バッドエンドif~『最期』の晩餐
「離してっ……離してくださいっ……!」
デビルキングワールド、とあるオブリビオンの居城。その調理場に、悲鳴が響き渡る。だが調理場といっても、そのサイズは人間大の物ではない。
その大きさは――そう、まな板の上に、ルイ・キャベンディッシュ(人間のシンフォニア・f33577)が仰向けに拘束され得るほどの大きさであった。
「ふふ、美味しそう――」
「ぅ、ぁっ……やめっ!!」
オブリビオンの指に、その身をゆっくりとなぞりあげられる。服を脱がされ裸を晒しているが、感じるのは羞恥よりも嫌悪と恐怖、そして激痛だ。
ルイはこのオブリビオンを討伐すべく単身戦いを挑み、そして圧倒的な力量差の前に、為すすべもなく完敗を喫した。ただでさえ力に劣る上に、その時の痛みが残る身体では、強固な拘束を引き剥がす事など出来るはずもないのだ。
「ぅ、ぁっ……」
「……♪」
痣をグッと押し込まれれば、痛みに自然と声が漏れる。それを聞くオブリビオンの表情は分からないが、残酷な喜色が感じ取れる。
指はルイを弄んでいるのではなく、彼の肉の――食材の柔らかさを値踏みしている。そう、これからルイは、オブリビオンに『調理』されようとしているのだ。
「……決めた。ハンバーグにしよう」
「ひっ!?」
その言葉に引きつった声を漏らし、絶望にその顔を強張らせるルイ。だが自力での脱出は不可能、さりとて助けも望めない。ガラスの容器の中に抵抗出来ずに放り込まれ、蓋が締められた。
容器の一番下には、回転刃が設置されている。これが何の器具であるのか……先ほどのオブリビオンの言葉と重ねれば、分からぬはずもない。
「出してっ……出して、お願――あああ~~~~~~~~っ!?」
そうしてその器具――フードプロセッサーのスイッチが入れられた瞬間、ガラスが真っ赤に染まった。その赤に遮られて、中を見る事は出来ない。
だが、声だけはしっかりと、内側から響いていく。ミキサーの大きな音にも負けないほどの、身も世もない絶叫、断末魔。
「ぎ、いぎっ、あぎぃぃぃっっ!?」
「~~~♪」
どうやら刃は『粗挽き』になるように加減されているようで、すぐに悲鳴が消える事はない。それを極上の音楽であるかのように、鼻歌交じりに堪能するオブリビオン。
そのうち、水気の混じったぐちゃぐちゃという嫌な音が、悲鳴に重なって生じ始める。
「ぃいぃぃっ……あ、がっ……ぃっ
……!!」
次第にその音が大きくなるに従い、反比例するように悲鳴が小さくなっていく。そしてついには聞こえなくなった所で、スイッチが切られて容器の蓋が開けられた。
「……うん、見込み通り。とてもいい出来」
覗き込んだオブリビオンは満足気に頷くと、手のひらが真っ赤に染まるのも意に介さずに、中身をひと掬い取り出したていく。そしてそれを玉ねぎにパン粉、卵と混ぜ合わせ、しっかりとかき混ぜて。
感触を楽しみながら、念入りに捏ねてなじませる。十分に粘りが出た所で、両手で丁寧に整形しつつ、空気を抜いていく。
「っ――――ひゅ――――ひ――――」
フードプロセッサーの中から、何か掠れた音が漏れる。声とも呼べない、空気が漏れるような音。だがその音は、油を引いたフライパンが発する、じゅうじゅうと言う音にかき消される程度でしかない。
オブリビオンは成形した塊をフライパンに入れると、強火で焼き色を付けてから蓋を閉じ、弱火でゆっくりと蒸し焼きにしていく。
しばらくすれば中までしっかりと火が通り……蓋をあければ、美味しそうに焼き上がった『ハンバーグ』。それを、白い皿の上に乗せていく。
「ソースも忘れずに……ね」
空いたフライパンにはフードプロセッサーの中から赤い液体を注ぎ込んだ。野菜といっしょに軽く煮詰めてから、ハンバーグの上にかけていく。
見た目だけならば一流シェフの料理に引けを取らぬそれを、オブリビオンは食卓へと運ぶ。テーブルに敷かれたクロスは、ルイから剥ぎ取られた衣類だ。
席につくと上等なワインの栓を開ける。注ぐのもグラスではなく、ルイの靴。
「……乾杯♪」
そうして、そのグラスを掲げると、晩餐が始まった。オブリビオンにとっては絶品のワイン舌鼓を打ち、柔らかなハンバーグにナイフを通すと、フォークで口に運んでいく。
「美味しい……♪」
そして満足気に、恍惚の感想を零すオブリビオン。クロスやグラスが妙な事を除けば、一見して高級な食卓に見える光景。
……だがその頃にはもう、フードプロセッサーからは何の音も聞こえなくなっていた。
デビルキングワールドにある、オブリビオンの居城。フードプロセッサーの中に残った『余り』が、新たに掘られた新しい穴に放り込まれた。埋められた後には、上に粗末な十字架が突き立てられる。にわかづくりの小さな墓地。
そしてその十字架には、聖歌隊のベレー帽が掛けられた。それだけが、ここに埋められた何かの正体を示している――。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴