●弔いの音
今日、その村では墓参りをする習わしになっていた。
親を亡くした者、子を亡くした者、友人を亡くした者――弔う相手はそれぞれ異なっていたが、供える花は一様に同じ、墓地の入り口に咲く白い小花だ。
『弔いの花』とも呼ばれるその花は、月の光を浴びて少しずつ育ち、一ヶ月ほどかけてようやく咲く。風に揺れて奏でる音は鈴に似て、弔う者の言葉や思いを届けるとも言われている。
花を供える者たちは、思い思いに言葉を紡ぐ。日々のこと、これからのことを、淡々と、あるいは涙混じりに。
やがて日が傾き始めた頃、微かな鈴の音を不協和音がかき消した。
音と共に現れたのは、血にまみれた鎧を纏った騎士たちだ。彼らは不快な音を奏でながら、村人たちの間を通り抜けてゆく。
殺される、と身構えた村人の一人は、彼らが危害を加えてこないことに安堵しつつも首を捻った。
けれど次の瞬間には肌に灰色の斑点が現れ、身体が重くなってゆく。呼吸もしづらく、息苦しささえ覚える。
それは、例えるなら土の中に埋められたような感覚。
すぐには死なないと気付いて安堵するのも束の間、これがいつまで続くのかは解らない。
不協和音が遠くに聞こえる頃、村は奇病に呻く人々の声で満たされた。
●グリモアベースにて
見えた光景に、プルミエール・ラヴィンス(はじまりは・f04513)は息を呑んだ。
死者を弔う日、この来訪者は到底許されるものではない。
集った猟兵たちを見渡し、プルミエールは凛とした声で話し始める。
「お集まりいただき、ありがとうございます。今回みなさんにお願いしたいのは、とある村を襲撃するオブリビオンの群れとの戦闘です」
それも、ただのオブリビオンの群れではない。慎ましくも平和に暮らす人々を探し出して不治の病を感染させる『疫病楽団』と呼ばれている群れだ。
「今から転送すれば、楽団が現れるまでには半日くらいの猶予があります。すぐに村人を避難させて欲しいところですが、その村では年に一度のお墓参りの日だといいます。……よろしければ、お墓参りをする村人を手伝ったり、寄り添ったりしていただけないでしょうか?」
お墓参りといえ、墓を整備したい者も少なくない。特に年老いた者にとっては一苦労だろうから、猟兵の手伝いは嬉しいものになるはずだ。
弔いの花で花輪や花束を作ってあげても、喜ばれることだろう。
また、つい最近大切な人を亡くした者は食事が喉を通らないほど憔悴しているらしい。そのような者に寄り添い、少しでも安心させてあげるのもいいかもしれない。
「どのような人にどのようなお手伝いをするかは、お任せします。仕事が多くなってしまって恐縮なのですが、村人を手伝い終えたら、村の防護を固めたり、村人を逃したりする準備を同時に進めていただきたいのです」
オブリビオンの目的は不治の病を感染させること。つまり、猟兵たちを無視して村人を優先して襲う可能性が高いということだ。
「村人たちにとって平穏であったはずの日を、無事に終えられるよう……どうか、よろしくお願いします」
雨音瑛
雨音瑛です。
今回はダークセイヴァー世界にてどうぞよろしくお願いいたします。
しんみりシリアス傾向です。
●補足
猟兵が村を訪れる時間は朝6時頃です。
オブリビオンの群れが現れる時間は夜6時頃です。
墓地は、村から少し離れた丘のような場所にあります。
村に住む人々は30人ほどです。
村の敷地は、だいたい横に長い楕円形のような形をしています。楕円の左側には墓地に続く道、右側には森に続く道があります。どちらの道も簡単な金属製の門が設置されていますが、オブリビオン相手にはあまり意味がないものです。
第1章 日常
『見送る鈴花』
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POW : 墓の整備などを手伝う。
SPD : 無数の花で花環や花束を作る。
WIZ : 弔うひとに静かに寄り添う。
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比良坂・美鶴
【WIZ】
死者に寄り添える時間は大事よ
守ってあげなきゃね
猟兵として そしておくりびととして
コップ一杯の水と涙を拭うハンカチを持って
死者を弔う人の哀しみに寄り添いましょう
貴方も大切な人を喪ってしまったのですね
私もとても大事な人を喪ったことがあります
生きている以上
どのような形であれ別れはある
分かってはいても
理解はできても やはり辛いものです
今はまだその哀しみからは
抜け出せないでしょう
それでもいい
その哀しみを忘れる必要はないのです
ただ いつか
故人との思い出を胸に
貴方が歩いていけるようになれば
きっと先逝く人も報われるでしょう
思い出を大事にして下さい
死んでしまった彼らは
思い出の中でしか生きられないから
墓の前で膝を突く若者に、比良坂・美鶴は水の入ったコップとハンカチを差し出した。美鶴の蒼白い貌に、若者は少し驚いたように目を見開いている。が、それも失礼だと思ったのだろう、おずおずと差し出された優しさに手を伸ばした。
見ず知らずの者から向けられる優しさに、人は無防備だ。
若者の瞳が滲むのを見て、美鶴はゆっくりと頷く。
「貴方も大切な人を喪ってしまったのですね」
「……はい、」
誰を亡くしたのか言おうとして息を詰まらせる若者を、美鶴は首を振って制する。言葉にするのが辛いのなら、無理にする必要はない、とでも言うように。
美鶴は若者の隣にしゃがみこみ、よく手入れされた墓を見る。
「私もとても大事な人を喪ったことがあります」
「あなた、も?」
「ええ。……生きている以上、どのような形であれ別れはある。分かってはいても、理解はできても……やはり辛いものです。今はまだその哀しみからは抜け出せないでしょう。それでもいい、その哀しみを忘れる必要はないのです」
若者が、ハンカチでおもむろに涙を拭い始めた。美鶴はただ、その動作が終わるのを待つ。
そうして若者が少し恥ずかしそうに笑ったのを見て、美鶴も僅かに笑みを向けた。
猟兵として、おくりびととして死者に寄り添える時間を守るため、美鶴はこの墓地に訪れたのだ。
「ただ、いつか。故人との思い出を胸に、貴方が歩いていけるようになれば。……きっと先逝く人も報われるでしょう」
だから、と美鶴は若者を、次いで墓を見た。
「思い出を大事にして下さい。死んでしまった彼らは――思い出の中でしか生きられないから」
若者に言うように、あるいは自身に言い聞かせるように。
ほんの微かな、鈴のような音色が何度か聞こえてくるまで。
美鶴は、誰かの大切だった人に祈りを捧げた。
成功
🔵🔵🔴
紫谷・康行
大切な人を亡くした人のところに行って親身に話を聞く
気持ちを貯め込むのは辛い事だ
話を聞いてあげると言うことは心を軽くするだろう
まずは落ち着いて相手の話に肯きながら話を聞いてあげよう
俺も昔、助けられなかった女の子がいたから
何か共感出来ることや話してあげられることもあるかもしれない
気持ちをわかってあげたい
そこにあったはずのものが無いということは、心が半分になったようなものだから
気持ちが湧き上がるものでなく、気持ちそのものが無くなってしまったようなものだから
大切な人がそこにいたことを、話を聞く人がそこにいることをゆっくりと肯定してあげようと思う
「あなたはとても幸せな時間を過ごせたんですね。」
滅び行く世界で魔法と出会った男は、此度の仕事で妹を亡くしたという女に出会った。
「俺でよかったら、話、聞きますよ」
気持ちをため込むのは辛いことだと、紫谷・康行はよく理解している。誰かに話を聞いてもらうことで、心が軽くなるであろうこともわかっている。
そんな康行の雰囲気は不思議と温かく感じられたようで、女はどこか安心した様子で口を開いた。
「それじゃ、聞いてもらおうかな。妹はついこの前17歳になってね、私とは8歳離れてるんだけど、あっ、でも両親はもういなくて……」
涙混じりの言葉は危うく、現在と過去を行き来しながら断片的に語られる。
それでも康行は肯き、ただ女の話に耳を傾けている。
「妹には、よく物語を聞かせてあげていたの。そのせいかお話が好きな子でね、お姉ちゃん、物語つくって聞かせて、ってしょっちゅう言ってきて……」
言葉に詰まる女に、康行は安心させるように笑みを向けた。
「ゆっくりで大丈夫ですよ。言うのが辛いことがあれば、言葉にしなくても構いませんから」
そう語りかける康行の脳裏で、ひとつの記憶が少しだけ再生される。
「俺も、昔助けられなかった女の子がいるんです」
そこにあったはずのものが無いということは、心が半分になったようなもの。気持ちが湧き上がるものでなく、気持ちそのものが無くなってしまったようなもの。
康行に共感するものを感じたのか、女は妹の死因を語り始める。
「……そう。あなたも……あのね、妹は崖から落ちて亡くなったの。ナイフで指を切った私に、いい薬草があるからって、一人で雨の日に……」
沈黙の後、女は無理矢理笑顔を浮かべた。
「そうそう! この前の誕生日なんて、新しい物語をプレゼントしてって……それじゃとびっきりのを、って思ってね。ふふ、3日ほど徹夜しちゃったわ」
苦笑する女は続ける。それがどんな物語であったのか、物語を聞き終えた妹がどれほど喜んでくれたか。
妹との思い出を話し終えた女に、康行はいっそう優しく微笑みかけた。
「あなたはとても幸せな時間を過ごせたんですね」
女の目から、大粒の涙が零れる。
「……ああ、そっか……私、妹と過ごせて幸せだったんだ」
涙は拭わずそのままに、ありがとうと何度も康行に礼を述べながら。
女は、穏やかな笑顔を浮かべていた。
大成功
🔵🔵🔵
彼岸花・司狼
こんな理不尽な世界でも死者を悼めるのなら、きっと剣を振るう価値はある
…ヒトを理解するのは、苦手なんだ。
でも力仕事なら、手伝えるからさ
【聞き耳】で補助が必要そうな場所の手伝いに、
単純に力が必要なところは【怪力】と【念動力】で、
磨くだけ等なら普通に手伝いを申し入れる。
既に墓の下にいる人たちのことは知らないが、
この世界でも、終わったあとにも、振り返られるのであれば、
ソレはきっと幸せなことだろう。なんて
「手伝おうか?」
傾きかけた墓石に向かう老婆に、彼岸花・司狼は声をかけた。聞き耳を立てていたところ、困ったねえ、と呟く声が聞こえたからだ。
「いいのかい? それじゃ、この石を真っ直ぐにしてくれないかい?」
「わかった、これを真っ直ぐにすればいいんだな」
復唱し、墓石の前に立つ。怪力と念動力を発揮すれば、片側に沈みかけた墓石を持ち上げるのは司狼にとって容易いことだ。
ヒトを理解するのは苦手な司狼ではあるが、力仕事なら躊躇無く手伝いを申し出られる。
「まあまあ、ありがたいねえ。これで綺麗に磨けそうだよ」
そう言って掃除用具を広げる老婆の肩を、司狼はぽんと叩いた。
「貸しなよ、掃除も手伝うから」
「悪いねえ、とても助かるよ。お礼に対したことはできないのが申し訳ないねえ……」
「礼なんて要らないよ、一人じゃ大変だろ?」
老婆とともに墓石を磨く司狼は、こともなげに返す。
「本当に助かったよ、ありがとうねえ」
苔を落とす司狼に、老婆はにこにこと話しかける。
この墓石の下に眠る者は、老婆の夫だった者だろうか。いずれにせよ司狼の知らない人であるのは確かだが、終わった後にも振り返られるのであれば、それはきっと――。
「幸せなことだろうな」
「ん? 何か言ったかい?」
「いや、何も。それより、そっちは大丈夫か? こっちは大体終わったし、まだ手伝えるぜ」
「あらあら、すごいのねえ。それじゃお言葉に甘えて、もう少し手伝ってもらっちゃおうかしら」
当初の遠慮はどこへやら、老婆はどこか楽しそうに司狼を招き、手伝いを頼む。
掃除が終わったところで老婆は白い小花を供え、司狼へと何度も頭を下げた。
老婆が笑顔である理由は、司狼には解らない。
けれど、こんな理不尽な世界でも死者を悼めるのなら、司狼が剣を振るう価値はあるのだろう。
成功
🔵🔵🔴
葦野・詞波
死病か。厄介なことだ。
人狼の私も病人のようなものだが
そう簡単には感染らないだけマシか。
年に一度の弔いの日、邪魔をさせる訳には
行かない――といいたいところだが。
その前に無事弔いを成功させる必要がありそうだ。
聞けば、食事が喉を通らない者もいるらしい。
無理もないが、年に一度の弔いの日
無理に前向きになるようには言わず
話や悩みを聞く姿勢で
時間をかけてもいつかは
乗り越えなければならないことだ、と諭す
弔われる側もそんな姿を見ては
安心して逝くこともできないだろう。
一時の虚勢でも良い。
大丈夫だ、という姿を見せてやるといい。
後は、時間が解決してくれる。
成人なら一本喫うか、と
子供なら少し甘やかし飴玉や菓子の類を
この村を訪れるという『疫病楽団』が振りまく死病は、厄介なことこの上ない。
(「人狼の私も病人のようなものだが、そう簡単には感染らないだけマシか」)
「赤頭巾」と呼ばれる一族の娘は、墓地を見渡してため息をついた。
邪魔をさせるわけにはいかないのは勿論、まずは村人たちが弔いを無事に終えられるようにと葦野・詞波は歩み始めた。
やがて詞波が足を止めたのは、年端もいかない子どもがうずくまる場所であった。
「親、か?」
墓石と子どもを交互に見て、詞波は問う。数秒の沈黙の後、子どもは口を開いた。
「ぼくのお父さん。病気で、おととい亡くなったの」
「……そうか。何か、困っていることはないか?」
衣服の隙間から覗く細った手首に視線を落としながら、詞波は子どもと目線を合わせる。
「お母さんや村の人は優しくしてくれるけど……さみしいんだ。とっても」
子どもは語る。父親が、いつも時間を作って遊んでくれたこと。こんな暗い世界でも、いつも冗談を言って周りの人や自分を笑わせてくれたこと。困っている人がいたら、率先して手伝っていたこと。
「なるほど、自慢の父親だったんだな」
「うん、自慢のお父さんだった! ……でも、お父さんは、もう……」
子どもは目を輝かせたが、すぐに俯いて涙ぐんだ。
けれど無理に励ますことはしない詞波だ。花の瞳を瞬かせ、ゆっくりと子どもに告げる。
「――時間をかけても、いつかは乗り越えなければならないことだ」
ぽろぽろと涙をこぼす子どもを撫で、詞波は続ける。
「弔われる側もそんな姿を見ては安心して逝くこともできないだろう。一時の虚勢でも良い。大丈夫だ、という姿を見せてやるといい」
「ほんと? それで、お父さんは安心してくれる?」
「ああ、本当だ。後は、時間が解決してくれる」
言われ、子どもは覚悟を決めるように立ち上がり、唇を噛んだ。そうしてお墓を見て空を見上げ、大きく手を振る。
「お父さん! ぼくは! だいじょうぶ!!」
無理矢理絞り出した声は掠れていたけれど、彼の顔にはどこか誇らしい笑みが浮かんでいた。
「……ふしぎ、ちょっと元気出てきたかもしれない」
「だろう?」
くすりと笑い、詞波は子どもの掌に飴玉を落とした。
大成功
🔵🔵🔵
雨糸・咲
大切な相手を亡くした方のお話を聞き、多少なりとも力になれればと
【コミュ力】が役に立つでしょうか
そうして嘆き悲しんでくれる方がいるのは、きっと悪いことではないのです
生きた意味が、証があったということなのだと思います
…でも、
あなたがその方を大切に想うように、その方もあなたを大切に想っていらっしゃるのじゃありません?
だから、哀しみのあまりに命を磨り減らしては、亡くなった方もお辛いのでは、と
沢山泣いたら、前を向いて
逝ったひとを安心させることも大切だと思いますよ
お手伝いを終えたら、避難の準備を
【聞き耳】と【第六感】で周囲に気を配りつつ
足が悪い方の【救助活動】等も積極的に
※アドリブ、他の方との絡み歓迎です
アルバ・ファルチェ
(絡み・アドリブ歓迎)
《POW》使用。
人のためになることこそ騎士としてもクレリックとしても本懐。
僕に出来ることがあれば何でもお手伝いするよ。
主にはお年寄りや女性が困っていそうな力仕事のお手伝いかな。
【礼儀作法】を忘れず、【コミュ力】も少しはあるから何かお手伝いすることはありませんかって聞いてみよう。
自分の手でやりたいっていう人も居るだろうから押しつけがましくならないよう、サポートしていくよ。
もしそれ以外にも出来ることがあれば…例えば調子が悪い人を【医術】で診るとか、時間の許す限り色んなお墓に【祈り】を捧げるとか出来たらいいな。
大切な人との語らいの時間を邪魔させたりはしないんだから。
生浦・栴
・POW
重い物は任せて貰えぬか
力仕事は向かぬがご老体よりはスムーズであろう
この後の希望も教えて欲しい
ん、俺か?
住居から遠い上に入り辛い墓所があってな
無沙汰をしておる後ろめたさから人を手伝っておるのだよ
十分すぎるほど愛されていた人ゆえ寂しがらぬと思うが
心配は掛けておるやもしれぬ
ご老人の話は、聞いても?
頃合いを見て本題へ
突然だが村人たちが暫し隠れるに適した場所はなかろうか
聞いた事はないだろうか、病を振りまく騎士の集団を
俺達はそれを追っているのだが、夕刻にはこの村を通りそうなのだ
問われれば簡潔な説明を添え、通り過ぎるまでの避難を請う
支度は手伝おう
終われば迎えにも行く
任せては貰えぬか
絡み、アドリブ歓迎
ジャックジャレッド・ジャンセン
大切な想いを偲ぶひととき、必ずや守り援けてみせよう 。
【WIZ】
弔いびとに接する際は礼節を以て。
常日頃囁く不平不満を差し向けるべきは、恥も情も露知らぬ骸の海の残滓ゆえ。
神の御業を顕現させる力持つ一身として、癒すこと叶わぬ迄も慰め労い受け止めて、凍てる心の封印を解き安らがせてやろう。
精神的な支えを亡したならば如何なる者も苦しかろうが、年老いた者等は殊更に。
長らくの連合いにせよ慈しんだ子にせよ、計り知れぬ悲哀と喪失感を僅かも埋むには限り有る時間だけでは到底満たされまい。
繰言も泣言も私が聴いて差し上げるゆえ、存分に偲ばれるが良い。
故人の魂の安穏が永劫に妨げられぬよう共に祈らせて頂く。
*応用、連携歓迎
常日頃の不平不満を差し向けるべきは、恥も情も露知らぬ骸の海、その残滓であるべきだ。
ジャックジャレッド・ジャンセンは寂しそうに花を手向ける老婆へとそっと歩み寄り、まずは頭を下げた。
「失礼、今し方花を手向けた相手はご主人だろうか?」
「ええ……そうよ。つい一週間前に亡くなってね……」
そう告げる老婆の声は、弱々しいものであった。ジャックジャレッドは丁寧に、ゆっくりと頭を下げる。
「少し、ご主人の話を伺っても良いだろうか? 無論、話したくなければ構わない」
「……そうね。子どももいないし、他に家族もいないし……お兄さんに聞いてもらおうかしら」
ジャックジャレッドとて、神の御業を顕現させる力持つ身だ。癒すことが叶わないまでも、彼の者を慰め、労り、受け止めることなど造作も無い。
「うちの人はね、お兄さんほどじゃないけど、とってもかっこよくて……とっても、優しくて、ね。私なんかには勿体ない人だったわ」
目尻の涙を指先で拭いながら、老婆は続ける。
精神的な支えを亡くすというのは、誰であろうと苦しいことだ。それは年老いた者であれば殊更だと、ジャックジャレッドは理解しているのだ。
「連れ添った時間はとっても長かったような、今になってみれば短かかったような気もするの。豊かな暮らしなんて到底できなかったけれど、美味しい野草を見つけた時は二人一緒に喜んだりしてね。ご馳走だ、って」
老婆の視線が、懐かしむように墓石に向けられる。
「ご、ごめんなさいね、話が長くて、それに泣いてばっかりで! あの人にも言われたの『俺はお前の話はいくらでも聞いてやれるが、他の奴に要求するじゃないぞ、結構長いからな、お前の話』って……ふう……私もあの人ももう歳だから、覚悟してたんだけどねえ……」
「構わぬ。繰言も泣言も私が聴いて差し上げるゆえ、存分に偲ばれるが良い」
老婆の悲哀と喪失感は、計り知れない。それを僅かでも埋めて満たすには、限り有る時間というのは無力なものだ。
夫との思い出を語り終えた老婆に、ジャックジャレッドは再び頭を下げる。
「――共に、祈らせて頂いても良いだろうか?」
「もちろんよ。あの人も、きっと喜んでくれるわ。何て言ったって、私の長い話を聞いてくれたんだから」
老婆はジャックジャレッドに可愛らしい笑みを向けた後、胸者と手を組み、祈りを捧げ始めた。
故人の魂の安穏が永劫に妨げられぬようにと、ジャックジャレッドも老婆の隣でそっと目を閉じたのだった。
微かな鈴の音が、話し声や鳴き声の合間に聞こえる。
その不思議な音に時折聞き入っていた雨糸・咲は、花を手にしたまま一歩も動けないでいる女性を見つけた。
年の頃は20になったばかりだろうか、まだあどけなさが残る顔つきをしている。
光を失ったように淀む瞳からは止めどなく涙が溢れ、しかし声ひとつ立てずに墓石を注視しているその様子は、尋常ではなかった。目の下には隈も見え、まともに睡眠も取れていないのだろう。
「そうして嘆き悲しんでくれる方がいるのは、きっと悪いことではないのです」
咲がそう話しかけると、女がゆっくりと息を吐く音が聞こえた。
「生きた意味が、証があったということなのだと思います」
咲は女の反応を待つ。言葉こそないが、コミュ力のおかげだろうか、彼女がしっかりと聞いてくれているのが伝わってくる。
でも、と続ける咲の言葉に、女は身を固くした。
「あなたがその方を大切に想うように、その方もあなたを大切に想っていらっしゃるのじゃありません? だから、哀しみのあまりに命を磨り減らしては、亡くなった方もお辛いのでは」
二人の間には、ただ緩やかな風だけが吹く。
「沢山泣いたら、前を向いて……逝ったひとを安心させることも大切だと思いますよ」
胡桃色の静かな瞳は、優しく墓石を見つめている。
緩く波打つ群青の髪も含め、咲の見目はとても柔い。けれど言葉に通った思いと芯はとても確かなものであったから、女はゆっくりと一歩を踏み出した。
そうして一歩、また一歩。墓石の前にたどり着いた女性はかがみ、花を供えた。
振り返って咲へと向けた視線はとても穏やかであったから、咲もまた笑みを向ける。
すると、アルバ・ファルチェが片目を閉じて咲へと合図を送るのが見えた。「あとは任せて」と唇だけが動くのを見て、咲はこくりと頷く。
そのまま村へ戻ろうとする女の肩を、アルバが軽く叩いた。
「お姉さん、あんまり眠れてないでしょ? 大丈夫?」
「大丈夫か大丈夫じゃ無いかって言ったら、大丈夫じゃない、かな……? でもまあ、3日も」
「こう見えて、医術の心得があるんだ。お姉さんがよかったら、よく眠れるお茶くらいは作れるかもしれないんだけど……どうかな?」
首を傾げ、紫の瞳で女性を見つめるアルバ。人狼の耳がぴこんと動く様は、いっそ愛嬌すらある。
「……今日はとっても親切な人が多いのね。うん、折角だし、お願いしようかな」
「辛いときは甘えるのが一番だからね。それじゃ、ちょっと家まで案内してもらっていいかな?」
「ええ、もちろん」
村へ戻って安眠効果のあるハーブティーに似たお茶を調合した後、アルバは再び墓地に戻って手伝いをして回る。
花を供える場所が崩れていて困っている老婆を助けたり、墓を掃除するための水を運ぶ少女を手伝ったり。もちろん、どうしても自分でやりたい、という場合には意図を汲み、怪我をしないよう気をつけて見ていてあげたり。
そうしたアルバの行動は礼儀作法に則っていることもあり、特に年配の者にとても喜ばれた。
「私、あの子に助けて貰ったのよ」
「まあ、あなたも? うふふ、実は私も」
手助けした者の顔に時折笑顔が灯るのを見て、アルバもまた無邪気な笑みを返す。
騎士でありクレリックでもあるアルバだから、人のためになることこそ本懐としている。
あらかた手伝いを追えた後は訪問者のない墓に祈りを捧げつつ、アルバは墓地を見渡した。
「大切な人との語らいの時間を邪魔させたりはしないんだから」
「ああ。大切な想いを偲ぶひとときだ、必ずや守り援けてみせよう」
誓うように呟くアルバに、同じく訪う者のない墓に花を供えるジャックジャレッドが頷いた。
生浦・栴も重い鞄を運ぶ老人を見つけ、代わりに運んでいる。聞けば、故人の好物であった食べ物が入っているのだとか。
「ふむ、好物か。故人も喜ぶことだろう。そうそう、この後の希望も教えて欲しい」
「供える前に、墓の掃除が出来たらと思っているんだよ。ところで、君の方はお墓参りをしなくてもいいのかい?」
「住居から遠い上に入り辛い墓所があってな。無沙汰をしておる後ろめたさから人を手伝っておるのだよ」
「ほう、そうなのかい!」
年齢の割に達観した栴の態度に、老人は感心したように笑った。
「十分すぎるほど愛されていた人ゆえ寂しがらぬと思うが、心配は掛けておるやもしれぬ。――ご老人の話は、聞いても?」
「……聞いてくれるのかい? ――去年、妻を……亡くしてね」
老人の声量が、少しばかり小さくなる。どことなく寂しそうに空を見上げて続けられて話によると、老人の妻は老衰で亡くなったらしい。それでもなかなかに幸せな最後であったようで、老人の口調は終始穏やかであった。
「何せこんな世界だからね、最期に一緒にいられただけでも良かった、って。妻は、笑顔で逝ったよ」
「奥方も幸せだっただろう。ところでその、好物というのは?」
やけに重い鞄をちらりと見て、栴が問いかける。
「ああ、重いものを持たせて済まないね。お菓子……といえるかどうかは解らないけれど、甘いパンのようなものだよ。ありものだけで作ったものでね、いつも試行錯誤しながら作っていたんだ。妻も自分で作れるのに『あなたの作ったものの方が絶対に美味しい』なんて言われて、いつも私が作っていてね……」
どこか嬉しそうに思い出を語る老人の歩調に合わせて歩きながら、栴はしっかりと彼の話し相手を務めた。相槌を打つだけでなく、老人が語りたそうにしている場合はさりげなく質問も交え、快く話せるように気を配りながら。
墓のたどり着いた後は、掃除を終えて故人の好物を供える。祈りの時間の後は、栴は真剣な眼差しで老人へと向き直った。
「突然だが、村人たちが暫し隠れるに適した場所はなかろうか」
唐突な問いに、老人は驚いたように目を見開く。
「何かが起こるのかい?」
「聞いた事はないだろうか、病を振りまく騎士の集団を。俺達はそれを追っているのだが、夕刻にはこの村を通りそうなのだ」
「なんと……それは本当なのかい?」
「支度は手伝おう、終われば迎えにも行く。任せては貰えぬか」
栴の真摯な物言いに、老人はしばし考え込むようにうつむいた。
やがて顔を上げた老人は、ひとつの場所を示す。
「その楽団のことは知らないが、隠れる場所なら……今は使われていない大きな協会が森の中にあるから、そこに隠れるのが一番だと思うよ」
「私も避難を手伝います。足が悪い方がいらっしゃいましたら、お任せください」
咲も進み出て、墓参りを終えた人の避難を進めてゆく。
避難を進める中、耳を澄まし、第六感で周囲にも気を配る咲は、不意に頬を撫でた生ぬるい風にどことなく不吉な気配を感じた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エンジ・カラカ
墓、墓、ダレの墓?
アァ……今日はそういう日カ。
花の輪、花冠は作ったことあるンだ。中々難しい。
コノ花の輪をダレにあげよう。誰も祈らないキミにあげよう。
どーしてだーれもいないのー?
死人に口無し、本人は答えてくれないケド
コレが花を手向けようカ。
誰かサン誰かサン。今日はイイ日だなァ……。
こーんなにもヒトがいるんだ。
みーんな優しいネェ。
誰かサン誰かサン。今日はイイ日になりそうカ?
コレはいつだってイイ日なンだ。
相棒の拷問器具、賢い君を傍らに墓に話しかける。
アァ……そうサ。いつだってイイ日。
誰かサン誰かサン、おやすみおやすみ。
楽しい夢を。
「アァ……今日はそういう日カ」
ひとりそんな言葉を零し、エンジ・カラカは生者と死者の間を歩んでいた。一歩を踏み出す度に黒い髪が揺れ、金の瞳は咲き誇る白い小花を見つける。
エンジは必要な分だけ白い小花を摘み、花の輪を作り始めた。花の輪と花冠を作った経験があるエンジだ、指先で花たちを絡ませ、器用に輪の形を作り上げてゆく。
けれど小花の茎は細く、花も儚い。なかなか難しいと呟きながらも、エンジは不思議と楽しそうであった。
さて、出来上がった花の輪を誰にあげようか。
悩む間にも時間は過ぎ、村人がひとり、また一人と花や供物を供えてゆく。
そんな中で誰もが通り過ぎる墓をひとつ見つけたから、エンジは思わず歩み寄り、かがみこんで首を傾げた。
「どーしてだーれもいないのー?」
けれど死人に口無し、土の下で眠る者が誰かも解らない。
この花の輪を、誰も祈らないキミに。
そう言って、エンジはそっと花の輪を乗せた。
「誰かサン誰かサン。今日はイイ日だなァ……。こーんなにもヒトがいるんだ」
墓の隣に座り込みながら、エンジは語りかける。相棒である拷問器具、賢い君を傍らに、名も知らぬ誰かの墓へと。
「みーんな優しいネェ。誰かサン誰かサン。今日はイイ日になりそうカ?」
返答が無いのは解っていても、何故か答えが聞こえてきそうな気がして、数秒待つ。
いっそ小花が奏でる鈴の音を返答として、エンジは小さく笑った。
「アァ……そうサ。いつだってイイ日。コレはいつだってイイ日なンだ」
だから、とエンジは相棒を抱えて立ち上がり。
「誰かサン誰かサン、おやすみおやすみ。楽しい夢を」
ひらり手を振って、賢い君と共に墓を後にした。
成功
🔵🔵🔴
リーヴァルディ・カーライル
【Wiz】で行動
墓前で嘆いている人がいれば
礼儀作法に則り祈りを捧げた後、話をしてみる
…ん。本当に大切な人だったのね…。
こんな世界だもの…。直接、間接問わず犠牲になった人は沢山いる。
だから大事な人を失って嘆き悲しむ気持ちは理解できる。
…だけど、悲しんでばかりでは、死に囚われては駄目
死んでいった人の遺志を…想いを受け継いで生きる。
そうして背負った想いを、いつか誰かに託す為に…。
それが彼らの魂の安息に繋がると思うから…。
…貴方にもあるはず…気付いていないかもしれないけど。
死んでいった人から託された遺志が…背負った想いが…何か。
…後は敵が来る前に村人達を【常夜の鍵】に避難するように促そう。
リーヴァルディ・カーライルは、悲痛な顔で嘆く青年の隣に佇み、祈りを捧げた。一連の所作は礼儀作法に則ったものであったから青年は安心したのだろう、リーヴァルディへと深く頭を下げる。
「……ありがとうございます。きっと、喜んでると思います。彼女、人と知り合うのがとても好きだったので……誰にでもお茶しよう、って誘うような人だったんですよ……」
「……ん。本当に大切な人だったのね……」
「ええ。……恋人だったんです」
そう、とリーヴァルディは紫の瞳を伏せた。
闇に覆われたこんな世界だ、直接的にも間接的にも、犠牲になった人は沢山いる。だから、退治名人を失って嘆き悲しむ気持ちを、リーヴァルディは充分理解できる。
「……だけど、悲しんでばかりでは、死に囚われては駄目」
「はい……わかっては、いるんですけど……はは、どうも、駄目ですね」
顔を歪めて無理に笑う青年は、明らかに無理をしていた。
気付いていないふりをしながら、リーヴァルディは続ける。
「死んでいった人の遺志を……想いを受け継いで生きる。そうして背負った想いを、いつか誰かに託す為に……。それが彼らの魂の安息に繋がると思うから……」
「想い……彼女の……」
そう、とリーヴァルディがうなずく。
「……貴方にもあるはず……気付いていないかもしれないけど。死んでいった人から託された遺志が……背負った想いが……何か」
考え込む青年の目からは涙が滴り落ちてゆく。しかし最初に出会った時のような悲痛さはなりをひそめ、いっそ決意に似た何かを滲ませていた。
彼はもう、大丈夫だろう。そう判断したリーヴァルディは、次の仕事へと移る。
すなわち、村人の避難だ。
疫病楽団が訪れることは他の猟兵が既に説明していたため、避難を促すのは大して難しくなかった。
リーヴァルディはすぐさま自身の血液で魔法陣を作成し、村人に触れさせる。優先するのは、移動に時間のかかる者だ。魔法陣に触れた者はとたんに消えるが、心配することはない。常夜の世界の古城に匿われているのだ。
「……嫌な気配……急がないと」
夜と闇に覆われた世界で、時間の経過を認識するのはなかなかに厄介だ。
村人を避難させながら、リーヴァルディはただならぬ気配をひしひしと感じていた。
大成功
🔵🔵🔵
逢坂・宵
……半年に一度の墓参の日、ですか
墓を建て、亡き人を想い、弔うのは、
実は亡き人ではなく生きている人のために行うことだと、
僕は以前の主人から聞きました
そう……気持ちに区切りをつけ、
つけられなくても亡き人を想うことで心の安寧を希い、
そうしてまた明日へと一歩進んでいくために、
この行為はヒトにとって必要不可欠なものなのでしょう
お年寄りのお手を取ってともに連れ立って歩いたり、
荷物持ちとして行動しましょう
必要ならば、彼らの話を黙って聞きながら頷いてあげられたら
僕にできることはこれくらいですから
弔いの花……美しいですね
これで、墓花などを仕立ててみせましょう
気に入ってくださるとよいのですが
片足を引きずりつつ杖をついて歩く老婆を、ひとりの青年が呼び止めた。
「一人でお墓参りをするのも大変でしょう。よろしければ、お手伝いさせていただきたいのです。向かう場所はどちらですか?」
どこか人を安心させる笑みを浮かべる青年の名は、逢坂・宵。彼が旧き天図盤のヤドリガミだとは、老婆には思いも寄らないことだろう。
「ありがとうございます、とても助かります。こんな身体ですし、行って帰ってくるだけでも疲れてしまうので……」
老婆の宵は老婆の手を取り、歩調を合わせて共に歩む。
「――よろしければ、そちらの荷物もお持ちしますよ」
「何から何まで、ありがとうございます。……あら、いけない」
不意に老婆の目から涙が落ち、足元の土を濡らした。
「ごめんなさい、何だか思い出してしまって。……その、おじいさんが生きていた時のことを」
構いませんよ、と視線で語り、宵は老婆が再び話し始めるのを待つ。
墓を建て、亡き人を想い、弔うのは、実は亡き人ではなく生きている人のために行うこと。宵は、以前の主人からそう聞いたことがある。
何かと老婆のことを気遣ってくれたという「おじいさん」の話に、宵はただ黙って相槌を打ち、聞き入る。
「おじいさん」の墓の前で足を止めた老婆は、申し訳なさそうに宵を見上げた。
「頼ってばかりで申し訳ないのですが……そこに咲く白い花をひとつ、摘んでもらえますか? あまり指先に力が入らないんです」
「もちろんです。こちらの花ですね? ……美しいですね。そうだ、少しお待ちいただけますか?」
もう一つ、二つ摘んで、さらには他の草花も利用して。
宵の手元で、白い花の美しさを際立たせる墓花が仕上がってゆく。
「お待たせしました、こちらをどうぞ」
「まあ……綺麗に作ってもらって、ありがとうございます。きっとおじいさんも喜んでくれます」
墓花を受け取った老婆は宵に頭を下げ、ゆっくりと墓前に備えた。
気持ちに区切りをつけ、あるいはつけられなくても亡き人を想うことで心の安寧を希う。その行為は、また明日へと一歩進むために、ヒトにとって必要不可欠なものなのだろう。
目を瞑りながら穏やかな笑みを浮かべる老婆を、宵は静かに見守っていた。
成功
🔵🔵🔴
ユエ・ウニ
……話を聞いたのも何かの縁だ。
僕にも何か手伝える事があるだろう。
もし思い出の品物が壊れたりしているのなら、それの修理や修繕をしようか。
手先は器用なんだ。玩具や時計なんかなら僕が直すさ。
「随分と古いな。でも、大切にしてたんだろう?」
それ位見ればわかる。
思い出を語る奴がいるのなら、作業をしながら静かに聞こう。
人間を慰める気は無いが、……聞いて寄り添う位なら。
持ち主の幸せを願う物は多いからな、君と持ち主の幸せを願いながら作業を。
【祈り】は無いよりあった方が良いだろう。
「礼は要らないが、この村の近くで隠れたりするのに丁度良い場所を知っていれば教えてくれ」
備えあれば憂いなし。聞いておいて損はないだろう。
グリモアベースで話を聞いたのも何かの縁、懐中時計のヤドリガミであるユエ・ウニは村の墓地を訪れた。
墓参りをする人々の中、ユエの目を惹いたのは腕の取れかけたぬいぐるみを抱きしめている女の子。年の頃は10、あたりだろうか。
「随分と古いな。でも、大切にしてたんだろう?」
不意になげかけられたユエの問いに、女の子は首を縦に振った。小さな人形屋の主人をしているユエにとって、玩具の状態を判断するのは容易いことだ。
「修理、しようか。得意なんだ」
女の子は、思わぬ申し出にぬいぐるみを、次いで父親の顔を見る。
いいんですかと驚く父に、ユエは二つ返事で快諾した。
「ありがとうございます。私には洗ってやるくらいしかできなくて……」
「この子、ミミっていうの」
父親が申し訳なさそうに告げる中、女の子はぬいぐるみをユエへと差し出す。
糸と針、それと裁縫用の鋏を取り出し、ユエはまず解れた糸を切断した。
普段から主無き同胞や朽ちかけた同胞を修繕し、飾り立てているユエの手つきを、女の子はきらきらした目で見つめている。
「おめめね、右はお母さん、左はわたしが選んだの」
女の子の母親は、墓石の下にいるのだろう。ユエは事情を察しながらも、特段慰めるようなことはしない。けれど、女の子の話を静かに、確かに聞いていた。
器用な母親の最後の作品であるというミミは、やはり女の子の幸せを願って作られたものらしい。だからユエもミミと女の子の幸せを願い、祈りながら修繕を進める。
最期に腕を縫い止めて、ユエはぬいぐるみを少女へと手渡した。
「お兄ちゃん、ありがとう! ミミも、良かったね!」
女の子が笑顔でミミを抱きしめると、父親は嬉しそうに彼女の頭を撫でながらユエへと頭を下げた。
「ぜひ、お礼を……」
「礼は要らないが、この村の近くで隠れたりするのに丁度良い場所を知っていれば教えてくれ」
「ええと……近くに使われていない教会があります。道もほとんど消えているので、隠れるには最適だと思いますよ。けど、どうして?」
ユエは答える。疫病楽団の訪れと、彼らが撒き散らす不治の病のことを。そして、教会へ避難して欲しいということを。
「……そうでしたか。重ね重ね、ご配慮ありがとうございます」
父親は再び深く頭を下げ、女の子とともに墓に花を供えた。祈りを捧げた後は、村人にも声をかけながら、足早に墓地を後にする。
手を振る女の子を見送り、ユエは生者の去った墓地を見渡した。
何となしに耳を澄ませば、白い小花の奏でる音だけが聞こえてきた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『朱殷の隷属戦士』
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POW : 慟哭のフレイル
【闇の力と血が染付いたフレイル】が命中した対象に対し、高威力高命中の【血から滲み出る、心に直接響く犠牲者の慟哭】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 血濡れの盾刃
【表面に棘を備えた盾を前面に構えての突進】による素早い一撃を放つ。また、【盾以外の武器を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 裏切りの弾丸
【マスケット銃より放った魔を封じる銀の弾丸】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑11
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生ぬるい風に乗って聞こえてくる音楽が、「弔いの花」のかそけき音色をかき消す。
決して心地よい音楽ではない。むしろ不快で不愉快で、不安を煽るようなものだ。
徐々に、しかし確実に村へと近付いて来る音楽を奏でるのは『疫病楽団』。
不快な音を奏でながら、不治の病を撒き散らすオブリビオンだ。
「……村まで、間もなくだ。もう音が聞こえている頃だろうな」
「ふん、今さら逃げ出しても遅いさ」
音を奏でつつ短い会話を交わす彼らは、まだ知らない。
村に住まう人々は、既に避難を終えているということを。
紫谷・康行
守るべきは小さな営みだ
普通の人々こそが世界を豊かにする
少しずつ助けていけばいい
諦めずに続ければいい
相手が音を出しながら近づいてくるなら
物陰に隠れながら静かに迎え撃てばいい
地の利はこちらにある
上手く立ち回り被害を押さえながら戦いたい
【イーゴーの見えざる刃】を使い戦う
村の地図を頭に入れ
民家や物陰に潜み
小声で詠唱して相手を倒していく
攻撃後は見つからないように場所を変えながら戦う
相手の利き腕、首、音楽を奏でる楽器を狙い
仲間が戦いやすいように弱体化させていく
村の人が明日からも暮らしていく場所だ
できるだけ村に被害が出ないよう
精密に相手の急所だけを狙って攻撃する
「世界の果てに吹く風よ。無言の刃となれ。」
生浦・栴
戦で村や墓が荒れるのは本意ではない
可能なれば被害を出さずに済む場所で待ち受けたいが
こればかりはケースバイケースか
鈴の音の花を一輪、適当に挿して
歓迎出来ぬ不愉快な音楽隊には早めにご退場願おう
貴様らの毒牙に掛かって良い者など唯の一人も居らぬのだよ
先ず全力魔法の衝撃波を二度
当たれば良し、敵が早ければ高速詠唱に載せて二発共に迎撃としよう
射程内に収まればUCを発動
金属の鎧はこの場合仇にしかならぬな
さっさと錆に帰するがいい
慟哭も悲嘆も死霊の主たる俺には馴染みの深いもの
お主に纏わりつく良くないものは全て俺のオーブに取り込み力として呉れるわ
万一の場合は耐性と防御を総動員して防ごう
絡み、アドリブ歓迎
アルバ・ファルチェ
(絡みやアドリブ歓迎)
《POW》使用。
残念だけど思い通りにはさせないよ。
このままあるべき場所に還って貰おうか。
【先制攻撃】で【範囲攻撃】【なぎ払い】。
そうやって【存在感】を示しながら【挑発】、【おびき寄せ】て囮になるよ。
攻撃は基本的に【戦闘知識】や【第六感】も駆使して【見切り】…【盾/武器受け】をしてもいいけど命中する事になっちゃうからね。
仲間を【かばう】事になったり見切り損ねたら次に来る攻撃に対しては【オーラ防御】【各種耐性】でダメージは最小限に抑えるよ。
焦りや隙が見えたら【鎧砕き】【鎧無視攻撃】を【カウンター】で叩き込めたらいいな。
こう見えて結構怒ってるんだからね、僕も。
ジャックジャレッド・ジャンセン
此の災魔等を廃さねば真成の安寧が得られぬとは忌々しい
聴くに耐えぬ不協和音は怨讐に澱む海底の骸へ奏してやるが良い
不快極まる調べには、呪詛を込めた繰言と殺気を以て応えよう
貴公等の奏楽よりも、日々精錬を欠かさず鳴らす私の不平不満の方が優れた音色だと思わぬか
リザレクト・オブリビオンを用い召喚した騎士と蛇竜に殲滅を命じ、敵の動作の癖や技発動のタイミング等を観察
私や付近の猟兵に累が及ぶと察したならば回避行動、防御態勢を取るよう注意喚起を
万一、死霊達の手に負えぬ場合は手ずから幕を下ろしてやろう
ジャッジメント・クルセイドの浄光を以て忌まわしき病毒を廃絶してやる
貴公等にも鈴花の弔歌は響くだろうか
*応用、連携歓迎
葦野・詞波
弔いは終えた。
あとは村がこれからも日常を営んで行ける様に。
連中を片付けるだけだ。
村人や、あの子供が前を向いて
生きて行けるようにする為にもな。
――待っていたぞ。
待ちくたびれて欠伸をする所だった。
災厄を撒き散らしに態々来て貰った所悪いが
疾病は広まる前に根絶するに限る。
待ち伏せてから先手を取るように
鎧の隙間目掛けて槍投げ
失敗しようと遮二無二突進後、なぎ払いで
敵の連携を乱し、味方と各個撃破を狙う
マスケット銃の狙いをつけられぬ様に
常に動き回る事を意識
フレイルの一撃には見切って避ける様に
盾以外を捨てたなら好機と見て
高速の突進に負けじと
頭巾を脱いで【貪狼】の一撃
矛と盾、どちらが強いか決めるとしよう
「――待っていたぞ」
疫病楽団、すなわち朱殷の隷属戦士を出迎えたのは、葦野・詞波であった。
「待ちくたびれて欠伸をする所だった。災厄を撒き散らしに態々来て貰った所悪いが――」
鎧の隙間を目がけて投げるは、「Zilant」の名を戴く槍。
「疾病は広まる前に根絶するに限る」
白黒の曖昧な髪が揺れたかと思えば、詞波は隷属戦士たちの群れに一気に突っ込む。彼らが詞波の挙動に気付いた時には、もう事は成されていた。
「く……!」
薙ぎ払いにより、隷属戦士たちの足並みが乱れる。
弔いは既に終わっている。ならばこれより猟兵がすべきことは、村人が日常を営んでいけるよう、連中を片付けるだけだ。
(「……村人や、あの子供が前を向いて生きて行けるようにする為にもな」)
マスケット銃の標的になることを避けるため、詞波は村中を駆け回りながら好機を見極めようとしていた。
1体の隷属戦士が盾を捨てたのを見て、詞波も頭巾を脱ぐ。
「矛と盾、どちらが強いか決めるとしよう」
突槍を構える詞波、盾を構えて突進を仕掛ける隷属戦士。
「捷いぞ」
呼吸を整えた詞波は、間合いにおいて突槍を繰り出す。
そこかしこで武器の打ち合う音が聞こえる中、この二人だけは一騎打ちの様相を呈していた。
背後で金属がくずおれる音を聞いて、詞波の口角が上がった。
回避できるかどうか。詞波が逡巡したその時、アルバ・ファルチェが身を挺した。
「……っと。間に合ったみたいでよかったよ」
屈託の無い笑みを浮かべる、アルバ。オーラと耐性のおかげで、傷は浅い。
一方、紫谷・康行は民家の陰に隠れて敵の様子を伺っていた。
音を出しながら近付いてくる相手だ、地の利は康行にある。それに、村の地図は頭に叩き込んでいる。どこに行けば隠れられるかは充分すぎるほどに把握しているから、躊躇無く行動できるというもの。
「世界の果てに吹く風よ。無言の刃となれ」
小声の詠唱に応えて、風の刃が現れる。
騒がしい隷属戦士に迫る刃は、無音で楽器ごと切り伏せる。
「誰だ!?」
辺りをうかがう隷属戦士の視界に入らぬよう、康行は素早く移動を始めた。
そのさなか、ドアに掛けられたリースのようなものが康行の目に入った。元は枝や枯れた草花なのだろう。顔料や染料で色づけされ、可愛らしくも温かな仕上がりになっている。
リースは、康行に改めて認識させる。
守るべきは、小さな営みだと。
(「普通の人々こそが、世界を豊かにする。……少しずつ助けてけばいい。それを、諦めずに続ければいい」)
誰に言うでもなく決意し、康行は再び風の刃をけしかける。
他の仲間が戦いやすいように、そして村へと被害が及ばないように、腕や首、楽器を正確に狙いながら。
何せ、ここは村人が明日からも暮らしてゆく場所なのだから。
再び移動する途中、康行はアルバと目線が合い、頷いた。
隷属戦士が武器を構えるより早く、アルバは康行が弱体化させた一団を薙ぎ払う。
「残念だけど思い通りにはさせないよ。このままあるべき場所に還って貰おうか」
いつものように軽い物言いではあるが、表情こそ真剣だ。
戦闘行為を行える者がここにいることを確かに示し、隷属戦士の群れを引きつける。
「邪魔をするか!」
「当たり前じゃない、このまま通すと思ってた?」
隷属戦士がフレイルを上段に構えたのを見て、アルバは身構えた。振り下ろす動作を仕掛けて来ると予測できたのは、戦闘知識の賜だ。
第六感も働かせながら、ぎりぎりまで引きつけて――アルバは、フレイルの一撃を躱した。
「こう見えて結構怒ってるんだからね、僕も」
隷属戦士がフレイルの先端を引き戻すまでの間に、アルバは懐へと飛び込んだ。
バスタードソード「Leone e Fanciulla」の一撃は鎧を砕き、勢いのままに隷属戦士を地面へと叩きつける。
弔いの花を一輪挿して、生浦・栴は衝撃波を二度に渡って仕掛けた。全力魔法の体を成す攻撃により、隷属戦士が複数体まとめて吹っ飛んで行く。
「歓迎出来ぬ不愉快な音楽隊には早めにご退場願おう。貴様らの毒牙に掛かって良い者など唯の一人も居らぬのだよ」
できる限り被害を出さずに終えられれば、と願う栴であるが、こればかりはケースバイケースだろう。
射程外の隷属戦士には衝撃波を浴びせ続け、射程内へと侵入した隷属戦士には、
「金属の鎧はこの場合仇にしかならぬな。さっさと錆に帰するがいい」
余裕の笑みひとつと、呪詛を贈って。
「逃ること能わず」
雷は金属鎧を避雷針として、方々へ迸る。
「貴公等の奏楽よりも、日々精錬を欠かさず鳴らす私の不平不満の方が優れた音色だと思わぬか」
嘆息ひとつ、ジャックジャレッド・ジャンセンは戦場に立つ。
何せ、この災魔たちを廃さなければ、村人にとって真の安寧はもたらされないのだ。加えて、聴くに耐えない不協和音は、より彼らの存在を忌々しいものとしている。
「怨讐に澱む海底の骸へ奏してやるが良い」
ジャックジャレッドは死霊騎士と死霊蛇竜を召喚し、隷属戦士との戦闘の様子を観察し始めた。騎士に、死霊蛇竜に応戦する隷属戦士は、1体、また1体と屠られてゆく。
「動作の癖は個体によって異なるか」
だが、技発動のタイミングは猟兵に攻撃を受けた直後、それもカウンターのように発動することが多いようだ。
ジャックジャレッドがそのように判じると、隷属戦士のマスケット銃から弾けるような音が聞こえた。
銀の弾丸は、最小限の回避行動を取ったジャックジャレッドの頬の数ミリ外側を通ってゆく。
不意に軌道の先を眺めやれば、隷属戦士が栴の背後よりフレイルを振り下ろそうとしているのが見えた。
「来るぞ、栴」
ジャックジャレッドの提言に余裕の短く返答し、栴は隷属戦士へと向き直った。
「お主に纏わりつく良くないものは全て俺のオーブに取り込み力として呉れるわ」
うそぶきながら、栴はフレイルを受け止める。
防御と耐性を総動員したからか、あるいは栴が死霊の主であるからか。フレイルに染みついた血から心に直接響いてくるはずであった犠牲者の慟哭は、栴に何の感慨ももたらさなかった。
不快な音は未だ鳴り響き、猟兵たちへと襲いかかる。
「忌まわしき病毒め、まだ湧くか」
ならば手ずから幕を下ろしてやろう、とジャックジャレッド示す指の先で、隷属戦士が浄光に灼かれる。
「……貴公等にも鈴花の弔歌は響くだろうか」
問いに答える者は無し。
代わりとばかりに、栴の挿した弔いの花が密やかに鳴り響いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
彼岸花・司狼
あぁ、確かに「今さら逃げ出しても遅いさ」
後続の動きを抑えるために【餓狼と狩人】で召喚した狼に乗って上空から集団の中に飛び込み、
【殺気】による【残像】で【フェイント】をかけたり、
【野生の勘+見切り+早業+スライディング】で回避、
【怪力】で【敵を盾にする】等で【恐怖を与え】つつ多少のダメージは【激痛耐性】で強引に突破
集団を巻き込めるベストポジションへ移動できたら【生命力吸収+鎧砕き】を乗せた【範囲攻撃+捨て身の一撃】
オマケに喰らったダメージに対する【呪詛】を乗せてUCによる加重を叩き込む。
死ぬのが、あんたの番になっただけさ。きっと
「あぁ、確かに『今さら逃げ出しても遅い』さ」
隷属戦士の言葉を口にし、彼岸花・司狼は空より村へと侵入する。20匹もの巨大狼、そのうちの1匹の背に乗って。
狼が着地するや否や、複数体もの隷属戦士を吹き飛ばした。
建物を背に踏み止まった隷属戦士がフレイルを振りかぶるが、重量を落とした場所に司狼はいない。
「くそっ、残像だと!?」
「こっちだ! はっ、捉えたぜ!」
無論、攻撃を仕掛けた隷属戦士は1体だけではない。他の個体もフレイルを振り回し、司狼へと襲い来る。
だが、その一撃が司狼に当たることはなかった。
司狼は野生の勘にて動きを見切り、素早く地を滑って他の個体へと肉薄する。そのまま隷属戦士の足を掴んで引きずり倒し、怪力を発揮して持ち上げて盾にして、次の攻撃を防ぐ。
そうして攻撃をかいくぐって目的の場所へとたどり着いた司狼は、身構えた。
「このあたりで良いか」
「良い、だと? 囲まれてるのにか?」
嘲笑するような隷属戦士の言葉には反応せず、司狼は戦列へと突っ込んだ。
「無謀が過ぎ……な、なにッ!? 馬鹿な、鎧が……!」
隷属戦士が驚くのも無理はない。無謀かと思えた司狼の攻撃により、鎧が粉々に砕けたのだ。
「狼狽えるな、奴は一人だ! 今のうちに畳みかけろ!」
一人の号令で、司狼を取り囲む隷属戦士が一斉に襲い掛かる。
しかし、幾人ものフレイルが振り下ろされるより、司狼が言の葉を口にし終える方が早かった。
「此処が底。全てが堕ち逝く空の底」
司狼に襲い掛かろうとした隷属戦士の全てが、その場に倒れ伏す。まるで、見えぬ何かに押しつぶされたように。
「死ぬのが、あんたの番になっただけさ。きっと」
周囲に超加重をかける高重力の塊となった司狼は、ただ呟いた。
成功
🔵🔵🔴
雨糸・咲
心を引っ掻いていくような嫌な音に眉を顰めて
そういう演出の音楽も時にはありますけれど
今はもっと――
静かな優しい音楽の方が相応しいでしょう
大切な人を想う、祈りの日ですもの
第六感、フェイントで攻撃回避
高速詠唱で武器落としを狙います
敵は普段から集団での戦闘に慣れているかも知れませんから
こちらも一丸となって応戦したいところ
他の方と声掛け連携し
死角を補い背を庇う
その鎧と武器なら、よく通りそうですね
独り言ちて、すいと杖を振り
頭上から降らせる雷の雨
轟音が、嫌な音も掻き消してくれましょう
病を撒くなんて…
僅かに唇を噛むのは、癒えぬ病で失ったひとがいるから
そのひとを喪い、壊れてしまった大切なひとがいるから
…許さない
雨糸・咲は、村を満たす心を引っ掻いていくような嫌な音に眉を顰めた。
「そういう演出の音楽も時にはありますけれど、今はもっと――静かな優しい音楽の方が相応しいでしょう」
そう、今日は大切な人を想う祈りの日。不躾で不愉快な隷属戦士が村に立ち寄るべきではないのだ。
彼らの攻撃は一糸乱れぬ――とは言えないまでも、それなりに連携がとれていた。迂闊に回避すれば、その先でフレイルが振り下ろされる、というくらいには。
そのような状況であるから、咲は他の猟兵の死角を補う場所に立ち、隷属戦士の攻撃を回避してゆく。第六感の閃きはもちろん、時にはフェイントも駆使して。
フレイルが地面にめりこむのを見て口早に詠唱すれば、隷属戦士の手元から武器が落ちる。その後はぐるり隷属戦士を見渡して、
「その鎧と武器なら、よく通りそうですね」
独り言ち、咲はすいと杖を振った。
頭上に光が奔る。血に濡れた隷属戦士の鎧も武器も、一瞬だけ真白に染まる。
直後に降り注ぐ雷の雨は、轟音を以て嫌な音を掻き消してくれることだろう。
「病を撒くなんて……」
焦茶色をした瞳にちらつくのは、癒えぬ病で失ったひと。そしてそのひとを喪い、壊れてしまった大切なひと。
「……許さない」
次々と倒れる隷属戦士を見遣りながら、咲は僅かに唇を噛んだ。
成功
🔵🔵🔴
比良坂・美鶴
【WIZ】
ああ……来たわね
不治の病を広めて回って
アンタ達は何が目的なのかしら
ま、いいわ
邪魔者にはさっさと退場してもらいましょう
集団とは十分に距離を取って
『リザレクト・オブリビオン』
抑えを突破して村へ向かおうとする敵を
死霊たちで相手取るわ
衝撃波で押し戻しつつ
二回攻撃と薙ぎ払いを駆使して
距離を維持したまま削っていく
放たれた弾丸は
残ってる敵を引っ掴んで盾にするわ
盾にしたらそのまま蹴り飛ばしてカウンター
やあね 物騒なものを気安く向けないで頂戴
今更逃げても無駄よ
アンタ達の言葉
そっくりそのまま返してあげるわ
「不治の病を広めて回って、アンタ達は何が目的なのかしら」
問いかける比良坂・美鶴は直後、かぶりを振った。聞いたところで答えてくれるわけでもないし、答えが聞けたところでそれが真実であると確認する術は無いのだ。
「ま、いいわ。邪魔者にはさっさと退場してもらいましょう」
迫り来る集団と充分に距離を取り、美鶴は死せる騎士と蛇竜を喚んだ。
彼らが相手取るのは、次から次へと押し寄せる隷属戦士たち。
数でいえば隷属戦士の方が上。それを把握していない美鶴ではないから、すぐさま衝撃波を放って迎え撃つ。
それでも、常に一方向から来てくれるような
さらに近くまで来た者は薙ぎ払い、常に一定の距離を保つことをわすれない。
騎士と蛇竜、そして村へ入り込もうとする隷属戦士。あちこちで発生する戦闘において、不快な音楽はもちろん、鎧や剣、フレイルがぶつかりあう音が聞こえてくる。
その中に時折混じる軽やかな音に、美鶴は素早く辺りを見回した。
銀の弾丸が自身に迫ると気付くや否や、手近な隷属戦士を引っ掴んで盾とする。
「やあね、物騒なものを気安く向けないで頂戴」
美鶴は額に穴の空いたその個体をまま蹴り飛ばし、銃を構えている隷属戦士なぎ倒した。
「『今更逃げても無駄よ』――だったかしら? アンタ達の言葉、そっくりそのまま返してあげるわ」
美鶴は隷属戦士の背に至近距離から衝撃波を放ち、容赦なく吹き飛ばす。
まるで逃げるような体勢となった隷属戦士に、騎士の剣が振り下ろされた。
成功
🔵🔵🔴
逢坂・宵
ははは、まんまと罠にかかりましたね
村の人々に手出しはさせません
ここの人々はつましく暮らし、亡くなった方々に思いを馳せて、限りある日々を大切に生きているのですから
あなた方のような存在が、手を出していいものではありません
さあ、始めましょう
僕は集団戦が得意なんです
混戦でなければもっと好きだ
【第六感】【おびき寄せ】にて敵をまとまらせたのち
【高速詠唱】を用いて 【属性攻撃】【全力魔法】【2回攻撃】を使い
『天撃アストロフィジックス』で雨あられと広範囲攻撃を行います
「ははは、まんまと罠にかかりましたね」
いっそ朗らかに笑いながら、逢坂・宵は敵にその身を晒した。
今は避難をして姿こそ見えない村人ではあるが、つましく暮らし、亡くなった者に思いを馳せ、限りある日々を大切に生きている。
そんな彼ら彼女らであるから、不治の病を感染させて回る疫病楽団が手を出すなど、到底許せるものではない。
「さあ、始めましょう。こう見えて、集団戦は得意なんです。……混戦でなければもっと好きだ」
そう軽やかに告げる宵は、気付けば多数の隷属戦士に囲まれていた。
「ははは! 罠にかかったのはお前ではないか!」
「かかれ、奴は一人だ!」
隷属戦士の号令に、宵は口角を上げた。
囲まれたのではない、第六感を用いて敵を誘き寄せ、多数の隷属戦士を一箇所にまとめたのだ。
意図したとおり、と笑む唇から零れる言葉は速く、全力の属性魔法が二度に渡って隷属戦士を襲う。
この時点で、既に隷属戦士たちは何が起きたのか理解できずにいた。理解できぬまま塵と消えた者も多い。
しかしそこで手を緩める宵ではない。再び口を開き、淀みなく言葉を紡ぐ。
「太陽は地を照らし、月は宙に輝き、星は天を廻る。そして時には、彼らは我々に牙を剥くのです。さあ、宵の口とまいりましょう」
とたん、降り注ぐ星の矢は――さながら、地上までたどり着いた流星群。
宵の見える範囲に存在していた隷属戦士は、全てが煌めきに塗れながら息絶えていった。
大成功
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第3章 集団戦
『オラトリオの亡霊』
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POW : おぞましき呪い
【凄まじき苦痛を伴う呪いを流し込まれ狂戦士】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD : 苦悶もたらす魔焔
【全身の傷から噴く魔焔 】が命中した対象を燃やす。放たれた【主すら焼き苦痛をもたらす、血の如く赤黒い】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ : 汚染されし光条
【指先】を向けた対象に、【汚染され変質した邪悪なる光】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
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小さな村の中で、猟兵たちは隷属戦士と攻防を繰り広げる。
猟兵たちが優勢と思われたその時、鳴り響く楽器の音色がいっそう激しくなった。
すると隷属戦士の纏う鎧が溶けるように消え、女の姿をとった。
背には白き翼、露わになった肌には無数の傷が見え、虚ろな目は赤い光を宿している。
「ア、アア……アア、アアアアア……!」
言葉にならぬ慟哭が、村を満たす。
尋常ならざるこの状況で、猟兵たちは気付いた。
彼女たちの殺気と戦闘力は、隷属戦士のそれとは段違いだと。
逢坂・宵
美しく豊かな体つきはなるほど、男として惹かれるものはありますが
それが人々に害なす集団の首魁であるならば、手加減は無用ですねえ
理性をなくしたさまはある種気の毒ではありますが
僕たちはただ淡々と―――僕たちの敵と戦うのみです
この首魁を倒すことができたなら、僕たちはこの村の人々にひとときの安寧をもたらすことができるでしょう
それを信じて……さあ、僕たちとあなたの力、どちらが強いか比べようではありませんか
【高速詠唱】を用いて 【属性攻撃】【全力魔法】【2回攻撃】を使い
『天航アストロゲーション』で狙い撃ちを行います
「なるほど、男として惹かれるものはありますが」
逢坂・宵は、オラトリオの亡霊の頭からつま先までをゆるりと見遣った。
美しく豊かな体つきは、無数の傷が刻まれてなお、艶めかしい。
「それが人々に害なすのであれば、手加減は無用ですねえ」
「アア、アアア……」
身構える宵の眼前において、亡霊の口から零れる言葉は意味を持たない。
理性をなくしたその様子はある種、気の毒ではある。その上で、何故、といった思考も詮索も意味を持たないことを、宵は理解している。
だから、と亡霊たちを一瞥して、宵はゆっくりと口を開いた。
「僕たちはただ淡々と―――僕たちの敵と戦うのみです。……さあ、僕たちとあなたの力、どちらが強いか比べようではありませんか」
彼女たちを倒せば、村人にひとときの安寧をもたらすことができる。
それを信じて、宵は先手を打った。
ゆるりとした言葉を零していた口元は打って変わり、常人であれば捉えられない程の速度で音のある言葉を紡いだ。
直後に放たれたものが星魔法であると、煌めきに包まれる亡霊たちが気付いていたかどうか。
二度に渡って降り注ぐ星々は、数多の亡霊を討ち滅ぼす。
「彼女たちが『朱殷の隷属戦士』であった際にかなりの数が倒されたと思いましたが……どこに隠れていたんです、と聞きたくなるくらいには残っていたみたいですね」
くすりと笑い、宵は群れを成す亡霊にアストロラーベを模した杖の先端を向けた。
「彗星からの使者は空より墜つる時、時には地平に災いをもたらす。それでもその美しさは、人々を魅了するのです。星降る夜を、あなたに」
深宵の瞳の瞬きひとつ、再び開いた瞳に映るは隕石のひとかけら。
宵がもう一度瞬きをする頃には、空から招来した隕石が多くの亡霊を消し去っていた。
大成功
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雨糸・咲
嘆きの声は痛みか哀しみか
傷だらけのオラトリオの姿に目を瞠る
彼女たちは、戦いで散った戦乙女?
それとも、故無く命を奪われた存在?
赤く光る瞳は空っぽの心を映しているようで…
でも、だからと言って
罪の無い村に牙を剝く者は見過ごせません
第六感、見切り、聞き耳を駆使して攻撃を回避
躱しきれなければオーラ防御を
フェイントと高速詠唱で隙を狙います
手にした真白い杖を白菊の花弁に変え
彼女たちの頭上へ降らせましょう
ここはあなたたちの来る場所ではありませんよ
さぁ、骸の海へお帰りなさい
※アドリブ、他の方との絡み共闘歓迎
紫谷・康行
彼女たちはどうしてこの世界に戻ってきたのだろうか
強い想い故、嘆きと悲しみ故なのだろうか
だとしてもその悲しみを無かったことにはできないだろう
できるとすれば、未来に起こる悲しみを
無かったことにするだけだ
【無言語り】を使い仲間をサポートしつつ亡霊と戦う
意志が強いほど言葉は力を持つから
彼女らがこれ以上誰かを傷つけないように、傷つかないように命を賭けて言葉を紡ぐ
「その悲しみも、痛みも、今現れたわけでは無い。時の彼方にあるだけの忘れられた存在だ。さあ、安らかに無へと帰れ」
その攻撃手段を、仲間の危機にはその攻撃を、そしてその存在を虚無の言葉で無かったことにしていく
祈るように、諭すように、幸せを願うように
アルバ・ファルチェ
(絡みやアドリブ歓迎)
うーん、どういう仕組みになってるんだろ?
まぁ僕としては無骨な鎧を眺めるよりは女性を眺める方が嬉しいけどね。
…とは言え、手加減はしないよ?
『命中した対象を燃やす』のなら命中させなければ良いんだよね?
出来るだけ【第六感】で【見切り】、避けきれないものは自分も周りの人もユーベルコードで【かばう】【盾受け】…護るよ。
それで守りきれなくても身体を張って、自分へのダメージは【激痛/火炎/呪詛耐性】【オーラ防御】なんかで耐える。
『盾の騎士』の誇りはこれぐらいじゃ燃え尽きないんだからね。
反撃の余地があれば【属性攻撃:光】【破魔】で【範囲攻撃】【なぎ払い】。
…さっさとあるべき場所に還りな。
ジャックジャレッド・ジャンセン
病毒の根に蝕まれた其の身の穢れ、魂ごと雪いでやろう
殺生はまるで好むところではないが、最早救うこと叶わぬならば致し方も有るまい
世を憂う繰言を囁き乍ら血統覚醒
栄華を育み驕りの毒に侵され失墜した愚の残滓たる杖の打擲を以て、往生際を逸した堕天の翼に制裁を
ジャッジメント・クルセイドの浄光に晒し其方等の身の内に燻る怨炎を鎮めてやろう
如何に焦がれ縋ろうとも過去は蘇らぬ
然れば此処に居場所は見出せまい
骸の海底、忘却の褥へ還るが良い
全て片付いたならば村人の様子を窺いに
短期間乍ら不安であったろう
其の忍耐を労わってやりたい
*応用、連携歓迎
「病毒の根に蝕まれた其の身の穢れ、魂ごと雪いでやろう」
そう嘯くジャックジャレッド・ジャンセンであるが、殺生はまるで好むところではない。
「最早救うこと叶わぬならば致し方も有るまい」
世を憂う繰言を囁くジャックジャレッドの瞳が、真紅に染まる。
どうして、と、紫谷・康行は自身にだけ聞こえる音量で呟いた。
どうして彼女たちはこの世界に戻ってきたのだろうか、と続けた。
強い想い、あるいは嘆きと悲しみ故か。だとしても、その悲しみを無かったことにはできない。
オラトリオの亡霊たちの攻撃を回避しながら、彼女たちの虚ろな言葉を耳にしながら、康行は思索する。
だから、あるいは、けれど。今、康行ができることは一つだけ。
「未来に起こる悲しみを――無かったことにするだけだ」
「アア、……アアア!!」
村のあちこちから聞こえてくるオラトリオの亡霊の声、そしてその姿に、雨糸・咲は目を瞠った。
痛みとも哀しみともつかない声。
体に走る、赤く滲んだ傷跡。
彼女たちは、どのような存在であったのだろう。聞こえた音と第六感に従い、咲は亡霊の攻撃を回避してゆく。
首を傾げ、アルバ・ファルチェはオラトリオの亡霊たちをしきりに眺めていた。
「うーん、どういう仕組みになってるんだろ?」
言いつつ、無骨な鎧――最初に戦った『朱殷の隷属戦士』だ――を眺めるよりは女性を眺める方が嬉しいアルバである。
「……とは言え、手加減はしないよ?」
仲間と敵の攻撃が入り交じる戦場を一瞥して、アルバはひとりうなずいた。
「見たところ、僕のユーベルコードには炎で反撃しそうなんだよね。……ということは、命中させなければ良いんだよね?」
浮かべた笑みは楽しそうに、踏み出した足は軽やかに。飛び交う攻撃を第六感で見切りながら、仲間の状況にも気を配る。
「あ、咲ちゃんの後ろ!」
「大丈夫、俺が『無かったことに』するよ」
康行は続けて言葉を口にする。
彼女たちがこれ以上誰かを傷つけないように、傷つかないように。強い意志を以て、命を賭けて。
そうして祈るように、諭すように、幸せを願うように紡がれる言葉は、意志の力に応じて力を持つ。
「虚ろなる眼窩に見出された全き無。お前は世界に在る真なる虚。在ることは無く、虚ろにして全。残るはただ静寂のみ」
瞬間、100を超える虚無の言霊が生成された。
「その悲しみも、痛みも、今現れたわけでは無い。時の彼方にあるだけの忘れられた存在だ。さあ、安らかに無へと帰れ」
咲に向かうはずであった攻撃は康行の言霊によって消滅した。
だが、康行の背を示す指先がひとつ。とたん、黒く汚れた光が彼を貫かんばかりの勢いで放たれる。
割って入るには距離が離れすぎていると、アルバは一瞬で理解した。
しかしその状況でなお、アルバは『盾の騎士』としての動きを見せた。
自身の身体が盾になれないのなら、盾そのものを飛ばせばいいのだ。
「僕の前では誰も傷つけさせないよ」
翼と十字の意匠を施された白銀の盾が数十もの数に複製され、康行を守るべくように展開された。
「ありがとう、アルバ君」
「どういたしまして! ……っと、そう来ると思った」
熱を感じたアルバは亡霊へと向き直り、身構える。それもそのはず、亡霊の身体、その傷跡から赤黒い炎――魔焔が噴き出したのだ。
「アア、……アアアア、アアアアアア!」
亡霊の声が一段と甲高い物になる。魔焔は、彼女自身に苦痛をもたらしているのだろう。
放たれた魔焔を、アルバは正面から受け止めた。苦悶の表情ひとつ見せないのは、激痛と火炎、呪詛への耐性、それにオーラを用いた防御を発動したためだ。
「『盾の騎士』の誇りはこれぐらいじゃ燃え尽きないんだからね」
お返し、とばかりに繰り出した攻撃は光を伴う攻撃。周囲一帯をなぎ払えば、アルバの瞳と同じ色のタンザナイトをあしらったピアスが輝く。
「……さっさとあるべき場所に還りな」
亡霊が消え去った場所に背を向けたアルバの声には、優しさが滲んでいた。
咲が彼女たちの動きを見定めようとした先で、不意に目が合った。焦茶色の瞳の中で瞬く赤い光は、空っぽの心を映しているようにも見える。
でも、とかぶりを振った咲は亡霊の懐に飛び込んだ。
「だからと言って罪の無い村に牙を剝く者は見過ごせません」
そう言ってさらに踏み込む、と見せかけて一歩下がる。咲に危害を加えようとした亡霊はつんのめり、体勢を崩した。
好機と見た咲は、素早く詠唱を開始する。
「清めの花の香、悪い夢は洗い流して――」
咲の手にしする真白の杖が、白菊の花弁へと変じてゆく。
闇の中、亡霊たちの頭上から降り注ぐ花弁は淡い光を放っているようにも見えて
「ここはあなたたちの来る場所ではありませんよ。さぁ、骸の海へお帰りなさい」
広範囲の亡霊は消滅したが、その後ろから再び別の亡霊たちが押し寄せる。彼女たちの指先は咲を示し、瞬く間に闇に汚れた光が放たれた。回避しきれない、と素早く判断した咲は、ジャックジャレッドを見遣った。
「ジャックジャレッドさん、私が受け止めている間に攻撃をお願いできますか?」
「ふむ、やってみよう」
「アア……ア!」
ジャックジャレッドの返答に、亡霊の悲鳴ともつかない声が重なる。同時に、ジャックジャレッドは栄華の残骸を戴く重厚な杖を振り上げた。往生際を逸した堕天の翼にもたらされたのは打擲、そして制裁だ。
ジャックジャレッドが杖を持つ手と反対の手、その指先が亡霊たちを指し示す。
天からの光は、まさに浄光。
灼くように、召されるように、翼の女たちの姿が消えて行く。
「如何に焦がれ縋ろうとも過去は蘇らぬ。然れば此処に居場所は見出せまい……骸の海底、忘却の褥へ還るが良い」
彼女たちを見送るジャックジャレッドの瞳に灯る色が普段の紫に戻る頃には、最後の一人の姿が消えようとしていた。
眩い光の中で、表情は見えない。けれど最後は穏やかな表情であって欲しいと願い、彼女たちに燻る怨炎を鎮められたと信じて、ジャックジャレッドは村を後にする。
向かうは、村人が息を潜めているであろう教会だ。
光の差さぬ森の中では、枯れかけた木々をざわめかせる風が時折吹く。その度に、どこからか鈴の音のようなものが聞こえた。
成功
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