帝都櫻大戰②〜帝都夢恋遊郭譚
●番外遊女証言録
正直こうでもしなきゃ食ってられなかった。
誇れるモンなんて一つもない女の身一つ――とくれば、稼げる仕事なんてお決まりだ。
けれど、アタイは茶も三味線もてんでダメだったし、千束・吉原なんかで選ばれるほどの器量はないってわかってた。
だからこんな番外地のしょぼくれた遊郭……なんて言うにはおこがましいようなあばら家で精一杯媚びて、男共から金を吸い上げるんだ。
アイツら吉原で遊ぶ金もネェ癖に見栄張るもんだからアタイがあれ欲しいこれ欲しいって言えば借金してでも貢いでくれた。
その時の決まり文句は『きっと一緒になるからさ――』。どうだい、男心をくすぐるのは割合上手だろ?
そしたらさ、客の一人がとうとう首が回らなくなったってんで、新堀川の合羽橋から身を投げちまった――。
正直気分は悪いけど、アタイは、自分が悪かったなんてちっとも思わないね。
アタイはアタイで、必死に生きようとしたんだ。
だいたいさ、こんな薄汚い女に入れ込んで、こぉんな指輪まで寄越したあの男が悪いんだよ。
ああ、アタイの言う事を本気にしたアイツ悪いんだ。
そうさ、きっとそうに決まってる――。
●浅草六区番外地・遊郭潜入譚
「皆様! サクラミラージュで大きな戦が始まりましたわ!」
集まった猟兵達に向かってエリル・メアリアル(
孤城の女王・f03064)が声を張り上げた。
帝都櫻大戰。サクラミラージュで始まった戦いだ。
サクラミラージュ建立のきっかけとなった『幻朧帝イティハーサ』と呼ばれる強大な存在が、蘇ろうとしているのだ。
その結果、世界は暴走する幻朧桜によって埋め尽くされつつあり、その影響によって影朧達の大発生を招こうとしているのだ。
「その一つが、浅草六区の番外地。皆様にはここへ向かい、発生した影朧の対処をして頂きたいんですの」
エリルが広げた地図の、浅草周辺を指さした。
「番外地は、帝都随一の繁華街「浅草六区」の裏手にある、少し治安の悪い地域ですわ」
そこは華やかな六区とは対照的に、帝都の仄暗い欲を満たすような店が立ち並んでいるのだという。
「そんな場所だからこそ、その地域には莫大な情念が渦巻いていて、それが影朧の大発生を招こうとしているのかもしれませんわね」
エリルはそう推測する。
「さて、そんな番外地で発生した影朧は……これから猟奇殺人事件を起こそうとしていますわ」
猟奇殺人の被害者は……と言おうとしたところで、エリルが少し頬を赤く染めた。
「その、遊女、という人達ですの」
番外地にはこういった女達のいる店もいくつか立ち並んでいるという。その女達が狙われているのだと、エリルは改めて告げた。
「犯人は、どうやら番外地の遊郭に入れ込みすぎて破滅した男性のようですわね」
影朧として蘇った男は、命を絶つ原因となった、とある遊女に強い恨みを抱いているようだ。それも、暴走した幻朧桜の影響で、かなり強い衝動に変わってしまっている。
「わからないことは多いけれど、今ならまだ誰も被害を出さずに影朧を捕まえることができますわ!」
エリルがぐっと拳を握る。
「犯人は街の人々に紛れて遊郭へと忍び込み、凶行に及びますわ。ですから、皆様には先回りして遊郭に潜り込んで待ち伏せをしてほしいんですわ!」
とはいえ、番外地には遊郭はいくつか並んでいる。狙われている遊女が在籍する店を突き止めたり、犯人がどのように行動しようとしているか……など、調査や推理が必要だ。
「潜入方法は任せますわ。客としても、何らかのお仕事に就く形で潜入しても構いませんわよ」
どんな形であっても、凶行を止めることが一番だ、ということだ。
そこまで説明して、エリルはグリモアを輝かせた。
「……さぁ、改めて。帝都櫻大戰の始まりですわ! この世界を守る為、皆様、よろしくお願いしますわ!」
G.Y.
こんにちは。G.Y.です。
すっかりご無沙汰気味ですが戦争依頼です!
今回は幻朧桜の暴走の影響で、影朧の大発生地となってしまった浅草六区番外地を舞台に冒険が繰り広げられます。
今回は、蘇った影朧が起こそうとしている猟奇殺人を未然に防いでください。
影朧はかつて借金を苦に入水自殺をした男です。その原因は遊女にあるとされており、蘇った影朧はその遊女に復讐をしようとしています。
標的となる遊女はシナリオ冒頭のような女性です。
彼女の所在、影朧がどのような行動をとってくるかなど、プレイングで推理と対処方法を記入してください。
また、遊女は人によっては悪人に映るでしょう。法に触れない範囲で男の肩を持って、懲らしめてやることも可能です。
戦闘力はあまりない影朧ですので、捕まえればすぐに骸の海へ還すことができます。
よって、攻撃方法などはあまり詳しく書く必要はありません。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております!
第1章 冒険
『夜桜遊郭夢想譚』
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POW : 専門知識を売りに用心棒や料理番などの奉公人として潜入する。
SPD : 大盤振る舞いの羽振りの良さを披露して客として潜入する。
WIZ : 己の美しさ、礼儀、教養を武器に遊女として潜入する。
👑7
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栗花落・澪
正直、どちらの気持ちもダメなところもわかるから
今回は安易に肩入れしない
罰も他の人に任せるよ
指定UCで分身達を複数に組分けして番外地の各遊郭に聞き耳
その間に僕自身も翼は隠して
噂好きそうな奥様方や自殺現場付近の通行人に事件の聞き込みしたいな
この辺りに住んでた友達と急に連絡が付かなくなって
入水自殺の噂も聞いて心配になって…等
適当な口実で得た情報と分身達の聞いた内容を照らし合わせて絞り込み
場所が特定できたら…癪だけど、性別は隠し
女性的思考や知識、礼儀を駆使して遊女として潜入
万一の際には遊女達の守りを優先しつつ
破魔を乗せた光魔法や植物魔法の花嵐で
心と体の浄化と目晦まし等
他の猟兵のサポート主体で動きたいな

ヘルガ・リープフラウ
※アドリブ、連携歓迎
こういう場所ならば、その裏では心中や堕胎といった事柄も決して珍しいものではないはず
尼僧に変装し、彷徨う霊を慰め菩提を弔うという名目で
目的の影朧と遊女の情報を集めましょう
標的の遊女に会ったら「時蜘蛛のメダル」を握らせましょう
異国の銭にも見えるそれに触れた瞬間、彼女の心身は齢五歳の頃に戻る
思い出したかしら?
こんな所に来るからには、貴女もまた「愛に裏切られた」過去を持っているはず
貧困故に愛する両親と引き裂かれたのか、逆に親から愛されず虐待されて育ったのかは分からない
それでも、そんな貴女を本気で愛し、求めていたものを与えてくれる人がいた
それを、貴女は裏切った
彼に縋って自由を求める道もあったのに貴女はそれを手放した
失われた命と愛、そして未来は二度と返ることはない
その悲しみと罪の意識は消えることはない
それが、貴女への罰
人を欺き踏み台にする以外の生き方だって、きっとあることでしょう
もし貴女に人の心があるならば、共に手を合わせ冥福を祈りましょう
悲しみを慰めて、来世では安らかなれと
鳳・雛子
オーダーメイドスーツで男装し、店を回る。と、その前に何処か大部屋のある宿を取っておこう
金満な上客を装い「傾向は様々あれど、女達は皆美女だぜ。違うか?」とでも口説いて連れ出す。「お持ち帰り」が出来たら予め確保した大部屋に連れ込んでおく。この繰り返しで遊女を集め、奴を誘き出す布石を整える
出現場所を絞れば女の目星を付けることなく奴は来るだろう。折角集めたんだ、現れるまでは精々愉しませてもらうさ
奴さんが現れれば即座に等身大のブレードで白兵戦へ持ち込み、遊女達には逃げるよう伝達する
戦いを終え、標的の遊女には「俺は
刑事ではないので咎めはせんが、貴様の因果にもいずれ応報が下る。」と釘を刺しておく
リグノア・ノイン
「
Schwierig.」
復讐は、良くない物です
ですが復讐にも理由は在り
そしてそれと同じくきっと
「その女性にも、想いがあるのでしょう」
だからこそ凶行は止めねばなりません
今は用心棒として遊郭へ潜入致します
「
Ja.機械のこの身。役に立つかと」
潜入後は遊女を探しましょう
探し方は探偵の基本、聞き込みですね
ここ最近お客が来なくなったお店
そして、指輪を大事にしている女性
「
Verzeihung.お聞きした事は?」
お店を見つけたら付近で見張ります
きっと影朧も彼女を目指すでしょうから
影朧を発見したら勿論確保します
ですが還す前に、窓の傍で
少しでも声を聞かせられたらと思います
酒井森・興和
銀雨世界でもこんな遊び場はあるだろうが足が向く事はなかったねえ
ふむ
あの人(忘却期前の想い人)も色里からの流れ者だとか
花街より悪所のような所だったのかね
あの頃と違っておじさんになったし客として潜入
男をあしらい生きる強かな女
ノセられ入れ上げて袖にされても正気に戻れず自棄死した男
うーん人間の世界はやはり難しい
格の低い見世で気の強そうな女に目星をつける
卑下してるが莫迦でも薄情でもない
上等でないが見栄を張った着物
それに指輪
売れば金になるのに見栄か懺悔か…
対して男は気が小さそうだ
女が客を取って個別の場所へ行くか表から離れる時に1対1で会い驚かせ怨み辛みを言って襲うのでは?
同情はないので死者の方を抑え倒すよ
建依・莉々
では、美貌を武器に潜入しましょう。猫に化けて。
猫に化けてあちらこちらの店に上がり込んで、聞き耳立てて情報収集。猫だから勝手口や奥、2階とか、関係者以外入りにくいところでもお咎めナシ。お客や新入りの前では話しにくいことでも、そういった場所なら口が軽くなるし、それに人には喋れないけど、猫になら喋って楽になりたいって人、いるでしょう?
聞き込むのは、身を投げたお客さんの話とか、「前まで派手に貢がしていたのに、ぱったり店にでなくなった遊女さん」の話とか? 一人籠もっている遊女さんとか、狙ってみてもいいかも? 情報は皆で共有するよ。
で、遊女って何する人? 莉々、ブラックタールだからよく分からない。
鬼河原・桔華
●WIZ
どっちもどっちだが、勝手に死んだ後も未練がましく逆恨みとは救いもありゃしないな
ま、そんだけ入れ込んだのなら辺りを聞き込みしてればどの暖簾か分かるだろうし、手間はかからねぇだろうがな?
仕置きの方法はそうだな…東方妖怪らしく、巻き上げた遊女にでも化けるとするか
どろんバケラーほどじゃあないが、護符装束を応用した化術で顔は変えれる
身体の大きさは何時もの人間態に化ける要領で誤魔化すさ
件の遊女も少しは懲らしめねぇとならねぜし、ふん縛った上で遊郭の納屋にでもぶち込んでおくさね
さぁて、影朧とご対面したら適当に話を合わせるが、ここまで怨んでいれば気付くだろう
私はな…テメェを地獄に連れ戻す獄卒なんだよ!
雪華・風月
輪香同刃…これにて自身の姿を隠して遊郭に潜入するとしましょう…
まずはしっかりした店は除外です、遊郭と言えどそういったお高いお店は客の素性などしっかり把握してるはず…となれば死した人間が入り込むのも不可能でしょう
なのであまりしっかりしてなさそうな店を中心に探しましょう
他に知り合いに見つかる可能性を考え人相など把握しづらくしてる可能性もありますね…そういった方に狙いを定め…
後はそう、復讐であればそういった期待や緊張ではなく怒りなど…
歩法、速度…そういった面で違いがある可能性もありますね…
などと屋根など高いところから観察【視力・情報収集・気配感知】し
影朧を探します
●夢の果て
男と女。一夜限りの恋の夢。
夢は必ず醒めるもの。醒めねばならぬものなのに。
浅草六区の煌びやかさとは打って変わって、どんよりと淀んだ空気を漂わせる。しかし流石は人の昏き欲の坩堝と言えようか。立ち並ぶ店からは、ともすれば六区よりも熱く……しかし野趣溢れるような情念が渦巻いていた。
この番外地のどこかで蘇った影朧が、遊女に復讐をしようとしているのだという。
そんな予知をもとに、猟兵達はそれぞれ情報収集を始めていた。
「
Schwierig.」
リグノア・ノイン(感情の渇望者・f09348)は、影朧と標的の情報を並べ、淡々とした口調で呟いた。
蘇った影朧が抱くのは強い復讐心だという。
「復讐は、良くない物です」
リグノアがそう語り、番外地を眺める。
「ですが復讐にも理由は在り、そしてそれと同じくきっと」
リグノアの表情はほとんど変わらないが、どこか慈愛を感じさせる瞳をしていた。
「その女性にも、想いがあるのでしょう」
番外地を尼僧の姿で歩くヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)は頭巾の下から優しげな瞳を覗かせ、辺りを伺う。
(「こういう場所ならば、その裏では心中や堕胎といった事柄も決して珍しいものではない筈」)
そうなれば、彷徨う霊を慰めるという名目で尼僧がうろついていても咎められることはない。影朧に標的とされた遊女の情報も自ずと手に入るだろう。
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は自殺現場付近で聞き込み調査だ。
「この辺りに住んでた友達と急に連絡がつかなくなって……」
そんな風に噂好きそうな妙齢の女性や通行人に声をかけては、不安そうな様子で庇護欲をくすぐる。
「入水自殺の噂も聞いて、心配になって……」
「あらやだ、そいつはお嬢ちゃんみたいな子とは縁のないでくのぼうだよ」
(「お嬢ちゃん……」)
ピクリと眉を動かし一瞬複雑な表情になる澪だが、それはともかく有力な情報だ。
それを事前に周辺に散らばらせ、聞き耳をたてさせておいた、澪の小さな分身達から得た情報と重ね合わせてゆく。
「こちらでしょうか」
「ここみたいだね」
そして、ヘルガと澪は番外地の一角で同時にその建物を見上げるのであった。
●夢の廓に
「どっちもどっちだが、勝手に死んだ後も未練がましく逆恨みとは、救いもありゃしないな」
鬼河原・桔華(仏恥義理獄卒無頼・f29487)はバッサリと切り捨てる。
周辺の聞き込みをすれば、影朧も遊女も、どちらの噂もよく聞けた。同時に彼らを憐れむような声も耳に入った。とはいえなぁ、と桔華は考える。これは女にも仕置きが必要だ、と。
「ふむ」
酒井森・興和(朱纏・f37018)は店を見上げて想いを馳せる。
(「あの人も色里からの流れ者だとか……」)
思い出すのは、シルバーレイン世界の忘却期以前。何百年も昔の想い人のことだ。
(「花街より悪所のような所だったのかね」)
そんなことを想像をすれば、同時に興和は自身の成長も実感する。子供だったあの頃に比べて、僕ももうおじさんになったし、と独り言ち、堂々と客として遊郭の暖簾をくぐる。
そんな時、ひゅぅ、と風とともに桜が店の前で舞った。
桜はそのまま風に乗って舞い上がり、屋根へと上ってひらりと落ちる。
その桜吹雪の中心に、雪華・風月(若輩侍少女・f22820)はいた。
(「ふぅ……」)
風月の観察眼があったことは勿論、仲間の猟兵達の調査もあって早々に店を見つけられたのは幸運だった。
(「ここからなら、早々に影朧を見つけることもできそうです」)
標的は一度死んだ人間だ。町で噂になるような事件なのだから、きっと人相は隠している筈。往来の人々、一人一人目を凝らしながら、怪しい者を探し始める。
(「中のことは皆さんに任せましょう」)
●夢の中で
「にゃお」
店の2階の窓際で仔猫が鳴いた。
「なんだいアンタ、迷子かい?」
店員の一人が窓を開けると、仔猫は遠慮なく店の中へと入り込む。
仔猫は遊女に礼を言うようにすり、と首を擦りつけると、悠々と店内を闊歩し始めた。
何を隠そう、この仔猫は建依・莉々(ブラックタールのどろんバケラー・f42718)である。
自身の美貌を活かして、美猫へと変身をしたのだ。
猫の姿なら入りにくいところもお咎めなし。それに。
「アラあんた、どっから入ったんだい?」
「はぁ、アンタは自由でいいわね。アタシなんてさ……」
といった具合に、人には言いにくいことも仔猫になら打ち明けやすいというものだ。
そうすれば一緒に働く遊女たちの近況も耳に入る。そんな中に今回標的とされた遊女の情報もあると思えた。
そんな時。
「コォラ、どこから入った?」
ところ変わって玄関口。鳳・雛子(灰の魔女・f40342)はオーダーメイドのハイカラなスーツでパリッと着込み、堂々とした立ち振る舞いで店内を見やる。
並んだ遊女たちを一瞥し、パチンとウィンクをしてみせた。
「傾向はさまざまあれど、女達は皆美女だぜ。違うか?」
そんな姿に、遊女たちは黄色い歓声を上げたりなんなり。しかし、どうにも目当ての遊女は見当たらない。
(「奥に引っ込んでるのか?」)
そう思いながら遊女たちの顔を見ていると、おや、と気付く。
「……」
綺麗な着物に身を包んだ可愛らしい少女……?
(「癪だけど、潜入するにはこれが一番だから
……!」)
と、澪が神妙な顔つきで遊女たちの中に加わっていたのだ。
礼儀正しく、女性的な立ち振る舞いが似合う澪は、遊女の中に違和感なく溶け込んでいる。
そんな彼女……いいや、彼は雛子に目配せをする。それを察した雛子は店主に目を向ける。
「店主! この店、遊女は他にもいるんだろう?」
同時期、店の裏手側。
「嬢ちゃんならいい客もつきそうなもんだがな」
用心棒として潜入したリグノアを品定めするかのように見つめていた男がふぅ、と息を吐く。
「まぁ、腕っぷしがいいってなら暫く頼りにさせてもらうぜ」
「
Ja.機械のこの身。役に立つかと」
そう言いつつリグノアが店内を一瞥した後、男に振り向いて尋ねる。
近頃指輪を大事にしている遊女はいないか。
「
Verzeihung.お聞きした事は?」
「あぁ、そいつならこの店にいるよ。ったく、そのせいで物騒になっちまってよぉ」
男が悪態をついた。あらゆる男達にいい顔をしてきた遊女とあって、今回の影朧以外にも恨まれるようなフシはあったようだ。
「なら、周りを見張ります」
そう言ってちらりと屋根をみる。屋根の上で桜の花びらが渦巻いている。屋根の上から番外地を見渡す風月は、リグノアの視線に気付いて首を横に振った。
●夢現
雛子とともに客として遊女を見やる興和は腕を組んで首を捻った。
鋏角衆である興和はいまだ、少し人間とは少し線を引いている。
今回標的となった女は、男をあしらい生きる強かな女。
対する影朧は夢を見たまま、夢に溺れて、ついにはその身を投げやった。
「うーん、人間の世界はやはり難しい」
そう呟いた折、店の奥から一人、新たな遊女が顔を出した。
他の遊女たちに比べて、僅かに上等な着物。顔立ちは凛としていて、気は強そうだ。
胸元に仔猫を抱えて「アタイを指名だって?」と怪訝そうな顔をしていた。
猫――莉々は「にゃぁ」と一声鳴くと、遊女の胸元からぴょんと飛び降りて猟兵達の足に絡みつく。
「アンタらの猫かい?」
そんな遊女の問いには答えず、雛子が満面の笑みを浮かべる。
「よし! お前さんもまとめて全員、俺が相手してやろう! 向こうの大部屋は空いているな!!」
堂々と告げる雛子に、店主はあんぐりと口を開けた。追い打ちとばかりにどさっと札束を投げ渡し、半ば強引に遊女たちを引き連れ、興和もそれに続く。
強引な策だ。だが、これで遊女達を守る為の準備は全て整ったと言えた。
店の中での騒ぎを聞きながら、屋根の上の風月の眉がピクリと動いた。
「……あれは……!」
深く被った帽子に眼鏡、人相を隠すような出で立ちもさることながら、はっきりと感じ取れた『殺意』。復讐心や怒りが、歩き方に現れていた。
「急ぎ、中に連絡を!」
風月がリグノアに目配せすると、リグノアはきっちりと頷いた。
再び店内。二階の大部屋に通された遊女と猟兵達。
雛子の「まずは一人一人」という言葉で、標的となる遊女と残りの女達を別の部屋へと隔離する。
遊女達の中に紛れた澪は、さりげなく遊女たちを護るように前に出て、様子を伺う。
外に待機していた猟兵達から、影朧が近いことは既に伝わっていた。
猟兵にしてみれば戦闘力の無い相手だが、一般人を守らねばならぬ状況には、やはり緊張が走る。
「では、準備をしてこよう。少し待っていろ」
「はぁ? おい、お前さん――」
有無を言わせず、雛子と興和が部屋から離れる。これで部屋の中には標的となった遊女一人となった。
(「一人でいる状況なら……きっと来るだろう」)
襖の隙間から興和が見守る。その時だった。
――ガラリ。
襖が大きく開かれた。
「……!!」
その向こうに立っていたのは、血走った目をした、男の姿。
「お前さえ、お前さえいなければ――!!」
恨み言をぶつぶつと呟き、全身が殺気に満ちている。手にした包丁の切っ先を遊女に向けて、一気に駆け出した。
「お前も死ねぇェェ!!!」
「――そんなんで私を殺せるって?」
遊女がにやりと笑った。
次の瞬間――『どろん』という音と共に、遊女の顔が変わる。その顔は、桔華のものであった。
「……なっ、に
……!!」
狼狽える影朧を前に、桔華の影からは人間の姿に戻った莉々が、隣の部屋から澪が、様子を見守っていた雛子、興和、ヘルガ。店の外からリグノアと風月も飛び込んでくる。
ここに、すべての猟兵たちが一斉に姿を現したのだ。
「確保!!」
雛子のブレードが包丁を弾き飛ばし、リグノアが影朧の背後をとる。
逃げ場を探す影朧を、澪から放たれた花嵐が襲う。浄化の力で影朧がぐらりと揺れ、興和と風月が押さえつける。
完全に身動きが取れなくなった影朧が、忌々し気に叫ぶ。
「だ、誰だお前ェ!」
「私はな……テメェを地獄に連れ戻す獄卒なんだよ!」
遊女に扮した桔華がにぃっと笑って凄むのであった。
●夢の向こうへ
標的となった遊女は、すでに桔華の手によって納屋へと保護(?)されていた。
莉々が遊女を見つけた時に、最初にその情報を得た桔華が彼女に接触、あっというまにふん捕まえてしまった。
「お前も少しは懲らしめねぇといけねえからな」
「……な、なんだってんだよ!」
きつく縛られて身動きも叫び声も上げられなくなった遊女の代わりに、桔華が護符装束をもって変装。本物の振りをして影朧をおびき寄せたのだ。
「どうだ、東方妖怪らしいだろ? ま、どろんバケラーほどじゃあないが。な」
桔華はちらりと莉々を見る。莉々は聞いているのかいないのか、ぽけっとしていた。
こうして、無事一般人に被害が出ることもなく猟奇殺人事件は未然に防がれた。
捕らえられた影朧もすっかり毒気が抜け、大人しく縛られたままでいる。このまま、いずれ消滅するだろう。
すべて終わった、が。
元凶となった遊女への処遇がまだ残っていた。
(「正直、どちらの気持ちもダメなところもわかるから」)
澪は本物の遊女を前にしてそんな気持ちになっていた。だから、今回は肩入れしない。
「だから、罰はみんなに任せるよ」
一歩下がる澪に代わり、雛子が告げる。
「俺は
刑事ではないので咎めはせんが、貴様の因果にもいずれ応報が下る」
「はん」
そっぽを向く遊女。そんな彼女に、ヘルガがゆっくりと歩み寄った。
「こちらを」
「……え?」
遊女の手に握らされたのは「時蜘蛛のメダル」。
「あやかしの糸を紡いで。古い時計は逆回り。月は西から東に巡る。さあ戻りましょう。穢れ無きあの頃に」
直後、遊女の身体が淡く光り、みるみると縮んでゆく。
「あ、アタイ
……!?」
縮んでしまった手足を驚いた顔で見る遊女に、ヘルガが優しく笑う。
「思い出したかしら?」
「……思い……あぁ……」
ヘルガは遊女もまた『愛に裏切られた』過去を持っていると考えていた。
貧困か、はたまた虐待か。理由は判らないが、小さくなった遊女が一筋の涙を流している様子にその推測は正しいと実感する。
そう。彼女もまたあの影朧と一緒なのだ、と、ヘルガは諭すように言う。
「それでも、そんな貴女を本気で愛し、求めていたものを与えてくれる人がいた。……それを、貴女は裏切った」
細い指に嵌った指輪が、きらりと反射した。
「あぁ……う……」
きゅっと包むように指輪を抑えれば、ボロボロと大粒の涙が零れ落ちる。
「彼に縋って自由を求める道もあったのに貴女はそれを手放した」
ヘルガの言葉は、優しくもありながら厳しいものであった。
「失われた命と愛、そして未来は二度と返ることはない。その悲しみと罪の意識は消えることはない」
ヘルガは遊女をしっかりと見据えて告げた。
「それが、貴女への罰」
「あぁ、うわぁあああああぁ
……!!」
大声を上げて咽び泣く遊女。その姿はもとの大人のものに戻っていた。
「人を欺き踏み台にする以外の生き方だって、きっとあることでしょう」
手を合わせ、ヘルガは優しく告げる。
そこに、今にも消えかかりそうな影朧がよろりと現れた。
「お前……」
「アンタ……!」
これは「少しでも、声を聞かせられたら」と考えたリグノアの計らいによるものであった。
二人は改めて、対面する。すでに消えかかった影朧にはもう、手を握ることもできない。
それでも互いに手を重ねて、見つめ合う。
「ごめん……ごめんよォ
……!!」
「……」
影朧は首を横に振って、ほんの少し微笑んだ。
そして――消えていった。
「指輪……か。売れば金になるのに、見栄か懺悔か……それとも」
彼女らの様子を見て、興和は呟いた。そして改めて、人間の世界は難しいと感じるのであった。
情念渦巻く帝都櫻大戰。幻朧桜舞うこの戦の最中、きっと多くの人間模様が垣間見られるのであろう。これは、そう思わせる出来事であった。
「……ところで、遊女って何する人? 莉々、ブラックタールだからよく分からない」
「そ、それは……えーと」
莉々の問いかけに、風月は笑って言葉を濁した。
大成功
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