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命をかけて生きてます

#サムライエンパイア


●サムライエンパイアにて
 雪が浅く積もった山林の中を女たちが駆け下りていく。
 どの女も異様な風体をしていた。腹巻等の簡素な鎧を着込み、薙刀や弓を携えている。かつて、それが『異様』でなかった時代もあったのだが。
「恨めしい……妬ましい……」
「思い知らせてやろうぞ……」
「泰平の世に生を受け、恐れも苦しみも知らずに日々を送る者どもに……」
「我らの怒りを……悲しみを……」
 呪詛するように呟きながら、女たちは駆け続けた。
 彼女たちが『恐れも苦しみも知らずに日々を送る者』と見做す人々がいる場所に向かって。
 山麓の小さな村に向かって。

●グリモアベースにて
「サムライエンパイアには美味いものが沢山あるが、俺の一番のお勧めはこの『オニギーリ』というやつだな。シンプルながらも奥深い料理なんだぜぇ」
 伊達姿のケットシーが猟兵たちの前でおにぎりを食べていた。
 グリモア猟兵のJJことジャスパー・ジャンブルジョルトだ。
 極上の美食を堪能しているかのような至福の表情で麦混じりのおにぎり(海苔など巻かれていないし、おそらく具も入っていないだろう)をたいらげると、JJは本題に入った。
「いま食ってたオニギーリの米の産地はサムライエンパイアの東北地方の小さな村なんだけどよ。そこをオブリビオンどもが襲撃しようとしているんだ。だもんで、おまえさんがたにちょいと一働きしてほしいってわけ」
 村に迫っているオブリビオンは数十人の怨霊。戦乱の時代に非業の死を遂げた女武者たちだ。
 武者といっても、城を攻められた際などに武器を取らざるを得なかった貴人や女房ばかりなので、戦闘能力はさして高くないだろう。だが、オブリビオンに対抗する術を知らない村人たちにとっては脅威となる存在である。
「もしかしたら、女武者たちは尖兵みたいなものに過ぎなくて、もっと強力な敵が後ろに控えてるのかもしれない。だが、まずは女武者たちを食い止めてくれ。奴らは村の北東に面した山から降りてくるから、こっちも山の中で迎撃したほうがいいだろうな」
 村の手前もしくは村の中で待ち構えることもできるだろうが、その場合、村人たちにも危険が及ぶだろう。
「無事に村を守りきることができたらよ。祝いと礼を兼ねて、村の連中がちょっとした宴会をやってくれるんじゃねえかな。美味いオニギーリをたらふく食えるぞぉ」
 そう言って、JJは舌なめずりをした。
 まだ食べ足りないらしい。


土師三良
 土師三良(はじ・さぶろう)です。

 本件は、村を守るために怨霊のオブリビオンたちを倒すシナリオです。
 第一章と第二章の戦闘で勝利することができれば、第三章で村人たちが宴を催してくれます(ただ歓待を受けるだけでなく、猟兵の側が村人たちを楽しませることもできます)。貧しい村なのでたいしたもてなしはできませんが、感謝の心はしっかりと込められているはず。「この飯、おろそかには食わんぞ」

 それでは、皆さんのプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『怨霊女武者』

POW   :    局流薙刀術
【薙刀】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    局流早射ち
レベル分の1秒で【矢】を発射できる。
WIZ   :    落武者呼び
【鎧武者】の霊を召喚する。これは【槍】や【弓】で攻撃する能力を持つ。
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セゲル・スヴェアボルグ
おにぎりのためなら亡霊を野放しにしておくわけにはいかんな。

集団戦とのことなら、こちらも数で攻めるか。
脆いとは言っても80体の戦闘機械をさばききるのは厄介だぞ?
その隙に進行に邪魔な鎧武者を蹴散らしながらダッシュで接近。
槍を使った鎧無視攻撃でそのまま攻撃を叩き込む。
もし妨害で届きそうになかったら、やり投げでもすればいい。
纏めて屠れそうなら最大範囲で薙ぎ払うか。
とにもかくにも、一体でも多く亡霊本体を倒すことに専念するとしよう。


アドニード・プラネタリア
薙刀だな。
近距離は危険だが、受けて立とう!
ヴァンパイアの真紅の瞳を晒して戦闘力を上げる。

技能を駆使して、攻撃や防御、回避する。
僕のは威力あるから、いい勝負出来るはず。

ダメージは生命力吸収してあげる。

仲間の猟兵が居た場合、前衛同士組む、僕と後衛でバランス取る等をする。


レイブル・クライツァ
目には目を、薙刀には薙刀をかしら?
恨みを抱えて、それを思い知らせようだなんて来世も期待出来なくなるわ。
それに、作物は天候に左右されるから上手く実らなかったらって『恐れ』もあるし
生活に苦労は絶えないものなのに、そう見えないのはほんの一部の良い所だけを見ているからよ。
そんな理不尽、絶対に止めてみせるわ。

被害は出来る限り抑えたいの。
なるべく村に近づいていない地点で襲撃するわよ。
壊す為だけの刃よりも、護る為の刃の方が重みが違うって事、教えてあげる。
巫覡載霊の舞は村に近い方の敵から狙うようにして、足留め及び撃破していく方向で攻撃するわ。

おにぎりって簡単に作れるのに、作る人で美味しさが全然違うのよ、不思議


ゲンジロウ・ヨハンソン
美味しいオニギーリと言われて、わしが向かわぬ理由はなかろう。
いやはや思い出すぞぃ…あれは小さな会社の建設業を手伝っていた時に
社長の奥さんが握ってくれた…って、そんなこと考えている場合じゃないのぅ!

【戦闘】
使用技能:捨て身の一撃1、2回攻撃1
メイン武器:バトルアックス
防具が軽装なら警戒すべきは攻撃面じゃの。
命を張った女戦士の怖さも頼もしさも、過去の戦いでよく知っとるわい。
だからこそそこはユーベルコード【歴戦の勘】で切り抜けさせて貰うぞい。

他に範囲攻撃に長けた者がいるなら、そちらに鎧武者をまかせて
わしは本体に技能を駆使して攻撃していくぞぃ。


夜神・静流
村と村人に被害を出さぬため、山の中にて迎撃いたします。
深い恨みを抱いた女武者の亡霊……せめて、これ以上彼女達の御霊が罪を重ね、苦しむ事のないように、私の剣でその業を断ち切ります。

木々などの遮蔽物を利用して弓矢を防ぎつつ一気に肉薄。
先制攻撃・早業・破魔・属性攻撃の技能を使用し、二ノ太刀・紅で攻撃。
「我が剣は焔――破邪の炎よ、我が剣に宿れ!二ノ太刀・紅!」

女武者に出来る限り苦痛を与えないように、一撃で葬りたい。
「せめて貴女の魂に救いがあらん事を。どうか、安らかな眠りを」


御剣・神夜
女性の怨念、無念。相当なものでしょう
戦国の世では戦うのに男も女もなかったと聞きます
その血の果てに得た平和です。無駄な血は流したくありません

「女性の怨霊、恨みも無念も分からないわけではありませんが、その無念を晴らさせるわけにはいきません。申し訳ありませんが、倒させていただきます」
薙刀の攻撃は野太刀で打ち払う
「重量ではこちらが上ですよ」
早射ちは飛んできた矢を打ち落とす
「距離を取ったからと言って、安全というわけではないのですよ」
落武者は女武者ごと両断する


ウィルトス・ユビキタス
使用技能:高速詠唱、属性攻撃、全力魔法、先制攻撃

非力な人々が襲われているのを黙っては見ていられるか。
「取り敢えず焼き払おうか」

エレメンタルコードで火の属性と津波の自然現象を合わせて炎の津波を起こす。
接敵している猟兵がいるなら巻き込まないように努力はする。

「過去は過去へ。今に化けて出るんじゃねえよ」


神樹・桜花
「自分達が『未来』を護るべく戦ったことを忘れてしまったようですね……。望んだ『平和』を自らの手で壊そうなど、正気の沙汰ではないでしょう」

【残像】【第六感】【見切り】を組み合わせて敵の攻撃から逃れつつ、可能なら女武者の本陣に切り込んで行きましょう。
出来るだけ多くの女武者を『神桜・散花繚乱』に巻き込みたいですからね。
途中、視線を向けて【恐怖を与え】られれば、幾ばくかの足止めになるでしょうか。
それでも此方に向かってくる命知らずは【鎧無視攻撃】で黙らせてやりましょう。

「さて、勇敢なる女武者の正気を奪った黒幕に、お出まし頂きましょうか?」


キケ・トレグローサ
「平和を羨んで化けて出たのか…それとも…どちらにしても、放置はできない、か」
キケの兄「エド」の人格で山林に分け入り、詩を口ずさみます。歌うのは平和を謳歌する春の曲。人や鳥たちが歌い春の実りに感謝する曲。平和をねたむなら、真っ先に狙うはず。遭遇したらとりあえず会話できないか試してみる。
「これは、そんな物騒な物など捨て、共に歌いませんか?」
攻撃してきたら回避し、ほかの猟兵の下に向かい合流する。そこで再び平和の唄を歌い回復しつつ援護する。
もし、説得に何らかの動揺を見せるなら積極的に平和を語る。
「あなたたちだって、かつては命を散らすことを望まなかったはずだ!」
倒した女性は安置し丁寧に葬る約束をする。


マルコ・トリガー
ボク、このオニギーリが嫌いじゃないんだよね。だから食べられなくなるのは困るかな。村人もどうしても宴会を開きたいみたいだし、村を守ってあげるしかないみたいだね。

敵は数十人だから囲まれないようにしないと面倒になる。
山の中で木や物陰に隠れながら移動しよう。
なるべく一対一に持ち込みたいね。それで一人ずつ確実に倒していこう。

早射ち?
早撃ちなら負ける気がしないね。
木々を盾にしながら近づいて零距離射撃といこうか。
ボクは、故郷の街が消えたし、自分も色々あったけど、だからって今を楽しんでる人を恨んだり妬んだりはしないな。思い知らせたところで結局気は晴れないでしょ。益々恨みつらみに飲まれるだけだからね。

SPD


メル・ルビス
「ご飯の前に戦闘だね。
回復は僕に任せてっ!」
胸を張って断言するの
誰かが傷ついたりいなくなっちゃうのは嫌だから、僕が回復してあげてサポートしてあげるんだ
ちょっと怖いけど、僕は僕の出来ることをしたい
背中は任せて?っていうのかな
……だ、大丈夫だよ!僕だって立派な猟兵だもん!
みんなと一緒に戦うのっ!
回復は生まれながらの光を使って、【祈る】よ
「どうかみんなのことを守ってあげて。
そのためならなんでもするから……!」

アドリブや絡みは大歓迎なの!


ジウ・トロイメリウム
オニギーリ…気になる。
JJさんそんなに美味しそうに食べてさ…すごく食べたくなるじゃないか?
何としても成功させなければ。

いや、邪心だ。
村人と可哀そうな女武者の怨霊たちのために力を尽くさなくちゃね。

といっても武力行使は得意じゃない。割れたくないし。
割れる仲間も見たくないから、僕は皆が倒れず戦えるよう戦意を高揚させる音楽を歌って支援するね。
女武者に同情して倒す事に心を痛める仲間もいるかもしれない。
君の一撃で彼女らにも平安が訪れると歌おう。

(僕の声は少し変わっている
何人もの人が一斉に歌っているみたいに聞こえる…ホーミーっていうのにちょっと似てるかな
も少しキラキラしていて星の斉唱と言われることもあるよ)


白銀・雪斗
戦いが終わり、訪れた泰平の世……
この平和を必ず守らないとな

怒りや悲しみを思い知らせる、か
敵も辛い思いをしたのだろう
だが、それは身勝手で許されない行為
新たな悲劇を生み出すわけにはいかない
人々の命、散らせはしない!

足場に注意しつつ、山の中で迎撃
木の影に隠れたり、敵に発見されにくいよう行動
敵を見つけたら『先制攻撃』を仕掛ける

敵に囲まれたり背後を取られないよう注意
近くに猟兵がいるなら協力しよう
攻撃は【Arrow of Light】を使用
『援護射撃』で猟兵達が動きやすいよう支援
複数の敵を巻き込めそうなら、雨のように矢を降らし『範囲攻撃』
好きにはさせない!

敵の攻撃は『見切り』で回避
攻撃の兆候は見逃さない



●第一場
 冬鳥たちの囀りが消えた。
 にもかかわらず、森に静寂は訪れなかった。
 雪を踏む足音が冷たい空気を揺らしているのだ。
 戦いに赴く猟兵たちの足音。
「おっ、にっ、ぎっ、りっ♪ おっ、にっ、ぎっ、りぃーっ♪ でも、その前に任務をちゃんと果たさないとね」
 猟兵に相応しからぬ朗らかな声を出しているのは、相応しからぬ愛らしい容貌のメル・ルビス(いつでもキミの傍に・f03622)。十三歳のケットシーだ。
「ボク、オニギーリは嫌いじゃないな」
 ケットシーの少年が実は恐怖と不安を隠そうとしていること(と、隠しきれていないこと)に気付かない振りをして、マルコ・トリガー(ヤドリガミのブラスターガンナー・f04649)が呟いた。彼も十三歳だが、ヤドリガミなので、本体の器物が作られたのはずっと昔のことだろう。
「オニギーリ……僕は食べたことない」
 と、二人と同世代のクリスタリアンのジウ・トロイメリウム(青と夢のうた・f00908)も白い息とともに呟きを漏らした。
「すごく気になる。食べてみたいな。JJさん、あんなに美味しそうに食べていたし……」
 まあ、あの意地汚いケットシーは大抵のものを美味そうに食べるのだが。
「おにぎりって、不思議な食べ物なのよ」
 と、漆黒のヴェールを被った女が少年たちに言った。ミレナリィドールのレイブル・クライツァ(白と黒の螺旋・f04529)。
「簡単に作れるのに、作る人によって美味しさがぜんぜん違うの」
「そうそう。作る人によってなぁ」
 五十がらみの偉丈夫が頷いた。
「いやはや、思い出すぞい。その昔、小さな建設会社を手伝っていた頃、社長の奥さんがそれはもう美味いおにぎりを握っ……」
 その偉丈夫――ゲンジロウ・ヨハンソン(腕白青二才・f06844)の嘘とも本当とも知れない昔話は唐突に途切れた。
 森の奥から不思議な歌声が聞こえてきたのである。

●第二場
 キケ・トレグローサ(たった一人の流浪の楽団・f00665)は切り株に腰かけ、目を閉じて、くちずさんでいた。
 春の実りに対する人や鳥の感謝をテーマにした歌を。
 だが、しかし――
「嗚呼……」
「……なんじゃ? ……なんなのじゃ、おぬしは?」
「よりにもよって、安寧の喜びを妾(わらわ)たちに歌って聞かせるとは……」
「……愚弄しておるのかぁ?」
 ――骨が軋む音を思わせる呻き声が聞こえてくると、キケは歌うのをやめて目を開けた。
 いや、本当はキケではない。
 多重人格者たる彼の中にいる兄のエドだ。
「やあ」
 エドは立ち上がり、爽やかな笑顔を見せた。
 自分の前に並ぶ声の主たちに。
 薙刀や弓を携えた女武者たちに。
 生きとし生けるものを呪う怨霊たちに。
 そして、笑顔を維持したまま、問いかけた。
「そんな物騒な物など捨てて、ともに歌いませんか?」
「ふざけるでないわぁーっ!」
 女武者のうちの一人が薙刀を振り下ろした。
 それを躱し様に踵を返し、麓に向かって駆け出すエド。その背中に矢が突き刺さる。足を止めることなく『シンフォニック・キュア』を発動させようとしたが、癒しの歌声を発する前に新たな矢が突き刺さった。
(「あわよくば説得したいと思っていたが、無理だったな」)
 血塗れになって走りながら、エドは心中で苦笑した。
(「だが、あくまでも『あわよくば』だ。本来の目的は果たすことできた。そう、彼女たちを引きつけるという目的は……」)

●第三場
「待て! 待たぬかぁーっ!」
 傷だらけのエド/キケの背中に女武者の怒声がぶつけられた。
 待てと言われて待つ者などいるはずもない……が、エドはいきなり立ち止まった。
 観念したのではない。逃げる必要がなくなったのである。
「なんとか合流できたな」
 エドは再び踵を返し、女武者たちを見据えた。
 女武者たちのほうも足を止めている。
 エドの背後――麓の方向からやってくる者たちの姿を認めたからだ。
 そう、猟兵たちを。
 彼らはエドと同じ場所まで来ると、各々の得物を構えて、怨霊の群れと対峙した。
「うぬらも邪魔立てするか?」
 柳眉を逆立てて、女武者の一人が猟兵たちに問いかけた。
「あの村にいるやつばらのために……恐れも苦しみも知らずに生きる者たちのために……妾たちを討ち滅ぼすというのかぁ?」
「当然だ。非力な人々が襲われているのを黙って見ていられるわけないだろう」
 銀髪の青年が答えた。アルダワ魔法学園から来たガジェッティアのウィルトス・ユビキタス(武闘派デスクワーカー・f01772)である。
「あなたたちの無念は相当なものでしょう。しかし、その無念を晴らさせるわけにはいきません」
 と、御剣・神夜(桜花繚乱・f02570)が言った。その手にあるのは、身の丈ほどもある野太刀。その身を包むのは、戦闘用に改良された巫女装束。
「申し訳ありませんが、倒させていただきます」
「倒せるものか! うぬらごときに!」
 女武者の一人が弓に矢を番え、他の者も猟兵と同じように次々と得物を構えた。
「ふむ」
 と、彼女たちを不遜な眼差しでねめつけて小さく頷いたのは青い竜派ドラゴニアンのセゲル・スヴェアボルグ(ドラパラ・f00533)だ。
「けっこうな大人数だな。では、こちらも数で攻めるか」
 ドラゴニアンの大きな背中の陰から一体の小型機械兵器が現れた。
『兵器』といっても、その姿や動きには力強さがない。死にかけた蠅のようにもたもたと宙を舞う様は、冬の森というロケーションもあいまって、かなり頼りなく見える。
「こいつらは脆いが――」
 どこからともなく、同型の機械兵器が新たに現れた。
 一体、また一体。
 次から次へと。
「――これだけの数をさばききるのは厄介だぞ」
 召喚された小型機械兵器の数は八十体。
 腕組みをして仁王立ちするセゲルを残して、それらは女武者に襲いかかった。もう、蠅の末期の飛行ではない。蜂の狂的な特攻だ。
 他の猟兵たちも走り出した。ある者は敵に向かって真っ直ぐと。ある者は回り込むように。
 ダンピールのアドニード・プラネタリア(天文得業生・f03082)は前者だった。
「近距離戦は危険かもしれないが、あえて挑ませてもらおう!」
 六歳児に相応しからぬ尊大な言葉を敵にぶつけながら、アドニードは己の中に流れるヴァンパイアの血を覚醒させた。緑の瞳が真紅に変わり、戦闘能力が上昇していく。
「さあ、本当の悪夢はこれからだ……」
 セゲルの機械兵器のうちの一体にタイミングを合わせて、目についた敵に攻撃を叩きつけるアドニード。
「黙れ、小童! 悪夢よりも悪夢めいた世に生きていた妾たちにそんな脅しが通じると思うてか!」
 アドニードの一撃で甲冑を叩き割られながらも、その女武者は血と咆哮を同時に吐き出し、果敢に薙刀で反撃した。
 薙ぎ払われた刃によって機械兵器は破壊されたが(『脆い』というセゲルの評は嘘ではなかった)、アドニードのほうは雪煙を激しくあげて後退し、それを躱した。
 その雪煙を突き破るようにして姿を現したのはレイブル。
 巫覡載霊の舞で神霊体に変身しながら、彼女はアドニードと視線を合わすことなくすれ違うと――
「目には目を、薙刀には薙刀を……かしら?」
 ――薙刀を振り下ろし、女武者に衝撃波を浴びせてとどめを刺した。
「さっき、あの村の人たちのことを『恐れも苦しみも知らぬ者』とか言ったわね?」
 女武者が倒れるのを見届けて、残された敵たちにレイブルは語りかけた。
「でもね。作物は天候に左右されるから、上手く実らないかもしれない。そういう『恐れ』を彼らは常に抱いてるのよ。貧しい生活を送っているから、『苦しみ』も知っているわ。そう見えないのは、ほんの一部の良いところだけにしか目をやっていないからよ」
「ええい、黙れ! 妾たちはその『ほんの一部』さえ得られなかったのじゃーっ!」
 弓を手にした女武者が怒号とともに矢を放った。
 標的となったのは、両目を閉じたヤドリガミの女。
 だが、そのヤドリガミ――神樹・桜花(神桜の一振り・f01584)はくるりと身を翻し、矢を躱した。目を閉じたまま。
「『ほんの一部』の幸せすら得られなかったからこそ――」
 桜花の持つ桜色の太刀が閃いた。
 そして、幾千もの本物の桜の花片に変わり、四方に飛び散った。
「――生前のあなたたちは戦ったのではないですか? 自分たちが望む未来のために? その未来を自らの手で壊すなど、正気の沙汰ではありません」
 桜花の周囲にいた女武者たちが、乱舞する花片にまとわりつかれて斬り裂かれていく。
「命は刹那に咲くが故に美しい。一度散った命なら、潔く彼の岸へ逝きなさい……」
 そう呟きながら、初めて目を開く桜花。
 しかし、女武者たちが花片に斬り刻まれる様は見えなかった。
「不条理を以て不条理を覆せ」
 と、高速詠唱の声が響き、炎の津波が敵を飲み込んだからだ。
 その津波を生み出したのはウィルトス。
「過去は過去へ……」
 赤い波に焼かれる女武者たちを前にして、ウィルトスは静かに言った。
「今の世に化けて出るんじゃねえよ」
「でも、彼女たちは自分の意思で化けて出たわけではないのかもしれません」
 桜花が再び目を閉じた。

●第四場
 炎を生み出したのはウィルトスだけではない。
「我が剣は焔。破邪の炎よ、我が剣に宿れ! 二ノ太刀、紅!」
 十徳羽織の裾を翻し、木々の間を縫うようにして走りながら、夜神・静流(退魔剣士の末裔・f05903)が叫んだ。
 それに応じて、彼女の愛刀『十六夜』が炎を纏っていく。
 炎が完全に刀身を覆い尽くした時、静流は女武敵の一人を攻撃圏内に捉えていた。
「これ以上、あなたたちの御霊が罪を重ね、苦しむことのないように――」
 燃える刃を鞘に戻し、数瞬の間も置かずにまた抜き放つ。
「――その業を断ち切ります!」
「あぁっ!?」
 胸を逆袈裟に斬り上げられて、女武者は仰け反った。同時にその体を炎が包み込んだ。すべてを無慈悲に焼き捨てる炎ではなく、魔を浄化する聖なる炎。
 しかし、敵を仕留めたにもかかわらず、静流の表情は暗い。
(「せめて、あなたの魂に救いがあらんことを……どうか安らかな眠りを……」)
「おのれぇ!」
 心中で祈りを捧げる静流に別の女武者が弓を向けた。
 それを察知して素早く木の陰に隠れる静流。
 そして、すぐにまた反対側から飛び出した……と、思いきや、それは静流ではなく、マルコだった。
「早撃ちなら、負ける気がしない」
 マルコが熱線銃を抜き、女武者が弓弦を引き絞る。
 熱線と矢がすれ違い、前者は女武者の心臓を撃ち抜き、後者はマルコの左肩に突き刺さった。
「いたた!? 何ミリ秒か遅れた……」
「回復は僕に任せてー!」
 と、痛みに呻くマルコの後方で叫んだのはメル。
 ここに至るまでの道中でマルコ(だけでなく、実はほぼ全員)が見抜いたように、メルは恐怖心を抱いていたが――
(「ちょっと怖いけど……僕は僕のできることをやるんだ。やらなくちゃいけないんだ。誰かが傷ついたり、いなくなっちゃったりするのは嫌だから。絶対に嫌だから!」)
 ――自身の心に活を入れて、『生まれながらの光』を発動させた。
 マルコの背中に光が命中し、肩の傷が瞬く間に癒されていく。
 その様子を見ながら、ジウも仲間たちの治癒を始めた。喉元に埋め込めこまれた刻印を震わせて、『シンフォニック・キュア』の歌声で。
「嘆くな、嘆くな♪ とどめの一太刀は癒しの一撫で♪ 君たちの剣は、彼女らの平安への道を切り開くためのもの♪」
 それは物理的な傷を癒すだけでなく、静流のように女武者に同情して心を痛めている者たちを励ますための歌でもあった。
 しかし、同情されているとも知らぬ女武者たちは――
「うあああぁぁぁーっ!」
 ――怨嗟の叫びで不協和音をもたらした。結果、ジウの歌声は一部の者にしか届かなかった。
「今の僕の力ではこれが限界か……」
 思わず悔し涙を流すジウ。体表の一部がブラックパールに似ているため、肌を伝う涙までもが遊色を帯びているように見える。
「『嘆くな』と歌った本人が嘆いてどうする」
 エルフの少女がジウに声をかけた。歌声が届いた『一部の者』であるところの白銀・雪斗(白雪の鷹・f00725)だ。
 仲間たちと同様、彼女もまた女武者たちに憐憫の情を抱いていた。
 だからといって、女武者たちの好きにさせるつもりはなかった。その点でも仲間たちと同じだ。
「きっと、この女たちは筆舌に尽くし難いほど辛い思いをしてきたのだろう。しかし――」
 雪斗はロングボウを構えて、素早く矢を放った。その矢は輝いていた。光の精霊の力を宿しているのだ。
「――新たな悲劇を生み出すわけにはいかない」
 光り輝く軌跡を宙に刻み、矢は女武者の一人に命中した。
 それは援護射撃を兼ねていた。援護の対象は、女武者の懐に飛び込もうとしていたゲンジロウだ。
 その動きに気付いた女武者が薙刀を突き出した。
「なめるでないわ!」
「なめとらんよ。いくつもの戦場を渡り歩いて、とことん思い知ったわい。命を張った女戦士の怖さや頼もしさをなぁ」
 ゲンジロウは歴戦の勘を活かし、攻撃を躱そうとした……が、敵の刃に脇腹を抉られた。
「ぐえっ!? 前言撤回。やはり、なとめったかもしれん」
 傷の走る悪人面を苦笑と苦痛に歪めながらも、ゲンジロウは女武者に肉薄して捨て身の一撃を食らわせた。

●第五場
 敵に新手が加わった。
 女武者に召喚された鎧武者の霊だ。
 だが――
「既に大勢は決した」
 ――雪斗が弓を続け様に引き、複数の鎧武者めがけて矢の雨を浴びせた。
 更にセゲルが雪煙を巻き起こして突進し、残った鎧武者たちを蹴散らし、得物で薙ぎ払って一掃した。
「さて、後は一人だけか」
 最後の女武者をぎろりと睨みつけるセゲル。
 だが、相手は臆する様子を見せない。恐怖の感情など失ってしまったのだろう。喜びや楽しみとともに。
「恨めしい……許さんぞ……恨めしい……許さんぞ……」
「なにがそんなに恨めしいっていうんだ?」
 同じ言葉を機械的に繰り返す女武者に呆れ返りながら、マルコが熱線銃のトリガーを引いた。
「ボクも、故郷の街が消えたりとか、いろいろあったけど……だからって、今を楽しんでる人を恨んだりはしないな。恨みをぶつけたって、絶対に気は晴れないでしょ。ますます恨みつらみに飲まれるだけだ」
「飲まれても構わぬ!」
 熱線銃のダメージをものともせずに女武者は薙刀を振り下ろした。標的は神夜。
 次の瞬間、小気味良い音とともに火花が散り、薙刀の刃が跳ね上がった。神夜の野太刀に打ち払われたのだ。
「戦国の世では多くの血が流れたことでしょう」
 野太刀を構え直して、神夜はそう言った。
「今の世の平和は、その血の果てに得たものなんです。だから……これ以上、無駄な血は流したくありません」
「何故、血を流した当人たる妾たちが平和を享受できぬのじゃ! 不条理ではないか! あまりにも不条理ではない……ぐあっ!?」
 苦鳴を吐き出して、最後の女武者は倒れ伏した。
 セゲルが無言で一太刀を浴びせたのである。
 だが、彼も他の猟兵たちも判っていた。
 戦いはまだ終わっていないということが。
「さて、勇敢なる女武者たちの正気を奪った黒幕に――」
 桜花が森の奥に顔を向けた。瞼を閉じたままで。
「――お出ましいたきましょうか?」
 すると、視線ならざる視線の先から一人の男がうっそりと姿を現した。
 鬼のような仮面で顔を隠した僧形の巨漢。
 女武者たちがそうであったように彼も怨霊なのだろう。
 だが、女武者たちの相違点を猟兵を本能的に感じ取った。
 この怪僧は怨霊と化す前から……そう、まだ生きていた頃から、邪悪な存在だったのだ。
「やれやれ」
 死屍累々たる戦場を見回して、怪僧は仮面越しに溜息をついた。
「露払いもできぬとはな。使えん女どもだ……」
 そして、足下に転がっていた女武者の躯を蹴とばした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『仮面の武僧』

POW   :    末世読経
予め【読経を行う】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    狛犬噛み
自身の身体部位ひとつを【狛犬】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    金剛力士の招来
戦闘用の、自身と同じ強さの【金剛力士(阿形)】と【金剛力士(吽形)】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
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●第一場
「儂が生きていた頃には農民どもにも気概というものがあった。己の尊厳が汚されれば、躊躇することなく竹槍だの鎌だのを手にして立ち上がったものだ」
 猟兵たちに向かって、怪僧は歩を進めた。進路上にある女武者たちの死体を蹴り飛ばしながら。時には進路から外れたところにある死体にわざわざ近寄って蹴飛ばしながら。
「それが今ではどうだ? 羅刹の若造なんぞを頂点に置く軟弱な幕府に尻尾を振りおって……しかも、自分の身を自分で守ることもせず、貴様らのようなよそ者に頼るという体たらく。情けなくて泣けてくるわ」
 怪僧の肩が小刻みに揺れた。『泣けてくる』という言葉に反して、笑っているらしい。
「まあ、しかし、そんな負け犬どものために命を張る酔狂者は嫌いではない。ブチ殺した後に念仏くらいは唱えてやろう」
 怪僧は足を止め、錫杖のような武器を突き出した。
「念仏は得意なのだ。なにせ、本業だからなぁ」
キケ・トレグローサ
人格をキケに戻し、オルタナティブ・ダブルでエドを実体化させる。
怪僧が女武者を蹴り飛ばす様子に怒りを募らせる。
(エド)「こいつは、ルナに見せるわけにはいかないな・・・」
(キケ)「うん、兄さん。僕らで・・・終わらせよう」
二人で怪僧を挟み込むように接近、兄弟のコンビネーションで攻撃を加える。常にどちらか一方が敵の死角に入るように位置取りし死角にいる方が攻撃、敵が攻撃したほうを見たら退避、もう一方が攻撃の波状攻撃で敵に隙を与えない。
(エド)「奪うだけの貴様に、彼らの尊厳の何が理解できるものか!」
(キケ)「踏みにじったお前に、彼女たちの痛みを語ることができるものか!」
「「もう何も、奪わせやしない!!」」


セゲル・スヴェアボルグ
己の命を惜しむなど人であれば当然のこと。
どれだけ汚辱にまみれようが、生きてこそ浮かばれるものがある。
弱きものに寄り添えぬような者が僧侶を名乗り、説教をする?寝言は地獄に落ちてからにしてもらおう。

読経さえ妨害してしまえば、強化の時間などたかが知れておる。ならば、速攻で狂飆の王を叩きこむのみ。
多少、周囲が穴だらけになるかもしれんが奴の動きを封じる為であれば致し方ない。あとで埋めておこう。
距離を取ろうものなら、やり投げで追撃してやればいい。奴に経を読ませる暇など与えるつもりはないぞ。


レイブル・クライツァ
適材適所って言葉を勘違いしてる、死んでもまともにならなかった典型的な例だわ。
しかも、女性の真摯な気持ちを只の駒として、しかも粗末に扱うなんて最低極まりない。
屑の中の屑に念仏唱えられた所で、ありがたみも無いし、耳障りな音しか紡げない口なんて要らないわ。二度と開けなくなるまで潰すまでよ。
馬鹿正直に薙刀を振るっても見ていたようだから、薙刀はフェイントに留めて、他の方の攻撃補助として咎力封じで余裕を削ぐ形がお似合いよ。自由に動けると思わないことね。
酔狂結構。冒涜する輩にそう言われた所で痛くも無いわ。
さぁ、お黙りなさい。亡骸を粗末に扱う輩は地獄行きが相場と言うでしょう?迷ってたならご案内よ。失せなさい。


御剣・神夜
なるほど。では唱えてください。貴方への念仏を
怨念といえど戦い散った女武者をぞんざいに扱われてかなり気が立っている

「全力で戦い果てた者への礼儀も知らない者が語るな!!耳障りだ!!」
読経の隙に攻撃を仕掛ける
読経は時間に応じて戦闘力が増強するが読んでる最中は隙だらけなので遠慮なく狙う
狛犬噛みが来たらかまれることを恐れず踏み込んで両断する
「散れ。駄犬が」
金剛力士は武僧を攻撃すれば消えるので、武僧を狙て攻撃してさっさと消えてもらう
「久ぶりです。此処まで頭に来た外道は。貴方には念仏すら勿体ない。すぐに三途の川を渡りなさい!」
頭に血が上って入るが危険には敏感に反応する


夜神・静流
「何が本業ですか。貴方のような外道に念仏など唱えられては、仏様も迷惑でしょう」
仮に敗北して死んだとしても、この男の念仏で浄土に行くくらいなら、私は喜んで地獄に落ちます。
尤も、地獄に落ちるのはこの男ですが。
女武者とは異なり、この外道に対しては一片の情けもかけるつもりはありません。

ダッシュ・見切り・残像・早業・先制攻撃・衝撃波の技能を使用。
相手が視線を切ったり、注意が逸れた瞬間を見切って、一瞬で死角に入って【一ノ太刀・隼】で攻撃します。
●末世読経の読経中や、●金剛力士の招来の召喚直後など、技の隙を見逃さずに攻撃して無効化させたいところですね。

また、真の姿を一部開放。背中に純白の翼が生える。


ホト・ネザーランド
・心情
念仏が、得意、は、嘘じゃな……
得意ならば、お主が、成仏して、おろうに。
生憎、まだ墓は、遠くての。……お主が先に、入って、くれぬか。
……お主の行いは、ただ、醜い。

・戦術
【金剛力士の招来】をさせないようダメージを優先
攻撃は【幻想絵画・焔】を使用
読経を止めるため顔を炎の3割を塊にした炎で狙い
残り7割は3つの塊にわけ死角から打ち込む
顔狙いの炎がフェイントになればいい心境
「絵より生まれし、わしの炎……少しはお主の魂が灼けよう?」

『地形の利用1』で岩陰や木の陰などを利用して隠れつつ攻撃
後衛地点を出きる限り維持する
近寄られそうならば味方前衛に庇ってもらえる位置に移動
「●●殿……すまぬ、の。助かる……」


神樹・桜花
「……言いたいことは色々ありますが、力無きものを悪意と暴力で屠るなら、この私、容赦は致しません」

【残像】【第六感】【見切り】で敵の攻撃は避けます。避けきれなければ【オーラ防御】でなんとか凌ぎたいですね
【鎧無視攻撃】【2回攻撃】を織り交ぜて攻撃し、敵が此方の動きに慣れてきた頃、【フェイント】の後に『幽冥の瞳』を発動します。
悪しき僧侶が視るのはどんな悪夢なんでしょうね。


ゲンジロウ・ヨハンソン
【 ホト(f07503)と行動を共にします】
ホトじいさんも来とったのか、こりゃ心強い。
不惜身命、その道で御年99歳まで生き抜いた実力、楽しみじゃわい

武僧の奴は随分乱暴なんじゃのぅ。
気に食わねば蹴る、癪に障れば殴る、己が思い通りにならねば殺す。
そんな短気で、仏門の者なぞと名乗れたもんじゃ。

○戦闘
・メイン武器:巨人の百刃束
ホトの戦術にのって、援護をうけつつ[なぎ払い1]で敵視を稼ごう。
皆の攻撃が通り易いように[鎧砕き1]にて相手の防御力を下げよ、
ホトのフェイントが決まればチャンス!
ホトの炎に合わせて自らもユーベルコードの炎をブチ込むぞ。
「モノホンの僧ってんなら、この怨嗟怨念の炎、断ち切ってみぃ」


ジャック・ストーン
【ホト(f07503)】【ゲンジロウ(f06844)】と一緒に行動する。

この前も仮面の破戒僧とやりあったがロクなもんじゃねぇな。まぁ、歴戦の傭兵と長寿のUDCと肩を並べて戦えるなんて光栄だぜ。

基本的に『スナイパー』で遠距離から『援護射撃』。誰とも接敵してないときはチャンスとばかりにスナイパーライフルで狙撃!敵の行動の阻害を目的として立ち回る。
げんちゃんが前線になってくれそうだから、横からセミオートのアサルトライフルで攻撃していく。
敵が自分かホトのじーさんに近づこうとしたら足元に弾ばら撒いて牽制を入れよう。
「戦で女子供が犠牲になるのはやるせねぇ。それを足蹴にするアンタはただの外道だ」


マルコ・トリガー
ハァ、しくじったな。何ミリ秒遅れて傷を負わされるなんてね。治療してくれた猟兵には一応感謝しておくよ、一応ね。
あの女武芸者たちは同情とか憐れみとかされるの嫌だろうけど、君らを使った黒幕はきっちり倒しておくから、何もかも忘れて今はゆっくり眠りなよ。

で?
怪僧が何か言ってるけど。
念仏が得意?
じゃあ、念仏唱えておきなよ。自分のためにね。

まずは攻撃方法を見極めようか。
距離を取ってこまめに移動しながら射撃で牽制してみよう。
ある程度したら【錬成カミヤドリ】で銃を増やすよ。四方から撃って、時には【誘導弾】で時間差攻撃をして撹乱させよう。
隙を見て距離を詰めて【零距離射撃】を狙ってみようかな。

SPD



●第二場
「なにが本業ですか……」
 怪僧を睨みつけて、静流が『十六夜』を漆黒の鞘に戻した。
 戦う意思がないことを示したのではない。
 その逆だ。
「貴方のような外道に念仏など唱えられては、仏様も迷惑でしょう」
「言うてくれるわ」
 怪僧がまたも肩を揺らした。
「しかし、儂の目から見れば、負け犬どもに手を貸すうぬらこそが外ど……」
「そうね。こんなクズの中のクズに念仏を唱えられても、なんのありがたみもないわ」
 と、怪僧の言葉に割り込むようにして、静流に同意したのはレイブルだ。
「いえ、せっかくですから、唱えていただきましょう。私たちではなく――」
 神夜が野太刀の『牙龍』を構えた。
「――自分自身への念仏を」
「とはいえ、唱えても、無駄、じゃろう、がのう……」
 神夜の後方で異形の者が言葉を吐き出した。ゆっくりと、途切れ途切れに。
 齢(よわい)九十を超えるシャーマンズゴーストのホト・ネザーランド(不惜身命・f07503)である。
「本当に、念仏が得意なら、とっくの、昔に、当人が、成仏しているはず、じゃ」
「言うてくれるわ」
 と、猟兵たちの続け様の挑発に対して、怪僧は先程と同じ言葉を返した。
 しかし、肩は揺れていない。
「度量の広さで知られた儂でも、さすがに看過できんなぁ。御仏に仕える者への礼儀というものを叩き込んでやろう」
 怪僧がずいと前に出た。大きな足が踏み下ろされた先は雪面ではなく、女武者の躯だったが。
「これはルナに見せるわけにはいかないな……」
 女武者の腹部が無惨に踏み潰される様を視界の端に捉えつつ、エドが呟いた。ちなみに、ルナとは彼の妹であり、キケの中にいる第三の人格である。
「うん、兄さん」
 キケが頷いた。
 だが、体の主導権がエドからキケに戻ったわけではない。両者は完全に分かたれていた。エドの横にキケが立ち、キケの横にエドが立っている。
『オルタナティブ・ダブル』を使ったのだ。
「僕らで終わらせよう」
 そう言って、キケはエドと同時に走り出した。

●第三場
 左右対称の弧を描き、怪僧の側面に回り込むキケとエド。
 その二人とは別に直線の軌道を刻んだ者もいる。
 静流だ。
 兄弟よりも先に彼女は怪僧の懐に飛び込み、『十六夜』を鞘から抜き放った。
「一ノ太刀、隼!」
 刃が唸りをあげて風を切った。
 そう、風だけだ。怪僧には届いていない。
 だが、なんの問題もなかった。『隼』は刀身ではなく、衝撃波によって敵を攻撃する技なのだから。
 はたして、見えざる斬撃は怪僧に命中し、一条の傷が巨体に走った。
 間髪を容れず、キケとエドが左右から追撃する。
 しかし――
「甘い!」
 ――怪僧の咆哮が響き、兄弟の攻撃は防がれた。
 怪僧自身が防いだのではない。
 彼の両横に阿形と吽形の金剛力士が出現し、筋骨隆々たる体で受け止めたのだ。
「ふははははは! あの女どもなんぞよりも仏法の守護者のほうが頼りになるわ!」
 飛び退り、間合いを広げる怪僧。
 その不愉快極まりない哄笑に背を押されるようにして、金剛力士たちは猟兵に襲いかかった。阿形は眉を吊り上げて。吽形は口を引き結んで。
「守護すべき相手を間違ってるぞ」
 金剛力士たちにそう言いながら、セゲルが槍を投擲した。
『ギュールグルド』という名のそれは阿形と吽形の頭上を越え、怪僧の胸板を刺し貫く……はずだったが、空中で停止した。吽形が片手を素早く突き上げ、柄を掴み取ったのである。
 その間に阿形が猟兵たちの戦列に踊り込み、巌のような拳をホトめがけて叩きおろした。
 しかし、次の瞬間に響いたのはシャーマンズゴーストの頭蓋が砕ける音ではなく、重い金属音。
 ゲンジロウが両者の間に割り込み、愛用の鉄塊剣『巨人の百刃束』で拳を受け止めたのだ。
「ゲンジロウ殿……すまぬ、の。助かる……」
「礼はいらんよ、ホトじいさん」
 背後に庇ったホトに言葉を返しつつ、ゲンジロウは阿形を睨みつけて――
「おぬしら、お年寄りに対する敬意をどこに落としてきたんじゃ?」
 ――巨大な刃に押しつけられた拳を跳ね返し、同時に斬撃を浴びせようとした。
 見た目の印象に反した素早い動きでそれを躱す阿形。しかし、躱した後で体がよろけた。左の太股に銃弾を撃ち込まれたのだ。
「今のは、げんちゃんに対する俺の『敬意』だぜ」
 眼帯めいたパーツで片目を覆ったサイボーグの青年がゲンジロウの後方で笑った。銃口から硝煙を漂わせたライフルを頬付けして、生身のほうの目でリアサイトを覗き込んでいる。
「わしは決して若くはないが、おまえさんが思ってるほど年老いてもおらんぞ」
 サイボーグの青年――ジャック・ストーン(サイボーグの戦場傭兵・f07090)に軽口を返して阿形に再び攻撃をしかけるゲンジロウであったが、乱入してきた吽形に防がれた。
「いいぞ! 殺せ、殺せーい!」
 金剛力士たちに向かって、怪僧が叫んだ。楽しげに錫杖を鳴らしながら。傍に転がっていた女武者の死体をまた蹴り飛ばしながら。
「戦で女子供が犠牲になる……それだけでも酷い話だってのによ。犠牲になった者を足蹴にするなんて、アンタはただの外道だ」
 先程まで笑っていた顔を怒りに歪めて、ジャックはライフルの銃口を怪僧に向けた。
 だが、トリガーを引く前に吽形が動き、射線を塞いだ。
「外道はうぬらのほうだろうが!」
 吽形の後方で怪僧が声を張り上げた。
「弱肉強食という世の正道に逆らい、負け犬どもに手を貸しているのだからな! 最初に言ったが、そのような酔狂者は嫌いではない! しかし、許すつもりもない! 死して己の不明を恥じよ!」
「いや……死ねんな……」
 ホトが指を宙に這わせて、炎の絵を描き出した。
「生憎、墓は、まだ遠くての……おぬしが先に、入って、くれぬ、か」
 それが絵であったのは一瞬。本物の炎に変じて、怪僧に襲いかかった。
 しかし、その『幻想絵画・焔』なるユーベルコードも金剛力士に防がれた。
「私も死ねません。ですが――」
 金剛力士に斬りつけながら、静流が怪僧に言った。
「――たとえ、ここで死んだとしても、念仏は唱えなくても結構。あなたの念仏で浄土に行くくらいなら、地獄に落ちるほうがマシです」
「ああ、落ちるがいいわ。そして、地獄で正道を学び直せ!」
「力なきものを悪意と暴力で屠ることが正道だと言うのですか?」
 と、冷ややかな声をぶつけたのは桜花。
 盾となって炎に焼かれる金剛力士の横をすりぬけて、彼女は怪僧に攻撃を仕掛けた。
 手にした桜色の太刀『神桜一振』ではなく、対象に悪夢を見せるユーベルコード『幽冥の瞳』で。
「では、その正道に則った悪夢を見てもらいましょう」
 閉じられていた瞼が開き、金色の瞳が怪僧を覗き込む。
 だが、怪僧のほうは瞳を覗き込むことなく、悪夢に落ちる前に攻撃を躱した。その回避の過程で女武者の死体がまた足蹴にされた。
 もの言わぬ彼女を一瞥した者が二人。マルコと神夜だ。
(「きっと、君らは憐れみをかけられるのを嫌がるだろうな」)
 すぐに死体から目を反らしながらも、女武者たちに心の中で語りかけるマルコ。
(「でも、君らを利用したあの坊主はきっちり倒しておく。なにもかも忘れて今はゆっくり眠りなよ」)
 マルコは『錬成カミヤドリ』を発動させた。彼の本体である年代物の熱線銃が次々と複製されていく。全部で十六丁。それが怪僧に狙いを定めている間に神夜もまた動いていた。
「本当に久しぶりです。こんなに頭に来たのは……」
 金剛力士の拳を躱し、怪僧の横を走り抜ける。『牙龍』を横凪ぎに払いながら。
「ぐあっ!?」
 怪僧の体が仰け反り、僧衣の破片が、断ち切られた数珠が、どす黒い血が飛び散った。
 そこにレイブルが肉迫した。行く手を阻むはずの阿形と吽形はいない。召喚者たる怪僧が傷を負ったことによって、雲散霧消したのである。
「私たちのことを『酔狂者』と言ったわね? まあ、生者も死者も等しく冒涜するような輩に『酔狂者』呼ばわりされたところで痛くも痒くもないんだけど……」
 レイブルは薙刀を一閃させた……と、見せかけて、三つの武器ならぬ武器を続け様に投じた。手枷と猿轡と拘束ロープ。
 そう、『咎力封じ』だ。
「でも、その口は閉じてなさい」
 手枷とロープは外れたが、猿轡は怪僧の仮面の下部に絡みついた。
 それを引き剥がす暇を与えることなく、マルコが念力を働かせて――
「神夜も言ってたけど、得意の念仏とやらは自分のために唱えなよ……って、猿轡を噛まされてたら、唱えようがないか」
 ――十六丁の熱線銃のトリガーを引いた。
 銃と同じ数だけの熱線が空気を焼いて迸り、流れ弾ならぬ流れ熱線を受けた雪面が蒸発し、湯気が朦々と立ち昇った。
 その湯気の奥から怪僧がよろけ出た。猿轡は外れているが、僧衣のそこかしこに焦げ穴が生じている。熱線の痕跡。
「『尊厳が云々』と高説を垂れ流していたな!」
 と、傷だらけの怪僧にキケが叫んだ。
 ただ叫ぶだけでなく、攻撃も放ったが、回避された。
 にもかかわらず、怪僧は苦痛の呻きを漏らした。
「だが、だだ奪うだけの貴様に――」
「――人々の尊厳のなにが理解できる!?」
 と、キケの後を引き取ったのはエド。
 彼は怪僧の背中に愛用のナイフを突き立てていた。キケが注意を引いている間に死角に回り込んだのだ。
 そして、兄弟は声を揃えて叫んだ。
「もう、なにも奪わせやしない!」
「もう、なにも奪わせやしない!」

●第四場
「亡骸を粗末に扱うような輩は地獄行きが相場。もし、地獄への道筋が判らないというのなら、案内してあげるわ。さっさと失せなさい」
 レイブルがまたも三種の拘束具を怪僧に放った。
 それらのうちの二種までが命中したのを見届けて、小声で付け加える。
「実を言うと、道案内は苦手なのだけれど。私、方向音痴だから……」
「案内するまでもありません。この男はすでに地獄の縁にいます。軽く一押しすれば――」
 攻撃力が低下した怪僧に桜花が肉迫し、太刀を振り下ろす。
 怪僧はそれを苦もなく躱した……が、桜花の攻撃はフェイント。振り下ろされた刃の向こうで、金色の双眸が妖しい輝きを放った。二度目の『幽冥の瞳』。
「――落ちていくでしょう」
「ぬおっ!?」
 怪僧の片膝が地に落ちた。『幽冥の瞳』がもたらした悪夢にダメージを受けたのだろう。
「悪しき僧侶が見るのは、どんな悪夢なのでしょうね」
「……あ、悪夢ごときに屈するものかよ! 儂は悪夢よりも悪夢めいた時代に生きていたのだぞ! うぬらと違ってな!」
 地に突き立てた錫杖にすがるようにして、怪僧が立ち上がった。
「さっき、女武者の一人が今のあんたと同じような言葉を口にしていたよ」
 マルコが十六丁の熱線銃を怪僧に密着させて、零距離射撃を見舞った。
「それがどうした!?」
 熱線に焼かれながら、怪僧は錫杖を投げ捨てた。
「ええい! 遊びは終いだ! 泰平の微温湯につかったうぬらに儂の本気を見せてやるわ!」
 そして、奇妙な印を組み、獣の唸り声にも似た不気味な言葉を唱え始めた。
「ざやぐみざやぐみげけいねさらかるじ……」
 どうやら、己の力を高めるために読経しているらしい。
 だが、その隙を狙って――
「耳障りです!」
 ――神夜が『牙龍』を叩き込んだ。
 彼女の身の丈ほどもある刃が怪僧の左肩から右腰に走った。
 その傷口から血が吹き出すよりも早く、今度は左腰から右肩に走った。静流が『十六夜』を斬り上げたのである。
「敵の目の前で読経とは……『攻撃してくれ』と言ってるも同然ですよ」
「どんな状況でも経を読まずにはいられないのかもしれんぞ。ナニセ、本業ダカラナァ」
 と、静流の独白に応じて、何者かが怪僧の言葉を真似た。
 皆の頭上で。
 そして、その『何者か』であるところのセゲルが振ってきた。
「ふん!」
 片爪型の錨に似た斧(というよりも鎚に近い)を怪僧に叩きつける形で着地するセゲル。大地を激しく揺らし、雪混じりの土煙を巻き起こし、怪僧がいた場所を中心にして小さなクレーターを生み出したその行為を『着地』と呼べるかどうかはさておき。
「ひどい有様だな。自分でやっておいて言うのもナンだが……」
 土煙の残滓が漂う中、セゲルは視線を巡らせて、周囲の被害を確認した。
 斧(鎚?)による第二撃を無造作に放ちながら。
「まあ、後で埋めておけばいいか」
「くそっ!」
 鎚の追撃を怪僧はなんとか回避した。だが、足場が悪くなったので、動きが鈍い。それでもなんとかセゲルから離れて、再び読経を試みた。
 しかし、一度目と同様、そこに生じた隙を猟兵は見逃さなかった。
「ごもぎまごもぎまぐくあぬこ……うぉ!?」
 経典が情けない叫びに変わった。
 僧衣に包まれた巨体のそこかしこに炎が踊っている。
 クレーターの縁にある大きな土塊の陰に身を潜めていたホトが『幻想絵画・焔』を用いたのだ。
「絵より生まれし、わしの、炎……おぬしの魂、も、少しは焼けよう?」
「くそがぁーっ!」
『少し』どころではないらしい。怪僧は苛立ちと痛みの怒号をあげて暴れ回っている。
 その足下に銃弾が撃ち込まれ、怪僧の体勢が崩れた。
「女無武者たちとしっかり連携していれば」
 二発目の銃声。今度は怪僧の脇腹に命中。
「余裕を持って読経することもできたろうに」
 三発目が怪僧の左肩をかすめた。
「まあ、そういう発想はないんだろうな」
 自分の成果を確認して、射手のジャックはライフルの構えを解いた。
 この場合の『成果』とは怪僧に少なからずダメージを与えたことではなく――
「援護射撃に感謝じゃ!」
 ――ゲンジロウの突撃をサポートしたことだ。
 ホトの炎に焼かれている怪僧にゲンジロウは組みつき、独自のユーベルコードを発動させた。
「モノホンの僧なら、この怨嗟怨念の炎を断ち切ってみぃ」
 ゲンジロウの顔の傷跡から紅蓮の炎が噴出した。
 続いて、襟首や袖からも新たな炎が流れ出した。服に隠されて見えない体の傷から生じたのだろう。
 それらはホトの炎と混じり合い、怪僧の体を覆い尽くして、激しく燃え上がった。

●第五場
 やがて、炎が消えた。
 怪僧の体の大半は炭化し、僧衣も灰になっていたが、仮面だけは無傷のままで顔に張り付いていた。悪い冗談のように。
「後悔するぞ……酔狂者ども……」
 喘鳴が混じった声を怪僧は絞り出した。
「この生温い時代に生きる農民どもは皆……命と尊厳を秤にかければ、迷わず命を取る軟弱者よ……そんな連中のために戦ったことを……いつか、うぬらは後悔する……きっと、後悔する……」
「バカか、おまえは?」
 と、セゲルが吐き捨てた。
「人であれば、命を惜しむのは当然のことだろう。どれだけ汚辱にまみれようと、生きてこそ浮かばれるものがある」
「そう言えるのはうぬらが強いからだ……だが、彼奴らは弱く、貧しい……どれだけ長く生きていても……なにも得られないだろう……弱くて貧しい負け犬のまま、一生を終えるのだ……くくくっ……」
 笑い声らしきものを怪僧は発した。上体が小刻みに震えている。五体満足な時のように肩を揺らしているつもりなのだろう。苦しげに痙攣しているようにしか見えないが。
「きっと、彼奴らは強き者や富める者を恨みながら死んでいくぞ……そして、儂やあの女どものように怨霊と化す……そう、現在を生きる弱き者は皆、未来の“おぶりびおん”なの……だ……」
 怪僧の痙攣が止まった。
 そして、永遠に動かなくなった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『祭りだ祭りだ』

POW   :    力仕事に加わる、相撲などの興行に参加する

SPD   :    アイデアを提案する、食事や飲み物を作る

WIZ   :    祭りを宣伝する、歌や芸を披露する

👑11
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●第一場
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
 猟兵たちの前で、村の長老が床に額をこすりつけた。
 比喩ではなく、本当にこすりつけた。
 長老の後方では、村に住む老若男女が同じように額をこすりつけている。
 村の中央にある長老の家。戦いを終えた猟兵たちを村人はここに招き入れてくれたのだ。ちなみに村人たちは『屋敷』と呼んでいるが、実際はそんなに立派なものではない。
 長老は宴を催してくれるつもりのようだが、それも立派なものではなさそうだった。猟兵の前に並べられているのは、具のない麦まじりのおにぎり、具が少ない上に薄い味噌汁、香の物、干し魚、自家製の濁り酒、餅(これは本当にとっておきらしい)……などなど。
「たいしたもてなしはできませんが……」
 長老が頭をあげて、猟兵たちに笑いかけた。
 言葉に反して、どこか誇らしげな顔をしている。
 実はこのささやかな馳走を『たいしたもてなし』だと思っているのだろう。
ゲンジロウ・ヨハンソン
おぉ、こいつはありがたい!丁度腹も減ってたからのぅ。
おにぎり、味噌汁、干し魚、それに酒…おお、餅に香の物まであるじゃあないか。
こりゃ久々のご馳走じゃわい!
勿論本音もあるが少しオーバー気味に喜び、村人達に不安を与えぬように馳走をありがたく頂くぞぃ。

SPD:アイデアを提案する、食事や飲み物を作る

馳走に大喜び、なればその礼もせねばなるまい?
[コミュ力1]で村人にこの辺になんぞ狩れる獣…できりゃ猪がええのぅ。
それもでけぇのじゃ。
そんなのがおらんか聞いて、いるなら礼に手伝ってくれそうな猟兵に声かけて技能を駆使して狩って、宴の席で捌いて振る舞おうじゃあないか。
残った肉は持ちきれんからの、村人に託そうかの。


セゲル・スヴェアボルグ
村人のもてなしを無碍にする理由があるだろうか。
だが、彼らにとって貴重な食料であるのは間違いない。
一通り頂いたら、少々席を外させてもらう。こんなところにいたら食べすぎてしまうからな。盛り上げ役は他のやつらに任せる。
一宿一飯の恩義と言うやつだ。食べた分は裏でこそこそと働かせてもらうとしよう。

今の俺にできるのは農機具の手入れや、畑を耕すなどの力仕事ぐらいだ。
外から物を持ち込めば豊かにはなるだろう。だが、それでは意味がない。
結局のところ、彼らの進退を決めるのは彼ら自身だ。俺たちはただその助力をするだけ。
だが、それが弱き者たちにとっての希望と成り得るのであれば、私は惜しむことなくこの手をさしのばそう。


キケ・トレグローサ
(ルナ)「私たちの出番ね!盛り上げていくわよ!」
もてなしの品が少なくても、宴とあらば盛り上げるのが旅芸人の仕事。キケが『流浪の楽団』で実体化させたエド(背の高い好青年の姿)とルナ(可憐な少女の姿)と宴を盛り上げる。キケがリュートを奏で、エドが歌い、ルナが踊る。
(ルナ)「あなたたちも!食べて歌って飲んで歌って!楽しまなきゃ!」
人々にルナが声をかけ宴の輪を広げていく。
(ルナはエドとキケの配慮で、事件の詳細は知らない)
宴の後、エドの人格で再び山へと戻り、女武者達の慰安碑を作り、鎮魂の歌を歌う。
(エド)「俺たちが守ったのは、妹や村の人々の笑顔だ。あんたたちも、あんな風に笑える日が来ることを祈ってるよ」


夜神・静流
祈り・優しさ・礼儀作法の技能を使用。
まずは「生まれながらの光」で負傷者を治療します。

精一杯のおもてなしですので、有難く受け取りましょう。
私の故郷も決して裕福とは言えない小さな隠れ里ですので、少し懐かしい気持ちになります。

その後は、簡単にですが亡霊女武者の御霊を弔おうと思います。
「どうか忘れないであげて下さい。犠牲になり、死した後も救われる事のなかった彼女達の事を」

……女武者達の恨み言や、あの怪僧の最後の言葉は少し胸に引っかかります。
ですが、立ち止まる事は許されません。
未来を護るために、過去の業を斬り払って進むのが私の宿命。
彼等の事を心に刻んで、次の戦場へ向かうといたしましょう。


マルコ・トリガー
ハァ、疲れたな。だけど、これでやっとオニギーリが食べられるね。
折角の「たいしたもてなし」なんだから、好意は素直に受けておこうかな。

それから、そんなに額を擦りつけなくていいよ。他の人はともかくボクは「たまたま通りがかってたまたま暇でたまたま手伝っただけ」だから。
それにそんな姿見ながら食べるのもつまらないから、そうだな……村に伝わる昔話とか無い?
唄として伝わってるとかさ。
そういうの誰か披露してもらえない?
ボク、お酒は飲めないから、誰か代わりに飲んで歌ったり踊ったりして宴を盛り上げてよ。
それで今回の事件の事はスパッと忘れて、明日からまた泰平の世で戦いの無い日常を謳歌しなよ。

SPD


レイブル・クライツァ
戦いの後の片付けをもし出来るなら、彼女達の弔いを可能な範囲でしておきたいのよ。

感謝の気持ちを無下には出来ないのだけれども……
少し、迷ってしまったわ。
塩分控えめで、健康に良いのは間違いない事は確かよね

困った顔を見せるのは失礼だから、お礼のお礼としてひとつ舞いましょうか。
何時もなら頭に被ってるヴェールを、羽織るかのように両手で持って、ひらりくるりと半回転。
ふわりと頭に戻したら、緩く一礼のち軽やかにステップを踏んで歌うわ。
夜に輝く星が見る、静寂の中に浮かぶ月の堂々たるや、をね?
昔の記憶を引っ張り出して、普段なら踊りも歌もしないのに
そういう気持ちになったのは、彼女達の分をと願った自己満足でしかないわ。


白銀・雪斗
村の平和を守れて良かった

(長老の誇らしそうな顔を見て微笑み)
フフ、宴を催してくれる気持ちもご馳走も嬉しいよ
楽しむとしよう

サムライエンパイアの食事は初めてだな
JJが美味しそうに食べていたオニギーリ……いや、おにぎり?が気になるので、先ずはそれを頂こう
ふむ、素朴ながら美味しい……(シンプルな素材の味も楽しめる様子)
このスープも、おにぎりに合うな(味噌汁もすすり)

私も宴のお礼を
歌も芸も特に優れているという訳じゃないが……
そうだ、ワシミミズクの精霊『凪(エレメンタルロッド)』と鷹の霊『白鷹(ユーベルコード)』に舞って貰おう
行け、凪、白鷹(二羽が空中を踊るように舞い)
少しでも楽しんでくれると嬉しいな


メル・ルビス
お祭りっ!
ワイワイするの、僕は好き!
何にしようか迷っちゃうけど、【WIZ】を選択するよ
楽器をね、演奏してみたいんだけど上手くいくかな?
ちょっと緊張するけど頑張ってみる
僕は楽器を持ち歩いてないから、借りれそうな楽器をひとつ借りるの
それで【楽器演奏】を使って、楽しげな歌を演奏してみるっ!
ちょっとアドリブも聞かせてね?
楽しい音楽を演奏してみたいんだ♪
みんなも楽しんでくれると嬉しいな


ホト・ネザーランド
■心情
猟兵で、ある、とはいえ、わしの、ような、異形にも、
もてなしを、行う……
感謝の、念に、堪えん、の。
………返礼が、したい。わしの、筆で。…… 

■判定 WIZ
■使用技能【アート】
村人を萎縮させないよう隅で
濁り酒と味噌汁を嘴で吸いながらおのおのの様子を緩く観察
「うむ……懸命な、生を感じる……この、世界も、美しい……」
宴の様子を眺め、それを絵巻物に描いて渡そうとするが
自分からではないほうが良いと考える
ジャック(f07090)が近くに居たら頼む
「ジャック殿……これ、を、村長へ……」

舞や武を披露する人がいたらそちらも別に絵を描いて渡せれば
「……●●殿……描かせて、もらっても、良いか、の」

絡ませ歓迎


ジャック・ストーン
せっかくのご馳走なんだ、俺もいろいろ手伝うぜ。
【POW】
そいじゃ、俺は力仕事を手伝おうかな。祭りのための会場を整えたり、げんちゃんが採ってきた獲物の解体を手伝ったり。
お、ホトのじーさんの絵か?そういうことなら預かるぜ。
村長!これこれ、あそこの黒いじーさんからのだ!よく描けてるよな!あ、さっきオニギーリを貰ったぜ。とても美味かったよ、ありがとな!

宴会が進んでいくと、隅の方で酒をちびりちびりとやって、俺達が守ったものを眺めるぜ。いい仕事だった。



●第二場
「おおう!? こいつはありがたい!」
 長老の屋敷(と呼ぶのは村人だけで、実際はただ大きいだけの家屋だが)に響くはゲンジロウの驚喜の大音声。
「おにぎり、味噌汁、干し魚、どぶろくに……お? 餅まであるじゃないか。こりゃあ、久々の御馳走じゃわい!」
 村人たちに気を使って大袈裟な反応を見せているのだが、本音が含まれていないわけでもない。世辞が七分に本音が三分といったところ。もっとも、長老は七分のほうに気付いていないらしく、得意満面になっている。
「ふふっ……」
 鼻高々な長老を見て、雪斗が思わず笑みを漏らした。
「御馳走も嬉しいが、こうやってもてなしてくれる気持ちがなによりも嬉しいよ」
「そうだな。では、遠慮なくいただこう」
 セゲルが箸を取り、料理を口に運び始めた。『遠慮なく』という言葉に反して(また、その巨体から受ける印象からも反して)、慎ましやかな食べ方だ。
「サムライエンパイアの食事は初めてなのだが……まずはこれをいただこうか」
 そう言って、雪斗が選んだのは『オニギーリ』ことおにぎり。具は入っていないし、海苔も巻かれていない。ただ一つの味付けである塩(味付けよりも防腐が主目的と思われる)さえも控えめ。山地なので、塩は貴重なのだろう。
 しかし、一口かじった後で雪斗は感慨深げに頷いた。
「……ふむ。素朴ながら、美味しい。JJが絶賛するわけだ」
 まあ、あの意地汚いケットシーは大抵の食べ物を絶賛するのだが。
「確かに素朴ね。素朴すぎるような気がしないでもないけど……」
 ゲンジロウが言うところの『久々の御馳走』を前にして、困惑気味に苦笑したのはレイブル。
「まあ、塩分控え目で健康に良いのは間違いなさそうね」
「ええ。その点は保証しますよ」
 と、横に座っていた静流も笑った。こちらは苦笑ではなく、純粋な笑みだ。
「保証できるのは粗食の味に慣れているから?」
「はい。私の故郷も決して裕福とは言えない小さな隠れ里でした……こういう食事は少し懐かしいです」
 故郷や両親や兄弟のことを想いつつ、静流は味噌汁を口に含んだ。
 予想通り、懐かしい味がした。
「うむ……美味い……」
 と、部屋の隅で言葉を発した者がいる。
 静流と同じく味噌汁を味わっていたホトだ。いや、『同じく』とは言い難い。嘴を椀に何度も突き込み、啄むように啜っているのだから。
 ちなみにシャーマンズゴーストたる彼や竜派ドラゴニアンのセゲルやミレナリィドールのレイブルに対して、村人たちは奇異の目を向けていない。猟兵は世界の加護を受けているため、どのような姿形をしていようとも、異形として認識されることはないのである。
 もっとも、異形に見えたとしても、村人たちは恐れないかもしれない。
 彼らは皆、知っている。
 ここにいる猟兵たちがなにをなしてくれたかを。
「懸命な生を……感じる……」
 嘴を味噌汁の椀から離し、ゆっくりと顔を巡らせるホト。
「この、世界も、美しい……」
 彼の視線の先で『懸命な生』に満ちた村人たちは猟兵に料理を勧め、酒を注ぎ(誰も頼んでないのだが)、おかわりを運び(これも頼んでないのだが)、その合間に自分たちも料理を食べ(彼らにとっては本当に御馳走なのだ)、そして、ことあるごとに額を床に擦りつけて感謝を示していた。
「いや、いちいち土下座しなくていいよ……」
 マルコがうんざりとした顔で溜息をついた。村人の一人が(頼んでもないおかわりを運んできた上に)また平伏したからだ。
「他の人はともかく、ボクは君たちを助けたくて戦ったわけじゃないからね。たまたま通りがかって、たまたま暇だったから、たまたま手伝っただけだよ」
「ほう。たまたまねえ……」
 ニヤニヤと笑いながら、ジャックが近寄ってきた。
 そして、村人の頭を上げさせ、聞こえよがしに囁いた。
「覚えておくといいぜ。今、この坊やが見せた可愛らしい反応のことを異国では『ツンデレ』って言うんだ」
「変な知識を植え付けないでよ!」
 慌てて叫ぶマルコであったが、もう遅い。村人には『マルコ=ツンデレ少年』という情報が刷り込まれてしまっただろう。
 その情報が村中に伝播するのを防ぐべく(これももう遅いだろうが)、ツンデレ少年は話題を変えた。
「ねえ、この村に伝わる昔話とか唄とかないの? あるなら、ちょっと披露してよ。そうやってペコペコする姿を見ながら食べるのもつまらないからさ」
「では、お耳汚しですが、『ゆみとりのひいさまの唄』を……」
 マルコの要求に応じて、一人の老女がすっくと立ち上がった。反応が非常に速い。こういう機会を待っていたのだろう。
「よっ! 待ってました!」
「いいぞぉ、タケさーん!」
「いっけねぇ! 聴く前から涙が出てきやがった!」
 やんややんやと囃し立てる村人たち。どうやら、『ゆみとりのひいさまの唄』なるものは老女の十八番であるらしい。
 皆の歓声が止んだところで、老女はその十八番を歌い始めた。
 悲しい唄だった。
 戦乱の時代、領民を守るために武器を取り、散っていった姫君と侍女たちの唄。
 もしかしたら、その唄は史実なのかもしれない。
 もしかしたら、生き残った領民が姫君たちのことを忘れぬために連綿と伝えてきたのかもしれない。
 そして、もしかしたら、猟兵が倒した女武者の怨霊たちこそ、唄われている姫君や侍女なのかもしれない。
(「では、彼女たちは――」
『ゆみとりのひいさまの唄』を聴きながら、皮肉と呼ぶには残酷すぎる運命に静流は思いを巡らせた。
(「――命を捨ててまで救った人々の子孫を恨み、妬み、殺そうとしていたのでしょうか?」)
 静流だけでなく、他の猟兵たちも同じことを考えていたが、それを口に出す者は一人もいなかった。

●第三場
「素晴らしい歌声だったよ」
 胸に去来した暗い思いを拭い去り、キケが腰を上げた。
「僕らも負けていられないな」
『僕ら』というのは間違いではない。いつの間にか、彼は一組の男女に挟まれていた。右側に立つ長身の青年は、戦闘の際にも姿を現した兄のエド。左側に立つ可憐な少女は妹のルナ。両者ともにユーベルコード『流浪の楽団(オルケスタ・デ・ビアヘロス)』によって実体化したのだ。
「私たちの出番ね!」
 ルナが元気よく叫ぶと、リュートの旋律が流れ始めた。演奏者はキケ。
 そこにエドが歌声が重なり――
「盛り上げていくわよ!」
 ――ルナが舞い始めた。
「ほら、あなたたちも! 食べて、歌って! 飲んで、歌って! もっと、もっと、もっと、楽しまなきゃ!」
 兄たちの歌声と旋律に合わせて、右に、左に、前に、後ろに、一箇所に留まることなく、跳ねるような足取りで室内を回り、村人や猟兵に声をかけていくルナ。
 サムライエンパイア以外の世界を知らぬ村人たちにとっては未知の舞踏。あるいは猟兵たちの容姿と同様、馴染み深いものとして脳内で補正されているのだろうか? どちらであれ、彼らが圧倒されているのは間違いなかった。
 もちろん、この場合の『圧倒』は良い意味だ。
「楽しい! これ、楽しい!」
 と、ルナに触発されて、小さな影が宴の列から飛び出した。
 ケットシーのメルである。
「上手くできるかどうか判らないけど、僕もなにか弾いてみたい! でも、楽器を持ってないんだよね。誰か、貸してくれない?」
「よしきた」
 村人の一人が即答し、琵琶を取り出した。それを隣の村人に手渡し、その村人も隣の村人に手渡し、その村人も隣の村人に……と思いきや、その位置にいたのはマルコだった。
「やれやれ」
 図らずも琵琶リレーのアンカーとなったマルコはさも面倒くさそうな顔をして立ち上がると、興奮と期待と不安にうずうずしているメルに近寄り、琵琶を差し出した。
 素っ気ない感謝の言葉とともに。
「傷を治してくれて、ありがとう」
「え?」
「忘れたの? 女武者の矢を受けた僕を『生まれながらの光』で癒してくれただろう。一応、礼だけ言っておくよ。坊主の怨霊の相手をしている時に言おうと思ってたんだけど、その暇がなかったんだよね」
 メルの返事を待つことなく、元の場所に戻るマルコ。
 その様子を見ながら、村人の一人がジャックに尋ねた。
「あれが『ツンデレ』ですかいのう?」
「ああ。まごうことなきツンデレだ」
 暫しの間、メルはきょとんとしていたが、我に返って琵琶を構え――
「さっきも言ったけど、上手く弾けるかどうか判らないんだよ。変な風になったら、ごめんね」
 ――そう断ってから、撥を操り出した。
 皆の耳に飛び込んできたのは決して『変な風』ではない、明るく軽妙な音楽。
 キケとエドが無言で頷き合い、自分たちの演奏と歌唱をメルに寄せ、同時にメルの演奏を自分たちに寄せた。
「サムライエンパイアの楽器とリュートとの二重奏! こんなの初めてかもー!」
 興に乗ってアドリブを利かせるメル。目にも止まらぬ撥さばき。
「楽しい! これ、楽しい!」
 と、先程のメルの言葉を今度はルナが口にした。ステップがより激しくなっている。しかし、疲れは見えない。
「楽しい? これ、楽しい?」
 メルもまた同じ言葉も発した。問いかける形で。
「楽しくないと言えば、嘘になるな」
 と、答えたのは雪斗。
「馳走の礼に私も楽しく盛り上げたいところだが、この手のことは苦手なのだ。代わりに――」
 雪斗の傍らにあった杖がワシミミズクに変じ、翼を広げて飛び立った。風の精霊の『凪』である。
 更に雪斗はユーベルコードの『白鷹』を発動させて、雪を司る純白の鷹も召喚した。
「――この者たちに舞ってもらおう」
 ワシミミズクと鷹は複雑な軌跡を描いて室内を飛び回った。
 負けじとばかりに舞踏の速度を上げるルナ。
 そこに第四の舞い手が加わった。
「私も、このささやかならぬお礼にささやかなお礼をしようかしら……」
 レイブルである。
 頭に被っていた漆黒のヴェールの両端を摘んで少しばかり上げ、ひらりと右に回ったかと思えば、くるりと左に回る。
 そして、エドの歌声が止んだところを見計らい、彼に代わって歌い始めた。
 静寂の夜空に浮かぶ月と、その堂々たる姿を臨む無数の星々の歌を。

 小一時間ほど過ぎた頃、和洋折衷のジャムセッションは終わった。
「疲れたー! でも、楽しかったー!」
 心地よい疲労という名の不可視の手に押し潰されるようにメルがへたりこんだ。
 そして、自信と不安が混じり合った声で問いかけた。
「皆も楽しんでくれた?」
「うん……うん……」
 ホトが何度も頷いた。シャーマンズゴーストでなかったら、孫の相手をする好好爺のような表情になっているかもしれない。
 異形の老人はメルの傍に寄り、一枚の紙を渡した。続いて、キケ(たち)に、雪斗に、レイブルに。
「さすが、ホトのじーさん。上手いもんだ」
 レイブルが受け取った紙をジャックが覗き込んだ。そこに描かれているのは、歌を披露するレイブルの姿。
(「昔の記憶を引っ張り出して、踊ったり、歌ったり……柄でもないわね」)
 絵の中にいる自分を指先で撫でながら、レイブルは寂しげに笑った。『柄でもない』ことをやってしまった原因はよく判っている。あの女武者たちを悼む思いに突き動かされたからだ。
(「それが自己満足でしかないということも判ってるけど……」)
 レイブル以外の猟兵たちが受け取った紙にも、それぞれの似姿がホトの筆で写し出されていた(雪斗の絵だけは二羽の鳥が主体になっていたが)。
 ホトが描いたものは他にもある。
「ジャック殿……この宴に……興じる村の人々を……描いてみたのじゃが……」
 と、老画家がジャックに差し出したのは一幅の絵巻物。
「これ、を、あちらの長老に……」
「自分で渡しゃあいいのに」
 苦笑しながらも、ジャックは村の長老に近寄り、ホトの力作を贈った。
「チョーローさん! これ、あそこのじーさんからだ! ほら、見ろよ。よく描けてるだろ?」
 そして、長老が絵巻物を受け取り、祝宴は終わりを告げ……なかった。
「いやー、思っていたよりも手こずったわい! オブリビオンを相手にするほうがまだ楽だったかもしれん!」
 と、白い息と大声を同時に吐きながら、ゲンジロウが外から戻ってきたのだ。
 戻ってきた? そう、彼は宴の場を中座していたのだ。森で狩りをするために。
「もてなされっぱなしでは悪いからのう。こいつを捌いて、皆に御馳走するぞい」
 肩にかついでいた猪の死体を足下に降ろし、ゲンジロウは豪快に笑った。
「どうだ、けっこうな大物じゃろうが? ぬはははははは!」
 笑い声に導かれるように村人たちがゲンジロウに群がっていく。
 それを見ながら、ジャックは心中で呟いた。
(「そう、これが……この光景が……俺たちの守ったものだ」)
 杯を取り、お世辞にも出来が良いとは言えないどぶろくをちびりと舐める。
 最高に美味かった。
(「いい仕事だったよなぁ」)

 猪が捌かれている頃、セゲルは『屋敷』の横の納屋にいた。
 彼も早々に中座していたのだ。早々すぎて腹八分目どころか、六分目にも達していない。
「しかし、余所者である俺たちが食い散らかすわけにもいかん。村の人々にとっては貴重な食料だからな」
 今にも情けない音を出しそうな腹をなだめつつ、自分に言い聞かせるセゲル。
 その間も作業の手は止めていない。
『作業』とは農具の修理。一宿一飯の恩義を彼なりに返しているつもりなのだ。
 既に一宿一飯以上のものを村人たちに与えたにもかかわらず。
 これが猟兵である。
「外の世界から物資を持ち込めば、この村もすぐに豊かになるのだろうな。しかし、それでは意味がない。結局のところ、彼らの進退を決めるのは彼ら自身。俺たちはただその助力をするだけ。まあ、助力といっても、この程度のことしか……む?」
 セゲルは独白を中断して、振り向いた。
 納屋の戸が開かれ、その向こうに三人の若者が立っている。
(「俺がいなくなったことに気付いて、連れ戻しに来たのか? やれやれ……」)
『一宿一飯の恩義』なるものを返すことを諦めて、セゲルは立ち上がろうとした。
 だが、その前に若者たちが動いた。
 納屋に足を踏み入れると、セゲルと同じように農具の手入れを始めたのである。
 なにも言わずに。
 なにも訊かずに。
「……」
 セゲルもまた無言で作業を再開した。
 口の端に笑みを浮かべて。
 あの怪僧には永遠に理解できないであろう村人たちの『尊厳』というものを感じながら。

●第四場
 一夜明けて。
 戦場となったあの森の一角に猟兵と村人たちの姿があった。
「どうか、忘れないであげてください。死した後も救われることのなかった彼女たちを……」
 静流が村人たちに言った。
 彼女の背後にあるのは数十個の土饅頭。
 女武者たちと怪僧の墓だ。
 猟兵たちは女武者だけを弔うつもりだったのだが、村人たちは怪僧の墓も作ると言って聞かなかった。弔うに値しない相手だということを知らないのか。知った上て弔おうとしているのか。後者ならば、それもまた彼らなりの尊厳なのだろう。
 静流の横に立っていたキケが振り返り、墓の群れを見た。振り返った時にはエドの人格に切り替わっていたが。
(「俺たちが守ったのは、ルナや村の人々の笑顔だ。あんたたちもあんな風に笑えることを日が来ることを祈ってるよ」)
 声に出さずに女武者たちに語りかけた後、エドは鎮魂歌を歌い始めた。
 優しくも悲しい声が森の中を流れ、木々に、雪に、二度の死を経験した者たちの墓に沁み込んでいく。
 やがて、歌が終わった。
「さあ――」
 余韻が消え去るまで待ってから、静流が言葉を投げかけた。
 今度は村人たちではなく、仲間たちに。
「――次の戦場へ向かうといたしましょう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2018年12月31日


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🔒
#サムライエンパイア


30




種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト