届いた一通の書状の記載に従い、ルウはとある屋敷を訪れていた。
出迎えた式神の先導を受けて入った裏白の飾りが揺れる応接間の上座には、式神と瓜二つの女性の姿があった。
「よくぞ参ったな」
挨拶を終えたルウは女性———絹子の情報を頭の中で反芻させる。
妖を滅する力のある血が体に流れる高貴な生まれである彼女は不老不死の身の上である故に、特攻することも自ら身を傷つけて血を流すことも厭わない。
だが決して自ら悦び勇んで妖へ突っ込む猪武者ではない。尊大な態度ながら怯えたふりをして敵を欺き、か弱く見える身の丈を利用して自ら進んで囮となって油断を誘うこともある、頭脳派の一面も持ち合わせている。
そんなことを思っているうちに見慣れぬ
来訪者を警戒してか、いつの間にか絹子のそばには件の化神達が集まり出していた。
「『皇族の血にそのような効能があると妖に知られてはならない』と聞いておりました故、ここまで臆さずに向かわれる方がいるとは思っておりませんでした」
化神達も同じことを思っているのでは、と暗に尋ねると絹子は肩を竦めた。
「何を言うか。使える物を使わず、出し惜しみする方が愚かではないかえ?」
化神達はルウの質問にも絹子の回答にも同調せず、静観を決め込んだ。
「……こちらが依頼の品です」
咳払いをして気を取り直したルウは姿勢を正すと鞄の中から一冊の書物を取り出し、絹子に差し出す。
「……ほう、見せてもらおう」
その表紙には「
鬼道歌集」と記されていた。
「『自身の歌う「【この地に住まう者や化神を想って詠んだ和歌】」を聞いた味方全ての負傷・疲労・状態異常を癒すが、回復量の5分の1を自身が受ける。』……か」
「元は獣人と呼ばれる者達が妖と激しい争いを繰り広げる地———『獣人戦線』と呼ばれている世界で『戦場に歌を届ける』ことに特異な情熱を燃やす者達のユーベルコードでございます。この地で和歌は人間関係を支える、いわば人々の心の通達をはかるための交流の具だと伝え聞いております。そこに鬼道の霊力を合わせればこのような芸当も出来るのではないか、と」
わざとらしく頭頂部の獣耳を動かしてから、ルウは深々と頭を下げた。
「この案を採用するか否かは絹子様の自由、しっくり来なければ破棄しても構いません。ですが提案料はしっかりいただきますので、どうかご容赦を」
成功
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