●夏の一日
夏の羽毛に生え変わる頃、日差しは最高潮に達する。
見上げれば天頂に高く太陽が昇っていて、強烈な輝きを放っている。
こころなしか、厳・範(老當益壮・f32809)の妻が営む店先に落ちる影すら色濃いもののように思えてならない。
灰の毛並み、銅色の瞳を持つグリフォン『无灰』は今日も店先で寝そべっていた。
暑さは堪える。
それ以上に道行く人々や道仙といったものたちの顔色を見ていると、さらに暑さがますように思えてならなかった。
「はい、これ」
目の前に皿が置かれる。
今日のおやつだ!
『无灰』は、むくりと起き上がって眼の前の赤い果実……? をしげしげと眺める。
半分に切り分けられているものなのだろう。
内側は赤く、黒い点々がある。
外側は緑に黒の縞模様。
なんだろうこれは?
首を傾げた『无灰』に皿をおいた『若桐』は笑む。
「『花雪』たちが畑で育てた西瓜だよ。一緒に種まきしたの覚えてない?」
はて?
種まき。
したような気がする。
白と黒の先輩たちといっしょに遊ぶようにして手伝ったものだから、手伝いをした、という自覚はあまりなかったのかもしれない。
「それがね、食べごろだっていうんで収穫してきてくれたんだよ」
なるほどぉ。
しかし、どう食べたものか。
「赤い所を食べなね」
ここか、と嘴を開いて赤い果実めいた部分にかじりつく。
心地よい音が嘴を伝わって響く。
ん!
音を立てた果肉から溢れ出す蜜。いや、さらりとした水めいた汁。
さっぱりしているのに甘い!
頭の中に駆け巡る未知の食感と味わいに『无灰』は嘴を開いて翼を機場焚かせる。
思わず立ち上がってしまう。
いわゆる本気食い、というやつであった。
小刻み良い音を立てて果肉を嘴の奥に送り込む。
なんだかつぶつぶした食感も喉を通る度に感じるが、気にならない。
それくらいに西瓜というものは甘くてみずみずしいものだと『无灰』の認識に刻み込まれてしまったのだ。
「気に入った?」
こくこく。
凄い気に入った。
とっても美味しい!
「あ、でも種は……と思ったけどグリフォンの嘴じゃあ無理か」
『若桐』は苦笑いする。
種は出すものなんだけどね、と彼女が隣に座って窄めた口から黒い種を、飛ばすのを見て『无灰』は目を丸くする。
なにそれすごい!
「お行儀わるいけどね」
なんて、笑う彼女の横でおかわりをねだるように『无灰』は器のような西瓜の皮を揺らすのだった――。
成功
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