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帝都櫻大戰①〜赤霞行路

#サクラミラージュ #帝都櫻大戰 #第一戦線 #透明軍神『ソウマコジロウ』 #プレイング受付:9月9日いっぱい


●花よりも尚
 死地に桜花は舞うか、落ちるか。
 踏みしめられた花弁より、舞いあがる花を知る者は己が手の向こうを舞う花を見た。この身の先にあるものたちを。
「心ある者達よ、命ある者達よ」
 抜き払った刃は鋒を下げることなく、傀儡と成り果てる意識の中、嘗て知った大地を見る。縁はこれで最期か。
「——……我も、刻限か」
 ソウマコジロウと呼ばれていた男は——透明軍神は息を吐き、飲み込まれる意識を感じていた。

●赤霞行路
「かつて帝都を制圧した唯一の人物の名前、ここで聞く事になるとは……、やはり幻朧帝なる存在もかの方の力を理解しているのでしょうね」
 静かにそう告げたのはハイネ・アーラス(海華の契約・f26238)だった。
「お集まり頂き感謝します。我らが友人よ。
 透明軍神『ソウマコジロウ』について、情報が集まりました」
 ソウマコジロウ——彼の歴史に語られぬ目的は、封印された幻朧帝を完全に殺すことにあったのだ。
「ですが、ソウマコジロウは幻朧帝によって望まぬ蘇生を果たし、透明軍神『ソウマコジロウ』として青山にある『帝都桜學府本部』を制圧しています。
 目的は、サクラミラージュの大地破壊儀式の遂行でしょう」
 それは、ソウマコジロウにとって望まぬ凶行であろう。
「桜花の下であろうと無かろうと、流れる血はあるものですが、その凶行、放置はできません。
 相手は、透明軍神『ソウマコジロウ』かつてのサクラミラージュ軍部によって生み出された最初の怪奇人間であり、強力な透明人間です」
 極めて強力な「透明人間」でもあるソウマコジロウは、自身の肉体と装備——そしてユーベルコードをも自在に透明化することで相手に、決して、自身の存在を把握させぬまま、必中の攻撃を仕掛けることができるのだ。
「戦うのは容易なことでは無いでしょう。ですが、ここで止める必要があります。
 かの方を飲み込んだ凶行を止め、透明軍神となったひとを討ち取るために」
 参りましょうカ、とハイネはグリモアの灯りを灯す。
「これが救いであるのか、計ることは俺にはできません。ですが、今、あの場所へ向かうことができるのは我らだけにございましょう」
 救いであろうが無かろうが。
 刃ひとつ、術のひとつ、力の全て。抱えて行くことが出来るのは——猟兵だけだ。
「仮初めの大地と呼ばれた、このサクラミラージュで過ごしたのですから」
 今を生きるものとして、全力を見せるのもきっと——手向けとなるのだから。


秋月諒
秋月諒です。
どうぞよろしくお願い致します。

このシナリオは戦争シナリオです。1章で完結致します。

●プレイング受付について
公開時より受付。導入追加なし
同日にプレイングが多い場合、その日の中の採用数が減る可能性があります(締めきり的に)
再送はご自由にどうぞ。再送における優先などは特にありません。

プレイングボーナスに対応している方・ソロ参加を比較的優先するかと。
書きやすいものから書いていく形です。

*敵の攻撃は必中先制となります
 事前行動はできません。
 必中される攻撃に対し、どう対処対応し、返す攻撃に繋げるか…辺りが大切になってくるかと。

*状況にもよりますが全員の描写はお約束できません。予めご了承ください。

●プレイングボーナス
=============================
プレイングボーナス:敵の必中先制攻撃に対処する/敵の透明化能力に対処する。
=============================

●同行について
 複数の参加はお二人までとさせて頂きます。
 プレイングに【名前+ID】若しくは【グループ名】を明記してください。

 プレイングの送信日は統一をお願い致します。
 失効日がバラバラだと、採用が難しい場合がございます。

 それでは皆様、ご武運を。
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第1章 ボス戦 『ソウマコジロウ』

POW   :    透炎剣
【透明化中に見えない炎を帯びた刀】で虚空を薙いだ地点から、任意のタイミングで、切断力を持ち敵に向かって飛ぶ【透明な炎】を射出できる。
SPD   :    透明魂魄軍団
【叛逆の同志たる「透明魂魄軍団」】の霊を召喚する。これは【全身を透明化したまま戦闘を行える能力】や【様々な和風の武器】で攻撃する能力を持つ。
WIZ   :    透明念動弾
【自身を共に透明化した装備】から【見えざる念動弾】を放ち攻撃する。その後、着弾点からレベルm半径内が、レベル秒間【透明化】状態になる。
👑11
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サナティス・ヴァルヴァード
透明故に見て取ること叶わぬ敵。
なれば、尋常ならぬ視覚を以てすれば叶うだろうか。

HowlingSoulの反応を以て【索敵】、敵の接近を知覚。
Wielder Beholderで【第六感】を研ぎ澄まし、攻撃の発生の察知を試みよう。
回避は不可能なれど【盾受け】は可能な筈。FlameFrameで防ぎ止め、ダメージの抑制を試みる。

以後はWielder Beholderの拡張視覚で敵の居場所を把握。
とはいえ透明であることには変わり無い、戦いが長引けば不利なのは此方だ。
捕捉したら一気に決着をつける意志を以て七式七変化を発動(装甲半減・攻撃回数強化)
【斬撃波】を交えた大鎌での連続攻撃を仕掛け仕留めにいこう。



●静寂の影
 桜花が、舞う。はらはらと舞い落ちる薄紅が、淡く光ってみえた。一歩、二歩。足先に触れた花弁は舞いあがること無く――だが、さらりと黒髪に触れれば寄り添うような香りを残してふわり、と舞った。
「……」
 その意を、計るつもりなど娘には無い。可能性や、逸話の類いを口にすることはできてもこの地に伝わる物語では無いだろう。
(「ただ、ここは死の匂いがする」)
 デュラハンたる娘は死を知る。そこに至ろうとするひとを、ものを知っている。己が存在と、娘の経験がそれを伝えていた。此処には、古い骨や這いずるような死の、因果の気配がする。
(「それが、将軍というものか」)
 相手の名を口の中に転がすことなく、ただ、と視線を上げる。長い影のようにゆらりと立つ。三歩目、入れた足音をサナティス・ヴァルヴァード(死を告げるもの・f27951)は消した。
(「透明故に見て取ること叶わぬ敵。
 なれば、尋常ならぬ視覚を以てすれば叶うだろうか」)
 何かが居る。その気配はある。それが生者かと言えば何かが――そう、何かが違う気がサナティスにはしていた。
「……」
 息を吸う。この目に映らぬのであれば、オーブであればどうか。手の中、ころんと落としたそれがふわりと浮く。敵が接近してくる気配は無い。だが透明軍神『ソウマコジロウ』の動きが、その刀が、ただ斬るだけのものでなければ――……。
(「間合の外……」)
 サナティスは意識を集中させる。静かに一つ息を吸い、開いた第三の目が捉えたのは風の動きと――熱だ。
「――」
 考えるより先に体が動いた。ひゅん、と払うようにサナティスは大鎌を振り上げる。ごぉおお、と舞いあがった蒼い炎が『何か』を受け止める。
 ――炎だ。
「――これが、お前の熱か」
 は、と息を吐く。肌を焼く傷みと共に、零れ落ちる血が焼け付いていく。ばたばたと零れた赤はサナティスの足元で血溜まりを作り――だが、蒼く盛る炎が透明な炎にサナティスを飲み込ませはしない。
「灰は灰に。塵は塵に」
 足を、出す。一歩、前に。
 血溜まりを踏み、肌を這う炎を踏みしめるようにしてサナティスは前に出る。炎の齎す痛みに、吐いた息は一度だけ。身は傾がず――ただ、前を見た琥珀の瞳が揺らぎを視た。第三の瞳を通して『視た』何か。姿を見せぬ――見せることの適わぬ透明軍神にデュラハンは告げる。
「過去は過去に」
 盾と紡いだ炎が、サナティスの進む一歩を作るように空間を薙ぐ。透明な炎を払うように、その中を進み行けるように。
「……」
 三歩目、踏み込んだサナティスに第三の目で捉えた気配が揺れた。仕掛けるなら、今だ。
「私に不利な戦場などは無いさ」
 た、と地面を蹴る。足裏で掴んだ感触と共に身を前に跳ばす。相手の姿は目に見えぬまま――だが、捉えた一瞬をサナティスは見逃さすことは無かった。
「合わせれば良いだけの事だからな」
 ぐん、と大鎌を低く構える。最後の一歩、飛ぶように入れ――着地の足で軽く地面を蹴った。
(「一気に決着をつける」)
 幾ら、この『目』で捕捉できていようが、相手が透明であることに変わりは無い。透明軍神『ソウマコジロウ』幻朧帝によって望まぬ蘇生をさせられた――そう、その相手に選ばれた程の相手。
(「戦いが長引けば不利なのは此方だ」)
 それを理解しているからこそ、戦場にてデュラハンは舞う。低く構えた大鎌と共に身を舞わすようにして、地を蹴った。
「――ここだ」
「――」
 鋒が、何かに触れた。腕か、胴か。斬り裂く感覚と共に、大鎌の先が何かにぶつかる。
「――刀か。だが――……」
 弾き上げるような力に、だが、サナティスは薄く笑った。ぼう、とした瞳は緩く弧を描き、強者たる者の力に、振り上げた大鎌を衝撃波と共に――下ろす。
 ザン、と舞うような連撃が、眼前の相手に落ちた。
「――はッ……はは」
 落ちる息と共に、ぱたぱたと何かが落ちた。零れた赤さえ、この軍神は色彩を持てぬのか。透明軍神の気配に、ゆるりとサナティスは貌を上げる。ガウン、と払う刀に、軽く身を飛ばす、
「ならば何のためにきた。猟兵よ」
「……さあな。私はデュラハンとしてあるだけだ」
 物静かな騎士はそう告げる。ゆっくりと大鎌を構え直し――終わりを、告げる為に。

成功 🔵​🔵​🔴​

夜刀神・鏡介
悪人と伝えられていた人物が実は……か。まあ、帝の真実を知らなければ彼の所業は悪にしか見えないよな
尤も、仮に彼が帝を討っていた場合にこの世界がどうなっていたか分からん訳だが……

神刀の封印を解除。神気を纏って身体能力を強化
気配や音などで敵の位置や仕掛けてくるタイミングを見極めて…… 念動弾を切り払う

着弾点周辺が透明になると言っても、予め地形を覚えておけば影響は抑えられる。戦闘中ギリギリの状況でうっかり見誤らないように気をつけねばならないが

見えない相手に攻撃するフリをして地面などに斬撃痕を刻んでおき
相手の姿が見えないのなら、周辺一帯を纏めて薙ぎ払うまで――廻・肆の秘剣【黒衝閃】で攻撃だ



●一閃、刃に告ぐ
 ――血の、匂いがしていた。桜花に混じり鼻先に感じた臭いに、青年は唇を引き結ぶ。何かの、誰かがいる気配。先に踏み込んだ猟兵が切り結んだのだろう、學府の床に焦げたような臭いが残っていた。
「……」
 どれもこれも臭いばかりだ。
 形は見えず――だが、擦るように進めた足が焼け焦げた感触を伝えてくる。放つ炎さえ見えないのか、或いは流す血さえ色を持てないのか。
(「ソウマコジロウ、か。悪人と伝えられていた人物が実は……か。まあ、帝の真実を知らなければ彼の所業は悪にしか見えないよな」)
 小さく、夜刀神・鏡介(道を貫く一刀・f28122)は息を零す。
(「尤も、仮に彼が帝を討っていた場合にこの世界がどうなっていたか分からん訳だが……」)
 鏡介はサクラミラージュの生まれだ。彼らの言う仮初めの大地に生まれ、故郷を失い、そして――……。
「……」
 腰の刀に手を置く。神刀。無仭の二つ名を持つ刃は、鏡介を選び――そして、振るう力が彼を今の姿に変えた。
(「何を考えようが、だな。最後まで、己が選んだ道を行く。それだけだ」)
 もしもを紡いだところで、鏡介の持つ覚悟が変わる訳では無い。神刀に触れる。抜きはしない。まだ。ただ構えるように手を添えて、封印を解く。纏う神気が鏡介を包み込んだ。
「……」
 衣擦れの類いも無いのは、ソウマコジロウという存在が透明人間である自分を扱い慣れているからか。だが、気配はずっと戦場にあった。何かがいるという気配。相対している以上、仕掛けてくる一瞬は在る。
「――」
 頬に、風が触れた。
 纏う神気が揺らぐ。僅かに感じた違和。その感覚に鏡介は迷うこと無く刀を――抜いた。
「そこか」
 キン、と鋒が何かに触れた。刃で何かを斬る感触と共にその重さが腕に伝わった。ぐ、と押しこまれるような重さと共に弾けた力が、散らしきれなかった衝撃が鏡介の体を襲う。
「――は」
 鈍い、傷みだった。叩きつけられた重さに似たそれが、肩口を抉り、胴を射貫く。触れたその場所が、斬った念動弾を散らした先が変化していた。
「さて、透明になったわけだが……」
 戦場の状況は覚えている。崩れた壁、割れた窓硝子が落ちていた先は右。あそこは、どれだけ慎重に動いたところで音が出るだろう。党名になっている箇所は――机と、瓦礫があった場所か。
「安易に踏み込みたくはないが……」
 言いながら、鏡介は前に出る。一歩、踏み込みと共に正面に刃を振り上げる。ヒュン、と神刀は空を切った。鋒が何かに触れる感触は無く――だが、真横に感じた何かに身を横に振る。ザン、と薙ぎ払うように刃を振るう。
「気配はそこにあるが、か」
「……」
 返す言葉があるわけではない。ただ、踏み込んでくる相手の気配に、揺れる空気に鏡介は相手を知る。踏み込むように刃を振るい、警戒するように薙ぐ。
 ――刀は、全てを空を切っていた。
 戦場にヒュン、と鋭い音が響き、鋒は時に床を抉る。三度、鋒が床を抉ったそこで、相手の気配を感じて後ろに飛ぶ。
「……」
 取り直した間合ひとつ。単純には踏み込んで来ない相手に、ふ、と一つ笑って鏡介はその刀を床に突きたてた。
「神刀解放」
 その言葉に、床に刻まれた刃の痕が鈍く光った。足元から沸き立つように、生まれ出ずるように――黒は、顕界する。
「――」
 た、と初めて足音が耳に響いた。距離を置くような離脱の音と共に、息を飲むような音が耳に届く。だが、その離脱だけでは黒の神気からは逃れられない。
「相手の姿が見えないのなら、周辺一帯を纏めて薙ぎ払うまで」
 刀で刻んだ傷の全て。その内部にて、これは落とされるのだから。
「黒の剛撃――廻・肆の秘剣【黒衝閃】」
 ゴォオオ、と黒が舞いあがる。吹き出した黒の神気が、地を穿つほどの勢いで戦場一帯を――教室の全てを飲み込んだ。
「――これほど」
「……」
 声がした。ばたばたと落ちる何かと共に血が濃く香る。やはり、零れた赤さえ色彩を持たないのだろう。痛む体をそのままに、鏡介は血の臭う先を見た。
「これほどの、ものを扱う存在がいる、か」
 透明軍神『ソウマコジロウ』の声は、怒りや殺意ではなく、どこか満足に似た色彩をして、小さく笑った。

成功 🔵​🔵​🔴​

冴島・類
ソウマコジロウさん望まぬ蘇生から解放し止めたいのもあるが
この地で生きる方々にとって
仮初でなく故郷であり
明日を生きる場を壊させたくない

必ず当たる見えぬ刃
ならば…静かな覚悟と共に集中
六感生かし
飛来する炎の刃による熱、空気の揺れを捉え
せめて僅かでも
当たる位置を重症や致命からはずらせないかと
火への耐性も受ける際役立てば

初手以降、何発もくらってはまずい
くれあ、と連れの炎の精へ声を
見えずとも在るなら
君の耐火結界で炎帯びた刃の位置をわかるかい?
そちらでわからぬ場合は
風魔法で砂塵起こし位置把握できぬかと応変に

炎纏う刀の位置や彼の気配知れたなら
流れた血を生かし封を解いた瓜江の風刃放ち反撃

意にそぐわぬ刃は、ここで



●長く尾を引く
 そこに学び舎としての姿は無かった。床板には罅が入り、割れた窓硝子が散っている。崩れた壁は、襲撃者となったものが齎したのか――或いは、大地破壊の儀式がそうさせたのか。慌ただしく飛び出していった学生が残した僅かな日常だけが戦場となった部屋に残っていた。
「……」
 鞄と教本と、そして血がこの場にある。床板を染めた赤は先に踏み込んだ猟兵のものであろう。ただ、それだけでは足らない、と男は思う。慎重に、一歩進めた足と共に感じたにおいは確かに人の流す血であり、その色彩を知るヤドリガミたる男は女郎花の瞳を細めた。
(「……血さえも透明なんだね」)
 左目の落ちた視力が故ではないだろう。右の瞳が捉えた世界でも、零れた赤は見当たらず――ただ、その匂いと僅かな気配を冴島・類(公孫樹・f13398)は感じていた。
 ソウマコジロウ。
 嘗てのサクラミラージュ軍部によって生み出された最初の怪奇人間。かつて、帝都を制圧した唯一の人物の目的は、幻朧帝を完全に殺すことであり――今や、その幻朧帝によって蘇らされ、手駒とされた。
(「大地破壊儀式、か……。ソウマコジロウさん望まぬ蘇生から解放し止めたいのもあるが、この地で生きる方々にとって仮初でなく故郷であり、明日を生きる場を壊させたくない」)
 過去の人々にとって、ここが仮初めの大地であったとしても、この地はサクラミラージュであり、日々を暮らして――そうして、これからも生きていく場所なのだから。
「……」
 刃を抜く音は無い。白刃は晒されてあるか。透明人間にとって、相手に警戒されるのも慣れであるのか。隙を見せる様子も無い相手に、ただ一度の息をおとし、類は意識を集中させる。必ず当たる見えぬ刃。払う一閃、炎を齎すのであれば見えずとも空気は震える。何処だ、と探るより、ただ感覚を研ぎすまし、ひとつ吸った息と共に類は顔を上げる。短刀を手にしたまま、擦るように進めた一歩。足裏が割れた床板を捉えた瞬間――空気が、変わった。
「――」
 身を、逸らす。喉元、捉えるように来た熱に類は床を蹴った。
「……は」
 瞬間、透明な炎が肩口から一気に類を燃やした。軋むような痛みと共に、着地する。痛みに傾ぎかけた身を支えるように、二歩目の脚で床を強く踏む。片腕、袖を落とす程の炎が類の身を包み――だが、喉は、飲み込まんとした熱の一撃は、致命は避けた。
「……これは、何発もくらってはまずいな」
 動ける範囲だ。重傷でも無い。無いが――二度目は無い。は、と息を吐き、己の痛みは置いて類は前を見る。
「くれあ。見えずとも在るなら、君の耐火結界で炎帯びた刃の位置をわかるかい?」
 小さく、そう告げる。炎の精霊は、ふわり、と類の傍らに姿を見せると炎を宿る指先で一点を示した。
『……』
 あそこから、と言うように。示した一瞬、それまで隠れるように潜められていた気配が――揺らいだ。
「――」
 此方が位置を把握したことに気が付いたか
「――瓜江」
 十指に繋いだ赤糸をひく。ぱた、ぱたと落ちる血が糸を伝っていた。鮮血が、ゆらりと立ち上がった『瓜江』の濡羽色の髪を揺らしていた。纏うは風刃。封を解かれた半身と共に類は一歩を踏み込む。
「荒れ狂え」
 ヒュン、と払い上げる刃が飛んだ。風の刃は戦場に溢れた熱を斬り払うように進み――ザン、とその果てにいる男に届く。
「――この身、見つけてくるか」
 足音が荒く、揺れた。吐き出された息と共に零れた血のにおいが、声の主をソウマコジロウと類に伝えていた。
「意にそぐわぬ刃は、ここで」
 だからこそ姿は見えぬ相手に告げる。その為に、そしてこの地に住まう人々の為に類は来たのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

スキアファール・イリャルギ
……あなたが、最初の怪奇人間
同じ怪奇人間として聴きたいことは山程あるのですが
そんな時間は無いか

透明に先制、必中
あまり影人間らしいことはしてられませんね――

耳を澄まし、足音・得物が空気を斬る音を聴き軍団を索敵・位置を大まかに把握
とはいえ、この通り手ぶらなので
自身に雷属性のオーラの防壁を纏って攻撃を受け止めつつ、敵の得物へ雷を伝わせての感電狙いしかできませんが
致命傷を負わなければなんとかなる、多分

すかさずUC発動
全方位・広範囲に召喚した音符記号をひとつだけ残し、他全ては時限爆弾にし起爆!
爆発で生じた煙の中なら透明化は不自然な形で見える筈
ソウマコジロウに向け、残した音符記号を投擲武器に代え投げます



●昔歳
 割れた窓硝子が学舎の床を埋めていた。一拍の後、空間が熱を帯び――一面を同等の景色に変える。崩れた壁、倒れた机は灰となり、床板は熱に抉られたように軋み、罅割れていた。
「……」
 その何れもが、床板を――戦場となった学舎を、同じに見せていた。何処に穴があるわけでも無い。平たく床は焼かれ、瓦礫は落ち、窓硝子が落ちてはガシャン、と割れる。
(「慣れているんでしょうか、自分という存在と戦い方に」)
 パキン、と踏み込む足が破片を踏んだ。一歩、また一歩、進む足音は瓦礫を踏む。それは無防備な動きに似て、何もかもが違った。
「……あなたが、最初の怪奇人間」
 三歩目、足を進めたそこで男は立ち止まった。隈の残る青白い顔が、ゆるり、と空間を見る。そこに返る声は無かった。ただ、確かに『いる』気配に、男は息を吐く。ゆらり、揺らした手と共にラフに着た服が揺れた。
 ぱた、ぱた、と。零れた音と共に男は足を擦る。瓦礫が靴先に触れ――だが、響く音はそればかりだ。ひとの足音に似て違うそれは、差し込む日差しが長く濃い影を男に作ることで示していた。
「……」
 スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は影人間である。悍ましく冒涜的な"恐怖の影”人間に擬態して在る男は、この場に確かにいる者を感じ取る。
「同じ怪奇人間として聴きたいことは山程あるのですが……」
 ピリ、と空間がひりつく。何かが展開された――喚び起こされた気配に、スキアファールは、す、と瞳を細めた。
「そんな時間は無いか」
 緩く、拳を握る。黒の包帯の覆われた手で、空気を撫でる。何かが動いているような感覚。ソウマコジロウによる透明魂魄軍団の召喚が成されたのだろう。叛逆の同志たる彼らもまた、全身を透明化したまま動き回れるということか。さっきまで差し込んでいた光がふつり、と途切れる。
(「いや、光があったところで影が出来るような気配じゃ無いでしょう。あの人たちは」)
 それを、享受出来ないと言うべきであるか、彼らにしてみれば武器であるというべきかスキアファールには分からなかった。ただ根は真面目な男は、この場で動く者達を感じ取るように息を吸う。
(「透明に先制、必中。あまり影人間らしいことはしてられませんね――」)
 耳を、澄ます。足音を逃さぬように。相手はひとりではない。数がいるのであれば、どうしたって音は生まれる。得物は抜くか、剥き身か。召喚されるのが霊であれ、この世に存在させられたものは音を――残す。
「――……」
 右に何か。あとは正面に。微かに聞こえた音の、その意をスキアファールは聞き取る。
(「――撃鉄。けれど、鋭い音もする。これは……銃剣」)
 それならば、正面と真横に展開してきたのは撃ち抜き、貫く為だ。
「――!」
 ヒュン、と鋭い音がした。穿つ一撃が来た瞬間に、スキアファールは強く拳を握る。バチ、と弾けるような音と共に雷の力がスキアファールの前に立つ。
 ギィイイン、と鈍く重い音が戦場に響き渡った。雷撃が刺突を受け止めたその一瞬を、スキアファールは逃さない。
「これ、で……、と」
 兵の銃剣と、雷が触れているその場所から一気に雷撃を走らせた。
「――!」
 バチン、と弾けるような音がした。ぐら、と眼前の相手、その圧力が消え――だが、真横から雷のオーラを押しこむように、割るように力が来る。
「――っとお」
 反射的に、腕で払う。雷撃が逸らした銃弾がスキアファールの首を抉る。
「あぶな……」
 雷で相手の動きを一拍ずらせて無ければ、今頃、首を直接撃ち抜かれて致命傷だ。は、と息を吐き、雷光を引き寄せる。続く二撃、軍団からの踏み込みを散らし、は、と息を吐く。喉と肩から、零れた黒が、影が床を塗らす。
 ――それでも、致命傷は負ってない。
「なんとかなったから……」
 黒に塗れた手を、軽く振り上げる。影で出来た音符記号が戦場に展開された。
「――」
 その音符が作り上げる楽譜はフィナーレを描くか。突如、展開された音符に一拍、軍団の兵たちがざわめき――だが、対処に動くよりスキアファールの方が早い。
「遊んでみましょうか」
 その一言と共に、音符記号が爆発した。ガウン、と重く響く衝撃と共に透明魂魄軍団達が吹き飛ぶ。舞いあがった砂塵と煙の中、それはスキアファールの真正面に現れた。
「……」
 不可解な空間。爆風の触れぬ場所。
「――そこに」
 踏み込む。軽く一歩。間合を詰める為では無い。ただ、ひとつだけ残しておいた音符記号を取るため。ぱしん、と手にした一つをスキアファールは迷わずにその一角へと投げ込んだ。
「――そうか」
 ガウン、と重い衝撃と共に、誰かが傾ぐ足音がした。ざ、と足を擦る音。姿は見えずとも、それがソウマコジロウのものであるとスキアファールには分かっていた。
「我を、見つけるか。今を生きるものは」
「まぁ、どうにかでしょう」
 姿はみえず、低く響く声に透明軍神としての猟兵への敵意は消えぬまま――だが、たしかに少しばかりの安堵を見せた男の言葉に、スキアファールは静かにそう言った。

成功 🔵​🔵​🔴​

阿夜訶志・サイカ
善玉でも悪党でも、誰かの言いなりったァ、つまんねェよな。
しかもナンもカンも透明ねェ。
ハッ、風通し良すぎて、風邪引きそうだ。

俺様は気が短い。
見えていようがいなかろうが、関係ねェ。
てめぇの禍ってのを見せてみろ――突然、亡霊がグサグサ刺してきたり、パァンって撃ってくんだろ?
慣れてるぜ、俺様は逃げも隠れもしねぇぜ。

アァ?
猫は仕事をしろ。見えねえもんを見るのが猫畜生の役目だろうが。
煮干しの頭もねェぞ。

ま、最初から畜生に期待はしてねェ。
痛ェな、って思ったら、本を開いて災害を呼ぶだけだ。
炎使いなら、大水にしとくか。
どんと呑みな。
――置き土産ってな。

端から、俺様は英雄討伐の器じぇねぇ。
試練を与える厄災よ。



●我とは誰か
 轟音と共に爆風が抜けた。元より穴の空いていた学府の天井が弾け飛び、一拍の後に瓦礫が降りそそぐ。――だが、舞いあがる砂塵はすぐに散った。吹きこむ桜がそうさせたのか、舞いあがった砂塵をはたはたと面倒くさそうに払うと男は瓦礫のひとつに足を乗せた。
「善玉でも悪党でも、誰かの言いなりったァ、つまんねェよな」
 カツン、と蹴る。ごとり、と転がり落ちた破片が壁にぶつかるのを追うことも無く、足癖の悪い男は煙草を噛んだ。
「しかもナンもカンも透明ねェ」
 パサついた髪の向こうから覗く瞳が戦場を見遣る。がらんと開けた廃墟。数刻前は学府であった場所にあるのは瓦礫に、足も無く転がった机。書き込まれたらくがきに、しけた煙草を噛みきると、阿夜訶志・サイカ(ひとでなし・f25924)は口の端を上げて笑った。
「ハッ、風通し良すぎて、風邪引きそうだ」
 しけもくは終わった。吐きだした煙程度で、燻り出せるようなもんでも無いだろう。
 怪奇人間ってやつはそんな手じゃぁ、姿を見せない。そもそも、見せた日には怪奇小説なんぞさっさと終わり、原稿の枚数が少ないだなんだと編集が駆け込んでくるだけであり――生憎、今、サイカの前に広がっているのは原稿用紙上の話でもなければ、読者たる身として眺める物語でも無い。
「俺様は気が短い」
 眼前の現実に、男は言い張る。この空間に確かに在る気配に向けて言った。
「見えていようがいなかろうが、関係ねェ」
 男は辺りを見渡すことさえしない。それは横暴か、或いは神たるが故の在り方か。
「てめぇの禍ってのを見せてみろ――突然、亡霊がグサグサ刺してきたり、パァンって撃ってくんだろ?」
 空間が、揺らぐ。何かを――空間を開くような気配に、ハッ、とサイカは笑った。
「慣れてるぜ、俺様は逃げも隠れもしねぇぜ」
 何をどうして慣れているのか、と真っ当な者がいれば問うたであろう。或いは、歴戦の猟兵たる姿と思うのか。肌を這うような戦場の気配に身構えることも無く、ただ『ひらかれた』気配にサイカは口の端を上げる。
 喚ばれたってのは、透明魂魄軍団だろう。どいつもこいつも透明で、召喚の儀を果たしたソウマコジロウと同じように透明化したまま戦う術を持つ。
「……」
 そこにあるのは押し沈められた殺意だ。飲み込み飲み干すことになれた兵達は音も無く、来るのだろう。それをどう思う訳でも無い。痛みをキモチイイだとか言う類いではなく、サイカはサイカでしかない。
 ――これは、災禍の神の道理だ。
「みゃぁ」
 尤も、その場に巻き込まれる側としてはもの申したいことはあるのだ。ぴん、と尻尾を立てた猫の使い魔がてしてしとサイカの腕を叩く。
「みゃ」
「アァ? 猫は仕事をしろ。見えねえもんを見るのが猫畜生の役目だろうが。煮干しの頭もねェぞ」
「……」
 猫は激怒した。
 この飼い主をどうにかせねばならぬと激怒した。どうにか出来るかどうかは置いとくとしても、とってもおこでおこであったが――迫る気配に、ぴん、と耳は立った。
「――にゃ……?」
 その違和感に、顔を上げる。毛が逆立つような感覚に傍らの男に声をかけようとした先で、言われた。
「ま、最初から畜生に期待はしてねェ」
「……!」
 そして、猫はとっても激怒したのだ。
「……ッハ」
 ザン、と腹を刺す、何かがあった。あぁ、剣か刀かと思った次の瞬間、ガウン、と重い衝撃と共に腹が焼けた。銃剣突撃。穿つ一撃が至近で放たれ、抉れた腹に穴が空く。
「そいつがてめぇの禍か?」
 鷲獅子の襟巻きが血に濡れていた。羽根を伝い落ちるように血溜まりができる。ぬるり、とした感触と共に焼けるような痛みがあったが――結局のところはそれだけだ。
 耐えきった。この身は保った――まぁ、保ってんだろ、とサイカは思う。腹に空いた穴より、襟巻きの方が面倒なことになっちゃいるが、領収書をきるさきでも決めときゃ良い。今は、この相手だ。
「――なぁ。てめぇは」
 軍刀で踏み込むのは己だけか。姿はみえぬソウマコジロウにそう言うと、サイカは懐から血濡れの文庫を取り出した。
「シンプルでいいんだ、こういうのはよ」
 口の中、溜まった血を吐き捨てると指先で表紙に触れる。血濡れのページが重重しく捲られ――それは、溢れ出す。綴られし災害を。災禍の神の識るものを。
「炎使いなら、大水にしとくか。どんと呑みな」
 水があふれ出る。戦場の全てを飲み込むように。瓦礫も焼けた床も――サイカが流した血さえ飲み込むようにしてその頁から溢れ出した大火が戦場を包み込んだ。
「――置き土産ってな」
 大水は大地を浚う。この場においては焼け落ちた学府を浚い――そして、刃を抜いた男の精神をその水の中に飲み込んだ。
「――ハ、ハハ、……そうか」
 低く這うような声が大水の向こうから響いた。ふつり、ふつりと沸き立つような殺意が水と共に滲み出る。それは大水が招いたものか。透明軍神『ソウマコジロウ』は、その身を晒すこともないままに腹に大穴を開けた男に問う。
「ならば、うぬは何となる」
「端から、俺様は英雄討伐の器じぇねぇ」
 無償の人助けにもとんと向かず。助かるのはてめぇの勝手な話だと文庫本に手を置いてサイカは言った。
「試練を与える厄災よ」
 一度の生を終え、蘇らせられた男にさえそれを与える――災禍だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルデバラン・タウルス
見えても見えなくとも攻撃は攻撃
全てを受けて立ち続ける事さえ出来れば勝機は作れる
硬い強い遅いが常の戦い方だしな、俺は

全身鎧で身を固めた姿にて戦場へ
防御の姿勢で大剣を構え、攻撃を迎え撃つ
我が鉄壁の守り――崩せるものなら崩してみよ!
鎧の隙間を狙って来るのを見据え、決め打ちでパリィや武器受けを試み
多少の攻撃喰らった所でくたばるものか

思い切り宙を薙ぎ払い、見えぬ敵を斬れれば僥倖
同時に白金堅牢展開
現れる防御壁を背にし、敵の来る方向を前に定め
見えぬとも存在はする敵を定めた一箇所に引き寄せ、我が剣にて纏めて叩き斬る

武骨一辺…力尽くこの上ない戦いしか出来ぬが
貴殿の一太刀を受け、代わりに我らがそれを悪帝に届けよう



●悪果を残さず
 大水が瓦礫を浚っていた、落ちた破片さえ無く――ただ、壁に押しよせられた硝子が突き刺さってある。
「……」
 そこは、廃墟であった。廃墟のマップと見れば男にとって識らぬものだはなく――だが、弁護士としての男の感覚からすれば、ここは全てに巻き込まれた学府であった。
(「軍神、か。ただ一人いれば、戦場を覆す程の存在として認められていたんだろうな」)
 この地の歴史を、隅々まで知っている訳では無い。だが、怪奇人間というものが、どういう存在であるかをアルデバラン・タウルス(断罪の黒曜・f41856)は知っている。この場に感じる気配の主――軍神と呼ばれた男・ソウマコジロウが嘗ての軍部によって生み出された最初の怪奇人間であるということも。
(「戦時に於いて軍は……」)
 そこまで考えて、アルデバランは口を噤んだ。戦争は利を図るものに過ぎず――それがどれ程、己の知る秩序の中で悪であろうともソウマコジロウという男の人生を容易く語るべきものではない。は、と吐きだした息をひとつ最後に、高潔を己に定めた戦士は顔を上げた。
「……」
 視界に、ソウマコジロウの姿は映らない。瓦礫の類いも人がいる場所だけを避けているようなことは無かった。相手とて、動き回るのだろう。戦場に残されたのは僅かな破片と――濃い、血の臭いだ。
(「先に来た者か、相手か……、両方だろうな」)
 そしてそれだけの状態にあっても、ソウマコジロウの姿は見えず、足音も無い。戦いに慣れた相手だ。刀を使っている、という情報は得てる。召喚まで使えるあたりを見ると、単純な間合では無いだろうが――見えても見えなくとも攻撃は攻撃。全てを受けて立ち続ける事さえ出来れば勝機は作れる。
「硬い強い遅いが常の戦い方だしな、俺は」
 ふ、と吐息一つ落とすようにして笑うと、アルデバランは黒曜の籠手をきつくしめた。一歩、踏み込めば鎧が重くなる。鈍く光を返す鎧と共にその身をさらすようにして重戦士は戦場にその身を晒した。
「我が鉄壁の守り」
 大剣の鋒を下げる。その刀身に手を添え、その身を以て盾とした男は言った。
「――崩せるものなら崩してみよ!」
 瞬間、空気が揺れた。妙な感覚。違和感に似たそれに――だが、アルデバランは辺りを見渡すより先に、大剣を持つ手を僅かに持ち上げた。腰を沈め、足を引く。
「……」
 あの空気の揺れは、間違い無く相手の召喚だ。音も無く、気配も無い。だが、向かってくる以上、必ず出会う。だからこそ、アルデバランはその瞬間に全てを賭けた。
「――!」
 ヒュ、と鋭い音と共に、何かが鎧の隙間を狙ってきた。穿つ一瞬、刃のように光ってみえたそれに、ブン、と大剣を振るう。ギン、と鈍い音と共に『それ』が弾け飛ぶ。
「――銃剣か」
「――」
 返される言葉は無い。それは、相手が霊であるからか。それとも、透明魂魄軍団は戦場で饒舌になる気は無いのか。一撃、弾き上げた先で真横から衝撃が来た。
「――は」
 ガウン、と重く。感じたそれは銃弾だった。鎧で受け止めた一撃と共に、アルデバランはその射線に踏み込んだ。
「多少の攻撃喰らった所でくたばるものか」
 頬を穿つ衝撃が来る。鎧が、顔を護り――ぐらり、と頭が揺れた。その衝撃に、だが踏み込みの足は止めない。荒く入れた一歩、傾いだ身さえ、一撃を受け止める型として、戦士は超重の大剣を大きく――振るった。
 それは斬撃か、或いは打撃か。
 黒き刃の鋒が何かを捉える感触がアルデバランの手に返る。痺れに似た痛みの中、それでも全てを耐えきった男は大剣を縦に構え――掲げた。
「守るべきには盾に」
 刃は鈍く光る。オブシディアンクレイモア。男の背丈よりも高く、振り下ろせば大地を割る刃は、今、前に進む為の力となる。
「討つべきには刃に」
 白銀の防御壁が、アルデバランの背に立ち――戦場に絶対の空間を作り出す。相対する敵を前に、突き出した拳は空を掴むように付きだされた。
「我が剣にて纏めて叩き斬る」
 見えぬとも存在はする敵を、掴む。念動力にて一気に引き寄せれば――鋒が、その鋭い気配がアルデバランの喉元に迫る。だが、その突きより振り上げる大剣の方が、早い。
「武骨一辺……力尽くこの上ない戦いしか出来ぬが」
 ギィイイイ、と黒き刃の上を、透明な刀が滑る。散る火花だけが相対する軍神の存在を伝える。その重さを、手に変える痺れを刻みつけるようにしてアルデバランは言った。
「貴殿の一太刀を受け、代わりに我らがそれを悪帝に届けよう」
 それは、敬意であった。戦い続け――望まぬ生を得、傀儡となったソウマコジロウへの。
 ゴォオオ、と重く、刃は振り下ろされた。超重大剣、内蔵のジェットエンジンがその重さを感じさせぬ速度の一撃を生む。
「――ハ」
 刃が、肉を断つ気配があった。ばた、ばたと零れ落ちた血の臭いが戦場を包んでいく。
「そう、か……」
「……」
 刃の向こうでしか、感じられぬ男の声がアルデバランの耳に届いた。二度、三度、蹈鞴を踏むように揺れた足元があったのか。刀を握り直すような音がする。
「心ある者よ……」
 うぬらに、と薄く男は告げる。その先、擦れた音は言祝ぎであったか。そのどれであろうとも、忘れぬように男はまたひとつを、背負った。

成功 🔵​🔵​🔴​

五月女・久遠
學府の制圧、大地の破壊、望まぬ蘇生に凶行
斯様な所業を前に、黙っている訳にはゆくまい
恩も想い出も深いこの地の為
気高い先達を傀儡の縛から解く為
學徒兵として、死力を尽くそう

見えざる必中の手であるならば、せめて急所と深手は避けるべく、利腕や腱だけは庇うよう武器受けの構えを
一撃受ければ、少なくともその瞬間の位置取りは掴める筈――即座に攻撃が来た方向へカウンターで一太刀
UC展開できるようになれば周囲に放ち、手応えで気配感知
一際強く当たる感触あれば、そこへ更に切り込みを

未熟な身ではあるが――どうか後は、我らに任せていただきたい
その志、必ずや受け継ぎ、成し遂げよう



●赤霞行路
 剣戟と共に、火花が爆ぜた。荒く踏み込んだのはどちらであったか。霊体の軍団の気配が消え――またひとつ落ちた瓦礫だけが戦場の静寂を砕く。
「――……」
 見慣れた学府が、廃墟となっていた。壁は崩れ、窓硝子は割れ破片が床に散らばる。一歩、踏み込めば、それだけで足音が派手に響いた。だが、青年はその一歩を構わず入れる。
「學府の制圧、大地の破壊、望まぬ蘇生に凶行。斯様な所業を前に、黙っている訳にはゆくまい」
 黒髪が長く尾を引く。はたはたと、揺れる軍服はそのままに退魔の刀たる學徒は、ゆらりと顔を上げた。
「恩も想い出も深いこの地の為、気高い先達を傀儡の縛から解く為。學徒兵として、死力を尽くそう」
 薄く開いた唇でそう告げる。言の葉は守護者たる青年にとって、誓言であった。静かにひとつ、息を落とし――空間を辿る。気配を、空気を感じ取れるように、そして警戒を止めぬように腰の刀に手を添えた。
(「見えざる必中の手であるならば、せめて急所と深手は避けるべきだろう」)
 利き腕と、腱。踏み込むにも『彼』に何かを返すにも両の足には残ってもらわないと困る。ふ、と息を吐き――どこか、悠然とした笑みを浮かべたまま、一度だけ五月女・久遠(嵐影湖光・f22835)は瞳を伏せた。空気を、気配を感じるようにしてゆっくりと刀を抜く。守りの構えを取った瞬間――空間が揺れた。
(「召喚だな。彼が喚んだか」)
 ソウマコジロウが喚びだしたのは透明魂魄軍団か。叛逆の同志たる彼らは、同じように透明化したまま踏み込んで――来る。
「――!」
 足を引いたのは、反射だった。低く構えた武器が、穿つ一撃を受け止める。鋭く細い剣――銃剣の姿に、久遠は唇を引き結んだ。
 ――来る。
 ガウン、と続けざまに響いた銃声と共に、軍団の兵達が選んだ武器を知る。刀の一振りを以て踏み込むのが軍神の役目であれば、彼らはその守りであったのか。肩を、腕を撃ち抜き、斬り払う衝撃――だが、久遠は動いた。
(「刺突も銃撃も同じ方向から来た。それなら――……」)
 ヒュン、と穿つ刃の横を守手は行く。その瞬間、相手のいる位置の把握として、己が流す血も痛みも置いて――踏み込んだ。
「――これで」
 ザン、と薙ぎ払う一太刀が、兵を散らす。返す一撃、踏み込んできた兵達との距離を作ると同時に、久遠は刀身の上に指を滑らせる。
「目覚めだ」
 姿を見せるは、五月女久遠たる存在の本体。退魔の刀。周囲に放たれた刃が戦場を舞い――それに、触れた。
「――」
 鋒が返される感覚。キン、と弾いてきたのは軍神の刀か。すぐに地を蹴って離れるだろう相手が見せたその隙を――一瞬を、久遠は見逃さない。
「ソウマコジロウ」
 ザン、と刃が、その空間を斬り裂いた。鋒が、胴を切り裂く感覚がある。は、と荒く落ちた息を久遠は聞いた。斬り合いながらも――相対した今も、姿の見えないひとを、その場に在るひとに告げる。
「未熟な身ではあるが――どうか後は、我らに任せていただきたい」
 ぱた、ぱたと血の零れ落ちる音がしていた。流れる赤さえ見えぬまま、だが、ずるりと刃から抜けていく感覚がある。
「その志、必ずや受け継ぎ、成し遂げよう」
「――……あぁ」
 それは、安堵にも似た声であった。カツン、と響いたのは、彼が最後まで構えていた刀であろうか。崩れ落ちる音はあれど、姿はみえぬまま――だが、猟兵達の多くの言葉を受けとった軍神は、この仮初めの大地に心ある者達の、命ある者達の覚悟を見て――消えた。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年09月10日


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#透明軍神『ソウマコジロウ』
#プレイング受付:9月9日いっぱい


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト