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さいわいのしるべ

#アルダワ魔法学園 #しあわせな王子さま


 アルダワの地下迷宮に、硬い靴音が響いている。広大な迷宮内においてその音はあちこちに跳ね返り、幾重にも重なった。
 ぽつりぽつりと灯る迷宮内の明かりを、靴音の主は鈍く照り返している。
 黄金と黒に彩られた体。柄を握る手との境が曖昧にも見える西洋の剣。迷宮内を進むのは、カクリヨファンタズムの西洋親分たる『しあわせな王子さま』その人だった。
 しあわせな王子さまの眼差しが、柔らかく迷宮内の景色を撫でる。
 かたん、かたん、とぎこちない音が聞こえ、しあわせな王子さまはそちらに目を向けた。
 少女のような姿をした災魔達が、ゆっくりと通路から溢れて来る。しあわせな王子さまの瞳に、暖かなランプのような光が宿った。
「ここにもいたんだね。もうだいじょうぶ。僕はきみたちを倒しにきたわけじゃないんだ」
「ダイジョウブ、ダイジョウブ……」
 災魔達が、しあわせな王子さまの言葉を、軋むような声で繰り返す。だが、その目はすぐに渦巻く黒を浮かび上がらせた。
「アア……ニクイ、ニクイ……」
 軋む声が紡ぐのは、紛れもない恨みの声だ。口々に紡がれる音に、迷宮の明かりが陰るような気すらする。
 怨嗟をまとった災魔達を前に、しかし西洋の剣は切っ先を足元に向けたままだった。

「皆さん、お集まり頂きありがとうございます」
 神臣・薙人(落花幻夢・f35429)は、グリモアベースに集った猟兵達にそう言って一礼した。
「帝都櫻大戰の際、キャンピーくんが様々な世界から、私達と共に戦って下さる方を異世界へ運んでくれた事は、ご承知の事かと思います」
 大戰は猟兵達の完全勝利で終わったが、各地へ運ばれた協力者達は、未だ多くが元の世界へ帰還出来ていないのだという。キャンピーくんが何処かへ去ってしまったため、その世界移動能力を頼る事も出来ない。彼らが元の世界へ戻るためには、猟兵達の助けが必要なのだ。
「今回、皆さんに行って頂きたいのは、アルダワ魔法学園にある地下迷宮です」
 そこには、カクリヨファンタズムの西洋親分である、しあわせな王子さまがいる。
「幽世の妖怪達は、かつて不思議な『宴』と呼ばれる儀式を通じて、UDCアースからカクリヨファンタズムへの世界移動を成功させた事があります」
 この儀式の手順は、しあわせな王子さまも勿論知っている。しかし、しあわせな王子さまはカクリヨへ帰る事にはこだわっていない。それどころか、アルダワの広大な迷宮を根気強く旅しているのだ。
「実は、帝都櫻大戰で護国鉄神零號がアルダワ地下迷宮に出現した際、体内に内包されていた八億の魂の一部が漏れ出てしまっていたようなのです」
 その数、実に二七八万体。
 護国鉄神零號から零れた英霊達は迷宮の災魔と合体してしまい、そのままさまよい続けている。しあわせな王子さまは嘆きと無念に取り憑かれた英霊達を見過ごす事が出来ず、彼らを成仏させるために迷宮での旅を続けているのだ。
「皆さんには、しあわせな王子さまと力を合わせて、英霊達に対処して欲しいのです」
 しあわせな王子さまは、全ての英霊を成仏させるまで、カクリヨファンタズムへ帰るつもりが無いらしい。王子さまの帰還を待ち望む者のためにも、彼に手を貸してあげて欲しいのだと薙人は言った。
「迷宮へ着いたら、まずしあわせな王子さまと合流して下さい」
 しあわせな王子さまは、災魔と合体した英霊の群れと対峙している。この英霊達は、かつて鋼鉄共栄圏で幻朧帝と戦い散った人々の魂だ。しかし、オブリビオン化によって、生前の気高く勇敢な魂は歪められている。今の彼らは妄執と怨嗟を撒き散らす存在でしかない。
「しあわせな王子さまは、対話によって英霊達の傷付いた心を癒し、成仏させようと試みていますが……戦って介錯するのも方法の一つです」
 どちらの手段を取るにせよ、英霊達を鎮め、災魔達も一掃しなければならない事に変わりはない。
「災魔の集団を退けると、一際強力な災魔と合体した英霊が現れます」
 この英霊は、怨嗟のままに災魔の体を操り、暴れ回っている。対話で成仏させようにも、恨みと哀しみに狂い切った英霊へ言葉を届ける事は難しい。何らかの方法で一旦大人しくさせる必要があるだろう。
「今回しあわせな王子さまが見回っていた区画の英霊を鎮め終わったら、一度学園へ戻る事になります」
 折しも学園の一角では、鉱石を材料にした装飾品やマニキュア等のアイテムを作るお祭りが開かれている。しあわせな王子さまと共にこのお祭りを楽しめば、次の冒険に向けて英気を養える事だろう。
「時間もかかり、大変かと思いますが……しあわせな王子さまをカクリヨファンタズムへ帰すためにも、ご協力をお願い致します」
 どうか、お気を付けて。
 薙人はそう言って、掌にグリモアを浮かべた。


牧瀬花奈女
 こんにちは。牧瀬花奈女です。しあわせな王子さまの帰還をお手伝いするシナリオをお届けします。各章、断章追加後からプレイングを受け付けます。

●一章
 集団戦です。しあわせな王子さまと協力して、災魔と合体した英霊の群れに対処して下さい。

●二章
 ボス戦です。詳細は断章にて。

●三章
 日常章です。お祭りを楽しんで、次の冒険への英気を養いましょう。
 この章のみ、プレイングにてお声掛けを頂いた場合、神臣・薙人がお邪魔します。しあわせな王子さま以外に話し相手が欲しい時等にどうぞ。

●その他
 再送が発生した場合、タグ及びマスターページにて対応を告知致します。お気持ちにお変わり無ければ、プレイングが戻って来た際はそのまま告知までお待ち頂ければ幸いです。
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第1章 集団戦 『アルダワホムンクルス』

POW   :    コピー・クリスタライズ
自身と自身の装備、【触れている】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
SPD   :    コピー・ミレナリオ・リフレクション
対象のユーベルコードに対し【正確に全く同じユーベルコード】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
WIZ   :    コピー・叛逆の狼煙
【両手のひら】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、両手のひらから何度でも発動できる。
👑11
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 かたん、かたん。
 アルダワの地下迷宮に降り立った猟兵達の耳に、ぎこちない音が届く。前方に目を向ければ、少女のような見た目をした災魔達と、彼女らと対峙するしあわせな王子さまの姿が視界に入る。
「ああ……きみたちも来てくれたんだね」
 しあわせな王子さまは、猟兵達に気が付くと緩やかに微笑んだ。右手にある剣は切っ先を足元に向けたままで、未だ一度も敵と切り結んでいない事が窺える。
「僕は、話し合いで、災魔と合体している英霊たちを癒して成仏させてあげたいんだ。手伝ってくれると、とても助かるよ」
 もちろん、無理強いはできないけど。
 しあわせな王子さまはそう言って、徐々に距離を詰めて来る災魔達へ目線を戻す。
「ニクイ、ニクイ……ドウシテ」
「ドウシテ、コロサレナケレバ、イケナカッタノ……」
 軋んだ声音が、心の奥を引っ掻くような言葉を紡ぐ。
 対話によって英霊達を成仏させた後に、災魔達を討つか。最初から純粋に戦いのみで決着をつけるか。どちらの方法を取るにせよ、この災魔達は退けなければならない。
 如何にしてこの場を切り抜けるか。
 判断は、猟兵達に委ねられた。
兵藤・影虎
随分とお人好しだね、王子さま
…まあ、嫌いじゃないけど

手伝えるっていうなら手伝うよ
王子さまが帰る気無くても
待ってる誰かがいるんでしょ

相手は戦って亡くなった人の魂だっけ
…いきなり力で解決する気にはならないな
正直、得意じゃないけど対話するだけしてみるよ

「どうして」って言いたくもなるよね
きっとあなた達は生きて帰りたかっただろうし
あなた達を待っていた人だっていたはずだ

…一つ、聴いてもいい?
どうして、あなた達は戦ったの?

死ぬかもしれないってわかってたはず
でも、あなた達は戦った
きっと理由があったんだよね
その理由を、どうか思い出して

言葉が届けばそれでよし。駄目なら…
【過去に捧ぐ鎮魂歌】
災魔ごと骸の海に送るよ




 随分とお人好しだね、王子さま。
 兵藤・影虎(Trumpeter・f44673)は災魔達と相対する、しあわせな王子さまを見て思う。大戰は終わり、自らの世界へ帰る術も知っている。それなのに、この迷宮をさまよう英霊を救うため、異世界へ留まり続けようというのだから。
「……まあ、嫌いじゃないけど」
 すいと足を踏み出した影虎の手の中で、トランペットガンの表面が迷宮の明かりを跳ね返し、艷やかにきらめく。
 隣へ並んだ影虎の動きを察して、しあわせな王子さまが目線をこちらへ流した。
「きみも手伝ってくれるの?」
「手伝えるっていうなら手伝うよ。王子さまが帰る気無くても、待ってる誰かがいるんでしょ」
 そうだねと、しあわせな王子さまは緩やかに頷く。
「でも僕は、さまよっている魂を見過ごすことはできないんだ」
 やっぱりお人好しだ。
 内心で呟いて、影虎は災魔達と向き合った。少女のような姿をした災魔達は、みな一様に黒く渦巻くものを瞳の中に抱いている。
 災魔と合体した英霊達は、幻朧帝と戦い散った人々の魂だという。それを思えば、いきなり力で解決するという選択を、影虎はする気にはならない。得意ではないけれど、まずは対話を試みたかった。
 トランペットガンのベルの部分を下に向け、改めて背筋を伸ばす。
 ドウシテ、ドウシテ。
 災魔の口を借りた英霊の言葉が、胸にざらついた感触をもたらす。
「『どうして』って言いたくもなるよね」
 きっとあなた達は生きて帰りたかっただろうし、あなた達を待っていた人だっていたはずだ。
 影虎の言葉に、災魔の瞳が揺らいだ。
「……一つ、聴いてもいい?」
 災魔達は何も言わず、けれど敵意を向けて来る事も無かった。
「どうして、あなた達は戦ったの?」
 災魔が、虚を突かれたように目を見開く。瞳の表面に膜を張った暗がりが、ほんの僅かに薄まった。
「死ぬかもしれないってわかってたはず。でも、あなた達は戦った」
 きっと理由があったんだよね。
「その理由を、どうか思い出して」
 静かな呼び掛けに、災魔達は瞬きを繰り返す。影虎が長い呼吸を二度ばかりした頃、つり上がっていた眦は下がり、敵意を示すように揺らいでいた髪が勢いを失った。
「マモリタカッタノ」
「ワタシタチハ、マモリタカッタノ」
 故郷を。そこに住む無辜の人々を。
 震える声はしかし、迷宮の灯火を揺らがせるほどに強い芯を持つ。
 災魔の体が白い光に包まれ、幾つもの光球が迷宮の上空へと上って行った。光は緩やかに瞬き、やがて大気に溶けるように消える。
「ありがとう……きみの言葉が、みんなに届いたんだ」
 しあわせな王子さまが、口元に柔らかな笑みを浮かべた。災魔と合体していた英霊達が、天へと還って行ったのだ。
「それなら、後は災魔を骸の海に送るだけたね」
 影虎はトランペットガンを構え、高い音を響かせる。
 英霊と分離した災魔達は、悲鳴を上げるいとまも無く端から崩れ落ちて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神城・瞬
【宙の絆】で参加

故郷を滅ぼされ、その無念と悲しみさえも兵器として使われ・・・辛い、ですよね。僕も傭兵の里の生まれですし、星羅も世界の守護を担う術士の生まれです。どっちももう故郷はありませんし、家族もいません。

幻朧帝は僕たち家族の家があるので討伐せねばならぬ相手でした。この英霊の方々は僕たち家族の同志。もう休んでいいんです。故郷も誇りも奪われた無念、僕も星羅も良くわかります。戦う為に生まれた故に。

せめて、魂だけでも還してあげたいです。精霊顕現!!9体の光の精霊をよびだし、【優しさ】で寄り添わせます。【破魔】【浄化】を込めた【楽器演奏】を星羅の鎮魂の祝詞とともに捧げます。

おやすみなさい。安らかに。


神城・星羅
【宙の絆】で参加

ああ、お辛いですよね・・・音に敏感ゆえに嘆きの声が響いてますね。兄様の故郷も私の故郷も戦人の場所でした。私と兄様は生まれ故郷と家族をうしなっても新しい家族と戦えるのも稀有な例かも。

その悲しみの力も兵器として使われ・・・無念でしょうね。心残りばっかりでしょうね。でももう苦しまなくていいんです。もう休んでいいんです。お気持ち、私と兄様が受け止めます。

鎮魂ならば本業です。兄様の光の精霊に寄り添ってもらいながら黎明の祝詞を。【破邪】【破魔】【浄化】【祈り】【誓約】をこめた鎮魂の祝詞を捧げる。

しあわせの王子様の謂れは聞いております。一緒に彷徨える心と向き合えたこと、光栄に思います。




 アア、ニクイ、ニクイ。
 ドウシテ。
 災魔と合体した英霊の嘆きが、神城・星羅(黎明の希望・f42858)の耳を打つ。
「ああ、お辛いですよね……」
 星羅は大きな藍の目を半ばまで伏せ、静かに首を振った。音律を操る陰陽師である星羅は、音に敏感だ。それゆえに、嘆きの声が一層強く響いた。
「故郷を滅ぼされ、その無念と悲しみさえも兵器として使われ……辛い、ですよね」
 神城・瞬(清光の月・f06558)は、言葉で英霊達に寄り添う道を選んだ。突き刺すようだった英霊の眼差しが、ほんの僅かに切っ先を鈍らせる。
「僕も傭兵の里の生まれですし、星羅も世界の守護を担う術士の生まれです。どっちももう故郷はありませんし、家族もいません」
 瞬と星羅は兄と妹の関係だが、血の繋がりは無い。瞬の妻たる人の両親を共に父と、母と慕い家族として生きている。けれども、二人をこの世に生んでくれたひとはもういないのだ。
「兄様の故郷も私の故郷も、戦人の場所でした」
 静かに語り掛ける星羅の声に、英霊達は瞬きを繰り返す。一度ごとに瞳の中でうごめく黒が、少しずつ薄れて行く気配がした。
 きっと、星羅は幸運だったのだろう。生まれ故郷と実の家族を失っても、こうして新しい家族を得て共に戦う事が出来るのだから。
「幻朧帝は、僕たち家族の家があるので討伐せねばならぬ相手でした」
 大戰当時を振り返り、瞬は二色の目を細める。
 この英霊の方々は僕たち家族の同志。そう思えば、鋭い針が胸の内を刺す。
「もう休んでいいんです。故郷も誇りも奪われた無念、僕も星羅も良くわかります。戦う為に生まれた故に」
 英霊達の瞳が惑う。澱んだ黒はもはや、そのうごめきを止めていた。
「その悲しみの力も兵器として使われ……無念でしょうね。心残りばっかりでしょうね。でももう苦しまなくていいんです」
 星羅の左手が弓を握る。弦を爪弾けば、邪気を祓う音色がした。
「お気持ち、私と兄様が受け止めます」
 藍の瞳はしっかりと開かれ、英霊達をまっすぐに見据えている。
 せめて、魂だけでも還してあげたい。その思いは瞬も同じだった。
「精霊顕現!」
 凛々しい声と共に、九体の精霊が現れる。迷宮内を明るく照らすそれらが司るのは、光だ。
 光の精霊の一部が英霊達へ寄り添う。構えるように突き出されていた両手が、かたんと体の両脇に垂れた。
 残った精霊は、星羅の元へと移動する。輝く精霊に寄り添われ、星羅は静かに祝詞を上げ始めた。祈りを込めた鎮魂の祝詞に合わせ、瞬も銀のフルートで澄んだ音色を響かせる。
 災魔達の体から、光の球がぽつりぽつりと溢れて行く。光球は緩やかに宙を舞い、迷宮の上空へと溶けた。
「おやすみなさい。安らかに」
 瞬はフルートの演奏を止め、英霊達へ静かに一礼する。星羅は姿勢を正して、一連の出来事を見守っていた、しあわせな王子さまと向き合った。
「しあわせな王子様の謂れは聞いております。一緒に彷徨える心と向き合えたこと、光栄に思います」
「ありがとう。きみたちのお陰で、英霊達が安らぎを得られたよ」
 しあわせな王子さまの目は優しく、穏やかな色を湛えて英霊達の舞い飛んだ方向を見詰めた。
 後は、英霊と分離した災魔を退けるだけだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

久遠寺・遥翔
アドリブ連携○

よう、手伝いに来たぜ王子さま。
ふむふむ、今回は話し合いで癒して成仏してもらいたいと。そういうことなら出来る限りのことはしないとな。
UCを発動し、手早くお供え物の料理を用意するぜ。物理的に食べることが出来るならそのまま食べちまいな。
まずはその憎しみ、呪いを食事で癒して、おなか一杯になったところでゆっくりと話そうぜ!

まぁそんな感じでこちらから戦闘を仕掛けることはしない
あちらから攻撃があった場合でも[心眼]と[第六感]で透明な存在ごと[見切り]、回避に専念だ
万が一それでも戦わざるを得ない状況になったときは仕方がないので焔を振るって[焼却]する戦術をとるが、それは最悪の場合だな




「よう、手伝いに来たぜ王子さま」
 久遠寺・遥翔(焔の機神イグニシオン/『黒鋼』の騎士・f01190)は、しあわせな王子さまの姿を認めると、軽く挨拶をした。王子さまが振り返り、柔和な笑みを浮かべる。
「きみも来てくれたんだね。ありがとう」
「今回は話し合いで癒して、成仏してもらいたいってことだよな」
 かたかたとぎこちない音を響かせる英霊達を見て、遥翔は一度目を瞬いた。
「そういうことなら出来る限りのことはしないとな」
 英霊達へ足を踏み出し、荷物の中から食材を取り出す。ひらと遥翔の手が舞ったかと思うと、迷宮の床にずらりと料理が並んだ。
 遥翔は英霊達に笑い掛け、床に腰を下ろす。
「お供え物の料理だ。物理的に食べることが出来るなら、そのまま食べちまいな」
 英霊達が、さわさわと言の葉を交わし合い、用意された料理に視線を落とした。長い呼吸を三度ばかりするだけの時間が過ぎた後、英霊達が熟れない動きで床に座る。未だ警戒心を残しながらも、その手は遥翔が用意した料理を手に取った。
 黙々と食事を取る英霊達を見て、遥翔は目を細める。まずは憎しみと呪いを食事で癒して貰いたかった。
 やがて、全ての料理が英霊達の胃袋に収まる。少女の姿をした英霊達からは、瞳にある暗がりが僅かなりとも減じていた。
「おなか一杯になったところでゆっくりと話そうぜ!」
 明るく誘う遥翔に、英霊達は瞬きを幾度か返す。
「オナカ、スイテ、イタノ……」
「ナンニチモ、ナンニチモ、ナニモ、タベラレナカッタノ……」
 微かな軋みを伴う声を、遥翔は緩やかに頷きつつ聞いていた。未だ警戒を解かない英霊もいるが、今こうして話してくれている者は魂が癒されている筈だ。
 英霊の言葉を、一つ一つ噛み締めるように身の内へ染み込ませて行く。
 そうして英霊の声が途切れた時、災魔達の体から光の球が浮かび上がった。
 災魔から分離した英霊達の魂を見送って、遥翔は立ち上がる。
「後は災魔を片付けるだけだな」
 そう言う遥翔の右手には、黒く燃え上がる剣が握られていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と

偉いなあ…
「ホントに優しいから見過ごせないんだろうね」
戦争の時俺達は彼に支援を貰った
相棒と一緒だったし覚えてくれてると思う
「何百万人も最初の一人から」
往こう!

挨拶して直ぐ英霊達と相対する
王子様と同じく俺も武器は向けない
「ね、みんな聞いて」
頑張って声張って
「幻朧帝は猟兵が皆で完全に倒したよ!」

一生懸命伝えよう
奴がどんな謀を巡らせても全部無駄で
最後はどれほど無様に永遠の破滅へ追い込まれたか
「せめて君達の敵は取れたんだ」
二度と彼奴に起こされない事も

安らぎの為に…最後の一撃は必要
辛いけどアークヘリオンを用意して
「今度こそ…ゆっくり」
創世の光で災魔は滅ぼし英霊の魂は光に還そう


凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と

今度は俺達が助ける番だね
しかしこの状況でも武器を向けないのは
本当に優しい子だよな
「あぁ、だからこそ、俺達も行かないとな」

挨拶したらすぐに前に出る
「まずは、俺達の話を聞いてくれ」
二人と同じく武器は向けない
今この場で必要なのは言葉を届ける事だ
「相棒のいう通りだ。幻朧帝は倒し切った」

本当に厳しい戦いだった
だけど王子様や様々な人々の力を借りて
あいつの思惑は完膚なきまでに叩き潰した
「だから、二度とあいつに利用される事もない」
だから安心してくれと声をかけるよ

英霊達が安心して成仏してくれたなら
後は災魔達を滅ぼすだけだけど
それもせめて一撃で苦しまずに送ろう
「安心して、眠ってくれ」




 ぎこちない音を響かせて、通路から災魔達が溢れる。先の猟兵の活躍により、その数は減じていた。だが、それでもしあわせな王子さまを取り囲むには十分な人数だ。
 しあわせな王子さまは、剣を持ち上げる事無く、災魔と合体した英霊達へ柔らかな声音で呼び掛けている。
 ――偉いなあ……
 葛城・時人(光望護花・f35294)は素直にそう思った。黄金と黒に彩られた王子さまは、たとえ攻撃を受けても剣を振るう事はしないのだろう。
 今度は俺達が助ける番だね。
 眼鏡の奥の目を僅かに細めて、凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)もまたしあわせな王子さまの様子に内心で小さく息を吐く。この状況でも武器を向けない彼は、本当に心根の優しい子なのだ。
「ホントに優しいから見過ごせないんだろうね」
「あぁ、だからこそ、俺達も行かないとな」
 相棒の言に、陸井は頷く。
 帝都櫻大戰の際、二人はしあわせな王子さまから支援を受けて戦った。きっと、王子さまの方も、時人と陸井の事を覚えてくれている。
「何百万人も最初の一人から」
 一歩を踏み出した時人の靴音が、迷宮内の壁にぶつかって跳ね返った。
「往こう!」
「ああ!」
 相棒たる二人に、多くの言葉は必要無い。小さな灯火を揺らがせんばかりの素早さで駆け、しあわせな王子さまの傍まで移動する。
「こんちは、王子さま!」
「手伝いに来たよ」
 時人と陸井の挨拶に、しあわせな王子さまは表情を柔らかく綻ばせた。
「大戰の時も、一緒に来てくれたね。手伝ってくれるなんて、とても嬉しいよ」
 微笑む王子さまに笑みを返し、二人は更に前へと進み出る。災魔と合体した英霊達と、視線が真っ向からぶつかり合った。
 時人の錫杖も、陸井のガンナイフも、それを持つ手ごと今は地面を指している。
 今この場で必要なのは言葉を届ける事だ。
 陸井の漆黒の眼差しに、強い光が宿る。それは他者を傷付けるものではない。絡まり合った心を解きほぐすためのものだ。
「まずは、俺達の話を聞いてくれ」
 英霊達が、掌を陸井に向けながらも緩やかに瞬きを繰り返した。瞳の奥に渦巻く澱みを断ち切るように、時人がまっすぐな視線を向ける。
「ね、みんな聞いて」
 静かな月光を思わせる声が、英霊達の動きを優しく縛った。構えは解かずとも、問答無用で攻撃を仕掛けて来る事は無い。その確信が二人の中に芽生える。
「幻朧帝は猟兵が皆で完全に倒したよ!」
 声を張って時人は告げた。英霊達の瞳に浮かぶ色が、目まぐるしく移り変わる。
「相棒のいう通りだ。幻朧帝は倒し切った」
 迷宮内に、陸井の堂々たる声が響いた。英霊達が目を瞠って、構えが少しずつ崩れて行く。
「奴がどんな謀を巡らせても、全部無駄だった」
 一生懸命伝えよう。時人は英霊達へ、真摯に言葉を紡ぐ。
 エンシェント・レヰスの指導者全てをオブリビオン化し、数多の世界への一斉攻撃を行っても。エンシェント・レヰスと合体し、様々な攻勢を仕掛けても。
 猟兵達は全てを退けた。
「本当に厳しい戦いだった」
 陸井もまた過日の大戰を思い返し、ゆっくりと頷く。
 だけど王子さまや様々な人々の力を借りて、幻朧帝の思惑は完膚なきまでに叩き潰した。
 幻朧帝は、猟兵に討たれても自分は滅びないと高を括っていただろう。自分こそが歴史イティハーサなのだから、骸の海へと還ればいずれは再起が叶うと。
 だが、猟兵に討ち取られた幻朧帝は、無様に永遠の破滅へと追い込まれたのだ。
「せめて君達の敵は取れたんだ」
 二度と彼奴に起こされない。
 時人の言葉を陸井が継ぐ。
「だから、二度とあいつに利用される事もない」
 だから安心してくれ。
 柔らかさを帯びた声音に、英霊達が瞬きを一つする。その瞳に涙が膜を張って、雫となり頬を伝い落ちた。
「オワッタノ……」
「ゼンブ、ゼンブ、オワッタノ……」
 震える声が迷宮の灯火を揺らし、災魔達の体から光の球が零れ出す。
「アア……アリガトウ……」
 光の球が災魔達から分離し、漂い始める。その光景を目にして、しあわせな王子さまの唇が弧を描いた。
「よかった……この英霊たちは、もうだいじょうぶだよ」
 王子さまの言葉に、二人は胸中で安堵の息を吐く。
 後は、災魔達を退けるだけだ。
 英霊達の魂を見詰め、時人は錫杖を構える。陸井が時を同じくして、矢立から筆を引き抜いた。
 胸を刺す痛みに目を閉じて、時人が錫杖の銀鎖を鳴らす。始まりの刻印が、輝きをまとって迷宮の地面に生まれた。
 陸井が空中に記した戦文字が、威力を凝縮した弾丸と化してガンナイフの弾倉に装填される。
「今度こそ……ゆっくり」
 時人の声を合図として、創世の光が弾けた。災魔達は光に灼かれ、英霊達は輝きに導かれるように消えて行く。
「安心して、眠ってくれ」
 せめて、一撃で苦しまずに。
 陸井の願いを込めた弾丸が、災魔達を消し飛ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリサ・ラサラリーン
夫のエンマ様(f38929)とです

エンマ様が一緒に来て下さって嬉しいです

ご挨拶すると王子様の優しいお声
英霊さん達に安らいで頂きたいのでつい力が籠ります
「頑張りますっ」

武器は向けません

英霊さんたちの手を取って恨みも辛さも凡て肯定します
だって当たり前です辛いに決まっていますもの
でも今なら王子様やエンマ様の優しいお手で永遠の眠りが叶う事を
恨み先が滅んで二度と蘇らない事を
来て下さった方々が納得されるまでずっとお話します

災魔が暴れるならソーンを
大丈夫…英霊さんたちの魂は石になりませんから
皆さんの魂が天へ還れるよう祈りを

災魔だけなら問題ありませんバキボキですっ
わたしもお手伝いしますし皆で終わらせましょう!


エンマ・リョウカ
妻のアリサ(f38946)と共に

アリサの願いなのだから勿論だ
手伝いたいと言われ、すぐに頷き返すよ

「初めまして、王子様」
移動して状況の説明を受けたら
彼らを救う為にもすぐにアリサと動こう
「あぁ、私達に出来る事をしようか」

「大丈夫。私達は敵じゃないからね」
今必要なのは、アリサのような優しさと
安心して眠れる理由を得る事だろう
「此処に、君達の敵はいないよ」
勿論アリサと同じく武器は向けないが
安心して眠りを望むのならば、そして
もしアリサや王子様を襲おうとするものがいたら
優しさを以て、一太刀で天に還そう

災魔達にも痛みは与えないよ
アリサが縛り、私が両断して全てを退けよう
「英霊達と同じく、君達にも眠りを与えるよ」




 アリサ・ラサラリーン(太陽の詠・f38946)がアルダワの地へ降り立ったのは、夫であるエンマ・リョウカ(紫月の侍・f38929)と共にだった。
 優しく、頼もしい夫が一緒に来てくれた。その事実が、アリサを胸の内から暖める。
 妻が邪気の無い笑みを浮かべているのを視界の端に捉え、エンマの口元もまた綻ぶ。アリサが願うのならば、エンマに否があろう筈がない。
「エンマ様、わたし、王子様のお手伝いがしたいですっ」
「そうだね。一緒に王子様の所へ行こうか」
 アリサの申し出にすぐ頷きを返して、エンマは妻を導くようにしあわせな王子さまの元へと向かう。
「初めまして、王子様」
「あの、わたしたちもお手伝いさせてください!」
 振り返ったしあわせな王子さまが、柔らかく目元を緩めた。ありがとうと感謝を述べる王子さまの剣は、やはり切っ先を地面に向けている。
「たくさんの人が助けてくれたから、この近くにいる英霊たちのほとんどは成仏してくれたよ。でも、まだ少しだけ災魔と合体したままの英霊がいるんだ」
 そう言うしあわせな王子さまの目線を追えば、壁際でひとかたまりになっている英霊達の姿が視界に入った。
 安らいで頂きたい。
 アリサの優しい心根が、ぎゅっと体に力を籠らせる。
「頑張りますっ」
「あぁ、私達に出来る事をしようか」
 三日月の反りを持つ野太刀は鞘に収めたまま、エンマはアリサと共に素早く英霊達の前へと出た。未だ黒が凝る英霊達の瞳へ、右の掌を開いて見せる。
 アリサは両手で握っていた長い杖を足元へ置いて、一人の英霊へと近付いた。瞬きを繰り返す、少女のような姿をした英霊の両手を優しく握って、胸元まで持ち上げる。
「大丈夫。私達は敵じゃないからね」
 エンマの言葉にアリサは慈しむような笑顔を重ねた。
 更に二、三度瞬きをしてから、英霊はぽつりと口を開く。
「シニタク、ナカッタノ……イキテ、イタカッタノ……」
「そうですね……もっと、ずっと、生きて……幸せに、暮らしたかったですよね」
 こくりと英霊が頷いた。
「トテモ、トテモ、ニクイ……タタカイタク、ナカッタ」
「そのお気持ちは、何も間違ってなんかいません。戦いたくないのに、戦いを強いられたら……相手を憎く思ってしまうのも、当たり前です」
 英霊達の恨みも辛さも、凡て肯定する。この地に赴く事を決めた時から、アリサはそう決意していた。
 ――だって当たり前です。辛いに決まっていますもの。
 きゅうと胸を締め付ける思いが、視界の端を少しだけ滲ませる。
 アリサと英霊の対話を、エンマは静かに見守っていた。今必要なのは、アリサのような優しさと、安心して眠れる理由を得る事だろうと分かっていたから。
「此処に、君達の敵はいないよ」
 落ち着いた声音で言うエンマの右手は開かれたままで、野太刀の柄を握ろうともしていない。
 いつしかアリサの周囲には、固まっていた全ての英霊が集まっていた。その目に敵意は無く、ただ涙の粒を頬へ零している。
「今なら、王子様やエンマ様の優しいお手で、永遠の眠りが叶います。みなさんの恨む相手も、もういません」
 ホントウニ?
 そう問う英霊達へ、アリサは力いっぱい頷く。
「安心して眠りを望むのならば、私が一太刀で天へと還すよ」
 エンマはそこで初めて、野太刀の柄に触れた。英霊達がか細い声を漏らす。
「ネムリタイ……モウ、ネムリタイノ……」
「……分かった」
 少女めいた体から、光の球が溢れる。緩やかに眼前へ集まったその柔らかな光を、エンマは約束通りに一太刀で天へ上らせた。
 かたかたと、英霊と分離した災魔達が動き始める。アリサは床へ置いた杖を素早く持ち上げ、灰の目で災魔達を捉えた。ソーンは災魔にのみ突き刺さり、その身を瞬く間に石へと変えて行く。
 大丈夫……英霊さんたちの魂は石になりませんから。
 解き放たれた魂が天へと還れるよう祈るアリサの傍らで、エンマは野太刀を構えていた。
「英霊達と同じく、君達にも眠りを与えるよ」
 アリサが縛った災魔達は、もはや反撃する術すら持たない。
 優しく暖かな陽光を思わせる刀身がまっすぐに振り抜かれ、石と化した災魔達を両断して行く。
「わたしもお手伝いしますし皆で終わらせましょう!」
「うん、そうだね」
 アリサの声に応じ、しあわせな王子さまも剣を持ち上げる。
 それから長い呼吸を三度ばかりするだけの時間が過ぎた後。災魔達の姿は一体残らずその場から消え失せていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『至極の刹那』

POW   :    硝子は刺さると、痛いんだ
命中した【硝子】の【破片】が【トラバサミ】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
SPD   :    眩んだ先は、白一色
【色彩の反射光】を向けた対象に、【数秒間視覚を失う眩しさ】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    夢幻の世界へ、ようこそ
【刻々と移り征く万華鏡が生み出す模様】を披露した指定の全対象に【ずっと見て居たいという】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
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 少女の姿をした災魔と合体していた英霊達を鎮め終わった後。猟兵達はしあわせな王子さまと共に、更に区画の奥へと向かった。
 狭い通路を抜けると少し開けた場所へ抜け――そこで猟兵達は硝子が砕けるような音を聞いた。
「嗚呼、殺してやる、殺してやる!」
 きんと、冷えた石英のような声が周囲に響く。
 そこにいたのは、さながら硝子をまとった機械人形だった。貴公子然とした衣装は上着が大きくはためき、そこから色とりどりの硝子が破片となって散っている。
「きみも、苦しんでいるんだね。だいじょうぶ。僕たちはきみを助けに――」
「嗚呼、煩い! どうしてボクの友達を殺した! あいつは帰ったら結婚するんだって言ってたのに!」
 しあわせな王子さまの言葉を遮り、機械人形は硝子の破片を飛ばした。王子さまの足に命中したそれは、トラバサミへと変形する。しかし続いて聞こえた音は、硬い金属を叩いた時のような音だ。王子さまの足には、一筋の傷も付いていない。
「この災魔は一人だけど、とても強力な英霊と合体しているみたいだね。恨みと哀しみが強過ぎて、このままだと誰の言葉も届かない」
 しあわせな王子さまは瞬きを一つすると、機械人形の災魔の前へと進み出た。
「僕が盾になるから、みんなはどうにかして英霊をいったん大人しくさせてくれないかな。そうしないと、話を聞くこともできないから」
 一旦、殴り倒して無力化するか、相手が疲れて動けなくなるまで攻撃をいなし続けるか。まっとうな対話は、英霊の矛を折り、落ち着きを取り戻させるまで叶わないだろう。
「僕のことは心配しないで。僕はとっても頑丈なんだ」
 微笑むしあわせな王子さまの足元で、硝子がまた砕けて散った。
 
兵藤・影虎
この英霊はとても気高い人だったんだろうね
だって、死してなお自分の為じゃなく
友達の為に怒れるんだから

だからこそ、送ってあげないと
苦しみは此処で終わりにしよう

…頑丈だからって無理はしないでよ、王子さま

王子さまを信じて前衛を任せ
俺は後ろに下がろう

敵に目を晦まされても、問題無い
俺は音楽を奏でる者だ
目に見えないものを届ける者だ!

【困惑の不協和音】発動
【過去に捧ぐ鎮魂歌】併用

初めはあえての不協和音で
束の間、敵の足を止めさせる
王子さまができるだけ傷付かぬように
敵の目がこちらに向くように

そして、奏でるは鎮魂歌
オブリビオンを送り、味方を癒す調べ

どうかもう止まって
あなたの恨みと哀しみの元凶は
もう何処にもいないから




 万華鏡めいた光がしあわせな王子さまを照らす。目を瞬いた王子さまに、硝子の破片が突き刺った。
「どうして、どうして殺した! あいつは優しい奴だったのに! どうして死ななきゃいけなかった!」
 この英霊はとても気高い人だったんだろうね。
 兵藤・影虎(Trumpeter・f44673)は、手にしたトランペットガンによく似た金の瞳を細めて思う。
 恨みと哀しみに狂う英霊は、死してなお自分の為ではなく友のために怒っている。
「だからこそ、送ってあげないと」
 苦しみは此処で終わりにしよう。
 影虎は背筋を伸ばし、しあわせな王子さまへ目線を向けた。
「……頑丈だからって無理はしないでよ、王子さま」
「だいじょうぶ。僕のことは心配しないで」
 振り返って微笑む王子さまの体には、傷一つ付いた様子が無い。それでも浮き上がろうとする心の揺らぎへ蓋をして、影虎はしあわせな王子さまの後方に位置を取った。
 トランペットガンを構えた影虎に、英霊が怒りと哀に惑う目を向ける。刹那の後、硝子の色彩が跳ね返す光が、影虎の視界を奪った。
 しかし痛みを伴う眩しさも、トランペット奏者たる影虎には問題にならない。
「俺は音楽を奏でる者だ。目に見えないものを届ける者だ!」
 張った声で宣言し、影虎はトランペットガンに息を吹き込む。目を晦まされようとも、猟兵の域まで達した奏者が運指を誤る事など無かった。
 瞬きをするいとまも無く、意図的に奏でた不協和音が迷宮の中に響く。ざらついた旋律に、英霊が眉を寄せた。しあわせな王子さまに迫る足が、束の間止まる。
 王子さまができるだけ傷付かぬように。
 そう願って奏でた音は、英霊の意識を確と影虎に引き付けていた。
 流れるように繋がった旋律は、いつしか鎮魂歌へと変わっている。英霊も影虎も、そして王子さまも、過去を受容する空間に包まれた。
 オブリビオンを送り、味方を癒す調べに、英霊の瞳がいっとき憎悪の黒を揺らがせる。
「どうかもう止まって」
 マウスピースから口を離し、影虎は英霊へ呼び掛けた。
「あなたの恨みと哀しみの元凶は、もう何処にもいないから」
「いない? いない? 嗚呼……!」
 英霊が恨みと哀しみから解き放たれるには、今暫し時間がかかる。けれども影虎の言葉は、確かにその心へ届いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

久遠寺・遥翔
アドリブ連携○

相変わらず王子さまは自分の身を削るなぁ。とはいえこれまでの付き合いで頑丈なのはよくわかってる
それならこっちは全力であいつに話を聞いてもらうよう仕向けるだけさ

王子さまが相手を引き付けてくれている間にUCを発動
これは相手を燃やすための焔じゃない。ただその戦意を奪い無力化するためだけの焔の籠
相手がこちらにもガラスの破片を飛ばしてきた場合はしっかりと[見切り]、[オーラ防御]と[結界術]からなる[鉄壁]の多重障壁で弾き、こちらに触れさせない
こちらからは直接の攻撃をするのではなく、あくまで籠の焔で戦意だけを[焼却]していく。相手が戦意を完全に喪失するまで何度でもだ




 英霊の上着から零れる色彩が、しあわせな王子さまの視界をいっとき奪う。けれどもその影響は、後ろに控える猟兵達へ届く事は無い。
「相変わらず王子さまは自分の身を削るなぁ」
 久遠寺・遥翔(焔の機神イグニシオン/『黒鋼』の騎士・f01190)はその様子を見て、唇の端を僅かに持ち上げた。細めた赤い瞳には、王子さまを案ずる色と感心の色が半ばずつ混じっている。
 これまでの付き合いで、しあわせな王子さまが頑丈な事はよく分かっていた。ならば、遥翔は全力で英霊に話を聞いてもらうように仕向けるだけだ。
 一歩、二歩。遥翔が前へ進む。英霊の注意は変わらず王子さまへ向いている。
 その意識が逸れぬうちに、遥翔は剣の切っ先を持ち上げた。その刃が赤に染まった刹那、迷宮内が燃え上がる籠に包まれる。
 視界を紅蓮に染め上げる籠はしかし、焔で編まれていながら熱を持たない。
「嗚呼、目障りだ! お前もお前も、みんな殺してやる!」
 英霊の目が遥翔を捉え、硝子の破片が飛んで来る。
「こっちの話を聞いてもらうには……もうちょっと時間がいるか」
 遥翔は左手を前へ突き出し、防御用のオーラを展開した。更に重ねた結界術が硝子を絡め取り、遥翔へと届かせない。
 一歩、後ろへ退いた英霊の手が、籠の焔に触れる。白い手は紅蓮に呑まれるも、その身は燃え上がりはしなかった。哀と恨みに染まった瞳に、小さく理性の光が差す。
「なんだこれは……ボクの邪魔をするな!」
 英霊は再び硝子を飛ばすも、しあわせな王子さまに阻まれてしまう。王子さまの足は変形したトラバサミに食らい付かれたが、先程と比べれば明らかに精度を落としている。
「何度でも、焼却してやるよ」
 そう。熱を持たぬ焔で何度でも燃やしてやろう。
 身の内にある戦意だけを。
 遥翔は再びユーベルコードを放ち、戦場に焔を重ねた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神城・瞬
【星月の絆】で参加

こんな姿になっても無き友の為に怒れる、嘗て故郷の人たちを殺したヴァンパイアを目の前にした僕もそうでした。星羅は僕が本気で怒ったところをみたことありませんよね。もし星羅の家族を殺した奴が現れたら僕は本気で怒れますよ。

前衛はしあわせの王子様にお任せしますが、硝子の破片は引き受けましょう。ただでさえ星羅は視覚を失うのですから、体の痛みは僕が担います。【残像】【回復力】【心眼】で出来るだけ被弾を抑えます。ええ、大丈夫ですよ。目の前の心も体も苛まれてる機械人形の子にくらべれば。

僕も星羅も回避も防御も得意じゃありません。なら、全力で気持ちをぶつけるだけです!!月白の闘気!!


神城・星羅
【星月の絆】で参加

大切な約束を果たせずに逝ってしまった大切なお友達。、母様や姉様は兄様の生まれ故郷の仇を目の前にしたときは別人のように怒ったといってました。

お気持ちはわかるのですが、もうあなたをくるしめる仇は存在しない。もうおやすみになっていいんですよ。

しあわせの王子さまが頑丈でも心配ですし、兄様が破片を引き受けてくれるので援護をしたいです。視覚うばわれますが、私は音律の陰陽師なので音さえきこえれば問題ありません。それに展開する黎明の風は敵味方を識別します。

兄様の闘気と共に薫風を吹かせます。二人とも回避と防御は得意ではないので、全力で気持ちをぶつけます。恨みと哀しみを吹き飛ばすように。




「どうして! どうしてあいつは死ななきゃいけなかったんだ!」
 英霊の叫びと共に、硝子の破片がしあわせな王子さまに突き刺さる。トラバサミに変形した破片は、しかしやはり王子さまを傷付ける事無く砕けて行く。
 こんな姿になっても亡き友の為に怒れる。
 神城・瞬(清光の月・f06558)の赤い瞳が、ふっと過去を見る目になった。
「嘗て故郷の人たちを殺したヴァンパイアを目の前にした僕もそうでした」
「そうなのですか?」
 大きな藍の瞳を瞬かせる神城・星羅(黎明の希望・f42858)に、瞬は緩やかに頷いて見せる。星羅はまだ、瞬が本気で怒ったところを見た事が無い。
 それでも。
「もし星羅の家族を殺した奴が現れたら、僕は本気で怒れますよ」
 柔らかく告げて、瞬はしあわせな王子さまの隣へ位置を取る。前衛は王子さまに任せると決めていたが、それでも飛んで来る硝子の破片は引き受けるつもりだった。
 英霊の目に浮かぶ怒りの色は、少しばかり薄れ始めている。それでも襲い来る光と硝子の鋭さは、未だ和らいではいなかった。じっと目を凝らして硝子の動きを見切り、なるべく被弾を抑える。
「だいじょうぶ? 辛ければ僕にぜんぶ任せてくれればいいんだよ」
「大丈夫ですよ。目の前の心も体も苛まれてる機械人形の子にくらべれば」
 眉を下げるしあわせな王子さまへ、瞬は微笑んで見せた。
 星羅は瞬の後ろに立ち、英霊にまっすぐ視線を向ける。
「お気持ちはわかるのですが、もうあなたをくるしめる仇は存在しない。もうおやすみになっていいんですよ」
「いない? いない? 嗚呼、じゃあどこへ行ったんだ!」
 震える声が、鋭い反射光を生み出した。痛みと共に視界を奪われるも、星羅は慌てる事は無い。音さえ聞こえていれば問題無いのだ。
 星羅がそっと、指揮棒の形をした杖を構える。それを察して、瞬も掌へ闘気を集めた。
 瞬も星羅も、回避も防御も得意ではない。それならば。
「全力で気持ちをぶつけるだけです!」
 瞬の闘気が放たれる音を聞いて、星羅は迷宮の中へ薫風を吹かせた。
 恨みと哀しみを吹き飛ばすように。
 二人ぶんの全力の気持ちが、英霊を真正面から打ち据えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリサ・ラサラリーン
夫のエンマ様(f38929)とです

砕ける硝子と慟哭が耳を射ます
一矢も報いれず
庇護する鉄神様の懐から零れ落ち
お友達も見えずたった一人で

「絶望と怒りに満ちるに決まってます」
復仇をと思うのも当たり前です

「ごめんなさいっ!」
言いながらソーンを使うと動きが鈍られました
そのまま思わず抱きしめて

エンマ様も王子様もびっくりされてますね
でもごめんなさい
硝子も角も刺さりますけど離しません
「大丈夫…泣いて良いんです」
敵は居ません
戦う必要もありません

大丈夫と幾度でも
落ち着いて下さればソーンも解除します

「はい、エンマ様」
最後は王子様とエンマ様の優しさが癒すでしょう
必ず届きます
辛くないようお送り出来ればわたしは嬉しいです


エンマ・リョウカ
妻のアリサ(f38946)と共に

これだけの敵を無力化となると
生半可な戦いでは無理だ
王子さまを盾にするのは言語道断だし
そして何よりも、悲しみの色の妻に
その荷を負わせない為にも
「申し訳ないが、手荒く行かせてもらう」
全力で、しかし命は奪わないように慎重に
手足を狙って攻撃を重ねよう

自分の身にも攻撃を受けながら
どうするかと眉を細めるが
敵の動きが明らかに鈍った所へ
「アリサ!」
まさかそのまま敵を抱きしめるとは
だけど明らかに動きが止まる

これは、きっと私にはできない事だ
武器を振るう戦いでなく
力で無力化するのでなく
優しさで受け止める妻の戦い方
「アリサ。この子はもう大丈夫だ」
あとはきっと、王子さまの声が届いてくれる




「ボクの友達を返せ! あいつは生きて帰らなきゃいけなかったんだ! 返せ! 返せ!」
 強く波打つ声が迷宮内に響き、硝子の欠片がしあわせな王子さまに突き立つ。トラバサミと化したそれは王子さまを傷付ける事無く、床に落ちて儚く砕けた。
 砕ける硝子と、声を震わすほどの慟哭。その二つがアリサ・ラサラリーン(太陽の詠・f38946)の胸の内を引っ掻いた。
 この英霊は、幻朧帝に一矢報いる事すら許されず、庇護する鉄神の懐からも零れ落ちた。それに加えて、今は友と呼ぶ人の姿すら見えない。そう思うと、視界の端が滲んだ。
 妻の様子に漆黒の瞳を僅かに伏せて、エンマ・リョウカ(紫月の侍・f38929)は英霊の前へと進む。それだけで、眼前の相手が放つ気配に肌がぴりと痛んだ。
 これだけの敵を無力化となると、生半可な戦いでは無理だ。
 重ねた戦いの経験がそう告げる。
 だが、しあわせな王子さまを盾とする事を、エンマは是としなかった。そして何よりも、悲しみの色を浮かべる妻にその荷を負わせたくない。
「申し訳ないが、手荒く行かせてもらう」
 英霊としあわせな王子さまの間に立ち、エンマは三日月の反りを持つ野太刀に霊気を宿す。瞬き一度の後に抜刀された刃は、冷たい音を奏でて英霊の腕を打つ。
 力を抜くつもりは毛頭無いが、命を奪うつもりも無い。エンマの野太刀は胸や胴を切る事無く、英霊の手足だけを的確に狙い撃った。
「ああ、あぶないよ。僕が盾になるから……」
 しあわせな王子さまの声を遮って、英霊が引き攣った叫びを上げる。ほぼ同時に放たれた反射光が、エンマの目を射た。
 野太刀を振るい続けるエンマの身を案じながらも、アリサは英霊の事を思わずにはいられなかった。
「絶望と怒りに満ちるに決まってます」
 ぎゅうと、杖を握る手に力が入る。
 復仇をと思うのも当たり前です。
 ぐいと目元を拭って、アリサは灰の瞳をまっすぐ英霊に向けた。
「ごめんなさいっ!」
 揺れて湿った声と同時に、英霊の足へソーンが突き立つ。硝子めいた足が、見る間に石と化して行った。
 英霊の動きが明らかに鈍ったと、エンマが気付いたその一呼吸後。
 アリサは英霊の元へ駆け、その身を抱き締めた。
「アリサ!」
 エンマ様も王子様もびっくりされてますね。
 きっとそうなるであろう事を、アリサは予期していた。でもごめんなさいと、胸中で詫びて、英霊を抱き締める腕に力を込める。
 硝子が刺さろうとも、角のように伸びた部位に苛まれようとも、アリサは英霊を放そうとはしなかった。
 淡い色を帯びたアリサの衣服に、暗い赤が滲む。エンマの鼓動が忙しく跳ねた。けれど武芸者としての目は、英霊の動きが明らかに止まっている事に気付いている。
「大丈夫……泣いて良いんです」
 敵は居ません。戦う必要もありません。
 静かに語り掛けるアリサの様子に、エンマの中から強張りが抜けて行った。
 これは、きっと私にはできない事だ。
 武器を振るう戦いでなく、力で無力化するのでなく、優しさで受け止める。それが、エンマが護り愛し抜くと誓った妻の戦い方だった。
「大丈夫……大丈夫」
「……もう、ボクは、憎まなくていいのかな」
 英霊が、仄かな湿りを帯びた声で言う。
 落ち着いたと判断し、アリサは足に刺した棘を解除した。英霊はその場に立ち竦み、哀の色だけを瞳に浮かべていた。
「アリサ。この子はもう大丈夫だ」
「はい、エンマ様」
 頷いて、アリサはエンマの傍らへと戻る。見た目には痛々しく映るが、小さな体に残った傷はそれほど深くはないようだ。適切に手当てをすれば、さほどの時間を要せず綺麗に治るだろう。
 嗚呼、と英霊が手で顔を覆った。
「でもまだ、悲しいんだ。悲しくて、悲しくて、どうしようもないんだ……!」
「悲しくていいんです」
 アリサが柔らかく包み込むような声音で言う。隣でエンマも頷いた。
「その悲しみが終わったら、きっと災魔からも解放されるよ」
 嘆きの声が迷宮の空気を揺らす。
 英霊がその悲しみから解放されるまで、もうあと一歩。
 きっとその時は、もう間も無く訪れるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と

そう…強い悲しみは言葉を拒絶する
「ゴーストもそうだったよね」
焼きついた存在は先に逝けない

倒す事は恐らく俺達なら出来る
でもこの優しい王子様は絶対悲しむね
解ってる
「ん。王子様の心を護るのも、俺達の」
言いかけた俺の言葉を相棒が継ぐ

「幸せになって貰うために」
護の誓いから真の姿で相対しよう

聞いた通り激烈に強い
生半可では難しいけどそれでも
「俺達は君を天へ還す為にいる」
切り結び武器の火花を散らしながら声を

災魔と繋がったままでは還れない
「大事な友達にも会えないままだ」
それはきっと友達も悲しいよ、と

侵された瞳にかぎろいが巡る
きっと王子様の声も俺や陸井の言葉も
必ず通ると信じ全力で戦おう


凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と

言葉が届かないっていうのは本当に辛いんだよな
だからこそ俺達が出来る事を、すべき事を成すよ
「あぁ、この人も、同じだよ」

王子様が望むのは対話だからな
勿論、その望みをかなえる為に
相棒の言葉を継いで、前に出る
「役目だからな。いくぞ、相棒」

「それに、言葉を伝える為に…護ろう」
相棒と共に真の姿で相対するが
生半可な敵じゃない上に
無力化するのは難易度が高いよな
「それでも、応えるのが俺達の戦いだな」

王子様もだけど、俺達も声を伝えたい
「君にとっての悲しさを、俺達は知りたい」
戦いでは極力時人のサポートに回って
攻撃の初動を銃撃で阻害し
放たれる硝子を撃ち落としていくよ
「だから、教えてくれ」




「嗚呼、どうして、どうして……」
 英霊が硝子の擦れ合うような声を上げ、しあわせな王子さまに万色の光を放つ。受け止める王子さまの足元が僅かに揺らいだ。
 そう……強い悲しみは言葉を拒絶する。
 葛城・時人(光望護花・f35294)は少しだけ長い瞬きをして、かつてを思い返す。
 言葉が届かないっていうのは本当に辛いんだよな。
 凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)もまた、相棒の傍らで漆黒の瞳に仄かな揺らぎを浮かべた。
「ゴーストもそうだったよね」
「あぁ、この人も、同じだよ」
 時人の言に、陸井は英霊から視線を逸らさず頷く。
 焼き付いた存在は先に逝けないと、時人は知っていた。陸井もまた、だからこそ自分達が出来る事を、すべき事を成すと心に決めている。
 倒すだけならば、時人と陸井の二人だけで十分だろう。固い絆で結ばれた二人は、揃って歴戦の猟兵なのだから。
 でもこの優しい王子様は絶対悲しむね。
 自ら盾役を買って出て、剣を振るおうともしない。その姿を見れば、それは時人にとって自明の理だった。
 王子様が望むのは対話だからな。
 背に負うものと同じ一字を撃鉄に刻んだガンナイフを手に、陸井は一歩前へ出る。その望みを、叶える為に。
「ん。王子様の心を護るのも、俺達の」
「役目だからな。いくぞ、相棒」
 時人の言葉を継いで、陸井が迷宮の床を蹴った。時人も錫杖の銀鎖を鳴らし後に続く。
「幸せになって貰うために」
「それに、言葉を伝える為に……護ろう」
 時人と陸井は、しあわせな王子さまと英霊の間に並んで立った。丁度、英霊の攻撃から王子さまを護るように。
「二人とも、あぶないよ。僕はだいじょうぶだから、後ろへ下がって」
 更に英霊へ近付こうとするしあわせな王子さまを、二人はそっと片手で押し留めた。
「俺達は、王子さまの事も、護りたいんだ」
「ああ。絶対に言葉が届くようにしてみせるから、待っていてくれ」
 時人に次いで、陸井が王子さまに柔和な笑みを見せる。その背で、羽織に刺繍された『護』の一文字がはためいた。
「この字にかけて!」
「団是にかけて!」
 絶対に全員を護る。
 響いた誓いの言葉が力を溢れさせ、二人を真の姿――全盛期の能力者としての姿へと変える。
「どうして、どうして、嗚呼――!」
 英霊が引き攣った声で叫び、二人へ立て続けに硝子の破片を飛ばした。銃声が二度鳴って、陸井の放った弾丸がそれを砕く。
 聞いた通り激烈に強い。
 時人は軽く息を吸い込んで、更に前へ進んだ。陸井の判断が瞬き一度の間でも遅れていれば、揃ってトラバサミの餌食となっていただろう。
 生半可では難しいけどそれでも。
 振り下ろした錫杖と英霊の腕がぶつかり合い、小さな火花が弾ける。
 生半可な敵ではないと感じているのは、陸井も同じだった。
 無力化するのは難易度が高いよな。
「それでも、応えるのが俺達の戦いだな」
 肌にぴりぴりと痛みのような感覚を覚えながら、しかし陸井は気付いていた。この英霊からは、哀しみしか伝わって来ないと。
 英霊の放つ硝子の破片を、銃弾で撃ち落とす。砕けたその色すら嘆きに染まって見えた。
「俺達は君を天へ還す為にいる」
 錫杖を振り抜き、再びの火花を散らしながら時人は告げる。
「君にとっての悲しさを、俺達は知りたい」
 英霊の動きを察した陸井が援護の弾丸を飛ばした。
「だから、教えてくれ」
 色硝子めいた英霊の目に、水面を思わせる危うさが滲む。哀の念は残れども、恨みはこれまでの戦いで抜け落ちているのだ。
「災魔と繋がったままでは還れない」
 時人は声を落として、静かに言葉を紡ぐ。
「大事な友達にも会えないままだ」
 それはきっと友達も悲しいよ。
 更に一度、錫杖を振り抜いた時、英霊の両手が体の脇に垂れた。
「……ボクにも、君たちみたいに一緒に戦う友達がいたんだ」
 英霊が幻朧帝と戦った時も、友は傍にいた。戦いは厳しさを極めていたが、友はこれが終わったら結婚するのだと笑っていたという。
「嗚呼、でも、幻朧帝……あいつのせいで友達は死んだ! ボクも、仇も取れずに死んだ!」
 英霊の叫びがわんと迷宮内に谺する。それが静まった時、しあわせな王子さまが前へ進み出た。
「つらかったね。でも、だいじょうぶだよ。幻朧帝は、猟兵のみんなが討ち倒してくれたんだ」
「……本当に?」
 声を震わせる英霊へ、時人と陸井は確と頷く。
「幻朧帝は俺達が完全に討ち取った。もう二度と、蘇って来る事も無い」
 陸井が力強く言い、続けて時人が口を開いた。
「俺達はあいつを、骸の海にすら還さなかった。君達の前に現れる事は無いよ」
 嗚呼、と英霊が硝子めいた涙を流す。その目に哀の色は残っていなかった。
 ありがとう。
 そう囁いた英霊が、白い光の球となって災魔から分離する。
 そうして、緩やかに天へと上って行った光球が二人から見えなくなった時――残された災魔の体は、砕かれた硝子のように細かく散って消えて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『爪先彩る』

POW   :    ブレスレットを作る

SPD   :    リングを作る

WIZ   :    マニキュアを作る

👑5
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 英霊が鎮まり、災魔と共に散って行った後。猟兵達はしあわせな王子さまと共に、一度学園へ戻った。学生達の明るい声が、右へ左へと流れて行く。
「あ。あそこでお祭りをやっているみたいだね」
 しあわせな王子さまが、一際賑やかな一角へ足を向けた。後をついて行けば、鮮やかな色彩が目に飛び込んで来る。
 どうやら、鉱石を材料に、装飾品やマニキュア等のアイテムを作る催しが行われているらしい。
 即席のカウンターに座った学生が、猟兵達に気付いて笑顔を向ける。
「良かったら、みなさんも作ってみませんか? お好きな石を選んで頂けますし、もちろん体に害なんてありません」
 材料となる鉱石は、マニキュアにすれば使う者の爪が一時的に鉱石になる魔法がかかっているのだという。
「楽しそうだね。みんなもいっしょに作ってみたらどうかな」
 しあわせな王子さまが猟兵達を振り返って微笑む。
 ブレスレットやリングを作ろうか。それとも、マニキュアを作ってささやかな魔法を楽しもうか。
 一人で作るのも、気心知れた仲間と作るのも、どちらも心が躍るだろう。
 しあわせな王子さまが、次の冒険に向けて英気を養うためにも、ささやかな楽しみは必要なのだ。
 猟兵達は、材料の鉱石へと目を向けた。
 
兵藤・影虎
世界は違っても
学校の雰囲気っていうのはそう変わらないんだね

鉱石か…あまり馴染みは無いけど
学園祭とかの参考になるかもしれないし
体験してみようか

作るのはリングでいいか
いつもネックレスとして付けてる
石が嵌まったやつをモデルにして、と

これ?曾お祖父ちゃんの形見
結婚指輪だったんだってさ

選ぶ石はどうしようかな
一つ当てがあるにはあるけど…
まあ、他に思いつかないし

あの、こういう石を加工したやつあるかな
(スマホで画像を見せる。豚肉石だ!)
えーと、その…赤身の部分の縞模様が
強く出てるやつで、お願い

作ったリングは後輩へ送る予定
よくわからない子だけど
あちこち連れ回してくれるし
まあ、それなりに世話になってるってことで




 しゅうと蒸気の噴き出す音と、軽やかな金属音が重なり合って響く。それでも行き交う学生達から零れる声は、兵藤・影虎(Trumpeter・f44673)にとっても耳に覚えがあるものだった。
「世界は違っても、学校の雰囲気っていうのはそう変わらないんだね」
 静かに独り言つと、影虎はカウンターに並んだ鉱石へ目を向ける。鉱石にあまり馴染みは無いけれど、学園祭等の参考になるかもしれない。ならばとカウンターの学生へ軽く声を掛け、向かいの椅子に腰を下ろした。
 何を作ろうかと、少しばかり考えを巡らせる。リングでいいかと結論が出るまで、さほどの時間は必要としなかった。
 首に掛けた細いチェーンを緩やかに引き上げると、体温で温もったリングがシャツの下から顔を出す。わあ、とカウンター向こうの学生が小さく歓声を上げた。
「素敵なリングですね。どなたかからの贈り物ですか?」
「これ? 曾お祖父ちゃんの形見」
 結婚指輪だったんだってさ、と口元を緩めて、石が嵌まっている部分がよく見えるよう位置を調節する。
 材料にと用意された鉱石は、一見しただけでは全てを把握出来ないほどあった。どうしようかと考える影虎の脳裏に、ふと一つの鉱石が浮かぶ。
 瞬きを二度するだけの間、他に思い付くものは無いか考えてみる。そうした後で、ふっと小さく息を吐くと、ポケットからスマートフォンを取り出した。目当ての石の画像を表示させ、学生に見えるよう画面を傾ける。
「あの、こういう石を加工したやつあるかな」
 画面に映っているのは、白と赤が何処となく食欲を誘うような配置で縞を描いている石――豚肉石と呼ばれるものだ。
「ありますよ。ちょっと待って下さいね」
 学生がいっとき席を離れ、鉱石を入れた箱を持ってまた戻って来る。程良い大きさの豚肉石が五つばかり、その箱の中には入っていた。
 金の瞳を瞬かせ、影虎は石の描く模様をじっくりと見詰める。眼差しが一つの石に吸い寄せられたのは、それから鼓動が三度ばかり鳴った後だった。
「えーと、その……赤身の部分の縞模様が強く出てるやつで、お願い」
「はい。こちらですね。どうぞ」
 他の材料と共に渡された石を手に、影虎は丁寧に作業を進めて行く。
 作ったリングは後輩へ送る予定だった。
 よくわからない子だけど、あちこち連れ回してくれるし。
 意識は後輩の事に向きながらも、リングを作る手は着々と完成への階段を上って行く。
 ――まあ、それなりに世話になってるってことで。
 最後の工程を終えた影虎の目が、ほんの少し柔らかな光を帯びた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神城・瞬
【星月の絆】で参加

星羅、お疲れ様。慣れない戦場で苦労したでしょう。僕の怪我ですか?ええ、たいしたことないですよ。

僕がアルダワに星羅を連れてきたのは不思議な技術が織りなす楽しさを星羅に体験してもらいたかったからです。僕が馴染みがある楽しみを幼い妹にも。まだ8歳ですし。

ブレスレット、ですか?いいですね。素材は銀?星羅らしい。せっかくだからお揃いのデザインにしませんか?僕と星羅だけの秘密です。星と月のマークをいれたい?可能ならそうしましょう。

いい勉強になった、辛かったでしょうに。いつでも僕に頼ってください。同じ境遇なんですから、ね?(お揃いのブレスレットを嵌めた右手で星羅の頭を撫でる)


神城・星羅
【星月の絆】で参加

ええ、大分大変でしたね・・・兄様、怪我は?大丈夫なようでよかった。

アルダワは母様や姉様や兄様が一杯楽しいことを体験したところと聞いてます。私も不思議な絡繰が織りなす楽しみに興味があります・・・子供ですから、私。兄様はお見通しのようで。

ブレスレット・・・兄様と私のお揃い!!いいですね。秘密、ですか。守れるかな。銀製で可能なら星と月も模様いれましょう!!ええ、作るの楽しいです!!

いろんな気持ちと心情が垣間見れていい勉強になりました。・・・辛かったのもお見通しですか。同じ家族を目の前で殺されたから兄様の前では隠し事できませんね。ええ、存分に頼らせてもらいます。{撫でられて微笑む)




 アルダワの学園内に、迷宮のような暗がりは無い。
「星羅、お疲れ様。慣れない戦場で苦労したでしょう」
 神城・瞬(清光の月・f06558)は先程までの戦いを思い返し、神城・星羅(黎明の希望・f42858)の様子を窺った。赤と金の目線を受けた藍眼が、ほんの少し伏せられる。
「ええ、大分大変でしたね……兄様、怪我は?」
「僕の怪我ですか? ええ、たいしたことないですよ」
 そう言って腕を広げて見せる瞬に負傷の影響は見られず、星羅の大きな瞳に安堵の光が浮かんだ。
 不安が取り除かれれば、蒸気と魔法が発達したこの世界に、幼い好奇心が刺激される。ここは、星羅の『家族』が沢山楽しい事を経験した場所だと聞いていた。星羅の目には不思議な絡繰と映るものたちが織りなす事象に、自然と胸が躍る。
 そんな星羅の様子を見て、瞬はアルダワに連れて来て正解だったと口元を綻ばせた。星羅はまだ八歳。自分が馴染みある楽しみを、幼い妹にも味わって欲しかった。
「兄様、ブレスレットを作りませんか?」
 ふわふわした胸の内を、兄に見抜かれている。そんな気恥ずかしさを押し隠して、星羅はカウンターの前で足を止めた。いいですね、と瞬が笑んで、二人並んで席に座る。
「せっかくだからお揃いのデザインにしませんか? 僕と星羅だけの秘密です」
「兄様と私のお揃い! いいですね」
 唇の前で人差し指を立てた瞬へ、星羅は満面の笑みを見せた。秘密、を守れるかは、ほんのりと心配があったけれど。
「素材は銀にしたいです」
「星羅らしいですね」
 学生にそれを告げれば、材料と道具が揃って二人の前に並ぶ。細かな作業は星羅の心を浮き立たせ、藍の瞳に星めいたきらめきを宿した。
「星と月も模様いれましょう!」
「そうしましょう」
 幼い妹の提案に、瞬が否を唱える筈が無い。銀に輝くブレスレットには、瞬く星と、それに寄り添うような月の意匠が刻まれた。
 暖かい胸の内に誘われるまま手を動かすうち、揃いの銀のブレスレットが出来上がる。対応してくれた学生へ礼を述べると、二人はそれを右手にはめて席を立った。
「いろんな気持ちと心情が垣間見れて、いい勉強になりました」
 他の参加者の邪魔にならない位置まで移動すると、星羅はそう言って瞬へぺこりと頭を下げる。
 いい勉強になった。辛かったでしょうに。
 妹の言葉が瞬の胸をちくりと刺す。
「いつでも僕に頼ってください。同じ境遇なんですから、ね?」
 揃いのブレスレットをはめた右手が、優しく星羅の頭を撫でる。
 辛かったのもお見通しですか。
 星羅の頬に、ほんの少しだけ熱が集まる。どうやら、同じ家族を目の前で殺された故にか、兄の前では隠し事が出来ないらしい。
「ええ、存分に頼らせてもらいます」
 結い髪を乱さぬよう、丁寧に撫でる兄の手に、星羅は年相応のあどけない笑顔を見せた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

久遠寺・遥翔
アドリブ連携歓迎

無事に鎮めることが出来てなによりだ。
さて、それじゃあ次に備えて英気を養うとしますかね。

ふむふむ、好きな鉱石を選んでアクセサリを自作できるんだな。
それなら……王子さまに星空をイメージした石を選んでもらおう。
それを俺がブレスレットに加工する。
「これかい? 嫁への土産さ。しあわせな王子さまに選んでもらった石なんてご利益ありそうじゃね?」




 先程まで英霊がいた場所には、もうなにものの姿も見えない。
 無事に鎮めることが出来てなによりだ。
 久遠寺・遥翔(焔の機神イグニシオン/『黒鋼』の騎士・f01190)は、ふっと口元を緩めて学園へと向かう。
 足を踏み入れた途端、お祭りが放つ華やかな空気が頬を撫でた。
「さて、それじゃあ次に備えて英気を養うとしますかね」
 元気な学生達の姿を見て、遥翔は独り言つ。一際賑やかな一角へ歩を進めれば、きらめく鉱石を並べたカウンターが目に入る。
「お好きな鉱石を選んで、アクセサリーやマニキュアを作れますよ」
 カウンター向こうの学生がそう言って、いかがですかと笑みを浮かべた。その笑顔を見ているうちに、ふっと脳裏を過るかんばせがある。
 周囲に視線を巡らせると、しあわせな王子さまが通路の片隅に佇んでいるのが見えた。
「王子さま、ちょっと頼みがあるんだ。来てくれないか」
 しあわせな王子さまは軽く目を瞬かせ、人々の合間を縫って遥翔の元までやって来る。
「頼みって、何かな。僕にできることなら喜んで協力するよ」
「この石の中から、星空をイメージした石を選んでくれ」
 ぱちりと一度瞬きをして、しあわせな王子さまはカウンターに並んだ鉱石を端からゆっくり見て行った。暫しの後、これはどうかな、と王子さまが一つの石を両手で持ち上げる。
 それは藍に金の粒が散った石だった。なるほど、暮れ始めたばかりの空と、そこに浮かぶ星々のように見える。
「よし。じゃあ、これをブレスレットにするか」
 カウンターの席に腰を下ろすと、学生が作業に必要な道具を差し出してくれた。それを使い、丁寧に形を整えて行く。
「それは、誰かへの贈り物かな?」
「これかい? 嫁への土産さ。しあわせな王子さまに選んでもらった石なんてご利益ありそうじゃね?」
 そうだったら嬉しいな、としあわせな王子さまが微笑む。
 遥翔は最愛の人を思い浮かべつつ、静かに作業を進めて行った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

凶月・陸井
相棒の時人(f35294)と

無事に還せたみたいだな
王子様も安心して次へ向かえるけど
今はまず四人でお祭りを楽しもうか
「神臣くんもお疲れ様だよ。勿論、一緒に行こう」

何か面白い物はと眺めてたら
相棒が一人で呟きながら悩んでて
つい楽しくって笑ってしまう
「まだ何も言ってないだろ?ほら、選んであげるといいよ」

俺が気になったのは鉱石のマニキュア
他の世界じゃ見た事もないし
ちょいと小指の爪に試してみて
「成程、良い色だ」
金と紫が交じり合ったような色
「これならシリルに似合うよな、神臣くん」

数個をお土産にしたら
相棒も決まったみたいで勢いよく買ってる
その様子に三人でまた笑みが零れるけど
祭りはまだまだ、始まったばかりだよな


葛城・時人
相棒の陸井(f35296)と

みんな還せて良かった…
王子様もゆっくりできるし
「異世界の楽しみ、頂こうだよ」

それに珍しい鉱石にその…興味あるから

「マニキュアはしないか…楽器弾くし…や、保護で逆にする…?」
呟いてたら横で陸井も王子様も来てくれた神臣もイイ笑顔!

みんな、なんでこーゆーのだけキッチリ聞き取るかな
「もうすぐ誕生日のクリスマスだし!」
顔赤くなる…なんか暑い!

もう開き直って選ぶよ!
瑠璃なら青と金が黒と銀になった
不思議で綺麗なまあるい鉱石
これを二つでイヤリングにお願いして
「俺はこれ!」

三人ともまだにこにこしてるけど
あんまジタバタしても肴にされちゃうし
強引に話替えるね!
「ほら、次は神臣!何する?」




 英霊の最後の声は、とても穏やかだった。
 無事に還せたという事実が、凶月・陸井(我護る故に我在り・f35296)の目元を柔らかく緩ませる。
 少女のような姿をした災魔と合体していた数多の英霊達も、硝子をまとった機械人形と合体していた強力な英霊も。みな還せた事に、葛城・時人(光望護花・f35294)は胸の内を静かに刺していた棘が消えて行くのを感じた。
 しあわせな王子さまも、安心して次へ向かえるけれど。陸井の眼差しを受けて、王子さまが優しく微笑んだ。
 王子さまもゆっくりできるし。相棒が同じ事を考えていると、時人は眼鏡の奥で笑みを形作った目を見て気付く。
「今はまず四人でお祭りを楽しもうか」
 陸井の言葉に目を瞬かせたのは、万一に備え後方に控えていた神臣・薙人(落花幻夢・f35429)だ。
「私もご一緒してよろしいのですか?」
「神臣くんもお疲れ様だよ。勿論、一緒に行こう」
 王子さまも、と陸井が誘えば、浮かぶ笑みが深くなる。
「僕も誘ってくれるなんて、ありがとう。喜んでご一緒するよ」
「異世界の楽しみ、頂こうだよ」
 時人の声を合図として、四人はアルダワの学園へと足を向ける。お祭りの奏でる賑わいが、間も無く皆の鼓膜を揺すった。
 色とりどりの鉱石と、アクセサリーやマニキュアを作るための材料。時人の碧眼が、照明を受けてきらめく鉱石に引き寄せられた。
「マニキュアはしないか……楽器弾くし……や、保護で逆にする……?」
 無意識に零れたのであろう言葉に、陸井は口元が綻ぶのを自覚する。何か面白いものはと探していれば、相棒が悩みつつ呟いているのだ。つい楽しくなってしまうのも仕方がない。
 考え込んでいる様子の時人の隣へ移動し、しあわせな王子さまと薙人にも手招きをする。二人とも陸井の意図を察してか、それはそれは良い笑顔だ。
「……って、陸井! 王子様も神臣も!」
「贈り物を選ぶ時間は、楽しいものだよね」
 みんな、なんでこーゆーのだけキッチリ聞き取るかな。
 ふんわりと笑んで言うしあわせな王子さまに、時人は内心で頭を抱える。
「もうすぐ誕生日のクリスマスだし!」
 時人は声を上げる間にも、頬が赤らむのを感じた。なんだか体の方まで暑くなって来た気すらする。
「まだ何も言ってないだろ? ほら、選んであげるといいよ」
 にこやかに言う相棒に改めてカウンターを示され、時人は並ぶ鉱石に目線を戻した。こうなればもう、開き直って選ぶしかない。
 様々な色と形を持つ鉱石達を見ているうちに、時人の目は少し変わった姿の石を捉えた。
 その綺麗なまあるい鉱石は、瑠璃に似ている。けれど、瑠璃であれば青と金である部分が、それぞれ黒と銀に色づいていた。夜空に浮かぶ月めいた印象を与える石は、まるで揃えたかのように二つ並んでいる。
「あの、これ二つで、イヤリング作って貰えるかな」
「かしこまりました。ちょっとお時間頂きますね」
 時人から鉱石を受け取り、学生が後ろへと下がる。
 相棒がそんなやり取りをしている間、陸井は鉱石のマニキュアに気を惹かれていた。
 他の世界じゃ見た事もないし。
 サンプルとして置かれているものを、小指の爪に試してみる。
「成程、良い色だ」
 金と紫が交じり合ったような色に、陸井は目を細めた。二つの色による調和は、金から紫へ至る髪を思わせる。
「これならシリルに似合うよな、神臣くん」
「はい。絶対、お似合いになると思います」
 薙人がしっかりと頷く。陸井は選んだマニキュアを数個、お土産として購入する事にした。
 陸井の会計が終わる頃、ちょうど時人の頼んだイヤリングも出来上がっている。
「俺はこれ!」
 未だ赤い頬のまま、勢い良く支払いを済ませる時人に、陸井の頬がまた緩んだ。つられたように、しあわせな王子さまと薙人も笑んでいる。
 あまりじたばたしても、肴にされるだけ。ならば強引に話を替えようと、時人は薙人に視線を移した。
「ほら、次は神臣! 何する?」
「私も……ですか?」
 きょとんと首を傾げる様を見るに、自分が何かを作ったり買ったり、という事はまるで考えていなかったらしい。
「祭りはまだまだ、始まったばかりだよな」
 この賑やかで楽しい空気の中で、ゆっくりと考えればいい。
 陸井は柔和な眼差しで、お祭りの場を緩やかに撫でた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンマ・リョウカ
妻のアリサ(f38946)と共に

私一人ではきっと祭りに向かえなかった
以前アリサに教えて貰った生きると言う事
そして、命を歩む事を考えて
「進む為にも、だったね。行こうか、アリサ」
祈りを終えてから二人で向かうよ

「これはまた…凄いな」
他世界は本当に驚きばかりだ
魔法は身近にもあったけれど
此処は生活の一部になっている

アリサがこっそりと耳打ちするけど
成程、確かにそれは必要だ
「一期一会というものだからね」
王子様への贈り物を見て回りながら
これぞそいう物を見つけに行こうか

アリサが見つけたのは鉱石の王冠
妻が喜んで買う向かいでこっそりと
私は魔法のマニキュアを買っておいた
王子様にはお礼をしつつ
これは帰還後に手渡そうか


アリサ・ラサラリーン
夫のエンマ様(f38929)とです

祈りの後はあの方たちの分も命を歩みます

「わ!何見てもすごくきれいですっ」
これも生きるという事
浮きたつ心のままに笑顔になれました

そして考えた事があります
エンマ様とはずっとずっとご一緒ですけど
王子様とはもしかしたら今日を限りかも、って
ですからわたしはお礼がしたいのです
きっと似合うものが見つかるはず

エンマ様にごにょごにょっとお伝えして
笑顔でお許し頂いたら会場を経廻って
金色の優しい笑顔の王子様にぴったりの
とりどりの鉱石を飴のように伸ばし絡めた
美しい冠を見つけました!

エンマ様にも太鼓判頂いて合流して二人でお渡ししますね
「お礼と思い出にこれを!」
喜んで頂けたら嬉しいですっ




 人々の華やぐ声が、背中の方から聞こえる。学園で行われているという、お祭りの活気がここまで零れ出ているのだろう。
 エンマ・リョウカ(紫月の侍・f38929)は、妻であるアリサ・ラサラリーン(太陽の詠・f38946)と共に、英霊へ祈りを捧げていた。硝子の擦れる儚い音は、まだ耳に新しい。
 自分一人では、きっと祭りに向かえなかった。
 生きると言う事。そして、命を歩む事。それは、隣のアリサが教えてくれた事だ。
 胸の前で組んでいた両手を、アリサがそっと解く。
 あの方たちの分も命を歩みます。
 英霊達の姿を思い浮かべ、アリサは胸中で言葉を紡いだ。
「進む為にも、だったね。行こうか、アリサ」
「はいっ! エンマ様」
 賑わいを頼りに歩けば、学園にはすぐにたどり着く。カウンターから少しばかり離れた場所にいるのは、しあわせな王子さまだ。
「きみたちもお祭りに来てくれたんだね。ここの人たちも、きっと喜ぶよ」
 そう言って道を開けてくれた、王子さまの傍を通り抜ける。瞬き一度の後、色彩が二人の目の中に溢れた。
「わ! 何見てもすごくきれいですっ」
 迷宮内とは違う、明るい照明も。それを照り返す鉱石達も。人々の笑顔も。どれもが鮮やかで、灰の瞳が輝く。
「これはまた……凄いな」
 他世界は本当に驚きばかりだ。
 しゅうと鳴る蒸気の音を聞きながら、エンマは切れ長の目を瞬いた。
 エンマ達の暮らす世界にも、魔法は身近にある。けれどこの世界では、生活の一部となっているのだ。
 アリサは自らの鼓動が速まっているのを自覚しつつ、軽く目を伏せた。鮮やかな彩りや、賑やかな空気に胸が躍る。これも生きるという事。伏せた瞼を開けば、浮き立つ心のままに笑顔になれた。
 しあわせな王子さまは、二人の様子を見て穏やかに微笑んでいる。
 その表情に、アリサの胸の内が暖かくなった。それでも刹那の後、ふっと心に浮かぶ事がある。
 エンマとは、ずっとずっと一緒だ。死がふたりを分かつまで、離れる事は無い。
 けれど王子さまは。
 この世界も、しあわせな王子さまが帰るべき世界も、アリサとエンマにとっては異世界だ。王子さまとは今日を限りに会えないかもしれない。
 だから、お礼をしたい。この場所でなら、きっとしあわせな王子さまに似合うものが見付かるだろうから。
「エンマ様」
 そっと背伸びをして、アリサはエンマに今の気持ちを耳打ちする。成程と、声に出さずにエンマは呟いた。確かにそれは必要だと。
「一期一会というものだからね」
「はいっ」
 笑顔で許しを貰えた事が、またアリサの心を軽くする。二人でじっくりと、色鮮やかな会場を巡り始めた。
 どれを選んでも、あの優しい王子さまは心から喜んでくれるだろうけれど。アリサとエンマは顔を見合わせ、幾つもの鉱石の前を通り過ぎた。
 しあわせな王子さまに、芯から相応しいと思えるものを。
 願いながら通路を進んでいたアリサの視界の端に、虹のようにきらめくものが映った。足を止めて二歩ばかり引き返すと、輝きの源が目の前に現れる。
 それは、冠だった。幾つもの鉱石を溶かして、調和が取れるように伸ばし固めたのだろう。見る角度によって色合いが変わる美しい冠は、金色の優しい笑顔の王子様にぴったりに思えた。
「エンマ様、この冠はどうでしょう。王子様に似合うと思うんです」
「そうだね。大きさも丁度いいし、きっと喜んでくれるよ」
 エンマが太鼓判を押せば、もうアリサに迷いは無い。学生へ声を掛けて冠を購入すると、しあわせな王子さまの元へ急いだ。
「王子様!」
 振り向いた王子さまへ、アリサは買ったばかりの冠を差し出す。
「お礼と思い出にこれを!」
「僕に?」
 瞬きを幾度か繰り返した後、王子さまは冠を受け取った。そのままそうっと、頭に載せる。
「ありがとう。似合うかな?」
「はいっ。とってもお似合いです!」
 少し照れたように笑う王子さまへ、エンマも頷きを返した。
「とても似合っているよ。やはり王子様には冠があるといいね」
 満面に笑みを浮かべる王子さまの姿に、アリサは嬉しさを隠し切れない様子でエンマの方を向く。
 妻へ微笑みながら、エンマは荷物の中に入れたものに少しだけ意識を傾ける。アリサが冠の会計を済ませている間に、こっそりと購入したもの。魔法のマニキュアだった。
 これは帰還後に手渡そうか。
 そう心に決めて、エンマはアリサの手を握った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年11月11日


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🔒
#アルダワ魔法学園
🔒
#しあわせな王子さま


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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はメルヒェン・クンストです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト