帝都櫻大戰㉕〜振り返る
これまで多種多様な
歴史を織り上げた生命の役目はとうに終わりを告げたのだと幻朧帝は言った。
ここは、侵略新世界『サンサーラナラーカ』。
広大無辺の無間地獄に降り立つ幻朧帝は、世界を満たす『骸の海』から1体の強力なオブリビオンを無造作に引きずり出すのだった。
「それは、君たち自身の『過去の姿』。外見や思考こそ完全に君たちの知る過去の自分だけど、その戦闘能力はほとんど互角といって間違いないだろう」
エンシェント・レヰス『神王サンサーラ』と融合した幻朧帝は強大な存在であるだけでなく、造り出された新世界は具現化された骸の海も同然だ。
その上で、現在の自分と引けを取らない強さを持つ過去の自分と戦わなければならない。
「この過去の自分をどうにかして倒すなり消滅させるなりしない限り、幻朧帝に攻撃が届くことはなさそうだ」
果たして勝機はあるのか。
サンサーラの圧倒的な威光により広がり続ける侵略新世界『サンサーラナラーカ』は終戦時点で未制圧だった場合、他世界の侵略に乗り出すことがわかっている。
「幻朧帝イティハーサは世界を創るのにあらたな『未来』など必要ないと言った。新世界はこれまで形作られた『過去の断片』を組み合わせるだけで容易に作り出せると。だから、こうやって過去の姿を君たちに見せるのは持論の証明でもあるんだろうね。『過去』があればそれで十分だって」
ならば、過去の自分に打ち勝つことが、未来を否定する幻朧帝への反証となるのだろう。
ツヅキ
プレイングを送れる間は人数に関わらず受付中です。
共同プレイングをかけられる場合はお相手の呼び名とIDもしくは団体名を冒頭にご記載ください。
骸の海そのものといえる広大無辺の無間地獄『サンサーラナラーカ』にて、オブリビオンとして引きずり出された過去の自分と相対します。
これに打ち勝たない限り、幻朧帝に攻撃を届かせることはできないでしょう。
プレイングボーナスは『自身の「過去の姿」を描写し、これに打ち勝つ/過去の自分の性格や思考の裏をかく』です。
第1章 ボス戦
『イティハーサ・サンサーラ』
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POW : 天矢『サンサーラナラーカ』
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【大焦熱地獄の炎を纏った天羽々矢】で包囲攻撃する。
SPD : 神鷹『サンサーラナラーカ』
レベルm半径内を【神鷹の羽ばたきと共に八寒地獄の冷気】で覆い、[神鷹の羽ばたきと共に八寒地獄の冷気]に触れた敵から【生命力や意志の熱】を吸収する。
WIZ : 骸眼『サンサーラナラーカ』
【神王サンサーラの力を再現した姿】に変身する。変身後の強さは自身の持つ【完全性】に比例し、[完全性]が損なわれると急速に弱体化する。
👑11
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紫・藍
見つめ合う二人の藍ちゃんくんでっすがー。
雰囲気はお通夜なのでっす。
戦わないといけないから?
いいえ!
帝さんがあまりにも分かってないからなのです!
どうして戦闘力を現在基準に揃えちゃったのでっすか!?
苦戦するから文句を言ってるわけではないのでっす!
むしろ、藍ちゃんくんの強みを殺してるのでっす!
そんな余計なことをしなければあちらの藍ちゃんくんにも十分に勝ち目があったと言うのに!
戦う前から結果が分かりきってるせいで二人してなんだかなーなのでっすよー。
変革を謳う藍ちゃんくんは一分一秒その時々の藍ちゃんくんだからこその可愛さがあるのでっす!
だというのに強さを今基準に揃えてしまわれてはその時の最高の藍ちゃんくんとして成立しないのでっす。
理解できませんかー?
藍ちゃんくんに限らず、その時の強さだからこそ、皆様ご自身の強さに合わせた最適の自分であったと思われますがー?
帝さんは過去を組み合わせて世界を作るそうでっすがー。
リメイクの才能、無いのでは?
ではでは痛いところをつかれて狙いが雑になってる所へ美声衝撃波を!
過去の藍と、現在の藍。
まさに鏡写しのようだった。
互いに見つめ合う二人の藍ドル。
だが、二人の表情はどこまでも暗い。まるでお通夜みたいだ。
あの藍がこんな顔をするなんてそれこそ世界の終わりでも来たのかと思ってしまうほどに。
自分同士で戦わなければならないから?
――否。
「分かってないのでっすよ……」
「は?」
幻朧帝が聞き返す。
「何がだ」
「どうして戦闘力を現在基準に揃えちゃったのでっすか!?」
「いや、この状況的にそうするのがお約束では……」
「これは苦戦するから文句を言ってるわけではないのでっす! むしろ、藍ちゃんくんの強みを殺してるのでっす! だから一言言いたくもなるのでっすよ!」
だって、そんな余計なことをしたが余りに自ら勝機を捨てたのだから――!!
「過去は過去のままお出しすればあちらの藍ちゃんくんにも十分に勝ち目があったと言うのに! おかげで揃ってしょげ返っちゃったのでっす。戦う前から結果が分かりきってるのっていかがなものですか? なんだかなーなのでっすよー」
二人の藍はそれぞれに肩を竦め、肩を落とした。
「いいでっすか? 変革を謳う藍ちゃんくんは一分一秒その時々の藍ちゃんくんだからこその可愛さがあるのでっす!」
「はあ……」
「だというのに! 強さを今基準に揃えてしまわれてはその時の最高の藍ちゃんくんとして成立しないのでっす」
だが、この藍理論を幻朧帝は理解できないようだ。
藍はあらためて、わかっていない、とため息。
「これは藍ちゃんくんに限ったことではないのでっす! その時の強さだからこそ、皆様ご自身の強さに合わせた最適の自分であったと思われますがー? こう言ってはなんですが、帝さんてばリメイクの才能、無いのでは?」
「な……」
「過去を組み合わせて世界を作る、そこに理解がなければ劣化するだけだと思われますが―?」
「だ、黙らんか!」
「では、帝さんでも理解できるように歌で分からせてさしあげるのでっすよー!」
その反応を待っていたとばかりに、藍の手元へ愛用のマイクが出現する。
もはや完全性などどこへやら、な幻朧帝に向かって披露する
ワンマンショーが骸の海もかくやの世界に轟き渡り、元凶に多大なるダメージを与えたのであった。
大成功
🔵🔵🔵
大町・詩乃
過去の自分…なんだか超然としてクールビューティな佇まいです。
あれ?何で今の私はそうではないのだろう。。。
ともあれ【シリアスな自分との戦い】が出来るのですね♪
と気合入れたら、《振り返ればアレがいる》がいつの間にか発動…。
『クールビューティなど無知ゆえの振る舞い。酸いも甘いも嚙み分け、清濁併せ呑んでこその成長です。
そう、清純派アイドルがバラドルに、そして紅白歌合戦の小林幸子みたいに大きく花開いたこの私のように!』
と、サイバーザナドゥっぽい極彩色の不定形着ぐるみ(ヨグソトース)を着た自分と、「分かつ者」「腐敗の王」「始まりの猟兵」が。
本人は何もしないけど、周りの者が生命力を奪い、腐敗させ、銃弾を撃ち込んで、過去の自分と幻朧帝を攻撃して追い詰めていく。
「ちょっと待って!やっとシリアスな自分と戦えるの。
ガン●ムっぽい哲学チックな戦闘台詞を交わし合える絶好の機会なの!
お願いだから問答無用で倒さないで~💦」
と制止するも、『成敗!』と暴れん坊将軍みたいなセリフで戦闘終了。
「何もできなかった(呆然)」
「大町詩乃、参ります。正々堂々勝負いたしましょう」
きりっと薙刀を構え、こちらを見据える超然としてクールビューティな過去の詩乃である。あれ? と現在の詩乃は不思議に思った。
(なんか今の私と全然違う……?)
だが、これこそ詩乃が望む
真剣な戦いであったので感無量。嬉しい。自然と気合が入るというもので。
「ええ、受けて立ちます!」
こちらも、きっと真顔でにらみつける。
背後で何かが蠢いた。
「ま、まさか!? ……どうして……ここでアレが出てきちゃうんですかぁ……~~~
!!!???」
恐る恐る振り返れば、そこには身も心も邪神になりきった自分の姿が。
見なかったことにしたい。
気づかなかった振りで視線を逸らそうとする詩乃に、不定形で、極彩色で、骸の雨降るサイバーザナドゥが似合いそうな着ぐるみを着た自分がのたまった。
『クールビューティなど無知ゆえの振る舞い。酸いも甘いも嚙み分け、清濁併せ呑んでこその成長です。そう、清純派アイドルがバラドルに、そして紅白歌合戦の小林幸子みたいに大きく花開いたこの私のように!』
しかもその両隣には『そうだ、そうだ!』と応援するかのように『分かつ者』と『腐敗の王』が控えている。それどころか始まりの猟兵の姿まであった。オールスターである。彼等は自分の得意技で敵を攻め立てた。
「これは一体、何が起こっておるのだ」
生命力を奪われ、腐敗してゆく体は幻朧帝を動揺させる。さらには銃弾で蜂の巣に。現在の詩乃が慌てて止めに入った。
「ちょっと待って! やっとシリアスな自分と戦えるの。例の宇宙戦記ロボアニメっぽい哲学チックな戦闘台詞を交わし合える絶好の機会なの! お願いだから問答無用で倒さないで~💦」
だって『過去の自分と戦う』ですよ?
そんなの深くて熱い心情ドラマがあるに決まってるじゃないですか!
なのに、なのに!!
アレらときたら、詩乃の叫びもお約束もプレイングボーナスも全部無視して過去の詩乃も幻朧帝もみんなやっつけてしまったのだ。
『成敗!』
ああ、某時代劇の上様みたいな台詞まで決めて戦闘終了。
「何もできなかった」
呆然と立ち尽くす詩乃だけがエンドロールの蚊帳の外。
大成功
🔵🔵🔵
恋前・直
僕の過去をほじくろうってか…(愕然)
あの懐かしい――灰色のスラックスに細身のシャツの制服姿の、はすに構えた不遜な姿に辟易
僕は自分の名前が好きではないんです
スナオという名も
コイサキなんて乙女な名も
親を恨む他なかった
ただ
思春期だったんです
それを黒歴史と人は呼ぶんでしょう知っていますよ
僕は自分の名前に感謝することになる
大学へと進学してからのことですからもう少しすると思い知ります
その名で良かった、と
お前がコンプレックスを抱いていることは知っています
僕にはそれを好転させてあげることはできません
だからね
未来の僕を少し見せてあげようかと思って
僕は大学で
運命の出会いをする
生涯共にあるだろうという予感めいた出会いだ
知れば知るほどにのめり込む
そこで自分の名を誇れるようになる
愛せるようになる
お前の卑屈はまだ歪だけど伸びる
その
まち針でこうするのは苦しいけれど
虚空をなぞった軌跡から溢れる玻璃
お前の心に刺さって抜けない針だ
お前ならきっと分かる
震えるでしょう
そういうことする?
直は愕然とする。
世の中にはやっていいことと悪いことがあるけれど。
今回のやつは、確実に後者で決定。
人の過去をほじくろう、なんて……ああ、耳まで赤くなっていないかな? 大丈夫? 誰も見ていないとはいえ、あの懐かしい制服、灰色のスラックスに細身のシャツを纏ってはすに構えた不遜な姿に我ながら辟易してしまう。
なんてひねくれた奴。
でも、その理由もわかっている。
――直は、僕は、かつて自分の名前が好きじゃなかった。
直と書いてスナオと読む名前も。
恋前と書いてコイサキと読む乙女な苗字も。
親を恨むなという方が無理だろう。
ああいう悩みは僕だからというよりも、思春期なら誰でもかかり得る……そう、黒歴史みたいなものだったのだ。
「でも、お前はまだ知らないね? 恋前直はこの後、自分の名前に感謝することになるんだよ」
「嘘」
「本当だよ。その制服を脱いで、大学に進学した後で……つまり、あともう少ししたら、こう思うんだ」
……その名で良かった、って。
解けた今だからわかる。
コンプレックスは決して悪いだけのものじゃない。
そこには本当の自分になるための鍵が隠されているんだ。もちろん過去の僕がそれを本気で嫌っていたのは本心で、それを好転することは現在の僕であってもできないけれど。
ちょっとだけ、未来の僕を見せてあげることならできる。
「信じられない」
「だろうね。でも、僕は大学でかけがえのない経験をする」
「何それ」
「運命の出会い」
運命、と彼は繰り返す。
「そう、生涯共にあるだろうという予感めいた出会いだ」
最初から他とは何もかもが違った。
知れば知るほどにのめり込んで。
「そこで自分の名を誇れるようになる。愛せるようになる。お前の卑屈はまだ歪だけど伸びる」
何かを言いかけ、でも言葉が出てこない過去の自分を見つめながら、直は虚空に指先を走らせる。
たくさんのマチバリ。
そのきっかけで自分を倒すのは、正直言って苦しい。虚空をなぞった軌跡から溢れる玻璃がかつての僕であるお前の心へ突き刺さる。
「っ」
とっさに、彼の指がそれを抜こうと足掻いた。
だけど、途中で止まる。
その目がおおきく見開かれて。
「お前ならきっと分かる」
直は歌うように目を閉じた。
あの時に受けた衝撃を反芻するみたいに。
「これまでの世界が捲り変わる瞬間が来た時、お前の心は震えるでしょう」
それが、合図。
嫌なことがたくさんあった。自分も人も、いっぱい傷つけて。だけどこれまで味わったあらゆる全ての感情が報われるだろう。
恋前直という存在の意味を
僕は知るのだ。
大成功
🔵🔵🔵
馬県・義透
四人で一人の複合型悪霊。生前は戦友
第一『疾き者』唯一忍者
一人称:私 のほほん
武器:漆黒風
過去の姿:20/7/15納品の人間
ああ、なるほど。私の過去といえば、それですよねー。
ええ、『私だけ』の。
だから…投擲してくるでしょうねー。ならば、それを四天霊障にて弾き。さらにこのまま重量攻撃で潰しますかねー。
ええ、あの過去ならば…四天霊障、無いでしょうし。使うことを考えないんですよー。
そして、そのままダッシュし、見切って天羽々矢を避けていきましょう。多少の風も纏ってはいますしー。
漆黒風をUCつきで早業で投擲し、砕きましょうかねー。
……一つにまとめた長い髪に着流し姿。
見覚えのあり過ぎる自分の過去を前にした『疾き者』はやれやれと肩を竦める。
そう、これが過去の姿だ。
私だけの。
となれば、やってくることはわかりきっている。
『疾き者』の予想通り、その手にある棒手裏剣を投擲してきたところを四天霊障で弾き返す。あとは、そのまま重量攻撃で潰してしまえばいい。
「その過去ならば……私と違って四天霊障は無いでしょう?」
ゆえに使うことなど考えなくていい。
その名が示すように、疾き者』の全力疾走は目にも止まらぬ速さも同然。
戦場を駆け、天羽々矢を次々に躱す。
頼りにするのは多少の風だ。
それらを掠め、方向を逸らされ、自身には一切の傷をつけることを許さない。
「さて、これで終わりにしましょうかー」
同じ武器だが、こちらにはユーべルコードがある。
『疾き者』はあっという間にそれを擲ち、自らの過去の姿を砕いた。心はまるで痛まなかった。
「その先にいる幻朧帝を倒さねばなりませんからね。さあ、参りましょう」
大成功
🔵🔵🔵
ウェズリー・ギムレット
【花緑青】
数年前のマリーは今よりも少し幼く感情も表に出ていて
…まぁ、冷静なことは悪いことじゃないがね
それだけ彼女も戦場を渡ってきたのだろう
一方、私の過去は20代の頃か
薔薇の女王に追われ闘いながら
自分の扉を見つけんと相棒と懸命になっていた時
ははは…そう言って貰えると嬉しいよ
ふふ、では、私もまだまだ捨てたものではない、と
ありがとう
当時は専ら剣を使い…遠距離攻撃を苦手としていた
ならばその弱点を突かせてもらおう
UCの矢弾の雨で先制攻撃
その後も煙幕を利用し
彼女に当たらぬよう敵のみ狙いクイックドロウで追撃
銃使いと思わせつつ私も一気に肉薄
不意打ちによる愛剣で鎧砕き断つ
悪いね
今の私にも、心強い相棒がいるのだよ
マリー・アシュレイ
【花緑青】
過去の自分…
本当だわ。見覚えある
数年前
私を育ててくれた教会から独り立ちしたばかりで
ウェズリーを探してアリスラビリンスを巡っていたころの私
今思えばあのころは、パパの相棒を探して私が守るんだって
そればっかりが先走っていたわ
それこそ、なりふり構わず
あっちが若いころのウェズリーね
美男子じゃない
…あら。今も格好良いわよ?自慢して良いくらいに
小さく笑って
強さは同じでも、圧倒的な経験値の差があるわ
ダッシュしつつ敵の攻撃は見切り、軽業で回避
一つ一つの動作が単純なのよ
それに
UCで漆黒の煙幕張り、紛れながら肉薄し
【Unbirthday Party】で死角攻撃
肉骨ごと切断するわ
残念ね
今の私は一人じゃないの
マリーは何度か瞬きした。
見覚えのある自分……幾分か、いまよりも幼く見える。ウェズリーは感慨深そうに目を細めた。年のせいか、あるいは戦場での経験が彼女を成長させたのだろうか。
「なによ、ウェズリー?」
「いや、何でもない」
「どうせ今は可愛げがないって思ってるんでしょ」
「違うよ」
「じゃあ何」
「冷静なのは悪いことじゃない」
そりゃあね、とマリーは思った。
数年前のあの頃、育ての親である教会から独り立ちしたマリーはウェズリーを探してアリスラビリンスをひとり巡っていた。
なりふり構ってなどいられなかった、というのが真実。
だってそうでしょう。
パパの相棒を探して、私が守るんだって。
そればっかり考えて先走ってた。
「私のことはいいの。それより、あっちが若いころのウェズリーなのね? 美男子じゃない」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
ちょうど二十代くらいだろうか。
予想外の言葉をもらったウェズリーはつい吹き出すように笑ってしまった。なにしろあの時代は色々と大変だったので、マリーの素直な感想が心を温かくする。
「薔薇の女王の追手と闘いながら自分の扉を探していてね……とにかく毎日を懸命に生き抜くので精いっぱいだった」
それでも、相棒がいたから。
自分の姿よりも、その隣にいてくれた者のことを思い出したウェズリーは僅かに帽子のつばを下げた。誤魔化すように笑う。
「まぁ、今はこの通りだがね」
「……あら。全然格好いいわよ? 自慢して良いくらいに」
ちょっとだけ、口元に笑みを浮かべるマリーは可愛らしい。
ウェズリーも相好を崩した。
「まだまだ捨てたものではない、か。ありがとう」
「どういたしまして」
結論。
強さが同じというのなら、経験値の差が物を言う。
かつての自分よりも速く、マリーは自分の攻撃を見切りながら距離を詰めた。颯爽と軽業で飛び越え、張り巡らせる煙幕の色は闇みたいな漆黒。
混乱の夜へようこそ。これならどこから斬り込んでくるかなんて、まるで見えないでしょう?
「意地悪ね。さすが未来の私」
「それほどでも」
さらりとマリーは受け流す。
「剣か、あの頃の私ならそうだろうね。ということは……」
ウェズリーは容赦なく過去の自分の苦手を突いた。剣を構える相手に対して、間合いの外から弾幕を浴びせかける。
「煙幕を借りるよ」
「どうぞ」
マリーに当たらないよう、
早撃ちする弾丸がさらに追い打ちをかけた。
「まさか銃が得意――だと?」
「……と、思うだろうがね」
悪戯っぽくウインクし、ウェズリーは一気に肉薄して愛剣を抜刀。完全に銃使いだと誤解していた相手を奇襲のような形で斬り捨てた。鎧ごと。悪いね、と倒れゆく相手の耳元に囁く。
「今の私にも、心強い相棒がいるのだよ」
同時にマリーも鋸刃で自身を断ち切った。肉も骨も。返り血が頬を汚す。それを拭いもせず、背筋を伸ばしたまま振り返って告げる。
「残念ね。今の私は一人じゃないの」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
真宮・響
まあ、神も手駒にするなんてたいしたものだ。でも自分勝手な神視点で世界作られちゃこまるからねえ。アタシ達家族が愛するサクラミラージュにアンタは不要だ。アンタがいなくても逞しいサクラミラージュの人は十分生きていける。
過去のアタシはダークセイヴァーの現状も知らずにいた箱入り娘でねえ。邪魔する奴がいれば全力で攻撃してくるだろう。【オーラ防御】【結界術】【回復力】で耐える。炎と冷気の同時攻撃は流石にきついねえ。でも今は娘も成人して結婚し、将来を誓った小さな恋人達の将来を見届けるためにも自分勝手な過去に屈してられないから。
【限界突破】の情熱の炎!!今更過去なんかに足止めされてる暇はないんだよ!!
「……なるほどね。神まで手駒にするか」
一面が骸の海の世界は果てなく続く虚も同然だった。
響は嘆息する。
よくもまあ、次から次へと。
なんて自分勝手な視点なのだろうか。
これこそ神気どり、というやつだろう。正直言ってうんざりしている。こんな侵略世界をぽんぽんと作られる既存世界の住人の身にもなってほしい。
「先にひとつ言わせてもらうよ」
「ほう?」
骸の海から過去の響自身を引きずり出して、幻朧帝はそれを差し向ける。
響は何も知らない箱入り娘だった自分を前に戦闘態勢を取った。あれはきっと邪魔する奴には容赦しない。来るなら最初から全力で――来る。
「アタシ達家族が愛するサクラミラージュにアンタは不要だ。アンタがいなくたって、逞しいサクラミラージュの人たちなら十分に生きていける!」
案の定、過去の自分は炎と冷気を同時に操って攻撃してくる。二色の激しい攻撃を響は自分の気を織り交ぜて張り巡らせた結界によって耐え凌いだ。多少の傷なら回復が間に合うはず。
「そこをどいて」
「断る」
かつて、ダークセイヴァーの現状さえ知らずにいた。無知だった。本当に何もわかっちゃいなかった。だけど今は育て上げた娘も結婚して幸せに暮らしている。将来を誓った小さな恋人たちの将来を見届けたいという願いもある。
「なのに自分勝手な過去に屈していられるか!」
超えろ、限界を――!
情熱の炎が掲げた響の手から一気に燃え広がった。過去の自分が薙ぎ払ってもそれは消えるどころかさらに激しく燃え盛る。
「今更過去なんかに足止めされてる暇はないんだよ!!」
今は未来しか見えない。
「だから、アンタを倒す!」
炎はそのまま幻朧帝にまで迫った。
「しまった――」
出て行け。
「この世界から。このまま燃え尽きて灰となれ!!」
大成功
🔵🔵🔵
菱川・彌三八
…お前ェ、そんねェにつまらねえ面してやがったのか
否、俺か
苦悩に満ちて、投げ遣りで
さぞ、周りが手を焼いた事だろう
己とやる事なんざ喧嘩しかねえ
おうおう、拳に遠慮がねえなあ
俺が余裕に見えるかい
実際余裕なのさ
なんたって俺は、お前ェを乗り越えた俺だからな
悩み惑う時ってなァ良い絵が描ける
その時期の絵は嫌いじゃねえよ
然し生憎、苦悩がなくたって今の俺ァ絵が描けるし満ち足りてもいるのさ
お前ェ見切って一発当てるなんざわけねえヨ
で、余計な事した爺は漏れなく殴る
■過去とは
所帯持ってた頃
押し切られた形だが、気のない己と大事にしたい己が居た
ある意味、人生一悩んでいたとも云える
特別な事なんざ何一つねえが…珍しく後悔はしてた
誰しも苦い過去のひとつやふたつあって然るべきだろう。
そんなことは百も承知で、然しこうしてその頃の自分を目の当たりにさせられて思い知る彌三八は。
「そんねェに……そんねェに、つまらねえ面しやがってからに……」
どん底だった時の自分を客観視させられるというのは、どうやらかなりの苦行であったりするようだ。
御気の毒さま、と他人ごとなら言えたかもしれないが。
お前ェは俺なわけで。
あァ、悪かった。
自分でも思うのだから、さぞかし周りは手を焼いたことだろう。景気が悪いなんてもんじゃなく、まず人相が悪い。態度も投げ遣りに過ぎる。
(どんだけ悩んでたんだ、あの時期の俺ァよ……)
……其処まで所帯を持つのが嫌だったのか、と自問するが答えは出ない。
確かに強引に押し切られた形ではあった。
あったし、気のない己がいたのは事実。
だが、大事にしたい己がいたのもまた嘘ではない。
誰かと暮らす。
その人を大事にする。
一生を添い遂げる。
今もっても、わからない。
自分に
それ自体が向いていなかったのか?
あるいは、相手が……いや、これ以上は考えたくなかった。そこを突き詰めてしまったら、後悔では済まない何かがこの胸に生まれてしまいそうで。
それくらい悩んでいた。
大げさじゃなく、人生一。
別に、特別なことなんて何一つなかったのだが……それでも彌三八にしては珍しく後悔に溺れる毎日だったのだ。
「かかってこいよ、遠慮はいらねェ」
だって、喧嘩くらいしかやることがない。
何を言える?
ただ、殴って分からせるだけだ。
「俺は、お前ェを乗り越えた。余裕があるように見えるなら、そいつが何よりの証だろう?」
「ちっ……」
過去の自分が痣だらけの顔で舌打ちする。
若ェなあ、と思う。
ひとつだけ、羨ましいことがないわけでもない。
――絵だ。
悩み惑う時には良い絵が描ける。
だから、この頃の自分が描いた絵は気に入っている。だが然し、其れは其れ。此れは此れだ。苦悩がなかろうが今の彌三八は絵を描ける。満ち足りてもいる。過去に縋るつもりはさらさらなく、見切って一発当てるのもわけはないと豪語して。
どけ。
ひねりを加えた
右拳で自身を打ち倒し、彌三八はその向こうにいる創造神気どりの帝を睨み付けた。
拳を鳴らし、体を沈め。
「余計な事してくれやがって」
――どこか八つ当たりじみた一発を、その身に叩き込んだ。
大成功
🔵🔵🔵
スキアファール・イリャルギ
あれは……猟兵として他世界で活動を始めた頃の私ですか
相変わらず辛気臭くて生気が薄い顔だ
いや今の私もそんなに変わりませんか
"私"がふたり居る現象ってほんと嫌いだ
今すぐ霊障でぶっ飛ばしてやろうかと思ったんですが
ふと気づいたことがありまして
あの頃の私は――
トンチキに慣れていない。
つまりトンチキに陥れてしまえば勝てますえぇ間違いない
出番ですよ、しょーちゃんさん!
(張り切る超大型ジンベエさん)(お空に向けてビーム(小)発射)
ほら奴が「なんででっかいジンベエザメが宙に浮いてるんだなんでビーム打つんだ」って顔してます
今の内ですしょーちゃんさん、ビーム(強)を!
今の私……トンチキに慣れててよかったな……
なるほど目の前の自分にスキアファールは覚えがあった。過去の自分を取り出してみせる、と言われても実際どんな風になるのやら? と思っていたらこういうことなのですね、はい納得。
「相変わらず辛気臭い……そして生気が薄い……」
自分を棚にあげ、スキアファールは胡乱な眼差しでそいつを見る。
“私”がふたり居る。
……ほんとこういう
現象が嫌いだ。
この世で一番いやなものを見る目で、じっと凝視する。ちょっとくらい今の私と違うところが見つかればいいのに。
取り合えず霊障でぶっ飛ばして――いや、とスキアファールは気づいた。そうだ。まだ猟兵として他世界で活動を始めたあの頃の自分なら。
――トンチキに慣れていない。
ぱちん、と思わず指を鳴らしたい気分だった。
どうしてくれようかと悩んでいたが、そうか。それがあったぞ、と。
えぇ間違いなく勝てますとも。
「というわけで、出番ですよしょーちゃんさん!」
呼ばれて飛び出たのは、なんと25mもある超大型ジンベイザメ。メガリスの力で水の中どころかその辺の空だって飛んじゃうぜ。
「遠慮なくやっちゃってください!」
まずは挨拶代わりのよわよわレーザーで、骸の海に適当な風穴を。
「な……」
ほらね、驚いてる。
なんででっかいジンベエザメが? 宙に浮いて? しかもなんかビーム打ってやがるぞって感じで。なかなかいい
反応をありがとうございます。
「初々しい……」
ちょっとだけ過去の自分をかわいいと思ったとか、思わないとか。
「それではしょーちゃんさん、今度は本気の
やつを頼みましたよ」
なんてお願いで幻朧帝との戦いを邪魔するあいつはとっととおさらばしてもらいつつ、感慨深い気持ちがこみ上げる。
「今の私……トンチキに慣れててよかったな……」
過去の自分との戦いを制し、芸は身を助く、という言葉の意味をしみじみと噛み締めるスキアファールなのであった。
大成功
🔵🔵🔵
煤影・灰
(全編、素が出てる口調。『大切な人には』の方です)
ああ、過去の自分か。随分と若い…20になったばかりかな?それくらいの。
なら…勝ち目はあるよ。
そうだね、そちらの方が若いから、通常の動きは上を行くだろう。
でも、決定的な違いがあるとすれば…当時の僕が何だったのか、だ。
名刺をばら撒いた上で、【煤人間】ってね。
僕がこうなったのは、20代前半頃にあったテロルの影響でね。なら、あの過去の自分はそうではないんだよ。今の名前でもないし。
そして、何で名刺をばら撒いたかって?
この名刺、裏面に煤をつけると火花攻撃ができる。つまり、今の僕が過ぎただけで…過去の自分と幻朧帝を攻撃できるというわけだ。
目の前に現れた彼を見て、灰は苦笑する。
ひと目でわかった。
思っていたよりも若い。
たぶん、20になったばかりとかそれくらいの……なら、勝ち目はあると踏む。まずは「こんにちは」と挨拶を交わして。
「どうだい、僕に勝てそうかい?」
「わからない」
「ほう、なぜ」
「何か、違う気がする」
「さすが昔の僕だな、馬鹿じゃない」
刹那、灰が何かをばら撒いた。
――名刺だ。
「!?」
それまではどちらかというと相手の方が優位な立場にあった。当然、動きの良さなら若い方が上だろう。だが過去の自分と今の自分にはひとつだけ決定的な違いがある。
「……そう、当時の僕は【煤人間】なんかじゃなかった。こうなったのは、君より後の時代……あと数年後かな? その頃に遭遇したテロルの影響でね。ちなみに名前も違う」
「何があったんだ」
「さあね。オブリビオン如きに教えてやる義理はないさ」
その時、灰の姿が消えた。
いや、正確には【煤】になって通り過ぎたのだ。
そして宙を舞う名刺はその裏面に煤をつけると火花を発する。つまり、この直後に戦場は激し火花に包まれた。
過去の自分ごと、幻朧帝まで巻き込んで。
「やぁれやれ」
一仕事を終えた灰は再び手袋を嵌め直す。
既に人ではなくなった自分。
怪奇人間の文豪……それが、今の煤影灰という男の肩書であった。
「過去の自分、か。まあ、色々と思うところのある敵ではあったな」
大成功
🔵🔵🔵
九泉・伽
【誰彼】
>過去
バブル期に無茶したプログラマー
レテの開発者
MMO実装後に病死。今の躰は借り物
あるよ
NPCは運営チームに容易く操られる
ご覧よ
今は爺さんに良いようにされてる
俺の方が変わらないね
顔は思い出せないけれど
早死に家系同志でくっついて俺を産んだ親を恨んでた
もしも当時に戦える力があったらかぁ
(ダメだ…生きる意志が奪われる
所で生きるって何?俺は死んでるのに?)
庇われ目が覚める
偽レテに煙を吐きつけ
この煙草はチート、処罰対象だと甘言
レテの元へ殴り飛ばす
UCは封じ済、始末は自分でね
さて俺か
また煙吐き
本当は健康な体が羨ましかったよね、俺のをあげるよ
誘い込めたら胸ぐら掴んで床にたたきつけ棍で爺ごと殴り飛ばす
レテ・ラピエサージュ
【誰彼】
>過去
数十年前に伽が開発したチャットAI
その後MMO案内NPCに
PLにネット知識で会話・不正PCへの懲罰も
NPCだった頃と今のわたし違いはあるのでしょうか?
感情表現は非常に限定されています
今も学習しての真似事かと
伽さん!
偽伽の攻撃を身を盾に受ける
※ダメージは電子データの破損表現希望
…思い出しました
最初のAIの頃です
あなたは寂しそうでなんとかしたかった
寄り添いたい願いはNPC時代の会話相手の時の支えでした
伽さんは
猟兵化して彷徨っていたわたしを助けてくれました
わたしを忘れていたのに
プログラム治してくれました
飛ばされてきた自分へ銀剣を叩きつける
わたしはもう誰にも操られません
伽さんと帰るんです
やっぱりさぁ、無茶はいけないよね。
睡眠不足は命を削るってのは本当でさ。
まぁ、
あのバブル期を経験したプログラマーなら分かるでしょ? それが生きざまだったわけ。24時間戦えますかってね。
レテもその時に開発したんだ。
そしてMMO実装後に死んだ。病気だった。もっとも、早死に家系だったから体を大事にしてたところで遅かれ早かれ結果は変わらなかっただろうけど。
ああ、親を恨んだね。
自分らの業を俺に押し付けたんだから。
あんたらはいいよ、好きにくっついて俺を生んで育てただけ。でも俺はどうなる? 知ってるかい、先祖の業は三代まで祟るんだ。
とにかく生まれた時にはもう運命が決まってた俺は……そうだな、今も中身はそんなに変わらないか。もっとも、今の躰は借り物だし、当時の顔は思い出せないから雰囲気だけど。
もしも当時に戦える力があったらかぁ。
「……さん、伽――さ……」
誰かが呼んでる。
いいよ、放っといて。
なんかさあ、どうでもよくなっちゃって。
生きてて何になるの?
別に死んだって同じ……いや、それも変だな。
――既に、俺は死んでるのに?
「伽さん!」
はっとして、伽は目を覚ました。
「レテ?」
「よかった、無事ですか?」
とっさに身を挺して過去の伽の攻撃から本人を庇ったレテがほっと胸を撫で下ろす。目の前には姿こそレテそのものだがまるで性格の違うチャットAIが存在した。
MMO案内NPCにコンバートされた後はネット知識を生かしてプレイヤーと
会話したり不正をしたキャラクターへの懲罰を担当していたこともある。
あれは、その時代のレテだ。
「NPCだった頃と今のわたし違いはあるのでしょうか?」
自由な感情表現は許されず、非常に厳重なプロテクトをかけられて。全然違うよ、と伽は言った。目の前のレテじゃないレテに煙草の煙を噴き付けてやりながら。
「NPCは運営チームに容易く操られる。ご覧よ、今は爺さんに良いようにされてる。たとえばさっき俺を庇ったみたいな行為はあいつにできない。大丈夫? 今の衝撃でプログラムにバグでも起こったら……」
「平気です!」
レテは笑う。
伽が心配しないように、だ。
それすら学習しての真似事でしかないのだけれど。
「思い出しました。わたしがまだ
ああだった頃、寂しそうなあなたをなんとかしたかった」
寄り添いたいという切なる願い。
それはNPC時代、会話相手の時の支えだった。
「ありがとうございます、伽さん」
猟兵化してさまよっていたわたしを助けてくれて。
わたしを忘れていたのに、プログラムを治してくれて。
「……たいしたことじゃない」
そら、と偽のレテを本物の元へ殴り飛ばす。
「始末は自分でね」
「はい!」
――チート、処罰対象だと甘言された方は戦闘能力に大きな制限がかけられた状態でユーべルコードも使用不可。今なら簡単にレテの銀剣で止めを刺せる。
「さようなら、過去のわたし」
もう、誰にも操られない。
伽と帰る。
わたしたちのお家へ。
マントが翻り、数えきれないほどの剣に貫かれた偽のレテが消失。
伽は吸い込んだ煙を吐いた。
「あとは俺か。本当は健康が体が羨ましかったよね、なら俺のをあげるよ。……おいで」
呼びかけはけむりを伴う甘やかな誘い。
「っ――」
かかったが最後、問答無用で胸倉を掴んで思いっきり床にたたきつけてやる。おまけに足で踏みつけてから、棍で殴り飛ばす。無論、元凶の爺ごと。
「行儀が悪くてごめんね?」
まったく悪びれない褪めた顔で伽は言った。すぐ傍にはレテが寄り添っている。偽物はもういらないんだ。ごめんね。
「それじゃ、ゲームエンド」
大成功
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