黄昏にサアカスがやってくる
●孤独が埋まらないものならば
日は落ちて影が満ちる、
誰そ彼と問わねば隣をゆく人もわからない、そんな刻限。世界に己一人のみ、何人も存在しないような心地で道行く人が一人あり。
その少年は孤独であった。ただただ、一人の心地であった。
家もあり、家族は優しく、食うに困ることもない。友もいて、學徒兵として毎日学び、務め、帝都を守っていた。
ああけれど、彼は孤独なのだ。
人から見れば満ち足りているはずなのに、どうにも寂しい。かつて失ったたった一つを、事故で死んでしまった大切な友人を慕い、夜に一人嘆くことすらあった。
未だなお癒えない傷を抱えた彼に、逢魔が時、影が囁いた。
「影朧サアカスを開きませんか?」
ちりんとかすかな鈴の音と共に、そっと影朧は寄り添って、失った友人によく似た声音で囁いた。
そうしたら、きっと寂しくないから、と。
少年は、こくりと頷いた。
●その名は鈴桜団
今日も賑やかな帝都の一角に、呼び込みの声が鳴り響く。
「さあさあ皆様、御覧じろ! 新進気鋭のサアカス団、その名も鈴桜団、その公演が今宵幕を上げる! 遠く欧州の技術を学び、綱渡りにブランコ、火の輪くぐりに美しいショウ! 皆々様お誘い合わせの上、どうぞいらしてくださいませ!」
ちりんと名を示すように、鈴をつけた道化がチラシを撒いて歩いていく。
チラシを見て、声を聞いて、帝都臣民は逢魔が時にサアカスへと足を運ぶのだ。
──そこに影朧が待つとは露知らず。
●猟兵さん、事件ですよ
「華やかなサーカスのその影に、どうにもできない孤独あり……夢見心地の芸の向こう、悲しい影が踊ります」
ピエロの人形を手にしながら、寧宮・澪(澪標・f04690)は集まった猟兵へと語りかける。
「サクラミラージュにて、影朧が孤独な人に寄り添って団長に祭り上げ、サアカス団を結成するという、事件が発生します……」
このサアカス団は逢魔が時にだけ開催される、「移動する逢魔が辻」のようなものだ。豪華絢爛なサーカス興行によって呼び寄せた人と影朧から、団長とよく似た孤独な人や、傷ついた影朧を集めて回る。そうしてどんどん膨れ上がって、いつかすべて飲み込んでしまうだろう。そうなる前に、終演させなくてはならない。
今回予知したのは鈴桜団、鈴を着けた影朧の団員と、囚われた桜の精の若き団長が興行を行う一座だ。
「彼らの動向は興行中しかわからなくて……事前に止めるのは不可能です。ですので、皆さんには興行の舞台に混ざり、演目を行って、団長や影朧へと近づいてくださいな……」
興行中、サーカスに訪れて舞台へと乱入し、一芸を披露すればいい。空中ブランコに大玉乗り、ジャグリングに綱渡り、猛獣使いに歌謡ショウ、演目を見事にこなしてほしいのだ。
「皆さんがショーを魅せたなら、観客は満足して帰路につくでしょう……あるいは、楽しさに目を輝かせて。あるいは寂しさを抱えたその隙間を、僅かでも埋めて」
そうなればサアカス団の目論見は崩れたも当然。異物に気づいた彼らは牙を向く。
そうしたらサーカスの道具や設備と共に襲い来る彼らを倒して、囚われた少年を助ければ無事、今宵は終演だ。
今回、影朧に誘われて団長になったのは桜の精の學徒兵、
海都。数年前に友人を事故でなくし、どうしようもない孤独を抱えている。誰も悪くない、責めるもののない事故であったからこそ、尚更に。
「失ったものは戻らず、その孤独も完全に癒えることはありませんが……きっといつかは、それも大切な物になるのですから」
だから、ここで止まることなくいられるよう助けてあげてほしいと。
そう、澪は猟兵へと頭を下げるのだった。
霧野
華やかに軽やかに。よろしくお願いします、霧野です。
サクラミラージュにて、仲間を増やそうとする影朧サアカス団を止め、囚われた団長を助けてください。
第1章 冒険
『乱入! 影朧サアカス興行』
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POW : 猛獣との格闘や怪力パフォーマンスを演じる
SPD : 華麗なジャグリングやナイフ投げを演じる
WIZ : ド派手なイリュージョンを披露する
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●逢魔が時に幕が上がる
日は沈み、隣の人も定かでない、そんな時間。サアカスのテントからは明るい光が煌煌と漏れいでて、訪れた人を夢の世界へと誘う。
道化がころりと大玉転がし、ステージ上でお辞儀をする。
「ようこそ参られました、皆様! これから始まるはそう、まさに夢のようなサアカス! 楽しく騒がしく、お目々を釘付けにすることうけあいです!」
調子良い道化の言葉が響き、大仰な手振りでステージ中央を示した途端、道化はころりと転がった。観客の笑みを誘い出し、道化は慌てて脇にのく。失敗すらも彼の芸だった。
これから次から次へと演目は移り変わるのだろう。けれどそれは影朧だけのステージにはなりえないのだ。
猟兵達が、いるのだから。
暁星・輝凛
◎
大丈夫、止めるよ。
喪った人を想う気持ちが他の誰かを傷つけるなんて、悲し過ぎるから。
演目の切れ目に、颯爽とステージに上がるよ。
お集まり頂いた皆さんに、剣の舞を御覧に入れよう。
刃を激しく閃かせながら、拳法の動きを取り入れた舞を披露するのさ。
使う刃は勿論真剣、それを1本、2本、3本と、舞の途中で増やしていくんだ。
両手に納まらない分は空中を躍らせる。蹴りで弾いて宙に跳ね上げて、ね。
さあさ紳士淑女の皆々様、とくと御覧あれ!
種も仕掛けもございません、あるのは【勇気】と鍛錬のみ。
見事踊り切りましたらば――どうぞ喝采を賜りたく。
最後は3本を順番に、華麗にキャッチして一礼、と行きたいね。
●
「大丈夫、止めるよ」
ただ喪失した誰かを想い、静かに嘆くその気持ち、それが他の誰かを傷つけるなんて、悲し過ぎるから、と。
決して悲劇は起こさせないと、暁星・輝凛(
獅輝剣星・f40817)は優しく笑い、桜の世界に赴いた。
黄昏の時間にきらきらと光るサアカスのテントの中へと入っていき、繰り広げられる演目の隙間、観客の視線がステージに戻るその寸前、影朧の団員が登場する前に輝凛は3本の剣と共にステージへと上がる。
涼やかに吹き抜ける風のように颯爽と上がるしなやかな姿に観客の視線が集まった。
「今宵、お集まり頂いた皆さんに、剣の舞を御覧に入れましょう」
腰に佩いた2本はそのままに、手にしていた剥き出しの剣を軽く放る。くるりと回る剣が落ちるまでの間に、輝凛もその場でくるりと回る。
しなやかに軽やかに、ひらりひらりと腕を脚を揺らめかせ。落ちてきた剣を受け止めて、またひらり。白いコートを棚引かせ、手足の動きに合わせて青と金の紐が軌跡を描く。剣技と拳法を合わせた剣舞が始まった。
観客の目がしっかり集まったところで、輝凛はもう1本、抜いた剣を放る。銀の輝きが2つに増えて、くるりとテントの中を舞う。それが落ちてくればひらりとまた伸びた手がとんとんと跳ね上げた。
「さあさ紳士淑女の皆々様、とくと御覧あれ!」
ひらりと回る剣を受け止めては放り投げ、輝凛はきらきら輝く笑顔で観客の目を惹き付ける。
「種も仕掛けもございません、あるのは輝く勇気と積み重ねた鍛錬のみ。見事踊り切りましたらば――どうぞ喝采を賜りたく」
最後の3本目が宙を舞う。触れれば切れる真剣が軽やかに宙を舞い、ステージの上へと落ちてくる。両手で先の2本を再度宙へと舞わせた輝凛の足先が、軽やかに3本目を宙へまた戻す。手で受け止めては放り、脚で弾いては舞にする。
感嘆の声と視線を一身に集め、輝凛は3本の剣をすべて宙へ舞わせた。テンポよく落ちてくる剣を全て受け止めて、優雅に一礼して見せる。
途端、降り注ぐのは拍手喝采。素晴らしい剣舞に心を震わせ、憂いを一時忘れられた人々の賞賛だった。
大成功
🔵🔵🔵
鹿村・トーゴ
◎○
この桜世界の影朧はなんだか寂しい人と繋がるのかねェ…
何不自由ないが心の穴が埋まらない
…解るよ
でもその穴を埋めるも誤魔化すも自分で動かなけりゃ隙間風も空き巣も入り放題なんだ
相棒のユキエ『トーゴは埋められたの?
ん、いやまだ誤魔化し中
さて仕事だぜ
【動物と話す】猛獣達と先に意思疎通
オレは羅刹の剛力と【念動力】で猛獣と素手でやり合うフリ
投げてるようでも念動で接地ギリで浮かし怪我はさせねー
理解してくれたな賢いコ達だ
【軽業と地形の利用】を活かし
綱やハシゴ等狭い場所でやって座を盛り上げる
退場際に折り紙の花を投げてそれを狙いナイフ【投擲】、命中させ
猛獣に持たせたカゴに落として回収だ
どーも
然らばこれにて(一礼
●
「この桜世界の影朧はなんだか寂しい人と繋がるのかねェ……」
鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は囚われた人を、誘う影朧を思う。癒せない孤独についても。
「生きるのに何不自由なく、満ちていると言えなくもない。だが心の穴が埋まらない」
そんな心地がどのようなものか解るのかと問われれば。
「……解るよ。でもその穴を埋めるも誤魔化すもさ、自分で動かなけりゃ隙間風も空き巣も入り放題なんだ。それをどうするかは己次第」
独りごちるような言葉を聞いた相棒のユキエが問うた。
『トーゴは埋められたの?』
彼女の言葉にトーゴは目を眇め、記憶の中の面差しに目を瞑る。
「ん、いやまだ誤魔化し中。さて仕事だぜ」
サアカスへ向かったトーゴは、頃合い図ってステージに躍り出る。
同時に舞台に上がってきたのは大きな獅子と虎だ。芯から震わす咆哮を上げ、乱入者へとその鋭い牙を見せつけた。トーゴも低く吠えれば、獅子と虎は飛び掛かってくる。
2頭の猛獣の咆哮と観客の悲鳴を聞きながら、トーゴは危なげなく、軽々獅子と虎を投げ飛ばした。
しなやかに着地した獅子はトーゴへと突進してくる。虎も負けじと床を蹴り、上から襲いかかった。トーゴは迫る2頭の太い前足を受け止めて、また投げ飛ばす。
(理解してくれたな、賢いコ達だ)
獅子と虎はトーゴの声に応じ、演舞を始めてくれたのだ。
トーゴは羅刹の剛力に、獅子と虎の勢いも利用して2頭を宙に舞わせてみせた。怪我せぬように、念動力で彼らをサポートして。
時には宙の綱を握り虎の突進を躱し、ハシゴを駆けのぼり上から獅子の背に乗り移り。その背の上で片手で逆立ちしてステージ上を周る。
繰り広げられる芸に観客も歓声をあげて、釘付けになっていた。
トーゴが獅子の背から降りて折り紙の花を持ち、合わせて虎が籠を持つ。
虎を超える軌道で花を放り投げたトーゴに観客から声が漏れるが、それはすぐに歓声に変わる。追いかけるように投げられたナイフが、見事に花を撃ち落とし、籠の中へと吸い込まれていったのだ。
「どーも。然らばこれにて」
ちょうど幕際に控えたような虎の籠から花を回収し、トーゴはすっと舞台から降りていった。
大成功
🔵🔵🔵
高崎・カント
カントだって立派な芸能モラなのです
お客さんを楽しませて、団長さんも助けるのです!
素敵な舞台衣装(詳細はお任せ)で、「もっきゅー!」と舞台の真ん中に飛び出すのです
輪くぐりをしたり、跳ねて飛んで元気に【ダンス】するのです
さあ、次が本番なのです!
イグカを取り出して「もきゅ!」と宙返りして【UC使用】
モーラットになったゆーいっちゃん(カントの主)と一緒に歌って踊るのです
ゆーいっちゃんとのコンビネーション【青春】には自信があるのです!
危なくないならモーラットのパチパチ火花でイリュージョンです【誘導弾】
これならお客さんもきっと喜んでくれるのです!
「見てくれて、ありがとうなのですー!」「もきゅ~ん♪」
●
輪っかやボールの用意されたステージに楽しい音楽が流れ出すと、ひらりと小さな影が舞い降りた。
艶めくふわふわな毛並みを翻し、暖かな橙色のネクタイに、柔らかなミルキーホワイトのマントをまとい。凛と黒いつぶらな目を輝かせるは、情熱のダンスを極めた立派な芸能モーラット、高崎・カント(夢見るモーラット・f42195)だ。
「もっきゅー!」
楽しげに声を上げ、カントはステージの中央に立つ。
(お客さんを楽しませて、団長さんも助けるのです!)
明るく楽しい音楽に合わせ、カントは踊る。くるりくるりと楽しげに回り、もきゅっと歌うように鳴きながらステージの上を軽やかに跳ね。
(さあ、次が本番なのです!)
元気で楽しいダンスに観客の笑顔が増えた頃合いで、カントはおもむろに小さな手にイグニッションカードを握る。
「
もきゅ!」
詠唱と共に宙返りすれば、瞬時にその姿が変わる。
人へと変わったカントは、柔らかな白い髪にローダンセの花を飾り、橙のネクタイにきらめく白いマント、詰め襟でノースリーブのトップスに、ふわりと広がるスカートとスパッツの舞台衣装。白い衣装のアクセントカラーはオレンジと黄色、可愛らしい花の刺繍がされている。
「もきゅ〜ん」
傍らには柔らかなオレンジのリボンが巻かれた帽子をかぶるカントの最愛、モーラット姿のゆーいっちゃんも現れた。
視線を合わせた二人は、満開の笑顔で踊りだす。
あふれる歌は弾み、心と体も軽く跳ねる。ステージの上を二人で、楽しい歌と踊りで満たしていく。
青春を共に過ごし、愛し合う二人のコンビネーションは互いに自信あり。息のあった歌とダンスで、観客の心も弾ませる。
盛り上がりと同時にカントとゆーいっちゃんが腕を大きく広げれば、ぱちっと光の花が宙に咲く。弾ける踊りと一緒に広がる火花に観客から歓声が溢れた。
きらめくイリュージョンと共に踊る二人の舞台が終わりを迎えれば、観客の拍手と喝采が降り注ぐ。彼らの抱えた孤独を、カントとゆーいっちゃんのダンスが少し埋めることができたのだ。
満足そうに二人は笑い、客席へと手を振った。
「見てくれて、ありがとうなのですー!」
「もきゅ~ん♪」
大成功
🔵🔵🔵
幽遠・那桜
◎○
色々考えることもあるけど、やらなきゃいけないこともある。
「存在感」をあえて消して、団員さん達に紛れ込みます。
風「属性攻撃」の「空中浮遊」 。そして空からステージに、ふんわり降り立って、UC発動。
私の想いを、ここに集まってくれてる皆さんの想いを繋げるのです。
観客の皆さんには、大切な人との思い出を、夢として見てもらいます。
それから。
これは、一時の優しい夢なのです。夢でしかない、残酷だと思うかもしれません。
……でも、それでも。
私の中にも、大切な人との思い出があるように。
あなた達の中に、確かな思い出があるはずです。
痛みも、苦しみも、あると思います。でも、私達は前に進めます。
……笑ってあげてください。いなくなった人は、あなた達の幸せを、望んでいます。
……そうだよ。
望んで、いると。私は信じたいよ。ねぇ、海斗君。
あの時どんなに嫌われても、憎まれても、
私は、あの優しかったあなたを信じたい。
信じたいんだよ!! だから、ここに来たんだよ。
私の覚悟も、想いも、ここにいるみんなに届きますように。
●
黄昏に輝くサアカスは、きっと楽しい世界なのだろう。けれど、そこには寂しい気持ちが集まってくる。
ある予感を懐きながら、幽遠・那桜(f27078)はそこにやってきた。
きっとここで、忘れられない存在に会えると感じて。少しだけ琥珀色の瞳を揺るがせて、那桜は一度、目を閉じた。
(色々考えることもある。けど、やらなきゃいけないこともある)
まずは、やるべきことを、と那桜は世界に溶けるように存在感を消す。団員の中に紛れ込み、頃合いを見て風に乗って上へと舞い上がり、テントの天井からステージ上へと降り立った。
(想いを、繋げるのです。皆さんの想いを、私の想いを)
存在感を戻せば、観客の視線がいっそう集まってくる。彼らの眼差しを受け止めて、那桜は灰簾石の短杖をゆるりと揺らす。優しく寄せる波のように、ゆっくりと。優しく包む夜のように、
「巡りゆく、桜花。繋ぎ留めて、互いの心を」
想いを届けたいと願う那桜の願いを精霊が後押しするように、風が吹く。風に乗って幻朧桜の幻がひらりひらりと舞い踊る。客席に届いた花びらに触れた観客は、過去をゆっくり思い出す。夢として、大切な人との思い出を、優しい気持ちと共に思い描く。
静かに思い出に揺蕩う観客に、那桜の声が届く。
「これは、一時の優しい夢なのです。夢でしかない、残酷だと思うかもしれません」
目を開ければ消えてしまう。確かに見たはずなのにすぐに薄れてしまう。普段深く沈めて見ないようにすることで耐えていた者もいたのだ。それなのに目の当たりにさせるなんて、と嘆く者もいたかもしれない。
「……それでも。私の中にも、大切な人との思い出があるように。あなた達の中に、確かな思い出があるはずです」
大切な
宝物だからこそ、今の孤独へ繋がる思い出。それは辛いものでもあるけれど、きっと。
「痛みも、苦しみも、あると思います。でも、私達は前に進めます」
足を止めてもいい、嘆いてもいい。けれどそのままでいないでほしい。ひとりのままでいないでほしい。
「……どうか笑ってあげてください。いなくなった人は、あなた達の幸せを、望んでいます」
顔を上げて、1歩ずつでいいから、泣きながらでもいい、いつか幸せに笑ってほしい。皆の幸せを求め、那桜は想いを乗せて声を届ける。
(……そうだよ)
それから那桜は、きっと現れるはずの姿を思い描く。霞桜の枝角を生やした少年の姿を。
「幸せを望んで、いると。私は信じたいよ。ねぇ、海斗君」
過去に那桜を助けてくれた男の子。彼女の光となって、彼女の傷になった、大切で大好きで、今も会いたい存在。
以前の邂逅ではひどく冷たく、嫌悪の目で那桜を見つめてきた。嫌いだ、殺したいとまで言われた。
「あの時のようにどんなに嫌われても、憎まれても、私は、あの優しかったあなたを信じたい」
穏やかな春の光のような、ふわりと香る霞のような、そんな穏やかな優しさで那桜を救った彼のことを信じたい。そんな思いと決意を懐き、やってくるだろう彼を待つのだ。
(信じたいんだよ!! だから、ここに来たんだよ。あなたに会って、それから)
もう一度言葉を交わしたい。その真意を確かめたい。その存在を、声を、姿を。
だからどんなに辛くても逃げない。立ち向かう。那桜の『しあわせ』を、海斗の、皆の『幸せ』を求めて。償いを求めて。
涙で琥珀を揺らしながら、那桜は前を見つめていた。
(私の覚悟も、想いも、ここにいるみんなに届きますように)
静かなサアカスのテントの中、那桜の想いは観客に、囚われの団長に確かに届いた。これから現れる影朧にも届いてほしいと、彼女は願っている。
大成功
🔵🔵🔵
ヴァンダ・エイプリル
◎
一人ぼっち……その寂しさがわからなくもないヴァンちゃんです
ここは一つ、ぱっと晴らしてみせましょう!
元気よく名乗りながら高台ステージに登場!
はいはいどうもー!天才仕掛人、参上でーす!
普段は路上でやるのが多いからステージは不慣れでもあるけど
いつも通り、みんなを驚かせようか!
演目は綱渡り!
UCを使って機敏に動けるようにしつつ
綱の上をアクロバティックに動き回って会場を盛り上げる!
途中から【ジャグリング】も交えつつ、それでも跳ね回ろう!
途中で足を踏み外してスリルを演出
本当に事故で落ちたと思わせて
トランポリンで大きく跳ねる!
世の中だって全部が順調じゃないよね?
けど、いくらでも飛び上がることはできるよね!
●
「一人ぼっち……その寂しさがわからなくもないヴァンちゃんです」
ヴァンダ・エイプリル(世界を化かす仕掛人・f39908)は少しだけ俯き、けれど寂しさがわかるからこそ彼女は顔を上げ、にぱっと笑う。
「ならばここは一つ、ぱっと晴らしてみせましょう!」
世界に驚きを、人に笑顔を。そう決めてヴァンダはステージへと舞い下りた。
「はいはいどうもー! 天才仕掛人ヴァンちゃん、参上でーす!」
元気いっぱいな名乗りに、観客からは好意の拍手が返ってくる。ヴァンダは拍手に手を振り返し、くるりと客席を見渡した。
今この時はサアカスのステージという不慣れな場。普段路上で行うパフォーマンスとは少々勝手は違うけれど、目指すことは変わらない。
(それじゃあいつも通り、みんなを驚かせようか!)
ヴァンダは頭上に張り巡らされた綱へと向かう。
「これから始まるのは綱渡り。このロープを渡って向こうに行けたなら、大きな拍手をくださいな!」
ヴァンダは綱へとすいっと足取り軽く進みだす。大きく横に腕を広げゆっくり歩いたかと思えば、軽やかに数歩走って飛び上がり、下に張られた綱へと飛び移った。綱が弾む勢いで元いた綱へ手を伸ばし、くるりと逆立ちしてみせる。
アクロバティックな動きで端まで渡れば、浴びせられる拍手喝采。それ応じてヴァンダはジャグリングのクラブを持って、再び綱の上を跳ねていく。
クラブをくるくる投げては受け止めて、跳ねては投げ。ひらりと回って後ろ向きに歩いた、その時に。
ヴァンダの体が傾ぐ。足が綱を外れ、真っ逆さまに落ちていく。
観客の悲鳴に、驚愕の顔に、ヴァンダはにっこり笑いを返した。
一緒に落ちていくクラブを受け止めながらくるり空中で姿勢を変えて、ステージの上のトランポリンに吸い込まれるように着地してみせた。ぽんと再び宙に飛んだヴァンダは明るい笑顔で綱へと戻る。
「ふふ、失敗失敗! 世の中と一緒だね! 時には転んだり落ち込んだり」
何事も全部が全部、順調になんていかないけれど。
「けど、いくらでも飛び上がることはできるよね!」
そう言ってぽんと弾んでみせたなら、笑顔と拍手が惜しみなく返ってきた。
大成功
🔵🔵🔵
鳴上・冬季
「生命とはそもそも孤独なものです。己のみで生まれ、己のみで死ぬ。重なり合う他者は多くとも、特定の他者と永きに亘り重なることは元々難しい。故に生命はそれから目を背ける。それに態々向き合おうとは実に愚かしい所業です。それとも向き合わねばならなくなったことを憐れんで差し上げるのが正しいでしょうか」
嗤う
「判りませんか?孤独とは、己が態々望み向き合わなければ陥らぬのです。生きるために生命が目を背ける事柄の1つなのですから」
嗤う
「ではその勇者もしくは愚者の、顔を拝みに行くとしましょうか」
嗤う
演目幕間
サーカスにいる全員にUC
自分の大事な誰かが問いかけ手を伸ばす
なあ
俺は
私は
お前が
君が
そこにいることを望んだか?
●
「生命とはそもそも孤独なものです」
狐として生を受け、過酷な独り立ちの経験もある鳴上・冬季(野狐上がりの妖仙・f32734)は、いつも通りの笑顔で嗤う。
興行があるならば、見回る存在だっている。見知った顔3つと挨拶交わし、猶予があるから、と少し立ち話をする中で、滔々と冬季は語る。
「己のみで生まれ、己のみで死ぬ。重なり合う他者は多くとも、特定の他者と永きに亘り、時や関係、生が重なることは元々難しい」
生の長さは様々に、時の流れも様々に。出会いも別れも確かに約束されたものなど少ないのだ。
「故に孤独は常にそばにあり、生命はそれから目を背ける。それに態々向き合おうとは実に愚かしい所業です。それとも向き合わねばならなくなったことを憐れんで差し上げるのが正しいでしょうか」
そう言って嗤えば、苦笑する顔、きょとんとする顔、難しく悩む顔が返ってきた。
「判りませんか? 孤独とは、己が態々望み向き合わなければ陥らぬのです。生きるために生命が目を背ける事柄の1つなのですから」
恋愛、友情、親愛。関係性に名前をつけ、形を性質を変えないよう維持することのなんと難しいことか。そうまでして人は孤独から目をそらす。
それでも誰かが向き合ってしまう時があるからこそ、孤独という概念は消えることがないのかもしれない。
サアカスに向かう人の波が少なくなったのを見て、冬季は嗤う。
「さて、その勇者もしくは愚者の、顔を拝みに行くとしましょうか」
一礼して歩き出せば、気をつけて、等と送り出す声が、冬季の背を追いかけていった。
演目の幕間、観客のざわめきの中、冬季はサアカスの内部にいるもの全てに術をかける。
『なあ』
夢現の中、観客も団員も、大切な誰かの声を聞く。
『俺は』
『私は』
その姿を見て、手を伸ばしてくるのを見る。
『お前が』
『君が』
その問いかけはひどく、切ない。
『そこにいることを望んだか?』
孤独を見て、孤独に向き合って、そこから動けなくなることを。
孤独に囚われて、影とともに行くことを望んだかと、そう、問いかけてくるのだ。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
◎○
「…どどど、どうしましょう」
「孤独を晴らす心が軽やかになる何か。私は歌が得意ですけれど、歌だけで全てを癒やすのは難しい事を知っています。寧ろ満腹感の方が多幸感は大きいでしょう。でも此処で精神防御のある食事を振る舞うのも違う気がします」
「覚めて誰かに話したくなるような、夢の時間。其う言う演出が必要と言う事ですよね…あ」
車の台所で岩塩を小袋に詰めて会場持込み
演目の合間に最近の明るい流行歌を歌いながらミュージカル風にくるくる踊りつつ小袋から岩塩取り出しUC「食欲の権化」
無機物の塩を林檎や柿、オレンジや梨に変えて微笑んで歌いながらどんどん観客に放る
「どうぞ皆様、お家で皮を剥いてお召上がり下さいね」
●
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)は困って新緑の瞳をそらし、頬に手を添えて悩みだす。
「……どどど、どうしましょう」
影朧を止めることに否はない。人々を救うのももちろん望むところだ。
ただ、孤独を晴らすにはどうすれば、という手段に悩むのだ。
「孤独を晴らすような、心が軽やかになる何か。私は歌が得意ですけれど、歌だけで全てを癒やすのは難しい事を知っています」
ほう、と息を吐き、桜花は悩む。心を一時歌で癒やすことができても、それだけで足りないこともあるのを知っているから。
「歌よりも、寧ろ満腹感の方が多幸感は大きいでしょう。でも此処で精神防御のある食事を振る舞うのも違う気がします」
サアカスの演目の間、いきなり料理を持って乱入し、観客に、団員に団長に、振る舞い食べてもらうというのはどうにも無理がある。スナックや軽食ならばとも考えたが、すべての人が食べてくれるとは限らない。
「覚めても誰かに話したくなるような、夢の時間。其う言う演出が必要と言う事ですよね……あ」
一つ、桜花は策を思いつく。これならばいけるかもしれないと、準備をしてサアカスへと向かった。
演目が終わり、次の準備がなされる間の時間。ピエロが出て場をつなぐ前に、桜花は客席で立ち上がる。
「冬風に、ひらめく雪の舞い下りて……明々と暖か炎、燃え上がり♪」
口ずさむのは明るい流行歌、合わせてミュージカル風にくるくる桜鋼扇を閃かせながら、客席を踊る足取りで回る。舞に合わせて取り出した白い岩塩の粒を撒いては扇で打ち据えれば、りんごや柿、オレンジや梨が現れて、歓声上げる観客の手に放られる。
ぽんぽんと用意してきた小袋から、白い塩の粒を撒いては果物に変え、桜花は微笑み、歌の合間に観客に告げる。
「どうぞ皆様、お家で皮を剥いてお召上がり下さいね」
そして体験を、それに紐付いた記憶を誰かと語ってほしいと、桜花は願う。
あなたの孤独が少しだけ、満たされますように、と願いながら、明るく歌を歌い、果物を投げるのだ。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
◎○
影朧サアカス……。なにかが違えば、その在り方は誰かの救いになれたのかもしれないが
どうやらこれは、そういう訳にもいかないようだ。なら、止めるしかないだろう
いずれ訪れる破滅。それはきっと、彼らだって望まない事だろうから
機を見てバイク『八咫烏』に乗って舞台に乱入。曲芸走行でも披露するとしよう
クイックターン、ウイリー、それにジャンプ台を使って大ジャンプから空中で一回転
走行するバイクの上に立つ等々。思いつく限りに派手な動きで、客席近くを駆け巡っていく
一通りを終えたなら、登場時と同じくバイクに乗ったままで一気に退場
これも誰かの救いになったのなら。やった甲斐があるってものだな
●
「影朧サアカス……。ほんの少しなにかが違えば、その在り方は誰かの救いになれたのかもしれないが」
寂しい心を少し慰めて、悲しい過去に寄り添って、という手段は悪くない。それから穏やかに、ただ陽炎のように消えるだけならば、それも優しい救いになったかもしれない。
だが、と夜刀神・鏡介(f28122)首を振る。
「どうやらこれは、そういう訳にもいかないようだ」
しかし事実は残酷だ。影朧サアカスは、寄り添った人を、影朧を飲み込んでいく。取り込んで己の仲間を増やして、移動してはまたそれを繰り返す。そうして膨れ上がって、いつかはすべて壊れていく。
「なら、止めるしかないだろう」
悲しみがついて回る興行を止めるべく、鏡介は向かう。その果てに世界を壊すという、いずれ絶対に訪れる破滅に至る前に。それはきっと、彼らだって望まない事だろうから。
鏡介は機を見て、演技が終わり、人が捌けたステージへと乱入する。唸りを上げるバイク『八咫烏』のエンジンを吹かし、スピードを維持してステージ上へと駆け上がった。
残ったままのセットを利用して、鏡介と八咫烏はステージを、テントの中を駆け巡る。
ステージ端まで行って下りると見せかけクイックターンして逆方向に。並ぶ小さな台を細かくスラローム走行で駆け抜けて、端の台をウィリーして飛び越える。
着地したならターンして、ジャンプ台を駆け上がって宙へと舞った。テントの中空でくるりと一回転、タイヤからステージ外へと着地して、客席近くのスペースを走り出す。バイクを走らせたまま、鏡介はバイク上に立ち上がって手を振って、観客の拍手を受け止めた。脚で向きを制御しながら走ってみれば、驚きと楽しさに満ち足りた観客の顔が見える。
最後に客席前の壁へと進路を取って、壁にタイヤをつけてぐるぐる回ってから退場すれば、喝采が背中を追いかけてくる。
(これが誰かの救いになったのなら。やった甲斐があるってものだな)
遠ざかる喝采に口元を少し緩め、鏡介は頷くのだった。
大成功
🔵🔵🔵
国栖ヶ谷・鈴鹿
◎
サアカスは楽しいもの、こういう形で破綻に向かうものじゃないはずさ。
ぼくも演目をやらせてもらうよ!
ペンギン🐧クルー集合!
みなさん拍手でお迎えしてください!
ペンギン🐧クルーと一緒にやるのは、アートで作ったたくさんのバルーンの目標!
ペンギン🐧クルーは空中飛行で旋回して空を泳ぎ、バルーンを目指して編隊飛行で、バルーンを割れば、中からは桜吹雪!
こっそり、お手伝いのペンギン🐧クルーにお客さんにバルーンを渡して、空に飛ばすように促すと、空で弾けるのはカラフルな花吹雪!
ペンギン🐧クルーたちと一緒に風船割りで花吹雪を巻き起こして、サアカスに花を添えて。
みんな楽しんでくれたかな?
●
「サアカスは楽しいもの、こういう形で破綻に向かうものじゃないはずさ」
寂しさを一時晴らし、笑顔と楽しさを与えてくれる夢の時間のはずだ。それは人だって影朧だって変わらない、寂しさを集めて膨れ上がって破滅する、なんて悲しすぎる。
国栖ヶ谷・鈴鹿(命短し恋せよ
乙女・f23254)は黄昏のサアカスに、頼もしい仲間と一緒に乗り込んでいく。鈴鹿の大切な世界を守るため、今も帝都を守っているだろう、大切な人の願いを叶えるため。
(ぼくも演目をやらせてもらうよ! いくよ、ペンギン🐧クルー!)
頃合い良いときに、鈴鹿はひらりとステージに上がる。客席見渡しにっこり笑い、手を広げてはきはきと声を上げた。
「さあペンギン🐧クルー集合! みなさん拍手でお迎えしてください!」
観客の拍手に応じて機械仕掛けのペンギン達がてちてち歩いてやってきた。一列に整列し、鈴鹿と一緒に息のあった礼をしてみせる。そして一部を残して客席へとやってきた。
「これからお見せするのはペンギン🐧クルー達の曲芸飛行! 皆様が浮かべたバルーンを割れたならば、拍手をどうぞ!」
鈴鹿が口上を述べるのに合わせ、テントにばらけたペンギン達が膨らませた風船を観客へと差し出す。受け取った観客が促されるまま、バルーンを空へと飛ばせば、テントの中に幾つも浮かび上がった。
無数に、無作為にバルーンの浮かぶテントの中を、編隊を組んだペンギンクルー達が行く。
ぱたぱたフリッパーを動かして、すいすい泳ぐように空を飛び、バルーンをちょんとつついたならば、ぱんっと軽い音立てて割れていく。
バルーンの中からはひらりひらりと桜の形の花びらが舞う。色とりどりに染め上がり、観客の上に降り注ぐ。ペンギンの飛行によってふうわり風が舞い上がり、美しい軌跡を描いてサアカスに花が添えられた。
観客の歓声を、拍手を聞きながら鈴鹿はにっこり微笑んだ。
皆がペンギンクルーの編隊飛行を、華やかなバルーンと桜吹雪を、楽しんでくれているのが、拍手と歓声、笑顔から伝わってくるから。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『残響の影朧』
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POW : 鈴の唄
【この世への愛憎】の主張を込めて歌う事で、レベルm半径内の敵全てに【発狂】の状態異常を与える。
SPD : 死人残響
自身が装備する【銀色の鈴】から【音色による精神攻撃】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【トラウマ】の状態異常を与える。
WIZ : 共鳴する双鈴
【小指に垂らした鈴を鳴らす】動作で、自身と敵1体に【憎悪】の状態異常を与える。自身が[憎悪]で受けた不利益を敵も必ず受ける。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
●ちりんと鈴が鳴る
興行が終わる頃には観客達は皆満足し、笑顔を浮かべて帰路につく。サアカスの団員達が付け入る隙もないほどに、演目は移り変わり、猟兵達が立ちかわり現れた。
設備も道具も残ったままのサアカスに、ちりんと鈴が鳴り渡る。
今ここに残るのは、影朧サアカスの団員と猟兵のみだ。
「どうして」
縄へと飛び移り、上空から仕掛けてくる団員が。
「どうして」
空中ブランコから不意をうつ団員が。
「寂しい人と、影朧と、共にいきたいだけなのに」
様々なサアカスの道具や設備を使って、猟兵を敵と定めた団員が、囚われの団長を守りながら、猟兵へと襲いかかってくる。
鹿村・トーゴ
◎○
まずは一般客が無事で何より
てか団長さんもまだ一般人だな
耳障りな鈴の音…なんかの仕掛けか?
おや
こんなにお仲間がいるのに
『まだ寂しい人を拐かして連れて行きたいかい?
そやって遠回しに寂しい仲間を増やしても亡くした人が現れるでもなし
アンタ等は何を目指してるのかねえ』
UCの問いはオレの素朴な疑問だ
連中に寂しい影朧を仲間に加える以外の、明確な目的が窺えない…
敵UC
あは
もう数年前なのに鮮明だな
ミサキの頸、毒針、引き攣る指
心当たりがある分効くねェ
トラウマに動揺しても発動したUCの七葉隠はオレとは無関係に敵を裂く
クナイの刃を掌に握り痛みで正気に
悪いな
仕事しねーと
【念動力】で七葉隠を操り【投擲、串刺して暗殺】
●
空っぽになった客席に、トーゴは一つ胸を撫で下ろす。
(まずは一般客が無事で何より)
ただ、まだ一人残ってもいるのだ。影朧達のその奥で、目を閉じて守られるように囚われている人の身の団長、海都が。
彼を渡さないとばかりに、影朧達は鈴の音を響かせ、サアカスの設備や道具を利用して迫ってくる。
「どうして、どうして。邪魔をしないで、一緒にいきたいのに」
「どうして、か」
空中ブランコから飛び降りてきた影朧の一撃を苦無で受け流しながら、トーゴは逆に問いかける。
「まだ寂しい人を拐かして連れて行きたいかい? こんなにお仲間がいるのにさ、足りないのかい? そやって遠回しに寂しい仲間を増やしても亡くした人が現れるでもなし」
ちりんと鳴り響く鈴の音がトーゴの頭を揺さぶるようだった。
「なあ、アンタ等は何を目指してるのかねえ」
何度もどうして、邪魔するの、と繰り返すばかりの影朧からは答えはない。寂しい人や影朧を取り込んで、埋まらない孤独を、寂しさを埋めようという本能のような衝動しかないのかもしれない。明確な言葉は返らず、七振りに分かたれた妖刀、七葉隠が影朧を切り裂いた。
答えを返さない影朧達は切られて消えていきながらも、その数が多いために一度では倒しきれない。サアカスのテント内を跳ね回り、駆け巡る影朧の鈴の音が増していく。
その音がやたらと耳につき、トーゴは顔をしかめた。
(やけに耳障りな鈴の音……なんかの仕掛けか?)
ちりんと一際大きく聞こえた途端、トーゴは目を見開いた。
痛む過去が目前に蘇る。
懐かしい場所、愛しい娘、細い頸、毒の塗られた針、それを持つ引きつる指。そして、それはミサキに吸い込まれて。
「あは」
トーゴの口から声が漏れる。これは数年前の記憶、鮮やかに刻まれたトーゴの痛み。
愛しい幼馴染、ミサキの命を断ったときの。今なお色褪せず、繰り返されたその光景にトーゴはわずかに揺らぎ、苦無の刃を握りこむ。現実の痛みが赤を伴って、トーゴを正気に押しとどめた。
「悪いな。仕事しねーと」
誰にともなく謝るトーゴ。それほどに揺らいでも七葉隠は揺らがずに、明確な答えを返せない影朧達を切り裂いていた。
大成功
🔵🔵🔵
高崎・カント
◎
「もきゅう……」
何だか嫌な感じなのです
歌はもっと楽しいもののはずなのです
耳がペチャンとなっちゃうのです
上からも横からも来るのです!?
パチパチしても素早くて当たらないのです
走って大道具の影に隠れるのですー!
でも、このまま隠れてばかりじゃダメなのです
早く団長さんを助けてあげたいのに……
きゅっ! 閃いたのです!
サーカスの道具を壊しちゃうのです!
そうしたら向こうは飛べなくなるのです!
バビューンと飛び上がって、綱渡りの縄を引っ張って弛ませたり、空中ブランコの棒を折ったりするのです【UC使用】
相手の動きが鈍くなったら、そこを狙って急降下!
思いっきり体当たりなのです!
怯んだところにパチパチ火花で追撃です!
●
影朧の団員達が歌い出す。その歌を聞いたカントは細長い耳をぺちゃんと体にくっつけた。
「もきゅう……」
愛憎篭もるその歌は、カントの心を押さえ込んで無理矢理ぐるぐると狂わせようとしている。
(何だか嫌な感じなのです……この歌は、歌う人も聞く人も苦しいだけなのです)
もきゅ、と切なく呟いたカントに影がかかる。
「もきゅっ!?」
気づいて避ければ、カントのいた場所に降ってくる影朧の姿。揺れるブランコから、張られた綱から勢いつけて飛んでくる。上空からの一撃を避けても、そのまま身軽に追撃が迫ってきてカントは一生懸命走って避けた。
ぱちりと火花を出してみても素早く躱されて攻撃が返ってくるばかり。咄嗟に大道具の影に身を隠し、カントは一度きゅっと息をつく。
さてどうしよう、ともきゅもきゅ唸って悩むカント。けれどここで逃げたり諦めるなんて気持ちは一片も湧いてこない。
(このまま隠れてばかりじゃダメなのです。早く団長さんを助けてあげたいのに……)
ちらりと様子を窺えば、今も空中ブランコから影朧が降りてくる。その光景に、カントの脳裏に稲妻が走った。
「きゅっ!」
カントは輝くオーラをまとい、爽やかな光のような白いマントを翻して飛び出した。
(閃いたのです! サーカスの道具を壊しちゃうのです!)
そうしたら影朧達は飛べなくなる。そうすれば、カントも影朧達を止めやすくなる。
バビューン、とカントは空を飛ぶ。団長を助けたい、苦しい歌を止めたいと強い意志で力をまして、ヒーローはきりりと飛んでいく。
空中ブランコの棒を体当たりで降り、綱を引っ張ってたわませたり外したり。大道具にも飛び込んで、横倒しにしてみたり。
「もきゅー!」
凛と煌めく金の弾丸がサアカスのテントの中を掛け回れば、道具が壊れて影朧の動きが鈍くなって。
「きゅきゅっ」
そこをカントは見逃さない。どーんと急降下からの体当り。勢い良く当たったカントによって、ぽんっと弾かれた影朧に、ぱちぱち弾ける火花で追撃して、歌声も止めていく。
カントは優しい心に支えられた強い意志でもって、悲しい歌を、影朧達をどんどん止めていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
暁星・輝凛
◎
どうして、って?
そうだね……寂しい気持ちがもっと広がってしまうから、かな。
それにサアカスってやつは……。
精神攻撃系は長引くだけ不利だ。【先制攻撃】を仕掛けるよ。
【呪詛耐性】で堪えつつ、魔力の【リミッターを解除】して出力を上げ、
一気に仕掛ける。
トラウマ効果に対しては……長くケルベロスなんてやってると、苦い思い出なんてたくさんあるからね。
それを嘆くんじゃなく、目の前のことに向き合う【勇気】を以て乗り越えたいと思ってるよ。
だって、一番嘆きたいのは、このサアカスの団員たちのはずだろう。
……サアカスってやつは、お客様も、団員も、皆が笑顔になれる場所なんだ。
思い残し、辛い気持ち。受け止めるから、見せて。
●
「どうして、って?」
何故止めるのか、と繰り返し繰り返し、鈴の音と共に問いかけられる声。それに輝凛は穏やかに言葉を紡ぐ。彼らの耳に静かに届くよう、月の光のように穏やかに。
「そうだね……寂しい気持ちがもっと広がってしまうから、かな。このままいっても、連れて行く人も、君達も寂しいままだから」
ただ求めるだけ、寂しさを集めて膨らむだけでは何も変わらない。ずっと過去に留まっていても孤独は晴れることはない。囚われた傷のままでは何も変えられない。
だから、輝凛は覚悟を背負って戦いに向かう。大事な人を守るため、力なき人を守るため。獅子座の剣士は牙を持つ。嘆くのではなく、向き合う勇気で以て乗り越えるために。
一番嘆きたいのに明確に言葉にできず、ただ彷徨い仲間を増やそうとするだけの、サアカスの団員達に手を伸ばすために。
「それにサアカスってやつは……」
長引けばお互い心苛む痛みに深く囚われるだけ、と輝凛は一気に仕掛ける。彼らが動くより早く、沸き起こるトラウマに耐えて魔力の出力を上げる。
月光を帯びた光の本流が影朧達を押し流す。荒れ狂う水のような、けれど優しく包むような金色のエネルギーが影朧達を消していった。
けれど僅かに残る、ちりん、ちりんとなる鈴の音に揺れる輝凛の精神。鈴の音に惹かれるように、苦しみ、辛さを感じた記憶が想起され、今目の前で起こっているように感じる。
ケルベロスとして長く活動してきた輝凛にも、苦い思いの経験がたくさんあるのだ。救えなかったことも、叶わなかったことも、悲しかったことも。それが傷となって残るものも。零れるものは多すぎて、彼の両手だけではどうしようもない。仲間の力を借りていても、手が届かないこともあった。
そんな想いを無理矢理引き出され、当時の苦しさを再体験させられていても、輝凛の表情は穏やかだった。
「……サアカスってやつは、お客様も、団員も、皆が笑顔になれる場所なんだ」
だから君達も笑顔にならなくちゃ、と輝凛は手を伸ばす。
「思い残し、辛い気持ち。受け止めるから、見せて」
この手は君達に届くから、と。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「其の道を、貴方達に選ばせる訳には参りません」
「其の方を得られて、貴女達の心は安らぎましたか?もっともっとと渇望を覚えませんでしたか」
「貴女達の渇望を、真の意味で癒せるのは。孤独を真に埋めるのは。貴女達自身が、影朧から脱却して新しい生命となれば得られるものなのです。貴女達自身が温かい血潮と鼓動を取り戻し、互いに触れ合い感じる事で満たす事が出来るのです。孤独から逃れたいなら…どうぞ、貴女達も転生を」
UC「幻朧桜召喚・解因寿転」
狂気耐性呪詛耐性で攻撃堪え影朧達に歩み寄る
しっかり目を見て一人一人ハグし背中を優しく撫でる
「貴女達を待つ人は、私以外にも居りますとも。どうぞ、転生して戻っていらっしゃい」
●
ただ一緒に、寂しい人と、影朧といきたい、と訴える団員達に、桜花はふわりと微笑んだ。その視線は揺るぐことなく、しっかり彼らを見つめている。
「其の道を、貴方達に選ばせる訳には参りません」
過去の傷に苛まれ、孤独に嘆き、それでも明確にその先を見ることなどできず。本能めいた衝動のままにに囚われの人を、影朧を誘って共にいこう、サアカスを続けよう、と囁いて。そうして傷を更に深くしようという影朧を。
瞼を下ろし、守られるように囚われたままの団長をそっと示して桜花は問いかける。
「其の方を得られて、貴女達の心は安らぎましたか? もっともっとと渇望を覚えませんでしたか」
寂しい人を、影朧を招いて仲間にして、サアカスを大きくして。それでも孤独なままで変わりがない。いくら食べても満たされない、苦しいほどの飢えのような、そんな気持ちをずっと抱えたままだろう、と。
小指の鈴を鳴らし、憎い気持ちを駆り立てる音を堪えながら、桜花は優しく腕を広げた。鈴の音もその攻撃も耐えてみせよう、彼らを救うためならば。
「貴女達の渇望を、真の意味で癒せるのは。孤独を真に埋めるのは。貴女達自身が、影朧から脱却して新しい生命となれば得られるものなのです」
孤独は今のままでは癒せない。影朧達へと語りかけ、桜花はその心残りを解きたいと願っている。
「貴女達自身が温かい血潮と鼓動を取り戻し、互いに触れ合い感じる事で満たす事が出来るのです。孤独から逃れたいなら……どうぞ、貴女達も転生を」
影朧のままでは、きっと先に進めないから。嫌がり鈴を鳴らして憎悪のままに振るわれたサアカスの道具を扇で弾き、影朧の目を見つめ、抱きしめる。
「貴女達を待つ人は、私以外にも居りますとも。どうぞ、転生して戻っていらっしゃい」
優しく労るように、孤独を抱きしめて、少しでも埋めるように。暖かな声で語りかけ、桜花は影朧を慰めるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
孤独を、心の隙間を埋める事を否定はしないけれど
しかし、この……人の心の弱みにつけこむようなやり方はいただけないだろう
大刀【冷光霽月】を抜いて敵軍と相対
様々な道具や設備を使って攻めてくる敵の動きは奇抜だが
物理的にありえない動きをしてくる訳じゃなし。冷静に見極めていけばさほど脅威にはならないな
適宜の移動で立ち位置や間合いを調整しつつ、隙があれば手近な設備類に一撃入れておく
少しでも歪みが生じれば、幾らか敵の動きを妨害できるかもしれない
あとは接近してくる敵や投擲物などを、或いは残響する鈴の音を。剛式・壱の型【雲耀】で斬り伏せていくのみ
俺にはこういうやり方しかできないけれど……せめて、安らかに眠ってくれ
●
鏡介は大刀【冷光霽月】を抜きながら、繰り返されるどうして、という問に答えるように言った。
「孤独を、心の隙間を埋める事を否定はしない」
埋めなければ大きすぎて、それに囚われきって進めなくなってしまうこともあるだろう。
過去の傷でもある影朧ならば尚更に、孤独にばかり囚われて、にっちもさっちもいかない。故に心を埋める何かに惹かれるのもわかる。
「しかし、この……人の心の弱みにつけこむようなやり方はいただけないだろう」
否定はせず、理解はできても、手段を許すことはできない。その先に待つのは破滅のみならば尚更に。
だから止める、というように、鏡介は床を蹴った。
影朧達は身軽にサアカスの中を飛び回り、駆け回る。空中ブランコや綱から飛んでくる。ジャンプ台や壁を蹴って跳ねてくる。ジャグリングの道具や大玉に乗って襲ってくる。心揺さぶる鈴の音を響かせながら。
その動きは奇抜だ。型のある武道や、地を征く軍の動きとは違ったもの。上に下に、左右に揺れては機を変え品を変えて攻めてくる。
けれど、それが鏡介にとって問題になることはない。
一歩横にずれて空中からの蹴りを避け、前に進んで大玉の突進を回避する。飛んできたジャグリングのクラブを冷光霽月で切り弾いて、勢いのまま斬撃を飛ばして影朧達を薙ぎ払う。
更にはその攻勢が緩んだ合間に、斬撃飛ばして綱を切り、手近な台や道具にも一撃加えて、その形を歪めていった。
(物理的にありえない動きをしては来ないなら、見極めて捌けばいい。道具や設備が歪めば、幾らか動きが鈍るだろう)
冷静に戦況を見極め、鏡介は大刀を振るう。すべてを祓い清めるような鮮烈な斬撃を飛ばしながら、影朧達を、道具を、心揺らす鈴の音すらも斬り伏せて。
鏡介は彼らを慰めるような術は得手としていない。真っ直ぐに剣を振るい、彼らを斬っていくのみだ。
瞳に複雑な色を宿しても、その手が、足が止まることはない。
「俺にはこういうやり方しかできないけれど……せめて、安らかに眠ってくれ」
次の世では孤独に嘆き続けることのないように、願いながら。
大成功
🔵🔵🔵
ヴァンダ・エイプリル
◎
まずは寂しさに寄り添ってくれてありがとう!
でもきっとそのまんまじゃ、心の底からは笑えない!
綱の上に敵を誘う
足場は不安定、それは相手も同じこと
ヴァンちゃん、バランス感覚には自信ありますからね!
仕掛けてくる攻撃を回避しつつ、ぐらついたところを狙う
【コントの小道具】を【ジャグリング】しながら
【武器を投げつける】で綱から落っことす!
トランポリンはもうないかもよ!
歌!?
お上手だけど……耳が痛くなるね!
歌う敵からは距離を取ってUCを発動
ジャグリングしたモノを投げつける!
普通の軌道を取るように見せて急カーブ!
自分の意志でコミカルに戦ってもらうよ!
せっかくのサアカスなんだもの
披露するショーは楽しくなきゃね!
●
「寂しさに寄り添ってくれてありがとう!」
まずヴァンダは影朧の団員達に礼を言う。どんな思惑があったとしても、寄り添う心は素敵なものだ。
「でもきっとそのまんまじゃ、心の底からは笑えない! 寂しさもなくならないよ!」
だからこのサアカスの幕を下ろそう、とヴァンダは悲しい影朧達へと相対する。
揺れる綱の上にヴァンダも乗り、不安定な足場を身軽に動く。影朧も綱の上に乗り、揺らして跳ねてとしてくるけれどヴァンダが落ちることはない。
(ヴァンちゃん、バランス感覚には自信ありますからね!)
綱を揺らす影朧のテンポをずらすようにヴァンダは跳ねて、たわむ綱の周期を変える。影朧がずらされたたわみに僅かに姿勢を揺らがせたところに、普段使いのコントの小道具をさっと投げつけて、綱の上から落としてみせた。その先にはトランポリンはなく、叩きつけられた影朧は消えていく。
けれど残った影朧はまだいるのだ。彼らは歌を歌い出す。ぐるぐる心を揺さぶって、狂わせて追い詰めてくるような歌を。技巧も感情も十二分、けれど気持ちは狂い出しそうな 歌を。
「歌!? お上手だけど……耳が痛くなるね!」
少し耳を倒しながら、ヴァンダは歌う敵から距離を取る。狂う心も場も変えて、笑いを導いてみせましょう、と自身も笑みを浮かべ、取り出したるはコントの道具達。くるりと回して投げ上げて、まずはクラブを影朧めがけて放り出す。
まっすぐ飛ぶかと思われたそれは、影朧の目の前で急カーブ。重力に逆らいくんと真上に移動して、ひゅるりと空から降ってきた。
「さあ、楽しいドタバタ劇のはじまりはじまり!」
看板もナイフも他の道具だって、くるくる踊るように跳ねるように動き出す。ヴァンダの手の中でひょいひょいくるりと投げ上げられてから、影朧のところへ飛んでいく。道具に宿った意志達が
大騒動を起こすのだ。
綱の上で満開の笑みでジャグリングしながら、ヴァンダはひらりとクラブを回す。
「せっかくのサアカスなんだもの、披露するショーは楽しくなきゃね!」
愉快に踊る道具と一緒に、ヴァンダも綱の上でくるりと踊ってみせた。
大成功
🔵🔵🔵
鳴上・冬季
◎
「…それで?」
嗤う
「わざわざ向き合って、自ら孤独に落ち込んで。その状態の人を集めて。それから、どうする予定です?」
嗤う
「孤独が本当に癒やされたら、孤独を集めて道行きなんて起こりません。孤独は人間にとって心の飢餓の一種です。満たされない想いを煽りたて死者と同じ道に引き摺り込む。桜學府のお膝元でそんな負の連鎖を見過ごす訳が無いでしょう」
嗤う
「疾く骸の海へ帰るか桜の精に転生を願いなさい。貴方と言う個が喪われれば、その孤独も喪われます。それが最も簡単な孤独からの脱却です」
嗤いながら敵を雷火で燃やし尽くす
「孤独を感じるのは、見比べ理解し合えない他者が居るからです。それは、真の孤独とは別物ですよ?」
嗤う
●
どうして、どうして、と嘆くばかりの影朧に、問いかけの声がかかる。
「……それで?」
稲妻纏う狐火を呼び起こし、冬季は嗤っている。
「向き合わずとも良いものにわざわざ向き合って、自ら孤独に落ち込んで。その状態の人を集めて。それから、どうする予定です?」
共にいきたいと言いながら、その先は何も見えてこない。彼らからは何も感じられない。ただ嘆いて、集まって、膨れ上がろうとするばかり。
「ああ、そんな先のことは考えられないのですか」
冬季は嗤う。哀れな影朧、ただただ孤独にとらわれて、時に狂い、時に憎み、寂しさのままに堕ちていく。そんな彼らを嗤っている。
「孤独が本当に癒やされたら、孤独を集めて同じ道行きなんて起こりません。孤独は人間にとって心の飢餓の一種です。どうしようもなく満たされない想いを煽りたて、死者と同じ道に引き摺り込む。桜學府のお膝元でそんな負の連鎖を見過ごす訳が無いでしょう」
膨れ上がって破裂する風船のように、詰め込みすぎれば待つのは破滅。生者も影朧も引きずり込んで群れに加えていけば、待っているのは世界の崩壊だ。
この気に入った世界がそうなるのは偲びない、と冬季の唇は釣り上がる。
「疾く骸の海へ帰るか桜の精に転生を願いなさい。貴方と言う個が喪われれば、その孤独も喪われます。それが最も簡単な孤独からの脱却です」
過去の海へと揺蕩う一滴の雫に戻るか、今残った残滓を消し去って次の生へと進んでいくか。どちらかを選べと冬季は嗤いながら雷火を放った。
受けているはずの憎悪も痛みも感じさせないように嗤い、指先一つで意のままに雷火を動かした。真白の尾を引きながら轟音響かせ狐火は走り、サアカスのテントの中を動き回る影朧達へと迫っては燃やし尽くしてい。く
燃えて消えゆく影朧達へと向ける表情は、ただ一つ。
「孤独を感じるのは、見比べ理解し合えない他者が居るからです。それは、真の孤独とは別物ですよ?」
そう嘯きながら、長く生きている狐の仙は嗤っていた。
大成功
🔵🔵🔵
幽遠・那桜
◎○
そうやって、一緒にいくことは、簡単です。戻ることの方が、とても難しい。
でも、ここにいる人達は戻らなければいけませんでした。……間違う前に。
過去は取り戻せません。取り戻せないけど、歩み寄ることは出来る。
全力魔法で、残像を見せつつ影朧達をひらりふわりと躱して、UC発動。
寂しい心を、寂しいままにしない。させたくない。ただ、前を向いて『幸せ』を求めて欲しい。
……でも、鈴の音で思い出す。海斗君が死んだ時のことも、殺したいほど嫌いと言われたことも。
胸が痛くて、苦しい。
……どうして。私自身も言った言葉だね。どうしてこんな事をするの? 海斗君。
優しい君なら、突き放すような事言わないし、人を巻き込むようなことは、しないのに。
どうしてそこまでして、私を遠ざけたいの?
私……何か忘れてるの?
……ごめん。今だけ、邪魔しないで。
影朧を無力化していきながら、海都さんと海斗君を探す。
海都さん。海斗君。
私、大事な人を亡くした苦しみを知ってる。思い出さないことがないくらい。
でも、忘れたくない。私の、大事な思い出だから!
●
どうして、どうしてと己の邪魔をする猟兵達へと嘆く影朧に、那桜はぎゅっと拳を握っている。桃の花転じた扇子が、重さを主張するようだった。
「……寂しいひと達を誘って、互いの孤独を埋めるように寄り添って。そうやって、一緒にいくことは、簡単です。戻ることの方が、とても難しい」
夢のような時間に誘われて、孤独を見つめてそれと向き合って、そこから逃げるように影の中を行く。それはとても心惹かれること、簡単なこと。人は簡単な方を選んでしまいやすいから。那桜だって、かつてそうだった。自分が楽になる方を選んでしまっていた。
「でも、ここにいる人達は戻らなければいけませんでした。……間違う前に」
だから那桜もやってきたのだ。間違って過ちを犯す前に、一時癒やされても、また孤独を感じる日々へと戻すために。過去の喪失に苦しむ日々へ、戻すために。
「過去は取り戻せません。取り戻せないけど、歩み寄ることは出来る」
新緑の目を一度瞼に隠した那桜は、そっと手を広げる。
同時に、サアカスのテントの中に桜並木の幻影が広がった。ふわりふわりと風にひらめくのは、優しい色の霞桜の花びら。
それを攻撃と判じ、嘆きながら飛び掛かって来る影朧からは、ちりんと鈴の音が響く。上から横から、サアカスの道具を用いて動き回ってくる影朧に霞む残像を残し、伸ばされた手を、足を、道具を、花びらのようにひらりふわりと那桜は躱す。
(寂しい心を、寂しいままにしない。させたくない。ただ、前を向いて『幸せ』を求めて欲しい)
舞うように躱していけば、霞桜の花吹雪がその香りで影朧達を鎮めていく。
けれどどうしても鈴の音は那桜の心を揺さぶってきた。心の傷をさらけ出させ、流れる痛みを思い起こさせてくる。
赤に沈んだ少年の虚ろな目を。憎しみこもる少年の鋭い目を。
(……思い出す。海斗君が死んだ時のことも、殺したいほど嫌いと言われたことも)
涙が溢れるほどに、胸が痛くて、苦しい。重く、重く、今尚抉られている、その傷が顕れて那桜を苦しめる。
「……どうして」
それは那桜も言った言葉だ。あのとき、嫌いと告げられた。訳がわからなくて、どうして、どうして、と。何故ここにいるの、何故嫌うの、どうして、と。
(私自身も言った言葉だね。どうしてこんな事をするの? 海斗君)
優しかった彼がそんなことを言うはずが、するはずがないと思っていたのに。
(優しい君なら、突き放すような事言わないし、人を巻き込むようなことは、しないのに。どうしてそこまでして、私を遠ざけたいの?)
うんざりだ、嫌いだ、殺したい。追いかけておいで、遅ければ人が死ぬかも。そう言って嘲笑った、あの日の彼。あまりにも記憶の中の少年と違っていて、ひどく那桜の心を惑わせて、傷つけて。
そうまでして、那桜を突き放すのに何か理由があるのかと信じたくて。
(私……何か忘れてるの?)
何を、忘れたのか。思い出せない。わからない。けれど、もう一度会ったその時にわかるかもしれない。
心の傷に向き合った那桜に、鈴の音の影朧の手が伸びる。それをそっと避けながら、那桜は首を振った。
「……ごめん。今だけ、邪魔しないで」
揺れる霞桜の香りの中、那桜は影朧を無力化していく。時折サアカスの中を見回して、影朧の群れの奥で守られているはずの海都を、いるはずの海斗を探しながら。
(海都さん。海斗君。私、大事な人を亡くした苦しみを知ってる。思い出さないことがないくらい)
家族を、姉を、大好きだった彼を、喪ったあの日の記憶を、苦しみを、大切に抱えて生きてきたのだ。
「でも、どんなに苦しくたって、忘れたくない。私の、大事な思い出だから!」
決意を込めた那桜の目に、鈴鳴らす影朧達の向こう側、桜の枝角を持つ少年が見えた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『巡る桜刻を繋ぐ者『カイト』』
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POW : いつかの時も、ただただ儚く消えるだけ
【戦場の時】の【停止と加速を駆使すること 】で敵の間合いに踏み込み、【過去現在未来を消し去る光を放つ時計盤】を放ちながら4回攻撃する。全て命中すると敵は死ぬ。
SPD : 刹那の花は、残酷だけど美しく
対象に【死までの時と思考を急加速させる桜花弁 】を憑依させる。対象は攻撃力が5倍になる代わり、攻撃の度に生命力を30%失うようになる。
WIZ : 零れて狂い、咲き誇れ……墨染の花よ
詠唱時間に応じて無限に威力が上昇する【万象 】属性の【自身含む対象に】【時空を消失させる桜吹雪】を、レベル×5mの直線上に放つ。
👑11
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●サアカスの最後の演目は
猟兵達に倒されて、数を減らした残響の影朧達。
追い詰められた彼らは、団長の元に集まっていく。
「嫌だ、もう、一人は嫌」
「寂しいのは、いや」
孤独を抱えた彼らは、同じように過去の孤独を、たった一人を喪った孤独を抱える海都へと乗り移る。
「ああ、わかるよ……ひとりは、寂しいから」
多数の弱い影朧も、束ねれば一つの強い影朧へと変じれる。過去の傷から強大な影朧を呼び起こせる。
そうして、彼は現れた。
霞桜の枝角、灰簾石の短杖をもつ少年の姿の影朧が。
青い目で己の宿敵を認めて、彼は杖を振るう。
「……さあ、戦おうか」
この世からその存在を消すことを望む影朧、
海斗は、海都の体に乗り移り、戦いへと向かう。
もしも無傷で海都を救い、正気を取り戻したいならば、彼の孤独に寄り添うような声がけが必要だろう。そうすれば影朧との結びつきも弱くなるから。
鹿村・トーゴ
◎○
相手を目視するや即至近距離からUC
更に【念動力】で動きを奪い敵の詠唱を阻止
【野生の勘】だが凄いやばい技使おーとしたろ?させねーよ
杖を持つ手拘束し話す
にーさん
1人は寂しい寂しいって泣き言ぼやいてたが猟兵とみるや戦闘態勢か
オブリビオンの本能かねェ
かけがえない友人亡くせば悲しい
当然だ
でもアンタには家族も他の友人もいる
その泣き言を身内に聞いて貰ってさ
少しでも同情でも
共感貰えば良かったんだ
家族も周りもきっとアンタを心配してた
死者に頼らず生きた身内に甘えてみてよ
友人が死んだのはアンタの所為じゃない
それも彼の人生だ
生ききった友人認めてさ
ちゃんと思い出にしよーよ
腕を引っ張り力任せに背負い投げ
刃物は止めとく
●
トーゴは現れた強大な影朧、カイトを目にするや否や、距離を一気に詰めた。彼が何かを唱える前に念動力で自由を奪う。
「勘だが、凄いやばい技使おーとしたろ? させねーよ」
眉潜め、口を動かそうと抗う海斗と、意志の力で押さえつけるトーゴ。押し返される重圧に耐えながら、トーゴはカイトの腕を両手のひらで握り、ばちりと高圧の電流を流して動きを封じる。
(核になったにーさんは一人は寂しい寂しいって泣き言ぼやいてたが。影朧の方は、猟兵とみるや戦闘態勢か。オブリビオンの本能かねェ)
口の自由と腕の自由、どちらも押さえ込みながらトーゴはカイトの奥にいる海都に語りかけた。
「にーさん、かけがえない友人亡くせば悲しいさ。それは当然だ」
その喪失は埋め難く、孤独はいつまでもそこにある。それはトーゴにもわかる。
「でもアンタには家族も他の友人もいる。その泣き言を身内に聞いて貰ってさ、少しでも同情でも共感貰えば良かったんだ」
けれどそれをどう埋めるかは、海都の行動次第だった。一人嘆くだけでなく、周囲へと手を伸ばし、声を聞いてもらえばよかったのだ。
彼はひとりではないのだから。
「家族も周りもきっとアンタを心配してた。死者に頼らず生きた身内に甘えてみてよ。ほんの一言からでいいんだ。寂しいって、言うだけで」
誰も跳ね除けたりしないから、とトーゴは目を和らげる。僅かに緩んだ重圧に、ぐっと手に力を入れ直した。
「友人が死んだのはアンタの所為じゃない。それも彼の人生だ。彼の道行きを生ききった友人認めてさ、ちゃんと思い出にしよーよ」
ずっと彼が生きていた当時にこだわるだけでは、その一部に固執して、歪ませていくだけだから。
同じ孤独を抱えたまま、埋め方を模索しているトーゴ言葉に、カイトの中の海都はわずかでも孤独が埋められたのか、影朧からの重圧が一瞬軽くなる。
トーゴはぐっと腕を引き寄せた。たたらを踏んだカイトの体を引っ張り上げ、羅刹の剛力でもって力いっぱい投げ飛ばす。
動きの鈍ったままのカイトは盛大に地面に叩きつけられ、顔を歪めて一筋涙を流したのだった。
大成功
🔵🔵🔵
鳴上・冬季
「確かに海都さんは取り戻したいですが、他の方がやると思うのですよ」
嗤う
「第一これで無傷で戻ったら、彼も恥ずかしいでしょう?重傷くらいが丁度いいのでは」
「独りが嫌なら新たな友を作れば良い。返さぬ想いは返らない。自ら為さぬ故に陥った怠惰を吹聴しないでいただけますか」
嗤う
「學徒兵の立場だけで言わせて貰えば、影朧の想いを復唱しその想いだけを深めるのは論外です。それでは永遠に彼等が影朧から脱却出来ない。その想いを転生に繋げる原動力にして旅立たせなくては」
「故にその心得違いを吹聴する貴方達を叩きのめすのです」
2mの黄巾力士に融合
金磚から誘導弾連射し接敵
ガンフーで内臓殴り撃ち言葉を発せない状態にする
●
「確かに海都さんは取り戻したいですが、他の方がやると思うのですよ」
それは己の役割ではない、と冬季は嗤う。
「第一これで無傷で戻ったら、彼も恥ずかしいでしょう? 重傷くらいが丁度いいのでは」
だから己は力で押しつぶす、と青色を細く撓ませた。
「そもそも独りが嫌なら新たな友を作れば良い。貴方が返さぬ想いは誰からも返らない。自ら為さぬ故に陥った怠惰を吹聴しないでいただけますか」
黄巾力士を呼び出し、冬季はカイトの核になった海都を嗤った。喪ったものに拘泥するより、新たな縁を結んで孤独から目をそらせば良かったのだと嘯いて。
「それで良いとしたら、
僕はここにいなかっただろう」
強大な影朧は僅かに目を眇め、若干の哀れみと多大な嘲りを含んだ色を宿す。
「
彼の孤独を知らぬ存ぜぬは別にいい。けれどそれを慮る言葉を、上辺だけの憐憫も持てないなんて。傲慢過ぎるとは思わないかい?」
「私など未々ですよ」
冬季は飄々と嗤いながら、続けて感情ではなく道理を説いた。
「まあ學徒兵の立場だけで言わせて貰えば、影朧の想いを復唱しその想いだけを深めるのは論外です。それでは永遠に彼等が影朧から脱却出来ない。その想いを転生に繋げる原動力にして旅立たせなくては」
その手段が同情、共感、憐憫でも、叱咤激励でも大いに結構。けれどただただその想いをなぞらえて、立ち止まったまま過去のまま、世界を壊す存在を留めるわけにはいかないと、わかっているでしょう、と冬季は海都へと嗤う。
「故にその心得違いを吹聴する貴方達を叩きのめすのです」
2mへと巨大化した黄巾力士に融合し、冬季は地を蹴った。金磚より誘導弾を撃ち出しながら詠唱を紡ぐカイトへと一気に迫る。
鋼の掌底をカイトの腹部に叩き込み、飛ばす先には誘導弾。背中から当たって爆風で飛ぶ体に蹴りの追撃。杖を振るった一撃を腕で受け止め、金磚撃ち込み仰け反って避けたカイトの体を蹴りで薙ぐ。
詠唱する暇など与えはしない、内臓狙って殴り蹴る。海都の体のことなどお構いなしで、冬季はガンフーで影朧を追い詰めていくのだった。
成功
🔵🔵🔴
夜刀神・鏡介
◎○
俺も大切な人を……両親や友達を失った事があるから、その気持ちは分かるよ
だが、友人はそれに囚われる事を望まないだろうし……なにより今、君を想う人達の事を蔑ろにしてはいけない
だから、君が望まなくとも――俺は君を助けよう
先程と同じく、大刀を構えて敵と相対
時間を操るような相手と戦うのはそう楽じゃないだろうが、まずは受けに回る
4回攻撃を受ければ死ぬが、逆にいえば3回までなら受けられる
一撃を受けると同時に間合いや攻撃速度などを図ると共に、大刀を振るって反撃。一旦、間合いを調整する
次に近付いた時が勝負――気を練り上げて、剛式・暫定奥義【 】
敵の攻撃を切り裂きながら、連続攻撃を一気に叩き込む
●
「俺も大切な人を……両親や友達を失った事があるから、その気持ちは分かるよ」
たった一人、世界に残されて。埋められない孤独が軋むように鏡介を苛むこともあった。今もそう、なのかもしれない。
「だが、君の友人はそれに囚われる事を望まないだろうし……なにより今、君を想う人達の事を蔑ろにしてはいけない」
きっと家族が、今の友人が見守っている。海都の孤独に気づいて、声が聞こえれば、手が伸ばされたら、彼らの手を差し伸べようとしているから。
大刀【冷光霽月】を構え、鏡介は動きが緩く鈍ったカイトと相対した。
「だから、君が望まなくとも――俺は君を助けよう」
影朧が、核となった海都が望まなくても、彼を待つ人のために。
浮き上がった時計盤がカイトと共に鏡介へと向かう。時を加速し、停止させ、自在に緩急つけて向かってくるカイト。それは通常の武芸とは全く違った動きを見せる。数度触れたなら危険だとわかるほど、力を帯びた光放つ時計盤も追従してくる。
(4回……4回受ければ、終わる。逆に言えば3回までなら受けられる)
ならば見極められる、と鏡介は守勢に回った。予測しが難い時間を無視した動きに集中し、迫るカイトを受けるべく、大刀【冷光霽月】を構えて集中する。
止まり速まり動くカイトの姿が揺れ、気づけば鏡介の目前に迫っていた。光る時計盤が一度、大刀を避けて鏡介に当たる。
途端、鏡介は己の根幹が揺らぐような衝撃を受けた。過ごした時間、今、それから先の時間を奪われたような感覚にぐっと奥歯を噛んで耐え、大刀を振るい距離を取った。
カイトが避けて体勢を立て直す間に、鏡介は一歩、大きく踏み込む。
再度の一撃で反撃する心づもりであったけれど、想定以上にカイトの動きが見えたのだ。今なら届くと理解できた。
大刀【冷光霽月】を振り上げ、呼吸を、気を練り上げながら更に一歩踏み込み、時間を止めようとするカイトの前に振り下ろす。
届いた剣線を翻し、更に一撃。現れた時計盤とカイトを切り上げ、一撃。逆から振り下ろし、真横に斬って、最後に大上段からからの五撃目を叩き込んで。
硬直する体を防御姿勢に変えながら、確かに揺らいだ影朧を鏡介は見ていたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
高崎・カント
カントは、今は団長さん達の心の痛みはわからないのです
でも、いつかわかる日が来るのです
カントはゴーストで、ゆーいっちゃん(カントの主)は人間なのです
お別れする日は……必ず来るのです
海都さん、苦しそうなのです
海都さんはまだ生きている人なのです
その痛みを少しでも軽くしたいのです【UC使用】
ゆーいっちゃんと初めて会った時の、カントの大事な想い出の歌を歌って、海都さんの身体の痛みを和らげるのです
どうか思い出してほしいのです
世界が滅んだら寂しさも無くなるけど、大切な想い出も失くしてしまうのです
死はお別れだけど、それでも失くならないものもあると思うのです
「もきゅう」と鳴いて、海都さんに寄り添うのです
●
唯一を喪った孤独、どうにも埋められないし変わりのいない、そんな孤独をカントはわかっていると断言できなかった。
ひとりぼっちの寂しさはわかる。けれどかけがえのない存在を喪った、苦しみや悲しみ、痛みは。
(わからないのです。カントは、今は団長さん達の心の痛みはわからないのです)
けれどカントはきゅっと小さな手を握りしめる。
(でも、いつかわかる日が来るのです。カントはゴーストで、ゆーいっちゃんは人間なのです)
大好きなお嫁さん、大切な存在、青春を一緒に駆け抜けた、唯一の存在。種族が違っても心を通わせた最愛。そんなゆーいっちゃんとは種族が違うからこそ、流れる時の長さも違う。
(お別れする日は……必ず来るのです)
きゅっと痛む胸を押さえ、カントは海都へと向き直る。
寂しいと嘆く影朧に囚われて、強大な影朧カイトの核になって、海都の姿も声も聞こえない。けれど、揺らぐ影朧の向こう側で孤独に苛まれていると感じられる。
(海都さん、苦しそうなのです)
寂しいと、悲しいと、孤独に囚われて静かにうずくまって泣いている。生きているからこそ、泣いている。
(そう、海都さんはまだ生きている人なのです。その痛みを少しでも軽くしたいのです)
だから、カントは歌うのだ。
大事な、最愛の人との想い出の歌、優しい気持ちの歌。彼の痛みを引き受けながらカントは歌う。
初めて出会ったあのときの、優しく素晴らしくて、何か満たされていくような。孤独がなくなっていくその気持ちを。
(どうか思い出してほしいのです。世界が滅んだら寂しさも無くなるけど、大切な想い出も失くしてしまうのです)
けれど海都が、カントが生きていたなら、喪った大切な存在はきっと完全には消えることはない。
(死はお別れだけど、それでも失くならないものもあると思うのです)
Even if death do us part、きっと大切なものは残っているはずだから。
「もきゅう」
揺らぐ影朧の向こう側、孤独に嘆く海都に、カントはそっと寄り添っていた。彼の嘆きが、痛みがどうか軽くなってほしいと、柔らかな毛を震わせながら。
大成功
🔵🔵🔵
ヴァンダ・エイプリル
◎
そうそう、つらいものです寂しさは
消えたいと思っても……生きちゃうんだよね
しんみりしてからにっこり笑う
なので、海都さんの悲しみもひっくり返しちゃいまーす!
技を放とうとする相手へ堂々歩く
させないよ、自暴自棄には
苦しむのはその友達だって望んでないだろうし
それでも撃つならと誘って
黒染の桜吹雪をカラフルな花びらに変換!
サアカス最後のイリュージョン!
【おどろかす】のは忘れない!
ヴァンちゃん、天才仕掛人ですから!
生まれた世界の記憶を滲ませ語る
生きててもいいことなんてないかもね
理不尽だよ、世界なんてのは
だけど負けてあげる必要もない!
笑って笑って何度もひっくり返そう!
……じゃないと、死んだヒトが浮かばれないよ
●
響いていた寂しいという声は、一つに集まって強大な影朧を呼び出した。その核になった海都も寂しいと泣いている。
「そうそう、つらいものです寂しさは。消えたいと思っても……生きちゃうんだよね」
普段とは違う静かな声。ヴァンダはそのまま一度目を閉じ、すぐにぱちりと開ける。
彼女の顔には朗らかな笑み、天才仕掛け人の笑顔が戻ってきた。
「これからも生きていくなら、寂しさは軽くなくっちゃ。なので、海都さんの悲しみもひっくり返しちゃいまーす!」
ヴァンダは堂々と胸張って、怯えることなく真っ直ぐに歩く。杖を構えて詠唱を始めた影朧、カイトへと向かうのだ。
「させないよ、自暴自棄には。君が苦しむのはその友達だって望んでないだろうし」
自分ごとすべて消してしまおうなんて、それは誰も望んでいないだろう、そう言いながらヴァンダは笑って優雅にお辞儀する。
「それでも撃つなら──さあどうぞ?」
声に揺らいだ影朧は、それでも詠唱をやめない。ひらりひらりと墨染色の花びらが、ヴァンダとカイトを覆うように無数に広がり降り始めたその時に。
「サアカス最後のイリュージョン!」
ヴァンダの声が響き、ばっと大きく腕が広がった。色なき桜に色がつく。色彩が様々に溢れだす、カラフルな花びらに変わっていく。
目を見開き眺める影朧に、海都に、ヴァンダはとびっきりの笑顔を贈る。
「なんたって、ヴァンちゃん、天才仕掛人ですから!」
誰も傷つかせない花吹雪の中、ヴァンダの笑顔は少し影を帯びたものに変わっていた。
彼女の生まれた世界は厳しく、生きていくのも易しくはない。優しさが小さく見えて、寂しさはどこにで転がっていて。
「……そりゃね、生きててもいいことなんてないかもね。好きなもの、大切なものほど手から溢れていく、理不尽だよ、世界なんてのは」
だけれどヴァンダは俯いたままではいない。
「だけど負けてあげる必要もない! 笑って笑って何度もひっくり返そう!」
にかっと笑って顔を上げて歩いていく。寂しさもひっくり返して世界を驚かせていくのだ。
「……じゃないと、死んだヒトが浮かばれないよ」
大成功
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御園・桜花
「海都さんにお願いがあって参りました」
「私は御園桜花。貴方と同じ桜の精です」
「貴方から海斗さんの手を離して、海斗さんを転生に誘って欲しいのです。今海斗さんを此の世に引き留めているのは、海都さん、貴方の未練ですから」
「願いは魂に刻まれる衝動です。故に転生して前の記憶がなくなろうと、同じように望み又巡り会う。未熟な桜の精の私でも、其う言う方には何人も会いました。影朧なればこそ、痛みを昇華しもう1度願い叶える機会がある。転生して願いの儘に生き直せば、海斗さんの孤独は癒せましょう。此の生を生き続ける海都さんの孤独には、私が寄り添いましょう。話せる事から一つずつ、貴方の御話を伺って行こうと思います。新しい家族が海斗さんを抱き締め孤独を癒やす愛を惜しみなく与えられるよう、海斗さんの孤独を知る貴方が、貴方こそが海斗さんを転生に誘うに相応しいと思うのです。海斗さんを送って頂けませんか、海都さん」
UC「桜雫」
海斗ごと海都を抱き締める
「貴方を想う方は居ます。人の温かさに触れて、共に一歩を踏み出して下さい」
●
埋められない孤独を抱えて寂しいと嘆いて、寂しさを抱える残響の影朧達に取り込まれ、強大な影朧カイトを呼び起こした海都に、桜花は柔らかに語りかける。
「海都さんにお願いがあって参りました。私は御園桜花。貴方と同じ桜の精です」
静かに、優しく笑みを浮かべて手を差し出して、敵意はないのだと示しながら。
「海都さん、貴方から海斗さんの手を離して、海斗さんを転生に誘って欲しいのです。今海斗さんを此の世に引き留めているのは、海都さん、貴方の未練ですから」
影朧の核となって、寂しいという感情に飲み込まれた海都へと、語りかけている。穏やかな春の日向の様な、暖かな声色で。
「願いは魂に刻まれる衝動です。故に転生して前の記憶がなくなろうと、同じように望み又巡り会う。未熟な桜の精の私でも、其う言う方には何人も会いました」
桜花は幾つも幾つも、過去の傷から蘇ってはもう一度、あと少し、ただ一度。そんな生前の願いや傷のもとになった衝動に突き動かされるままに不幸の連鎖を繰り返していた影朧達を見てきたのだ。そして、彼らが新しい生へと巡り、その願いを正しい形で成就させる様子も。
「影朧なればこそ、痛みを昇華しもう1度願い叶える機会がある。転生して願いの儘に生き直せば、海斗さんの孤独は癒せましょう」
だから桜花は願うのだ。海都にも孤独を、寂しさを手放してほしい、と。寂しさにとらわれて、うずくまったままでいないでほしいと。
花吹雪が桜花の背へと集まってくる。
「此の生を生き続ける海都さんの孤独には、私が寄り添いましょう。話せる事から一つずつ、貴方の御話を伺って行こうと思います。新しい家族が海斗さんを抱き締め孤独を癒やす愛を惜しみなく与えられるよう、海斗さんの孤独を知る貴方が、貴方こそが海斗さんを転生に誘うに相応しいと思うのです。海斗さんを送って頂けませんか、海都さん」
花吹雪の翼を背負い、影朧ごと海都を抱きしめて桜花は祈る。彼らの孤独が軽くなるように、先へと進めるように。明るい場所を目指して、温かい気持ちになれるように、と。
「貴方を想う方は居ます。人の温かさに触れて、共に一歩を踏み出して下さい」
この世界で、貴方達はひとりぼっちではないと教えるように。墨染の桜が降りそそぐよりも早く、桜花は静かに二人を抱きしめていた。
大成功
🔵🔵🔵
国栖ヶ谷・鈴鹿
◎
影朧も、何より海都さんが澱に留まって、何も見えなくなるのはダメなんだ。
生きるのは死んでいないってことじゃない、いつかまた咲くのが生きるってことだよ!
それに、ここで閉ざされてしまったら、友達とも向き合う事もできない、それこそ本当の孤独だ!
超攻葬送掃射乱舞の一斉射で影朧と引き離して、UCの呪詛はきこやんの耐性で耐えつつ、海都さんが自ら目を覚ますことを思いながら、高威力まで高められた一撃で影朧をもう一度還るように汚染された魂を浄化する弾丸を込めて撃ち抜くよ!
……。
サアカスは閉幕だ。
楽しい時にもいつか終わりがある、だから良いんだよ。
最後はきちんとバイバイって手を振って送り出そう。
●
鈴鹿は双式機関銃ナアサテイヤとダズラから浄化の弾丸を撃つ。一斉射で時間を操り予測し難い動きで迫る影朧を牽制し、現れた瞬間を逃さぬよう弾幕を張る。
全てでなくても当たれば、影朧と海都を切り離す隙もできるはずだ。繰り出された時計盤は守護狐のきこやんの加護でそらしながら、鈴鹿は声を上げる。
「影朧もそうだけど、何より海都さんが澱に留まって、何も見えなくなるのはダメなんだ」
鈴鹿にも大事な人を喪った悲しみ、寂しさは覚えがある。けれどそれに囚われて、目を塞いでしまってはいけないこともわかっている。
「生きるのは死んでいないってことじゃない、いつかまた咲くのが生きるってことだよ!」
ただ息をして、食事をして、眠っているだけでは生きているとは言えない。何も感じず、悲しみの中で進めない生を行くことではないのだと鈴鹿は叫んだ。
辛さも苦しさも、悲しさも寂しさも抱えて、傷にして。それでも顔を上げて、また笑って、泣いて、進んで行かなくては。
「それに、ここで閉ざされてしまったら、大切な友達とも向き合う事も二度とできない、それこそ本当の孤独だ!」
恨み言でもいい、嘆きでもいい。大切な友人に向き合って、最後にいいやつだ、思い出だと言えればいい。それもできないままに、過去に引きこまれるのなんて、いっとう寂しいじゃないか。
鈴鹿の言葉を聞いた影朧の動きが一瞬、止まる。
そのタイミングで鈴鹿は引き金を引いた。今から撃ち出すのは特別な弾丸、高威力まで高めた浄化の弾丸だ。影朧が還れるように、悲しさ、寂しさでできた澱か開放されるように、祈りを込めた一撃を放った。
「……サアカスは閉幕だ。楽しい時にもいつか終わりがある、だから良いんだよ」
ずっと続けば楽しさは薄れ、やがて苦しさ、辛さに変わっていくこともある。終わって、また新しい次へと続くからいいのだ。
鈴鹿は弾丸が胸元に吸い込まれ、影朧を浄化していくさまを見守りながら呟いた。
消えゆくその時には、きちんとバイバイって手を振って送り出そうと、心に決めながら。
大成功
🔵🔵🔵
暁星・輝凛
◎
時計盤の軌道を【見切り】、UCの自己強化込みの動きで光を回避する
相手から間合いに入ってくれるんだ、攻撃直後に合わせて打撃を叩き込むよ
ある程度弱らせて、話をする時間を作るんだ
きみは、大切な友達を失くしたんだってね。
僕にはきみの気持ちがわかる、なんてことは言えない。
だけど、「それ」に身を任せた今の姿を見れば、想像するくらいはできる。
きみは本当に寂しかったんだなぁ……。
この世界に取り残された……そんな傷が消えないんだね。
ねえ、きみの友達はどんな人だったのかな?
きっと素敵な人だったんでしょ。
じゃあさ、君がこんな風になったら、その人は悲しむんじゃないのかな。
……誰かを想う痛みの辛さ、もう知ってるよね?
●
時の流れを操って、予測し難い動きで輝凛の間合いへとやってきたカイトが攻撃に移ったほんの一瞬の動作と視線から、操る時計盤の軌道を見極め、最小限の動きで避ける。これまで培ってきた技術が、愛と信念の力で増した力がそれを可能にする。
そのまま輝凛はカイトに打撃を叩き込んだ。相手から輝凛の間合いに来てくれているのだ、好機を逃すこともない。ぐっと力を込めて打ち据えれば、カイトの体が後方へ飛んでいく。追撃をかけながら、輝凛は穏やかな声音で語りかけた。
「きみは、大切な友達を失くしたんだってね」
先程より精細を欠いた影朧に、核になったカイトに届くように。動き出したらすぐに対応できるように、型を取りながら。
「僕にはきみの気持ちがわかる、なんてことは言えない」
寂しさを抱く経験も、抱いた寂しさの感じ方も、抱いた人の唯一のもの。同じような経験をしたとしても完全にわかるとは言えず、苦い思いはすべてどこか違う。
それでも、今の輝凛にもわかることがあるのだ。
「だけど、『それ』に身を任せた今の姿を見れば、想像するくらいはできる」
寂しいと嘆く影に囚われて、過去の影に覆われて。寂しいと嘆いて嘆いて、蹲っていて。先に進めず惑っている。
「きみは本当に寂しかったんだなぁ……」
優しい、柔らかな声音が輝凛の口から溢れていた。穏やかな色を浮かべた紫の瞳が影朧を、海都を見つめている。
「この世界に取り残された……そんな傷が消えないんだね。ねえ、きみの友達はどんな人だったのかな? きっと素敵な人だったんでしょ」
「素敵な……素敵な、やつだった。真っ直ぐで、でも柔らかで……いつだって、手を取って、励ましてくれた」
影朧から、ぽろり、ぽろりと寂しい声が零れてくる。もういないその人を思い出し、寂しさに身動きできなくなって、忘れてしまっていたと思っていた記憶を呼び起こして、泣いているような声だった。
「じゃあさ、君がこんな風になったら、その人は悲しむんじゃないのかな」
輝凛は握っていた手を緩めた。
「……誰かを想う痛みの辛さ、もう知ってるよね?」
固く握られていた影朧の手も、力を緩めているようだった。
大成功
🔵🔵🔵
幽遠・那桜
◎○
真の姿で
海都さん。海斗君。
ひとりぼっちは寂しい。思い出してから、尚更。
痛くて、苦しくて、会いたい気持ちが溢れて止まない。だから、海都さんの気持ちが凄くわかるんだぁ……
だから逢いに来た。海斗君に。
また、転生して、新しい生を送ってほしい……
……どうして、そんなに嫌がるの?教えてよ、海斗君!
灰簾石の短杖で、限界突破した全力魔法。
時空を消失させるなら、巻き戻していく……!
……そっか。ずっと、ずっと巡ってるから、終わらせたかったの?
私ね、もうひとりじゃないよ。
海斗君が戻ってくるまで、待てる。待ちたい。
……転生したら、覚えてなくてもいいんだ。初めましてで良いんだ。
私は霞桜の精。しあわせを探してる。海都さんと、海斗君の幸せも探してる。
私の幸せはね、また海斗君と会えることだよ。この世界だから、『また会おう』って言えるんだ。
……だから、海斗君。
桜が何度も巡った先でも良い。それまで、ずっと、ずっと待ってる。
UC発動。海都さんもひとりぼっちじゃないよ。
また会えるし、それに……
少なくとも私が、一緒にいます。
●
霞桜の枝角を大きく広げ、常よりも成長した姿で那桜は影朧カイト──海斗に向かい合う。
「海都さん。海斗君」
瞳を潤ませながら、那桜はそっと語りかける。
「ひとりぼっちは寂しい。思い出してから、尚更。痛くて、苦しくて、会いたい気持ちが溢れて止まない。だから、海都さんの気持ちが凄くわかるんだぁ……」
ひとりぼっちの日々を超え、一度の再会に喜んだのも束の間、海斗には恨まれて憎まれて突き放されてしまった。それでももう一度逢いたくて、那桜は再会を願っていた。
大切な人に出会っても、姉と再会と別れを果たしても、その気持ちは変わらない。
「だから逢いに来た。海斗君に。もう傷つけないで、傷つかないで……また、転生して、新しい生を送ってほしい……」
「嫌だね」
那桜の切なる願いを海斗は一蹴する。
「もう巡りたいと思わない。巡るくらいなら全て壊して殺してあげる」
「……どうして、そんなに嫌がるの?教えてよ、海斗君!」
「僕が答える必要がある?」
灰簾石の杖を構え、海斗は詠唱を紡ぐ。全て壊して消してしまおうと放たれた桜吹雪は墨染の色。海斗も包み込んで全てを消し去ろうとする。
灰簾石の短杖を構え、那桜は全力を注ぐ。桜並木の幻影を呼び起こし、淡く光る霞桜の花びらが、墨染の花びらを包んでいった。
(時空を消失させるなら、巻き戻していく……!)
時空が正常な姿に逆戻りする。合間に見えるのは、影朧になった海斗の記憶。幾度もひとりきり、巡り続けた孤独な記憶のかけらだった。
「……そっか。ずっと、ずっと巡ってるから、終わらせたかったの?」
「那桜ちゃんには関係ない」
冷たい海斗の言葉に、那桜はもう揺らがない。
『――僕の、最後の願いを覚えている?』
巻き戻した過去から海斗の願いを受け取ったから、那桜は涙を零しながら笑う。
「私ね、もうひとりじゃないよ。大切な人も、家族も、出来たんだよ。海斗君が戻ってくるまで、待てる。待ちたい」
海斗の瞳は、その言葉に揺れる。嫌悪と憎悪の偽りの感情が消えて、寂しさと後悔、親愛が顔を見せていた。
「……あのね、海斗くん。転生したら、覚えてなくてもいいんだ。初めましてで良いんだ。私は霞桜の精。しあわせを探してる。海都さんと、海斗君の幸せも探してる」
人の、自分の『しあわせ』を探している、霞桜の精は泣きながら笑って胸を張る。
「私の幸せはね、また海斗君と会えることだよ。この世界だから、『また会おう』って言えるんだ」
ここはサクラミラージュ、影朧も転生して新しい生を歩める優しい世界、苦しんだ過去から開放されて、しあわせを探していける世界だ。
「……だから、海斗君。桜が何度も巡った先でも良い。それまで、ずっと、ずっと待ってる」
あの日、公園で待ち合わせたように、また会おうという約束を果たすから、と手を差し伸べた。
幾分穏やかな顔になった海斗はその手を取った。
「……那桜ちゃん。でも、海都が……」
「大丈夫、海都さんもひとりぼっちじゃないよ。また会えるし、それに……」
寂しさを抱えた海都を心配する優しい少年に、かつての姿を見ながら、凜と那桜は微笑んだ。
「少なくとも私が、一緒にいます。助けに来てくれた皆もいます」
「そっか……そうだね」
海斗の姿が消えていく。笑顔に陰りはなく、いつかの優しいままだった。
「那桜ちゃん、ばいばい。またね」
「うん、海斗君。ばいばい、またね」
那桜は巡りゆく海斗を見送る。また会おうね、と約束しながら。その日を、しあわせを見つけながら待っているから。
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孤独を誘うサアカスの幕は下ろされた。
海都も救出され、少しずつ立ち直っていくだろう。
幾つも語りかけられ、励まされ、叱咤された言葉を胸に。彼の周囲いてくれる人と共に。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2024年01月08日
宿敵
『巡る桜刻を繋ぐ者『カイト』』
を撃破!
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