帝都櫻大戰⑨〜砂糖砂漠の超特訓
●
列を成して、砂漠をある集団が駆けていく。
大小さまざまな動物や植物、あるいはおもちゃ。愉快な見た目の仲間たちの先頭を走るのは、トライアスロン・フォーミュラ『時宮・朱鷺子』だ。
「不思議の国ィー! ファイトッ! ファイトッ! ファイトッ!」
「ファイトッ、ファイトッ、ファイ……トォッ……!」
愉快な仲間たちが息を切らし、足を止める。離れていく距離に朱鷺子が振り返り、活力に満ちた声を発した。
「どうした! まだマラソンは終わっていないぞ!」
「そ、それはわかってるけどさー……!」
プシューとブリキのロボットが蒸気を吐く。鉄の腕を広げ、ネジを飛ばすような勢いで叫んだ。
「この砂糖砂漠はキツすぎるって!」
踏みしめる茶色い砂は黒砂糖。突き出す岩はキャンディーにチョコレート。切り立った崖はケーキのスポンジで、積み重なる塔はイチゴがけのドーナツだ。
ここは砂糖砂漠。すべてが甘ったるいもので構成された、甘党の天国にして糖分地獄。
この場所にて、朱鷺子は愉快な仲間たちを相手に超特訓メニューを実行していた。
「何がキツいのだ! こんなにトレーニングにいい環境はないぞ!」
「どこがだよー!」
「やれやれ、わかっていないな!」
ため息をつき、朱鷺子が足元の砂糖を掴んで食べる。
「運動では糖を消費する! 糖の補給はアスリートにとって重要な問題だ! しかしどうだ! ここには無限の糖がある! 身体を鍛え上げては糖を補給する、理想のサイクルを超高速で回せるのだぞ!」
「その砂糖が普通の砂以上に滑るんだよ!」
「脚力を鍛えるにはちょうどいい! それに、見ろ!」
朱鷺子が真横を指さす。
オレンジジュースが湧き、大きなオアシスとして広がっていた。
「水分補給にぴったりだ!」
「さっきから全部が甘すぎるんだって!?」
「コーヒーが飲みたいー……」
「苦い苦い! 苦くなっている暇はないぞ!」
朱鷺子の指が、今度は仲間たちの方をさした。
後ろから風の吹く音がする。おそるおそるそちらを見ると——砂が空中で渦を巻いて近づいてくる!
「砂糖の砂嵐だ~!?」
「わかったら走れ! 砂糖まみれになりたくないならな!」
わーっとコミカルな悲鳴を上げて、再び愉快な仲間たちは走り出した。
●グリモアベース
軍服に身を包み、コーヒーを一杯。
「砂糖だらけの砂漠なんて夢みたいな場所も、実際行くと大変なんだね。あー、コーヒーが美味しい……」
場所について話しているだけで舌が甘くなったのか、ヴァンダ・エイプリル(世界を化かす仕掛人・f39908)は猟兵たちの前でコーヒーを味わっていた。ずぞぞと飲み干し、本題に移る。
大量の幻朧桜とともに、エンシェント・レヰス『護国鉄神零號』がアリスラビリンスに出現。護国鉄神零號が意思と無関係に配下の「小鉄神」を不思議の国に放ったため、まもなく無数の小鉄神が世界の各地に到達する。
だが、こちらにも策がないわけではない。
キャンピーくんのユーベルコードにより、アスリートアースから『時宮・朱鷺子』が駆けつけた。小鉄神は既に彼女だけで捌き切れる量ではないが、不思議の国には戦力となりえる存在がいる。愉快な能力を武器に戦う愉快な仲間たちだ。
「そういうわけで、現在朱鷺子さんにより超特訓が行われてまして。ただちょっと、問題が二つ」
一つ。朱鷺子がスパルタ気味で愉快な仲間たちが若干追いつけていないこと。無敵の仲間たちといえど、超人たる朱鷺子のスタミナにはついていけていない。
そしてもう一つ。そんな朱鷺子が特訓に選んだ場所が、『砂糖砂漠』と呼ばれる場所だということ。
「文字通り、全部が砂糖でできてる砂漠だよ。普通の砂糖以外にもいろいろあるみたいだけど……甘ったるいのは間違いないかな」
ここで朱鷺子は砂糖砂漠を踏破するマラソンを実施している。しかも可能な限りルートは直進という、猪突猛進なマラソンだ。砂糖の砂丘を越え、ケーキの崖を登り、ドーナツの塔を崩す……。絵面に対して内容がハードなのは想像に容易い。
「どうも朱鷺子さんとしては、突破できれば何でもいいらしいけどね。糖分補給も大事だし、食べることは全身運動らしいよ。ホントかな?」
また、砂糖砂漠ではアクシデントも起きる。砂嵐や流砂など、砂漠らしい現象が発生するという。
「でも、これって上手く使えるかもしれないね。今って小鉄神さんたちが来てるんでしょ? トレーニング中も襲われるかもしれないけど……地形や現象を利用できれば、難なく撃退できるかもね!」
何はともあれ、短期間で戦力を揃えるためにも超特訓は必要だ。愉快な仲間たちをサポートして、トレーニングを成功させなければならない。
「それじゃ、頼んだよ! ヴァンちゃんはもうちょっと、コーヒーを飲んでいくので。あー……やっぱり豆が違うのかなー……」
カップ片手に手を振るヴァンダに見送られ、猟兵たちは砂糖砂漠へと旅立つ。
堀戸珈琲
どうも、堀戸珈琲です。
チョコチップクッキーが好きです。
●シナリオフレームについて
このシナリオは戦争シナリオであり、1フラグメントで完結します。
●最終目的・プレイングボーナス
愉快な仲間たちをトレーニングで鍛え上げる。
また、このシナリオフレームには、下記の特別な「プレイングボーナス」があります。
=============================
プレイングボーナス……朱鷺子と協力して超特訓メニューを実行する/不思議な地形を利用して愉快な仲間達と共に戦う
=============================
砂糖砂漠に何があるか、何を利用するかは自由に設定してもらって構いません。
アクシデントは起きても起きなくてもいいし、敵の襲撃も起きても起きなくても問題ありません。
休憩として仲良くお菓子を食べる、といったようなものでも大丈夫です。
(イベントは絞ってもらった方が描写の密度が高くなると思います)
●プレイング受付について
オープニング公開後から受け付けます。
完結優先となるため、内容に問題がないプレイングも却下される可能性があります。
それでは、みなさまのプレイングをお待ちしています。
第1章 冒険
『砂糖砂漠を超えて』
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POW : 甘いものは全て食らい尽くす勢いで突破する。
SPD : 甘いものは無視だ無視。足早に突破する。
WIZ : 甘いものには苦いものを。対抗策を用意して突破する。
👑7
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布原・理馮
朱鷺子とやらは有能には違いないが
少し…いや、かなり厳しくはないか?
何事も厳しいばかりでは続かん
愉快な仲間の肩を持ちつつ、鍛錬に協力しよう
俺も“率いる”修行を積みたかったしな
水出しの緑茶を用意し
特訓中の皆に合流しよう
さあ、皆。補給の時間だ
朱鷺子に何やら言及されたら
「甘いも苦いも取り入れてこそ、より強くなるだろう?」
とでも言って、適当に『受け流し』ておこう
そして休憩中の愉快な仲間に
しれっと此処でのマラソンの助けになりそうな
知識を伝えていこう
「体幹を意識して身体を動かしてごらん」
「砂嵐は逃げるばかりでなく、岩を利用して身を守るんだ」
砂地は確かに鍛えられる
朱鷺子の考えは最もだが、効率だって大事だからな

ルシア・ナドソコル
◎
【心情】
朱鷺子さん、以前の力を失くしたとは言え、超常のアスリートであることに変わりはないようですね
頼もしくはあるのですが、彼女の基準が高すぎるのも事実
上手くフォローしたいところです
【行動】
肉体的にこの特訓を越えられない人たちでもないと思うので、精神的応援を
「不眠不休」でついて、UCで勇気を与え「慰め」ます
休憩のタイミングには現地で集めたお菓子を「料理」で整えて、簡単なお茶会風にでも
「朱鷺子さんもおひとつどうぞ」
甘いものを食べることはただの栄養補給じゃありません
心を癒すこともできることが、お菓子の良いところですから
「それでは、もう1セット頑張りましょうか」
●
「さぁどうした! 次の丘を一気に越えるぞ!」
声を張り、マラソンのペースで朱鷺子が走る。その後ろを愉快な仲間たちがついていく。身体をかなり追い込んでいるようで、すっかりへろへろになっていた。
「朱鷺子さん、以前の力を失くしたとはいえ、超常のアスリートであることに変わりはないようですね」
景色の中を走り抜ける一群を、ルシア・ナドソコル(自由と冒険を求めて・f39038)は目で追う。異能を失っても超人たるタフネスは健在。一度対峙した身として、そこには安堵を覚える。
同様に朱鷺子たちを見つめるのは布原・理馮(行雲流水・f44508)だ。灰色の眼を薄く開き、首を傾げた。
「朱鷺子とやらは有能には違いないが、少し……いや、かなり厳しくはないか?」
「たしかに……頼もしくはあるのですが、基準が高すぎるのも事実、といったところでしょうか」
理馮が発した指摘に、ルシアも苦笑いで同意する。愉快な仲間たちもかなりタフだが、そろそろ限界が近そうだ。休憩が必要だろう。
ぬらり。そうした擬音の似合う動きで理馮は前に出て、朱鷺子たちが目指す砂丘に向かって歩く。
「何事も厳しいばかりでは続かん。どれ、特訓の褒美として補給の手配でもしようか。俺も“率いる”修行を積みたかったしな」
先回りし、休憩の用意を整える。そうすれば多少、愉快な仲間たちの肩を持つことにも繋がるに違いない。
理馮を見送りつつ、ルシアも頷いて移動を始めた。
「さて、僕も彼らに助力しましょう。上手くフォローしたいところです」
小走りでマラソンの列へ走る。強く踏み切り、空へ跳躍。
背から魔力の翼が生え、ルシアは飛翔する。愉快な仲間たちの元へと飛べば、愉快な仲間たちが空を仰ぐ。
「頑張ってください! ここを登ればあと少しです!」
愉快な仲間たちの特性から考えても、肉体的には特訓を乗り越えられるはず。
であれば、必要なのはメンタルを軸にした応援。ルシアの応援に、魔力の翼の輝きが重なる。翼を見て心に希望が芽生え、ぐったりしていた仲間たちも少しずつ元気を取り戻していった。
「……なんか、いける気がしてきた! 頑張るぞー!」
「上り坂が終わったら下り坂! さっさと行っちゃえば楽勝!」
「その意気だ! このまま行くぞ!」
「おー!」
朱鷺子の声に仲間たちも大きな声で応じる。
その様子に、ルシアは笑みを零す。
「ここから斜面が急になります! 気を付けてくださいね!」
応援を続けながら、特訓に励む一行を見守った。
「到着だ!」
息をまったく乱さず、朱鷺子が砂丘の頂上に辿り着く。次いで、愉快な仲間たちも砂丘を登り切る。ぜぇぜぇと荒い息を吐く仲間たちに構いもせず、朱鷺子は叫ぶ。
「次はこの丘を下るぞ! ここから勢いを落とさず——」
「わ~! お茶だ~!」
仲間たちの一人がどこかへ駆け出していく。朱鷺子もその方向を見た。
平らに整えられた正方形のスペース。マットに見紛うほど丁寧に均され、庭園の滑らかな砂を連想させる。
その中心に、理馮はいた。どことなく茶室の主人のような雰囲気を醸しつつ、急須で湯呑にお茶を注ぐ。
注いでいるのは水出しの緑茶だ。淡い緑が、見る者に安らぎを与えてくれる。
「さあ、皆。補給の時間だ」
「わーい!」
湯呑を受け取り、愉快な仲間たちが一気に傾けた。
渇いた喉を潤してもう一杯。冷たいお茶で仲間たちが癒されていく中、朱鷺子だけが声を荒げる。
「おい待て! 一息つく時間はないぞ!」
「まぁ落ち着け。少し休んだくらいで成果が帳消しになることはない」
「しかしだな——」
「甘いも苦いも取り入れてこそ、より強くなるだろう?」
「うぐぐ……」
この場合、それぞれの意味が反対になりそうだが。
抗議をぬらりと受け流され、朱鷺子は口を曲げて黙り込んだ。その顔を横目に、理馮はずずずと緑茶を啜った。
「お茶といえば、やっぱりお茶請けですよね!」
バサバサと翼を羽ばたかせ、少々離脱していたルシアも地面に降り立つ。両手持ちした三段のスタンドをスペースの真ん中に置くと、愉快な仲間たちが歓声を上げた。
チョコケーキ、クッキー、バームクーヘン。この辺りに存在するお菓子を採取し、一口サイズに切って整えたものだ。どれも洋菓子だが、冷たい緑茶にもきっと合う。
手に取ってわいわい食べ始めた仲間たち。好評で何より、と視線を外すと、離れた場所に朱鷺子が独りで立っていた。
「朱鷺子さんもおひとつどうぞ」
「私か? 糖の補給ならその辺の砂を噛むから大丈夫だ」
「いえ、そういうことではなくて……」
絵面の怖い行動を制止し、ルシアは話す。
「甘いものを食べることはただの栄養補給じゃありません。心を癒すこともできるのが、お菓子の良いところですから。クールタイムも運動には大切ですよ?」
「む……そうだな、御相伴に預かろう」
朱鷺子を連れ、ルシアもスペースへ。
緑茶とお菓子を手に持って、愉快な仲間たちは輪になっていた。理馮も輪の一員となり、仲間たちと話す。
「今は辛くないけど、走りに戻ったらすぐバテるんだろうなー。何とかできないかな?」
「なら、体幹を意識して身体を動かしてごらん。身体の動かし方が変われば疲れも溜まりにくいはずだ」
「なるほど~! 試してみるね!」
「でもよ、砂嵐はどうしようもなくね? あれに追い回されると体力を残してても関係なくなっちゃうよ」
「それなら……逃げるばかりでなく、岩を利用して身を守るんだ。知恵を使って対抗するのも立派な方法だよ」
「はぁ~! そんな手があったんだな!」
会話の中で、しれっとマラソンの助けになる知識が織り交ぜられていく。
砂地はたしかに鍛えられる。朱鷺子のとにかく追い込む考えも最もだが、鍛えるには効率だって大切だ。知識があるのとないのとでは、最終的な成果は大幅に変わってくる。
「ま、お前たちなら臨機応変にやれるはずだ。頑張れよ」
「ありがとう!」
バームクーヘンを齧り、感謝の言葉に頷く。こちらとしても人を導くいい練習になった。あとは彼らが上手くこなすのを願うばかりだ。
「……これも菓子の力か?」
「そうかもしれませんね」
理馮と愉快な仲間たちが語らうのを見て出た朱鷺子の呟きに、ルシアは笑って返事をする。
小さな皿に分けられたケーキに朱鷺子も手を伸ばし、ぱくりと一口。無言で甘味を楽しむ彼女を見つめてから、仲間たちに呼びかける。
「休憩が終わったら、もう1セット頑張りましょうか。それまではゆっくりしましょう」
はーい! と朗らかな声が返ってくる。
休憩が終わるまで、一行は長閑なひとときを過ごすのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵

朱鷺透・小枝子
躰を動かせば熱が溜るもの。特訓中の彼らへ風を送ります。
夜剣大蛇【操縦】距離を取り、尾剣・夜天叢雲剣から風の霊威を引き出して砂糖が飛んで痛くならない適度な弱追い風を送り汗を【浄化】し彼らを涼め、動きやすくします!
!!小鉄神か!いくぞ、夜剣!!
特訓の邪魔をしに現れた小鉄神には
『天回点壊』同時使用UC『エレメンタル・ファンタジア』発動!
神だけを殺す【呪詛】毒液を砂糖の砂丘に放出し、同時に【念動力】を毒液に浸した大量の砂糖に乗せ、夜天叢雲剣の風の霊威と混ぜる!
毒属性と自然現象を合体し、小鉄神共へ毒砂糖嵐を放ち、
霊威と念動力で毒砂糖嵐をしかと制御し小鉄神を【なぎ払い】
特訓の邪魔はさせませんよ!!
ミア・ミュラー
◎
こういうところでも立派な特訓場所に、なるんだ。朱鷺子さんは、すごいね。わたしもみんなのために何か、しなきゃ。
わたしは特訓を頑張ったみんながしっかり休憩できるように、頑張る。
まずはちょっと違う【おかしのくに】に、しちゃうよ。地形は変えずに、一部をビターなチョコレートとか甘さ控えめのドーナツやケーキに交換、しよう。甘いもので飽きちゃってるみたいだし、みんな楽しくお菓子を食べてほしい、から。わたしもティーセットで甘くない紅茶を、淹れよう。
小鉄神はお菓子を食べたり眺めたりしないだろうし、これでみんなが有利になる、はず。ん、あとは頑張って敵を、やっつけよう。
●
砂糖砂漠を進む朱鷺子と愉快な仲間たち。厳しいながらも順調に特訓が続く。
そのマラソンに並走するミア・ミュラー(アリスの恩返し・f20357)は辺りを見渡すと、感嘆の籠った呟きを零した。
「こういうところでも立派な特訓場所に、なるんだ。朱鷺子さんは、すごいね」
見る限り、この辺りには砂糖とお菓子しかない。それも朱鷺子にかかればハードなマラソンコースに早変わり。アスリートとしての勘が冴えているのだろう。
「わたしもみんなのために何か、しなきゃ」
ぎゅっと両手を握って、愉快な仲間たちの列に近づいていく。
何かできることはないか。それを掴むため、じーっと仲間たちの様子を観察していたが、実際に得られたのは話し声だった。
「あの大きなロボット、何だろう……?」
後ろをちらりと見ながら、ひそひそ声で話している。ミアもそちらへ視線を向けた。
巨大な蛇のような機械が、一行の後ろをついてきている。厚い装甲を持つのは外観から判然としているのに、本物の蛇みたく滑らかに動く。
「あぁ、あれは……」
猟兵であるミアには正体がわかった。
同じ猟兵の所有する兵器、キャバリアだ。
視線を集める大蛇型キャバリア——
夜剣大蛇、その操縦室にて。
「今回の任務は特訓の完遂、故に補助が自分の役割!」
目的を再確認しつつ、朱鷺透・小枝子(
亡国の戦塵・f29924)はカメラ映像の映る画面や計器を一瞥した。
「環境が環境なだけに、外はそれなりに暑いようですね。そこで躰を動かせば熱が溜るもの。彼らに風をお送りしましょう」
小枝子の操作に連動して、夜剣の尾が持ち上がった。尾剣——RX-B夜天叢雲剣から、風の霊威が発生する。
生じた風は砂糖も飛ばない微弱なもの。しかし、あるのとないのでは大きく違う。
「風だ~!」
「涼しい~……あのロボットからかな?」
風を浴び、愉快な仲間たちはちょうど心地よく涼めるようになった。背中側から吹く風は適度な追い風にもなり、マラソンを少し楽にもしてくれる。汗も吹き飛ばして快適そのものだ。
「ご好評みたいですね!」
喜ぶ声を拾って、小枝子は口の端を緩める。
風のおかげもあって、その後は調子よく走り続けた。だからこそ、一気に走ってへろへろになっていく仲間たちも見られるようになった。
「そろそろ、休憩した方がいいのかな」
「そうだな! 足を止めて休もうか!」
仲間たちの隣を走るミアが首を傾げ、それを聞いていた朱鷺子がマラソンを中断する。仲間たちが地面にへたり込むのを見て、ミアは頷く。
「だったら、わたしは特訓を頑張ったみんながしっかり休憩できるように、頑張る」
転がるチョコレートの岩に手のひらを向ける。
ぽんと音を立てて、チョコの岩は少し大人びた雰囲気を纏う。色もさっきより何段階か深い。
立て続けに、崖や塔にも手をかざした。窓を拭くように腕を動かすと、今度は形から大きく変わった。チョコケーキはオレンジベースの果肉ケーキに、ドーナツはイチゴがけからシンプルで硬い生地のものに。
「ここは元から、おかしなおかしな、おかしのくに。でも、ちょっと違うおかしのくにへ——」
地形は変えず、お菓子を甘さ控えめな種類に交換。
甘いものばかりでみんな飽きてしまっているなら、甘くないお菓子を食べて気分転換すればいい。
「やったぁ! 甘い以外のお菓子だ!」
「みんな楽しくお菓子を食べてほしい、から」
疲れも忘れて方々へ走っていく愉快な仲間たちを眺め、ミアは口元に微笑を湛える。ガツガツしっかり食べて、栄養補給に問題はなさそうだ。
「紅茶もあるから、言ってね」
鞄からティーポットを取り出し、何故か最初から満たされた紅茶をカップに注いでは渡していく。渋いけれど深みのある味わいに、飲んだ者から癒されていく。
「……そういえば」
ポットを持ったまま、ミアは走る。
停止した夜剣大蛇の装甲をノック。少しして、内部から小枝子が顔を覗かせた。
「どうしました、ミア殿?」
「これ、お菓子と紅茶」
甘いものと甘くないもの、両方のお菓子が盛られた皿とティーカップを、ミアは順番に小枝子へ差し出す。唐突だったので面食らったが、理解してから小枝子も慌てて受け取った。
「いいのでありますか!? ありがとうございます!」
「お菓子はみんなで分けた方が、楽しくておいしいから」
まずは甘いチョコを小枝子が頬張る。好物に笑顔を弾けさせ、それにミアは笑みを返す。
休息の時間は、そうして過ぎていった。
そろそろマラソンを再開しようかという頃だった。
見慣れない物体が空から飛来し、地上を狙う。
「あれは……小鉄神か! ——いくぞ、夜剣!!」
即反応し、小枝子が夜剣大蛇に乗り込む。操縦室に戻って操作を再開。大蛇が動き、愉快な仲間たちから歓声が上がる。
「ん、わたしも——」
「いえ、ここは自分が! 周りを大きく巻き込みますから!」
ミアを制止し、小枝子は画面を睨む。
敵の数は捕捉できない。となれば、一網打尽にする策で臨むしかない。
「神殺呪毒放出用意、装填——」
段階を進めるごとに、大蛇の頭が空へ向く。口部からは砲身が突出し、小鉄神の来る方角を正確に捉えていた。
「発射!」
放物線を描き、毒液の砲弾は砂糖の砂丘に着弾。小鉄神には着弾しなかった。
これでいい。
「天回す点を壊せ——
天回点壊!」
放たれた念動力が砂糖の粒を幕のように動かす。下から上へと不自然な挙動で持ち上がり、空間を明確に遮断した。
そうして小鉄神が阻まれたところで、夜剣大蛇の尾が立った。尾剣から風の霊威が発生する。今度は加減の必要はない。
最大出力の風が吹き荒れ、砂糖を動かす念動力と合流。暴風となって渦巻き、竜巻という一つの形態に発展する。それが砂糖を纏えばどうなるか。しかも、神のみ殺す毒に染まっている。
毒砂糖嵐。奇妙だが脅威となる災害が、小鉄神の集団に迫った。
「喰らえッ!」
嵐は小鉄神を次々と内側に引き摺り込み、毒にまみれた砂糖の塊で殴りつける。毒の特性からして特効だ。砂糖に引っ掻き回され、毒が侵食していく。
「特訓の邪魔はさせませんよ!!」
霊威と念動力で嵐を制御し、小鉄神を纏めて薙ぎ払う。無数にいた敵をほとんど吸い込み、嵐の内側で丹念に潰す。
それでも、壊しきれない個体もいる。毒が染まり切る前に嵐から転がり出た小鉄神が、立ち上がって向かってこようとする。
しかし、身体が上手く動かない。
「おらおらー!」
「やったれー!」
「特訓の成果を見せるぞー!」
生まれた隙を愉快な仲間たちが攻め、完膚なきまでに叩く。鍛えられたパワーを発揮し、見せびらかすように披露していた。
「よかった……これで、みんな頑張れるね」
活躍する仲間たちを眺め、ミアは安堵する。一緒にお菓子を楽しんだおかげで、楽しもうとしない小鉄神より有利に立ち回れている。
「ん、あとは頑張って敵を、やっつけよう」
「了解です!」
ミアの言葉に小枝子が応える。
その後、猟兵と愉快な仲間たちにより、小鉄神の撃退に成功したのはいうまでもない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
シウム・ジョイグルミット
仲間たちー、ボクも協力するよー
一緒に、あまーい砂漠を走り抜こー!
まあ、ボク自身、走るのが得意なわけじゃないけどね
皆で励まし合いながら、頑張ろー!
走るのに糖分は大事だけど、塩分も欲しいよね
UCでダンプティを召喚して、砂漠の砂の一部をおかきに変えちゃおう
甘いのが欲しいなら、リクエストに応えて変えてあげるよ
味変すると色んなものを美味しく楽しめるからね
お菓子を食べて疲れを癒しながら、確実にゴールしよう!
走ってる途中で、流砂にはまっちゃう場合もあるかな
その時はダンプティに頼んで、身体のまわりの砂をグミに変えちゃおう
これで沈まないから、引っぱってあげたり、自力で抜け出したりできるね
砂を恐れず進んでいこー!
葛城・時人
この特訓俺には天国だね
俺は甘党で甘いものあったら百年戦える口
けど個人的に踏みしだくの悲しいから
UC白燐武空翔の白燐蟲に乗って付き合うね
あ、ちょ、待ってククルカン!片端からあーんしたら
特訓になんない!こら!あと俺も食べたいのに!
何とか抑えて愉快な仲間達にハッパ
「頑張ってやり遂げたら珈琲あるよー!」
大きなポットになみなみはいったの見せて奮起を促そう
わ、ククルカンでも呑まれそうな砂糖の大流砂!
…けど小鉄神も呑まれてるし熱で砂糖溶けて動けなくなってる
「これ皆でてい!して勝とうよ」
愉快な子たちとせーの!でフォークでついて終り!
「自信持てた?じゃあもう少しファイトだよー」
特訓終わったら俺もお菓子貰おうっと
●
小鉄神の撃退にも成功しても、引き続き特訓は続く。
砂糖の広がるだだっ広い場所に出て、朱鷺子を先頭に愉快な仲間たちは走る。
そんな彼らの後ろから、「おーい」と声がした。
「仲間たちー、ボクも協力するよー。一緒に、あまーい砂漠を走り抜こー!」
ふわふわしたウサギの耳を揺らし、シウム・ジョイグルミット(風の吹くまま気の向くまま・f20781)が一行に追いつく。
ニコニコと笑みを浮かべ、愉快な仲間たちの顔を覗き込んだ。
「まあ、ボク自身、走るのが得意なわけじゃないけどね。皆で励まし合いながら、頑張ろー!」
「おー!」と腕を掲げると、ノリのいい仲間たちも「おー!」と腕を掲げて応えてくれた。シウムに釣られ、皆の元気も復活しつつある。
「よかった、簡単にはへこたれなさそうだ。特訓自体はこなしてもらわないといけないからなぁ」
和気あいあいとした様子を、葛城・時人(光望護花・f35294)は少し高い場所から見ていた。純白の毛と翼を持つ大蛇のような白燐蟲——ククルカンに乗り、空から愉快な仲間たちを追いかける。
「この特訓、俺には天国だね」
大が付くほどの甘党である時人からすれば、甘いお菓子に囲まれた場所での特訓ほど嬉しいものはない。こちとら甘いものがあれば百年戦える口だ。
だからこそ、それを踏むのは個人的に許容できない。悲しい気分になるからだ。今回ククルカンに乗って同行しているのにはそんな理由がある。
「まぁ、こっちの世界のお菓子とはまた違うんだろうけど……理屈抜きに、好きだから踏みたくないっていうか……」
ぶつぶつ呟く時人の身体が、突如ガクンと揺れる。
前を見た。
ククルカンがチョコケーキの崖に頭から突っ込み、バクバクと食べ進めている!
「あ、ちょ、待ってククルカン! 片っ端からあーんしたら特訓になんない! こら!」
ぱしぱしククルカンを叩くが止まりそうにない。
「あと俺も食べたいのに! 抜け駆けはダメだって!」
——本音。
いろいろだだ漏れになりながら、何とかククルカンを抑えようとする。
その騒ぎは地上にも伝わる。空飛ぶ大きな蛇がケーキの崖を爆食いするのを見て、愉快な仲間たちは圧倒されていた。
「すごい食べっぷり……僕らもさっきまでああだったんだけどな~」
「流石に甘いのばっかは続かないんだよね~……」
「ふむふむ、そうなんだね!」
耳を立て、話を聞いていたシウムが相槌を打つ。
たしかに、同じ味ばかりは続かない。それに走るなら糖分に並んで塩分も必要だろう。
ここは一つ、しょっぱいのが欲しいはず。
にやりと笑って、シウムは口許に両手を添える。
「よーし……ダンプティ、出番だよ!」
名前を呼ぶと、食器で作られた巨大な口がどこからともなく現れた。砂糖の上に両足でしっかり立ったダンプティへ、シウムは進行方向にある地面を指で示す。
「ここの砂糖をおかきに変えちゃえ!」
命令を受け、ダンプティが走り出す。腕を伸ばし、砂糖に手を突っ込む。
その腕をダンプティが振り上げた瞬間、砂糖の代わりにおかきが宙を舞う。醤油で味付けされた香ばしい匂いが辺りに漂い、愉快な仲間たちの鼻をくすぐった。
「いい香り~……!」
「さぁさぁ、どんどん食べちゃって!」
シンプルなおかきから揚げせんべい、海苔や豆の付いたものまで種類は様々。
久々のしょっぱいお菓子に、愉快な仲間たちが集まってくる。あちこちで小気味いい音を鳴らして、おかきが食べられていく。
「でも、またおかきばっかりだと飽きそうだなぁ……」
「大丈夫! またリクエストに応えて変えてあげるよ! 味変した方が、いろんなものを美味しく楽しめるからね!」
マカロン、ポテトチップス、マシュマロ、ポップコーン……ダンプティが甘いものとしょっぱいものを交互に変化させる。あらゆるオーダーに対応可能らしい。
「ふー……ようやく収まった。ん、あれは……?」
ようやくククルカンを抑えられた時人が、仲間たちの元に戻ってきた。見ると、砂糖菓子だけでなく様々な種類のお菓子が散らばっている。
食べ物に幅が生まれたようだが、それによって本来の特訓が停滞しているようだ。
何とか発破をかけないといけない。用意していたものを取り、時人は地上に向かってククルカンから呼びかけた。
「おーい! 頑張ってやり遂げたら珈琲あるよー! だから特訓も頑張ろうねー!」
珈琲がなみなみ入った大きなガラスのポットを掲げ、時人は仲間たちに奮起を促す。
「わぁ、珈琲だ! はーい! 頑張ります!」
上手くやる気に繋がったらしい。立ち止まっていた仲間たちも本体に戻り、特訓を再開した。
「よし……それじゃ、もうひと頑張りだ!」
「疲れたらいつでも言って! お菓子を食べて疲れを癒しながら、確実にゴールしよう!」
空からは時人が、地上ではシウムが愉快な仲間たちを支える。
その後も、順調に特訓は続いた。
だが、トラブルは突発的に起こる。
「あれ?」
愉快な仲間たちの一人が、砂糖に突っ込んだ足を引き抜けなくなった。無理に引き抜こうとすればするほど埋もれていき、気付けば腰までが地面に埋まっていた。
砂糖の流砂だ。
「ちょっとちょっと、危ないよ!?」
それを見つけ、シウムが驚きの声を上げた。時人や朱鷺子、他の仲間たちにもピンチは伝わり、特訓はストップ。
かなり危険な状態ではあるが、こうなることを想定していないわけではなかった。
「こういうときは……ダンプティ!」
流砂の外からシウムが指示を出す。ダンプティの腕が伸び、埋もれた一人に近い地面を触る。
「グミに変えちゃって!」
仲間の周りの地面が突然、彩り鮮やかなグミで覆われた。弾力のあるグミに挟まれ、身体がそこに固定される。これで沈む心配はない。
「もう大丈夫だからねー。皆も、砂を恐れず進んでいこー!」
自力で這い出し、グミの足場を渡って脱出する仲間を見届けてから、他の仲間たちに声をかけた。シウムの朗らかな声で、不安に満ちた空気も徐々に薄れていく。
「しかし、本当に大流砂だね。ククルカンでも吞まれそうなくらいだ」
流砂地帯を、時人は改めて空から眺めた。マラソンルートからは外れているので関係ないが、壮観な景色ではある。
「ん……あれって」
景色の中に違和感を覚え、目を細めた。
少し離れた流砂の中に、小鉄神の集団が吞み込まれている。しかも熱で砂糖が溶け、飴細工のように固められ動けなくなっていた。
放ってはおけないが、何かに使えそうでもある。
考え込んでから、時人は妙案を思いついた。
「ねぇ皆、あそこに敵がいるんだけど……皆でてい! ってして勝とうよ」
「えっ? ……あー、うん。そうだね!」
状況を察し、愉快な仲間たちも提案に同意する。戦わずして勝てるならそれに越したことはない。
武器は砂糖砂漠にときどき生えているフォーク。
流砂に呑まれないよう注意しつつ、安全圏から構えて持つ。
流砂の真上で、時人が指揮を取る。
「じゃあ、合図を出すよ。……せーの!」
ちゅっくん。
可愛らしい擬音の似合う攻撃が小鉄神に突き刺さり、一撃で敵は戦闘不能に陥る。元々消耗が激しかったのだろう。
「一撃で倒せちゃった……もしかして強くなってる?」
「自信持てた? じゃあもう少しファイトだよー」
成果を積み重ねていくことも、また自信に繋がる。
愉快な仲間たちが精神的にも強くなっていくのを感じ、時人は一旦ククルカンを下りて息を吐く。
この特訓も終わりが近い。もし終わったら——。
「……俺もお菓子貰おうっと」
「これがいいとかある? ダンプティが出してくれるけど」
「あ、えっと……考えとくよ」
時人の呟きをシウムが拾い、にやにや笑う。気恥ずかしさから時人は誤魔化して、再びそれぞれの役割に戻る。
頼もしい猟兵たちに支えられながら、特訓は続くのだった。
大成功
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栗花落・澪
甘味は好きだけど限度はあるよね、確かに
残念ながら僕はちょっと心臓弱めだから
サポートに専念するね
軽く浮遊しながらついて行きつつ
僕から伝えられるのはマラソンのコツ
呼吸法とか、自分のペースを乱さない方法とか
走り方にも疲れにくいフォームがあるんだよ
短時間なら大丈夫かな
必要に応じて実際に走ってお手本を見せます
疲労が目立つようになって来たら一旦ストップをかけて
聖痕の力で周囲に花畑を生成
そのスペースを使ってお茶会にしましょう
紅茶はストレートで飲んでもいいし
砂糖が必要なら現地調達
ミルクと紅茶用ジャムはお好みで
同時に指定UCで疲労回復
手作りのアップルパイ持って来たけど
デザート自体も現地調達してもいいかもね
●
視界の隅まで広がる砂糖の砂漠。
ふわふわと空を飛びながら、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は「うへぇ……」と口を歪めた。
「甘味は好きだけど限度はあるよね、たしかに」
砂糖砂漠での特訓も終わりが見えてきた。最後の追い込みとなって、朱鷺子も激しさを増している。上手く補助してバランスを取りたいところだ。
「僕はちょっと心臓弱めだからなぁ……ここはサポートに専念しよう」
空からゆっくりと、愉快な仲間たちの列を追いかける。「おーい」と呼びかければ、仲間たちの何人かが手を振った。
ちょうど目線の合う高さまで下って、澪は優しく話しかける。
「大丈夫? ついていけてるかな?」
「一応ね! だけどみんなのペースが上がってるから、振り落とされないか心配だよ……」
「うーん……だったら、息の仕方を変えてみるといいよ」
隣で呼吸法を実演。短く吸って大きく吐く、独特なリズムを伝えてみせる。
「それと自分がどのくらいの速さで走れば苦しくないか、確かめてみるのもいいかも。自分が疲れないのが一番だからね!」
「なるほど……! でも、そもそも疲れないための方法ってないかな?」
「それなら、フォームを変えてみる? 走り方にも疲れにくいフォームがあるんだよ」
「へぇ! それってどんなの?」
尋ねられ、澪は左胸に軽く手を置く。
短時間なら大丈夫かな。頷いて、砂糖の地面に降り立った。背筋を伸ばし、愉快な仲間たちの横を走る。
「脚よりも身体全体を意識してみて。前をまっすぐ向くのが大事なポイントだね」
「ホントだ、走りやすい! やってみるよ!」
仲間たちの一人が真似をして、自然と周りにも伝播していく。
その様子を微笑んで眺め、澪も少しの間だけマラソンに参加するのだった。
特訓を続けるうちに、愉快な仲間たちに疲れが目立ち始めた。ちょっと疲れた程度ではなく、動きが鈍くなっているのが見て取れる。
「これは……休憩にした方がいいかも。みんな、一旦ストップだよ!」
足を止め、仲間たちはゆっくり息を整える。
しっかり疲れを取れるようにしないと。指を組んだ両手を胸の前で掲げ、澪は聖痕に魔力を籠める。
足元で一輪の花が咲く。それをきっかけに、花が広がっていく。砂糖しかなかった砂漠の一角は、たちまち花園へと早変わり。
「一瞬でお花がこんなに……すごーい!」
「それじゃ、お茶会にしよっか」
気ままに寝転がる愉快な仲間たちへ、澪はティーポット片手に提案する。
カップに注がれる紅茶。味は渋め。ストレートで飲むと、奥深い味わいに引き込まれる。
「甘いのが好きな人は……あとで砂糖を取ってこよう。ここならたくさんあるし! ミルクとジャムはお好みで足してね!」
「はーい!」
「そうそう……これも忘れないようにっと」
小瓶を手に取り、蓋を開く。ふわり、華やかな薔薇の香りが辺りに漂う。優美な香水の匂いは嗅いだ者の疲弊した身体をほぐし、脱力させていく。
「いい香り……」
「癒しと希望を届ける薔薇の香水だよ。リラックスできた?」
「うん!」
「ならよかった。お菓子もあるし、早速お茶会を始めよう」
そう言ってバスケットから取り出したのは、手作りのアップルパイ。
サクサク生地の中にはリンゴの果肉がゴロゴロ。ナイフで切り分け、澪も一口かぶりつく。とろけるような甘さがじっとり広がる。我ながら美味しい出来栄えだ。
「でも、せっかくここでお茶会をやるんなら、他にもお菓子を取ってきたらよかったな……」
「そう言うと思って!」
どこかに行っていた愉快な仲間たちが戻ってくる。ケーキやドーナツ、クッキーにマカロン。手に持つ籠には砂糖砂漠のお菓子がいっぱいに詰め込まれている。
「他にもお菓子、調達してきたよ!」
「ありがとう。しっかり休んで、最後まで走り切ろうね」
みんなでカップを掲げ、お茶会が始まる。
賑やかに過ごすうちに、自然と疲れも取れる。休憩を挟んだ後の特訓は、身の入ったものになったという。
●
やがて砂糖の地面が薄くなり、一行は砂糖砂漠を完全に抜ける。
無理難題に思えた特訓も、猟兵たちの支えあって完遂に成功。
そこで鍛えられた愉快な仲間たちは、頼れる戦力として小鉄神の大群を打ち砕いた。
大成功
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