死してなお、士魂の尽きることなかれ
●アヤカシエンパイア『妖の空』
――生と死の転がる世のなんと面白きことでしょうか。
移ろう様は美しい。
そう詠うひとは、なんと楽しきものなのか。
特に武人とは、斯くも美しきことか。
板東武者たちはこの世で確かな地位を得ていない。
武力はあれど位はなく、西洋の騎士のように政治へと関わることもない。
勇猛であること。
揺らがぬ信念と矜恃に生きること。
そうでなくば、彼らは生きてはいけない。
故に親がその身を儚めば、まだ子供であっても果敢なる士として構える。
無垢な幼い心に恐れなど許されぬと自らを鼓舞して。
なんと涙ぐましいことか。
だがこの浅ましい戯れで、触れればはてどうなるか。
巨悪の魂が疼く。
あってはならぬ過去の陰陽師が、愉悦に笑う。
手を翳し、呪いを紡ぐは『安倍晴明』。
「私の厭いた魂の慰めるとなれ、いざ燃え上がれ白炎の陣よ」
一筋の星が都の近くの丘へと落ちた瞬間、世界が捻れて狂う。
平安の結界を喰らい、歪めて反転する恐ろしき呪法。
瞬く間に妖花が溢れ出す様は美しいが、同時に恐怖を抱く光景だった。
刹那に花が咲き乱れ、舞い散る。
花の影より溢れるは世を蝕む妖たち。
「永き夢に、厭いたのならば」
ああ、美しい。
美しい滅びを此処にと、『安倍晴明』は笑った。
●グリモアベース
「急ぎの事件です。どうかお力添えを」
物静かな声で告げるのは清峰・鈴(夜帳の玲瓏・f31251)。
名の通りにと小さく澄み渡る声で続けるのは、先ほどに見た予兆。
「アヤカシエンパイアのとある都にて、『白炎換界陣』が出現しました」
白炎換界陣とは、村や都を呑み込む妖の迷宮を生み出す術法。
物理法則を無視して広がり、あらゆるを蝕む怪奇と呪詛の結界。
またの名を『ブレイズゲート』と呼ばれるものだ。
その内側では無限に妖が無限に成長し、分裂して溢れ返って人々を襲い続ける。
真っ当に考えれば都で逃げ惑う人々も一日持てばよい方だろう。
妖魔の虐殺が始まる前に、なんとか白炎換界陣の核となった妖魔を討つ必要がある。
陣の中央に座すそれさえ滅ぼせば、後は自然と消滅するだけだ。
「ただ今回、白炎換界陣に包まれた都は少々危うい状況です」
鈴が夜色の眸を揺らす。
「この都は板東武者が守護する場。ですが、超常の現象に対抗する術としては、彼らの鋼の刃と武心だけでは足りません」
白炎換界陣となった都では、妖しき花たちが咲き誇り、あらゆる生命と力を吸いあげ、滅ぼしていくのだという。
どれほどの武勇を誇る板東武者たちでも、時間と共に衰弱していけば抗う事も出来ない。
「更には、この武者たちの棟梁はつい先日に病死しており、家督を継いだのはまだ少女だといいます」
明確な指揮系統としての頭がない。
それでもと最前線で戦い続ける板東武者たちの勇猛さを称えるべきだろう。でなくば、既に民に甚大な被害が出ている。
「が、それも長くは続きません。一息に滅びを招く妖花の領域を越え、迅速に助太刀が必要でしょう」
要は逃げ惑う民をひとり、ひとりを救っていては無限増殖と全てを蝕む妖花には対抗しきれない。
疾風迅雷。求められるのは、元凶を一秒でも早く討つこと。
「また、明確な指揮系統がないくとも、戦い続ける板東武者たち。彼らは自らの武勇と矜恃に従って、死戦を尽くしています。故に、私達もまた武勇を示せば、おのずと協力してくれるでしょう」
逆に言えば、誇りひとつで命を擲つ者たちだ。
肩を並べるには相応を示さなければならないだろう。
「では、皆さん。それでは現地へとお送りしますね。どうか、ご武運を」
夜色を纏う鈴は、そう言って猟兵たちを戦場へと見送る。
●戦場にて咲く
高潔を以て鳴るが武門の棟梁。
ならばと命を捨てるかのように猛勇を振るい、矜恃をもって刃を響かせる。
理や論ではないのだ。
板東武者という士魂は狂奔する武の裡でのみ息が出来る。
騎士の如く領地や地位、身分を保障されてはいない。
力があり、武力としての集団。が、その実体は傭兵と何に変わらず、使い物にならないとなれば棄てられるが関の山。
恐れ、竦み、動じればただの屍と変わらない。
それどころか同輩たちの生き様さえも穢すこととなるだろう。
板東武者とはこの程度かと、朝廷や貴族から軽んじられれば、もはやそこまで。
故に、不退転こそ彼らの生き様であった。
誇りに殉じて死ぬことこそ、仲間の未来を救うことであった。
それは彼女もまた、理解して心の底に抱く故に。
「懸かりなさい。ひとときとて、止まってはなりません!」
凜然と響くは、気高き少女の号令だ。
齢にして十五、六。まだ初陣にしても早い筈。
美麗な着物を紐で縛った上で、武者鎧を纏う姿はまだ可憐な花のよう。
だが、少女もまた板東武者であった。
勇猛であり、武心にて生を心得るものだった。
抜いた太刀を振るい、群がる妖魔に一太刀を浴びせれば、周囲の武者に――先日までは父の配下だった者へと更なる攻勢を呼びかける。
「民を見捨て、剣を棄て。それで再び武士として生きられるのですか。己が命よりも士魂こそを尊びなさい!」
これもまた並の者であれば従うまい。
無尽とも思える妖魔へと、ただ、ただ捨て身の攻勢のみ。
陣立てや作戦というものを知らぬ少女である。策や兵法に疎い娘である。
が、此処においてはそれこそが求められていた。
「いざ、いざ。我等が姫の為に、刃を掲げよ」
「妖魔の頸を、かの高潔な姫の初陣に捧げよ!」
恐れて逃げ惑うことを善しと出来ない板東武者たち。
生き延びた処で何になるのか。勇猛なる血は、凜然たる姫が為に流れ、戦場で死ぬことを求めていた。
狂奔である。
理解出来ぬものは、生涯わからぬ狂気である。
が、死に場所に相応しいと分かれば、なお勇猛に死ぬのだと姫たる少女の前へ、前へと群がり、鎧ごと身を妖魔に引き裂かれても下がらない。
空より陣にしてみれば、何も識らず、指揮する術もない筈の少女を中心とした魚鱗。
陣形を作れるだけ最早見事。
ましてや、これには勝機がある。
妖魔が群がる姿は鶴翼にも似るが、あと一押しがあれば或いは、その包囲を打ち破るかもしれない。
ただ、それが足りなければ包囲殲滅が待つ形。
「……っ。妖魔たちが臆しました。突き崩して、そのまま進みます。騎兵を集めて!」
少女は兵法も何も識らない。
だが、戦姫としての片鱗を見せていた。
それでも――誰の助けもなけければ、無常に滅び、散るのみ。
果敢なる魂は、儚く散るか。
それとも狂い咲く妖花を越えて、未来へと繋ぐか。
――さあ、如何に転がることでしょうか。
生と死が混じり合う様を、厭いた魂の慰めとして陰陽師は天の眼で見つめて笑う。
遙月
いつもお世話になっております。
マスターの遙月です。
この度はアヤカシエンパイアのシナリオをお届けしますね。
煌びやかな宮中ではなく、武心を燃やす板東武者たちの戦場。
美しくも恐ろしい妖花が狂い咲く白炎換界陣の中での激しき戦い。
捨て身でなくばならないほど速やかに。
傷つくことへ恐れ、怯懦あれば届かぬ勝利へと。
どうぞ宜しくお願い致します。
●プレイングの受付
8月の9日(金)の朝08:31より、8月11日(日)の夜23時を予定しております。
オーバーロードでしたら受付時間前からでも歓迎です(即座に書く訳ではないのはご容赦ください)
●第一章
速やかに白炎換界陣、ブレイズゲートの中心へと辿り着く為の冒険の章となります。
あらゆる命と力を蝕み、滅びさせる妖花が咲き誇る結界の周辺です。
都ではありますが、無限に増殖し拡大している為、一面は花の咲き誇る草原のよう。
ただし速やかに突破しきれなければ、力を奪われていくでしょう。
対策はご自由に。基本として好意的に判定致します。
しかし、この妖花を消すにはブレイズゲートの核とされた妖魔を討つしかありません。
また、時間をかければかけるほど、二章以降での板東武者たちが窮していきます。
この章だけではないですが、速攻戦の推奨となります。
●第二章
集団戦です。
大量の妖魔が蠢き、板東武者たちと共闘する事が可能です。
妖魔たちは武者たちを包囲するような状況で、一方で武者は妖魔の群れを突破しようと試みています。
一体一体の妖魔は、猟兵の皆さんであればさほど強いとは感じないでしょう。ただ槍を並べ、弓矢を射るなどの集団での戦い方をしてきます。
広い草原めいた地形で、野戦のように攻防が繰り広げられていますが、倒しても倒しても湧き出る妖魔に次第に板東武者たちは劣勢になっています。
●第三章
ボス戦です。
ブレイズゲートの核として、流星として高い丘に落ちるように現れた妖魔、『
天狗』の討伐が目標です。
やはり求められるのは速攻戦。
ブレイズゲートの核として据えられた『天狗』さえ倒せば、全ては解決となります。
第1章 冒険
『滅びの妖花』
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POW : 気迫をもって突き進む
SPD : 身につけた術と技で抗う
WIZ : 持ちうる神秘にて妖気を阻む
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● 断章 ~ 滅びの妖花 ~
夕暮れの風に、妖花はさわさわと滅びを囁く。
刻は逢魔ヶ時。
血のように赤い光と、妖花の花びらが全てだった。
あらゆるを蝕み、破滅へと誘う妖魔の花が狂い咲いて、都を覆い尽くしていく。
確かに、あらゆるに溢れる赤い花は美しかった。
だが、命と魂を蝕む妖しく、恐ろしい深紅の色彩だった。
風に吹かれて、はらり、はらりと落ちる赤い花びら。
地面に触れた途端、土は干からび、ぼろりと崩れていく。
全てを荒野にするのだ。
夢を喰らう妖花として、この地を現実と同じ廃退で包もうとしているのだ。
白炎換界陣は何もかもを逃さない。
それ自体が膨れ上がり、増幅し、領域を増やす妖しき白炎の結界なのだから。
常識は通じない。
不条理が罷り通り、妖魔が溢れかえる。
事実、都への入り口とはこんなに広いのか。
都の奥へとは、こんなに遠いのか。
さながら迷妄の路。ただ早く走っただけでは辿り着けない。そんな不安さえ覚えてしまう。
が、躊躇う訳にはいかないった。
結界の領域に踏み入れば猟兵さえも力が奪われていくのを感じて、長くは居られないのだと本能が悟る。
ならば常人はどうなのだろう。
抗うことの出来ない人々は逃げ惑いながら、溢れかえる妖花に命を蝕まれていく。
遠くで聞こえるのは戦の音。
板東武者たちもまた妖花の影響下にあり、それでも果敢にと戦っている。
命尽きても構わぬと、武心と血を燃やしている。
或いは、そうでなくば生きてはいられない魂こそが、板東武者なのか。
――速やかに、この白炎換界陣を砕かなければならない。
花が、妖魔が、命を奪う前に。
僅かな時間が全てを決するのだと直感する。
さあ。
滅びへの数を詠うように、狂い咲き続けて溢れ続ける妖花を踏破するのだ。
迫る死を払い、戦って救う為に。
アシュエル・ファラン
いつも親友と一緒って事が多かったからな。たまには一人で存在を張らなきゃ脳も何も錆びるってもんだ
しかし…これはまたエゲツない花もあったもんだな…!見た目に騙されませんよ、俺はっ。
時間はない。さて、どうする俺?
思考を巡らす。今まで大切な存在を守る為だけに動いていた、脳の歯車が一斉に巡り動き始める
――命が懸かっていると云うのに……一人だけという自由に、俺だけが動けるという心地よさに
思わず口端に笑みが浮かんだ。楽しい、と。
情報収集機能付き時計で迅速即座に情報収集、まずは板東武者の場所の方角と距離、戦況を確認しなければ始まらない。UCを使えば速い、だからこそ的確でなければ時間をロスする。
しかも辿り着けば即座に戦闘だ。だったら得られる範囲での情報は必須
地面の痕跡、空気の流れ、遠景――分かるもの全てを収集して即判断
UCを発動して一気に飛翔し花群を抜ける
空から見て――野戦に近いが、陣が出来てるな。魚鱗陣かこれ、なら大将は中央でほぼ確定
武者陣の上空を旋回し、希望と戦闘力強化を煽って最後に中央に降り立とう。
黄昏の裡で揺れる妖花たち。
濃密な赤は見ているだけで酩酊するように意識を狂わせていく。
妖しく、麗しく。
命を蝕み、滅びを招く花。
世界の果てまで咲き誇り、今もまた妖たちと共に増えていく。
「しかし、これはまたエゲツない花もあったもんだな」
妖花の内側から溢れる、恐ろしい気配。
僅かに背筋が震えるのを感じながら、アシュエル・ファラン(盤上に立つ遊戯者・f28877)は黒い双眸を向ける。
美しい破滅の花。
或いは、赤い死神の姿だろうか。
風に戯れる赤い花びらに、アシュエルは災いの女神の姿を見た気がした。
「見た目に騙されませんよ、俺はっ」
首を左右に振り、柔かな癖を残す金色の前髪を揺らすアシュエル。
そうしている間にも赤い妖花は狂い咲き、花びらがさわさわと風に運ばれて足下まで。
だが、それに何かを言うものはない。
美しい声色で危険だと告げる親友はいないのだ。
この白炎の結界陣に、ひとり足を踏み入れたという事実にアシュエルは少しの寂しさを感じて、瞬きをひとつ。
だが、ひとりでも存在を張り、示さなければならないだろう。
たったひとりでも生きて考え続けなければ脳は錆び、心は脆く、魂と志は朽ちていく。
アシュエルひとりでも、確かに事を為せるのだ。
誰かに頼り、或いは、傍にあの純白の翼を持つ親友がいなければ何も出来ないなんてありはしない。
ああ、そうだ。アシュエルもひとりの存在。自らの足で大地を踏みしめ、怪奇の結界を越えてみせる。
助けてみせるのだ。
「さて、と」
自らの生命、存在というべきものを奪われていく感覚。
吸血の鬼姫に抱擁されるのはきっとこんな感覚なのだろうと、陶酔と恐怖の混じる心地を憶えながらアシュエルは視線と思考を巡らせる。
時間はない。
ただ解決へと速さを求められる状況。
「どうする、俺?」
呟きながらも高速で思考を巡らせ、ひとりで為せることを考える。
かたりと、脳の歯車が重なり合いはじめた。
アシュエルは今まで大切な存在を守る為だけに動いていた。
だが、今は違う。完全にひとりきり。
だからこそ自分という存在を、何処までも完璧に動かすべく動き始める思考。断片化されたものを再配置し、最適化させていく。
そうして自分の思いと思考がしっかりと噛み合った瞬間、脳と心の歯車がしっかりと噛み合い、高速で巡って動き出す。
求められるのは拙速であれ、まずは元凶へと届くということ。
――命が懸かっていると云うのに……。
このままでは妖花に抱かれて死ぬ。
それを知りながらも。アシュエルの美貌に感情の色が浮かぶ。
――一人だけという自由に、俺だけが動けるという心地よさに……。
思わず口端に笑みが浮かんだ。
楽しいのだと。
これから自由に、自分の心だけに従って進むことが出来るのだと。
誰かの翼ではなく、自らの翼をはためかせる予感に、アシュエルの貌にうっすらと喜びを浮かばせるのだ。
アシュエルが視線を巡らせるのは腕の情報収集機能付き時計。
あらゆる情報の集積と解析を一手に担う高性能腕時計。
ガジェッティアであるアシュエルが触れれば、それは神秘さえも測る機能を見せる。
「ん……?」
だが、アシュエルの元にはしっかりとした情報が集まりきらない。
全てが微細に狂い、測定する度に情報が変わっていく。
だがアシュエルの高速で巡る思考は、困惑で澱むことなく正解をはじき出す。
「成る程。成長し、増殖し続ける結界。だから、測定を重ねる度に変化し、すればするほどにエラーが起きるのか」
怪奇の迷宮。物理と現実の狂う白炎の領域。
つまり、迷っていればそのぶんだけ惑って深みに嵌まる。
「だけれど、必要な情報は分かったよ」
頬を緩めて彼方を見つめるアシュエル。
板東武者たちが戦っている場所の方角と距離を確認さえ出来れば後は何とかなる。
その上で問題となるのは的確ではないことでの齟齬とタイムロス。
武者たちが歩いた地面の痕跡は花に覆われてもなお消えることはない。
空気の流れは、妖魔たちが暴れ回るからこそ狂いが生じている。
遠景とて確かな情報のひとつ。見える光景もまた事実なのだ。
そこから分かるもの全てを収集し、現在の戦況の予測と確認をして、即座に判断を下す。
――拙速でも行動を起こし、動いている最中で更に情報を集め、調整して最善へと辿り着けばいい。
何もかもが変わる怪奇の結界陣。
だが、そこで生きる存在が変わる筈がないのだ。
――常に思考しろ。正解だと思ったものを疑え。最善の更に向こうへと辿り着くんだ。
アシュエルが瞬間思考を最高速度で巡らせられるのは、ある意味では伴うものへの配慮や意志の伝達が不要なせい。
完全なる自由に、アシュエルの笑みがまた少し深くなる。
なら、あとは一気に飛び立つだけだと。
「出番だ、俺の可愛いお嬢さん! その麗しい笑顔を見せてやれ!」
妖花を払う清らかなる一陣の風を纏うアシュエル。
身には薄緑に発光する風の翼を纏い、空へと一気に飛翔するのだ。
妖しき花群を抜け、夕焼けの空へと至り、そうして真っ直ぐに突き進む自由なる風の姿。
妖花が力を奪うとしても、確かに空へと抜ければその影響も少ない。
地面に落ちた時に見せたように、妖花がその効果をもっとも強く発揮するのは触れた瞬間。
ならば空を飛翔して接触を回避するというのは、アシュエルの導き出した最適な経路のひとつだった。
そうして風の翼で高速で翔ければ、見えて来るのは合戦の有様。
「野戦に近い、か」
本来であれば乱戦になって、陣も連携も出来ずに数で勝る妖たちに飲まれて、崩れ果てでいるだろう最前線。
ひとつに纏まる形は魚鱗陣。自然と出来上がった、機動力と突破力に優れた密集陣形だ。
故に、包囲に対しては脆さを見せるのだが……。
「なら大将は中央でほぼ確定だろう」
本来は底にあたる部分にこそ大将は控えるもの。
だが、前へ前へと、勇猛さで進む板東武者たちの大将なのだ。
その可能性はゼロに等しく、自らの将が臆して退いているならばこの士気も保てない。
が、最前線は明確な指揮系統なく突き進み続けるが故に将不在は確実。
兵法に決して詳しい訳でもないアシュエルだが、板東武者たちの動き、流れ、勢いという情報から、即座に中央に大将がいると結論を出していた。
「だとしたら、そうだね。俺に今すぐにできる、ひとつのことを」
だからこそ、薄緑に輝く風の翼をはきたためかせ、武者たちの上空を旋回する。
その輝きをもって希望を紡ぎ、清らかな精霊の風にて妖花の侵蝕を阻むのだ。
僅かでも抗う力と増した板東武者。
いいや、あと少しあれば突破して見せると気炎を燃やし、勢いを増す。
それを見て微かに微笑み、アシュエルは最期に中央へと降り立っていく。
血のような鮮やかな赤い光と妖花に包まれる中、アシュエルはシルクハットを片手にひとつのお辞儀を見せた。
「やあ、麗しき戦の姫君。初陣に勝利をもたらすべく、馳せ参じましたよ、っと」
そうして、清らかな風の翼をはためかせて、近くの赤花を散らせる。
「こんな怖い色の花は、あなたに似合わない。凜然たる勝利の花を、あなたに約束しましょう」
まだ少女といえど、女は女。
アシュエルは軽やかに口ずさみ、ひとつウィンクを見せた。
刃金の煌めきにも妖花の凄艶さにも負けない、ひとときに戯れる美しさと共に。
大成功
🔵🔵🔵
武富・昇永
家督を継いだのが少女ということだったが、なんと見事な立ち振る舞いよ!
人を統べる者はまず人に好かれねばならん!その点はまさに申し分なき人望を備えているな!
将来はひとかどの者になるに違いない!俺の立身出世のためにも是非とも誼を通じておきたいところだ!
そのためにも彼の者たちを死なせるわけにはいかん!
命と力を奪う花がなんだというのだ!
そんなもので歩みを緩めては手柄をみすみす逃してしまうではないか!
ブレイズゲートの主の首を手土産に誼を通じる俺の企みのためにも
ここは【出世道・功名一番槍】で一気に突き抜けるぞ!
風にざわめく妖花が滅びを歌う。
現実は既に破滅を迎えたのだと。
この平安の世は所詮は夢。なら後は無常に散るのみ。
されど、そのような妖の騙りへと従わないからこそ、今に生きるひとの美しさがある。
視線の先、まだ見えない戦場で奮い立つ少女の志もまた麗しい。
「家督を継いだのが少女ということだったが、なんと見事な立ち振る舞いよ!」
偽りなき賞賛を口にするのは武富・昇永(昇鯉・f42970)。
真っ直ぐに向ける眸の先で戦う少女を思いながら、先駆けの花たる梅の図を描かれた扇をひらりと翻した。
初陣であるのに恐れはないのか。
無数に囲まれ、なお前へ前へと駆ける姿は、自然と板東武者たちを奮い立たせ、自らと共に戦いへと身を投げ出させている。
自らの棟梁が少女であること。
そこに嫌を唱える者とていように。
自ら血を流し、勇猛と矜恃に生きる武者の姿を体現されれば、この少女に付いて行くのだと武者の心に思わせる。
「人を統べる者はまず人に好かれねばならん!」
好いている。
ただそれだけで死まで付きそうが実直な板東武者。
「その点はまさに申し分なき人望を備えているな!」
今も妖花に蝕まれながら、前へ、前へ。
怪奇なる白炎の結界陣の中核である妖を討滅すべく、狂奔を以て斬り拓いていく。
その姿、勇猛にして美麗なり。
くつ、と武富の喉の奥で笑みが溢れる。
「将来はひとかどの者になるに違いない!」
威厳をもって強く声を響かせ。
天に昇るほどに偉くなるのだと立志を懐き。
されど、優雅さを忘れることのない平安貴族の声。
「俺の立身出世のためにも是非とも誼を通じておきたいところだ!」
微かに頬を緩めて笑い、武富は一歩を踏み出した。
「そのためにも彼の者たちを死なせるわけにはいかん!」
有事があれば、かの板東武者たちは命を賭して戦うだろう。
誼を通じ、信を置き、絆というものを築けばいずれ必ずや勇を以て報いるが武者。
武富の出世の為、或いは、生きる平安の世の為に。
ならば奪わせることも、喪わせることもあってはならない。
「命と力を奪う花がなんだというのだ!」
風に舞う妖花の花びらを扇で払い退け、野心燃える眸で先を見据える武富。
その身を銀色のオーラが包み、ふわりと身を空へと浮かび上がらせる。
「そんなもので歩みを緩めては、手柄をみすみす逃してしまうではないか!」
出世欲も欲のひとつ。
だが、それも想いという原動力。
ひとの魂の輝きに他ならない。
ブレイズゲートの主の首を手土産に、誼を通じる武富の企みとて、ひとつの願いであり、祈り。
かくも空は高く澄み渡る。
ならば、そこに至るほどの思いにて地を走るのみ。
いずれは届く。いずれは手にする。
いいや、天を破って更なる高みへと至るのだ。
武富にそれだけの力と器があると信じるが故に、その願いは揺らがぬ不動。
必ずや為す。その一念は、板東武者の勇猛さにも劣ることはない。
「故に、さあ、いざ!」
理不尽な白炎の結界陣に、滅びへと誘う紅の妖花たち。
そんなものは知らぬと、まるで一番槍にと先駆けるが如く飛翔する武富。
銀のオーラはさながら穂先。
あらやるを穿ちて破り、手柄として得るべく走る。
それはまさに、魚が滝を昇って龍へと変ずるかのような勢い。
平安の世の栄華を手にすべく、武富は妖花の域を突き抜けていった。
大成功
🔵🔵🔵
鞍馬・景正
平安の
武士。
寛永のそれと較べれば、公家の手足に過ぎなかった時代の者たち。
特に坂東由縁の者は東夷とも軽蔑され、未開の荒野にて獣同然の暮らしをすると囁かれたと。
されど、そこで育まれた武魂こそ万民が習うべき道ともなった。
心を研ぎ、武芸を尚び、計略は家風を貶めず……世に将種の何たるかを伝えてきた
兵たち。
なればこそ、私も示さねばなりますまい。
異なる天地においても同じ矜持を誇った者の裔が、今ここにいると。
◆
滅びそのものを描いたような光景ですが、悠長に眺めてはいられません。
愛馬へと騎乗し、そのまま全速力にて。
しかしただ走るだけでは不足、【騎龍之勢】にて加速します。
馳せるべき場所は、ただ一点。
鬨の声、太刀や具足の響き、何より血の匂いのするほうへ。
同輩たちに先駆ける武者に無傷を誇る性分などなく、かといってむざとやられる事もなく、最低でも相討ちを果たすもの。
ならば死臭の濃いほうにこそ、彼らはいるものでしょう。
しかし、危急の時というのに――祭りへ向かうような心地、胸が疼きます。
血に穢れなしとはいうなれど。
それは勇と信念の元に流れたものなれば。
されどこれは異なるものだと、僅かに瞼を伏せるのは一瞬。
藍玉のような双眸には、鋭き刃のような光があった。
黄昏と妖花、血色に包まれた世界は妖艶。
まるで血吸いの鬼姫に抱かれるような、美しくも恐ろしい気配に満ちている。
心の弱いものなら、そのまま膝を屈しただろう。
或いは、在る種の者は滅びの美しさと息を零したかもしれない。
それほどに凄艶なる妖花溢れる世界の姿。
けれど、此処にあるのは静かなる刃先のような男。
「平安の
武士」
揺らぐことのない物静かな声色は、何処か鞘走りに似ていた。
高潔な心を乗せる眸もまた怜悧。
微かにも揺らぐことなく、不条理な白炎に飲まれた地を踏みしめる。
妖花が足下に触れ、力を奪われても凜然と佇むのみ。
ただ遙かな昔にあっただろう、血脈の祖たちへと思考を巡らせるのは鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)。
鞍馬が棲まうは寛永の世。
徳川の三代目が世を統べる、泰平の
世界である。
妖魔討伐が尽きないとはいえ、鞍馬の生きる侍の姿と較べれば、板東武者たちは何も持たないととえ言える。
公家の手足に過ぎず、使い勝手の良い武力。
何かあれば追放すればよく、言い換えれば棄てるに容易い道具だ。
特に政権の中央から離れた板東を由縁とするものは東夷とも軽蔑され、未開の荒野にて雅も解せぬ獣同然の暮らしをすると囁かれた。
同じひとだというのに。
ならば歌ってみせよと笑うものもいた。
だが、彼らは歌わない。どれほど巧みに歌を紡げるかを、ひとの善し悪しとされる世において、なおだ。
「――魂に刃を懐いた祖よ」
確かに板東武者は何も持たなかった。
故にこそ、その勇猛なる魂こそを武芸と共に磨き上げていった。
怯懦は不要。
猛勇にて名を響かせ、不退転にて生きるべし。
ひとつとて過てば棄てられるのであれば、必ずや為すという矜恃を胸に抱くのだ。
確かに歌えない。
が、我らは獣ではない。
自らを正しく律し、誇りと武を以て天を仰ぎ、地を歩き、人として生きる。
覇を以て示す必要など皆無。
正しく生きて、正しく死ねば何れは世に満ちる。
そうして育まれた武魂こそ、万民が習うべき道となったのだ。
心を研ぎ、武芸を尚び、計略は巡らせど家風を貶めず。
そうして互いに繋いでいった祖たち。
世に将種の何たるかを、その生と死で伝えていった
兵たち。
想いは命を、そして死を越えるのだ。
誰かへと継がれ、導かれ、いずれは誰かへと結ばれていく。
「それを魂と呼ぶのでしょう」
そうして鞍馬は自らの胸に触れる。
鼓動の裡に在るそれ。
触れられずとも、確かにある。大切なのだと噛みしめて。
ふ、と藍の眸を向ける。
静かに、静かに。
けれど、何処か星火に似た激しさを秘めて、戦の音がする方へと意識を向けた。
「滅びそのものを描いたような光景ですが」
そこに思うものはあれど、生憎と鞍馬には今は何も出来ない。
ならと愛馬たる夙夜に飛び乗り、手綱を握り絞める。
「悠長に眺めてはいられません」
夙夜もまた、命を蝕む妖花を知りながら、一切臆すことなく主の号令を静かに待つ。
成る程、戦の気配を感じているのか。
武魂に連なるものとして、血が沸き立つのは羅刹も馬も等しくか。
「――いざ」
そのまま全力で駆け抜け抜けながら、ただ走るでは足りぬと鞍馬が起こすは騎龍之勢。
迅くと駆ける夙夜はさながら竜胆の色彩を宿す流星。
妖花の花びらを切り裂くように抜け、ただ一直線に奔り抜けていく。
馳せるべきはただ一点。
恐れを知らぬ鬨の声に、止まることのない太刀や具足の響きが重なる場所。
何より血の匂いのするほうへ。
同輩たちに先駆ける武者に無傷を誇る性分などある筈もなく、鎧具足と身体に刻まれた傷こそ自らの勇と示すばかり。
かといってむざとやられる事もある筈なく、最低でも相打ちを果たすのみ。
成る程、獣と言われるのも仕方なきこと。
死んでなお、相手を斬り殺すという気炎は、武魂と矜恃知らぬものからすれば、恐ろしきものに他ならない。
妖ではない。
が、同じヒトでもない。
ならば獣かと言われ、否、烈士であると告げるは後の世のこと。
死臭の濃い方へ。激戦の様を示す方にこそ、彼らはいる。
いいや、自ら進んでいる。
一切止まることなく、恐れを棄てて、ただ突き進む勇猛なる魂と血の滾り。
「なればこそ、私も示さねばなりますまい」
異なる天地において同じ矜恃を誇った者の裔が、今ここにいると。
彼らと羅刹たる鞍馬は血脈は異なるだろう。
だが、胸に懐くものは同じ。
いいや、貴方達が死してもなお消すことなく、受け継ぎ続けた矜恃と魂が、この身と刃を動かすのだ。
故に、死と滅びの色。
血の彩をした妖花など恐れるに足らずと、一筋の青紫の光となって突き進む鞍馬と夙夜。
「しかし、危急の時というのに――」
いや、これこそが祖より受け継いだ血ということか。
羅刹の血が昂ぶり、鼓動が激しく鳴り響く。
自らも死の深き処へと向かっているというのに、この湧き上がる衝動。
ああ、確かに無傷を恥じり、より強きものへと向き合い、命尽きても必ずや討ち果たすというこの想い。
確かに、彼らと同じこと。
天地と時代、世界を分けても我らは
武士。
「――祭りへ向かうような心地、胸が疼きます」
死戦でこそ耀く剣刃こそ、この身に受け継いで心に懐く武魂。
流れる血の速さに鞍馬の眸の色は深く、笑みはより凄絶なるものへと変わっていく。
されど、それは清らかなるもの。
血に穢れなし。
勇と信念の元に流すものなれば。
尽きせぬ妖魔の影、溢れる妖花の色。
一切に恐れを見せぬ竜胆の武者が、鋭い吐息を零す。
さながらその姿は秋霜三尺。
悠久の時を経て受け継がれた、羅刹が懐く魂の刃だった。
大成功
🔵🔵🔵
ブラミエ・トゥカーズ
血の香りと妖を強化する結界により気分が昂っている
しかし夕陽により従者の持つ日傘の影から出られない
出たら焦げる
というわけで、ここは彼らに任せるとしよう
余の愛しき怨敵共よ。人を護るために邪悪を焼き尽くせ。
此度は町でも人でもない、正真正銘の人外である。
嘗て余を殺し尽くしたその手練手管、異国の武者に魅せつけるが良い。
激戦区であろう少女のいるであろう中央までの道を火矢の雨で造る
敵味方自身問わず力尽きた者を焼き払い灰とする
【浄化】属性によりそこは花の汚染が遅くなる
そこの娘、援軍であるぞ。
騎士団を引き連れ参戦の挨拶
妖であることは隠さない
警戒されても気にしない
攻撃されても無抵抗
夕陽が沈むまでは大人しくしている
艶やかな深紅に染まる世界。
まるで全てが血に染まるかのよう。
或いは、血液に溺れ、耽溺し、吸い上げていくのか。
妖花というものは、吸血鬼が花の姿をしているのか。
ああ、確かに。血の裡でこそ生きるは病もまた同じことと、ゆっくりと瞼を伏せる白皙の美貌。
しかし、夕陽の輝くような光は耐えられないと日傘からは出られない。
出れば焦げる。
だが、この気配には心躍ることを止められない。
芳醇な血の香りと、妖の結界に心を昂ぶらせるブラミエ・トゥカーズ(《妖怪》ヴァンパイア・f27968)の姿だった。
吸血鬼の弱点である陽光。
これさえなければと空を覗くが、日没を迎える前にこの戦場は終わりを告げるだろう。
でなくば、血のような妖花があらゆる命を奪い尽くす。
それは、ブラミエとて例外ではなかった。
太陽の光と妖の花。ふたつに蝕まれながらも、ブラミエはうっすらと微笑みを浮かべた。
「というわけで、ここは彼にに任せるとしよう」
ブラミエの唇より紡ぐ詠唱は、何処か呪いの歌のようだった。
美しいが、翳りがある。災いの気配がある。
吸血鬼というものが口ずさむものは、全て破滅へと転がるものでしかないのだから。
そうして現れたのは、火を携える騎士団。
「余の愛しい怨敵どもよ」
かつて無知の余り、病と呪いを焼き付くそうとした騎士たち。
彼らもまた、魔女狩りという狂気の病にかかっていたのかもしれず、ならばその業を再びとブラミエが命ずる。
「人を護るために邪悪を焼き尽くせ」
此度は街でも灯とでもない。
正真正銘の人外と魔境である。
「嘗て余を殺し尽くしたその手練手管、異国の武者に魅せつけるが良い」
激戦地区である少女までの道を作ろうと放たれる火矢の雨。
妖の花を焼き払い、妖の影を灰と化し、浄化の力で汚染を軽減する。
あくまで僅か。
それでも、その僅かに活路を得る。
浄化の火で紡がれた道は、さながら王妃が歩む為にと深紅のカーペットを敷いたかのよう。
時間はかかれど、騎士団を引き連れ参戦すれば、ブラミエは声を響かせる。
「そこの娘、援軍であるぞ」
妖であることは隠さない。
身から滲む気配で警戒されても気にしない。
例え刀や槍を向けられ、身を突き刺されても無抵抗のままでいるであろうブラミエ。
だが、一方でちらりと見る少女もまた凛烈だった。
「――都を守り、ひとを守るならば私達の同志だ。流れる血に問いはしない。心と魂こそを問おう。お前は、援軍なのだな」
果断迅速。
味方であれば迷いなく与する。
でなくば配下は死に、迷えばそれだけ戦場は混乱するのだから。
ブラミエもまた笑った。
「くどい。余に二度は言わせるな」
援軍である。
が、娘の配下などではない。
助けるというよりは共闘という言葉こそが似合う。
「しばし、大人しくしているがな」
夕陽が沈むまでは。
夜闇が訪れるまでは。
が、それは果たして来るのか。
斜陽が沈むより早く、戦場は駆け巡る。
「ああ、だが」
流れる血の、鮮やかにして芳醇な香り。
なんと良きものかと、ブラミエは微かに微笑んだ。
戦など無粋ではあるが、しかし、これほどに血の溢れる場は素晴らしい。
病と吸血鬼。そのふたつが、いずれ訪れてその姿を表すには相応しいのだから。
大成功
🔵🔵🔵
シモーヌ・イルネージュ
見た目は綺麗だけど、これが妖花か。こわいね。
これを放っておくと、都が文字通りお花畑になって、人も住めなくなるとはね。
坂東武者達も果敢に戦っているけど、苦しそうだ。
あれだけの強者共でもキツイのか。
これは楽しくなりそうだ。
助太刀するよ!
今は時間が惜しいんだろ?
ならば、今ここで選ぶUCは【神速疾駆】だな。
あとは目指すべき方向を決めないと。
一番、妖花が多いところに向かって、突進。
微調整しながら、陣の中心を目指そう。
妖花のダメージは【気合】で耐えるよ。
武者たちにはアタシの後に続いて来てくれよ。
世界に溢れる赤き妖花たち。
風に舞う姿は麗しくとも、ゆっくりとあらゆる命を奪う死の姿。
まるで吸血鬼が愛でる薔薇のよう。
触れ合ったあらゆる温もりを奪うのだ。
「見た目は綺麗だけれど、これが妖花か。こわいね」
シモーヌ・イルネージュ(月影の戦士・f38176)は冷水のように澄んだ碧眼で見つめ、小さく吐息を零す。
黄昏の風に揺れるは氷原のような、冷たくも艶やかな銀の髪。
まるで雪原に咲いた氷花のような姿で、妖花の溢れるブレイズゲートの地を踏みしめる。
「これを放っておくと、都が文字通りお花畑になって、人も住めなくなるとはね」
死の花が狂い咲き、荒廃した都が残るばかり。
そんな様、誰が望むというのだろうか。
これが妖の技。死と破滅を望む、現実からの侵蝕者たち。
抗う板東武者たちは一切怯むことなく戦い続けているが、流石に分が悪いといえるだろう。
「坂東武者達も果敢に戦っているけど、苦しそうだ」
そう言いながらも、シモーヌは微かに唇の端をつり上げる。
浮かべるのは不敵な笑み。
「あれだけの強者共でもキツイのか」
数多の世界を渡り歩き、命を奪い合う真剣勝負の戦いへと身を投じる傭兵として、純粋な戦意を眸の奥で静かに輝かせる。
いいね、と。
だからこそ戦い甲斐があるのだと、より笑みを深くしながら。
「これは楽しくなりそうだ」
颯爽と身を翻し、戦の音が響く方へと駆け出すシモーヌ。
「助太刀するよ!」
そうして、妖花舞う深紅の域を切り裂き走るは冷たき白銀。
今はただ時間が惜しいのだと発動させるのは神速疾駆。
渦巻く水の流れを纏い、尋常ならざる速度で疾走するシモーヌ。
もはや眼にも止まらないシモーヌの姿。
銀の輝きが奔り抜けたと思った直後に、置き去りにされた風が荒れ狂う。
進むべき進路は、クルースニクの闘争心が定めたというべきだろうか。
シモーヌはもっとも妖花が多く溢れる場所へと突き進んでいる。
より多く、もっと花群の密度が高い場所へ。
言い換えれば危険性の高い場所へと捨て身で駆け抜けているのだが、この勇猛さこそが正解を引いている。
白炎の結界陣は無尽に広がり、増殖していくもの。
だが中核となるものがある。いわば柱となる妖魔だ。
その存在を中心にして妖花は広がるのだから、もっとも花が多い場所こそ目標地点。板東武者たちもそこへと向かっている。
多少の誤差は目視しながら微調整。
銀の氷刃が瞬くように、鋭く迅くと妖花を散らし、板東武者たちが集う陣へとひた走る。
「っ」
が、触れる度に力と命を蝕む妖花。
高速で走れば擦れ違い、触れてしまう数もまた多くなる。
感じる苦痛。身と魂が憶える滅びの気配。
だがシモーヌは心の底から湧き上がる気迫で耐え、むしろ強く笑ってみせる。
どんな戦場にでも、姿形は違えど死神はいるもの。
今回は美しい花に化けているだけなのだ。
ならそれを散らすだけ。
退けて、私達は生き続けるのだと吠えるだけ。
魔狼の魂は尽きせぬ衝動にしてシモーヌを動かす。
止まらない。止められない。
妖花如きでは、シモーヌの疾走を止められない。
唇より零れる息は、より熱い戦意に染まるばかり。
その姿は板東武者たちをも越える勇猛さを、冷たき銀の色彩にて示している。
そうして辿り着く板東武者たちの陣。
一気に最前へと躍り出ながら、シモーヌは高らかに声を上げる。
「アタシの後に続いて来てくれよ」
勇と矜恃の為ならば、躊躇いなく命を棄て戦う武者たち。
だからこそ同じく不退転と駆けるシモーヌの背に、何の疑いもなく、信頼をおいて叫ぶ。
「応!」
同じく血を流す、命を懸け、勝利の為に身を投じるならば等しく同胞。
その純粋なまでの戦場の誇りと想いに、シモーヌは小さく微笑んだ。
ああ、ならば私も同志。
「勝利を遂げようか!」
故に吠えよ魔狼の魂。
斬り払うべき妖魔の姿を捉え、シモーヌの双眸が鋭く瞬いた。
大成功
🔵🔵🔵
勧禅寺・宗大
アドリブ連携可
またしてもかブレイズゲート、
そして今度も助けられる命があるなら救うのが役目よ。
【化術】で翼を生やし、【天網】と共に【空中浮遊】をして武者達の所へ出来るだけ早く突っ切る。花や妖には【どろんはっぱ】と【清浄の君】の浄化で場を少しでも清め、誘惑でこちらに引きつけて【天網】との【連携攻撃】で対処。
一応【霊的防護】がいつまで持つかは分からないが無いよりマシで飛び回り、武者達を見つけたら助けてささやかな【魔除け】の加護を与えておく。
私の時は一人だったからこの姿になってしまったが
人が、仲間が居るなら目がある。
だから死して他を生かそうと安易に思うなよ、
生き続けてこの地獄を晴らすまで奮闘すべきだ。
揺れる妖花の赤き色彩。
それは尋常ならざる怪異の姿。
あらゆる法則を無視し、狂ったように増殖して世を蝕む白炎の結界陣。
ましてやこれは、平安の世を為す結界を元にしているのだ。
「またしてもかブレイズゲート」
平安結界そのものを蝕み、糧として広がる悪夢の領域。
勧禅寺・宗大(平安貴族(従四位上)の幻惑の陰陽師・f43235)は藍色の眸をゆらりと揺らす。
何時までこれは起きるのか。
このような災厄、防ぐ術はないのか。
幻惑の陰陽師と名乗っていたからこそ。
いいや、命を失いかけた過去があるからこそ。
この白炎の災いを惑わす術はないか、未然に危機を逸らす方法はないかと、僅かばかりに考える勧善寺。
だが、答えは出ない。
長く考える猶予は、与えられていない。
ならばこそと束帯を翻し、少年の姿となってしまった身で妖花の領域へと踏み入る。
またもこの不可思議な結界の陣へと入るのだ。
「そして今度も助けられる命があるなら救うのが役目よ」
救うことのできる命があるのなら、勧善寺が何を恐れるというのだろうか。
一時に歩ける距離なんて限られない。
皆へと手を伸ばすことなんて、常識に生きる者には出来る筈もない。
だが、勧善寺には術法がある。
常識と道理を幻惑させる陰陽の呪法が。
大地を走る速さでは足りないというのなら化術で翼を生やし、思念より現れた白いふわふわの式神、天網と共に空中へと浮遊する。
妖花も空までは届かない。
ならと翼をはためかせ、出来るかぎりの速度で板東武者たちの戦う場へと翔け抜けていく。
風に運ばれて潜む妖花のはなびらと、形になりきれない妖には術力を籠めた葉を舞わせながら、長き修練と世渡りの術で身につけた法、『清浄の君』にて場を浄めてみせる。
結界陣の中で無尽に増え行く妖に対しては僅かな抗い。
が、決して無意味ではないだろう。
思い、動き、事を為すというひとの行いこそが、願いの成就を引き寄せるのだから。
それを阻止するように、はらりと。
夕暮れの強い風に吹かれて舞う赤い花びらが勧善寺の前で揺れる。
いいや、花だけではない。
そこに潜むのはまだ実体を持たない妖の影。
「天網」
妖の存在を捉えた勧善寺の声色は少年のもの。
だが、何処か老獪な陰陽師のような響きが含まれている。
幼さに澄むような、老域の妙を知るような不思議な声が見せる不可思議な誘惑。
引き寄せられるようにと花と影が近付けば、思いを共にするようにと勧善寺と天網の術と霊力の連携攻撃を受けて、妖花は露のごとく散っていく。
「さて」
この程度なら勧善寺でもどうにかできる。
だが身を守る霊的防護も何時まで待つか。
それでも無いよりマシと飛び回り、戦う武者たちを見つければ、陰陽術を行使して助け、ささやかながらも魔除けの加護を与える。
――私の時は一人だったからこの姿になってしまったが。
妖に謀られ、逃げ切れずに命の一部と姿を奪われてしまった勧善寺。
だが、あの時に一人でなければ、まだ道はあったのだ。
そして此処に集うは、勇猛さを抱く板東武者たち。
「人が、仲間が居るなら目がある」
勧善寺の云う通り、誰も絶望に瞼を落としていない。
肩を並べて戦う名前がいる限り、決してその膝を折りはしない。
希望とは、仲間と共に生きるということ。
「だから死して他を生かそうと安易に思うなよ」
誰かの為にと身を投じて、生かす為に死ぬなど簡単なこと。
思考の停止かもしれない。
あるいは、勇敢さではなくて、抗う苦痛からの逃避かもしれない。
「誠に勇猛であるというのなら」
風を操り、妖気を散らして勧善寺は告げる。
「生き続けてこの地獄を晴らすまで奮闘すべきだ」
この地を地獄とし、大切な仲間と民、共々に落とされた。
その元凶を討ち果たし、どのような傷を負って、血を流そうとも。
「――生き抜いて、帰ること勝利なのだ」
粛々と告げる、幼いような、老練なる者のような。
そんな不思議な声色で、死戦に熱狂するばかりの武者たちに、ひとつの気づきをもらたした。
生き抜くことこそ、勝利であり。
勇と信念を誰かと共に繋ぐことこそ、正しきひとの姿なのだと。
大成功
🔵🔵🔵
桜雨・カイ
まだ幼い少女が先陣へ…でもこれを「かわいそう」というのは彼女の矜持を傷つける言葉だろう
負けたくないと望むのならいくらでも手を貸そう
しかし、ただ一つ願うのは、生きてほしい
若き少女でも勇ましい板東武者でも、命があるからこそ信念を貫ける
妖しい花が立ちはだかると言うのなら、こちらも花で対抗します。
「花嵐」発動
妖花に触れた瞬間に、桜の花びらは相殺されて朽ちるでしょう
完全に消すことはできなくても、力の奪われ方は少しは緩やかになるはず。
向こうの増殖に対抗するように桜を舞い散らせる。
時間がない。多少の力を奪われるのを覚悟でアイテム「守護羽衣」の加護を借り「天狗靴」でゲートの中心へと一気に駆け抜けます。
尊くて大切なひとを失ったものだからこそ。
痛みを知る。
何も手に入る筈のない過去を探すばかりの心を知る。
ああ、だからと。
桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)はゆらゆらと青い眸を揺らすのだ。
悲しみに暮れる時とて、この先で戦う少女にはなかったのだ。
心の傷を癒やす慰めとて、与えられることはない。
幼い少女は親を失ったばかりの心で先陣へと立つ。
だが、だがとカイは思う。
でも、これを『かわいそう』というのは、少女の矜恃を傷つける言葉だろう。
むしろ彼女に残されたものが矜恃なのだ。
果敢に戦で戦う姿こそ、かつて親の背に見た憧れで、今や受け継いだ確かな想いなのだ。
故に凜然と立つ。
不退転と構え、妖を斬ると刃を携える。
その姿に共感し、勇猛さと信念――つまりは、彼女の親の面影を思うからこそ、板東武者たちは我等が姫と叫ぶのだ。
残された信念と誇り。
家臣たるものたち。
それらと共に挑む初陣だからこそ、負ける訳にはいかないと熾烈に戦う。
カイは心の底にゆっくりと浮かべる。
負けたくないと望むのなら、いくらでも手を貸そう。
しかし、その中でたったひとつだけ願うのだ。
「生きて欲しい」
姫と呼ばれる少女もまた、誰かにとって尊くて大切な家族だったのだから。
若き少女でも板東武者でも。
そうやって想いを重ねる命と日常があるから、信念を貫ける。
一度の果敢なる想いで、その命、燃やし尽くすことなかれ。
「その為にこの人形の身、人の為にと動かしましょう」
そうしてしっかりと前を向けば溢れかえる赤い妖花。
忌むべき血の色が都の道を塞ぐように狂い咲いている。
生きて欲しいという願いごと、命を蝕む妖しの花。
これこそ狂気。死の戯れ。理不尽極まる、悪意の姿。
「なら、こちらも花で対抗します」
カイがゆるりと袖を巡らせば、匂い立つは藤桜。
続けてはらりと、カイの糸で自在に動く念糸がほどける。
いいや、無数の桜の花びらへと化していくのだ。
美しき桜花が清らかな風に渦巻き、優美にと舞い踊る。
はらり、はらりと。
楚々とした桜花と恐ろしき妖花が触れれば、互いを相殺するように消えていく。
後に残るのは、うっすらとした優しい桜の匂いだけ。
完全に妖花を消し切ることは叶わない。
カイが行ったのは僅かな抗いでしかないかもしれない。
だが、確かに力の奪われ方は緩やかとなっている。
いいや、不条理と理不尽にこそ立ち向かう心こそ妖を払うのだ。
「今、できる事を」
そのまま妖花の増殖に対抗するようにと、念糸を巡らせ、桜へと化し、舞い散らせて妖の色彩へと応じていく。
意味と効果は確かにある。
だが、これでは……。
「時間がない」
安全を優先していて遅々として、戦いに間に合わなくなる。
まだ幼い少女に、生きて欲しいと直接伝えられなくなってしまう。
そうはさせない守護羽衣【天女護】――天帝の娘の加護が込められた不可視の羽衣の力を借りて、カイは一息にと妖花溢れる中へと跳び込んでいく。
目指すは結界陣の中心。
例え水面の上でも軽やかに跳ぶことを可能にする天狗靴で、ひとつ、ひとつと地を蹴る。
美しい靴が地面に触れ。
澄んだ音を響かせて、前へ前へと跳ねていく。
カイが伴うのは、綺麗な桜の花嵐。
武士の花とも呼ばれる、薄紅の花びら。
ただ、今に散る命などあってはならないのだと。
カイの唇が、微かな吐息と声をこぼす。
――生きて。
そうして、紅葉色付き、雪が募り、本物の桜が舞う時の流れの中で。
少女が幸せを見つけることを、ただそっと祈ってカイは辿り付くべき場所へと跳んでいく。
生きてと。
そんな声と願いを、届ける為に。
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
矜持を極点と於かばこそ刃武に至り
矜持無き刃なぞ暴他ならず
しかし此の地に在っては暴なぞ在らず、か
成すべきは此処で逐一対処するよりも元を断つ事
なれば此れ以上は瞬く時すら呉れてやるのも惜しい
応えよ騰蛇――極實衝天。命じるは全速の飛翔
風向きからの臭気、届く音の強弱から測り、戦場へと騰蛇の鼻先を向け
高度は低く、且つ逃げる民へ害及ばぬ位置を保ち
なぎ払いで徒花を刈り取りつつ、炎で焼きながら最短の進路を進ませる
多少は広がりを抑える時間稼ぎになろう……全くの放置はどうも気に喰わん
武士としての様相に違いが在ろうとも
将として起つ覚悟と気概は如何な世界であれど変わりはせん
身命を賭すべきを識る――良き頭の様だ
その烈士は悉くを喪ったが故に、今に護るべきを知る。
只一つと征く途は決して過たぬと誇りと信念を胸に懐くが故に。
ああ、と深く吐息を零した。
「矜持を極点と於かばこそ刃、武に至り」
夕焼けの向こう。
白炎の結界陣という、妖の領域を見つめる鋭き眸。
まるで災いを切り裂く剣刃のようだった。
これより挑みて為すのだと、石榴の如き赤い隻眼が彼方の空を射貫く。
男の名を鷲生・嵯泉(烈志・f05845)と云った。
「矜持無き刃なぞ暴他ならず」
鞘より引き抜かれるは、一切の曇りなき刀身を持つ秋水。
誇りとは斯くあるべきもの。
暴力という曇り、澱み。それらを排し、清らかな心境にて在るべきもの。
「しかし」
ならばこそ、音に聞こえるものはなんと心地よいものか。
古き勇猛の血は、虚飾なるものを一切纏わぬ。
まだ至らぬ処はあっても、此処は武士の祖が生きる天地。
「此の地に在っては暴なぞ在らず、か」
煌びやかに、華やかに。
そんな宮中になく、政を知らず、故に此処まで高潔に鳴る魂。
美しいものだとゆっくりと瞼を下ろし、鷲生は想いを巡らせる。
それも束の間。
秋水の澄み渡る刃で、妖気の満ちる風をひとつ凪げば深緋の隻眼は戦場の音のする方へと向けられる。
至るまで路に溢れるは、命を蝕む妖花たち。
幾ら斬り、燃やしても、無尽にと狂い咲く妖念そのもの。
ひとつ、ひとつと対処しても埒は開かない。
ならば成すべきは、此処で逐一と対処するよりも災いの根源を断つ事。
迅速さを求められる。
拙速であっても為せば助かる命が数多とある。
「なれば此れ以上は瞬く時すら呉れてやるのも惜しい」
誰かに言われるまでもなく、数多の戦場を駆けた鷲生の武心は心得ていた。
故に片手に黒符を掴み、場に呼ぶは鷲生の式神。
「応えよ騰蛇――極實衝天」
この場に顕現するは炎纏う有翼の大蛇。
妖花を燃やし尽くしながら周囲を巡るその背へと飛び乗り、鷲生は静かに命ずる。
「命を燃やす程に迅く飛べ。此処はもう戦場だと心得よ」
騰蛇に求めるのは全力での飛翔。
ならばと主の命に従い、まさに神速の勢いで飛ぶ征く騰蛇。
飛翔の最中に鷲生は風向きから血の臭気、届く音の強弱から測り、騰蛇の鼻先を戦場へと向けさせる。
が、妖花を恐れて高く飛ぶなどはしない。
むしろ低く、地と擦れ違うほど。
鷲生は迅速を以て武者たちと合流する気ではいるが、逃げ惑う民を捨て置く気など一切ないのだ。
害を及ぼすものがあるのなら、道中で擦れ違い様に斬り棄てて征くのみ。
故にと狂い咲き、溢れかえっていく妖花に包まれようとする民を見れば、低く構えた秋水を鋭く奮う。
烈刃一閃。
石榴の隻眼と似た、深緋の剣刃の残光が空間を裂くように瞬いた。
だが秋水の切っ先が流れる過程を見る事など、常人には叶わない。
「所詮は狂い咲き。正しさを知らぬ花。――何かが残ると思うな」
鷲生が示すは烈風の刃、烈火の威。
薙ぎ払われた刃風が赤き徒花を刈り取り、続く炎が焼き払いながら騰蛇に最短の進路を征かせる。
「此で多少は広がりを抑える時間稼ぎにはなろう」
ざわりと、鷲生の胸の奥でざわめくものがあった。
完全に全力で進むのであれば、このような動きも無駄な筈である。
だが、このざわめきは、凶兆の予感を無視は出来ない。
「……全くの放置はどうも気に喰わん」
――無為に妖花を咲かせるたのか?
これほどの呪術を操るものが、意味もなく。
花は美しいから滅びを飾ろう。成る程、悪辣な者の考えそうな事だが、この白炎の結界陣を紡いだものは、更に酷く拗くれている気がする。
直接の脅威ではなく、命を蝕む花にした理由がある。
戯れでありながら、嫌な悪意が潜む気がしてならないのだ。
鷲生のそれはただの予感。
ひとに云うならば、それこそ気に喰わないの一言。
が、戦場を渡り抜いた烈士は、確かにこの呪法の悍ましさを捉えていたと、後に誰もが知ることになる。
それは後の出来事。
澄み渡る刃を構え、飛翔する騰蛇の背で小さく鷲生は微笑む。
「武士としての様相に違いが在ろうとも」
天地に時代、世界の姿。
そこに相違があり、等しく同じとはならずとも。
「将として起つ覚悟と気概は如何な世界であれど変わりはせん」
鷲生もまた、かつて都を護る将たる者だったのだ。
ならば、まだ喪われていない想いと志に、僅かばかりの感情を揺らして当然。
いいや、ようやく揺らせるようになったのか。
懐かしいと。
これでいいのだと、昔日の姿を思い描き、愛おしい痛みに微笑む。
涙も苦るしみも、もはや鷲生の胸にはない。
「身命を賭すべきを識る――良き頭の様だ」
今と未来を生きて、進む者。
棟梁たるものが足りねば、配下は迷いて落ちぶれ、ともすれば山賊などへと身を落とすだろう。
そんなことはない。
この地ではそのような暴はなく、あるのは矜恃を宿す刃金なのだから。
若き将たる娘の姿を思い描き、静かに息を吐く。
次の瞬間には、鷲生は再び戦場を斬り拓く烈士の貌へと戻っていた。
大成功
🔵🔵🔵
月白・雪音
…死すれば誇りも言の葉もただ朽ち土に還るのみ、それが命の理です。
民を護るも、誇りを抱くも、自らの生あってこそ。
故に自らの行いの結果を背負わずして死するは士道に非ず。
その行く道に業を重ねるとあらば尚の事。
…されど、死地になくば生きられぬ命もまた在りましょう。
我らの手が此処に届いたは彼らの献身あらばこそ。
その想いに応えるが猟兵として立つ我が責務なれば。
既に戦が始まっているとあらば、目指すべきは死のにおいがより強き場所。
UC発動、野生の勘、殺人鬼としての本能も併せ残像の速度、最短距離を以て血花の路を駆けましょう。
…妖蔓延る平安にて、若くして家督を担う重圧は如何ほどか。
その命を、拾わねばなりませんね。
時と季節を外れた雪花のような風姿が佇む。
冬の白さを纏う美貌はいと冷たく。
夜の浮かぶ月の如き儚さは、鮮烈な斜陽にあって危うい。
月白・雪音(
月輪氷華・f29413)の姿は、さながら光に溶かされる氷のよう。
透き通るような雪膚は、強すぎる日差しに焼かれていた。
さわさわとざわめく妖花に、その命を少しずつ奪われていた。
だというのに、雪音はあまりにも静かだった。
痛みを知らぬ。苦しみを知らぬ。
いいや違う。
苦痛など些細なことと、凪いだ心が揺らぐことがないのだ。
そうしてぽつりと。
泡雪のような雪音の声が、世に零れ落ちる。
「……死すれば誇りも言の葉もただ朽ち土に還るのみ」
無常なる死と滅びの道理を詠う雪音。
それは冷たくとも不変の真実。
「それが命の理です」
生と死。
その狭間を揺れる命が逃れることのできないこと。
どのような誇りを懐いても、骸となれば地に転がるだけ
誰か人生の道を眩く照らした言の葉も、いずれは風に消える音に過ぎない。
朽ちて土に還るのみ。
抗えないし、抗ってはいけない。
だからこそ、今を必死に生きるのだ。
死んではならないと、己が鼓動を脈打たせるのだ。
「民を護るも、誇りを抱くも、自らの生あってこそ」
死者にどうして、他を護ることが出来るだろう。
土に混ざる骸が、どうやって誇りを伝えるのだろう。
生きなければならない。どうやってでも。
命という理の裡にある以上、それを覆してはならないのだ。
生きている間にだけ、ひとは、世と他人に触れて、関わり、変えることが出来る。
生きる命だけの特権だ。
雪音は死に触れ続けたからこそ、その白い貌で生の尊さを囁く。
いいや、まるで死神のような冷たい美貌で……。
「故に自らの行いの結果を背負わずして死するは士道に非ず」
だからこそ無心に命を散らすことなど、どうして士道と言えようか。
死の神とて眉を顰める。
自らの所業、そこに連なる結果を背負うことこそ、真っ当に生きるということなのだから。
それさえ出来ず、誇りだと勇猛だと無為に命を棄てること。
死への罵倒でさえあった。
「その行く道に業を重ねるとあらば尚の事」
こくりと小さく頷く雪音。
自分たちのような者は、その歩む道に命を奪うという業を重ねていくのだ。
自分の命に、生と死に、真実として向き合わないものに、どうして志と矜恃があると言えようか。
雪音の血のように赤い眸は、同じ色彩の妖花を見つめる。
まだ、滅びを招く妖花のほうが道理としては正しいかもしれない。
この平安の世は、所詮は愛しき夢幻。
ああ、そうだ。
此処は、愛しき天地が為す
夢幻。
そうして、さくりと。
自らの眸と同じ血色の花を踏みしめて、雪音は進む。
「……されど」
声色も旋律も変わらず、雪降るような物静かさ。
いいや、情緒の表現の仕方を知らない雪音は、こんな静かな声しか出せないのだ。
されど。
「死地になくば生きられぬ命もまた在りましょう」
胸に抱く心の色彩、情感の鮮やかさは雪の姿に似合わぬほど。
優しき想いあり、冷たき慈悲あり。
誰かの思いを汲んで映す情があり、他なる者の痛みを感じる柔らかさもある。
雪音も、またひとつの命と人生だった。
どれほどに罪咎を重ねる路を征くものだったとしても、雪音は今と未来に生きるもの。
「我らの手が此処に届いたは彼らの献身あらばこそ」
だからと瞬きをひとつ。
それが今の雪音にできる、精一杯。
命を棄てるような果敢さ。
勇猛と無謀を履き違えそうな、それでいて、己と他人の為に全力で命を燃やし尽くして人生を進もうとする板東武者たち。
彼らがいなければ、雪音たちが此処に集い、ひとを救う時間は得られなかったかもしれない。
雪音は、自ら死へと跳び込む兵を称える気にはなれない。
生きて欲しい。どうやっても生きて、足掻いて欲しいと願ってしまう。
いいや、ならばこそ。
この空に集う、ひとつひとつの命に。
この地に転がっていずれは朽ちて消える、ひとつひとつの誇りに。
「その想いに応えるが猟兵として立つ我が責務なれば」
ふるりと身と虎の尾を震わせて。
雪音は戦場の音を虎耳で拾い、一気に駆け抜ける。
早く走る術も、空を飛ぶ異能も雪音にはない。
だが、研鑽を積んだ武とこの身があれば十分。
大地を踏みしめるは、しなやかなる美しき脚。
肉付きのいい太もも、そこから上で矮躯に似合わない実りを見せる臀部。
美しい曲線美は狩りの疾走を得意とする獣のそれか、短距離を走り抜ける為に磨かれたヒトの輪郭。
だが雪音のそれは一言で云えば異常な領域まで磨かれている。
地を蹴れば土砂が巻きあがる程の脚力を見せ、一気に雪音を先へ、先へと高速で走らせる。
命を奪う、獣の疾走であった。
命を守る、武人の誇り高き姿でもあった。
「――――」
すん、と鼻を鳴らすのは五感には届かぬ『におい』をより深く嗅ぎ分ける為。
つまりは死の匂い。
獣の本能が避けるべきだと警鐘を鳴らす、死の匂いが渦巻く中心へと全力で雪音は駆け抜けていく。
最短距離を征くが故に、血花の路を駆け抜ける真白き姿。
幾らかの生命力を奪われたが、雪音は一切を意に介していない。
ただ早く、もっと迅く。
死に命が奪われるより早くと、大地を抉るほどの脚力で駆け抜ける。
そうしてぽつり、言葉を零した。
「……妖蔓延る平安にて、若くして家督を担う重圧は如何ほどか」
兵法や礼法、更には自分より年上の家臣を従える格を示さなければならないのに、学び身につける時間はない。
ましてや政なども分かるまい。
だが――それでも生きようとしている。
それだけは雪音は分かるからこそ、ひとつ頷いた。
「その命を、拾わねばなりませんね」
そういれば、命を無為に棄てるのではなく。
命を繋ぐ術と誇りを、少女は抱いて生きていくのだと信じるが故に。
夕焼けと妖花の赤い色彩、白い肌が焼かれる中。
それでも雪音は血路を駈けて死地へと至る。
大成功
🔵🔵🔵

ミルナ・シャイン
わたくしも騎士のはしくれ、人々の、そして大切な人の盾になるべく戦うことこそ誇り。少しは坂東武者様達、そして戦姫の気持ちも分かるつもりではありますわ。
でもね、母からもう一つ大事なことを教わりましたの…自分含め、誰も死なせてはならないって!自己犠牲は美しくも、それじゃハッピーエンドにはなりませんもの。
だから皆様を死なせはしませんわ!
指定UCで星霊グランスティード『パライバ』を召喚、【騎乗】し人馬一体となって戦場を【ダッシュ】で駆けましょう。UC効果で得た雷光属性をもって、細身剣による【属性攻撃】、【電撃】で妖花を散らし速攻でカタをつけますわ。立ち止まっている時間はありませんの、今は進むだけですわ!
斜陽の鮮やかな赤光の中で、妖花がざわめく。
滅びの囁きだった。
誰も逃がさないというような、禍々しい歌だった。
だからこそミルナ・シャイン(トロピカルラグーン・f34969)は長髪を靡かせ、身を前へと躍らせる。
「わたくしも騎士のはしくれ」
青からピンクへと流れるミルナの綺麗なグラデーションの髪。
光の加減で繊細に移ろう海の色。
「人々の、そして大切な人の盾になるべく戦うことこそ誇り」
そうして小さく、小さく、祈るような仕草を取るミルナ。
かつて世界を救った英雄を母に持ち、騎士としての矜恃を心に抱くものとして。
「少しは坂東武者様達、そして戦姫の気持ちも分かるつもりではありますわ」
けれどミルナが纏うのは優しい海の色彩。
そんな彼女が死へと跳び込むことをよしとして頷く筈がなかった。
「でもね、母からもう一つ大事なことを教わりましたの……」
祈る為に閉じた瞼を開けば、信念と希望に満ちた輝くような青い双眸が世界を映す。
ああ、確かに滅びと死の色に染まっている。
でもだからといって、ミルナは諦めたりはしない。
「自分含め、誰も死なせてはならないって!」
誰も奪わせなどしない。
抗う力を持たない民は当然。
それを護ろうとする武者たちも矜恃を知るからこそ、生きなければいけない。
喪わせては、ならないのだ。
「自己犠牲は美しくも、それじゃハッピーエンドにはなりませんもの」
目指すのは誰もが心から迎えられるハッピーエンド。
幸せな夢物語と言われても、ちゃんと遂げられればそこに偽りなんてない。
納得し、受け入れて、幸せに微笑む結末。
そして次の明日へと優しい気持ちで進むことが出来る光こそが大切なのだから。
「だから皆様を死なせはしませんわ!」
どれほどに命を蝕む妖花が溢れても。
尽きせぬ妖が群がり、襲い懸かろうとも。
死を前に頷くことは出来ない。
ミルナはこの物語の結末を譲ったりはしない。
歌うことは苦手な人魚だけれど、その手に握る剣で、宝石のように煌めく心の色彩で、どんな困難にだって向かってみせる。
負けたり、諦めたりしないんだって。
ハッピーエンドを求める想いで、必ずみんなを救ってみせる。
「だから来て、『パライバ
』……!!」
ミルナが呼ぶのは星霊グランスティードの一柱。
雷光を纏い、高速で疾駆する精霊はミルナの母が連れていた召喚獣より名前と姿を引き継いだもの。
ミルナが信頼を寄せる儘に騎乗すれば、人馬一体となって戦場を高速で駆け抜ける。
踏みしめられた妖花が舞う。
だが、その赤い花びらが風に舞って誰かの災いとして届く前にと、ミルナの双眸が煌めいた。
「そこです!」
ミルナが繰り出したのは透明で鋭い刃を持つ美しき細身剣。
星霊の力である雷光を纏う刃が妖花を灼き斬り、灰すら残さずに掻き消えさせていく。
災いなんて。
悲しい結末なんて、この刃で斬り払ってみせるというように。
「まだですわ!」
雷光と共に再び走る美麗なる刃。
そこから放射状に放たれる無数の雷撃。
溢れかえるような妖花を散らし、灼いて影さえ残さず、疾風の如く走り抜けていくミルナと星霊パライバ。
言うまでも無く、僅かでも触れれば命と力を奪われていく危険性はあった。
だが、それに臆していることなんてミルナには出来ないのだ。
少しでも早く、助けにいきたい。
誰一人として喪うことなく、幸せに笑い合って肩を並べたい。
ああ、何時かはこんな大変な時もあったねと、穏やかに思い出せるように……。
「立ち止まっている時間はありませんの」
血路を斬り拓き、幸せへの活路へと為す青き海の戦乙女の行進だった。
速攻で妖花が溢れる路を突き抜け、戦を交える武者たちの陣を遠目に見つければ、更に加速していくミルナ。
未だ妖花は溢れ、風に乗り、妖の影が蠢きはじめる。
いいや、戦う場を前にして、実体を盛った妖たちが群がる。
ある者は刀や槍を、或いは大太刀や薙刀を。
騎馬に乗るものもいれば、鎧を纏うものも。
だが、一切にミルナは怯むことはなかった。
「今は進むだけですわ!」
あのひとたちの元へ。
今を生きる、ひとたちの元へ。
さあ、ハッピーエンドをはじめよう。
あの戦姫の少女もまた。
これから幸せな御伽噺に似た人生を歩むのだから。
きっと。
また誰かの為に、幸福な路を作るのだから。
妖花は風に舞い、妖魔は白き姿を表す。
無数にして無尽。
増殖して広がる災い。
されど――それを恐れるものなど、ひとりとていない。
どれほどに災厄と恐怖、そして闇が広がっても、希望と矜恃が潰えることはないのだから。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『叢雲鬼』
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POW : 叢雲包み
対象の【全身】を【実体なき雲の如き肉体で包み込ん】で締め上げる。解除されるまで互いに行動不能&対象に【死霊】属性の継続ダメージ。
SPD : 叢雲無限刃
【肉体を構成する怨念を遺した者達の死因】に密着した「己が武器とみなしたもの」全てを【怨念】で操作し、同時一斉攻撃及び防御に利用できる。
WIZ : 無尽怨霊波
体内から常に【叢雲の如き無数の怨念】が放出され、自身の体調に応じて、周囲の全員に【恐怖】もしくは【自殺願望】の感情を与える。
👑11
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● 断章 ~ 花断つ疾風の刃、妖しを討つ烈火の威 ~
ようやく辿り着いた板東武者と妖たちの戦い。
そこでは、叢雲の如く白く霞む妖鬼どもが武者の陣を包囲していた。
それぞれに持つ武器は異なる。
在る者は刀に槍。ともすれば弓を持つ者も。
が、怨念を渦巻かせて騎馬とし、疾走すると共に大太刀や薙刀を振るうものもいる。
元となった個体の差だろう。
そして――その叢雲鬼たちは、無尽蔵に増え続けていた。
全力で激突を繰り返す板東武者と妖したち。
武者たちが取るは魚鱗。
包囲するが如く広がる妖したちは鶴翼。
常識に基づいた兵法でいえば、板東武者たちの圧倒的な不利な陣形での激突だった。
本来であればこうならないように立ち回ることこそ肝要で、包囲されれば武者たちにはもはや退路さえ用意できない。
順当にいけば無尽に増える妖しの前に、いずれは殲滅されるだけだ。
が、これが愚かであるといえばまた異なる。常識だけでは語れないのがひとの生き様、偽りなき武心の為す事なのだから。
命令系統が確立されていない以上、もっとも避けなければいけないのは包囲されることではない。孤立しあい、互いに連携と助けを出来ない状況。
ならばまだ一塊となるのは正しく、陣形を保つ限りはこれ以上に悪い方向に転ぶこともない。
また、魚鱗陣の有効さである機動力と突破力もまたこの状況では優位に動いていた。
武者たちは妖したちの群れを、一点でも突破すればよいのである。
後に控える妖しの棟梁、結界の核を討つことこそ勝利条件。
よって先方へと攻め懸かる武者たちが抜ければ、或いは勝機が見える。
これを為した少女は、しかし、兵法に熟知している訳ではない。
勇敢であろうとしたこと。
矜恃のもとに、退かぬと死戦へと進んだこと。
死を恐れぬ魂が為した希望である。
そんな少女は辿り着いた猟兵へと、鋭く一瞥を向ける。
「――采配は取らない。私はお前達を知らない」
将と在りながら、少女には傲慢さなどなかった。
「お前達が刀や槍を得意とするか、弓や騎馬の名手であるか。陰陽術や他の何かの神秘を手繰るかを知らない。ならば、此処に集ってくれた志を信じるのみ」
ただ真っ直ぐに、澄み渡るような眸を向ける。
戦場となっている此処も妖花に溢れ、少女の気は奪われて、少し冷たい白さを晒しても。
「ただ自由に戦い、斬り拓け。誰が討つのではない。皆で討ち、皆の勝利と為すのだ」
つまり、如何に戦うかは全て猟兵に委ねられた。
自ら血を流さない者へと板東武者たちは靡くまい。
が、志を共にする勇姿であれば共に戦うだろう。
狙うならばただ一点、魚鱗陣の先端で突破を狙うものだが、それだけで事が成るほど戦は単純ではない。
「信じているぞ」
何をすべきか。
激しさを増す戦陣にて、未来を斬り拓く猟兵たちの力が求められた。
====================================================
【プレイング受付は、15日(木)08:31~17日(土)23時頃まで】
● 解説
時刻は夕方。
夕焼けの鮮やかな時間帯。
戦況は板東武者たちに不利な状態です。
鶴翼のように広がり、板東武者たちを包囲する妖しの群れを突破するのが目標です。
無限に増殖する為に殲滅することはできず、此処も妖花の影響を受けています。
魚鱗陣という機動力と突破力に優れた陣形。
それを今更変えることは出来ず、ならば如何に戦うか。
やはり迅速さが求められる一方、出来ることは中央突破だけではありません。
有効となる選択肢の提示は以下の三つ。
お好きな場所での戦いをお選びください。
確実に伝えるなら『先陣』『両翼』『遊撃』とプレイングに頂けると幸いです。
戦況を見てその他で動いても構いません(ただし、有効であるとは限りません)
また、この叢雲鬼たちは無限に増殖するという性質のせいか、叢雲のように霞む怨念の身体であっても、物理攻撃で十全に効果が通ります。
『先陣、中央突破』
魚鱗陣の先端、もっとも激しく戦闘の繰り広げられている場所。
その一点を突破すべく戦い、駆け抜けます。そのまま勝利条件に繋がるとみていいでしょう。
板東武者たちの消耗は激しく、時間が経てば突破力も減っていきます。
迅速に妖しの陣を突き破る術が必要になるでしょう。
距離は殆ど常に至近距離。
・敵兵
こちらにいる敵の武装は刀に槍、更には鎧を纏う様子。
接近戦でその力を発揮するものたち。
・味方
消耗と負傷著しく、敵を突破するのが先か、潰えるのが先かという状態。
ただ士気は非常に高く、死を恐れずに攻め懸かり続けています。
指揮系統は不在の筈ですが、中央突破、前へ攻め懸かるという一念の元、連携はしっかりと。
また、前に進むというのならば猟兵たちとは協力していきます。
『両翼支援』
魚鱗陣の左右に広がる、そのどちらかです。
包囲からの圧力を強烈に受けており、陣と連携が崩壊しないように防衛に専念せざるを得ない状況です。
中央が突破するのが先か、左右が崩れるのが先かという状況。
こちらが少しでも優勢となれば他も勢い付くでしょう。
また猟兵たちが集団戦を突破しても、次の章で妖しの棟梁を討つまで板東武者は耐え続ける必要がある為、戦闘の被害を抑える為にはこの両翼への支援が必要です。
(支援なしでは被害が甚大になる見込みです)
・敵兵
武装は刀に槍、までは中央の敵と同じく。
さらには弓を射ることも出来る為、遠近両方に対応するようです。
・味方
中央ほどに消耗はしていませんが、疲労は強い状態。
また指揮系統の不在の為、どのように守るかという判断と連携も難しい様子。
ただ現れただけの猟兵の力を借りる、或いは、指示に従うのは非常に難しいでしょう。……猟兵もまた、果敢さを示さない限り。
『遊撃対応』
魚鱗陣から離れ、あえて遊撃対応を取ります。
包囲されているからこそ、板東武者たちは敵の遊撃に対応することが出来ません。
例え武者たちが一時的に妖しの群れを退けても、幽霊の騎馬のようなものに乗ったものたちが弓矢を射かけ、牽制と妨害を仕掛けています。
また隙を見せればと横手より強襲をかける為、鶴翼の包囲に直接関わらずとも最も脅威
遊撃を担当する妖しの騎兵たちを一時的であれ退けるか、討つ必要があるでしょう。
戦の花たる騎兵と騎兵の攻防はこちらとも言えます。
・敵兵
幽鬼の如き騎馬に乗った者達。
数は少なめですが、一体、一体が他の者より強力。
機動力が高く包囲陣を駆け回り、隙あらば攻撃して攻め崩す、いわば精鋭兵。
武器は大太刀、槍、薙刀と大型。防具は鎧具足も。
遠距離であれば名弓での騎射をしかけ、近付けば大型の武器で戦うようです。
武富・昇永
『先陣、中央突破』これしかあるまい!
俺は手柄を取りに来たのだ!首級が取れて味方からも俺の活躍がよく見える
中央突破以外に俺の進む道はない!
(UC【陰陽道・装着式神「縹糸威大鎧」】を発動すると{妖切太刀・御首級頂戴丸}で『斬撃波』を放ちながら薙ぎ払い、{伏竹弓・勲功必中撃抜弓}で直線状の敵集団を撃ち抜く)
武者たちよ!俺が薙ぎ払った後に弓で一斉射してくれ!それを繰り返して中央突破を図るぞ!
奴らの反撃が整う前に押して押して押しまくるのだ!
左右からの攻撃は俺の[護廷式神・出世魚ブリ}で防がせるから前だけ向いて進むのだ!
そして数だけ揃った雑魚妖ども!俺の活躍を彩る花となるがいい!
妖魔と武者の戦場。
熾烈さは増し、双方共に臆すことを知らずに挑み続ける。
血煙が渦巻かせながら、それでもと切っ先を向けて武者が狙うは中央突破。
それさえ成れば勝利に手が届くのだと。
負ける訳にはいかないのだと、命を棄てることに恐れなどない武士たち。
「そう。先陣に立ち、果敢に中央突破。これしかあるまい!」
高らかに声を上げるのは武富・昇永(昇鯉・f42970)。
緩やかな足取りで先陣へと辿り着く姿は平安貴族の優雅な風情がある。
が、武富の眸の奥では天にまで昇るのだと意欲が燃え上がっていた。
「俺は手柄を取りに来たのだ!」
武富は戦場に声を響き渡らせながら、最前線へと身を投じる。
敵の首級を取れ、味方からも武富の活躍と勇姿がよく見える場所へ。
つまりは、誰も彼もが武富を認め、更なる高みへと至れる舞台へと身を躍らせるのだ
「中央突破以外に俺の進む道はない!」
梅は百花の先駆け。
ならば斯様にと推して通るのみ。
冬梅図檜扇に描かれる梅花をはらりと泳がせながら、武富が発動させるのは陰陽道・装着式神「縹糸威大鎧」。
全身を御霊式神符の装甲を纏い、身の丈の三倍以上を誇る大鎧姿へと変じたのだ。
両手で構える妖切太刀・御首級頂戴丸もまたより長大に。
武富の出世欲の高まりに応じて刃は鋭く研ぎ澄まされ、その威を語るがごとく刃紋が夕焼けに輝く。
「さて、どのような妖鬼が俺の出世の路を阻めるというのか!」
その心の勢いはまさに意気天衝。
最前線へと踏み込み、妖切太刀を烈風と化して奮う武富。
切っ先はまるで吠え猛るように音の壁を切り裂き、轟音と共に周囲へ衝撃波を放って無数の叢雲鬼たち薙ぎ払う。
されど、そこで留まらず。
武富はさらに踏み込み、身をクズした叢雲鬼へと鋼刃を奔らせる。
一刀の元に身を断たれるは五体もの叢雲鬼。上半身と下半身が分かれれば、如何に鬼であろうと即死は免れない。
確実な滅びを受けて、妖念で紡がれた白き靄が霧散していく。
妖しき鬼たちに走る僅かな童謡。
大鎧纏う巨躯の武富の間合いに入ってはならないのだと、動きを止める一瞬。
その停滞を見逃さず、すかさず伏竹弓・勲功必中撃抜弓へと持ち替える武富。
「それとも、俺の出世の花道を飾る為に此処で散るか!」
きりりと弓の弦が鳴れば、槍の如く巨大な矢が叢雲鬼の群れめがけて飛翔する。
一直線にと射貫く一矢はそのまま叢雲鬼を纏めて射貫き、群れに走る動揺を更に広げていく。
板東武者たちの胸に宿る高揚、勝利への希望。
それを更に大きく燃え広がらせるのだと、武富の号令が続く。
「武者たちよ! 俺が薙ぎ払った後に弓で一斉射してくれ!」
最前線は任せろと、妖切太刀を構えて更に前へと踏み出す武富。
「俺が薙ぎ払った後に弓で一斉射してくれ! それを繰り返して中央突破を図るぞ!」
武富が妖切太刀を薙ぎ払って一面を崩し、武者の弓矢で射止め、また武富が斬り進む。
単純ではあるが、故に効果的。
武富の受ける被害と負傷を計算にいれないのであれば、まさに中央突破の理想でもあった。
「奴らの反撃が整う前に押して押して押しまくるのだ!」
そして戦の先駆けたろうとする武富の心は、決して止まらない。
戦場の華であり、身を立てる武功を求める想いは、妖鬼の群れを前にして霞むものではないのだ。
鼓動と共に脈打ち続けている。
魂が求めているのだと血が滾り、喉の奥でくつと笑みが溢れる。
この一面の叢雲鬼など相手ではない。
武富が求める首級はその先、この白炎の結界陣の核たる妖し。
「いざ、いざ。突き進むのみ!」
そう叫べば中央突破を敢行する武富。
当然、包囲されているのだから正面だけではなく左右からの攻撃も来るが、武富の護廷式神・出世魚ブリが叢雲鬼の攻撃を阻み、ただ前へ、前へと進むことを可能にしていく。
燃え上がる闘志は、尽きる兆しなどありはしない。
板東武者たちと共に突き進む武富を、叢雲鬼の奮う刀や槍では止められない。
御霊式神符の装甲で成る大鎧を斬ることも貫くことも出来ず、弾かれてしまうだけ。
「数だけ揃った雑魚妖ども!」
無尽蔵とも思える叢雲鬼たちを前にして、大きく声を響かせる武富。
そして、この先で座す妖しの棟梁よ。
「俺の活躍を彩る花となるがいい!」
そして散れよ。
我が出世を祝うが如く。
妖切太刀の一閃を以て、白き靄と化していく叢雲鬼の群れ。
その中央を斬り拓き、勝利へと至る路と為し、武富は一番槍とばかりに突き進む。
大成功
🔵🔵🔵

桜雨・カイ
『両翼支援』
ここを崩されるわけにはいかない。
だが守りと攻めを両立させようとするとすれば、斬り拓く力も発揮しずらく、何より時間がかかれば生命も削られていく
ならば…
「錬成カミヤドリ」発動
器物(人形)の姿の錬成体はもちろん攻撃もするが、第一の目的は盾替わり。動く盾となって板東武者に向けられた攻撃を受ける
ヤドリガミである自分は、器物を破壊されない限りは錬成体も…そして私自身も倒れる事はありません。
錬成体を倒されても、気力が続く限り何度も錬成します。
私は、斬り拓こうとするあなた達の思いを止めさせない
あなたたちを死なせない
だからそのまま進んでください。
澄み渡る空に似る青い双眸。
穏やかに、静かに。
けれど、ひとつとて揺れることのない想いの眼差し。
見つめる先は、斃すべき敵の群れる中央ではなく、護るべきひとのいる両翼。
包囲され圧力をかけられ、攻められ続けている。
かつ、先陣のように為すべきことを、希望として抱くことも出来ずに耐えるのはどれほどに苦しいことだろうか。
だが、それは他の仲間を護ることでもあった。
そういうひとこそ、生きて欲しいのだと。
桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)は青空のような眸に、優しくも強い情を浮かばせる。
――ここを崩させる訳にはいかない。
一度崩れれば、あとは将棋倒しのように被害が拡大していくだろう。
立て直すことは不可能であり、叢雲鬼たちによる殲滅の始まりだ。
「だが……」
守りと攻めを両立しようとするのは困難。
少しでも守りを固めれば、逆に斬り拓く力を発揮し辛くなるもの。
個人ならまだしも、陣形とはそういうもの。
どのように戦うという貌を定めるもの。ひとたびに決まれば、変えることはあまりにも難しい。
何より時間をかければかけるほど、生命は削られていくのだ。
今回では迅速に攻めることこそが重要とされる理由でもある。
もっとマシで適切な陣形。攻守のバランスが優れているものがあったとしても、組み替える時間がそのまま妖花の蝕むによる消耗に繋がる。
「ならば……」
息をひとつ零すカイ。
理不尽を払うのだと。
妖鬼たちに命を奪われるなんて、決して許さないのだと。
憎むことのない心は静かに、怒りや攻撃ではなく、ただ護るという願いでその業を紡ぐ。
かたりと、ヒトのカタチをしたものが動く。
ひとつ、ふたつなどではない。
百を超える人形が立ち上がり、命を守る為にと戦場に現れていた。
カイの錬成カミヤドリによって生み出された錬成体だ。
両翼で戦う板東武者たちを助けるべく走り出し、叢雲鬼たちへと攻め懸かる。
ただ、それは妖鬼の撃滅を目標とはしていない。
あくまで板東武者を護る為に、彼らは在るのだ。
疲労に息を荒げた板東武者の盾となるべく、躍り出た人形は叢雲鬼との間に割って入る。
一撃を与える人形。だが、代わりに妖鬼の槍の一撃を受ける。
あくまで動く盾。板東武者たちを守り、助ける為にカイの力で動くのだ。
「おま、えは……?」
武者が問い掛けるが、人形からの応えはない。
それでも消耗と負傷の著しい武者にとってはこの上ない助けだった。
「……かたじけない」
ひとときであれ、前線を担うものが変われば休むことができる。
妖花に奪われた力、傷つけられた負傷。
それらは癒えることはなくとも、息を整え、気力を湧かせ、また再びと戦う為の意志を備えさせることが出来る。
不退転。その想いは、常に抱き続けられるものではないのだから。
ただ、それはカイの願いとは少しだけ違うから。
「いいえ」
念力で百を超える人形を操りながら、カイは戦場とは思えない穏やかな声を紡ぐ。
「生きてください」
戦場で死ぬ為に産まれた命などないのだから。
ひとつ、ひとつの人生を生きて、進んで欲しい。
まだ終わるものではない筈だから、未来へと歩んで欲しい。
「この戦場が、人生の終わりである筈はないんですから」
幾つかの人形の錬成体が壊されたが、カイにダメージが及ぶことはない。
むしろ、人形の躰の一部が破壊されても問題はない。
腕が断たれ、頭を貫かれ、左胸が粉砕てもカイの操る人形は武者たちを守ることを決して止めない。
気力の続く限り守り続けてみせるとと、カイは静かに心を燃やしているのだから。
「私は、斬り拓こうとするあなた達の思いを止めさせない」
死戦へと挑む板東武者たち。
その思いを、心を、止めさせることも、阻ませることもさせはしない。
死して尚と彼らは云うだろう。
だが、それは死にたい訳ではない。
自分が、友が、大切なひとが生き抜く為にと死を恐れないだけ。
そんな果敢なる想いを妖鬼の手で穢させるなんて、決してカイは許せない。
「あなたたちを死なせない」
死してなお消えることのない魂を抱くというのなら。
生きて更に、その魂で更なるひとを救って欲しい。
幸せに満ちた人生を掴むことを。
願いと信念の儘に進むことを。
そうしてひととして生き続けて欲しいのだ。
「だからそのまま進んでください」
カイは決して失わせたりしない。
妖花に妖鬼、更なる災禍が待ち受けていようとも。
進むべき路を見つめてカイは頷く。
失われてよいものなど、此処にはひとつたりともないのだから。
あの先には必ず幸せがあって、辿り着ける筈なのだと、果敢に進み続ける板東武者たちへとカイは祈る。
そう。
恐れることなく進み続ける心なら、どんな場所と結末にだって辿り着けるのだから。
大成功
🔵🔵🔵
勧禅寺・宗大
アドリブ連携可
『遊撃対応』
味方が固まっていて強いのが離れてるなら好都合、
離れてないと味方に被害が出る物でね。
武者達に一応声を掛け、
充分に距離を取ったら鬼の護邸の肩に乗って【鬼神乱舞】。
敵味方区別なく近づく物は容赦なく鬼の手が何発も飛んでくる大技。
多少距離が離れていようが、
遠距離攻撃があろうが護邸の視界の周囲は全て塵と化す。
先に潰してしまえば反撃は来ないだろ。
そして鬼の護邸に妖花ごときが勝てると思うな。
さあ、厄介なのが武者達から離れた所に現れたぞ
何もせずなら遊撃隊を吹き飛ばして親玉の所に向かわせて貰うぞと
威しながら進む事で併撃の圧や混乱を誘おうかね。
今度は貴様らが横からの攻撃に怯える番ぞ。
魚鱗の陣にて、雲霞の如く群がる鬼に抗う板東武者たち。
斬って、斬って、斬り続けて進んでもなお尽きない。
武者たちの武勇だけでは足りないのだと、無尽にと増える叢雲鬼が立ち塞がる。
鶴翼として包囲するそんな脅威もまたひとつ。
が、あえて勧禅寺・宗大(平安貴族(従四位上)の幻惑の陰陽師・f43235)は武者たちの陣より離れた外に立つ。
孤立無援であり、遊撃にと走る騎兵の叢雲鬼は精兵。
だが、それこそ勧禅寺の狙いは為せるというものだった。
「味方が固まっていて、強いのが離れてるなら好都合」
ひらりと束帯の袖を翻してみせる勧禅寺。
その背に従うのは美しい鬼だ。
朽ちた祠より引き取りし護邸が、子供のように懐いた笑みを勧禅寺へと向けている。
勧禅寺もまた、老獪さと純粋さを混ぜたような。
水と油なはずのふたつの表情をひとつに表したような、不思議な貌で笑って見せる。
ああ、確かに。
陰と陽。相容れぬふたつを扱うが、陰陽師。
「離れてないと味方に被害が出る物でね」
さらりと剣呑なことを口にすると、勧禅寺は近くにいた武者たちに声をかけ、従える鬼である護邸の肩に乗り、十分に過ぎる距離を取る。
「さて、ひとつ術法をご覧にいれよう」
ひらりと勧禅寺の指が躍り、何かしらの印を描く。
されど、その意味。そこにある秘奥を説くものは誰ひとりとして此処にはおらず。
「――鬼の力を存分に揮え護邸……目の前の敵を滅せ!」
故に護邸を巨大化し、その力を高める術を止める者はいないのだ。
鬼が吠え、その腕を鳴らす。
近付く者には容赦なく鬼の手が荒れ狂う範囲攻撃。
加えて敵味方の区別という縛りを消せば、三度と走る鬼の力。
怪力乱神たる護邸の姿が戦場を轟かす。
視界に入るもの、触れるものと、悉くを塵と化す。
「先に潰してしまえば、反撃も来るまい」
どれほどに速く駆け抜けようが、如何に遠くから射ようが、全ては圧倒的な力には叶わない。
僅かに喉を鳴らして笑う勧禅寺。
やはりというべきか。
その貌に浮かぶのは勝利を喜ぶ子供のような、それでいて無常さに悲しむ老人めいた複雑な表情。
笑顔であるということは確かではあるものの、見るものを惑わす姿だ。
幻惑たる笑み。見ているだけで、心に迷いがうまれてしまいそうな程に。
「さて」
妖花が鬼の手の力と勢いで荒れ狂い、ふたりを包むが。
「鬼の護邸に妖花ごときが勝てると思うな」
幾らか力を奪われても、まだ肩に勧禅寺を乗せた護邸は平然としている。
花如きに散らされるものではないと視線を巡らせれば、残る叢雲鬼たちが遠くへと離れていく。
叶わぬならば引きつける。
或いは、遠距離より一方的に射るというのもまた正しい戦法だろう。
それこそ遊撃の務め。ただし、この場合において死へと跳び込むことである。
「さあ、厄介なのが武者達から離れた所に現れたぞ」
護邸の間合いの外。つまり処、約200メートルは超えた処からの騎射を受けながらも進む護邸。
和弓の射程の長さを甘くみたのはあるが、迫る矢を悠然と鬼の腕が打ち払いながら進む。
「何もせずなら遊撃隊を吹き飛ばして親玉の所に向かわせて貰うぞ、と」
このまま遊撃の騎兵を追いかけ続けても、勧禅寺としては善しだ。
何しろ遊撃隊がどれほど弓矢を射かけても、つまりは勧禅寺が攻撃を引き受けているということ。その間に武者たちの本体は安全が確保されている。
逆に遊撃が距離を詰めないというのなら。威嚇しながら進むことで武者たちと槍を合わせる叢雲鬼へと併戦の圧を与え、混乱を招かせる。
まさに叢雲鬼たちが先ほどまでやっていた遊撃の威を示しているのだ。
が、叢雲鬼たちは板東武者ではない。
命を棄てて跳び込む勇はあらず、信念もなく、ならば怯懦にて足が鈍り、留まるのみ。
騎兵たちが死を厭わず、勧禅寺を討ちに来ることなどあるまい。
これもまた幻惑の陰陽師の為した術、計の陣といえるだろう。
「今度は貴様らが横からの攻撃に怯える番ぞ」
兵であれ、鬼であれ。
戦で迷いに転べば、後は敗北へと落ちるだけ。
子供の姿で老獪なる謀りを浮かべて、叢雲鬼たちさえ惑わしながら勧禅寺はゆっくりと笑う。
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
『先陣』
元より勝手な介入だ
此の刃を振るうに足る戦場へと足を向けただけの事
好きに遣らせて貰う――が、「お前達の戦」の邪魔をする気も無い
唯、前進のみを求むるならば刮目せよ
“一押し”が必要とあらば、其れを為す“土台”こそ肝要
征射転遍――宿れ獄炎、万象を蝕め
斬撃を前方へと集中させ敵陣を穿つ事に特化させるとしよう
攻撃は見切り躱すも最小限に努め
カウンターで以って可能な限り斬撃で叩き返して呉れる
……己が恐怖に溺れるがいい
常に全力の踏み込みで進むは只管に前へ
一穴通れば其れで十分……後は広げるのみだ
唯人の力と見縊るなかれと心得よ
喩え水滴で在ろうと岩をも穿つ
況や武士の一意専心が過去の残滓如きに後れを取るものか
より熾烈さを増していく戦場。
劣勢の先に絶望が顔を覗かせていた戦いも、猟兵の助力を受けて状況を覆しはじめている。
燃やす武心、矜恃にこそ強さはあるのか。
無尽に増える妖鬼を前にして、恐れることなく突き進む者たち。
ああ、戦の熱はこうで在るものと、ひとりの漢は更に歩みゆく。
石榴の如き赤の隻眼に何を浮かべるかは、誰も知らず。
胸に懐いた誓いをまた身に溶かして巡らせるのだと、馨しき紫煙を燻らせる。
唇に挟んだ、ひとつの煙草。
ただひとつでは足りないのだと、一瞬だけ貌に揺らぎを見せる。
愛しき誓いよ。
どのような路を往けど、繋ぐ願いたる紫煙の匂いよ。
またお前の唇に添えたひとつに火を寄せて渡すべく、戦を越えるのだと漢の隻眼に愛しさと痛みの混ざる情念が沸き立つ。
されど。
「元より勝手な介入だ」
それはほんの刹那の出来事。
剣光瞬き、刀に影が射すよりも短い出来事。
この漢はただひとりの前でしか真実の表情を浮かべることはないのだから。
見えてもそれは残影。
愛しさと痛みの名残香でしかない。
そんな匂いを微かに纏う漢の名を鷲生・嵯泉(烈志・f05845)と云った。
「此の刃を振るうに足る戦場へと足を向けただけの事」
だが、鷲生は凜然たる剣士である。
武に生きる侍であり、烈士なのだ。
哀愁も追憶も瞬きひとつで払い落とし、携える秋水の冴え渡る刀身より鋭い声色で告げる。
戦場であれば、敵が過去の影が蝕むものであれば、ただ斬るのみ。
曇ることのない戦意の灯る隻眼に捉えられただけで、常人は臆すだろう。
「好きに遣らせて貰う」
だが。
隻眼で見据えられた若き将たる少女もまた鋭い眼差しで見つめ返す様子に、硬い表情を変えることなく。
ただ鷲生は声の調子を僅かに和らげる。
「――が、『お前達の戦』の邪魔をする気も無い」
それで善いのだ。
鷲生も少女も、また等しく武士。
その棟梁である以上、高潔を以て鳴らねばならない。
即ち、戦場で肩を並べる者を上におかず、さりとて下に置かず。
武士である以前に、我らは人なのだと対等に見つめ合うこと。
まず肝心なそれだけでも抱くならば善し。
後は生きる路で自ずと大切なものを拾い上げるだろうと、鷲生は未来を斬り拓くべく叢雲鬼の群れへと切っ先を向ける。
「唯、前進のみを求むるならば刮目せよ」
勇猛と誇り高さ。
強さのみで、この境地には至れぬという烈士の刃が斜陽の裡で輝く。
――“一押し”が必要とあらば、其れを為す“土台”こそ肝要。
まさに、状況は分水嶺。
此処を越えれば勝機を得るが、此処で挫ければ敗北が待つ。
ならばこその一押しとして武芸を奮うべく、秋水を構えて峻烈な息を吐く鷲生。
「征射転遍――宿れ獄炎、万象を蝕め」
秋水より放たれるは、獄炎を纏う凄絶なる斬刃。
刀身より無数に放たれ、前方に集約して叢雲鬼の敵陣を穿つことに特化した一閃だ。
鷲生の振るう秋水の一刀より百を越える深紅の炎刃が叢雲鬼たちを切り裂き、過ぎゆく。
まさに烈火繚乱。
戦陣を灼き斬る威烈の刃。
如何なる妖魔と云えど、その身を散らしていく。
そうして獄炎が踊る路を鷲生は悠然と進む。
「どうした。鬼が臆したか?」
問い掛けに赫怒を示すかのように叢雲鬼の一体が刀で斬り懸かるが、太刀筋を見切られ、紙一重で躱してみせる鷲生。
いいや、それどころか回避の動きと勢いをそのまま巡らせ、後の先でと放つ鋼刃一閃。
鎧ごと両断し、叢雲鬼を煙草の煙よりなお薄いものへと変じさせていく。
つい、と鋭く戦場を巡る鷲生の赤き隻眼。
浮き足立っていた叢雲鬼たちが一転する。
怒りに、憎悪にと怨念から成る鬼の躰を動かし、鷲生ただひとりを討つべく無数の鬼が武器を振りかざす。
だが、本質的にそれは恐怖だ。
叶わないと感じたが故に、対峙することを恐れ、命を棄てて楽になろうとする弱者の行いに違いない。
鬼の妄執の底に、湧き上がる自滅の願望。
それもまた、鷲生の放った獄炎の侵蝕の効果。
他者に恐怖を抱かせ、自らを破滅へと向かわせる筈の鬼念の変容転変。
鷲生が行使した、白刃にて映し返す呪詛返しの技に他ならない。
「……己が恐怖に溺れるがいい」
或いは、生前の最期に抱いた恐怖に再び溺れるのか。
いいや現実の鷲生はさらに苛烈。
鬼の刃を躱しながら全力で踏み込み、大地へと脚を付けるや否や峻烈なる刃を奔らせて鬼を断つ。
擦れ違いざまにひとつを斬れば、そのまま流れるようにふたつ、みっつと鬼の首を跳ね飛びし、只ひたすらに前へと進み続ける。
「鬼にどうして、今を生きる人の路を阻めると思ったか」
――知らぬというのならば、この剣刃を以て魂にまで刻んで呉れよう。
秋水の冴え渡る刃金が鳴り響く度に叢雲鬼が断たれ、斬られ、さらにさらにと前へと路が斬り拓かれる。
「一穴通れば其れで十分……」
身ごと旋回させ、群がる叢雲鬼たちを斬り払う鷲生。
斜陽の光を金の色に弾く琥珀の髪が微かに揺れる。
「後は広げるのみだ」
そうして鷲生は秋水を構え、斬り、躱してはまた斬る。
最初に見せた異能の術法に頼らない、鬼を斬る程に至った純然たる人の武技である。
さけど。
「唯、人の力と見縊るなかれと心得よ」
鬼の群れを斬り拓き、突破しようとするのはただのひとの腕。
誰かを掴み、繋ぎ、明日へと導いていく為の腕と身体でしかない。
「喩え水滴で在ろうと岩をも穿つ」
携える秋水が如何な銘刀であれ、なまくらであっても等しき結果が此処に出されるだけだ。
刀に通る芯はあくまで魂。
鋭利なる刃は、如何に己の信念を研ぎ澄ましたかに他ならないのだから。
「況や武士の一意専心が過去の残滓如きに後れを取るものか」
鷲生の剣刃は鬼を斬り、勝利の未来へと至るのだと、秋水が夕陽を反射して鮮烈な光を輝かせた。
烈士の刃、まさに覇軍の星の如き。
大成功
🔵🔵🔵
シモーヌ・イルネージュ
『先陣、中央突破』
敵が掃いて捨てるほどいるな!
これだけいれば、わざわざ狙う必要もないぐらいだ
もちろん一番キツイところをやるよ、中央だ。
まずは防御を固めよう。相手の数が多いから、さすがに全部は避けられないし、派手なケガをくらうわけにもいかない。
UC【重装鎧甲】を発動して、動力甲冑を強化しよう。
これで戦場にいられる時間も長くできるだろ。
あとは正面にいるアヤカシ達を掃除だな。
今回の相手なら二槍で対応できそうだ。
黒槍と銀槍で【破邪】【焼却】【なぎ払い】していこう。
アヤカシの叢雲包みには他の侍たちもいる。気にせずに正面の敵を潰していけば、自然と解けるだろう
数え切れない程の白き影。
尽きる事があるのか。
これを踏破することができるのか。
並の兵士であれば、その恐れに身を竦ませる場だというのに。
冷たく澄み渡る碧眼が見つめる戦場は、もっとも熾烈極まる先陣中央。
ああ、あそこがいい。
苛烈な戦場でこそ、魔狼が抱く闘争の心は吠えるのだ。
「敵が掃いて捨てるほどいるな!」
氷原のような冷たい銀の髪を靡かせ、真っ直ぐに疾走するのはシモーヌ・イルネージュ(月影の戦士・f38176)。
ふたりの槍を構え、一気に先陣へと躍り出る。
その最中で采配を飛ばす少女の姿が眼に入るが、今は二の次。
もしも共に生き残ることがあれば絡むこともできるだろう。
そして戦場を共にした者を生き残らせることこそ、傭兵の務めでもある。
だかこそ見つめる先は、剣戟の音の鳴り響き続ける中央へ。
「これだけいれば、わざわざ狙う必要もないぐらいだ」
シモーヌの通り。目の前にいる者を悉く討てばよいだけ。
穂先で貫き、柄で薙ぎ払い、さらに前へと進めば敵は更に出る。
そうして繰り返した先に勝利があるというのなら、鼓動の高鳴りもまた大きくなっていくというもの。
「もちろん一番キツイところをやるよ、他なんてある筈がない。中央突破だ」
シモーヌの頭の中には、難易度というものが存在しない。
やるか、やらないか。
そのふたつしかないのだから、決して臆すこともない。
ある意味ではシモーヌは常に不退転。
そして、そんな勇猛なシモーヌの気配を同輩と見たのか板東武者たちもシモーヌの麗しき姿に声を掛ける。
「共に勝利を!」
「首級を争おうぞ!」
名も知らないが、シモーヌは頷くばかり。
最前線へと辿り着く前にと発動させるのはUC【重装鎧甲】。
無数の敵へと切り込むのだ。全てを避けるひとは出来ず、不運な偶然が重なり、派手な負傷を受けて後に響かせる訳にもいかない。
魔獣を素材に作られ、着用者を天使核の力で運動能力を高める鎧、強化動力甲冑『アリアージュ』を防御の長けた形へと変えるシモーヌ。
これで十分な時間、最前線で戦い続けられるだろう。
守りよりも攻勢を重視し、突き進む魔狼の武を示すことが出来る。
爪牙で切り裂くように、叢雲鬼たちの群れを引き裂くのだ。
「あとは正面にいるアヤカシ達を掃除だな」
最後の間合いをジェット噴射で一気に間合いを詰め、ふたつの槍を自在に操るシモーヌ。
右手には黒槍『新月極光』。その穂先には闇夜を照らすオーロラの如く、ゆらゆらと揺れる光を湛える黒檀の槍。
踏み込みと同時に刺突を放ち、叢雲鬼の頸を穿つ。
周囲の妖鬼たちを牽制すべく左手で薙ぎ払うのは銀槍『狼月天穿』。
魔を祓う為に祝福された白銀の短槍は、魔術と神秘だけではなく機械の技術を搭載されている。
それを示すように火を噴いたロケットエンジンの出力にシモーヌは身を任せ、激しい旋風のようにと回転しながら、その勢いを乗せて穂先を走らせる。
黒槍と銀槍。共に破邪の炎を宿し、叢雲鬼の身体を刃で斬るだけではなく、妖気と怨念さえをも焼却していく。
ふたつの槍が渦巻かせる、冷たき破邪の白炎渦。
その中央で氷の色彩を纏うシモーヌが前へ、前へと進みながら黒槍と銀槍で叢雲鬼を確実に屠っていく。
一閃と銀が輝けば叢雲鬼の心の臓が貫かれ、内側から身を焼かれる。
一条の影となって黒が走り抜ければ、なぎ払われた叢雲鬼の首がまとめて三つと地へと落ちる。
妖鬼が全身を実体なき叢雲と化して魔狼の戦士を包み込もうとするが、強化動力甲冑『アリアージュ』で防御を高めたシモーヌは意に介さない。
継続ダメージはあっても、それは微々としたもの。
それならと地を踏みしめ、更に眼前の敵へと二槍での一撃を放つ。
ならば反撃はシモーヌへと無数の妖が放つ叢雲包みの標的となるが、不敵に笑ってみせる月影の戦乙女。
「アタシはひとりじゃないんだよ?」
その通り、シモーヌは単騎ではないのだ。
その姿は敵の攻撃を一手に引き受けながら突き進む重戦車。
容易な攻撃では揺らぐことさえなく、果敢にと攻めながら進むからこそ敵の注意を引きつける。
結果として周囲の板東武者たちへの攻勢は緩み、自在に動けるようになった侍の刃が叢雲鬼を討つ。
そうすれば最前線を進むシモーヌへの束縛も緩み、常にと正面の敵を黒と銀の穂先で捕らえて、屠るのみ。
「何も気にすることはないね」
勇猛にして美麗。
シモーヌは冷氷の美しさを纏って、血と白煙の戦場を斬り拓いていく。
「敵を討てば自然と融ける。無数に思えても、戦って進み続ければ活路がある」
絶望などに屈しない凜々しきシモーヌの声。
これが口に出すだけならば戦場で意味をなさないだろう。
が、我が身を省みずに突き進むシモーヌが言うからこそ、板東武者たちも真実であるのだと最後の気力を振り絞り、武心を燃やす。
士気は高まるばかり。
あと少しで踏破できるというのならばと、板東武者が声をあければ。
「さあ、勝利へと行こうか。アタシについて来てくれよ。取り残されて、死神なんかに捕まるんじゃないよ!」
黒槍『新月極光』を空へと突き上げれば、穂先に宿ったオーロラの如き幻想的な光が周囲へと広がる。
勝利を照らすように。
その美しい光で、あらゆる妖と恐怖、死さえも退けるように。
月影の戦士はその美貌に微笑みを浮かべるのだ。
大成功
🔵🔵🔵

ミルナ・シャイン
『両翼支援』
わたくしは護りの騎士、こちらで防衛を担いましょう。
引き続き【召喚術】で呼び出した星霊グランスティード『パライバ』に【騎乗】、板東武者達と並走しながら「シールドバリア」発動。皆様の防御力と治癒力を増強し【継戦能力】を引き上げましょう。
透明な盾越しに戦況を確認、敵の武器は【武器巨大化】で巨大化した盾で防ぎ、雷属性を宿した細身剣から【電撃】を放って【範囲攻撃】
叢雲に締め付けられては敵いませんわね、深海のオーラを纏い【オーラ防御】。剣を振るって纏わりつく雲を【吹き飛ばし】ますわ。
この身は盾、倒れるわけにいきませんの!
皆様はわたくしが守ります。だから生き抜いて。守るべきものを守り抜くために。
生と死の混じり合う戦場でこそ、矜恃は輝く。
どのように在りたいのか。
どんな風にと生きて、戦いたいのか。
他人を思う姿の数は百花に劣らず、自らの胸に抱く願いは千の星彩にも勝るほど。
だからこれはミルナ・シャイン(トロピカルラグーン・f34969)の選択であり、美しい祈りの形。
「わたくしは護りの騎士」
穏やかに告げるは姫の姿。
されど、美しく透き通った細身剣を構えるのは、天に守護を誓う騎士のもの。
包囲に耐える両翼に助力すべく、ミルナは貌を向ける。
「こちらで防衛を担いましょう」
引き続き召喚術で呼び出した星霊グランスティード『パライバ』へと騎乗し、銀胴武者たちと並走するミルナ。
そのまま発動するのはシールドバリア。
手にした盾よりミルナの後方へと広範囲に渡る防護結界で武者たちを覆い、防御力と治癒力を溜めていく。
水か水晶のような清らかな透明感のある盾だった。
その裡から神秘的な光を煌めかせて、妖に蝕まれる世界にそっと優しき想いで寄り添うミルナ。
必ず護る。
目指す先は誰も失われないハッピーエンド。
どんなに美しい宝石のような結末であれ、誰かが喪われた傷跡があれば、それは悲しい記憶にしかならないのだから。
そんな想いで呼び起こされた結界の防御は勿論、治癒の力はこの状況で効果的だ。
肉体的な負傷は云うでもなく、体力や気力の消耗とて包囲されている状況では激しくなる。
「なら、後は。……ひとつ息をつく為の時間も稼ぎましょう」
透明な盾越しに戦況を確認しながら『パライバ』に乗って左翼の最前線へと進むミルナ。
叢雲鬼が各々の武器を振りかざし、怨念を迸らせて刃で切り刻もうとするが、ミルナは巨大化した盾でしっかりと受け止め防ぐ。
重い衝撃に揺さぶれ、息が詰まる。
それでもミルナは細身剣を空へと掲げながら、高らかに告げる。
「では、こちらからですわ」
刀身に纏うは、天の怒りたる雷撃だ。
細身剣が振るわれたかと思えば、雷鳴を轟かせて広範囲へと放たれる稲妻。
武者たちを包囲する為に密集しているからこそ叢雲鬼たちに逃れる術はなく、瞬く間に身を灼かれていく。
それでもと一撃で絶命に至らなかった叢雲鬼が、自らの身体を雲と化してミルナを包み込み、締め付けようとする。
「流石に、それをされては叶いませんね」
盾では防げず、継続したダメージを受けていくのは騎士たるミルナの防ぐべきこと。
ならばと深海のオーラを纏い、防御として叢雲包みが身に届くのを阻むミルナ。
美しい深青の光彩がミルナを包み込み、怨念ばかりの白雲が肌に触れることを許さない。
そのまま二体、三体と叢雲包みを行っていく妖鬼が増えていくが、対処しきれなくる前にとミルナは雷撃を纏う細身剣を疾風の如く振るい、叢雲を吹き飛ばして遠ざける。
翻る刃は迅雷。再び透き通る刀身から稲妻を放って、叢雲となっていた妖たちを灼き払う。
天の光を刃として振るい、海の色を衣と纏うミルナ。
美しく澄んだ天と海には叢雲鬼たちでは歯が立たず、毅然と『パライバ』と共に立つミルナの前に攻めあぐねる。
「この身は盾、倒れるわけにいきませんの!」
そうしてミルナが盾を構えて立つ限り、武者たちには防護と治癒が施されるのだ。
武者たちはミルナが作った時間で息を整え、傷を手当てし。
また戦えるのだと、膝をつきかけた身体に自ら鼓舞して、再度と戦意を燃え上がらせる。
ましてや目の前で、自らを以て盾とするのは麗しき騎士の乙女。
臆すことを恥じる板東武者であるなら、ミルナに負けてはならないと勇猛さを更に奮わせるのは当然のことでもあった。
この義とご恩、必ずや勝利で報いてみせる。
そう逸る武者たちを、ミルナは美しい切っ先で制してみせた。
「皆様はわたくしが守ります」
天と海。
いずれは交わり、ひとつの光と成ると歌ったのは誰だっただろうか。
今のミルナはまさにそう。
煌めく青海の光を纏い、天雷の剣を手に、水晶の盾を掲げる。
そんなミルナが願うのは、ただひとつ。
これだけは譲れないという、優しくも誇り高い夢をひとつ、胸に抱くのだ。
「だから生き抜いて。守るべきものを守り抜くために」
生きて欲しい。
幸せを手にするため。
未来へと進み、まだ知らない幸福を。
ハッピーエンドを迎えて欲しいから。
それは死を厭わぬことで成り立つ板東武者には、理解しがたいものだったかもしれない。
生き様として死ぬことを是とする、武者の生き方とは相容れないものがあったかもしれない。
それでも。
ミルナの心は偽りなきもの。
ただ、ただと誠が紡いだ人魚姫の声色に、祈りに、板東武者たちも心を揺らされた。
生きるぞ、と。
この戦いを越えて、生き抜くぞ、と。
命を棄てても戦い、勝とうとした者たちが、新たな希望と願いを抱く。
それこそがきっと、ハッピーエンドに辿り着くための絶対条件。
たったひとりで、幸福に至ることなんできないから。
ええ、みんなでと。
盾を構え、剣を奮い、ミルナは蒼玉のような双眸で未来の待つ彼方を見つめる。
大成功
🔵🔵🔵
月白・雪音
…承知致しました。置かれた信に応えるが我が務めなれば。
中央を抜けるも両翼を護るもそれを妨げる者が居る…。
なれば私は遊撃へ。
敵は精鋭、厳しい戦となりましょうが、故にこそ此処を制すれば大きな一歩となりましょう。
UC発動、残像の速度にて騎馬へ肉薄しつつ怪力、グラップルの無手格闘にて戦闘展開
野生の勘、見切りで相手の攻撃を感知し弓を射掛けられれば掴み取り急所を狙い投げ返し、
近接すればカウンターの要領で武器を破壊しつつ、部位破壊も交えた浸透打撃で以て防具の上より内部を破壊し仕留める
アイテム『氷柱芯』を用いた騎馬よりの引き落としも交えて
…命を賭さねば勝てぬが戦。
されど、散らす命を許容するかはまた別の話です。
狂乱の渦巻く戦において。
鳴り止まない剣戟に音に、雷鳴の如き騎馬の足音。
その裡で雪のように静かに、月のように澄み渡る姿と声がひとつ。
「……承知致しました」
何処までも静謐に、揺れることなく。
真白い姿で戦場を渡るのは、月白・雪音(
月輪氷華・f29413)。
戦場にあっても礼節を忘れず。
生と死の転び、混じり合う場だからこそ身を正す。
それはとても長い時間の先で、この板東武者たちが心を研ぎ澄まして得る心境のひとつ。
武の礼法は畢竟、命の奪い方に辿り着くのだから。
そこに悔いることなどないように。
奪う側も、奪われる側も、仁をおいて勇を燃やし、義があるからこそと忠を尽くす。
「置かれた信に応えるが我が務めなれば」
ならば雪音は、此処に信をもって進むのだと。
静かな歩みと声をもって魚鱗の陣を抜ける。
深紅の双眸が見つめるのは遊撃に駆ける騎兵たち。
中央に抜けるも両翼を護るも、それを様抱ける者がいる。
ともすれば中央突破が叶っても、そこに横槍を入れて陣を切り裂かれかねない。
「ならば私は遊撃へ」
云うまでもなく孤立無援。
自らの武のみが問われる場へと、寸鉄を帯びぬ無手で挑む雪音だった。
敵からすれば、儚きものと憶えるだろう。
浮いた兵から狩るのだと騎兵は殺到し、雪音であっても無傷で越えられるとは思っていない。
「敵は精鋭、厳しい戦となりましょうが……」
一切の奢りなく、雪音を見つけて騎馬を駆る叢雲鬼たちの姿を見つめて、告げる。
「……故にこそ此処を制すれば大きな一歩となりましょう」
だからこそ十全のこの武を奮うのだと。
弱きヒトが至りし闘争の極致、戦の粋を此処にと拳戦への祈りが結ばれる。
これは殺める技。
されど、今を生きて未来と共に進む為の業。
すっと身構えて叢雲鬼の姿を捉える雪音が、冷たい吐息を零す。
瞬間、放たれるは大弓からの一矢。
まずは機先を奪うのだと、音速を超えた鏃が雪音を襲うが、ひらりと身躱して避ける。
いいや、それだけではない。
雪音の繊手が飛翔する矢を掴み取り、そのまま遠方の叢雲鬼へと投げ返す。
「騎兵の急所。悉くは馬なれば」
矮躯からは想像出来ないほどの怪力で投じられた矢は、騎馬の額へと突き刺さる。
どうっと崩れ落ちる馬と兵。
それを尻目にしながら、なお和弓で射かけるのはまさに鬼の執念だろう。
さけど、それは舞う雪を射落とすこと叶わない。
ひらり、ふわりと粉雪が戯れるようにと残像を伴って躱す雪音。
肌を、身を鏃が掠め、血を流すが死には至らない所詮は死に至る筈もない傷だ。そんなものに雪音が構う筈もなく、自ら距離を詰めていく。
ならばと叢雲鬼たちも各々の武器を構える。
遠距離からの射撃では埒があかない。
雪の姿をなぎ払うのみと急接近した叢雲鬼が、馬上より薙刀で斬り懸かる。
が、それも雪音の冷ややかな深紅の双眸に捉えられている。
斬撃の軌道を見切り、身を旋回させながら放つはカウンターでの裏拳。狙うは薙刀の螻蛄首だ。
刃金と木材の接点を雪音に狙われれば、容易く折れて砕ける叢雲鬼の薙刀。
擦れ違うより早くと、裏拳に連動して軽やかに跳躍した雪音の蹴りが叢雲鬼の胴へと叩き込まれる。
この時代の騎兵が纏う、堅固なる武者鎧。
だがそんなものとて意に介さぬと、浸透撃は叢雲鬼の防具の上から直接、臓腑へと衝撃を与えて内部を破壊していく。
叢雲鬼の眼から、口から、耳からと爆ぜるように溢れる血。
胃と腸を壊すだけではなく、毛細血管に至るまで染み渡り、響き渡るは雪音の繰り出す死の音色だ。
そして、それはひとつに留まらず、旋律となって連なっていく。
とん、と馬上に着地し、雪音は更に飛ぶ。
次なる叢雲鬼の胸部へと、再び鎧を無視する浸透撃の掌底を叩き込み、内側から心の蔵を粉砕すれば、更に次へと。
瞬く間に叢雲鬼の姿を血で染め、死に至らしめ、霧散させていく雪音の武。
近接、雪音の肉体の届く範囲は死神の間合いであると理解する頃には半数が討ち取られ、叢雲鬼たちが一気に離脱していく。
「……流石は騎馬」
みすみす逃げゆく敵を逃す雪音ではない。
が、騎兵と歩兵の限界か。
距離は少しずつ離され、再び弓の間合いとなってしまう。
雪音は残像の技術は持てど、それは技のひとつ。
速さに起因し、由来し、高めるものではない。となれば、騎兵が相手となれば、せめて早業や駆け抜ける術が必要となる。
或いは軍馬に近しいものか。
ただ半数を討ち取られれば、雪音が相手にした叢雲鬼の騎兵たちは事実上の壊滅だ。一瞬での戦果となれば、見事褒めるしかない。
しかも、叢雲鬼たちは雪音という、白い死神を知ってしまった。
「なるほど。武者は死を恐れず、されど鬼は死を恐れる……」
群れを成して雪音へと騎射を続ける叢雲鬼たち。
一斉射撃となれば雪音でも全ては躱せず、手傷を増やしていく。
が、それで討ち取れる筈がない。
雪音を抑えようとする叢雲鬼たちは、それだけで戦いの裡では何も出来ないのだ。既に死兵と言えよう。
下手に追いかけ続け、四散されるよりは纏めて相手し続ける方が戦の道理でもあった。
一度、その武を示せば冷たき死の気配を漂わせる雪音の武、恐ろしさでもあるのだから。
同時に澄み渡る雪音の心と眼は、一瞬の隙を捉えて鉄縄である『氷柱芯』を巡らせる。
数体の馬上の叢雲鬼が絡み取られ、引き落とされて転落。
そうなれば、もはや地を駆る雪音より逃れる術はない。
「……命を賭さねば勝てぬが戦」
静かに、速やかにと死を届ける雪音が囁く。
「さけど。散らす命を許容できるかはまた別の話です」
護るのだと。
救うのだと。
武者たちに命を棄てさせることはさせないと、未だ雪音を睨んで馬を駆けさせる叢雲雲たちを見据える。
それはこの平安の世を生きる武者たちが、永き時を経て辿り着く。
死と向き合ってなお、生き抜くという志だった。
それを士道と呼ぶのだ。
武心の源泉でもある。
殺すという業を背負うが故に高潔たる武をもって、雪音はそこに至るであろう命を散らさせはしないと、叢雲鬼たちと対峙する。
大成功
🔵🔵🔵
鞍馬・景正
識らず、而して任せると。
それが御大将の意向ならば、謹んで従いましょう。
何より坂東武士の面目にかけて信ずると言われたなら、応じぬは最大の恥辱。
八幡掛けて、望む結果をご覧にいれる。
◆
『遊撃』
自在の機動で懸る騎兵ども、陣を分断されかねない。
排除に参りましょう。
兜を脱いで射界を確保し、愛馬を走らせます。
可能な限り敵を左側に捉え、馳せ違う瞬間に【拈華】の射を。
迎撃に来る者の矢は、袖鎧を盾として防御。
旋回して相手すると見せかけ、押捩による後方射で奇襲。
猛者相手とて長々と遣り合う暇は無し、最短の手で仕留めます。
打物戦を挑まれれば太刀を抜いて応戦。
得物を払い、内兜を刺突するか、兜鉢を打って怯ませた隙に首を一閃。
躱せぬ攻撃は鎧にて受け、致命傷以外は恐れず反撃を優先。
騎射にも打物にも飽きて叢雲にて包み込まんとするなら、結界術で怯ませた瞬間、破魔の矢にて射撃。
坂東武者が弓馬の道、太刀打ちの術。
荒野を駆け、獰猛たる獣を、精悍なる蝦夷を、そして理外の妖を相手に磨いた技。
龍とて射殺し、首の玉を取ることも難くはなし。
合戦はより熾烈に、より過酷に。
撃ち鳴らす刃金の音色は空を裂き、地を揺らす歩みは止まらない。
猛攻、ただそれのみ。
傷つき、倒れ、それでもと攻め懸かる。
そうやって戦が激しさを増すのは板東武者たちの死を恐れぬ勇猛さ故に。
死線の果てに勝機と希望があるのだと、彼らは純粋に信じている。
疑う余地なく、己が武心というものを。
同輩たる者達のことを。
「識らず、而して任せると」
しかし、訪れた猟兵とは初めて顔を合わせた者たち。
どのような者か知らず、信頼をおける武士であるかも分からない。
が、ただ戦場においては一言。
此処に集い、共に戦うならば同士に他ならない。
武心を疑わぬは己がだけではなく、他の抱くものにもだ。
「それが御大将の意向ならば、謹んで従いましょう」
これが武魂の祖たちかと、頬面の下で鋭い笑みを浮かべるは鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)。
藍の双眸はさながら鋭刃の如くと敵群を見据えている。
騎乗する愛馬の夙夜もまた、主の滾る羅刹の血を感じているのか、低く鳴いてみせた。
戦場に挑むのであれば、武功なしでは帰れない。
臓腑を搔き乱されようとも、敵の首級を落とすのだと鞍馬は夙夜を走らせる。
「何より坂東武士の面目にかけて信ずると言われたなら、応じぬは最大の恥辱」
走る先は魚鱗の陣を囲む板東武者たちへではなかった。
陣へと合流すれば確かに力となるが、そこから離れることは出来なくなる。
ならばと鞍馬が眦を決するは、騎馬を狩る幽鬼ども。
恐らくは精鋭兵。大弓を射かけ、或いは馬上から得物で薙ぎ払い、勢い付いた武者たちへと襲撃をかけている。
討つべきはあれと、単騎で駆ける鞍馬の姿。
まさしく孤軍奮闘となれど。
「八幡掛けて、望む結果をご覧にいれる」
自在の機動力で懸かる騎兵が隙を見出せば武者たちの陣を分断され、突き崩され兼ねない。
ならば速やかなる排除を。
出来ずともその数を可能な限り減らすのだ。
兜を脱いで視界を確保し、騎射の構えを取る鞍馬。
敵手の矢など恐れぬと蒼瞑の剣鬼の駆る夙夜が疾走し、戦場の花と化す。
散るのはどちらの鬼か。
手綱を離した鞍馬が握るは虎落笛。
五人張りの剛弓は、羅刹の怪力をもって引き絞られ、きりりと冷たく張り詰めた音を響かせる。
鏃を向けられ、狙われたことを知る叢雲鬼もまた大弓を取って騎馬を駆け、鞍馬へと迫っていく。
古き武者の華――騎射の戦いである。
距離は縮み、本来であれば既に弓射の射程範囲。
しかし、恐れることのない羅刹の武者と、怨念の武者が互いの眼を光らせる。
――当てねば死。
故に間合いなど意味を成さない。
可能な限り、左側へと敵を捉えつつ疾走するふたつの影。
互いの間に走る空気は張り詰め、さながら鋼刃の刃先に乗るかの如く、互いの殺意の前に在る。
先んじたのは叢雲鬼であった。
「っ!」
大弓から放たれる白き矢が、音の速さを超えて飛来する。
しかし、その動作を読んだ鞍馬は馬上で身を捩り、その鏃を紙一重で躱す。艶やかな黒髪がぱさりと散り、額より僅かに血を散らすがそれがどうした。
「南無三」
――射貫けずば死。
恐怖など知らぬと馳せ違う刹那、放たれるは拈華の射法。
虎落笛の弦が猛威を鳴らす。
それはさながら、巨大な氷塊が砕けるかのような凄絶な音色。
美しい。澄み渡る龍笛の高鳴りである。
が、同時に冷たき死の音だった。
捻りを加え、回転させることで加速して威力を増した剛の一矢。
咄嗟に袖鎧を寄せようとする叢雲鬼だが、弓を射た直後では間に合わない。
胴鎧の装甲など意に介さぬと鞍馬の放つ矢が射貫き、叢雲鬼の身体を穿ち抜いて走り抜けていく。
胸部に大穴を穿たれ、落馬する叢雲鬼。
怨念から成る白い靄は消え果て、何処かへと散っていく。
そんな元は武者であっただろう妄念に、鬼と成った魂に、いいやそこにあっただろう武の心へと。
「見事」
一言、礼節を示す鞍馬。
だが叢雲鬼は一騎ではないのだ。
後方より蹄の音が響くと振り向けば、数騎の叢雲鬼が鞍馬を追いかけている。
尋常成らざる武者とみたのか。
板東武者の陣に攻め懸かるより、鞍馬を排除しなければならないとみたのか。
鬼の念など分かる筈もない。
だが皆、大弓を構えて追いすがり、次々と矢を射かけていく。
――続けねば死。
迫る叢雲鬼の矢に対して袖鎧を盾として防ぐ鞍馬。
先のように擦れ違い様にと至近距離でなければ、騎馬で駆ける武者の鎧を射貫くことは容易ではないのだ。
まず高速で駆けるから当てづらい。
騎乗しているから力を入れづらく、当てても鎧に弾かれる。
ならばと瞬間の隙を見抜き、渾身の一矢を放つ。これぞ武者の華と呼ばれる由縁でもあるだろう。
槍合わせより早く。
刃を噛み合わせるよりも、なお苛烈に。
技と心の何足るか、磨き上げた身体の全てを使う騎射の戦い。
鞍馬も旋回して迎え討つと見せかけ、押捩による後方への射撃で奇襲を掛ける。
馬上で身を捩り、後方へと弓矢を放つ技。
古き侍、弓取りの姿である。
ましてや鞍馬は羅刹の血を引き、その怪力を誇るもの。
袖盾で確かに防がねば胴を射貫く。
氷が砕けるような冷艶なる音色が響く度に、ひとつ、ひとつと叢雲鬼が消えていく。
戦場を駆ける武の体現でもあった。
鞍馬の生きる寛永の時代では、もはや掴めぬ戦が此処にあった。
血と心が滾る。燃え盛るかのような身体に対して、されど心は冷たく静かに。
「しかし――猛者相手に長々と遣り合う暇はなし」
此処に求められるは迅速さ。
冷静な判断と共に夙夜の首を巡らし、騎射で乱れた鬼騎の一群へと疾駆する。
「最短の手で仕留めます」
それはまた、叢雲鬼たちとて同じこと。
騎射で劣るならばと次々に刃を抜き放ち、打物戦へと雪崩れ込もとする。
ならばそれもよしと、鋭い弧を描く鞍馬の唇。
鞍馬の手で鞘より引き抜かれるは鞍切正宗。
豪壮として沸豊かな大太刀は、夕焼けにあって刃文を煌めかせる。
如何なる切れ味を誇るのか。
「その身で羅刹が刃を知り給え」
騎馬同士での高速疾走での交差。
鞍馬は刹那にて叢雲の薙刀を打ち払い、翻す切っ先で内兜へと刺突を繰り出す。
そのまま留まらずに巡らせ、次なる敵へと放つは斬首の一太刀。
夙夜も主の意を読むのか駆けるを止めず、叢雲鬼との騎乗戦を演じている。
槍の一撃を躱せぬとみれば、相打つかのように叢雲鬼の兜鉢を打って怯ませ、勢いの減じた穂先を気魄巡らせた藍染仏胴で受け止める。
痛みはある。
肉体より流れ出る血の熱さも。
だが、だから何だというのだと、上段より振り下ろす鞍切正宗の峻烈なる一閃。
鎧を纏っている筈の叢雲鬼は元より、その騎馬さえも斬り殺す凄絶なる斬撃だった。
大太刀の柄だけではなく刀身、その鍔元に手を当てて動きを制し、速やかにと刃を奮う鞍馬。
斬るのみにあらず。
打つ、貫く、払う。
大太刀という刃であるが、その貌に囚われぬ鞍馬の騎乗戦で示す武。
斬ることに目的はないのだ。
斃すことが戦の目的なのだと心得ている。
いいや、眼前の敵のみではない。ひとつの群れを、陣を、そして己の心にも打ち克ってこその武。
静かに燃え盛る鞍馬の武心に畏れはなく、妖である筈の叢雲鬼たちのほうに動揺が走るほど。
武を争うことに飽いたのか。それとも、厭いたのか。
鬼の躰を為す叢雲が大きく広がり、鞍馬を包み込んで怨念で殺さんとする。
「だが、それも……」
兜を外した鞍馬の耳元で、浄玻璃の玲瓏なる光と音が鳴る。
三毒を退ける青の色彩より紡がれるは魔を阻む結界。
僅かでも怯めばそれを穿つと、早業で持ち替えた虎落笛より破魔の矢を放つ。
「坂東武者が弓馬の道、太刀打ちの術」
散りゆく叢雲の残滓へと、高らかに告げる鞍馬。
「荒野を駆け、獰猛たる獣を、精悍なる蝦夷を。そして理外の妖を相手に磨いた技」
天地は違えど、鞍馬は確かに受け継いだこの武芸。
ならば理外の者といえど、何を恐れようか。
勇猛たること。誇り高きこと。
それをただ磨き上げた、この武魂の輝きがあれば。
「龍とて射殺し、首の玉を取ることも難くはなし」
勝利の如く高らかに歌う鞍馬。
事実、叢雲鬼の騎兵は壊滅し、もはや板東武者の陣を分断するだけの力はあるまい。
戦でもっとも恐れるべきは確かに騎兵。
だが、時を経て磨かれた猟兵の技と心、侍の魂に怨念からなる鬼では叶う筈もない。
見てきた天、歩いてきた地の数が違う。
ならばそこに生きる人の姿もまた、一際輝くというもの。
そうして僅かな一時が立てば、叢雲鬼たちもただの残党となる。
が勝負の決するまでが戦なのだと夙夜と共に戦場を駆け、次々と叢雲鬼の騎兵の残りを討ち取る鞍馬。
鎧の隙間から血が流れ、黄昏の色に塗れてもなお。
それは凜々しき侍の姿だった。
瑠璃に似た清らかなる心を以て、鬼を討つ羅刹の武者だった。
大成功
🔵🔵🔵
アシュエル・ファラン
UC:戦乙女の騎行で召喚した124体の戦乙女に【情報伝達】を伴い指示
○まずは先陣の頂点に、No.80(消費:80体)の一番の力を持つ戦乙女を1体!
要だ!切り込み隊長として、とにかく武者達が割り込める戦陣を切り開け!
No.80の左右隣に、No.3になる戦乙女を3体ずつ(消費:18体)No.80に次いで先行させる
敵は一斉攻撃をしてくる。「同時一斉攻撃」をしてくるなら、必ず行動を揃える予兆があるはずだ。それを各々が見極め防御してから反撃に転じつつNo.80に続け。味方の速度を落とすくらいならば、攻撃を優先する事
○両翼は層が厚い事が最優先になる。質より数だ、左右にNo.2の戦乙女を5体ずつ(消費:20体)配置し、何があっても武士達を守れ。…マイレディ…悪いが、己の存在を俺にくれ
○後はこの早さで突っ切れば、陣形割られた敵もさぞ元気だろ
俺ならこの陣形中央に将がいようが背後と左右から攻撃し掛ける
後詰防衛用にNo.3を左右に1体ずつ配置
俺は中心で状況見つつダッシュで付き走る…頼む、上手く行ってくれよ…!
血のように赤い黄昏の戦陣にて、柔らかな金が輝く。
それは自ら争うものではなくとも、戦を司るもの。
武によって鎬を削り、心身を賭す板東武者とはまち異なるもの。
けれど。
それもまた誠のひとつ。
『任せた! 俺の愛しいマイレディー!』
アシュエル・ファラン(盤上に立つ遊戯者・f28877)の声に応えるように、淡い光の裡より浮かび上がるのは凜々しくも麗しき戦乙女たち。
様々な武装を纏い、自らの翼にて飛ぶ姿に、アシュエルはゆっくりと眼を細めた。
纏う衣には戦力を示す数字が刻まれている。
それは分かりやすい指標。
アシュエルの為だけに、どのような
盤上であっても勇ましく戦う、可愛らしい女の子たち。
皆、柔らかくて可愛らしい。
けれど、剣のように真っ直ぐな意志と輝きを宿す戦乙女たち。
「さて、急ごうか。時は待ってはくれない。涙も血も、誰かが拭って止めてあげるべきだ。さあ、レディ? 力を貸してくれるよね?」
問い掛けに頷き、八十体もの光の戦乙女が前へと進む。
いいや、その身と輝きを重ね、ひとつに力を束ねた戦乙女へと変じるのだ。
斬り込み隊長としての役割であり、要であり、武者たちが割り込めるようにと敵陣を斬り拓く役割を託された戦乙女。
衣には80の数が浮かぶ、もっとも強きひとり。
アシュエルからの信頼を託され、花が綻ぶような笑みを浮かべる貌は純粋な乙女のよう。
或いは。
「そう、君の輝きならきっと出来る」
アシュエルの甘やかな声と、アルカイックスマイルを向けられれば、少女ならば誰でも頬に朱を差して微笑みを浮かべるのかもしれない。
「辛い役割かもしれないけれど」
そう云われて、奮い立たないものがどうして戦乙女だろうか。
そのようにと作った存在であっても、アシュエルは奇跡を願うようにと語りかける。
祈りを捧げる。
「どうか、あの武者たちに希望と勝利を」
だから君ひとりにはさせないよと。
もっとも力を持った戦乙女の左右に並ぶよう、3と刻まれた戦乙女を三体表す。
「君たちの手で、微笑みで、光で届けて欲しい。俺の、可愛いマイ・レディ」
そうしてひとつ、アシュエルが恭しくお辞儀をすれば。
疾風の如く先陣へと馳せ参じるのは、80の戦乙女。
手にした斧槍を頭上で旋回させ、群がる叢雲鬼たちの群れを一気に薙ぎ払う。
身ごと翻せして二度、三度と、まるで前へ、前へとダンスのステップを刻むように進むNo.80の戦乙女。
そこに続くのはNo.3の戦乙女たちと板東武者だ。
「敵は一斉攻撃をしてくる」
全ての戦乙女たちへと情報伝達を伴い、瞬時の采配を下すアシュエル。
「だが、『同時一斉攻撃』をしてくるなら、必ず行動と息を揃える予兆がある筈だ」
それを各々が見極めるべくNo.3に備えさせれば、白い靄のような怨念を渦巻かせ、一気に攻撃を仕掛けてくる叢雲鬼たち。
突き出される槍、切り込む刀。
防御に徹したNo.3の戦乙女たちは深い負傷を受けながら、それでも主力であるNo.80と板東武者たちを守り、反撃へと転じていく。
ただ中央突破のみを考えるなら、アシュエルは陣の中央ではなく最前線へと共に立つべきだっただろう。
敵の攻撃を見切るならばアシュエルが前線に立った方が、何の特殊な技能も持たない戦乙女より遙かに効率がいい。
戦闘知識に見切り、予兆を伺う情報収集と第六感。
それらを持つ最前線の指揮官として指示するか、或いは防御の祝福を届ければ最善であっただろう。
が、アシュエルは最前線に立つ者ではない。
各々に適性があり、前線で武勇と果断の采配を為す者がいれば、中央で冷静に全体を見据える者がいる。
どちらも不可欠であり、先陣で傷つく侍頭ではないからアシュエルのこの策が劣るというものではない。
むしろ逆。見極めての防御から反撃へて転ずる戦乙女の強さも数も、これ以下では耐えられない。持ちうる戦力を、他へと分配するギリギリ――つまりは最善のラインをアシュエルは見極めていた。
中央突破のみを見据えるなら、アシュエルは前に立って共に戦うべきかもしけれない。
だが、それ以上を為して数多の命を繋ぎ、勝利へと至る将の器を此処に示していく。
殺すことが勝利ではない。
助けることが、目指すべき勝利なのだから。
「まだだ。No.80に続いて、No.3も攻撃を続けて、くれ……!」
可愛らしい乙女たちが、自らの命令で血を流していくこと。
それが仮初めの命と存在であってもアシュエルの胸に痛みが走る。
いいや、それがただの盤上の駒として見ないのであれば――アシュエルに将の才覚はないと言えるだろう。
痛い、苦しい。投げ出したい。
そう感じて胸を掻きむしりながらも、命ずることが死へと直結することへと、躊躇いなく宣言できること。
言わば、死を背負う覚悟こそが大切なのだ。
自らの生と死だけで済む、前線での兵士にはない勇気。
そんなアシュエルの姿を見て、少女が呟く。
「……見事です」
「いいや」
が、少女に云われれば、柔らかく笑ってみせるアシュエル。
素敵なレディの前では、どんな理由があっても苦しむ姿など見せてはいけないのだから。
夢を曇らせてはいけないのだと、黒い眸の奥に悲痛さを押し込める。
「先陣ではそのまま攻撃と進軍の速度を落とさず進んでくれ。攻撃を優先し、専念すること」
結果として叢雲鬼の陣中央を突破する頃には戦乙女たちは果てている。
だが、命を守る為ならばと光を纏って戦う姿に、アシュエルは僅かに瞼を伏せて。
次の瞬間には、同時に他方の陣へとも兵力を巡らせる。
その為に、まだ余力を残しているのだ。
重ねよう。中央突破のみなら、アシュエルも戦乙女とともに前線で戦うべきだろう。
だが、アシュエルの思考と戦術は戦場全体に至る。
「左右の両翼は質より数だ」
守りの層を厚く突き破られないように。
或いは崩されても即座に立て直せるようにと、何層にも陣列を重ねること。
包囲される戦いは避けるべきであり、常識の教えではありはしない。
が、されているのが現実ならばと即座にアシュエルは常識を棄てて指示を出す。
「左右に飛んでくれ、マイ・レディ……」
その言葉に頷き、翼を広げるのはNo.2と衣に印された十体の戦乙女たち。
それぞれが左右へと飛び、アシュエルの命令に従って文字通り死戦を遂げる。
「……悪いが、己の存在を俺にくれ。何があっても、武士達を守るんだ」
喜んで死ねという下知。
そして、それでなお自らの主の為ならばと可愛らしき戦乙女たちが、柔らかな微笑みを浮かべて飛び往く。
少なくとも、これだけで二十人の武士たちの命が救われた。
いいや。盾となり、壁となり、戦乙女が抗うからこそ、それ以上の命が死より逃れる事となるだろう。
自らを棄て、敵を討たず、ただ仲間を守る。
云うは易いが自らの身に刃を突き立てる行為に等しい。
この役目は、アシュエルによって紡がれた戦乙女たちだからこそ出来るのだ。
自らは陣の中央。全体の戦況を見渡し、指示と采配を飛ばせる場所に立って、血の流れる様を見つめる。
「そして、このまま」
攻め懸かる勢いを保ち、守りを崩されずに突き進む武士たちの魚鱗の陣。
「……頼む、上手く行ってくれよ」
通常であれば絶望でしかない包囲戦。
そこから起死回生へと動き出す。
血と煙が渦巻きながらも、武者たちが前へ、前へと動き続ける。
無尽に増殖している筈の叢雲鬼たちの中央を斬り崩し、そのまま結界陣の中央への路を拓いたのだ。
そんな殲滅を待つだけの状況からの、中央突破の逆転。
魚鱗対鶴翼。
通常ならその状況で詰みと判断する将が多い中、それでもと最大の勝機を掴み取ってみせるアシュエル。
逆に横列などで対応していれば、突破など夢のまた夢だった。
全てを踏まえて奇跡を手繰り寄せてみせたのだ。
そこには無論、突破に防衛、遊撃と一芸に長けるものたちの活躍があってこそ。アシュエルはその補強であり、最後の一押しだ。
が、仲間の戦果を信じるなら、それを補佐するのがもっとも効果的でもあるだろう。
その上で。
「この速さで突っ切れば、陣形を割られた敵もさぞ元気だろ」
負傷のない叢雲鬼とて多い筈。
なら将が何処にいようとお構いなしに、背後と左右から追撃が走る。
最後に飛び立たせたNo.3は左右に一体ずつ。
後詰とは云うものの、実質は殿。アシュエルに残った最後の戦力でもある。
情報伝達で途切れたものから考えれば、両翼の戦乙女は八割消滅。
先陣のNo.3は全滅。主力であるNo.80もまた、致命傷を負って命が尽きるまでの秒読みだ。
だが……。
「ああ」
アシュエルが泣くような、笑うような貌を見せる。
左腕を切り落とされ、腹部を槍で貫かれ、片目は流血で覆われて明けられなくなっているのに。
それでも舞うようにと斧槍を振りかざし、叢雲鬼たちを退けていく戦乙女。
「まだ。その存在の最後まで、俺にくれるのか」
そうアシュエルが口にした瞬間、戦乙女は柔らかく、嬉しそうに微笑んだ。
「マイ・レディ。俺は、君たちの存在を対価に、どれだけの命を救えたんだ?」
囁くアシュエルに応えるものはない。
声は誰にも届かない。
けれど。
アシュエルはその貌に、苦しみも悲しみも浮かべなかった。
苦悩を抱えながら、死を命じた痛みを抱く少女が傍にいるのだから。
どうして、アシュエルが悲痛そうな顔を出来るだろう。
戦乙女たちがそうしたように柔らかく微笑んで、勝利をあなたにと少女に示してみせるだけ。
「さあ、言葉の通りをなしてみせましたよ」
アシュエルが優雅にお辞儀を見せ、気品溢れる笑みを浮かべる。
少女の痛みと悩み。
一部でも分かるからこそ、それを拭い払おうとする優しきアシュエルの情。
柔らかくて可愛らしい花には、ただ優しく触れるだけ。
それを知ってか、知らずかまだ幼き身に将という身分を背負った少女は微かに頷いたみせた。
ならばと戦姫たる少女も鬨の声を上げ、あと一歩だと先へと進む。
奮い立つ板東武者たちが、猟兵が妖の棟梁の首級をあげるべく、活路の維持へと動き出す。
そう。
その存在を対価に、これから更に命を救わなければならない。
死しても、魂の輝き尽きることなかれ。
たとえ、それが仮初めの存在であっても等しきこと。
叢雲鬼の陣を突破しただけではどうにもならない。
遊撃も左右両翼の守備にあたった猟兵も中央に斬り拓かれた路へと歩み、そのままブレイズゲートの核である妖の討滅へと挑む。
アシュエルの戦乙女たちはその存在が消え果てるまで板東武者たちを守り。
板東武者たちは、救われた命を繋ぐのだと刃を振りかざし、妖を退けていく。
ならば、あとひととき。
一瞬でも早く、この妖花の領域を終わらせるのだと願いは奔る。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『天狗』
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POW : 箒星
【流星の如く輝く霊力】によりレベル×100km/hで飛翔し、【スピード】×【加速時間】に比例した激突ダメージを与える。
SPD : 輝く星焔
高速で旋回する【星の如く輝く狐火】を召喚する。極めて強大な焼却攻撃だが、常に【天狗(アマツキツネ)が鳴き声】を捧げていないと制御不能に陥る。
WIZ : 天狗流星
レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる【狐尾型の星光】を放つ。発動後は中止不能。
👑11
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● 断章 ~ 妖星奔りて、妖花を継ぐ ~
板東武者たちと共に斬り拓いた活路の先。
丘の上で舞うのは妖しき流星、天狗。
このブレイズゲートの主であるそれは、輝く星彩を纏って空を飛ぶ。
ひとつと鳴けば、煌めく霊力が流星の群れの如く地へと走り、火となって大地を焼き払う。
その様はまさに星火燎原。
たった一体の妖の存在に、この都は滅びようとしている。
どれほどに勇猛であっても板東武者たちでは抗うことも難しい。討つは叶うかもしれないが、どれほどの被害が出るのか。
「ならば、私たちが後方の叢雲鬼を抑えよう」
まだ若き将たる少女は一声をあげる。
迷いもなければ、躊躇いもない。
何を成すべきなのかという過ちをしない、果断の質を示す。
事実、無尽蔵に増え続ける叢雲鬼たち。
かなりの数を討伐した筈だが、時間と共にまた増えていく。
後方では雲霞の如くゆらゆらと動き白靄の鬼たち。
それを抑え、猟兵たちが天狗との戦いに専念できる状況を作ろうとしているのだ。
「有り難いことに、お陰様で余力もある」
首級を前に、けれど自らの敵を見誤ることなく離れていく板東武者たち。
それは余りにも正しい正解だった。
――生と死、転ばせてみせましょう。
脳裏に響くようなその聲は、誰のものなのか。
――そうして咲き誇る花が、私の慰めとなるのです。
声は風となり、赤い妖花の花びらを伴って天狗を包む。
妖気の塊であり、存在を蝕む筈の妖しき花。
しかし、それが天狗という大妖を更の力を花開かせる。
そう、これはあらゆる力を奪う花。
それ自体が妖を持ち、生命を奪い、力を攫う。
恐ろしくも麗しき花が散れば、この結界陣の核たる天狗がその本当の力を示す。
空に鳴く天狗の背には、八つの翼が広がっていた。
奪った力、生命を糧にと羽ばたく妖星の姿だった。
つまる処、陰陽五行に連なる『木』・『火』・『土』・『金』・『水』の五つの翼。
更には花の『妖』と、奪った『生命』、天狗の本来持つ『星』の力。
都合八つの力が翼となって、天狗の力と属性となっている。
これは、と。
流石に只成らぬ相手。
板東武者たちでは、盾さえも務まらないだろう。
結界陣にあった板東武者、民草、そして猟兵の力の一部を奪っているのだ。
いいや、迅速さを尊ぶからまだこの程度。マシなのだ。
時間をかけていれば、いるほどに力を奪ってこの天狗は更なる力を得ている。
天狗がひとつ鳴けば、八つの属性を宿した火と星光が降り注ぐ。
しかし。
しかしと、退く訳にはいかず。
あれさえ討てばこの戦いは終わり、危機は去るのだ。
妖花も天狗のこの状態を保つ為か略奪と蝕みの効果は消え果てている。
それならば、後はこの天狗を討つのみ。
最大の脅威を前に、猟兵たちは勝機を見出して……。
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●解説
第三章をお送り致します。
目標は天狗の討伐、それのみです。
迅速さを以て到達できた為、天狗はそれぞれ異なる八つの翼を持つ……という程度に留まっております。
妖花の影響は天狗に力を供給する為に一時的に止まっていますので、被害の拡大はあまり気になさらずに。
それでもまだ無尽に増え続ける叢雲鬼たちの抑えを受け持つ板東武者も、時間をかければ被害が広がるでしょう。
今の処は最小の被害で済んでおりますが、結末は皆様次第。
また、印されたユーベルコードの他に幾つかの能力を持っていますので、ご確認くださいませ。
『低空飛翔』
単純に低空を高速で飛ぶことのできる能力。
高く飛ぶことは出来ず、何も気にせずとも近接戦闘を挑むには十分です。
『攻撃への絶空斬の付与』
UC【絶空斬】と同等の効果を、全身と操る力、更には放つユーベルコードに常時付与しています。
アイテム、技能、能力を問わずプレイングで指定しなければ、無力化の上での強化は起きませんので、所持しているだけでしたらお気になさらず。
盾や武器で受ける、という程度では発動しません。
『八属性行使の翼』
陰陽五行における『火』、『水』、『土』、『木』、『金』。
加えて『生命』、『妖』、『星』の力をそれぞれ操る八つの翼を持っています。
ユーベルコードとは別に、最低ひとつは受け持つ翼の属性と対策を織り交ぜてプレイングをおかけ下さい。
陰陽五行と属性における補足を少し。
ひとつ。『木』は草花だけではなく、稲妻などを司り、むしろそちらが主体となります。
ふたつ。『金』も剣刃などで身を包み、近接攻撃力に優れますが、一方で人体を蝕む毒の性質もあります。
レイヴァ・エレウネラ
色鮮やかでふわふわしててキレイだなー。
でも、キミを止めればブレイズゲートは消えるんだね。
だから倒させてもらうよ!
兎に角遠距離にいたら危なそうなので素早く近づくよ!
そして【怪力/グラップル/連続コンボ/吹き飛ばし】の格闘攻撃で攻めていくよ!
相手の攻撃は頑強な肉体(【鉄壁】)で耐えつつ【カウンター】を狙っていくかな。
近距離だとUCは箒星が一番怖いけど、躱したら距離を離されるかもだから【硬化】した翼で防御して勢いを削ぎつつ【鉄壁】の肉体でダメージを耐えきるよ!
無効化してるわけじゃないから絶空斬効果は乗らないはず。
耐えきったら今度はボクの番!
UCで引き裂いてあげる!
それは破滅を招く流星の姿。
見る者の心を奪う美しき妖のものだった。
幾つもの煌めく星彩を纏い、ひらりと空を踊らせる天狗。
翼に宿る力に応じた色彩が瞬くようにと光れば、風を受けて柔らかな体毛がふわりと波打つ。
これが滅びと災いを呼ぶものだとは到底、思えない綺麗な姿だった。
「色鮮やかでふわふわしててキレイだなー」
むしろ星と共に在る霊獣ではないのだろうか。
レイヴァ・エレウネラ(恐れ知らずな外界の女神・f44350)が錯覚したかのように口にするのも無理はない。
いいや、本当の妖とは美麗さを以てひとの心をも奪うのだ。
天狗はその美々しさも含めて紛れもない妖星。
討つべきに変わりはないのだと、レイヴァは黒い双眸を向ける。
「でも、キミを止めればブレイズゲートは消えるんだね」
妖花が狂い咲き、ひとを蝕むこの白炎の結界陣。
そこから命を救い出し、日常へと取り戻す。
必然であり、この戦いの目標。
板東武者と猟兵たちが斬り拓いた路に他ならない。
「だから倒させてもらうよ!」
レイヴァが告げた瞬間、天狗が甲高い鳴き声を響かせる。
身に纏うのは星の力。
流れる星光となってレイヴァを打ち砕こうと天狗が飛翔をはじめるより早く、地を駆けるは勇猛なる女神の姿。
距離を離せばただ危険。
ならと機先を制するように握り絞めた拳で殴りかかり、身を転じて蹴撃を放つ。
武闘派の女神の拳撃、蹴り。
どちらも尋常ならざる怪力をもって天狗を打ち抜き、吹き飛ばす。
更に踏み込んだレイヴァの連撃が、さながら天狗を翻弄するようにして間合いに捕らえ続けていた。
天狗が星の力を瞬かせて光でレイヴァの肉体を貫くが、痛みなど意に介さないと耐えたレイヴァが上段からの剛撃で打ち据える。
――近距離も怖いけれど、躱すのはもっと怖いかな。
回避の挙動を見せれば天狗はするりとレイヴァの間合いを抜けていくかもしれない。
距離が離れれば離れる程、天狗の帚星の威力は跳ね上がる。
その性質を考えれば、果敢に攻め続けるレイヴァの行動は正しいとも言える。
が、正しさという強さをぶつけ合うのが闘争の基本でもあった。
天狗が宙へと鳴く。
星の力を集め、全身に輝く光を纏って駆け抜ける一条の閃光。
耐える為に身体へと力をレイヴァが巡らせたのも紙一重だった。
「っ!!」
夕焼けの赤をも払う天狗の流星の光芒一閃。
音速を越えた証にと衝撃波が周囲に広がり、轟音が鳴り響く。
並の者ならば云うまでもない。板東武者たちとてひと纏めに数十人が弾け、血霧となって消えていただろう。
故に、それを耐えて見せたレイヴァの埒外の堅牢さ。
何とか硬化した黒翼を重ねて直撃を防ぎ、鉄壁の肉体で凌ぐレイヴァ。
臓腑に負傷を受けたのか口元から血が零れるが、その程度で凌げたのは女神の力であり、肉体の強靱さだ。
絶空斬の効果もまた、天狗の一撃を防ぐものが一切なかく不発であるのも大きいだろう。
あくまでレイヴァが示したのは『自己の強化』。
無効化ではなく防ぐ程度のものでも発動していたが、自己強化までには反応しない。
そこまで見抜いたのは、まさに武の女神の慧眼か。
或いは武心が嗅ぎ分けた、勝敗へと辿り着く路か。
どちらにせよ、耐えきった以上、次はレイヴァの番。
天狗の頭を両腕で抱え込み、逃げられないようにと組み掛かる。
「今度はボクの番!」
そうして天狗に降り注ぐのは異界より到来する空裂刃。
連続の次元断層が天狗の身を幾度となく切り裂き、鮮血を舞い散らせる。
痛みに鳴き、逃げようと身を捩る天狗だが、レイヴァの怪力とグラップルからは容易に抜け出せる筈もなく。
「引き裂いてあげる!」
更に天狗へと狭め次元断層。
天狗が星の霊力で相殺させていくのも限界がある。
ようやくレイヴァの懐から抜け出した頃には無数の傷を負い、天狗が苦痛を訴えるように鳴き声を振るわせた。
「このまま、君という星を堕としてみせるよ」
地に在る女神と、空を走る天狗の視線が交差する。
大成功
🔵🔵🔵
武富・昇永
なんと神々しい…その首級を肴に飲む酒はさぞ旨いことだろう
坂東武者たちとの勝利の宴の肴に是非とも貴様の首が欲しい!
さぁ我が立身出世の礎となるがいい!
さて奴を倒す手順を考えるか!
まず対応する属性は『水』とする!
そして水ならば魚!
{思業式神・出世魚ハマチ}と{護廷式神・出世魚ブリ}で対応する!
どれ程の急流だろうと魚である、かの式神たちならば問題はあるまい!
俺は【出世道・昇鯉遡上の心】で強化した跳躍力を使い、泳ぐ式神たちの間を素早く跳ね回って攻撃を回避しつつ
{伏竹弓・勲功必中撃抜弓}で射貫いたり{妖切太刀・御首級頂戴丸}ですれ違いざまに斬りつけたりするとしよう!
数多の星彩と光を纏う天狗のその姿。
ともすれば、災禍の星であることを忘れてしまいそうになるほど。
いいや、どちらにせよそれは空であり、天に在るもの。
常人には触れる事も叶わないのであれば、神性を帯びるといってもいいだろう。
そこに正邪の境はなくとも。
美しいということに、正しいも間違いもないのだから。
「なんと神々しい……」
ならば喉の奥で笑ってみせる武富・昇永(昇鯉・f42970)の心も、また正しいも間違いもない。
欲ではある。
が、天に手を伸ばすのはひとの心の摂理。
「その首級を肴に飲む酒はさぞ旨いことだろう」
輝かしい勝利と、何処までも続く出世の夢。
そのふたつの光を思い描き、武富は大きく両腕を広げてみせた。
「坂東武者たちとの勝利の宴の肴に、是非とも貴様の首が欲しい!」
先ほど自ら神々しいと賞した存在に、お前の首が欲しいと告げる胆力と欲望。
武富に怯む、臆すということはない。
ただ言葉の通り。
「さぁ、我が立身出世の礎となるがいい!」
これより、更なる飛翔を遂げる為、天狗という星を堕とすのだと宣言してみせる。
その先にこそ望むものがあるのならば、何故、立ち止まることや退くことがあるというのか。
ただ、武富をもってしても天狗は思案の必要のある相手だった。
元より強大な妖であるというのに八つの属性を持つのだ。
無策ではいられないとしばし思考を巡らせた武富は、するりと妖切太刀・御首級頂戴丸の切っ先を向ける。
「対応する属性は『水』とする」
武富は元より陰陽師。
陰陽五行。その場にある力を使い、調和を以て妖魔を滅するもの。
ならば敵である天狗が扱う『水』とて、また武富の力となる。
「そして水ならば魚」
天狗が放つ流水をひらりと避ける武富。
指先が虚空をなぞれば、魚の姿をした式神である『思業式神・出世魚ハマチ』と『座敷式神・出世魚モジャコ』が天狗の放った水へと放たれる。
どれほどの急流であろうとも水に棲まう魚を模した式神。
天狗の放つ水の勢いをむしろ利用し、渦巻かせ、逆に鳴き声を上げつつゲル天狗の元へと走らせていく。
水が星の如き輝きに満ち溢れ、高速で旋回を初めてもまた意に介さない。
時間が経てば水と炎という二属性で式神が焼却されるだろうが、それよりも早くと跳ねる武富。
「今こそ功名を立てる好機! この一時に全てを懸ける!」
功名心を感じることで強化された跳躍力の元、水を泳ぐ式神を足場にと天狗へと高く、早くと跳ぶ武富。
伏竹弓・勲功必中撃抜弓で破魔の一矢を放って天狗の身を射貫けば、動きの鈍った処へと一気に迫り、擦れ違い様にと妖切太刀を走らせる。
如何に大妖とて、その身は血肉。
斬られた天狗が空と星に祈るような鳴き声を止め、鮮血を吹き出させながら後方へと飛び退いていく。
「そう。如何に強大な妖とて、討てば死ぬ。討てば俺の手柄となり、出世の路を飾るのだ」
そう言いながら再び手にしたのは伏竹弓。
張り詰めた弦を鳴らせば、討魔の響きと鏃が天狗へと飛翔する。
「その身の色と光で俺の出世街道を照らし、飾れ。星なのだろう。夜でも消えない光なのだろう。ああ、俺の往く路を照らすに相応しい不滅の光だ」
天狗の胴を射貫いても、更に高く跳躍しながら次の矢を番える武富。
「――疾く討たれて、武功を俺に寄越せよ。天狗の星彩の毛皮を手土産にすれば、宮廷での俺の地位も高まるだろうさ」
きりりと鳴る弦の音色。
喉の奥で押し殺されながら笑う気配。
出世の欲と、立志の光を宿した武富の黒の双眸が、天狗の姿を射貫いている。
「逃がしはしない。ああ、逃げるような無粋さは、あるまいな?」
そうして。
流れ星をも射貫く矢が奔る。
解き放たれた欲望を乗せて、星を堕とすと吠える一矢。
神々しいものであれば、なお我がモノとせんとする果てなく、飽きることのない武富。
天の限りを知らず、地の果ても知らずに求める心。
天狗が、星光の獣が迫る破滅を恐れるように啼いた。
大成功
🔵🔵🔵
桜雨・カイ
※カード化UC:絶対防衛戦線
※『生命』
「このカードを使って下さい」少女にカードを託す
おそらく今この力(UC)を一番有効に使えるのは貴方です
陣立てや兵法を知らずとも、その思いはこの場で一番強いはず。
ならばその力を仲間の力の底上げへと変えてください。
ひとりでも多くの生命を守るために。
狙うならやはり私は『生命』の翼。
【焔翼】で空を飛びながら絶空斬の効果をかわしつつ敵の攻撃をこちらへひきつけます。狐尾型の星光の攻撃は【糸編符】で相殺します。
その間に板東武者の皆さんで攻撃を!
決着は彼ら自身でつけたいはず、どうか行って下さい!
天狗を包む星彩が、純白の色に染まる。
それは生命を司る力。
翼をはためかせ、ひとつ鳴けば早くと駆け抜ける真白き流星。
猟兵ではない者では対峙することさえ儘ならない。
故に退いて、後方の妖鬼たちを抑えようとする少女の判断は間違っていないだろう。
けれど、そんな冷たい現実ではなくて。
暖かくて、優しい奇跡を紡ぐ絆があっていい筈なのだ。
ここは確かに滅びを招く妖の結界。
けれど、同時に愛しき夢を歌いて綴る平安の世でもあるのだから。
桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)はその美貌に柔らかな微笑みを浮かべた。
カイの身は人形かもしれないけれど。
ひとのように優しく、ひとよりも絆と縁を信じる笑みだった。
人形が浮かべる貌とは思えない、花のように柔らかくて優しい表情。
向けられた少女が僅かに驚き、躊躇う。
武者の若き棟梁として武勇と誇り高さを見せるが、まだ幼さの残る少女なのだ。
何が自分に出来るのかと。
どんな希望と信頼を向けられているのかと。
無垢な人形の笑みに、心の底に封じた不安が一瞬だけ過ぎるけれど。
「このカードを使って下さい」
「……これ、を?」
カイが託すのは一枚のタロット・カード。
少女はカードを握りしめながら、カイの空のように青い双眸を見つめる。
「おそらく、今この力を一番有効に使えるのは貴方です」
名将の如き采配は今の少女にはない。
たが陣立てや兵法を知らずとも、カイには分かる。信じている。
「仲間を守りたい。その思いはこの場で誰よりも一番強いはず」
柔らかく、優しく。
けれど何処までも真っ直ぐに、貴方を信じていると少女に告げるカイ。
力の多寡ではないのだ。
カイは真実の想いこそを、強さだと信じている。
「ならばその力を仲間の力の底上げへと変えてください」
死の渦巻くこの戦場で紡がれ、結ばれたひとつ、ひとつの絆。
仲間の魂をひとつ足りとも奪わせないと、勇敢に戦うその志の元でこそ、『力』のアルカナは逆さより、正しき位置へと巡る筈。
諦めから勇気へ。
願うは運命を斬り拓く力が、貴方の手に宿らんことを。
流星さえ堕としてみせようと、集った絆の輝きを今ここに。
「ええ」
眦を決して少女が逆位置の『力』を、正しき向きへと変える。
絶望と撤退から、更なる躍進へ。
命を賭して戦う武者たちが集えば集う程、煌めきは渦巻き、折り重なり、さながら流星雨のように流れ出す。
天狗の操る妖しき星光ではない。
正しきを為すという、ひとの想いたる星彩。
或いは、花のように美しい光たち。
それが禍星たる天狗の白き光を打ち払い、更にと更にと集っていく。
「好機は私が斬り拓きましょう」
カイは特別な玻璃の筆にて描かれた、炎の翼をはためかせて空へと飛ぶ。
それは神秘の焔。
誰かの肌を灼くことはなく、ただ飛翔の輝きと優しい熱を与えるもの。
まるでカイの心、そのもののような焔翼。
空へと飛ぶのも万象を滅す狐尾型の星光を武者たちへと向けさせない為。
自らの上を飛ぶカイを睨む天狗が、生命の白光を飛ばすが、ひらりひらりと翼をはためかせて躱してみせる。
赤い焔が宙を舞い、夕焼けの中で燦然と輝く。
鮮紅の色彩の翼諸共にカイを消し飛ばそうと、天狗から放たれる狐尾型の流星たち。
一秒ごとに一発。
着弾すれば、何もかもを消滅させる恐ろしき暴威。
触れれば死を免れないものだが、故にこそ絶空斬の効果は乗らない。元よりあらゆる防御を無意味とするのだから、これ以上に威力を増しても意味のないこと。
ただ避ける、触れない。
加えて周囲の被害を避けて、空へと飛ぶという事が何より肝心となる。
カイは見事にそれを成し、念糸で編んだ糸編符を花吹雪のように舞い散らして天狗の放つ星光を相殺していく。
白き光が一秒ごとに瞬き、荒れ狂う禍津星の神威。
落ちて触れれば、あらゆるを破壊するのだという災禍を前に、カイは一切に揺るがない。
信じているから。
絆という糸は、カイと少女、そして武者たちを結んでいる筈だから。
――この人形の魂は、ひとの心の為にある。
故に万象を滅ぼす星光を前にしても、カイは僅かにも揺れも臆しもしない。
「今です、どうぞ行ってください!」
カイが天狗の視線と攻撃を一身に引き受けながら、澄んだ声を張り上げる。
届く先にいるのは、少女を初めとする板東武者たち。
自らの武勇で、誇りで、戦を制さんとした侍の祖たち。
「さあ、此処で躊躇うなら武者の名は棄てよ。いざ、攻め懸かれ!」
死戦を共にする仲間が集えば集う程に力を増すカイのユーベルコードを、一枚のタロットとして託された少女が天狗を討つべく命を下す。
そうだと頷くカイ。
自分たちでは力不足だと分かっていても、自身で決着は付けたい筈。
そこまで届かなくても、この元凶たる者に一矢報いたい。
そんなひとの心に、カイは優しく寄り添いたいから。
「だが、ひとりたりとも死んではならない。生きて、越えるのだ。この戦を、妖の花と星を! それを我らが新しき誇りとしよう!」
少女の命と共に天狗へと殺到する板東武者たち。
カイのユーベルコードの力を得た剣刃が、穂先が、天狗の身体を捕らえて斬り刻む。
鮮血と妖花を散らし、天狗がひとつ鳴きながら地へと落ちて、転がる。
妖星を堕とすのは、単にひとの武ではなかった。
ひとの心、集いし想い。
その輝きこそが、妖しき色彩と光を越えていく。
明日へと。
勝利という未来へと。
大成功
🔵🔵🔵
政木・朱鞠(サポート)
ふーん、やっと、ボスのお出ましか…。
もし、貴方が恨みを晴らすためでなく悦に入るために人達を手にかけているのなら、不安撒き散らした貴方の咎はキッチリと清算してから骸の海に帰って貰うよ。
SPDで戦闘
代償のリスクは有るけど『降魔化身法』を使用してちょっと強化状態で攻撃を受けて、自分の一手の足掛かりにしようかな。
ボス側の弐の太刀までの隙が生まれればラッキーだけど…それに頼らずにこちらも全力で削り切るつもりで相対する覚悟で行かないとね。
得物は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使いつつ【傷口をえぐる】【生命力吸収】の合わせで間を置かないダメージを与えたいね。
アドリブ連帯歓迎
平安の結界を裂いて星光は瞬き、色彩が舞う。
流れる星の美しさはそのままに滅びを招く
天狗。
空を自在にと駆け巡りながら、禍々しき星の力を迸らせる。
「ふーん、やっと、ボスのお出ましか……」
ひゅん、と鉄鎖である拷問具『荊野鎖』を鞭のように鳴らして告げるは政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)。
「もし」
目の前の妖たる天狗は、現実の世界から来たものである。
何を理由としているかは分からない。
どうして、平安結界という愛おしい幻を怖そうとしているのかなんて、分からない。
恨んでいるのだろうか。
全てを捨てて逃げた人間たちのことを。
「もし、貴方が恨みを晴らすためでなく……」
それならばまだ情を向ける余地はあるだろう。
「ただ、かつての戦に負けた人々を追い打つのなら。敗残のモノを滅ぼすのだと、暴力を振るうだけなら」
決して許せないのだと、朱鞠の赤い双眸が天狗を見据える。
「……その悦に入るために、人達を手にかけているのなら」
蔦薔薇の如く棘を纏う拷問の鎖を片手に、朱鞠は静かに告げる。
「――撒き散らした貴方の咎はキッチリと清算してから、骸の海に帰って貰うよ」
ましてやこの白炎の陣。
ブレイズゲートの核である以上、必ずや討つ必要がある。
その上でどうしようもない道場があるならばまだしも、ただ災厄を振りまくだけというのならば、朱鞠は決して容赦はしない。
速やかに結ばれるのは降魔化身法。
三つの力。つまり【妖怪】【悪鬼】【幽鬼】を宿して身体能力を飛躍的に強化する術法だ。
強力極まりない一方で朱鞠に代償を求める剣呑なユーベルコードだが、その対価とて今は易い。
「っ」
天狗の鳴き声によって召喚されるのは、星の如く輝く狐火。
猛烈な勢いで旋回し、あらゆるを巻き込む炎はただの炎ではない。
星炎の力だ。ただでさえ強烈な焼却攻撃が、星の力を得て滅びの炎渦となって戦場を走り抜ける。
「流石に」
朱鞠も強化された身体で飛び退くが、完全な回避には要らない。
左腕が炎に包まれ、【幽鬼】による護りの力がなければ酷い火傷を負っていただろう。
それでもと激しい痛みを無視して朱鞠が放つ荊野鎖。
「無傷ではいかない、けれどね」
星炎の大渦の隙間を狙って放たれる一撃。
さながら毒蛇のような鋭く弧を描く軌道。
意志を持って獲物を狙うような恐ろしささえ感じるのは、朱鞠の持つ技術故に。
天狗が避けようとしても、切っ先がひゅんと捻れて後を追い、生命吸収の力を帯びた鉄鎖がその足に絡みつく。
「二撃目とはいかせないよ」
そのまま鉄鎖を捻り、天狗の肉体に刺さった棘で傷口を抉る。
天狗の星炎は脅威ではあるが、鳴き声を捧げ続けて制御できなければ暴走するだけ。
一方で朱鞠の絡みつく棘鎖は、傷口を抉り続けながら生命力を奪い、朱鞠の負傷を癒やしていく。
「さて、どちらが我慢強いか。同じ『狐』として、勝負しよう?」
星炎が舞い散る中、朱鞠と天狗の妖しき狐の眼がぶつかり合う。
成功
🔵🔵🔴
勧禅寺・宗大
さあ、ここまで来た。
最後に厄介すぎる相手だが
お互いもう退きも出来ない以上、推して参る。
先程の護邸の大暴れを見たのか金の気を帯び、
全身を武器にして突っ込んでくる気か。
より攻守強くなる上に突進の威力も上がると、考えた物だ。
ただこちらも五行は知る物なんだよ。
今まで使い渋って来た【変わり身】で箒星に対処、
一度見れば【見切り】もやりようはあるはず。
しかしただ逃げてばかりでは意味がない。
私を囮にして箒星の経路を敢えて作り、
天網による【目潰し】の鱗粉を【ばら撒き】をして貰い、
自ら目を潰して貰おうか。
更に言えば蛾の五行は火、火克金よ。
それを元に【陰陽双滅撃】を放つ。
下手に五行を纏ったのが仇になったな天狗よ。
血の花を越え、鬼の戦から活路を斬り拓き。
ついに相対するのは数多の光を纏う妖星、天狗だ。
この場に在ったものの、あらゆる力を奪って輝く色彩。
美しくも恐ろしく、ああ、滅びの流星なのだと見る者に抱かせる。
常人ならば抗うことはなど出来ないだろう。
だが、此処にいるのは幻惑の陰陽師。
「さあ、ここまで来た」
凶兆を司る星に臆する筈はない。
空を見て、星を詠み、未来を導くこそが陰陽師。
ならば禍星のひとつ、惑わし堕として見せようと勧禅寺・宗大(平安貴族(正四位下)の幻惑の陰陽師・f43235)がひらりと袖を踊らせる。
顔は幼さの残る少年のもの。
ゆるりとした歩みは、あらゆる人生の路を進んだ老獪なる姿。
付き従う式神、天網も我が主の為と、ふわりひらりと夕暮れの風に翅を踊らせる。
「最後に厄介すぎる相手だが」
僅かに唇に弧を描かせ、笑みに近い。
けれど、決して笑顔とは思えない複雑な表情を浮かべる勧禅寺。
「お互いもう退きも出来ない以上、推して参る」
決意でもあり、意志でもあり。
矜恃でもあって、何処か尊大なる様子でもある。
勧禅寺の全てを推して測るなど到底無理なのだと感じさせる、不思議な微笑みだった。
が、向き合うは天狗。
流れ星の大妖である。
臆すことも惑うこともなく、全身に金行の気を帯び、柔らかな体毛を鋭い金属へと変じさせていく。
「全身を武器にして突っ込んでくる気か」
察すした勧禅寺が小さく眉を顰める。
先ほどの護邸の大暴れを見たのか、或いは、勧禅寺という幻惑の陰陽師には強靱さで押し切るのがよいと見たのか。
全身を硬化させ、更には爪や牙を鋭い刃物と化していく天狗。
攻守が共に強くなり、突進での威力も跳ね上がる。
そんな単純な話だけではなく、金行が持つ切断の力の前では、木行に属する人体で耐えるのは不可能に等しい。
「考えた物だ」
鋼刃の気と輝きを宿した天狗がひとつ空へと鳴く。
如何なる結界、術法をも切り裂く流星の刃とその身を化そうとするのだ。
だが勧禅寺へと走る寸前、小さな笑みが零れた。
「ただこちらも五行は知る物なんだよ」
陰陽五行。調和と相克。
それを知り、掌で転がせずに何が陰陽師というのか。
世に満ちるあらゆる力を利用し、活用するのが陰陽の術。
確かに天狗が妖花をもってあらゆる力を奪い、自らのものへと変えたのは脅威ではあるが。
「……所詮は付け焼き刃よ」
勧禅寺が自らの胸に秘める秘奥には届かないと、うっすらと笑う。
天狗の高く鳴く声を合図に、破滅の光が狂奔する。
触れれば死。防ぐことも儘ならない。
そんな一条の光筋が走り抜けたかと思えば、既に勧禅寺の身はそこにはない。
今まで使い渋っていた変わり身の術を此処で切り、天狗の狙いを幻の像へと誘導したのだ。
確かに恐ろしく早い。
反射するより迅く動き、気づいた時には既に過ぎ去っている。
「だが、一度見れば見切る術もやりようはある」
動き出す寸前の挙動。
目には見えない気や霊力の流れ。
あらゆるを掴み、幻惑の術を尽くせば躱せない事はない。
しかし、ただ逃げてばかりでは意味がない。
だからこそと、天狗を変わり身で惑わすように誘い込む勧禅寺。
再びの帚星は敢えて経路を作り、誘導し、その先にいる天網が翅よりばら撒く鱗粉を浴びせたのだ。
どれほど早くとも、突き進む路には最中では被弾とてするもの。
だからこそ金行で身を硬化させたのかもしれないが、勧禅寺の狙いは他なるもの。
「自ら目を潰して貰おうか」
天網にばらまかせたのは目潰しの鱗粉である。
天狗は視界を奪われ、周囲を高速で走り抜けていくばかり。
幻惑こそ自らの名と微笑む勧禅寺。
結界、迷路、術法に詐術。
あらゆるは謀りの掌の上と、少年の顔には似合わない表情を浮かべ、するりと指を走らせる。
「して。更に言えば蛾の五行は火。火克金よ」
瞬時に金は水を生じさせると切り替えられないのが天狗の限界点。
五行を操る上で天狗が勧禅寺を決して越えられない力だ。
加えて、陰陽をも操るのが勧禅寺でもある。
「――陰と陽の理を以て、敵を滅せん!」
先の式神である天網の鱗粉は陽の火気。
ならばとそれを追うように勧禅寺から放たれるのは、強烈な陰の火気。
深紅の光芒一閃。
焼き尽くす陰陽ふたつの火の猛威が天狗を貫く。
陰陽を以て対消滅をもたらす、陰陽双滅撃の法だった。
先の勧禅寺の言葉通り火克金。今の天狗には効果覿面たる火炎が身を包み、燃え盛って妖星を墜とす。
くつ、と。
紅蓮に包まれる天狗の姿へと、ひとつ笑みを向ける勧禅寺。
「下手に五行を纏ったのが仇になったな、天狗よ」
五行でなければまだ勧禅寺は苦戦していたかもしれない。
が、自らの土俵へと上がってくるのならば、容易に打ち落としてみせよう。
それが夜空を走る星であったとしても。
滅びを招く禍津星であったとしても。
「災禍を払うが陰陽師。あらゆる災いの力、その源を知れば、どのようなものとて届かぬと幻惑で包み、彼方へと消し去ってみせよう」
眼を開いた勧禅寺の元へとは決して、届かない。
一度、謀りの上で手痛い目を受けたからこそ、妖相手には油断もありはしないのだ。
これにて幕と勧禅寺は高下駄を鳴らし、天狗の終わりを見つめてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
シモーヌ・イルネージュ
アンタがここの主だね?
アンタに会いたくて、大急ぎで走ってきたんだ。
会えてうれしいよ。しかも期待通りに強そうだ。
いい戦いができそうだね。
黒槍『新月極光』で戦おう。
天狗の速度はヤバいね。ご丁寧に『土』で固めてくるとは。
まともに当たると死ぬね、これは。
だけど勝負だ。
闘牛も天狗も正面で当たったらダメ。流していかないとね。
天狗の速度はサイバーアイの動体【視力】で捉えよう。
そして槍で【武器受け】【吹き飛び耐性】して、
速度を受け流したところをUC【神燕武槍】で反撃だ。
固めた土ごと【怪力】でもって叩き落としてやろう。
ここを抜かれると後ろに迷惑かかるしね。
恐ろしき妖星に相対するは、いと冷たき月影の穂先。
如何なる災禍にも臆さず、揺れることのない凜々しき佇まい。
それは、さながら鋭くも麗しき氷刃の姿。
「アンタがここの主だね?」
たとえ、流れる星であろうと穿ってみせると、黒槍『新月極光』を掲げるのはシモーヌ・イルネージュ(月影の戦士・f38176)。
刃先からはゆらゆらと、オーロラのような神秘的な光が煌めき、零れ落ちている。
シモーヌの双眸もまた戦意という輝きに満ちていた。
「アンタに会いたくて、大急ぎで走ってきたんだ」
一歩、一歩と。
静かに近付くシモーヌ。
間合いを計り、一息にと黒槍で貫くべく。
或いは、少しでも天狗が動きを見せれば、それを制すべく。
隙など微塵とてない。
冷たく張り詰めた空気が、シモーヌと天狗の間に満ち溢れていく。
「会えてうれしいよ。しかも期待通りに強そうだ」
魔狼の闘争心をそのままに笑い、ゆっくりと黒槍を諸手に構えなおす。
さて、この槍は星を穿つに至るのか。
夜天に在る月に手は届かないとひとは言う。
が、愛の為ならば月とて墜とすとひとは歌う。
ならば、氷の戦乙女は流星を貫くに至るのか。
「いい戦いができそうだね」
さながら歌劇の終章を迎える静けさと共に、唇から吐息を流すシモーヌ。
天狗もまた空で身を躍らせ、シモーヌが近付くのを待ち構えていた。
ふと、小さく。
だが、確かに先に動いたのは天狗だった。
全身に纏うのは『土』の力。
つまりは岩石と土砂を全身に纏い、堅牢なる鎧としてみせたのだ。
「ご丁寧に『土』で固めてくるとは」
シモーヌの姿から水気を手繰る者と見て、相克で有利な土を纏ったのか。
槍に貫かれない鎧を求めたのか。
定かではないが、ひとつ空へと鳴けば目にも留まらぬ速度で走り抜ける帚星。
煌めく霊力が残光となって散る。
影さえ掴めない速度だと、シモーヌがすっと目を細めた。
「天狗の速度はヤバいね」
まともに視認することさえ難しい。
その上、大量の岩を纏っているのだ。
衝突時の威力は言うまでもなく、鎧や加護、守りの術法を無視する絶空斬の効果まで乗っている。
「まともに当たると死ぬね、これは」
トドメとばかりに、シモーヌの周囲で高速飛翔を続ける天狗。
速度と加速時間に応じて威力を増す性質上、天狗が狙っているのは明らかに一撃必殺。
下手に動けば隙を狙われる。
が、シモーヌが動かなければそのまま威力を増し続けるだろう天狗の帚星。
退くか進むか。
思案に惑い、躊躇うのが常である。
「だけど勝負だ」
けれど、シモーヌはただ真っ直ぐに踏み出していた。
果断迅速。迷いはそのまま敗北に繋がると心の底で知っているのだ。
死戦において、自分を信じられず、自ら路を歩み出さない者がどうして勝利を掴めるだろう。
迷い、悩み、惑った先に待つのは常に敗北だけ。
故にと黒槍『新月極光』を構えて、一気に駆け抜ける。
動かなければならない。それはシモーヌが宿す魔狼の魂の直感でもあった。
少なくとも、いつ攻め懸かるか分からない天狗を待つのは愚かしいと言えた。むしろ相手が隙を狙って走り来ると分かっているぶんだけ、迎撃には向いている。
「闘牛も天狗も正面で当たったらダメ」
しなやかな指先で槍の柄を手繰り、ひゅんと鋭い刃音を鳴らすシモーヌ。
「流していかないとね」
ただの目では天狗の速度は捕らえられない。
が、シモーヌの左目は尋常ならざる技にて紡がれた義眼である。
異世界の技術を凝らして作られたサイバーアイの視力は、確かに高速で走り抜ける天狗の姿を捕らえていた。
「此処、かなっ……!」
互いに渾身。魂を懸けての一瞬の交差。
黒槍『新月極光』で受けると共に斜めへと逸らし、シモーヌは天狗の突進を受け止めながら勢いを流していく。
――あの板東武者たちの頼もしさ、勇猛さに負けてはいならないものね……!
それは刹那の擦れ違い。
柄の槍で受け流し、吹き飛ばされる事も拒んだシモーヌ。
槍と身体で捌ききれない勢いは、むしろ、しなやかに肢体を空へと踊らせるように跳躍している。
飛燕が如き体捌きで弧を描く銀氷の戦乙女。
位置取るのは天狗の真上。
「さあ、ここで勝負だ!」
受け流した勢いを利用して身を翻し、シモーヌが黒槍『新月極光』から放つは神速の一閃、
神燕武槍。
纏って固めた岩石と土砂ごと、魔狼の怪力を持って貫き通していく。
さながら、それは星を穿つ黒狼の氷牙。
自らの帚星の突進の勢いも利用されての一撃に、天狗が甲高い鳴き声をあげ、大量の血飛沫が舞い散る。
岩石の鎧など砕け散っている。
血肉を貫き、骨を砕き、臓腑まで至るオーロラ纏う黒き刃。
いと冷たく、いと鋭く。シモーヌは流星さえも捉えて地へと叩き落としてみせたのだ。
「ここを抜かれると後ろに迷惑かかるしね」
妖星を墜とし、更には柄で追撃を加えて後方の武者たちへは通さないと見せるシモーヌ。
着地すれば受け流した際に受けた衝撃が遅れてシモーヌの内臓を遅う。
苦痛の余りによろめくが、それでもと天狗を見据え、動きを止めた大妖へとトドメを放つべく踏み込んでいく。
果敢である。
勇猛である。
それは数多の世界と戦場を駆けたからこそ、輝くかのよう。
だからこそ。
戦の神髄たる勇と誇り。
その何たるかを知る月影の穂先が、ついに天狗の首を穿つ。
大成功
🔵🔵🔵

ミルナ・シャイン
あの美しくも禍々しい妖とは以前も対峙したことがありますけれど。あの時よりも強化されているようですわね…
護りの騎士としてはやりにくい能力持ちですが、ここまで来たからには最後までわたくしの矜持を示してみせますわ!
人々を、そして大切な人達を守り抜く決意で『君を守ると誓う』発動。セイレーンの水のような髪、騎士然としたマントを靡かせ人間の足を生やした真の姿に。
攻撃は最大の防御、【召喚術】で召喚した星霊グランスティードに跨り【騎乗突撃】。攻撃は盾で【受け流し】そのまま【シールドバッシュ】で攻撃を。盾は武器にだってなりますの!
木属性の翼による稲妻はこちらも雷属性による【電撃】を浴びせ相殺を狙いましょう。
空を流れる星の彩。
美しくも恐ろしく、ひとの目と心を奪う妖星。
触れれば滅びて、逃げても必ず追いかける災い。
名を天狗。
このブレイズゲートの主であり、今は八つの翼を広げて飛ぶ大妖である。
「あの美しく、禍々しい妖とは以前も対峙したみとがありますけれど」
夜空の煌めきを零す天狗に対して。
静かなる海の色彩を纏い、ゆっくりと向き合うのはミルナ・シャイン(トロピカルラグーン・f34969)。
そう、以前とは違う。
「あの時よりも強化されているようですわね……」
元より恐ろしく、美しく、それこそ死の星のような姿ではあった。
が、今持つ八つの翼はこのブレイズゲートのあらゆるから力を奪った証拠。
これほどに早くミルナたちが駆け抜け、敵陣を抜けなければ。
ひとりとて妖花に命を奪われていれば。
もっと恐ろしき光と色彩となって立ち塞がっていただろう。
或いは、道中で少しでもと妖花を散らしたことも、今の天狗の力を削いでいるのかもしれない。
それでも護りの騎士であるミルナとしてはやりにく、あらゆるを防ぐ力を持っている。
けれど、相手の力の多寡。
その性質によって、進むや退くを決めるのもまた騎士ではないのだ。
透き通る細身剣を真っ直ぐに構え、ミルナは清冽なる騎士として宣言してみせる。
「ここまで来たからには最後までわたくしの矜持を示してみせますわ!」
それは即ち、ひとを護ること。
「誰ひとりと失わず、欠けることのないハッピーエンドを迎える為に!」
鋭利なダイヤモンドの刀身に美しき貌を、決意の表情を映してミルナは続ける。
それこそが、ミルナの願いであり、天と海に誓う誇りなのだから。
「人々を、そして大切な人達を守り抜きます。わたしくが、あなたの、みんなの盾となります」
しゅん、と切っ先が風を切る美しい音色を響かせて。
正義の誓いを元に、ミルナは真の姿へと変身していく。
セイレーンの水のように透き通る美しい髪を持ち、誇り高き騎士然とマントを翻すミルナの姿。
人間の足を持ったが故に大地に立ち、高潔な群青の色彩と光で妖星たる天狗を討つべく、眦を決す。
「来なさい」
召喚した星霊グランスティードに跨がり、一気に騎乗突撃で攻め懸かる姿。
攻撃こそ最大の防御。
護る為にこそ、果敢に攻めるを知る騎士の姿だった。
恐れなど、ありはなしい。
天狗が木行、つまりは雷撃の力を纏おうとも、ミルナは臆すことなく自ら間合いを詰めることで帚星が威力を発動させるのに必要な加速時間と距離を奪う。
衝突ダメージを十分に発生させるには足りない至近距離。
ならばとミルナは透き通る盾を以て天狗の帚星での突進を受け流し、盾を翻してそのままシールドバッシュでの殴打を繰り出す。
受け止めるだけではなく、確かに受け流すという騎士の盾の術。
絶空斬という脅威を秘めている為、護りに長けるミルナは相性が悪いのは確かかもしれない。だが、何も敵の攻撃を防ぐだけが護りの技ではないのだ。
守護の為の技、その種類と性質は、ミルナの裡に星の数ほど秘めている。
「盾は武器にだってなりますの!」
言葉の通り、星霊での騎乗で天狗に並走しながら盾を激突させ、天狗の疾走の勢いを減じさせ、攻勢へと転じるのを止めていく。
盾での攻撃で、そもそも相手の攻撃を成立させない。
これもまた、護る騎士の技と言えるだろう。
天狗の木属性の翼が激しい光を纏って稲妻を放つが、ミルナもまた刀身に纏わせた雷撃を浴びせて相殺を狙う。
天狗が放つは滅びの白き雷光。
しかし、ミルナが繰り出すは群青の色に染まる凛烈なる雷刃。
相殺どころか、ミルナの青い雷撃が天狗の稲妻を切り裂き、その身へと確かな負傷を刻む。
僅かに揺らぎ、勢いを失う天狗。
「そこですわ!」
ならばと騎乗突撃の速度を乗せ、疾風の如き斬撃を繰り出すミルナ。
斬り裂かれた天狗の身より血が溢れないのは、透き通るダイヤモンドの刀身には、蒼穹の色を宿す雷撃が纏われているから。
「わたくしがいる以上、誰かを犠牲になんてさせまんわ!」
怯んだ天狗へと連続で振るわれる青き雷刃。
天と海。双方が持つ青く澄み渡る色を纏うミルナは、ただ真っ直ぐに進み、告げるのだ。
「この先にハッピーエンドがあるのなら、わたくしは絶対に、絶対に諦めません」
ミルナの母が教えてくれた、とてもとても大事なひとつ。
「自分も含めて、誰も死なせない。そんな夢のような結末の為に、此処で妖しき星たるあなたを討ちます!」
凜々しき騎士の声と刃を受け、禍星たる天狗が地面へと落ちる。
「さあ、皆様! 最後まで、生きてこの戦場を越えて、皆で勝利を遂げるますわ!」
ミルナが追撃に移るよりも優先したのは、周囲の安全確保。
猟兵や後方の板東武者たちへと、最後の一撃を放たないようにと盾を構え、星霊グランスティードを巡らせ。
ミルナは護る為の盾の一撃で、天狗の最後の足掻きを打ち砕くのだった。
大成功
🔵🔵🔵
鷲生・嵯泉
“まつろわぬもの”を只排除するというのは気が向かんが
此の天津甕星を放置は出来ん
無辜の民に害為すならば、此の刃にて斬り伏せるのみ
元より火の氣が強い身だ。火克金の理を以て相対するとしよう
宿れ獄炎――暈涯双添、此の身を覆え
引き上げるのは攻撃力――反応速度に特化させる
視線に体捌き、空気と氣の流れ等の微かな変化も集中した気配感知で見極め
躱す事に重点を置くと同時、カウンターで叩き斬ってくれる
加速が乗れば乗るほど反動も又大きいと、其の身で知るがいい
毒…か
生憎と此の呪焔は特別製だ。耐性と云うより――毒をも飲み込む竜謹製の代物
そう易々と喰らわれはせん
星とは標となるべきもの
惑わす灯火なぞ未来行くものには必要無い
戦場でも途切れることのない絆のように。
立ち上がるは馨しき紫煙。
唇に挟み、吸い込むその匂いに、確かなぬくもりを感じて。
鷲生・嵯泉(烈志・f05845)は石榴のように赤い隻眼を。するりと泳がせる。
緩やかで、穏やかでもあった。
だが決して情や憐憫を含まない、刃のように鋭い視線だった。
「“まつろわぬもの”を只排除するというのは気が向かんが」
夜空に流れる星を操る天狗。
それは朝廷に従わぬ妖である。
が、これはひとつの戦の勝者でもあった。
優しき夢の世界。
平安という結界に逃げ込んだ人々と、荒れ果てた大地に棲まう妖たち。
果たして、どちらが正しいのか。
どちらがより苦しんでいるのか。
妖の確かな声を聞く事は出来ず、現実とは果たしてどのようなものかは分からない。
だが、ただひとつだけ言える。
――あれは、過去の残滓なのだ。
今を生きるものを蝕み、未来を閉ざす昏い影。
ならばこそ。
「此の天津甕星を放置は出来ん」
災禍を断ち切る為にある刃、秋水で払いて斬るのみ。
美しき刃文はいつの間にか露を帯び、鷲生の腕の一振りで夕焼けに艶やかな珠を散らす。
「無辜の民に害為すならば、此の刃にて斬り伏せるのみ」
此処もまた、民の暮らす都なればと。
鷲生はひとつ深く息を吸い込み、煙草の煙を胸の奥まで浸す。
最後まで吸い込んだとなれば、術式の施された煙草をまたひとつ、唇で挟んだ。
眼前の天狗の消耗も激しいが、油断ならない相手。
ゆらりと間合いへと踏み込みながら、鷲生は思考を巡らせる。
元より鷲生は戦となれば烈火の如き苛烈さを示す気質である。
云うまでもなく火の氣が強い身と心。
ならば火克金の理を以て相対するのだと、金の気を巡らせる天狗を睨み付ける。
天狗が高く空へと鳴くが、開幕の合図。
半身を翻して秋水を構え、同時に込められた術式を解放するように煙草へと火を付ける。
「宿れ獄炎――」
ぼうっ、と燃え盛るのは呪詛の焔。
触れた者の生命を奪う呪焔を身と刀身に纏うことで、鷲生の力を更に増大させていく。
――この火が、この祈りが、私を生かすのだ。
「暈涯双添、此の身を覆え」
寄り添う者の祈りと火さえあるならば。
この身に敗北はなく、進めない路はないと烈士が隻眼で妖星を捉える。
引き上げられたのは攻撃力。その土台となる反射速度へ特化させる、戦場を前にして即興で形を変える術式。
が、そんなものは容易いとやってのけるのが鷲生という漢。
誇りも奢りもしない。
成すきことを為し、遂げるべきを貫くのみ。
そうして鷲生が捉えるは、天狗の未来の動きそのもの。
天狗の視線の動きに体捌き。流れる空気と氣の流れ。
僅かな変化も極限まで集中させた気配感知で見極めようとする。
――刹那だ。他は要らん。
無論、二の太刀など鷲生は求めていない。
一の太刀を疑わずというが、これは己と呪詛を編んだ竜への信頼に他ならない。
手の指に嵌まる暮相があれば、何を疑いて憂う必要があるというのか。
ただ深く、深くと息を吐いた瞬間。
一気に空へと天狗が駆け抜ける。
まさに流星。目にも留まらぬ速度とはこの事。
だが、果たして天狗は自らの肉体を自在に操っているのか。
これほどの速度であれば御するのは困難な上に、意志よりも早く動く身体をどう精密に、或いは反射で動かせるのか。
いってしまえば速度を上げすぎたものは、極まった剣士にすれば斬りやすい。
急激な流水、或いは滝水に混じるひとつの木の葉を見極め、斬ればよいだけ。
云うは容易い。
為すは困難。
されど、それを誓いと祈りがために遂げるが鷲生という漢である。
光芒一閃――妖星を断つは、凜々しき剣刃。
鷲生は最小限の動きで身躱すと同時、カウンターでの一撃を天狗へと放ったのだ。
武芸の誇る怪力と技を持って走り抜ける一刀。
それは天狗の加速と速度が乗ったぶんだけ、反動として天狗を深く切り裂くことになる。
「速さも強さも。増せば増すほど、反動も又大きい。――その身で知るがいい」
御せぬほどの加速。
迎え撃たれれば、むしろその勢いを利用される速度。
どちらも、共に危うい。単純に強いからこそ、それを制する技と心が生まれるのだ。
遅れて大量の血液が天狗の傷口から吹き出し、鷲生の姿を赤く染める。
ぽつりと唇が言葉を紡ぐ。
「毒……か」
金行。つまりは刃と毒。
人体は木行に属してあり、それを害する金。
金属がそのまま毒になる。などはいうまでもない知識でもあった。
ならば、この天狗の血は如何に。
「生憎と此の呪焔は特別製だ」
確かに天狗の血さえも毒液ではあった。
だが、鷲生が纏う呪焔はそれさえも蝕んでいく。
「耐性と云うより――毒をも飲み込む竜謹製の代物」
故にと秋水を振るって、刀身に纏わり付いた血糊を払う鷲生。
身に触れる毒の血液など、全く意に介さないと。
事実、毒に侵される様子などありはしない。
「そう易々と喰らわれはせん」
新しい煙草をひとつ摘まみ、唇に咥えれば、後方で激しく地面にぶつかって落ちる天狗の物音。
高い悲鳴もまた聞こえる。
「星とは標となるべきもの」
振り返ることなく鷲生は口ずさみ、オイルライターで火を灯す。
「惑わす灯火なぞ未来行くものには必要無い」
鷲生の唇にある煙草の先。
そこに灯る小さな火こそ、未来への標として相応しい。
或いは、あの竜の火を重ねて炎とするからこそ、もはや惑わないのか。
もはや鷲生は語らない。
終わりゆく戦場、妖星の墜ちるこの場で。
馨しき紫煙をと燻らせる。
ああ、お前とまた路を往こう。
そんな祈りに似た思いで、鷲生は夕焼けの空を見上げた。
大成功
🔵🔵🔵
アシュエル・ファラン
脳裏に浮かぶ、あいつが何故戦場で表情一つ変えないのか理解した
それは『こんな化け物』を目にし続けてきた、俺との圧倒的な場数と、力量差――
「負けて、たまるか…」
あれにはあれの戦い方がある。ならせめて肩を並べる程には、俺には俺の戦い方が在る事を示してみせる――!
情報を調べ叩き出す
まずはあの八翼…正直言うと殆ど俺には対策不能だ。手にあるものは『麻痺毒を含む金属の刃』ならば――取れる対策も恐らく一翼、叶えられて『金剋木』
即座に計測器が周囲情報のデータを集める
記憶を辿り、風の動きと派生する電圧の波を調べ
懐中時計を双剣に型替え、駆ける
敵の攻撃には通常の声ではない、UC発動に必須な『【捧げる】に値する声になるまで』の時間差があるはずだ。その隙を逃さず、調べ上げた木属性の翼へと走る
敵の攻撃は正面の翼から、もしく天上か。異常な電磁波を目に数値が弾ける瞬間、敵斜め上へ双剣の片方を投げ避雷針にして雷を受ける
その隙にマヒ毒を塗った投擲用ナイフで木属翼を狙いUC
刺されば後の敵の動きを読んだ上で、一振りで強力な一撃を
美しくも恐ろしい妖星の煌めき。
星彩は滅びを招くべく輝き、あらゆるに災いを為す。
これが天を翔るというのなら、何処に逃げ場があるというのか。
立ち向かうといえど、流星にどうしてひとが抗えるというのだろう。
ああ、と。
だからこそなのだと、 アシュエル・ファラン(盤上に立つ遊戯者・f28877)は脳裏に浮かぶひとりの姿に思いを寄せる。
その美貌、白き翼を携える背。
彼がどうして、何故、戦場で表情ひとつ変えないのかと理解したのだ。
それは『こんな怪物』を目にし続けてきたから。
世界の脅威に立ち向かい、怯むことも臆すこともなく、歩み続けてきたから。
理不尽に身を浸した。
無明たる絶望の闇を、それでも彷徨い歩いた。
勇気。信念。曇ることのない希望。
或いは、他の何かを礎として。
そうしてアシュエルと彼の間には圧倒的な壁が出来る。
踏み越えてきた場数、相対してきた強敵。それが作る、圧倒的な力量差。
ああ、と。
アシュエルの身が震える。
ぎゅっと拳を握りしめた筈が、指が震えるのを止められない。
恐れなのだろうか。
それにしては、この胸の奥で脈打つ血が、熱すぎて――。
「負けて、たまるか……!」
闘争心というにはまだ足りない。
けれど、という何かがアシュエルの裡で脈動して止まらない。
此処で膝を屈したくないのだと、目の前の禍星という脅威と不条理を前に、それ以上の光を記憶と思いに見て、アシュエルは眦を決す。
あれにはあれの戦い方がある。
優れた剣士が一方で呪法や技術に疎い。
そんなことは、数多と世界が広がる以上は当然のこと。
ならせめて。
せめて、肩を並べることが出来る程には。
「俺には俺の戦い方が在る事を、示してみせる――!」
そうだ。闘争心に滾るなんて俺らしくない。
アシュエルはそう分かるからこそ、熱い血潮の高鳴りを抑えて、ただ静かに、静かにと周囲を、戦場を、眼前の敵である天狗の姿を捉えるのだ。
まずはあの八翼。
その情報を集め、纏め、そして即座にアシュエルは呟く。
「いや、あれは殆ど俺には無理だ」
絶望ではなく、純粋に討つ手がない。
術としては陰陽五行を利用する。星を越える猟兵の力を見せる。
生命を蝕む妖には破魔を唱え、奪われた命は更に奪い返すなど術法は数多とある。
が、それをアシュエルが確かな精度で扱えるかといわれれば否だ。背伸びをして、甘い希望的観測をして、それで出来ませんでしたなど現実では通らない。
ならば死ねと、冷たい死神が笑う気配を感じるアシュエル。
けれど、全てが出来ない訳ではないのだ。
ひとつだけ可能性がある。希望として抱くに足る力がある。
アシュエルの手にあるのは『麻痺毒を含む金属の刃』。まさに金行の力の塊だ。
ならばと取れる対策も恐らくあの一翼。
叶えられて『金剋木』。
記憶を辿り、風の動きと発生する電圧の波を調べながら、魔導蒸気の懐中時計を鋭い双剣へと形を替え、そのまま駈ける。
間合いを取れば、ただ敗北一色。どうしもようもないと悟るからだ。
天狗の翼は木行。
雷を纏う姿となったのは好機だが、星の如く輝く狐火を呼ばれればアシュエルにはどうしようもない。
防ぐ技を無視して更に威力を増す絶空斬。
その力を得た星焔と雷撃の焼却攻撃を受けて、為す術もなく斃れてしまうだろう。
そんな自分は、絶対にアシュエルは許せないから。
「ユーベルコードの発動に必要な、【捧げる】に値する声」
それは常の鳴き声ではない筈。
祝詞のような調子や、リズム。或いはそれに至るまでの詠唱めいた流れ。
絶対に唐突に、もいきなり出せるものではないと、集めた情報で確信したアシュエルが駆け抜け、天狗の懐へと跳び込んでいく。
「い、けぇぇっ!」
背後に墜ちる落雷。
その凄まじい雷鳴に肌を、身を、鼓膜を震わせられながらも、なお一歩と踏み込むアシュエル。
実際、僅かでも遅れていれば雷撃を身に受けていた。
果敢に進むことで活路がある。
まさに板東武者たちが見せた武勇の様に、アシュエルは微かな笑みを浮かべて。
「これで、どうだ……!」
身ごと旋回させる勢いを乗せ、調べ上げた木属性の翼へとアシュエルが繰り出すのは双つの斬撃。
木行ならばこそ刃金の一撃は特攻。
人体と同じ木の気は著しいダメージを負い、僅かに後ろへと流れる天狗の身体。
「っ」
だが、まだ。
こんなもので終わる筈はないと、情報を集め続けていた腕時計を見れば、異常なまでの電磁波の数値。
「受けて、たまるか……!」
弾けるより早くと天狗の斜め上の方へと投擲される双剣のうちの片方。
これもまた金属。つまりは、雷を引き寄せる避雷針である。
轟く雷鳴。激しい雷光。
受けていれば腕ごと焼け落ちていると確信する猛威が荒れ狂い、アシュエルの視界を白く灼く。
けれど、と。
それでも息をする。前へと踏み出す。
アシュエルの黒い双眸は討つべき敵を、いいや、並び立つべき翼ある彼の姿を映している。
幻覚だとひとは笑うだろうか。
いいや、それでもいい。
此処はアヤカシエンパイア。
平安なる結界が紡ぐ、美しき夢の世界。
在るかどうかも定かではない、愛しさを歌う世なれば。
「それを掴むのが、ひとなんですよ……っと!」
雷撃を放った直後、僅かに見えた天狗の隙を穿つようにとアシュエルが続けて投擲するのは麻痺毒を塗ったナイフだ。
木属性の翼を貫く金属の刃。しかも重ねて毒という金の属性。
これはどうしようもない一撃となって天狗に甲高い悲鳴をあげさせ、飛ぶことを阻んで地面へと降り立たせる。
だが、アシュエルが放ったのはただの投擲ナイフではない。
それは
狩猟女神の瞳。一度、攻撃が命中すればその敵の攻撃パターンと手段、行動速度を覚えるもの。
動きの法則と可能な攻撃方法。
更にはそのリズムさえ覚えれば、後は獣を狩るが如く攻め懸かり、詰ませていくだけ。
狩猟では獲物の呼吸を知れとよく言われる。
剣を交える相手でも、刃先よりも息をみよ。或いは、自らの呼吸を止めてでも隠せと。
それを知られるということは虚実を織り交ぜ、自在に攻撃できなくなるということ。攻める法則を知られ、守り、逃げるということも読まれるということ。
一方的に盤上の駒にされてしまうのに等しい。
「そう。獣を狩るのは苦手でも、盤上で詰ませていくのは得意なんですよ、っと」
が、アシュエルの呼吸も、攻めも、速度も天狗は知らない。
故に縦横無尽と斬り懸かるアシュエルを予測することが出来ず、迎え撃とうと雷光を走らせても虚空を切るばかり。
一手、一手と重ねられていく攻防。
それは戦いの優勢という天秤を、ひたすらにアシュエルの側へと傾けていくだけの積み重ねだった。
女神に愛されている。
そう云われても、頷く他にないアシュエルの神懸かった読みと、詰みへと向けた攻め筋。
加えて麻痺毒の効果もある。
逃れられないと手数を重ねる天狗の身に幾筋もの朱線が走り、血が零れていく。
そして、アシュエルがついにと天狗の動きを完全に捉える。
嫌がるように。逃げるように。
せめて間合いから離れ、雷撃での遠距離攻撃に切り替えるのだと全力で退こうとした瞬間、アシュエルもまた全身全霊で前へと飛び出す。
全力と全速。
アシュエルの持つあらゆる力に体重、刃を操る術を乗せて、狙うは天狗のその眼。
『――――ッ!!?』
眼窩へと深く突き刺さる一振りの刃に天狗が悶絶する。
ただ痛みに耐えかねて全力で暴れ回り、結果としてアシュエルを遠ざけるが、確かな深手を与えていた。
美しくも妖しい光を湛えていた天狗の瞳。
そのひとつはもう永遠に失われ、ただ滂沱と赤い涙を零すばかり。
「片方の星が墜ちた、ってね。ほら、君の眸はまるで星のようだ……というじゃない」
たんっ、と地面に着地したアシュエル。
そのままくるりと、優雅に踊るように身を回し、ひとつ戯れとばかりにお辞儀をする。
「もっとも、君という存在は柔らかくて可愛らしい少女を傷つけた。その身も、心も。なら、赤い落涙でその罪をせめて贖ってくれないかな?」
そういって。
自らが隻眼へとさせた天狗へと、ウィンクをおくるアシュエル。
――実を言えば、まだ鼓動が荒れている。
血潮が熱く、身体が興奮と恐怖で震えだしそうだった。
けれど。
けれど、こんな場で悠然と。凜々しく佇むのが彼ならば。
優雅に戯れを示し、知略で盤上を楽しむのが自分なのだと。
アシュエルは落ち行く星に願い、誓うのだ。
並び立つその時には、こんな震えには打ち克ってみせるのだと。
そう思う心は、必ずや何時か。
もっとも大切な時、星を越える輝きとなってアシュエルを支え、彼を導く一筋の光となる。
きっと、そう。
愛しき夢幻の世界で、願ったのだから。
妖しき花と星の踊る戦場を、渡り抜いたのだから。
これはもう、ひとつの事実。
アシュエルの掴み取った、大切な魂のひとかけら。
――さあ、勝利を遂げて、花を贈ろう。
大成功
🔵🔵🔵
月白・雪音
…承知致しました、これより先は我らが戦なれば。
我らが将と、担う家の名を聞きましょう。
命を賭すとは命を捨てると同義に非ず。どうか一人も欠けることがありませぬよう。
私は妖、生命、星…、則ちこの天狗が妖として『此処に在る』事たらしめる翼を担いましょう。
UC発動、妖にて命を奪われるとあらば迅速を以て。怪力、グラップルの格闘戦にて戦闘展開、アイテム『薄氷帯』の効果で全身を霊力保護し絶空斬を打ち払う
殺人鬼としての業を以て生命の循環とそれを断つ根幹を感じ取り
狙うは顎及び喉、野生の勘、見切りにて相手の動きと殺気を捉えつつ地形破壊により狐火の隙間を作り肉薄
部位破壊、2回攻撃にて顎と喉に一撃を叩き込み狐火を操る鳴き声を遮断
炎が制御を失えば見切る事叶わず、故に呑まれぬは勘に優れた方。野生の勘にて炎の軌道を感知し回避及び立ち合いの中で天狗自身を焼かせる
星の翼が本性を示せば落ち着き技能の限界突破、無想の至りを以て極限まで業を練り
只人の業を以て星を墜としましょう。
戦の後は勘の赴くまま、声響く天の眼を見据えましょう。
破滅を招く星彩が瞬く。
隻眼となって血涙を流し、それでもと天に吠えて災いを招く天狗。
美しくも恐ろしい色彩と光。
相対するは、真白き雪の乙女だった。
物静かに。
ひとつの感情を示すこともなく。
されど、ただ真っ直ぐにと妖星を墜とすべく進むは月白・雪音(
月輪氷華f29413)。
色無くとも静かに佇む様は、さながら儚き雪花の姿。
寸鉄を帯びることはなく、異能を操る術もない。
産まれながらの虎の因子、爪牙を使うこともない。
徒手空拳にて挑む雪音だが、その芯は凍月の如く澄み渡る心にある。
恐れを知らない訳ではない。
だが、必要とあれば怯むこと、臆すことなど在りはしない。
生きるが為に成すのなら、如何なる路をも雪音は歩み、越えてみせる。
「……承知しました」
唇より零れる、泡雪のように静かな声色。
僅かな情念を覗かせることもなく、深紅の双眸で天狗を見つめる。
「これより先は我らが戦ならば」
猟兵でなければまともに戦うことなどできない。
共に常識の埒外へと越えた存在が故に、星を討つのは我らが役目と雪音は心得て、緩やかに構えを取る。
つい、と視線だけが後ろへと流れた。
血のように赤い眸が、冷たい美しさで若き将たる少女を見つめる。
「我らが将」
そう呼ばれ、気力の尽きかけていた少女の背筋が伸びる。
まだ若い。まだ幼い。
伸びる余地はあり、されど、その志は確かに響くもの雪音は頷き。
「そう掲げる貴女と、その家の名をお聞きしましょう」
死に向かって走ることが士道ではないと云った雪音。
だが、生きる為に戦い抜くというのならどうして嫌とあろうか。
「誰に勝利を届けるべきか、迷わぬ為に」
僅かな沈黙。
破るは、やはり高潔を以て鳴る武士の声。
「桐生だ。私の家は桐生という。この武士たちを統べるもの。だが、私自身の名ならば星を討ったあとに聞きに来るがいい。縁、確かにあれば擦れ違う事もあるまい」
凜然と響く少女の言葉に、雪音もしずしずと頷いて見せる。
名を知る為には生きなければ。
ああ、それは確かに善きことか。
命を賭すとは、命を捨てるとは同義に非ず。
信を置くひとりの者として、名を知りたければ少女は生きて戻れと云うのだから。
「どうか一人も欠けることがありませぬよう。……ええ、縁は引き寄せてみせましょう」
そうしてするりと。
ゆらり、ふわりと粉雪が舞うような軽やかな足取りで。
白き残像を紡ぎながら雪音は天狗へと迫る。
絶妙な速さは、拍子を掴むということが難しい。
単純に見て、感じて、捕らえようとする間に雪音の白き技に惑わされ、後手に回って間合いを詰められる。
武芸を研ぎ澄ました者でもそうなのだ。
武を知らない天狗が逃れられる筈もない。
「私が狙うは三つ」
呟く雪音が、鋭い視線を走らせる。
ひとり、ひとつと相対した天狗の翼だが、此処で雪音は三つに挑む。
困難は増すが、そうせねばならないと確信したのだ。無視してはならないと獣の本能と殺人鬼の衝動、つまりは死を感じ取る勘が告げている。
無視してはならないのは三つ。
妖、生命、星。即ち、天狗が妖として『此処に在る』事をたらしめる翼。
平安の結界を破って現れた星。
そして生命を貪る妖としての本質。
この三つを打ち砕くことこそ要と、心の臓と共に脈動する
拳戦が雪音に告げる。
それは間違いではないのだ。
真実ではあるものの、ひとつだけ雪音は踏み違えてしまう。
天狗より妖気が揺らめき、雪音の命を奪おうとする。
触れずとも及ぶ影響は看過出来ないと迅速と果断を以て踏み込む雪音。
だが、『薄氷帯』の効果で妖の効果を打ち払おうとする。それだけは、どうしようもない間違いだった。
「――っ!?」
天狗がひとつ甲高い声を上げたと思った瞬間、『薄氷帯』の効果が一息に無力化され、霊力の膜が斬り裂かれる。
保護の力を斬り棄て、更に妖の略奪の力を増させるは絶空斬。
「これは、なりませんね……」
雪音が呻きを漏らす程に、略奪を司る妖の力は激増している。
天狗の力を甘く見たか、らしくない間違いか。
だが、踏み間違えたとしてもそこで投げ出す雪音ではない。
むしろより迅速に、奪われるより早く殺すのだと殺技を持って迫る雪精の如き姿。
儚くて繊細な白い貌。
それは死神の美しさに他ならない。
奪った生命の循環を殺人鬼の衝動と眼で見切り、それを断つ妖の根幹を感じ取る雪音。
天狗の身の奥で巡り、脈打つ妖と生命、そして星の力と存在――つまりは存在の急所を見抜くに至る。
「力を増した。ならばただ、一息に――」
天狗が鳴き声を捧げる最中にも放たれる殺気を捉え、雪音は大地を震わして穿つ震脚を示す。
同時に呼び起こされるは妖、生命、星の力を宿した狐火。
強大な力が渦を巻き、絢爛なる妖星の威を示すのだ。
それは神域にも届きうる凄絶なる炎。
触れたあらゆるを灼き尽くし、灰も残さぬ破滅の炎が高速で旋回し、雪音を呑み込もうとする。
が、脚の一撃で大地を砕いた雪音。
地形を破壊し、狐火が覆う空間に僅かとはいえ隙間を作り、身を滑らせるようにと天狗へと肉薄する。
無傷とはいかない。
だが、元より無傷である必要はないと、赤い眸が告げている。
そうして放たれるは真白き武技。
瞬きより早く放たれる掌底は二度。
天狗の顎、喉へと叩き込み、狐火を操る鳴き声を一時的にでも遮断して見せる。
「自ら呼んだ炎に抱かれなさい」
制御を失い、暴走する狐火の渦。
もはや天狗が制御を取り戻すことも、見切ることも叶わず、雪音諸共に呑み込もうと狂奔する。
破滅の星の輝き。そのなんと恐ろしく、美しいことか。
だが、これもまた死。
生と死の境を嗅ぎ分けることに長ける雪音は、この荒れ狂う炎の軌道をただ勘で嗅ぎ分け、回避して見せるのだ。
楚々と澄み渡る氷花の如き雪音の姿。
しかし、炎渦巻く中で天狗と立ち会い、拳撃を叩き込みながら、自らのみは紙一重で星焔に灼かれることを防ぐのだ。
それどころか組み技のように天狗を掴み、相手の力を誘導して炎の中へと投じて見せさえする。
雪音にし、この星焰のような多くの色彩はいらない。
むしろ、色を喪ったが如き雪の白さで炎嵐の中で舞う雪音。
まさに妖星を討つほどに極まった、ひとの技である。
加え、三つの属性に合わせて絶空斬の効果で威力を増した天狗の炎。その自らの劫火に灼かれ、天狗が断末魔に似た声を上げるばかり。
妖に生命。相反するふたつの力が鬩ぎ合い、放った筈の天狗の身を自ら焼き滅ぼしてゆく。
それでも、と。
『――――!!』
赫怒の念を上げ、星焰の渦の裡より飛び出し、もはや六つとなった翼を広げる天狗。
星の翼を煌めかせ、自らの本性、本質と言える力を更に増幅させていく。
「ええ、ならば」
雪音もその後に続き、決着の気配を感じてゆっくりと息を吸う。
落ち着きの限界突破、至るは無念無想。
凪いだる湖面、或いは、凍て付く月の姿のように。
冷たい吐息を零しながら、明鏡止水の心で業を練り上げる雪音。
「只、人の業を以て星を墜としましょう」
呟いた瞬間、高速で飛翔する天狗。
美しい星彩を煌めかせ、霊力を纏う禍星の姿。
それを討つべく、するりと身を躍らす姿は雪魄氷姿。
武に生きるが故に高潔で、冷たく澄み渡る潔白なる心の様。
まさにひとの武心をもって、雪音は天狗の力が巡る流れの交わる一点、存在の急所を抜き手で貫く。
確かにと、天狗の命にまで触れる雪色の死神の指先。
交差したのは一瞬。
それでも十分だった。
どうっ、と後方で飛ぶ力を失った天狗が倒れ込む音を立てる。
一方、雪音は力と命を奪われつつも、その身で地に立っていた。
そうして、空を見上げていた。
「しかし。花に星」
美しくあるが故に、妖しきものへと至ることもあるだろう。
が、何処かあまりに作為的ではないだろうか。
天から響いたようなあの声も、何かは分からない。
ただざわり、ざわりと雪音の肌が違和感を覚えていた。
天狗という脅威を打ち払ったばかりだというのに、まだ肌が危機を感じて震えている。
見上げれば終わりゆく夕焼けには大きな満月。
本来であれば雪音の属性である静かさと、冷たさを称えるもの。
だが――それをみれば、よりざわざわと肌と心が波打つ。
雪音にはまるで空に浮かぶ月が巨大な瞳に思えていた。
飽いて、厭いて、美しい夢を戯れに壊して、慰めを得ようとするような。
何処か空虚で冷たい存在を感じて。
瞼を閉じる。
今は届かない巨悪を、いずれは討つと心に定めて。
雪音は静かに佇み、夕焼けの風に頬を撫でられた。
白い長髪が、さらさらと美しく靡いていた。
その姿は、さながら白き彼岸花。
赤い戦の世界に咲いた、静かなる高潔を宿す純白の花だった。
大成功
🔵🔵🔵
鞍馬・景正
天狗。
堕ちたる修験者ではなく、その名の元となった存在のようですね。
まさに玉石ともに焼く崑岡の火、雷より烈しき凶災。
さておき――雷を斬れば雷切、鞍を断てば鞍切。
ならば、あれを討てば天狗切と太刀の名を改めねばならぬでしょうか。
◆
馬より降りて、抜刀したままに進み出ましょう。
相手がこちらへ食らい付くよう、斬撃波を叩き込むなりして誘いながら、太刀を上段に。
いずれの翼も厄介ですが、毒持つ『金』の翼、断ち切ってみせましょう。
右腕を掲げ、左肱を畳むように。
そのまま天狗の元へ馳せ、斬り合いの間へ引き込むまで。
迫るほどに身を切る颶風、絶空の刃も吹かせる狂勢。
結界術も裂かれ、全身が刻まれようと、ただ心眼で勝機を捉えるのみ。
衝突の衝撃が身を粉とする寸前、剣気を昂らせた上で【星降りの太刀】一閃。
鎧を破断してから、刃が皮膚に食い込むまでの刹那に満たぬ時間の内に斬り終えるまで。
生死眼中になく、流れる星の如くにて妖気を断つ。
武者たちが命を振り絞っているのを背に、何じょう身を惜しむ戦が出来るものか。
斜陽も、星も、命さえも。
燃え尽きる最後の瞬間こそ、もっとも強く輝くのだろう。
美しく、恐ろしい星の輝きを纏い、再び空へと飛び立つ天狗。
片目を失い、今や六つとなった翼を広げて再び飛ぶ姿は、絢爛でありながらも禍々しい。
滅びの星彩である。
災いの火種である。
それが最後に燃え盛ろうとするのだから、どれほどの猛威が迫るというのか。
だが、命を賭してというのならばそれは皆、同じこと。
此処に至るまでの板東武者も、猟兵たちも。
死してなお魂を尽きぬと、輝きを見せたのだから。
「
天狗」
静かに呟くのは鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)。
黒と青に彩られた風雅と威風漂う武者姿の羅刹だ。
愛馬である夙夜より降り立ち、抜刀した儘に悠然と前へと進む。
その心に恐れなどあろうものか。
澄み渡る藍玉の双眸は、ただ天狗の姿を映すばかり。
これを討つのだと、決して揺らがない意志の元で。
「堕ちたる修験者ではなく、その名の元となった存在のようですね」
鞍馬の生きる世界の天狗ではなく、流れる星を司る大妖。
瀕死であるというに、いいや、だからこそか。
身に纏う色彩と光は、より一層に煌めきを増している。
まるで炉の裡で灼ける隕鉄の様である。
様々に色は変わっても、見る者の眼に焼き付くような強烈な光と眩しさ。
此は確かに、世に災いを呼ぶ禍星の光。
「まさに玉石ともに焼く崑岡の火、雷より烈しき凶災」
ひとの生きる地に在ってはならない空の災禍。
しかし、交わった以上はどちらかが滅ぶというもの。
成る程、争いを必定とする星の定め。まさしく凶兆の星と言えるだろう。
「さておき――」
それが最期の光を瞬かせても尚、意に介することなく鞍馬の視線は自らが担う大太刀、鞍切正宗の刀身へと注がれている。
刃長三尺五寸、豪壮として沸豊かな大太刀。
鞍馬の手にあって相応しいと思える雅さはあるものの、刃金の奥に潜む威は隠せない。
先ほども鎧を纏った叢雲鬼と騎馬を纏めて両断するに至る、凄絶な切れ味を誇る一振りである。
見る者が見れば感嘆の息を零すだろう。
刀というひとつの武器は、此処まで美しさと恐ろしさを両立させるというのか。
まるで今、鞍馬が対峙する天狗と同じように。
或いは、そこまで至らせるがひとの業、ひとの心、ひとの武というものなのか。
そう。そのようなことはさておいて――。
「――雷を斬れば雷切、鞍を断てば鞍切」
そう言いながら大太刀を緩やかに構える鞍馬。
斬ったものに応じて名を得るが太刀というもの。
鬼切、雷切。はたまた転化に名高き童子切。
物語を帯びる中で、鋼刃は遣い手の魂をその身に映して更に鋭さと強靱さを得るのか。
全ては不明。
それでも見つめる先はただひとつ。
「ならば、あれを討てば天狗切と太刀の名を改めねばならぬでしょうか」
あの妖、天狗を斬る。
その一念が鞍馬の周囲に清らかな風を吹かせ、鋭い音色を零す。
その音は刃風だった。
――しゅん、と。
音を越える速度で震われた鞍切正宗の切っ先が斬撃波を紡ぎ、天狗の身を斬り裂く。
鞍馬は遠方からでも応じてみせる示し、ならばと至近距離へと天狗が迫るようにと誘い出そうとしているのだ。
しゅん、しゅんと。
美しい刃金が幾つもの烈風を紡ぎ、天狗へと迫る。
元より負傷著しい天狗としては、そのままの削り合いは避けたいところだった。
ならばと鞍切正宗を上段に構える鞍馬の誘いへと乗り、一気に勝負を決めようとするのは当然のこと。
緩やかな足取りで間合いと拍子を測る鞍馬だが、その一方で天狗との攻防は熾烈極まる、一瞬の奪い合いだと心得ていた。
――進退窮まったモノは、武者であれ獣であれ、妖であっても脅威。
命を賭しての一撃はその威だけではなく、意志もが怖いのだ。怯まない、臆さない。
二の太刀を捨てた構えは不退転。故に死地から活路を開く。
「それと斬り結ぼうとする私も、さて、如何なるものか」
身を流れる羅刹の血が熱く昂ぶるのを感じて、鞍馬は僅かに笑ってみせた。
鞍馬の刃に応じてか。
或いは、人体を害する切断と毒に長ける金の気こそが最良と見たのか。
天狗の身が灼ける熱を帯びた鋼の色となる。
赤々と、煌々と。
恐ろしいまでの霊力が込められ、一度で決するのだと天狗が星火と斬刃の威を帯びて渦巻き走る。
加え、金の翼が一振りの太刀のように形を替える。
鋭い刃、強靱な刀身。そこに宿るは、流星という神速と、あらゆる守りを破る絶空斬。
さながら自らの命を燃やしながらも、啜る血の命を求める妖刀の如き姿だった。
「成る程。躱すも難しく、受けるは不可能」
金の力ではあるが、さながら雲耀。
これぞ鹿島神が与えた試練かと、鞍馬がゆっくりと息を吸う。
鞍切正宗を持つ右腕は掲げ、左肱を畳むように。
一種独特な構えであり、そこから出せる技などひとつかふたつ。
もはや一意専念。
全身全霊を尽くす天狗に、乾坤一擲の鋼刃を以て応じるのだと告げている。
鞍馬が今更に構えを替えれば、ただの隙。
帚星と化した天狗に身を貫かれ、両断されて終わるのみ。
ならばと、ただ起こりは静かに。
されど、まるで荒波の如き威を身に秘めて、鞍馬は天狗の元へと馳せる。
一歩と共に息を吐き出す。
肺の奥、腹の底にひとかけらも何も残さない。
全て出し切るという凛烈なる貌。
命を賭して、魂を燃やすという熾烈なる意。
後は知らぬ。いいや、刃を振るうことしか知らぬ剣鬼へと、鞍馬は身を投じるのだ。
――でなければ、何が武者と言えるだろうか?
平穏な世界で忠義に信念、義や智略で民を統べるも善いだろう。
そんな泰平の世をひとは幸せと呼ぶ。
だが、そんな場所では輝けない刃が、魂が、此処に在る。
故にと迎え討つ天狗の動きを捉えながらも、鞍馬は避ける動作も捨てて更に前へと踏み込むのみ。
最早、退けぬ。
此処は、死地なり。
迫るほどに身を切る颶風は、果たして鞍馬と天狗のどちらが放ったものか。
絶空を帯びる天狗の刃翼は狂勢と共に眼前に迫り、死の気配を撒き散らす。
鞍馬の広げた結界術も容易に斬り裂かれ、いいや、絶空の刃が帯びる妖しき艶を増させるばかり。
切っ先が届くより先、天狗の刃翼から放たれる剣風にて鞍馬の全身が斬り刻まれ、藍染めの鎧さえも血に赤く染まる。
されど、されど。
衝突の衝撃がもたらす、死と滅びへの苦れ。
流星という斬威の到来のその寸前、鞍馬は静謐さを湛え続けた心の眼で勝機を捉えていた。
昂ぶるは羅刹の血のみにあらず。
剣気もまた、戦の狂奔にて研ぎ澄まれている。
鞍切正宗の刀身に纏わせ、ただただ大上段から放つは一閃、星降りの太刀。
天狗という狂星を迎え討つ、彗星の如き剣刃である。
しかし。
しかし、僅かに遅いか。
「――――」
鞍切正宗の刃が天狗の刃翼に触れようとするのと、天狗の刃翼が鎧を破断しようとするのはほぼ同時。
これでは相打ち。両者、臓腑を撒き散らして死に転がるのみ。
だが、そんなものは鞍馬の心眼は捉えていない。
「――――!」
元より生死など眼中にない。
鞍馬はただひとつ。斬ることのみを遂げる、一振りの刃となっていた。
ならば、如何に禍星の妖とて斬るという一点において、鞍馬に叶う筈もないのだ。
遅れたかに見えたが、それは残像。
僅か刹那の交差だ。
鞍馬の鎧は既に斬り砕かれており、肌に妖刃が食い込んでいた。
それが抜けて臓腑に届く前にと流れる星の如くと鞍切正宗の刃が天狗の刃翼を斬り棄て、凄絶な剣気の奔流が迸り、天狗の妖刀たる翼を砕く。
まさしく紙一重。相手が振り切るより、こちらが振り下ろして斬り殺すという雲耀の技。
刀術の極意。死と命という影と光の狭間で成す一刃であった。
いいや、それのみで留まらない。
「…………」
鞍馬が結界術を張ったのは絶空斬の効果で威力を増させる為。
先に一撃を受ければ威力を増大するのが鞍馬の星降りの太刀だが、更に相手の勢いと威を利用して断ち斬ったのだ。
刃翼では足りぬとそのまま奔る切っ先は天狗の身を、心の臓を捉えていた。
それは光も影も追いつかない、刹那の出来事。
刃金の音さえも交差が終わった後に響き渡り、戦場の終幕を遅れて告げていた。
数瞬遅れて勝敗に気づいたように、後方へと流れる天狗の身が両断されて、大量の鮮血と共に大地へと墜ちる。
鞍馬の鎧も砕けて地面へと転がり、風に流されるようにと羽織の一切れが空へと舞う。
ただ一息、死に限りなく近付いた筈の鞍馬が、穏やかな微笑みを浮かべてみせていた。
先ほどは、一振りの太刀であるかのような凄絶さを浮かべていたというのに。
荒波の如き様は収まり、今は月影を浮かべる水面の如き鞍馬の姿。
「よい、戦でした」
祖たる板東武者たちが命を振り絞っているのを背に、どうして心身を惜しむ戦いが出来るものか。
妖に対しても礼節は失わず、命を奪い合う相手として尽くすのみ。
そして、此処に至るまで猛勇を振るった板東武者たちにも。
「そう。此処に至るまで」
鞍馬と天狗。二振りの星刃の勝敗こそ、彼らへの最大の労い。
「――此処に、至るまで」
流石に羅刹の身といえど、全力を振り絞った直後のせいか、鞍切正宗の柄を握り絞める指が硬直するように震えている。
それともこれは高揚だろうか。
今更、ひとつの勝利に奮えるような身であったのだろうか。
いいや、これが今までの積み重ね。
天地は違えど、祖から受け継いだ板東武者と羅刹の血の成した、星斬りの刃とあれば、勝利の喜びもまた一際違おう。
「…………」
けれど、鞍馬は鬨の声などあげない。
鞘におさまらない程の鞍切正宗の刀身を静かに見つめる。
夕焼けもついに落ちて、青い夕闇が満ちていく。
その中で、ついと視線をあげて藍玉の双眸で緩やかに、ひとりの少女を見つめる。捉える。
促す。
貴女が、将として声を上げるのだと。
ならば応えようと。
少女もまた息を大きく吸い込み、空へと響かせる。
「空より降りし妖星、これなる羅刹の武者の剣が討ち取ったり!!」
それが、ブレイズゲートと化したこの結界に響き渡る最後の音だった。
白炎の結界陣が砕け散り、全てが日常に、平安の結界の世へと帰って行く。
そうして、愛しき夢幻の世界で沸き立つのは、板東武者たちの声。
勝利を喜び、此処に生きる志を見つけ、生き抜く覚悟を覚えた。
後の世に、侍の武心と魂を繋ぐものたちの喜びの声だった。
●
――ああ
と。
何とも白々しい声が、もはや平安の世には届かない妖の空から零れ落ちる。
――このように刹那に生きて、死ねたのなら。
飽いている。厭いている。
生きる必要がなく、死も遠すぎるが故に。
そのような輝かしい生き方は出来ないのだと分かりながら、ひとりの男が声を玩ぶ。
――私も星を見つけた童のように、笑えますかな。剣でも握れば、そのように……。
そんなことは絶対にないと己で知りながら。
なお語るは巨悪の象徴。
異なる
天地にて、屍兵と命を玩んだ、魔将のひとりで喉の奥で笑う。
自分には何も出来ないと。
今回、何も奪えなかったと知りながら、なんとも厭いた笑みと声を続けた。
――また、幸せな結末。
また。
何度も。
幾度となく、こうされるのかと。
猟兵が絡めば、幸せな結末しか訪れない。
望んだ筈の災いは地に届かないと知り、うっすらと眼を細める男の名を――安倍晴明という。
幸せな結末に苛立つ自分を欺く男だった。
誰ひとりとて命が死へと転ばないことに、静かな怒りを込める、世界の敵であった。
大成功
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