●温泉に神は宿る
兄崎温泉郷――F県兄崎町の郊外、とある山奥でひっそりと存在していた小さな温泉宿が話題になったのはつい数ヶ月前のこと。
あるSNSの有名なユーザーが絶賛し、そのフォロワーが押し寄せ……全国ネットのテレビでも紹介されたのは記憶に新しい。
内陸の街ながら、経営者の伝手で毎朝届けられる新鮮な海の幸と辺りを囲む山で採れた旬の山の幸。これを熟練の老料理長がみごとに組み合わせた創作料理の数々は、多くの客を魅了した。
もっと美味か物ば食べてもらいたか。老いてなお精進ば心がけとります。そいから、食材の研究も欠かせんですたい。
老料理長の言葉に嘘はなかった。彼はただ客にもっと喜んでもらいたいという純粋な好意のまま、その想いを暴走させて禁忌に触れてしまったのだ。
――そんなことを露知らず、UDC組織F県支部所属の実働部隊、通称江藤班の面々は兄崎温泉郷を訪れた。
数カ月ぶりのまとまった休暇である。動きづらい防護服も、重たい銃器もナシ。なにしろ今日から三日間、二泊三日の温泉旅行である。
班員同士の結束を強め、日頃の疲れを存分に癒やすための旅行。男性職員も女性職員も、江藤班に属するエージェントたちは今日のこの日だけを生きる糧に、正気を削るような怪異存在や連勤や残業や休出と戦い続けてきた。
「夜通し大富豪やろうぜ!」
「そういえば兄崎町って美味しい地酒があるらしいんですよ、飲み比べしませんか?」
「そういえば野々村、新藤君のこと気になってるって聞いたわよ。今回の旅行チャンスじゃない?」
兄崎駅前からの送迎シャトルバスの中でわいわいがやがやと修学旅行生のようにはしゃぐエージェントたち。
それきり彼等は休暇を終えても帰ってくることは無かった。
――無断欠勤で勤務査定はがっくり下がった。
●温泉郷の怪!
「みみみな、皆さん事件です!」
すっ転びながら現れたアンナは、何だこいつと怪訝な目で見られるのも構わず猟兵たちを呼び止める。
「あのですね、温泉が生臭くてもふもふがニャーンなのでUDC組織の部隊が全滅でして!」
意味が分からんぞ貴様。落ち着いて喋れと水を一杯渡されて、それを一息で飲み干しひとしきり噎せたあとアンナは深呼吸をひとつ。
「えっとですね。UDCアースの温泉宿が邪教の拠点になってしまいまして。邪神自体は偶発的に召喚されてしまったものなんですけど、現地の従業員や居合わせたお客さんを信者化して勢力拡大を企んでいるみたいなんですよ」
温泉宿で偶発的に召喚されたUDC怪物、これを崇める新興宗教が発生してしまった。それが事の発端だ。なるほどそれで?
「それでですね、この邪教とは全く無関係に休暇を使って温泉旅行に行っていたUDC組織の部隊と連絡が取れなくなってるらしいんですよ」
邪教に捕まったか、邪神に魅入られたか、あるいは休暇中とはいえエージェントの本分を果たして全滅してしまったか。どれであれロクな目には遭っていまい。助けなきゃですよね、と鼻息荒く訴えるアンナに頷く猟兵も居る。
それを見て流石です、と満足気に地図を広げたアンナは、山中の赤丸――ちがうなこれ温泉マークだ――で囲まれた"おんせん!"と市街地を繋ぐ道の半ばに×印をつける。
「でもですね、道のここのところが土砂崩れで塞がれちゃいまして。妙に生臭い温泉水が原因らしいんですが、それはさておきUDC組織の救出部隊が宿に行けないんですよ」
ここ数日悪天候続きで兄崎町付近ではヘリを使った救出作戦も危険らしい。陸路も空路も遮断されてしまった。
そこで猟兵の出番である。部隊を少数に分けねば立ち入れないほど鬱蒼とした山を越え、件の温泉宿へと侵入する。邪神さえ排除して教団の抵抗を鎮圧すれば、後は解放した宿で救助が来るまでのんびりと過ごすことも可能だろう。
「というわけでですね、皆さん! 温泉に行きたいかー!?」
行きたいですよね、行きたいに違いない。私は行きたい!! 捲し立てるアンナに送り出される猟兵達は、ふと思った。――結局もふもふがニャーンってなんだったんだ? と。
紅星ざーりゃ
おはようございます、紅星です!
今回の依頼はUDCアース。温泉宿に現れた邪神を討伐し、信者化した現地住民と彼等に囚われたUDC職員たちを解放するのが目的です。
嘘です。いえ、嘘じゃないですけど。
本当の目的は温泉で遊ぶこと! 寒い日は暖かい温泉でのんびりするに限りますよ、ね!
というわけで第一章では温泉宿に至る道が封鎖されてしまったため、山中の道なき道を進みます。が、邪神の眷属が行く手を阻むでしょう。
第二章では温泉宿にて邪神と戦闘です。生臭くぬらぬらとした輝きを放つ、苦手な人はとことん苦手なタイプのアイツです。手強いですが煮るなり焼くなりして倒してしまいましょう。
そして第三章では解放した温泉でゆっくりと戦いの疲れを癒やしましょう。
お声掛けがあればアンナが馬車馬のごとく駆け回って一緒に遊ばせて頂きます。
アンナがご案内するシナリオですので、シリアス成分薄めでございます。
ご参加の際はお気をつけくださいませ。
第1章 集団戦
『つちねこ』
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POW : ちょこまかちょこまか
【超スピードで走った際に出来たカマイタチ】が命中した対象を切断する。
SPD : ささささーっ しゅばばーっ
【相手の脳波・筋肉運動・その他予備動作から】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ : ぬるりとだっしゅつ
【捕獲されない為に】、自身や対象の摩擦抵抗を極限まで減らす。
👑11
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●
『ぬゃーん』
山に踏み込んだ猟兵たちを待ち受けていたのは、殺気立つ教団の信徒たち……ではない。
恐ろしいUDC邪神の眷属たる怪物……でもない。
『ぬゃーぉ?』
扁平なボディに三角形の頭。木々の間をぬらりぬらりと這い回り、時として大ジャンプで猟兵の視界を惑わすその姿は、特にこの世界出身の日本人なら知らぬものはいないUMAそのもの。
つちのこ――違うぞこいつ、足が生えてる!! つちねこだ!!
捕まえた人が賞金をもらえるのがつちのこ。
捕まえた人が食べて美味しいのがつちねこ。
猟兵たちを迎え撃つのは、可愛らしく常軌を逸して美味しいことで一部界隈で凄まじい人気を誇る未確認生命体系UDC、つちねこである。
もふもふがニャーンの正体、早速現れたり。
『ぬぅぁーん』
それはそれとしてキリリとした顔で猟兵の進路を塞ぐつちねこの群れ。――群れである。群れなのだ。
やったぜ今晩のおかずに一品追加だ。頑張って捕まえよう。
『ぬゃっ!!』
猟兵達の捕食者の眼光にビクリと震え、散開して一目散に逃げ回るつちねこ達。
追いかける猟兵。逃げるつちねこ。腐ってもUDC怪物、変に逃して後々妙な事件にならないように狩るんであってべつに欲望のままに追い回してるんじゃないんだからね! ホントだぞ!
●
『つちねこが逃げちょる!!』
一方その頃、兄崎温泉郷では高位神官の役割を任じられた老料理長が空っぽの生簀を見て絶叫していた。
偉大なる邪神の力で取り寄せた人智を超えた美食のための食材。それが一匹も料理することなく、生簀のフタの僅かな隙間からぬるりと逃走していたのだ。
『こらしまったばい……お客さんのこげん待っとらすとに、メインのおかずが無かごとなってしもた……』
老料理長は知らない。そのつちねこ達が今、温泉郷を目指して侵攻する猟兵達を意図せずして足止めしていることを。
知ってたら迎撃体制とか整えられたのになあ。
的形・りょう
「邪教は許せない(建前)。もふもふにゃーん…温泉で可愛い猫ちゃんもふもふできる…(本音)」
邪教は育ての親の仇です。邪教違いかもしれませんが、捨て置けません。この「邪教の妖刀」の正体に迫れる可能性も無くはないですし
後半のうわ言?なんのことやら
山中を進んでいると、ツチネコの大群と出くわしました。
「おい、話が違うぞ、おい」
怒りで危うく狼に変身しそうになりました。これが猫ちゃん?思ってたんと違う。
いっそ変身して「人狼咆哮」でまとめて片付けてしまおう。そのまま我を忘れて体力が切れるまで小一時間は暴れ回ってしまうけど、たまにはいいよね。誰も居ないし。
私は変身すべく、珍しくわざと怒りの渦に取り込まれました。
●
「邪教は許せない……」
復讐と義憤の綯い交ぜになった声音でそう零しながら妖刀を振り抜き、進路を塞ぐ枝葉を切り落とし道なき道を拓いてゆくりょう。
だが言葉とは裏腹に、その表情は緩みきっていた。
だってネコチャンですよネコチャン。しかも温泉。
温泉が嫌いな人間が居る? 猫ちゃんが嫌いな人間が居る?
居るかも知れないがそれはごく少数だろう。人類のおおよそ99割が温泉も猫ちゃんも大好きだってNASAが言ってた。
そんな大多数側の人間の例に漏れず、りょうも温泉や猫ちゃんが大好きなのだ。
「もふもふにゃーん……温泉で可愛い猫ちゃんをもふもふ……」
いつしか本音がだだ漏れである。が、努めてりょうはきりりと表情を引き締めた。
そりゃ温泉で猫ちゃんといちゃいちゃもふもふしたいという願望はあるが、それはそれ。UDC組織の一員として、真面目な話邪教を放置できないという使命感もある。
りょう自身邪教によって家族を失った経験のある被害者だ。別の組織とはいえ、邪教の徒が悲劇を起こす前に止めねばならないし、その過程でりょうの持つ妖刀の正体に迫る手がかりが得られるかも知れない。
もふもふにゃーんはあくまでそのついでなのだ。本命より脳内占有率高めだけどあくまでついでだってば。
そんな考え事をしながら山道を進むこと暫く、りょうは出会った。
『ぬゃーん』
「猫ちゃ――ん……?」
ふてぶてしくも可愛らしい鳴き声。きっとでっぷりまるまるとしてむにむにふわふわの猫ちゃんであろう。ばっと視線をそちらに向けたりょうは見た。
でっぷりまるまるとしながらも平べったいボディ。
申し訳のように一応生えているむにむにふわふわド短足の四本脚。
三角形の頭についたまんまるの両目は間の抜けた表情でりょうを見ている。
「つちねこじゃねーか話が違うぞおい!!」
もふもふにゃーんだというからわざわざこんな山奥まで来たのにあんまりだ。
ロシアンブルーとかマンチカンを出せとは言わない。イエネコでいいから三毛ちゃんとか鯖虎ちゃんとかさあ! あるじゃん! 猫ちゃんのバリエーション! なんでつちねこなの!!!!
思ってたのと違うやつのためにひいこら道なき道を進んできたこの苦労は何だったのか。怒りのあまり思わずりょうは狼へ変身しかけてしまう。
「いいや、もう我慢しないで暴れてしまおう」
思い返せば周りには巻き込まれる人もいないし、こんなとぼけた顔をしているつちねこだってUDC怪物の一種なのだ。遠慮の必要はないのだった。
ぐるると喉を鳴らし、りょうは衝動に身を任せる。騙しやがったグリモア猟兵のあんちくしょうは言わずもがな、騙された私のうかつさにも腹が立つしさも僕ら可愛い猫ちゃんですよ、と言わんばかりの猫仕草で猫アピールしてくるつちねこにも腹が立つ。
怒りのままに狼へと変じたりょうは、山全体に轟くほどの遠吠えを一つ。
突然現れた捕食者に慌てふためき逃げ出したつちねこを追って山中を駆け回る。
そうして何匹かを捕まえる頃には汗だくでくたくたの人の姿に戻ると、今度は猫ちゃんではなく邪教を捕まえるべくまた山道を宿へと進むのだった。
成功
🔵🔵🔴
フィーナ・ステラガーデン
【イデアールと参加】
いたわ!今日の鍋の具が!
追いかけるわよ!生け捕りよ生け捕り!食材は鮮度が命だわ!
一匹たりとも逃しちゃだめよ!!
ふー・・・ふーー・・・何としても追い詰めるのよ!
そのためなら何をしてもかまわないわ!
容赦するなあ!蹂躙せよおー!ころせえええ!!
【ダッシュ、殺気を放つ、ジャンプ、先制攻撃、だまし討ち、地形の利用、聞き耳】を使用
(どでかい虫取り網を片手に山中でツチネコを血なまこになり追いかける)
んーふーふー!暗闇と飢えの世界で過ごした私にそんな助けて欲しそうな瞳は通用しないわよ!
追い込んだらUCで動きを止めて網で一匹ずつ確保よ!確保!
(アレンジアドリブなどなど大歓迎!)
イデアール・モラクス
【PPP開発室にて参加】
アーハッハッハ!今日の晩飯はつちねこ鍋だな!
って生捕りはなかなか難しいんだが…おっと私の魔法にはかなり役立つ物があったなぁ…くく。
・生捕り
「フィーナよ、魔女なら魔法を使え魔法を!」
【アクセラレート】で飛翔し『空中戦』の巧みな機動で追いかけ、つちねこを射程に捉え『高速詠唱・全力魔法』で【究極魔法テラスリープ】を放ち強制的に眠らせる。
「クク…可愛い寝顔をしおって…これは堪らんなぁ」
一匹を生で丸かじりして『吸血』食べ尽くしたら、後の寝ている個体は『武器改造』で虫捕り網に変化させた魔剣にて捕まえ、晩飯用に異次元ポケットへストックしておく。
「これは煮ても旨そうだ…」
※アドリブ歓迎
●
「いたわ! 今日の鍋の具が!!」
生い茂る木々の根本を高速で駆けるつちねこ。
それを指差し、血走った目で虫取り網を振り回す小柄な魔女。つちねこと並べて置いておけば、出会った猟兵の十人中七人くらいはこっちがUDC怪物です、と指差しそうなくらい野生に還ったその姿は仮にもインテリジェンスな魔法職とは思えないほど原始的なパワーに溢れていた。
「アーッハッハッハ! 今日の晩飯はつちねこ鍋だな! とはいえあの速度で駆け回る獣を生け捕りするのは難しいが……」
一方、普段本能的に振る舞いフィーナにツッコミを強いているほうの魔女――イデアールはどうしたものかと真面目な表情で考え込む。
魔女たるもの魔法を使ってスマートに解決すべきだ。間違っても目の前で野生化しているソレみたいな動きは魔女のものではない。
「フィーナも魔女なら魔法を使え魔法を!」
「うっさいわね! 喋ってる暇があったらアンタも走りなさいイデアール! つちねこに逃げられたらどうするのよ!」
冷静なアドバイスにキレられ、私が間違っているのか……? と困るイデアールだが、どう考えてもおかしいのはフィーナだ。普段の彼女なら「木が邪魔ね! 爆破してつちねこごとふっ飛ばしましょ! 衝撃波で気絶させて拾うわ!」とかそういう脳筋解法を導き出すはずなのに。
「…………いや、どっちも脳筋だな。うん、フィーナはあれで正常なんだ」
それでいいのか魔女。
「追えー! 追いかけろー! 生け捕りよ生け捕り、食材は鮮度が命! 一匹残さず捕まえてお腹いっぱいつちねこフルコースよ!」
『ぬ゛ゃ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!!』
ちょっと人間の表情とは思えない飢えた獣の顔で、時に虫網の柄を咥えて四足走行でつちねこを追う野生の魔女。
逃げるつちねこは涙を流し、短い脚をちょこまかと必死に動かし木々の間を駆け抜ける。
追いつかれる寸前、枝の上に飛び乗り難を逃れたかと思えば魔女も大ジャンプで木の上に。じり、と後ずさるつちねこに先制で網を振り下ろす――と見せかけ、下へ逃げると分かっていたとばかりにつちねこに先んじて飛び降り木の根元で網を構える。
『ぬ゛ゃ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!』
網の中にすっぽり収まったつちねこも命がけで抵抗するが、獰猛に笑うフィーナはよだれを手の甲で拭ってそのつちねこの両頬をがしりと鷲掴み。
「んーふーふー! 暗闇と飢えの世界で過ごした私にそんな助けて欲しそうな目をしたって通用しないわよ!」
邪眼がつちねこのつぶらな瞳を射抜く。ぬるりとフィーナの手から脱出しようとしたつちねこも諦めたようで死んだ魚のような目をしてだらりと力を抜いたので、フィーナはそれを背負ったカゴにブチ込んでつぎの獲物を探す。
「やるじゃないかフィーナ。だがやはり無駄が多いな。まあ見ていろ、私の魔法にこういう時に役に立つのがある」
無駄が多いんだ、体力を使いすぎだと相棒を窘めてふわりと飛翔するイデアール。上空から見れば、木々や茂みに隠れているつもりのつちねこの扁平なボディがよく見える。
「フフ……それで隠れたつもりかぁ? 頭隠して尻丸出しというやつだな!」
そのまま気配を殺してつちねこたちの中心に舞い降りたイデアールは魔剣を振るって渾身の魔法を編み上げる。
「さぁ、私に全てを委ね眠りにつくがいい!」
『ぬゃっ!? ……ぬ、ぬぅ…………ぬゃぁ
………………』
つちねこたちが気づいた時にはもう遅い。眠らぬものすら眠らせる魔女の魔法がつちねこを心地よい微睡みに沈め、逃げ回り隠れまわったことで溜まった疲労やストレスによる肉質の劣化をすら瞬時に癒やし、最上級のつちねこへと変えてゆく。
そのうちの一匹の首根っこ、たるんたるんの毛皮をむんずと掴んでイデアールは慈母のように微笑んだ。
「クク……可愛い寝顔をしおって」
なんだいいとこあるんじゃん。極悪破壊魔女じゃなかったんだね!
「…………これは堪らんなぁ……一匹ここで味見していくか」
前言撤回である。可愛らしい寝顔ですよすよと眠るつちねこに齧りつき、流れ出る血を啜る吸血魔女。そういえばこの魔女たちダンピールであった。
生き血を抜いて臭みを取ったら炎の魔法で軽く炙ってつちねこバーベキューを頬張るイデアール。
「ほう……この味、煮ても美味そうだ」
おやつ代わりに肉を味わいながら、他の眠るつちねこを回収してまわる彼女は気づく。――いる。
「ぐるるるる……がるるるるるぅ
…………」
茂みの奥から聞こえる唸り声と刺すような視線。何か獰猛なものが居る気配にイデアールは串代わりに使っていた魔剣を構える。
「ほう? つちねこが邪教集団の番犬だとは思えなかったんだ。本命が出たか……クク、いつでも掛かってくるが」
「ニク! ニク、クウ! ヨコセェェエ!!」
飛び出してきたのは恐ろしい怪物でも獰猛な野獣でもなく泥やら落ち葉やらで薄汚れたフィーナだった。すっかり野生に帰化した小さな猛獣に襲いかかられ、イデアールはバーベキューを奪われてしまう。
しかしイデアールの胸中に浮かぶのは肉を横取りされた怒りよりも、すっかり獣に成り果ててまで食事に執着する相棒へのなんとも言えない哀れみであった。
「フィーナ、なんて哀れなやつなんだ……うん、うん。晩飯は腹いっぱい喰おうな……」
成功
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アリシア・マクリントック
狐狩りで山に入った経験があるから大丈夫、と油断していましたが……想像していた以上に動きにくいですね。シュンバーを連れてきたのは正解でした。
あれは……たしかつちねこ、でしたか。食用になるとも聞きましたがこうやって見ると可愛らしいですね。
あれが相手なら狐狩りの要領で追い込んでいけばなんとかなるでしょう。あいにく銃はありませんが……もともと得意ではないですし。いきますよ、マリア、シュンバー!
結構数がいますね。殲滅するのも心が痛みますし、これならペット用に一匹くらい連れて帰ったりしても……バレませんよね?
●
「狐狩りで山に入った経験があるから大丈夫……というのは油断でしたね」
想像以上に起伏に富んだ地形はただ歩くのでも大仕事だ。シュンバーがいてよかった、と山道にも強い愛馬の背を撫でてアリシアは己の判断の正しさを実感していた。
一人ではいちいち切り拓いて道を造らねばならないような背丈の高い茂みも、シュンバーは気にせずずいずいと進んでゆく。勇敢な愛馬は悪路にも怯まず挑みかかってくれるので、山道を外れての山歩きで襲いかかる地形という敵を一切気にすることなく彼女たちは進めていた。
「シュンバーがいてくれて本当に助かりました。この調子でよろしくおねがいしますね」
と、そこに先行してルートを探っていた狼のマリアが戻ってくる。
すんすんと鼻を鳴らして地面を確かめながら歩いていった彼女がアリシアの視界を離れてから、まだそう時間は経っていない。
「何か見つけたんですか、マリア?」
シュンバーの背を降り、身をかがめてマリアに問いかければ彼女はわふと頷いて、アリシアを先導するように歩き出す。
「シュンバーも。静かに……」
その様子にアリシアは息を潜め、シュンバーにも同様に促してマリアのふさふさの尻尾を追いかけた。
そうして進むと、林業従事者が休憩するために用いていたのだろうか、平坦なん空き地に丸太を雑に削って作った椅子などが放置された空間に出る。そこそこの広さの空間に苔むし朽ちた丸太椅子がただ転がっているのは、悪天候ゆえ鬱蒼とした木々の合間を縫う陽光が足らぬこの薄暗さでは不気味さと物悲しさを感じさせる。
その一角に、アリシアは動くものを見た。
『ぬゃぁん』
『ぬぁお』
『ぬぁぁーご』
気の抜けたような鳴き声を上げてぬるぬるとじゃれ合う平べったい生き物は、一瞬なにかのワームに見えて身構えてしまうがよく見れば猫だ。いや、よく見ると猫でもないなこれ。つちねこだ。
「あれがつちねこ……食用になるとも聞きましたが……」
こう、あのゆるい造形は癖になる。かわいらしい。地方都市のゆるきゃらに居そうな容姿のそれらが、ド短足をてちてちと揺らして遊んでいるのはなんとも心に来る光景だ。
「とはいえオブリビオンはオブリビオンですし、野放しにもできませんよね……」
距離を詰めれば気づかれるだろう。だがこの距離で戦えるような飛び道具はない。
「あいにく銃が無いので狩猟はできませんが、うーん……」
仮に銃を持ってても撃ちたくはないですね、と思ってしまうのはつちねこの容姿に絆されてしまっているのだろうか。
ここ一番で剣が鈍ってしまいそうな気がするので、アリシアは最近戦った中でも有数のやりづらさを感じながらどうしたものかと考えて――
「マリア、今回は私とシュンバーでつちねこを追い込みます。マリアがそこを狩るの。できる?」
わふん、と自信満々に頷くマリア。その声に反応して、つちねこたちが一斉に立ち上がりアリシアたちを見つめる。
バレたじゃないか、と言わんばかりにマリアを見るシュンバーに素早く跨りアリシアは走り出した。逃げるつちねこ、追うアリシア。木立に入られないように外周から囲うように回り込み、つちねこの進路を塞ぐ、如何にすばしこい猫といえども、スピード勝負では馬に敵わないのだ。
だが、速度で敵わないと理解したつちねこたちは表情をきりりと引き締め、シュンバーの動きを観察しはじめた。
『ぬぁぁお……』
このつちねこ、ゆるいようで頭はいい。対象の筋肉の動きから行動を先読みするくらいのことは平気でやるのだ。シュンバーの動きを完全に見きったつちねこたちは、追い込まれぬルートを見出して一斉にそちらへ飛び出し――
横から突っ込んできたマリアに一瞬で制圧されてしまった。
一匹は背中を前足で押さえられ、もう一匹は首根っこの余った皮膚をがぶり。おまけにもう一匹は体当たりでひっくり返って起き上がれずに短足をジタバタして、残りはマリアに睨まれて竦んでいる。
そこへシュンバーに乗ったアリシアが駆けつけた。
「ご苦労さまです、マリア。よくやりましたね」
誇らしげな相棒をわしゃわしゃと撫でて、それからシュンバーの背に括り付けたケージにつちねこを詰めていく。
「…………結構数がいますし、これならペット用に一匹くらい連れて帰ったりしても……バレませんよね?」
手の中に抱き上げたつちねこの毛並みをもにもにしながら呟くアリシア。そんな彼女を咎めるようにマリアが吼えた。
結局彼女たちが何匹のつちねこに遭遇し、何匹を捕獲し、後に引き渡したのか――それは彼女たちだけが知る秘密となった。
成功
🔵🔵🔴
木鳩・基
邪教は普通にほっとけないけど、温泉は役得だよなー
しっかり疲れも取りたいし、さっさと宿には辿り着きたいんだけど
見た限り、無害っぽいなぁ
正直さ、逃げるなら素通りしてもよくない?
他の猟兵が狩ってくれるだろうし、私はパスで――
(飛んでくるカマイタチ)
前言撤回、やらなきゃやられる!
こういう奴らが一番苦手かも
何考えてるか分かんないし
でも猫なら紐とか好きでしょ
片腕をじゃらじゃら鎖に換え
猫じゃらしみたく揺らして【おびき寄せ】
寄ってきたとこを【だまし討ち】でぐるんと鎖巻いて捕獲!
走り回らなけりゃ可愛い……かも?
ちょっと撫でるくらいなら許される?
この子を料理するなら今日はごはん抜きでもいいや……
アドリブ・連携歓迎
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「邪教は普通にほっとけないけど、温泉は役得だよなー」
よいしょよいしょと木の根を踏み越え、山奥の道なき道をゆく基。
辿り着くだけでも大変な上、件の温泉は邪教の拠点になっているというがこれも温泉のためだと思えば乗り越えられる。
むしろ多少大変な方が秘境の知られざる名湯感があって良いのではないだろうか。
この山歩きでたっぷり溜め込んだ疲れを温泉で溶かすのを想像して、楽しげに微笑む基の前に、それは現れた。
『ぬゃぁぁご』
来たぜぬるりと。木陰からぬめぬめした挙動で顔を覗かせた猫だか蛇だかわからないいきもの。
間の抜けたフェイスともふもふむにむにのボディはこれほんとにUDC怪物? とちょっと担当者に問い合わせたくなる愛らしさ。
『ぬぅぁ?』
それがじいっと基を見つめている。基も立ち止まり、睨み合い――と言うには随分緊張感の無い数秒間の静寂が訪れる。
「……見た限り無害っぽいなあ」
牙があるでも爪があるでもなし。見て狂うこともなければ、理解の及ばぬ超常の攻撃で襲いかかってくることもない。
ちょっと奇妙な見た目の猫。しかも好戦的でもなく、基本的には逃げ回る性質を持つと聞いている。
「正直さ、襲ってこないなら素通りでよくない?」
生態系が乱れるとか、ペットの野生化とかそういう問題もあるのかも知れないがこの間抜け面のいきものが自然環境にそんな大きな影響を与えるのかと言われるとそうでもない気がしてくる。
うん、私はなんにも見なかった。見逃しても他の猟兵が狩ってくれるだろうし。
「――よし、私はパス。ほらお逃げつちねこ、追いかけないから」
ざっくざっくと湿った土の斜面を登る基。立ち止まるつちねこは、すれ違いざまにその横顔を見上げてぬぁんと鳴いた。
可愛いところもあるじゃん。捕まるんじゃないぞー。
そんなエールを内心で送りながら山登りを再開した基だが、どうにも背後から視線を感じる。
振り返れば何もいない…………いやいる! つちねこの短い尻尾が木の陰からちゅるんと覗いている。
「…………あれーおかしいな。絶対誰か居ると思ったんだけどなー気のせいかー」
態とらしい棒読みで何も見なかったアピール。そして前を向く、ふりをしてもう一度振り返る!
木陰から顔を出したつちねこ!
基とつちねこの目と目が合う!
視線を逸らしてしどろもどろに足踏みするつちねこ!
『ぬ、ぬゃーん?』
奇遇ですねと言わんばかりにしらを切るつちねこ。何を考えているのかさっぱりわからない。
危害を加えようとしているのかとも思ったが、それにしてはあまりに尾行がお粗末だしまぬけな顔からは殺気を感じない。
「もしかしておまえ、私に付いて来たいのかな?」
つちねこだって寂しいのかも。そう問いかけてみれば、目をきらきらさせてしっぽをピンと立てお澄まし顔のつちねこが駆け寄ってくる。
「そうかそうか、いいよ、付いてき――」
ところでつちねこだが、この生物めちゃくちゃド短足のくせしてすごく速い。
チーターも裸足で逃げ出す程に。そしてその逃げ出したチーターを余裕で追い抜いて走り去る程に。
あまりに美味だから乱獲され、そういった種の窮地に際して逃げ足にステを極振りした結果だとも言われているが真偽は定かではない。が、とにかくこのへんてこ造形の生き物はすごくすばしこいことで知られている。
そんなのが喜びのあまり全力で走れば何が起こるか。
空気が切り裂かれるほどの高速疾走によって生じた真空が基の肌を切り裂いたのだ。
「うわっ痛っ!! 何これ……前言撤回、こいつ……やらなきゃやられる!」
嬉しそうに基のまわりを走り回るつちねこ。やつの生み出したかまいたちが木立をバラバラに裁断し、不可視の真空刃が空気を引き裂きひゅんひゅんと音を立てる。
こころなしかつちねこの嬉しそうな間抜け面が強者のオーラを纏っているようにすら見えた。
「……殺気があるのかないのか。こういう奴らが一番苦手かも」
攻撃の意図なく一歩間違えば致命傷になりかねない攻撃をくりだすつちねこ。
敵意があればある程度攻撃の先手を読むことは出来るが、危害を加えられることなく同行できる人が出来て嬉しい、という気分で意図せず殺傷能力のある攻撃を撒き散らすつちねこからはその行動を予測することは至難であった。
「どうする……このままじゃやられる……待った、猫なら……!」
そう、つちねこはあんなナリだがベースは猫、猫なら対処のしようはある!
「ほら猫ちゃん、紐とか好きでしょ?」
じゃらりと片腕を分解し、パズルピースで構成された鎖に変えた基。彼女がそれをゆらゆらと揺らせば、急ブレーキを掛けたつちねこの視線が鎖の先端を追って左右する。
「ほーらほら、遊んであげよう。おいでおいでー」
じゃらじゃら。ゆらゆら。きょろきょろ。
『ぬゃっ。ぬゃぁぁん……』
抗えぬ野生の本能。狩猟したい……素早く動くものを捕らえたい……
捕らわれる側であっても猫は猫、つちねこにも眠る狩猟本能が鎖を見る視線を真剣なものに変える。
黒丸を2つ並べてこれが目! と言わんばかりの愛嬌のある瞳は、今や猫科特有の鋭く尖った眼光に変わり――短い両脚をぴんと伸ばして鎖の先端に飛びかかったその瞬間を、基はすかさずもう片腕をも鎖に変えてぐるりと巻きつけ捕獲した。
「よっし捕まえたぞ!」
『ぬ゛!? ぬ゛ぅ゛ゃ゛ぁ゛お゛!!』
じたばたじたばた。短い手足を精一杯振り回して抵抗するつちねこは、全然抵抗できてないところも含めて愛らしい。
「走り回りさえしなきゃ可愛い……かも? ちょっと撫でるくらいならいいよね……」
ごくり。ねこじゃらしを腕に戻して、つちねこの頭に触る基。
「!?」
つるん。もにゅん。爬虫類のツヤ感と猫特有の肉の柔らかさを感じて、基は慌てて手を引いた。それから背中を恐る恐る触れば、こちらはほぼ猫のもふもふ感である。
「…………これこれ、こういうのでいいんだよ。はー……」
もっふもっふ。つちねこ、美味しいらしいけれど。
「この子を料理するくらいなら今日はごはん抜きでもいいや
…………」
すっかり情が移ったのか、捕まえたつちねこを抱えたまま山登りを再開する基なのだった。
成功
🔵🔵🔴
アイ・リスパー
「ええっ!?
江藤さんたちが温泉旅行でっ!?」
グリモア猟兵の言葉を聞き驚愕します。
「私に声をかけずに温泉旅行に行くなんてっ!
私も合流して温泉を堪能しますっ!
江藤さんのお金で!」
そうと決まれば早速温泉街を目指します!
空も陸もダメなら森の中を抜けるだけっ!
「って、まだ温泉街に着かないんですかぁ……」
棒切れを杖がわりにして歩きますが、一時間も歩かないうちに足がくたくたです。
誰ですか、こんな山の中を歩いて抜けようなんて言ったの!
「あ、そうです!
こういう時こそオベイロンの出番ではないですか!」
オベイロンを呼び出し【ビルドロボット】しますが……
カマイタチが命中して故障して動かなくなるオベイロンでした。
●
――出撃前、グリモアベースにて。
「ええっ!? 江藤さんたちが温泉旅行で!?」
グリモア猟兵の言葉に愕然とするアイ。いくつかの任務で共に戦ったエージェント達が旅行先で失踪したとなれば、顔見知りである彼女の受けるショックはいかばかりか。
UDC怪物絡みの案件であるなら、エージェントである彼らといえども無事であると確信はできぬ。そのうえ休暇中に事件に巻き込まれたというなら装備だって万全では無かっただろう。
アイは役人風の没個性的ながら生真面目な印象のエージェント江藤の顔を思い出し、うつむいて拳を握りしめる。
静かに闘志を燃やし、戦友を襲った危機に立ち向かう決意を――
「私に声をかけずに温泉旅行に行くなんてっ!!」
――ん?
「私もすぐに合流して温泉を堪能しますっ!! ……江藤さんのお金で!!」
――あ、はい。
なるほどそういうことね。江藤らを襲ったUDC怪物への怒りではなく、自分たちだけで楽しそうな旅行に言った江藤たちへの怒りで震えていたのか。
ところで誘ってくれなかったって言ってたけど連絡先いつ交換してたんだろう。
「そうと決まれば早速温泉を目指します! 空も陸も駄目なら山の中をぬけるまで!」
そんなわけでUDCアースに転送されてはや数十分。
アイは速攻で遭難していた。そりゃあ風呂桶に手ぬぐいとお気に入りのシャンプーやボディソープを突っ込んで、着替えの入った小さな鞄を肩に掛けて浴衣姿で山岳突破は無理がある。
いかに江藤の奢りで温泉を楽しむかで頭が一杯で、辿り着くまでの苦難に対する脅威度評価がめちゃくちゃ低く見積もられてしまったのだ。
「まだ着かないんですかぁ
…………?」
ふぅと疲れ果てた溜息ひとつ。額は玉のような汗で濡れ、滴るそれが目に入る前に手の甲で拭えば土埃が顔に黒い化粧を施した。
握りしめた杖代わりのいい感じの棒は先端がすっかり削れ、いい感じだった(過去形)棒へと変わり果ててしまっている。
「誰ですかこんな山の中を歩いて抜けようなんて言ったの……」
主にUDC組織の救出作戦司令部とグリモア猟兵、そして君自身じゃなかろうか。
ともあれ猟兵の体力ならば何の問題もない行程だったはずなのだ。アイがウキウキ温泉気分で装備仕様を軽装入浴装備のまま戦域に突入したのがちょっと良くなかっただけで。
「もう足がくたくたです……歩きたくありませぇん……」
ふぇーんと泣き言を言うも、それを励ましてくれる仲間は既に遥か前方だ。ただ山の鳥だか虫だか獣だかの声だけが木立の奥から聞こえてくるのみ。
「うぅ……あっ」
疲労がパンパンに詰まった細い脚をもみほぐし、アイは気づく。
――歩けないなら歩かなきゃいいじゃない。
「そうです! こういうときこそオベイロンの出番ではないですか!」
ぽんと手を打ち、愛車こと機動戦車を呼び出し人型形態に変形させて乗り込む。
脚部による歩行ならば悪路もへっちゃらなんのその。やはり天才はどんな状況でも解決策を導き出せるのだ。
「はー快適です。どうして最初からこうしなかったんでしょう……」
がっしょんがっしょんと山登りする戦闘ロボ。これが温泉に入りに行く姿だと誰が信じられるだろう。山奥の研究所から脱走したエイリアンかなにかを追撃する軍の部隊にしか見えない。
――その姿をじっと見つめる二つの目があった。
目的地まであと僅か――そこでアイはオベイロンの異常に気づいた。
「あれ……脚部に損傷?」
がくんと停止するオベイロン。こんな山奥で戦車にダメージを与えるような物があるだろうか。
なにかに衝突したり、被弾したような衝撃もなかった。ただ脚部の装甲が断裂し、内部の機構にもいくらか損傷が生じているとオベイロンは訴える。
「わわわ。バランスが……いったん擱座させましょう、このままだと危ないです!」
無理に歩行しようとすればおおきくよろめく機体をどうにか立て直し、片膝をつかせる。すると今度は損傷が膝や下ろした両腕にまで広がってゆく。
「一体何なんですか! もう!」
恐る恐る昇降ハッチから頭を覗かせたアイは見た。
オベイロンの周囲をものすごいスピードで走り回る平べったいいきものを。
『ぬぁぁん。ぬぁぁん』
「つちね――きゃあっ!!」
つちねこであった。そのつちねこは、ハッチが開いたと見るや神速でコックピットに飛び込んでくる。その余波で生じた真空によって、アイの浴衣が切り裂かれた。
「なんなんですかもう……でも損傷の原因はわかりましたよ、あなたが犯人ですね!」
コックピット内、さっきまでアイが座っていた座面の上で丸くなって心地よさそうに尻尾をてっしてっししているつちねこ。これの生じさせた真空の刃がオベイロンに損傷を与えていたらしい。
『ぬぁご』
「なーごじゃありません! どうしてくれるんですか」
『『『ぬぁぁぁぁあぁあお』』』
「へ?」
呑気に鳴くつちねこにぷんすかと怒るや、外から聞こえた大合唱に怒気を抜かれて首をぎぎぎと回すアイ。
いっぱいおる! いっぱいおるよ!!
地面に、木の上に、草むらに苔むした岩の陰に、あらゆる死角からにゅっと顔を出したつちねこの群れ。
「えっ、えっ
…………? えええええっっ!?」
それが一斉にオベイロンに飛びかかってくるのを、アイは驚愕の表情で見つめるしか出来なかった。
――猫って冬場、温かい自動車に群がるよね。ちょっとした隙間からエンジンルームとかにも入り込むらしいよ。
山岳行進でほどよく暖機されたオベイロンのあらゆる隙間にみっちりつちねこが詰まっている。
それをつちねこの毛だらけにされながら機体から追い出されたアイは恨めしそうに見て、いい感じの棒を伴にふたたび道なき道を歩き出すのだった。
「オベイロンの修理代も江藤さんに請求してやりますからねーっ!!」
アイの叫びが山中に木霊する。
宿に猟兵たちが集結するその時は、もう間もなくだ。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『青光る邪神・鯖』
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POW : アニサキス・デッドエンド
【傷口から放った血 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【寄生虫アニサキス毒爆弾】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : ジェノサイド・サバカン・ストーム
【数多の鯖缶 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : Omega3・エンハンス
【ドコサヘキサエン酸(DHA) 】【ドコサペンタエン酸(DPA)】【エイコサペンタエン酸(EPA)】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
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●
つちねこを捕獲し、あるいは倒して進む猟兵たち。彼らは閉ざされた山道の先、ようやく目的地に辿り着く。
すなわち兄崎温泉郷。湯気が霧のごとく立ち込め、硫黄の香る温泉宿である。
古き歴史を感じさせる木造の大浴場入口と、併設された鉄筋コンクリート五階建ての旅館。おそらく慰安旅行中のUDCエージェント達が捕縛されているのは旅館であろう。猟兵たちが固く閉ざされたガラスの戸を押し広げようとしたその時、硫黄の香りに混じりただならぬ生臭さが猟兵たちの鼻腔を刺激した。
むせ返るような臭気は湯気に混じってあたりに充満し、呼吸をすることすら苦痛なほど。
そして猟兵達は見るだろう。大浴場入口、脱衣所や料金所が収まった木造平屋の屋根を越えて自分らを見下ろす感情のない巨大な眼球を。
青く澄んだその目は鮮度の証。青々とした背に黒い縦縞を描いたその身体はぬらぬらと光を反射しており、身じろぎするたびに臭気を纏った生ぬるい水しぶきを辺りに散らす。
その姿は名状しがたい――ということも特にない。サバである。
ただちょっと十数メートルはありそうなだけの、サバである。足とか翼とか生えてるわけでもなければ、角や牙があるわけでもない超特大のサバ。
『サバ。サバサバ、サバババサバ』
日本語を喋ることもない、紛うことなきサバ――いやサバはサバとは鳴かんでしょう。
困惑する猟兵たちの前に、いつの間にやら現れた板前姿の老人が告げる。
『青光る邪神・鯖さまは言うとんなさったい。信徒のための晩餐ば邪魔しに来なさったあんたどんば許さんち。わしもおんなじ気持ちやけん、悪かばってん帰ってもらうか――』
『サババ、サバ……サババババッ
!!!!』
『邪神様の言う通りたい! さあ、選ばんね!』
いや、選択肢がよくわからんのですが。
ともかく、この邪神を屠り従業員たちをこの狂気から解き放たねば宿泊施設に踏み込むことすらできまい。猟兵達は老料理長をそっと押しのけ、邪神を討つべく次々と露天大浴場に突入してゆく。
的形・りょう
「ええ…今度はサバかよ…どうなってんのこの温泉」
でもまあ、邪神は邪神。倒すべき敵です。どう見たって青魚ですが。活きがよくて美味しそうだし。
この姿のせいで、憎しみよりも好奇の感情が勝ってしまいます。どう料理してやりましょうか。文字通りの意味で。
「サバの弱点というと…あの辺りだな」
エラの後ろあたり、延髄のあるところを【部位破壊】で狙い、大量出血させましょうか。大型の青魚を締めるにはこれが一番です。
飛んでくる虫やら缶やらは【激情咆哮】の音波で跳ね返します。感情によって追加効果が乗るこの技ですが、いま私は珍しく「好奇」の感情に占められています。どんな追加効果が乗るか楽しみですね。
(アドリブ歓迎です)
アリシア・マクリントック
ええと。これはどう反応するのが正解なのでしょうか……?いえ、考えるだけ無駄ですね。変身!
見た目から察するにそこまで機敏ではないでしょうからティターニアアーマーでお相手します。これなら臭いも多少は防げますし。
とはいえこれでも倍はサイズ差がありますね……掴むのも難しいでしょうし、それならば目を狙いましょう!あの姿では防御なんて出来ないでしょうし、うまく行けば死角を作れます。
敵の攻撃は……受け止めるしかないですね。多少無茶はききますし、みなさんに攻撃がいかないよう立ち回りましょう。
弱ってきたら口の中を狙って月華一条でトドメです!
●
「ええ……今度はサバかよ、どうなってんのこの温泉」
「ええと。これはどう反応するのが正解なのでしょうか……?」
いざ突入した大浴場。程よい熱気に生の青魚が発する独特の臭気が混じりなんとも言えない嫌な空気感を醸し出す天然温泉かけ流しの露天風呂にてその背を曲げて猟兵を睥睨するは巨大な鯖。
りょうとアリシアはその禍々しい……禍々しい? いや、なんかもう相手を理解しようとしてはいけない系の姿をした邪神と改めて対面して困惑する。
「で、でもまあ何にせよ邪神は邪神だろ。倒すべき敵だって、どう見ても青魚だけど。活きが良くてちょっと美味しそうだけど……」
「えぇ……美味しそう、ですか? ううん……」
邪神とその信徒への憎しみは人一倍に持っているりょうだが、目の前の自称神が愉快な巨大青魚となればどうにも憎みきれない。むしろあれだけ大きければいくらでもサバ料理が食べられそうだ。味噌煮、塩焼き、鮮度は良さそうだし刺身やゴマサバにして食べるのもいい。なめろうにして白い炊きたてご飯と一緒に――なんてのも捨てがたい。
ごくりと唾を飲み、どう料理してやろうかと頭の中で思考を奔らせるりょう。この子ほんとに狂気耐性持ってるのだろうか。だいぶ思考回路が狂気寄りになってない?
そんな敵に美味しそうなものを見る目を向ける仲間にややたじろぎながら、真面目なアリシアはこの鯖が鯖であることへの思索を止め、一体の邪神としてそれを撃破する術を思考していた。
こうも巨大であれば、生半な攻撃は通用するか怪しい。となれば急所を狙うのが常道だが、その急所に攻撃を届かせるのが難しい。
というか臭い。生臭い。剣士として騎士として、決して上品一辺倒ではないとはいえそれなりの家格のお嬢様であるアリシアにこの魚臭さは未経験の領域であり、知らずのうちに思考が臭気にかき乱されてしまう。
傍らのりょうが平気そうなのは生魚にふれる機会も多い島国の出身故か、それにしたって人狼だろうに平気そうなのは慣れだとしても凄いとアリシアは漠然と思い――そして閃く。
急にりょうほど鯖の臭いに慣れることはできまいが、臭いを遮断することはできる。
「そうと決まれば早速――変身!」
凛と響く掛け声とともにアリシアが鎧う白銀の甲冑。それを更に包み込む巨大な機甲が宇宙空間でも活動可能な気密装備として密閉されれば、鯖の悪臭から一気に解き放たれ、清浄な空気が鼻を通って肺を満たせば思考も明瞭になったような気がした。
「ようやく一息……というには少し気が早いかもしれませんね。さて……」
眼前の鯖は二人がかりでも抑え込むのは困難だろう。ならば攻撃を誘い、その隙を突く形で急所に攻撃を叩き込むしかない。
「――どうでしょう、りょうさん?」
「いいな、それで行こう。鯖の弱点というと……あの辺だな」
妖刀の鋒でエラの後ろあたりを指すりょうに頷きを一つ返し、アリシアのティターニアアーマーが前に出る。
「アリシア・マクリントック、参ります!」
『サババ……サバ! 鯖ッ!!』
その鋼鉄の踏み込みに呼応してその体内にDHA、DPA、EPAなどを蓄えることで防御力と栄養価を高めた鯖が頭を振り下ろす。
鋼の拳と鯖の中で最も硬質な頭骨が激突して火花を散らす。激突、そして激突。殴打と頭突きが幾度も交錯し、そしてついにアリシアの拳が鯖の澄み渡る眼球を捉える。
『鯖゛ァ゛!!』
悶絶する鯖。半分を奪われた視界、そちら側からりょうが駆け抜ける。
狙うは延髄。ティターニアアーマーを足場に駆け上がり、巨大な鯖の頭上に大跳躍した人狼少女。
しかし鯖も腐っても――鮮度は抜群だが――邪神。気配でそれを察したならば、即座にサバ缶を射出してりょうを撃ち落とさんとする。
丸い水煮缶を妖刀で切り裂き、四角い味噌煮缶を蹴飛ばして――されども捌き切れぬほどに迎撃の密度が濃い。サバだけに。
「あーもうじれったい! だんだんイライラしてきた……!」
眉間に皺寄せたりょうが息を大きく吸い込み、叫ぶ。するとその音響でサバ缶が弾き飛ばされるではないか。
「お、行けるじゃん!」
すっきり爽快、サバ缶迎撃への怒りも吹き飛び改めて鯖に飛びかかるりょうがもう一度吼えれば、鯖の味への好奇心に満ちた叫びが鯖をびくりと硬直させ、延髄を斬りやすいよう姿勢を整えさせた。
「デカい青魚をしめるときはこれが一番ってな!」
ざっくりと切り裂いた鯖の延髄から、赤黒い血がぶしゅりと噴き出す。
『サバァァァァァァァ
!!!?』
大口を開けてのたうつ鯖――その瞬間、ティターニアアーマーから飛び出したアリシアがアーマーの変形した大弓を引き絞り急所――開いた口内を狙って月光の如き光の矢を放つ。
『鯖ァ゛ァ゛オ゛エ゛ッ゛
!!!!』
さっくりと体内に突き刺さった矢に悶絶する鯖。
「やりました!」
「あー、うん、今の内臓に行ったかなあ。内臓はなるべく無傷のままで取り出さないと味が落ちるんだよな」
「えぇ、そうなんですか? でも、相手は邪神ですし……」
喜ぶアリシアとあくまで邪神を食材扱いで攻撃手段に諫言するりょう。
どちらが正しいのかは、食べてみるまではわからない。
『サバババババババ
…………』
しかしびくんびくんと涙目で跳ね回る巨大鯖はまだまだ元気な様子であった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
木鳩・基
鯖の怪物、はまだいいとして
邪神に信徒ってことはこいつを敬う奴がいるのか…
願ったら大漁とか叶うのかな?
単純にデカいのは馬鹿にできないかも
あの鯖缶撒きにしても近寄れないし
いや待って、自分の切り身を加工した上で投げつけるって何?
ツッコミ入り【挑発】で関心を引きつつ【逃げ足】で鯖缶を避ける
この【時間稼ぎ】、他の猟兵の助けになれば嬉しいな
ある程度鯖缶の量が溜まったらUC発動
鯖缶をピースにキャノンを構築!
【援護射撃】も兼ねて鯖缶を弾丸にした爆撃を連射!
精神的にもだいぶ効くでしょ!
ある種の【盗み攻撃】、自分の切り身にやられて消えな!
…マジで私も何言ってんだ?
まーいいか、倒せば温泉だし
アドリブ・連携歓迎
●
「鯖の怪物、はまだいいとして」
目の前のあまりにもアホくさい光景――ちょっとした怪獣サイズの鯖が流血しながら大浴場でびったんびったんしている――から目を逸らさず、基は独りごちる。
「こいつが邪神であの爺ちゃんたちが信徒……ってことはこいつ敬ってるのか……えぇ、何信仰だよ。願ったら大漁とか叶うの?」
『サバ、サバ……サ、バァ
…………』
息も絶え絶え、口をパクパクさせながら基に何かを伝えようとしている鯖。もしかして自分を信仰するメリットを説いているのかも知れないが、生憎。
「私、鯖語……鯖語かなこれ。違うかも知れないけど、お前の言葉はわからないんだ」
『サバーン!?』
「今のはなんかちょっとわかっちゃった気がするけど!! けどな、基本お前の言うことわかんないから私!」
わかんないの!? とショックな顔をする鯖に対してわかってたまるか、とコミュニケーションを拒否した基の判断は正解だろう。こういう頭のおかしい邪神とコミュニケーションなんか取ろうものなら体内のシリアス濃度が急激に低下して一気に正気度が損なわれてしまう。
末路は狂信者かギャグ時空の住人のふたつにひとつ、基は今の所そのどちらになるつもりもない。
「しかし、ギャグっぽいとはいえ単純にデカいのは馬鹿にできないかも」
大きさはその分馬力に直結する。重力に抗って形態を維持できるということは、それだけの筋力を有していることの証左に違いないであろうことは容易に予想できた。その点でクジラにも比肩する鯖の巨体は、人間が相手取るには些かに強靭すぎるであろう。
接近戦は論外。フィジカル特化の猟兵ならばまだしも、基は自身の能力を正面から殴り合うタイプだとは認識していない。ならば遠距離戦かというと、それもまた難しかろう。
なにせこの鯖、何処からともなくサバ缶を召喚して投射してくるのだ。
「いや待って。自分の切り身を加工して投げつけるって何?」
百歩譲って眷属あたりのノーマル鯖を原材料にしていたとしても、それを水煮やら味噌煮に加工して缶に詰めているのは何者なのか。それとも全国のご家庭の戸棚の奥やらスーパーマーケットの倉庫やらからお取り寄せしているのか。
謎深まるサバ缶の出処にツッコミを入れれば、鯖の感情豊かに無感情な瞳がぎょろりと基を追いかける。
――かかった。基の狙いは他の猟兵が戦闘準備を整えるまでの時間稼ぎだ。
ちら、と視線を背後に向ければ、駆けつけてくる猟兵が――なんか捕まえてきたつちねこを取り出して食材と一緒に並べ始めている。
「いや戦えよ!!」
思わず味方へのツッコミまで入れた基の頬を掠めて鯖の水煮缶が高速で飛来し、背後の石壁に音を立ててめり込んだ。
「缶詰の威力じゃないよな!? てか食品は大切に扱え! いくら神でもバチ当たるぞ!!」
『サバッ!! サバサーバ!』
小市民的感性でサバ缶攻撃に抗議する基。でもいざ食品だからアレ喰えって言われるとそれはそれでなんかヤな複雑多感な年頃である。
ともあれそんな軽妙な――ようでいて一方的なツッコミの末に、なんかもうあの猟兵ども飯食い終わるまで動かないんじゃねえかなという諦めの気持ちにたどり着いた基は時間稼ぎをやめて反撃に転じる。
辺りには鯖が連射し、凹んで転がる大小のサバ缶。数は十分だ。
「こんだけの数があれば――数さえあれば、できないことなんかない!」
サバ缶が、鯖が、味噌ダレが――次々とパズルのピースのように直線的な断面で分解され、新たな形に組み合わさってゆく。
それは砲身であった。曲線の缶が構成するとは思えないほど精密に組み合わせられた機械的な造形はまるで開放式バレルのレールガン。
三本のレールがひたりと鯖の額に狙いを付け、その中央にサバ缶ががこんと装填される。
「これもある種の盗み攻撃かな。自分の切り身にやられて吹っ飛びな!」
ばしゅんと心地よい摩擦音を残して、電磁加速されたサバ缶が音速を超えて飛翔。後、鯖に着弾。
巨体の鯖は大きく仰け反り、そのまま吹き飛ばされて温泉の壁をなぎ倒し敷地外に滑ってゆく。
「…………マジで私も何言ってんだ?」
鯖が吹っ飛んだのを見届けて、自身の発言を振り返った基はぽつり。
「まーいいか。この後は温泉だし、ゆっくり休んでこれは悪い夢だったとでも思おう」
大成功
🔵🔵🔵
アイ・リスパー
「うう、やっと温泉郷に辿り着きました……」(ボロボロで泥だらけの浴衣姿
これは早く江藤さんたちが止まっている温泉旅館を見つけ出して温泉に入らないと……
「って、鯖ですかっ!?
なるほど、これが江藤さんたちが食べようとしていたご馳走ですねっ!
こんな活き活きとした鯖を私抜きで食べようなんて許しませんっ!
鯖の丸焼きにして私がいただきますっ!」(歩き疲れて思考が暴走中
そうと決まれば【マックスウェルの悪魔】によるエントロピー操作で程よく遠赤外線でじっくり焼いてあげましょう!
「鯖缶など飛ばしてきても無駄ですっ!」
【ラプラスの悪魔】で鯖缶の軌道を予測。
炎の矢で撃ち落とし――
爆発した鯖缶の中身を頭から被るのでした。
イデアール・モラクス
【フィーナと行動】
なーべ、なーべ!
ん?鯖?後で焼き鯖にしてやるが、まずは鍋を食う!
・行動
「ようし、では頂き……あーー!」
入る横槍、台無しになる鍋、クソ…なんて事だ…鯖風情がやってくれたなぁぁ!
「我らの鍋を奪った鯖に復讐を!!」
怒りから真の姿に変身。
UC【機甲兵団】を『高速詠唱』にて行使、鍋を含めた周囲の無機物を機甲兵と化し鯖を蹂躙する。
「貴様は焼き鯖の刑だ!」
機甲兵に命を下し、ビーム銃の『一斉発射』による『制圧射撃』やビーム剣での『薙ぎ払い』を行わせ攻撃、私その合間を縫い魔剣で敵の攻撃を『武器受け』しつつ『空中戦』で吶喊、鯖を『串刺し』にし『属性攻撃』で中からこんがり焼き上げる!
※アドリブ歓迎
フィーナ・ステラガーデン
【イデアールと行動】
「それはそれとしてツチネコ新鮮なうちに鍋にしましょ!
サバ?あんたはこの前食べたからちょっとそこで大人しくしてなさいよ!」
猟兵が戦ってる横でおもむろに鍋を煮出す
「んー?出来たかしら?いただきまーす!あーん」
どんがらがっしゃーん
鯖からの攻撃で食べる前に鍋がひっくり返されて
フィーナはぶちぎれ金剛!
あまりの怒りに真の姿が解放されるのであった!
【殺気、恐怖を与える】
「もーあんたらただではすまさないわ!」
UCでぼこぼことゾンビを召還し、鯖と信徒に向かって前進
しっちゃかめっちゃかてんてこまいに場を荒らし
フィーナは空から【吸血】で食い散らかす
(アレンジアドリブ大歓迎!)
●
鯖がびたんびたんと跳ね回っているその頃、山中から温泉郷にたどり着いた影が一つ。
草履の爪先はささくれ、足指は泥まみれ。浴衣の裾もほつれてしまい、はだけた肌のそこかしこに土埃を拭った黒い筋が張り付いた姿は色気よりも憐れみの感情を見るものに与えるだろう。
アイであった。涙目だ、さもありなん。あの後も小さい崖から滑り落ちたり異様に深い水たまりに腰まで浸かったり、日本国内に居ながらアマゾンの奥地を探検したかのようなアクシデントに見舞われていたのだから彼女の疲弊たるや他の猟兵の比ではあるまい。それが彼女自身の不幸体質によるものなのか、単にルート選択をしくじっただけなのかはアイの優れた演算能力をもってしても永遠の謎であった。
「あれは……建物……? うう、やっと温泉郷にたどり着きました……」
ぼろぼろの浴衣をすぐにでも脱ぎ捨て温泉に肩まで浸かり、汚れを落として身体を温め新品の浴衣に着替えてゆったりと休みたい。江藤の奢りで。
そんな欲望と希望を胸に抱いて、ここまで連れ添ったいい感じの棒を放り投げ駆け出したアイ。
そこへ露天大浴場と外界を隔てる竹の壁をぶち抜いて十数メートル級の鯖がドーン!
人身事故である。哀れ少女はようやくたどり着いた目的地で青魚に撥ねられてしまった。
『鯖ァ……!』
「うぐぅ……一体何が……うわ生臭い! 何これ……って鯖ですかっ!?」
満身創痍の巨大鯖に轢かれたアイだがどうにか無事だったらしい。何が起こったのかを確かめるように周囲をキョロキョロと見回し、突然出現した青と黒のぬらぬらと光る壁がスズキ目・サバ科のサバ属であるマサバの特徴を有すると瞬時に見抜いてその正体を理解する。
こんなに頭の回転早いのになんでいつも残念なんだろう、この子。
「なるほど……すべて理解しました!」
ほんとかー?
「これが江藤さんたちが食べようとしていたご馳走ですねっ! こんな丸々肥えて脂の乗ったうえに活き活きしている鯖を私抜きで食べようなんて許せませんっ!」
……どうやら天才少女はお疲れのようであった。
ともあれ、そうと決まれば江藤らの抜け駆けを許すわけにはいかない。むしろ先んじて鯖を調理し、一番美味しいところを先取りするまである。
「あなたは丸焼きにして私が頂きます! 遠赤外線でじっくり焼かれてくださいっ!」
空間の熱量を操作し、鯖を高熱に晒しながら凄む少女。
だが鯖も邪神の一柱。ただ焼かれるに身を任せはしない。
『サババババサバサバ、鯖ァァァ
!!!!』
召喚されるは無限に生成さるサバ缶の雨あられ。降り注ぐ硬質の金属缶はいかに猟兵とて直撃すればただで済むまい。
「そんな攻撃、サバ缶など飛ばしてきても無駄ですっ!」
一方その頃、大浴場の片隅にて。
『ぬ、ぬぬぬぁーん……』
か細い鳴き声は憐憫を誘うようで、その声の主が今にも命の灯火をかき消されてしまいそうな事態に直面していることを何より雄弁に語っていた。
心あるものならば助けてあげたいと考え、声の下へ駆けつけるやも知れない。
だが、手負いの巨大鯖と遭難者の戦いの騒音にかき消されてその声を聞き咎めるものは居なかった。
「なんかでっかい鯖が暴れてるわね!」
「うむ。だがまずは肉だ、肉を喰うぞフィーナ!」
涙を浮かべてぷるぷると震えるつちねこたちを前に、にたりと邪悪な笑みを浮かべる二人の魔女。
浴場から組んできた源泉を土鍋になみなみに張って、それをどこかから持ち出した三脚に乗せてフィーナの火炎魔法で火にかける。
「新鮮なうちにつちねこを鍋にしちゃいましょ! 猫鍋って流行ったらしいわよ!」
「ほう……猫鍋か。聞いたことがないな、楽しみじゃないか。なーべ! なーべ!!」
やいのやいのと盛り上がる魔女たち。ふたりとも目的忘れてない? ねぇ、ねぇってば。
「鯖がやかましいな……まあいい、後で焼き鯖にしてやろう。まずは鍋だ!」
「そうね、鯖はこないだ食べたから後でいいわ。それまでおとなしくしてなさいよね!」
オブリビオン相手に無茶苦茶言う魔女だが、そもそも猫鍋ってそういうのじゃないということに気づいて欲しい。だが可哀想につちねこはやや熱めのお湯にとぷん。
『ぬぁぁぁぁぁぁご!!』
何という残虐! 熱々ホカホカのお湯に浸されたつちねこがじたばたともがく! しかし魔女たちは土鍋のフタでそれを押さえつけるではないか!
背景で鯖と少女が激闘を繰り広げる中で、魔女たちはウキウキとつちねこを煮込む。
数分もすればいい香りが漂ってきたのでフタを開け、白菜や長ネギ、豆腐やしいたけ、豚バラ肉などを追加投入。食材を詰め込む隙間がなくなってきたので出汁をとったつちねこはどかそうね。
そこから更に醤油や味噌、にんにくや唐辛子等を加えて味を整えれば、つちねこの芳醇なスープが香る鍋料理が完成だ。
出汁をとったつちねこはへろへろに湯あたりした様子でべちょりと冷たい石の上で寝ている。ホント可哀想に。
「ん、出来たみたいね! じゃあ食べましょ! 頂きま――」
「クク……猫鍋、予想以上にいい香りじゃないか。マツタケというのか? あのキノコのような芳しい香りが食欲をそそるな。では頂き――」
「「あーッ
!?!?!?」」
じゅるりとよだれを啜って鍋に菜箸を突っ込んだ刹那、飛来するサバ缶! それが三脚をキレイに直撃し、熱々の鍋が天高く舞い上がる。
土鍋が空中でくるりと半回転するのを、二人の魔女はやけにスローモーションで見上げていた。
鍋の中から具材が、そしてスープが飛び出し、重力に従って落下していく。その着弾地点は二人の頭上だ。
かくて猫鍋を全身で味わうことになった魔女二人。
「……なぁフィーナ」
「……そうねイデアール」
「「我らの鍋を奪った鯖に復讐を!!」」
こうして憎悪と猫鍋の仇討ちに燃える魔女たちが戦線に加わり、戦場はさらに混迷の一途を辿る。
「いくつもいくつもサバ缶を投げてきて! ちゃんと火が通らないじゃないですか!」
迎撃に火力を分散させれば本体への攻撃がおろそかになる。本体を早期に倒せねば無限に湧き出すサバ缶にいずれ押し切られてしまう。
アホみたいな絵面で予想以上の苦戦を強いる鯖相手に、アイは攻めあぐねていた。
もう何十波目か数えるのも面倒なサバ缶の津波が押し寄せてくる――迎撃のためその視線をサバ缶に向けた彼女の前で、缶詰が次々と弾け飛んだ。
「我らの食事を邪魔した不埒な鯖が……!」
銀髪の魔女が率いるは、サバ缶を撃ち落とし銃口から蒸気を立ち上らせる機械化兵士の集団。
「あんた、ただでは済まさないわ!」
ついで鯖に突撃するのは、金髪の魔女に呼び起こされ山中から現れた生ける死人の軍勢。
撃ち落とされたサバ缶の中身を全身に引っ被り、味噌タレまみれになったアイは突然の加勢に目を丸くする。
だが、これでサバ缶の脅威が減じたのも事実。
『鯖ァァァァッ!!』
鯖はまたもや体内の栄養価を高めて戦闘能力を強化しているが、行動の先手を機甲兵士の狙撃で妨害され、その体勢を死者たちに崩されてはもう戦闘能力で云々できる問題ではない。
「アーッハッハッハッハ! おとなしく焼き鯖になるがいい!」
「私達の食事を邪魔するやつはボッコボコにしてやるわ!!」
「な、なにがなんだかわかりません、けど……その鯖は私の晩御飯ですっ! 渡しません!!」
鯖に雑兵が群がり、同士討ちになるのも気にせず競うように全力の攻撃を放つ三人。
そうして温泉郷に皮目までぱりっと焼けた鯖の香りが立ち込めるのだった。
成功
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第3章 日常
『山奥秘境隠れ家的温泉宿』
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POW : 美味しい料理に御満悦コース
SPD : 卓球に遊具にアクティビティコース
WIZ : 温泉にサウナ、岩盤浴のリフレッシュコース
👑5
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かくて邪悪なる神は皮目もパリッと身はふっくら、箸を立てれば解れた身の合間からじゅわりと香ばしい脂が滲む姿となって横たわる。
青光る邪神・鯖は討たれ、その場に在るのは数百人前と言ってもいいほどの巨大な焼鯖だ。
その香ばしい匂いが生臭い臭気を押し流せば、おお! 空は晴れ空気は澄み渡り、山中を包む得体のしれない気味の悪さは消えてゆく。
邪神の精神支配から解き放たれたのだろう、信徒と化していた旅館の従業員や宿泊客も正気を取り戻し、封鎖された旅館の建物の鍵を開けて外へとやってくる。
老料理長が美味しい料理を味わってもらいたい一心で呼び出してしまった邪神。果たしてあの鯖がどうやって料理長の願いを叶えようとしていたのか、それを知る術はもはやない。それを語る前に、鯖は美味しく焼き上がってしまったのだから。
もしかすると騒ぎを起こし、駆けつけた猟兵に自らを倒させることで最上級の魚料理を提供しようという粋な心遣いだったのかもしれない。絶対違う気がするが。
どっちかって言うとサバ缶で手抜き推奨するタイプの邪神だと思うよアイツ。
そんな風に戦いを振り返る猟兵たちを、旅館のスタッフたちは只管に頭を下げ、詫びながら旅館へと招き入れてゆく。数時間もすれば全ての施設機能が復旧し、猟兵たちも温泉旅館で思い思いに疲れを癒やすことができるだろう。
夕飯は焼き鯖の切り身とつちねこで出汁を取った鍋料理。食後の運動を楽しむ卓球場やゲームセンターもしっかり備え、一番の売りである大浴場も鯖の暴れた痕跡さえどうにか取り繕えば男湯も女湯も正常に使用できる筈だ。
楽しい休暇の予感に足取りも軽くなることだろう。
――え? 捕らわれていたUDCエージェントたち? ずっと充てがわれてた大部屋で大富豪してたよ。
アイ・リスパー
【闇鍋PT】
「江藤さんっ、無事で良かったですっ!
もし江藤さんに何かあったら私、私……」
江藤さんのお財布で旅館を楽しめないじゃないですかっ!
というわけで【チューリングの神託機械】で銀行にアクセス!
江藤さんの口座からお金使い放題です!(良い子は真似してはいけません
「さあ皆さん、江藤さんのお金で勝利を祝いましょうっ!」
さて、奢りのお鍋を堪能しましょうか。
え、皆で食材を入れるんですか?
ふふん、お任せください!
最近SSWで流行ってる宇宙食(タピオカミルク味)を入れましょう!(料理できない子
食後は皆で温泉ですっ!
「ふぅ、いいお湯ですねー」
そしてふと横を見て、胸囲の格差社会に絶望し崩れ落ちるのでした。
フィーナ・ステラガーデン
【闇鍋PT】
まったく・・!鍋の材料無駄にしちゃったじゃない!
でもあれよね!こういう時こそ皆の力を合わせる時だわ!
というわけで第一回猟兵闇鍋パーティーの始まりよ!
江藤も何かもってんじゃないかしら?強奪してもいいわね!
とはいえ最初の鍋で約束された美味しさのものは全部入れちゃったわ!
手元にあるのはそうねえ。ダークセイヴァーで生えてた蠢く苔と
奇声をあげるキノコと宇宙的何とかワームくらいね!
さっと入れればわかんないし火通せば食べれるんじゃないかしら?
温泉は無事なら行くわ!イデアールの胸を冷めた目でひたすら見るアレなことになるわね!
妬ましいわ!
(アレンジアドリブ大歓迎!)
アリシア・マクリントック
【闇鍋PT】
みなさんで具材を持ち寄って鍋……ですか。面白そうですね!
ポトフみたいなものですよね?食材が必要になるのは想定してませんでしたし……どうしましょう。
そうです!これだけ自然が豊かなところですもの、山菜やキノコが近くにあるはずです!いきますよ、マリア!
温泉……共同浴場を利用するのは初めてです。不作法があるといけないので、色々と教えてもらえますか?
これが裸の付き合いというものなのですね!少し恥ずかしいですが、たまにはこういうのもいいですね。
せっかく観光地に来たのですから、お土産を忘れてはいけませんね!たしか、ペナントというものが定番と聞きましたが……どこに置いてあるのでしょう?
イデアール・モラクス
【闇鍋PT】
クク…戦いも終わった、いよいよ鍋を堪能する時!
クハハハ!我が世の春が来たぁぁぁ!
・闇鍋
闇鍋をやるなら私をこれを入れよう…美味しいソーセージ!(胸元から召喚されてくる)
味は滅茶美味、決して切らずに丸のまま入れ、無駄にエロく食べるのだぁ!
「ふはぁ…嗚呼、熱くて汁がビュッビュと飛び出る…たまらんなぁ?」
つちねこと鯖はもちろん食べるからな!
・温泉
全裸ではふぅとゆったり浸かろう、ふむ…誰かの乳でも揉みたいが我慢だな…くっ!
・その他
給仕や雑務は【使用人召喚】で呼び出したメイドどもにやらせよう、皆が何か必要な時もこいつらなら役に立つ。
「アーハッハッハ!極楽極楽である!」
※アドリブ超大歓迎
響・夜姫
【闇鍋PT】
【援護射撃】…PT外も含む1・2章参加者へのお酌
遅れてすまないー。ポジションはクラ…え。終わってる?
そんなー。…ポジション、喰らう者で。
焼き鯖を堪能してから闇鍋参戦。具材は肉とカレー粉。
カレーは最強。闇鍋で何があってもカレー味なら大丈夫。
でも、ぱんつをいれるのはぎるてぃ。
「お肉になった動物は、草を食べて育つ。つまり、お肉は野菜」
「なんか。妙な食感。なにこれ」
ぺんぎんは箸を使って美味しそうに鯖を食べてた。
・浴場
至巨乳業の牛乳片手にのんびり浸かる。牛乳は薦める。
ぺんぎんは泳いで怒られた。
・江藤班
胸部装甲の厚い人に「なるほど、これが大富豪」
休暇中は仕事をしない。わかりみ。
他、色々OK
夕凪・悠那
いやー何事もなく終わってよかったよかった
万事解決してから現れたる猟兵
しかしサボりに非ず
卑劣なる邪神(ゲームのイベント的な)の妨害を潜り抜けて旅館に駆け付けたが、既に事態は収拾された後だったのだ!
え、空中を泳ぐ白鯨? UDCじゃない?(移動用仮想具現化)
服がきれいすぎる? さっき着替えたからね!(お外は少し寒いから上着を羽織った)
報告書に名前がない? ははは何のことやら(ことやら)
WIZ
温泉を満喫する
こういうとこにある温泉宿って普段は中々来れないからねぇ
温泉でまったりのんびり
そういえばここの温泉って効能どんなんだろ
あと露天とかさ
アドリブ満喫、PCUDC職員問わず絡み歓迎
●
「江藤さんっ!」
「アイさん? 助けに来てくれたんですか!?」
旅館の大広間では、感動の再会が繰り広げられていた。
「無事で良かったですっ! 江藤さんにもし何かあったら、私、私……!」
ぐすりと涙目で江藤を見上げるアイ。幾度と死線を共にした二人の間には、ただの現地協力員と猟兵という関係を超えた信頼が――
「江藤さんのお財布で旅館を楽しめないじゃないですか!」
「ええ、私も同じ気持ちで――は? ……はぁ、ええ、なるほど?」
両腕を広げて飛び込んでこーいと待ち構えていた江藤は、どことなく居心地悪そうに広げた手を戻してネクタイの結び目を弄る。
「班長フラれてやんのー」
「仮にそういう流れでもその年の差は犯罪だと思いますよ班長ー」
やんややんやとヤジを飛ばすエージェントたち。眉間にシワを寄せた江藤は特大のため息を一つ、財布を確かめてアイに向き直る。
「まあ、助けていただいたお礼ということで此処の払いは私が持ちますが。あまり持ち合わせがないので無茶な金遣いはやめてくだ」
「あ、おみやげコーナーのお菓子全部買います。支払いはこのカードで!」
財布を手にアイを諌めようとした江藤が嫌な予感に背筋を凍らせ、そっとアイの肩を叩く。
「アイさん、クレジットカードなんて持ってらっしゃったんですね?」
「…………? 違いますよ?」
では何のカードだというのか。ははーん電子マネーとかプリペイドカードかな?
「これはですね。江藤さんの口座に直接アクセスできるカードです! 神託機械にアクセスして今作りました!」
「は? …………は?? ちょっ。いくらアイさんでもやっていいことと悪いことがあるでしょ! やめなさい、今すぐそのカードを使うのをやめなさ――」
取り上げようとする江藤をひょいと躱せば、江藤はそのまま勢い余って新たな来訪者に正面衝突してしまう。
「きゃっ! ちょっと誰よもう! 何するのよ!! ってあーっ
!!!!」
「どうしたフィーナ、騒々しいぞ
…………? ああっ……!」
待ちきれずに厨房から鍋の材料を貰ってきた直後に尻もちをついてひっくり返ったフィーナと、その姿をニコニコと笑いながらあとに続くイデアール。そしてフィーナにぶつかって同じく尻もちをついていた江藤はというと、頭に土鍋を被り全身に野菜やら肉やら魚を貼り付けてなんとも言えない姿になっている。
「な、何よもーっ!! また鍋の材料無駄になっちゃったじゃない! まったく……!」
普段のフィーナなら江藤を怒りのままに爆破していたかもしれない。だが今日の彼女は違う。なぜならこの後温泉が待っているから!
怒りは抑え、建設的に代案を出していこうじゃないか。
「……こういうときこそアレよ。皆の力を合わせるときだわ! というわけで第一回猟兵闇鍋パーティの始まりよ!」
「クク……闇鍋か、面白い事を考えるなァフィーナ! ククク、クハハハハ! 闇……我が世の春が来たぁぁぁぁ!」
もともとこういう悪ふざけにノリの良い魔女二人は即座に準備を始め、そうすると比較的真面目な面々もそれに呼応しはじめる。
「え? 皆で食材を入れるお鍋ですか? フフン、おまかせください!」
「ポトフのようなものでしょうか……皆さんで具材を持ち寄って鍋、面白そうですね! 食材が必要になるのは想定してませんでしたが……」
「大丈夫よアリシア。一時間後にここで開始しましょ! それまでに食材を準備すること! 山から採ってくるでも、厨房から貰ってくるでもいいわ!」
フィーナが号令を掛ければ、アリシアはそれならばと腰を上げる。
「これだけ自然豊かならば山菜やキノコが有るはずです! いきますよ、マリア!」
狼のマリアを連れて山に繰り出すアリシア。一方のアイは、先程の江藤カードを手にふふふと不敵に笑う。
「ならば私は江藤さんのお金で最上級の食材を――」
「ほんとにやめてくださいしんでしまいます!」
流石に大の男が顔面ズルズルで泣きながら懇願してきたのでやめてあげた。
●
「遅れてすまないー。ポジションはクラ……え?」
「いやー何事もなく終わってよかったよかった」
そんな出来事から一時間後、復旧した旅館にたどり着いた夜姫と悠那。やる気満々戦闘態勢で乗り込んできた夜姫はさておき、やたら身綺麗な悠那はそれ本当にやる気あったの?
「失敬な。ボクがサボってたと思ってるでしょ。違うって、卑劣な邪神の妨害を受けて間に合わなかったんだよ。ねえ夜姫さん!」
「え。……まあ、うん。概ね……そんな感じ? とりあえず……終わってるなら、ポジションは喰らッ者ーで」
断じて面倒くさそうな鯖邪神が倒れ、荒天が落ち着いてからそらとぶ鯨でやってきたわけではないのである。
あの飛んでるやつは多分無害系のUDC怪物だし、服が綺麗なのはさっき着替えたからだ。山道を歩いて登ってきたなら汚れて着替えてもおかしくないしね。アイみたいに。
「え? 戦闘報告書? 邪神の妨害の? …………さあ、何のことかな! 夜姫さん、準備は出来てるみたいだしさっそく夕食に行こう!」
「まかせろー。ぺんぎんも、突撃ー」
追求から逃げるように旅館に駆け込む二人を、ぺっちぺっち走るペンギンが追いかけていった。
●
照明が落とされ、暗闇に包まれた大広間。猟兵とエージェントたちはこの暗い空間で、固形燃料の炎が揺らめく大きな土鍋を囲んでいる。
真面目に食材を準備したものも居れば、悪ふざけとしか思えないような食材しか確保出来なかったものも居る。
まあ最悪老料理長がなんか作ってくれるらしいので、死人さえ出なきゃセーフだよね。という空気の中で、その地獄は幕を開けた。
「それじゃあまず私から行くわよ!」
一番手、言い出しっぺのフィーナ。今回彼女は闇鍋パーティの進行管理の他、固形燃料への着火係という大役も担っている。最もこの鍋に懸ける想いの熱いメンバーであろう。
が、彼女の手持ち具材は鯖と江藤のお陰で壊滅していた。しかし案ずるなかれ。一時間入念にポッケをごそごそした結果、ギリ口に入れても問題なさそうなのをいくつか確保していたのだ。
ぐつぐつ煮えるスープへと、他のメンバーから見えないようにさっと具材を投下するフィーナ。
「……ま、火が通れば食べられるんじゃないかしら?」
ほんとかー?
二番手、カツアゲのアイ。江藤の金で高級食材を買い揃える企みは潰えたが、もしかすると成功してたほうが皆幸せだったのかも知れない。
だが、現実はそうはならなかったのだ。悲しいね……というわけで彼女も電脳空間に雑に突っ込まれていた保存食料から、皆が喜びそうなものをチョイスして引っ張り出してきたのである。
「何時間も並ぶくらい大人気の食べ物ならきっと皆さん喜んでくれるはずです!」
"食材"じゃなくて"食べ物"が入っちゃうと半分くらいの確率で惨劇が起こるものだけどね、闇鍋って。
三番手、地産地消のアリシア。マリアの嗅覚を頼りに山で食材を調達してきた彼女は、屈指の常識人ということもあってこの闇鍋パーティでは救世主的なポジションであった。
「マリアが毒はないと言っていましたから大丈夫だと思いますが、念のためにしっかり火が通るまでは煮込んでくださいね」
ちょっと発言が不穏当だけれども、きっとおそらくマトモな部類のハズである。
浮世離れしたお嬢様ってところがちょっぴり怖いけれど、アリシアすらダメだったら多分泣く人が出るだろう。
続く四番手はイデアール。
従業員に混じって給仕に奔走する召喚メイド達を眺めて悦に入っていたが、手番が回ってくれば視線を鍋に向けてクククと笑い己を鼓舞する。
事前のアンケートではコイツが一番何するか分からなくて怖いとのことだったので、要注意人物であるが――まあ間違っても食べ物じゃないものを入れたりしなければ問題ないハズ、である。
「クク……男も女も大好きな太くてでっかいものを入れてやるからな……引いたやつは悦ぶがいいさ……!」
待って今何入れた。本当に食べ物なんだろうな!?
そして飛び入り参加の夜姫と悠那。
「困った……食材の準備、必要だったとは」
「どうしたものかなあ。こういうのはパズルゲームと一緒で前の人が何を入れたか予測して全体を整えるように具材をチョイス……って夜姫さん!?」
参加者の性格から具材の傾向を推測する悠那。真面目に凄いけどこのメンツ相手だと多分正気が失われるやつだからやめたほうがいいと思う。
と、その思考中に具材を大量投入する夜姫。そ、そんなに入れるの……ってくらい入れたぞこの子。
「何入れたのさ……いや、なんとなく想像は付くけど。匂いで分かるけどさ……びっくりするくらい豪快だなあ」
「大丈夫。闇鍋でも……これで何があっても食べられるようになった。でも、ぱんつを入れるのはぎるてぃ」
その真剣な眼差しに、過去に闇鍋にぱんつを入れられたことがあるのだろうか、とはちょっと怖くて聞けない悠那だった。
「これで一巡したわね! ――でもまだ終わりじゃないわよ! 江藤とその愉快な部下たちも何か持ってるでしょ! 出しなさい! 出さないなら奪うわよ!!」
この鍋暴君である。江藤たちUDCエージェントたちから食品をもぎ取って鍋に投下していくフィーナ。
「さあ……あんたたちも食材を入れたからには参加者よ。覚悟を決めて食べるのね!」
「な、なんて事を……半分以上邪神の所業じゃないですか……」
「班長、このちびっこヤバいですよ……」
ひそひそと囁きあうエージェントたち。それをずびしと指差してフィーナは吼える。
「誰がちびっこよ! 私は大人よ成人済みよ!!」
誰かがうっそだあって言った。エージェントたちはちょっと焦げた。
●
そしていざ実食である。
ぐつぐつと煮える鍋は、今明かりの下で茶色いスープを一同の前に晒している。
遅れてやってきたつちねこのシチューや鯖邪神の塩焼きが一応のセーフティネットとして機能している今、変なもの引いても代わりに食べるものはある。猟兵たちはいよいよ覚悟を決めて箸を手にとった。
「一番手はやっぱり私が行くわ!」
フィーナの箸がちゃぷんと鍋に入り、具材を手元の器によそっていく。
肉。肉。アンド肉。謎のキノコ、そして肉。
「肉ばっか出るわね! 誰よこんなに肉入れたの!?」
「お姉ちゃん、それ、私……」
おずおずと挙手する夜姫。でも、と彼女は首を横にふる。
「聞いてお姉ちゃん。お肉になった動物は、草を食べて育つ。つまり、お肉は野菜」
アメリカ人みたいな理屈を捏ね始めた夜姫に対して、ふむと顎に手を当て考えるフィーナ。
「一理あるわね。ヘルシーじゃない。じゃあいただくわ!」
肉でキノコを巻いてからはむりと頬張るフィーナ。
「…………面白みはないけど普通に美味しいわね!」
事故はなかったようで何よりです。
「アーッハッハッハ! では次は私だな。どんな具材が飛び出してくるか楽しみだ」
ゴソゴソと鍋を箸で探り、具材をよそうイデアール。
肉、肉、なんだかよくわからないカレー色のワーム、肉、極太のウィンナーソーセージ。
「なんだつまらん、自分の入れた具を引き当ててしまったか。まあいい、引いたからには食べるさ」
箸で持ち上げたソーセージをうっとりと眺め、色っぽい唇を僅かに開いてアツアツのそれを近づけてゆくイデアール。
「ふはぁ…………堪らんなぁ。我ながらいいチョイスだった。さて、次はつちねこシチューと鯖をもらおうか」
食べてるところはあまりにもセンシティブで男性エージェントたちによろしくなかったので都合カット致しました事をご了承ください。
「三番は私が行きます。アリシア・マクリントック、いざ……!」
緊張した面持ちで、不慣れな箸を手に鍋に挑むアリシア。特別に塩分を控えめにしてもらった焼き鯖をはぐはぐと齧りながら、マリアも心配そうに彼女の背中を見守っている。
「…………これです!」
カレーのとろみを帯びたスープを滴らせてサルベージされた具材は、肉、肉、肉、キノコ、肉。
「キノコ……私達が採ってきたものみたいですね。おかしなものじゃなくてよかったです。ではいただきますね……」
はぐ。大振りなキノコに齧りついた次の瞬間、耳をつんざく断末魔が大広間に響く。
「!?!?!?」
私じゃないです、と首を横に振るアリシア。だが声の出処はどう見ても彼女だ。視線が集中する中、肉をがっつくフィーナだけが視線を手元に向けたまま告げる。
「ああそれ私が入れたやつよ! 奇声をあげるキノコ! 毒はないからへーきよへーき」
そういう問題じゃ、とアリシアが困惑したままキノコを咀嚼すれば、その度に叫ぶキノコ。
なんか親キノコが殴り込んできそうなので、その後早々にこのキノコは撤去されました。
「次は私ですね。ふふ……美味しいもの+美味しいもの=超美味しいものというのはチューリングの神託機械に頼らずとも導き出せるこの世の単純な真理なのですっ!」
ドヤ顔で胸を張るアイ。それ神託機械に頼ったほうがいいのではと江藤やアリシアが怪訝な目で見てくるが、自信満々の時のこの子はそんな視線ごときでは止まらない。
「みなさんが自信満々で投入した美味しいもの、楽しんで食べさせていただきますっ!」
箸なんて生ぬるい。俺はこのおたまで行く。そんな男気すら纏っておたまで鍋をさらうアイ。その器には、案の定というかなんというか。闇鍋の暗黒部分の煮こごりみたいなものが。
「う。見た目はアレですが美味しいに違いありません!」
アイが入れた今宇宙で流行りの宇宙食、タピオカミルクがエイリアンの卵胞みたいな形状に癒着して、その中を漂うように閉じ込められているのはエージェントたちから巻き上げたバタピーやキャラメル、あたりめやスナック菓子といったおつまみの数々。
ぶよぶよの宇宙デンプン質の中に浮かぶお菓子は、カレーの汁を纏って見た目にもグロテスクである。
「ええい、恐れても仕方ありませんっ! 覚悟を決めて、いただきますっ!」
「ねぇ、彼女大丈夫かな……」
撃沈して大広間の隅っこで灰になっているアイを心配そうにチラ見しながら、悠那は自らの器によそったカレー味の山菜と肉をつつく。
炊きたてご飯を貰ってそれと合わせれば、ちょっとしたカレーライスだ。とれたての山の幸が美味い。
もう半分につちねこシチューを掛けて合掛けにするのもいい。つちねこシチューはもとより、闇鍋も不純物が取り除かれた今では思った以上にマトモになって食べられる味なのだから、カレーがライスに合わないはずはないのだ。
「大丈夫……だと思う。猟兵は頑丈、だから」
戦闘参加者へのお酌を終え、自分のぶんの闇鍋――もうカレーでいいんじゃないかな――をよそった夜姫が戻り、二人は並んでもそもそと食事を味わう。最後の美味しいところだけ、という申し訳無さが無いわけではないが、それはそれ。彼女たちが取り戻した平和を満喫することが、遅れたことに対する最大の詫びにして礼儀だろうと思うのだ。
「なんか。妙な食感……なにこれ」
「えぇ、何引いたのさ。飲み込めないならぺってしなぺって。闇鍋だし許されるよきっと」
「ん……」
見れば捕らわれていたエージェントたちもやいのやいのと悲喜こもごもに闇鍋カレーを楽しんでいる。彼らを閉じ込めていたのはどうにもふざけた邪神だったようだが、その脅威は確かに取り除かれたのだ。こういう日常を楽しめるのは、そんな邪神と戦う猟兵たちのお陰なんだと噛み締めて、悠那と夜姫はありがたくご馳走を平らげるのだ――
その横では狼のマリアに並んでぺんぎんが鯖をつついていた。箸で。なんだこいつ……
●
「さあ風呂だ!」
かくて食事を終えた面々は露天大浴場へと移動する。鯖が盛大にぶっ壊しくさった壁はブルーシートで補強され、念の為に――これは女性陣のためでもあるが、参加者一名の脅威から護るためでも有る――男性陣を旅館従業員や女性エージェントの監視下に置いてもらった上で、一同は戦闘や登山で汚れた身体を清めるべく湯気立ち込める温泉へと踏み込んだのだ。
いい感じに湯気が首から下を真っ白に隠してくれるので、タオルの有無とかマナー的な細かいことは抜きで行こう。見えないのだから巻いてても巻いてなくてもいいじゃない。円盤買っても見えるようにはならないのであしからず。
「これが温泉……共同浴場を利用するのは初めてです」
どきどきと緊張に肩を強張らせるアリシアの背後に回るのはイデアールだ。
「クク……ならば私が色々と教えてやろう。手取り足取り……な?」
艶っぽい流し目でアリシアを誘う魔女だが、当のアリシアは純粋な感謝の眼差しで彼女を見つめ返す。
「いいんですか? 不作法があってはいけないと思っていたので助かります。色々と教えて下さいますか?」
「あ、ああ。……乳でも揉んでやるいいチャンスだと思ったが……こうも純粋な目で見られては我慢せざるを得ないな。うん……」
一方その頃、悠那は温泉の効能を記したプレートの前に立っていた。
夜空の下、電灯に照らされつやつやと光を反射するプレートには様々な効能が書かれている。
曰く、肩こりや慢性頭痛に効く。リウマチによい……どこかで見たことのあるような、何処にでもあるような効能。
「普通の温泉だなあ……まあ、こういう普通の温泉でも田舎にあるってだけで中々来れないしねぇ」
夜空と黒々とした山々を見上げる露天温泉は、都会にも温泉がある日本とはいえちょっと足を伸ばさないと入れないものだ。効能が平凡でも、この景色はここだけのもの。そう思うと中々に限定感があって心地よい。
「ふーん、美肌にも効くんだ。それから……豊胸?」
その呟きと同時に、浴場内の喧騒が一瞬で静まった。
「……いまの、わんもあ」
至巨乳業とかいう絶妙に胡散臭いラベルの牛乳瓶を片手に温泉に浸かってほかほかしていた夜姫が音もなく航行してきたかと思うと、いつになく真剣な眼差しで悠那を見上げてねだる。
「えっ……? ああ、美肌と豊胸に効くって――」
次の瞬間、猛烈な勢いでお湯を胸に掛けまくる猟兵達! フィーナが、アイが、じゃぶじゃぶとお湯を掬ってはその胸に浴びせてゆく!
鬼気迫る表情にドン引きする悠那。
「これが裸の付き合いというものなのですね。少し恥ずかしいですが、たまにはこういうのも……って、あれが作法なのでしょうか……?」
「いや違うぞ、アレはあいつらの病気みたいなものだから真似しないでいい」
「そ、そうですか……」
一方じゃぶじゃぶしまくっていたフィーナとアイのぺたん娘コンビは湯加減の調節に来た仲居さんに怒られた。
ついでに夜姫が連れてきたぺんぎんも湯船で泳いでたので怒られた。何なんだろうこのぺんぎん……
さておき、静かになった露天温泉では一同肩を寄せて集まり、戦いを振り返ったりしながら疲れを癒やしていた。
少し下品なジョークを飛ばすイデアールに、困ったような顔をしながらも真面目にトークに追従するアリシア。そんな彼女たちに牛乳を勧めながら、「なるほど、これが大富豪……」などと意味深なセリフを呟く夜姫。
会話の輪から少し離れ、日本人らしくマイペースに静かに温泉を楽しむ悠那。
そして悠那やアリシア、イデアール――ついでにいつの間にか魔法少女化して湯船に浸かっていたマリアを見てぎりぎりと歯ぎしりするフィーナと身体を湯で隠すように鼻先まで沈んでゆくアイ。
「でかいわね……」
「はい……」
片や嫉妬の炎をメラメラと燃やし、片やすでにその炎で燃え尽きたようにぶくぶくと沈みながら。
「妬ましいわ……! イデアールみたいに無駄にバカでかいのはともかく、アリシアや悠那くらいは欲しいっていうか!」
「わかります……」
その声に身体を抱くように隠すアリシアと悠那。逆にドヤ顔で見せつけてくるイデアール。
「見せるなイデアール、目に毒よ! ……なによりマリアにまで負けたって言うのがショックなのよね……!」
「……狼さんにも負けるバストって一体……」
「わふ?」
きょとんと首を傾げるマリア。賑やかな歓談の喧騒も二人のぺたん娘の嘆きも、温泉の湯気は等しく包み込む。
夜は更けてゆく――ひとときの休息の後は、また何処かで巻き起こる事件への対応で忙しくなることだろう。
けれど、それまではしっかりと骨身の芯まで染み込んだ疲れをこの暖かな湯に溶かして行ったってバチは当たるまい。
大成功
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