ちょっと遅れた初詣、からの帝都タワー決戦
●風と共に去りぬ
――護りたかった。
――護れなかった。
その無念だけが、今の私を突き動かす。
どういう訳か、今、こうして桜散る世界に舞い戻った自分は、一体何なのか?
分からないなりに、分かることが、ひとつだけある。
力が。
この身に、力が満ち満ちている。
この力があれば、きっと今度こそ、護りたいもの全てを――。
ざ。
ざ、ざざ。
意識が混濁していく。
ノイズが走る。
それとも、ノイズは自分自身なのか。
分からない。
ワカラナイ。
●グリモアベースにて
「みんな、アスリートアースでの戦争、本当にお疲れさま」
戦闘から何から、基本的に他力本願な小娘ことミネルバ・レストー(桜隠し・f23814)は、結局先の戦争については傍観に徹していたらしい。こいつ……!
「運動しまくっていい汗かいた直後だとは思うんだけど、サクラミラージュでちょっと高いところに登ってきてもらえないかしらって」
そう言って、ミネルバは状況説明のため、ホロビジョンを一枚中空に浮かべる。すると、幾人かの猟兵が「あれ?」という声を上げた。
映し出されていたのは、真っ赤な電波塔。どこかで見たことがあるという猟兵が居てもまったくおかしくない姿であった。
「これはね、帝都は港区にある『帝都電波塔』――『帝都タワー』の愛称で知られてる、帝都の総合電波塔。他の地球型世界にある『東京タワー』と同じものと思っていいわ」
なるほど、そう言われてみれば馴染み深く感じるのも納得が行く。UDCアースには当然存在するだろうし、ケルベロスディバイドではもしかすると決戦兵器になっているかも知れない。
「この帝都タワーは、サクラミラージュの通信を霊的に守護する『世界最大の鎮守塔』としての役割も担っているの。そんな重要施設が、もしも影朧に狙われてるとしたら――放ってはおけないわよね?」
影朧、の単語に、その場に緊張が走る。もしも帝都タワーが破壊されるようなことがあれば、帝都はおろか、世界全体がとんでもない混乱に陥ることは想像に難くない。
「ただね、帝都タワーの立地は霊的防護にすごく向いてるの。近くには寺社や幻朧桜の群生地があって、そこから高められた絶大な霊力を纏って、これまでずっと護られてきたの」
ミネルバは、さらに一枚ホロビジョンを追加する。そこには、立派なお寺の姿が堂々と映し出されていた。その背景には、帝都タワーも立派にそびえ立っていた。
「たとえば、有名どころだとこのお寺かしら。帝都タワーから歩いてすぐだから何かあってもすぐに駆けつけられるし、みんな新年は戦争で初詣どころじゃなかったかも知れないし、お参りに行ってみてもいいと思うの」
純粋に行きそびれた初詣で新年が素晴らしい年でありますようにと祈願してもいいし、来るべき影朧との戦いに勝利できるようにとご加護を賜ってもいい。どちらにせよ、このお寺に詣でることによって、霊力による加護を得られることは間違いない。
「みんなが帝都タワーの近くにいれば、影朧もきっと港区に現れるはず。影朧は街中で事件を起こしながら帝都タワーを目指してくるから、それを解決しながら、最終的には影朧との決戦に持ち込んで欲しいの」
決戦の地は、帝都タワー。
ミネルバの力をもってしても、影朧の正体や能力までは視えなかったという。
それでも、桜舞う世界を護る戦いに馳せ参じてくれるだろうかと、グリモア猟兵は問う。
「影朧は、鉄骨でできたタワーっていう地形を活かして仕掛けてくるかも知れない。同じようにアクロバティックな戦いで対応したり、あらかじめお寺で霊力を得ていれば、有利に戦えるかも知れないわ」
それじゃあ、死なない程度にがんばってね――と。
ミネルバなりの激励と同時に、雪花のグリモアが輝く。
開いた景色の先には、帝都タワーを背にしたお寺の大殿があった。
かやぬま
毎年古い馴染みの友人と、いい感じの季節になったら東京タワーを階段で踏破するのが恒例行事です。
スカイツリーも素敵なんですが、やっぱり東京タワーは良いですよね。かやぬまです。
サクラミラージュの帝都タワーを防衛するシナリオをお届けします。
●章構成
第1章:この善き日に(日常)
帝都タワーから徒歩4分ほどのすぐ近くにある有名なお寺さんで、お参りができます。
行きそびれた初詣をしてもよし、必勝祈願のお祈りをしてもよし。御守りの授与もしています。
真摯に参拝することによって、霊力を得られ、来たるべき影朧との戦いで効果を発揮することでしょう。
ちなみに、初詣の方はおみくじを引いても良いかと思います。かやぬまがダイスを振っておみくじの内容を決めますが、引きたい運がある場合はプレイングで指定していただいても全然問題ないです。
また、お寺の中には小さな茶屋がありますので、甘味と抹茶で英気を養っても良いかと思います。
第2章:悲惨な記憶の追随体験(冒険)
今回敵対する影朧の力は強力で、ただ歩いているだけで周囲の一般人に「悲惨な記憶を体験させてしまう」という恐るべき能力を持っています。一般人がその余波を受けて苦しんでいますので、人々の心のケアをしつつ、自らも襲われる悲惨な記憶に何らかの手段で立ち向かって下さい。
第3章:薫風の影朧(ボス戦)
風の力を駆使する、今回の騒動の元凶です。元々は志高い青年でしたが、影朧となったことの影響か、今や狂気に蝕まれて無自覚にあらゆるものを傷つける存在と化してしまいました。
この章限定のプレイングボーナスがあります。
・第1章に参加して霊力を得ている。
・帝都タワーを飛び回りながら応戦する。
どちらかを満たしていれば判定に上方修正がかかりますので、覚えておいていただければ幸いです。
●プレイング受付について
断章投稿後、プレイング受付期間をタグとMSページでお知らせします。
お手数をお掛けしますが、都度ご確認をお願い致します。
また、プレイングを書かれる前に、MSページの諸注意にも一度お目通しいただけますと幸いです。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております! よろしくお願い致します!
第1章 日常
『この善き日に』
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POW : 全力で楽しむ
SPD : 静かに楽しむ
WIZ : 優雅に楽しむ
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●桜舞う寺院へのいざない
帝都タワーのすぐそばに、大正七百年に負けないくらい歴史あるお寺はありました。特に『勝運』――物事全般がすぐれた方向に運ぶことで有名なお寺として人々に親しまれており、ご利益を賜るべく参拝する人々で常に賑わっております。
緑豊かな境内には、幻朧桜も咲き誇っており、サクラミラージュならではの景色を楽しむことができます。
大殿で参拝をしたり、勝運のお守りを授かったりすることで、お寺が持つ霊力を分け与えていただくことができます。
寺院の一角には当世風のカフェーが併設されているので、和菓子やお抹茶、焼き菓子などを楽しみに足を運ぶ人も多いと聞きます。
来たるべき影朧との戦いに備えて、英気を養うつもりで、詣でてみては如何でしょう?
神臣・薙人
葛城さん(f35294)と
一緒に帝都タワー近くの寺院へ
1月は慌ただしかったですからね
私も来られて良かったです
勝運のご利益を賜りたく
参拝させて頂きます
…叶うなら、影朧も救えますように
葛城さんはどんなお願いをしたのでしょうか
どうか叶いますように
その後お守りを買ってお渡ししましょう
葛城さんを護って下さいますように
葛城さんからも頂きました
ありがとうございます
ふふ
同じ事を考えていましたね
雪の中でも幻朧桜は咲くのでしたね
お参りが終わったら
カフェーへ行くのはいかがでしょうか
私は焼き菓子を頂きたいです
葛城さんはどれになさいますか?
ちょっとずつ分けっこしましょう
和菓子も美味しいですね
英気を養って
次に備えましょう
葛城・時人
ダチの神臣(f35429)と
此処、豆まきでも有名だよね
一月はずっと戦争で
寺社仏閣行けてないから来られて良かったよ
俺が猟兵になった根本の理由全般への
勝運祈願も兼ねて
「お参りしてこ」
神臣の今の願いはきっと影朧のコトだね
だから俺のお願いにちゃんと載せるよ
お賽銭一寸だけ奮発して
「俺達の願いが叶いますように!」
お守り買ったら神臣から貰えた!
同じ事考えてて思わず破顔しちゃうよ
じゃあってお互い渡し合い
こういうの良いね!
いつ見ても幻朧桜は綺麗だ…
此処へ来ると永遠桜って言い方が浮かぶ
あ!カフェ勿論行くよー!
お抹茶と焼き菓子合うね
「美味しいじゃん!ありがとだよー」
俺は和菓子!あんこは正義
分け合って食べて英気養おう
●雪空に願うは
二月、某日。
その日帝都では珍しく雪が降り、地方に行かねば見られないような雪と幻朧桜の共演を楽しめるということで、街行く人々は常と変わらず――いや、常より多く感じられた。
それがたまたまだったのか、はたまた猟兵たちに帝都の雪景色を見せようとしたものなのかは知れないが、息を呑む美しさであることは間違いなかった。
葛城・時人(光望護花・f35294)と神臣・薙人(落花幻夢・f35429)は、帝都タワーのふもとにある大きな寺院の立派な門の前で、荘厳な佇まいを眺めていた。
「此処、豆まきでも有名だよね」
時人が白い息と共に紡いだ言葉通り、つい先日には『節分追儺式』という行事が大々的に執り行われたばかりである。年男年女であれば、お練り行列に参加できたかも知れない。
「一月はずっと戦争で、神社仏閣行けてないから、来られて良かったよ」
「先月は……本当に慌ただしかったですからね、私も来られて良かったです」
時人も薙人も、新年早々始まった異世界での戦争に多くの貢献を残したため、それと引き替えに初詣に行く時間が犠牲となってしまった形であった。
だから、これはちょっと遅れた初詣。
お寺さんはいつでも受け入れてくれるから、少しくらいは遅れたって大丈夫。
それに――今回は、猟兵たちにとっては、やや特殊な事情もある。何事もないのが一番なのだが、予知によればこの後帝都タワーに危機が迫るというではないか。
ならば、なおのこと寺社に宿る霊力を分け与えていただかなくては、というもの。
大きな門をくぐり、参道をまっすぐに進めば、大殿が見えてきた。
本来であれば、初詣の時期にはここで大勢の人々が参拝しているのだろうけれど、今の時期は隣の少し小さな御堂で参拝やお守りの授与を行っているらしい。
二人はそれを確認すると、御堂に向かう。目的は同じ――勝運祈願だ。
特に時人は『能力者』から『猟兵』へと覚醒した根本の理由から、依頼の件を抜きにしてもお参りをしたかったという。大事なことだ。
御堂に入り、まずはお賽銭を投げ入れ、黙って手を合わせる二人。当然ながら、願いごとは口には出さない。けれど。
(「……叶うなら、影朧も救えますように」)
そう、瞑目しながら祈り願う薙人のことを、見透かしたかのように。
(「神臣の今の願いは、きっと影朧のコトだね」)
時人はちゃあんと分かっていた。だから、その分も乗せて、お賽銭を奮発したのだ。
「
俺達の願いが叶いますように!」
「……どうか、叶いますように」
葛城さんはどんなお願いをしたのでしょうかと思いながら、薙人もそう呟いた。
お守りが並ぶ棚には、先客の帝都のモダンガールが真剣なまなざしで『どのお守りを買うか』を選んでいた。どうやら、勝運御守にも種類があるらしく、特に白を基調とした方は左右の和柄がひとつひとつ異なり、世界にひとつだけのお守りとも言えるらしい。
故に先客のモガは、どの柄のお守りにするかで延々悩んでいたようであった。時人と薙人はその少し後ろで顔を見合わせほんのり苦笑いしつつ、モガが運命の出会いを果たす時をしばし待ったという。
そしてようやくお守りと対面した二人は、先客のモガのように迷うことがなかった。何故なら、選んだお守りは白い柄ではなく、真っ黒に染め抜かれたお守りの方だったから。
授与所でサアビスチケットを使うのはさすがにはばかられたので、素直に初穂料と引き替えにお守りを授かって、どちらともなく二人は向かい合う。
「葛城さんを、護って下さいますように」
そして、薙人が先に授かったお守りを時人へと差し出す。
「わ、もしかして同じこと考えてた!?」
差し出された側の時人も、お守りを薙人へと渡そうと思っていたものだから、思わず破顔一笑。それじゃあと、互いに授かったお守りを渡し合いする二人。
「ふふ、同じ事を考えていましたね」
お寺の職員さんに温かく見守られながら、二人は互いに願いを込めて渡し合ったお守りを懐に納めると、御堂を後にするのだった。
外に出ると、幻朧桜と雪が同時に舞い散る景色が広がっていた。
「雪の中でも、幻朧桜は咲くのでしたね」
しっかりともこもこ姿で防寒を完璧にした薙人が、雪と桜を手に取りながら言う。
時人は境内に咲く幻朧桜が雪を被っている様子を見て、ほうと息を吐く。
「いつ見ても、幻朧桜は綺麗だ……」
サクラミラージュでしか見られないとこしえの桜は、永遠桜という表現を連想させる。
「お参りも終わったことですし、カフェーへ行くのはいかがでしょうか?」
「あ! カフェ勿論行くよ!」
御堂を出て少し左手寄りに進んだ場所に、カフェーらしきのぼりが出ているのに気付いた薙人が提案すれば、時人も喜んでその提案に乗り、建物へと向かっていった。
和風な作りの建物の引き戸を開けると、こぢんまりとした風情のあるカフェーが二人を出迎えた。幸いにして、席は二人分空いている。女給さんから『先にお席をお取り下さい』と促された二人は、手荷物だけを置いて席を確保すると、カウンターへ向かい注文をすることになった。
「私は、焼き菓子セットを頂きたいです」
「かしこまりました!」
「葛城さんは、どれになさいますか?」
「俺は抹茶と和菓子のセット! あんこは大正義だからね!」
「ふふ、ありがとうございます。ご注文、承りました」
出来上がりましたら、お席にお持ちします、と。女給さんの言葉に従い、確保しておいた席につく二人。
「せっかくですから、二人でちょっとずつ分けっこしましょう」
薙人がそう提案すると、時人は目を輝かせた。
「やった! お抹茶と焼き菓子の組み合わせも絶対合うと思うんだ」
少しして、淹れ立ての抹茶の良い香りが漂う中、注文の品が席に運ばれてきた。それを約束通り分け合って食べる薙人と時人は、心底幸せそうに甘味を堪能する。
霊力を授かり、英気を養う。
迫り来る脅威への準備は、ひとまず万全であった。
少なくとも――互いのことを思いやり合う二人の前に、怖いものはきっとない。
大成功
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人型影朧兵器第壱号・仮面イェーガー
初詣の御参りか…そういえば今年は行きそびれてたな。
せっかくの機会だ、御参りに行くとしよう。
…この忌まわしき影朧兵器の力でも少しでも人の世の平穏を護る礎になれますように…。
よし、御参りも済んだしせっかくだからおみくじでも引いていくか。
ふぅ、お寺の中の小さな茶屋で団子を齧りながらお茶で一服しながら辺りを見ている。
一人や家族連れ等、お寺の中は穏やかな時間が流れている。
こんな穏やかな時間を護る為にも、影朧を止めなければいけないな。
【アドリブ歓迎】
●哀しき戦士の祈り
生まれも育ちもサクラミラージュ、桜舞う世界で平和に暮らしていた筈のある善良な青年は、ある日突然悪の秘密結社の手によって非人道的な改造手術を施されてしまった。
それでも彼は――人型影朧兵器第壱号・仮面イェーガー(怪奇飛蝗ヒーロー・f40310)は、心折れるどころか正義の心を燃やし、人々の自由と平和を護るために戦うのだ。
「初詣の御参りか……そういえば今年は行きそびれてたな」
そんな飛蝗のヒーローこと仮面イェーガーだって、お寺にお参りはする。何もおかしいことはない。それに、帝都タワーに危機が迫っているとあっては、放ってはおけない。
「せっかくの機会だ、御参りに行くとしよう」
霊力を分け与えていただく意味でも、大切なことだ。仮面イェーガーもまた、雪と幻朧桜が舞う中、帝都タワーのふもとのお寺を訪れたのだった。
(「……この忌まわしき影朧兵器の力でも、少しでも人の世の平穏を護る礎になれますように……」)
御堂に赴き、お賽銭を入れ、手を合わせて心からの願いを念じる仮面イェーガー。これは間違いなくいい人……! 物語の最後には幸せになって欲しい人……!
「よし、御参りも済んだし、せっかくだからおみくじでも引いていくか」
賽銭箱のすぐそばには、おみくじの箱が置かれていた。どうやら二百円を入れて一枚引くシステムらしい。仮面イェーガーが小銭入れから百円玉を二枚取り出す姿はとってもシュールだったが、何も間違ったことはしていない。
おみくじの箱に手を入れて、これだという紙の筒をひとつ掴み取る仮面イェーガー。その場を少し離れて開いてみると、このような文言が書かれていた。
『吉
願事 二つの願を一度に叶へんとすれば凶きたる 早し』
どうやら、全体的にはそこそこの運勢のようだった。願い事に関しては、仮面イェーガーが願うのはただひたすらに『人々のため』であるからして、凶事になることはないだろう。叶うのが早いだろうということであれば、それはとても喜ばしいことである。
おみくじを結ぶ場所はなかったのでそのまま持ち帰ることにして、仮面イェーガーは雪と幻朧桜が舞う境内を進む。目指すは、境内に併設されているという小さなカフェーだ。
途中、さまざまな人々とすれ違った。仲睦まじい親子連れや夫婦と思しき人々や、海を越えてやって来たであろう観光目的の人々など、それは本当に多種多様であった。
カフェーの中に入り、ちょうど空いていた窓際の席を確保し、普段は手が出ないような高級茶葉を使った緑茶とお団子を注文して、ひと息吐く仮面イェーガー。
雪はしんしんと降り続け、幻朧桜との共演を魅せてくれる。
「お待たせ致しました、嬉野茶とお団子でございます」
「ああ、ありがとう」
運ばれてきた高級緑茶を一口含めば、信じられないくらいの甘さが口内に広がった。
これは間違いなくお団子に合うぞと、三色団子をかじれば、幸せはさらに倍となる。
(「……」)
仮面イェーガーは、しばし窓の外を眺めながら、お茶とお団子を堪能した。それはとても穏やかなひと時であり、これこそがまさに仮面イェーガーが護りたい世界そのものであった。
「こんな穏やかな時間を護る為にも、影朧を止めなければいけないな」
そう、今はまだ嵐の前の凪。
じきに、影朧の魔の手はこの地に迫ってくる。
決意と共に仮面イェーガーの中に宿ったのは、間違いなくこの地の霊力であったろう。
大成功
🔵🔵🔵
雪華・風月
◎【霊剣】
わたし達二人共今回の戦争には参戦してませんでしたけどね
そうですね、わたしもこっち方面にはあまり…
では必勝祈願のお祈りへ行きましょうと千里さんとお寺へ
はい、人も賑わってますねと賑わう人々を見ながら大殿へ
そうですね、この後の戦闘、そして近々来るであろうこの世界での戦争での必勝を願ってお祈りを…
あっ、わたしは引いてないのでおみくじを
それが終わったら戦う前にエネルギーの補給ですね
抹茶とクッキーに饅頭、どら焼き大福その他etc
大丈夫です、この位ならまだ腹ごしらえレベルです
六道銭・千里
◎【霊剣】
戦争お疲れさんってな…
と、いや~今回の戦争も疲れたわ~とさも働いたかのように
帝都タワー、東京タワーな…登ったことないねんな…通天閣やったらあるねんけど
ほんなら観光ついでに参拝といこうか
とまぁ気楽に風月と寺へ
おー流石有名な、中々立派な寺構え…霊脈もしっかりしとるわ
と色々見ながら大殿へお参りへ
まぁ今年も色々連れ回される運命やろな…と手を合わせ必勝祈願
おみくじは自分で今年の運勢占ったから俺はパスで
そのままカフェに行って俺は抹茶だけ楽しむわ
…いや、多くないか……?いつものことやけど…
●霊力とエネルギーの補給ですよ
しんしんと雪は降り続ける。幻朧桜との共演が続く。
そんな中、猟兵たちは帝都タワーのふもとにある寺院へと足を運ぶ。
雪華・風月(若輩侍少女・f22820)と六道銭・千里(あの世への水先案内人・f05038)の二人も、連れ立って寺院の参道を歩いていた。
「戦争、お疲れさんってな……いや~今回の戦争も疲れたわ~」
「わたし達二人共、今回の戦争には参戦してませんでしたけどね」
「さも働いたかのように仏様にお伝えしとんのに、マジレスやめてもろて」
千里がいかにもひと仕事終えた超弩級戦力かの如く肩をぐるんぐるん回して声に出すのを、風月が確認すればすぐ判明する事実で叩きのめす。うん、嘘は良くないよね。
「東京タワー……こっちでは帝都タワーな、どっちにせよ登ったことないねんな……」
通天閣やったらあるねんけど、とは千里の言。地球系世界における日本に住んでいても、帝都寄りではなく西の方では、どちらかと言えばそちらの塔の方が馴染み深いのも、当然のことだろう。
「そうですね、わたしもこっち方面にはあまり……」
風月も港区周辺にやって来たのは初めてらしく、物珍しげに周囲を見回している。帝都と端的に言うのは容易いが、その言葉が指し示す範囲は実に広い。こうして機会がなければ足を運ばない場所、というものも当然存在するだろう。
「ほんなら、観光ついでに参拝といこか」
「はい、必勝祈願のお祈りへ行きましょう!」
せっかくだからと、雪と幻朧桜が舞う境内を進む千里と風月。目指す大殿はもうすぐだ。
今の時期は大殿の右隣にある御堂で参拝やお守りの授与を行っているという。それでも立派な佇まいを見せる大殿に一礼を欠かさない千里。
「千里さん?」
「おー、流石有名な、中々立派な寺構え……」
大殿をまじまじと見つめ、それから唐突にしゃがみ込み、参道に手の平をつけると、千里は目を閉じてしみじみと言った。
「霊脈もしっかりしとるわ、こりゃ確かに絶大な霊力宿してて当然やな」
「な、なるほど……?」
流石は本職、千里は目の付け所が違った。何となくすごいとだけ雰囲気で感じ取っていた風月は、千里の見立てに圧倒されるばかり。
「初詣の時期でもないのにこれだけの人で賑わっているのも、ちゃんと理由があったんですね」
周囲の人々を見回しながら、風月は納得したかのように呟く。
「おまっとさん、今度こそお参りに向かおうな」
「では、いざ御堂へ――ですね!」
流石にいつまでも外に居ると身体が冷えてしまうと、御堂の中へと早歩きで向かう二人。
中に入れば、大きな賽銭箱と小さなおみくじの箱が置かれた空間が広がっていた。特定の時期には秘仏の御開帳もあるというが、今月は残念ながら時期が外れたようだ。
お賽銭を投げ入れ手を合わせる人々にならって、千里と風月も目を閉じて手を合わせる。
(「まぁ、今年も色々連れ回される運命やろな……」)
(「この後の戦闘、そして近々来るであろうこの世界での戦争での必勝を願って……」)
思うところはそれぞれあれど、願うはひとつ、必勝祈願。
いついかなる障害が立ちはだかろうと、それを打ち払うご加護を――と願う。
そしてそれは、真摯な祈りに応える形で、いずれ必ずやもたらされることだろう。
「おみくじもあるんやな、俺は自分で今年の運勢占ったからパスで」
「あっ、わたしは引いてないので引きますっ」
硬貨を二枚箱に入れ、風月はおみくじの箱に手を入れる。しばしわしゃわしゃした後、えいっと一枚紙の筒を握りしめて手を引き上げた。
「何や、えらい吟味して引きよったな」
「こう……どうせなら運命の一枚を引きたくって……」
揶揄するように言う千里に、ちょっと気まずくなった風月が言い返しながら引いた『運命の一枚』を開く。そこには、こう書かれていた。
『大吉
旅行 さわりなし』
「千里さん! 大吉です! やりました!」
「ほえー、そりゃ良かったなぁ」
おみくじを千里に向けて見せつけるように突き出しながら、風月が大喜び。
「ちなみに、千里さんはご自分を占った結果はどうだったんですか?」
「ん? ああー……内緒や」
「ええー!?」
何で内緒なんですかあ、などとご機嫌な風月に絡まれながら、千里はやかましいわと鋭いツッコミを入れつつ、二人して御堂を後にした。
御堂を出て視線をまっすぐに向けると、左手側にカフェーというか茶屋というか、そんな風情の建物が見えた。風月が目ざとくそれを見つけると、千里の袖を引いた。
「あっ、あれがきっとカフェーですよ千里さん!」
「俺はそない腹も減っとらんし、抹茶でもあればそれだけ飲もかな」
そんな会話を交えつつ、二人は建物を目指す。軒下近くまで来れば、美味しそうな和菓子の写真がいくつも貼られた立て看板が見えた。間違いない――カフェーだ!
「たのもーです!」
「それはちょっとちゃうんとちゃうの……?」
まるで道場破りのようなかけ声と共に入店した風月の目はキラッキラ輝いており、千里の更なるツッコミを誘うが、この後の展開を考えると、これはある意味道場破りの宣言だったのかも知れない。
先に席を確保してからカウンターに行って注文をする仕組みらしく、女給さんから案内を受けた風月と千里は、二人分の席を見つけて確保してから、いざカウンターへ。
「おお、中々にいいお値段のお抹茶があるんやな。じゃあ俺はこれで」
「千里さん、本当にそれだけでいいんですか? これは戦う前のエネルギー補給ですよ?」
「抹茶のアフォガート……? いや、やっぱ普通の抹茶のままでええわ」
女給さんへ早々にファイナルアンサーをした千里の後に続いた風月は、複数枚置いてあったメニューをしっかりと全部確認しながら、次々と注文を繰り出し始めた。
「抹茶と和菓子のセットって、具体的には何がセットなんですか?」
「はい、本日の和菓子はお饅頭二個をお付けしております」
「じゃあそのセットを一つと、あと焼き菓子にどら焼き、大福にモンブラン……」
あれもこれもとメニューを指差して注文を続ける風月に、女給さんは必死についていく。流石はプロだが、一人でここまで注文する猛者に出会ったことは果たしてあるのだろうか。
「……いや、多くないか……?」
「大丈夫です、この位ならまだ腹ごしらえレベルです」
「……せや、いつものことやったわ……」
千里が肩をすくめ、女給さんは成し遂げた顔で伝票を完成させる。
風月がサアビスチケットを見せると、女給さんは何故か『ああなるほど』といった顔をしたのだが、超弩級戦力とは一体どのような目で見られているのだろうか。
大成功
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御桜・八重
◎
蒼空にそびえ立つ赤い鉄塔。
「帝都タワー、かあ」
いつ見ても立派だねえ。しずちゃんの舞台にもなったのは何話だっけ?
見上げながら歩いているうちにお寺に到着。
うちの実家は神社だけど、同じ帝都を守護する者同士、
お参りしてもいいよね……?
(いつも帝都をお護りしていただき、ありがとうございます。
わたしも頑張りますので、どうぞ力をお貸し下さい)
手を合わせ、しっかりお参り。とその時。
ぐうぅ。
あ、あはは、お腹空いてきちゃったなーっ。
戦う前に腹ごしらえ腹ごしらえ!
赤い顔して茶屋へレッツゴー!
……誰か知り合いに見られてないかな?
んー、寒い日にはやっぱりお汁粉だよねえ♪
ぷはー、元気出た!
あ、お茶もお願いしまーす。
●帝都を護る者たち
幻朧桜が雪と共に舞う空を見上げれば、霞がかった曇天が広がっている。
御桜・八重(桜巫女・f23090)の記憶にあるのは、蒼天にそびえ立つ帝都タワーなものだから、恐らく滅多にお目にかかれないであろう今日のこの空模様は興味深い。
「帝都タワー、かあ」
幼い頃に、親戚一同ではるばる鎌倉から観光に来たことがあったなあ、と。
そびえ立つ赤い鉄塔は、その頃と何も変わらない。変わったのは――自分とその周り。
(「いつ見ても立派だねえ」)
あの頃子供だった自分は、まだ大人とは言えないがそれなりに大きくなり、大切な人もできた。行方知れずになった親友の行方は杳として知れないが、探すことを諦めたりはしていない。
(「シズちゃんの舞台にもなったのは、何話だったっけ?」)
サクラミラージュで国民的人気を誇るアニメ作品『魔法巫女少女 ごきげん! シズちゃん』では、第1期12話で帝都タワーが登場したのを、八重はうすぼんやりと思い出しつつあった。この頃はまだシズちゃんの友人も健在で、まさかあんな展開になるなんて……。
「っ、と」
帝都タワーを見上げながら、つらつらと考え事をしていたら、気付けば寺院の門の前。
「うちの実家は神社だけど、同じ帝都を守護する者同士、お参りしてもいいよね……?」
流石にいつもの巫女服でお寺に参拝するのはちょっとはばかられたので、今日の八重の格好はパリッと仕立てられた帝都桜學府の制服姿。
身分を偽る訳ではないけれど、今の八重は帝都を、世界を護る學徒兵。何も間違ったところはないはずだ。
「よしっ」
両頬を軽く手で叩くと、八重は思い切ってお寺の大きな門をくぐる。神妙な面持ちで参道を真っ直ぐ歩けば、すれ違う人々から軽く会釈をされるのを八重は見た。
(「あれ、もしかしてこの格好、予想以上に目立ってる?」)
帝都を守護する寺院に學徒兵が参拝するという絵面は、一般人から見ればとても立派な行いに見えたのだろう。事実、それだけ大変な任務を、日々こなしている訳なのだが。
ちょっとどぎまぎしながら、八重は大殿に向かって一礼すると、参拝をすべく右隣の御堂へと足を向けた。
お賽銭箱に硬貨を投げ入れ、そっと手を合わせる。
(「いつも帝都をお護りしていただき、ありがとうございます」)
しっかりと、真摯な気持ちでお参りをしていると、何だか気力があふれてくるようだ。
(「わたしも頑張りますので、どうぞ力をお貸し下さい」)
気力だけではない、確かな霊力を感じる。これが、ご加護ということなのだろうか。
――ぐうぅ。
「!」
両隣で八重と同じように手を合わせていた人々が、視線をこちらに向けているのに気がついた。御堂に響き渡ったのは、まぎれもない、八重のお腹が鳴る音だったから。
「あ、あはは、お腹空いてきちゃったなーっ!」
「學徒兵さん、いつも大変だものね」
「御堂を出て左側にカフェーがあるよ、寄っていくとええ」
全力の照れ隠しで声を上げると、両隣の人々がニコニコしながら茶屋の存在を教えてくれた。優しい人たちで本当に良かった。
「ありがとうございます! 戦う前に腹ごしらえ腹ごしらえ!」
顔を真っ赤にしながらも、八重は笑顔で、元気良く御堂を飛び出していった。
御堂の外へ出ると、再び冬空の外気に晒される。
一気に顔のほてりが冷まされるようで、色々な意味で助かる。
(「……誰か、知り合いに見られてないかな?」)
幸いにして、後々まで言いふらしそうな相手には遭遇していない。ラッキーだった。
雪と幻朧桜の中を突っ切るように、八重は寺社併設の茶屋を目指した。
「うう、一気に冷えた……! お邪魔しまーす!」
己の身体をかき抱くようにしながら、八重は茶屋の引き戸を開けると、女給の案内を受けることとなった。お一人様でしたら窓際のカウンター席が空いていますと言われ、素直にその席へと座る。マントを席に置いて確保だけしておくと、注文カウンターへ。
「お汁粉ってありますか?」
「はい、ご用意ございます! お一つでよろしいですか?」
一人で何個も頼む猛者でもいたのだろうか、念のためにと個数を聞かれる八重。一つで大丈夫だと言えば、心なしか女給さんはホッとしたような表情を浮かべた、気がした。
「出来上がりましたら、お席までお持ちします」
「はーい、よろしくお願いします!」
茶屋の中は程よい暖かさで、窓際のカウンター席は雪と幻朧桜の共演が楽しめる。
(「平和だなぁ……」)
そう、この景色だけを見ていれば、今日の帝都はとても平和だ。
だが、予知によれば――この平和は、程なくして乱される。
(「霊力を分け与えていただいたのを、こんなにもしっかりと感じるなんて」)
巫女である八重には、今まさに己の中に宿る力を確かめる力があった。その加護の力には、驚くばかりであると同時に、困難に立ち向かう勇気ももらえた気がする。
「お汁粉でございます、お待たせ致しました」
「わぁ……!」
ことん、と置かれた椀の中には、ほかほかと湯気を立てる美味しそうなお汁粉が。いただきますと両手を合わせて、箸を手に取り早速一口。
「んー、寒い日にはやっぱりお汁粉だよねえ♪」
雪と桜を見ながら、温かいものを食べる喜びたるや。
「ぷはー、元気出た! あ、お茶も飲んじゃおう!」
せっかくだからと、八重は高級茶葉のお茶も追加で注文するのだった。
大成功
🔵🔵🔵

和泉・広光
◎/連携可 SPD判定
妻のエツコと共にお参り。(エツコは悪霊化の影響で言葉を発せません)
「思えば、こうして2人で出かけるのも久しぶりか」
すでに死んでいる自分達が仏に祈ってもいいものなのか迷いつつ、この戦いでの勝利とどこかで生きているはずの娘との再会を願う。
社務所で必勝祈願の御守りを授与してもらう途中、傍らに浮かぶエツコが何かを指さす。見ればおみくじがそこに。
「引きたいのか?」(頷くエツコ)
自分とエツコの分を引く(内容はお任せします)
そして大事なことに気づく。
「はっ、もしやこれはデエト!?」(嬉しそうなエツコ)
●全てを受け入れる仏様
仕立ての良いモダンな洋服に身を包んだ壮年の男性が一人、寺社の境内を歩く。
今日の帝都は珍しく雪模様で、幻朧桜との共演が美しい日でもあった。
男性――和泉・広光(デッドマンの懲罰騎士・f41286)は、実は一人で参拝に来たのではない。その傍らには広光の妻であるエツコも、そっと寄り添っていたのだった。
「思えば、こうして二人で出かけるのも久しぶりか」
「……」
悪霊化の影響で言葉を発することができないとしても、エツコは身振り手振りで感情を伝えることができる。広光の言葉に、エツコはそっと頷いてみせた。
「
生きていた頃は、こんなにゆっくりとした時間も取れなかったからな……」
言葉の端々に滲むには、悔恨の情か。広光もまた、一度は死した身である。今こうして死から蘇生して生まれ育った地に舞い戻った経緯は複雑なれど、ある意味第二の生であるこの一時を、どんな形であれ愛妻と共に過ごせるのは素直に喜ばしいことであった。
だが、それでも迷いはある。
『すでに死んでいる自分達が、仏に祈ってもいいものなのか?』
きっと、その懸念は杞憂なのだろう。許されないものならば、寺社の門をくぐった時点で何らかの力が働いて、夫婦共々物理的に弾き出されるくらいのことは起きていただろう。
だが、今こうして境内を歩くことを許され、立派な大殿は広光とエツコの前に静かに佇んでいる。それこそが答えに違いないと、二人は顔を見合わせると、大殿に向かって深々と一礼した。
今の時期の参拝は、向かって右隣の御堂で受付をしているらしい。エツコを伴って、広光は雪と桜を払うこともせずに御堂へと向かった。
初詣の時期を過ぎても、霊験あらたかなこの寺社には参拝客が多く訪れる。人間は当然として、桜の精と思しき人影や、包帯をぐるぐる巻きにした怪奇人間らしき人影も見える。どうやら、影朧さえも転生で受け入れるサクラミラージュらしく、この世界の神社仏閣は種族の隔てなく全てを迎え入れてくれるらしい。
「――良かったな、エツコ」
「……(こくり)」
だから、デッドマンと悪霊が連れ立ってやって来たとしても、それさえも受け入れる。
安心してお参りをして、霊力を分け与えていただくことができそうだった。
(「この戦いでの勝利と――叶うなら、どこかで生きているはずの娘との再会を」)
瞑目して手を合わせる広光と、同じように祈るエツコの願いは、いつかきっと聞き入れられることだろう。前者は遠からずして、後者は――いつの日か。
「おや、寺務所も併設されているのか」
お参りを済ませた広光が人の気配を感じて右手の方を見ると、このお寺の目玉である勝運祈願のお守りを求める人々が集まっているのが見えた。
「私達も授与していただこう……ん?」
「……(すっ)」
お守りを選ぶ人々に混ざろうとした広光の傍らで、エツコが何かを指差した。視線を向ければ、そこには「二百円をお納め下さい」と書かれたおみくじの箱があった。
「引きたいのか?」
「……(こくり)」
そうか、そうか。特に
女子はこういうのが好きだものな。
「分かった、なら……」
おみくじの箱のそばに置かれた小さな箱に入れるは、
四百円分の硬貨。つまりは――自分とエツコの、二人分だ。
「先に、おまえの分を開こうな」
きっと、楽しみにしているだろうから。エツコのおみくじを先に開いてやる広光。
『中吉
待人 来たる 早し』
この結果はと、エツコのみならず広光も息を呑む。二人の待ち人とは、他ならぬ愛娘だ。信じて良いのならば、遠からぬ未来に――巡り会えるかも知れない。
エツコが、広光の肩にそっと手を置くしぐさをした。そちらも早く開け、ということだろうか。エツコのおみくじの結果に目をまあるくしたままだった広光は、気を取り直して自分のおみくじを開いた。
『吉
争事 自分勝手な事は
凶』
「……なるほど、心しておかねばならないね」
「……(こくこく)」
元々広光は法律家であり、懲罰騎士である今でもその精神は揺るがない。オブリビオンとの戦いにおいても、身勝手な理念で相手を嬲るような真似は断じてしない。故に、このおみくじの結果は、今まで通りであれ――ということなのだろう。
「引いて良かったよ、ありがとう――じゃあ、改めてお守りを選ぼうか」
エツコを伴い、お守りが並ぶ棚へと向かう広光。勝運祈願のお守りには真っ黒に染め抜かれたものと、左右の柄がひとつひとつ異なる白を基調としたものと二種類があり、広光は迷わず黒一色のものを選んだが、エツコはどうやら白――雅柄が欲しそうである。
「どれにするか、選ぶか?」
「(こくり)」
「これなんかどうだ、桃色の割合が多くて、おまえらしい――」
「(こくこく)」
エツコは、いつになく嬉しそうな様子で、広光が手に取ったお守りを指差した。
こんな風に仲睦まじくお守りを選ぶさまは、まるで、そう――。
「はっ、もしやこれは……デエト!?」
「……(ふふっ)」
ようやく気付いたかと、エツコはご満悦な様子で広光に寄り添う。
広光は己の朴念仁ぶりに軽く頭を抱えつつも、貴重な一時を与えてくれた仏様に感謝しながら、お守りを二つ授かるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
あたし正直カミサマなんて信じてないし、何かに祈るとかいうガラでもないけれど。
せっかく実際のご利益が確定してるんだし、やらない理由はないわよねぇ。
来たついでだしおみくじも引いておきましょうか。
どっちかというと、あたし個人としてはお茶屋さんのほうが興味あるわねぇ。
どーせこの後荒事になるのがわかってるんだし、少しくらいのんびりしてもバチ当たらないでしょ。お茶とおすすめのお菓子見つくろってもらってぽけ-っとしてましょうか。…最終的には端から順に全部頼んでそうだけど。
…わらびもち、置いてるかしらねぇ?
●お参りすることに意義がある
ティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)を知る者は、彼女が『寺院に初詣に行く』と聞いただけで、それをにわかに信じることはできなかっただろう。
グリモア猟兵だってそうだ、転移の直前に『ホントに行くの?』などと失礼なことを聞いたくらいだから。
「あたし正直カミサマなんて信じてないし、何かに祈るとかいうガラでもないけれど」
ティオレンシアはそう言いつつも、続いてこう思惑を明かしたという。
「せっかく実際のご利益が確定してるんだし、やらない理由はないわよねぇ」
それはそう。お参りさえしておけば間違いなく帝都タワーを長きにわたり守護してきた寺院の霊力を分け与えてもらえるのだから、やっておいて損はないというもの。
実に合理的な判断のもと、ティオレンシアは雪模様のサクラミラージュの寺院にやってきたのだった。
「……?」
特に敬虔な気持ちを抱いて足を踏み入れた訳ではないのに、不思議な温かさを感じたのは何故だろう。寺院という場所柄による雰囲気酔い――にしては、親和性が高い。
(「アレかしら、あたし、ゴールドシーン経由で梵字とか行使してるからかしらねぇ」)
自然と、神仏と馴染み深い関係になっていたのかも知れない、などとふんわり考えつつ、ティオレンシアはどーんとそびえ立つ大殿を目指す。その背後には、今回狙われるとされる要所・帝都タワーの姿もあった。
(「影朧一体でへし折れるものなのかとも思うけど、備えておくに越したことはないわよねぇ」)
今は門戸を閉じている大殿に向かって一礼すると、ティオレンシアは参拝を受け付けているという御堂へと移動する。雪と幻朧桜が共に舞う中、こんな時期のこんな天気だというのに、参拝客がそれなりに多いことに内心驚きつつ、御堂へと入っていった。
大きな賽銭箱と小さなおみくじの箱が置かれた堂内で、硬貨を用意して参拝の順番待ちをするティオレンシアは、端から見ればまるで何かを一途に祈念する女性のように見えただろう。ユーベルコヲドの力で礼儀作法やコミュ力といった能力が爆上がりしているからに他ならないが、しゃんとした立ち居振る舞いがさらにそう感じさせるのかも知れない。
程なくしてティオレンシアに順番が回ってきた。硬貨を賽銭箱に投げ入れ、手を合わせて瞑目する。願うのは、当然この後の戦いに於ける必勝だ。
(「……やっぱり、絶大な霊力っていう話は本当みたい」)
魔道の才能は絶無だと自ら語るティオレンシアをしてそう言わしめる力が、身体中に流れ込んでくるのを感じた。
帝都を護らんとする者への、せめてもの加護ということなのだろうか。これは、後の戦いに於いても期待ができそうであった。
「来たついでだし、おみくじも引いておきましょうか」
参拝は皆がするけれど、おみくじを引く人は半分程度のようだった。時期柄もあるのだろうが、こちらはスムーズに二百円の硬貨を入れて、引き替えに一枚えいやっと引く。
「まあ、参考程度にはなるでしょ……ん?」
おみくじを開いたティオレンシアは、思わぬ結果に言葉を呑んだ。
『大吉
商法 吉大損なし』
思い出すまでもなく、ティオレンシアの職業はバーテンダーだ。当然、客商売の部類に入る。いくら猟兵稼業で頑張ろうとも、店の方で利益が出なければ経営を続けていくことだって難しい。
その運勢が、大吉と出た。どうやら、損をせず儲けもたくさんあるらしい。
「都合のいい所だけ、信じちゃおうかしら」
ティオレンシアは、引いた大吉のおみくじを、そっと懐にしまい込んだ。
「どっちかというと、あたし個人としてはお茶屋さんのほうが興味あるわねぇ」
御堂を出て少し真っ直ぐ歩くと、左手側に風情のある小屋が見えた。のぼりも立て看板も出ているし、きっとこれが寺社併設の茶屋のことなのだろう。
「どーせこの後荒事になるのがわかってるんだし」
引き受けたお仕事のことはしっかり忘れない、デキる女ことティオレンシア。
「少しくらいのんびりしても、バチ当たらないでしょ」
茶屋の引き戸を開けて入店すると、そこそこの人で賑わっていた。席の心配が一瞬脳裏をよぎったが、幸いにして窓際のカウンター席が空いていた。
そこを確保してから、注文カウンターでメニューを見ながらオーダーをする仕組みらしい。ティオレンシアは複数枚あるメニューを一通り確認すると、女給さんに尋ねた。
「おすすめのお菓子ってあるかしらぁ? お茶と一緒にいただきたいんだけど」
「それでしたら、当店ではモンブランをオススメしております! 今の時期ですと、熊本県産の希少品種を使用した生搾りモンブランが期間限定で……」
「ありがと、じゃあそれをお願いするわぁ」
「かしこまりました! お席で少々お待ち下さい」
女給さんがサアビスチケットを見てからペコリと頭を下げ、奥へと下がっていく。ティオレンシアも席に戻り、ちょうど窓際ということもあり、しんしんと降り続ける雪と幻朧桜の共演を眺めていた。
だが、考えるのはこれからの戦闘のこと。最終的には帝都タワーでの決戦になるというが、鉄塔への着雪はどう影響するのか? 霊的な加護とは、どれだけの効果が得られるのか? 対処すべきことは多い。そのためにも、今のこの平時に英気を養っておかなければ――。
「お待たせ致しました!」
運ばれてきたモンブランは、世界によっては『映える』という表現がぴったりな見た目をしていた。こんもりと盛られた中身をすっぽり包むかのように、文字通り生搾りされた栗の繊細な糸が何重にも折り重なり、崩してしまうのが躊躇われるほどだった。
「お、思ったより量があるのねぇ……どれ」
さくりとフォークを入れてみると、生クリーム、クルミのキャラメリゼ、スポンジケーキといった豪華メンバーが姿を見せる。一口ぱくりと頬張れば、口いっぱいに広がる幸せの味。これはこの先も頑張れそうだ。
ぱくぱくとモンブランを食べ、時折お茶でお口直しをしつつ、ティオレンシアはそれでも次なる獲物に思いを馳せる。先程見たメニューには、まだまだたくさんの甘味があった。
「……わらびもち、置いてるかしらねぇ?」
本日二度目に健啖家の襲来であることに、女給さんは、まだ気付いていない――。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『悲惨な記憶の追随体験』
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POW : 悲惨であっても心を鬼にして体験する
SPD : あくまで他人の記憶だと割り切って体験する
WIZ : 自分のように感情移入しながらも希望を信じて体験する
👑7
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●帝都、動乱
帝都国有鉄道、浜松町駅。
帝都タワーからは徒歩15分とやや遠いが、利用者が多い駅として知られている。
途中、猟兵たちが霊力を分け与えていただくべく訪れた寺社もあることから、参拝も兼ねてこのルートを選ぶ人も多い。
そんな帝都の大通りを、何やら不穏な気配を漂わせた、一人の青年が歩いていた。
眉目秀麗な顔立ちに、どこか神秘的な衣装を纏ったその青年は、ゆっくりとした足取りで、しかし確かに、帝都タワーを目指していた。
『……ねば』
何事かを、呟きながら。
そして――不穏な気配を振りまきながら。
『今度こそ、護らなければ』
それは裏返せば、護れなかったことへの悔恨の念。
愛する人、家族、子供、ペット、それは人により様々だろう。
やむを得なかった事情もあっただろう――けれど。
ほんの少しの心の棘が、青年の気配にあてられるかのように、人々の中で増幅させられる。
そして、帝都タワーへの道のりは、あっという間に苦しむ人々がのたうち回る地獄絵図と化したのだった。
「大丈夫ですか!? どこか苦しい所は
……!?」
猟兵たちが現場に駆けつけ、想起させられた失ったものへの悔悟と無念の悲惨な記憶に苦しむ人々を抱え起こす。すると、人々に触れた猟兵の脳裏に、触れた人々が感じている苦しみが、己のことのように流れ込んでくる!
「ど、どうなって
……!?」
猟兵によっては、それに刺激され、自ら失ったものへの記憶が、悲惨なものとして想起させられるかも知れない。
影朧の力によって苦しみに陥った一般人を励ましながら、自らもそれを乗り越えるのは、困難かも知れない。
けれども、今はそれこそが求められる。
自らは心を強く持ち、人々を救うことに専念するか。
自らも苦難に耐えながら、人々と共に悲惨な記憶を克服するか。
猟兵たちを阻む最初の障害を、どうか、乗り越えて欲しい。

和泉・広光
◎ WIZ判定
「ここは―」
あの夜は娘の16歳の誕生日で、自宅には珍しく家族全員揃っていた。
贈り物の日記帳を渡し、大事な話を切り出そうとしたその時だった。
廊下から爺やの叫び声と物音が響く。駆けつけるとそこには影朧の群れと爺やの死体。
「逃げろ!」
妻子を逃がそうと抵抗するも、ただの人間だった広光にはなす術もない。
どこからか火の手が上がり、瞬く間に周囲は火の海と化した。
広光の目の前ではエツコが影朧に殺されようとしていた。
「やめ…ろ…」
その時、手に紫煙銃が触れた。
「そうだ、あの時とは違う!」
紫煙銃で影朧を撃ち抜く。と、幻影が晴れる。
傍らには心配そうなエツコ。
「大丈夫、今の私には守る為の力がある」
●あの時と、これからと
騒ぎを聞きつけて現場に真っ先に駆けつけたのは、和泉・広光とその妻・エツコだった。
(「一般人に被害が出ているというなら、なおのこと捨て置くことはできない」)
せっかくの『デエト』の最中ではあったが、事態を知るや否やエツコと顔を合わせ、同時に頷くと、寺院を飛び出した広光の行動力は素晴らしいものだった。
「これは……!」
冷たい路地に、無辜の人々がうずくまり、あるいはそれさえもかなわず横たわり、皆一様に頭を抱えながら何事かうめいている。
「許してくれ……私があの時、あんなことを言わなければ……」
何事かを後悔する男性。
「どうして……? どうしてあなたが死ななければならなかったの……?」
誰かに先立たれたかのような女性。
これが全て、一体の影朧によってもたらされた事態だというのか? 話には聞いていたが、何という影響力だろう。
「大丈夫ですか、気を確かに」
広光はエツコと共に近くにいた男性のそばに駆け寄ると、震えるその身体に触れた。
「……っ」
それと同時に、広光の意識に靄のようなものがかかるのを感じ――。
――ざ、ざざ。ざ――。
「ここ、は――」
意識を取り戻した広光は、帝都に構えていた屋敷の広間に居た。
時刻は夜、上質なしつらえのソファとテーブルには、自分以外にエツコと、その日十六歳の誕生日を迎えた愛娘の姿があった。
(「そうだ、この日は珍しく家族全員揃っていて」)
それにしても、この状況は何だ。
過去の記憶を、追体験させられているような。
(「この後私は、サエコにこの日記帳を手渡して」)
己の手には、愛娘――サエコに贈ろうと用意していた日記帳があった。心なしか震える手でそれを渡せば、無邪気に喜ぶサエコ。ああ、間違いない、これは。
「サエコ、父さんから大事な話が――」
――がしゃあん!!
「ひええぇぇえ!」
何事かと立ち上がる広光たち。妻と娘を制し、率先して物音と悲鳴が響いた廊下へと飛び出していけば、そこには影朧の群れと、長年和泉家に尽くしてくれた爺やの変わり果てた姿があった。
「逃げろ! エツコ、サエコ、逃げてくれ!!」
そうだ。逃げるんだ。でなければ、殺される。
「くっ
……!?」
爺やを手にかけた影朧たちが、次に目を付けるのは当然、広光だ。
「お父様!」
「あなた!」
視界の端には、広光を案じて廊下に出てきた妻子の姿が。
「くそっ、来るんじゃない! 行かせない! 妻と娘だけは……!」
必死に抵抗を試みるも、迫る影朧たちの前に、
一般人である広光はなす術もなく後退を余儀なくされる。
廊下の燭台が倒れ、蝋燭の火が絨毯に燃え移り、屋敷はあっという間に炎に包まれる。
(「ああ、この記憶は」)
広光は目を見開いた。眼前には影朧たち、周囲は火の海、逃げ場を失った妻のエツコがその毒牙にかかろうとしている。
「やめ……ろ……」
もはやこれまでか、そう思った時だった。広光の右手に、硬質な何かが触れた。
視線だけを向けると、それは間違いなく、
今の広光が愛用している紫煙銃!
「そうだ」
咄嗟に紫煙銃を構え、エツコに迫る影朧を狙い違わず打ち抜く!
「あの時とは――違う!」
広光の黒い瞳には強い意志の輝きが宿り、その気迫は幻影たる炎の海ごと、影朧たちを一掃したのだった。
「……」
「……エツコ」
紫煙銃を下ろし、へたりと膝をついた状態で、広光は現実へと舞い戻ってきた。その視界に最初に飛び込んできたのは、心配そうに夫の顔を覗き込む妻の憂い顔だった。
「大丈夫」
まるで大丈夫ではなさそうな顔で、広光はそれでも言った。
「今の私には、守る為の力がある」
あの時は、守れなかったけれど。
これからは、何があっても、守りたいもの全てを――守ってみせる。
「さあ、行こうエツコ。まずは人々をこの悪夢から救い出さなくては」
「……!(こくり)」
超弩級戦力、和泉・広光は、妻と共に地獄と化した浜松町駅前を駆け抜ける――!
大成功
🔵🔵🔵
人型影朧兵器第壱号・仮面イェーガー
始まったか…ッ!
今は苦しむ人達を助けなければッ!
くっ、人々の悲惨な記憶が流れてくる!?
先ずは自分の心を落ち着けないと。
携帯珈琲セットを用意して…【珈琲休憩】。
珈琲で一服して心を落ち着けるぞ。
その後、次々珈琲を淹れていき苦しむ人達に配っていく。
さぁ、これを飲んで。心が落ち着く癒やしの香気で包まれる。気分が落ち着いたらすぐにここを離れるんだ。
動けそうにない人は僕が担いでその場から離すぞ。
数が多い…。やはり元をどうにかしなければ被害が広がるばかりか?
【アドリブ歓迎】
●人々の心を癒すのは
「始まったか……ッ!」
寺社併設の茶屋で三色団子をもぐもぐしていた人型影朧兵器第壱号・仮面イェーガーは、浜松町駅前からここ帝都タワーへと至る道中で突如発生した騒動を聞きつけて、急いで団子を完食すると茶屋を飛び出していった。
「今は、苦しむ人達を助けなければッ!」
駅の方へとさかのぼるように向かっていけば、見るに堪えない惨状がそこには広がっていた。皆、これから寺社へお参りをしてご利益を得たり、帝都タワーに登って観光を楽しんだりするはずだったのに、どうしてこのような目に遭わなければならないのか!
許さん! 変身! という勢いで、人々へと駆け寄る仮面イェーガー。
「もう大丈夫だ、しっかりしてくれッ……ううッ!?」
――ごめんなさい。
あの時手を離してしまってごめんなさい、坊や。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――。
「くッ……人々の悲惨な記憶が流れてくる!?」
苦しんでいるさまを捨て置く訳にも行かず、かといって身体に触れればそれだけで対象を苦しめている元凶である苦痛の記憶が、まるで己のことのように流れ込んできてしまう。
「ま、まずは自分の心を落ち着けないと」
このまま何の対策もしないまま、気持ちだけで救助に向かっては、それこそミイラ取りがミイラになってしまいかねない。仮面イェーガーは持参した携帯珈琲セットを用意して、焦る気持ちを抑えながら、湯を沸かして丁寧にハンドドリップで一杯の珈琲を淹れた。
「ふぅ……自分で言うのも何だが、やはり僕が淹れる珈琲は美味しいな……」
ざわついた心が一気に静まっていくのを感じながら、仮面イェーガーは珈琲を飲み干した。準備は万端、自らが淹れる珈琲にも改めて自信が持てたところで。
「この珈琲を飲めば、人々の心もきっと穏やかになるはずッ!」
そう言うと、これまたどこから用意したのか、試飲用と思しき小さな紙コップを沢山用意した仮面イェーガーが、追加で淹れた珈琲を手際良く用意して、苦しみうめく人々を助け起こしながら次々と配っていく。
「さぁ、これを飲んで」
「……っ、は、はぁ……この、香ばしい匂いは……?」
「あったかい……何だか、落ち着くし……」
果たして、仮面イェーガーのユーベルコヲド【
珈琲休憩】の効果は絶大であった。手ずから淹れた珈琲はお世辞抜きでとても美味しく、立ちのぼる癒やしの香気はどんなに心乱れた人の気持ちをも穏やかにさせてくれる。
「昔あった悲しいことを思い出していたはずなのに、今はこんなに心が凪いで……」
「ああ、何だか眠くなってきた……このまま眠ってしまいたい……」
おっと、効果てきめんすぎてその場でうとうとし出す人が出て来てしまったぞ!
「よし、気分が落ち着いたらすぐにここを離れるんだ。なるべく遠くへ避難して」
「あ、ありがとう……そうさせてもらうわね」
「君は……動けそうにないな。よし、僕が担ごうッ! 近くの建物の中まで避難するぞッ」
「すまない……助けてもらってしまって、何のお礼もできそうにない……」
仮面イェーガーに担がれて、申し訳なさそうに弱々しく声を出す男性に、構わないと仮面イェーガーは笑う。
「人々の笑顔こそが、僕にとっては最高の礼となるッ! だから心配しなくていいッ!」
「……せめて、君の名を……」
そう言って、かくんと意識を失ってしまった男性に向けて、仮面イェーガーは届かなくても構わないとばかりに、告げた。
「僕の名は猟兵……仮面イェーガーと名乗らせてもらうッ!」
飛蝗のヒーローの活躍によって、初動の対策はほぼ完璧に行われたと言っても良いだろう。伝染病のように被害が拡大するおそれは、これで防がれたと考えて良いはずだ。
あとは、既に被害を被ってしまった人々への対処だが――。
「数が多い……、やはり
元をどうにかしなければ、被害が広がるばかりか?」
仮面イェーガーの見立ては正しかった。今行っていることは、対処療法に過ぎない。
帝都タワーに向かったという、事件の元凶である影朧を何とかしなければ。仮面イェーガーは、帝都タワーの方を一度振り返ると、さらなる人々を救うべく、再度珈琲を淹れる作業に戻るのだった。
成功
🔵🔵🔴
雪華・風月
◎【霊剣】
なるほど、通っただけで巻き込む…中々の脅威ですね
わたしにそういった想起されるような失う経験はありませんが
せめて寄り添い励ましを…
柳緑花紅の『狂気・呪詛耐性』は効くでしょうか?
はい、貴方のそれを失った悲しみ、辛み、怒り…それは貴方だけの物
理解できるなど烏滸がましいことは言えません
ですが、そうやって思えるほどの強い想いをその人に持っていた
それは分かります
その人は貴方がそうやって後悔に苛まれることを良しとしますでしょうか?
今一時で良いですその悲しみを断ち切り立ち上がりましょう
六道銭・千里
◎【霊剣】
悲惨な記憶の想起な…
俺はそういった失う経験のないからな…
奥義『斉符慈祓・浴費凶歓』
癒やしの霊力、効くんかは知らんけどな…試さんよりはまっしやろ
故人を想うとその人の周りで花が降るって話があってな
あんたがその人を思い出す度にその人には分かるっちゅうことや
亡くなったことを悲しむのは当然や、その出来事に関わるナニかがあったんやったら尚更な
けれどその人に届ける花がいつも悲しみの色に染まってたらその人も悲しいやろ
けれど
悲しみの裏には同じだけ楽しい、嬉しい…そういった想いもあるやろ
今はそれに意識を傾けて笑ってそのこと話してみ
綺麗な楽しい花の方が仏さんも喜ぶわ
●貴方への手向けは
一時は大混乱に陥った浜松町駅前の大通りは、徐々にではあるが人々が落ち着きを取り戻し、近隣の建物の中に避難するなどで、致命的な混乱を避けることができた。
だが、まだまだ救いの手が足りない。うずくまり、あるいは横たわり心の傷口を無理やり開かされた人々が、いまだに頭を抱え、あるいは胸を押さえてうめき続けているのだ。
「なるほど、影朧が通っただけでここまでの対象を巻き込む……」
茶屋でたらふく食べて、なおも注文をしようとした最中に事件を聞きつけ駆けつけた雪華・風月が、冷静に状況を分析する。
「中々の脅威ですね」
「悲惨な記憶の想起、な……俺はそういった失うっつう経験がないからな……」
あんたは? と言いたげな六道銭・千里の視線に、風月も首を横に振る。
「わたしにも、そういった想起されるような失う経験はまだありませんが……」
故に、二人とも苦しむ人々の中でも影響を受けずに立っていられる訳なのだが。
「せめて、寄り添い励ますことなら、できるでしょうか」
そう言って、風月は腰の「雪解雫」ではなく背中の「柳緑花紅」を鞘ごと下ろす。赤い柄の大太刀は、妖刀ではあったが風月のことを認めてその性質を変え、今では狂気と呪詛を跳ね返す力を宿すに至った。この大太刀の力ならば、影朧の幻影に対抗できるだろうか?
意を決し、風月は柳緑花紅を握りしめ、傍らでうめく男性の身体にそっと押し当てた。
「……っ!」
刀越しに、少し触れただけなのに、男性が今まさに思い出している過去の離別の記憶が流れ込んでくるではないか。
『僕は……なんて酷いことを言ってしまったんだ……』
――ざ、ざ、ざ。
『君を傷つけるつもりなんて、なかったのに……君を追い詰めてしまったのは、僕だ……』
――ざ、ざざ。
うすぼんやりと見えるのは、背中を見せて去って行く女性の姿。
それは突如、高い所から落下するかのように、スッと姿を消してしまった。
『ああ……っ!!』
「しっかり……!」
半分は男性を鼓舞するべく、もう半分は己に言い聞かせるように。風月は柳緑花紅に持てる霊力を流し込み、ユーベルコヲド【
武刃息災】を発動させる。
すると、脂汗にまみれて瞳孔が開ききっていた男性の表情が、すうっと穏やかなものに変化していく。大太刀の呪詛返しの力が、男性を苛んでいた呪いを解除してくれたのだ。
「……あ、れ……」
「落ち着きましたか?」
乱れた息を無意識に整えながら、男性は風月の方を見た。酷く、やつれた顔をしていた。
「君が、助けてくれたのか……ありがとう」
「いえ、貴方が感じた悲しみ、辛さ、怒り……そういったものは、貴方だけのもの」
礼を言われるほどのことではないと、風月は感謝の言葉に対してかぶりを振った。
「理解できる、などと烏滸がましいことは言えませんから」
「……いいや、君は學徒兵だろう? 僕たちはいつも、助けられてばかりだ」
風月の立ち居振る舞いや施した超常から、男性は風月の正体を見抜き、やつれた顔ながら微笑んでみせる。余程苦しかっただろうし、だいぶ楽になったのだろう。
「ありがとうございます、貴方が失った人にどれだけ強い想いを持っていたかは、しっかりと伝わってきたので、分かるつもりです」
「はは……これは、お恥ずかしい」
男性は弱々しく笑う。
好いた人との仲は良かったのに、ほんの些細なことで喧嘩をしてしまったのだと。
そして運悪く事故に遭い、好いた人はそのまま帰らぬ人になってしまったという。
「最後の言葉を、あんな風にするつもりなんて、なかったんだ」
一度こじ開けられた傷跡は、なかなか癒えることがない。男性は、ぽろりと涙をこぼす。
「事故だったかどうかも分からない、もしかしたら彼女は僕の言葉のせいで」
「――その人は、貴方がそうやって後悔に苛まれることを、良しとしますでしょうか?」
男性の言葉を半ば遮るように、風月はやや語気を強めて、尋ねた。
「……彼女、は」
ぽつりと、男性が呟く。
「少なくとも、僕もろとも不幸になればいいだなんて、考えないだろう」
そんな
女じゃあ、なかったと。
「なら、今一時で良いです。その悲しみを断ち切り、立ち上がりましょう」
風月は、男性に向けて手を差し伸べた。それは、雪と桜が舞う中、とても眩しく見えた。
「……そう、するべきなんだろうね」
男性はゆっくりと、けれどしっかりと、風月の手を掴み、立ち上がった。
一方の千里は、苦しむ人々のただ中に立って、冥銭をじゃらりと掴み取る。そして、天高くその手を掲げると、難しい顔をしながらも超常を発動させた。
「癒やしの霊力、効くんかは知らんけどな……」
――【
奥義『斉符慈祓・浴費凶歓』】!
「試さんよりはまっしやろ」
ぶわっと広がる破魔の力を帯びた冥銭の嵐が、苦しむ人々の頭上に巻き起こる。淡い光を伴って人々に降り注ぐ霊力は、確かに癒やしの力をもたらしていた。
「……う、うう……」
「何が……起きて……?」
どうやら、人々を苛む苦痛の記憶そのものが薄れてきたのだろう。比較的症状の軽かった者から、自力で呪縛を振り払って現実世界に意識を引き戻していく。
「故人を想うと、その人の周りで花が降る、って話があってな」
千里はまるで説法を行うかのように、朗々と語り始めた。
「あんたらがその人を思い出す度に、その人には分かるっちゅうことや」
「……」
「……」
冥銭は雪と幻朧桜を巻き込んで、宙を舞い続ける。
この世界には常に、幻朧桜の花弁が舞っている。ならば、影朧の転生に深く関わるように、この花には居なくなってしまった人々の想いが乗っているのかも知れない。
千里は、更に続けた。
「亡くなったことを悲しむには当然や、その出来事に関わるナニかがあったんやったら尚更な」
正気を取り戻し、それでもなお涙を浮かべる人。
千里の言葉を耳にしながら、必死に幻覚と戦う人。
一気に全ての人をすくいきることはできないが、千里の言葉は、確かに届いている。
「けれど、その人に届ける花がいつも悲しみの色に染まってたら――」
届けられた人は、どう思う?
「……かな、しいと……」
「思うの、かな」
所々から上がった声に、千里はただ頷く。
「なあ、悲しみの裏には、同じだけ楽しいとか、嬉しいとか……そういった想いもあるやろ」
思い出して欲しいと、千里は訴えかけた。影朧の影響で塗り潰されてしまった、
良かったことの記憶。
「今は、それに意識を傾けて、笑ってそのこと話してみ」
優しい光が降り注ぐ。それは何て温かく、心を癒してくれるのだろう。
それ以上に、光のただ中に立って、温かい言葉をかけてくれるこの青年は――。
「綺麗な楽しい花の方が、仏さんも喜ぶわ」
まるで、冥府で実際に死別した人々と触れ合ってきたかのように語るのだ。
「そう、ですね……」
「生きなければ……あの人の分まで、前を向いて……」
ひとり、またひとり。
ゆっくりと、自分の足で、立ち上がる人々。
冥銭の嵐はいつの間にか消え失せ、降るのは雪と幻朧桜ばかりだけれど。
千里の力と言葉に救われた人々は、しっかりと、前を見据えていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
神臣・薙人
葛城さん(f35294)と
あの影朧は何を…誰を、護りたかったのでしょうか
知るためにも追い付かなくては
苦しむ人を助け起こした時想起させられるのは
私自身の別離の記憶
私がまだ、ただの中学生だった頃
ゴーストに襲われて殺された
僕の従妹の記憶
僕は、あの子が好きだった
だから今でも思うのです
僕が、死ねば良かったのにって
でもそれは駄目なんです
私は助けて貰ったから
だから、ちゃんと生きなくちゃ
葛城さんの声で我に返って
大丈夫ですと頷いて
別離の記憶に苦しむ人には
ゆっくり語りかけるように話します
貴方の愛したひとは
貴方がそうやって苦しみ続ける事を望むひとでしたか
私はそうは思いません
好きな人には笑っていて欲しいから
本当に悲惨な別離であったとしても
貴方を苦しみで縛り付ける事など
望んではいない筈です
だって、そんなに苦しむほど大好きだったのでしょう?
きっと愛するひとも同じ気持ちだと信じましょう
落ち着いた人から安全な場所へ移動し
桜の癒やしを使用
今はゆっくり休んで下さい
葛城さんの声にはしっかりと応えを
はい、止まる訳には行きません
葛城・時人
ダチの神臣(f35429)と
屍累々って感じだ
仮に心が死ねば身体も後を追う
「やらせない」
全速で神臣とまず一人目を
「しっかりして」
桜は永遠でも二月
倒れていたら冷え切ってしまう
抱き起こすと…ああ、また視える
喰い殺された家族は勿論
一度は戦争死すら脳裏を過った絶望が
次々と俺を圧し潰そうと
でも
「…
否!」
一声で全力で振り払う
今は過去を視る暇はない
傍らの神臣の瞳が遠く暗い
明らかに彼岸の狭間を
喪った者を視ているのが解る
倒れた人々と神臣
今此処に居る護るべき者の方が大事
自分に囚われて負ける訳にいかないんだ
「神臣!」
名を呼ぶと良かった…瞳がこの世を向く
大丈夫と分かって頷きあい
全力で救護者へ二人で相対しよう
「大丈夫だよ…その哀しみは今じゃない」
落ち着けるよう優しく
大人の姿なのも功を奏するかも知れないね
落ち着いてくれたら一先ず大丈夫そうな所へ
座らせて護光織衣詠唱
少しでも癒えるよう護れるよう
「次OK?」
神臣に尋ねると力強い応えが
「よし!」
道は続き人はまだまだ居る
何を思い出しても俺達は往く
護るべきを護る為に
●波濤を越えて
浜松町駅前の惨事は、徐々に、しかし確実に解決へと近付いていた。
悲惨な記憶の想起の程度が比較的軽かった者は、超弩級戦力たちのユーベルコヲドの手助けを借りて自力で正気を取り戻し、また建物の中に居たなどの理由で難を逃れた者は、超弩級戦力たちの手で運び込まれてきた人々を休ませたり、必死の対応に追われていた。
だが、まだ完全に解決がなされた訳ではない。
影朧がもたらした悲劇の範囲は広く、いまだ苦しむ人々が残されている。
「――屍累々、って感じだ」
駆けつけた葛城・時人が、周囲を見渡して呟いたのも無理はない。いまだに苦しんでいる人々は、過去実際に辛い経験をしたか、余程感受性が豊かなのか、自力では囚われた記憶から逃れられない者ばかりだからだ。ある者は頭を抱え、ある者は顔を覆い、誰もが涙しながらうわごとのように謝罪の言葉を繰り返すばかり。
護りたかった。
護れなかった。
(「あの影朧は何を……誰を、護りたかったのでしょうか」)
時人と共に現場へとやって来た神臣・薙人は、これだけの影響力を及ぼした影朧の力と情念の強さを思う。
(「知るためにも、追い付かなくては」)
この大惨事をもたらした強力な影朧とて、薙人の癒やしによって転生を受け入れる可能性は十分あり得る。ただ戦うより前に、その胸中を知りたいと思うのは当然だ。
そのためにも、今は眼前で苦しむ人々を救わなければ。時人と薙人は顔を見合わせる。
「やらせない」
「ええ」
そう言って、二人それぞれ目に入った範囲で一番苦しそうにしている人の元へと駆け寄った。
――仮に、心が死ねばいずれ身体も後を追う。
時人はそれを良く知っているから、心が死に瀕し冷たい路地に横たわるだけの人を助け起こす。幻朧桜は永遠でも、今は雪まじりの二月。かき抱いた青年の身体は冷え切りかけて、あと少しでも救いの手が遅ければ取り返しのつかないことになっていたかも知れなかった。
「しっかりして」
端的な言葉で呼びかけながら、青白い顔をした青年の頬を軽く叩く時人。
「……う、う……」
青年からは、苦しげなうめき声ばかりが漏れる。それは、
どこかで聞いた声のような気がした。
人々のうめき声。
血で染まる視界。
飛び散った肉片。
視える。忘れ得ぬ光景。平凡ながら幸せだったある一つの家庭が、ゴーストによって文字通り
喰い荒らされたあの日の光景。
護りたかった。
護れなかった。
そう、あの時、俺は確かに――。
ざ、ざざ。
時人の意識が、徐々に混濁し始める。
鮮明な記憶から、濁った意識へと変じていくのを、どこか他人事のように感じながら。
あれから、護るための力を得た。力無き者の盾となり戦い続けた日々の中で、嬉しいことも、悲しいことも、たくさんあった。
意思ある者との決別は、辛く苦しいものだった。自分一人の力ではどうにもならなかったとしても、悔恨の念と絶望は深く、自死さえ選ぼうとした。
そう、死んでしまえば、楽に、なれ――ざ、ざざ、ざ――。
時人は、ギリギリで残された理性で察知した。
これこそが、影朧が見せる悲惨な記憶の想起そのものだと。
どこかで、目の焦点が合わない自分を俯瞰している、もう一人の自分がいた。
冴え冴えと澄み渡る青い瞳が、濁った青を貫くように覗き込んだ。
『違うだろう?』
『何度絶望に圧し潰されそうになっても、俺は』
そうだ。
間違えるな。俺は何のためにここに居る?
どうしようもない過去に打ちひしがれて、ただうずくまるために来たというのか?
「――
否!!」
濁った青に、強い光が宿る!
腹の底から出した一声で、己を引きずり込もうとした悪夢を全力で振り払う時人。
嫌な汗がまとわりついていたけれど、今はそれに構っている余裕はない。腕の中の青年はいまだ苦しげにしたままだ。呼びかけようとして、ふと嫌な予感がして、
親友の方を見た時人は目を見開いた。
「神臣
……!?」
時を、ほんの少しだけ遡る。
薙人は時人と共に、速やかに対処せねばならないと判断した人の方へと駆け寄っていた。
冷たい路地に横たわるしかない程に衰弱し、今にも儚くなってしまいそうな女性を急いで助け起こしたその時、
引きずり込まれた。それはまるで、溺れている人を助けようと伸ばされた手を掴んだと同時に、水中へと諸共に引っ張られるかのように。
「……!」
息が苦しいのは、気のせいだろうか。それとも、本当に息苦しいのか。どんなに深く呼吸をしているつもりでも、肺に入ってくる酸素があまりにも薄い。
自然と、息が荒くなる。心臓が早鐘を打ち、不穏な気配に心を乱される。
『――』
薙人は、自分がまだ
何物でもない中学生だった頃の姿で。
従妹が、遠くで笑っているのを見ていた。
(「いけない」)
薙人は、この後どうなるかを知っていたから、従妹の元へと駆け寄ろうとした。
けれど、身体が言うことを聞かなかった。足が、まったく動かないのだ。
(「逃げて、どうか、逃げて――」)
何も知らずに微笑む従妹の背後に、突如ゴーストが迫り、そして。
殺された。
護りたかった人が、あっけなく殺された。
(「僕は、あの子が好きだった」)
血の花を咲かせ、物言わぬ屍になった愛しいひと。
(「どうして、貴方が死ななければならなかったのか」)
愛しい想いも、悲しい思いも、薙人の中でずっと続いている。だから、思ってしまう。
(「僕が」)
視界が、意識が、濁っていく。君が笑ってくれるというのなら、僕は願いましょう。
(「僕が、死ねば良かったのに」)
――ざ、ざ、ざ――。
時人が目にしたのは、女性を助け起こしたまま、遠く昏い
瞳をした薙人の姿。
(「いけない」)
明らかに、彼岸の狭間を――喪った者を視ているのが解った。
「神臣!!」
時人は、青年を抱えたまま、ただ叫んだ。帰って来い、ただその一念で。
自分は幸い、自力で帰って来られた。倒れた人々と、悔悟の念に囚われた薙人。その全てが、時人にとっては
護るべき者。自分に囚われて負ける訳にはいかない。生きて、生きて、生きて、護って――これ以上、悔いを残さないように。
だから、薙人にも帰ってきてもらわなければ。
声は――届いただろうか? 時人は薙人を信じ、その姿を見守った。
『……!!』
水中へと引きずり込まれたかのような薙人の意識を、必死に引き上げようとする手が見えた、気がした。
その手は、必死に薙人へと差し伸べられている。
もう死んでしまいたいとさえ思っていたはずなのに、その手を見上げた途端、意識が急激に鮮明なものとなった。
(「あなたの代わりに死にたいだなんて、決して考えてはいけなかった」)
震える手を伸ばす。冷たくなった愛しい人にではなく、差し伸べられた手に向かって。
(「私は助けて貰ったから」)
そう、あの時も。命懸けで助けられたからこそ、今の自分がある。
(「だから、ちゃんと生きなくちゃ」)
薙人は、明確な意志で手を掴めば――一気に水上へと引き上げられた。
「大丈夫か!?」
「……大丈夫、です」
己の方を向いた薙人を見た時人は、率直に案じる声をかける。対する薙人は、顔色こそ悪かったものの、正直に『帰って来られた』と伝える。
(「良かった、神臣は無理をしていない」)
先程まで空ろなものだった視線が、今はしっかりと
現在を見ている。だから、大丈夫という薙人の言葉は本当だと、時人は確信できた。
二人は頷き合って、今度こそ全力で要救護者へと向き合う。自分のような苦しみを味わっているというならば、一刻も早く助けなければ!
薙人が助け起こした女性は、どうやら別れた恋人に対しての悔悟の念を抱いているようだった。何度も繰り返し「無碍にしてしまってごめんなさい」と繰り返すのを聞いた。
努めてゆっくりと、穏やかに話しかけることを試みながら、薙人は口を開く。
「貴方の愛したひとは、貴方がそうやって苦しみ続ける事を望むひとでしたか?」
薙人の腕の中で、女性はぽろぽろと涙をこぼしながら、弱々しく首を振る。
「そうですよね、私もそうは思いません」
もしかしたら、女性の方に非があっての別離だったのかも知れない。相手からは、恨まれていても当然と自分を責めても仕方がなかったのかも知れない。
けれど、相手の気持ちを決めるのは、自分ではない。
ならば、せめてできることは、相手の気持ちを信じることだけだ。
「好きな人には、笑っていて欲しいから」
「……う、う……」
女性が、うっすらと目を開ける。涙に潤んだ瞳は、徐々に光を取り戻しつつあった。もうひと息だと、薙人は言葉を重ねていく。
「本当に悲惨な別離であったとしても、貴方を苦しみで縛り付ける事など、望んではいない筈です」
「……ほん、とうに……?」
だって私、ひどい振り方をしたのよ。
あの人はいい人だったのに、ある時それがかえって煩わしくなってしまって、それで。
「いい人……だったの……私には、もったいないくらい……」
「ええ、今でもそんなに苦しむほど、大好きだったのでしょう?」
「……好きだったの……今はもうどこにいるかさえ、分からないけれど……」
「きっと、愛するひとも同じ気持ちだと、信じましょう」
薙人の言葉に、女性はようやく涙を拭いて、しっかりと頷いた。
時人が介抱した青年は、病気の母親の看病を家族に任せ、放蕩三昧の日々を過ごしたことをひどく悔いていた。青年の母親は既に亡く、今更親孝行をしたくなっても時すでに遅し。
母を思って泣く資格さえないと普段は思っていたけれど、いざ母親が亡くなった当時のことを思い出すと、後悔の念がどっと押し寄せてきて、身動きが取れなくなってしまう程に泣き崩れてしまうのだ。
「大丈夫だよ……その哀しみは、今じゃない」
時人は『運命の糸症候群』で年齢遡行をした身ではあるが、それでも所作から大人びた雰囲気を感じさせる。青年から見たら、時人は頼もしい「お兄さん」に見えただろうか。
「……母さんは、僕を恨んでいるでしょうか」
項垂れた青年は、まるで救いを求めるかのように、ぽつりと呟く。それを聞いた時人は、正直に返す。
「どうだろう、それは君次第かも知れない」
「……え?」
「君のお母さんが望むのは、君が幸せであること――なんじゃないかな」
だとしたら、己のことで嘆き悲しむ今の息子の姿を見た母は、どう思うだろうか?
生前できなかった「親孝行」とは、今を、そしてこれからを幸せに生きる姿を、幻朧桜舞う空に向かって見せてやることではないだろうか?
「父も……そう言ってくれました」
母の葬儀やら何やらが全て終わり、今更だけれどもと泣いて詫びた日のこと。
父は青年を責めるでもなく、ただ、時人と同じことを言ったのだと思い出す。
それを聞いた時人は、青年の背中を軽く叩き、破顔した。
「なら、もう大丈夫だね」
「……はい……!」
薙人と時人は、落ち着いた人から順に安全圏と思われる建物の中へと誘導していく。
念には念をと、時人と薙人はそれぞれユーベルコヲドで加護をもたらす。
時人は【
護光織衣】なる超常で、人々を守護の衣で包み込み、万が一再度の侵食が発生した場合でも護ってくれるようにと。
薙人は桜の精ならではの【桜の癒やし】で桜の花吹雪を起こし、人々を安らぎの眠りにつかせ、心身の傷を癒す。
「今は、ゆっくり休んで下さい」
安らかな寝息を立てる人々の姿を確かめながら、薙人はそっと願いを言葉に乗せる。
「次OK?」
「はい、止まる訳には行きません」
「よし!」
時人の問いに、薙人が力強く応える。そして二人は、建物を飛び出していく。
道は続き、苦しむ人々はまだまだ居る。
何を思い出しても、往かなければ。
護るべきを、護るために――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
◎
――辺りを埋め尽くすのは、赤。
一帯を焼き尽くす、炎の
赫。
その元凶たる、火竜の鱗の
緋。
母親譲りと笑っていた、あの子の自慢の髪の
紅。
…竜の爪に嫌な音を立てて引き裂かれてびちゃりと咲いた、
あの子の、血の――
――――ッ、ゴー、ル、ド、シィィィン……ッ!
(激情で吹き飛びかける思考をなけなしの理性とゴールドシーンへの「願い」で強引に引き戻す。動悸・息切れ・頭痛…気分としては言うまでもなく最低最悪の部類である)
……はぁ……
ひっさしぶりに気分の悪いもの見せられたわぁ…(参照シナリオid=10404)
――他の人に、見られてないわよねぇ…?
見た感じ、物理的な痛みとか苦痛で動けないわけじゃなさそうねぇ。
●活殺・再起起動、描くのは
イサに
准邸観音印。動けなくなってる理由は精神的なものみたいだし、ごく最低限の体力回復でも動けるようになるはず。先導なり誘導なりして避難してもらいましょ。
…ホント、久しぶりだわ。こんなに純粋に元凶に殺意が湧いたの。
●あかいきおく
何なら、放っておいても良かったのかも知れない。
人間には得手不得手、向き不向きというものがあるからして、超弩級戦力だからという理由だけで人命救助に走らねばならぬという理由はない、はずだ。
けれども、茶屋で甘味に舌鼓を打ち続けるのを、ティオレンシア・シーディアはよしとしなかった。サアビスチケットを置いて茶屋を飛び出すと、雪と幻朧桜を蹴散らすように駆けて、駆けて――瘴気渦巻く浜松町前へとやって来たのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
夢中で駆けて、現場に到着して、ようやく実感する。
ここは――地獄と化したのだと。
いくばくかの救いの手は差し伸べられた痕跡があるものの、その残り香は簡単には消えない。影朧がもたらした心の傷跡を抉る瘴気は、それほどまでに強いものだった。
「ひっどい有様……どこから手をつけたものかしらねぇ」
冷たい路地に横たわり、あるいは跪き、
何かに苦しむ人々を見やったティオレンシアは、不意に視界がゆらぐ感覚に襲われた。
「……!?」
不覚を取ったつもりはなかった。
ただ、影朧の力がそれだけ強かったということだった。
気付けばそこはサクラミラージュの大通りではなく、広がる炎の海のただ中であった。
(「何よ、コレ」)
辺りを埋め尽くす赤には、見覚えがあった。
記憶のずっと奥底に、意識して押し込めてきた光景。
(「止めなさいよ」)
建造物も、木々も、全てを焼き尽くす、炎の
赫がティオレンシアを照らす。
(「どうして、こんなに熱いのよ」)
幻ではないのか? 所詮は紛い物ではないのか?
そう思えば思うほど――いや、願えば願うほど、炎の熱は強まっていく。
『――』
大きな影が差したのを、ティオレンシアは
確かに見た。
炎の元凶、巨大な火竜の鱗、その
緋を。
赤、赫、緋。その全てが連想させるものが、もう一つ――。
(「いい、加減に」)
これ以上はいけない。そう直感的に思ったティオレンシアは、しかし目が離せなかった。
あの子が、笑っていた。
知っていた。このまま赤を見続けていれば、その笑顔を見られることを。
会いたいと、思ってしまった。
たとえそれが一瞬の逢瀬であり、あっという間に踏み躙られるものであると、分かっていても。
(「エスィ、ルト」)
母親譲りなのだと、自慢の髪の
紅を誇らしげに語ってくれた、
あの子。
手触りが蘇る。よく手入れをしてやってあげたっけ。三つ編みにしたり、色々と遊ばせてもらった日々が蘇る。忘れない。忘れるものか。
(「ああ――」)
知っていた。このまま赤を見続けていれば、惨劇に見舞われることを。
どうして。
どうして、どうして、どうして、あの子が。
『――』
火竜の爪が、容赦なくあの子を引き裂いた。
嫌な音を立ててあの子だったものは肉片と化し、血の花がびちゃりと咲いた。
アカイイロ。
赤、赫、緋、アカ――それら全てがない交ぜになって、ティオレンシアの意識を塗り潰していく。
炎が、燃える。
それは紛れもなく、ティオレンシアの激情の炎だ。
大切な者を理不尽に奪われた、怒りの記憶。そう、そこには怒りしかなかった。
そうして、自らの炎で、内側から焼き尽くされる――はずだった。
「――、――ッ」
ほとんど、無意識であった。懐の魔道具を折れんばかりに握りしめ、声を絞り出そうとするティオレンシア。
「ゴー、ル、ド、シィィィン……ッ!」
掠れた絶叫と同時、シトリンのペンがティオレンシアの懐で輝き、炎の海を一瞬にして消し払った。
ゴールドシーンは、願いを叶える鉱物生命体だ。だとしたら、ティオレンシアが今まさに願ったのは『
救い』だったのかも知れない。
「……っ、は、はぁ、はっ……」
息が荒い、どころではなかった。動悸がひどいし、息は切れ切れ。頭は鈍器で殴打されたかのように痛む。誰かに「気分は?」と問われたならば、「最悪」と即答しただろう。
意識して深呼吸を繰り返すことしばし、どうにか呼吸も落ち着いてきた。
「……はぁ……」
深々と、ため息を吐くティオレンシア。そういえばだいぶ前にも、こんな風に気分の悪いものを見せつけられた気がする。それ以来の、ひどい体験であった。
「――他の人に、見られてないわよねぇ……?」
ようやく、そんな心配ができる状態までは持ち直した。どうやら、一般人の様子を見るに、見せられている悲惨な記憶の内容までは表沙汰にはならないようなので、安心して良さそうである。
不本意ではあったが、自身で体験してみて理解できたことがある。
「見た感じ、物理的な痛みとか苦痛で動けないわけじゃなさそうねぇ」
ならばとゴールドシーンを掲げ、魔術文字を描くべくティオレンシアは精神を集中させる。
「【
活殺・再起】――最低限だけど、無いよりはマシでしょ」
上から下へ、スイッと「ᛁ」の文字を刻む。
イサのルーン文字だ。
次いで、やや複雑な梵字を描く。こちらは
准胝観音印、同じく速やかに心の清浄を得られる有難い印である。
冷静になってみると、見えるものがたくさんあった。
まず、人々がひどく苦しんでいる根本は精神的な部分にあり、ティオレンシアが行使する(本人曰く)最低限の体力回復でも動けるようになるはずであろうという予測は、見事的中した。
「う、う……」
「……私は、一体何を……?」
人々は徐々に正気を取り戻し始め、一人また一人と自力で立ち上がる。だが、その足取りはおぼつかない。いわば『動けはするが、死ぬほどしんどい』という状況だ。
「はぁい、皆で助け合ってここから離れて頂戴ねぇ」
現地には帝都桜學府の応援もようやく到着し始め、人々の避難誘導を開始したところのようだった。彼らに任せるのがちょうど良いだろうか。
「超弩級戦力殿、此度の尽力、誠に感謝致します!」
「ん、あぁ……そうねぇ、後は任せていいかしらぁ?」
「はいっ!」
溌剌とした返事で、颯爽と人命救助の任を遂行しに走っていく赤毛の學徒兵を、ティオレンシアは眩しいものを見る目で見送った。元々糸目であることはさて置くとして。
「……さて」
ティオレンシアは、帝都タワーの方を振り返る。
(「ホント、久しぶりだわ」)
ほんの僅かな時間だったかも知れないが、あの時、確かにティオレンシアは『仮面』の内側を暴かれた。
(「こんなに純粋に、元凶に殺意が湧いたの」)
絶対に許さない――強い意志が、ここに固まった瞬間であった。
成功
🔵🔵🔴
御桜・八重
◎
うわわっ、大変だ!
すぐにみんなを助けなきゃ!
「行くよ、みんなっ! せーの、ふーっ!」
花弁を吹き散らすと現れる分身ズ。
人々の救出にわらわら向かわせる。
自分も手近なところからと、
倒れている人に手を触れた瞬間、
心に流れ込む悲劇の記憶。
そして呼び起こされる、自身の傷痕……
親友は、シズの手を指一本ずつそっと解きほぐすように離した。
闇に消えてゆくその瞬間まで、その顔は微笑みを浮かべ……
違う。これはシズちゃんのお話だ。
なのにどうして。
まるでわが身のことのように、リアルに感じるの……!?
いつか誓ったことがある。
シズちゃんの手は離れてしまったけれど、
わたしは絶対にその手を離さない。
今度こそは。
絶対に。
「離す、もんかーーっ!!」
呪縛を断ち切り、立ち上がる!
●絶対に
「うわわっ、大変だ!」
事態を聞きつけた御桜・八重は、大慌てで事件現場である浜松町駅前にやって来た。見回せば既に幾人かの猟兵たちによる救助活動が行われたらしく、帝都桜學府の救護も始まったばかりであった。
「これなら、あとひと息かな? すぐにみんなを助けなきゃ!」
超弩級戦力である八重だからこそできることを、と、発動したのは【
桜こぼし】。手の平に乗せた桜の花弁をふーっと吹き散らせば、わっちゃわっちゃと現れる大量のミニ八重が。
「行こう、みんな!」
ミニ八重たちには、主に自力で立ち上がれそうな人々の元へと向かわせ、八重自身はいまだ立ち上がれない苦しみのただ中にいる人を助け起こしに駆ける。
手近な場所に居た、八重と同じくらいの年頃の乙女と思しき少女を助け起こそうとして、その身体に手を触れた瞬間だった。
『いか、ないで』
「……っ!?」
虚空に手を伸ばして、泣いている少女の姿が、八重の意識に割り込んできた。
咄嗟に手を離せば良かったのかも知れないけれど、それが――出来なかった。
泣き声が響く。それはとても悲しく、心からの嘆きであるとすぐに知れた。
(「泣いているのは、誰?」)
八重の意識が、徐々に混濁していく。
熱い涙が、頬を伝った気がした。
『わたしは、だいじょうぶだから』
握った手を、指一本ずつ、そっと解きほぐすように離す少女。
『ありがとう』
だめ。
手を離さないで。落ちてしまう。
いかないで。わたしをおいていかないで。
『だいすきよ』
落ちていく。闇に消えていくその瞬間まで、少女は微笑みを浮かべたままで――。
(「違う」)
境界が曖昧になりつつある意識の中で、八重はぼんやりと思う。
(「これは、シズちゃんのお話だ」)
そうだ、これは国民的人気アニメイシヨンのお話。あまりにも繰り返し見過ぎたせいで、きっと自分のことのように感情移入してしまっているに違いない。
――本当に?
自分に、そう言い聞かせようとしているだけなのかも知れない。
そうでなければ、こんなに、まるで我が身のことのように、リアルに感じたりしない。
この手に感じる、寂しいぬくもりは何だというのか。
残されたものの哀しみが、偽物だとでもいうのか。
――違う。
(「いつか、誓ったことがある」)
シズちゃんの手は離れてしまったけれど、わたしは絶対に、その手を離さない。
(「
今度こそは」)
少女が、微笑んでいた。
誰でもない、見誤りようのない、明日をなくした
親友の笑顔。
幻朧桜に包まれて、はかなく消えていこうとする親友に向かって、八重は思い切り手を伸ばす。
「絶対に」
桜吹雪の中、八重は地を蹴って、思い切り親友の元へと――飛んだ。
「離す、もんかーーーっ!!!」
魔法巫女少女 ごきげん! シズちゃん。
テレビジョンでの放映が終了したあともその人気は冷めやらず、とうとう映画館でのキネマ版上映が決定するに至った、国民的人気アニメイシヨン。
本編では離ればなれになったままだったシズちゃんとその親友が劇的な再会を果たすという、見事な補完で大好評を得たその物語を、八重は何度観に行ったことだろう。
(「わたしも、いつか絶対に見つけてみせる」)
親友は、きっとどこかで生きている。
そして、この手を待っている。
ならば、立ち止まってはいられない。
(「届いた手は掴む。掴んだその手は、離さない」)
ざああ、と。
桜吹雪の中、八重は意識を取り戻した。
自分を心配そうに見下ろす、少女の顔が目に飛び込んできて、驚いてしまう。
「えっ!? あ、あれ!? わたし」
「ありがとうございます、あなたが呼びかけてくれて、目が覚めたんです」
でも、と少女は何だか申し訳なさそうな顔で、小声で呟いた。
「それと入れ替わりで、今度はあなたが倒れてしまって……」
すると、桜學府の応援が駆けつけて、八重を見て一礼した。
「帝都桜學府所属の御桜・八重殿とお見受け致します! この度のお力添え、誠に感謝致します!」
「えっ、あっ、その……何か、すみません……」
何やかやで自分も一瞬、別離の記憶に呑まれてしまった。それが、気恥ずかしかった。
「こちらは大丈夫ですので、影朧への対処をお願いできますと助かるのですが」
「は、はい! もちろん、すぐに向かいます!!」
この場がもう大丈夫ということならば、八重が成すべきことは一つ。今回の事件の元凶である影朧に対処することだ。
決戦の地は、帝都タワー。
シズちゃんの放映も、この電波塔あってのこと。
何としても、守り抜かねば。
八重は雪と幻朧桜を散らしながら、帝都タワーへと駆け出すのだった。
成功
🔵🔵🔴
第3章 ボス戦
『薫風の影朧』
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POW : たとえ代価を払おうと
自身の【正気】を代償に、【魔法の矢に残懐の感情】を籠めた一撃を放つ。自分にとって正気を失う代償が大きい程、威力は上昇する。
SPD : どれほど腕を伸ばそうと
【戦場に降り注ぐ風属性の魔法の矢】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 失ったものはかえらない
【己すら切り刻む風の刃】を纏い、攻撃力が8倍になる。ただし防御力は0となり、全ての攻撃が致命傷になる。
👑11
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●誰が為の力か
心に、ぽっかりと穴が開いたような心地だった。
私は、間違いなく『誰か』を失ったに違いない。
――分からない。
この無念は、誰を護れなかったがためなのか?
この力で、今更誰を、何を護れというのか?
――ワカラナイ。
どこか懐かしい気配に惹かれるように、おぼろげな記憶を頼りに、街を歩いた。
たどり着いた電波塔を見上げれば、誰かが手招きをしているように思えた。
『そこに、居るのかい』
たんっ、と。
軽く地を蹴っただけで、この身は高々と舞い上がり、赤い鉄塔の上に着地する。
自分を中心に、風が舞い踊るのを感じた。
(『これが、私に与えられた力』)
電波塔の下で、人々が集まって何やら騒ぎ立てているのが、ぼんやりと見えた。
『そうか』
男は――影朧は、鉄塔のさらに上を見上げた。
『この塔が、邪魔をしているのだね』
影朧に、何が見えているのか。それは、誰にも分からない。
『会いたい、そして今度こそ、君を護ってみせる』
分かるのは、このままでは帝都タワーが破壊されてしまうということだけだ。
止めなければ。
超弩級戦力たちと影朧との直接対決が、鉄塔の上で幕を開けようとしていた。
●ご案内
影朧は、風の使い手にして、自らもヒット&アウェイで鉄塔を飛び回りながら自らの邪魔をする猟兵たちを撃破しようと攻撃してきます。
第1章にご参加いただいた猟兵の皆様には、寺社の霊力が宿っています。これは、着雪した帝都タワーの滑りやすい足場をものともしない効果を発揮してくれますので、有効活用してみて下さい。
また、それとは別に独自の工夫でタワーを飛び回り、影朧に応戦することでも判定に上方修正をかけられますので、アイデアがあれば是非プレイングに織り込んでみて下さい。
帝都タワー自体が強力な霊力で護られていますので、ユーベルコヲドなどで損傷することはないと考えていただいて大丈夫です。どうぞ、存分に戦って下さい。
影朧が転生を受け入れるか、それとも撃破されるかは、皆様のプレイング次第です。
物語の結末を紡ぐのは皆様です、何卒よろしくお願い致します。

和泉・広光
アドリブ/連携可
「あれか!」
影朧を追いかけ、帝都タワーの外階段を駆け上る。すでに死んでいる肉体は息を切らすことも、鼓動が跳ねあがることもない。
飛んでくる影朧のUCは霊的防護+激痛耐性で持ちこたえる。
「行こう、エツコ!」(頷くエツコ)
UC発動。雑霊弾で対空戦闘+弾幕。
「君には会いたい人がいるのか。奇遇だな、私達にも会いたい人がいる」
UCの影響で己の風の刃に苦しむ影朧に手を差し伸べる。
「もう一度会いたい人がいて、死の果てからこの世界に戻ってきた。我々の境遇は似ていると思わないかい?」
『その人が誰か覚えていれば、魂を降霊することも出来たのに』とエツコは思うのであった。
●君の姿は、まるで
それが強力な影朧であると、誰の目にも明らかであったが故に、帝都タワーは騒然となった。訪れていた一般人は避難を余儀なくされ、逆に猟兵たち――超弩級戦力たちは帝都タワーへと集結する。
「あれか!」
軽々と帝都タワーの鉄骨を足場にして、どんどん上へと駆けていく影朧の姿を認めた和泉・広光とその妻エツコは、平時はアトラクションの一つとして一般に開放されている外階段に向かって走り出した。
「お待ち下さい、今エレベーターを回して」
帝都タワーを管理する係員の一人が、そう言って広光を引き留めようとするが、広光は構わず外階段を駆け上がり始めた。
「大丈夫です、
私たちはこちらから行った方が速い」
「あっ……!」
幻朧桜と共に吹き乱れる雪で、本来ならば滑りやすい足場も、生者死者の隔てなく霊力の加護をもたらしてくれる寺社への参拝のおかげか全く気にならない。
その上、広光もエツコも既に死したる身であるが故に、どれだけ駆けても息を切らすことも、鼓動が跳ね上がることもない。疲労という足枷が無きに等しいのだ。
『……この、気配は』
薫風に乗る影朧が、着実に近付いてくる広光たちの気配を感じ取り、真っ赤な帝都タワーの中ほどで足を止め、振り返る。
その視線の先には、外階段で上れる高さをあっという間に駆け上がり、タワーの外に出るべく関係者専用の通用口からその姿を見せた広光とエツコが居た。
『成程、邪魔立てをするというのか』
空ろな瞳で呟くと、影朧は己を護るように包み込んできた『風』を、一気に逆巻かせて刃のように変じさせ、広光たち目がけて叩きつけるようにけしかけた!
「くっ……! エツコ、私の後ろへ!」
広光は敢えて避けることはせず、愛する妻をその背に庇い、自らは前方に両手をかざして霊的防護の障壁を展開させて風の刃を防ごうと試みる。
『……』
影朧の端正な顔立ちが、僅かに歪む。仕損じたことへの苛立ちか、それとも広光たちを攻撃すると同時に己をも斬り裂いた風に対する忌ま忌ましさによるものか。
エツコが、広光の両肩に手を置く。伝わってくるのは、心配と労いの気持ち。
広光は、突き出した両腕を中心に幾つかの切り傷を負っていた。
(「死んでいても、痛いものは痛いな」)
心ではそう思いつつも、そんなことはおくびにも出さない。愛する妻の前では、格好良く在りたいから。広光は視線だけを背後に向けて、大丈夫だと瞬きをしてみせた。
そして、改めて影朧へと向き直る。
「行こう、エツコ!」
妻へと呼びかければ、力強い頷きが返ってきた。その手を強く握れば、例えなどではなく、本当に力が全身にみなぎってくるようだった。
広光とエツコ、二人は一気に鉄骨を蹴って宙を舞う。
そして、二人同時に影朧を指差せば、指先から敵対者をどこまでも追尾する雑霊弾が放たれる!
『くっ
……!?』
影朧がひらりひらりと宙を舞いながら、追いすがってくる雑霊弾から逃れようとする。その最中にも、先程広光を斬り裂いた風が、影朧自身をも苛むのだ。
雑霊弾を指鉄砲の要領で乱射しながら、まるで弾幕を形成するように、広光たちが迫る。
「君には、会いたい人がいるのか」
『……』
たっ。
たん、たーん。
鉄骨を蹴り、宙を舞い、風の刃と雑霊弾が交錯する。
「奇遇だな、私達にも会いたい人がいる」
指鉄砲の形を解いて、広光は影朧に向けて傷だらけの手を差し伸べた。
見れば、影朧自身も痛々しい切り傷をいくつも負っていた。避けきれなかった雑霊弾によるものもあったけれど、自らが生み出した風の刃が牙をむいたものも少なくない。
『会いたい、人』
およそ感情が読み取れなかった影朧の顔に、僅かながら色が差したように見えた。
「そうだ」
広光は、手を伸ばしたまま。それは、これ以上の攻撃の意思はないという証。
「もう一度会いたい人がいて、死の果てからこの世界に戻ってきた」
並び立つエツコもまた、夫に寄り添って、静かに影朧を見つめていた。
「我々の境遇は、似ていると思わないかい?」
『……』
影朧は答えない。答えたくないのか、答えられないのか。
――その人が誰か覚えていれば、魂を降霊することも出来たのに。
広光の隣で、エツコはそんなことを考えていた。声を発することができないだけで、エツコにはきちんとした自我がある。
『私、は』
影朧が、ようやく言葉を発する。
『そうだ、そうだね――君たちと、同じなのかも知れない』
そして、初めて感情を露わにした。怒りと悲しみがないまぜになった声音が、冬空に響いた。
『ならばこそ、私の邪魔をしないでくれないか』
――ごうっ!!!
その姿は、まるで血の涙を流しているかのようだった。影朧は、再び自らが傷つくことも厭わず、風の刃を巻き起こし、広光とエツコを追い払ってしまった。
(「あなた」)
今度は、エツコが広光を守るように鉄塔の中へと広光の手を引いた。
(「わたしたちは十分事を成しました、今はここまでです」)
声にならぬ声は、しかし広光には十分伝わった。妻の意を汲んだ広光は、今度こそ風の刃で細切れにされてしまう前に、鉄塔の中へと退避したのだった。
成功
🔵🔵🔴
人型影朧兵器第壱号・仮面イェーガー
そこまでだ、今ならまだ間に合う。転生を受け入れる気はないか?
…聞く耳を持たないか。ならば先ず君を止める。
『影朧ドライバー』起動…変身ッ!
寺社の霊力のおかげで着雪した足場も安心だな。
鉄塔を飛び回る影朧を追い僕もジャンプを駆使して壁蹴りをしながら追いかける。
そして影朧の動きを見切り、こちらも怪力によるパンチやキックで応戦だ。
正気を代償に魔法の矢を撃とうとしているのか!?
ならばこちらも帝都タワーを想う人々の想いを束ね…【猟兵旋風キック】ッ!
この風は…君を止めて欲しいと…?まさかこの影朧が護れなかったという『誰か』?
…詳しくは分からないがその想いと願い…受け取ったッ!
はあああああッ!!
【アドリブ歓迎】
●その『風』の正体は
影朧を中心に荒れ狂う風が、帝都タワーの上空で渦巻くのが、地上からでも分かった。
「そこまでだ!」
鉄塔のふもとから、声高に叫ぶのは人型影朧兵器第壱号・仮面イェーガー。黄金色のマフラーをなびかせて、帝都タワーのはるか上を睨みつければ、視線の先には緑色の影がうっすらと見えていた。
「今ならまだ間に合う、転生を受け入れる気はないか!?」
影朧は、ここまで多くの人々を苦しめてしまった。
だが、誰一人として殺めてはいない。
猟兵たちの中には転生の力を持つ桜の精も馳せ参じている、そう、今なら――。
『……邪魔を、しないで、くれないか……』
鉄塔に立つ影朧は、はるか高みに居る。にもかかわらず、仮面イェーガーには、それが発した声がはっきりと聞こえてしまった。
(「……聞く耳を持たないか」)
悔しげに歯噛みする仮面イェーガーは、しかし諦めた訳ではない。
「ならば、先ず君を止める」
腰に装着した影朧ドライバーに手を当てると、駆動部分が赤い光を放ち始める。
「変、身ッ!!」
気合いの叫びと同時に腕を振り抜けば、仮面イェーガーの頭部は飛蝗を模したフルフェイスマスクに包まれ、激しい戦闘にも耐え抜くコヲトにボディスーツの姿と化した。
「とうッ!」
仮面イェーガーは力強く地面を蹴ると、驚くべき跳躍力で、あっという間に赤い鉄塔を駆け上がっていった。それを遠巻きに見た一般人からは、歓声が上がる。
(「寺社の霊力のおかげで、着雪した足場も安心だな」)
元々履いているブーツの靴底が悪路にも適しているのも相まって、本来ならば滑ってしまって危険極まりない鉄塔も、難なく足場とすることができる。事前に寺社で仮面イェーガーが真摯に世の平和と人々の安寧を祈ったことが、功を奏しているのだろう。
だんだんと高度を上げていくにつれて、幻朧桜が届かなくなっていくのが分かった。舞い踊るのはただ雪ばかりで、それは次第に吹雪の様相を呈してきた。
(「近い」)
見上げれば、すぐそばに薫風の影朧が冷ややかな目で仮面イェーガーを見下ろしていた。
『ここに
居るのは、分かっているんだ』
呟くと同時、影朧もまた鉄骨を蹴り、仮面イェーガー目がけて落下を開始する!
『何をすればいいのかも分かった、君がそれを邪魔すると言うのなら』
「うおおおおおッ!!!」
優男に見えた影朧が、見るからに強烈な勢いの蹴りを向けてくる。対する仮面イェーガーも負けじと鉄骨を蹴って、飛び蹴りで迎撃の構えを取る!
――がっ!!!
両者の靴底が激しくぶつかり合い、互いに弾かれる。影朧は風に乗ってすぐに体勢を整えると、再び鉄骨の上に着地する。仮面イェーガーも長いマフラーをはためかせながら、鉄骨に手をかけ身体を支えると、振り子のように身体を大きくスイングさせ、器用に鉄骨の上に復帰した。
『ほう』
「まだまだ!」
仮面イェーガー最大の武器は、尋常ならざる跳躍力だ。それを起点としたパンチやキックの重さには、自信があった。今の蹴りも、仮面イェーガーでなければ影朧の勢いに負けて一気に地上まで叩きつけられていたことだろう。
たーん、たーん。
影朧が、鉄骨の上で軽く飛び跳ねる音だった。
(「……!? この影朧、自らの風で傷を負って……」)
間近に迫ってみて、初めて気付く。影朧は、ただ風を操るだけではなかったのだ。制御しきれず、己をも傷つけて、それでもなお衝動に突き動かされて闘っている――。
(「やはり、何としても止めなければ」)
仮面イェーガーが、決意を新たにしたその時だった。
『落ちてくれ』
影朧が、風に乗って猛然と拳を振りかざす姿が目に入った。速い!
「ぬおおおおおッ!!!」
仮面イェーガーが、飛蝗の瞳を赤く燃やして、同じく渾身の力で拳を突き出す!
鉄塔の上で、風が激しく吹き荒れた。
空から降ってくる雪で視界が煙る中、霧を晴らすかのように二人の男の拳と拳がぶつかり合う――寸前で、両者の纏う力が拮抗してピタリと止まる。
『……っ』
「聞いてくれ! このタワーを破壊しても、君の願いは叶わない!」
『なら……どうすればいいんだ……!』
ごうっ! 風が逆巻き、両者は再び距離を取った。仮面イェーガーが垣間見た影朧の表情は、内なる衝動に突き動かされて、何かに焦っているかのように思えた。
闘いが拮抗する中、影朧が纏う雰囲気ががらりと変わったのに、仮面イェーガーは気付く。
『……分からない。なら、どうすれば……』
うわごとのようにそう呟きながら、影朧は片手で乱暴に前髪を掻き上げる。
露わになった瞳は淀み、明らかに正気を失いつつあるのが見て取れた。
『私は、君に……』
「いけない!」
仮面イェーガーが、思わず叫ぶ。己の身の危険もさることながら、影朧がしようとしていることに、何か取り返しのつかない危機感を覚えたからだ。
(「正気を代償に、魔法の矢を撃とうとしているのか!?」)
そんなことをしたら。
そんなことを
させたら、転生の望みがますます遠ざかってしまう。
それに――。
「超弩級戦力さん、頑張って!!」
「負けるなー! 落ちるなー!」
「がんばえー!!」
聞こえる。間違いなく聞こえた。仮面イェーガーを応援する、帝都タワーを想う、人々の声が。
「ああ……僕は、負けないさ……!」
霊力の加護を感じる。散々飛び回り、殴ったり蹴ったりした後でなお、力がみなぎる。
『会いたいよ』
空ろな瞳で影朧が呟くと同時に、その想いを乗せた魔法の矢が仮面イェーガー目がけて飛来した。
「くっ……! いや、この風は
……!?」
影朧が纏う風とは、明らかに異質な風の流れを感じた仮面イェーガーは、咄嗟に身構える。逆らわないでいると、不思議と自分に力を貸してくれるかのように、辺りを包む。
「
君を、止めて欲しいと……?」
風の中から、確かな意志を感じる。気配が、そう告げていると直感で察した。
「まさか、この影朧が護れなかったという『誰か
』……?」
ぐんっ! と、まるで風に巻き上げられるかのように、仮面イェーガーは空中高く舞い上がった。ついぞ先程まで仮面イェーガーが居た場所を、魔法の矢が貫いていくのが見えた。
(「……詳しくは分からないが、その想いと願い……」)
吹き荒れる
旋風を纏ったまま、仮面イェーガーは影朧目がけて急降下する!
「受け取った! はあああああッ!!!」
『な……っ!?』
影朧が同じく逆巻く風で防御しようとするも、それさえも突き抜けて、大切な想いを乗せた仮面イェーガーの強烈な蹴りが、己を守るように交差させた影朧の両腕を砕かんばかりに炸裂した。
『今、の、は……』
豪快に吹き飛ばされた影朧は、鉄塔の中心部に叩きつけられながらも、何かに気付いたかのように呟く。
影朧の気配が、再び
良いものに変わったのを感じた仮面イェーガーは、どこか安堵した心持ちで自身も鉄塔の上に着地するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
六道銭・千里
◎【霊剣】
対空戦な、あんま得意ではないねんけどな…
まぁ真っ向が難しいなら逆に飛び回らせん方向でやらせてもらおうか
御縁玉を指弾にて『投擲』、帝都タワーの足場に撒き散らして
『結界術』で相手が自由に飛び回れる空間に障害物兼足場&魔法の矢を防ぐ壁として作り出す【鉄壁】
斉符結界・守銭土…!この場、ちと占領させてもらうわ
あんたの無念は分からん…けどな
あんたがここを破壊しようとする行為、それは守れんかったって思うあんた自身が人々から奪う、失わせてしまう行為って分かっとるか?
もしそれでも止められへんって言うんやったら閻魔様に変わってあんたの罪裁かせてもらうわ
雪華・風月
◎【霊剣】
はい、どうもチョコの森で木こってくるとか言ってましたね…美味しそうです…
はい、動きさえ阻害できれば後はわたしが
寺社の霊力、千里さんの作った結界、そして飛刃薄銘による斬撃波の足場それらを足場として立ち回ります【足場習熟】
斬撃波で徐々に相手の行く先を防いで自由に行動できる空間を塞いでいくかのようにし、雪解雫の『浄化』の一太刀にて…
貴方の過去については知りません…
けれどここに招き寄せられたということはここに貴方の、そして失われてしまった方との何かがここにあるのでは無いですか?
それを自身で無くしてしまうというのはわたしはとても悲しいことだと思います…
●雪空のレーゾンテートル
「はい、どうも『チョコの森で木こってくる』とか言ってましたね……」
美味しそうです、などと謎めいたことを口走りながら、雪華・風月は六道銭・千里と共に帝都タワーのエレベーター内で、地上150メートルの位置にある大展望台を目指していた。
既に戦いは始まっている、ならば急いで大展望台から関係者用の出入り口を通らせてもらい、外の鉄塔部分に出るしかない。
「対空戦な、あんま得意ではないねんけどな……」
千里がそう言って渋い顔をしたところで、エレベーターはふわっとした独特の感覚と共に停止し、その扉を開いた。
「こちらです、超弩級戦力の皆さん!」
果敢にも帝都タワー内に残っていた係員が、鉄塔の外へと続く道へと案内してくれる。
「どうかご武運を、なにとぞこの塔をお守り下さい」
脱帽し、深々と一礼する係員に手を振って、二人はいよいよ鉄塔の外へと足を踏み出した。
「守る……」
風月が、ぽつりと呟いた。
「誰もが、守りたいもののために戦っているはずなのに」
「……」
それを見やった千里が、ぽんと風月の頭に骨張った男らしい手を置いた。
「せやで、そこを何とかするのが俺らの仕事や」
「……そう、ですね」
ごうっ、と。
外に出た途端、吹き荒れる風とそれに乗って舞う雪に包まれ、あわや転落かという錯覚に陥る二人。だが、実際は先程参拝した寺社からの霊力に護られ、しっかりと立っていられる。
「こないな所で効いてくるんやな、何にせよ助かるわ」
「! 千里さん、あそこです!」
有難いと漏らす千里の声に半ば被せるように、風月がはるか頭上を指差した。その先には、さらに約100メートル上にある特別展望台付近の鉄骨に立つ、影朧の姿があった。
『やはり、ここに居るんだね』
影朧は、こちらを確かに見下ろしている。
だが、千里のことも、風月のことも、まるで見ていないようだった。
『もうすぐだよ、もうすぐ、君を解き放ってみせる』
その様子を見た千里が、くしゃりと髪を掻きながら風月に向かって問うた。
「……あかんわ、すぐ行けるか?」
「はい、
足場さえあればひとっ飛びです」
力強い風月の返事に、千里はひとつ頷くと、懐から「御縁玉」を取り出す。
「まぁ、真っ向勝負が難しいなら、逆に飛び回らせん方向でやらせてもらおか」
千里自身はその場を動かず、指先に力を込めて、御縁玉をぴんっと弾いた。守りに長けた霊符でもある御縁玉は、間髪入れず影朧の周囲目がけてどんどん投擲されていく。
『……?』
影朧は、自分を直接狙うでもない、一見ただの五円玉に見えるものには、然程興味を示さなかった。元より自分は好む好まざるに関わらず常に風を纏っているから、直接狙われたとしても、小さな飛び道具程度では傷つかないと分かっていてのことだろうか。
だが、事実そうだったとしても、放置するのは悪手だった。
千里が
時間をかけて御縁玉をばら撒けばばら撒くほど、本来の目論見の成功率は劇的に跳ね上がるのだから。
(『先程から何をばら撒いている? もしや、ただの五円玉ではないと?』)
影朧が、ようやく思考を御縁玉に向けた時には、既に手遅れだった。
「【
奥義・斉符結界・守銭土】……!」
キイィィィィン……! と、強い霊力が共鳴する甲高い音が響き渡れば、宙に浮いた御縁玉ひとつひとつが輝いて、他の御縁玉と光の糸で結びつき、網目のような結界を生み出したのだ。
『これ、は』
「この場、ちと占領させてもらうわ」
千里の不敵な笑みに、影朧が端正な顔を険しくした、その時だった。
「ありがとうございます千里さん、後はわたしが!」
――抜刀! 青い鞘からその刀身を見せた「雪解雫」が一閃されると同時に、斬撃波が生じ、吹き荒れる風さえも切り裂いて、三日月型の軌跡を残す。
(「感じます、これは間違いなく、あの時授かった寺社の霊力による加護」)
鉄骨を蹴る足が、宙を舞う身体が、とても軽い。
千里が飛ばし、結界を生じさせている御縁玉そのものに、足が乗る。
それを踏み台にして、さらに斬撃波を生み出し、それさえも足場にする。
たーん、たん、たーん。
それはまるで舞い踊る幻朧桜が如く、風月は艶やかな黒髪をなびかせて、着実に影朧の元へと迫っていった。
『何故なんだ……!』
影朧が、行き場を徐々になくして周囲を見回しながら、苦しげに呻く。
『何故、誰も彼もが邪魔をするんだ!』
「あんたの無念は分からん……けどな」
良く通る声で、千里が鉄骨に手をかけながら朗々と言葉を紡いだ。
「あんたがここを破壊しようとする行為、それは『護れんかった』って思うあんた自身が、人々から奪う……失わせてしまう行為って、分かっとるか?」
『そんな馬鹿な、私は』
千里の言葉を受け入れがたいといった顔で、影朧が何かを言いかけるが、それを今度は風月が遮った。
「貴方の過去については、知りません……」
決して否定する訳ではなく、ただ、正直に。安易な同情はしたくなかったから。
「けれど、ここに招き寄せられたということは、ここに貴方の……そして失われてしまった方との
何かが、ここにあるのでは無いですか?」
伝えたいのは、向き合って欲しいと願う事実。
影朧が、何故この帝都タワーに導かれたのかということの――本質。
『違う……いや、そうかも知れないけれど、そうではないんだ』
影朧は、髪を掻き上げる。まるで、頭痛を堪える仕草のように。
『今のままでは、会えない。今度こそ、護り抜くことが出来ない』
「だから、この塔を壊そうと言うのですか?」
御縁玉が生み出した足場に、膝を突いて留まりながら、風月が悲しげに問いかける。
「それを自身で無くしてしまうというのは、わたしはとても悲しいことだと思います……」
大展望台そばに残った千里も、結界を維持しながら、今度は冥銭を握り込んで言う。
「もし、それでも止められへんって言うんやったら」
見上げたその目は、真剣そのもので。
「閻魔様に変わって、あんたの罪――裁かせてもらうわ」
それを聞いた影朧は、淀んだ瞳で、風月と千里を交互に見た。
『私の存在そのものが罪だと言うなら、それは確かに裁かれるべきなのだろうね』
ふわり、と。影朧の身体が宙に浮いた。
その頭上に、風と雪が荒れ狂い、やがて無数の魔法の矢をかたち取り、雨あられと二人目がけて降り注がれる!
「風月! 結界である程度は防げる、上手くやれ!」
「はいっ!」
御縁玉で構築された結界がさらに力強く輝き、鉄壁の守りを誇り、次々と魔法の矢を跳ね返していく。そんな中を、太刀筋で斬撃波を生み出し足場と為す風月が更に上を目指し駆け上がっていく。
『ならば問おう、
何故私はここに居る?』
「……!」
斬撃波を躱すうちに、知らず知らず行動範囲を狭められていた影朧は、遂に風月の間合いに入る。その時、影朧は確かにそう風月に尋ねたのだ。
迷いが、生じた。
雪解雫の持つ浄化の力で、一太刀のもとに――そう思っていたのに、踏み込みが浅くなってしまった。
「貴方、は……」
鮮血が散る。元々自身の風の刃で傷ついていた影朧の胸元に、袈裟斬りの傷が増えた。
『どうすれば、いい』
胸元を押さえながら、影朧が空ろな瞳で赤い鉄塔にもたれかかる。
『帝都タワーが邪魔をしているのではないとしたら……私は、どうすれば……』
「そろそろ限界や、風月! こっち戻ってきぃ!」
結界術を維持するにも精神力が必要だ。千里はもう十分、全力を出し切った。そしてそれは、風月にも同じことが言えた。あの一太刀が、精一杯だった。
「……分かりました」
徐々に光を失いつつある御縁玉を足場に、今度は下へ下へと下りていく風月。千里の元までたどり着いたところで、息を荒げている影朧の姿を見上げた。
「その答えは、もうじき見つかると思います……」
このままでは終わらない、そんな予感があった。
超弩級戦力たちが一太刀浴びせるにつれて、徐々に影朧の心に良い意味での綻びが生じているのが、確かに見えたから。
風が、強い。
この風は、果たして最後に、誰の味方をするのか――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ティオレンシア・シーディア
タワーブッ壊そうとする理由だの動機だのには正直さほど興味はないけれど。
――人の古傷と逆鱗土足で踏みにじってくれたんだもの…相応の
お礼はしないとねぇ?
まずは
迦楼羅天印と
エオローで○オーラ防御を展開。「風」属性の矢の「雨」なんだから多少は効果あるでしょ。あとは回避と●黙殺・砲列での撃ち落としで対処しつつ●鏖殺・掃演の○乱れ撃ちねぇ。
ここはタワーの内部、周りは鉄骨――即ち障害物の山。跳弾の射角には事欠かないし、鏖殺・掃演は跳弾した箇所にも魔術文字の刻印を残す。
遅延のルーン三種・
ペオースの逆位置に
帝釈天印…相手も鉄骨を跳びまわってるんだから、向こうからしたらどんどん地雷が増えてく状態よねぇ。あたし?流紋の弾道可視化と合わせて設置した場所は全部把握してるけど?
跳弾の檻と魔術文字の地雷原で追い込み漁といきましょうか。
あたし個人としては説得とか考えてないけど、他の人を止めるほどのものでもないし。とりあえず、全力でブッ殺すだけねぇ。
●殺意の行方
風が、強く吹き荒れていた。
帝都タワーの上半分――影朧が陣取る場所を中心に、しんしんと降り積もる雪を巻き込んで、まるで白い靄がかかったかのように赤い鉄塔が隠れてしまったようだった。
「お気を付けて、超弩級戦力殿」
「ありがと」
帝都タワーの構造を知り尽くした係員の誘導のもと、ティオレンシア・シーディアは最短距離で地上150メートルの大展望台から鉄塔の外へと足を踏み出した。
(「あたし個人としては説得とか考えてないけど、他の人を止めるほどのものでもないし」)
風が、吹き荒れる。着雪した鉄塔の足場も相まって、通常であれば即座に足を滑らせて真っ逆さまであろうが、ティオレンシアにはすぐに分かった――今の自分には、寺社の霊力による加護が宿っていると。
(「とりあえず、全力でブッ殺すだけねぇ」)
風に乗って舞い踊る雪に視界を遮られる中で、それでもはっきりと見えたのは、胸元を押さえて肩を上下させる、薫風の影朧の姿。
『……君も、この塔を護りに……来たのか』
ここからさらに100メートル上、特別展望台付近に立つ影朧の声が、風に乗って明瞭に聞こえた。ティオレンシアは、かつんと音を立てながら、鉄塔の上を歩き出す。
「タワーブッ壊そうとする理由だの動機だのには、正直さほど興味はないのよねぇ」
直感で理解した。今の自分ならば、この最悪の環境の中でも、自由自在に鉄塔を飛び回れるということを。故にティオレンシアは、一気に鉄塔を蹴り、上段へと駆けた。
『何……?』
「あたしはねぇ、
取り立てに来たのよぉ」
正義の味方を気取るつもりなんて、さらさらない。浜松町駅からこの帝都タワーに続く大通りで見た惨事も、言ってしまえば他人事だ。
心底思い出したくなくて、誰に対しても口にしたことすらなくて、自分は一生仮面の下を見せることなく生きていくのだと鋼のような強さで誓っていたはず、だったのに。
「――人の古傷と逆鱗、土足で踏みにじってくれたんだもの」
かんっ! 高らかに鉄骨を蹴って、ティオレンシアは顔を打つ雪をも意に介さず、影朧の元へと迫っていく。
「……相応の
お礼は、しないとねぇ?」
『!!』
影朧は、確かに見た。
己に迫り来るティオレンシアの、滅多に見せることのない、爛々と光る赤い瞳を。
そこに紛れもない『殺意』を感じ取った影朧は、咄嗟に風により生じた魔法の矢を無数に生じさせ、下から迫るティオレンシア目がけて降り注がせた。
(「来た」)
ティオレンシアは
鉱物生命体を握り、中空に止風雨の御利益を持つ迦楼羅天印を描くと、その力を結界のように張り巡らせるべく、シトリンのペンを走らせ
ᛉのルーン文字を勢いよく描いた。
――がががががッ!!!
影朧とティオレンシアの間に、まるで間仕切りのように展開された不可視の結界が、轟音を立てて風の矢を次々と弾いていく。
(「ビニール傘で暴風雨の中を突っ切ってるみたいねぇ」)
張った結界は想定通りの効果を発揮したが、これでは拮抗状態が続いてしまう。影朧は再び風の矢を雨あられと降らせるべく、右手を高々と天にかざしていた。
ティオレンシアは思考する。今戦っているここはタワーの内部、入り組んだ鉄塔の中。つまり、いくら自分や影朧が自由に飛び回れるとはいっても、あくまでも障害物の山を躱しながらという大前提がつく。
(「跳弾の射角には事欠かないし、
アレなら跳弾した箇所にも魔術文字の刻印を残す」)
加護の霊力を纏い、ゴールドシーンの魔力を駆使し、ティオレンシアは鉄塔を蹴って高みを目指す。その最中、先程描いた真言とルーンを再び励起させ、結界から弾幕へと――即ち、反撃へと転じたのである。
「手数の多さなら負けないつもりなの。ねぇ、ゴールドシーン?」
発動したのは、【
黙殺・砲列】! 魔術文字に秘められた力を弾幕として放つ超常だ。これならば、風の矢を相殺しながら影朧に迫れる!
『凄まじい怒りを感じるよ、僕はそれだけのことをしたということなのかな』
「自覚がないってあたり、余計に苛立つわねぇ……?」
たぁん! 影朧とティオレンシアが、同時に鉄塔を蹴った。影朧はタワーの中心寄りに、ティオレンシアは外側寄りに。程々の間合いを取る格好となった。
(「
遅延のルーン三種・
ペオースの逆位置に
帝釈天印……こうなったら徹底的にやるわよ」)
愛用の六連装リボルバー「オブシディアン」の出番である。銃口を影朧に向けて、躊躇なくトリガーを引く!
『……殺意には殺意で返す、そうでなければ護りたいものは護れないからね』
影朧の瞳が細められ、その周囲を渦巻く風がさらに強く逆巻いた。すると、発射された銃弾がその軌道を歪められ、明後日の方向に曲がっていってしまったではないか。
「く……!」
ティオレンシアは、
あからさまに悔しげな顔をしてみせながら、さらに射撃を続ける。二発、三発、四発、五発……どんなに影朧を狙っても、その弾道のことごとくが歪められてしまうにも関わらず、ティオレンシアは諦めなかった。
『飛び道具では私を仕留めることは不可能です、そろそろ理解できましたか?』
「……ぷっ」
『?』
ティオレンシアは、俯いていた。思うように行かず、悔しいのか。
いや――違う。ならばそんな、笑いを堪えきれず噴き出すような声など出さない!
「あっはははは、ここまで気付かれないといっそ気の毒になってくるわぁ!」
かん!
かん、かかん、かん! かん! かぁん!
『これ、は
……!?』
ティオレンシアの哄笑に、影朧がようやく己の置かれた状況に気付く。
『君は、
元より私を狙ってなどいなかった……!?』
もう一つ発動を許された超常【
鏖殺・掃演】は、間断なく跳弾する魔術文字を宿した銃弾の嵐となって、何度も、何度も何度も跳弾していた。
(『まずい』)
影朧が逃げ場を求めて周囲を見回すも、時既に遅し。まさに魔弾というべき恐るべき五発の銃弾は、特別展望台付近の狭い空間一帯を、完全に影朧にとっての地雷原にしてしまったのだ。
「不規則三次元弾幕による封鎖結界――」
かつん、と。靴音が響く。
ティオレンシアが、オブシディアンの銃口を今度こそ影朧の眉間に定めながら、言った。
「逃げ場なんて、あるわけないでしょぉ?」
『……それは、君も同じことではないのか』
影朧は、風に乱れる髪の間からティオレンシアを見据えて、問うた。
「あたし? 流紋の弾道可視化と合わせて、設置した場所は
全部把握してるけど?」
――自分で埋めた地雷の場所を見失うほど、馬鹿じゃないのよねぇ。
跳弾の檻と魔術文字の地雷原で、追い込み漁よろしく完全に動きを封じられた影朧。
対するティオレンシアは、リボルバーに込められた最後の一発を、今まさに放とうとしていた。
(『彼女の言っていることは本当だ、下手に動くのは自殺行為となる』)
ごうごうと唸る風の中心で、影朧は冷や汗を流す。
そして、口をついて出た言葉が――これだった。
『君は……
思い出せたんだね』
「……」
ティオレンシアは、眉一つ動かさず、しかしその気配だけをより剣呑なものにした。影朧には、風を感じ取るのと同じように、それが分かった。
『うらやましいよ、僕は……何も思い出せず、ただ衝動のままに動くしかない』
――だぁん!!
発砲音が響き、影朧の肩口から鮮血が爆ぜた。勢いで、影朧は鉄骨に叩きつけられる。
最後の一発には、何の魔術も込められていなかった。ただ殺傷するためだけの、鉛玉。
「本ッ当に、ブッ殺してやりたいほど腹が立つ奴ねぇ」
叶うなら、弾切れを起こした今だって、銃把で後頭部を死ぬまで殴りつけてやりたい気分だった。けれど、ティオレンシアはその代わりに言葉を吐いた。
「アンタには、死ぬことさえ生温い」
護れなかったというのなら。
その悔悟ひとつで、ここまで来たというのなら。
「護りたくても護れなかった大事な誰かのことを思い出して、血の涙を流してから死ね」
『……ッ』
言うだけ言うと、ティオレンシアはくるりと影朧に背を向けた。
「あーあ、もういいわぁ。後は他の人たちが上手くやってくれるでしょ」
たん、たーん、と。軽やかに女は鉄塔を下り始める。
雪が降る中を、緩やかに編んだ夜色の髪をなびかせて、影朧のことなど気にも留めず。
「うう寒っ……こんなの、呑まなきゃやってられないわぁ」
そう嘯くティオレンシアの表情は、常の糸目にうっすらとした微笑みに戻っていた。
大成功
🔵🔵🔵
御桜・八重
◎
なぜ電波塔を壊そうとするのかはわからないけど、
「今は止める!」
ホウキングの上に立ちスケヰトボオドよろしく空を駆ける。
小回りが利くから鉄骨の間だって大丈夫♪
「っとぉ!」
それでも魔法の矢を躱すのはギリギリ。
眼前に迫る矢を真剣白刃取りっ!
「んぎぎぎっ」
全力で止めると流れ込んでくる彼の残懐。
ーー同じだ。かつてのシズちゃんと。
親友を失った、あの時の
わたし。
絶望の深さも悲しみの重さもわかる。わかってしまう。
でも。
それじゃダメなんだ。
本当に護りたかったものを壊してしまう!
光を放ち
真の姿に。
超絶機動で懐に飛び込む!
「祓って」飛来する矢を切り払い。
「清めて」矢に込められた残懐を清め。
「邪気退散!」二刀一閃、正気を取り戻させる!
「めーーーっ!!」
絶望して闇に堕ちかけた時、
わたしの大切な人たちが手を差し伸べてくれた。
『だいすきよ』
あの子の声が、呼び戻してくれた。
だから。
今度はわたしがあなたの手を掴む。
「思い出して。あなたが護りたかったものを」
あなたが大切なものを手放さぬように!
●残懐の感情、そして
風が、強く吹き荒れていた。本来ならば風情がある雪と幻朧桜の共演も、荒れ狂う障害として視界をさえぎってくる。
けれども、それが御桜・八重を躊躇させる理由になど決してならない。
(「なぜ電波塔を壊そうとするのかはわからないけど」)
橋脚のたもとで八重が手にしたバスターブルーム・ホウキングが桜色のオーラを噴出し始め、ふわりと宙に浮く。その上にひらりと飛び乗ると、八重はキッと上を向いた。
「今は、止める!」
力強くそう宣言すると、八重はホウキングに乗り、見守る人々の声援を背に、渦巻く雪と幻朧桜を突き抜けるかの如く一気に帝都タワーの遙か高みを目指していった。
ある程度の高度を越えると、幻朧桜はその姿を潜め、代わりに雪の勢いが増してくる。
(「うう、寒い……けど、弱音なんか吐いてられない!」)
ホウキングの上に立ち飛翔する八重の姿は、まるで空飛ぶスケヱトボオドに乗って空を駆けるかのようだった。桜色の尾を引いて、鉄骨の間を器用に飛び回りながら、ぐんぐんと大展望台がある地上150メートル地点を目標に、速度を上げていく。
――ぽたり。
(「……?」)
顔を打つ雪とは明らかに異なる
何かが、八重の頬を打った。バランスを崩さないようにしながら手の甲で頬を拭い目視で確認すると、それは真っ赤な血であった。
「! これって、影朧の
……!?」
急いで手近な鉄骨に着地した八重が見上げると、上空に薫風の影朧が、風に包まれながら浮かんでいた。その身を、傷だらけにして。
『君も、私を殺しに来たのかい』
「わたし、は」
『もう少し、もう少しだけ……時間を、くれないか』
影朧は八重の方を見下ろしていたけれども、その瞳は空ろで、視界に八重を捉えているかも怪しい。掲げた右手の中には魔法の矢が生じ、今にも八重目がけて投擲されようとしていた。
『……分からなくなっていくんだよ』
影朧が、右腕を振り下ろす。見るからに強力な魔力を帯びた風の矢は、猛然と八重に襲いかかる!
「っとぉ!!」
八重は咄嗟にホウキングを掴んで、鉄骨から身を投じる。そして、ホウキングから再び桜色のオーラを噴出させて、宙ぶらりんになる形で間一髪影朧の矢から逃れた。
(「せ、セーフ……でも、飛び回るだけじゃいつか撃ち落とされちゃう」)
そこで八重は、思い切って空中戦を放棄し、鉄塔に降り立った。
そんな八重に、影朧の声が再び届く。
『もう少しで思い出せそうなのに、この力を振るうたび、見えなくなってしまうんだ』
再びの、魔法の矢の一撃が飛来する。しかし、それを八重は避けようとはしなかった。
「んぎぎぎぎ……っ!」
眼前に迫る矢を、怯むことなく白刃取りの要領で、両手で挟み込んで止めてみせたのだ。
すると――。
(「……これ、は?」)
魔法の矢に込められた残懐の念が、手の平を通じて八重の心に響き始めるのを感じた。それはとても儚く、あっという間に消えてしまいそうだったけれど、八重はそれを逃すまいと必死に両手に力を入れた。
『この帝都タワーは、世界最大の鎮守塔なのだそうよ』
――ざ、ざざ。
『私たちのことも、いつまでも見守っていて下さるといいわね』
ざざ、ざ、ざ。
『ねえ、私、今日のこと――ずっと忘れないわ』
ざ、ざざざ、ざ――。
着物姿の美しい女性が、雪景色の中、誰かに向かって振り向いていた。
これが、これこそが、影朧が失った『誰か』なのだとしたら――。
(「――同じだ、かつてのシズちゃんと」)
八重は正気と引き替えに放たれた魔法の矢をしっかりと受け止めながら、思う。
(「そして、親友を失ったあの時の
わたし」)
深く深く、絶望しただろう。
筆舌に尽くしがたい、悲しみに暮れたろう。
忘却の原因は、影朧と化したことによるものが大半だろうけれど、もしかしたら、八重が今まさに理解した絶望や悲しみから自らを守るための、防衛本能なのかも知れない。
『
ここに、居るんだろう』
影朧が、ぼんやりと呟く。
『この塔が、邪魔なんだろう』
傷ついた身を支えるべく寄りかかった鉄塔に、そっと血まみれの手を当てる。
『壊して、壊して……そうすれば、君にまた、会えるんだろう?』
風が、影朧を巻き込んで、強く逆巻いた。
「ぐぎぎ……っ、でやぁっ!!」
残懐の念が込められた魔法の矢を受け止めていた両手に、桜色のオーラを集め、渾身の力で矢を弾き飛ばす八重。見上げれば、鉄塔に手をかけている影朧の姿が見えた。
「ダメ、だよ」
影朧に、自らを重ねてしまい、泣いてしまいそうになる。
けれども、今はそれよりも何よりも、成さねばならないことがある。
「でも、それじゃダメなんだ」
己をも切り裂く風の刃に苛まれながらも、鉄塔を破壊しようとする影朧に向かって、八重は叫んだ。
「本当に護りたかったものを、壊さないで!!」
『……!?』
八重の身体が、桜色の光に包まれた。
光は球状に広がっていき、そして、無数の桜の花弁が舞い散るように――爆ぜた。
鉄塔の上に立っていた八重は、影朧と同じように、宙に浮かんでいた。その姿は、清らかな巫女装束を元にしながらも、リボンとフリルで可憐に彩られた『魔法巫女少女』そのものであった。
『君は』
「させない、絶対に――させないっ!」
壊させない。
悲しませない。
奪わせない。
絶対に、絶対に!
八重は――魔法巫女少女は、翔んだ。鉄塔を蹴って、蹴って、あっという間に影朧の元へとたどり着く!
魔法巫女少女の手には、二振りの刀が握られていた。
ひとつを「陽刀・桜花爛漫」、もうひとつを「闇刀・宵闇血桜」という。
『私の、邪魔を』
「祓って」
ノーモーションで繰り出された魔法の矢を、目にも留まらぬ速さで斬り払う。
「清めて」
飛び散る魔法の矢の欠片が、舞い散る桜の花弁に包まれて、清められていく。
「邪気退散!」
陽刀が、闇刀が、一太刀一太刀、確実に影朧の身体を斬った――はずだった。
『……な』
「めーーーーーっ!!!」
しかし影朧の身体に傷が増えることはなく、ただ、その心を覆っていた靄霞のような邪気だけが霧散していた。
影朧は、目を見開く。確実に感情の色が宿った、淀みない瞳を。
それを見て、魔法巫女少女は――八重は安堵する。
(「絶望して闇に堕ちかけた時、わたしの大切な人たちが、手を差し伸べてくれた」)
声が聞こえたのを、確かに覚えている。
『だいすきよ』
(「あの子の声が、呼び戻してくれた」)
うっすら涙を浮かべながら、八重は影朧に向かって、手を伸ばす。
「聞こえた?」
『……聞こえたよ』
傷だらけの影朧の腕が、震えながら、伸ばされる。八重は、それをしっかりと掴んだ。
「思い出して、あなたが護りたかったものを」
『……ああ、私
たちは確かに、ここに居たんだ』
薄く笑みを浮かべた影朧に向かって、八重は力強く頷いた。
――どうか、あなたが大切なものを自分から、手放してしまわないように。
大成功
🔵🔵🔵
神臣・薙人
葛城さん(f35294)と
…護りたい人が、いたのですね
それなら尚更、止めなくては
真の姿解放
声が届く位置まで影朧に接近
白燐想送歌で相手の攻撃力を削ぎます
影朧が移動すれば
鉄骨を跳び移って追い縋ります
攻撃を受けた際はUCで治療
落ちる心配はしていません
葛城さんが一緒ですから
立ち位置を確保したら影朧に声掛けを
葛城さんと言葉を重ねるように話します
貴方も失った人がいるのですね
でもその人には
この塔を破壊しても会えません
貴方の会いたい人は
ここにはいないから
貴方の大切な人は
破壊を望むような人だったでしょうか
私はそうは思えないのです
だってその風の力は
貴方の敵を刻むと同時に
貴方を護ってもいる
護りたいと願う気持ちは
同じだったのではないかと思うのです
貴方が何を見ているのか
私には分かりません
でもその手は誰も護れない
貴方が影朧のままでいる限り
貴方が願ってくれるのなら
私は貴方を桜の輪廻に乗せられる
私は貴方にもう一度生きて欲しい
新しい生で
今度は大切な人を護って欲しい
どうか、願って下さい
次の生を
貴方の幸せを
私はそれを叶えたい
葛城・時人
ダチの神臣(f35429)と
そうか…誰かを護りたかったのか
なら俺はその思いと
神臣の願いを護るために往こう
「ククルカン!」
白燐武空翔詠唱
多重詠唱でもう一匹呼び出して
「良い?止めはナシだよ」
同時に真の姿を解き放ち
俺は騎乗し全力飛翔
もう一匹は神臣につかせて
加護も受けてるし能力者機動なら
一緒に駆け上がれるけど
蟲を使うのは念には念
神臣は狙い撃ちになる
「させない為に俺達が居る!」
二匹と俺で頑張るから必ず踏み止まれる
技能の全力励起で防御し大鎌で風攻を薙ぎ
蟲達の動きで牽制し場を維持し
俺からも彼に声を
「この塔は世界の守護者だから壊すと何も護れなくなるよ」
叶わぬ思いが辛くて苦しくて影に堕ちて
それでも尚求めるなら
「今は遠くても…今一度正しい生でなら」
やり直した先で誰かを何かを護れるなら
「今の慟哭も悔いもきっと全部糧になる」
その力を持つ桜の精が此処に居る
過去ではなく未来を護る為に
「もう一度生きてごらんよ」
「仮に俺が生まれ変わっても同じ事するよ」
俺も盾であり護る者だからきっとね
心を籠めその顔を真っ直ぐ見て伝えよう
●追憶
薫風の影朧、と称された存在は、もはや満身創痍。
さらに、邪気のみを祓う刀の力で、心を蝕んでいた狂気もほとんど晴れた。
ついぞ先程まで、浜松町駅前を地獄絵図に叩き込んだだけの力は、残されていない。
だが、それでも影朧は影朧のままで。その身の周りには風が吹き荒れ、空から舞い落ちる雪を巻き込んでごうごうと唸らせる。
『……君と、この電波塔を……見に来たんだったね』
帝都最大級の鎮守塔だというから、二人の未来をも見守り続けてくれると思っていた。
けれど実際はどうだ。愛する人は影朧に惨たらしく殺され、自らもその時の傷が原因で早逝し、『護れなかった』後悔が『護りたかった』という無念に変じ、遂には憎むべき影朧そのものに身をやつしてしまった、無様な自分だけが残された。
『は、はは……は……』
影朧は、血を流しながら嗤う。頭部からの出血が、まるで血の涙のように顔を伝う。
(「大事な『誰か』のことを思い出して、血の涙を流してから死ね」)
自分が酷く傷つけてしまった、超弩級戦力からの言葉が思い出される。生温い血の感触に指で触れ、自分がそう長くないことを悟った影朧は、鉄骨にもたれかかりながら、天を仰いだ。
『
護りたかった……ただ、それだけだったのにね……』
どうしてこんな、誰かを傷つけることしか出来なくなってしまったんだろう?
●幻想の終わり
地上では、葛城・時人と神臣・薙人の二人が橋脚のたもとで遙か上空を見上げていた。
「そうか……『誰か』を護りたかったのか」
先に交戦した猟兵たちからの情報を元に、影朧が背負った『事情』を概ね把握した時人が、雪で煙る鉄塔の先を見やる。
「……護りたい人が、いたのですね」
薙人も、天を仰いでそう呟いた。
「それなら尚更、止めなくては」
「なら、俺はその思いと――神臣の願いを『護る』ために往こう」
二人の視線が一瞬交わり、そしてほぼ同時に頷き合った。
「ククルカン!」
時人が胸元に右手を当て、そこから何かを引きずり出すような仕草をしながら叫ぶと、あふれ出す無数の白い羽毛と共に、荒ぶる巨大な白燐蟲『ククルカン』が時人の身体から這い出るように実体化した。
「もう……一匹……っ!」
己が身から生じる羽毛の中に、今度は左手を突っ込めば、もう一匹巨大な白燐蟲が召喚され、時人の周りを飛び回る。
時人は大きく息を吐くと、大きく深呼吸をして息を整える。そして、隣でとんとんと軽く飛び跳ねていた薙人の方を見て、笑った。
「――行こう」
「はい、参りましょう」
二人同時に、埒外の存在である猟兵の証左である、真の姿を解放した。時人は黒衣に身を包み黒い刃持つ長柄の大鎌を手にし、薙人は幼い少年の姿に変じる。
「良い? 止めはナシだよ」
時人はククルカンに手を当てそう言い聞かせると、召喚した二匹のうち一匹にひらりとまたがった。もう一匹は、跳躍の準備を整えた薙人に随伴するように飛び回る。
薙人が地を蹴って、驚くべき跳躍力で橋脚から一気に鉄骨を駆け上がり始めた。それに合わせて、時人もククルカンを駆って全力で飛翔した。
(「寺社の霊力の加護も受けてるし、能力者の機動力なら一緒に駆け上がれるけど」)
鉄骨の間を巧みにうねりながら上昇していくククルカンと共に、時人は上を見上げる。
(「蟲を使うのは、念には念をってことで」)
身ひとつで鉄塔を上っていく薙人もまた、霊力による加護で確かな足取りを保っている。ぐんぐんと高度を上げて、二人と二匹は、あっという間に影朧を視界の範囲に捉えた。
『この力があれば、今度こそ……護れると、思った』
影朧の周りを、ごうごうと風が吹き荒れる。
その度に、影朧自身が切り傷に苛まれていくのを、二人は確かに見た。
「いけない」
先に声を発したのは、薙人だった。たーん、たーんと軽やかに鉄骨を蹴って、モノクロームの幼い身体を宙に投げ出して、思い切り両腕を広げる。
「これ以上は、貴方自身を傷つけるばかりです」
言葉と共に、広げられた薙人の両腕から、無数の白燐蟲「残花」が湧き出す。
~~♪
ふん、ふふん。るる、るるる。
薙人が優しいリズムでメロディを口ずさめば、残花たちはいっせいに影朧目がけて飛んでいき、雪にも負けず風にも負けず、影朧の身体にまとわりついて、風の発生を止めようとする。
『私が
こうなってしまった以上、こうするしかないんだ』
それでもなお風を巻き起こそうとする影朧が、残花を散らす。その身を切られながら、後ろに飛び退って薙人から逃れようとする。
「……っ、とと」
鉄骨に着地したところを、影朧の風の刃に切り裂かれる薙人。暴風に身体のバランスを崩したものの、薙人は顔色一つ変えなかった。何故なら、時人のククルカンがしっかりとその背中を支えてくれたからだ。
(「落ちる心配はしていません、葛城さんが一緒ですから」)
白い外套に血の朱が滲んでも、すぐに残花たちが癒してくれるから大丈夫だ。後顧の憂いを断った薙人は、積極的に影朧の元へと鉄骨を蹴って迫っていく。
『……風が、力が、弱まっていく
……!?』
薙人の【
白燐想送歌】が有する効果は、傷を癒すだけではない。敵対者の武器を封じる力も持ち合わせているのだ。
『駄目だ、駄目だ……! この力を失ったら、私は……!』
「させない! その為に俺達が居る!」
あらん限りの力を振り絞って薙人を、そして残花を振り払おうとする影朧目がけて、今度はククルカンを駆る時人が猛然と突っ込んでいった。
二匹の荒ぶる白燐蟲を同時に制御しつつ、空中で巧みに動き回って風の刃を躱す。
翻っては薙人へと飛来する風の刃を追って、大鎌でその攻撃を薙いで打ち消す。
ククルカンのうち一匹は影朧の隙を突いて背後へと回り込ませ、その逃げ場を奪う。
「葛城さん」
「神臣、準備はいいか?」
風はほとんど凪いで、雪はただしんしんと舞い踊る。影朧は、超弩級戦力たちに挟撃される形で、身動きが取れなくなった。
『……私を、殺すのか』
傷だらけの影朧からの問いに、薙人は無言で首を横に振った。
「貴方も、失った人がいるのですね」
『……』
「でも、その人にはこの塔を破壊しても、会えません」
『何故、そう言い切れる?』
まるで縋るように問う影朧に、薙人は視線を外すことなく、はっきりと告げた。
「貴方の会いたい人は、ここにはいないから」
『う、そ……だ』
影朧が、鉄骨に手をついて息を荒げながら呟く。
『ここに来れば、会えるはずだと……風が、そう言ったんだ……』
「だとしても、だ」
今度は、時人が言葉を発する番だった。
「この塔は世界の守護者だから、壊すと何も護れなくなるよ」
重ねるように言うのは、薙人。
「ここにいるのではなく、貴方の大切な『誰か』は、この塔にこそ護られているんです」
『なら……!』
なおも反駁する影朧に、幼い容貌の薙人が、こう尋ねた。
「貴方の大切な人は、破壊を望むような人だったでしょうか」
『それ、は』
護るどころか、人の心を踏みにじり、世界を守護する鎮守塔さえも破壊することを。
「私は、そうは思えないのです」
薙人は、軽やかに一歩踏み込んだ。影朧は、後ずさりさえ出来ずにいた。
「だってその風の力は、貴方の敵を切り刻むと同時に、貴方を護ってもいる」
『……っ』
「護りたいと願う気持ちは同じだったのではないかと、私はそう思うのです」
影朧は、すっかり黙り込んでしまう。風の刃は、時に己をも切り裂く諸刃の剣だったけれど、それは裏を返せば、影朧である己に対する何らかの戒めなのではなかろうか。
『私が……間違っているから、この風は私をも切り裂くと……?』
一般的に弱く儚いと言われる影朧の中でも、強力な力を持って顕現してしまった、薫風の影朧。護りたいと願い、相応の力を手に入れた結果がこれとは、何たる皮肉だろう。
どうすればいいのか。
ある一つの答えを、薙人は持っていた。
そしてそれを手助けするべく、時人が共に在る。
「貴方が何を見ているのか、私には分かりません」
薙人は、頭部に生えた桜の枝を揺らす。
「でも、その手は誰も護れない――
貴方が影朧のままでいる限り」
言われた影朧は、傷だらけの両手を、じっと見つめた。
「貴方が願ってくれるのなら、私は貴方を桜の輪廻に乗せられる」
『それは……』
視線を彷徨わせる影朧と、時人の視線がぶつかった。時人は、ひとつ頷いた。
叶わぬ思いが辛くて苦しくて影に堕ちて、それでも尚、求めるなら。
「今は遠くても……今一度、正しい生でなら」
「私は、貴方にもう一度生きて欲しい――新しい生で」
時人が、薙人が、心からの言葉で訴えかける。
「やり直した先で、誰かを、何かを護れるなら、今の慟哭も悔いも、きっと全部糧になる」
「今度は、今度こそは、大切な人を護って下さい」
今のままでは駄目なことは、十分に思い知らされた。
眼前の――そして、今まで刃を交えた全ての超弩級戦力たちの言動が正しいならば、自分は転生を受け入れるべきなのだろう。
けれど、心残りがひとつ。
『……生まれ変わっても、本当に、この想いは糧となるのかい?』
全てを忘れてしまったりやしないだろうか、それだけが不安でならない。
のうのうと、自分一人、新しい生を謳歌するなど――耐えられないから。
そんな影朧の胸中を察したか、二人はほぼ同時に微笑んだ。
「そのための桜の精が、今こうして此処に居る」
時人の言葉に、薙人がこくりと頷いた。
「どうか、願って下さい、次の生を」
どうしようもない過去ではなく、これからの未来を守るために。
「もう一度、生きてごらんよ」
「貴方の幸せを――私は、それを叶えたい」
鉄塔の上に、雪がしんしんと降り積もる。
風は、もうすっかり止んでいた。
「仮に俺が生まれ変わっても、同じ事するよ」
時人は、盾であり護る者。だから、きっとそうすると、断言できた。
『……
おまえは、それで許してくれるのかい……?』
影朧が、最後に確認するかのように天を仰いで問いかけると、ざあっと優しい風が一度だけ吹き抜けた。
馬鹿ね、最初からずっとそう言い続けてきたじゃないの。
――ざ、ざざ。
そんなに傷だらけになって、二人がかりで説得されて、ようやく気付くなんて。
ざざ、ざ――。
待ちくたびれちゃった、早く
此方にいらっしゃいな。
ざ、ざざ、ざ――。
少年と青年に真摯な視線で見つめられ、影朧はようやく二人に向き直った。
『……怒られて、しまったよ』
満身創痍の影朧は、くしゃりと笑った。
『
早く来い、と言われた』
それを聞いた薙人は、かつんと鉄骨を鳴らして、影朧の元へと歩んでいく。そして、そっと小さな手を差し出した。
「なら、急がないといけませんね」
桜の枝が揺れ、花弁が散る。
「強く願えば、きっとまた逢えます。だから、恐れずにこの手を取って下さい」
『……ああ』
桜の精は、傷ついた影朧を転生させる力を持つ。
転生した影朧が、いつ、どのように生まれてくるかまでは分からない、けれど。
祈ろう。願おう。
初詣の時期は、逃してしまったけれど。
帝都タワーのふもとには、万事上手く行きますようにと願う寺社があるのだから。
『――ありがとう、そして済まなかった。皆にも、どうかよろしく伝えて欲しい』
時人が見守る中、薙人が触れた指先から、影朧は桜の花弁となって雪に混ざって散っていく。散って、散って――そうして、その姿が優しい風に乗って消えてしまうまで。
二人だけではない。地上から、この事件に関わった全ての人々が見送っていた。
『ありがとう』
『だいすきよ』
かつて、この地で交わされた言葉が。
そして、どこかで誰かが交わした言葉が。
風に乗って、ささやき声で聞こえた気がした。
大成功
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