安らぎの延長線上
●秋晴れ
まだ残暑と言っても差し支えない日中の日差しも、今日という日を曇り空ではなく青空の広がる晴天にしてくれたことは天に感謝してもいい。
少なくとも『若桐』と『花雪』はそう思った。
「朝から大忙しだったけどさ」
「はい、なんとか間に合いました!」
二人は顔を見合わせる。
眼の前に鎮座しているのは大きなケーキ。
去年用意したものより大きなものを。
これはきっと今日という日を迎えられたことへの感謝に違いなかったし、彼女たちの気持ちの大きさでもあるように思えた。
そう、今日は厳・範(老當益壮・f32809)の誕生日である。
彼事態は忘れているかもしれないし、あまり頓着しないかもしれない。
けれど、やっぱりサプライズしてみたい。
もっと喜んでほしいし、驚いて欲しい。
そう二人でおもったから、バレないように慎重にことを進めてきたのだ。
外から『阳白』、『阴黒』、『无灰』の鳴く声が聞こえる。
「来たみたいだよ。準備はいい?」
「大丈夫です。タイミングをしっかりはかって……」
二人がコソコソとしていると、人影が近づいてくる。
もちろん、範である。
彼は三匹のグリフォンにまとわりつかれながらやってくる。
ここでヘマはできない。
『花雪』はこれまでの修行の中でも辛く厳しいものがあったが、これほどまでに緊張する瞬間もないと思った。
『若桐』は久しくドキドキしていなかったので、胸の高鳴りを抑えられなかった。
ともすれば心臓が口からでそうだった。
手にしていたのは一回こっきりの宴用宝貝であるクラッカー。
こういうところに『若桐』は宝貝作っちゃうクセみたいなものがでているな、と『花雪』は思ったが、自分も大概である。
なんでも修行にしたがる癖。
それによって今回のケーキも大きさにこだわったのだ。
今はそんなことを言ってる場合じゃない。
息を潜め、近づく影にクラッカーを打ち鳴らす。盛大な音と紙吹雪。
それが舞い散り、三匹のグリフォンたちが『おめでとう~』と一斉に鳴く。
自分たちも同じだ。
「おめでとう!」
「おめでとうございます~!」
精一杯の感謝と喜びを伝えるように範に抱きつく。
その勢いに範は面食らったようであったが、すぐさま落ち着きを取り戻す。
「……そうか。言われてみれば、今日は」
なんて、言うけれど。
その表情が喜びに彩られているのを二人は見逃さなかった。
それだけで甲斐があったというものだ――。
成功
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