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年取りならぬ菓子取りなる祭事の起こり

#アヤカシエンパイア #ノベル #猟兵達のハロウィン2024

八秦・頼典



ジークリット・ヴォルフガング



ナノ・ナーノ



鬼河原・桔華



サブリナ・カッツェン



エリアル・デハヴィランド




●アヤカシエンパイア・八秦邸
 そう、最初に『それ』を知った時、既視感を覚えた。
 八秦・頼典(平安探偵陰陽師ライデン・f42896)は平安貴族である。
 だが、ただの平安貴族ではない。
 貴族階級、正一位。
 若きながらも下心のみにて登りつめてしまった恋多き君。
 その噂は京雀たちが常に囀るものであり、日々の日課にもなっているようだった。
 噂好きとは、これほどまでの執念というか情念というか、執着を見せるものであったのだろうか。
 しかしながら、京雀たちも一線というものはわきまえているのである。多分。
 そんな噂多き頼典は、己が邸宅にて刮目する。

「そういうわけで、皆様方にお集まりいただいた次第というわけさ」
「いや、わからんて」
『前置きを省くのはよくない』
 サブリナ・カッツェン(ドラ猫トランスポーター・f30248)とタマロイド『MK(ミーケー)』は思わず頼典の言葉に突っ込んだ。
 それもそのはずである。
 今、八秦邸に集っているのは他世界出身の猟兵達ばかりなのである。
 彼、彼女たちは一様に一貫性がない。
 法則性も見いだせない。
 まさに猟兵という存在を一様に示すような面子なのだ。

「いやはや、それは申し訳なく。此度は異世界の文化たる『ハロウィン』をアヤカシエンパイアに導入できないかという儀について皆様方のご意見を頂戴したくてね」
「それでこの面子というわけかい」
 鬼河原・桔華(仏恥義理獄卒無頼・f29487)はぷかぷかと煙管から浮かぶ煙を吐き出しながら気だるげな様子であぐらをかいていた。
 眼の前には頼典が取り揃えた美酒や肴の類が並べられている。
 頼典にとって彼女は地獄の獄卒たる女傑であるが、その前に美女の一人である。
 彼女の好みというものを知って、贈り物をするのは、まあ男子としてある種当然の行動である。

「ええ、桔華殿に置かれてはさぞやお詳しいと」
「そりゃ私らの世界では『ハロウィン』なんていうのは、もう形骸化したお祭りにしすぎないとは思うがね。アンタの思う所の祭事とは随分とかけ離れたところにある」
「しかし、着実に根付いておられる」
「であるのならば、私達の世界も他の世界とは些か趣きが異なる」
「なの」
 その言葉にジークリット・ヴォルフガング(人狼の傭兵騎士・f40843)とナノ・ナーノ(ナノナノなの・f41032)は頷く。
 彼女たちの出身世界はケルベロスディバイド……ではなく、ケルベロスブレイドと呼ばれる並行世界であると言う。
 とは言え、他世界のハロウィンを知るものとして、頼典は頼りにしたいと思っていたのだ。それにジークリットは桔華に並ぶ女傑。あと美しい。

「ケルベロスブレイドでは、ハロウィンとなるとハロウィンの魔力が高まる」
「魔力?」
「そうだ。それを狙ったドリームイーター勢力……『ポンペリポッサの魔女』と呼ばれるデウスエクスが大規模な動きを見せていた。そのために毎年ケルベロスは一般人に紛れて仮装に扮し、迎撃に当たっていたのだよ」
「ぽんぺりぽっさ……なんていうか、珍妙な名前だねぇ」
 サブリナは首をかしげる。
 それがどんな存在であるのか、イメージが湧き難かったのだろう。
 そんなサブリナの隣に座すのは居住まいの美しい騎士……エリアル・デハヴィランド(半妖精の円卓の騎士・f44842)であった。
「魔女、と聞くと悪しき者、というイメージがあるようだが」
「その通りだ。当時のことは懐かしくもあるが……ケルベロスディバイド世界では、奇しくもハロウィンの魔力絡みの事件があったことは皆も知るところだろう」
 ジークリットは昨年の十二剣神『大祭祀ハロウィン』が起こす事件のことを告げる。
 今年は鳴りを潜めているようであるが、しかし気が抜けないのもまた事実。

「戦火絶えぬは、どの世界もおんなじってことか。まあ、あたしらの世界でもハロウィンてのはあるにはあるよ。酔狂だなって思うが」
 彼女にとって世界とは戦乱に満ちたものである。
 そんな中でトランスポーター……流れ者のような生き方をしていれば、多くの小国家を見てきたことだろう。
 世俗とは常に様々な文化によって育まれるもの。
 であるのならばこそ、彼女の目に写ったものは頼典にとって知りたいと願うものであったのだ。
「終わりのない戦火に見舞われ続けているからこそ、一日一夜だけでも過酷な現実を忘れる祭りをやりてぇっていうのはわからんでもねぇ。ハロウィン・ドールズとか言うテロリストもいるにはいたが、オブリビオンマシンがもたらした狂気のせいでもある」
 それに、とサブリナは笑う。
「祭りってのは、何処かに何かしらそれらしい理由があれば誰だって楽しむもんだ」
「その通り。此度は、異世界の文化たるハロウィンを導入することで、うまく行けば平安結界を生み出す新たな行事として見込めるのではないかと、ボクは思うわけさ」
 頼典は力強く頷く。

 そう、アヤカシエンパイアには多くの祭事がある。
 いずれもが平安結界を維持するために必要なものであるが、しかしそれには多くの平安貴族の強力と民草の理解が必要になる。
 例えば、立春に年が変わると言われている。
 年事に恵方なる方角が決まるのもまた知られるところ。
 神が次の年に大移動する日こそが、大晦日。節分の日。
 だが、その隙間を狙って地獄から魑魅魍魎が現れ、それらが己たちに憑かぬように自分でないもの……即ち、『お化髪ばけ』に扮して鬼……厄、疫を化かすという古い風習も続いている。
 それを節分会と呼ぶのだが、頼典がハロウィンなる行事に既視感を覚えたのも、これなる理由からであった。

 そう、思い思いの仮装をしながら神社仏閣へお参りして一年の厄を落とす風習とハロウィンは似ている。
 ならば、こうした文化的下地のあるアヤカシエンパイアにも……それこそ民草に至るまでに浸透する事ができるのではないかと考えたのだ。
 とは言え、である。
 頼典は、その立場上から政務の総理や国政の全般を監督する身。
 自ら動くことは多くない。
 だが、ハロウィンは己が動くだけの価値はあるし、何より楽しげな気がする。
「此度の祭り事がうまく運べば、それだけ平安結界も強化される。となれば、多くの民草が救われる。これほど喜ばしいことはないと思うのさ」
「なの。それに今年は襲撃がなかったけれど、十二剣神たちデウスエクスは永遠不滅の存在なの」
 ナノはうなずく。
 ケルベロスディバイド世界も、今年も襲撃があるかと備えていたし、警戒を強めていた。
 それに特務機関DIVIDEの長官『アダム・カドモン』の不在も響いている。
 だが、今年は襲撃がなかったようだ。
 杞憂に終わったが故に警戒に当てていた余力を持て余しているのも事実。

「ナノも頼典さんに協力するなの!」
「それはありがたい。しかし、どうしたものかな、と思っているんだよ。ボクはハロウィンというものにそう詳しいわけではない。他の世界と同じようにやって民草に理解を得られるとも思わない。であるのならば」
「そこで今回の会合ってわけかい」
 桔華の言葉に頼典は頷く。
 そう、三人よれば文殊の知恵、とも言う。

「アヤカシエンパイアらしいハロウィンとは?」
 それが此度の議題でもある。
 米華通りの自身の屋敷に猟兵達を集めた理由は、その一点のみ。
 だが、まあ、単純に美女をお屋敷に集めて花を愛でるように眺めていたいと思うのおまた頼典の心理であり真理であったことだろう。
 まあ、今回はきれいどころと言うより、鮮烈さが勝るような気がしないでもない面子ではあるが。
「結局のところ、下々のものっていうのは実利を取るもんだろう。サブリナの言う通り、祭りがあれば楽しむもんだ。そして、理由があれば誰でも寄ってくる。だが、その理由っていうのが問題なんだろう?」
「ええ、その通り。今のままではただの節分会。合わせることもできるけれど、できれば独立した祭事として確立したいと思っているんだよね」
「その理由が欲しいってわけだ。まあ、平安結界の外は滅びの大地ってわけであるし、海外……外から流入してくる理由がないっていうのが問題なんだろうが」
 サブリナは首を傾げる。
 そう、平安結界の外は滅びた大地である。
 本来の世界であれば、海を隔てた大陸から文化や物、人といった流入するものがあるのだ。
 だが、アヤカシエンパイアにはそれがない。
 であればこそ、ハロウィンという新たな文化を根付かせるのは難しいと考えるのだ。
「いっそのこと猟兵から伝わった祭って体にしちまえばいいんじゃねぇかねぇ」
「しかし、それでは弱い、ということなのでしょう」
 エリアルが頭を振る。

「我らの世界においては百獣族……仮装するにしても、殆どが嘗て在りし百獣族たちの姿を模したもの。嘗ての彼らの気高さ、勇名を讃え伝える手段にして、鎮魂の儀式。尤も、地域差はありますが」
「鎮魂の儀式としての面が強いってわけだ」
「ええ、アヤカシエンパイアに置かれても同様の文化があるとお聞きしているが」
「勿論」
「であれば、それらを鎮めるという名目はどうであろうか?」
「とは言っても、そちらの世界とは違って妖の類は、どう遭っても人に害する存在。それを調伏するのが常。鎮める、というのは訳が違うような」
「ふむ……」
 確かに、とエリアルは頷く。
 彼らの世界にあって百獣族とは打倒すべき存在ではなく、その魂を鎮めるための存在。
 己たちの祖先が犯した大罪を償うべき存在なのだ。
 であれば、アヤカシエンパイアにてはびこる妖とは、また性質が異なる。

「妖を退ける効果があるもの、というのは何が一般的なのだろうか」
「一般的に考えれば、塩であるとか御守りであるとか」
「なの! そう言えば、豆まきというものがあるなの。鬼は~外~福は内~っていう、あれなの!」
「邪気除けの柊鰯などもあるね」
「ハロウィンと言えば、お菓子なの。それを袋に小分けして投げて、体に当たったら邪気払いができる、とプロデュースしてみてはどうかな、なの!」
「お菓子を?」
「そうなの! 甘いお菓子は庶民にとっては憧れなの。特別な日に特別なものをもらえるという多幸感が、行事に組み合わされば……きっと爆発的に広がっていくはずなの!」
 ナノの言葉に頼典は考える。
 確かに一理ある。
 邪気払いは、恐れから来る風習だ。
 人は見えぬもの、自分ではどうしようもないもに恐れを抱き、これを遠ざけたいと思う。
 豆まきにしてもそうだ。

 だが、そんなネガティヴな感情だけではダメだと思えたのは、他世界の文化を知ったからだ。
 特にUDCアースのハロウィンは賑やかで楽しげであった。
「まるでちんどん屋だな」
 ジークリットがナノの言葉に嘆息する。
 祭事であるのだから、ある程度は律したものでなければならないと思っているのだろう。
 だが、悪くはない。
 日々の営みは、苦しみばかりではない。
 であるのならば、喜びだって得られたっていいだろう。
「いや、ちんどん屋。むしろ、そのような珍しくも酔狂なる催しである、というところから始めるのもよいのかもしれないな」
 ジークリットはそう思ったのだ。
 サブリナも言っていたが、人は理由さえあればどんな祭りだって楽しめる。
 楽しげな声色や笑顔があれば、それは徐々に広がっていく。
 時間はかかるかも知れないが、それでも人の心にはびこる妖への潜在的な恐れを遠ざけることができるかもしれないのだ。

「菓子、菓子、菓子……ねぇ」
 そんな中、桔華は酒を傾けながら考える。
 確かに彼女も探偵社の事務所を構える一帯の商店街、商工会の付き合いでハロウィンの催しに参加はしている。
 付き合いで、とは言ったものの、普段は寄り付かない子供らが事務所にやってくるのは好ましいことだった。
 意外にも桔華は子供が好きだ。
 彼らの笑顔を見るだけで心が温まる。

 であればこそ、付き合いとはいえ菓子のチョイスには余念がない。
「子供らも楽しめるような行事にしなけりゃならないだろ。それこそ節分会と差別化したいっていうんなら、殊更だ」
「というと?」
「こういう祭事は常に大人が音頭を取る。もしくは大人が主役であることが多い。なら、此度のハロウィンは幼子たちが主役である、ということを前面に押し出さなくっちゃあならない。であるのなら」
 ちら、と桔華は頼典を見やる。
 その視線に頼典は、ばちこんとウィンクしてみせるが、桔華は阿呆、と呟いて息を吐き出す。
「大人の中でもお偉方である平安貴族らが、子供ガキ達に菓子を振る舞うところから始めなければならないっていうんだよ」
「そうなれば、際限なく湧いてくることになるんだけれど」
 それこそ、用意できる菓子にだって限りがあるだろう。
 誰でも彼でもとは行かない。
 だが、誰でも彼でも、でなければ人々は食いついてこない。
 いや、待てよ、とエリアルは思い直すようだった。

「……我らも百獣族の姿に扮して仮装を行う……のなら、扮するは子供らに限定してはどうか」
「幼子の祭事にする、と」
「それはいい。ガキ達は大喜びだろうさ。それこそ甘い菓子なんていうのは、どれくらい用意できるんだ。半端なものじゃあ、ガキ達は素直だからな。喜ばない」
 頼典は考える。
 子供らは無論、甘いものなどを手に入れる機会はないだろうから、こぞって参加するだろう。
「少し、整理しても?」
 その言葉に一同に介したものたちは頷く。

「まず、一つ。妖を鎮め、遠ざける祭事である。二つ。妖の標的になる子供らを対象する。三つ。子供らが仮装し菓子を平安貴族が振る舞う。で、あっているかな?」
「概ねそうなの!」
「問題は、菓子の確保だな」
 ナノはジークリットの言葉に笑う。
「そこは頼典さんの出番なの!」
「ああ、なるほど」
 頼典は視線を受けて手を挙げる。
 そういうわけか、と。

「正一位という位は、こういう時に使わなければ、と」
「そうなの。ましてや政治力ではなく、実力で官位を授かっているから、今回のことでいろんな有力貴族との政治的な駆け引きを培う良い機会なの」
「とは言え、突然とは行かないでしょう」
「なの。だから、まずは有力な皇族の理解と協力を得るのも良い手なの。誰かお知り合いの皇族方がいらっしゃったら、その伝手から平安貴族たちに協力を仰ぐのもよいなの!」
 プロデュース力冴えわたるナノの言葉に頼典は頷く。
「新たなる伝統を作り出すために、皆様方のご協力ありがたく。大方は煮詰まったように思えるね」
 頼典はやはり自分だけの考えではまとまらぬものも、多くの猟兵たちの知見を得ればまとまっていくのを実感する。

「であれば、まずは此度は皆様方のご尽力、その御恩に報いるためにも」
 まずは宴会だと言うようにこの場に集まった猟兵たちと雅ながらも、ハロウィンを思わせる騒々しくも賑やかな宴を執り行うのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年12月04日


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