チョコレート・ラビリンス
●令和ちゃんはアンチ・バレンタイン過激派とみた
何故なら今年のバレンタイン、チョコを持ち歩くには不適切な気温だから!
想いが溶けることはなくっても形が溶けていたらやっぱり虚しいもの。どうかチョコレートが溶けないように気を付けて!!
はい、そんなこんなで今日はバレンタイン・デー!
片想いの人にも両想いの人にも拗らせヤンデレちゃんにも恋人にも夫婦にも恋破れて寂しい人にも何なら出会いが全くないソロの人にも、誰にでも虚しく等しく平等に訪れる甘い甘~いチョコレートの日。
バレンタインの由来のうんちくやなんでチョコレートの日になったかのうんちくなどは横に置いておいて。とにかくこと日本においては、恋や愛や感謝など想いを伝えたい人に甘い甘~いチョコレートを贈る日となっている。
友チョコいいよね!職場の配布チョコ文化は廃れろって思うけど!
因みにこの時季の日本のチョコレート市場はとんでもないらしく、催事場に出店できるか否かで以降1年の売上を左右するほどだとか……?すごくね……?
とにかくそんなチョコレートの日。
日本の首都東京、新宿駅近くの某百貨店、愛のチョコレートなる名をいだたくチョコレート催事場が。
実にひそやかにアンチ・バレンタインの魔の手におちていた。
――とある催事場にてこんな会話が繰り広げられている。
「ギリギリになっちゃった。
明日が本番なのに。まだお目当てのチョコあるかな」
「大丈夫だよ。
明日だとわからないけれど今日は
13日だし!まだ在庫あるって!」
「あるといいなぁ」
――繰り返す。今日は2月14日。バレンタイン・デーである。
●チョコフォンデュを無限に楽しめるメガリスなんだそうよぉ
章タイトルはグリモア猟兵の第一声。
はい?っていう他猟兵たちの声をスルーして話を続けるセラ・イーズデイル(行楽殺人鬼・f40633)。
尚、頭にのせている古代魚の鞄がびちびち跳ねているのは気のせいではない。
「チョコフォンデュを無限に楽しめる【天使の涙】っていうメガリスがチョコレート催事場に展示されてるのぉ。なんでも恋のキューピッドをしようとして失敗した天使の悔し涙がチョコレートになって溢れている~っていう解釈をしたらしいメガリスの持ち主が、某百貨店のお偉い方に話を持ち込んで展示してもらったそうなのよぉ。まあ、経緯なんてどうでもいいわねぇ~。とにかくそのメガリスが悪さしちゃっててねぇ……」
セラは古代魚バックから小分けにされたチョコレートをひとつ取り出すともぐりもぐり。
「失恋したりしてリア充爆発しろみたいな悪い感情を持った残留思念をひきよせちゃうのよぉ、そのメガリス。そんなメガリスがチョコレート催事場に置かれてごらんなさぁい?ただでさえこの時季、そんな残留思念がわんさか溢れそうなタイミングよぉ?ちょー集まると思わなぁい?」
寧ろ残留思念がゴーストレベルになりそうまであるこの時季だしね。
「ちょー集まった結果、催事場が疑似的なゴーストタウンみたいになっちゃってねぇ。無限ループの迷路になってるのぉ。危険を察知したのか世界結界まで働いちゃってぇ、催事場に
昨日から残された人たちは無限ループに囚われてる事実に
気付いてないわぁ。ええ、ずーっとぐるぐる同じ会話と同じ行動を繰り返してるのよぉ……放置していると、命まで危ないわぁ」
――割と洒落にならんのでは?
「おまけに残留思念たちが悪さしてメガリス隠しちゃったのぉ。だからね、現場に行って残留思念たちをしばき倒してメガリス回収をお願いするわぁ。で、残留思念をしばき倒すには無限ループを破る必要があるのよぉ。はい、これ催事場のマップと写真ねぇ……」
ばさっと渡された莫大な資料は催事場の見取り図とイベント中のカラー写真。
「残留思念たちは自分たちの好きなように催事場を変えてるみたいなのぉ。この写真と違う箇所に彼等はいるわぁ。つまり間違い探しねぇ!!基本的には現場で間違い探しして欲しいけどぉ、監視カメラルームの手配もしたから現場と監視係で作業分担することもできるわぁ。さ、やることをまとめるわよぉ」
セラは眼鏡をくいっと指で持ち上げた。
「間違い探しして、残留思念しばき倒して、メガリスを回収よぉ。その後、残留思念たちを正しく成仏させるために、催事場内のチョコレート作り体験で可愛いチョコレート作ってプレゼントしてあげてちょうだぁい」
――最後、なんて?
誰一人ツッコム暇なく容赦なくグリモアが展開された。
なるーん
おはこんちばんは、なるーんです。
バレンタインネタはやらねばと思いまして。トンチキです。
チョコレィトのコミケ+○番出口or某監視カメラで間違い探しホラーゲームのMIXです。
尚、元ネタは知らなくても問題ありません。
●第一章
メガリスの影響で無限ループになったチョコレート催事場が舞台です。
無限ループの影響で異変が起きている個所があります。
(ポスターが違うとか販売されてるチョコの箱が違うとか飲食可能コーナーのテーブルの配置が違うとか。異変はプレ記載でもOKですしMSに丸投げもOK)
異変の近くにメガリスを隠しているリア充爆発しろ残留思念たちがいるのでドツいて隠し場所を白状させてください。
異変が起きていない箇所を指摘するとループする仕様です。何回ループしてるかはプレ中に★でMSがダイス判定orプレ中に数字一桁で。ループ回数によりリプレイ中の残留思念たちのドヤぁ度が変化します。
1名でご参加の場合は現場で異変を探し残留思念をドツく感じです。
2名でご参加の場合は監視カメラで異変をチェックする係、監視カメラ係から連絡を受けて現場で残留思念をドツく係で分担することもできます。
●第二章
催事場の片隅にチョコレート作り体験コーナーがあるので、残留思念たちを正しく成仏させるために可愛いチョコレートを作って可愛くラッピングしてプレゼントしてあげてください。
以上、ホラー要素は皆無です!よろしくお願いいたします!
第1章 冒険
『負の残留思念が渦巻く場所』
|
POW : 力尽くで残留思念を倒す
SPD : 言葉や行動で残留思念の負の感情へアプローチする
WIZ : 神秘的な力で残留思念を祓う
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
高崎・カント
チョコフォンデュ食べ放題のメガリス(じゅるり)
でも残留思念が寄ってくるのは困るのです
たっぷりチョコを食べたら保管は銀誓館に任せるのです
「もきゅ! きゅっぴぴぴ!」興奮してぴょんと跳ね)
チョコの甘い匂いがするのですー!
きゅう……食べたいのですー!
でもお仕事が先なのです
とことこきょろきょろと異変を探して歩くのです
モーラット目線の低いところや甘い物の間違い探しならお任せなのです!
……1個だけなら食べてもいいのです?
異変の詳細やループ回数はお任せ
「もっきゅきゅぴ! きゅいきゅい!」
カントにチョコフォンデュ食べ放題メガリスの場所を教えるのです!
早く、早くなのです!
教えないとパチパチなのです!【UC使用】
ディル・ウェッジウイッター
催事場にこのようなループが。早く解決しなければですね
UCでゴーストの皆様を召喚し残留思念探しをお願い…(マップをじっと見て)
待ってください、わざとループすればすぐに売り切れてしまう珍しいお菓子も買えるって…ことでは?!
…ひとまず紅茶に合うお菓子買いに走ります
買いたいお菓子確保できたらば残留思念とゴーストの皆様も交えて少し、ええ少しお話をしてメガリスの場所を教えていただきましょう
※以下、このリプレイは終幕まで特別意訳が入るときがあります※
●まわるまわるよ、チョココミケ
まず現場の催事場に訪れたのは高崎・カント(夢見るモーラット・f42195)。
カントは愛する人と平和に暮らす――そしてひっそりこっそりと平和のために尽力する――甘いものがだぁいすきなふわふわ可愛いモーラットだ。
恋する乙女にとって今日はとっておきの日!
そんなバレンタインを台無しにするなんてゆるせない!……とカントが思ったかどうかは地の文には不明だが。
「もっきゅいっぃぴぃぴ。きゅぴぴぃ(チョコフォンデュ食べ放題のメガリス(じゅるり))」
甘いものにつられたのは確かのようだった。一面に漂う甘い香りにカントのテンションはうなぎのぼり。
「もきゅ! きゅっぴぴぴ! きゅぃいい!(甘い匂いがするのですー!)」
ふわふわぴょんぴょん跳ねるのもやむなしというもの。だって此処はチョコレートの催事場だもの。
日頃、日本じゃあ中々お目にかかれない海外の有名ブランドだって出店する大イベントだ。バレンタイン限定デザインチョコだって発売されるのだから、寧ろどうテンションを抑えろというのか!!
「きゅぅう……(食べたいのですー!)」
食べたいよね~。
でもカントはとても偉いモーラットなので仕事優先!と資料を片手にきょろきょろとことこふわふわと異変を探しに催事場を彷徨い歩き出した。モーラット目線の低いところや甘い物の間違い探しを重点に。
そんなカントを柱の影から覗き見る怪しい人影――もとい、残留思念がにたぁりと嗤う。
――ループ回数、7回目
「きゅっぴぃ!?(もう怒ったのですよー!?)」
ぐるぐる、ぐるぐる巡り巡って7回目。アンチ・バレンタインの残留思念共はとてもとても性格が悪かったようだ。
カントは気付けないままなのだが、残留思念たちはカントの目線の遥か上、天井の染みとか壁掛け時計の微妙な色合いだとかばかりに異変を起し、あまつさえループするカントの前にわざと姿をちらちら見せて挑発行為。キャラキャラと甲高い声で嘲笑うのだ。
これにはカントも大激怒!可愛いほっぺをぷくーと膨らせて、もう余裕ぶっこいてる残留思念たちと追いかけっこか!?ってタイミングで――。
「これは早く解決しなければですね。おや?」
180cm越えの高身長ディル・ウェッジウイッター(人間のティーソムリエ・f37834)があらわれた!
●あえてまわるよ、チョココミケ
「なるほど、そのようなことが。ならば、人手を増やしましょう」
ぷんすこなカントから状況報告を受けたディルはなるほどと頷いて。
きゅっぷい?と首(?)を傾げるカントにディルは任せてくださいとにっこり甘いスマイル。ゴースト・ティーパーティーを発動してゴーストたちを召喚しようと――。
「はっ!あれは!?」
――したディルの目に飛び込んできたのはイタリア・トリノ発の老舗チョコレートブランドの出店舗!紅茶とのペアリングをテーマにしたものや、紅茶専門店とコラボしたものを度々発表しているブランドだ。缶もお洒落で可愛い。
「あぁ、あちらは!!?」
その出店舗の隣にはこれまた有名な老舗ブランドの名前が!実に様々なチョコレートを取り扱うブランドだが、確か今年は茶葉をブレンドしたチョコレート・シリーズにアップルティーが新たに加わっていた筈だ。そのシリーズはパッケージもティーバックをイメージしたデザインでこれまた可愛い。
まさかまさか、とディルは慌ててグリモア猟兵から渡されたマップをあらためる。
其処にはお馴染みのブランド名や、そもそもこういったイベントに出店するのが稀なブランド名もあるじゃあないか!そう、それがこのイベント――チョコレート・コミケの恐ろしいところである。並んででもつい買っちゃうんだよね、バレンタイン限定デザインとかさー。
そしてディルは此処でとある事実に気付いてしまった。気付いてしまったのだ!!
(これは……すぐに売り切れてしまう珍しいお菓子も買えるって……ことでは?!)
強くてニューゲームできるじゃん!って事実に!目の前で売り切れちゃったら最初に戻ればいいもんね!!
「カントさん、わざとループしましょう」
「きゅっぴいいい!?(ええええ!?)」
此れには残留思念たちも驚いたという。
「カントさん、試食のチョコ、満足いくまで食べれますよ」
でもでも、とわたわたするカントに囁かれるトドメの一言。甘いもの好きにはとんでもない誘惑であった。
――かくしてまわるまわるよループ回数、更に重ねて7回目(合計14回目)
「そろそろお仕事に戻りましょうか」
「きゅい、きゅっぷい!(はい、ごちそうさまです!)」
そこには大きな紙袋を両手にさげたディルと試食チョコをたくさん食べて満足げなカントが居た。
ひとまず紅茶に合うお菓子買いに走ります、とガチになったディルは混雑するタイミングや売り切れるタイミングをループ中で見極め、的確に目的のものをゲットしまり。
カントは試食コーナーを巡り巡って美味しいチョコをそれはそれはたくさん味わった。可愛い可愛い動物チョコブランドによる実演での試食コーナーもあったので、目で見て舌で味わってと心もお腹も満たされて。
両者、ループの恩恵による大収穫に大満足のご様子だ。
さて、此処でお怒りなのはアンチ・バレンタインの残留思念たち。異変はスルーされまくり、バレンタインを邪魔するためのループを利用されて逆にバレンタインを楽しまれ。これはたまったもんじゃねえ、といったご様子でぷんすこぷんすこ騒ぎ出す。
店舗ののぼりにクレームを、ラッピングには怒りのアートを、天井にはSAN値直葬しそうな不気味な顔を、壁にはチョコによる手形の染みを、床はケミカルカラーに塗りかえて――次々と催事場に起こる異変は、わざわざ探さなくても明らかなものばかり。
これにはディルもカントも作戦通りとにっこりだ。
だって途中で気が付いたのだ。異変を無視する度にわかりやすい異変が起こってばかりで。
これはひょっとして彼等残留思念たち、バレンタインを楽しみたかったけど楽しめなかった嫉妬以外にも、仲間に入れてアピールだったり構ってほしいだけなのでは?と。
正解は否かは結果の通り。あとは指摘に足りぬは人手だけ。
「それでは皆様、お願いします」
そうしてディルに呼び出しされたゴーストたちが次々と異変を暴き、残留思念たちを確保していく。
「さあ、少しお話をいたしましょう。ええ、少しばかりお話をするだけですからね、ご安心ください」
更には確保された残留思念たちは、ぱちぱちの静電気を小さなお手手に構えたカントの前に連れ出された。
「もっきゅきゅぴ!きゅいきゅい!きゅいきゅいー!(カントにチョコフォンデュ食べ放題メガリスの場所を教えるのです!早く、早くなのです!)」
とは言え残留思念たちも嫉妬や構って欲しいという気持ちを拗らせるに拗らせてとっても強情!
すこぅしばかり
お話をすることにはなったものの、こうして二人は無事メガリスの居場所をゲットするのであった!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
矢田・巽
★◎▲
ソラ【f42269】と共闘(シナリオ初参加です)
うーん、バレンタインなんて生まれ故郷では楽しむべくもなかったからさぁ、せっかくだし意中の人にいいチョコでも…って思ってたんだけど。
こういう時に限ってお仕事っていうのは猟兵とやらになった以上は仕方ないんだろうね…ま、君が一緒なら別にいいよ。
最近ネットで流行ってるゲームっぽい怪異だね、要は間違い探しすればいいんでしょ?
んじゃそっちは任せるね、僕あんまそういうのわかんないんでよろしく。
変なの出てきたらすぐ連絡して、容赦なくUCで攻撃するから。ゲームっぽい怪異なら情報を喰らうのは一番効くんじゃないかな?一切合切白紙にされたくなかったらちゃんと白状してよね。
ああそうそう、【根性】には自信あるし、ループ繰り返したって【狂気耐性】あるからあんま間違いとか気にしなくていいからね、ソラ。
君はいちいち気に病むから心配しているんだ。
貴無・天
★◎▲
巽【f42270】と共闘(巽と天は幼馴染です)
バレンタイン?そういうのは仲いい子とか好きな子がいるやつじゃないと縁がないんじゃないかなぁ…
ああ、そういう子たちが困ってるからおれらが呼ばれたんだよね、納得納得
その辺おれは詳しくないけど、巽が一緒なら安心だな!
異常現象っていうけど結局は誰かが悪意でもってこの空間を作ってるんだろ?
じゃあ「おかしい」場所には相応の意識があるはずだよな、ならサトリのおれの出番だ
【読心術】【気配感知】【破魔】で怪しい場所を見破ってやる
【不眠不休】で頑張ったって【元気】なおれには苦でもないしな!
でも巽は初依頼だし、ほんと無理するなよ?ケガしたらちゃんと指定UCと【医術】で治してやるからさ
●まわるまわるよ、チョコ迷宮が終わらない
「うーん、バレンタインなんて生まれ故郷では楽しむべくもなかったからさぁ……こういう時に限ってお仕事って……まあ、仕方ないんだろうね」
(……僕は意中の人にいいチョコでも……って思ってたんだけど)
わいわい賑わう人ごみを前に溜め息まじりにぼやくのは矢田・巽(儚き理想郷・f42270)だ――うん、猟兵、ぶっちゃけ正月すら関係ないからね!仕方ないと思います。
「仲いい子とか好きな子がいるやつじゃないと縁がないよなぁ……ああ、そういう子たちが困ってるからおれらが呼ばれたのか、納得納得」
ひとり納得し頷くのは貴無・天(生存権をください・f42269)だ。
この二人は幼馴染、更には天はサトリという人の心や意識などを読むに長けた東方妖怪である。
「ま、君が一緒なら別にいいよ」
「ま、巽が一緒なら安心だな!」
お互いを向いて同時にハモって、二人して少し笑ってみたり。
「んじゃそっちは任せるね、僕あんまそういうのわかんないんでよろしく。変なの出てきたらすぐ連絡して」
「ああ。けど、巽はほんと無理するなよ?ケガしたらちゃんとで治してやるからさ。じゃ」
そうして巽は現場で、天は監視カメラルームへ。二手に分かれていざ間違い探し!
息のあった二人ならこれは楽勝だ――と、思うじゃん?
ループ回数、まさかまさかの9回である。
一体、何があったのかその一部をご覧いただこう――。
●まあ初見は無理ゲーよ、そして現実はク×ゲーよ
ループ回数1回目。
バツン――消灯、点灯。初期位置に戻った店員やお客たちをぐるり見渡して、巽は天に声をかける。
「まぁ、1回は仕方がないよ。あんま間違いとか気にしなくていいからね、ソラ」
通話の向こう側で、でも、と渋る天に巽は、まったく、と苦笑い。
「お客さんが買って行ったんだから、回収する訳にもいかないだろう?」
「……それもそうだな!」
そう、この間違い探し。某ゲームと違って登場人物がとにかく多い!
異変は商品のラッピングにだって起こる。さっきはそれをお客さんが買って行ってしまったのだ。
購入したお客さんがある境界を越えた瞬間、催事場の電灯は一斉に消灯し、ビデオテープの巻き戻しのように二人以外の人間たちは初期位置に戻った。最初に戻る、である。
つまり間違い探し以外にお客さんたちとのRTA(リアルタイムアタック)も場合によっては発生し得るのだ!
何気に難易度高い。ああ、なんたるク×ゲーか!!
天のサトリの能力によって異変はわかれど、お客さんたちの行動パターンを初見で見抜けるはずもなく、かといって無理に回収してしまえば別の騒ぎになってしまう。
そもそもぎゅうぎゅうに近い人ごみを掻き分けて追いつくことから難しい。
となれば、異変のパターンを見抜くまでは数回のループは必須と言えよう――プログラムされたゲームではないので、果たしてパターンなどあるのか不明だが。少なくともお客さんや店員は決まった行動の繰り返しだし、異変が起こるときのクセのようなものはわかってくる、筈だ。多分、恐らく。
「君は本当にいちいち気に止むから、僕は心配しているんだ。根性には自信があるから、僕は大丈夫だよ」
「ああ。じゃあ、気を取り直してもう一回だな!」
天は監視カメラルームの自販機から飲み物を買いましてぐびりと一気飲み。巽に無茶はさせまいと監視カメラに向き直る。資料をばさりと広げ、目で、能力で、今度こそ異変を見抜かんと映る映像とにらめっこ。
そうしていざ2回目の間違い探しとなってからがもう大苦戦だ。
二人が相手にする残留思念たちは相当、性質が悪いようだった。味をしめたのかお客さんたちとのRTAが次々と!たまに異なる異変が起こったかと思いきや、監視カメラがチョコの手形で汚されて映像が遮られたり、そもそも残留思念そのものがダブルピースでカメラに迫ったりと妨害されるものだから、天は巽に正確な指示が出来ずにいた。
どんどんしょんぼり凹む天、天を凹ませる残留思念たちに少しずつ憤りを募らせる巽。
そんな二人にもとうとうループ回数5回目を迎えた頃、転機が訪れる。
「本当に気にしなくていいからね、ソラ。というかこれは君のせいじゃない。あいつらの性質が悪いだけだから」
「……ああ」
「まさか監視カメラの映像に妨害が入るとは思わないじゃないか」
「けどさ……あ、そうか。監視カメラ!巽、監視カメラだ!」
「ソラ?」
「催事場に異変が起こるってことは催事場内に設置された監視カメラも対象なんじゃないか?」
「ああ、なるほど。じゃあ……」
「ああ!」
ずばりその閃きは大正解。巽と天は早速、催事場の監視カメラの位置を確かめてるとRTAに挑むことは諦めて、その機会を待つことにした。
更に巡り重ねてループ4回目(合計9回目)
いよいよ、いくつかある監視カメラの映像のひとつに砂嵐が走った。リセットのたびに確認しているが、監視カメラは正常に映っているのがデフォルトだ。つまり、これは――。
「巽、4カメだ!」
「わかった」
天の合図に巽が応えて途切れる通話。天は祈るように映像を見守る。
間もなく砂嵐が途絶え、再び映るようになった監視カメラの向こうでは、巽が文字で形作られた魔物をけしかけて残留思念たちを脅してた。
後に残留思念たちはにゃんこミームのにゃあにゃあ鳴く仔猫のように、頭を抱えてぷるぷる震えながらもこう語ったそうだ。
あのときのおにいさんちょうこわかったよ、と。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 日常
『お菓子屋さんのお菓子教室』
|
POW : 積極的に教えてもらう
SPD : 自分の技術も見せながら教えてもらう
WIZ : 自分なりに理解しながら教えてもらう
|
●ごーすと・ちょこぱーちー
そんなこんなで残留思念たちをしばき倒して、見事、メガリスの隠し場所をゲットした猟兵たち。
白状された場所に赴けばそこは催事場によくあるパーティションで区切られただけの臨時倉庫区画だった。
パーティションの向こうからは甘い香りとわいわいがやがや賑わう人(?)の声。
4人は顔を見合わせてばばん!と突撃かましてみれば、その先はなんと残留思念の残党たちが件のメガリスでチョコフォンデュパーティーしていた!!
――どったんばったんしております、少々お待ちください。
さて、突然の家宅捜索の如く現場あらため、残党共をひっ捕らえ。
そうして確認した件のメガリスは、装飾美しい大中小のガラスコンポートが重なったものだった。
溶けたチョコレートが噴水のように溢れ続け、しかして決して零れることはないそれをどうしようかと猟兵たちは相談して。結果、ひとまず銀誓館学園へと保管を依頼することに。現場で出した決定だけを伝えれば、手配はグリモア猟兵がやるのでご心配なく。
後は残留思念たちを成仏させてしまえば解決だ。少々のお話合いのもとループ現象を解除した残留思念たちは、みな口々にこうのたまった。
「だって羨ましかったんだもん」「妬ましかったんだもん」
「自分たちだってチョコ欲しい
!!!!!!!!!!!」
「可愛いチョコを貰ってみたい
!!!!!!!!!!!」
「チョコ頂戴
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
盛大に迷惑かけておいて随分、身勝手な要求ではあるものの。このままでは彼らは間違いなく再犯するに違いない。というか再犯してやるみたいな過激なことを言っている者もいた、ので。
作ってあげようじゃないか、てか、作ってあげるしかない、可愛いチョコレート。
そんなわけでれっつ・くっきんぐ、よろしくお願いしまーーーす!!
尚、一晩のループ現象が解除された一般人たちは、なんか疲れたねーと口々に話しながら飲食コーナーで休憩をしているので、物販コーナーも体験コーナーもがら空きです。
料理無理!って場合、可愛いチョコレートを購入の上、プレゼントでもOKです★
ディル・ウェッジウイッター
彼らに必要なのはチョコではなくチョコを渡しあえる友人だったのでは…
それはさておき、彼らをこのままにしておくことはできませんね
デパ地下で購入した材料と湧き出るチョコを利用して生チョコを作ってからの、フォンダンショコラを作ります
バニラクリームも添えちゃいましょうね
あとはこれにあうお茶も用意しますね。何にしましょう、ウバ?アッサム?フレーバーティー?楽しみです
折角なら残留思念の皆さんも作ってみませんか?
このイベントは味よりもいただいた物に籠められた思いをこめたり、楽しむ物だと思うのです
貰うだけではなく、作るのも楽しみましょう。きっと素敵ななチョコ作れますよ?
高崎・カント
「もっきゅ、きゅぴぴもきゅ!」
他の人に迷惑かけたらダメなのです
でも、ゴーストもパーティーに参加したいって気持ちはわかるのです
だからみんなでバレンタインをするのですー!
カントは簡単オシャレなチョコバーを作るのです!
湯煎したホワイトチョコにドライフルーツとナッツを混ぜて固めるのです
レシピをちゃーんと守るのです
守らないと酷いことになるのです……
(料理ド下手くそなゆーいっちゃんを思い出して毛を震わせる)
リボンで可愛くデコってプレゼントするのです
おいしそうなのです(じゅるり)
食べたいのです(ぺろり)
カ、カントが食べちゃう前にどうぞなのですー!
もっきゅ! 来年はゆーいっちゃんに手作りチョコをあげるのです!
●Happy・Happy・Party
章タイトルのイメージソング、にゃんこミームのハッピーハッピーハーッピー♪っていうあれ。
「ふむ。彼らに必要なのはチョコではなくチョコを渡しあえる友jっ」
残留思念たちの訴えを聞いて思わずと思い口走るディルの口を、カントが小さなお手手で素早く塞ぐ。
ディルは、じぃーと見つめてくるカントのつぶらな瞳に何を察したのか、こくこくと頷いて。もごもごぷはっ。
「さておき、彼らをこのままにしておくことはできませんね」
「きゅぴ! もっきゅきゅ。もっきゅ、(です!他の人に迷惑かけるのは勿論、ダメなのです。でも、)」
カントは一応の反省の姿勢を見せる残留思念たちを見遣る。
同じゴースト。シルバーレインの世界は世界結界の影響で他者に全く認知されることはない、彼等。
幸いにもカントにはカントの存在に気付いてくれて、傍に居てくれる生涯を誓い合った大切な存在がいるけれど。更には猟兵の特性から違和感を持たれずに姿を認知されるようになったけど!
でも、彼等は――。
「もっきゅ、きゅぴぴもきゅ!(でも、ゴーストもパーティーに参加したいって気持ちはわかるのです。だからみんなでバレンタインをするのですー!)」
「みんなでバレンタイン……いいですね。折角なら残留思念の皆さんも作ってみませんか?チョコレート」
残留思念たち、みんなでバレンタイン?と首を傾げてきょとり。
「このイベントは味よりも、いただいた物に籠められた思いを楽しむ物だと思うのです。貰うだけではなく、作るのも楽しみましょう。きっと素敵なチョコを作れますよ?」
ざわざわしていた残留思念たち、興味を惹かれたのかディルの言葉に戸惑いながらも頷いて。
ならばと、ディルとカントは残留思念たちを連れて、いざ・チョコ作り体験コーナーへ。
そんなこんなで催事場の一画に設けられたチョコ作り体験コーナー。
簡素な折り畳みテーブルが並ぶだけのスペースかと思いきや、冷凍機材はしっかり業務用だったり、器材や材料が豊富に準備されてたり、なんとチョコは動物チョコを実演販売している某ブランドが提供してくれてたり、割としっかりしていた。
間違いなく美味しいチョコを自分で自由に作って食べれる――なんて常だったら人で賑わいそうなものの、今や体験コーナーはガラガラだ。まあ、ループに巻き込まれた人々は強制徹夜明けなもんだから多くが飲食スペース、果てには催事場があるフロアのベンチで寝落ち中なので仕方ない。
あまりに暇すぎて欠伸が出そうだったスタッフ(シフト交代済み)は、ふらり訪れたディルとカント――とスタッフには見えていないけれど残留思念たち――にようこそ!と大歓迎の笑顔をみせた。
ちょっと
デパ地下まで、と一旦お買い物に席を外したディルを皆で見送り、必要な道具と材料を取り揃えたら早速、お料理開始だ。といっても、残留思念たちは勝手がわからず右往左往。
「きゅっきゅい、ぴぃ!(カントは簡単オシャレなチョコバーを作るのです!レシピはこれなのです!)」
そんな残留思念たちにも見えるよう、カントはスタッフからお預かりしたレシピを作業台に広げた。
チョコバーの完成写真に、可愛いー!と口々に声をあげる残留思念たち。これからこれ作るんだ、すごいね!作れるんだね!って会話も弾み出せば、あとはわいわいきゃっきゃみんなで手分けして作業していく。
カント殿カント殿、湯銭具合はこれくらいで大丈夫でござるかー? ホワイトチョコを丁寧にテンパリングして湯銭して。ねえねえ、もっとナッツいれたい!ドライフルーツはこれくらいでいいかな? アーモンドを弱火でローストして。
「きゅっぴいぴい!ぴぃ~……(基本はレシピをちゃーんと守れば大丈夫ですよ!守らないと酷~いことになるのです……)」
カントの大事な人はお料理がとても下手なのだ……思い出すのも恐ろしいお味に型にラップを敷き詰めながらカントは小さく身震いしてみたり。お味大丈夫かなー?って型に流したチョコバーのもとを冷蔵庫に入れたところで。
「おやおや、盛り上がってますね。ただいま戻りました。さぁ、お茶会の準備をしましょう」
メガリスを乗っけた台車を転がして&買い物袋を引っ提げて戻ってきたディル。
袋から取り出した白い布はテーブルクロスかわり。あいている折り畳みテーブルにばさっと広げればあっと言う間にお茶卓の出来上がり。ティーパーティにはまだまだお菓子も必要だ。
「私はフォンダンショコラを作りましょう。バニラクリームも添えちゃいましょうね」
足りない材料を買い物袋から取り出して、更にはメガリスから湧き出るチョコを使ってディルが作るのは生チョコ入りのフォンダンショコラ。残留思念たちは手伝う?手伝う?とそわそわ。
「ええ、手伝ってください。あなたはこれを、あなたはこれで」
ディルは的確に作業分担を指示して。カントもオーブンの予熱しておいたり、カカオパウダーや薄力粉をふるいにかけたりとお手伝い。チョコバーより複雑な手順にちょっとわちゃわちゃしつつ、焼き上がりを待つ間にお茶の用意だ。
「何にしましょう、ウバ?アッサム?フレーバーティー?焼き上がりが楽しみですね」
待つ時間はたっぷり15分。お喋りしていたらあっという間の時間が過ぎて。
ひんやり固まったチョコバーとふんわり焼き上がったフォンダンショコラ、紅茶の香り。バレンタインのチョコレート・ティーパーティはとってもとっても盛り上がる。
「もっきゅ!(来年はゆーいっちゃんに手作りチョコをあげるのです!)」
バレンタインならではのコイバナになればカントはゆーいっちゃんの惚気を語ったり。
初めての楽しい楽しいバレンタインに残留思念たちからも笑い声。
こんなバレンタインもあったんだね!楽しいね!拙者、貰えない人同士で徒党組んで非モテバレンタインとかすればよかったでござるー!
――楽しい時間を過ごす中、やがて、そろそろいくね、と寂しそうに微笑む残留思念たち。
「楽しかったですか?」
楽しかった!こんなバレンタインがあったんだって知れてよかった!
「もっきゅう!(これプレゼントするのですー!)」
カントちゃん!ありがとう!ラッピングまで……可愛い!
「次はどうぞ。楽しいバレンタインを」
これ以上楽しいバレンタインはなかなかないでござるが、次はもっともっと楽しむでござるー!
――ありがとう。
さらり、と砂が崩れるように姿を消した残留思念たちを見送って。
二人だけになってすっかり静かになったお茶会。余韻はほろ苦いビターチョコのような一抹の寂しさ。
「……残り、食べちゃいますか」
「もっきゅーーー!!(食べるですーーー!!)」
そうして少しだけ冷めたお茶を飲みながら、彼等に添える花のように今日の感想会に華を咲かせて。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
貴無・天
うわ、メガリスすげぇ…こんなきれいなの初めて見たかも、おれ!
色々めずらしいもんも見れてお得だなー、猟兵って
んーなになに、そんなチョコ欲しかった?そっかあ、みんなもらったりあげたりしてんのに自分だけなんもなし、ってつらいよなぁ…(残留思念たちの想いを傾聴し、【医術】【読心術】を活用して共感的な言葉をかける)おれもそういうの縁なかったしわかるよ。贈り物、もらってみたいよな?
そんじゃおれも一肌脱いで…って思ったけどあいにくお菓子作りとかさっぱりなんだよなぁ、買ったやつでも大丈夫?あ、大丈夫そう。よーし、そんじゃあんたたちの好みに合いそうなの見繕ってやるからな!(【読心術】で思念たちの好みを読み取りつつチョコを購入、ついでに友人たちに渡す用のものもこっそり買う)
じゃあ改めまして…貰う相手がおれじゃあんたらも不満かもしれないけどさ、気に入りそうなの選んだから。こういうの友チョコっていうんだっけ?戦った相手だけどさ、おれのこと友達だって思ってくれてるなら…嬉しいなって。
矢田・巽
はー…君ら反省ってもんはないの?
にしてもチョコ貰えないってそんなひきずるもんかなあ…いや、(好きな相手のことを考える。その相手が自分以外に本命チョコを渡していたら。あるいは、自分が渡そうとして突っ返されてしまったら)…ひきずるか。ひきずるね、うん。
しょうがないなー、王子様たるもの困ってる子は颯爽と助けてあげないとね!作ったやつ余ったらあいつに…とか思ってないからね!
お菓子あんまり食べないけど作るのは好きだよ、科学実験みたいで面白いし。
出来上がりに気を遣わなくていいブラウニーにしようかな、ただのチョコより食感も楽しいし。
…ほら、できたよ。ちゃんとハート形に抜いて可愛くラッピングもしてあげたし、謹んで受け取って?
本気で世界滅ぼすくらいの覚悟と能力がないなら、恨みなんて忘れて早くあっちに逝きな。
いつまでも生者に拘ってるとろくなことがないよ、…そうなってるぼくが言うんだから。
●天の場合
チョコ作り体験コーナーにて。
並々のチョコレートを溢れさせながらも、さながら美術品のような輝きを保つメガリス。天使の翼の趣向が凝らされた装飾のガラスコンポートの前で天はまじまじと近くで、そしてちょっと離れて眺めてみたりと鑑賞に勤しんでいた。
「うわ、メガリスすげぇ……こんなきれいなの初めて見たかも、おれ!色々めずらしいもんも見れてお得だなー、猟兵って」
多分、これからだって珍しいものをみれる機会はたくさん訪れようとも!
天の周りの残留思念たちからも、きれいだよねぇ、って声が上がる。
そういえばね、さっきね、チョコフォンデュしてたときもよごれなかったの!ふしぎだね。
きれいでふしぎなおさらのチョコは、とってもあまくておいしかったよ。
そうだそうだ、チョコだよだよ!チョコちょーだい!おいしいチョコ!思い出したようにひとりが声をあげれば、周りもつられてチョコちょーだーい!と騒ぎ出した。天の周りに集まる残留思念たちは他より少々幼いようだ。
「そんなチョコ欲しかった?そっかあ、みんなもらったりあげたりしてんのに自分だけなんもなし、ってつらいよなぁ……」
天が傾聴の姿勢を見せれば、残留思念たちはうん!と頷いて。
そして次々と語られる未練、寂しさ、妬み――幼さ故の視野狭窄はたった一回の失恋だって容易く絶望になりがちだ。中には病棟で一生を終えたが故にバレンタインそのものを経験したことすらない子もいた。
「おれもそういうの縁なかったしわかるよ。贈り物、もらってみたいよな?」
うん、チョコ、ほしかった。
さっきたべたチョコがはじめてだよ!!
おにいさんもバレンタインなかったの!?願望、感動、驚き――彼等より伝わる感情は裏のない純粋そのもの。言葉通りの心の動きは嘘偽りなく、だからこそ、彼らの願いは心からのもの。
「そう、なかったよ。そんじゃおれも一肌脱いで……って思ったけど……(あいにくお菓子作りとかさっぱりなんだよなぁ)……買ったやつでも、大丈夫?」
ならば尚更に力になりたいと天は一瞬、意気込むも……すぐにしおしおと項垂れて蹲る。
おにいさん大丈夫?どうしたの?とわらわら集まる残留思念たち。おろおろ、そわそわ。
天がしょんぼり眉尻を下げておそるおそるとたずねてみれば、なんだそんなこと?みたいに残留思念たちはきょとん顔。
おひめさまが食べるような、ものすごくかわいいチョコがいいな!
ぼくはね、かっこういいチョコがいい!!
おもしろいチョコが欲しいーーーー!!天の心配もなんのその彼等はちゃっかり要望を述べ連ね、はやく買いに行こうーーー!って天を押したり引いたり急かす始末。あ、これ大丈夫そう?
「よぉおおっし、そんじゃあんたたちの好みに合いそうなの見繕ってやるからな!」
やったーーーーーーーー!!!
残留思念たちはおおはしゃぎ!
天はまるで引率の先生の如く、彼らを引き連れてチョコ・ショッピングへと繰り出した。
●巽の場合
一方その頃――、
「はー……君ら反省ってもんはないの?」
貰えなかったら再犯してやるーなんて過激な発言を繰り返す残留思念たちを前に、お説教モードになっている巽がいた。腕を組み、呆れまじりに溜め息ついて。もう一発アレお見舞いする?なんて脅してみれば、がるがるしていた威勢はどこへやら途端にぴぃぴぃ震える残留思念たち。流石にちょっと良心的なものが痛まないのでもないので、冗談だよ、と何度目かの溜め息。
「にしてもさ、チョコ貰えないってそんなひきずるもんかなあ……いや、」
ふと巽は想像してみた。己にも恋い焦がれる存在がいるのだ、だから、もし、もし……。
――もわもわもわもわたつたつ~……。
校舎裏に人かげひとつ、まだ寒い冬の風に靡く制服の裾。用意したチョコレートはとけずに済みそうだけれど、悴む指先が痛くて息を吹きかける。まだかな、なんてそわだつ気持ちは期待か不安か。やがて待ち人が来て、お待たせなんて声をかけられた巽は顔をあげた。他愛ない会話が続いたのはほんの少しだけ、今日という特別な日に誰かを呼び出す意味、誰かに呼び出される意味などひとつしかなくて、二人の間に緊張した沈黙が流れる。
先に沈黙を破ったのは巽。意を決してひとことふたこと想いを告げてチョコレートを差し出した。しかし、しかし、返ってきた言葉は、ごめんねという言葉。更には恋人がいるという、残酷な、真実。
嗚呼、どうか君よ幸せに。果たしてそう願えただろうか、笑えただろうか。淡い恋が破れて流れる涙は冬の水より冷たくて。もそりひとり食べるチョコレートは甘い筈なのに苦かった。
……もわもわもわもわたつたつ~――。
「……ひきずるか。ひきずるね、うん」
あまりにリアルに妄想しすぎてガチで精神的ダメージを受けた巽であった。ズキズキ痛む胸を抑える。この痛みが微塵も癒えぬまま命果てればそりゃあ未練にもなるだろう。辛い。結構、辛い。ガチ辛い。励ましてくれる友達がいなかったとしたら、ただ拗らせていくだけだろう。似ている面影を追いかけたりして、追い打ちダメージを受けたりして――あ、うん、やめよう、今まさに追い打ちしてしまった。
「しょうっがないなー!王子様たるもの困ってる子は颯爽と助けてあげないとね!」
しんどい気持ちを振り払うように声を張り上げた巽は、ほら、君たちもちょっとは手伝ってよね!と残留思念たちとチョコ作りを始める。材料を選びながらひいふうみいと人数を数えて……少しだけ、多めに。
(作ったやつ余ったらあいつに……とか思ってないからね!)
●そうして二人の場合、
「じゃあ改めまして……戦った相手だけどさ、おれのこと友達だって思ってくれてるなら……嬉しいなって」
「……ほら、できたよ。ちゃんとハート形に抜いて可愛くラッピングもしてあげたし、謹んで受け取って?」
まるで卒業証書でも受け取るかのように二人の前にそれぞれ並んだ残留思念たち。
ひとりひとり、二人から手渡しに受け取ったチョコレートをそれぞれ大事そうに抱えたり、両手をあげて喜んでみたり、ぴょんぴょん飛び跳ねてみたりと各々大いに喜んで。
そうして未練を果たした彼らの姿は、ゆっくりとゆっくりと薄れていく。
――たのしかった、たのしかったよ、あそんでくれてありがとう!
「あはは、あれが遊びかー。次、遊ぶときはもっとみんなで楽しめる遊びにしような」
――あのね、病院以外ではじめてともだちできた!おにいさん、ありがとう!!
「うん、おれはこれからもずっとあんたの友達だからな」
――このかっこういいロボットチョコ、みんなにじまんする!
「そんなに喜んでくれんなら選んだ甲斐があったってもんだ」
ひとりひとりに言葉を返す天。本当に友達との別れのように、ばいばーい!と手を振りあって。それでもまたね、いつかねとはお互い言わないで。だけど笑顔で見送って。
「本気で世界滅ぼすくらいの覚悟と能力がないなら、未練なんて忘れて早くあっちに逝きな。いつまでも生者に拘ってるとろくなことがないよ……そうなってるぼくが、言うんだから」
対して少しだけ素っ気なく、でも紛れもなく彼らを想う言葉を少しだけ混ぜる巽に対して、残留思念たちは微笑む。
――巽くんは素直じゃないんだね。
――ろくなことがないって心配になるじゃないか。
「心配しなくていいって。ぼくは大丈夫だから」
――君がそういうなら、ぼくらはもう逝くけどさ。どうか、君の想いが通じますように。君の生に、少しでも幸せが訪れますように。じゃあね。
別れの言葉に紛れた囁きは微かに、しかし巽に耳にしっかりと届く。優しく愛しむように頭を撫でられたような気がするのは気のせいだっただろうか。確かめようにも彼らの姿は既に雑踏の中に紛れ逝き。
「いったな」
「……みたいだね」
遺された二人に流れる沈黙は静謐で、どこかあたたかい。
それを同時に、そうだ!と声を重ねて破る。どうぞどうぞ、とお約束のように譲り合う茶番を交わして、先に痺れを切らしたのはあーもう!と声をあげた巽の方。
「これ!あまったから天にあげる。こういうの、友チョコっていうだっけ?あいつらにあげて天にないのは……おかしいかなって思って……」
受け取った天の瞳は喜びにきらっきらである。そうしてわたわたと買い物袋からひとつチョコレート取り出して、巽に差し出した。
「おれからも!あいつらにあげたんだから、巽にないのはおかしいだろ?」
「……あ、ありがと」
巽はきょとんと瞳を丸くしてそれを受け取ると、そっと仕舞う。そういえばどんなの選んだんだろう?とほんの少しだけ心配になったのは内緒だ。
「そういえばおれたちにとってもこれ、初めてのバレンタインだな」
「そういえばそうだね。折角だからもう少し見て回らない?飲食コーナーとかぼく全然行ってない」
「じゃあ、まずあっちに行こう!アイスあった」
「アイスかーこの時期だとまだ寒くない?」
そうして二人マップを広げ、他愛ない会話を交わして。
生きている間に彼らが楽しめなかった分を楽しむように、賑わう雑踏の中に紛れて――。
●こうして、
アンチ・バレンタイン過激派によるドダバタ事件は無事、幕を閉じた――。
「な、なんか在庫と売上があわないんだけど!?」
「ええええ!?」
何故かいくつかのお店では商品の在庫と売上が釣り合わない事態が発生し、折角のバレンタインに迫りくる残業の気配に震えおののく店員たち。そんな新たなる悲劇の幕あけの気配だけをのこして――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵