●オーシャンビューを横目に
ここは「しまなみ海道サイクリングロード」。瀬戸内海の島々を繋ぐ橋を自転車で駆け抜ける、爽快なサイクリングロードだ。七月上旬の天気のいい日、太陽の光を受け輝く海や島々を見下ろしながら、多くの人々がサイクリングに興じていた。
若い女性の二人連れが道端で休憩している。
日陰で爽やかな風に当たりながら、マグボトルに容れたスポーツドリンクを飲んでいる最中のことだった。
「ねえ……何か聞こえない?」
「え?……ほんとだ」
それは最初、何の音だかわからない、とにかく異質な音だったが、次第にそれが人の声だとわかってきた。近づくにつれて何を言っているのかわかるようになってきた。それは歌うように、こう言っていた。
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
「トンカラトンと言え!」
「「キャアアアーーーー!!」」
自転車に乗った、全身包帯姿の、日本刀を持った怪異の姿がそこにあった。
バベルの鎖が消滅して久しい昨今、一般エスパーでも都市伝説の『実在』は知る所となっていた。二人は止めていた自転車に急いでまたがり、逃げる。
「トンカラトンと言え!」
「「トンカラトン!!」」
「トンカラトンと言え!」
「「トンカラトン!!」」
「トンカラトンと言え!」
「「トンカラトン!!」」
脇道から次々と現れるトンカラトン。二人は『トンカラトンと言えば襲われない』というルールを知っていたため、全力で連呼しつつ逃げた。だがこのルールに従わない個体も見られるという注釈通り、トンカラトンと言っているにも関わらず追うのをやめないので、二人はサイクリングロードを全力疾走する羽目になるのだった……。
学生時代自転車競技部に入っていた二人だったからこそ無事逃げおおせたものの、トンカラトンが出没するサイクリングロードなど危険きわまりない。サイクリングロードはすぐさま封鎖された……。
●チャリで来た都市伝説
「時が……来たようだな!」
穂照・朱海は、右手で髪をかきあげつつ片目を覆い、凄まじい殺気を込めた視線で虚空を貫きながら言った。
「いやなに、サイキックハーツでの事件だというので、やらないといけないかと」
別に高校デビューとか、それに類するキャラ変えをしようというのではない。武蔵坂学園のあるエクスブレインの真似だ。
「というわけでサイキックハーツでトンカラトンが大量発生だ」
灼滅者であれば、ブレイズゲートを思い浮かべるかもしれない。トンカラトンはありふれた『都市伝説』だった。
都市伝説とは、人々の噂話や未知を恐れる心がサイキックエナジーと融合したときに生まれる暴走体であり、かつてはダークネスの一種族・タタリガミによって産み出されていた。
とはいえそれは一昔前の話。タタリガミはほとんどが絶滅したと言われ、都市伝説は出現することはなくなったはずだった。
今現在それが出現しているなら、それはオブリビオンであり、六番目の猟兵が必要とされるわけだ。
「場所は瀬戸内海、しまなみサイクリングロードという所だ。自転車に乗って現れるトンカラトンにとっては丁度いい場所なのだろう。
しかし、都市伝説の行動パターンは予測しづらい。一ヶ所に集まっているというわけではないため、まずは探しだし、一ヶ所に集めてから全滅させるのがいいだろう」
幸い都市伝説は一定のルールに従って行動するとされる。『襲いかかってくる』というルールのあるトンカラトンであれば、現れれば逃げ隠れはしないだろう。
「戦いになれば遠くから姿を見せつけることで戦闘力をあげたり、包帯を操ったり、トンカラトンと言わないとダメージを与えるユーベルコードを使用してくる。
と、ここまでがトンカラトン駆除の説明だが……。
トンカラトンが急に集まった事には原因があるはず。それを探り、原因を排除しなければならない。そこまでが依頼内容だ。
残念ながら……その原因が何なのかは、僕の
全脳計算域でも予測できなかったよ……」
横を向き、髪をファサッとかき上げながらニヤリと笑う朱海。
ここはもっと残念そうな顔をする所だ。
「皆、後は頼んだよ……」
デイヴィッド
ハーイ!デイヴデース!
サイキックハーツでは実在の地名が舞台になっていたので、没入感がありましたね。
ヤマト君元気かな。
●第一章
トンカラトンを探し出します。普通にサイクリングするなどしても出てきますが、その後戦闘に向いた場所まで誘導する必要があります。
見つける→誘き出す の行程が必要です。
なお、レンタサイクルは借りられます。
●第二章
トンカラトンとの集団戦です。
●第三章
原因を排除します。詳細不明。
なお、サイキックハーツの世界設定にエスパーの『通常攻撃無効』がありますが、このシナリオ内ではエスパーのPCが特に有利にはなることはありません。
なお、リプレイ執筆の時間は土日にしかとれません。プレイングの送信は木曜8:30~日曜の午前中をお勧めします。
己の闇を恐れよ。されど恐れるな、その力!
第1章 冒険
『敵の痕跡を追え』
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POW : 気合と根性で痕跡を探して歩く
SPD : 敵が痕跡を隠蔽した跡を目敏く見つける
WIZ : 通常の手段では視認できない、魔術的な痕跡を探す
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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サイクリングにはうってつけの日だ。本格的な夏に入ろうとしている七月の日だが、まだ早朝は涼しく、感じる潮風は快いものとなるだろう。
今は完全封鎖され、車も自転車も走っていない。
トンカラトンがどこに現れたのかはグリモア猟兵も掴んでいなかったので、とにかく現れるまで走るか……あるいは他の方法で捜すのか……。
鈴乃宮・影華(サポート)
「どうも、銀誓館の方から助っ人に来ました」
銀誓館学園所属の能力者……もとい、猟兵の鈴乃宮です。よろしく
学生時代の経験から、大概の状況は冷静に対応できます
体内に棲む黒燐蟲を使役するユーベルコードを主に使用
シルバーレイン世界の技術レベル程度ならハイテク機器も扱えますが
それ以上だとキャバリアの制御AI『E.N.M.A』に頼ります
例え依頼の成功の為でも、他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
あとえっちなのは絶対にNG
なお、コメディ色が強い等のネタ依頼の場合は
「これ、真面目にやると負けなのでは……?」と考え
姉の『鈴乃宮・光華』の演技で語尾を「にゃ」にする等全体的にきゃる~ん☆とした言動に変わります
(では……とりあえず走ってみましょうか)
レンタサイクルにて借りた自転車にまたがった鈴乃宮・影華(暗がりにて咲く影の華・f35699)は、軽快な走りで尾道から今治へと至る、70kmに及ぶしまなみサイクリングロードの第一歩を踏み出した。爽やかな潮風が、影華の黒髪を撫でていく。眼下には360度に広がる瀬戸内海と島々の光景が。
(平和そのものですね……)
しばし優雅な自転車の旅は続いた。
(都市伝説はサイキックエナジーの暴走体とのこと。ならば、エネルギー源になりそうなものを求めるかもしれません)
黒燐虫使いである影華はそう思い、体内の黒燐虫を活性化させる。わずかに体表から黒いもやが浮き出、身体中を循環しているように見える。
(さあ、これで食いついてくるか……)
「トン トン トンカラ トン」
(って早っ!)
早くも聞こえだした。ターゲットである、トンカラトンの歌う声が……まだ最初の橋である因島大橋にさしかかって数分も経っていない。
影華が背後を振り向けば、確かに全身包帯姿の、日本刀を持った姿の怪異が自転車に乗って走っていた。
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
(もうこんなに
……?!)
追ってくるトンカラトンはどんどん増えてきていた。トンカラトンたちは橋の手すりから、橋を吊るワイヤーから、橋の裏側から物理法則を無視して現れ、影華を追う集団に加わる。しかもスピードが早い。
(なるほど……危険視されるわけです)
いまここで仕掛けるべきではない。一ヶ所に集めるのが目的なのだから。
しかしトンカラトンたちはどんどん距離を縮めてくる。影華はもはやハイペースでこいでいるが、距離は広がらない。
「トンカラトンと言え!」
「トンカラトンと言え!」
「トンカラトンと言え!」
言わせにかかってきた。
「はいはいトンカラトントンカラトントンカラトン」
影華は適当に答えながら、この状況を打開する方法を考え続ける。
(仕方がない……やりますか)
自転車をこぎながら背後を向き、人差し指を向ける。
体勢を整え狙いを定め、指先から射出した──黒燐虫を濃縮した『弾丸』を。
それは先頭のトンカラトンの上腕に打ち込まれる。
影華は手を伸ばしたまま、親指を下にむけた。
するとトンカラトンは突然方向を変え、隣のトンカラトンに体当たりして走行を妨害。巻き込んで派手に転倒し、さらに何体かを巻き込んで転倒させた。
(今の内に距離を!)
影華は
暴走黒燐弾・強制共生を使い、黒燐虫をトンカラトンの腕に撃ち込んで操らせ、事故を起こさせたのだった。
その甲斐あって距離を稼ぐことができた。
(しかし、この戦い……誘き出すことだけでなく、追いつかれない工夫も必要になってきますね……)
もはや最初のサイクリング日和もどこへやら。
今ではすっかり、オブリビオン狩りにうってつけの日と言うのが相応しくなっていた。
成功
🔵🔵🔴
イネス・オルティス(サポート)
『この鎧は一族伝統のものよ、それがどうかしたの?』
アックス&ウィザーズ辺境のどこかにある隠れ里に住む一族の女戦士
〔一族伝統の鎧〕のビキニアーマーを愛用し主に〔巨獣槍〕という槍を使う
”ダッシュ”で近づき”なぎ払い”、”串刺し”等をよく行う
ボン・キュ・ボンのナイススタイルで、ビキニアーマーを普段使いしている
恥ずかしさ耐性のあるイネスは、周りの視線を気にしません
そのビキニアーマー姿の存在感で、無意識に誘惑してしまう事がありますが
イネスにそのつもりはありません
アドリブ・絡み・可 ””内技能
描写はセクシーレベルまで
キャバリアには乗らず生身で戦います(他の人のキャバリアを足場にする等はあり)
イネス・オルティス(隠れ里の女戦士・f06902)もまた、自転車に乗ってトンカラトンに追われていた。自転車に乗ったビキニアーマー姿のセクシー美女……サイクリングロードでは浮いた存在には違いないが、そのギャップがなんとも良い味を出している。
今、彼女が誘き出そうとしているトンカラトンは、すでに10を越える数が、並んで追いかけている状態だ。
「トンカラトンと言え!」
「トンカラトンと言え!」
「トンカラトンと言え!」
「トンカラトン、トンカラトン、トンカラトン……はぁ、はぁ」
本職の戦士ではあるが、喋りながら長時間自転車をハイペースで漕ぎ続けるのは流石にきつかった。
トンカラトンの追い上げが半端ではないのだ。
「いちいち答えていては……漕ぐのに集中できないわ……」
トンカラトンと言わなければそれだけでダメージを受けてしまう。こちらは一網打尽にするために敢えて攻撃はしていないが、向こうからは何でもできる……トンカラトンと言えばノーダメージで済むのだが。
「ここは……使うべきね……」
イネスは何かを決意する。すると、イネスの纏っているビキニアーマーがまばゆい光を発した。
「と、トンカラトン?!」
「何だトンカラトン!」
「突然光りだしたぞトンカラトン!」
トンカラトン達が驚きの声をあげる。まともに喋れるのかこいつら。
「
新薄衣甲冑覚醒……今、伝統の鎧から究極の鎧へ大進化。疲労もダメージも気にせず、このまま全力疾走する!」
イネスは全力の立ち漕ぎを始めた。
「うおおおおおおおおおおお!!!」
その姿はまさに、シャイニング・バイシクル・ビキニ・ウォリアー。ビキニアーマーは光り輝き、車輪が力強く回り、胸は激しく揺れる。
「こいつ速いぞトンカラトン!」
「逃がすものかトンカラトン!」
トンカラトン達もペースを上げ始めるが、本気を出したイネスの脚力には叶わない。
何せユーベルコードの発動中はずっと本気で漕ぎ続けられるのだ。負傷・疲労・致命傷の影響を一切受けない。
まさに敵を誘き出すのにうってつけのユーベルコードと言えよう。
ただし、効果終了後にすべて受けることになる。
(今この瞬間の勝利を得ることに全力を尽くす。後のことは仲間に託そう……!)
やがて倒れることを予測しながらも、女戦士はこの一瞬に全てを賭け、全力で駆け抜ける。
成功
🔵🔵🔴
大豪傑・麗刃(サポート)
一人称は『わたし』『麗ちゃん』
まじめなこと『だけ』はやりたくないのだ!
いかなるシリアスな場面でも最低一か所はネタを挟みたい。ダジャレ、奇怪な言動、一発ギャグ、パロ、メタ(一番好き)等何でもよい。
一応状況をちゃんと前進させる意思はあるので、状況が悪化する行為はさすがにやらない。一見悪化するけどネタとして許されるならむしろやりたい。場合によってはギャグを『変態的衝動』に繋げて身体能力を強化し無理やり状況の改善を狙う事も。
あまりに超どシリアスな雰囲気のためギャグなんか絶対に許さないとMSが判断するのなら、シリアスオンリーも一応可能だが、その時は頭痛が痛くなるのだ(強調表現としての二重表現肯定派)。
ラムダ・ツァオ(サポート)
ラムダよ、よろしく。
内容にもよるけど、行動指針となる確実な情報を得るのが有意義だと思うわ。
着替えるなり変装するなり色仕掛けなり、手段は状況に寄りけりかしら。
それとどんなときも落ち着いて行動ね。
あと、物証とか何かを集める必要があればうまく詰め込んで、
効率よく運びたいわね。
行動指針としては以下の3通りが主。
1.潜入・変装・誘惑等で確実な情報一つの入手を試みる
(または情報の裏を取る)
2.斥候・探索役として周囲を探り、情報収集を行う。
3.戦闘にて囮役または攻撃補助に徹する。
台詞回しや立ち位置などは無理のない範囲でご随意に。
ユーベルコードは状況に応じて使い分けます。
アドリブ・連携歓迎
パカラッ、パカラッ、パカラッ……。
ここはサイキックハーツ世界の、しまなみ海道サイクリングロード。だというのに、不似合いな馬の蹄の音がアスファルトの道路に響いていた。
その前方には多数の自転車をこぐトンカラトンがおり、これまた自転車で走る猟兵を追いかけている。
馬はトンカラトンたちを後方から追いかける。さながら競馬の『追い込み』馬の最終直線での走り込みのようにぐんぐん差を詰める。この時、馬もトンカラトンも広い車道を走っており、迂回して抜き去ることができた。果たして気持ちのいい追い込みで抜き去った馬の騎手はジョッキーなどではなく──武人であった。
場面はトンカラトンどもを抜き去り、馬上の武人がその姿を納める。そしてここで静止。画面いっぱいのテロップが映し出される。
大 豪 傑
麗 刃
(26歳児・f01156)
(※ここでテーマ曲が流れる)
「……と、実写ドラマ化にあたってはこんな感じの演出でお願いするのだ」
第一声から第四の壁を越えてきた。
リプレイが実写ドラマ化など、あるわけがない。よくて書籍化だが、望みはまずあるまい。
「コニャニャチワーッ!」
と、突然トンカラトンどもに挨拶する麗刃。馬上で上半身を180度ねじってトンカラトンたちの方を向いている。
「きみたちのユーベルコードの弱点は見抜いたのだ! 覚悟するのだ!」
「トンカラトンっ!?」
「トン……カラトン……?」
『なにっ!?』『何をする気だ……?』ぐらいのニュアンスの反応をトンカラトンたちは返す。
「いくぞ!
自転車に乗って全力疾走すると……
倍苦しい」
・・・・・・・・
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
何事もなかったようにトンカラトンの歌を歌い始めた。
「魔鍵には負けん!」
手持ちの武器の中から魔鍵を掲げながら。
「トン トン トンカラ トン」
やはり歌だけが返ってきた。
「オーノー! ギャグが通じマセーン!」
今度は斧を掲げながら。
「トンカラトンと言え!」
「トンカラトンと言え!」
「トンカラトントンカラトン! くっ、ギャグで笑わせてユーベルコードを使えなくさせるというわたしの完璧な作戦が……!」
「気に病まないで。あなたは良く戦ったわ」
ここで追われていた猟兵、ラムダ・ツァオ(影・f00001)が麗刃に声をかけた。
真顔であった。
「任務のためには手段を選ばない……あなたの姿勢は猟兵として評価できる」
「ありがとう……ところでわたしのギャグはどうだったかね?」
「後は私に任せて」
「わたしのギャグはどうだったかね?」
「纏え」
ラムダは短く言って、ユーベルコードを発動する。
彼女の眼前に突如として何かの姿が現れ、それは手元に収まる。
それは衣服だった。
ラムダはここで突如として、『自転車で走りながら早着替えする』という埒外も埒外なワザマエを披露する。
早着替えについては超絶的な技能を有するラムダならではの技だ。その姿は魔法のように、一瞬で変わっていた。
その姿は──古典的なパジャマ、頭にはナイトキャップを被り、肩には大きな布袋を担いでいる。
ユーベルコード、纏衣無縫。いま戦っている対象に有効な衣装が召喚される。この場合の有効とは、衣装には何かしらの能力が秘められていることを意味する。
「この衣装は『ザントマン』のもの。ザントマンの衣装を纏うことで、私はザントマンの能力を持つ」
ザントマンとは、ドイツなどヨーロッパ諸国の民間伝承に登場する睡魔。ザントマンが背負っている袋の中には眠気を誘う魔法の砂が詰まっている。彼は夜更けになると人々の目の中にこの砂を投げ込む。すると、人々は目が開けられなくなり、眠らずにはいられなくなってしまうという(wikipediaより引用)。
「伝承を現代に甦らせるのがユーベルコードよ」
ラムダは袋から砂を掴み出し、トンカラトンに向かって振り撒いた。自転車に乗っている時というのは塵や砂に対しては無防備なものだ。ましてやそれが自分の進行方向から吹き付けてくるのなら、なおさらである。
たちまち目を開けていられなくなったトンカラトンがバランスを崩して他のトンカラトンにぶつかったり、早くも居眠り運転をしてあさっての方向に行ってしまったりしている。当然トンカラトンと言わせたり、歌を歌う余裕など無くしている。
突然ここで雅やかな音色が鳴り、路上に光が満ちたかと思うと何かが虚空に現れた。
ハゲ頭でこれ以上ないほどのアホ面をひっさげた男がバカ笑いしていた。額には「守」と書かれている。
「わっはっはっは。守護明神じゃあ」
それは間の抜けた声で言った。
「おお守護明神様じゃあ、来てくださったのじゃあ」
と、麗刃。ユーベルコード・達人の智慧で現れるアレである。発声できないと発動できないという、トンカラトンのユーベルコードの弱点を指摘し、ラムダがそれを実証したため現れたのだ。なお見た目には個人差があります。
「これで奴等はしばらくユーベルコードを封じられるのだ!」
「じゃあしばらくは気が楽ね」
「わっはっはっは!」
束の間であったが、猟兵達の心に余裕が生まれた一時だった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ゲイル・ライトウィンド
やはり私もそれをやっておくべきだったかな。いやしかし、初手でやらないでしまったのだから今更か
……。(「時が……」のくだりに言及しつつ)
さて、事件だね……私も付き合おう。
まずはレンタサイクルを借りてサイクリングロードを行こう。上手く釣れてくれたらいいのだけれど。
現れて追われるようであれば、トンカラトンとは返さずにそのまま自転車を漕ごう。
適度な距離を保つのであれば、漕ぐ事に意識を向けた方がいい。
あとはナイトメアウォーカーに纏った悪夢の「影」にトンカラトンの攻撃を迎撃してもらおう。影の扱いは慣れている(影使い)、呼吸をする様な物さ。
自転車を漕ぎながら戦うに充分な広く開けた場所を探していく。
見つけたならそこまで自転車を漕ぎ走り込む。
付かず離れずで来たのであれば射程は充分だ。
地面に赫剣を突き立て、それを軸に回し蹴りを行う。
蹴りの描いた軌跡の先に絡め取る悪夢の「影」が広がるだろう。
半径100mと少し、その中にいるトンカラトンを全て引き寄せて一ヶ所に集めよう。
金色の髪を風になびかせ、ゲイル・ライトウィンド(灼滅者のエクソシスト・f43866)は軽快にサイクリングロードを駆けていた。風を切ってどんどん進んでいく姿は、見ているだけで爽快だ。無論、本人にとっても同じことが言えた。彼はサイクリング中、こんな事を考えていた。
(やはり私もあれをやっておくべきだったかな。いやしかし、初手でやらないでしまったのだから今更か……)
あれというのはグリモア猟兵がやっていた、「時が……来たようだな!」のくだりのことだ。彼もグリモア猟兵として先日、ダークネスオブリビオンの事件の解決を猟兵に依頼したばかりだ。しかし実際にやっていたら、もうその瞬間に道化を演じていた頃に逆戻りだ。
学生だった頃とは違う。変わっていない所も無論あるが……違う。当時のように、ゲイルは普段から道化を演じることはなくなった。
あの頃とは、何もかもが変わっている。……だというのに、過去は過ぎ去る事を望まず、現在に影を落とそうとし続けている。
だからこそゲイルは今なお戦いの中に身を置いている。自分と、愛する家族の平穏な暮らしを守るために。
「トン トン トンカラ トン」
(来たか……)
歌が聞こえれば、それが現れた証だ。
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
声はすぐに拡大され、ちらりと後ろを確認すれば、自転車に乗った全身包帯の怪人の姿は増えていた。それにしても、見事に声が揃っている。
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
「トン トントンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
(一人リズム感覚がないのが居るな……)
だが、そんなことはどうでも良かった。
ゲイルはあえて加速せずにトンカラトンが近づいてくるに任せる。
トンカラトンはある程度近づくと、攻撃行動に移る……『命令』それ自体が攻撃となる。
「トンカラトンと い゛っ!?」
だがその命令は成り立たない。
『肯定』でも『否定』でもない形の返答。命令そのものの阻害だった。
ゲイルの足から、影が伸びていた。それは太陽の角度とは関係なく伸びに伸びて、そして先端は地面から離れて鋭利な刺となって、トンカラトンの顔を突き刺していた。
ブーツ型のトラウメンヴァッフェ、ナイトメアウォーカーに宿る『悪夢の影』だ。それは持ち主に仇なす者を苛む。
(影の扱いなど、呼吸をするようなもの)
影は次々と刺を伸ばし、トンカラトンを次々と突き刺していく。致命傷を与える必要はない。要はユーベルコードの──トンカラトンと言わないものにダメージを与える──起点となる発声を行わせなければいい。ゲイルを視界に納めていないものは『命令』の対象が特定できずに無効となるようだ。近くのものだけ攻撃していけばいい。
(あとはこのまま付かず離れずに走るのみ。何時間だろうと……余裕でいける)
攻防を繰り返しながらの自転車の旅は続いた。
通りすぎていく景色を楽しむ余裕はさすがになかったが、基本的にまっすぐで障害物のないサイクリングロード、バランスさえ崩さなければ前を見ていなくても事故になることはない。
やがてゲイルは前方に奇妙なものを認めた。
(……人だかり?……いや……。
トンカラトン! 大量のトンカラトンが集まっている!)
先発の猟兵がここに留まって、集めたトンカラトンを殲滅しようとしているようだ。トンカラトン達は自転車から降りて臨戦態勢のようだ。
(迂回してもいいが、ここは……)
ゲイルは素早く自転車のスタンドを立てて駐輪。
トンカラトンの大群に向かって駆け出す。
トンカラトン達は最初、皆背を向けていたが(ゲイルから見て向こう側に、誘きだした猟兵がいるのだろう)、最後尾のトンカラトンが気づいて刀を手に向かってきた。
ゲイルはトンカラトンが向かってくるにもかかわらず疾走、そしてその眼前で跳躍。ナイトメアウォーカーから伸びた影がゲイルの体を空中へと押し上げる。
そしてゲイルはトンカラトン達の顔を、肩を、背中を、次々と踏みつけ、繰り出される刀を避けながら、トンカラトンの群れの向こう側へと翔ぶ。
案の定、その向こう側には開けた場所が広がっていた。華麗なる跳躍を経て着地するや否や、赫剣アパラージタの切っ先を路面に突き立て、それを軸に身体を一回転する──その足から影の触手を伸ばして。
周囲のトンカラトンたちに絡み付き、引き寄せて一ヶ所に集められる。アトラクトシャドウという名の、そのユーベルコードの有効範囲は、レベルm半径内に存在する任意の全対象だ。
かくして狩りの準備は、整った。
「さて……ここからが本番だ」
ゲイルは好戦的に口角を吊り上げた。
成功
🔵🔵🔴
橘・レティシア
トンカラトン、トンカラトン、トンカラトントントーン♪
自作の歌を歌いながら自転車を借りてサイクリングロードを走りましょう。
それにしても懐かしいわ。都市伝説という響きも、全脳計算域という言葉もね。
トントントンカラトン、トンカラトントントーン♪
景色もいいし潮風も気持ちいいわ。これだけでもいい思い出になりそう。
トンカラトンが出るまで存分にサイクリングを。
って…来たわね。競争と行きましょうか!
敵をできるだけ引き寄せるようにサイクリングロードを駆け抜けます。
ふんふんふーん♪
これでも体力には自身があるのよ。歌も踊りも体力勝負だから!
邪魔するならこれ!
背負っていたチェーンソー剣でトンカラトンをザクザクッ!
360度に広がるオーシャンビューを見下ろしながら、自転車で下り坂を駆け降りる、橘・レティシア(灼滅者のサウンドソルジャー・f44010)。
橋の上のサイクリングロードからは、遥か彼方まで見渡せる。瀬戸内海の島々が、沿岸部の人々の営みが、レティシアの視界に納められていた。
武蔵坂学園第一期卒業生であり、アーティストである彼女は普段から歌を愛し、世界に届けてきたレティシアは、こういう気分の時、必ず歌を口ずさむ。
レティシアの特徴的な声が、歌声を響かせる……。
トンカラトンのうた
作詞・作曲 橘・レティシア
潮風が吹けば
トンカラトンと音がする
車輪が回れば
トンカラトンの声がする
トンカラトン トンカラトン
トンカラトントントーン
みんな知ってる トンカラトン
だれも解らない トンカラトン
なんで包帯なの 日本刀なの
自転車なの トンカラトンと言わせるの
ミステリアス アーバン・レジェンド
迷い込んで 抜け出せない 謎の迷宮
(トン トン トンカラ トン)
(トン トン トンカラ トン)
遠くから 潮風に乗せて
(トン トン トンカラ トン)
(トン トン トンカラ トン)
届けるよ 歌声を
(トンカラトンと言え!)
(トンカラトンと言え!)
トンカラトン トンカラトン
トントントンカラトン
トンカラトントントーン
(トンカラトンと言え!)
(トンカラトンと言え!)
トンカラトン トンカラトン
トントントンカラトン
トンカラトントントーン
……。
途中からコーラスとしてトンカラトンが参加していた。なんならもうトンカラトンと言わせにかかってきていた。そしてレティシアは、トンカラトンと言うところまで歌にしていた。
サウンドソルジャーの歌は力の発露。エナジーが生じるのは道理であり、それはトンカラトンを引き寄せるだろう。あるいは単に声が聞こえたから追ってきたのかもしれないが、レティシアは見事トンカラトンを誘き出すことに成功した。
「アスリートではないけれど
体力には自信があるわ
歌をご所望なら
たとえ一晩中だって!」
レティシアはトンカラトンを挑発するように歌う。
それは歌姫のアピールだ。
一番上手く歌えるのは私。だけどあなたも頑張ってね。なんて風に。
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
そう言えば、トンカラトンも歌いながら現れる怪異であった。
いささか不釣り合いなセッションではあったが、不思議と調和が取れた状態で、そしてレティシアの体力にものを言わせたサイクリングは、しばし続いた。
「あら あれは何かしら
固まっているわ 集っているわ トンカラトンだわ!」
驚きも歌になるレティシアの視界に現れたのは、トンカラトンの集団……皆自転車から降りて臨戦態勢だ。先発した猟兵が誘き出し、集まったトンカラトンだった。
レティシアは自転車をドリフト走行しつつブレーキ、減速したらそっとその場に寝かせて自らは背負ったチェーンソー剣を手にし駆ける。
「われらの歌によってわれらは愛を生む
奏でなさい 舞いなさい われらは一つ」
レティシアの歌唱に続き、己の背丈ほどもある機械仕掛けのノコギリが引き継ぐように歌い出す。
モーター音のディーヴァズメロディを響かせ、トンカラトンの集団に襲いかかるレティシアの姿は、さながら戦の女神だ。
巨大回転刃を片手で軽々と扱い、上段から下段から、凪ぎ払い多段突きと変幻自在の攻撃を繰り出す。その様子は南米の香りがする情熱的なダンスのように思えたが、ユーベルコードの名はパッショネイトダンスとかそんなのではなく、チェーンソー斬り・改、又はズタズタラッシュという。
文字通り、名のままに、チェーンソーで解体する!
舞い散る包帯、弾け飛ぶ日本刀。トンカラトンはレティシアを止められずに道を譲る。
文字通り道を切り開き、先発した猟兵に合流したレティシアは高らかに告げた。
「開幕の時間よ! さあ、鐘の音を響かせて!」
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『トンカラトン』
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POW : トンカラトンの歌
予め【遠くから包帯姿を見せつける】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : 包帯飛ばし
自身が装備する【敵を拘束する包帯】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 「トンカラトンと言え!」
【包帯の下からの視線】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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尾道からの自転車の旅も、終点の今治にだいぶ近づいた。だからこそ猟兵達が集めたトンカラトンの数も、今や海道の端から端まで届きそうな程に膨れ上がってきていた。あんまり集まりすぎるとそれはそれで脅威だろう。今のうちに叩いておくべきだ。
瀬戸内海の島々を背景に、トンカラトンと雌雄を決する時は来た。
●状況説明
トンカラトンの集団と正面から対決します。
なんだかんだで猟兵は皆一緒の所にいていいものとします。別のところにいて、そこから乱入という形でも可です。
橋からトンカラトンを落とすことはできますが、落下ダメージはありません。猟兵についても同じことが言えます。
ゲイル・ライトウィンド
中山さん(f44218)と。
他にも共闘出来る人がいるならそれもいい。
上手く連携できれば効率も良くなるだろう。
こうも上手く集まるとはね。
些か数が多い……まあ、やれなくはないが、手は多い方が動きやすいだろう。さて、頼めるかな、中……(爆笑する様子を見て言葉を切り、落ち着くのを待つ)……落ち着いたかい?では、頼めるかな、中山さん。
さて、これだけ密集しているんだ。点より面で片付けてしまった方が効率がいい。
ジャッジメントレイで周囲に裁きの光条を放っていこう。中山さんの無力化した敵はもちろん、視界から外れて動いている敵も残るかもしれない。
そういった敵に攻撃しながら、味方にも癒しを施していくよ。
中山・紗奈
オーナー(f43866)と。
他の人ともあわせられるなら一緒に戦ってもいいッス。
うひー、こんな瀬戸内海くんだりまでとかオーナーも人使い荒いっすね。まあ、転送でひとっとびッスから別にいいんスけど。
で、状況は……うっは、なんスかこれ。めっちゃトンカラトン集まってるじゃないッスかウケるー。(ゲラゲラと爆笑し
あーはいはい、こういう時はあの自宅警備術ッスね。
中山流自宅警備術「
働きたくないでござる」!!
こいつで視界内に収めたトンカラトンを全て指定し完全治療してやるッス。敵に塩?……まあ見てるッス、ジブンが送りつけた癒しの力は『働いたら負けという鋼の意識』……つまり、ジブンの治療を受けたら、しばらくの間、絶対に働かないクソニートと化すッスよ。滅多な事では味方には使えない技ッス。
フッ、癒しと共に怠惰の泥濘へと沈むがいいッス。(ドヤさっ
さあ、先生方、これで奴らは骨抜きッス、やっちまってくださいッス。ああ、ジブンも軽機関銃での制圧射撃で援護するッスよ。
(こうも上手く集まるとはね)
ゲイル・ライトウィンド(灼滅者のエクソシスト・f43866)は己の行動の結果に、ひとまず満足した。ここまでは上手くいった。あとは先に転送されてきているはずの仲間と合流し一気に殲滅する。
「さて、いるね。頼めるかな、中……」
「ゲラゲラゲラゲラゲラ!」
その仲間は爆笑していた。
「……中山さん」
「めっちゃトンカラトン集まってるじゃないッスかウケるー」
中山・紗奈(エスパーの自宅警備員・f44218)は笑いの沸点が低い。彼女の眼前には大量に集まった全身包帯姿の怪人、それも一部はゲイルのユーベルコードでぎゅうぎゅう詰めにされて狼狽している。背景の瀬戸内海の島々とのギャップが凄い。太陽を浴びて輝く、海の碧さと青々とした木々との格差がとてつもない。非日常にも程がある。いや、だからこそ猟兵の出動が求められたのだが。
反応は人それぞれであれ、こういう時は紗奈は笑う。爆笑する。
「どうするんッスかこれ。あっジブンが何とかするんっした。あははははは」
笑いながらも本来の目的を思い出したようなので、ゲイルも仕切り直す。
「……落ち着いたかい?では、頼めるかな、中山さん」
ゲイルは紗奈が落ち着くのを待ってから改めて頼んだ。大人である。
「あーはいはい、こういう時はあの自宅警備術ッスね」
紗奈は気負った様子もなく前に出る。
「とくとご覧じろッス!
中山流自宅警備術『
働きたくないでござる』!!」
働きたくないでござる! 働きたくないでござる! 働きたくないでござる! ……(※エコー)
紗奈から何かが放射された。
トンカラトンの、ゲイルの攻撃によって受けた傷が、
治っていく……。
「……治療しているようだが?」
「まあ見ているッス」
言われた通り見ていると、トンカラトン達は刀を落としたり、その場に寝転がったり、日陰に行って腰かけたりした。
さっきまでの殺意が、まるで感じられなかった。
「ジブンが送りつけた癒しの力は『働いたら負けという鋼の意識』」
紗奈が突如として腕組みをして、ニヤリと笑った。
「……つまり、ジブンの治療を受けたら、しばらくの間、絶対に働かないクソニートと化すッスよ。滅多な事では味方には使えない技ッス。フッ……」
最後の「フッ……」に合わせて風が吹き抜けた。
まるでバトル漫画で敵に致命的な一撃を食らわせて勝ち誇っているキャラのようだった。
「さあ、癒しと共に怠惰の泥濘へと沈むがいいッス!」
そして本当に勝ち誇った。気持ち顔が劇画調になっているような気もする。
「働いたら負け……ね……」
ゲイルにとっては複雑な気持ちにならなくてはいけなかった。紗奈は自宅警備員だが、同時にゲイルがオーナーをしている喫茶店の雇われ店長である。彼女にとっては自宅警備員という言葉は何かの暗喩ではない。雇われている以上は働く立場なのだが。
「さあオーナー。これで奴らは骨抜きッス、やっちまってくださいッス」
ゲイルの心中などお構い無しに紗奈は促す。ともかく紗奈はちゃんと働いた。この雇用者と被雇用者の間での連携は成り立ちそうだ。
「ご苦労だったね」
スゥ……とゲイルの周囲の空気が変わっていく。
その藍色の瞳が天を見上げると、ふいに天から金色の光条が差した。
その光はトンカラトンに触れるや否やその体を激しく焼く。
無気力になったトンカラトンは成す術もなく消滅するまで焼かれるのみだ。
悪しきものを滅ぼし善なるものを救う、正義の御業。
ディエス・イレ、裁きの日は来たれり。
光が降り注ぎトンカラトンが灼かれる中、ゲイルは立ち尽くし、その様子をただ見ていた。
「うわはははははは!」
そして紗奈は笑っていた。
「オーナーマジ天使!本来の意味で!人間辞めてる!マジうける」
「………………」
ゲイルは困惑を顔に浮かべながらも、人の世を乱す実体化した都市伝説に対して裁きを下すのだった……。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
飯綱・杏子(サポート)
ジビエ
食材がヒト型でなければ料理して喰らうっす
ヒト型の
食材を料理するときはこちらがヒト型を辞めるのが
マナーっす
リビングアーマーや宇宙船の類だってきっと貝類みたいに美味しい可食部があるし、食器としても活用するっす
どんなに癖のある
肉でも濃い味付けにすれば食えない肉はないっす
悪魔だから
毒は利かないっす。酔うけど。腐敗も発酵もわたしには一緒っす
あと
八つ裂きにされても死なないっす
シナリオの傾向によっては、ヒト型を性的な意味で食い散らかしてもいいっすよ
白子もミルクも大好きっす
ヘンリエッタ・ネクサス(サポート)
「状況:能動的脅威を検知/脅威度=グレードⅣ――任務遂行を最優先」
◆口調
・一人称はボク、二人称はあなた
・誰でも丁寧な口調。語彙は硬く、形式的
◆特技・性質
・全身を機械的に強化されており、常人以上の身体能力と反応速度を有する
・USBで充電可能
◆行動傾向
・とあるヴィランの組織の尖兵として造られた宿命に抗うべく、猟兵として活動しています
・体内に武器やセンサー等を格納しており、状況に応じて展開します
・強化頭脳は動作のムダを省きます
・私情や一般的道徳に囚われることなく、合理的な行動に徹します(中庸/中立)
・感情表現を学習途中なので無機質な印象を与えがちですが、実は人情を重んじ、真顔でジョークを言います
冷泉院・卯月(サポート)
勿論お仕事は大事ですけどぉ、折角なら珍しい物や新しい物も見つけたいですよねぇ~。
あ、ご一緒される方がいらっしゃればぁ、一緒に頑張りましょうねぇ~。
あまり戦闘は得意ではないですけどぉ、ぶちくんとたれちゃんの力も借りてぇ、頑張っちゃいますよぉ~。
遠距離なら二人に短杖になってもらって魔法弾を撃ったりぃ、
接近戦なら二人で力を合わせて杵になってもらって頑張っちゃいますぅ~。
パラドクスは状況に応じて臨機応変に使いましょうかぁ~。
戦闘以外なら運転なんかも得意なのでぇ、何処へでもお届けしちゃいますよぉ~。
道中も楽しいことが見つかるといいですよねぇ~。
「刀と包帯っすか……」
飯綱・杏子(悪食の飯テロリスト・f32261)は果実をかじり、瀬戸内海の島々を眺めながらそう独り言つ。
「全然食欲が湧かないっすね! けど、そういうものを食べてこそのワルってものっす」
「あらあら~」
それに冷泉院・卯月(壱七八あーる・f40880)のおっとりした声が続いた。
「トンカラトンさんを食べちゃうんですか~? それはとってもワルいですね~」
相手がデビルキングワールドの悪魔であることを察した兎のウェアライダーである卯月は、それ向きの返答をした。それを受けて杏子は笑みを返す。
卯月は続けた。
「わたしぃ、バイクが趣味なのでぇ~、トンカラトンさんを掃除したらぁ~、ぜひこの『しまなみ海道』を走ってみたいと思ってるんですよねぇ~」
「バイク……悪カッコいいご趣味じゃないっすか」
別にバイクは悪ではないが、それはそれとしてハイスピードで公道を駆け抜けるのは刺激的な悪事だと、デビルキングワールドでは思われているのだろう。
「ところでぇ~、それは何ですかぁ~?」
卯月が聞いたのはさっきから杏子が食べている果実のことだ。
「これっすか? 願いが叶う魔法の果実、っす」
そう言った杏子の側には虚空に鏡が浮かんでいた。鏡には、鏡像の世界の中にしか存在しない何かが映っている。
「悪いけどあげられないっすよ、これ一般人には猛毒なんで」
「まあ~、そんなものを食べるなんてぇ~、なんて悪いんでしょうぅ~」
そしてそれを忠告してくれるなんて、なんていい人なのだろう、とも思うのだった。
そんなガールズトークを近くで聞いているサイボーグがいる。彼女の名はヘンリエッタ・ネクサス(棄てられた少女兵器・f35114)。ヘンリエッタは感情を学習途中なので、不得手な雑談には加わらず無表情でいたが、内心では熱い思いを抱いていた……罪なき人々の憩いの場である、この美しい瀬戸内海を一望できるサイクリングロードに、人に仇成す都市伝説が出現するなどとは、ヘンリエッタにとっては看過できない事態であった。
ヴィランの組織の尖兵として造られた宿命に抗うことを信条としているヘンリエッタは、世の平和を乱す者と戦うと決めたのである。
「皆さん。敵が来ます」
雑談が途切れて少し経ったタイミングで、ヘンリエッタが無駄のない口調で言った。その機械的に強化された眼球は、トンカラトンを先導して自分達の方にやってくる猟兵の姿を捕らえていた。
と、ここで唐突にヘンリエッタの周辺にどこからともなく、大量のスズメバチが発生する。
「あらぁ~!? どうしてこんなに~」
「蜂は美味しいっすよ」
卯月と杏子はそれぞれの反応を示す。
「これはV.S.P.R.、ボクがユーベルコードにより召喚しました。これを使用しての援護を提案します、よろしいですか」
「いいっすよ、じゃあわたし前衛を担当するっすよ」
「わたしも~、それでぇ~。後衛はお任せしますねぇ~」
「敵性集団との距離が1㎞以内に達しました。戦闘の準備をお願いします」
「わかったっす!」
「では~、行きましょうかぁ~」
……それが猟兵によるトンカラトン誘導が終わるまでのやり取りだった。
彼女達は殲滅班として、誘導班が誘導し終わるタイミングで転送されてきた猟兵達だ。
今や猟兵による誘導の段階が終わり、殲滅のフェイズに移っている。
三人のうち最初に動いたのは杏子。
自転車から降りたトンカラトン達を前に、双剣を手にして、千鳥足のような変則的な動きで敵を翻弄する。
「回てきたアルヨ……
毒が回てきたアルヨ!」
口調が違うのは酔っているからだ。暴食の悪魔であり毒耐性持ちの杏子は、毒で酔う特異体質だ。彼女が先程食べていた果実は、ウイッチクラフトで作り出した毒林檎。それは美しい者を殺すという願いを叶える……トンカラトンの場合、日本刀部分が美しいと言えるだろうか……うまく使わないと願いは叶わない毒林檎を彼女は自ら食べた。
「美しいアナタ殺すアルヨ!」
トンカラトンの集団に上半身を低くして突っ込み、ふらつく足取りでありながらしっかりとした体勢で回避、反撃を繰り返す。その双剣が鋏のようにトンカラトンの刀を斬り飛ばした。
双剣を鋏型に合体させて片手で持ち、飛んだ刃を空いた手で掴みとる。
「本日のメニュー『トンカラ刀の活作り』イタダキマス!」
そして食らいついた。
バキ!ドン!という轟音とともに刃を噛み砕く暴食の権化。
「アイヤーこの歯ごたえと鉄の味が堪らんアルネ!」
呑気に食レポをする杏子だが、完全に捕食者の貌になっている。
「もと寄越すヨロシ!」
暴食の悪魔はさらなる獲物を求め、次なるトンカラトンに襲いかかっていく。
一方では体長約3mのライオンが、黄金の
鬣を乱れさせて暴れまわっていた。
卯月がライオンライドで召喚したものだ。ライオンの背に乗る卯月の、その操縦は確か。まるで一体の巨大肉食獣であるかのようにトンカラトンを爪で裂き、牙で噛み砕く。卯月自身も、マテリアルロッド「ぶちくん」と「たれちゃん」を合体させて杵にして、ライオンの背からトンカラトンの頭部を叩き潰していく。
ライオンライドは互いの戦闘力を強化するユーベルコード。数で圧倒的に勝るトンカラトンであろうと一歩も引くことはなく、圧倒し続ける。
「肉食獣の本能を解放するのですぅ~。今のあなたを止めるものは何もないぃ~欲望のままに暴れまわっちゃいましょう~」
卯月の声にライオンが咆哮で応える。卯月は動物と話すスキルを持つ。言葉で誘導しなくとも勇敢に戦うが、それでも同意を得られるなら心強いというもの。
「おっと、触るのはだめですよぉ~」
ライオンへの攻撃は卯月が杵で阻止し、反撃として打撃を加える。ユーベルコードの強化が乗った、重量感のある一撃はトンカラトンの力で防ぎきれるものではなかった。
「トンカラトンと言え!」
「トンカラトンと言え!」
ここでトンカラトン達もユーベルコードを使い始めた。杏子に向かって命令が飛ぶ。トンカラトンと言えばノーダメージで済むとは言え、何度も言われては戦いの最中にその回数だけ答えるのは困難となる。
卯月には包帯が飛んできた。四方八方から飛ばされる包帯がライオンの四肢と、騎乗する卯月に巻き付き、視界を塞ぎにかかる。一本一本は大したことはないが、束ねれば束ねるだけ強度を増す。
しかしその攻撃は不完全に終わる。
トンカラトン達に大量の蜂が群がって攻撃を加え始めたからだ。
ヘンリエッタの召喚したV.S.P.R──
小型多用途飛翔機群体である。
「700を越える飛翔体から完全に逃れるのは、容易ではありません」
ヘンリエッタは告げる。機械的な声に、熱がこもっていた。
トンカラトン達は上空から襲い来る大量の小型ドローンに発声を邪魔され、包帯を投げる手元を狂わされる。
ヘンリエッタはV.S.P.Rに攻撃と離脱を繰り返させ、その動きを複雑にすることで回避と迎撃を困難にしていた。
「トンカラトンと言え!」
「トンカラトン」
トンカラトンからヘンリエッタに向けられた命令には、0.01秒でレスポンスが返された。彼女の強化頭脳は動作のムダを徹底して省き、必要な結果を最短で返す。
そもそも散発的なユーベルコードなど恐れるに足りない。ヘンリエッタは自分に向かってくるトンカラトンにもV.S.P.Rを差し向ける。
「V.S.P.Rだけで全て倒すのは無理でも……行動の阻害は問題なく可能です」
威力こそ大きくはないものの、その範囲と、間断のない攻撃は戦闘を優位に運ばせた。
何より杏子と卯月が攻撃しやすい状況を作り出したことで、この場の戦闘は優位に進んでいく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
草柳・華穂(サポート)
草柳・華穂(くさやなぎ・かほ)、ウサギ等動物の能力を移植された強化改造人間。
悪の秘密結社から脳改造寸前で脱出し復讐のため戦っていたわ。
悪い奴らに容赦は要らない、特に邪神とか邪教団とか手加減をする理由がないわね
まあ、容赦しなさ過ぎてダークヒーロー扱いになったんだけどね、後悔は無いわ
戦闘では蹴り技を主体とした戦い方をすることが多いわ
色々な動物が入っているけど、メインはウサギだからね脚力はちょっとした自慢よ
しまなみ海道サイクリングロード、瀬戸内海の島々を一望できる橋の上で、草柳・華穂(クラッシュ・バニー・f18430)は、トンカラトンの群れに囲まれていた。
華穂も大量発生したトンカラトンを殲滅すべく、転送された猟兵の一人だ。他の猟兵達から少し離れた位置で、トンカラトン達を引き付けている。
一人で大勢を相手にするのには慣れていた。かつて華穂は、悪の秘密結社から脱出し、復讐のため戦い続けた末に、その秘密結社を壊滅させた過去がある。
秘密結社というのは大抵、こちらが一人ないし少人数のところに大人数の戦闘員をけしかけてくるわけで。
(そういえばこのトンカラトンというのは……悪の秘密結社の戦闘員みたいな格好ね)
対・悪の秘密結社のスペシャリストみたいなものである華穂は、そう思った。
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
奇声(歌?)をあげながら襲いかかってくる所も、似ていると言えば似ていた。
(でも都市伝説なのよね。都市伝説に慈悲はいらないわね)
華穂は普段から悪い奴等に容赦しない。
トンカラトンは人々の不安や恐怖が、怪談をもとに姿と名を得たサイキックエナジーの暴走体だ。
この世界の一般エスパーにとって、数少ない、しかし圧倒的に危険な存在。
悪以外の何者でもない。まあ自然現象に近いもので、悪しき思想などがあるわけではないのだが。
(遠慮なく叩き潰せるというものだわ)
ともかく、苛烈さを発揮できる場がなければ、苛烈な戦い方をするゆえにダークヒーローにカテゴライズされた華穂の立つ瀬がなかった。
「はぁッ!」
掛け声とともに気合いを爆発させる。
一人のトンカラトンに狙いを絞った。
身を低くして一歩前に出、その脚力を活かした高いジャンプとともに、跳び膝蹴りで顎を砕く。
着地時に繰り出される刀を避け、爪先を踏みつけ腹に肘を打ち込む。体勢を崩した所に首を掴み、体ごと横回転して首をねじ切る。
一旦地面に伏せた所から、脚力にものを言わせて瞬時に逆立ちし、同時に別の個体の顔面に蹴りを入れ、立ちあがる。両横から二人が斬りかかってくる。跳躍して狙いから外れ、落下した所で二人同時に顔面に蹴りを入れる。
着地ととともに地面を蹴り、今まさに上段から斬りかかってくるトンカラトンの左側に回り込む。そこから体を回転させてバックをとり、豪快にジャーマン・スープレックスで投げ飛ばす。
その一体は完全に頭部が潰れたが、他のトンカラトンたちが華穂を取り囲んでいた。
一斉に刀を振り下ろしてくる。
「ハァ──ッ!」
掛け声とともに、オーラを発する。
トンカラトン達の刀は、華穂の体に叩きつけられた……が、その肌に達することはなく、寸前で止まっていた。
E・D・M発動により、防御用のオーラを攻撃の寸前に発して止めた。一人で集団と戦うときには助けとなるユーベルコードだ。
華穂は前転して囲みから脱する。そしてトンカラトンの一体の両脚を掴んで持ち上げた。
ジャイアントスイングの要領で振り回して、トンカラトンの集団を薙ぎ払う。周辺のトンカラトンがいなくなるまで、何度も何度も。
こういう風に大暴れする場合は、周りに味方が居ない方がいい。
やがて周辺のトンカラトンはサイキックエナジーを使い果たし、形を保てなくなって消滅した。
華穂は残心の姿勢を取る。敵はまだすべて倒れたわけではなかった。
(味方のいる所では少しはおしとやかにしないと……。
…………やれるのか、あたしに)
とはいえ、やらないわけにはいかないし、やろうと思えばできるのが猟兵だ。
成功
🔵🔵🔴
橘・レティシア
はあ、楽しかった。随分走ったわね。
それにしても……だいぶ集まっているような……。
こんなの放置するわけにはいかないわ。灼滅の時間よ!
今回はバイオレンスギターを駆使して戦いましょう。
こんなに敵がいるんだったら、演奏しがいがありそうだわ。
曲は……やっぱりトンカラトンのうた!(ハードロックver)
アンコールよ! セッションといきましょう!
さっきも歌った『トンカラトンのうた』をハードロックアレンジして爆音をぶつけます。
トンカラトン、トンカラトン! ……これ意外とリズムに乗りやすいわね。手早く観衆という名のトンカラトンたちにダイブして、吹き飛ばしていきましょう。
ああ、いいライブだったわ!
「トンカラトォォン!!」キーーーーン!
爆音のシャウトをハウリングとともに叩きつける、橘・レティシア(灼滅者のサウンドソルジャー・f44010)。サウンドソルジャーである彼女にとってマイクは武器のひとつ。ガイコツみたいなスタンドマイクが今レティシアの顔の前にある。トンカラトンと言わせたトンカラトンはバカでかい返答が返ってきたのに驚いたのか仰け反っていた。
レティシアは高揚していた。快適な、かつ、適度にスリリングなサイクリングを経て、今トンカラトンを聴衆にしてゲリラライブを行おうとしている──『戦って倒す』ことのサウンドソルジャー風の言い回しだ──そしてレティシアはもう一つの武器を構える。
空気を切り裂くような鋭い音色。
殲術道具バイオレンスギターだ。
「チェーンソー以外にも得物はあるのよ?」
武蔵坂学園のデータベースの、ルーツ一覧のサウンドソルジャーの項に例として載っているレティシアであるが、その姿はチェーンソー剣を持った姿で、他の武器を持った姿は美術室にも登録されていないので、有名な分、ともすれば楽器含めチェーンソー剣以外はなにも持たないのではないかと思われる事もあるレティシアであるが(※個人の感想です)、アーティストである彼女が楽器を使えない訳がなかった。
「今日は私のためかどうかはともかく、集まってくれてどうもありがとう!
橘・レティシアのライブをお届けするわ。
ここからのステージは──
──私が主役!」
レティシアは武蔵坂学園では他の灼滅者の補佐に回ることが多く、中心的な活躍をする機会はなかった。
しかし、時は流れ──今この瞬間は間違いなく、レティシアこそが主役に相違なかった。
「さあ、灼滅の時間よ! 聞いてください!」
そしてレティシアは高らかに曲名を告げ、演奏が始まった。
トンカラトンのうた(ハードロックver)
作詞・作曲・アレンジ 橘・レティシア
トンカラトン トンカラトン
その言葉は 死をもたらす呪いか
トンカラトン トンカラトン
手にした刀は 血を求めるのか
恐れるな 恐れるな
身体を隠す包帯はブラフだ
その中身は虚無でしかない
実体なき不安が実体化しただけ
恐れるな 恐れるな
恐れが都市伝説に力を与える
生命を讚美せよ 日常を楽しめ
ソニックビートを叩き付けろ
(ギターソロ)
トンカラトン トンカラトン
その言葉に意味はない
トンカラトン トンカラトン
包帯の中には何もない
灼滅者は 再び立つ
サウンドソルジャーが
高らかに歌うのを聞け
己の闇を恐れよ
されど恐れるなその力!
重厚で攻撃的な楽曲が、ユーベルコード、アレグリア・コードの力を得て凄まじい破壊音波となり、トンカラトン達は吹き飛んでいく。
それは灼滅者がダークネスオブリビオンとして復活したトンカラトンに立ち向かう意志を歌ったものだ。
アレンジと言いつつほぼ新曲である。
気分の高揚が最高潮に達したレティシアは、曲が終わってもギターを掻き鳴らし、散り散りばらばらに吹き飛んだトンカラトンに駆け寄って、
ギターで殴打をかまして回った。それだけでは飽きたらずに、まだ立っている、または立ち上がったトンカラトンに対してはモッシュのように体当たりをかましたり、倒れているものに対してはダイブのようにボディアタックまで繰り出す。もはややりたい放題だ。
そこにあったのは、魂から迸る情熱の発露だった。音楽を通してレティシアとトンカラトン達は一つになる……というかレティシアがトンカラトン達を圧倒してその勢いを完全に飲み込んでしまっていた。
「Thank you──!」
曲を終えたレティシアは、曲に相応しい雄々しさで拳を突き上げる。
観客は全員、失神……もとい、形を保てなくなって消滅していった。
大成功
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第3章 ボス戦
『ロード・ジルコニア』
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POW : デモノイドソード
【ジルコニア】製の【剣】を創造する。これを装備した者は、創造時に選択した技能1つを100レベルで使用できる。
SPD : ジルコニア氷結光線
【異形の翼】を生やし、レベル×5km/hの飛翔能力と、レベル×5本の【氷結光線】を放つ能力を得る。
WIZ : ジルコニア・プラス・パラジウム
【自身のデモノイド細胞】に【ジルコニアとパラジウムの複合属性】を注ぎ込み変形させる。変形後の[自身のデモノイド細胞]による攻撃は、【結晶化】の状態異常を追加で与える。
👑11
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「よう。自由っていいねえ」
戦いの趨勢が決まろうという頃、いつの間にか、自転車に乗った男が戦いの場に現れ、猟兵達に話しかけていた。今治の方から来たようだ。
黒い衣服の、年の頃は20代か……もしかしたら10代かもしれない。長髪で色白の、目付きのとにかく鋭い男だった。
「俺は、ロード・ジルコニアだ」
男がそう言うと、その姿が変化していく。皮膚から青いものが滲み出して全身を覆い、頭部にはいくつもの眼球が現れ、瞼を開けた。そして左腕の上腕は結晶の剣が形成される。
それらはすべてデモノイド寄生体だ。彼こそはレアメタルナンバーの一人、かつてブレイズゲートに囚われていた。精神防衛戦では灼滅者と交戦、サイキックハーツ大戦にも参戦し、灼滅者に倒された有力なデモノイドロードの一人だ。
「最後に続きがあるなんざ、灼滅者どもも思わなかったろうな。俺も驚いている」
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
「……俺は組織にも環境にも情勢にも囚われずに、気ままに過ごしていた」
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
「…………気まぐれにここでサイクリングしたら、トンカラトンどもが集まってきやがった……それだけだ。
まだ何も企んでねえ……」
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
「やかましい黙れテメェら!」
ロード・ジルコニアはトンカラトンの一人を掴むと海に向かってぶん投げた。
いまだにトンカラトンが集まってきている。見たところジルコニアにも制御できているわけではないようだ。ジルコニアに攻撃を仕掛ける様子もないが……。
ともかく、ロード・ジルコニアは放っておくと何をしでかすかわからない危険さを隠そうともしていない。
「トンカラトンは強力な攻撃手段と機動力を兼ね備えた都市伝説だが……お前らの相手じゃなかったらしいな。
いいぜ」
ジルコニアは自転車から降り、左腕の剣を構える。
「ここでお前らの戦力を計っておくか」
●勝利条件
ロード・ジルコニアを倒せ!
●状況説明
トンカラトンがいまだに集まってきていますが戦闘には参加しません。倒さなくとも影響はありません。
橋からの落下ダメージはありません。
イネス・オルティス(サポート)
『この鎧は一族伝統のものよ、それがどうかしたの?』
アックス&ウィザーズ辺境のどこかにある隠れ里に住む一族の女戦士
〔一族伝統の鎧〕のビキニアーマーを愛用し主に〔巨獣槍〕という槍を使う
”ダッシュ”で近づき”なぎ払い”、”串刺し”等をよく行う
ボン・キュ・ボンのナイススタイルで、ビキニアーマーを普段使いしている
恥ずかしさ耐性のあるイネスは、周りの視線を気にしません
そのビキニアーマー姿の存在感で、無意識に誘惑してしまう事がありますが
イネスにそのつもりはありません
アドリブ・絡み・可 ””内技能
描写はセクシーレベルまで
キャバリアには乗らず生身で戦います(他の人のキャバリアを足場にする等はあり)
橘・レティシア
なんだかちょっと憎めないような……いえ、復活ダークネスである以上は容赦できないわね。まだってことは、これから企むのでしょう?
それにしても、自転車に乗るロード・ジルコニアって凄い絵面よね。
トンカラトンが制御できていないというなら、それを利用するまでよ。
熱狂ライブ!歌と一緒にバイオレンスギターをぎゅいーんと響かせて、味方を治療するとともにトンカラトンを催眠状態に陥れましょう。
さあ、ロード・ジルコニアにモッシュダイブよ!
可能ならトンカラトンにユーベルコードを使用させて、数で圧倒するわ。
あなたの相手はトンカラトンよ、ロード・ジルコニア。
……って言えばロード・ジルコニアも言うこと聞いてくれるかしら。
(自転車に乗るロード・ジルコニア……)
ついさっきサイクリングを終えたばかりの橘・レティシア(灼滅者のサウンドソルジャー・f44010)は想像して、少し愉快になった。
何せ相手は生前、朱雀門高校に所属し、任務に失敗してずっとブレイズゲートに囚われていたのだ。そして外に出たと思ったらサイキックハーツ大戦で戦死したという経歴を持つ。
徹底した不自由だ。だが今は自由だった。
(でも復活ダークネスである以上、容赦はできないわ。レアメタルナンバーと言えば有力なダークネスだったわけだし)
レティシアはバイオレンスギターを手に、立つ。
「さあ、トンカラトン達!」
しかし向かい合う相手は、周囲に群がってきているトンカラトン達だった。
レティシアはバイオレンスギターを吠えさせると、歌を
詠んだ。
包帯の
中身が虚無なら
君は何?
突如として突きつけられたリズミカルな問いかけにトンカラトン達はきょとんとする。
レティシアは、そんなトンカラトン達に送った。
「答えは──『夢』よ」
ギターが静かな曲を奏でていく。
人を恐れさせたかった
人の心を動かしたかった
人を感動させたかった
はじまりは
そんな思いから生じた
夢幻だった
束の間の夢幻達よ
今この瞬間には
君達はここにいる
夢ならば夢であることを
幻ならば幻であることを
全 力 で 楽 し め !
突如として始まったレティシアの弾き語り、それが終わるとアップテンポな曲をギターが掻き鳴らす。
「トンカラトンと言えぇーー!」
呼び掛けたのはレティシアだ。レティシアが、トンカラトン達に呼び掛けている。
「トンカラトン!」「トンカラトン!」
なんとトンカラトン達がコールを返した。
「何をする気だ?」
流石に不審なものを感じたのか、ロード・ジルコニアはレティシアに向けて殺気を放つ。
そんな彼のもとに、トンカラトン達が殺到した。
「トンカラトン!」
「トンカラトン!」
「トンカラトン!」
「うるせえっつってんだろうが!」
トンカラトン達は大熱狂だ。レティシアの奏でる曲に乗って、跳び跳ね、互いにぶつかり、ジルコニアを巻き込んでいる。
「刀を振り上げろ! 血を求めろ!」
突如としてレティシアの歌は歌詞が攻撃的になり、曲は先程のハードロック調のものになった。
たとえかれらが実体のないものであっても、『そういうものとして造られ、語られ、存在している』。
それは恐怖の象徴。
七不思議使いがそうするように、怪談に語られるもの達は、怪談を再現する。
「トン トン トンカラ トン」
「トン トン トンカラ トン」
「トンカラトンと言え!」
「トンカラトンと言え!」
トンカラトン達はロード・ジルコニアに向けて刀を繰り出し始めた。そして宙を舞う包帯が、ジルコニアの身体を覆い、同じ姿にしようとする。
「あなたの相手はトンカラトンよ、ロード・ジルコニア」
空を裂く音色とともに、レティシアが突きつけた。
「こいつは
……………………?! そうか、命令電波か!」
ロード・ジルコニアは知っていた。デモノイドロードが、デモノイドを操る時に使うそれを。サイキックハーツ大戦の時は自身も、他のすべてのデモノイドとともにロード・プラチナから受けたことがあった。
「そうは行くか! 聞かねぇぞ。例えプラチナがここにいたとしても、今の俺は誰の命令にも従わねぇ!」
だが、ジルコニアは頑なに拒んだ。
「よほど自由に餓えていたのね……」
レティシアはユーベルコード・熱狂ライブにより、トンカラトン達の心を掴み、扇動することには成功したが、今のジルコニアから自由を奪うことはできなかった。
「ジルコニア・プラス・パラジウム!」
ジルコニアの全身のデモノイド細胞が、化学変化したように色を変え、形も変えた。
そして周囲に群がる熱狂したトンカラトンたちの足元を何度も薙ぎ払う。結晶の剣が陽光を反射して、いくつもの美しい弧が描かれた。
するとトンカラトンたちの足元が結晶化し、動かすことができなくなった。
「こんなもので俺は倒せねぇよ!」
ジルコニアは狼狽するトンカラトンたちの群れから容易く離脱し、レティシアに向かって駆ける。
距離は瞬く間に詰められ、ジルコニアの剣がレティシアを捉えられる程に縮まった。
──だが。
そこに割り込んでくるものがあった。
薙ぎ払われた槍が、ジルコニアの剣を払う。
間髪を入れず繰り出される突きを避けるため、ジルコニアは後ろに跳んだ。
そこに現れたのはイネス・オルティス(隠れ里の女戦士・f06902)。
レティシアの前に立ちはだかり、ジルコニアと対峙して巨獣槍を構える。
「感謝するわ。あなたのおかげで傷も疲れも癒えた」
イネスはレティシアに背中を向けたまま、言った。
イネスはトンカラトンを誘き出すフェイズで敵の攻撃を受けながら全力疾走したため、一旦は帰還し、仲間がトンカラトンと戦っている間に応急手当をして休息していたのだが、再び戻り、レティシアのユーベルコードの副次的効果である『味方の治癒』──すなわちリバイブメロディとエンジェリックボイスによって消耗を完全に回復していた。
「ここは任せて」
イネスの頼もしい言葉とともに、降り注ぐ夏の陽射しが、神聖さを感じさせる金色を帯びた。
レティシアには、それが朝焼けの空を思い出させた。
かと思うと、蜃気楼のように何かが空間に現れる。それは神々しい女性の姿だった。それも、皆一様にビキニアーマーを着こんだ……ちょうどイネスと同じように……彼女達は皆イネスに似ていた。
現れたそれらは女神の姿だ。そして、降り注いだ光こそは神の波動。
何の神か。それら神々は何を司るのか。
ビキニアーマーに他ならぬ。
天啓を得たようにレティシアのギターが音色を奏でた。それは神聖さを帯びていた。
ユーベルコード・
薄衣甲冑覚醒 参の発動により、戦場全体がビキニアーマーの女神の神殿と同じ環境に変化した。
「行くわよ」
先に仕掛けたのはイネスだ。
巨獣槍を繰り出し、ジルコニアの剣と何合も渡り合う。
お互いに立ち位置が何度も入れ替り、互いの得物が火花を散らしてぶつかり合った。
しばらく互いに決定打は与えられなかったが、ジルコニアが繰り出された槍の一撃を紙一重で避けるとともに前に踏み込み、必殺の機会を得る。
「ジルコニア・プラス・パラジウム! くらいやがれェェェ!」
パラジウムの属性を取り込んだ、触れたものを結晶化するジルコニアの剣が、イネスのがら空きの胴に向けて突き出される。
その一撃を避けることは不可能と思われた。
だが──それは空を切った。
イネスの体は──反っていた。
90度以上。
リンボーダンスなら最大限、低くしたバーでも通れそうというくらいの反りようだ。
「何ぃッ!?」
ジルコニアの驚愕ももっともだった。
「人には出来ないことも、猟兵にはできる。
ビキニアーマーの女神に愛された猟兵ならば!」
イネスはその姿勢のままで言った。そんな猟兵はイネスぐらいだと思われる。
ともかくビキニアーマー女神の加護により行動成功率が上昇したイネスの動きは尋常ではなかった。
次の瞬間にはジルコニアの右横に回り込んでおり、巨獣槍で串刺しにせんと突きを見舞う。
疾く、鋭敏な突きを。
その一撃はデモノイド細胞の外殻を貫き、その身に達した。発した衝撃が轟音とともに周囲の空間を揺らし、ジルコニアの身体を吹き飛ばす。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
レイ・エインシェント(サポート)
仕事? あんまする気しねぇなぁ……。オレ、ニートだし。でもあんまプラプラしてる訳にも……あ、それなんか楽しそうだな。オレも混ぜてくれよ。美味いもんは食わせろ。ゲテモノも……気にはなるな。
ア?! 偉い人?! えっ、あぁ、申し訳ございません。少々立て込んでおりまして。ええ、畏まりました。お任せください。……どっか行った? はぁ……オレ、偉い人とかって苦手なんだよな。
(ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動する。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。あとはおまかせ。よろしくおねがいします!)
マリエ・ヘメトス(サポート)
一人称:わたし
二人称:あなた
他人へは下の名前にさん付け
基本口調は「~だわ、~よね」宗教的な物言いになると敬語
信心深く奉仕の精神があり善行には積極的。迷惑行為や不道徳な行いはしない
最優先するのは使役している死人(死んだ彼氏)のこと。呼び方は「だんなさま」or「■■■■(聞き取れない発音、彼氏の本名)」
「だんなさま」が嫉妬すると思っているので老若男女問わず深い関係を結ばないが、人類的な愛をもって概ねの相手には優しく接する
喜びや憐れみは強く表すが、怒りは「だんなさま」を侮辱や攻撃された時以外は示さない
精神攻撃には狂気耐性使用
誘導弾やカウンターで攻撃を防ぐ
UCは活性化したものをなんでも使用可
他はお任せ
クロエ・ボーヴォワール(サポート)
「カネならありますわよ~!」
◆口調
・一人称はわたくし、二人称はあなた様。典型的なお嬢様風
◆性質・特技
・好奇心旺盛にして仕事熱心
・実はゲテモノ料理好き
◆行動傾向
・ボーヴォワール社の持て余した圧倒的カネの力にモノを言わせ、万事解決を目指す
・法すらカネで買い取る自由奔放すぎる性格であるが、ノブレスオブリージュの精神に則り他者の為ならば才と財を惜しまない(混沌/善)
・猟兵としての活動は異世界を股にかけたボーヴォワール社の販路開拓と考えており隙あらば自社製品を宣伝し、「実演販売」に抜かりはない
・教養として体得したシンフォニアとしての技術をビジネス話術にも応用する
・細かい仕事は老執事セバスチャンに一任
「話は聞かせていただきましたわ! ロード・ジルコニア様は自転車にお乗りになりますのね」
突如としてロード・ジルコニアの前に現れた、ドリル風縦ロールの金髪が特徴的な女。彼女はロード・ジルコニアを相手にしてまったく物怖じせず、かといって攻撃するでもなく、恭しく話しかけた。
「わたくしはクロエ・ボーヴォワール(ボーヴォワール財閥総裁令嬢・f35113)。この度はロード・ジルコニア様にお勧めしたい商品がございます」
「なんだと? 何を言ってるんだお前? 自転車はたまたま気が向いたから乗ってみただけだ、趣味なんてもんじゃねぇよ」
聞かれた事には素直に答えるロード・ジルコニアだった。
「それでしたら、しまなみ海道サイクリングロードを走ってみて、いかがでしたかしら? 自転車の魅力に気づかれたのではありませんこと?」
まるで戦いの姿勢を取っていないクロエだが、頭上では天下の回りもの(金貨)がグルグルと回っており、日の光を浴びて輝いているそれがいつでもジルコニアに攻撃できることは明白だった。
「別に、まあ、暇潰し程度にはなったがよ……」
やはり素直に答えるジルコニア。
「自転車は良いご趣味ですわ、ぜひまたやってみてくださいませ。それで……乗るのでしたら自転車にもこだわりたいものでございますわよね?」
ここから、クロエの言葉は熱を帯びはじめた。
「今回紹介いたしますのはボーヴォワール社製のベストセラー、『スチームエンジン搭載自転車』! これさえあれば坂道もラクラク、自分で浮遊する機能もあるから自転車が重くなるなんてこともございませんわ!」
クロエはマシンガンのようにセールストークを始めた。その内容はジルコニアにとっては重要なことではなかったはずだが、クロエの熱心な言葉の選び方は、ジルコニアにも商品に価値があるものだということを思わせるに至る。
「こちらにカタログがございます」
「色も様々なものがございますよ!」
「オプション装備はこのようになっております」
いつの間にか……。
ジルコニアの周囲に、熱弁をふるうセールスマンの集団が現れて、取り囲んでいた。
「なっ何だお前らッ」
「ぜひご試乗くださいませ!」
「お値段はこのように~」
「シティサイクルの他マウンテンバイクも~」
セールスマン達は勢いで押していく。
かれらこそは、クロエのユーベルコード・
クロエ式モーレツ営業戦術により召喚された、クロエの父が総裁を務めるボーヴォワール社の精鋭営業マン達、総勢142名である。
「俺は金なんて持ってないぞ! 骸の海から出てきてまだ日が浅いんだ。それとも俺を倒して
殲術道具を拾う気か? ブレイズゲートじゃねぇんだから無理だ! ジルコニアソードもドロップしねえ!」
群がるセールスマンを見て、分割存在の自分を倒しに来た無数の灼滅者を連想し、ブレイズゲートに囚われていた頃を思い出すロード・ジルコニアだった。
「……ジルコニア・プラス・パラジウム!」
埒がが明かないと見たのか、やがて攻撃体勢に入った。
「その方々に、攻撃を仕掛けてはいけないわ」
その時、優しく清らかな少女の声が響いた。
「くっ! なんだこれは……!? 頭が……痛ぇ……」
突如としてジルコニアは頭どころか、全身に痛みが走った。明らかな異常だ。
「相手の目を見て、誠実に応対するのよ。相手に対して、興味と関心を示すの。相手の話はちゃんと聞いて、相槌を打って」
マリエ・ヘメトス(祈り・f39275)が穏やかに、ロード・ジルコニアに語りかけていた。
彼女のユーベルコードはすでに発動している。贖いの道──彼女が使役する『死んだ恋人』が攻撃した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い、というもの。セールスマンの集団の中にマリエの『彼』が混じっていたのだ。
クロエが言葉による攻撃を仕掛けたのでマリエもそれに乗る形で加勢したのである。言っている内容はマリエが普段から心がけている、人と接する時の姿勢だ。社交性など無縁の悪人のジルコニアにとっては、まるで馴染みもなく意味もわからないものだったが、動作の一つ一つは、そう難しいことではない。
己を愛するように隣人を愛するマリエにとって、オブリビオンであろうと、そうあれかしと願う。
それが叶うとまでは思えなかったのが少し悲しかったが、それはそれとして、悪を討つこともまた、主の御心に叶うことだ。
「主よ、かのものを憐れみたまえ」
祈りの言葉が、厳かに紡がれる。
果たしてロード・ジルコニアは、マリエのユーベルコードにより苦しみを与えられるも、空いていた右手に剣を形成する。
そして群がるセールスマン達を薙ぎ払った。
「いけない、傷ついたものはすぐに撤退を!」
クロエはすぐさまセールスマン達に撤退を促す。
「剣を選んではいけないわ」
マリエも諭すが、相手はユーベルコードによるダメージは覚悟の上で臨んでいる。
「まずは鬱陶しい言葉を投げてくる奴から始末するか……」
ジルコニアの複数の目がマリエに向けられる。
マリエも護身用の武器ぐらいはあるが、接近戦はジルコニアの本分だ。かなり分が悪い。
セールスマン達が人垣を作り、行く手を阻もうとするが、力不足は否めなかった。
他に誰か助力を頼める者は……とクロエとマリエは視線を巡らす。
(…………………………これは行かなきゃダメか
……………………)
レイ・エインシェント(ニートのドラゴンプロトコル・f42605)はそう思った。行けと言われるのが明白で、どうせ行かないわけにはいかなくなるのなら、自分から行く方がマシだ。
その場にいたとはいえレイはやる気がなかった。何もしない事への焦りからグリモア猟兵の依頼を承諾したが……やっぱり働くのは好きではなかった。彼はニートだ。やむを得ずニートになっただけでなく、気質がもうニートだった。
だが、レイはロード・ジルコニアに対して親近感を覚えていた。なので、仕方なく前に出るついでに、レイは思っていたことを聞いてみた。
「おい、もしかして……君も元エリアボスで今ニートなのか?」
「あ?」
ロード・ジルコニアはブレイズゲートではボス的存在だった。そういう意味では、ゴッドゲームオンラインで今は無くなったエリアのボスだったレイと同類と言えなくもない。
そして今は、何の組織にも所属しておらず、まだ悪事すら企てていない(トンカラトンは意図せずして発生させたが)。
だが、ジルコニアはこう答えた。
「元エリアボスが何の事か解らねぇが……ニートなんて呼び方をすんじゃねえ。オブリビオンは普通労働なんざしねえんだよ。
そういうお前はニートか? だったら帰ってゲームでもしてろ」
「もうゲームの世界にオレの居場所なんてないよ……」
切実だった。
ドラゴンプロトコルの再就職は難しそうだ。
そんなやり取りをしている内に、クロエのセールスマン部隊がジルコニアを人垣で取り囲み、レイの攻撃に合わせて加勢する準備万端だった。自分から攻撃の標的になりにいくつもりはないから、レイの行動待ちである。
その人垣を避けて、魔力弾がジルコニアに撃ち込まれる。マリエが放った誘導弾だ。彼女も自ら矢面に立つのは避けたいが、できる範囲で加勢する気だ。
レイからすれば、これはもう逃げられない。わかってはいたが。
特に、偉そうな人(クロエ)もいる事だし、やるしかなかった。
「仕方がない……現役だった時みたいに」
レイはこうなったら適当に役割を果たして帰ろうと思った。
とは言え、自身への装備重量ペナルティを無視できるユーベルコード、タンク・オブ・スティールの効果を得て振るう動力式超重大剣によるエンジン重擊はジルコニアとある程度渡り合えるものだった。
一撃の重みにおいてはレイが確実に上回っていた。超重量の大剣を普通の剣のごとくに振るえるので、たとえ技術が下回っていても、ある程度はカバーできた。
元エリアボスの実力は伊達ではなかった。
やる気はなかったが……。
「……ああっ、強烈なのを食らった! もう戦えない!」
「しっかり! 傷は浅いですわ! まだやれますわ!」
「しぶとい野郎だ……次で決める!」
「好きにはさせないわ、代わりに傷ついてくれている彼のためにも私も……!」
(……早く帰らせてくれないかなあ)
クロエもマリエもジルコニアもやる気は十分だ。
レイの思惑とは別に、激戦は続く……。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
中山・紗奈
引き続きオーナー(f43866)と。
ふっは、なんスかそれ。満を持してみたいな出方してるっスけど全然邪魔されてるじゃないッスかウケるー。(引き続き爆笑
ま、言ってもイカついんでここはまあまあ分担していきたいッス。
という訳で、オーナー、ゴー。(大きなダンボール箱を組み立てながら顎でロード・ジルコニアを示し)
敵の攻撃は今回オーナーに体張って貰うッス。
で、ジブンは組み立てたダンボール箱におさまり、軽機関銃を構えるッス。
このダンボールは言わばジブンら自宅警備員の聖域……神の如き全能感が与えられる実家のような安心感ッスよ。
でも動けなくはなるんで、ここから狩猟の神の如き正確さでジルコニアを射撃していくッス。
ゲイル・ライトウィンド
中山さん(f44218)と。
続き、か……オブリビオンというのは、世界の内側へと滲み出た骸の海とやらが、失われた過去の化身としてかつて世界に存在した者の姿を持つという。果たしてそれを続きと述べるのは正しいのだろうか?
さて、過去を排出し続けなければ、新たな未来が生産できず、時間が停止してしまうというのが世界の真理らしい。だから、何かを企もうが企まざろうが、私にあなたをそのままにしておく選択肢は無いんだ。
……仕草はともかく、こう言った時の彼女の判断は僕も信頼している。
カオスアイギスを使用してから、ジルコニアとの距離を詰める。近接戦で対応を惹きつけ攻撃しつつ、中山さんの射撃と合わせて追い詰めていこう。
猟兵が離脱し、次にロード・ジルコニアの前に立ちはだかったのは二人組だった。
金髪に藍色の瞳の背の高い男……ゲイル・ライトウィンド(灼滅者のエクソシスト・f43866)と、それより頭一つ分ほど身長が低い、赤茶の髪に漆黒の瞳の女……やや前屈みでなにかをこらえているように見える……中山・紗奈(エスパーの自宅警備員・f44218)だ。
「終わりに続きがある、と言ったね」
赫剣アパラージタを構え、半身になって腰をやや落とした姿勢で、ゲイルは聞いた。
それはロード・ジルコニアが出会い頭に言った言葉に対してのものだ。
「オブリビオンというのは、世界の内側へと滲み出た骸の海とやらが、失われた過去の化身としてかつて世界に存在した者の姿を持つという。
果たして……それを続きと述べるのは正しいのだろうか?」
「何? お前の言っているのはつまり……俺はロード・ジルコニアそのものじゃなく、ロード・ジルコニアの姿と能力と記憶を映し出した骸の海……だと言うことか?」
死んだはずの自分がなぜこうして活動しているのか、理由を知らないジルコニアは、ゲイルの言葉を反芻する。
「……であれば、俺はロード・ジルコニアとして活動するだろうな。結局何の違いもありはしねえよ。
例えそこに連続性がなくともな……」
「そうなる他ないだろう。過去は変わらないものだ。
さて、その過去だが……過去を排出し続けなければ、新たな未来が生産できず、時間が停止してしまうというのが世界の真理らしい。だから、何かを企もうが企まざろうが、私にあなたをそのままにしておく選択肢は無いんだ」
「真理……また真理か。
真理がまずあってその他は真理の周りを覆っているだけ。つまり俺もお前達も真理に踊らされる道化に過ぎないわけだな。
それでも舞台から降りることはできない……そうなんだろう」
両者はかつて
この世界で、真理に踊らされた者同士だった。
だが片方は未来へ進もうとし、もう片方は過去のままであり続けようとしている。
その両者が合間見えた以上、激突は避けられな──
「ふっはッ!」
ここで紗奈が吹き出した。
「ンフフフフフフもーダメッス。シリアスな雰囲気だしてるんで自重してたけど限界ッス。ヒュフッなんスかあれ。満を持してみたいな出方してたっスけど全然邪魔されてるじゃないッスかウケるーヒッフフフフフ」
爆笑だった。
紗奈はジルコニアが姿を現した時の事を思い出しているのだ。あれがツボに入ったらしい。
「それで今シリアスなこと言ってんだからもう……まさに道化ッ……ふっふふふふふ、ぎゃはははは!」
「………………」
ジルコニアは静かにユーベルコードを発動した。
空いている右手に、サイキックエナジーの光で剣を形成したのである。
「おっと仕掛けてくるッスか! オーナー」
ゴー、という風に顎をしゃくる。
主従逆転である。
ゲイルは何も言わないで前に出る。
紗奈に頭が上がらないとかではない、こういう時の紗奈の判断には信頼を置いているからだ。
傍目には真面目に考えているようにすら、見えないが……とにかく二人の間には信頼関係が成立していた。
ゲイルは赫剣アパラージタを構えると、最小限の動きで打ちかかった。ジルコニアは左の結晶剣で受け止めると、右の光剣で反撃を繰り出してくる。相手の様子を見るために放った軽い一撃なので反撃されることは見越している。ゲイルも反撃を避けると、体勢を整えつつ次々と斬擊を放った。
蹴りも交え次々と打ち込んでいくが、ことごとくジルコニアは避ける。どうやらジルコニアに見切られているようだ。ゲイルはそれに途中で気づき、深く踏み込むのは控える。
何度目かの交差で互いの位置が入れ替わった。その瞬間、けたたましい機械音とともにジルコニアに無数の銃弾が降り注いだ。それはデモノイド細胞の外殻すら削り取り、傷を追わせる。
「ユーベルコード・絶対に出ない! これによりジブンは世界最高峰の固定砲台と化したッス!」
紗奈が軽機関銃を手にジルコニアに狙いをつけていた。ダンボール箱にその身を入れて……。
ゲイルがジルコニアと打ち合っている内にダンボールを組み立てていたのだ。この中にいる間、紗奈はまるで全知全能の神の如く全能力が増加する。なぜダンボール箱にそのような力が? MSにも解らない。
ともかく世界最高峰の固定砲台と言って過言ではないほどの威力を発揮していた。
「ふざけた真似をして、どうやらそっちが本命か!」
ジルコニアの背に、瞬時に翼が広がる。デモノイド細胞が変形したものだ。瞬く間に空に飛び上がると、高速で空を飛び回り、全身に形成された発光機関から氷結光線を放つ。
それは幾条も存在し、360度に渡って放射された。道路や橋のワイヤー等、その場にあるものがすぐさま凍りつき、空気中の水分が白い煙となる。
空からの攻撃を避ける術を、紗奈は持たなかった。ダンボールはただのダンボール、防御能力は無い。
だが、紗奈に届くそれを遮る影がある。
ゲイルが紗奈の前に立ちはだかり、氷結光線をその身に受けていた。
生物であれば水分が凍りつき、一瞬で細胞が壊死する……筈であった。だが、ゲイルの肉体が凍りつくことはない。
ゲイルの胸ではロザリオがまばゆい光を放っていた。同時に足元から、影のような黒いオーラが立ち上ぼり全身を覆っている。
ユーベルコードが発動されていた。
その名をカオスアイギスと言い、その効果は、あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるというものだ。
無敵である以上、ダメージも氷結もない。ただし解除時にダメージを全て受ける。
だがこの事件は、この相手を倒せば解決する。後でダメージをどれだけ喰らおうが、倒せればそれで良かった。
そして全知全能ともいうべき紗奈の能力は、空中を飛び回るジルコニアにすら、銃弾を届かせて見せた。
「こうなったら纏めてぶっ飛ばしてやるぜ!」
空中からの攻撃は決定打にならないと判断したジルコニアは、一旦地上に降りた。
そしてデモノイド細胞を変形させ、右腕に巨大な砲身を形成させる。
「ジルコニア・プラス・イリジウム!」
砲身がまばゆい光を放ち出す。高出力の光線を放ち、二人とも薙ぎ払う気だ。
そこに向かってゲイルが駆ける。避けるのではなく、光線が狙う中、ジルコニアに肉薄せんとしていた。
「──くらいやがれェェェ!!」
発射の瞬間にゲイルは跳躍した。
同時に、足元から影が広がる。
巨大な影のように見えたそれは、影の触手となってジルコニアの砲身に絡み付いた。
それを全力で引き、自身は路面を転がる。
次の瞬間、光の筋が空を貫いた。
ジルコニアは狙いが外れた事を悟る。
隙だらけだ。すぐさま防御体勢を取ろうとする。
紗奈の居所は把握していた。その方向からの攻撃に対応を……と考えた時、ジルコニアが認識していた場所に紗奈の姿はなかった。
そこで、衝撃に体を貫かれた。
猛スピードで己の肉体を貫通していく銃弾が何発も撃ち込まれ、ジルコニアの体はズタズタになった。
死角からの攻撃だった。狙いは的確。
その射線の先に、煙を吹く軽機関銃を手にした紗奈が居た。
「フッ、なぜここから……とお思いッスよね?
ジブンは確かにダンボールからは出られないッス。
でも…………ダンボールを運ぶことは出来るんスよォォォォォ!!!」
絶対に出ないと言いつつ、一旦出ることになるが。
また入るのなら同じことだ。
「……続きじゃねぇ……なら……これで終わりでもねぇ……。
フッ……次の俺は……どこに現れるだろうな……?」
ジルコニアの体は崩れ、輝く結晶欠となって、風の中に消えていった……。
「終わったか……」
ゲイルは立ち上がった。何の負傷もないように見える。
しかしその実は、すべてのダメージをユーベルコードで後回しにしているだけだ。激しい戦いだったのだから、それ相応の負傷は受けているはずだった。
「中山さん、私は先に失礼するよ」
なのでいち早く治療するために、先に転送されることにした。
「お疲れっしたー」
紗奈はまだダンボールの中にいる。
余程居心地がいいのか。
ゲイルが去り、他の猟兵達も作戦の終了を確認して、この場を後にしたり、残って休んだりと様々だ。
紗奈はダンボールの中から瀬戸内海の島々を眺め、くつろいだ。
その内に……。
食事が運ばれてきた。
これも、ユーベルコード『絶対に出ない!』の効果のひとつである。誰が運んできたのか? MSにも解らない。
「この季節に食うカレーは美味いッスね!」
美しい風景を見ながら食事に舌鼓を打つ。
彼女にとっては
この世界全てが『自宅』なのだ……と本人は決めている。
愛着も当然、持っている。
実際の所、車も何も通らない、しまなみ海道の上で、たった一人くつろぎながら食事をする……最高の贅沢かもしれない。
そしてその平和な一時こそは、確かに紗奈達が勝ち取ったものだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵