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《バグクエスト:呪われた宝》石贄の顛末

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四王天・燦




 どことも知れぬ暗闇の中。そこに一つのレリーフが置かれている。
 身体に石の触手を絡みつかせた裸婦。艶めかしく固定された悦楽の表情と言い、淫らによじられたその腰つきと言い、まるで生きているかのようだ。
 美しくも背徳的で、だが同時に、どこか悍ましく、恐ろしい。
(「――――――」)
 そう、実際に生きている。このレリーフはゴッドゲームオンラインのクエストに失敗した、四王天・燦(月夜の翼ルナ・ウォーカー・f04448)の末路である。
 完全に石化したその身体は指一本、髪の毛の一本すら動かせないが、そこに宿る魂が感じられる。
(「――――――ぁ」)
 閉じ込められてから、どれだけの時間が経っただろうか。10分と経っていないようにも、100年が過ぎたようにも思える。
 何も見えず何も聞こえず、何も感じられない。何も覚えてすらいない。
 ただ、朧気な記憶の奥底に、大切な想い出があったような、そんな微かな残滓が残るばかりである。

(「――っ!?」)
 そんな永遠とも知れぬ暗闇から、唐突に解放された。周囲は薄暗いが、それでも今は眩しく感じられる。
 もちろん、石化が治癒された訳ではない。指一本動かせぬ身体の前に立つのは、美しくも邪悪な笑みを湛えたビキニアーマー姿の女。
「ふふ……♪」
 その女が燦をこの姿に変えた事も、もう思い出せない。自分が今まで彼女のアイテムストレージの中にいた事も、当然覚えていない。
 だが女は構わず楽しげに、こちらの身体を指でなぞり上げ。そしておもむろにその先端を、ピンッ、と弾く。
(「あああっ――!!」)
 今まで何も感じられなかった身体に、鮮烈な刺激が電流のように駆け抜けた。思わず心の中で喘ぎを零すが、それは当然、音にはならない。
 魂が嬌声を溢れさせようと、それが女に届く事はない。けれど女は気にせず楽しげに指を動かす。胸から腋を通って、腰へと降り、そして下腹部に手のひらを押し当てて。
(「っ――はっ……あ、ぁ――!」)
 薄暗い空間に、カリッ、と言う小さな音が響く。爪で下腹部を引っかかれたその瞬間、頭の中でパチパチと火花が散った。
(「――お腹の奥が……き、軋むっ……」)
 当然体内まで石化しているため、生身の感覚はない。だが、触れられる事による振動と熱で直接魂を愛撫されるような、そんな感覚。視界の片隅で『石の悦楽』と言うバッドステータスがウィンドウに表記されている。
 許されているのはただ魂で感じ、喘ぐ事のみ。それ以外のあらゆる機能は、すでに喪失している。
(「くっ、ひ――あ……ひぃっ……」)
 そうして愛撫される事、数時間……体感時間では永遠とも思えたが。夜空に満月が輝く中で、レリーフは祭壇に飾られる。
 粘つく聖水に現れ、月明かりで淫らに照らし出されるレリーフ。石の肌には、不気味な紋様を描かれて。
(「――あ……ああっ!?」)
 祭壇に響き渡る詠唱に呼応し、体内で魔力が荒れ狂う。完全に石となっているはずの臓器が、強烈な快楽を響かせる。
(「渦巻いて……あふ、溢れる……!?」)
 『石の絶頂』『狂気石化』――そうした表記が片隅に見えるが、もはや読み取る余裕すらない。動ければ激しくのたうち回っていただろうが、当然指一本動かない。
 声を上げる事もできない半開きの口に、女が赤い液体を――血を流し込んだ。瞬間、全身に描かれた紋様から、灰色の瘴気が吹き上がる。
(「「――か、固い……寒い……石に、堕ちる……」)
 魂が熱を失い、凍りついていくような感覚。だが、体内に刻まれた祝福が魂を強制的に維持し、魔力のみを搾り取る。
 瘴気はゆっくりと球体を作り……そこにぎょろり、と大きな瞳が開く。そしてその上部から、まるで蝶が羽化するように。白髪の美少女が、生まれ出た。
「ふぁぁぁ……♪」
 一糸まとわぬその少女は、長い眠りから覚めたように背伸びして、大きく欠伸をした。歓喜する女の頭を撫でながら、思い出したように燦を見下ろす。
「――そうだ。良い事を思いついた」
「……ぁっ……!」
 そして無造作に石の身体を撫で上げれば、そこだけ石化が解除された。自由は効かぬままに、身体の一部だけが生身を取り戻す。
「ひっ……ぅぁっ……!?」
「ねぇ、あなた……」
 久々の生身に、気持ち悪ささえ覚える燦。その顎をグイッと掴んだ少女は、楽しげにこちらの瞳を覗き込んで来る。
 上着を纏いながらこちらを見下ろすあどけない笑みに恐怖を覚えるが、目を反らす事は許されず。
「解放してあげるわ。嬉しい?」
「ぇ……」
 まだ朦朧とした意識のまま、その言葉を反芻する。次第に理解が追いつくと、驚きに片目を見開いて。
「だってあなたは、石になる運命。私の石贄となるため、必ず戻って来るの」
「そんな、こ、と……ひぅっ……!」
 少女は微笑みながら、くすくすともう片方の――まだ石である目を軽く小突く。それだけで反論は失われ、異様な悦楽に支配される。
 こちらが抗えないのを良い事に、少女は燦の臍へ指を押しこんで来た。
「信じられないなら、証をあげる」
「――ひ、い!?」
 淫らな水音を響かせながら、指をぐりぐりと動かす少女。隙間から粘液が溢れ出し、激しい快楽に身体が跳ねる。
 指が引き抜かれれば、飛沫が迸り――そして臍奥から、『瞳』が開く。
「これは、私の『眼』よ。あなたは私に変わって、世界の外を見るの」
「ぁ、あ……」
 明らかに燦の物ではない、つぶらな瞳。これは少女の眼であり……そして燦の眼でもある。それを魂で理解しながら、問いかける余力はすでにない。
 新たな部位を生み出させられた消耗で、急速に瞼が落ちていく。
「また、会いましょうね――」
 意識が失われる、その直前。少女の微笑みが、3つの眼に焼き付いた――。

「……あれ。寝てた……?」
 次に目覚めた時、燦はクエストエリアにいた。石になって以降の事を、全く覚えていない。もはや周囲に敵もいないようだ。
「自然回復したのかな? ……まあ良いや、帰るか」
 首をひねりつつ帰路につく燦。その臍で、ぎょろりと瞳が蠢いた。だが燦が己の腹に目を向けた時には、すでに体内に消えている。
 彼女がその瞳に気づく事は、ない――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年10月19日


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