帝都櫻大戰⑤〜狐面の皇女と仮面舞踏会
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「サクラミラージュ世界の各地に咲く幻朧桜。なかでも秘境にあるものを特別に『冬桜』と呼ぶというのは、知ってる人もいるかもね」
田抜・ユウナ(狸っていうな・f05049)は、伊達メガネをくいと持ち上げて言った。
「理由は不明だけど、冬桜が周辺の土地諸共『浮島』になって帝都に飛んできてるのよ。みんなには、この『浮島』を現地に送り返して欲しいってわけ」
件の『浮島』には、現地にいた人々や影朧が載せられたままになっている。人はともかく、秘境に住まう影朧は帝都のものとは比べ物にならない戦闘力を有しており、それが此度の戦争に加わるとなれば大変な障害となるのは明らかだ。
「それで、『浮島』を送り返す方法なんだけど……」
緊張感を滲ませる猟兵たちを前に、ユウナは少し逡巡してから、それを告げた。
「仮面舞踏会、よ」
仮面舞踏会。
なんとも華やかな、戦争とは縁のなさそうな単語であるが、ユウナは「ツッコんでくれるな」とばかりに視線を逸らす。
「予知によれば、みんなでキツネの仮面を着けて踊り明かせば、それで解決するみたい。他の条件はナシ。けっこう無礼講って感じで、ダンスの種類とかも自由だし、ソロでもグループでも好きに参加してくれたらいいわ。詳しくはサクラミラージュの皇族が知っているから、あとのことは現地にて説明を受けてちょうだい」
そう言ってユウナはグリモアを展開し、猟兵たちをテレポートさせるのだった。
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到着した猟兵たちは、出陣を控える皇族が待っているという貴賓室へと案内された。
宮廷の一室かと見紛うほどに豪華な部屋だ。調度は欧州風に統一されているのだが、正面に置かれたソファにだけ、調和を乱すように和風な狐の仮面が一つ……いや、
一人で座っていた。
「ようこそ、猟兵の皆さま。お待ちしておりましたわ」
ふわり、と狐面はソファから浮き上がると、たおやかな声でしゃべった。
彼女の名は、常子。
皇族の一人で、種族はヒーローマスクである。
「いつぞやは、お忍びの旅行中に現れた暗殺者より守っていただき、心から感謝しておりますわ。これまで旅行の目的を明かすことはできませんでしたが、今こそお話しさせていただきます」
常子は穏やかな物腰でお辞儀した後、口を開いた。
曰く、皇族たちが人目を忍んで旅していた目的は、『人目につかない冬桜』である、と。密かに冬桜の元を訪れ、秘されし『幻朧封じの儀』によって
櫻花幻想界による幻朧帝の封印を今日まで維持していたというのだ。
「『幻朧封じの儀』を行えば、飛来する『浮島』を鎮めて元の場所へ還すことも叶いましょう。猟兵さまにつきましては、なにとぞご協力をお願いいたしますわ」
深々と頭を下げる常子。その姿からは、帝都の危機に立ち向かわんとする皇族の矜持が感じられた。
そして、猟兵たちが参加する意思を伝えれば、パァ! と咲くように顔を輝かせて……
「まあ、ありがとうございますわ! 実は猟兵さまに使っていただければと、わたくし狐面をたくさん用意してまいりましたの。色・形・材質と様々ありますから、どうぞお好きな仮面をお取りくださいませ。……あっ、それから皆さま、どんなダンスをなされるのですか? 普段の儀式は内密に行いますので、大勢で踊れるのが楽しみで楽しみで……」
キャッキャと声を弾ませる姿は、どこにでもいる普通の娘のようにも見えた。
黒姫小旅
どうも、黒姫小旅でございます。
キツネの仮面をつける。楽しく踊る。此度はそれだけです。
●プレイングボーナス
皇族の「幻朧封じの儀」に協力する。
●皇族『常子』
年齢不詳なヒーローマスクの女性です。外見はシンプルな和風の白狐面。上品で穏やかな物腰ですが、お人好しで猪突猛進なきらいが。
能力は一般人に毛が生えた程度なものの、一応は武芸の心得があります。また、ユーベルコード【ジャスティス・ペイン】を所持しており、困っている人を見捨てられない性格の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大します。
過去のシナリオで一度だけ猟兵と交流したことがありますが、前作を読んでおく必要はありません。
第1章 日常
『狐面の祭り』
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POW : 数ある狐面からランダムに選ぶ
SPD : 好きなデザインの狐面を選ぶ
WIZ : 着け心地の良い狐面を選ぶ
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「それでは皆さま、これより儀式を始めますわ!」
集まった猟兵たちを前にして、常子は高らかに宣言した。
「難しいことは何もありません。ただひたすらに、楽しく踊り明かしましょう。それぞれ選んだ狐面を身に着けていただいたら、いざ『幻朧封じの儀』開演です!」

高崎・カント
「もきゅぴっぴ! もきゅー!」
カントはプロの芸能モーラットなのです
踊るのは得意なのです!
もーきゅ? 仮面がいっぱいなのです
どれにしようか迷っちゃうのです
もーきゅ? ももももーきゅ?
きゅぴーん! 決めたのです!
白い狐さんの半面にするのです
赤い紐飾りと鈴が付いててとっても可愛いのです
もっきゅ、きゅっぴ!と踊るのです
手を振って、尻尾も振って
クルクル回って飛び跳ねるのです
リズムに合わせて、1、2、3♪
鈴も鳴らしてシャンシャンシャン
くるんと手足をたたんで丸くなれば、今日のカントは狐さんなのです
最後は可愛く狐さんポーズを決めちゃうのです!
もきゅー……じゃないのです
狐さんなのでコンコンなのです
コンコンッ!
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「もきゅぴっぴ! もきゅー!」
高崎・カント(夢見るモーラット・f42195)はプロの芸能人。小さいお友達にも大人気な、歌って踊れるモーラットだ。
「もーきゅ?」
今日のお仕事は仮面舞踏会。
目の前にはたくさんの狐面が並んでいて、かっこいい物キレイな物カワイイ物と、どれもステキなお面ばかりで目移りして仕方がない。
「もーきゅ? ももももーきゅ? …………きゅぴーん!」
こっちにしようか、それともあっちか。
迷いに迷った挙げ句の果てに、選んだのは白狐の半面。
赤い紐飾りと鈴の付いたとってもキュートな仮面を、鼻の上にちょこんと乗せる。くるんと手足をたたんで丸くなれば、モーラットからお狐さまに変身だ。
「もっきゅ、きゅっぴ!」
と、手を振り足振り尻尾も振り。リズムに合わせて1、2、3♪
クルクルクルリと回って跳ねて。鈴も鳴らしてシャンリンシャン♪
「もきゅ……コンコンッ!」
最後は可愛く決めポーズ。
仮面に合わせて、今日は狐さんバージョンだ。
お茶の間のお子様たちにも大好評な【ウィッシュダンス】。こんな魅力的なダンスを見せられたら、『浮島』だって目尻を下げて快く故郷へと還ってくれるに違いない。
大成功
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薬袋・あすか
黒い西洋風の装飾が施された狐口面にしようか
張り切ってるねぇ、ヒーローマスクのおねえさん
マァ無理もないか。こういうのは一人で黙々と己と向き合うのも悪かないが、相手がいる楽しさにゃ敵わんからね
衣装はお面に合わせたシルクの燕尾服姿で男装
常子さんへと少し気取って『Shall we Dance?』なんてお誘い
乗ってくれたら手を取って
最初はゆったりとした三拍子のワルツで優雅に
次は歯切れの良いリズムに情熱的なステップを乗せたタンゴで
経験値の低さは体幹でカバー
技術も大事だが一番大事なのは楽しむこと、だろう?
アドリブ絡み歓迎
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「うふふ。こんなに賑やかな『幻朧封じの儀』は初めてですわ!」
猟兵のダンスを見て回る常子は、それはそれは楽しそうだった。
無理もなかろう。人目を忍び、自分自身を唯一の伴として黙々と行うのが悪いわけではなかったが、分かち合う相手のいる喜びに勝るものはない。
「張り切ってるねぇ、ヒーローマスクのおねえさん」
そんな常子に声をかけたのは、薬袋・あすか(雪ん子・f40910)であった。
黒を基調として、西洋風の装飾が施された狐口面。衣装も合わせたシルクの燕尾服姿だ。
「Shall we Dance?」
お嬢さん一曲いかが? ……なァんて、な。
紳士を気取ったダンスのお誘いに、常子は喜んで応じてくれた。
差し出した手に、生きた仮面がちょこんと顎を乗せると、ちょうど良いタイミングで音楽が変わる。
ワルツだ。
ゆったりとした三拍子に乗って、あすかは常子をリードしながら優雅に踊り始める。動作の端々には経験の浅さが透けて見えるが、見苦しさを感じさせないのは体幹がしっかりしているからだろうか。
体の軸が、根を張った大樹のごとく安定している姿は、それだけでも様になっているように映るのだ。
(……いや。それだけじゃないな)
すぐに、あすかは気づいた。
上手く踊れているのは、パートナーのおかげだ。
よくよく考えてみれば、「二人で踊っているように見えている」自体が驚きである。ヒーローマスクの皇女さまは装着者もおらず、仮面がひとりでに浮かんでいるだけ。それなのに、あすかが単独なのではなく常子とペアでいるのだと明らかにわかるのは、皇女の方がそう見えるよう立ち回ってくれているのである。
「楽しいですわね、猟兵さま!」
「ああ、まったく。最高だよ!」
笑い合っているうちに、再びBGMが切り替わった。
今度はタンゴ。
打って変わってハキハキとしたリズムが流れると、常子はクルクル激しく回転しながら飛び回る。あすかも負けじと鮮烈なステップを踏んで、二人で燃えるような情熱を表現するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
エリオン・グランディール
仮面舞踏会か、実に趣深い。
しかも狐面というジャパンスタイル。神秘的で実にいいね。
新作の参考にもなりそうだし滅多にできない体験だろうね。ぜひ行きたいよ。あぁ、もちろん帝都の為ってことも忘れてないさ。
では仮面は目元だけを隠せるタイプのものにしてもらおうかな。色や材質はレディ・常子のセンスにおまかせするよ。
そうしたならば……【『妖精と少年』より】で妖精達を呼び出して……彼らのリズムに合わせて【ダンス】を始めるとしよう。魅了の効果もついちゃうのはご愛嬌ということで、ひとつ(指を口に当ててウィンクなどをしつつ)
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いやはや何とも、仮面舞踏会とは実に趣深い。
しかも狐面というジャパンスタイル。神秘的で実にいい。
「新作の参考にもなりそうだし、滅多にできない体験だろうね。……あぁ、もちろん。帝都の為ってことも忘れてないさ」
エリオン・グランディール(巨体に嬲らるるを欲す者・f43157)は飄々と嘯いて、『幻朧封じの儀』の舞台へと上がった。
着けている狐面は、目元だけを隠すタイプ。
軽い木製の黒狐で、切れ長の目穴を彩る銀の隈取が、童子のように無邪気に輝く蒼眼とよく調和している。
「たいへんにお似合いですわ」
「仮面を選んでくれた、レディ・常子のセンスが良いのでしょう。……それでは、始めるとしようか。小さき君達よ」
――ユーベルコード【『妖精と少年』より】
芝居がかった仕草で皇女にお辞儀をしたエリオンを取り囲むようにして、小さな妖精たちが現れた。彼の著作をもとに召喚された妖精は風に舞う花弁のように飛び回り、エリオンもリズムを合わせて踊りだす。
手首をひらりと返せば、妖精の飛び方が目まぐるしく変化して。ミニチュアの拍手と一緒に靴を鳴らす。自由奔放でありながら、一個の芸術として完成されたダンスは、見る者の心を奪ってやむことがなかった。
「魅了しちゃうのはユーベルコードの効果でもあるんだけど……ここはひとつ、ご愛嬌ということで」
指を唇に当ててウィンクなどする1カットだけ切り抜いても、十分に絵になる。
エリオン・グランディール。大した色男だ。
大成功
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ベロニカ・サインボード
拍子抜けなんて口にするのは、失礼にあたるのかな。恐るべき脅威を封じ、世界を救うための大切な儀式。完遂しなければ破滅
…それでも。楽しむ心を忘れたら、それはきっとダンスじゃあないわ
不思議の国の茶会にも踊りはあるけど、この場ではちょっとポップすぎるかなあ(お城の舞踏会、真面目に出ればよかった…)
…と思ったけど問題なさそうね。あら、この狐面は「彼女」にそっくり。ああ慌てないで、今ここに彼女を呼ぶわ
踊れ『ワーニン・フォレスト』!
『W・F』は私から1メートルも離れられないが、制約を感じさせぬアクロバットでアドリブたっぷりのダンスを披露するわ
おっと、いつの間にかハミングしてたわ。こっちは少し自信あるのよ?
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それにしても、仮面舞踏会とは。
「拍子抜け……なんて口にするのは、失礼にあたるのかな」
ベロニカ・サインボード(時計ウサギの道しるべ・f35983)は、ポツリと呟いた。
やることは遊興と変わらないが、恐るべき脅威を封じて世界を救うための大切な儀式であることも、やはり変わらない。
完遂しなければ破滅に一歩近づくのだと、そう考えれば、自然と気も引き締まる。
……だがしかし、仮面舞踏会とは。
「不思議の国の茶会にも踊りはあるけど、この場ではちょっとポップすぎるかなあ」
ちゃんと真面目にお城の舞踏会へ出ておけばよかったか、と後悔しながら、ベロニカは現地へとテレポートした。
緊張と不安を抱えた出陣であったが、しかし先に踊り始めた猟兵たちの様子をうかがうと、どうやら杞憂であったらしい。
誰もが自由気ままで、心から楽しそうだ。
「……そうか。楽しむ心を忘れたら、それはきっとダンスじゃあなくなっちゃうものね」
ほどよく、肩の力が抜けた。
強張っていた口元を緩めて、ベロニカは並べられた狐面へと向き直る。自分もはやく仮面を選んで、踊りの輪に加わらねばと……おや?
「気になるお面がありましたか?」
皇女・常子が寄ってくる。
ベロニカが目を留めたのは、毛皮のモフモフとした赤狐の面であった。
「これ、『彼女』にそっくりだわ」
「お友達ですの?」
「説明するよりも、今ここに呼んだ方が早いわね。――踊れ『ワーニン・フォレスト』!」
呼び声に応えて、赤きエネルギーが形を持つ。
現れたるは、狼獣人の姿を取ったフォースオーラ『ワーニン・フォレスト』。主たるベロニカが顔に着けた赤狐面によく似た狼女は、さっそくダンスを開始した。
体を丸め、ベロニカの周りをねずみ花火よろしく転がり回ったかと思えば、軽やかなジャンプで頭上を飛び越え、逆立ち着地。そのままブレイクダンスみたいに高速で回転する。
主人から1メートルも離れることができない、なんて制約を感じさせない『ワーニン・フォレスト』のアクロバティックでフリーダムな踊りを眺めていたら、いつの間にかベロニカは誘われるようにハミングをしていた。
その場に立って旋律を口ずさむ時計ウサギと、踊り回る狼女。静と動、対照的な二人の姿は不思議なくらいに調和していた。
大成功
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獅子戸・馗鍾
ふぅむ…幻朧封じの儀とな
我が世界の平安結界を維持する歌会や祭事に通じる所か、過去の歴史も似ている点が多いでござりまするな
しかし、それはそれでこれはこれ
異なる世界の皇族と言えども皇族に変わりなし
狐の面を被りながら常子様をお護りせねばでござりまする
さて、郷に入っては郷に従えでこちらの踊りを軽く教わり申したが…脚の運び方が今一憶えきれませんな
右足を出そうとしたら左足を、左足を出そうとすれば右足を
恥ずかしながら辿々しい足の運びじゃが、顔も名も知れぬ貴婦人方らの指南で何とか身体で憶えるに至りましたぞ
すろう、すろう…くいっく、くいっく、すろう…
ご覧の通り、りいど出来るように
ささ、今宵は踊り明かしましょうぞ
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「ふぅむ……『幻朧封じの儀』とな」
獅子戸・馗鍾(御獅式神爺・f43003)は興味深そうに唸った。
彼の出自であるアヤカシエンパイアでも、平安結界を維持するために歌会や祭事が行われる。世界は違えど通じるところがあり、過去の歴史にも類似があったりするのはどういうことなのやら……。
しかし、それはそれでこれはこれ。
平安の世の、種族としての『皇族』とは異なれども、この世界の皇族が民のために尽力しようというならば、手助けしないなどという選択肢は馗鍾にはありえなかった。
「必ずや。儀式を完遂させねばでござりまする」
狐の面を被り、決意を固めて出陣した馗鍾。
しかし、そんな彼にさっそく困難が襲いかかっていた。
「むう……脚の運び方が今一憶えきれませんな」
郷に入っては郷に従えと、サクラミラージュ世界の舞踏会にふさわしいダンスとやらを教わってきたのだが、これがなかなか難しい。
武芸の足捌きとはまた違う独特なステップは、まるで歩き方を知らぬ子どもに戻ったかのような――式神に幼少期があるのかは不問として――気分にさせられた。
「すろう。すろう……」
「お上手ですわよ。その調子で、クイック、クイック、スロウ」
名も知らぬヒーローマスクの貴婦人が、優しく辛抱強く指南してくれる。相手が浮遊する仮面なので、間違って足を踏んでしまわないのが救いだ。
最初のうちは右足と左足の区別もおぼつかないくらい辿々しいかったが、それでも数を繰り返せば少しずつ身体が覚えてきて、水分補給がてら休憩を挟むころには、始めから終いまで通しで止まらずリードできる程度には仕上がっていた。
「素晴らしい上達ですわ、猟兵さま」
「ほっほっほ。手ほどきしていただいたおかげでございます。ささ、今宵は踊り明かしましょうぞ」
調子づいてきた馗鍾は、もう一曲ダンスに貴婦人を誘う。
時を忘れて踊り続けていれば、いつしか『浮島』は音もなく帝都を離れて元いた秘境へと還っていった。
大成功
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