獣人世界大戦⑬〜混沌機兵と有頂天
暗闇の中、月明かりを反射してきらりと光る眼が見える。
獰猛な獣のような、金と蒼の瞳。
その持ち主は、有頂天道人。
自らの目的の為にこうして戦いに出ているものの、なかなかうまくいかず焦りと憎悪の感情が湧き出す。尤も、いざ戦いとなれば精神は凪ぐが、それはそれである。
今の彼は知略に優れた武将の一面。
その周囲に控えるは、混沌機兵軍と呼ばれる兵たちだ。
有頂天道人と似たような身体特徴──白き混沌の半身と、機械化義体によって己を強化し、統制の取れた機械としての動きと混沌とした撹乱戦術が得意な精鋭兵だ。
その数、300。
軍として考えると数はそこまで多くないが、脅威と呼んで差し支えない戦力だろう。
そんな兵を従え、獣の王は虚空を睨む。
「忌まわしい猟兵共め。俺の計画を邪魔するのならば、今度こそ──」
憎悪に燃える有頂天道人の瞳は、暗く輝いた。
「有頂天道人についての、新たな情報です。」
希雪(呪いの克服者・f41587)は集まった猟兵をぐるりと見回し話し、早速内容について始める。
「時間は夜。場所は、ワルシャワ条約機構の下あたり、山脈に挟まれた広大な森林です。」
ここ最近よく有頂天道人が予知されている場所。ゾルダートグラート、人民租界、ワルシャワ条約機構のちょうど真ん中あたりだ。
何か特別なものでもあるのだろうか。
「そこに、有頂天道人が、彼自身の兵を従えて猟兵を待ち構えています。」
彼の兵。
今までの情報にない単語に、猟兵達は頭に疑問符を浮かべる。
「今回は、彼の兵ともども、一人も残さずまとめて殲滅してきてください。」
待ってほしい。彼は武人で、兵を従えると言うよりかは自らが最前線に立って戦うと言う感じではなかったか?
その問いは正しい。正しいのだが、それはあくまで彼の一面に過ぎず、彼はその知略で敵も味方も欺き自らの目的を達成するというような一面も持っている。
味方との共闘なども行なっているそうだし、彼の兵が数百程度、いても何らおかしなことはないのだ。
「彼の兵は、彼と同様に「サイバー化」「混沌化」の二つの改造をしており、彼ほどでは無いものの高い身体能力と機械としての完璧に統率の取れた行動、動きの読めない混沌化の力など強力な兵と言わざるを得ないでしょう。」
言うなれば、ミニ有頂天道人が300体ほど。それに有頂天道人本人もいる。
悪夢か?と言いたくなるような状況だが、話を聞く猟兵の口角は上がる。
「それでも、ここを叩けたら彼の戦力はグンと落ち、これからの戦争もやりやすくなることでしょう。やってくれますね?」
厳しい戦いがあれば笑いながら自ら率先して向かう。そんな戦闘狂の多いここの猟兵達なら、その返事に否と答えるものなどいない。
「今回、有頂天道人は兵が半壊するか、猟兵から仕掛けに行くまでは直接自らが戦う気は無いようです。直接戦わないのは、兵の指揮に注力する、という意味ですが。」
悪夢は最後にやってくるようだ。
少し前菜も味付けされて美味しくなるかもしれないな。
「しかし、貴方達ならそんな彼らを見事に殲滅してくれると信じています。
では、
門を開きますね。」
希雪はいつものようにくるりと振り返り、両腕を広げる。
その瞬間、立ち込める白い霧。
その奥に見えるのは、黒と緑。
「それでは皆様、ご武運を──」
カスミ
どうも、カスミです。
獣人戦争も半ばを過ぎ、制圧もいい感じに埋まってきたと聞きます。
この調子で🔵の数も増やして、
安定感のある全制圧を目指しましょう!
獣人戦線、戦争シナリオとなっております。
なので、一章完結の短いシナリオとなります。
●第一章:「有頂天道人」と「混沌機兵軍」を殲滅せよ!
深夜の森の中に現れた有頂天道人と、およそ300の彼の兵「混沌機兵軍」。
今回の彼は直接狙われるか兵が半壊するまで自らが動くことはなく、それまでは兵達との戦いとなります。
プレイングボーナス:「混沌機兵軍」を迅速に処理する。
シナリオがクリアできる数のプレイングが溜まれば、まとめて連携してプレイング文章を執筆いたしますので、兵を倒すRPと有頂天道人と戦うRPのどちらともをプレイング文章に込めても問題ありません。
もちろん、その片方のみのプレイングでも問題ありません。
第1章 ボス戦
『有頂天道人』
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POW : サイバネ殺法 undefined cyberne
【機械化義体でカンフー技】を放ち、命中した敵を【undefined】に包み継続ダメージを与える。自身が【中国拳法の構えを】していると威力アップ。
SPD : サイバー渾沌拳 undefined kungfu
【サイバー化した肉体】と【渾沌化した肉体】を組み合わせた独自の技能「【サイバー渾沌拳】」を使用する。技能レベルは「自分のレベル×10」。
WIZ : 渾沌波動弾 undefined aura
レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる【undefined】を放つ。発動後は中止不能。
👑11
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鳴上・冬季
「地を這う愚物に負けるつもりはありません」
嗤う
「鏖殺せよ、真黄巾力士金行軍」
追加UC
式神(騒霊)の召喚
・金磚と砲頭から制圧射撃で敵の行動阻害5体
・砲頭から徹甲炸裂弾で鎧無視・無差別攻撃して敵を蹂躙5体
・上記2班をオーラ防御で庇う5体
上記15体を1隊として10隊計150体黄巾力士召喚
各黄巾力士が765体騒霊式神召喚
有頂天道人含む全敵の武装及びサイバー義体部分に取り憑かせ破壊し使用不能にする
自分は風火輪で普段から同伴する黄巾力士と上空から戦場俯瞰
視野不良は仙術と式神で補う
竜脈使い全黄巾力士の能力底上げして継戦能力高める
兵壊滅後
残存部隊で空中から敵包囲
制圧射撃と一斉射させながら自分も雷公鞭振るい雷撃

禹・黄風
幇大人ともまた違う厄介な兵…流石に有頂天道人の練度には劣ると思いますが数が厄介ですね。
一息に叩き潰すような力は持ち合わせていませんがここが森なら…
森の地形を利用して枝から枝へ軽業で飛び移り翻弄しながら機兵軍を削ります。
攻撃はUC、呼吸を整え超硬化させた棍を伸ばし頭部狙いで仕留めていきます。
視界の悪い夜の森の中、頭上からの攻撃で混乱させることができればよし。
もし登ってきたなら高所に誘い込んだ上で足場を砕き纏めて墜落させて隙を作りましょう。
有頂天道人を攻める時も木々を利用し伸縮する棍で一気に攻める。
サイバー渾沌拳は脅威ですが狙撃するように立ち回る私を捉えるのは中々難しいかと。
※アドリブ絡み等お任せ

アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。
魂が肉体を凌駕する。
タイムフォールダウン、
時間質量を圧縮し時間を凍結させる。
ま、有頂天は渾沌氏の眷属っぽいし動いて来るわよね。でも、兵士の方はもう終わり、
多重次元屈折現象によるデモニックパーティーでまとめて切り刻むわよ。
ああ、回避して有頂天になってるとこ悪いけど、これ防ぐ手段ごと断つから多重次元屈折現象で内側から切られることになるだけよ?
ウィズ・ザー
仲間が居るってンで、連携攻撃前提で波状攻撃を狙う
直径272mなら大凡5、60体は入るよな
仲間が闘い注目を集めるその隙に、乱戦となる戦場の影に溶け広がり
「闇は常に『傍らに。』」
意識が向かい油断しているフリーの敵、数十体を引き込み一気に喰らう
俺の胎にある炉のエネルギー源にはもってこいだァな?
即座に次の敵近くに蜥蜴型に戻り距離を詰め、仲間が攻撃を浴びせるまで防御に徹する。今度は存在がバレているんだ。津波の様に喰らおうか。
有頂天道人が出て来た頃には全部食い終わってるかもなァ?
「さァ、お前の番だぜ。」
仲間の攻撃を通り良くする為。文字通りの足止めと、最後に存在ごと食おうと顎を開こう
⚪︎アドリブ歓迎
数宮・多喜
【アドリブ改変・連携大歓迎】
おーおー、こりゃまた精兵ぞろいの軍勢でございってか?
大軍じゃないにせよ、森の中でこれは厄介だ。
ま、そんな足場の悪さだけで引っ込むつもりはないからね。
思い切り戦況を引っ掻き回してやろうじゃないのさ!
暗い森の中で闇に紛れ、位置取りを変えながらSMGで実弾と電撃を織り交ぜた弾幕の援護射撃で機兵たちをかく乱するよ。
まぁ発砲時のマズルファイアと電撃のスパークで、アタシがある程度目立つかもしれないけれどねぇ。
それでも十分、この戦域に静電を満たす事がアタシの一番の目論見だからね!
そうすりゃここは【超感覚領域】の只中、味方への攻撃にも横槍を入れられるって訳さ!
覿面に痺れちまいなぁ!
夜の闇が支配する森に、混沌たる兵がひしめいている。
その数、およそ300。
彼らは息を潜め、上官たる有頂天道人の指示を待つ。
完全に統率された兵。
それを崩せるのはそれ以上の兵力と統率か、圧倒的な個人のみ。
システムは、想定された事象を対処することに長けるが、
想定していない事象に直面した時その効力を失う。
有頂天道人が猟兵の規格外を計算に入れてないことはあり得ないが、その上を征けばただの有象無象だろう。
暗い森の一角に、白い霧が立ち込めてゆく──
現れ出るは、5名の猟兵だ。
「地を這う愚物に負けるつもりはありません。」
鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)はその鋭く美しい瞳を月明かり一つ無い闇夜に光らせ、歪ませ、嗤う。
多数の敵との相手。
かつては、得意ではなかった部類の戦闘。
しかし、工夫を繰り返すうちに、戦ううちに、修行を重ねるうちに、効果的な手を編み出すに至った。
僅かな準備。それさえ済めば、敵の全てを鏖殺して見せましょう──
幇大人ともまた違う厄介な兵…流石に有頂天道人の練度には劣ると思いますが数が厄介ですね。
言葉を語らず、そう静かに思案を重ねるのは禹・黄風(武の頂を・f40009)だ。
敵の兵。それは洗練された集団行動を主にする殲滅型であり、正面から相手をするのは流石に気が引ける。
また、自分には洗練された多数を一息に叩き潰すような力はない。
ならば、正面からではなく別の戦い方を模索するのが吉だろう。
例えば、ここは夜の森。隠れるところが多く、たとえ見つかったとしても姿をくらますのは容易と言える。
一度に一人、少なくとも一度に少数を相手取り、奇襲の一撃にて即座に命を断ち、離脱するとすれば──?
スタ、と軽く跳躍し、太い幹の上に立つ。
しなやかさを感じる跳躍はネコ科のソレだ。
素早く木々を渡り、他の猟兵とのタイミングも考えながら、獲物を探す──
今回は仲間と協力してやるってンだから、ちっとは気が楽だがなァ
深い黒に包まれる森の中に、さらに黒い大蜥蜴、ウィズ・ザー(闇蜥蜴・f11239)がその巨大な身体をくねらせ進む。
そして、闇に滲み出すように、溶け込むように、その姿を消してゆく。
広く、広く、夜闇に紛れて気付かぬうちに、この戦場は文字通りウィズの餌場と変じてゆく。
直径にして300m弱。適度に散開した状態である敵兵の全てを飲み込むことはできそうにないが、その何割かは影響の範囲内に入るだろう。
静かに、ただ静かに、戦場の制圧は進む。
大きく広げたその口が閉じる時は、頼もしい仲間達が、華々しく戦の始まりを敵兵に見せつけたその時だ。
誰でもいいンだけどよ、せめてド派手に頼むぜ。
「おーおー、こりゃまた精兵ぞろいの軍勢でございってか?」
普通に考えれば、かなり厳しい状況であるにも関わらず、数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)は獰猛に笑う。
相手は大軍と言えるほどの数はいないが、それでも300という数。それぞれが「サイバー化」「混沌化」の影響下で動くとなれば、かなり厄介だ。森の中であれば、尚更のこと。
ま、そんな足場の悪さだけで引っ込むつもりはないからね。
思い切り戦況を引っ掻き回してやろうじゃないのさ!
暗い森の中、闇に潜む。
戦いの火蓋を豪快に切り落とすタイミングを見計らいながら。
「ま、有頂天は混沌氏の眷属っぽいし動いて来るわよね。」
最後に霧の中から現れた、アリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の
混沌魔術師艶魔少女・f05202)は、一息戦場の空気を吸い込み、戦いの火蓋を切り落とす、その瞬間に備えていく。
「魂が肉体を凌駕する。」
一言呟けば、急速にその気配が高まってゆくのを感じ取ることができる。
それは、混沌魔術。
魔術的パラダイムシフトとも言えるその強大な力は、しかしてその全貌の一角すら表していない。
「タイムフォールダウン、時間質量を圧縮し時間を凍結させる。」
また、呟く。
それは一種の詠唱とも言える根源の言葉。
自分が持つ力の最大を引き出すための言葉。
今は、臨界を、限界を、越える必要などない。
これで、十分だという自信。尤も、有頂天道人以外の有象無象は、これが振るわれる程の相手ですら無いのだけれども。
準備が整った。
ただ、暗い、闇の中。
息を潜めるようにして準備した全てが、今やその全てを叩きつけられんとしている。
張り詰めた空気。ピンと張った緊張の糸。
だが、深く考えるのも、ここまでだ。
あとは、己の力を以て鏖殺し、殲滅し、喰らい尽くすのみなのだから。
戦いの火蓋は、
煌めく閃光と輝く剣戟、そして静寂を切り裂き大気を轟かす大音量によって、盛大に切って落とされた──
「鏖殺せよ、真黄巾力士金行軍。」
冬季の準備──大量の
機械と宝貝による物量戦はその真価を発揮する。
無数の黄巾力士が戦場の各地に現れ、制圧射撃での行動阻害と、徹甲炸裂弾を無差別にばら撒く殲滅蹂躙が始まった。
およそ150の黄巾力士が15体で1隊となり効率的に戦場を恐怖で染め上げていく。
また、各黄巾力士が5体ずつ、計765体もの騒霊式神を召喚し、敵全体への妨害を図る。
戦場はすぐに混沌としたものに変化し、敵の戦力は減ってゆく。
しかし、想定していたよりも敵戦力の減少が遅い。
そして、黄巾力士の減少速度が少し、早い。
「思っていたより、敵兵がいい動きをしますね。」
1隊の中にはオーラ防御で殲滅班、行動阻害班を守る黄巾力士も2体ずつ配備している。さらに、上空から俯瞰し竜脈にて黄巾力士達を強化しているというのに、その減少速度は想定の上を行く。
冬季は少し考えた後、結論を出す。
「これは…もう少し様子を見た後、私が出向きましょうか。」
今の状況を言い表せば、「想定外」や「誤算」など、マイナスイメージの強い言葉を並べることになる。
しかし、冬季の表情には、以前として嗤いが張り付いて──
これは…やっと、始まりましたか。
黄風は夜闇を彩る光と、空を轟かす大音量に戦の始まりを感じ取る。
目をつけていた敵兵も、それを感じ取ったようで。
しかし、さすがは有頂天道人の軍というべきか、多少の動揺なく迅速に処理に移るのが見えた。
兵の練度が思っていたより高いですが…なんとかなるでしょう。
兵が動揺していようと動揺していなかろうと、この状況では自分にへを向ける可能性が下がるならあまり変わりはないのだ。
ただでさえ視界の悪い夜。爆発音や発砲音が常に鳴り響くいまなら、多少の音を出しても勘付かれることはない。
黄風は深く息を吐き、大きく息を吸う。
その身の内には黄金の闘気が満ち、さらにそれを練り込み高める。
狙うは、一撃。
ドチュ、と肉を潰す音。
こちらは狙い通り、一撃で仕留め切ることに成功する。
有頂天道人のような規格外の武も、身体能力も、この兵達からは感じられない。
確かに攻撃は鋭く、混沌化は厄介だが、こちらから狩る立場であれば、脆い。
闇を駆け、三節棍を一度振れば敵兵の数が一つ減る。
黄風の存在にすら気付かれる事無く、暗殺は順調に続く──
隠れる気もなく、夜の闇に躍り出る、セカンドカラーの姿。
混沌機兵は迅速な行動で目の前の不審な少女、いや、敵を包囲していく。
如何なる敵に対しても最大限の警戒と対処。
見た目よりもずっと強大な猟兵へ対する対処としては、及第点といったところか。
しかし、その包囲網がジリジリと狭まるにつれて、セカンドカラーの顔には妖艶な笑みが浮かぶ。
「せっかく集まってくれたことだし、始めましょう。
──パーティーを。」
ふわりと掲げた白い細腕から、一つの魔術が行使される。
幕を開けるは悪魔の饗宴。剣閃が煌めき、血の華が咲き乱れ、一人、また一人と地に倒れ伏す。
自らを取り囲む敵兵を丸々結界内に収め、全方位からの剣戟。
多くの重なり合った次元に干渉する魔術。
例えこの次元の敵が回避できたとしても、確定した未来は変わらない。
この【デモニックパーティー】には、湿った恐怖混じりの悲鳴こそが相応しいのだ。
余裕の篭った笑みを浮かべ、一歩足を踏み出せば、そこは血の海だ。
もう、包囲していた敵兵はいない。
だが、本番はここからだ。有頂天道人を叩かなければ、この戦場における勝利など達成できやしないのだから──
ウィズの準備は、十分すぎるほどに完了した。
気がかりだった戦場の混沌具合も、味方の働きによって十分だ。
「闇は常に『傍らに。』」
戦場にぽっかり空いた、猟兵の攻撃のない安全地帯。
減少した敵兵は数を纏め、決して各個撃破されぬ様にその穴へと向かう。
吸い寄せられるように。
だが、そこはウィズの領域だ。
闇より深い黒がその足元を支配していたとして、それに気付く者は誰一人として存在せず。
生という餌に釣られた哀れな存在たちの
その全てが、闇蜥蜴の餌となる──
はは、俺の胎にある炉のエネルギー源にはもってこいだなァ?
ズズ──、と足元が底のない沼へと変化する。
黒い沼から這い出し纏わり付く黒が、敵に抵抗を許さぬように、押し込み引き摺り込んでいく。
有頂天道人が出て来た頃には全部食い終わってるかもなァ?
その姿は蜥蜴に戻り喰らうべき次の獲物を探す。
しかし、味方の殲滅により、纏まった数が居ない。パラパラと少数で固まり周囲を警戒する者が多方に存在するのみ。
これなら、待ち伏せるより──
ザバンと、闇の波が兵を襲う。
悲鳴一つ上げさせることなく、瞬時に取り込んだ。
混沌と恐怖の中、ウィズの食事は続く──
多喜は早速、暗い森をSMG片手に駆ける。
闇に紛れ、位置取りを変えながら、一目でわかるその脅威を振り翳す。
暗い森は発砲時のマズルファイアや迸る電撃で照らされ、多喜の姿を写し出し目立たせるがそれは狙い通りというものだ。
音と光。そして血と硝煙の匂い。
実弾と電撃を織り交ぜた殲滅を行う限り、敵にバレることなく完遂するのは不可能だ。
でも、それは必ずしもデメリットばかりというわけではない。
殲滅速度が上がるのは前提として、敵の注目を一手に買う。これこそが、真の狙い。
ここはもう既に、【超感覚領域】の只中だ。
敵が多喜や味方を討たんと殺意を向ければ、森中を駆け巡る電撃が兵を襲う。
「ハッハァ、覿面に痺れちまいなァ!!」
戦場は加速し、敵兵の数は、半数を下回る。
戦場の空気が、変化する。
絶えぬ銃声や爆発音はそのままに、森のざわめきが、消える。
「俺の兵を随分と好き勝手してくれるものだな、猟兵よ。」
現れ出ずるは有頂天道人のその姿。
ここからが、第二ラウンドだ。
「来ましたね。ではここからは、私も虎狩りをしましょうか。」
冬季はこの時を待ち侘びていたかのように、空を駆ける
有頂天道人とは何度も戦った。
自分が相性的に圧倒的有利を持っていることを、知っている。
残存部隊を纏め、空中から包囲射撃を行わせつつ、有頂天道人の目の前に立つ。
「性懲りも無く、また討たれに来たのですか。今回も、今までと同じ結末を貴方に送りましょう。」
その手に持つ雷公鞭を一振りすると、音よりも速い打撃が有頂天道人に襲いかかる。
しかしそれは弾かれ、一瞬の間に距離を詰めた有頂天道人の拳が目の前に迫る。
体を捻って躱しながら雷公鞭に纏われる雷を雷撃として撃ち放つ。
一瞬の応酬。地力の差は有頂天道人が勝るが、武では均衡を、相性では冬季が勝る。
今更包囲射撃如き無視されるが、ダメージはなくとも衝撃は伝わるだろう。ほんの少しでも体が動かしにくくなれば、その隙に押し切るだけだ。
ジリジリとした激しい戦いが続き、その間も戦場の殲滅が進む。
そしてまた一人、木の上から有頂天道人への狙いを定める者が現れる。
黄風は有頂天道人を見据え、三節棍を握る手に力を込める。
冬季と有頂天道人との戦いをサポートするように、隙を作るように、隙を埋めるように、伸縮する棍で叩き伏せる。
狙われ、白き刃が飛ぶなら木々を飛び移り避けてゆく。
正面から戦うのを避け、その隙のみを見据えて叩く。
「サイバー混沌拳は脅威ですが、狙撃するように立ち回る私を捉えるのはなかなか難しいかと。」
何しろ、黄風を追うために意識を向ければ、冬季の雷撃が迫るのだ。
冬季の雷撃は致命的ではないものの少なくない被害を有頂天道人に与えるほどの力がある。
均衡した戦場に、若干の追い風が吹いてくる。
さて、次に登場するのは──
次に現れたのは、銀髪紅眼の少女、セカンドカラーだ。
混沌魔術での自己強化そのままに、有頂天道人へと魔術を放つ準備はとうに完了している。
「兵士の方は、もう終わったわよ。」
有頂天道人はその言葉を聞いても顔色ひとつ動かさない。
猟兵と戦うために、使い潰す気で用意した軍だ。最初から兵たちが無事に帰還できるなんて思っていない。
ただそれでも、冷酷ではあるのだが。
武人としての弱肉強食な考え。知略家としての合理性重視な考え。
そのどちらともが、兵の死を想わない。
「あなたも、もう直ぐ終わるけど、ね。」
多重次元屈折現象。【デモニックパーティー】の正体はこれだ。
混沌魔術で多重次元をリンクさせ、どこかの次元で起きたダメージや状態を有頂天道人へフィードバックさせる。
それに加えて、有頂天道人の周囲を結界で囲み、逃げることもできない。
避ければ、防げば、他次元のダメージが直接襲いかかり、内側から切り刻まれることになる。
もちろん、避けなくても大ダメージ必至の壊滅的な威力を持っている。
発動してしまったが最後、純粋に耐え切るしか生きる道はない。
有頂天道人にとっては幸運なことに、白き半身には斬撃は効かない。
だが、機械化義体に結界の刃を弾くだけの硬さはなく──
ザシュ、と肩口から脇腹にかけて大きな切り傷ができる。
両断されなかったのは、単純な耐久力の高さによるもの。
「へぇ、硬いわね。これで死なないなら──」
ニヤ、と悪魔的な笑みを浮かべ、腕を有頂天道人へ差し向ける。
そして結界内に現れたのは、無数の刃。
死なないなら、苦しみが長引くだけ──そう想わせるような圧倒的脅威に、キッとその表情は厳しく締まり──
森の奥から現れるのは、大きな闇蜥蜴、ウィズだ。
感知できる範囲の殲滅が終了し、こちらへ向かって来たのだ。
全てを喰い、それでも腹は満たされぬ。
「さァ、お前の番だぜ。」
地面に広がるのは黒い闇。それは次第に有頂天道人の足元まで伝播して、絡めとる。
今は、セカンドカラーの結界内に居る。故に、回避という行動は取れない。
ウィズの攻撃に混沌魔術の効果はないものの、どうせ全て喰らうのだ。
固く、硬く、防御を固める有頂天を、地面から迫り上がる大顎門が噛み砕き飲み干そうと捉える。
今は行動を封じるにとどまっている行動だが、続けていれば次第に抵抗は弱まるだろう。
存在を喰らわんとするその顎は、今尚ギチギチと力を込め。
「とっとと諦めてくれりゃァ、少しは楽になるンだがな。」
オブリビオンは倒してもどうせ復活するのだ。
この戦争で誰かさんは完全に滅びたみたいだが、お前は違うだろ。
全身を喰われ、切り刻まれているというのに、有頂天道人は白き刃で、気弾で、こちらを攻撃しようとしてくる。
その気迫は目を見張るものがあり、しかしこの状況を覆すことなどできるはずもなく。
それでも安心し切れない不安を皆の脳裏に刻みつけるものだから、有頂天道人を襲う攻撃はさらに鋭さを増すのだ。
最後に現れたのは、多喜だ。
森の中を駆け回り残存する兵を狩り尽くし、やっと有頂天道人のところにくる事が出来た。
来た頃には有頂天道人は覆し得ぬ境地に立たされていたものの、実のところこの戦闘で最も多くの敵兵を屠ったのは多喜なのだ。
ちょっとくらい、イイとこを掻っ攫っても、問題ないのである。
ちょうど目の前には瀕死の有頂天道人がいることだし、残弾を全てここで放ち、殺し切ることにする。
「楽しかったぜ、有頂天。」
響く言葉の尾に僅かな感謝を残し、無慈悲な弾丸が有頂天道人を襲う。
戦場の至る所で輝いたマズルファイアは今も尚機械の瞳に焼き付けられ、放たれる雷撃はその体を焼き焦がす。
「猟兵に目を付けたのが運の尽き、ってやつだな。」
その体はまるで蜂の巣のように穴が開き、切り裂かれ、最後はバクン、と閉じられたウィズの胎内へと消えていった。
大成功
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