blond záchranca
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満員電車の中は快適とはほど遠い逃げ場のない牢獄のようなもの、そう岡原・義穂(多重人格者の黒騎士・f34042)が思ってしまっても仕方がないほどに彼女は追い詰められていた。
気弱な義穂が声を上げないことをいいことに、複数人の痴漢達が周囲を取り囲んでしまっていてヤリたい放題で逃げ場がない。
一人ぐらいならばどうにか場所を移動してとも最初は思っていた、けれど完全にブロックされているかのような位置に追いやられもうどうしようもないのだ。
自分を触ってくる手の数から知らないうちに目をつけられ痴漢グループに囲まれているであろう事は容易に想像できてしまう。
(誰か、助けて……誰かぁ……っ)
ガタンゴトンと電車が揺れているものの他に大きなしているわけでもない。だというのに誰も見て見ぬふりでもしているとでもいうのか?
心の底まで絶望で沈んでしまいそうだ、こんな事ならばこんな電車になど乗らなければよかったとそう思えるほどに追い込まれていく義穂。
「ひっく、ひっく……ひどい……っ」
我慢の限界だ、鳴き声が漏れ出してしまったところで突如として尻を触っていた男の手が離れた。
「
čo robíš」
「なんだ、お前……ぐおっ!?」
何やら聞きなれない言葉が耳に入ってくる。ザワザワと周囲の男達が慌て始めるもここは満員電車であり逃げ場などどこにもないのは先ほどまで自分達が行ってきた所業で明らかだ。
グキッと何やら鈍い音が聞こえ苦悶の声が電車内に漏れようやく異変に気付いた者達の視線が義穂の周辺へと集まってきた。
キイイイイイイィ
次の駅へと到着したのか減速し停車した電車、そして音がして扉が開くと同時に二人の男が駅のホームへと投げ出されてしまう。
「クソッ、なんてことしやがる」
「
Nezdá sa vám to úbohé?」
痴漢達は抗議するも鬼の形相をした金髪の青年に睨みつけられビビってしまい腰が抜けたようだ。
それもそのはず、金髪の青年は筋骨隆々で身長も彼らの軽く頭二つ分は高い。しかも恐らくはスラブ系の生まれなのか迫力がケタ違いというのも大きい。
そして怒りの鉄拳が彼らの顔面へと叩き込まれ二人はあっさりと気絶してしまう。
「えっ、あの、あなたは一体???」
何が起こったのか理解できていない義穂は半ばパニックに陥りながら駅のホームに立ちその光景を見ているしかなかった。
電車の中にはもういたくなかった、あのような怖い想いもうしたくないと熱い物が目に溢れてくる。
その声を聞き振り返った男の表情はまるで鬼のように怒りに満ちた恐ろしいものだった。
思わずその場にへたり込みそうになる義穂を慌てて手で支える男の表情はいつの間にか優し気なものに変わっており、ニッコリと微笑みゆっくりと口を開いた。
「モウ、大丈夫……デスヨ」
「だい、じょう……ぶ」
それは恐怖のドン底に墜とされた少女が安堵するには十分な笑顔、そして義穂はこの名も知らぬ青年の胸を借り思いきり泣いた。
緊張の糸が切れてしまった今の義穂に出来るのは、自分を助けてくれたこのスラブ系青年に縋り思いきり吐き出すしかないのだ恐怖を。
「うわぁぁん、怖かった……怖かったのぉ!!」
「ヨシヨシ怖かったネ。彼らはこのまま警察ニ引き渡すから安心シテイイヨ」
たどたどしい日本語ではあるが義穂は心の底から安堵しほんのしばらくそのまま泣き続けた。
ようやく落ち着きを取り戻し後始末をし彼と別れ帰路についた義穂。
それが南スラブのモンテネグロ出身のゴーリキーとの、忘れられない衝撃の出会いであったと後に思い返すことになるのだった。
成功
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