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獣人世界大戦⑲〜血祀

#獣人戦線 #獣人世界大戦 #第三戦線 #ワルシャワ条約機構 #五卿六眼『始祖人狼』


●Howling
 遍くもの全てを頭上から叩き伏せるかの如き声の濁流が破裂する。
 声は波紋の如く広がり、大地を、草木を、大気の渦さえも。『瞬く間に全てを呑み込んでいった』。

 唱和:すべては祈りm'aiderより始まった。
 唱和:弱き吾々は罪深き刃ユーベルコードに縋り、
 唱和:絶望の海に餮まれていった。
 唱和:全てを識った所で、変わるはずがない。
 唱和:その衝動こそが、猟兵の根源なのだから。

 唱和:故に吾々は排除する。
 唱和:はじまりの猟兵を。それを求むる者共を。
 唱和:疾く蔓延れ、吾が『人狼病』。
 唱和:五卿六眼照らす大地のあらゆるものを、吾が走狗と化してくれよう。

 祈りは要らぬ。
 ――慈悲など、何処にも在りはしない。

●Pathogenic
「はじまりのおおかみだ」
 フェレス・エルラーブンダ(夜目・f00338)の表情は常の仏頂面よりもさらに渋い。
 己が見た未来の断片が余程悍ましいものであったのだろう、とびきり酸っぱい梅干しを齧ったときよりもぎゅうぎゅうに顔の中心に全部を集め、しわくちゃになりながらもねこは何とか声を振り絞る。
「ごぎょうりき……なに? んん。くらやみのせかいダークセイヴァーのわるいやつ。ひとをおおかみにするびょうきをばらまいてる。おおきなけもの。みっつのあたまをもつおおかみが、そこにいる」
 五卿六眼ごきょうろくがんの一柱にして、ワルシャワ条約機構を大呪術『五卿六眼シャスチグラーザ』によって監視し、支配していた張本人。
 それこそが人狼病の根源、全ての人狼の祖。『始祖人狼』と呼ばれる古き獣であった。
「こいつのせなかからでてる血の網。そこからばらまかれるびょうきは、地面とか、木とか……吸い込む空気とかも、ぜんぶびょうきにする」
 広がる大地も、大気も、水も、何もかも。
 始祖人狼の放つ『人狼病』は人狼のみならず、その場にいる猟兵の全てを侵食していく。
 生命を直接削り取るかの如き苦痛と湧き起こる破壊への衝動、抗い難き凶暴化の発作はその場に存在する全てのものに齎されるのだと。身振り手振りを交えながら拙く話すフェレスは何とかことの重大さを伝えんと懸命にことばを重ねて猟兵たちを振り仰いだ。
「おまえたち、つよい。わかってる。でも、びょうきはすごいはやさですすむ。だから、ながくたたかったらだめだ」
 無理矢理に引き摺り出される猟兵たちの真なる姿は莫大な力を与えるけれど、同時に全身から無秩序に浮き上がる狼の頭は痛みと狂気と共に存在そのものを否定し続ける。
 心までもが囚われてしまうしまうよりも早く、決定打になる一撃を与えなければならない。
「むつかしいこと、かんがえなくていい。いちばんつよいこうげき、さいしょにおおかみにぶつけろ」
 人狼病の苦痛の中に在り続けては心身が壊れ、やがてひとつとなってしまう。
 心までもが獣に堕ちるその前に最強最大の一撃を加え、素早く戦線から離脱する。
 それこそがフェレスが告げる『生き残るための戦い』。その、たったひとつのしるべであった。
「いっぱい、いたいだとおもう。くるしいになるとおもう。だから、……つれてくの、いやだけど……」

 生き残れ。

 ただそれだけを伝えて、ねこは目を眩ませるほどに眩い光を両の手から解き放った。


なかの
 こんにちは、なかのと申します。
 こちらは戦争『獣人世界大戦』のシナリオです。
 受付期間の詳細はマスターページとシナリオタグをご確認頂けましたら幸いです。

●進行順序
 【第一章】👿『始祖人狼』
 人狼病、その根源。全ての人狼の祖。
 動植物はおろか大気や水さえも『人狼化』させる能力を持ち、戦場に立つ猟兵をも平等に侵食していきます。

 この戦場では『真の姿』が強制的に引き出されます。
 痛みと狂気、身体を数多の狼の頭に蝕まれる中、それでも抗うあなたの意思の強さを心情で示してください。
 全てを塗り替えられてしまうよりも早く始祖人狼に最大最強の一撃を与え、素早くこの戦線から離脱しましょう。

●プレイングボーナス
 苦痛と狂気に耐えて戦う/「狼頭にまみれた真の姿」に変身し、最大最強の一撃を放つ。

 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
 よろしくお願いいたします!
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第1章 ボス戦 『始祖人狼』

POW   :    天蓋鮮血斬
【巨大化した大剣の一撃】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    血脈樹の脈動
戦場内に、見えない【「人狼病」感染】の流れを作り出す。下流にいる者は【凶暴なる衝動】に囚われ、回避率が激減する。
WIZ   :    唱和
【3つの頭部】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【人狼化】の状態異常を与える【人狼化の強制共鳴】を放つ。
👑11
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双代・雅一
病?
呪いの間違いだろう?
中世では病を呪いだと思ったらしいけど…これは否定出来ないヤツだ

晒される真の姿は双子
お互いの手を繋ぎ握る
痛みも狂気も、互いの存在を感じていれば耐えられる
惟人の魂を生かす為には、俺は死ぬ訳にいかないから…!
「雅一の心を支える為、俺も死ぬ訳いかないんだ…!」

医者としてもこの病気は根絶させる――惟人!
「ああ、感染源の駆除は基本だろう――雅一!」

詠唱時間は与えない
襲い来る痛みを熱情へと変え
蝕む狂気を冷静に見据え感情の暴走を抑え
雅一の右手に蒼き炎――病苦しむ人々思う悲しみと怒り
惟人の左手に朱き雪――此処で終焉をと願う冷たき慈愛
相反する力を同時に解き放ち
全力の融華と成して叩き付けよう



●廻り、廻る
 これが病? 呪いの間違いだろう。
「中世では病を呪いだと思ったらしいけど……これは否定出来ないヤツだ」
 膿を持つ傷が焼け爛れる如く身体中の細胞が悲鳴を上げているのが分かる。指一本動かすことさえ筋繊維のひとつひとつが燃えるように熱い。
 揺らぐ双代・雅一(氷鏡・f19412)を支えるように立つ、もうひとつの影がある。
 双代・惟人。見えぬ糸で繋がれた、雅一とひとつになる前の姿をした双子の弟が嘗ての貌をそのままに兄を守るかのように寄り添っていた。
 異形の頭が齎す痛みと狂気に苛まれても、それでもなお。分かたれたふたつの魂を重ねるかのように雅一と惟人は互いの掌を何方からともなく重ねて強く握り合った。
「惟人の魂を生かす為には、俺は死ぬ訳にいかないから……!」
「雅一の心を支える為、俺も死ぬ訳いかないんだ……!」
 痛みも狂気も、互いの存在を感じていれば耐えられる。
 鏡写しの眼差しが重なる。瞬きほどの僅かな時間。ふたりには、それで十分だった。

 唱和:全てはむだ
 唱和:平伏せよ。跪拝せよ。その悉くを徒死に終わらせよう――、

「医者としてもこの病気は根絶させる――惟人!」
「ああ、感染源の駆除は基本だろう――雅一!」
 浮かび上がる始祖の頸が本体の声に呼応して一斉に顎門を開く。否、その時間は与えない。
 唱和が完成するよりも、双子の脚が弾き出される方がほんの数秒早かった。
 遅い来る痛みを熱情へ。蝕む狂気を見据え、猛り狂いそうになる感情の暴走を互いの存在によって押し留める。
 兄と呼ばれた男の右手に宿る蒼き炎は悲しみと怒り。病に苦しむ人々を思う雅一の根源。
 弟と呼ばれた男の左手に宿る朱き雪は慈愛。ここで彼の存在に終焉をと願う惟人の慈心。
 雅一の強い感情の揺れより出でし力は黒い輪郭を闇の中に溶かし、蒼炎の舌は全てを舐め尽くさんと煽り燃え広がって行く。兄が暴走する烈火と成り果てるよりも早く、それを制御するのが惟人の朱き雪の奔流だった。
 融華ユガ
 創造から帰滅までの紀年の名を示す、ふたりでひとつの相反する力。朱と蒼は混ざり合い、融け合い、ひとつの巨大な光の嵐と成って始祖人狼を周囲の木々の残骸ごと呑み込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

冴島・類
始祖人狼の唱和も気にはなるが

だとして
病を広めさせる気は毛頭ない
全てが呑み込まれるより、速く

引き摺り出された真の姿
常なら、蝕むのは
罅から溢れる慣れた炎の熱さだけだが

浮かぶ獣の顎の痛み
全てを壊せと渦巻く、衝動は…強い、が
意識の根にある、必ず帰ると言うしるべと
ここで断つと言う覚悟で己を保ち
痛みで取り落とさぬよう枯れ尾花を持つ手を紐で縛り
腰にさした黒曜に、呪詛への耐性の力を僅かでも借り

一番強い攻撃を、最初に…

風の全力魔法にて、自身の速度を加速
大剣での一撃を掻い潜り
至近に踏みこむ為
溢れる炎放ち動きを縛り

牙を、最大限穿つには…
首元へ向け
破魔の力と炎を込めた刀で薙ぎ払う

ここで、燃やし尽くす
行かせてなるものか



●呪縛
「(始祖人狼の唱和も気にはなるが)」
 だとして、病を広めさせる気は毛頭ない。全てが呑み込まれるよりも、速く。
 冴島・類(公孫樹・f13398)の胸から溢れ出る蒼き火は、燃した命を零れ落とすかの如く内側から熱く、冷たく脈動し続けている。常ならば蝕むのは罅から漏れ出る慣れたその熱のみ。その筈だ。
 皮膚を食い破り出づる顎は強い痛みを伴いながら『全てを壊せ』と脳を揺さ振る。
 胸を掻き毟るが如く渦巻く衝動は理性と自我を強烈に蝕んでいく。
 痛みは強い、だが。
「……必ず帰る」
 意識の根にあるいとしい面影は目を閉じずとも微笑みを浮かべている。
 獣の衝動に捕らわれた己の姿など見せたくなかった――いや。どうか、知らぬままで。
 きみをしるべに。
「ここで、断つ」
 決して見失うことはない。覚悟で以って自我を保つ。
 痛みで万にひとつも取り落とさぬよう、枯れ尾花の柄と紐を紐で縛り止める。腰に差した黒曜の呪詛への耐性は、僅かでもこの痛みを遠避ける力足り得るか。
 この脚が動かなくなるよりも速く、己が持てる全ての力で以って、一撃を。

 唱和:無力なる者。無知なる者。
 唱和:全ては徒労。全てが空虚也。

 追い風は力となり、類の駆ける脚とひとつになって道を作る。
 轟と風を切って振り下ろされる鉄塊が如き始祖人狼の大剣を掻い潜り、刹那、類とはじまりの獣が肉薄した。
 全てが徒労。全てが空虚。
 祈りなど要らぬと吼えるならば。
「――望みとあらば、御覧じろ」
 それは地獄のろい。過去を滅する内に受けた、願いの数だけ折り重なる蒼き呪炎。
 炎は鎖となり始祖人狼を絡め取り、僅かに巨躯の動きが鈍った瞬間に類が大きくもう一歩を踏み込む。
 牙を最大限穿つには。その力を削ぎ落とすには。
 蒼き炎は勢いを増し、枯れ尾花までもを包み込む。呪いの炎を纏いて返す刃が上を向き、丸太よりも太いその頸を切り落とさんばかりに薙ぎ払われた。
 傷口から噴き出した赤黒い血と炎が混じり合って暴発する。

 ■■:――――!

 ぐらりと大きく始祖人狼の体が揺らいで、憤懣やるかたなく溢れ出た怒号が輪唱となって大気を揺らした。
「ここで、燃やし尽くす」
 行かせてなるものか。
 炎は未だ、燃え続けている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロラン・ヒュッテンブレナー
アドリブ○
連携×

人狼病の元、とんでもない感染力…、抑えても浸食が免れないなら…っ!
UC発動、魔術陣の首輪と魔術回路の鎖で縛り上げて無理矢理狂気に抵抗しつつ、人狼として最大の力を発揮できる状態になるの

それでも共鳴がいくつも頭を作り出して狂気に包んできて…、封神武侠界の桃の精さんが、桃の香りで思い出させてくれるの
仲間を、家族を、大事な人たちを
ぼくは人狼、それは受け入れた
それに、孤独は克服した
絆と思い出が、ぼくの力だから

増えた頭で一斉の遠吠え
満月の魔力を吸い、月光を集めて、魔槍へと練り上げる人狼魔術を唱和

この力も、ぼく自身だから
受け止めてみて
これがぼくの、響月の狼槍!

月光の魔槍を放って離脱なの



●呼号
 ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)がそれを発症したのは齢七つの頃だった。
 人狼病。
 ひとをけもの足らしめる悲しき罹患者たちに付けられた不治の病の総称。満月と共に理性の箍を抉じ開けられ、日毎にひとを『ひと』で無くしていく。総じて短命である彼らに特効薬はない。
 だからこそ、ロランは日々を懸命に真摯に、真っ直ぐに生きてきた。だと、云うのに。

「(人狼病の根源、とんでもない感染力……、……抑え、ても。侵食が、免れないなら……っ!)」
 未だ幼さを残す身体にも等しく無慈悲の槌は下される。
 湧き上がる嗚咽と嘔気を噛み殺し、浮き上がる病魔の牙に爪を立て、ロランは駆けながらその身を変じさせて行く。
 浮かぶ魔術陣を纏うは月に狂わされた獣か――否。気高きその輪郭は魔術回路の鎖で己を戒め、狂気に抗いながらも満月に躍る藍墨の毛並みを持つ一頭の狼の姿だった。

 唱和:弱き者よ。吾が血潮を分けし者よ。
 唱和:決して抗うこと能わず。その衝動、捨てること叶わぬと識るが良い。

 元より人狼病に罹患しているロランにとって、脳天に響く稲妻の如き声だった。
 身体中の筋肉が痙攣を起こすように痛む。
 脂汗が滲む。食い縛った歯の隙間から漏れるのは、唾液か血液か、それさえも分からない。でも、それでも。
「……!」
 鋭敏になった嗅覚が鉄錆のにおいの他にもうひとつを感じ取る。封神武侠界で出会った桃の精が託してくれた香りのひとひら。戦場に似付かわしくない甘く優しい香りが、壊れかけたロランの心を繋ぎ止めてくれる。
 仲間を。家族を。大切な人たちの面影を、繋いだえにしを、決して失わせはしない。
「ぼくは、人狼。それは受け入れた。それに……」
 孤独は克服した。この力さえ自分自身のもの。
 たくさんの絆と思い出が、何度でも自身を奮い立たせてくれる。だから。

 オォオ――……ン……!

 月に吼ゆる。
 始祖人狼の侵食に苛まれようと、その顎門さえ道連れにして。
 満月の魔力を吸い上げ、集まる月光を魔槍へと練り上げる。それはロランの繰り出す人狼魔術。音狼の『唱和』、そのものだった。
「受け止めてみて。――これがぼくの、響月の狼槍!」
 放たれた月光の魔槍が始祖人狼の脇腹を深く突く。
 決死の一撃は、弱きにんげんの確かな叛逆の一手となった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サーシャ・エーレンベルク
……そうして、ユーベルコードに頼る選択は正しくなかったと切り捨てて、私たち獣人を殺してきたの?
獣人たちの殺戮という選択は、あなたにとって正しいものだったのかしら。
……これ以上の問答は不要ね。この世界を箱庭にした罪を識りなさい!

狼頭にまみれた冰の女王の真の姿へ変身する。
絶え間ない苦痛と頭の中で騒ぐ狂気……けれど、今まで私たちが味わってきた苦痛と絶望に比べるまでもない!

覚悟をもって切り込む。
大剣の攻撃は恐るべき範囲攻撃、瞬間思考力で対象の大剣の軌道を読み、氷嵐を纏って突撃する。
たとえどれほどの障害があろうと、この一撃は全てを砕いて突き刺さる!
【冰嵐閃駆】、この一撃にすべてを賭けるわ!



●白き宣誓
「……そうして、ユーベルコードに頼る選択は正しくなかったと切り捨てて、私たち獣人を殺してきたの?」
 震えが吐息に混ざり意味を為さぬ音となって喉から溢れ出た。
 平静を装えば装うほど、余計に震えそうになる声を歯を食い縛って押し留める。
 サーシャ・エーレンベルク(白き剣・f39904)の射抜くふたつの月は真っ直ぐに始祖人狼をとらえていた。

 唱和:足掻き続ける者よ。
 唱和:その一挙手一投足全て。全てがむだと識れ。

「獣人たちの殺戮という選択は、あなたにとって正しいものだったのかしら」

 唱和:然うして。吾らはひとつの獣と相成る。

 そこに在り、それだけで全てのいのちを否定する。
 始祖は嗤わぬ。
 弱き吾々は絶望の海へと餮まれるのだと、ただ事実過去だけを紡いで。
 相手にも揺らがぬ絶対の意志があることを短い言葉の中で理解する。だからこそ、白狼の娘は怒りに屈さない。
「……これ以上の問答は不要ね。この世界を箱庭にした罪を識りなさい!」
 幼き日に握りしめた剣を、銃を、あの日置き去りにした仲間の為に掲げて。

 舞い降りる銀雪。凍てつく吹雪を纏いて君臨せしは冰の女王。身体が千切れるばかりの痛みを堪え、破壊衝動と狂気に揺さ振られる心を打ち据えて。全身を始祖の顎門に食い破られながらも、サーシャは高潔なる意志を失わぬままに立っていた。
「こんな、もの……今まで私たちが味わってきた苦痛と絶望に比べるまでもない!」
 戦火があった。
 怒号があった。
 貧困が、飢餓が、嘆きがあった。
 力なき民が、肩を並べて戦った兵が、等しく炎のひと舐めで命を散らしていった。
 それを無駄だったなどと言わせない。
 それを、なかったことになんてさせはしない。
 捨て身とも取れるサーシャの突撃に始祖人狼の無慈悲なる刃が振り上げられ、そうあるべしと宣告するかのように叩き付けられる――その筈だった。
 振りが大きければ大きい程、得物が大きく重い程に前後の動きにはぶれが生じる。白きサーベルに纏わせた氷嵐により加速したサーシャの身体は大剣の軌道の隙間を掻い潜り、始祖人狼の間合いへと一息で飛び込んだ。
 たとえどれほどの障害があろうとも、この一撃は凡ゆる守りを砕いて突き刺さる。
 一撃でいい。この一瞬に全てを懸ける。
「冰嵐閃駆! 銀の嵐よ、我等が慟哭を聴け――!」
 目も向けられぬような濃い雪の群れが、刹那、戦場の全てを覆い尽くした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ディフ・クライン
心配かけちゃうかな
でも必ず帰るよ
その誓いは絶対に違えない

降り立った途端襲う苦痛
身体の中と魔法を直接壊されてるみたいだ
痛みと自分のものじゃない衝動に頭の中が滅茶苦茶になりそうで、堪え切れずに低く呻いた
引き摺りだされた真の姿に異形が混じっているのがわかる
嗚呼、こんな姿見せられやしないや
だから
疾く、決める

手繰るは厳冬の力
思考を掻き乱されそうになっても
身体が軋んで血反吐を吐こうとも
――大事な約束があるんだ
その約束がオレをまだ支えてくれるから

氷で渦を作り、雪を纏わせ、玄冬で削り上げ

其は海に於いて触れたものを凍らせる渦の槍――ブライニクル

空気すら凍らせる槍を、手繰れる最大限の魔力で
そして即、場を離脱するよ



●足る命
 心配をかけるだろうか。
 帰りを待ついとしい月花、それでも彼女が送り出してくれたのは。
「必ず帰るよ。その誓いは絶対に違えない」
 惰性で自壊を待つだけだった人形の面影は遠い。
 ディフ・クライン(雪月夜・f05200)の瞳は真っ直ぐに、この先に続く未来を見据えていた。

「ぐ、……っ」
 眩い光が途絶えたその瞬間、心臓コアの奥底から魔導回路全体に溶岩を流し込まるかの如き激痛がディフの全身に奔り、堪らず杖を支えに低く呻いた。
 外骨格を火箸で打ち砕くかのような恐ろしい痛みは理性を削り取り、『ディフ・クライン』と云う自我と、それを成す魔法全てを直接破壊されているのではないかと錯覚させるほど。
 無理矢理に引き摺り出された冬の王たる姿を内側から咀嚼する感触が焼け付く痛みの中で生々しく伝わって来る。
「(嗚呼、こんな姿見せられやしないや)」
 貴女は自分の痛みを想って泣くだろう。
 それどころか自分を庇い、前へ前へと立ちはだかろうとするだろう。
 だから、よかった。貴女を連れて来なくて。
「疾く、決める」
 歪む視界の中、それでもディフの青い瞳は唯一の敵を見据えていた。

 唱和:祈りm'aiderより始まりし、歪な器。
 唱和:弱き者より出づる者。未熟なる魂。

 顎門を開けた始祖の首全てが告げる言葉に、ディフの魔杖を握り締める手指に力が入る。
 その声に抗おうとするたび、全身が鐘を打つように痛みを響き渡らせる。それでも。

 唱和:首を垂れよ。その口が唱える全ての幻想を排除する。

 否定。しなければ。

「悪いけど」
 歩みを進める必要はない。この魔力が廻れば、それでいい。
 ディフに寄り添う影はふたつ。
 夜明けの雪ネージュを。玄冬の宵イヴェールを。現界せしふたりの姫君が齎すは、全てを閉ざす氷の渦。硝子片が如く尖った雪を冬の魔力で削り上げながら形造られて行くもの。それは海に於いて触れたもの全てを凍らせる渦の槍、ブライクニル。
「――大事な約束があるんだ」
 あなたはひとだと。この手を取って微笑み掛けてくれたひとがいる。
 惑わされない。響きはしない。この胸に、唯一の真実が宿っているから。
 交わした約束が、胸に提げた円環が支えてくれる。
 だから、迷いは無い。
「ネージュ。イヴェール。――オレの、ありったけを持って行け!」
 持ち得る最大の魔力を姫君たちに捧げ、空気すら凍らせる巨大な槍を始祖人狼へと解き放つ。

 戦線から離れるその瞬間まで、ディフは一歩もその場を動きはしなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ウルマリカ・ラム
(常に笑顔・ですますのすがカタカナ)
この水の体をこんなに変質させられるのは初めての体験
無遠慮に魂ごと撹拌されるような、無い肉を内から破られるような、経験のない苦痛

ああ、それはなんて――素晴らしい!!
このような痛みが存在していたのでスね!!

体がほどけるように海が広がり真の姿大渦潮
あちこちに狼頭が浮いているのはいっそ愉快ではありませんか
シャチや海竜、刃のヒレをした熱帯魚群姿の悪魔を召喚
ワタシが苦痛を受ければ受けるほど、彼らの力は跳ね上がる
大渦潮ワタシへ始祖人狼を引きずり込み、悪魔たちで苦痛の返礼攻撃を致しましょう!
離脱は辛うじて人の形になったところを悪魔たちに回収してもらいまス



●強欲のモライ・カナイ
 凝った油を直接流し込まれるようだ。
 ウルマリカ・ラム(よくばりメイルストロム・f30328)の水面はごぼりと火口が沸き立つかの如く泡立ち、ひとのかたちを保つことが困難になるのも時間の問題だった。
 無遠慮に魂ごと撹拌されるような、あるはずもない血肉を内から破られるような経験のない苦痛。
 ヒトガタはやがて死を匿う黝んだ幕となる。
 この水の体をこんなにも変質させられたものが他に存在しただろうか。ああ、それはなんて――。
「素晴らしい!! このような痛みが存在していたのでスね!!」
 仰々しく女が両の腕だったものを広げたのとほぼ同時。異様なまでの静寂に包まれていた筈の戦場に水音が大きく反響し、満潮が弾けるようにウルマリカ大渦潮が広がった。

 唱和:涯て無き欲の渦。渇望する者よ。
 唱和:識るが良い。吾々は求めるが故に――永遠に満たされぬ。

 神経の通らぬ水の身体に絶え間なく激痛が迸る。
 それは生きている者にしか味わえぬ。この歓喜を、高揚を、目前の獣は知るだろうか。
 貌までもが崩れてしまったのは少々残念だ。ヒトガタを保てていたなら、高らかに笑い飛ばして見せたと言うのに。
『ねえ。沸き立つ水面に狼の頸が浮かんでいるのはいっそ愉快ではありまセんか』
『ねえ。ソちらも――飢えておいでなのでシょう?』
 未知も困難も気持ちがいい。
 無知でか弱いこのワタシが。圧倒的な強者たる『お前』に膝をつかせる事が出来たなら――もっともっともっと、気持ちがいい!
 変容した狼の頭が悶え、重なる筈の唱和が不自然に途切れる。
 血と泡を噴きながら限界まで開かされた顎門から出づるモライ。刃の鰭を持つ鯱、鋸の歯を持つ海竜。始祖の欠片を食い散らかしながら姿を現したのは、母なる海が喚び出した海に潜む悪魔の群れ。
 ウルマリカが苦痛を受ければ受ける程に力を蓄える深淵の者たちは哀れな生贄を求めて我先にと水面を滑り出す。
『お前たち、用意を! 素晴らしい苦痛には相応の返礼を致しましょう!』
 それは狩りに非ず、一方的な蹂躙であった。
 主が受けた痛みをそのまま力に変じさせ身に蓄えた海の悪魔たちは始祖人狼の全身を絡め取って咀嚼する。
 一歩。また一歩。次第に、着実に獣の巨躯が渦潮の中心へと引き摺られ、やがて。

 ■■:ガ、……――ァ、アァ――!
 
 ウルマリカ大渦潮のかいなに抱かれた始祖の声が、ほんのひととき、ぷつりと途切れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

才堂・紅葉
まったく、乙女の柔肌を何だと思ってるのかしらね‥‥‥
真の姿の紅い髪に紅い瞳を怒らせ、始祖人狼を睨みつける
その肢体のあちこちから、まるで内から食い破るかのように狼の頭が生えた異形の姿だ

命が削り落ちる実感に、胸を満たす凶悪な破壊衝動。全く持って気分が悪いが
裏腹に、かってなく高まる暴虐の力も感じる

「コード・ハイペリア」
紋章の力を解き放ち「奈落門」を発動
悲鳴を上げるシステムメッセージをねじ伏せる
紋章越しの天文学的な質量由来の重力で、見えない「人狼病」感染の流れを空間ごと捻じ曲げていなす

「ったく、こんな物を皆にばらまいてたのね‥‥‥」
苦しみ死んだ者達の無念を一つ思い

「ぶちのめす!!」
紋章の拳を叩きつける



●枯れぬ花
 風にすらりと遊ぶ髪が描き出す緋色のしなやかな軌跡とともに炎の花弁が弾けては散っていく。
 佇み咲うばかりではない戦場の花。名を、才堂・紅葉(お嬢・f08859)と云った。
「まったく、乙女の柔肌を何だと思ってるのかしらね……」
 真紅の瞳に怒りを滾らせ始祖人狼を睨み付ける。理性なき獣であれば問答の暇も与えずに叩き潰すのみだった筈。だのに、その眼に憐れみさえ乗せて、はじまりの獣はこちら第六の猟兵を見据えてくる。
「(……気分が悪いわね)」
 見合う時間はそう長くない。
 肢体の其処彼処から浮き上がる狼の顎が肉と皮膚を食い破る感触が否応にも焦燥を伝えてくる。始祖の首数が増えるごとに命が削り落とされ、それと同時に抗い難い凶悪な破壊衝動が胸に満ちていく。
 不快感に眉を顰める理性とは裏腹に、紅葉の唇の端は嘗てなく高まる暴虐の衝迫を受けて不自然なほどに釣り上がっていた。

 唱和:人よ。真なる絶望を知らぬ者よ。
 唱和:吾々は排除する。変貌を恐れる弱き者達。その恐怖さえ喰らって見せよう。

「コード・ハイペリア」
 幾重にも重なる始祖人狼の唱和が脳を侵食しようと紅葉は決して怯まない。
 淡々と紡がれるは彼女の両の手に浮かび上がるハイペリアの紋章を解放する為の宣告。解き放たれた紋章が描き出すのは、その最奥に天文学的に膨大な『質量』を封じ込めた奈落への扉だった。

 《コードハイペリア 【承認】》 《アビスゲート限定解除 【非承?????】》

「――許さない。抉じ開けてでも使わせて貰うわよ!」
 悲鳴を上げるシステムメッセージを湧き上がる衝動のままに捩じ伏せる。
 浮かび上がった奈落門の扉が軋む音を立てながら開け放たれるのと同時、紅葉は大きく地を蹴った。

 《【承認】》 《超高重力場 特異展開――実行》

 紋章越しの超重力をその身に無理矢理落とし込み、見えぬ病の侵食を空間ごと捻じ曲げいなす。
 自傷にも等しい力技。それは紅葉の覚悟の証明そのものだった。
「ったく、こんな物を皆にばらまいてたのね……」
 苦しみながら命を落とした者たちは、一体どれ程の無念を抱えて逝ったのだろう。
 ああ――今こそ、その雪辱を晴らそう。
 高く。高く。紅葉の身体が天高く舞い上がる。
 狙うは頭上。たった一撃で構わない。
「ぶちのめす!!」
 渾身の力で叩き付けられた紋章の拳。始祖人狼の巨躯が、ぐらりと大きく揺らいだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・月紬
(真の姿、全身が妖怪煙で構成された四足の大狸に変身)

化術は肉体を全く別のカタチに変える。
そこには確かに恐怖があるし、無茶な化け方をすれば痛みも味わう。
全部、鍛えた技量と根性で乗り越えて、ここまで戦ってきた。

死ぬほど痛いし怖いけど――
この姿なら耐えられる。耐えてみせる!

人狼病による人狼化に、自前のUCによる人狼化で対抗。
無秩序な頭の発生を『化術』で常時上書きし、運動に支障がないレベルに抑制。
激痛と狂気を『根性』で耐える。

多頭の大狼に変化して突撃!
反撃のダメージを超再生能力で修復しつつ、噛みつきと爪による連続攻撃!
湧き上がる破壊衝動は全力で始祖人狼おまえに叩き付ける!
壊れる前に決着を!!



●生きる覚悟
 自分が『みんなとちがう』のだと、はじめて感じたのはいつ頃からだったろうか?
 深く考えることをやめて、笑顔で化かして、彩って、それから。……それから。

 化術は肉体を全く別のカタチに変える。
 そこには未だに確かな恐怖があり、無茶な化け方をすれば痛みを伴い心身を苛む。
 全部全部、鍛えた技量と根性で乗り越えてここまで戦ってきた。
 臥待・月紬(超級新兵(自称)化け狸・f40122)はそうやって数多の戦場を駆け抜けてきた。
 月紬の姿は常の面影からは遠い。全身を妖怪煙で構成した四つ足の大狸に変じた今の姿は、彼女が純粋なケモノではないしるし。だが、それが何だと云うのか。
「(死ぬほど痛いし怖いけど――この姿なら耐えられる。耐えて見せる!)」
 戦場に降り立つと同時に襲い来る人狼病の災厄に五体が蝕まれ始めるとほぼ同時、月紬の身体がぐるりと一度宙に躍った。
 昏き戦場に浮かぶは月影。
 満ち満ちる月の光を受け、己が身体を細胞から骨の欠片まで何もかもを造り替える。
 それこそが月紬が生み出した化術の極地点。無秩序な狼の頸が生まれ出づるよりも早く、『化ける』ことで上書きし続ける。それはただ病に身を任せるよりも激しい痛みを齎すが、越えた死戦の数に比べれば、こんなもの。
「う……ァ、ああぁっっ!!」
 絶叫が迸る。
 痛みと云う痛みが身体の中を駆け巡る。神経を末端から焼かれているようだ。でも、それでも。

 唱和:愚かな。それでも歩みを止めぬか。
 唱和:吾々が人狼病よ、疾く疾く蔓延れ――汝が道に、光は在らず。

 食い縛った歯の隙間から血の泡が溢れ出る。
 長くは持たない。それでも痛みが自我を支えてくれているから、生きることを諦めぬままで居られる。
「あなた、には。……わかりませんでしょう。わかりはしないでしょうとも……!」
 そこには始祖と鏡合わせの如き巨大な三つ首の狼が在った。
 何故、と。一瞬だけ相手が動揺した僅かな隙を月紬は見逃さない。
 全身を蝕む痛みを驚異的な再生能力で修復しながら、うつくしきケモノは始祖たる獣に飛び掛かる。湧き上がる破壊衝動も、怒りも何もかも、全てを込めて。

 ――壊れる前に決着を。

 大剣を始祖人狼が構え直すよりも早く、月紬の牙が三つの喉笛のうちひとつを食い破った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イドクレス・ルプス
真の姿:左眼だけ蒼く燃える緑目の灰大狼

人狼病とは故郷であるダークセイヴァーで
蔓延るものだと思っていたが
こんな別の世界で元凶と相見えるとはな
世界を渡れるというのも、何とまぁ…
……猟兵の務めを果たそうか

彼女の玩具であった過去から
齎される苦痛と狂気に慣れてはいるが
長時間も晒されれば身が保たないのもよくわかる
一撃放てば疾く離れたい……こんな所からは

自傷によって鉄塊剣を殺戮捕食態に変え、
狼頭が増えるなら丁度いい
咥えたまま獣の四肢で駆け
根源の元へと痛打の一撃を

忌々しい経験が役立ってしまうのも
思い出させられるハメになるのも
未だ生きているという証明
彼女の元へ帰り着いて今度こそ
此の手で葬りさると決めているんだ



●残滓
 物心ついた頃には独りだった。
 不治の病に侵され、玩具として繋ぎ止めた命を弄ばれ、銀の箱庭から棄てられた。
「(この病は常闇の世界ダークセイヴァーで蔓延るものだと思っていたが……こんな別の世界で元凶と相見えるとはな)」
 世界を渡れると云うことは何とも奇縁を引き寄せるものだ。
 イドクレス・ルプス(月蝕・f27133)は僅かな瞑目の時を挟むと浮かぶ感情を振り払うようにかぶりを振った。
 思うことが無い訳がない。自身を蝕む短命の定めを完全に受け入れたのかと問われれば、それは複雑な意味を持つ。
「……猟兵の務めを果たそうか」
 未だ迷いの中にある。
 それでも。今ここで己が血に抗うことを選んだからこそ、イドクレスは剣を取るのだ。

 日常とは変わらぬものだと信じた。『彼女』の玩具で居れば、命を繋ぐことは出来たから。
 彼女の箱庭に囲われていた日々を、身体が、心が覚えている。
 皮膚を、肉を抉られようと。脳を直接掻き乱す声が幾重にも響こうと、イドクレスは然程動じた風はない。
 慣れてしまっているのだ。ああ、その痛みさえも今は遠く懐かしい。
「(とはいえ、長時間晒されれば保たないのもわかる)」
 一撃だ。
 放つ機会を誤る訳にはいかない。己が務めを確りと果たせたら、こんな所からは疾く離れたい。

 痛みの日々。
 忌まわしい経験が役立ってしまうことも、それを思い出させられる羽目になるのも、全て。
 全てが未だ自身が生きている証明。
 生きて。生きて。今度こそ、この手で彼女を葬り去ると決めている。だから。
 忘れぬこと、抗い続けることを、孤高の狼は未だ諦めない。

 唱和:吾が血を分けし迷い子よ、抗う事勿れ。
 唱和:委ねよ。――然すれば、軈て一つに成らん。 

 イドクレスの尖ったけものの耳が僅かに跳ねる。
 それは従属への誘い。何よりもこの耳に甘く響く――違う。
 眼前のけだものは彼女ではない。
 隷属の日々はもう遠い。屈することなどありはしないと、青年は自らの腕に牙を立てて皮膚を食い破った。
 滴る血潮は生の衝動。主の命の滴を受けて、鉄塊剣の死の欲動が目覚めゆく。
 封じられた力を呼び起こすと同時、イドクレスは一頭の巨大な灰狼へとその姿を変じて四つ足で地を蹴り上げた。
 狼の頭が増えるのならば丁度いい。捕食状態を解き放った鉄塊剣を咥えたまま飛び掛かれば、刃に纏わり付く牙が自らの運命を捻じ曲げた根源の胴を深く深く抉り取った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携大歓迎

ああ、難しく考えている余裕はない
…考えている間に、この身は人狼病に侵されていくからな
この苦痛と凶暴な衝動…耐性があっても長くは耐えられないぞ

今、俺の裡にあるのは、オブリビオンへの憎悪
ダークセイヴァーと獣人戦線、両方の人々を苦しめる、始祖人狼への怒りだ!!
凶暴な衝動をあえて俺の憎悪と結び付けて受け入れ
狼頭に塗れた真の姿を解放する

天蓋鮮血斬を「怪力、武器受け」で無理やり受け流し、巨大化した大剣を空振りさせたら
「ダッシュ、地形の利用」で一気に始祖人狼に接敵
指定UC発動後、至近距離から黒剣で全力の「2回攻撃、鎧砕き」の斬撃を叩き込む!
これが俺の、憎悪の一撃だ!!



●黒炎
 骨に響き渡る程の痛みが全身を支配している。
 身体が細切れに千切れんばかりの痛みを堪え、館野・敬輔(人間の黒騎士・f14505)は形の良い眉を顰めながらも討ち倒すべき敵を強く見据えていた。
「(ああ、難しく考えている余裕はない)」
 こうして考えている間にも人狼病はこの身を、周囲を、果ては吸い込む大気さえも侵食していく。
 痛みだけならばまだ堪え切れたかもしれない。戦火の中、常闇の世界で生きてきた敬輔にとって痛みは切っても切れぬものであったから。
 だが、敬輔を蝕むのは激痛ばかりではない。
 己が獣性すべてを引き摺り出さんとする『調和』を求める狼頭の唱和が脳を直接掻き乱していくようだった。如何に痛みへの耐性があれど、あまり長くこの場に留まるのは得策ではない。……で、あれば。

 唱和:罪深き刃ユーベルコードに染まりし愚かなる人間よ。
 唱和:矮小也や、その魂。希望も願望も何もかも。すべてが泡沫の夢と識れ。

 煮えたぎる血液に火を注がれ続けているようだ。
 けれど――それでいい。
 夜闇の鎧ごと食い破る狼の顎門をそのままに、敬輔は意識を湧き上がる衝動に明け渡す。自殺行為にも思えるそれは愚かなにんげんが自暴自棄を起こしたように見えるかもしれないが。
「今。俺の裡にあるのはオブリビオンへの憎悪だ」
 ダークセイヴァー。そしてこの獣人戦線。
 全ての世界に於ける人狼病の罹患者の苦しみを。彼らが流した涙の全てを、戦う為の力に変える。
「貴様が齎す死に至る病。人狼病に苦しめられる人々の嘆きを聞け――始祖人狼! これは貴様への怒りだ!!」
 
 唱和:愚かな。すべては祈りm'aiderに帰す。

 大地を打ち砕きながら振り回される大剣の軌道が敬輔を捉える。
 だが、全身鎧に身を包んでもなお。英魂をその身に憑依させた敬輔の踏み込みの方が始祖の獣より僅かに速い。
 黒剣と鉄塊が如き剣が火花を散らして交差する。叩き折られても可笑しくない重量の一撃を――受け切り、押し返す。ぐらりと反動で揺れた巨躯へ弾いた勢いをそのままに肉薄し、
「これが俺の、憎悪の一撃だ!!」
 袈裟懸けに振り下ろされた渾身の一撃が、始祖人狼の胴を鎧ごと深く断ち切った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
*設定資料の夜明け色のドレスを纏った真の姿

うん、やくそく
一発ぺんぺんってしたら、戻ってくるわ
帰り道もよろしくねフェレス

帰る場所がある
やくそくがある
それは私の力で、御守になってくれるから
大丈夫、狂気には迷わないわ
夜明け色のドレスは、旦那さんが好きな色
彼の好きを纏いたいと思った時を、
大切なコ達の笑顔を思い出す
私が染まりたいのは彼の色だけ

あとは出来る対策は確りと
今回は生命力吸収の力は使わない
攻撃する前に倒れないよう、
不思議の国の美味しい水で元気を蓄えて
風のオーラ防御で侵蝕される時間稼ぎを
少しでも激痛耐性を得られれば
その分継戦能力も上がるはず

空中浮遊で素早く翔けつつ
歓迎できない狼頭さん達は茨の森で通せんぼ
全身に纏わせた茨で、
噛みつきを武器受けたり捕縛して痛みを絶える

一度触れるだけで侵蝕される力
確かに、停め様のない強大な力ね
…だから、そっくりそのままお返しするわ
UCで高まった戦闘力に、
思いっ切り怪力籠めたトロイメライをぶつけるの



●ゆびきり
「うん、やくそく。一発ぺんぺんってしたら、戻ってくるわ」
 城野・いばら(白夜の魔女・f20406)の柔らかな微笑みに、耳も尻尾もしおしおに垂らしたねこのうめぼし顔が少しだけ和らぐ。『すっぱいお顔が癖になっちゃうわ』なんて冗談めかして頬っぺたをつついてみせたなら、帰り道もよろしくね、と。ちょっとしたお買い物にでも出掛けるような気易さでいばらは光の門の中へと飛び込んでいった。

 帰る場所がある。
 やくそくがある。
 それはいばらの揺るぎない力の源であり、こころを守るしるべでもある。この胸に灯るひかりは、何時だってあなたの方を照らしているから。
「大丈夫。狂気には迷わないわ」

 ばらが、咲く。

 黄昏よりも淡く、宵を照らし出す東雲のひかり。
 あなたが好きだと言ってくれた、黎明の花弁を身に纏う。
 いとしい伴侶。唯一の番い羽。彼の『好き』を纏いたいと思った。
「私が染まりたいのは、彼の色だけだもの」
 その瞬間の感情を、大切なコたちの笑顔を、今も鮮明に思い出せる。だから、病魔になど染まりはしない。

 唱和:幼き花。智慧無き者よ。
 唱和:唯咲くばかりの踏み躙られるだけの者よ。

 唱和:愚か也――芽生えた好奇が、汝を殺すのだ。

「まあ」
 随分なことを仰るのね、なんて。口元にてのひらを添えるいばらは常の調子を崩さない。
 しろい肌を突き破らんとする狼の頭を自らの身体に密生させた茨で覆い、その凶暴性だけを自身の戦う力へと変えていく。
 苦痛も恐怖もない訳ではない。けれど挫けそうになったって、『おかえり』と微笑ってくれるひとがいる。抱きしめてくれるひとがいる。それだけで自分が強くなれることを知っている。だから、いばらの微笑みが崩れることはない。
「違うわ。芽生えたキモチが、いばらリティを生かすの」
 始祖の生命力は要らない。これ以上の侵食を許さぬように。
 こっそり持ち込んだ水筒いっぱいに詰め込んだ、不思議の国ふるさとの美味しいお水が元気をくれる。
 いつだって、私の周りにはたくさんの『大好き』が溢れているから。
 とん、とん、と。階段を駆け上がるように、いばらの爪先が宙へ躍り出す。
 茨の先が軽く触れただけでぐわんと大きく頭の中で鐘を鳴らすかのような衝撃が奔って、時々ぐらりと身体が揺れてしまうけれど、でも。
「確かに、停めようのない強大な力ね。……だから、そっくりそのままお返しするわ」
 いばらだってされるがままではない。己を守っていただけではない。
 吸い上げた力を、茨が蓄えた戦闘力を、すべて、すべてを利き腕と紡錘に込めたなら。トロイメライの蕾が大きく花開き、その瞬間――綻んだ甘いばらの香りに始祖人狼の巨躯がびくりと引き攣ったのを、いばらは見逃しはしなかった。
「――えいっ!」
 所作としては軽やかな、魔法を翳す可愛らしい魔女のそれだったろう。けれど。

 ■■:――ァ、ウ、

 全霊の力を込めたトロイメライの一撃が始祖人狼の脳天を思い切り打ち据える。
 罪深き刃なる呼称で呼ばれたユーベルコードの力で何倍にも高められたいばらの怪力ははじまりの獣の頭蓋を深くめり込ませ、大きく揺らいだ身体が大地へと吸い込まれるように倒れ伏し、どう、と地鳴りが響き渡り――あとには湿り気を帯びた風だけが残った。

●凱旋
 始祖人狼は倒れた。
 しかし、未だ血脈樹の脈動は周囲の大気を満たして周囲を侵食し続けている。長居は無用だ。
 猟兵たちは互いを讃え、支え合いながら急いで戦場を後にする。

 勝鬨を上げる瞬間は、もう直ぐそこまで迫っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年05月28日


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#五卿六眼『始祖人狼』


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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト