極寒を切り抜け海外遠征を阻止せよ
●だいたい時宮朱鷺子のせい
アリスラビリンスをさまようふたりのアリス適合者。ハルナとユキ。
ひょんな事で旅をともにする事になったふたりはかたや激情家で炎を操り、かたや引っ込み思案で冷凍の力を使うとあっていろいろと真逆ではあったが、ともに困難を潜り抜けるうちにいつしか確かな友情で結ばれるようになっていた。ふたりの旅はいずれ、どちらかの扉が見つかる事で完結をみるだろう。だがどっちの扉が先に見つかっても恨みっこなし。扉のむこうで必ずまた会おう。そう決めていた。
そしてふたりは扉を探し、また新たな不思議の国へと足を踏み入れる……。
同じ頃、アリスラビリンスの別の場所にて。
『なんだと!?』
つい最近までアスリートアースからフォーミュラがアリスラビリンスに来ていた。そしてまたアスリートアースに戻っていった。どこからともなくその報告を聞かされたチャンピオン・スマッシャーは驚愕していた。そして。
『と、いうことはだ!この私がアスリートアースに行く事もできるということだな!』
この発想に至るのも当然といえた。猟書家としての使命が完全に失われて以来、チャンピオンは自らに課した新たな新たな使命に燃えていたのだ。すなわち、アスリートアースに行き、デスリング総統を倒して自らが新たなプロレス・フォーミュラとなる事。
『なんでもアリスどもが通る扉の中にトライアスロン・フォーミュラのものもあったというではないか!ならば私をアスリートアースに導く扉もあって良いはずだ!そうだそうに決まっている!』
これはあくまでチャンピオンの個人的見解でありそんなものが本当に実在するのかは正直筆者にもわかってないのだが、少なくともチャンピオンの中ではそれが真実になってしまったようだ。かくしてチャンピオンは扉を探すべくアリスラビリンス世界に飛び出していったのだった。
同時刻、グリモアベース。
「本当にそんな扉があるのかはこの際問題ではないのだ。それより重要なのは」
集まった猟兵たちに大豪傑・麗刃(26歳児・f01156)が話し始めた。
「このままいくと、ハルナちゃんにユキちゃんのふたりがチャンピオン・スマッシャーと出会ってしまうのだ。そうなったらふたりの危険が危ない(強調表現としての二重表現肯定派)のだ。なんとかしてふたりを守ってほしいのだ」
麗刃によればアリスふたりに襲い掛かる危機はふたつだという。
まず、ふたりが訪れた不思議の国は極寒の世界だという。このままではチャンピオンに出会う前に寒さの前に倒れてしまうだろう。なんとかしてふたりを寒さから守る必要がある。むろん猟兵自身の極寒対策も必須となるだろう。
そしてふたりを次の世界へのウサギ穴まで無事に連れていけた所でチャンピオン・スマッシャーが現れるのだという。むろんチャンピオンとの戦いも極寒の中である。チャンピオンは強敵ではあるが極寒に慣れているとは言い難いので、うまい事極寒を利用できれば有利になるかもしれない。
「ということで寒中プロレスをがんばってほしいのだ!」
実際にプロレス的な戦い方をするかどうかはひとまず置いておくとして、ともあれ猟兵たちはアリスラビリンスへと向かうのであった。
らあめそまそ
予定よりも早い再登場になったのはだいたい時宮朱鷺子のせい(2回目)らあめそまそです。
元幹部猟書家シナリオをお送りいたします。アリス適合者ふたりを救い、チャンピオン・スマッシャーの海外遠征の野望を阻止してください。プレイングボーナス的なものについてはオープニングにもちょっと触れましたが、断章にて改めて明記する予定ですのでご確認いただければ幸いです。
それでは皆様のご参加をお待ちしております。
第1章 冒険
『極寒の凍結の国』
|
POW : 寒さを堪え脱出する
SPD : 道具を使い素早く脱出する
WIZ : 魔法などで暖を取りながら脱出する
|
●天は我を見放してはない
「さ、寒い……」
「……」
アリス適合者ふたりは猛烈な寒波の中で完全に進行が止まっていた。ユキが氷の結界を張り、その中でハルナが火を起こす事で即席のかまくらのような形で避難所は確保したが、このまま極寒がおさまらなければ動く事もままならない。その前に空腹にせよ疲労にせよ、ふたりのどちらかでも力を使い果たしたら一巻の終わりだろう。
幸いにもグリモア猟兵の案内でふたりの場所はわかっている。あとはふたりを極寒から救い、次の世界に送り届ければ第1章は完遂だ。むろん二重遭難という最悪の事態とならないように極寒から自身を守る方法も十分に準備しなければならないだろう。
やる事は少なくないが、この後にはもっと厄介な敵が待っている。なるべく気力体力を残したままこの難関を突破し、本番に備えようではないか。
なおハルナとユキについて詳しく知りたい方はらあめそまその以下の過去作をご参照ください。
ハルナ:氷のごとき怒り
ユキ:ホワイトクリスマスと呼ぶにはあまりにも
両方登場:クロムキャバリアより来た男、モンゴルより来た少女
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
チャンピオンの出身世界は何処なのですかねぇ?
とは言え、まずは極寒対策ですが。
『FLS』により『FES』『FJS』『FPS』を召喚、まず『FPS』でアリスさん達の居場所を探し、合流しまして。
『FJS』を『大型の履帯式雪上車』に変形させ、アリスさん達と共に乗りますねぇ。
更に『FES』の『対冷結界』を重ねれば、寒さの大部分を防げるでしょうし必要なら『FLS』で『FTS』を召喚、暖房器具等を取出すことも出来ますぅ。
運転自体は【伎偶】を発動、最小限の『反動』で『雪上戦』を専門とする『使徒人形』を召喚して運転を願えばまず問題ありません。
アリスさん達と相談しつつ、先を目指しますねぇ。
●お前に魂があるのなら応えろ
「チャンピオンの出身世界は何処なのですかねぇ?」
夢ヶ枝・るこる(豊饒の使徒・夢・f10980)がなにげなくつぶやいた言葉は存外重要な事を示唆していた。というのもだ。基本的にアリス適合者たちが通る『扉』は自分たちが来た世界に戻るものだ。で、先にアリスとして呼ばれたわけでもないのにイレギュラーな形でアリスラビリンスに送り込まれたトライアスロン・フォーミュラにも『扉』があてがわれたわけだが、それもやはり自らが来た世界すなわちアスリートアースに戻るためのものであろう。なので、仮にチャンピオン・スマッシャー用の『扉』があるとするならば、やはりその出身世界につながっていると考えるのが確かに自然かもしれない。と、いうことはチャンピオンの出身地がアスリートアース以外ならば、その『扉』を通ってもチャンピオンはアスリートアースには行けないと考えるのが自然……いやまあ世の中例外もあるかもしれないので、完全に可能性を潰すのはやめておこう。ネバーセイネバー。さておき。
「とは言え、まずは極寒対策ですが」
そう。今のるこるにはそんな事よりも重要な事があった。それはアリス適合者ふたりの安全を確保する事。グリモア猟兵からだいたいの場所は教えてはもらっていたが、眼前はすさまじいまでのホワイトアウト。これでは分かりようもないと、るこるは早速祭器を召喚し、ふたりの居場所を探り当てた。
「おふたりとも、無事ですかぁ?」
「え?助けてくれるの?」
「……!!」
思わぬ救援に、たちまち笑顔を見せたハルナに、表情を変えないながら目に輝きを見せたユキ。この期に及んで対照的なふたりであったが、大型の履帯式雪上車に乗ったるこるの登場に失われかけた希望を見いだせたのは確かな事のようだ。
「さあ、お乗りくださいませ」
これはただの雪上車ではない。これ自体が祭器で作られた物であり、さらに別の祭器で耐冷結界を施されている。中には別の祭器で作った暖房器具まで備わっており、防寒対策は完璧だ。
「では、お願いいたしますねえ」
るこるは運転手に命令した。これもただの運転手ではない。ユーベルコード【伎偶】によって生み出されたものである。伎=技、読みの『レンタツノニナイテ』は『練達の担い手』であろう。その名の通り卓越した技能を持つ運転手は見事な雪上運転の技術を見せ、猛吹雪の中をどんどん進んでいった。
「わ、これはすっごいわ!」
「……」
自分たちがあれだけ苦戦した極寒を軽々とクリアしていく雪上車と、それを生み出したるこるに、アリスふたりは感動にも近い感謝の気持ちを覚えていた。このまま順調に行けば目的地であるウサギ穴もすぐそこだろう。まだ青丸3つなのにクリアしてしまうように思えた……が。
「……あらぁ?スタックですかぁ?」
突然雪上車の進行が止まった。アリスラビリンスの極寒がるこるの能力を超えたのか、るこるが『反動』を最小限にしたためか、やはり青丸が足りなかったのか、それはわからない。ただ目的地には確実に近づいた。青丸3個に値する十分な成果を得て、温かい車内の中でアリスふたりは次の猟兵の到着を待つのであった。
大成功
🔵🔵🔵
高崎・カント
「もきゅぴぃぴぴ……きゅう……」
とっても寒いのです……
カントはもふもふがあるからいいけど、毛皮がない人間は大変なのです
早く探すのですー!
動けば暖かくなるので、走り回って二人を探すのです
わっせ、わっせ、なのです
タンバリンをシャンシャン鳴らして、音で呼びかけるのです
見つけたら非常食の『おいしいおやつ』を取り出して勧めるのです
いつもは我慢できなくて食べちゃうけど、今が非常時なのです
今食べないでいつ食べるというのです
さあカントを抱っこするのです
もふもふでとっても暖かいのです
カントだけで足りないのなら、モーラットの皆さんを呼び出すのです【UC使用】
みんなで集まってもふっと防寒具の代わりになるのです!
●抱き枕
「もきゅぴぃぴぴ……きゅう……」
極寒の中、高崎・カント(夢見るモーラット・f42195)は実に寒そうな声をあげていた。
全身もふもふに覆われているモーラットなら寒さも大丈夫。そう踏んでいたのだろうが、それでもなおこの寒さは堪える。そしてグリモア猟兵から前もってアリスふたりの居場所は聞かされてはいたはずだが、このホワイトアウトの中ではなかなか見つからない。なにせモーラットの自分でこの寒さなのだ。もふもふしていない人間だったらその寒さはいかほどであろうか。なんか今はシェルターに守られているようだが、立ち往生した状態ではいつかは極寒の中にさらされることだろう。
(とにかく動くのです!動けば暖かくなるのです!)
カントは速度を上げた。体を動かせば代謝が上がり熱量が上がるは人間もモーラットも一緒だ。ましてやモーラットならもふもふしているので余計に温かくなるような気がする。これで極寒もしばらくは大丈夫だろう。
(わっせ、わっせ、なのです)
猛吹雪の強烈な風音の中に、もっきゅもっきゅというモーラットの足音と、シャンシャンシャンとタンバリンが鳴る音が響き渡る。タンバリンは雪の中で待つアリスふたりになるべく早く気付かれるようにという工夫だ。やがてカントの視界に光が見えてきた。どうやらあれがふたりが待っているシェルター代わりの雪上車であろう。
「来てくれたんだ!」
「良かったですぅ、ここからはお任せしますねぇ」
タンバリンの音に反応してドアが開かれ、改めてカントは先の猟兵からハルナとユキを引き継いだ。ここからしばらくは雪中を歩く事になるが、それに備えてカントは【おいしいおやつ】を差し出した。それはカントが非常食として常に肌身離さず持ち歩いているものだ。
(これを食べるのです!)
「え?いいの?」
(今が非常時なのです!今食べないでいつ食べるというのです!)
「わかった!ありがとう!」
おいしいおやつは名前の通り非常においしいものであり、疲れ果てたふたりの心身をおおいに癒してくれた。ちなみにこのおいしいおやつは名前の通り非常においしい(2回目)ので。
(いつもは我慢できなくて食べちゃうけど食べなくてよかったのです!)
カントが非常時まで持っていられたためしがなかったらしい。本当に今日はちゃんと残ってて良かった良かった。これで元気百倍……と言いたいところだが、極寒を進むにはもう少し足りない。だがカントには秘策があった。カントにしかできない秘策が。
(さあカントを抱っこするのです!)
「え?」
「……?」
(もふもふでとっても暖かいのです!)
なるほど。これはまさにモーラットにしかできない手段だ。さらにカントは過去のモーラットたちを召喚する【三国猛裸闘集結】で援軍のモーラットたちを呼び寄せた。これはまさに防寒具である。てか筆者もちょっと抱いてみたい。等身大モーラットの抱き枕。商品化いかがでしょうか上様。
「わぁ、あったかぁい!これなら行けるね!」
「……うん!」
モーラットはかわいいしもふもふだして身も心も温かくなってアリスふたりは雪道を進む。目指すウサギ穴まではもうすぐであろう。
大成功
🔵🔵🔵
リカルド・マスケラス
「またとんでもないところに来たっすね〜」
そんなことを呑気に言ってる狐のお面。バイクが引っ張る本格キッチンから暖かいココアでも用意しつつ
「ちょっと試したい技の練習も兼ねて、寒さを吹き飛ばしに行くっすかね」
【神火分霊撃】で159LV分の炎分身を集め、デスリング総統の姿をとらせる。とある依頼でデスリング総統に憑依する機会があったので、その能力をどれだけ再現できるかテスト
「行くっすよ、デスリングラリアット!」
ラリアットで起こす旋風に炎と風の【属性攻撃】を載せて、極寒の空気や吹雪を焼き払い、進めるだけ進む
「本物なら炎を使わずに寒さそのものを骸の海へ吹き飛ばせそうっすけど、流石にそれは無理そうっすね」
●さすがに比べるには相手が悪すぎるか
「またとんでもないところに来たっすね〜」
極寒の世界。たしかにリカルド・マスケラス(希望の
仮面・f12160)の言う通りとんでもないところだ。だがもっととんでもない事はこの極寒の世界で今まさに苦戦している人がいるという事実なのだ。
「ま、どうにかするっすかね」
それでもいつもと変わらぬ呑気な様子で言うと、リカルドは愛用の宇宙バイクを駆って凍れる世界を進んでいった。もともと宇宙空間という極限状態にも耐えられるバイクは悪天候に強く、さらにパワー重視のため雪道であろうと苦も無く進む。そして肝心のリカルド自身の防寒対策はといえば。
「いやー、ぬくいっすね」
ヒーローマスクのリカルドは基本的にボディを他人に借りて活動するのだが、今回はユーベルコード【神火分霊撃】で作った炎のボディを使用している。これならたしかに寒さはしのげよう。あとは効果が切れる前にアリスふたりを探せるかだが。
「……あれっすかね」
前方にそれらしき人影がふたつ。なにやらもこもこと着ぶくれ(?)しているように見えるのだが。
「なんか思ったよりあったかそうにしてるっすね」
とはいえこの極寒、決してふたり(?)だけで行かせて大丈夫な状況でもあるまい。リカルドは前の猟兵から引き継ぐべくバイクの速度を上げると、あっという間に追いついた。
「あ、あなたも猟兵さん?」
「そうっすよ、ひとまずこれでもいかがっすか」
リカルドはハルナとユキにココアを用意した。それはこんな所では本来望みようもないほどに本格的なものであり、糖分とカフェインがふたりに活力を与えてくれた。極寒の中、わざわざバイクでキッチンカーを引っ張ってきた甲斐があったというものである。ただむろんココアだけで寒さを切り抜けろという事ではない。
「ちょっと試したい技の練習も兼ねて、寒さを吹き飛ばしに行くっすかね」
「寒さを吹き飛ばす?」
ちょっと何言ってるかわからないという顔のハルナ。ユキも表情は変えないが視線がハルナと同様の考えを示していた。そんな事は構わず、リカルドは先刻同様【神火分霊撃】を使った。ただし今回は全力だ。159体分の炎分身がひとつに集まり、巨大な男の姿を取った。この場にチャンピオン・スマッシャーがいたならばどんな反応を示しただろうか……その姿こそ、あのプロレス・フォーミュラ、デスリング総統だったのだ。
「行くっすよ、デスリングラリアット!」
それはかつて猟兵相手に猛威を振るい、のちに猟兵の敵に対しても振るわれた総統の必殺技だった。リカルドはコスチュームの姿を取って総統に纏われた際に、まさに最前列の特等席より近い場所でそれを目の当たりにできたのである。リカルドはそれを再現しようというのだ。炎の巨体が高速回転を始め、それにより生み出された炎と風の竜巻を前方に放った。強烈な竜巻が進んだ跡にはあれだけの寒波や豪雪がきれいさっぱり吹き飛んでいた。
「本物なら炎を使わずに寒さそのものを骸の海へ吹き飛ばせそうっすけど、流石にそれは無理そうっすね。ま、行くっすよ」
とはいえこの場においては十分な成果だろう。せっかくできた道が再び極寒に覆われる前にと、アリスふたりは先を急ぐのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ニコリネ・ユーリカ
さぶっ!!
私も都会の隅っこで花を売って6年、寒さには耐性あると思ってたけど
今は売上をはたいてゴー☆ジャスな毛皮が欲しいわね(両腕さすさす
ハルナさんとユキさんにも買ってあげて、カノー三姉妹になれたらいいのに
ただそんなお金はないので!
貧乏花屋は皆で手遊び歌をしたいと思いまーす
お店の前を通る小学生に教わったの
アルプスは一万尺から四万尺まで動作があるんだって
これを高速でやって燃えましょ
おしくらまんじゅう?
あれは押されると泣くからー
場が温まった処でお願いを
先刻のかまくらをモグラ穴のようにトンネル状に作ってくれないかしら?
できれば二人のチカラで苦難を乗り越えられるよう
彼女達の能力を信じて進められたらいいな
●地方差とか調べてみるのもおもしろそう
「さぶっ!」
極寒のアリスラビリンスに降り立ったニコリネ・ユーリカ(花屋・f02123)の第一声がこれであった。
「私も都会の隅っこで花を売って6年、寒さには耐性あると思ってたけど……」
実際ニコリネが行っているのは店舗ではなく車による移動販売なので、気候の影響は受けやすいだろう。ただ耐性あるといってもさすがにこのような極寒の中で商売をした事はそうはないだろう。こんな所じゃ一瞬で花がダメになるような気もするし。
「今は売上をはたいてゴー☆ジャスな毛皮が欲しいわね」
両腕をさすりながらつぶやいた。本当に偶然だがこれを書いている現在ニコリネはトップに立っているわけだが、よもやないだろうがこんな服装で極寒の世界に立ったのだとしたらさすがに自殺志願者であろう。そして防寒具として毛皮のコートはもってこいだろうし、たしかにあれば状況はかなり有利になるだろう。ただまあゴー☆ジャスである必要も……。
「ハルナさんとユキさんにも買ってあげて、カノー三姉妹になれたらいいのに」
……その姉妹、オリジナルは二姉妹のようですが、彼女らが着るコートっていくらぐらいするんだろう、とちょっと調べてみたら、なんか8000万円とかとんでもない数字が出てきました。ふたり分で1億6千万円、三姉妹分買うなら2億4千万円。それくらい出せる猟兵がいないとは限らないが、大抵の人には無理であろう。ただもしかしたらニコリネには出せるのかも?
「ただ貧乏花屋にはそんなお金はないので!」
無理でした。まあ普通は出せない。ではどうするかといえば……。
「ということで!」
先の猟兵が吹き飛ばした寒波がちょうど戻ってきたあたりでハルナとユキと合流を果たしたニコリネは高らかに宣言した。
「皆で
手遊び歌をしたいと思いまーす」
「手遊び?」
「お店の前を通る小学生に教わったの!アルプス一万尺って知ってる?」
「懐かしいな、ちっちゃい頃は結構やってたけど」
「じゃ、一万尺から四万尺まで動作があるんだって知ってた?」
「え?何それおもしろそう」
筆者も初耳だったので調べてみたら本当でした。ちなみに寒さ対策の運動の定番であるおしくらまんじゅうについては「あれは押されると泣くからー」との事でした。泣くのか。ともあれ超高速の手遊びはみんなの体温をおおいに上昇させたのであった……とはいえさすがにこの寒波の中を進めるほどかといえば?
「ところでお願いがあるんだけど」
むろんそれくらいはニコリネにもわかっていた。本番はここからだ。
「さっきふたりの力でさっきかまくら作ったでしょ、そのかまくらをモグラ穴トンネル状に作ってくれないかしら?」
「……え?どうしよう、ユキ?」
「……」
ふたりはしばし押し黙る……が、やがて決意したように力を発動させた。一緒に手遊びを行った者に頼み事ができる。それがニコリネのユーベルコード【Fingerplay】の本当の効果だったのだ。そしてふたりは完成したトンネルを通って先に進む。
(できれば二人のチカラで苦難を乗り越えられるよう、彼女達の能力を信じて進められたらいいな)
あえて自分の力で極寒を超えさせる。この先別の世界でも待ち受ける困難を、そして自分の扉を見つけた先に待つであろうさらなる困難を、自分の力で超えられるように。そんなニコリネの願いが込められていた。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィルデ・ローゼ
故郷でもめったに見ない雪の量と風の強さだわ。
私はUCがあるから平気だけど、お二人にまで力が及ばないのよね。
防寒具と食料をたっぷり持って行って、遭難しないように慎重に進むわね。
影兎も使って先の様子を偵察させたり、夜の精で風除けを作ったりして、お二人を励ましながら行きましょう。
●エドスタッフォードでも極寒ではさすがに服を着る
「故郷でもめったに見ない雪の量と風の強さだわ」
と言うヴィルデ・ローゼ(苦痛の巫女・f36020)の故郷は昼なお暗い黒い森の奥らしい。確かに森林が存在するという時点でケッペンの気候区分でいうところの寒帯ではないだろう(むろん世界によってはこちらでいうところのツンドラ気候や氷雪気候でも森林を形成するほどの植物があるかもしれないが)。ともあれアリスラビリンスのこの小世界はむちゃくちゃ極寒なのであった。で、先刻の猟兵はさすがに着こんでいるだろうと書いたわけだが、ことヴィルデにとっては当てはまらないかもしれない。もしかしてこんな中でもいつもの超マイクロビキニ的な服装でいるのかも……実際のところはわからないが、少なくともヴィルデにはこの気候を耐える手段があった。
「ただお二人にまで力が及ばないのよね」
ユーベルコード【
神気纏装】は使用者に極めて高い耐性や適応能力をもたせるものであり、これにより寒冷適応や氷結耐性を得る事でヴィルデ自身はこんな中でも大丈夫だ……たぶんマイクロビキニであってもたぶん。しかし本人も言っている通り、残念ながらヴィルデ以外の人には使えないらしい。そんなわけで。
「これを使ってくださいな」
ヴィルデが合流した時、ユキが氷の結界でトンネルを作り、ハルナがその中で火を燃やす事で温度を確保しながら進んでいる所であった。そんなふたりにヴィルデは持ってきた食料を与えたのである。
「ちょうどいい所に来てくれたわ!おなかすいてたのよ!」
「……」
能力を維持するにも体力がいる。ヴィルデはちょうどいいタイミングで到着したようだ。腹ごしらえも済ませ、いざ再出発しようという所で、ヴィルデの所に前もって偵察のために放っておいた影兎が戻ってきた。
「ふんふん、なるほどなるほど、ウサギ穴まではもうすぐだって」
最終目標が明確になれば希望も出てくるというものである。影兎の報告で目指すべきウサギ穴の位置を把握したふたりの顔は完全に希望に満ち溢れていた。次の世界にどちらかの扉があるかはわからないが、少なくとも扉がない事が明らかなこの世界を脱出する事はできそうだ。
「じゃ、行きましょ」
そしてヴィルデを加えた3人は極寒の中を進む。ふたりの能力にヴィルデが呼び出した夜の精でさらに風を防ぎ、防寒対策は完璧だ。疲労は極限まで達しているはずだが、それでもこれまでの猟兵たちの協力もあり、その足取りは軽い。そして。
「到着~!!」
ついにウサギ穴に辿り着いたアリスふたり。あとはこのあたりにいるであろう時計ウサギと合流すれば次の世界に行けるはずだ……だが。
「ちょっと待って」
ヴィルデがふたりを押しとどめた。到着を待ち構えていたような巨大な人影を認めたのだ。むろんそれは時計ウサギではない。そう、猟兵たちにとってはむしろここからが本番なのだ。
「……ひさしぶりね」
呼びかけた、その相手は……。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『チャンピオン・スマッシャー』
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POW : グローリーチャンピオンベルト
自身の【チャンピオンベルト】が輝く間、【自身】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD : キス・マイ・グローリー
【プロレス技】を放ち、レベルm半径内の指定した対象全てを「対象の棲家」に転移する。転移を拒否するとダメージ。
WIZ : アイ・アム・チャンピオン
自身の【攻撃を回避しないチャンピオンとしての信念】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
👑11
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●第2章にはプレイングボーナスがあります
こんな世界でもチャンピオン・スマッシャーはいつものパンツ一丁であった。さすがプロレスラー、寒くないというのだろうか。
『……さ、寒いぞ!!』
寒いらしい。じゃあ上着ればいいのに、と思わないでもないが、それはなにやら矜持のようなものがあるのかもしれない。そしてチャンピオンもこちらを認めたようだ。
『むう!猟兵どもにアリスどもめ!さては私の海外遠征を邪魔しようというのだな!』
むろん勘違いである。あくまで猟兵はハルナとユキをチャンピオンから守りに来たのであって可能かどうかもわからないアスリートアース遠征を阻止しに来たわけでは……むろんそういう目的の猟兵がいてもいいのだけど。
『こうなっては仕方がない!この世界で扉を探す前にまずはお前たちを叩きのめして全員弟子にしてくれるわ!【ノーロープ極寒デスマッチ】で勝負だ猟兵ども!』
いつの間にか氷雪で作られたリングの中央でチャンピオンは叫んだ。
チャンピオンの能力は以下の3種類だ。
【グローリーチャンピオンベルト】は命を削って攻撃回数を増やすものだ。ただでさて巨体から繰り出される攻撃は脅威なのに、それが9回も来るのではたまったものではないだろう。なお9回行動は大変素早く動くわけで、それで体温を上げる事で極寒対策も兼ねているらしい。
【キス・マイ・グローリー】はプロレス技を決め、相手に自宅に帰るか追加ダメージを受けるかの選択を迫るものらしい。むろん帰るわけにはいかないがダメージも受けたくはない。なお周囲の寒さにこれを使う事で冷気を一時的に吹き飛ばす事もするらしい……似たような事やってた猟兵いたなさっき。
【アイ・アム・チャンピオン】は攻撃を回避しない事で身体能力を上げるという実にプロレスラーらしい技だ。生半可な攻撃はダメージを上回る強化を相手に与えてしまうだろう。なお極寒の中でこんな寒そうな恰好をしている事も身体能力上昇につなげるつもりのようだ。
以上、どれも強力な能力であり、しかもしっかり極寒対策にもなっている。ただしチャンピオン自身は極寒に特別強いというわけではないようなので、うまいこと【極寒を利用する】事で戦いが有利になるかもしれない。また【チャンピオンの極寒対策を破る】事も有効だろう。頭の片隅に置いておくと良いだろう。
いずれにせよ、元幹部猟書家を放置するわけにはいかない。他世界に行かせるなどもってのほかだ。何よりハルナとユキを守らなければならない。だから、その、なんだ。なんとかしてください。
ニコリネ・ユーリカ
かの総統を倒し、新たなプロレス・フォーミュラになろうなんて
己の世界に留まらず頂点を目指そうという姿勢は好ましいわ
異世界にも販路を求める私に近いものを感じるもの
でも貴方という脅威を異世界に出すのはダメ
元幹部猟書家プロレスラーとしてここで咲き、散りなさい
とか何とか煽って一対一の勝負を挑む!
UCでバッファローの角をにょきっ
つよつよツノツノ団=TTDの矜持を頭に掲げてパワーアップ!
1000万パワーとスピードでチャンピオン同様に素早く動き体温を上げる
極寒プロレスも雪上プロレスも会場は熱気溢れるもの
寒さを撥ねのけアツい戦いをしましょ!
私ったら闘牛みたいに敵味方問わず突進するけど
相手が一人なら気にしなーい!
●デビル デビル バッファロー
ニコリネ・ユーリカは間違いなく全猟兵の中でももっとも数多くチャンピオン・スマッシャーと戦っているに違いない。なのでチャンピオンの今回の行動については思うところもいろいろあったようだ。
「かの総統を倒し、新たなプロレス・フォーミュラになろうなんて……」
それを無謀と断じる者もいるかもしれない。そも到達する事ですらできるかどうか定かではないというのに、やっとたどり着いた先で待っているデスリング総統はすべての技が対戦相手を骸の海に送る効果を持つなどという規格外の相手だ。チャンピオン・スマッシャーで勝つ事などできるのだろうか?だがニコリネは。
「己の世界に留まらず頂点を目指そうという姿勢は好ましいわ」
『出る前に負けること考える馬鹿いるか……え?』
思わぬ前向きな言葉に、当然罵倒される事を想定して反応しようとしたチャンピオンはちょっと面食らった様子だった。
「異世界にも販路を求める私に近いものを感じるもの」
そう。ニコリネは花屋である。生まれ故郷を出て外国で商売をするにとどまらず、36あるという別世界への進出も果たそうというのだ。どこの世界にも花はあるだろう。店舗と移動手段を兼ねたワゴン車があればどこにでも行けるしどこでも商売はできる。プロレスラーだって同じだ。どこの世界にもプロレスは……存在しない世界もありそうだけど大体の世界にはあるだろう。ならばそこに行き、見た事もないプロレスラーと戦ってみたい気持ちはあってしかるであろう。ましてやアスリートアースはプロレスの本場。いわば聖地。後楽園ホールやマジソンスクエアガーデンにも等しい存在だ。チャンピオンがそこに行って戦いたいと思うのはもはや本能だと言えよう。
『そうか、わかってくれるか』
「でもね」
ただそれはそれとして。
「貴方という脅威を異世界に出すのはダメ」
とある世界のオブリビオンが他世界で見られる事自体は一応ある話ではある。しかしそうめったにあるわけでもないし、特にアスリートアースで別世界のオブリビオンが流入したという話は聞いた事がないたぶん。さらにアスリートアースのオブリビオンであるダークリーガーたちはなんかいろいろと特殊な感じなので、そこに遺失物を入れるのはいろいろまずそうな感じがしないでもない。それよりなにより強大なオブリビオンの異世界進出など認めて良いものではないだろう。
「元幹部猟書家プロレスラーとしてここで咲き、散りなさい」
『ほざきおって猟兵め』
誉めた上で落とす。緩急つけた挑発にチャンピオンは見事にハマった。
『ならばリングに上がって来るがよい!因縁あるきさまを血祭に挙げて海外遠征の前祝いにしてくれるわ』
「言われなくても!」
何度も後れを取った相手への怒りで猛り狂うチャンピオンのベルトは既に光り輝いている。ウォーミングアップのように軽く飛び跳ねる動作からして超高速だ。おそらくこの動きで体温を上げる事で極寒対策としているのだろう。
「それなら私も1000万パワーで対抗よ!」
『なんだと?』
リング……というより四方に氷柱を立てただけの空間に踏み込んだニコリネの頭にはいつの間にか立派なツノが生えていた。その太く湾曲した角はスイギュウ、バッファローを思わせるものであった。
『な、なんだそれは!?』
「今ツノに見惚れたわね?クラン『つよつよツノツノ団』はいつでも団員を募集していまーす」
『誰が入るかそんなもん!俺にはこのマスクで十分だ!』
イラストで生やしてるのはヒツジぽい感じですねえ。さておき強そうなツノを生やしたつよツノ形態のニコリネは実際強い。あふれんばかりのパワーとスピードで素早く動く事でチャンピオン同様に体温を上げ、極寒のデメリットはなくなった。条件は互角、あとは純粋な実力勝負だ。
「極寒プロレスも雪上プロレスも会場は熱気溢れるもの!寒さを撥ねのけアツい戦いをしましょ!」
『この俺を前によくも吠えたものよ!ならばその力を見せてみるがいい!』
そして両者は真っ向からぶつかりあった。チャンピオンは必殺の【グローリーチャンピオンベルト】の効果で9回攻撃を行えるが、ニコリネの【
つよつよツノツノ団の証】はなんと10回攻撃だ。攻撃対象が敵味方の区別なく完全ランダムというデメリットはあったが、1対1ならまったく問題にならない。パワーとパワー、スピードとスピードの共演だ。それはそれは凄まじい熱戦だったのだが、ただ残念な事があるとすれば。
「……何が起こってるの?ユキ、わかる?」
「……」
ハルナの問いに無言で首を左右に振るユキ。この闘いの唯一の観客が、プロレスにそれほど詳しいわけでもないし猟兵ほどの動体視力もない一般アリスふたりであったのは本当に惜しまれる事といえた。そうこうしているうちに戦いは佳境に入っていた。体格ではチャンピオンに分があるが、それでもなおニコリネの方が1回攻撃が多いというのはかなりのアドバンテージだ。その有利を活かしたニコリネに勢いは傾いていた。
『……ふん、この私とここまでやりあうとは、なかなかやるな』
「もうへばったの?まだまだこれからよ!」
『ほざけ!』
チャンピオンはニコリネに突進する。それに合わせてニコリネもまた頭からチャンピオンに突っ込んでいった。リング中央で両者が激しくぶつかりあい……チャンピオンの体が宙に浮いた。
『な、なんだと!?』
「行くわよ!これが私の死のコース!」
ニコリネはさらに走ると、錐揉み状態で落下するチャンピオンに再度角をぶつけてまた宙に舞い上がらせた。それが3度、4度と続き……そしてチャンピオンに合わせてニコリネも飛ぶ。
「これで決まりよ!」
空中で相手の体を抱えて逆さまにすると、そのまま正座のような形で相手の頭を両足で抱え込み、リングに落下した。ハリケーンミキサーから繋げた技はテンザン・ツームストン・ドライバー……TTD。それは奇しくもつよつよツノツノ団の略称と同じであった。
「わー!すっごーい!」
「……!!」
最後の技の迫力はさすがにプロレスを知らないハルナやユキにもしっかり伝わったようだ。ニコリネは猟兵軍の先鋒としてこれ以上ない戦果をあげたといえよう。
大成功
🔵🔵🔵
夢ヶ枝・るこる
■方針
・アド/絡◎
■行動
せめて上着くらいは着られては?
『FLS』により
使用予定の『祭器』を召喚しまして。
『FPS』で敵方の行動を探査、『FVS』を『FES』の再現に用いて『強冷結界』でリングを覆い寒さを増大、自身は本来の『FES』を『耐冷結界』として衣装の様に纏うことで防ぎますねぇ。
更に『FGS』の重力波も重ねてチャンピオンの動きを抑え、『FKS』で自身を加速し【廽釯】を発動、【ベルト】で増加した攻撃回数全てに『刀』による[カウンター]の斬撃を返しましょう。
攻撃中は一時的な『
無敵化』が可能、チャンピオンの強力な攻撃を利用し『威力』を上乗せして叩きますねぇ。
●寒いものは寒い
俺たちゃ裸がユニフォームとばかりにこんな状況でも上半身もろ肌脱ぎの下はパンツ一丁にチャンピオンベルトといういつもの恰好のチャンピオン・スマッシャーに対し。
「せめて上着くらいは着られては?」
夢ヶ枝・るこるがこう言うのも当然といえた。まあ実際の所、普段の恰好で考えるならばるこるも別の猟兵ほどではないが夏は風通し良さそうだけど冬はちょっと寒いんじゃないかなーな服装ではある。まあもしかしたらこの体格自体が極寒対策だと言い張っても状況によっては通してしまいそうではあるが、さすがにるこるも今回はそんな主張をするつもりはないようで。詳細は後述として。
『何を言うか!』
むろんチャンピオンはそんな忠告(?)を聞き入れるつもりはない。
『ガウンを着るのは入場時だけだ!普段着着用はストリートファイトルールと決まっている!』
「????」
プロレスに興味のないるこるにはチャンピオンの言葉の意味がわからなかったようだ。プロレスの通常ルールよりも危険な試合形式になるものの総称をデスマッチと呼ぶわけだが、ストリートファイトルールはそのうちのひとつであり、文字通り町のケンカのごとく殴り合うのである。そのため通常のプロレスでは認められない行為も反則にならない事が多いわけだが、町のケンカで上半身脱ぐ者がほとんどいないのと同様に、私服着用で行われるのが普通である、と。ともあれ猟兵とオブリビオンの戦いなので本来ならルール無用が当然なのだが、そこはそれ。チャンピオンはあくまでプロレススタイルを貫き通すつもりであり、それがゆえのこの恰好なのである、という事だろうか。
「まあ、それならそれでいいですけどねえ」
るこるはありったけの祭器を呼び出した。相手がプロレスをやるというのであればこちらもプロレスで対抗するという猟兵は多いが、別にそれに付きあう必要はない。るこるは猟兵とオブリビオンの闘争における本来の形を選んだようだ。すなわちルール無用。以前チャンピオンと戦った時もそうだったし。
『ふん!相手がどんな手段で来ようとも私はプロレスで対抗するだけよ!なぜならプロレスこそ最強だからな!』
チャンピオンの叫びとともに腰のベルトが光り輝いた。ユーベルコード【グローリーチャンピオンベルト】は攻撃回数を9回に増やし、さらに高速移動によって寒さ対策とする副次効果もある。これでるこるが何をしてきても攻撃手段もろとも吹き飛ばそうという算段のようだ。対するるこるはさっそく祭器を発動させた。
「では、こんなのはいかがでしょう」
やったのは祭器をコピーする祭器で結界用の祭器を増やす事であった。で、その片方をチャンピオンに、もう片方を自身に行使したのだ。るこる自身を覆ったのは極寒対策のための耐冷結界であった。なるほどこれなら普段の恰好でも寒くないのかもしれない……いや本当に普段の恰好かはわからないが。まあ少なくともこおりタイプの攻撃ダメージを減らすのにあついしぼうだけに頼る事はさすがに避けたようだ。一方。
『な、なんだこれは!超寒いぞ!』
チャンピオンのいるリングを覆うようにかけられたのは真逆の効果を発揮する……強冷結界だったのだ。チャンピオンとてこんな格好しているくせに体温を上げて対策する必要がある程度には特別寒さに強いわけではないので、これはさすがにたまったものではない。覿面にチャンピオンの動きが鈍くなる。
『お、おおおおのれ!今そっちに行ってやるぞ!』
ならばチャンピオンのすべき事はるこるを待ち構える事ではなく自ら場外に出る事だった。強冷結界から出れば多少はマシになるだろう……が、るこるは祭器で重力波を重ねてチャンピオンの動きをさらに鈍くした。そして自身には加速用の祭器を使用、稼げた時間でユーベルコードを発動する。
「大いなる豊饒の女神、あなたの使徒に『武産の加護』をお与え下さいませ」
その名は【廽釯】と言った。廽=廻、釯は刃物の切っ先である。すなわち読みの『ワゴウノゲッケン』は『和合の絶剣』であろうか。そして発動と時を同じくしてチャンピオンが襲い掛かって来た。
『小細工を弄しおって!だが俺のプロレスが全て打ち砕いてくれる!』
「そうはいきませんねえ」
チャンピオンの攻撃に対し、現れた刀が切っ先、すなわち釯を向けた。速度の上がった刀は極寒で鈍ったチャンピオンの攻撃に的確にカウンターを合わせていく。
『ふん、そんな刀など俺の技で……何っ!?』
「無駄ですよぉ、私の刀は無敵なのです」
なんと刀はチャンピオンの攻撃が全く効いた様子もなく、逆にチャンピオンの攻撃は刀の攻撃に上乗せ、すなわち『和合』されてそのまま戻って来るのである。ちなみに『無敵』というのは言葉のアヤではなく、斬撃動作中は本当に完全無敵らしい。スターを取ったマリオ状態ってことは今のるこるはサイバーザナドゥ仕様ぽくゲーミング的に光り輝いていたりするのだろうか。ではチャンピオンに勝ち目はないのでは?
『知れた事!プロレスラーも無敵なのだ!無敵と無敵がぶつかればより強い無敵が勝つ!すなわち俺が勝つのだ!』
「……前半だけは同意して差し上げても良いかもですねえ」
気合を込めたチャンピオンだったが、残念ながらチャンピオンの無敵はるこるの無敵を下回ったようであった。極寒にさらされたためか、根本的にプロレスが無差別ルールに対して劣るのか、それともチャンピオンが……推測はいくらでもできるが、ひとまずここはチャンピオンの攻撃がことごとく破られ斬られた結果のみを示すことにさせていただこう。
大成功
🔵🔵🔵
リカルド・マスケラス
デスリング総統の力を再現するにはまだ力不足。もう一つの練習中の技で迎え撃つっすよ
「ユキ、力を貸して欲しいっすよ」
そう言ってユキに憑依。
最初は冷気を飛ばしたり氷の壁を作ったりして立ち回るが、動体【視力】で敵のUCの発動の出を見切り、開脚ジャンプ等で回避した後に相手の腕を【怪力】【グラップル】で掴み、こちらのUCを発動。三角絞めで肌を密着させた部分から【属性攻撃】で冷気を流し込み凍らせ【捕縛】。動きを封じることで続く攻撃を止めさせ、極寒対策も止める
「氷の女王直伝のアイスファイトっすよ!」
そのまま凍った相手をヘッドシザーホイップで地面に叩きつけてフィニッシュっすよ
●引き出しは多いに越した事はない
リカルド・マスケラスはデスリング総統とは4度も戦っている。そんな相手と先の戦争ではともに手を組んで戦ったりしているから世の中はおもしろい。これもダークリーガーが他世界のオブリビオンとはあきらかに違う特徴を持っているからであり、それがゆえにやっぱり他世界のオブリビオンをアスリートアースに流入させるのはやっぱりちょっとヤヴァいのかなー、と思わせる(というより筆者が勝手に想像している)点でもあった。ともあれリカルドは敵・味方の両方の立場からデスリング総統の技を見ている。そのためどうにかしてそれを再現したいと考えるのは自然の流れだったであろう。で、実際に先程第1章で使ってみたわけだが。
「デスリング総統の力を再現するにはまだ力不足っすねー」
そう、結論付けざるを得なかったようだ。まあ総統の技は目標を骸の海まで飛ばすというとんでもない大技なので、さすがにそこまでの威力まで引き上げるのは並大抵の鍛錬ではないだろう。そういやば猟兵のユーベルコードにも骸の海送りは一応あったけど、あれはなかなかに達成条件が厳しすぎる。そんなわけで、プロレス・フォーミュラの座を目指すチャンピオン・スマッシャーに対して現プロレス・フォーミュラの技で対抗するというのは皮肉や諧謔の類としてはおおいにアリだったかもしれないが、今回は見送る事にしたようだ。チャンピオンと総統の両方を良く知るリカルドならではの判断だったといえよう。
代わりにリカルドが選んだのは……。
「ユキ、力を貸して欲しいっすよ」
「……」
以前も組んだ事もあり信頼があったのだろう。無言の同意を得た(決して返事がないのを勝手に肯定と解釈したわけではない……たぶん)ユキの体を借り、リカルドはチャンピオンの待つリングに立った。
『覆面レスラーとはな』
覆面と呼ぶにはちょっと素顔(?)が出すぎているリカルド(&ユキ)にチャンピオンは明らかな敵意を示した。オブリビオンの特質上、何度も戦っている相手ではあるがその記憶は基本的には受け継がれず、何度も戦っているはずのリカルドもチャンピオンにとって初対面の相手だ……まああまりにも怨念強すぎる相手だと覚えている事もたまにはあるようなので何度も戦っているリカルドの事は覚えていてもよかったのだが、今回は忘れている方が都合が良さそうなのでそれで行かせていただきます。
『……地の文が何を言っているかわからぬが、ともあれ!昔から
覆面というものは真の実力者だけがつけるもの!この私のような実力者がな!きさまになどマスクをつける資格はないわ!』
「えーと、覆面じゃなくて仮面っすしそもこっちが自分っすよー」
『わけのわからんことを!覚悟するがよいわ!』
さすがにチャンピオンの剛力にまともに戦いたくないと判断したのか、はじめはリカルドはユキの力を使い、冷気や氷の壁といった搦め手による遠距離攻撃主体で立ち回った。さすがにチャンピオンに有効打となるものではないが、それでもチャンピオンをおおいに苛立たせる戦法ではあった。
『おのれ!ちまちまとした戦い方をしおって!それでもレスラーか!ならば一気にカタをつけてくれる!』
チャンピオンのベルトが光った。攻撃回数を9回に増やす【グローリーチャンピオンベルト】の合図だ。
「……来るっすね!」
リカルドは慎重に相手の出方を伺う。初撃の回避に全力をそそぐ構えだ。
『食らうが良い!きさまのラリアットより私の方が上だ!』
先刻吹雪を吹き飛ばしたリカルドに対抗する意味があったのだろうか。強化した力でチャンピオンが繰り出したのは右腕一閃のラリアットであった。それをリカルドは両足を広げてリープフロッグで回避。超巨漢のチャンピオンにこれを決めたのはなかなかの身体能力だ。そして空中に浮かんだまま、9回攻撃の2回目を繰り出そうとしたチャンピオンの腕に両足を絡みつかせた。
『くっ!生意気な!だがこんなもの俺の怪力で振りほどいてやる!』
「そうはいかないっす、怪力なら自分にも自信あるっすからね」
チャンピオンもたしかに巨体と筋肉に相応しい剛力の持ち主だったが、それでも片腕一本ではリカルドの全身の力と関節技の技術には抗しようもない。相手が9回攻撃で来ようと最初の1回で止めてしまえばあと8回は来ない。いや来る場合もあるが今回は来させない。それがリカルドの狙いだった。そしてリカルドはチャンピオンの腕に絡めていた両足をさらに首に絡みつかせると、ユーベルコードを発動させた。
「ユキ!頼むっすよ!」
「……!」
ユキの氷の力をリカルドの力で増幅強化させた強烈な冷気がチャンピオンに直接流れ込む。それはチャンピオンの連続攻撃を止めるにとどまらず、高速移動による極寒対策破りも兼ねていた。
『こ、これは……ざざざざざぶいッッッ』
極寒対策を破られ、こんな格好の割に特別寒さに強いというわけではないチャンピオンは寒さに震えた。今こそ好機。リカルドはさらに冷気を強める。
「氷の女王直伝のアイスファイトっすよ!」
『な、なんだとっ!?』
氷の女王とは時宮朱鷺子と同様、先の戦争で他世界からアリスラビリンスに送られ、これを書いている現在ではいまだに元の世界に戻れていない『西のラスボス』アイスエイジクイーンの事に他ならない。デスリング総統同様、リカルドはアイスエイジクイーンとも協力して戦いに挑んだ事がある。なんという偶然か、その時相手をしていたのは他ならぬチャンピオン・スマッシャーその人だったのだが、前述した通りチャンピオンはその事を全く覚えていなかった。
「喰らうっすよ!これが必殺の【
雪狐氷葬落地】!」
そしてリカルドは体を思い切り捻ると、冷気を込めたヘッドシザースホイップでチャンピオンの頭部を氷のリングに叩きつけた。
「ユキー!かっこよかったよー!」
「……」
ハルナの声援にはにかむユキ。でリカルドは。
「……自分の事も少しは誉めてほしかったっすねえ」
ちょっとぼやきつつも女の子ふたりの友情には微笑ましいものを確かに覚えたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィルデ・ローゼ
「ふっ、待たせたわね!チャンピオン!」
バサッと防寒具を脱ぎ捨ていつものカッコに。
確かに、相手より有利を取るのは戦いの基本だけど、私は苦痛の巫女。そんなことでは女神様の信徒として失格というものよ。
あらゆる苦難は私のもの。
……それにしても、チャンピオン。マスクとパンツしか持ってないのかしら?ちょっとかわいそうね……。
地面が雪で柔らかいけど、その雪に埋もれるように投げ技、極め技主体で戦うわね。寒さで体が硬くなってるから極め技は堪えるんじゃないかしら?
最後は逆エビ固めで決めたいわね。
●あなたはそれで良い
第1章でヴィルデ・ローゼの服装について少し触れたわけだが、結論を言うならどうやらちゃんと防寒具を着ていたようだ。さすがにユーベルコードで対策していても不安は不安だったのかもしれない。それにハルナとユキの心理的な影響もあっただろう。見ているだけで寒そうな恰好で寒い中にいたら見ている方も寒気を感じるような気がするわけで、そんな思いをさせるわけにはいかなかったのだろう。
「ふっ、待たせたわね!チャンピオン!」
そんなわけでヴィルデはリングに待つチャンピオンの所にもしっかり防寒具装備で来た。まあ当然だろう。こんな寒い中に無防備で立つのは戦うどころの話ではない。
『なんだ?入場用のガウンを着たまま戦うつもりか?』
たしかにチャンピオンの言う通り、例外もあるにせよプロレスラーは、いや多くのプロ格闘技において入場時には全身すっぽり覆うようなガウンを着ていて、リング上で脱ぐというのが定番となっている。こんな極寒リングでない普通にリングであってもやはり上半身裸は寒いのだろうか。そしてリングで動いている間は熱くなる(チャンピオンのPOW系極寒対策のように)のでガウンを着る必要がないということで。
『仮にもレスラーならばリング上ではガウンを脱いだらどうだ?まあ強制はせんがな!だが寒さに勝てんようでこの私に勝てると思うならそれは大きな思い上がりというものだ!』
あざけるような挑発を飛ばすチャンピオン。それに対してヴィルデは。
「言われなくても!」
……本当に脱いだ。ガウンの下は、マイクロビキニめいたいつもの恰好。
「……見てるだけでこっちまで寒くなりそうなんだけど……寒くないの?あれ」
「……」
猟兵以外では唯一の観客であるハルナにユキ、唖然。恰好そのものにもだけど、こんな場所でこんな格好する事への驚きは非常に大きかった。そして。
『……いや、自分で言っておいて何だけど……大丈夫なのか?』
他人の事を全く言えない恰好のチャンピオンも、念のため確認する始末である。だがヴィルデは決して何も考えていないわけでもヤケになったわけでもない。彼女なりの信念に基づいた行動だったのだ。
「確かに、相手より有利を取るのは戦いの基本だけど」
ええその通り。実際これまでの猟兵は大なり小なりどうにかしてチャンピオンを極寒に晒して有利を取ろうとしてきた。してなかった人もいたにはいたけど。それは実際グリモア猟兵も推奨の行為である。グリモア猟兵の出身地であるサムライエンパイアにおける著名な武人の言葉を借りるなら、猟兵は犬畜生と言われようが勝つ事が最重要なのである。そのためにグリモア猟兵がダメだと言わない限りならありとあらゆる手を使う事が認められるわけだ。それこそ時として卑怯な手すらも。
「私は苦痛の巫女。そんなことでは女神様の信徒として失格というものよ。あらゆる苦難は私のもの」
だがヴィルデが選んだ道はそれとは真逆であった。すなわちあえて極寒という苦痛に我が身を晒す事で自分を強化する道。偶然にも、あるいは必然か。それはチャンピオンと全く同じ手段だったのである。プレイングボーナスなど所詮はボーナスであり勝利条件ではない。より良い道を提示できると信じるならそちらを進んだって誰に恥じようか。断じて行えば鬼神も之を避くという。そういう強い姿勢が時として天の感銘を呼び、勝利へと導かれる事だってあるのだ……ただし断言はちょっと危険かもしれないので、そういう事もあるかもしれないぐらいにぼかしておこう。
「……それにしても、チャンピオン」
そして今度はヴィルデが言及する番だ。
「マスクとパンツしか持ってないのかしら?ちょっとかわいそうね……」
『お前が言うな!お前こそその服装しか持っていないだろうに!』
確かにヴィルデがチャンピオンと相対したのは今回で6回目、その全てで今回と同じ恰好なものだからチャンピオンがこう言いたくなる気持ちもわからないでもないが、ただ所持イラストを見ると存外いろいろな服を持っているようである。まあ全部似たようなデザインと言われたらそうなんだけどね。
『ええい無駄口はここまでだ!そこまで言い切るお前の力をこの私に見せてみるがよいわ!』
「言われなくても!」
かくしてむちゃくちゃ寒い所でむちゃくちゃ寒そうな恰好のふたりは極寒を気にする様子もなく真っ向からぶつかり合った。しかし環境や恰好に反し(?)、その試合は観客がいないのが惜しまれる程の激戦となった。ともにレスリング技術は高く、しかも互いにただでさえ相手の技を避けない事で能力が上がるというのに、極寒の中にいる事自体が能力上昇にブーストをかけてしまうのだ。身体能力に技術が合わさった総合的な戦闘能力は天井知らずの上昇である。
「ねえ、何やってるかわかる?」
「……」
ヴィルデが投げ技や寝技主体を選んだ事で、チャンピオンもそれに付きあう形になった。マット代わりの雪原は積雪のため柔らかい。ふたりの体が半分雪に沈んで見えづらくなった事もあり、グラウンドの攻防はもはや素人のハルナやユキにはまったくついていけない領域に達していた。
「どう?寒さで体が硬くなってるから極め技は堪えるんじゃないかしら?」
『な、何をほざくか、この程度……』
グラウンド主体を選んだのはチャンピオンの体を雪に沈める事で極寒攻めにする事にあった。むろんチャンピオンの能力を上げてしまうデメリットはあったが、能力上昇よりも高いダメージを与えられると判断したのであった。同じ能力の使い手だったが、地形効果を活かす戦い方をした事で戦いは徐々にヴィルデ有利に傾いていった……なんか結局有利をとる戦い方をしてる感もあるが、まあ結果論であろう。
「これでとどめよ!」
そしてついにヴィルデはうつ伏せに倒れたチャンピオンの両足を抱えて思い切り後方に反らす逆エビ固めを決めた。とどめとばかりに全力を込めるヴィルデに。
『こ、このような基本技でこの私が……』
心底悔しそうな顔でタップアウトをするチャンピオン。これで勝負あった、チャンピオンは骸の海に……と思われたのだが、どうやらもうちょっとだけこの話は続くらしい。
大成功
🔵🔵🔵
高崎・カント
もーきゅ!
こんなに寒いのに平気なのです?
すごいのです! 筋肉はあったかいのです!
きゅーう?
朱鷺子さんは扉が爆発したから自転車で帰ったのです
扉をくぐれちゃったらその時点で負けな気がするのです
骸の海を自力で渡るといいのです! がんばるのです!
スマッシャーさんも特訓するといいのです
カントがお手伝いするのです
さあ、カントが起こす竜巻を泳ぐのです!【UC使用】
きゅ? 風が吹き付けて寒い?
もきゅうううっ! デスリングラリアットはこんなものじゃないのです!
仕方ないのです、特別にパチパチで火を起こしてあげるのです
筋肉を燃やすのです!!
カントも負けてられないのです
特訓なのです!
竜巻をぴょんぴょんするのです!
●プロレスにもシナリオにもブックなど存在しない
実は今回のシナリオにおいて、あえて伏せていた情報があった。それはどうせ倒されるチャンピオン・スマッシャーの勘違いをあえて訂正する必要もないだろうという、ある意味雑な考え方によるものだったのだが。まさかそれが展開を左右する事になるとは筆者も想像だにしていなかったのであった。
「もーきゅ!」
いまだ敗戦のダメージ……心身両面におけるダメージから回復しきれていないチャンピオンの所に寄って来たのは高崎・カントであった。
「こんなに寒いのに平気なのです?すごいのです!筋肉はあったかいのです!」
自分みたいに毛皮に身を包んでいるわけでもないのに、さりとて防寒具どころかまともな衣類すら身に着けていないのに極寒の中でこうして生きているチャンピオンにカントは本気で感心しているように見えた。ちなみに寒さに耐えるのは筋肉よりも脂肪の方が重要であり、マッチョはむしろ寒がりで風邪ひきやすいとされている。どう見ても体脂肪率低そうなチャンピオンがこの極寒で活動できるのはオブリビオンなためか、プロレスラーとしての矜持か。いずれにせよ並大抵の事ではない……の、だが。
『……いや、寒いぞ』
うつ伏せにダウンしたままチャンピオンは珍しくも力なく答えた。プロレスラーとしての矜持、プロレス・フォーミュラを目指す野心、そして眼前の敵に対する闘志。そういったもので寒さに耐えてきたが、敗戦によってそれらが失われつつある今では本来それほど寒さに強いわけではない性質の方が精神力を上回りつつある。このまま放置しておけば極寒とダメージで骸の海に還るのもそう遠い話ではない……はずであった。
「そういえばです」
だが、次のカントの言葉がチャンピオンの精神を繋ぎとめた。
「朱鷺子さんは扉が爆発したから自転車で帰ったのです」
『!!??』
そう。今回あえて伏せていた情報はこれだ。チャンピオンは朱鷺子が用意された扉を通ったものだと思い込んでいたのだが、実際は朱鷺子の力に扉が耐えきれずに爆発してしまったのである。で、別の手段としてどうにか自転車で帰る事に成功したわけだが、それは重要ではない。重要なのは。
「扉をくぐれちゃったらその時点で負けな気がするのです」
『い、言われてみれば、確かにそうだ』
トライアスロン・フォーミュラである朱鷺子の力はプロレス・フォーミュラと互角ぐらいはあるだろう。
『いいやプロレスの方が強いに決まっている!』
……そうおっしゃるならデスリング総統の方が上という事にしておきましょう。で、その総統より下な朱鷺子朱鷺子が爆発させてしまった扉をチャンピオンが通れたのだとしたら、明らかにチャンピオンの力は朱鷺子を下回る事に他ならないと。いわんやデスリング総統をや。だとしたらチャンピオンが扉を通ってアスリートアースに行けたとしても、まあデスリング総統には勝てんわなあ、と。
『な、なんていうことだあッッッ』
むろんチャンピオンが扉を爆発させる力がある可能性も否定はできないが、たった今猟兵との戦いで敗北した後では、とてもそう考える事はできなかったようで。そんなチャンピオンにカントは。
「骸の海を自力で渡るといいのです!がんばるのです!」
『……』
とんでもない提案にさすがにチャンピオンもしばし押し黙った。が、やがて口を開いた。
『そ、そうだな!それができればトライアスロン・フォーミュラよりも力は上だろう!新たなプロレス・フォーミュラとて夢ではないぞ!』
そんな事ができるぐらいまで強くなってしまったらプロレス・フォーミュラどころか世界がヤヴァい事になりそうな気もするけど、まあそこはそれ。
「スマッシャーさんも特訓するといいのです」
『うむ!特訓してアスリートアースに渡り、プロレス・フォーミュラに至ってみせるぞ!』
カントの激励に気合を入れなおしたチャンピオン。ここで終わればちょっといい話(?)だったかもしれないが、そうはいかないのが第六猟兵である。
「カントがお手伝いするのです!」
『何?まさか今から?』
「さあ、カントが起こす竜巻を泳ぐのです!」
いきなりカントが【モラ・スピン】またの名を【カントタイフーン】を発動させ、超高速回転で竜巻を起こしたものだから、もともとダメージが蓄積していた上に心の準備もできていなかったチャンピオンは無言で体を反らせながら思い切り吹き飛んだ。俗に言う車田飛びである。そしてそのまま雪原に落下した。
「ちゃんと泳がなきゃダメなのです!がんばるのです!」
『……い、いや、この寒い中で……』
「きゅ? 風が吹き付けて寒い?もきゅうううっ!デスリングラリアットはこんなものじゃないのです!」
カントはすっかり鬼コーチと化していた。よもや普段から弟子にパワハラめいたしごきを行っていたチャンピオンが、自身がそれをやられる立場になるとは思ってもみなかっただろう。まさに因果応報である。
「仕方ないのです、特別にパチパチで火を起こしてあげるのです!」
『あ、ああ、それはありがたい……』
「筋肉を燃やすのです!!」
普通、こういう場合は焚火かなんかを作ってくれるものだと思っていたのだが、カントのパチパチ静電気はその言葉通りチャンピオンの筋肉を燃え上がらせたのであった。これで極寒と炎が混じりあってちょうどよくなれば良いのだが、残念ながら熱い部分と寒い部分の混在になるのがオチであった。
『ぎにゃーッッッ』
「カントも負けてられないのです!特訓なのです!」
手本を見せるためか、本当にチャンピオンに負けないためか、カント自身も自分で起こした竜巻の上で飛び始めた。さすがに元気いっぱいなためか、モーラット特有の小柄な体格のおかげか、見事に猛吹雪の上を飛んでみせた。
「さあ!スマッシャーさんもやるのです!」
『ちょ、ま、ぎにゃあああああああ』
カントが再度巻き起こした竜巻は、チャンピオンをはるかかなたまで吹き飛ばしていった。
「……もきゅ?」
・・・・・・
そしてハルナとユキがウサギ穴を通って次の世界に向かうのを見送りつつ、猟兵たちは考えた。チャンピオンの最期を見届ける事はできなかったが、あのダメージでは無事では済むまい。まもなく骸の海に行く事だろう。よもやアスリートアースまで泳いでいく事などありえまい。戦いはひとまず幕を閉じた。
……そう、誰もが思っていた。
(【海外遠征を阻止して帰還に協力せよ】に続く)
大成功
🔵🔵🔵