伏したオブリビオンを見つけ出す事はまずできないだろう。
「ですが今回、光明が見えましたわ」
 そう言って華のように微笑んだマーラーは、グリモアによってもたらされた吉報を告げる。
「オブリビオンが活動の拠点にしている場所は予知されませんでしたけれど、領主の屋敷の地下牢に閉じ込められている人物が、オブリビオンの拠点を知っているとの予知が出ましたのよ」
 それを裏付けるように、地下牢に出入りする拷問吏はオブリビオンなのだという。このオブリビオンは、潜伏しているオブリビオンとは別個体だ。
 マーラーは屋敷の様子を順に説明する。屋敷の地下牢には、牢番が一人見張りに立っている。その地下牢へ続く下り階段は領主の謁見席の横にあり、領主が席にいない時間も、階段前に見張りが一人立っているという。謁見室には余計な物はなく、隠れられそうな場所はない。領主の私室は謁見室に隣接しており、見張りが声を上げれば領主にすぐに見つかることだろう。それから、屋敷の門には門番がいる。また、地下牢の鍵は領主の私室にひとつ、拷問吏の手にひとつあるようだ。
 オブリビオンである拷問吏は、日夜問わず気の向くままに貴賓室から地下牢へ向かうため、いつならどこにいると特定するのは困難だ。だが、戦闘面ではさほど脅威ではなく、猟兵なら比較的たやすく倒せるだろう。
「……ひとつ。気になることがありますの。領主の方だけは、酷くおつらそうに……苦しんでいるようなんですのよ」
 ほかの町民は生気のない顔で淡々と仕事をし、淡々と殺されているが、領主だけは、地下牢から音が聞こえるたびに顔をしかめ、殺人の報告を受けるたびに顔を青くする。まだこの領主は、自分の意思を失ってはいない。
「その方でしたら、協力を得られるのではないかと思いますの。少なくとも、生を諦めてしまった町の方々よりは……話ができるのではないかしら」
 ですから、とマーラーは付け加える。
「拷問吏に領主の方を殺されてしまう事態が、一番避けたいことだと思いますの。その方でしたら、よしんば協力が得られないにしても、皆さんが町のオブリビオンを一掃すれば、町を良い方向へ持っていってくれそうだと……そう思いますのよ。これは『乙女』の勘、ですわ」
 形のいい唇をいたずらっぽく曲げて微笑むマーラー。と、こほん、と小さく咳払いする。
「まとめましょう」
 今回の依頼は、領主の屋敷の地下牢に閉じ込められた人物を救出し、その人物が知っているオブリビオンの拠点を見つけ出して、オブリビオンを討つというものだ。
 領主はうまく話す事ができれば、協力してくれるかもしれない。だが、領主の屋敷にいる拷問吏もオブリビオンであることには注意をしてほしい。
「皆さん」
 マーラーは姿勢を正し、頭を深く下げる。
「どうかこの町に、皆さんの手で希望の光を灯してくださいまし」


あんじゅ
 初めまして! マスターのあんじゅと申します。マーラーさんジュウナナサイと共に、今後ともよろしくお願いいたします。
 今回の依頼は、ダークセイヴァーの、とある町に潜伏したオブリビオンを討伐していただくというものです。
 まずは地下牢の人物を救い出すために、探索を行うパートです。
 【POW】を使えば力業やしらみつぶしなどの行動ができます。地下牢を破壊するなどがこれに当たります。【SPD】を使えば速さや技術を必要とする行動ができます。地下牢の鍵を盗み出すなどがこれに当たります。また、【WIZ】を使えば人とうまく話したり、人を騙したりなど、頭を使った行動ができます。
 何をどうしたいか、具体的に書いていただけると助かります。セリフを入れていただくのも大歓迎です!
 皆様どうぞご一緒に、この事件を解決に導きましょう!
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第1章 冒険 『拷問地下牢』

POW   :    正面突破で拷問地下牢を破壊して重要人物を救出する

SPD   :    鍵を盗み出すなどして秘密裏に重要人物を救出する

WIZ   :    牢番や拷問吏を騙して重要人物を救出する

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三岐・未夜
……これ、狐火、結構自由に動かせるから。これ使って、牢番や拷問吏を誘導出来ないか。
わざと火を隠し気味に、まるで誰かがこっそりと忍び込んで様子を窺っていたように動かせば、引き離せないかな。そしたら、その間に領主と話して鍵を受け取れるかもしれない。

「……何とかしたいと少しでも思うなら、僕ら猟兵に手を貸せ。本来ならあんたが守り治めるべき場所だろう、此処は」

少しでも、その誇りがあるのなら。欠片でも勇気があるのなら。手を貸して貰いたい。



暗くよどんだ町。
 色彩で飾る事を忘れた殺風景な町角。曇天は黒く重く、何より、行き交う人々の瞳には光が灯っていない。
 そんな町に、はじめの光を灯したのは三岐・未夜だった。領主の屋敷を囲う塀に身をひそめ、未夜がフォックスファイアを使うと、10個の炎が宙に揺らめく。
「……これ、狐火、結構自由に動かせるから」
 10個の狐火が未夜の周囲を踊ってみせる。その軌跡はすべてがバラバラ、未夜にとっては造作もない事だ。この狐火をおとりにして、見張り番などを誘導しようというのが未夜の策だった。
 まずは門番だ。未夜のひそむ場所とは逆方向に狐火を放ち、わざと隠し気味にチラチラと揺らす。
「なんだぁ……?」
 この町では見慣れない『光』。狐火に釣られ、門番は持ち場を離れた。未夜は隙を逃さず、屋敷の門をくぐる。
 狐火にざわめく声を後ろに屋敷へと入り、一転して、しんとした冷たい廊下を走り抜けていく。廊下の隅に固まった埃が、少し揺れ動く。謁見室までは誰もいないようだ。問題はこの中――謁見室の中には、地下への階段の見張りがいる。
 未夜は、ドアの陰になる場所に位置取り、小さくドアを開けて狐火をチラチラ揺らした。未夜の策に乗り、足音が近づいてくる。未夜が狐火を操ると、狐火は音もなく未夜から離れていく。ドアが開き、見張りはおたおたしながら狐火を追っていった。未夜はドアの陰から、するりと謁見室に身をすべらせる。
 領主は謁見中ではないため、領主の私室にいるのだろう。謁見室には謁見席、地下への階段、領主の私室へのドアがある。
 見張りが戻ってくる前にと、未夜は素早く領主の私室へ入り、ドアを閉める。まだ若い男領主が驚いて振り返った。
「どっ、どなたですかっ?」
 未夜はぶっきらぼうに返す。
「……何とかしたいと少しでも思うなら、僕ら猟兵に手を貸せ。本来ならあんたが守り治めるべき場所だろう、此処は」
「りょうへい……?」
 ダークセイヴァーでは、猟兵の存在は知られていない。だが、未夜の言い分に、領主は思わず唾を飲んだ。そう、何とかしたい。何とかしたいのだ。そして未夜の言う通り、本来ならこの町は自分が守るべき……その通りだ。それが出来ない、訳がある。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

マリアドール・シュシュ
アドリブ歓迎

【クリスタライズ】で透明化
領主の協力を仰ぎに屋敷に潜入
解除後、領主を説得し地下牢の鍵を譲り受ける

「ごきげんよう。脅かして御免なさい(シっと領主の指に当て
マリアはあなたの希望になりたくて来たのよ。今が絶望という闇の中ならば、マリアが光となるわ!だからマリア達─猟兵と呼ばれる者がいるのよ。
安心して頂戴。この華水晶の身を持って、マリアがあなたを護るから。
オブリビオンも退けてみせるのだわ。それにはあなたの協力も必要なの。

お願いがあるの。どうしてそんな辛そうなお顔をしているのか訳を聞かせて?何か知っているの?
あなたからはこころを感じるの。マリアは力になりたい(手握り」

拷問吏と極力対峙しない



未夜の策で領主の屋敷に入った猟兵達のうち、しんがりを務めたのがマリアドール・シュシュだ。
 マリアドールは透明化するユーベルコード、クリスタライズが使える。透明化する事で、後方の安全確認をするという、難しい仕事を成し遂げたのだった。マリアドールのおかげで、領主の私室には無事に猟兵達が到着できている。
 今、部屋は緊張が支配していた。
 そこへ、かわいらしい少女がふわりと現れた。マリアドールがクリスタライズを解除したのだ。輝くクリスタリアンのマリアドールが、この町に灯されたふたつめの光となる。
 鈴を転がしたような愛らしい声が、部屋に凛と響く。
「ごきげんよう。脅かして御免なさい」
 シっと、マリアドールは領主の口に指を当てた。目を白黒させながらも、領主は黙る。なぜなら、少女が微笑んでいたからだ。こんな幸せそうな微笑み、領主はついぞ見た事がなかった。
 ころころと愛らしい声が、領主に紡がれる。
「マリアはあなたの希望になりたくて来たのよ。今が絶望という闇の中ならば、マリアが光となるわ!だからマリア達─猟兵と呼ばれる者がいるのよ」
 猟兵。彼らから初めて聞いた言葉だが、領主は信じかけていた。この、あまりに突拍子もない状況を作る彼らを。そして、少女の華のような微笑みを。
「安心して頂戴。この華水晶の身を持って、マリアがあなたを護るから。オブリビオンも退けてみせるのだわ。それにはあなたの協力も必要なの」
 オブリビオンを……!領主は黙らされたまま、驚愕に目を見開く。もし、もしそんな事ができるのなら――。
「お願いがあるの。どうしてそんな辛そうなお顔をしているのか訳を聞かせて? 何か知っているの? あなたからはこころを感じるの。マリアは力になりたい」
 そっと指を離して、マリアドールは領主の手を握った。知らず、領主の目から、もう出ないと思っていたはずの涙がこぼれた。
「……シィナが……、妻が、地下牢で拷問を受けておるのです……」
「奥さんが……!」
 マリアドールの相槌を受けながら、領主は話し始める。この町で起こっている事を。
 領は、数代前から正体の分からないオブリビオンにおびやかされていた。ただ、エスペリオ、という名だけが分かっている。命令に背けば殺される。だから、今となっても従っているのだ。
 目の前の彼、今の領主は命令に従いながらも、領を地道に治めていた。それがエスペリオには気に食わなかったらしい。一時期は領主本人への嫌がらせが続いたが、領主が耐えたため、最近になってエスペリオは方向を変えてきた。エスペリオに税を納めに行っていた妻・シィナを拷問にかけ、町の人々を無差別に殺し始めたのだ。これが領主には耐えきれず、重圧に目の前が閉ざされそうな日々を過ごしていたという。
 妻・シィナは領主を思ってか、拷問に遭っても声ひとつ上げない。その健気さが、余計に領主を苦しめていた。
「妻を……シィナを助けられれば、エスペリオ様のいらっしゃる場所も分かるでしょう」
「奥さんを必ず助けるのだわ。だから、地下牢の鍵をマリア達に預けてほしいの」
「……信じましょう」
 領主はうなずくと、引き出しから鍵を取り出し、マリアドールにしっかりと手渡した。
「泣くところなどお見せしてお恥ずかしい。猟兵方、でしたか。私に出来る事があれば言ってください」
「その、あなたのこころを大事にしてほしいのよ。マリアに任せて!」
 ぱっと華開く笑み。少女にこうべを垂れ、領主はまた涙したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
アドリブ歓迎

領主から託された鍵を大事に抱え地下牢へ
領主の上着も借りる
仲間の猟兵がいたら同行希望
拷問史に遭遇した場合、自身の攻撃手段に不安が残る為
領主か他猟兵の協力を仰げるなら、事を荒げずに牢番の気を少しでも惹けないか相談
その隙に地下牢から奥さん救出
奥さんに上着を着せて素早く連れ出す
領主の私室へ戻り、鍵を閉めて一時的に安全を確認したら、
エスペリオの拠点を聞く

「今は何も言わずマリア達を信じて、一緒に来て頂戴。
あなたのことを領主様は本当に、本当に心配なさっていましたのよ。
よく、堪えたのですわ(軽く抱きしめて頭撫で)領主様も。
次はマリア達、猟兵が頑張る番ですのよ。笑顔に満ち溢れた世界を取り戻すために」


クリュウ・リヴィエ
あとの障害は拷問吏だね。
領主か奥さんを殺されないように対処しないと。
領主が、地下牢からの音に顔をしかめていたっていうことは、拷問中なら上まで聞こえるはず。
屋敷に入った時しんとしていたってことは、貴賓室にいるかな?
それなら倒せばいいけど、いないと地下室に向かったってことだから、見張りがいない事から異常を察知されてるとまずい。
その時は、一瞬だけ姿を見せて、直ぐに上に引き返そう。
油断して追いかけてくれれば良いけど。
奥さんを人質に取るようなら、血統覚醒で戦闘能力を上げ、奥さんを殺される前に奪い返す。
拷問吏を操っているのはヴァンパイアかも知れないから、ヴァンパイアへの変身で動揺してくれれば儲けものかな。



猟兵達と領主は、領主の私室から謁見室に出た。地下階段の見張りはすでに持ち場に戻っており、生気のない顔を上げた。
「あの、領主様、その者達は……? どこから?」
「気にしないでくれ。彼らを地下に通してくれるか」
「は、はぁ……」
 見張りは、のそのそと道を開ける。
 マリアドール・シュシュが領主を見上げて微笑んだ。
「領主様。領主様の上着をお借りしたいのよ」
「私の上着ですか? ええ、構いませんが」
 何に使うのだろう?と首を傾げつつ、領主はマリアドールに上着を託した。マリアドールは丁寧に受け取り、鍵と一緒に大事に抱えるのだった。
 と、地下階段の先から怒声が響く。
「おら回復してやらァ! 今日こそいい声で鳴けや!」
 猟兵達は顔を見合わせた。地下に拷問吏がいる。クリュウ・リヴィエは小さくため息をついた。
「領主さんと話してる間に、地下へ移動したのかな」
「このままマリア達が行ったら、奥さんを人質に取られないか心配なのよ」
「うーん、そうだね。隠れて行って、僕が合図するから、マリアドールさんはできるだけ素早く鍵を開けてくれないかな。僕が打って出るよ」
「マリアが鍵を開けるには、牢番にどいてもらわないといけないのよ。……領主様。お願いがあるの。牢番へどくように、マリア達の後ろで命じていただきたいのよ。領主様もマリア達が必ず、護るから」
「私が拷問吏のもとへ……! …………」
 領主は小さく震え、黙ってしまう。だが、覚悟を決めた様子で瞳を上げた。先の説得のおかげで、マリアドールへの信頼が上回ったのだ。
「……分かりました。お受けしましょう」
「ありがとう、領主様!」
 緊張した空気に、パッと微笑みが咲く。マリアドールが皆を見ると、皆も頷いた。ここで時間を浪費しては、シィナの拷問がまた始まってしまう。
 作戦開始だ。
 猟兵達と領主は息を殺し、静かに階段を降りていく。拷問吏の声がまた聞こえた。
「くかかかっ、今日はどれでいたぶって欲しいィ~?」
 体を強張らせる領主。クリュウは領主の背に手を当ててやった。大丈夫だよ、と。
 全員が階段を降りきった。猟兵達は目と目で準備ができていることを伝え合う。呼吸が揃った、今だ。
「行くよ!」
 クリュウの合図で、マリアドールが飛び出した。領主が命令を叫ぶ。
「牢の前からどきなさい!」
 突然の出来事に、牢番はとっさに領主の命に従った。
「何だてめぇらは!? ……! ヴァンパイア様!?」
 拷問吏が道具を取り落とす。そこにはヴァンパイアがいた。金から真紅の瞳に覚醒したクリュウが、ヴァンパイアへと姿を変え、きりきりと筋肉のバネを縮めていたのだ。
「……違え! てめぇら猟兵か!」
「開いたのよ!」
 マリアドールが牢の扉をめいっぱい開く。
「気づくのが遅いよ」
 ぽつりとクリュウがつぶやくと同時に、床が凹むほどの力で地を蹴り、一瞬で間合いを詰める。拷問吏がシィナへ手を伸ばすより速く、クリュウのルーンソードが拷問吏の胸を、バターでも突いたかのように易々と貫いた。クリュウはヴァンパイア化する事で、戦闘力が爆発的に増大していた。
 目を見開いたまま固まるシィナに、領主の上着を開いてマリアドールが駆け寄った。
 クリュウの刃を受けた拷問吏は、ハラハラと受肉が崩れ、骸の海へと還っていく。クリュウは息をついて、ヴァンパイア化を解除した。
「拷問吏はやっぱり動揺したね。思った通りだよ」
 一瞬で敵を仕留めたヒーローは、のんびりとルーンソードを鞘に戻す。クリュウは、拷問吏がヴァンパイアを見て驚く可能性を、しっかりと考慮していたのだ。拷問吏を操っているのが、ヴァンパイアかもしれないと予想して。
「……これが、猟兵……!」
 領主が、興奮に震えた声を上げた。作戦の速さ、創意工夫、純粋な強さ、そして……温かな優しさ。すべてを持ち合わせた彼らの名――猟兵という名が領主の胸に刻み込まれる。
 一方、乾いた血がこびりつき、黒味がかる地下牢の床。へたりこんだシィナへ、マリアドールが優しく上着をかぶせた。このために上着を借りたのだ。微笑むマリアドールの思いやりが、シィナの体を温かく包み込む。
「あなたのことを領主様は本当に、本当に心配なさっていましたのよ。よく、堪えたのですわ」
 シィナを軽く抱きしめて、頭をなでるマリアドール。少しの間、マリアドールの温かさに身を任せていたシィナだったが、ぱくぱくと口を動かし、続いて、すぅ、すぅ、と息を吐きだした。その行動を繰り返すシィナ。彼女の顔に、困惑がありありと広がっていく。
「あなた……もしかして、声が出ませんの?」
 シィナはさぁっと青ざめる。同じく青ざめた顔の領主が駆け寄った。
「シィナ……。ずっと声を上げるのを、抑えていたせいか……? ……なんということだ……」
 シィナも領主も、ショックを隠せない。
 猟兵達は戸惑いながら視線を交わしあった。これでは、エスペリオの拠点を話してもらう事ができない。どうやって彼女から聞き出せばいいのか? あるいは、彼女に道案内を頼むべきなのか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キリス・バルドス
今まで牢に閉じ込められていたんだ、案内を頼むのは酷というものだろう。

……ところで私は小手先の【技術】は色々と得意でね。
声を出せずとも、口の形でだいたいは読み取れるだろうさ。
それに私はダークセイヴァーの出身だ、ここの言葉は他所生まれよりも理解している自信がある。

奥さん、今のこの場所の安全は私達"猟兵"の肩書にかけて保障しよう。
だから落ち着いて、ゆっくりでいい。連中の拠点がどこか、口の形だけで喋ろうとしてみてほしい。
私が読み取った内容に間違いがあったら首を横に振るんだ。
それじゃ、頼めるかい?



「今まで牢に閉じ込められていたんだ、案内を頼むのは酷というものだろう」
 キリス・バルドスが意見を出す。尤もだが、ではどうすれば……と猟兵達の視線が返ってくる。
 そんな視線をのらりくらりとくぐり、キリスはシィナのもとへと歩む。
「……ところで私は小手先の【技術】は色々と得意でね。声を出せずとも、口の形でだいたいは読み取れるだろうさ。それに私はダークセイヴァーの出身だ、ここの言葉は他所生まれよりも理解している自信がある」
「おお、読唇術という奴ですか。そんな技術までお持ちとは……!」
 領主が青い顔を上げた。猟兵達は妻を治すためではなく、エスペリオを退けるために来たのだ。キリスの案は、そのための妙案と言える。
「奥さん」
 キリスはシィナを眼前に捉えて言った。
「今のこの場所の安全は私達"猟兵"の肩書にかけて保障しよう。だから落ち着いて、ゆっくりでいい。連中の拠点がどこか、口の形だけで喋ろうとしてみてほしい」
 こくこく、と頷くシィナ。
「私が読み取った内容に間違いがあったら首を横に振るんだ。それじゃ、頼めるかい?」
 もう一度、シィナはこくりと頷いた。口をできるだけはっきり動かし、ゆっくりと伝える。
「もりのなか。べずせんぎょてんのうらからはいる」
「ベズ鮮魚店ですね、確かにあります。ここから北です。裏手は森のはずだ」
 領主が口を挟むと、シィナはそうだと頷いた。シィナは続きをまた、口の動きで伝えていく。
「けものみちにあたる。みちぞい。わかれみちはふたつとも、みぎへいく。そのままみちぞいで、とうちゃく。なるほど、私達は獣道を頼りにすればいいんだね」
 シィナはめいっぱい頷く。
 キリスは見事、口の利けないシィナから情報を引き出した。これには、猟兵達からも称賛の声が漏れた。領主はよほど感銘を受けたのか、キリスに握手を求めてくる。
「お見事! ……失礼、お名前は」
 軽く握手に応じると、キリスは踵を返しながら言った。
「――私はキリス・バルドス。この世界で《神殺し》を営んでいた、しがない人形屋さ」
「かっ、神殺し……!?」
 驚愕する領主を後に、行こうかい、と軽く猟兵達に声をかけて歩み去るキリス。
 猟兵達が全員いなくなり、領主は妻を見て言うのだった。
「……世界が変わるかもしれない。キリスさん方……猟兵方の力なら」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『秘密の拠点への通路』

POW   :    罠や障害を力尽くで突破する

SPD   :    発動した罠を素早く回避する

WIZ   :    慎重に罠を見つけ出して安全に進む

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俯く人々の町を抜け、猟兵達はシィナに教えられた場所から森へと入った。うっそうと茂った森は、木までもが俯いているように見える。曇天の空から光は届かない。ひんやりとした空気、ただよう葉と土の匂い。歩めば、重なった枯れ葉が乾いた音を立てる。
 シィナから得た情報では、ここを進んで、獣道に当たったら道なりに進むそうだ。途中には分かれ道がふたつあり、両方とも右へ進めば、町を脅かすエスペリオの拠点に着くという。
 と、猟兵の勘がかすかな不自然さを捉えた。この森には、何かある。
キリス・バルドス
あれほど恰好をつけてしまったからには先陣を務めるしかあるまい……

さて、教わった道すがら標的の思考を考えてみようか。
相手はヴァンパイア、この世界ではポピュラーな支配種。
連中と人間の間には絶対的な戦力差があるから、わざわざ身を隠す必要など無い、はずなのだけれど。

どうにも、エスペリオというのは頑なに姿を現さない。
慎重……いや、ここまでくると臆病かな。いつ現れるとも知れない猟兵に怯え、支配種らしからぬ行動を続けていたと見るのが妥当だろう。
つまり、我々が思うよりもはるかに執拗に、念入りに、病的に罠を張られているという事さ。

……で、私が今踏んだスイッチは何だろうね?

私が避ければ済む程度なら良いのだけれど。


クリュウ・リヴィエ
んー、不自然さの元はなんだろ。
気になるのは枯れ葉くらいかなあ。
こんな日のささない森の中で、乾いた状態で積もるもんだろうか。

例えば枯れ葉が人為的に置かれているとすると、例えば罠のカモフラージュとか考えられるけど…。
シィナさんが税を納めるために使っていた道と考えると、それはそれで不自然なんだよね。

ま、ここで悩んでも仕方ない。
いま一番避けるべきはエスペリオを取り逃す事だし、僕らが進める道もここしかないんだから。
不自然に落ち葉が積もったところは近づかないようにしつつ、速やかに道を進むとしよう。
あと、僕らはエスペリオの外見が判らないけど向こうは僕らが猟兵と判るらしいから、不自然に逃げる人影にも注意かな。



最初に森に足を踏み入れたのはキリス・バルドスだ。
「あれほど恰好をつけてしまったからには先陣を務めるしかあるまい……」
 やれやれと、垂れ下がったツタを手の甲で避ける。
「キリスさん。なんだか不自然だよね、この森」
 クリュウ・リヴィエは先を歩くキリスに声をかけながら、周囲を見回す。不自然さの元はなんだろ、と。
「気になるのは枯れ葉くらいかなあ。こんな日のささない森の中で、乾いた状態で積もるもんだろうか。例えば枯れ葉が人為的に置かれているとすると、例えば罠のカモフラージュとか考えられるけど…」
「やはりそう思うかい?私もそう考えていたのさ。標的の思考を辿る事でね」
「標的の思考?」
 足を速め、キリスと並んだクリュウが聞き返した。
「相手はヴァンパイア、この世界ではポピュラーな支配種。連中と人間の間には絶対的な戦力差があるから、わざわざ身を隠す必要など無い、はずなのだけれど」
「そうじゃないね」
「そう。どうにも、エスペリオというのは頑なに姿を現さない。慎重……いや、ここまでくると臆病かな。いつ現れるとも知れない猟兵に怯え、支配種らしからぬ行動を続けていたと見るのが妥当だろう。つまり、我々が思うよりもはるかに執拗に、念入りに、病的に罠を張られているという事さ」
「なるほど。僕らはエスペリオの外見が判らないけど向こうは僕らが猟兵と判るらしいから、不自然に逃げる人影には注意かな」
「……で、私が今踏んだスイッチは何だろうね?」
「え?あああーーーーっ」
 当のキリスはひらりと避けたが、クリュウの声と姿が下に落ちていく。周囲を警戒していたはずが、キリスとの会話に気を取られてしまっていた……。
 ぽっかりと開いた落とし穴を、しゃがんで覗くキリス。
「大丈夫かい、クリュウくん」
「だ、誰かがスイッチを踏まなかったら大丈夫だったかな……」
「それだけ口が利ければ大丈夫だねぇ」
 なかなか、お互いに口の減らないものである。
 他の猟兵の持っていた鞭を下ろしてもらい、引っ張り上げられながらクリュウは考える。キリスさんの言うことも尤もだけど、シィナさんが税を納めるために使っていた道に罠があるのは、不自然じゃないかな……。
「ま、ここで悩んでも仕方ない」
 切り替えの速さは、冷静なクリュウの美点だ。
「前向きでよろしい」
 クリュウが地上に戻ったのを見ると、キリスも立ち上がり、服を払いながら言った。
「いや、キリスさんは、不自然に落ち葉が積もったところは近づかないようにしようね?」
「クリュウくんのおかげでよく解ったとも」
「褒められてない気がするなあ。……とにかく」
 クリュウは息をつきながら、一見ありふれた――しかし確かに悪意のある森へと顔を向けた。
「いま一番避けるべきはエスペリオを取り逃す事だし、僕らが進める道もここしかないんだ。速やかに道を進むとしよう」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルノーン・プライジエ
「おや、既に幾人かの猟兵が出発していましたか、出遅れしまいましたね」

私は遅れを取り戻すために最短距離を強行突破を目指します。
草も木も罠だって踏み倒し進みます。運が良ければ罠が作動する前に走り抜けられるかもしれませんしね。

「いざ、全速前進!!」
重低音な足音を上げながら私は進行開始します。



「おや、既に幾人かの猟兵が出発していましたか、出遅れしまいましたね」
 2メートル半の機械の巨躯が、枯れ葉と腐葉土に重くのしかかる。
 ルノーン・プライジエは遅れを取り戻すため、先頭集団までの最短距離を強行突破する事にした。草も木も罠も、踏み倒して行けばいい。
「いざ、全速前進!!」
 重低音な足音を上げ、初速から一気に加速、トップギアに切り替える。
 カチッ。
 何か硬い物を踏んだ。高速で走るルノーンの後ろで地面が爆発し、破裂音が聞こえる。ここは爆発地帯だ!
 ルノーンはどごんと木に体当たりしてはなぎ倒し、邪魔な草むらも何のその、まっすぐ突っ切って行く。倒木や猟兵達がルノーンの踏んだ罠で爆破されるが、ルノーンは煙と阿鼻叫喚の中を颯爽と抜けて駆ける。煙が装甲に沿ってたなびく様は、息をのむほど美しい。
 分かれ道に差しかかっていた先頭集団が見えた。皆ルノーンに釘付けだ。この雄姿を見て、誰も声を出せないとみえる。
 猟兵達の前でザザァッとブレーキをかけ、ポーズの決まったルノーンの背後をひときわ大きな爆発が照らす。選び抜かれた自慢のパーツが逆光で輝く。
「ミッション・コンプリートです」
 爆発音に混じってうわーとかギャーとか聞こえるが、ルノーンは全くの無傷。罠のひしめく中を、見事に走破したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

出遅れてしまいまいしたが、できれば力になりたい…と思う。
先に進んだ猟兵達の後を追って森へ入ります。

それにしても、なんだか嫌な森ですね。悪意に満ちている。
…ああ、なるほどこれか。
既に発動済みの罠を見つけて悪意の正体に納得。
罠がこれだけとは思えないですし、他にもありそうですね。

これは敵が設置した罠と考えていいんでしょうか?
だとすると、こちらが罠にかかるたびに相手の警戒度を高めることになりそうです。
極力罠は発動させないよう、不自然なところには近づかないように気を付けながら進みます。



ルノーンからさらに遅れて森にやって来た有栖川・夏介は、森に違和感を感じながら進んだ先で、凄惨な現場を目にした。
 森に黒焦げの道が出来ている。両脇には、黒焦げの猟兵が埋まっている。
「……この道はもう罠の心配はなさそうですね」
 処刑人の冷徹さで、見たモノは見なかった事にして焦げた道を進む。先頭集団は止まっていたようで、すぐに追いついた。
「この先も罠がありそうですね」
 夏介に声をかけられ、ようやく我に返った猟兵達。
「これは敵が設置した罠と考えていいんでしょうか?だとすると、こちらが罠にかかるたびに相手の警戒度を高めることになりそうです」
 う、うん……。猟兵達は歯切れ悪そうに黒焦げの道をちらちらと見る。とはいえ、エスペリオの拠点まではまだ距離があるだろう。夏介の指摘には従うべきだと、猟兵達もうなずき合った。
「極力罠は発動させないように進みましょう」
 夏介は表情を変えずに、分かれ道を右へと進む。鮮血を思わせる赤い瞳がぴんと張りつめ、森の中を注視した。落ち葉が不自然に積もっている箇所を避け、冷静に、着実に進む夏介。夏介の口数の少なさからか、皆も押し黙ってついて行く。
 と、ようやく次の分かれ道が見えた。前の分かれ道からここまで、夏介のおかげで何事もなく済んだようだ。分かれ道に着くと、あの惨劇を経験した周囲の猟兵達も、ほっとして口々に感謝を告げた。
 夏介は人形のような表情のない顔のまま、会釈をして返すのだった。力になれました……か。感謝の言葉に、心の中ではそんな事を思いながら。

成功 🔵​🔵​🔴​

マリアドール・シュシュ
アドリブ歓迎

「領主様や奥さんがマリア達を信じて送り出してくれたのだもの。獣道なんか怖くないわ!
きっと拠点まではあと少し。領主様達に少しでも光を、笑顔を。
だからマリアも頑張るのよ。もし倒せたら奥さんの声だって取り戻せるかもしれないもの!」

華水晶が灯ったランプを片手に他猟兵に続く様に森へ
この先に待ち受けるであろう戦いの為に竪琴を装備
罠を見つけたり発動してしまったら基本触らず避けて通る
極力無傷で
足元注意
右へ、右へ

拠点を確認出来た場合、拠点付近に見張り等がいるかもしれないので迂闊に近寄らず様子を見る
話し声など聞こえたら聞き耳立てる

「エスペリオという人物について何か情報が分かればいいのだけれど…」



あとは道沿いに進むだけだ。だが猟兵達にはすでに疲れが見えていた。主に爆破のせいで。
 そんな中、かわいらしい声がりんと耳に届いた。
「領主様や奥さんがマリア達を信じて送り出してくれたのだもの。獣道なんか怖くないわ!」
 暗く深い森。華水晶のランプに柔らかく照らし出された、クリスタリアンの少女――マリアドール・シュシュだ。
「きっと拠点まではあと少し。領主様達に少しでも光を、笑顔を。だからマリアも頑張るのよ。もし倒せたら奥さんの声だって取り戻せるかもしれないもの!」
 彼女の溢れるような微笑みが、まるで魔法のように猟兵達から疲れを取り除いていく。頑張ろう、と誰かが笑って応えたのを皮切りに、彼女の微笑みが皆に伝播していった。場が優しい笑顔に包まれる。
 元気を得た猟兵達は、再び進み始めた。
 マリアドールは華水晶のランプで周囲を照らして歩む。足元によく注意をしていたマリアドールの目に、一瞬キラリと光る線が見えた。
「待って頂戴、何か光ったのよ!」
 そのままのポーズで固まる猟兵達。マリアドールがランプを突き出して前を照らす。
 糸だ。細い糸が足元に張られている。これを切ったら罠が発動したのだろう。暗い森ではなかなか見つけにくい罠を、ランプの光が照らし出したのだ。この光がなかったら……と顔を青くする猟兵達。
「マリアが先を歩いて糸を見つけるわ。だから大丈夫。慎重についてくるのよ」
 マリアドールの微笑みが皆の心をほぐしてくれる。彼女を先頭に、入念に張られた糸を次々と見つけては、かいくぐって進むのだった。
 と、前方が少し明るくなった。先にひらけた場所があり、遠目に何か建物らしきものが見える。マリアドールは花の唇からふっと息を吹きかけて、ランプを消した。
 声をひそめて後ろの猟兵達に伝える。
「見張りがいるかもしれないわ。隠れて様子を探るのよ」
 皆、こくこくと頷く。少女ながらこの包み込むような優しさ、なんだか皆のお母さんのようだ。
 木々の陰に隠れる猟兵達。マリアドールも隠れ、来たる戦いのために竪琴を構えて、ちらと覗き見た。エスペリオという人物について何か情報が分かればいいのだけれど……。
 猟兵達はひらけた場所の隅に、家があるのを見た。迷彩柄の外装をし、木々の被さった小柄な家だ。豪奢な外観ではなく、周囲に隠れる隠匿性を選ぶようなヴァンパイア。キリスの考察した通り、慎重、あるいは臆病な性格が見て取れる。
 と、家の前に倒れ伏した人物が……あれは――!

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『ヴァンパイア』

POW   :    クルーエルオーダー
【血で書いた誓約書】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    マサクゥルブレイド
自身が装備する【豪奢な刀剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    サモンシャドウバット
【影の蝙蝠】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
👑17
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木々に隠れた猟兵達は見た。
 森のひらけた場所。隅にある迷彩の家から少し離れ、曇天のもと、人がうつ伏せに倒れている。領主の上着をはおった女性――シィナだ。
 もしシィナに十分近づいたのなら気付くかもしれない。彼女が、邪まな含み笑いをした事に。
クリュウ・リヴィエ
ここにシィナさんがいるってことは、すでに入れ替わってるって事?
ちらっと疑ったけど、それはないだろう、喋れないふり迄する理由がない、と思った自分の未熟さが恥ずかしい。
それとも、人への擬態って、姿を変えることしかできないのかな?
だとすれば、領主のいる場で喋るわけにいかなかった訳だね。

態々倒れてるってことは、まだ僕らをだます気だね。
対応は他の人に任せて、注意深く観察していよう。
ずっととぼけるようなら、軽くびっくりとかさせてみようかな。
ちょっと声聞かせてよ。

本性を現したならこっちも安心して殴れるね。
トリニティ・エンハンスで攻撃力重視で自身を強化。
逃がさないように退路を塞ぎつつ、接近して剣を振るうよ。


三岐・未夜
……偽物かな。到着が早すぎる。
吸血鬼がわざわざ人質を求めて領主の元からまた攫ったんなら話は別だけど。
こんな怪しい状況で信じてあげるほどお人好しじゃないんだよね、残念ながら。

85機のレギオンの内、1機だけをこっそり身体の影にしてついてこさせて、残りは人影からも見える位置で待機させるよ。まるで一般人を怯えさせないように待機させてあるように見えればいいかなあ。

「シィナさん大丈夫、どうして此処に!」

普段張らない声をわざと張って駆け寄ろう。催眠術と誘惑で、如何にも驚きと焦りを演出して。勘が外れて本当にシィナなら助けるし、逆に何か起これば瞬間的に飛び出したレギオンが一撃見舞ってくれる。僕はその隙に回避だね



身を隠したクリュウ・リヴィエが、隣に隠れている三岐・未夜にささやく。
「ここにシィナさんがいるってことは、すでに入れ替わってるって事?」
 未夜もささやき返した。
「……偽物かな。到着が早すぎる」
 二人の見解が一致した。まず偽物と見て間違いない。
 クリュウは苦々しく思い返す。シィナがヴァンパイアと入れ替わっている可能性も、すでに考慮していたのだ。だが、それはないだろう、喋れないふり迄する理由がないと否定していた。まだ未熟だね……と人知れず恥じ入るのだった。
 と、そこでクリュウは気づく。もしかして、人への擬態って、姿を変えることしかできないのかな?だとすれば、領主のいる場で喋るわけにいかなかった訳だね。……じゃあ今のシィナさんの声って――
 考え込んだクリュウの思考を、未夜のささやきが遮った。
「吸血鬼がわざわざ人質を求めて領主の元からまた攫ったんなら話は別だけど。こんな怪しい状況で信じてあげるほどお人好しじゃないんだよね、残念ながら」
「態々倒れてるってことは、まだ僕らをだます気だね」
「相手がその気なら……」
 未夜は小型の機械兵器――レギオンを展開する。その数、85機。いや、84機だ。1機だけこっそり自分の陰に潜ませる。残りの84機には、シィナからも見える位置で待機するよう命じた。一般人を怯えさせないように待機させている、と見せかけるのだ。
 こほん。未夜は咳払いした。息をいっぱい吸うと、
「シィナさん大丈夫、どうして此処に!」
 普段張らない声をわざと張って駆け寄っていった。持前の催眠術と誘惑技能を駆使して、如何にも驚きと焦りを演出してみせる。騙そうとする相手を、逆に騙し返すのだ。
 駆け寄る未夜を見送って、クリュウは注意深く観察に徹する。サポートが求められる役割である事を冷静に理解していた。周囲の猟兵はまだ隠れている。獣道は、見える限りあと2つ。なるほど、別の道を通って来たのかな。退路は塞ぐ必要があるね。
 クリュウが移動を始める一方、未夜はシィナのもとにたどり着いた。
「シィナさん、しっかり!」
 十分未夜を引き付けたと見たシィナの目が、赤に輝く。未夜の演技に完璧に騙されていた。刹那、赤いかぎ爪が未夜を引き裂く軌道を描く。
「フハハハ馬鹿めげぶぅ!!」
 未夜の陰から飛び出したレギオンがシィナの腹に一撃見舞う。未夜はひらりとかぎ爪を回避して、距離を取った。
 別の獣道に着いたクリュウは思わず吹き出す。女性の見た目で男のだみ声!これは皆の前で声を出せなかった訳だね。
 バサリ!赤い翼を広げ、エスペリオが擬態を解いた。未夜は風圧に押され、領主の上着が宙に舞う。
 無造作に流れる白の髪。赤い瞳は疑り深さを浮き彫りにしている。褐色の鎧の下にはぶ厚い筋肉が見えるが、全体的にパッとしない風貌のヴァンパイア。
「我が名はエスペリオ。罠で消耗したと見えるな、我が計略に嵌りおって!フハハハハ!」
 先ほどの不意打ちから早々に立ち直り、エスペリオは卑屈な高笑いを響かせる。
 ヴァンパイアが驕る隙を逃すクリュウではなかった。たんと地を蹴り、炎の魔力、水の魔力、風の魔力で力を格段に上げる。対してエスペリオは赤い左手を振るい、血の誓約書を呼ぶ。クリュウはもう一足、ダンと響く跳躍で一気に距離を詰め、ルーンソードを抜いた。
「もう安心して殴れるね。ハッ!」
「甘いわ!!」
 血の誓約書がクリュウに放たれた。ダンピールであるクリュウはあの攻撃をよく知っている。斬り落とすか、受けてルールに縛られるか……どちらにせよ足踏みせざるを得ない。クリュウは血の誓約書を真っ二つに斬り払うのだった。
「我に歯向かう愚、思い知るが良い!」
 大きな羽音を立ててエスペリオは飛び上がる。空に陣取ったエスペリオに、猟兵達はどう対処する?

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

高所を取るとは……。
よくもまあ、姑息な手を使うものですね。
しかし、障害物のないところにいるので狙いやすくもあります。

いくら空を飛んだところで、いずれ地に墜ちるのが道理。
相手の動きに注意しつつ【ジャッジメント・クルセイド】で攻撃し、撃ち落とします。
他にも同じ考えの方がいたら、協力できればと思います。
もし攻撃を外した時にカバーしたり、あるいはされたり。エスペリオが墜ちたところを拷問具で追撃したり。

地に墜ちたエスペリオにはこう言ってやろう。
「愚かなのはあなたのほうですよ」


オル・クブナス
おやおや、既に交戦が始まっていましたか。なんにせよ骨折り損にならなくて済みそうでございます。
まぁ、私に折れる骨はないのですが。


さて、横からでございますが多少援護させていただきましょうか。
『咎力封じ』にて敵の機動力を削ぐ事に致します


ルノーン・プライジエ
空を舞うエスペリオを見つめ、ボソリと呟く。
「随分大きい物が飛んでいますね。鬱陶しいので撃ち落としましょうか。」

まず始めは重点的に羽を狙いましょう。
撃ち落としてからは、再び飛ばれても面倒ですので、
強化合体をして、肉弾戦に持ち込みましょう。

【視力3・鎧砕き4・スナイパー1・援護射撃1・一斉発射1・2回攻撃3】使用
私はエスペリオを中心に全力で重厚な弾幕を張り、
強襲機アウスグスに装着された狙撃銃がその翼を狙う。
外れても、というより当たったらどの弾も高威力ですから、
無事には済まないでしょう。
いつまでもエスペリオ好きにはさせませんよ!



「高所を取るとは……。よくもまあ、姑息な手を使うものですね」
 翼を持たない、人間の有栖川・夏介が無表情のままため息をつく。
「随分大きい物が飛んでいますね。鬱陶しいので撃ち落としましょうか」
 横で、ウォーマシンのルノーン・プライジエがつぶやいた。
「そうですね、障害物のないところにいるので狙いやすいと思います」
「では、私は狙撃の準備を」
「お願いします。その間に、私は小手調べといきましょう」
 夏介が軽く頭を下げる。
 ルノーンは大型の自立式多脚機械、強襲機アウスグスを変形させる。装甲がプシューっと蒸気を上げながら組み替わり、アウスグスは凶悪な狙撃銃をあらわにした。
 一方の夏介は、スッと人差し指をエスペリオに向ける。ただそれだけだ。空に点が見えたかと思うと、その点を起点として一条の光線が落ちる。
「いくら空を飛んだところで、いずれ地に墜ちるのが道理――ジャッジメント・クルセイド」
 ジャッジメント・クルセイドは命中率の高さが特徴だ、避けられまい。対してエスペリオは高らかに命じた。
「光を追跡せよ!」
 現れた影の蝙蝠が自ら光に飛び込み、焼き消えた。サモンシャドウバットを発動していたのだ。避けられないのなら、別の物に当てればいい。
「やはり一筋縄ではいきませんね」
「変形完了、銃撃を開始します」
 刹那、視界が光に埋められた。そして激しい銃撃音。ルノーン自身による弾幕が展開されている。切り札のアウスグスはまだ動かない。
 エスペリオは自身を囲うように、何本もの剣を召喚した。剣に当たって派手な爆発があちこちで起こり、肝心のエスペリオがどうなっているのか、地上から見ることができない。ただ一機――ルノーンだけは、強化視覚センサーで剣を視認し、確実に狙って破壊していた。
 と、音もなく二人に並ぶ黒い影。
「おやおや、既に交戦が始まっていましたか。なんにせよ骨折り損にならなくて済みそうでございます。まぁ、私に折れる骨はないのですが」
 ブラックタールのオル・クブナスだ。
 激しい音を立てて射撃しながら、ひょうひょうとルノーンが語りかける。
「おお、オル殿も来ましたか。なかなか本体が狙えなくて、今は周りの剣を落としているんですよ」
 ルノーンの弾幕を背景に、夏介も立ち話をしているかのように会釈する。
「これはブラックタールの方、二人はお知り合いですか?」
「おやルノーン様。ええ、同じ旅団に所属しておりまして。といっても、そのうち旅団も爆破されるのでございますが。さて、横からではございますが多少援護させていただきましょうか」
「旅団が爆破……?いえ、横からだなんて。助かります」
 ちょうど剣が全て爆破され、守る物のなくなったエスペリオが見えた。だがエスぺリオは再び剣を出さんとする。これではきりがない。
「少々大人しくしていただきましょう」
 オルはユーベルコードの手枷、猿轡、そして拘束ロープをエスぺリオに向けて放つ。エスペリオは技の連発が負担になったらしく、オルのほうが若干速かった。三種の拘束具がエスぺリオをがっちり固めると、くぐもったうめき声が漏れた。
 すると拘束具――咎力封じの効力で、エスぺリオを守る数多の剣がフッと消失する。
「今でございます」
「オルさん、ありがとうございます」
 礼を言うと、夏介はエスペリオを指差した。身をよじるエスペリオだったが、ジャッジメント・クルセイドの光は手堅く片翼に命中した。落下していくエスペリオに、周囲からわあっと歓声が上がる。
「言ったでしょう?地に落ちるのが道理だと」
 夏介がそう言えば、オルはシルクハットを少し目深にし、口の端を曲げる。
「盛者必衰とはまさにこの事でございますな」
 せっかくなので強襲機アウスグスから狙撃を撃ち込むルノーン。
「あ、切り札が余ってましたので」
「ぎゃーーー!」
 空中で爆破されるエスペリオ。立ち昇るきのこ雲、容赦のない火力。だが、今の一撃でエスペリオの拘束が取れた。エスペリオは焦げながらも、しっかりとした足取りで着地する。ヴァンパイアは防御力も高いようだ。みたび剣を周囲に出して、三人を睨み付ける。
「我に楯突く愚か者共め……!」
「愚かなのはあなたのほうですよ」
 夏介は拷問具・アイアンメイデンを構えながら言う。
「まったく、馬鹿を治すにはこうするしかございませんな」
 オルも同じく、アイアンメイデンを構えながら言う。ほぼ同じ身長の二人は同時に走り出し、二台のアイアンメイデンがエスペリオに牙を剥く。
「我が馬鹿だと!?もっ、もう許せぬ!!」
 複雑に交差する剣と、メイデンの鋭い棘が激しくかち合い火花を散らす。と、二人がふっと場を譲った。肩透かしを食らったエスペリオの眼前に、5メートルのウォーマシンが肉薄する。二人が攻撃している間に、アウスグスとの強化合体変形を遂げたルノーンだ。
 避けようにも遅い。どごっと重い音を立てて剣ごとエスペリオは吹っ飛ばされた。
 見事な連携に周囲から喝采が飛ぶと、強化外装ルノーンはここぞとばかりにポーズを決める。目立っているルノーンの後方で、拷問具を持ったままの夏介が表情少なに、協力してくれたオルへと頭を下げた。同じく拷問具を持ったままのオルは、シルクハットを取って夏介に会釈を返すのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

仁上・獅郎
猟兵各員がお強いせいか、どうにも間が抜けて見えてしまいますね……。
いえ、気を引き締めましょう。

見たところ、対処は……質量のある刀剣相手には分が悪いでしょうか。
そちらは気合避けと[激痛耐性]で凌いでみます。
それ以外ならばこれ一つでどうにかなるでしょう。
無差別攻撃ゆえ、他の方に被害が及ばぬよう位置取りは注意して……。

[高速詠唱]。
恒星フォーマルハウトに坐する炎よ、その断片を此処に。
この世界の闇の一端、存分に食らい尽くしたまえ。
……18m以内であれば、炎にとって地も空もさして違いはありませんね?
邪神の力で恐縮ですが、太陽の代わりに灰は灰へと還しましょう。


塩崎・曲人
ちわーっす
打撃と苦痛のデリバリーでーっす

【喧嘩殺法】を使って、地に落ちたヴァンパイアに殴る蹴るの暴行を加えにいく
「奇襲も失敗し、空から引きずり降ろされ、数に囲まれる気分はどうだね?このままボコるんで、せいぜいサマになる遺言考えておくんだな」
喋る間も攻撃は緩めず、絶え間無くダメージを与え続ける
もう一度空を飛ばれると厄介だしな
考える時間は与えず、一気に仕留めちまおう

もちろん、周囲の仲間とも連携し
決着が着くまで油断せず包囲と攻撃を維持したい
「腐っても親玉だ、キッチリ滅ぼさねぇと安心できないぜ」



「猟兵各員がお強いせいか、どうにも間が抜けて見えてしまいますね……」
 人間の医師、仁上・獅郎は、翻弄されるエスペリオに哀れみの視線を向けていた。
「いえ、気を引き締めましょう」
 そう言った矢先、獅郎は気を引き締めざるを得なくなった。
 エスペリオが吹っ飛んだ先にいたのが、ほかでもない獅郎だったのだ。エスペリオは無事な片翼で体勢を整え、落下する勢いを利用して念力で剣を振り下ろす。
「うわっ!」
 獅郎は、紙一重でなんとか避けた。だがまだまだ剣はある。
 縦横無尽に襲い来る無数の剣。避けきれず、徐々に白衣が赤に染まっていく。激痛耐性で食いしばるが、肝心の回避は鈍る一方だ。
 猛攻を凌いだ、と思ったが、頭上に一本の剣が残っているのが見えた。これは避けられ――ない。
 突如、鈍色の何かが強く当たり、振り落ろされる剣を弾き飛ばした。
「ちわーっす。打撃と苦痛のデリバリーでーっす」
「塩崎さん!」
 オレンジのとげとげ頭、そこらで拾った鉄パイプを引っ提げて、人間の塩崎・曲人が戦場に足を踏み入れた。獅郎を見て軽薄に笑う。
「センセ、下がってな。そらよ!」
 曲人は左手に隠し持っていた土を投げつける。エスペリオはとっさに目を庇った。
「おいおい、奇襲も失敗し」
 曲人の蹴りが金的を狙う。追撃を予想したエスペリオは難なく回避。
「空から引きずり降ろされ!」
 だがそこに鉄パイプが襲う。
「数に囲まれる気分はどうだね!?」
「口が過ぎるわ!」
「ぶッ!」
 鉄パイプより速く、回避の回転で勢いを付けた翼がとげとげ頭を殴った。
「ああまともに……!」
 自分の回復をしていた獅郎は、医師という職業柄ハラハラ。周囲の猟兵は、曲人とエスペリオの距離が近すぎるため手が出せずにいた。
 口に滲んだ血をペッと吐くと、タフな曲人はシュシュっとシャドウボクシングで煽る。
「効かねえなあ。このままボコるんで、せいぜいサマになる遺言考えておくんだな」
「ほざけ、もはや見切ったわ!」
「見切ったかー、でもこっからがオレの【喧嘩殺法(ケンカサッポウ)】の見せどころなんだなー。ヒャッハー!」
 踏み入って真っ直ぐ振り下ろした鉄パイプは、だが先ほどまでの速さではなかった。これぞ【喧嘩殺法(ケンカサッポウ)】の極意、『難しいことを考えるのをやめる』である!
 目で残像を捉えたエスペリオは上段ガードをし、間一髪間に合った。
 だが懐に入った曲人のアッパーカットが、がら空きの顎に刺さる。重く振り抜くと、エスペリオを遠くへと吹っ飛ばした。
 今だ。獅郎が駆け出す。
「塩崎さん、下がってください」
「お?おう」
 先ほどとは逆に、獅郎から下がるよう言われた曲人は、とりあえず追撃の足を止めた。曲人とエスペリオとの距離が空くのを待っていたのは、獅郎もだったのだ。
『恒星フォーマルハウトに坐する炎よ、その断片を此処に。この世界の闇の一端、存分に食らい尽くしたまえ』
 走りながらの高速詠唱。エスペリオが地に着く前に詠唱が終わると、瞬間、周囲の猟兵達は怖気に襲われる。
 赤が見えた。獅郎から苛烈な炎が噴き出し、獅郎とその周りをうねるように覆う。猟兵達は高温の熱波に圧された。
 見境なくのたうつ、生ける炎。【神格招来・Cthugha(シンカクショウライ・クトゥグア)】は、圧倒的な邪神の力で何者をも奪っていくユーベルコードだ。
 エスペリオとて例外ではなかった。アッパーカットに脳を揺すられ、自由のきかないエスペリオは、なす術なく忌まわしき炎に呑まれる。そこからは、ただ蹂躙があるだけだった。
「ガァッ!?ギャアアアアアアアア!!!ッ……」
 断末魔すらも炎が呑み込んだ。周囲からは、もはや炎ののたうつ巨大なドームしか見えない。一体中で何が起こっているのか。
 思うままに食らい尽くした炎は、満足したかのように消えていった。
 後には赤に染まる白衣姿と、黒焦げのミイラのような何かだけが残った。しかしミイラは、受肉を解かれてハラハラと崩れていくのだった。
 この地を支配していたヴァンパイアは、猟兵達の手によって消滅した。獅郎はほっとひと息ついて言う。
「邪神の力で恐縮ですが、太陽の代わりに灰は灰へと還しましょう」
 本来ならここで歓声でも上がるところだが、あまりに凶悪なユーベルコードを前にして、周囲はしんと静まりかえっていた。
 ――オレ、センセは怒らせないようにしよう。曲人もまた、密かに心を決めるのだった。
 運よく遠くに飛ばされたらしい領主の上着は、焼けずに残っていたようだ。本物のシィナについて聞く事はできなかったが、領主への報告は必要だろう。彼は今も、猟兵達の帰りを待っているのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


領主の屋敷。
交代して休憩に入っていた牢番は、一つ気がかりに思う事があった。拷問吏は倒される前、一人の町人と一緒にやって来た。二人は領主の奥方を牢から連れ出して一番奥の牢に入り、しばらく男の自慢げな声――我の巧妙な作戦がどうの――が聞こえた後、奥方と拷問吏だけが出てきた。あれは何だったのか……と。
牢番は、やはり領主に報告しようと腰を上げた。ちょうど猟兵達が帰ってくるところであった。
クリュウ・リヴィエ
ヴァンパイアは無事倒せたけど、最後の報告までちゃんとしないとね。
けじめを付けに行こう。

上着を領主さんに返して、囚われていたシィナがヴァンパイアの擬態だったことを伝えよう。
残念ながらシィナさんの行方は…え?いや、牢番さんの話は気になるね。
ひょっとすると…。
とりあえず、地下牢に向かおうか。
生きていてほしいもんだね。
領主さんの復興に向けたやる気が違うだろうし。



「ヴァンパイアは無事倒せたけど、最後の報告までちゃんとしないとね。けじめを付けに行こう」
 この世界に慣れているダンピールのクリュウ・リヴィエを先頭に、猟兵達は再び屋敷に帰ってきた。
「皆さん!」
 憔悴した顔の領主がエントランスで出迎えた。猟兵達の帰りを、今か今かと待っていたのだ。
「シィナが、シィナが居なくなったのです!どこを探しても見つからず……!」
「落ち着いて、領主さん。はい、まずこれを返すよ」
「これは!なぜ……」
 マリアドールがシィナにかけた、領主の上着をクリュウが手渡す。この上着がクリュウの手にあったという事は……。
「実は、地下に囚われていたシィナさんは、ヴァンパイアの擬態だったんだ。声が出ないふりをしていたんだよ」
「なんですって……」
 領主がさらに青ざめる。
「ヴァンパイアは倒したよ。でも残念ながらシィナさんの行方は……」
「えっ、今あっさりおっしゃいましたが、ヴァンパイアを倒したと……?」
「うん」
「……えっ」
「うん」
 あまりの出来事に、領主の頭がついていかない。しばし、ぽかんとしていたがハッとして。
「本当に、倒してくださったんですか!!」
「うん、そう言ったじゃないか」
「みっ、皆さんにお任せして、本当によかった……!シィナの事は……残念ですが……」
 喜んだり落ち込んだり、興奮する領主のもとへ、休憩を取っていた牢番がやってきた。
「領主様、こちらでしたか。少し奥方様の事で気になった事が……」
「え、あ、しかし……いや、大切な客人の前だ、後にしてくれるか」
 領主は猟兵達との話をさえぎれず、牢番を追い返そうとする。が。
「え?いや、牢番さんの話は気になるね」
 クリュウがそこに待ったをかける。
「気になりますか……?では……済まない、やはり話してくれないか」
「はぁ、ええ。構いませんが」
 促された牢番は、生気のない顔で淡々と話し始める。
 拷問吏が一人の町人と一緒に地下牢へ来た事。二人は奥方を牢から連れ出して奥の牢に入り、奥方と拷問吏だけが戻ってきた事。
「どういう事、でしょうか……」
 首をひねる領主。だが、これまで考えうる状況を網羅してきたクリュウは、その情報だけですぐさま成すべき事を理解した。
「なるほどね。とりあえず、地下牢に向かおうか」
「え?ええ。そうですね、そうしましょうか」
「生きていてほしいもんだね」
「……?」
 疑問符を浮かべながら、領主はクリュウの言う通り、クリュウ達を地下牢に連れて行く。
 謁見室を通り、地下への階段をくだる。一番手前の拷問牢を過ぎ、奥の地下牢へと――そこにはシィナが転がっていた。領主が驚喜の声を上げる。
「シィナ!?」
 彼女の胸が上下している、生きている。クリュウは顔を緩めた。領主は分かっていないようだが、発見が遅れれば危うい可能性もあった。この様子なら、誰かが回復のユーベルコードをかければ大丈夫だろう。
 しばらくののち、領主の謁見室には領主と、ユーベルコードで元気になった本物のシィナ、そして猟兵達が揃っていた。
「本当に……、何とお礼を申し上げていいか。よろしければ、お名前を伺ってもいいでしょうか?」
 全ての報告をしたクリュウに、領主が目を腫らしたまま微笑む。
「僕?名乗るほどの者ではないんだけど……まあいいか。僕はクリュウ・リヴィエというよ」
「リヴィエさん。それに皆さんも!町を救ってくださったばかりでなく、このように妻まで助けてくださって……。本当に、本当にありがとうございました」
 憑き物が落ちたように晴れやかな表情。消えかかった灯火を、猟兵達は守りきったのだ。この領も、もう大丈夫だろう。領主とその妻は深く頭を下げるのだった。
 後世、この地は、猟兵達を代表してクリュウの名を領の名に取り込んだ。バラム・リヴィエ領は最初期にヴァンパイアから解放された土地として、歴史に名を刻む事になる。
 最後に、すでに知る者はいない真相を伝えておこう。
 猟兵が町に着いた時点では、エスペリオは町中に潜んでいた。地下牢には確かに、予知通りシィナがいたのだ。だが、狐火のちょっとした騒ぎで猟兵の存在に気づいたエスペリオは、いずれ猟兵がシィナに突き当たるだろうと即座に見当をつけた。なぜなら、シィナが自分の拠点を知る唯一の人物だからだ。そしてエスペリオは、猟兵が領主と話している間に、拷問吏と共に地下に降り、シィナと入れ替わった。シィナをその場で殺さなかったのは、血の匂いがすると本物のシィナに気づかれると思ったからだ。そのあとは、猟兵達の知る通りである。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2018年12月30日


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#ダークセイヴァー


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト