●
視界の中、夜の大地がある。それは垣根や柵などで区画され、その上に灰色の石板が林立していた。
墓所。領主館に併設されたそこには、一人の影があった。
普段であれば夜の闇に溶け込むようなその影は、月明かりによって、濃紺の甲冑に身を包んだ、女騎士だということが解る。
「――嗚呼……」
真新しく美しい、しかし没っした日付しか彫られていない墓石に腰かけ、吐息を混じらせた声は、恍惚の念を持っていた。
「やはり良いですわね……。――人の悲鳴と言うものは」
慈しむように墓石を撫でながら、言う。
「ええ、貴女も素晴らしかったですの……。ここに眠る他の皆に負けず劣らず、ですのよ?」
思い返すように天を仰いだ顔に張り付いているのは、笑みだ。
「握ったことも無い剣を握らさせられ、戦わさせられることを知った時の悲鳴も。只々私の速度に翻弄され、自分の身が削られていった時の狂いそうな声も」
そしてなにより、と。
「――貴女のご家族が素晴らしかったですわ……! 家の手伝いも碌に出来ないような幼子が戦わさせられ、傷ついて、傷ついて、傷ついて、もはや以前の姿とはかけ離れた姿となって、死んでいく様を見ていた貴女のご家族が!」
恍惚とした表情で、他の墓石を見回した。
「この領地を信任された手前、人間の数を減らしすぎるのは良くないのですけれど……。こればかりは止められませんわね……」
この“トロフィー”を作る人手も無くなってしまいますものね、と言葉を零しながら、
「――でも」
指を鳴らした。
直後、複数の影が現出する。それは全て墓石の下、大地の深い位置からやってきた。
半透明の影は霊体だ。
「――!」
怨嗟と呪詛の声が、墓地に木霊する。
「ここまで増えれば、十分でしょう。以前のオブリビオンもヴァンパイアの皆様に差し上げることが出来ましたわ」
手で顔を覆いながら、濃紺の女騎士は笑う。
「嗚呼……! 次はどんな人間を選びましょうか……!」
喜悦の声が、夜空に響いた。
●
猟兵たちの拠点、グリモアベースに一つの声が聞こえる。
「皆様、出撃をお願いしますわっ」
ベースに響くのは、グリモア猟兵であるフォルティナ・シエロによるものだ。
「現場である世界は、ダークセイヴァー。この世界のオブリビオンは、支配者として多数の配下を引き連れて領主館に居を構えているのが普通ですの」
しかし、と言葉は続く。
「今回、その領主館の警備が手薄になったことを予知しましたわ!」
興奮した様子で言葉を告げていた自分に気付いたのか、はっとし、表情を硬くする。
「現場の状況を説明しますわ。敵オブリビオンは暗黒騎士ヴィスダ。ヴァンパイア達に忠誠を誓う彼女は、信任された領地を“管理”していますの」
身振り手振りを交えながら、彼女は集まった猟兵たちに言葉を送る。
「ヴィスダは残虐な性格で、戯れに領民を自身と戦わせて嬲ることで愉悦を得ていますわ」
そして、
「自分が殺害した人間たちをオブリビオンとして配下に置き、以前までのオブリビオン達はヴァンパイアに献上したようですの」
これが意味することはなにか。
「自分の戦闘能力に絶対的な自信があるのか、今までの警備から比較すると随分と手薄な状態になりましたわ」
フォルティナは眉を立て猟兵を見回す。
「そこで、強襲ですの! 墓地にいるヴィスダの元へ駆けつけ、彼女を撃破。そういう流れですわね」
ただ。
「手薄になったと言えど配下はいますの。前述の“亡霊”たちですわね。」
“亡霊”たちの攻撃はこうですの、と指を立てる。
「霞のような身体によって攻撃を軽減し、その身体を呪いそのものと変化させ、壁も床も無視してこちらにやってきますわ」
「それ以外にも、呪詛のような呟き声を聞いた対象に自身が体験した凄惨な過去……、この場合はヴィスダによって受けたものですわね。それを幻覚にて体験させる精神攻撃も用いてきますの」
「また、戦闘で瀕死になると姿が消え、再び同じ亡霊出現しますわ。仕切り直しと、そういう感じですわね」
そうして、もう片方の手も上げた。
「――次はヴィスダの戦闘方法について説明しますわ」
「目にも止まらぬ程の高速による突進の後、装備した細剣による刺突。そして踏みにじりの追撃。そういった、素早い身のこなしを活かした戦い方も得意ですが、暗黒のオーラを用いた戦い方もヴィスダは得手ですわ」
「オーラによって生み出された翼による加速と、翼から生み出される漆黒の矢……。そのため剣から距離を取っても、高速で詰めて来ますし、矢による攻撃でも対抗してきますの」
そして何より、
「いざとなれば、暗黒のオーラを放出して、周囲全てを攻撃することが出来ますの。……遠近のみならず、多数に包囲されても抜け出せると、そういうことですわね」
指を立てた両手は降ろさず、指を全て開き、光を生み出す。
オレンジ色の光はグリモアだ。
「現場である墓所まではグリモア猟兵である私の能力で、テレポートし、皆さんを召喚しますわ」
猟兵たち一人ひとりの顔を確認しながら、フォルティナは言葉を続ける。
「恐らく、戦場はヴィスダによって殺された人々が眠る墓所になってしまいますわ。場所を移そうにも敷地の外は領民たちが住む町……。被害が出る危険性がありますの」
「自分が殺した人間の証として作った墓所……。“亡霊”たちとヴィスダを撃破した後、皆様には、名前すらも彫られていない墓所の整備……、というか、建造をして下さればと、そう思いますわ」
全員の顔を見渡すと、フォルティナは眉を立て、口角を上げた。
「亡くなった人々のために、オブリビオンが作った墓なんかよりもっともっとすばらしい物を、町の人々と共に作ってあげて下さいまし! 私からお願いしますの!」
シミレ
シミレと申します。TW6から初めてマスターをします。
今OPで11作目です。ダークセイヴァーは1作目以来です。
不慣れなところもあると思いますがよろしくお願いいたします。
●目的
今回はダークセイヴァーでボスが支配する領主館への攻撃となります。墓場から侵入し、そこの集団敵とボスを撃破して下さい。
その後は戦闘によって荒れた墓場を修復・修繕といった感じです。
●説明
一章は集団戦で、”その地に縛り付けられた亡霊”が呪いや怨念、そして多数で襲ってきます。
二章はボス戦で、”暗黒騎士ヴィスダ”が超スピードや暗黒のオーラなどで立ち向かってきます。
三章は日常で、戦闘によって荒れた墓地などを直してもらおうかと。
●他
皆さんの活発な相談やプレイングを待ってます!!(←毎回これ言ってますが、私からは相談見れないです。ですので、なおのこと好き勝手に相談してください)
第1章 集団戦
『その地に縛り付けられた亡霊』
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POW : 頭に鳴り響く止まない悲鳴
対象の攻撃を軽減する【霞のような身体が、呪いそのもの】に変身しつつ、【壁や床から突如現れ、取り憑くこと】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : 呪われた言葉と過去
【呪詛のような呟き声を聞き入ってしまった】【対象に、亡霊自らが体験した凄惨な過去を】【幻覚にて体験させる精神攻撃】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 繰り返される怨嗟
自身が戦闘で瀕死になると【姿が消え、再び同じ亡霊】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
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●
「――あら?」
猟兵達が転移した先、墓所にヴィスダはいた。事前の予知通りだ。
彼女は墓石に腰かけたまま、こちらに顔だけを向ける。
「……ああ、解りますわ。初見の方しかいらっしゃいませんけど、ええ、解ります。猟兵の皆様ですわね? ごきげんよう」
笑みを深くし、喉の奥からは笑い声が漏れ出ている。
「随分と、見計らったような時期に来ましたわね? 大方、ここのオブリビオンがいなくなったとでも考えて来たのでしょうが……」
指を鳴らす。
「――!」
瞬間、生じるのは霊体だ。大地の奥深くから、怨嗟と怨念の声を携えながら無数という数でやって来る。
「――このように、防備は万全ですのよ?」
ヴィスダは、自分の足元、腰かけていた墓石から生じた霊体の頬を一度撫でると、跳躍。
暗黒の翼で飛翔し、屋敷と墓所を繋ぐ門の上に立った。
「さぁさぁ、猟兵の皆様方。私と“踊り”に来たのでしょうが、まずは“前座”を楽しんで下さいまし!」
ヴィスダが顔の前で手を数度打ち鳴らせば、“亡霊”たちが声を上げ、勢いよくこちらに突っ込んで来た。
「無念と怨念、怨嗟と苦痛……。それらを乗り越えた後で、私が手ずから皆様を葬ってあげますわ……!」
一郷・亞衿
あんたらが恨むべき相手はあたしたちじゃないだろ?……って、オブリビオン化してる奴らに言っても無駄か。
瀕死にするとまずいなら、一撃で絶命させれば良いよね。まあ元々死んでるみたいだけど。
相手の方から近づいてくるっぽいし『プレデター』を使用。カッターナイフに<呪詛>を纏って手甲剣を生成して、強烈な一撃を見舞っていこう。相手は物理的な実体を無くしたり出来るみたいだけど、呪いで出来た刃なら通じるでしょ多分。
念のため、憑依対策として服の下にアルミホイル仕込んで<呪詛耐性>上げておこう。
襲ってくる以上は倒すしかないけど、色々思う所はあるなあ……
……安心して。あなたたちの復讐は責任を持って代行してあげるから。
●
“亡霊”たちは一直線にその身を走らせた。向かう先は二つある門の一つ、館ではなく敷地外へと通じる方だ。
そこにいるのは一人の少女だ。
「――なあ」
少女が言葉を送って来た。
「あんたらが恨むべき相手は、あたしたちじゃないだろ?」
こちらに向けられる言葉は、哀れみの感情を持っていた。
「――!」
しかしこちらへ向けられる言葉に構わず、更なる疾走を選択する。
「……って、オブリビオン化してる奴らに言っても無駄か」
疾走を開始するその身はもはや、霊体の形を成していない。
霊体としての灰色の姿から、一際暗い色へ姿を変えたのだ。月明かりに照らされた夜闇の中でもさらに暗い色は何か。
呪いだ。
「――!」
この世の何もかもを恨む姿へと己を変え、宙を疾駆する。
もはや眼前となった少女の身体にこのまま激突すれば、その怨念が少女を取り憑き、身を蝕むだろう。
だからそうした。
「――!?」
しかし、それは果たされなかった。
少女の身体に浸透していくはずの己が、弾かれたのだ。疑問の叫びを上げ、再度の突撃を敢行するが、
「――――」
やはり弾かれた。胴を狙ったはずの一撃が、反力の感触とともに逸れていく。
突撃が逸れて背後となった少女の方に慌てて振り返ったそのとき、光が見えた。
光は月光の反射で、薄く、鋭かった。
「――はい、おしまい」
呪いそのものとなったこちらのシルエット全体に、それが突き込まれた。
●
亞衿は振り抜いた手を元に戻し、己の腹を擦りながら、思う。
「念のために仕込んでたけど……」
擦る手の下、服の中から硬質だが軽い音が響く。
「アルミホイルってやっぱ凄いな……」
呪詛耐性上げたとはいえ、電磁波のみならず呪いも防げるとは。
しかし、
「相手の方から近づいてくるっぽいし、これで防備は完璧」
あとはこちらがどうするか、だ。
見れば、周囲にはこちらを取り囲むように“亡霊”たちが構えている。
「――!」
その内の一体が、やはり呪いそのものとなってこちらへやってきた。
「瀕死にするとまずいなら……」
こちらへやって来る一体を見据え、言う
「――一撃で絶命させれば良いよね」
まあ元々死んでるみたいだけど、と言葉を付け加えながら、腕を振った。
腕の先、腕を延長するように伸びる者がある。手甲側から伸びるそれは、薄い金属だ。
月明かりで照らされたそれは、冒涜的な形状をしていることが解る。
「まあ、元はただのカッターナイフなんだけど」
突きこんだ。
刃が刺し込まれていく。
「物理的な実体を無くしたり出来るみたいだから、呪いで出来た刃なら通じるかなー、って思ったけど、当たりだったみたいだね」
“亡霊”が、その身を霧消させていった。
「――!!」
すると、こちらに警戒の念を強めた“亡霊”たちが、一斉に襲いかかって来た。
それに対しこちらは、
「――――」
言葉を幾つか紡ぐと、カッターナイフを元に、もう片方の手甲にも剣を装備した。
「――襲ってくる以上は倒すしかないんだけどさ」
両手を振い、突き込みながら、思う
色々思う所はあるよなあ……。
元はただの領民がヴィスダに殺され、無念と怨嗟の塊となった存在なのだ。
「……安心して」
そうして、挟み込むように両腕を振い、
「あなたたちの復讐は責任を持って代行してあげるから」
“亡霊”たちを両断していった。
大成功
🔵🔵🔵
才堂・紅葉
相変わらず気分が悪い奴等がのさばる世界ね。
さて、亡霊対策だけど私に良い物があるわ。
こんな事もあろうかと、錬金科の学生達に作らせた対霊体ガジェットよ。
押し寄せてくる亡霊達には銃弾も体術も効果は薄い。だが、余裕の笑みをうかべた。
光属性のガジェット武器と予想している。
召喚符発動。
先をT字に広げたパイプに、一対の車輪が付いた箱がチューブで連結されたガジェットが現れた。
アースで見た事のある道具だ。
しばし呼吸を整えると。
「掃除機でどうしろってんのよあの馬鹿共!?」
押し寄せる亡霊にもみくちゃにされた。
なお、結論だけ言うと一杯吸い込んだ。
あのマッドの卵共は次会った時はしめようと思う。
【アドリブ、連携歓迎】
●
“亡霊”たちの怨嗟の声が響く戦場の中、そこに紅葉はいた。
「相変わらず気分が悪い奴等がのさばる世界ね……」
向ける視線の先は、領主館へと繋がる門の上だ。
そこにいるのはオブリビオン、ヴィスダだ。
「あらあら、酷い言われようですわね」
口元を手で隠しながらの言葉はでも、と続く。
「私に啖呵を切っても、目の前の敵はいなくなりませんのよ?」
ヴィスダが指を鳴らせば、周囲の“亡霊”たちが呼応し、
「――!!」
一斉にこちらへやって来た。
●
ヴィスダは思う。どうしますの、と。
門の上という高所にいる自分からは、現場の状況がよく分かる。敵の元へ“亡霊”たちが大挙しているのだ。
前面から波濤のように押し寄せる敵を前にして、しかし猟兵は慌てない。
懐に手を伸ばし、何かを引き抜いた。
「? なんですの……?」
手元を見れば、それが符であることが解った。
「良い物よ」
「それは――」
こちらの疑問に猟兵が余裕の笑みで答える。
「“亡霊”相手じゃ、銃弾やましては体術も効果は薄いわよね」
ならばどうするか。猟兵がその答えを言う。
「こんな事もあろうかと、錬金科の学生達に作らせた対霊体ガジェットよ」
「対霊体ガジェット
……!?」
言葉と共に、符から光が生じた。
●
手中の符から、光が散っていくの知覚しながら、紅葉は視線を前へ向ける。
“亡霊”たちはこちらの異変に気付き、突撃の速度を緩め、離脱や距離を開けることを選択しようとしているが、もう遅い。
「ここまで間合いに入られて、逃がす私じゃないわよ……!」
手中のそれだ。恐らく対霊特攻の武器として連中が寄こした品。
それはなにか。予想は出来る
つまりは光属性のガジェット武器……!
対霊としてはこれ以上ない品だ。現に、今もカードからは光が零れ、しかしやがてそれは収束していく。
未だ光の中でおぼろげな形しか見えないが、手の中に返ってくる質感で形を把握できる。
「――――」
全体のシルエットは棒と立方体がチューブで連結された姿だ。
一対の車輪を付けた立方体を地面に安置。その後、棒状のパイプを手繰り寄せて掌で回し、構えた。
「――覚悟!」
パイプの先、穂先となる部分はT字状に広がっている。
掃除機だ。
●
ヴィスダは、敵がこちらに掌を向けたのを見た。ちょっと待て、というポーズだ。
こちらとしては待つのに付き合う必要はないのだが、相手の出方が解らないのも確かなので“亡霊”たちに停止の指示を与える。
「…………」
沈黙が場を支配した。
数拍。それだけ待っても敵が動かないのでこちらから問うてみる。
「……その不細工な何某が、対霊――」
ガジェットですの、という言葉は続かなかった。相手が叫びを挟んできたからだ。
「掃除機でどうしろってんのよあの馬鹿共!?」
ソージキってなんですの、と思いながら自分は“亡霊”達に突撃を指示した。
直後、“亡霊”の波が一気に猟兵を呑みこんだ。
しかし、次の瞬間にはそれは逆転した。
「――!?」
猟兵が、波を呑みこんだのだ
「一体何が
……!?」
●
あのマッドの卵共……!
次会った時はシメようと、そう思いながら、紅葉は掃除機のスイッチを押し込んだ。
現状、自分は波のように押し寄せる“亡霊”たちにもみくちゃにされているが、構わず、パイプを振り回し、次から次へと吸い込んでいく。
掃除機なのだ。撫でるように空間を振えば、その先の尽くを吸い込んでいく。
そうして、目の前の波濤を全て吸い込み終われば、スイッチを切る。
ヴィスダに向き直り、言う。
「――ええ! 対霊ガジェットよ!」
実際そうなったんだからそうだ。でもシメる。そう思いながら、第二波を吸い込んでいった。
成功
🔵🔵🔴
シャーロット・キャロル
「罪もない人々をよくも…… 許せません!このような悪事を働いて無事ですむとは思わないことですね!」
とまずはビシッと高みの見物モードなヴィスダに宣言。
しかし私の自慢である怪力も亡霊相手には通じ無さそうですね……
ですがこんなことで臆するマイティガールではありません!
「物理攻撃が通じないなら他にも手があります!食らえッマイティヒートヴィジョン!!!」
サイバーアイから赤色のレーザービームを撃ち出して亡霊達に攻撃を仕掛けます。亡霊の物量に負けないよう攻撃回数を重視します!
なるべく亡霊に取り囲まれないように立ち回りつつレーザーで亡霊達を迎撃していきますよ!
【アドリブ、連携大歓迎です】
ニレ・スコラスチカ
ここにいるのは…犠牲者。
犠牲者です。しかし、異端。彼らは今も囚われ続け、罪を犯し続けている……ならば、わたしがしなければならないことはひとつ。罰し、赦し、救う。なんとしてでも…!
敵は霊体。単純な攻撃は通用しないでしょうが、わたしとてクレリックの端くれ。対悪霊は専門分野です。生体拷問器を振るって【激痛耐性】と【カウンター】で立ち回りつつ、倒して動きの止まった敵に【磔刑】を打ち込みます。ユーベルコードを封じ、二度と甦れぬようにしましょう。どうか安らかに。
「この聖釘は免罪符。きっとあなた方の罪も赦されましょう」
【アドリブ・連携歓迎】
●
シャーロットとニレは戦場となる墓所に駆けつけ、その光景に息を呑んだ。
「これは……!」
そこにいたのは無数と、そう言えるような数の亡霊たちだ。
「――!」
今もなお、呪詛を吐きながら大地から生み出されてくるそれらを見て、この惨事の元凶へと視線を向ける。
「罪もない人々をよくも……」
視線の先は門の上、そこに座るヴィスダだ。
「許せません……! このような悪事を働いて、無事ですむとは思わないことですね!」
指を突きつけた向こう側、濃紺の女騎士は笑みを深くすると、耐えきれないといった様子で笑いだす。
「あらあら。これは面白いことを仰りますわね? ただですまないなら、どうなりますの?
「決まっています! 貴女を倒します!」
「あら怖い。――でも、この者たちは、私の余興に付き合って下さったただの善良な方々ですわ」
「そんなことは貴女に言われるまでも知っています……!」
笑みを深くして、ヴィスダが問うてくる。
「じゃあ、貴女方は、そんな彼らを死してなお傷つけますの?」
「貴女……! 何をいけしゃあしゃあと……!」
そのとき、自分の前に立つ影が見えた。
「ここにいるのは……犠牲者。犠牲者です」
「ニレさん……?」
ニレだ。
一言ずつ、確かめるように彼女は言葉を紡いでいく。
●
“亡霊”たちを見回しながら、ニレは言う。
「しかし、異端」
そう、異端なのだ。
異端の術によってその身を変化させられ、使役されている。
「彼らは今も囚われ続け、罪を犯し続けている……」
ならば、どうするか。
「わたしがしなければならないことはひとつ」
ヴィスダに拷問器を突きつける。
「罰し、赦し、救う。なんとしてでも……!」
告げた瞬間、来た。
“亡霊”たちが波となってこちらに押し寄せて来たのだ。
「勇ましいですわね。でも、私との相対を望むなら、まずは“彼ら”を打ち払って下さらなければ」
「くっ……!」
迫りくる波に対してシャーロットがその拳で殴り、ときには蹴っていくが、
「やはり亡霊相手には通じませんか……!」
こちらもそうだ。打撃を与えても手応えが全くない。散りもせず、ただ通過するだけだ。
「金髪の貴女。着の身着のままでやって来て何をするかと思えば、格闘ですの?」
ヴィスダが嘲笑するように笑う。
「亡霊相手には、自慢の怪力も通じないようですわよ?」
さあ、どうしますの。というヴィスダの言葉に、囲まれないよう位置取りながらシャーロットは答える。
すなわち。
「――こんなことで臆するマイティガールではありません!」
そう言って地を蹴り、跳躍。バク宙を身に叩き込んで、背後への距離を一気に稼いだ。
「ニレさん! 少しの間、時間を稼いで下さい!」
「解りました」
彼女の言葉に答えるのと、敵中に跳び込むのは同時だ。
「――!」
直後、周囲の“亡霊”たちが一斉に呪詛を唱えた。
●
正気ですの……!?
ヴィスダは目の前で起きたことを、そう感想した。
白髪の少女が“亡霊”たちが押し寄せる波の中に飛び込み、その呪詛を全方位から浴びているのだ。
それが意味することは何か。
「彼らが受けたあらゆる苦痛を再現されるんですのよ……!」
幻覚による際限のため、実際に肉体に傷が生じるわけではないが、その精神的負荷は計り知れない。
その上、数十体という数からの呪詛だ。
「啖呵を切るから何かと思え――」
瞬間、波の一部が消失した。
「――――」
否、消え失せたのではない。中央にいる白髪の少女が手に持った拷問器で、まとめて張り倒したのだ。
「――何故動けるんですの!?」
見る限り、聴覚保護の術式などを自身にかけている訳では無い。
信じられなかった。
「“亡霊”たちが受けた苦しみをどうやって……!」
「――簡単な事です」
白髪の少女が平然とした様子で答えた。
「身を削がれ、切り刻まれ、穿たれ、――ああ、貫かれたり、焼かれたりもしたのですか」
まるで周囲の“亡霊”たちの呪詛と会話するように、彼女は言う。
「――私もです」
倒れた“亡霊”たちの手足に骨釘を打ち込み、それぞれの心臓に打ち込んだ骨釘と髪で結ぶ。
「――!」
暴れる“亡霊”に言い聞かせるように、声は慈しむ響きがあった。
「この聖釘は免罪符。きっとあなた方の罪も赦されましょう。――どうか安らかに」
それだけだ。
次の瞬間には“亡霊”たちが消え失せ、二度と生じない。
●
「小癪な……。しかし、これはどうですの?」
ニレの勢いを見たヴィスダが言葉を発した瞬間、シャーロットは自分の側に“亡霊”たちが姿を現したことを知覚した。
迂回して、こちらへ接近していたのだ。
「くっ……!」
ニレがこちらへ向かおうとするが、
「――!」
未だ多く残る“亡霊”たちがそれを許さない。
「“亡霊”たちよ! 奥に逃げた金髪の少女を狙いなさい!」
ヴィスダの指示が墓所に響いたのを聞いて、
「逃げた……? ――否!」
自分は声を大にして叫んだ。
「私はヒーロー! マイティガール! 例え物理攻撃が通じなくても、逃走などあり得ません!」
何故なら、
「私には、他にも手があるからです!」
こちらへ迫って来る“亡霊”たちを見据え、叫んだ。
「食らえッ、――マイティヒートヴィジョン
!!!!」
瞬間、墓所に赤の光線が走った。その後に響くのは焦熱の音だ。
「――!?」
薙ぎ払う様な一線に身を貫かれた“亡霊”たちが、その姿を霧に変えていった。
「それは
……!?」
ヴィスダの戸惑いの声に自分は答える。
「これが私の奥の手です……!」
闇夜の中、目の位置から赤い残光が散っているのが自分でも解る。
「“亡霊”よ! 押し潰しなさい!」
ヴィスダの言葉に従い、数多の“亡霊”たちがこちらにやって来るが、
「回転率重視で行きます
……!!」
その言葉通りのことが起こった。
赤の熱線が、周囲すべてを短い間隔で攻撃していったのだ。
「――!!」
“亡霊”たちがその身を霧へと変え、月夜に昇っていった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
カイウス・ヘーゲン
……故郷であるこの世界はやはり、どこもこのような有様か……
人を徒に殺し、オブリビオンを生じさせる…。
…失わせるだけのオブリビオンが育む真似なんぞ…
【舞蓮漆爪】、哭爪を黒い蓮華に変化させ、範囲内の全ての敵へ向ける…。
【破魔】の霊気を花びらに乗せ、射程外の敵には【オルドルク】で霊気を装填し、射撃する。
「……亡霊(お前たち)は……消えろ……。」
お前達の苦しみは、そこの騎士に何を言われようとわかっている…だから躊躇はしない…。怨嗟はここで打ち止めにしてみせる…せめて再び現れようと、付き合ってやるべきか…。
※アドリブアレンジ大歓迎です。
●
墓所の中、一人の影がある。
闇夜の中でも目を引く緋色の翼と黒の蓮華を有した姿は、カイウスだ。
怨嗟と呪言を吐く“亡霊”たちを見ながら、言葉を零す。
「……故郷であるこの世界はやはり、どこもこのような有様か……」
「――あら? 貴方、この世界の出身ですの?」
声に振り返る。
その先にいるのは、こちらの声に反応した存在だ。
「暗黒騎士ヴィスダ……」
「ええ。どうですの、この風景は?」
ヴィスダが門の上で両腕を広げ、墓地全体を示す。
「亡者たちの怨念と悔恨がはびこる……。実にこの世界らしいでしょう?」
この世界らしいか、と呟き、
「人を徒に殺し、オブリビオンを生じさせる……。ああ、確かに。この世界らしいだろうさ」
だが、
「……失わせるだけのオブリビオンが育む真似なんぞ……」
「あら? 生産的で良いことでしょう? おかげで、ヴァンパイアの皆様方の一助となれたんですもの」
微笑混じりのヴィスダの言葉を無視し、
「――乱れ裂け我が蓮花」
次の瞬間に生じるのは大量の薄片だ。
薄片は黒く、曲線を有していた。花弁だ。
蓮華の花弁が、己の周囲を漂っているのだ。
「……!」
すると、異変を察知した周囲の“亡霊”たちが、こちらの元へ突撃を敢行してくる。
前後左右、そして大地の下も含めた上下。全ての包囲から押し寄せて来たのだ。
「――――」
直後、闇夜の中、花弁が僅かに発光し、
「――舞連漆爪」
一瞬という速度で全方位に飛び立ち、“亡霊”たちに突き刺さっていった。
「――!」
花弁をその全身に浴びた“亡霊”たちは、苦悶の声を上げながら消失する。
「……!?」
自分たちの先鋒が瓦解したことに慌てた残りの“亡霊”たちが、突進に制動をかけ、蓮華の花弁が届かぬ場所へとその身を運んだが、
「……遅い」
長銃“オルドルク”を抜き取り、射撃を放った。
「……お前たちは……消えろ……」
銃口の先、離れた位置にいる“亡霊”に向けた言葉は、着弾の瞬間と同時だ。
“亡霊”が、その身を霧へと変えた。
「お前達の苦しみは、そこの騎士に何を言われようとわかっている……」
だから、躊躇はしない。
照準を再度合わせ、
「怨嗟は、ここで打ち止めにしてみせる」
射撃した。引き金を絶えず引き続ければ、結果はそれに準ずる。
幾数もの弾丸が墓所を突っ走り、“亡霊”の尽くを貫いていくのだ。
「――――」
そのとき、気付いた。
撃ち貫かれた“亡霊”たちの内、幾体かが不自然に消失したことを。
「怨嗟はここで打ち止め?」
ヴィスダが声を投げかける中、それが生じた。
「――!」
射撃を浴びたはずの“亡霊”が復活したのだ。
「あらあら、どうしますの? 打ち止めと言うには、終わりが無いようですけれど」
「――――」
しかし、構わず撃った。
連射は全て、再び現れた“亡霊”たちに対するものだ。
「――再び現れるならば、付き合ってやるのみだ」
「……面白くないですわね」
宙に流れる霊力を集め、装填。
「……!」
迫りくる“亡霊”達に対し、只々、射撃と蓮華の花弁による斬撃を実行した。
成功
🔵🔵🔴
バーン・マーディ
…哀れだな
真に復讐を行うべき相手に操られる
その恥辱…屈辱
それさえも今は忘れているか
良いだろう
我はヴィラン
その怒りと怨嗟
お前達自身を
「我がもの」としてやろう
【オーラ防御】展開
今回は武器にもオーラを纏わせ
【武器受け】で受け止め【カウンター・怪力】で切り裂き
【生命力吸収】で回復
容赦なく切り裂き粉砕し続ける
射程範囲内に数多の亡霊を修めれば
ユベコ発動
一気に殲滅浄化を行う
我はお前達の復讐を代行するつもりはない
唯叛逆をするだけだ
この世界を支配する「正義」に対してな
だが…お前達が真にその怨嗟を晴らすべく「復讐」を望むなら
我に力を貸せ
ああ、今はいい
その時は直ぐにでも来るだろう
その間…少しだけ…休んでいるがいい
●
バーンは墓所にいた。視線の先はいたるところにいる“亡霊”たちだ。
「……哀れだな」
それらを沈痛な面持ちで眺めながら、視線を屋敷側に向ける。
「真に復讐を行うべき相手に操られるとは。その恥辱……屈辱……。否、それさえも今は忘れているか」
屋敷と墓所を繋ぐ門の上、そこにいるヴィスダが言葉を返してくる。
「ええ、だって必要ありませんもの、この方々には。こちらとしては、只々その怒りや恨みを猟兵たちに撒き散らして下されば。――ええ、こんな風に」
ヴィスダの言葉に従い、“亡霊”たちがこちらへやって来る。
「――!」
その身を呪いそのものへと変化させ、一斉という勢いでだ。
「――良いだろう」
前面から、黒の波濤が押し寄せて来るのを知覚しながら、言う。
「我はヴィラン。その怒りと怨嗟、お前達自身を“我がもの”としてやろう」
刹那、己の身体をオーラが包む。否、身体だけではない。手に持った剣にもだ。
「……!」
直後、黒の波濤が正面から激突した。
●
ヴィスダはそれを見ていた。黒の波濤が猟兵を呑みこんだのをだ。
「……呆気ない物でしたわね」
直前にオーラを纏っていたようだが、それが何するものぞ。今、視界の先では呪いそのものとなった亡霊たちが猟兵を正面からぶち当たり、
「――――」
波が、停滞していた。
否、それどころか、
「波を、“切り裂いて”いきますの
……!?」
言葉通りのことが眼前で起こっているのだ。
●
バーンは手に持った魔剣で、次々とやって来る呪いとなった“亡霊”たちを切り裂き、
「おぉ……!」
逆に呑みこんでいった。
本来ならば呪いそのものとなった“亡霊”たちは、壁や地面といった己の進行を阻む障害物を無視して突き進むことが出来る。それは剣も同様だ。
しかし、オーラを纏わせた身体と魔剣が波濤の何もかも押し留めを切り、粉砕していく。
「ぬぅ……!」
押し寄せる呪いはあまりにも膨大で、魔剣を掻い潜ってこちらの身体に至るものもあるが、
「構うものか……!」
それ以上に切り裂いていけば、呪いとなった“亡霊”たちから生命力を吸収し、自身の糧とする。
切って、払い、薙いで、突き込み、押しつぶす。一連の動作は連続しており、何者にも止められない。
「――!」
こちらの猛攻にたじろいだ“亡霊”たちが、前面だけでなく、全方位からの突撃を敢行するが、
「甘い……!」
手を掲げ、唱える。
「我は選別する。我に牙剥く者、我に抗うもの、我に刃向けるもの、我を貶めるもの……! ――須らく等しき神罰を与えん事を!!」
瞬間、こちらへ向かっていた“亡霊”たちの元へ十字型の閃光が走り、その身を貫いていった。
その数、三一〇。
「……我はお前達の復讐を代行するつもりはない」
全ての亡霊がいなくなった墓所で、言葉を紡ぐ。
「唯叛逆をするだけだ。この世界を支配する“正義”に対してな」
だが、
「お前達が真にその怨嗟を晴らすべく“復讐”を望むなら、我に力を貸せ」
確かめるように、己の掌を握りしめる。
「……ああ、今はいい」
掌から視線を上げ、向ける先は一つだ。
「その時は直ぐにでも来るだろう。その間……少しだけ……休んでいるがいい」
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『暗黒騎士ヴィスダ』
|
POW : 止まらぬ嗜虐の一閃
【目にも留まらぬスピードの突進突き】が命中した対象に対し、高威力高命中の【追撃の踏みにじり】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 黒き翼の飛翔
自身に【暗黒のオーラで作り上げた翼】をまとい、高速移動と【翼から放たれる漆黒の矢】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 解き放たれし暗黒の領域
【周囲全体に放射される暗黒のオーラ】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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●
墓所の“亡霊”たちを全て撃破した猟兵たちは、声を聞いた。
「――粗悪な蚕からは、粗悪な絹しか取り出せませんわ」
屋敷と墓所を繋ぐ門の上、そこでヴィスタは地上を睥睨する。
「所詮は寄せ集めのオブリビオン……。もう少し役立つかと思えば、やはり素体が悪いと、そういうことですのね」
憮然とした表情から一転、表情は笑みと変わる。
「しかし、貴方たちの健闘は見ていて非常に素晴らしかったですわ。ええ、本当です」
瞬間、ヴィスダの背後から暗黒が噴出した。
吹き出した暗黒は、ヴィスダの身体を包みこめるほどの大きさだ。
それは次第に翼の形へと姿を変え、
「――――」
ヴィスダの身体を、弾き飛ばすような勢いで加速させた。
その勢いのままヴィスダが眼下の大地に降り立ち、それと同時に響いた硬質な音は、加速が乗った細剣によって、墓石が貫かれ、砕けた音だ。
「――嬲りがいがありそうですもの」
遅れて、ヴィスダの加速によって吹き飛んだ大気が、墓所全体を走る。
「――邪魔ですわね」
その言葉の後、ヴィスダの身体から更なる暗黒のオーラが吹きだし、その膨大な力は逃げ場を探すようにうねり、
「――!」
空気を割る轟音と共に、周囲の墓石全てを砕け散らせた。
「――さぁ、戦いましょう。猟兵」
細剣を構え、告げる。
「貴方たちの墓石は特別大きく、優雅に作って差し上げますわ……!」
シャーロット・キャロル
あのスピードは凄く厄介ですね…… なんとか接近戦でパワー勝負に持っていきたい所です。
まずはガードを固めてヴィスダの攻撃を受けます。致命傷は避けつつスピードに翻弄されて手が出せない感じを装いますよ。
狙い所は相手の●止まらぬ嗜虐の一閃!追撃の踏みにじりまで耐えて油断した相手(多分嬉しそうにしてるでしょうね)に対して【マイティスローイングテクニック】です!
足を掴んで思っきり投げ飛ばしてやりますよ!逃げようたって私の【怪力】からは逃げられません!
ピンチからの逆転これこそヒーローです!
【アドリブ、連携大歓迎です】
●
もはや墓石が消え失せた墓所では、空間全てが撹拌されるように大気がうねっていた。
高速の影が、空間を縦横に駆け巡っているからだ。
「さぁ、どうしましたの!? 威勢の良さの割には、随分と防戦一方ですわね!」
「ぐっ……!」
ヴィスダが暗黒の翼を全開にし、装備した細剣による刺突を幾度となく浴びせかけて来るのを、シャーロットは腕で庇い、時に回避を選択し、何とか致命傷を避けていた。
厄介なスピードですわね……!
速度の源である翼が物質的なそれではなく、暗黒のオーラによるものなのだ。そのため通常の翼とは違い、羽ばたきの予備動作などが必要なく、
「急激な方向転換も可能……!」
正面からの突進が一転、片側の翼の出力を高めたことによって、振り回されるような軌道でこちらの横側に来た。
バックステップでそれを回避し、体勢を立て直す頃にはすでに近くに追撃の刃が来ている。
「くっ……!」
何とかそれを見切り、細剣の側面を手で逸らすことで刺突の一撃は避けられたが、
「甘いですのよ……!」
流された剣の軌道に乗せるように、そのままの勢いでショルダーチャージがきた。
「……!」
それに対しこちらは、あえてガードを控えめにし、身体から余計な力を抜く。そうして突進を受けることで、
「――!」
足が地から浮き、吹き飛ばされるが、衝撃は体内に留まらずに背後へと抜けていく。
吹き飛んだ身体に宙返りを命じれば、腰の位置が先ほどまでより高く変化する。すなわち、重心の位置がずれ、
落下のタイミングをずらせます……!
それによって相手の更なる追撃は、タイミングを。
「――浅はかですわね」
失しなかった。
「なっ……!」
もはや直角と、そういえる角度の急転換を身に叩き込んだヴィスダが、宙に浮くこちらよりもさらに上へと身を運び、
「――!」
重力加速が乗った突進で、こちらを地面に叩きつけた。
「ぐぁ
……!!」
上空から斜め打ち下ろしの角度で貫かれた痛みの感覚は、鋭利ではない。
超スピードによる加速が乗った細剣の一撃は、その切っ先を始点に衝撃を面として体に与え、地面に叩きつけることでその威力を全開としたのだ。
「――ヒーロー? ただ逃げ回り、今や、標本にピンで刺し貫かれた芋虫のようにもがいてるその姿が?」
「このっ……」
なんとか脱出しようともがくが、肩を刺し貫かれ、思う様に力が出ない。
「嗚呼……。その生き逃れようと必死な瞳……。大変結構。素晴らしいですわ……」
ヴィスダが、甲冑の脚を振り上げた。
「――ですので潰して差し上げますわね?」
眼球へと迫る踵による踏みにじりは、しかし果たされなかった。
「――え?」
驚愕の表情を見せるヴィスダに告げる。
「――私がヒーローか?」
答えは言葉ではない。
「――!」
ヴィスダの脚を掴んで止める握力だ。
「なっ……!」
眼球の直前、まさしく“眼前”に振り下ろした足が、眼球を貫くために進ませることも、掴まれた手から逃れるために引き戻しも出来ず、ヴィスダがうろたえる。
「暗黒騎士ヴィスダ。逃げようたって私の怪力からは逃れられませんよ」
足を掴む手に、細剣で刺し貫かれた側の手も合流させ、起き上がる。
「――――」
振った。
振る方向は地面と平行だ。
「ただ弱者を嬲っていた貴女には解らないでしょう……!」
足と腰と腕。全身の全てを繋げ、円運動でヴィスダの身体を振り回していく。
「離しなさい……!」
敵がもがき、翼の出力任せで強引に飛び立とうするが、身体に力を込めて踏ん張ることでそれを押し留める。
「クッ! ならば……」
もはや脱出が不可能と悟った相手が、こちらへ一撃を加えようと細剣を引き抜いた瞬間、
「……ァアアアア!!」
全身全霊の力で投げ飛ばした。
「――!!」
墓所の柵に激突し、地面に倒れ伏した相手へ、血の滴る指を突きつける。
「ピンチからの逆転……! これこそヒーローです!」
成功
🔵🔵🔴
才堂・紅葉
「手強いですね」
冷や汗を流す。
高所を取られている以上は射撃戦は不利だ。
「一手、ご教授願いますね」
符から特殊鋼の六尺棒を取り出し白兵を誘う。
騎士ならばと受けてもらえれば幸いだ。
リーチを活かして打ち合いを狙う。
狙いは突進突き。
何としてでも受け止め、追撃を誘う。
追撃のブーツの威力は想像したくも無いが、六尺棒を三節に分離し、三つを束ねて受け、後はケブラーと腹筋の力を信じる。
【気合い、激痛耐性、野生の勘、見切り、カウンター、グラップル、属性攻撃】
すかさず足を取りグラウンド。
例え私ごと飛翔しても、真の姿を開放し超重力で逃がさない。
腰、肩、背、首の複合関節技を瞬間で極め、肉体破壊を狙います。
【改変連携歓迎】
●
紅葉は上空を見上げていた。冷汗を流しながら、だ。
「手強いですね……」
視線を向けた先にいるのは、猟兵の攻撃から復帰したヴィスダだ。
先ほど、門の上からこちらへ降り立った時にも見せたあの飛翔能力と速度、そして攻撃力は驚異として自分の中にある。
先ほどは見せなかったが、事前の情報通りに翼から矢を放ってきた場合は、
地対空で射撃戦になりますね……。
お互いロングレンジでの勝負になるが、その場合は速度と広さが優勢なのはあちらに分がある。
つまり、
「どうにかして地上に降りさせる必要がある……」
そう呟くと、懐から符を取り出す。召喚符だ。
「――一手、御教授願いますね」
念じて振うえば、符は特殊鋼で出来た六尺棒に変化する。
「……貴女、正気ですの?」
上空、ヴィスダがこちらを見下ろしている。
「何故、私が貴女に付き合い、降りなければいけないのです?」
直後、こちらの足元に矢が突き立った。
「このまま、貴女を穴だらけにすることだって出来ますのに」
しかし、こちらは足元に突き刺さった矢を無視し、告げる。
「相対を望まれ、逃げる騎士はいないかと」
「……不愉快ですわね」
ヴィスダが片眉を上げながら、答える。
「ただの小娘が、まるで私と対等なやり取りが出来るかのようなその錯覚……。実に傲慢で、不愉快ですわ」
ただ、と言葉は続いた。
「騎士は王たる存在に忠誠を誓い、領民を保護する者ですものね。その思い上がりがどれだけ不相応で危険なのか、その身をもって味あわせてあげるのも、また務めですわ」
頬笑みを顔に張り付けたヴィスダが、地に降り立ち、こちらへ切っ先を向ける。
「――――」
それに対し、こちらも六尺棒を構えることで応ずる。
次の瞬間には、相手がこちらへ高速の突進を行っていた。
「っ……!」
こちらは棒の先端を突進してくるヴィスダに向け、
「せいっ……」
しかし狙うのはヴィスダでは無く、その武器だ。細剣めがけて六尺棒を内から外へ振り抜き、弾き飛ばそうとするが、
「そう上手くはいかないわよね……」
直後に身体を横へ転がし、敵の突進をやり過ごす。
墓所の土が蹴散らされるように舞いあがった。
起き上がるのと六尺棒を振うのは同時だ。
「――!」
再度、鋼と鋼がぶつかり合う快音が墓所に響いた。
「はぁ……!」
快音が連続していく。
敵が踏み込めば、こちらは後退し、突き込んでくれば、打って弾き飛ばす。
踏み込みと突き込み、後退と打撃の弾き飛ばしの応酬が高速で行われて行く。
そのとき、声が響いた。
「――大方、リーチを活かそうと間合いを保っているのでしょうけれど」
直後、ヴィスダの背中から噴き出る翼の勢いが増すと、今までにない程の勢いでこちらへ突き込んで来た。
「反応が不可能なほどの高速で詰めれば、いいだけですのよ……!」
直後、厚い音が墓所に響いた。
「ごほっ……!」
ヴィスダによる高速の一撃が、こちらの腹を刺し貫いた音だ。
「これで終わりですわよ……!」
細剣によって刺し止められたこちらの腹にめがけて、ヴィスダが足を振り上げ、踏みにじりの一撃を加えた。
「――!!」
墓所を再度の爆音が響いた。
しかし、
「……?」
今回、鳴り響いた音は、先ほどのような低く、地を走るような音ではなく、音階は高く、抜けるような響きを持っていた。
疑問に思ったヴィスダが、足を突きこんだ先を見たそのとき、
「――捕えました」
三節に分離して束ねられた六尺棒が、己の腹とヴィスダの足の間から落ちるのと、その足を掴むのは同時だ。
「――!」
危機を察知し、ヴィスダが上昇飛翔をその身に命じ、飛び立とうとするが、
「重い
……!?」
「レディになんて事言うんですか」
重力的に重いんですよと、血の混じった声で付け加えながら、相手を地面に叩き伏せた。
「がはっ
……!?」
叩き伏せた衝撃で髪止めが外れた己の髪は、もはや普段の茶色ではなく、赤の色を有していた。
「――ジャスト五秒で仕留めるわ」
そう言って、ヴィスダの腰、肩、背、首といった関節を複合技で瞬間的に極め、
「あぁああああああ
……!!」
一気に破壊した。
成功
🔵🔵🔴
カイウス・ヘーゲン
「………」
【全力魔法、動物使い】使用―来い、【天狼魔獣グレイガル】。あの黒き翼に対するには、お前の翼が必要だ。【オーラ防御、激痛耐性】…どれだけ手を加えようが、この言葉を止めはしない。
哭爪はオルドルクの銃身に装填され、霊気の炸裂は鈴を撃ち鳴らす。
グレイガルは我が闘志、我が心。俺と同調し、その速さも膂力も増す。
【破魔、オーラ防御】により、俺は奴の剣と矢を防ぐ。その牙と爪で…奴を打ち砕け…!
「…らしい、と言ったな…。」
絶望と怨嗟…世界の流れを定めているのは他ならぬお前達。
―それは、自然の成り行きではない。
「この世界の病魔たる貴様は、ここで沈む…。」
※アドリブ、改変歓迎
●
大地や林、墓所を囲む鉄柵すらも。周囲全てが粟立った。
ヴィスダの感覚器が捉えた異変はそれだった。
「――何が」
起こっているんですの、という言葉は発する必要が無かった。
それを聞いた瞬間、全てを気付いたからだ。
「――――」
鈴の音だ。
音の源はどこかと視線を向ければ、
「――我が闘志昂る、此の時を番う」
いた。
墓所の中央、そこで緋色の翼を有したオラトリオがいるのだ。
何をしているのかは、思考を巡らせるまでもなく解る。
「呪文の詠唱ですわね……!」
妨害を果たすため、己は背後の翼を強引に解放し、
「――!」
行った。速度は高速で、だとすれば辿りつくのは一瞬だ。
しかし、
「なっ
……!?」
「――心よ、獣を形どれ!」
詠唱は止まらない。
「――病める過去へ牙を剥け! 逆巻く時に爪を立てろ!」
こちらの激突によって猟兵の身体を包むオーラの障壁はもはや剥がれ、その身に細剣が突きたてられているが、敵は止まらない。
「――来い! 天狼魔獣グレイガル!!』
直後、圧力を持った光が墓所を埋め尽くした。
「くっ……!」
光に押されるように飛び退り、その眩さが収まれば、中心点にいる存在を視認できる。
「――――」
銀毛を蓄えた狼だ。
しかし、通常の狼とはその体高以外にも決定的な差異がある。
「グレイガル、あの黒き翼に対するには、お前の翼が必要だ」
そう言って猟兵が狼に跨り、手に持った長銃を振れば、
「――!」
響いた鈴の音に呼応するように銀狼が吼え、宙へ浮かぶこちらに向け、その翼で上昇を果たした。
戦場が、全天に移った瞬間だった。
●
夜空、満月、星々、大地。
そして、
「己と敵、か」
カイウスは、自身の周囲にあるものをそう感想した。
いまや戦場は空に移り、互いがいる場はそこだ。
「その貧弱な獣で、私についてこれますの……!」
ヴィスダはその闇色の翼から力を噴出させ、圧倒的な加速で空を縦横に翔ける。そうしながらも、
「――!」
急激な方向変換で背後を取り、翼から生じた漆黒の矢を射出する。狙いは、
「地に落ちなさい……!」
こちらの飛翔の源、グレイガルだ。
しかし、
「弾きますのね……!」
破魔とオーラによる防御は敵の射撃から己を含めた全てを守り、無効化するためだ。
「グレイガルは我が闘志、我が心だ」
「小癪な……!」
後方から、更なる加速を叩き込んだヴィスダが細剣を両手で構え、こちらへ突進を仕掛けてきた。
「――即ち、俺と同調し、その速さも膂力も増す」
直後、グレイガルが吠声を轟かせ、
「――!」
ヴィスダとの距離を一気に開けた。
「な……!」
「グレイガルよ、俺は奴の剣と矢を防ぐ」
強引な加速で振り切った先で、踏ん張るように四肢を広げ、身を転回。
「ならば、お前はその牙と爪で、奴を打ち砕け……!」
正面となった敵へ、空を疾駆した。
「おのれ……!」
敵が慌てた様子で矢を放ってくるが、こちらの身体に当たったそれらは全て夜空へ散っていく。
「……らしい、と言ったな……」
もはや目前となった視界の先、ヴィスダが剣を構えてこちらを待ち迎える。
「絶望と怨嗟……。世界の流れを定めているのは他ならぬお前達だ。――それは、自然の成り行きではない」
「ほざけ……!」
敵を見据え、叫ぶ。
「この世界の病魔たる貴様は、ここで沈む……!」
銀狼の牙が、濃紺の甲冑を噛み砕いた。
成功
🔵🔵🔴
ニレ・スコラスチカ
とても赦しがたい、救いがたい、異端。故に。
「……厳罰が必要なようです」
(【反駁】あえて「痛くない」と口に出し、自己暗示をかけることでより強力な耐性を得る)
わたしの【激痛耐性】は今や痛覚の消失と同義。洗礼聖紋の再生能力を使いつつ、ダメージを全て無視して【恐怖を与える】【捨て身の一撃】を。
一番の狙い目は敵の突進突きです。その技は、突きによって体勢を崩し、踏みにじりでとどめを差す技と見ました。今のわたしが体勢を崩すことはありません。渾身の【カウンター】に勝負を賭けます。
「この程度は何も痛くない。彼らの受けた苦しみに比べれば」
●
ニレは空を見上げる。敵が、そこにいるからだ。
「くっ……!」
地上へ落下していく身を何とか整えようとしているその姿は、以前に比べれば随分と不定形となっている。
暗黒の翼は不整脈のように断続的に生じ、濃紺の甲冑はその節々が砕かれているのだ。
こちらの前方に土煙を立てて着地した敵は、暗黒騎士ヴィスダだ。
「おのれ……!」
ヴィスダが、流れる血を籠手で拭って毒づくのを聞きながら、思う。
……とても赦しがたく、救いがたい、異端。
敵への感想は、それだ。
故に、
「――――」
こちらは拷問器を突きつけ、告げる。
「……厳罰が必要なようです」
「罰……!? たかが人間風情が……!」
直後、激高した敵がその背後から一気に力を噴出した。翼だ。
度重なる連戦によって傷ついた身体では繊細な調整が出来ないのか、その勢いは今までよりも大きく、何もかもを掻き乱すようだった。
そして、実際の機動もそれに準じていた。
荒く激しい風を暴風と言う。
「――!」
その言葉通りの現象が起こった。
ヴィスダが強引な加速でこちらへ向かってくるのだ。
「その思い上がりを正してあげましょう……!」
漆黒の矢による射撃は緩まることなく、左右合わせて数は百を超える。
だが自分は恐れない。
前進した。
空間を面として飛来する黒の線の中へ、身を運んだのだ。
「正気ですの
……!?」
ヴィスダの驚愕の声を聞きながら加速の身体強化を両足に叩き込めば、漆黒の矢までは相対速度で至近となる。
「――痛くない」
呟きは暴風の音に掻き消された。
●
ヴィスダは敵の貫通を視覚で確認した。敵が矢の雨の中へ飛び込んだのだ。
矢の一つ一つが猟兵の身体を刺し貫き、肉を削ぎながら背後へ抜けていく。
しかし、それだけだ。
「――――」
矢で貫かれ、身体中に穿ちの欠損を露わにした猟兵が、血を背後へ散らしながらこちらへ駆けて来る。
「どういうことですの
……!?」
連戦によって傷ついたといえども、自分の放った矢は敵を打ち倒すのに十分な威力と数を有していはずだ。
それが何故。
そのとき、声が聞こえた。
「――痛くない」
それを聞いた瞬間、自分は全てを察した。
「自己暗示による、痛覚消失ですわね!?」
見れば、先ほどまで向こう側まで見えていた敵の貫通痕は、いまや全て塞がっている。
その上、再生能力持ちですのね……!
痛みも衝撃も無視し、再生能力任せで損失覚悟で突っ込んでくる敵だ。ならば、生半可な攻撃では駄目だ。
敵を撃滅するために必要なのは圧倒的な火力か、もしくは、
「致命の一撃で終わらせますわ!」
言葉と共に、弓を引くように右手を引き、細剣を構えた。
翼による加速が乗った一閃。それで相手の心臓を貫く。敵も武器を持っているが、こちらの方がリーチはある。
ならば、こちらの勝利だ。
行けると、そう思った。
「――!」
行った。
こちらの細剣は確かに敵を貫いたのだ。
切っ先は服を破り、皮膚を裂き、骨を割って、肉を断ち、そして、
「……!」
筋繊維の束を突き破る感覚の後、手に伝わって来るのは液体が勢いよく流れる感覚だ。
心臓の内部に達したのだ。
そのまま剣を押し進め、内部から心臓壁を破り、弾ける血の感触と共に、猟兵の背中を割った。
血に濡れた剣が、月明かりに照らされた。
「アハ……! 終わりですわ……!」
細剣一つで相手を支えて宙を疾走している現状、後はそのまま相手の身体を地面へ打ち倒し、加速が乗ったまま鉄靴で踏み抜くだけだ。
しかし、その動作は途中で止まった。
異変を感じ取ったからだ。
……?
手中にある細剣の感触がおかしい。
今までは骨の軋みや、筋肉の震え、血流の感触など猟兵の身体内部の状況がつぶさに分かったのだが、それが、ある時から急に失われたのだ。
何故、と思う暇もなかった。
「――!?」
敵がこちらの顔面を掴み、
「ぁぁあああっ
……!!」
空中を加速している最中、身体を捩じって、こちらの頭部を地面に叩きつけたのだ。
「ぁぁあぁ
……!?」
強烈な一撃は、空を飛んでいたお互いを地面に叩きつけ、転がっていく。
「がっ……! な、ぜ
……!?」
そんな乱れる視界の中、見た。
落下の衝撃で、猟兵の身体から細剣が抜けた瞬間を、だ。
「なっ
……!?」
傷跡が、無かった。
否、細剣による貫通痕は確かにあったが、それはまるで最初からそうであったかのように、胸側から背中側まで肌は繋がっており、身体の中央にただ、“穴”が空いているだけだったのだ。
血も、肉も、骨も周囲に露出していなかった。
再生だ。
ならば、内部はどうなっているのかと、そこまで思考を巡らせたところで、気付いた。
「――どれだけ無茶な再生をしましたの
……!?」
恐らく猟兵の内部では、心臓が“中央に穴が開いた状態”で正常に作動するように再生しているのだろう。
「……っ。流石に血を流しすぎました……」
猟兵が血を吐き捨てた直後、その身体の黒紋が光り、胸の中央に空いた穴が塞がっていく。
「――だけど」
猟兵が倒れてるこちらへ、不確かな歩みを進め、来た。
「ひっ……!」
「この程度は何も痛くない。彼らの受けた苦しみに比べれば」
月明かりを逆光にしたその姿は、緑色の瞳が煌々と輝いていた。猟兵を見た最後の姿は、それだけだ。
次の瞬間には、加速が乗った蹴りが己の腹に打ちこまれ、自身が宙を吹き飛んで行った。
大成功
🔵🔵🔵
バーン・マーディ
(真の姿発動。赤黒いオーラを纏う)
……そうか
貴様は騎士か
この世界の正義…この世界にて正しき存在を守護する騎士か
それが正しい在り方か
良い
我はヴィラン
この世界の正義を悪を以て粉砕するのみだ
【オーラ防御・武器受け】で攻撃を受け止
【カウンター・怪力・吸血・生命力吸収】で切裂き破壊
追いつめた所で
我は貴様と踊りに来たわけでも戦いに来たわけでもない
貴様に齎すのは一つ
「処刑」だ
そして…貴様を裁くのは我でも…猟兵でもない
…戦いが好きなのだろう
存分にやるがいい
叛逆の英霊達発動
対象は倒された「縛り付けられた亡霊達」全て
その怒りを…慟哭を…痛みを伝えるがいい
歪められた怨嗟は今正しき方向へ向けられる
(そして…踵を返す
一郷・亞衿
ご高説垂れてるけど、養蚕家の腕が大したこと無いんじゃあねえ、とか言ってみたり。
代行するとは言ったけど、直接復讐果たせるならそれに越したことは無いよね。そこの大きな方(バーンさん)が何かする気なら重畳。
とは言え、この墓地に眠っていない死者だって怨み辛みを抱えてるはず。間接的な被害を受けて亡くなった人も居るだろうし。
翼を用いた超速の突進突きは軌道を読み辛い。でも、先の紅葉さんへの攻撃を見るに“踏みにじり”の際には足に体重を乗せるような姿勢をとる必要がある。
いくら初撃が速かろうが、追撃の瞬間はそのご自慢の速度を多少なりとも落とさざるを得ない──それが、その技の弱点。『デッドマン・ダウン』で足止めだ!
●
亞衿は、猟兵の攻撃によって地に這いつくばった敵を見た。
「ご高説垂れてたけど、養蚕家の腕が大したこと無いんじゃあねえ……」
「黙りなさい……! 人間が……!」
身体を起こしながら、ヴィスダが剣を構えた。甲冑はひしゃげ、押さえた腹の部分が特に激しい。
しかし、代行するとは言ったけど……。
直接復讐を果たせるならそれに越したことは無いとも、そう思う。
「それを叶えるための力も自分は持ってるしね……」
呟き、敵の前に立った。
無手だ。
「……余裕のつもりですの?」
「んー、そう言う訳じゃなくてさ。倒すのに必要無いんだよね」
「ほざけ……!」
一手相手が重心を低くした瞬間、相手に指を向けて告げる。
「――翼を生み出して、突進。そんで刺突、後に踏みにじり。最後の一瞬が弱点だよね?」
「……!?」
一瞬敵が戸惑ったが、先ほどから幾度も繰り出した戦法なのだ。それがどうしたと、敵が加速を実行する。
「――!」
来る。風の唸りを伴いながら、高速の飛翔物体がだ。
敵の背後へと散っていく風の中に、きらめく物が混じっているのが見えた。鎧の破片と血だ。
「っ……!」
損傷と疲労をその身に色濃く表す敵は、恐らく、恐らくこれが最後の飛翔なのだろう。故に、
「ぁあああっ
……!!」
更なる加速を、その身に叩き込んだ。
暗黒の残光に血の飛沫を混じらせ、砕けた鎧は、大気と高速で衝突することで破損個所から空気を取り込み、内部で反響。濁った笛のような音を墓所に響かせた。
そうして、互いの距離が眼前となった位置まで引き付け、
「貰った……!」
「っ……!」
敵の細剣が、こちらの身を貫いた。
直後、自分の感想は二つだ。
一つは、相手の速度に押され、自身の身体が後退る感覚。
もう一つは、冷たい物が、掘り進んでくる。身を貫く細剣の感覚だ。
何とか身体を捻って、切っ先を腕で受け、致命の箇所は避けた。
しかし、細剣は深々とこちらの腕に突き刺さり、内部で存在を重量や温度で誇示している。
いっ、たァ――……! あと熱いな……!?
後から来た。
敵はその嗜虐性ゆえか、ただ刺すのではなく捩じり込んできている。
「クフフ……!」
揺らすな。
と、そう思っていると、
「フフ……、腕が悪いのは貴女の方ではなくて?」
敵が、こちらを踏みにじるために足を振り上げた。
「ともあれこれで――」
終わりですわね。続く言葉はそれだろうか。
しかし、
「――!?」
言葉は続かなかった。
自分が、敵の剣による拘束から、力任せの脱出を果たしたからだ。
「っつー……。――さっき言ったっしょ。そっちの攻撃パターン」
無理やりの脱出によって広がった傷跡を、手で押さえながら、言う。
「翼を用いた超速の突進突きは軌道を読み辛い。でも、先の紅葉さんへの攻撃を見るに“踏みにじり”の際には足に体重を乗せるような姿勢をとる必要があるよね」
つまりどういうことか。
「いくら初撃が速かろうが、追撃の瞬間はそのご自慢の速度を多少なりとも落とさざるを得ない。――もう一回言うけど、それが、その技の弱点」
指を鳴らした。
「“慢心は死を招く――”」
「……!?」
直後、墓所の大地、その下からいくつもの影が生まれた。
「――――」
影は薄霧のような姿で、低く響く、風鳴りのような声を有していた。
亡霊だ。
「――!」
それら、亡霊の群れが一直線にヴィスダの元へ向かい、その身体を束縛していく。
「くっ……! おのれ……!」
「『デッドマン・ダウン』。今、おたくに纏わりついている方々は……、一々、説明するまでもないよね?」
見れば、墓所の外からも続々とやってきている。
「おぉー……、慕われてますなぁー領主様。……アァ、しっかし痛ェー……」
傷跡を押さえながら、顔をしかめていると、
「――あぁあああああああああああ……!」
力が噴出した。
●
行ける。ヴィスダはそう思った。
今、自分は猟兵の手によって亡霊たちに束縛され、ユーベルコードを封印されている現状だが、
「この技は封じられてませんのよ……!」
暗黒のオーラを周囲全体に放射する技だ。纏わりつく霊体に効果が有るかは正直不明だが、こちらとしては、戦闘の続行がもはや限界だ。
ならばどうするか、
目眩ましを兼ね、勢い任せの離脱ですわ……!
暗黒の放射が霊体に効果が無くとも、有効時間が切れるまで安全なところまで退避すればいい。唯一の懸念は、自分の身体が反動に持つかどうかだがそこは賭けだ。
「行きますわよ……!」
暗黒の力を周囲へ放出しようと身に力を入れたそのとき、
「……そうか」
声が、自身の近くで聞こえた。
●
「――!?」
ヴィスダが慌てた動きで、自身へと距離を詰めた存在に剣を振った。
「貴様は騎士か」
その細剣による刺突を、禍々しい覇気を放つ剣で受け止めた低い声は、長身の男のものだ。
「ぐっ
……!?」
「この世界の正義……。この世界にて、正しき存在を守護する騎士か」
「貴方、その姿は
……!?」
ヴィスダの驚愕の声が届く先、赤黒いオーラを身に纏ったその姿は、真の姿を解放したバーンだ。
「――それが正しい在り方か。良い」
そう言葉を零し、続けていく。
「我はヴィラン。この世界の正義を悪を以て」
「消えなさい……!」
ヴィスダの背後。そこにある暗黒の翼が、零距離射撃を狙って漆黒の矢を生成し、
「――粉砕するのみだ」
しかし、それは阻害された。こちらの言葉通りのことが果たされたからだ。
細剣を弾いた魔剣は、上段から一直線に敵の甲冑を、翼を、矢を、何もかもを粉砕した。
「ぁあぁああがあああ
……!!」
半透明の霊体をその身に纏わりつかせ、吹き飛んで行ったヴィスダの姿はいまや血に濡れていないところが存在しない。
墓所を囲む柵へ激突したヴィスダの元まで歩みを進める。
「我は貴様と踊りに来たわけでも、戦いに来たわけでもない」
「がっ……、はぁ……!」
地面に倒れた相手は、こちらから逃れようと地を掻き毟るが、傷ついた身体は僅かに地の上をもがくだけだ。
「貴様に齎すのは一つ」
剣を突きつけ、告げる。
「――“処刑”だ」
しかし、そこまで告げると一転、剣を降ろした。
「っ……?」
視界の先、ヴィスダが疑問の表情を露わにする。
「そして……、貴様を裁くのは我でも……猟兵でもない」
剣を掲げ、
「……戦いが好きなのだろう。存分にやるがいい」
唱える。
「死は終焉ではない。その怒りを……、慟哭を晴らしその魂を浄化せよ。此処にお前達の『叛逆』を赦そう!」
直後、ヴィスダがその表情を疑問から驚愕へと変えた。
視線の先は、自身の周囲だ。
「な、何故
……!?」
彼女の身を包んでいた存在が、先ほどまでとはその姿を変えているのだ。
「――何故、貴方達がいますの
……!?」
ヴィスダを束縛していた亡霊たちが、否、墓所の外から表れた亡霊も含めた全ての亡霊がその姿を、生前の姿へと変えているのだ。
実体を取り戻した亡霊たちは、男も女も、老いも若きも、身分も出自も、何もかもが多様だった。
しかし、
「ひっ……!」
「……!」
その瞳に宿す念は、誰もが一致していた。
皆がヴィスダの前に立ち、生前持っていた武器や、あるいは拳を構えている。
自分はそんな彼らに向け、言葉を放った。
「その怒りを……、慟哭を……、痛みを伝えるがいい」
「――!」
直後、皆がヴィスダに押し寄せた。
歪められた怨嗟が今、正しき方向へ向けられるのだ。
「おのれ……、おのれおのれおのれぇ……!! ぁああああああああああああああ
……!!」
オブリビオンの断末魔を聞きながら、
「…………」
己は、踵を返した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『墓地を再び綺麗な姿に』
|
POW : 墓石や獣除けの塀に使う材料を調達。力仕事を頑張ろう。
SPD : 壊れたり汚れた墓地を綺麗な場所に整えよう。匠の技を示そう。
WIZ : 死者が眠るに相応しい土地に霊的に改善しよう。見えざる力にその手を伸ばそう。
|
●
果たして、戦闘は終了した。
「――――」
度重なる戦闘を終えた猟兵達が、安堵の息をついていると、
「――!」
墓所の周囲がにわかに騒がしくなった。
戦闘を聞きつけて駆け付けた領民たちが、その光景を見て歓喜の声を上げたのだ。
オブリビオンが撃破されたこと、忌まわしき“トロフィー”が消え失せたこと、しかし大地の下、眠る棺達には一切の傷が無いことを知ったからだ。
「ありがとう……! どうもありがとう……! 旅の方……」
皆、一様に猟兵たちへ感謝し、称賛の言葉を述べる。
「え……? 墓所の復興も……? た、確かにこのままでは困るが
……。……そうか、ありがとう」
見れば、領主館の方へ手すきの者たちが入って、その内部で作業を始めているのが窓から漏れる明かりで分かる。
復興が始まっているのだ。
「この墓所は、ヴィスダが我々に作らせた忌々しい物だが、しかしだからこそ、それらを抑圧と再起の象徴として、忘れないように用いることにするよ。
……まぁ、正直な話、資源も人手もなにもかもが不足しているからな……。ある物を利用しないと」
ともかく、と領民は手を打った。
「変な言い方かもしれないが、君たちは自由に手伝ってくれ。
材料の運搬や、石工が得意なものは墓石やそれに準ずるものを。鉄工が得意な物がいれば柵や門を修復してくれると助かる。
また、死者のための祈りや歌による鎮魂といったものでもいい」
勿論、と付け加える。
「去年の十二月から、各地で今回のような領主館を解放するような動きが生じているというのは、吟遊詩人や行商人の話から聞いていた。
――つまり、君たちはこの後も戦いを続けるんだろう? ここを手伝ってくれるのもいいが、他の場所へ助けに向かうのも同じくらい、否、それ以上に大切なことだ」
まぁ、つまりは。
「世界全てを、自由に手伝ってくれ、とそういうことだ」
バーン・マーディ
我は其処まで専門的な事は得意ではない
だが…相応に力仕事は出来なくもないので手伝おう
という訳で石細工に必要な道具や石等力が必要なものを【怪力】を利用して運ぶ
基本削り作業など細かい作業は丁寧に確認を繰り返しながら行う
これより静かに眠る場所を作るのだ
相応なものを作らねばな
その様相を…戦いの最後で呼んだ英霊達に見せ
それは一時の夢だ
お前達は天に帰る事となるか静かに眠る事になるだろう
残すべき言葉はあるか?刻むべき言葉はあるか?
一人一人丁寧に確認を取る
我が騎士として永遠の戦いに挑むか…復讐を終え静かに新しき生を待つために眠りにつくか…好きにするがいい
決められないなら…静かに眠るがいい
そして消える英霊達を見守
●
「ふむ……」
そう小さく呟くと、バーンは運んでいた物を地面へと下ろした。
「――――」
周囲を震わせるような重く低い響きは、相応の重量物を下ろした結果だ。
自分の身の丈ほどの大きさの自然岩、その表面を撫でた。
「これだけあれば、十分か」
周囲にある、それまでに運んだ同程度の岩石たちに一度だけ視線を向けると、すぐに目の前のものに顔を戻した。
作業を開始するのだ。
●
バーンは岩石に取りつき、巻尺を使ってその全長や幅を計測し、それらを細かくメモしていく。
これより静かに眠る場所を作るのだから、相応なものを作らねばな……。
ミスや取り違いが合ってはならない、その意識で取り組んでいっていると、周囲から声が聞こえた。
「おぉ……!」
感嘆と称賛の念を持った響きは複数で、老若男女様々だ。
「仇を取らせてもらったばかりか、墓まで……。何から何までかたじけない……」
声の主たちは全て、先ほどの戦いで呼んだ英霊たちだ。
いまや彼らは、自身の周囲でその姿を現し、こちらの作業を見ている。
「戦いも出来て、石工も出来て……。旅の方は凄いなぁ……」
「ただ、当たり前のことをしてるだけだ」
自分はそれらの声には振り向かず、岩石に楔を数個打ち込み、
「――――」
槌で楔を打撃していった。
すると、岩石の表面に亀裂が走り、剥がれるように身を分けた。
それを幾度か繰り返し、目当ての形まで切り取れば、次は表面の削り落しだ。
「これは一時の夢だ」
鑿を槌で打ち込んで表面を成形しながら、自分は周囲の者たちに言う。
「お前達は、天に帰る事となるか、静かに眠る事になるだろう」
削りによって出来た、表面の塵埃を払えば、そこにあるのは磨き込まれたような墓石だ。
そこで、周囲の皆に振り向き、問うた。
「残すべき言葉はあるか? 刻むべき言葉はあるか?」
●
残すべき言葉や思いを一人一人から尋ね、書き止めたメモを見ながら、バーンは作業を再開した。
言葉は様々だ。
残された家族を思う言葉もあれば、この領地の繁栄を願う言葉、世界の平和を願う言葉、中には猟兵を讃える言葉を求める者もいた。
そうして今は、最後に残った言葉を彫っている最中だ。
「……までも
……、……気、で……」
言葉を小さく呟きながら彫り込み、やがてそれは終端へと辿りつく。
「ありがとうございます!」
近くで座って見ていた少女が、こちらへ感謝の言葉を述べた。
それに己は一度頷き、少女へ尋ねた。
「――お前は、これからどうする」
周囲にいる、他の者たちへも行った問いだ。
視線は少女の墓石へ向けたままだ。
「我が騎士として永遠の戦いに挑むか……。復讐を終え、静かに新しき生を待つために眠りにつくか……好きにするがいい」
少女はこちらの言葉を頷きながら聞いていたが、次第に首を傾げ、逆に問うてきた。
「よくわからないけど、おじさんとついてくるかどうか、ってこと?」
「……そうだ」
「うーん……。おじさんはしらない人じゃないし、いい人だけど……」
でも、と言葉は続く。
「わたしがここをはなれたら、お父さんとお母さんとは会えなくなっちゃうし……」
少女が唸り、唸って、悩む。
そんな声を隣で聞きながら、己は少女へ言葉を送った。
「決められないなら……。静かに眠るが良い」
「うーん……。じゃあそうするね!」
「ああ……」
己は立ち上がり、周囲の英霊たちへ視線を向けた。
「――――」
皆が、笑顔のままその姿を光へと変えていく。
消えていくのだ。
「…………」
それを最後まで見守り、やがて己はその場を後にした。
成功
🔵🔵🔴
才堂・紅葉
「はいはい。鉄材どんどん持ってきて。片っ端から鍛ち直すから」
小気味良い槌の音を響かせ、赤熱した鉄を鍛つ。
機構符で召喚した鍛冶セットは、デザインセンスは感じられないが悪くない出来だ。ガジェット炉がご機嫌の高温を提供してくれる。
「たまには良いわね、こう言うのも。ほらほら、あんたら下がってなさい」
リズム感のある鎚使いに子供達が集まるので、たまに曲鍛ちを披露して盛り上げる。
強固な鉄が見る見る内に形を変えるのが楽しい。
【怪力、火炎耐性、パフォーマンス、楽器演奏】
鍛冶仕事はささやかな乙女の趣味だが、世間体もあって学園では出来ない。
たまに錬金学部の連中の所に押しかける位だ。
良い機会なので鍛ち溜めしていこう。
●
町の中、等間隔で音が響いていた。音は何かを打ち叩く音で、抜けるような雰囲気を持っている。
快音だ。
打って、響き、また打たれていく。
「――はいはい。鉄材どんどん持ってきて。片っ端から鍛ち直すから」
そんな音の中央、そこにいるのは紅葉だ。
手に持った金槌を振い、熱した鉄を打っている。墓所の整備に使うものを用意しているのだ。町の住民から鉄を受け取り、使う道具はしかしこの町のものではない。
「手伝ってもらっておいてなんだけど嬢ちゃん、そのハンマーなんか変なデザインしてるよな……」
住民が首を傾げながら見るのは、こちらの手にある金槌だ。
「あー、まぁ……」
「見れば、炉もやっとこもだな……」
鍛冶セットは全て自前の召喚符で召喚したものだが、全てそのデザインは異質だ。
彫りも装飾も前衛的というか……。
はっきり言って自分の守備範囲外だ。しかし、
「――!」
炉が、高熱の息吹を発した。
「確かにセンスは感じられないけど、悪くない出来です」
「違いねえ」
そう言ってこちらは、今まで打っていた鉄を冷ますために置き、炉から新しい鉄をまた取り出す。
取り出した鉄は全体が赤熱の色で、高温だ。
「いい感じですね」
やっとこで掴んだそれを、水で濡らした金床に素早く置いて、
「――!」
打った。同じく水で濡らした金槌で、だ。
力強く振り下ろして鉄材を打撃すれば、金床と金槌の間で圧縮され、鉄材の表面に水が纏わりつき、しかし高温に触れた水は瞬時に沸騰。
「――!!」
結果、水は蒸気となり、その体積を爆発的に増加させる。
水蒸気爆発だ。
水から蒸気への体積増加は1700倍、ですね……。
アルダワ魔法学園に在籍している自分にとって、これらの知識は基本だ。
鉄材の表面に着いていた夾雑物が、打撃と爆発の衝撃で弾け飛んでいくのを視界で確認しながら、打撃の手は続く。
連打。しかし、やたらめったらに打撃するわけではない。適切なインパクトを絶えず与えるためには、動作にリズムが不可欠だ。
打撃し、爆発。夾雑が散り、残響が響く。しかしその響きが消えぬ間に続く一撃を与える。
その流れを繰り返していけば、町中に一定のテンポで音が響いていく。
「たまには良いわね、こう言うのも……」
すると、その音を聞きつけてこちらへ近づいてくる者たちがいる。
「――なんか楽しそうな事やってる!」
子供たちだ。彼らは最初遠巻きに見ているだけだったが、興味に引かれて次第にこちらへ近づいてくる。
「あーほらほら、あんたら下がってなさい」
弾ける火の粉などが舞う現場なのだ。自分は子供たちへ、それ以上の接近をしないように注意する。
「えー! つまんなーい!」
「こら、お前達!」
子供は正直だなー、と思いながら自分は、まぁまぁ、と子供たちを叱っている住民に声を向け、
「それっ」
空中でハンマーを一回転させて、鉄を打った。
「おぉー!!」
子供たちが喜んだので、さらに回転させたり、鉄の音階を見つけて音遊びをしたりして、楽しませる。
「すごいすごーい!」
素早い手捌きで打撃すれば、強固な鉄材がみるみる内に姿を変え、それだけで子供たちがまた喜ぶのでやっぱり子供は正直だなー、と思う。
そんなことを思ってると、不意に笑みがこぼれた。
「お姉さんも楽しいの?」
「ええ、楽しいですよ。実は鍛冶仕事が趣味なんですけど、このごろ出来てなくて」
「なんでー?」
「世間体とか、色々ですね」
「せけんてー」
言葉の響きがおかしいのか、子供たちがまた笑う。
「じゃあ、今日はいっぱい打たないとねっ!」
「そうですね、良い機会ですから。鍛ち溜めします」
「うちだめー」
さらに運ばれて来る鉄材達を視界の端に入れ、子供たちの笑い声に合わせて自分は鍛冶仕事を続けていった。
成功
🔵🔵🔴
リンカーベル・ウェルスタッド
お話は分りました。
天に召された方々が安心して眠ることができるように、不肖ながら一応神に仕えているらしい私がお力添え致しましょう。
曖昧な言い方ですが、まあ、シスターなのは本当なので嘘ではないはず…。
まずは祈りを捧げ(UCとも言う)、この地で安寧を得られる場所を慎重に探しましょう。
生きている間でも、ベッドの位置とか安眠に関わりますからね。
やっぱり寝る場所は大事でしょう、不眠は色々なものの敵。
それらしい場所を探したら、皆様と協力してお清めしたり整備したりとせっせと働きます。
それら全ての整備や準備が終わったら、私にできる限りのレクイエムを。
主よ、永遠の安息を彼らに与え、絶えざる光でお照らしください――
●
「お話は分かりました」
リンカーベルは墓所、そこで頷きを領民たちへ送った。
「天に召された方々が安心して眠ることができるように、不肖ながら一応神に仕えているらしい私がお力添え致しましょう」
一応……? と言う声が聞こえてきたが、まあ、シスターなのは本当なので嘘ではないはずだ。
「…………」
それを証明するかのように、自分は大地に跪き、
「――――」
祈りを捧げた。祈りは力を持っており、大地や空気、空間の全域に浸透していく。
各地で呼応するように祈祷は反響し、その様子をこちらへ知らせて来る。
この地で、安寧を得られる場所……。
探すのは、そこだ。
生きてる人でも亡くなった人でも、ベッドの位置とかは安眠に関わりますからねー……。
寝る場所は大事だろうと、そう思う。不眠は色々なものの敵なのだ。
……祈りの時にこういうこと、考えてもいいのでしょうか……。
そんなことを思考の隅で考えていると、
「――――」
見つけた。死者を安置するために適した土地だ。
しかし、
「大部分はやはりここですね……」
そう呟いて、立ち上がった。
「皆様、私は今から墓所の整備とお清めを行います。もしよろしければご協力をお願いします」
領民たちからの返事は二つ返事の快諾だ。
「ありがとうございます……。それでは、まずはあそこと、あそこ……。それにそこの柵を引き抜いて下さい」
指を刺す先は、全て墓所の周囲を囲む鉄柵だ。
「先ほどの戦闘で歪み、地中の棺に損傷を与えかねませんので」
「……見てもいないのに、分かるのか?」
領民の声が持つ念は疑惑というよりは驚嘆だ。
「死者が眠る場所については、専門家ですので。――皆様がそれをして下さってる間、私はお清めをしておきます」
そう言って懐から取り出すのは聖水が入った瓶とアミュレットだ。
「――――」
瓶から地面へ聖水を垂らし、聖句を唱え、歩く。
墓所の端から端まで、瓶の中身が切れたら新しい聖水瓶を取り出し、言葉は途切れさせない。
そのように、墓所の清めを絶えず繰り返していけば、
「――終点ですね」
空になった瓶を仕舞い、墓所の中央へ戻る。見れば、領民たちも頼んでおいた手伝いを終えたようだ。
「ありがとうございます」
「他にやることはあるかい?」
いいえ、と自分は首を振って、
「私はこれからここの皆さんに向け、レクイエムを」
それだけ伝えると、己は墓石たちに身体を向け、
「――主よ」
歌った。
「――永遠の安息を彼らに与え、」
口を開き、歌声を大気に乗せていく。
「絶えざる光でお照らしください――」
鎮魂の響きが、墓所に広がっていった。
成功
🔵🔵🔴
カイウス・ヘーゲン
「………」(鎮魂と祈りに従事する。)
―時は転輪する―沈みゆく過去は未来への萌芽。過去は未来へ、今を―今、再起へと臨む彼らの時を進める。なればこそ、沈む其の身を案ずるなかれ。
願わくばこの弔いもまた骸の海へ流れ、その魂への慰めとならんことを―。
(ここの領民たちは…こんなにも明るい顔をできるのだな…いいことだ…とても…)
今を育むのは健やかな人の意思。
紡がれる自然の摂理が、先のオブリビオンのような破滅であっていいはずがない。
世界の理を決められるのは、今を生きるものだけだ。
「彼らはそれを此の時に示してくれた。…きっと良い未来が芽を出す…」
そしてそれを導き出すことは、きっと、俺の理でもある。
※アドリブ歓迎
●
墓所、夜の闇に包まれたそこに爆ぜるような火炎があった。
否、それは火炎ではなく、煌々と輝く月と星に照らされた緋翼だ。
カイウスだ。
「――時は転輪する」
墓所に言葉が響く。言葉は低く、地に染み込むような響きを持っていた。
「――沈みゆく過去は未来への萌芽。過去は未来へ、今を」
地面の下、そこにいる存在へ向けた言葉は違える事なく、紡がれていく。
「――今、再起へと臨む彼らの時を進める。なればこそ……」
届けと、そう思いながら言葉を送り、紡ぎ、
「――沈む其の身を案ずるなかれ」
果たした。
「願わくば……」
そこで言葉を止め、空を見上げる。無数の星が煌めき、満月が全天を照らしている。
「――――」
眩しさに目を細め、顔を伏せた。
「この弔いもまた骸の海へ流れ、その魂への慰めとならんことを――」
●
「……?」
鎮魂の句を告げ終えて顔を上げたカイウスの視界にそれが入った。
領民たちだ。
誰もかれもが墓所の各所で整備や清めの作業中で、それ以外の者も領主館で内部で働いていることが分かる。
「おい、その杭はこっちだ」
「領主館の中は粗方片付いたが、問題は“中身”だな……」
「領主代行が来るのでは?」
「状況が良くなったとはいえ今の情勢ではどうかな……。暫定か、そうでなくなるかは分からんが、俺たちの中から代表を出すしかないだろう」
領民たちは皆、互いに言葉を交わすが、しかし止まらない。
それを見て、思う。
ここの領民たちは……。
再建と復興のために作業を続け、ただそれだけだ。その表情に、鬱屈や絶望といった感情は見当たらない。
こんなにも明るい顔をできるのだな……。
見れば、広場で子供たちが走り回っている。
己はそれを見て、思わず微笑する。
「いいことだ……。とても……」
先ほど、ヴィスダと対峙していたときのことを思い返す。
自然の成り行きだ……。
この世界を故郷とする自分だからこそ、紡がれる自然の摂理が、先のオブリビオンのような破滅であっていいはずがない、と、そう強く思い、ヴィスダにもその信念を持って相対した。
その結果が現在だ。
今を育むのは、健やかな人の意思……。
それは、どういうことか。
「世界の理を決められるのは、今を生きるものだけということだ」
足下の大地を撫で、言葉を零すように告げる。
「彼らは、それを此の時に示してくれた。……きっと良い未来が芽を出す……」
そして、と小さく呟き、
「それを導き出すことは、きっと、俺の理でもある……」
立ち上がり、一度町の活気に視線を向けると、
「――――」
踵を返し、墓所を後にした。
もはや、ここでやるべきことは無くなったのだ。
成功
🔵🔵🔴