●夢の呪
ただならぬ気配を感じて、平安貴族――
藤原咲春は目を覚ました。
ロウソクの火は消え、寝室は静寂に包まれている。
――御簾の向こうから、なにかを引き摺る音。
そこで気付く。
身体が動かない。必死に目だけを動かして、状況を確認する。
ひどく霞がかった記憶と、周囲に立ち込める深紫の瘴気。
これは――夢だ。
「口惜しや」
御簾の向こうから現れたのは、壺装束に身を包んだ顔の見えない女だ。
その女は懐から五寸釘を取り出して、金縛りに遭っている咲春の足に添える。
「約束を、違えた、恥知らずめ」
咲春の絶叫が木霊する。凄まじい激痛と共に、夢から一気に現実に戻された。
飛び起きて辺りを見れば、静寂に満ちた自分の寝室だ。
妖しい女の姿はない。
だが、それが何日も続けば、どれほどの猛者であれど消耗するもの。
ひどく陰鬱とした表情で、寝不足ながら眠ることを拒絶した平安貴族の男の姿は、宮中で注目の的になっていた。
●呪詛の根源を探れ
「アヤカシエンパイア。そこは、妖蠢く世界を隠蔽する、陰陽師たちが守護する世界だよ」
集まった猟兵たちに、グリモア猟兵であるアイン・セラフィナイト(全智の蒐集者・f15171)が此度の予知の内容を告げる。
「そんな世界は――やっぱりどうしても妖の介入を受けてしまう状況が発生する」
とん、とアインが杖の柄で地面を叩けば、魔術の投影によって精悍な顔つきをした男が映し出された。
「彼の名前は
藤原咲春さん。妖退治の専門家である陰陽師の一人でもあり宮中の守護役の一人なんだ。だけど最近、女の人に襲われる夢を何度も見るんだって」
あ、とアインが気付いたように呟く。
「あ、その……襲う、ってそういう話じゃないからね。かなり深刻で……寝たまま身体の四肢に五寸釘を打ち込まれる夢を見るらしいんだ。それも、激痛の伴う夢を」
眠りにつけばその女が現れ、四肢に五寸釘を打ち込んでくる。それが痛みの伴う夢であれば、眠ることが怖くなってくるというものだ。
「妖の呪詛がそういう夢を見せてるんだと思うんだけど……心当たりがないか僕も確認してみたんだ。けれど、彼は『心当たりがない』の一点張りでね。その女が言っていた『約束』に関する情報も言わないんだ」
とはいえ、アインも気付いた。
心当たりがない、と言った瞬間、視線を逸らされればなにか心当たりがあると言っているようなものである。
「彼から情報を引き出すのはたぶん無理だと思う。相当な覚悟をもって口をつぐんでるみたいだしね。だから、みんなには宮中にいる役人や使用人、彼を知る庶民の人から情報を探ってきて欲しいんだ」
その呪詛を解くには、彼が呪詛を受ける前に何をしたのかを探る必要がある。
「彼が夢の呪いを受けるようになったのはここ最近だし、多分何かあったのは間違いないと思うんだけど……僕が確認した時、彼が小さく呟いた『
椿姫』と『
宗義』って言葉に何か意味があるんだと思う」
『椿姫』。そして『宗義』。口をつぐんだ咲春が唯一口を滑らせたその言葉が、呪詛を解決する糸口になるだろう。
とん、と再びアインが杖の柄で地面を叩けば、猟兵たちに転送のリングが纏わりついた。
転移先は宮中だ。
使用人や役人、外にいる庶民から話を聞くも良い。もしくは、それに関連しそうな場所を探すのも良いし、呪詛そのものの根源を探ってみるのも良いだろう。
「呪詛の本質を知ることができれば、呪詛を生み出してる妖に対して有利に事を運べるかもしれないからね! みんな、頼んだよ!」
夕陽
OPをご覧頂きましてありがとうございます。
アヤカシエンパイア実装ということで、呪詛に関する調査をしていきましょう。
以下、登場人物補足です。
●
藤原咲春
40代半ばの精悍な顔つきをした陰陽師の男性です。宮中の守護役でもあり、歴戦の陰陽師でもあります。
ここ最近、四肢に五寸釘を打ち込まれる夢の呪詛を受けており、ずっと寝不足のまま体力を消耗し続けています。
グリモア猟兵が呪詛について心当たりがないか確認しましたが、心当たりはないと一蹴されています。
しかし、『
椿姫』と『
宗義』という言葉をその時小さく呟いており、それが呪詛に関係するものかもしれません。
かなり覚悟を決めて口をつぐんでいるようなので、彼からこれ以上情報を得ることは叶いません。
第1章では、夢の呪詛に関する調査を行います。
咲春が一体何をしたのか、誰から恨みを買っているのかの調査となります。
宮中の役人や使用人等から情報を聞き出すも良し、怪しい場所などを捜索するも良し、呪詛そのものに対してなにかアプローチするのも良いかもしれません。
この章で呪詛の大元が判明、かつキーアイテムを入手すると、第2章、第3章でプレイングボーナスが発生します。
第2章、第3章の状況につきましては、章が進むにつれて開示致します。
以上、プレイングお待ちしております!
第1章 冒険
『呪詛を探れ』
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POW : 庶民や貴族へ聞き込み。
SPD : 怪しい場所へ潜入。
WIZ : 呪詛の痕跡を辿る。
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●調査開始
「なんと言おうとわしには身に覚えがない。もう良いだろう……」
ふぅ、と小さく息を吐き出して、藤原咲春は脇息に肘を置く。
夢で何度も激痛に苛まれるせいか、顔色も悪く、目の下にも酷いくまができていた。
猟兵たちと、これ以上話すつもりはない、と。
酷く疲労に満ちた様相だが、その瞳の奥にある灯は、決して他人には言えぬという、何かしらの覚悟を秘めていた。
どれだけだんまりを決め込もうが、これ以上は咲春の命にかかわる。
猟兵たちが立ち上がり、宮中の通路を見渡せば、役人や使用人たちが行ったり来たりしているのが確認できた。
身体に五寸釘を打ち込まれる夢だ、相当な恨みによる呪詛に違いないだろう。
猟兵たちは行動を開始する。
咲春は、何をしたのか。咲春はなぜ、呪詛に蝕まれることになったのか。
建依・莉々
「おぉ潜入捜査! ここは莉々にお任せだよ♪」
アヤカシエンパイアって、暗くて隙間だらけで化かし放題♪ ブラックタールの身体を活かして、人では潜めないような場所にも潜入するよ。場所によっては燭台やら御簾、几帳屏風に化けるもよし。人の姿のほうが都合がよい場合には、禿の少女官に化けるもよし。あちこち回って聞き耳立てて、情報を収集しよう! まずは噂雀の女官たちの詰め所から始めて、仲間たちの情報も加えて徐々に絞りこんでいく。
怪しいヤツを絞り込んだら、その人物の持ち物に化けて連れてってもらおう。五寸釘でも藁人形でもどんとこいだよ!
仲間との情報交換はマメにするけど・・・これってフラグっぽい?
宮中をゆく影。
建依・莉々(ブラックタールのどろんバケラー・f42718)は、グリモア猟兵から聞かされた内容にうきうきしながら行動を開始していた。
(潜入捜査! ここは莉々にお任せだよ♪)
ブラックタールの特性は、あらゆる姿に変形する身体だ。
女官の詰め所だろう場所を発見し、忙しなく部屋を行き来する女性たちを掻い潜るように、詰め所内にあった燭台の一つに変化する。
書物とにらみ合いをしている者が多い詰め所内ではあるが、明らかに噂話をしている女官たちを発見。
「咲春様、やはり具合が悪いのですか……?」
(丁度その話をしてるみたいだね……!)
聞き耳を立てて女官たちの会話を詳しく聞いていく。
「ええ、酷いお姿でした……でも、仕方のないことです。椿様はもちろん、宗義様もあんなことになってしまって……」
「……そうね、私もあんなことが起これば、気落ちしてしまうわ」
(んん……? なんかあった、ってことかな?)
女官たちの視線を掻い潜り、どろん、と化ける。
燭台から禿の少女官に化けた莉々は、噂話をしていた女官たちに駆け寄った。
「ねぇ、咲春さんって一体どうしちゃったの?」
わ、と驚いたように莉々に視線を移した女官たちは、聞かれた内容に気まずそうに視線を合わせる。
「……ご不幸があったのよ。椿様が、亡くなってしまったの」
「椿、って人は……もしかして咲春さんの奥さん?」
莉々の言葉に、女官の一人がこくりと頷いた。
「御子息である宗義様も、そのせいで床に臥せっておいでで……見ているこっちが悲しくなってくるわ」
ふむふむ、と莉々が唸る。
どうやら、咲春が呟いた『椿姫』と『宗義』というのは、自分の妻と息子のことだったようだ。
彼の呟いた言葉の意味が分かった莉々は、他の猟兵たちへ連絡を行った。
(怪しい人物は分からずじまいだったけど、五寸釘でも藁人形でもどんとこいだよ! ……でもこれってフラグっぽい?)
――調査は、まだ始まったばかり。
大成功
🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
2023年ハロウィンSDの宮司服を着て陰陽師っぽく振る舞うの
人の過去を暴くのは気が引けるけど、怨念を晴らすなら、背景を知る必要があるの
聞き込みで情報収集なの
おねえちゃん(UC)にも、式神の振りして手伝ってもらうの
狼の聴力でひそひそ話も聞き耳を立てるの
聞き込む内容は…、咲春さんの人間関係なの
礼儀作法に気をつけて、できるだけ堂々と振る舞わないと…
(若干人見知りが残ってる)
生き霊が壷装束ということは、どこか遠くに行ったかもしれないの
その理由も掴んでおきたいね
約束…、それに連なる物品もあったりしないかな?
役人さんや使用人さん以外で、宮中の動物と話すのもいいね
牛車の牛さん、馬さん、犬さんもいるかな?
宮中を歩く猟兵の一人は、宮司服を纏った陰陽師姿のロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)だ。
すでに他の猟兵から『椿姫』と『宗義』が、咲春の家族たちであることを知らされている。
であれば、その二人が今回の呪詛とどういった関係があるのかを探るのみ。
「人の過去を暴くのは気が引けるけど、怨念を晴らすなら、背景を知る必要があるの」
このままでは、咲春の命も危ない。
『どんどん聞いてこ!』
「うん、おねえちゃんも手伝ってね」
『もちろん!』
近くを通り過ぎようとしていた役人の一人に、ロランは近づいていく。
「あの、ちょっと失礼するの」
「む、これは……陰陽師殿、どういったご入用で?」
ロランの姿を見て、宮中で働く陰陽師として勘違いしてくれたようだ。
「咲春さんの人間関係について、教えてもらいたいの。えっと……椿さんはもう亡くなってるって聞いたんだけど……」
『知ってることあったら教えてくれない?』
「ああ……そのことですか」
うーん、と唸った後、役人の男はロランに耳打ちするように小さく口を開いた。
「あまり大きな声では言えないのですが、今回咲春様が体調を崩されているのは、椿様の怨念の仕業、などと言った噂が流れていまして」
「そ、それはどうしてなの……?」
「いえ、それがその……」
はっ、と後ろから歩いてきた仕事仲間に気付いたようで、役人の男は口をつぐんだ。
「申し訳ありませんが、あまり良い話ではないので。これで失礼しますね」
そそくさと去っていく男の姿を見送って、ふぅ、と息を吐いたロランは、宮中の軒先で佇んでいる猫を発見するだろう。
ぶすっ、とした表情の猫は、ロランを見つめたままそこに座り込んでいる。
「猫さん。君は、なにか知ってる?」
不機嫌そうな表情をしていた猫が、口を開く。
『椿姫の怨念など、馬鹿馬鹿しい。咲春殿と椿姫は、それはもう仲睦まじい夫婦だった。宮中の噂話はあまり気にするでない。重要なのは、咲春殿がなぜ椿姫の死と宗義殿の不調について口をつぐんだか、よ』
偉そうに、しかし深い叡智が込められた猫は――その
尻尾が2つあった。
『あの日、咲春殿と椿姫は、妖退治のために隣国へ旅立った。そこから、問題が起こったのだ。……後は、宮中にいる者たちに詳しく聴いてみると良い』
ぴょん、と跳ねて、宮中の奥へ消えていった猫の姿を見ながら、ロランは首を傾げた。
「なんで隠したか……?」
『難しいこと言う猫ちゃんだね?』
そう、彼が椿姫の死と宗義の不調について口をつぐむ理由がない。
問題は、その奥。
おそらく、その死と不調が、どのようにして起こったのか、だ。
大成功
🔵🔵🔵
畜生院・茶勒
おまかせ◯
え~猟兵さんのお仕事はじめてだけど、ぜんぶ極楽送りじゃダメなの~?
咲春ちゃんも辛いなら極楽直行、いつでも任せてね!
だめか~仕方ないなぁ、茶勒さんが調べてあげる~
UC発動、この辺りで地獄に落ちた亡者さん達を呼んでお手伝いしてもらおう!
宮中で謀反とかしちゃって地獄に落ちた亡者さんが詳しそう!
話を聞くよ~
咲春ちゃんの夢の話を伝えて近い呪いや事象がないか調べるよ~
そういう呪いを行う場所の事も聞こう!釘打ちとかしてそう!
歴戦で40代か~
咲春ちゃんの色恋とか身分絡みの人となりを知ってる悪い亡者さんも居そう
彼の事も教えて欲しいな~
手伝ってくれた亡者さんは、良いことをしたのできっと極楽行きだよ~
「え~猟兵さんのお仕事はじめてだけど、ぜんぶ極楽送りじゃダメなの~?」
だめだよ!? とグリモア猟兵の声が聞こえてきそうな気がして、畜生院・茶勒(極楽直行便・f42889)はだめか~、と小さく呟いた。
猟兵たちから回ってきた情報から、すでに椿姫と宗義が咲春の妻と息子であることは判明していた。
「咲春ちゃんも辛いなら極楽直行、いつでも任せてね!」
元気もなく項垂れる咲春であったが、茶勒の言葉に口元を微かに綻ばせた。
「……ふ、その時がくれば頼むとしようか」
そそくさと咲春の部屋から退室し、周りに誰もいないことを確かめる。
「それじゃあ早速調べなきゃね。この辺りで地獄に落ちた亡者さんたち、出てきて~」
ユーベルコードの超常が発動する。
地面から沸き立つように出てきたのは、陰陽師の衣を身に纏った亡者だった。
【
我利道理】によって地獄の責め苦に苦しむ亡者を喚び出した茶勒は、早速その亡者を問いただす。
「咲春ちゃんの夢で、近い呪いや事象ってないかな~?」
カタカタ、と痩けた口元を震わせて、陰陽師の亡者が口を開く。
「狐、よ。狡猾、醜悪な狐の化生よ」
「狐? 五寸釘だし、藁人形とか関係あったりしないの~?」
茶勒の質問に、亡者が再び言葉を紡ぐ。
「丑の刻参りは、呪詛を成す者が生者でなければ成立せぬ。悪夢の呪詛は、狐の呪詛。空より墜つる、禍ッ星の化身」
「ふぅん~そういうものなの」
そうして、他の亡者へと顔を向ければ、着物を羽織った女の亡者が目についた。
「咲春ちゃんって椿ちゃんと妖退治に行ったそうじゃない~? そこで何があったか分かったりする?」
「……あの女は、形代を使った式神を得意とする陰陽師。私の恋路を邪魔した、図々しい女」
どうやら、咲春に想いを寄せていた亡者の一人のようだ。咲春のことはともかく、椿姫との確執があるらしい。
「……ですが、咲春様には死なないで欲しい。狐の呪詛が、
痛みの悪夢程度で済んでいるのは、間違いなくあの女が咲春様を護っているから」
「椿ちゃんが? もう死んでるって聞いたけど~」
「……形代、探して。あの女の、形代。あの女は、地獄には来ない。咲春様を、恨んではいない。あれは、仕方のないことだった」
口を震わせて、しかしそれ以上は話すつもりはないようだ。
そ、と言葉を区切った茶勒は、ぱん、と両手を叩いた。
「はい、お喋りおしまい~。手伝ってくれた亡者さんは、良いことをしたのできっと極楽行きだよ~」
消えていく亡者を見送って、茶勒はふーん、と唸った。
「なんか色々と面白いことを聞いたな~。みんなにも教えとこ~!」
大成功
🔵🔵🔵
麻場・宙子
POW
妖しい女の夢・・ですか。
かなり恐ろしい夢のようですし、それは眠るのを拒否されるのも分かります。
咲春殿の呪詛を解くため、私も微力ながら協力させていただきますね。
内容
私は宮中の使用人、特に女性の方からお話を聞いてみましょうか。
何故かというと、私は女性絡みの恨みなのではないか、と思っているのです。
夢の内容に出てくるのも女性ですし、咲春殿も精悍な顔立ちをされているのでそこに惹かれる女性も多そうですし。
話の聞き出し方は・・そうですね。多少世間話(技能:コミュ力)でもして打ち解けてから聞き出してみましょう。聞き出す内容は咲春殿に女性絡みの噂はないかと椿姫という方に聞き覚えはないか、ですかね。
武者小路・式部
アドリブ連携歓迎
グリモア猟兵より招集を確認。目標:藤原咲春の救助。
承認しました。武者小路式部、これより猟兵活動を開始します。
調査開始。コミュニケーション機能を稼働。
―――では。咲春さんを助けるために聞き込みを行います。
役人、同僚の陰陽師の方に知恵をお借りいたします。
……呪詛というものは、縁が結ばれていなければ効果を発揮しないものだと聞き及んでおります。
歴戦であるならば、それ相応の経験もおありでしょう……それこそ、護り切れなかった悲しい思い出も。
咲春さんが話したくないほどの、悲劇的な出来事がありませんか?
……当人の居ぬ場にて過去を詮索する無礼は承知の上です。
彼を救うために、どうかお力添えを……。
鬼伏・キサラ
五寸釘を四肢に打たれ苦しむ夢
……悪夢を見せる鬼の話は文献で伝わっていますが、
この例は寡聞にして知るところにはありません
何らかの恨みを抱かれた身であるか、
あるいは質の悪い鬼や妖の影響か……
仮初ではあれど、床入り前にこの香を焚けば、多少は悪夢も鳴りを潜めるでしょう
いずれにしても、彼に与えている呪詛の根を見つけなければ始まりませんな
それとなんですがね、
「椿姫」「宗義」……彼が口走った名前についても、詳しく掘る必要があると考えています
ええ。この名に心当たりがないか、近くの里の者や貴族、同業の者にも聞いて回ろうかと
俺にできる限りのことは協力させてもらいます
今できることは、このくらいまでですが……
八秦・頼典
●POW
久しく咲春と顔を合わせたが、かなり憔悴されている御様子か
だが、『椿姫』と『宗義』という雲を掴むような手掛かりがあるだけでも成果はあったと言えよう
この陰陽師探偵ライデン、中々心震える事件の予感を感じえたぞ
では早速聞き込みと参ろう
咲春殿に近しい宮中の女官や女房へ口説き…いや、此れなる名の二人に聞き覚えがないか尋ねよう
だが、ボクとしては美しき人の心を情熱さをもって解きほぐし、恥じらう顔を愛でながら情報収集するのが得意だから、結果的には口説くのだけどね?
さて、情報が断片的に集まっら一旦整理して推理しよう
五寸釘、女性の怨霊の夢、椿姫、宗義…
【此の世に不可思議など有り得ない】…真実はいつもひとつさ
「五寸釘を四肢に打たれ苦しむ夢……悪夢を見せる鬼の話は文献で伝わっていますが、この例は寡聞にして知るところにはありません」
咲春の衰弱した様子を見つめて、鬼伏・キサラ(さすらいの鬼殺さず・f42975)が呟いた。
他の猟兵から、すでに狐の妖による呪詛だとは聞いてはいるが、そもそもそんな狐の妖も聞いたことがない。
「妖しい女の夢……ですか。かなり恐ろしい夢のようですし、それは眠るのを拒否されるのも分かります」
麻場・宙子(騎竜武者・f42876)も、その様子に痛ましい表情を見せる。
「咲春殿の呪詛を解くため、私も微力ながら協力させていただきますね」
「……」
咲春は、ただじっと黙していた。猟兵たちを見つめて、小さく息を吐く。勝手にしろ、ということだろう。
「仮初ではあれど、床入り前にこの香を焚けば、多少は悪夢も鳴りを潜めるでしょう」
「……そうか。すまぬな」
キサラが持ち寄った香を受け取った咲春は、微かに目を瞬かせて、それを受け取った。
「いずれにしても、彼に与えている呪詛の根を見つけなければ始まりませんな」
咲春の部屋から退室すれば、他の猟兵二人が合流する。
「グリモア猟兵より招集を確認。目標:藤原咲春の救助。承認しました。武者小路式部、これより猟兵活動を開始します」
龍愛ずる姫君たる猟兵、武者小路・式部(ドラゴンプロトコルの龍愛ずる姫君・f42901)は、その遠くを見張るような視線から、感情の籠もった瞳を灯していく。
「久しく咲春と顔を合わせたが、かなり憔悴されている御様子か」
もう一人、八秦・頼典(平安探偵陰陽師ライデン・f42896)が、ぱちん、と檜扇を閉じる。陰陽師でもあり、探偵でもある彼は、他の猟兵から受け取った情報から何かを推察しているようだった。
「やはり、女性絡みの問題でしょうか。咲春さんと椿さんは仲の良い夫婦だったと聞き及んでいますが……」
「女性絡みであれば、宮中もそのように騒がしくなるだろう。しかしそれがないとなれば、女性絡みではないと推察できる」
宙子の言葉を、頼典が制した。本来、女性絡みの依頼は受けない頼典がこの依頼を受けたのも、すでにそこが分かっているからだろう。
「なるほど……ではやはり、隣国への妖退治の時に何が起こったのか調査いたしましょう」
「調査開始。コミュニケーション機能を稼働。―――では。咲春さんを助けるために聞き込みを行います」
「俺もそれが良いと思うよ。椿姫、宗義という言葉の意味が分かった以上、妖退治の先で起こったことを聞くべきでしょう」
「全員が同じ意見のようだね。では早速……知り合いの陰陽師を尋ねるとしようか」
すでに、面会の許可は得ている、と。
四人の猟兵が向かったのは、他の陰陽師たちが集う宮中の一角だ。
二十代半ば陰陽師の女性が、こちらへと振り向いた。
「これは頼典殿、お久しゅうございます」
「美しい貴女に会えるのであれば、これほど嬉しいことはございませぬ」
まあ、と頬を赤らめた陰陽師の女性と、口説き文句を連ねていく頼典の様子を見ながら、早速本題について聞くべく、式部が口を開いた。
「咲春さんが呪詛に侵されているのは、おそらくご存知のはず。……呪詛というものは、縁が結ばれていなければ効果を発揮しないものだと聞き及んでおります」
陰陽師の女性は、その言葉に微かに身を強張らせる。
猟兵たちの聞きたいことを察したのか、視線を真下に下げた。
「歴戦であるならば、それ相応の経験もおありでしょう……それこそ、護り切れなかった悲しい思い出も」
「隣国へ咲春殿と椿様が妖退治に向かわれたその先で、一体何が起こったのですか?」
「この呪詛は、明らかにその妖退治でかけられたものだと考えています。きっと、とんでもないことが起こったのだろうとも」
「ふむ、世間話に熱中してしまったようだ。……貴女はその隣国に現れた妖を知った者の一人だと聞いているのでね。詳しく教えてもらいたいのさ」
猟兵たちの言葉が、重くのしかかる。
「……当人の居ぬ場にて過去を詮索する無礼は承知の上です。ですが、このような状態を誰も望んではおりません。――咲春さんが話したくないほどの、悲劇的な出来事がありませんか?」
式部の言葉に、とうとう折れたのだろう。陰陽師の女性は、ゆっくりと話し始めた。
「咲春様と椿様は、長年とある妖を追っておりました。『
天狗』、流星の化身、凶兆を告げる強大な妖でございます。その妖が隣国へ現れたという情報をお聞きになったお二人は、その妖を討滅するべく向かわれたのです」
「しかし、その戦いで椿さんは死んでしまった、と?」
宙子の言葉に、陰陽師の女性は小さくこくりと首を縦に振った。
「咲春様を含めてわたくしたち陰陽師はとあることを見落としていたのです。天狗は、執拗に追いかけてくる椿様へ、長い間恐ろしい呪詛を振りまいていたことを」
そう言って取り出したのは、『黒く黒ずんでいる形代』だった。
まるで、墨で侵されたように黒くなっている形代は、ボロボロの状態だ。
「椿様は、『呪詛移しの形代』を使うことで、天狗からの呪詛を抑え込んでおりました。しかし、天狗退治へ向かわれた先で、呪詛を肩代わりする形代は、圧倒的な呪詛を前に効果を失ってしまったのです」
そうして、どうなったか。
それを聞こうとした猟兵だったが。
「――椿は、そうして天狗の操り人形となったのよ」
後ろから聞こえてきた声に振り向けば、そこに立っていたのは咲春だ。
「まったく、お前たちの図々しさは困ったものだな。……椿もかつてはそうだった。宗義を護ってくれ、と最期の最期まで他の者の心配ばかりしておったわ」
猟兵たちが調査をしていたのを、咲春は聞いていたのだろう。
「……ただその妖に殺されただけならば、口をつぐむ必要はありません」
小さく、切り出したのはキサラだ。
「椿様は、妖の呪詛によって妖の傀儡となった。そうなれば、貴殿が成すべきことは一つしかない。……真実はいつもひとつさ」
むう、と一瞬黙り込んだ咲春は、悔しそうに口を開いた。
「……わしがこの手で、椿を斬った」
その言葉に、辺りにいた陰陽師を含めて、猟兵たちに沈黙が流れる。
「そうして、わしは天狗を取り逃し……後からわしらを追いかけてきた息子の宗義に、
その光景を見せてしまった」
悲しそうに、そう呟いた。
「宗義は昔から陰陽師になることに憧れていてな。今では新米の陰陽師だ。内緒でわしらを追ってきていた」
「……椿さんを手に掛ける瞬間を、宗義さんが見てしまったのですね」
式部の感情が、揺れる。ドラゴンプロトコルとして成った感情と言えど、その深い悲しみは、本物だ。
「そうだ。そしてそれが天狗へ弱みを見せる結果となった。わしの呪詛の根は、間違いなく宗義だろう。天狗に呪詛の器として扱われ、今はその呪詛の影響を受けて昏睡しておるのだ。すでに、宗義は狐の手の裡よ」
だからこそ、この呪詛について秘密にし、解くことを拒絶したのだ。
もし呪詛を解くとなれば、息子さえも手にかけなければならないのだから。
「――しかし、貴殿は天狗へ一泡吹かせることを望んでいる。咲春、貴殿は己を餌として、誘っているのだな」
そして、頼典も気付いただろう。
なぜ、衰弱しながらもここまで耐え続けているのか。
「あの醜悪な妖がわしの命を獲ろうと現れるその時が、この呪詛を解く唯一の方法だからだ」
ぎり、と咲春が唇を強く噛んだ。
「そうだ……椿との約束なのだ。宗義だけは護らねばならぬ。もう二度と、わしの手で大切な者を……」
瞬間。
猟兵たちが一斉に外を見やる。
猟兵であれば感じる。
オブリビオンの気配。
「咲春殿、どうやら……来たようです」
宙子が東国刀の鍔に手をかけた。
「鬼の気配……ではないようですね。この禍々しい気配……」
キサラが、宮中に溢れ出した瘴気を感じてその眼差しに火を湛えた。
「……宮中に、妖の裂け目ができましたか」
式部の周囲に龍の残滓がちらつき、霊力として溢れていく。
「取り殺す頃合いだと踏んだのだろうね。まったく、どこまでも狡猾な狐のようだ」
ばさり、と檜扇を開いて、頼典が周囲に霊獣を活性化させる。
外へと駆け出せば、見上げるは瘴気溢れる濃紺の空。妖の裂け目が目の前で輝き、その向こうから、現れる。
『キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ
!!!!!!! 妾の呪詛の味はどうだ、陰陽師
!!!!』
大成功
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第2章 ボス戦
『天狗』
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POW : 箒星
【流星の如く輝く霊力】によりレベル×100km/hで飛翔し、【スピード】×【加速時間】に比例した激突ダメージを与える。
SPD : 輝く星焔
高速で旋回する【星の如く輝く狐火】を召喚する。極めて強大な焼却攻撃だが、常に【天狗(アマツキツネ)が鳴き声】を捧げていないと制御不能に陥る。
WIZ : 天狗流星
レベル秒間、毎秒1回づつ、着弾地点から半径1m以内の全てを消滅させる【狐尾型の星光】を放つ。発動後は中止不能。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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●禍ッ星
空を覆う呪詛の空。
そして、猟兵たちの眼前には、切り裂かれた空間――妖の裂け目が顔を覗かせている。
ぎらり、と裂け目の奥が輝けば、そこから諸悪の流星は現れる。
『キヒヒヒヒヒヒ!! 今日は佳き日ぞ! この都を魔性の坩堝と成す佳き日よ!』
その狐は高らかに告げるだろう。
天狗は、立ち並ぶ猟兵たちと、咲春を見て誰にでも分かるようにニヤリ、と嗤った。
『妾にしつこく付き纏う陰陽師よ、妾の呪詛はどうであった? それはもう感謝しておるであろう? なにしろ、死した者に会わせてやったのだからな』
「天狗、貴様……」
『おお、おお! そう嬉しがるな! お主が大切にしていた者から杭を打たれるのだ、本望だったであろう?』
キヒヒ、と笑い――しかし面白おかしそうに細めていた目が、鋭く変わる。
『あの女め、妾の呪詛を受けてなお刃向かい…更には妾の呪詛を抑え込むとはの。不愉快よ。不愉快極まりないわ』
ぼう、と天狗の身体から呪詛の奔流が溢れ出す。
『だが、無駄死! 無駄死によの! こうしてお前との縁が結ばれた
宗義を呪詛そのものとして扱うことができたわ! 呪詛の器を縁として、この都を魔都にしてやるわ!』
呪詛が溢れ出す。
周囲を埋め尽くしていく呪詛の汚染に、にやりと天狗が嗤ったその刹那だった。
猟兵たちと咲春の隙間を縫うように、一つの形代が飛び、立ちはだかる。
酷くくすむ、黒ずんだ『呪詛移しの形代』が、襲い来る呪詛の津波を受け止めたのだ。
『あの女の形代か……ッ! 死してなお妾に歯向かう矮小な人間が!』
天狗の呪詛を受け続けている形代は、時間が経てば経つほどくすみ、ボロボロに朽ちていく。
――この妖を討つには、今しかない。
『為れば、良い。我が流星にて、貴様らを嬲り殺してやろうぞ!』
瘴気の空が、暗黒の星を湛えてぎらりと閃く。
空から墜ちる禍ッ星、瘴気の空の中、猟兵たちは武器を構えたのだった。
【MSより】
猟兵たちの呪詛調査によって、呪詛の源が咲春の息子である『宗義』であること、及びキーアイテムである『呪詛移しの形代』を見つけたことで、天狗の呪詛が未然に防がれました。
無条件でプレイングボーナスが発生し、猟兵たちは有利に戦闘を行う事ができます。
咲春との共闘も可能ですが、衰弱しているため天狗を足止めするほどの【臘月陰陽符】のみしか使用できません。
以上、プレイングお待ちしております。
畜生院・茶勒
無駄死になんてのは~輪廻してる人達にはないんだよ~
キミ達は輪廻しないから消えちゃうけどね~
咲春ちゃんごめんね
椿ちゃん、地獄に居そうにないし極楽にブン投げれないや~
来世も咲春ちゃんが見つけて一緒に頑張ってね!
息子ちゃんも何とかしよう
本気出すから、みんな離れててね~。近づいてきたら噛んじゃうぞ~
UC発動
ひれ伏しな、アタシの旧名は不制天
輪廻にて畜生道を制した、首狩り兎だよ
――アンタ、加速するんだって?
アタシがブン殴ってやんから、その技使ってみなよ
飛び掛かるよ
《蜘蛛ノ糸》も感覚的に活かして、立体的に噛みつき続けてやるさ
畜生道で勝つのはね、速くて凶暴な奴なんだ
なら、アタシのが何倍も速くて凶暴だよ
妖しく輝き流星と化す天狗が、空へと翻りながら人々を嘲笑う。
箒星。天から降り注ぐ星の如く、霊力を纏った天狗が咲春目掛けて墜ちてくる――!
「無駄死になんてのは~輪廻してる人達にはないんだよ~キミ達は輪廻しないから消えちゃうけどね~」
咲春の前に佇んだのは、畜生院・茶勒(極楽直行便・f42889)だった。
眼前に満ちるは悪意の光。それが命中すれば、ただでは済まないだろう。
「咲春ちゃんごめんね」
大妖から目を逸らさずに、茶勒は後ろにいる咲春へ口を開く。
「椿ちゃん、地獄に居そうにないし極楽にブン投げれないや~来世も咲春ちゃんが見つけて一緒に頑張ってね!」
お茶目に、ぱちり、とウィンクをして。
そんな軽口を叩く猟兵に、咲春は口元を微かに緩める。
「本気出すから、みんな離れててね~。近づいてきたら噛んじゃうぞ~」
茶勒から溢れ出す力の波濤に、別で待機していた猟兵たちが下がる。
「キヒヒヒヒヒ!! 妾の箒星に真っ向から立ち向かうとはのう! その身体、微塵に引き裂いてくれるわ!」
ぎ、と茶勒の視線が赤く線を引いて天狗へ向けられる。
「黙りな、クソ狐。そしてひれ伏しな。アタシの旧名は不制天、輪廻にて畜生道を制した、首刈り兎だよ」
茶勒の全身から、暗黒の瘴気が立ち昇る。気配が増大した猟兵に、天狗は流星の軌跡を引きながら、眉を顰めた。
「アンタ、加速するんだって? アタシがブン殴ってやんから、早くきなよ」
「――妾に狩られる側の分際で、それほど死にたいのであれば疾く消えるが良い!!」
流星が、墜ちる。
激烈な残光を伴い、茶勒に箒星の一撃が突き刺さる、はずだった。
「!? わ、妾の一撃を避け――」
天狗が目の前から消えた。
否、激烈な流星の軌跡が、宮中にあったひとつの壁へと突き刺さった。
「ご、が、あが……ッ!」
「違うね、今はアタシがアンタを狩る側さ」
拳が震え、天狗の身体がくの字に折れ曲がった。
【六道退転・不制天】。不制天に変化した茶勒の拳の一撃が、天狗の存在を脅かす激烈な一撃となって炸裂する。
「畜生道で勝つのはね、速くて凶暴な奴なんだ。なら、アタシのが何倍も速くて凶暴だよ」
理性を失ってなお、茶勒は天狗へと言いたかった言葉を、本能だけで言い放つだろう。
銀の蜘蛛糸が周囲を舞い、拳がもう一度唸りを上げて天狗の身体に突き刺さったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
麻場・宙子
SPD
椿殿の形代・・!
あのように黒ずんでなお、妖の呪詛を防ぐなんて・・!
・・椿殿は陰陽師としても、咲春殿の妻としても宗義の母としても素晴らしい方だったのでしょうね。・・それを、この妖は・・!
絶対許しません。行くよ!翠雅!
椿殿の死が無駄死にだったなんて言わせないため・・もう、咲春殿の大切な物を失わせないために!
私はワイバーン『翠雅』に乗って戦闘します。
あの狐火・・相当危険ですね。早い所、あの技を封じなければ。
ユーベルコードで人竜一体で東国刀の射程とダメージをあげ、急所突きで喉を狙います。喉さえ潰せば鳴き声は捧げられないはず・・!炎は火炎耐性があるので耐えましょう。翠雅!熱いかもだけど頑張って!
「ぐ……! 妾をここまで……! 許さぬぞッ!」
ゆらりと立ち上がった天狗に対して、麻場・宙子(騎竜武者・f42876)は身構える。
視線をかすかに逸らした先には、未だに中空に浮遊し続けている形代があった。
天狗の呪詛によって、その形代は黒く、ボロボロに擦り切れている。が。
(椿殿の形代……! あのように黒ずんでなお、妖の呪詛を防ぐなんて……!)
それは、このアヤカシエンパイアを守護する陰陽師の底力を見た瞬間だった。
そして、その覚悟は、死してなおも続いている。
「……椿殿は陰陽師としても、咲春殿の妻としても宗義の母としても素晴らしい方だったのでしょうね。……それを、この妖は……!」
「人間なぞ、
妾たちの前では愚鈍な羽虫と同じよ!」
「――絶対に許しません」
ばさり、と瘴気に染まった空を飛翔して、宙子の相棒である飛竜、翠雅が現れる。
「行くよ! 翠雅!」
飛竜が咆えて、宙子を乗せて飛びたった。
「妾と大空から戦おうというのか! 愚かな!」
邪悪に嗤う天狗を前に、宙子は東国刀の柄に手を添えながら、その邪悪を睨みつける。
椿姫の死が無駄死にだったなど言わせないために。そしてなにより。
「もう、咲春殿の大切な物を失わせません!」
天狗が吼える。鳴き声が空間に響き、そして現れるは星の如く輝く狐火。
高速で旋回する狐火が肥大化し、眼前の全てを焼却すべく動き出した――!
「あの狐火……相当危険ですね。であれば――!」
翠雅と宙子の全身が、ユーベルコードの超常に輝き出す。
瘴気の空を裂くような、それは、天より飛来する聖なる流星だった。
「行きましょう!翠雅!」
翠雅が再び吠えた。
旋回する狐火の焔が、猟兵を焼却するその隙間。
焔と焔が燻るわずか一瞬を貫き、【人竜一体】となって、その大妖を東国刀によって斬り裂く。
熾烈にして、一撃の、剣閃。
「あ、ぎゃああああああああああッッッ!!」
ユーベルコードの熱が霧散し、天狗の喉笛が、獣の狩猟の如くかき斬られた。
「妖よ、この空は――あなたのものではありません!」
この一撃を、想いの一撃として。
そして、瘴気覆う空に、再び正しき星を灯すために。
大成功
🔵🔵🔵
建依・莉々
おぉ。もふもふわんこが浮かんでる! アヤカシエンパイアのわんこってすごいね!
やること、できることは3つ! 掴んで・放さず・叩きつける! あと、尻尾多いから引っこ抜く! ・・・でも、浮いてるし弾撃ってくるし、掴みに行くの大変。それじゃあ、来るのを待って掴んじゃおう♪
咲春さんは天狗の足止めを。劣勢になったら、天狗は直接咲春さんに的を絞って飛びかかってくるだろう。そこが狙い目。咲春さんの装飾品(髪紐など)に化けてっくっついておき、天狗の意表を突いてカウンターで掴み、叩きつける! 尻尾抜けても放さないよ♪
「ふふ、掴まえた♪ もふもふ、放さない♪」
「人間風情がッ! 妾の貴き躰に傷をつけるとはッ!」
天狗が吼える。瘴気の空に輝いた星は箒星。流星の如き輝く霊力を宿し、天狗は箒星となって再び降り注ぐ――!
刹那、箒星を廻るように、式神札が舞い踊った。
黄金の護符の嵐が天狗を包み込み、その行動を阻害する。
天狗が真下を見れば、印を結んだ咲春がこちらを睨みつけていた。
「死にぞこないが! そんなに死にたければ貴様からその首を掻っ切ってやろうぞ!」
「――!」
箒星は加速し、肥大化し、咲春目掛けて降り注ぐ。
破滅の光が咲春の視界を埋め尽くし――しかし、その破滅は訪れなかった。
「もふもふわんここんにちはっ! アヤカシエンパイアのわんこって浮かぶんだ、すごいね!」
「な、なんだと
……!?」
咲春の髪紐が変化した。現れたのは、建依・莉々(ブラックタールのどろんバケラー・f42718)だ。
ブラックタールとどろんバケラーの特性を活かした奇襲に、天狗が驚愕の叫び声を上げた。
降り注ぐ流星の加速を妨げて、莉々が天狗の尻尾を掴む。
「わ、妾の尾から手を放せ……ッ!」
「ふふ、捕まえた♪ もふもふ、放さない♪」
ぐい、と圧倒的な膂力で掴まれた天狗は、その場から身じろぐぐらいしかできない。
「わたしにできることをやるだけだもの♪ 掴んで・放さず・叩きつける! あと――」
ぐい、と。
その膂力は、いかに妖と言えど逃れられない。
凄絶な音が響き、天狗の尾の一つがちぎれ飛んだ。途端、噴き出したのは妖の瘴気。そして霊力。
「尻尾多いから引っこ抜く!」
「ぐ、おお……! き……きさ、ま……ッ!」
「尻尾抜けたけど、まだまだこんなものじゃないよ♪」
そこからは、圧倒的な力の攻撃だった。
天狗の身体が舞い踊り、地面へと何度も叩きつけられる。
妖たる力の根源が徐々に減少していくのを、莉々と咲春は感じていた。
大成功
🔵🔵🔵
八秦・頼典
●SPD
これはとんだ悪辣なる女狐に好かれたものだ、咲春
しかし、頑として口を開かなかった貴殿の口から嘘偽りの無い真実を聞けて、ボクの心は震えた
そして、天狗よ
貴様は咲春の覚悟と椿姫の想いを愚弄し、剰えも椿姫の姿で咲春を呵責し続けし所業に…ボクの心はより震えた
この都を魔性の坩堝と成す佳き日?
違うね
今日は貴様が骸なる海へと還る日だ
だが、流石は長年に渡って力を蓄えた大妖である
取っておきである『倶利伽羅の黒龍』の浄炎がこうも押し負けようとするとはね
口程にもない?
それはこちらの言葉だよ
ボクは待っていたのさ…死して尚も思い人を想い、一矢報いようとする椿姫をね?
顔も知らぬ麗しき姫よ
その無念、晴らして見せましょう
「貴様ら……絶対に赦さぬ……赦さぬぞ……!」
「これはとんだ悪辣なる女狐に好かれたものだ、咲春」
抜け落ちていく霊力に、苦悶の表情を浮かべる天狗だが、その破壊の意志は薄まらない。
そんな様子に、八秦・頼典(平安探偵陰陽師ライデン・f42896)はばさり、と檜扇を開いた。
「しかし、頑として口を開かなかった貴殿の口から嘘偽りの無い真実を聞けて、ボクの心は震えた」
天狗を見据える。
その力が衰えてなお、天狗の諸悪は健在だ。
「そして、天狗よ。貴様は咲春の覚悟と椿姫の想いを愚弄し、剰えも椿姫の姿で咲春を呵責し続けし所業に…ボクの心はより震えた」
形代が中空に浮遊する。不動明王が描かれた剣型の形代は、頼典の式神を招来するための札だ。
「この都を魔性の坩堝と成す佳き日? 違うね。今日は貴様が骸なる海へと還る日だ」
「――貴様なぞに、妾の流星が防げるものかッ!」
狐火が、星の如き輝きを以て旋回する。天狗の鳴き声が響き渡り、あらゆるものを焼却する星の火となって周辺へ拡散していった。
「ノウマク、サンマンダバザラダン、カン!」
不動明王真言が紡がれ、現れるのは智剣の化身、黒龍『倶利伽羅龍王』――【倶利迦羅の黒龍】。漆黒の鱗を輝かせて現れた龍は、旋回する狐火さえも飲み込まんと凄まじい大咆哮を響かせた。
瞬間、爆ぜるの迦楼羅炎。不動明王が成す、あらゆる不浄を焼き尽くす、清浄の火焔だ。
狐火と迦楼羅炎が拮抗し、焔と炎が獣のあぎとのように喰らい合う――!
「なるほど、流石は長年に渡って力を蓄えた大妖である。取っておきである『倶利伽羅の黒龍』の浄炎がこうも押し負けようとするとはね」
「妾は凶兆の主、禍ッ星の化身よ! 貴様なぞ――」
「口程にもない?」
に、と美貌の顔を得意気に綻ばせた。
「それはこちらの言葉だよ。ボクは待っていたのさ…死して尚も思い人を想い、一矢報いようとする椿姫をね?」
迦楼羅炎は映し出すだろう。何かの気配、あり得ざる想いの具現。死してなお形代に命を灯した、想いの力を。
「顔も知らぬ麗しき姫よ。その無念、晴らして見せましょう」
ぱちん、と檜扇を閉じれば。
迦楼羅炎は想いに呼応して、金色の火焔と化して天狗の星の輝きを斬り裂いた。
天を裂くような火焔の怒涛が、天狗へと降り注ぐ。
「ぎぃ、ああああああああああああああああああああああああッッッ!!」
黒く燻っていたボロボロの形代が、ひらり、と揺らいだのが見えた。
大成功
🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
○ソロ希望
なるほど、あなたが原因だったんだね
とても悪趣味で、ひどいの
その呪詛ごと、あなたを断つ
相手のUC発動に合わせて結界術でみんなを防御
結界は多重に張って簡単には壊せないよ
さらに境界面を鏡の様にして星光を反射させて防ぐの
でも、防御も反射も、囮なの
同時に体の奥のある力に魔力を接続
右目は漆黒に染まって、右頬には紋様が浮かび、ぼくの魔術光は青から赤に変わって黒いオーラが滲み出す
UC発動
星光のエネルギーと天狗自身を気付かれないままに風化させていくよ
可能なら器として利用されてる宗義さんはそのままで留めたいな…
自分がどうなってるか、分かってないでしょ?
すでにぼくの術中なの
呪詛ごと死の世界に還してあげる
「妾が……妾がこのような……あり得ぬ……あり得ぬ……ッ!」
猟兵たちの猛攻を受け、天狗の星の如き輝きは減退していた。
だが、腐っても大妖。どれほどの傷を負っていようと――その破壊の意志は消え去らない。
「なるほど、あなたが原因だったんだね」
悪意に満ちた妖に、ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は怒りに満ちた声を上げた。
「とても悪趣味で、ひどいの。その呪詛ごと、あなたを断つ」
「――ッ!! 妾は、最強の妖ぞ! 貴様など、骨の欠片も残さず塵と化してくれるわ!」
天狗の流星が、墜ちる。
瘴気の空から降り注ぐ、星の如き光。あらゆるものを消滅させる星光が、周囲を蹂躙する――!
「させないよ」
ロランのローブが、装飾が、回路じみて輝き出す。
励起した魔力の波濤が周辺へと拡散し、結界となって全てを包み込んだ。
降り注ぐ星光を防ぎ、反射し――しかし、ユーベルコードの力は強大だ。いずれ、限界は訪れる。
「キヒヒヒヒヒ!! 無駄よ!! 妾の星光よ、全てを消し去れ!」
「無駄かどうか、試してみる?」
ぐん、とロランの意識が内側へ向く。
奥深くに存在する魔力を、繋ぐ。
瞬間、右目が漆黒へと転じ、右頬には紋様が浮かぶ。魔術の光は反転し、黒いオーラが立ち昇り始めた。
天狗は――気付くだろう。
肥大化した気配に。圧倒的な力の気配に。
「……なんだ……それは
……!?」
「封じるべきこの力…、今は、解放するの」
刹那の輝きが、閃いた。
星の光を打ち消すほどではない、一瞬の
光。
だが、ロランにとってそれは十分すぎるほどの、破壊だ。
「自分がどうなってるか、分かってないでしょ?」
天狗が、はっ、と自身の身体を見やる。
四肢が、崩れていく。尾が、朽ちていく。
「ぐ、が……!? な、なん……?」
「すでにぼくの術中なの。呪詛ごと死の世界に還してあげる」
「く、は……! わ、妾は……! 最強の……!」
四肢は砕け、炭化したかのように消えていく。
【死の循環】
駆け抜ける乾風は、天狗の生命力と呪詛の悉くを死へと導くだろう。
「まだ……」
天狗は、消え失せていく自分を認知しながらも、最期の足掻きとばかりに叫んだ。
「まだよ!!!
宗義の生霊よ、我が呪詛の全てを貴様に授ける!! この都を滅ぼせッッ…………―――!」
喉が消え、口が消え――天狗は現実から消え去った。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『悪霊陰陽師』
|
POW : 赤鬼剛力薙
【赤鬼型式神の太い腕】の横薙ぎで、近接範囲内の全員を攻撃する。近接攻撃を仕掛けてきた敵には先制攻撃可能。
SPD : 青鬼乱撃陣
【青鬼型式神の鋭い爪や角】で近接攻撃する。低威力だが、対象が近接範囲から離脱するまで何度でも連続攻撃できる。
WIZ : 陰陽爆砕撃
【青鬼の鋭い爪や角】で装甲を破り、【赤鬼の怪力】でダウンさせ、【陰陽爆砕符】でとどめを刺す連続攻撃を行う。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
●生霊
天狗は消え失せ、瘴気の空が閉じていくはず、だった。
瘴気が指向性を持ち、一点に収束していく。やがて形作られた人の形は、狩衣を纏った青年の姿となって現れる。
「――父上」
低く、くぐもった声で口を開いた。
がらんどうの、無貌の顔の奥に、赤い眼光が宿る。
「なぜ、母上を殺したのですか」
「宗義……」
宗義の生霊が印を結び、数多の呪符が宙を翻る。現れるのは鬼の式神たち。ただし、瘴気に塗れた式神は、邪悪な力を放つ呪詛の化身と化していた。
生霊が吠えた。
凄まじい呪詛を放ちながら、瘴気の空を仰ぎ見る宗義には、悲痛の感情が読み取れた。
――この生霊を倒さなければ、宗義の意識が戻ることはない。
猟兵たちは、再び武器を手に取った。
【MSより】
悪霊陰陽師と化した生霊の宗義を倒さなければ、現実の宗義も意識を取り戻しません。
現実の身体には影響がありませんので、普通に戦って頂いて構いません。
すでにこの生霊の正体が咲春の息子である宗義だと判明しているため、説得するプレイングを行えばプレイングボーナスが発生します。
以上、プレイングお待ちしております。
麻場・宙子
SPD
あの狐、往生際の悪い・・!立つ後濁さず消えてくれればよかったものを・・!
・・私は、咲春殿にはもう何も失ってほしくはございません!
貴方の邪心、私が断ちます!
爪や角の連続攻撃を見切りで回避したり、部位破壊で爪や角を破壊して切り抜けます。そして宗義殿に近づけたらユーベルコード【救心剣・邪払】で、宗義殿の邪心のみを攻撃します。
「宗義殿!目をお覚ましください!咲春殿が椿殿を悪意を持って殺すようなお方でないのはお分かりでしょう!?」
・・声はかけてみますが、私の言葉よりも、咲春殿の言葉の方が響くかと。
「咲春殿もお声がけを!貴方の・・いいえ。貴方と椿殿の大切なお子なのでしょう!貴方の言葉で宗義殿に!」
迸る呪詛は宗義の怒りや悲しみ、その全てを内包して暴風となって吹き荒れる。
「あの狐、往生際の悪い……!立つ後濁さず消えてくれればよかったものを……!」
「……もう良い。わしが目的だと言うのであれば、宗義には――」
「私は、咲春殿にはもう何も失ってほしくはございません!」
前に一歩進み出ようとした咲春を制したのは、麻場・宙子(騎竜武者・f42876)だ。無骨な東国刀を携えて、咲春を護るように悪霊陰陽師と化した宗義へ立ちふさがる。
「貴方の邪心、私が断ちます!」
「――!!」
獣のような叫び声を上げた宗義の生霊は、赤鬼の式神へ命令を行うだろう。
呪詛に塗れた赤鬼が、その巨腕を振り回す。
宙子の東国刀が翻る。漆のような黒い瞳、その瞳孔が鬼の攻撃の軌跡を読むために窄まり――その一撃を東国刀で流すようにいなす。
凄まじい衝撃音が弾けたが、巨腕の一撃を見事にいなした宙子はその刹那にカウンターを成していた。
ぼき、と赤鬼の鋭い爪がへし折れたのだ。
「――宗義殿!」
そして、赤鬼を切り抜け、宗義の懐へと入った。
札を構えて式神を呼び戻そうとしている宗義の胸へと、東国刀を突きつける。
「目をお覚ましください! 咲春殿が椿殿を悪意を持って殺すようなお方でないのはお分かりでしょう!?」
「――わた、しは」
ユーベルコードの超常が、東国刀に纏わりついた。浄化の輝きを秘めた刀身が、悪霊と化した宗義の胸に吸い込まれるようにして、刹那の内に抜かれる。
【救心剣・邪払】。邪を断ち、人を救う一刀。
「咲春殿もお声がけを! 貴方の……いいえ。貴方と椿殿の大切なお子なのでしょう! 貴方の言葉で宗義殿に!」
「……」
口を噤んでいた咲春がやがて口を開く。
「お前を救うためには、もはや、どうしようもない状況だった。どうか……わしを許してくれ……宗義」
「父――上――」
浄化の輝きが、宗義の胸から溢れ出す。
一太刀の浄化。けれど、その一撃は、間違いなく宗義の悲痛の心に響いただろう。
大成功
🔵🔵🔵
畜生院・茶勒
あれが息子ちゃんの生霊か、うーん
誤解でも恨んだりしちゃうと〜
極楽ルールに引っ掛かるらしいから、お徳をプレゼントだ!
UC発動
煩悩昇華の除夜の108発をブチこんであげるよー!
107発はできる限り息子ちゃんゴーストをお徳に殴るよ
咲春パパの話を聞け〜!
う〜青鬼がずっと殴ってきてうざいよ〜
鬼は現場で上司の言う事だけ聞いてろ〜
仏に文句言うな〜!
茶勒さんの裏口極楽の邪魔をしたらだめだよ〜!
最後の1発は、息子ちゃんと椿ちゃんで大変だった咲春ちゃんの肩を優しく叩くよ
ずっと頑張った咲春ちゃんが、1個くらい好きな事しても仏は見てないってコト!
煩悩前貸し、偶にはハメを外してね
また二人……三人が仲良しになって欲しいよ〜
吹き荒れる呪詛の嵐が僅かに揺らぎ始めた。宗義の葛藤が、天狗が施した呪詛の根幹を揺らがせているようだ。
「あれが息子ちゃんの生霊か、うーん」
生霊の呪詛を垣間見て、畜生院・茶勒(極楽直行便・f42889)は思い悩んだ。
救えるか、ではなく。
「誤解でも恨んだりしちゃうと〜極楽ルールに引っ掛かるらしいから、お徳をプレゼントだ!」
全ては極楽に導くために。
茶勒の掌が光り輝く。徳に満ちた超常の掌は、茶勒が貫く極楽の説法に他ならない――!
「咲春パパの話を聞け~! 見たことが全てじゃないってことだよ~!」
悪霊陰陽師へと昇華している宗義へ、【
菩提説法】が炸裂する!
鐘打の連撃が積み重なり、光と浄化の連撃と化してその呪詛を打ち払う。
が、式神の鬼も黙ってはいない。青鬼の乱撃が、茶勒を切り裂こうと迫りくる。
「う~ちょっと今息子ちゃんと話してるのにうざいよ~鬼は現場で上司の言う事だけ聞いてろ〜仏に文句言うな〜!」
鐘打は続き、青鬼の連撃が掌の連撃に押し返された。連撃と連撃の応酬はしかし、茶勒の勝利で終わったようだ。
だん、と凄まじい衝撃波と共に、式神の青鬼が吹き飛んだ。
「茶勒さんの裏口極楽の邪魔をしたらだめだよ〜! さて、と……」
狼狽えた宗義の生霊に背を向けて、茶勒は咲春へと歩み寄った。その肩を、掌が優しく叩く。
「さ、ちゃんと言いたいこと言わなきゃね~」
「わ、わし、は……」
「ずっと頑張った咲春ちゃんが、1個くらい好きな事しても仏は見てないってコト! 煩悩前貸し、偶にはハメを外してね」
「……」
しばし沈黙した咲春は、生霊として揺らぐ宗義に語りかけるだろう。
「……お前は、わしと椿の誇りだ。椿も、それを望んでいた。呪詛に、負けるな……宗義」
「わ、た、し……は……」
呪詛の暴風が鎮静へと向かっていく。そんな様子を、茶勒は柔らかく微笑みながら見つめていた。
「また二人……三人が仲良しになって欲しいよ〜」
生霊に寄り添うように、微かな光が瞬いていることを、即身仏たる茶勒の瞳が映し出していた。
大成功
🔵🔵🔵
建依・莉々
信じたいと葛藤するグレかけ息子! 不器用で口下手な父親! すれ違う二人の想い! ヒロインに背を押されて、ギクシャクと始まる父子の語らい♪ コミックみたいで萌える!
宗義くんを力で抑え込んで、咲春さんや皆が呪詛を散らす時間を稼ぐよ! インファイトならお任せ♪ 万が一の逃走防止と自己強化にタイマンチェイスを使用。技など躱す必要もない。力でもってねじ伏せるのみ♪ 腕も角も爆砕符も握り込んで、膂力でもって抑え込む。腕が足りない? じゃあ生やすね♪
ブラックタールだから骨折も打撲もないけれど、飛沫で散って徐々に体積は減っていくからね? 呪詛抜きは早めにお願いします。
揺らぐ呪詛はやがて鎮静に向かっていく。
だが、未だ天狗の呪詛は健在だった。呪詛を散らすためには、猟兵の尽力が不可欠だろう。
そんな中、あまりにも現在の状況が自身の好ましい展開になっているために、心の中――ではなく普通に口にする猟兵が一人。
「信じたいと葛藤するグレかけ息子! 不器用で口下手な父親! すれ違う二人の想い! ヒロインに背を押されて、ギクシャクと始まる父子の語らい♪ コミックみたいで萌える!」
そのヒロインが自身になるのか、第三者になるのか、は置いておくとして。
建依・莉々(ブラックタールのどろんバケラー・f42718)はその漆黒の瞳をきらきらと輝かせていた。
「それじゃあわたしがお手伝いしないとね♪ いくよー!」
するり、と少女の姿を取っていた莉々の姿は、ブラックタールの特性を活かして変質する。
「てけりりふぁいと! れでぃ〜ごー!」
それは、UDC所以の刻印。
あらゆる存在を絡め取る、狂気含む触腕の怒涛。
【Tekeli-li Fight】によって、莉々が宗義の身体を触腕によって抑え込む。しかも、とんでもない膂力だ。
悪霊陰陽師たる宗義が式神を使役しようと手で印を結ぼうとしたが、それさえも莉々の怪力は許さない。
「宗義くんは動いちゃダメだよ! わたしと力で勝負♪」
ぎち、としなる触腕は宗義の四肢全てを完全に抑え込むだろう。
身じろぎさえも許さない、完璧な拘束だ。
「咲春さ~ん! 今のうちに呪詛を散らしてね!」
「……恩に着る」
進み出た咲春が印を結び、宗義に満ちる呪詛を散らしていく。
うめき声をあげてもがき苦しむ宗義だが、ブラックタールの莉々の拘束はそれでも解けなかった。
「ブラックタールだから骨折も打撲もないけれど、飛沫で散って徐々に体積は減っていくからね? 呪詛抜きは早めにお願いします」
「うむ……すまぬな」
「いいの♪ わたしは満足してるから♪」
呪詛が散っていく中で、咲春は宗義へと小さく呟く。
「……戻ってこい、宗義。わしにはもう、お前しかおらぬのだ」
呪詛が浄化され、生霊の力も削がれていく。
あと、少しだ。
大成功
🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
宗義さん…
あなたは目を逸らしてるだけだよ
気が付いているんでしょ?でも、受け入れられないんでしょ?
あの形代を見て
あれがどういうものか、どんな気持ちが込められてるか、あなたにはわかるでしょ?
説得しながら、狼の脚力で走り跳び、攻撃を避けるよ
青鬼と赤鬼は回避、符は結界術で壁を作って防御なの
説得は相手に考えさせて、口に出させて、強く意識してもらうの
家族間の思いは、他者が代弁できないから
何度も何度も問うて、宗義さんが飲み込めたら、その呪詛から解放してあげるの
UC発動
こちらから近づいていって、生霊に根ざした呪詛と正気を片っ端から浄化していくの
宗義さん、目を覚まして
そして、咲春さんとお話して
右手を差し出すの
「ぐ、ぬ……わ、私、は……」
「宗義さん……あなたは目を逸らしてるだけよ」
頭を押さえてぐらりと揺らぐ宗義の生霊を前に、ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)はそう口を開いた。
「気が付いているんでしょ? でも、受け入れられないんでしょ?」
真実に目を向けるは、誰だって辛い。それが、誰も悪くなかったという真実であれば、尚更だ。
「あの形代を見て」
墨のように黒くなり、しかしボロボロになってなお浮遊し続ける椿の形代。それが、なによりの証拠。
「あれがどういうものか、どんな気持ちが込められてるか、あなたにはわかるでしょ?」
「う、ぐ、おお、お……!! おおおおおおおおっ!!」
悪霊陰陽師と化した宗義は、呪詛を孕んだ式神を使役し始める。
青鬼が爪と角を振るい、赤鬼がロランへと迫りくる。
「椿さんの想いを、あなたは知ってるはずなの」
爪の一撃をひらりと躱し、迫る角から後方に跳躍して回避する。
赤鬼が凄まじい膂力を宿した腕を振り上げるのを見て、ロランは狼の脚力でさらに飛び退いた。
家族間の思いは、他者が代弁できない。それは、家族が大好きなロランにとって、ロラン自身がよく分かっていた。
「咲春さんも椿さんも、あなたを護るために、きっと大きな想いを秘めてるの」
「う、うう……おおおおおっ!」
「宗義さん、目を覚まして」
きん、と周囲の空間から綺羅びやかな光が奔る。
ロランから発せられるのは、あらゆる魔や邪を滅する聖なる光、その結界だ。
破邪結界【
Luce a spirale】は、宗義に宿った呪詛と瘴気を浄化していった。
「そして、咲春さんとお話して」
「う、うう、う……」
差し出された右手を握ろうとした宗義の躊躇は、呪詛と清浄の狭間で揺れ動いていた。
「きっと、あなたならその呪詛に打ち勝てるよ」
ほろり、と赤く染まった宗義の眼光から、一筋の光がこぼれ落ちたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
武者小路・式部
WIZ アドリブ連携歓迎
確認。天狗は失せども、宗義さんの生霊に呪詛が残留している状況。
目標設定。宗義さんを撃破し、解放すること。
承認。これより救命活動に入ります。
―――。行使、《まぼろしの歌詠み》。
幻のからくり屋敷で辺りを包み、宗義と式神(青鬼・赤鬼)たちを分断する。
合流するまでの猶予、宗義が冷静に思索を巡らせる時間を稼ぎつつ、化神の龍たちを召喚して生霊を攻撃する。
……宗義よ。
汝の母、椿の遺志に思いを馳せよ。汝が父、咲春の胸中を鑑みよ。
既に、理解しているのではないか?
理性の導き出した回答を、感性が受け入れがたいだけではないか?
悪しき邪念から解放されよ。……疾く目を覚まし、対談することを勧める。
八秦・頼典
●SPD
こうなると薄々分かっていたが、滅して尚も悪辣な女狐めがとんだ土産を置いていったものだ
夫婦喧嘩は犬も食わないと言うけど、親子喧嘩も然り
第三者として喧嘩を眺めていれば、親子の論点がまったく噛み合っていないものだからね
だけど、親と子を結びつけてるのは利害や損得ではなく…情愛だ
それも恨み辛みを募らせ続けば憎しみとなろうけど、ここは部外者のボクは仲裁役として一歩引こう
その代わり…咲春よ
親子で納得の行くまで口喧嘩をし、今までの後ろめたさを一切合切全て吐き出せ
その間はボクの『憑物祓い』で襲い掛かる鬼の式から護ってあげるさ
さて、機を見てボクも宗義殿に一言進言致そう
父君は苦しみ続けた
もう赦したらどうだ?
湧き上がる呪詛が薄れていく。
宗義の自我が表面化していくが、それでも天狗の呪詛は心の奥底まで侵蝕している。
ならば、猟兵の力を以て、この呪詛のすべてを祓わなければならないだろう。
「確認。天狗は失せども、宗義さんの生霊に呪詛が残留している状況」
「こうなると薄々分かっていたが、滅して尚も悪辣な女狐めがとんだ土産を置いていったものだ」
武者小路・式部(ドラゴンプロトコルの龍愛ずる姫君・f42901)の眼が微かに細まり、宗義の状態を見定め、八秦・頼典(平安探偵陰陽師ライデン・f42896)は消え去ってなお醜悪な置土産を遺していった天狗に文字通りの呪詛の言葉を投げかけた。
その感情を読み取らせまいと、口元を檜扇で覆って。
「目標設定。宗義さんを撃破し、解放すること。承認。これより救命活動に入ります」
「ぐ、うおおおおおおおおおッ!」
宗義の生霊が吼えれば、現れるのは鬼の式神たち。その巨躯をしならせて、猟兵たちに鋭爪と怪力を振りまく。
こちらへ襲い来る呪詛の式神へしかし、式部は、詠む。
「命にも まさりて惜しくある物は 見果てぬ夢の さむるなりけり ――行使」
紡がれた詩は、現実を塗り替える超常と化して辺り一帯を変質させる。
【まぼろしの歌詠み】。周囲の状況が一変し、巨大な屋敷の広間と化した瞬間、すでに式神たちは宗義と分断されていた。
「……宗義よ。汝の母、椿の遺志に思いを馳せよ。汝が父、咲春の胸中を鑑みよ。既に、理解しているのではないか?」
びくり、と身体を動かした宗義に、頼典は続けて声をかけた。
「夫婦喧嘩は犬も食わないと言うけど、親子喧嘩も然り。第三者として喧嘩を眺めていれば、親子の論点がまったく噛み合っていないものだからね」
ぱちん、と檜扇を閉じる。
「だけど、親と子を結びつけてるのは利害や損得ではなく…情愛だ。――咲春よ」
振り向いてみれば、呆然と立ち尽くす陰陽師の姿。
「親子で納得の行くまで口喧嘩をし、今までの後ろめたさを一切合切全て吐き出せ」
「わしは……」
「口で言わねば伝わらぬこともある」
どれだけ一緒にいようとも、どれだけ月日を重ねようとも、人は言葉にしなければその本質を理解することはできないのだ、と。
拳を握り、しかしすぐにその力を抜いた咲春は、宗義へと語りかけた。
「宗義よ。お前にはいつも言っていたな。陰陽師とは、憧れでなれるものではない、と」
「ぐ……む……」
「これが、その理由だ。ときには、非情な手段を取らねばならぬときもある。……お前を……息子として、大切なものの一人として、陰陽師として歩んでほしくはなかったのだ」
「――そんなこと……! 私は、陰陽師としてこの国を護りたい、そう……願って……いたのです……!」
「――その覚悟を、踏み躙ったのは、まさしくわしと椿であろうな」
はぁ、と小さく息を吐いて。
「宗義、わしは――」
式神の鬼の叫び声。
轟いた声、そちらへと目を向ければ、からくり屋敷を突破し、こちらへと再び迫る二人組の式神の姿があった。
ぶわり、と周囲の霊気が活性化し、式部と頼典の周囲を駆け巡る。
「それは、礼儀知らずというものだろう、式神よ」
「愛しき龍よ。彼らを護れ」
頼典の檜扇が再び開かれて、無明の霊気が暴風となって吹き荒れる――!
【憑物祓い】の霊気は、迫る鬼の式神を牽制し、邪悪な呪詛そのものを削り取っていく。
加えて、たたらを踏んだ式神たちへ、式部の愛する龍がその長大な四肢をひねりながら突進した。
激烈な衝撃音と共に、式神が巨大な質量に跳ね飛ばされて掻き消える。
式神の最期を見届けた式部は、再び宗義へと顔を向けた。
「宗義よ。理性の導き出した回答を、感性が受け入れがたいだけであろう。悪しき邪念から解放されよ。……疾く目を覚まし、対談することを勧める」
「父君は苦しみ続けた。もう赦したらどうだ?」
「わ、私、は……」
「宗義、わしは……わしと椿は、お前が良しとする道を受け入れるつもりだった。それだけは、どうか、分かってくれ。そして……椿が死んだのは、決してお前のせいではない。決して、決してだ」
檜扇から溢れ出した無明の霊気と、龍の霊気が混じり合う。
宗義が纏っていた呪詛が、邪悪が浄化されていく。
がくりと膝をついた宗義の生霊へと、咲春は語りかけた。
「もう一度、わしに機会を与えてくれ。お前が本当に陰陽師になりたいというのであれば、喜んで指南しよう。椿との約束だ」
「父上……」
消えていく生霊、その漆黒の貌の奥から、雫が流れるのを見た。
瘴気の空が閉じていく。
呪詛によって生霊と化していた宗義の自我は、在るべき場所へと還ったのだった。
●
「おぬしらには、迷惑をかけたな」
数日後、猟兵たちは、咲春から息子の宗義の意識が戻ったことを知らされる。
天狗の呪詛は消え去り、宗義もまた、再び陰陽師の道を歩み始めるだろう。
そうして咲春が見せてきたのは、黒ずんでボロボロになった椿の形代だ。
「椿は、死してなおわしらを見守っておった。ならば、わしも相応の覚悟を持ってこれからも妖を祓わねばならぬ」
ふ、と小さく笑った咲春は、再び猟兵たちへ礼を行った後、宮中の奥へと消えていった。
猟兵たちは、見ただろう。
咲春に寄り添うように、微かな光が揺れているのを。
大成功
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