御桜・八重ト、ソノ親友ニ関スル調査ニツイテ
●北大路青年、調べることには
――わたしの親友を、探して欲しいんだ。
御桜・八重(桜巫女・f23090)からそう個人的な頼み事をされたのは、かつて影朧にまつわる事件に関わり、今は帝都桜學府情報部に所属し日々の業務に勤しむ、北大路青年であった。
「ホントに暇な時でいいからねー」なんて、私事であることを申し訳なく思ったのか、ワタワタしながら両手をパタパタと振っていた八重を思い出し、北大路は苦笑いを浮かべながら、今まさに空いた時間で手元の資料をめくる。
それなりに多忙な身であるとはいえ、他ならぬ恩人の一人である八重の頼みだ。本来ならば、何を差し置いても優先したい気持ちはあった。故に、業務に支障をきたさない範囲で地道に資料を集め、ある程度まとまった時間が取れた今、こうして『依頼』をこなしているという次第である。
八重の、親友。青い長髪の小柄な少女、という情報は得ていた。八重自身が「名前を覚えていない」と言う点はやや引っかかる部分ではあったが、桜學府の情報部が誇る情報網ならば、すぐに調べがつくだろうと。
――そう、思っていた。
「存在、しない……?」
八重に関する情報は、確かにすぐに調べがついた。出生時の記録から洗い直すことも容易かった。だが、何度繰り返し確認しても、八重が言う『親友の少女の存在』を見出だすことだけは出来なかった。
「どういうこと、なんだ」
北大路が違和感を覚えたのは、それだけではなかった。一つ気になることが見つかれば、芋づる式に奇妙なことが増えていく。
八重が親友のことを口走り出したのは、数年前に八重が猟兵に覚醒してからのこと。
八重の家族含め周囲の人物が、揃って「存在しない親友」の話を、さも当然のことのように受け入れていること。
元々の才覚か、努力の賜物か、はたまた桜學府で積み重ねた経験によるものか、北大路はこと情報の扱いに長けた人物となっていた。それ故に、気付いてしまったのだ。八重の言う『親友の少女』がそもそも『存在しない』ことに端を発する、数々の不可思議な点に。
自分は、疲れているのか?
己の判断力を疑い、早急に結論を出さず、北大路は取り敢えずひと息入れようと考え、桜學府に設けられている休憩室へと足を運ぶことにした。
珈琲でも飲んで、少し頭を冷やそう。
落ち着いて、もう一度洗い直してみるべきだ。
そう考えながら、休憩室の扉を開いた北大路が目にしたものは、部屋に設置されたテレビジョンに映し出されていたアニメイシヨン。
『ケンカはダメだよ!』
聞こえてくる少女の声は、北大路にも聞き覚えがあった。
「……シズちゃんの再放送か」
息抜きにはちょうど良いかと、そのまま部屋に入り、テレビジョンの前に置かれた椅子に座る。そして『魔法巫女少女 ごきげん! シズちゃん』を見続ける北大路。
『めーっ!』
決め台詞と共に、敵役に向けて必殺技を繰り出す魔法巫女少女。かく言う北大路も、密かに好んで見ていたアニメだ。心が弾む思いで、画面を見つめていた。
「……!?」
戦う『シズちゃん』と共に映る、その親友たる桜の精。
桜の枝を頭部に生やして、なびく髪は長く、青く――。
――髪が長くて、青かったことだけは覚えてるんだけどな。
八重の言葉が脳裏をよぎった瞬間、北大路は弾かれたように椅子から立ち上がった。
「ここまでだ、北大路」
「……部長」
いつの間にか、北大路の上司にあたる情報部の部長が背後に立っていた。部長は北大路の肩を掴み、ゆっくり言い聞かせるように、
気付いてしまった青年に対して囁いた。
「御桜に、関わるな」
「……」
北大路は聡い男だ。
思わず、口をつぐんだ。
まるで――八重の周囲の人々が皆揃って、親友についてそうしたように。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴